分権改革と地方自治体の雇用・就労政策

16
特集
分権改革と地方自治体の雇用・就労政策
Iその人権政策としての展開I
澤井勝
■
職安法が改正され、都道府県、市町村も無料職業紹介事業ができるようになる。働くということは、基本的人権のひとつであり、経済
的自立の基盤でもある。自治体は就労困難な条件を持つ障害者、高齢者などの自立支援のために、国や民間事業者と連携して、積極的な
就労支援施策を地域で総合的に展開する責任がある。それは雇用労働行政の地方分権改革の一環でもある。専従のコーディネーターの配
よって地方自治体も無料職業紹介事業者となることが可
派遣法などの改正である。ここでは特に職安法の改正に
置が不可欠であり、求人情報と企業情報の蓄積、斡旋のノウハウを形成する必要がある。部局横断的な就労センターも重要だ。
はじめに
能になることに注目し、このことを今後の雇用労働政策
月の地方分権一括法による、関係諸法の改正によって大
対する支援事業を検討し、二○○二年度から府内一八市
その際に、分権改革以前から、地域での就労困難者に
の展開にどう生かすか、という観点から考えてみたい。
きく変わってきている。その改革に拍車をかけるのが、
町村で実施されている大阪府の「地域就労支援事業」を
政府(中央と地方)の雇用労働政策は、二○○○年四
二○○’一一年の三月七日に閣議決定された職安法や労働者
分権改革と地方自治体の雇用・就労政策
17
労働者の権利擁護という点からも重要な改正である。)
改正案は次のようになっている。条文の新設である。
紹介しながら、雇用・就労事業を展望してみたい。なお、
この支援事業とモデル事業の詳細については、大阪府の
第三三条の四(地方公共団体の行う無料職業紹介事業)
地方公共団体は、当該地方公共団体の区域内におけ
「地域就労支援事業検討委員会(委員長函大谷強関西学院
大学教授この報告書「地域就労支援事業検討調査報告
あり、その調査結果を参考にさせてもらっている。この
域連合」政策研究部の雇用政策チームに助言する機会が
なお昨年から、埼玉県の「彩の国さいたま人づくり広
う必要があると認めるときは、厚生労働大臣に届け出
る業務に付帯する業務として無料の職業紹介事業を行
の福祉の増進、産業経済の発展等に関する施策に関す
立地の促進を図るための施策その他当該区域内の住民
る福祉サービスの利用者の支援に関する施策、企業の
報告書は近日中にまとめられる予定。また、昨秋の福岡
て、当該無料の職業紹介事業事業を行うことができる。
書(平成一四年三月)』を参照されたい。
県筑後労働福祉事務所における市町村雇用担当部局研修
(第二項があるが、これは準用および読み替え規定であ
さらに、国の機関によるこの地方公共団体の無料職業
る。)
会の議論も有益であった。
一無料職業紹介事業が自治体に
紹介事業に対する援助規定も、整備されている。
ついてはそれほど注目されていないようだ。しかし、こ
働者派遣法の改正案のほうに関心があり、職安法改正に
団体においては、同時に決められた労働基準法および労
正案を決定した。新聞報道などを見ると経済団体や労働
研究の成果等の提供その他当該無料の職業紹介事業の
業を行うものに対して、雇用情報、職業に関する調査
は前条第一項の規定による届出をして無料職業紹介事
又は第一一一一一一条の一一第一項、第一一一三条の一一一第一項若しく
公共職業安定所は、第三三条第一項の許可を受けて、
第一一一三条の五(公共職業安定所による援助)
れからの自治体の雇用労働政策や就労政策を考えると
運営についての援助を与えることができる。
政府は二○○一一一年三月七日の閣議で、職業安定法の改
き、この職安法改正は特に大きな意味を持つ制度改革と
考えられる。(もちろん、労基法と労働者派遣法の改正も、
部落解放研究Nol51200a4
18
二本条の解釈(素案)
村の境界を越えて流通することが普通であるとすれば、
広域自治体としての都道府県の事業として組み立てるこ
とが自然であるかもしれない。
一方で、国の機関である職安との「二重行政」を回避
な「無料職業紹介事業」に適しているということもでき
しようとすれば、むしろ「市町村」こそ、新しい公共的
「地方公共団体」とは、地方自治法(昭和二二年法律
る。というのは、市町村という基礎的自治体に無料職業
1地方公共団体の範囲
六七号、平成一一年七月二二日法律一○七号により改正)
いる、高齢者・障害者、母子家庭、それに社会的差別を
紹介事業の窓口があることのメリットは、移動の制約や
地方公共団体は、普通地方公共団体及び特別地方公共
受けているために就労が困難な人々に対する、「きめ細
の第一条の三(地方公共団体の種類)に規定する「地方
団体とする。
かい」「継続的な」支援事業の一環として、この無料職
社会的な差別によって就労にハンディキャップを持って
普通地方公共団体は、都道府県及び市町村とする。
業事業を位置づけることが望ましいからである。このよ
公共団体」であると解される。すなわち、
特別地方公共団体は、特別区、地方公共団体の組合、
うな「就労支援事業」として「仕事の斡旋」「紹介」が
可能となるということは、就労困難者を支援する事業の
財産区及び地方開発事業団とする。
したがって、届け出によって「無料職業紹介事業」を
では、特別地方公共団体は、この職業紹介事業を行う
可能性を大きく拡大するにちがいない。この事業を都道
もっとも従来(二○○○年三月まで)は、公共的な無
ことができるであろうか。東京都の二三区は、普通地方
行うことができるのは、都道府県および市町村という
料の職業紹介事業を都道府県が設置する公共職業安定所
公共団体といってもよいから、当然可能だと考えられ
府県、職安が援助するという形が望ましい。
がもっぱら担ってきたという経緯から言えば、少なくも
「普通地方公共団体」がまず、考えられる。
人的な職業紹介事業の経験という蓄積を持つ都道府県の
事業として考えられる。そして、求人や求職情報が市町
る
では一部事務組合(地方公共団体の組合のひとつ)はど
◎
うであろうか。特に、この「地方公共団体の組合」のひ
ハローワーク(職業安定所)や、有料職業紹介事業者と
ない、という意味である。この事業を主たる事業とする
る総合的な施策を主として担い、その総合的な施策の一
とつとして位置づけられている、「広域連合」は、この
結論から言えば、どちらも条文上可能であると考えた
環として、付帯的に職業紹介事業を行うことは当然でも
は異なり、地方自治体は、その住民福祉の向上を実現す
い。一一一三条の四の書きぶりでは、「地方公共団体」と規
あり、また望ましいことでもある。
無料職業紹介事業の実施主体となりうるであろうか。
定し、「普通地方公共団体」と制限していない。したが
として規定されている(第二九一条の二から二九一条の一
このうち「広域連合」は、地方自治法第三編の第一一一章
「地方公共団体の組合」の内部に、第三節「広域連合」
事業を通じてなにを実現しようとするか。本条では、い
行う事業とどういう目的において関連するか。その紹介
地方自治体が行う無料職業紹介事業は、地方自治体の
3その目的の例示
三)。市町村が構成する広域連合も、都道府県が参加す
わば例示的に四つの項目を掲げている。
って、当然に、特別地方公共団体も事業実施団体である。
る広域連合も、ここにいう特別地方公共団体であるから、
(1)「福祉サービスの利用者の支援に関する施策」に附
》「福祉サービスの利用者の支援に関する施策」に附
帯して
本条にいう無料職業紹介事業を実施することはできるも
のである。
すなわち、高齢者や障害者、母子家庭など福祉サービ
スの利用者が自立することを支援するための就労支援事
業として、職業紹介・斡旋を行う場合。
2区域と付帯的な業務
「当該地方公共団体の区域内における(中略)施策(第
(2)企業の立地の促進を図るための施策
(3)その他当区域内の住民の福祉の増進に資する施策
求人と求職のマッチングを行うことなどが想定される。
職者あるいは成年労働者と、進出企業との間をつなぎ、
これは、企業誘致政策として、高校卒業生など若年求
一一一三条の四)」
この区域内とは、都道府県、市町村、広域連合等の区
域内での施策をいう。
「附帯する業務として(第三三条の四)」
この規定は、無料職業紹介事業を「主たる業務」とし
部落解放研究NC1512008.4
就労政策
●
19分権改革と地方自治体の雇用
20
この文言によって、広く住民全体に対する就労支援政
地方公共団体は、国の施策と相まって、当該地域の実
これは、地方分権改革によって、それまで都道府県が
情に応じ、雇用に関する必要な施策を講じるように努
同和行政から一般行政に転換した就職口の紹介事業(今
設置してきた公共職業安定所(ハローワーク)が、国の
策として、求人と求職の斡旋を行うことが認められてい
までハローワークに取次ぐという回路を必要としたが)な
機関となるなど、従来の労働行政が国に一元化されたこ
めなければならない。
ども、各自治体の政策の一環として位置づけられること
とと対を成す。|方で国の権限に属さない雇用施策を、
る。一度家庭に入った女性の再就職を支援することや、
になる。
改めたものである。この内容はそれぞれの地方自治体の
地域の実情に応じて広く地方公共団体が実施するように
この文言も広く解釈ができる。雇用機会の拡充、さら
裁量に任されていると言ってよい。なお、同改正法は国
(4)産業経済の発展等に資する施策・業務
にはコミュニティビジネスや起業支援のために、求人の
の協力と地方自治体との連携にも一条を設けている。
第二七条国と地方公共団体との連携国および地方
あっせん等を行い、側面からの地域産業の定着、拡大に
資する政策の一環として無料職業紹介事業を行うことな
公共団体は、国の行う職業指導及び職業紹介の事業等
労働施策を実施する努力義務が課せられている。すなわ
県である。なにを雇用労働政策として樹立すべきか。そ
これらの地方分権の潮流にまず応答すべきは、都道府
四これからの府県の役割
絡し、及び協力するものとする。
連の下に円滑かつ効果的に実施されるように相互に連
と地方公共団体の譜ずる雇用に関する施策が密接な関
どが考えられる。
三一厘用労働行政の地方分権の流れ
この改正によって、雇用・労働行政の地方分権が大幅
に進展することが期待される。すでに、二○○○年四月
ち、改正一雇用対策法の第五条は、次のように定めてい
れは、各都道府県の自治事務として創造的に構成される
から、改正雇用対策法が施行され、地方自治体にも雇用
る。
分権改革と地方自治体の雇用・就労政策
21
するニーズを調査し、把握し、そして政策化することが
ではない。自らの頭で、自らの地域の雇用労働行政に関
べきものである。つまり、国のほうから指導があるわけ
ションプランで構成されている。この緊急雇用対策は、
「’二万人緊急雇用創出プラン」がそれで、七五のアク
クションプラン」を策定している。二○○二年九月の
局、関西経営者協会、連合大阪との協議によって、「ア
二○○一一年三月に策定された「大阪府労働政策の基本方
求められている。
その役割は第一に、従来、国の雇用労働行政を府県レ
向」(大阪府商工労働部)の趣旨に沿って、策定されたと
各都道府県は、まず、無料職業紹介事業者としての自
ベルで担ってきたノウハウや人的なネットワークを活用
験者とのつながりをはじめとして、相当に広範で、専門
らの位置づけを明確にしたうえで、各労働局、経営者団
いう形になっている。
性の高い経験の蓄積を生かすことである。このネットワ
体、労働組合と協力して、「新労働政策の基本方向(仮
することが求められる。重要なことは、いわゆる学識経
ークをデータベース化したうえで、その情報を公開する
称亘を策定することが求められている。
の府県で、知事や副知事を本部長とする「雇用緊急対策
要である。この間のデフレ経済の進行のなかで、かなり
施する、「雇用就労対策本部」の設置とその恒久化が必
次には、府県としての雇用労働政策を総合的に企画実
構ある。大阪府や、福岡県の久留米市・大牟田市を中心
用労働行政の窓口をそれなりに設置しているところも結
いってよい。もっとも、都道府県によっては市町村が雇
ろは、一部の例外的な取り組みを除いてほとんどないと
市町村において、雇用労働政策に取り組んできたとこ
五市町村の役割と国・府県
ことによって、だれもが容易に利用できる雇用あるいは
起業のための情報プラットホームの構築に着手しなけれ
ばならない。系統的で繊密な調査と研究の蓄積も期待さ
本部」が設けられている。これを常設化して「府県雇用
とする筑後地域、それに北海道など。このような地域の
れる。
基本政策」を策定し、実行しているところも多い。岩手
特性は、戦後の地域労働運動の要求や地域産業政策の必
要に迫られて歴史的に形成されたといってよい。
県や大阪府などがそれに該当する。
全国一の失業率を記録する大阪府の場合は、大阪労働
部落解放研究N01512008.4
22
して、市町村に期待されているものは何かということを
用対策法および改正職業安定法に言う、地方公共団体と
ここでは、地方分権改革の進行によって、先の改正雇
調査で明らかになったのは次のような点である(前記の
を合わせた三八七人である。この実態調査とヒアリング
ではそれに障害者や母子家庭の団体などで抽出された方
のヒアリング調査を行った。茨木市で一二三人、和泉市
大阪府報告書からの一部抜粋)。
考えてみたい。
まず市町村は、住民に最も身近な政府として、その機
(1)まず、障害者にとって。
①障害者の受け入れ先・正規雇用の場が少ない。
能を発揮することが期待される。つまり、広域的な移動
の困難といったハンディキャップがあったり、大量の事
②職場の施設整備、すなわちバリアフリー化を望んで
①母子家庭の母親は、女性の就業問題、共働きの女性
(2)母子家庭の母親に対して。
多い。在宅ワークを求める声も多い。
⑦一般的な雇用ではなく生きがい対策的な就労希望も
実感に結びつく支援を求めている。
⑥障害者に適した収入アップ・生きがい・働き甲斐の
ブコーチが求められる。
⑤知的障害者の場合、職場での意思疎通を助けるジョ
ョンボードなどの対応を求めている。
通が難しいため、手話通訳、またはコミュニケーシ
④聴覚障害者の場合、職場での周りの情報や意思の疎
聴覚障害者の場合、職場での周りの情報や意思の疎
あきらめている人も多い。
③障害を理由に、初めから一般企業での就労を無理と
いる。
務処理になじまない一人ひとりの顔が見える相談と、個
性に合った職業の斡旋を担う。民間の有料職業紹介事業
や、国のハローワークと競合したり重複したりすること
をなるべく避け、特に国の機関や府県の機関とは協力し
ながら、相互に補完しあうような仕事業を組み立てるこ
とが必要になる。
六期待される市町村の積極的な関わり
大阪府が茨木市と和泉市で行った「地域就労支援事業」
のモデル事業に伴って、二○○○年度に両市で就労実態
調査が行われた。茨木市では、ある中学校区の一六歳以
上六五歳未満の住民全部を対象とし、和泉市では一五歳
以上六五歳未満の市内居住者五○○○人を無作為抽出し
ている。そのうえで、ヒアリング調査に同意された方々
分権改革と地方自治体の雇用・就労政策
23
に共通する課題に加え、|人で家庭の経営責任を負
っている。生活費を得るために,主にパート就労を
④低廉な費用負担での資格取得のための講座、研修を
望んでいる。
⑥企業・事業所に対して雇用条件の遵守、就職困難者
⑤能力や資格など採用条件の撤廃を求めている。
②離婚などにより、生活が激変した母子家庭は、生活
等への理解・配慮などの指導を強化することが求め
しているが、常用雇用を希望する場合が多い。
の安定を図るために、相談・情報提供をはじめ、住
られている。
自己を実現するための、人としての基本的な営みのひと
自らの可能性を引き出し、それを拡充することを通じて
「働くということ」は、人々が、自らの意思に基づき、
七基本的人権としての「働くということ」
宅、子育て支援、資格取得の支援、雇用にいたる総
有子育て支援、資格取氾
口的な支援を求めている。
(3)高年齢者の場合。
|般的な雇用への希望の他、生きがい的な就労の希
望も多く、在宅ワークを求める声も多い。
(4)若年者の場合。
①若年者は、学歴や資格、経験不足のために仕事が見
つである。私たちは、働くことを通じて、自立生活を実
現するひとつの手段を獲得する。人々との相互の依存関
つけ難い。
②やりたい仕事、楽しめる仕事という自己実現の欲求
係のなかで自らの意思で自らの生活を律すること(自立
け、それらを自らの能動的、人間的活動の結果として領
会的な関係を取り結ぶ。そしてモノや事柄などに働きか
る、という経済的な交換関係を通じて、人々との間に社
態である。特に働くことと賃金や売上げ収入、報酬を得
「雇用・就労」は、このような働くことのひとつの形
り現実的なものになる。
生活)が、人々との関係のなかで働くことによって、よ
と現実とのギャップを埋められないで居るものが多
③ハローワーク以外の身近な雇用・就労支援の相談窓
る。
②雇用・就労に関する情報やその入手方法を求めてい
①地域での就労の場の確保を望んでいる。
(5)就労困難者の雇用・就労全般について。
0
口も整備を望んでいる。
部落解放研究 Nol51 2003.4
,△-
い
24
第三としては、雇用・就労を通じて、仕事に関する
にも寄与するものと捉えられる。
その意味では、働くということ、およびその経済的な
達成感や働く意欲が醸成され、自己規律や自立心を高
有する。そのような生活のひとつの形態である。
実現形態としての一雇用・就労は、人間としての生き方の
めることによって自分自身を鍛えあげていくことがあ
まとめれば、第一に経済的自立のための収入の確保、
ひとつの基本であり、基本的人権のひとつである。日本
「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。」
第二に人と人との関係のなかでの社会的自立、そして第
げられる。
この条文の「国民」とはピープルのことで、国籍や身分、
三に自己責任と自己実現とを通じた市民の形成、という
国憲法はその第二七条で勤労の権利を保障する。
出自に関わらない「全ての人々」の意味である。英文を
ことになる。
第一に、雇用・就労は、収入という自立生活に不可
労」は基本的人権のひとつである。しかし、現実には、
以上のように、「働くということ」および「一雇用・就
市町村の雇用・就労政策の意義
示せば、.E一℃のCb-のの百一}百くのSの邑召[8三・号愚であ
る。
この人権政策としての雇用・ 就労政策の意義を、先の
欠な経済的基礎を築くこととなる。また、自らの収入
先に見たように様々な理由によって、自らが望むような
は次のように指摘している。
「報告書」は次のように指摘し
という糧を獲得することによって、人生において主体
増加している。この主婦層のなかで、乳幼児の育児を主
雇用・就労の機会に恵まれない人々が少なくない。最近
第二としては、雇用9就労によって、社会の一員と
としながら、収入確保のために在宅での仕事を希望する
的に自己決定・自己実現を図っていくことが可能にな
して参加・参画することとなり、人と人とのつながり
人も多い。就労困難者の範囲は、さらに拡大しているの
では、夫の失業等から働かなければならない専業主婦も
を築きあげることが可能になることがあげられる。こ
住民にとって最も身近な政府としての市町村は、これ
である。
一方では社会的な孤立などからの回復を助長すること
のことは、社会的排除・孤独に陥ることの予防となり、
ると考えられる。
八
分権改革と地方自治体の雇用・就労政策
25
を担うこともあっていいであろう。特に農山村部における高
である(もちろん地域によっては、一般的な職業紹介事業
そのような「地域コミュミティ」政策を創ることが必要
回復と創造、新しい地域的な人々の連帯意識を構築する、
のありかたを変える責務がある。すなわち地域共同性の
的に担い、そのことによってばらばらになった地域社会
村は地域の雇用・就労環境を総合的に整える役割を積極
リアーを取り除く政策を展開するべきなのである。市町
ら就労困難者を支援するとともに、企業社会の社会的バ
ォフィス・ホームオフィス)を担うことを可能にする。
も必須の課題である。これによってSOHO貢モール
パソコンによる情報処理の技術的能力の獲得と展開など
ことが重要である。職人的な手仕事の世界への誘いや、
ダー養成なども、広く雇用・就労政策として組み入れる
会教育における各種の専門講座や生涯学習を通じたリー
教育、環境教育がそういった目的で組み立てられる。社
得を目指す。学校教育におけるボランティア教育や福祉
にニーズが高まる事業分野の経験的および知的認識の獲
教育によるキャリァァップと職業教育、さらに社会的
のアルコール依存症、薬物依存症との闘いを支援するこ
高齢の父母の介護支援と施設福祉との連携、親族や本人
すい生活環境をつくる支援も必要である。乳幼児の保育、
で提案できる。また、家族の生活条件を整序し、働きや
さらに、住宅の斡旋や改修、資金の融資などもセット
卒や二○代の若年者の雇用・就労政策を重点的に展開するこ
と、などが期待される)。
九総合的施策の展開
まず市町村は、総合的な行政主体として、個々の就労
えばカウンセリングを含む生活全般についての相談窓口
ス自立支援の担当部局の連携と協働が必要である。たと
母子福祉、児童福祉、それに生活保護、さらにホームレ
連携が求められる。すなわち障害者福祉、高齢者福祉、
仕事を確認することが大事である。大阪府の「地域就労
網羅的に捉え、協力関係のなかで、それぞれのやるべき
という。一人ひとりが抱える個別的、具体的な問題を、
の専門領域から捉え、検討することを「アセスメント」
このような就労困難者の一人ひとりの条件をそれそれ
と、など。
として、雇用・就労相談窓口が機能するように要員の配
支援事業」の考え方としては、「個別ケース検討会議」
困難者を支援することができる。第一に社会福祉部門の
置が工夫されなければならない。
部落解放研究 Nol51200a4
26
として示されている。イメージ的には構成メンバーとし
通していること。
援などに関する知識・経験を有し、地域事情にも精
①雇用・就労に関する身近な相談窓口としての機能を
担う。
②就労困難者等と個別に面談し、就労阻害要因の抽出
と整理を行う。
③就労困難者等の相談内容に関わる関係者との連絡調
整、相談、依頼等を行う。
④要支援者に雇用・就労に活用できる各種施策に関す
⑤事業所訪問によって地域における求人情報を収集す
る情報を提供する。
件を解きほぐし、それぞれの条件を解決しながら、適切
⑥起業化やNPO設立の援助。
るとともに、雇用・就労機会を発掘、開拓する。
地域担当制を敷いた「ソーシャルワーカー」あるいは
⑪自ら構築したデータベース等を活用して求人先等
ー(仮称)に誘導する。
⑩要支援者等をハローワークや府県雇用・就労センタ
践を援助する。
⑨関係の諸機関の連携を図り「サポートプラン」の実
策定する。
③自立に向けた「サポートプラン」を要支援者と共に
⑦個別ケース検討会議を招集し、主催する。
(2)資質二雇用・就労政策をはじめ福祉施策や生活支
の誘導を行う。
(1)役割》就職困難者等への個別対応、雇用・就労へ
告書」に若干の加筆)。
ィネーター」は、次のように位置づけられる(前記「報
設置が、最も大きなポイントとなる。「地域就労コーデ
「地域就労支援事業」では、このコーディネーターの
「コーディネーター」の配置の必要性がある。
は雇用・就労支援が行われなければならない。そこに、
就労困難者の条件は、すべて異なる。|人ひとりの条
(3)機能》
て、人権問題担当、生活保護担当、児童・高齢者・障害
◎LL
者福祉担当、生涯学習担当、ハローワーク、地域関係機
一○|人ひとりに適応した対応
関、地域就労センター雇用就労セクションなどとなって
る、
市町村ソーシャルワーカー(コーディネーター)の仕事
い関
27分権改革と地方自治体の扉用・就労政策
表12002年度地域就労支援事業実施状況
市町村名
人I]
(万人)
事業担当
部課名
事業費(千''1)
セン
コーディ
総事業費 府補助金
ター数
ネーター数
巡営
方法
事業
開始
基本
計画
委託
20024
2003.3
111.287
3.155
13
委託
200
20033
10,00
5.000
1
in営
2003.1 2002.12
877
439
1
市民局
大阪市
2621 雇用・勤労
施策室
堺市
793
吹田市
35」
経済局商工
部労働課
TI丁民文化部
産業労働室
環境生活部
貝塚市
商工課
枚方市
405
茨木市
26」
八尾市
27.4
市民活動課
市民生活部
商工労政課
市民産業部
産業振興室
市民産業部
泉佐野市
商工観光課
富田林市
12.7
寝屋川市
24.8
松原市
13.1
大東市
129
和泉市
175
羽曳野市
12.0
摂津市
8.5
岬町
1.9
東大阪市
市町公室
5M
産業下水道部
商工観光課
市民生活部
商工課
it徴及び委託
15
20024
200
10278
5.345
委託
200
200
4pol
2.002
直営及び委託
200
2001.3
9.810
4.005
4
4
直営
200
20033
70585
3.793
2
2
委託
20024 2002.12
14.780
釦
3
3
委託
200
200
6,340
3.170
1
1
in営
2002.6
20033
900
450
1
2
営
2002.10
20033
5,000
2.500
if〔営
2002.6 2002.10
208AI
1.M2
2
2
匝営
200
20013
10.812
5.063
2
2
委託
20024
20033
lL114
5.000
】
1
I肛営
200
200
1296
6`18
1
1
委託
200
200
4.772
2.386
1
20033
5.740
2.870
3
市民生活部
経済振興課
市民生活部
産業振興課
都市産業部
労働政策課
生活環境部
産業振興課
生活環境部
産業振興課
事業部
地域振興課
経済部
委託
労政室
200212
1
2
3
注:人口は2002年12月1日現在(大阪府HPより。100人未満は四捨五入)
大阪府商工労働部雇用推進室提供盗料をもとに作成(彩の国さいたま人づくl)広域連合、政
策研究部箙用政策チーム作成資料から)
に、要支援者を「斡
旋」し、紹介すると
ともに、雇用条件・
契約内容等の確認を
行う。
⑫コーディネーター自
身が事業所・企業を
訪問して、求人情報
や雇用動向を把握し、
意見交換を行う。
⑬要支援者が就労した
後は、その状況につ
いて定期的な点検と
企業と要支援者双方
からの相談事業を継
続的に行う。
⑭これらの個別ケース
の評価を行い、適切
な記録を作成し、個
別ケース検討会、地
域就労センター、地
域就労支援事業推進
部落解放研究Nol51200a4
28
(4)設置費補助》大阪府の場合は、各市町村に設置さ
みも始まっている。さらに多くの都道府県、市町村での
討や、福岡県筑後労働福祉事務所管内の市町村の取り組
立しなければならない。ただ、埼玉県の広域連合での検
れたコーディネーターの設置費の二分の一を補助し
検討と、事業展開を期待したい。
会議などの政策調整、改善等の決定に反映させる。
ている。
、
なお、大阪府の二○○二年度における「地域就労支援
事業」の概要を掲げておきたい(表1)。
最後に
この市町村における「就労支援事業」に始まる雇用。
就労政策は、ようやく始まったばかりである。大阪府の
場合、一一○○三年度にはさらに対象市町村を拡大すると
場合、二(
している。
そしてこれに無料職業紹介事業が強力な武器として加
わる。改正法が、いつ成立するかまだ不透明であり、
っ施行されるかも未定であるが、方向は明確である。
方向は明確である。
や都道府県の機関との間の、相互の調整と協力手法も確
ウハウを習得しなければならない。さらにハローワーク
ればならない。また職業紹介や斡旋の実際についてもノ
れなければならない。そのうえで求職情報を蓄積しなけ
な準備が必要である。まず、企業と事業所の把握が行わ
この無料職業紹介事業を実施するには、しかし、様々
し、