汚泥熱分解燃料化システム 技術マニュアルの概要

の ペ ー ジ
汚泥熱分解燃料化システム
技術マニュアルの概要
㈶下水道新技術推進機構
資源循環研究部長
石 田
1
はじめに
貴
また、資料編では実証試験の詳細データを示す
とともに、設計例や積算資料などの補足資料を添
付した。
近年の地球温暖化問題を受け、下水処理場や電
なお、本研究は㈱東芝 社会システム社と㈶下
気事業者、大口エネルギー消費者においては温室
水道新技術推進機構の2者で実施したものであ
効果ガス削減対策が急務となってきている。この
る。
両者のニーズを繋ぐ事業として、従来の焼却処分
に代え下水汚泥をエネルギーとして利用する燃料
3
技術の概要
化技術の重要性が高まってきている。
本研究では、より高いエネルギー効率と低環境
負荷で固形燃料を製造する汚泥熱分解燃料化シス
3.1 技術の概要
テムの導入検討に関する技術的事項についてマ
本システムは、熱分解炉および燃焼炉の2つの
ニュアルとしてまとめることを目的とし、実証実
要素技術を含み、蒸気間接加熱式の乾燥機と廃熱
験による検証や製造した炭化汚泥の性状および製
ボイラとを組み合わせて熱効率を高めたものであ
造過程における環境負荷等の評価を行った。
る。システムの概略フローを図-1に示す。
2
マニュアルの概要
熱分解炉に投入する脱水汚泥は、蒸気間接加熱
式の乾燥機により処理された含水率約 20%の乾
燥汚泥であり、乾燥機から排出される乾燥排ガス
技術マニュアルは本編と資料編から構成されて
は、スクラバで水分と粉塵等を凝縮除去した後、
燃焼炉用の燃焼空気の一部として使用する。乾燥
いる。
本編は、汚泥燃料化システムおよび製造された
汚泥は熱分解炉に投入し、約 400 ~ 600℃の中温
炭化汚泥の特徴について記載した上で、本システ
域の温度帯において低酸素状態で熱分解し、炭化
ムの計画、設計、施工および維持管理を支援する
汚泥を製造する。熱分解時に発生する熱分解ガス
ための技術的事項について整理している。
は燃焼炉の燃料とし、熱量が不足する場合は、熱
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Vol. 33
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分解ガスに加えて
図-1
補助燃料を燃焼さ
システム概略フロー
乾燥排ガス
せ る。燃 焼 炉 で 生
乾燥排ガス
スクラバ
成 し た 熱 風 は、熱
燃料
分解炉の加熱に使
用 し た 後、廃 熱 ボ
脱水汚泥
蒸気
ラで発生した蒸気
は乾燥機の熱源と
燃料
ボイラ
乾燥汚泥
熱分解炉
熱分解ガス
サイクロン
を 行 う。廃 熱 ボ イ
乾燥機
蒸気
廃熱ボイラ
熱風
し て 利 用 す る。蒸
燃焼炉
イラにより熱回収
熱風
熱風
気量が不足する場
合、別 途 ボ イ ラ を
炭化汚泥
排気
排水
用いて不足する蒸
気 を 補 充 す る。熱
回収した後の熱風
は、一 部 を 燃 焼 炉
に戻し循環利用し
て熱効率を高める。
図-2
熱分解炉の構造
原料
入口側シール
(乾燥汚泥)
熱風
熱風
投入ホッパ
出口側シール
熱分解ガス
出口
余剰の熱風は環境
対策を施して排気
し、ス ク ラ バ の 排
水は下水の処理過
程 に 返 流 す る。構
成機器の特徴を次
に示す。
⑴
回転部(本体)
炭化汚泥排出
蒸気間接加熱
式乾燥機
水蒸気の凝縮潜熱を加熱に利用するため、熱媒
部の高温域のシールは、キルンの径方向および軸
の熱容量が大きく、熱風加熱式乾燥機に比べて低
方向の伸びにそれぞれ対応した複合型のシールを
温の熱源が利用できる。
採用している。熱分解炉の構造を図-2に示す。
また、
臭気を伴う乾燥排ガスが熱源と隔離され、
⑶ 燃焼炉
さらにスクラバで水分と粉塵他を凝縮除去するた
熱分解炉にて発生した熱分解ガスを燃焼炉に導
め、排気量を抑えられるという特徴を持ち、燃焼
入し、950℃の高温条件で炉内に2秒間以上滞留
炉での脱臭に要する熱負荷が小さい。
させることにより、ダイオキシンと同時に亜酸化
⑵ 熱分解炉
外熱式キルン熱分解炉における回転部と固定部
窒素(以下、N2O と記す)の生成を抑制するこ
とを目的とする。
の接続箇所のシール性を高め、炉内の無酸素状態
を確保して、
炉内の異常燃焼を防止するとともに、
外気流入による熱効率低下抑制を実現する。出口
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下水道機構のページ
図-3
技術の特徴
50
N2O 濃度(ppm)
4
4.1 温室効果ガス削減効果
中温域で汚泥を熱分解し、熱分解ガ
スを、燃焼温度を変えながら燃焼さ
30
20
10
燃焼温度を 950℃とすれば N2O 濃度
0
を 20ppm 程度以下にできると期待され
実測値
40
せた予備試験の結果を図-3に示す。
850
900
950
1,000
熱分解ガス燃焼炉内温度(℃)
る。
4.2 エネルギー削減効果
本システムと高温焼却方式 50 t/
日(1系列)における分流式消化脱水
図-4
利用することにより、重油を不要とす
ることが可能となる。本システムでは
炭化汚泥が燃料として製造されるた
本システムと高温焼却方式の比較
2,000
消費エネルギー削減量
966 MJ /t
1,500
エネルギー使用量
分流式消化汚泥の場合、消化ガスを
1,050
(MJ /t- 脱水汚泥)
汚泥1t当たりのエネルギー収支の試
算結果を図-4に示す。
燃焼炉内温度と N2O 濃度の関係
1,000
500
消費エネルギー
0
−500
−1,000
め、それを差分したエネルギー収支は
−1,500
− 606 MJ /t - 脱水汚泥となり、高
−2,000
温焼却処理の 360 MJ /t - 脱水汚泥
に対し 966 MJ /tの削減効果がある
消費エネルギー
421 0
360 0
−606
−1,027
電力
A 重油
炭化汚泥有効利用量
合計
有効利用
エネルギー
汚泥熱分解
汚泥熱分解
燃料化システム 燃料化システム
(合計)
高温焼却処理
と算出された。
図-5
4.3 温室効果ガス排出量削減効果
本システムおよび高温焼却方式 50
(㎏ -CO2 /t- 脱水汚泥)
300
t/日(1系列)における脱水汚泥1
結果を図-5に示す。なお、本システ
ムにおいて生成される炭化汚泥につい
ては、同等の発熱量を得るために必要
な石炭(一般炭:0.0247㎏ - C/ MJ)
に換算し、その石炭分の CO2 発生量
を削減可能と考えた。この結果、高温
焼却処理では 256㎏ - CO2 /t発生す
るのに対し、275㎏ - CO2 /tの削減
効果があると算出された。
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温室効果ガス排出量
t当たりの温室効果ガス排出量の試算
本システムと高温焼却方式の比較
250
200
温室効果ガス排出削減量
275 ㎏ - CO2 /t
56
150
200
100
50
0
−50
65
−93
9
−19
−100
−150
汚泥熱分解
汚泥熱分解
燃料化システム 燃料化システム
(合計)
電力
A重油
熱風中の N2O
石炭代替分による削減分
合計
高温焼却処理
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表-1
試験項目
炭化汚泥
熱分析(TG-DTA)
開始温度 DTA(℃)
250.1
100℃での減量率 TG(%)
4.8
自然発火性試験(SIT)
発熱開始設定温度(℃)
130
誘導時間(min)
263
自己発熱性試験(ワイヤー
バスケット)
120
発熱開始設定温度(℃)
ASTM 式発火点試験
最低発火点温度(℃)
681
粉塵爆発試験
爆発下限界濃度(㎎/ℓ) 発火なし
改質乾燥
造粒乾燥
低温炭化
高温炭化
309.8
10.5
121.0
2.4
123.0
2.5
283.1
4.4
140
153
80
1,244
130
378.4
250
593.8
140
130
140
250
458
─
─
─
790
─
─
─
表-2
ダスト(g / m3N)
Sox(ppm)
Nox(ppm)
HCl(ppm)
N2O(ppm)
安全性の評価
備考
加熱時の挙動を評価
消防法危険物(第5類)
SIT 型試験機
国連勧告/
試験マニュアル準拠
発火危険性の評価
JIS K1474 4.8
JIS Z8818 準拠
排ガス中の大気汚染物質濃度
'08 冬
0.044 ~ 0.084
24 ~ 120
530 ~ 680
1.6 ~ 9.7
0.6 ~ 15
'09 春
0.071
100
580
5.9
0.7
'09 夏
0.086
140
630
9.5
0.6
図-6
4.4 炭化汚泥の安全性
安全性の評価として、熱分析・発火性試
24 時間後
果を表-1に示す。燃料製品の安全性は、
12 時間後
既存技術である高温・低温炭化や改質乾燥
技術と同程度の結果となった。
乾燥汚泥と炭化汚泥の臭気濃度分析結果
40(アルコール臭)
72 時間後
験・発熱性試験・粉塵爆発試験を行った結
160,000
(発酵臭、酸味臭)
0(無臭)
40,000(糞尿臭、堆肥臭)
16(特定できず)
0(無臭)
1 時間後
0
50,000
4.5 運転性調査
⑴ 燃焼排ガスの環境性評価
大気汚染防止法規制値
0.04
K値
250 ~ 700
80 ~ 700
─
炭化汚泥
100,000(糞尿臭、堆肥臭)
79,000(し尿臭、堆肥臭)
100,000 150,000
臭気濃度
乾燥汚泥
(
200,000
)内は臭質
表 - 2 に 熱 風 中 の 煤 塵、SOx、NOx、
N2O の調査結果を示す。煤塵、SOx、NOx につ
よるものと想定される臭気濃度の上昇が観測され
いては生成特性を把握するために除塵・汚染物質
たものの、炭化汚泥の臭気は乾燥汚泥に対し非常
除去前の測定結果を記載した。この結果より、選
に小さいといえる。
択還元などの脱硝およびバグフィルタによる除塵
が必要である。また、
対象汚泥の性状によっては、
洗煙設備など脱硫設備の設置検討が必要である。
⑶ 付着物調査
熱風中の灰や、熱分解ガス中のタール等は、機
器や配管に付着し成長すると、時間経過とともに
⑵ 炭化汚泥臭気調査
乾燥汚泥と炭化汚泥の臭気についての比較結果
を図-6に示す。72 時間経過後において発酵に
80
配管閉塞等の問題を生じる。
ここでは、付着対策のうちヒータ加熱と機械的
掻き取りの効果検証を示す。
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下水道機構のページ
1)ヒータ加熱によるタール付着対策
図- 7
実証実験終了後、各部の開放点検を
加熱方法の違いによるタール付着状況
リボンヒータ
リボンヒータ
行い、煤塵等の堆積や付着状況を確認
電気ヒータ
した結果、熱分解炉と燃焼炉間の配管
エアー
にタールの凝縮が認められた。タール
付着状況を図-7に示す。特に、保温
配管径:
φ50㎜
施工のみ(リボンヒータなし)だった
フランジ部は、凝縮量が多く、実証試
験設備の場合、17 時間の運転で閉塞気
燃焼炉
熱分解炉
味となった。一方、リボンヒータを設
置して、全面を 500℃で加温したケース
ではタールの付着は認められなかった。
2)機械的掻き取り
全面を 500℃で加温したケースでは、
タール凝縮は認められなかったが、配
管中に粉塵が堆積していた。これは熱
分解ガスとともに運ばれた炭化汚泥の
【300℃に加熱した場合】
リボンヒータなし
17時間運転後
【500℃に加熱した場合】
リボンヒータあり
40時間運転後
一部が堆積したものと考えられる。加
温方法や温度の調節によりタール凝縮は防止でき
高温燃焼させて熱回収した際の排ガスを再循
ると考えられるが、粉塵の堆積が認められたこと
環する等、システム全体の所要エネルギーを
から、機械的掻き取り等との組み合わせが有効と
思われる。
熱分解ガスを燃焼させた際の燃焼温度を
950℃程度にすることで温室効果ガスである
まとめ
5
低減させることが可能である。
③
N2O の発生を抑制できる。
汚泥熱分解燃料化システム技術について実証実
本研究では、これらの研究結果をもとに、概要、
験等による研究を行った結果、本技術は次の特徴
特徴を整理するとともに、適用範囲・施設の計
を有しているといえる。
画・設計・施工および維持管理等に関する技術
①
的事項について『汚泥熱分解燃料化システム技術
マニュアル』にとりまとめている。今後、各自治
固形燃料製品からの尿臭および汚泥臭を無く
体等において本技術の導入検討を行う際に、本マ
すことができる。
ニュアルがその一助となることを願う次第であ
②
約 400 ~ 600℃の温度条件で燃料化を行う
ことにより、汚泥中の揮発分が低減するため、
乾燥処理方式として高圧水蒸気を熱源とし
る。
た間接加熱式乾燥機の導入や、熱分解ガスを
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