シンポジウム「赤ちゃんと絵本 −赤ちゃんと絵本の現場からの報告」発言要旨

シンポジウム「赤ちゃんと絵本 −赤ちゃんと絵本の現場からの報告」発言要旨
日 時:平成 16(2004)年 7 月 19 日(月・祝) 13 時∼16 時
場 所:大阪府立国際児童文学館 講堂
1 調査報告
小森伸子(財団法人 大阪国際児童文学館・職員)
2 シンポジウム
パネラー:
岸本ゆき江(大阪市鶴見区保健福祉センター・保健師)
藤井亜希子(熊取町立熊取図書館・司書)
徳永満理(おさなご保育園・保育士)
コメンテーター: 佐々木宏子(鳴門教育大学教授)
コーディネーター:土居安子(財団法人 大阪国際児童文学館)
*敬称は略させていただきました。
主 催:財団法人 大阪国際児童文学館
共 催:大阪府子ども読書活動推進連絡協議会
大阪市教育委員会 大阪府立中央図書館 大阪市立中央図書館 大阪府教育センター 大阪市教育センター
大阪公共図書館協会 大阪府学校図書館協議会 大阪市学校図書館協議会 学校図書館を考える会・近畿
大阪府子ども文庫連絡会 箕面市立中央図書館 八尾市立八尾図書館 大阪府教育委員会
財団法人大阪国際児童文学館
1
調査報告の要旨 発表者 小森伸子(財団法人 大阪国際児童文学館)
家庭での赤ちゃんと絵本のかかわりの実態を明らかにするため、財団法人大阪国際児童文学館で
は、平成 15 年度に乳幼児を持つ保護者に対するアンケート調査、面談調査を実施した(平成 14 年
度にも同様の調査を一部の地域で行った)
。
(1) アンケート調査の方法
府内の市町村で乳幼児健診(3 ヶ月・4 ヶ月健診と 1 歳半健診)時に絵本に関するアンケート調
査を行った。回収枚数 3471 枚 回収率 66.1%
実施地域
平成 15 年度 摂津市 豊能町 能勢町 高槻市 豊中市 枚方市 四條畷市 交野
市 大東市 東大阪市 八尾市 藤井寺市 松原市 太子町 大阪狭山市
美原町 泉大津市 和泉市 高石市 岸和田市 泉佐野市 泉南市 阪南市
岬町 田尻町
平成 14 年度 大阪市 堺市
(2)
面談調査の方法
大阪府内在住の 0 歳児、1 歳児をもつ保護者 33 名。子どもはすべて第1子。0 歳児 19 名(男児
10 名、女児 9 名 平均月齢 8.2 ヶ月)1 歳児 14 名(男児 8 名、女児 6 名 平均月齢 15.1 ヶ
月)
。保護者に子どもに買った本や借りている本を用意してもらい、子どもがお気に入りの本、は
じめてみせた本から順に、購入理由、購入場所、子どもの反応等の質問を行った。
絵本をえらぶ際の観点・読み方
保護者30人(0歳児群16名、1歳児群14名)に対して、「この絵本を選んだ理由」について尋ねた。また
実際に読んでいる時の保護者のテキスト以外の言葉を分類した。
図1.保護者の絵本選択・評価の理由
0歳児群
1歳児群
40.0%
35.0%
30.0%
25.0%
割
合 20.0%
15.0%
10.0%
5.0%
0.0%
絵
言葉
主題
構成
造本・体裁
外部情報
キャラクターや作者 保護者の絵本体験
子どもから
その他
選択・評価の理由
選択理由が示された絵本の冊数は0歳児群で81冊、1歳児群で101冊。総選択数に占める割合で、0歳代で
最も多いのは「絵」、1歳代では「絵」と「主題」がほぼ同数。「その他」には「2人目にも使えそう」
「かわいい」といった絵本の内容に関わること以外の理由や漠然とした理由も多かった。(図1)
図2.絵本を読む際の保護者の発話カテゴリ
0歳児群
1歳児群
40.0%
35.0%
30.0%
割
合
25.0%
20.0%
15.0%
10.0%
5.0%
0.0%
呼びかけ・受け止め
子どもへの問いかけ
本文の変更
絵本に関連した話をする
カテゴリ
保護者にいつものように絵本を読んでもらったり、「どんな感じで読みますか」と質問。ほとんどの保
護者はただ絵本に書いてある言葉を読むのではなく、何かアレンジを加える傾向がある。特に1歳児の保
護者は、0歳児の保護者と比較して絵の説明が多い傾向がある。
(3)アンケート調査の結果とまとめ
回答に不備がなかった2476人分のデータにより分析を行った。
保護者の子どもと絵本の関係に対する考え
図1.絵本を現在何冊程度もっていますか?
0冊
1∼5冊
4ヶ月1子
6∼10冊
11∼15冊
4ヶ月2子以上
16∼20冊
21∼25冊
18ヶ月1子
26∼30冊
18ヶ月2子以上
31冊以上
0%
20%
40%
60%
割合
80%
100%
第1子では、4ヶ月の段階では絵本を持っていないか、持っていても5冊まで。18ヶ月では「6∼10冊」が最
も多い。これに対して、第2子以上は持っている本の数は多い。(図1)
図2.お子さんに絵本を見せていますか?
ほとんどみせ
ていない
あまりみせて
いない
4ヶ月1子
時々みせて
いる
4ヶ月2子以上
よくみせてい
る
18ヶ月1子
18ヶ月2子以上
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
割合
4ヶ月群では「ほとんどみせていない」か「あまりみせていない」が多いが、18ヶ月群では「みせてい
る」が多くなっており、1歳半ごろには多くの家庭で読み聞かせや絵本をみせることが行われていると考
えられる。(図2)
問3 図書館・文庫など絵本を借りる場所にお子さんと出かけられたことはありますか?
ある
4ヶ月1子
兄姉とはある
4ヶ月2子以上
18ヶ月1子
18ヶ月2子以上
0%
ない
10%
20%
30%
40%
50%
割合
60%
70%
80%
90%
100%
4ヶ月児群では90%以上、18ヶ月児群でも1子ではまだ半数以上が出かけたことがなく、図書館、文庫な
どはこの時期の乳児にとってまだ馴染みがない場所だといえる。4ヶ月児1子群や18ヶ月1子群で図書館な
どを利用している保護者に利用の仕方に関してきいたところ、約半数は本を見るだけではなく、健診対象
の子どものための本を借りていた。また、「おはなし会に参加」は最も多い18ヶ月2子以上群でも2割に満
たなかった。
図4.今の時期のお子さんにとって絵本はどのような
よいことがあると思いますか?
4ヶ月1子
18ヶ月1子
0.8
0.7
0.6
0.5
選
択 0.4
率
0.3
0.2
0.1
0
言葉が
ふえる
しつけに
役立つ
感性が育つ
項目
空想・夢が
もてる
親子の
ふれあい
文字を
覚える
その他
今の時期の絵本の意義は、「親子のふれあい」「感性が育つ」をあげる保護者が多く、また、
18ヶ月児群では「言葉がふえる」に対して意義を認める傾向があった。(図3)
表1.お子さんが楽しんでいる、みせたい絵本はどんなものですか?
4ヶ月1子群
子どもの身近な生活を扱っ
たもの(57.0%)
18ヶ月1子群
子どもの身近な生活を扱ったもの
(74.2%)
b)絵本の絵
やさしい色使い(55.3%)
子どもに身近なものや人の絵(54.7%)
c)絵本の中の言葉
声に出して読みやすい(60.3%) 文字が少ない(59.7%)
d)絵本の形や材質
丈夫(63.2%)
項目
a)絵本が扱っている事柄
子どもが持てる大きさや重さ(72.0%)
注)各群において選択率が最も高い項目(( )内は各群における選択率)
絵本が扱う事柄に関しては違いがないが、もう絵本を見ている18ヶ月児群では文字が少なかった
り、子ども自身がもてるものといった具体的な項目が選択される傾向があり、絵も絵柄よりは描か
れたものに注目があつまっている。
(4)面談調査の結果とまとめ
家庭で所蔵されていた絵本の特徴 33家庭で、のべ541冊の絵本を所有。平均所有冊数は16.4冊。0歳児と1歳児では所有冊数はやや1
歳児の方が多い(0歳児の平均所有冊数13.8冊 1歳児の所有冊数19.6冊)。家庭によって大きく
差があり、最小冊数は2冊、最大冊数は46冊。
所蔵絵本を調べた結果、発行年や現物が当館で確認できたものは506冊。49冊は出版社の年齢表
記が不明。「赤ちゃん絵本」(年齢表記の下限が2歳以下、または「赤ちゃん」と表記されている
図書を本調査では「赤ちゃん絵本」と呼ぶ)の割合は53.0%。0歳代と1歳代で「赤ちゃん絵本」
の所有冊数の割合に大きな違いはなかった。
表1.所蔵している本の入手ルート
カテゴリ
家庭数
冊数
買った
30
239
借りた
14
54
贈り物・おさがり
27
154
割合
47.2%
10.7% 「買った」の形態は、通信販売や定期購読、古
30.4% 書など、多様で、購入場所もスーパーやフリー
マーケットなどがあげられる。(表1)
保護者の子ども時代
のもの
3
10
2.0%
不明
6
49
9.7%
合計
506
注)1つの家庭が複数のルートで本を入手しているため、家庭の合計数は33家庭を上回る。
割合は合計冊数に占める割合
2 シンポジウム
第 1 部:パネラーからの報告
1.はじめに
土居安子(コーディネーター 大阪国際児童文学館)
現在、保健センターや図書館等では乳幼児と保護者に向けて、また保育所や幼稚園では乳幼児に向け
て、絵本を読むという活動が多くなされ、注目も高まっています。しかしながら、赤ちゃんは絵本を楽
しむのか、
「赤ちゃんが絵本を楽しむ」といった時、赤ちゃんは何をどう楽しんでいるのか、小学生や
大人が絵本を楽しむのとどのように異なっているのかについての研究は、まだまだ十分にはなされてい
ません。財団法人大阪国際児童文学館の報告(資料参照)にもありましたように、調査も少しずつ行わ
れていますが、事業のみが先行しているというのが現状です。
そこで本日は、まず乳幼児と絵本に関わる現場の方々が、日ごろ「赤ちゃんが絵本を楽しむ」という
ことをどんなふうに考えていらっしゃるか、感じていらっしゃるかということをお聞きすることから始
めたいと思い、このシンポジウムを企画しました。赤ちゃんといっても、月齢によって大きく違います。
そこで、本シンポジウムでは、実際にブックスタート1等の事業が行われている際に対象となる 1 歳ぐ
らいまでを中心に考えていきたいと思っております。
2.大阪市のブックスタート事業について
岸本ゆき江(大阪市鶴見区保健福祉センター)
4 月までは大阪市の健康福祉局におりまして、ブックスタートを 15 年 8 月から導入した時の担当係
長をしておりました。ブックスタート開始の経緯や現在の状況についてお話をさせていただきます。
<乳幼児健診の状況>
大阪市の年間出生数は、1 年間 2 万 4 千人余りです。他の自治体と同じように、3 か月と 1 歳半、3
歳児の各時期に乳幼児健診を行っています。乳幼児健診は、病気、障害の早期発見、早期フォローとい
うことを一番大きな目的として、昔から取り組まれてきた経緯があります。子どもの健診は保健福祉セ
ンターで受けるという意識が、市民の方に定着をしております。3 か月健診が一番受診率が高く、95%
以上です。最近の保護者の方の傾向としまして、健診以外の要素、例えば保護者どうしの交流や、お友
だちづくりといった、育児支援の分野に関するニーズが高まっています。保健センターでも地域の集会
所や、公的な施設に保健師が出向き、赤ちゃん教室や子育て教室などを開催してきました。また、全区
の保健センターに、子育て情報コーナーを設け、赤ちゃん連れでいつでも参加できる、集える場をつく
る、などの取り組みをしてきました。こうした取り組みのなかで、子どもと遊ぶ、触れ合うひとつの方
法として、絵本の読み聞かせがあって、区によっては図書館の司書に講師をお願いしたり、読み聞かせ
のボランティアの方に来ていただいたりして、絵本に関する教室を開催してきました。このあたりから
図書館や絵本とのかかわりがでてきたと考えております。
1
ブックスタート
1992 年に英国バーミンガムで始まった運動。地域で生まれた全ての乳児に 0 歳児健診などを利用して「赤ちゃんと絵本を
開くひとときの楽しさや大切さ」
「地域が子育てを応援していますよ」といったメッセージを伝えながら、絵本を手渡す
取り組み。日本においては、2000 年の「子ども読書年」に「子ども読書年」推進会議によって紹介され、東京都杉並区の
試験実施を経て、2001 年 4 月から開始された。現在は NPO 法人ブックスタートが実施自治体に対する情報提供や運動の推
進を行っている。参考 URL 特定非営利活動法人ブックスタート HP http://www.bookstart.net/
<ブックスタート事業の開始>
平成 13 年 12 月に、子どもの読書推進に関する法律が施行され、平成 14 年 8 月には、法律の基本計
画が閣議決定をされました。このなかに保健センターと図書館が連携してブックスタートへの取り組み
の推進を促すことが自治体の責務として明記されました。このような国の動きなどの後押しもありまし
て、大阪市の子育て支援策として、全市的にブックスタートを開始するということになりました。
大阪市立中央図書館と健康福祉局との共同事業となり、立ち上げには試行錯誤がありました。3 か月
健診は、名称は 3 か月なのですけれども、来られる赤ちゃんはほとんど 4 か月前後のお子さんです。市
内すべての赤ちゃんが対象、高い受診率があることとあわせて、5 か月ぐらいから積極的に絵本に関心
を見せ始めるということを聞きまして、この時期にブックスタート事業を行うのが一番望ましいのでは
ないかと判断しました。開始にあたっては、保健師の意識もばらばらでしたので、図書館サイドのご協
力を得て、健診に従事する保健師の研修を実施をしました。お渡しするブックスタートパックの内容は、
絵本『いない いない ばあ』
、NPO 法人ブックスタート作成のパンフレット『あかちゃんのすきなも
のしってる?』です。大阪市には、24 区の行政区があり、各区に地域図書館があります。各区の地域
の図書館の案内や図書利用申込書、お勧め本リストなどをセットにしてコットンバッグに入れて差し上
げています。区によっては、その他に子育てサークルや子育て支援に関する情報も提供しております。
<実施方法>
大阪市鶴見区の場合は月に 2 回健診を行っており、1 回に 5∼60 人の
来所者があります。集団指導では 20 人前後の保護者の方にひとつの部
屋にきていただき、保健師と栄養士によるお話します。内容は、保健師
は発達や発育や予防接種について、栄養士は離乳食の進め方についてで
す。
今まではこれで集団指導が終わっていたのですが、このあと司書によ
る絵本の読み聞かせの指導をします。このときに『いない いない ば
あ』の絵本を使って実際に読み聞かせの方法などの指導をして、読み聞
かせの大切さや絵本を通したふれあいの効用を伝えます。集団指導から
予診、計測、診察、そのあと個別指導という流れになります。診察の待
ち時間等を利用して司書やボランティアが親子の間を回り、他にも持っ
てきた絵本を見せて、興味を示す方に直接読み聞かせをするという活動
『いないいないばあ』<松谷みよ子あか
ちゃんの本 1>(松谷みよ子/文 瀬川
康男/絵 童心社 1967 年 7 月 1981 年
5 月 改版)
を行っています。
絵本の選定は、児童文学研究者、保育関係者、医師、保健師、図書館の関係者からなる選考委員会を
開催して選定しました。ほとんど全員一致で『いない いない ばあ』に決まりました。著名な絵本で
すが、実際にお渡ししていますと「もうこれはうちにあるからいりません」という声も聞かれることも
あります。
「(健診にきている)この子のための 1 冊ですから」といってお渡ししています。他の自治
体では絵本を複数冊から選ぶことができる、2 冊お渡しするなどさまざまな方法があります。大阪市で
は、絵本1冊とパンフレットをコットンバッグに入れる方法を採用しています。また、視覚障害のある
保護者のために点訳ボランティアにご協力いただき、点訳絵本も整備しました。
<実施にあたって留意していること>
今、健診の現場などで、
「赤ちゃんに声かけしてあげてくださいね」
、
「声かけは大事ですよ」とお母
さんにお話しても、
「どうやって話しかけてよいのかわからない」と実際に言われるお母さんが多い現
状です。だっこされて、お父さんやお母さんの優しい声を待っているのですよというメッセージを絵本
と共に送るようにこころがけています。実際の指導は司書が行っていますが、早期教育などの誤解を招
かないように、
「絵本を介してふれあいを作ってくださいね」と「ふれあい」を強調しています。強制
にならないように「興味を示さなくても当然ですからね、よいのですよ」とことばをかけて、配慮して
います。健診は保護者にとっても待ち時間があったり、暑い中だっこして待っていたりということで、
非常に殺気立つ場合もあるのですが、待ち時間に絵本を見たりすると、雰囲気が非常に和らぐという効
果もあります。本当に「こんな時期に見せるのですか?」という反応が一番多かったのですが、実際に
反応する、じっと見るという赤ちゃんの様子を見てびっくりして、
「あ、興味を示すのですね」といっ
た声があり、保護者の方には好評です。又、
「読み聞かせするのが夢でした」とおっしゃるお母さんも
いらっしゃいました。
<今後にむけて>
大阪市もブックスタートを開始してから、まだ 1 年も経っておりません。検証はまだまだこれからと
いう状況ですが、地域図書館では乳幼児連れの親子の利用者が確実に増えているというお話を聞きます。
「今まで子ども連れで行ってはいけないと思っていました」という声もありますので、ブックスタート
は図書館との出会いをつくる効果もあると考えております。大阪市のブックスタート事業は、地域図書
館と各区の読み聞かせのボランティアの方々との連携と協力で成り立っております。今後も検証を重ね
ながら、よりよい方向に進めていきたいと考えております。
3.熊取町立図書館の乳幼児サービス
藤井亜希子(熊取町立熊取図書館2)
熊取町は大阪の南部、関西国際空港の近くにある人口が 4 万人くらいの町です。大阪市とは違って、
去年 1 年間で生まれた赤ちゃんの数は 351 人でした。4 ヶ月児健診は毎月 1 回あるのですが、対象が 30
名くらいと、比較的ゆったりした雰囲気のなかでブックスタートを行っています。図書館は 10 年前に
開館して、3年前の平成 14 年からブックスタートを開始いたしました。図書館でブックスタートに取
り組みたい思った理由を少し個人的なエピソードを含めてお話したいと思います。
<個人の体験から>
私は、今年 1 年生になった女の子と 2 歳の男の子の母親ですが、特に 1 人目の時の子育てが本当にし
んどかったのです。ベビーバスのお湯の温度を毎回きちっと測るとか、赤ちゃんがいる部屋の温度を温
度計でチェックして一定にするとか、外気浴を 2 時間絶対にさせないといけないとか、常に気を張って
いる感じでした。赤ちゃんが目の前にいても、どうやって接したらよいのかわからず、変な抱き方をし
て背中を痛めたりしていました。
そんな毎日の中で、赤ちゃんが 4 ヶ月ぐらいで絵本に興味を示したとある本で書いてあったのを読み、
自分の子どもも 4 ヶ月ぐらいだったので、試してみようと読んでみました。寝転がった赤ちゃんの隣に
横になって、子どもの上に絵本をもってきて、絵本を見せてみました。その時にじーっと絵に集中して
食い入るように見ていて、私が読んでいることばもちゃんと聞いてくれるような感じを強くうけました。
何回か読むうちに、同じページにきたらにっこり笑ったり、手足をばたばたさせたりということがあ
り、
「もうわかるのだな」とすごくうれしくなりました。うまくつながりができない赤ちゃんとの間に
絵本を通して回路が生まれ、わかりあえるような感じがしたのです。子育てがしんどかった時に絵本を
2 現在は熊取町役場都市整備部まちづくり政策課勤務
使えたことが、今の仕事をする上でも大きな原動力になっていると思います。
<図書館の取り組み>
図書館で赤ちゃんと保護者に向けた取り組みを行う理由は大きく 2 つあります。1 点目は赤ちゃんと
の生活に絵本が使えるということです。赤ちゃんを前にしてうまく回路がつくれない保護者に、赤ちゃ
んがにっこり笑ったときの喜びや、同じ世界を楽しむ喜びを感じてほしいと思いました。2 点目は、子
育ては一人ではできないという実感です。同じ子どもを持つ親どうしで話せば楽になれることもありま
す。熊取町には児童館などがなく、赤ちゃんを連れて気軽に親が集まれる場所を図書館につくれないか
と考えました。
熊取町のブックスタートは、図書館と健康課と地元で長く子どもと本をつなぐ活動をしてきた熊取文
庫連絡会(以下「文庫連」
)の三者で行っており、ひとりひとりと健診の時間に話をして絵本を渡すこ
とを大事にしています。三者で行うことに意味があり、図書館員も子どもの発達や子育ての状況を知っ
た上で「図書館では何ができるのか」を考えていくことができました。また、子育ての大先輩でもある
文庫連の「ぐらんま」のメンバーと相談しながら健診を受けるという安心感があり、健診が診断をする
場だけでなく、地域で子育てをフォローする場となり、ブックスタートが始まったことで健診の質が向
上していると保健師からも評価をいただいています。子育て関係者連絡会議へは、子育てを支援する機
関のひとつとして図書館も参加しています。2 年間のブックスタートの取組により、大阪府の子ども読
書活動推進計画にもありましたが,一つ一つではできなかったことが、それぞれの専門機関や団体が力
を発揮しながら一緒に連携することで変わっていく部分が大きいと思いました。
<これまでの事業の効果と評価>
ブックスタート事業について、実際に絵本が家庭でどう活用されているかをお聞きするために 1 歳 7
ヶ月児の健診でアンケートを取っています。このアンケートでは、ほとんどすべての方が今後もブック
スタートを実施してほしいと希望しています。アンケートには「まだ少し早いのではと思いましたが、
子どもに見せたところ、声を出して笑うなどの反応があり親子で楽しめました」
、
「あまり本になじみが
なかったが、ブックスタートをきっかけにきょうだいで図書館に通い始めた」などのうれしい声をたく
さんいただいています。また、財団法人大阪国際児童文学館の調査では、1 歳 6 ヶ月児の図書館利用が
40%ぐらいという結果でしたが、熊取町では 1 歳 7 ヶ月児健診でのアンケートによると、60%程度です。
4 ヶ月児健診でも簡単なアンケートを取っていますが、図書館利用は 52%と、府内の状況に比べると少
し利用が多いと思います。
けれども数字に表れる以上に、図書館員は 2 年間のブックスタートの成果を感じています。最初はブ
ックスタートの袋を持って来館される人を見ると「あ、持っている」と思ってすごくうれしかったので
すが、今では普通に毎日毎日たくさん持って来られているという感じです。4 ヶ月児の健診の時には図
書館の存在を知らない、自分たちの生活範囲にはないという感じだったのが、1 歳7ヶ月児のアンケー
トでは、畳敷きの部屋がほしいなど様々な要望があがっています。例えば『じゃあじゃあびりびり』を
渡していますが、
「この本がすごくよかったから、他にこんな本はないか」と相談を受けることも増え
たように思います。
昨年から今年にかけてのアンケートでいただいた声も参考にして、講座を行ってきました。赤ちゃん
向けの連続講座として「あかちゃんと遊ぼう」を平成 12 年から行ってきました。わらべ歌で遊びなが
ら安心して親子が楽しむためには 1 回きりでは無理なので、ずっと連続講座で行ってきたのですが、申
し込み開始の時間には電話がなりっぱなしになるような人気の講座です。希望しながら参加できない方
がおり、ブックスタートのアンケートでも少数ですが、絵本を活用できなかったという声がありました
ので、4 ヶ月児健診で絵本を受け取った方がすぐ気軽に参加できる場が欲しいと考えました。そこで今
年の 4 月から、
「あかちゃんの時間」という申し込みなしで参加できる会を始めました。こちらも 30 分
くらいわらべ歌で遊び、自己紹介したり手作りのおもちゃを出して自由に遊んだりする 1 時間程度の会
です。4 月から始まってまだ 3 回なのですけれども、先月もブックスタート終えたばかりの 5 ヶ月の赤
ちゃんを連れて何人も参加してくれていました。
4 ヶ月児健診の後には、熊取町は 1 歳 7 ヶ月児の健診と 3 歳 6 ヶ月児の健診があります。1 歳7ヶ月
児の健診では文庫連のメンバーが、3 歳 6 ヶ月児の健診では図書館の職員が出向き、健診の最初の時間
に、絵本とか手遊びをしたり、図書館で 2 歳から 4 歳ぐらい向きに行っている絵本の会の案内などをし
たりして、その年齢にあった絵本のガイドをお渡しすることを行っています。保健センターには、熊取
図書館の絵本を 200 冊ぐらい団体貸し出しをしていて、健診の待ち時間には図書館の本をいつでも使っ
てもらえるようになっています、熊取町の場合は 4 ヶ月のブックスタートで絵本を受け取った人が、1
歳 7 ヶ月でも 3 歳 6 ヶ月でも、健診にくるたびに絵本の話があることになっています。
ブックスタートでひとりひとりとお話ができたり、図書館で赤ちゃん向けの講座ができたりするのも、
熊取町には文庫連という長く活動されてきた住民のグループの存在がとても大きく関わってきます。
「あかちゃんと遊ぼう」の講座もずっとメンバーの秋本さんに講師をお願いしています。いつまでもボ
ランティア方に頼りすぎてもいけないので、
「あかちゃんの時間」は、9 月から図書館の職員中心で始
める予定です。赤ちゃんに関わることでは、子育ての経験とか本に関する経験も豊かな年配の方の存在
が大きく、又、町の職員だけではなく、地域の人も子育てをフォローしているというメッセージを伝え
ることもできます。実際に文庫がお母さんたちの受け皿にもなっていますので、地域でフォローしてい
るというメッセージを伝えることができていると思いますし、保護者にも安心感を与えていると感じま
す。
<図書館にとっての今後の課題>
これからの熊取町の図書館で考えていきたいと思っていることは、赤ちゃんを育てている親の居場所
作りです。赤ちゃん教室や子育て教室を熊取町役場の様々な課が行っていますが、その調整がうまく取
れていません。1 週目は図書館、2 週目は保健センターになど、少なくとも毎週どこか行ける場がある
ように全体で考えていく必要があります。図書館ではわらべ歌を中心に遊びを伝えたりしながら、お母
さんどうしの交流になる場をつくり、図書館が子育て支援の役割を担うことを考えています。
次は、本の環境作りです。初めてブックスタートで絵本を受け取ったお子さんが、今 2 歳半ぐらいに
なります。このぐらいの年齢向けとして、毎週土曜日に「こぐまタイム」という絵本と手あそびの会を
行っています。小学生以上の方にはストーリーテリングの入った「おはなし会」を行っています。3 歳
で幼稚園や保育所に行っているお子さんが、熊取町では 65%ぐらいなので、今 2 歳半のお子さんたち
が、来年の 4 月になると幼稚園や保育所へ半数以上は通うことになります。その時に、図書館からどの
ように幼稚園や保育所に通う子どもたちに本を届けることができるのか、図書館が幼稚園や保育所の先
生とつながって子どもが十分に本に親しむことができるように連携していくことが今後の課題です。文
庫連では、
「おはなしキャラバン」という名称で、保育所や小・中学校に入ってきめ細かい活動を行っ
ていますが、図書館がどう連携を取っていくかが、今後の課題となっています。ブックスタートで育っ
た子どもたちが、それで終わりでなく、ちゃんと年齢に応じて、ふさわしい本に出会うことができ、た
っぷり楽しんで学校に行ける、そういう環境を作りたいと思っています。
<赤ちゃんにとっての絵本>
最後に今日のテーマである「赤ちゃんと絵本」についてお話します。まずブックスタートでの絵本選
定についてです。選定された絵本には、熊取町では『いない い
ない ばあ』は入っていません。熊取町では職員と文庫連の担当
するスタッフ等で絵本選定を行っていますが、4 ヶ月でお渡しする
のに一番よいと考えて選んだ絵本は『じゃあじゃあびりびり』で
す。その理由は、ことばのおもしろさ、
「みず じゃあじゃあじゃ
あ」
「じどうしゃ ぶーぶーぶーぶー」という音のおもしろさ、絵
がはっきりしていて赤ちゃんの注目を得やすいこと、丈夫で 7 ヶ
月ぐらいでお座りできた赤ちゃんが、自然に持てるぐらいの大き
さになっていることなどです。実際とても人気があり、ブックス
『じゃあじゃあびりびり』<まついのりこあ
かちゃんのほん>(まついのりこ/さく 偕
成社 1983 年 7 月)
タートの後に「あの本(『じゃあじゃあびりびり』)がすごくよか
ったので同じような本はないですか」とよく聞かれます。
今までブックスタートや赤ちゃん向けの講座についてお話ししてきたのですが、改めて赤ちゃんと絵
本を考えると、赤ちゃんにとっての絵本はテレビや CD などの音ではなくて生きたことばを自分のため
に語りかけてくれるという大切な体験ではないかと思っています。そういう意味でわらべ歌もとても大
事に考えています。絵本で語りかけといいますと絵本でなくてもよいともいえるのですが、大人の立場
でいいますと絵本があると赤ちゃんへの語りかけがとてもしやすいと思います。特に『じゃあじゃあび
りびり』のような絵本では、もともとのことばのおもしろさがありますし、赤ちゃんも反応することが
多いようです。
また絵本を通じて子どもと関わっていると、子どもの成長がとてもよくわかります。初めはじっと見
ているだけだった赤ちゃんが同じページに反応するようになったり、手足をばたばたさせて喜んだりす
るようになる。そのうちに絵本のことばをまねして「ぶーぶー」と言えるようになってきます。これは
親にとっては大きな喜びだと思います。赤ちゃんのころの絵本というのは赤ちゃんにはことばを語りか
けてもらう大事な体験であり、親にとっても子どもを理解する助けとなるつながりをつくってくれるも
のではないかと思います。赤ちゃんのときは書いてある文字をそのまま読んだりするのではなくて、絵
を見て自由に話しかけるなど、コミュニケーションの手段のひとつとして絵本をとらえています。
絵本のもうひとつのよいところは、子どもの成長に応えていけることだと思います。赤ちゃんは大人
の成長のスピードとは全く違っていて、一日一日成長しています。
今年お渡ししているのは『じゃあじゃあびりびり』と『くだも
の』ですが、初めはじっと見るだけだった赤ちゃんが実際にくだ
ものを食べるようになって、ある時にそのくだものをこの本に描
かれているものと同じだと気づくようになります。それは子ども
にとって大変な発見だと思います。うちの子はこの本を見て本当
に食べようとしていて、一生懸命つまんで取れないことに腹を立
てて本を叩いていました。子どもも 1 歳ぐらいになると、食べる
『くだもの』<福音館の幼児絵本 6>
(平山和子 文・絵 福音館書店 1981 年
10 月)
まねをすることもできるようになり、自分で取るまねをするだ
けではなくて、相手にどうぞと渡したりするようになります。0
歳代は大きな 1 年間だと思います。0 歳を過ぎて 1 歳、2 歳になっていても、同じ『くだもの』で全く
違うとらえ方ができます。そのような子どもの成長に応えていけるところも、絵本の優れているところ
ではないかと思います。
ブックスタートでお渡しできるのは、この 2 冊の絵本だけですが、その後ろには図書館が控えていて、
広い絵本の世界があり、子どもの成長にあわせて楽しんでもらうことができます。また赤ちゃんを連れ
て気軽に集える場でもあり、相談に乗れる場でもあるという、こうしたことを目指して、これからも図
書館で赤ちゃんと保護者へのサービスを行っていけたらと思っています。
4.保育園での赤ちゃんと絵本の出会い
徳永満理(おさなご保育園)
私は、実際に赤ちゃんが保育園でどんなふうに絵本を楽しんでいるのかを見ていただくのが、いちば
ん「赤ちゃんと絵本」をわかっていただけると思って、ビデオを用意しました。
(保育園の 0 歳児クラ
スで徳永先生や他の保育士の先生方が絵本を集団で読んでいる場面のビデオが上映された)
<保育園での読み聞かせ>
私は毎日、0 歳から 5 歳までの子どもたちに絵本を読み聞かせています。赤ちゃんは本当に絵本が大
好きなのだなと思います。絵本のなかに自分の知らない世界があることを赤ちゃんなりに感じていて、
それが好きなのかなという気がします。もちろん赤ちゃんは肌のぬくもりを感じながら、先生やお父さ
んお母さんから読んでもらうことによって、知的要求も満たしてくれると感じているとも思います。私
自身も絵本に魅せられながら、赤ちゃんから読み聞かせをしてきました。保育園では、43 日目から子
どもが入ってきますので、保育園でのブックスタートは 43 日目からです。そしてそれは何十年も前か
らやってきました。ただ実際に楽しみ始めるのは、人とか物を認知する 7 ヶ月ぐらいからだと思います。
ビデオは、撮影のスタッフが入っていて、しかもお昼寝前の眠たい時間なので、日ごろの様子が少し
出ていませんが、ご覧ください。いつも赤ちゃんのクラスでは 11 時 40 分ごろ、おなかがいっぱいにな
って眠るのには少し早いという時間に、絵本の読み聞かせをしています。7ヶ月児から1歳 5 ヶ月児ぐ
らい 10 人のクラスで、ダウン症のお子さんが 1 人入っています。
<読み聞かせの事例紹介>
これは、去年の 11 月頃の撮影です。だいぶ、食べるまねっこみた
いなものが出てきて、絵本(
『おいしいな うれしいな』
)の中のにん
じんやおいもを取り出してきて、ひとりひとりの赤ちゃんの口元に持
っていってあげると、だいたい 10 ヶ月ぐらいの子は口をあーんと開
けますので、物のイメージを感じ始めていると思います。
赤ちゃんが能動的に自分から絵本に参加するのは無理なので、赤ち
ゃんが絵本に入れるようにきっかけをつくることを大切にしています。
大人と赤ちゃんとそして絵本と、この三つの関係の結び目をつくるよ
うに読み進むと、赤ちゃんたちも今ここを読んでいるのだという感じ
で見たり、指をさしたり、手を出したりしてきます。集団なので、 『おいしいなうれしいな』<ゆうちゃんは 1
一対一で関わって読んであげることができない分は、できるだけ
さい 3>(とくながまり/さく みやざわ
はるこ/え アリス館 1996 年 12 月)
近くに持っていくようにして読んでいます。これは、視覚との関係もありまして、4 ヶ月で 0.1、1歳
近くになってやっと 0.2 ほどの視力が育っているので、集団で読むときにはできるだけ近くで読むこと
が大事であると思っています。
また、ことばで聞き取っているところがあるので、できるだけことばをゆっくりと、ひとりひとりに
届くように読む、あまり急いで読んではいけないといつも思いながら読んでいます。
次は『ぴょーん』という絵本で、保育園で大ヒットの絵本です。
「ぴょーん」ということばに触発さ
れながら、子どもたちの身体が動き出す絵本です。擬音語・擬態
語は、赤ちゃんが絵本に自分から参加していけることばであると
思っています。
「ぴょーん」ということばで、子どもの気持ちとと
もに身体も立ち上がってきて絵本のなかに身体ごと入る、そんな
感覚を持っているのではないかと思いながら読んでいます。
読んだ後、絵本の楽しかったところ、おもしろかったところを
再現して遊びます。赤ちゃんたちは大人とスキンシップをしなが
ら楽しめるので大好きな時間です。これを 365 日積み重ねていく
『ぴょーん』<はじめてのぼうけん 1
>(まつおかただひで/作・絵 ポプラ
社 2000 年 6 月)
ので、当然絵本も好きになりますし、一緒に絵本を読んだ後に遊
んでくれる大人も好きになります。これを 5 歳まで続けると、保
育園の生活のなかでは絵本と絵本の後の遊びがなくてはならない
生活の中の空気のような存在になっています。
この絵本は『おっぱい』です。この子たちは 10 ヶ月から 1 歳 8 ヶ月児で撮影は 11 月ごろです。大好
きなお母さんのおっぱいというものの印象があるのだと思います。絵
本のなかのおっぱいをさわって楽しんでいました。やはり「おっぱ
い」ということばの響きと絵が融合して、赤ちゃんたちにメッセージ
を与えているのだと感じます。
次に『おつきさまこんばんは』を読んでいるところです。
『おっぱ
い』を読んでいた時と同じ子どもたちなのですが、時期は夏で 7 ヶ月
から 1 歳 4 ヶ月の赤ちゃんたちです。
『おつきさまこんばんは』の
「こんばんは」ということばにとても反応して、頭を下げるというよ
『おっぱい』<たんぽぽえほんシリー
ズ 10>(みやにしたつや/作・絵
ちゃんなりにとらえていると感じます。 すずき出版 1990 年 5 月)
うな身振りやまねがかなりでてきます。ことばと物とが一致して、赤
最後の「あっかんべーえー」の裏表紙が大好きで、
「べーえー」という
顔をして「あかんべーえー」と言って
楽しみます。赤ちゃんはことばに反応
しながら、自分でもまねをして楽しみ
ます。自分で顔をつくって大人に見せ
て、一緒に喜ぶという共有する関係を
『おつきさまこんばんは』<福音館
あかちゃんの絵本 くつくつあるけの
ほん 4>(林明子 さく 福音館書店
1986 年 6 月)
集団のなかで育てているのだと思いま
す。
この絵本は『おにぎり』で、11 ヶ月
から1歳 10 ヶ月児です。もうかなりイメージがはっきりしていて、
絵本のなかからおにぎりを取り出してあげるまねをすると、大好きな
食べ物の一つなのであかちゃんは食べるまねをします。イメージが育
『おにぎり』<幼児絵本シリーズ 46>
(平山英三 文 平山和子 絵 福音館
書店 1992 年 9 月)
ってきているとつくづく思います。一人でも抜かそうものなら納得しないので、みんなにおにぎりをあ
げるまねをします。
この絵本は、
『なあい なあい あった』です。このころになると、物とことばが対応して、あるこ
ととないこともわかって、先読みしてきます。物語がわかってきて、ないときはない顔をしています。
このように物とことばが一致することの楽しさを満喫し始めて、絵本が
楽しくてしかたがない子どもたちに育っていきます。
(自動車がたくさんのっている絵本を見ている場面のビデオが流れて
いる)市のごみ収集車がならしている歌を歌うと、自動車ごっこがはじ
まります。いっぱい自動車がある中で、ごみ収集車を選ぶ子がいたりし
ます。この子は 8 ヶ月児なのですが、自分にも車を選ばせてくれと指差
をしていて、すごいなと感心してしまいます。この後、読んで終わりで
『なあい なあい あった』<ゆ
うちゃんは 1 さい 2>(とくな
がまり/さく みやざわはるこ/
え アリス館 1996 年 11 月)
はなくてひとりひとり選んだ車に乗って、
「ぶっぶー」といって 10 分か
15 分ぐらい遊びまわります。この時間が子どもたちは大好きです。絵本を
見せてもらうだけではなく、絵本の楽しかったところ、おもしろかったと
ころを先生と一緒に再現して遊びます。知ったことを身体を動かして自分のものにしていくということ
を繰り返しながら、育っていくのだと思います。ですから、おさんぽの絵本を読んだらおさんぽに行き、
絵本と同じようないろいろな体験をして帰ってきて、またおさんぽの絵本を読んでもらう、そんな繰り
返しをしながら、2 歳ぐらいまで楽しんでいます。絵本というものは特に小さい子の絵本の場合は、た
だ読んであげるというだけでは、おもしろさが十分つながっていかないので、おもしろさの質が大事だ
と思いながら読んでいます。
<赤ちゃんと絵本を楽しむ時に大切にしていること>
赤ちゃんの場合は、聴覚は非常に発達していて、胎児でも聞こえているとも聞いたことがあります。
生まれた後に視覚がどんどん育ち、4 ヶ月あたりで色を感じ始めて、1 歳ころになると視力 0.2 程度は
見えているようです。そうしたことも考慮に入れながら、絵本の読み聞かせすることが大事であると思
って、読んでいます。
もう一つは、やはりことばが大事だということです。耳は非常によく聞こえるので、ことばに対して
研ぎ澄まされてして、大人がどんなことばを言うか、すごく敏感に聞いています。ですから、ことばを
大事に読んであげる、特に小さい子にはじっくりゆっくりと聞かせてあげるのが大事だと思いながら、
日々読んでいます。
5.
「赤ちゃんが絵本を楽しむ」ということ
佐々木宏子(コメンテーター 鳴門教育大学)
<絵本の環境づくりとブックスタート>
岸本さんからは、ブックスタートがきっかけだったのでしょうが、自治体を通しての絵本の環境づく
りをお話いただきました。今、たくさんの自治体が環境づくりにいそしんでいらっしゃるのではないか
と思います。
藤井さんには、図書館が共に子育てを考える場でありうるのか、というところまでお話を広げていた
だいたと思います。もちろん絵本もありますが、わらべ歌スタートあるいはおもちゃスタートあるいは
赤ちゃんとあそぼうスタート、日本語であそぼうスタートなど、要するに健診時に身体の健康だけでは
なくて、文化的な意味での子育ての条件をどう整えていけばよいのかについてかなり詳しくお話しいた
だきました。いろんなスタートがあって、ブックスタートだけではなくて、手遊び・指遊びのスタート
などを同時に展開していってらっしゃる様子をとても興味深く伺いました。赤ちゃんとともにすすめて
いくことが、赤ちゃんとコミュニケーションを取る上でいかに大切かをということをお話しいただいた
と思います。さらに、図書館員としてどういうふうにその後までフォローすればよいのかについて、図
書館での「こぐまタイム」や、わらべ歌の取組について、あるいは幼稚園・保育園との連携について本
が子どもを育てる文化のひとつとしてどのような可能性がありうるのかについてお話しいただきました。
今、子育て支援や次世代育成事業に多くの取組が行われているのですが、私は本だけが大切ではない
と思います。ブックスタートが注目を浴びているのは本という具体的なものがあり、私も理事を勤めて
いる「NPO 法人ブックスタート」があることで、組織的にも運動体として行いやすいという面がありま
す。しかし実際には困難な面もあるのかもしれません。胎児の段階からビデオやアニメーションにどっ
ぷりつかっておりますので、それ以外の親と子が能動的に立ち上げていかなければいけない文化が後へ
後へと押しやられてしまっている状況があります。用意しないと文化として成立しないものの中に、重
要なものがあると思っています。絵本をとおして親と子がコミュニケーションをいかに展開していくの
か、どういう楽しみがあるのか、絵本の楽しみ方が子どもの成長とともにどのように変化していくのか、
一般的な絵本環境の整備から絵本やそれ以外のわらべ歌で遊ぼうとの連動までお話いただきました。
<おもしろさの質について>
徳永さんのお話を伺って、最後におっしゃった「おもしろさの質」という問題を最終的には考えなく
てはならないと思いました。おもちゃで遊ぶ、わらべ歌で遊ぶなどいろいろな子育て文化があります。
絵本なら絵本というものが、子どもとの間でコミュニケーションを取る可能性を持ちながら、なおかつ
双方に楽しいコミュニケーションであるために、どういう質の実現を図らねばならないかを考えていく
ことが次の段階だろうと思います。これは、実はすごく難しいと思います。徳永さんからは保育所でこ
ういう可能性もあるといくつかの絵本を中心にしながら、具体的な実践を報告していただきました。そ
こから「おもしろさの質」の問題を議論し、その結果をお互いに共有していくならば、ブックスタート
運動というものは大きく子育て文化のひとつとして、発展していくと思います。
私もビデオを見ていただこうと思って、持って参りました。一人の子どもを対象に追跡調査をしてい
ます中から、10 ヶ月児の場面を見ていただこうと思います。
まず「ももたろう」の話を語りました。6 分間ずっと赤ちゃんが聞いて
いたのを撮っています。聞き手である赤ちゃん本人にはまったく内容はわ
かっていないはずですが、とにかく聞いていました。絵本を読むことは、
聞き手である子どもと読み手である親の間に同時に活動が立ち上がってい
くことなのです。保護者が赤ちゃんに絵本を読むと、多くの場合「うわあ、
赤ちゃんが絵本を見た」と喜んでおられます。それはとてもよいことなの
ですが、生でやりとりする手あそび、指あそび、わらべ歌が実は最初にく
るべきものなのです。
これは『もこ もこ もこ』を見ている場面です。今までの私の経験か
『もこ もこ もこ』<みるみる
絵本>(谷川俊太郎/作 元永定
正/絵 文研出版 1977 年 4 月)
ら、絵本には二つのタイプがあると思っています。一つは意味の世界へ入っていく、いわゆる生活絵本
だとか物の絵本とかというものです。もう一つは、最近のナンセンス絵本です。ずいぶん出ていますが、
存在の構造を子どもがキャッチするタイプのもので、長新太さんの絵本など、0 歳児はとても好きです。
そうした絵本は、さまざまな事物とかストーリーが現実とのかかわりで明確な接点を持っていないため
に、読む側はすごく困惑するのです。それに近いものとして『もこ もこ もこ』と、あとは非常にリ
ズミカルな、やはりやり取りが可能な『たんたんぼうや』があります。楽しさの質というものが、
「も
もたろう」
『もこ もこ もこ』
『たんたんぼうや』の三つのプロセスでかなり違うものであると思って
います。
これは『もこもこ』を見ているところです。10 ヶ月児で、あんまり本の好きなタイプの子ではあり
ません。
「ももたろう」の語りは、最初はぶっつけ本番でことばだけで聞くかどうかやってみました。
やはり意味はわかっていないと思います。けれども、そこに現実の世界ではなくて物語という世界があ
って、それが大きな意味があることを瞬間的にキャッチしている気がします。
この子は『もこ もこ もこ』とか長新太さんのナンセンス絵本がすごく好きな子どもです。確実に
擬声語・擬態語というものとリズムのやりとりを楽しんでいます。人の顔を見て、一緒のリズムを同時
に立ち上げてつくることが非常に楽しいという絵本の楽しみ方をしています。
最後の『たんたんぼうや』は、意味・内容を追いかけています。
「た
んたんたん」と、リズミカルに次々に動物が登場する絵本で、大きなス
トーリー性や意味はないのですが、絵本の絵により近い楽しみ方をして
いる感じがしました。子どもは絶えず読み手とのコミュニケーションを
取ろうとがんばっています。私はひざの上に乗せて読むという読み方は、
子どもの表情が見えないから反対です。何のために読んでいるのかわか
らないと思います。ひざは心地よいというのですが、ときどき逃げない
『たんたんぼうや』<0.1.2.えほ
ん>(かんざわとしこ/ぶん やぎゅ
うげんいちろう/え 福音館書店
1998 年 4 月)
ようにひざの中に入れてしまうのではと思ったりします。親と絵本と、
子どもとの三項関係のなかで、コミュニケーションの回路ができていく
ことがとても重要だと思います。ひざに乗せてしまうと、子どもは後ろ
を向いて親の顔を見ようとします。今後、ブックスタートでも、絵本でも、子どもによってひとりひと
り違うのですから、ひとりひとりが絵本を通して親子関係の中でどういう楽しみ方を育もうとしている
のかについて、いろんなところで実践を通じて考察していだけるとありがたいと思います。
<第2部:質疑応答・討議>
1.赤ちゃん絵本を選ぶ−視点と経験−
土居
休憩中に会場から絵本の選書についての質問を多くいただきました。
そこで、まずは岸本さんから『いない いない ばあ』を選ばれた経緯についてお話しいただきたい
と思います。加えてあかちゃん絵本について個人的に感じてらっしゃること、『いない いない ば
あ』を選ばれてよかったと思われるような現場の体験などがあれば、お話しいただきたいと思います。
次に、藤井さんにブックスタートで配布されている『じゃあじゃあびりびり』と『くだもの』の選定
の経緯についてお話しいただき、続いて徳永さんに、前半でお話しくださった以外の赤ちゃん絵本をご
紹介していただければと思います。
岸本
大阪市は『いない いない ばあ』を採用しています。関係者やさまざまな専門の関係者に集 まっ
ていただいて、いろいろなおすすめ絵本の中から選びました。そのなかで『いない いない ばあ』の
質が一番高いという声が多かったと思います。長年親しまれている絵本ということもあり、実際に現場
で読み聞かせをするときも、語感や「いないいないばあ」と赤ちゃんに語りかけることばといったもの
が好評を得ております。
しかし、2 万 4 千人全員にお渡しすることが前提だったので、多少は選択肢がせばめられたと思って
おります。
藤井
熊取町でのブックスタートで最初に選んだのは、『もうおきるか
な』と『くだもの』でした。これらの絵本は、もちろん「よかった」
という声もあったのですが、すぐに 4 ヶ月から使える絵本ではないの
で、ブックスタートで配布する時には『じゃあじゃあびりびり』など
をお見せしながらお話をして、お母さんに赤ちゃんへ読んでもらうよ
うにしていました。アンケートではもらった本ではなくて、健診で見
せてもらった絵本のほうがよかったという意見がありました。
平成 14 年にブックスタートを始めた当初は、私ともうひとりの職
員で絵本を選びました。その時は、赤ちゃんには物の本がいいだろう
と思っていたところもありました。また、動物やくだものが本物のよ
『もうおきるかな』<0.1.2.えほ
ん>(まつの まさこ/ぶん やぶう
ち まさゆき/え 福音館書店 1998
年 6 月)
うに描かれていて普通に本屋さんでなかなか選ぶことのない本、こういう本を読んでほしいという本を
選んだと思います。それが実際には使いにくく、遊びにすぐに使えるものがよいと思うようになりまし
た。赤ちゃんによっても絵本のたいへん好きな子とそうではない子がはっきりしており、4 ヶ月ぐらい
でどんな本でもじーっと聞いて楽しむ子もいるし、ぜんぜん興味がなくあまり見ようとしないという子
もいます。そして『じゃあじゃあびりびり』が多くの子どもに喜ばれるということがだんだんわかって
きましたので、去年から『じゃあじゃあびりびり』を採用しました。
1歳7ヶ月児のアンケートには、4 ヶ月児健診時に『もうおきるかな』と『くだもの』を受け取られ
た保護者が、2 人目の子どもの時に『じゃあじゃあびりびり』を受け取り、
「1 人目のときの本もよかっ
たけれども、こっちのほうがよかった」という意見がありました。熊取町では図書館が開館して 10 年
ですので、10 年の経験しかありません。
『いない いない ばあ』に昔から親しんだという経験の蓄積
があまりないので、図書館でも『いない いない ばあ』の人気はあまりありません。保護者の方に紹
介しても借りられなかったりします。やはり若い保護者は、色のきれいなのがいいとおっしゃる方も多
いです。私は、赤ちゃんも親も楽しめる『くだもの』と『じゃあじゃあびりびり』が今のところはいい
と思っています。
土居
「
『じゃあじゃあびりびり』のような絵本が他にはありませんか」とよく聞かれるそうですが、具体
的にどんな本を紹介されていますか。
藤井
同じまついのりこさんの『ばいばい』とかを紹介しますが、
『じゃあじゃあびりびり』の方がおもし
ろいと思います。紹介はしますが、実際に読んでみて、保護者の方も「
『じゃあじゃあびりびり』しか
赤ちゃんが見ないから、もう借りるのをやめます」と言って帰られたりしました。一応他にも紹介はす
るのですが、いろいろな本を見たほうがよいということではないので、
「今この 1 冊が気に入っている
のなら、ずっと読まれたらよいですよ」とお話しています。
徳永
私の勤務先は保育園ですので、たくさんの絵本の中で選びます。
「どれ?」と言われるとなかなか決
まりませんが、やはり最初に読んであげるのは『いない いない ばあ』です。絵は確かに見にくい面
もあるとは思いますが、黒い目があって前向きになっているので、赤ちゃんの視線が定まるのではない
かと思っています。さらによいなと思うのは『いない いない ばあ』ということばで、いろいろなバ
リエーションを持って遊べることです。ただ絵本を読んでもらった、読んであげるだけではなくて、そ
の後実際にいろんなかたちで「いないいないばあ」をしたり、毛布を持って来て「いないいないばあ」
と言ってタオルケットを取ったり、透けている布を持って来て「いないいないばあ」をして遊んだり、
ともかく多様なあそびに発展させることができて、小さい赤ちゃんから楽しめるので、この絵本を読ん
でいます。
『もこもこもこ』の絵本も、広い年齢、月齢幅の子どもが楽しめる絵
本だと思って読んでいます。私が読んでヒットだと思ったのは、
『ぱく
り』という絵本です。これは擬音だけです。ありが「ぼりぼりぼりぼり
ぼりぼりぼり、ぼり」といいながら、ともかく食べている音が出てきま
す。
「かり、かり、かり、かりかりかりかりかり、つる、つる、つる、
つるつる、ぺろぺろぺろ、れろれろれろ、もぐもぐもぐ、がつがつがつ
がつ、むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ、ばり、ばりばりばりば
『ぱくり』
(ふじかわ ひでゆ
き/さく 佼成出版社 1995
年 10 月)
りばり、ごっくん、がぶり」などの擬音が続きます。擬音や音の絵本は、
赤ちゃんたちが耳から聞いて近づきやすく、絵本を楽しみやすいのでは
ないかと思います。
佐々木
「いないいないばあ」は、本来は大人と子どもが実際にやりとりしていた遊びです。それが、すたれ
てしまった面があります。「いないいないばあ」と言ったら赤ちゃんが笑います。今度は赤ちゃんが
「いないいないばあ」をすると大人が笑う。一つの笑いで読み手と聞き手の心が溶け合っていくのだと
思います。こういった経験を通じて、同じ経験を読み手と聞き手が分け合いながら、コミュニケーショ
ンの回路を開発していく機能が「いないいないばあ」にはあって、40 年にもわたってあれだけ広く受
け入れられていったのではないかと思います。
ですから、
「うわあ、笑った」といいますが、絵本でなくても、手あそび、指あそびでもすごく笑っ
てくれます。筋のまったくわからないお話にも笑うわけですから、この人は私に向かって何かを語りか
けているということに反応するのだと思います。
「ももたろう」で笑ったのは、確実に擬音語・擬態語
などでリズムに対して、うわーっと心が共鳴したのだと思います。
赤ちゃんにずっと好まれている絵本にはだいたいタイプがあるのですが、まったく違う絵本が好きな
赤ちゃんがいます。ですから、赤ちゃんは絵本が大好き、0 歳の赤ちゃんはこれが好きとそこまでは言
ってよいのです。しかし「0 歳なのにこの子どもはこの本が好きじゃないのはおかしい」という変な三
段論法だけはぜったいにやめてほしいのです。
いつも驚くのは、子どもたちが長新太さんの地味な色彩の『ちへいせんのみえるところ』
、
『ごろごろ
にゃーん』が大好きだということです。しかしながら、好きな絵本は本当に個人差があります。
「○歳
が好きな絵本」というのはあくまで一般論であるということ、子どもには個人差があるということをし
っかりと頭に入れなければいけないと思います。読まないといっても、じつはその子どもが本当に好き
な絵本に出会えていない場合もあると思います。
2.絵本を作る−出版社の立場から
土居
今、絵本の内容の話になっていますので、
絵本の作り手である出版社の方に少しお話
しいただきたいと思います。まずは、赤ち
ゃん絵本をお作りになるときにどんな絵本
をつくろうと心掛けていらっしゃるのか、
また赤ちゃん絵本をどう考えていらっしゃ
るのかについてお話しいただきたいと思い
ます。
ひかりのくに 渡辺猛
『ごろごろにゃ∼ん』<こどものとも傑
作集 68>(長新太/作・画 福音館書店
1984 年 2 月)
『ちへいせいんのみえるところ』
(長新太/作 ビリケン出版
1998 年 10 月)
私は月刊誌の編集をしていますので、その観点からお話をさせていただきます。
私たちが一番大切にしていることは、子どもたちはことばをまだ意味として感じていないという側面
です。子どもたちが聞いていて気持ちがよいというところが大切ではないかと思います。それから佐々
木先生のビデオを拝見して感じたのですが、三つの例すべてが音に対する反応ではないかと思いました。
初めは「ももたろう」を語っていらっしゃいました。赤ちゃんは自分の前におもしろいおばちゃんが
いて、このおばちゃんが私のために何かしてくれているという喜びがあったと思います。聞くというよ
りも自分のために何かをしてくれる、演じてくれる大人に対する共感、そういうものが3例とも強いと
いう気がしました。子どもたちの絵本のなかでは、その部分が一番が大切であると私たちはいつも感じ
ています。
童心社 横山雅代
先ほどから出ています『いない いない ばあ』に象徴される「松谷みよ子あかちゃんの本シリー
ズ」がどうやって作られてきたかということが、童心社の赤ちゃんの本に対する姿勢というものを一番
表わしていると思います。
松谷先生が講演などでよくお話しされていますが、初代の童心社の編集長である稲庭桂子が、松谷先
生に「赤ちゃんの文学をつくって」と最初に申し上げたことが、
『いない いない ばあ』ができるき
っかけになりました。当時出版されていた作品に比べて、赤ちゃんのためのストーリー、赤ちゃんなり
のドラマのある展開になっていると思います。そこが赤ちゃんの絵本としての画期的なところだったの
ではと思います。童心社は、小さい赤ちゃんのなかにもあるドラマというものを、親子でどう共感して
いくのか、それを本としてどう表現するのかを「松谷みよ子あかちゃんの本シリーズ」以降も追求して
きたと思います。
鈴木出版 永吉敦郎
鈴木出版は月刊の絵本の「こどものくに」という絵本を 38 年間つくっておりまして、0.1.2 歳向
きの絵本は長い間つくっていませんでした。今回、上製本から作りたいと思いまして、京都大学のサル
学の正高信男先生と一緒に 2 年前から企画を立ち上げました。何度もお話しながら、オノマトペでいき
ましょうということでスタートし、この春に発売いたしました。私たちが、赤ちゃんの絵本を考えると
きに、物語の多様性をどう読み手である私たちが受け止めながら、赤ちゃんの絵本と向き合うかが課題
だと思っていました。この 10 年ほどの間に日進月歩で脳の世界が解明される中で、赤ちゃんの脳から
の発信は、私たちにその神秘の扉を見せてくれます。この企画はそういうものを具体的にどう表現し、
見せるべきなのかをひとつのチャレンジと考えて、スタートしています。
今日のお話を聞いても思うのですが、ひとりの子どもが喜ぶ絵本もあるし、100 人の子どもが好きな
絵本もあります。出版社にとっては、9 割あるいは 7 割以上の子どもたちに支持されるものが、よい絵
本なのかもしれません。しかし、一人でも二人でも多様な物語のなかに吸い込まれていくことができる
ような赤ちゃん絵本をこれからつくっていきたいと思っております。
3.赤ちゃん絵本の読まれ方−テキストと絵のありようを考える
土居
赤ちゃん絵本の内容について「赤ちゃんの絵本にとってテキストの意味とは」という質問があります。
赤ちゃん絵本を読むときには、多くの人がテキスト以外のことばを読み手自身のことばとしてたくさん
補いますが、それでは「赤ちゃん絵本にとってのテキストの意味というのはどういうことなのか」とい
うことについてご意見をうかがいたいと思います。
藤井
赤ちゃんのときには、テキストどおりに読むことをお奨めしないし、あまりそのままの形では読まな
いと思います。けれども例えば『ぐりとぐら』や、
『おおきなかぶ』を読むときには、そのまま読むこ
とが多いと思います。やはり 2 歳から 3 歳ぐらいのあいだにコミュニケーションとして自由に変えて読
むことから、そのまま読むことへと変わってくるのだと思います。ことばを自由に読むのであれば、文
章はなんでもよいということになってしまうのですが、健診で絵本をお渡ししていても、文章はそのま
ま読まないといけないと思ってらっしゃる方が多いですし、自分で作って上手に読めるかどうかは個人
差が大きいと思います。私は一人目の子どもの時はそのまま読んでいました。4 ヶ月健診でお渡しして
も、赤ちゃんに自分のことばでどんどん読まれる方もいらっしゃいますが、多くの保護者の方はなかな
かことばが自由に出てこないと思います。ですから、赤ちゃんの絵本にとってのよいテキストというの
はこのまま読んでも楽しめて、赤ちゃんの反応を見ながら読み手がうまくことばが引き出せるようなも
のだと思います。
徳永
私は大きく変えて読む必要はないと思います。
4 ヶ月から 1 歳半ぐらいまでの赤ちゃんに読んでいた時のことです。4
月ごろだったので『わたげふわり』という絵本を読みました。
「わたげ
ふわり」
「よちよち、ひよこさんに わたげふわり」と読んでいきます。
赤ちゃんたちはあっち向きこっち向きで、最初から集中している子もい
るし、全く違うほうを向いている子もいます。
「ふわふわおうちのでき
あがり」と読んで、また「わたげふわり」と続いていきます。繰り返し
の「ふわり、ふわり」を強調して読んでいくと、だんだんと小さい赤ち
ゃんたちが、
「ふわり」をとらえて絵のほうにも注意が向けられるよう
『わたげふわり』(ひろのみずえ/
作・絵 「もこちゃんチャイルド」第
326 号 チャイルド本社 2004 年 5
月)
になっていくことを体験しました。
ことばを付け足すよりも、絵本のなかにあることばのキーワードをどう赤ちゃんの心のなかに届けて
あげるのかという読み方の工夫はいると思います。ことばのここの部分を少し強調して読もうというよ
うな読み方の工夫で、赤ちゃんはぐっと集中したり離れたりすると読みながら感じています。
佐々木
『もこ もこ もこ』は私があのように読んだというより、相手である子どもの反応によってああい
う読み方にさせられたという感じです。相手はどんなに小さくても自立した読み手だということは事実
だと思います。赤ちゃんは赤ちゃんなりに自立した読み手で、赤ちゃんの読み方をしています。ですか
ら、読み手が読んで一方的に引っ張っていくのではなく、赤ちゃんがどこに注目し、反応し、自立した
読み手として読んでいるかに着目して、注目しているところを確認して広げていく読み方が一番大切だ
と思います。
リズミカルな『いない いない ばあ』などはリズムやオノマトペ自体が読みを引っ張っていきます。
やさしい物語絵本や『くだもの』などの物の絵本は、日常会話がプラスアルファで入ってきます。自立
した読み手が二人いて、1冊の本を仲立ちに結合できる部分に着目しながら読みを広げていくのが理想
の読み方ではないでしょうか。
読み方は親子のかかわりと絵本の質、内容によって自由に変えてよいと思います。毎日絵本と読み
手と子どもとのかかわりが変わるのなら、自由に読んでよいのではないでしょうか。確かに高度な物語
絵本などテキストそのものに意味がある場合は、そのとおりに読んでいくことも重要になってくるでし
ょう。それでも、
『てぶくろ』などは子どもが最後にもう 1 ページ付け加えてくれと言ったり、
『いない
いない ばあ』では自分の顔を書き加えてくれとか、最後のエンディングを子ども自身が決めたがると
きもあります。柔軟であってよいと思っています。
土居
「おもしろさの質」について、もう少し具体的に説明してほしいというご質問について一言お願いし
ます。
徳永
0 歳から 5 歳までの年齢の子どもに読んでいますと、当然ですが絵
本に対しての反応は違ってきます。同じ絵本を読んでいても、年齢や
ひとりひとりの発達に応じて楽しみかたはそれぞれだという意味で質
と言いました。
例えば、
『おててがでたよ』という絵本を読んだときのことです。0
歳児も 1 歳半を超えている子どもたちにも読みました。
「おててがで
たよ」と「あれあれあれ、おててはどこかな」と読むと、1歳児など
『おててがでたよ』<福音館 あ
かちゃんの絵本 くつくつあるけ
のほん 2>(林明子/さく 福音
館書店 1986 年 6 月)
は一所懸命絵を見ているのですが、自分の手をさして、
「ここ、ここ、
ここ」と言います。ことばと物が一致している時期で、
「自分の手はこ
こにあるよ」と言って楽しんでいます。
2 歳過ぎになると、
「おててはどこかな」というと、
「ここ、ここ」
「ここ、ここにあるやんか」と絵
本のなかの手を指さしてきます。もうこの子たちは、絵本の中に自分から入っていっていると感じます。
3 歳から 4 歳ぐらいですと、
「おててはどこかな」と言いますと、
「あそこや、あそこや。ぎゅっとし
ているところや」と実際に絵の中に手は見えていませんが、向こう側にある手の絵を思い描きながら、
「ここやんか」と言います。見えない世界を見始めて、イメージの世界に入っているのだと思います。
4 歳、5 歳になってきますと、
「あ、でた」と喜んでいる男の子や、赤ちゃんのほっぺたが赤いところ
などを見て、
「あかいな、ほっぺた赤いな、一生懸命がんばったんやな、この赤ちゃんは」と、絵本の
なかの赤ちゃんの心情を受け止めています。
「自分も一生懸命走ったり、遊んだりしたあと身体がほて
って赤くなるで。だからこの赤ちゃんはがんばっているんやで」というふうに、絵本を客観視しながら
も、絵本の中に入り込んでその主人公の気持ちになっています。
4 歳、5 歳になってくると、赤ちゃん絵本からストーリー性を汲み取って、絵本のなかの出来事を楽
しんでいます。自分の思いに引き寄せながら絵本を作品としてとらえていると思います。年齢ごとに楽
しみの質がどんどん変わっていくのだと思います。
土居
シュタイナー教育の中で、
「絵本の絵がことばのイメージを限定してしまう。
」といわれていることに
ついてのご意見をうかがいたいという質問がありますが、それについてご意見をお願いします。
佐々木
シュタイナーでは絵をつけるとイマジネーションが限定されるというのですが、昔話を絵にするこ
とについては、東京子ども図書館の松岡享子さんがすべきではないと本に書いていらっしゃいます。も
ともとことばで聞くものだとおっしゃっていて、それについてはいろいろな議論がされています。けれ
ども、子どもの読み方としては与えられた絵の中だけに満足しないで壊していくことがあります。
理想的な絵はテキストにあることを絵にしない、絵にあることはテキストにしないと言われています。
けれども、そういう絵本はそれほど多くはありません。ただ、1、2 歳ぐらいまではテキストに書いて
あることが絵にないと「あれがない、これがない」と気にします。自分の持つイメージが絵で確認でき
ないことに対して、不安を感じています。
絵とテキストの二重奏といいますが、昔話絵本が子どもに入っていきやすいのは絵解きになっている
からです。絵とことばが同じようなことが描いてあるので入りやすいのです。そう考えると一概に絵が
イメージを壊すとはいえないと思います。その絵を壊していく時期が来るのであれば気にすることはな
くて、どういう絵がつけてあるのかがむしろ問題だ思います。
それから、コミュニケーションのひとつの大きなツールとして絵本があるということはとてもよく
わかります。今年の絵本学会の時に、『うさぎのおるすばん』((イ・ホベク/作 黒田福美/訳 平
凡社 2003 年 9 月)の作者、イ・ホベクさんをお呼びして、ラウンドテーブルを開催しました。その
時、彼が「子どもと 1 冊の絵本を分け合って楽しむときに、お互いの違いに気がつくことが非常に重要
である」とおっしゃいました。
コミュニケーションは、コミュニケートしている二人が同じ結論に行かなくてはいけないと日本では
考えてしまいますが、そうではなくて、コミュニケーションとは違いに気がつくことです。
「あ、違う、
あなたとは違うね」
「君とは違うね」
「自分の子どもとも違うね」
「なんで違うのだろう」ということが、
コミュニケーションを活性化していく大きなきっかけになるといっておられました。
続いてイ・ホベクさんが「私は親子のあいだで違いが出るような、その違いというものを気づかせる
ような絵本をつくりたい」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。
4.図書館との連携−大阪市のブックスタート活動
土居
後半は「赤ちゃんと絵本」に関わる活動に焦点をあててお話を伺いたいと思います。まず、図書館職
員から保健師さんへの研修内容を具体的に教えてください、という質問が来ています。
岸本
この事業を立ち上げる時、個人差はあるものの、保健師は絵本に詳しくはありませんでした。健診現
場でも健診を実施することに一生懸命で、病気を見落とさないように医師の指示が伝わったかどうかな
どにやはり気を取られます。指導は司書さんにしていただきますけれども、絵本をどう受け止めていた
だくかは保健師からも伝えないといけません。
研修の内容は、大阪市立中央図書館にお願いして、実際に絵本を何冊も読んでいただきました。絵本
をどんなふうに読んであげたら楽しいか、絵本は親子のふれあいのひとつのツール以上にすばらしいも
ので世界が広がっていくというようなことなどを司書さんからお話しいただきました。それを現場に持
ち帰って、保健師が他の保健師に伝えるという方法を取りました。
土居
今日は大阪市立鶴見区図書館長の斎藤さんが来てくださっています。図書館の側から大阪市のブック
スタートについてお話を伺いたいと思います。
鶴見区図書館長 斎藤
昨年の 8 月から、毎月第 2 月曜、第4月曜の午後、図書館からすぐ目と鼻の先の保健センターに、図
書館の司書が 1 名と絵本の会という各区にある図書館のボランティアグループの方から1名ないし 2 名
が一緒に出かけます。24 区の保健センターはレイアウトが違いますので、区によってボランティアの
活動や活動場所は違いますが、鶴見区の場合は廊下に図書館から持ってきた 50 冊ほどの絵本を並べま
す。1回 60 名ぐらいの親子が来られ、20 名ずつ健診の前の集団指導があり、栄養士のお話があります。
栄養士と保健師のあいだに司書の話しを入れていただいています。
「図書館から来ました」と言います
と、たいがいのお母さんはけげんな顔をされますので、栄養士さんに「自分が赤ちゃんの身体の栄養の
話、司書からは赤ちゃんの心の栄養の話をします」と紹介していただき、5 分ぐらい話をします。
お渡しするパックの中には『いない いない ばあ』の絵本とパンフレット、図書館の司書が絵本
に説明文をつけたカラーのパンフレットも一緒に入れています。
『じゃあじゃあびりびり』や『がちゃ
がちゃどんどん』など、擬音語・擬態語を使った絵本などもリストには入っています。
『いない いない ばあ』についても、
「今すぐ、4 ヶ月の赤ちゃんには無理かもしれません。でも、
1 歳のお誕生日迎えるころには、とってもお気に入りになるでしょうし、一緒に遊べるようになります。
それまでは、だっこしてわらべ歌を歌って、赤ちゃんと楽しいひとときを過ごしてください」とお話を
しています。廊下のすみっこに絵本を置いていますが、お母さんたちは健診の順番が気になって絵本ど
ころではない人が多いようです。私たちも健診の邪魔をしてはいけないと思って、絵本を持ってまわる
ことはしていません。3、4 ヶ月で首が据わってたて抱っこをされている赤ちゃんの前に、ブルーナの
折りたたみの絵本とか、
『ぴょーん』とかを開けてあげると、本当に目をぱっと見開いて、ずーっと追
っていきます。それを見てお母さんが、
「あ、見ているんだわ」と気づかれることがあります。初めて
の子育てで不安なときに、
「あ、この子にはこんなに見えるのだ」という喜び、楽しみを感じておられ
るようです。
また、健診についてきたお兄ちゃん、お姉ちゃんたちに「ここで絵本読んでお母さんを待っていよう
ね」といってかかわっています。
「大阪市」とロゴの入った布バッグにスタートパックが入っているの
ですが、そのバッグをちょっと大きいお姉ちゃんお兄ちゃんが図書館バッグとして使ってくれています。
これからも続く事業ですので、1 年経って見直しをしながら、よりよい効果的なものにしていきたい
と思っております。
5.大阪府立中央図書館での実践を踏まえて
大阪府立中央図書館 脇谷邦子
1999 年に 0,1,2 歳を対象にした「おはなしゆりかご」というおはなし会を始めました。その時に、
こういう活動には社会的な需要があるということを痛感しました。参加しているお母さんたちの表情が
変わっていくのがわかりました。
子育てに自信のないお母さん、どうしてよいのかわからないお母さんが増えている、社会環境が変
わってきていることを痛感します。そのなかで、図書館が一つの居場所を作っていると思います。お母
さんたちがリラックスして、同じような年ごろのお母さんと一緒におはなしを会を楽しむことでお母さ
んどうしのコミュニケーションができてきます。
「おはなしゆりかご」は私たちがボランティアの方にいろいろ教わりながら始めた事業ですが、私た
ち自身も子どもの成長や発達について勉強をしました。お母さんたちには子育てのなかで、子どもと絵
本を読んだり、わらべ歌で遊んだりできるということがわかって非常によかったという意見が多数でし
た。
図書館でおはなし会を開催しているのは、本を楽しんでほしいという目的があるからです。図書館
でも低年齢化の流れがあり、小さい子どもへのサービスの充実を図っています。赤ちゃんは絵本を楽し
んでいます。けれども、読み手と赤ちゃんとの関係や絵本を読む場での雰囲気、そのときの赤ちゃんの
機嫌で、どの絵本がよいのかは一概には言えません。絵本はコミュニケーション手段の一つですが、そ
ういう意味で渡し手の力量というものもあり、どれがよい絵本であるのかというのは難しいと思います。
ことばに関していえば、ある程度道筋が見えてきているのかと感じています。絵に関していえば、ど
ういう絵がよいのかは、まだ科学的に立証されてもいません。研究が進めばよいと思っています。
府立中央図書館の行事は、子どもたちの反応を記録しています。そういう記録を積み重ねて議論が
行われていけば少し広がるのではないかと思います。
私は集団で読むのと、お母さんと一対一で読むのとでは、選ぶ絵本も違うと思います。9 割の子が喜
ぶ絵本もあれば、一人の子が喜ぶ絵本もあると思います。図書館で読むということは、多様な楽しみの
可能性が広げられることでもあります。図書館が可能性の場であることを大切にしていきたいと思って
おります。
6.ボランティアの立場から
土居
熊取町でブックスタートにかかわっていらっしゃる「ぐらんま」の森崎さんに、ボランティアとし
て地域の「赤ちゃんと絵本」の活動にどうかかわられているのかをお聞きしたいと思います。
熊取町ボランティア 森崎シヅ子
私たちはブックスタートで絵本をそんなに重要視しているわけではありません。その前に、今の子ど
もの置かれている状況を忘れてはいけないと思います。
むしろ、私達は家族の中での子どもの存在と、子どもが家族の愛情をどういうふうに受けられるか
に重点を置いています。絵本に入る前の部分に力を入れています。
そのなかのひとつとして、わらべ歌、あそび歌、あやし歌があると思っています。だまって赤ちゃん
に哺乳びんを与えているお母さん、黙っておむつを替えているお母さん、そういう姿から親子の関係が
見えてきます。だから、絵本に入る前が大事です。
コミュニケーションも一般的なコミュニケーションではなくて、保護者の愛情を感じられることばが
けというところに活動の重点をおいています。図書館員と保健師と毎月反省会でノートの交換をしてい
ます。かかわったすべての人が、健診に来られた人に対して何か感じたことを言い合ったり、書き合っ
たりしています。一人のお母さんに対して人が関わるということがブックスタートの現場で大事だと思
います。保健師という専門家の観点、司書という専門家の観点、私たちいわゆるおばあちゃん的な観点
で、地域の子どもたちを見守り育てていこうという姿勢です。
7.おわりに−これからの「赤ちゃんと絵本」
岸本
短い準備期間でブックスタートを始めたというところもあり、内部的にもいろいろな意見があったの
ですが、今日のシンポジウムを聞かせていただいて、絵本を通して親子のふれあいを深めるという大き
な目的に沿った事業が開始できて、本当によかったと改めて感じております。今後とも、発展させて続
けていきたいと思っております。
藤井
ブックスタートのこれからのことで、ひとつ言い忘れていたことがあります。今までは 2 冊の絵本
をこちらが選んでお渡しする、きょうだいや双子で重なっていた場合は差し替えの絵本をお渡しすると
いうかたちを取っていました。できれば来年からは、何冊か用意して選んでもらえるというかたちを取
りたいと思っています。
ブックスタートで絵本を受け取るのは二人目という方が多くなってきていまして、もう一人目で赤
ちゃんと絵本を楽しんだ方は、こういう本が子どもはすごく好きだったとか、こういう本を選びたいと
か意見があり、差し替え用の絵本でもうちの子にはこれがよいという感じで選ばれます。今までは選ぶ
のに時間を取られるので、健診のなかで選んでもらうのは難しいのではないかと思っていたのですけれ
ども、できれば選ぶときから、主体的に自分で選んでもらえるように変えていけたらと思っています。
徳永
私は、絵本ですべて子育てができると思ってはいけないと思います。子どもたちは、生活体験、あそ
び体験を土台にして絵本体験を膨らませ、また絵本体験をして、生活体験、あそび体験を膨らませてい
きます。この行ったり来たりのなかで、認識も深まり、あそびも豊かになる、そして心が豊かに育って
いくと思っています。
特に今、子どもたちはバーチャルの世界に浸りきっているので、特に乳幼児期は土のにおいを感じ、
いろいろな野菜を触り、いろいろなものを触って、実感していくことが必要だと考えています。それを
土台にして、絵本を子どもたちと楽しんでいけたらよいと思っています。
佐々木
今、少子化で、子どもが減ってきています。そうなってくると、社会のなかで子どもという存在その
ものが軽んじられるようになってしまいます。老人は口も達者だし、お金も持っている。しかし、子ど
もはだんだん社会のなかで影が薄くなっていっていく。このことが、一番大きい問題であると思います。
今は絵本が中心に語られていますが、わらべ歌スタートとか、あるいは遊びスタートとか、昔は自然
になんとなく保障されていたことをもう一回立ち上げていくことが必要です。保護者が、子どもという
ものはすごくおもしろいものだ、子どもが成長していくというのは楽しいことだという感覚を取り戻し
ていく、そのひとつの手がかりとしてブックスタートがあるというふうに思います。
土居
限られた時間でしたけれども、いろいろなお話が出ました。このシンポジウムはこれが終わりではな
く、これを始まりとして今後のそれぞれの活動を考えていきたいという意味で開催しました。そこで、
今日のお話の中で、今後の課題と思われることについて最後にまとめさせていただきたいと思います。
まず「赤ちゃん絵本」そのものについては、テキスト、読み方で、いわゆる物語絵本とは違ういろ
いろな分類の仕方、考え方があるのではないかと思います。それについては、これから研究が進められ
ていくべきものですが、ブックスタート活動に取り組んでいる自治体は、赤ちゃんに渡す本を選ばなく
てはいけません。選ぶ側はそういう難しい課題を持っていることを自覚しながら、今後の活動を行って
いく必要があると思いました。
また、活動に関しては、家庭にさまざまな絵本があり、日常の赤ちゃんとの多様なかかわりについ
て、関係者がイメージし、そのことを基盤にして公的な機関やボランティアがサポートのありようを考
えていく必要性を感じました。
どうもありがとうございました。