フランス CFT(森林憲章)10 年の成果と課題 −ボージュ山塊 PNR(地域

フランス CFT(森林憲章)10 年の成果と課題
−ボージュ山塊 PNR(地域自然公園)の事例より−
○山本 美穂(宇都宮大学)
背景と目的
フランスの CFT(chartes forestières de territoires 圏域の森林憲章):は、2001 年 7 月の森林基本法
に基づき設置された国土整備のツールである。2010 年現在、フランス全土に 104 のCFTが存在し、森
林面積の約 25%をカバーし、約 5000 のコミューンが参加する。CFT のもと地域関係主体が集まり、圏
域 territoires に由来する森林への様々な需要に応えるため、整備計画 projets が共同で練り上げられ
る。これにそった行動を起こすことで、国土整備 aménagement du territoire の中に森林管理を組み込
むことが CFT の目的である。その進め方は、フランスの森林管理に分権的手法を導入するものとして
注目される。制度発足以来 10 年を経た CFT の成果と課題について事例をもとに検討する。
ボージュ山塊 PNR(地域自然公園)における CFT の成果と課題
CFT 調印までの背景
ローヌアルプ州のサヴォア県とオートサヴォア県にまたがるボージュ山塊は、中世サヴォワ公国領の
前史を持つヨーロッパアルプスの前衛山域で、歴史的・地誌的にも特異な同一性を持つ。南北菱形の
地域中央を県境が横断し、シャンベリー、アヌシー、アルベールヴィルなどの都市に囲まれていること
から、行政上はいくつもの区域に分断され、地域的に一貫した施策が難しいなどの課題に直面してい
た。1995 年、当山域は PNR(地域自然公園)として登録され、ひとまとまりの一体性のある圏域
territoire として、法律上の根拠が与えられた。それまで行政域で分断されていた地域関係者の集結、
バラバラになされていた周辺都市からのニーズへの対応、埋もれがちであった地域遺産の再発見を通
じて、混合組合で運営される PNR が地域経済振興の中核となり、さらに、Natura2000 や LEADER など
EU レベルの施策の受け皿ともなった。PNR 設立を通して、地域内の人的ネットワークや他部門にわた
るデータの整理がなされ、同じような仕組みを持つ CFT の推進に極めて有利に働き、2002 年、森林法
典改正からわずか1年たらずの間に、CFT の第一号事例としてスタートした。
成果と課題
従来の行政域をまたぐ CFT 圏域=PNR は、地域の一体化した取り組みのベースを提供した。日本
になぞらえて言えば、自然保護と産業振興とにかかる課題について、振興計画などでよく見られる「○
△ゾーン」など当座の紙上の線引きで済ませるのでなく、実質的な本来の意味での圏域を、議論の末
に獲得したということである。その鍵として、合併が進まずフランス地域政策最大の桎梏ともされてきた
最小自治体・コミューンの存在が注目される。圏域境の決定がコミューンの意思に委ねられることを通
し、CFT の圏域は「生きたゾーニング」となる。これらをベースに、森林資源と木材流通・加工の連携が
すすめられ、全仏レベルでのアルプス産木材建築物の第一号が、当圏域の村役場庁舎として着工中
である。さらに、2010 年 10 月には、ユネスコのジオパークにフランス3箇所目の認定を受けている。
CFT 運営予算上の制約とそれに伴うアニメーターの雇用期限の問題、圏域内森林資源の利用部門
の未成熟さ、既存行政機関における縦割りの残存、などが今後の課題として挙げられる。
(連絡先:山本美穂
[email protected])
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