事例番号:220004

事例番号:220004
原 因 分 析 報 告 書 要 約 版
産 科 医 療 補 償 制 度
原因分析委員会第五部会
1.事例の概要
1回経産婦であり、前回の分娩は横位のため帝王切開を行っている。今回妊娠中
は、前回帝王切開例として分娩前日まで特に問題なく経過していた。妊娠37週に
帝王切開予定であったが、妊娠36週3日に陣痛様の強い子宮収縮が起こり、病院
に向かう車中で子宮破裂が起きた。緊急帝王切開術が施行されたが、アプガースコ
アは1分後0点、5分後2点の新生児仮死であった。出生後、児は直ちに蘇生処置
が行われ、気管挿管の上、NICUに入院となった。
本事例は、病院における事例であり、経験年数4~12年の産婦人科専門医3名、
経験年数3年~16年の小児科医3名、経験年数23年の脳神経外科医1名と経験
年数3年~15年の助産師3名、10~22年の看護師4名がかかわった。
2.脳性麻痺発症の原因
本事例における脳性麻痺発症の原因は、子宮破裂、それによる子宮胎盤循環の障
害、そのために生じた胎児低酸素性虚血性脳症の可能性が高い。前回帝王切開の子
宮創部に陣痛様の強い子宮収縮による圧力がかかり、子宮破裂が起きたものと推察
される。
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3.臨床経過に関する医学的評価
1)既往歴
帝王切開既往妊娠でハイリスク妊娠であるが、前回帝王切開創部に関する当該
分娩機関の認識について、診療録への記録が明確でない。また、前回帝王切開を
行った医療機関に、術式等の問い合わせを行ったかどうか記録上は不詳であり、
その記載がないとすれば、妊娠37週以降の陣痛発来前の帝王切開を予定する場
合であっても、前回の帝王切開創が通常の創ではないとの情報が妊婦本人などか
ら得られた場合、前医に前回帝王切開の方法について問い合わせ等をして、子宮
破裂の危険について評価しておくことが望ましく、本事例においてはそのような
配慮が欠けていると思われる。
2)妊娠経過
(1)妊婦健診について
胎盤が前壁付着の場合、癒着胎盤のリスクがあるが、初診担当医に、胎盤付
着部位に注意をすべきとの認識があったことは妥当である。
また、通院所要時間等を考慮すれば、前回帝王切開創部と胎盤付着部位のチ
ェックなど緊密な連携のもと、紹介元での妊婦健診管理の選択は問題ない。
(2)妊娠35週以降の妊娠経過について
妊娠9ヵ月末に紹介元から異常なく再紹介となっており、セミオープンシス
テムとして問題なく機能している。
前置胎盤・低置胎盤の場合に、帝王切開の既往があるときは癒着胎盤の合併
に注意することが産婦人科診療ガイドラインでは勧められているが、前置胎盤
がないことが確認されており、ガイドラインからは外れていない。
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子宮破裂のリスクをできるだけ回避するため、帝王切開を妊娠37週に予定
したことは標準的である。術前検査、貧血の治療、助産師外来での保健指導等
も適確である。
3)分娩経過
(1)陣痛発来から入院まで
妊娠36週3日に、妊産婦が腹痛を自覚し、当該分娩機関に電話で連絡を行
った際、医師が救急車での来院を指示し、手術準備を開始し、妊産婦の到着に
備えたことは適確である。
その後、看護スタッフが妊産婦に電話をして状況を確認したことも適確かつ
丁寧な対応である。
(2)入院から帝王切開まで
入院後の対応は極めて迅速で適確である。
母体救命、胎児救命という観点から麻酔科管理の下での緊急帝王切開の決定
は妥当である。妊産婦の意識障害、痙攣発作の原因として、脳出血を鑑別する
ために脳神経外科医の診断を仰いだことは適確である。来院から10分間で帝
王切開を決定し手術室に移動したが、超音波検査で胎児徐脈が確認され、胎児
機能不全の適応にて帝王切開を急いだことは妥当な判断であった。緊急帝王切
開で、妊産婦もショック状態であるため全身麻酔を選択したことは適確であっ
た。来院から18分という短時間で児が娩出されており、極めて迅速に処置さ
れ、優れた対応であった。
(3)児娩出後
出生直後から小児科医により蘇生処置は施され、適確に治療されている。
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4.今後の産科医療向上のために検討すべき事項
1)当該分娩機関における診療行為について検討すべき事項
(1)前回の妊娠分娩経過の情報収集を行う
前回の帝王切開の子宮切開創が縦切開であったか否かは別にして、少なくと
も「大きく切開した」との情報があったわけであり、遅くとも帝王切開を実施
する前までには分娩担当医療機関、妊娠中の診療担当医療機関は前既往帝王切
開担当医に問い合わせて前回の手術時の情報を収集し、情報を共有しておく必
要がある。
(2)前回手術の情報等を診療録に記載する
本事例は、前回帝王切開が縦切開であったか否かの診療録への記載が不詳で
あるが、十分な情報の共有確認がなされるためには、診療録にも記載が行われ
ることが重要であり、より適切なリスク管理を行い得ることとなるため、前回
の手術時の情報を、診療録に記載し、明示しておく必要がある。
また、救急搬送時の超音波検査における胎児所見、胎盤所見、手術時におけ
る子宮の所見(子宮の変色の有無、胎児•胎盤の所見、破裂創部位の状況)等
についても、時間のある事後に整理して、診療録に詳しく記載することが望ま
れる。
2)当該分娩機関における設備や診療体制について検討すべき事項
リスクを有する妊産婦に対する共同管理の体制を整える
セミオープンシステムの連携にあたって、リスクを有する妊産婦を診療所で管
理する場合、分娩担当医療機関は妊婦健診を分担して行う診療所での妊婦健診上
の留意点、リスクの把握を共有し、分娩担当医療機関を受診させる時期、分娩担
当医療機関との間で円滑に受診、コンサルトできる診療体制を構築することが望
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まれる。また、正常妊娠経過をたどっていた妊産婦が、突然急変することも想定
し、その際の細かい対応策を協議しておくことが望まれる。紹介元、分娩担当医
療機関の両者が責任をもってリスクを共有し、対応を行うという体制作りが強く
勧められる。
さらに、セミオープンシステムの連携体制において、受診回数が少ない分娩担
当医療機関では、ハイリスク妊婦の定期健診を助産師外来で扱うこともあるため、
その際の診療体制の検討を十分に検討しておく必要がある。また、妊産婦からの
情報収集は助産師も含め医療に当たるものが協力して行うことが勧められる。
3)わが国における産科医療体制について検討すべき事項
(1)学会・職能団体に対して
ア.子宮破裂の発症を防ぐため、帝王切開術後瘢痕創を有する子宮の妊娠管理
についての管理ガイドラインの作成が望まれる(超音波検査による前回帝王
切開創部の子宮筋層の厚さの測定の有効性の有無や、既往帝王切開が子宮壁
縦切開の場合、陣痛発来前にも子宮破裂が発症することも指摘されているこ
とから、入院管理も含めた予定帝王切開前の管理方法、予定帝王切開の時期
設定などの再検討が望まれる)。
イ.学会・職能団体は、オープンまたはセミオープンシステムを構築している
分娩担当医療機関に対して、リスクを有する妊産婦の管理における診療所と
の連携において、そのリスクの共有、対応策の共有をするよう、なお一層の
提言、推進をすることが望まれる。
(2)国・地方自治体に対して
ア.国•地方自治体は、オープンまたはセミオープンシステムを構築している
分娩担当医療機関に対して、リスクを有する妊産婦の管理における診療所と
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の連携において、そのリスクの共有、対応策の共有をするよう、なお一層の
提言、推進をすることが望まれる。
イ.妊産婦の記憶に頼った既往診療情報の聴取のみでは、その正確性に限界が
あるため、母子手帳等に次回の妊娠・分娩時にむけて、留意する点を記載す
る特記項目欄を設けるなどの工夫をすることが望まれる。
ウ.帝王切開分娩が増加する現在の産科診療の中では、全国の妊産婦に既往帝
王切開妊娠のリスクについて正しく、また、広く啓発することが望まれる。
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