日本消化器病学会 肝硬変診療ガイドライン 2015(改訂第 2 版) Evidence-based Clinical Practice Guidelines for Liver Cirrhosis 2015(2nd Edition) 日本消化器病学会肝硬変診療ガイドライン作成・評価委員会 は,肝硬変診療ガイドラインの内容については責任を負うが,実際 の臨床行為の結果については各担当医が負うべきである. 肝硬変診療ガイドラインの内容は,一般論として臨床現場の意思 決定を支援するものであり,医療訴訟等の資料となるものではな い. 日本消化器病学会 2015 年 9 月 1 日 日本消化器病学会ガイドラインの刊行にあたって 日本消化器病学会は,2005 年に当時の理事長であった跡見 裕先生の発議によって,EvidenceBased Medicine(EBM)の手法に則ったガイドラインの作成を行うことを決定し,3 年余をかけ, 2009〜2010 年に消化器 6 疾患のガイドライン(第一次ガイドライン)を完成・上梓した.6 疾患 とは,胃食道逆流症(GERD) ,消化性潰瘍,肝硬変,クローン病,胆石症,慢性膵炎であり, それまでガイドラインが作成されていない疾患で,日常臨床で診療する機会の多いものを重視 し,財団評議員に行ったアンケート調査で多数意見となったものが選ばれた.2006 年の第 92 回 日本消化器病学会総会の際に第 1 回ガイドライン委員会が開催され,文献検索範囲,文献採用 基準,エビデンスレベル,推奨グレードなど EBM 手法の統一性についての合意と,クリニカル クエスチョン(CQ)の設定など基本的な枠組みが合意され,作成作業が開始された.6 疾患のガ イドライン作成では,推奨の強さのグレード決定に Minds(Medical Information Network Distribution Service)システムを一部改変し,より臨床に則した日本消化器病学会独自の基準を用い た.また,ガイドライン作成における利益相反(Conflict of Interest:COI)が当時,社会的問題 となっており,EBM 専門家から提案された基準に基づいてガイドライン委員の COI を公開し た.菅野健太郎前理事長のリーダーシップのもとに学会をあげての事業として行われたガイド ライン作成は先進的な取り組みであり,わが国の消化器診療の方向性を学会主導で示したもの として大きな価値があったと評価できる.日本消化器病学会は,その後,6 疾患について「患者 さんと家族のためのガイドブック」も編集・出版し,治療を受ける側の目線で解説書を作成す ることによって,一般市民がこれら消化器の代表的疾患への理解を深めるうえで役立ったと考 えている. 第一次ガイドライン作成を通じて,日本消化器病学会は消化器関連の Common Disease に関 するガイドラインの必要性と重要性の認識を強め,さらに整備する必要度の高い疾患について 評議員にアンケートを行い,2011 年から機能性ディスペプシア(FD) ,過敏性腸症候群(IBS) , 大腸ポリープ,NAFLD/NASH の 4 疾患についても,診療ガイドライン(第二次ガイドライン) の作成を開始した.一方では,これら 4 疾患の診療ガイドラインの刊行が予定された 2014 年に は,第一次ガイドラインも作成後 5 年が経過するため,いわゆる Sunset Rule(日没ルール:作成 から長期経過したガイドラインは妥当性が担保できないため,退場させる取り決め)に従い,先 行 6 疾患のガイドラインの改訂作業も併せて行うこととなった.2011 年 11 月 9 日に 6 疾患の第 1 回改訂委員会が開催され,改訂の基本方針が確認された.改訂版では第二次ガイドライン作 成と同様,国際的主流となっている GRADE(The Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムの考え方を取り入れて推奨の強さを決定することとした. このシステムは,単にエビデンスに基づいて推奨の強さを決めるのではなく,患者さんへの有 益性,費用まで考慮し,たとえ比較対照試験であってもその内容を精査・吟味してエビデンス レベルを決定するなど,アウトカムにとって有用かどうかを重視する立場に立っており,患者 さんの立場により則したガイドライン作成に有用と考えられた.また,完成後に改訂版は Journal of Gastroenterology に掲載することが予定されており,世界的趨勢である GRADE システムの考 え方を取り入れることで国際的ガイドラインとしての位置づけを強化する狙いもあった. — iv — 日本消化器病学会ガイドラインの刊行にあたって 改訂作業の進捗には疾患によって多少差がみられるが,2015 年 4 月から順次完成し,秋まで に 6 疾患すべての改訂作業が完了する予定である.最新のエビデンスを網羅した改訂版は,初 版に比べて内容的により充実し,記載の精度も高まるものと期待している. 最後に,ガイドライン委員会の前担当理事として多大なご尽力をいただいた木下芳一理事, 渡辺 守理事,ならびに多くの時間と労力を惜しまず改訂作業を遂行された作成委員会ならびに 評価委員会の諸先生,刊行にあたり丁寧なご支援をいただいた南江堂出版部の皆様に心より御 礼を申し上げたい. 2015 年 4 月 日本消化器病学会理事長 下瀬川 徹 —v— 統括委員会一覧 委員長 委員 三輪 洋人 荒川 哲男 大阪市立大学消化器内科学 上野 文昭 大船中央病院 木下 芳一 島根大学第二内科 西原 利治 高知大学消化器内科 坂本 長逸 新聖会 ういずクリニック 下瀬川 徹 東北大学消化器病態学 白鳥 敬子 東京女子医科大学消化器内科 杉原 健一 光仁会 第一病院 田妻 広島大学総合内科・総合診療科 進 田中 信治 オブザーバー 兵庫医科大学内科学消化管科 広島大学内視鏡診療科 坪内 博仁 鹿児島市立病院 中山 健夫 京都大学健康情報学 二村 雄次 愛知県がんセンター 野口 善令 名古屋第二赤十字病院総合内科 福井 博 奈良県立医科大学 福土 審 東北大学大学院行動医学分野・東北大学病院心療内科 本郷 道夫 公立黒川病院 松井 敏幸 福岡大学筑紫病院消化器内科 森實 敏夫 日本医療機能評価機構 山口直比古 日本医学図書館協会個人会員 吉田 雅博 化学療法研究所附属病院人工透析・一般外科 芳野 純治 藤田保健衛生大学 渡辺 純夫 順天堂大学消化器内科 渡辺 東京医科歯科大学消化器内科 守 菅野健太郎 自治医科大学 — vi — 肝硬変診療ガイドライン委員会 協力学会:日本肝臓学会 ■ 作成委員会 委員長 福井 副委員長 齋藤 英胤 博 慶應義塾大学消化器内科 委員 上野 義之 山形大学内科学第二講座 宇都 浩文 宮崎医療センター病院消化器・肝臓病センター 奈良県立医科大学 小原 勝敏 福島県立医科大学消化器内視鏡先端医療支援講座 坂井田 功 山口大学消化器病態内科学 渋谷 明隆 北里大学医療管理学 清家 正隆 大分大学肝疾患相談センター 名越 澄子 埼玉医科大学総合医療センター消化器内科・肝臓内科 委員長 坪内 博仁 鹿児島市立病院 副委員長 森脇 久隆 岐阜大学 委員 加藤 章信 盛岡市立病院 橋本 悦子 東京女子医科大学消化器病センター ■ 評価委員会 作成協力者 道堯浩二郎 愛媛県立中央病院消化器病センター 村脇 義和 鳥取県済生会境港総合病院 大重 彰彦 小田 耕平 瀬川 誠 馬渡 誠一 鹿児島大学消化器疾患・生活習慣病学 鹿児島大学消化器疾患・生活習慣病学 山口大学医学部附属病院医療人育成センター 鹿児島大学消化器疾患・生活習慣病学 — vii — 肝硬変診療ガイドライン作成の手順 1.改訂の背景 日本消化器病学会は第一次診療ガイドライン作成事業の一環として肝硬変診療ガイドライン を 2010 年 4 月に刊行した.これに続いて第二次診療ガイドライン作成事業を進めるなか,先行 ガイドラインの 6 疾患についても新たなエビデンスの集積に伴う改訂が必要と考えられた.統 括委員会において,改訂版では EBM を重視しつつ,広く受容されやすい推奨度を設定するため に,第二次診療ガイドラインに引き続き GRADE システムを採用することが決定され,肝硬変 診療ガイドラインもこの方針で改訂することとなった.肝硬変では複雑な病態に応じた多彩な 診療手段を評価し直すという大きな課題があり,全編を新たに執筆するつもりで改訂に臨んだ. まず,クリニカルクエスチョン(CQ)の徹底した再検討が必要で,その基本方針として次のこと を定めた.①2010 年(旧)版ガイドラインはやや専門的過ぎて非専門医に利用されづらかったと いう意見があったため,肝硬変病態の基本的理解のために総論的な CQ を準備する.②旧版の CQ は原則的に尊重するが,ほとんど該当文献がなく,結論を得にくかった CQ は削除する.③旧 版ではエビデンスレベルが低く否定的な結論となった CQ でも GRADE システムで推奨度が上 がる可能性がある重要なものは残す.④新しい CQ を追加するためいくつかの CQ は統合する. この CQ の改訂は文献検索開始前だけでなく,作成作業中も続けることとし,結果として 99 問 の旧 CQ のうちそのまま継続したものは 44 問にとどまり,過半数の CQ に変更を加えることに なった. 日本肝臓学会の協力を得て新たな作成委員を加えて討議を重ね,文献検索と発刊のタイムラグ を最短にするために 1983 年〜2012 年 6 月という検索期間を超えて,委員の判断で最新の研究成 果を反映させたことも特色といえる.構造化抄録作成前に文献管理担当会社との契約が切れ, 各作成委員の負担は著しく増大したが,2014 年末までに作成委員会でのコンセンサスが得られ, 評価委員会からの提言とパブリックコメントを反映した改訂版をここに公表できる運びとなった. 2.改訂の手順 1)診療ガイドライン改訂委員の設立 2011 年 7 月の第 1 回統括委員会を受けて,同年 11 月に先行 6 疾患の第 1 回改訂委員会が開 催され,改訂の基本方針が確認された.新しい作成委員会,評価委員会が組織され,2012 年 9 月開催の〔改訂〕第 1 回肝硬変診療ガイドライン作成委員会において上記の CQ 改訂に関する基 本方針を決定した. 2)作成基準 文献検索,構造化抄録の作成は旧版の方法に従い,各 CQ のステートメントに関するエビデ ンスレベルの確定と推奨度の決定は GRADE システムに準じて行った. 3)作成方法 ◦はじめに作成委員会で初版の問題点と世界の診療の現状を踏まえて CQ の改訂を行い,評 価委員会に諮ったのちに CQ を確定した.これを基に CQ ごとに主担当者,副担当者を決 定し,文献検索に移った.各ステートメントの原案は主担当者が作成し,副担当者の意見 — viii — 肝硬変診療ガイドライン作成の手順 を入れて,作成委員会提出原稿を準備することとした. ◦構成は旧版を基としたが,冒頭に概念(病因,病態)の章を設け,続いて診断,治療,肝硬 変合併症の診断・治療,予後予測,肝移植の各章を設けた.さらに肝硬変合併症の診断・ 治療の章では肝性脳症に続いて門脈血栓症,その他の項を設けた. ◦各 CQ の記載内容は他のガイドラインと統一するために,CQ,ステートメント(推奨の強 さ,エビデンスレベル) ,解説,文献の順とし,旧版に付した推奨のまとめ,検索式は省略 することとした. ◦英語論文の検索には MEDLINE,Cochrane Library を,日本語論文の検索には医学中央雑 誌を用いた.新規 CQ,変更 CQ については 1983 年〜2012 年 6 月末,旧版と同じ CQ につ いては 2008 年〜2012 年 6 月末を検索期間とした.この他,各作成委員が CQ ごとに必要に 応じて最新の文献をハンドサーチで加えてよいこととし,これらは 1982 年以前の文献とと もに検索期間外論文として文献欄に記載した. ◦網羅的に検索された文献から重要なものを選別して,構造化抄録を作成し,ランダム化比 較試験(RCT)についてはバイアスリスク評価を加えた.また可能な限り,GRADE システ ムに準じて抄録内容をアウトカムごとに整理・統合して,body of evidence としてのエビデ ンスレベルの決定に努めた.これらを基にステートメントごとに最終的なエビデンスレベ ルの質について高いものから順に A,B,C,D の 4 段階で表記した. ◦推奨の強さは GRADE システムに従ってエビデンスレベルの高さ,益と害,患者の好み, コスト評価の 4 項目で評価した.この際,全員出席の委員会において各委員は担当する CQ の資料を配布して説明し,推奨草案に対する同意率を投票で求めた.さらに委員会では CQ ごとに繰り返し意見交換を行い,副担当者によるチェックと訂正原稿の回覧を通じて,内 容の brush up に努めた. ◦保険適用のない治療については「解説」にその点を記載し,エビデンスレベルが高くても, 推奨の強さは弱い推奨(提案する)にとどめた. ◦2012 年 9 月〜2014 年 9 月に第 2 回〜第 10 回作成委員会を開催し,第 9,10 回委員会にお いて CQ ごとに推奨案への同意について投票を行った.その後も修正を繰り返し,2014 年 12 月末に最終案を評価委員会に諮った.第 11 回作成委員会(2015 年 1 月)において評価委 員会の答申を検討し,修正を加えた後,同年 4 月 3 日〜17 日にパブリックコメントを募集 した.第 12 回作成委員会(2015 年 5 月)においてパブリックコメント後の修正案を確認し, 同年 8 月末に著者校正を加えて改訂版を完成させた. 昨秋,道半ばで病に倒れ,関係各位に大変ご迷惑をおかけした.様々な意見を調整して完成 まで導いていただいた副委員長の齋藤英胤教授とご尽力いただいた委員の諸先生方に深甚なる 謝意を捧げる. 3.使用法 本ガイドラインは肝硬変の診療に関する 2014 年度までのエビデンスをもとに作成され,推 奨・提案できる診療内容を提示することにより,臨床現場を支援するものである.肝硬変患者 の病態は極めて多様で,診療手段には保険診療の枠外にあるものもある.本ガイドラインの適 用にあたってはこれらの点に留意し,適切な対応を心がけられたい. 2015 年 9 月 日本消化器病学会肝硬変診療ガイドライン作成委員長 — ix — 福井 博 本ガイドライン作成方法 1.エビデンス収集 初版で行われた系統的検索によって得られた論文に加え,今回新たに以下の作業を行ってエ ビデンスを収集した. それぞれのクリニカルクエスチョン(CQ)からキーワードを抽出し,学術論文を収集した. データベースは,英文論文は MEDLINE,Cochrane Library を用いて,日本語論文は医学中央雑 誌を用いた.新規 CQ については 1983 年〜2012 年 6 月末,変更 CQ についても同期間を文献検 索の対象期間とし,初版と同じ CQ については 2008 年〜2012 年 6 月末を文献検索の対象期間と した.また,2012 年 7 月以降 2015 年 3 月までの重要かつ新しいエビデンスについては,検索期 間外論文として文献に掲載した.各キーワードおよび検索式は日本消化器病学会ホームページ に掲載する予定である. 収集した論文のうち,ヒトに対して行われた臨床研究を採用し,動物実験や遺伝子研究に関 する論文は除外した.患者データに基づかない専門家個人の意見は参考にしたが,エビデンス としては用いなかった. 2.エビデンス総体の評価方法 1)各論文の評価:構造化抄録の作成 各論文に対して,研究デザイン 1) (表 1)を含め,論文情報を要約した構造化抄録を作成した. さらに RCT や観察研究に対して,Cochrane Handbook 2)や Minds 診療ガイドライン作成の手 引き 1)のチェックリストを参考にしてバイアスのリスクを判定した(表 2) .総体としてのエビ デ ン ス 評 価 は , GRADE( The Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システム 3〜22)の考え方を参考にして評価し,CQ 各項目に対する総体としてのエビ デンスの質を決定し表記した(表 3) . 2)アウトカムごと,研究デザインごとの蓄積された複数論文の総合評価 (1)初期評価:各研究デザイン群の評価 表1 研究デザイン 各文献へは下記 9 種類の「研究デザイン」を付記した. (システマティックレビュー /RCT のメタアナリシス) (1)メタ (2)ランダム (ランダム化比較試験) (3)非ランダム (非ランダム化比較試験) (4)コホート (分析疫学的研究(コホート研究) ) (5)ケースコントロール (分析疫学的研究(症例対照研究) ) (6)横断 (分析疫学的研究(横断研究)) (7)ケースシリーズ (記述研究(症例報告やケース・シリーズ)) (8)ガイドライン (診療ガイドライン) (9) (記載なし) (患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見は, 参考にしたが,エビデンスとしては用いないこととした) —x— 本ガイドライン作成方法 表2 バイアスリスク評価項目 (1)ランダム系列生成 選択バイアス 実行バイアス 検出バイアス 詳細に記載されている か (2)コンシールメント 組み入れる患者の隠蔽化がなされているか (3)盲検化 (4)盲検化 (5)ITT 解析 ITT 解析の原則を掲げて,追跡からの脱落者に対してその原則を遵守 しているか (6)アウトカム報告バイアス 症例減少バイアス (解析における採用および除外データを含めて) (7)その他のバイアス 告・研究計画書に記載されているにもかかわらず,報 告されていないアウトカムがないか 表3 エビデンスの質 A:質の高いエビデンス(High) 真の効果がその効果推定値に近似していると確信できる. B:中程度の質のエビデンス(Moderate) 効果の推定値が中程度信頼できる. 真の効果は,効果の効果推定値におおよそ近いが,それが実質的に異なる可能性もある. C:質の低いエビデンス(Low) 効果推定値に対する信頼は限定的である. 真の効果は,効果の推定値と,実質的に異なるかもしれない. D:非常に質の低いエビデンス(Very Low) 効果推定値がほとんど信頼できない. 真の効果は,効果の推定値と実質的におおよそ異なりそうである. メタ群,ランダム群=「初期評価 A」 非ランダム群,コホート群,ケースコントロール群,横断群=「初期評価 C」 ケースシリーズ群=「初期評価 D」 (2)エビデンスレベルを下げる要因の有無の評価 研究の質にバイアスリスクがある 結果に非一貫性がある エビデンスの非直接性がある データが不精確である 出版バイアスの可能性が高い (3)エビデンスレベルを上げる要因の有無の評価 大きな効果があり,交絡因子がない 用量–反応勾配がある 可能性のある交絡因子が,真の効果をより弱めている (4)総合評価:最終的なエビデンスの質「A,B,C,D」を評価判定した. — xi — 3)エビデンスの質の定義方法 エビデンスレベルは海外と日本で別の記載とせずに 1 つとした.またエビデンスは複数文献 を統合・作成した統合レベル(body of evidence)とし,表 3 の A〜D で表記した. 4)メタアナリシス システマティックレビューを行い,必要に応じてメタアナリシスを引用し,本文中に記載し た. また,1 つ 1 つのエビデンスに「保険適用あり」の記載はせず,保険適用不可の場合に,解 説の中で明記した. 3.推奨の強さの決定 以上の作業によって得られた結果をもとに,治療の推奨文章の案を作成提示した.次に,推 奨の強さを決めるためにコンセンサス会議を開催した. 推奨の強さは,①エビデンスの確かさ,②患者の希望,③益と害,④コスト評価,の 4 項目 を評価項目とした.コンセンサス形成方法は,Delphi 変法,nominal group technique(NGT)法 に準じて投票を用い,70%以上の賛成をもって決定とした.1 回目で,結論が集約できないとき は,各結果を公表し,日本の医療状況を加味して協議の上,投票を繰り返した.作成委員会は, この集計結果を総合して評価し,表 4 に示す推奨の強さを決定し,本文中の囲み内に明瞭に表 記した. 推奨の強さは「1:強い推奨」 , 「2:弱い推奨」の 2 通りであるが, 「強く推奨する」や「弱く 推奨する」という文言は馴染まないため,下記のとおり表記した.また,投票結果を「合意率」 として推奨の強さの下段に括弧書きで記載した.推奨の強さを決定できなかった場合や,疫学・ 病態などの,CQ およびステートメント内容が推奨文章ではない場合は,推奨の強さを「なし」 と記載した. 表4 推奨の強さ 推奨度 1(強い推奨) 2(弱い推奨) “ 実施する ” ことを推奨する “ 実施しない ” ことを推奨する “ 実施する ” ことを提案する “ 実施しない ” ことを提案する 4.本ガイドラインの対象 1)利用対象:一般臨床医 2)診療対象:成人の患者を対象とした.小児は対象外とした. 5.改訂について 本ガイドラインは改訂第 2 版であり,今後も日本消化器病学会ガイドライン委員会を中心と して継続的な改訂を予定している. — xii — 本ガイドライン作成方法 6.作成費用について 本ガイドラインの作成はすべて日本消化器病学会が費用を負担しており,他企業からの資金 提供はない. 7.利益相反について 1)日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員・各ガイドライン作 成・評価委員と企業との経済的な関係につき,各委員から利益相反状況の申告を得た(詳細は 「利益相反に関して」に記す) . 2)本ガイドラインでは,利益相反への対応として,協力学会の参加によって意見の偏りを防 ぎ,さらに委員による投票によって公平性を担保するように努めた.また,出版前のパブリッ クコメントを学会員から受け付けることで幅広い意見を収集した. 8.ガイドライン普及と活用促進のための工夫 1)フローチャートを提示して,利用者の利便性を高めた. 2)書籍として出版するとともに,インターネット掲載を行う予定である. ・日本消化器病学会ホームページ ・日本医療機能評価機構 EBM 医療情報事業(Minds)ホームページ ■引用文献 1) 福井次矢,山口直人(監修) .Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014,医学書院,東京,2014 2) Higgins JPT, Green S (eds). Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions version 5.1.0: The Cochrane Collaboration http://handbook.cochrane.org/(updated March 2011) [最終アクセス 2015 年 3 月 11 日] 3) 相原守夫,相原智之,福田眞作.診療ガイドラインのための GRADE システム,凸版メディア,弘前, 2010 4) The GRADE* working group. Grading quality of evidence and strength of recommendations. BMJ 2004; 328: 1490-1494 (printed, abridged version) 5) Guyatt GH, Oxman AD, Vist G, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strength of recommendations GRADE: an emerging consensus on rating quality of evidence and strength of recommendations. BMJ 2008; 336: 924-926 6) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strength of recommendations: What is "quality of evidence" and why is it important to clinicians? BMJ 2008; 336: 995-998 7) Schünemann HJ, Oxman AD, Brozek J, et al; GRADE Working Group. Grading quality of evidence and strength of recommendations for diagnostic tests and strategies. BMJ 2008; 336: 1106-1110 8) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE working group .Rating quality of evidence and strength of recommendations: incorporating considerations of resources use into grading recommendations. BMJ 2008; 336: 1170-1173 9) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strength of recommendations: going from evidence to recommendations. BMJ 2008; 336: 1049-1051 10) Jaeschke R, Guyatt GH, Dellinger P, et al; GRADE working group. Use of GRADE grid to reach decisions on clinical practice guidelines when consensus is elusive. BMJ 2008; 337: a744 11) Guyatt G, Oxman AD, Akl E, et al. GRADE guidelines 1. Introduction-GRADE evidence profiles and summary of findings tables. J Clin Epidemiol 2011; 64: 383-394 12) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al. GRADE guidelines 2. Framing the question and deciding on important outcomes.J Clin Epidemiol 2011; 64: 295-400 13) Balshem H, Helfand M, Schunemann HJ, et al. GRADE guidelines 3: rating the quality of evidence. J Clin Epidemiol 2011; 64: 401-406 14) Guyatt GH, Oxman AD, Vist G, et al. GRADE guidelines 4: rating the quality of evidence - study limita- — xiii — tion (risk of bias). J Clin Epidemiol 2011; 64: 407-415 15) Guyatt GH, Oxman AD, Montori V, et al. GRADE guidelines 5: rating the quality of evidence - publication bias. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1277-1282 16) Guyatt G, Oxman AD, Kunz R, et al. GRADE guidelines 6. Rating the quality of evidence - imprecision. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1283-1293 17) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 7. Rating the quality of evidence - inconsistency. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1294-1302 18) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 8. Rating the quality of evidence - indirectness. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1303-1310 19) Guyatt GH, Oxman AD, Sultan S, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 9. Rating up the quality of evidence. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1311-1316 20) Brunetti M, Shemilt I, et al; The GRADE Working. GRADE guidelines: 10. Considering resource use and rating the quality of economic evidence. J Clin Epidemiol 2013; 66: 140-150 21) Guyatt G, Oxman AD, Sultan S, et al. GRADE guidelines: 11. Making an overall rating of confidence in effect estimates for a single outcome and for all outcomes. J Clin Epidemiol 2013; 66: 151-157 22) Guyatt GH, Oxman AD, Santesso N, et al. GRADE guidelines 12. Preparing Summary of Findings tablesbinary outcomes. J Clin Epidemiol 2013; 66: 158-172 — xiv — 利益相反に関して 日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員と企業との経済的な関係につき,下記の基準で, 各委員から利益相反状況の申告を得た. 肝硬変診療ガイドライン作成・評価委員には診療ガイドライン対象疾患に関連する企業との経済的な関係につき,下 記の基準で,各委員から利益相反状況の申告を得た. 申告された企業名を下記に示す(対象期間は 2011 年 1 月 1 日から 2014 年 12 月 31 日) .企業名は 2015 年 7 月現在の 名称とした.非営利団体は含まれない. 1.委員または委員の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が個人として何らかの報酬を得た企 業・団体 役員・顧問職(100 万円以上) ,株(100 万円以上または当該株式の 5%以上保有) ,特許権使用料(100 万円以上) 2.委員が個人として何らかの報酬を得た企業・団体 講演料(100 万円以上) ,原稿料(100 万円以上) ,その他の報酬(5 万円以上) 3.委員の所属部門と産学連携を行っている企業・団体 研究費(200 万円以上) ,寄付金(200 万円以上) ,寄付講座 ※統括委員会においては日本消化器病学会診療ガイドラインに関係した企業・団体,作成・評価委員においては診 療ガイドライン対象疾患に関係した企業・団体の申告を求めた 統括委員および作成・評価委員はすべて,診療ガイドラインの内容と作成法について,医療・医学の専門家として科 学的・医学的な公正さを保証し,患者のアウトカム,Quality of life の向上を第一として作業を行った. 利益相反の扱いは,国内外で議論が進行中であり,今後,適宜,方針・様式を見直すものである. 表 1 統括委員と企業との経済的な関係(五十音順) 1.エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社 2.味の素製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ合同会社,アボットジャパ ン株式会社,株式会社医学書院,エーザイ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,オリンパスメディカル システムズ株式会社,杏林製薬株式会社,ゼリア新薬工業株式会社,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会 社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,ファイザー株 式会社 3.旭化成メディカル株式会社,味の素製薬株式会社,あすか製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼ ネカ株式会社,アッヴィ合同会社,アボットジャパン株式会社,エーザイ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株 式会社,小野薬品工業株式会社,花王株式会社,株式会社カン研究所,杏林製薬株式会社,協和発酵キリン株式 会社,グラクソ・スミスクライン株式会社,株式会社 JIMRO,株式会社ジーンケア研究所,ゼリア新薬工業株式 会社,センチュリーメディカル株式会社,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社, 武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,株式会社ツムラ,東レ株式会社,ファイザー 株式会社,ブリストル・マイヤーズ株式会社,株式会社ミノファーゲン製薬,持田製薬株式会社,株式会社ヤク ルト本社,ユーシービージャパン株式会社 表 2 作成・評価委員と企業との経済的な関係(五十音順) 1.なし 2.味の素製薬株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,ブリス トル・マイヤーズ株式会社,ヤンセンファーマ株式会社 3.味の素製薬株式会社,あすか製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,エーザイ株式 会社,株式会社エスアールエル,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,株式会社カネカ,株式会社カン研究所,第 一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社, ブリストル・マイヤーズ株式会社,株式会社ミノファーゲン製薬,ロート製薬株式会社 — xv — 本ガイドラインの構成 第 1 章 概念(病因,病態) 第 2 章 診断 (1)身体所見・一般血液検査 (2)画像検査 (3)腹腔鏡・肝生検 第 3 章 治療 (1)栄養療法 (2)抗ウイルス療法 (3)肝庇護療法など (4)非ウイルス性肝硬変の治療 第 4 章 肝硬変合併症の診断・治療 (1)消化管出血,門脈圧亢進症 (2)腹水 (3)肝腎症候群 (4)肝性脳症 (5)門脈血栓症 (6)その他 第 5 章 予後予測 第 6 章 肝移植 — xvi — フローチャート 【フローチャート 1:肝硬変診断のアルゴリズム】 生化学的検査(いずれでも可) Fibrolndex 血小板 AST γ-グロブリン リスク群 本人 B 型肝炎 C 型肝炎 飲酒 輸血 肥満 糖尿病 肝機能異常 など 家族 肝疾患歴 吐血歴 APRI 身体所見 酒皶 手掌紅斑 クモ状血管腫 女性化乳房 脾腫大 AST 血小板 FIB-4 血小板 AST ALT FibroTest(有料) Hepascore α2-マクログロブリン γ-GTP ヒアルロン酸 総ビリルビン 腹水 α2-マクログロブリン ハプトグロビン ApoA1 γ-GTP 総ビリルビン ALT 肝左葉腫大 C 型肝硬変 判別式 γ-グロブリン ヒアルロン酸 血小板 性別 F4 の線維化 腹壁静脈怒張 食道静脈瘤 下腿浮腫など 腹部超音波 腹部 CT,MRI など 組織学的診断 transient elastography 肝生検(針) 腹腔鏡下肝生検 画像診断・組織学的診断 注:上記のアルゴリズムは肝硬変の診断に必須な F4 の線維化に至るものであり,肝硬変の原因(種類)を知るには それぞれの疾患に特有な生化学検査や組織学的特徴が必要である. — xvii — 【フローチャート 2:栄養療法】 蛋 白低栄養 蛋白低栄養 ( 血清アルブミン≦3.5g/dL) (血清アルブミン≦3.5g/dL) Yes Y es No No ネルギー低栄養* エ エネルギー低栄養 (npRQ<0.85,%AC<95%,FFA>660 μEq/L) Eq/L) (npRQ<0.85,%AC<95%,FFA>660 μ Yes Yes 肝不全用経腸栄養剤 肝不全用経腸栄養剤 Yes Y es No No 分岐鎖アミノ酸顆粒 分岐鎖アミノ酸顆粒 No N o 肥 満 肥満 一般経腸栄養剤 一 般経腸栄養剤 夜食 (夜 食) ヵ月で介入が無効 2ヵ 月で介入が無効 Yes Yes 就寝前重点投与(LES) 就 寝前重点投与(LES) No No 過栄養の 過栄養の 現行の 現行の 食事指導 食事指導 食事指導 食事指導 gold standard **:栄養状態の評価については :栄養状態の評価については g old s tandard となる方法はないが,栄養摂取の状態や体組成の評価,血清学的な評 となる方法はないが,栄養摂取の状態や体組成の評価,血清学的な評 Subjective G lobal Assessment:主観的包括的アセスメント) Assessment:主観的包括的アセスメント) 価 価で行われており,SGA で行われており,SGA( (Subjective Global ,DEXA (Dual-Energy , DEXA( Dual-Energy X -ray Absorptiometry) Absorptiometry) ,Bioelectrical Impedance Impedance(BIA) (BIA) ,HG(Handgrip (Handgrip Strength) Strength) X-ray ,Bioelectrical ,HG ,L3 ,L3 Skeletal Skeletal Muscle Muscle IIndex ndex などが用いられており,それぞれが利点と欠点を有する. などが用いられており,それぞれが利点と欠点を有する. エ ネルギー低栄養評価には非蛋白呼吸商(npRQ) (npRQ)が 推奨されている.しかし,日常診療で用いられることは少ない. エネルギー低栄養評価には非蛋白呼吸商 が推奨されている.しかし,日常診療で用いられることは少ない. %A C( Arm C ircumference), 早朝空腹時 F AC (Arm Circumference) ,早 FFA FA が n npRQ pRQ と 相 関 が あ り り,%AC<95,FFA>660 ,%AC<95,FFA>660 μ μEq/L Eq/L が n pRQ<0.85 の指標となるとされている. の指標となるとされている. npRQ<0.85 栄 養学的な介入後などの動的評価には F FA が 適する. 栄養学的な介入後などの動的評価には FFA が適する. — xviii — フローチャート 【フローチャート 3:腹水診断】 腹水 25〜300mL 採取 2mL 残り 数時間以内に 血液採取 カルチャーボトル(2 本) 陽性 末梢血採血管 細胞数算定・細胞分類 好中球数≧250/mm3 特発性細菌性腹膜炎(SBP) 好中球エステラーゼ試験紙 陽性 (CQ4-13 参照) 総蛋白・アルブミン測定 血清アルブミン測定 アルブミン較差(SAAG)算出 (CQ4-12 参照) 1.1g/dL 未満 ※ ネフローゼ症候群 癌性腹膜炎 結核性腹膜炎 胆汁性腹膜炎 膠原病 クラミジア・淋菌感染 ⏞ ⏞ 20mL 肝硬変 1.1g/dL 以上 多発肝腫瘍 劇症肝炎 アルコール性肝炎 Budd-Chiari 症候群 veno-occlusive disease 甲状腺機能低下症 【解説】 試験穿刺で得られた腹水を用いて,総蛋白,アルブミン(Alb),LDH 測定,細胞数算定,細菌培養,などを行う. 腹水の原因を推定する指標として,血清と腹水のアルブミン濃度差[血清アルブミン濃度−腹水アルブミン濃度 (serum-ascites albumin gradient:SAAG)]があり,SAAG が 1.1 以上の場合は門脈圧亢進症が関連する腹水 であることを示唆し,1.1 未満の場合は門脈圧亢進症との関連性は否定的とされる.※この指標は肝硬変腹水の診断に 有用であるが,例外もあるため,総合的判断が必要である. 特 発 性 細 菌 性 腹 膜 炎(SBP)は,細 菌 培 養 が 陽 性 の 場 合 や,細 菌 培 養 が 陰 性 で あ っ て も 腹 水 中 の 好 中 球 数 が 500/mm3 以上,または好中球数が 250〜500/mm3 でも自他覚症状を伴えば診断される.好中球エステラーゼ試 験紙法は,SBP の簡便な迅速診断法であり,好中球数算定が困難な状況では有用である. — xix — 【フローチャート 4:腹水治療】 少〜中等量 スピロノラクトン 25〜100mg +フロセミド 20〜80mg 内服 (CQ4-16,17 参照) 不応例 利尿薬抵抗,不耐例 腹水穿刺排液(CQ4-19) (+ アルブミン製剤投与 (CQ4-15,20 参照) ) 腹水濾過濃縮再静注法(CQ4-22 参照) 大量 → 入院 食塩摂取制限 5〜7g/ 日(CQ4-14 参照) スピロノラクトン / フロセミド +トルバプタン 3.75〜7.5mg (CQ4-18 参照) カンレノ酸カリウム 200〜600mg +フロセミド 20〜100mg 静注 (1A より開始し,必要に応じて増量) (CQ4-16,17 参照) アルブミン製剤投与(CQ4-15 参照) 特発性細菌性腹膜炎(SBP) 不応例 腹腔‒静脈シャント (CQ4-21,25 参照) TIPS (CQ4-23,24,25 参照) 血清 T.Bil≧10mg/dL, 呼 吸 不 全,DIC,SBP, 消化管出血,腹膜癒着, 未治療の risky varices 70 歳未満,Child-Pugh≦11 が 条件 不可能 不可能 肝移植 第 3 世代セフェム系 抗菌薬静注 血清 Cr≧1.0mg/dL BUN≧30mg/dL または 血清 T.Bil≧4.0mg/dL アルブミン製剤 1.5g/kg 体重 静注(CQ4-15) 【解説】 少〜中等量の腹水に対しては,スピロノラクトン(25〜100mg/ 日)を第一選択薬として投与する.効果不十分時 にはフロセミド(20〜80mg/日)を併用する.不応例や大量腹水には,入院のうえ,食塩摂取制限(5〜7g/ 日) ,バ ソプレシン V2 受容体拮抗薬トルバプタン(3.75〜 7.5mg/ 日)追加投与,カンレノ酸カリウム+フロセミド静注, などを行う.高度の低アルブミン血症(2.5g/dL 未満)では,アルブミン製剤投与(5〜25% アルブミン,1 日 1 回 10 〜 25g 1 ヵ月 6 バイアル以内)を検討する(保険上用量に制限あり) .トルバプタンはループ利尿薬などの他の 利尿薬で効果不十分な際に,他の利尿薬と併用する.なお,利尿薬投与時には,underfilling と腎障害に特に注意す るべきである. 難治性腹水に対しては腹水穿刺排液や腹水濾過濃縮再静注法を行う.大量腹水穿刺時のアルブミン製剤投与は,排 液後循環不全の防止に有効である(保険上用量に制限あり) .不応例には,腹腔‒静脈シャント,経頸静脈肝内門脈大 循環シャント術(TIPS)を考慮するが,これら治療が実施困難な場合は,肝移植を検討する.なお,ここに記載した 治療は普遍的なものではなく,個々の患者の状態に応じた治療を行う. 特発性細菌性腹膜炎(SBP)には第 3 世代セフェム系抗菌薬の静注を行う.SBP の疑いがある患者で,血清クレア チニンが 1.0mg/dL 以上,BUN が 30mg/dL 以上もしくは血清総ビリルビンが 4.0mg/dL 以上の場合は, 1.5g/kg 体重のアルブミンを 6 時間以内に静脈投与し,3 日目にさらに 1.0g/kg 体重のアルブミンを追加投与する (国内では保険適用なし). (SBP のフローチャートは,AASLD ガイドライン 2009 年改定版を参考に作成) — xx — クリニカルクエスチョン一覧 第 1 章 概念(病因,病態) CQ 1-1 肝硬変の原因は何か? ………………………………………………………………………2 CQ 1-2 肝硬変の基本的な病態はどのようなものか? ……………………………………………4 第2章 診 断 ❶身体所見・一般血液検査 CQ 2-1 身体所見・血液生化学的検査所見から肝硬変の診断は可能か? ………………………8 ❷画像検査 CQ 2-2 画像診断は肝硬変の診断に有用か? ………………………………………………………12 ❸腹腔鏡・肝生検 CQ 2-3 肝生検組織所見(腹腔鏡および針生検)は肝硬変の診断に有用か? …………………15 第3章 治 療 ❶栄養療法 CQ 3-1 肝硬変患者の低栄養状態は予後に影響を与えるか? ……………………………………18 CQ 3-2 肝硬変に対する就寝前エネルギー投与(LES)は予後を改善するか? …………………20 CQ 3-3 肝硬変に対する分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤投与は有効か? …………………………22 CQ 3-4 肝硬変の糖代謝異常は病態に影響を与えるか? …………………………………………25 CQ 3-5 生魚,生肉の摂取は非代償性肝硬変では不適切か? ……………………………………28 ❷抗ウイルス療法 CQ 3-6 B 型肝硬変においてウイルス関連マーカー,HBV DNA 量測定は病態のモニターに 有用か? ……………………………………………………………………………………30 CQ 3-7 核酸アナログは B 型肝硬変におけるウイルスの陰性化,あるいはセロコンバージョン CQ 3-8 核酸アナログは B 型肝硬変の肝線維化,予後を改善するか? また,肝発癌を抑制 を促進するか? ……………………………………………………………………………32 するか? ……………………………………………………………………………………34 CQ 3-9 ラミブジン耐性 B 型肝硬変にアデホビルもしくはテノホビルは有効か?……………37 CQ 3-10 インターフェロン(IFN)は B 型肝硬変の肝線維化を改善するか? また,肝発癌を 抑制するか? ………………………………………………………………………………40 CQ 3-11 C 型肝硬変におけるインターフェロン(IFN)療法の治療効果は慢性肝炎と同等か? CQ 3-12 インターフェロン(IFN)療法後 SVR が得られた C 型肝硬変では肝線維化が改善する ………………………………………………………………………………………………43 か? …………………………………………………………………………………………45 — xxi — CQ 3-13 C 型肝硬変に対するインターフェロン(IFN)療法は,有害事象を誘発し予後に悪影響 を与えないか? ……………………………………………………………………………47 CQ 3-14 C 型肝硬変に対するインターフェロン(IFN)療法は,肝細胞癌を抑制して予後を改善 するか? ……………………………………………………………………………………49 CQ 3-15 初回インターフェロン(IFN)療法が無効であった C 型肝硬変に対し,ペグインター フェロン(PEG-IFN) ,リバビリン併用療法は有効か?………………………………51 ❸肝庇護療法など CQ 3-16 抗ウイルス療法以外にウイルス性肝硬変の肝線維化を抑制する治療法はあるか? …52 ❹非ウイルス性肝硬変の治療 CQ 3-17 アルコール性肝硬変では禁酒により線維化進展が阻止され,予後が改善するか? …54 CQ 3-18 自己免疫性肝炎(AIH)による肝硬変に対して副腎皮質ステロイドを投与すると線維化 の改善,予後の改善が得られるか? ……………………………………………………56 CQ 3-19 原発性胆汁性肝硬変(PBC)による肝硬変に対するウルソデオキシコール酸(UDCA) CQ 3-20 原発性硬化性胆管炎(PSC)による肝硬変に対するウルソデオキシコール酸(UDCA) あるいは副腎皮質ステロイド投与は線維化の改善,予後改善に寄与するか? ……58 あるいは副腎皮質ステロイド投与は予後を改善するか? ……………………………61 第 4 章 肝硬変合併症の診断・治療 ❶消化管出血,門脈圧亢進症 CQ 4-1 門脈圧亢進症の診断に腹部 CT(MDCT) ,腹部 MRI,MRA は有用か? ……………64 CQ 4-2 発赤所見(RC sign)は食道・胃静脈瘤出血の危険因子であるか? ……………………66 CQ 4-3 β ブロッカーは食道・胃静脈瘤の出血防止に有用か? …………………………………67 CQ 4-4 β ブロッカーと一硝酸イソソルビドの併用は静脈瘤出血予防に有効か? ……………71 CQ 4-5 食道静脈瘤出血時に血管作働性薬の投与は有効か? ……………………………………73 CQ 4-6 β ブロッカーは門脈圧亢進症性胃症(PHG)に対して有効な治療法か? ……………75 CQ 4-7 プロトンポンプ阻害薬(PPI)投与により代償性肝硬変患者のの消化管出血を予防でき CQ 4-8 食道静脈瘤に対する予防的内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)と内視鏡的静脈瘤硬化療法 るか? ………………………………………………………………………………………77 (EIS)では,どちらが再発防止に有用か? ……………………………………………78 CQ 4-9 胃静脈瘤に対してバルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術(B-RTO)は有効か? …80 CQ 4-10 原発性胆汁性肝硬変(PBC)に伴う食道・胃静脈瘤は早期に発現するか?……………83 CQ 4-11 胃静脈瘤に対して cyanoacrylate 系薬剤注入法は有効か? ……………………………85 ❷腹水 CQ 4-12 血清と腹水のアルブミン濃度差は肝硬変腹水診断に有用か? …………………………87 CQ 4-13 白血球エステラーゼ試験紙は特発性細菌性腹膜炎(SBP)の迅速診断に有用か? ……89 CQ 4-14 肝硬変に伴う腹水に対して減塩食は有効か? ……………………………………………92 CQ 4-15 肝硬変に伴う腹水にアルブミン投与は有効か? …………………………………………95 CQ 4-16 肝硬変の腹水に対してループ利尿薬はスピロノラクトンより有効か? ………………97 CQ 4-17 利尿薬投与法としてスピロノラクトン単剤増量法とスピロノラクトン,ループ利尿薬 併用増量法のどちらがよいか? …………………………………………………………98 — xxii — クリニカルクエスチョン一覧 CQ 4-18 バソプレシン V2 受容体拮抗薬は,腹水,水排泄障害の改善に有効か? ……………101 CQ 4-19 難治性腹水に対する大量腹水穿刺排液は有用か? ……………………………………105 CQ 4-20 腹水穿刺排液の際の血漿増量薬としてアルブミン静注と合成コロイド静注のどちらが 勝るか? …………………………………………………………………………………107 CQ 4-21 難治性腹水の治療に腹腔・静脈シャント(P-V シャント)は有効か? ………………109 CQ 4-22 難治性腹水に対して腹水濾過濃縮再静注法(CART)は有効な治療法か? …………111 CQ 4-23 経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)は難治性腹水に有効な治療法か? ……113 CQ 4-24 難治性腹水に対する経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)により患者の QOL や 予後は改善するか? ……………………………………………………………………116 CQ 4-25 難治性腹水例の治療後の生存率や QOL は経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS) と P-V シャントのどちらが勝るか? …………………………………………………118 CQ 4-26 肝硬変患者の経過中に特発性細菌性腹膜炎(SBP)が合併すると予後不良となるか? ……………………………………………………………………………………………119 CQ 4-27 上部消化管出血例,重症肝硬変腹水例への抗菌薬の予防投与は特発性細菌性腹膜炎 (SBP)の防止や予後改善に有用か? …………………………………………………121 CQ 4-28 特発性細菌性腹膜炎(SBP)の既往のある患者への抗菌薬予防投与は再発予防や予後 改善に有用か? …………………………………………………………………………123 ❸肝腎症候群 CQ 4-29 超音波ドプラによる腎血管抵抗指数の測定は肝腎症候群の診断に有用か? ………124 CQ 4-30 肝腎症候群に対してテルリプレシン,アルブミン併用投与は有効な治療法であるか? CQ 4-31 肝腎症候群に対して交感神経作動薬やオクトレオチドは有効な治療法であるか? ……………………………………………………………………………………………126 ……………………………………………………………………………………………129 CQ 4-32 肝腎症候群に対して P-V シャントは有効な治療法であるか? ………………………131 CQ 4-33 肝腎症候群に対して経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)は有効な治療法である か? ………………………………………………………………………………………132 CQ 4-34 肝移植は肝腎症候群の予後を改善するか? ……………………………………………134 ❹肝性脳症 CQ 4-35 便通は肝性脳症の発症に相関があるか? ………………………………………………136 CQ 4-36 肝性脳症の患者が低蛋白食を摂取することで長期予後は改善するか? ……………138 CQ 4-37 肝性脳症に対して合成二糖類は有効か? ………………………………………………139 CQ 4-38 腸管非吸収性抗菌薬投与は肝性脳症を改善するか? …………………………………141 CQ 4-39 肝性脳症の意識障害に対して分岐鎖アミノ酸(BCAA)輸液製剤の投与は有効か? ……………………………………………………………………………………………143 CQ 4-40 バルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術(B-RTO)などのシャント閉塞術は肝性脳症 に有効か? ………………………………………………………………………………145 CQ 4-41 肝性脳症に対して分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤の経口投与は有効か? ……………147 CQ 4-42 肝性脳症に対して亜鉛製剤は有効か? …………………………………………………149 CQ 4-43 肝性脳症に対してカルニチンは有効か? ………………………………………………150 ❺門脈血栓症 CQ 4-44 門脈血栓症には抗凝固薬が有用か? ……………………………………………………152 — xxiii — ❻その他 CQ 4-45 脾摘,部分的脾塞栓術(PSE)は肝硬変の病態(腹水・低アルブミン血症・脳症・静脈瘤) CQ 4-46 血小板減少を伴う C 型肝硬変に対し,脾摘または部分的脾塞栓術(PSE)後のインター 改善に有効か? …………………………………………………………………………154 フェロン(IFN)療法は有効か? ………………………………………………………156 第 5 章 予後予測 CQ 5-1 肝硬変の予後予測に有用な項目は何か? ………………………………………………160 CQ 5-2 CTP(Child-Turcotte-Pugh)分類は肝硬変の予後予測に有用か? ……………………164 CQ 5-3 MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score は肝硬変の予後予測に有用か? ……………………………………………………………………………………………167 CQ 5-4 肥満は肝硬変の予後に影響を及ぼすか? ………………………………………………171 第 6 章 肝移植 CQ 6-1 肝移植は非代償性肝硬変の生存率を高めるか? ………………………………………174 CQ 6-2 MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score は,肝移植後の予後予測に有用か? ……………………………………………………………………………………………176 CQ 6-3 CTP(Child-Turcotte-Pugh)分類は肝移植後の予後予測に有用か? …………………178 CQ 6-4 抗ウイルス療法は肝移植後の治療に有用か? …………………………………………180 CQ 6-5 非ウイルス性肝硬変に対する肝移植はウイルス性肝硬変に比して成績がよいか? ……………………………………………………………………………………………183 CQ 6-6 自己免疫性肝炎(AIH)による肝硬変に対する肝移植後の再発はどれほどか? ……186 CQ 6-7 原発性胆汁性肝硬変(PBC)による肝硬変に対する肝移植後の再発はどれほどか? ……………………………………………………………………………………………188 CQ 6-8 原発性硬化性胆管炎(PSC)による肝硬変に対する肝移植後の再発はどれほどか? ……………………………………………………………………………………………190 索引 ………………………………………………………………………………………………………193 — xxiv — 略語一覧 ACE AIH AKI ALT AMA APC ARB AST B-RTO BCAA BMI CA CART CI CS CTP DAA DIC EIS EO EVL GFR GI GVHD HBIG HBV HCV HOMA-IR HR HRS HVPG IFN IGF IGT INR IVR LES LR LS LS MELD MRE NAFLD NASH OPSI OR P-Ⅲ-P PBC PEG-IFN PHG PICD PN PPI PSC PSE angiotensin-converting enzyme autoimmune hepatitis acute kidney injury alanine aminotransferase antimitochondrial antibody argon plasma coagulation angiotensin Ⅱ receptor blocker aspartate aminotransferase balloon-occluded transfemoral obliteration branched chain amino acid body mass index cyanoacrylate cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy confidence interval corticosteroid Child-Turcotte-Pugh direct acting antivirals disseminated intravascular coagulation endoscopic injection sclerotherapy ethanolamine oleate endoscopic variceal ligation glomerular filtration rate glycemic index graft-versus-host disease hepatitis B immune globulin hepatitis B virus hepatitis C virus homeostasis model assessment of insulin resistance hazard ratio hepatorenal syndrome hepatic venous pressure gradient interferon insulin-like growth factor impaired glucose tolerance international normalized ratio interventional radiology late evening snack likelihood ratio liver stiffness laparoscopic splenectomy Model for End-Stage Liver Disease magnetic resonance elastography non-alcoholic fatty liver disease non-alcoholic steatohepatitis overwhelming post-splenectomy infection odds ratio type Ⅲ procollagen-N-peptide primary biliary cirrhosis peginterferon portal hypertensive gastropathy paracentesis-induced circulatory dysfunction parenteral nutrition proton pump inhibitor primary sclerosing cholangitis partial splenic embolization — xxv — アンジオテンシン変換酵素 自己免疫性肝炎 急性腎障害 アラニンアミノトランスフェラーゼ 抗ミトコンドリア抗体 アルゴンプラズマ凝固 アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬 アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ バルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術 分岐鎖アミノ酸 体格指数 シアノアクリレート 腹水濾過濃縮再静注法 信頼区間 副腎皮質ステロイド チャイルド・ターコット・ピュー 経口直接作用型抗ウイルス薬 播種性血管内凝固症候群 内視鏡的静脈瘤硬化療法 エタノールアミンオレアート 内視鏡的静脈瘤結紮術 糸球体濾過量 血糖指数 移植片対宿主病 HB 免疫グロブリン B 型肝炎ウイルス C 型肝炎ウイルス インスリン抵抗性指数 ハザード比 肝腎症候群 肝静脈圧較差 インターフェロン インスリン様増殖因子 耐糖能異常 国際標準化比 インターベンショナル・ラジオロジー 就寝前エネルギー投与 尤度比 肝硬度 腹腔鏡下脾臓摘出術 非アルコール性脂肪性肝疾患 非アルコール性脂肪肝炎 脾摘後重症感染症 オッズ比 プロコラーゲンⅢペプチド 原発性胆汁性肝硬変 ペグインターフェロン 門脈圧亢進症性胃症 腹水穿刺誘発性循環不全 静脈栄養 プロトンポンプ阻害薬 原発性硬化性胆管炎 部分的脾塞栓術 QOL RC sign RI RR SAAG SBP SGA SNMC SRR SVR TE TG TIPS UDCA quality of life red color sign resistive index risk ratio serum-ascites albumin gradient spontaneous bacterial peritonitis Subjective Global Assessment stronger neo-minophagen C summarized relative risk sustained virologic (al)response transient elastography triglyceride transjugular intrahepatic portosystemic shunt ursodeoxycholic acid — xxvi — 生活の質 発赤所見 抵抗指数 リスク比 血清腹水アルブミン較差 特発性細菌性腹膜炎 強力ネオミノファーゲンシー トリグリセリド 経頸静脈肝内門脈大循環シャント術 ウルソデオキシコール酸 1.概念(病因,病態) 1.概念(病因,病態) Clinical Question 1-1 肝硬変の原因は何か? CQ 1-1 肝硬変の原因は何か? ステートメント ● 肝硬変は長期にわたる肝組織の傷害に基づく変化で,慢性肝炎あるいは慢性肝障害に起因す る. 解説 慢性肝障害の原因としては,ウイルス持続感染,アルコール過剰摂取 1〜4) ,肥満,インスリン 抵抗性,自己免疫[原発性胆汁性肝硬変(PBC) ,原発性硬化性胆管炎(PSC) ,自己免疫性肝炎 (AIH)5)] ,遺伝性疾患(α 1-アンチトリプシン欠乏症,Wilson 病,ヘモクロマトーシス,糖原病, ムコ多糖症,チロシン血症など)6) ,薬物性(オキシフェニサチン,α -メチルドパ,メトトレキ サート,アミオダロン,ニトロフラントイン,ビタミン A 過剰) ,中毒性(四塩化炭素,DEN) , 感染症(梅毒,住血吸虫症) ,サルコイドーシス,移植片対宿主病(GVHD) ,Budd-Chiari 症候 群,慢性うっ血性心不全,二次性胆道閉塞,などがあげられる 7〜12) . アルコール過剰摂取による肝硬変の死亡に関して,1980〜2008 年の間の 17 論文を対象とした メタアナリシスがある 13) .近年では,BMI 14) ,TG 値 15)の上昇と肝硬変イベントとの相関など, メタボリックシンドロームに関する問題と肝硬変発生の関連に関する報告が増えている 16) .PBC においては,喫煙と線維化の量的関係を調べた 223 例のコホート研究がある 17) .α 1-アンチトリ プシン欠乏症に関しては,1963〜1982 年の間の 38,250 剖検例での検討の報告があり,肝硬変発 生に対して OR 7.8(2.4〜24.7)と報告されている 18) . 文献 1) Fleming KM, Aithal GP, Card TR, et al. All-cause mortality in people with cirrhosis compared with the general population: a population-based cohort study. Liver Int 2012; 32: 79-84(コホート) 2) Singh GK, Hoyert DL. Social epidemiology of chronic liver disease and cirrhosis mortality in the United States, 1935-1997: trends and differentials by ethnicity, socioeconomic status, and alcohol consumption. Hum Biol 2000; 72: 801-820(コホート) 3) Forrest EH, Jalan R, Hayes PC. Review article: renal circulatory changes in cirrhosis: pathogenesis and therapeutic prospects. Aliment Pharmacol Ther 1996; 10: 219-231 4) Thaler H. Alcoholic cirrhosis: what do we really know about its etiology? Tokai J Exp Clin Med 1990; 15: 275-284 5) Castera L. Transient elastography and other noninvasive tests to assess hepatic fibrosis in patients with —2— viral hepatitis. J Viral Hepat 2009; 16: 300-314 6) Dieter HH, Schimmelpfennig W, Meyer E, et al. Early childhood cirrhoses (ECC) in Germany between 1982 and 1994 with special consideration of copper etiology. Eur J Med Res 1999; 4: 233-242(コホート) 7) Dam Fialla A, Schaffalitzky de Muckadell OB, Touborg Lassen A. Incidence, etiology and mortality of cirrhosis: a population-based cohort study. Scand J Gastroenterol 2012; 47: 702-709(コホート) 8) Michitaka K, Nishiguchi S, Aoyagi Y, et al; Japan Etiology of Liver Cirrhosis Study G. Etiology of liver cirrhosis in Japan: a nationwide survey. J Gastroenterol 2010; 45: 86-94(ケースシリーズ) 9) Lefton HB, Rosa A, Cohen M. Diagnosis and epidemiology of cirrhosis. Med Clin North Am 2009; 93: 787799, vii 10) Schuppan D, Afdhal NH. Liver cirrhosis. Lancet 2008; 371 (9615): 838-851 11) McAvoy NC, Hayes PC. The cirrhosis epidemic in the UK: evaluating the causes in a European context. Expert Rev Gastroenterol Hepatol 2007; 1: 41-45(コホート) 12) Mendez-Sanchez N, Aguilar-Ramirez JR, Reyes A, et al. Etiology of liver cirrhosis in Mexico. Ann Hepatol 2004; 3: 30-33(ケースシリーズ) 13) Rehm J, Taylor B, Mohapatra S, et al. Alcohol as a risk factor for liver cirrhosis: a systematic review and meta-analysis. Drug Alcohol Rev 2010; 29: 437-445(メタ) 14) Liu B, Balkwill A, Reeves G, et al; Million Women Study C. Body mass index and risk of liver cirrhosis in middle aged UK women: prospective study. BMJ 2010; 340: c912(コホート) 15) Schult A, Eriksson H, Wallerstedt S, et al. Overweight and hypertriglyceridemia are risk factors for liver cirrhosis in middle-aged Swedish men. Scand J Gastroenterol 2011; 46: 738-744(コホート) 16) Wong GL, Wong VW, Choi PC, et al. Metabolic syndrome increases the risk of liver cirrhosis in chronic hepatitis B. Gut 2009; 58: 111-117(コホート) 17) Corpechot C, Gaouar F, Chretien Y, et al. Smoking as an independent risk factor of liver fibrosis in primary biliary cirrhosis. J Hepatol 2012; 56: 218-224(コホート) 18) Eriksson S, Carlson J, Velez R. Risk of cirrhosis and primary liver cancer in alpha 1-antitrypsin deficiency. N Engl J Med 1986; 314: 736-739(コホート) —3— 1.概念(病因,病態) Clinical Question 1-2 肝硬変の基本的な病態はどのようなものか? CQ 1-2 肝硬変の基本的な病態はどのようなものか? ステートメント ● 肝硬変では,肝実質細胞の減少,線維化と構造改築による血流障害,門脈–大循環シャント形 成,などにより,門脈圧亢進,腹水,肝性脳症,肺障害,心障害,腎障害,血清ナトリウム低 下などを引き起こす.さらに肝細胞癌発生の危険性が高い. 解説 肝硬変では,門脈圧亢進により側副血行路が生じる 1) .食道,胃や直腸に生じた静脈瘤は出血 の危険性があり,出血は致死的な結果をもたらすことがある 2) .門脈圧亢進は,脾腫の原因とな り,そのため汎血球減少症を引き起こす 3) .また,実質細胞の低下によると考えられるが,ホル モンなどの代謝異常が生ずる 4) . 門脈圧亢進と血清アルブミンの低下などにより腹水が生じ 5〜7) ,さらにレニン・アンジオテン シン系をはじめとするホルモンアンバランスが生じて血清ナトリウム低下など,体液・電解質 異常を引き起こす 8〜14) . 腸内細菌により産生されるアンモニアなどの毒性物質は門脈から肝臓に流入するが,門脈–大 循環シャントの形成に伴い,肝で代謝されない毒性物質が血液脳関門を通過して大脳機能の障 害を引き起こし,肝性脳症をきたす 15〜17) . また,末期肝硬変では,NO の産生が亢進する一方で多くの血管収縮因子が増強し,腎皮質 血管の攣縮により腎内血行動態の不安定状態と腎血流分布異常が生じる 18, 19) .この可逆性・機能 性の腎障害は肝腎症候群と呼ばれる 20) .また,NO 産生亢進に関連して肺血管床の血管拡張・血 管新生が起こり,肺障害(換気血流不均衡)を生ずると考えられ,肝肺症候群と呼ばれる 21, 22) .さ らに末期肝硬変では,心筋障害をきたすことがある 23, 24) .その発生機序の詳細は不明であるが, 交感神経系の亢進などにより hyperdynamic な循環系となり,心臓への負荷が大きくなること が考えられている 25) . さらに,肝硬変では肝細胞癌の発生の危険性が高く,最も大きな死亡原因となっている.肝 硬変と発癌を結ぶ直接的な病態機序は確定されていない 26〜28) . 文献 1) Sudhamshu KC, Matsutani S, Maruyama H, et al. Doppler study of hepatic vein in cirrhotic patients: cor- —4— relation with liver dysfunction and hepatic hemodynamics. World J Gastroenterol 2006; 12: 5853-5858 (ケースシリーズ) 2) Sharma BC, Sarin SK. Hepatic venous pressure gradient in cirrhosis: role in variceal bleeding, non-bleeding complications and outcome. Asian J Surg 2006; 29: 113-119(ケースシリーズ) 3) 星野 博,多羅尾和郎,伊藤義彦,ほか.代償性肝硬変症の成因による肝臓と脾臓の容積に関する研究― CTscan による測定結果.日本消化器病学会雑誌 1988; 85: 2577-2582(ケースシリーズ) 4) Gluud C. Testosterone and alcoholic cirrhosis: epidemiologic, pathophysiologic and therapeutic studies in men. Dan Med Bull 1988; 35: 564-575 5) Ginès P, Fernandez-Esparrach G, Arroyo V. Ascites and renal functional abnormalities in cirrhosis: pathogenesis and treatment. Baillieres Clin Gastroenterol 1997; 11: 365-385 6) Gerbes AL. Pathophysiology of ascites formation in cirrhosis of the liver. Hepatogastroenterology 1991; 38: 360-364 7) Kashani A, Landaverde C, Medici V, et al. Fluid retention in cirrhosis: pathophysiology and management. QJM 2008; 101: 71-85 8) Salerno F, Guevara M, Bernardi M, et al. Refractory ascites: pathogenesis, definition and therapy of a severe complication in patients with cirrhosis. Liver Int 2010; 30: 937-947 9) Castello L, Pirisi M, Sainaghi PP, et al. Hyponatremia in liver cirrhosis: pathophysiological principles of management. Dig Liver Dis 2005; 37: 73-81 10) Cardenas A, Arroyo V. Mechanisms of water and sodium retention in cirrhosis and the pathogenesis of ascites. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab 2003; 17: 607-622 11) Palmer BF. Pathogenesis of ascites and renal salt retention in cirrhosis. J Investig Med 1999; 47: 183-202 12) Levy M. Pathogenesis of sodium retention in early cirrhosis of the liver: evidence for vascular overfilling. Semin Liver Dis 1994; 14: 4-13 13) Rector WG Jr, Hossack KF. Pathogenesis of sodium retention complicating cirrhosis: is there room for diminished “effective” arterial blood volume? Gastroenterology 1988; 95: 1658-1663(ケースシリーズ) 14) Epstein M. Pathogenesis of renal sodium handling in cirrhosis: a reappraisal. Am J Nephrol 1983; 3: 297309 15) Moriwaki H, Shiraki M, Iwasa J, et al. Hepatic encephalopathy as a complication of liver cirrhosis: an Asian perspective. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: 858-863 16) Haussinger D, Schliess F. Pathogenetic mechanisms of hepatic encephalopathy. Gut 2008; 57: 1156-1165 17) Gerber T, Schomerus H. Hepatic encephalopathy in liver cirrhosis: pathogenesis, diagnosis and management. Drugs 2000; 60: 1353-1370 18) Newell GC. Cirrhotic glomerulonephritis: incidence, morphology, clinical features, and pathogenesis. Am J Kidney Dis 1987; 9: 183-190 19) Arroyo V, Ginés P, Rimola A, et al. Renal function abnormalities, prostaglandins, and effects of nonsteroidal anti-inflammatory drugs in cirrhosis with ascites: an overview with emphasis on pathogenesis. Am J Med 1986; 81: 104-122 20) Ginès P, Sort P. Pathophysiology of renal dysfunction in cirrhosis. Digestion 1998; 59 (Suppl 2): 11-15 21) Sussman NL, Kochar R, Fallon MB. Pulmonary complications in cirrhosis. Curr Opin Organ Transplant 2011; 16: 281-288 22) Moller S, Krag A, Henriksen JH, et al. Pathophysiological aspects of pulmonary complications of cirrhosis. Scand J Gastroenterol 2007; 42: 419-427 23) Al-Hamoudi WK. Cardiovascular changes in cirrhosis: pathogenesis and clinical implications. Saudi J Gastroenterol 2010; 16: 145-153 24) Moller S, Henriksen JH. Cirrhotic cardiomyopathy: a pathophysiological review of circulatory dysfunction in liver disease. Heart 2002; 87: 9-15 25) Moller S, Henriksen JH. Cardiovascular dysfunction in cirrhosis: pathophysiological evidence of a cirrhotic cardiomyopathy. Scand J Gastroenterol 2001; 36: 785-794 26) 辻 裕二,古賀俊逸,井林 博.肝硬変症に関する臨床的研究(第 1 報)―成因別の臨床解析.日本消化器 病学会雑誌 1983; 80: 2564-2573(ケースシリーズ) 27) 弓野明彦,山下耕一,清水茂文,ほか.肝硬変症の臨床的検討―成因別実態と予後を中心に.日本農村医 学会雑誌 1986; 35: 755-764(ケースシリーズ) 28) 井上 潔,花桐武志,田中達郎,ほか.剖検肝硬変の成因および発癌率について.日本災害医学会会誌 1989; 37: 301-304(ケースシリーズ) —5— 2.診 断 Clinical Question 2-1 2.診断 ― ❶身体所見・一般血液検査 身体所見・血液生化学的検査所見から肝硬変の診断は可能か? CQ 2-1 身体所見・血液生化学的検査所見から肝硬変の診断は可能か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 肝硬変の存在を強く疑わせる身体所見はあるが,身体所見のみで肝 硬変は診断できない.血液生化学的検査を組み合わせたスコアリン グシステムで肝硬変の診断に有用とされるものはあるが,確立され たものはない.基礎疾患によりスコアリングシステムやカットオフ 値を使い分ける必要がある. なし C 解説 クモ状血管腫,女性化乳房,黄疸,下腿浮腫,腹水,腹壁静脈の怒張,肝左葉の腫大,肝右 葉の萎縮,脾腫などが肝硬変に特徴的な身体所見として知られているが,これらの所見は初期 の肝硬変では認められないことが多い.システマティックレビュー 1)では,陽性尤度比(LR) が 4 以上の身体所見は,腹壁静脈の怒張(LR 11) ,肝性脳症(LR 10) ,腹水(LR 7.2) ,クモ状血 管腫(LR 4.3)であり,信頼区間の狭さから腹水とクモ状血管腫が最も信頼できるが,肝硬変の否 定に有用な身体所見はないと報告されている. 肝線維化の進展度を予測する目的で,複数の血液生化学的検査所見を組み合わせた様々なス コアリングシステムが作成されている.肝硬変 F4 の鑑別について検討されている代表的なスコ アリングシステムを表 1,公表されている計算式を表 2,AUROC の比較を表 3 に示した. FibroTest(www.biopredictive.com),FibroMeter(www.fibrometer.com)は,ウェブ上で検査 値や患者の年齢,性別などを入力することで肝硬変である確率が算出される有料のシステムで ある. C 型肝硬変の診断については,HepaScore 2) ,FibroTest,FibroMeter,Aspartate Aminotransferase to Platelet Ratio Index(APRI)3) の AUROC を比較した Boursier らの報告によると, HepaScore は APRI に比べ,FibroMeter は APRI,FibroTest に比べ,有意に高値であった 4) . また,FibroTest のもとになった Imbert-Bismut らの計算式 5)と HepaScore の AUROC に差は なく 6) ,Forns Index 7) ,FIB-4 および APRI も同等の AUROC であった 9) .Zarski らの報告で 8) は,FibroMeter,FibroTest,HepaScore,APRI の AUROC に差はなく,FIB-4 のみ有意に低値 であったが大きな差ではなかった 10) .2013 年のシステマティックレビューにおいて AUROC の 平均値が 0.80 以上のものは,FibroMeter(0.91),ヒアルロン酸値(0.90),血小板数(0.89), HepaScore( 0.89), Enhanced Liver Fibrosis( ELF)11), simplified ELF Score ( 0.87), Forns Index( 0.87), Age-Platelet Index —8— ( 0.86), FibroIndex 13) ( 0.88), FIB-4 12) ( 0.86), FibroTest 14) ①身体所見・一般血液検査 表1 肝硬変の診断のためのスコアリングシステム スコアリングシステム 報告者 パラメータ FibroTest 年齢,性別,α2-マクログロブリン,ハプトグロビン, ApoA1,γ-GTP,Tbil,ALT FibroMeter 年齢,血小板数,PT index,AST, α2- マクログロブリン, ヒアルロン酸,尿素 HepaScore Adams APRI Wai Forns Index Forns FIB-4 Vallet-Pichard Age-Platelet Index Poynard ELF Score Rosenberg 年齢,性別,Tbil,γ-GTP,ヒアルロン酸,α2- マクログ ロブリン 2) AST,血小板数 3) 年齢,血小板数,γ-GTP,コレステロール 7) simplified ELF Score Parkes 13) 12) 11) 8) 年齢,血小板数,AST,ALT 年齢,血小板数 年齢,ヒアルロン酸,P3P,TIMP-1 ヒアルロン酸,P3P,TIMP-1 FibroIndex Koda 14) 血小板数,AST,γ- グロブリン GUCI Islam 15) 血小板数,AST,PT-INR Lok Index Lok C 型肝硬変の判別式 Ikeda 16) 23) 表2 血小板数,AST,ALT,PT-INR 血小板数,γ- グロブリン,ヒアルロン酸,性別 スコアリングシステムの計算式 スコアリングシステム HepaScore APRI Forns Index FIB-4 計算式 y = exp[−4.185818 −(0.0249 × age)+(0.7464 × sex)+(1.0039 ×α2-macroglobulin g/L)+(0.0302 × hyaluronic acid μg/L)+(0.0691 × bilirubin μmol/L)−0.0012 × GGT IU/L)] male sex:1,female sex:0 HepaScore = y/(1 + y) [ (AST/upper limit normal AST IU/L)/platelet 109/L)]×100 7.811 − 3.131 × In platelet 109/L + 0.781 × In GGT IU/L + 3.647 × In age − 0.014 × cholesterol mg/dL (age × AST IU/L)/(platelet 109/L)×(ALT IU/L) Age-Platelet Index age:< 30 = 0,30〜39 = 1,40〜49 = 2,50〜59 = 3,60〜69 = 4, > 70 = 5 platelet 109/L:≧ 22.5 = 0,20.0 〜22.4 = 1,17.5 〜 19.9 = 2, 15.0〜17.4 = 3,12.5 〜 14.9 = 4,< 12.5 = 5 FibroIndex 1.738 − 0.064 × platelet 104/mm3 + 0.005 × AST IU/L + 0.463 ×γ -globulin g/dL GUCI AST IU/L/PT-INR × 100/platelet 109/L Lok Index log odds =− 5.56 − 0.0089 × platelet 103/mm3 + 1.26 × AST/ALT + 5.27 × PT-INR Lok index = exp(log odds)/(1 + exp(log odds) C 型肝硬変の判別式 0.124 ×γ-globulin%+ 0.001 × hyaluronic acid μg/L-0.075 × platelet 104/mm3 − 0.413 × gender − 2.005 male:1,female:2 (0.86) ,APRI(0.84) ,Göteborg University Cirrhosis Index(GUCI)15) (0.82) ,Lok Index 16) (0.80) であった(Ann Intern Med 2013; 158: 807-820 a) [検索期間外文献] ) . C 型に比べ B 型肝硬変の診断能についての報告は少ない 17), (Am J Gastroenterol 2014; 109: 796-809 b)[検索期間外文献]).Leroy らは,B 型肝硬変と C 型肝硬変における HepaScore, FibroTest,FibroMeter の診断能を比較し,AUROC は B 型と C 型で有意差はなかったが,C 型 に比べ B 型の至適カットオフ値は低いことを報告した(J Hepatol 2014; 61: 28-34 c) [検索期間外文 献] ) . —9— 2.診断 表3 etiology HCV HBV alcohol 病因別の肝硬変診断におけるスコアリングシステムの比較 AUROC 症例数 文献 (人)/ 件 FibroMeter FibroTest HepaScore APRI 1,056/4 4 467/1 6 0.907 0.882 0.896 0.89 0.9 0.89 150/1 9 436/1 10 0.89 0.86 不明 /6 11 0.91 0.87 不明 /6 11 255/1 c 0.88 0.9 0.87 0.88 0.84 255/1 c 0.87 146/1 17 0.836 218/1 22 0.94 0.94 FIB-4 0.879 0.874 0.841 0.839 0.92 Forns Index 0.86 0.83 0.86 0.78 0.79 0.888 0.92 0.67 0.38 0.8 FIB-4 は当初 HIV/HCV の重複感染例において肝線維化のスコアリングシステムとして提唱 されたが 18) ,HIV/HCV 感染例での比較試験において,APRI との間に AUROC の差はみられな かった 19) .一方,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の Stage 3 以上の線維化進展例の鑑別 においては,FIB-4 の AUROC が最も高いとの国内の報告があるが肝硬変については記されて いない 20) .NAFLD における肝硬変の診断能については,NAFLD fibrosis score と FibroMeter で差はなかったが,APRI の AUROC は有意に低かった 21) . アルコール性肝硬変では,HepaScore,FibroTest,FibroMeter の AUROC に差はなかったが, FibroTest は Forns Index,APRI,FIB-4 より高値であった 22) . 基礎疾患別の症例数の多い比較研究が少なく,また日本人では至適カットオフ値が変わる可 能性があり,日本人を対象とした臨床試験が必要とされる.なお,C 型慢性肝疾患の日本人 205 例をもとに作成された C 型肝硬変の判別式 23) (表 2)は,結果が正であれば肝硬変,負は慢性肝 炎と判断するもので,日本で用いられている. 文献 1) Udell JA, Wang CS, Tinmouth J, et al. Does this patient with liver disease have cirrhosis? JAMA 2012; 307: 832-842(メタ) 2) Adams LA, Bulsara M, Rossi E, et al. Hepascore: an accurate validated predictor of liver fibrosis in chronic hepatitis C infection. Clin Chem 2005; 51: 1867-1873(横断) 3) Wai CT, Greenson JK, Fontana RJ, et al. A simple noninvasive index can predict both significant fibrosis and cirrhosis in patients with chronic hepatitis C. Hepatology 2003; 38: 518-526(横断) 4) Boursier J, Bacq Y, Halfon P, et al. Improved diagnostic accuracy of blood tests for severe fibrosis and cirrhosis in chronic hepatitis C. Eur J Gastroenterol Hepatol 2009; 21: 28-38(メタ) 5) Imbert-Bismut F, Ratziu V, Pieroni L, et al. Biochemical markers of liver fibrosis in patients with hepatitis C virus infection: a prospective study. Lancet 2001; 357: 1069-1075(横断) 6) Bourliere M, Penaranda G, Ouzan D, et al. Optimized stepwise combination algorithms of non-invasive liver fibrosis scores including Hepascore in hepatitis C virus patients. Aliment Pharmacol Ther 2008; 28: 458-467(横断) 7) Forns X, Ampurdanes S, Llovet JM, et al. Identification of chronic hepatitis C patients without hepatic fibrosis by a simple predictive model. Hepatology 2002; 36: 986-992(横断) — 10 — ①身体所見・一般血液検査 8) Vallet-Pichard A, Mallet V, Nalpas B, et al. FIB-4: an inexpensive and accurate marker of fibrosis in HCV infection. comparison with liver biopsy and fibrotest. Hepatology 2007; 46: 32-36(横断) 9) Guzelbulut F, Cetinkaya ZA, Sezikli M, et al. AST-platelet ratio index, Forns index and FIB-4 in the prediction of significant fibrosis and cirrhosis in patients with chronic hepatitis C. Turk J Gastroenterol 2011; 22: 279-285(横断) 10) Zarski JP, Sturm N, Guechot J, et al. Comparison of nine blood tests and transient elastography for liver fibrosis in chronic hepatitis C: the ANRS HCEP-23 study. J Hepatol 2012; 56: 55-62(横断) 11) Rosenberg WM, Voelker M, Thiel R, et al. Serum markers detect the presence of liver fibrosis: a cohort study. Gastroenterology 2004; 127: 1704-1713(横断) 12) Parkes J, Guha IN, Roderick P, et al. Enhanced Liver Fibrosis (ELF) test accurately identifies liver fibrosis in patients with chronic hepatitis C. J Viral Hepat 2011; 18: 23-31(横断) 13) Poynard T, Bedossa P. Age and platelet count: a simple index for predicting the presence of histological lesions in patients with antibodies to hepatitis C virus. METAVIR and CLINIVIR Cooperative Study Groups. J Viral Hepat 1997; 4: 199-208(横断) 14) Koda M, Matunaga Y, Kawakami M, et al. FibroIndex, a practical index for predicting significant fibrosis in patients with chronic hepatitis C. Hepatology 2007; 45: 297-306(横断) 15) Islam S, Antonsson L, Westin J, et al. Cirrhosis in hepatitis C virus-infected patients can be excluded using an index of standard biochemical serum markers. Scand J Gastroenterol 2005; 40: 867-872(横断) 16) Lok AS, Ghany MG, Goodman ZD, et al. Predicting cirrhosis in patients with hepatitis C based on standard laboratory tests: results of the HALT-C cohort. Hepatology 2005; 42: 282-292(横断) 17) Zhou K, Gao CF, Zhao YP, et al. Simpler score of routine laboratory tests predicts liver fibrosis in patients with chronic hepatitis B. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: 1569-1577(横断) 18) Sterling RK, Lissen E, Clumeck N, et al. Development of a simple noninvasive index to predict significant fibrosis in patients with HIV/HCV coinfection. Hepatology 2006; 43: 1317-1325(横断) 19) Loko MA, Castera L, Dabis F, et al. Validation and comparison of simple noninvasive indexes for predicting liver fibrosis in HIV-HCV-coinfected patients: ANRS CO3 Aquitaine cohort. Am J Gastroenterol 2008; 103: 1973-1980(横断) 20) Sumida Y, Yoneda M, Hyogo H, et al. Validation of the FIB4 index in a Japanese nonalcoholic fatty liver disease population. BMC Gastroenterol 2012; 12: 2(横断) 21) Cales P, Laine F, Boursier J, et al. Comparison of blood tests for liver fibrosis specific or not to NAFLD. J Hepatol 2009; 50: 165-173(横断) 22) Naveau S, Gaude G, Asnacios A, et al. Diagnostic and prognostic values of noninvasive biomarkers of fibrosis in patients with alcoholic liver disease. Hepatology 2009; 49: 97-105(横断) 23) Ikeda K, Saitoh S, Kobayashi M, et al. Distinction between chronic hepatitis and liver cirrhosis in patients with hepatitis C virus infection: practical discriminant function using common laboratory data. Hepatol Res 2000; 18: 252-266(横断) 【検索期間外文献】 a) Chou R, Wasson N. Blood tests to diagnose fibrosis or cirrhosis in patients with chronic hepatitis C virus infection: a systematic review. Ann Intern Med 2013; 158: 807-820(メタ) b) Salkic NN, Jovanovic P, Hauser G, et al. FibroTest/Fibrosure for significant liver fibrosis and cirrhosis in chronic hepatitis B: a meta-analysis. Am J Gastroenterol 2014; 109: 796-809(メタ) c) Leroy V, Sturm N, Faure P, et al. Prospective evaluation of FibroTest (R), FibroMeter (R), and HepaScore (R) for staging liver fibrosis in chronic hepatitis B: Comparison with hepatitis C. J Hepatol 2014; 61: 28-34 (横断) — 11 — 2.診断 ― ❷画像検査 Clinical Question 2-2 画像診断は肝硬変の診断に有用か? CQ 2-2 画像診断は肝硬変の診断に有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● エラストグラフィは肝硬変の診断に有用である.腹部超音波検査・ CT・MRI は,肝硬変に特徴的な形態的所見がある場合は有用であ るが,初期診断は困難である. なし A 解説 transient elastography(TE)は,肝生検より大きな容積の肝組織の線維化進展度を簡便に評価 することが可能で,日本でも FibroScan が保険適用となっている.肝硬変の診断については, 感度 0.85〜0.89,特異度 0.82〜0.93,AUROC 0.93〜0.95 と高い診断能がメタアナリシスで報告 されている 1〜3), (Liver Int 2013; 33: 1138-1147 a) ,PLoS One 2012; 7: e44930 b) [検索期間外文献] ) . ただし,個々の文献で推奨されている liver stiffness(LS)のカットオフ値は異なっており,基礎 疾患別では,C 型慢性肝疾患 11.8〜26.5 kPa 2, 3) ,B 型慢性肝疾患 7.3〜17.5 kPa 3, b) ,アルコール性 肝障害 12.5〜22.7 3) ,非アルコール性脂肪性肝疾患 10.3〜17.5 3, 4)であり,C 型は B 型に比べ高値 の傾向があった.また,LS 値は組織の壊死・炎症により影響を受けるため,ALT 値が高い場合 は LS のカットオフ値を上げることも提唱されている 5) .また,TE は観察領域に腹水があると測 定できない.さらに,肥満症例では測定不能,あるいは診断能が低下することが知られている が,肥満者用に開発された XL プローブを用いると,肥満者でも測定値のばらつきが減り,測 定不能の割合が 16%から 1%に減少した 6) . C 型慢性肝疾患におけるスコアリングシステムとの比較では,肝硬変診断の AUROC は TE (0.96)が FibroTest(0.82)や APRI(0.80)より有意に高値との報告 7)がある一方,FibroMeter, FibroTest,HepaScore,APRI,ELF Score,FIB-4 の AUROC が 0.84〜0.90 であるのに対して TE は 0.93 で有意差はなく,22%の症例で TE は測定不能であったと報告されている 8) . Acoustic Radiation Force Impulse(ARFI)を用いた Virtual Touch Tissue Quantification(VTTQ) は,B モード画像でリアルタイムに測定部位が観察でき,腹水や高度肥満の症例でも測定可能 な点が TE より優れている.診断能については TE と同等とするメタアナリシス a)や,C 型慢性 肝疾患において TE と同等 9, 10) ,または TE の AUROC が有意に高いとの報告がある(Eur J Radiol 2012; 81: 4112-4118 c) [検索期間外文献] ) . magnetic resonance elastography(MRE)は,超音波を用いたエラストグラフィに比べ体型や 術者の技量の影響を受けず,短時間で広い領域を評価できる点が優れているが,コストと利便 — 12 — ②画像検査 性に問題があり MRI が使えない患者も存在する.メタアナリシスでは,感度 0.99,特異度 0.94, AUROC 0.99 と極めて高い肝硬変診断能を示した 11) . 腹部超音波検査(US) ・CT・MRI を用いた画像所見のうち,肝硬変と慢性肝炎で有意な差が 認められたのは,US では肝表面の凹凸不整と辺縁の鈍化であり,CT と MRI では不均一で粗, 再生結節などを呈する肝実質所見と脾腫,脾静脈拡張,側副血行路などの門脈圧亢進所見,お よび右葉萎縮,内側区萎縮,外側区肥大,胆囊窩拡大など肝の形状変化,CT ではこれらに加え て肝表面の凹凸不整であった 12) .また,F4 に近い F3 の症例(pre-LC)を除いて肝硬変診断能を 比較すると,US が他の画像診断に比べ感度は低く特異度は高かったが,AUROC は US 0.716, CT 0.770,MRI 0.788 と差はなかった 12) .一方,pre-LC を肝硬変と診断したのは US 59.5%,CT . 46.7%,MRI 41.7%であった 12) 血行動態の変化を直接評価して肝硬変を診断する試みが,ドプラ US や造影 US・CT で行わ れているが,さらなる検討が必要である.また,ガドリニウム EOB-DTPA 造影 MRI の肝細胞 相における信号強度が肝予備能を反映することを利用した AUROC 値の高い診断指標が報告さ e) , れている 13)(J Gastroenterol Hepatol 2013; 28: 1032-1039 d) ,Radiology 2013; 269: 460-468 [検索 期間外文献] ) . 文献 1) Friedrich-Rust M, Ong MF, Martens S, et al. Performance of transient elastography for the staging of liver fibrosis: a meta-analysis. Gastroenterology 2008; 134: 960-974(メタ) 2) Shaheen AA, Wan AF, Myers RP. FibroTest and FibroScan for the prediction of hepatitis C-related fibrosis: a systematic review of diagnostic test accuracy. Am J Gastroenterol 2007; 102: 2589-2600(メタ) 3) Tsochatzis EA, Gurusamy KS, Ntaoula S, et al. Elastography for the diagnosis of severity of fibrosis in chronic liver disease: a meta-analysis of diagnostic accuracy. J Hepatol 2011; 54: 650-659(メタ) 4) Wong VW, Vergniol J, Wong GL, et al. Diagnosis of fibrosis and cirrhosis using liver stiffness measurement in nonalcoholic fatty liver disease. Hepatology 2010; 51: 454-462(横断) 5) Kim BK, Han KH, Park JY, et al. A novel liver stiffness measurement-based prediction model for cirrhosis in hepatitis B patients. Liver Int 2010; 30: 1073-1081(横断) 6) Myers RP, Pomier-Layrargues G, Kirsch R, et al. Feasibility and diagnostic performance of the FibroScan XL probe for liver stiffness measurement in overweight and obese patients. Hepatology 2012; 55: 199-208 (横断) 7) Castera L, Le Bail B, Roudot-Thoraval F, et al. Early detection in routine clinical practice of cirrhosis and oesophageal varices in chronic hepatitis C: comparison of transient elastography (FibroScan) with standard laboratory tests and non-invasive scores. J Hepatol 2009; 50: 59-68(横断) 8) Zarski JP, Sturm N, Guechot J, et al. Comparison of nine blood tests and transient elastography for liver fibrosis in chronic hepatitis C: the ANRS HCEP-23 study. J Hepatol 2012; 56: 55-62(横断) 9) Rizzo L, Calvaruso V, Cacopardo B, et al. Comparison of transient elastography and acoustic radiation force impulse for non-invasive staging of liver fibrosis in patients with chronic hepatitis C. Am J Gastroenterol 2011; 106: 2112-2120(横断) 10) Lupsor M, Badea R, Stefanescu H, et al. Performance of a new elastographic method (ARFI technology) compared to unidimensional transient elastography in the noninvasive assessment of chronic hepatitis C: preliminary results. J Gastrointest Liver Dis 2009; 18: 303-310(横断) 11) Wang QB, Zhu H, Liu HL, et al. Performance of magnetic resonance elastography and diffusion-weighted imaging for the staging of hepatic fibrosis: a meta-analysis. Hepatology 2012; 56: 239-247(メタ) 12) Kudo M, Zheng RQ, Kim SR, et al. Diagnostic accuracy of imaging for liver cirrhosis compared to histologically proven liver cirrhosis: a multicenter collaborative study. Intervirology 2008; 51 (Suppl 1): 17-26(横 断) 13) Goshima S, Kanematsu M, Watanabe H, et al. Gd-EOB-DTPA-enhanced MR imaging: prediction of hepat- — 13 — 2.診断 ic fibrosis stages using liver contrast enhancement index and liver-to-spleen volumetric ratio. J Magn Reson Imaging 2012; 36: 1148-1153(横断) 【検索期間外文献】 a) Bota S, Herkner H, Sporea I, et al. Meta-analysis: ARFI elastography versus transient elastography for the evaluation of liver fibrosis. Liver Int 2013; 33: 1138-1147(メタ) b) Chon YE, Choi EH, Song KJ, et al. Performance of transient elastography for the staging of liver fibrosis in patients with chronic hepatitis B: a meta-analysis. PLoS One 2012; 7: e44930(メタ) c) Sporea I, Bota S, Peck-Radosavljevic M, et al. Acoustic Radiation Force Impulse elastography for fibrosis evaluation in patients with chronic hepatitis C: an international multicenter study. Eur J Radiol 2012; 81: 4112-4118(横断) d) Nojiri S, Kusakabe A, Fujiwara K, et al. Noninvasive evaluation of hepatic fibrosis in hepatitis C virusinfected patients using ethoxybenzyl-magnetic resonance imaging. J Gastroenterol Hepatol 2013; 28: 10321039(横断) e) Feier D, Balassy C, Bastati N, et al. Liver fibrosis: histopathologic and biochemical influences on diagnostic efficacy of hepatobiliary contrast-enhanced MR imaging in staging. Radiology 2013; 269: 460-468(横断) — 14 — 2.診断 ― ❸腹腔鏡・肝生検 Clinical Question 2-3 肝生検組織所見(腹腔鏡および針生検)は肝硬変の診断に有用 か? CQ 2-3 肝生検組織所見(腹腔鏡および針生検)は肝硬変の診断に有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 肝生検組織所見は肝硬変診断の gold standard とされてきた有用 な検査であるが,侵襲的な検査であり,サンプリングエラーや評価 者間の組織診断の不一致も存在する. なし B 解説 肝生検は,肝線維化の評価における gold standard とされてきた.しかし,まれではあるが, 重篤な合併症を伴う危険性のある侵襲的な検査である.1996 年以降に施行した肝生検を対象と した報告では,重篤な合併症の頻度は 0.43〜0.78%で,致死率は 0%〜0.13%であった 1, 2), (Radiology 2013; 266: 226-235 a) [検索期間外文献] ) . さらに,肝生検には 2 つの限界がある.サンプリングエラーと評価者間の組織診断の不一致 である.針生検で得られる肝組織の大きさは肝の容積の約 5 万分の 1 なのでサンプリングエラー が起こりうることが予測される.腹腔鏡下で左葉と右葉から生検し組織を比較したところ, 14.5%の症例で一方の肝葉のみが肝硬変と診断され,33.1%で線維化 Stage が両葉間で 1 段階以 上異なっていた 3) .また,腹腔鏡下の肉眼所見により肝硬変と診断した症例の 32%が生検組織 所見では非肝硬変と診断された 4) .ミニポートを用いた腹腔鏡でも肉眼所見で肝硬変と診断され た症例のうち組織学的に肝硬変(Ishak 註)5 群と 6 群)と診断されたのは 64%で,14%が診断に適 さない標本であった 5) .生検組織の長さもサンプリングエラーに関与する.正確な診断に必要な 最小の長さは報告により異なるが,15 mm 以上の長さが望ましいとの報告が多い.C 型慢性肝 炎の組織を画像解析し,25 mm 以上の長さが必要とした報告もあるが,25 mm でも線維化進展 度の診断の感度は 75%であった 6) . 評価者間の組織診断の一致度は κ 係数(0〜1)で表すと,線維化の評価は 0.59 であり,肝炎活 動性(0.43)や肝細胞壊死の程度(0.15)に比較して高かったが 7) ,一致しない場合も存在する.ま た,評価者の職場や経験年数の違いが,評価者間の不一致に寄与しており,生検組織の性状の 関与は比較的低いことが報告されている 7) . 肝硬変の診断は,血液生化学検査を組み合わせたスコアリングシステム,エラストグラフィ を含めた画像診断,腹腔鏡下肉眼所見,肝生検組織所見を,患者の条件や必要性に応じて取捨 選択あるいは総合して行うのが理想的である(フローチャート 1 参照) . :肝線維化の程度を組織学的に 6 段階に区分した分類(J Hepatol 1995; 22: 696-699.) 註) — 15 — 2.診断 文献 1) van der Poorten D, Kwok A, Lam T, et al. Twenty-year audit of percutaneous liver biopsy in a major Australian teaching hospital. Intern Med J 2006; 36: 692-699(ケースコントロール) 2) Cadranel JF, Rufat P, Degos F. Practices of liver biopsy in France: results of a prospective nationwide survey. For the Group of Epidemiology of the French Association for the Study of the Liver (AFEF). Hepatology 2000; 32: 477-481(ケースコントロール) 3) Regev A, Berho M, Jeffers LJ, et al. Sampling error and intraobserver variation in liver biopsy in patients with chronic HCV infection. Am J Gastroenterol 2002; 97: 2614-2618(横断) 4) Poniachik J, Bernstein DE, Reddy KR, et al. The role of laparoscopy in the diagnosis of cirrhosis. Gastrointest Endosc 1996; 43: 568-571(横断) 5) Helmreich-Becker I, Schirmacher P, Denzer U, et al. Minilaparoscopy in the diagnosis of cirrhosis: superiority in patients with Child-Pugh A and macronodular disease. Endoscopy 2003; 35: 55-60(横断) 6) Bedossa P, Dargere D, Paradis V. Sampling variability of liver fibrosis in chronic hepatitis C. Hepatology 2003; 38: 1449-1457(横断) 7) Rousselet MC, Michalak S, Dupre F, et al. Sources of variability in histological scoring of chronic viral hepatitis. Hepatology 2005; 41: 257-264(ケースコントロール) 【検索期間外文献】 a) Howlett DC, Drinkwater KJ, Lawrence D, et al. Findings of the UK national audit evaluating image-guided or image-assisted liver biopsy: Part II. minor and major complications and procedure-related mortality. Radiology 2013; 266: 226-235(ケースコントロール) — 16 — 3.治 療 3.治療 ― ❶栄養療法 Clinical Question 3-1 肝硬変患者の低栄養状態は予後に影響を与えるか? CQ 3-1 肝硬変患者の低栄養状態は予後に影響を与えるか? ステートメント ● 低栄養状態の肝硬変患者の死亡率は高く,栄養状態の改善が必要である. 解説 高度進行肝硬変患者は 50〜90%が低栄養状態にあり,Child B,Child C ではそれぞれ 84%, 95%が低栄養状態と報告されている.また,Child A においても 45%が低栄養状態で,早期の肝 硬変であっても,低栄養であることが示唆されている 1) .低栄養状態では,門脈圧亢進症,腹 水,肝腎症候群などの合併症が多くなり,入院中の死亡率が 2 倍になり,入院期間も長く,コ ストもかかるようになる 2) .また,肝移植の生存率に栄養状態が影響するため 3) ,合併症対策, 予後向上,費用対効果の点からも肝硬変の低栄養状態には速やかな対応が必要である. 肝硬変患者の栄養状態を,Subjective Global Assessment(SGA)4, 5) ,身体計測 4, 6) ,間接熱量測 定 7) ,血液生化学検査で評価し 3, 4, 7), (Hepatol Res 2014;44: 218-228 a) [検索期間外文献] ) ,生存率 を予後指標として解析が行われている.いずれの研究も肝硬変患者の低栄養状態は予後に影響 を与えるとしている.食事が十分摂取できなければ,経口栄養剤,経腸栄養 8) ,静脈栄養など適 切な対策が考慮されるべきである.一方で黄疸を伴う肝硬変では経腸栄養は予後に影響を与え なかったという報告もみられる 9) . ESPEN のガイドラインでは新たに静脈栄養(PN)についての記述が追加され,アルコール性 脂肪性肝炎,肝硬変,急性肝不全の 3 つの病態での推奨が示されている.肝硬変では,食事が できない肝硬変低栄養患者には速やかに PN を開始すること,術後食事摂取や経管栄養が困難 な場合は早期に PN を行うこと,肝性脳症の 3〜4 度では分岐鎖アミノ酸(BCAA)が豊富な輸液 を行うこと,PN 後,血糖のモニタリングを繰り返し行うことが推奨されている 10) . 最近,肝疾患に対する栄養療法のメタアナリシスが報告されている 11) . 主な結果は以下のとおりである.①黄疸のある肝疾患では静脈栄養により黄疸が軽減する, ②外科手術において非経管栄養は術後の合併症を軽減する,③経腸栄養は窒素バランスを改善 する,④経腸栄養は周術期の合併症を減少させる,⑤経口のサプリメントは腹水,感染,脳症 を減少させる. 栄養療法による全生存率向上については明らかなエビデンスはなく今後の課題である(表 1) . — 18 — ①栄養療法 表1 栄養療法と生存率 栄養療法・疾患 研究数 対象者 全研究 28 統計方法 効果量 1,668 RR(M-H,Fixed,95% CI) 0.95[0.75, 1.08] 静脈栄養 9 465 RR(M-H,Fixed,95% CI) 0.53[0.29, 0.98] 経腸栄養 6 275 RR(M-H,Fixed,95% CI) 0.75[0.47, 1.20] サプリメント 肝硬変症 13 928 RR(M-H,Fixed,95% CI) 1.03[0.84, 1.27] 9 349 RR(M-H,Fixed,95% CI) 0.52[0.28, 0.97] RR(M-H,Fixed,95% CI) 0.6[0.08,4.27] 静脈栄養 2 60 経腸栄養 3 120 RR(M-H,Fixed,95% CI) 0.48[0.19, 1.18] サプリメント 4 169 RR(M-H,Fixed,95% CI) 0.56[0.22, 1.39] RR:risk ratio,Fixed:fixed model,CI:confidence interval (文献 9 より引用) 文献 1) Cheung K, Lee SS, Raman M. Prevalence and mechanisms of malnutrition in patients with advanced liver disease, and nutrition management strategies. Clin Gastroenterol Hepatol 2012; 10: 117-125 2) Sam J, Nguyen GC. Protein-calorie malnutrition as a prognostic indicator of mortality among patients hospitalized with cirrhosis and portal hypertension. Liver Int 2009; 29: 1396-1402(ケースコントロール) 3) Gunsar F, Raimondo ML, Jones S, et al. Nutritional status and prognosis in cirrhotic patients. Aliment Pharmacol Ther 2006; 24: 563-572(ケースコントロール) 4) Alvares-da-Silva MR, Reverbel da Silveira T. Comparison between handgrip strength, subjective global assessment, and prognostic nutritional index in assessing malnutrition and predicting clinical outcome in cirrhotic outpatients. Nutrition 2005; 21: 113-117(コホート) 5) Terakura Y, Shiraki M, Nishimura K, et al. Indirect calorimetry and anthropometry to estimate energy metabolism in patients with liver cirrhosis. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo) 2010; 56: 372-379(横断) 6) Alberino F, Gatta A, Amodio P, et al. Nutrition and survival in patients with liver cirrhosis. Nutrition 2001; 17: 445-450(コホート) 7) Tajika M, Kato M, Mohri H, et al. Prognostic value of energy metabolism in patients with viral liver cirrhosis. Nutrition 2002; 18: 229-234(コホート) 8) Plauth M, Cabré E, Riggio O, et al; DGEM (German Society for Nutritional Medicine), Ferenci P, Holm E, Vom Dahl S, et al; ESPEN (European Society for Parenteral and Enteral Nutrition). ESPEN Guidelines on Enteral Nutrition: Liver disease. Clin Nutr 2006; 25: 285-294(ガイドライン) 9) Dupont B, Dao T, Joubert C, et al. Randomised clinical trial: enteral nutrition does not improve the longterm outcome of alcoholic cirrhotic patients with jaundice. Aliment Pharmacol Ther 2012; 35: 1166-1174 (ランダム) 10) Plauth M, Cabré E, Campillo B, et al; ESPEN. ESPEN Guidelines on Parenteral Nutrition: hepatology. Clin Nutr 2009; 28: 436-444(ガイドライン) 11) Koretz RL, Avenell A, Lipman TO. Nutritional support for liver disease. Cochrane Database Syst Rev 2012; (5): CD008344(メタ) 【検索期間外文献】 a) Hanai T, Shiraki M, Nishimura K, et al. Free fatty acid as a marker of energy malnutrition in liver cirrhosis. Hepatol Res 2014; 44: 218-228(横断) — 19 — 3.治療 ― ❶栄養療法 Clinical Question 3-2 肝硬変に対する就寝前エネルギー投与(LES)は予後を改善す るか? CQ 3-2 肝硬変に対する就寝前エネルギー投与(LES)は予後を改善するか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 就寝前エネルギー投与(LES)による肝硬変の予後の改善について は明らかではないが,エネルギー代謝や QOL を改善するので行う よう提案する. 2 (100%) C 解説 就寝前エネルギー投与(LES)に用いられた食品はいずれも 200 kal 相当で,おにぎりなどの軽 食 1, 2) ,通常の経腸栄養剤 3) ,肝不全用経腸栄養剤 4〜6) ,である.投与期間 1 週間でエネルギー代謝 (呼吸商)1〜3) ,血中遊離脂肪酸,尿中 3 メチルヒスチジン 4) ,3 ヵ月で血清アルブミン,窒素バラ ンス 5, 6) ,身体計測,生活の質の改善 5)が報告されている. LES に関する RCT の報告はある 7〜10)が,対象症例の背景が異なり,割り付け方法などを含 め,エビデンスレベルは低い.代謝状態や QOL の改善,イベントフリーの生存率には寄与して いるが,全生存率への効果はいまだ明らかではない 7) .難治性腹水を伴う高度の肝機能低下にお いて静脈栄養と LES が生存率向上に寄与しているとの報告 8)がみられるが,比較的肝機能が良 好な肝硬変への効果はない 9) .一方で,夜間の栄養状態を工夫するのみで,血糖変動の減少を含 めた代謝状態の是正 11)や SF-36 で評価した QOL の改善 10)が報告されている.今後予後の改善 が得られるか,さらに評価する必要がある(フローチャート 2 参照) . 文献 1) Chang WK, Chao YC, Tang HS, et al. Effects of extra-carbohydrate supplementation in the late evening on energy expenditure and substrate oxidation in patients with liver cirrhosis. JPEN J Parenter Enteral Nutr 1997; 21: 96-99(ケースコントロール) 2) Yamanaka-Okumura H, Nakamura T, Takeuchi H, et al. Effect of late evening snack with rice ball on energy metabolism in liver cirrhosis. Eur J Clin Nutr 2006; 60: 1067-1072(ケースコントロール) 3) Miwa Y, Shiraki M, Kato M, et al. Improvement of fuel metabolism by nocturnal energy supplementation in patients with liver cirrhosis. Hepatol Res 2000; 18: 184-189(ケースコントロール) 4) Yamauchi M, Takeda K, Sakamoto K, et al. Effect of oral branched chain amino acid supplementation in the late evening on the nutritional state of patients with liver cirrhosis. Hepatol Res 2001; 21: 199-204 (ケースシリーズ) — 20 — ①栄養療法 5) Nakaya Y, Okita K, Suzuki K, et al; Hepatic Nutritional Therapy (HNT) Study Group. BCAA-enriched snack improves nutritional state of cirrhosis. Nutrition 2007; 23: 113-120(ランダム) 6) Aoyama K, Tsuchiya M, Mori K, et al. Effect of a late evening snack on outpatients with liver cirrhosis. Hepatol Res 2007; 37: 608-614(ケースシリーズ) 7) Takeshita S, Ichikawa T, Nakao K, et al. A snack enriched with oral branched-chain amino acids prevents a fall in albumin in patients with liver cirrhosis undergoing chemoembolization for hepatocellular carcinoma. Nutr Res 2009; 29: 89-93(ランダム) 8) Sorrentino P, Castaldo G, Tarantino L, et al. Preservation of nutritional-status in patients with refractory ascites due to hepatic cirrhosis who are undergoing repeated paracentesis. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 813-822(ランダム) 9) Yamanaka-Okumura H, Nakamura T, Miyake H, et al. Effect of long-term late-evening snack on healthrelated quality of life in cirrhotic patients. Hepatol Res 2010; 40: 470-476(ランダム) 10) Plank LD, Gane EJ, Peng S, et al. Nocturnal nutritional supplementation improves total body protein status of patients with liver cirrhosis: a randomized 12-month trial. Hepatology 2008; 48: 557-566(ランダム) 11) Suzuki K, Kagawa K, Koizumi K, et al. Effects of late evening snack on diurnal plasma glucose profile in patients with chronic viral liver disease. Hepatol Res 2010; 40: 887-893(ケースシリーズ) — 21 — 3.治療 ― ❶栄養療法 Clinical Question 3-3 肝硬変に対する分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤投与は有効か? CQ 3-3 肝硬変に対する分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤投与は有効か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 肝硬変に対する分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤投与は低アルブミン 血症の改善,脳症,QOL の改善に有用であるので行うよう提案す る. 2 (100%) B 解説 予後/QOL に対する効果について臨床試験で使用された製剤は,分岐鎖アミノ酸(BCAA)顆粒 製剤 1, 2) ,肝不全用経腸栄養剤 3, 4)であり,投与期間は 3 ヵ月 3) ,1 年 2) ,2 年 1)であるが,3 年以 上 5)の検討もみられる.BCAA の肝硬変への有効性は,肝機能改善効果,合併症の抑止,発癌 抑止,QOL の改善,生存率向上について検討されている. 肝機能,特に血清アルブミン値に関しては多くの報告があるが,少数例での検討である.血 清アルブミン値 3.5 g/dL 以下の肝硬変を対象とした検討では,BCAA 投与群において血清アル ブミン値は有意に上昇する 6) .しかし,比較的肝機能の良好な血清アルブミン値 3.5〜4.5 g/dL 例を対象とした検討では,血清アルブミン値の上昇効果は確認されていない 7) .周術期の検討で は,BCAA 投与群において術後 2〜4 ヵ月の血清アルブミン値の低下が有意に少なく,総コレス テロールやコリンエステラーゼの低下も抑止していることから,術後 6 ヵ月程度の肝機能低下 を抑止する効果があることが示唆されている 8) .また,移植待機可能な期間が長くなるという報 告もみられる 5) . 合併症の抑止効果については,Child A 肝硬変に対する BCAA 長期投与群(平均投与期間 3.3 年)で食事療法に比し合併症,特に腹水の発症は少ない.しかし,脳症や静脈瘤出血については 有意差がなかった 5) .脳症を有する肝硬変患者での検討では,BCAA 投与は神経筋生理学的機能 を改善するが,脳症の頻度は減少しない 9) .また,BCAA 内服群では術後合併症が少ないという 報告がみられる 8) .最近のメタアナリシスでは,静脈栄養が肝硬変の腹水の改善に有用で,脳症 については,BCAA の発症抑止効果はないが改善効果がみられると報告されている(表 1)10) . 発癌に関する報告では BCAA は比較的肝機能のよい Child A においては発癌を抑止するが, Child B,C では効果はない 11) .根治的なラジオ波焼灼術後の肝細胞癌患者の再発については, BCAA 内服群と非内服群で有意差はない 12) .非代償性肝硬変のイベント(死亡,発癌,食道静脈 瘤出血,肝不全)free survival は,長期の BCAA 補充(2 年)により改善し 1) ,BMI 25 kg/m2 以上 の非代償性肝硬変では,BCAA の発癌抑止効果が報告されている 13) (LOTUS study) .また, — 22 — ①栄養療法 表1 脳症の改善効果とアミノ酸 栄養療法・疾患 研究数 対象者 全研究 6 119 統計方法 効果量 RR(M-H,Fixed,95% CI) 2.10[1.18,3.72] 1.18[0.62,2.07] 標準アミノ酸 2 66 RR(M-H,Fixed,95% CI) BCAA 2 62 RR(M-H,Fixed,95% CI) 7.48[1.87,29.94] 1 43 RR(M-H,Fixed,95% CI) 11.30[1.62,78.95] 肝硬変 -BCAA RR:risk ratio,Fixed:fixed model,CI:confidence interval (文献 10 より引用) BCAA とアンジオテンシン Ⅱ受容体拮抗薬(ARB)を同時に投与すると,肝の線維化を防ぐ効果 があると報告されている 14) . QOL については多くの報告 15〜19)がみられるが,いずれも少数例での検討である.BCAA 投 与群では QOL の改善,特に筋痙攣の改善が得られるとする報告が多い 15〜19) . 生存率については,Fischer 比の低い肝硬変において,BCAA 長期内服群はコントロール群 (食事療法)に比し,死亡原因には差がないが累積生存率が改善していることが報告されている 20) . 平均観察期間が 27 ヵ月と短いこと,症例数が少ないことなどがあり,多数例での検討が必要で ある(フローチャート 2 参照) . 文献 1) Muto Y, Sato S, Watanabe A, et al. Effects of oral branched-chain amino acid granules on event-free survival in patients with liver cirrhosis. Clin Gastroenterol Hepatol 2005; 3: 705-713(ランダム) 2) Marchesini G, Bianchi G, Merli M, et al; Italian BCAA Study Group. Nutritional supplementation with branched-chain amino acids in advanced cirrhosis: a double-blind, randomized trial. Gastroenterology 2003; 124: 1792-1801(ランダム) 3) Nakaya Y, Okita K, Suzuki K, et al; Hepatic Nutritional Therapy (HNT) Study Group. BCAA-enriched snack improves nutritional state of cirrhosis. Nutrition 2007; 23: 113-120(ランダム) 4) Poon RT, Yu WC, Fan ST, et al. Long-term oral branched chain amino acids in patients undergoing chemoembolization for hepatocellular carcinoma: a randomized trial. Aliment Pharmacol Ther 2004; 19: 779-788(ランダム) 5) Kawamura E, Habu D, Morikawa H, et al. A randomized pilot trial of oral branched-chain amino acids in early cirrhosis: validation using prognostic markers for pre-liver transplant status. Liver Transpl 2009; 15: 790-797(ランダム) 6) Togo S, Tanaka K, Morioka D, et al. Usefulness of granular BCAA after hepatectomy for liver cancer complicated with liver cirrhosis. Nutrition 2005; 21: 480-486(ランダム) 7) Kobayashi M, Ikeda K, Arase Y, et al. Inhibitory effect of branched-chain amino acid granules on progression of compensated liver cirrhosis due to hepatitis C virus. J Gastroenterol 2008; 43: 63-70(ランダム) 8) Okabayashi T, Nishimori I, Sugimoto T, et al. Effects of branched-chain amino acids-enriched nutrient support for patients undergoing liver resection for hepatocellular carcinoma. J Gastroenterol Hepatol 2008; 23: 1869-1873(ケースコントロール) 9) Les I, Doval E, Garcia-Martinez R, et al. Effects of branched-chain amino acids supplementation in patients with cirrhosis and a previous episode of hepatic encephalopathy: a randomized study. Am J Gastroenterol 2011; 106: 1081-1088(ランダム) 10) Koretz RL, Avenell A, Lipman TO. Nutritional support for liver disease. Cochrane Database Syst Rev 2012; (5): CD008344(メタ) 11) Hayaishi S, Chung H, Kudo M, et al. Oral branched-chain amino acid granules reduce the incidence of — 23 — 3.治療 hepatocellular carcinoma and improve event-free survival in patients with liver cirrhosis. Dig Dis 2011; 29: 326-332(コホート) 12) 土谷 薫,朝比奈靖浩,泉 並木.肝細胞癌治療後の再発抑制―分岐鎖アミノ酸(BCAA)長期投与による 肝細胞癌再発抑制.日本消化器病学会雑誌 2008; 105: 808-816(ケースシリーズ) 13) Muto Y, Sato S, Watanabe A, et al; Long-Term Survival Study (LOTUS) Group. Overweight and obesity increase the risk for liver cancer in patients with liver cirrhosis and long-term oral supplementation with branched-chain amino acid granules inhibits liver carcinogenesis in heavier patients with liver cirrhosis. Hepatol Res 2006; 35: 204-214(ランダム) 14) Yoshiji H, Noguchi R, Ikenaka Y, et al. Combination of branched-chain amino acid and angiotensin-converting enzyme inhibitor improves liver fibrosis progression in patients with cirrhosis. Mol Med Rep 2012; 5: 539-544(コホート) 15) 相澤良夫,藤瀬清隆,高木一郎,ほか.肝硬変患者に対する分岐鎖アミノ酸(BCAA)顆粒製剤の QOL 改 善効果に関する検討.JJPEN: The Japanese Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2000; 22: 547-552 (ケースシリーズ) 16) 吉岡健太郎,一宮 洋,堤 靖彦,ほか.分岐鎖アミノ酸(BCAA)投与による肝硬変患者の QOL 推移の 検討.JJPEN: The Japanese Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2003; 25: 143-149(ケースコント ロール) 17) 中島弘明,高橋仁公,山崎勇一,ほか.肝硬変患者に対する分岐鎖アミノ酸顆粒臨床試験.JJPEN: The Japanese Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2000; 22: 353-360(ケースコントロール) 18) 林 秀樹,冨田栄一,杉原潤一,ほか.肝硬変症患者における分枝鎖アミノ酸製剤の臨床効果に関する検 討.JJPEN: The Japanese Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 1999; 21: 447-450(ケースコントロー ル) 19) 武藤泰敏,吉田 貴,佐藤俊一,ほか.肝硬変患者に対する分枝鎖アミノ酸顆粒 BCAA-G の臨床第三相 試験.JJPEN: The Japanese Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 1989; 11: 1137-1154(ランダム) 20) Yoshida T, Muto Y, Moriwaki H, et al. Effect of long-term oral supplementation with branched-chain amino acid granules on the prognosis of liver cirrhosis. Gastroenterol Jpn 1989; 24 : 692-698(ランダム) — 24 — 3.治療 ― ❶栄養療法 Clinical Question 3-4 肝硬変の糖代謝異常は病態に影響を与えるか? CQ 3-4 肝硬変の糖代謝異常は病態に影響を与えるか? ステートメント ● 肝硬変の糖代謝異常は,病態に影響を与えるので適切な対策が必要である.しかし介入試験は 少なく,糖代謝の改善が生命予後を改善するか明らかではない. 解説 肝硬変では高インスリン血症と糖代謝異常が同時にみられる.高インスリン血症は β 細胞か らの過剰分泌と肝における分解低下によるが,この根底には末梢組織でのインスリン感受性の 低下すなわちインスリン抵抗性が存在し,腹部内臓および末梢組織でのグルコース利用は低下 している 1) .さらに肝移植を行うとレシピエントの 2/3 で耐糖能異常が改善することが知られて いる 2) .高インスリン血症を是正することにより筋肉のインスリン依存性グルコース摂取とグリ コーゲン合成が正常化することから,慢性的な高インスリン血症が,インスリン抵抗性の原因 になると考えられている 3) .Child B 程度の肝硬変では,肝におけるインスリン除去障害というよ りグルコースに対する β 細胞の感受性亢進が高インスリン血症の原因であると考えられている 4) . また,insulin-like growth factor(IGF)- I の低下は,IGF-I 産生誘導因子である成長ホルモンの増 加を招き,分泌亢進による高グルカゴン血症とともにインスリン抵抗性の発現にかかわる. 肝硬変患者においては,インスリン・クランプ法で測定したインスリン抵抗性と蛋白低栄養 状態(血清アルブミン,トランスサイレチン,レチノール結合蛋白)の間に有意の相関がみられ る 5) .また,インスリン抵抗性は C 型肝炎において,脂肪沈着,線維化の伸展に関与する 6) . インスリン抵抗性と糖代謝異常は,肝臓病の合併症リスクを増やすと考えられる.まず,肝硬 変における糖代謝異常と発癌については,糖尿病合併肝硬変で発癌が高率である 7, 8) .糖尿病と発 癌の関連ではメタアナリシスがあり,発癌率(SRR 2.01,95%CI 1.61〜2.51) ,生存率(SRR 1.56, 95%CI 1.30〜1.87)に関係している.肝炎ウイルス感染者においては,地域性,飲酒,肝硬変, 糖尿病が発癌に関与する独立した因子である.治療後の再発については,肝細胞癌合併肝硬変 に対して外科的治療を行った検討では,糖尿病群で再発が高い 9) .予後,生存率については糖尿 病合併肝硬変のみならず 10) ,耐糖能異常(IGT)においても生存率は低下し,HOMA-IR の高値例 では予後が不良である 11) .空腹時血糖が正常であっても負荷試験でインスリン抵抗性が存在す る場合は,予後が不良である 12) .非代償性アルコール性肝硬変における検討では,糖尿病と年 齢が予後因子と報告されている 13, 14) .また,糖尿病は HBV 関連肝硬変の予後因子ではないが, HCV 関連肝硬変の予後に関連するなど,背景肝疾患によってその影響は異なる可能性があるこ とが報告されている 15) .一方で組織学的に診断された肝硬変 52 例の検討では,予後と糖尿病の — 25 — 3.治療 関連はみられなかったとの報告もあるが,対象症例はアルコール性肝硬変が多く飲酒を継続し ていたためと考えられる 16) . 以上をまとめると,糖尿病は肝硬変の進展因子であり,発癌率と治療後の再発率を上げ,予 後を悪化させる.さらに IGT も同様に予後増悪因子と考えられる.糖尿病を合併する cryptogenic cirrhosis では,特発性細菌性腹膜炎(SBP)の発症が多く,さらに肝性脳症のリスクも増加 する 17) . 治療については今後の課題であるが,食物繊維を豊富に含み,glycemic index(GI)の低い食 事 18, 19)は,肝硬変患者の高血糖,高インスリン血症を改善する.2 型糖尿病を合併した代償性肝 硬変患者において,インスリン,アカルボース併用,アカルボース単独投与は空腹時血糖,食 後血糖をともに良好にコントロールした 20, 21) .また,亜鉛補充が血糖値改善に有効とする報告が ある 22) .糖尿病合併肝硬変では,食事療法,インスリン療法,インスリン分泌促進剤に比し, メトホルミン投与で肝臓病関連死が減少したとの報告がみられる 23) . 文献 1) Imano E, Kanda T, Nakatani Y, et al. Impaired splanchnic and peripheral glucose uptake in liver cirrhosis. J Hepatol 1999; 31: 469-473(ケースシリーズ) 2) Perseghin G, Mazzaferro V, Sereni LP, et al. Contribution of reduced insulin sensitivity and secretion to the pathogenesis of hepatogenous diabetes: effect of liver transplantation. Hepatology 2000; 31: 694-703 (ケースコントロール) 3) Petrides AS, Stanley T, Matthews DE, et al. Insulin resistance in cirrhosis: prolonged reduction of hyperinsulinemia normalizes insulin sensitivity. Hepatology 1998; 28: 141-149(ケースコントロール) 4) Greco AV, Mingrone G, Mari A, et al. Mechanisms of hyperinsulinaemia in Child’s disease grade B liver cirrhosis investigated in free living conditions. Gut 2002; 51: 870-875(ケースコントロール) 5) Wahl DG, Dollet JM, Kreher M, et al. Relationship of insulin resistance to protein-energy malnutrition in patients with alcoholic liver cirrhosis: effect of short-term nutritional support. Alcohol Clin Exp Res 1992; 16: 971-978(ケースシリーズ) 6) Fartoux L, Poujol-Robert A, Guéchot J, et al. Insulin resistance is a cause of steatosis and fibrosis progression in chronic hepatitis C. Gut 2005; 54: 1003-1038(ケースコントロール) 7) Torisu Y, Ikeda K, Kobayashi M, et al. Diabetes mellitus increases the risk of hepatocarcinogenesis in patients with alcoholic cirrhosis: a preliminary report. Hepatol Res 2007; 37: 517-523(コホート) 8) Muto Y, Sato S, Watanabe A, et al; the Long-Term Survival Study (LOTUS) Group. Overweight and obesity increase the risk for liver cancer in patients with liver cirrhosis and long-term oral supplementation with branched-chain amino acid granules inhibits liver carcinogenesis in heavier patients with liver cirrhosis. Hepatol Res 2006; 35: 204-214(ランダム) 9) Ting CT, Chen RC, Chen CC, et al. Diabetes worsens the surgical outcomes in cirrhotic patients with hepatocellular carcinoma. Tohoku J Exp Med 2012; 227: 73-81(コホート) 10) Quintana JO, Garcia-Compean D, Gonzalez JA, et al. The impact of diabetes mellitus in mortality of patients with compensated liver cirrhosis-a prospective study. Ann Hepatol 2011; 10: 56-62(ケースコント ロール) 11) Salmon D, Bani-Sadr F, Loko MA, et al. Insulin resistance is associated with a higher risk of hepatocellular carcinoma in cirrhotic HIV/HCV-co-infected patients: results from ANRS CO13 HEPAVIH.J Hepatol2012; 56: 862-868(横断) 12) Nishida T, Tsuji S, Tsujii M, et al. Oral glucose tolerance test predicts prognosis of patients with liver cirrhosis. Am J Gastroenterol 2011; 82: 160-161(ケースコントロール) 13) Hagel S, Bruns T, Herrmann A, et al. Abnormal glucose tolerance: a predictor of 30-day mortality in patients with decompensated liver cirrhosis. Z Gastroenterol 2011; 49: 331-334(コホート) 14) Nkontchou G, Bastard JP, Ziol M, et al. Insulin resistance, serum leptin, and adiponectin levels and outcomes of viral hepatitis C cirrhosis. J Hepatol 2010; 53: 827-833(コホート) — 26 — ①栄養療法 15) Kwon SY, Kim SS, Kwon OS, et al. Prognostic significance of glycaemic control in patients with HBV and HCV-related cirrhosis and diabetes mellitus. Diabet Med 2005; 22: 1530-1535(ケースコントロール) 16) Holstein A, Hinze S, Thiessen E, et al. Clinical implications of hepatogenous diabetes in liver cirrhosis. J Gastroenterol Hepatol 2002; 17: 677-681(ケースコントロール) 17) Kalaitzakis E, Olsson R, Henfridsson P, et al. Malnutrition and diabetes mellitus are related to hepatic encephalopathy in patients with liver cirrhosis. Liver Int 2007; 27: 1194-1201(ケースシリーズ) 18) Barkoukis H, Fiedler KM, Lerner E. A combined high-fiber, low-glycemic index diet normalizes glucose tolerance and reduces hyperglycemia and hyperinsulinemia in adults with hepatic cirrhosis. J Am Diet Assoc 2002; 102: 1503-1507; discussion: 1507-1508(ケースコントロール) 19) Jenkins DJ, Shapira N, Greenberg G, et al. Low glycemic index foods and reduced glucose, amino acid, and endocrine responses in cirrhosis. Am J Gastroenterol 1989; 84: 732-739(ケースシリーズ) 20) Gentile S, Turco S, Guarino G, et al. Effect of treatment with acarbose and insulin in patients with noninsulin-dependent diabetes mellitus associated with non-alcoholic liver cirrhosis. Diabetes Obes Metab 2001; 3: 33-40(ケースコントロール) 21) Zillikens MC, Swart GR, van den Berg JW, et al. Effects of the glucosidase inhibitor acarbose in patients with liver cirrhosis. Aliment Pharmacol Ther 1989; 3: 453-459(ケースシリーズ) 22) Marchesini G, Bugianesi E, Ronchi M, et al. Zinc supplementation improves glucose disposal in patients with cirrhosis. Metabolism 1998; 47: 792-798(ケースシリーズ) 23) Nkontchou G, Cosson E, Aout M, et al. Impact of metformin on the prognosis of cirrhosis induced by viral hepatitis C in diabetic patients. J Clin Endocrinol Metab 2011; 96: 2601-2608(コホート) — 27 — 3.治療 ― ❶栄養療法 Clinical Question 3-5 生魚,生肉の摂取は非代償性肝硬変では不適切か? CQ 3-5 生魚,生肉の摂取は非代償性肝硬変では不適切か? ステートメント ● 非代償性肝硬変ではビブリオ菌に汚染した食材や皮膚からの菌の侵入で,敗血症になる危険性 がある. 解説 肝硬変ではビブリオ菌感染により重篤な感染症を引き起こすことがある.発症すると致死的 であり注意を要する.これまでケースシリーズでの報告が多い.V. vulnificus 感染症は,原発性 敗血症型,創傷感染型,胃腸型の 3 つに分類される.日本では刺身や寿司などの食習慣があり, 感染経路として生の魚介類摂食による原発性敗血症型が圧倒的に多い.報告は中高年の男性に 多く,肝疾患,特に肝硬変を有している.本症では皮膚症状がみられ,壊死性筋膜炎を発症す る.経口感染症では死亡率が 70%と高い.一方で米国では生ガキの摂食後に発症する.病型別 にみると,原発性敗血症型約 40%で基礎疾患を認め,80%に肝疾患を有している.創傷感染型 は原発性敗血症型を上回り,生の海産物を取り扱う漁業関係者に多い 1, 2) . 比較的多数例からなる敗血症の報告とその特徴を示す(表 1)3〜8), (Painter J Epidemiol Infect 2014; 142: 878-881 a) [検索期間外文献] ) .地域としては,台湾,日本,米国からの報告が多い. ビブリオ菌による重症感染症の特徴は,多くは中高年の発症で,男性に多い.基礎疾患に肝硬 変や糖尿病を合併している患者に多い.魚介類の摂食による経口感染が多数を占めるが,皮膚 からの経皮感染もみられる.いったん発症すると致死的である.潜伏期は 48 時間以内と短く, いったん感染すると進行が早く,壊死性筋膜炎では外科的な処置も必要となる.白血球減少, CPK 高値,糖尿病,ショックを呈する場合は予後が不良である.肝機能検査値の記載のある報 告では,Child B 患者での感染も報告されており,地域性もみられる.これらから直ちに Child C 患者に魚の生食を禁止すべきかどうかは明らかではないが,肝硬変,特に非代償性肝硬変で は注意を要する. 日本の医療従事者におけるビブリオ菌による敗血症に対する意識調査では,各施設,専門性 の違いにより様々であることが報告されており,啓蒙活動は必要である.ビブリオ菌は 0.5〜8% 未満の低度好塩性で,至適塩分濃度も低いため,河口付近の海水(汽水域)に棲む魚介類に常在 していること,海水温が 20℃以上になると急激に増殖するため,6〜11 月,特に 7〜9 月に集中 して発症すること,鉄を好むことなど,肝硬変の患者とともに医療従事者も本疾患について理 解を深める必要があることが指摘されている 9) . — 28 — ①栄養療法 表1 ビブリオ菌による敗血症 研究 報告数 地域 年齢 男性 / 女性 デザイン (敗血症) 報告 基礎疾患 感染経路 死亡率 予後予測因子 ケース 台湾 シリーズ 13 例 61 10/3 肝硬変 8 例,糖尿 海産物摂 病,腎臓病 2 例 食 38% WBC 減少,血圧 90mmHg 以下 ケース 日本 シリーズ 8例 60 8/0 肝硬変 5 例,アル 海産物摂 コール性肝障害 3 食 6 例 例 86% CPK 高値 ケース 台湾 シリーズ 21 例 51 16/5 立山 6) ケース 日本 シリーズ 3例 57 3/0 宮坂 7) ケース 日本 シリーズ 90 例 58 75/15 ケース 台湾 シリーズ 30 例 60 24/6 56 男性 86% Tsai 3) Nakafusa Lin 5) Tsai 8) Menon a) 4) ケース 米国 1,212 例 シリーズ Child B 肝硬変 6 魚介類・ 23% 例,Child C 肝 硬 海水 9 例 皮膚所見 75% 変 15 例 肝硬変 3 例,うち 非代償性 2 例 100% 肝 疾 患 85 %, 肝 経口 72% 経口感染では 69% 硬変 54% 創傷 9% が死亡 肝炎 8 例,糖尿病 魚介類 9 例,糖尿病と肝 28 例 障害 7 例 37% ショック, 血小板減少, 糖尿病 肝疾患 40% 33% 肝疾患 aOR 5.1 魚介類 52% aOR:adjusted odds ratio 文献 1) 平瀉洋一,河野 茂.感染症における皮膚病変―Vibrio vulnificus 感染症における皮膚病変.化学療法の領 域.2007; 23: 1691-1697 2) Oliver JD. Wound infections caused by Vibrio vulnificus and other marine bacteria. Epidemiol Infect 2005; 133: 383-391 3) Tsai YH, Hsu RW, Huang KC, et al. Systemic Vibrio infection presenting as necrotizing fasciitis and sepsis: a series of thirteen cases. J Bone Joint Surg Am 2004; 86-A: 2497-2502(ケースシリーズ) 4) Nakafusa J, Misago N, Miura Y, et al. The importance of serum creatine phosphokinase level in the early diagnosis, and as a prognostic factor, of Vibrio vulnificus infection. Br J Dermatol 2001; 145: 280-284(ケー スシリーズ) 5) Lin CJ, Chiu CT, Lin DY, et al. Non-O1 Vibrio cholerae bacteremia in patients with cirrhosis: 5-yr experience from a single medical center. Am J Gastroenterol 1996; 91: 336-340(ケースシリーズ) 6) 立山 直,宮国 均,津守伸一郎,ほか.肝硬変に併発した重症軟部組織感染症の 3 死亡例―Vibrio vulnificus,Aeromonas sobria,Aeromonas hydrophila 感染の各 1 例.西日本皮膚科 1998; 60: 653-659(ケー スシリーズ) 7) 宮坂次郎,徳永晴樹,甲木和子.熊本県で発生した Vibrio vulnificus 感染症事例の細菌学的検討.熊本県 保健環境科学研究所報 2002; 31: 31-36(ケースシリーズ) 8) Tsai YH, Huang TJ, Hsu RW, et al. Necrotizing soft-tissue infections and primary sepsis caused by Vibrio vulnificus and Vibrio cholerae non-O1. J Trauma 2009; 66: 899-905(ケースシリーズ) 9) Nagao Y, Matsuoka H, Seike M, et al. Knowledge of Vibrio vulnificus infection among Japanese patients with liver diseases: a prospective multicenter study. Med Sci Monit 2009; 15: PH115-PH120(ケースシリー ズ) 【検索期間外文献】 a) Menon MP, Yu PA, Iwamoto M. Pre-existing medical conditions associated with Vibrio vulnificus septicaemia. Painter J Epidemiol Infect 2014; 142: 878-881(ケースシリーズ) — 29 — 3.治療 ― ❷抗ウイルス療法 Clinical Question 3-6 B 型肝硬変においてウイルス関連マーカー,HBV DNA 量測 定は病態のモニターに有用か? CQ 3-6 B 型肝硬変においてウイルス関連マーカー,HBV DNA 量測定は病態 のモニターに有用か? ステートメント ● B 型肝硬変において HBe 抗原陽性例は陰性例に比べ肝炎活動性が高く,代償性から非代償性 に進行する割合が多い.HBe 抗原消失は長期生存に寄与するが,HBe 抗原消失に関係なく肝 細胞癌発生には注意が必要である.肝細胞癌発生のリスクは HBV DNA 量が高値になるに従 い高くなる.さらに,HBV DNA 量が低値であっても,HBs 抗原量が多いと肝発癌リスクが 高い.HBs 抗原陰性化は B 型肝炎終息のマーカーといえる.HB コア関連抗原は肝組織中の cccDNA 量と相関し,核酸アナログ治療中の効果判定や治療終了の血清マーカーとして有用 と考えられる. 解説 B 型慢性肝炎と同様に,B 型肝硬変でも HBe 抗原陽性例は陰性例に比べ肝炎の活動性が高く, 代償性肝硬変から非代償性肝硬変に進行する割合が高い.HBe 抗原が陰性化し HBV DNA 量が 減少し,ALT 値が持続的に正常化することにより,肝線維化の進行や肝発癌リスクは低下し, 長期予後は良好になる 1, 2) .しかし,HBe 抗原陽性であることが肝細胞癌発症の予測因子になる かについて,一定の結論は得られていない.代償性肝硬変 161 例の追跡調査(平均 6.6 年)によ ると,非代償化のリスクは HBV DNA 陽性例では陰性例の 4.05 倍,死亡リスクは 5.9 倍であっ たが,HBe 抗原の有無で 5 年間の累積肝癌発生率に有意差はなかった 3) . 多くの研究により,抗ウイルス療法による血中 HBV DNA 量の減少は,生化学的あるいは組 織学的な改善と相関しており,治療効果判定に有用とされている 4) .さらに,台湾での大規模コ ホート研究により,HBe 抗原,ALT 値,肝硬変の有無を調整したうえで検討すると,血中 HBV DNA 量の上昇に伴って肝細胞癌発現率が高くなることが明らかになった.特に HBV DNA 10,000 copies/mL 以上が肝細胞癌発症の強い予測因子となる 2, 5, 6) . 一方,HBs 抗原は HBV のエンベロープに存在する抗原で,肝細胞内の cccDNA から産生さ れており,HBs 抗原量は B 型慢性肝炎の病態を反映しており 7, 8) ,HBs 抗原の陰性化は B 型肝炎 治療のゴールと考えられている.Tseng らの大規模研究によると,HBs 抗原陰性化の予測因子 として,HBs 抗原低値(10 IU/mL 以下) ,HBV DNA 低値(2,000 IU/mL 以下)が指摘されてい る 9, 10) .また,HBs 抗原量は肝発癌リスクにも関連しており,HBV DNA<2,000 IU/mL(4 log copies/mL)であっても,HBs 抗原>1,000 IU/mL の場合は発癌リスクが高い 9, 10) . HB コア関連抗原(HBV core-related antigen)は,血清中 HBV DNA,肝内 HBV DNA,肝内 — 30 — ②抗ウイルス療法 cccDNA と正の相関がある 4) .核酸アナログ治療により HBV DNA 量は速やかに減少し,検出感 度未満となるが,HBs 抗原や HB コア関連抗原の減少は緩やかである 11) .これは核酸アナログ により逆転写が阻害され HBV DNA 複製は阻止されるが,肝組織中には cccDNA が残存し, HBs 抗原や HB コア関連抗原は放出され続けることによると考えられている.HB コア関連抗原 は肝組織中の cccDNA 量と相関すると考えられることから,核酸アナログ治療の効果判定や再 燃の予測に有用な血清マーカーといえる 12) . 文献 1) Realdi G, Fattovich G, Hadziyannis S, et al. Survival and prognostic factors in 366 patients with compensated cirrhosis type B: a multicenter study. The Investigators of the European Concerted Action on Viral Hepatitis (EUROHEP). J Hepatol 1994; 21: 656-666(コホート) 2) Yang HI, Lu SN, Liaw YF, et al. Hepatitis B e antigen and the risk of hepatocellular carcinoma. N Engl J Med 2002; 347: 168-174(コホート) 3) Fattovich G, Pantalena M, Zagni I, et al. Effect of hepatitis B and C virus infections on the natural history of compensated cirrhosis: a cohort study of 297 patients. Am J Gastroenterol 2002; 97: 2886-2895(コホー ト) 4) Mommeja-Marin H, Mondou E, Blum MR, et al. Serum HBV DNA as a marker of efficacy during therapy for chronic HBV infection: analysis and review of the literature. Hepatology 2003; 37: 1309-1319(メタ) 5) Chen CJ, Yang HI, Su J, et al. Risk of hepatocellular carcinoma across a biological gradient of serum hepatitis B virus DNA level. JAMA 2006; 295: 65-73(コホート) 6) Tseng TC, Liu CJ, Yang HC, et al. High levels of hepatitis B surface antigen increase risk of hepatocellular carcinoma in patients with low HBV load. Gastroenterology 2012; 142: 1140-1149, e3(コホート) 7) Nguyen T, Thompson AJ, Bowden S, et al. Hepatitis B surface antigen levels during the natural history of chronic hepatitis B: a perspective on Asia. J Hepatol 2010; 52: 508-513(コホート) 8) Jaroszewicz J, Calle Serrano B, Wursthorn K, et al. Hepatitis B surface antigen (HBsAg) levels in the natural history of hepatitis B virus (HBV)-infection: a European perspective. J Hepatol 2010; 52: 514-522(コ ホート) 9) Tseng TC, Liu CJ, Su TH, et al. Serum hepatitis B surface antigen levels predict surface antigen loss in hepatitis B e antigen seroconverters. Gastroenterology 2011; 141: 517-525, 525, e1-e2(コホート) 10) Tseng TC, Liu CJ, Yang HC, et al. Determinants of spontaneous surface antigen loss in hepatitis B e antigen-negative patients with a low viral load. Hepatology (Baltimore Md) 2012; 55: 68-76(コホート) 11) Rokuhara A, Tanaka E, Matsumoto A, et al. Clinical evaluation of a new enzyme immunoassay for hepatitis B virus core-related antigen: a marker distinct from viral DNA for monitoring lamivudine treatment. J Viral Hepat 2003; 10: 324-330(コホート) 12) Shinkai N, Tanaka Y, Orito E, et al. Measurement of hepatitis B virus core-related antigen as predicting factor for relapse after cessation of lamivudine therapy for chronic hepatitis B virus infection. Hepatol Res 2006; 36: 272-276(コホート) — 31 — 3.治療 ― ❷抗ウイルス療法 Clinical Question 3-7 核酸アナログは B 型肝硬変におけるウイルスの陰性化,ある いはセロコンバージョンを促進するか? CQ 3-7 核酸アナログは B 型肝硬変におけるウイルスの陰性化,あるいはセロ コンバージョンを促進するか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 代償性および非代償性肝硬変患者に対する核酸アナログ製剤(ラミ ブジン・アデホビル・エンテカビル・テノホビル)投与はウイルス の陰性化および HBe セロコンバージョンを促進する.よって,B 型肝硬変に対して核酸アナログを投与することを推奨する. 1 (100%) A 解説 B 型肝硬変を含む慢性肝疾患に対するラミブジン投与により HBV DNA の陰性化,あるいは HBe セロコンバージョンは促進され,肝硬変の肝線維化改善および進展抑制効果が得られる 1, 2) . 一方で,ラミブジンは耐性株出現が問題となるが,ラミブジン耐性の B 型肝硬変に対してはア デホビル追加投与により HBV DNA の陰性化,ALT の改善が得られる 3) .また,B 型慢性肝炎に 対するアデホビル単独投与の有効性(HBV DNA 陰性化)も示されている 4) .B 型非代償性肝硬変 に対するエンテカビル投与は,B 型慢性肝炎や代償性肝硬変例と同等の HBV DNA 陰性化率, ALT 正常化率,HBe セロコンバージョン率であり,肝予備能の改善も得られる 5, 6) .さらに,肝硬 変を含む B 型慢性肝疾患に対するテノホビルの HBV DNA 陰性化効果はアデホビルより高く 7) , 非代償性肝硬変に対するテノホビルの効果はエンテカビルと同等である 8) .一方,肝硬変に対す るラミブジン,エンテカビル,テノホビルの効果を後ろ向きに比較検討した報告では,ラミブ ジンと比較してエンテカビルもしくはテノホビルは ALT 正常化率,HBV DNA 400 copies/mL 未満達成率,および CTP(Child-Turcotte-Pugh)score の非悪化率が高いことが示されている a) (Clin Gastroenterol Hepatol 2013; 11: 88-94 [検索期間外文献] ) .一方,耐性株出現頻度がラミブ ジンでは 49%(観察期間中央値 32.4 ヵ月)1) ,アデホビルでは 29%(観察期間:5 年)4) ,エンテカ ビルでは 0%(観察期間中央値 699 日)6)と報告されている.また,日本での費用対効果は十分 明らかにされていないが,ラミブジンはアデホビル単独もしくはエンテカビル単独治療と比較 し,HBV 肝硬変に対する治療法として費用対効果は劣っていると報告されている 9) .さらに, 肝硬変を含む B 型慢性肝疾患に対する核酸アナログ治療の報告を元にしたメタアナリシスでは, HBe 抗原陽性者ではエンテカビルとテノホビル,HBe 抗原陰性者ではテノホビルの治療効果が 高いことが報告されている 10) .HBV 肝硬変に対するエンテカビルもしくはテノホビルの長期的 な効果は十分明らかにされていないが,HBV 肝硬変に対してはエンテカビルもしくはテノホビ — 32 — ②抗ウイルス療法 ルが第一選択薬として考慮される.核酸アナログ使用に際しては,乳酸アシドーシスや腎障害 などの副作用報告があるため,注意深い経過観察が必要である. 文献 1) Liaw YF, Sung JJ, Chow WC, et al. Lamivudine for patients with chronic hepatitis B and advanced liver disease. N Engl J Med 2004; 351: 1521-1531(ランダム) 2) Lai CL, Chien RN, Leung NW, et al. A one-year trial of lamivudine for chronic hepatitis B. Asia Hepatitis Lamivudine Study Group. N Engl J Med 1998; 339: 61-68(ランダム) 3) Zoulim F, Parvaz P, Marcellin P, et al. Adefovir dipivoxil is effective for the treatment of cirrhotic patients with lamivudine failure. Liver Int 2009; 29: 420-426(コホート) 4) Hadziyannis SJ, Tassopoulos NC, Heathcote EJ, et al. Long-term therapy with adefovir dipivoxil for HBeAg-negative chronic hepatitis B for up to 5 years. Gastroenterology 2006; 131: 1743-1751(ランダム) 5) Shim JH, Lee HC, Kim KM, et al. Efficacy of entecavir in treatment-naive patients with hepatitis B virusrelated decompensated cirrhosis. J Hepatol 2010; 52: 176-182(コホート) 6) Hyun JJ, Seo YS, Yoon E, et al. Comparison of the efficacies of lamivudine versus entecavir in patients with hepatitis B virus-related decompensated cirrhosis. Liver Int 2012; 32: 656-664(コホート) 7) Marcellin P, Heathcote EJ, Buti M, et al. Tenofovir disoproxil fumarate versus adefovir dipivoxil for chronic hepatitis B. N Engl J Med 2008; 359: 2442-2455(ランダム) 8) Liaw YF, Sheen IS, Lee CM, et al. Tenofovir disoproxil fumarate (TDF), emtricitabine/TDF, and entecavir in patients with decompensated chronic hepatitis B liver disease. Hepatology 2011; 53: 62-72(コホート) 9) Kanwal F, Farid M, Martin P, et al. Treatment alternatives for hepatitis B cirrhosis: a cost-effectiveness analysis. Am J Gastroenterol 2006; 101: 2076-2089(メタ) 10) Woo G, Tomlinson G, Nishikawa Y, et al. Tenofovir and entecavir are the most effective antiviral agents for chronic hepatitis B: a systematic review and Bayesian meta-analyses. Gastroenterol 2010; 139: 12181229(メタ) 【検索期間外文献】 a) Köklü S, Tuna Y, Gül en MT, et al. Long-term efficacy and safety of lamivudine, entecavir, and tenofovir for treatment of hepatitis B virus-related cirrhosis. Clin Gastroenterol Hepatol 2013; 11: 88-94(コホート) — 33 — 3.治療 ― ❷抗ウイルス療法 Clinical Question 3-8 核酸アナログは B 型肝硬変の肝線維化,予後を改善するか? また,肝発癌を抑制するか? CQ 3-8 核酸アナログは B 型肝硬変の肝線維化,予後を改善するか? また, 肝発癌を抑制するか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 核酸アナログは B 型肝硬変の肝線維化,予備能を改善し,肝発癌 を抑制することから,B 型肝硬変に対しては核酸アナログを推奨す る. 1 (100%) A 解説 肝線維化の改善について,Dienstag ら 1)は進行した B 型慢性肝疾患 63 例を対象に長期ラミ ブジン投与の肝組織所見に及ぼす影響を検討し,このうち肝硬変 11 例について,1 年以内に 5 例(45.5%) ,2 年以内に 8 例(73%)で肝線維化が F3 以下へ改善したと報告している.Chang ら 2) は核酸アナログ未治療例を対象としたエンテカビルの第Ⅲ相試験に引き続き,293 例で 3 年以上 の長期投与(median:約 6 年,range:3〜7 年)を行い,このうち 57 例について組織学的改善 を検討している.このなかで,治療開始から 1 年で 32%,3 年以上の長期投与例では 88%の症 例で Ishak fibrosis score が 1 点以上改善したと報告し,肝硬変 4 例はすべて 1 点以上改善してい た.Schiff ら 3)は代償性 B 型慢性肝疾患 1633 例のうち,肝線維化が進行した 245 例を対象とし てエンテカビルとラミブジンの肝線維化改善率を比較し,このなかで核酸アナログ未治療の HBe 抗原陽性群,HBe 抗原陰性群,ラミブジン不応群における 48 週間での Ishak fibrosis score 1 点 以上の改善率は,ラミブジンがそれぞれ 49%,53%,33%であったのに対して,エンテカビルが それぞれ 57%,59%,43%であり,エンテカビルがラミブジンより肝線維化改善効果が優れてい たと結論している.Hadziyannis ら 4)は HBe 抗原陰性の代償性 B 型慢性肝疾患 185 例を対象と して,アデホビル単剤による長期治療効果を検討し,48 週間で 35%,192 週間で 55%,240 週 間で 71%の症例で Ishak fibrosis score が改善したと報告している.また,Marcellin ら(Lancet 2013; 381: 468-475 a) [検索期間外文献] )は,HBe 抗原陽性または陰性の代償性 B 型慢性肝疾患患 者を対象としたテノホビルとアデホビルの二重盲検比較第Ⅲ相試験に引き続いて,5 年目まで テノホビルを継続投与し,肝生検により線維化を評価したところ,治療前と比較して 5 年目で 全体の 51%(176/348)は線維化が改善したと報告している.以上のことから,核酸アナログは B 型肝硬変の肝線維化を改善すると考えられる. 予後の改善について,Liaw ら 5)は Ishak fibrosis score 4 点以上の肝線維化が進行した B 型慢 性肝疾患 651 例に対してラミブジンとプラセボによる二重盲検 RCT を行い,中央値 32.4 ヵ月の — 34 — ②抗ウイルス療法 観察期間内に Child-Pugh score が 2 点以上悪化した割合はプラセボ群 8.8%に対してラミブジン 群は 3.4%と有意に低く,ラミブジンが肝予備能の悪化を抑制することで予後改善につながるこ とを示した.Yao ら 6)は Child-Pugh score 10 点以上の非代償性 B 型肝硬変 23 例において,ラ ミブジン投与により 60.9%で Child-Pugh score が 3 点以上改善し,14 ヵ月までに 65%が肝移植 を必要とせず生存し,historical control と比較して有意に予後が改善したと報告している.非代 償性 B 型肝硬変 70 例を対象にエンテカビルの有効性を検討した Shim らの報告では 7) ,12 ヵ月 以上投与できた 55 例においてアルブミン,総ビリルビン,プロトロンビン時間,Child-Pugh score,MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score が投与前と比較して有意に改善し,長 期的に死亡率や肝移植率を抑制したと報告している. 肝発癌抑制について,Hadziyannis ら 4)は,HBe 抗原陰性慢性肝炎 185 例において,アデホ ビル投与下 240 週で発癌率は 3%,Shim ら 7)は,非代償性肝硬変 70 例において,エンテカビ ル投与下 24 ヵ月で発癌率は 6.9%であったと報告しているが,比較対照がなく,肝発癌抑制効 果は明らかではない.一方,ラミブジンに関しては,Liaw ら 5)が 651 例の進行した B 型慢性肝 疾患(肝硬変を含む)にラミブジン(436 例)またはプラセボ(215 例)を投与し,32.4 ヵ月間(中央 値)前向きに比較したところ,肝細胞癌合併率はラミブジン投与群で 3.9%,プラセボ投与群で 7.4%(ハザード比 0.49,p=0.047)であったと報告している.また,Matsumoto ら 8)は日本国内 30 施設 2,795 例(ラミブジン投与 657 例;F0/1/2/3/4/ unknown=1.8/30.6/25.4/26.0/14.9/ 1.2%,非投与 2,138 例;F0/1/2/3/4/unknown=2.3/ 33.7/24.5/23.0/15.5/1.0%)を検討し, 肝生検時点を起点とした Cox 比例ハザードモデルにおいて,ラミブジン投与の有無が性,年齢, 線維化程度,血小板数などの宿主側因子とともに早期発癌を左右する因子であることを示した. さらに,このなかから各 377 例ずつ(ラミブジン投与;F0/1/2/3/4=1.9/27.3/25.2/28.4/17.2%, 非投与;F0/1/2/3/4=1.6/31.0/25.7/23.9/17.8%)を抽出してケースコントロールスタディを 行った結果,年間肝細胞癌発生率はラミブジン投与群 0.4%,非投与群 2.5%であり,ラミブジ ンによる肝発癌の抑制効果を示した. 以上のように核酸アナログは肝線維化,肝発癌を抑制し,予後を改善すると考えられるもの の,総じて長期的な効果であり,高度に進行した非代償性肝硬変例のなかには,効果が発現す る前に病態が進行する症例が存在することも指摘されている 6, 9) .また,ラミブジンは長期治療に より YMDD 変異をはじめとした薬剤耐性を生じる可能性が高く,適切な薬剤の併用や変更が必 要である. 文献 1) Dienstag JL, Goldin RD, Heathcote EJ, et al. Histological outcome during long-term lamivudine therapy. Gastroenterology 2003; 124: 105-117(コホート) 2) Chang TT, Liaw YF, Wu SS, et al. Long-term entecavir therapy results in the reversal of fibrosis/cirrhosis and continued histological improvement in patients with chronic hepatitis B. Hepatology 2010; 52: 886-893 (非ランダム) 3) Schiff E, Simsek H, Lee WM, et al. Efficacy and safety of entecavir in patients with chronic hepatitis B and advanced hepatic fibrosis or cirrhosis. Am J Gastroenterol 2008; 103: 2776-2727(ランダム) 4) Hadziyannis SJ, Tassopoulos NC, Heathcote EJ, et al. Long-term therapy with adefovir dipivoxil for HBeAg-negative chronic hepatitis B for up to 5 years. Gastroenterology 2006; 131: 1743-1751(非ランダム) 5) Liaw YF, Sung JJ, Chow WC, et al. Lamivudine for patients with chronic hepatitis B and advanced liver — 35 — 3.治療 disease. N Engl J Med 2004; 351: 1521-1531(ランダム) 6) Yao FY, Terrault NA, Freise C, et al. Lamivudine treatment is beneficial in patients with severely decompensated cirrhosis and actively replicating hepatitis B infection awaiting liver transplantation: a comparative study using a matched, untreated cohort. Hepatology 2001; 34: 411-416(非ランダム) 7) Shim JH, Lee HC, Kim KM, et al. Efficacy of entecavir in treatment-naive patients with hepatitis B virusrelated decompensated cirrhosis. J Hepatol 2010; 52: 176-182(コホート) 8) Matsumoto A, Tanaka E, Rokuhara A, et al. Efficacy of lamivudine for preventing hepatocellular carcinoma in chronic hepatitis B: a multicenter retrospective study of 2795 patients. Hepatol Res 2005; 32: 173-184 (コホート) 9) 小橋春彦.非代償性肝硬変の合併症とその対策―B 型非代償性肝硬変に対する核酸アナログ療法の長期効 果.消化器内科 2012; 54: 355-360 【検索期間外文献】 a) Marcellin P, Gane E, Buti M, et al. Regression of cirrhosis during treatment with tenofovir disoproxil fumarate for chronic hepatitis B: a 5-year open-label follow-up study. Lancet 2013; 381: 468-475(非ランダ ム) — 36 — 3.治療 ― ❷抗ウイルス療法 Clinical Question 3-9 ラミブジン耐性 B 型肝硬変にアデホビルもしくはテノホビル は有効か? CQ 3-9 ラミブジン耐性 B 型肝硬変にアデホビルもしくはテノホビルは有効 か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● ラミブジン耐性株が出現した B 型肝硬変に対しては,アデホビル の追加投与,もしくはテノホビルへの変更投与を推奨する. 1 (100%) A 解説 ラミブジン耐性が出現した B 型肝硬変にアデホビルを追加投与した報告では,HBV DNA 検出 感度以下への低下率は 41.2〜100%で,105 copies/mL 未満または 2 log10 低下は 76〜86%であっ た.また,ALT 正常化率は 31〜82%,CTP(Child-Turcotte-Pugh)score の低下率は 64〜92%で あった(表 1)1〜7) .ラミブジン耐性 B 型肝硬変に対するラミブジン・アデホビル併用療法はラミ ブジン・プラセボと比較し有意に ALT 値,HBV DNA 量の低下がみられ,有効な治療法である. ラミブジン・アデホビル併用群は,ラミブジンからアデホビルへの切り替えと比較し,同等の 効果 3, 4, 8)との報告もあるが,併用群のほうが,抗ウイルス効果が高く,長期観察例において両剤 耐性ウイルス出現率が低いと報告され 9〜11) ,ラミブジン・アデホビル併用療法が推奨される.ま た,ラミブジン・アデホビル併用投与のほうがエンテカビル・アデホビル併用投与よりも,費 用対効果が優れている 12) .ラミブジン耐性 B 型肝硬変にテノホビルを使用した多数例の報告は ないが,ラミブジン耐性 B 型慢性肝疾患にテノホビルを 96 週投与した報告では,HBV DNA< 400 copies/mL への低下率は 89.4%,ALT 正常化率は 62%で,ウイルス耐性変異もみられな a) かったと報告されている(Gastroenterology 2014; 146: 980-988 [検索期間外文献] ) .また,ラミ ブジン無効例に 24 週以上アデホビルを投与しても反応不良であった B 型慢性肝炎に対して,テ ノホビル単独またはテノホビル・ラミブジン併用療法を行った検討では,96 週後の HBV DNA 陰性化率(15 IU/mL 未満)は 64%,ALT 正常化率は 51.5%であった 13) .さらに,ラミブジン・ アデホビル耐性 B 型肝硬変にテノホビルは有効であったとの報告や 14) ,テノホビルがアデホビ ルより強力な抗ウイルス効果があったとの報告がある 15) .なお,2014 年 6 月に日本肝臓学会か ら「B 型肝炎治療ガイドライン」が公表された.そのなかでラミブジン単剤投与やラミブジン・ アデホビル併用投与をしている場合などで,投与開始から 6〜12 ヵ月経過した時点で HBV DNA が 4.0 log copies/mL 以上の場合には,ラミブジン・テノホビル,あるいはエンテカビル・テノ ホビル併用へ変更することが推奨されている.しかし,ラミブジン耐性 B 型肝硬変に対して, アデホビル併用,テノホビル併用,もしくはテノホビル単剤への変更の,いずれの治療が最も — 37 — 3.治療 表1 症例数 報告年 (LAM + プラセボ) ラミブジン耐性 B 型肝硬変にアデホビルを投与した報告例 年齢中央値 (範囲) 観察期間 HBV DNA 検 効果(コン 出感度以下低 CTP 2 ポイント トロール) 下率(コント 低下率(%) (%) ロール) (%) 累積生存率 (%) 2003 1) 128 51(18〜72) 48 週 76 81 92(24 週) 84 2004 2) 46 (49) 40 42(25〜68) 43(24〜67) 53(22〜73) 52 週 31 (6) 53 85b (11)b 92 ND ND Score7(5 〜 9) → 5(5 〜 8)e ND 2005 3) 28 a (18) 46(18〜67) 48(39〜62) 24 週 82 (78) 86 (83) 64, (72) ND 2006 4) 10 a (18) 50(36〜65) 12.5 週 10 → 80c 51(41〜74) (4〜28)(0 → 50)c (中央値) 100b (100)b Score7.3 → 5.5, Score6.4 → 5.3 ND 2007 5) 226 91f(48 週) 78(96 週) 2009 6) 68 2011 7) 38 (40) 40 52 39 週 77(48 週) 59(48 週) (平均) 77(96 週) 65(96 週) (0〜119) 57.5(31〜82) 12.6 ヵ月 (中央値) 42(24〜67) 42.5(26〜68) 53(22〜73) 2年 55.2 41.2 ND ND 49 (10) 64d 76b (13)b 87b ND ND − 0.5(中央値) (− 4 〜 0)g ND :アデホビル単独 :105copies/mL 未満 or 2 log10 低下 :ALT 正常者の割合 d :ALT 低下率 e :移植 6 f :1 ポイント低下 g :ベースラインとの差 ND:data not shown a b c 推奨されるかについては,十分なエビデンスがない. ラミブジン耐性 B 型肝硬変にアデホビルを併用すると,代償期肝硬変では 5 年累積生存率が 91.6%に対し,非代償期肝硬変では 37.8%との報告もあり,非代償期肝硬変では抗ウイルス効果 が得られても,早期死亡に至る可能性がある 16) .また,肝細胞癌の合併に注意が必要であり 16〜19) , 累積発癌率は 4 年で 15% 17) ,5 年で 15.9〜26%との報告 16, 18)や,AST≧70 IU/L(p=0.016,HR 6.21[1.40〜27.5]),YIDD 変異(p=0.012,HR 3.97[1.36〜11.6]),年齢 50 歳以上(p=0.023, HR 3.24[1.17〜8.95] ) ,肝硬変あり(p=0.030,HR 1.42[1.04〜1.96] )が肝細胞癌発生の独立した 危険因子であったとの報告がある 18) .ほとんどの報告で,副作用の発現頻度は低く,安全性は 高いとされているが,アデホビルを 15〜68 ヵ月投与した報告では血清 Cr 濃度上昇が 38%,低 リン血症(<2.5 mg/dL)が 16%にみられており,注意が必要である 20) .テノホビル 96 週投与例 では,Ccr<50 mL/min や低リン血症(<2 mg/dL)への悪化は 1%未満で,骨塩量は 2%未満の 低下であったと報告されている a) . — 38 — ②抗ウイルス療法 文献 1) Schiff ER, Lai CL, Hadziyannis S, et al. Adefovir dipivoxil therapy for lamivudine-resistant hepatitis B in pre- and post-liver transplantation patients. Hepatology 2003; 38: 1419-1427(コホート) 2) Perrillo R, Hann HW, Mutimer D, et al. Adefovir dipivoxil added to ongoing lamivudine in chronic hepatitis B with YMDD mutant hepatitis B virus. Gastroenterology 2004; 126: 81-90(ランダム) 3) Kim KM, Choi WB, Lim YS, et al. Adefovir dipivoxil alone or in combination with ongoing lamivudine in patients with decompensated liver disease and lamivudine-resistant hepatitis B virus. J Korean Med Sci 2005; 20: 821-828(非ランダム) 4) Liaw YF, Lee CM, Chien RN, et al. Switching to adefovir monotherapy after emergence of lamivudineresistant mutations in patients with liver cirrhosis. J Viral Hepat 2006; 13: 250-255(非ランダム) 5) Schiff E, Lai CL, Hadziyannis S, et al. Adefovir dipivoxil for wait-listed and post-liver transplantation patients with lamivudine-resistant hepatitis B: final long-term results. Liver Transpl 2007; 13: 349-360(コ ホート) 6) Zoulim F, Parvaz P, Marcellin P, et al. Adefovir dipivoxil is effective for the treatment of cirrhotic patients with lamivudine failure. Liver Int 2009; 29: 420-426(コホート) 7) Perrillo RP, Hann HW, Schiff E, et al. Extended treatment with lamivudine and adefovir dipivoxil in chronic hepatitis B patients with lamivudine resistance. Hepatol Int 2011; 5: 654-663(ランダム) 8) Chu CM, Liaw YF. Hepatitis B virus-related cirrhosis: natural history and treatment. Semin Liver Dis 2006; 26: 142-152 9) Vassiliadis TG, Giouleme O, Koumerkeridis G, et al. Adefovir plus lamivudine are more effective than adefovir alone in lamivudine-resistant HBeAg- chronic hepatitis B patients: a 4-year study. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: 54-60(ランダム) 10) Rapti I, Dimou E, Mitsoula P, et al. Adding-on versus switching-to adefovir therapy in lamivudine-resistant HBeAg-negative chronic hepatitis B. Hepatology 2007; 45: 307-313(ランダム) 11) van der Poorten D, Prakoso E, Khoo TL, et al. Combination adefovir-lamivudine prevents emergence of adefovir resistance in lamivudine-resistant hepatitis B. J Gastroenterol Hepatol 2007; 22: 1500-1505( コ ホート) 12) Kanwal F, Farid M, Martin P, et al. Treatment alternatives for hepatitis B cirrhosis: a cost-effectiveness analysis. Am J Gastroenterol 2006; 101: 2076-2089(メタ) 13) Patterson SJ, George J, Strasser SI, et al. Tenofovir disoproxil fumarate rescue therapy following failure of both lamivudine and adefovir dipivoxil in chronic hepatitis B. Gut 2011; 60: 247-254(コホート) 14) Choe WH, Kwon SY, Kim BK, et al. Tenofovir plus lamivudine as rescue therapy for adefovir-resistant chronic hepatitis B in hepatitis B e antigen-positive patients with liver cirrhosis. Liver Int 2008; 28: 814-820 (コホート) 15) Hann HW, Chae HB, Dunn SR. Tenofovir (TDF) has stronger antiviral effect than adefovir (ADV) against lamivudine (LAM)-resistant hepatitis B virus (HBV). Hepatol Int 2008; 2: 244-249(非ランダム) 16) Lim SG, Aung MO, Mak B, et al. Clinical outcomes of lamivudine-adefovir therapy in chronic hepatitis B cirrhosis. J Clin Gastroenterol 2011; 45: 818-823(コホート) 17) Lampertico P, Viganò M, Manenti E, et al. Low resistance to adefovir combined with lamivudine: a 3-year study of 145 lamivudine-resistant hepatitis B patients. Gastroenterology 2007; 133: 1445-1451(コホート) 18) Hosaka T, Suzuki F, Kobayashi M, et al. Development of HCC in patients receiving adefovir dipivoxil for lamivudine-resistant hepatitis B virus mutants. Hepatol Res 2010; 40: 145-152(コホート) 19) Elefsiniotis I, Buti M, Jardi R, et al. Clinical outcome of lamivudine-resistant chronic hepatitis B patients with compensated cirrhosis under adefovir salvage treatment: importance of HCC surveillance. Eur J Intern Med 2009; 20: 478-481(コホート) 20) Tamori A, Enomoto M, Kobayashi S, et al. Add-on combination therapy with adefovir dipivoxil induces renal impairment in patients with lamivudine-refractory hepatitis B virus. J Viral Hepat 2010; 17: 123-129 (コホート) 【検索期間外文献】 a) Fung S, Kwan P, Fabri M, et al. Randomized comparison of tenofovir disoproxil fumarate vs emtricitabine and tenofovir disoproxil fumarate in patients with lamivudine-resistant chronic hepatitis B. Gastroenterology 2014; 146: 980-988(ランダム) — 39 — 3.治療 ― ❷抗ウイルス療法 Clinical Question 3-10 インターフェロン(IFN)は B 型肝硬変の肝線維化を改善する か? また,肝発癌を抑制するか? CQ 3-10 インターフェロン(IFN)は B 型肝硬変の肝線維化を改善するか? また,肝発癌を抑制するか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● インターフェロン(IFN)療法が,B 型肝硬変の肝線維化を改善する 十分なエビデンスはない.また同様に,肝発癌を抑制する十分なエ ビデンスはない.以上のことから,B 型肝硬変に対して IFN 治療 は行わないよう提案する. 2 (100%) C 解説 インターフェロン(IFN)療法は,B 型肝硬変の肝線維化を改善する可能性があるが,十分な エビデンスはない.また同様に,肝発癌を抑制するという十分な根拠はない. 1)IFN 治療による肝線維化改善効果について(表 1) B 型慢性肝疾患全体(慢性肝炎と肝硬変を含む)では,RCT 1, 2) ,メタアナリシス 3)の結果から 肝線維化を改善する可能性がある.しかし,総じて肝硬変患者の症例数が少なく,肝硬変のみ での詳細な検討はなされておらず,治療効果について十分なエビデンスがあるとは言い難い. 2)IFN 治療による肝発癌抑制効果について(表 2) 日本におけるコホート研究では,IFN 投与により累積肝発癌率は有意に低下したと報告され 表1 文献 IFN 治療による肝線維化改善効果 対象と治療 結果 1 HBe 抗原陽性の肝線維化進行例 70 例(うち肝 線維化進行例において,線維化非進行例よりも 硬変 27 例) .PEG-IFNα-2b +ラミブジンを投 肝線維化改善効果は高かった(66% vs. 26%, 0.001) . 与. 2 肝生検で F2 〜 4 と診断された HBe 抗原陽性 IFNλ群で肝線維化スコアの改善( 0.0001) の 83 例(うち肝硬変 35 例).IFNλを投与. がみられ,F score 1 以上の改善がみられた症 例の割合も多かった(IFNλ群 vs. 非投与群; 22.2% vs. 3.5%) . 3 13 編の論文(707 例;引用論文中における肝硬 IFN 群で肝線維化の進展は有意に抑制された < 変の有病率は 0 〜 20%)を用いたメタアナリシ (RR 0.49,95 % CI − 0.64 〜 − 0.0001).ランダム化試験・非ランダム化試験 ス. のいずれにおいても同様の結果であった. — 40 — ②抗ウイルス療法 表2 IFN 治療による肝発癌抑制効果 対象と治療 文献 結果 4 B 型代償性肝硬変 313 例.IFNαもしくは 累 積 肝 発 癌 率 は IFN 群 vs. 未 治 療 群 で 3 年,5 IFNβを投与. 年,10 年 そ れ ぞ れ 4.5 % vs. 13.3 %,7.0 % vs. 19.6%,17.0% vs. 30.8%と IFN 群で有意に低かっ 0.0124) .IFN 治療は独立した肝発癌抑制 た( = 0.031) . 因子であった 5 ウイルス性肝炎,Child-Pugh A の肝硬変 637 例(うち HBs 抗原陽性 223 例,登録 症例の 92%が肝生検で診断された肝硬変 患者).IFNαを投与. 6 HBe 抗原陽性 101 例(うち肝硬変 12 例) . 肝発癌率は治療群 1.5%に対し,未治療群 12%であ 0.043). IFN 単独もしくは IFN +プレドニゾロン投 り治療群は有意に肝発癌率が低かった( 与群と未治療群で比較(ランダム化試験) 7 HBe 抗原陽性 411 例(うち肝硬変 27 例) . IFN 群と未治療群の比較では肝発癌,肝疾患関連イ = IFNαを投与. ベントに有意差がなかった(4.3% vs. 1.0 0.062). 8 12 編の論文(2,082 例)を用いたメタアナ IFN 治 療 に よ り 肝 発 癌 が 抑 制 さ れ る(RR 0.59, リシス. 95% CI 0.43 〜0.81) . 9 5 編の論文(1,391 例)を用いたメタアナ IFN 治療は肝発癌のリスクを軽減する(2 編の論文の リシス. み統計学的にも有意差がみられた). 10 12 編の論文(2,742 例)を用いたメタアナ IFN 群で肝発癌リスクは 34%軽減され(RR 0.66, リシス. 95% CI 0.48 〜 0.89),非肝硬変患者よりも肝硬変 患者でその効果は高かった. 11 11 編の論文(2,122 例)を用いたメタアナ IFN 治療は肝疾患関連イベントのリスクを軽減させ 0.001) , リシス. (RR 0.55,95 % CI 0.43 〜 0.70, 肝硬変合併症を抑制する(RR 0.46,95% CI 0.32 0.001) . 〜 0.67, 12 7 編の論文(1,505 例)を用いたメタアナ B 型肝硬変にて IFN 治療群では非治療群と比較して リシス. 発癌のリスク差が 6.4%であった(95% CI − 2.8 〜 < 0.001)が,IFN 治療による発癌抑制 − 10 についての確定的な結論は導き出せなかった. 13 8 編の論文(1,303 例)を用いたメタアナ IFN 治療群では非治療群と比較して肝発癌が抑制さ = リシス. れ る(RD − 5.0 %,95 % CI − 9.4 〜 − 0.028)も の の, ① ア ジ ア 人( 日 本 人 を 含 む ) ,② 非治療例の発癌率が 10%以上,HBe 抗原陽性例が 70%以上含まれる対象群において肝発癌抑制効果が 期待される. IFN 治療群では 10%,未治療群では 19%で肝発癌 がみられた(RR 1.99,95% CI 1.09 〜 3.64) .し かし,C 型肝硬変では肝発癌抑制効果(RR 3.14)を 認めるものの,B 型肝硬変では肝発癌抑制効果は認 めなかった(RR 0.98) . ている 4) .一方,イタリアの多数例でのコホート研究では,B 型肝硬変においては,IFN 治療は 肝発癌を抑制しないと結論づけている 5) .少数例ではあるが RCT の報告 6, 7)では,IFN 治療の肝 発癌抑制効果については異なる結果が示されている.メタアナリシスからは,IFN 治療が肝発 癌を抑制するという結論が多く導き出されているが 8〜11) ,否定的な報告もある 12) .特定の条件下 (人種や背景肝,ウイルス動態など)では IFN 治療が肝発癌を抑制するという報告 13)もあり,こ れら種々論文の結論の相違は,臨床背景,治療プロトコールの相違によるものと考えられる. よって,IFN 治療は肝発癌を抑制する可能性はあるが,十分なエビデンスがあるとは言い難い. 日本においては,肝硬変に対する IFN 治療は保険適用外であり,IFN 治療により重篤な感染 症の合併や肝不全に至った症例の報告 14)もあることから,B 型肝硬変に対して IFN 治療は行わ ないよう勧められる. — 41 — 3.治療 文献 1) Buster EH, Hansen BE, Buti M, et al. Peginterferon alpha-2b is safe and effective in HBeAg-positive chronic hepatitis B patients with advanced fibrosis. Hepatology 2007; 46: 388-394(ランダム) 2) Weng HL, Wang BE, Jia JD, et al. Effect of interferon-gamma on hepatic fibrosis in chronic hepatitis B virus infection: a randomized controlled study. Clin Gastroenterol Hepatol 2005; 3: 819-828(ランダム) 3) Poynard T, Massard J, Rudler M, et al. Impact of interferon-alpha treatment on liver fibrosis in patients with chronic hepatitis B: an overview of published trials. Gastroenterol Clin Biol 2009; 33: 916-922(メタ) 4) Ikeda K, Saitoh S, Suzuki Y, et al. Interferon decreases hepatocellular carcinogenesis in patients with cirrhosis caused by the hepatitis B virus: a pilot study. Cancer 1998; 82: 827-835(コホート) 5) Anonymous. Effect of interferon-alpha on progression of cirrhosis to hepatocellular carcinoma: a retrospective cohort study. International Interferon-alpha Hepatocellular Carcinoma Study Group. Lancet 1998; 351: 1535-1539(コホート) 6) Lin SM, Sheen IS, Chien RN, et al. Long-term beneficial effect of interferon therapy in patients with chronic hepatitis B virus infection. Hepatology 1999; 29: 971-975(ランダム) 7) Yuen MF, Hui CK, Cheng CC, et al. Long-term follow-up of interferon alfa treatment in Chinese patients with chronic hepatitis B infection: the effect on hepatitis B e antigen seroconversion and the development of cirrhosis-related complications. Hepatology 2001; 34: 139-145(ランダム) 8) Yang YF, Zhao W, Zhong YD, et al. Interferon therapy in chronic hepatitis B reduces progression to cirrhosis and hepatocellular carcinoma: a meta-analysis. J Viral Hepat 2009; 16: 265-271(メタ) 9) Baffis V, Shrier I, Sherker AH, et al. Use of interferon for prevention of hepatocellular carcinoma in cirrhotic patients with hepatitis B or hepatitis C virus infection. Ann Intern Med 1999; 131: 696-701(メタ) 10) Sung JJ, Tsoi KK, Wong VW, et al. Meta-analysis: treatment of hepatitis B infection reduces risk of hepatocellular carcinoma. Aliment Pharmacol Ther 2008; 28: 1067-1077(メタ) 11) Wong GL, Yiu KK, Wong VW, et al. Meta-analysis: reduction in hepatic events following interferon-alfa therapy of chronic hepatitis B. Aliment Pharmacol Ther 2010; 32: 1059-1068(メタ) 12) Camma C, Giunta M, Andreone P, et al. Interferon and prevention of hepatocellular carcinoma in viral cirrhosis: an evidence-based approach. J Hepatol 2001; 34: 593-602(メタ) 13) Miyake Y, Kobashi H, Yamamoto K. Meta-analysis: the effect of interferon on development of hepatocellular carcinoma in patients with chronic hepatitis B virus infection. J Gastroenterol 2009; 44: 470-475(メタ) 14) Perrillo R, Tamburro C, Regenstein F, et al. Low-dose, titratable interferon alfa in decompensated liver disease caused by chronic infection with hepatitis B virus. Gastroenterology 1995; 109: 908-916(コホート) — 42 — 3.治療 ― ❷抗ウイルス療法 Clinical Question 3-11 C 型肝硬変におけるインターフェロン(IFN)療法の治療効果 は慢性肝炎と同等か? CQ 3-11 C 型肝硬変におけるインターフェロン(IFN)療法の治療効果は慢性肝 炎と同等か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● C 型代償性肝硬変に対するインターフェロン(IFN)療法としては, ペグインターフェロン(PEG-IFN)+リバビリン併用療法が標準的 治療である.ジェノタイプ 1b 型 C 型代償性肝硬変では慢性肝炎 に比べて,SVR 率は低い.しかし,HCV ジェノタイプ 2 型の代 償性肝硬変に対する PEG-IFN+リバビリン併用療法では慢性肝炎 と同等の SVR 率が報告されている.一方,C 型非代償性肝硬変に 対する PEG-IFN+リバビリン併用療法は完遂率が低いうえに,完 遂しても SVR 率が低く,感染症などの有害事象の発生率が高いこ とから投与しないことを推奨する. 1 (100%) A 解説 C 型代償性肝硬変に対するペグインターフェロン(PEG-IFN)+リバビリン併用療法の SVR 率 はジェノタイプ 1 型または 4 型で 10〜44%,ジェノタイプ 2 型で 33〜72%であり,C 型慢性肝 炎に比べて,SVR 率は低いとする報告が多い 1, 2) .また,非代償性肝硬変ではどのジェノタイプ でも代償性肝硬変より SVR 率は低い.代償性肝硬変では,SVR になることにより非代償性への 移行,肝発癌,肝臓関連死,肝移植後の肝炎再発のいずれのリスクも低下させ,代償性肝硬変 の治療として費用対効果が高い.多変量解析では肝硬変症例の SVR に寄与する因子として, ジェノタイプ 2 型と RVR(治療 1 ヵ月目の HCV RNA 陰性化)が抽出された 3) .日本の臨床試験 では,C 型代償性肝硬変に対する PEG-IFNα-2b+リバビリン併用療法 48 週の SVR 率は,ジェ ノタイプ 1b 高ウイルス量群で 22%(15/69)であるが,ジェノタイプ 1b 高ウイルス量以外で 79%(26/33)と,より高い SVR 率が得られた.また,PEG-IFNα-2a+リバビリン併用療法で, PEG-IFNα-2a 90 µg と 180 µg の比較では,SVR 率はそれぞれ 28%(17/61) ,27%(17/63)と両 群間に差がみられなかった 4) . C 型代償性肝硬変に対する PEG-IFN+リバビリン+シメプレビルまたはテラプレビルの 3 者 併用療法は安全性が確立されていないうえに日本では保険適用がない. C 型非代償性肝硬変に対する PEG-IFN+リバビリン併用療法は,完遂率が低いうえに完遂し ても SVR 率はジェノタイプ 1 型または 4 型で 16%,ジェノタイプ 2 型で 35.1%と報告されてお り,代償性肝硬変より SVR 率が低く,感染症などの有害事象の発生率が高い 5) . — 43 — 3.治療 なお,日本でセログループ 1(ジェノタイプ 1)の C 型慢性肝炎および C 型代償性肝硬変に対 する経口抗ウイルス療法(NS5A 複製複合体阻害薬であるダクラタスビルと NS3/4A プロテアー ゼ阻害薬であるアスナプレビルの併用療法)が保険収載されたが,本治療法によるジェノタイプ 1 型代償性肝硬変に対する SVR 率は 90.9%と報告されており,慢性肝炎のそれに劣らない効果 が期待される.ただし報告されている肝硬変の症例数は 20 例とまだ少ない(Hepatology 2014; 59: 2083-2091 a) [検索期間外文献] ) .また,セログループ 2(ジェノタイプ 2)の C 型慢性肝炎お よび C 型代償性肝硬変に対しては,NS5B ポリメラーゼ阻害薬であるソホスブビルとリバビリ ンの併用療法が保険収載され,慢性肝炎と同様に代償性肝硬変においても高い効果が期待され ている. (非代償性肝硬変に対する IFN 療法は保険適用がない.また,ダクラタスビルとアスナプレビ ルの併用療法およびソホスブビルとリバビリンの併用療法の保険適用は C 型慢性肝炎と代償性 肝硬変に限られることに留意する必要がある. ) 文献 1) Cheng WS, Roberts SK, McCaughan G, et al. Low virological response and high relapse rates in hepatitis C genotype 1 patients with advanced fibrosis despite adequate therapeutic dosing. J Hepatol 2010; 53: 616623(ランダム) 2) 2011 European Association of the Study of the Liver hepatitis C virus clinical practice guidelines. Liver Int 2012; 32 (Suppl); 1: 2-8(ガイドライン) 3) Prati GM, Aghemo A, Rumi MG, et al. Hyporesponsiveness to PegIFNalpha2B plus ribavirin in patients with hepatitis C-related advanced fibrosis. J Hepatol 2012; 56: 341-347(ランダム) 4) 泉 並木,金子周平,西口修一,ほか.消化器薬理―C 型代償性肝硬変に対するペグインターフェロン α2a(40KD)とリバビリン併用療法の有効性および安全性の検討―臨床第Ⅱ/Ⅲ相試験.消化器内科 2011; 53: 335-342(非ランダム) 5) Vezali E, Aghemo A, Colombo M. A review of the treatment of chronic hepatitis C virus infection in cirrhosis. Clin Ther 2010; 32: 2117-2138(メタ) 【検索期間外文献】 a) Kumada H, Suzuki Y, Ikeda K, et al. Daclatasvir plus asunaprevir for chronic HCV genotype 1b infection. Hepatology 2014; 59: 2083-2091(コホート) — 44 — 3.治療 ― ❷抗ウイルス療法 Clinical Question 3-12 インターフェロン(IFN)療法後 SVR が得られた C 型肝硬変 では肝線維化が改善するか? CQ 3-12 インターフェロン(IFN)療法後 SVR が得られた C 型肝硬変では肝線 維化が改善するか? ステートメント ● C 型代償性肝硬変では,インターフェロン(IFN)治療により SVR が得られると,長期の経過 で肝線維化が改善する. 解説 インターフェロン(IFN)治療前後の肝組織像を比較している RCT の多くは,慢性肝炎を対象 とした臨床試験であるが,サブ解析として肝硬変の成績を抽出した.ペグインターフェロン (PEG-IFN)α-2a または PEG-IFNα-2b を投与した大規模な RCT では,SVR が得られた肝硬変の 33〜49%で肝線維化の改善を認めている 1〜3) .Everson ら 4)は,肝硬変 140 例,F3 の慢性肝炎 44 例にランダムに IFNα-2a 3MU 週 3 回,PEG-IFNα-2a 90 µg 週 1 回,PEG-IFNα-2a 180 µg 週 1 回 を投与した結果,SVR 例では線維化・活動性とも改善,再燃例では線維化・活動性とも軽度改 善,non responder では改善なしであった.多変量解析で線維化改善に寄与する因子として SVR と BMI が選択された.日本では Shiratori らにより大規模なコホート研究が行われ,IFN 治療に より SVR が得られた肝硬変では,Desmet らの線維化 staging score 5)でみると年率 0.283 単位の 線維化改善が示されている 6) . 一方,SVR の得られなかった C 型肝硬変に少量維持療法として PEG-IFN を 3.5 年継続投与し た大規模臨床試験(HALT-C 試験)によると,SVR が得られないと維持療法をしても肝線維化の 改善がみられないことが報告されている 7) . 文献 1) Camma C, Di Bona D, Schepis F, et al. Effect of peginterferon alfa-2a on liver histology in chronic hepatitis C: a meta-analysis of individual patient data. Hepatology 2004; 39: 333-342(ランダム) 2) Poynard T, McHutchison J, Manns M, et al. Biochemical surrogate markers of liver fibrosis and activity in a randomized trial of peginterferon alfa-2b and ribavirin. Hepatology 2003; 38: 481-492(ランダム) 3) Heathcote EJ, Shiffman ML, Cooksley WG, et al. Peginterferon alfa-2a in patients with chronic hepatitis C and cirrhosis. N Engl J Med 2000; 343: 1673-1680(ランダム) 4) Everson GT, Balart L, Lee SS, et al. Histological benefits of virological response to peginterferon alfa-2a monotherapy in patients with hepatitis C and advanced fibrosis or compensated cirrhosis. Aliment Pharmacol Ther 2008; 27: 542-551(コホート) — 45 — 3.治療 5) Desmet VJ, Gerber M, Hoofnagle JH, et al. Classification of chronic hepatitis: diagnosis, grading and staging. Hepatology 1994; 19: 1513-1520 6) Shiratori Y, Imazeki F, Moriyama M, et al. Histologic improvement of fibrosis in patients with hepatitis C who have sustained response to interferon therapy. Ann Intern Med 2000; 132: 517-524(コホート) 7) Hoefs JC, Shiffman ML, Goodman ZD, et al. Rate of progression of hepatic fibrosis in patients with chronic hepatitis C: results from the HALT-C Trial. Gastroenterology 2011; 141: 900-908, e1-e2(コホート) — 46 — 3.治療 ― ❷抗ウイルス療法 Clinical Question 3-13 C 型肝硬変に対するインターフェロン(IFN)療法は,有害事 象を誘発し予後に悪影響を与えないか? CQ 3-13 C 型肝硬変に対するインターフェロン(IFN)療法は,有害事象を誘発 し予後に悪影響を与えないか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● C 型代償性肝硬変に対するインターフェロン(IFN)療法は,慢性肝 炎に比べると,感染症の合併,好中球減少,血小板減少などの有害 事象を高頻度に認め,治療中止になる症例が多い.有害事象に注意 すれば IFN 治療そのものが生命予後に悪影響を与えるとはいえな いことから IFN 療法を検討することを提案する.適応例では経口 抗ウイルス薬による治療を行う. 2 (100%) B 解説 C 型肝硬変に対するインターフェロン(IFN)療法では,慢性肝炎に比べ好中球減少,血小板 .しかし,投与量や投与方法 減少などの有害事象を高頻度に認め,治療中止になる症例が多い 1, 2) の工夫でこれら有害事象の発現を減少させることは可能である.ペグインターフェロン(PEGIFN)とリバビリン併用療法無効例に 3.5 年間継続治療した大規模臨床試験(HALT-C 研究)では, 治療群と対象群で累積死亡率に差はなかったが,合併症のため 15%の症例で PEG-IFN の減量, 18%の症例にリバビリンの減量,21%の症例に両者の減量が必要であった.重篤な合併症の報 告はない 3, 4) .Heathcote らは PEG-IFN とリバビリン併用療法で 271 例中 2 例に肝不全死,1 例 に脳出血を認めたが,致命的な合併症は多くないとしている 5) . 近年,ジェノタイプ 1 型代償性肝硬変に保険収載されたダクラタスビルとアスナプレビルの 併用による経口抗ウイルス療法は IFN とリバビリンの併用療法より有害事象の頻度が低く有効 性が高いことが報告されている 6) .さらに,ジェノタイプ 2 の C 型代償性肝硬変にソホスブビ ルとリバビリンの併用療法が保険収載されたが,貧血,催奇形性,腎機能低下などに注意が必 要である. なお,非代償性肝硬変に IFN 療法を行ったコホート研究によると,治療脱落率は高いが,SVR 例では SVR の得られなかった例に比して生存率は高いとされている 7) .ただし,非代償性肝硬 変に対し IFN 療法,ダクラタスビルとアスナプレビルの併用療法,ソホスブビルとリバビリン の併用療法とも保険適用がない — 47 — 3.治療 文献 1) Roffi L, Colloredo G, Pioltelli P, et al. Pegylated interferon-alpha2b plus ribavirin: an efficacious and welltolerated treatment regimen for patients with hepatitis C virus related histologically proven cirrhosis. Antivir Ther 2008; 13: 663-673(ランダム) 2) Bruno S, Shiffman ML, Roberts SK, et al. Efficacy and safety of peginterferon alfa-2a (40KD) plus ribavirin in hepatitis C patients with advanced fibrosis and cirrhosis. Hepatology 2010; 51: 388-397(ランダム) 3) Shiffman ML, Morishima C, Dienstag JL, et al. Effect of HCV RNA suppression during peginterferon alfa2a maintenance therapy on clinical outcomes in the HALT-C trial. Gastroenterology 2009; 137: 1986-1994 (ランダム) 4) Di Bisceglie AM, Stoddard AM, Dienstag JL, et al. Excess mortality in patients with advanced chronic hepatitis C treated with long-term peginterferon. Hepatology 2011; 53: 1100-1108(ランダム) 5) Heathcote EJ, Shiffman ML, Cooksley WG, et al. Peginterferon alfa-2a in patients with chronic hepatitis C and cirrhosis. N Engl J Med 2000; 343: 1673-1680(ランダム) 6) Arase Y, Suzuki F, Sezaki H, et al. The efficacy of 24-week interferon monotherapy for type C liver cirrhosis in Japanese patients with genotype 1b and low virus load. Intervirology 2008; 51: 265-269(コホート) 7) Iacobellis A, Perri F, Valvano MR, et al. Long-term outcome after antiviral therapy of patients with hepatitis C virus infection and decompensated cirrhosis. Clin Gastroenterol Hepatol 2011; 9: 249-253(コホート) — 48 — 3.治療 ― ❷抗ウイルス療法 Clinical Question 3-14 C 型肝硬変に対するインターフェロン(IFN)療法は,肝細胞 癌を抑制して予後を改善するか? CQ 3-14 C 型肝硬変に対するインターフェロン(IFN)療法は,肝細胞癌を抑制 して予後を改善するか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● C 型代償性肝硬変患者に対するインターフェロン(IFN)療法は,肝 発癌を抑制し,予後を改善する可能性が高いことから,考慮すべき 治療法として提案する. 2 (100%) B 解説 インターフェロン(IFN)療法による C 型肝硬変患者の肝発癌抑制効果は多くのコホート研究 で示されているが,RCT は少ない.Nishiguchi ら 1)の RCT(90 例)によると,平均 8.2 年間の 観察における累積肝発癌率は IFN 治療群で 27%,無治療群で 73%であり(p<0.001) ,IFN 治療 群の RR は 0.256 であった.また,多くのコホート研究も IFN 治療群は無治療群より肝発癌リ スクが減少すること,さらに非 SVR であっても無治療群より肝発癌リスクが減少することを示 している 2, 3) .ペグインターフェロン(PEG-IFN)+リバビリン併用療法でも SVR 例では非 SVR 例 に比べ肝発癌抑制が認められている 4〜6) .一方,肝硬変に対する IFN 療法による肝発癌抑制に否 定的な報告もある 7) .Valla らの RCT 8)では IFN 治療群と無治療群の間に累積肝発癌率,死亡率 に差はなかったが,この研究の観察期間は 3 年と短い.肝線維化の進んだ慢性肝炎と肝硬変を対 象にした IFN 治療後の長期経過について,2 つの大規模臨床試験の結果が報告されている.イタ リアからの研究(920 例)では累積肝発癌率,肝不全(腹水・消化管出血・肝性脳症)発症率,肝臓 関連死亡率が SVR 群(120 例)では非 SVR 群より低率であった(p=0.025,<0.001,0.007)9) .一 方,欧州とカナダでの研究(479 例)では SVR 群(142 例)では非 SVR 群に比べ,累積肝発癌率に は差がなかったが(p=0.192) ,肝不全発症および肝臓関連死亡率は低率であった(p=0.024,p= 0.001)10) .Camma らのメタアナリシスでは IFN 治療により肝発癌リスクの減少を認めるものの その効果は低いとしている 11) .異なった結果の背景には,治療内容,観察期間,症例数の違い があると考えられる. PEG-IFN+リバビリン併用療法で SVR の得られなかった C 型肝硬変に 3.5 年にわたり半量の PEG-IFN を投与した群と無治療群を平均 7 年間観察した大規模臨床試験(HALT-C 試験)では, 治療群で有意に肝発癌が抑制された 12) .しかし,同様に PEG-IFN+リバビリン併用療法で SVR の得られなかった C 型肝硬変を対象として,PEG-IFNα-2b を最長 5 年間追加投与した群とコン トロール群の 2 群間で比較すると累積肝発癌率に有意差がなかったとする報告もある 13) . — 49 — 3.治療 文献 1) Nishiguchi S, Shiomi S, Nakatani S, et al. Prevention of hepatocellular carcinoma in patients with chronic active hepatitis C and cirrhosis. Lancet 2001; 357 (9251): 196-197(ランダム) 2) Fattovich G, Giustina G, Degos F, et al. Effectiveness of interferon alfa on incidence of hepatocellular carcinoma and decompensation in cirrhosis type C. European Concerted Action on Viral Hepatitis (EUROHEP). J Hepatol 1997; 27: 201-205(コホート) 3) Yoshida H, Shiratori Y, Moriyama M, et al. Interferon therapy reduces the risk for hepatocellular carcinoma: national surveillance program of cirrhotic and noncirrhotic patients with chronic hepatitis C in Japan. IHIT Study Group. Inhibition of Hepatocarcinogenesis by Interferon Therapy. Ann Intern Med 1999; 131: 174-181(コホート) 4) Hung CH, Lee CM, Lu SN, et al. Long-term effect of interferon alpha-2b plus ribavirin therapy on incidence of hepatocellular carcinoma in patients with hepatitis C virus-related cirrhosis. J Viral Hepat 2006; 13: 409-414(コホート) 5) Velosa J, Serejo F, Marinho R, et al. Eradication of hepatitis C virus reduces the risk of hepatocellular carcinoma in patients with compensated cirrhosis. Dig Dis Sci 2011; 56: 1853-1861(コホート) 6) Floreani A, Baldo V, Rizzotto ER, et al. Pegylated interferon alpha-2b plus ribavirin for naive patients with HCV-related cirrhosis. J Clin Gastroenterol 2008; 42: 734-737(コホート) 7) Testino G, Ansaldi F, Andorno E, et al. Interferon therapy does not prevent hepatocellular carcinoma in HCV compensated cirrhosis. Hepatogastroenterology 2002; 49: 1636-1638(コホート) 8) Valla DC, Chevallier M, Marcellin P, et al. Treatment of hepatitis C virus-related cirrhosis: a randomized, controlled trial of interferon alfa-2b versus no treatment. Hepatology 1999; 29: 1870-1875(ランダム) 9) Bruno S, Stroffolini T, Colombo M, et al. Sustained virological response to interferon-alpha is associated with improved outcome in HCV-related cirrhosis: a retrospective study. Hepatology 2007; 45: 579-587(コ ホート) 10) Veldt BJ, Heathcote EJ, Wedemeyer H, et al. Sustained virologic response and clinical outcomes in patients with chronic hepatitis C and advanced fibrosis. Ann Intern Med 2007; 147: 677-684(コホート) 11) Camma C, Giunta M, Andreone P, et al. Interferon and prevention of hepatocellular carcinoma in viral cirrhosis: an evidence-based approach. J Hepatol 2001; 34: 593-602(メタ) 12) Lok AS, Everhart JE, Wright EC, et al. Maintenance peginterferon therapy and other factors associated with hepatocellular carcinoma in patients with advanced hepatitis C. Gastroenterology 2011; 140: 840-849 (ランダム) 13) Bruix J, Poynard T, Colombo M, et al. Maintenance therapy with peginterferon alfa-2b does not prevent hepatocellular carcinoma in cirrhotic patients with chronic hepatitis C. Gastroenterology 2011; 140: 19901999(ランダム) — 50 — 3.治療 ― ❷抗ウイルス療法 Clinical Question 3-15 初回インターフェロン(IFN)療法が無効であった C 型肝硬変 に対し,ペグインターフェロン(PEG-IFN),リバビリン併用 療法は有効か? CQ 3-15 初回インターフェロン(IFN)療法が無効であった C 型肝硬変に対し, ペグインターフェロン(PEG-IFN) ,リバビリン併用療法は有効か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 初回インターフェロン(IFN)治療無効例に対するペグインターフェ ロン(PEG-IFN)とリバビリンの併用治療の SVR 率は 9〜10%と 低率であり,生命予後,発癌抑制,肝硬変の非代償性への移行抑制 には有効性が認められていないことから,行わないよう提案する. 2 (100%) C 解説 C 型肝硬変に対するペグインターフェロン(PEG-IFN)とリバビリンの併用治療で,初回治療 例と前回無効例の効果を比較した RCT はないが,コホート研究のサブ解析で両者の成績を比較 すると,SVR 率はインターフェロン(IFN)治療歴とは関係がなく,また,副作用による中止率 も前治療の有無に関係がないとする報告がある一方で 1, 2) ,前治療無効例では再燃例や初回治療例 より SVR が低いとする報告もあり 3) ,結論は一定していない.これらの研究は解析対象症例数 が少ない. 初回 IFN 治療が無効であった C 型肝硬変に対する少量長期 PEG-IFN とリバビリン併用療法 の RCT によると,SVR 例では血清トランスアミナーゼ値や組織学的な壊死炎症反応に改善がみ られたものの,生命予後,発癌抑制,非代償性肝硬変への進展抑制には有効性が認められなかっ た 4) . 文献 1) Di Marco V, Almasio PL, Ferraro D, et al. Peg-interferon alone or combined with ribavirin in HCV cirrhosis with portal hypertension: a randomized controlled trial. J Hepatol 2007; 47: 484-491(ランダム) 2) Syed E, Rahbin N, Weiland O, et al. Pegylated interferon and ribavirin combination therapy for chronic hepatitis C virus infection in patients with Child-Pugh Class A liver cirrhosis. Scand J Gastroenterol 2008; 43: 1378-1386(コホート) 3) Giannini EG, Basso M, Savarino V, et al. Predictive value of on-treatment response during full-dose antiviral therapy of patients with hepatitis C virus cirrhosis and portal hypertension. J Intern Med 2009; 266: 537-546(コホート) 4) Di Bisceglie AM, Shiffman ML, Everson GT, et al. Prolonged therapy of advanced chronic hepatitis C with low-dose peginterferon. N Engl J Med 2008; 359: 2429-2441(ランダム) — 51 — 3.治療 ― ❸肝庇護療法など Clinical Question 3-16 抗ウイルス療法以外にウイルス性肝硬変の肝線維化を抑制す る治療法はあるか? CQ 3-16 抗ウイルス療法以外にウイルス性肝硬変の肝線維化を抑制する治療法 はあるか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 有効性が確認されている治療法はない. なし C 解説 ウイルス性慢性肝炎から肝硬変への進展を予防する効果が期待されるエビデンスを持った肝 庇護薬はなく,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬 (ARB)の投与あるいは除鉄療法が,ウイルス性肝硬変においても,線維化進展を抑制するとの エビデンスはない.また,コルヒチンが肝硬変の線維化を改善するとのエビデンスはない.た だし,ウルソデオキシコール酸(UDCA)は C 型肝硬変において慢性肝炎と同等に ALT,AST 値 を低下させる可能性がある.したがって,確立された肝硬変の線維化抑制治療がない状況下で は,これらの治療により ALT 値が下がる場合は,その治療を継続することを提案する. ウイルス性肝硬変患者のみを対象に,UDCA の線維化抑制作用を組織学的に検討した論文は ない.Child-Pugh 分類 A の肝硬変患者 19 例,HBV 陽性 5 例,HCV 陽性 45 例を含む 56 例の 慢性肝疾患患者で,UDCA を 1 年間投与する RCT では,投与群と非投与群で肝線維化の組織 学的スコアに差がなかった 1) .しかし,観察期間が短いことから,線維化抑制効果を否定するに は不十分である.一方,肝炎活動性に対しては,C 型肝硬変 16 例に UDCA 600 mg/日を投与し, 6 ヵ月後および 1 年後ともに有意に ALT,AST 値が低下したのに対して,未治療の 13 例では, 6 ヵ月後および 1 年後ともに有意に ALT,AST 値が上昇したとの報告がある 2) . 強力ネオミノファーゲンシー(SNMC)のウイルス性肝硬変における線維化抑制作用を組織学 的に検討した論文はない.一方,慢性肝炎を対象として SNMC 治療群 178 例,対照群 100 例の 間で 13 年間の経過を観察したところ,肝硬変移行率に有意差があったという総説の記述がある が,研究方法などの詳細は不明である.また,肝硬変に対する庇護作用について検討した文献 はない. ACE 阻害薬または ARB のウイルス性肝硬変における線維化抑制作用を組織学的に検討した 論文はない.高度の線維化を伴う C 型慢性肝炎において,ACE 阻害薬/ARB を投与した 66 例 と他の降圧薬を投与した 126 例との間に,1.5 年または 3.5 年で Ishak fibrosis score が 2 ポイン ト以上進行した症例の割合に差はなかった 3) . — 52 — ③肝庇護療法など 除鉄療法のウイルス性肝硬変における線維化抑制作用を組織学的に検討した論文はない.C 型慢性肝炎患者では,除鉄療法の施行群と未施行群で治療の前後に肝生検を行い,staging score の増加が施行群に比べ未施行群で有意に認められたとの報告がある 4) . Child C 肝硬変を除く種々の原因の肝線維化例を対象として,コルヒチン投与群(少なくとも 12 ヵ月間投与)と非投与群の間で RCT が行われたが,両群とも 12 ヵ月で組織像は変わらなかっ たという 5) .また,肝硬変を含む肝線維化を示す種々の原因の慢性肝疾患患者での RCT を分析 したメタアナリシスでは,コルヒチンによる組織学的な肝線維化改善を認めた報告はなかった 6) . 一方で,線維化の指標として P-Ⅲ-P を用いた検討では,種々の原因による慢性肝疾患患者にお いて 4 年間コルヒチンを投与した 37 例で対照群に比較し P-Ⅲ-P が有意に減少したとの報告が . ある 7) 文献 1) Bellentani S, Podda M, Tiribelli C, et al. Ursodiol in the long-term treatment of chronic hepatitis: a doubleblind multicenter clinical trial. J Hepatol 1993; 19: 459-464(ランダム) 2) Lirussi F, Beccarello A, Bortolato L, et al. Long-term treatment of chronic hepatitis C with ursodeoxycholic acid: influence of HCV genotypes and severity of liver disease. Liver 1999; 19: 381-388(ランダム) 3) Abu Dayyeh BK, Yang M, Dienstag JL, et al. The effects of angiotensin blocking agents on the progression of liver fibrosis in the HALT-C Trial cohort. Dig Dis Sci 2011; 56: 564-568(コホート) 4) Yano M, Hayashi H, Wakusawa S, et al. Long term effects of phlebotomy on biochemical and histological parameters of chronic hepatitis C. Am J Gastroenterol 2002; 97: 133-137(ケースコントロール) 5) Nikolaidis N, Kountouras J, Giouleme O, et al. Colchicine treatment of liver fibrosis. Hepatogastroenterology 2006; 53: 281-285(ランダム) 6) Rambaldi A, Gluud C. Colchicine for alcoholic and non-alcoholic liver fibrosis or cirrhosis. Liver 2001; 21: 129-136(メタ) 7) Muntoni S, Rojkind M, Muntoni S. Colchicine reduces procollagen III and increases pseudocholinesterase in chronic liver disease. World J Gastroenterol 2010; 16: 2889-2894(ランダム) — 53 — 3.治療 ― ❹非ウイルス性肝硬変の治療 Clinical Question 3-17 アルコール性肝硬変では禁酒により線維化進展が阻止され, 予後が改善するか? CQ 3-17 アルコール性肝硬変では禁酒により線維化進展が阻止され,予後が改 善するか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 長期間の禁酒はアルコール性肝硬変の予後を改善するので禁酒を推 奨する. 1 (100%) A 解説 禁酒が線維化の改善に寄与するかについては,肝硬変に限定して組織改善を検討した論文が 少ないため不明である.日本の研究報告の多くは線維化マーカーの経過観察であり,禁酒によ り血清線維化マーカーの低下が観察されているが 1, 2) ,肝組織が改善したのかは不明である.ま た,腹腔鏡所見にて有意な改善を認めた 7 例の報告があるものの,肝組織像の経過を追った報 告は少なく,偽小葉形態の変化にとどまっている 3) .101 例の常習飲酒家において平均観察期間 39 ヵ月で 2 回以上の生検を行った研究では,肝硬変が 4 例しか含まれておらず,線維化の改善 は認められなかった 4〜6) .5 年以上のペア生検による研究はなく,現状,禁酒によるアルコール 性肝硬変の線維化改善効果は不明である. 禁酒による予後の改善効果に関して,比較的大規模な前向き試験は 1960〜1980 年代の報告に 多い 7〜 13), (Gastroenterology 1981; 80: 1405-1409 a),Gut 1974; 15: 52-58 b),Gastroenterology 1972; 63: 1026-1035 c) ,Am J Gastroenterol 1971; 56: 515-525 d) ,Am J Med 1968; 44: 406-420 e) [検 索期間外文献] ) .日本の報告では 104 例の肝硬変の観察研究があり 10) ,生命予後に大量飲酒継 続と高齢が有意に相関していた.移植後の再飲酒による予後に関しても禁酒の効果は高い 11) . 日本の 1990 年代の報告では,断酒群で肝細胞癌発生頻度が高いとの報告があるが 10, 12, 13) ,最近の 報告はなく,発癌リスクと禁酒の関係については明らかではない.断酒により生命予後が延長 したことが発癌率上昇の原因と推定されている. 日本以外の報告では,ノルウェー(10 年以上の経過観察)14) ,パリ(5 年の経過観察)15) ,西フラ ンス(Child-Pugh C の 4 年間の経過観察)16) ,スペイン 17) ,英国(10 年程の経過観察)18) ,いずれ の報告でも禁酒が有意に生存率を上げると報告している.スリランカでは,プログラムに参加 した 188 例の大酒家で,6 週間の断酒後退院し,その後 3 年間までの観察研究で,断酒群・節 酒継続群の死亡率 2.7%に対して,115 例の飲酒継続群では自殺,交通事故など肝疾患以外のア ルコール関連死亡を含め 13.9%であった 19) .しかし,比較的短期間の観察(19 ヵ月)では,禁酒 自体の効果は認められていない 20) . — 54 — ④非ウイルス性肝硬変の治療 文献 1) Urashima S, Tsutsumi M, Shimanaka K, et al. Histochemical study of hyaluronate in alcoholic liver disease. Alcohol Clin Exp Res 1999; 23: 56S-60S(ケースシリーズ) 2) 浦島左千夫,堤 幹弘,上嶋康洋,ほか.アルコール性肝障害における肝線維化の可逆性の検討.肝類洞 壁細胞研究の進歩 1997; 9: 54-58(ケースシリーズ) 3) 大竹寛雄.腹腔鏡からみたアルコール性肝障害から肝硬変への進展.消化器内視鏡 1990; 2: 877-887(ケー スシリーズ) 4) 一戸 彰.アルコール長期飲用者の肝生検追跡.日本消化器病学会雑誌 1983; 80: 2547-2555(ケースシリーズ) 5) 小松眞史,戸堀文雄,八木沢仁,ほか.組織像および腹腔鏡像の推移からみたアルコール性肝障害の進展. 肝臓 1986; 27: 576-584(ケースシリーズ) 6) 石田慎二.アルコール性肝障害の肝組織像の推移―断酒・長期観察例について.肝臓 1990; 31: 402-411 (ケースシリーズ) 7) Merkel C, Marchesini G, Fabbri A, et al. The course of galactose elimination capacity in patients with alcoholic cirrhosis: possible use as a surrogate marker for death. Hepatology 1996; 24: 820-823(ケースシリーズ) 8) Teli MR, Day CP, Burt AD, et al. Determinants of progression to cirrhosis or fibrosis in pure alcoholic fatty liver. Lancet 1995; 346: 987-990(コホート) 9) Kobayashi M, Watanabe A, Nakatsukasa H, et al. Effect of continued drinking on prognosis of alcoholic liver cirrhosis. Acta Med Okayama 1983; 37: 525-527(ケースシリーズ) 10) 加藤活大,西村大作,佐野 博,ほか.アルコール性肝硬変の臨床経過と予後. 最新医学 1990; 45: 24132419(ケースシリーズ) 11) Platz KP, Mueller AR, Spree E, Schumacher G, Nussler NC, Rayes N, Glanemann M, et al. Liver transplantation for alcoholic cirrhosis. Transpl Int 2000; 13 (Suppl 1): S127-S130 12) 加藤活大,西村大作,佐野 博,ほか.アルコール性肝障害の長期予後. 日本消化器病学会雑誌 1990; 87: 1829-1836(ケースシリーズ) 13) 西内明子,進士義剛. アルコール性肝疾患患者の禁酒減酒による肝細胞癌発生の促進. 癌と化学療法 1990; 17: 1-6(ケースシリーズ) 14) Bell H, Jahnsen J, Kittang E, Raknerud N, Sandvik L. Long-term prognosis of patients with alcoholic liver cirrhosis: a 15-year follow-up study of 100 Norwegian patients admitted to one unit. Scand J Gastroenterol 2004; 39: 858-863(ケースシリーズ) 15) Pessione F, Ramond MJ, Peters L, Pham BN, Batel P, Rueff B, Valla DC. Five-year survival predictive factors in patients with excessive alcohol intake and cirrhosis. Effect of alcoholic hepatitis, smoking and abstinence. Liver Int 2003; 23: 45-53(ケースシリーズ) 16) Veldt BJ, Laine F, Guillygomarc’h A, Lauvin L, Boudjema K, Messner M, Brissot P, et al. Indication of liver transplantation in severe alcoholic liver cirrhosis: quantitative evaluation and optimal timing. J Hepatol 2002; 36: 93-98(ケースシリーズ) 17) Alvarez MA, Cirera I, Sola R, Bargallo A, Morillas RM, Planas R. Long-term clinical course of decompensated alcoholic cirrhosis: a prospective study of 165 patients. J Clin Gastroenterol 2011; 45: 906-911(ケースシリーズ) 18) Verrill C, Markham H, Templeton A, Carr NJ, Sheron N. Alcohol-related cirrhosis: early abstinence is a key factor in prognosis, even in the most severe cases. Addiction 2009; 104: 768-774(ケースシリーズ) 19) De Silva HJ, Ellawala NS. Influence of temperance on short-term mortality among alcohol-dependent men in Sri Lanka. Alcohol Alcohol 1994; 29: 199-201(ケースシリーズ) 20) Kalaitzakis E, Wallskog J, Bjornsson E. Abstinence in patients with alcoholic liver cirrhosis: A follow-up study. Hepatol Res 2008; 38: 869-876(ケースシリーズ) 【検索期間外文献】 a) Borowsky SA, Strome S, Lott E. Continued heavy drinking and survival in alcoholic cirrhotics. Gastroenterology 1981; 80: 1405-1409(コホート) b) Brunt PW, Kew MC, Scheuer PJ, et al. Studies in alcoholic liver disease in Britain: I. Clinical and pathological patterns related to natural history. Gut 1974; 15: 52-58(コホート) c) Galambos JT. Natural history of alcoholic hepatitis. 3. Histological changes. Gastroenterology 1972; 63: 1026-1035(コホート) d) Alexander JF, Lischner MW, Galambos JT. Natural history of alcoholic hepatitis. II. The long-term prognosis. Am J Gastroenterol 1971; 56: 515-525 e) Powell WJ Jr, Klatskin G. Duration of survival in patients with Laennec’s cirrhosis. Influence of alcohol withdrawal, and possible effects of recent changes in general management of the disease. Am J Med 1968; 44: 406-420(コホート) — 55 — 3.治療 ― ❹非ウイルス性肝硬変の治療 Clinical Question 3-18 自己免疫性肝炎(AIH)による肝硬変に対して副腎皮質ステロ イドを投与すると線維化の改善,予後の改善が得られるか? CQ 3-18 自己免疫性肝炎(AIH)による肝硬変に対して副腎皮質ステロイドを投 与すると線維化の改善,予後の改善が得られるか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 自己免疫性肝炎(AIH)による肝硬変に対する副腎皮質ステロイド 治療は,反応性があれば線維化の改善が得られ,予後改善が見込ま れるため,投与することを提案する. 2 (100%) B ● ただし,非活動性の肝硬変には効果は不確実で,副腎皮質ステロイ ドの投与を行わないことを提案する. 2 (100%) B 解説 自己免疫性肝炎(AIH)による肝硬変に対して副腎皮質ステロイド(CS)を投与しても,反応性 ,短期間では改善がみられなくても 2 年以上 がよくないと線維化が進行する例が認められるが 1) の観察では,線維化の改善が認められる 1〜6) .Mohamadnejad らは,cyclosporin A(CyA)を用 いた 7 例の肝硬変で線維化スコア(6 段階)が 0〜1 減少したと報告している 4) .Malekzadeh ら は,7 例の肝硬変に CS,CyA を用いて(7 年間) ,5 例で線維化の改善を認めた 5) .小児の AIH に よる肝硬変では 1/13 例で線維化の改善が認められた 7) .スウェーデンの報告では,14 例の肝硬 変で 9 例に線維化改善が認められ,線維化スコアが全体で 3.2(2.5〜4.0)から 2.2(0〜3.6)に改善 した 8) .また,1985 年に肝硬変であった症例が 14 年後のウェッジ生検で正常肝になっていた一 例報告がある 9) . 肝硬変では,非肝硬変に比べてステロイド治療反応性が悪いとされるが 10) ,31 例の観察で完 全寛解 54.8%(非代償性肝硬変 4 例含む) ,不完全寛解 35.5%(非代償性肝硬変 7 例含む)との報 告 11)がある.日本における平均観察期間 8 年の研究では,21 例の肝硬変で死亡例は 4 例(19%) であった 12) .また,中央値 70.5 ヵ月の観察では,治療により肝硬変 7 例のうち 5 例は ChildPugh score の増加はみられなかった 13) .128 例の AIH(エントリー時 37 例が肝硬変)の観察では, 全体の 10 年生存率は 93%で,一般人口の生存率 94%と同等であり,AIH の予後は悪くない. また,エントリー時の肝硬変と慢性肝炎の 10 年生存率はそれぞれ 89%と 90%であり両者に差 はなかった 14) .このうち 37 例の肝硬変では 29 例(78%)で寛解を得ており,治療失敗例は 5 例 (14%)で,肝硬変でも治療に十分反応しているといえる.食道静脈瘤出血の既往や明らかな腹 水のある患者でも良好な反応があることから 5, 6) ,疾患活動性の高い例は非代償期でも治療を控え るべきでない 2) .一方,血清 ALT 値が正常に近く,組織学的に炎症所見の乏しい非活動性肝硬 — 56 — ④非ウイルス性肝硬変の治療 変では,ステロイドの効果は不確実で,副作用のリスクを考慮すべきとの指摘がある 3) . 180 例の AIH(34 例の肝硬変)を平均 128.2 ヵ月の観察期間で検討した日本の研究では,6 例 に肝細胞癌(3.3%)が発生したが,そのうち肝硬変から 5/34 例(14.7%)の頻度で発生を認めて いる 15) .治療開始時にすでに肝硬変である場合は,発癌の危険を考えなくてはならない.しか し,10 年観察した米国の報告 14)では 1 例も肝細胞癌の発生は認められていないので,日本の特 殊な事情があるのかもしれない. 文献 1) Czaja AJ, Carpenter HA. Progressive fibrosis during corticosteroid therapy of autoimmune hepatitis. Hepatology 2004; 39: 1631-1638(ケースシリーズ) 2) Ishibashi H, Komori A, Shimoda S, et al. Guidelines for therapy of autoimmune liver disease. Semin Liver Dis 2007; 27: 214-226(ガイドライン) 3) Krawitt EL. Autoimmune hepatitis. N Engl J Med 2006; 354: 54-66 4) Mohamadnejad M, Malekzadeh R, Nasseri-Moghaddam S, et al. Impact of immunosuppressive treatment on liver fibrosis in autoimmune hepatitis. Dig Dis Sci 2005; 50: 547-551(ケースシリーズ) 5) Malekzadeh R, Mohamadnejad M, Nasseri-Moghaddam S, et al. Reversibility of cirrhosis in autoimmune hepatitis. Am J Med 2004; 117: 125-129(ケースシリーズ) 6) Dufour JF, DeLellis R, Kaplan MM. Reversibility of hepatic fibrosis in autoimmune hepatitis. Ann Intern Med 1997; 127: 981-985(ケースシリーズ) 7) Maggiore G, Bernard O, Hadchouel M, et al. Treatment of autoimmune chronic active hepatitis in childhood. J Pediatr 1984; 104: 839-844(ケースシリーズ) 8) Schvarcz R, Glaumann H, Weiland O. Survival and histological resolution of fibrosis in patients with autoimmune chronic active hepatitis. J Hepatol 1993; 18: 15-23(ケースシリーズ) 9) Cotler SJ, Jakate S, Jensen DM. Resolution of cirrhosis in autoimmune hepatitis with corticosteroid therapy. J Clin Gastroenterol 2001; 32: 428-430(ケースシリーズ) 10) Gleeson D, Heneghan MA; British Society of G. British Society of Gastroenterology (BSG) guidelines for management of autoimmune hepatitis. Gut 2011; 60: 1611-1629(ガイドライン) 11) Fallatah HI, Akbar HO, Qari YA. Autoimmune hepatitis: single-center experience of clinical presentation, response to treatment and prognosis in Saudi Arabia. Saudi J Gastroenterol 2010; 16: 95-99(ケースシリー ズ) 12) Migita K, Watanabe Y, Jiuchi Y, et al. Evaluation of risk factors for the development of cirrhosis in autoimmune hepatitis: Japanese NHO-AIH prospective study. J Gastroenterol 2011; 46 (Suppl 1): 56-62(ケースシ リーズ) 13) Miyake Y, Iwasaki Y, Terada R, et al. Persistent normalization of serum alanine aminotransferase levels improves the prognosis of type 1 autoimmune hepatitis. J Hepatol 2005; 43: 951-957(ケースシリーズ) 14) Roberts SK, Therneau TM, Czaja AJ. Prognosis of histological cirrhosis in type 1 autoimmune hepatitis. Gastroenterology 1996; 110: 848-857(コホート) 15) Hino-Arinaga T, Ide T, Kuromatsu R, et al. Risk factors for hepatocellular carcinoma in Japanese patients with autoimmune hepatitis type 1. J Gastroenterol 2012; 47: 569-576(ケースシリーズ) — 57 — 3.治療 ― ❹非ウイルス性肝硬変の治療 Clinical Question 3-19 原発性胆汁性肝硬変(PBC)による肝硬変に対するウルソデオ キシコール酸(UDCA)あるいは副腎皮質ステロイド投与は線 維化の改善,予後改善に寄与するか? CQ 3-19 原発性胆汁性肝硬変(PBC)による肝硬変に対するウルソデオキシ コール酸(UDCA)あるいは副腎皮質ステロイド投与は線維化の改善, 予後改善に寄与するか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 原発性胆汁性肝硬変(PBC)による肝硬変には予後改善が期待でき るのでウルソデオキシコール酸(UDCA)を投与することを推奨す る. 1 (100%) A ● 副腎皮質ステロイドは有害事象の発生が多いことから投与しないよ う提案する. 2 (100%) A 解説 コクランライブラリーのメタアナリシス 1), ( Cochrane Database Syst Rev 2012; (12): CD000551 [検索期間外文献] )では,ウルソデオキシコール酸(UDCA)は原発性胆汁性肝硬変 a) (PBC)の生存率改善につながらないとしているが,2 年以上の観察で 100 例以上の報告に限っ てメタアナリシスすると,移植数,死亡率は有意に改善されているため 2) ,生化学データの改善 などを合わせ,また,UDCA の安全性を考慮すると 3) ,PBC には UDCA の投与が勧められる. AASLD のガイドラインでも治療薬として推奨されている 4) .ただし,PBC による肝硬変 Stage 4 に限った統計データはなく,PBC による肝硬変に対する UDCA の効果は依然不明である. 288 例に UDCA を投与し,平均 9.1 年の観察を行った研究では,Stage が高ければ死亡率も高 いが,UDCA 投与患者死亡の独立危険因子は組織学的進行度ではなく,食道静脈瘤出血, UDCA への反応性(OR 3.935)であることが報告されている 5) .すなわち肝硬変でも UDCA への 反応性が良ければ予後改善が期待できる.292 例のコホート研究では,UDCA への反応性が 32% で認められたとしているが 6) ,Stage 3〜4 の割合は,UDCA への反応性のよい群で 34%,反応性の 悪い群で 64%を占めており,このコホートでは Stage の高い群で死亡率が高かった.2000 年前 半までの研究では,コホートにより UDCA により予後が改善するという報告と 7〜10) ,改善しな いという報告 11〜13)に分かれ,メタアナリシスの多くでも生命予後の改善はないとしている 14〜17) . コクランライブラリーの解析では,前出の 2 論文を含め一貫して生命予後の改善はないとして いる 1, 17, a) .また,Stage の低い症例では改善がみられるが,Stage が高いと改善がないとする報告 がある 18, 19) . 肝細胞癌発生の危険因子を検討した報告では,肝硬変の有無とは関係なしに UDCA への反応 — 58 — ④非ウイルス性肝硬変の治療 性が有意な因子であったとしている 20) .375 例(40%が組織像進行例)の PBC で 9.7 年の観察で は,組織像が軽度の例は UDCA 投与の有無で生存率に差はなかったが,進行例では UDCA へ の反応性で生存率に有意差が認められている 21) .近年では同様の報告は多く 22〜24) ,UDCA に反 応すれば予後改善が期待できると考えられる.UDCA を投与された肝硬変患者 3 例を観察した 論文では,10 年間隔で 2 回肝生検して F4 から F3 に改善していた 23) .線維化の改善が認められ ,比較的古い報告では線維化の改善はないとしている 27, 28) . るとする報告に対し 25, 26) UDCA への併用薬としては,ブデソニド 29〜31) ,メトトレキサート(MTX)32)に UDCA 不応例 に対する改善効果が期待されているが,日本での保険適用はない. PBC に対する副腎皮質ステロイドに関しては,少人数(19 vs. 17)の 3 年間の RCT があり, ALP や蛋白量,抗ミトコンドリア抗体(AMA)の抗体価,組織の進行などに改善が認められた が,死亡率の改善はなく,骨塩量の有意な低下もみられなかったが,感染症,糖尿病,潰瘍な どの肝以外の有害合併症が有意に高率に発生しており,推奨できる治療とは考えられない 33) . 文献 1) Gong Y, Huang ZB, Christensen E, et al. Ursodeoxycholic acid for primary biliary cirrhosis. Cochrane Database Syst Rev 2008; (3): CD000551(メタ) 2) Shi J, Wu C, Lin Y, et al. Long-term effects of mid-dose ursodeoxycholic acid in primary biliary cirrhosis: a meta-analysis of randomized controlled trials. Am J Gastroenterol 2006; 101: 1529-1538(メタ) 3) 戸田剛太郎,石橋大海,大西三朗,ほか.原発性胆汁性肝硬変に対するウルソデオキシコール酸長期使用 と臨床経過―ウルソ-PBC 特別調査研究会.肝臓 2011; 52: 584-601(ケースシリーズ) 4) Heathcote EJ. Management of primary biliary cirrhosis. The American Association for the Study of Liver Diseases practice guidelines. Hepatology 2000; 31: 1005-1013(ガイドライン) 5) Floreani A, Caroli D, Variola A, et al. A 35-year follow-up of a large cohort of patients with primary biliary cirrhosis seen at a single centre. Liver Int 2011; 31: 361-368(ケースシリーズ) 6) Corpechot C, Abenavoli L, Rabahi N, et al. Biochemical response to ursodeoxycholic acid and long-term prognosis in primary biliary cirrhosis. Hepatology 2008; 48: 871-877(ケースシリーズ) 7) Bateson MC, Gedling P. Ursodeoxycholic acid therapy for primary biliary cirrhosis: a 10-year British single-centre population-based audit of efficacy and survival. Postgrad Med J 1998; 74: 482-485(ケ ー ス シ リーズ) 8) Corpechot C, Carrat F, Bahr A, et al. The effect of ursodeoxycholic acid therapy on the natural course of primary biliary cirrhosis. Gastroenterology 2005; 128: 297-303(ケースシリーズ) 9) Pares A, Caballeria L, Rodes J. Excellent long-term survival in patients with primary biliary cirrhosis and biochemical response to ursodeoxycholic Acid. Gastroenterology 2006; 130: 715-720(ケースシリーズ) 10) Pares A, Caballeria L, Rodes J, et al. Long-term effects of ursodeoxycholic acid in primary biliary cirrhosis: results of a double-blind controlled multicentric trial. UDCA-Cooperative Group from the Spanish Association for the Study of the Liver. J Hepatol 2000; 32: 561-566(ランダム) 11) Chan CW, Gunsar F, Feudjo M, et al. Long-term ursodeoxycholic acid therapy for primary biliary cirrhosis: a follow-up to 12 years. Aliment Pharmacol Ther 2005; 21: 217-226(ケースシリーズ) 12) Combes B, Luketic VA, Peters MG, et al. Prolonged follow-up of patients in the U.S. multicenter trial of ursodeoxycholic acid for primary biliary cirrhosis. Am J Gastroenterol 2004; 99: 264-268(コホート) 13) Papatheodoridis GV, Hadziyannis ES, Deutsch M, et al. Ursodeoxycholic acid for primary biliary cirrhosis: final results of a 12-year, prospective, randomized, controlled trial. Am J Gastroenterol 2002; 97: 2063-2070 (ランダム) 14) Gong Y, Huang Z, Christensen E, et al. Ursodeoxycholic acid for patients with primary biliary cirrhosis: an updated systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials using Bayesian approach as sensitivity analyses. Am J Gastroenterol 2007; 102: 1799-1807(メタ) 15) Goulis J, Leandro G, Burroughs AK. Randomised controlled trials of ursodeoxycholic-acid therapy for primary biliary cirrhosis: a meta-analysis. Lancet 1999; 354: 1053-1060(ランダム) — 59 — 3.治療 16) Simko V, Michael S, Prego V. Ursodeoxycholic therapy in chronic liver disease: a meta-analysis in primary biliary cirrhosis and in chronic hepatitis. Am J Gastroenterol 1994; 89: 392-398(メタ) 17) Gluud C, Christensen E. Ursodeoxycholic acid for primary biliary cirrhosis. Cochrane Database Syst Rev 2002; (1): CD000551(メタ) 18) Paumgartner G. Ursodeoxycholic acid for primary biliary cirrhosis: treat early to slow progression. J Hepatol 2003; 39: 112-114(ケースシリーズ) 19) Poupon RE, Lindor KD, Pares A, et al. Combined analysis of the effect of treatment with ursodeoxycholic acid on histologic progression in primary biliary cirrhosis. J Hepatol 2003; 39: 12-16(ケースシリーズ) 20) Kuiper EM, Hansen BE, Adang RP, et al. Relatively high risk for hepatocellular carcinoma in patients with primary biliary cirrhosis not responding to ursodeoxycholic acid. Eur J Gastroenterol Hepatol 2010; 22: 1495-1502(ケースシリーズ) 21) Kuiper EM, Hansen BE, de Vries RA, et al. Improved prognosis of patients with primary biliary cirrhosis that have a biochemical response to ursodeoxycholic acid. Gastroenterology 2009; 136: 1281-1287(ケース シリーズ) 22) Azemoto N, Kumagi T, Abe M, et al. Biochemical response to ursodeoxycholic acid predicts long-term outcome in Japanese patients with primary biliary cirrhosis. Hepatol Res 2011; 41: 310-317(ケースシリー ズ) 23) Kumagi T, Guindi M, Fischer SE, et al. Baseline ductopenia and treatment response predict long-term histological progression in primary biliary cirrhosis. Am J Gastroenterol 2010; 105: 2186-2194(ケースシリー ズ) 24) Jones DE, Al-Rifai A, Frith J, et al. The independent effects of fatigue and UDCA therapy on mortality in primary biliary cirrhosis: results of a 9 year follow-up. J Hepatol 2010; 53: 911-917(ケースシリーズ) 25) Corpechot C, Carrat F, Bonnand AM, et al. The effect of ursodeoxycholic acid therapy on liver fibrosis progression in primary biliary cirrhosis. Hepatology 2000; 32: 1196-1199(ケースシリーズ) 26) Neuman MG, Cameron RG, Haber JA, et al. An electron microscopic and morphometric study of ursodeoxycholic effect in primary biliary cirrhosis. Liver 2002; 22: 235-244(ケースシリーズ) 27) Degott C, Zafrani ES, Callard P, et al. Histopathological study of primary biliary cirrhosis and the effect of ursodeoxycholic acid treatment on histology progression. Hepatology 1999; 29: 1007-1012(コホート) 28) Matsuzaki Y, Doy M, Tanaka N, et al. Biochemical and histological changes after more than four years of treatment of ursodeoxycholic acid in primary biliary cirrhosis. J Clin Gastroenterol 1994; 18: 36-41(コホー ト) 29) Rabahi N, Chretien Y, Gaouar F, et al. Triple therapy with ursodeoxycholic acid, budesonide and mycophenolate mofetil in patients with features of severe primary biliary cirrhosis not responding to ursodeoxycholic acid alone. Gastroenterol Clin Biol 2010; 34: 283-287(ケースシリーズ) 30) Rautiainen H, Karkkainen P, Karvonen AL, et al. Budesonide combined with UDCA to improve liver histology in primary biliary cirrhosis: a three-year randomized trial. Hepatology 2005; 41: 747-752(ランダム) 31) Leuschner M, Maier KP, Schlichting J, et al. Oral budesonide and ursodeoxycholic acid for treatment of primary biliary cirrhosis: results of a prospective double-blind trial. Gastroenterology 1999; 117: 918-925 (非ランダム) 32) Kaplan MM, Bonder A, Ruthazer R, et al. Methotrexate in patients with primary biliary cirrhosis who respond incompletely to treatment with ursodeoxycholic acid. Dig Dis Sci 2010; 55: 3207-3217(ケースシ リーズ) 33) Mitchison HC, Palmer JM, Bassendine MF, et al. A controlled trial of prednisolone treatment in primary biliary cirrhosis. Three-year results. J Hepatol 1992; 15: 336-344(ケースコントロール) 【検索期間外文献】 a) Rudic JS, Poropat G, Krstic MN, et al. Ursodeoxycholic acid for primary biliary cirrhosis. Cochrane Database Syst Rev 2012; (12): CD000551(メタ) — 60 — 3.治療 ― ❹非ウイルス性肝硬変の治療 Clinical Question 3-20 原発性硬化性胆管炎(PSC)による肝硬変に対するウルソデオ キシコール酸(UDCA)あるいは副腎皮質ステロイド投与は予 後を改善するか? CQ 3-20 原発性硬化性胆管炎(PSC)による肝硬変に対するウルソデオキシ コール酸(UDCA)あるいは副腎皮質ステロイド投与は予後を改善す るか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 原発性硬化性胆管炎(PSC)による肝硬変への副腎皮質ステロイド 投与は,PSC の予後を改善せず,投与しないことを推奨する. 1 (100%) A ● ウルソデオキシコール酸(UDCA)の投与に関しては,効果が定 まっていないことを理解したうえで,個々の症例で投与を考慮する ことを提案する. 2 (100%) A 解説 コクランライブラリー(2010 年)によるメタアナリシスでは,副腎皮質ステロイド(CS)では, 副作用だけが強く残り,胆管病変の改善が認められず,原発性硬化性胆管炎(PSC)患者に対す る有意な有用性はない 1) . 150 例を対象としたウルソデオキシコール酸(UDCA)28〜30 mg/kg/日とプラセボの RCT で は,5 年後に肝生検を施行しており,組織像を含め,ALP,AST,総ビリルビンなどにも有意な 改善は認められなかった.死亡率,移植率には差はなく,逆に UDCA 投与群で Mayo risk score の悪化,食道静脈瘤発生率の上昇がみられ有用ではなかった 2) .すなわち生命予後が改善すると いうエビデンスはない. UDCA 投与により ALT,ALP など生化学データの改善を認めるとする RCT 3, 4)に対し,有意 差はないとする RCT 5)があるが,前者の症例数が数十例であるのに対し,後者は 219 例であり, 検査値を含め大きな改善効果は期待できない.4 年間の長期に大量 UDCA(25〜30 mg/kg/日) を投与したパイロットスタディ(n=30)では,生存率の改善を報告しているが,PSC 患者以外 の生存率は計算式で求めて比較しており,エビデンスに乏しく評価できない 6) .したがって,海 外の診療ガイドラインなどでは PSC に対しての UDCA 投与を勧奨していない 7, 8) .しかしなが ら,日本では UDCA を投与して経過観察することが多く,生化学データの改善を指摘する報告 もあることから,投与に関しては個々の症例により決定することを提案することとした.今後, 大規模な RCT の施行が期待される. ブデソニド単独投与 9)のほか,UDCA 不応例へのアザチオプリン,プレドニゾロン併用投与 10) やブデソニド,プレドニゾロンの追加投与 11)などが試みられているが,パイロットスタディや — 61 — 3.治療 エビデンスの低い報告で,その臨床効果も明らかではない. 結論的には,総説を含め,UDCA の効果は最大でも生化学データや症状の軽減にとどまり, 生存率や移植率の改善はなく,CS 投与に関しては,改善効果がない上に骨粗鬆症などの副作用 の発現が大きな問題であり 12, 13) ,投与しないことを推奨する. 文献 1) Giljaca V, Poropat G, Stimac D, et al. Glucocorticosteroids for primary sclerosing cholangitis. Cochrane Database Syst Rev 2010; (1): CD004036(メタ) 2) Lindor KD, Kowdley KV, Luketic VA, et al. High-dose ursodeoxycholic acid for the treatment of primary sclerosing cholangitis. Hepatology 2009; 50: 808-814(ランダム) 3) Stiehl A, Walker S, Stiehl L, et al. Effect of ursodeoxycholic acid on liver and bile duct disease in primary sclerosing cholangitis: a 3-year pilot study with a placebo-controlled study period. J Hepatol 1994; 20: 5764(ランダム) 4) Mitchell SA, Bansi DS, Hunt N, et al. A preliminary trial of high-dose ursodeoxycholic acid in primary sclerosing cholangitis. Gastroenterology 2001; 121: 900-907(コホート) 5) Olsson R, Boberg KM, de Muckadell OS, et al. High-dose ursodeoxycholic acid in primary sclerosing cholangitis: a 5-year multicenter, randomized, controlled study. Gastroenterology 2005; 129: 1464-1472(ラ ンダム) 6) Harnois DM, Angulo P, Jorgensen RA, et al. High-dose ursodeoxycholic acid as a therapy for patients with primary sclerosing cholangitis. Am J Gastroenterol 2001; 96: 1558-1562(ケースシリーズ) 7) Roger Chapman R, Fevery J, Kalloo A, et al. Diagnosis and management of primary sclerosing cholangitis. Hepatology 2010; 51: 660-678(ガイドライン) 8) European Association for the Study of the Liver EASL Clinical Practice Guidelines: management of cholestatic liver diseases. J Hepatol 2009; 51: 237-267(ガイドライン) 9) Angulo P, Batts KP, Jorgensen RA, et al. Oral budesonide in the treatment of primary sclerosing cholangitis. Am J Gastroenterol 2000; 95: 2333-2337(ケースシリーズ) 10) Schramm C, Schirmacher P, Helmreich-Becker I, et al. Combined therapy with azathioprine, prednisolone, and ursodiol in patients with primary sclerosing cholangitis: a case series. Ann Intern Med 1999; 131: 943946(ケースシリーズ) 11) van Hoogstraten HJ, Vleggaar FP, Boland GJ, et al. Budesonide or prednisone in combination with ursodeoxycholic acid in primary sclerosing cholangitis: a randomized double-blind pilot study. BelgianDutch PSC Study Group. Am J Gastroenterol 2000; 95: 2015-2022(ランダム) 12) Hay JE. Liver transplantation for primary biliary cirrhosis and primary sclerosing cholangitis: does medical treatment alter timing and selection? Liver Transpl Surg 1998; 4: S9-S17(ケースシリーズ) 13) Wiesner RH. Current concepts in primary sclerosing cholangitis. Mayo Clin Proc 1994; 69: 969-982 — 62 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❶消化管出血,門脈圧亢進症 Clinical Question 4-1 門脈圧亢進症の診断に腹部 CT(MDCT),腹部 MRI,MRA は有用か? CQ 4-1 門脈圧亢進症の診断に腹部 CT(MDCT),腹部 MRI,MRA は有用 か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● MDCT angiography は門脈圧亢進症における側副血行路や胃穹 窿部静脈瘤の診断に有用である.さらにガドリニウム造影 MRI や 3D-MRA は門脈圧亢進症患者の門脈血行動態を非侵襲的に解析す るうえで有用であり,施行することを推奨する. 1 (100%) A 解説 食道・胃静脈瘤の治療方針を決定するためには患者の病態と門脈血行動態の把握が重要であ る.門脈圧亢進症の診断や門脈血行動態の把握には,腹部超音波検査(US,超音波パルスドプ ラ法)や EUS(通常 EUS,細径超音波プローブ,3D-EUS,内視鏡的超音波カラードプラ)の他 に,各種画像検査(MDCT angiography・3D-CT,造影 MRI・MR angiography)が有用である. EUS は食道・胃壁内外の血行路の把握に有用であり,MD-CT や MRA は食道・胃静脈瘤の供血 路やその他の側副血行路といった大局的な門脈血行動態の把握に有用である. MDCT angiography は,門脈圧亢進症における側副血行路や胃穹窿部静脈瘤の診断に有用で ある 1, 2) .MRA は,門脈圧亢進症患者の門脈血行動態を非侵襲的に解析するうえで極めて有用で ある 3) .さらにガドリニウム造影 MRI 4)や 3D-MRA 5)も門脈圧亢進症患者の門脈血行動態を非侵 襲的に解析するうえで極めて有用である.これら 3D-CT 2)や 3D-MRA 5)は非侵襲的検査であり, 腹部血管造影検査にとって代われる有用な検査法である. なお,ガドリニウム造影剤による腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis:NSF)の 報告が 2007 年以前にあり,日本医学放射線学会・日本腎臓学会による「腎障害患者におけるガ ドリニウム造影剤使用に関するガイドライン」6)では,造影 MRI 検査にあたっての使用指針を 示しており, 「緊急検査などでやむを得ない場合を除き,腎機能[糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR) ]を評価すべきであると述べている.GFR が 60 mL/min/1.73m2 以上の場合に は, 「ガドリニウム造影剤使用後の NSF 発症の危険性が高いとする根拠は乏しい」ものの,GFR が 30 mL/min/1.73m2 以上,60 mL/min/1.73m2 未満の場合には, 「実際に NSF 発症の報告もあ り,ガドリニウム造影 MRI 検査による利益と危険性とを慎重に検討したうえで,その使用の可 否を決定する必要がある」とされている.非透析例で GFR が 30 mL/min/1.73m2 未満の慢性腎 不全例ではガドリニウム造影剤は使用せず,他の検査法で代替すべきである.ただし,ガドリ — 64 — ①消化管出血,門脈圧亢進症 ニウムによる NSF の発症率は,Gadodiamide(Omniscan)に最も報告が多く,腎障害患者ある いは透析患者に投与された場合の発症確率はおおむね 5%以下と推定される.次いで,Gadopentetate dimeglumine( Magnevist)に 報告が 多く ,Gadoteridol(ProHance),Gadoterate( Magnescope)による NSF 発症の報告はほとんどない. 文献 1) Willmann JK, Weishaupt D, Bohm T, et al. Detection of submucosal gastric fundal varices with multidetector row CT angiography. Gut 2003; 52: 886-892(非ランダム) 2) Matsumoto A, Kitamoto M, Imamura M, et al. Three-dimensional portography using multislice helical CT is clinically useful for management of gastric fundic varices. AJR Am J Roentgenol 2001; 176: 899-905(コ ホート) 3) Liu H, Cao H, Wu ZY. Magnetic resonance angiography in the management of patients with portal hypertension. Hepatobiliary Pancreat Dis Int 2005; 4: 239-243(非ランダム) 4) Soyer P, Dufresne AC, Somveille E, et al. MR imaging of the liver: effect of portal hypertension on hepatic parenchymal enhancement using a gadolinium chelate. J Magn Reson Imaging 1997; 7: 142-146(ケースシ リーズ) 5) Matsuo M, Kanematsu M, Kim T, et al. Esophageal varices: diagnosis with gadolinium-enhanced MR imaging of the liver for patients with chronic liver damage. AJR Am J Roentgenol 2003; 180: 461-466(ケー スシリーズ) 6) NSF とガドリニウム造影剤使用に関する合同委員会(日本医学放射線学会・日本腎臓学会) .腎障害患者に おけるガドリニウム造影剤使用に関するガイドライン(第 2 版:2009 年 9 月 2 日改訂) .日本腎臓学会誌 2009; 51: 839-842(ガイドライン) — 65 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❶消化管出血,門脈圧亢進症 Clinical Question 4-2 発赤所見(RC sign)は食道・胃静脈瘤出血の危険因子である か? CQ 4-2 発赤所見(RC sign)は食道・胃静脈瘤出血の危険因子であるか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 発赤所見(RC sign)は食道・胃静脈瘤出血の危険因子である.未 出血例であっても積極的に治療することを推奨する. 1 (100%) A 解説 肝硬変患者において致命的となる消化管出血は,主に食道・胃静脈瘤出血であり,まれに門 脈圧亢進症性胃腸症による出血がある.食道・胃静脈瘤の治療法には,保存的療法,内視鏡的 治療,interventional radiology(IVR)を応用した治療,そして外科手術がある.治療適応となる 食道静脈瘤は,出血例,出血既往例,予防例として,F2 以上または F 因子に関係なく発赤所見 (red color sign:RC sign)陽性例であり,胃静脈瘤では,上記以外に,静脈瘤上にびらん,潰瘍 を認めるもの,短期間に急速な増大傾向にあるもの,食道静脈瘤治療後に胃静脈瘤が残存した, あるいは新生したものである 1) .RC sign の存在,胃底部静脈瘤の存在,最大の静脈瘤のサイズ, そしてアルコール性肝硬変が,静脈瘤出血と有意に相関したが,死亡とは相関しないという報 告がある 2, 3) . 文献 1) 小原勝敏,豊永 純,國分茂博.食道・胃静脈瘤内視鏡治療ガイドライン.日本消化器内視鏡学会(監修) , 消化器内視鏡ガイドライン,第 3 版,医学書院,東京,2006: p215-233(ガイドライン) 2) Merkel C, Zoli M, Siringo S, et al. Prognostic indicators of risk for first variceal bleeding in cirrhosis: a multicenter study in 711 patients to validate and improve the North Italian Endoscopic Club (NIEC) index. Am J Gastroenterol 2000; 95: 2915-2920(コホート) 3) Kleber G, Sauerbruch T, Ansari H, et al. Prediction of variceal hemorrhage in cirrhosis: a prospective follow-up study. Gastroenterology 1991; 100: 1332-1337(コホート) — 66 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❶消化管出血,門脈圧亢進症 Clinical Question 4-3 βブロッカーは食道・胃静脈瘤の出血防止に有用か? CQ 4-3 βブロッカーは食道・胃静脈瘤の出血防止に有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● βブロッカー単独投与は,食道静脈瘤の一次出血予防に有用であ る.食道静脈瘤出血例の二次出血予防には内視鏡的治療・βブロッ カー併用が有用であり,再出血率や死亡率を低下させるので,両者 の併用を提案する.ただし,胃静脈瘤に対する有効性のエビデンス はない. 2 (100%) A 解説 保存的治療法には,薬物療法とバルーンタンポナーデ法(Sengstarken-Blakemore tube,止血 用胃バルーン)がある.門脈圧は門脈血液量と肝内血管抵抗により規定されるが,門脈本幹から 肝,下大静脈,右心房に至るいずれかの部位で血管抵抗が増すと門脈圧が上昇する.肝静脈圧 較差(HVPG)が 12 mmHg を超えると食道静脈瘤出血がみられるが,これを 12 mmHg 以下に, あるいは基礎値の 80%未満に低下させると,静脈瘤再出血を長期間防止できる.従来,肝硬変 では肝内血管抵抗が高値に維持されていると考えられていたが,単離灌流肝実験において血管 拡張薬が肝内血管抵抗を 30%低下させることが判明し 1) ,薬物治療に根拠を与えることになっ た.肝内血管抵抗は局所の血管収縮因子(エンドセリン,アンジオテンシンⅡ,交感神経系,ロ イコトリエン)と拡張因子(NO,CO)のインバランスにより増加し,門脈血液量はグルカゴン, 門脈局所のプロスタサイクリン,NO,CO などにより増加すると考えられている. 非選択的 β ブロッカーは β 1 受容体阻害による心拍出量の減少と β 2 受容体阻害,α 交感神経作 用による腹部内臓血管の収縮,門脈血流量の減少により門脈圧低下をもたらす.亜硝酸薬であ る isosorbide-5-mononitrate は肝内で NO を増加させて,肝内血管抵抗を下げる.40 mg の用量 で肝静脈圧較差,奇静脈血流量,静脈瘤内圧を減少させ 2) ,食後の門脈圧増加を抑制するが,血 圧への影響は少ない 3) .β ブロッカー(プロプラノロール,ナドロールなど)は,肝予備能良好な 食道静脈瘤の初回出血や再出血の予防に安全で効果的な薬剤であり 4〜13) ,内視鏡的静脈瘤結紮術 (EVL)と同等の効果があったとの報告 14〜17)や内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)と同等であったと の報告 18)がある.一方では,EVL には劣っていたとの報告 19〜21)やプロプラノロールは大きな 食道静脈瘤の出血予防には推奨できないとした報告 22)もある.また,EIS にプロプラノロール を併用しても再出血率の低下や 2 年累積生存率の上昇は期待できないとの報告 23)や EIS はプロ プラノロールよりも再出血率が低いが,合併症が多く死亡率に差がないとの報告 23, 24) ,Child B, C の肝硬変合併食道静脈瘤の再出血防止として,プロプラノロールよりも EIS が推奨できそう — 67 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 だとした報告 24, 25)などがある. しかし,1992 年のメタアナリシス 23)では,出血リスクのある静脈瘤の患者には β ブロッカー が第一選択であると結論づけている.また,2005 年のメタアナリシス 25)では,出血ハイリスク の食道静脈瘤患者(予防例)において,EVL は β ブロッカーに比し,有意に出血や重篤な合併症 を抑えたが,死亡率に有意差はなかったと報告されている.また,肝硬変に伴う大きな食道静 脈瘤があり,出血既往のない患者を無作為に 2 群に分け,EVL 単独群とプロプラノロール単独 群で検証した RCT 26)では,食道静脈瘤に対する一次出血予防効果と安全性に有意差がなく, EVL はプロプラノロールに反応がよくない患者に対する一次出血予防の選択肢となりうると報 告されている.同様に,肝硬変患者のうちハイリスク食道静脈瘤があり,出血既往のない患者 を無作為に 2 群に分け,一次出血予防効果を EVL 単独群とプロプラノロール単独群で比較した RCT 27)では,EVL 単独群もプロプラノロール単独群も,ハイリスク食道静脈瘤のある患者の一 次出血予防効果に有意差がなく,EVL 単独群には重篤な有害事象が観察されたことから,静脈 瘤の一次出血予防にはプロプラノロールを第一選択とすべきであると述べている. 最近のメタアナリスをみると,2011 年の Li ら 28)の報告では,EVL,β ブロッカーのいずれも 食道静脈瘤の初回出血予防の第一選択治療法として有用であり,さらに β ブロッカーとイソソル ビドの併用は再出血予防のための最もよい治療法と述べている.また,2012 年 Funakoshi ら 29) は,EVL 群と β ブロッカー群の初回出血率,死亡率,出血関連死亡や合併症について検討した 結果,初回出血率は EVL 群で有意に低く,合併症の頻度は β ブロッカー群で高かったとしてい る.食道静脈瘤の一次予防において,EVL 群は β ブロッカー群より優れているようにみえるが, 死亡率では差がなく,食道静脈瘤の第一選択の治療法として β ブロッカーより EVL を推奨する 根拠は不十分であると述べている.一方,食道静脈瘤出血例の二次出血予防として,内視鏡的 治療+β ブロッカー併用群が,内視鏡的治療単独群より優れているかを検証(メタアナリシス) した結果,併用群は単独群に比べて,再出血率を有意に低下させ,死亡率も併用群において有 意に低い結果であり,併用療法は食道静脈瘤出血例の第一選択の二次出血予防法として推奨す ると述べている 30) .また,食道静脈瘤出血例の再出血防止効果を内視鏡的治療+薬物療法(併 用群)と内視鏡的治療単独群,薬物療法単独群で検証したメタアナリシス 31)では,薬物療法群 は内視鏡的治療群と比較して,再出血率や死亡率を低下させる効果は同等であったが,内視鏡 的治療+薬物療法(併用群)は内視鏡的治療群よりさらに有用であった.もうひとつのメタアナ リシス 32)では,肝硬変合併食道静脈瘤出血に対する併用療法群(EIS or EVL+β ブロッカー) ,内 視鏡的治療単独群,β ブロッカー単独群の再出血率や死亡率を検討した結果,併用療法群は内 視鏡的治療単独群や β ブロッカー単独群に比べ再出血率を低下させたが,死亡率に差はなかっ たと述べている.なお,胃静脈瘤に対する β ブロッカーの有用性に関するエビデンスはない. また,食道静脈瘤に対する β ブロッツカー投与の保険適用はない. 文献 1) Laleman W, Landeghem L, Wilmer A, et al. Portal hypertension: from pathophysiology to clinical practice. Liver Int 2005; 25: 1079-1090(メタ) 2) Escorsell A, Feu F, Bordas JM, et al. Effects of isosorbide-5-mononitrate on variceal pressure and systemic and splanchnic haemodynamics in patients with cirrhosis. J Hepatol 1996; 24: 423-429(ランダム) — 68 — ①消化管出血,門脈圧亢進症 3) Bellis L, Berzigotti A, Abraldes JG, et al. Low doses of isosorbide mononitrate attenuate the postprandial increase in portal pressure in patients with cirrhosis. Hepatology 2003; 37: 378-384(ランダム) 4) 金沢秀典,渡 淳,松坂 聡.食道静脈瘤破裂肝硬変における内視鏡的硬化療法と propranolol の併用に よる再出血の予防 controlled study.日本消化器病学会雑誌 1991; 88: 1341-1348(ケースシリーズ) 5) Lo GH, Lai KH, Cheng JS, et al. Endoscopic variceal ligation plus nadolol and sucralfate compared with ligation alone for the prevention of variceal rebleeding: a prospective, randomized trial. Hepatology 2000; 32: 461-465(ランダム) 6) Merkel C, Marin R, Angeli P, et al. A placebo-controlled clinical trial of nadolol in the prophylaxis of growth of small esophageal varices in cirrhosis. Gastroenterology 2004; 127: 476-484(ランダム) 7) Sarin SK, Wadhawan M, Agarwal SR, et al. Endoscopic variceal ligation plus propranolol versus endoscopic variceal ligation alone in primary prophylaxis of variceal bleeding. Am J Gastroenterol 2005; 100: 797-804(ランダム) 8) Vinel JP, Lamouliatte H, Cales P, et al. Propranolol reduces the rebleeding rate during endoscopic sclerotherapy before variceal obliteration. Gastroenterology 1992; 102: 1760-1763(ランダム) 9) Garden OJ, Mills PR, Birnie GG, et al. Propranolol in the prevention of recurrent variceal hemorrhage in cirrhotic patients: a controlled trial. Gastroenterology 1990; 98: 185-190(ランダム) 10) Jensen LS, Krarup N. Propranolol in prevention of rebleeding from oesophageal varices during the course of endoscopic sclerotherapy. Scand J Gastroenterol 1989; 24: 339-345(ランダム) 11) Sheen IS, Chen TY, Liaw YF. Randomized controlled study of propranolol for prevention of recurrent esophageal varices bleeding in patients with cirrhosis. Liver 1989; 9: 1-5(ランダム) 12) Lebrec D, Poynard T, Capron JP, et al. Nadolol for prophylaxis of gastrointestinal bleeding in patients with cirrhosis: a randomized trial. J Hepatol 1988; 7: 118-125(ランダム) 13) Ideo G, Bellati G, Fesce E, et al. Nadolol can prevent the first gastrointestinal bleeding in cirrhotics: a prospective, randomized study. Hepatology 1988; 8: 6-9(ランダム) 14) Lui HF, Stanley AJ, Forrest EH, et al. Primary prophylaxis of variceal hemorrhage: a randomized controlled trial comparing band ligation, propranolol, and isosorbide mononitrate. Gastroenterology 2002; 123: 735-744(ランダム) 15) Schepke M, Kleber G, Nurnberg D, et al. Ligation versus propranolol for the primary prophylaxis of variceal bleeding in cirrhosis. Hepatology 2004; 40: 65-72(ランダム) 16) Thuluvath PJ, Maheshwari A, Jagannath S, et al. A randomized controlled trial of beta-blockers versus endoscopic band ligation for primary prophylaxis: a large sample size is required to show a difference in bleeding rates. Dig Dis Sci 2005; 50: 407-410(ランダム) 17) Lay CS, Tsai YT, Lee FY, et al. Endoscopic variceal ligation versus propranolol in prophylaxis of first variceal bleeding in patients with cirrhosis. J Gastroenterol Hepatol 2006; 21: 413-419(ランダム) 18) Westaby D, Polson RJ, Gimson AE, et al. A controlled trial of oral propranolol compared with injection sclerotherapy for the long-term management of variceal bleeding. Hepatology 1990; 11: 353-359(ランダ ム) 19) Jutabha R, Jensen DM, Martin P, et al. Randomized study comparing banding and propranolol to prevent initial variceal hemorrhage in cirrhotics with high-risk esophageal varices. Gastroenterology 2005; 128: 870-881(ランダム) 20) Psilopoulos D, Galanis P, Goulas S, et al. Endoscopic variceal ligation vs. propranolol for prevention of first variceal bleeding: a randomized controlled trial. Eur J Gastroenterol Hepatol 2005; 17: 1111-1117(ラ ンダム) 21) Sarin SK, Lamba GS, Kumar M, et al. Comparison of endoscopic ligation and propranolol for the primary prevention of variceal bleeding. N Engl J Med 1999; 340: 988-993(ランダム) 22) Cales P, Oberti F, Payen JL, et al. Lack of effect of propranolol in the prevention of large oesophageal varices in patients with cirrhosis: a randomized trial. French-Speaking Club for the Study of Portal Hypertension. Eur J Gastroenterol Hepatol 1999; 11: 741-745(ランダム) 23) Pagliaro L, D’Amico G, Sorensen TI, et al. Prevention of first bleeding in cirrhosis: a meta-analysis of randomized trials of nonsurgical treatment. Ann Intern Med 1992; 117: 59-70(メタ) 24) Teres J, Bosch J, Bordas JM, et al. Propranolol versus sclerotherapy in preventing variceal rebleeding: a randomized controlled trial. Gastroenterology 1993; 105: 1508-1514(ランダム) 25) Gournay J, Masliah C, Martin T, et al. Isosorbide mononitrate and propranolol compared with propranolol alone for the prevention of variceal rebleeding. Hepatology 2000; 31: 1239-1245(ランダム) 26) Drastich P, Lata J, Petrtyl J, et al. Endoscopic variceal band ligation compared with propranolol for prophylaxis of first variceal bleeding. Ann Hepatol 2011; 10: 142-149(ランダム) 27) Perez-Ayuso RM, Valderrama S, Espinoza M, et al. Endoscopic band ligation versus propranolol for the — 69 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 28) 29) 30) 31) 32) primary prophylaxis of variceal bleeding in cirrhotic patients with high risk esophageal varices. Ann Hepatol 2010; 9: 15-22(ランダム) Li L, Yu C, Li Y. Endoscopic band ligation versus pharmacological therapy for variceal bleeding in cirrhosis: a meta-analysis. Can J Gastroenterol 2011; 25: 147-155(メタ) Funakoshi N, Duny Y, Valats JC, et al. Meta-analysis: beta-blockers versus banding ligation for primary prophylaxis of esophageal variceal bleeding. Ann Hepatol 2012; 11: 369-383(メタ) Funakoshi N, Segalas-Largey F, Duny Y, et al. Benefit of combination beta-blocker and endoscopic treatment to prevent variceal rebleeding: a meta-analysis. World J Gastroenterol 2010; 16: 5982-5992(メタ) Ravipati M, Katragadda S, Swaminathan PD, et al. Pharmacotherapy plus endoscopic intervention is more effective than pharmacotherapy or endoscopy alone in the secondary prevention of esophageal variceal bleeding: a meta-analysis of randomized, controlled trials. Gastrointest Endosc 2009; 70: 658-664(メタ) Gonzalez R, Zamora J, Gomez-Camarero J, et al. Meta-analysis: Combination endoscopic and drug therapy to prevent variceal rebleeding in cirrhosis. Ann Intern Med 2008; 149: 109-122(メタ) — 70 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❶消化管出血,門脈圧亢進症 Clinical Question 4-4 βブロッカーと一硝酸イソソルビドの併用は静脈瘤出血予防 に有効か? CQ 4-4 βブロッカーと一硝酸イソソルビドの併用は静脈瘤出血予防に有効か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● βブロッカーと一硝酸イソソルビドの併用は,初回出血や再出血の 予防効果を向上させ,再出血防止効果は内視鏡的静脈瘤結紮術 (EVL)と同等か優れているので,両者の併用を提案する. 2 (100%) A 解説 亜硝酸薬である一硝酸イソソルビド(isosorbide-5-mononitrate)は肝内で NO を増加させて, 肝内血管抵抗を下げる.40 mg の用量で肝静脈圧較差,奇静脈血流量,静脈瘤内圧を減少させ 1) , 食後の門脈圧増加を抑制し,血圧への影響は少ない 2) .β ブロッカーに一硝酸イソソルビドを併 用すると,初回出血や再出血の予防効果が向上するという RCT 3, 4)と向上しないとする RCT 5)が ある.また,β ブロッカー・一硝酸イソソルビド併用療法は再出血予防効果が内視鏡的静脈瘤 結紮術(EVL)と同等か優れているという RCT 5〜8)や内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)と比較し初回 出血予防効果に優れているといった RCT 9)が多く,EVL が優れている(ただし生存率に差がな かった)と報告した RCT 10)は 1 つのみであった.また,食道静脈瘤出血例に対する薬物療法単独 (β ブロッカー・一硝酸イソソルビド併用療法)群と薬物療法+EVL 併用群の RCT 11)において, 食道静脈瘤の再出血予防に関しては,薬物療法・EVL 併用群が,薬物療法単独群よりわずかに 成績がよかったが有意差はなく,有害事象と死亡率に関してはほぼ同等であった.食道静脈瘤 出血例に EVL または EIS を施行し,5 日間観察後に患者を無作為に 4 群,すなわち,薬物療法 単独群(プロプラノロール) ,薬物併用群(プロプラノロール+一硝酸イソソルビド) ,EVL 単独 群,EVL+薬物併用群に分け,治療法により再出血率に有意差がでるかどうかを検証した RCT 12) において,食道静脈瘤の再出血予防に関しては,4 群間で有意差はなかったが,再出血率は EVL+薬物併用群で一番低く,薬物療法単独群で最も高かった.また,食道静脈瘤出血既往の ある患者を治療法別に 2 群[EVL+薬物療法(プロプラノロール+一硝酸イソソルビド)併用群と EVL 単独群]に分けて,治療法により再出血率に有意差が出るかどうかを検証した RCT 13)では, EVL 後の静脈瘤再出血率は,EVL に薬物療法(プロプラノロール+一硝酸イソソルビド)を併用 しても,有意に下がらず,むしろ重篤な有害事象を誘発して死亡率が上がったので,EVL 単独 療法だけで十分であると報告されている.なお,食道静脈瘤に対する β ブロッカーと一硝酸イ ソソルビド投与の保険適用はない. — 71 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 文献 1) Escorsell A, Feu F, Bordas JM, et al. Effects of isosorbide-5-mononitrate on variceal pressure and systemic and splanchnic haemodynamics in patients with cirrhosis. J Hepatol 1996; 24: 423-429(ランダム) 2) Bellis L, Berzigotti A, Abraldes JG, et al. Low doses of isosorbide mononitrate attenuate the postprandial increase in portal pressure in patients with cirrhosis. Hepatology 2003; 37: 378-384(ランダム) 3) Merkel C, Marin R, Angeli P, et al. A placebo-controlled clinical trial of nadolol in the prophylaxis of growth of small esophageal varices in cirrhosis. Gastroenterology 2004; 127: 476-484(ランダム) 4) Garcia-Pagan JC, Morillas R, Banares R, et al. Propranolol plus placebo versus propranolol plus isosorbide-5-mononitrate in the prevention of a first variceal bleed: a double-blind RCT. Hepatology 2003; 37: 1260-1266(ランダム) 5) Patch D, Sabin CA, Goulis J, et al. A randomized, controlled trial of medical therapy versus endoscopic ligation for the prevention of variceal rebleeding in patients with cirrhosis. Gastroenterology 2002; 123: 10131019(ランダム) 6) Villanueva C, Minana J, Ortiz J, et al. Endoscopic ligation compared with combined treatment with nadolol and isosorbide mononitrate to prevent recurrent variceal bleeding. N Engl J Med 2001; 345: 647655(ランダム) 7) Wang HM, Lo GH, Chen WC, et al. Comparison of endoscopic variceal ligation and nadolol plus isosorbide-5-mononitrate in the prevention of first variceal bleeding in cirrhotic patients. J Chin Med Assoc 2006; 69: 453-460(ランダム) 8) Villanueva C, Balanzo J, Novella MT, et al. Nadolol plus isosorbide mononitrate compared with sclerotherapy for the prevention of variceal rebleeding. N Engl J Med 1996; 334: 1624-1629(ランダム) 9) Lo GH, Chen WC, Chen MH, et al. Banding ligation versus nadolol and isosorbide mononitrate for the prevention of esophageal variceal rebleeding. Gastroenterology 2002; 123: 728-734(ランダム) 10) D’Amico G, Pietrosi G, Tarantino I, et al. Emergency sclerotherapy versus vasoactive drugs for variceal bleeding in cirrhosis: a Cochrane meta-analysis. Gastroenterology 2003; 124: 1277-1291(ランダム) 11) Lo GH, Chen WC, Chan HH, et al. A randomized, controlled trial of banding ligation plus drug therapy versus drug therapy alone in the prevention of esophageal variceal rebleeding. J Gastroenterol Hepatol 2009; 6: 982-987(ランダム) 12) Ahmad I, Khan AA, Alam A, et al. Propranolol, isosorbide mononitrate and endoscopic band ligation: alone or in varying combinations for the prevention of esophageal variceal rebleeding. J Coll Physicians Surg Pak 2009; 19: 283-286(ランダム) 13) Kumar A, Jha SK, Sharma P, et al. Addition of propranolol and isosorbide mononitrate to endoscopic variceal ligation does not reduce variceal rebleeding incidence. Gastroenterology 2009; 137: 892-901(ラン ダム) — 72 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❶消化管出血,門脈圧亢進症 Clinical Question 4-5 食道静脈瘤出血時に血管作働性薬の投与は有効か? CQ 4-5 食道静脈瘤出血時に血管作働性薬の投与は有効か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 食道静脈瘤出血時に血管作働性薬(バソプレシン,テルリプレシン, ソマトスタチン,オクトレオチド)の投与は有効である.内視鏡的 静脈瘤結紮術(EVL)で止血後に,血管作働性薬併用が効果的であ り,投与することを提案する. 2 (100%) A 解説 バソプレシンは V1 受容体を介して強力な血管収縮作用を示し,静脈瘤出血時の緊急止血に用 いられるが,心筋虚血,不整脈,腸管虚血などの副作用も強い.欧州で繁用されている V1 受容 体アゴニストのテルリプレシンは腹部内臓動脈系を収縮させ,門脈血流量を減少させる. ソマトスタチンとその合成アナログであるオクトレオチド(サンドスタチン®)の門脈圧低下機 序についてはグルカゴンの分泌抑制と血管平滑筋への直接作用が考えられている 1) .オクトレオ チドはプロプラノロールで抑制できない食後の門脈圧上昇を抑制するが 2) ,その作用は一過性で あり,静脈瘤出血後の長期管理には不向きである 3) .また,血漿エンドセリンを増加させて腎血 管抵抗の高い例で腎障害を助長する可能性が指摘されている 4) .一方で胃内に血液が貯留すると グルカゴンが過剰に放出され,テルリプレシンに対する低反応状態を招くが,オクトレオチド でグルカゴンを抑制すると反応性が回復するという実験成績がある 5) . 抗アルドステロン薬スピロノラクトンが単剤あるいはプロプラノロールとの併用で β ブロッ カー不応例の食道静脈瘤圧を低下させ,肝静脈圧較差を低下させることが報告されている.一 方で亜硝酸薬やナドロールにスピロノラクトンを併用しても静脈瘤の初回出血予防に明らかな 上乗せ効果はなかったが,腹水発現は抑制するという報告もある 6) . 食道静脈瘤出血例を対象に血管作働性薬(ソマトスタチン,テルリプレシン,バプレオチド, オクトレオチド)が死亡のリスクを減少できるかを検証したメタアナリシス 7)では,血管作動薬 の使用により,全死因死亡率(原因を問わない死亡率)と輸血必要のリスクは有意に低くなり, 出血コントロールがよりよくできるようになり,入院期間が短縮された.また,種類の異なる 血管作働性薬間での比較研究においては,有効性における差はなかったと報告されている.ま た,食道静脈瘤出血例に対する緊急内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)と血管作働性薬(バソプレシ ン,テルリプレシン,ソマトスタチン,オクトレオチド)の有用性について検証 8)した結果で は,EIS と各種血管作働性薬の比較において,どれも有意な差は認められなかった.一方,有害 — 73 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 事象や重篤な合併症は有意に EIS で多かったと報告している. 食道静脈瘤出血例を無作為に内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)+薬物療法(オクトレオチド)併用 群と薬物療法(オクトレオチド)単独群の 2 群に分けて,止血効果,コストと安全性を比較した RCT 9)では,併用群では単独群よりも,止血成功率は有意に高く,早期再出血率,死亡率と治療 コストは有意に低く,安全性は同等であり,緊急食道静脈瘤出血には,まず EVL を施行すべき であると報告している.また,食道静脈瘤出血既往例を無作為に薬物(テルリプレシン 5 日間) 単独療法群と EVL+薬物(テルリプレシン 2 日間)療法併用群の 2 群に分け早期(48〜120 時間) 再出血に関して効果と安全性を検証した RCT 10)では,併用群は単独群に比べて有意に早期(48〜 120 時間)再出血率と止血失敗率を下げたと報告している. なお,血管作働性薬による静脈瘤出血時の使用において,日本ではいずれの薬剤も保険収載 されていない. 文献 1) Yang JF, Wu XJ, Li JS, et al. Effect of somatostatin versus octreotide on portal haemodynamics in patients with cirrhosis and portal hypertension. Eur J Gastroenterol Hepatol 2005; 17: 53-57(ランダム) 2) Vorobioff JD, Gamen M, Kravetz D, et al. Effects of long-term propranolol and octreotide on postprandial hemodynamics in cirrhosis: a randomized, controlled trial. Gastroenterology 2002; 122: 916-922(ランダ ム) 3) Gonzalez-Abraldes J, Albillos A, Banares R, et al. Randomized comparison of long-term losartan versus propranolol in lowering portal pressure in cirrhosis. Gastroenterology 2001; 121: 382-388(ランダム) 4) Guney Duman D, Tuney D, Bilsel S, et al. Octreotide in liver cirrhosis: a salvage for variceal bleeding can be a gunshot for kidneys. Liver Int 2005; 25: 527-535(ケースシリーズ) 5) Yang YY, Lin HC, Huang YT, et al. Inhibition of glucagon improves splanchnic hyporesponse to terlipressin in cirrhotic rats with blood retention in the gastric lumen. J Hepatol 2005; 42: 652-658 6) Samonakis DN, Triantos CK, Thalheimer U, et al. Management of portal hypertension. Postgrad Med J 2004; 80: 634-641(メタ) 7) Wells M, Chande N, Adams P, et al. Meta-analysis: vasoactive medications for the management of acute variceal bleeds. Aliment Pharmacol Ther 2012; 35: 1267-1278(メタ) 8) D'Amico G, Pagliaro L, Pietrosi G, et al. Emergency sclerotherapy versus vasoactive drugs for bleeding oesophageal varices in cirrhotic patients. Cochrane Database Syst Rev 2010; (3): CD002233(メタ) 9) Liu JS, Liu J. Comparison of emergency endoscopic variceal ligation plus octride or octride alone for acute esophageal variceal bleeding. Chin Med J (Engl) 2009; 122: 3003-3006(ランダム) 10) Lo GH, Chen WC, Wang HM, et al. Low-dose terlipressin plus banding ligation versus low-dose terlipressin alone in the prevention of very early rebleeding of oesophageal varices. Gut 2009; 58: 1275-1280 (ランダム) — 74 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❶消化管出血,門脈圧亢進症 Clinical Question 4-6 βブロッカーは門脈圧亢進症性胃症(PHG)に対して有効な治 療法か? CQ 4-6 βブロッカーは門脈圧亢進症性胃症(PHG)に対して有効な治療法か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● プロプラノロールは門脈圧亢進症性胃症(PHG)に対して有効な治 療法であり,投与することを提案する. 2 (100%) A 解説 β ブロッカーのなかではプロプラノロールが門脈圧亢進症性胃症(PHG)患者の門脈圧を下げ, 増加していた胃血流量を減少させることが証明されている 1) .PHG からの出血既往を持つ肝硬 変患者に対して,プロプラノロールを投与した群では投与しなかった群に比して再出血率が有 意に低く,多変量解析でもプロプラノロールの投与が再出血予防につながることが示唆された. しかし,生存率はプロプラノロール群が高かったが有意差はなかった 2) .また,プロプラノロー ル投与群では,非投与群に比し,内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)後の PHG の発生率が低率であっ た 3) . 進行した肝硬変では無症状の消化性潰瘍の頻度が高く,潰瘍の治癒は遷延し,再発も高率で ある 4) .特に肝静脈圧較差 12 mmHg 以上の門脈圧亢進症例には胃潰瘍が頻発する 5) .C 型肝硬 変では 89%と高率に H. pylori 感染が認められ,これが胃十二指腸潰瘍の原因になっている可能 性もある 6) .また,肝硬変例では胃粘膜内ムチンが減少するとともにエネルギー代謝が障害され ており,これが酸や非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)による胃粘膜傷害につながりうる 7) .PHG では重症化とともに胃粘膜の potential difference が減じており,この結果 NSAIDs による傷害 を受けやすくなっていると考えられる 8) . なお,PHG に対するプロプラノロールの使用は,保険適用外である. 文献 1) Panes J, Bordas JM, Pique JM, et al. Effects of propranolol on gastric mucosal perfusion in cirrhotic patients with portal hypertensive gastropathy. Hepatology 1993; 17: 213-218(ランダム) 2) Perez-Ayuso RM, Pique JM, Bosch J, et al. Propranolol in prevention of recurrent bleeding from severe portal hypertensive gastropathy in cirrhosis. Lancet 1991; 337: 1431-1434(ランダム) 3) Lo GH, Lai KH, Cheng JS, et al. The effects of endoscopic variceal ligation and propranolol on portal hypertensive gastropathy: a prospective, controlled trial. Gastrointest Endosc 2001; 53: 579-584(ランダム) — 75 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 4) Siringo S, Burroughs AK, Bolondi L, et al. Peptic ulcer and its course in cirrhosis: an endoscopic and clinical prospective study. J Hepatol 1995; 22: 633-641(ランダム) 5) Chen LS, Lin HC, Hwang SJ, et al. Prevalence of gastric ulcer in cirrhotic patients and its relation to portal hypertension. J Gastroenterol Hepatol 1996; 11: 59-64(ケースシリーズ) 6) Pellicano R, Leone N, Berrutti M, et al. Helicobacter pylori seroprevalence in hepatitis C virus positive patients with cirrhosis. J Hepatol 2000; 33: 648-650(ケースシリーズ) 7) Kawano S, Tanimura H, Tsuji S, et al. Gastric mucosal energy metabolism and intracellular mucin content changes in patients with liver cirrhosis. J Gastroenterol Hepatol 1996; 11: 380-384(ケースシリーズ) 8) Payen JL, Cales P, Pienkowski P, et al. Weakness of mucosal barrier in portal hypertensive gastropathy of alcoholic cirrhosis: effects of propranolol and enprostil. J Hepatol 1995; 23: 689-696(ランダム) — 76 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❶消化管出血,門脈圧亢進症 Clinical Question 4-7 プロトンポンプ阻害薬(PPI)投与により代償性肝硬変患者の 消化管出血を予防できるか? CQ 4-7 プロトンポンプ阻害薬(PPI)投与により代償性肝硬変患者の消化管出血 を予防できるか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● プロトンポンプ阻害薬(PPI)投与で予防できるというエビデンスは ないが,食道・胃静脈瘤に対する内視鏡的治療期間中に出血性胃炎 や胃潰瘍の合併頻度が高く,その防止策として PPI を投与するこ とを提案する. 2 (100%) C 解説 門脈圧亢進による上部消化管出血をプロトンポンプ阻害薬(PPI)投与で減らすことはできず, 肝硬変患者に現在保険認可されている適応症以外の PPI の投与は推奨できないとの報告がある 1) . 一方では,食道・胃静脈瘤に対する内視鏡的治療期間中に出血性胃炎や胃潰瘍の合併頻度が高 く,その防止策として H2 ブロッカー,または PPI および防御因子増強薬が投与されている 2) . ただし,腹水を伴う非代償性肝硬変患者の場合,PPI の投与によって特発性細菌性腹膜炎(SBP) のリスクが増加するとの報告 3〜6)や PPI 投与と SBP 発症には関連性がないとする報告がある 7) . 文献 1) Garcia-Saenz-de-Sicilia M, Sanchez-Avila F, Chavez-Tapia NC, et al. PPIs are not associated with a lower incidence of portal-hypertension-related bleeding in cirrhosis. World J Gastroenterol 2010; 16: 5869-5873 (ケースシリーズ) 2) 小原勝敏,豊永 純,國分茂博.食道・胃静脈瘤内視鏡治療ガイドライン.消化器内視鏡ガイドライン, 第 3 版,日本消化器内視鏡学会(監修) ,医学書院,東京,2006: p215-233(ガイドライン) 3) Goel GA, Deshpande A, Lopez R, et al. Increased rate of spontaneous bacterial peritonitis among cirrhotic patients receiving pharmacologic acid suppression. Clin Gastroenterol Hepatol 2012; 10: 422-427(ケース シリーズ) 4) Deshpande A, Pasupuleti V, Thota P, et al. Acid-suppressive therapy is associated with spontaneous bacterial peritonitis in cirrhotic patients: a meta-analysis. J Gastroenterol Hepatol 2013; 28: 235-242(メタ) 5) Choi EJ, Lee HJ, Kim KO, et al. Association between acid suppressive therapy and spontaneous bacterial peritonitis in cirrhotic patients with ascites. Scand J Gastroenterol 2011; 46: 616-620(ケースシリーズ) 6) Goel GA, Deshpande A, Lopez R, et al. Increased rate of spontaneous bacterial peritonitis among cirrhotic patients receiving pharmacologic acid suppression. Clin Gastroenterol Hepatol 2012; 10: 422-427(非ラン ダム) 7) Mandorfer M, Bota S, Schwabl P, et al. Proton pump inhibitor intake neither predisposes to spontaneous bacterial peritonitis or other infections nor increases mortality in patients with cirrhosis and ascites. PLoS One 2014; 9: e110503(非ランダム) — 77 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❶消化管出血,門脈圧亢進症 Clinical Question 4-8 食道静脈瘤に対する予防的内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)と内視 鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)では,どちらが再発防止に有用か? CQ 4-8 食道静脈瘤に対する予防的内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)と内視鏡的静 脈瘤硬化療法(EIS)では,どちらが再発防止に有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)は内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)に 比べ再発率,出血率が低く再発防止に有用であり,施行することを 推奨する.ただし,死亡率においては両者で有意差はみられなかっ た. 1 (100%) A 解説 出血性食道静脈瘤を合併した肝硬変患者に対する内視鏡的治療(EIS vs. EVL)後の静脈瘤消再 発率は,14 ヵ月の観察期間(平均)において,両者で有意差が認められなかった 1) .しかし,予 防的治療について検討した報告では,18 ヵ月の観察期間において,再発率は EVL 56%,EIS 16%,出血率は,EVL 20%,EIS 0%であり,EVL は予防的治療には適さない 2) .予防的 EVL 施 行群と無治療群での初回出血率と死亡率に差はみられず,EVL で予後が改善するという明らか なエビデンスはない 3) .しかし,EVL 後のアルゴンプラズマ凝固(APC)による硬化療法の追加 は再発・出血を抑制した 4) .また,食道静脈瘤(非出血例)を合併した肝硬変患者に対する内視 鏡的治療(EIS vs. EVL)では,静脈瘤消失率に差はみられず,治療回数は EVL で少なく(p= 0.0003) ,再発率は EVL 群(31%)が EIS 群(11%)に比して高く(p=0.01) ,死亡率は EIS と EVL で差はみられなかった 5) .出血性食道静脈瘤を合併した肝硬変患者に対する EVL・EIS 併用群と EVL 単独群での検討では,再出血率,死亡率,治療回数には差がみられず,合併症は EVL・EIS 併用群で多かったことから,食道静脈瘤治療において EVL と EIS を併用する意義は少ないとす る報告 6, 7)がある一方で,EVL・EIS 併用療法が治療効果と安全性から推奨される治療法である との報告もある 8) .EVL・EIS[5% ethanolamine oleate(EO)/1% athetoxysklerol(AS)法]併用 群と EVL 単独群では静脈瘤消失率に差はみられなかったが,再発率は EVL・EIS 併用群で有意 に低く,有用な治療法であるとの報告もある 9) .ハイリスク食道静脈瘤を合併した肝硬変患者に おいて,EIS(EO 法)群と EVL・EIS 併用群の間で,静脈瘤消失率や治療回数に差はみられな かった.平均 12.3 ヵ月の観察期間で,静脈瘤再発率は,EVL・EIS 併用群で有意に高く(39.1% と 8.3%,p<0.05) ,再発抑制のためには EIS を繰り返すほうがよい 10) . — 78 — ①消化管出血,門脈圧亢進症 文献 1) Siringo S, Burroughs AK, Bolondi L, et al. Peptic ulcer and its course in cirrhosis: an endoscopic and clinical prospective study. J Hepatol 1995; 22: 633-641(ランダム) 2) Gotoh Y, Iwakiri R, Sakata Y, et al. Evaluation of endoscopic variceal ligation in prophylactic therapy for bleeding of oesophageal varices: a prospective, controlled trial compared with endoscopic injection sclerotherapy. J Gastroenterol Hepatol 1999; 14: 241-244(ランダム) 3) Triantos C, Vlachogiannakos J, Armonis A, et al. Primary prophylaxis of variceal bleeding in cirrhotics unable to take beta-blockers: a randomized trial of ligation. Aliment Pharmacol Ther 2005; 21: 1435-1443 (ランダム) 4) Cipolletta L, Bianco MA, Rotondano G, et al. Argon plasma coagulation prevents variceal recurrence after band ligation of esophageal varices: preliminary results of a prospective randomized trial. Gastrointest Endosc 2002; 56: 467-471(ランダム) 5) Svoboda P, Kantorova I, Ochmann J, et al. A prospective randomized controlled trial of sclerotherapy vs ligation in the prophylactic treatment of high-risk esophageal varices. Surg Endosc 1999; 13: 580-584(ラン ダム) 6) Karsan HA, Morton SC, Shekelle PG, et al. Combination endoscopic band ligation and sclerotherapy compared with endoscopic band ligation alone for the secondary prophylaxis of esophageal variceal hemorrhage: a meta-analysis. Dig Dis Sci 2005; 50: 399-406(メタ) 7) Singh P, Pooran N, Indaram A, et al. Combined ligation and sclerotherapy versus ligation alone for secondary prophylaxis of esophageal variceal bleeding: a meta-analysis. Am J Gastroenterol 2002; 97: 623-629 (メタ) 8) Masumoto H, Toyonaga A, Oho K, et al. Ligation plus low-volume sclerotherapy for high-risk esophageal varices: comparisons with ligation therapy or sclerotherapy alone. J Gastroenterol 1998; 33: 1-5(ランダム) 9) Umehara M, Onda M, Tajiri T, et al. Sclerotherapy plus ligation versus ligation for the treatment of esophageal varices: a prospective randomized study. Gastrointest Endosc 1999; 50: 7-12(ランダム) 10) Iso Y, Kawanaka H, Tomikawa M, et al. Repeated injection sclerotherapy is preferable to combined therapy with variceal ligation to avoid recurrence of esophageal varices: a prospective randomized trial. Hepatogastroenterology 1997; 44: 467-471(ランダム) — 79 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❶消化管出血,門脈圧亢進症 Clinical Question 4-9 胃静脈瘤に対してバルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術(BRTO)は有効か? CQ 4-9 胃静脈瘤に対してバルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術(B-RTO)は 有効か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 胃静脈瘤出血を cyanoacrylate 系薬剤注入法で一次止血後に,バ ルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術(B-RTO)を待機的治療法と して提案する.また,未出血例においても,B-RTO は有用な治療 法として提案する. 2 (100%) C 解説 日本では,胃静脈瘤出血に対して組織接着剤(cyanoacrylate 系薬剤)注入法(CA 法)による内 視鏡的治療が第一選択としてのコンセンサスが得られているが,待機・予防例に対しては,CA 法の他に 1991 年に金川ら 1, 2)により開発されたバルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術(B-RTO) が広く施行されている. Hong らは,胃静脈瘤出血または出血リスクの高い胃静脈瘤(径 5 mm 以上,red spot あり, Child-Pugh B or C の肝硬変)を対象に histoacryl 群と B-RTO 群との比較検討を行った結果 3) , 両群の治療効果は同等であった.しかしながら,histoacryl 群は B-RTO 群に比べ再出血率が有 意に高かった.胃静脈瘤出血を histoacryl で一次止血後,引き続き B-RTO を施行することで効 果的な治療が達成できたと報告している. 胃静脈瘤出血例 110 例に対し CA 法またはバルーンタンポナーデで止血後,A 群 44 例[CA と ethanolamine oleate(EO)による内視鏡的治療群] ,B 群 66 例(初期の止血後に B-RTO を施行し た群)に分けて検討した論文 4)では,胃静脈瘤閉塞に要した治療回数は A 群で 3.8 回に対し,B 群で 2.2 回(p<0.05) ,再出血は A 群で 16 例(36.4%) ,B 群で 2 例(3.0%)にみられた.5 年後 の累積非再出血率は A 群 58.3%,B 群 98.1%であり,5 年後の累積生存率は A 群で 53.8%,B 群で 87.6%であった.以上より,B-RTO は内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)よりも有効性が高く, 再出血率も少なく,胃静脈瘤止血後の第一選択の治療法であると報告している.また,B-RTO 後の再出血率,食道静脈瘤増悪率,長期予後についての検討では 5) ,胃静脈瘤消失率は 96.6% (61/63 例)で,8 年間の累積再出血率は,出血例 14%,予防例 0%,食道静脈瘤増悪率は 22%, 出血死亡 0%であり,肝細胞癌だけが予後規定因子であった.以上より,B-RTO は食道静脈瘤 増悪率が高いにもかかわらず,その優れた効果により予後を改善した.B-RTO は出血例と出血 リスクの高い胃静脈瘤に対して第一選択の治療となりうると報告している. — 80 — ①消化管出血,門脈圧亢進症 B-RTO 施行後の問題点のひとつとして,食道静脈瘤の増悪あるいは出血がある.胃静脈瘤患 者 237 例のうち,出血例で B-RTO を施行した 25 例(B-RTO 群)と出血既往のない 198 例(コン トロール群)の 2 群間での食道静脈瘤出血率を検討(平均観察期間 48 ヵ月)した結果 6) ,B-RTO 群とコントロール群の食道静脈瘤出血率は,1 年,3 年でそれぞれ 10.1% vs. 12.9%,39.3% vs. 38.4%と有意差はないが,5 年,7 年ではそれぞれ 72.2% vs. 48.5%(p=0.02) ,90.7% vs. 50.6% (p<0.01)と有意に B-RTO 群で高い結果であった.以上より,長期経過において B-RTO は併存 した食道静脈瘤の出血率を増加させるので,B-RTO 後は厳重な経過観察と食道静脈瘤出血を防 止すべきであると報告している.また,B-RTO 後の再発率,出血再発率,食道静脈瘤増悪率, そして食道静脈瘤増悪の予測因子について検討(平均観察期間 700 日)の検討 7)では,5 年再発 率は 2.7%,5 年出血率は 1.5%,食道静脈瘤増悪率は 1 年,3 年,5 年でそれぞれ 27%,58%, 66%であった.食道静脈瘤増悪の予測因子として,B-RTO 前の食道静脈瘤の存在が重要であっ た.1 年,3 年,5 年生存率はそれぞれ 93%,76%,54%.生存に関連する予後因子は肝細胞癌 の存在と Child B/C であった.以上より,B-RTO は再発や出血再発の少ない効果的な治療法で あり,増悪した食道静脈瘤の治療が必要とはなるが,胃静脈瘤の標準治療となるだろうと述べ ている.また,胃静脈瘤において B-RTO・部分的脾塞栓術(PSE)同時施行群(1 群)と B-RTO 単 独施行群(2 群) ,PSE 単独施行群(3 群) (コントロール群:血小板減少,脾腫)の 3 群間で安全性 と有用性を比較した論文 8)では,1 群と 2 群の胃静脈瘤消失率や肝性脳症改善率に差は認めず. 手技に要した時間は 2 群間で有意差はなく,1 群では硬化剤の総注入量や食道静脈瘤増悪率が 2 群に比べ有意に低かった.以上より,胃静脈瘤に対する B-RTO・PSE 同時併用療法は安全かつ 効果的な治療法である. B-RTO 施行後の門脈系血行路の血栓形成も問題のひとつである.B-RTO 前後に CT を施行し, major systemic vein と portal vein の血栓形成を検討した 2 論文では,それぞれ,その頻度が 12%9) ,15%10)と報告されている.また,B-RTO 後の腹水出現率を検討した論文 11)では,B-RTO 後 3 ヵ月,6 ヵ月,1 年の出現率がそれぞれ 6.4%,14.3%,22.3%であった.また,施行前に腹 水既往のない群に限った新規腹水出現率は 3 ヵ月 1.8%,6 ヵ月 5.4%,1 年 14.8%であった.多 変量解析では,前アルブミン値 3.0 g/dL 以下,前肝細胞癌合併例,EO 使用量 30 mL 以上,前 へパプラスチン値 50%以下が腹水出現率を高める因子であったと報告している. 日本で 2004 年に行われた B-RTO 施行例の多施設アンケート調査 12)(内容:①第 1 例目の施 行年,②施行総数,③手技の詳細,④適応,⑤B-RTO 施行後の効果判定と追加治療,⑥B-RTO に起因する合併症)では,治療時期別の第一選択の治療法については,緊急例では EIS が 125 施 設(77.6%)と多く,B-RTO は 64 施設(39.8%)であった.待機例および予防例では,B-RTO が 153 施設(95%) ,128 施設(79.5%)と多く,EIS はそれぞれ 50 施設(31.1%) ,28 施設(17.4%) であった.B-RTO 後の追加治療施行は,92 施設(57.1%)で再 B-RTO が 68.5%と最も多く,次 いで EIS が 30.4%であった.以上より,B-RTO の有効性ならびに安全性が示されたと報告して いる.なお,胃静脈瘤に対する B-RTO の保険適用はない. 文献 1) 金川博史,美馬聰昭,香川明一,ほか.バルーン下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)による胃静脈瘤の 1 治 験例.日本消化器病学会雑誌 1991; 88: 1459-1462(ケースシリーズ) — 81 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 2) Kanagawa H, Mima S, Kouyama H, et al. Treatment of gastric fundal varices by balloon-occluded retrograde transvenous obliteration. Gastroenterol Hepatol 1996; 11: 51-58(ケースシリーズ) 3) Hong CH, Kim HJ, Park JH, et al. Treatment of patients with gastric variceal hemorrhage: endoscopic Nbutyl-2-cyanoacrylate injection versus balloon-occluded retrograde transvenous obliteration. J Gastroenterol Hepatol 2009; 24: 372-378(非ランダム) 4) Akahoshi T, Tomikawa M, Kamori M, et al. Impact of balloon-occluded retrograde transvenous obliteration on management of isolated fundal gastric variceal bleeding. Hepatol Res 2012; 42: 385-393(ケースシ リーズ) 5) Akahoshi T, Hashizume M, Tomikawa M, et al. Long-term results of balloon-occluded retrograde transvenous obliteration for gastric variceal bleeding and risky gastric varices: a 10-year experience. J Gastroenterol Hepatol 2008; 23: 1702-1709(ケースシリーズ) 6) Choi YS, Lee JH, Sinn DH, et al. Effect of balloon-occluded retrograde transvenous obliteration on the natural history of coexisting esophageal varices. J Clin Gastroenterol 2008; 42: 974-979(ケースシリーズ) 7) Ninoi T, Nishida N, Kaminou T, et al. Balloon-occluded retrograde transvenous obliteration of gastric varices with gastrorenal shunt: long-term follow-up in 78 patients. AJR Am J Roentgenol 2005; 184: 13401346(ケースシリーズ) 8) Waguri N, Hayashi M, Yokoo T, et al. Simultaneous combined balloon-occluded retrograde transvenous obliteration and partial splenic embolization for portosystemic shunts. J Vasc Interv Radiol 2012; 23: 650657(ケースシリーズ) 9) Yoshimatsu R, Yamagami T, Tanaka O, et al. Development of thrombus in a systemic vein after balloonoccluded retrograde transvenous obliteration of gastric varices. Korean J Radiol 2012; 13: 324-331(ケース シリーズ) 10) Cho SK, Shin SW, Do YS, et al. Development of thrombus in the major systemic and portal veins after balloon-occluded retrograde transvenous obliteration for treating gastric variceal bleeding: its frequency and outcome evaluation with CT. J Vasc Interv Radiol 2008; 19: 529-538(ケースシリーズ) 11) 奥脇裕介,國分茂博,小野弘二,ほか.B-RTO における腹水出現の検討.日本門脈圧亢進症学会雑誌 2004; 10: 105-107(ケースシリーズ) 12) 國分茂博,小野弘二,於保和彦,ほか;日本門脈圧亢進症学会・学術委員会.わが国における胃静脈瘤の 診断と治療(第一報 B-RTO の施行実態に関するアンケート調査) .日本門脈圧亢進症学会雑誌 2004; 10: 72-78(コホート) — 82 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❶消化管出血,門脈圧亢進症 Clinical Question 4-10 原発性胆汁性肝硬変(PBC)に伴う食道・胃静脈瘤は早期に発 現するか? CQ 4-10 原発性胆汁性肝硬変(PBC)に伴う食道・胃静脈瘤は早期に発現する か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 原発性胆汁性肝硬変(PBC)では肝線維化が軽度の段階から食道・ 胃静脈瘤が出現し,出血時には治療抵抗性を示すことが多い. なし C 解説 原発性胆汁性肝硬変(PBC)患者と非 PBC 患者を対象に食道静脈瘤治療(EVL)後の再発率と再 発予知因子を検討 1)した結果,PBC 患者は非 PBC 患者に比べ,EVL 治療後の食道静脈瘤の早 期再発率が高かった.再発予知因子として,プロトロンビン時間延長と PBC 患者の 2 つが食道 静脈瘤の早期再発に及ぼす因子であった. PBC 患者 115 例において食道・胃静脈瘤合併の有無別で臨床症候,臨床像,組織学的進行度, 臨床経過および予後を検討 2)した結果,症候性 PBC(30 例)は無症候性 PBC(85 例)に比べて食 道・胃静脈瘤合併率が有意に高かった.食道・胃静脈瘤合併は,組織学的に進行するほど頻度 は高くなった. 高橋ら 3)は PBC 患者 84 例を対象とし,食道・胃静脈瘤の合併頻度および肝組織,血液検査 成績,静脈瘤治療後の再発について検討した.その結果,食道・胃静脈瘤の合併頻度は 20 例 (23.8%)であった.肝組織は ScheuerⅠ・Ⅱ期 6 例(33.3%) ,Ⅲ・Ⅳ期 12 例(66.7%)でⅠ・Ⅱ期 の軽度線維化例でも食道・胃静脈瘤を発症していた.食道・胃静脈瘤合併群では非合併群に比 べ,女性で脾腫と瘙痒感を伴うことが多く,血小板減少とプロトロンビン時間の延長を認めた. 17 例の静脈瘤治療例のうち 6 例(35.3%)に再発を認めた.PBC では肝線維化が軽度の段階から 静脈瘤を併発することを再認識したと報告している. 須田 4)は PBC 患者 71 例のうち内視鏡施行 35 例について,risky varices 群と no varices 群に 分けて検討した.その結果,PBC 症例では,食道静脈瘤出血時には治療抵抗性を示した.血行 動態上は,通常の肝硬変に比べ門脈圧が高く,側副血行路は傍食道静脈にのみ向かっていると いう特徴があった.肝組織像では,門脈の拡張や門脈域および小葉内に異常血行路を早期より 認めた.また,肝硬変に至らない早期の症例にも risky varices が存在し,ScheuerⅠ期の症例で も食道静脈瘤出血が起こりうることを報告している.PBC において食道静脈瘤出血は,肝不全 とともに主たる死因となった.高度な脾腫を有する症例には全例に risky varices を認めた.ALP 値が 2,000 IU/L 以上の高値を持続した場合は食道静脈瘤の増悪期にある可能性が強く,より慎 — 83 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 重な観察が必要と報告している. 文献 1) Takeshita E, Matsui H, Shibata N, et al. Earlier recurrence of esophageal varices, following therapy, in patients with primary biliary cirrhosis (PBC) compared with non-PBC patients. J Gastroenterol 2004; 39: 1085-1089(ケースシリーズ) 2) 竹下英次,熊木天児,松井秀隆,ほか.原発性胆汁性肝硬変患者の臨床病期決定における食道胃静脈瘤合 併の重要性.医学と薬学 2004; 51: 276-279(ケースシリーズ) 3) 高橋敦史,物江恭子,坂本夏美,ほか.原発性胆汁性肝硬変症における食道・胃静脈瘤の検討.日本門脈 圧亢進症学会雑誌 2011; 17: 43-51(ケースシリーズ) 4) 須田陽子.原発性胆汁性肝硬変における食道静脈瘤の特異性に関する臨床的研究.新潟医学会雑誌 1988; 102: 344-352(ケースシリーズ) — 84 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❶消化管出血,門脈圧亢進症 Clinical Question 4-11 胃静脈瘤に対して cyanoacrylate 系薬剤注入法は有効か? CQ 4-11 胃静脈瘤に対して cyanoacrylate 系薬剤注入法は有効か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 胃静脈瘤出血に対して,cyanoacrylate 系薬剤注入法(CA 法)は 有用であり,施行することを推奨する.CA 法は,βブロッカー投 与よりも効果的であり,さらに内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)より も安全で,再出血率も低く効果的である. 1 (100%) A 解説 cyanoacrylate(CA)を用いた内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)のほうがアルコールを用いた EIS よりも早く静脈瘤を消失させ,出血のコントロールもよく,外科的手術の必要性も少なかった 1) . また,CA を用いた EIS は内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)よりも安全で,再出血率も低く効果的 であった 2) .EVL 群と CA のひとつである histoacryl 群で活動性胃静脈瘤出血のコントロールで は差がないが,治療後の再出血率は histoacryl 群のほうが有意に低かった 3) .また,胃静脈瘤出 血患者に対して,CA を用いた内視鏡的治療群と β ブロッカー投与群での再出血防止効果の検 討では 4) ,CA は β ブロッカー投与群に比べて胃静脈瘤再出血率は低く(15% vs. 55%) ,死亡率 も低い(3% vs. 25%)結果であった(観察期間 26 ヵ月) .以上の結果から,CA は β ブロッカー投与 より効果的であり,胃静脈瘤の再出血防止や生命予後の改善に有用であると報告している.一 方,出血既往のない胃静脈瘤を対象として,histoacryl を用いた内視鏡的治療群(GroupⅠ) ,β ブロッカー投与群(GroupⅡ) ,無治療群(GroupⅢ)の 3 群に分けて,初回出血率と出血危険因 子について検討した結果 5) ,平均 26 ヵ月の経過観察において,各群の初回出血率は,GroupⅠ 群 13%,GroupⅡ群 28%,GroupⅢ群 45%であり,生存率は GroupⅠ群が GroupⅢ群に比べ 有意に高かった(90% vs. 72%) .肝静脈圧較差(HVPG)は GroupⅠ群と GroupⅢ群において経 過観察期間中増加したが,GroupⅡ群では減少した.以上のように,巨大で出血リスクの高い 胃静脈瘤の一次出血予防として,histoacryl を用いる内視鏡的治療は β ブロッカー投与よりも効 果的であった. また,胃底部静脈瘤出血例に対し CA 法を施行した 71 例における治療成績,合併症,長期予 後についての検討 6)では,初回止血奏効率は 95.8%で,55 例(77.5%)は全追跡期間(17 年間) にわたって静脈瘤出血がみられなかった.突発的合併症は 5 例(脾梗塞 1 例,脾静脈血栓 2 例, 胃壁壊死 2 例)で認められた.生存期間は中央値 5.5 年で,1 年後,10 年後,15 年後の累積生存 率はそれぞれ 76%,28%,12%であった.予後不良因子として,Child-Pugh 分類,血清総ビリ — 85 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ルビン値,プロトロンビン時間および血小板数が有意な因子であった.CA を用いた内視鏡的治 療は胃底部静脈瘤出血の管理に極めて有効である.患者の予後は基礎にある肝疾患の重症度に 依存していると報告している. 一方,出血性胃噴門穹窿部・胃穹窿部静脈瘤(338 例)を対象に,各種治療法の治療効果を多 施設で検討 7)した結果,初回治療法としては CA にリピオドールを混合する内視鏡的治療が 39.4%と最も多かった.CA+リピオドール群は保存的治療に比べ,有意に再出血率が低く,肺 塞栓などの重大合併症がなく,合併症による死亡はなかった.多変量解析において,肝硬変症 例では CA+リピオドールによる初回治療方法が保存的治療に比べ,再出血が有意に少なかっ た.初回治療後は種類の異なる治療を追加する症例が多く,バルーン下逆行性経静脈的静脈瘤 塞栓術(B-RTO) ,手術,ethanolamine oleate(EO)による硬化療法などを 2 回目以降に追加する ことで,Child C 以外では再出血を抑制することができた. 以上より,CA 法は β ブロッカーなどの薬物療法やその他の内視鏡的治療(アルコールを用い た EIS や EVL など)よりも,胃静脈瘤に対する治療法として極めて有用である. 文献 1) Sarin SK, Jain AK, Jain M, et al. A randomized controlled trial of cyanoacrylate versus alcohol injection in patients with isolated fundic varices. Am J Gastroenterol 2002; 97: 1010-1015(ランダム) 2) Lo GH, Lai KH, Cheng JS, et al. A prospective, randomized trial of butyl cyanoacrylate injection versus band ligation in the management of bleeding gastric varices. Hepatology 2001; 33: 1060-1064(ランダム) 3) Tan PC, Hou MC, Lin HC, et al. A randomized trial of endoscopic treatment of acute gastric variceal hemorrhage: N-butyl-2-cyanoacrylate injection versus band ligation. Hepatology 2006; 43: 690-697(ランダム) 4) Mishra SR, Chander Sharma B, Kumar A, et al. Endoscopic cyanoacrylate injection versus beta-blocker for secondary prophylaxis of gastric variceal bleed: a randomised controlled trial. Gut 2010; 59: 729-735(ラン ダム) 5) Mishra SR, Sharma BC, Kumar A, et al. Primary prophylaxis of gastric variceal bleeding comparing cyanoacrylate injection and beta-blockers: a randomized controlled trial. J Hepatol 2011; 54: 1161-1167(ランダ ム) 6) Iwase H, Shimada M, Tsuzuki T, et al. Long-term results of endoscopic obliteration with cyanoacrylate glue for gastric fundal variceal bleeding: a 17-year experience. 日本門脈圧亢進症学会雑誌 2011; 17: 137-144 (ケースコントロール) 7) 村島直哉,渡辺勲史,太田正之,ほか;日本門脈圧亢進症学会学術委員会.全国コホート調査に基づく出 血性胃噴門穹窿部・胃穹窿部静脈瘤に対する各種治療法の治療効果.日本門脈圧亢進症学会雑誌 2011; 16: 88-103(コホート) — 86 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-12 血清と腹水のアルブミン濃度差は肝硬変腹水診断に有用か? CQ 4-12 血清と腹水のアルブミン濃度差は肝硬変腹水診断に有用か? ステートメント ● 血清と腹水のアルブミン濃度差 1.1g/dL 以上という指標は,肝硬変腹水診断に有用であるが, 例外もあるため総合的判断が必要である. 解説 腹水診療の第一歩は試験穿刺による性状観察に始まる.試験穿刺で得られた腹水で総蛋白, アルブミン,LDH の測定,細胞数(赤血球数,好中球数,リンパ球数)算定,細菌培養などを施 行する.腹水蛋白濃度が 2.5 g/dL 以下ならば漏出液,4.0 g/dL 以上ならば滲出液と定義されて きたが,血清と腹水のアルブミン濃度差(血清アルブミン − 腹水アルブミン:SAAG)が 1.1 g/dL 以上であれば漏出液,それ未満であれば滲出液とする基準がより信頼性が高い.SAAG の臨床的 意義を 901 例という多数例で検討した Runyon ら 1)は,血清腹水アルブミン濃度較差 1.1 g/dL 以上の門脈圧亢進症性腹水に対する診断精度は 96.7%であるのに対し,腹水総蛋白 2.5 g/dL 未 満という漏出液の基準の門脈圧亢進症性腹水に対する診断精度は 55.6%であり,SAAG は門脈 圧亢進症性腹水の指標として滲出液,漏出液の分類よりはるかに有用であると結論づけている. 腹水例において SAAG は肝静脈圧較差と相関し,門脈圧亢進を反映する 2) .結核性腹水,癌性 腹水との鑑別についても 92%の診断精度があるとされている.また,Bansal ら 3)も SAAG 1.1 g/dL 以上を肝硬変腹水の診断基準とすると,感度 100%,特異度 70%,PPV 73%,NPV 100%であり,全般的診断効率は 83%と報告している.ちなみに腹水アルブミン値を鑑別診断に 用いる方法は他にもあり,Gupta ら 4)は腹水/血清アルブミン比 0.65 未満,腹水アルブミン 2 g/dL 未満などの診断精度も 92%,91%と同様に高いと報告している. これらに対して,Khandwalla ら 5)は,5 年間にわたり SAAG 1.1 g/dL 未満の症例を全 92 例 抽出したところ,そのうち肝硬変が 76 例を占めたという.SAAG が低値であった理由を明らか にできたのはそのうち 29 例(38%)で,特発性細菌性腹膜炎(SBP) (11 例) ,癌性腹膜炎(8 例) , ネフローゼ症候群(5 例)の合併があったという.一方 47 例では何ら原因を見い出だせなかった としている.さらに 33 例は腹水穿刺を繰り返したが,24 例(73%)で SAAG の上昇をみたとい う.また,Khan ら 6)は,明らかな門脈圧亢進症の 85%,悪性疾患の 30%で SAAG が 1.1 g/dL 以上であったと報告している.ともに SAAG の限界を論じる内容である.SAAG が 1.1 g/dL 以 上の場合,肝硬変腹水である確率は高いが,1.1 g/dL 未満であっても合併症を有する肝硬変腹 水である可能性を否定できないので総合的な判断が必要となろう(フローチャート 3 参照) . — 87 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 文献 1) Runyon BA, Montano AA, Akriviadis EA, et al. The serum-ascites albumin gradient is superior to the exudate-transudate concept in the differential diagnosis of ascites. Ann Intern Med 1992; 117: 215-220(横断) 2) Dittrich S, Yordi LM, de Mattos AA. The value of serum-ascites albumin gradient for the determination of portal hypertension in the diagnosis of ascites. Hepatogastroenterology 2001; 48: 166-168(横断) 3) Bansal S, Kaur K, Bansal AK. Diagnosing ascitic etiology on a biochemical basis. Hepatogastroenterology 1998; 45: 1673-1677(横断) 4) Gupta R, Misra SP, Dwivedi M, et al. Diagnosing ascites: value of ascitic fluid total protein, albumin, cholesterol, their ratios, serum-ascites albumin and cholesterol gradient. J Gastroenterol Hepatol 1995; 10: 295299(横断) 5) Khandwalla HE, Fasakin Y, El-Serag HB. The utility of evaluating low serum albumin gradient ascites in patients with cirrhosis. Am J Gastroenterol 2009; 104: 1401-1405(コホート) 6) Khan J, Pikkarainen P, Karvonen AL, et al. Ascites: aetiology, mortality and the prevalence of spontaneous bacterial peritonitis. Scand J Gastroenterol 2009; 44: 970-974(コホート) — 88 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-13 白血球エステラーゼ試験紙は特発性細菌性腹膜炎(SBP)の迅 速診断に有用か? CQ 4-13 白血球エステラーゼ試験紙は特発性細菌性腹膜炎(SBP)の迅速診断 に有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 白血球エステラーゼ試験紙法は,特発性細菌性腹膜炎(SBP)の簡 便な迅速診断法であり,好中球数算定が困難な状況では有用と考え られる. なし A 解説 腹水試験穿刺で漏出液と判断した場合でも注意しなければならないのは,特発性細菌性腹膜 炎(SBP)の合併である.SBP は肝硬変腹水例の 8〜18%に出現し,消化管出血,肝腎症候群およ び播種性血管内凝固症候群(DIC)などを合併しやすい.診断が遅れると致死的な経過をとるが, 早期の抗生物質投与で救命しうる疾患であることから,その診断基準は厳密さよりも簡便さを 重視すべきである.発熱,腹痛,腹部圧痛,Blumberg 徴候などの顕性徴候の頻度は低いことか ら,肝硬変腹水の診断に際し,好中球数算定は必須項目である.SBP が疑われたら細菌培養も 行う.この際,ベッドサイドで腹水を culture bottle に直接入れる方法が,通常の試験管遠心法 より細菌検出率が高く,推奨されている 1) .さらに,BacT/ALERT システムによる自動比色細 菌検出法により短時間でこれと同等の細菌検出率を達成できるとの報告 2)がある.しかし,こ れらの手法を用いても腹水中の細菌の証明には一両日を要するため,好中球数を診断基準とし て早期治療に踏み切るべきである.細菌培養が陰性であっても,腹水中の好中球数が 500/mm3 以上,または好中球数が 250〜500/mm3 でも自他覚所見を伴えば SBP と診断される 3) .さらに 最近では,腹水好中球 250/mm3 以上で外科的腹腔内感染のないものを SBP と診断し,直ちに 抗菌薬治療を開始するという考え方が一般的となっている 4) .欧米では自動血球算定器による好 中球数算定は,用手法の成績とよく相関し,感度 94%,特異度 100%と信頼できる SBP 診断法 になりうるという成績が出されている 5) . SBP の迅速診断に尿中好中球エステラーゼ検出試験紙の有用性が注目されている(保険適用 外) .腹水好中球数 250/mm3 以上を診断の gold standard として各種試験紙の SBP 診断能が検 討された結果,初期の報告では Multistix 8SG test は感度 89〜100%,特異度 99.6〜100%6, 7) , Combur(2)test LN は感度 89%,特異度 100%8) ,Nephur-Test は感度 88.2%,特異度 99.6%9) であったと報告されている 7) .しかし,試験紙法で陽性基準をどこに設定するかにより成績は異 なったものになる 10) .2008 年までの 17 論文をまとめた Koulaouzidis らのシステマティックレ — 89 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ビュー 11)では,本試験紙法の感度は 45〜100%,特異度は 81〜100%,陽性的中率 42〜100%, 陰性的中率 87〜100%と,感度と陽性的中率は様々であった.使われた試験紙や判定基準はまち まちであったが,特に低い感度,陽性的中率であったのは Multistix 8SG test の報告 12〜14)であっ た.このうち Nousbaum ら 12)は Multistix 8SG test で 2+以上を陽性とすると特異度は 99.2% であるが,感度は 45.3%と著しく低くなったとしている.一方で,これら試験紙法の陰性的中 率は一定して高いので,Koulaouzidis ら 11)はこの試験紙法を腹水穿刺診断のアルゴリズムに含 めることが可能であると結論づけている.一方,同時期にシステマティックレビューを行った Nguyen-Khac ら 15)は,Multistix の感度(12 研究)は G1 以上で 64.7〜100%,G2 以上で 45.7〜 83%,G3 以上で 45.3〜89%,Nephur(2 研究) ,Combur(6 研究) ,UriScan(1 研究)の感度は G1 以上で 80.4〜100%,G2 以上で 63〜100%,G3 以上で 67.7〜97%,Aution(3 研究)の感度 は G2 以上で 93〜96%,G3 以上 89%であり,Nephur,Combur,UriScan は Multistix より感 度が良好であったとしている.しかし,彼らは Nousbaum らの報告のように多数例を検討した ときに Multistix の陽性率(この場合 G3 以上を示す率)が好中球数 1,000/mm3 未満の腹水の 45.3%,細菌含有腹水の 22.2%,無症候性患者の 16.7〜25%にとどまっており,腹水好中球数が 少ない例で試験紙法の感度が低いことが問題であるとしている.Mendler ら 16)は,Periscreen leukocyte esterase strip という新しい試験紙を用いて好中球数 250 未満を陰性とするように条件 を調整したところ,3 分間の反応時間で感度 100%,特異度 57.9%,陽性的中率 76.5%,陰性的 中率 100%と比較的良好な成績が得られたとしている.また,SBP 症例で経過を追って試験紙法 と好中球数の算定を行った Castellote ら 17)は,5 日目に好中球数が 250 未満となった 33 例中 32 例で試験紙結果が陰性となり,陰性的中率が高かったことから,治癒判定のため細胞数判定法 の代替法になりうるとしている.さらに,Multistix 10SG の結果を比色装置(Clinitek Status)で 判定すると,SBP 診断の感度は 100%,特異度は 91%,PPV は 50%,NPV は 100%,精度は 92%となり,本試験が陰性であれば,SBP の除外診断が可能とする報告 18)もある.また,費用 対効果を費用対精度として検討すると,細胞数算定 41.5,Multistix 10 SG 0.57,Choiceline 10 0.19 と試験紙法が十分に安価であると判断できる. 一方で Rerknimitr ら 19)は,Aution,Multistix,Combur 試験紙と自動好中球数測定法を比 較したところ自動血算法のほうが感度が高く,偽陽性率が低かったとしている.確かに好中球 数測定が直ちにできればより確実な診断ができるが,Tellez-Avila ら(Ann Hepatol 2012; 11: 696699 a) [検索期間外文献] )は,好中球算定が困難な救急現場などにおいて試験紙法は SBP の迅速 診断に有用で,速やかに抗菌薬投与を開始できるとしている(フローチャート 3 参照) . 文献 1) Siersema PD, de Marie S, van Zeijl JH, et al. Blood culture bottles are superior to lysis-centrifugation tubes for bacteriological diagnosis of spontaneous bacterial peritonitis. J Clin Microbiol 1992; 30: 667-669(横断) 2) Ortiz J, Soriano G, Coll P, et al. Early microbiologic diagnosis of spontaneous bacterial peritonitis with BacT/ALERT. J Hepatol 1997; 26: 839-844(横断) 3) Wilcox CM, Dismukes WE. Spontaneous bacterial peritonitis: a review of pathogenesis, diagnosis, and treatment. Medicine (Baltimore) 1987; 66: 447-456 4) Moore KP, Aithal GP. Guidelines on the management of ascites in cirrhosis. Gut 2006; 55 (Suppl 6): vi1vi12(ガイドライン) 5) Angeloni S, Nicolini G, Merli M, et al. Validation of automated blood cell counter for the determination of — 90 — ②腹水 6) 7) 8) 9) 10) 11) 12) 13) 14) 15) 16) 17) 18) 19) polymorphonuclear cell count in the ascitic fluid of cirrhotic patients with or without spontaneous bacterial peritonitis. Am J Gastroenterol 2003; 98: 1844-1848(横断) Vanbiervliet G, Rakotoarisoa C, Filippi J, et al. Diagnostic accuracy of a rapid urine-screening test (Multistix8SG) in cirrhotic patients with spontaneous bacterial peritonitis. Eur J Gastroenterol Hepatol 2002; 14: 1257-1260(横断) Sapey T, Mena E, Fort E, et al. Rapid diagnosis of spontaneous bacterial peritonitis with leukocyte esterase reagent strips in a European and in an American center. J Gastroenterol Hepatol 2005; 20: 187-192(横断) Thevenot T, Cadranel JF, Nguyen-Khac E, et al. Diagnosis of spontaneous bacterial peritonitis in cirrhotic patients by use of two reagent strips. Eur J Gastroenterol Hepatol 2004; 16: 579-583(横断) Sapey T, Kabissa D, Fort E, et al. Instant diagnosis of spontaneous bacterial peritonitis using leukocyte esterase reagent strips: Nephur-Test vs. MultistixSG. Liver Int 2005; 25: 343-348(横断) Kim DY, Kim JH, Chon CY, et al. Usefulness of urine strip test in the rapid diagnosis of spontaneous bacterial peritonitis. Liver Int 2005; 25: 1197-1201(横断) Koulaouzidis A, Leontiadis GI, Abdullah M, et al. Leucocyte esterase reagent strips for the diagnosis of spontaneous bacterial peritonitis: a systematic review. Eur J Gastroenterol Hepatol 2008; 20: 1055-1060(メ タ) Nousbaum JB, Cadranel JF, Nahon P, et al. Diagnostic accuracy of the Multistix 8 SG reagent strip in diagnosis of spontaneous bacterial peritonitis. Hepatology 2007; 45: 1275-1281(横断) Wisniewski B, Rautou PE, Al Sirafi Y, et al. [Diagnosis of spontaneous ascites infection in patients with cirrhosis: reagent strips]. Presse Med 2005; 34: 997-1000 [Articles in French](横断) Campillo B, Richardet JP, Dupeyron C. Diagnostic value of two reagent strips (Multistix 8 SG and Combur 2 LN) in cirrhotic patients with spontaneous bacterial peritonitis and symptomatic bacterascites. Gastroenterol Clin Biol 2006; 30: 446-452(横断) Nguyen-Khac E, Cadranel JF, Thevenot T, et al. Review article: the utility of reagent strips in the diagnosis of infected ascites in cirrhotic patients. Aliment Pharmacol Ther 2008; 28: 282-288 Mendler MH, Agarwal A, Trimzi M, et al. A new highly sensitive point of care screen for spontaneous bacterial peritonitis using the leukocyte esterase method. J Hepatol 2010; 53: 477-483(横断) Castellote J, Girbau A, Ariza X, et al. Usefulness of reagent strips for checking cure in spontaneous bacterial peritonitis after short-course treatment. Aliment Pharmacol Ther 2010; 31: 125-130(横断) Gaya DR, David BLT, Clarke J, et al. Bedside leucocyte esterase reagent strips with spectrophotometric analysis to rapidly exclude spontaneous bacterial peritonitis: a pilot study. Eur J Gastroenterol Hepatol 2007; 19: 289-295(横断) Rerknimitr R, Limmathurotsakul D, Bhokaisawan N, et al. A comparison of diagnostic efficacies among different reagent strips and automated cell count in spontaneous bacterial peritonitis. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: 946-950(横断) 【検索期間外文献】 a) Tellez-Avila FI, Chavez-Tapia NC, Franco-Guzman AM, et al. Rapid diagnosis of spontaneous bacterial peritonitis using leukocyte esterase reagent strips in emergency department: uri-quick clini-10SG (R) vs. Multistix 10SG (R). Ann Hepatol 2012; 11: 696-699(横断) — 91 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-14 肝硬変に伴う腹水に対して減塩食は有効か? CQ 4-14 肝硬変に伴う腹水に対して減塩食は有効か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 軽症〜中等症例では有効と判断され,食欲を損なわない程度の緩や かな食塩摂取制限を加えることを提案する.難治例では減塩食の有 効性は証明されていない. 2 (100%) C 解説 古くから腎におけるナトリウム排泄量の減少が腹水貯留の重要な因子であることが指摘され ており,食塩摂取制限を行わない腹水貯留患者の 1 日尿中ナトリウム排泄量が 10 mmol(約 0.2 g)以下であること,腎外性のナトリウム喪失が 0.5 g であることから,理論的には 0.75 g 以 上のナトリウム摂取は腹水を招くことになる 1) .欧米では歴史的には 1 日 22〜40 mmol のナト リウム含有食が勧められてきたが,現在は食塩非添加食(1 日 70〜90 mmol)と利尿薬の組み合 わせが,尿中ナトリウムの増加につながるとされている 1) .Gerbes 2)は,安静と食塩制限のみで も 10%の症例で腹水をコントロールできるとしている.しかし一方で,過度の食塩制限は食欲 低下による蛋白栄養不良状態をもたらし,推奨できない 3) .欧米のすべてのガイドラインではこ うした歴史的経緯を踏まえて,減塩食の摂取を推奨している 3〜5),(Hepatology 2013: 1-96 a)[検 索期間外文献] ) . 一方で,減塩食の有効性を臨床的に証明した研究は意外に少なく,Gauthier ら 6)はスピロノ ラクトンを 200→400→600 mg と段階的に増量し,これで不応ならフロセミドを追加投与して 40→80 mg と増量するという利尿薬投与条件下に腹水患者を無作為に食塩制限群と非制限群に 分けたところ,腹水消失までの期間は食塩制限群で短かったが,120 日までの生存期間に差はな かったとしている.この際,消化管出血の既往がない例に限ると食塩制限群の生存率がよかっ たという.Descos ら 7)はスピロノラクトンにフロセミドあるいは Moduretic(アミロライド+ ハイドロクロロサイアザイド)を併用する利尿薬治療に 500 mg ナトリウム制限を加えた群と加 えなかった群を比較し,減塩食群で腹水がやや早く消失して入院期間が短縮する傾向はあるも のの,有意差は認められなかったとしている.これに対し,Bernardi ら 8)はカンレノ酸カリウ ムを 200 mg/4 日から 600 mg/日まで増量し,不応例にはカンレノ酸カリウム 400 mg/日にフロ セミドを追加して増量するという段階的利尿薬投与スケジュールに対する反応性にはナトリウ ム摂取量は影響しなかったと報告している. 最近 Gu ら(Gut Liver 2012; 6: 355-361 b) [検索期間外文献] )は,中国の B 型肝硬変の腹水貯留 — 92 — ②腹水 例をナトリウム制限群と非制限群にランダムに割り付けて,アルブミン静注 5〜10 g,週 3 回 (25 g/週) ,フロセミド(20 mg × 2/日) ,スピロノラクトン(40 mg × 2/日)を基本とする利尿薬 投与を行ったところ,腹水消失率はナトリウム非制限群でむしろ高率であり,血清ナトリウム, 腎血流量はナトリウム非制限群で高値に,血漿レニン活性は低値にとどまったという.さらに 血清ナトリウム低下に関連した腎障害は,ナトリウム制限群のほうが高率であったとしており, ナトリウム摂取は制限しないほうがよいと主張している.また,Sorrentino ら 9)は,大量腹水 穿刺排液を繰り返さざるを得ない難治性腹水患者をナトリウム制限(80 mEq/日)下に就寝前エ ネルギー投与(LES)を含む栄養療法を加えた栄養管理群,さらにこれに穿刺排液後静注栄養補 充を加えた強化栄養療法群,ナトリウム制限(80 mEq/日)のみの群に分けて臨床経過をみたと ころ,栄養補充群の臨床経過はナトリウム制限食のみの群より明らかによく,肝機能の悪化も 防げたとしている.また,生存率は穿刺排液後静注栄養補充を加えた強化栄養療法群で最もよ かったとしている.難治性腹水例では栄養補充が重要であることを示唆する成績といえる. 日本ではこのような比較試験が行われていないが,日常のナトリウム摂取量の多い事情から 安静と減塩食のみで改善する軽症腹水例が存在することは事実である.腹水初発例にはナトリ ウム制限は有用と考えられるが,あくまで食欲を損なわない程度にとどめ,1 日 5〜7 g 程度の 緩やかな摂取制限にとどめるほうがよいと思われる.一般的注意として日常生活において食事 への余分な食塩添加を慎み,調理済み食品を控えることが重要である 3) . c) ところで最近 Morando ら(Liver Int 2015; 35: 1508-1515[検索期間外文献] )は,外来での食塩 制限が重要との観点に立ってその実態を調査したが,緩やかなナトリウム制限食を指示してい るもののそれを守っている患者は少なく,守れていないのに守っていると思い込んでいる患者 は 83 例中 54 例に達したという.ナトリウム制限食遵守群,非遵守群のナトリウム摂取量は, 平均 79.5 mmol/日,205.9 mmol/日であり,遵守群は非遵守群よりカロリー摂取量が 20%少な かったという.また,ナトリウム制限食遵守は肝移植待機例やケアマネジメントプログラム参 加例に多かったとしている. なお,腹水治療の概要はフローチャート 4 にまとめた. 文献 1) Ascites. Diseases of the Liver and Biliary System, 11th Ed, Sherlock S, Dooley J (eds), Blackwell Science, Oxford, 2002: p127-146 2) Gerbes AL. Medical treatment of ascites in cirrhosis. J Hepatol 1993; 17 (Suppl 2): S4-S9 3) Moore KP, Aithal GP. Guidelines on the management of ascites in cirrhosis. Gut 2006; 55 (Suppl 6): vi1vi12(ガイドライン) 4) Runyon BA, Committee APG. Management of adult patients with ascites due to cirrhosis: an update. Hepatology 2009; 49: 2087-2107(ガイドライン) 5) European Association for the Study of the Liver. EASL clinical practice guidelines on the management of ascites, spontaneous bacterial peritonitis, and hepatorenal syndrome in cirrhosis. J Hepatol 2010; 53: 397417(ガイドライン) 6) Gauthier A, Levy VG, Quinton A, et al. Salt or no salt in the treatment of cirrhotic ascites: a randomised study. Gut 1986; 27: 705-709(ランダム) 7) Descos L, Gauthier A, Levy VG, et al. Comparison of six treatments of ascites in patients with liver cirrhosis: a clinical trial. Hepatogastroenterology 1983; 30: 15-20(ランダム) 8) Bernardi M, Laffi G, Salvagnini M, et al. Efficacy and safety of the stepped care medical treatment of — 93 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ascites in liver cirrhosis: a randomized controlled clinical trial comparing two diets with different sodium content. Liver 1993; 13: 156-162(ランダム) 9) Sorrentino P, Castaldo G, Tarantino L, et al. Preservation of nutritional-status in patients with refractory ascites due to hepatic cirrhosis who are undergoing repeated paracentesis. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 813-822(ランダム) 【検索期間外文献】 a) Runyon BA; AASLD. Management of adult patients with ascites due to cirrhosis: Update 2012. Hepatology 2013: 1-96(www.aasld.org) (ガイドライン) b) Gu XB, Yang XJ, Zhu HY, et al. Effect of a diet with unrestricted sodium on ascites in patients with hepatic cirrhosis. Gut Liver 2012; 6: 355-361(ランダム) c) Morando F, Rosi S, Gola E, et al. Adherence to a moderate sodium restriction diet in outpatients with cirrhosis and ascites: a real-life cross-sectional study. Liver Int 2015; 35: 1508-1515(ケースコントロール) — 94 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-15 肝硬変に伴う腹水にアルブミン投与は有効か? CQ 4-15 肝硬変に伴う腹水にアルブミン投与は有効か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 有用である.利尿薬に対する反応性を高めるので低アルブミン血症 時に利尿薬と併用することを提案する. 2 (100%) A ● 大量腹水穿刺時には,アルブミンの循環不全予防効果は血漿増量薬 より優れるので,投与を提案する.特発性細菌性腹膜炎(SBP)患 者では,アルブミンは全身循環動態を改善し,肝腎症候群の発生を 抑制するので,投与することを提案する. 2 (100%) A 解説 アルブミンは血中でループ利尿薬フロセミドを結合して腎臓に運び,近位尿細管でフリーの フロセミドを尿管腔に分泌させる役割を担う.担体であるアルブミンの血中レベルが低下する と利尿薬の効果が減弱すると考えられているが,肝硬変でこの点を検証した研究は少ない.Gentilini ら 1)は食塩制限で改善しなかった肝硬変腹水 126 例を利尿薬投与群と利尿薬+アルブミン (12.5 g/日)投与群にランダムに割り付けたところ,アルブミン併用群のほうが利尿薬に対する 累積反応率は高く,入院期間は短かったという. Romanelli ら 2)は肝硬変腹水初発例 100 例を利尿薬投与群,利尿薬+アルブミン(1 年目は 25 g/週,それ以後は 25 g/2 週)投与群にランダムに割り付けて平均 84 ヵ月間観察したところ, アルブミン併用群で累積生存率が有意に高く,腹水再発が低率であり,アルブミン併用により 平均生存期間は約 17 ヵ月(88.6 ヵ月 vs. 61.4 ヵ月)延長したとしている.この予後改善について は様々なアルブミンの生理作用が関係していると思われる.すなわち,アルブミンは多くの有 害物質のリガンドとして働き,抗酸化作用を示し,フリーラジカルやエンドトキシンのスカベ ンジャーとして働く 3) .また,抗炎症作用を示し,内皮細胞を安定化させ,抗凝固に働くことが 考えられている 4) .以上のようにアルブミンに予後改善効果があることは事実であるが,非代償 性肝硬変への漫然としたアルブミンの投与は日本の医療事情や費用対効果の面から推奨しにく い.利尿薬の治療効果を上げる目的でのアルブミン静注はなお許容されるであろう. 大量腹水穿刺排液時のアルブミン補充は排液後の循環不全(paracentesis-induced circulatory dysfunction:PICD)の防止に有用である.Bernardi らのメタアナリシス 5)によると腹水排液後 のアルブミン補充群と無治療群の成績を比較した 3 つのランダム化試験でアルブミン補充群は 無治療群より有意に PICD,低ナトリウム血症の発現が少なかったという.さらに,dextran 70 — 95 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 や polygeline などの血漿増量薬投与群と比較した場合でもアルブミン補充時時には PICD,低 ナトリウム血症の発現が少なく,生命予後もよいという成績であった(CQ 4-20 解説参照) . 急速に進行して死の転帰をとる 1 型肝腎症候群の原因疾患として最も重要なものは SBP であ り 6) ,SBP の治療にあたり 1 型肝腎症候群の発症予防は非常に重要である.SBP 治療時に抗菌薬 だけではなくアルブミン静注を併用すると腎機能障害が抑制できることが明らかにされ 7) , AASLD の旧ガイドラインでは SBP の疑いが持たれたら直ちに 1.5 g/kg のアルブミンを 6 時間 以内に静注投与し,3 日目にはさらに 1.0 g/kg のアルブミンを追加投与するとされていたが,新 ガイドラインではここに「血清クレアチニン>1 mg/dL,BUN>30 mg/dL または血清総ビリ ルビン>4 mg/dL の場合に限り」という条件が付け加えられた.これはアルブミン投与が必要 な SBP 患者を特定した Sigal らの解析結果 8)をもとにした変更である. 2007 年 International Ascites Club は肝腎症候群の診断基準を「利尿薬を 2 日間中止し,アル ブミン輸液(1 g/kg 体重,最高 100 g/日)により循環血漿量を増加させても血清クレアチニンが 1.5 mg/dL 以下に低下しない. 」という表記に改めた 6) .高価なアルブミン製剤に対する保険診 療の制限が強い日本においてこの新診断基準を直ちに受容するのには無理があるかもしれない が,米国 9) ,欧州 10)の肝臓学会ではこの診断基準が採用されている. 文献 1) Gentilini P, Casini-Raggi V, Di Fiore G, et al. Albumin improves the response to diuretics in patients with cirrhosis and ascites: results of a randomized, controlled trial. J Hepatol 1999; 30: 639-645(ランダム) 2) Romanelli RG, La Villa G, Barletta G, et al. Long-term albumin infusion improves survival in patients with cirrhosis and ascites: an unblinded randomized trial. World J Gastroenterol 2006; 12: 1403-1407(ランダ ム) 3) Cárdenas A, Ginès P, Runyon BA. Is albumin infusion necessary after large volume paracentesis? Liver Int 2009; 29: 636-640; discussion: 640-641 4) Facciorusso A, Nacchiero MC, Rosania R, et al. The use of human albumin for the treatment of ascites in patients with liver cirrhosis: item of safety, facts, controversies and perspectives. Curr Drug Saf 2011; 6: 267-274 5) Bernardi M, Caraceni P, Navickis RJ, et al. Albumin infusion in patients undergoing large-volume paracentesis: a meta-analysis of randomized trials. Hepatology 2012; 55: 1172-1181(メタ) 6) Salerno F, Gerbes A, Ginès P, et al. Diagnosis, prevention and treatment of hepatorenal syndrome in cirrhosis. Gut 2007; 56: 1310-1318 7) Sort P, Navasa M, Arroyo V, et al. Effect of intravenous albumin on renal impairment and mortality in patients with cirrhosis and spontaneous bacterial peritonitis. N Engl J Med 1999; 341: 403-409(ランダム) 8) Sigal SH, Stanca CM, Fernandez J, et al. Restricted use of albumin for spontaneous bacterial peritonitis. Gut 2007; 56: 597-599(ケースシリーズ) 9) Runyon BA. Management of adult patients with ascites due to cirrhosis: an update. Hepatology 2009; 49: 2087-2107(ガイドライン) 10) EASL clinical practice guidelines on the management of ascites, spontaneous bacterial peritonitis, and hepatorenal syndrome in cirrhosis. J Hepatol 2010; 53: 397-417(ガイドライン) — 96 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-16 肝硬変の腹水に対してループ利尿薬はスピロノラクトンより有 効か? CQ 4-16 肝硬変の腹水に対してループ利尿薬はスピロノラクトンより有効か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 有効とはいえない.単剤治療ではスピロノラクトンのほうが有効で あり,スピロノラクトンを投与することを推奨する. 1 (100%) A 解説 抗アルドステロン薬であるスピロノラクトン,カンレノ酸カリウムの作用は穏やかで効果発 現までに 3〜4 日を要するが,50〜90%の症例に有効である 1) .ループ利尿薬を単独で用いた場 合の利尿効果は,非代償性肝硬変症例の約 50%にとどまるという 1) .腹水治療をどちらの薬物 で始めるかについてはいくつかのコントロール試験があり,スピロノラクトンが勝るというこ とで一致している 2) .Fogel ら(J Clin Gastroenterol 1981; 3 (Suppl 1): 73-80 a) [検索期間外文献] ) は,フロセミドでは利尿効果を得るために頻回に用量を上げ KCl を大量に補う必要があること から,腹水治療はスピロノラクトンまたはスピロノラクトン+フロセミド併用から始めるべき で,フロセミドの単剤投与は勧められないとしている.また,Perez-Ayuso ら 3)によれば, 160 mg のフロセミドに反応しなかった症例はすべて高アルドステロン血症を呈しており,10 例 中 9 例がスピロノラクトンに反応したという. 文献 1) Boyer TD, Warnock DG. Use of diuretics in the treatment of cirrhotic ascites. Gastroenterology 1983; 84: 1051-1055 2) Moore KP, Aithal GP. Guidelines on the management of ascites in cirrhosis. Gut 2006; 55 (Suppl 6): vi1vi12(ガイドライン) 3) Perez-Ayuso RM, Arroyo V, Planas R, et al. Randomized comparative study of efficacy of furosemide versus spironolactone in nonazotemic cirrhosis with ascites. Relationship between the diuretic response and the activity of the renin-aldosterone system. Gastroenterology 1983; 84: 961-968(ランダム) 【検索期間外文献】 a) Fogel MR, Sawhney VK, Neal EA, et al. Diuresis in the ascitic patient: a randomized controlled trial of three regimens. J Clin Gastroenterol 1981; 3 (Suppl 1): 73-80(ランダム) — 97 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-17 利尿薬投与法としてスピロノラクトン単剤増量法とスピロノラ クトン,ループ利尿薬併用増量法のどちらがよいか? CQ 4-17 利尿薬投与法としてスピロノラクトン単剤増量法とスピロノラクト ン,ループ利尿薬併用増量法のどちらがよいか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 外来での初回治療はスピロノラクトン単剤療法でも可能であるが, 高用量の利尿薬投与時や入院加療時には,重篤な副作用を防ぐ意味 で併用増量を行うことを提案する. 2 (100%) C 解説 抗アルドステロン薬が第一選択の薬物であるが,欧米では従来よりスピロノラクトンを最高 400 mg まで増量して効果がなければ,フロセミドを追加して上限の 160 mg まで増加する方法 が推奨されてきた 1) .一方で当初からスピロノラクトンとループ利尿薬を併用して漸増するほう がよいという報告 2)もあり,一致していない.Santos ら 3)は,スピロノラクトン 100〜200 mg に最初からフロセミド 40〜80 mg を併用する群(最大量スピロノラクトン 400 mg+フロセミド 160 mg)とスピロノラクトンを 400 mg まで増量してからフロセミドを追加していく群の 2 群間 で RCT を行った.スピロノラクトン先行投与群では,併用群に比して有効率,腹水消失までの 期間は変わらず,肝性脳症,低ナトリウム血症などが 3 例にみられたものの副作用発現率も全 体として併用群と変わらず,過剰反応に対する用量調節(薬物減量)は併用投与群より少なかっ たことから,外来管理を行う場合は単剤投与群のほうが勧められるという結論であった 3) .一 方,Angeli ら 4)は,中等量の腹水例を対象に,カンレノ酸カリウム先行療法群(カンレノ酸カ リウム 200 mg から開始して 400 mg に増量.さらにフロセミドを 50 mg 追加して 150 mg まで 増量)と併用療法群(カンレノ酸カリウム 200 mg,フロセミド 50 mg 併用から開始してカンレノ 酸カリウム 400 mg,フロセミド 100,150 mg まで増量)を比較したところ,カンレノ酸カリウム 先行療法群の大半はカンレノ酸カリウム単剤に反応し,併用療法群の大半は第 2 段階までに反 応したが,併用療法群のほうが腹水改善まで用量を維持できた症例が多く,高カリウム血症な どの副作用も有意に少なかったとしている.この正反対の成績について Bernardi 5)は,Santos らの報告 3)では腹水初発例の割合が多く,Angeli らの報告 4)では,腹水再発例が多かったこと を指摘しており,EASL のガイドライン 6)では,この点を踏まえて腹水初発例には抗アルドス テロン薬単剤療法を,再発例には抗アルドステロン薬+フロセミド併用療法を勧めている.ま た,2013 年の AASLD ガイドラインで Runyon は(Hepatology 2013: 1-96 a) [検索期間外文献] ) , 利尿薬の初期投与量はスピロノラクトン 100 mg+フロセミド 40 mg の朝 1 回投与としており, — 98 — ②腹水 スピロノラクトン単剤療法は高カリウム血症の危険があることから,少量腹水例に限るほうが よいと論じている.他方,Biecker ら 7)はまず 200 mg のスピロノラクトンから開始して 2 週間 観察して効果がなければ 20〜40 mg のフロセミドを追加し,効果がなければ漸増するという併 用療法を勧めている. これらに対して,これまで日本では,抗アルドステロン薬の少量投与から開始して,効果が なければループ利尿薬を併用し,それでも反応不良の場合,ループ利尿薬の反応性を高めるた め,低アルブミン血症を伴う症例にはアルブミン投与を加えるか,ループ利尿薬と抗アルドス テロン薬を静注投与に切り替えて次第に増量する方法が一般的であった.日本人での比較試験 は存在しないが,慣用的に外来でのスピロノラクトン単剤投与量は 25〜100 mg 程度までで,そ れ以上はフロセミドが併用されている場合が多い.また,入院治療ではアルブミン製剤(低アル ブミン血症例) ,カンレノ酸カリウム,フロセミドが併用されることが多い.日本での利尿薬使 用量の上限は確定していないが,添付文書にもあるように,スピロノラクトン 100 mg,フロセ ミド 80 mg を上限とするのが一般的である.ただし,個々の患者の状態に合わせて適切に使用 することが必要である.これら薬物で腹水治療を行う際,浮腫を伴わない例では 0.5 kg/日以下 に体重減少を抑えるのが安全である 8) . フロセミドによる腎障害については古くから,肝硬変による腹水患者にフロセミド 40 mg 経 口単回投与後に有意に糸球体濾過量(GFR)が低下するとの報告や 9) ,フロセミド 40〜240 mg/日 投与後に血清クレアチニン濃度,BUN 濃度が有意に上昇するなどの報告がある 10) .一方で,肝 硬変患者における急性腎障害の合併は生存率を低下させることが報告されている 11) .日本では ループ利尿薬などの他の利尿薬で効果不十分な肝硬変における体液貯留(腹水,下肢浮腫など) に対するトルバプタンの投与が世界で唯一保険認可されているため,既存の利尿薬不応例に対 しては,腎機能保護の観点からは,フロセミド増量の前にトルバプタンとの併用投与を検討す ることが考えられる.全般を通じて,利尿薬投与時(特にトルバプタン使用時)には,underfilling と腎障害に特に注意するべきである. 文献 1) Moore KP, Aithal GP. Guidelines on the management of ascites in cirrhosis. Gut 2006; 55 (Suppl 6): vi1vi12(ガイドライン) 2) Runyon BA; Practice Guidelines Committee, American Association for the Study of Liver Diseases (AASLD). Management of adult patients with ascites due to cirrhosis. Hepatology 2004; 39: 841-856(ガイ ドライン) 3) Santos J, Planas R, Pardo A, et al. Spironolactone alone or in combination with furosemide in the treatment of moderate ascites in nonazotemic cirrhosis: a randomized comparative study of efficacy and safety. J Hepatol 2003; 39: 187-192(ランダム) 4) Angeli P, Fasolato S, Mazza E, et al. Combined versus sequential diuretic treatment of ascites in non-azotaemic patients with cirrhosis: results of an open randomised clinical trial. Gut 2010; 59: 98-104(ランダム) 5) Bernardi M. Optimum use of diuretics in managing ascites in patients with cirrhosis. Gut 2010; 59: 10-11 6) European Association for the Study of the Liver. EASL clinical practice guidelines on the management of ascites, spontaneous bacterial peritonitis, and hepatorenal syndrome in cirrhosis. J Hepatol 2010; 53: 397417(ガイドライン) 7) Biecker E. Diagnosis and therapy of ascites in liver cirrhosis. World J Gastroenterol 2011; 17: 1237-1248 8) Pockros PJ, Reynolds TB. Rapid diuresis in patients with ascites from chronic liver disease: the importance of peripheral edema. Gastroenterology 1986; 90: 1827-1833(ケースシリーズ) — 99 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 9) Bernardi M, De Palma R, Trevisani F, et al. Comparative pharmacodynamics of furosemide and muzolimine in cirrhosis: study on renal sodium and potassium handling and renin-aldosterone axis. Z Kardiol. 1985; 74 (Suppl 2): 129-134(ケースシリーズ) 10) Ginés P, Arroyo V, Quintero E, et al. Comparison of paracentesis and diuretics in the treatment of cirrhotics with tense ascites: results of a randomized study. Gastroenterology 1987; 93: 234-241(ランダム) 11) Tsien CD, Rabie R, Wong F. Acute kidney injury in decompensated cirrhosis. Gut 2013; 62: 131-137(コ ホート) 【検索期間外文献】 a) Runyon BA; AASLD. Management of adult patients with ascites due to cirrhosis: Update 2012. Hepatology 2013: 1-96(www.aasld.org) (ガイドライン) — 100 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-18 バソプレシン V2 受容体拮抗薬は,腹水,水排泄障害の改善に 有効か? CQ 4-18 バソプレシン V2 受容体拮抗薬は,腹水,水排泄障害の改善に有効か? ステートメント ● ループ利尿薬,抗アルドステロン薬との併用条件下で,低ナトリウ ム血症,腹水の改善に有効であるため,適応を慎重に選んで投与す ることを推奨する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 1 (100%) A 解説 肝硬変ではナトリウム・水貯留が進行して腹水・浮腫が生じるが,水排泄障害は自由水クリ アランスの低下で評価される.進行した肝硬変では糸球体濾過値(GFR)の減少,近位尿細管に おけるナトリウム再吸収亢進のために Henle 上行脚および集合管に到達する糸球体濾過液が減 少し,抗利尿ホルモン(バソプレシン)の作用も相まって自由水の産生が低下すると考えられて いる 1) .肝硬変患者の血漿バソプレシンレベルについては議論が多いが,自由水クリアランスが 著減している肝硬変患者では血漿バソプレシンの基礎値が高く,水負荷後のバソプレシンの抑 制も不十分であったという報告(Ann Intern Med 1982; 96: 413-417 a) [検索期間外文献] )がある. 進行した肝硬変では,血管内皮細胞に由来する酸化窒素(NO)などの作用で末梢血管が拡張し, 心拍出量,循環血液量は増加しているが,多くは皮膚,筋肉,諸臓器における動静脈吻合部に 奪われ,有効循環血液量はむしろ減少(underfilling)している.バソプレシンの分泌亢進機序と しては,この有効循環血液量減少による圧受容体の刺激(nonosmotic release)が重要で,これが 低浸透圧による分泌抑制を上回ると血漿バソプレシンが上昇すると考えられる 2) .低ナトリウム 血症を呈する腹水例では,バソプレシンの関与は大きく,分泌亢進に加えて,肝での分解低下 3) , 尿細管でのバソプレシンに対する感受性亢進なども加わり,水排泄障害が助長される可能性が ある 1) . バソプレシン V2 受容体拮抗薬は,腎臓集合管でのバソプレシンによる水再吸収を阻害し,電 解質排泄の増加を伴わず水分のみを排泄する作用を示し,肝性腹水に対する新たな治療手段と して注目されている.いくつかの薬物が開発されたが,サタバプタンは腹水治療においてスピ ロノラクトン 100 mg/日,フロセミド 20〜25 mg/日への上乗せ効果を示した 4, 5) .日本で開発さ れた V2 受容体拮抗薬トルバプタンの国内の治験は,フロセミド内服 40 mg/日以上かつスピロ ノラクトン内服 25 mg/日以上,もしくは,フロセミド内服 20 mg/日以上かつスピロノラクトン 内服 50 mg/日以上で不応の肝性腹水を有する肝硬変患者を対象として実施され(Hepatol Res 2014; 44: 73-82 b) ,J Int Med Res 2012; 40: 2381-2393 c) ,J Int Med Res 2013; 41: 835-847 d) [検索期 — 101 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 間外文献] ) ,肝硬変における腹水,浮腫の持続する患者の体重,腹囲を用量依存性に減少させ, 強力な水利尿効果を示すが,7.5 mg/日さらには 3.75 mg/日の用量でも有効であること b, c) ,血清 アルブミン値にかかわらず体重を減少させること b) ,14 日間投与も安全に行えること d)などが 多施設共同 RCT の結果として報告された.本剤はループ利尿薬などの他の利尿薬で効果不十分 な肝硬変における体液貯留(腹水,下肢浮腫など)に対する治療薬として保険収載されたが,投 与量は 7.5 mg/日を超えてはならず,原則として水分摂取制限は加えない.口渇感を感じなかっ たり,それに反応できない患者,無尿の患者,体液量が減少している患者,直ちに血清ナトリ ウム値を上げなくてはならない患者などには本剤を用いてはならないことは重要なポイントで ある 6) .低ナトリウム血症を伴う難治性腹水患者は元来 underfilling 状態にあることが多く,不 適切な飲水制限をした場合には本剤がさらに underfilling を助長する可能性は常に念頭に置か なければならない. Dahl ら(Aliment Pharmacol Ther 2012; 36: 619-626 e) [検索期間外文献] )は,3 種のバプタン [サタバプタン(国内未承認薬)9 編,リキシバプタン(国内未承認薬)2 編,トルバプタン(国内 承認薬)1 編]の臨床効果を評価するために 12 件の RCT(2,266 症例)をもとにメタアナリシス を施行した結果,バプタンは血清ナトリウム値を上げ,腹水を改善させ,次の大量腹水穿刺排 液までの時間を延ばしたが,静脈瘤出血,肝性脳症,特発性細菌性腹膜炎(SBP) ,肝腎症候群, 腎不全の合併率はコントロール群との間で差を認めず,生命予後に関しては明らかな改善を認 めなかったとしている. これまで報告された V2 受容体拮抗薬の薬効に関する RCT の結果をアウトカムごとに整理す ると表 1 のようになる.体重減少,低ナトリウム血症の改善,尿量増加はそれぞれ 7 編 4, 5, 7, 8, b, c, f) (Hepatol Res 2014; 44: 83-91[検索期間外文献] ) ,5 編 4, 5, 9, b, f) ,4 編 4, b, c, f)の RCT で報告されてお り,腹囲減少は 3 編の RCT 4, b, f)で報告されている.また,CT を客観的指標とした腹水量の減少 も確認され,臨床症状の改善 b)に貢献している.その一方でサタバプタンは大量腹水穿刺排液 後の腹水再発防止には効果がなく,維持療法には有用でないという成績もある 10, 11) .米国では常 染色体優性多発性囊胞腎へのトルバプタンの大量投与(120 mg/日)時に重篤な肝障害が発生し たため,肝硬変への本剤の投与は認められなかったという経緯があり,日本でも承認後慎重な 経過観察が求められてきた.3.75〜7.5 mg/日という少量のトルバプタンが日本の肝硬変腹水患 者全般にどの程度有効であるか,有効性を左右する因子は何か,今後の臨床研究に期待される ところが大きい. CQ 4-17 でも述べたが,フロセミド投与により急性腎障害(AKI)を含む腎障害を起こす現状が あること,肝硬変における AKI の合併は生存率を低下させることが明らかとなっている.近年, 肝硬変における腎機能保護の重要性が認識され,2015 年には肝硬変における AKI および肝腎症 候群の診断基準が改定された(Gut 2015; 64: 531-537 g) [検索期間外文献] ) .トルバプタン登場以 前は,大量にフロセミドを用いた治療が中心であったが,今後はフロセミド投与量を考慮し,V2 受容体拮抗薬の早期介入により腎機能を保護することで予後改善に結びつく可能性があり,こ の点についても今後の研究が待たれる.全般を通じて利尿薬投与時(特にトルバプタン使用時) には,underfilling と腎障害に特に注意するべきである. — 102 — ②腹水 表1 研究数 V2 受容体拮抗薬の薬効に関する RCT のアウトカム別まとめ アウトカム 研究デザイン 関連文献 (サタバプタン) アウトカム 1 体重減少 7 RCT Ginès 2008 Ginès 2010 4) アウトカム 2 腹囲減少 3 RCT Ginès 2008 4) 5) アウトカム 3 腹水量減少 1 RCT アウトカム 4 腹水再発防止 2 RCT 関連文献 (リキシバプタン) Guyader 2002 7) Gerbes 2003 8) 関連文献 (トルバプタン) Sakaida 2012 Okita 2014 f) Sakaida 2014 Okita 2014 Sakaida 2014 10) アウトカム 5 大量腹水穿刺回数の減少 Wong 2010 Wong 2012 2 RCT 10) アウトカム 6 低ナトリウム血症の改善 Ginès 2008 Ginès 2010 5 RCT 4) アウトカム 7 尿量増加 4 RCT 4) Ginès 2008 アウトカム 8 臨床症状の改善 1 RCT b) f) Sakaida 2014 Wong 2010 Wong 2012 c) b) b) 11) 11) 5) Cardenas 2012 9) Okita 2014 f) Sakaida 2014 b) Sakaida2012 c) Okita 2014 f) Sakaida 2014 b) Sakaida 2014 b) 文献 1) Vaamonde C. Renal water handling in liver disease. The Kidney in Liver Disease, 4th Ed, Epstein M (ed), Hanley & Belfus, Philadelphia, 1996: p33-74 2) Ishikawa SE, Schrier RW. Pathophysiological roles of arginine vasopressin and aquaporin-2 in impaired water excretion. Clin Endocrinol (Oxf) 2003; 58: 1-17 3) Solis-Herruzo JA, Gonzalez-Gamarra A, Castellano G, et al. Metabolic clearance rate of arginine vasopressin in patients with cirrhosis. Hepatology 1992; 16: 974-979(ケースシリーズ) 4) Ginès P, Wong F, Watson H, et al. Effects of satavaptan, a selective vasopressin V(2) receptor antagonist, on ascites and serum sodium in cirrhosis with hyponatremia: a randomized trial. Hepatology 2008; 48: 204-213(ランダム) 5) Ginès P, Wong F, Watson H, et al. Clinical trial: short-term effects of combination of satavaptan, a selective vasopressin V2 receptor antagonist, and diuretics on ascites in patients with cirrhosis without hyponatraemia: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Aliment Pharmacol Ther 2010; 31: 834-845 (ランダム) 6) Gaglio P, Marfo K, Chiodo J 3rd. Hyponatremia in cirrhosis and end-stage liver disease: treatment with the vasopressin V(2)-receptor antagonist tolvaptan. Dig Dis Sci 2012; 57: 2774-2785(ランダム) 7) Guyader D, Patat A, Ellis-Grosse EJ, et al. Pharmacodynamic effects of a nonpeptide antidiuretic hormone V2 antagonist in cirrhotic patients with ascites. Hepatology 2002; 36: 1197-1205(ランダム) 8) Gerbes AL, Gulberg V, Ginès P, et al. Therapy of hyponatremia in cirrhosis with a vasopressin receptor antagonist: a randomized double-blind multicenter trial. Gastroenterology 2003; 124: 933-939(ランダム) 9) Cárdenas A, Ginès P, Marotta P, et al. Tolvaptan, an oral vasopressin antagonist, in the treatment of hyponatremia in cirrhosis. J Hepatol 2012; 56: 571-578(ランダム) 10) Wong F, Ginès P, Watson H, et al. Effects of a selective vasopressin V2 receptor antagonist, satavaptan, on ascites recurrence after paracentesis in patients with cirrhosis. J Hepatol 2010; 53: 283-290(ランダム) 11) Wong F, Watson H, Gerbes A, et al. Satavaptan for the management of ascites in cirrhosis: efficacy and safety across the spectrum of ascites severity. Gut 2012; 61: 108-116(ランダム) 【検索期間外文献】 a) Bichet D, Szatalowicz V, Chaimovitz C, et al. Role of vasopressin in abnormal water excretion in cirrhotic — 103 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 patients. Ann Intern Med 1982; 96: 413-417(ケースシリーズ) b) Sakaida I, Kawazoe S, Kajimura K, et al. Tolvaptan for improvement of hepatic edema: a phase 3, multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Hepatol Res 2014; 44: 73-82(ランダム) c) Sakaida I, Yanase M, Kobayashi Y, et al. The pharmacokinetics and pharmacodynamics of tolvaptan in patients with liver cirrhosis with insufficient response to conventional diuretics: a multicentre, doubleblind, parallel-group, phase III study. J Int Med Res 2012; 40: 2381-2393(ランダム) d) Sakaida I, Yamashita S, Kobayashi T, et al. Efficacy and safety of a 14-day administration of tolvaptan in the treatment of patients with ascites in hepatic oedema. J Int Med Res 2013; 41: 835-847(ランダム) e) Dahl E, Gluud LL, Kimer N, et al. Meta-analysis: the safety and efficacy of vaptans (tolvaptan, satavaptan and lixivaptan) in cirrhosis with ascites or hyponatraemia. Aliment Pharmacol Ther 2012; 36: 619-626(メ タ) f) Okita K, Kawazoe S, Hasebe C, et al. Dose-finding trial of tolvaptan in liver cirrhosis patients with hepatic edema: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Hepatol Res 2014; 44: 83-91(ランダム) g) Angeli P, Ginès P, Wong F, et al. Diagnosis and management of acute kidney injury in patients with cirrhosis: revised consensus recommendations of the International Club of Ascites. Gut 2015; 64: 531-537 — 104 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-19 難治性腹水に対する大量腹水穿刺排液は有用か? CQ 4-19 難治性腹水に対する大量腹水穿刺排液は有用か? ステートメント ● 有用である.利尿薬治療に抵抗する腹水にはまず穿刺排液を推奨す る.この際,アルブミンの併用を推奨する.しかし,本療法により 予後が改善するものではない. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 1 (100%) A 解説 腹水が完全に消失するまで腹水排液を行い,同時に血漿増量薬を静注投与する腹水穿刺排液 法は,全身循環動態,肝・腎機能,生存率に悪影響を及ぼさず,利尿薬投与例に比べて入院期 間が短縮し,肝性脳症,腎障害,電解質異常など合併症の出現率が有意に低率である 1) .また, 本療法により腹腔内圧,胸腔内圧,右心房圧,肺動脈圧は著明に低下し,呼吸症状,肺機能の 改善がみられる 2) .さらに肝静脈楔入圧,肝静脈圧較差は有意に低下し,門脈圧亢進は緩和され る 3) .しかし,重症肝硬変例では本法の効果は十分でなく,日をおかずに再貯留がみられ,1 L 程度の少量の排液でも肝性昏睡などの副作用が誘発されることがある.Ginés ら 1)は,117 例の 大量腹水例を大量穿刺排液/アルブミン静注群(n=58)と利尿薬投与群(n=59) (スピロノラク トン 200〜400 mg/日+フロセミド 40〜240 mg/日)とにランダムに割り付け,その後の長期経 過を比較したが,再入院率,生存率,死因に差がなかったとしている.利尿薬治療に抵抗する 大量腹水への第一選択の治療手技であるというコンセンサスは欧州 4)および米国のガイドライ ン 5), (Hepatology 2013: 1-96 a) [検索期間外文献] )でも得られている.なお,この際,アルブミ ン静注が大量腹水穿刺排液後の腎機能悪化や血症レニン活性の上昇を抑制することが RCT で確 かめられている 6) .さらに 5〜6 L までの腹水穿刺排液の場合,この穿刺排液後循環不全が他の 血漿増量薬や生食でも同様に防止できることも RCT で確かめられている 7, 8) .ただ,これらの対 象は大量腹水貯留患者であり,必ずしも難治性腹水患者でないことは解釈上注意が必要である. 難治性腹水に穿刺排液を行う際には,欧米の報告にあるようにいきなり全量排液を行うので はなく,症例ごとに排液量を慎重に検討すべきで,当初は 1 L 程度から始めて漸次排液量を増 やしていくのが望ましい.ともあれ,本療法は結果的に underfilling 状態を導き,排液後一時 的に BUN の著増を招くことがあるため,利尿薬はいったん中止あるいは減量するほうが安全で ある. 1987 年以来,大量腹水貯留例に対して穿刺排液と利尿薬投与の効果と生命予後を比較した RCT が 3 編 1, 9, 10)ある.Salerno ら 9)は,41 例の大量腹水例を反復穿刺排液+アルブミン静注群 — 105 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 (n=20)と利尿薬投与群(n=21)とにランダムに割り付け,治療反応性とその後の経過を比較し たが,反復穿刺排液+アルブミン静注群のほうが,腹水消失が速かったものの合併症発生率や 死亡率は両群間で差はなかったとしている.Ginés ら 1)は,117 例の大量腹水例を大量穿刺排 液+アルブミン静注群(n=58)と利尿薬投与群(n=59)とにランダムに割り付け,その後の経過 を比較した.腹水改善率は大量穿刺排液+アルブミン静注群で 96.5%,利尿薬投与群で 72.8% で,最初の入院時にそれぞれ 10 例,36 例が合併症を起こした.入院期間はそれぞれ平均 11.7 日,31.0 日で,両群間に生存率や死因に差がなかったという.また,Sola ら 10)は,80 例の大量 腹水貯留例を全量穿刺排液群(n=40,dextran-40 8 g/L 腹水補充)と利尿薬投与群(n=40)と にランダムに割り付けて比較したが,穿刺排液群のほうが腹水は除去されやすく, 肝性脳症な どの合併症の発現も低率であったが,生存率については差がなかったとしている.以上のよう に大量腹水穿刺排液は患者の予後改善にはつながらないと考えられる. 文献 1) Ginés P, Arroyo V, Quintero E, et al. Comparison of paracentesis and diuretics in the treatment of cirrhotics with tense ascites: results of a randomized study. Gastroenterology 1987; 93: 234-241(ランダム) 2) Pozzi M, Osculati G, Boari G, et al. Time course of circulatory and humoral effects of rapid total paracentesis in cirrhotic patients with tense, refractory ascites. Gastroenterology 1994; 106: 709-719(ケースシリー ズ) 3) Luca A, Feu F, Garcia-Pagan JC, et al. Favorable effects of total paracentesis on splanchnic hemodynamics in cirrhotic patients with tense ascites. Hepatology 1994; 20: 30-33(ケースシリーズ) 4) European Association for the Study of the Liver. EASL clinical practice guidelines on the management of ascites, spontaneous bacterial peritonitis, and hepatorenal syndrome in cirrhosis. J Hepatol 2010; 53: 397417(ガイドライン) 5) Runyon BA; Committee APG. Management of adult patients with ascites due to cirrhosis: an update. Hepatology 2009; 49: 2087-2107(ガイドライン) 6) Ginès P, Tito L, Arroyo V, et al. Randomized comparative study of therapeutic paracentesis with and without intravenous albumin in cirrhosis. Gastroenterology 1988; 94: 1493-1502(ランダム) 7) Fassio E, Terg R, Landeira G, et al. Paracentesis with Dextran 70 vs. paracentesis with albumin in cirrhosis with tense ascites. Results of a randomized study. J Hepatol 1992; 14: 310-316(ランダム) 8) Sola-Vera J, Minana J, Ricart E, et al. Randomized trial comparing albumin and saline in the prevention of paracentesis-induced circulatory dysfunction in cirrhotic patients with ascites. Hepatology 2003; 37: 11471153(ランダム) 9) Salerno F, Badalamenti S, Incerti P, et al. Repeated paracentesis and i.v. albumin infusion to treat ‘tense’ ascites in cirrhotic patients: a safe alternative therapy. J Hepatol 1987; 5: 102-108(ランダム) 10) Sola R, Vila MC, Andreu M, et al. Total paracentesis with dextran 40 vs diuretics in the treatment of ascites in cirrhosis: a randomized controlled study. J Hepatol 1994; 20: 282-288(ランダム) 【検索期間外文献】 a) Runyon BA; AASLD. Management of adult patients with ascites due to cirrhosis: Update 2012. Hepatology 2013: 1-96(www.aasld.org) (ガイドライン) — 106 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-20 腹水穿刺排液の際の血漿増量薬としてアルブミン静注と合成 コロイド静注のどちらが勝るか? CQ 4-20 腹水穿刺排液の際の血漿増量薬としてアルブミン静注と合成コロイド 静注のどちらが勝るか? ステートメント ● 大量穿刺排液時の循環不全,低ナトリウム血症を防止するうえで, アルブミンは最良の血漿増量薬として提案する.少量穿刺排液時に ついてはアルブミンが勝るというエビデンスはない. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) A 解説 腹水全量排液時の循環不全(paracentesis-induced circulatory dysfunction:PICD)については 穿刺排液 6 日後に血漿レニン活性が 50%以上上昇し,4 ng/mL/hr 以上になった場合と定義さ れており,PICD は早期の再入院と死亡に関連する 1) .Ginès らは,PICD の防止は腹水全量排液 を行ううえで重要であるが,血漿増量薬 dextran 70,polygeline を投与した場合の PICD 発生率 はそれぞれ 34.4%,37.8%であり,アルブミン投与時の 18.5%より有意に高率であったと報告し ている 1) .ただし,PICD 発生率に差がみられたのは 5 L 以上の腹水排液時で 5 L 未満の排液時 には両群で差はみられなかったという.また,PICD を防止するうえでアルブミンは生食より有 効ではあるが,6 L 未満の腹水排液では生食静注でも十分であるという報告 2)もある.これらは 中等量以上の腹水貯留例全般に対してなされた全量腹水排液からの結論であり,難治性腹水例 が穿刺排液の対象となる日本の症例でも妥当かどうかは明らかでない.また,腹水全量排液後 のアルブミン投与と合成コロイド polygeline 投与の比較では,アルブミン投与群で腎障害,低 ナトリウム血症の発症が少ない傾向にあり,100 日間の肝関連合併症の発現が低率で 30 日間の 平均入院医療費も少額であったという 3) . Bernardi ら 4)は,大量腹水穿刺排液後の合併症予防のためにアルブミン製剤と他の血漿増量 薬のどちらが適当であるかを検討する目的で,PICD 合併率,低ナトリウム血症発現率,死亡率 の 3 項目をアウトカムとするメタアナリシスを試みている.PICD 合併率については 8 編の RCT があり,アルブミン投与群(46/303 例;15.2%)のほうが血漿増量薬投与群(135/391 例;34.5%) より有意に PICD 合併が少なかったとしている.この際,サブ解析でデキストラン,ジェラチ ン,ヒドロキシエチルスターチなどの個々の血漿増量薬とアルブミンとの間にも有意差がみら れたという.低ナトリウム血症については 9 編の RCT があり,これもアルブミン投与群(37/404 例;9.2%)のほうが血漿増量薬投与群(79/499 例;15.8%)より有意に低率であったとしている. また,死亡率については 11 編の RCT があり,アルブミン投与群(50/414 例;12.1%)のほうが — 107 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 血漿増量薬,血管作動薬投与群(74/513 例;14.4%)より有意に低率であったとしている.一方, 腹水再発,腎障害,再入院,肝性脳症,門脈圧亢進性出血について有意差はなかったという. ところでこれまで腹水穿刺排液時のアルブミン補充量は腹水 1 L あたり 8 g とされてきたが, Alessandria ら 5)は,半量の 4 g でもよいかどうかについて RCT で検討した.その結果,穿刺 6 日後の循環不全,低ナトリウム血症の頻度および穿刺後 6 ヵ月間の生存率,穿刺排液を要する 大量腹水発生率は 8 g/L 腹水投与群と 4 g/L 腹水群で変わらず,半量補充でも目的は達成でき ると考えられる. 文献 1) Ginès A, Fernandez-Esparrach G, Monescillo A, et al. Randomized trial comparing albumin, dextran 70, and polygeline in cirrhotic patients with ascites treated by paracentesis. Gastroenterology 1996; 111: 10021010(ランダム) 2) Sola-Vera J, Minana J, Ricart E, et al. Randomized trial comparing albumin and saline in the prevention of paracentesis-induced circulatory dysfunction in cirrhotic patients with ascites. Hepatology 2003; 37: 11471153(ランダム) 3) Moreau R, Valla DC, Durand-Zaleski I, et al. Comparison of outcome in patients with cirrhosis and ascites following treatment with albumin or a synthetic colloid: a randomised controlled pilot trail. Liver Int 2006; 26: 46-54(ランダム) 4) Bernardi M, Caraceni P, Navickis RJ, et al. Albumin infusion in patients undergoing large-volume paracentesis: a meta-analysis of randomized trials. Hepatology 2012; 55: 1172-1181(メタ) 5) Alessandria C, Elia C, Mezzabotta L, et al. Prevention of paracentesis-induced circulatory dysfunction in cirrhosis: standard vs half albumin doses: a prospective, randomized, unblinded pilot study. Dig Liver Dis 2011; 43: 881-886(ランダム) — 108 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-21 難治性腹水の治療に腹腔・静脈シャント(P-V シャント)は有 効か? CQ 4-21 難治性腹水の治療に腹腔・静脈シャント(P-V シャント)は有効か? ステートメント ● 重篤な合併症が高頻度に発生し,予後改善はないが,症状の改善に は有用であり,入院期間は短縮する.他に治療手段のない難治性腹 水では,慎重な評価とインフォームドコンセントののちに本法を試 みることを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) A 解説 腹膜・頸静脈シャント(P-V シャント)は逆流防止弁を用いて自動的に腹水を頸静脈に注入す るものである.腹水の軽減とともに,腎血流量,尿量の増加,レニン・アンジオテンシン・ア ルドステロン系の抑制,利尿薬に対する反応性の改善が認められる.施行後も少量の腹水は残 存するが,経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)より早く腹水をコントロールできるとい う 1) .肝機能が比較的保持されている例(血清総ビリルビン 10 mg/dL 以下,プロトロンビン時 間 40%以上)や肝性脳症,消化管出血を伴わない例に有効例が多いが,播種性血管内凝固症候 群(DIC) ,腹膜炎,敗血症,心不全などの致死的な合併症が高頻度に発現し,シャント閉塞も 起こりやすい.利尿薬投与群との比較試験 2)で入院期間の短縮,再入院までの期間の延長が認 められている.また,穿刺排液アルブミン静注群との比較試験でも再入院までの期間の延長, 入院回数の減少が報告されている 3) .約半数に難治性腹水の改善がみられ,退院を可能にすると いうメリットは大きいが,生存期間は腹水穿刺排液と変わらず 3, 4) ,長期予後を改善させるもので はない 5) . これらを踏まえて AASLD ガイドラインでは本療法を積極的に勧めておらず,適応は肝移植 や TIPS の適応でない難治性腹水で,継続的な穿刺排液などが不可能な,いわば他に適当な治療 手段がない例に限るとしている(Hepatology 2013: 1-96 a) [検索期間外文献] ) .しかし,最近 P-V シャントの有用性を再評価する報告も散見される.Dumortier ら 1)は,肝移植候補にリストアッ プされた難治性腹水例では P-V シャントにより 83%で症状改善が得られ,糸球体濾過量(GFR) も有意に改善したとしている.また,肝移植後の腎不全発生は,以前の P-V シャント未施行の 症例に比し有意に少なかったという 1) .また,Oida ら 6)は,難治性腹水治療に Denver シャン トを作製した肝不全 21 例を後ろ向きに分析し,腹水穿刺排液をシャント作製前に行った例と行 わなかった例を比較検討し,腹水穿刺排液を先行して行わなかった例のほうがシャントの開存 期間が有意に長く,平均生存期間も有意に長かったことから,効果を期待するためには利尿薬 — 109 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 不応例に早期に P-V シャントを増設するほうがよいとしている.結論を得るには背景を厳密に 揃えた前向き RCT が必要であるが,興味深い見解である. 文献 1) Dumortier J, Pianta E, Le Derf Y, et al. Peritoneovenous shunt as a bridge to liver transplantation. Am J Transplant 2005; 5: 1886-1892(ケースコントロール) 2) Stanley MM, Ochi S, Lee KK, et al. Peritoneovenous shunting as compared with medical treatment in patients with alcoholic cirrhosis and massive ascites. Veterans Administration Cooperative Study on Treatment of Alcoholic Cirrhosis with Ascites. N Engl J Med 1989; 321: 1632-1638(ランダム) 3) Ginès P, Arroyo V, Vargas V, et al. Paracentesis with intravenous infusion of albumin as compared with peritoneovenous shunting in cirrhosis with refractory ascites. N Engl J Med 1991; 325: 829-835(ランダム) 4) Ginès A, Planas R, Angeli P, et al. Treatment of patients with cirrhosis and refractory ascites using LeVeen shunt with titanium tip: comparison with therapeutic paracentesis. Hepatology 1995; 22: 124-131(ランダ ム) 5) Zervos EE, McCormick J, Goode SE, et al. Peritoneovenous shunts in patients with intractable ascites: palliation at what price? Am Surg 1997; 63: 157-162(ケースシリーズ) 6) Oida T, Mimatsu K, Kawasaki A, et al. Early implantation of Denver shunt. Hepatogastroenterology 2011; 58: 2026-2028(ケースシリーズ) 【検索期間外文献】 a) Runyon BA; AASLD. Management of adult patients with ascites due to cirrhosis: Update 2012. Hepatology 2013: 1-96(www.aasld.org) (ガイドライン) — 110 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-22 難治性腹水に対して腹水濾過濃縮再静注法(CART)は有効な 治療法か? CQ 4-22 難治性腹水に対して腹水濾過濃縮再静注法(CART)は有効な治療法 か? ステートメント ● 腹水穿刺排液アルブミン静注と同程度に有効であり,治療選択肢の ひとつとして試みることを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) B 解説 腹水濾過濃縮再静注法(CART)は,あらかじめ穿刺腹水をバッグに集め,濾過器を通して除 菌,除細胞したあと,濃縮して点滴静注することにより,腹水中の蛋白を再利用する手技であ る.穿刺腹水を濾過濃縮して再静注する試みは 1970 年代に始まり,現在まで機器に改良が加え られてきた.本法は,従来の再静注法や腹腔・静脈シャント(P-V シャント)に比べて安全性に 優れ,効果は腹水全量排液アルブミン静注法と同等で 2 年間の観察期間中に生存率や大量腹水 再発率に差はみられなかったという 1) .施行後に若干血圧低下をきたすことはあるが,肝機能, 凝固動態,血小板数などには有意な影響を及ぼさない 2, 3) .また,アルブミンの需要を節減できる という大きなメリットがある.一方,再静注により中心部の血流量を増やすことはできるが, 末梢血管拡張が著しい進行肝硬変では腎機能やナトリウム排泄能を改善する効果は乏しいとさ れている 4) .また,機器のコストが高く,手技に手間がかかることも問題で 5) ,一過性の血小板, フィブリノーゲンの減少,発熱をみることがある.アレルギーの既往症や過敏症反応の経験の ある患者では十分に監視しながら行う. 腹水エンドトキシンが濃縮されることは留意すべきで,腹水エンドトキシン高値例や特発性 細菌性腹膜炎(SBP)の疑診例には本法の施行は好ましくない 6) .腹水処理速度(濾過,濃縮速度) が速すぎると発熱しやすいことから,腹水処理は 1,000〜2,000 mL/hr 程度とし,濾過濃縮腹水 静注は 100〜150 mL/hr 程度で実施することが推奨されている 7) .近年,日本では多くの施設か ら関連学会に CART の症例報告がなされており,難治性腹水治療の選択肢のひとつとして定着 した感はあるが,まとまった研究論文がないのが現状である. — 111 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 文献 1) Graziotto A, Rossaro L, Inturri P, et al. Reinfusion of concentrated ascitic fluid versus total paracentesis: a randomized prospective trial. Dig Dis Sci 1997; 42: 1708-1714(ランダム) 2) Bernardi M, Rimondi A, Gasbarrini A, et al. Ascites apheresis, concentration and reinfusion for the treatment of massive or refractory ascites in cirrhosis. J Hepatol 1994; 20: 289-295(ケースシリーズ) 3) Borzio M, Romagnoni M, Sorgato G, et al. A simple method for ascites concentration and reinfusion. Dig Dis Sci 1995; 40: 1054-1059(ケースシリーズ) 4) Bernardi M, Gasbarrini A, Trevisani F, et al. Hemodynamic and renal effects of ascites apheresis, concentration and reinfusion in advanced cirrhosis. J Hepatol 1995; 22: 10-16(ケースシリーズ) 5) Zaak D, Paquet KJ, Kuhn R. Prospective study comparing human albumin vs. reinfusion of ultrafiltrateascitic fluid after total paracentesis in cirrhotic patients with tense ascites. Z Gastroenterol 2001; 39: 5-10 (ケースコントロール) 6) Fukui H, Uemura M, Tsujii T. Pathophysiology and treatment of cirrhotic ascites. Liver Cirrhosis Update, Yamanaka M, Toda G, Tanaka T (eds), Elsevier, Amsterdam, 1998: p63-76 7) 高松正剛,宮﨑浩彰,片山和宏,ほか.難治性腹水症に対する腹水濾過濃縮再静注法(CART)の現況―特 に副作用としての発熱に影響する臨床的因子の解析.肝胆膵 2003; 46: 663-669 — 112 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-23 経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)は難治性腹水に有 効な治療法か? CQ 4-23 経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)は難治性腹水に有効な治 療法か? ステートメント ● 経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)は難治性腹水に有効で, 施行後 1 年の腹水制御率は穿刺排液アルブミン静注療法より勝る. 消化管出血,感染,腎不全の発症は穿刺排液と変わらず,重症の肝 性脳症は多い.ステントや手技の改良により安全性も高まりつつあ るが,技術的に熟練が必要で,臨床的に十分検討のうえで施行する ことを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (89%) A 解説 経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)は,難治性腹水例に対して劇的な効果を示し,腹 水は消失または軽快する.TIPS 施行後尿中ナトリウム排泄量は増加するが,これらの増加は難 治性腹水例で最も顕著である 1) .しかし,肝性脳症,肝不全の進行 2, 3) ,肺血管抵抗の増加 4) , hyperdynamic state の悪化による心不全の発現などが問題となっており 4, 5) ,コスト面でも腹水穿 刺排液アルブミン静注より割高であるという欠点がある 6) .効果や副作用について穿刺排液アル ブミン静注と比較した RCT はこれまでに 6 編あり,これらをもとにメタアナリシスが 7 編報告 されている(CQ 4-24 解説参照) .Deltenre らのメタアナリシス 7)では,270〜330 例を対象とし ており,TIPS による腹水制御率が 4 ヵ月で 66%,12 ヵ月で 54.8%であり,穿刺排液の 23.8%, 18.9%より有意に高率であった.その後に発表された日本の Narahara らの RCT 8)でも,TIPS に よる 3 ヵ月,6 ヵ月,12 ヵ月の腹水制御率が 87%,80%,67%と穿刺排液の 30%,27%,27%より 高率であった. さらに Saab らのメタアナリシス 9)では,穿刺排液より腹水再貯留率は有意(p<0.0001)に低 率(3 ヵ月 33.8% vs. 84.1%,12 ヵ月 45.1% vs. 81.0%)であり,消化管出血,感染,腎不全の発 症は穿刺排液と変わらないが,重症の肝性脳症は多いとしており,他のメタアナリシスでも結 論はほぼ同様である.Russo ら 10)は,TIPS 施行後 32%に脳症の出現,悪化がみられ,脳症の 大部分は薬物治療やシャントサイズの縮小で対処できるが,難治性脳症例の予後は非常に悪い としている.肝性脳症,心肺疾患,腎不全(クレアチニン 3.3 mg/dL 以上) ,肝不全(ビリルビ ン 5.8 mg/dL 以上) ,敗血症,門脈血栓症の合併は TIPS の絶対的禁忌 11)と考えられ,施行にあ たっては慎重な肝予備能,腎機能,心機能,呼吸機能の評価を要する.International Ascites Club の治療指針 12)では,先行する肝性脳症,心機能不全,70 歳以上の高齢,Child-Pugh score — 113 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 12 点以上を TIPS の禁忌としている.心機能については明確な基準はないが,TIPS 直後の内臓血 流量増加に対応できるだけの駆出分画(ejection fraction)55%以上が一応の目安とされている 12) . 一方,最近では TIPS 手技を工夫して合併症を軽減させる試みがなされている.Thalheimer ら 13)は,56 例の難治性腹水例に TIPS を行ったが,最初のステントの拡張幅を 6 mm とし,門 脈圧格差が 25%以上減少していればそれ以上はシャントを広げなかった.その結果,1,3,6, 12 ヵ月後の完全あるいは部分反応は 58%,81%,83%,93%であったという.一方,1,3,6,12 ヵ 月後の死亡率は 10%,29%,37%,50%であり,27 症例(48%)が新たに肝性脳症を発現したが, 6 例(22%)のみがⅢ〜Ⅳ度であり,23 例(85%)は迅速に治療に反応したとしている.さらに, ポリテトラフルオロエチレンを用いる expanded covered stent の開発は治療成績の向上につな がっている.Maleux ら 14)は covered TIPS 挿入 96 例を uncovered TIPS 126 例と比較した結果, covered TIPS では 1 年間のシャント不全率が有意に低く(19% vs. 49%,p<0.0001) ,脳症発生 率が低く,腹水コントロールに優れ,全生存率も高くなるとしている.この際,MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score 16 点未満の症例でその傾向が顕著であったという. 一方,肝移植後の難治性腹水に対する TIPS 施行 19 例を後ろ向きに検討した Saad ら 15)によ ると,技術的,血行動態的効果はそれぞれ 100%,95%であったが,臨床的効果は 16%であり, 肝移植未施行例での効果(50〜80% 文献上)に比べて著しく悪かった.この際,患者の 30 日,90 日死亡率はそれぞれ 16%,21%で,1,3,6 ヵ月のシャント開存率,グラフト生着率は,それぞ れ 100%,90%,90%および 79%,58%,47%であった.施行時の MELD score は平均 17 点で, MELD score はグラフト生着の有意の指標になったとしている.さらに Feyssa ら 16)は,MELD score 15 点以上の症例の 3 ヵ月,6 ヵ月生存率は 15 点未満の症例より有意に低く,15 点以上の症 例では TIPS の施行に慎重であるべきとしている.また,King ら 17)は,22 例の肝移植後患者と 44 例の肝移植未施行患者の TIPS 施行後の臨床経過を比較したところ,技術的,臨床的成功率 はともに肝移植を受けていない対照群で高率[95.5% vs. 68.2%(p<0.05) ,93.2% vs. 77.2%(p< 0.05) ]であり,合併症発生率,脳症出現率は両群で変わらなかったが,シャント不全は肝移植 群で高率であったとしている.また,TIPS 前の MELD score が 15 点未満では両群間の死亡率に 差がみられなかったが,15 点超では肝移植群の死亡率が高かったとしている. 日本では保険適用がなく,実際の施行には施設倫理委員会などでの審査が必要となる可能性 がある. 文献 1) Gerbes AL, Gulberg V, Waggershauser T, et al. Renal effects of transjugular intrahepatic portosystemic shunt in cirrhosis: comparison of patients with ascites, with refractory ascites, or without ascites. Hepatology 1998; 28: 683-688(ケースシリーズ) 2) Quiroga J, Sangro B, Nunez M, et al. Transjugular intrahepatic portal-systemic shunt in the treatment of refractory ascites: effect on clinical, renal, humoral, and hemodynamic parameters. Hepatology 1995; 21: 986-994(ケースシリーズ) 3) Somberg KA, Lake JR, Tomlanovich SJ, et al. Transjugular intrahepatic portosystemic shunts for refractory ascites: assessment of clinical and hormonal response and renal function. Hepatology 1995; 21: 709-716 (ケースシリーズ) 4) Van der Linden P, Le Moine O, Ghysels M, et al. Pulmonary hypertension after transjugular intrahepatic portosystemic shunt: effects on right ventricular function. Hepatology 1996; 23: 982-987(ケースシリーズ) 5) Rodriguez-Laiz JM, Banares R, Echenagusia A, et al. Effects of transjugular intrahepatic portasystemic — 114 — ②腹水 6) 7) 8) 9) 10) 11) 12) 13) 14) 15) 16) 17) shunt (TIPS) on splanchnic and systemic hemodynamics, and hepatic function in patients with portal hypertension. Preliminary results. Dig Dis Sci 1995; 40: 2121-2127(ケースシリーズ) Ginès P, Uriz J, Calahorra B, et al. Transjugular intrahepatic portosystemic shunting versus paracentesis plus albumin for refractory ascites in cirrhosis. Gastroenterology 2002; 123: 1839-1847(ランダム) Deltenre P, Mathurin P, Dharancy S, et al. Transjugular intrahepatic portosystemic shunt in refractory ascites: a meta-analysis. Liver Int 2005; 25: 349-356(メタ) Narahara Y, Kanazawa H, Fukuda T, et al. Transjugular intrahepatic portosystemic shunt versus paracentesis plus albumin in patients with refractory ascites who have good hepatic and renal function: a prospective randomized trial. J Gastroenterol 2011; 46: 78-85(ランダム) Saab S, Nieto JM, Lewis SK, et al. TIPS versus paracentesis for cirrhotic patients with refractory ascites. Cochrane Database Syst Rev 2006; (4): CD004889(メタ) Russo MW, Sood A, Jacobson IM, et al. Transjugular intrahepatic portosystemic shunt for refractory ascites: an analysis of the literature on efficacy, morbidity, and mortality. Am J Gastroenterol 2003; 98: 2521-2527 Wong F, Blendis L. Transjugular intrahepatic portosystemic shunt for refractory ascites: tipping the sodium balance. Hepatology 1995; 22: 358-364 Moore KP, Wong F, Gines P, et al. The management of ascites in cirrhosis: report on the consensus conference of the International Ascites Club. Hepatology 2003; 38: 258-266 Thalheimer U, Leandro G, Samonakis DN, et al. TIPS for refractory ascites: a single-centre experience. J Gastroenterol 2009; 44: 1089-1095(ケースシリーズ) Maleux G, Perez-Gutierrez NA, Evrard S, et al. Covered stents are better than uncovered stents for transjugular intrahepatic portosystemic shunts in cirrhotic patients with refractory ascites: a retrospective cohort study. Acta Gastroenterol Belg 2010; 73: 336-341(コホート) Saad WE, Darwish WM, Davies MG, et al. Transjugular intrahepatic portosystemic shunts in liver transplant recipients for management of refractory ascites: clinical outcome. J Vasc Interv Radiol 2010; 21: 218223 Feyssa E, Ortiz J, Grewal K, et al. MELD score less than 15 predicts prolonged survival after transjugular intrahepatic portosystemic shunt for refractory ascites after liver transplantation. Transplantation 2011; 91: 786-792(ケースシリーズ) King A, Masterton G, Gunson B, et al. A case-controlled study of the safety and efficacy of transjugular intrahepatic portosystemic shunts after liver transplantation. Liver Transpl 2011; 17: 771-778(ケースコン トロール) — 115 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-24 難治性腹水に 対す る 経頸静脈肝内門脈大循環シ ャ ン ト 術 (TIPS)により患者の QOL や予後は改善するか? CQ 4-24 難治性腹水に対する経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)によ り患者の QOL や予後は改善するか? ステートメント ● 経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)では腹水再発は少ない が,肝性脳症をきたしやすく,身体的 QOL の改善は穿刺排液アル ブミン静注療法と差がない.精神的 QOL の改善は TIPS のほうが やや優れている.最近の RCT,メタアナリシスでは,腹水穿刺排 液アルブミン静注療法に比べて生存率がよいとされているが,技術 的に熟練が必要で,臨床的に十分検討のうえで施行することを提案 する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (89%) A 解説 穿刺排液アルブミン静注と比較した Saab らのメタアナリシス 1)では,12 ヵ月,24 ヵ月後の腹 水再発率は経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)群が有意に低率であったとしている.消 化管出血,感染症/敗血症,急性腎不全の合併率は TIPS 群と穿刺排液アルブミン静注群間で変 わらなかったが,肝性脳症の発症率は TIPS 群で有意(p<0.01)に高率であったという.また, Salerno らのメタアナリシス 2)でも,観察期間中の腹水再発は TIPS 群 42%,穿刺排液アルブミ ン静注群 89.4%であり,TIPS 群が有意に低率(p<0.0001)であった.一方,肝性脳症の発現頻 度は TIPS 群で有意に高く,重症肝性脳症についても同様であった.さらに消化管出血,特発性 細菌性腹膜炎(SBP) ,肝腎症候群の発生率は TIPS 群でそれぞれ 8%,2%,4.6%,穿刺排液アル ブミン静注群ではそれぞれ 12.7%,3%,12.7%であり,全体として穿刺排液アルブミン静注群に おいて有意(p=0.005)に高率であったとしている.最近の Bai らのメタアナリシス(World J Gasa) troenterol 2014; 20: 2704-2714 [検索期間外文献] )でも,同様の成績が報告されているが,ここ では TIPS 群において肝腎症候群の発生率が有意(p=0.02)に低率であったとされている.総じ て TIPS 群においては腹水再発が少ないが,肝性脳症をきたしやすいという成績である.SF-36 を用いて両群の身体的・精神的 QOL を評価した Campbell ら 3)は精神的 QOL の改善は TIPS の ほうがやや優れていたが,肝性脳症が発現するために身体的 QOL の改善は治療法により差がな かったとしている. TIPS と穿刺排液アルブミン静注間で予後を比較する RCT は 6 編 4〜9)あり,これらをもとに 7 編のメタアナリシス 1, 2, 10〜13, a)が発表されている.最初の Saab らのメタアナリシス 10)は 2003 年 までの RCT 4 編 264 例の解析で,これに続く 4 編のメタアナリシス 1, 11〜13)は 2004 年までの RCT — 116 — ②腹水 5 編 330 例 4〜8)を対照とした解析であり,これらは穿刺排液アルブミン静注との間に予後の差は ないと結論づけている.これに続く Salerno らのメタアナリシス 2)は 2000 年以降の RCT 4 編 305 例 5〜8)を解析したもので,ここでは TIPS 後の肝移植なしの生存率は穿刺排液アルブミン静 注より高率(6,12,24,36 ヵ月平均生存率:TIPS 群 75.1%,63.1%,49.0%,38.1%,穿刺排液アル ブミン静注群 65.3%,52.5%,35.2%,28.7%)であったとしている.2011 年に日本で行われた Narahara らの RCT 9)では TIPS のほうが生存率が高く,これを含む Bai らのメタアナリシス a) では TIPS のほうが穿刺排液アルブミン静注群より肝移植なしの生存率が高く(HR 0.61,95%CI 0.46〜0.82,p<0.001) ,肝関連死が少ない(OR 0.62,95%CI 0.39〜0.98,p=0.04)という結論で あった.1996 年に行われた Lebrec らの RCT 4)では,TIPS 例の予後が明らかに悪かったことか ら TIPS の手技の進歩や慎重な症例選択が予後改善に寄与している可能性がある. なお,日本では保険適用はされていない. 文献 1) Saab S, Nieto JM, Lewis SK, et al. TIPS versus paracentesis for cirrhotic patients with refractory ascites. Cochrane Database Syst Rev 2006; (4): CD004889(メタ) 2) Salerno F, Camma C, Enea M, et al. Transjugular intrahepatic portosystemic shunt for refractory ascites: a meta-analysis of individual patient data. Gastroenterology 2007; 133: 825-834(メタ) 3) Campbell MS, Brensinger CM, Sanyal AJ, et al. Quality of life in refractory ascites: transjugular intrahepatic portal-systemic shunting versus medical therapy. Hepatology 2005; 42: 635-640(ランダム) 4) Lebrec D, Giuily N, Hadengue A, et al. Transjugular intrahepatic portosystemic shunts: comparison with paracentesis in patients with cirrhosis and refractory ascites: a randomized trial. French Group of Clinicians and a Group of Biologists. J Hepatol 1996; 25: 135-144(ランダム) 5) Rossle M, Ochs A, Gulberg V, et al. A comparison of paracentesis and transjugular intrahepatic portosystemic shunting in patients with ascites. N Engl J Med 2000; 342: 1701-1707(ランダム) 6) Ginès P, Uriz J, Calahorra B, et al. Transjugular intrahepatic portosystemic shunting versus paracentesis plus albumin for refractory ascites in cirrhosis. Gastroenterology 2002; 123: 1839-1847(ランダム) 7) Sanyal AJ, Genning C, Reddy KR, et al. The North American Study for the Treatment of Refractory Ascites. Gastroenterology 2003; 124: 634-641(ランダム) 8) Salerno F, Merli M, Riggio O, et al. Randomized controlled study of TIPS versus paracentesis plus albumin in cirrhosis with severe ascites. Hepatology 2004; 40: 629-635(ランダム) 9) Narahara Y, Kanazawa H, Fukuda T, et al. Transjugular intrahepatic portosystemic shunt versus paracentesis plus albumin in patients with refractory ascites who have good hepatic and renal function: a prospective randomized trial. J Gastroenterol 2011; 46: 78-85(ランダム) 10) Saab S, Nieto JM, Ly D, et al. TIPS versus paracentesis for cirrhotic patients with refractory ascites. Cochrane Database Syst Rev 2004; (3): CD004889(メタ) 11) Albillos A, Banares R, Gonzalez M, et al. A meta-analysis of transjugular intrahepatic portosystemic shunt versus paracentesis for refractory ascites. J Hepatol 2005; 43: 990-996(メタ) 12) Deltenre P, Mathurin P, Dharancy S, et al. Transjugular intrahepatic portosystemic shunt in refractory ascites: a meta-analysis. Liver Int 2005; 25: 349-356(メタ) 13) D’Amico G, Luca A, Morabito A, et al. Uncovered transjugular intrahepatic portosystemic shunt for refractory ascites: a meta-analysis. Gastroenterology 2005; 129: 1282-1293(メタ) 【検索期間外文献】 a) Bai M, Qi XS, Yang ZP, et al. TIPS improves liver transplantation-free survival in cirrhotic patients with refractory ascites: an updated meta-analysis. World J Gastroenterol 2014; 20: 2704-2714(メタ) — 117 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-25 難治性腹水例の治療後の生存率や QOL は経頸静脈肝内門脈大 循環シャント術(TIPS)と P-V シャントのどちらが勝るか? CQ 4-25 難治性腹水例の治療後の生存率や QOL は経頸静脈肝内門脈大循環 シャント術(TIPS)と P-V シャントのどちらが勝るか? ステートメント ● P-V シャントは短期効果に勝るが,経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)は長期効果に 勝る.長期的にみて TIPS のほうがシャント開存率が高く,平均生存期間も長い傾向にある. 解説 経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)と P-V シャントを比較した研究としては,1 編の 前向きの RCT 1)があるのみである.1 ヵ月後の腹水軽快率は,TIPS が 46%,P-V シャントが 73%であったが,3 年後の有効率は TIPS が 85%,P-V シャントが 40%であり,P-V シャントは 短期効果に勝るが,TIPS は長期効果に優れていた.術後の平均シャント開存期間は,TIPS が 4.4 ヵ月,P-V シャントが 4.0 ヵ月,再開通処置を加える条件下での平均シャント開存期間は, TIPS が 31.1 ヵ月,P-V シャントが 13.1 ヵ月で,不可逆的なシャント閉塞は,TIPS の 19%,PV シャントの 38%に認められた.また,TIPS および P-V シャント後の平均生存期間は,それぞ れ 28.7 ヵ月(41 ± 28.7) ,16.1 ヵ月(28 ± 29.7)であったという. 文献 1) Rosemurgy AS, Zervos EE, Clark WC, et al. TIPS versus peritoneovenous shunt in the treatment of medically intractable ascites: a prospective randomized trial. Ann Surg 2004; 239: 883-889; discussion 889-891 (ランダム) — 118 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-26 肝硬変患者の経過中に特発性細菌性腹膜炎(SBP)が合併する と予後不良となるか? CQ 4-26 肝硬変患者の経過中に特発性細菌性腹膜炎(SBP)が合併すると予後 不良となるか? ステートメント ● 予後は悪くなる.1 年後の死亡率は 66.2%にのぼる. 解説 肝硬変では感染を合併すると死亡リスクが 4 倍になり,30%が 1 ヵ月以内に,さらに 30%が 1 年以内に死亡する.特発性細菌性腹膜炎(SBP)は肝硬変にみられる感染症の代表格であり, Arvanti らのメタアナリシス 1) では,1978〜2009 年の SBP 合併 7,062 例の死亡率は 1 ヵ月 32.5%(26 コホート/SBP 1,192 例) ,3 ヵ月 28.6%(24 コホート/SBP 1,125 例) ,12 ヵ月 66.2% (32 コホート/SBP 1,698 例)であった.SBP は診断が遅れると致死的な経過をとる.最初に報告 されたころの致死率は 90%に達していたが,早期診断と適切な抗菌薬投与により,死亡率は徐々 に低下してきている 2) .上述のメタアナリシスでは,2000 年以後では 2000 年以前に比べ,SBP 罹患時の 1 ヵ月死亡率は 44.4%から 31.9%まで低下したという.Tandon らのシステマティック レビュー 3)によると,SBP 合併肝硬変患者の予後を左右する因子は腎障害,MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score,治療不応性,免疫抑制因子,院内感染 SBP などであり,なかで も腎障害(血液検査での BUN,クレアチニン値)は最も重要な因子であった.腎障害をきたした 患者の死亡率は 67%であったのに対し,腎障害のない患者の死亡率は 11%にとどまっていたと いう.さらに,抗菌薬投与にもかかわらず本症の 33%に腎障害が合併し,最大の予後悪化因子 をなすとの報告 4)もある.また,2000 年 1 月〜2007 年 6 月の細菌培養陽性 SBP 236 例を後ろ向 きに分析した Cheong ら 5)は,院内感染性の SBP(126 例)のほうが院外感染性の SBP(110 例) より予後が悪い(30 日以内死亡率 58.7% vs. 37.3%,p=0.001)と報告し,この原因として第 3 世 代セフェム系抗菌薬(41% vs. 10.0%,p=0.001)やニューキノロン系抗菌薬(50.0% vs. 30.9%, p=0.003)に対する抵抗菌が多いことが院内感染 SBP 合併肝硬変の予後不良に関連している可能 性を指摘している. — 119 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 文献 1) Arvaniti V, D’Amico G, Fede G, et al. Infections in patients with cirrhosis increase mortality four-fold and should be used in determining prognosis. Gastroenterology 2010; 139: 1246-1256, 1256.e1-e5(メタ) 2) Garcia-Tsao G. Current management of the complications of cirrhosis and portal hypertension: variceal hemorrhage, ascites, and spontaneous bacterial peritonitis. Gastroenterology 2001; 120: 726-748 3) Tandon P, Garcia-Tsao G. Renal dysfunction is the most important independent predictor of mortality in cirrhotic patients with spontaneous bacterial peritonitis. Clin Gastroenterol Hepatol 2011; 9: 260-265 4) Sort P, Navasa M, Arroyo V, et al. Effect of intravenous albumin on renal impairment and mortality in patients with cirrhosis and spontaneous bacterial peritonitis. N Engl J Med 1999; 341: 403-409(ランダム) 5) Cheong HS, Kang CI, Lee JA, et al. Clinical significance and outcome of nosocomial acquisition of spontaneous bacterial peritonitis in patients with liver cirrhosis. Clin Infect Dis 2009; 48: 1230-1236(ケースコン トロール) — 120 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-27 上部消化管出血例,重症肝硬変腹水例への抗菌薬の予防投与 は特発性細菌性腹膜炎(SBP)の防止や予後改善に有用か? CQ 4-27 上部消化管出血例,重症肝硬変腹水例への抗菌薬の予防投与は特発性 細菌性腹膜炎(SBP)の防止や予後改善に有用か? ステートメント 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ● 有用である.上部消化管出血例では抗菌薬の予防投与により特発性 細菌性腹膜炎(SBP)発症,死亡率,感染症死,細菌感染,敗血症 が有意に抑えられるので投与することを提案する. 2 (100%) A ● 腹水蛋白濃度が 1.5g/dL 未満の肝不全例では,抗菌薬の予防投与 により SBP,重症感染症の発症や死亡率が有意に抑制されるとの メタアナリシスがあり,重症例には抗菌薬の予防投与を提案する. 2 (100%) A 解説 特発性細菌性腹膜炎(SBP)発症リスクの高い重症肝硬変例,とりわけ消化管出血例,腹水蛋 白低値例などでは,ニューキノロン系抗菌薬の予防的投与が勧められ,これによる医療費節減 効果も報告されている.また,細菌感染は消化管出血の治療経過に悪影響を及ぼすため,出血 後の短期間の抗菌薬投与は感染防止と生存率改善につながる.しかし,投与が長期にわたると, 重症な Staphylococcus の院内感染や抗菌薬抵抗性 E. coli 感染などの危険性が増すことが指摘され ており,抗菌薬の予防的投与は消化管出血例,SBP の既往を有する例,腹水蛋白濃度が低値の 例などリスクの高い例に限るべきと考えられている.さらに日本では,長期間の抗菌薬予防投 与は保険診療上認められていないため,適応に関しては臨床的に十分検討のうえ,また,施設 によっては倫理審査のうえでの使用を考慮する. 進行した肝硬変患者への抗菌薬予防投与の感染防止,予後改善効果については上部消化管出 血例と非出血例に分けて検討が進められてきた.まず,上部消化管出血例については,多くの RCT とそれらをまとめたメタアナリシスが報告されている.Chavez-Tapia らのコクランレ ビュー 1)は 12 編の抗菌薬予防投与群と非投与群/プラセボ投与群の RCT を総括したメタアナリ シスであり,肝硬変上部消化管出血 1,241 例の成績をまとめている.用いられた抗菌薬投与スケ ジュールは,セフェム系抗菌薬静注,ニューキノロン系抗菌薬経口/静注をはじめとして極めて 多彩で,投与期間もまちまちであったが,抗菌薬の予防投与により SBP の発症だけでなく,死 亡率,感染症死,細菌感染,敗血症が有意に抑えられたという.各アウトカム毎の p 値は非常 に小さく,抗菌薬予防投与の効果が確認された.さらに彼らは翌年の分析 2)では,再出血率と 入院期間も有意に抑えられたと追加している. — 121 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 一方,上部消化管非出血例については,腹水蛋白低値例,肝不全例を対象に種々の検討がな されてきた.Novella ら 3)は,腹水蛋白 1 g/dL 以下,あるいは血清ビリルビン 2.5 mg/dL 以上 の SBP 高発生危険腹水例 109 例に対するノルフロキサシン持続投与群と入院中のみ投与群の RCT において,SBP 発症は持続投与群で低率であったが,予後については 18 ヵ月の時点での生 存率に差はなかったという.Fernandez ら 4)は,腹水蛋白濃度が 1.5 g/dL 未満で進行した肝不 全例(Child-Pugh score が 9 点以上,血清総ビリルビン 3 mg/dL 以上)あるいは腎機能障害例 (血清クレアチニン 1.2 mg/dL 以上か BUN 25 mg/dL 以上か血清ナトリウム 130 mEq/L 以下) に対してプラセボとの RCT を行ったところ,ノルフロキサシンは 1 年間の SBP と肝腎症候群の 発生を抑制するだけでなく,3 ヵ月,1 年生存率をも改善させたという.非出血例についてのメ タアナリシスは,一次予防と二次予防の RCT が混在していたり,解析計画が不十分であったり して結論を得にくいが,Loomba ら 5)は,腹水蛋白濃度が 1.5 g/dL 未満と低く,SBP の既往の ない肝硬変例へのフルオロキノロン予防投与に関する 4 つの厳密な RCT 3, 4, 6, 7)に限定してメタア ナリシスを行ったところ,フルオロキノロン予防投与により,SBP や重症感染症の発症,死亡 は有意に抑制されたと報告している. 文献 1) Chavez-Tapia NC, Barrientos-Gutierrez T, Tellez-Avila FI, et al. Antibiotic prophylaxis for cirrhotic patients with upper gastrointestinal bleeding. Cochrane Database Syst Rev 2010; (9): CD002907(メタ) 2) Chavez-Tapia NC, Barrientos-Gutierrez T, Tellez-Avila F, et al. Meta-analysis: antibiotic prophylaxis for cirrhotic patients with upper gastrointestinal bleeding: an updated Cochrane review. Aliment Pharmacol Ther 2011; 34: 509-518(メタ) 3) Novella M, Sola R, Soriano G, et al. Continuous versus inpatient prophylaxis of the first episode of spontaneous bacterial peritonitis with norfloxacin. Hepatology 1997; 25: 532-536(ランダム) 4) Fernandez J, Navasa M, Planas R, et al. Primary prophylaxis of spontaneous bacterial peritonitis delays hepatorenal syndrome and improves survival in cirrhosis. Gastroenterology 2007; 133: 818-824(ランダム) 5) Loomba R, Wesley R, Bain A, et al. Role of fluoroquinolones in the primary prophylaxis of spontaneous bacterial peritonitis: meta-analysis. Clin Gastroenterol Hepatol 2009; 7: 487-493(メタ) 6) Grange JD, Roulot D, Pelletier G, et al. Norfloxacin primary prophylaxis of bacterial infections in cirrhotic patients with ascites: a double-blind randomized trial. J Hepatol 1998; 29: 430-436(ランダム) 7) Terg R, Fassio E, Guevara M, et al. Ciprofloxacin in primary prophylaxis of spontaneous bacterial peritonitis: a randomized, placebo-controlled study. J Hepatol 2008; 48: 774-779(ランダム) — 122 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❷腹水 Clinical Question 4-28 特発性細菌性腹膜炎(SBP)の既往のある患者への抗菌薬予防 投与は再発予防や予後改善に有用か? CQ 4-28 特発性細菌性腹膜炎(SBP)の既往のある患者への抗菌薬予防投与は 再発予防や予後改善に有用か? ステートメント ● 特発性細菌性腹膜炎(SBP)の再発予防には有用であることから予 防投与を行うことを提案する.しかし,予後改善効果は不明である. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) A 解説 特発性細菌性腹膜炎(SBP)合併患者の 1 年生存率は 30〜50%,2 年生存率は 25〜30%と不良 であり,SBP から回復した肝硬変患者は肝移植の適応となる 1) .SBP の既往のある肝硬変患者に 抗菌薬の予防的投与を行うと SBP の再発が抑えられることを証明した厳密な RCT は 1 編しかな い 1) .すなわち,Ginés ら 2)は,SBP の既往がある 80 例の肝硬変患者にノルフロキサシンあるい はプラセボの長期投与を行ったところ,1 年間の SBP 再発率はノルフロキサシン群 20%,プラ セボ群 68%で,1 年間の好気性グラム陰性菌による SBP 再発率はノルフロキサシン群 3%,プラ セボ群 60%で有意差が認められたとしている.他にシプロフロキサシンやスルファメトキサゾー ル・トリメトプリム(ST)合剤の SBP 予防効果についても報告はあるが,これらは SBP 既往のな い患者(一次予防)も含んだ検討である 1) .一方で,生命予後をアウトカムとした比較試験はな く,どれだけの期間にわたって抗菌薬の予防投与を続けるべきかについて定まった見解はない 1) . a) AASLD のガイドライン(Hepatology 2013: 1-96 [検索期間外文献] )でも「長期間の予防的投与 を勧める」としか記載されていない.さらに医療経済学的効果についての検討も行われていな い.日本では長期間の抗菌薬予防投与が保険診療上認められていないため,適応に関しては臨 床的に十分検討のうえ,また,施設によっては倫理審査のうえでの使用を考慮する. 文献 1) European Association for the Study of the Liver. EASL clinical practice guidelines on the management of ascites, spontaneous bacterial peritonitis, and hepatorenal syndrome in cirrhosis. J Hepatol 2010; 53: 397417(ガイドライン) 2) Ginés P, Rimola A, Planas R, et al. Norfloxacin prevents spontaneous bacterial peritonitis recurrence in cirrhosis: results of a double-blind, placebo-controlled trial. Hepatology 1990; 12: 716-724(ランダム) 【検索期間外文献】 a) Runyon BA; AASLD. Management of adult patients with ascites due to cirrhosis: Update 2012. Hepatology 2013: 1-96(www.aasld.org) (ガイドライン) — 123 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❸肝腎症候群 Clinical Question 4-29 超音波ドプラによる腎血管抵抗指数の測定は肝腎症候群の診 断に有用か? CQ 4-29 超音波ドプラによる腎血管抵抗指数の測定は肝腎症候群の診断に有用 か? ステートメント ● 腎超音波ドプラ検査による腎血管抵抗指数の測定は肝腎症候群発症 リスクの予測に役立つ. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし A 解説 出血,感染,腹水穿刺,利尿薬投与,手術などを契機に腎不全が発症する場合は,腎前性腎 不全との鑑別が問題となる.肝腎症候群(hepatorenal syndrome:HRS)の場合と同様に腎前性 腎不全においても,濃縮尿,尿中ナトリウム濃度の著減が認められる.新しい診断基準では, 利尿薬 2 日間中止,アルブミン輸液(1 g/kg 体重,最高 100 g/日)により循環血漿量を増加さ せても血清クレアチニンが 1.5 mg/dL 以下に低下しないときは肝腎症候群と診断する 1) .以前は 「1.5 L の等張液輸液により循環血漿量を増加させても」という条件であったが,アルブミンのほ うが生食より循環血漿量増加作用が強く持続的であることに International Ascites Club メンバー が同意して診断基準が改められた 1) . 超音波ドプラによる腎血管抵抗指数(RI)の測定が,肝硬変の腎機能評価に有用であることが 明らかにされてきた.Platt ら 2)は高窒素血症のない肝硬変 180 例を対象とした検討で,腎血管 RI が上昇していた例では腎障害,肝腎症候群がそれぞれ 55%,26%に発症したが,腎血管抵抗 係数が正常の例ではそれぞれ 6%,1%にとどまったと報告している.また,Kastelan ら 3)は肝 腎症候群合併例の腎葉間動脈の RI は平均 0.74 で全例 0.7 以上を示したが,肝腎症候群非合併腎 機能障害例の RI は平均 0.67 で,このうち 0.7 以上を示した 2 例は後に肝腎症候群を発症したと している.このように腎血管 RI により腎障害出現前から軽微な異常を検出でき,肝硬変患者に おける肝腎症候群発症リスクの予測に役立つと考えられる 2, 3) .ちなみに Wang ら 4)は,健常人 より肝硬変とりわけ難治性腹水例で腎血管 RI が高値を示し,主腎・腎葉間・腎小葉間動脈の間 に存在する動脈抵抗値の較差は,非代償性肝硬変で腹水がたまっても存在するが,難治性腹水 になると消失したことから,較差の消失は肝腎症候群発現の重要な予後因子になりうると考え ている.また,Gotzberger らは,腎血管 RI が健常人,肝硬変無腹水例,肝硬変腹水例と段階的 に上昇したことを示したうえで 5) ,腎血管 RI が高い例の短期・長期予後は悪かったことから, MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score と並んで肝硬変の予後予測に有用な指標にな るとしている(Digestion 2012; 86: 349-354 a) [検索期間外文献] ) .腎血管 RI 測定の実際として, — 124 — ③肝腎症候群 Gotzberger ら 5)は腎門部付近の segmental artery と腎皮質部の arcurate artery をカラードプラ で同定し,少なくとも 3 つの連続する時間速度波形をドプラ信号として記録したのち, “RI= (最 大収縮期速度 − 拡張終期速度) /最大収縮期速度”という計算式で求めている.また,Platt ら 2) , Kastelan ら 3)は,皮髄結合部の arcurate artery や髄質錐体境界に沿った葉間動脈のドプラ信号 を捉えており,プローブの関心領域(ROI)は若干異なるが,得られた波形から同様の計算式で RI を求めている. 文献 1) Salerno F, Gerbes A, Ginès P, et al. Diagnosis, prevention and treatment of hepatorenal syndrome in cirrhosis. Gut 2007; 56: 1310-1318(ガイドライン) 2) Platt JF, Ellis JH, Rubin JM, et al. Renal duplex Doppler ultrasonography: a noninvasive predictor of kidney dysfunction and hepatorenal failure in liver disease. Hepatology 1994; 20: 362-369(横断) 3) Kastelan S, Ljubicic N, Kastelan Z, et al. The role of duplex-doppler ultrasonography in the diagnosis of renal dysfunction and hepatorenal syndrome in patients with liver cirrhosis. Hepatogastroenterology 2004; 51: 1408-1412(横断) 4) Wang Y, Liu LP, Bai WY, et al. Renal haemodynamics in patients with liver cirrhosis assessed by colour ultrasonography. J Int Med Res 2011; 39: 249-255(横断) 5) Gotzberger M, Kaiser C, Landauer N, et al. Intrarenal resistance index for the assessment of early renal function impairment in patients with liver cirrhosis. Eur J Med Res 2008; 13: 383-387(横断) 【検索期間外文献】 a) Gotzberger M, Singer J, Kaiser C, et al. Intrarenal resistance index as a prognostic parameter in patients with liver cirrhosis compared with other hepatic scoring systems. Digestion 2012; 86: 349-354(横断) — 125 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❸肝腎症候群 Clinical Question 4-30 肝腎症候群に対してテルリプレシン,アルブミン併用投与は有 効な治療法であるか? CQ 4-30 肝腎症候群に対してテルリプレシン,アルブミン併用投与は有効な治 療法であるか? ステートメント ● 46%の症例で 1 型肝腎症候群からの回復がみられることからテル リプレシン,アルブミン併用投与を提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) A 解説 肝腎症候群は臨床経過により 2 型に分類されている.1 型は急速な経過をとるもので発症後 2 週間以内に血清クレアチニンが病初期の 2 倍以上,2.5 mg/dL を超えるもので,特発性細菌性 腹膜炎(SBP)を合併する症例はこの型をとる.これに対し,2 型は緩徐な経過をとるもので難治 性腹水を伴い,BUN,クレアチニンは通常 50 mg/dL,2 mg/dL 以下である. 肝腎症候群と診断したら,まず循環血液量確保のためにアルブミンを補充し,血管収縮薬を 投与する.血管収縮薬としてはバソプレシン合成アナログテルリプレシンの臨床効果が注目さ れ 1, 2) ,Salerno らのレビュー 3)では,2〜12 mg/日の用量でアルブミン静注(第 1 日 1 g/kg 体重 以後 20〜40 g/日)と併用することにより 65%の 1 型肝腎症候群で腎機能が回復するとされてい る 3) . これまでなされてきた 1 型肝腎症候群に対する効果に関する報告を列記すると,まずテルリ プレシン単剤の RCT が 1 編 4) ,ケースコントロールスタディが 1 編 1)あり,アルブミン併用条 件下での RCT が 4 編 5〜 8)存在する.これらをまとめて解析した 5 編のメタアナリシス 9〜 12), (Cochrane Database Syst Rev 2012; (9): CD005162 a) [検索期間外文献] )の結論は,テルリプレシ ンがプラセボに比して肝腎症候群からの回復率が高いという点において一致している.Gluud らの最新のメタアナリシス a)ではテルリプレシン投与群の 54/117 例(46.1%)で肝腎症候群から の回復がみられ,対照群(13/117 例,11.1%)より有意に(p<0.00001)回復率が高かった.Dobre ら 12)はさらに血圧上昇,尿量増加をアウトカムとしてまとめており,平均血圧(OR 1.23, 95%CI 0.43〜3.54,p=0.02) ,尿量(OR 824.98,95%CI 342.48〜1307.49,p=0.0008)が有意に 高値であったとしている. 一方,生存率に関しては解析者により差がみられ,Fabrizi ら 9)はテルリプレシン投与で生存 率が改善していないとしているのに対し,Sagi ら 11)は 90 日間の肝移植なしの生存率はテルリ プレシン投与群が対照群より 1.85 倍と高い傾向にあったとしている.Gluud らのメタアナリシ ス a)では,テルリプレシン投与群の 74/155 例(47.7%) ,無治療群,アルブミン投与群またはプ — 126 — ③肝腎症候群 ラセボ群投与群の 98/154(63.6%)が死亡し,テルリプレシン投与により死亡率も有意に低下(RR 0.76,95%CI 0.61〜0.95)したとしている. テルリプレシンは血管収縮薬であるので阻血性心血管障害の頻度は有意に高かったと報告さ れている 9, 12, a) .オルニプレシンやバソプレシンなどの他の血管収縮薬に比べて比較的安全である とはいえ,肝腎症候群患者は肝,腎以外にも複数の臓器の重篤な障害をきたしていることが多 く,阻血性合併症を起こしやすいと考えられる 9) .投与に際しては慎重な症例選択と観察が必要 である. Testro ら 13)は 2001〜2005 年に経験した肝腎症候群 69 例(1 型 49 例,2 型 20 例)の後ろ向き のレビューにおいて,41 例がテルリプレシンに反応したが,腎機能回復の予測因子は,1 型で あることと年齢であったという.また,21 例(1 型 17 例,2 型 4 例)が生存し,肝移植なしの生 存予測因子は 1 型であることで,2 型は肝移植をしないと生存不可能であったと報告している. また,Boyer ら 14)は,2008 年に公表した 1 型肝腎症候群に対するテルリプレシンとプラセボの 効果の比較試験を再検討し,テルリプレシンへの反応性を左右する因子を分析している.それ によるとテルリプレシンに対する反応と生存の最も確実な予測因子は血清クレアチニンの基礎 値であり,テルリプレシンは腎不全発症早期(血清クレアチニン 5.0 mg/dL 未満)の症例に最も 有効である.平均動脈血圧が持続して高値に維持されることはテルリプレシン反応の必要条件 であり,hyperdynamic circulation の改善がみられてはじめて肝腎症候群からの回復が得られる としている.さらに,Restuccia ら 15)は,肝移植施行前にテルリプレシンを投与して肝腎症候群 を治療しておくと移植後の予後がよくなり,腎障害のない例と変わらなくなることから,肝移 植を行う際にはあらかじめ治療をしておくことを勧めている.一方で Park ら 16)は,肝移植後 の予後が肝腎症候群合併の有無で変わらなかったとしており,この点については結論が得られ ていない.欧米のガイドライン 17), (Hepatology 2013: 1-96 b) [検索期間外文献] )は薬物療法に反 応しない肝腎症候群でも肝移植はできれば施行すべきであるとしている.日本では現時点で本 剤の肝腎症候群に対する保険適用は承認されていない. 文献 1) Hadengue A, Gadano A, Moreau R, et al. Beneficial effects of the 2-day administration of terlipressin in patients with cirrhosis and hepatorenal syndrome. J Hepatol 1998; 29: 565-570(ケースコントロール) 2) Moreau R, Durand F, Poynard T, et al. Terlipressin in patients with cirrhosis and type 1 hepatorenal syndrome: a retrospective multicenter study. Gastroenterology 2002; 122: 923-930(ケースコントロール) 3) Salerno F, Gerbes A, Ginès P, et al. Diagnosis, prevention and treatment of hepatorenal syndrome in cirrhosis. Gut 2007; 56: 1310-1318 4) Yang Y, Dan Z, Liu N, et al. Efficacy of terlipressin in treatment of liver cirrhosis with hepatorenal syndrome. J Intern Intensive Med 2001; 7: 123-125(ランダム) 5) Solanki P, Chawla A, Garg R, et al. Beneficial effects of terlipressin in hepatorenal syndrome: a prospective, randomized placebo-controlled clinical trial. J Gastroenterol Hepatol 2003; 18: 152-156(ランダム) 6) Sanyal AJ, Boyer T, Garcia-Tsao G, et al. A randomized, prospective, double-blind, placebo-controlled trial of terlipressin for type 1 hepatorenal syndrome. Gastroenterology 2008; 134: 1360-1368(ランダム) 7) Martin-Llahi M, Pepin MN, Guevara M, et al. Terlipressin and albumin vs albumin in patients with cirrhosis and hepatorenal syndrome: a randomized study. Gastroenterology 2008; 134: 1352-1359(ランダム) 8) Neri S, Pulvirenti D, Malaguarnera M, et al. Terlipressin and albumin in patients with cirrhosis and type I hepatorenal syndrome. Dig Dis Sci 2008; 53: 830-835(ランダム) 9) Fabrizi F, Dixit V, Messa P, et al. Terlipressin for hepatorenal syndrome: A meta-analysis of randomized trials. Int J Artif Organs 2009; 32: 133-140(メタ) — 127 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 10) Gluud LL, Christensen K, Christensen E, et al. Systematic review of randomized trials on vasoconstrictor drugs for hepatorenal syndrome. Hepatology 2010; 51: 576-584(メタ) 11) Sagi SV, Mittal S, Kasturi KS, et al. Terlipressin therapy for reversal of type 1 hepatorenal syndrome: a meta-analysis of randomized controlled trials. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: 880-885(メタ) 12) Dobre M, Demirjian S, Sehgal AR, et al. Terlipressin in hepatorenal syndrome: a systematic review and meta-analysis. Int Urol Nephrol 2011; 43: 175-184(メタ) 13) Testro AG, Wongseelashote S, Angus PW, et al. Long-term outcome of patients treated with terlipressin for types 1 and 2 hepatorenal syndrome. J Gastroenterol Hepatol 2008; 23: 1535-1540(ケースシリーズ) 14) Boyer TD, Sanyal AJ, Garcia-Tsao G, et al. Predictors of response to terlipressin plus albumin in hepatorenal syndrome (HRS) type 1: relationship of serum creatinine to hemodynamics. J Hepatol 2011; 55: 315-321 (ケースシリーズ) 15) Restuccia T, Ortega R, Guevara M, et al. Effects of treatment of hepatorenal syndrome before transplantation on posttransplantation outcome: a case-control study. J Hepatol 2004; 40: 140-146(ケースシリーズ) 16) Park I, Moon E, Hwang JA, et al. Does hepatorenal syndrome affect the result of liver transplantation? clinical observations. Transplant Proc 2010; 42: 2563-2566(ケースコントロール) 17) European Association for the Study of the Liver. EASL clinical practice guidelines on the management of ascites, spontaneous bacterial peritonitis, and hepatorenal syndrome in cirrhosis. J Hepatol 2010; 53: 397417(ガイドライン) 【検索期間外文献】 a) Gluud LL, Christensen K, Christensen E, et al. Terlipressin for hepatorenal syndrome. Cochrane Database Syst Rev 2012; (9): CD005162(メタ) b) Runyon BA; AASLD. Management of adult patients with ascites due to cirrhosis: Update 2012. Hepatology 2013: 1-96(www.aasld.org) (ガイドライン) — 128 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❸肝腎症候群 Clinical Question 4-31 肝腎症候群に対して交感神経作動薬やオクトレオチドは有効 な治療法であるか? CQ 4-31 肝腎症候群に対して交感神経作動薬やオクトレオチドは有効な治療法 であるか? ステートメント ● 1 型,2 型ともにミドドリン,オクトレオチド,アルブミンの併用 により肝移植なしの生存率が改善する.一方,ノルアドレナリンも アルブミン併用条件下でテルリプレシンやミドドリン,オクトレオ チド併用療法と同等の効果があることから,ノルアドレナリンを肝 腎症候群に投与することを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) C 解説 ソマトスタチン合成アナログのオクトレオチドはアルブミンと併用しても効果は乏しい 1)が, α 交感神経作動薬ミドドリンとの併用はパイロットスタディや後ろ向き研究 2, 3)で有効とされて いる.Skagen ら 4)は肝腎症候群患者のうちオクトレオチド,ミドドリン,アルブミン併用療法 を受けた 75 例を,治療を受けなかった 87 例(historical control cohort)と比較したところ,治療 群では肝移植なしの生存率が高く(1 ヵ月 74% vs. 39%,p=0.0003,3 ヵ月 53% vs 27%,p< 0.0001) ,1 型肝腎症候群(1 ヵ月 70% vs. 33%,p=0.0003,3 ヵ月 44% vs. 18%,p=0.0004) , 2 型肝腎症候群(1 ヵ月 82% vs. 49%,p=0.0009,3 ヵ月 75% vs. 40%,p=0.0007)ともに治療 群の生存率が高かったとしている.さらに多変量解析で 3 剤併用治療と 2 型肝腎症候群が予後 改善に関連する独立した因子であったことなどから,3 剤治療は肝腎症候群の短期予後を改善 し,肝移植待機患者の一時的治療手段になると結論づけている.一方,Alessandria ら 5)はテル リプレシン治療に反応して改善した 2 型肝腎症候群症例に,その後ミドドリンを投与しても肝 腎症候群の予防効果はなかったとしている. 一方で,パイロットスタディでは α,β 交感神経作動薬ノルアドレナリンとフロセミドの併用 も有効とされている 6) .アルブミン併用条件下で,ノルアドレナリンの 1 型,2 型肝腎症候群に 対する効果はテルリプレシンと同等であったとの成績があり,費用はノルアドレナリンが半額 以下であったという 7, 8), (Liver Int 2013; 33: 1187-1193 a) [検索期間外文献] ) .さらにアルブミン 併用条件下でノルアドレナリンの効果はオクトレオチド,ミドドリン併用療法と同等であった との成績もある(Int J Prev Med 2012; 3: 764-769 b) [検索期間外文献] ) . 日本ではテルリプレシンの保険認可がなかなか進まないのが現実であり,本病態へのオクト レオチド,ミドドリンの保険適用も認められていない.当面はノルアドレナリン投与を試みる のがよいと思われる. — 129 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 文献 1) Pomier-Layrargues G, Paquin SC, Hassoun Z, et al. Octreotide in hepatorenal syndrome: a randomized, double-blind, placebo-controlled, crossover study. Hepatology 2003; 38: 238-243(ランダム) 2) Wong F, Pantea L, Sniderman K. Midodrine, octreotide, albumin, and TIPS in selected patients with cirrhosis and type 1 hepatorenal syndrome. Hepatology 2004; 40: 55-64(ケースシリーズ) 3) Esrailian E, Pantangco ER, Kyulo NL, et al. Octreotide/Midodrine therapy significantly improves renal function and 30-day survival in patients with type 1 hepatorenal syndrome. Dig Dis Sci 2007; 52: 742-748 (ケースコントロール) 4) Skagen C, Einstein M, Lucey MR, et al. Combination treatment with octreotide, midodrine, and albumin improves survival in patients with type 1 and type 2 hepatorenal syndrome. J Clin Gastroenterol 2009; 43: 680-685(ケースコントロール) 5) Alessandria C, Debernardi-Venon W, Carello M, et al. Midodrine in the prevention of hepatorenal syndrome type 2 recurrence: a case-control study. Dig Liver Dis 2009; 41: 298-302(ケースコントロール) 6) Duvoux C, Zanditenas D, Hezode C, et al. Effects of noradrenalin and albumin in patients with type I hepatorenal syndrome: a pilot study. Hepatology 2002; 36: 374-380(ケースシリーズ) 7) Alessandria C, Ottobrelli A, Debernardi-Venon W, et al. Noradrenalin vs terlipressin in patients with hepatorenal syndrome: a prospective, randomized, unblinded, pilot study. J Hepatol 2007; 47: 499-505(ラ ンダム) 8) Singh V, Ghosh S, Singh B, et al. Noradrenaline vs. terlipressin in the treatment of hepatorenal syndrome: a randomized study. J Hepatol 2012; 56: 1293-1298(ランダム) 【検索期間外文献】 a) Ghosh S, Choudhary NS, Sharma AK, et al. Noradrenaline vs terlipressin in the treatment of type 2 hepatorenal syndrome: a randomized pilot study. Liver Int 2013; 33: 1187-1193(ランダム) b) Tavakkoli H, Yazdanpanah K, Mansourian M. Noradrenalin versus the combination of midodrine and octreotide in patients with hepatorenal syndrome: randomized clinical trial. Int J Prev Med 2012; 3: 764769(ランダム) — 130 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❸肝腎症候群 Clinical Question 4-32 肝腎症候群に対して P-V シャントは有効な治療法であるか? CQ 4-32 肝腎症候群に対して P-V シャントは有効な治療法であるか? ステートメント ● 腎機能の改善が得られることもあるが,生存期間を延長させるもの ではなく,行わないことを推奨する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 1 (100%) A 解説 1970 年代には P-V シャントにより回復した肝腎症候群の症例が報告されていた(Surgery 1977; 82: 337-341 a) ,Arch Intern Med 1977; 137: 1248-1249 b)[検索期間外文献] ) .1986 年 Linas ら 1) は,アルコール性肝障害に伴う肝腎症候群 20 例を対象に P-V シャント(10 例)と内科的治療(10 例)の効果を比較したが,P-V シャントでは体重と血清クレアチニンは減少したが,肺毛細血管 楔入圧,心係数は増加したという.また,腎機能はよくなったが,生存期間については 1 例の み 210 日と延長し,他は平均 13.8 日と内科的治療群(平均 4.1 日)とあまり変わらなかったとし ている.その後,欧米では重篤な副作用などから腹水治療においても P-V シャントは積極的に は推奨されなくなっており 2, 3) ,肝腎症候群に対する効果を再検討した報告もない. 文献 1) Linas SL, Schaefer JW, Moore EE, et al. Peritoneovenous shunt in the management of the hepatorenal syndrome. Kidney Int 1986; 30: 736-740(ケースコントロール) 2) Scholz DG, Nagorney DM, Lindor KD. Poor outcome from peritoneovenous shunts for refractory ascites. Am J Gastroenterol 1989; 84: 540-543(ケースシリーズ) 3) European Association for the Study of the Liver. EASL clinical practice guidelines on the management of ascites, spontaneous bacterial peritonitis, and hepatorenal syndrome in cirrhosis. J Hepatol 2010; 53: 397417(ガイドライン) 【検索期間外文献】 a) Fullen WD. Hepatorenal syndrome: reversal by peritoneovenous shunt. Surgery 1977; 82: 337-341(ケース シリーズ) b) Pladson TR, Parrish RM. Hepatorenal syndrome. Recovery after peritoneovenous shunt. Arch Intern Med 1977; 137: 1248-1249(ケースシリーズ) — 131 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❸肝腎症候群 Clinical Question 4-33 肝腎症候群に 対し て 経頸静脈肝内門脈大循環シ ャ ン ト 術 (TIPS)は有効な治療法であるか? CQ 4-33 肝腎症候群に対して経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)は有 効な治療法であるか? ステートメント ● 適応症例は限られるが,腎機能の改善と腹水軽減が得られ,予後の 改善も期待できる. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし C 解説 肝性脳症の既往がなく,血清ビリルビン 5 mg/dL 以下,Child-Pugh score12 点以下の 1 型肝 腎症候群は,経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)に反応して改善し,腹水の軽減,生存 期間の延長がみられるというが,コントロールスタディは行われていない 1) .2010 年の Rössle のシステマティックレビュー 2)では,4 編の論文(ケースシリーズ)3〜6)で対象症例を合わせても 61 例を数えるに過ぎず,肝腎症候群に対する TIPS の評価はいまだ十分なものではない. Brensing ら 4)は,肝移植を行えなかった 31 例の肝腎症候群合併肝硬変に TIPS を行って腎機 能の改善をみており,1 年,2 年生存率は 1 型肝腎症候群でそれぞれ 20%,20%,2 型肝腎症候群 でそれぞれ 70%,45%であったという.しかし,9 例は血清総ビリルビンが 10 mg/dL を超えて いたので TIPS を施行できなかった.Guevara ら 3)は 7 例の 1 型肝腎症候群患者に TIPS を施行 した結果,6 例で腎機能の改善,3 例で 3 ヵ月以上の生存を報告している.また,Testino ら 5) は肝移植待機中 18 例の 2 型肝腎症候群患者に TIPS を施行し,腎機能の改善をみた.腹水は 8 例で完全消失,10 例で軽減を認めたという. アルブミン,血管収縮薬治療に続いて TIPS を施行することにより長期生存が得られる可能性 も指摘されている.Wong ら 6)は約 2 週間のミドドリン,オクトレオチド,アルブミンの併用 療法により腎機能に若干の改善傾向がみられた 1 型肝腎症候群 10 症例のうち,TIPS の禁忌条 件(INR 2 以上,血清ビリルビン 5 mg/dL 以上,Child-Pugh score 12 点以上,門脈血栓症,2 週 間以内の活動性感染症)を満たさない 5 例に TIPS を施行した.その結果,6〜30 ヵ月間の長期 にわたり糸球体濾過量(GFR) ,尿中ナトリウム排泄の正常化をみており,適応症例を選べば TIPS は有効な治療法であるとしている. — 132 — ③肝腎症候群 文献 1) Salerno F, Gerbes A, Ginès P, et al. Diagnosis, prevention and treatment of hepatorenal syndrome in cirrhosis. Gut 2007; 56: 1310-1318 2) Rössle M, Gerbes AL. TIPS for the treatment of refractory ascites, hepatorenal syndrome and hepatic hydrothorax: a critical update. Gut 2010; 59: 988-1000 3) Guevara M, Ginès P, Bandi JC, et al. Transjugular intrahepatic portosystemic shunt in hepatorenal syndrome: effects on renal function and vasoactive systems. Hepatology 1998; 28: 416-422(ケースシリーズ) 4) Brensing KA, Textor J, Perz J, et al. Long term outcome after transjugular intrahepatic portosystemic stentshunt in non-transplant cirrhotics with hepatorenal syndrome: a phase II study. Gut 2000; 47: 288-295 (ケースシリーズ) 5) Testino G, Ferro C, Sumberaz A, et al. Type-2 hepatorenal syndrome and refractory ascites: role of transjugular intrahepatic portosystemic stent-shunt in eighteen patients with advanced cirrhosis awaiting orthotopic liver transplantation. Hepatogastroenterology 2003; 50: 1753-1755(ケースシリーズ) 6) Wong F, Pantea L, Sniderman K. Midodrine, octreotide, albumin, and TIPS in selected patients with cirrhosis and type 1 hepatorenal syndrome. Hepatology 2004; 40: 55-64(ケースシリーズ) — 133 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❸肝腎症候群 Clinical Question 4-34 肝移植は肝腎症候群の予後を改善するか? CQ 4-34 肝移植は肝腎症候群の予後を改善するか? ステートメント ● 改善する.1 型,2 型ともに適応があれば肝移植を推奨する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 1 (100%) B 解説 急速に進行する 1 型肝腎症候群合併肝硬変の予後は非常に悪く,大部分の患者は発症後数週 間以内に死亡する 1) .最近の報告(Hepatology 2014; 59: 1505-1513 a) [検索期間外文献] )でも細菌 感染を伴う 1 型肝腎症候群症例の 67%は回復しないとされている.これに対し,肝移植を施行 すると予後が改善することはこれまでの多くの報告から明らかである.Boyer ら 1)は後ろ向き の検討において,肝移植施行例の 180 日生存率は,テルリプレシン,アルブミン併用療法施行 例で 100%,アルブミン投与例で 94%であり,これらは肝移植を受けなかった患者の生存率(テ ルリプレシン,アルブミン併用療法例 34%,アルブミン投与例 17%)を大きく上回っていたこ とから,肝移植は明らかに生存率改善に寄与するとしている.一方,緩徐に進行する 2 型肝腎 症候群も平均生存期間は約 6 ヵ月とされており,これも肝移植を考慮すべき病態である(Liver Int 2014; 34: 1153-1156 b) [検索期間外文献] ) . 肝移植後の長期予後について Gonwa ら 2)は,1 年,4 年生存率が 71%,60%で,肝腎症候群 非合併例(83%,70%)と比較してやや低率であったと報告している.最近の Ruiz らの成績 3)で は,肝腎症候群肝移植例の 1 年,3 年,5 年生存率は 74%,68%,62%であり,型別にみると 1 型 肝腎症候群肝移植例の 1 年,5 年生存率は 77%,69%,2 型肝腎症候群肝移植例の 1 年,5 年生存 率は 74%,61%であったという.以上のように肝移植は本症の根治療法であるが,日本ではなお 一般化していない. 肝移植例の予後を詳しく検討した Xu ら 4)は,MELD(Model for End-Stage Liver Disease) score 高値と低ナトリウム血症(126 mEq/L)が患者の生存率低下に関係していたとしている.肝 腎症候群は急性尿細管壊死に進展することがあるが,Nadim ら 5)は,肝移植後 1 年,5 年の生 存率と腎病態は肝腎症候群に比べて急性尿細管壊死症例で悪く,5 年後の Stage 4〜5 の慢性腎障 害の頻度も急性尿細管壊死症例で高かったとしている. — 134 — ③肝腎症候群 文献 1) Boyer TD, Sanyal AJ, Garcia-Tsao G, et al. Impact of liver transplantation on the survival of patients treated for hepatorenal syndrome type 1. Liver Transpl 2011; 17: 1328-1332(コホート) 2) Gonwa TA, Morris CA, Goldstein RM, et al. Long-term survival and renal function following liver transplantation in patients with and without hepatorenal syndrome: experience in 300 patients. Transplantation 1991; 51: 428-430(コホート) 3) Ruiz R, Barri YM, Jennings LW, et al. Hepatorenal syndrome: a proposal for kidney after liver transplantation (KALT). Liver Transpl 2007; 13: 838-843(コホート) 4) Xu X, Ling Q, Zhang M, et al. Outcome of patients with hepatorenal syndrome type 1 after liver transplantation: Hangzhou experience. Transplantation 2009; 87: 1514-1519(コホート) 5) Nadim MK, Genyk YS, Tokin C, et al. Impact of the etiology of acute kidney injury on outcomes following liver transplantation: acute tubular necrosis versus hepatorenal syndrome. Liver Transpl 2012; 18: 539-548 (コホート) 【検索期間外文献】 a) Barreto R, Fagundes C, Guevara M, et al. Type-1 hepatorenal syndrome associated with infections in cirrhosis: natural history, outcome of kidney function, and survival. Hepatology 2014; 59: 1505-1513(コホー ト) b) Møller S, Krag A, Bendtsen F. Kidney injury in cirrhosis: pathophysiological and therapeutic aspects of hepatorenal syndromes. Liver Int 2014; 34: 1153-1156 — 135 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❹肝性脳症 Clinical Question 4-35 便通は肝性脳症の発症に相関があるか? CQ 4-35 便通は肝性脳症の発症に相関があるか? ステートメント ● 合成二糖類などの投与により,肝性脳症の評価項目である脳波, number connection test などの項目が,排便回数の増加ととも に改善していた. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし C 解説 排便回数と肝性脳症との関連を直接調べた研究はないが,合成二糖類などの投与試験で副次 的に排便回数の増加と肝性脳症の関連を報告している研究はある.すなわち,合成二糖類など の投与により,肝性脳症の評価項目である脳波,number connection test などの項目が,排便回 数の増加とともに改善していた.合成二糖類や,非吸収性抗菌薬を投与する臨床研究は数多い が,直接的に便の回数と肝性脳症について検討している RCT はない.合成二糖類投与などの比 較試験では便重量を副次的に評価している研究があるが,肝性脳症との関係を直接比較してい るものではない 1〜6) .したがって,これらの介入は肝性脳症のパラメータを改善し,便重量(そ しておそらく便回数も)を増加させるという報告が多いものの,直接便回数と肝性脳症の関係を 明らかにしているものではない.たとえば,Keshavarzian らは通常蛋白食(動物性 30 g と植物 性 10 g)と植物性蛋白補充食(動物性 30 g と植物性 50 g)を 5 日間投与して比較した場合,植物 性蛋白補充食では便重量が 192.6 g/日± 22.2(SE)であり通常食でのもの l34.1 g/日± 17.7(SE)と は有意差を認めないが便重量が増加する傾向があり,一部の症例では脳波などの脳症パラメー タの改善があったとしている 2) .さらに Weber らは脳症がない肝硬変患者に 4.5 倍植物線維が多 い食事を与えた場合,便重量が 231 ± 53 g と通常食の 87 ± 29 g に比して有意に増加し,これが便 中窒素の増加と関連して,正の窒素バランスにかかわるとしている 4) .しかしこれらは便通が肝 性脳症にいかに影響するかを直接は示していない. いずれにせよ, 「便通」の意味が, 「便回数」なのか「便重量」なのかの定義により若干ニュア ンスが異なるが,便重量を解析対象に含んだ臨床研究でも便重量と肝性脳症の改善を直接明ら かにしていない以上,エビデンスレベルの高い推奨は不可能である.しかし,一部の研究で間 接的にせよ,脳症の改善と便重量の関連を報告しているため,推奨度は判定しないものの,脳 症と便重量・便回数とは関連する可能性があるという弱い記載にとどめる. — 136 — ④肝性脳症 文献 1) Heredia D, Caballeria J, Arroyo V, et al. Lactitol versus lactulose in the treatment of acute portal systemic encephalopathy (PSE): a controlled trial. J Hepatol 1987; 4: 293-298(ランダム) 2) Keshavarzian A, Meek J, Sutton C, et al. Dietary protein supplementation from vegetable sources in the management of chronic portal systemic encephalopathy. Am J Gastroenterol 1984; 79: 945-949(ランダム) 3) Uribe M, Dibildox M, Malpica S, et al. Beneficial effect of vegetable protein diet supplemented with psyllium plantago in patients with hepatic encephalopathy and diabetes mellitus. Gastroenterology 1985; 88: 901-907(ランダム) 4) Weber FL Jr, Minco D, Fresard KM, et al. Effects of vegetable diets on nitrogen metabolism in cirrhotic subjects. Gastroenterology 1985; 89: 538-544(非ランダム) 5) Mortensen PB. The effect of oral-administered lactulose on colonic nitrogen metabolism and excretion. Hepatology 1992; 16: 1350-1356 6) Merli M, Caschera M, Piat C, et al. The effect of lactulose and lactitol administration on fecal fat excretion in patients with liver cirrhosis. J Clin Gastroenterol 1992; 15: 125-127(ランダム) — 137 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❹肝性脳症 Clinical Question 4-36 肝性脳症の患者が低蛋白食を摂取することで長期予後は改善 するか? CQ 4-36 肝性脳症の患者が低蛋白食を摂取することで長期予後は改善するか? ステートメント ● 低蛋白食は顕性肝性脳症の治療に用いられることがあるが,蛋白質 の分解を促進して肝硬変の予後を悪化させる可能性があり,長期管 理としては行わないことを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) C 解説 通常食と低蛋白食(蛋白質 1.2 g/kg/日)を 14 日間比較したランダム化試験では,肝性脳症の 程度に統計学的な差はなく,逆に低蛋白食で蛋白質分解が亢進していた 1) .そのために最近の ASPEN や ESPEN のガイドラインでは肝硬変患者に対する長期の低蛋白食は,窒素平衡を負に 傾け,蛋白質の分解を促進することにより,長期予後には負に働く可能性を強調している 2, 3) .し かし,長期予後自体にエンドポイントを絞った研究がないためにエビデンスレベルが高いもの ではない 4) .したがって,欧米の栄養療法に関するガイドライン上の推奨を参考にして,低蛋白 食の摂取は,肝性脳症急性期の昏睡期などの極端な状況を除けば,長期に実施することは筋萎 縮などサルコペニアの状態を悪化させ,予後を不良にする可能性があるために実施しないこと を提案する.この点についてエビデンスレベルの高い研究が待たれる. 文献 1) Cordoba J, Lopez-Hellin J, Planas M, et al. Normal protein diet for episodic hepatic encephalopathy: results of a randomized study. J Hepatol 2004; 41: 38-43(ランダム) 2) Chadalavada R, Sappati Biyyani RS, Maxwell J, et al. Nutrition in hepatic encephalopathy. Nutr Clin Pract 2010; 25: 257-264 3) Plauth M, Cabré E, Riggio O, et al; DGEM (German Society for Nutritional Medicine), Ferenci P, Holm E, Vom Dahl S, et al; ESPEN (European Society for Parenteral and Enteral Nutrition). ESPEN Guidelines on Enteral Nutrition: Liver disease. Clin Nutr 2006; 25: 285-294(ガイドライン) 4) Koretz RL, Avenell A, Lipman TO. Nutritional support for liver disease. Cochrane Database Syst Rev 2012; (5): CD008344(メタ) — 138 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❹肝性脳症 Clinical Question 4-37 肝性脳症に対して合成二糖類は有効か? CQ 4-37 肝性脳症に対して合成二糖類は有効か? ステートメント ● 合成二糖類は,肝性脳症患者の脳症パラメータを改善し,肝性脳症 に有効であることから,投与することを推奨する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 1 (100%) A 解説 ラクツロースをはじめとする非吸収性合成二糖類は,肝性脳症患者に対する治療法として頻 用されてきたが,本剤はいくつかのランダム化試験やシステマティックレビューで肝性脳症のパ ラメータ(血漿アンモニア値,number connection test など)を改善することが示されており 1〜4) , 肝性脳症に有効であると考えられる.しかし,本剤の長期的な効果,とりわけ予後改善効果に ついては不明な点が多い. Als-Nielsen らのメタアナリシスによると,非吸収性合成二糖類には肝性脳症の改善作用はあ るが,死亡率減少効果は認められなかったという 5, 6) .この解析では検出力は十分ではなく,解析 対象に急性肝不全症例も含まれていたが,肝硬変に伴う慢性肝性脳症での有効性を否定するも のではない.実際,日本では合成二糖類は,血漿アンモニア濃度の低下を目的に投与されてき た.最終的な生存率を改善するかという点について明確に答えるエビデンスはないが,その使 用によるデメリット(甘みによる不耐性,下痢など)が大きくない場合が多いため使用を支持す る研究が多い 7〜9) .非顕性肝性脳症から,顕性肝性脳症まで幅広く使用を支持する研究が多いた めに,今回のガイドラインでも使用を推奨する. 文献 1) Sharma P, Sharma BC, Puri V, et al. An open-label randomized controlled trial of lactulose and probiotics in the treatment of minimal hepatic encephalopathy. Eur J Gastroenterol Hepatol 2008; 20: 506-511(ラン ダム) 2) Sharma BC, Sharma P, Agrawal A, et al. Secondary prophylaxis of hepatic encephalopathy: an open-label randomized controlled trial of lactulose versus placebo. Gastroenterology 2009; 137: 885-891(ランダム) 3) Malaguarnera M, Gargante MP, Malaguarnera G, et al. Bifidobacterium combined with fructo-oligosaccharide versus lactulose in the treatment of patients with hepatic encephalopathy. Eur J Gastroenterol Hepatol 2010; 22: 199-206(ランダム) 4) Sharma P, Agrawal A, Sharma BC, et al. Prophylaxis of hepatic encephalopathy in acute variceal bleed: a — 139 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 randomized controlled trial of lactulose versus no lactulose. J Gastroenterol Hepatol 2011; 26: 996-1003 (ランダム) 5) Als-Nielsen B, Gluud LL, Gluud C. Nonabsorbable disaccharides for hepatic encephalopathy. Cochrane Database Syst Rev 2004; (2): CD003044(メタ) 6) Als-Nielsen B, Gluud LL, Gluud C. Non-absorbable disaccharides for hepatic encephalopathy: systematic review of randomised trials. BMJ 2004; 328 (7447): 1046(メタ) 7) Bajaj JS. Review article: the modern management of hepatic encephalopathy. Aliment Pharmacol Ther 2010; 31: 537-547 8) Prakash R, Mullen KD. Mechanisms, diagnosis and management of hepatic encephalopathy. Nat Rev Gastroenterol Hepatol 2010; 7: 515-525 9) Shukla S, Shukla A, Mehboob S, et al. Meta-analysis: the effects of gut flora modulation using prebiotics, probiotics and synbiotics on minimal hepatic encephalopathy. Aliment Pharmacol Ther 2011; 33: 662-671 (メタ) — 140 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❹肝性脳症 Clinical Question 4-38 腸管非吸収性抗菌薬投与は肝性脳症を改善するか? CQ 4-38 腸管非吸収性抗菌薬投与は肝性脳症を改善するか? ステートメント ● 腸管非吸収性抗菌薬投与は,初発・再発を問わず肝性脳症患者の脳 症パラメータを改善するため,行うことを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) A 解説 rifaximin をはじめとする腸管非吸収性抗菌薬投与は肝性脳症のパラメータを改善する.この 効果は,非顕性肝性脳症でも認められる.特に rifaximin は再発性肝性脳症からの回復期患者に 対する 6 ヵ月間投与により,肝性脳症再発のリスクをプラセボに比較して 0.42(CI 0.28〜0.64)に 下げた 1) .また,非顕性肝性脳症患者の自動車運転に及ぼす効果も,プラセボに比べて有意に改 善したという報告がある 2) .さらに,システマティックレビューでも,二糖類や他の経口薬と少 なくとも同等の(OR 0.96,CI 0.94〜4.08)の効果を示し,より安全なプロファイルを示した(OR 0.27,CI 0.12〜0.59)3) .副作用の面でも腹痛や,甘みによる不耐容という点からも有利であった 4) . 合成二糖類との比較では,rifaximin が非吸収性合成二糖類に比して急性・慢性肝性脳症に対し て長期と短期において優位性があるという結果は明らかではないが 4, 5) ,耐容性は優れている可能 性があるとするシステマティックレビューも存在する 4, 6) .腸管非吸収性抗菌薬投与は,初発・再 発を問わず肝性脳症患者の脳症関連パラメータ(血漿アンモニア値,number connection test な ど)を改善する 5, 7) .この改善作用は 6 ヵ月の長期投与でも持続し,非吸収性合成二糖類と比べて 劣らない 1, 3, 8〜10) .現在 rifaximin の投与についての第Ⅲ相臨床試験が日本でも進行している. したがって,現在保険適用はないが,近い将来に保険収載された場合には,合成二糖類と同 様に rifaximin などの腸管非吸収性抗菌薬の投与を行うように提案する. 文献 1) Bass NM, Mullen KD, Sanyal A, et al. Rifaximin treatment in hepatic encephalopathy. N Engl J Med 2010; 362: 1071-1081(ランダム) 2) Bajaj JS, Heuman DM, Wade JB, et al. Rifaximin improves driving simulator performance in a randomized trial of patients with minimal hepatic encephalopathy. Gastroenterology 2011; 140: 478-487, e1(ランダム) 3) Jiang Q, Jiang XH, Zheng MH, et al. Rifaximin versus nonabsorbable disaccharides in the management of hepatic encephalopathy: a meta-analysis. Eur J Gastroenterol Hepatol 2008; 20: 1064-1070(メタ) — 141 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 4) Chavez-Tapia NC, Barrientos-Gutierrez T, Tellez-Avila FI, et al. Antibiotic prophylaxis for cirrhotic patients with upper gastrointestinal bleeding. Cochrane Database Syst Rev 2010; (9): CD002907(メタ) 5) Mittal VV, Sharma BC, Sharma P, et al. A randomized controlled trial comparing lactulose, probiotics, and L-ornithine L-aspartate in treatment of minimal hepatic encephalopathy. Eur J Gastroenterol Hepatol 2011; 23: 725-732(ランダム) 6) Eltawil KM, Laryea M, Peltekian K, et al. Rifaximin vs. conventional oral therapy for hepatic encephalopathy: a meta-analysis. World J Gastroenterol 2012; 18: 767-777(メタ) 7) Sharma P, Sharma BC, Puri V, et al. An open-label randomized controlled trial of lactulose and probiotics in the treatment of minimal hepatic encephalopathy. Eur J Gastroenterol Hepatol 2008; 20: 506-511(ラン ダム) 9) Als-Nielsen B, Gluud LL, Gluud C. Nonabsorbable disaccharides for hepatic encephalopathy. Cochrane Database Syst Rev 2004; (2): CD003044(メタ) 10) Lawrence KR, Klee JA. Rifaximin for the treatment of hepatic encephalopathy. Pharmacotherapy 2008; 28: 1019-1032(メタ) — 142 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❹肝性脳症 Clinical Question 4-39 肝性脳症の意識障害に対して分岐鎖アミノ酸(BCAA)輸液製 剤の投与は有効か? CQ 4-39 肝性脳症の意識障害に対して分岐鎖アミノ酸(BCAA)輸液製剤の投 与は有効か? ステートメント ● 昏睡を含む肝性脳症の意識障害に対して分岐鎖アミノ酸(BCAA) 輸液製剤の投与は有効であり,投与することを推奨する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 1 (100%) A 解説 肝硬変患者に対する分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤の有効性は,RCT 1)やガイドラインなどでそ の有効性が支持されている 2, 3)が,一部のシステマティックレビューではその有効性は明らかで はないとされている 4) .また,肝性脳症の再発予防効果については確固たる根拠がないとする研 究も存在する 5) .一見矛盾するようなメタアナリシスの結果であるが,その原因としては BCAA 輸液製剤の比較試験が 1980 年代に多くがなされ,今日のバイアスリスクの検討などになじまな いために評価が困難になっていることがあげられる.しかし,最近の質のよいランダム化試験 では,BCAA 輸液により肝性脳症のパラメータを改善すると報告され 1) ,日本からも,BCAA 投 与が肝硬変患者における肝性脳症を改善するという報告がなされている 6) .ただし,肝硬変によ る肝性脳症に対する BCAA 輸液療法の覚醒効果は,背景肝の重症度に左右されることもそのな かで記載されている.Child 分類で Grade A および B であれば 90%以上で覚醒が得られるのに 比して,Grade C では覚醒効果は 50%程度である.その一方でコスト以外に大きな不利益は報告 されておらず,その使用に関しては支持されていると解釈して全体的に妥当であろうと考える 7, 8) . そのため本ガイドラインでも,肝性脳症に対する BCAA 輸液製剤の投与を行うことを推奨する. 文献 1) Malaguarnera M, Risino C, Cammalleri L, et al. Branched chain amino acids supplemented with L-acetylcarnitine versus BCAA treatment in hepatic coma: a randomized and controlled double blind study. Eur J Gastroenterol Hepatol 2009; 21: 762-770(ランダム) 2) Plauth M, Cabre E, Campillo B, et al. ESPEN Guidelines on Parenteral Nutrition: hepatology. Clin Nutr 2009; 28: 436-444(ガイドライン) 3) Tsiaousi ET, Hatzitolios AI, Trygonis SK, Grade. Malnutrition in end stage liver disease: recommendations and nutritional support. J Gastroenterol Hepatol 2008; 23: 527-533 — 143 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 4) Als-Nielsen B, Koretz RL, Kjaergard LL, Grade. Branched-chain amino acids for hepatic encephalopathy. Cochrane Database Syst Rev 2003; (2): CD001939(メタ) 5) Koretz RL, Avenell A, Lipman TO. Nutritional support for liver disease. Cochrane Database Syst Rev 2012; (5): CD008344(メタ) 6) Suzuki K, Kato A, Iwai M. Branched-chain amino acid treatment in patients with liver cirrhosis. Hepatol Res 2004; 30S: 25-29 7) Holecek M. Three targets of branched-chain amino acid supplementation in the treatment of liver disease. Nutrition 2010; 26: 482-490 8) Marchesini G, Marzocchi R, Noia M, Grade. Branched-chain amino acid supplementation in patients with liver diseases. J Nutr 2005; 135 (6 Suppl): 1596S-1601S — 144 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❹肝性脳症 Clinical Question 4-40 バルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術(B-RTO)などのシャ ント閉塞術は肝性脳症に有効か? CQ 4-40 バルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術(B-RTO)などのシャント閉 塞術は肝性脳症に有効か? ステートメント ● バルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術(B-RTO)はシャントによ る肝性脳症に有効であり,血行動態などを評価したうえで行うこと を提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) C 解説 バルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術(B-RTO)をはじめとするシャント閉塞術の有効性に ついての研究はそのほとんどがケースコントロールスタディであり 1〜4) ,ランダム化試験もシス テマティックレビューも存在しない.したがって,エビデンスレベルの高い結論を出すことは できない.また,ケーススタディでもその評価に用いられたパラメータはまちまちであり,一 定の結論を出すには,それぞれの試験規模が小さすぎるという問題がある.さらに長期の有効 性についての成績は確立していない. 以上のように,比較試験などエビデンスレベルの高い研究に基づいていないことは事実であ るが,多くの症例記述研究では,シャント閉塞術により肝性脳症が明らかに改善すると報告し ており,その有効性については十分可能性があると考えられる.さらに,シャント閉塞術の施 行後,肝性脳症の改善のみならず肝機能なども改善するという報告が日本からなされている 5) . 慢性肝不全に対する肝移植の実現可能性が,欧米と日本で大きく異なる現状において,肝移植 が優先される欧米から B-RTO に関する高いエビデンスレベルの比較試験やメタアナリシスが今 後報告される可能性は低く,日本からの報告を根拠に判断せざるを得ないのが実状である. B-RTO の有効性を肯定している日本からの報告の大部分では,実施前に血行動態などを十分 に評価して,シャント性の肝性脳症と確診したうえで B-RTO を施行している.そこで,本ガイ ドラインでは「血行動態などを評価したうえで」という条件をつけて B-RTO を実施するように 提案することとする. なお,B-RTO については保険適用がないため実施については適切な対応が必要である. — 145 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 文献 1) Kato T, Uematsu T, Nishigaki Y, et al. Therapeutic effect of balloon-occluded retrograde transvenous obliteration on portal-systemic encephalopathy in patients with liver cirrhosis. Intern Med 2001; 40: 688-691 (ケースシリーズ) 2) Miyamoto Y, Oho K, Kumamoto M, et al. Balloon-occluded retrograde transvenous obliteration improves liver function in patients with cirrhosis and portal hypertension. J Gastroenterol Hepatol 2003; 18: 934-942 (ケースシリーズ) 3) Ohmoto K, Miyake I, Tsuduki M, et al. Control of solitary gastric fundal varices and portosystemic encephalopathy accompanying liver cirrhosis by balloon-occluded retrograde transvenous obliteration (BRTO): a case report. Hepatogastroenterology 1999; 46: 1249-1252(ケースシリーズ) 4) Potts JR 3rd, Henderson JM, Millikan WJ Jr, et al. Restoration of portal venous perfusion and reversal of encephalopathy by balloon occlusion of portal systemic shunt. Gastroenterology 1984; 87: 208-212(ケース シリーズ) 5) Uehara H, Akahoshi T, Tomikawa M, et al. Prediction of improved liver function after balloon-occluded retrograde transvenous obliteration: relation to hepatic vein pressure gradient. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 137-141(ケースシリーズ) — 146 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❹肝性脳症 Clinical Question 4-41 肝性脳症に対して分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤の経口投与は 有効か? CQ 4-41 肝性脳症に対して分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤の経口投与は有効 か? ステートメント ● 分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤の長期経口投与は,肝性脳症,栄養 状態を改善させるので投与することを推奨する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 1 (100%) A 解説 分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤投与が肝性脳症の長期予後に対していかなる影響を持つかにつ いて,日本を中心とした RCT では,長期的には血清アルブミン値を上昇させ,肝細胞癌の発症 を低下させるという,予後改善の報告もなされている 1〜6) .海外での検討が少ないため大規模メ タアナリシスやシステマティックレビューによる強い推奨度があるわけではない 7, 8)が,有効と する報告が多い.これらの研究における有効性は,脳症自体のパラメータや QOL 改善で評価さ れることが多いが,肝細胞癌の発生頻度が低下することにより長期の有用性を報告する研究も あり 4) ,その有効性については幅広い.一方,用いられる評価パラメータが統一されていないた めに,システマティックレビューの数,およびそこに採用される研究の数も限定的であり,結 この意味では結論に対して強い推奨度を付与するものではない.しかし,近年の比較試験で BCAA の補充療法は,肝性脳症の再発頻度を改善しないが,非顕性肝性脳症や筋肉量を改善す 6) ると報告されている (BCAA 補充群では 2 つの神経精神医学的テストで改善し,上腕筋周囲径 の増加を認めた) .さらにコスト以外の大きな不利益の報告もないので 9) ,日本の日常診療では その使用について勧奨するべきものと考えられる. 文献 1) Kobayashi M, Ikeda K, Arase Y, et al. Inhibitory effect of branched-chain amino acid granules on progression of compensated liver cirrhosis due to hepatitis C virus. J Gastroenterol 2008; 43: 63-70(ランダム) 2) Marchesini G, Bianchi G, Merli M, et al. Nutritional supplementation with branched-chain amino acids in advanced cirrhosis: a double-blind, randomized trial. Gastroenterology 2003; 124: 1792-1801(ランダム) 3) Moriwaki H, Miwa Y, Tajika M, et al. Branched-chain amino acids as a protein- and energy-source in liver cirrhosis. Biochem Biophys Res Commun 2004; 313: 405-409 4) Muto Y, Sato S, Watanabe A, et al. Effects of oral branched-chain amino acid granules on event-free sur- — 147 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 vival in patients with liver cirrhosis. Clin Gastroenterol Hepatol 2005; 3: 705-713(ランダム) 5) Nakaya Y, Okita K, Suzuki K, et al. BCAA-enriched snack improves nutritional state of cirrhosis. Nutrition 2007; 23: 113-120(ランダム) 6) Les I, Doval E, Garcia-Martinez R, et al. Effects of branched-chain amino acids supplementation in patients with cirrhosis and a previous episode of hepatic encephalopathy: a randomized study. Am J Gastroenterol 2011; 106: 1081-1088(ランダム) 7) Als-Nielsen B, Koretz RL, Kjaergard LL, et al. Branched-chain amino acids for hepatic encephalopathy. Cochrane Database Syst Rev 2003; (2): CD001939(メタ) 8) Koretz RL, Avenell A, Lipman TO. Nutritional support for liver disease. Cochrane Database Syst Rev 2012; (5): CD008344(メタ) 9) Plauth M, Schutz T. Branched-chain amino acids in liver disease: new aspects of long known phenomena. Curr Opin Clin Nutr Metab Care 2011; 14: 61-66 — 148 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❹肝性脳症 Clinical Question 4-42 肝性脳症に対して亜鉛製剤は有効か? CQ 4-42 肝性脳症に対して亜鉛製剤は有効か? ステートメント ● 亜鉛欠乏を合併する肝性脳症には,亜鉛製剤の補充を考慮してもよ いと考える. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし B 解説 肝性脳症に対する亜鉛の投与については,1 週間程度の短期投与 1)から 3 ヵ月 2) ,6 ヵ月程度 の中期にわたる投与 3)に関する極めて限られた数の RCT しか存在しない.評価のためのパラ メータも亜鉛投与により,窒素クリアランスは増加し,精神医学的テスト,肝機能,Child-Pugh score が改善したというもの 3)から,認知能テストの改善に至るものまで多岐にわたっている. 長期にわたる有効性について,肝性脳症や生存率などの詳細は古い時期の研究では不明である. 近年の日本からの RCT では,6 ヵ月間の経口亜鉛製剤の補充は,健康関連生活の質(HRQOL) の改善,血漿アンモニア値の改善,肝性脳症の程度,さらに Child-Pugh score の改善と神経精 神医学的テストの改善をもたらしたとしている 3) .その一方で大きな副作用も報告されていない ため,亜鉛欠乏が存在する場合に,亜鉛の補充を推奨する診療ガイドラインも存在する 4) .しか し,症例数が少ないためにシステマティックレビューで明確に使用の有効性を支持するもので はない. さらに,亜鉛補充のコストが日本ではそれほど大きなものとは考えられないこと,亜鉛補充 自体に大きな副作用が報告されていないこと,現時点では亜鉛製剤は亜鉛欠乏症にのみ保険適 用があることなどより,亜鉛欠乏を伴う肝性脳症例に亜鉛補充を考慮することに大きな問題は ないと考える. 文献 1) Reding P, Duchateau J, Bataille C. Oral zinc supplementation improves hepatic encephalopathy: results of a randomised controlled trial. Lancet 1984; 2 (8401): 493-495(ランダム) 2) Marchesini G, Fabbri A, Bianchi G, et al. Zinc supplementation and amino acid-nitrogen metabolism in patients with advanced cirrhosis. Hepatology 1996; 23: 1084-1092(ケースコントロール) 3) Takuma Y, Nouso K, Makino Y, et al. Clinical trial: oral zinc in hepatic encephalopathy. Aliment Pharmacol Ther 2010; 32: 1080-1090(ランダム) 4) Blei AT, Cordoba J. Hepatic encephalopathy. Am J Gastroenterol 2001; 96: 1968-1976(ガイドライン) — 149 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❹肝性脳症 Clinical Question 4-43 肝性脳症に対してカルニチンは有効か? CQ 4-43 肝性脳症に対してカルニチンは有効か? ステートメント 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ● カルニチン欠乏を伴う肝性脳症に対しては,カルニチンの投与を行 うことを考慮する. なし B 解説 肝性脳症に対するカルニチンの投与については,短期間の研究から 3 ヵ月程度の中期にわた るものまでいくつかの RCT によりその有効性が示されている 1〜8) .評価に用いられたパラメー タも肝性脳症の程度から肝機能に至るまで多岐にわたっている.ほとんどが肝性脳症そのもの の改善度に関するものであるが,肝硬変患者の認知能 7) ,そして疲労度も改善するという研究も ある 6) .ただし,臨床試験実施施設がそれほど多くなく,試験の報告もほとんどがイタリアの 1 施設からなされている 1〜7)ため,システマティックレビューはほとんど存在しない.カルニチ ン投与に対する不利益な点は,コスト以外はほとんど報告されていないが,長期予後の改善に ついては不明である.ESPEN の診療ガイドライン 9)では明らかなスタンスは取られていない. したがって,肝性脳症に対するカルニチンの投与は,短期間から中期間の投与で,肝性脳症の パラメータを改善する可能性があるが,長期の有効性については明らかではなくエビデンスレ ベルも決して高くはない.日本では,カルニチン欠乏のみ保険適用があるため,カルニチン欠 乏を伴う肝性脳症の場合,投与を考慮することは適当であると考える. 文献 1) Malaguarnera M, Gargante MP, Cristaldi E, et al. Acetyl-L-carnitine treatment in minimal hepatic encephalopathy. Dig Dis Sci 2008; 53: 3018-3025(ランダム) 2) Malaguarnera M, Pistone G, Astuto M, et al. L-Carnitine in the treatment of mild or moderate hepatic encephalopathy. Dig Dis 2003; 21: 271-275(ランダム) 3) Malaguarnera M, Pistone G, Astuto M, et al. Effects of L-acetylcarnitine on cirrhotic patients with hepatic coma: randomized double-blind, placebo-controlled trial. Dig Dis Sci 2006; 51: 2242-2247(ランダム) 4) Malaguarnera M, Pistone G, Elvira R, et al. Effects of L-carnitine in patients with hepatic encephalopathy. World J Gastroenterol 2005; 11: 7197-7202(ランダム) 5) Malaguarnera M, Risino C, Cammalleri L, et al. Branched chain amino acids supplemented with L-acetylcarnitine versus BCAA treatment in hepatic coma: a randomized and controlled double blind study. Eur J Gastroenterol Hepatol 2009; 21: 762-770(ランダム) — 150 — ④肝性脳症 6) Malaguarnera M, Vacante M, Giordano M, et al. Oral acetyl-L-carnitine therapy reduces fatigue in overt hepatic encephalopathy: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Am J Clin Nutr 2011; 93: 799-808(ランダム) 7) Malaguarnera M, Vacante M, Motta M, et al. Acetyl-L-carnitine improves cognitive functions in severe hepatic encephalopathy: a randomized and controlled clinical trial. Metab Brain Dis 2011; 26: 281-289(ラ ンダム) 8) Siciliano M, Annicchiarico BE, Lucchese F, et al. Effects of a single, short intravenous dose of acetyl-L-carnitine on pattern-reversal visual-evoked potentials in cirrhotic patients with hepatic encephalopathy. Clin Exp Pharmacol Physiol. 2006; 33 (1-2): 76-80(ランダム) 9) Plauth M, Cabré E, Riggio O, et al; DGEM (German Society for Nutritional Medicine), Ferenci P, Holm E, Vom Dahl S, et al; ESPEN (European Society for Parenteral and Enteral Nutrition). ESPEN Guidelines on Enteral Nutrition: Liver disease. Clin Nutr 2006; 25: 285-294(ガイドライン) — 151 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❺門脈血栓症 Clinical Question 4-44 門脈血栓症には抗凝固薬が有用か? CQ 4-44 門脈血栓症には抗凝固薬が有用か? ステートメント ● 進行性の血栓症例,肝移植待機例,急性期の血栓症例には抗凝固薬 治療を提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) C 解説 門脈血栓症は肝移植待機肝硬変患者の 5〜26%にみられる 1) .本症は進行肝硬変の予後悪化因 子であり,合併例では肝移植後の経過も不良である 1) .本症への抗凝固療法により 6 ヵ月の時点 で 33〜45%で血栓の完全溶解が得られ,より長期間の治療を加えると完全溶解率の向上,血栓 進展・再発率の低下が期待される.また,治療中止後にはしばしば再発がみられる.ただし,本 CQ に関してエビデンスレベルの高い研究報告はなく,ケースコントロールスタディが 2 編 2, 3) , ケースシリーズが 2 編 4, 5)あるに過ぎない.さらに最近の前向き試験では,進行肝硬変への低分 子量ヘパリン投与は門脈血栓症,肝不全への移行を抑制し,予後を改善することが明らかにさ れている(Gastroenterology 2012; 143: 1253-1260, e1-e4 a) [検索期間外文献] ) . Francoz ら 2)は肝移植待機中の 29 例の門脈血栓合併肝硬変に対し,前半期の 10 例は無治療で あったが,後半期の 19 例に全員抗凝固療法を行ったところ,血栓の部分・完全再開通率は抗凝 固療法群が無治療群より高率(8/19 例 vs. 0/10 例,p=0.002)であったという.また,完全門脈閉 塞を呈した患者の肝移植後の予後は悪かったとしている.門脈血栓の有無のみならず,その程 度が肝移植後の死亡率に関係することはこれまでの症例集積から明らかである(部分閉塞例 5.9% vs. 完全閉塞例 17.5%)6) .また,Senzolo らのケースコントロールスタディ 3)では低分子量ヘパリ ンによる抗凝固療法を受けた 33 例中 12 例(36%)で門脈の再開通をみたが,抗凝固療法を受け なかった 21 例では 1 例しか改善しなかったという.また,抗凝固療法群での血栓の再発は 33 例中 5 例にとどまったのに対し,無治療群 21 例中では 15 例で血栓の増悪を認めたとしている. Amitrano ら 4)は 28 例の肝硬変門脈血栓症に低分子量ヘパリン(エノキサパリン 200 U/kg/ 日)を 6 ヵ月以上投与し,9 例(32.1%)で完全再開通,14 例(50%)で部分再開通がみられたが, さらに抗凝固療法を続けた 14 例中 12 例で完全再開通がみられ,全体で 21 例(75%)が平均 6.5 ヵ月で完治したと報告している.この際,出血などの重篤な副作用はみられなかった.この 血栓完全消失例のうち 11 例は抗凝固療法を中止したところ,3 例で門脈血栓の再発(1,4,24 ヵ 月)がみられたという. Delgado ら 5)は急性・亜急性門脈血栓症 31 例,脾静脈・腸間膜静脈血栓増悪 24 例に治療薬 — 152 — ⑤門脈血栓症 として低分子量ヘパリン(47 例) ,ビタミン K 拮抗薬(8 例)を投与し,血栓溶解効果を 33 例, 完全消失を 25 例に認めている.この際,早期治療介入(14 日未満)のみが溶解効果の有意な予 測因子であったという. 抗凝固療法の適応はいまだ明確でないが,MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score 15 点超の肝移植待機症例(移植後の予後が悪い) ,上腸間膜静脈にまで血栓が及ぶ症例(小腸梗塞の リスクが高い) ,さらに凝固亢進状態が特定された症例については抗凝固療法の対象とすべきであ ろう 7) .他の状況で本療法のメリットは明らかにされていないが,安全かつ確実に血栓を溶解でき るものなら試みてもよいのではないか.Maruyama ら 8)は食道静脈瘤出血で緊急入院した 23 例 にソナゾイド造影超音波検査を施行した.この際,門脈血栓を認めた 5 症例に静脈瘤結紮術後に 低分子量ヘパリンによる抗凝固療法を行ったところ 2〜11 日で全例完全再開通したという.この 際,術前に門脈血栓内に造影効果が認められることが再開通のよい予測指標になったとしている. 抗凝固薬としてはビタミン K 拮抗薬,低分子量ヘパリン製剤が用いられているが,推奨でき る最適の治療法,治療期間は定まっていない.ビタミン K 拮抗薬は用量調節が困難であるが, 経験的には INR を 2〜3 に,できる限り 2.5 に近づけるとよいとされている.最近では低分子量 ヘパリン製剤の報告が多い傾向にあるが,体重あたりの用量設定が難しいこと,拮抗薬がない こと,腎から排泄されるため腎機能障害で半減期が増すことなどに留意する必要がある 7) . 抗凝固薬の適切な投与期間も定まっていない.血栓が消失した場合には中止も可能であるが, 38.5%に再発がみられたという 5) .6 ヵ月間の治療で改善傾向を示す症例では継続投与で効果が 期待され 4) ,12 ヵ月間治療での不応例でも継続投与により血栓進展予防効果が得られている 3) . 治療期間は個々の症例ごとに慎重に判断すべきであるが,少なくとも肝移植待機例では継続投 与が望ましい. なお,これらの薬物治療は現在保険適用外である. 文献 1) Francoz C, Valla D, Durand F. Portal vein thrombosis, cirrhosis, and liver transplantation. J Hepatol 2012; 57: 203-212 2) Francoz C, Belghiti J, Vilgrain V, et al. Splanchnic vein thrombosis in candidates for liver transplantation: usefulness of screening and anticoagulation. Gut 2005; 54: 691-697(ケースコントロール) 3) Senzolo M, T MS, Rossetto V, et al. Prospective evaluation of anticoagulation and transjugular intrahepatic portosystemic shunt for the management of portal vein thrombosis in cirrhosis. Liver Int 2012; 32: 919-927 (ケースコントロール) 4) Amitrano L, Guardascione MA, Menchise A, et al. Safety and efficacy of anticoagulation therapy with low molecular weight heparin for portal vein thrombosis in patients with liver cirrhosis. J Clin Gastroenterol 2010; 44: 448-451(ケースシリーズ) 5) Delgado MG, Seijo S, Yepes I, et al. Efficacy and safety of anticoagulation on patients with cirrhosis and portal vein thrombosis. Clin Gastroenterol Hepatol 2012; 10: 776-783(ケースシリーズ) 6) Rodriguez-Castro KI, Simioni P, Burra P, et al. Anticoagulation for the treatment of thrombotic complications in patients with cirrhosis. Liver Int 2012; 32: 1465-1476 7) Huard G, Bilodeau M. Management of anticoagulation for portal vein thrombosis in individuals with cirrhosis: a systematic review. Int J Hepatol 2012; 2012: 672986 8) Maruyama H, Takahashi M, Shimada T, et al. Emergency anticoagulation treatment for cirrhosis patients with portal vein thrombosis and acute variceal bleeding. Scand J Gastroenterol 2012; 47: 686-691(ケース シリーズ) 【検索期間外文献】 a) Villa E, Camma C, Marietta M, et al. Enoxaparin prevents portal vein thrombosis and liver decompensation in patients with advanced cirrhosis. Gastroenterology 2012; 143: 1253-1260, e1-e4(ランダム) — 153 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❻その他 Clinical Question 4-45 脾摘,部分的脾塞栓術(PSE)は肝硬変の病態(腹水・低アル ブミン血症・脳症・静脈瘤)改善に有効か? CQ 4-45 脾摘,部分的脾塞栓術(PSE)は肝硬変の病態(腹水・低アルブミン血 症・脳症・静脈瘤)改善に有効か? ステートメント ● 脾摘,部分的脾塞栓術は肝硬変の病態を改善する場合があるが,手 技に伴う合併症に十分留意する必要がある. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし C 解説 肝硬変の合併症に対する脾摘・部分的脾塞栓術(PSE)の有用性について検討した報告は多数 存在する.多くはケースシリーズやケースコントロールスタディでエビデンスレベルは高くな いが,肝硬変の脾機能亢進に伴う血球減少や血小板減少に対して,脾摘と PSE の RCT がなされ ており 1) ,脾摘,PSE ともに,血球減少や血小板減少に対して有用であることが報告されている 1) . . また,脾摘の効果は確実であるが,PSE では脾臓の梗塞率を加減し調節できる点が特徴である 2) しかし,周術期に深刻な合併症が生じることがあるので,その適応は慎重に判断する必要があ る 1) . 腹水については,移植後の難治性腹水に対して脾摘,PSE が試みられている.移植後の脾摘 については,早期合併症として感染,心不全,後期合併症として敗血症,頭蓋内出血がみられ, 10 例中 5 例が死亡し,治療成績不良と報告されている 3) .一方,PSE は移植後の難治性腹水に 対しては良好な効果が得られている 4, 5) .また,非代償性肝硬変における腹水に対して PSE を施 行する試みもあり,有用であったと報告されている 6) .いずれも少数例の報告であり,今後多数 例での検討が必要である. 肝機能については,PSE では血清コリンエステラーゼ,総コレステロール,プロトロンビン 時間,アルブミンの改善が得られる 7) .脾摘では,肝機能,門脈圧,肝容量,肝再生率,血小板 数,Child-Pugh score が改善し,その効果は Child B,C で顕著であることが示唆されている 8) . また,巨大脾腫に対して脾摘を施行した例では,肝機能は 1 年後改善する 9)が,血清アルブミ ン値の改善は得られなかったと報告されている 10) . 脳症については脾摘・PSE により改善する可能性がある 6〜8) .さらに門脈・体循環シャントに よる肝性脳症の 25 例を対象とした PSE 併用バルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術(B-RTO) では門脈圧の変化が少なく,血中アンモニア値も低下したとの報告があり,B-RTO と PSE の併 用が有効とされる 11) . 食道静脈瘤については,脾摘,PSE と内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)の併用の有用性を検討し — 154 — ⑥その他 た報告がある.最近では,腹腔鏡下脾臓摘出術(laparoscopic splenectomy:LS)が従来の開腹下 の脾摘に比し,非侵襲的であるため普及しており,選択肢が広がった.脾機能亢進症状に対し て,従来の Hassab 手術との比較があるが,EVL と脾摘(LS)の併用で,食道静脈瘤の改善が得 a) られることも報告されている(Surg Endosc 2013; 27; 4371-4377 [検索期間外文献] ) .また,PSE と EVL の併用も食道静脈瘤の再発と出血を減少させる 12, 13) . PSE,脾摘ともに血栓症,腹水,敗血症などの合併症には十分留意する必要がある. 文献 1) Amin MA, el-Gendy MM, Dawoud IE, et al. Partial splenic embolization versus splenectomy for the management of hypersplenism in cirrhotic patients. World J Surg 2009; 33: 1702-1710(ランダム) 2) 吉田 寛,平方敦史,笹島耕二,ほか.門脈圧亢進症の治療―脾摘か部分脾動脈塞栓術(PSE)か.肝・ 胆・膵 2010; 61: 243-247(ケースシリーズ) 3) Troisi R, Hesse UJ, Decruyenaere J, et al. Functional, life-threatening disorders and splenectomy following liver transplantation. Clin Transplant 1999; 13: 380-388(ケースシリーズ) 4) Quintini C, D’Amico G, Brown C, et al. Splenic artery embolization for the treatment of refractory ascites after liver transplantation. Liver Transpl 2011; 17: 668-673(ケースシリーズ) 5) Kim H, Suh KS, Jeon YM, et al. Partial splenic artery embolization for thrombocytopenia and uncontrolled massive ascites after liver transplantation. Transplant Proc 2012; 44: 755-756(ケースシリーズ) 6) 平田啓一,加藤泰一,三好和夫.部分脾動脈塞栓術は肝硬変を可逆的に改善する.消化器科 2001; 32: 394399(ケースシリーズ) 7) Smith M, Ray CE. Splenic artery embolization as an adjunctive procedure for portal hypertension. Semin Intervent Radiol 2012; 29: 135-139 8) 緒方俊郎,奥田康司,守永暁生,ほか.肝硬変における脾摘の効果―肝機能及び CT Volumetry による肝再 生に及ぼす影響.日本門脈圧亢進症学会雑誌 2008; 14: 136-141(ケースシリーズ) 9) 緒方俊郎,奥田康司,守永暁生,ほか.巨大脾腫を伴う肝硬変における門脈圧亢進症の治療―脾摘の効果. 日本門脈圧亢進症学会雑誌 2005; 11: 249-255(ケースシリーズ) 10) Imura S, Shimada M, Utsunomiya T, et al. Impact of splenectomy in patients with liver cirrhosis: results from 18 patients in a single center experience. Hepatol Res 2010; 40: 894-900(ケースシリーズ) 11) Yoshida H, Mamada Y, Taniai N, et al. Long-term results of partial splenic artery embolization as supplemental treatment for portal-systemic encephalopathy. Am J Gastroenterol 2005; 100: 43-47(ケースコント ロール) 12) Ohmoto K, Yoshioka N, Tomiyama Y, et al. Improved prognosis of cirrhosis patients with esophageal varices and thrombocytopenia treated by endoscopic variceal ligation plus partial splenic embolization. Dig Dis Sci 2006; 51: 352-358(ケースシリーズ) 13) Xu RY, Liu B, Lin N. Therapeutic effects of endoscopic variceal ligation combined with partial splenic embolization for portal hypertension. World J Gastroenterol 2004; 10: 1072-1074(ケースシリーズ) 【検索期間外文献】 a) Zhou J, Wu Z, Wu J, et al. Laparoscopic splenectomy plus preoperative endoscopic variceal ligation versus splenectomy with pericardial devascularization (Hassab’s operation) for control of severe varices due to portal hypertension. Surg Endosc 2013; 27; 4371-4377(ケースコントロール) — 155 — 4.肝硬変合併症の診断・治療 ― ❻その他 Clinical Question 4-46 血小板減少を伴う C 型肝硬変に対し,脾摘または部分的脾塞 栓術(PSE)後のインターフェロン(IFN)療法は有効か? CQ 4-46 血小板減少を伴う C 型肝硬変に対し,脾摘または部分的脾塞栓術 (PSE)後のインターフェロン(IFN)療法は有効か? ステートメント ● 血小板減少を伴う C 型肝硬変に対する脾摘または部分的脾塞栓術 (PSE)後のペグインターフェロン(PEG-IFN) ,リバビリン併用療 法の SVR 率はジェノタイプ 2 では高いものの,ジェノタイプ 1 で は低く,安全性については十分に注意が必要である. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし C 解説 血小板減少を伴う C 型肝硬変に対する脾摘または部分的脾塞栓術(PSE)後のインターフェロ ン(IFN)療法についてはコホート研究やケースシリーズの論文があるのみで,RCT や大規模臨 床試験の報告はない.いずれも血小板減少などにより IFN 療法が行えないために脾摘または PSE を施行した症例を対象とした研究で,ペグインターフェロン(PEG-IFN)+リバビリン併用療法 によりジェノタイプ 2 では 75〜85%の SVR 率が報告されているが,ジェノタイプ 1 での SVR 率は 14〜23.8%と低い 1, 2) .SVR 率が低いうえに侵襲性のある治療であることから IL28B の変異 を調べたうえで脾摘または PSE を考慮すべきとの報告もある(BMC Gastroenterol 2012; 12: 158 a) [検索期間外文献] ) .脾摘または PSE 後の PEG-IFN+リバビリン併用療法の有効性・安全性に ついては出版バイアスの可能性も考慮しなければならない.合併症として頻度は低いながら, 脾摘後重症感染症(overwhelming post-splenectomy infection:OPSI)の危険性が指摘されてい る 3, 4) . 血小板減少などにより IFN 療法を行えない C 型肝硬変を対象にしていることを考えると,考 慮すべき治療法であるが,現時点では有効性・安全性について十分に評価しうるエビデンスに 乏しい.経口薬による抗ウイルス療法が代償性肝硬変にも保険収載されたことから,現時点で 積極的に推奨する治療にはならない. 文献 1) Akahoshi T, Tomikawa M, Kawanaka H, et al. Laparoscopic splenectomy with interferon therapy in 100 hepatitis-C-virus-cirrhotic patients with hypersplenism and thrombocytopenia. J Gastroenterol Hepatol — 156 — ⑥その他 2012; 27: 286-290(コホート) 2) Shigekawa Y, Uchiyama K, Takifuji K, et al. A laparoscopic splenectomy allows the induction of antiviral therapy for patients with cirrhosis associated with hepatitis C virus. Am Surg 2011; 77: 174-179(コホート) 3) Okabayashi T, Hanazaki K. Overwhelming postsplenectomy infection syndrome in adults: a clinically preventable disease. World J Gastroenterol 2008; 14: 176-179(メタ) 4) Davern TJ. Splenectomy for thrombocytopenia in patients with hepatitis C cirrhosis. J Clin Gastroenterol 2008; 42: 863-864 【検索期間外文献】 a) Motomura T, Shirabe K, Furusyo N, et al. Effect of laparoscopic splenectomy in patients with Hepatitis C and cirrhosis carrying IL28B minor genotype. BMC Gastroenterol 2012; 12: 158(コホート) — 157 — 5.予後予測 5.予後予測 Clinical Question 5-1 肝硬変の予後予測に有用な項目は何か? CQ 5-1 肝硬変の予後予測に有用な項目は何か? ステートメント ● 肝硬変の予後予測に有用な代表的な項目として,CTP(Child-Turcotte-Pugh)分類,MELD (Model for End-Stage Liver Disease)score,腎障害の合併,感染症の合併がある. 解説 肝 硬 変 の 予 後 予 測 の た め の 指 標 の う ち ,CTP(Child-Turcotte-Pugh)分 類 お よ び MELD (Model for End-Stage Liver Disease)score についてはいずれも予後予測に有用である(詳細は CQ 5-2 および CQ 5-3 に別記しており,該当 CQ を参照されたい) . 肝不全はいうまでもないが,難治性腹水,肝腎症候群,肝性脳症,静脈瘤出血,特発性細菌 性腹膜炎(SBP)などの肝硬変の合併症は予後不良因子である. D’Amico らによる 1,649 例の肝硬変のシステマティックレビューでは,代償性肝硬変と非代 償性肝硬変で予後は異なる(生存期間中央値は各々12 年以上と 2 年以下)ことを示し,さらに, 静脈瘤,腹水,出血(静脈瘤出血)の有無別の 4 ステージを提唱し,各ステージの予後(Stage 1, 2,3,4 の 1 年後の死亡の可能性は,1%,3.4%,20%,57%)を示している 1) .また,31 の良質な 研究で高頻度に見い出された有意な予後予測因子として,CTP 分類,ビリルビン,アルブミン, 年齢,プロトロンビン時間,肝性脳症,腹水,性,BUN,血小板数をあげている 1) . 一方,37 の研究(2,548 例)を対象とした Fede らのシステマティックレビューでは,予後と関 連する最も頻度の高い因子は,年齢,Child 分類,Child score,MELD score,肝性脳症,敗血 症,人工呼吸器への依存,オクトレオチドとミドドリンによる治療もしくはテルリプレシンに よる治療としている 2) .さらに,肝腎症候群などの肝硬変における “腎不全” が死亡リスクを増加 させ,予後予測因子であることをメタアナリシスで示している(OR 7.26,95%CI 5.19〜10.17)2) . 最近,Arvaniti らのメタアナリシスで,肝硬変における SBP などの “感染” が予後関連因子で あることが明らかとなり,先に提案された予後予測モデルに“敗血症”を加えた 5 ステージモデル が新たに提唱された 3) .また,肝移植待機患者における検討で,待機リスト登録時の血清ナトリ ウム濃度が 126 mEq/L 未満は死亡リスクが増加し,MELD と独立した予後予測因子であること が示されている 4) . その他の予後と関連する因子としては,肝硬変の成因 5, 6) ,血清アルブミンと血小板数 7) ,血清 ヒアルロン酸 8) ,インスリン抵抗性 9) ,肝静脈圧較差(門脈圧)10) ,肝の硬さ 11), (Clin Gastroenterol Hepatol 2013; 11: 1573-1584 a) [検索期間外文献] ) ,血液学的線維化診断テスト 11) ,非蛋白呼 吸商 , ADAMTS13( a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 12) — 160 — 表1 文献 予後と関連する因子 肝硬変の予後と関連する因子 対象と方法 結果 1 非代償性肝硬変期の臨床 1,649 例の肝硬変の自然史を検討.代償 有意な予後予測因子として,CTP 分類,ビリ 症状(腹水,静脈瘤,出 性肝硬変と非代償性硬変の予後を調査. ルビン,アルブミン,年齢,プロトロンビン時間, 血,肝性脳症,黄疸) 118 の研究のシステマティックレビュー 肝性脳症,腹水,性,BUN,血小板数をあげた. 2 腎不全の合併 74 の研究のシステマティックレビュー. 肝硬変における腎不全の合併は,死亡リスクを 肝硬変患者における腎不全の合併と予後の 7.26 倍増加させる. 関連性についてのメタアナリシスを実施. 3 感染症の合併 178 の研究のシステマティックレビュー. 肝硬変における感染の合併は,死亡リスクを 肝硬変患者における感染の合併と予後の関 3.76 倍増加させる. 連性についてのメタアナリシスを実施. 4 低ナトリウム血症 513 例の肝移植待機患者による血清ナト 肝移植待機リスト登録時の血清ナトリウム濃度 リウム濃度と予後との関連を後ろ向きに検 126mEq/L 未満は,死亡リスクと関連する(HR 0.001). 討 7.78,95% CI 2.71 〜22.3, 5 原因疾患 代償性肝硬変[非アルコール性脂肪肝炎 NASH と HCV の死亡者は 29 例 vs. 44 例( (NASH)152 例,HCV 150 例 ]を 前 向 < 0.04) .NASH は HCV よりも死亡率が有意 きに 10 年以上経過観察. に低い. 6 原因疾患 抗ウイルス薬を投与していない代償性肝硬 経 過 観 察 期 間( 中 央 値 )は HCV 8.2 年(1.0 変患者(HCV 490 例と HBV 167 例)の 〜 24.0) ,HBV 9.2 年(1.2 〜 23.7) .20 年 自然史. 間 で の HCV と HBV の 死 亡 率 は 55.1 % vs. < 0.001), 肝 細 胞 癌 発 生 率 は 35.9 % 0.001). 53.9% vs. 28.7%( 7 血清アルブミンと血小板 Child Pugh A の HCV 肝 硬 変 患 者 100 多変量解析で,血清アルブミン 40g/L 未満と 例の閉塞肝静脈圧と自由肝静脈圧を測定 血小板数 90,000/mm3 未満のみが有意な予後 後,前向きに経過観察.観察期間中央値 予測因子.肝静脈圧較差は有意な予測因子では 85 ヵ月(70 〜 112).肝静脈閉塞圧と較 なかった. 差の中央値 21.5 (15〜24) と 13mmHg (9 〜15) .38 例が死亡もしくは肝移植登録. 8 血清ヒアルロン酸 91 例 の HCV 肝 硬 変(Child-Pugh A 82 例,B 8 例)を前向きに経過観察.重篤な 合併症(死亡,肝臓移植,腹水,食道静脈 瘤出血,肝性脳症,肝細胞癌)の発生と関 連する因子を多変量解析.観察期間は 6 〜 82 ヵ月(中央値 38 ヵ月)初年度 51 例が IFN α治療実施. 血清ヒアルロン酸 350 μg/L 以上[RR 3.5 (1.4 0.006],プロトロンビン時間< 〜 8.4) , 0.04] ,ビリル 63%[2.5(1.05 〜 6.1), ビ ン > 18mol/L[RR 2.6(1.03 〜 6.6) = 0.04] , ア ル ブ ミ ン < 36g/L[RR 2.6(1.04 0.04],IFN 無治療[RR 3.0(1.1 〜6.3) , 0.03]が,重篤な合併症の予測 〜 8.0), 因子. 9 インスリン抵抗性 代 償 性 C 型 肝 硬 変 248 例(BMI 25.4 ± 4.4)を 12 年間前向きに経過観察.肥満 関連因子と肝細胞癌発生,肝臓関連死や肝 移植との関連性を多変量解析. HOMA インデックスは肝細胞癌発生の関連因 0.026],肝 子[HR 1.10(1.01 〜1.21), 臓関連死,肝移植の予測因子[HR 1.13(1.07 0.0001] .血清アディポネクチ 〜 1.21) , ン値と血清レプチン値は関連なし. 10 a 11 肝静脈圧較差(門脈圧) 393 例の肝硬変患者の閉塞肝静脈圧較差 生存率は HVPG が高い患者で有意に悪い[単変 0.001]. (HVPG)と予後との関連を後ろ向きに検 量解析 HR 1.05(1.02 〜 1.08) , HVPG は,MELD,腹水,肝性脳症,年齢に 討. より調整されたモデルでの検討で,予後と関 連する独立した変数であった[多変量解析 HR 0.05] . 1.03(1.00 〜 1.06), 肝の硬さ 17 の研究,合計 7,058 例の慢性肝疾患 患者を対象に,エラストグラフィーによる 肝弾性値測定(LSM)と予後の関連性を検 討したシステマティックレビュー. 肝弾性値 LSM は慢性肝疾患患者における肝硬 変の非代償化(6 研究:RR 1.07,95% CI 1.03 〜 1.11),肝細胞癌(9 研究:RR 1.11,1.05 〜1.18) ,患者死亡(5 研究:RR 1.22,1.05 〜 1.43) ,およびこれらの予後の合成(7 研究: RR 1.32, 1.16〜 1.51)のリスクと有意に関連 した. 肝の硬さ・血液学的線維 1,457 例の C 型慢性肝炎患者を対象に, 多変量解析で,肝弾性値[HR 44(15 〜127), 0.0001] と FibroTest[HR 90(15 〜 化診断テスト 組織学的線維化評価,肝弾性値,血液学的 線維化テストと死亡,肝臓関連死,肝移植 127) < 0.0001]は全生存と肝臓関連死を の関連を前向きに検討.観察期間 5 年. 除く生存と有意に相関. — 161 — 5.予後予測 表1 文献 予後と関連する因子 肝硬変の予後と関連する因子 対象と方法 結果 = npRQ(RR 0.0003,0.0000〜 0.0059),REE/BMR(RR 0.0199,0.0007 0.0221),プロトロンビン時 〜 0.5652, = 間(RR 0.9677,0.9453 〜 0.0010) , 血 中 ア ン モ ニ ア 値(RR 1.0110, 0.0073)が, 生 存 を 1.0031 〜 1.0186, 予測する独立した有意な因子であった. (BMR: 基礎代謝量) 12 エネルギー代謝異常 109 例のウイルス性肝硬変患者,22 例の 健常者の早朝空腹時の安静時エネルギー消 費量(REE)を間接熱量計で測定し,非蛋 白呼吸商(npRQ)を算出し,8 年間前向き に観察.エネルギー代謝が予後に与える影 響を比例ハザードモデルで検討. 13 ADAMTS13 活性 108 例の肝硬変患者を対象に,予後関連 ADAMTS13 は,肝硬変の重症度とともに減 = 因子を Cox 比例ハザードモデルで解析. 少 す る. 多 変 量 解 析 0.0101) 0.0059)と血清アルブミン値( が,生存に影響する独立した因子であった. 14 腹水,シンチ像上の肝右 肝硬変 155 症例を対象に,予後と関連す 予後との関連が高い因子として,腹水,シンチ 葉の萎縮,血清アルブミ る因子を Cox 比例ハザードモデルで解析. 像上の肝右葉の萎縮,血清アルブミン値の 3 変 ン値 数を抽出.この 3 変数を用いた予後指数(PI) の有効性を提示. motifs 13)13)などの論文報告がある.また,腹水,肝右葉萎縮,血清アルブミン値による Cox’s proportional hazard model を用いた予後予測式の論文報告もある 14) . 肝硬度の予後予測能に関しては,17 の研究,7,058 例のデータを用いた Singh らによるメタ アナリシスの報告があり,肝硬度は,肝不全(6 研究,RR 1.07,95%CI 1.03〜1.11) ,肝細胞癌 (9 研究,RR 1.11,95%CI 1.05〜1.18) ,患者死亡(5 研究,RR 1.22,95%CI 1.05〜1.43) ,これ らが複合した予後(7 研究,RR 1.32,95%CI 1.16〜1.51)と関連することが示されている a) . 肝硬変患者は蛋白・エネルギー低栄養状態を合併することが多く,低栄養状態が予後と関連 し,エネルギー基質の燃焼比率を反映する非蛋白呼吸商の低下が予後と相関することが報告さ れている .肝 硬 変 患 者 で は von Willebrand factor を 切 断 す る 肝 臓 由 来 の 酵 素 で あ る 12) ADAMTS13 活性が低下しているが,これが予後予測因子になることが報告されている 13) . 文献 1) D’Amico GD, Garcia-Tsao G, Pagliaro L. Natural history and prognostic indicators of survival in cirrhosis: a systematic review of 118 studies. J Hepatol 2006; 44: 217-231(メタ) 2) Fede G, D’Amico G, Arvaniti V, et al. Renal failure and cirrhosis: a systematic review of mortality and prognosis. J Hepatol 2012; 56: 810-818(メタ) 3) Arvaniti V, D’Amico G, Fede G, et al. Infections in patients with cirrhosis increase mortality four-fold and should be used in determining prognosis. Gastroenterology 2010; 139: 1246-1256, 1256.e1-e5(メタ) 4) Biggins SW, Rodriguez HJ, Bacchetti P, et al. Serum sodium predicts mortality in patients listed for liver transplantation. Hepatology 2005; 41: 32-39(コホート) 5) Sanyal AJ, Banas C, Sargeant C, et al. Similarities and differences in outcomes of cirrhosis due to nonalcoholic steatohepatitis and hepatitis C. Hepatology 2006; 43: 682-689(コホート) 6) Kobayashi M, Ikeda K, Hosaka T, et al. Natural history of compensated cirrhosis in the Child-Pugh class A compared between 490 patients with hepatitis C and 167 with B virus infections. J Med Virol 2006; 78: 459465(コホート) 7) Nahon P, Ganne-Carrie N, Degos F, et al. Serum albumin and platelet count but not portal pressure are predictive of death in patients with Child-Pugh A hepatitis C virus-related cirrhosis. Gastroenterol Clin Biol 2005; 29: 347-352(コホート) 8) Guechot J, Serfaty L, Bonnand AM, et al. Prognostic value of serum hyaluronan in patients with compen- — 162 — sated HCV cirrhosis. J Hepatol 2000; 32: 447-452(コホート) 9) Nkontchou G, Bastard JP, Ziol M, et al. Insulin resistance, serum leptin, and adiponectin levels and outcomes of viral hepatitis C cirrhosis. J Hepatol 2010; 53: 827-833(コホート) 10) Ripoll C, Bañares R, Rincón D, et al. Influence of hepatic venous pressure gradient on the prediction of survival of patients with cirrhosis in the MELD Era. Hepatology 2005; 42: 793-801(ケースシリーズ) 11) Vergniol J, Foucher J, Terrebonne E, et al. Noninvasive tests for fibrosis and liver stiffness predict 5-year outcomes of patients with chronic hepatitis C. Gastroenterology 2011; 140: 1970-1979(コホート) 12) Tajika M, Kato M, Mohri H, et al. Prognostic value of energy metabolism in patients with viral liver cirrhosis. Nutrition 2002; 18: 229-234(コホート) 13) Takaya H, Uemura M, Fujimura Y, et al. ADAMTS13 activity may predict the cumulative survival of patients with liver cirrhosis in comparison with the Child-Turcotte-Pugh score and the Model for EndStage Liver Disease score. Hepatol Res 2012; 42: 459-472(コホート) 14) Tsuji Y, Koga S, Ibayashi H, et al. Prediction of the prognosis of liver cirrhosis in Japan using Cox’s proportional hazard model. Gastroenterol Jpn 1987; 22: 599-606(コホート) 【検索期間外文献】 a) Singh S, Fujii LL, Murad MH, et al. Liver stiffness is associated with risk of decompensation, liver cancer, and death in patients with chronic liver diseases: a systematic review and meta-analysis. Clin Gastroenterol Hepatol 2013; 11: 1573-1584(メタ) — 163 — 5.予後予測 Clinical Question 5-2 CTP(Child-Turcotte-Pugh)分類は肝硬変の予後予測に 有用か? CQ 5-2 CTP(Child-Turcotte-Pugh)分類は肝硬変の予後予測に有用か? ステートメント ● CTP(Child-Turcotte-Pugh)分類は肝硬変の予後予測に有用で あり,予後予測に用いることを推奨する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 1 (100%) A 解説 CTP(Child-Turcotte-Pugh)分類は,肝硬変患者の重症度および予後を予測する指標であり, 臨床において頻用されている.D’Amico らは 118 の肝硬変の自然史と予後予測因子に関する論 文を用いたシステマティックレビューにおいて,23,797 例に関する検討を行い,観察期間は 31 ヵ月(中央値),死亡率 36%(中央値),生存期間 33 ヵ月(中央値),1 年累積生存率 78% (Child-Pugh class A/B/C 別では 95%,80%,45%),2 年累積生存率 75%(Child-Pugh class A/B/C 別では 90%,70%,38%)と報告している(図 1) .また, 「CTP 分類とその構成因子」は 「患者年齢」とともに疾患の臨床病期にかかわらず,高い精度で死亡を予測する因子であるとし ている 1) .また,一般に予後予測因子は,肝硬変のステージによって異なり,MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score が代償期肝硬変患者での予後予測において有用性が低いのに対 し,CTP 分類は代償期でも非代償期でも高い精度で予後を予測できる因子であるとしている 1) . Cholongitas らは,肝硬変患者の予後予測に関するシステマティックレビューにおいて,経頸 静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)を行った肝硬変患者の 3 ヵ月後と 1 年後の予後予測能に 関し,CTP 分類の ROC 曲線下面積(AUROC) (=C 統計量:予測能の精度を示す)は,各々0.70 〜0.78,0.66〜0.67 であり,MELD score と同等の高い精度を示すことを報告している 2) .また, Said らは,1,611 例の慢性肝疾患患者における 3 年後および 5 年後の予後予測能に関し,CTP 分 類の C 統計量は各々0.83,0.74 であり,MELD score の 0.79,0.69 と同様,高い予測精度を示すこ とを報告している 3) . また,OPTN(Organ Procurement and Transplantation Network)の肝移植待機患者 3,437 例 (status 2A/2B)を対象にした Wiesner らの報告では,3 ヵ月後の予後予測能に関する C 統計量 は,CTP score が 0.76 と MELD score の 0.803 よりも有意に低いものの,高い精度を示すことが 報告されている 4) .一方で,Cholongitas らは,肝移植待機中の肝硬変患者における予後予測能 に関するシステマティックレビューにおいて,MELD score が有意に CTP 分類より優れていると する論文は,11 研究中 4 研究(4,512 例)のみであり,7 研究(8,020 例)では有意差がないとする 結果から,MELD score が CTP 分類より優れているとはいえないとしている 5) . — 164 — 100 80 60 40 20 0 Child-Pugh A 1年 2年 Child-Pugh B 1年 2年 Child-Pugh C 1年 2年 図 1 肝硬変患者の Child-Pugh 分類別の予後 (文献 1 より引用) 重症度が高く ICU に入院するような肝硬変患者における予後予測に関しては,21 の研究を検 討した Cholongitus らのレビューにおいて,CTP 分類や MELD score などの肝臓特異的な予後予 測 モ デ ル よ り も , APACHEⅡ( Acute Physiology and Chronic Health Elaluation)や SOFA (Sequential Organ Failure Assessment)や OSF(Organ Systemic Failure)などの一般的な予後予 測モデルのほうが優れていたとしている 6) . 予後予測精度を改善するための CTP の改変に関し,Huo らは,アルブミン値 2.3 g/dL 未満, ビリルビン値 8 mg/dL 以上,プロトロンビン時間延長 11 秒以上で 1 点を加え,クラス D(16〜 18 点)を加えた修正 CTP スコアリング法を考案し,予後予測能はオリジナルの CTP 分類よりも 優れ,MELD score と同等の精度であるとしている 7) .また,肝硬変における腎不全は予後を予 測する重要な因子であるが,血清クレアチニン値を CTP 分類に加えた Giannini らの検討では, オリジナル CTP 分類よりも予後予測の精度が高まるものの MELD score のほうが優れていたと している 8) . CTP 分類の問題点として,因子を恣意的に選択していること,5 因子に同じ重み付けをして いること,各因子が独立した変数でないこと,ビリルビン値 3.0 mg/dL 以上,アルブミン値 2.8 g/dL 未満が一括りにされ,最重症例の判別に有用でないこと 7)などがあり,重症度判定の 指標として不十分との指摘もある. — 165 — 5.予後予測 文献 1) D’Amico GD, Garcia-Tsao G, Pagliaro L. Natural history and prognostic indicators of survival in cirrhosis: a systematic review of 118 studies. J Hepatol 2006; 44: 217-231(メタ) 2) Cholongitas E, Papatheodoridis GV, Vangeli M, et al. Systematic review: the model for end-stage liver disease: should it replace Child-Pugh’s classification for assessing prognosis in cirrhosis? Aliment Pharmacol Ther 2005; 22: 1079-1089(メタ) 3) Said A, Williams J, Holden J, et al. Model for end stage liver disease score predicts mortality across a broad spectrum of liver disease. J Hepatol 2004; 40: 897-903(ケースシリーズ) 4) Wiesner R, Edwards E, Freeman R, et al. Model for End-Stage Liver Disease (MELD) and Allocation of Donor Livers. Gastroenterology 2003; 124: 91-96(コホート) 5) Cholongitas E, Marelli L, Shusang V, et al. A systematic review of the performance of the model for endstage liver disease (MELD) in the setting of liver transplantation. Liver Transpl 2006; 12: 1049-1061(メタ) 6) Cholongitas E, Senzolo M, Patch D, et al. Review article: scoring systems for assessing prognosis in critically ill adult cirrhotics. Aliment Pharmacol Ther 2006; 24: 453-464 7) Huo TI, Lin HC, Wu JC, et al. Proposal of a modified Child-Turcotte-Pugh scoring system and comparison with the model for end-stage liver disease for outcome prediction in patients with cirrhosis. Liver Transpl 2006; 12: 65-71(ケースシリーズ) 8) Giannini E, Botta F, Fumagalli A, et al. Can inclusion of serum creatinine values improve the Child-Turcotte-Pugh score and challenge the prognostic yield of the model for end-stage liver disease score in the short-term prognostic assessment of cirrhotic patients? Liver Int 2004; 24: 465-470(コホート) — 166 — 5.予後予測 Clinical Question 5-3 MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score は肝硬変の予後予測に有用か? CQ 5-3 MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score は肝硬変の予 後予測に有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score は肝硬変 患者における短期の予後予測に有用であり,非代償性肝硬変の予後 予測に用いることを推奨する. 1 (100%) A 解説 1)MELD score の予後予測能について MELD score は本来,経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)を受けた肝硬変患者の短期予 後を評価する目的で考案されたものであるが,肝移植待機患者症例に優先順位をつけるため肝 硬変の原因という項目を除いてクレアチニン,ビリルビン,プロトロンビン時間(INR)の 3 項 目に基づく score としての 3 ヵ月間の予後予測に用いられた.さらに,種々の原因,種々の重 症度の肝硬変の予後予測に試用された結果,2002 年からは United Network for Organ Sharing (UNOS)に取り入れられ,一般化するようになった 1) . D’Amico らのシステマティックレビューで,MELD score は非代償期の肝硬変において高い予 後予測能を持つことが示されているが,代償期肝硬変での予後予測における有用性は低いこと が指摘されている 2) .Botta らは,129 例の肝硬変患者を対象とした検討で MELD score の 6 ヵ月 後の予後予測能を評価し,予測能の精度を示す C 統計量が 0.67 であり,0.69 を示す CTP(ChildTurcotte-Pugh)分類とともに高い予測能を有することを報告している 3) .一方で,Cholongitas らのシステマティックレビューでは,MELD score は高い予後予測能を有するものの,CTP 分類 に対する予測精度の優位性は明らかでないとしている 4) . また,肝移植待機中の肝硬変患者における短期の予後予測に関する MELD score の有用性は多 くの研究で報告されており 5, 6) ,Wiesner らの 3,437 例の成人肝移植予定者の MELD score と 3 ヵ 月後の生存率の関係(表 1)から MELD score による 3 ヵ月後の推定生存率(図 1)を報告してい 表1 3,437 例の成人肝移植予定患者における MELD と 3 ヵ月後の生存率の関係 MELD <9 10〜19 20 〜 29 30 〜 39 患者数(例) 124 1,800 1,098 295 120 死亡率(%) 1.9 6.0 19.6 52.6 71.3 (文献 5 より引用改変) — 167 — > 40 5.予後予測 100 3ヵ月後推定生存率 80 60 40 20 0 0 10 20 30 40 50 MELD score 図 1 MELD score による 3 ヵ月後の推定生存率 (文献 5 より引用) る.また,Cholongitas らのシステマティックレビューでは,3 ヵ月後の予後予測精度は 0.66〜 0.85 と報告されている 6) .それ以外にも,食道静脈瘤出血などの合併症を持つ肝硬変症例での予 後予測 7)や肝移植以外の外科手術後の予後予測 8)など,様々な病態の予後予測において有用性 が報告されている. 2)予後予測精度を改善するための MELD の改変 MELD には重要な予後因子である肝性脳症,腹水などの肝硬変合併症が含まれていないとい う問題がある.腹水の持続,低ナトリウム血症は,重要な予後悪化因子なのでこれら項目を加 えたり 9, 10) ,MELD score の経過を追った変化(delta MELD)を考慮に入れること 11)で,移植の ための予後予測がより適切になるという議論が重ねられてきた.なかでも,血清ナトリウム値 を組み入れる MELD-Na 12)は肝移植候補者の MELD score よりも優れた予後予測能を示すとい う評価がなされた.その他,MELD score に血清ナトリウム値を加えたり,変数の重み付けを修 正するなどした様々な指標が開発され(表 2)5, 11, 13〜19) ,MELD score との比較を通じて 20〜23) ,最も 理想的な MELD score の変法が模索され続けている.ただし,血清ナトリウム濃度は利尿薬やト ルバプタンの投与や輸液などにより影響を受けやすい点に留意する必要がある. 文献 1) Kamath PS, Kim WR. The model for end-stage liver disease (MELD). Hepatology 2007; 45: 797-805 2) D’Amico GD, Garcia-Tsao G, Pagliaro L. Natural history and prognostic indicators of survival in cirrhosis: a systematic review of 118 studies. J Hepatol 2006; 44: 217-231(メタ) 3) Botta F, Giannini E, Romagnoli P, et al. MELD scoring system is useful for predicting prognosis in patients with liver cirrhosis and is correlated with residual liver function: a European study. Gut 2003; 52: 134-139 (ケースシリーズ) 4) Cholongitas E, Papatheodoridis GV, Vangeli M, et al. Systematic review: The model for end-stage liver disease: should it replace Child-Pugh’s classification for assessing prognosis in cirrhosis? Aliment Pharma- — 168 — 表2 score MELD とその変法に関する報告 報告者 公式 MELD Wiesner ら 5) 9.57 × Loge( 血 清 ク レ ア チ ニ ン 値(mg/dL))+ 3.78 × Loge( 血 清 ビ リ ル ビ ン 値(mg/dL) )+ 11.2 × Loge(International Normalization Ratio)+ 6.43 MELD-Na Biggins ら 13) MELD + 1.59 ×(135 −血清ナトリウム値(mEq/L) )* 血清ナトリウム 値の最大値は 135,最小値は 120 iMELD Luca ら 14) MELD + 0.3 ×年齢− 0.7 ×血清ナトリウム(mEq/L)+ 100 UKELD Barber ら 15) 5.395 × Loge(INR)+(1.485 × Loge(血清クレアチニン値) )+(3.13 )−(81.565 × Loge(血清ナトリウム値)+ × Loge(血清ビリルビン値) 435 MESO Huo ら 16) MELD-XI Heuman ら 17) 5.11 × Loge(血清ビリルビン値(mg/dL) )+ 11.76 × Loge(血清クレア チニン値(mg/dL )+ 9.44 (MELD/Na)× 100 Re-weighted MELD Sharma ら 18) 1.266 × Loge(1 +血清クレアチニン値(mg/dL)+ 0.939 × Loge(1 + 血清ビリルビン値(mg/dL) )+ 1.658 × Loge(1 + INR) Re-Fit-MELD-Na Leise ら 19) 4.258 × Loge(血清ビリルビン値(mg/dL) )+ 6.792 × Loge(血清クレ アチニン値(mg/dL) )+ 8.290 × Loge(INR)+ 0.652 ×(140 −ナトリ ウム)− 0.194 ×(140 −ナトリウム)× Bili + 6.327 Delta MELD Huo ら 11) (2 回目 MELD score)−(初回 MELD score) col Ther 2005; 22: 1079-1089(メタ) 5) Wiesner R, Edwards E, Freeman R, et al. Model for End-Stage Liver Disease (MELD) and allocation of donar livers. Gastroenterology 2003; 124: 91-96(コホート) 6) Cholongitas E, Marelli L, Shusang V, et al. A systematic review of the performance of the model for endstage liver disease (MELD) in the setting of liver transplantation. Liver Transpl 2006; 12: 1049-1061(メタ) 7) Chalasani N, Kahi C, Francois F, et al. Model for end-stage liver disease (MELD) for predicting mortality in patients with acute variceal bleeding. Hepatology 2002; 35: 1282-1284(コホート) 8) Costa BP, Sousa FC, Serôdio M, et al. Value of MELD and MELD-based indices in surgical risk evaluation of cirrhotic patients: retrospective analysis of 190 cases. World J Surg 2009; 33: 1711-1719(ケースシリーズ) 9) Heuman DM, Abou-Assi SG, Habib A, et al. Persistent ascites and low serum sodium identify patients with cirrhosis and low MELD scores who are at high risk for early death. Hepatology 2004; 40: 802-810 (コホート) 10) Ruf AE, Kremers WK, Chavez LL, et al. Addition of serum sodium into the MELD score predicts waiting list mortality better than MELD alone. Liver Transpl 2005; 11: 336-343(コホート) 11) Huo TI, Wu JC, Lin HC, et al. Evaluation of the increase in model for end-stage liver disease (DeltaMELD) score over time as a prognostic predictor in patients with advanced cirrhosis: risk factor analysis and comparison with initial MELD and Child-Turcotte-Pugh score. J Hepatol 2005; 42: 826-832(コホート) 12) Biggins SW, Rodriguez HJ, Bacchetti P, et al. Serum sodium predicts mortality in patients listed for liver transplantation. Hepatology 2005; 41: 32-39(ケースシリーズ) 13) Biggins SW, Kim WR, Terrault NA, et al. Evidence-based incorporation of serum sodium concentration into MELD. Gastroenterology 2006; 130: 1652-1660(コホート) 14) Luca A, Angermayr B, Bertolini G et al. An integrated MELD model including serum sodium and age improves the prediction of earlymortality in patients with cirrhosis. Liver Transp 2007; 13: 1174-1180(コ ホート) 15) Barber K, Madden S, Allen J, et al. Elective liver transplant list mortality: development of a United Kingdom end-stage liver disease score. Transplantation 2011; 92: 469-476(コホート) 16) Huo TI, Wang YW, Yang YY, et al. Model for end-stage liver disease score to serum sodium ratio index as a prognostic predictor and its correlation with portal pressure in patients with liver cirrhosis. Liver Int 2007; 27: 498-506(ケースシリーズ) 17) Heuman DM, Mihas AA, Habib A. MELD-XI: a rational approach to “sickest first” liver transplantation in cirrhotic patients requiring anticoagulant therapy. Liver Transpl 2007; 13: 30-37(ケースシリーズ) 18) Sharma P, Schaubel DE, Sima CS, et al. Re-weighting the model for end-stage liver disease score components. Gastroenterology 2008; 135: 1575-1581(ケースシリーズ) — 169 — 5.予後予測 19) Leise MD, Kim WR, Kremers WK, et al. A revised model for end-stage liver disease optimizes prediction of mortality among patients awaiting liver transplantation. Gastroenterology 2011; 140: 1952-1960(ケース シリーズ) 20) Londono MC, Cardenas A, Guevara M, et al. MELD score and serum sodium in the prediction of survival of patients with cirrhosis awaiting liver transplantation. Gut 2007; 56: 1283-1290(ケースシリーズ) 21) Huo TI, Lin HC, Huo SC, et al. Comparison of four model for end-stage liver disease-based prognostic systems for cirrhosis. Liver Transpl 2008; 14: 837-844(ケースシリーズ) 22) Jiang M, Liu F, Xiong WJ, et al. Comparison of four models for end-stage liver disease in evaluating the prognosis of cirrhosis. World J Gastroenterol 2008; 14: 6546-6550(ケースシリーズ) 23) Cholongitas E, Burroughs AK. The evolution in the prioritization for liver transplantation. Ann Gastroenterol 2012; 25: 6-13 — 170 — 5.予後予測 Clinical Question 5-4 肥満は肝硬変の予後に影響を及ぼすか? CQ 5-4 肥満は肝硬変の予後に影響を及ぼすか? ステートメント ● 肥満は肝硬変の予後に悪影響を及ぼす. 解説 アルコール消費に関連した肥満と肝硬変の予後について Ioannou ら 1)は,多変量解析で肥満 は肝硬変の予後に悪影響を与えうるひとつの因子であるとしている.肝硬変の自然経過を後ろ 向きに検討した Ratziu ら 2)は,肥満を伴った Child B,C 肝硬変は年齢,性をマッチさせた C 型 Child B,C 肝硬変より生存率が低く,肝細胞癌合併症はほぼ同率(27% vs. 21%)であったとして いる.また,Kral ら 3)は高度肥満者の減量のために胆膵管系の変更術(biliopancreatic diversion)を施行し,11 例の肝硬変全例で線維化,炎症の改善を認めたとしている. Tellez-Avila ら 4)は,原因不明の肝硬変患者と C 型およびアルコール性肝硬変患者との比較 検討を行い,メタボリックシンドローム,肥満,2 型糖尿病の有病率は,原因不明肝硬変患者 群で高率であり,原因不明肝硬変における非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の関与を示唆して いる.Whitlock らは,57 の前向き研究を結合させた 90 万例の BMI と死亡原因との関連を調査 した研究で,BMI が 15〜25 kg/m2 の群の肝硬変による死亡の HR が 0.73(95%CI 0.54〜1.00)に 対し,BMI が 25〜50 kg/m2 の群は HR が 1.79(1.54〜2.08)と,過剰な体重が肝硬変による死亡 のリスクを増加させることを報告している 5) . Berzigotti ら 6)は 161 例の肝硬変患者を対象とした 59 ヵ月(中央値)の経過観察にて,正常体 重 群( BMI 18.5〜 24.9 kg/m2)で 15%, 過 剰 体 重 群( BMI 25〜 29.9 kg/m2)で 31%, 肥 満 群 (BMI>30 kg/m2)で 43%の患者が代償性肝硬変から非代償性肝硬変(腹水・肝性脳症・静脈瘤 出血)に移行し,多変量解析にて BMI が,hepatic venous pressure gradient(肝静脈圧較差) ,血 清アルブミン値とともに非代償性への増悪に寄与する独立した因子(HR 1.06,p<0.02)として抽 出されたとしている.その他,肥満は C 型肝炎の抗ウイルス療法 7, 8)など肝疾患の治療効果に影 響を与えることが報告されている. — 171 — 5.予後予測 文献 1) Ioannou GN, Splan MF, Weiss NS, et al. Incidence and predictors of hepatocellular carcinoma in patients with cirrhosis. Clin Gastroenterol Hepatol 2007; 5: 938-945(ケースシリーズ) 2) Ratziu V, Bonyhay L, Di Martino V, et al. Survival, liver failure, and hepatocellular carcinoma in obesityrelated cryptogenic cirrhosis. Hepatology 2002; 35: 1485-1493(ケースシリーズ) 3) Kral JG, Thung SN, Biron S, et al. Effects of surgical treatment of the metabolic syndrome on liver fibrosis and cirrhosis. Surgery 2004; 135: 48-58(コホート) 4) Tellez-Avila FI, Sanchez-Avila F, García-Saenz-de-Sicilia M, et al. Prevalence of metabolic syndrome, obesity and diabetes type 2 in cryptogenic cirrhosis. World J Gastroenterol 2008; 14: 4771-4775(ケースコント ロール) 5) Whitlock G, Lewington S, Sherliker P, et al. Body-mass index and cause-specific mortality in 900000 adults: collaborative analyses of 57 prospective studies. Lancet 2009; 373 (9669): 1083-1096(コホート) 6) Berzigotti A, Garcia-Tsao G, Bosch J, et al. Obesity is an independent risk factor for clinical decompensation in patients with cirrhosis. Hepatology 2011; 54: 555-561(コホート) 7) Bressler BL, Guindi M, Tomlinson G, et al. High body mass index is an independent risk factor for nonresponse to antiviral treatment in chronic hepatitis C. Hepatology 2003; 38: 639-644(ケースシリーズ) 8) Poynard T, Ratziu V, McHutchison J, et al. Effect of treatment with peginterferon or interferon alfa-2b and ribavirin on steatosis in patients infected with hepatitis C. Hepatology 2003; 38: 75-85(ランダム) — 172 — 6.肝移植 6.肝移植 Clinical Question 6-1 肝移植は非代償性肝硬変の生存率を高めるか? CQ 6-1 肝移植は非代償性肝硬変の生存率を高めるか? ステートメント ● 肝移植は非代償性肝硬変の生存率を高めるが,個々の症例に応じ て,肝移植を検討することを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) B 解説 この設問に直接適合する論文は初版同様認めない.非代償性肝硬変の予後と非代償性肝硬変 に対する肝移植の成績を比較すると,その生存率を高めることは事実であるが RCT は存在せず, コホート研究にとどまる. Merion ら 1)は,2001 年から 2003 年の間に肝移植待機リストに載った 12,966 例の肝硬変につ いて肝移植施行例,非施行例の予後を比較したコホート研究において,MELD(Model for EndStage Liver Disease)score 18 点以上で肝移植による生存率改善効果が現れ,score の上昇ととも にこの効果が増すとした. その後,同じグループの Sharma ら 2)は,2001 年から 2006 年の肝移植待機リストに載った 38,899 例の肝硬変患者について,移植前の MELD score が 15〜17 点,24〜40 点の患者群では, MELD score が同じ場合は血清クレアチニン値が高いほうが肝移植による生存率改善効果が少な いこと,さらに,MELD score 12 点以上で肝移植による生存率改善効果が得られるが,9〜11 点 では有意差がなく,MELD score が 6〜8 点では肝移植はむしろ有益性がないことを報告してい る. 日本では,Ishigami ら 3)が 79 例の非移植肝硬変患者と 30 例の移植患者の生存率を MELD 別 に検討し,生存率は,MELD score が 15 未満では非移植群が有意に高く(p=0.0232) ,MELD score が 15 以上では移植群が有意に高かった(p=0.0181)としている. 現状では,すべての非代償性肝硬変に対して肝移植の RCT を行うことは不可能である.コ ホート研究の成果と現実に進められている肝移植全体の成績から判断する他はない. 非代償性肝硬変においては,生体および脳死肝移植の適応の有無に関し,検討がなされるべ きである.しかし,日本では生体肝移植が主体であり,非代償性肝硬変に対する肝移植を実施 しない場合に対する優位性については,高いエビデンスのある研究が存在せず,また,生体肝 移植は,様々な倫理的問題も含んでいるため,その適応に関しては慎重な検討がなされるべき である. — 174 — 文献 1) Merion RM, Schaubel DE, Dykstra DM, et al. The survival benefit of liver transplantation. Am J Transplant 2005; 5: 307-313(コホート) 2) Sharma P, Schaubel DE, Guidinger MK, et al. Effect of pretransplant serum creatinine on the survival benefit of liver transplantation. Liver Transpl 2009; 15: 1808-1813(コホート) 3) Ishigami M, Honda T, Okumura A, et al. Use of the Model for End-Stage Liver Disease (MELD) score to predict 1-year survival of Japanese patients with cirrhosis and to determine who will benefit from living donor liver transplantation. J Gastroenterol 2008; 43: 363-368(コホート) — 175 — 6.肝移植 Clinical Question 6-2 MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score は,肝移植後の予後予測に有用か? CQ 6-2 MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score は,肝移植後 の予後予測に有用か? ステートメント ● 肝移植後の予後は,術前の MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score だけでは 予測できない. 解説 MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score が肝移植前の予後予測と肝移植の適応判定 に有用であることは疑いない 1)が,肝移植後の予後予測にも有用かについてはいまだ議論が多 い.すなわち,MELD score が高いほど,移植後の生存率が低いという報告 2〜11)が多いものの, 近年の報告では移植前 MELD score は予後予測に有用でないとする報告も多い 12〜17) .システマ ティックレビューは 2 編あり 18), (PLoS One 2013; 8: e80661 a)[検索期間外文献] ) ,Klein らは, 解析した 37 論文中 15 論文が術前の MELD score と移植後の予後は無関係とし,22 研究が術前 の MELD score の高さと移植後の不良な予後との関連を報告していたとし,術前 MELD score と 術後生存との関連性を示す報告が多いが,エビデンスレベルが低く,控えめに解釈すべきとし ている a) .さらには,ROC 解析を行った 11 論文のうち 10 論文で C 統計量は 0.7 未満であり, その予測精度は不良であったとしている a) .Cholongitas らも,MELD score の肝移植後の予後予 測精度が低い点を指摘し,予測できないと結論づけている 18) .移植後の予後は移植前の肝機能 のみならず,ドナー肝の状態,移植チームの熟練度,移植後の合併症などにも影響を受けるも のであり,肝疾患の原因によっても移植後の予後は異なる. 日本では C 型肝炎ウイルスに起因する肝硬変が多いが,海外の報告では B 型肝炎ウイルスや アルコールによる慢性肝疾患に対する肝移植が多い.HCV 関連疾患での移植は比較的予後不良 であるとの報告もあり 3) ,MELD score が高い症例に対する肝移植には注意を要する.さらに生 体肝移植が多い日本の現状に海外の報告をそのまま適応することは現状に即さない.最近の生 体肝移植の成績 12〜14, 16〜17, 19〜22)では MELD score が肝移植後の予後予測にはあまり有用でないとす る報告が多い.現在のところ MELD score が高いことで移植適応外とするべきではなく,海外と 大きく異なる日本の肝移植事情を加味すると,日本発のさらなる検討が必要である. — 176 — 文献 1) Durand F, Valla D. Assessment of prognosis of cirrhosis. Semin Liver Dis 2008; 28: 110-122 2) Botta F, Giannini E, Romagnoli P, et al. MELD scoring system is useful for predicting prognosis in patients with liver cirrhosis and is correlated with residual liver function: a European study. Gut 2003; 52: 134-139 (コホート) 3) Onaca NN, Levy MF, Netto GJ, et al. Pretransplant MELD score as a predictor of outcome after liver transplantation for chronic hepatitis C. Am J Transplant 2003; 3: 626-630(コホート) 4) Saab S, Wang V, Ibrahim AB, et al. MELD score predicts 1-year patient survival post-orthotopic liver transplantation. Liver Transpl 2003; 9: 473-476(コホート) 5) Yao FY, Saab S, Bass NM, et al. Prediction of survival after liver retransplantation for late graft failure based on preoperative prognostic scores. Hepatology 2004; 39: 230-238(コホート) 6) Yoo HY, Thuluvath PJ. Short-term post liver transplant survival after the introduction of MELD scores for organ allocation in the United States. Liver Int 2005; 25: 536-541(ケースシリーズ) 7) Ravaioli M, Grazi GL, Ercolani G, et al. Efficacy of MELD score in predicting survival after liver retransplantation. Transplant Proc 2004; 36: 2748-2749(ケースシリーズ) 8) Habib S, Berk B, Chang CC, et al. MELD and prediction of post-liver transplantation survival. Liver Transpl 2006; 12: 440-447(ケースシリーズ) 9) Brandão A, Fuchs SC, Gleisner AL, et al. MELD and other predictors of survival after liver transplantation. Clin Transplant 2009; 23: 220-227(コホート) 10) Weismüller TJ, Fikatas P, Schmidt J, et al. Multicentric evaluation of model for end-stage liver diseasebased allocation and survival after liver transplantation in Germany: limitations of the ‘sickest first’-concept. Transpl Int 2011; 24: 91-99(ケースシリーズ) 11) Suzuki H, Bartlett AS, Muiesan P, et al. High model for end-stage liver disease score as a predictor of survival during long-term follow-up after liver transplantation. Transplant Proc 2012; 44: 384-388(ケースシ リーズ) 12) Ferraz-Neto BH, Zurstrassen MP, Hidalgo R, et al. Analysis of liver transplantation outcome in patients with MELD Score > or 30. Transplant Proc 2008; 40: 797-799(コホート) 13) Selzner M, Kashfi A, Cattral MS, et al. Live donor liver transplantation in high MELD score recipients. Ann Surg 2010; 251: 153-157(ケースシリーズ) 14) Li C, Wen T, Yan L, Li B, Wang W, Xu M, et al. Does model for end-stage liver disease score predict the short-term outcome of living donor liver transplantation? Transplant Proc 2010; 42: 3620-3623(ケースシ リーズ) 15) Benckert C, Quante M, Thelen A, et al. Impact of the MELD allocation after its implementation in liver transplantation. Scand J Gastroenterol 2011; 46: 941-948(ケースシリーズ) 16) Poon KS, Chen TH, Jeng LB, et al. A high model for end-stage liver disease score should not be considered a contraindication to living donor liver transplantation. Transplant Proc 2012; 44: 316-319(ケースシリー ズ) 17) Wai CT, Woon WA, Tan YM, et al. Pretransplant Model for End-stage Liver Disease score has no impact on posttransplant survival in living donor liver transplantation. Transplant Proc 2012; 44: 396-398(ケース シリーズ) 18) Cholongitas E, Marelli L, Shusang V, et al. A systematic review of the performance of the model for endstage liver disease (MELD) in the setting of liver transplantation. Liver Transpl 2006; 12: 1049-1061(メタ) 19) Akyildiz M, Karasu Z, Arikan C, et al. Impact of pretransplant MELD score on posttransplant outcome in living donor liver transplantation. Transplant Proc 2004; 36: 1442-1444(ケースシリーズ) 20) Desai NM, Mange KC, Crawford MD, et al. Predicting outcome after liver transplantation: utility of the model for end-stage liver disease and a newly derived discrimination function. Transplantation 2004; 77: 99-106(ケースシリーズ) 21) Jacob M, Copley LP, Lewsey JD, et al. Pretransplant MELD score and post liver transplantation survival in the UK and Ireland. Liver Transpl 2004; 10: 903-907(ケースシリーズ) 22) Kim DJ, Lee SK, Jo JW, et al. Prognosis after liver transplantation predicted by preoperative MELD score. Transplant Proc 2006; 38: 2095-2096(ケースシリーズ) 【検索期間外文献】 a) Klein KB, Stafinski TD, Menon D. Predicting survival after liver transplantation based on pre-transplant MELD score. PLoS One 2013; 8: e80661(メタ) — 177 — 6.肝移植 Clinical Question 6-3 CTP(Child-Turcotte-Pugh)分類は肝移植後の予後予測 に有用か? CQ 6-3 CTP(Child-Turcotte-Pugh)分類は肝移植後の予後予測に有用か? ステートメント ● 肝移植後の予後は,CTP(Child-Turcotte-Pugh)分類だけでは予測できない. 解説 肝移植後の長期生存については,原疾患の再発,日和見感染,発癌などの因子に影響を受け ることが報告されているが 1) ,肝移植後の早期死亡については,治療上の技術,レシピエントの ハイリスク状態,グラフトの質の低さなどの因子の関与が示唆されている 2) .CTP(Child-Turcotte-Pugh)分類は肝機能の重症度を反映することから CTP 分類が術後の短期予後に影響を与 える可能性は否定できないが,CTP 分類による肝移植術後の予後予測能は,ROC 曲線の曲線下 面積(=C 統計量)で 0.7 以下の報告が多く,精度が低いため,予後を正確に評価できる他の予 測因子の探求が行われている. Guo らは 117 例の肝移植患者での検討で,CTP score 9 点以上/未満で移植後 1 年生存率に有 意差を認めるとしている 3) .Brandão らは肝移植患者 436 例の検討で,3,6,12 ヵ月後の生存率 は,CTP 分類グレード C の患者はグレード A,B の患者と比較し有意に低く,多変量解析の結 果,レシピエント年齢 65 歳以上,MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score 21 以上, CTP グレード C,ビリルビン 7 mg/dL 以上,クレアチニン 1.5 mg/dL 以上,血小板輸血,肝細 胞癌,非白人ドナーが死亡予測因子であると報告している 4) . 一方,Wong らは,149 例の肝移植患者の肝移植後 3 ヵ月の予後予測能に関する検討で,術前 の Child-Pugh score の C 統計量は術前が 0.514 に対し,術後 1,3,7,14 日後は,0.740,0.811, 0.846,0.816 であり,術前の CTP score は術後の予後予測に有用でなかったとしている 5). Vrochides らは肝移植患者 458 例の検討で,移植後早期(3 ヵ月後)の予後予測因子として,CTP score,MELD score,warm ischemia time(WIT)が多変量解析から抽出され,移植後長期の生 存予測因子として,患者の性別(女性) ,肝硬変の原因,肝細胞癌,患者年齢の 4 因子が抽出さ れたとしている 2) .その他,MELD や CTP 分類の各項目よりも年齢,血清クレアチニン,コリ ンエステラーゼが有効とする Weismüller らの報告 6) ,5 年後のグラフト肝の生存に寄与する因 子として,グラフトの見た目,移植前赤血球数,移植前の Hb 値,pO2/FiO2 などをあげたが, CTP score は含まなかったとする Nafidi らの報告 7)などがある. 肝移植の患者背景,成績,解析方法は施設間で異なるため,必ずしも術前の CTP 分類のグ レードの差で肝移植の成績,予後が異なるとはいえないが,予後予測の一助になるものと思わ — 178 — れる. 文献 1) Asfar S, Metrakos P, Fryer J, et al. An analysis of late deaths after liver transplantation. Transplantation 1996; 61: 1377-1381(ケースシリーズ) 2) Vrochides D, Hassanain M, Barkun J, et al. Association of preoperative parameters with postoperative mortality and long-term survival after liver transplantation. Can J Surg 2011; 54: 101-106(ケースシリー ズ) 3) Guo Z, He X, Wu L, et al. Model for end-stage liver disease versus the Child-Pugh score in predicting the post-transplant 3-month and 1-year mortality in a cohort of Chinese recipients. Surg Today 2010; 40: 38-45 (ケースシリーズ) 4) Brandão A, Fuchs SC, Gleisner AL, et al. MELD and other predictors of survival after liver transplantation. Clin Transplant 2009; 23: 220-227(コホート) 5) Wong CS, Lee WC, Jenq CC, et al. Scoring short-term mortality after liver transplantation. Liver Transpl 2010; 16: 138-146(ケースシリーズ) 6) Weismüller TJ, Prokein J, Becker T, et al. Prediction of survival after liver transplantation by pre-transplant parameters. Scand J Gastroenterol 2008; 43: 736-746(ケースシリーズ) 7) Nafidi O, Marleau D, Roy A, et al. Identification of new donor variables associated with graft survival in a single-center liver transplant cohort. Liver Transpl 2010; 16: 1393-1399(ケースシリーズ) — 179 — 6.肝移植 Clinical Question 6-4 抗ウイルス療法は肝移植後の治療に有用か? CQ 6-4 抗ウイルス療法は肝移植後の治療に有用か? ステートメント ● 抗ウイルス療法は,B 型および C 型肝硬変の肝移植後の治療に有 用であり推奨する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 1 (100%) A 解説 不可欠か否かについて直接解答できる RCT は少ないが,肝移植後のウイルス肝炎再発が患者 の予後を悪くしていることは自明であり,抗ウイルス療法は必須と考える.抗ウイルス療法が 導入される以前の 1977〜1990 年における欧州の 17 施設での調査 1)では,B 型肝硬変の肝移植 後 1 年,3 年生存率は 75%,63%であったが,3 年後までの累積肝炎再発率は 67%にのぼり,再 発例の 1 年,3 年生存率は各々68%,43%に低下していた.一方,C 型肝硬変でも 70〜90%が C 型肝炎を再発し,その 20〜40%が 5 年以内に肝硬変に進展する 2)と報告されている.このうち 非代償期に達する例は 1 年で 40%以上,3 年で 60%以上であり,非代償性肝硬変の 3 年生存率 は 10%を切っている 3, 4) .これらの成績を踏まえると肝移植後に抗ウイルス療法が必要なことは 明らかであり,その後の世界の臨床研究の流れは移植後の HBV,HCV 増殖をいかに抑えるか という方向に向かっている. 1)B 型肝硬変に対する肝移植後ウイルス治療 B 型肝硬変に対しては,ラミブジン,アデホビル,エンテカビル,テノホビルという副作用 の極めて少ない経口抗ウイルス薬の登場,さらに HB 免疫グロブリン(HBIG)との併用により, 肝移植前から HBV 増殖を抑えることが可能となった.1998 年に Markowitz ら 5)は周術期の HBIG 静注とラミブジンの経口投与の長期併用により 1 年生存率 93%,再感染率 0%という優 れた成績を発表した.その後,HBIG とラミブジンを中心とした核酸アナログの併用,ラミブ ジン耐性株出現時にはアデホビルの併用により,肝移植後の HBV 感染制御には目覚ましい進歩 がみられている 6) . 最近のメタアナリシスでは,HBIG とラミブジンの併用治療は,HBIG 単独やラミブジン単独 治療と比較し,肝移植後の HBV 再発率が低いことが報告されている 7〜 9).Cholongitas らの 2,162 例のシステマティックレビューでは,HBIG と核酸アナログの併用治療を受けた患者の HBV 再発率は 6.6%であったのに対し,HBIG 単独群では 26.2%,核酸アナログ単独群では 19.0%であり,また,アデホビルと HBIG の併用治療のほうがラミブジンと HBIG の併用治療 — 180 — よりも再発率が低かったとしている 10) .また,genetic barrier の高い核酸アナログであるエンテ カビルやテノホビルについても,肝移植後投与の有用性が報告されている(Am J Transplant 2013; 13: 353-362 a) [検索期間外文献] ) . 2)C 型肝硬変に対する肝移植後抗ウイルス療法 一方,C 型肝硬変については,肝移植後の治療時期として,C 型肝炎再発前からインターフェ ロン(IFN) ,リバビリンで予防的治療を試みるか(予防的治療) ,再発後に治療するか(再発後治 療)の 2 つの選択肢があるが,現時点では後者が一般的である. 予防的治療には,術後回復期に高容量の免疫抑制薬とともにこれらの薬物を投与することが 耐薬性の面で難しく,中断,減量率が高く,ウイルス排除率(SVR)も低いという問題点がある. Bzowej らは,C 型肝炎再発のない肝移植後患者に対する PEG-IFN+リバビリン併用による予防 的治療に関する多施設共同の RCT を実施し,予防的治療群の SVR は 22.2%(12/55) ,intent-totreat 解析の方針により無治療群から治療群へ移行した群での SVR は 21.4%(3/14)であり,120 週時点での HCV 再発は,予防的治療群で 61.8%,無治療群で 65.0%と有意差はなかった(p= 0.725)としている 11) . 再発後治療に関するシステマティックレビューで SVR は 30%前後であり 12, 13) ,薬剤中止率は 27%で,多くの患者(73%)で貧血などの副作用のため薬剤減量が必要と報告されている 12) . PEG-IFN+リバビリン併用療法は IFN 単独療法や IFN+リバビリン併用療法の治療成績より良 好で現時点では標準的な治療といえる. 最近,Carrion らは,C 型肝硬変の移植後に C 型肝炎が再燃して軽度の線維化(F0〜F2)をき たした患者を対象に PEG-IFNα-2b/リバビリン 48 週投与群(27 例)と無治療群(27 例)に分ける RCT を行い,治療群の SVR は 48%に達し,線維化 Stage の 1 段階以上の増悪は無治療群の 70%に対し,治療群では 26%にとどまったとしている.一方で,F3,F4 例は全例治療したが, SVR は 14%に過ぎず,組織学的増悪は 54%にみられたとしている 14) .SVR により肝線維化の改 善が得られるが SVR 率は低率である点が問題である. さらに,SVR は生存期間を改善するという報告がなされている.Berenguer らは治療群(89 例:IFN 単独療法 31 例,PEG-IFN+リバビリン併用療法 58 例)と無治療群(75 例)での検討で, 生存率は治療群で高く(7 年生存率:治療群 74%,無治療群 62%) ,特に SVR 症例で生存率が 高い(5 年生存率 93%)とし,また,IFN 治療別の SVR 率は IFN 単独療法の 16%に対し PEGIFN+リバビリン併用療法で 48%と高かったとしている 15) . しかし,Xirouchankis らは,肝移植後の C 型肝炎再発後の PEG-IFN+リバビリン治療に関す るメタアナリシスで,SVR は PEG-IFN+リバビリン通常量投与群(140 例)が無治療もしくは低 用量投与群(124 例)よりも優れていたが(absolute risk difference 0.31,95%CI 0.18〜0.44,p< 0.001) ,組織学的反応,治療中断,死亡率,急性および慢性拒絶反応の項目に関して有意な差 はなかったとしている 16) .また,Gurusamy らのメタアナリシスでは,治療群と無治療群との 比較において,死亡率,再移植,再移植や治療を要するグラフトの拒絶反応,肝線維化の増悪 の項目に関する有意差はないが,治療による重篤な副作用は治療群で高かったとしている (Cochrane Database Syst Rev 2013; (12): CD006803 b) [検索期間外文献] ) .ただし,これらのメタ アナリシスに用いられた論文は,短期間での検討がほとんどであり,その解釈に注意が必要で ある. 近年,テラプレビル,シメプレビルなどのプロテアーゼ阻害薬も承認され,更なる治療効果 — 181 — 6.肝移植 向上も期待されているが,テラプレビルは肝移植後の免疫抑制薬の血中濃度への影響が報告さ れている 17) .また,NS5A 複製複合体阻害薬ダクラタスビルと NS3/4A プロテアーゼ阻害薬ア スナプレビルなどを用いた経口直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antivirals:DAA)による 2 剤併用療法は,今後の肝移植の成績に大いに影響を与える可能性がある. 文献 1) Samuel D, Muller R, Alexander G, et al. Liver transplantation in European patients with the hepatitis B surface antigen. N Engl J Med 1993; 329: 1842-1847(ケースシリーズ) 2) Gane E. The natural history and outcome of liver transplantation in hepatitis C virus-infected recipients. Liver Transpl 2003; 9: S28-S34 3) Prieto M, Berenguer M, Rayón JM, et al. High incidence of allograft cirrhosis in hepatitis C virus genotype 1b infection following transplantation: relationship with rejection episodes. Hepatology 1999; 29: 250-256 (ケースシリーズ) 4) Berenguer M, Prieto M, Rayón JM, et al. Natural history of clinically compensated hepatitis C virus-related graft cirrhosis after liver transplantation. Hepatology 2000; 32 (4 Pt 1): 852-858(ケースシリーズ) 5) Markowitz JS, Martin P, Conrad AJ, et al. Prophylaxis against hepatitis B recurrence following liver transplantation using combination lamivudine and hepatitis B immune globulin. Hepatology 1998; 28: 585-589 (ケースシリーズ) 6) Papatheodoridis GV, Cholongitas E, Archimandritis AJ, et al. Current management of hepatitis B virus infection before and after in liver transplantation. Liver Int 2009; 29: 1294-1305(メタ) 7) Rao W, Wu X, Xiu D. Lamivudine or lamivudine combined with hepatitis B immunoglobulin in prophylaxis of hepatitis B recurrence after liver transplantation: a meta-analysis. Transpl Int 2009; 22: 387-394(メタ) 8) Katz LH, Paul M, Guy DG, et al. Prevention of recurrent hepatitis B virus infection after liver transplantation: hepatitis B immunoglobulin, antiviral drugs, or both? systematic review and meta-analysis. Transpl Infect Dis 2010; 12: 292-308(メタ) 9) Loomba R, Rowley AK, Wesley R, et al. Hepatitis B immunoglobulin and lamivudine improve hepatitis Brelated outcomes after liver transplantation: meta-analysis. Clin Gastroenterol Hepatol 2008; 6: 696-700(メタ) 10) Cholongitas E, Goulis J, Akriviadis E, et al. Hepatitis B immunoglobulin and/or nucleos(t)ide analogues for prophylaxis against hepatitis b virus recurrence after liver transplantation: a systematic review. Liver Transpl 2011; 17: 1176-1190(メタ) 11) Bzowej N, Nelson DR, Terrault NA, et al. PHOENIX: a randomized controlled trial of peginterferon alfa2a plus ribavirin as a prophylactic treatment after liver transplantation for hepatitis C virus. Liver Transpl 2011; 17: 528-538(ランダム) 12) Berenguer M. Systematic review of the treatment of established recurrent hepatitis C with pegylated interferon in combination with ribavirin. J Hepatol 2008; 49: 274-287(メタ) 13) Guillouche P, Feray C. Systematic review: anti-viral therapy of recurrent hepatitis C after liver transplantation. Aliment Pharmacol Ther 2011; 33: 163-174(メタ) 14) Carrion JA, Navasa M, Garcia-Retortillo M, et al. Efficacy of antiviral therapy on hepatitis C recurrence after liver transplantation: a randomized controlled study. Gastroenterology 2007; 132: 1746-1756(ランダム) 15) Berenguer M, Palau A, Aguilera V, et al. Clinical benefits of antiviral therapy in patients with recurrent hepatitis C following liver transplantation. Am J Transplant 2008; 8: 679-687(ケースシリーズ) 16) Xirouchakis E, Triantos C, Manousou P, et al. Pegylated-interferon and ribavirin in liver transplant candidates and recipients with HCV cirrhosis: systematic review and meta-analysis of prospective controlled studies. J Viral Hepat 2008; 15: 699-709(メタ) 17) Garg V, van Heeswijk R, Lee JE, et al. Effect of Teraprevir on the pharmacokinetics of cyclosporine and tacrolimus. Hepatology 2011; 54: 20-27(コホート) 【検索期間外文献】 a) Cholongitas E, Papatheodoridis GV. High genetic barrier nucleos(t)ide analogue(s) for prophylaxis from hepatitis B virus recurrence after liver transplantation: a systematic review. Am J Transplant 2013; 13: 353362(メタ) b) Gurusamy KS, Tsochatzis E, Toon CD, et al. Antiviral interventions for liver transplant patients with recurrent graft infection due to hepatitis C virus. Cochrane Database Syst Rev 2013; (12): CD006803(メタ) — 182 — 6.肝移植 Clinical Question 6-5 非ウイルス性肝硬変に対する肝移植はウイルス性肝硬変に比 して成績がよいか? CQ 6-5 非ウイルス性肝硬変に対する肝移植はウイルス性肝硬変に比して成績が よいか? ステートメント ● 日本で肝移植を受けた肝硬変患者の 5 年生存率は,HBV 78.7%,原発性胆汁性肝硬変(PBC) 76.5%,自己免疫性肝炎(AIH)75.9%,アルコール性 75.7%,非アルコール性脂肪肝炎 (NASH)73.3%,原発性硬化性胆管炎(PSC)72.2%,原因不明 71.7%,HCV 68.0%であ り,非ウイルス性肝硬変に対する肝移植の成績は,B 型肝硬変よりも悪く,C 型肝硬変よりも 良好である. 解説 1988〜 2009 年 の 93,634 例 の 肝 移 植 患 者 を 検 討 し た European Liver Transplant Registry (ELTR)の報告 1)では,5 年患者生存率は,原発性胆汁性肝硬変(PBC)80%,原発性硬化性胆管 炎(PSC)78%,自己免疫性肝炎(AIH)78%,HBV 74%,アルコール性 73%,原因不明 72%, HCV 65%と,PBC,PSC,アルコール性などの非ウイルス性肝硬変やウイルス性でも B 型肝硬 変の成績は良好であるのに対し,C 型肝硬変の成績は不良であった(表 1) . また,米国の United Network for organ Sharing(UNOS)のデータを用いて 1994〜2009 年の 54,687 例の肝移植成績を検討した報告(Transplantation 2013; 95: 755-760 a)[検索期間外文献] ) では,5 年患者生存率は,PSC 87.4%と比較した場合,PBC 84.4%,非アルコール性脂肪肝炎 (NASH)84.1%,HBV 82.4%は類似し,アルコール性 79.4%,原因不明 78.6%は成績が悪く, アルコール+HCV 76.2%,HCV 75.9%が最も悪いという結果であった(表 1) . 一方,1989〜2010 年の 5,944 例の生体肝移植患者を検討した日本の報告 2)では,5 年患者生 存率は HBV 78.7%が最も良好な成績で,PBC 76.5%,AIH 75.9%,アルコール性 75.7%, NASH 73.3%,PSC 72.2%,原因不明 71.7%と続き,HCV 68.0%が最も悪い成績であった(表 1) . 原因別にみてみると,B 型肝硬変に対する 1988〜2010 年の肝移植後患者の欧米の統計解析で, 1 年,3 年生存率は,1995 年以前は 73%,65%,1996〜2000 年は 86%,81%,2001〜2005 年は 88%,83%,2006〜2010 年は 86%,81%と,近年の長期生存成績は改善している(J Hepatol 2013; 58: 287-296 b) [検索期間外文献] ) .米国の 1985〜2010 年の B 型肝硬変肝移植症例 738 例で の検討(Clin Transplant 2013; 27: 829-837 c) [検索期間外文献] )で,1985〜1994 年,1995〜2004 年,2005〜2010 年の 3 群に分けた場合の 5 年生存率は,45%,80.6%,82.9%と最近のほうがよ い成績であった.HB 免疫グロブリン(HBIG)と抗ウイルス薬の併用療法は,HBIG 単独治療よ りも死亡率を減少させることがメタアナリシスで示されており 3) ,治療法の進歩を反映したもの — 183 — 6.肝移植 表1 報告者 Adam 1) 患者数 a) 累積生存率(%) 5年 10 年 15 年 HBV 4,187 83 − 74 68 61 49 HCV 10,753 80 − 65 53 43 33 アルコール性 15,019 86 − 73 59 48 36 1892 85 − 76 67 57 55 AIH Singal 肝移植における累積患者生存率 1年 3年 20 年 原因不明 3,443 81 − 72 63 54 42 PBC 4,515 86 − 80 71 59 48 PSC 3,582 87 − 78 70 59 44 HBV 1,816 9.5 84.5 82.4 78.5 − − HCV 15,147 87.2 79.9 75.9 70.8 − − 8,940 88.6 83 79.4 73.2 − − アルコール性 アルコール性+ HCV 6,066 88.4 80.1 76.2 69.9 − − NASH 1,368 88.8 85.4 84.1 83.9 − − 原因不明 5,856 86.9 82.4 78.6 72.1 − − PBC 3,052 90.2 86.7 84.4 79 − − PSC 3,854 93.4 89.7 87.4 83.2 − − 236 84.3 79.7 78.7 71.3 − − 462 77.9 71.9 68.0 59.0 − − 日本肝移植 HBV 研究会 2) HCV 生体肝移植 アルコール性 の成績 AIH NASH 134 81.3 78.5 75.7 65.9 − − 67 77.6 75.9 75.9 75.9 − − 30 73.3 73.3 73.3 36.7 − − 原因不明 125 79.2 74.9 71.7 65.6 59.1 − PBC 535 80.7 78.2 76.5 72.0 55.6 − PSC 161 80.7 76.6 72.2 60.3 − − といえる. 一方,C 型肝硬変に対する肝移植後の長期予後は,移植後再発率が極めて高く,5 年以内に 1/3 が肝硬変に進行することから,他の疾患と比較して悪い.肝移植後再発に対するペグイン ターフェロン(PEG-IFN) ・リバビリン併用療法による SVR の達成率は 30〜40%と低く 4) ,長期 生存率の改善にはウイルス排除率を上げることが必要である.また,経口直接作用型抗ウイル ス薬(direct acting antivirals:DAA)による 2 剤併用療法は,今後の肝移植の成績に大いに影響 を与える可能性がある. PBC に対する肝移植後生存率は他疾患に比べ比較的良好であり,5 年生存率は生体肝移植が 主体の日本での成績が 76.5%に対し 2) ,脳死肝移植が中心の欧米の成績 1, a)は 80〜84.4%と若干 良好である.PBC では移植後にグラフト肝への再発がみられるが,予後に与える影響は少ない と考えられる. 一方,PSC は肝移植後の再発率が高く,再発症例は進行性であり,長期成績は悪い.UNOS のデータを用いた PSC 群 3,309 例と PBC 群 3,254 例を比較した検討で,再移植率は PBC 群が 8.5%に対し,PSC 群が 12.4%と有意に高く,PBC よりも長期生存率が低いことが報告されてい る 5) .日本での PSC 患者の 1 年,5 年,10 年生存率は,80.7%,72.2%,60.3%と,5 年目以降の長 期生存率が低下する特徴を有し 2) ,欧米と比較し低い.日本では生体肝移植が主体であり,欧米 よりも再発率が高いことと関連していると考えられている. — 184 — アルコール性肝硬変の移植後成績は比較的良好であるが,HCV 感染が合併した場合は成績が 悪化する 6, a) .また,肝移植後の飲酒再開率は 10〜50%であり,飲酒を再開した患者は心臓血管 系疾患や悪性腫瘍の新規発生により長期生存率は低下する(World J Gastroenterol 2013; 19: 91989208 d) [検索期間外文献] ) . 近年,欧米で急速に増加しつつある NASH に対する移植後成績は比較的良好である 7, 8, a) . NASH の移植後再発頻度は高いが,再発が移植後の生存に与える影響は少ないと考えられる (World J Gastroenterol 2013; 19: 9146-9155 e) [検索期間外文献] ) . 文献 1) Adam R, Karam V, Delvart V, et al. Evolution of indications and results of liver transplantation in Europe: a report from the European Liver Transplant Registry (ELTR). J Hepatol 2012; 57: 675-688(ケースシリー ズ) 2) 日本肝移植研究会.肝移植症例登録.移植 2011; 46: 524-536(ケースシリーズ) 3) Katz LH, Paul M, Guy DG, et al. Prevention of recurrent hepatitis B virus infection after liver transplantation: hepatitis B immunoglobulin, antiviral drugs, or both? systematic review and meta-analysis. Transpl Infect Dis 2010; 12: 292-308(メタ) 4) Watt K, Veldt B, Charlton M. A practical guide to the management of HCV infection following liver transplantation. Am J Transplant 2009; 8: 1707-1713 5) Maheshwari A, Yoo HY, Thuluvath PJ. Long-term outcome of liver transplantation in patients with PSC: a comparative analysis with PBC. Am J Gastroenterol 2004; 99: 538-542(ケースシリーズ) 6) Burra P, Senzolo M, Adam R, et al. Liver transplantation for alcoholic liver disease in Europe: a study from the ELTR (European Liver Transplant Registry). Am J Transplant 2010; 10: 138-148(ケースシリーズ) 7) Charlton MR, Burns JM, Pedersen RA, et al. Frequency and outcomes of liver transplantation for nonalcoholic steatohepatitis in the United States. Gastroenterology 2011; 141: 1249-1253(ケースシリーズ) 8) Afzali A, Berry K, Ioannou GN. Excellent posttransplant survival for patients with nonalcoholic steatohepatitis in the United States. Liver Transpl 2012; 18: 29-37(ケースシリーズ) 【検索期間外文献】 a) Singal AK, Guturu P, Hmoud B, et al. Evolving frequency and outcomes of liver transplantation based on etiology of liver disease. Transplantation 2013; 95: 755-760(ケースシリーズ) b) Burra P, Germani G, Adam R, et al. Liver transplantation for HBV-related cirrhosis in Europe: an ELTR study on evolution and outcomes. J Hepatol 2013; 58: 287-296(ケースシリーズ) c) Campsen J, Zimmerman M, Trotter J, et al. Multicenter review of liver transplant for hepatitis B-related liver disease: disparities in gender and ethnicity. Clin Transplant 2013; 27: 829-837(ケースシリーズ) d) Iruzubieta P, Crespo J, Fábrega E. Long-term survival after liver transplantation for alcoholic liver disease. World J Gastroenterol 2013; 19: 9198-9208 e) Said A. Non-alcoholic fatty liver disease and liver transplantation: outcomes and advances. World J Gastroenterol 2013; 19: 9146-9155 — 185 — 6.肝移植 Clinical Question 6-6 自己免疫性肝炎(AIH)による肝硬変に対する肝移植後の再発 はどれほどか? CQ 6-6 自己免疫性肝炎(AIH)による肝硬変に対する肝移植後の再発はどれほ どか? ステートメント ● 移植後再発を確定診断する指標がないため再発の診断は難しいが,肝移植後の再発率は 12〜 35%である. 解説 肝移植後の自己免疫性肝炎(AIH)の再発について検討した論文は 15 編以上あり,大部分は再 発が多いとしており,再発率は 12〜42%としているが 1〜14) ,再発率の高い報告は症例数が少な く 1, 2) ,移植後 10 年の観察で 35%が最高である 15) .日本の報告では劇症型 AIH に対する移植の 報告で 31%の再発を認めている 16) . 多くの論文をまとめてコホートの重複を除いた Gautam らのシステマティックレビューにお いて(AIH は 13 論文)再発率は 23%(94 例/414 例)とされている 11) .Vierling はさらに publication bias を補正して再発率は 22%と計算している 17) . 再発後の予後は悪くない(5 年生存率 82〜94%,10 年生存率 75%)ため移植の妥当性が考えら れている 8, 10, 12, 15, 18〜21) .日本肝移植研究会による生体肝移植の成績では,5 年生存率 75.9%と報告 されている 22) .小児の報告では,再発率が高い傾向がある 23) .46 例の観察で再発リスクにかか わる独立因子は,組織の炎症が強いこと(HR 6.9;1.76〜26.96,p=0.006)および IgG 高値(HR 7.5;1.45〜38.45,p=0.02)であった 20) . AIH 再発の確定診断は難しい.移植後にいったん低下していた血清 ALT,免疫グロブリン, 自己抗体の抗体価が上昇し,ウイルス肝炎や拒絶反応などが否定され,組織学的に AIH 再発と して矛盾がなければ一応 AIH の再発と診断するが 24) ,血液検査の異常は移植後も長く続くこと があり,組織像は急性,慢性拒絶に類似しているとともに,免疫抑制薬投与の影響を受けて判 断しにくいという問題がある 13) .門脈域の形質細胞に富む単核球浸潤と限界板の炎症性破壊が あれば AIH 再発を疑うが,これも de novo AIH,晩期細胞性拒絶反応(late cellular rejection)で もみられる所見である.これらの厳密な除外診断は困難であるが,ともに免疫抑制薬の増量で 対処できる 13) . — 186 — 文献 1) Ayata G, Gordon FD, Lewis WD, et al. Liver transplantation for autoimmune hepatitis: a long-term pathologic study. Hepatology 2000; 32: 185-192(ケースシリーズ) 2) Duclos-Vallee JC, Sebagh M, Rifai K, et al. A 10 year follow up study of patients transplanted for autoimmune hepatitis: histological recurrence precedes clinical and biochemical recurrence. Gut 2003; 52: 893-897 (ケースシリーズ) 3) Gonzalez-Koch A, Czaja AJ, Carpenter HA, et al. Recurrent autoimmune hepatitis after orthotopic liver transplantation. Liver Transpl 2001; 7: 302-310(ケースシリーズ) 4) Milkiewicz P, Hubscher SG, Skiba G, et al. Recurrence of autoimmune hepatitis after liver transplantation. Transplantation 1999; 68: 253-256(ケースシリーズ) 5) Molmenti EP, Netto GJ, Murray NG, et al. Incidence and recurrence of autoimmune/alloimmune hepatitis in liver transplant recipients. Liver Transpl 2002; 8: 519-526(ケースシリーズ) 6) Narumi S, Hakamada K, Sasaki M, et al. Liver transplantation for autoimmune hepatitis: rejection and recurrence. Transplant Proc 1999; 31: 1955-1956(ケースシリーズ) 7) Prados E, Cuervas-Mons V, de la Mata M, et al. Outcome of autoimmune hepatitis after liver transplantation. Transplantation 1998; 66: 1645-1650(ケースシリーズ) 8) Reich DJ, Fiel I, Guarrera JV, et al. Liver transplantation for autoimmune hepatitis. Hepatology 2000; 32: 693-700(横断) 9) Vogel A, Heinrich E, Bahr MJ, et al. Long-term outcome of liver transplantation for autoimmune hepatitis. Clin Transplant 2004; 18: 62-69(ケースシリーズ) 10) Gotz G, Neuhaus R, Bechstein WO, et al. Recurrence of autoimmune hepatitis after liver transplantation. Transplant Proc 1999; 31: 430-431(ケースシリーズ) 11) Gautam M, Cheruvattath R, Balan V. Recurrence of autoimmune liver disease after liver transplantation: a systematic review. Liver Transpl 2006; 12: 1813-1824(ケースシリーズ) 12) Ratziu V, Samuel D, Sebagh M, et al. Long-term follow-up after liver transplantation for autoimmune hepatitis: evidence of recurrence of primary disease. J Hepatol 1999; 30: 131-141(ケースシリーズ) 13) Schreuder TC, Hubscher SG, Neuberger J. Autoimmune liver diseases and recurrence after orthotopic liver transplantation: what have we learned so far? Transpl Int 2009; 22: 144-152 14) Padilla M, Mayorga R, Carrasco F, et al. Liver transplantation for autoimmune hepatitis in Peru: outcomes and recurrence. Ann Hepatol 2012; 11: 222-227(ケースシリーズ) 15) Campsen J, Zimmerman MA, Trotter JF, et al. Liver transplantation for autoimmune hepatitis and the success of aggressive corticosteroid withdrawal. Liver Transpl 2008; 14: 1281-1286(ケースシリーズ) 16) 宮川 文,江川裕人,上本伸二.肝移植後の自己免疫性肝炎の再発と de novo 自己免疫性肝炎.肝胆膵 2009; 59: 101-107(ケースシリーズ) 17) Vierling JM. Diagnosis and treatment of autoimmune hepatitis. Curr Gastroenterol Rep 2012; 14: 25-36 18) Sanchez-Urdazpal L, Czaja AJ, van Hoek B, et al. Prognostic features and role of liver transplantation in severe corticosteroid-treated autoimmune chronic active hepatitis. Hepatology 1992; 15: 215-221(横断) 19) Chai PF, Lee WS, Brown RM, et al. Childhood autoimmune liver disease: indications and outcome of liver transplantation. J Pediatr Gastroenterol Nutr 2010; 50: 295-302(ケースシリーズ) 20) Montano-Loza AJ, Mason AL, Ma M, et al. Risk factors for recurrence of autoimmune hepatitis after liver transplantation. Liver Transpl 2009; 15: 1254-1261(ケースシリーズ) 21) Martin SR, Alvarez F, Anand R, et al. Outcomes in children who underwent transplantation for autoimmune hepatitis. Liver Transpl 2011; 17: 393-401(ケースシリーズ) 22) 日本肝移植研究会.肝移植症例登録.移植 2011; 46: 524-536(ケースシリーズ) 23) Birnbaum AH, Benkov KJ, Pittman NS, et al. Recurrence of autoimmune hepatitis in children after liver transplantation. J Pediatr Gastroenterol Nutr 1997; 25: 20-25(ケースシリーズ) 24) Manns MP, Bahr MJ. Recurrent autoimmune hepatitis after liver transplantation-when non-self becomes self. Hepatology 2000; 32: 868-870(横断) — 187 — 6.肝移植 Clinical Question 6-7 原発性胆汁性肝硬変(PBC)による肝硬変に対する肝移植後の 再発はどれほどか? CQ 6-7 原発性胆汁性肝硬変(PBC)による肝硬変に対する肝移植後の再発はど れほどか? ステートメント ● 肝移植後の再発率は,脳死肝移植では 9〜39%,生体肝移植では 1〜75%である. 解説 原発性胆汁性肝硬変(PBC)の再発診断に関して,AMA 抗体価は,移植後いったん低下して も,すぐに前値またはそれ以上に上昇し,血清 IgM 値も再発とは相関しないため,血液検査で は診断できない 1) .そのため,組織学的診断が行われるが,肉芽腫性胆管破壊,形質細胞に富む 門脈域の細胞浸潤,胆管減少がみられれば疑いが持たれるが,慢性拒絶と組織学的所見が類似 するので,再発の診断は難しい. PBC の再発率に関しては,脳死肝移植が主体の欧米の報告では 9〜39%2〜12) ,生体肝移植に依 存する日本からの報告では 1〜75%であった 13〜16) .報告によりばらつきが大きいが,その理由は 再発の診断基準が一定していないためである.移植後再発に関する主な報告を表 1 に示す.PBC の再発率はおおむね 10〜30%で,再発までの期間は 3〜6 年程度と一定の傾向は認めていない. 文献 1) Schreuder TC, Hubscher SG, Neuberger J. Autoimmune liver diseases and recurrence after orthotopic liver transplantation: what have we learned so far? Transpl Int 2009; 22: 144-152 2) Sebagh M, Farges O, Dubel L, et al. Histological features predictive of recurrence of primary biliary cirrhosis after liver transplantation. Transplantation 1998; 65: 1328-1333(ケースシリーズ) 3) Polson RJ, Portmann B, Neuberger J, et al. Evidence for disease recurrence after liver transplantation for primary biliary cirrhosis. Clinical and histologic follow-up studies. Gastroenterology 1989; 97: 715(ケース シリーズ) 4) Khettry U, Anand N, Faul PN, et al. Liver transplantation for primary biliary cirrhosis: a long-term pathologic study. Liver Transpl 2003; 9: 87-96(ケースシリーズ) 5) Levitsky J, Hart J, Cohen SM, et al. The effect of immunosuppressive regimens on the recurrence of primary biliary cirrhosis after liver transplantation. Liver Transpl 2003; 9: 733-736(ケースシリーズ) 6) Sanchez EQ, Levy MF, Goldstein RM, et al. The changing clinical presentation of recurrent primary biliary cirrhosis after liver transplantation. Transplantation 2003; 76: 1583-1588(ケースシリーズ) 7) Neuberger J, Gunson B, Hubscher S, et al. Immunosuppression affects the rate of recurrent primary biliary cirrhosis after liver transplantation. Liver Transpl 2004; 10: 488-491(ケースシリーズ) — 188 — 表1 著者名 PBC に対する肝移植の再発率 患者数 プロトコール 肝生検 先行治療 69 あり 記載なし − 6(8.7%) 8 23 なし 記載なし 3.1 9(39%) 2.5 1989 43 なし 記載なし − 8(18.6%) 3.5 2003 46 なし 記載なし − 7(15.2%) 156 なし 記載なし 6 17(10.9%) 4.1 2003 485 あり 記載なし 6.6 114(23.5%) 5.2 2004 48 なし 記載なし 4.2 17(35.4%) 記載なし 2005 100 あり UDCA 9.8 14(14%) 5 2006 154 あり 記載なし 10.8 * 52(33.7%) 3.5 2007 108 なし 記載なし 6.9 28(25.9%) 5.8 2010 103 あり 記載なし 9 36(34.9%) 3.6 2010 4 あり 記載なし 1.8 * 1(25%) 1 2003 8 あり UDCA 8.5 6(75%) 2 2007 観察期間 再発患者数 (中央値:年) (再発率) 再発までの期間 発表年 (中央値:年) 脳死肝移植 Sebagh Polson 2) 3) Khettry 4) Levitsky 5) Sanchez 6) Neuberger Guy 7) 8) Jacob 9) Charatcharoenwitthaya Montano-Loza Manousou 12) 11) 10) 6 5 1998 2003 生体肝移植 Takeishi 13) Hashimoto 14) Morioka 15) 50 なし 記載なし 2.4 9(18%) 3 2007 Kaneko 16) 81 なし UDCA/MP 6.2 1(1%) 5.1 2012 * :平均値,MP:メチルプレドニゾロン,UDCA:ウルソデオキシコール酸 8) Guy JE, Qian P, Lowell JA, et al. Recurrent primary biliary cirrhosis: peritransplant factors and ursodeoxycholic acid treatment post-liver transplant. Liver Transpl 2005; 11: 1252-1257(ケースシリーズ) 9) Jacob DA, Neumann UP, Bahra M, et al. Long-term follow-up after recurrence of primary biliary cirrhosis after liver transplantation in 100 patients. Clin Transplant 2006; 20: 211-220(ケースシリーズ) 10) Charatcharoenwitthaya P, Pimentel S, Talwalkar JA, et al. Long-term survival and impact of ursodeoxycholic acid treatment for recurrent primary biliary cirrhosis after liver transplantation. Liver Transpl 2007; 3: 1236(ケースシリーズ) 11) Montano-Loza AJ, Wasilenko S, Bintner J, et al. Cyclosporine A protects against primary biliary cirrhosis recurrence after liver transplantation. Am J Transplant 2010; 10: 852(ケースシリーズ) 12) Manousou P, Arvaniti V, Tsochatzis E, et al. Primary biliary cirrhosis after liver transplantation: influence of immunosuppression and human leukocyte antigen locus disparity. Liver Transpl 2010; 16: 64(ケース シリーズ) 13) Takeishi T, Sato Y, Ichida T, et al. Short-term outcomes of living-related liver transplantation for primary biliary cirrhosis and its recurrence: report of five cases. Transplant Proc 2003; 35: 372(ケースシリーズ) 14) Hashimoto E, Taniai M, Yatsuji S, et al. Long-term clinical outcome of living-donor liver transplantation for primary biliary cirrhosis. Hepatol Res 2007; 37: S455(ケースシリーズ) 15) Morioka D, Egawa H, Kasahara M, et al. Impact of human leukocyte antigen mismatching on outcomes of living donor liver transplantation for primary biliary cirrhosis. Liver Transpl 2007; 13: 80(ケースシリー ズ) 16) Kaneko J, Sugawara Y, Tamura S, et al. Long-term outcome of living donor liver transplantation for primary biliary cirrhosis. Transpl Int 2012; 25: 7-12(コホート) — 189 — 6.肝移植 Clinical Question 6-8 原発性硬化性胆管炎(PSC)による肝硬変に対する肝移植後の 再発はどれほどか? CQ 6-8 原発性硬化性胆管炎(PSC)による肝硬変に対する肝移植後の再発はど れほどか? ステートメント ● 肝移植後の再発率は,脳死肝移植では 8.6〜37%,生体肝移植では 23〜59%である. 解説 原発性硬化性胆管炎(PSC)の再発診断は,組織学的または胆道造影検査を必要とするが,組 織学的診断においては,肝動脈血栓症,慢性拒絶反応,血液型不適合に起因する病変など多く の PSC に類似する胆管病変があるため,その判断に難渋することが多い.Graziadei らは,胆 道造影での肝内や肝外胆管の狭窄,数珠状変化や不整などの所見,または組織所見での線維性 胆管炎や線維性閉塞性病変,胆管消失,線維化,胆汁性肝硬変などの所見を用いた診断基準を 提唱しており 1) ,日本の全国調査 2)でもこの基準を用いている. PSC の肝移植後の再発率に関しては多くの報告があり 3) ,脳死肝移植では 8.6〜37%4〜11) ,生体 肝移植では 23〜59%2, 12〜16)と施設によりばらつきがある.日本の全国調査では,PSC に対する生 体肝移植後の再発率は 23%であり 2) ,海外の多くの施設での再発率よりも高い(表 1) .PSC の肝 移植後の長期生存率は,原発性胆汁性肝硬変(PBC)など他の胆汁うっ滞性疾患の成績と比較し て悪いが,PSC の再発症例は進行性で,グラフトロスの発生率が高いことが関与していると考 えられている 17) . 文献 1) Graziadei IW, Wiesner RH, Batts KP, et al. Recurrence of primary sclerosing cholangitis following liver transplantation. Hepatology 1999; 29: 1050-1056(ケースコントロール) 2) Egawa H, Ueda Y, Ichida T, et al. Risk factors for recurrence of primary sclerosing cholangitis after living donor liver transplantation in Japanese registry. Am J Transplant 2011; 11: 518-527(ケースシリーズ) 3) Fosby B, Karlsen TH, Melum E. Recurrence and rejection in liver transplantation for primary sclerosing cholangitis. World J Gastroenterol 2012; 18: 1-15 4) Goss JA, Shackleton CR, Farmer DG, et al. Orthotopic liver transplantation for primary sclerosing cholangitis: a 12-year single center experience. Ann Surg 1997; 225: 472-481(ケースシリーズ) 5) Jeyarajah DR, Netto GJ, Lee SP, et al. Recurrent primary sclerosing cholangitis after orthotopic liver transplantation: is chronic rejection part of the disease process? Transplantation 1998; 66: 1300-1306(ケースシ リーズ) — 190 — 表1 報告者 PSC に対する肝移植後の再発率 症例数 PSC 再発症例数 (再発率%) 再発までの期間中央値 (月) (範囲) 観察期間中央値 (月)(範囲) 報告年 脳死肝移植 Goss 127 11(8.6%) 不明 36.1 1997 5) 118 18(5%) 21.0 ± 7.5 ** 最低 12 ヵ月 1998 1, 6) 120 24(20%) 8.5(3.0〜 41.9) 152 56(37%) 36(1.4 〜 120) 69 7(10%) 68(24 〜 134) 53 7(13.5%) 60(4 〜 120) 4) Jeyarajah Graziadei Vera 7) Alexander 8) Cholongitas 9) 49.3(3.9 〜136.2) 1999 52.8(1 〜146) 2002 50(1 〜173) 2008 110(12 〜 185) 2008 Campsen 10) 130 22(16.9%) 1/5/10 年(2/12/20%) Alabraba 11) 230 54(23.5%) 44 11(25%) 記載なし 記載なし 2007 8 4(50%) 40(13〜65) 42 * 2007 22 13(59%) 31(22 〜 71) 25 *(7 〜 80) 2007 14 4(28%) 25(7 〜 62) 41.5 ± 24.8 ** 2009 55.2(6 〜154.8) 66 2008 82.8(0 〜238.8) 2009 生体肝移植 Yamagiwa Tamura Haga 12) 13) 14) Kashyap 15) Egawa 16) 20 11(55%) 40(26 〜 71) 63(1 〜133) 2009 Egawa 17) 114 26(23%) 33(8 〜 79) 42(0.3 〜153) 2011 * :再発後の観察期間, ** :平均値 6) Graziadei IW, Wiesner RH, Marotta PJ et al. Long-term results of patients undergoing liver transplantation for primary sclerosing cholangitis. Hepatology 1999; 30: 1121-1127(ケースシリーズ) 7) Vera A, Moledina S, Gunson B, et al. Risk factors for recurrence of primary sclerosing cholangitis of liver allograft. Lancet 2002; 360: 1943-1944(ケースシリーズ) 8) Alexander J, Lord JD, Yeh MM, et al. Risk factors for recurrence of primary sclerosing cholangitis after liver transplantation. Liver Transpl 2008; 14: 245-251(ケースシリーズ) 9) Cholongitas E, Shusang V, Papatheodoridis GV, et al. Risk factors for recurrence of primary sclerosing cholangitis after liver transplantation. Liver Transpl 2008; 14: 138-143(ケースシリーズ) 10) Campsen J, Zimmerman MA, Trotter JF, et al. Clinically recurrent primary sclerosing cholangitis following liver transplantation: a time course. Liver Transpl 2008; 14: 181-185(ケースシリーズ) 11) Alabraba E, Nightingale P, Gunson B, et al. A re-evaluation of the risk factors for the recurrence of primary sclerosing cholangitis in liver allografts. Liver Transpl 2009; 15: 330-340(コホート) 12) Yamagiwa S, lchida T. Recurrence of primary biliary cirrhosis and primary sclerosing cholangitis after liver transplantation in Japan. Hepatol Res 2007; 37 (Suppl 3): S449-S454 13) Tamura S, Sugawara Y, Kaneko J, et al. Recurrence of primary sclerosing cholangitis after living donor liver transplantation. Liver Int 2007; 27: 86-94(ケースシリーズ) 14) Haga H, Miyagawa-Hayashino A, Taira K, et al. Histological recurrence of autoimmune liver diseases after living-donor liver transplantation. Hepatol Res 2007; 37 (Suppl 3): S463-S469(ケースシリーズ) 15) Kashyap R, Mantry P, Sharma R, et al. Comparative analysis of outcomes in living and deceased donor liver transplants for primary sclerosing cholangitis. J Gastrointest Surg 2009; 13: 1480-1486(ケースシリー ズ) 16) Egawa H, Taira K, Teramukai S, et al. Risk factors for recurrence of primary sclerosing cholangitis after living donor liver transplantation: a single center experience. Dig Dis Sci 2009; 54: 1347-1354(ケースシリー ズ) 17) Rowe I, Webb K, Gunson BK, et al. The impact of disease recurrence on graft survival following liver transplantation: a single centre experience. Transpl Int 2008; 21: 459-465(ケースシリーズ) — 191 — 索 引 欧文索引 P A AIH(autoimmune hepatitis) 56, 186 B B-RTO(balloon-occluded transfemoral obliteration) 80, 145 BCAA(branched chain amino acid) 22, 143, 147 B 型肝硬変 40, 180 C E F FibroScan 12 R RC sign 66 CART( cell free and concentrated ascites reinfusion therapy) 111 cryptogenic cirrhosis 26 CTP(Child-Turcotte-Pugh)分類 160, 164, 178 cyanoacrylate 系薬剤 85 C 型肝硬変 43, 45, 47, 49, 51, 156, 181 EIS(endoscopic injection sclerotheraphy) 78 EVL(endoscopic variceal ligation) 78 PBC(primary biliary cirrhosis) 58, 83, 188 PEG-IFN 51 PPI(proton pump inhibitor) 77 PSC(primary sclerosing cholangitis) 61, 190 PSE(partial splenic embolization) 154, 156 P-V シャント 109, 118, 131 S SBP(sponteneous bacterial peritonitis) 26, 89, 119, 121, 123 T TIPS(transjugular intrahepatic portosystemic shunt) 109, 113, 116, 118, 132 transient elastography(TE) 12 U UDCA(ursodeoxycholic acid) 58, 61 V Visual Touch Tissue Quantification(VTTQ) 12 H 和文索引 HBV DNA 量 30 HB 免疫グロブリン(HBIG) 180 I IFN 40, 43, 45, 47, 49, 51, 156 L LES(late evening snack) 20 M magnetic resonance elastography(MRE) 12 MDCT angiography 64 MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score 160, 167, 176 あ 亜鉛 149 アデホビル 32, 4, 37 アルコール性肝硬変 54 アルコール摂取 2 α 1 -アンチトリプシン欠乏症 2 アルブミン 87, 95, 105, 107, 126 い 意識障害 143 胃静脈瘤 80, 83, 85 イソソルビド 71 — 193 — 索 引 インターフェロン 40, 43, 45, 47, 49, 51, 156 う ウイルス関連マーカー 30 ウイルス性肝硬変 52, 183 ウルソデオキシコール酸 52, 58, 61 え エラストグラフィ 12 エンテカビル 32, 34, 37 お オクトレオチド 73, 129 か 核酸アナログ 32, 34 画像診断 12 ガドリニウム造影剤 64 カルチニン 150 肝移植 134, 174, 176, 178, 180 換気血流不均衡 4 肝硬変 2 —,原因 2 —,病態 4 肝細胞癌 49 肝腎症候群 124, 126, 129, 131, 132, 134 肝生検 15 肝性脳症 4 肝性脳症 136, 138, 139, 141, 143, 145, 147, 149, 150 肝線維化 34, 40, 45 肝庇護薬 52 カンレノ酸カリウム 98 き 強力ネオミノファーゲンシー 52 禁酒 54 合成コロイド 107 合成二糖類 136, 139 コルヒチン 52 し 自己免疫性肝炎 56, 186 就寝前エネルギー投与 20 出血 67, 71, 73 食道静脈瘤 78, 83 食道静脈瘤出血 71, 73 腎血管抵抗指数 124 腎血流分布異常 4 腎性全身性線維症 64 す スコアリングシステム 8 スピロノラクトン 73, 97, 98 せ セロコンバージョン 32 そ 総頸静脈肝内門脈大循環シャント術 118, 132 側副血行路 4 ソマトスタチン 73 109, 113, 116, た 代償性肝硬変 77 ち 超音波ドプラ 124 腸管非吸収性抗菌薬 141 て 低栄養状態 18 け 低蛋白食 138 テノホビル 32, 34, 37 テルリプレシン 73, 126, 129 こ 糖代謝異常 25 特発性細菌性腹膜炎 26, 89, 119, 121, 123 トルバプタン 99 減塩食 92 原発性硬化性胆管炎 61, 190 原発性胆汁性肝硬変 58, 83, 188 高インスリン血症 25 抗ウイルス療法 180 交感神経作動薬 129 抗凝固薬 152 と な 内視鏡的静脈瘤結紮術 78 — 194 — 索 内視鏡的静脈瘤硬化療法 78 生魚 28 生肉 28 難治性腹水 105, 109, 111, 113, 116, 118 は バソプレシン 73, 101 白血球エステラーゼ試験紙 89 バルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術 80, 145 ひ ペグインターフェロン 51 便通 136 ほ 発赤所見 66 み 水排泄障害 101 ミドドリン 129 め 非代償性肝硬変 28, 174 脾摘 154, 156 脾摘後重症感染症 156 メタボリックシンドローム 2 ビブリオ菌 28 肥満 171 門脈圧亢進(症) 4, 64 門脈圧亢進症性胃症 75 門脈血栓症 152 ふ 腹腔・静脈シャント 109 副腎皮質ステロイド 56 腹水 87, 92, 95, 97, 101 腹水穿刺排液 105, 107 腹水濾過濃縮再静注法 111 ブデソニド 61 部分的脾塞栓術 154, 156 フロセミド 97, 98 プロトンポンプ阻害薬 77 プロプラノロール 75 分岐鎖アミノ酸 22, 143, 147 へ も よ 予後予測 160, 164, 167, 176, 178 ら ラクツロース 139 ラミブジン 32, 34, 37 ラミブジン耐性 B 型肝硬変 37 り リバビリン 43, 47, 49, 51 る ループ利尿薬 97, 98 β ブロッカー 67, 71, 75 — 195 — 引 肝硬変診療ガイドライン 2015(改訂第 2 版) 2010 年 4 月 25 日 第 1 版第 1 刷発行 編集・発行 一般財団法人日本消化器病学会 2015 年 10 月 20 日 改訂第 2 版発行 理事長 下瀬川 徹 〒104-0061 東京都中央区銀座 8-9-13 K-18 ビル 8 階 電話 03─3573─4297 株式会社 南 江 堂 〒113-8410 東京都文京区本郷三丁目 42 番 6 号 03─3811─7239 電話 (出版)03─3811─7236 (営業) 制作 印刷・製本 日経印刷株式会社 Evidence-based Clinical Practice Guidelines for Liver Cirrhosis 2015(2nd Edition) The Japanese Society of Gastroenterology, 2015 落丁・乱丁の場合はお取り替えいたします. 転載・複写の際にはあらかじめ許諾をお求めください.
© Copyright 2024 Paperzz