通訳者・翻訳者高等学院

通訳翻訳者養成プログラム調査報告
真嶋潤子
<資料
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通訳者・翻訳者高等学院
(École Suprieur d'Interpèrtes et de Traducteurs)
パリ第3大学に属する翻訳・通訳養成機関。質の高さはフランスで最高と言
われ、大きく分けて翻訳部、通訳部、手話通訳部から成る。完全なプロフェッ
ショナルの養成機関であるため、学生は目標言語を高度に使いこなせることが
前提であり、一般的な語学そのものの習得は学修課程には含まれない。また3
つのセクションは完全に独立しており、共通の基礎課程といったものもない。
学修内容は極めて厳しく、例えば翻訳部では毎年約 400 人の応募があるが、入
学できるのは半分以下で、さらに毎年脱落者が出て学生数は半分ずつに減って
いくため、最終的な資格を取れるのはほぼ 10 人強と言われる。
応募資格
通訳部:学士ないしそれに相当する資格保持者でかつ B 言語が話されている国
に 12 ヶ月以上、C 言語が話される国に6ヶ月以上通して滞在したことのある者。
入学試験:口頭のみで行なわれる(談話の要約と総合)
翻訳部:大学一般教育免状ないしそれに該当する資格保持者。年齢制限はなし。
入学試験は適性試験とテキストの理解及びまとめ、作文から成る。
適性試験:
[フランス語が A 言語の受験者]言葉のパズル(20 分)、意味的に近
い言葉についての試験(25 分)、分析理解(40 分)
[フランス語が B 言語の受験
者]言葉のパズル(15 分)、文法(20 分)、語彙(15 分)、分析理解(35 分)
入学試験:[3言語選択の受験者]A 言語のテキストに関する2個の質問に A
言語で答え一部を翻訳し、かつ B 言語で作文する(2時間 30 分)。C 言語のテキ
スト理解(1時間 30 分)。(各テキストは 800〜1000 語。解答は 100〜150 語) [2
言語選択の受験者]フランス語テキストに関する2個の質問に別の言語で答え、
一部を翻訳する(1時間 30 分)。英・露・中・独語のいずれかのテキストに関す
る2個の質問に対しフランス語で答え、一部を翻訳する(1時間 30 分)。(各テキ
ストは 800〜1000 語。解答は 100〜150 語)
いずれも辞書は持ち込み禁止。
手話通訳部:大学一般教育免状ないしそれに相当する資格の保持者。フランス
語手話通訳と難聴者について理解のある者。
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真嶋潤子
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入学試験:定員の制限はないので、選抜淘汰試験ではなく能力試験。すべて
口頭で行なわれる。受験者は自分の選んだテーマ(但し複合的なテーマであるこ
と)についてフランス語と手話で説明する。特に語の意味の正確さが問われ、類
似の語についての質問に答えなければならない。フランス語及び手話で各1回
だけなされる談話を翻訳する。ノートを取ることはできない。
(選択言語の段階づけ)
A言語:母語として豊富な語彙と正確かつ闊達な表現が可能
B言語:母語ほどには語彙が豊富ではなく、またアクセントと表現の洗練も多少劣る。但しニュアンスは
完全に理解できなければならない。すべてのことを正確かつ迅速に、失笑を誘わない程度に表現できなけ
ればならない。
C言語:A及びB言語と同様に完全に理解できる。能動的に表現する能力は多少劣る。但し少なくとも媒
介言語としては完全にコミュニケートできることが必要。
学修課程
大学一般教育免状
学士
修士
高等専門教育免状
第1年目
第2年目
第3年目
高等専門教育免状
博士
高等研究免状
翻訳部
(論説・経済・技術翻訳)
通訳部
手話通訳部
第1年目
第1年目
第2年目
第2年目
翻訳学I
高等専門教育免状(会議通訳)
科学技術修士(手話通訳)
1年間
高等研究免状(翻訳学)
翻訳学II
4年間
博士(翻訳学)
(参考)フランスの大学教育制度 (訳語はフランス政府留学局日本支局のホーム
ページによる)
第1課程 D.E.U.G.(大学一般教育免状)(2年間)
第2課程
Licence(学士)(1年目) Maîtrise(修士)(2年目)
第3課程 D.E.S.S.(高等専門教育免状)もしくは D.E.A.(高等研究免状)(各1年間)
定員:言語毎に最低2人最高8人
言語:フランス語から(ドイツ語
イタリア語
英語
アラビア語
中国語
スペイン語
スペイン語
フランス語
ロシア語)
英語から(ドイツ語
アラビア語
中国語
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真嶋潤子
イタリア語
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ロシア語)
その他の言語からは英語とフランス語へのみ
通訳部ではフランス語と英語(A、B、Cいずれの位置づけでもよい)及びもう
一つの言語合わせて3カ国語が必修。加えて第4外国語の選択が薦められる。
例外はフランス語と英語の完全バイリンガル話者。
納付金(翻訳部及び通訳部)
登録料:約 70 €
年間授業料:約 450 €
高等研究免状:150 €
博士課程:225 €
授業
(月曜日〜土曜日
午前8時 30 分〜午後8時 30 分)
翻訳部(3年間)
講義と小教室での指導からなる。小教室での指導は約 20 名の学生を集めて行
なわれる。
第1学年
基礎学習
5モジュール+講義
モジュール1:文献調査法
能動的読解入門
モジュール2:フランス語表現の向上
(フランス語による)
英語表現の向上
中国語表現の向上
モジュール3:B 言語から A 言語への一般的翻訳 C 言語から A 言語への一般
的翻訳(2言語選択の場合 A 言語から B 言語への翻訳)
モジュール4:言語学及び文体論入門
モジュール5:企業と経済環境
(フランス語による)
経済と実業生活
(フランス語による)
第2学年
方法の習得
半期毎8単位+テキスト処理+講義
技術翻訳1・2
経済翻訳1・2
題材論1・2(専門用語
解釈理論
表現の向上1・2(フランス語
論文
研究
欧州という地域について)
B 言語としての英語
その他)
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第3学年
2モジュール+講義
(週9時間授業)
モジュール1:科学技術翻訳(B 言語から A 言語へ)
言語へ)
科学技術翻訳(C 言語から A 言語へ
但し2言語選択の場合を除く)
モジュール2:経済論説翻訳(B 言語から A 言語へ)
言語へ)
経済論説翻訳(C 言語から A 言語へ
科学技術翻訳(A 言語から B
経済論説翻訳(A 言語から B
但し2言語選択の場合を除く)
通訳部
言語:フランス語
クロアチア語
日本語
英語
中国語
ポーランド語
ドイツ語
スペイン語
アラビア語
ボスニア地域のセルビア・
エストニア語
ポルトガル語
ロシア語
ギリシア語
イタリア語
(このうち2〜4の言語を選
択して A、B、C のランクを付け、組み合わせて学修。但しフランス語と英語は
必須)
上記の中に含まれない言語を母語として持つ者に対しては特別規則による授業
(フランス外務省の要請と協力の下に)が提供される。但し同一言語の母語話者2
人以上が登録することが条件。
(欧州連合内での活躍の場が開けることから、ドイツ語ないしイタリア語母語話
者には4カ国語選択を薦める)
入学時には以下のようなことが審査される
1) A 及び B 言語で正確に理解かつ自己表現できなければならない。
2) 日常生活の事項以外に国際政治、経済、社会生活、技術についても十分な知
識があることを示さなければならない。
3) 知識は明晰であることが必要。漠然とした概念や暗記している定型表現で満
足してはならない。
4) 発声の明瞭さ
集中力
記憶力
取得資格
高等専門教育免状(3 ないし4カ国語の会議通訳・英仏語間完全バイリンガル
会議通訳・英仏語間会議通訳)
欧州会議通訳マスター(高等教育専門免状取得者は自動的にこの資格も得る)
その他に大学会議通訳免状(専門職業人向け)の資格準備が可能。この資格取得
者は国際組織及びフランス省庁
の採用試験に応募可能。
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教授陣
通訳部約 40 名
全員 AIIC(国際会議通訳者協会)のメンバー
手話通訳部
第1学年
モジュール1:通訳理論
用語論
モジュール2:手話の歴史
(翻訳部、通訳部との共通授業)
手話通訳入門
(講義)
モジュール3:フランス語及び手話言語の向上
(聾者の教授による実習)
モジュール4:逐次通訳(フランス語→手話、手話→フランス語)
方法論
(実
習)
モジュール5:メモの技法
以上に加え3週間の外部実習とそれに関する 20 ページ程度のレポートが義務
づけられる。
第2学年
モジュール1:文献調査法
特定のテーマについての情報収集とそれについて
の口頭での説明及び質疑応答
モジュール2:聾者の世界(聾者のコミュニティー及びその歴史、知覚のプロセ
ス、学習条件、障害者に関する行政施策、情報伝達の補助手段、教育心理)
モジュール3:手話及びフランス語の向上
(聾者の教授による授業)
モジュール4:同時通訳(歌及び詩の通訳 手話→フランス語
話)
フランス語→手
(講義及び実習)重点は医療、法廷、会議などの場面を想定した同時通訳
モジュール5:学術会議における同時メモの技法
(実習)
以上に加え、最低3週間の外部実習とそれに関する 20 ページ程度のレポート
が義務づけられる。
CIUTI(国際翻訳通訳高等教育機関会議)加盟の教育機関に登録している学生
(例えばマインツ、ハイデルベルク、ザールブリュッケン)を実習生として受け入
れている(6ヶ月間)。
就職先
フランス内外におけるユネスコ等の国連機関、経済協力開発機構、欧州連合機
関。
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真嶋潤子
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その他科学技術・経済産業方面の国際会議、商談に関わる仕事。
ESIT として就職の世話はしないが、卒業生のネットワーク組織による就職先開
拓あり
経済協力開発機構では年間延べ 7000 日・通訳者の仕事あり(3分の2が恒常的
雇用)
75%は英仏語間通訳。残り 25%がその他の言語(ドイツ語、日本語、イ
タリア語など。その他ロシア語の機会が増大中。)
欧州共同体委員会の通訳サービスでは一日平均 280 人の恒常的雇用、250 人の
随時契約による仕事の機会あり。年間では延べ約 10 万日・人
政令 88-423(1988 年4月 22 日)は高校、小学校、中学校、職業高校、大学、国
家の公共サービス部門、地方自治体などで特に ESIT の手話通訳者を優先的に雇
うよう言及
翻訳・通訳学(翻訳学 I)
翻訳・通訳に関わる理論的把握
修学年限:1年間(高等研究免状)
教師養成
学位論文審査
授業
ゼミナール:
20 世紀の翻訳学
翻訳の解釈理論
文芸の翻訳
翻訳教授法
研究領域毎の外部ゼミナール
講義:翻訳・通訳理論
一般言語学入門(1学期)
翻訳方法論(1学期)
文体論
及び修辞論(1学期)
作業:研究の方法論
翻訳学博士課程(翻訳学 II)
4年以内に研究論文を書き上げること
例(バイリンガル環境における翻訳者の
社会言語学的役割、同時通訳者の理解に関する発話形態の影響、会議通訳の適
性検査、翻訳における創造性について、翻訳の学術性について、吹き替えない
し字幕といった新しい翻訳形態について)
入学資格
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最低修士号の資格取得者であること
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最低3年以上の実務経験があること
ページ程度の研究計画書を提出すること
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詳細な履歴書の提出
授業
200〜300 時間の理論及び研究入門ゼミナール(週 12 時間)
特定の専門分野に関わる翻訳・通訳について
ESIT の方針はいかなる文書でも翻訳でき、いかなる談話でも通訳できるオー
ルマイティのプロを養成すること。特定の専門分野に関心のある学生はその都
度希望により学習グループを組み、その分野の専門家の下で2〜5日間の実習
をすることができる。通訳部の講師は外部にも仕事の場を持つ職業通訳である
ため、こうした外部実習を学生の希望に応じて柔軟に組織できる。例えば法律
英語、インターネットによる情報収集、ヨーロッパ共同体法などは関心が高い。
ESIT として司法通訳に特化したカリキュラムを組むことは、危険が大き過ぎ
るのでやっていないとのことである。
感想:
試験や授業内容を見る限り、論理的な思考能力・表現能力が極めて重視され
ているという印象を得た。例えば翻訳部の入試でも、作文では自己の立場を明
確にすることが求められる。
通訳部について言えば、学修課程途中で適性を見定めるための予備課程や試
験などは用意されていないが、これは入学審査の段階で極めて厳しい選抜を行
なっているためだと思われる。通訳部の学生は既に入学時点でかなりの通訳能
力を持っていることが前提で、学修課程はそれを「磨く」ためにあるというの
が基本的な考え方のようである。
ちなみに 2004 年の入学志願者のうち合格者は翻訳部で 142 名、通訳部 32 名
(いずれも留保付きの者を含む)、それに加えて外国人学生(翻訳部のみ)が 16 名い
る。東アジアからは中国9名(A 中国語-B フランス語-C 英語)、韓国1名(A 韓国
語-B フランス語)、日本2名(A 日本語-B フランス語)である。