疥癬 1.疥癬とは ・ ヒゼンダニがヒトの皮膚角質層に寄生して起こる感染性皮膚疾患である。 ・ 大きさは雌成虫0.4mm。 ・ 卵は3~5日で孵化し、10~14日で成虫となる。その後オスとメスが交尾し、 メスが皮膚角質層内をトンネル(疥癬トンネル)を掘り進みながら、毎日2~4 個の卵を4~6週間産み続ける。 ・ 乾燥に弱い。体温より低い温度では動きが鈍く、16℃以下では動かない。ま た、高温に弱く、50℃・10分間で死滅する。 ・ 皮膚から離れると数時間で感染力が低下すると推定され、ヒトの皮膚から離 れると2~3日以上生存することはない。 ・ 通常疥癬と角化型疥癬(ノルウェー疥癬)の二つに大別される。 2.通常疥癬と角化型疥癬の特徴 通常疥癬 感染経路 角化型疥癬 肌と肌の直接接触が主体 接触の他、剝がれた角質層が飛散すること により感染する。肌と肌の直接接触を介さ ずに感染し、集団発生のもとになることが 多い。 潜伏期間 初感染では2~6週間(最大2ヶ月間)、既往があると短くて1~4日 寄生数 重症でも 1000 匹以下 100 万~200 万匹、時に 500 万匹以上 感染力 弱い 非常に強い(病原性は変わらない) 宿主の免疫力 正常 低下 かゆみ 強い 不定(全く瘙痒のない場合もある) 主な症状 丘疹、結節 角質増殖 発症部位 頭部以外の全身 全身 1 3. 感染防止対策:患者発生時の対応 通常疥癬 角化型疥癬 感染対策 ・標準予防策 + 特殊対策 ・標準予防策 + 接触予防策 + 特殊対策 患者配置 ・個室隔離は不要 ・個室隔離を行う ・ベッド、寝具ごと移動する ・実施期間:治療開始後1~2週間 病室入室時の防護具 リネン類 交換 ・標準予防策に準じ、処置を ・手袋、ガウン、キャップ、(靴カバー)を着用する 行う場合は適切な防護具を ・防護具使用後は、落屑が飛び散らないようにビニール 着用する 袋に入れる ・通常の方法 ・外用剤処置し、洗い流した後 (シー ツ・寝 ・イベルメクチン内服の翌日 洗濯物の ・ビニール袋に入れ、 「疥癬」 ・落屑が飛び散らないようにビニール袋に密閉し、「疥 具・衣類) 運搬 と明記し洗濯におろす 癬」と明記し洗濯に出す の管理 洗濯 ・通常の方法 ・治療前の3日間に皮膚に接した物 ・隔離解除までの期間 ①洗濯機で熱水で洗い、熱乾燥する ②50℃・10分間熱処理後、普通に洗濯する ③ドライクリーニング ④上記ができない場合、密閉プラスチックバッグに入れ て数日(72時間以上)~1週間保存し殺虫する 環境対策 一般清掃 ・通常の方法 ・落屑を残さないように掃除機で清掃する。 退院時 ・通常の方法 ・可能であれば病室を72時間以上閉鎖し、十分に清掃お 清掃 よび吸引する、または、 ・ピレスロイド系殺虫剤噴霧を1回だけ行う* 布団の ・不要 消毒 ・治療終了時に一回だけ熱乾燥、または、 ・ピレスロイド系殺虫剤散布後掃除機をかける* ノンクリ ・血圧計カフは専用化する ・血圧計、聴診器など患者専用化する ティカル ・他は通常の方法 ・車椅子、ストレッチャーも専用化し、可能であれば隔 器具 離解除後72時間以上他の患者に使用せず、十分に清掃お よび吸引する、または、ピレスロイド系殺虫剤を散布す る* ・トイレも専用化する。専用化できない場合、使用後に 水拭きしアルコール清拭を行う 立ち寄っ た場所 ・通常の方法 ・十分に清掃および吸引する、または、 ・ピレスロイド系殺虫剤噴霧を1回だけ行う* 2 入浴 ・通常の方法 ・入浴は最後にし、浴槽や流しは水で流す ・脱衣所に掃除機をかける 面会 食器の扱い 接触者への予防的 治療 ・禁止する必要なし ・原則禁止する ・通常の方法 ・お膳ごとビニール袋に入れ、配膳車に下膳する ・家族、同棲者、過去1ヶ月 ・同室者は症状の有無を問わず予防的治療を検討する 以内の濃厚接触者は予防的 ・職員は患者との接触の頻度・密度を配慮して予防的治 治療を検討する 療を検討する *CDCでは、殺虫剤を用いた環境消毒は必要ないし、推奨もされない、としている。 4. 治療 ・ 皮膚科を受診する。 ・ 種類 内服 イベルメクチン ・約200μg/kgを空腹時に1回、水のみで内服 (ストロメクトール®) ・1週間後に再投与が必要 ・経管投与可能 ・確定診断患者のみに投与する 外用 イオウ剤 ・塗布後24時間で洗い流し、5日間繰り返す (頸部以下 クロタミトン(10%) ・塗布後24時間で洗い流し、5日間繰り返す(実際は10 の皮疹の無 (オイラックス®) ~14日間必要) い部位を含 ・効果は低い めた全身に ・保険適応外 塗布、爪裏 ・予防治療(保険適応外):1週間外用する 要注意) 安息香酸ベンジル ・塗布後24時間で洗い流し、2~3日間繰り返し4~5日 (6~35%) 間休薬、または隔日で3日間、など γ-BHC(γ-benzene ・塗布後6時間で洗い流し、1回/週を1クールとし、1~ hexachloride) 2クール行う (0.5~1%) ・日本で入手可能な外用剤中最も有効だが、毒性あり 6. 集団発生 ・ 定義:同一の病棟・ユニット内で2ヶ月以内に2人以上の疥癬患者が発生した 場合。 ・ 病棟内の全患者およびスタッフの皮膚科検診を行う。潜伏期間を考慮して、 繰り返し皮膚科検診を行う。 ・ 発症者は病型に応じた治療を行う。なお、退院(転院・死亡退院を含む)患 者についても感染の有無を追跡調査する。 3 7. 報告体制 ・ 感染を疑う症状のある患者および職員は、所属長または感染対策委員に報告 し、速やかに皮膚科を受診する。 病院感染対策マニュアル 市立札幌病院 2010.2 8. 罹患した職員の欠勤期間 ・ 角化型疥癬の患者から医療スタッフに感染することはあるが、スタッフの免 疫は正常なので、角化型疥癬にはならない。 ・ 欠勤の必要性に関しては、皮膚科医の指示を仰ぐ。 4
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