●サイバーコム/A.T.カーニ冊子(420×297mm)表1-表4 0708 (ローコストカー) 展開拡大 途上国 KIA <ニッチ集中特化型> <ミックス型> ・2輪を安定収益源としつつ、 途上国・ローコストカーで 尖る ・新興市場へ先行参入・ 集中投資 ・成熟市場でトヨタ追随 <プレミアムニッチ型> 横展開性 ライフタイム 量産効果 開発コスト 製造コスト 競争優位性 2輪 消費者の選好 先進国 高級車 大衆車 市場特性 <全方位型> ・商品体系とオペレーション の高効率化で商品・地域力 バレッジを拡大 環境等の規則 生産体制・インフラ 台数・利益・ブランド強化・顧客満足 競争状況 2輪 A.T. カーニー分析 A.T. カーニーについて A.T. カーニーは1926年に米国シカゴで創立されたグローバル経営コンサルティング会社です。主要産業分野のグローバル最大手企業から各国大手企業を 中心顧客として、戦略からオペレーション、ITにいたるまで、高品質の経営コンサルティングサービスの提供を行っています。高度な専門性、目に見える成果 の実現、顧客企業との密接な協働作業を特徴的な強みとし、現在では、全世界32カ国約50の拠点に約2,000名のグローバルネットワークを擁しています。 アジア・パシフィックには、バンコク、北京、香港、ジャカルタ、クアラルンプール、メルボルン、ムンバイ、ニューデリー、ソウル、上海、シンガポール、シドニー、 東京にオフィスがあり、東京オフィスは1972年からサービスを行っています。 自動車産業プラクティス(自動車産業グループ)は、日米欧アジアの各国に合計約300人の自動車分野の経験豊富なコンサルタントを有する業界最大級 の規模を持ち、多くの確立された方法論や、グローバルな経験・ノウハウの相互補完による、より高い価値の提供を続けています。 執筆者 執筆者 川原 英司(Eiji Kawahara) 鵜塚 直人(Naoto Uzuka) パートナー/自動車産業プラクティスリーダー アソシエイト 日産自動車勤務後、三菱総合研究所自動車産業研究室長を経て、1998年 A.T. カーニー入社。 その後、欧州系コンサルティングファーム等を経て現在に至る。 主として、自動車メーカー、自動車部品メーカー、素材メーカー、電機メーカー、 商社、金融機関などを顧客企業とし、各種戦略立案サポートや、戦略的提携・ M&A、オペレーション改革、事業再生など、数多くの経営コンサルティング プロジェクトを手掛けている。 Auto Agenda A.T.Kearney Automotive Practice 本田技術研究所勤務後、Manchester Business School(MBA) を経て、 2006年A.T. カーニー入社。 主に自動車メーカー、商用車メーカー、素材メーカー、商社、空運会社 などの顧客企業に対し、各種戦略立案サポートや、戦略的提携・M&A、 オペレーション改革などに従事。 〒107-6023 東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル東館32階 Tel:03-5561-9155(代表) Fax:03-5561-9190 e-mail: [email protected] URL : http://www.atkearney.co.jp Vol.1 2008 禁無断転載転記 Copyright 2008, A.T. Kearney A.T. カーニー東京オフィス 自動車産業プラクティス アフィリエイトメンバー 川原 英司(パートナー) 糸田 哲 (プリンシパル) 國分 俊史(マネージャー) 関灘 茂 (マネージャー) 星野 真戸(マネージャー) グローバルな世界市場(販売台数)はこれまでの10年間で年 平均2.8%で成長、今後10年も年平均3.2%と安定的な成長を続 けると予想される。地域的には、新興市場が一定以上のポジシ ョンを確保し、グローバルな「バランス型成長」の様相をさらに 強めると予想される。成熟市場である北米・西欧は、今後大き な成長は見込めないものの、依然1,500∼2,000万台の市場規模 を維持すると予想され、競争環境と競争力次第では大きな収 益機会となり得る潜在性が続くと考えられる。一方、注目を集 めてきたBRICsも、今後年平均2桁近い成長を続け、2015年に は合計2,600万台以上、世界需要全体の約3割をしめる市場に まで成長し、今後の世界の販売台数増加への寄与では上位に 入ると予想される(図1参照)。 図1 グローバル市場動向 100 年率2.8% 年率3.2% 90 80 鵜塚 直人 (アソシエイト) 祖父江 謙介(シニアビジネスアナリスト) 富永 正道 (シニアビジネスアナリスト) 正木 佳基 (シニアビジネスアナリスト) 達していく成長市場をいち早く察知し、資源を集中投入して先 行者メリットを得る機会も増える。しかし政治経済情勢も含め て市場の成長性を見極めてリスクをとるメーカーに先行者メリ ットがあるものの、成功後は後発メーカーの一斉参入が予想さ れ、持続的競争力確保の戦略がなければ、一時的な先行者メリ ットのみを期待して次々とフロンティア市場を狙うという不安定 な事業展開となる。 車種セグメントの構成も変化を続ける。ニーズが成熟する先 進国においては、環境規制に伴うメーカーの小型新商品の積極 投入や、 「Generation Y」と呼ばれるベビーブーマージュニア世 代の需要拡大、原油高やサブプライム住宅ローン問題などに伴 う消費者の消費性向の変化などにより小型車の人気が高まり、 小型車シフトが進んでいる。新興市場でも、先行需要層である 富裕層に加え中産階級にまで自動車ユーザーの裾野が広がる に連れて、より購入しやすい小型車・低価格車のニーズが拡大 している。乗用車派生のSUVなどの「CUV:クロスオーバー 車」の需要も、今後年平均4%前後の高い成長を続けると予想 されている(図2参照)。 70 60 BRICs 29% 50 40 Others 71% 30 20 10 0 図2 セグメント別市場動向と注目市場の変化 高成長 70 ’ 97 ’ 98 ’ 99 ’ 00 ’ 01 ’ 02 ’ 03 ’ 04 ’ 05 ’ 06 ’ 10E ’ 15E 各社決算資料を基にA.T. カーニー分析 ■ お問い合わせ先: A.T. カーニー株式会社 かつてダイムラーベンツとクライスラーの1998年の合併を契機とした自動車業界のグローバル再編 ブームの折に、 「400万台クラブ」の議論がまことしやかに提唱された。根拠に乏しいとして「幻想」 として片付けられたこの議論について、改めて根拠を考察してみると、グローバル戦略を実現する ための商品体系のあり方が見えてくる。今回は、自動車メーカーのグローバル市場戦略とそれを実現 する商品戦略の考え方の基本について整理してみた。 1. 変化する世界自動車市場 製品特性 スズキ トヨタ レクサス 「400万台クラブ」は幻想か? ∼グローバル製品市場戦略∼ 図10 戦略立案に際しての要検討項目の例 EFC メルセデス 2008 A.T. カーニー株式会社 パートナー 川原 英司 アソシエイト 鵜塚 直人 上記のようなテーマに対応した戦略立案のサポートにあたっ ては、 「各地域の顧客市場分析(消費者市場、顧客企業動向・ 顧客業界動向)を維一次情報も含めて実施」 「競争分析(自社・ 競合他社のパフォーマンスとその背景にある強み・弱みの評 価」 「自社のリソース分析」 「それらを総合的に検討した戦略領 域・自社のポジショニングのオプション、およびそのビジネス上 のインパクト・リスク評価」 「戦略オプションの検討と全体戦略 への統合」 「戦略実現のためのアクションプランの策定」などの ステップで、クライアント企業と一緒に方向性を絞り込んで行く のが一般的である。戦略企画立案はルーティン業務ではないた めに、一時的に発生する社内のリソース不足を補い、重要な経 営意思決定に関して短時間で効果的なアウトプットを出してい くためのサポートを A.T. カーニーでは行っている。 ブランド整合 北米工場 ベラクルス、ジェネシス 現代 Vol.1 A.T. Kearney Automotive Practice A.T. カーニーでは、自動車や自動車部品業界に限らず幅広 い分野でグローバル製品市場戦略のプロジェクトを数多く手が けている。 マルチ ・プレミアム商品を主に先 進国で提供 ・少量生産で収益上げられ るプレミアムプライシング Auto Agenda さらに、それ以外の地域でも、次々と「魅力市場」となり得る 市場がグローバルの中で広がり、これまで先進市場に偏在して いた市場は、ある程度の市場規模を持った多くの市場に分散し ていく。このような「バランス型成長」の市場においては、各地 域に軸足を置きポートフォリオとしてリスクを軽減し成長の機会 を捉えていくことの重要性が高まる一方で、クリティカルマスに :’ 06年市場規模(千台) CUV販売台数(万代) 図9 グローバル市場戦略のパターン このようなグローバルな製品市場戦略は企業戦略の根幹で あり、その再構築のためには、社内外の現状と将来について 様々な視点で分析・検討する必要がある(図10参照)。 60 ’ 06∼’ 10平均市場成長* (万台/年) どの製品・技術をどの市場に投入していくか、リソースの傾斜 配分の方向性を決定した後は、いかに効率的・効果的にそれを 実行・実現するのか、あるいは事業環境が変化した場合への柔 軟性をいかに確保しておくべきか、さらには、マーケティング戦 略やグローバル生産企画など各分野の全体像を精緻に作りこん でいく必要がある。そのプロセスにおいては、バリューチェーン 間のリソース配分も課題となってくる。前述のプロセスアウトソー スなどの検討は、この全体戦略との整合性が前提となる。 A.T. Kearney 6. A.T. カーニーのサポート 世界販売台数(百万台) そのためには、市場と競争と自社の強み弱みを改めて見極め た上で、自社の目指すべき市場ポジションと市場の魅力を相互 の視点で摺り合わせながら、どのような製品でどのような市場で どう戦っていくのかを強い経営意志を持って定めていく必要が ある(図9参照)。十分な分析により、比較的小さいリスクである 程度以上の確率で成功が期待できるのであれば、成長のドライ ビングフォースとして特定の地域や製品に集中特化するのも1つ の戦略となろう。 50 40 30 200 90 年率 3.7% 80 70 160 ’ 06 B-SUV 9 ’ 10E D-SUV 234 10 20 競争が少ない J.D. Power を基にA.T. カーニー分析 D 741 C-Pickup 140 低成長 (市場縮小) 0 A 520 C-SUV 270 150 20 10 C 1,129 B 1,056 30 40 供給ブランド数 (’ 06∼’ 10平均) 50 60 競争が激しい ●サイバーコム/A.T.カーニ冊子(420×297mm)P2-3 0708 トヨタはB、C、Dの3つのメインセグメントで、プラットフォー ムあたり100万台以上の規模を確保している(図4参照)。 図4 主要プラットフォームの販売台数(2006年) Bセグメント- PF当販売台数(万台) 0 50 100 0 PSA Ford マツダ 50 100 150 トヨタ 100万台 以上 トヨタ 100万台 以上 ホンダ GM ルノー日産 Fiat Ford マツダ ホンダ ルノー日産 スズキ 50 100 150 トヨタ 100万台以上 売上規模に対する製品開発費の大きさは、各社の戦略(技術・ 製品リーダーシップ戦略など)や、リソース・予算の制約により 単純に、大きい方がいいか小さい方がいいか評価するのは困難 である(図6参照)。 ホンダ ルノー日産 このような市場の変化に対応していこうとすると、改めて「規 模」の重要性が高まる。地域的にも車種セグメント的にも多方面 において需要のシフトが見られるような状況において安定的な 発展を遂げていくためには、変化に対応する「フレキシビリティ」 と、変化のリスクを軽減しながら成長する「ポートフォリオ」が重 要な戦略テーマとなろう。市場が変化し多様化する中で、特定地 域市場・特定製品市場で継続的に規模を確保し収益を上げ続 けていくためには、グローバルな観点での規模の確保により、複 雑性を軽減しながら市場の変化と多様性に柔軟に対応しつつ、 多方面に軸足をおいたリスク分散と成長機会の捕捉を狙ってい く必要がある。そのためには、企業としての規模以上に「プラッ トフォームの規模」が重要となる。生産規模100万台を超えるプ ラットフォームが既に一般化(トヨタの『MC(ミディアム・コンパク ト)/新MCプラットフォーム』などは、年間生産台数150万台を 超えると見られる)しており、十分な規模と柔軟な商品展開によ る競争力確保のためにはこの程度の規模も必要と考えられる。 また、共有化可能なボディサイズや構造特性(モノコック/シャシ フレーム、FF/FRなど)を考えると、市場カバレッジのために は、核となるプラットフォームは4つくらいあることが望ましい。つ まり100万台@プラットフォーム×4プラットフォーム=400万台程 度の規模が、理想的な「効率」 「柔軟性」 「規模の経済性」 「市 場カバレッジ」のバランスを目指すために最低限必要な台数とも 考えれらる。この規模を超えているのは、トヨタ、GM、フォード、 ルノー・日産、VWグループのみである(図3参照)。 図3 自動車メーカーの自動車販売台数比較(2006年) GM 1,302 3,483 2,433 5,720 VW DCX Chrysler 3,739 現代・起亜 ホンダ 3,652 スズキ 2,222 三菱 1,230 578 各社決算資料を基にA.T. カーニー分析 4,748 400万台 以上 5.9% Ford 5.0% Renault 5.0% 日産 4.7% VW 4.7% PSA 4.5% スズキ 4.3% トヨタ 4.1% GM 4.0% ・PF標準化は抑え、差別 化商品を創出 ・モデル開発費は高め BMW 40 D+C ①スケール 30 日産 富士重工 マツダ 20 トヨタ Ford GM FIAT ダイハツ ③アライアンス 0 VW PSA 三菱 10 ホンダ 現代 ルノー 0 スズキ 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 3.0% 2.5% 各社決算資料/Fourin を基にA.T. カーニー分析 どのような技術・商品をどのくらいの量開発するか、どこまで テーマを広げるか、何を内製し何を外注するか、などによって 変わってくる。短期的には無駄に見える開発効率が中長期的に は効率性の源泉となるケースも多い。開発プロセスでの無駄が 生み出す経験やノウハウは、ナレッジマネジメントの仕組みを伴 うことによって部門間での共有と継承が可能となり、状況の変 化に柔軟に対応した問題解決ができるようになる。 このような複雑性はあるにせよ、理論的には、開発効率の向 上の結果、開発から生み出させるビジネスにもレバレッジがか かり、同様の開発アウトプットを前提とすると売上高に対する開 発費の負担は軽減されるはずである。 :研究開発費 アライアンスにおいては、共通化できるものとそれぞれ独自 性を維持するものの見極めが重要である。共用・相互補完を通 じてフレキシブルプラットフォームやパワートレインを全体最適 化することが鍵となる。たとえば、マツダとフォードでは小型車 系の主要プラットフォーム開発をマツダが主導するという分担 関係により、グループ全体最適・効率向上を目指す中で、マツダ は確固たるポジションを確保している。またPSAでは、絞り込 んだ主要プラットフォームは自前で開発し共用しない一方で、 市場カバーのために必要でかつ自前開発では時間とリソースの 効率が悪いケースでは他社と提携で共用したり、OEM供給を 受けたりしている(図8参照)。 図8 マツダとフォード、PSAのプラットフォーム共有 マツダ Volvo Ford B-seg:マツダ開発の“B3”PF マツダと Ford Grp. C-seg:3社共同開発“C1”PF ●マツダがPF開発を主導し、 Fordグループとして共有 D-seg:マツダ開発“CD3”PF L4エンジン:マツダ開発ZR PSAグループ 他社 A-seg:トヨタ共同開発“B0”PF PSA C-SUV:MMC開発“アウトランダー” ガソリンEng.:BMW、ルノー共同開発 ●主要PFは自前で開発 ●特定のPF・技術のみ 必要に応じて他社と共有 B∼D-seg ホンダ ディーゼルEng. 4. アライアンスと技術の適材適所 DaimlerChrysler 100 各社決算資料/Fourin を基にA.T. カーニー分析 VW 規模を確保できない場合は、台あたり利益の高いプレミアム ブランドでなければ十分な利益の確保は難しくなり、選択肢は 「スケール」か「プレミアム」かの 2 つに 1 つとなろう(図 7 参照)。 トヨタ PSA 50 現代 ・PF標準化を推進し、 開発費を圧縮 ・商品差別化が課題か Fiat スズキ 日産 マツダ 0 4.0% 3.3% 三菱 150 :売上高 6.2% Fiat マツダ プラットフォーム戦略の目指す方向は、少数に絞り込んだプ ラットフォームに集中的に開発費を投入して、商品競争力の高 い、低コストでかつ多くのモデルを作り出せるフレキシブルなプ ラットフォームを開発することにある。開発リソースを多く投入 することによって、十分なVE(バリュー・エンジニアリング)も可 能となり、 「安くできる設計」を実現できる。このプラットフォー ムをベースに、数多くの多様なクルマを開発することにより、開 発費あたりのモデル数が大きくすることができる。単純化して 考えると、1プラットフォームに2倍のリソースを投入しても、1プ ラットフォームあたり4倍の商品を投入できれば、商品あたりの 開発効率は2倍に向上する(図5参照)。 モデル平均研究開発費(億円/モデル) 6,597 ホンダ 現代 ②プレミアム 6.7% DCX 3. 多様性と効率性の両立 50 各社決算資料/Fourin/J.D. Power を基にA.T. カーニー分析 BMW 市場を広くカバーするためには、規模はあくまでも必要条件で あるが、それだけで必ず市場での成功を約束されるものではな く、規模を確保した上での商品戦略が成功を左右する。 今後電 子化がさらに進展し、デジタル化・ソフト化がクルマにも浸透し てくると、さらに規模の重要性が競争上重要となってくると考え られ、 「400 万台」 でも不十分ということになるかも知れない。 図7 自動車メーカー各社のポジション(2006年) 販売台数(千台) 図6 売上高研究開発費率(2006年) Fourin/J.D. Power を基にA.T. カーニー分析 7,974 Ford マツダ 富士 GM 図5 モデル数 vs プラットフォーム数 vs 開発費(2006年) 9,098 トヨタ ルノー 日産 Ford マツダ しての規模を達成するか、あるいは、包括提携によって幅広い テーマで一体化するというようなことを考える。これによって、 自らのブランドが競争力を発揮できる特化した特定分野につい ては、資源集中によりより強いポジションを効率よく目指すこと が可能となる。 ①スケール Dセグメント(モノコック)- PF当販売台数(万台) 0 2. 規模は重要 Cセグメント- PF当販売台数(万台) 150 プラットフォームの定義は様々だが、共有できる部品を増や して規模の経済性を高める効果と、開発工数を減らして開発費 と開発期間を圧縮する効果を追及するという目的は共通してい る。共有化部品の一部はシートフレームのように高度に標準化 され、周辺部品を既存のインターフェイスにあわせるという、従 来とは発想の異なる設計がなされる。ただし、同じプラットフォ ームから差別化された多くのバリエーションを作り出せるように 予め設計することが重要である。さらに、異なるプラットフォー ムのフロント半分とリア半分を組み合わせてモデルを作り上げ るようなフレキシビリティも予め確保するというような設計思想 もある。インターフェースを標準化し、組み合わせによってバリ エーションを作りだすという本来の意味での「モジュール」の考 え方がここにある。 台当たり自動車売上高(千USD) これも燃費志向のニーズに加えて、乗り心地やデザインへの志 向がSUV系ようなクルマでも高まってきたという消費者の志向の 変化を背景としている。このように変化する市場に対応するために は、よりフレキシブルなプラットフォーム(標準化を志向した車両 骨格)の拡大採用や、部品の共有によるさらなる低コストの追求 が必要とされる。市場拡大の一方で、ニーズや商品が多様化・分 散し競争も激しくなるクロスオーバー市場においては、多様性と規 模の経済性の両立が、全クラスに亘って求められてくるだろう。ま た小型車市場でも環境対応技術を搭載し安全性も充実させなが ら利益を確保していくための低コスト化が求められる。ローコスト カントリーからの部品調達や新興市場メーカーとの提携を含め、 これまでの限界を打破するコスト低減策が必要となってくる。 0 5 PF毎モデル数 各社決算資料/Fourin/J.D. Power を基にA.T. カーニー分析 10 15 プラットフォーム効率と市場カバレッジを考えると、小規模な ブランドは自らは特定分野に集中した上で、アライアンスにより 他の分野を補完するという方向を目指すことが必然となる。単 独で規模が確保できない場合は、各種の業務提携を通じてテ ーマごとに規模を追求し全体としてバーチャルなネットワークと 5. サステイナブルな成長を目指す グローバル市場戦略 変化していく市場、今後益々負担が大きくなる環境技術への 対応、さらに厳しさを増す競争を勝ち抜いて成長を続けていく ためには、市場において競争相手に対し確固たるポジションを 確保することが求められる。 ●サイバーコム/A.T.カーニ冊子(420×297mm)P2-3 0708 トヨタはB、C、Dの3つのメインセグメントで、プラットフォー ムあたり100万台以上の規模を確保している(図4参照)。 図4 主要プラットフォームの販売台数(2006年) Bセグメント- PF当販売台数(万台) 0 50 100 0 PSA Ford マツダ 50 100 150 トヨタ 100万台 以上 トヨタ 100万台 以上 ホンダ GM ルノー日産 Fiat Ford マツダ ホンダ ルノー日産 スズキ 50 100 150 トヨタ 100万台以上 売上規模に対する製品開発費の大きさは、各社の戦略(技術・ 製品リーダーシップ戦略など)や、リソース・予算の制約により 単純に、大きい方がいいか小さい方がいいか評価するのは困難 である(図6参照)。 ホンダ ルノー日産 このような市場の変化に対応していこうとすると、改めて「規 模」の重要性が高まる。地域的にも車種セグメント的にも多方面 において需要のシフトが見られるような状況において安定的な 発展を遂げていくためには、変化に対応する「フレキシビリティ」 と、変化のリスクを軽減しながら成長する「ポートフォリオ」が重 要な戦略テーマとなろう。市場が変化し多様化する中で、特定地 域市場・特定製品市場で継続的に規模を確保し収益を上げ続 けていくためには、グローバルな観点での規模の確保により、複 雑性を軽減しながら市場の変化と多様性に柔軟に対応しつつ、 多方面に軸足をおいたリスク分散と成長機会の捕捉を狙ってい く必要がある。そのためには、企業としての規模以上に「プラッ トフォームの規模」が重要となる。生産規模100万台を超えるプ ラットフォームが既に一般化(トヨタの『MC(ミディアム・コンパク ト)/新MCプラットフォーム』などは、年間生産台数150万台を 超えると見られる)しており、十分な規模と柔軟な商品展開によ る競争力確保のためにはこの程度の規模も必要と考えられる。 また、共有化可能なボディサイズや構造特性(モノコック/シャシ フレーム、FF/FRなど)を考えると、市場カバレッジのために は、核となるプラットフォームは4つくらいあることが望ましい。つ まり100万台@プラットフォーム×4プラットフォーム=400万台程 度の規模が、理想的な「効率」 「柔軟性」 「規模の経済性」 「市 場カバレッジ」のバランスを目指すために最低限必要な台数とも 考えれらる。この規模を超えているのは、トヨタ、GM、フォード、 ルノー・日産、VWグループのみである(図3参照)。 図3 自動車メーカーの自動車販売台数比較(2006年) GM 1,302 3,483 2,433 5,720 VW DCX Chrysler 3,739 現代・起亜 ホンダ 3,652 スズキ 2,222 三菱 1,230 578 各社決算資料を基にA.T. カーニー分析 4,748 400万台 以上 5.9% Ford 5.0% Renault 5.0% 日産 4.7% VW 4.7% PSA 4.5% スズキ 4.3% トヨタ 4.1% GM 4.0% ・PF標準化は抑え、差別 化商品を創出 ・モデル開発費は高め BMW 40 D+C ①スケール 30 日産 富士重工 マツダ 20 トヨタ Ford GM FIAT ダイハツ ③アライアンス 0 VW PSA 三菱 10 ホンダ 現代 ルノー 0 スズキ 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 3.0% 2.5% 各社決算資料/Fourin を基にA.T. カーニー分析 どのような技術・商品をどのくらいの量開発するか、どこまで テーマを広げるか、何を内製し何を外注するか、などによって 変わってくる。短期的には無駄に見える開発効率が中長期的に は効率性の源泉となるケースも多い。開発プロセスでの無駄が 生み出す経験やノウハウは、ナレッジマネジメントの仕組みを伴 うことによって部門間での共有と継承が可能となり、状況の変 化に柔軟に対応した問題解決ができるようになる。 このような複雑性はあるにせよ、理論的には、開発効率の向 上の結果、開発から生み出させるビジネスにもレバレッジがか かり、同様の開発アウトプットを前提とすると売上高に対する開 発費の負担は軽減されるはずである。 :研究開発費 アライアンスにおいては、共通化できるものとそれぞれ独自 性を維持するものの見極めが重要である。共用・相互補完を通 じてフレキシブルプラットフォームやパワートレインを全体最適 化することが鍵となる。たとえば、マツダとフォードでは小型車 系の主要プラットフォーム開発をマツダが主導するという分担 関係により、グループ全体最適・効率向上を目指す中で、マツダ は確固たるポジションを確保している。またPSAでは、絞り込 んだ主要プラットフォームは自前で開発し共用しない一方で、 市場カバーのために必要でかつ自前開発では時間とリソースの 効率が悪いケースでは他社と提携で共用したり、OEM供給を 受けたりしている(図8参照)。 図8 マツダとフォード、PSAのプラットフォーム共有 マツダ Volvo Ford B-seg:マツダ開発の“B3”PF マツダと Ford Grp. C-seg:3社共同開発“C1”PF ●マツダがPF開発を主導し、 Fordグループとして共有 D-seg:マツダ開発“CD3”PF L4エンジン:マツダ開発ZR PSAグループ 他社 A-seg:トヨタ共同開発“B0”PF PSA C-SUV:MMC開発“アウトランダー” ガソリンEng.:BMW、ルノー共同開発 ●主要PFは自前で開発 ●特定のPF・技術のみ 必要に応じて他社と共有 B∼D-seg ホンダ ディーゼルEng. 4. アライアンスと技術の適材適所 DaimlerChrysler 100 各社決算資料/Fourin を基にA.T. カーニー分析 VW 規模を確保できない場合は、台あたり利益の高いプレミアム ブランドでなければ十分な利益の確保は難しくなり、選択肢は 「スケール」か「プレミアム」かの 2 つに 1 つとなろう(図 7 参照)。 トヨタ PSA 50 現代 ・PF標準化を推進し、 開発費を圧縮 ・商品差別化が課題か Fiat スズキ 日産 マツダ 0 4.0% 3.3% 三菱 150 :売上高 6.2% Fiat マツダ プラットフォーム戦略の目指す方向は、少数に絞り込んだプ ラットフォームに集中的に開発費を投入して、商品競争力の高 い、低コストでかつ多くのモデルを作り出せるフレキシブルなプ ラットフォームを開発することにある。開発リソースを多く投入 することによって、十分なVE(バリュー・エンジニアリング)も可 能となり、 「安くできる設計」を実現できる。このプラットフォー ムをベースに、数多くの多様なクルマを開発することにより、開 発費あたりのモデル数が大きくすることができる。単純化して 考えると、1プラットフォームに2倍のリソースを投入しても、1プ ラットフォームあたり4倍の商品を投入できれば、商品あたりの 開発効率は2倍に向上する(図5参照)。 モデル平均研究開発費(億円/モデル) 6,597 ホンダ 現代 ②プレミアム 6.7% DCX 3. 多様性と効率性の両立 50 各社決算資料/Fourin/J.D. Power を基にA.T. カーニー分析 BMW 市場を広くカバーするためには、規模はあくまでも必要条件で あるが、それだけで必ず市場での成功を約束されるものではな く、規模を確保した上での商品戦略が成功を左右する。 今後電 子化がさらに進展し、デジタル化・ソフト化がクルマにも浸透し てくると、さらに規模の重要性が競争上重要となってくると考え られ、 「400 万台」 でも不十分ということになるかも知れない。 図7 自動車メーカー各社のポジション(2006年) 販売台数(千台) 図6 売上高研究開発費率(2006年) Fourin/J.D. Power を基にA.T. カーニー分析 7,974 Ford マツダ 富士 GM 図5 モデル数 vs プラットフォーム数 vs 開発費(2006年) 9,098 トヨタ ルノー 日産 Ford マツダ しての規模を達成するか、あるいは、包括提携によって幅広い テーマで一体化するというようなことを考える。これによって、 自らのブランドが競争力を発揮できる特化した特定分野につい ては、資源集中によりより強いポジションを効率よく目指すこと が可能となる。 ①スケール Dセグメント(モノコック)- PF当販売台数(万台) 0 2. 規模は重要 Cセグメント- PF当販売台数(万台) 150 プラットフォームの定義は様々だが、共有できる部品を増や して規模の経済性を高める効果と、開発工数を減らして開発費 と開発期間を圧縮する効果を追及するという目的は共通してい る。共有化部品の一部はシートフレームのように高度に標準化 され、周辺部品を既存のインターフェイスにあわせるという、従 来とは発想の異なる設計がなされる。ただし、同じプラットフォ ームから差別化された多くのバリエーションを作り出せるように 予め設計することが重要である。さらに、異なるプラットフォー ムのフロント半分とリア半分を組み合わせてモデルを作り上げ るようなフレキシビリティも予め確保するというような設計思想 もある。インターフェースを標準化し、組み合わせによってバリ エーションを作りだすという本来の意味での「モジュール」の考 え方がここにある。 台当たり自動車売上高(千USD) これも燃費志向のニーズに加えて、乗り心地やデザインへの志 向がSUV系ようなクルマでも高まってきたという消費者の志向の 変化を背景としている。このように変化する市場に対応するために は、よりフレキシブルなプラットフォーム(標準化を志向した車両 骨格)の拡大採用や、部品の共有によるさらなる低コストの追求 が必要とされる。市場拡大の一方で、ニーズや商品が多様化・分 散し競争も激しくなるクロスオーバー市場においては、多様性と規 模の経済性の両立が、全クラスに亘って求められてくるだろう。ま た小型車市場でも環境対応技術を搭載し安全性も充実させなが ら利益を確保していくための低コスト化が求められる。ローコスト カントリーからの部品調達や新興市場メーカーとの提携を含め、 これまでの限界を打破するコスト低減策が必要となってくる。 0 5 PF毎モデル数 各社決算資料/Fourin/J.D. Power を基にA.T. カーニー分析 10 15 プラットフォーム効率と市場カバレッジを考えると、小規模な ブランドは自らは特定分野に集中した上で、アライアンスにより 他の分野を補完するという方向を目指すことが必然となる。単 独で規模が確保できない場合は、各種の業務提携を通じてテ ーマごとに規模を追求し全体としてバーチャルなネットワークと 5. サステイナブルな成長を目指す グローバル市場戦略 変化していく市場、今後益々負担が大きくなる環境技術への 対応、さらに厳しさを増す競争を勝ち抜いて成長を続けていく ためには、市場において競争相手に対し確固たるポジションを 確保することが求められる。 ●サイバーコム/A.T.カーニ冊子(420×297mm)表1-表4 0708 (ローコストカー) 展開拡大 途上国 KIA <ニッチ集中特化型> <ミックス型> ・2輪を安定収益源としつつ、 途上国・ローコストカーで 尖る ・新興市場へ先行参入・ 集中投資 ・成熟市場でトヨタ追随 <プレミアムニッチ型> 横展開性 ライフタイム 量産効果 開発コスト 製造コスト 競争優位性 2輪 消費者の選好 先進国 高級車 大衆車 市場特性 <全方位型> ・商品体系とオペレーション の高効率化で商品・地域力 バレッジを拡大 環境等の規則 生産体制・インフラ 台数・利益・ブランド強化・顧客満足 競争状況 2輪 A.T. カーニー分析 A.T. カーニーについて A.T. カーニーは1926年に米国シカゴで創立されたグローバル経営コンサルティング会社です。主要産業分野のグローバル最大手企業から各国大手企業を 中心顧客として、戦略からオペレーション、ITにいたるまで、高品質の経営コンサルティングサービスの提供を行っています。高度な専門性、目に見える成果 の実現、顧客企業との密接な協働作業を特徴的な強みとし、現在では、全世界32カ国約50の拠点に約2,000名のグローバルネットワークを擁しています。 アジア・パシフィックには、バンコク、北京、香港、ジャカルタ、クアラルンプール、メルボルン、ムンバイ、ニューデリー、ソウル、上海、シンガポール、シドニー、 東京にオフィスがあり、東京オフィスは1972年からサービスを行っています。 自動車産業プラクティス(自動車産業グループ)は、日米欧アジアの各国に合計約300人の自動車分野の経験豊富なコンサルタントを有する業界最大級 の規模を持ち、多くの確立された方法論や、グローバルな経験・ノウハウの相互補完による、より高い価値の提供を続けています。 執筆者 執筆者 川原 英司(Eiji Kawahara) 鵜塚 直人(Naoto Uzuka) パートナー/自動車産業プラクティスリーダー アソシエイト 日産自動車勤務後、三菱総合研究所自動車産業研究室長を経て、1998年 A.T. カーニー入社。 その後、欧州系コンサルティングファーム等を経て現在に至る。 主として、自動車メーカー、自動車部品メーカー、素材メーカー、電機メーカー、 商社、金融機関などを顧客企業とし、各種戦略立案サポートや、戦略的提携・ M&A、オペレーション改革、事業再生など、数多くの経営コンサルティング プロジェクトを手掛けている。 Auto Agenda A.T.Kearney Automotive Practice 本田技術研究所勤務後、Manchester Business School(MBA) を経て、 2006年A.T. カーニー入社。 主に自動車メーカー、商用車メーカー、素材メーカー、商社、空運会社 などの顧客企業に対し、各種戦略立案サポートや、戦略的提携・M&A、 オペレーション改革などに従事。 〒107-6023 東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル東館32階 Tel:03-5561-9155(代表) Fax:03-5561-9190 e-mail: [email protected] URL : http://www.atkearney.co.jp Vol.1 2008 禁無断転載転記 Copyright 2008, A.T. Kearney A.T. カーニー東京オフィス 自動車産業プラクティス アフィリエイトメンバー 川原 英司(パートナー) 糸田 哲 (プリンシパル) 國分 俊史(マネージャー) 関灘 茂 (マネージャー) 星野 真戸(マネージャー) グローバルな世界市場(販売台数)はこれまでの10年間で年 平均2.8%で成長、今後10年も年平均3.2%と安定的な成長を続 けると予想される。地域的には、新興市場が一定以上のポジシ ョンを確保し、グローバルな「バランス型成長」の様相をさらに 強めると予想される。成熟市場である北米・西欧は、今後大き な成長は見込めないものの、依然1,500∼2,000万台の市場規模 を維持すると予想され、競争環境と競争力次第では大きな収 益機会となり得る潜在性が続くと考えられる。一方、注目を集 めてきたBRICsも、今後年平均2桁近い成長を続け、2015年に は合計2,600万台以上、世界需要全体の約3割をしめる市場に まで成長し、今後の世界の販売台数増加への寄与では上位に 入ると予想される(図1参照)。 図1 グローバル市場動向 100 年率2.8% 年率3.2% 90 80 鵜塚 直人 (アソシエイト) 祖父江 謙介(シニアビジネスアナリスト) 富永 正道 (シニアビジネスアナリスト) 正木 佳基 (シニアビジネスアナリスト) 達していく成長市場をいち早く察知し、資源を集中投入して先 行者メリットを得る機会も増える。しかし政治経済情勢も含め て市場の成長性を見極めてリスクをとるメーカーに先行者メリ ットがあるものの、成功後は後発メーカーの一斉参入が予想さ れ、持続的競争力確保の戦略がなければ、一時的な先行者メリ ットのみを期待して次々とフロンティア市場を狙うという不安定 な事業展開となる。 車種セグメントの構成も変化を続ける。ニーズが成熟する先 進国においては、環境規制に伴うメーカーの小型新商品の積極 投入や、 「Generation Y」と呼ばれるベビーブーマージュニア世 代の需要拡大、原油高やサブプライム住宅ローン問題などに伴 う消費者の消費性向の変化などにより小型車の人気が高まり、 小型車シフトが進んでいる。新興市場でも、先行需要層である 富裕層に加え中産階級にまで自動車ユーザーの裾野が広がる に連れて、より購入しやすい小型車・低価格車のニーズが拡大 している。乗用車派生のSUVなどの「CUV:クロスオーバー 車」の需要も、今後年平均4%前後の高い成長を続けると予想 されている(図2参照)。 70 60 BRICs 29% 50 40 Others 71% 30 20 10 0 図2 セグメント別市場動向と注目市場の変化 高成長 70 ’ 97 ’ 98 ’ 99 ’ 00 ’ 01 ’ 02 ’ 03 ’ 04 ’ 05 ’ 06 ’ 10E ’ 15E 各社決算資料を基にA.T. カーニー分析 ■ お問い合わせ先: A.T. カーニー株式会社 かつてダイムラーベンツとクライスラーの1998年の合併を契機とした自動車業界のグローバル再編 ブームの折に、 「400万台クラブ」の議論がまことしやかに提唱された。根拠に乏しいとして「幻想」 として片付けられたこの議論について、改めて根拠を考察してみると、グローバル戦略を実現する ための商品体系のあり方が見えてくる。今回は、自動車メーカーのグローバル市場戦略とそれを実現 する商品戦略の考え方の基本について整理してみた。 1. 変化する世界自動車市場 製品特性 スズキ トヨタ レクサス 「400万台クラブ」は幻想か? ∼グローバル製品市場戦略∼ 図10 戦略立案に際しての要検討項目の例 EFC メルセデス 2008 A.T. カーニー株式会社 パートナー 川原 英司 アソシエイト 鵜塚 直人 上記のようなテーマに対応した戦略立案のサポートにあたっ ては、 「各地域の顧客市場分析(消費者市場、顧客企業動向・ 顧客業界動向)を維一次情報も含めて実施」 「競争分析(自社・ 競合他社のパフォーマンスとその背景にある強み・弱みの評 価」 「自社のリソース分析」 「それらを総合的に検討した戦略領 域・自社のポジショニングのオプション、およびそのビジネス上 のインパクト・リスク評価」 「戦略オプションの検討と全体戦略 への統合」 「戦略実現のためのアクションプランの策定」などの ステップで、クライアント企業と一緒に方向性を絞り込んで行く のが一般的である。戦略企画立案はルーティン業務ではないた めに、一時的に発生する社内のリソース不足を補い、重要な経 営意思決定に関して短時間で効果的なアウトプットを出してい くためのサポートを A.T. カーニーでは行っている。 ブランド整合 北米工場 ベラクルス、ジェネシス 現代 Vol.1 A.T. Kearney Automotive Practice A.T. カーニーでは、自動車や自動車部品業界に限らず幅広 い分野でグローバル製品市場戦略のプロジェクトを数多く手が けている。 マルチ ・プレミアム商品を主に先 進国で提供 ・少量生産で収益上げられ るプレミアムプライシング Auto Agenda さらに、それ以外の地域でも、次々と「魅力市場」となり得る 市場がグローバルの中で広がり、これまで先進市場に偏在して いた市場は、ある程度の市場規模を持った多くの市場に分散し ていく。このような「バランス型成長」の市場においては、各地 域に軸足を置きポートフォリオとしてリスクを軽減し成長の機会 を捉えていくことの重要性が高まる一方で、クリティカルマスに :’ 06年市場規模(千台) CUV販売台数(万代) 図9 グローバル市場戦略のパターン このようなグローバルな製品市場戦略は企業戦略の根幹で あり、その再構築のためには、社内外の現状と将来について 様々な視点で分析・検討する必要がある(図10参照)。 60 ’ 06∼’ 10平均市場成長* (万台/年) どの製品・技術をどの市場に投入していくか、リソースの傾斜 配分の方向性を決定した後は、いかに効率的・効果的にそれを 実行・実現するのか、あるいは事業環境が変化した場合への柔 軟性をいかに確保しておくべきか、さらには、マーケティング戦 略やグローバル生産企画など各分野の全体像を精緻に作りこん でいく必要がある。そのプロセスにおいては、バリューチェーン 間のリソース配分も課題となってくる。前述のプロセスアウトソー スなどの検討は、この全体戦略との整合性が前提となる。 A.T. Kearney 6. A.T. カーニーのサポート 世界販売台数(百万台) そのためには、市場と競争と自社の強み弱みを改めて見極め た上で、自社の目指すべき市場ポジションと市場の魅力を相互 の視点で摺り合わせながら、どのような製品でどのような市場で どう戦っていくのかを強い経営意志を持って定めていく必要が ある(図9参照)。十分な分析により、比較的小さいリスクである 程度以上の確率で成功が期待できるのであれば、成長のドライ ビングフォースとして特定の地域や製品に集中特化するのも1つ の戦略となろう。 50 40 30 200 90 年率 3.7% 80 70 160 ’ 06 B-SUV 9 ’ 10E D-SUV 234 10 20 競争が少ない J.D. Power を基にA.T. カーニー分析 D 741 C-Pickup 140 低成長 (市場縮小) 0 A 520 C-SUV 270 150 20 10 C 1,129 B 1,056 30 40 供給ブランド数 (’ 06∼’ 10平均) 50 60 競争が激しい
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