農家カフェ フライパン オーナー 熊谷 克郎(くまがい・かつろう)氏 岩手県陸前高田市の「農家カフェ フライパン」は、2014年4月 に閉店した「ハイカラごはん職人工房」のコンセプトを引き継ぎ 発展させるコミュニティカフェとして誕生した。みんなが集まれ る、楽しいことができる場所。昼は洋食ランチやスイーツ、夜は もともとはリンゴ直売所だったところがカフェとして生まれ変わった。営業時間10:00~23:00。月曜定 休。岩手県陸前高田市米崎町字樋の口63-2。TEL:0192-55-3358 おしゃれなバータイムで地域の人たちに愛用されている。 りんごエールを味わえる、ママにも優しい店 陸前高田市米崎町。アップルロード(県道38号線)が浜磯街道(国道45号線)と交わる広田半島 入口交差点近くに2014年7月、「農家カフェ フライパン」がオープンした。ウッディなしゃれた雰囲気 で、ランチ時ともなれば女性客を中心に賑わう。2歳児を子育て中のオーナー、熊谷克郎さんの「マ マにも優しい店にしたい」との願いから、小上がりには絵本や玩具を備えたキッズスペースがあり、 子連れの「ママ友」たちが集う場にもなっている。 ここでしか味わえない、とっておきのメニューが、4~5月に登場する「りんごエールりくぜんたか た」。りんごを使った地ビールだ。陸前高田の米崎町は「アップルロード」の通称が示すように、知る 人ぞ知るリンゴの特産地。「米崎のリンゴの美味しさをもっと広めたい」と、実家がリンゴ農家の熊 谷さんもプロジェクトメンバーに加わり、一関市の世嬉の一(せきのいち)酒造に製造を委託した。 「音楽好きな人たちと最近つながったりしてるんで、ライブやDJイベント など、このへんではあまりやられてこなかった楽しいイベントの場に活用 してもらいたいですね」とオーナーの熊谷さん 発酵する手前の段階で果汁や皮を投入し、リンゴのフレーバーが香る。一部ビン売りで陸前高田 物産センターにも出しているが、もともと少量生産のうえに、2シーズン目の昨年は台風の影響で300リットル強しかつくれず、発売2~3日で売り切れ た。原料のリンゴは熊谷さんの実家と友人の農家のもの。 店内の一角で、被災地の瓦礫を使って地元の人たちがつくったキーホルダー「瓦Re:KEYHOLDER」(ガレキーホルダー)が売られている。東日本大震 災直後、札幌からボランティアにかけつけた中田源さんが考案したガレキーホルダー※1は、大船渡の授産施設「かたつむり」で製作が続けられ、今ま でに9万個以上の売り上げを達成した。 実は「農家カフェ フライパン」も、誕生の経緯をさかのぼると、そもそもはガレキーホルダーに端を発するといってよい。 (C)Tohoku-Electric Power Co.,Inc. All Rights Reserved. 「ハイカラごはん職人工房」の思いを受け継いで 東京・上野で甘味処の雇われ店長をしていた熊谷さんは、東日本大震災をきっかけに故郷の陸 前高田に戻った。ボランティアセンターを運営する社会福祉協議会の職員となり、地元の復興のた めに働いた。 ガレキーホルダーの売り上げの一部を原資に、地元の人たちが集まれるカフェとして2013年6 月、「ハイカラごはん職人工房」が米崎町にオープン。札幌に帰った中田さんを引き継いで、現在の 「農家カフェ フライパン」のシェフが運営しており、熊谷さんも客としてよく通い、仲間になった。 熊谷さんは、かつての経験を生かし、そろそろ自分で店を出そうと考えていた。そんな中、仮設 店舗の「ハイカラごはん職人工房」が2014年4月に閉店することになった。さらに、現在の「農家カ フェ フライパン」の建物は、もともと熊谷家が所有するリンゴ直売所だったところで、建設業者の事 絵本やおもちゃなどを備えたキッズスペースも。若いママたちに、気兼 ねなくカフェで楽しんでもらいたい。子育て中の熊谷さんのそんな願いが 込められている 務所に貸していたのが、建設業者が撤退して空き家になることがわかり「農家カフェ フライパン」の オープンを決めた。 「店名は変わりましたが、〈ハイカラごはん職人工房〉の思いは引き継ぎたい……というかそもそも、みんなが集まりやすい場づくり、楽しいことをやれ る場づくり、というコンセプトでは僕も一致していました」 熊谷さんは2014年3月で社会福祉協議会を退職。自己資金、助成金、借入金、そしてクラウドファンディング(「READYFOR」サイトで目標額200万円を 達成)で調達した資金によってカフェの体裁を整え、7月にオープンした。シェフをはじめスタッフも、「ハイカラごはん職人工房」から引き続いている。 思いは受け継がれ、より大きなかたちで生まれ変わった、というわけだ。 陸前高田が発信する新しいコミュニティカフェ文化 「農家カフェ フライパン」を地域の方々が楽しめるコミュニティスペースにするためヨガ教室を開い たり、バイオリン、ギター、ピアノのミニライブを催したり、さまざまなイベントに力を入れている。「美 味しい料理、楽しいイベント。ポジティブな明るい話題をどんどん提供していきたい」と熊谷さん。 「食を入口にして、今まで地域になかったような新しい価値観やライフスタイルを発信していくの が大事かなと思っていて。そうやってさまざまなニーズを掘り起こし、お客さんを増やしていけたらう れしいですね」 今のところランチタイムからディナータイムまでの間は仕込みと休憩で店を閉めている。本当は開 けたいけれど人手が足りない。好きな時間にふらりと立ち寄って、まったりと過ごせてこそ、地域の さまざまな人たちが集うコミュニティカフェならではの空間になる。 2014年10月に念願の本設オープンを果たした「りくカフェ※2」が、健康志向の家庭料理を売りに して、どちらかといえば熟年層の人々が集う場になっているのと対照的に、チキンカレーやハン バーグ、スイーツなどメニューも洋食主体で、比較的若い人たちにアピールしている。新しいコミュ ニティカフェ文化を発信する陸前高田の2店は、うまく「棲み分け」ができているようだ。 「陸前高田は沿岸部の盛り土工事が進み、これからどんどん町の景色が変わっていきます。新 しい町ができていく過程を実際に見てもらいたいです。現地に立ってみないとわからないことはたく パスタやチキンカレーなど洋食やスイーツが楽しめる(上)。スタッフの坂 さんあるから」 口さん(下)は、ガレキーホルダーを製作する大船渡の授産施設「かた 陸前高田に足を運んだ折には、ヘルシーな家庭料理がお望みなら「りくカフェ」へ、おしゃれな雰 つむり」で商品発送の手伝いなどもしている 囲気で洋食やスイーツ、バータイムを楽しみたいなら「農家カフェ フライパン」へ。ぜひ立ち寄ってみ て欲しい。 ※1「ガレキーホルダー」の紹介記事 http://www.tohoku-epco.co.jp/fukyu/report/contents/g02_gare_keyholder/index.html ※2「NPO法人りくカフェ」の紹介記事 http://www.tohoku-epco.co.jp/fukyu/report/contents/f14_rikucafe/index.html 2014年11月取材 (C)Tohoku-Electric Power Co.,Inc. All Rights Reserved.
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