水素吸蔵合金を用いて、高圧域(82 MPa)の水素ガス昇圧技術を確立

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RELEASE
平 成 28 年2 月4 日
水素吸蔵 合金を 用い て、 高圧 域(82 MPa)の水素ガス 昇 圧技術を 確立
― 安全面・ コスト 面 に優れた 水素ス テー ションの 実現に 期待 ―
【ポ イン ト 】
●水 素吸 蔵 合金 を 組み 合わ せ、 熱 のみ で 非機 械的 に水 素 昇圧 す る技 術を 確立 。
●本技術により、安全で低コストな圧縮機の設計が可能となるため、水素ステーショ
ンの 普及 が 加速 す るこ とが 期待 さ れる 。
【概 要】
広島大学大学院総合科学研究科の市川貴之准教授を中心とする研究グループは、株式
会社神戸工業試験場の鶴井宣仁取締役、広島大学サステナブル・ディベロップメント
実践研究センターの宮岡裕樹特任講師らと協力し、水素を取り込む性質の合金(水素
吸 蔵 合 金 ) を 用 い て 、 水 素 ス テ ー シ ョ ン で 利 用 さ れ る 高 圧 域 ( 82 MPa) の 水 素 ガ ス
の昇圧技術確立に成功しました。従来の水素ステーションは、水素の昇圧時に機械的
な駆動部分を必要としたため、安全面で不安があり、機器のメンテナンスにも高いコ
スト がか か って い まし た 。今 回確 立し た 技術 によ り 、「 熱 のみ 」で「非 機 械的 に 」水 素
昇圧できる可能性が示され、安全面・コスト面に優れた水素ステーションの実現が期
待さ れま す 。
【研 究背 景 】
2014 年 末の トヨ タ 自動 車に よ る 燃 料 電池 自動 車( FCV) の 市 場 投 入を 皮 切り に 、今
後 ホ ン ダ を は じ め そ の 他 の 自 動 車 会 社 か ら の FCV 市 場 投 入 に も 大 き な 期 待 が 寄 せ ら
れて いる と ころ で す。しか し 、FCV の 一般 普及 には 、未 だ数 多く の課 題が 存 在し て お
り、水素ステーションの普及もその一つです。水素ステーションの普及を阻害するも
のと して 、 建設 費 や構 成機 器コ ス トが 挙 げら れま す。 2014 年 6 月、 日本 政 策投 資 銀
行が発表した調査研究レポート「水素ステーション整備に向けた今後の展望」では、
我が国と欧州の水素ステーション構成機器のコストが比較されています。それによる
と、 水素 ス テー シ ョン の圧 縮機 ( 300 Nm 3 /h の供給 能 力を 有す る固 定式 の ステ ー シ
ョ ン ) で は 日 本 が 1.3
表 1. 日 欧 の 水 素 ス テ ー シ ョ ン 構 成 機 器 の コ ス ト 比 較
億円 、欧州 が 0.8 億 円 。
蓄圧 器で は 、日本 が 0.6
億円 、欧 州が 0.1 億 円
と 、欧 州に 比 して 我 が 国
の水素ステーションの
>
圧縮機周辺機器の製造
コストが割高な事実が
確認 でき ま す( 表 1)。
出典:日本政策投資銀行「水素ステーション整備に向けた今後の展望」
この要因として、水素脆化の影響を考慮した関連法令に基づく設計基準の違いが指摘
され てい ま す 。現 状 の 水素 ステ ー ショ ン のシ ステ ムで は 、ま ず 40 MPa ま で圧 縮さ れ
た高圧水素ガスがトレーラーによって水素ステーションまで運ばれ、その場で圧縮器
によ り 82 MPa へと 昇圧 され ま す。 この 際 、金属 部 品を 駆 動さ せ て 、機 械 的に 水 素を
圧縮 して い るた め 、水 素脆 化の 影 響は 避 けて 通る こと が でき ま せん( 図 1)。結 果 、圧
縮器の部品には過剰な強度が付与されます。また、安全性を考慮した場合、駆動部の
メンテナンスは避けて通る事ができず、この点も前述の圧縮機のコストアップに繋が
って いま す 。
①吸込
水素
H2
②圧縮
③吐出
機械駆動は、水素脆化による
破損リスクが常に付きまとう
今回提案のポイント
水素ステーションのコストアップ要因である機械圧縮機を、駆動部無しで水素昇圧
する技術で代替できれば、コスト面・安全面で優位となり、市場に流布しやすい
図 1. 水 素 圧 縮 機 の 原 理 ( レ シ プ ロ 型 )
【研 究内 容 とそ の 成果 】
本技術開発では、水素ステーションのコストアップ要因となっている機械的な圧縮技
術を、異なる解離圧を持つ水素吸蔵合金を組み合わせて、熱のみで非機械的に水素昇
圧す る技 術 で代 替 する こと を目 的 とし ま した 。
水素吸蔵合金からの水素放出圧は、温度が上昇するに伴い指数関数的に増加します。
この性質を利用し、低温で低圧の水素を水素吸蔵合金に吸蔵させた後、昇温させるこ
とにより、高圧の水素を放出させることができます。水素吸蔵合金はその組成により
水素放出圧が異なるので、適切な水素吸蔵合金を複数選定し、多段式とすることで目
標と する 高 圧ま で の昇 圧が 可能 で す。
市川貴之准教授を中心とする研
究グループは、上述のような水
素吸蔵合金の特性に注目し、大
排熱により各水素吸蔵合金を昇温し、水素を加圧・放出
熱源
メガソーラー or
ごみ焼却施設等
300℃
240℃
気圧程度の低圧な水素ガスを水
素ステーションで利用される高
圧 域 ( 82 MPa) ま で 昇 圧 で き
る低コストで安全なケミカル・
水素
H2
コンプレッサーの開発に取り組
水素吸蔵
合金
水素吸蔵
合金
A
B
水素蓄圧
タンク
省エネルギー型安心安全水素昇圧システム
んで いま す 。 図 2 の 模式 図に あ
る通り、現在開発中の試作機で
は二種類の異なる水素吸蔵合金
を用いて、二段階で高圧域まで
水素を昇圧させる構造となって
いま す。
0.05MPa
20MPa
82MPa
水素吸収時の発熱を冷却してやり、効率的な水素の吸収を促進
図 2. ケ ミ カ ル ・ コ ン プ レ ッ サ ー の 模 式 図
冷却水
二種類の水素吸蔵合金として、一段目
は Ti-Cr-V 合 金、二 段目 は Ti-Cr-Mn
合金を候補として、実際に水素を吸蔵
させた後、昇温降温サイクル試験を行
い、目標とする圧力が達成できるかを
評価 しま し た。結果 を 図 3 に 示し ます 。
一段 目 の Ti-Cr-V 合 金 で は 、室 温か ら
310
まで 昇温 す るこ とで 、大 気圧
程度 から 20 MPa までの 昇圧 が 可能 な
こ と を 示 し て お り 、 二 段 目 の
Ti-Cr-Mn 合 金 に つ い て は 、 室 温 か ら
240
ま で 昇 温 す る こ と で 、 20
MPa 以 下の 圧力 から 82 MPa まで の
昇圧が可能なことが明らかになりまし
た 。 水 素 吸 蔵 合 金 に よ る 昇 圧 で 82
MPa の 高圧 を達 成 し た例 は 、世 界で も
これまで報告がありません。関連資料
とし て、二 段目 の 昇圧 実験 の動 画(※ )
をご確認ください。また、この動画の
キャプチャー写真を次頁の図4に示し
ました。本研究の成果により、大気圧
程度の水素ガスを水素ステーション用
高 圧 域 ( 82 MPa) ま で 昇 圧 で き る ケ
ミカル・コンプレッサーの開発が現実
的な もの に なっ て きま した 。
(※ )動 画 UR L
図 3. 昇 温 降 温 サ イ ク ル 試 験 の 結 果
( 上 ) Ti-Cr-V 合 金 、( 下 ) Ti-Cr-Mn 合 金
http://h2.hiroshima-u.ac.jp/archive/NEDO/alloy2.mpg
【そ の成 果 の優 位 性と 社会 や暮 ら しに 及 ぼす 影響 】
本技術開発により、昇圧に際して機械的な駆動部分が不要となり、過剰な強度を付与
する必要のない低コストで安全な圧縮機が設計可能となります。また、水素吸蔵合金
を用 いる と 比較 的 低い 温度 差(室 温 ~ 約 300
)に より 水 素を 昇圧 でき る ため 、ゴ
ミ焼却場の廃熱やソーラーパネルの余熱など、普段は利用価値がなく捨てられている
低級な熱源が活用可能となり、ランニングコストの低減も期待できます。水素ステー
ションの高コスト化要因の一つである圧縮機や蓄圧器のコストダウン を図れる可能性
があることから、水素ステーションの普及が進み、水素エネルギー社会の実現が加速
する こと が 期待 さ れま す 。
【今 後の 展 開 】
上記 二種 類 の Ti-Cr 系水 素吸 蔵 合金 を 用い て、 スケ ー ルア ッ プし た ケ ミカ ル ・コ ン プ
レッサーの小型試作機の製作を現在進めており、近日中にこの試作機を用いた試験を
実施 する 予 定で す 。
図 4. Ti-Cr-Mn 合金 を用 い た 82MPa へ の昇 圧試 験
(左上)測定 開始 時 、( 右上)40MPa 付 近、(左下 )82MPa 達成 時 、( 右下)終 了時
【研 究担 当 者】
広島大学大学院総合科学研究科
株式会社神戸工業試験場
准教授
取締役
市川貴之
鶴井宣仁
広島大学サステナブル・ディベロップメント実践研究センター
広島大学先進機能物質研究センター
特任助教
宮岡裕樹
Ankur Jain
広島大学先進機能物質研究センター(日本学術振興会
広島大学大学院総合科学研究科博士課程 1 年
特任講師
特別研究員)
Sanjay Kumar
Suganthamalar Selvaraj
※ 本 研 究 成 果 は 、国 立 研究 開発 法 人新 エ ネル ギー・産 業 技術 総合 開 発機 構( NEDO)
「平
成 27 年度 新エ ネル ギ ーベ ンチ ャ ー技 術 革新 事業 」の成 果と し て得 られ たも の です 。
【お 問い 合 わせ 先 】
広島 大学 大 学院 総 合科 学研 究科
准教 授 市 川 貴 之
TEL&FAX:08 2 - 42 4- 5 74 4
E-mail:[email protected]
発信 枚数 : A4 版 4 枚( 本票 含 む)