内外報告 ICAO/CAEPの動向−WG2 * 石 井 寛 一 ** 1.はじめに を中心に、タスク毎の電話会議、メールにより WG2はCAEP/8までは空港周辺環境対策と 進められている。 運航面からの環境保全方策を担当していたが、 表1 WG2会合開催状況 CAEP/9サイクルでは次に示すように、運航に 関する3つのタスクを担当している。 タスク1:運航の中長期目標のIE検討 タスク2:運航効率改善による消費燃料・排出 開催 場所 2010年5月 米ワシントンDC 2010年9月 独ランゲン 2011年2月 加モントリオール ガス削減に関するガイダンス文書の 以下に各タスクの概要を述べる。 更新 タスク3:CNS/ATMの環境アセスメントの 原則に関するガイダンス文書の作成 タスク1:運航の中長期目標のIE検討 本稿では、CAEP/9サイクルにおけるWG2の 本タスク(Independent Expert Operational タスクの内容、および進捗状況を概説する。 Goals Review)は、騒音軽減および消費燃 料削減に関する運航の中長期(2020、2030 2.WG2の活動状況 年)の目標をIE(Independent Expert)に WG2 の活動はラポータである Ted Elliff 氏 より検討するものであり、Alan Melorose氏 (EUROCONTROL)と Julie Marks 氏(FAA) (EUROCONTROL)をリーダーとして進めら の2人を中心に、さらにタスク毎のリーダーの れている。その目的は、潜在的な運航効率改善 下で進められている。また運航に関するタス を実施した場合に、達成可能となる環境保全効 クを実施していることから、ICAO ANB(Air 果に関する情報を意志決定者に提供すること Navigation Bureau、 航空技術局) 、 CANSO (Civil である。なお、経緯を補足すると、本タスク Aviation Navigation Services Organization、 はCAEP/8サイクルでも実施したものの、検討 管制業務実施機関協会)と連携して進めている。 時間不足、検討範囲が不明確等の指摘を受け、 2010年2月のCAEP/8以降のWG2の活動は、 CAEP/9サイクルで再度実施することになった 2010年11月のSteering Group会合(以下、SG ものである。 会合)をはさんで、3回のWG2会合(表1) IE検討におけるWG2の役割は、検討の範囲、 計画をIEに対して示すとともに、検討に必要 *Trends of ICAO/CAEP - WG2 **宇宙航空研究開発機構 航空プログラムグループ 事業推進部 研究員 な情報の提供を行うことである。2011年のSG 会合では全体スケジュール、IEの募集要項を 提案し、承認された。運航IEの特徴としてIE − 28 − No.15, 2011〔内外報告〕 募集の対象者が挙げられる。他のWGにおける とともに、各国の行動計画策定に資するものと 機体騒音低減技術、NOxまたは消費燃料の削 位置づけられており、SG会合においても重要 減技術に関するIEは大学、研究機関等から任 性が強調された。 命されている。これに対して本IEでは、必要 表2に現行のCir303の構成と進捗状況を示 な専門性が多岐に渡ること、運航に関する専門 す。CAEP/8で承認された計画に従い、2010年 家が少ないこと、等の理由により、航空当局や のSG会合で第2、6、7、12章の4章分の更 管制業務経験者も所属機関から独立した検討を 新が承認された。ただし第7章については、新 することを前提に “Independent”な専門家 たにICAOマニュアルとして発行するにあたり、 とする方針が承認されている。 本文書には含めないことを提案し、承認されて SG会合開催後にCAEPメンバー国にIE推薦 いる。 を依頼するレターが展開され、2011年2月の 今後2012年のSG会合までに他の章について WG2では合計6名が推薦されている状況が報 も更新を完了する予定である。なお、これらの 告された。分野・地域的なバランスを考慮し、 章の更新に当たってはICCAIA(国際航空宇宙 IATA(国際航空運送協会)、アジア地域から 工業会協議会)、IATA(国際航空運送協会) の参加が期待されているところである。 の貢献も必要であるが、他のCAEP活動で優 今後、2011年5月にモントリオールのICAO 先度が高いもの(CO2基準の策定等)にワーク 本部において、IE検討開始のためのワーク ロードが割かれており、CAEP事務局、WG2お ショップを開催する予定である。 よび両機関で調整をしているところである。 タスク2:運航効率改善による消費燃料・排出 ガス削減に関するガイダンス文書の更新 本タスクは、運航効率改善による消費燃 料、排出ガス削減に関するガイダンス文書とし てICAOから発行されているCircular 303(以 下、Cir303)の内容を更新し、ICAO Manual として発行するというものである。CAEP/8 後、2010年のSG会合まではTed McDonald氏 (Transport Canada)をリーダーとして進め られてきたが、SG会合においてShannon Scott 氏(CAA of New Zealand)に引き継がれた。 2009年に「ICAO行動プログラム」が承認さ れ、国際航空セクターにおける燃料効率(燃料 消費量[リットル]を輸送量[RTK]で割っ た値)を2050年まで毎年2%改善する等のグ 表2 Cir303の構成と進捗状況 章 見出し 1 Background 2 Airport operations 3 4 Maintenance 5 Mass reduction 6 Air traffic management 完了 7 Non-revenue flying 新文書に 含めず 8 Flight/route planning and other operational issues 9 Take-off and climb 10 Cruise て、第37回ICAO総会(2010年9月)では、グ 11 Descent and landing ローバル目標達成に向けた各国の行動計画と進 12 Load factor improvement 文書は、次節で述べるタスク3で作成中の文書 完了 Aircraft environmental performance ローバル目標が掲げられている。これに関連し 捗状況を報告することとされた。本ガイダンス 進捗 13 Implementation − 29 − 完了 〔内外報告〕 No.15, 2011 タスク3:CNS/ATMの環境アセスメントの原 紹介する。 則に関するガイダンス文書 ①騒 音の影響の大きい時間帯、あるいは地上 本タスク(CNS/ATM Environmental の騒音レベルが大きくなる地域または飛行 Assessment High-Level Principles)は、CNS/ 高度では、騒音軽減を優先した飛行を行い、 ATMの改善に伴う環境影響(排出ガス、騒 それ以外では排出量を最小とするように飛 音の両方)のアセスメントの原則に関するガ 行する。 イダンス文書を作成するというものであり、 ②騒 音の影響が最小となるような運航を行い、 Manfred Dieroff氏(独DFS)をリーダーとし CO2排出を最小とした場合との排出量の差分 て進められている。なおCAEPのタスクとして を推算し、カーボンオフセットにより騒音 は “CNS/ATM” という表現が使われている 最小とCO2最小を両立する。 が、内容に鑑みて適宜 “operational” 等への 今後は、まず第1〜4章の素案作成を中心に進 変更を提案する可能性もある。 め、2012年のSG会合にガイダンス文書案を提 本タスクもタスク2と同様にICAOグローバ 出する予定である。 ル目標の達成に向けて、各国が行動計画を策 表3 タスク3文書の構成と進捗状況 ている。またタスクのタイトルにある“High- 章 1 2 3 4 Level”とは、世界各国で適用可能な「基本的 4.1 定し、その計画を評価する際のガイダンスと なるものと位置付けられており、WG2に対し てCAEP事務局からタスクの重要性が強調され 原則」を意味している。限られたメンバーから の情報をもとにガイダンスを作成した場合に 4.2 は、適用の可能性が狭まる恐れがあるため、広 4.3 い地域からの貢献が求められている。 4.4 表3に現時点における文書の構成と進捗状況 を示す。現在、議論の叩き台となる素案を作成 しているところである。2011年2月のWG2会 合では、全体を3グループに分けて、それぞれ 1〜3章、4.2節、4.3節及び4.5節を集中的に議 論した。 排出ガス(特にCO2)と騒音のトレードオフ (4.7節)については、このタスク、あるいは WG2以外においても、議論のポイントになる ところである。本タスクに関連した例として は、短縮された飛行経路を設定すると消費燃料 (CO2排出量)削減に効果があるが、住宅密集 地の上空を通過し、騒音の影響が増大する、と いう場合が想定される。まだ素案の段階である ため、今後議論の上、変更される可能性もある が、次のような考え方が提案されていることを 4.5 4.6 4.7 4.8 4.9 4.10 5 5.1 5.2 6 5.1 5.2 − 30 − 見出し Purpose Context Scope High-level principles Assessment planning and preparation Assessment steps ATM/CNS changes subject to an environmental assessment Geographic area of environmental assessment Criteria for triggering an assessment Environment parameters to be assessed Environmental interdependencies (tradeoffs) Interdependencies between environmental and nonenvironmental parameters Regulatory compliance Documentation, communication, reporting Assessment methodologies Methods, models Metrics Assessment examples Wide area assessment (CO2) Local assessment (Noise) 進捗状況 素案 素案 素案 素案 作成中 素案 素案 素案 作成中 素案 未 作成中 未 作成中 作成中 未 未 No.15, 2011〔内外報告〕 3.おわりに Initiative to Reduce Emissions)の取り組みや、 冒頭に書いたように、WG2のタスクは空港 将来の航空交通システムに関する長期ビジョン 周辺環境(騒音)から運航へシフトしつつあ (CARATS)等に関して情報提供を求められ る。また、そのタスクも目標の検討、ガイダン る機会もあろうかと思う。今後も航空局と密接 ス文書の整備であり、運航大国である日本に に連携し、WG2を通じて航空の環境保全に貢 対する期待は高い。我が国が参加している特 献するとともに、我が国のプレゼンス向上を図 に洋上空域における運航効率改善による排出 りたい。 ガス削減を目指すASPIRE(Asia and Pacific − 31 −
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