2001年07月30日 イニシアの実績 リサーチ事例(要点抜粋) 自動車産業における 新車開発期間の短縮 株式会社 イニシア・コンサルティング 1 1. 自動車メーカーにおける開発期間短縮の全体像 近年、どの自動車メーカーとも、新車開発期間の劇的な短縮を実現しているが、この短縮を 可能ならしめたものは一体何なのかについての実態リサーチを実施した。 出典:各社プレス・リリース IT業界情報誌などの情報を一括表化 開発期間短縮目標と実績 5 10 15 25 (開発所要月数) 20 96年時点状況 トヨタ 96年時点目標 2000年時点目標 [実績] bB:13ヶ月で開発(既存PFを流用) 新カローラ:18ヶ月で開発 現在の目標 日産 マツダ 2000年時点状況 1996年時点目標 2000年時点目標 スズキ ダイハツ [実績] ティーノ:15ヶ月で開発 2000年時点目標 2000年時点目標 2000年時点目標 42ヶ月 GM 96年時点目標 2 2. 開発期間短縮への寄与因子 2-1. カンフル剤となった3次元統合CAD/CAMシステム (a) 開発効率化へのステップ ◆ 1990年代半ば以降、日本の自動車産業の製品開発期間が大幅に短縮できた背景には 3次元統合型CAD/CAMやCAEシステムの導入がある。 3次元モデル化 仮想試作 試作変更回数の削減 試作モデル作成数の削減 先進的実験装置 仮想実験 試作レス化 実車走行実験のラボ化 試作車なしの仮想実験 ◆ こうした電子技術の導入は、必然的に人的資源の配置、顧客との関係、組織間の コミュニケーションのあり方などにも変化をもたらしている。 3 出典:新世代3次元CAD導入と製品開発プロセスへの影響 青島矢一/延岡健太郎/武田陽子 (b) 拡大する3次元CAD/CAMシステムの活用領域 製品の詳細設計 製品の基本設計 意匠デザイン テスト、解析 社内での進捗プレ 金型への出図 金型設計 試作への出図 CADの活用領域は 拡大中であり、 それに伴って開発 期間は更に短縮 して行くものと 考えられる。 顧客へのプレ サプライヤーへの出図 ソリッド活用プロジェクト(N=31) 3次元CAD利用プロジェクト(N=62) カタログ・取扱説明書 デジタルモックアップ ラピッドプロトタイピング 模型制作のための出図 治工具設計 生産工程の設計 10 30 50 70(%) 4 (c) 部品メーカーにとっての3次元CAD/CAMの統合化と高度化 導入の利点と懸念点 利点 開発部門自身 視認性向上 Rapid Proto-typing 設計品質向上 Para-metric機能追加 試作数削減 問題先出(Front Loading) 3次元 3次元 CAD CAD 品質安定 納期短縮 対他部門 CE促進 DFM(製造しやすい設計) コスト低減 DFT(試験しやすい設計) 対協力会社 部品干渉問題回避 設計変更頻度削減 懸念点 設計概念の固定化 革新的製品の登場を阻害? 技術者、デザイナーの個性を並存させる工夫が必要。 出典:「自動車部品産業におけるデジタル技術の利用と製品開発」具承桓/藤本隆宏(2000/5)をチャート化 5 (d) 問題の先出し・先潰し(Front Loading)を可能にするシステム 開発早期でCADシミュレーションによる問題の発見と解決を行い、従来型の後期での 金・時間の掛かる実物試作の反復数を最少化し、開発期間の短縮を実現させている。 問題先出し(Front Loading) 設計変更頻度 回( 問題先潰し 3次 元 CAD 従来型の 変更頻度 ) FL推進後の 変更頻度 開発開始 出図 対処後の開発期間 試作 終了(量産移行) 短縮期間 従来の開発期間 6 (e) 自動車OEMと部品サプライヤー間のCADシステム接続の問題 現状では、CADシステムデータ互換性の問題が存在するが、最近、日本ユニシス(CADCEUS)、 セイコーインスツルメンツ(Unigraphics)およびアルゴグラッフィクス社(CATIA)の3社は、 それぞれのシステムの間で、簡単にデータを交換できる技術を共同開発することを発表。 (2001年3月末に契約締結)。 EDS社 「Unigraphics」 GM 変換ソフト SDRC社 「I-DEAS」 日産、マツダ、三菱 いすゞ、Fordなど 部品メーカーA 部品メーカーA JAMA/JAPIA共同での「STEP」 検討。→ データ交換成功率に まだ改善の余地(特にソリッド)。 変換ソフト Dassault社 自動車OEM側 活用システム 「CATIA」 Daimler, Renault BMWなどの欧州勢、 ホンダ、Chryslerなど 部品メーカーB 部品メーカーB 変換ソフト (注) それぞれ日米欧の代表 的システムで3機種を合計す ると、国内自動車,部品業界 で9割以上のシェアを握る 。 日本ユニシス社 「CADCEUS」 トヨタ、日野 部品メーカーC 部品メーカーC 出典:日経デジタル・エンジニアリング(2001年1月号No.37)他を参考にチャート化 7 2-2. プラットフォーム(車台)の共通化 コスト削減(開発期間短縮)、グローバル化への対応、需要変動への対応という観点からして PF共通化は有効な手法で、各社ともこれまで量販モデルのコンパクト・カー(1.5∼1.6リットル)と、 ミドル・カー(1.8∼2リットル)のPFを、それぞれ共通化する動きを示している。 メーカー 共通化目標 実現時期 トヨタ FF車を4種に ①ヴィッツ、ファンカーゴ、プラッツ、dB、Will Vi、ヤリス(欧州) ②新型カローラ、カローラ・フィルダー、プリウス ③ビスタ ④カムリ、ウィンダム、アバロン(いずれも米国生産車) FR車を3種に ①プログレ、アルテッサァ ②マークⅡ、チェイサー、クレスタ ③セルシオ、クラウン 日産 日産/Renaultは、両社のブランドの差異化を図りつつも、 10種のプラットフォーム 8種のエンジンファミリーへ集束させる計画。 (現在Renaultには8種、日産には26種のプラットフォーム。これを両社 合わせて 10種に削減しようとするもの)。 2010年までに 整備。 三菱 中・小型車を中心にプラットフォーム共通化を図ることで、クライスラーと 三菱の両方で現行合計29種を13∼16種に削減する計画。 2003年までに 整備。 ホンダ 国・地域により最適な外形サイズ、エンジン排気量などが違うので、それを 織り込んだ「世界共通フレキシブル・プラットフォーム」構想を打出している。 出典:http://www1.harenet.ne.jp/~noriaki /index.html 各社プレスリリース情報などを一覧表化 8 メーカー 共通化目標 実現時期 マツダ 日米欧にまたがる共通化を推進。 カペラ(2001年)とファミリア(2002年)は、Fordのモンデオ、VolvoのS40/V40と プラットフォームを共通化。 このプラットフォームを含めて、4種の新型プラットフォームを開発する方針。 この4種でマツダ車の70%をカバー。 [参考] Ford Fordは1995年に「Ford 2000」という経営組織再編策を打ち出して以来、欧・米 車のプラットフォーム共通化を強力に推進し、開発費の大幅削減に成功した。 最近の事例として小型戦略車フォーカスがある。また、リンカーンLSと ジャガーSタイプも共通化。 2000年 ◆ PF共通化の動きは、部品メーカー、特に足回り部品メーカーにとっても標準化の観点から 好ましい動きと考えられる。 出典:http://www1.harenet.ne.jp/~noriaki /index.html 各社プレスリリース情報などを一覧表化 9 2-3. 自動車部品のモジュール化 (a) モジュール化に向けた企業間連携の動き 99/08 99/12 タチエス・富士機工 (株式持合い) 00/04 00/08 00/12 01/04 シート ビステオン(米)・三ツ星ベルト (業務提携) 出典:日経2紙情報を一覧表化 計器盤 カルソニック・カンセイ コックピットなど (合併してカルソニック・カンセイ) ブリヂストン・カヤバ工業 (BS側が資本参加−株式3%取得) 足回り タカタ・ペトリ(独) (タカタによる買収) 自動車OEMからのモジュール部品納入の 期待に対応する形で、部品サプライヤー間の 連携の動きが進み始めている。 日信工業・日本ブレーキ工業 (日信側が資本参加−株式21%取得) エアバッグ 内蔵ハンドル ブレーキ ブリヂストン・曙ブレーキ工業 (足回りでの連携) 内装品 足回り 豊田紡織・豊田化工 (合併) 10 (b) モジュール化の目指すもの モジュールのタイプには、単に組立てを旨とするものと、新技術をビルト・インさせるものがある。 組立てを主としたモジュール化 自動車工場内、もしくは近郊の工場において部品会社がサブアセンブリーした部品を 車組み立て工場に持ち込んで取り付ける方法。 このモジュール化は、賃金水準が相対的に低い部品サプライヤーを利用して、車の生産コストを軽減 させるのが狙いであるが、副次的効果として、生産工程簡素化、仕掛品削減の効果もある。 新技術をビルト・インさせるモジュール化 複数部品の機能を集約させるモジュール化の機会を捉えて、部品サプライヤーが技術提案力を 発揮する好機になる(OEMに部品間の適合性の調整を部品サプライヤーに委ねる動きが出ている)。 部品サプライヤーとしては、当然このモジュールを志向し、商品付加価値を高める努力を払うべき。 数社の部品を取り纏めてモジュール化するに際しては、リーダー会社が必要になる。 完成品 完成品 車全体に占める モジュール部品の 影響度が大きくなる 部品B 部 品 A+B 部品A モジュール化 供給側の発言力が高まる。 供給側の開発自由度が高まる。 11 2-4. 部品調達コストの削減 メーカー 出典:各社プレス・リリース アニュアル・レポートなど 計画内容 実現時期 トヨタ 2000年7月より[CCC21](Construction of Cost Competitiveness)と呼ぶ新しい 2003年末 原価低減活動を開始。 部品調達コストの30% 削 減を目指す2001年度からの原価改善3ヶ年計画でも、 系列部品メーカーと共同で設計段階から徹底してコストダウンを進める方針。 マツダ FordではTarget Agreement(TA)と呼ばれる部品調達方式を導入しているが、 マツダは2000年よりこのシステムを導入。 従来Fordは自社内で自動車部品の企画・開発から設計、品質保証までを手 掛けてきたが、これらを部品メーカーに任せるFull Service Supplier(FSS)制度 を導入。 FSSは、これによって部品メーカーの責任範囲が広がるため、個別の取引き ごとにコスト削減目標などを予め徹底させられる。 日産 1999年10月に日産リバイバル・プランを導入して以来、村山工場閉鎖、内部 組織変更などに加え、部品メーカーと3年間で部品調達コストを20%削減 することで合意。 ホンダ 「四極連結ベストソーシング」と呼ばれる購買方式を導入、発注を大口化する ことで、部品調達コストを従来モデルより20%削減。 三菱 2001年2月発表の「新経営ビジョン」で、部品・資材の共同購買の拡大などで 購買コストを約30%削減 を目指す。 2002年末 次ページに続く。 12 2-5. 部品調達方式の合理化 メーカー 日産 ホンダ 出典:各社プレス・リリース アニュアル・レポートなど 内容 1999年からグローバル集中購買を実施(ヘッドランプその他について全量を1社に発注) 。 第一段階の2000年度は8%の購買費削減という目標を達成。 この集中購買によりサプライヤー数は半減。 なお、コア4社を除く保有系列企業の売却も進めた(2000年3月末)。 99年から自動車部品の一部をメーカー1社に世界規模で全量発注する「四極連結ベストソーシ ング」と呼ばれる購買方式を導入。 1999年に発表の「シビック」でまず採用。 発注を受けた部品メーカーは、シビックを生産する日・米・欧・アジアの本田の生産拠点すべて に部品を供給する(以前はホンダの部品調達は各拠点の裁量に任せていた)。 [参考] OPTIMA System Renault 品質、コスト、研究開発力がRenault独自の基準を満たした場合、OPTIMA Supplierに認定、 過半のシェアと大量発注を保証する。サプライヤーは; ①価格競争力と技術力に優れていること、 ②世界の主要地域に生産拠点を持つこと、 ③ルノー以外の自動車メーカーとの取引き実績があることが前提。 総じてみれば、部品サプライヤーは2003年末までには、現在のコストの30%レスを実現する 必要があり、開発期間の短縮、調達方法の革新、技術開発力の工場など総合的な取組みを 通じて、コスト削減の要請に応えて行く必要がある。 —その他ページ省略— 13 3. まとめ 3-1. 自動車メーカーの戦略 開発期間短縮 次世代車 (ハイブリッド車、 水素自動車など) 新交通システム (ITSなど) 新規事業 (結果として) 適用開発力獲得 自 動 モジュール化 車 メ ガソリン車 設計自由度、付加価値加味の機会(?) l カ PF共通化 l 新分野 スペック標準化の道 開発力 1社購買方式 部 品 メ l カ l 安定供給保証、高シェア、新車開発参画資格 承認図方式のさらなる拡大 提案型開発、設計自由度 部品メーカーとしては、次世代車分野へのR&Dも進めておく必要がある。 14 3-2. 部品サプライヤーへの期待 基本的には、下記四つの能力(QCDD)を高めることが期待されている。 品質、技術開発力、グローバル対応力を見極めた部品 供給ソースの絞り込み(サプライヤーの選別) 上 )高 度 )向 化 質 能 力 (品 Q (開 D 力 発 能 「効率化」と「高度化」は初期 ステージでは一見相反するが、 中長期的には相乗性が出る。 縮 能 能 減 )低 (コ ス ト )短 力 C 期 部品調達コストの30%レス (納 D 力 現 在 開発期間(月数)の1桁化 15 3-3. 今後の自動車産業における開発期間短縮 (a) 製品開発期間の業界比較 14 12 製品ライフサイクル 10 産業機械 紙・パルプ 鉄鋼 イン ラ 等価 8 6 石油精製・製品 建築 自動車 精密機器 4 非鉄 2 洗剤・化粧品・油脂 自動車業界における今後の開発期間短縮検討では、 情報・通信機器や家電機器メーカーの開発期間短縮 手法がベンチマークになるのではないか。 半導体・デバイス 食料品 情報・通信機器 出典:(社)経済団体連合会「産業技術強化のための実態調査」報告書(1998/9) 家電機器 0 化成品 繊維 情報・通信サービス ゴム製品 医薬品 2 4 6 8 開発期間 10 12 14 16 出典:日経メカニカル(1997/08/18No.513) (b) 情報・通信機器業界における「遅始速結」型開発プロセス 商品ライフサイクルの短い商品を開発する情報・通信機器業界では、良い要素技術をなるべく 多く搭載できるよう、開発着手タイミングを後ろ倒しにし、しかし一方で納期内に開発を完了 させるというプロセスが導入されているが、今後このやり方が参考になるのではないか。 A 要素技術 開発 A 量産 量産設計 設計 仕様 従来の開発 プロセス 生産準備 B C B C D E D E 生産準備 量産 設計 量産設計 A B C 仕様 なるべく遅く開発に着手、 なるべく多くの新技術を 搭載し・・・ 最近の開発 プロセス 新製品 新製品 納期内に 終える 17
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