第 8 回宮地賞受賞者・受賞記念講演要旨

日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
第 8 回宮地賞受賞者・受賞記念講演要旨
• 松浦 健二
(ハーバード大学・進化生物)
シロアリ進化生態学: その社会の総合的解明に向けて
• 近藤 倫生
(龍谷大学理工学部)
複雑な種間相互作用が生物多様性を維持する:
「柔軟な食物網」仮説の提案
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日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
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日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
シロアリ進化生態学:
その社会の総合的解明に向けて
松浦 健二 (Department of Organismic & Evolutionary Biology, Harvard University)
Hamilton が提唱した血縁選択説と包括適応度の概念は様々な社会現象の進化を説明
する学問領域に大きなインパクトを与えた。膜翅目昆虫において真社会性の研究が
飛躍的に進んだ最大の理由は、半数倍数性の膜翅目の社会進化について、血縁度の
雌雄非対称性に基づくコロニー内個体間の利害衝突に着目して仮説を検証していっ
た点にある。しかし、シロアリは膜翅目と全く独立に高度な真社会性を発達させた。
シロアリは両性二倍体であり、血縁度の雌雄非対称性から社会進化を説明すること
はできない。シロアリの社会進化は社会生物学に残された大きな謎のひとつである。
これまで主にヤマトシロアリ属(Reticulitermes)を材料として研究を進めるにあた
り、進化的合理性に基づいたシロアリ社会の総合的解明を基本方針としてきた。シ
ロアリの社会は様々な要素との複雑な関係の上に成り立っている。まず、コロニー
の内部では、コロニーサイズ、カーストの比率、コロニーの栄養状態、性比、血縁
構造などの要素が密接に関係している。そしてこれらの内部要素は、コロニーの営
巣環境、天敵、他コロニーの存在などの外部要素によって影響される。特にシロア
リの食性は腸内微生物との共生関係によって成り立っており、さらに栄養的な関係
以外にも微生物との新たな共生関係が次々に明らかになってきている。これら多数
の要素を個別に解明していくことはもちろん可能であるが、複数の要素を同時に扱
うことによって、1 対 1 の関係からは見えなかった重要な側面が明らかになること
が生態学においては多くある。さらに、要素間の関係の進化的合理性に重点を置く
ことによって、より確実な理解が可能となる。本講演では、シロアリと卵擬態菌核
菌の共生、ヤマトシロアリの単為生殖によるコロニー創設メカニズム、単為生殖と
有翅虫性比の進化、社会性昆虫における性役割の進化など、多角的アプローチなら
ではのあらたな知見を紹介したい。
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日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
複雑な種間相互作用が生物多様性を維持する:
「柔軟な食物網」仮説の提案
近藤 倫生 (龍谷大学理工学部)
何故、これほど多数の種が共存できるか(あるいは、なぜこれだけの数の種しか共
存できないか)という「多種共存メカニズム」の解明は、古典的な群集生態学の大
問題の一つである。この問題に関して、いろいろな種類の種間相互作用に注目した
仮説が数多く提出されているが、その大多数は比較的単純なシステム(例えば、少
数種からなる捕食者-被食者系、競争系など)に注目している点で類似している。し
かし、こうした単純な系からの考察は、複雑な種間相互作用のネットワークでも成
り立つのだろうか?また、相互作用の複雑性それ事態は、多種共存の可能性にどの
ような影響を与えるのだろうか?それらの疑問に答えるには、より複雑な系を考え
る必要がある。
群集内の種間の「食う-食われる」関係を表したグラフを食物網という。「複雑な種
間相互作用ネットワークにおける多種共存」の問題は、食物網研究の分野において、
「食物網の複雑性−安定性問題」として姿を現す。食物網の構造と多種共存の可能性
の間にはどのような関係があるかを問うのである。しかし、この分野で育った中心
的理論は、私たちを困惑させる。なぜなら、種数が多い食物網や、種間相互作用の
数が多い食物網の中では、個体群動態が不安定になる事が、数理モデルを用いた理
論研究によって予測されてきた(May 1973, Pimm 1991)からである。現実には、多
様な生物が驚くほど複雑な種間相互作用のネットワークの中で共存しており、これ
は「複雑な食物網は不安定である」という従来の理論研究の予測と矛盾するように
思える。個体群は、いかにして複雑な相互作用のネットワークの中で存続している
のか?複雑な食物網は、どのようなメカニズムで維持されているのか?
この講演では、私の提唱した食物網の維持メカニズム、
「柔軟な食物網」仮説(Kondoh
2003)を紹介する。従来の理論では生物種間の「食う-食われる」の関係は一定で、
食物網の構造は静的であると仮定されてきた。しかし、実際には、生物は環境の変化
に応じて実際に利用する食物を取捨選択しており、時とともに食物網の構造は刻々
と変化している。数理モデルの解析から、この食物網構造の柔軟性が複雑な食物網
の維持に一役買っている事が分かった。すなわち、この柔軟な食物網構造の下では、
生物間相互作用は環境の変動を緩衝する作用を持つ。その結果、個体群は複雑な食
物網でより絶滅しにくくなる可能性がある。ひょっとしたら、多様な種は「食物網
の複雑性」と「個体群の安定性」との間に生じる正のフィードバックによって維持
されているのかも知れない。
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日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
シンポジウム
• L1 日本生態学会のめざすところ
• L2 北からの視点
• L3 北海道からカムチャッカ
• L4 湿原の自然再生
• S1 ブナ・ミズナラ
• S2 大規模長期生態学
• S3 シカ管理
• S4 アポイ岳高山植物
• S5 流域生態系保全
• S6 空間スケール
• S7 サクラソウ遺伝学
• S8 湿地湿原再生
• S9 東アジア保全管理
• S10 北川生態学術研究
• S11 要望書のききめ
• S12 自然再生
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日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
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企画シンポジウム L1: 日本生態学会のめざすところ
8 月 26 日 (木) A 会場
企画世話人:嶋田正和(東大・広域システム)工藤慎一(鳴門教育大)甲山隆司(北大・地環研)
近年,生物多様性保全や生態系管理など,自然科学と社会の接点に位置し生態学に関連するとされる課題に社会の目が向けられている.それ
に伴って,日本生態学会の中でも,保全生態分野は毎年の大会で多くの講演を集める主要なセッションの一つとなっている.これを受けて当学
会は,保全生態学研究会の雑誌「保全生態学研究」を日本生態学会の第二和文誌として取り込み,保全の研究や関連情報を広く発信することに
した.さらには学会内に新たに生態系管理委員会を設置し,さまざまな環境政策に対して学会としての方針を検討し要望書を出していく体制を,
今までにも増して強化しつつある. しかし,このような形で社会と積極的に関わろうとする日本生態学会の姿勢は,本当に学会を構成する個々人に広く受け入れられているのだ
ろうか?会員個々からの異議申し立ての機会,その是非を時間をかけて議論する場は,これまで明確には用意されなかったように思われる.日
本生態学会は構成員に開かれた組織である.組織運営に構成員の多様な意見を積極的に吸い上げる努力を惜しむべきではないだろう.
生態学が関連する危急の社会的課題に取り組むことは,基礎科学としての生態学に今足りないものは何かを浮かび上がらせ,新たな学問的発
展の機会となるとする見方がある.しかし一方では,このような課題に生態学が取り組むことへの根源的な疑問や批判も存在する.政策提言や
声明・要望書の提出は生態学会の社会的使命の一つと考える会員がいる一方,それらによって科学や学問から離れた次元の論争に巻き込まれる
懸念を表明する会員もいるのである.
日本生態学会はどこへ向かうのか?そして,日本生態学会,ひいては自然科学の学術団体の社会的意義,求められている社会的責任とは何か?
参加者各人にとって,これらを自分自身の問題として考える機会になれば幸いである.
以下,各パネリストが発言予定の意見を,要約して掲載する.
松田 裕之 (横浜国大・環境情報)
保全生態学研究を生態学会に移行する際のおもな議論についてはすでに紹介した (松田 2003:保全生態学研究 8:1-2) .学会は研究者の自由
な連合体であり,応用科学をやってはいけないとか,流行分野の参加者に遠慮しろと執行部が介入すべきではない.保全生態学を含む環境科学
には,
「多元的な価値観をもつ社会が科学的に不確実な情報の下で意思決定する新たな手法に関する科学的研究」が欠かせず,生態学はそれに貢
献すべきである.ただし,要望書の出し方などについては,議論する価値があるだろう.社会に関与すべきでないとは思わないが,科学的根拠
を解明して社会に発信することが本学会の使命である.
巌佐 庸 (九大・理・生物)
保全生態学に対する興味の高まりは日本の生態学だけの特殊事情ではなく,アメリカやヨーロッパを含めた世界的な潮流といえる.20 年前に,
哺乳類の最適捕食の Belovski, や性淘汰理論の Lande,ショウジョウバエ遺伝学の Frankham,群集構造と安定性の Pimm といった様々な分野で活
躍していた研究者が,ここの 10 年ほどは保全に関連した分野に集中して成果を上げている.
保全という応用分野のテーマが社会から問われているときに,その基礎に生態学や進化学が寄与できることがあるかどうかを考えてみるのは,
それらの分野に発展の機会を与えてくれるよい機会だと思う.応用の問題は解くべき課題がはっきりしているため,それがいまの生態学の弱点
を明確にしてくれるからだ.
実際,地球環境変化に関連して「CO2 の上昇が植物群落にどのような影響をもたらすか」「種の多様性が高いほど生態系機能が優れるのかどう
か」といった具体的な明確な課題に答えようという努力が生理生態学や群集生態学にもたらした発展は,過去 15 年の生態学の中でも重要であっ
た.保全についても「遺伝的劣化はどの程度重要か」とか「どのような生活史や生息地をもつ種が絶滅危惧種になりやすいか」などについては,
遺伝学にもとづいたメタアナリシスや種間比較法を駆使してここ数年ですばらしい発展がなされた.これからの発展方向の1つとしては、保全
の基本を理解するにあたり,人間活動の影響と生物の分布などの変遷を追究するという分野が重要と思う.それによって,生態学が古生物学や
人の考古学と結びつき,現在の生物の地理的分布を決定する要因と過去の分布の復元といった,大きな時間スケールおよび空間スケールに関連
した発展が生態学に新たなディメンジョンを与えてくれるのではないかと期待している.シンポジウムでは,保全に関連したテーマからどのよ
うな基礎生態学の発展がありうるかについて皆で議論ができればと思う.
平川 浩文 (森林総研・北海道)
私は,シンポの議論の基礎として科学と価値の関係について整理を試みたい.科学とは事象を把握し,その原理を探るための方法論である.
科学を純粋に知的好奇心のために行えば純粋科学,それ以外の目的で行えば応用科学である.科学が問うのは事の真偽であり,善悪などの価値
判断は科学の枠組みの外にある.一方,科学者はまず人間であり,人間は本質的に価値判断から逃れられない.応用科学の目的は価値判断に由
来し,応用科学者はその下で科学を行う.科学者であっても価値判断に基づく主張はあってよい.但し,科学的見解と価値判断との明解な区別
が必要である.保全生態学では科学と価値の関係が曖昧にされてきた.その例に「生物多様性」概念をめぐる混乱がある.
岡本 裕一朗 (玉川大・文)
私は哲学・倫理学を研究している者で,あくまでも「生態学会」の外部から意見を述べることしかできない.この制約を自覚の上で,議論に
参加させて頂きたい.私の見たところ,今回問題になっているのは,
「科学的研究としての保全生態学」と「社会的参加」の関係をどう考えるか,
ということであろう.そこで,私は, (1) 科学的研究の意味, (2) 社会的参加のあり方, (3) 両者の関係――個人の場合と学会全体の場合,の三
点に即して,検討してみたい.私としては,
「科学的研究」と「社会的参加」の間には原理的な断絶があるので,
「学会全体として統一見解」を出
すことには,無理があると考える.
工藤 慎一 (鳴門教育大)
「保全」とは,我々 (個人あるいは社会) の意思に基づく行動である.私は,
「保全という意思決定を科学的に行う」ことの可否に焦点をあてて
意見を述べたい.まず,科学的な意思決定に必要な条件と思考手順について論じる.次に,これを「保全」に適用した場合,必然的に生じる矛
盾や問題を指摘する.生態学の成果は「すべきこと」を決める過程で参照材料となるだろうが,生態学が「すべきこと」を決めることはできな
い.保全という意思決定を扱うのは生態学 (自然科学) ではないと考える.こうした見解に基づいて,日本生態学会が果たすべき社会的責任と役
割について論じたい.
粕谷英一 (九大・理・生物)
私は生態学の持続的な発展には,基礎的な (純粋科学と言い換えてもよい) 生態学が盛んであることが欠かせないと考えている.生態学が明
らかにしてきた個体群や群集あるいは生態系などにおける規則性に基づく自然それ自体への興味を”生態学マインド”と呼ぶことにしよう.近年,
そのような”生態学マインド”に,保全にかかわりのある研究が増加する中で,影が差し始めているように感じている.基礎科学は,簡単になく
なったりはしないという意味ではしぶといが,ひよわな生き物なので,いつも盛んであるように努力が必要である.その努力とは,おそらく,保
全を切り離すことではない.むしろ,応用的であろうがなかろうが,そこに生態学的な興味があれば食いつくことである.基礎的な生態学が盛
んであってほしいと考える生態学者は2つの面で責任を果たす必要があると思う.1つは基礎的な生態学が盛んであるようにする意識的な動き
である.たとえば,学会などの集会 (自由集会やシンポジウムなど) 等の企画や総説を書くことが含まれる.もう1つは研究の動機が応用的なも
のであろうが基礎的 (いわゆる純粋科学) なものであろうが,”生態学マインド”に基づいて研究内容にきびしくあることである.
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L1
(前のペイジの企画シンポジウム L1 の要旨レイアウトはシンポジウム企画者のデザインによるものです)
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企画シンポジウム L2: 北からの視点
L2-1
09:30-12:30
L2-1
8 月 27 日 (金) A 会場
L2-2
09:30-12:30
北の一様,南の多様:大規模多種力学系の理論から
◦
時田 恵一郎1
1
大阪大学サイバーメディアセンター (http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/%7Etokita/)
(NA)
L2-3
様々な生態系において、種の数とそれぞれの個体数を調べると、ある特
徴のあるパターンが普遍的に見られることが知られている。そのよう
な、いわゆる種の豊富さのパターンを決定するメカニズムの解明は、環
境保全に関わる巨大な分野に大きな影響を与えることが予想される一方
で、R. May のいう「生態学における未解決問題」の一つであり、これ
まで論争の的となってきた。種の豊富さのパターンについては、様々な
モデルが、単一の栄養段階のニッチに対する競争的な生態学的群集に適
用されてきたが、より複雑な系に対しては謎が残されている。そのよう
な系とは、複数の栄養段階にまたがり、補食、共生、競争、そして分解
過程をも含む、多様な型の種間相互作用をもつ大規模で複雑な生態系で
ある。本講演では、そのような多様な生態学的種間相互作用をもつロト
カ・ボルテラ方程式と等価な、多種レプリケーター力学系に基づく種の
豊富さのパターンについての理論を紹介する。この理論により、生態系
の生産力や成熟の度合いに関係する単一のパラメータに依存して、様々
な地域、様々な種構成における種の豊富さのパターンや、その時間変化
などが導かれる。また、パラメータの値の広い範囲で、個体数の豊富さ
の分布が、野外データによく合致する、左側に歪んだ「カノニカル」な
対数正規分布に近い形になることも示す。さらに、よく知られる生産力
と種数の関係も得られ、面積と生産力にある関数を仮定すると、有名
な種ー面積関係が再現されることも示す。これらの巨視的なパターン
の、野外や実験における検証可能性についても議論する。(English ver.:
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/%7Etokita/Papers/2004 8ESJ.pdf)
09:30-12:30
増えるも減るもお里次第:北方性魚類の資源変動と気候変動
◦
森田 健太郎1, 福若 雅章1
1
北海道区水産研究所
魚類資源の変動機構は、古くから水産業研究の中核課題となってきた。中で
も、サケ、タラ、ニシンといった北方性の魚類は昔から食卓に上がることが
多く、比較的長期の漁獲データが蓄積されている。本発表では、これらの北
方性魚類を例に、魚類の個体群動態について紹介したい。まず、大きな特徴
として上げられるのは、再生産関係(親子関係)の不明瞭さである。これは、
観測誤差やプロセス誤差が大きいことによるものなのか、それとも、強い密
度依存性が働いているためなのか論争がある。いずれにせよ、親魚の量とは
独立に稚魚が沸いてくるような場合が少なくない。タラやニシンでは、卓越
年級群と呼ばれるベビーブームによって漁業が成り立っている(いた)と言っ
ても過言ではない。そして、そのベビーブームの発生は海水温とリンクして
いることが多い。興味深いことに、産卵場が北にある個体群では水温と稚魚
の豊度に正の相関が見られ、産卵場が南にある個体群では水温と稚魚の豊度
に負の相関が見られている。また、北太平洋全体の大きなスケールの気候変
動として注目を浴びているものに、アリューシャン低気圧の大きさがある。北
太平洋のサケの漁獲量は20世紀後半に著しく増大したが、これはアリュー
シャン低気圧が活発になってきたこととリンクしている。アリューシャン低
気圧が活発になり強風が吹くと、湧昇や鉛直混合が強まり一次生産が高まる
というメカニズムがあるらしい。実際、冬の風の強さと夏の動物プランクト
ン量に強い相関があるという報告もある。以上のように、海水温やアリュー
シャン低気圧の大きさが魚類の資源変動と相関しているという知見は多い。
しかし、海の中を調べるのは容易ではなく、その因果関係を解明するのは難
しい。海水温と卓越年級群の相関も、水温の直接効果ではなく、餌や海流な
どを介した相関であると考えられている。魚類の資源変動と気候変動の因果
関係は今後の研究課題である。
L2-4
09:30-12:30
高緯度ほど強くなる植食性昆虫の寄主選好性:化性-変動仮説の検証
◦
石原 道博1
1
大阪女子大学
植食性昆虫の多くには特定の植物種や植物個体への選好性が見られる。一
般に植食性昆虫の幼虫は移動能力に乏しいため、メス成虫が幼虫の生存や発
育に良好な質の高い寄主植物を選んで産卵することは適応的であると考えら
れる。一方で、産卵する植物が必ずしも子の生存や発育にとって良好な植物
でない場合も多くの昆虫種で報告されている。この矛盾の理由として捕食者
の存在など様々な要因が考えられているが、植物の質に生じる時間的変動も
重要な要因の 1 つである。もし植物の質が時間的に変動し、その変化パター
ンが植物種間あるいは個体間で異なるならば、質の高さの順位が季節によっ
て入れ替わってしまうことも頻繁に生じるだろう。このような場合には、特
定の植物種あるいは植物個体への選好性を植食性昆虫が進化させることは難
しくなると考えられる。特に、植食性昆虫が多化性で、かつ多食性であるな
らば、シーズンが長い低緯度ほどこのようなことが起こりやすいだろう。反
対に、高緯度では、寄主植物のシーズンが短く、昆虫の世代数も減少するた
め、昆虫が寄主植物から受ける質変動の影響は低緯度よりも小さくなり、昆
虫に質の高い特定の寄主への選好性が進化しやすくなると考えられる。この
考え方は、南北方向に広範囲に生息する植食性昆虫の場合には、高緯度ほど
寄主選好性が強くなることを予測する。本研究ではこの予測を化性-変動仮
説(Voltinism-Variability Hypothesis)と呼ぶことにする。演者らは、温帯地
方から冷帯地方にわたって広く分布し、ヤナギ類を広く寄主として利用する
ヤナギルリハムシを用いて、この仮説の検証を試みた。本講演ではその結果
が化性-変動仮説を支持するものであるかを検討したい。
— 81—
L2-5
企画シンポジウム L2: 北からの視点
L2-5
09:30-12:30
潜水性海鳥の分布と体温維持機構
◦
新妻 靖章1
1
名城大学農学部
ペンギン類やウミスズメ類に代表される潜水性の海鳥類は,主に極域と
いった冷たい海に限定され分布している。それら海鳥の分布を限定する
要因は,餌の有無といった生態的な要因,捕食者を隔てる繁殖地の有無
といった物理的要因などがあるだろうが,本公演では,海鳥類の潜水時
における生理的要因から考察する。
潜水性の内温動物の生理的な特性,例えば心拍や体温,をモニターする
ためにはデー・ロガーを用いることで可能である。この研究分野は,近年
Data-logging Science として急速に発展した。この技術を用いて,ハシブ
トウミガラス(Uria lomvia)の潜水行動と体温を同時に記録することに
成功した。
ペンギン類やウミスズメ類は南極や北極の海洋生態系の高次捕食者であ
り,その潜水性能は高い体温を維持することによって達成されると考え
られている。高い体温下では,筋収縮に関する酵素の活性を上げること
ができ,すばやい酵素反応は大きな力を生むことができる。しかし,水
は空気に比べて 25 倍早く熱を奪うため,海鳥のような小さな動物が極
域といった寒冷な海に潜り,体温を維持することができるのだろうか?
それに加え,高い体温は肺,血液,筋肉などに蓄えた酸素を早く消費し
てしまう。どのようにして,潜水時間を長くすることができるのだろう
か?などなど,疑問は多い。はじめにウミガラスの潜水時における体温
維持機構について考察する。小さな海鳥類の体温維持機構について明ら
かにしたうえで,生理学の面から見た場合,このような海鳥類が暖かい
海に進出することができるのかについて,極単純化した熱収支モデルか
ら予想する。
— 82—
8 月 27 日 (金) A 会場
企画シンポジウム L3: 北海道からカムチャッカ
L3-1
09:30-12:30
L3-2
◦
高橋 英樹1
沖津 進1
1
1
千葉大学園芸学部
北海道大学総合博物館
1994 年から 2000 年にかけて、米・露・日の生物分類学者が毎年 30 名以
上参加して、国際千島列島調査 International Kuril Island Project が行われ
た。このうち 4 回の調査に参加することができ、千島列島における維管
束植物フロラの概要を把握することができた(高橋 1996, 2002)。この国
際調査の概要について紹介する。昆虫、貝類、植物の生物地理学的なまと
めは Pietsch et al. (2003) でおこなわれ、これまで生物分布境界線として
択捉島とウルップ島の間に引かれていた「宮部線」よりも、ウルップ島と
シムシル島の間のブッソル海峡(以下、
「ブッソル線」と仮称する)に北
方系と南方系とを分かつ重要な生物地理学的境界がある事が明らかにさ
れた。「宮部線」は植生学的な境界線であり、「ブッソル線」は分類地理
学的な境界線と解釈されているが、両者の違いと意義について解説する。
千島列島とその周辺での種内レベルの地理的分化の例として、エゾコザ
クラ(Fujii et al. 1999)とシオガマギク(Fujii 2003)の葉緑体DNA研
究を取上げる。エゾコザクラにおいては氷河期を通して、数回の南北移
動があったことを示唆する。またシオガマギクでは千島とサハリンとの
二つのルートを移動した個体群間には遺伝的な分化があることが示され
ている。さらにエゾコザクラの花の多型性の頻度分布は、大陸に近い島
と、列島中部で孤立した島とで差異が認められ、生態学的な意味がある
と推測される。
戦前に採集されたサハリン・千島の標本をも有効に利・活用しながら
採集標本のDB化作業をおこなっている。サハリン–千島列島間での現存
個体数を比較するための間接的で簡便な指標として S-K index を考案し
た。裸子植物、ツツジ科、シダ類等の植物群の植物地理学的な考察をこ
の S-K index を使って試みる。
L3-3
09:30-12:30
カムチャツカにおける植生動態と環境変動
◦
09:30-12:30
北海道 ∼ カムチャツカの植生分布とその成因
国際共同研究による千島列島フロラの特性研究
◦
L3-1
8 月 28 日 (土) A 会場
原 登志彦1
1
北海道大学 低温科学研究所
ロシア・カムチャツカの西側に位置するオホーツク海は、北半球で最も
低緯度の季節海氷域として知られている。そのカムチャツカの氷河やオ
ホーツク海において気候変化の影響が近年徐々に現れており、いくつか
の例をまず紹介する。そのような地球規模での環境変化に最も大きな影
響を受けるのは北方林であろうといわれているが、その詳しいメカニズ
ムはまだ解明されていない。そこで、我々は、カムチャツカにおける北
方林の成立・維持機構や植生動態を北方林樹木の環境応答の観点から解
明することを目指し研究を行っている。北方林が存在する寒冷圏は、低
温と乾燥を特徴としており、我々はそのような環境条件下で増幅される
と予想される光ストレスに注目して研究を進めている。例えば、成木の
枯死によって形成される森林のギャップに実生が定着し森林更新が起こ
ること(ギャップ更新)が熱帯や温帯ではよく知られているが、カムチャ
ツカの北方林ではギャップ更新ではなく、成木の樹冠下に実生が定着し森
林更新が起こること(樹冠下更新)を我々は発見した(日本生態学会大
会 1999 年、2000 年;Plant Ecology 2003 年)。このような北方林の更新
メカニズムに光ストレスがどのように関与しているのか、そして、近年
の環境変動が北方林の動態に及ぼすと予想される影響などについて話を
進めたい。
北東アジアの北方林域を対象に,主として沿岸から海洋域にかけての森
林分布を整理し,優占樹種の生態的性質の変化に着目して森林の境界を
類型化した後,それぞれの森林境界決定機構を考察,展望した.北東ア
ジア北方林域における森林分布は複雑で多様である.内陸域ではグイマ
ツが広い面積にわたって優占する.沿岸域では,南部ではチョウセンゴ
ヨウが優占するが,北にむかうとエゾマツの分布量が増加し,さらに北
ではグイマツ林に移行する.海洋域では落葉広葉樹優占林が広がり,サ
ハリンではエゾマツ優占林となる.エゾマツ優占林は山岳中腹斜面に分
断,点在し,低地では分布が少ない.さらに海洋度が著しいカムチャツ
カ半島ではダケカンバ林が分布する.陽樹が広範囲にわたって植生帯の
主要構成種となっていることが特徴である.大陸部でのグイマツ,カム
チャツカ半島におけるダケカンバ,沿海地方におけるチョウセンゴヨウ
がその例である.そのなかでも,グイマツ優占林の広がりが大きい.森
林境界は主なもので 6 タイプあり(モンゴリナラ–エゾマツ,チョウセン
ゴヨウ–エゾマツ,エゾマツ–グイマツ,チョウセンゴヨウ–グイマツ,エ
ゾマツ–ダケカンバ,ダケカンバ–グイマツ),境界構成優占樹種の生態
的性質はそれぞれ異なった変化をみせる.北東アジア北方林域では,大
陸度–海洋度の傾度が著しく,永久凍土が沿岸域近くにまで分布し,さら
に,沿岸,海洋域では山岳地形が卓越する,という自然環境が複合的に
作用して,陽樹,特にグイマツ優占林の広がりが大きい森林分布が成立
すると推察される.いっぽう,ヨーロッパや北米大陸東部の北方林域で
は普通な,落葉広葉樹林–常緑針葉樹林という移り変わりは,冬季に比較
的温暖かつ湿潤な地域に限られるため,それが現れる分布域は広くない
のであろう.
L3-4
09:30-12:30
北方四島の海洋生態系 ∼ 北方四島調査の概要と課題 ∼
◦
小林 万里1
1
学術振興会・特別研究員
北方四島および周辺海域は第2次世界大戦後、日露間で領土問題の係争地域で
あったため、約半世紀にわたって研究者すら立ち入れない場所であった。査証
(ビザ) なしで日露両国民がお互いを訪問する「ビザなし交流」の門戸が、1998
年より各種専門家にも開かれたため、長年の課題であった調査が可能になった。
1999 年から 2003 年の 5 年間に 6 回、北方四島の陸海の生態系について、
「ビ
ザなし専門家交流」の枠を用いて調査を行ってきた。その結果、択捉島では戦前
に絶滅に瀕したラッコは個体数を回復しており、生態系の頂点に位置するシャ
チが生息し、中型マッコウクジラの索餌海域、ザトウクジラの北上ルートになっ
ていること、また南半球で繁殖するミズナギドリ類の餌場としても重要である
ことも分かってきた。歯舞群島・色丹島では 3,000 頭以上のアザラシが生息し、
北海道では激減したエトピリカ・ウミガラス等の沿岸性海鳥が数万羽単位で繁
殖していることが確認された。
北方四島のオホーツク海域は世界最南端の流氷限界域に、太平洋側は大陸棚が
発達しており暖流と寒流の交わる位置であることや北方四島の陸地面積の約 7
割、沿岸域の約 6 割を保護区としてきた政策のおかげで、周辺海域は高い生物
生産性・生物多様性を保持してきたと考えられる。
一方、陸上には莫大な海の生物資源を自ら持ち込むサケ科魚類が高密度に自然
産卵しており、それを主な餌資源とするヒグマは体サイズが大きく生息密度も
高く、シマフクロウも高密度で生息している明らかになった。海上と同様、陸
上にも原生的生態系が保全されており、それは海と深い繋がりがあることがわ
かってきた。
しかし近年、人間活動の拡大、鉱山の開発、密猟や密漁が横行しており、
「北方
四島」をとりまく状況は変わりつつある。早急に科学的データに基づく保全案
が求められている。そのために今後取り組むべき課題について考えて行きたい。
— 83—
L3-5
企画シンポジウム L3: 北海道からカムチャッカ
L3-5
09:30-12:30
オホーツク海の環境変動と生物生産
◦
中塚 武1
1
北海道大学低温科学研究所
北大低温研では、98 年から 4 年間、オホーツク海の物理・化学・地質
学的な総合観測を進めてきた。また現在は、総合地球環境学研究所と連
携して、アムール川から親潮域に至る、陸から海への物質輸送が生物生
産に与える影響についての総合研究プロジェクトを推進中である。本講
演では、それらの成果や目標を踏まえて、オホーツク海の生物生産、特
に基礎生産の規定要因について議論する。オホーツク海の物理・化学環
境は、(1)世界で最も低緯度に位置する季節海氷、(2)半閉鎖海に流入
する巨大河川アムールの存在によって特徴付けられる。東シベリアから
の季節風によって生じる(1)は冬季の海洋環境を過酷にする反面、海氷
と共に生成される高密度水(ブライン水)は海水の鉛直循環を活発にし、
窒素やリン、シリカ等の栄養塩を海洋表層にもたらして春季の植物プラ
ンクトンブルームを引き起こす。また有機物を豊富に含む高密度水塊を
大陸棚から外洋中層へ流出させ、特異な中層の従属栄養生態系を発達さ
せている。(2)はそれ自身が海氷形成を促進する一方、栄養塩、特に北
部北太平洋で基礎生産を制限している微量元素である鉄を大量にもたら
すことで、当海域の生産を支えていると考えられている。現在のオホー
ツク海では、その高い栄養塩・鉄濃度を反映して、主たる一次生産者は珪
藻であるが、珪藻の繁栄は約 6000 年前から始まったばかりであり、そ
れ以前の完新世前期には、円石藻などの外洋の温暖な環境に適応した藻
類が繁茂していたことが明らかとなった。海の植物相が劇変した時期に、
アムール川周辺では鉄の源である森林の形成が進み、海では寒冷化が進
んだ。こうした事実は、オホーツク海の生物生産を支える原動力が、過
去 ∼ 現在を通じて、アムール川からの物質供給と海水の鉛直循環にあ
ることを意味しており、近年の地球温暖化はオホーツク海の生物相の大
きな変化をもたらす可能性があることを示唆している。
— 84—
8 月 28 日 (土) A 会場
企画シンポジウム L4: 湿原の自然再生
L4-1
09:30-12:30
釧路湿原流域の現状と課題、そして再生の考え方
◦
L4-2
◦
星野 一昭1
1
1
環境省東北海道地区自然保護事務所
北海道大学大学院
釧路湿原は釧路川流域の最下流端に位置し、土地利用に伴う汚濁負荷の
影響を累積的に受けている。汚濁負荷のうち特に懸濁態のウォッシュロー
ドは、浮遊砂量全体の約 95%にのぼる。既存研究より、直線化された河
道である明渠排水路末端(湿原流入部)で河床が上昇し、濁水が自然堤
防を乗り越えて氾濫していることが明らかになっている。Cs-137 による
解析から、細粒砂堆積スピードは自然蛇行河川の約5倍にのぼり、湿原
内地下水位の相対的低下と土壌の栄養化を招いている。その結果、湿原
は周辺部から樹林化が進行しており、木本群落の急激な拡大が問題になっ
ている。こうした現状を改善するために、様々な保全対策が計画ならび
に実施されつつある。釧路湿原の保全対策として筆者が考えていること
は、受動的復元(passive restoration)の原則であり、生態系の回復を妨げ
ている人為的要因を取り除き、自然がみずから蘇るのを待つ方法を優先
したいと思っている。さらに、現在残っている貴重な自然の抽出とその
保護を優先し、可能な限り隣接地において劣化した生態系を復元し、広
い面積の健全で自律した生態系が残るようにしたい。そのために必要な
自然環境情報図の構築も現在進行中であり、地域を指定すれば空間的串
刺し検索が可能な GIS データベースを時系列的に整備し、インターネッ
トによって公開する予定である(一部は公開済み)。
09:30-12:30
釧路湿原再生における河川管理者の取組み
◦
09:30-12:30
釧路湿原の保全と再生−釧路方式がめざすもの
中村 太士1
L4-3
L4-1
8 月 29 日 (日) A 会場
平井 康幸1
1
国土交通省北海道開発局釧路開発建設部
釧路湿原の保全と再生に関しては、平成 13 年 3 月に取りまとめられた
「釧路湿原の河川環境保全に関する提言」をベースにこれまで種々の検討
がなされ、平成 15 年 11 月の釧路湿原自然再生協議会発足後も、その
内容を引き継ぐ形で各種の検討を進めている。提言では釧路湿原の環境
を保全する当面の目標として、流域から湿原に流入する土砂などの負荷
をラムサール登録時の 1980 年レベルまで戻すこととし、目標達成のた
めの具体的な施策として 12 の施策を掲げ、流域全体で取り組むことと
している。
河川管理者が当面計画している主な事業としては、
「湿原へ流入する土砂
流入の防止」、「蛇行する河川への復元」、「水循環系に資する調査」など
があるが、とくに「蛇行する河川への復元」のうち、茅沼地区について
は提言の 12 施策の中でも概ね5年以内に実施するとされていたことも
あり、当時から先行的に各種検討を進めている。
茅沼地区の直線化工事は昭和 48 年から 55 年にかけて行われたもので、
周辺の土地の農地への利用及び上流地区の治水を目的としていた。しか
し、直線化区間で予定されていた農地利用の構想は断念され、現在も未利
用のまま残されている。当該事業は土地利用上の制限が少ないことも優
先的に復元することが計画された理由のひとつであるが、その復元の実
施計画の立案に当たっては、単に蛇行区間の復元に関する目標設定、施工
計画、モニタリング手法等の課題だけではなく、未利用地を含めた周辺
区域をどうすべきかという基本的なビジョンの作成が課題となっている。
講演では、これまでに検討してきた経緯、蛇行復元計画(復元区間、河
道計画、施工計画)、環境調査及びモニタリングの考え方、現地試験掘削
調査の結果等について報告することとしたい。
今、何も手を打たなければ釧路湿原の消失・劣化はさらに進行する。こ
うした危機感が背景となって自然再生の取り組みが始まった。湿原の悪
化傾向に歯止めをかけ回復に転じるための提言がまとめられ、すべての
主体に対して具体化のための行動を起こすよう呼びかけがなされた。環
境省も国立公園や野生生物保護行政を一層強化するとの考え方に立って
取り組みを開始した。その際、
「自然環境の保全・再生」−今ある良好な
自然の保全を優先し、加えて傷ついた自然の再生、修復を進めることに
よって健全な生態系を取り戻すこと−、
「農地・農業等との両立」、
「地域
づくりへの貢献」をめざすことにした。
釧路湿原は流域の末端に位置し、土砂や栄養塩の流入など流域の人間
活動に伴う様々な影響を受けている。森−川−湿原が密接に繋がり合っ
ている。湿原は国立公園に指定されているが、その区域だけでなく流域
全体で湿原への負荷を減らしていかなければ湿原は十分に保全できない。
そして河川、農地、森林、国立公園などの行政間の縦割りを取り払うこ
と、また流域住民が自らの問題として捉え生活スタイルを問い直してい
くこと、すなわち多様な主体の連携・参加が湿原の保全・再生のために
欠かせない。
このような流域の視点を常に持ちつつ、湿原の悪化に密接な関わりの
ある湿原周辺部から地域特性に応じたパイロット的な事業を行うことに
した。例えば、湿原南端の広里地域では、農地開発した跡地を再び湿原
に再生するための調査や実験を進めている。また達古武沼の集水域では、
NPOとの協働によって自然豊かな森を再生するための調査、計画づく
りや、湖沼の水質、生物相回復に向けた調査を実施している。これらの
実践を通じて、調査、目標設定から事業実施、モニタリング・評価に至
る一連の事業の進め方や考え方を釧路方式として整理し発信することに
している。その内容について紹介したい。
L4-4
09:30-12:30
釧路湿原再生のための現地調査報告
◦
中村 隆俊1
1
北海道教育大学
釧路湿原で行われている自然再生事業では、湿原生態系の劣化状況の
把握やその原因の特定および保全・再生方法の模索が試みられている。そ
のモデル地区の一つとして詳細な調査が行われているのが、釧路湿原の
辺縁部にあたる広里地区である。
広里地区の一部は、かつて排水路の掘削や土壌改良資材の投入により
一時的に農地改変されたのち放棄されたまま現在に至っており、隣接する
河川についても流路切り替え工事により上流と分断されているなど、様々
な人為的攪乱の痕跡が広里地区内には存在している。また、そのような直
接的攪乱を受けていない部分では、ここ数十年間で湿性草原からハンノ
キ林への急激な樹林化が広範囲で進行している。このような広里地区の
特徴は、釧路湿原の辺縁部一帯や国内の多くの湿原が抱えている湿原保
全上の問題点(一時的農地改変や樹林化)と重なる部分が多く、湿原保
全・再生方法開発に関するモデル地区としての重要な要素となっている。
2002 年度から開始された現状調査では、広里地区における植生と環
境要因の対応関係を農地改変とハンノキ林増加という視点で整理し、湿
原生態系保全の立場から植生的な劣化とそれに対応する環境的劣化の評
価を試みた。さらに、03 年度からは、ハンノキ伐採試験区および地盤掘
り下げ試験区の設置を行い、それらの試験区における植生と環境の挙動
に関するモニタリングや、近隣河川の堰上げを想定した地下水位シミュ
レーションのための基礎調査など、最適な保全・再生手法開発のための
データ収集を続けている。
現段階では、隣接河川の分断が放棄農地部分での乾性草原化を招いて
いることや、ハンノキ林の分布と高水位時の水文特性が密接な関係にあ
ること、ハンノキ伐採によりミズゴケ類が枯死すること等が明らかとなっ
ている。発表では、これまでの主な調査・解析結果について紹介すると
共に、今後の展開についてお話ししたい。
— 85—
L4-5
企画シンポジウム L4: 湿原の自然再生
L4-5
09:30-12:30
(NA)
— 86—
8 月 29 日 (日) A 会場
公募シンポジウム S1: ブナ・ミズナラ
S1-1
09:30-12:30
日本のブナ属における遺伝的多様性と系統地理
◦
◦
1
名古屋大学大学院生命農学研究科
日本列島は北東から南西に長く、それに沿うように数多くの山脈が伸
びている。このような日本列島に分布する植物は、氷期と間氷期のよう
な気候変動に対して太平洋側や日本海側を北上しまたは南下し、あるい
は山腹を上昇しまたは下降して生育適地を求めてきた。現在の植物種が
保有する遺伝的多様性と遺伝的構造は、このような過去の分布域の変遷
と集団サイズの拡大・縮小を反映していると考えられている。特に、母
性遺伝し、遺伝子流動が種子散布に限られるオルガネラ(葉緑体とミト
コンドリア)には、過去の分布移動をよく反映した遺伝的構造がみられ
ることがある。歴史的に形成された遺伝的構造、すなわち集団の系統の
地理的分布は特に系統地理と呼ばれるている。
私たちの研究グループは、日本の冷温帯の夏緑広葉樹林を代表する樹種
であるブナ(Fagus crenata)を中心に同属のイヌブナ(Fagus japonica)も
対象として、核ゲノムにコードされるアロザイム、葉緑体 DNA(cpDNA)
とミトコンドリア DNA(mtDNA)を遺伝マーカーとして、両種の遺伝
的多様性と遺伝的構造を調べてきた。その結果、両種が保有する核ゲノ
ムとオルガネラゲノムの遺伝的多様性と遺伝的構造には少なからず集団
の歴史が反映されていることがわかった。特に、ブナの cpDNA 変異と
mtDNA 変異には、興味深い系統地理学的構造がみられ、過去の移住ルー
トを示唆していると考えられた。
09:30-12:30
ブナ分布北限域におけるブナとミズナラ
◦
S1-2
09:30-12:30
完新世、中央ヨーロッパ山岳における欧州ブナの移動と集団的拡大の
動き
戸丸 信弘1
S1-3
S1-1
8 月 28 日 (土) D 会場
小林 誠1, 渡邊 定元2
1
立正大学大学院地球環境科学研究科, 2森林環境研究所
北海道の黒松内低地帯には,日本の冷温帯域の主要構成種であるブナ
(Fagus crenata)の分布北限域が形成され,以北(以東)の冷温帯域には,
ミズナラなどの温帯性広葉樹と針葉樹とからなる針広混交林が広く成立
している。この現在のブナの分布域と分布可能領域との不一致について
は,様々な時間・空間スケール,生態学的・分布論的研究アプローチに
よってその説明が試みられてきている。
植生帯の境界域においてブナや針広混交林構成種には,どのような生
態的特徴,個体群の維持機構が見られるのだろうか?植生帯の境界域に
おけるこれら構成種の種特性を明らかにすることは,植生帯の境界域形
成機構の解明に際して,重要な知見を与えるだろう。これまで渡邊・芝野
(1987),日浦(1990),北畠(2002)などによって,北限のブナ林にお
ける個体群・群集スケールの動態が明らかになりつつある。本研究では
これら従来の知見を基礎とし,最北限の「ツバメの沢ブナ保護林」にお
ける調査によってブナとミズナラの動態を検討した。
ツバメの沢ブナ林においてブナ林は北西斜面に,ミズナラ林は尾根部
に成立し,両者の間には混交林が成立している。1986 年に設定された調
査区の再測定と稚幼樹の分布調査から,(1) ブナとミズナラの加入・枯死
傾向は大きく異なり,ブナは高い加入率と中程度の枯死率で位置づけら
れたが,ミズナラは加入・枯死率ともに小さかった。(2) ブナの稚幼樹は
ブナ林内・ミズナラ林内においても多数見られ,ブナのサイズ構造から
も連続的な更新が示唆されたが,ミズナラの稚幼樹はほとんど見られな
かった。(3) ブナは調査区内において分布範囲の拡大が見られたが,ミズ
ナラには見られないことなどが明らかになった。これらのことは,分布最
北限のブナ林においてブナは個体群を維持・拡大しているのに対し,ミ
ズナラの更新は少なく,ブナに比べ 16 年間における個体群構造の変化
は小さいことが明らかになった。
すぱいやー まるていん1
1
ハノーバー大学地植物学研究所
On the basis of new palaeoecological and genetical data from Central European mountain areas the Holocene processes of migration and mass expansion
of beech (Fagus sylvatica) can be reflected as result of climate and human influence as well. In contrast to former models of vegetation dynamics both
effects on the development of Central European beech forests can be differentiated now by using a spatial and temporal distribution model which includes
elevation as an important environmental factor.
According to pollenanalytical studies these beech populations did not futher
migrate into the large plain area of Northwest Germany after having conquered the central mountainuous areas. According to the genetical and
palaeoecological data we can conclude that the Northwestern part of Germany, France and the Netherlands might be settled by different beech populations which did not mix with these southeastern proviniences in spite of the
fact that man opened the landscape by distroying the former Atlantic mixed
deciduous forests which could have provided a wider distribution of beech.
In the plains of Northwest Germany Fagus sylvatica appears 3000 years later
and than continuously formed small beech forest which reached their full size
during historic times.
S1-4
09:30-12:30
苗場山ブナ林における分光反射特性を利用したアップスケーリング
◦
角張 嘉孝1, 高野 正光1, 横山 憲1, 向井 譲2, さんちぇす あるとろ3
1
静岡大学, 2岐阜大学, 3アルバータ大学 (カナダ)
1はじめ
森林による光合成生産量や炭素固定量を調べる際に、植物の生理機能の日変化や季節変化などの情報
から生態生理的過程に忠実なモデルを組み立て解析する方法は確かに正しい。しかし、個葉レベルか
ら樹冠レベル、流域レベルでの事象を的確に表現していない。個葉レベルからのアップスケーリング
を意識したリモートセンシングの可能性を苗場山ブナ林で探った。
2. 材料と方法
1)調査地は、苗場山ブナ林(36 °51 ′N、138 °40 ′E)である。標高 550m、900m と 1500m のブ
ナ林長期生態観察試験地である。
2)樹冠に達する観測鉄塔がある。550m では 5 本、900m では 5 本、1500m では 3 本を測定対象
木とした。光合成速度、Vcmax などの測定は開葉前から落葉後まで、季節を通して2週間ごとに測定
した。
3)測定装置は米国 Analytical Spectral Devices 社製の Spectroradiometer
4)測定は午前9時半から正午までに実施。観測鉄塔の上から樹冠の各部にあるクラスターを構成す
る葉の反射分光特性を調べた。距離は 0.5 mないし5m前後の葉を調べた。
4)色素および生理的特性の測定
色素分析用のサンプルを打ち抜き冷凍保存。HPLC を用いて色素を分析。光合成はミニクベッテシス
テム、クロロフィル蛍光反応は Mini-Pam、光合成速度の最大値(Pmax)や Vcmax、量子収率などを
参考。
3.データ処理
NDVI と PRI を調べた。
NDVI = (Rnir-R680) / (Rnir+R680) PRI = (R531-R570) / (R531+R570)
ここで R nir は 843nm から 807nm の平均反射率である。今後、クロロフィル a,b、Pmax、Vcmax
などとの関連を検討。
4.結果と検討
1) P max, と PRI の関係
光合成速度の季節変化と PRI や NDVI との関係は相関が高い。標高により異なる。勾配には差がない。
2)Pmax と NDVI の関係
NDVI は標高の高いブナ林の低生産性を表している。
— 87—
S1-5
公募シンポジウム S1: ブナ・ミズナラ
S1-5
S1-6
09:30-12:30
星野 義延1
◦
1
東京農工大学農学部
Institute of Biology & Soil Sci, 2Andong National Univ.
This study represents the 1st survey of the temperate deciduous forests of
mainland Asia on the territories of the Russian Far East, Northeast China and
Korea. A total of 1200 releves are used, representing nemoral broadleaved
(Fraxinus mandshurica, Kalopanax septemlobus, Quercus mongolica, Tilia
amurensis)-coniferous (Abies holophylla, Pinus koraiensis) forests, and
broadleaved Quercus spp. forests. The vegetation is classified into 4 orders, 12 alliances, 50 associations, 31 subassociations and 8 variants. One
order Lespedezo bicoloris-Quercetalia mongolicae, 4 alliances Rhododendro daurici-Pinion koraiensis, Phrymo asiaticae-Pinion koraiensis, Corylo
heterophyllae-Quercion mongolicae and Dictamno dasycarpi-Quercion mongolicae, and 14 associations are described for the first time. The communities
are placed into two classes. Quercetea mongolicae reflets monsoon humid
maritime climate with the amount of summer precipitation higher than winter
precipitation and the lack of period of moisture deficit. It occurs in Korea,
montane regions of China east of Lesser Hingan and Sikhote-Alin. Betulo
davuricae-Quercetea mongolicae unites forests in conditions of semiarid subcontinental climate with summer precipitation considerably higher than winter precipitation and with the period of moisture deficit in spring and early
summer. It occupies mostly the regions of northeast China and eastern Russia west of the Lesser Hingan and in the low elevation belts of the southern
Sikhote-Alin.
S1-8
09:30-12:30
東アジアのナラ林vsブナ林 – とくに中国と日本の相違性と相似性、
どのような環境要因が決め手になるか –
◦
藤原 一繪1
1
横浜国立大学大学院環境情報研究員
ブナおよびナラ林は、東アジアはもとより北半球に広く分布している。特に
ブナ林は冷温帯によく発達している。中国では常緑広葉樹林域山地にブナ
林が発達している。また、中国では、11 種のブナがかつて記載されていた
程種の多様性が高く、現在は 5 種の主な Fagus (Fagus lucida, F. hayatae, F.
engleriana, F. longipetiolata, F. chienii) にまとめられている。日本の 2 種のブ
ナ (Fagus crenata), イヌブナ (F. japonica) に比較し、環境の相違、地史的相
違がうかがわれる。 ナラも同様に中国では 51 種が記載されている。主な種
では、日本のミズナラの母種である Quercus mongolica が中国東北地方より
極東のナラ林北限に位置し、大興安嶺西部に Q. liadogensis が北限・西限域
のナラ林を形成している。その南部の常緑広葉樹林域には、日本の落葉二次
林を構成する、アベマキ (Quercus variavilis)、 クヌギ (Q. acutissima)、ナラ
ガシワ (Q. aliena)、コナラ (Q. serrata)、カシワ (Q. dentata) 等が、主要な森
林を形成し、また常緑広葉樹林域の二次林として発達し、南下している。日
本では北海道の渡島半島を境にブナ林が消え、ナラ林に変わるが、中国では
常緑広葉樹林域でほとんどの分布がきれ、北上していない。どの様な種組成
の相違性・相似性が日本とユーラシア大陸東岸で、ブナ林、ナラ林に見られ
るか、分布とそれらの環境要因の相違を討議する。以下の 3 点に大きくまと
められる。1) 中国のブナ林は、中国のナラ林や日本のブナ林とも全く異なっ
た種組成、分布をもっている。2) 中国と日本のブナ林の相似性、あるいは共
通種は、中国沿岸域の Fagus hayatae 林と、九州・四国に見られる。3) 落葉
ナラ林は多くの共通種が、林床種に特に多い。
KRESTOV Pavel1, SONG Jong-Suk2
1
ミズナラはモンゴナラの亜種とされ、北海道から九州までの冷温帯域に分
布する。また、サハリンや中国東北部にも分布するとされている。
ミズナラ林は日本の冷温帯域に広くみられ、二次林としての広がりも大
きい。日本において最も広範囲に分布する森林型である。ブナの北限であ
る北海道の黒松内低地以北では気候的極相としてのミズナラ林の存在が知
られている。年平均降水量が少なく、冷涼な本州中部の内陸域や東北地方
の北上高地ではブナの勢力が弱く、ミズナラの卓越する領域が認められる。
また、地形的には尾根筋や河畔近くの露岩のある立地に土地的極相とみな
せるようなミズナラ林の発達をみる。
本州中部で発達した森林を調べるとブナとミズナラは南斜面と北斜面と
で分布量が異なり、南斜面ではミズナラが、北斜面ではブナが卓越した森
林が形成される傾向がみられ、少なくとも本州中部以北のやや内陸の地域
では自然林として一定の領域を占めていると考えられる。
ブナ林とミズナラ林の種組成を比較すると、ブナ林は日本固有種で中国
大陸の中南部に分布する植物と類縁性のある種群で特徴づけられるのに対
して、ミズナラ林を特徴づける種群は東北アジアに分布する植物群で構成
される点に特徴がみられ、日本のミズナラ林は組成的には東アジアのモン
ゴリナラ林や針広混交林との類似性が高い。
東日本のミズナラ林を特徴づける種群は、種の分布範囲からみると日本
全土に分布するものが多く、ミズナラ林での高常在度出現域と種の分布域
には違いがみられる。このような種は、西日本では草原や渓谷林などの構
成種となっていて、森林群落にはあまり出現しない。
ミズナラ林は種組成から地理的に比較的明瞭な分布域を持つ、いくつか
の群集に分けられる。これらの群集標徴種には地域固有の植物群が含まれ
ており、これらにはトウヒレン属、ツツジ属ミツバツツジ列、イタヤカエ
デの亜種や変種など分化の程度の低いものが多い。
S1-7
09:30-12:30
A phytosociological survey of temperate deciduous forests of mainland
Asia
ミズナラ林の植生地理
◦
8 月 28 日 (土) D 会場
09:30-12:30
Development of European Beech forests in the Holocene
◦
ポット リヒャルト1
1
ハノーバー大学
Summer-green deciduous forests with the beech (Fagus sylvatica) form the
regional potential natural vegetation of Central Europe. Beach forest communities dominate large parts of a long development in the interaction between
climate, soil and man.
Following the climatic improvements in the late Ice Age and thereafter, a number of different deciduous and coniferous trees advanced from their refuge
areas. Governed by secular climate changes, they came in stages, from the
first to the last type to migrate, over a period of 9000 years. From its various
refuges in the Mediterranean area during the Glacial Periods, the beech took
at least two different routes to North and Central Europe. Late glacial occurrences in Greece, near the Adriatic Sea, in the southern Alps, the Cantabrian
Mountains, the Pyrenees and the Cevennes attest to their refuges. There might
have been other refuges near the Carpathian mountains. The migration routes
of the west and east provenances met in the northern part of the foothills of the
Alps, and from there, the beech reached the central mountainous region of the
Vosges Mountains, the Black forest, the Swabian Mountains and the Bavarian
Forest in about 5000 BC. Since the middle of the Atlanticum, Fagus-pollen
can be found in respective deposits in larger moors. At almost the same time,
between 5000 and 4500 BC, the beech also reached the limestone and loess
locations of the northern central mountains from the south-east. From there
it very likely spread to the neighbouring loam areas in the sandy heathland
of the north german coast (geest). We cannot rule out the possibility that the
beech was spread by anthropo-zoogenical means, in northern Central Europe
this is very likely to be the case.
— 88—
公募シンポジウム S2: 大規模長期生態学
S2-1
14:30-17:30
S2-1
8 月 26 日 (木) E 会場
S2-2
14:30-17:30
草原生態系の保全と持続的利用 - 衛星モニタリングと GPS/GIS ◦
川村 健介1, 秋山 侃1, 横田 浩臣2, 安田 泰輔3, 堤 道生4, 渡辺 修5, 汪 詩平6
1
岐阜大学 流域圏科学研究センター, 2名古屋大学大学院 生命農学研究科, 3山梨県環境科学研究所, 4独
立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 畜産草地研究所, 5独立行政法人農業・生物系特定産
業技術研究機構 近畿中国四国農業研究センター, 6中国科学院 植物研究所
(NA)
大面積で起こる生態学的現象を長期的に評価・定量化しようとする場合,衛
星リモートセンシングは有効なツールである。衛星リモートセンシングの主な
利点に,大面積を面データとして定量化する広域性と,過去のデータにさかの
ぼって年次変動をモニタリングする長期的観測が可能な点があげられる。また,
地理情報システム(GIS)および GPS と組み合わせて利用することによって,
より的確な予測モデルの構築が可能になると考えられる。
中国内蒙古草原では,1950 年代以降,過放牧の影響による草原の衰退および
砂漠化の問題が深刻化している。この草原の保全と生産性の維持は,適切な放
牧管理によって得られると考える。本研究は「中国内蒙古草原の保全と持続的
利用のための定量的評価法の確立」を目的として,1997 年より岐阜大学流域圏
科学研究センターと中国科学院植物研究所の共同研究として進められてきた。
具体的には,その草原がもつ家畜飼養可能頭数を地域別に提示できる牧養力推
定マップの作成を最終的な目標としている。調査地は,近年特に土地の荒廃化
が著しいシリン川流域草原(約 13,000 km2)に設定した。
これまでに,空間分解能 30m をもつ Landsat 衛星を用いた過去 20 年間の土
地被覆分類と,空間分解能は 250-1100m と粗いが毎日データ取得可能な NOAA
および Terra 衛星を用いた草量・草質の推定と年次変化モニタリングを行った。
この結果,1)1979 年以降,放牧に適した草原は減少傾向にある。2)採草地に
おける草生産量は気温と降水量の影響を強く受け変動する。3)放牧地における
各時期の草量および草質は,放牧圧の影響を強くうけることが示唆された。現
在,衛星から判読困難な羊群の採食の影響を評価するため,羊に GPS と顎運
動測定器を取り付け,羊の空間的な分布と採食パターンから放牧強度の定量化
を試みている。発表では,これまでに得られた結果を紹介し,衛星リモートセ
ンシングの大規模長期生態学における利用可能性について考察する。
S2-3
14:30-17:30
河川性サケ科魚類のメタ個体群動態:長期データ解析とモデリング
◦
小泉 逸郎1
1
北大 FSC
本講演では、大学院時代から調査を続けている河川性サケ科魚類のメタ個体
群構造およびその動態について、現在までに得られた知見を紹介する。また、
この発表を通して、個人レベルで長期データを集積することの難しさ、およ
び研究分野間のリンクの必要性などにも言及したい。
北海道空知川に生息するオショロコマは本流では産卵せず小さい支流でのみ
産卵するため、一本の支流を局所個体群の単位と捉えることができる。各支
流では産卵メス数が 10 – 20 個体と非常に少なく、一本の支流のみで個体群
を長期間維持するのは難しいかも知れない。そこで、空知川水系のオショロ
コマがどのような個体群構造を呈し、どのようなプロセスを経て長期間存続
しているのかを知ることは個体群生態学上、非常に興味深い。
まず、マイクロサテライト DNA 解析を行ったところ、各支流個体群は独立
して存在しているわけではなく、それらが個体の移住を介して水系全体でメ
タ個体群構造を形成していることが明かとなった。また、ここで遺伝的分化
が認められなかった近接支流間でも、個体数変動は同調していないことが7
年間(4支流)の個体数調査から示され、ここでもメタ個体群構造の仮定が
満たされた。次に、メタ個体群の特徴である局所個体群の ”絶滅 ”および ”
新生 ”が起きているかどうかを、81の支流におけるオショロコマの存在の
有無から検証した。ロジステイック重回帰分析の結果、小さい支流では絶滅
が起きている可能性が高く、よく連結された支流では絶滅後の新生率が高い
ことが示唆された。
以上の DNA および野外データから Hanski(1994) のパッチ動態モデルを構
築し、メタ個体群動態のシミュレーションを行った。解析の結果、メタ個体
群動態は上流域と下流域で 2 分されることが示された。さらに、オショロコ
マの長期存続のためには、この2つの地域を連結する中流域の小支流も重要
であることが明らかになった。
S2-4
14:30-17:30
ダムによる流域分断と淡水魚の多様性低下 –北海道における過去40
年のデータから言えること–
◦
福島 路生1
1
独立行政法人国立環境研究所
ダムによる流域の分断が淡水魚類に及ぼす影響を、北海道日高地方と北海
道全域の2つの空間スケールを対象に、一般化線形回帰モデルによって定量
的に評価した。日高地方では計 125 の地点において魚類採捕を行い、魚種ご
との生息密度に対するダムの影響を調べた。北海道全域では、過去 40 年間
の魚類調査をデータベース化(文献数約 900、調査件数 6674、地点数 3800)
し、淡水魚の種多様度と種ごとの生息確率に及ぼす影響をみた。日高地方で
は 4 種の通し回遊魚(アメマス、サクラマス、シマウキゴリ、エゾハナカジ
カ)の生息密度がダムよって著しく低下していた。このうちはじめの 2 種
(いずれもサケ科魚類)は魚道のないダムによってのみ影響を受けていたの
に対して、残りの 2 種は魚道の有無にかかわらず影響を受けていた。淡水魚
の種多様度については標高、流域面積、調査年などの説明変数に加え、ダム
による分断の有無が有意に影響した。ダムによる種多様度の低下量は全道平
均で 12.9 %に及び、標高の低い地域ほど低下量が大きく、河口域の低下量
は約 9 種に達した。河口堰の淡水魚類への影響が、いかに甚大であるかが分
かる。得られた回帰モデルを元に、全道でダムによる魚類の多様度低下の現
状を GIS によって地図化した。また、全 43 種の淡水魚を個別に調べてみる
と、26 種に対して、その生息確率が何らかの影響を受けており、うち 10 種
は直接にダムによって生息確率が有意に低下していることが明らかとなった。
中でもウキゴリ、ジュズカケハゼ、エゾハナカジカなど、小型の通し回遊魚
への影響がやはり著しかった。既存の魚道はサケマスなど遊泳力のある魚類
を対象に設計されてきたため、小型のハゼ科、カジカ科などの魚類に対して
は効果が期待できないことが推察される。ダムによる分断は淡水魚の密度、
多様度、種の分布すべてに対して負の影響を持つことが立証された。
— 89—
S2-5
公募シンポジウム S2: 大規模長期生態学
S2-5
14:30-17:30
数ヘクタールのプロットで挑む樹木群集の解明 ∼ 繁殖から動態まで ∼
◦
正木 隆1, 柴田 銃江2
1
農林水産技術会議事務局, 2森林総合研究所
長期的に維持されているプロットで研究することは楽しい。その理由の最
たるものは、なんといっても豊富なデータを思う存分解析できることである。
しかし、たった一つのプロットでも、このような状態までもっていくことは
大変な労苦を伴う。立ち上げから数年間は、毎週のように通わなければなら
ない。学生はともかく、いろいろな雑用をかかえている研究者には重荷であ
る。それを乗り越えて成功するためには、いくつかの条件がある。最も重要
なこと、それは「チームでやる」ことである。一人ではしんどいことも、み
なでやればやり遂げることができる。
もう一つの条件として、具体的すぎる目的を設定しないことだと思う。欧
米の気温の観測や太陽の観測などを見ていると、西洋では 100 年を越える
長い測定が伝統のようになっていると思う。そこにあるのは、特定の現象を
重点的に知りたい、という態度ではなく、目の前にあるものの姿をじっくり
と記録したい、という、対象に対する畏敬の念から発しているような気がす
る。私には、長期観測研究が本当に長期たりうるか否かは、この辺に鍵があ
るように思う。
以上のことを、我が身を材料にして、具体的に語ってみようと思う。事例は
私が関わった小川学術参考林、とくにシードトラップを用いた長期観測デー
タを解析した結果である。小川学参の種子生産の長期データから一体何が見
えてきたか?いろいろと試行錯誤もあった思惟のプロセスを紹介してみたい。
時間に余裕があれば、カヌマ沢渓畔林試験地における10年間の研究や、昭
和初期から続いてきた試験地を引き継いで楽しんだ経験なども紹介したい。
最後についでながら一言。一般論として、長期試験地の維持など役人は関
心がないことを認識しておこう。なぜなら2年間で次のポストに異動してい
く彼らにとっては、1年後の課の予算獲得のことしか頭にないからだ。研究
者が声を大にして主導していくしかない、と思う。
— 90—
8 月 26 日 (木) E 会場
公募シンポジウム S3: シカ管理
S3-1
14:30-17:30
S3-1
8 月 26 日 (木) A 会場
S3-2
14:30-17:30
S3: Ecosystem management としてのシカ管理 2. シカが森林動態に与え
る長期的影響 洞爺湖中島の事例
◦
宮木 雅美1
(NA)
1
北海道環境科学研究センター
洞爺湖中島での 16 年間の植生モニタリングより,エゾシカ高密度個体群が落
葉広葉樹林の森林動態に及ぼす長期的影響を調べた。
エゾシカの樹皮食いによる枯死が 1980 年頃から増加し始めた。樹皮食いは,
ハルニレ,ツルアジサイ,ミズキ,ハクウンボク,イチイ,ニガキなどの特定
の樹種に集中して発生した。樹皮食いを受けた樹種の多くは,広葉樹林の中で
他の樹種と混交しており,大きなギャップはほとんど形成されなかった。樹皮
食いは 1980 年代はじめに集中し,選好性の高い樹種が消失したため,その後
はほとんどみられなくなった。
10cm 以下の稚樹は,柵を設置した 1984 年後の数年間は多く発生したが,1992
年頃になると減少した。2000 年までの樹高 1.3m 以上の稚樹の加入は,柵内で
も少なかった。林床の相対光量子密度は 1.0∼3.9 %と暗く,柵内と柵外とで林
床の明るさや成長率に差が認められなかった。
林分構造の変化を,Y-N 曲線を用いて比較した。柵の内外ともに,樹皮食いを
受けなかった残存木は個体間競争が緩和され,間伐効果と同様な生長が見られ
た。柵外では,柵内と同様に上木が成長し,林床も暗くなり,シカがいなくて
も稚樹が成長する条件にはないことをしめしていると考えられる。
シカによる森林の被害は,個体数増加の比較的早い時期に発生し,中程度の密
度でその影響が目立ち始める。シカの適正密度として,稚樹の更新が可能なレ
ベルを想定すれば,シカをかなり低い密度に抑える必要がある。しかし,更新
が不可能でも,林冠が閉鎖し上木の成長が旺盛であれば森林は長期間維持され
るので,適正密度は,管理目標に応じて幅広く設定することができる。
S3-3
14:30-17:30
3. 知床半島のシカ分布と個体群動態
◦
岡田 秀明1
1
(財)知床財団
明治初期の乱獲と豪雪の影響で一時絶滅の危機に瀕したエゾシカはその
後の保護政策によって次第に回復に向い、知床半島には 1970 年代に入っ
て再分布した。1980 年代以降、その生息動向について半島先端部と中央
部で調査を継続している。
半島先端部の知床岬地区では、航空機を使って越冬個体数の推移を追っ
てきた。調査開始の 1986 年のカウント数は 53 頭であったが、その後
指数関数的に急増し、1998 年には 592 頭を確認した。しかし、1998-99
年冬に大規模な自然死亡が発生し、同年のカウント数は 177 頭へと激減
した。ただし、死亡個体の齢・性別は 0 才とオス成獣が大多数を占めて
おり、メス成獣の死亡が少なかったことから個体数は急激な回復を見せ、
その後毎年一定数の自然死亡を伴いながらも、2003 年には過去最高の
626 頭と再びピークに達し、翌 2003-04 年冬に 2 回目の群れの崩壊が生
じた。
また、半島中央部の幌別・岩尾別地区でも、春期と秋期にライトセンサ
スを継続しているが、知床岬地区と同様、1990 年代の急増とそれに続く
0 才ジカとオス成獣を中心とした自然死、カウント数の減少、と類似し
た傾向が確認されている。
一方、知床半島におけるエゾシカの分布状況については、これまで調査
されていなかったが、越冬地の分布と規模を把握する目的で、2003 年 3
月に、ほぼ半島全域(遠音別岳原生自然環境保全地域山麓以北)を対象
にヘリコプターセンサス法による調査を実施した。その結果、合計 3,117
頭(最低確認頭数)をカウントした。これらのシカは標高 300m 以下に
集中しており、それを越える地域での確認頭数は全体の約 0.6%に過ぎな
かった。またシカの越冬地分布は非連続的であり、知床岬をはじめとす
る 4 地域が半島全体での主要な越冬地であることがわかった。脊梁山脈
をはさんだ分布の偏りは顕著であり、斜里側の確認頭数は羅臼側の約 2.3
倍であった。
S3-4
14:30-17:30
知床岬の森林植生の変化
◦
小平真佐夫1
1
知床財団
知床半島におけるエゾシカの天然植生への採食圧の経年変化は、半島最
大の越冬地である岬地区において長期に観察されている。岬地区の広葉
樹林内には 1987 年に固定調査区(100m × 10m)を 3ヶ所設置し、調
査区内の木本と林床植生(ササ・草本)について 16 年間に 5 回の調査
を行った。同期間のシカ密度増加(11-118 deer/km2)に連れ、大径木の
樹皮剥ぎとそれによる枯死は増加し、胸高直径 5cm 以下の小径木は消
失、地上高 3m 以下の枝被度は平均 32 %から 2 %へ減少した。林床で
は平均被度 32 %、平均高さ 37cm あったクマイザサが消失、逆にシカ
の選好性が低いハンゴンソウやミミコウモリが増加した。1999 年に追加
設置した、本来シカの選好性が低いミズナラが優先する調査区(50m ×
50m)でも、同様にシカの樹皮食いを受けた個体が 60 %を越えた。種別
には、シカ選好性の高いハルニレ・オヒョウ・ノリウツギは同地区でほ
ぼ消失した。一方、こうした植生への影響は越冬地に限定された現象か
どうかは未だ検討の余地がある。同半島でのシカ越冬地は海岸線の標高
300m 以下に不連続に分布し、断片的な調査によると越冬地以外の低標
高地や、標高 300m を越える地域ではハルニレ等の母樹の生存が確認さ
れている。減少種や減少群落に対する緊急措置として、防護柵による種
子資源の保護は数年前より始まっているが、今後はこれと並行して半島
全域での水平的・垂直的なシカ採食圧評価が必要とされている。
— 91—
S3-5
公募シンポジウム S3: シカ管理
S3-5
14:30-17:30
知床岬の海岸草原植生の変化
◦
石川 幸男1, 佐藤 謙2
1
専修大学北海道短期大学園芸緑地科, 2北海学園大学工学部
知床岬においては、1980 年代半ば以降に急増したシカの採食によって植
物群落が大きく変質した。岬の草原と背後の森林を越冬地として利用す
るとともに、植物の生育期にもこの地にとどまっているシカは、1980 年
代初めまではほとんど観察されなかったが、1990 年代終わりには春先で
600 頭を超える個体数が確認されるようになった。その後、個体群の崩
壊と回復が起こっている。
1980 年代初頭まで、海岸台地の縁に位置する風衝地にはガンコウラ
ン群落とヒメエゾネギ群落が分布していた。また台地上には、エゾキス
ゲ、エゾノヨロイグサ、オオヨモギ、オニシモツケ、ナガボノシロワレモ
コウ、シレトコトリカブトやナガバキタアザミ等から構成される高茎草
本群落、イネ科草本(ススキ、イワノガリヤスやクサヨシ等)群落、お
よびクマイザサ、チシマザサやシコタンザサからなるササ群落も分布し
ていた。
2000 年に行った現地調査の結果、ガンコウラン群落は消滅に近く、シ
カが近寄れない独立した岩峰などにわずかに残っていた。ガンコウラン
群落が消滅した場所にはヒメエゾネギが侵入していた。かつての高茎草
本群落も激減し、エゾキスゲ、エゾノヨロイグサ、オオヨモギ、オニシモ
ツケ、ヨブスマソウ等はほぼ消滅した。クマイザサとチシマザサも現存
量が著しく減少した。一方、1980 年初頭までには 6 種のみだった外来
種、人里植物は、2000 年には 20 種が確認された。また、シカの不食草
であるハンゴンソウとトウゲブキが群落を形成し、外来種のアメリカオ
ニアザミも急速に群落を拡大しつつある。
失われかかっているこれらの群落の保護を目的として、2003 年より防
鹿柵を設置して、ガンコウラン、ヒグマの資源であるセリ科草本、シレ
トコトリカブトなどの亜高山性草本の回復試験を開始している。またア
メリカオニアザミの駆除も開始した。
8 月 26 日 (木) A 会場
S3-6
14:30-17:30
エゾシカの爆発的増加:natural regulation か control か
◦
梶 光一1
1
北海道環境科学研究センター
世界で一番早く設定された国立公園であるイエローストーンでは,過去
40 年間以上にわたりエルクなどの有蹄類個体群に対し人為的な間引きを
実施せずに,自然調節にまかせる (何もしない) という管理を行なってき
た.その管理方針が適正であるか否かついて,主にエルクの増えすぎに
よる植生への悪影響をめぐって激しい論争が起こり,論争は現在でも継
続している.
世界自然遺産の候補地となった知床国立公園でも近年になって,高密度
となったエゾシカによる自然植生への悪影響が問題とされるようになり,
エゾシカ管理のあり方が問われている.エゾシカの爆発的増加が人為的
な影響によるものか,あるいは自然現象によるものかによって,とりわけ
国立公園内ではエゾシカの管理方針が異なったものとなるだろう.1980
年代に,洞爺湖中島,知床半島,釧路支庁音別町等で,エゾシカの長期
モニタリングが開始された.それぞれ,人為的に持ち込まれた閉鎖個体
群,自然に再分布した半閉鎖個体群,牧草地帯に定着した開放個体群で
あり,天然林,原生林,牧草地と空間スケールも生息環境にも大きな相
違がある.しかし,いずれの個体群でも年率 16∼21%の爆発的な増加が
生じた.これらの調査地域では,低密度から出発し環境収容力と十分な
開きがあったこと,保護下あるいは捕獲があってもわずかであった点で
共通している.これらの事例は,エゾシカの高い内的自然増加率を示し
ている.エゾシカは北海道開拓以来 130 年にわたって,乱獲と豪雪によ
る激減と保護による激増を繰り返してきた.このような個体群の縮小と
拡大は人為的な攪乱がなくても,歴史的に繰り返されてきた可能性も考
えられる.知床国立公園におけるエゾシカの個体群管理は,対象地域に
何の価値を求めるのか,あるいはどれくらいの時間スケールを考えるの
かによって管理方針,すなわち natural regulation か control かの対応が分
けられるだろう.
— 92—
公募シンポジウム S4: アポイ岳高山植物
S4-1
09:30-12:30
アポイ岳における高山植物群落の 40 年間の変遷
◦
S4-2
◦
佐藤 謙1
1
1
北海学園大学工学部
立正大学地球環境科学部
特別天然記念物の指定を契機として,1954 年より著者は北大舘脇操教授
の指導の下に文化財の定時観測の意味をふくめて,アポイ岳超塩基性岩
植物相の調査を主として馬の背登山道から幌満お花畑について機会ある
ごとに調査を行ってきた (渡邊 1961,1970,1971,2002)。調査の過程で常
に注目してきたのは超塩基性岩フロラの急速な劣化・衰退であった。そ
れは,人間活動によるフロラの劣化もさることながら,動物散布による
遷移の促進といった生態系管理の基本にかかる問題を含んでいた。アポ
イ岳では,この 45 年間で高山植物が生育するかんらん岩露出地が大幅に
せばまってハイマツ林やキタゴヨウ林に遷移してきている。その遷移の
機構は,まず南斜面のお花畑にホシガラスによってキタゴヨウの種子が
貯食され,その一部は芽ぶく。15 年を経たのちには樹高 2.5m 程度に達
し,チャボヤマハギやエゾススキが侵入して,標高が低いなどの理由か
ら,近い将来,森林に推移することが想定されている (渡邊 1994)。急速
な温暖化は,このテンポを確実に早めているとみてよい。お花畑の消失
は,世界でアポイ岳にしかない固有種のエゾコウゾリナをはじめ,エゾタ
カネニガナ,アポイクワガタなどの植物を確実に消失させている。貴重
種,稀産種の保護には,思い切った対策が必要である。1989 年,北海道
庁の委嘱を受けて,アポイ岳産主要植物の種ごとの衰退に関する調査と
評価を行った。その後,1998 年より行われている増沢武弘らの調査に加
わり最新のフロラの動向について客観的な評価を行うことができた。こ
の研究は,20 紀後半の環境保全問題に焦点をあてる意味から,アポイ岳
における超塩基性岩植物相の 45 年間 (1954-1999) の劣化・衰退の現状
を明確化するとともに,主要な種について過去 50 年間の動向について
明らかにし,保全対策について提言する。
09:30-12:30
カンラン岩土壌における植物群落の遷移
◦
09:30-12:30
アポイ岳・幌満岳の超塩基性岩植生
渡邊 定元1
S4-3
S4-1
8 月 27 日 (金) E 会場
増沢 武弘1
1
静岡大学理学部
アポイ岳は基盤が超塩基性岩であるカンラン岩によって構成されている。
特に稜線沿いは風化が進んでいないカンラン岩が露出している。この地
質学的な条件に加え、夏期には海霧による気温の低下、冬期には海から
の西風で積雪が少ないなどの気象条件により、古い時代から稜線に沿っ
て、この環境に適応した高山植物が標高の低い山にもかかわらず残存し、
また、隔離されてきたと言われている。
近年、アポイ岳の稜線沿いに成立していた多年生草本植物群落の分布域
は、木本植物の進入により急速に減少しつつある(渡辺 1990)。標高の低
い位置から上部に分布を広げつつある顕著な木本植物はキタゴヨウ(Pinus
parviflora var. pentaphylla)とハイマツ(Pinus pumila)の 2 種である。こ
こでは 2 種の植物の成長速度と樹齢について解析を行うことにより、こ
の 2 種が、いつ、どの位置に侵入してきたかを推定し、その結果を報告
する。樹齢の推定には、キタゴヨウの進入した場所では、遷移の進行の
指標として年枝の測定を行った。1 年に 1 節ずつ枝を伸張させるキタゴ
ヨウの特徴を生かし、樹木の先端から年枝のカウントを行うことにより、
植物を傷つけることなく樹齢を推定した。
また、それらが今後、いかなる速度で分布を広げ、カンラン岩地に適応
した草本植物群落内に侵入していくかについても、推定を行った結果を
述べる。さらに、カンラン岩地に特有な植物が生育している土壌の性質
についても、原素の化学的分析による結果をもとに報告を行う。
アポイ岳・幌満岳には、固有種を含む希少植物が多く知られ、それらの劣
化が指摘されてきた。この点に関して、植生生態学の立場から論考する。
両山岳の超塩基性岩地に成立する荒原・草原植生について、同じ群落面
積に対して調査年を変えてそれぞれ多数の方形区を設定する「偽の永久
方形区法 Quasi Permanent Quadrat Method」により、植生変化とその主要
構成種である希少植物の変化を確認した。アポイ岳では、大場(1968)、
Ohba(1974)、筆者(1983 年と 1994 年の調査)ならびに中村(1988)に
よる過去の植生資料と、2001 2002 年に調査した植生資料を比較し(佐
藤 2002, 2003b)、幌満岳では、1994 年と 2001 年の植生資料を比較した
(佐藤 2003a)。
その結果、アポイ岳では、2001 2002 年に量的に少なかった希少植物は
1994 年以前にもほとんど同様に希少であり、植生と希少植物に明らかな
変化が認められなかった。それに対して、幌満岳では、とりわけ固有種
ヒダカソウが 1994 年と 2001 年の間に優占度が著しく減少し、開花結
実個体が量的に激減した。以上の一因として、アポイ岳では 1994 年以
前の古い時代に盗掘が進んでしまい、まったく衆人環視ができない幌満
岳では 1994 年以降でも盗掘が続いたと考えられた。
植物群落の立地把握によって希少植物の生育地を網羅した結果、例え
ば岩隙と岩礫地の両者に生育するヒダカソウは両山岳において生育地を
違える結果が得られた。この点でも人為要因・盗掘の影響が示唆された。
さらに、両山岳の絶滅危惧植物に関する保全策について、群落立地・種
の生育地の実態と変化を見る観点から考察したい。
S4-4
09:30-12:30
ヒダカソウ (Callianthemum miyabeanum) 個体群の動態
◦
西川 洋子1, 宮木 雅美1, 大原 雅2, 高田 壮則3
1
北海道環境科学研究センター, 2北海道大学大学院地球環境科学研究科, 3北海道東海大学国際文化学部
絶滅が危惧されているアポイ岳の固有種ヒダカソウの個体群動態の特性
と、盗掘による開花個体の減少が個体群の生育段階構造にもたらす影響
について検討する。比較的盗掘の影響が少ないと考えられる生育地の合
計 3.2m2 区域内で、根出葉と花の数による生育段階の個体センサスを 3
年間行った。センサスした個体は 1 年目が 303 個体で、3 年目には主と
して生育段階が根出葉1枚の個体数の減少によって 278 個体になった。
全個体数の約 90%を占める根出葉1枚および2枚の個体は、それぞれ平
均約 65%が翌年も同じ生育段階を維持し、根出葉を増やしてより大きい
生育段階へ移行した個体は、平均約 20%及び 10%であった。開花個体の
割合は 1%未満であり、開花した翌年は花をつけなかった。新規参入個体
は 2002 年に 31 個体、2003 年には 17 個体と少なく、死亡個体数を下
回っていた。また、ヒダカソウの主要な個体群間で生育段階構造は大き
く異なった。登山道沿いの個体群では、開花個体を含むサイズの大きい
個体が極端に少ない傾向がみられ、開花個体が全くみられない集団も存
在した。盗掘等による開花個体の減少が続けば、新たな個体の参入が減
少し、個体群の維持が難しくなると考えられる。
— 93—
S4-5
公募シンポジウム S4: アポイ岳高山植物
S4-5
09:30-12:30
アポイ岳の植生保護に関する現状
◦
田中 正人1
1
様似町アポイ岳ビジターセンター
アポイ岳(標高 810.6 m)は、日高様似郡冬島の海岸線から 4km の距
離に位置し、幌満川をはさんで東の幌満岳(685.4 m)と対峙している。
アポイ岳の頂上から北方へ尾根をたどると、吉田山(825.1 m)やピンネ
シリ(958.2 m)をへて日高山脈の南部に至る。
これらのアポイ岳、吉田岳、ピンネシリをまとめてアポイ山塊という
が、この山塊は、幌満岳とともに、中生代ジュラ紀(1 億 5 千万年前)
に始まり新生代第三紀末(約 150 万年前)まで続いたといわれる日高造
山運動によって形成され、その主要な岩石はダンカンラン岩、カンラン
岩、斜長石カンラン岩などの超塩基性岩で、幌満カンラン岩または幌満
超塩基岩体といわれている。岩体の主体はダンカンラン岩であるが、長
期間の風化にもかかわらず蛇紋岩化された程度は低く、山塊の尾根や斜
面に露出している。
このような地形や地質が特徴づけられる低山の尾根部分が、1)夏期に
海霧の影響を受け気温が低下し、2)冬期は海からの風(西風)で積雪が
減少する位置にあること、3)日高山脈などとともに第三紀を通じて陸地
であったこと、4)山塊が超塩基性岩でなりたっていることなどが、古い
時代からの植物を残存させ、隔離・保護・進化させる場所になったと考
えられている。
上記のような特殊な場所に成立してきた植物群落は近年、自然現象の
変化および人為的な影響により急速に変わりつつある。特に人為的な影
響は大きく、特殊な植物群落や固有種が極端に減少してしまった。そのよ
うな変化の実態を報告し、かつ現在どのように植生の保護および保全を
行っているかを、これまでの成果をもとに述べる。また、地方自治体お
よび地元団体の活動とそれによるアポイ岳の将来性についても述べる。
— 94—
8 月 27 日 (金) E 会場
公募シンポジウム S5: 流域生態系保全
S5-1
09:30-12:30
流域管理モデルにおける新しい視点ー統合化へむけてー
◦
S5-2
陀安 一郎1
1
1
京都大学生態学研究センター
総合地球環境学研究所
流域は、水循環・物質循環、そして生態系保全の上で重要な空間単位で
あるが、その管理は容易ではない。なぜならば、流域には、本流-支流と
いった階層構造、河川を形成する上流-下流といった空間勾配があり、生
態系を支える水循環・物質循環の特徴や生物群集・生息場所の構造は、こ
の空間構造やスケールの影響を受けているからである。さらに、流域生
態系を保全・修復する主体である人間も、行政による管理区分の多くが、
流域の空間構造に合わせて階層的に設定され、それぞれに社会的意思決
定の仕組みをもっている。階層ごとにものの見方や考え方に違いがある
ことを理解することが、実践的な生態系管理をおこなううえで大切とな
る。この違いを理解しないことがもとで、流域全体での意見調整が阻害
され、生態系管理が困難になる場合が多いからである。
したがって、流域生態系を保全・修復する上では、
(1)流域の階層性に
代表される空間構造に依存した、水質や生態系・生物群集の現状を的確
に診断する方法を開発すると同時に、
(2)複数の階層にまたがる管理主
体のものの見方や考え方の違いを理解し、生態系診断の結果を、流域全
体での適切な社会的意思決定にうまく役立てるしくみが必要となる。
この問題に対して、われわれは、流域の階層性を考慮に入れた、
「階層化
された流域管理」という流域管理のモデル(考え方)を提唱している。琵
琶湖-淀川水系における研究活動の中で、流域生態系管理の視点からは、
(1)流域の階層(空間スケール)ごとに特徴的な水質・物質動態、生物
間相互作用、生物群集の現状を把握する環境診断のための指標システム
を構築すると同時に、モデルと GIS を、人間活動、琵琶湖とその流入河
川、各階層を結びつける架け橋となる「生態学的ツール」として使うこ
とで、流域の水・物質循環と生態系のダイナミクスを総合的に把握する、
(2)各階層の管理主体の問題意識をさぐる社会科学的な方法によって、
その診断結果を保全・修復に適切につなげるのである。このようなコン
セプトで、流域生態系管理の統合的な方法論を目指している。
S5-3
09:30-12:30
河川生態系評価の生息場所-群集アプローチ
◦
09:30-12:30
流域生態圏の環境診断-安定同位体アプローチ
◦
谷内 茂雄1
S5-1
8 月 26 日 (木) D 会場
竹門 康弘1
1
京都大学防災研究所水資源研究センター
河川の環境指標としての底生動物群集には,1)河床の比較的狭い面積
から多くの種数を得られる,2)多様な分類群によって構成されるため
に環境条件への要求幅が広い,3)比較的分類が容易になったなどの利
点がある.1980 年代までは主に水質指標として位置づけられ,各種の有
機汚濁や毒性物質への耐性に準拠した階級分けが行われた.近年は,河
川の物理環境や川辺環境などを含めたトータルな環境指標として,総種
数,各種多様度指数,環境変化に鋭敏なカゲロウ,カワゲラ,トビケラの
3目の占める割合(EPT 比)などが用いられている.また,河川生態系
における群集の機能的な評価には,摂食機能群による群集組成の特徴が
利用されるのが通例である.いっぽう,河川環境の物理的側面を示す指
標として,安定環境で造網型トビケラ目が増えるという津田の遷移仮説
に基づく造網型指数がある.この視点は河川環境評価の上で重要である
が,生態系評価の方法論として必ずしも発展していない.
底生動物群集の環境指標性については,棲み場所構造や生活方法の
視軸と餌資源特性や栄養段階の視軸とを区別して整理する必要がある.
すなわち,河川環境の物理的な生息場所特性は,Imanishi (1941) や津田
(1962) の生活形概念に反映し,利用可能な餌資源の種類と状態は,Merritt
& Cummins(1996)の摂食機能群に反映すると考えられる.また,摂食
機能群は,採餌の仕方に着目した類型であるため,実際の餌品目の構成
と必ずしも対応していない,したがって,栄養段階の判定には胃内容分
析による餌型の分類や安定同位体比による推定が必要となる.
これらの視軸を合わせた座標系によって底生動物群集の特性を示すこ
とは,水質の影響や群集多様性の解釈を行うためにも有効であると考え
られる.本講演では,山地源流,渓流,平地河川,湧水,琵琶湖,深泥
池の底生動物群集について,生活形,摂食機能群,餌型の構成比を比較
することによって,棲み場所の物理構造へのインパクトと水質や栄養段
階へのインパクトを統一的に解釈する方法論を探る.
河川の生態系と水質環境の状態を的確に表す指標を構築することは、生
態学のみならずその応用面にも利用価値の高いものとなると考えられる。
本発表では、安定同位体比を指標に用いた研究を紹介する。安定同位体
比指標は、食物網構造の指標にとどまることなく物質循環の指標にもな
るため、生態系の総合診断指標として用いることができる可能性がある。
以下の例は、2003 年度に総合地球環境学研究所 P3-1「琵琶湖-淀川水系
における流域管理モデルの構築」
(代表和田英太郎)にて琵琶湖とその流
入河川に関して適用したものであり、多くの共同研究者との研究の成果
である。2003 年 6 月に琵琶湖に流入する 42 河川の下流部での溶存スト
ロンチウム同位体比、硫酸態イオウ同位体比、陽・陰イオン成分、河川
堆積泥および付着藻類の炭素・窒素同位体比を測定した。このうち Sr、
S 同位体比は、琵琶湖のイサザの近年の同位体の変化に示唆を与えるも
のであった(中野孝教他未発表)。また 2003 年 8 月、9 月に、琵琶湖
に流入する 32 河川について、各河川の下流部での水草、河畔植生、魚
類、ベントス、河川堆積泥および付着藻類の炭素・窒素同位体比を測定
した。その結果、稚魚期の琵琶湖回遊のあと河川定着するトウヨシノボ
リは、河川環境の同位体的指標種として用いることが出来る可能性を示
した。また、各河川の食物連鎖の長さに関しては、流域の富栄養化指標
である窒素同位体比と負の相関があった(高津文人他未発表)。
これらの研究は、2003 年 10 月よりスタートした CREST プログラム
「各種安定同位体比に基づく流域生態系の健全性/持続可能性指標の構築」
(代表永田俊)にも引き継がれ、より綿密な調査を行っている。2004 年
度には、季節変動調査や、サンプリングサイズのスケーリング効果の調
査、河川の流程に沿った調査、水生昆虫の多様性指標との比較、栄養塩
や溶存ガスなどの同位体分析なども進行中である。
S5-4
09:30-12:30
群集動態論に立脚した湖沼生態系マネージメント理論
◦
加藤 元海1, Stephen Carpenter2
1
京都大学生態学研究センター, 2ウィスコンシン大学陸水学研究センター
湖沼はその流域からの過剰なリンの負荷により、水の澄んだ貧栄養状態か
ら植物プランクトンが大量に発生する富栄養状態へと突然変化をするこ
とがある。この変化は突発的かつ不連続的に起こり、変化後の水質の改
善は困難であることが多く、ときにはリン負荷量を抑制しても不可能な
場合もありうるため、湖沼生態系管理上この「不連続的な富栄養化」の
可能性に関する詳細な評価が必要とされている。しかしこのような不連
続的な水質変化の可能性は多くの要因に依存し、その中でも湖沼形態や
水温、沿岸帯植物の優占度などが挙げられる。ここでは、これまでの野
外研究の知見に基づいた数理モデルを用い、これら上述の要因が不連続
的富栄養化に与える影響を評価した。その結果、湖沼の平均水深と水温
が不連続的富栄養化や富栄養化後の水質改善に対して重大な影響がある
ことが分かった。特に浅い湖沼では、沿岸帯植物が湖底から巻き上がる
リンの再循環を抑制する効果が大きく、不連続的富栄養化は起きにくかっ
た。水温の高い湖沼では湖底からのリンの再循環が促進され、富栄養化
は起こりやすく、富栄養化後の水質改善は困難であった。湖沼生態系管
理上特筆すべきこととして、平均水深が中程度の場合、もっとも不連続
的富栄養化が起こりやすく、水質悪化後の改善ももっとも困難であった。
これは、深水層におけるリンの希釈効果があらわれるには浅すぎ、沿岸帯
植物の効果があらわれるには深すぎるためである。ここで得られた結果
は、物理的・化学的・生物学的な機構が複雑に相互作用して湖沼の不連続
的富栄養化に影響しており、さらにこのことは湖沼生態系のみならず他
の生態系においても不連続的な系状態の変化に大きく関与している可能
性を示している。また、沿岸帯植物は植物プランクトンの抑制に影響を
与える動物プランクトンや魚などの棲息場所ともなっており、栄養段階
間のカスケード効果と沖帯-沿岸対相互作用を考慮した評価も検討する。
— 95—
S6-1
公募シンポジウム S6: 空間スケール
S6-1
S6-2
14:30-17:30
階層的空間配置法:局所群集の低予測性と高条件依存性を超えて
◦
◦
1
北大・水産学部
東京大学農学生命科学研究科生物多様性科学研究室
本研究は、スギ林床に生息するチビサラグモを用いて、パッチレベルにおけ
る生物の個体数とその制限要因との関係性が、上位の階層である個体群レベ
ルの要因からどのような影響を受けているかを明らかにした。千葉県房総半
島におけるスギ林 15ヶ所をそれぞれチビサラグモの個体群とみなし、各個体
群でパッチレベルでのサラグモ個体数と造網のための棲み場所の量(以下、
足場量)、および個体群レベルでの足場量と餌量、スギ林の面積を 4 つの発
育ステージで調べた。
まずパッチレベルでの個体数は、パッチ内での足場量と正の相関があった。
次にパッチ内の足場量を共変量として共分散分析を行った結果、すべての発
育ステージでパッチ内の個体数は個体群間で有意に異なっていた。つまり個
体群レベルでの何らかの要因がパッチレベルの個体数と足場量の関係を相加
的に変化させていた(相加効果)。重回帰分析の結果、この相加効果は、個
体群レベルでの足場量の違いにより生じていることが推察された。
次に個体群レベルの足場量がもたらす相加効果のメカニズムを知るため、ま
ず発育ステージ間で相加効果の大きさを比較し、その効果が及ぶステージを
特定した。その結果、幼体初期で最も大きく、発育ステージが進むほど小さ
くなり、次世代の幼体初期に再び大きくなっていた。つまり、相加効果は成
体から幼体初期の間で働いていると推測された。個体群レベルの足場量とサ
ラグモの繁殖率との間には関係がなかったため、相加効果は卵から幼体初期
における個体群間での死亡率の差が原因と考えられた。個体群レベルの足場
量の違いが幼体初期の個体群間での死亡率の差をもたらしているという仮説
を検証するため、現在、広範囲の足場量とサラグモ個体数を操作したエンク
ロージャー間でサラグモの死亡率を比較するという野外実験を行っており、
その結果も併せて発表する。
S6-4
14:30-17:30
種多様性の緯度勾配:岩礁潮間帯固着生物群集のマルチスケールでの
変異性
奥田 武弘1, 野田 隆史1, 山本 智子2, 伊藤 憲彦3, 仲岡 雅裕3
1
北海道大学大学院水産科学研究科, 2鹿児島大学水産学部, 3千葉大学大学院自然科学研究科
地域スケールの種多様性の緯度勾配は生態学において最も普遍的なパターンの
ひとつである。しかし、地域スケールの多様性の空間的構成要素(α・β 多様
性)の緯度変異とその決定機構はよくわかっていない。また、相対的現存量を
考慮した多様性尺度における緯度勾配パターンもよくわかっていない。
そこで、岩礁潮間帯固着生物群集を対象に空間スケールを階層的に配置した
調査を行い、1) 地域多様性の緯度勾配は存在するのか、2) 地域多様性におけ
る各多様性成分の緯度勾配とその相対貢献度は空間スケールに依存してどのよ
うに変化するのか、3) 種多様性の緯度勾配は種の豊度とシンプソン多様度指数
で異なるのか、について調べた。
日本列島太平洋岸(31 °N から 43 °N)に 6 地域、各地域内に 5 海岸、各海
岸内に 5 個の調査プロットを設定し、固着生物を対象として被度と出現種数を
2002 年 7 月と 8 月に調査した。被度からシンプソン多様度指数を、出現種数
から種の豊度を求め、空間スケールに応じて加法的に分解した(γ = α+β )。
また、γ 多様性に対する α 多様性と β 多様性の貢献度の空間スケール依存性
を地域間で比較するために ABR アプローチ(Gering and Crist 2002)を用いて
解析を行なった。その結果、地域の種の豊度において明瞭な緯度勾配が見られ
た。また、海岸間の種組成の違いに緯度勾配が見られたが、その他の多様性成
分には緯度勾配は見られなかった。一方、シンプソン多様度指数では全ての空
間スケールで緯度に伴う明瞭なパターンは見られなかった。ABR アプローチ
の結果、種の豊度においては低緯度ほど β 多様性の相対的貢献度が高くなっ
ていたが、シンプソンの多様度指数では緯度に伴うパターンは見られなかった。
以上の結果から、普通種の相対的現存量には緯度に伴った変化はなく、海岸間
での希少種の入れ替わりが地域の種の豊度における緯度勾配を生み出している
と考えられる。
高田 まゆら1, 宮下 直1
1
近年の局所群集に関する研究成果の蓄積により,小空間スケールの群集構造
とその決定機構は条件依存性が高く予測可能性も低いという認識が浸透しつ
つある.その一方,未だに多くの群集で,空間スケールとともに観察される
パターンがどのように変化するかはほとんど明らかにされてはいない.つま
り,膨大なる研究の蓄積とは裏腹に,生物群集に関する予測性は未だ低いま
まであると言えよう.この現状を打破し,生物群集について一般則を探求す
るためには,研究の重心を従来の「局所(小スケールの)群集構造の決定機
構の解明」から「空間スケールと群集構造の関係についての規則性の探索と
その形成プロセスの解明」へとシフトさせることが得策であろう.この新課
題に対して有効な研究アプローチとして,空間的階層アプローチ(調査地の
空間配置を複数の入れ子状に設定する方法)を,構成種の生活史や種間相互
作用が明らかにされている群集に適用することを提案する.本講演では,最
初に生態学において頻繁に用いられるが誤用の多い空間に関する 2 つの概念
(「スケール」と「レベル」)を簡単に説明する.続いて群集生態学の最近の
進展について総括し,生物群集についての予測可能性を上昇させる上で特に
重要だと考えられる研究課題を提示する.そして,この課題に対応した研究
手法のひとつとして空間的階層アプローチの有効性を議論し,最後に空間的
階層アプローチを用いることで解明できる群集生態学の重要なテーマを紹介
したい.
◦
14:30-17:30
個体数と制限要因の関係性を変える空間的上位階層からの影響:林床
に棲むチビサラグモの場合
野田 隆史1
S6-3
8 月 26 日 (木) B 会場
14:30-17:30
環境傾度に沿って変化する樹木の分布パターン
◦
島谷 健一郎1
1
統計数理研究所
森林は生物の集合体である。単なる数字としてのデータを追いかけ回す
だけでは、容易に自然の真理には近づけない。当然のことながら、携わ
る者には、両者の素養、さらには両側の研究者からの助言や協力が不可
欠である.概してこのような場合,生態学者と統計学者がそれぞれの専
門を生かして役割分担する分業的研究スタイルが採用されがちであるが,
実際の生物を知らない統計学者と、統計学者の出した結果を盲目的に信
ずるしかない生態学者が役割分担するだけでは,生態系の真理に迫れな
い.本研究では、故林知己夫統計数理研究所名誉教授らが提唱した「デー
タの科学」の研究スタンスを受け継ぎ、分業的でない研究スタイルで森
林群集データを扱っている.
樹木の空間分布パターンは,標高などの環境傾度に沿って変化する場合
がある.例えば低地ではランダムに分布するが標高が高いとパッチ分布
をなし,かつパッチの密度や大きさも変化する.このような点分布をも
たらすモデルとして,Thomas process と inhomogeneous Poisson process
の融合が考えられる.即ち,inhomogeneous Poisson process では点密度
を傾度に沿って変化させられる.Thomas process は,ランダムに分布す
る親のまわりに子供が 2 次元正規分布的散布されたパッチ分布をモデル
化する.これらを組合わせれば,パッチ密度,パッチ内個数,パッチサ
イズが傾度に沿って変化する空間パターンを創作できる.この点過程の
2次モーメントはその 2 地点の位置に依存する 4 変数函数であるが,簡
略に 1 地点の傾度値と 2 点間の距離の 2 変数で近似できる.これを使
えば,傾度に沿って変化する空間パターンを視覚的にグラフで表示でき,
実データからのパラメータ推定も簡易に行うことができる.本研究では,
これらを北海道知床半島トドマツ個体群に適用し,その空間パターンの
標高に沿った連続的変化を撹乱履歴と関係付けて議論した.
— 96—
公募シンポジウム S6: 空間スケール
S6-5
S6-6
14:30-17:30
空間生態学の展開:[1] スケールフリーを示すベキ乗則が出現する機
構、[2] 土地利用変化の空間マルコフモデル
◦
巌佐 庸1, シュリヒト ロベルト1, 佐竹 暁子2
14:30-17:30
景観スケールでの生態系変化による個体群の絶滅と保全
◦
夏原 由博1
1
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科
1
九州大学大学院理学研究院生物科学部門, 2京都大学生態学研究センター
空間的な側面をとりあつかう理論生態学の話題から、2つの話題を取り上げたい.
[1]スケールフリーを示すベキ乗則が出現する機構:
森林の植生高の空間分布やムラサキイガイ群集の空間分布のデータによると、
クラスターサイズ分布などにさまざまなベキ乗則が成立することが知られている.
一般に野外で観測される地形や物理的量は,大きなスケールになるとさらに大き
な起伏の変動を示し,空間の尺度と物理量の尺度を適切に調整すると,小さな部
分でも大きな部分でも統計的に相似になるという性質(自己相似性)をもってい
る.森林やイガイ群集のベキ乗則は、それらの生態系が同様な性質を持つことを
意味する.つまりどの空間スケールにも同等な変動があり、特定の空間スケール
がない、つまり「スケールフリー」を体現するものと解釈されている.
このベキ乗則は、隣接相互作用により攪乱が拡大するモデルでも生じる.我々
は隣接サイトの平均よりも樹高が高いと枯れやすいとするモデルにおいて、幅広
い範囲でベキ乗則が成立することを示す.このモデルはもともと縞枯れ現象のた
めに提唱されていたモデルを対称化したものだが、撹乱と修復が波状に移動する
傾向をもっている.
近年プリンストングループによって、ムラサキイガイ群集の構造についての格
子モデルによって、3状態モデルにおいてはベキ乗則が広い範囲で成立するが、
2状態モデルではそれが不可能であり、2状態と3状態では、モデル性質が大き
く異なると主張されている.我々の撹乱拡大モデルをもとに、彼らの主張の当否
について議論する.
[2]土地利用変化の空間マルコフモデル:
土地利用の変化は、生態系の動態に加え個々のサイトの所有者の意思決定によっ
て生じる.個々のサイトが生態系の遷移動態や自然撹乱に加え、将来を考えた経
済的価値 (Present value) の高い方へと変化させる土地利用変化の傾向があるとす
る空間マルコフモデルを提唱する.その結果、個々の所有者の効率的選択が、生
態系全体としての効率的管理をもたらす状況と、そうでない状況とがあることを
示す.
S6-7
メタ個体群理論から,地域に散在するすべての生息適地が個体群によって
占有されているのでなく,占有率は再移住率と絶滅率によって平衡に達
することが示唆されている.両生類のように移動距離や経路が限られる
生物では,土地被覆のモザイクすなわち景観の配置が再移住率を通じて,
生息地の占有率に大きな影響を及ぼすことが予想される.一方,パーコ
レーションモデルではそのような生息地間の連結性の消失が生息地の消
失によってある狭い範囲で急速に進むことが示されている.そして,生
息場所の分断によって孤立した個体群では,確率論的な個体数のゆらぎ
による局所絶滅からの回復が期待できない.演者はまず大阪で絶滅危惧
地域個体群に指定されているカスミサンショウウオが,メタ個体群が単
位の生息地の孤立化によって,地域スケールでの分布と個体数が減少し
た可能性を示し,次にメタ個体群存続可能性分析によって,景観スケー
ル内で局所個体群の孤立によってメタ個体群が崩壊しつつあるプロセス
を示すことによって,本種の衰退プロセスを組み立てる.こうした景観
解析と生態プロセスの関係の解明を補強するものとして分子マーカーの
利用による景観遺伝学を紹介し,3者の結合により開かれつつある景観
スケールでの生態学の展望を示したい.
14:30-17:30
生態系保全のためのランドスケープアプローチ
◦
S6-5
8 月 26 日 (木) B 会場
三橋 弘宗1
1
兵庫県立人と自然の博物館
保全に関連した研究の到達点の一つは、野生生物の生息可能性とこれに
寄与する環境要因や生物間相互作用の影響を定式化して、空間的に評価
することにある。端的に言えば、地図として生息可能性の濃淡を塗り分
けることだ。地図化を行うことで、異なる分野の地図とのオーバーレイ
が可能となり、コンフリクトが生じている地域を視覚的に検出すること
が可能となる。土木工事や大規模開発による環境の改変による生物種の
分布動態を予測することを念頭をおけば、単に生物の分布リストから分
布図を作成するだけでなく、生物と環境との関係性から評価しなければ、
環境改変による影響を定量化することが出来ない。さらに言えば、比較
的小スケールの生息場所評価だけでなく、隣接する生息場所の状況も検
討しなければ、環境改変による周辺への波及効果を予測できない。周辺
に良好な生息場所が広がっている場合と孤立化している場合では同じ面
積の開発でも影響が異なると予想される。つまり、生態系保全という目
的を掲げる限り、隣接関係の記述は避けて通れない。多くの生物が、移
動分散を繰り返して生息することを考えれば当然のことであるが、問題
は、隣接関係を参照する空間スケールをどのように設定するか、という
点にある。
今回の講演では、カスミサンショウウオとタガメ等のいくつかの材料を
取りあげ、隣接関係の空間スケールの設定に関する方法論を検討し、地
図として生息場所評価を試みた事例を紹介する。また、材料となる生物
種によって影響する隣接関係の範囲が極めて異なること、解析する空間
範囲によっても影響する環境要因が変化することを具体的な事例から紹
介し、比較的小スケールでの生態学的な研究成果を広域的に敷衍する方
法を示す。
— 97—
S7-1
公募シンポジウム S7: サクラソウ遺伝学
S7-1
09:30-12:30
サクラソウ・エコゲノムプロジェクトのめざすもの
◦
S7-2
◦
津村 義彦1
1
1
森林総研
東京大学大学院農学生命科学研究科
2000 年に未来環境創造型基礎研究推進制度研究課題として採択されて
実質的なスタートをきったサクラソウの「エコゲノムプロジェクト」は、
送粉者との生物間相互作用および繁殖特性・種子特性が支配する遺伝子
動態と個体群動態のダイナミックな連環についての基礎科学的な理解の
深化とともに、野生植物の保全戦略構築への寄与をめざす統合的な研究
プロジェクトである。すでに比較的多くの生物学的・生態学的知見が蓄
積しているサクラソウを他殖性野生植物のモデルとして取り上げ、QTL
に支配される量的形質の一種とみることのできる適応度成分や送粉昆虫
との相互作用に係わる適応的形質を連鎖地図に位置づけることをめざす。
一方で、野外調査等で取得した詳細な生態データにもとづいて有性生殖、
クローン成長およびそれらに伴う遺伝子流動をモデル化し、絶滅におけ
る遺伝的過程と個体群過程のからまりあいを解明するとともに絶滅リス
クと遺伝的多様性に係わる予測手法の確立をめざす。今後のさらなる発
展を期して、プロジェクトの背景とめざすところを紹介する。
09:30-12:30
日本全国のサクラソウ集団の遺伝的多様性
◦
09:30-12:30
分子生態遺伝学を保全研究に活かす
鷲谷 いづみ1
S7-3
8 月 28 日 (土) B 会場
本城 正憲1, 上野 真義2, 津村 義彦2, 鷲谷 いづみ3, 大澤 良1
1
筑波大・生命環境科学, 2森林総研, 3東大・農学生命
生物種は固有の進化的プロセスを経た地域集団から構成されており、種の
保全においては、各集団の遺伝的特徴や遺伝的関係を考慮して保全する
ことが重要である。本研究では、絶滅危惧植物サクラソウを対象として、
種子や栄養繁殖体による歴史的な分布拡大過程を反映する葉緑体 DNA、
花粉による集団間の遺伝子交流を反映するマイクロサテライトと異なる
特色を持つ遺伝マーカーを指標として、国内の分布域全域にわたる 70 集
団の遺伝的変異を把握することを試みた。
日本全国から 30 個の葉緑体 DNA ハプロタイプが見出され、それらは
大きく 3 系統に分化していた。ハプロタイプの多くは地域特異的に分布
していたが、中には北海道と中国地方に隔離分布するものや中部地方以
北に広域分布するものもあった。異なる母系に属する集団が 20km 圏内
といった比較的狭い範囲に隣接して存在する地域が認められた。マイク
ロサテライト 5 座を指標として集団間の遺伝的関係について分析した結
果、集団間の地理的距離に応じて遺伝距離も大きくなる傾向があり、地
理的に近い地域集団は遺伝的にも類似していることが示された。これら
の遺伝構造は、過去から現在までのさまざまな進化的プロセスを反映し
た結果であると考えられ、人為的な遺伝的撹乱が生じないように留意し
ながらそれぞれの変異を保全していく必要があるといえる。もし衰退し
た集団の回復を目的として植物体を他の場所から移入する場合には、生
態的・形態的特徴などに加え、本研究で明らかにされた遺伝的変異を踏
まえて行うことが必要である。各地域集団の遺伝的特徴に関する情報は、
盗掘された株や系統保存されている株の出自の検証、および他地域に由
来する株の野外への逸出を把握するうえでも有用であろう。
分子遺伝学的な技術の進展は目を見張るものがある。また塩基配列デー
タも膨大なデータが多くの生物種で登録されている。この技術と情報を
うまく組み合わせることにより、野生生物種の遺伝解析が容易に行える
ようになってきた。特に希少種については、遺伝的多様性の大きさが将
来の世代の存続にも係わる重要な問題となる。DNA レベルの解析では種
内の遺伝的多様性、集団間の遺伝的分化程度、近親交配の程度などを定
量化でき、量的形質との関連も明らかにできるため、保全研究にとって
は特に有用な情報を得ることができる。
本発表では希少種の保全研究にどのような遺伝的アプローチを取るべき
かを解説する。また将来にわたって取るべき情報と今後の技術の進展に
より得られる知見等についても議論したい。
S7-4
09:30-12:30
サクラソウ野生集団の空間的遺伝構造と遺伝子流動
◦
北本 尚子1, 上野 真義2, 津村 義彦2, 竹中 明夫3, 鷲谷 いづみ4, 大澤 良1
1
筑波大学大学院生命環境科学研究科, 2森林総合研究所, 3国立環境研究所, 4東京大学大学院環境生命
研究科
サクラソウ集団内の遺伝的多様性を保全するための基礎的知見を得ること
を目的として、筑波大学八ヶ岳演習林内に自生するサクラソウ集団を対象
に、 丸 1 花粉と種子の動きを反映するマイクロサテライトマーカー(SSR)
と、種子の動きを反映する葉緑体 DNA(cpDNA)多型を用いて遺伝的変
異の空間分布を明らかにするとともに、 丸 2 遺伝構造の形成・維持過程に
大きな影響を及ぼす花粉流動を調査した。
7 本の沢沿い分集団と 1 つの非沢沿い分集団に分布する 383 ラメットの
遺伝子型を決定した。SSR を指標とした分集団間の遺伝的な分化程度はΘ
n = 0.006 と非常に低かったことから、分集団間で遺伝子流動が生じてい
ることが示唆された。一方、cpDNA で見つかった 4 つのハプロタイプの
出現頻度は沢間で大きく異なっていたことから、沢間で種子の移動が制限
されていると推察された。これらのことは、現在の空間的遺伝構造は沢間
で生じる花粉流動によって維持されていることを示唆している。
次に、沢沿いの 30 * 120 mを調査プロットとし、SSR8 遺伝子座を用い
て父性解析を行った。30 m以内に潜在的な交配相手が多く分布する高密度
地区では、小花の開花時期により花粉の散布距離に違いが見られた。すな
わち、開花密度の低い開花初期と後期では 45∼80 mの比較的長距離の花
粉流動が生じていたのに対して、開花密度の高い開花中期では平均 3m と
短い範囲で花粉流動が生じていた。一方、30 m以内に交配相手が少ない低
密度地区では、開花期間をとおして平均 11 m、最大 70 mの花粉流動が
見られた。このことから、花粉の散布距離は開花密度に強く依存すること
が示唆された。花粉媒介者であるマルハナバチの飛行距離が開花密度に依
存することを考えあわせると、開花密度の低いときに生じる花粉の長距離
散布は沢間の遺伝的分化も抑制している可能性があると推察された。
— 98—
公募シンポジウム S7: サクラソウ遺伝学
S7-5
09:30-12:30
サクラソウ種子の時間的空間的分散
◦
S7-6
◦
永井 美穂子1, 西廣 淳1, 鷲谷 いづみ1
1
1
東京大学大学院農学生命科学研究科
東京大学大学院農学生命科学研究科
植物にとって種子は,唯一の可動体であるとともに,生育に不適な環
境を回避するための手段でもある.そのため,その時空間的分散に関す
る戦略は多岐にわたっており,植物個体群の維持メカニズムの解明や存
続可能性の推定,あるいは遺伝子流動の把握や遺伝的多様性の評価など
においては,種子分散とその後の種子による個体の更新の過程を詳細に
理解することが不可欠である.サクラソウエコ・ゲノムプロジェクトに
おいては,種子に関わる生活史戦略の詳細な解明がなされたが,本講演
では,それらのうち空間的・時間的分散に関わる特性について報告する.
サクラソウの種子は,空間的分散のための特別なしかけをもたず,一
次的には,親植物から 15cm 以内に約 80%の種子が散布された.長距離
分散は,稀な出水や斜面崩壊などに伴っておきることが予想される.
一方,サクラソウ種子は散布時の休眠状態が,冷湿処理および変温条
件によって解除されること,冷湿処理の効果は,その回数にも依存して
おり,複数回の処理により発芽率がさらに向上することなどが発芽試験
により確かめられた.これらの特性は,発芽に不斉一性をもたらし,永
続的シードバンクの形成に寄与するものと考えられるが,自生地での播
種実験,および種子埋土実験によってもそれが裏付けられた.裸地の地
表下 0.5cm に播種した種子では,複数年にわたって実生発生がみられ,
発芽に好適な条件下でも発芽は不斉一に起きることが確かめられた.一
方,2cm 以深においた種子では,発芽はほとんど見られず,約 60%の種
子が少なくとも 2 年間生残した.サクラソウの種子は,発芽特性によっ
て発芽の適地とタイミングを選択して実生を発生するか,もしくは永続
的シードバンクを形成することによって時間的に広く分散し,確実な次
世代の実生更新のための危険分散がなされていることが示唆された.
09:30-12:30
サクラソウにおける有効な花粉流動-血縁構造と近交弱勢の帰結
◦
09:30-12:30
サクラソウの生活史段階を通じて現れる近交弱勢
安島 美穂1, 鷲谷 いづみ1
S7-7
S7-5
8 月 28 日 (土) B 会場
石濱 史子1, 上野 真義2, 津村 義彦2, 鷲谷 いづみ1
1
東京大学大学院農学生命科学研究科 保全生態学研究室, 2森林総合研究所 ゲノム解析研究室
自然個体群では、遺伝子流動の範囲が限られていることなどにより、血縁個体
が集中分布することが多い。このような場合、近隣個体間の交配は近親交配と
なり、受精後の生活史段階で近交弱勢が発現する可能性が高い。従って、受精
後過程で自然選択が作用した後では、遺伝子流動に対する近隣個体間の交配の
寄与が相対的に低下し、実質的な遺伝子散布距離が大きくなる可能性がある。
このような自然選択の作用後の遺伝子流動を、有効な遺伝子流動と呼ぶ。有効
な遺伝子流動の範囲を把握することは、個体群間の遺伝的分化を考える上で不
可欠である。また、生息地分断化などによって個体群が有効な遺伝子流動の範
囲以下に縮小している場合には、種子生産の低下に繋がる可能性もあり、保全
上も重要である。
サクラソウの北海道日高地方の自生地において、定着個体の遺伝構造に基づい
た有効な遺伝子流動の間接推定と、実験個体群での父性解析による実生段階で
の花粉流動と種子散布の直接推定を行った。マイクロサテライトマーカー 10
座の遺伝子型から、半径 15m 以内の個体間で、有意に正の血縁度が推定され
た。血縁度の指数に近交弱勢が比例し、自殖で生じた子の適応度低下を 90%と
仮定した計算から、近隣個体間での近交弱勢の強さを推定した。特に血縁度が
高い (>0.05) 、親間距離が 5m 以内の交配による子の適応度低下は、約 19%と
推定された。父性解析による花粉流動の直接推定では、散布距離の標準偏差と
近傍サイズは 7.61m と 41.2 個体、遺伝構造からの間接推定による有効な遺伝
子流動ではそれぞれ 15.7 m と 50.9 個体であり、有効な遺伝子流動の方が範囲
が広い傾向だった。これらの結果から、自然個体群での血縁構造に由来した近
交弱勢が、遺伝子散布距離に影響している可能性が示唆された。
異型花柱性植物は基本的に自家・同型不和合性である。部分的に自殖可
能な花型を持つ異型花柱性植物では、送粉効率が低下した時の個体群の
運命は自殖率および近交弱勢の程度に依存すると予想される。すなわち、
自殖による近交弱勢が強くなければ、自殖後代の遺伝子型が個体群内で
頻度を増し、自殖できない花型が消失して異型花柱性という繁殖システ
ムの崩壊を招く。一方、近交弱勢が非常に強ければ世代の更新が妨げら
れ、個体群の縮小や消失をもたらす。現在サクラソウは多くの個体群で
送粉環境が悪化しており、保全のためには各個体群のおかれた状況に応
じて 2 つの危険性のうちどちらの可能性が高いのかを判断する必要があ
る。そこで、サクラソウの生活史段階を通じて発現する近交弱勢の程度
を明らかにするため、北海道日高地方の 1 個体群において自殖処理と花
型間他殖処理の間で受精・結実や制御環境および野外での次世代の生存・
成長を比較した。
その結果、長花柱型の一部のジェネットで部分的な自家和合性が認めら
れたが、制御環境下における自殖後代の発芽率は他殖後代と比べて著し
く低く、生育初期には自殖・近親交配家系に 1 遺伝子座支配と推定され
る葉緑体欠損による死亡が高頻度で観察された。生き残った個体のサイ
ズも自殖後代のほうが他殖後代より有意に小さかった。自生地へ播種し
た場合にも、実生の発生数や発芽後 3-4 年目の個体サイズは自殖後代の
方が小さく、開花に達する個体も少なかった。すなわち、自殖可能なジェ
ネットでも生育初期に発現する劣性致死遺伝子や成長・繁殖段階に発現
する弱有害遺伝子により 0.9 以上という強い近交弱勢がはたらくことが
明らかとなった。
よって、急に分断化されて送粉が不十分になったサクラソウ個体群では、
近交弱勢による世代更新の失敗から個体群が衰退する可能性が高いと推
測される。危機を回避するためには、結実だけでなく実生の定着状況を
モニタリングして適切な管理を行う必要がある。
S7-8
09:30-12:30
野生サクラソウの連鎖地図作成と保全への応用
◦
上野 真義1, 田口 由利子1, 永井 美穂子2, 大澤 良3, 津村 義彦1, 鷲谷 いづみ2
1
森林総研, 2東大農生命, 3筑波大生命環境
個体の適応度は個体群の存続に大きく影響することから、適応度に関す
る情報は個体群の存続についてモデル構築を行う際には重要である。適
応度を減少させる近交弱勢と他殖弱勢は絶滅危惧種個体群の保全や復元
に際して考慮すべき事項である。近交弱勢は個体数の減少にともない表
面化し、致死因子や弱有害遺伝子がホモ接合体になる確率の増加が原因
と考えられている。一方で他殖弱勢は局所的環境に適応した個体群間に
由来する個体の交配後代で表れることがあり、適応した対立遺伝子や共
適応遺伝子複合体(coadapted gene complex)との関係が示唆されている。
しかしながらこれらの遺伝的機構は完全に解明されているわけではない。
従って近交弱勢と他殖弱勢に関してその機構を明らかにすることにより、
個体群の持つ遺伝的変異や遺伝構造と絶滅確率の関係をより正確に定量
化することができる可能性がある。
適応度に関連する形質は一般に複数の遺伝子座(Quantitative Trait Loci:
QTL)が関与し環境の影響も受けて量的な変異を示す。このような QTL
を解析するには DNA マーカーでゲノム全体の連鎖地図を構築し、対象
とする量的形質に連鎖したマーカーを解析する方法(QTL 解析)が有効
である。個々の DNA マーカーは自然選択に対して中立であるが、連鎖
を利用することによって単独の DNA マーカーでは困難な量的形質に関
する十分な洞察を得ることが可能となる。
本研究ではサクラソウ保全の観点から適応度に関連する諸形質を連鎖地
図上に把握することを目標にしている。そのための家系を育成し、両親
間で多くの多型が期待できるマイクロサテライトマーカーを主に用いて
連鎖地図の構築を行っている。本発表では現在までの進歩状況を報告し
連鎖地図を用いることにより得られる知見と保全への応用に関して議論
する。
— 99—
S8-1
公募シンポジウム S8: 湿地湿原再生
S8-1
S8-2
09:30-12:30
日本にはどのくらい湿地があったのか?–明治・大正時代と現在の湿地
面積の比較–
◦
8 月 26 日 (木) B 会場
09:30-12:30
琵琶湖内湖再生の現状と課題
◦
西野 麻知子1
中島 秀敏1
1
滋賀県琵琶湖研究所
1
国土地理院地理調査部
国土地理院地理調査部では、明治・大正時代に作成された5万分1地形図と
最新の地形図を比較計測することにより、日本全国(北方四島と竹島を除く)
の湿地面積が約 80 年でどれだけ変化したか調査を行った。
調査によると、明治・大正期には全国で 2,111km2 の湿地が存在していた。
しかし、現在までの約 80 年間で 1,548km2 の湿地が消滅しており、新たに増
加した湿地を加えても明治・大正期から現在までに 61%も減少している。減少
面積が大きいのは釧路湿原、石狩川小湖沼群、勇払原野などで、釧路湿原だけ
でも 110km2 と、現在の釧路湿原の 48%にあたる広大な湿地が消滅した。
減少比率では、石狩川小湖沼群、標津川流域湿地、苫小牧川湿地などで 90 %以
上の湿地が消滅している。特に石狩川小湖沼群は明治・大正時代には 86.2km2
と現在のサロベツ原野を上回る湿地を有していたが、現在はわずか 0.7km2 が
残るのみで、99 %以上の湿地が消滅している。
一方、面積が増加した湿地もある。最大は渡良瀬遊水池で、3.5km2 から
19.7km2 へ増加している。
現在、国土地理院環境地理課では、特に重要な湿地・湿原を対象に「湖沼湿
原調査」を実施している。この調査は各湿地周辺の土地利用変化を明らかにす
るとともに、地形学的調査でより長期的な湖沼・湿原の変遷を明らかにするも
のである。平成 15 年度には勇払平野の調査が完了し、昭和 30・40 年代の都
市化の進展による急激な湿地消滅の実態や、ウトナイ湖と周辺湿地の形成過程
が明らかになった。現在は霧多布湿原の調査を実施中である。
筆者らは、これら成果が地域計画や自然再生事業などに広く活用されるよう、
そのあり方を模索していきたいと考えている。ぜひ、今後の調査とデータ整備
のあり方について、ご意見を頂ければ幸いです。
S8-3
09:30-12:30
沿岸の人工干潟の施工事例とその問題点
◦
中瀬 浩太1
1
五洋建設(株)環境事業部
人工干潟は今までに 2,100ha 程度造成されている. また, 平成 19 年ま
でに港湾事業では 4,000ha の干潟を, 水産事業では 5,000ha の干潟と藻
場を造成することになっている. 今までの人工干潟は, 大部分が東京都葛
西海浜公園, 広島県五日市人工干潟に代表される前浜干潟である. 人工干
潟の多くはアサリ漁場等の水産目的や公園的施設として計画されるが, 浚
渫土の有効利用としても計画されることもある. これらの人工干潟は基本
的に埋立地造成の技術を用いて建設されている.
人工干潟を地盤が軟弱な場所に建設したり, 内部の充填材料に浚渫土
などを用いると, 干潟面が沈下する. これについては, 予め沈下予測を行
い, 沈下量を見込んで施工するが, 沈下が進行すると造成した干潟が縮小
する印象を与える. なお, 沈下が起こると干潟の勾配が大きくなり, この
ため干潟面への波浪の影響が強くなり, 浸食や底質粒子の淘汰が促進さ
れ, 生物相に影響を及ぼす場合がある. また人工干潟は自然に干潟が形成
されない外力の影響が大きな場所に作られることもある. 浸食について
は, 多くの干潟が1年確率波を条件に設計されているので, 数年に1回程
度の大型台風等が来襲すると, 波浪による浸食で干潟の地形が変化する.
これにも対応可能にすると波浪制御のコストがかかる.
完成後の人工干潟は生物相が貧弱であるといわれるが, 完成後の生物相
の変化状況についての情報は少ない. また, 潮干狩りのように特定の生物
の増殖を目的とする場合以外は, どのような生物相が形成されれば干潟と
して成功したと言えるか, 明確な指針がない.
人工干潟の設計条件や地形・地盤高の変化予測については十分な情報
公開が必要である. また, 地形・生物相については, 継続的なモニタリン
グを実施し, その結果をフィードバックして利用・補修などの計画を検討
してゆくべきである.
琵琶湖では、在来魚漁獲量の著しい減少に代表されるように、生物多
様性の減少が近年著しい。そのため、生態系保全の観点から、魚類の繁
殖場や鳥類を初めとする野生生物の生息場としての沿岸湿地(ヨシ帯)
の重要性が注目されるようになってきた。内湖とは、琵琶湖の沿岸湿地
が、浜堤や川から運ばれた土砂で琵琶湖と区切られ、ある程度独立した
水塊となったが、水路等で琵琶湖と水系の連続性が保たれている水域と
定義される。琵琶湖と水系でつながるため、水生生物にとって内湖は種
のレフュージアであると同時に種の供給源ともなりうる。と同時に、集
水域からの流入水を貯留した後、琵琶湖に流出する沈殿池としての機能
も有している。内湖の総面積は、1940年には2902haだったが、
大部分が干拓等で消失し、1995年には425haに減少した。にも
関わらず、現在でも琵琶湖周辺のヨシ帯の60%は内湖に分布している。
<BR>
滋賀県では、2000年に水質保全、水源涵養、自然的環境・景観保全
の3つを柱にした琵琶湖総合保全整備計画(マザーレイク21計画)を策
定した。計画は3期に分かれ、第1期2010年までの目標の一つとし
て、
「生物生息空間(ビオトープ)をつなぎネットワーク化するための拠
点の確保」を掲げ、ヨシ群落の新規造成、湖岸保全整備等様々な修復事
業が行われ、干拓した一部の内湖については復元の動きもある。しかし、
これらの事業は往々にして事業規模や修復したヨシ帯の面積等で評価さ
れ、琵琶湖の生態系回復への寄与について十分な検討が行われていない。
また内湖復元についても、洪水制御や地域住民との関係、復元後の管理な
ど様々な調整が求められている。今後、第1期事業を評価し、第2期に
向けて新たな事業へフィードバックする順応的手法をとることが不可欠
であるが、第1期の半ばにあたる現時点で、生態系保全の立場からどの
程度目標が達成されたかを評価する適切な「ものさし」が求められる。
S8-4
09:30-12:30
沿岸における湿地生態系の自然再生事業の評価
◦
野原 精一1
1
国立環境研究所
自然再生事業は、過去に失われた自然を積極的に取り戻すことを通じて
生態系の健全性を回復することを直接の目的として、湿原の回復、都市臨
海部における干潟の再生や森づくりなどを行う。その地域の生態系の質を
高め、その地域の生物多様性を回復していくことに狙いがある。湿地生態
系の機能を再生させるため、より自然に近い湿地生態系の自然再生実験等
によって自然の節理を学び、湿地生態系の再生及び管理・事業評価を実施
する必要がある。ここでは、沿岸における湿地生態系の自然再生事業の評
価について、具体的に2つの自然再生事業について検討委員と第三者の立
場から述べる。
1.
「東京湾奥部海域環境創造事業」
国土交通省千葉港湾事務所が東京湾奥部の環境改善・創造するために、中
ノ瀬航路浚渫土砂(約 80 万 m3)を用いて覆砂造成や海浜造成を行い良好
な海域環境を創造することを目的としている。平成 14 年度には2回の準
備委員会、15 年度には4回の検討委員会と2回の技術検討委員会を経て、
浦安市舞浜沖に環境再生計画を決定した。その決定過程について概要を述
べ、事業の自己評価を行う。
2.
「霞ヶ浦湖岸植生帯の緊急保全対策」
霞ヶ浦工事事務所(現:河川事務所)が「霞ヶ浦湖岸植生帯の緊急保全
に係わる委員会」による5回の検討会を経て、13ヶ所で粗朶消波堤等の事
業を平成 13 年度に実施した。その後、「湖岸緊急保全対策評価検討会」で
別委員会による自己評価し、
「霞ヶ浦意見交換会」で様々な環境問題に市民
と意見を交換している。植生帯に影響する高水位維持を堅持するが水位調
整の実験は認めてきている一方で、波浪による植生破壊を粗朶消波堤等で
補償しようとしている。調査の結果、本来の湖岸植生の回復は実現されて
いるとは言い難い。
— 100—
公募シンポジウム S9: 東アジア保全管理
S9-1
S9-2
09:30-12:30
Nature conservation concepts and management of protected areas and landscape in Europe
◦
◦
Nobukazu Nakagoshi*1, Mikio Kamei1
1
Graduate School for International Development and Cooperation, Hiroshima University
1
University of Marburg, Faculty of Biology, Division of Nature Conservation, Germany
By 2003, nature protected areas (PA) amounted to about 11.5 % of the earth’sland surface. However, there are still
considerable gaps in the world’ssystem of PAs, e.g. concerning the oceans, semi-deserts and steppes, and theboreal
and arctic regions. An area of more than 18 million qkm cannot bekept totally separated from any human influence.
PAs are often inhabitatedby indigeneous peoples with traditional rights of nature use. In future, theinterrelations
between local communities and PAs will play an increasingrole in the management of such areas (www.iucn.org,
www.wcpa.org).
Nature Conservation strategies in many countries focus on the north americanconcept of National Parks. Indeed,
National Parks are the core of the globalsystem of PAs. However, in its tendency, this concept separates nature
andhuman communities and targets areas mostly in governmental or publicownership. In densely populated areas
of the world the concept of NationalParks must be complemented by additional types of PAs which include more
themanagement of human use and the participation of local communities indecision-making.
Europe lost almost all of its pristine nature already centuries ago.Semi-natural land is often in private or communal
ownership and exposed tosome kind of traditional and/or legal rights of use, such as hunting,pasturing or gathering
of wild plants. Due to a high human populationdensity and a high level of technical development unfragmented
semi-naturalareas are very scarce. However, while the local biodiversity(alpha-biodiversity) may often be low,
the beta-diversity on a landscapelevel is often remarkably high. Most of Europe’s significant biodiversity islinked
to fine-grained cultural landscapes, where natural and artificialelements are closely mingled (mosaic landscapes).
This phenomenon can beunderstood by a long-lasting co-evolution between nature and local usetechniques and
cultures, resp. (PLACHTER 1999, PLACHTER & PUHLMANN 2004).Thus, by its experiences to protect nature
in overally used landscapesEurope may substantially contribute to the goals of the Convention onBiodiversity
(CBD) as well as to strategies of a comprehensive globalnetwork of PAs.
Europe currently disposes on a broad spectrum of tools for the protection ofecosystems and landscapes, ranging
from National Parks and Nature reservesto Landscape reserves, Biosphere reserves and contractual natureconservation, subsidies for nature-friendly use, and legal protection ofspecific types of ecosystems and habitats. The
European Habitat Directiveturned out to be an excellent tool for the protection of natural andsemi-natural landscape elements, while nature conservation contracts supportthe persistence of a biodiverse structure of agricultural
landscapes(FEDERAL AGENCY FOR NATURE CONSERVATION 1999).
The major challenge of current nature conservation strategies is to findmore sustainable, nature-friendly and socioeconomically acceptable kinds ofuse in and beyond PAs. Experiences from reserves in private land ownershipin
Europe demonstrate ways to harmonize protection goals and traditionalrights of use, legally linked to the land
ownership, and strategies how toinvolve local communities in the decision-making processes on the futuredevelopment of such areas. Biosphere Reserves, which are, according to theSeville Strategy, model regions for the
development of sustainable kinds ofnature use and landscape development, increasingly play a substantial rolein
the nature protection strategy of Europe (UNESCO 1996).
09:30-12:30
National strategy and environmental policy for reserved area of Korea
◦
09:30-12:30
Nature conservation systems and protected areas in East Asia
Harald Plachter1
S9-3
S9-1
8 月 26 日 (木) E 会場
Sun-Kee Hong*1, Yeong-Kook Choi2
1
Kookmin University, Seoul, Korea, 2Korea Research Institute for Human Settlements, Anyang, Korea
Comprehensive and necessary considerations arisen from the view of landscapeecology
were discussed for the present situations of wildlife conservationand management in Korea compared with other countries. Especially, theconservation strategy and policy of biodiversity were addressed in broadsenses including habitat protections, legal approaches,
and ecologicalnetwork programs. The principle of ”network system” is used, from theviewpoint of landscape ecology, as the strategy to obtain various types ofpatches where
the diverse organisms live and, it is also used to improve thequality of biodiversity and
to reinforce the recent policies forconservation and management of wildlife such as establishment of naturereserves. The strategy is called ”ecological network”, ”biotope network” or”habitat network” by the countries. The strategy is for the improvement ofecosystem quality in an entire region. It works by connecting the core areasunder protection and restoration in the widely ranged aspect on theassumption that ecological corridors
are effective for migration anddistribution of animals. By doing so, the habitats existing
in the regioncan be kept either systemically or flexibly in the connected system. Suchconcept and method of ecological networks is being actively proceeded inEuropean countries
starting from Germany as well as in the USA and Japan. Ithas also been especially developed, being classified to the plans forutilization of lands and the plans for utilization
of landscape ecology.Core areas should be regions with high biodiversity and highnaturalness that have the typical and representative habitats where the rareand endangered
species live. Core areas should also be larger than theminimum-sized area required for the
survival of organisms. In Europe,domestically and internationally, the required minimum
size of the core areais 500 ha. Ecological corridors should be areas with good connectionwith core areas. They should function as temporary habitats and routines formigration and
distribution. In choosing ecological corridors, the size ofcore areas for connection and the
distance from adjacent habitats andexistence of obstacles should be considered. Nature
development areasshould have some naturalness and should function as buffer zone thatprevents the habitats in core area and corridors from artificial influence.They are also the
restoration places for nature to reinforce and expand theecological networks. This issue
is effectively concerned with natureresource management and sustainable development
in environmental policy inEast Asian countries. Finally, authors suggested that landscape
ecology haveto role of the baseline framework not only for ecological research andmonitoring but also general protocol of environmental policy in changingworld.
The East Asia region is located in the eastern part of Asia, spreadingacross a wide area of 4-52 °N and
73-154 °E, and including eightcountries and territories of Japan, China, China - Hong Kong, China Macau,Republic of Korea, Democratic People’s Republic of Korea, Mongolia, ChineseTaiwan. The total
land area covers almost 12 million km2 , that isabout 8% of global total area and 23% of Eurasia. The
region encompasses adiverse array of climatic zones, geomorphological types, ecosystems. Fromthe east
and the west, there is a transition from forests to deserts throughsteppes. From the south to the north, the
zonal vegetation distribution iscomposed of tropical evergreen broadleaf forests, north tropical seasonalrain forests, subtropics mixed evergreen and deciduous forests, temperatedeciduous broadleaf forests,
temperate mixed coniferous and deciduousbroadleaf forests, cold temperate boreal coniferous forests.
The East Asiajurisdictions share a long and complex history, with each jurisdictionpossessing a unique
history, government, size and landscape. Due to thelarge variety that exists within the East Asia jurisdictions, all protectedareas must take into account many items distinct to the rich and diversegeographical
and cultural environments in which each jurisdiction is found.The act of conserving nature and natural
resources dates back to ancienttimes in many of the East Asia jurisdictions. Concepts of nature and
natureprotection are linked to ancient religious philosophies and practices ofConfucianism, Taoism and
Buddhism. Thousand of years ago, some of thesecultures were aware of relationships between conservation and utilization ofnatural resources and survival. Even though the concept of nature protectionhas
existed for centuries, the creation of modern day legislation andsystems of legally protected areas has
occurred within the last century. Thesmall and densely populated country of Japan was a first attempt
toestablish a modern day park system through official government legislation.Protected area legislation
and laws vary from jurisdiction to jurisdiction.Even though the specific details of legislation differ, the
intent behindthe legislation is common to all jurisdictions - legally to identify andprotect a system of
naturally and culturally significant areas.Jurisdictions in East Asia vary in the classification and titles
ofadministrative systems as well as in the types of management organizationsthat look after parks and
protected areas. Some are highly centralized andutilize a top-down approach. Others extend greater
authority to regionalmanagement units. Even though government agencies that oversee protectedarea
systems are not the same, some features are common to the variousjurisdictions. All of the park systems
in East Asia use some form of zoningsystem that identifies varying levels of appropriate use and protection indifferent areas of the park or protected area. The protection and use ofeach area varies along a
continuum, with strict protection and no human useat one extreme, and high human use and some infrastructure development atthe other extreme. Between these two end points are varying degrees of useand
development versus protection and conservation.
S9-4
09:30-12:30
Nature conservation systems and management of protected areas in Japan
◦
Tatsuo Sasaoka1
1
Ministry of the Environment, Japan
As for the conservation system in Japan, the embryo is seen in the Edo era.The
protection of the forest resources, the protection of the wild animalsfor the
hunting, the forest conservation and the reforestation for theprevention of natural disaster, or the protection of the scenic area and theplace of scenic beauty
where people gather to the sightseeing are theexample. In the great reform of
the society, which accompanies Meijirestoration, such social regulation and
a model showed confusion temporarilybut were replaced in the modern legal
system in order. In 1931, the NationalPark Law was established, which aims
to contribute to national health care,recreation and edification, protecting the
large scale of natural scenicbeauty area and improving appropriate use. After
World War II, the numberand the area of the natural parks, which consists of
National Parks, QuasiNational Parks and prefectural natural parks, increased
rapidly becausethere were local requests which aims to win the foreign currency and thelocal promotion by the sightseeing promotion. In the process
of the higheconomic growth in Japan, a wide range of development brought
about thealteration of the natural environment in the country, but the natural
parksplayed a role of the bulwark against to the development pressure, too.
TheNature Conservation Law was established in 1972 after the Environment
Agencyis established in 1971, which has the character of the fundamental
law forthe natural environment conservation, whereas has a reserve system of
thewilderness area which embodied the thought of the ecosystem preservation init. In March 2002, the revised edition of National Biodiversity Strategy
wasworked out. It is the total plan of the mid and long term naturalenvironment conservation policy of Japanese government and one of the threepolicy
directions is ”Reinforce Conservation Efforts”. Reinforce theprotected-area
system, expand the designation of protected areas, improveconservation and
management activities based on scientific data, preventspecies extinction, respond to the problems of alien species, and so on.These reinforcement efforts
must be in accordance with the conditions ofbiodiversity crisis risk.
— 101—
S9-5
公募シンポジウム S9: 東アジア保全管理
S9-5
09:30-12:30
Landscape architecture in National Parks for civilian utilization and ecotourism
◦
Shintaro Sugio1
1
PREC Institute Inc., Japan
Let me first introduce to the distinguished members of the EcologicalSociety why I established a company with emphasis upon ecology 32 years agoand how the company, now
successfully having become one of the companiesopen on the stock market, worked up to
now.
It was a lecture by Prof. Tatsuo Kira I attended in 1958 and the book ofE.P.Odum that
inspired interest in ecology in me. As a university studentwho was studying landscape architecture in the forestry department of anagriculture faculty, I came to think that it would
be interesting if ecologywas applied to landscape architecture; as a result, I chose a study
on thehabitat segregation of turfs in relation to trampling as the theme on mygraduation
thesis. Graduating from the university in 1960, I got a job inthe Planning Section of the
National Park Department of the Ministry ofHealth and Welfare, where I was gifted with
opportunities to work in avariety of important projects including those for the protection
ofYakushima, Iriomote, and the Ogasawara Islands. Among those projects, theplanning
of the protection of Oze is especially memorable to me. Back then,visitors were allowed
to walk anywhere in Oze and the wetlands of the areawere facing risks of deterioration.
As a measure to protect those wetlands,I introduced a ban on entry into wetlands, set up
double-lane wooden paths,and prohibited urban transportation facilities. It was around
this time thatI published an article proposing that landscape architects should learn fromecology and incorporate it into their methodologies and techniques; to mybewilderment,
that opinion of mine received severe criticism both from theEcological Society and the Institute of Landscape Architecture. Nonethelessbelieving that ecological science provides
necessary knowledge for landscapearchitecture and nature protection, I set up a company
to do research,planning, and designing with a central focus upon ecology. After 32 years,
Iam still convinced that such approach is right. Now “ecology” has become aword that
almost everybody knows. At the symposium, examples of applicationof ecological concepts and technologies will be introduced from myexperiences at Nikko, Yakushima and
the Minamijima of the Ogasawara Islandsto show how ecology is practically applied in
the field of landscapearchitecture, especially in efforts to protect the natural environment
and landscape:The case of Nikko concerns the control of feral deer and theprotection of
plants at Senjogahara; the case of Yakushima concerns therestoration plan for the heavily
damaged mountain paths; and the case of theOgasawara Islands concerns the control of
utilization on a limestone island.
— 102—
8 月 26 日 (木) E 会場
公募シンポジウム S10: 北川生態学術研究
S10-1
S10-2
14:30-17:30
北川の高水敷再形成プロセスから見た河川管理上の課題 - 高水敷掘削
を伴う多摩川の修復との違い ◦
◦
杉尾 哲1
1
宮崎大学 工学部
1
国土技術政策総合研究所 河川研究室
北川の激特事業においては,河川生態系への影響をできるだけ少なくす
るために,低水路の掘削はできるだけ避けて,河積の拡大は高水敷の掘
削や高水敷上の樹木の伐採によって行われた.その計画案の検討段階で
は,高水敷を形成する砂州の地形変化および植生の回復については,洪
水の流量規模と関係付けた予測ができなかった.しかし,高水敷掘削や
樹木伐採を計画する場合に,これらの実施後に砂州の地形および植生域
が自然の流量変動に伴ってどのように変化するのかを流量規模を基に予
測することは,将来の河川形態を検討する上で極めて重要である.
本研究では,本村地区と川坂地区の砂州を対象として,出水の前後の
砂州の地形変化や砂州上の植生域の変化をモニタリングすることによっ
て,出水時の流れや流量規模などと関連付けることによっていろいろと
検討している.ここに,本村地区の砂州は激特事業では高水敷が掘削さ
れなかったが,川坂地区の砂州は高水敷が掘削されている.
本発表では,本村地区の砂州について,砂州の地形変化および植生の
繁茂と破壊を年最大流量と関係付けて説明できた成果を示す.解析に用
いた資料は,熊田流量観測所で観測された 1955 年以降の 48 年間の流量
と,1967 年以降に撮影された 12 枚の航空写真,および砂州の5断面に
おいて採取された砂州内の砂礫の鉛直方向の粒径分布の測定結果である.
これらの資料から,本村地区における最近 35 年間の砂州地形の履歴が理
解できた.また,砂州上の植生による被覆状況と年最大流量との関係を
解析した結果,植生の回復と破壊が繰り返されている様子が理解できた.
特に,2,300 m3/s を限界流量として砂州上の植生による被覆状況が変化
している結果が得られた.ここに,北川の平均年最大流量は 1,850 m3/s
であることから,本村砂州においては,平均的には植生の量が増加する
ことが分かった.
近年,洪水時の流れや河道地形変化などの物理的作用が植生の繁茂,遷移や
流失などに与える影響とその仕組みに関する研究が進められている.その結
果,特定の生物種やハビタットといった個別対象だけではなく,様々な仕組
みが連動することで自律的かつ持続的な生物生息・ハビタット形成を可能と
する系として捉えられる河川のシステムも保全する必要があるとの認識が広
がりつつある.1997 年 9 月の大洪水(ピーク流量:5,000m3/s)を契機とし
て河川激甚災害対策特別緊急事業に採択された北川では,環境に配慮しつつ
治水を目的とした河川改修が行われた.河道の流下能力を確保するため,高
水敷の掘削,築堤,樹林の伐採などが全川的に実施された.本研究では,こ
のように大規模な河道掘削が行われた北川を対象として,河道の変化と植生
群落の変化を相互に関連するシステムとして捉え,河道掘削後の河川敷の将
来像を予測した.具体的な調査・検討項目としては,(1) 航空写真による砂
礫堆の形成と拡大過程の調査,(2) 地層構造調査と炭素年代測定を用いた高
水敷の形成過程の調査,(3) 河道の変化,特に河床材料の変化に伴う植生分
布の変化の調査,(4) 河床材料や河川敷に繁茂する植生に作用する洪水流の
大きさを表す掃流力の掘削前後での比較検討を行った.その結果,掘削後の
数年・十数年・数百年スケールでの河川敷の将来像を予測した.さらに,掘
削された高水敷には十年程度でツルヨシやヤナギが繁茂する状態が長期間継
続することが予測され,拡幅された河道の粗度が増加し,治水上必要な河積
が不足することが懸念された.そこで,十年を目途に樹林の伐採を行うなど
の河道管理の必要性が示された.また,土砂収支のバランスの点で北川と対
照的な多摩川永田地区での河道修復事業を対象として,北川における河川改
修との違いについても言及した.
S10-4
14:30-17:30
北川河川改修事業地における植生回復
◦
14:30-17:30
北川本村地区における砂州変化と出水との応答
福島 雅紀1
S10-3
S10-1
8 月 26 日 (木) D 会場
14:30-17:30
北川におけるカワスナガニの生息環境と保全
◦
矢原 徹一1
楠田 哲也1
1
1
九州大学大学院工学研究院環境都市部門
九州大学大学院理学研究院生物科学部門
宮崎県北川の大規模河川改修事業地では、治水効果の達成と生物多様性
保全の両立をはかるためのさまざまな試みが実施された。私の講演では、
とくに高水敷掘削後の植生回復をとりあげて、保全・復元的手法の成果
を紹介する。高水敷掘削は植生への影響がもっとも大きな河川工事であ
り、全面的な掘削を行えば、工事後に外来植物中心の遷移が進む。しか
し、掘削地に隣接する河岸植生を残すことで、在来種を中心とした遷移
を進めることができる。また、平水位以下まで掘削し、ヨシを移植した
場所では、ヨシ原の土壌中の種子からさまざまな在来種の発芽が見られ、
植生回復も早く進行した。このような保全・復元手法と、徹底した植物
の分布調査・個別的な保全措置を組み合わせることで、大規模河川工事
下でも、植物の種多様性の保全をはかることが可能である。
宮崎県五ヶ瀬川水系北川の感潮域に生息する希少種(後にデータ不足種)の
カワスナガニを保全することを目的として、個体の分布状況、選好性、忌避
性、生活史、生息環境、成体の掃流耐性等を明らかにするために行った現地調
査および室内実験の結果を報告する。現地調査を 2001 年より実施し、2ヶ月
間隔で河口より 400 mごとに感潮域限界の 7km 地点まで、両岸から流心に
向けて最大 3ヵ所にてコドラート調査を実施した。調査項目は、カワスナガ
ニの存在数、甲幅、性別、抱卵の有無、その地点の粒径、塩分、水温である。
なお、調査開始時に水質を調査し、BOD 5は 1mg/L 以下、重金属等の有害
物質はないことを確認した。次いで、カワスナガニの生息環境に影響を及ぼ
す環境因子を調査結果から河床材料の粒径、塩分、水温とし、HSI(Habitation
Sustainability Index) モデルを用いて、これらを統合して生息環境を評価した。
さらに、感潮域の流況を再現するために水理シミュレーションを行った。
これらによる主な結論は以下のとおりである.
1) カワスナガニは、北川感潮域の河口から 4.8 から 6.8km の領域に多く分
布する。
2) カワスナガニの全数は 40 から 356 万個体の範囲で変化しており、全体と
しては減少傾向にある。
3) 個体は夏季に成長・産卵し、冬季に減少する。
4) 選好性・耐性の高い生息条件は以下のとおりである;幼生:海水、15 ℃
以下の低水温;成体:汽水から淡水の低塩分、甲幅の 2 から 3 倍の大きさを
有する礫床、18 から 20 ℃程度の水温を好む。
5) カワスナガニはゾエア I 齢の状態で孵化し 5 期のゾエア期を経て最短で
孵化後 38 日でメガロパ幼生となった。メガローパ幼生以降の生育に未だ成
功していない。
6) 成体は、ほとんどが最大生息密度の 1/3 程度で生息している。
— 103—
S10-5
公募シンポジウム S10: 北川生態学術研究
S10-5
S10-6
14:30-17:30
14:30-17:30
第 1 フェーズを振り返って
河川敷に棲む中型ほ乳類の土地利用様式と、工事による影響の評価
◦
8 月 26 日 (木) D 会場
◦
岩本 俊孝1
小野 勇一1
1
1
いのちのたび博物館
宮崎大学教育文化学部
本研究は、新開発の自動方探マルチテレメトリ(MTS)を使い、宮崎県北川
河川敷に生息する中型ほ乳類の自然条件下及び工事施工時での行動を追跡す
ることによって、ほ乳類各種の工事進行に伴う行動様式の変化、及び環境要
素に対する選好性の変化を分析することを目的として行われた。
研究対象地である的野河川敷周辺では、2002 年 1 月から河川敷の南半分
の掘削工事がはじまり、2002 年 10 月から残りの北半分の掘削工事が始まっ
た。MTS を使っての研究が開始された 2000 年 7 月から、ウサギ、タヌキ、
イタチの行動追跡が行われたが、そのうち工事の影響を分析できる追跡結果
が得られたのは、イタチ 1 頭、タヌキ 2 頭についてであった。また、動物
を MTS で追跡すると同時に、作業従事者及びトラックや重機に GPS を取
り付けその移動を毎日経時的に記録して、工事の進行に対応した騒音・振動
の分布図を動物の行動圏内で作成した。さらに、その騒音・振動分布と動物
の行動軌跡を重ね合わせ、動物がどのように工事現場を回避するかを分析す
ることができた。
その結果、(1) タヌキは工事が行われていない夜間においても、明らかに
工事現場は回避していること、(2) しかし、工事が始まって数日以内に、好
奇心にかられてだと思われるが、工事現場の中を訪問することがあること、
(3) タヌキ・イタチともに昼間の滞在場所(休息地)としては、騒音・振動の
少ない場所を選んでいること、(4) ただ、多少騒音・振動が大きくても隠れ
場所として好適なブッシュがある場合はそこを利用すること、などが明らか
になった。そこで、工事現場周辺における騒音、振動分布及び植生分布を元
に、タヌキがどこを利用するか予測できる行動モデルを作成して、実際のタ
ヌキの方探結果を比較したところ、よい一致を見ることが出来た。これを今
後の工事アセスに利用できる可能がある。
北川では「激甚災害特別法」に基づき平成 9 年度より集中して河川改修
がおこなわれ,平成 15 年度で一応終了した.この大規模な河川改修が
河川の生態系に与える影響の評価手法や生態系・生物種の保全対策につ
いての知見を得るためにインパクトアセスメントを行った.これは河川
生態学術研究会の研究目的の主として旧版の IV に合致する内容である.
北川研究グループは約 15 名で構成され,護岸工事,それに伴う植生の伐
採や改変,高水敷掘削などによる河床変動,掘削による生物生息地の消
失,水質などの変化やその水生生物への影響など多岐にわたる研究テー
マについて研究してきた.河口部分が研究地に含まれているのは河川生
態学術研究会では唯一のグループである.サブグループとしては植性の
変化,砂礫の移動と植生との関連,環境改変に伴うほ乳類の動き,河口
域の環境の変化の 4 つをたてた.現在第1フェーズは報告論集としてと
りまとめ中であり,旬日の内に公表する予定である(CDとして配布の
予定).今回は論集のうちの一部を本シンポジウムで発表する.
— 104—
公募シンポジウム S11: 要望書のききめ
S11-1
S11-2
09:30-12:30
馬場 繁幸1
◦
1
琉球大
山口県立大
ユニマットの西表島リゾートに対する要望書は,従来の生態学会の要望書
と違って,自然環境への影響評価だけでなく,
「これまで自然との共存を果た
してきた地域社会への影響についての客観的予測・評価」をも求めた点がユ
ニークであった.西表島には,自然と共存する知恵の伝統があり,例えば,
イリオモテヤマネコの餌場は人里に近い所が主であって,無農薬の稲作を何
百年も続けてきた島民こそがヤマネコの生活環境を保全してきたのだ,と島
民は語る(Ankei 2002: 17).そうした文化からの逸脱は,社会的な制裁の対
象となり,場合によっては神罰をこうむるという精神世界が今も生きている.
このような,
「地域の文化によって支えられた生物多様性」(Ankei 2002: 21)
をもつ地域社会が崩壊したり,あるいは民宿が軒並み倒産したりするような
事態になれば,島の自然を守ってきた大きな歯止めが失われるだろう.西表
島に限らず,野生生物の未来と地域社会のあり方が,多くの場合不可分にリ
ンクしている(馬場・安渓,2003).そうした bio-cultural region を総合的に
研究していこうという目標にそって,浦内川流域研究会は結成され,活動し
てきている(安渓,2004).
○ Ankei, Yuji (2002) Community-based Conservation of Biocultural Diversity
and the Role of Researchers: Examples from Iriomote and Yaku Islands, Japan
and Kakamega Forest, West Kenya. 山口県立大学大学院論集 3: 13-23.
『エコソフィア』
○安渓遊地 (2004)「南島の聖域・浦内川と西表島リゾート」
13
○馬場繁幸・安渓遊地 (2003) 地域社会への影響評価を??西表島リゾート施
設に対する日本生態学会の要望書の特色.保全生態学研究 8:97-98
S11-4
09:30-12:30
細見谷渓畔林の価値と公共工事への固執
◦
安渓 遊地1
1
西表島は面積が約 284ha で沖縄県内第二の面積の島であるが、人口はわず
か 2060 人(2002 年 12 月末)の島である。貴重な自然が残っていること、
亜熱帯照葉樹林やマングローブ林等の特異な景観等から、年間の観光客は
26.7 万人にも達している(平成 11 年度、竹富町役場の調べ)。
西表島には絶滅危惧種のイリオモテヤマネコ、セマルハコガメをはじめと
する貴重な動植物がいる。また、近年は入域観光客の増加に伴い動力付き
の高速観光船の導入等による引き波に河岸侵食が問題となり、ヒナイ川で
は動力船の運行規制が実施され、仲間川では航行速度規制が設定されるな
どの保全対策が講じられてきている。
環境省、林野庁、地元観光業者、地元住民はじめ多くの心ある方々が西表
島の貴重な自然を保全しようとしているなか、浦内川の河口のトゥドゥマ
リ浜に(株)ユニマット不動産がホテル建設を計画し、竹富町長がそれを
率先して誘致したこともあり、2004 年4月から営業が開始され、7月には
グランドオープンが予定されている。
日本生態学会、日本ベントス学会等が要望書を提出し、貴重な生態系の保
全とアセスメントの必要性を強調し、再三にわたって(株)ユニマット不
動産、
(株)南西楽園ツーリストや竹富町長に慎重な対応を要望したが、そ
れらに耳をかすことはなかった。
地元の有志を含め全国の支援者が行政訴訟や民事訴訟に訴え、それらを多
くの研究者が支援してくれているが、訴訟を無視して営業は強行され、大
手の旅行代理店や日本トランスオーシャン航空株式会社までも当該ホテル
(西表サンクチュアリーリゾートニラカナイ)宿泊の商品を売り出している。
貴重な生物やかけがえのない自然を保護・保全することよりも、一部業者
の利益優先のための開発がまかり通る現実を通じて、西表島の風土が育ん
だ伝統文化や、貴重な自然が失われてしまうかもしれない脅威に曝されて
いる現状について話をさせて戴く。
S11-3
09:30-12:30
聞く耳をもたない人々になお語りかける:リゾートの地域社会への影
響を憂慮する
いま西表島で何が起こっているのか
◦
S11-1
8 月 27 日 (金) B 会場
09:30-12:30
細見谷の渓畔林:その価値と保全の意義
◦
金井塚 務1
河野 昭一1,2
1
京都大学名誉教授, 2日本生態学会自然保護専門委員会委員
1
広島フィールドミュージアム
一旦決まったらあくまでやり遂げる。官の仕事には瑕疵はない。失敗
はないのだから責任をとる者もいない。というのが我が国における公共
事業の実態である。そこには経済発展を至上命題とする戦後復興期の論
理が、時代を超えて脈々と受け継がれてきている。しかし時代は変わり、
失われつつある自然を保全することへの認識は大きく変わってきている。
生物多様性保全の意義が世界的な規模で認識されつつある今日、全国各
地で大規模な自然破壊を伴う公共工事に対する地域住民や生態学者から
の異議申し立てが相次いでいる。そこでは客観的で公正な影響評価が求
められてもいる。しかしその一方で、生物に与える影響を過度に低く評
価し、公共事業の推進に学問的権威を与える研究者も少なからず存在し
ていることは否定し得ない事実である。それを止める手だてはあるのだ
ろうか。< BR >
西中国山地国定公園内の細見谷渓畔林を縦貫する「大規模林道建設計
画」に対して提出された日本生態学会は工事中止を求める要望書の効能
について検討してみよう。< BR >
中国地方は古くから開発の手が入り、原生的自然を残している地域は極
めて少ない。ここ細見谷渓畔林はそんな中にあって実に豊かな生物多様
性を保持している。この奇跡的に残されたかけがえのないストックであ
る渓畔林を縦貫するようにして大規模林道が計画されたのは 30 年も前
のことである。計画の背景となった社会情勢も大きく変わる中、計画だ
けは変更されることなく、ひたすら建設に向けて動いている。がここへ
来て、建設計画にちょっとした異変が起きている。2002 年の日本生態学
会つくば大会において、
「細見谷渓畔林保全」を求める要望書を総会決議
をもって採択したのである。この総会決議を経た要望書はボディブロー
のように緑資源機構(当時)を苦しめだしたのである。
細見谷の渓畔林は、西日本における森林植生の中では群落の規模、自然
度、構造、多様性などの諸点からみて、今日、この地域に残された自然
植生の中で特筆に値する。特に、渓畔林の構造は、斜面 – テラス(段丘)
– 氾濫原と連続するエコトーン (ecotone) 上に極めて複雑な林分組成を示
し、稜線(鞍部) – 斜面ーテラスー氾濫原と連なる環境傾度上には、ブ
ナーイヌブナートチノキーミズナラーサワグルミの見事な群落が成立す
る。その他、アサガラ、ミズメ、シナノキなどの大径木の混生がみられ
る。しかし、群落構造の点では他の地域の渓畔林には見られない複雑な入
れ子構造を示し、この地域に特有な植生が成立している。また、つる性
植物のゴトウヅル、オニツルウメモドキ、イワガラミなどの大径木が多
く、独特な森林の相観 (physiognomy) を示す。他地域の渓畔林では、ブ
ナは湿潤な氾濫原上には集団を形成することはほとんどないが、細見谷
ではサワグルミ、トチノキなどとしばしば混生集団をつくるなど、特異
な林分構造がみられる。また、中小の渓流が随所で、細見谷の本流に一
部が伏流水として流れ込み、その接点に近いやや平坦な流入部にはゴギ、
ヒダサンショウウオ、ハコネサンショウウオが生息する。
細見谷渓畔林は、群落構造上の特異性に加えて、極めて多様性に富み、
オモゴウテンナンショウ、ミツモトソウ、キシツツジ、オオマルバテンニ
ンソウ、サンインヒキオコシ、ヤマシャクヤク、ノウルシ、アテツマンサ
クなんどの、環境省 RDB(2000 年度版)、広島県 RDB に掲載、もしく
は候補種となっている植物が多く、さらに地域を特徴づける種、新分類
群の可能性のある植物が発見されている。現在、計画されている林道の
改修・舗装工事が進められると、林縁部の植生帯と植物相は壊滅的な破
壊を被り、また中小の水系は遮断され、水生動物の生息環境の破壊と集
団の分断、絶滅が加速されることが懸念される。
— 105—
S11-5
公募シンポジウム S11: 要望書のききめ
S11-5
S11-6
09:30-12:30
奇跡の海・周防灘からの報告:上関原発建設計画浮上から 22 年目の
現状
◦
高島 美登里1
(NA)
1
長島の自然を守る会
瀬戸内海に 8000 億円と称する原発を建設しようという計画が浮上してから
22 年がすぎた。欠陥だらけの環境影響評価準備書は、きびしい山口県知事
意見のあと、通産省(当時)によって追加調査を指示された。2001 年 6 月
には国の電源開発基本計画に組み入れられたとはいうものの、以下の未解決
課題が山積している。
まず、炉心部分の神社地をめぐる問題と、地区の共有地をめぐる問題があっ
て、用地の取得が完了できていない。次は、漁業補償問題であり、ナメクジ
ウオ・スナメリの生息する共同漁業権海域に温排水を出すために、各漁協と
共同漁業権管理委員会の法的拘束力の関係が問題になっている。上記の諸問
題をめぐって現在いくつもの裁判が争われている。さらに、地元が住民合意
というにはほど遠い状況であり、上関町を2分した町長選・町議選が戦わさ
れてきた。推進派がやや多いという比率はこの20年固定したままだが、原
発の是非のみを問うアンケート調査では反対が賛成を上回った。
原発予定地の海が、生物多様性が高く、瀬戸内海の生物の宝庫といえる場所
だとわかったことから自然保護団体「長島の自然を守る会」が結成された。
会では、研究者、学生、市民を招いて、建設予定地を中心とする生態系の調
査を通年にわたって行っているほか、自然の学校と銘打って、環境教育も実
施している。また、スナメリの絵本・ビデオ・フィールドガイドの作成など
の普及活動も行っている。今後は、自然の調査や研究だけでなく、人と自然
のかかわりの歴史のほりおこしなども目指したいと考えている。現在は、残
された豊かな自然と共生できる町おこしを視野に、
「人々の集いのいえ」が完
成し、調査・観察会の拠点としても活用されている。スナメリウオッチング
ツアーやシーカヤック教室などのエコツアー、さらにはフィールドミュージ
アムへの展望を考えていけば、瀬戸内海の原風景を残す長島と周辺の海が、
世界遺産として登録される日も夢ではないと期待が集まっている。
— 106—
8 月 27 日 (金) B 会場
09:30-12:30
公募シンポジウム S12: 自然再生
S12-1
S12-2
09:30-12:30
霞ヶ浦湖岸植生再生事業を活用した土壌シードバンクの研究
◦
◦
1
東京大学農学生命科学研究科
高川 晋一1, 西廣 淳1, 鷲谷 いづみ1
1
東京大学 農学生命科学研究科
絶滅危惧植物個体群の再生や生態系修復事業の立案においては、土壌シー
ドバンクの種多様性や密度に関する知見が不可欠である。土壌シードバンク
は一般に不均一性が高いため、それらの把握のためには大規模な実験が必要
になる。本研究では、霞ヶ浦で開始された土壌シードバンクを用いた植生再
生事業を、大規模な生態学的実験と捉え、シードバンクから再生できる種の
範囲、種の多様性の高い湖岸植生帯を再生させるために必要な環境条件、土
壌シードバンクの組成を把握するために必要な実験規模を検討した。
霞ヶ浦の湖岸植生帯再生事業は、コンクリート護岸化によって植生帯が喪
失した場所に植生帯の基盤となるゆるやかな起伏のある地形を造成し、その
表層に土壌シードバンクを含むと予測された湖底からの浚渫土砂をまきだす
という手法で行われた。事業を開始した 2002 年のうちに、事業地(合計 約 65,200m2 )では、レッドデータブック記載種 6 種および霞ヶ浦の地上個
体群からは近年消失していた沈水植物 12 種を含む、合計 181 種の植物が出
現した。沈水植物や湿地性の植物は地下水位 10∼-30cm 程度の範囲内で、沈
水・浮葉・抽水・湿地性植物といったタイプ毎に特異的な比高の場所に定着
した。最も多様な種が出現した地下水位 0∼10cm の比高範囲において、調
査面積と出現種数および種毎の個体密度の関係を分析したところ、出現種の
把握には 12m2 、密度の調査には 10m2 のまきだし面積が必要であることが
示唆された。
本事業および事業と深く結びついた研究により、霞ヶ浦における湖岸植生
の再生、湖岸植生の再生手法の開発、これまでほとんど研究されてこなかっ
た湖底の土壌シードバンクに関する基礎的知見の蓄積が、同時に満たされつ
つある。
絶滅危惧種の個体群の保全・再生のためには衰退要因の解明が必要であり、
問題となっている生活史段階とその環境要求性の解明が欠かせない。しかし
多くの場合本来の生育環境条件は既に喪失しており、環境要求性を明らかに
するには何らかの操作実験が必要となる。また保全対策は、対象種に関する
知見が限られている状況でも早急に講じる必要がある。そのため、現在の知
見から環境要求性に関する最良の仮説を構築し、科学的「実験」として保全
対策の実施・モニタリング・評価を行うことで、個体群再生を図りつつ仮説
を検証するというアプローチが最も有効となる。
国内最大の個体群が存在した霞ヶ浦のアサザ(絶滅危惧 II 類)は、1996
年からの急激な衰退により現在絶滅の危機に瀕している。一部の湖岸では個
体群消失後も土壌シードバンクから実生が出現しているが、それらは全て定
着に失敗しており、定着適地の環境条件の解明が課題となっていた。アサザ
の定着適地はその発芽特性から、「湖の季節的水位低下で水面から露出する
裸地的環境」であると推測されている。この仮説に基づき、実生出現密度の
最も高い湖岸において、裸地的環境を含む地形の造成と消波構造物の設置が
2001 年に行われた。演者らはこの場を利用して、推測される定着適地の環
境を含む様々な波浪・冠水・光条件下での生存率・成長を比較した。その結
果、実生定着には冠水頻度が低く明るい環境が必要であることが明らかとな
り、仮説が検証された。
事業により実生定着が実現したが、シードバンクからの再生は失われた遺
伝子型の回復が可能である反面、ボトルネックによる遺伝的多様性の減少や
近交弱勢の顕在化が懸念される。演者らは現在、系統保存株での受粉実験か
ら得た子孫と野外の実生集団の適応度の測定および遺伝解析を行うことで、
今後再生される個体群における遺伝的荷重の影響の検討を試みている。
S12-4
09:30-12:30
湖沼生態系の再生に必要な研究ー釧路湿原達古武沼再生への取り組み
から
◦
09:30-12:30
個体群の再生事業を通じた絶滅危惧種の生態的・遺伝的特性の解明
西廣 淳1, 西口 有紀1, 鷲谷 いづみ1
S12-3
S12-1
8 月 27 日 (金) D 会場
高村 典子1
1
国立環境研究所
環境省が行っている釧路湿原の自然再生事業に東部 3 湖沼(シラルトロ
湖、塘路湖、達古武沼)が取り入れられた。演者は、阿寒湖町エコミュージ
アムセンター、道環境科学研究センター、道立孵化場、北大、北教大の研究
者らと、平成 15-16 年度、達古武沼の環境劣化の原因究明とその対策を明ら
かにするための調査研究を実施している。本調査研究は、達古武沼の再生を
流域全体で考える姿勢が貫かれている点に大きな特徴がある。調査結果をも
とに、湖沼再生の目標設定、再生のために必要な適切な処置や事業の提案、
事業効果の監視手法の検討などが行われる予定である。
日本の湖沼研究は「湖沼学」として約 100 年前に始まった。戦後、IBP の
生産生態学、富栄養化の機構解明や防止・対策の研究を通して、この 30 年
間に大きく進展したといえる。また、幾つかの湖沼では、水質やプランクト
ンのモニタリングデータの蓄積がなされてきた。現在の湖沼科学は、富栄養
化問題の克服の過程で、築き上げられてきたように思える。が、残念ながら、
この間、水質の改善が実現されないままに、沿岸域の破壊、水位管理、外来
漁の侵入、温暖化、化学物質など、富栄養化以外の撹乱の影響も顕在化して
きた。また、これまでの研究の成果が、湖沼保全や管理に生かされるような
しくみが作られてきていない。湖沼は、すでに人為的な改変を大きく受けて
おり、治水やその利用においては、漁業者、農業者、周辺住民など、多くの
stakeholders をかかえ、その管理方法に関して合意形成が難しい場でもある。
湖沼科学は、自然再生事業を通し、より広範な総合的科学としての発展が望
まれている。
09:30-12:30
自然条件下での外来種除去実験 ∼ 深泥池における外来魚個体群と群集
の変化
◦
安部倉 完1, 竹門 康弘2, 野尻 浩彦3, 堀 道雄1
1
京都大学理学部動物生態学研究室, 2京都大学防災研究所水資源研究センター, 3近畿大学農学部水産
学科水産生物学研究室
「自然再生法」や「外来生物規制法」によって今後,外来生物除去や在来生
物群集の復元事業が各地で行われると予想される.これらは,通常野外で実施
困難な「特定種の除去実験」に見立てることができる.すなわち,事前・事後
のモニタリング調査を有効に計画・実施することによって個体群生態学や群集
生態学の課題解明に活かすことが期待できる.
本研究では天然記念物である深泥池(約 9ha)を野外実験のサイトに選んだ。
深泥池には、低層湿原とミズゴケ類の高層湿原が発達し多数の稀少動植物が共
存している。ところが、外来種の密放流により生物群集が激変したことが判っ
たため、1998 年からブルーギルとオオクチバスの除去と生物群集調査を実施
している.本研究の目的は、1)深泥池における外来魚侵入後の魚類群集の変
化、2)1998 年以後のブルーギル、オオクチバスの個体群抑制効果、3)外来
魚の侵入直後、定着後、除去後の底生動物群集の変化を示すことである。深泥
池では、1970 年代後半にオオクチバスとブルーギルが放流された後、12 種中
7 種の在来魚が絶滅した。1998 年に約 84 個体いたオオクチバスは、除去によ
り 2001 年には約 37 個体に減った。1999 年に 7477 個体だったブルーギルは,
2003 年時点で 4213 個体とあまり減っていない.そこで,内田の個体群変動モ
デルを適用した結果,個体数の 95%を除去し続ければ、最初 5 年間は減らな
いが、2004 年以降減少すると予測された。
底生動物群集では、ユスリカ科とミミズ類が 1979 年以後増加した。1979 年
に沈水植物群落に多く生息していたヤンマ科やフタバカゲロウは 1994 年には
減少し,抽水植物群落に分布を変えた。イトトンボ科,モノサシトンボ科,チョ
ウトンボ,ショウジョウトンボは 2002 年に増加した。毛翅目は 1979 年以降
激減し種多様性も減少した。2002 年にムネカクトビケラが増加したが種多様性
は回復していない。野外条件における「特定種の除去実験」に際しては,他の
人為影響の排除が望ましいが,保全のために必要な他の生態系操作との調整が
今後の課題である.
— 107—
S12-5
公募シンポジウム S12: 自然再生
S12-5
09:30-12:30
標津川自然再生事業で取り組む基礎,応用研究
◦
河口 洋一1, 中野 大助2, 中村 太士2
1
(独)土木研究所自然共生研究センター, 2北海道大学大学院農学研究科森林管理保全学講座
約 50 年前,標津川は蛇行を繰り返しながら流れ,下流には大規模で未開
拓な湿原が広がっていた.しかし,その後河川改修が進み,1970 年代後半
までに下流域の蛇行河川は直線化され,治水安全度の向上と地下水位の低
下に伴い,周辺湿地が牧草地化された.河道の直線化ならびに湿原の消失
に伴い大径木は湿地から姿を消し,現在の標津川周辺ではヤナギ類を中心
とした小径の河畔林が見られる.このような環境の変化に伴い,標津川に
いたイトウやアメマスといった魚や,大径木に営巣するシマフクロウの姿
が見られなくなってきている.地元住民からは,昔,ふつうにみられたこ
のような生物が棲め,サケ・マスの自然産卵がみられるかつての標津川を
取り戻したいという要望が出され,行政が応じる形で蛇行河川と氾濫原復
元を目的とした自然再生事業が標津川で始まった.
自然再生事業の対象は下流約 4km の区間で,直線化された河道周辺に現存
する旧川(河跡湖)を利用した蛇行流路の復元が計画されている.しかし
ながら,国内で初めての大規模な蛇行復元であり,技術的検討を要する事
が多いため,まずは一つの旧川と直線河道を連結させ,生態学や河川工学
等異なる分野の研究者が調査を実施することとなった.この取り組みは試
験的蛇行復元と位置づけられ,2002 年の春に行われた.今回は,蛇行流路
の復元前後に,直線河道と旧川(再蛇行区)で実施した調査結果(水生昆
虫,魚類,物理環境)について発表する.直線や蛇行といった河道形態の
違いと河道内の縦横断構造の関係,そして水生生物の分布状況を示し,現
状での蛇行復元の評価を試みる.さらに,一連の調査で示された現在の蛇
行復元区間の問題点を改善するため,今年から取り組みだした倒木投入に
よる水生生物の生息環境改善についても説明する.
今回の発表は,北海道の自然や河川環境の保全,そして自然再生事業に興
味を持っている若い人達に聞いてもらいたいと考えている.
8 月 27 日 (金) D 会場
S12-6
09:30-12:30
小清水原生花園における火入れによる植生再生と管理
◦
津田 智1, 冨士田 裕子2, 安島 美穂3
1
岐阜大学, 2北海道大学, 3東京大学
小清水原生花園は涛沸湖とオホーツク海の間に発達した砂州上の海岸
草原で,かつては色彩豊かな花を着ける植物が高密度で生育し,夏には美
しい風景が広がっていた.その景観の美しさから 1950 年代には北海道
の名勝や網走国定公園に指定された.その後,蒸気機関車の廃止にとも
なう野火の減少や家畜放牧の中止など,攪乱要因の排除により 1980 年
代後半頃にはかつてのような百花繚乱の風景を見ることが難しくなって
きていた.鮮やかな色彩の花を着けるハマナス,エゾスカシユリ,エゾ
キスゲなどに替わりナガハグサ,オオウシノケグサ,オオアワガエリな
どの移入されたイネ科牧草類が繁茂し,原生花園とは名ばかりの状態に
陥っていた.われわれのグループは北海道の調査委託を受け,1990 年 5
月に小面積の野焼きを実施し,その年の夏に植生を中心としたデータ採
取をおこなった.しかしながら,たった 1 回の火入れ実験では研究とし
ては満足な成果が得られなかったので,委託調査が終了した後も個人研
究として 1992 年まで実験をくり返した.実験結果を受ける形で,1993
年からは小清水町が中心になって大規模な植生回復事業としての火入れ
を開始した.研究は現在も続けており,順応的管理とまでは言えないま
でも原生花園の管理に情報を提供している.
半自然草原の火入れは毎年おこなわれるのが普通で,それによってス
スキなどの草本群落が維持されている.しかし,小清水原生花園の主要
構成種にはハマナスなどの木本植物が含まれており,毎年の火入れでは
木本種が衰退してしまうと予想された.そこで小清水原生花園では全体
を 4 地区にわけ,毎年場所を移動させながら火入れを実施している.火
入れによるリター蓄積量の変化や植生の変化,ハマナスのシュートの動
態などを調査し,それらの結果に基づいて現在の 4 年インターバルの火
入れが実現している.
— 108—
日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
一般講演・ポスター発表 — 8 月 26 日 (木)
• 生理生態
• 物質生産・物質循環
• 繁殖・生活史
• 景観生態
— 109—
日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
— 110—
ポスター発表: 生理生態
P1-001
12:30-14:30
広葉樹の葉における細胞壁の力学的性質の発達
◦
P1-002
◦
小林 元1, 田代 直明1
1
1
九州大学北海道演習林
大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻
新しい葉が形成される展葉期は葉の形態や生理的性質が大きく変化する
興味深い時期である。葉の形態を決める葉肉細胞の体積増大は吸水と細
胞壁の不可逆的伸展によって調節されると考えられる(Lockhart 1965)。
展葉期における葉の光合成機能の構築は詳しく明らかになっているが、
葉の形態形成に深く関与する葉の水分特性の変化は季節変化の一部とし
て記述されているのみである。本研究では、葉面積の拡大が終了した日
(Full Leaf Expansion: FLE)を基準とした葉齢を採用し、形態変化と葉齢
とを関連付けた。FLE 以前を拡大期、以後を成熟期として区別し、葉の
水分特性の変化を関係する諸性質とともに明らかにした。
材料には常緑樹アラカシと落葉樹コナラを用いた。両種ともブナ科コナ
ラ属だが、アラカシの葉は寿命が長く見かけ上ずっと硬い。葉の成熟過
程を通して Pressure-Volume 曲線を測定し、葉の水ポテンシャルの日変
化を測定した。また、引っ張り試験機を用いて細胞壁の力学的性質を測
定した。
その結果、両種とも葉面積の完全展開には約 20 日を要した。アラカシの
葉がコナラより見かけ上硬いのは厚いからで、それぞれの種で葉が成熟
に伴って硬くなるのは密度が増大するからであった。拡大期において、細
胞内浸透ポテンシャルは-0.8MPa 付近で安定に保たれていた。一方、細
胞壁の不可逆的伸展性は急激に低下し、葉身長の相対成長速度との間に
極めてよい相関関係があった。よって、葉の形態形成は細胞壁の力学的性
質によって強く調節されていることが明らかになった。体積弾性率は葉の
成熟に伴って増大しやがて飽和した。種間差は見られなかった。値は葉
標本のヤング率との間に有意な相関関係が得られ、傾きおよび切片に有
意な種間差はなかった。よって、本研究は体積弾性率が細胞壁の力学的
性質における可逆的成分をよく反映していることをはじめて立証した。
12:30-14:30
上層木の伐採による光環境の変化と窒素付加に対する落葉広葉樹稚樹
4 種の光合成特性の応答
◦
12:30-14:30
スギ樹冠における窒素動態と針葉の窒素利用効率
齋藤 隆実1, 寺島 一郎1
P1-003
P1-001
8 月 26 日 (木) C 会場
北岡 哲1, 渡邊 陽子1, 石井 正1, 奥山 悟1, 日浦 勉1, 小池 孝良1
1
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
上層木の伐採などの攪乱により、林床の樹木が利用できる光や資源は大きく
変化する。カラマツ林に侵入した落葉広葉樹稚樹には葉の生物季節に固有の
特徴があり、光や窒素利用特性が異なるため、攪乱に対する応答は樹種によっ
て異なることが予想される。そこで攪乱に対する個葉レベルでの応答に着目
し、上層木の伐採と窒素施肥を組み合わせた処理区を設け、落葉広葉樹稚樹
4 種の葉の構造と機能の変化について検討した。材料は、ギャップ依存種の
ホオノキと遷移中後期種のミズナラ、林床に生育する遷移後期種のシウリザ
クラとサワシバの稚樹を用いた。ホオノキとミズナラでは伐採後 2 年目に,
伐採区と伐採+施肥区で光飽和の光合成速度 (Psat) の有意な増加が見られ
た。しかし、サワシバとシウリザクラでは伐採区で Psat が増加したが,処
理後 1 年目と 2 年目で有意差はなかった。葉の窒素含有量(Narea)の増加
はシウリザクラとサワシバの林床+施肥区を除いて、伐採後 1 年目には明瞭
な傾向は無かった。伐採後 2 年目には,ホオノキとミズナラの伐採+施肥区
で Narea の増加が見られた。強光の利用に有効な柵状組織の伸長は,伐採後
1 年目からホオノキとミズナラで見られ、伐採区と伐採+施肥区で有意な伸
長が見られた。シウリザクラとサワシバでは柵状組織の有意な伸長は見られ
なかった。これらに対して,比葉面積 (SLA) の低下は 1 年目から 4 樹種と
もに伐採区で見られた。またホオノキとミズナラでは伐採+施肥区で 1 年目
から柵状組織の伸長が見られ,2 年目以降には Narea も増加した。以上のこ
とから,ホオノキとミズナラは葉の構造や窒素含有量を大きく変化させるこ
とで伐採後の環境に対して高い応答能力を示し,これに対してシウリザクラ
やサワシバでは変化が小さく、伐採後の環境に対する応答能力は小さいこと
が推察された。また、窒素施肥は伐採後の環境への応答を促進する働きがあ
ると考えた。
スギの窒素利用効率を明らかにすることを目的として,針葉の窒素含量
の季節変動を葉齢別に調べた。針葉の面積あたりの窒素含量は,当年葉
においては6月から 10 月に増加し,その後,低下した。1年葉において
は月を経るにつれて緩やかに低下したが,2,3年葉においては明瞭な
季節変動は見られなかった。窒素含量は,葉齢別では齢の古い葉ほど低
い値を示した。葉の寿命は 3 年で,落葉時における窒素の回収率は 49
%であった。窒素含量から既報の文献を用いて光合成速度を推定し,さ
らに葉の寿命と窒素の回収率を用いて窒素利用効率を計算した。得られ
た窒素利用効率は,これまでに報告されている常緑針葉樹のなかでも中
程度の値であった。葉の寿命が短く,窒素の回収率もそれほど高くない
スギは,窒素量あたりの光合成速度を高めることで窒素利用効率を高め
ているといえた。
P1-004
12:30-14:30
夏緑草本カニコウモリの富士山亜高山帯針葉樹林での優占機構
◦
堀 良通1, 高松 潔1, 源後 睦美1, 清水 陽子1, 河原崎 里子1, 安部 良子2, 中野 隆志1
1
茨城大学理学部生態学研究室, 2山梨県環境科学研究所
本州中部の亜高山帯の常緑針葉樹林林床にはカニコウモリがしばしば卓越し
た優占群落を形成する。なぜ、冷涼かつ弱光環境にカニコウモリは優占群落
を形成出来るのか、富士山において、光環境、林床植生、生理生態、成長か
ら解析した。
カニコウモリの分布域は標高 1,600m から 2,300m で、特に 2,000m から
2,300m で優占群落を形成し,林床はコケ層が発達し、年間を通じ弱光環境
のため林床植物は少ない(マイヅルソウなど)。一方、カラマツ林やダケカ
ンバ林では林床のコケ層は貧弱で、林床植物が多い。
1,900m で種々の明るさの林床でカニコウモリ及び他種のバイオマスを測
定した。明るさの増加に伴って、出現種数(最大 12 種)、全バイオマス、カ
ニコウモリのバイオマスは増加した。逆に、全バイオマスに対するカニコウ
モリのバイオマスの割合は減少した。1,750 m(L 個体群)と 2,150 m(H個
体群)で、個体群構造、成長、光合成、呼吸を調べた。H個体群で個体密度が
より高かった(閉鎖林冠下 2.6 倍、ギャップ下 1.8 倍、実生密度 10 倍)。両
個体群で光合成と呼吸速度はほぼ等しく、光補償点は低く(5 μ molm-2 s-1 )、
強光下で強光阻害をおこした。H個体群で RGR は高かった。総生産に占め
る呼吸量の割合はL個体群で 66%、H個体群で 45%であった。L個体群で
の RGR 低下は、気温が 2-3 ℃高く、呼吸量が増加することによると推察さ
れた。
以上から、カニコウモリが亜高山帯針葉樹林林床で優占種となる要因は,
(1)光補償点が低く弱光下で生育でき、逆に,ギャップ下で強光阻害を起こ
し、
(2)植物高が大きい(60cm)ため他種を被陰するが、林縁では他の大型
種に抑制され、光資源利用様式の他種との相違が、閉鎖林冠下と林縁・ギャッ
プでの競争的排除の方向を逆転させることにある。さらに(3)実生の定着
サイトであるコケ層が発達している、(4)低温下でより高い RGR を実現す
る、があげられる。
— 111—
P1-005
ポスター発表: 生理生態
P1-005
P1-006
12:30-14:30
丸田 恵美子1, 依田 悦子1
◦
1
東邦大学理学部
日本海側山地に比べて、太平洋側山地ではブナの後継樹の生育が悪く、特
に冬季の枯死率が高いことが知られている。そこで、日本海側と太平洋
側のブナ林において、ブナの当年生実生の越冬状況を調べ、どのような
要因によって枯死率に差が生じているのかを明らかにすることを試みた。
日本海型ブナ林である長野県北部のカヤノ平で 2002 年 10 月に採取した
ブナ堅果を、山梨県の東大富士演習林に播種した。なお、この周辺には
小面積ながらブナの天然林が残されている。発芽後は、光条件を相対照
度 50%と 2%の2段階に変えて生育させた。秋の生育終了後にそれぞれ
を、(1) 演習林内のブナ人工林に移して越冬、(2) 零下 6 ℃の温度を数日
間経験させた後に、その一部を 12 月下旬に実験室に移し、気温 15 ℃
で越冬、(3) 冬季の最低気温が零度以下にならない海岸近くで越冬、(4)
長野県北部のブナ林床で越冬、といった4つのグループに分けた。明所・
暗所のブナ実生はともに、いずれの処理でも 12 月上旬までは、水分通導
能力をもち、木部圧ポテンシャルも高い値を保っていた。演習林のブナ
林では、冬季もほとんど積雪はなく、林床で 12 月下旬になって夜間に
数時間、零下 6 ℃まで下がる日が続いた後には、明所で生育した実生の
通導能力は一部残っていたが、暗所の実生では、まったく通導能力は失
われていた。これは、木部内の水の凍結・融解によりエンボリズムが生
じたためと考えられる。いったん完全に通導能力を失った暗所の実生は、
いずれの越冬条件でも春に通導は回復せず、開芽することなくすべて枯
死した。一方、1 月上旬には明所の実生でも完全に通導能力は失われた
が、春に土壌凍結が解除されると根圧が発生し、エンボリズムが回復し
て、ほぼすべての個体が開芽した。これに対し、日本海側のブナ林では、
12 月から 5 月中旬まで積雪下にあって、常に零度付近にあり、エンボリ
ズムも生じることなく、春には明・暗所の実生はともに開葉した。
P1-007
坂田 剛1, 中野 隆志2, 横井 洋太1
1
北里大 一般教育部 自然科学教育センター, 2山梨県環境科学研究所
富士山では八合目から五合目付近に分布するオンタデと,五合目以下に分
布するイタドリの二種が五合目付近で分布域を接し,両種の分布下限個体群
と上限個体群が同一環境下に共存していることが知られている.高地にのみ
生育するオンタデと,低地から高地まで分布標高幅の大きいイタドリの高地
環境への適応様式の違いを明らかにすることを目的に,演者らは両種の生理
生態的特性の比較をこれまでに行ってきた.本公演では,富士山五合目にお
ける両種の個葉の窒素量,タンパク質量,ルビスコおよび APX 活性などの
地上部成育期間を通じた比較に加え,オンタデの分布下限から上限付近まで
4個体群(2250m,2580m,2850m,3130m)を比較した結果について報告
する.
五合目の両種は 6 月上旬にほぼ同時に葉が展開を開始し,展開直後の葉面
積当たりの窒素およびタンパク質量はオンタデの方が有意に多かった.その
後7,8 月には両種の葉面積当たりの窒素およびタンパク質量に差が見られ
なくなった.またタンパク質中のルビスコの割合にも,両種に違いは見られ
なかったが,ルビスコの活性はオンタデのほうが高く,オンタデは,葉窒素
あたりおよび葉面積当たりの光合成能力がイタドリよりも高いことが示唆さ
れた.一方 APX 活性は,葉の成育期間がオンタデより約 30 日長いイタド
リにおいて,成育期間後期に顕著な上昇がみられた.
また,高標高に成育するオンタデの個体群(2850m,3130m)は低標高に
成育するオンタデに比べ,葉面積当たりのタンパク質量が多く,ルビスコや
APX の活性が,特に成育期間末期にも高く維持されていることが示唆され
た.本公演では,以上の結果などから,両種の分布制限要因について議論を
行う.
P1-008
12:30-14:30
周期的な乾燥および回復における苗木の成長および生理的特性
◦
12:30-14:30
ルビスコおよび APX 活性の比較による高度分布上下限域におけるオ
ンタデとイタドリの生理生態的特性の解析
太平洋側山地におけるブナ実生の冬季の枯死要因
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
12:30-14:30
光環境と葉齢が常緑林床植物のエゾユズリハの光合成特性に及ぼす影響
◦
矢崎 健一1, 石田 厚1
1
森林総合研究所
片畑 伸一郎1,2, 楢本 正明1, 角張 嘉孝1, 向井 譲2
1
静岡大学 農学部, 2岐阜大学 応用生物科学部
●小笠原諸島は亜熱帯に属するが,高い山が少ないことから降水量は少なく,
特に先駆性の樹種は乾燥ストレスに晒されやすい。一方で,水分状態が好転し
た場合に素早く生理的活性を回復させることが,乾燥地で生育する上で重要で
ある。しかしながら,乾湿の変化に対する樹木の反応については不明な点が多
い。本研究では,小笠原諸島の植生の先駆種で、比較的湿潤な地で生育するウラ
ジロエノキ(Trema orientalis)と,乾燥地でも生育するキバンジロウ(Psidium
cattleianum)の 7-9 か月生ポット苗に対して,15 日間の乾燥処理・2 日間の回
復処理を 3 サイクル行い,成長・ガス交換速度および水ポテンシャル(ψL )
を継時的に測定し,水分環境の変化に対する種の反応特性を評価した。
●ウラジロエノキにおいては 1 サイクル目で離層形成を伴った落葉が観察さ
れた。
●日中のψL は,乾燥処理中キバンジロウでより低い傾向にあった。また,サ
イクルが進むにつれ,この低下の程度は大きくなっていった。ウラジロエノキ
はサイクル間で変動パターンがほぼ同様であった。
●乾燥処理によるψL の低下に伴い,ガス交換速度が低下したが,1 サイクル
目においてのみ、ウラジロエノキでの低下が顕著であった。回復処理直後,ウ
ラジロエノキにおけるガス交換速度が乾燥処理前に比べて上昇した。キバンジ
ロウは乾燥処理前と比べ、回復後のガス交換速度は大きく違わなかった。
●以上の結果より,ウラジロエノキは乾燥時に落葉することで樹体の水収支が
調節されたと考えられ,葉数の減少による補償作用で個葉あたりのガス交換機
能が上昇した可能性がある。一方,キバンジロウは葉のψL がより低い値となっ
たことから、葉-土壌間のポテンシャル勾配が上昇し,その結果吸水力が高まっ
たと考えられる。
新潟県苗場山に多く見られるブナ林床には様々な林床植物が生育している。
林床は樹冠によって太陽光が遮られるため、樹冠外と比べ制限された光環境
である。しかしながら、gap 周辺や林縁の光環境は林内と比べ良好である。
このようにブナ林床には様々な光環境が存在し、そこに生育している林床植
物は光を効率よく利用するための適応戦略を保持していると想像できる。そ
の一つが窒素の利用であると考えられる。窒素は生態系で最も不足しがちな
元素の一つであり、「窒素をいかに効率よく利用するか」が植物の適応度を
決める一因であると考えられる。
本講演では、ブナ林床の様々な光環境に生育する常緑林床植物のエゾユズリ
ハを用い、葉齢と光環境が光合成特性と光合成系への窒素分配に及ぼす影響
を調べた。当年葉が受けるる光は 0.9∼17.82 mol/m2/day であったのに対し、
一年葉では 0.71∼9.14 mol/m2/day であった。当年葉の光合成特性、Rubisco
含有量や窒素含有量は光強度と正の相関を示した。しかし、一年葉は当年葉
に比べ光強度とこれらのパラメーターとの相関は低かった。エゾユズリハは
光環境により葉の寿命が異なり、強光条件で生育している個体ほど葉の寿命
は短い傾向がある。したがって、強光条件で生育している個体の一年葉は老
化が始まっており、葉内窒素の回収が生じていることが推察できる。光環境
の違いによって葉の寿命が異なるのは、個体全体の物質生産量を増加させる
ための適応であると考えられる。
— 112—
ポスター発表: 生理生態
P1-009
P1-010
12:30-14:30
カラマツの光合成速度と分光指標の季節変化
◦
◦
小清水 ゆきの1, 山村 靖夫1
1
国立環境研究所 地球環境研究センター
1
茨城大学・理学部
【はじめに】 広域の植生のフェノロジーや生理機能の定性・定量評価に
向けたリモートセンシング利用手法の開発が望まれている。本研究では、
北方林の主要構成樹種であるカラマツを対象に、その炭素固定のフェノ
ロジーを評価するための基礎研究として、個葉の光合成活性の季節変化
と分光観測によって得られる植生指標の関係を調査した。
【調査手法】 観測は北海道苫小牧市内に位置する 44-46 年生ニホンカラ
マツ(Larix kaempferi)人工林において行った。2003 年 6 月から同年 10
月にかけて、月に 1-2 回、晴天日に樹冠最上部(13 m高)の短枝葉にお
けるガス交換速度、葉内成分(色素、全窒素濃度)および分光反射率画
像を計測した。光合成測定を行った針葉における 531nm, 571nm, 671nm,
782nm の反射率をもとに、植生指標である PRI、NDVI および赤色域の
反射率逆数と近赤外域反射率逆数の差(1/Rnir )-(1/Rred )を算出した。
【結果と考察】 カラマツ樹冠の短枝葉は 5 月中旬から6月下旬にかけ
て展開し、10 月中旬に黄葉しはじめ、観測終了直後には落葉が認められ
た。SLA は夏期(7-8 月)に低下し、秋には若干増加する傾向にあった。
葉内全窒素濃度は、8 月をピークに増加する傾向にあった。葉内クロロ
フィル濃度は夏季に高い値を示した。日平均をとったときの純光合成速
度と光利用効率 LUE(純光合成速度/PPFD)はともに 8 月をピークにし
た山型の季節変化を示した。光合成活性の指標として用いられる NDVI
や(1/Rnir )-(1/Rred )は春から夏季にかけて増加したが、6 月下旬から 7
月にその値が飽和する季節変化を示した。これに対して、PRI の日平均
値は季節を通して値の飽和(頭打ち)を示さず、8 月にピークを持つ増
加パターンを示した。PRI は光強度に応答する葉内のキサントフィルサ
イクルを反映した分光指標であるが、相関解析の結果、日平均 LUE の
季節変化にも対応した指標になりうることが示唆された。
12:30-14:30
コケモモにおける葉の寿命と個葉特性の山岳間変異
◦
12:30-14:30
常緑広葉樹カクレミノの陽シュートと陰シュートの窒素経済の比較
中路 達郎1, 小熊 宏之1, 藤沼 康実1
P1-011
P1-009
8 月 26 日 (木) C 会場
和田 直也1, 川守田 充俊2, 鈴木 静男3, 成田 憲二4, 工藤 岳5
1
富山大学極東地域研究センター, 2富山大学理学部, 3環境科学技術研究所, 4秋田大学教育文化学部, 5
北海道大学大学院地球環境科学研究科
近年,グローバルスケールにおける個葉形質間の相関や気候条件との関係
についての解析が精力的に行われるようになった(Kudo et al. 2001; Wright
et al. 2004).高山の山頂付近に生育する植物にとっては,葉の性質は物理
的環境要因に強く支配されていることが予想され,また同時に正のカーボ
ンバランスを維持するために生育期間の長短に応じて葉の寿命・個葉形質
を調節することが期待される.本研究においては,北日本から中部地方に
かけての山頂付近・風衝地に生育するコケモモ(常緑性矮生低木;ツツジ
科)を材料に,葉の寿命・個葉形質の山岳間変異を明らかにすることを目的
とし,また気候条件・特に有効積算温度との関係を解析した.さらに,山
頂付近のハイマツ群落内に生育するコケモモについても同様に調べ,微環
境(被陰)に対する応答様式についても解析を行った.
個葉の平均寿命は山岳間において異なっていたが,緯度との関係は見ら
れなかった.標高補正した各調査地の気温から夏期における有効積算温度
を算出したところ,葉の寿命と負の相関関係が見られ,生育期間の短い個
体群では葉の平均寿命を延ばしていることが示唆された.また,風衝地よ
りもハイマツ林冠下に生育していたコケモモの方が個葉の平均寿命が若干
長い傾向があった.
ハイマツ林冠下におけるコケモモの葉については,葉の平均寿命と LMA
(Leaf dry mass per unit area)との間には正の相関が,LMA と葉の窒素濃度
との間には負の相関が認められたが,風衝地の個体群においてはそれらの
関係が不明瞭であった.これらの原因について考察を行った.
植物は光条件によって光合成特性、葉の形態、葉寿命などを変化させる。特
に常緑広葉樹の陰葉では、しばしば数年にも渡る寿命の延長が見られ、この
ような光の強さに伴った高い可塑性は個体あたりの物質生産の効率を高めて
いると考えられる。葉の窒素含量は光合成能力と強い相関があり、植物は受
光量の勾配に応じて窒素を分配し、個体全体で効率的な物質生産を行うよう
な窒素経済を発達させていると考えられる。樹木にとってシュートは構造的、
機能的な基本単位であるので、個体の物質生産を考えるうえでシュートレベ
ルの解析を行うことは有効である。そこで本研究は常緑広葉樹の物質生産に
おける陽葉化、陰葉化の可塑性の意味を評価することを目的とし、カクレミ
ノ個体内の陽シュートと陰シュートのフェノロジーと季節的成長、光合成速
度および窒素含量の季節変化を測定した。
陽葉の葉の平均寿命は約 300 日、陰葉は約 500 日であった。陽葉の光合成
活性は陰葉よりも常に高く、夏では6倍近く高かった。陽葉と陰葉の葉内窒
素濃度はほとんど変わらなかったが、葉面積あたりの窒素含量は陽葉が陰葉
に比べ約 1.8 倍高かった。陽シュートは新シュート成長時に必要な窒素の多
くをシュート外からの転流に依存するが、陰シュートは前年以前の葉からの
転流と落葉の際の回収により 100 %をまかなえることが分かった。回収率お
よび回転率は陽シュートが陰シュートに比べ高かった。
以上のことから常緑広葉樹のカクレミノは、受光量に応じて窒素を分配し、
陽シュートでは短時間に高い物質生産を行い、陰シュートでは長時間で窒素
を節約的に使って低い物質生産を補償することで、個体全体の物質生産の効
率を高めていると示唆された。
P1-012
12:30-14:30
タカノツメの短枝は個体の生産量にどのくらい貢献しているだろうか?
◦
長田 典之1
1
東京大・理・日光植物園
さまざまな樹種において、当年枝の形態には分化がみられ、長枝と短枝を作
り分けていることが知られている。このような2型には生態学的な意味合い
があり、長枝はより空間獲得を重視しているのに対し、短枝は空間獲得より
もその場での受光効率を高めていることが指摘されている。しかし、こうし
た研究は当年枝レベルでの枝と葉への物質分配パターンや形態による判断に
とどまることが多く、長枝と短枝をつくり分けることが個体全体の受光量や
その結果としての個体の成長に及ぼす影響についてはあまり調べられていな
い。本研究では明瞭な長枝と短枝をつくり分けるタカノツメの稚樹を対象と
して、個体内で長枝と短枝をつくり分けることの意義を調べた。コンピュー
タシミュレーションモデル Y-plant を用いることによって、個体内のすべて
の葉についての生育期間の受光量を推定し、長枝と短枝の当年枝レベルでの
受光量を計算した。さらに、個体内における長枝と短枝による受光量の割合
と、その翌年の成長量との関係を調べた。
この結果、個葉レベルの受光量は短枝の方が長枝よりもやや少なかった。
当年枝あたりの総葉面積は長枝の方が短枝よりも大きかったため、個体内に
おける相対的な受光量の割合は長枝の方が大きかった。一方、翌年の成長量
は長枝では増加していたのに対し、短枝では減少する傾向が見られた。受光
量×葉面積で査定した個体内における長枝および短枝の相対的な受光量と翌
年の成長量の相対的な割合を比較すると、長枝から出た翌年の当年枝のバイ
オマスは相対的な受光量よりも大きくなり、短枝では逆に小さくなっていた。
この結果は、短枝による光合成産物を翌年長枝の先の枝の成長に回し、幹の
先端での成長を促進している(correlative inhibition がおこっている)可能性
を示している。
さらに、短枝をつけない仮想個体に比べて現実の個体では受光量が大きく
なっているかを調べることにより、タカノツメが長枝と短枝をつくり分ける
意義を考察する。
— 113—
P1-013
ポスター発表: 生理生態
P1-013
P1-014
12:30-14:30
草本の群落上層個体の背ぞろいを引き起こすのは風か?光質(R/FR
比)か?
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
ハンノキ実生苗の成長と生理におよぼす滞水の影響
◦
長嶋 寿江1
鳥取大学農学部
東京大学日光植物園
多くの群落では光の競争が生じており,個体の高さはその個体の光獲得量
を大きく左右する.一方,高さが高いと,力学的に個体を支えるために多く
の投資が茎に必要になったり,風による倒伏の危険が増大したりする.高さ
成長の調節は、群落内で植物が生活するにあたって非常に重要である.
群落上層を占める個体は,周囲の個体の高さに揃うように高さ成長が調節
され,その結果,地上部バイオマスが大きくばらつくにもかかわらず,高さ
は比較的均一になる.このときの高さ成長の調節がどのような生理学的機構
によるかを確かめた.茎の高さ成長は,風などによる物理的刺激によってエ
チレンが生成することで低下したり,隣接個体によって光の波長組成(赤色
光/遠赤色光比)が変化しそれにファイトクロムが反応することで促進した
りすることが知られている.周囲個体よりも突出している場合と低くなって
いる場合では,風環境も光質環境もそれぞれ異なることが予想されるが,こ
れらのうちどちらが群落上層個体の高さ成長の調節に関係しているかを確か
めた.
ポット植えにした一年生草本シロザを平面的に並べて,ポット群落をつくっ
た.一部の個体はポットを上げて個体の高さを周囲よりも高くし,一部の個
体はポットを下げて高さを低くした.このようなセットを,さらに,茎を支
柱に固定して風による揺れを減らしたもの,周囲を黒く着色した造花で囲む
ことで光量は低下させたものの光質は孤立個体と変わらないようにしたもの,
その両方の処理をほどこしたもの,で作製した.2週間後に個体の高さを測
定したところ,茎を支柱に固定しても,緑の周囲個体が存在すれば高さ成長
の調節が生じることがわかった.逆に,黒い造花の周囲個体では,周囲個体
にそろうような高さ成長はあまりみられなかった.これらのことから,群落
上部を占める個体の高さ成長は,主に光質によって調節されていることが明
らかになった.
12:30-14:30
木本性つる植物におけるシュート間機能分化
◦
岩永 史子1, 山本 福壽1
1
1
P1-015
12:30-14:30
市橋 隆自1, 長嶋 寿江1, 舘野 正樹1
1
東大院 日光植物園
つる植物は自分の茎で直立できず、成長するために外部の支持を必要と
する植物である。多くは支持物獲得のための特殊なシュート(長く伸び
て巻き付く、巻きひげや付着根を形成するなど)を作るが、これは一般
に葉をあまり発達させずに著しく伸長するという特徴を示す。つる植物
のシュート形成に関しては、この伸長成長と支持物獲得の機能に着目し
た研究は多いが、シュートのもう一つの重要な機能である葉の展開につ
いてはあまり評価されてこなかった。そこで、つる植物が伸長成長と葉
の展開をどのように両立させているかを明らかにするため、木本つる植
物5種(サルナシ、ツルウメモドキ、マツブサ、ミツバアケビ、イワガ
ラミ)の当年枝解析を行った。
いずれの種でも当年枝の茎長頻度分布は離散的であり、茎長 10 cmに満
たない多数の短いシュートの他に、1m を超えるような長いシュートがご
く少数現れた。長いシュートは巻き付く、あるいは付着根を形成するとい
う、支持物獲得のための特殊な性質を示したが、短いシュートはこのよう
な特殊な性質を持たなかった。支持物獲得の機能を持つ長いシュートを
「探索枝」、それ以外の短いシュートを「普通枝」と呼んで区別した。探索
枝と普通枝とでは、長さそのものに加え、長さあたりの葉面積に差が現
れた。即ち探索枝では、普通枝の作り方から予想されるよりも、その長
さの割に展開している葉面積がはるかに小さいことがわかった。これは
探索枝では普通枝よりも節間が長くなると同時に、個々の葉の面積が小
さくなるためであった。さらにシュートの生産性の指標として、シュー
ト重量あたりの葉面積(LAR)を評価すると、探索枝は普通枝の2割か
ら5割という著しく低い値を示した。以上から、探索枝は伸長成長を指
向し、普通枝は葉の展開を指向するという性質が明らかになり、つる植
物が伸長成長と葉の展開という機能を、シュート間で明瞭に分化させる
ことで両立していることが示唆された。
滞水環境下におかれたハンノキ(Alnus japonica)は、幹の肥大や肥大皮
目の形成などの形態変化を示すが、この現象は滞水環境での生存に大き
く関わっていると考えられる。本研究ではハンノキの滞水耐性機構の解
明を目的として、滞水深度や滞水期間がハンノキの光合成特性と形態変
化に及ぼす影響について検討した。また、滞水条件下の水分生理特性に
ついても調べた。実験は3年生のハンノキ実生ポット苗を用い、2003 年
5 月 20 日から6週間、鳥取大学乾燥地研究センター・ガラス温室内に
て行った。滞水深度はポット地際から1 cm までの地際滞水区と、ポッ
ト地際から 30cm までの 30cm 滞水区の2処理を設定した。対照区は滞
水処理せず、通常の灌水管理下で育成させた。各処理の繰り返しは5個
体であり、伸長・肥大成長の測定、不定根数、萌芽数の測定、および光
合成速度の測定を行った。また同年8月3日からハンノキ実生苗を用い
て滞水処理を1週間行い、滞水処理前後の蒸散速度および葉の水ポテン
シャルの日変化を測定した。この結果、乾重は対照区、地際滞水区、30cm
滞水区の順に低下し、相対成長率(RGR)も同様の傾向を示した。光合
成速度、気孔コンダクタンスは滞水深度が深くなるほど大きく低下した。
光合成速度は滞水処理開始直後から低下したが、不定根の発生に伴って
回復する傾向を示した。滞水後の気孔コンダクタンスも、光合成速度と
同様の変化が認められた。また滞水後のハンノキでは日中の蒸散速度低
下が認められたが、葉の水ポテンシャルは高いまま維持された。これら
の結果から、滞水は気孔閉鎖とともに光合成を抑制するが、滞水後の不
定根形成や幹の肥大等などの形態変化は光合成速度を回復させることを
確認した。
P1-016
12:30-14:30
生育温度・光・窒素供給がミズナラの葉の老化過程に与える影響
◦
小野 清美1, 江藤 典子1, 原 登志彦1
1
北大・低温研
北方林を構成する樹種で、一斉展葉を行うミズナラ(Quercus crispula)を用
い、個体の成長や光ストレスが、葉の老化過程にどのような影響を与えてい
るのかについて調べた。 2 段階の生育温度(25◦ C:高温、15◦ C または
10◦ C:低温)および 2 段階の生育光(100µmol m-2 s-1 :弱光、1000µmol
m-2 s-1 :強光)を組み合わせた条件で、栄養液の供給が無い状態または栄養
供給下で種子から生育させた。老化の指標として、飽和光下での光合成活性
を、また、光ストレスの指標として最大量子収率および活性酸素消去系の酵
素活性の測定を行い、同時に成長の指標として個体の乾燥重量、窒素量、炭
素量の変化を調べた。弱光栄養なしでは、高温下における個体の成長、特に
根の成長が早くなった。飽和光下での光合成活性は、高温・低温ともに葉の
展開終了後次第に低下した。最大量子収率は、葉の展開終了後から、低温で
高温に比べ、若干低い値を示した。生重量あたりのクロロフィル量は葉の展
開終了後、次第に低下した。一方、キサントフィルサイクルのプールサイズ、
クロロフィル当たりのチラコイド膜結合型のアスコルビン酸パーオキシター
ゼ活性は葉の展開終了後、次第に増加する傾向が見られたが、低温で高温よ
りも高い値を示す傾向が見られた。栄養供給なしの条件では、弱光下でも低
温条件のもので高温条件のものよりも光ストレスを受けやすく、光ストレス
を防御しようとする応答が起こっているもののストレスが老化のひとつの要
因になっているとも考えられる。強光下で、より光ストレスを強く受けると
考えられることから、強光下で生育したミズナラ個体の老化過程についても
議論する。
— 114—
ポスター発表: 生理生態
P1-017
P1-018
12:30-14:30
イネ科草本における葉のサイズと SLA の種間変異の細胞レベルでの
解析
◦
◦
今川 克也1, 周 承進 1, 林 明姫1, 中根 周歩1
1
広島大学大学院生物圏科学研究科
1
弘前大学農学生命科学部
近年、地球温暖化の進行とともに、CO2 吸収源として森林の持つ役割が
注目されている。そこで現在、世界各国において人工的に温暖化環境を創
出し、森林群落へ与える影響を調査する研究が盛んに行われている。本
研究では 6 基のオープントップチャンバーを用いて、温暖化環境がアラ
カシ (Quercus glauca) 群落の生理生態へ及ぼす影響を調査した。本研究
の特徴は、高 CO2 濃度と高温を組み合わせた環境下で、チャンバーに直
接植栽した常緑広葉樹群落を長期にわたって継続調査する点にある。
方法としては、まず 2002 年 10 月に、各チャンバーに 3 年生のアラカ
シ 36 本を植栽し、同一条件下で半年間育成した。次に 2003 年 4 月か
ら、温度 2 段階 (外気± 0 ℃、+ 3 ℃) × CO2 濃度 3 段階 (外気× 1
倍、× 1.4 倍、× 1.8 倍) の 6 処理区を設定し、実験を開始した。温度
と CO2 濃度以外の環境条件は全ての処理区で等しくした。本研究では特
に温暖化環境が光合成能力に及ぼす影響に着目し、光–光合成曲線や A-Ci
曲線、最大光合成速度、クロロフィル蛍光、葉緑素量などの側面から調
査した。測定には主に LI-6400(Li-cor 社)、MINI-PAM(WALZ 社) を用
いた。
その結果、光飽和状態での光合成速度は、全ての処理区を外気 CO2 濃度
で測定すると、外気温区では処理区の CO2 濃度が高いほど大きい値を示
し、高温区では処理区の CO2 濃度が高いほど小さい値を示した。これは
温暖化環境によって植物体の光合成活性が変化したことを示している。特
に高温と高 CO2 濃度の相互作用が働く処理区の値が低いことから、相互
作用が光合成活性を鈍化させている可能性がある。一方、生育 CO2 濃度
で測定すると高 CO2 濃度区ほど大きい値を示した。つまり、高 CO2 濃
度環境は光–光合成曲線の上限を増加させることが示唆された。
C3 型イネ科草本 16 種間に見られる葉の長さと SLA の変異を細胞レベ
ルで調査した。葉基部を固定し,組織を透明化した後,細胞の分裂と伸長
が起こる生長ゾーンの葉肉細胞長のプロファイルを微分干渉顕微鏡で計
測し,kinematic method により細胞分裂と細胞伸長に係わる様々なパラ
メーターを算出した。16 種間に,算出した細胞パラメーターすべてに有
意差が見られた。細胞分裂活性と細胞サイズには密接な関係があり,高
い細胞分裂活性をもつ種ほど,小さな葉肉細胞をもつ傾向にあった。こ
れは,細胞分裂の活性が高くなると細胞の伸長時間が短縮することに起
因していた。 細胞サイズの変異の 70%は分裂ゾーンの細胞数により決
まり,このことは細胞サイズの決定が特定の遺伝子よりむしろ発育プロ
セスの影響を強く受けることを示している。 核 DNA 量の多い種も細
胞サイズが大きくなる傾向が見られたが,この効果は核 DNA 量が多く
なると細胞伸長速度が高くなることに起因していた。 葉の長さは,細
胞の大きさよりも細胞の生産速度と密接に関係していた。細胞生産速度
は,分裂組織で細胞が行う分裂サイクルの回数と高い相関を示した。高
い分裂活性を持つ種は含水率が高く葉の密度が小さくなる傾向を示した
が,SLA とは高い相関を示さなかった。
P1-020
12:30-14:30
食葉性害虫による食害と乾燥がウダイカンバ当年生枝の枯死に及ぼす
影響
◦
12:30-14:30
温暖化条件が常緑広葉樹へ及ぼす生理生態的影響
杉山 修一1
P1-019
P1-017
8 月 26 日 (木) C 会場
大野 泰之1, 梅木 清2, 渡辺 一郎1, 滝谷 美香1, 寺澤 和彦1
12:30-14:30
アカマツ成木樹幹内における熱収支法測定による蒸散流速の季節変化
◦
川崎 達郎1, 千葉 幸弘1, 韓 慶民1, 荒木 荒木1, 中野 隆志2
1
森林総合研究所, 2山梨県環境科学研究所
1
北海道立林業試験場, 2千葉大学
近年,ウダイカンバ林冠木の樹冠衰退 (樹冠上部の枝の枯死) が北海道の山
火再生林で報告されている。衰退には食葉性昆虫の大発生や乾燥の影響が指摘
されているが,樹冠衰退に至ったメカニズムは明らかになっていない。そこで,
食葉性昆虫により被食された 40 年生のウダイカンバを対象に当年生シュート
のセンサス,被食率,葉の水分生理特性を調査し,樹冠衰退に至るメカニズム
について検討した。
高さ8 ∼16m にある当年生シュート 100 本に目印をし,被食 (7月中 ∼ 下
旬) に対する応答を調べた結果,被食率がシュートの応答に影響していた。被
食率が 80%を超えたシュートでは,被食されてから一月後に二次開葉する確率
が急激に高くなったが,80%以下のシュートは食べ残された葉が着いたままで
あった。
二次開葉したシュートの枯死率は 28.6%と二次開葉しなかったシュートの枯死
率 (6.9%) よりも高かった。シュートの枯死した時期は,いずれも降水量の少な
かった 8 月下 ∼ 9月上旬に集中していた。シュートの枯死率に及ぼすシュー
トの特徴(着生高,サイズ,二次開葉の有無)を解析した結果,着生高が高く
二次開葉したシュートが枯死に至りやすいことが示された。
膨圧を失って「しおれ」を起こす時の葉の水ポテンシャル(Ψtlp )を二次開葉に
より生産された葉(以下,二次葉と示す)と食べ残された葉との間で比較した結
果,二次葉は食べ残された葉よりもΨtlp )が高く,しおれやすい性質であった。
壊滅的な食害を受けたウダイカンバ当年生枝では,二次開葉により新たに葉を
生産した。しかし,このことは,同時に夏期にしおれやすい性質の葉を着ける
ことになり,葉のしおれを通じて当年生枝の枯死に大きく影響したものと思わ
れる。
われわれは大気フラックスモニタリング中のアカマツ林で、生産機構モデル
構築を目的に林木個体の炭素固定能力を中心した物質の循環を測定してきた。
非同化部の樹幹については高さ毎の樹幹の直径成長を追跡するとともに、二
酸化炭素ガスの発生源として、樹幹温度の変化にともなう、季節毎の樹皮呼
吸の日変化を測定してきた。
樹幹内部を上方に流れる蒸散流は、樹幹中の細胞の呼吸により発生した二酸
化炭素を上方に持ち去り、樹幹表面で観察される樹皮呼吸の値を変動させる
可能性がある。また樹幹の直径成長は形成層の肥大成長だけでなく、樹幹木
部内の含水量変化の影響を受ける可能性がある。これら変動の検討も目的に、
蒸散流速の季節変化を調査した。
調査は山梨県環境科学研究所敷地内、富士山北麓の溶岩原に成立したアカマ
ツ純林で行った。測定対象は胸高直径 19.8cm の二股と胸高直径 18.7cm の
2 個体である。先述した直径成長と樹皮呼吸の定期的な測定を行っている。
2002 年夏より両個体の地上高 4 m と 12m の樹幹計5箇所で熱収支法によ
る樹幹内蒸散流速の測定を開始した。測定機材は米 Dynamax 社製 TDP セン
サー(プローブ長 3cm)を用い、延べ 20ヶ月の連続測定を行った。
TDP 測定値は早春に大きく夏から秋にかけて低かった。土壌層が未風化の溶
岩原のため極め少なく、むしろ冬季の積雪下で土壌水分が豊富であったため
と考えられた。雪からの土壌水分供給は、冬季の温暖な日に観察される若干
の光合成、樹皮呼吸、直径成長、春先の成長開始の急速な立ち上がりにも寄
与していると考えられた。
— 115—
P1-021
ポスター発表: 生理生態
P1-021
P1-022
12:30-14:30
釧路湿原達古武沼の水草はなぜ減少したのか?–光環境からの検討–
◦
◦
1
阿寒湖畔エコミュージアムセンター, 2独立行政法人 国立環境研究所, 3北海道教育大学 釧路校, 4北海
道大学 北方生物圏フィールド科学センター水圏ステーション 厚岸臨海実験所
山本 福壽1, 高田 恵利2
1
鳥取大学農学部, 2北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
釧路湿原は北海道東部に位置するわが国最大の湿地であり、その主要地域は釧
路湿原国立公園、天然記念物「釧路湿原」、国設鳥獣保護区、並びにラムサール条
約登録地に指定されている。
近年、釧路湿原湖沼群では水生植物や底生動物などの種数および生物量が減少
しているとの報告が相次いでいる(角野ほか 1992, 財団法人日本鳥類保護連盟
1998, 阿寒マリモ自然誌研究会 2002, 片桐ら 2002)。
われわれは、水中の光環境の悪化が、水生植物の減少の原因である可能性につ
いて検討するため、釧路湿原湖沼群で最も南に位置する達古武沼において、2003
年 4 月 11 日から 2003 年 11 月 18 日かけて、水中の光量子量を定期的に観測
し、消衰係数を求めた。
達古武沼は、環境省が進める釧路湿原自然再生事業の対象地域に含まれており、
本研究は同事業の達古武沼地域自然再生プロジェクトの一環として行われた。
達古武沼は周囲長 4.9km の楕円形の沼で、平均 水深 1.9m と比較的浅い。今回
の調査では湖心部に調査地点を設け、月2回、水中の光量子量を測定した。湖内
の調査地点の消衰係数は、湖の解氷直後である 4 月 25 日では 1.43 だったが、6
月 6 日から急激に増加し、6 月 20 日の消衰係数は年間最高値である 5.26 となっ
た。消衰係数とは 1m あたりの水が吸収する光の割合であり、数値が高いほど水
の光透過性が低いことを示している。達古武沼では水生植物の生育期に光の透過
性が低くなることが示された。
今後はクラーク型酸素電極を用いて、同沼から採取した水生植物を様々な光–温
度条件において光合成速度を測定する。この実験から得られた各水生植物の光補
償点から補償深度をもとめ、達古武沼における光条件が水生植物の生育を制限し
ている可能性を検討する
ハンノキ(Alnus japonica)はカバノキ科ハンノキ属の落葉性広葉樹であり、
湿潤な河川流域、谷間,湖畔、湿原などに分布する。また根系にはフランキ
ア(Frankia)属の放線菌が根粒を形成し,窒素固定を行う。このため、ハン
ノキは生態系の窒素循環に重要な役割を担っており,林業的には肥料木とし
ても評価されている。このような根粒の形成にはさまざまな環境因子が影響
しているものと考えられる。例えば釧路湿原のような湿原では地下水位が根
粒の形成とハンノキの生育に大きな影響を及ぼしている可能性が高い。本研
究では、さまざまな環境条件が当年生ハンノキ苗木の成長、およびこれにと
もなう根粒形成に及ぼす影響を調べた。生育環境としては、1)根圏の窒素
濃度環境、2)滞水環境、3)乾燥環境、4)光環境、および 5)土壌 pH 環
境の5種類の条件を変えて設定した。実験は鳥取大学構内造林学研究室の苗
畑にて行った。なお、実験 1)∼4)はポット栽培によって行ったが、5)の
土壌 pH 環境を変える実験は水耕栽培にて行った。実験期間は 2003 年 8 月
17 日から 9 月 29 日の約 6 週間、もしくは 8 月 1 日から 9 月 29 日の約
8 週間である。実験期間中に伸長成長量と肥大成長量を測定するとともに,
実験終了後に乾燥重量や葉の窒素含有量などを求めた。以上の結果、伸長成
長量には滞水、乾燥、光環境、および土壌の pH が大きく影響した。しかし
ながら窒素濃度の差異は顕著な影響を及ぼさなかった。これに対しハンノキ
の成長にともなう根粒の形成比率は、根圏の窒素濃度の上昇、および滞水環
境によって強く抑制されることがわかった。さらに乾燥、光条件、および土
壌の pH の変化は根粒の発達に有意な影響を及ぼさなかった。
P1-024c
12:30-14:30
冷温帯落葉広葉樹林構成樹の光合成生産における個葉生理特性とシュー
ト構造の役割
◦
12:30-14:30
ハンノキ(Alnus japonica)の根粒形成に及ぼす環境因子の影響
辻 ねむ1, 高村 典子2, 中川 惠2, 野坂 拓馬3, 渡辺 雅子4, 若菜 勇1
P1-023c
8 月 26 日 (木) C 会場
村岡 裕由1, 小泉 博1
(NA)
1
岐阜大学流域圏科学研究センター
森林生態系による炭素吸収機構の理解のためには,森林構成樹種の生理生態
的特性を十分に把握することが重要である。本研究では,冷温帯落葉広葉樹
林(岐阜大学流域圏科学研究センター高山試験地)での林冠木と低木の光合
成生産における個葉光合成特性とシュート構造の役割を評価することを目的
とした。
林冠木であるダケカンバ(樹高約 18m)とミズナラ(約 15m)の樹冠頂上,
林床低木であるノリウツギとオオカメノキを対象として,個葉光合成特性と
シュート構造,林内の光環境の測定を盛夏に行った。光合成生産性に対する
個葉光合成特性とシュート構造の効果は Y-plant (Pearcy & Yang 1996) を用
いて解析した。Y-plant はシュートの 3 次元構造と個葉ガス交換特性に基づ
いて,個葉やシュートの光合成速度を推定するシミュレーションプログラム
である。個葉の受光量はシュート直上の光環境および葉面配向と他の葉との
相互被陰によって決まり,個葉ガス交換速度は受光量や気温,湿度に応じて
光合成モデル(Farquhar et al. 1980)と気孔コンダクタンスモデル(Leuning
1995)によって計算される。
ダケカンバとミズナラでは最大光合成速度は同程度であった。しかしモデ
ル計算により,
(1)ダケカンバでは葉が垂れていることにより日中でも葉温
の上昇が抑えられている上に相互被陰が小さいためにシュート全体で高い光
合成速度を維持するが,
(2)葉面傾斜の小さいミズナラでは日中の強光によ
り葉温が上昇することに加えて相互被陰が大きいために光合成速度が制限さ
れることが示された。また(3)低木のシュートでは相互被陰を避けるよう
に葉が配置されており,光を効率的に受け取って光合成生産に利用している
ことが示された。
— 116—
12:30-14:30
ポスター発表: 生理生態
P1-025c
12:30-14:30
P1-026c
FACE(Free Air CO2 Enrichment)を用いた高 CO2 環境下での冷温帯
樹木の成長と光合成特性
◦
P1-025c
8 月 26 日 (木) C 会場
12:30-14:30
撹乱跡地における更新初期種間の競合が各樹種に与える影響
◦
江口 則和1, 上田 龍四郎2, 船田 良1,3, 高木 健太郎4, 日浦 勉4, 笹 賀一郎4, 小池 孝良4
遠藤 郁子1, 江口 則和1, 日浦 勉2, 笹 賀一郎2, 奥山 悟2, 石井 正2, 小池 孝良2
1
北海道大学大学院農学研究科, 2北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
1
北海道大学大学院農学研究科, 2北海道ダルトン, 3東京農工大院大学院共生科学技術研究部, 4北海道
大学北方生物圏フィールド科学センター
将来 CO2 濃度が上昇したときの冷温帯林の応答を予測するため、現在最も
自然状態で CO2 を付加することができる「開放系大気 CO2 増加 (Free Air CO2
Enrichment; FACE) 」を用いて冷温帯林構成樹木の成長と光合成応答を調べた。
2003 年 5 月に CO2 の付加を開始し、CO2 濃度は FACE 内が 2040 年ごろを
想定して 50 Pa、対照区は現在の 37 Pa であった。また、高 CO2 での植物の反
応は土壌栄養に大きく影響を受けるといわれることから、FACE 内の地面を半
分に区切り、半分を富栄養の褐色森林土、残りを北海道の土壌の特徴である貧
栄養の火山灰土壌とした。材料は 2 年生の代表的な冷温帯林構成樹木 11 種を
用いた。調査項目は、成長量(葉面積指数;LAI、樹幹体積)と光合成速度と
した。
1〉11 種類の樹木のうちケヤマハンノキは、高 CO2 ・火山灰土壌で成長が
著しく増加した。ケヤマハンノキは窒素固定菌 (Frankia sp.) と共生することが
知られる。一般的に高 CO2 環境では窒素不足が起こり、成長があまり促進しな
いとされる。つまり本結果から高 CO2 環境下での窒素固定菌の役割の重要性
が示唆された。
2〉遷移後期種の光合成速度は高 CO2 濃度により上昇したものの、成長量は
それほど変化しなかった。光合成産物は成長・貯蔵・被食防衛などへ分配され
る。ゆえに、遷移後期種では高 CO2 環境下で増加した光合成産物が地上部の
成長ではなく、他の器官や他の機能(例えば、地下部の成長や貯蔵物質、被食
防衛物質など)に分配される可能性が示唆された。
樹木は多年生であるため数年にわたる継続調査が必要である。今後はこれま
で不明な点が多かった地下部の成長特性を調べ、高 CO2 濃度に対する冷温帯樹
木の応答をより詳細に検討していく。
P1-027c
P1-028c
12:30-14:30
ヒバ実生の根圏糸状菌はどのように根に残る?-種子成分の種子糸状菌、
土壌糸状菌への影響
◦
これまで、樹木の生理特性は種ごとに解明されてきたが、樹種間の相互作用を
被陰に対する順化能力の違いなど生理的特性から研究した例は少ない。しかし、
多種の共存を可能にする混交林への転換を進めるうえで、樹種を通じた生理的
応答を理解することが求められている。この視点から、本研究では北海道の森
林の遷移初期において侵入してきた先駆樹種が他の樹種とどのように影響を及
ぼし合うのか、を明らかにすることを目的とした。
・
供試木として、遷移前期種であるシラカンバ(Betula platyphylla var. japonica)
ウダイカンバ (Betula maximowicziana)・ケヤマハンノキ (Alnus hirsuta) の2年
生苗木を対象にした。2003 年 5 月に、その 3 種を組み合わせ、単一植栽区が
3、二種混合区が 3、三種混合区 1 の計7区画を北大苫小牧研究林 330 林班の
風害跡地に植栽した。9月に地際直径と樹高を測定し、地際直径の 2 乗に樹高
を掛けたものを成長量として比較した。
その、結果、ケヤマハンノキと組み合わせて植えたシラカンバやウダイカンバの
成長は、それぞれ単一で植えた時よりも良く、ケヤマハンノキは単一で植えた方
が成長が良かった。これは、ケヤマハンノキと共生関係を形成している Frankia
sp. が固定した窒素を他樹種も利用したためと考えられる。また、三種を一緒
に植えた試験区では他のどの区画よりもすべての樹種で成長が悪かった。これ
は、同一種では遺伝的な変異はあるものの、同じ資源を同じように必要とする
ため、個体間の競争が激化した結果と推察した。そこで、種間の光合成特性の
差や葉の可塑性の種間差などを調査し、先駆種の共存機構を解明したい。
山路 恵子1, 石本 洋2, 森 茂太1
12:30-14:30
個体内の均等な水輸送と hydraulic architecture
◦
種子田 春彦1, 舘野 正樹1
1
東京大学大学院理学系研究科日光植物園
1
森林総研東北, 2INRA
青森ヒバ(Thujopsis dolabrata Sieb. et Zucc. var. hondai Makino)の種子はヤ
ニ袋を持ち、数種のテルペノイド類を含有する。一般にテルペノイド類には、
抗菌活性を示すものが存在することから、本研究では種子成分がヒバ実生の
根圏糸状菌相に与える影響について調査した。
種子は 2003 年4月下旬に、カヌマ土(鉱質土壌)と苗畑土(黒ボク土)に
播種した。また、ヒバ実生の根圏糸状菌の源として考えられる種子糸状菌と
土壌糸状菌について、その種類や出現頻度を調査した。種子や土壌からの出
現頻度が高い菌種については、土壌培地上での生育速度と種子成分に対す
る感受性を調べた。7月初旬には実生の根圏糸状菌を分離し、その種類や出
現頻度を調査した。以上の結果をもとに、実生の根圏糸状菌の出現頻度と
1)種子からの出現頻度、2)土壌からの出現頻度、3)土壌培地での生育速
度、4)種子成分に対する感受性、の間に相関関係があるかどうか、Pearson’s
correlation test(P<0.05)で解析を行い、どのような要因が根圏糸状菌相形
成に関わっているかを検討した。
その結果、ヒバ実生が生育する土壌の種類に関係なく、実生の根圏糸状菌の
出現頻度は、種子成分に対する感受性とのみ有意な相関関係を示した。これ
は、ヒバ実生の根圏では種子成分に対して耐性がある種子糸状菌と土壌糸状
菌が優占種として残りやすい、ということを意味する。我々は、種子成分が
ヒバ実生生育初期の根圏糸状菌相に主要な影響を与えていると結論する。
植物の地上部では,水分の供給源に近い茎の基部についている葉と茎の
先端についている葉では,水分の輸送距離が大きく異なる.導管を通る
水輸送では,通導抵抗は水分の輸送距離に比例して大きくなるため,単
純に考えれば,枝の先にある葉ほど水分が供給されにくくなる可能性が
ある.理論的には,節や分枝部分にある大きな通導抵抗がバルブとなっ
て基部の葉だけに水分が流れることを防いでいるのだと考察されている.
しかし,現実の植物でこうした効果が起きていないのかどうか,また起
きていないのであればどのようなメカニズムによって克服されているの
か,について実験的に明らかにした研究はない. 〈BR〉そこで,茎の
全長が 15m 程度のクズ〈I〉Pueraria lobata〈/I〉を用いて,葉の間で生じ
る水分の輸送距離の違いによる通導抵抗への効果について解析を行った.
〈BR〉茎から葉柄までの経路と土壌から葉までの経路とについて,基部
の葉から3枚おきに通導抵抗の分布を測定した.この結果,葉柄までの
経路では通導抵抗に大きな variation が生じたのに対して,葉までの経路
では,通導抵抗は水分の輸送距離のよらずほぼ等しくなった.
〈BR〉クズ
の地上部を構成する茎,葉柄,葉身の通導抵抗を測定すると,葉身の通
導抵抗は最も大きく,葉柄の5–10倍,茎の100–1000倍もの値
になった.測定された通導抵抗の分布を電気回路に模して,葉の位置と
通導抵抗の関係についてシミュレーションを行った結果,上記の結果を
ほぼ再現することができた.
〈BR〉これらの結果は,地上部での輸送距離
の違いによって生じる通導抵抗の variation は,輸送経路の末端にある,
葉身の大きな通導抵抗によって打ち消されることを示している.
— 117—
P1-029c
ポスター発表: 生理生態
P1-029c
P1-030c
12:30-14:30
根圏の酸素不足に対するガマ属3種(ガマ コガマ ヒメガマ)の応答
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
松井 智美1, 土谷 岳令1
異なる CO 2と窒素条件で生育させた落葉広葉樹稚樹を餌とした食葉
性昆虫の成長
◦
1
千葉大学大学院 自然科学研究科
北海道大学大学院農学研究科, 2北海道道立林業試験場 (特別研究員:PD), 3森林総合研究所北海道支
所, 4北海道大学北方生物圏フィールド科学センター, 5北海道東海大学工学部生物工学科
大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の急激な上昇による温暖化や近隣諸国
の経済発展にともなう酸性降下物の増加がわが国の生態系に及ぼす影響
は大きいと予想される。そのため、これらの無機ストレスによる生物相
互作用の変化を考えることが重要である。
異なる CO2 と窒素条件で育てた落葉広葉樹稚樹(ケヤマハンノキ、イ
タヤカエデ) について化学分析と生物検定を行い樹木の葉の質変化や植
食者に対する防御について検討した。化学分析は多くの樹木が持つと知
られる縮合タンニンと総フェノールについて行った。このほかにも硬さ
の指標とされる LMA や葉の C/N 比も測定した。また、生物検定では広
食性の食葉性昆虫であるエリサンを用いた。イタヤカエデで CNB 仮説
を支持する結果が得られた。しかし、ケヤマハンノキでは貧栄養条件で
予想に反する結果を示した。またエリサンの生存日数もケヤマハンノキ
の貧栄養では富栄養よりも長くなった。この理由として Frankia sp. との
共生関係にあることが考えられる。ケヤマハンノキでは光合成産物を自
己の成長や防御だけでなく Frankia sp. にもまわす必要があるため CNB
仮説と一致しない結果が得られたのだと考えられる。
P1-032c
12:30-14:30
カラマツ樹冠部での短枝・長枝葉の光合成特性
◦
柴田 隆紀1, 松木 佐和子2, 飛田 博順3, 北尾 光俊3, 丸山 温3, 竹内 裕一5, 小池 孝良4
1
多くの水生植物の生育環境における底質の酸素濃度はほぼゼロに等しい。そ
のため植物の地下部は常に酸素不足のストレスに曝されている。酸素不足ス
トレスに対する耐性の違いは水生植物の分布を決める重要な因子となってお
り、しばしば水深に沿って帯状分布が見られる。
ガマ属は世界中の湿地によく見られる抽水植物であり、日本にはガマ Typhalatifolia L. コガマ T. orientalis Presl ヒメガマ T.angustifolia L. の3種
が分布する。一般にガマは水深の浅い場所に、ヒメガマは水深の深い場所に
群生しているのが観察される。コガマの生育地に関しては報告例が少ないた
め不明確である。
ガマ属には地上部から地下部へ空気を送る換気機能が発達しているが、ヒメ
ガマは換気能力がガマに比べて高いため、水深の深い場所でも生育が可能で
あると考えられている (Tornbjerg et al. 1994 )。これまで根の呼吸特性に関す
る報告はないが、生育環境から推測すると、ヒメガマはガマに比べて、根の
呼吸特性を根圏の低酸素条件に対応させて変化させていると考えられる。そ
こで、本研究ではガマ、コガマおよび、ヒメガマの根圏の酸素不足に対する
応答について、根の呼吸特性に焦点をあてて比較検討した。
ガマ属3種の根圏環境を好気的および嫌気的の2条件に設定して1ヶ月間培
養し、それぞれ呼吸速度を測定した。ガマの呼吸特性は培養条件によって違
いはみられなかったが、ヒメガマとコガマは嫌気的環境で培養した植物体の
方が、全体的に高い呼吸速度を示した。また、推測したとおりこの違いはヒ
メガマの方が顕著であった。ただし、いずれの種も、根圏環境の酸素濃度に
よらず、同程度の呼吸速度を維持していることがわかった。
P1-031c
12:30-14:30
12:30-14:30
コジイとアラカシの分枝様式と樹冠内光環境
◦
佐久間 祐子1, 渡邉 陽子1, 藤沼 康実2, 市栄 智明3, 北岡 哲3, 笹 賀一郎3, 小池 孝良3
1
北大農学研究科, 2環境研, 3北大生物圏セ
長 美智子1, 河村 耕史1, 武田 博清1
1
京都大学森林生態学研究室
地球温暖化の進行に伴い、北方林の持つ大気中二酸化炭素の固定能力に
期待が寄せられている。北方林の重要樹種であるカラマツ属は、高い光
合成能力と広範囲に渡る分布から CO2 シンクとして特に注目されている
ため、光合成特性の解明が急務である。
北海道に多く植林されているニホンカラマツ(Larix kaempferi)は、春
先に一斉に開葉する短枝葉とその後、順次開葉する長枝葉を持つ。今日
までに、短枝葉と長枝葉の形態学的な違いについては研究が進展してき
た。しかし、光合成機能を含めた生理的特性についてはまだ未解明の部
分が多く、短枝葉の方が光合成機能が高いという結果(倉地 1978)と大
きな違いはないという結果(北岡 2000)の二つの異なる見解がある。一
方で、長枝葉の弱光利用能力が短枝葉より低いことから長枝葉は空間の
獲得、短枝葉は獲得した空間の維持という役割を持つことが指摘されて
いる。そこで、長枝葉と短枝葉の光合成機能の差を明らかにするために、
光環境の異なる点での光合成能力の測定を行うと同時に、葉の発達に伴
う構造の変化に注目し針葉の形態の観察を行った。
測定は、月 1 回、北海道苫小牧国有林のニホンカラマツ人工林内に設置
された林冠アクセス用の仮設足場から手の届く範囲にある葉について行っ
た。本研究では、陽樹冠、陰樹冠各々の短枝葉及び長枝葉の光合成能力
の測定を行い、光-光合成曲線と A-Ci カーブを作成した。測定結果から、
光-光合成曲線の初期勾配、光飽和点、カルボキシレーション効率を求め、
針葉の形態の観察結果と比較し、考察した結果を報告する。
植物個体の炭素獲得は個体の周囲の光環境だけでなく、樹冠内の光の分布様
式にも影響される。それゆえ、個体全体の生産量を定量化する場合、樹冠内
の光の不均一性を考慮する必要がある(Ashton 1978; Chazdon et al. 1988)。
樹冠内の光の不均一性は相互被陰の程度といった葉の配置様式によっても
たらされる。
(Pearcy and Valladares 1988)。また、樹木の分枝様式は光環境
と密接に関連するため、樹冠内の光環境に対応しているはずである。しか
しながら、葉の配置様式や樹冠内の光環境の定量的なデータは測定の困難
さゆえに十分に調べられていない(Chazdon 1985; Oberbauer 1988)。本研
究では、コジイとアラカシの稚樹を対象に、葉の配置様式と分枝様式、樹
冠内の光環境を調べ、これらの関連を考察する。
葉の配置様式:三次元デジタイザ(FASTRAK electro-magnetic 3-D digitizing
appratusPolhemus U.S.)を用い、樹冠内全ての葉の三次元座標を測定した。
このデータを用いて、樹冠内の葉群分布を定量的に記述した。
分枝様式:樹冠の上・中・下から各一本ずつ側枝(幹から直接分枝した枝)
を選び、分枝図を作成し、3 年間にわたって追跡調査を行った。これから、
種の分枝様式を明らかにした。
樹冠内光環境:分枝図を作成した枝を対象に、感光フィルム(Oil-red O film,
Taisei Chemical Industries, Tokyo)を各枝 3 箇所ずつ設置し、各枝の光環境
を調べた。
以上の結果から、光環境に対応した分枝様式を明らかにし、葉の配置様式
と関連して議論したい。
— 118—
ポスター発表: 生理生態
P1-033c
P1-034c
12:30-14:30
寒冷圏におけるダケカンバの光合成機能の環境ストレスに対する応答
(2)
◦
◦
津田 元1, 小野 清美1, 原 登志彦1
1
北海道大学 低温科学研究所
1
北海道大学 低温科学研究所
北海道の森林は,林床にササ(Sasa kurilensis)が繁茂し,下層のササと上層
の樹木との間で資源をめぐる競争が起こっていると考えられる。林床のササ
が樹木に及ぼす影響を調べるために,北海道大学・雨龍研究林のダケカンバ
(Betula ermanii)林では,林床のササを除去した調査区(除去区)と除去し
ない対照調査区(ササ区)が設置された。ササ区のダケカンバは除去区のダ
ケカンバよりも林床のササによって制限される環境要因が多いため,光エネ
ルギー過剰の状態となり,光阻害を回避する様々な機能がより活発に働くこ
とが予想された。本研究では,植物が受けるストレスの定量化を行い,樹木
が光ストレスに対してどのような生理的応答をするのかを調べた。前回の発
表では,約 30 年生のダケカンバにおいて,光合成速度が低かった除去区で
も光阻害が起きていないことや,ササ区と除去区では過剰光エネルギーを消
去する方法が異なっていることを報告した。今回は約 20 年生のダケカンバ
を対象にして行った調査について報告する。
約 20 年生のダケカンバでは、約 30 年生と同様にササ区で光合成速度や
葉面積が大きい傾向を示した。光阻害の指標となる光化学系 II の最大量子
収率の値には,除去区,ササ区ともに大きな低下は見られなかった。過剰な
光エネルギーを熱放散する指標となるキサントフィルサイクルの脱エポキシ
化の割合は,ササの有無に関わらず高い値を示した。活性酸素消去系酵素の
活性にも,ササの有無による違いはみられなかった。
以上の結果から,約 30 年生と同様に約 20 年生のダケカンバ林では,ササ
の有無に関わらず光阻害を受けないように防御していると考えられる。中で
も,キサントフィルサイクルの結果から,ダケカンバは過剰な光エネルギー
を熱として消去している可能性が示唆され,ササの有無による葉面積あたり
の光合成速度の違いに,光ストレスは影響を与えていないと考えられる。
12:30-14:30
3 種のマツヨイグサ属植物の受粉様式の違いによる発芽特性
◦
12:30-14:30
低温と強光ストレスが当年生ミズナラ実生に与える影響
田畑 あずさ1, 小野 清美1, 隅田 明洋1, 原 登志彦1
P1-035c
P1-033c
8 月 26 日 (木) C 会場
小林 美絵1, 倉本 宣2
1
明治大学大学院農学研究科, 2明治大学農学部
マツヨイグサ属植物は辺りが暗くなり始めたら開花し、強い芳香を放つ
外来種である。マツヨイグサ属植物の中で最も花径の大きいオオマツヨ
イグサ Oenothera erythrosepala Borbas は近年減少し、花径の小さいメ
マツヨイグサ Oenothera biennis L.、匍匐性のコマツヨイグサ Oenothera
laciniata Hill が分布を拡大している。マツヨイグサ属植物はポリネーター
をスズメガ、ヤガとする虫媒花であるが、自家和合性も確認されている。
そこで、受粉様式の違いがマツヨイグサ属植物の増減に影響しているか
を検討するために、花に対する袋がけ実験を行うことで、自家受粉率と
受粉様式の違いによる結実率を調べた。受粉様式は、1) 自家受粉、2) 除
雄、3) 隣花受粉、4) 他家受粉の 4 処理とし、処理を行った後に袋をかけ
た。マツヨイグサ属植物は一日花なので、袋は翌日はずした。また、結
実した種子の数と重量を測定し、さらに強光条件、変温・恒温条件のも
とで発芽実験を行った。なお、オオマツヨイグサの自家受粉率について
は、実験に十分な個体群が見つからなかったため、行っていない。
袋がけ実験の結果より、メマツヨイグサ、コマツヨイグサの自家受粉率
はそれぞれ 83.1 ± 13.9%(n=342)、89.5 ± 9.2%(n=365)であった。
また、オオマツヨイグサの自家受粉率は既存の文献より、81.1%(n=307)
(Kachi 1983)という報告がある。結実率、種子重、種子数においては
3 種とも有意な差は認められなかった。また、発芽実験の結果においても、
3 種とも受粉様式の違いによる発芽率に有意な差は認められなかった。
以上の結果から、受粉様式が異なっても種子は結実し、結実した種子に
は発芽能力があることがいえる。また、3 種とも自家受粉率が 80 %以
上と高いことから、ポリネーターに依存しなくても種子生産は可能であ
ることが示唆された。これらのことから、オオマツヨイグサの減少とメ
マツヨイグサ、コマツヨイグサの分布拡大には受粉様式の違いが影響し
ていないと考えられる。
植物が生育するためには、光は重要な環境因子である。しかし、過剰な
光は光合成の低下(光阻害)などを引き起こす。この原因となるのは、光
合成や熱放散などの光ストレス防御で消費できなかった過剰エネルギー
であると考えられている。本実験では、北方林の主要樹種であるミズナ
ラ (Quercus crispula) を用い、生育環境によって光ストレス防御反応と過
剰エネルギー量がどのように変わるのか明らかにすることを目的とした。
当年生ミズナラ実生を人工気象器内で 2 段階の光強度 1000µmolm-2 s-1
・10◦ C
(強光)
・100µmolm-2 s-1 (弱光)と 2 段階の温度 25◦ C(高温)
(低温)を組み合わせた4条件で生育させた。展葉が終了した段階で、最
大量子収率(Fv/Fm)は低温で生育した個体で低く、ストレスを強く受け
ていることがわかった。最大光合成速度と Fv/Fm の値は高温で生育した
個体で高く、その中でも弱光高温で生育させた個体で最も高かった。逆
に、低温で生育した個体は値が低かった。しかし、光ストレスの原因と
考えられる過剰エネルギーの量を (1-qP) × Fv ’/Fm ’から求めると、高
温で生育した個体の方が大きかった。また、光化学系 II の電子伝達速度
は強光高温で生育した個体で最も大きかった。この原因として、強光高
温の個体では光化学系 II 以降で過剰電子の消去が行われている可能性が
考えられるので、Water-Water サイクルの寄与を検討した。熱放散に働く
キサントフィルサイクルの脱エポキシ化率を測定したところ、強光低温
で生育した個体で最も大きく、次に強光高温と弱光低温が大きな値を示
した。クロロフィル a とクロロフィル b の比を測定したところ、強光低
温で生育した個体で最も高い値を示しアンテナサイズが小さく、弱光高
温で生育した個体は最も低い値を示した。
以上より、ミズナラ実生では光ストレス防御において強光と低温で同
様な応答を示すことが明らかになった。
P1-036c
12:30-14:30
苗場山ブナ樹冠における光環境と光合成特性の垂直、水平方向、方位
による変異
◦
飯尾 淳弘1, 深沢 久和1, 能勢 八千穂1, 角張 嘉孝1
1
静岡大・農
樹冠層の光合成量を推定するためには、光合成特性と光環境の空間分布とそ
の相互関係を知ることが重要である。そこで、樹冠層を垂直、水平方向、方
位で分割し、それぞれの区画で葉の光合成特性と光環境を調べ、それらの相
互関係を整理した。試験地は新潟県の苗場山標高 900m にある 70 年生ブナ
2 次林である。測定期間は 2002 年 7 月 5∼13 日である。供試木の空間情
報は樹高 21.5m、最下葉高 17m、胸高直径 26.5cm、樹冠半径 2m である。
試験地内には高さ 24m の鉄塔が建設されており、供試木にあらゆる方向か
ら自由にアクセスできる。供試木の樹冠を円柱形であると仮定し、まず方位
で 4 分割した。さらに垂直方向、水平方向にそれぞれ 3 分割した(垂直方
向;上層、中層、下層、水平方向;外側、内側 1、内側 2)。光環境の違いが
顕著になる北側と南側の葉層を測定対象とした。それぞれの区画で光合成能
力(Vcmax)、窒素含有量、クロロフィル、ルビスコ、比葉面積(LMA)と
光環境を測定した。光環境は樹冠内と樹冠外の光量子束密度との比(rPPFD)
であらわした。rPPFD は垂直方向に 0.96∼0.15 まで変化した。水平方向で
は、上層と中層でそれぞれ 0.98∼0.25、0.78∼0.16 まで低下した。下層では
水平的な位置にかかわらず約 0.15 であった。方位について比較すると、上
層と中層の区画において北側は南側よりも 0.05∼0.15 大きかった。樹冠内
の Vcmax は 29.4∼83.8 μ mol m-2 s-1 であり rPPFD と同様に垂直、水平
方向で大きく変化した。rPPFD と Vcmax の関係は垂直方向、水平方向でほ
とんど同じ傾向を示したが、北側と南側を比較すると、同じ rPPFD におい
て北側の Vcmax は南側よりも低かった。しかし、葉面積あたりの窒素含有
量と LMA は北側のほうが南側よりも大きかった。樹冠北側の葉は南側より
も多くの資源を投資しており、窒素利用効率が低いことがわかった。クロロ
フィル、ルビスコ含有量、葉の解剖学的特性を調べ、北側の葉で窒素利用効
率が低く LMA が大きい原因について考察する。
— 119—
P1-037c
ポスター発表: 生理生態
P1-037c
12:30-14:30
P1-038c
針葉樹3種の硝酸同化の季節変動:硝酸還元酵素活性を指標として
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
12:30-14:30
水ストレス緩和後の光合成誘導の変化
上田 実希1, 徳地 直子2
◦
1
京都大学大学院農学研究科, 2京都大学フィールド科学教育研究センター
冨松 元1, 堀 良通1
1
茨城大学理学部生態学研究室
窒素は植物にとって多量必須元素である。硝酸態窒素(以下硝酸)は植物の
窒素源として最も重要な物質の一つであることから、植物による硝酸同化を
理解することは重要であると考えられる。植物による硝酸同化の指標として
硝酸還元酵素活性(NRA)が広く用いられている。植物による硝酸同化ポテ
ンシャルの指標となる NRA(NO3 ) を用いた研究は多く、硝酸同化の特性は
種間差が大きいことが知られている。さらに、近年は実際の硝酸同化量の指
標となる NRA(H2 O) の測定も行われ、2種類の NRA を同時に測定するこ
とで植物の硝酸同化をより正確に把握できると考えられる。
本研究は日本の代表的な植栽針葉樹であるスギ・ヒノキ・アカマツを用い、
NRA(NO3 ) と NRA(H2 O) を年間を通して測定することにより、硝酸同化の
種特性と季節性を明らかにすることを目的とした。
3 樹種はいずれも、展葉が盛んな時期に NRA(NO3 ) と NRA(H2 O) が有意に
高くなった。このことから、これら 3 樹種は展葉に伴う窒素需要増大を補う
ために硝酸同化ポテンシャルを高め、硝酸同化量を増大させていると考えられ
た。さらに、いずれの樹種でも、休眠期とされる 12 月 ∼2 月に NRA(NO3
)・NRA(H2 O) ともに高くなった。この傾向は常緑広葉樹では見られず(小
山 未発表)、常緑針葉樹の特徴であると考えられた。これまで樹木の硝酸
同化に関する研究は成長期を中心に行われてきたが、本研究から常緑針葉樹
の場合は休眠期も重要であることが示唆された。
アカマツはスギ・ヒノキと比較して、単位重量あたりの NRA(NO3 ) は高かっ
たが NRA(H2 O) は低かった。このことからアカマツはスギ・ヒノキよりも
硝酸同化ポテンシャルが高いにも拘わらず、同化量は小さいことが示された。
これはアカマツのアンモニア嗜好性と関連があると考えられた。
林床に生育する植物にとって光は重要な資源であり、効率よいサンフ
レック利用が重要である。弱光から強光へと変化すると、光活性化酵素、
RuBPCase、気孔コンダクタンスなどの活性化により、光合成が徐々に誘
導される。このような光合成誘導反応は、生育地の環境によって大きく影
響される。しかし、降雨や乾燥による誘導反応への影響を調べられた報
告は少ない。そこで我々は、水要求が強く乾燥に弱いと考えられる林床
渓畔草本ヤマタイミンガサを用いて、水ストレスから緩和された後、光
合成誘導がどの様に変化するのかを調査した。
実験は、1 湿潤条件で生育させた個体を乾燥状態にさせ LI-6400 で
Timed-Lamp 測定(CO2:360 μ mol m-2s-1、光:20 ⇔ 500 μ mol m-2s-1
を 3 回繰り返す)、2 測定後十分な水をやり、180 分後に同様の測定
をおこなった。
その結果、乾燥状態から湿潤状態に回復することによって、光合成がより
早く誘導されるようになり、光合成速度も約2倍になった。しかし、乾燥
状態では、繰り返された3回の誘導ごとに光合成速度の上昇(1.12、1.31、
1.52 μ mol m2 s-1)が見られたが、湿潤状態では3回の誘導全てで同じ
光合成速度(2.74、2.71、2.71 μ mol m2 s-1)であった。気孔コンダク
タンスは、乾燥状態では、0.01 から 0.015mol m-2s-1 の間で低かったが、
徐々に大きくなった。一方、湿潤状態では、0.06 から 0.04mol m-2s-1 と
大きかったが、徐々に小さくなった。
光合成速度は、乾燥と湿潤の間で差があり、また誘導反応にも違いが見
られた。この結果は、気孔による影響が大きいと考えられた。湿潤だと、
気孔を大きく開くことで、常にアイドリング状態を維持できる。そのた
め、強光に対してすぐに誘導を開始できる事で、効率良く炭素同化でき
ると示唆された。
— 120—
ポスター発表: 物質生産・物質循環
P1-039
P1-040
12:30-14:30
陸域環境研究センター圃場における C3/C4 混生草原の地下部バイオマ
スと成長量の季節変化
◦
◦
橋本 徹1, 三浦 覚1, 池田 重人2, 志知 幸治1
1
森林総研・東北, 2森林総研
1
筑波大学
草原生態系の植物体に蓄積されている炭素量は地上部現存量と地下部(根,
地下茎などの地下器官を含む)現存量の両方を含む.地上部に関してはそれ
までに多くの研究成果があり(莫ほか 2003; 井桝ほか 2002;横山・及川,
2000;田中・及川,1998,1999),しかし,地下部に関しての実測例はとて
も少なく,特に植生の地下部から土壌への炭素移入量についてはほとんど明
らかになっていない.本研究が調査地とする筑波大学陸域研究研究センター
圃場の C3/ C4 混生草原では,1993 年以降長期間にわたって継続して植生調
査が行なわれ,C3 植物と C4 植物の地上部バイオマスや LAI の季節変化と
気象要因との相関関係などが解明されつづである.しかし,地下部バイオマ
スと成長量に関するのデータは殆どなかった.そこで,本研究は地下部のバ
イオマスおよび成長量の季節変化を調査し,C3/C4 混生草原の炭素循環にお
ける地下部の役割を定量的に解明することを目的とした.
本研究の調査地となった C3/C4 混生草原では,C3 植物であるセイタカア
ワダチソウの優占区において,生きている地下部バイオマスは 1580.7g d.w.
m-2 で,地下部の成長量は 481.7g d.w. m-2yr-1 で;死んた地下部の蓄積量は
593.7g d.w.m-2 で,地下部のリターフォールは 483.6g d.w. m-2yr-1 であった.
C4 植物であるチガヤの優占区では,生きている地下部バイオマスは 1762.1g
d.w.m-2 で,地下部の成長量は 584.1g d.w.m-2yr-1 で;死んた地下部の蓄積
量は 456.4 g d.w.m-2 で,地下部のリターフォールは 318.7g d.w.m-2yr-1 で
あった.C4 植物でありススキの優占区では,生きている地下部バイオマス
は 2624.9g d.w.m-2 で,地下部の成長量は 875.0g d.w.m-2yr-1 で;死んた
地下部の蓄積量は 538.7 g d.w.m-2 で,地下部のリターフォールは 351.7g
d.w.m-2yr-1 であった.
2003 年における地下部バイオマスおよび成長量は優占種によって大きく変
動し,地下部の成長は主に地上部の成長を依存することを明らかにした.本
草原サイトのように,地下部バイオマスに貯留されている炭素は,草原生態
系において地上部バイオマス以上に重要なリザーバーとして機能しているこ
とを示唆した.
12:30-14:30
フクジュソウの物質生産と繁殖サイズ
◦
12:30-14:30
岩手県・安比高原のブナ二次林における土壌呼吸の平面分布
劉 建軍1, 莫 文紅1, 及川 武久1
P1-041
P1-039
8 月 26 日 (木) C 会場
大窪 久美子1, 新井 隆介2
1
信州大学農学部, 2信州大学大学院農学研究科
キンポウゲ科多年生草本植物フクジュソウ(Adonis ramosa)の物質生産
と繁殖サイズとの関係を知るため、2000 年 4 月に長野県長谷村の自生地個
体群においてサンプリング調査を行った。本種は環境省 RDB に絶滅危惧
II 類(VU)として指定されているが、調査は個体群が開発行為によって消
失するため、土地所有者の許可を得て、保全のための移植を行う際に一部
の個体で実施した.自生地の水田畦畔に 2 × 2 m2の方形区を 5 プロッ
ト設置し,計 532 個体のフクジュソウをサンプリングした.地上部は光合
成器官(葉),非光合成器官(地上茎),繁殖器官(花,果実),地下部は
栄養器官(根茎、根)の各部位に分け,地上茎について2方向の根元直径
(D)および長さ(H),また花弁と萼片の長さを測定した.その後,乾燥機
で 105 ℃,72 時間乾燥し,部位ごとに乾燥重量を測定した.
1.フクジュソウの T / R 比は平均値 0.43(SD;± 0.34)であった.一
般に多年生草本の T / R 比は一年生草本や木本に比べて一般的に小さく,
1 以下のものが多い(岩城 1973,吉良 1976)が,他の多年生草本と比較
すると,フクジュソウの T / R 比は小さく,地下部への配分が大きかっ
た.繁殖個体と非繁殖個体との間には T / R 比の明確な違いはなかった.
2.個体乾燥重量(地上部+地下部)w は地上茎の根元直径(D)と長さ(H)
の関係から、次式で求められた.
(dw = 0.7665D2 H + 0.1811(R2=0.8842))
3.繁殖ステージのサイズクラスは乾燥重量 0.3 g以上 1.0 g未満クラス
では繁殖個体が 6.52 %,1.0 g以上 3.2 g未満クラスでは 54.73 %,3.2
g以上 10 g未満クラスでは繁殖個体が 93.26 %であった.
4.個体サイズと部位別分配比はサイズが大きくなるごとに,地下茎(R)
の分配比が増加し,地上部(葉(L)と茎(S))への分配比は減少した.
土壌呼吸は、森林生態系の中で主要な生物過程の一つであり、炭素循環と
密接に関係している。しかし、土壌中では大きな空間的な不均一性が生じて
おり、その不均一性を把握することなしに土壌呼吸動態を定量的に調べるこ
とはできない。そこで、本研究では東北地方の代表的樹種であるブナ林下の
土壌呼吸の空間分布について調べた。
調査は、岩手県安代町安比高原において、約 70 年生のブナ二次林で行っ
た。30 × 30 m のプロットを設定し、そこに直径 40 cm、深さ 15 cm の円筒
型チャンバーを5 mおきに7 × 7個埋め込んだ。バイサラ社の CO2 セン
サー(GMM222)を用いて、密閉法で、7/29、10/11、10/31 の3回測定した。
その結果、各測定日の土壌呼吸速度は、7/29 が 133.9 μ gCO2/m2/s (S.D.
= 26.4)、10/11 が 84.4 (15.8)、10/31 が 71.1 (11.2)であった。土壌呼吸速
度平面分布の凹凸差が最も大きかった 7/29 では、最大(198 μ gCO2/m2/s)
と最小(88)で 2 倍以上の差が見られ、30 × 30 m の枠内で土壌呼吸速度
の低いくぼ地がいくつか認められた。7/29 の平面分布の形状を維持しつつ、
土壌呼吸速度の高い山の部分が下がるような形で経時変化した。10 cm 深地
温と土壌呼吸速度の相関係数は、3回の測定日でそれぞれ、0.02、0.51、0.46
であり、7/29 の値が非常に小さかった。含水率と土壌呼吸速度の相関係数は
それぞれ-0.52、-0.53、-0.31 であった。立木密度の小さいところで土壌呼吸
速度が低い傾向が見られた。土壌呼吸の平面分布には、上木の立木位置が影
響しているようである。
P1-042
12:30-14:30
広葉樹二次林における枯死木の動態
◦
上村 真由子1, 小南 裕志2, 金澤 洋一1, 後藤 義明2
1
神戸大学大学院自然科学研究科, 2森林総合研究所関西支所
森林生態系の炭素循環を考える上で、枯死木の動態を定量評価すること
が重要である。短期的には、森林生態系の NEP を評価する上で、NPP
から Rh を差し引くため、Rh の定量化を行わなければならず、枯死木呼
吸量は Rh の構成要素なので呼吸量を定量化する必要がある。また、長
期的には、枯死木はリターに比べて、林床への落下量の年変動が大きく、
また分解速度が遅いため、遷移や攪乱によって生じた枯死木が長期間にわ
たって森林の炭素循環に影響を与える。このように、森林の炭素循環を
短期的、長期的に評価する上で、枯死木の動態を調べることは重要であ
る。しかし、これまでの炭素循環研究の中で、枯死木の発生量、現存量、
分解量について十分に研究がなされているとは言い難い。よって、この
研究では広葉樹二次林における枯死木の動態を調べることとした。
調査・観測は、京都府南部の山城試験地で行われた。この試験地は広葉
樹二次林であり、現在はコナラとソヨゴが優占するが、過去にはアカマ
ツが優占し、現在は倒伏や立ち枯れの状態でアカマツの枯死木が多く存
在する。
枯死木の動態を調べるためには、枯死木の発生量、現存量、分解量を定
量化しなければならない。枯死木の発生量は、試験地(1.6ha)の 3cm
以上の毎木調査を 1994 年、1999 年に行っており、1999 年以降、2000、
2001、2003 年に調査を行い、樹木の生死を判別している。枯死木の現存
量は、試験地全体に存在する直径が 10cm 以上の枯死木を対象とし 2003
年に調査を行った。枯死木の分解量は、枯死木からの分解呼吸量を赤外
線ガスアナライザーを用いて測定する装置を開発し、同一枯死木からの
連続測定や多サンプル観測により、環境要因や枯死木の状態と呼吸量と
の関係を調べた。これらの調査、観測の結果をもとに、広葉樹二次林に
おける枯死木の動態を考える。
— 121—
P1-043
ポスター発表: 物質生産・物質循環
P1-043
12:30-14:30
ブナ林を流れる渓流における有機物収支 –C,N ベースでの試算–
◦
阿部 俊夫1, 藤枝 基久1, 吉永 秀一郎1, 壁谷 直記1, 野口 宏典1, 清水 晃1, 久保田 多余子1
(独)森林総合研究所
茨城県北部のブナ原生林を流れる小渓流において,有機物流出量およ
び有機物供給量を観測し,kgC,kgN ベースでの有機物収支の試算を行っ
た.調査渓流の集水面積は約 55ha,調査区間は 100 mである.有機物流
出は,CPOM(φ >8mm),MPOM(φ=1∼8mm),FPOM(φ=0.7 μ
m∼1mm),DOC(φ <0.7 μ m)に分けて観測した.有機物供給とし
ては,リターフォール,林床からのリター移入,渓流内の草本および藻
類の生産量を調査した.観測は 2001 年に行った.固体有機物は,乾燥
重量(または AFDM)に,C,N 含有率(この要旨では一部暫定値を使
用)を掛けて,C,N 量を求めた.DON については,DOC 量を C/N 比
(暫定的に 20 と仮定)で割って推定した.
調査区間からの年流出量は,6.98tC,0.35tN と推定された.FPOM の
占める割合が高く,C で 73.6%,N で 82.5%であった.未分解のリター
に相当する CPOM は,C で 6.9%,N で 2.9%と少なかった.一方,上
流からの年流入量は,6.59tC,0.34tN と推定され,流出と流入の差は,
392.0kgC,5.9kgN であった.
調査区間への供給量は,年間 121.8kgC,3.1kgN であった.供給の大
部分は,陸起源有機物のリターであり(C で 97.8%),水中起源の有機
物である藻類の割合は小さかったが,藻類は比較的 N 含有率が高いた
め,N 供給量としてみると,藻類も全体の 9.3%を占めた.なお,流出
と流入の差に対して供給量が過少になっているのは,林床や渓岸からの
FPOM 供給,地下水による DOM 供給など未観測の項目によるものと考
えられる.
P1-045
12:30-14:30
高 CO2 が森林生態系に及ぼす影響のシミュレーション研究
◦
P1-044
戸田 求1, 渡辺 力2, 横沢 正幸3, 高田 久美子4, 江守 正多5, 隅田 明洋1, 原 登志彦1
1
北海道大学低温科学研究所, 2森林総合研究所, 3農業環境技術研究所, 4地球フロンティア研究システ
ム, 5国立環境研究所
大気中 CO2 濃度の上昇による温暖化といった環境変化は、植物個体の生長、競
合、群落構造 (サイズ構造) に影響を与え,また逆に群落構造の変化はその周り
の環境を変化させる。これまで草本群落については,高 CO2 濃度や高温条件下
での実験的研究が多く行われているが、木本については,その規模や時間の制
限のため実験を行うことが困難である。本研究では、このような環境変化が森
林生態系の物質収支や森林構造動態に及ぼす影響を調べるため、森林内の微気
象と個体サイズ動態の相互作用を取り扱う数値モデル (MINoSGI, Multilayered
Integrated Numerical Model of Surface Physics-Growing Plants Interaction) を用い
て,環境応答に関する数値実験を行った。数値実験では、初期条件として同一
種同齢の苗木 (スギ) を植林した状態を想定し、様々な環境条件を変えつつ,20
年間にわたる群落構造・物質収支の時間推移について調べた。結果の一例とし
て,大気 CO2 濃度が現在の 373ppm の場合とその 2 倍とした場合,また,あ
わせて,葉内窒素濃度を変えた場合(これは土壌中の利用可能な窒素量が異な
る条件に対応する)について示す。計算の結果、高 CO2 環境において森林は樹
高頻度分布のサイズ不均一性を高め、高窒素条件下ではその影響がより顕著で
あることがわかった。そして、高 CO2 環境下で多くの大個体によって占めら
れた森林群落では総光合成量が増加する一方で呼吸も増加し、純生産量 (NPP)
は低下することがわかった。本発表では高 CO2 環境の数値実験の他、気温上昇
や乾燥条件など地球温暖化を想定した数値実験を行い、木本植物の環境応答に
ついての考察を加える。
12:30-14:30
スギ人工林の発達に伴う土壌炭素ダイナミクスのモデルシミュレー
ション
◦
1
8 月 26 日 (木) C 会場
首藤 勝之1, 中根 周歩1
1
広島大学大学院生物圏科学研究科
今回の研究では、皆伐後のスギ人工林における土壌炭素循環について、枝打
ち・間伐などの管理を考慮に入れた場合と入れない場合とに分けて時系列
的にシミュレーションを行った。このシミュレーションは VBA プログラム
により計算し、またこのシミュレーション結果と、スギ人工林における炭素
循環の実測値とを比較する事により、このプログラムの精度を検証した。管
理を考慮したシミュレーションの結果、皆伐後の地上部バイオマス・リター
フォール速度は迅速に林齢に伴い回復し、その変化に伴い地温は減少、土壌
水分量は増加の傾向を示した。
A0 層(SRA )
・ミネラル層 (SRM ) の呼吸速度、そして全土壌呼吸速度 (SR )
のそれぞれは皆伐後に急激に上昇し、その後徐々に減少して、それぞれ 1.58
(SRA ), 3.11(SRM ), 4.9(SR )tC ha-1 y-1 で安定した。皆伐後の A0 層(M0
)、ミネラル層(M)の炭素蓄積量は急速に減少し、枯死根層(Mr )の炭素
蓄積量は伐採により生じた枯死根により増加した。M0 と M は減少後、林齢
に伴い徐々に増加し、それぞれ 11、120 tC ha-1 y-1 で安定した。Mr は増加
後、林齢に伴い減少し、3.3 tC ha-1 y-1 で安定した。また、管理を考慮した場
合と考慮しなかった場合とのシミュレーションの結果の間に、有意な差が無
かり、そしてそれぞれの結果は実測値と良く合致する結果となった。これら
の事から、スギ人工林における炭素循環は、管理を考慮しなくても正確にシ
ミュレートする事が可能であり、よって林齢さえ分かれば、目的の林分の履
歴が分からなくても正確な土壌炭素循環のシミュレートが可能である事が示
唆された。
P1-046
12:30-14:30
ヒノキの幹呼吸速度の日変化における温度依存性
◦
荒木 眞岳1, 川崎 達郎1, 韓 慶民1
1
森林総研
森林生態系における二酸化炭素収支の研究が進むにつれ,非同化器官に
よる呼吸特性の解明の必要性が高まっている。本研究では,50 年生のヒノ
キ人工林においてヒノキ成木の幹の呼吸速度を,地上高 2m おきに 2 年間
にわたって測定してきた。今回は,幹呼吸速度の日変化における温度依存
性について考察する。
1 秒あたりの呼吸速度 R(µmol CO2 m-2 s-1 )は,幹温度の上昇・下降
にともなった日変化パターンを示し,呼吸速度(R)と幹温度(T) の関係
を各測定日,各高さごとに次の指数関数で近似した。
R = R15 Q10 ((T-15)/10)
ここで,R15 は幹温度を 15◦ C に標準化した時の呼吸速度,Q10 は温度係
数(温度が 10◦ C 増加した時の呼吸速度の増加比)である。Q10 の値は大
体 1.5 から 2.5 の範囲にあり,その平均は 1.95 であった。しかし Q10 は
季節変化を示し,冬に大きく夏に小さい傾向が認められた。Q10 は気温と
有意な強い負の相関を持ち,Q10 と気温との関係は負の傾きを持つ直線で
回帰できた。また,Q10 に幹の高さによる差は認められなかった。一方 R15
は季節や幹の高さによって大きく異なった。
幹呼吸速度の日変化における幹温度への反応は,同じ幹温度でも夜の方
が昼よりも高く,ヒステリシスを示す場合が多かった。数時間前の幹温度
に対して呼吸速度をプロットすることで,ヒステリシスが解消されること
もあった。これは,同じ幹内でも温度が異なり測定した幹温度が呼吸活性
の高い部分の温度を代表していなかったことや,幹の拡散抵抗が大きいこ
となどが原因として考えられた。
— 122—
ポスター発表: 物質生産・物質循環
P1-047
P1-048
12:30-14:30
◦
亀田 佳代子1, 保原 達2, 木庭 啓介3, 大園 享司4, 寺井 雅一4
高梨 聡1, 小杉 緑子1, 中西 理絵1, 松尾 奈緒子1, 田中 夕美子2, 日浦 勉2
1
京都大学農学研究科, 2北海道大学苫小牧研究林
1
滋賀県立琵琶湖博物館, 2国立環境研究所, 3東京工業大学総合理工学研究科, 4京都大学大学院農学研
究科
冷温帯落葉広葉樹林 (北海道大学苫小牧研究林) において、渦相関法によって
測定されている CO2 フラックスがどのような要因によって決定されている
かを明らかにするため、多層モデルを適用し、森林群落を特徴づける種々の
パラメータを求めた。個葉ガス交換特性について、気孔コンダクタンスモデ
ルには Ball 型モデル、光合成モデルには Farquhar 型モデルを用いている。
個葉のガス交換特性はクロロフィル蛍光測定装置付きポロメータおよびクロ
ロフィル蛍光測定装置による測定から得られた情報を元に水利用効率、呼吸
量、Vcmax、Jmax、量子収率等のパラメタライズを行った。Vcmax、呼吸量、
Jmax は樹冠上部のミズナラで高く、樹冠中部のミズナラになると急激に低
くなりさらに、樹冠下部を構成するオシダでさらに低くなった。量子収率は
樹冠上部で低く、中部、下部となるにつれて高くなっていた。放射伝達過程
は短波放射、長波放射と光合成有効放射量に分け、さらに光合成有効放射量
については光合成の光に対する反応が非線形なため、散乱成分と直達成分に
分けて計算を行い、直達光透過確率は葉の傾斜角分布と葉の透過・反射率に
よって計算している。葉の平均傾斜角は 16.9 度標準偏差 12.9 度であった。
葉群集中度に関して、透過 PPFD のトランセクト観測を行い、解析を行った
ところ、葉群はランダム分布からそれほど離れておらず、ランダム分布とし
た。群落全体の葉面積指数は刈り取り法によって得られた 6.63 を用いた。光
学的手法によって葉面積指数の鉛直分布を測定したところおおむね 12m 付
近の樹冠層と 2m 付近の下木層に分かれていた。土壌呼吸量に関しては、多
点チャンバーを用いた既存の年間観測結果をもとに Q10 式に回帰した。こ
れらのパラメータを用いて樹冠上 CO2 フラックスを再現計算し、渦相関法
によるデータと比較、考察を行った。
水鳥類は、水域で採食し陸域で繁殖を行うことにより、水域から陸域へ
と物質を輸送している。海洋島や極地などの海鳥繁殖地では、海鳥類によ
る養分供給により、陸上生態系の生産量増加や食物網構造の複雑化が生じ
る。一方、河川や湖沼、海岸部に生息し、水辺の森林で集団営巣を行うカ
ワウ(Phalacrocorax carbo)も、水域から森林への物質輸送を行っている。
カワウによる物質輸送では、森林に直接養分が供給されるのが特徴であり、
そこでの養分動態や生態系の変化は、島嶼や極地とは異なる特徴を持つと
考えられる。そこで本研究では、カワウの糞に多量に含まれる窒素に注目
し、森林の窒素動態に対するカワウの影響を調べた。
調査は、滋賀県琵琶湖のカワウ営巣地、近江八幡市伊崎半島およびびわ
町竹生島で行った。営巣林内に、カワウが営巣中の区域、以前営巣してい
たが放棄した区域、一度も営巣されたことがない区域を設定し、カワウの
糞、土壌有機物層、鉱質土層、植物生葉、リター、土壌菌類の窒素同位体
比を測定した。その結果、営巣区と放棄区では、土壌や植物の窒素同位体
比はカワウの糞に近い高い値を示すことがわかった。特に、伊崎の放棄区
の土壌有機物層と植物は、営巣区より有意に高い値を示した。土壌の窒素
同位体比と窒素含量の相関関係から、放棄区では土壌表層に高い窒素同位
体比をもつ有機物が堆積し、対照区や営巣区とは異なる窒素分解過程が生
じている可能性が考えられた。
営巣区の優占菌類は、有機態窒素を分解し無機化する能力が高かった。
したがって、カワウの糞由来の窒素は無機化され、植物に吸収されること
で植物体の窒素含量がすみやかに増加したものと考えられた。カワウは巣
材として周囲の枝葉を折り取ることから、営巣区ではリター量が増加する
(Hobara et al. 2001)。また、リターの窒素含量は営巣放棄後においても高い
値を示す。したがって、カワウによって供給された窒素は、カワウが営巣
を放棄した後でも植物に利用され、リターによって再び土壌に供給される
ことで、森林内に滞留することが明らかとなった。
P1-049
P1-050
12:30-14:30
亜高山帯の常緑多年生草本ベニバナイチヤクソウの標高にともなう窒
素・りんの動態の変化
◦
12:30-14:30
冷温帯落葉広葉樹林における樹冠上 CO2 フラックス形成過程
カワウによる森林への窒素供給とその長期的影響
◦
P1-047
8 月 26 日 (木) C 会場
磯海 のぞみ1, 山村 靖夫1, 中野 隆志2
1
茨城大学 理学部, 2山梨県環境科学研究所
高標高の地域では、標高が上昇するにつれ、低温・積雪の期間が長くなり、土
壌有機物の無機化が制限されるため、土壌はより貧栄養になると考えられる。
常緑性植物は,一般に落葉性植物と比べて 保存的な栄養塩サイクルを持ち、
土壌からの養分要求性が低いため、貧栄養な環境ほど常緑植物の割合が増加す
ると言われている。
ベニバナイチヤクソウ(Pyrola incarnata)は、亜高山帯の幅広い標高域の林
床に生育する常緑多年生草本である。イチヤクソウ属の植物は、菌根と共生し
ており、りんの吸収において利益を得ているといわれている。そのため、高標
高のより貧栄養立地においては,りんよりも窒素の制限をより受けやすいと考
えられる.
本研究では、富士山北斜面の標高約 1790m と 2350 mにそれぞれ調査地を
設け、植物の成長にとって重要な栄養塩である窒素とりんに着目し、ベニバナ
イチヤクソウの季節的成長にともなう全窒素と全りんの動態と土壌栄養(硝酸
態N・アンモニア態N・りん酸態P)を解析し、高標高の貧栄養条件下でのこ
の植物の適応の仕方について調べた。
土壌中の硝酸態窒素とりん酸態 P 濃度は、生育期間を通して 1790m 地点の
方が高く、アンモニア態 N は、6 月のみ 1790m 地点の方が高かった。各器官
の全窒素の含有量は、両標高で差が見られず、茎や地下部ははっきりとした季
節変化も見られなかった。全りんの含有量は全体的に 1790m 地点の方が高い
値を示した。植物体のN/P 比は 1790m 地点の方がかなり高かった。
以上のことより、当初の予測に反して,高標高のベニバナイチヤクソウは、
全体的にりんの制限を受けている可能性があると考えられる。
12:30-14:30
ヤナギ林の地下部根系の動態と純一次生産量
◦
糟谷 信彦1, 山本 武郎1, 糸永 恵理子1, 斎藤 秀樹1
1
京都府大・院・農
森林の物質生産研究は日本でもこれまでにいろいろな林分でなされてき
ているが,日本のヤナギ群落ではほとんど見られない.本研究では約 10
年生のヤナギ群落を対象に地上部と地下部の両方の生産プロセスを評価
した.特に地下部の根系では,活発な更新が予想される細根(直径 5 mm
以下)とそれより太い根に分けて測定した.京都府美山町北桑田郡大字
萱野の大野ダム畔にあるウラジロヨシノヤナギ群落に 20m × 40 mの固
定調査区を設置し,10 個の小プロットに分割した.細根の生産量評価に
は2つの方法を用いた.各小プロットにおいて幹の中心より 0.5 mの地
点からオーガーを用いて土壌コア(深さ 30 cm)を採取し,10 cm ごと
に分けた(連続コアサンプリング法).採取後の穴には砂を埋め戻し 1ヶ
月後それを同じく層別に取り出した(イングロース法).この作業を 5
月から 12 月まで毎月一度行った(これ以後継続中).土壌サンプルから
根を水で洗い出し,ヤナギ,草本,シダにグループ分けし,さらに生死
判別した.また毎木調査の胸高直径データと,現地での伐倒調査により
作成された相対成長式およびリターフォールデータを用いて幹,枝,葉,
太い根の現存量及び純生産量を推定した.
ヤナギの細根量の季節変化から,細根は 6 月に成長を開始し 8 月にピー
クを迎え 11 月には停止する 1 山型を示し,これは地温変化と対応して
いた.5 月から 6 月にかけての枯死細根量の増大,また細根の成長開始
時期が比較的遅いのは 5 月中旬までの冠水や地上部シュートの成長の影
響が考えられた.細根の現存量は 2.21 t/ha で地上部地下部を合わせた現
存量の約 3%であった.細根の純生産量は連続コアサンプリング法では
1.13 t/ha yr で全体の 9%を占め,一方イングロース法から求めた純生産
量は 0.9 t/ha であった.いずれも他の報告例に比べ値は小さかった.本
研究では 1 年のうち 3 から 4ヶ月冠水するヤナギ群落の地上部地下部を
合わせた生産量を定量的に示すことができた.
— 123—
P1-051
ポスター発表: 物質生産・物質循環
P1-051
12:30-14:30
北海道東部河川におけるサケの死骸が河畔林と河川生物に及ぼす影響
◦
P1-052
関川 清広1, 木部 剛2, 横沢 正幸3, 小泉 博4, 鞠子 茂5
1
玉川大学農学部, 2静岡大学理学部, 3農業環境技術研究所, 4岐阜大学流域圏科学研究センター, 5筑波
大学生物科学系
1
北海道工業大学, 2東京大学大学院農学生命科学研究科
近年,北米においては遡上サケの死骸の生態的役割に関する多くの研究が行
われ,渓流および陸上生態系にとって重要であることが多くの研究で明らか
にされてきた. しかし同じサケ類が分布する東アジア地域においては,この
点に関する情報は極めて乏しい。そこで本研究は,サケが遡上する河川にお
いて,河川動物と河畔林植物の安定同位体比の測定,サケ死骸に取り付けた
テレメトリーによるサケ死骸の移動過程の追跡などにより,1) サケの遡上が
河川動物に及ぼす影響,2) サケの遡上が陸上生態系、特に河畔林や土壌に及
ぼす影響を評価した.調査地は、北海道東部網走管内藻琴川流域と根室管内
標津川流域で,サケが遡上する本流と同じ水系の非遡上河川 (対照河川) を
選定した.次に河畔植生の葉と土壌について,河岸から 5m 以内と 25m 以
上離れた林内の 2 地点において採取を行った.水生動物については, 春と秋
に出現頻度の高い昆虫類を捕獲し,採取したサンプルは乾燥後,質量分析計
(Finnigan MAT 社、DELTA plus)により主要な栄養素である窒素の安定
同位体比値を測定した.また遡上時期の 11 月に遡上後斃死したサケにテレ
メトリ-発信機を装着し,半年後の 5 月にその位置の追跡を行った.
この結果,春に行った調査からテレメトリ-発信機は 8 個中 6 個が装着地点
から 20m 以内の河畔で発見された.しかし残りは移動距離が大きく,渓流
から 500m 離れた尾根付近まで運ばれたものもあり,サケの死骸は河畔だけ
でなく流域内に広く拡散している可能性が示された.また安定同位体測定の
結果から,草本を除いて木本には対照河川と有意な差が見られなかった.し
かし河川内の水生動物類は,遡上時期に捕獲したものが非遡上時期に採取し
たものに比べて有意に高かった.河川内では死骸が直接摂取または間接的に
体内に取り込まれ,河川の生産性に寄与している可能性が示された
P1-053
12:30-14:30
カワウ営巣林における木質リター: 現存量・組成・化学性の変化
◦
12:30-14:30
プロセスアプローチによる農地生態系の炭素収支比較
◦
柳井 清治1, 河内 香織2
8 月 26 日 (木) C 会場
勝又 伸吾1, 大園 享司1, 武田 博清1, 亀田 佳代子2, 木庭 啓介3
1
京都大学大学院農学研究科, 2琵琶湖博物館, 3東京工業大学大学院 総合理工学研究科
枯死した枝などの木質リター (本研究では直径 1cm 以上とした) は、森林生態
系の物質循環や生物多様性に影響を与える重要な要素の一つであると考えられ
ている。特に撹乱を受けた林分では、撹乱後に更新する樹木が利用する養分物
質の供給源になるとされる。本研究を行った滋賀県近江八幡市の伊崎半島のヒ
ノキ人工林では、大型の水鳥であるカワウが集団営巣している。カワウが営巣
している林分 (カワウ営巣林) では、樹木の衰弱や枯死が観察されている。枯
死木の本数割合が 30 %を超える林分もあり、カワウ営巣林は強度の撹乱を受
けていると考えられる。樹木の衰弱・枯死の原因としては、カワウの踏みつけ
や巣材採集による枝・葉の破損、葉への糞の付着、糞の供給による土壌の変化
などが考えられている。これまでの研究で、カワウ営巣林では葉や小枝などの
リター供給量が増加することや葉と小枝の分解速度が低下することが明らかに
されており、林床では木質リターの現存量が増加していることが予想される。
また、木質リターの樹種・直径・腐朽の程度の組成も変化していることが予想
される。しかし、木質リターの実際の現存量および組成は明らかにされていな
い。木質リターの現存量や組成を明らかにすることは、カワウ営巣林において
木質リターが物質循環に与える影響を考察する上で重要である。また、カワウ
営巣林では糞として多量の窒素が供給されており、この窒素がリターに不動化
されることが指摘されている。しかし、木質リターの窒素不動化については不
明な点が多い。木質リターの化学性を明らかにすることで、カワウ営巣林での
木質リターの窒素不動化と窒素循環に与える影響について考察できると思われ
る。本研究はカワウの営巣という撹乱が物質循環に与える影響を木質リターに
着目して明らかにすることを目的とし、カワウが営巣していない林分とカワウ
営巣林において木質リターの現存量・組成・化学性を比較する。
農地生態系の炭素シーケストレーション機能として,畑地は炭素ソース,
水田は炭素について均衡状態にあることが知られてきた。これは,畑地や
水田では炭素プールが土壌のみであることや,除草の徹底など栽培管理に
よるものと考えられる。一方,果樹園のように樹木を栽培対象とする農地
生態系では,樹木も炭素プールとなる点や,樹木以外に下層植生も生態系
に炭素を供給する点が,畑地や水田と異なっている。さまざまなタイプの
農地で炭素循環の特徴が解明されれば,今後の土壌炭素管理に資すること
ができるものと期待される。畑地と水田については茨城県つくば市の農業
環境技術研究所内の圃場で得られた結果(Koizumi 2001)を用いた。果樹
園として,甲府盆地北東部(山梨市)に位置する山梨県果樹試験場のブド
ウ園および隣接するモモ園を対象とし,炭素シーケストレーション機能の
評価と農地生態系間の比較を行った。いずれも,炭素供給量を積み上げ法
により,炭素放出量として通気法による土壌呼吸測定を行い,微生物呼吸
量 HR を推定した。土壌レベルで比較すると,畑地では炭素供給量は HR
量の 1 / 3 から 2 / 3 と著しく少なく,水田では炭素供給量≒ HR 量で
あった。一方,ブドウ園,モモ園ともに,炭素供給量は HR 量の 2 倍程度
であった。果樹園の土壌炭素収支はブドウ園で約 180 g C m-2 y-1 ,モモ園
で約 590 g C m-2 y-1 と,いずれも著しい炭素蓄積を示し,両園の土壌は炭
素シンクであることが明らかとなった。果樹園土壌が炭素シンクとなるの
は下層植生による炭素供給が大きいためであり,このような作物以外の植
物による土壌への炭素供給(総供給量の約 1/2)は,畑地や水田には見られ
ない特徴である。土壌炭素収支が正(炭素シンク)である生態系(果樹園)
を加えて,炭素シーケストレーション機能の視点から農地生態系は 3 タイ
プに分けられると結論される。
P1-054
12:30-14:30
落葉広葉樹二次林における土壌の CO2、CH4、N2O 発生・吸収速度と
伐採の影響
◦
籠谷 泰行1, 金子 有子2, 浜端 悦治2, 中島 拓男2
1
滋賀県大・環境科学・環境生態, 2琵琶湖研究所
森林土壌の温室効果ガス代謝を明らかにすることは、森林が地球の温
暖化にどのような影響を及ぼしているかを解明していく上で欠かすこと
ができない。さらに、森林の人為的な改変の影響を知ることもあわせて
重要となる。本研究では、滋賀県朽木村の落葉広葉樹二次林(コナラ林)
において、土壌の CO2、CH4、N2O 発生・吸収速度の季節変動を調べ、
伐採等森林の人為的な改変の影響を明らかにすることを目的とした。
10m × 30m の区画を単位とし、調査地にこれを多数設置した。1 区
画あたり 6 点の測定点を設け、チャンバー法により土壌の CO2、CH4、
N2O 発生・吸収速度を測定した。測定は 2003 年 8 月から行われた。そ
して、2003 年 12 月以降に地上部植生の伐採が行われた。区画ごとに適
用された処理条件は、(1)伐採・再生植生除去、(2)伐採・再生植生
除去・寒冷紗設置、(3)伐採・植生導入、(4)伐採・表土攪乱、(5)
非伐採であった。
2003 年 8 月から 2004 年 3 月までの測定結果を平均値で示すと、
CO2 で 217∼690 mgCO2/m2/hr、CH4 では-0.14∼-0.10 mgCH4/m2/hr と
なり、一方 N2O はほとんど 0 であった。CO2 では 8 月、CH4 では
8∼10 月に発生あるいは吸収速度が高くなった。N2O の発生は局所的に
観測されることがあり、その最高値は 0.11 mgN2O/m2/hr であった。3 月
の時点では、伐採等の影響はまだ顕著に現れてはいない。
— 124—
ポスター発表: 物質生産・物質循環
P1-055c
P1-056c
12:30-14:30
自動開閉式チャンバーを用いた根呼吸量の連続測定
◦
◦
1
神戸大学大学院自然科学研究科, 2森林総合研究所関西支所
12:30-14:30
谷 友和1, 工藤 岳1
1
北大・地球環境
土壌呼吸量に占める根呼吸量を推定することは森林の炭素循環を解明す
るうえで重要な課題となっているが、方法論の確立にはいたっていない。
これまでの調査により根呼吸のなかで細根が果たす役割が重要であるこ
とがわかってきた。そこで、根呼吸の特徴を理解するために自動開閉式
チャンバーを用いて連続測定を試みた。京都府に位置する山城試験地に
おいて、A 層の有機物を取りのぞいて細根だけを残し、マサ土で充填し
た処理区、B 層以下のみを測定する処理区、土壌呼吸量を測定するコン
トロール区の 3 種類のチャンバーを設置した。その結果、根呼吸量は有
機物呼吸量よりも温度変化にそれほど敏感ではなかった。また、通常観
測される土壌呼吸は、根呼吸量と有機物呼吸量の総和として測定される
ため、両者の特徴が入り混じった形で表される。
落葉樹林の林床は、上層木の葉群動態を反映して光環境が季節を通じて大き
く変化する。夏緑性高茎草本植物は冷温帯林にふつうにみられ、生産性が高
く、時として地上高が 2m 以上に達する。本研究では北海道道央域の 2 カ所
の落葉樹林下において、6 種の高茎草本 (チシマアザミ、ヨブスマソウ、バ
イケイソウ、エゾイラクサ、ハンゴンソウ、オニシモツケ) を材料に、高茎草
本が光環境の季節変動に対し、どのような生産活動を行っているのかを明ら
かにし、林冠下で高くなるための成長戦略について考察する。
サイズの異なる個体の地上部を採取し、乾燥重量を測定したところ、どの種
でも同化-非同化器官重の比は高さによらず一定であり、単位重量当たりの葉
を支持する茎への投資は高さに関わらず一定であると考えられた。同一個体
の複数の葉で最大光合成速度 (Pmax) と呼吸速度の季節変化を調べたところ、
どの高さの葉でも、林冠閉鎖による光量低下に伴って、Pmax と暗呼吸速度
が低下した。個体内では上の葉から下の葉に向かって Pmax と暗呼吸速度の
勾配が生じた。葉の老化による光合成低下と共に、弱光環境への光順化が起
こったと考えられた。光合成速度、葉面積の季節変化と林床層の光環境の季
節変化を組合せ、伸長成長が終了するまでの期間の個体ベースの日同化量を
推定した。順次展葉種では、林冠閉鎖の進行途中に純同化量が最大となった。
光量の低下と共に光合成と呼吸速度を低く抑え、かつ伸長成長と共に葉を蓄
積し、同化面積を増やすことで個葉レベルの光合成低下を補っていたと考え
られた。このような成長様式は、林床の光変動環境下で個葉レベルの同化量
を維持するための戦略であると考えられた。一方、一斉展葉型のバイケイソ
ウでは、林冠閉鎖の進行と共に純同化量は減少を続けたため、短期間に同化
活動を集中させる春植物的な戦略を取っていると考えられた。
P1-058c
マレーシアの熱帯林とプランテーションにおける土壌特性が土壌呼吸
速度に与える影響
◦
12:30-14:30
林床性高茎草本の成長戦略
-冷温帯落葉樹林の季節的光変動環境下における同化様式-
檀浦 正子1, 小南 裕志2, 金澤 洋一1, 深山 貴文2, 玉井 幸治2, 後藤 義明2
P1-057c
P1-055c
8 月 26 日 (木) C 会場
安立 美奈子1, 八代 裕一郎1, 近藤 美由紀1, 車戸 憲二1, Rashidah Wan2, 奥田 敏統3, 小泉
博1
12:30-14:30
タイ東北部の熱帯乾燥常緑林における大型枯死材を中心とする炭素循環
◦
清原 祥子1, 神崎 護1, 太田 誠一1, 梶原 嗣顕1, ワチャリンラット チョングラック2, サフ
ナル ポンサック3
1
京都大学, 2カセサート大学, 3宇都宮大学
1
岐阜大学 流域圏科学研究センター, 2マレーシア森林研究所, 3国立環境研究所
森林生態系や農業生態系における炭素収支の解明が注目されいるが、炭素循環
の中で最も大きな CO2 放出の系として土壌呼吸量を把握することが重要視さ
れている。本研究では、東南アジアにおける土地利用形態の変化が炭素循環に
及ぼす影響を、土壌呼吸量を中心にして明らかにすることを目的とした。
半島マレーシアのパソ保護林の天然林およびパソ保護林に隣接するヤシ園と
ゴム園に 8m × 8m のコドラートを設置し、16 地点において土壌呼吸速度と
地温、土壌含水率を測定した。土壌呼吸測定後、100 ml の採土管を用いてチャ
ンバー内の土壌を採取し土壌三相の調査をおこなった。また各コドラートに近
い場所において、土壌中の空気を採取するためのシステムと真空バイアル瓶を
用いて土壌中の空気を採取し、ガスクトマトグラフィーにより CO2 濃度の分析
をおこなった。
天然林、ヤシ園、ゴム園の土壌呼吸速度はそれぞれ、796、517、407mg CO2
m-2 h-1 でゴム園における土壌呼吸速度の値は天然林の値の約半分となり統計学
的に有意に低い値であった(t 検定、p<0.05)。土壌呼吸速度に大きな影響を
与えると考えられる深さ 10cm 付近の CO2 濃度は、天然林では 0.9 %(1 % =
10000 ppm)、ヤシ園では 2.9 %、ゴム園では 4.2 %となり、ゴム園では天然林
の 4.7 倍の CO2 濃度となった。これらの結果より、土壌呼吸速度の違いは地
下部の CO2 濃度を反映していないことが示唆された。土壌の物理特性に注目
すると、天然林は通気性の富んだ土壌であることが示された。また、全ての調
査地において土壌呼吸速度と気相率の間に統計学的に有意な正の相関関係が認
められた。これらの結果より、土壌呼吸速度は土壌中の CO2 の存在量よりも土
壌の物理的特性、特に気相率や気相率を左右する土壌含水率に強く影響を受け
ることが示唆された。
大型木質遺体(Coarse Woody Debris、以下 CWD)は森林生態系内における
炭素、養水分のサイクルに果たす役割の重要性のため、1970 年代から研究
が行われてきた。しかしその多くは冷温帯林を対象としたもので、熱帯林に
ついての研究例は多くない。高温多湿な湿潤熱帯林では有機物は迅速に分解
されるのに対し、明瞭な乾季を持つ季節林では分解速度は遅く、それに応じ
て CWD の貯留量も大きい可能性がある。本研究では、タイ東北部の乾燥常
緑林を対象として CWD の動態を調査し、その炭素貯留機能、放出速度につ
いて明らかにした。
タイ東北部サケラート環境研究ステーション域内に分布する天然生乾燥常
緑林に 2.5ha プロットを設け、18 年間にわたり胸高直径 20cm 以上の樹木
に由来する CWD の発生量、残存状態について継続調査した。本研究ではこ
の林分の優占種 Hopea ferrea を対象として CWD の現存量、年間発生量、分
解速度の推定を行った。2003 年 1 月 ∼3 月に直径別に厚さ 5cm の CWD
ディスクサンプルを採取し、材密度、炭素と窒素濃度の測定を行った。
ディスクサンプルによって得た材密度は枯死後の経過年数に関わらずほぼ
一定で、容積密度も同様であった。NC アナライザーによって求めた炭素・
窒素濃度にも、一貫した経年変化は見られなかった。この結果は熱帯乾燥林
の Hopea 材ではシロアリによる被食が主要分解経路になっていることを示
唆している。
Hopea の CWD 現存量は 23.7 Mg・ha-1(11.6 MgC・ha-1)、相対成長式と投
入時の胸高直径から求めた CWD 発生量は年平均 1.8 Mg・ha-1・yr-1 (0.9
MgC・ha-1・yr-1) であった。指数関数的分解を想定して発生量と現存量から
求めた CWD の半減期は約 9.2 年であった。また、全樹種の合計 CWD 現
存量は 49.4 Mg・ha-1(24.2 MgC・ha-1) と全 Biomass 量の 11 %に相当し、
年間発生量は 3.9 Mg・ha-1・yr-1 (1.9 MgC・ha-1・yr-1)、半減期は 8.8 年と
推定された。一方 Hopea の枯死木の材残存率と枯死後の経過年数との関係
から推定した CWD の分解速度は、直径 20∼30cm 未満と 30cm 以上とで
大きく異なり、前者の半減期は 4.5 年、後者では 11.3 年であった。
— 125—
P1-059c
ポスター発表: 物質生産・物質循環
P1-059c
P1-060c
12:30-14:30
炭素・窒素・硫黄安定同位体比を用いた Lake Chain 生態系の物質循環
解析
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
土居 秀幸1, 菊地 永祐2, 溝田 智俊3, 鹿野 秀一2, 狩野 圭市1, Natalia Yurlova4, Elena
Yadrenkina4, Elena Zuykova4
12:30-14:30
硫気荒原におけるリン脂質脂肪酸を指標とした土壌微生物群集構造の
解析
◦
吉竹 晋平1, 中坪 孝之1
1
広島大・院・生物圏
1
東北大大学院生命科学研究科, 2東北大学東北アジア研究センター, 3岩手大学農学部, 4ロシアアカデ
ミーシベリア支部
チャニー湖はロシア,西シベリアに位置する湖沼群である.チャニー湖は流出
河川がなく,大きく分けて 3 つの湖沼が連結して成り立っている.また,乾
燥地帯に位置するため塩分が蓄積しており,塩分は流入河川やその近傍では 1
PSU 以下であり.奥部の大チャニー湖が 7-8 PSU と最も塩分が高い.そこで,
炭素・窒素・硫黄安定同位体比をトレーサーとして,Lake Chain 生態系として
のチャニー湖の物質循環について検討を試みた.
採集地点として,流入河川:St.1,流入河川近傍の湖:St.2,小チャニー湖:
St.3,大チャニー湖:St.4,大チャニー湖奥部:St.5 において調査を行った.試
料として,ユスリカ幼虫,堆積有機物と湖水中の懸濁粒子を採集し,炭素・窒
素安定同位体比を測定した.また,堆積物中の硫化物と湖水中の硫酸イオンを
それぞれ各地点において採集し,硫黄安定同位体比を測定した.
懸濁粒子の炭素安定同位体比は St.1 から St.4 に向かう従って高くなる傾向
が認められた.これは pH が大チャニー湖奥部に行くに従って高くなっていた
ことから,溶存の二酸化炭素から炭酸水素イオンへと,植物プランクトンが利
用する無機炭素が変化したためと考えられた.同様に窒素安定同位体比でも,
St. 4では St.1-3に比べて有意に高くなっていた.脱窒やアンモニアの希散の
作用によって,硝酸やアンモニアの窒素同位体比が高くなることがしられてい
る.よって,チャニー湖では脱窒やアンモニアの希散が起こっており,窒素循
環に大きく寄与していることが推察された.また,硫酸イオンの硫黄安定同位
体比は,St.5 に向かうに従って上昇する傾向があった.このことから,硫酸還
元菌によって硫酸イオンが硫化物として還元され,残った湖水中の硫酸イオン
の同位体比が高くなったことが考えられた.よって,チャニー湖 Lake Chain 生
態系内での硫黄の循環には,硫酸還元菌が大きく寄与していると考えられた.
P1-061c
12:30-14:30
天然の CO2 噴出地:将来予測される高 CO2 環境のモデル生態系
◦
小野田 雄介1, 彦坂 幸毅1, 広瀬 忠樹1
1
東北大学・院・生命科学
大気 CO2 濃度増加が植物に及ぼす影響については、これまで多くの研究
があり、個体の生理特性や成長についてはかなり理解されている。しかしな
がら、これらの実験結果を自然生態系に応用するには、まだいくつかの重要
な問題がある。(1) 植物の長年の高 CO2 応答は、実験から得られる植物の高
CO2 応答と同じなのか? (2) 高 CO2 が選択圧となり、特定の遺伝型、また
は特定の種が優占するのではないか? (3) 植物だけでなく、捕食者、分解者
も存在する自然生態系で、高 CO2 はどのような影響を及ぼすのか?などで
ある。
これらの問題は、天然の CO2 噴出地(CO2 spring)周辺の植物を研究す
ることによって解明できると考えられる。CO2 spring では、長年に渡り火山
ガス由来の CO2 が湧き出しているため、付近の植生は高 CO2 に順化また
は適応していると考えられる。以前、私たちは、天然の植生が多く残ってお
り、さらに有害なガス(H2S や SO2)を出していない良好な CO2 spring を
青森県の龍神沼に発見した(第 50 回日本生態学会)。私たちは更に信頼度
の高いデータを得るために、新たな調査地を青森県の湯川と山形県の丹生鉱
泉に設定した。
各調査地では、6 月から 10 月にかけて、毎月 2-4 日間、高さ 1 m にお
ける CO2 濃度の観測を複数の地点で行った。どの調査地でも、CO2 spring
に近い場所で CO2 濃度が常に高く維持されていた。それぞれの調査地にお
いて、高 CO2 サイトとコントロールサイトを設定し、サイトの微環境や優
占種の葉の生理特性を調査した。多くの種において、高 CO2 サイトで、葉
のデンプン濃度は高く、また葉の窒素濃度は低かった。光合成速度は高 CO2
によって促進したが、同じ CO2 濃度で比較すると、高 CO2 サイトの植物
のほうが低い値を示した。これらの結果はこれまでの制御環境実験結果と概
ね一致し、設定した調査地が将来のモデル生態系としての役割を担うことが
できると考えられる。
硫気荒原とは火山活動終息後も火山性ガスを噴出し続ける噴気孔を含む荒原
である。荒原中央部では、低土壌 pH、低土壌 C・N 濃度、火山性ガスなど
のために植生が未発達である。硫気荒原における物質循環に関する研究は皆
無であったが、前報で我々は荒原中央部においても有機物分解に関与してい
ると考えられる耐酸性・好酸性微生物が存在することを報告した。しかしこ
のような微生物群集の量的・質的な実態については依然不明のままである。
近年、微生物群集構造の解析にはリン脂質脂肪酸を指標とした方法が広く用
いられているが、この方法を用いることで培養不可能な微生物を含む微生物
群集全体について、それらの量的な情報だけでなく、糸状菌・バクテリア比
(F / B 比)といった質的な情報を得ることが可能である。本研究では硫気荒
原土壌の微生物群集構造をリン脂質脂肪酸分析に基づいて把握し、各種環境
要因との関係を明らかにした。
大分県別府市の硫気荒原を調査地とし、噴気孔周辺及び周辺の林内を通る全
長 30 m のトランゼクトを設置した。土壌 pH は噴気孔周辺で 2.7 と最も低
く、林内では 3.4 4.0 であった。トランゼクト上に設置した 7 プロットか
ら土壌を採取し、既存の方法に従いリン脂質脂肪酸分析を行った。
微生物バイオマスの指標である全脂肪酸量は噴気孔周辺で少なく(約 30 nmol
/ g)、林内(約 600 nmol / g)に比べて 1 / 20 程度であった。一般に酸性環境
では糸状菌優勢になると言われているが、本研究では噴気孔周辺の F / B 比
は林内よりもむしろ低くなる傾向が見られた。以上の結果より全脂肪酸量、
F/B 比は土壌 C・N 量との間に高い相関が見られた。このように硫気荒原で
は微生物群集のサイズ・群集構造に大きな違いがあることが示されたが、そ
の要因について各種土壌環境要因(土壌 C・N、易分解性 C、土壌 pH など)
の影響を検討した。
P1-062c
12:30-14:30
樹木肥大成長の気象変動に対する応答とサイズ依存性
◦
鍋嶋 絵里1, 日浦 勉1, 久保 拓弥2
1
北大・苫小牧研究林, 2北大・院地球環境
樹木は実生から林冠木に至るまで、その体サイズを大きく変化させる。樹
木における体サイズの増大は、光資源獲得に有利である一方、水通導長
が増加することによって水輸送機能が低下したり、光合成機能が低下し
たりすることなどが指摘されている。このような体サイズの増加に伴う
資源利用の制限の違いは、樹木の成長や生産性の環境応答においてどの
ようなサイズ依存性をもたらすのだろうか?環境変動に対する樹木の成
長応答については、これまで、年輪年代学的手法によって肥大成長と気
象条件との関係を明らかにする試みなどが行われてきたが、体サイズに
よる影響を考慮しているものはほとんどない。そこで本研究では、気象
条件の変化に対する樹木の肥大成長の応答を、体サイズによる依存性も
考慮して明らかにすることを目的とした。
苫小牧研究林内の成熟林において 1ha の範囲に生息する直径 10cm 以上
の樹木約 600 個体にデンドロメータを設置し、各個体の胸高直径の測定
を 6 年間毎月行った。測定結果から月毎の肥大成長量を計算し、成長に
寄与する気象要因として、気温、降水量、光合成有効放射、大気飽差の
4 つを用いた。気象要因は当年の影響と、光合成生産を通した前年の影
響とに分けて考え、ある年の気象値を気象フィルターによって評価した。
気象フィルターとは、成長や光合成にとって条件の良い日を選び出して
年間値として積算するためのものである。このようにして計算した前年、
当年の気象値と個体サイズとを説明変数とし、月別肥大成長量の変動に
ついて、樹木の個体差を考慮している一般化線形混合モデルを用いた推
定計算を行う。解析は、個体数が十分に確保できるイタヤカエデなどを
対象として樹種ごとに行い、気象に対する各樹種の成長の応答とそのサ
イズ依存性について検討する。また、樹種間での応答の違いについても
比較検討を行う。
— 126—
ポスター発表: 物質生産・物質循環
P1-063c
12:30-14:30
消費者の栄養塩再循環による空間的異質性: 被食者多様性への捕食
者の役割
◦
P1-064c
12:30-14:30
◦
上村 了美1, 土屋 誠1
1
琉球大学 大学院 理工学研究科
1
東北大学 大学院 生命科学研究科 生態システム生命科学専攻
生物の多様性が維持されるメカニズムは生態学における重要な問題の一つであ
る。共存できる種の数は資源の数を超えないという理論予測と、数種類の資源
が制限要因とされる野外の湖沼で実際に観察される藻類の種数の多さとの矛盾
は、「プランクトンのパラドクス」(Hutchinson,1961) とよばれる古典的命題と
して知られている。
制限となる資源をめぐる競争系での多種系維持のメカニズムのひとつに、資源
供給比の不均一性による説明がある (Tilman, 1982)。しかし、一般的に均質と
考えられている水系においては、何がそうした資源の不均一性の成因となるの
かが不明である。
われわれは捕食者による栄養塩再循環(以下 CNR と略記する)に着目し、CNR
を考慮すると、捕食者バイオマス(とそれに伴う栄養塩リサイクル)の時間的・
空間的変動によって、捕食者が藻類多種系を維持する要因となり得るのではな
いかと考えた。
そこで、3 栄養段階(栄養塩!) 藻類!) ミジンコ)のケモスタット系についての
(2)空間の
個体ベースシミュレーションモデルを用いて、
(1)CNR の有無、
有無、
(3)資源供給量、が藻類多種系の維持にどのように影響するかを調べた。
その結果、捕食者のリサイクルと空間構造があるときに維持される藻類の種数
が最大となる、つまり、捕食者が多種系を維持する要因となり得るという結論
が得られた。
本発表では、上記(1)∼(3)に挙げたそれぞれの要因が藻類多種系の維持
メカニズムにどのように働いているかを考察し、捕食者が多種系維持に与える
効果として、従来考えられてきた被食者の死亡に働きかけることで種間競争を
調節する効果ではなく、被食者の生産性に働きかける効果という新たな側面か
らのアプローチを提供する。
12:30-14:30
ブナにおけるマスティングとリターフォール量の関係
◦
P1-063c
干潟の物質循環におけるイボウミニナ Batillaria zonalis の役割について
加藤 聡史1, 占部 城太郎1, 河田 雅圭1
P1-065c
8 月 26 日 (木) C 会場
安村 有子1, 彦坂 幸毅1, 広瀬 忠樹1
1
東北大学大学院生命科学研究科
ブナ (Fagus crenata) はマスティング(不定期に大量結実する現象)を行
う種として有名である。繁殖量の変動とともに一次生産量、繁殖器官への
資源投資量、そしてリターフォールを介する窒素循環量がどう変化するか
について青森県八甲田山のブナ林にて調査を行った。
1999 年から 2003 年までの 5 年間、リタートラップでブナのリターを
定期的に収集した。2000 年と 2003 年は成り年で、多くのブナ個体が同調
して大量に結実していた。その他の年にはほとんど種子生産がなかった。
年間の全リター量は 5 年間で 2.1 から 3.2(t/ha) と変動した。成り年のほ
うが非結実年より有意に多かった。葉リター量は 1.7 から 2.2(t/ha) で、成
り年と非結実年の間には明確な差は見られなかった。繁殖器官のリターは
非結実年は 0 から 0.1(t/ha) とほとんどなく、成り年には 0.7 から 1.2(t/ha)
と変動した。枝などその他のリターは 0.2 から 0.4(t/ha) で有意な年変動は
見られなかった。
リターとともに放出された窒素の量は 24 から 44(kg/ha) で、成り年に多
くなる傾向があった。葉リターとともに放出された窒素は 20 から 32(kg/ha)
で 1999 年でだけ有意に多かった。繁殖器官とともに放出された窒素は 0
から 19(kg/ha) で成り年で高かった。その他のリターに伴う窒素放出は 1
から 3(kg/ha) で有意な年変動はなかった。
これらの結果より、葉の生産量(リター量)や葉リターを通しての窒素
循環は、結実の有無に関わらず毎年ほぼ一定のレベルであることが示唆さ
れた。成り年には、大量の種子生産のため、全リターの量やリターを介し
ての窒素循環が増加していた。また、成り年の種子生産量には変動がある
ことがわかった。
干潟で生産されたり,近隣の生態系から入ってきた有機物は,沈降,再懸濁,
分解,同化などの物理的あるいは化学的作用を受けるが,それらの過程には
大型底生生物の摂食活動が大きく関わっていると考えられる.本研究では沖
縄県南部の与根干潟に優占的に生息するイボウミニナ Batillaria zonalis につ
いて,バイオマスや摂食活動の変化が干潟の物質循環に与える影響を評価し
た.イボウミニナは懸濁物とアナアオサ Ulva pertusa を餌とする日和見的な
摂食活動を行うため,単一の摂食様式を持つ種とは異なる役割を持つことが
期待された.
野外調査ではイボウミニナのバイオマスは 2-4 月に比較的高い値を示した
(2001-2002 年,採集地点 7ヶ所,各 4 コドラートの平均値).餌の指標と
考えられる海水中のクロロフィル量は 6 月に最も多く,懸濁物量は 8 月に
ピークを示した.アナアオサは 1- 4 月に出現し,5 月に入るとほとんどみ
られなくなった.イボウミニナのバイオマスは,海水中の餌量よりもアナア
オサの被度の増減と連動する傾向がみられた.
室内実験では,イボウミニナに懸濁物のみを与えた時のろ過率は温度に比例
して増加したが,アナアオサを同時に与えた場合には懸濁物のみを与えた場
合よりも低いろ過率を示した.アナアオサの摂取量は,アナアオサのみを与
えた場合には温度に比例して増加したが,懸濁物を同時に与えた場合には温
度が高くなるにつれて減少する傾向がみられた.
実験結果を野外のバイオマスにあてはめてみると,イボウミニナ個体群のろ
過量は同じ干潟に生息する二枚貝の個体群を上回る計算になり,イボウミニ
ナ個体群は水相から底質への懸濁物の輸送に大きく寄与しているといえる.
またアナアオサの摂取量は,水温が低く,イボウミニナのバイオマスが比較
的多い 1-3 月に多くなると考えられ,イボウミニナ個体群がこの時期の大型
藻類の分解に重要な役割を果たしていることが示唆された.
P1-066c
12:30-14:30
スギ人工林の成立に伴う土壌無機態窒素動態の変化
◦
福島 慶太郎1, 徳地 直子2, 舘野 隆之輔3
1
京都大学大学院農学研究科, 2京都大学フィールド科学教育研究センター, 3総合地球環境学研究所
森林生態系における窒素循環は、土壌-植物系での内部循環と降雨や渓流水
による外部循環が存在し、森林成立の初期には外部循環系に依存している
のに対し、成熟した森林では内部循環が卓越するといわれている。本調査
地は、集水域を単位として伐期約 90 年の輪伐経営が行われているスギの
一斉人工林で、1-89 年生のスギ林が隣接して存在しており、内部循環を経
た渓流水中の NO3 - 濃度が、皆伐・植栽後上昇し、森林の成立に伴って減
少することが明らかになった。そこで本研究ではこの調査地を用いて、林
齢と植物?土壌系の無機態窒素動態の関係を明らかにすることにより森林成
立に伴う窒素循環機構を明らかにすることを目的とした。
4、14、29、89 年生の集水域内で 0-10、10-30、30-50cm の各層位で土壌
を採取し、2MKCl で抽出後、オートアナライザによって土壌中の NH4 + 、
NO3 - 現存量を測定した。また現地培養法、イオン交換樹脂法を用いて土
壌中での無機態窒素の生成量・垂直移動量を求め、植物に利用可能な無機
態窒素量を推定した。
植物に利用可能な無機態窒素は 4、14、29、89 年生でそれぞれ 33.5、36.8、
23.2、37.4kgN/ha/yr であり、29 年生で低かった。一方、植物体の総窒素蓄
積は 0.03, 0.15, 0.39, 0.48tN/ha で、30-40 年で頭打ちになった。皆伐・植
栽後は、利用可能な無機態窒素に対して植物体による吸収量が少ないため、
渓流水へ流出する NO3 - 濃度は高いが、森林の成立に伴って吸収量が増加
し、土壌中の利用可能な無機態窒素が減少して、渓流水の NO3 - 濃度が減
少したものと考えられる。また 89 年生では可給態窒素量が多く、吸収量
が頭打ちとなっている状態で渓流水への窒素の流出が少ないのは、窒素無
機化に占める硝化の割合が若齢林よりも少なく、土壌に NH4 + として蓄積
されるからと考えられる。
— 127—
P1-067c
P1-067c
ポスター発表: 物質生産・物質循環
12:30-14:30
北米冷温帯針葉樹林における樹冠の枯死枝の現存量と分解過程
◦
P1-068c
宇田川 弘勝1, 広木 幹也1, 野原 精一1, 矢部 徹1, 佐竹 潔1, 河地 正伸1
1
1
国立環境研究所
神戸大学大学院自然科学研究科
アメリカ北西部の老齢ダグラスファー-ツガ林において、樹冠内の枯死枝現存
量とその分解過程を明らかにするために、ダグラスファーの樹冠内に単ロー
プ法で登り、調査を行った。個体あたりの枯死枝現存量は個体サイズ(胸高
直径および樹高)と高い相関が見られ、生枝現存量の増加に伴い枯死量は指
数的に増加した。このことから、個体成長に伴い枯死枝が樹冠内に蓄積して
いくことが示唆された。森林全体の樹上の枯死枝現存量は 5.19-12.33 Mg/ha、
地上は 1.80-2.05 Mg/ha で樹上が地上の約5倍であった。
樹冠内の枯死枝と地上に落下した枯死枝では、水分や微生物などの条件が
異なるので、分解の過程も異なると考えられる。樹冠内及び地上の枯死枝を
腐朽の進行具合によって 5 段階に分け、各段階における C、N、リグニン含
有量を分析した。樹上と地上の間で CN 比に明瞭な違いが見られなかったこ
とから、地上で採取された枯死枝は樹上で枯死し、時間が経ってから落下し
たことが示唆された。一方、倒木に由来し地上で分解が進んだと考えられる
枯死枝では CN 比が低かったことから、地上で分解が進むと菌や微生物など
の分解作用により、CN 比が減少すると考えられる。よって、樹上での分解
には生物的作用があまり働かないことが示唆された。樹上では各腐朽度の間
でリグニン含有率に明瞭な違いが見られなかったが、地上では腐朽の初期に
増加する傾向があり、腐朽が進むと減少した。リグニンの分解においても、
樹上では生物的作用があまり働かないことが示唆された。
P1-069c
12:30-14:30
ヒノキ細根系内の寿命異質性からみた生産・枯死・分解過程
◦
12:30-14:30
リンの存在形態からみた日本の干潟の特徴
◦
石井 弘明1, 角谷 友子1
8 月 26 日 (木) C 会場
菱 拓雄1, 武田 博清1
1
京大・農・森林生態
植物体から供給される枯死有機物の量と質は、土壌の腐食連鎖群集の資源と
して重要なパラメータである。森林土壌における有機物源としての細根系の
重要性は、葉との比較において生産・枯死量から量的に、化学性などから質
的にも認められている。従来葉のような、均質な一次細胞系と見なされてき
た細根が、近年の研究によって二次成長根を含むこと、根系内の個根寿命、
化学性が分枝位置でまったく異なることが示された。これらの細根系内の形
態、化学的な違いは、土壌有機物源として量・質的に無視できないと考えら
れる。本研究ではヒノキを材料とした。ヒノキ細根が原生木部の数によって
二次成長する、しないの生活環が異なることを利用し、枯死様式の違う根の
生産と枯死が根系生長とどのように対応するかを調査した。連続イングロー
スコア法により、細根の根端数、根系数の動態、同時に、各原生木部群の根
長動態を調べた。根系数、根端数の動態から、根系の状態を侵入 (0-4mo.),
分枝 (4-7mo.), 維持 (7-19mo.), 崩壊 (19-24mo.) 期に分けることができた。各
原生木部群の生産・枯死様式はそれぞれ異なっており、各根系成長段階で特
徴的な動態を示した。二次成長した細根は崩壊期に至るまであまり枯死せず
根系内に蓄積した。二次成長に至る前に枯死する細根の割合は、全期間合わ
せて 72 % を占めた。二次成長根の枯死は崩壊期に集中 (全期間の 76%) し
た。細根は二次成長によって構造物質の増加と窒素濃度の低下によって分解
に抵抗的になる。従って細根系崩壊に至るまで二次成長根を維持しながら、
先端近くの一次根で生産、枯死を繰り返す細根動態は、根系全体の枯死が生
じるよりも細根、土壌間の物質循環を速めると考えられる。発表では一次根、
二次根の分解率を合わせて求め、形態、化学的に異なる根の死に方が土壌へ
の有機物供給に与える影響を考察するつもりだ。
【緒論】陸域と海域の境界に位置する干潟は,栄養塩類のシンクとソー
スという2つの重要な機能を併せ持つ場である。とくに海域の一次生産
に影響を与える底質-海水間のリンの移動は,その存在形態に依存するこ
とが知られている。そこで,底質中におけるリンの存在形態とリン酸を
収着保持できる最大量(リン酸保持可能容量とする)の観点から,わが
国における干潟の特徴づけを試みた。
【方法】調査および試料採取は,北海道東部3ヶ所,東京湾4ヶ所,伊
勢湾2ヶ所,有明海2ヶ所,および八重山諸島3ヶ所の計14ヶ所にお
いて,1999-2001 年に実施した。底質試料は表層 0-10cm 深を5反復で
採取した。これらを用いてリンの形態別定量方法を詳細に検討し,吸蔵
態,Fe/Al 結合態,Ca/Mg 結合態および有機態に分画した上で,各形態
のリン含量を決定する要因を解析した。さらにリン酸保持可能容量を実
験的に求め,リン酸収着のメカニズムを検討した。
【結果】各形態のリン含量は,有機炭素,遊離酸化 Fe および Al,交換
態 Ca および Mg の各含量,粒度組成,および間隙水の pH 値に支配さ
れていた。とくに交換態 Mg はリン酸と沈殿を生成することで,リン酸
の貯蔵に大きく寄与していることが示唆された。これらの知見をもとに
各干潟の特徴を以下のように整理した。
〔北海道東部〕未分解有機物由来
の有機態リンが多い。塩性湿地では間隙水の pH が中性に近く,Ca/Mg
結合態リンも多い。
〔東京湾〕粗粒な有色一次鉱物内に包含されている吸
蔵態リンが比較的多い。〔伊勢湾〕間隙水の pH が高めで Ca/Mg 結合態
〔有明海〕各形態の
リンが少ない。逆に Fe/Al 結合態リンの割合は高い。
リン酸含量,リン酸保持可能容量ともにきわめて高い。特異な干潟と言え
る。
〔八重山諸島〕生体由来の交換態 Ca が非常に多いためリン酸保持可
能容量は高い。しかしリン含量が総じて少なく,貧栄養な干潟と言える。
P1-070c
12:30-14:30
中央シベリア永久凍土帯に成立するカラマツ林の土壌中窒素動態 ◦
近藤 千眞1, 徳地 直子2
1
京都大学大学院農学研究科森林科学専攻森林育成学研究室, 2京都大学フィールド科学教育研究セ
ンター
温暖化等の環境変化が北方森林生態系内の物質循環に影響を与える可能性が指摘さ
れている。そのため、北方森林生態系に関する情報を得ることは急務である。本研
究では、多くの森林生態系において植物の成長の制限要因であると言われている土
壌中無機態窒素の動態を把握することで、北方森林生態系内の物質循環に関する情
報を得ることを目的とした。
本研究の調査地はロシア共和国クラスノヤルスク地方 Tura(64 °19 ′N 100 °13 ′E:
年平均気温:-9.2 ℃、年平均降水量:322mm) である。約 100 年生のカラマツ林内
(220 × 300m) に、12 プロット (15 × 15m) 設置し、各プロットに土壌断面を 2 つ
作成し、各断面の A0 層、0-10cm 層の 2 深度で調査を行った。
調査項目は現存量、窒素無機化速度、移動量で、現存量は 2002 年 9 月と 2003 年
9 月に採取した生土から測定し、窒素無機化速度は現地培養 (Buried Bag 法) と実験
室培養で求めた。移動量はイオン交換樹脂 (IER) 法を用いて測定した。以下単位は
全て kgN/ha/yr である。
A0 層の無機態窒素現存量は一年間で 2.7 増加した。0-10cm 層では有意な増減は
なかった。なお、現地培養では、A0 層での無機態窒素の生成はみられなかったが、
0-10cm 層での生成量は 7.1 であった。実験室培養でも同様の傾向が見られた。
IER への吸着量は、A0 層 1.5、0-10cm 層 1.1 であった。
以上の結果と、林外雨、渓流水の窒素含有量 (2.1,<0.1;Tokuchi et al. 2003) から、可
給態窒素量を推定した。その結果、各層位の可給態窒素量は A0 層-2.1、0-10cm 層
7.5、10cm 以下 1.0 となり、合計は 6.4 と推定された。
今回得られた可給態窒素量 6.4 はカラマツの年間窒素要求量 6.8(Kajimoto et al. 1999;
石井 2004 より推定) と、ほぼ同量であるが、林床植生の窒素要求量を考慮すると、
本調査地では可給態窒素が不足している可能性が示唆された。
— 128—
ポスター発表: 物質生産・物質循環
P1-071c
12:30-14:30
P1-072c
八ヶ岳山麓の湿地林における地上部現存量とリター量の空間分布
◦
◦
1
筑波大・環境, 2筑波大・農林, 3筑波大・生物資源
李 載錫1, 徐 尚1, 李 俊1, 李 美善3, 横沢 正幸2
1
建国大学, 2農業, 3国立
生態系の構造と機能は、時間、標高、気温、地形、地質などの要因により、
どのように変化するか研究がなされている。本研究は、水分環境による生態
系の構造と機能の変化を、湿原生態系を対象として明らかにしようと試みた。
八ヶ岳山麓の湿地林に 1ha(100m × 100m) の調査地を設置し、分割した 400
メッシュ(5m × 5m) について毎木調査をおこなった。また、調査地内にリ
タートラップを 100 個設置し、リターを採集し重量を測定した。100 地点の
リター量から、リターの空間分布を図化した。
各メッシュごとの胸高断面積合計の分布を見ると、湿原内で小さく、湿原
外で大きい値を示した。また、特徴的な種であるハンノキ、ズミ、ミズナラ
について、それぞれ相対成長式を用いて地上部現存量を推定すると、ハンノ
キは、湿原を中心に 124 メッシュに分布し、25m2 あたり最大で 274.9kg の
地上現存量を示した。ズミは湿原辺縁部から湿原外にかけて 237 メッシュに
分布し、25m2 あたり最大で 287.4kg の地上部現存量を示した。ミズナラは、
湿原外のメッシュ(27 個)に分布し、25m2 あたり最大で 2867.6kg の地上部
現存量を示した。
採集した 2003 年 9 月から 10 月の一ヶ月間のリター量は最大 492.5g/m2 、
最小 5.6g/m2 であり、湿原外で多く、湿原内で少ない分布であった。さら
に、葉リターを樹種別に見てみると、最大でミズナラは 354.1g/m2 、ズミは
183.8g/m2 、ハンノキは 149.2g/m2 であった。リター量の分布は、地上部現
存量の分布と対応関係が見られた。その一方で、樹林を含まない湿原におい
ても、周縁部からのリター供給がなされていた。水分という環境要因が、ミ
クロなスケールで変化する湿原では、そのモザイク性を考慮したうえで純一
次生産力や植物と土壌の相互作用を明らかにする必要があると考えられる。
12:30-14:30
プランクトンを利用した POM の流下距離推定
◦
12:30-14:30
自動開閉チャンバーを用いた温帯森林での土壌呼吸の連続測定
小川 政幸1, 上條 隆志2, 黒田 吉雄2, 荒木 眞之2, 曽根 祐太3
P1-073c
P1-071c
8 月 26 日 (木) C 会場
山本 佳奈1, 竹門 康弘2, 池淵 周一2
1
京都大学工学研究科, 2京都大学防災研究所水資源研究センター
河道や河岸に滞留する粒状有機物 (POM:Particulate Organic Matter) の
流出様式を明らかにするために木津川において POM 動態を調査した.
木津川下流地点における増水前後調査では,フラッシュ放流 (ピーク時
40m3 /s) の流出曲線に対して流下 POM(SPOM:Suspended POM) 濃度は,
増水初期にピークを示した。とくに,1mm 以下の細粒分 (FPOM:Fine
POM) は全体の 79%を占め,早く流下量が増加したが,増水後も流下が
継続した.いっぽう,1mm 以上の粗粒分 (CPOM:Coarse POM) は全体
の 21%を占め,増水の後半に流下量が増加した.4mm 以上の流下 POM
の組成は,陸生植物 11.85%,河原植物 25.66%,水際植物 40.49%,水生
植物 20.68%,水生動物 0.27%,水生動物脱皮殻・羽化殻 1.02%,陸生動
物 0.03%だった.河岸沿いに滞留する有機物量は,砂州上の位置よりも,
局地的な瀬地形,植生の有無によって異なっていた.フラッシュ放流の
ピーク流量が 40m3 /s 程度の増水ではその分布様式は変化せず,砂州上流
端では流下起源の有機物が多く,水際植生のある場所で水際植物起源の
POM 滞留が卓越する傾向を示し,木津川下流域においては現場生産起源
の POM が卓越することが示唆された.この結果から,砂州の発達して
いる木津川下流域では POM の流下距離が比較的短いことが予測される.
そこで今回,流下ネット (POM ネット) による濾過採集とボトル採水に
より,ダム湖から流出するプランクトン濃度の流程変化調査を実施した.
比較対象は,河床材料の粒径が比較的小さく砂州が発達している木津川
下流域と,河床低下によって砂州が減少し岩盤や粘土層が露出している
宇治川とした.今後,試料の分析を進め,SPOM の流下距離を推定する
とともに,各流程の河床地形が果たす SPOM の補足機能や供給機能の違
いを評価する予定である.
環境要因と関連した正確な土壌呼吸のデータは陸地生態系における炭素
循環を理解と予測において大変重要である。我々は森林の土壌呼吸を安定
的かつ連続測定するため、直流モーターを使った空気シリンダーを使用
する方法より比較的簡単な構造の自動開閉チャンバーシステム(AOCC)
を開発した。AOCC はチャンバー、ポンピンシステム、タイマーシステ
ムで構成されている。チャンバーは空気が停滞する空間をなくすため、長
い八角形 (20 × 30 × 10cm, L × W × H) になっている。チャンバー
は土壌面に予め設置した台の上に装着されるようになっているため、場
合によって一つのチャンバーを数箇所の土壌呼吸データが得られる。チャ
ンバーの上部に付いた蓋は DC モーターによって開閉する。本システム
は室内のテストの後、韓国の温帯落葉広葉樹林で 2003 年 9 月から 2004
年 2 月まで約 6ヶ月に掛けて測定を行った。測定期間日平均土壌呼吸速
度は 2003 年 9 月の 7.9g CO2 m-2 d-1 から 2004 年 1 月の 0.8 g CO2
m-2 d-1 に減少した。土壌呼吸の季節変動は 10cm 深さの地温の変化と強
い相関関係を示した。しかし、土壌呼吸の時間的な変化は 0cm 地温の変
化と高い一致性を示した。また、測定期間土壌から放出された CO2 は
0.48kg m-2、の Q10 値は 4.4 であった。
P1-074c
12:30-14:30
マレーシアにおける土地利用変化と N2O フラックス
◦
八代 裕一郎1, 安立 美奈子1, 奥田 敏統2, Wan Rashidah3, 小泉 博1
1
岐阜大学流域圏科学研究センター, 2国立環境研究所, 3マレーシア森林研究所
(背景と目的)
主要な温室効果ガスの一つである亜酸化窒素(N2O)は主に土壌微生物によっ
て生成されるため、土壌環境の影響を強く受け生成量が変化する。湿潤熱帯
土壌は温暖で湿潤な気候のため土壌微生物の働きが活発であり、N2O の大き
な放出源となっている。さらに、近年熱帯林は急速な開発を受け、プランテー
ションなどの農用林として利用されている。その急激な土地利用変化は N2O
の放出量に大きな影響を与えていると考えられる。そこで、本研究では熱帯マ
レーシアにおいて代表的な土地利用形態である天然林、アブラヤシ園および
ゴム園において N2O 放出量を測定すると共に、土地利用を変えた際の N2O
放出量の変化及びそのメカニズムを解明することを目的としている。
(調査地および方法)
半島マレーシア・パソ地域にある保護林内の天然林およびその近辺にある
アブラヤシ園とゴム園において、N2O 放出速度と環境要因 (温度、土壌水分)
を測定した。
(結果と考察)
マレーシア・パソ地域における N2O 放出速度を土地利用形態別に比較する
と、天然林が一番大きく(20.1-201.3 μ gN2 Om-2 h-1 )、次いでゴム園となっ
た(6.3-12.5 μ gN2 Om-2 h-1 )。アブラヤシ園ではほとんど N2O 放出が確認
されなかった。このことから、熱帯林を伐採・農地化により生態系レベルでの
N2O の放出量は減少すると推察される。このことから生態系レベルでの N2O
放出の時期的な変動は大きく、土壌水分と強い相関 (R2 = 0.826) を持つこと
が明らかとなった。土壌水分が増加すると、土壌中が嫌気状態となる。N2O
生成源である脱窒は嫌気条件下で N2O を活発に生成するため、天然林から
の N2O 放出量が増加したと考えられる。一方、アブラヤシ園とゴム園では
N2O 放出量と土壌水分との間に明確な相関は認められなかった。
— 129—
P1-075c
ポスター発表: 物質生産・物質循環
P1-075c
12:30-14:30
河川窒素動態に与える水草の影響
◦
1
北海道大学大学院理学研究科, 2東京大学海洋研究所, 3北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
河川生態系は陸上生態系と沿岸生態系をつなぐ主要な場である。陸上生態系
から流出した栄養塩や有機物は河川生態系内の生物過程により、量質ともに
変化し、沿岸生態系に流入する。河川生態系内の生物過程の中で、水草と
微細藻類は重要な基礎生産者であり、河川の窒素動態に貢献していると考
えられる。水草の窒素動態への貢献については、湖沼において研究がなさ
れているが、流水中においては十分な研究が行なわれていない。北海道東
部の別寒辺牛水系ホマカイ川上流域ではバイカモ(Ranunculus nipponicus)
が非常に密な群落を形成しており、窒素動態への貢献が考えられる。
本研究では、流れの上流側(流入側)と 120m 下流側(流出側)で溶存無
機窒素(DIN)量を測定し、栄養塩収支から調査区域内に取り込まれた窒
素量を推定した。また、水草の生物量、生長量から水草が調査区域内で取
り込んだ窒素量を推定した。この推定値を比較する事によって水草が窒素
動態にどの程度寄与しているかを評価した。また、底生微細藻類の生物量、
生長量を測定し、窒素動態への寄与を調べた。
水草その他の要因によって調査区内において水柱から失われた DIN 濃度か
らの推定量は 0.12 kg-N day-1 となった。バイカモによる生長速度から推定
した窒素取り込み量は 0.076 kg-N day-1 であった。水草の窒素取り込み量
は、調査区全体で取り込まれた窒素量の 63.3 %と見積もられた。これは流
入窒素量の 1 %にあたる。本調査区域の窒素吸収過程において水草の寄与
は大きいと言える。
12:30-14:30
森林生態系における林冠構成種と林床植生の光合成生産量の推定
◦
P1-076c
12:30-14:30
安定同位体分析を用いた冷温帯落葉広葉樹林における CO2 動態の季
節変化の評価
小野田 統1, 田中 義幸2, 向井 宏3
P1-077c
8 月 26 日 (木) C 会場
酒井 徹1, 三枝 信子2, 山本 晋2, 秋山 侃1
1
岐阜大学 流域圏科学研究センター, 2産業技術総合研究所
森林生態系は,陸域生態系の中で二酸化炭素のシンクとして重要な役割を果
たしていると言われている.これまでにも森林の生産量を推定する試みは多
くなされてきたが,そのほとんどが樹木 (林冠構成種) のみを対象としてお
り,林床植生の生産量は無視されている.林床植生は,林冠に葉のない時期
に多くの二酸化炭素を固定する能力に優れているとの指摘があり,樹木と同
様に森林生態系の二酸化炭素の固定に大きく寄与していると思われる.
そこで,森林生態系のうち,樹木と林床植生が占める光合成生産量の寄与率
について把握を試みた.そして,種による着葉量や着葉期間の違い,光の利
用効率の違いが,いかに森林生態系全体の光合成量に影響しているかを検討
した.
本研究では,森林生態系を樹木 (樹冠構成種,主にミズナラ,ダケカンバ,シ
ラカンバ) と林床植生 (クマイザサ) に分けた時の光合成生産量を推定した.
その結果,森林生態系全体の光合成生産量 (GPP) は,104.3 mol m-2 year-1
を示した.その内,林床植生の GPP は全体の 25%(26.1 mol m-2 year-1) を
示し,樹木の展葉が始まる前の 4 月において樹木とササの GPP はそれぞ
れ 0,0.30 mol m-2 day-1 (100%,カッコ内は森林生態系のうちササが占める
GPP の寄与率),展葉途中の 5 月には 0.04,0.28 mol m-2 day-1 (86.9%),樹
木の展葉が完全に終わった 8 月には 0.70,0.09 mol m-2 day-1 (11.8%) の値
を示した.このことから,森林生態系の中で林床植生 (ササ) の GPP は,無
視できない大きさであることが判った.特に,樹木の葉が展葉前・落葉後の
良好な光環境下で高い GPP を示した.また,林冠が樹木の葉によってうっ
閉されていても,ササは弱い光環境に適応した光合成特性を持つため,比較
的高い GPP が保たれた.また,本研究で推定した森林生態系の GPP と渦
相関法によるフラックス測定から推定した GPP を比較したとき,互いに近
い値を示したことから,本研究で使用した光頻度分布モデルの精度が高いこ
とが示された.
◦
近藤 美由紀1, 内田 昌男2, 村岡 裕由1, 小泉 博1
1
岐阜大学流域圏科学研究センター, 2海洋研究開発機構
森林生態系における炭素循環機構を解明するためには,系外から取り込まれ
る二酸化炭素(CO2)だけでなく系内で生じる CO2 の動態も考慮する必要
がある。本研究では,森林生態系内での呼吸起源 CO2 の再吸収過程に注目
し,炭素安定同位体比(δ13C)分析を用いて森林生態系内の炭素動態を明ら
かにすることを目的とした。調査は,岐阜大学流域圏科学研究センター高山
試験地(36◦ 80’N,137◦ 26’E,標高 1400m)の冷温帯落葉広葉樹林において
行った。2003 年の春期(5 月;展葉期),夏期(8 月)と秋期(10 月;落葉
後)に,大気 CO2 の濃度と δ13C の鉛直勾配 (0.1m∼18m),および林床に
優占するクマイザサの葉の δ13C を測定し,林床植生が呼吸起源の CO2 を
吸収する割合を推定した。
森林内の CO2 濃度は,林床植生の直上付近から地表面に向けて急激に高く
なったが,δ13C 値は反対に地表面付近ほど低くなっていた。これは,クマ
イザサが林床を覆うことにより,δ13C 値の低い土壌呼吸起源の CO2 が林床
に溜まりやすくなったためと考えられる。また,森林内の CO2 濃度および
δ13C の鉛直勾配は,夏期に大きく,春期や秋期に小さかった。この理由とし
て,1)林冠が開いている春期や秋期には森林内外での大気の交換が盛んであ
ること,2)夏期に比べて土壌呼吸量が低いこと等が考えられる。さらに,森
林内の CO2 濃度と δ13C 値,およびクマイザサの葉の δ13C 値,Sternberg
(1989)の理論式を用いて,クマイザサによる呼吸起源 CO2 の再吸収率を計
算すると,春期には 6∼27%,夏期に 16∼53%,秋期に 10∼20%程度と推
定された。以上のことから,呼吸起源 CO2 の一部はクマイザサによって吸
収されていることが示唆された。また推定に用いた計算方法も含めて、季節
性を与える要因についても考察を行った。
P1-078c
12:30-14:30
北海道北部の冷温帯林における細根動態と土壌環境要因の季節変化
◦
福澤 加里部1, 柴田 英昭2, 高木 健太郎2, 佐藤 冬樹2, 笹 賀2, 小池 孝良2
1
北海道大学大学院農学研究科, 2北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
森林生態系における細根動態は細根を介した炭素や養分フラックスを明らかに
する上で重要である。細根動態の季節変化は森林生態系の環境要因と相互に影
響しあっていると考えられる。しかし、野外の森林における細根の生産・枯死
分解パターンやその季節変化は定量的に明らかにされていない。本研究では、
細根生産速度・枯死分解速度の季節変化を定量的に明らかにし、土壌環境要因
の季節変化との関係を明らかにすることを目的とした。
調査は北海道大学天塩研究林の上層木にミズナラが、林床にクマイザサが優占
する林内でおこなった。細根動態観測にはミズナラ個体から2m、4 m 地点
に埋設したミニライゾトロンを用いて 2002 年 4 月から 8 月まで月1回おこ
なった。地表から 45cm までの土壌深度において、チューブと土壌の境界に現
れた細根の画像を撮影してパソコンに取り込み、後に画像解析により根長・直
径を測定した。そして画像面積あたりの根長密度、細根生産速度、細根枯死分
解速度を算出した。また、環境要因として、地温、体積含水率、土壌呼吸速度、
上層木およびササの葉面積指数(LAI)を測定した。
画像面積当たりの根長密度および細根の生産速度は、全深度において 8 月に
最大になった。また、これらは土壌表層(0-15cm)で最大になり、深くなるほ
ど低下した。細根の枯死分解速度は生産ほど急激な季節変化を示さず、6 月か
ら 8 月にかけて徐々に上昇する傾向があった。また、枯死分解速度は 15cm 以
深では著しく低かった。一方、環境要因では、地温・気温・土壌呼吸速度・上層
木およびササの LAI は 8 月に最大になった。土壌の体積含水率は 34-41%で
推移し、7-8 月に上昇する傾向があった。細根生産速度が上昇する時期と地温・
気温・土壌呼吸速度・ササ LAI が上昇する時期は一致した。特に、細根生産速
度は土壌呼吸速度とササ LAI と強い相関があった。以上から、細根の生産速
度は土壌環境要因と密接に関係しながら大きな季節変化を示し、気温や地温な
どが高い時期に高まることが明らかとなった。
— 130—
ポスター発表: 物質生産・物質循環
P1-079c
P1-080c
12:30-14:30
三島 啓雄1, 河内 香織2, 柳井 清治2
◦
1
ナチュラル リソーシズ リサーチ, 2北海道工業大学
森林から渓流に流入する有機物の多くは、流下や滞留を繰り返し水中
で分解されていく。水中の有機物の滞留や流下量は、融雪や台風などの
出水による流量変化に伴って変化すると考えられる。しかし流量の変化
と河川中のこれら有機物の関係に関する知見は未だ不十分である。有機
物の中で量的に多い葉や枝は、底生動物の食物資源や生息場所として重
要な役割を果たすため、流量との関係を明らかにすることは重要である。
本研究は、水中の滞留、流下有機物を採取し水理量との関係を明らかに
することにより、これらの有機物量と流量の関係を明らかにすることを
目的とした。
積雪の有無は流量に大きく影響していると考えられるため、調査河川
は、北海道内の多雪河川として長流川支流の大滝村に位置する左沢川、寡
雪河川として白老町毛敷生川とした。両河川の地質は第四紀の火山噴出
物、河川次数は 2、平水時の水面幅は 4 から 5 m、水深約 20cm、流速
0.3 から 0.4m/s の山地渓流である。渓畔林からの有機物流入量は同程度
であるが、流入のピーク時期は左沢川のほうが 2 週間以上早い。
左沢川の流量は、厳冬期の 2003 年 12 月以降は漸減傾向を示し、融
雪期の 2004 年 3 月上旬からは増加傾向を示し、5 月上旬をピークとし
た後低下した。一方毛敷生川では、融雪に伴う顕著な流量変化は見られ
なかった。流下有機物量は左沢川では 10 月上旬に、毛敷生川では 11 月
上旬にピークが認められた。両河川において 2003 年内は滞留有機物に
落葉が見られ、翌年 2 月以降は枝が顕著であった。両河川とも、流入し
た落葉は秋から冬の間に流下もしくは分解されているものと考えられる。
左沢川では融雪出水後の枝の滞留量は減少したが、毛敷生川では顕著な
変化は見られなかった。左沢川では融雪出水により難分解性の枝が送流
されたと考えられる。
P1-081c
12:30-14:30
安定同位体を用いた森林土壌における炭素・窒素動態に関する研究
◦
12:30-14:30
Differences of O2/CO2 exchange ratio on soil respiration using two chamber types in forests soil
河川の出水特性と有機物の流下・滞留様式の関係
◦
P1-079c
8 月 26 日 (木) C 会場
新井 宏受1, 徳地 直子2, 木庭 啓介3
1
京都大学大学院 農学研究科, 2京都大学 フィールド科学教育研究センター, 3東工大院総合理 科技機構
森林土壌は多くの有機物(SOM: Soil Organic Matter)を蓄積している。森林土
壌中の SOM は全球的な物質循環過程においても重要な位置を占め、その動態
把握は重要であると考えられる。安定同位体比分析は、起源植生や土壌中で受
けた作用に関する情報を残していることから SOM 動態把握に有用である。そ
こで、本研究では炭素・窒素に着目し、安定同位体を用いた森林土壌中の SOM
動態の把握を目的とした。
調査は京大フィールド研和歌山研究林のスギ人工林内で行い、120cm までの土
壌サンプルと表層リターを採取した。試料は風乾後、炭素・窒素濃度、安定炭
素・窒素同位体比を測定した。
全層位を通して深度が増すにつれ有意に炭素濃度と窒素濃度は低下し、窒素同
位体比は増加傾向を示した。一方、炭素同位体比は深度に伴う有意な傾向は見
られなかった。さらに、炭素と窒素の深度に伴う濃度、同位体比の傾向の変化
から、土壌プロファイルは上下 2 層に分離できた。その場合、上層では深度に
伴い炭素・窒素濃度は有意に急激な低下傾向を示し、同位体比は増加傾向を示
した。これらのことから、本調査地では特に上層において炭素・窒素の分布に
分解が強く影響を与えていることが示唆された。しかし、下層での深度に伴う
傾向は炭素と窒素では異なり、炭素濃度は深度に伴う有意な傾向を示さなかっ
たが、窒素濃度は上層よりも弱いが、有意な低下傾向を示した。また、下層で
の同位体比は炭素、窒素共に深度に伴う有意な傾向を示さなかった。このよう
な違いをさらに炭素同位体比より推定された古植生起源の有機物の存在割合、
Isotopic discrimination factor を合わせて考察した結果、特に下層での炭素と窒
素の蓄積機構に大きな違いが存在する可能性が示唆された。また、特に森林土
壌中の炭素動態を把握する上では古植生を考慮することが必要な場合があると
考えられた。
李 美善1, 遠嶋 康徳1, 井上 元1
1
国立環境研究所
In order to quantify the terrestrial biosphere and ocean uptakes for anthropogenic CO2, recently, atmospheric O2-CO2 budget approach has been noticed (Keeling & Shertz, 1992, Bender et al. 1996, Keeling et al. 1996, Langenfelds et al. 1999). First, Keeling employed (1988) terrestrial CO2 flux
with an O2-CO2 exchange ratio (R-O2/CO2) of 1.05, which is oxidative ratio
evaluated from elemental abundance data for wood. After that, Severinghaus
(1995) estimated R-O2/CO2 to be 1.10 from the measurements of the respiratory R-O2/CO2 for several forest soil samples, which were around 1.20
(1.06 1.22). However, the factors controlling respiratory R-O2/CO2 are still
unknown. In addition, we have little information about R-O2/CO2 for the processes of leaf photosynthesis/ respiration, and stem, root and soil respiration.
The aim of the present study is to investigate the soil R-O2/CO2. Dry air
was passed through a glass chamber, in which forests soil was collected, and
the changes in the CO2 and O2 concentrations in the dry air were measured
by NDIR (LI-6252) and GC-TCD (Tohjima, 2000), respectively. In order to
investigate the effects of experimental conditions to the observed R-O2/CO2,
we used two types of chamber: flow-through chamber (FTC) and head-space
chamber (HSC). We analyzed soil core samples (400ml) from three sites: 1)
Tsukuba site, 2) Ogawa site, and 3) Tomakomai site.
The results showed that soil R-O2/CO2 for the FTC type (1.10) was significantly higher than that for the HSC type (1. 02) for all of the forest sites. The
HSC type is considered to reflect the natural condition better than the FTC
type because of the unnaturally rich O2 condition in soil for the FTC type.
P1-082c
12:30-14:30
冬・水・田んぼにおけるカモ類排泄物の肥料的価値
◦
中村 雅子1, 香川 裕之2, 江成 敬次郎3
1
(財)ホシザキグリーン財団, 2東北緑化環境保全(株), 3東北工大・環境情報工学
最近、冬の田んぼに意図的に浅く水を張る冬・水・田んぼという農法が日
本各地で行われている。冬・水・田んぼは春の抑草効果、その結果の減農
薬、冬鳥のカモ類の利用がある場所では冬鳥の生息地の保全、またカモ類
が利用した際に落ちた排泄物の施肥効果が期待されるなど、生き物と共存
する環境保全型農業として注目されている。しかし、冬・水・田んぼに関
する調査は始まったばかりでデータの蓄積が急務である。そこで、冬・水・
田んぼを行った際のカモ類排泄物の施肥効果について仙台市内の田んぼで
調査を行った。
カモ類排泄物の施肥効果を検証するために冬・水・田んぼの土壌養分(N・
P・K、ケイ酸、炭素)の経日変化を追い、湛水開始時と田植え直前で養分
量を比較した。また、冬・水・田んぼは秋耕せずに冬に水に張るため、対照
区として慣行区(秋耕あり・湛水なし)、不耕起区(秋耕なし・湛水なし)
を設け、さらにカモ類の利用がない湛水防鳥区(秋耕なし・湛水あり)を
設け、計 4 調査区の土壌養分の経日変化を追った。
結果、N に関しては全ての調査区で調査開始前と開始後で土壌中の N は減
少を示し、P・K は全ての調査区で増加し、ケイ酸については土壌の表層で
全調査区において増加傾向を示した。また炭素に関してはほとんど変化が
見られなかった。測定項目の増加・減少の幅に調査区間での大差はなかっ
た。つまり、P・K・ケイ酸について、冬・水・田んぼ区で土壌養分の増加
が見られたが、対照区においても同様に増加が見られたため、今回の調査
結果からは冬・水・田んぼにおけるカモ類排泄物の施肥効果は認められな
かった。ただし今回の調査では、湛水が上手く保持できなかったこと、冬・
水・田んぼ初年度だったこと、カモ類が採食場として利用していたことな
どがあり、今後、ハクチョウがネグラとして利用している田んぼや何年も
冬・水・田んぼを行っている田んぼなどでの調査を行い、どのような鳥の
利用があれば施肥効果になるのかを検討する必要がある。
— 131—
P1-083c
ポスター発表: 物質生産・物質循環
P1-083c
P1-084c
12:30-14:30
温暖化環境下での樹林の炭素循環・収支研究のためのオープントップ
チャンバー(OTC)の環境条件の制御
◦
1
林 明姫1, 今川 克也1, 周 承進1, 中根 周歩1
1
広島大・生物圏
広島大・生物圏
大気中の二酸化炭素濃度増大による地球温暖化の問題は 21 世紀以降に向け
て深刻な問題である。森林をめぐる CO2 固定対策は少なくとも数十年のスパ
ンでの施策計画が求められるが、その際予測される温暖化環境下での森林、
樹木の CO2 固定能の変動予測が不可欠である。そのためには、人為的に温暖
化環境を創出できる施設を用いて、長期にわたって樹木の生理生態、光合成
能、土壌有機物の分解能などを追跡する必要がある。そこで、2002 年広島
大学精密実験圃場 (34 ゜24´N, 32 ゜44´E, 230 m a.s.l.) に設置したオープ
ントップチャンバー 6 基を使用して、B1(外気± 0 ℃と外気 CO2 濃度の 1
倍)、B2(± 0 ℃と 1.4 倍)、B3(± 0 ℃と 1.8 倍)、A1(+ 3 ℃と 1 倍)、
A2(+ 3 ℃と 1.4 倍)、A3(+ 3 ℃と 1.8 倍)の 6 通りの環境設定で、植
栽した常緑広葉樹(アラカシ)の光合成能、蒸散能、純生産量、生産物の再
配分、リター分解及び幹、根系、土壌呼吸などの研究が進行中である。本研
究では、2003 年 5 月から 1 年間の 6 基のオープントップチャンバーの制御
環境を検討することを目的とする。光量子束密度についてはチャンバーの覆
(エフグリーン)の影響で外より約 3 %程度下がったが、6 基すべて等しく維
持された。外気、B1、B2、B3、A1、A2、A3 基での年平均気温は、それぞ
れ 14.1 ℃、14.1 ℃、13.9 ℃、14.0 ℃、16.9 ℃、16.6 ℃、16.7 ℃となり、B
系と A 系の間に約 2.7 ℃の温度差が維持された。地温の場合は、それぞれ
15.5 ℃、16.1 ℃、15.6 ℃、15.9 ℃、17.4 ℃、17.9 ℃、16.7 ℃となり、B 系
と A 系の間に約 1.5 ℃の温度差が生じた。相対湿度と土壌水分は、外でそれ
ぞれ 76 %、28 %、B 系で 78 %、30 %、A 系で 66 %、26 %となり、A
系の方が若干低く維持された。外気、B1、A1、B2、A2、B3、A3 基での年
平均 CO2 濃度(昼間)は、それぞれ 392、389、393、552、547、705、701
ppm となり、外気の 1 倍、1.4 倍、1.8 倍の目標濃度で正確に維持された。
本研究では、広島大学精密実験圃場に設置したオープントップチャンバー
(OTC)6 基を用いて異なる CO2 濃度と温度の温暖化環境に制御された条件
下で、1 年間生育した常緑広葉樹(アラカシ、Quercus glauca)の成長の特
徴を分析し、上昇する大気の CO2 濃度と温度の相互要因が植物の成長に与
える影響を考察することを目的とする。2002 年 11 月、216 個体のアラカシ
(3 年生)の樹高、地表直径などの毎木調査を行い(平均樹高± SD:126.0
± 13.7 cm、平均地表直径± SD:16.3 ± 1.8 mm)、6 基の OTC それぞれ
に 36 個体ずつ植栽した。別の 49 個体のアラカシを伐倒して、幹、枝、葉
及び根の乾重量を測定し、相対成長関係を適用して、植栽されたアラカシの
初期個体重を推定したが(平均個体重± SD:158.8 ± 33.5 g)、6 基の OTC
の間に有意差はなかった。2003 年 4 月から 6 基の OTC 内の環境条件の制
御が開始され、B1(外気± 0 ℃と外気 CO2 濃度の 1 倍)、B2(± 0 ℃と
1.4 倍)、B3(± 0 ℃と 1.8 倍)、A1(+ 3 ℃と 1 倍)、A2(+ 3 ℃と 1.4
倍)、A3(+ 3 ℃と 1.8 倍)の 6 通りの環境条件を設定した。ただし、夜
間において CO2 濃度は 6 基すべて外気濃度に追従した。2003 年 11 月、6
基の OTC での毎木調査(36 個体ずつ)と OTC 周囲に植栽されたアラカ
シ 12 個体の伐倒調査を行い、6 通りの環境条件下での生育期間 1 年のア
ラカシの成長を調べた。B1、B2、B3、A1、A2 及び A3 区において、平均
樹高はそれぞれ 136、153、144、161、164、173 cm、平均地表直径はそれぞ
れ 17.9、19.1、18.8、19.4、20.8、21.3 mm、平均個体重は 198、244、225、
263、299、329 g となり、高 CO2 濃度と高温の正の影響が認められた。相対
成長率(RGR)の場合、B1 区で 0.25、B2 区で 0.38、B3 区で 0.33、A1 区
で 0.52、A2 区で 0.57、A3 区で 0.71 となり、高 CO2 濃度と高温の相互作
用の影響が見られた。地下部重/地上部重は、B1 区で 0.48、B2 区で 0.44、
B3 区で 0.46、A1 区で 0.43、A2 区で 0.47、A3 区で 0.45 となり、有意差
はなかった。
12:30-14:30
亜高山帯針葉樹林における細根の現存量と生成量の推定
◦
12:30-14:30
オープントップチャンバーを用いて温暖化環境に制御された条件下で
の常緑広葉樹(アラカシ)の成長量と生産物の再配分
◦
周 承進1, 林 明姫1, 今川 克也1, 中根 周歩1
P1-085c
8 月 26 日 (木) C 会場
土井 裕介1, 菱 拓雄1, 森 章1, 武田 博清1
1
京都大学大学院農学研究科地域環境科学専攻森林生態学研究室
樹木の細根動態を調べる事は,森林生態系の物質循環を考える上で重
要である。本研究では,中部山岳地帯に位置する御岳山の亜高山帯林(標
高 2050 m)において,細根(直径 2 mm 以下の樹木根)の現存量,生長
量,季節変化,そして垂直分布を調べた。現存量,生長量,季節変化を調
べるために,2 ヶ月ごとに土壌コアとイングロースコア(共に深さ 8 cm)
のサンプリングを行った。イングロースコアの中に詰める基質は調査プ
ロット付近の根を取り除いた鉱質土と,バーミキュライトの 2 種類を用
意した。根の垂直分布を調べるために,プロットの付近に深さ 52 cm の
土壌断面を 1 箇所作成し,4 cm 間隔で,それぞれの深さから 5 つコア
を採取し,細根の垂直分布を調べた。直径 2 mm 以上の根(太根)の分
布は,土壌断面に現れた太根の直径,地表面からの深さから求めた。
垂直分布の結果から,全体の 9 割近くの細根が表層から深さ 8 cm ま
でに集中していた。一方,太根は表層から見て 4 cm - 12 cm の間に多く
存在した。また,土壌コアで得られた樹木の細根の現存量は 163 g m-2
(2003 年 5 月のデータ)で,Vogt (1996) の寒帯のデータと近い値を示し
た。しかし,イングロースコア(基質:バーミキュライト)で得られた
細根の純一次生産量(NPP)は 12.8 g m-2 year-1 ,ターンオーバー速度は
0.079 year-1 と寒帯で行われた先行研究と比べるとかなり遅かった。季節
変化を見てみると,5 月 - 7 月は変化が少なく,7 月 - 9 月に活発に伸長
し,9 月 - 10 月にわずかに枯死が起こり,10 月 - 翌年 5 月に再び伸長が
始めていた。これらの結果から,このサイトにおける細根の生長は遅く,
寿命が長いことが推察される。そのことは,冬季における長期間の積雪
のため樹木の生長期間が短いことに加え,このサイトの葉リターフォー
ル量は 238 g m-2 year-1 と多く,土壌の有機物層は厚く,含水率も高いこ
と (Tian 1997),つまり土壌が根にとって良い環境にあることが関係して
いるのかもしれない。
— 132—
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-086
P1-087
12:30-14:30
鹿児島湾におけるヒメウズラタマキビガイの生息地による生活史の比較
◦
河野 尚美1, 冨山 清升1
鹿児島大学理学部地球環境科学科
12:30-14:30
永光 輝義1, 河原 孝行1, 金指 あや子2
1
森林総研・北海道, 2森林総研
ヒメウズラタマキビガイ Littoraria intermedia はタマキビガイ科に属する
雌雄異体の巻貝で,瀬戸内海や有明海などの内湾の岩礁や礫地などに生
息している。鹿児島湾喜入町愛宕川河口と鹿児島市祇園之洲海岸の二カ
所で本種の殻のサイズ頻度分布の季節変動を明らかにし,生活史を検討
した。また,垂直分布の季節変動から生息場所の季節変化を調査した。祇
園之洲は,海岸の改修工事が行われている地域で,生息環境の攪乱が本
種個体群に与える影響も考察した。調査の結果,本種は春と秋に幼貝の
新規加入が認められたが,年によっては新規加入が行われない年もあっ
た。垂直分布の季節変化から,冬季の寒さを避けて,生活場所を変える
季節的な移動習性も認められた。祇園之洲個体群では,新規の幼貝の加
入がまったく認められず,年々,個体群を構成する個体サイズが大型に
なる傾向がある。今後もこの傾向が続くと,近い将来,祇園之洲地域の
ヒメウズラタマキビが消滅していまう事態が危惧される。隣接する自然
海岸の本種個体群には幼貝加入が認められることから,祇園之洲個体群
の幼貝未定着の現象は,海岸整備による攪乱が大きいものと思われる。
北海道日高地方のアポイ岳にのみ生育する絶滅危惧種アポイカンバの繁
殖を調べた。 胚珠数に対する健全(充実または発芽)種子数の比率は無
受粉と自家受粉が他家受粉よりも低く自家不和合性があった。 また、胚
珠数に対する健全種子数の比率は自然受粉が他家受粉よりも低く 60 m 以
内の個体数が増えると高くなった。 よって、自然条件では健全種子の生
産が花粉不足によって制限されていたといえる。 アポイ岳にはアポイカ
ンバとダケカンバがともに生育している。 開花時期と花粉散布時期は、
アポイカンバが早いものの両種の間で重なった。 しかし、胚珠数に対す
る健全種子数の比率は、ダケカンバとの種間受粉が種内の他家受粉より
低かった。 よって、アポイカンバはダケカンバとの間に不完全な生殖隔
離の機構をもっているといえる。
P1-089
12:30-14:30
越冬期におけるホソヘリカメムシの生息場所選好性
◦
P1-086
アポイカンバの種子生産の花粉制限とダケカンバとの間の不完全な生
殖隔離
◦
1
P1-088
8 月 26 日 (木) C 会場
12:30-14:30
北海道におけるイチヤクソウ亜科とマルハナバチの生活史の対応関係
◦
伊藤 健二1, 田渕 研2
阿部 恵子1, 大原 雅1
1
1
中央農業総合研究センター, 2千葉大学・園芸学部
北海道大学地球環境科学研究科
ホソヘリカメムシ Riptortus clavatus は大豆子実を吸汁加害する重要害
虫であるが、その生活史に関しては不明な点が数多く残されている。特
に、越冬に関する知見は乏しく、本種がどのような場所で越冬している
のかについての系統的な調査は行われていない。本種の越冬場所を明ら
かにすることは、生活史の解明という意味だけでなく、大豆圃場での発
生初期の密度を予測し, 効果的な防除を行う上できわめて重要な意味を持
つ。そこで、ホソヘリカメムシの越冬する環境を推定することを目的と
して、様々な環境を人為的に再現し、越冬期間を通じてそれらを選択さ
せる野外実験を行った。
茨城県つくば市の中央農業総合研究センター敷地内に 3m*3m*1.8m の
ケージを四つ設置して 1mm メッシュの網で覆い、その中に 4 つの環境
となる基質 a) 敷石, b)枯死イネ科雑草, c)広葉落葉(ケヤキ・ニレ主
体)d)枯死スギ枝葉+スギ幼木(以下, 人工スギ林) を等面積に配置し
た。越冬期前に休眠状態に調節したホソヘリカメムシの飼育個体を放飼
し、越冬後全ての環境基質を精査して放飼した個体を回収した。実験は
2003 年 12 月から 2004 年 3 月まで行った。
実験の結果、放飼したホソヘリカメムシのうち 72.8%が回収されたが、
全ての放飼個体は死亡していた。死亡個体が回収された環境基質を「越
冬場所として選択した基質」として解析すると、基質をランダムに選択
しているという帰無仮説は棄却され、人工スギ林>枯死イネ科雑草>広
葉落葉>敷石の順で選択する傾向があることが示された。
虫媒花の主要なポリネーターの 1 つであるマルハナバチでは巣内に幼虫
がいる期間は花粉・蜜の両方を必要とするが、巣の解散間際には幼虫が
いなくなるため花粉を採餌する必要がなくなる。マルハナバチが利用す
る餌資源の季節的変化は植物の繁殖戦略にも大きな影響をもたらすと考
えられるが、近縁な植物種を対象として、その繁殖特性とポリネーター
が必要とする餌資源との関係を明らかにした例はない。本研究で対象と
したイチヤクソウ亜科には、花粉花の種 (イチヤクソウ属 5 種) と花粉・
蜜両方をもつ種 (ウメガサソウ属2種、コイチヤクソウ属1種) の両方が
認められ、北海道においては同所的に生育している。主要なポリネーター
であるマルハナバチの採餌行動とイチヤクソウ亜科8種の開花時期との
関係を明らかにするため、北海道千歳市の針葉樹林下においてイチヤク
ソウ亜科の開花時期、マルハナバチ4種の営巣期間、訪花頻度の調査を
おこなった。
その結果、
(1)イチヤクソウ亜科8種の開花ピークはそれぞれ異なって
いること、(2)花粉花5種は花蜜をもつ3種よりも早く開花すること、
(3)花蜜をもつ種の開花時期は主要なポリネーターであるエゾコマルハ
ナバチの巣の解散時期と一致していること、などが明らかになった。イ
チヤクソウ亜科における開花時期は、同所的に生育する近縁種との種間
競争および花粉媒介者であるマルハナバチの餌資源の双方によって規定
されているものと推察された。
— 133—
P1-090
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-090
P1-091
12:30-14:30
トウキョウサンショウウオの食性の地点間の比較
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
自殖性絶滅危惧水生植物ヒメシロアサザの地理的変異
◦
伊原 禎雄1
柴山 弓季1, 植田 好人2, 角野 康郎3
1
東京大学農学生命科学研究科, 2神戸西高校, 3神戸大学理学部
1
奥羽大学
日本産アサザ属には他殖性を示す異型花柱植物アサザとガガブタのほか
に、ヒメシロアサザ Nymphoides coreana (Lev.)Hara が存在し、3種と
も絶滅危惧植物に指定されている。最近の繁殖生態学的研究の結果、ヒ
メシロアサザは他の2種と異なり、自動自家受粉による高い自殖性を維
持していることが明らかになった(植田・角野, 未発表)。ヒメシロアサ
ザは、栃木県から西表島にわたって約10数個体群程度が局所的に残存
しているに過ぎない。そこで本研究では、自殖性を示す本種の各個体群
にみられる遺伝的分化を調査した。
各個体群から採集した種子を材料に発芽特性、種子形態(表面突起の有
無)、種子サイズ、重量、花冠サイズおよび生活史(多年生か一年生か)
を比較観察した。
その結果、上記の形質において顕著な地理的およびハビタット間(た
め池か水田)分化が認められることが明らかになった。さらに、酵素多
型分析により多型が認められた PGM, MDH, TPI, ADK, SkDH を組み合
わせた multilocus genotype(MLG)を決定したところ、各個体群に特有
な MLG が存在していることが分かりそれぞれの個体群の遺伝的分化も
裏付けられた。共有対立遺伝子距離に基づいた樹形図から、岡山県の個
体群でさらなる遺伝的分化が確認された。このような分化は、自殖とい
う繁殖様式によってお互いの個体群が遺伝的に隔離される中で生じてき
たものと推測される。
今回の結果は、遺伝的多様性保全の観点から残存するすべての個体群
の保全に努めることの必要性を示している。今後は、ヒメシロアサザ個
体群の存続可能性を検討するために F1, F2 を作出して、近交弱勢や他殖
弱勢の存在などを確認する予定である。
アジア産サンショウウオの地域ごとの餌の違いや捕食行動の比較につい
ては,これまで未調査であった.そこで,トウキョウサンショウウオの
神奈川県横須賀市津久井,野比,山中,千葉県夷隅町万木,福島県いわ
き市四ツ倉の各個体群の餌組成や捕食行動を比較し,その違いや共通性
を検討した.本研究では総計で 82 個体のトウキョウサンショウウオを
捕獲し,胃内洗浄法を用いこららの内 59 個体から個体を傷つけること
なく胃内容物を採取した.その結果,検出した個体あたりの胃内容物の
湿重量,捕食した餌個体の体長や体積には地域間での差は無いことが示
唆された.餌動物の内,ミズムシを除いた動物の全てが土壌動物であり,
各地点の餌組成の個体数割合の中で等脚目の占める割合が最も高かった
が,地点ごとに捕食された主要な等脚目の種は異なっていた.この結果
から,トウキョウサンショウウオは生息地の潜在的な餌資源のなかで等
脚目を餌として選考することが示唆され,サンショウウオの餌とする等
脚目の選考基準として個体数や体の大きさの違いが重要な要因の様であ
り,餌とする等脚目の生態にあわせて捕食活動を変化させている可能性
が示唆された.
P1-092
P1-093
12:30-14:30
シデコブシの小集団化が近親交配と近交弱勢、花粉不足に与える影響
-集団サイズの異なる二集団での比較◦
12:30-14:30
平山 貴美子1, 石田 清1, 戸丸 信宏2, 鈴木 節子2
1
森林総研・関西, 2名大・生命農学
シデコブシは、東海地方の里山湿地に生育するモクレン属の樹木であ
り、絶滅が危惧されている。温帯域のモクレン属では、特有の繁殖システム
(asynchronous flowering, self-compatibility) によって、木本植物の中でも高い
自殖率を示すことが報告されてきている。さらに、集団の分断・孤立化が進
行しているシデコブシでは、外部からの遺伝子流動の減少、遺伝的浮動など
が起こり、集団における近親交配の程度がますます高まっていると予想され
る。シデコブシの保全を考えていく上では、分断・孤立化に伴う送粉効率の
低下等とともに、近親交配がもたらす近交弱勢の大きさや遺伝的荷重を明ら
かにすることも重要である。本研究では、繁殖個体が 245 株の愛知県春日
井市(中規模集団)、29 株の三重県四日市市(小集団)の2つのシデコブシ
集団を対象に、人工受粉実験とマイクロサテライト分析によって、近交係数
(FIS )、結実率と胚生存率(種子に至る胚珠の生存率)に現れる近交弱勢の
大きさ(δ )、種子の他殖率を求め、Ishida ら (2003) の方法を用いて未受精
率、胚段階に現れる近交荷重(自家受精率× δ )の推定を行った。
成木の FIS は、中規模集団が 0.02 と低い値を示す一方で、小集団が 0.29
と高い値を示しており、シデコブシでは小集団化するに伴い近親交配の程度
が高まることが示唆された。果実当たりの結実率に現れる δ は小集団の方が
小さかったものの、胚生存率に現れる δ は中規模集団と小集団で大きく異
ならず、両集団とも受精した胚の約 4 割が自殖による近交弱勢によって死亡
していると推定された。未受精率や近交弱勢以外の原因による胚死亡率は、
いずれも小集団で高くなっていた。最終的な胚珠の生存率は、中規模集団で
2.6%であったのに対し、小集団では 0.3%にとどまっていた。小集団化した
シデコブシでは、近親交配が進むものの、理論的に予想されているような近
交荷重の減少はそれほど大きくなく、さらに花粉不足や近交弱勢以外の原因
(被陰等)が胚珠の生残により大きく影響してくることが明らかとなった。
12:30-14:30
下伊那地方における絶滅危惧種ハナノキの種子生産
◦
金指 あや子1, 金谷 整一1, 鈴木 和次郎1
1
(独)森林総合研究所
ハナノキ Acer pycnanthum K.Koch(カエデ科ハナノキ節)は、長野県南
部、岐阜県東南部、愛知県北東部の限られた地域にのみ遺存的に分布す
る日本の固有種である。ハナノキはミズゴケが優占する湧水のある小湿
地に生育するが、土地の開発などにより個体数の減少が進み、現在、絶
滅危惧 (II) 類に指定されている。ハナノキ自生地保全のための基礎的情
報として、繁殖・更新特性を明らかにする必要がある。その一環として、
ハナノキの種子生産の現状を把握するため、下伊那地方で比較的まとまっ
た個体が分布する2カ所の局所集団(土橋、備中原)において、各11個
体を対象としてそれぞれの樹冠下に開口部 0.5m2 のトラップを3ヶ設置
し、雌雄花および未成熟から成熟種子の落下量を測定した。さらに、成
熟したサイズに達した種子の中の充実種子数を軟 X 線照射によって観察
して求め、これらより、捕捉した雌性生殖器官をもとにした結実率(充
実種子数/雌花総数)や充実種子率(充実種子数/成熟サイズに達した
種子数)を求めた。同時に成熟種子の中の食害種子の割合を調べた。
樹冠下における雌花から種子までの雌性生殖器官の総生産量は、2002
年は 658.0 ー 4374.7 個/ m2 、2003 年は 810.0 ー 12570.0 個/ m2 で
あり、いずれの個体も 2003 年は生産量が多い傾向がみられた。また、結
実率は 2002 年に 7.6 ー 53.8%、2003 年は 6.6 ー 28.7%で、個体によ
るバラツキとともに、全体に 2003 年が低い傾向がみられた。2002 年に
おける充実種子率は 42.3 ー 75.3%で、結実率と同様、個体によってバラ
ツキがみられた。ハナノキにおいて、種子の初期落下やシイナが形成さ
れる主な要因は明らかにされていない。周囲の雄個体との位置関係、雄
花開花量などを考慮して、個体ごとの充実種子率や結実率について検討
した。
— 134—
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-094
P1-095
12:30-14:30
アコウの一樹冠の遺伝構造
◦
◦
亀山 慶晃1, 外山 雅寛2, 大原 雅1
1
北大・地球環境, 2北海道・江別市
1
森林総合研究所, 2森林総合研究所九州支所
一般に、水生植物は陸上の植物に比べて無性繁殖への依存性が高く、特
に浮遊性の水草では、植物体が断片化することによるラメット数の増加
や集団内・集団間の移動は、種子に依存するより確実かつ効率的と考え
られている。日本に生育する浮遊性の水生植物、タヌキモ類(タヌキモ、
イヌタヌキモ、オオタヌキモ)のうち、タヌキモは種子を形成できず、無
性繁殖によって集団を維持している。しかし、タヌキモにおける不稔現
象の原因や、集団の維持機構についてはほとんど分かっていない。本研
究では、交配実験、葉緑体 DNA 分析、AFLP 分析によって、タヌキモ
の起源と集団の維持機構について検討をおこなった。
交配実験の結果、有性繁殖能力を持つイヌタヌキモとオオタヌキモの
間には非対称的な交配親和性があり、イヌタヌキモを種子親、オオタヌ
キモを花粉親として多数の種子が形成された。また、イヌタヌキモとオ
オタヌキモは種特異的な葉緑体 DNA タイプで識別されたのに対し、タ
ヌキモの大部分はイヌタヌキモ型の葉緑体 DNA を持っていた。さらに、
イヌタヌキモとオオタヌキモに認められた多数の種特異的な AFLP バン
ドのほぼ全てが、タヌキモでも確認された。
以上の結果から、1)タヌキモはイヌタヌキモとオオタヌキモの雑種第
一代である、2)タヌキモの形成はイヌタヌキモ(種子親)×オオタヌ
キモ(花粉親)の場合が圧倒的に多い、3)雑種起源かつ不稔にも関わ
らずタヌキモの遺伝子型は集団ごとに異なっており、多様な起源を持つ、
ことが明らかとなった。タヌキモ類の生育適地は明らかに異なり、それ
らが同所的に生育することは稀である。タヌキモがいつ、どのように形
成されたのかは不明だが、その後の分布拡大や集団維持には、旺盛な無
性繁殖能力と雑種強勢による広範な適応能力の獲得が関与しているもの
と推察された。
植物と動物の相互関係、特に種子散布に関わる相互関係を遺伝的側面から
解析することは、森林生態系における樹木の空間的な遺伝的多様性の維
持機構を理解するために重要である。本研究で対象としたアコウ(Ficus
superba var. japonica)は、クワ科イチジク属の常緑高木で、いわゆる絞
め殺し植物である。屋久島西部においては、通年大量に結実し、ヤクシ
マザルや各種の鳥類にとって重要な餌資源となっている。同時に、これ
らの動物は、フンによって種子を散布しアコウの更新や分布に大きな影
響を及ぼしていると考えられる。
アコウ個体群の遺伝的多様性を明らかにするためには、まず1個体を定
義することが必要である。しかしながら、絞め殺し植物という特殊な成
長様式のため、このことが困難でなる。気根が絡み合い、複数の枝が様々
な場所から伸びている外見からは、見かけの1個体が遺伝的にも同一な
のかどうか判断が難しい。例えば、同所的に見られるガジュマル(Ficus
microcarpa)も絞め殺し植物であるが、アコウにガジュマルが着生してい
ることがあるので、遺伝的には異なる複数のアコウが絡み合って生育す
ることがあり得ると考えられる。外見上の1個体が遺伝的にも1個体で
あるかどうかを検証することは、アコウの遺伝的多様性を評価する研究
をすすめていく上で必須である。
本調査では、屋久島西部におけるアコウの空間的な遺伝的多様性を解析
するために、マイクロサテライトマーカーを開発した。次に、アコウの
樹形を絞め殺し型(樹木に着生)、岩上型(岩の上に生育)および地面型
(地面より直立)の 3 つに分類し、樹形ごとに一樹冠内における遺伝構造
について検証した。最後に、ヤクシマザルのフン塊から発生した実生の遺
伝的多様性を分析し、一樹冠内の遺伝構造との関係について考察した。
P1-097
12:30-14:30
山梨県都留市におけるカワネズミの繁殖、成長、および生残
◦
12:30-14:30
水生植物タヌキモ類における雑種形成と集団の維持機構
金谷 整一1, 大谷 達也2
P1-096
P1-094
8 月 26 日 (木) C 会場
12:30-14:30
餌メニューがオオタバコガ幼虫の体色に与える影響について
◦
一柳 英隆1
山崎 梓1, 藤崎 憲治1
1
1
京都大院・農・昆虫生態学
財団法人ダム水源地環境整備センター
カワネズミ Chimarrogale platycephala は、食虫目トガリネズミ科に属す
る、数少ない日本在来の半水生哺乳類である。山梨県都留市の山間の小渓流
において、この種の生活史に関する調査をおもに標識再捕獲法により行った。
今回の発表では、繁殖時期の推定、巣離れ後の成長・生残について報告する。
標識再捕獲調査のために、渓流に沿って 1.7km の調査区を設定した。その
調査区において、2000 年 11 月から 2004 年 2 月まで、捕獲を繰り返した。
捕獲は、毎月 3-9 回行った。それぞれの捕獲調査では、日の入り前におよそ
40 個のトラップを調査区河川に設置し、1-2 時間おきに見回ってカワネズミ
の捕獲をチェックする、という作業を日の出まで繰り返した。捕獲された個
体は、性別、体重、歯の摩耗度による相対齢を記録し、固有のナンバーを刻
印した脚輪により個体識別して、捕獲場所に放逐した。
調査期間中、72 個体に標識した。若い個体が初捕獲される時期は、5 月
と 11 月にピークがあった。これは本種の離巣時期にあたると考えられ、本
種は基本的に春と秋の 2 回の繁殖期をもつと推定される。ただし、11 月の
ピークは 5 月のピークより捕獲できた個体数はずっと少なく、春に産まれた
個体がその年の秋に繁殖することはないか、あってもわずかであると考えら
れる。離巣時の体重はおよそ 30g と推定され、幼体はその後およそ 0.2g/日
の速度で成長し、2-3ヶ月で成体と同様の体重に達した。成体の体重は、平均
で、メス 45g、オス 48g であり、オスの方がやや大型になった。離巣後の生
残率(生き残って、調査区から移出しない率)は、年 10 %程度であり、特
に冬の減少率が高かった。
オオタバコガ Helicoverpa armigera は、近年の地球温暖化によって、日本で
もその被害が拡大している亜熱帯性の重要害虫である。本種は終齢幼虫にお
いて体色に顕著な色彩多型現象がみられるが、この体色は飼育密度、温度、
日長の影響を受けず、餌条件によって変化することが示唆されてきた。しか
し、餌条件がどのように関与しているかについては具体的には明らかになっ
ていない。さらに、体色による幼虫期間、生存率、蛹重などの形質にも差が
みられず、それは中立的な形質であるとみなされている。このように、本種
における色彩多型には、未だに解明されていない点が多い。加えて本種は広
食性であることが知られており、栽培植物だけでも 49 科以上、約 160 種近
い寄主植物が報告されている (Zalucki et al, 1986)。
本研究では、オオタバコガの広食性に着目し、さまざまな餌植物と幼虫体色
との関係について検証した。その結果、与えた餌植物によって体色の発現頻
度が異なり、同一の植物でも摂食する部位により体色が大きく異なることが
示された。また、実験に用いた植物に共通して、果実部を与えたものは茶色、
葉や花を与えたものは緑色の体色のものが多く出現し、幼虫は摂食部位の色
に近い体色を発現する傾向があることが示唆された。さらに、与えた餌植物
やその部位によって、幼虫期間、蛹重、生存率などに大きな違いがあり、餌
メニューが幼虫の体色の違いだけでなくパフォーマンスにも影響を与えてい
ることが確認された。
このように本種の終齢幼虫は、利用する植物やその部位に似せて体色を変化
させることで、鳥などの捕食者に対して目立ちにくくなっている、つまり隠
蔽色として機能している可能性が高いと考えられた。
— 135—
P1-098
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-098
P1-099
12:30-14:30
日本産エンレイソウ属植物の開花フェノロジーの違いによる交雑の方
向性
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
ヒメシャガにおける花被片間の機能的分化
◦
森長 真一1, 酒井 聡樹1
三谷 拓矢1, 亀山 慶晃1, 大原 雅1
1
東北大学大学院生命科学研究科
1
北海道大学大学院地球環境科学研究科
花弁や花被片などの誘引器官の多様性は、それぞれの植物が効率的な
送受粉のために進化させてきた結果である。このような花弁 (花被片) の
多様性と進化を理解するためには、それぞれの花弁 (花被片) に対する選
択圧を検出する必要があると考えられる。
本研究では、大きさと形の異なる花被片 (外花被片と内花被片) をもつ
ヒメシャガ (アヤメ科) を材料に、花被片間の機能分化と各花被片に対す
る選択圧の違いを明らかにすることを目的とした。そこで 2003 年仙台
市青葉山のヒメシャガ集団において、個体ごとに各花被片の長さを人為
的に処理して、送粉者の訪花頻度と送受粉数/訪花、そして最終的な雌雄
繁殖成功の指標として送粉数/花 (雄繁殖成功) と種子数/花 (雌繁殖成功)
を調査した。
その結果、外花被片と内花被片間には雌雄機能への貢献度と選択圧に
違いがあった。外花被片は雌雄機能に貢献しており、現在の長さが適応
的であった。一方、内花被片は雄機能のみに貢献しており、ある程度短
くしても送粉数が減少しないため、現在よりも短い長さが適応的であっ
た。また内花被片が適応的な長さに進化しなかったのは、外花被片と内
花被片間の遺伝相関などの制約によるものかもしれない。花弁 (花被片)
にみられる多様性は、各花弁 (花被片) に対する選択圧の違いとその間の
制約により進化してきたと考えられる。
エンレイソウ属(Trillium )は北米および東アジアに生息域を持ち、北海道
には 9 種が生育している。北米種が全て 2 倍体であるのに対し、日本産エ
ンレイソウ属には、著しい倍数体が存在しており、これらはエンレイソウ (T.
apetalon )、ミヤマエンレイソウ (T. tschonoskii )、オオバナノエンレイソウ
(T. camschatcense ) の 3 種を基本種とした雑種および倍数化により形成され
ていることが染色体の研究から明らかになっている。しかし、自然野外集団
における雑種形成の要因や過程に関する生態遺伝学的研究は少ない。そこで、
今回は、野外自然集団における基本3種間の交雑親和性と雑種の母系構成を
明らかにし、雑種形成の一要因と考えられるフェノロジーとの関係について
研究を行った。
基本3種が生育する千歳において、3 種それぞれを種子親・花粉親とした
種間交雑実験を行った。その結果、全ての種間において高い交雑親和性が認
められた。一方、種間雑種の開花個体における葉緑体 DNA を用いて母系分
析を行った結果、オオバナノエンレイソウとミヤマエンレイソウの雑種であ
るシラオイエンレイソウ (T. hagae ) では、全ての個体でオオバナノエンレイ
ソウ型、エンレイソウとミヤマエンレイソウの雑種であるヒダカエンレイソ
ウ (T. miyabenum ) では全てミヤマエンレイソウ型というような一定の規則
性が見られた。
自然野外集団の開花フェノロジーをみると、エンレイソウ、ミヤマエンレイ
ソウ、オオバナノエンレイソウの順で開花しており、各雑種のDNA分析で
種子親とされた種が、親種 2 種のうち、より開花の遅い方の種であることが
示された。さらに、開花個体の分布様式についての分析を行った結果などか
ら、開花フェノロジーによる花粉移動の方向性が、雑種形成の重要な要因で
あることが示唆された。
P1-100
P1-101
12:30-14:30
翼のかたちが散布を決める!–ヤチダモ種子の画像解析と散布実験から
分かったこと–
◦
12:30-14:30
◦
後藤 晋1, 岩田 洋佳2, 芝野 伸策1, 大屋 一美1, 鈴木 憲1, 小川 瞳1
12:30-14:30
外来種フタモンテントウの日本における分布状況と在来テントウムシ
との関係
戸田 裕子1, 桜谷 保之1
1
1
東京大学北海道演習林, 2中央農業研究センター
近畿大・農・昆虫
北海道の水辺林の主構成種であるヤチダモは,翼のある大型の種子をつけ
る.ヤチダモ種子は,母樹間でその大きさやかたちが大きく異なることから,
母樹によって散布パターンが異なる可能性がある.そこで,本研究では,ヤ
チダモの母樹間で種子の飛翔能力に違いがあるか,また,どのようなかたち
の種子がより飛翔するかを解明するため,9 母樹から採種したヤチダモ種子
の人工散布実験を行なった.散布実験の前に,各種子の重さと面積を測定し
た.種子のかたちについては,形状解析ソフトウエア SHAPE を用いて,デ
ジタル画像から種子の輪郭を抽出し,楕円フーリエ記述子(EFD)により定
量化した.さらに,EFD の主成分分析により,種子の長軸に対して対称な変
異と非対称な変異について別々の主成分を求め,主成分スコアをかたちの特
徴値とした.人工散布実験では,8.3m のタワーから各母樹 10 個の種子を1
つずつ散布し,各種子の飛翔時間と飛翔距離を測定する実験を 5 回繰り返し
た.分散分析の結果,種子の重さ,面積,形の対称成分,飛翔時間は母樹間
で有意に異なっていた.そこで,種子の飛翔時間を目的変数として重回帰分
析を行った結果,面積,重さ,形の主成分として対称成分の AP3,AP5,非
対称成分の BP3 が有意な相関が認められた.特に,AP3 は種子のかたちの
変量としては 7%程度と小さいにもかかわらず,飛翔時間と強い相関が認め
られ,種子の両端が尖るほど飛翔時間がより長くなるという興味深い傾向が
検出された.この成分では母樹間の違いが高度に有意であったことから,強
い遺伝的支配が示唆される.以上の結果から,森林内において飛翔により有
利なかたちの種子をつける母樹が,実際により広範囲に種子散布を行ってい
るかについて,今後明らかにする必要がある.
フタモンテントウ (〈I〉Adalia bipunctata〈/I〉) は、1993 年に大阪市南港
において日本で初めて発見され、外来種と考えられている。1993 年以降こ
れまで発見地を中心に継続的に調査を行ってきた。本研究では発見地および
周辺の公園・緑地等において、侵入後の分布や生活史、在来テントウムシと
の種間関係を調査した。分布については、最初の発見地である南港中央公園
(350m × 500 m) において発見以来ほぼ毎年発生が確認されているが、他の
場所では 2001 年まで発生がみられず、分布の拡大は起こっていないと考え
られた。しかし、2002 年には 2 から 3km ほど離れた 2ヶ所で発生がみられ
るようになり、2003 年には新たに 2ヶ所で分布が確認された。2004 年には
南港地区 (約 3km 四方) のほとんどの調査地で発生が確認され、南港以外の
大阪府内や、約 20km 離れた兵庫県神戸市でも発生が確認された。発生密度
は南港中央公園で最も高く、そこから離れるに従って減少する傾向にあった。
したがって、南港中央公園が最初の侵入地で、発生の中心と推察された。こ
の 2 から 3 年で分布がかなり広がり、さらに飛び火的に拡大する傾向にあ
ると考えられる。種間関係については、フタモンテントウと同じ樹上 (シャ
リンバイやトウカエデ) に生息する在来種ナミテントウとの個体数関係を中
心に調べた。その結果、フタモンテントウの生息密度が高い地域の方が低い
地域よりもナミテントウの個体数の割合が低い傾向がみられ、フタモンテン
トウの個体数増加や分布拡大はナミテントウやダンダラテントウ等、在来テ
ントウムシの生存に影響を与えつつあると推察される。
— 136—
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-102
8 月 26 日 (木) C 会場
P1-103
12:30-14:30
P1-102
12:30-14:30
雌雄異株性樹木オノエヤナギにおける性比の偏りがメスの繁殖成功に
与える影響
◦
上野 直人1
(NA)
1
新潟大学農学部附属フィールド科学教育研究センター
雌雄異株性植物個体群におけるメス・オスの個体数比(性比)は各個体の
繁殖成功、ひいては適応度を決定する重要な生態学的要因である。一般に植
物における個体の繁殖成功は周囲の異性個体の頻度や異性個体までの距離に
依存する。もし個体群における性比に偏りが生じている場合には、メスとオ
スの間で繁殖成功や適応度に頻度・距離依存的な差が生じ、多数を占める性
をもつ個体(メスが多ければメス、オスが多ければオス)に不利益が生じる
だろう。このため、進化的な観点では、頻度・距離依存的な繁殖成功の制限
が十分に強く働くなら性比の偏りは解消されてしまい、恒常的な性比の偏り
は生じにくいと考えられる。しかしながら、いくつかの雌雄異株性植物にお
いては性比の偏りが観察されている。例えば、冷温帯から亜寒帯にかけての
河畔に生育するオノエヤナギは、雌雄異株性樹木であり、他のいくつかのヤ
ナギ属樹木と同様に個体群の性比が強くメスに偏ることが報告されている。
このような性比の偏りが維持されるメカニズムを明らかにするためには、各
個体の繁殖成功に対し性比の偏りがどの程度の影響を与えているかを明らか
にする必要がある。
オノエヤナギは河川攪乱に依存し河畔に侵入する先駆性樹木である。河畔
ではオノエヤナギのような先駆性樹木が個体数の異なる小集団を形成し、パッ
チ状に分布している。小集団を構成するメスにおける最近接オスまでの距離
や周囲のオス密度は各パッチの性比に依存する。各小集団における性比は、
小集団の個体数が少ないほどばらつくため、メスにおける最近接オスまでの
距離や周囲のオス個体密度にかなり大きな変異が見られる。
本研究では、個体群内におけるメスへの性比の偏りが、オノエヤナギメス
における繁殖成功にどのように影響するかを明らかにするため、メスの結実
率と最近接オスまでの距離・周囲のオス密度の関係を明らかにした。
P1-104
12:30-14:30
森林の分断化がホオノキの結実率に与える影響
◦
舘野 隆之輔1, 井鷺 裕司2, 柴田 銃江3, 田中 浩3, 新山 馨3, 中静 透1
1
総合地球環境学研究所, 2広島大学国際協力研究科, 3森林総合研究所
森林の分断化などの人為攪乱が、樹木の個体群や遺伝的多様性におよぼす
影響には、繁殖個体の空間分布の変化という直接的な影響と、生物間相互
作用を介した間接的な影響がある。繁殖に関わる様々な動物群との生物間
相互作用系の変化は、例えば送粉・種子散布者の個体数の減少や絶滅、送粉
者群集の多様性の喪失などを介して、間接的に樹木の繁殖成功や実生・稚
樹の分布、最終的には次世代の個体群構造や遺伝構造に影響する。本研究
では、冷温帯落葉広葉樹林で低密度な個体群を維持しているホオノキ(虫
媒)に着目し、森林の分断化が樹木の繁殖過程に与える影響を明らかにす
ることを目的とした。
調査は、小川群落保護林とその周辺地域で行った。調査地とした約 2km
× 3km のエリアには、面的に残された約 100ha の天然林(保護林)と人
・人工
工林などによって魚骨状に分断化された約 30ha の天然林(保残帯)
林・二次林・農地などさまざまな景観が含まれる。調査地ほぼ全域を踏査し
ホオノキ個体の分布図を作成し、開花期には、繁殖の有無を確認した。保
護林と保残帯で周囲繁殖個体密度が低い個体から高い個体まで含むように、
それぞれ 14 個体を選定し、果実を各個体 3∼32 個採取した。採取した果
実から成熟種子・虫害種子・未成熟種子・その他を取り出し、それぞれの
個数を数え、受精率、虫害率、結実率を算出した。
保護林と保残帯では、受精率、虫害率、結実率の平均値に有意な差は見
られなかった。保残帯では、周囲 200m の周囲繁殖個体密度と受精率・結
実率の間に有意な正の相関が見られた。一方で、保護林では、個体密度と
受精率・結実率の間に有意な相関は見られなかった。虫害率は、保護林と
保残帯ともに個体密度と有意な相関は見られなかった。保残帯では、個体
密度の減少は、受精率の低下を引き起こし結実率が低下するが、保護林で
は個体密度の影響は受けないことが示唆された。このような違いは、訪花
性昆虫の個体密度や行動様式(訪花頻度や行動範囲)が分断化によって変
化することが原因なのではないかと考えられる。
P1-105
12:30-14:30
越冬条件がムカゴトラノオの発芽と成長に及ぼす影響
◦
西谷 里美1, 増沢 武弘2
1
日本医科大学, 2静岡大学
ムカゴトラノオは極域から温帯の高山に広く分布するタデ科の多年生草
本である。結実が非常にまれであるため,むかごの発芽・定着が本種の
個体群維持には必須である。この研究では,野外で予想される越冬時の
環境を実験的にむかごに経験させ,その間の生存率,および翌春の発芽
特性を比較した。
2002 年7月下旬から 8 月中旬にかけてノルウェー領スバルバール諸島の
4 地点,合計 9 集団からむかごを採集した。むかごには色変異があるた
め,同じ地点でも色が異なる場合は別の集団として扱った。採集したむ
かごを温度(-5◦ C,-25◦ C)と水分条件(乾,湿)を組み合わせた 4 条
件で保存し,翌年 5 月に発芽実験に用いた。-25C 湿条件で保存したむ
かごでは,観察による生死の判別が困難であったため,一部のむかごを
用いて TTC テストを行った。発芽実験は,温度(5◦ C,5◦ C /15◦ C 変
温,15◦ C)と光(明,暗)を組み合わせて行い,発根と展葉の有無を1
週間おきに 4 週目まで記録した。ただし暗処理のむかごについては 4 週
目の観察のみとした。
保存中のむかごの生存率は,-25◦ C 湿条件では非常に低く,4集団ではす
べてのむかごが死亡した。一方で他の3条件で保存したむかごは 99%以
上が生存し,発芽条件によらず 4 週目までには,ほぼ 100%の発芽率に
達した。ただし 5◦ C では他の温度に比べて発芽が遅れ,その傾向は乾燥
保存したむかごで顕著であった(-5◦ C,-25◦ C 共に)。乾燥保存したむ
かごの中には,5◦ C では発根のみで展葉しない個体もみられた。-25◦ C
湿条件下での生存率や 5◦ C での発芽速度において,集団による変異の
存在が示唆された。
— 137—
P1-106
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-106
P1-107
12:30-14:30
アユモドキの産卵環境と仔稚魚の分布
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
アオダモ局所個体群の性比と種子の性質
◦
阿部 司1, 小林 一郎2, 近 雅博3
滋賀県立大学大学院環境科学研究科, 2岡山淡水魚研究会, 3滋賀県立大学環境科学部
林木育種センター 北海道育種場
アユモドキ Leptobotia curta はドジョウ科に属する日本固有の純淡水魚で
ある.琵琶湖淀川水系と岡山県の数河川にのみ生息するが,近年どの生息
地においてもその減少が著しく,国の天然記念物,環境省のレッドリスト
の絶滅危惧 IA 類に指定されている.そこで,保全のための基礎資料を得
ることを目的とし,繁殖生態に関する研究を行った.今回はその中の産卵
環境と仔稚魚の分布について報告する.
仔魚,稚魚の捕獲はタモ網を用い,そこに生息する魚種がもれなく確認
でき,かつ攪乱が大きくなりすぎないように配慮し,地点ごとに調査時間
を設定して行った.そのデータと,調査時に測定した水深や流速,植被率
等の環境のデータをもとに分布に影響する環境要因を解析した.また,目
視観察により産卵行動の調査を行い,仔魚の確認された環境とあわせて産
卵環境の把握に努めた.
その結果,アユモドキの産卵環境は灌漑開始前には陸上の植物が繁茂し,
灌漑開始後はそれらが水に浸かる,流れのほとんどない泥底の一時的水域
であった.また,それらは水深 20cm から 50cm 程度ではあるが,恒久的
水域から容易に進入できる地点であった.卵や仔魚は流れに対する抵抗力
が非常に弱いので,流れがほとんどないことは必要な条件だと考えられる.
また,植生が豊富であることは,降雨等の増水時に流されたり,進入して
きた捕食者から発見されたりする確率を低下させると考えられる.
稚魚は仔魚とは異なり,比較的流れがあり,底質に砂礫を含む地点で多
く確認された.流れがあるということはそこに水の供給があることを意味
する.安定した水域を求め移動分散する過程の中でそのような流れを目安
にしていることが考えられる.また,成長に伴う食性の変化や岩陰等に隠
れる習性の発現等も,移動分散に影響しているものと考えられる.
2002年は北海道内では各地でアオダモが同調して豊作年となったよ
うに観察され,林木育種センター北海道育種場構内(北海道江別市文教
台緑町)でもサイズが極端に小さい個体を除いてほぼ全個体が開花した。
調査地は大きな沢と平坦地の針葉樹人工林に挟まれた帯状の斜面で,花
粉の交流は流域毎に行われているのが大部分と想定されたので,小さな
流域毎にAからHの9局所個体群に分けて行った。雌雄の調査は5月に、
秋に配置図により,雌孤立個体,雌雄隣接個体,林縁個体,樹冠下個体
など環境を考慮して21個体から枝を切り落として果実を採取し、25
粒を抽出し,軟X線装置を使用して種子の内部形質を調べた。
結果:雄123,雌196株が確認できた。雌の平均胸高直径は11.9
cm,樹高8.2 m,雄の平均胸高直径12.2 cm,樹高8.1 m で
あり,分散分析の結果では差がなかったが,頻度分布図では雄の胸高直
径のピークが雌より3 cm 大きいところにあった。性比が1:1と仮定
した場合のカイ二乗検定結果では,集団全体とE,F局所個体群が棄却
され,雄の比率が雌より多いことが確かめられた。調査個体数が少ない
H,I以外について検討すると,A,B,C,Gは雄が多く,Dだけが
雌が多かったが,いずれも有意ではなかった。個体サイズはB,C,D
がほかよりも小さかった。またFでは雌サイズの平均が雄サイズよりも
小さがったが統計的には有意でなかった。種子の充実率は76から10
0%で、調査地ではサイズの小さい個体を除いて全ての個体が同調して
開花したことにより,雄雌個体が隣接していなくても,孤立していても
周囲から花粉が飛散,もしくは訪花昆虫により交流は広範囲におこなわ
れていると予想された。また種子に幼虫の入っていたもの、穴があき幼
根部分が被害を受けているものも観察された。
P1-109
12:30-14:30
多雪地ブナ林における樹木群集のリーフフェノロジー
◦
半田 孝俊1
1
1
P1-108
12:30-14:30
12:30-14:30
トチバニンジン(ウコギ科)における繁殖特性の集団間比較
◦
井田 秀行1
岡崎 純子1, 和多田 悦子1
1
1
大阪教育大学教員養成課程
信州大学教育学部附属志賀自然教育研究施設
多雪地ブナ林において残雪や林分構造が樹木の葉フェノロジーに与え
る影響を明らかにするために,樹木群集を対象に冬芽から落葉までのフェ
ノロジーのパターンを解析した.調査地は長野県木島平村カヤの平ブナ
林で,ブナが圧倒的に優占する典型的な日本海型ブナ林の様相を示す林
分である.フェノロジー調査は 1999 年 4 月下旬から 12 月上旬にかけ
て,当林分に設置した 100 m四方の方形区内の直径 5cm 以上の生存樹
木全て(全 19 樹種,550 本)について行った.葉群の観測は約 1-4 週
間間隔で樹幹ごとに行い,各観測日には葉のステージ(冬芽から落葉ま
でを 7 段階に区分)と,最も早いステージにある葉の樹冠あたりの割合
(4 段階に区分)を記載した.
ブナは 4 月下旬の残雪期,高木の個体群(樹高 18 m以上)が開葉し,
続いて亜高木(樹高 5-18 m)が開葉した後,低木(樹高 5 m未満)が 5
月上旬にかけ消雪に伴って開葉し始めた.結局,ブナの低木全てが完全
に開葉したのは高木全てが完全開葉した約 10 日後の 6 月中旬であった.
ブナの紅葉(黄葉)も低木より高木の方がやや早く,それは 9 月下旬に
始まった.しかし落葉期は階層間で顕著な差異はなかった.一方,本数
でブナに次いで優占していたテツカエデやハウチワカエデについてみる
と,開葉の季節パターンはブナと類似していたが,紅葉および落葉時期
はブナよりも概して早かった.
以上から多雪地ブナ林では,下層木の開葉が残雪の影響で高木よりも
遅れ,さらに樹木群集全てが完全に開葉を完了するまでには約 2ヶ月間
を要することがわかった.また,ブナの着葉期間は他樹種よりも平均し
て長かったが,これはブナが多雪環境下でも効率よく生育できるような
光合成期間を有していることを示唆している.したがって,こうしたフェ
ノロジーのパターンもまた多雪地特有の純林状のブナ林の更新維持に重
要な役割を果たしていると考えられた.
植物の生活史での各生育ステージは個体群での繁殖と密接に関わっている。
生育ステージの移行は、繁殖での性資源配分に大きく関与する一方で、生育
環境に影響されていることが知られている。両性花植物における性機能の揺
らぎや性機能調節の実態を理解していくためには、生活史の発育ステージで
の性資源配分の違いを明らかにし、その地域特性を考慮しながら、各生育ス
テージでの繁殖成功を制限する要因を結びつけて解析を行っていく必要があ
る。本研究で扱うトチバニンジンはウコギ科の林床性多年生草本で、花は両
性花であるが、結実率の異なる 5 タイプの花をつける。開花ステージには主
軸の花序のみをつける T-stage と主軸と側枝に花序をつける L-stage の 2 ス
テージがある。本研究では、トチバニンジンの繁殖特性特に資源配分に注目
し、その地域特性を明らかにするため、生育ステージの移行と資源投資量の
指標であるサイズと種子生産の関係を、能勢 (大阪府)・美山 (京都府)・上市
(富山県) の 3 集団で比較した。また、能勢集団を用い除花・強制授粉実験を
行い、種子生産の制限に資源制限と花粉制限のいずれが各発育ステージで関
与しているのか調べた。その結果、次のことが明らかになった。1) 各集団に
おけるサイズ分布は異なり、特に上市集団の開花ステージへの移行が、能勢・
美山集団よりも著しく大きいサイズで行われていた。2) トチバニンジンの資
源投資は、生育ステージによって異なることが明らかになった。能勢集団で、
T-stage は、サイズの増加に対して花数を変化させず、花型をトレードオフさ
せることにり結実率を上昇させていた。L-stage では、主軸の花序と側枝の
花序で異なるサイズとの反応を示し、その両者の組み合わせで個体レベルの
種子生産性を高めていた。他の 2 集団では、各生育ステージの反応は多少異
なっていた。3) トチバニンジンの種子生産を制限する要因には、花粉制限で
はなく資源制限が関与していることが明らかとなった。どの生育ステージに
おいても、花数の人工的減少に対し、残りの花のタイプの割合を変化させず、
結実率を上昇させることで種子生産の不足を補っていることが判明した。
— 138—
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-110
P1-111
12:30-14:30
アオモリトドマツの球果生産が当年枝伸長量に及ぼす影響について
◦
◦
伊部 貴行1, 生方 正俊2, 河原 輝彦3
1
1
東京農業大学院, 2林木育種センター, 3東京農業大学
独立行政法人森林総合研究所東北支所
木本植物では有性繁殖を 2、3 年から数年に一度行う種がある。このような種
においては、繁殖器官と栄養成長に光合成産物を同時に分配する結果、有性繁殖
している年の当年枝への光合成産物の分配量が繁殖していない年より低い可能性
がある。一方、同じ個体においては、元々の当年枝のサイズが部位ごとに異なる。
このため、有性繁殖が当年枝成長量に及ぼす影響は、樹冠における当年枝の位置
によって異なるかもしれない。
アオモリトドマツは 2∼ 数年に一度球果を生産する。円錐形の樹冠を形成し、
ターミナルリーダーと一次枝(幹から直接出る枝)の主軸が明瞭である。本研究
では、(1)球果の成長と当年枝の伸長の生物季節を確認し、(2)樹冠上部の球果
数が当年枝の伸長量に及ぼす影響について、痕跡による経年変動データをもとに
解析した。
当年枝の伸長と球果の成長の生物季節については、岩手山付近で観察した。
経年変動の調査は八甲田山の亜高山帯下部で行った。対象とした当年枝はター
ミナルリーダーと一次枝の主軸である。なお、幹から直接伸長した当年枝(枝階
1)は幹に埋没するため解析対象から除き、幹から出現後 1 年(枝階 2)から 5
年(枝階 6)経った一次枝先端の当年枝を対象にした。経年変動の解析は 1975 年
から 1990 年を対象にした。
生物季節において、当年枝の伸長は常に球果の成長以降に開始していた。
当年枝長は、ターミナルリーダー、枝階 2 の主軸、枝階 3∼6 の主軸の順で長
かった。球果数と当年枝長の関係では、ターミナルリーダーと枝階 2 の当年枝の
みにおいて有意な負の相関が検出された。一方、球果数と当年伸長/前年伸長比の
関係では、どの部位においても有意な負の相関が検出されたが、ターミナルリー
ダーや枝階 2 の当年枝で顕著だった。
球果生産は、ターミナルリーダーや先端付近の当年枝など、サイズの大きい当
年枝の伸長に影響を及ぼしやすいことが示唆された。
12:30-14:30
個体識別法によるメダカの生態調査ー移動と成長の個体変異ー
◦
12:30-14:30
奥日光ミズナラ天然林における稚樹と堅果の推定花粉親の比較
関 剛1
P1-112
P1-110
8 月 26 日 (木) C 会場
佐原 雄二1, 富樫 望1, 國分 純平1, 東 信行1
1
弘前大学農学生命科学部生物生産科学科
本研究の目的
メダカ Oryzias latipes の主要な生息地である水田地帯は、水路が複雑に連絡している
上、季節的な変動も大きい。このような環境の中で、メダカがどのような生活を送って
いるのかを、個体ごとに異なるマークを施して識別し、再捕獲によって移動や成長を追
うことによって、個体レベルで明らかにすることを試みた。
調査場所と方法
青森市の水田地帯にある水路からメダカを採集して、蛍光エラストマーを用いて個体ご
とに異なるマークを施した。370 個体を5月に現地に放流し、以後8月まではほぼ毎
週、6ヶ月以上にわたって再捕獲を行って個体ごとの移動や成長を調べた。
結果
移動の個体変異
370 個体のうち、少なくとも1回は再捕獲されたものは 175 個体であった。そのうち、
4回以上再捕獲された 15 個体について検討したところ、「水路から別の水路へ頻繁に
移動する個体」と「あまり移動しない個体」とに分けることができた。この違いはオ
ス・メスに関連しておらず、むしろ放流時の体サイズに関係がある。「頻繁に移動する
個体」は放流時の体サイズが小さく、「あまり移動しない個体」は放流時の体サイズが
大きい傾向があった。
成長と寿命の個体変異
放流時の体サイズが小さな個体は、その後の成長が、とくに5月・6月に速いが、放流
時のサイズが大きな個体は成長が遅い。8月以降まで生残が確認された個体は、オスの
場合には放流時の体サイズが小さな個体が多かったのに対して、メスの場合には逆に、
8月以降まで生残の確認された個体は、放流時の体サイズの大きな個体が多かった。
天然林内でのミズナラの繁殖特性を明らかにするために、林内に分布する
稚樹や採取した堅果から得られた苗を対象に DNA のマイクロサテライト
(SSR)マーカーを用いて、雌性親と花粉親の推定を行った。
調査は、日光国立公園内、西ノ湖湖畔のミズナラを主体とした天然林内で
行った。この天然林内に 250 m× 150 mの調査区を設定し、調査区のほぼ
中央に位置する林冠木を中心にして 20 m× 20 mのサブプロットを設定し
た。調査区内の全ミズナラ林冠木(85 個体)、サブプロット内の中央部に生
育する稚樹(122 個体)および 2 年前にサブプロット内の中央部から採取し
た堅果を播種し、温室内で養苗している稚樹(360 個体)について成葉を採
取し、全 DNA を抽出した。5 種類の SSR プライマーを用いて DNA を増
幅し、シークエンサー(ABI 社製 PRISM3100Genetic Analyzer)と付属
ソフト〈genotyper〉を用いて遺伝子型を決定した。
遺伝子型から稚樹の両親の推定を行ったところ、両親候補とも調査区に存
在するグループ、片親候補のみが存在するグループおよび両親候補とも存在
しないグループに分けられた。天然林内の稚樹も温室内の稚樹も、ほとんど
が調査区内に片親候補のみが存在するグループだった。花粉と堅果の分散の
しやすさを考慮すると、調査区内に存在しない親候補は花粉親の可能性が高
いと考えられる。調査区外から飛来した花粉が、当調査地内のミズナラの次
世代の生産に大きく関与していることが示唆された。また、各グループ間で
稚樹の苗高に有意差は認められなかった。
P1-113
12:30-14:30
種子のギャップ検出機構はそれらの適応度に常に貢献し得たのか?
◦
本田 裕紀郎1, 伊藤 浩二1, 加藤 和弘1, 倉本 宣2
1
東京大学大学院農学生命科学研究科, 2明治大学農学部
種子のギャップ検出機構は、実生の定着に適さないミクロサイトでの無駄
な発芽を抑制し埋土種子集団として土壌中での永続性を獲得するための機構
であり、発芽に好適なタイミングの検知に導く。そのため、この機構は種子
植物の適応度を高めることに貢献すると考えられているものの、ギャップと
の結びつきの強い植物でさえもこの機構をもたないという現象も見られる。
そこで、ギャップ検出機構をもつ植物(あるいはもたない植物)が他種植物と
種間競争をしながら生育する状況を模した単純なモデルを想定し、ギャップ
検出機構をもたないことが最適戦略となるような条件を検出することにより、
ギャップ検出機構をもつことの生態学的意義を再検証するためのコンピュー
ター・シミュレーションを試行した。その結果、ギャップ検出機構を獲得す
ることは必ずしも適応度を高めることではなく、攪乱頻度や定着に不適な条
件の発生頻度が高まるほど、ギャップ検出機構を獲得せずに確率的な埋土種
子集団を形成することが最適戦略となる頻度が上昇する。種子の永続性その
ものを獲得することは、攪乱などの予想不能な事態に対する適応の結果であ
り、攪乱頻度が高かったり定着に不適な環境であったりするほど獲得される
ものであるものの、その永続性に対するギャップ検出機構への依存度は小さ
くなり、休止などによる他の機構への依存性が相対的に強くなる。そのため、
ギャップ検出機構を獲得することの実際の選択性は、種子の永続性とそれに
対するギャップ検出機構への依存性の相互作用により決定され、中程度の攪
乱頻度のハビタットにおいてギャップ検出機構を獲得する選択圧が最も高ま
る。加えて、単純な永続性と同様にギャップ検出機構においても種子散布距
離に対するトレードオフが存在するため、短距離散布しか行えない種におい
てギャップ検出機構はより重要な発芽戦略であり、そして種間競争に弱い場
合はさらにその重要性は増す。
— 139—
P1-114
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-114
P1-115
12:30-14:30
風散布植物センボンヤリの繁殖戦略 - 閉鎖花/開放花に由来する二型痩
果の役割 ◦
名倉 京子1, 湯本 貴和2
エゾアカガエル (Rana pirica) の繁殖期の年変動
◦
竹中 践1
北海道東海大学教育開発研究センター
京都大学生態学研究センター, 2総合地球環境学研究所
エゾアカガエルの繁殖時期を 1995 年 ∼2004 年にかけて調査した。調査
地点は2地点で、北海道札幌市の北海道東海大学敷地内の林地にある沢
周辺および札幌市南部の丘陵地域に入った中ノ沢の砂防提が形成する湿
地である。大学林地における初産日は 4 月 4 日から 4 月 16 日のあい
だで変化し、終産日は 4 月 15 日から 5 月 3 日であった。産卵期間は
7∼26 日間であり、産卵期間が長かった年には大雨による水量増加や降
雪による一時中断があった。大学林地では、調査開始の初期は水路や人
工池に多数の産卵が見られたが、最多 359 卵塊(1996 年)から減少し
て 2004 年にはひとつの水たまりで 12 卵塊の産卵がある程度となった。
これは人工水路、人工池での生育が困難であったことが主な要因と考え
られる。
中ノ沢では、1995∼1997 年と 2002 年については産卵数のみの調査と
なり、繁殖経過はそれ以外の 6 年のデータである。初産日は 4 月 6 日
から 4 月 17 日、終産日は 4 月 26 日から 5 月 4 日で変化した。産卵
期間は 11∼21 日間となった。中ノ沢は、特に人為等の影響は見られな
かったが、最多 295 卵塊(1995 年)から減少傾向にあり、2004 年は 56
卵塊の産卵が見られただけとなった。
エゾアカガエルは、昼間繁殖と夜間繁殖を行う。大学林地では初期の年
度は昼間繁殖が主であったが、その後夜間繁殖のみになった。中ノ沢で
は、調査期間を通して昼間繁殖が主であり、その年の繁殖時期後期にな
ると夜間繁殖が見られるようになる。繁殖時期は水温の上昇とともに開
始する傾向が見られるが、夜間繁殖である大学林地の繁殖開始時期より
も昼間繁殖である中ノ沢の繁殖時期のほうが水温がやや低い。これは日
照のもとで繁殖活動を活発に行う昼間の行動と関係すると考えられる。
本研究では、閉鎖花・開放花に由来する二型痩果を付ける多年草の風散布
植物センボンヤリ(キク科;Leibnitzia anandria (L.) Turcz.)を対象に、植
物の繁殖システムと種子散布様式における、閉鎖花/開放花に由来する痩
果の二型の役割を明らかにすることを目的とし、センボンヤリの種子散
布における Near and far dispersal model の妥当性を検討することで、集
団の維持に閉鎖花由来種子と開放花由来種子がどのような条件でどの程
度貢献しているかを調査した。六甲山および金剛山の各 3 集団を対象に
行った。痩果の二型性を示すために痩果間の形態差の定量化と散布能力
の比較、二型痩果の集団の遺伝構造に対する影響を明らかにするために
AFLP 解析を行った。
痩果の散布に関わる形態である冠毛長や冠毛の外径を調べた結果、開
放花由来痩果よりも閉鎖花由来痩果のほうが長かった。落下速度実験お
よび野外での痩果散布実験の結果、閉鎖花由来痩果のほうが開放花由来
痩果よりも散布距離が長いことがわかった。また、集団内の遺伝構造は
見られなかった。これは痩果が広範囲に散布されているためだと考えら
れた。これらの結果からセンボンヤリは Near and far dispersal model と
まったく逆の現象を示していた。
センボンヤリにおいて、自殖個体を遠くに散布し他殖個体を近くに散
布することの意義として、兄弟間競争の回避が考えられた。
P1-117
12:30-14:30
ヨツボシモンシデムシの繁殖における雄の役割
◦
12:30-14:30
1
1
P1-116
8 月 26 日 (木) C 会場
12:30-14:30
雌雄同株から雌雄異株への進化条件
中山 新一朗1, ◦ 舘野 正樹1
岸田 竜1
1
1
佐賀大学 農学部
東京大学大学院
亜社会性昆虫のモンシデムシ類は両親で子の世話をする。しかし、雄の子
の世話の意義については十分解明されていない。本研究の材料としたヨツボ
シモンシデムシでは、資源量が最適な場合は雌雄とも子の世話をする。一方
資源量が少ない場合、資源処理は雌雄共同で行うが、その後の給餌は雌が単
独で行うことがある。
雌が単独で給餌を行う理由として以下の 4 つの仮説が考えられる。
(1) 資源量が少ない場合、雄の摂食行動は幼虫の餌不足をもたらす危険がある
ため、雌が雄を巣から追い出す。
(2) 雄の摂食行動が幼虫の餌不足をもたらさないとしても、資源処理行動をあ
まり行わない雄を雌が巣から追い出す。
(3) 雌の産卵数が少ない場合、投資に対する利益が小さいため、雄は給餌とい
う投資を放棄し、巣から去る。
(4) 投資に対する利益とは無関係に、資源量が少なく、幼虫数が少ない場合、
雌単独給餌だけで幼虫の高い生存率が確保できるため、雄は給餌せずに巣か
ら去る。
そこで、本研究では資源量が最適な条件下(資源量25g区)と不足する
条件下(資源量10g区)で資源処理行動を測定し、仮説を検証した。雄の
摂食量には資源量 10 g区の雌単独給餌、雌雄共同給餌および 25 g区の雌雄
共同給餌の間で有意差はみられなかった。したがって仮説 (1) は棄却された。
資源量 10g 区では、雄の資源処理時間が雌単独給餌の方が雌雄共同給餌の場
合より短かったが、雌の雄への攻撃頻度は雌単独給餌と雌雄共同給餌の間で
有意差はみられなかった。また雄が巣に留まって給餌を行うか否かは、雄の
意志決定(decision making)によることが判明した。したがって仮説 (2) は棄
却された。資源量 10g 区では、産卵数と幼虫の生存率には雌雄共同給餌と雌
単独給餌の間で有意差はみられず、仮説 (3) は棄却されたが、仮説 (4) の可
能性が示唆された。
種子植物の 7 割以上の種は雄機能(花粉 etc.)と雌機能(胚珠 etc.)を
あわせ持つ両性個体であるが、雄個体・雌個体に分かれている雌雄異株
や、雌個体と両性個体が共存する雌性両全異株、雄個体と両性個体が共
存する雄性両全異株など、その繁殖様式はさまざまである。これには古
くから多くの研究者が興味をもってきたが、その進化条件や過程につい
ての統合的な理解は得られていない。これら繁殖様式の違いは雄機能・
雌機能への資源分配様式の違いとみることができ、雄機能及び雌機能を
通じて得られる適応度が投資量に対してそれぞれどのように変化するか
によって資源の分配比が決定すると考えられている。この仮説 に基づい
てさまざまな考察がなされているが、現在までの研究は定性的なものに
とどまっている。これは雌機能、または雄機能を通じて得られる適応度
を計測するための手法が確立されておらず、定量的な議論をすることが
非常に困難なためである。私は、定量的な議論が可能なモデルを考案し、
それに基づいた考察を行った。このモデルではランダムに交配がおこる
ことと、柱頭に付着した花粉同士が胚珠をめぐって確率的に競争するこ
とを仮定している。被子植物においては、数々の繁殖様式は両性から進
化したと考えられているので、はじめに両性個体であるという条件のも
とでESSを求めてみた。すると、ESSに達している両性個体集団に
は他のいかなる繁殖様式をとる個体も侵入し得ないことが示された。こ
れにより、両性以外の繁殖様式をとる個体が侵入するためには、環境の
変動が不可欠であることが示唆された。
— 140—
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-118
P1-119
12:30-14:30
雑種タンポポは親よりも早く成長するか?–乾燥土壌耐性と資源分配の
違い–
◦
今 博計1, 野田 隆史2, 寺澤 和彦1, 八坂 通泰1, 小山 浩正3
1
北海道立林業試験場, 2北海道大学大学院水産科学研究科, 3山形大学農学部
1
東京大学大学院広域システム科学, 2農業環境技術研究所, 3新潟大学教育人間科学部
マスティングにおける受粉効率と散布前の捕食者飽食を検証するために、北海
道南西部の 5 つのブナ林における種子生産量(1990-2002 年)のデータ解析を
行った。ある年の充実種子率は、
「開花量」→「受粉率」、
「被食回避率」という
関係と「開花比(当年の開花量/前年の開花量)」→「被食回避率」という2つ
関係によって導かれる、という仮説を立て、パス解析を行った。その結果、ブ
ナの充実種子率は受粉効率と捕食者飽食の両方を含んだモデルによってもっと
もよく説明された。それに対して、受粉効率と捕食者飽食のどちらかだけのモ
デルでは充実種子率は説明できなかった。
次に、種子生産の変動が受粉効率と捕食者飽食を通じて、繁殖成功にどのよ
うに影響しているかを調べるために、Kelly&Sullivan(1997) によって開発され
たシュミレーションモデルを使った。種子生産の変動係数(CV)の増加による
捕食者飽食の変化率は、受粉効率の変化よりも大きかった。受粉効率の利益は
わずかな増加にとどまったが、一方、捕食者飽食の利益は CV0.8 を境に急激
に増加し、現実の CV 値(1.0)で頭打ちになった。その結果、充実種子率は
CV0 では 6 %であったが CV1.0 では 41 %へと急激な増加を示した。した
がって、ブナは捕食を減少させるために最適な種子生産の変動をとっていると
思われた。加えて、CV1.0 における相対的な利益は、受粉効率で 10 %、捕食
者飽食で 90 %と大きく異なっていた。このことは、ブナの CV が種子捕食者
の自然選択圧によって決まっていることを示していた。
2倍体在来種とセイヨウタンポポとの交雑から生じる雑種タンポポは、遺伝マー
カーにより4倍体雑種と3倍体雑種、雄核単為生殖雑種の3タイプに分類が可
能であり(2000 年芝池ら)、さらに分布調査からセイヨウタンポポよりも雑種
(特に 4 倍体雑種)の頻度が高かった。このような頻度の差が生じる原因のひ
とつとして、生活史初期の解析から種子発芽特性や実生期の高温耐性などの違
いが示唆された(2003 年保谷ら)。雑種頻度が増加するメカニズムを生活史の
各段階ごとに比較することを目的として、本研究では実生期以降に着目し、幼
植物体期の乾燥に対する耐性、発芽後約1年間の植物体の乾燥重量などに基づ
く成長量の比較を行った。
本葉が2から3枚展開した幼植物体を用いて、3段階の土壌水分条件下で生
残率と個体の乾燥重量を測定した。その結果、いずれの条件下でも生残率に差
はなかった。個体の乾燥重量については、すべての条件下で4倍体雑種が他の
タイプに比べて重く、本葉展開後の成長量が大きいことが確認された。
発芽後1年間の約1ヶ月ごとの成長量を乾燥重量などに基づいて比較した結
果、(1) 根際直径は、どのタイプでも月ごとに大きくなった。花期以降を比較す
ると、(2) ロゼットサイズと葉数は、在来種以外は増加する傾向があり、また、
(3) 地上部の成長は4倍体雑種と雄核単為生殖雑種で大きく、地下部は在来種で
大きくなる傾向があり、在来種とそれ以外のタイプでは、地上部と地下部の比
率が異なっていた。
以上のことから、4倍体雑種はセイヨウタンポポに比べて、より乾燥した環
境下でも本葉展開後の成長量が大きくなり、また花期以降も地上部が減少しな
いことから、光合成産物が夏の間にも蓄積される可能性がある。これらの特性
により、裸地などの都市的な環境下で4倍体雑種がセイヨウタンポポよりも頻
度が高くなる可能性が示唆された。また花期以降の地上部・地下部の比率の違
いと自生地との関係についても考察を行う。
P1-120
P1-121
12:30-14:30
マレーシア半島部における熱帯雨林構成樹種の種子・落葉試料を用い
た個体レベルでのフェノロジー解析
◦
12:30-14:30
ブナのマスティングはなぜおこるのか–受粉効率仮説と捕食者飽食仮説
の検証–
◦
保谷 彰彦1, 芝池 博幸2, 森田 龍義3, 伊藤 元己1
P1-118
8 月 26 日 (木) C 会場
前田 桂子1, 木村 勝彦1, 佐々木 真奈美2, 奥田 敏統3, 新山 馨4, Ripin Azizi5, Kassim Abd.
Rahman5
12:30-14:30
谷戸環境におけるトウキョウダルマガエルの成長とフェノロジーにつ
いて
◦
戸金 大1, 倉本 宣2, 福山 欣司3
1
明治大学大学院農学研究科, 2明治大学農学部, 3慶応大学生物学教室
1
福島大学大学院教育学研究科, 2福島市, 3国立環境研究所, 4森林総合研究所, 5FRIM
東南アジア島嶼部の熱帯雨林で起こる現象として、数年に一度の周期で多く
の種と個体が同調して結実する”一斉開花現象”が知られており、一月に起こる
低温が一斉開花を引き起こす要因として現在最も有力であると考えられている。
では、このような明確なトリガーの無い非結実年において植物はどのようなリ
ズムを持って活動し、一斉開花年まで推移しているのだろうか。
そこで本研究では、リタートラップを用いて捕らえた落下種子・落葉を用い、
一斉開花年を含めた個体レベルでの落葉と結実フェノロジーを調査し、同一種
内における個体間のフェノロジーの同調性を確認することを目的とした。
調査地はマレーシア半島部にあるセマンコック保護林とパソ保護林である。
試料は環境庁の地球環境総合推進費の熱帯林プロジェクトの一部として両調査
地に設定された 2ha プロットに設置されたリタートラップから 1992-1997 年
に回収された葉・種子試料を用いた。解析に用いた種はパソ 20 種、セマンコッ
ク 10 種であり、それぞれの落葉量は総落下葉量の 38.6%、21.4%を占めてい
る。これらの種は調査期間内にリタートラップで種子が捕らえられた種を中心
に選択した。
個体間の同調性を解析するために、母樹からリタートラップまでの距離とト
ラップが捕らえた落葉量から個体ごとの葉の落下範囲を推定した。そこから個
体の落葉量の時間的変動を求め、結実個体間の同調性と非結実個体と結実個体
での同調性に違いがあるのか、または非結実年から結実年にかけて個体間の同
調性がどう変化していくのか等を解析していく。
関東地方においてはトウキョウダルマガエル(Rana porosa porosa)はその分
布域や個体数が徐々に減少してきているカエルであるといわれている。しかし、
本種の保全生態学的なデータは不足しているため、基礎的なデータの収集が必
要とされている。
本研究では東京都町田市にある2つの谷戸(神明谷戸、五反田谷戸)を調査地
とし、トウキョウダルマガエル個体群における成長およびフェノロジー(生物
季節)を明らかにすることを目的とした。
定期調査では、原則として毎週フィールドを調査し、ルートセンサス後、発見
した個体全てを捕獲した。捕獲した個体の体長と体重を測定し、年齢査定を行
うために左後肢の指1本を切り取り研究室へ持ち帰った。さらに再捕獲認識を
するための写真(上、横向き)を撮った。
その結果、稲の耕作期とほぼ一致する4月中旬から 10 月下旬にかけてが本種の
活動期であり、残りの期間は冬眠する可能性が高いと考えられた。また、成熟
個体と未成熟個体とで出現時期にずれがあることが推測された。すなわち、成
熟個体は未成熟個体よりも春先の出現が遅い傾向を示すにも関わらず、秋の早
い段階で調査地から姿を消してしまった。一方、体長の測定結果から、この個
体群での年間を通した平均体長は、オスで 57.5mm(SD=6.75)、メス 59.7mm
(SD=9.81)であった。また、月別の体長ヒストグラムの分析結果から、冬眠
後の 1 齢及び当歳個体はいずれも5 mm /月程度成長していると考えられた。
講演ではこれらの結果から本種の谷戸田におけるフェノロジーと成長について
考察する。
— 141—
P1-122
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-122
P1-123
12:30-14:30
ヨツモンマメゾウムシにおける幼虫間競争と産卵分布の関係
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
タチスズシロソウの低温処理による開花反応性の集団間変異
◦
石田 健太郎1, 徳永 幸彦1
神戸大院
筑波大学大学院生命環境科学研究科共存生物科学専攻
ヨツモンマメゾウムシは世界中に広く分布する貯穀豆の害虫で、幼虫期に豆
を寄主として利用している。幼虫間競争を引き起こす幼虫の干渉能力の強さ
と、産卵分布の均一度には地理的変異が報告されており (Messina and Mitchell
1989; Takano et al. 2001)、それぞれ干渉能力が強いものから弱いものまで連
続的に存在している。両形質の関係を考えたとき、幼虫の生存率は幼虫密度
に大きく影響を受けるので、雌親が卵をどのように分布させるかは、幼虫間
の競争を避ける、あるいは競争の影響を弱めるという点で重要である。幼虫
の干渉能力が強い場合には、産卵分布の均一度が低いと羽化成虫数が減る。
一方、干渉能力が弱い場合には均一度に関わらず比較的多くの成虫が羽化で
きる。これらのことから、次の仮説が導かれる。幼虫の干渉能力が強いと、
産卵分布を均一にするような強い選択圧がかかると考えられる。反対に幼虫
の干渉能力が弱いと、産卵分布の均一度への選択圧も弱く、他の選択圧や遺
伝的浮動の効果が相対的に強くなり、産卵分布の均一度に関する形質は動き
やすくなると考えられる。以上の仮説から、幼虫の干渉能力が強く、産卵分
布の均一度が低い地理的系統はいないと予測される。
幼虫の干渉能力の強さと、産卵分布の均一度を定量的に測定したところ、両
形質には特徴的な関係がみられた。幼虫の干渉能力が強い系統では、産卵分
布の均一度が高く、干渉能力が弱い系統では、均一度はばらつくという傾向
を示した。この結果は仮説を支持しており、強い幼虫の干渉能力により、高
い産卵分布の均一度が維持されていると考えられる。さらに産卵数や体サイ
ズなどの適応度に直接関わる形質と産卵分布、競争様式の関係について議論
する。
シロイヌナズナ属のタチスズシロソウは西日本の湖岸・海岸の砂地に集団を
形成することが知られている。この植物は、形態的類似性と分布パターンか
ら、山地に生育する多年生のミヤマハタザオより派生的に進化してきたと推
察される。しかし、その生育地では、夏期の地温が植物体の成長/生存が不
可能なほど高くなるため、一年生の生活史を示すと予想した。本研究では、
フェノロジー調査によって、タチスズシロソウ集団のうちほとんどの個体が
一年草としての生活史を示すことを明らかにするとともに、発芽と開花結実
の時期を特定した。個体の死亡が実生、小型のロゼットである秋の時期にお
こり、越冬中は少なかったことから定着時の生存が重要であることが分かっ
た。一年生なら種子繁殖が確実に行われなければならないため、繁殖様式に
ついて実験的に調べた結果、自家和合性であることが明らかになった。集団
によっては小型昆虫による頻繁な訪花が観察されたが、訪花の少ない集団で
も自動自家受粉によって種子繁殖が保証されていることを明らかにした。ア
ブラナ科の開花タイミングは日長と冬季の低温感受により支配される。一年
草において、繁殖成長への移行タイミングは繁殖成功度に直接影響を与える
ため、集団間で適応的分化が見られる可能性が高い。そこで複数集団からの
種子を用いて栽培実験を行った。その結果、各集団とも低温処理により開花
が早まったが、琵琶湖北側 2 集団と琵琶湖南側と伊勢湾岸集団とで処理後
120 日経過しても開花に至らない個体の割合が異なることが分かった。こう
いった集団分化の要因を特定するのが今後の課題である。
P1-125
12:30-14:30
雪田植物チングルマにおいて、雪解け時期の違いが個体サイズに依存
した繁殖への資源分配に与える影響
◦
杉阪 次郎*1, 工藤 洋1
1
1
P1-124
12:30-14:30
辻沢 央1, 酒井 聡樹1
12:30-14:30
寄主の活性に着目した寄生蜂の性比調節に関する研究
◦
中村 智1, 徳永 幸彦1
1
筑波大学生命環境科学研究科生命共存科学専攻
1
東北大学・院・生命科学
消雪時期の違いに依存した、繁殖への資源分配戦略の個体サイズ依存性の違
いを明らかにするために、雪田に生育するチングルマ(Sieversia pentapetala)
を用いて、消雪時期が異なるサイトごとに、繁殖器官への資源分配量と個体
サイズ(個体が持つ資源量)との相関関係を調べた。
花への資源分配量のサイズ依存性は、消雪時期が早いサイトではみられな
かったが、遅いサイトではみられた。この傾向は調査年度によらず一定であっ
た。花の各器官への資源分配量を個別にみると、雄蕊群への資源分配量のサ
イズ依存性は、消雪時期が早いサイトではみられなかったが、遅いサイトで
はみられた。この傾向は調査年度によらず一定であった。雄蕊群への資源分
配戦略は、消雪時期の違いによって生じるポリネーター環境の変化の影響を
受けていると考えられる。その一方で、雌蕊群の資源分配量のサイズ依存性
には、年変動がみられた。雌蕊群への資源投資戦略は、年によって大きく変
動するなんらかの環境要因の影響を受けていることを示している。花弁への
資源分配量は、すべてのサイトにおいて個体サイズによらず一定であった。
繁殖成功に関しては、種子の大きさはすべてのサイトで、個体サイズによら
ず一定であった。種子の数のサイズ依存性は、年度によって異なるパターン
を示した。
以上の結果より、消雪時期の違いによって生じる繁殖成功の違いは、繁殖
への資源分配戦略の個体サイズ依存性のパターンに影響を与えていないこと
が示唆される。
寄生蜂の性決定様式は半数倍数性であり、雌は腹部に精子をためておく
ことができる貯精嚢をもっている。そのため、寄生蜂の雌は貯精嚢にた
めてある精子を卵に受精させるかどうかで性比を調節することができる。
また、寄主の体重とその寄主から出てきた寄生蜂の体重との間には正の
相関が見られる。寄生蜂は体重を重くすることで繁殖成功度を高くする
ことができ、さらに雄に比べて雌の方が体重を重くすることで得られる
繁殖成功度は高くなる。したがって、寄生蜂がより体重の重い寄主に雌
を産卵するよう性比を調節できることには大きな意義がある。実際に寄
主の体重に伴う寄生蜂の性比調節は広く知られている。
本研究室で飼育している寄生蜂はマメゾウムシを寄主としている。この
寄生蜂は豆の中にいるマメゾウムシの幼虫を寄生の対象としている。こ
のような場合、寄生蜂が寄主の体重を直接感知して性比を調節すること
が困難であると考えられる。そこで、この寄生蜂が豆の外部から寄主の
体重を推定できるような情報が必要になってくる。
本研究では寄主の活性(寄主が豆を摂食するときに生じる音に頻度)に
着目し、日数に伴う寄主幼虫の体重の変化と活性の変化を比較した。
結果から、寄主の体重、活性はともに大きく増加する期間を示し、また
その期間(12 日目から 13 日目)は一致していることがわかった。この
ことから、活性は寄生蜂が寄主幼虫の体重を知るための情報として可能
性があると考えられる。また、寄主の活性において、12 日目と 13 日目
の幼虫間にのみ変化が見られたことから、寄生蜂はこの変化を閾値とし
て利用し、性比を変換しているのではないかということも考えられる。
— 142—
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-126c
12:30-14:30
アイナメ属 3 種の繁殖場所選択と交雑との関係
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
P1-127c
◦
北海道大学大学院水産科学研究科, 2北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
北海道南部は、温帯性のクジメ Hexagrammos agrammus とアイナメ H.
otakii、および亜寒帯性種のスジアイナメ H. octogrammus が同所的に生息
する世界でも珍しい海域である。クジメとスジアイナメはともに浅場の藻
場で繁殖するため、両種の分布が重なる海域ではしばしば雑種が報告され
てきた。これに対してアイナメはクジメやスジアイナメよりも深場に生息
するため、繁殖場所が隔離し交雑は回避されていると考えられてきた。し
かし近年、北海道南部太平洋岸の臼尻沿岸でアイナメと他の 2 種との交雑
が確認された。このことはこれまでアイナメと他の 2 種との間で働いてい
ると考えられていた繁殖場所の違いによる交配前隔離機構が、この海域で
は十分に機能していないことを示している。そこで本研究では、同所的生
息海域におけるアイナメ属 3 種の繁殖場所の分布に関する基礎的知見を得
ることを目的として、臼尻沿岸における 3 種の繁殖場所の分布と産卵基質
を調査した。
その結果、クジメとスジアイナメは丈が長く葉状部が枝状を呈し岩上に密
生する小型藻類を、アイナメは丈が短く凹凸があり平面的に広がるコケム
シ類や網などを産卵基質として利用していた。すなわちアイナメは他の 2
種と産卵基質の選好性が異なることが明らかとなった。3 種のなわばり形
成場所は産卵基質の分布に対応しており、クジメやスジアイナメは小型藻
類が繁茂する浅場の岩棚部分で、アイナメはコケムシ類の付着する深場の
魚礁のほか、漁港外縁にある消波ブロック帯の海底に沈む根固め用の石を
入れた網袋の結び目などで見られた。また消波ブロック帯は急峻な斜面を
形成するため上部には小型藻類が繁茂し、クジメやスジアイナメのなわば
りも見られた。このように消波ブロック帯の複雑な地形が性質の異なる産
卵基質が混在する環境を作り出し、アイナメ属の交配前隔離機構を撹乱し
ている可能性が示唆された。
12:30-14:30
エゾシカにおける対照的な 2 個体群の餌資源比較
上野 真由美1, 高橋 裕史3, 西村 千穂1, 梶 光一3, 齊藤 隆2
1
北海道大学大学院農学研究科, 2北海道大学北方生物圏フィールド科学センター, 3北海道環境科学研
究センター
本研究は、糞の窒素(糞中窒素)がエゾシカの餌の質の指標として有効な
のかについて、異なる個体群動態を示す 2 個体群を対象に検討した。まず、
個体群の栄養状態の評価として体サイズを比較した。次に、(1)食性(2)
餌資源(第 1 胃内容物)の窒素(3)糞中窒素(4)胃内容物の窒素と糞中
窒素の関係を分析し、個体群間比較を行った。対象個体群は、個体数が増
加途上にある西興部村と、個体数がすでに飽和状態に達している洞爺湖中
島である。結果、西興部は中島よりも体サイズが有意に大きかった。次に
(2)胃
(1)西興部では牧草に依存し、洞爺湖中島では落葉に依存していた。
内容物において、西興部は中島よりも高い窒素値を示した。また、個体群
間の窒素値の差は春に大きく、夏と秋は春よりも差が小さかった。(3)糞
中窒素の結果は、胃内容物の結果と必ずしも一致せず、春は胃内容物の窒
素値の優劣と同じであったが、夏は胃内容物の窒素値と逆の優劣結果を示
した。(4)共分散分析より、胃内容物の窒素に対する糞中窒素の値は、中
島が西興部よりも相対的に高いことが明らかになった。つまり同じ窒素値
の餌を食べた際に、中島は西興部よりも高い窒素値の糞を出すことが示さ
れた。春は西興部の餌の窒素値は中島に比べてはるかに高いため、糞中窒
素も付随して高く、比較の優劣は変わらなかったが、夏は個体群間で餌の
窒素値に有意な差がありながらもその差が縮まるため、個体群ごとで胃内
容物の窒素と糞中窒素の関係性が異なることにより、中島が西興部よりも
高い糞中窒素値を示したと考えられる。胃内容物の窒素と糞中窒素の関係
は消化率を反映すると考えられることから、西興部は中島に比べて消化率
の高い餌資源を利用していると示唆される。
以上のことより、糞中窒素は、個体群間で餌の質を評価する上では、指標
として適切ではないことが明らかになった。
佐藤 琢1, 五嶋 聖治1
1
1
◦
12:30-14:30
メスは精子制限のリスクに反応した配偶者選択をできるのか?
木村 幹子1, 宗原 弘幸2
P1-128c
P1-126c
北大院・水産
オス間競争において優位なオスは質的に優れており、メスはそのようなオ
スを配偶者として好むと考えられる。多くの研究では、そのような優位オス
と交尾をすることにより、メスは適応度を上げると想定されている。しかし、
優位オスとの交尾が必ずしもメスに利益をもたらすわけではない。多くの交
尾機会を得ることができる優位オスほど、保有精子量を枯渇させていること
がある。そのため、優位オスと交尾をしたメスは不十分な精子量しか受け取
ることができず、精子制限に陥る可能性がある。メスにとって精子制限は避
けるべきものである。しかし、メスの精子制限のリスクに対する反応の研究
はほとんどなく、メスが精子制限のリスクに反応するメカニズムについては
ほとんどわかっていない。
そこで本研究では、イボトゲガニ Hapalogaster dentata を用いて、メスの
配偶者選好性パターンとそのメカニズム、また精子制限のリスクに反応した
配偶者選択の有無について調べた。まず、体サイズの大きなオス、小さなオ
スを同時にメスに与え、メスはどちらのオスを選ぶか? また、メスはどの
ような cue によってオスを選択しているのか? について調べた。次に、交
尾を重ね、交尾あたりの射精量の低下したオスと、まだ交尾をしておらず十
分な精子を持っているオスを同時にメスに与え、メスがどちらのオスを選ぶ
かを調べることにより、メスが精子制限のリスクに反応した配偶者選択を示
すかどうかについて調べた。その結果、メスは体サイズの大きなオスを好み、
そのメカニズムはオス由来の化学物質によることが示された。そして、メス
は精子の枯渇したオスを避け、十分に精子を持っているオスを選んだ。以上
の結果から、メスはオス由来の化学物質を基に精子制限のリスクを回避でき
ることが示された。これはこの種において、メスにとって精子制限は重要な
圧力のひとつであることを示していると考えられる。
P1-129c
12:30-14:30
亜熱帯性昆虫オオタバコガの温帯への適応と休眠特性
◦
清水 健1, 藤崎 憲治1
1
京大院・農・昆虫生態
亜熱帯性昆虫オオタバコガの温帯への適応と休眠特性
○清水 健・藤崎憲治(京大院・農・昆虫生態)
近年日本の農業現場で問題となっているヤガ科広食性害虫のオオタバコ
ガ Helicoverpa armigera は、世界各地の被害分布から亜熱帯性の種である
と一般に認識されていた。その休眠特性に関して温帯性近縁種タバコガ H.
assulta との間に顕著な相違が見られたことからも本種は温帯日本の気候に
は十分に適応していないものと考えられてきた。温帯や亜熱帯で採集され
るオオタバコガは、タバコガと同様に休眠機構を備えてはいるのであるが、
たとえ短日であっても高温条件下では休眠が誘導されず、発育期間中の長
期にわたる低温刺激が休眠誘導の必須条件であった。一方で、本種が温帯
野外で休眠を誘導する秋季に訪れる急速な気温低下は、この時期に幼虫が
休眠ステージ(蛹)までの発育を完了する際に致命的であるのだ。
しかし温帯でも、初秋の極めて短い時期には本種の休眠誘導に適した穏や
かな低温が短日条件に伴ってタイミング良く訪れる。運良くこの時期に休
眠に入った個体は越冬し翌春まで生存することが確認された。さらに、こ
の時期を予測して休眠を誘導するために有効であると考えられる短日化と
低温化を感受する機構において、亜熱帯個体群と温帯個体群との間に明確
な変異が確認された。温帯個体群では、秋の温度低下が比較的緩やかであ
ると考えられる亜熱帯個体群よりも、変温変日長シグナルにより強く反応
したのである。
この変異は、従来まで地理的傾向の指標とされてきた臨界日長における
個体群間変異よりも顕著であった。この結果は本種の地域適応とは無関係
なのだろうか。亜熱帯性害虫が温帯へ分布拡大する可能性と、地球温暖化
がそれに及ぼす影響について考察する。
— 143—
P1-130c
P1-130c
ポスター発表: 繁殖・生活史
8 月 26 日 (木) C 会場
P1-131c
12:30-14:30
絶滅危惧植物ユキモチソウ(Arisaema sikokianum,サトイモ科)にお
ける性表現と個体サイズ,成長様式および個葉光合成との関係:圃
場での被陰実験から
コバネナガカカメムシの個体群間でみられる生活史形質の変異につい
て –ヨシ・ツルヨシ群落における生息環境の違いに関連して
◦
浦川 裕香1, ◦ 小林 剛1, 深井 誠一1
京大院・農・昆虫生態
香川大学農学部
植物は,光合成で獲得したエネルギーを成長・繁殖・貯蔵のいずれに振り
分けるか,常にジレンマに遭遇している。林床に生育する草本は,弱光下で
強いられる低生産性の下でも成長を維持し,なおかつ繁殖を行わなければな
らない。ユキモチソウ(Arisaema sikokianum Franch. et Savat.,サトイモ科)
は四国と本州の一部にのみ分布する夏緑性の多年生草本で,園芸採取や里山
の管理放棄などにより絶滅危惧種となっている。本種は体サイズの増加に応
じて可変的に無花 二重左右矢印 雄 二重左右矢印 雌と性表現を変える「時間
的な雌雄異株植物」であるが,同一の体サイズであっても異なる性表現を示
すことがあり,この定義は必ずしも明確ではない。しかし,本種の成長と性
表現との相互関係と,それらに対する光強度の影響に関する生理生態学的な
知見は極めて少ない。本研究では,林床を模した異なる光条件下(相対光量
子密度 28%,14%,4%)でユキモチソウを栽培し,以下の点を検討した。光
強度の変化にともなう,1)地上部形態・光合成機能の可塑性と個体サイズ・
性表現との相互関係,2)貯蔵器官である球茎の成長速度を指標とした前シー
ズンの生産性と今シーズンの性表現との関係。
光強度の減少にともない,本種の葉面積成長は長期化し,葉柄が長くなる
傾向にあった。遮光による成長抑制は有花個体よりも無花個体で顕著だった
が,成長速度は光強度の影響を受けにくかった。雌個体では,体サイズが大
きいほど繁殖器官に多くのバイオマスを投資していた。一方,雄個体では繁
殖器官への投資を抑制して貯蔵器官への分配を維持しており,次年への成長
と開花・結実に備えていると考えられた。小葉の光ム光合成特性は遮光の影
響をほとんど受けなかった。一方,日中の小葉の光化学系 II の光利用効率
(Fv/Fm)は相対光量子密度 14%から 28%の下で有意に低下していた。
コバネナガカメムシは、イネ科のヨシとツルヨシを主な寄主植物とする
吸汁性昆虫である。同一個体群中に飛翔可能な長翅型と不可能な短翅型
を出現させる翅二型性を示す。またヨシ群落は湖沼環境で見られるのに対
し、ツルヨシ群落は河川環境で見られる。河川環境下のツルヨシ個体群
は頻繁に洪水にさらされるのに対して、ヨシ個体群は安定している。そ
して洪水による攪乱が選択圧となり、それらの間で分散型出現頻度がツ
ルヨシ個体群の方で高くなっているのではないかと考えられた。まず室
内飼育によってコバネのツルヨシ個体群、ヨシ個体群由来の孵化幼虫を
育て、それらの間での長翅出現に関する違いがないかをみた。成虫の長
翅率はツルヨシ個体群由来の場合に比較して、ヨシ個体群由来の方で低
く、長翅発現性に関して遺伝的な違いがあることが示唆された。次に野
外調査によりツルヨシ群落、ヨシ群落でみられるコバネの長翅率を調べ
た。しかし、野外で見られた個体群密度が低かったこともあり、一定の
傾向は検出できなかった。
また、コバネの発生消長を両群落において比較した。その結果、ツルヨ
シ個体群では年1化であるのに対して、ヨシ個体群では年2化する年が
あることが分かった。これらのことも含めて、両個体群における生活史
戦略の違いについて考察する。
P1-133c
12:30-14:30
木本植物の生育段階の指標変数としての RGR の有効性
◦
嘉田 修平1, 藤崎 憲治1
1
1
P1-132c
12:30-14:30
12:30-14:30
メダカの脊椎骨数の緯度間変異に与える遺伝と水温の影響について
◦
藤木 大介1, 菊沢 喜八郎1
西田 健志1, 山平 寿智1
1
1
新潟大学大学院自然科学研究科
京都大学大学院農学研究科森林生物学研究室
木本植物の幹の生育段階の指標として相対成長速度 (RGR) の逆数を対
数化した LRR (the logarithmic reciprocal RGR)を使うことを提案する.
最初に我々は,生育段階の指標変数としての必要十分条件を以下のよう
に仮定した.1)変数は個体発生直後にある極値をとり,枯死直前に別
の極値をとる.2)異なる個体間で変数の変動幅に差はない.この条件
に基づき,LRR,齢,サイズの3変数の中で,どの変数がもっとも上記
条件を満たすかを調査した.
林床低木のクロモジ (Lindera umbellata) の自然枯死地上幹を対象に樹幹
解析を行い,幹の寿命,LRR と幹材積量の生存期間を通した変化を明ら
かにした.その結果,以下の点が明らかになった,1)全ての枯死地上
幹において3変数ともにその最小齢において最小値をとり,最終齢に最
大値をとること.2)各変数の変動幅の幹間変異は,LRR で最も小さい
こと.以上より,生育段階の指標変数としての必要十分条件は,3変数
の中で LRR がもっとも満たしていることが明らかになった.
次に,野外に生育する生存地上幹を対象に,その LRR,幹材積,幹齢,
樹冠上の当年生枝の年間加入率と死亡率,繁殖努力(単位材積成長量当
たりの年間花序生産量)を調査した.得られたデータを用いて,当年生
枝の年間加入率と死亡率,繁殖努力をそれぞれ従属変数とし,LRR,幹
材積,齢を独立変数として回帰した.その結果,それぞれの従属変数に
おいて LRR を独立変数として回帰した場合に最も高い決定係数が得ら
れた.このことは,樹木個体レベルにおいて,生育段階に依存して変化
するパラメータは,LRR を用いることでこれまでより高い精度で予測で
きることを示唆していた.
魚類の脊椎骨数は種間あるいは集団間で地理的に変異し,一般に高緯度に生
息する魚ほど脊椎骨が多い傾向にある(= Jordan の法則).しかし,その生
態的・進化的要因は解明されていない.これは,脊椎骨数の緯度間変異に与
える遺伝および発生水温の影響,ならびに両者の相互作用や共分散に関する
知見が少ないことによると考えられる.メダカ Oryzias latipes をモデルシス
テムとして,緯度の異なる野生集団間で脊椎骨数を比較した結果,高緯度集
団ほど脊椎骨が多く,本種に Jordan の法則が適合することが示された.さら
に,この脊椎骨数の緯度間変異は,尾椎骨数ではなく腹椎骨数の変異による
ものであることもわかった.また,共通環境実験の結果,どの水温環境で発
生させても,高緯度集団から得られた稚魚ほど腹椎骨数,ひいては脊椎骨数
が多くなることが示された.これは,腹椎骨数ないし脊椎骨数は遺伝形質で
あり,Jordan の法則は適応的変異であることを示唆している.しかし,腹椎
骨数および脊椎骨数は発生水温により可塑的に変化することも明らかになっ
た:どの集団も低水温で発生した稚魚ほど脊椎骨および腹椎骨が多くなる傾
向にあった.また,集団と発生水温の間に有意な相互作用は存在しなかった.
これらの事実は,緯度という水温環境の勾配に沿って,腹椎骨数あるいは脊
椎骨数に関与する遺伝子型が水温による可塑的変異を押し広げるように偏在
しており(= cogradient variation),遺伝子型と環境の影響が正の共分散関
係にあることを意味している.講演では,個体の腹椎骨数あるいは脊椎骨数
と適応度の関係についても言及し,Jordan の法則が各緯度の気候環境に対す
る適応進化を反映している可能性について検討する.
— 144—
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-134c
P1-135c
12:30-14:30
メダカにおける成長と繁殖のトレードオフ関係とその緯度間変異につ
いて
◦
◦
山平 寿智1, 岡田 昌1
1
新潟大学理学部自然環境科学科
1
新潟大学大学院自然科学研究科
変温動物では一般に,外界の温度が低いほどあらゆる代謝速度が低下
するため,個体の成長と繁殖の速度が遅くなる.緯度に沿った環境の温度
勾配も変温動物の成長と繁殖に同様の影響を及ぼすため,高緯度に生息
する個体ほど年間の成長率および繁殖率が低下すると考えられる.しか
し,成長や繁殖は適応度と密接に関係する形質であるため,高緯度の集
団では,成長・繁殖が被る負の影響を補償すべく適応進化が起こってい
るかもしれない.メダカ IOryzias latipes/I をモデルシステムとして,緯
度の異なる野生集団間で(1)成長の季節的スケジュール,ならびに(2)
個体数の季節消長パターンを比較した.サイズヒストグラムの季節変化
から,高緯度の集団ほど,当歳魚は短期間に一気に成長することがわかっ
た.この成長スケジュールの緯度間変異パターンは,高緯度のメダカほ
どどの水温条件下でも遺伝的に速く成長する能力を有することを示唆し
ている.また,高緯度の集団ほど当歳魚の新規加入期間が短いにもかか
わらず,加入数は著しく多いことがわかった.これは,高緯度の集団で
は短期間に集中して繁殖が行われていることを示している.この繁殖ス
ケジュールの緯度間変異パターンは,高緯度のメダカほどどの水温のも
とでも遺伝的に高い繁殖能力を有することを示唆している.
近年の研究から,高緯度に生息する変温動物は,短い成長期間を補償する適
応進化の結果として,遺伝的に高い成長能力を有することが明らかになって
きた.一方で,低緯度の変温動物が速い成長を進化させないのは,速い成長
に対するトレードオフの存在を示唆している.例えば,成長と繁殖はトレー
ドオフ関係にあり,成長の速い個体は繁殖への投資が小さくなることがこれ
までに幾つかの生物で報告されている.では,高緯度の変温動物は,成長が
速い代わりに繁殖能力において劣っているだろうか?メダカ Oryzias latipes
をモデルシステムとして,緯度の異なる集団間で,実験室の共通環境下にお
ける成長と繁殖のスケジュールを比較した.その結果,高緯度の集団ほど,
どの水温環境の下でも稚魚期(=繁殖開始前)の成長が速い上に一腹あたり
の卵への投資量も大きく,一見,成長と繁殖の能力が正の相関関係にあるよ
うに見えた.しかし,低緯度の集団に比べ,高緯度の集団は繁殖開始サイズ
が大きく,その後の成長が頭打ちになる傾向にあることもわかった.このよ
うな成長および繁殖スケジュールの緯度間変異は,成長と繁殖の間にトレー
ドオフが存在することを示唆している.すなわち,高緯度のメダカは小さい
体サイズでの繁殖を犠牲に繁殖開始前の高い成長パフォーマンスを発揮する
一方,繁殖開始後の成長を犠牲に高い繁殖能力を維持していると考えられる.
しかし,各集団内では,繁殖開始後の成長が速い個体ほど一腹あたりの卵投
資量も大きい傾向にあった.これは,速い成長と高い繁殖能力が,本来は同
時進化し得るということを示唆している.
P1-137c
12:30-14:30
Shorea acuminata の繁殖戦略: 不定期に大量開花/結実することの適応
的意義
◦
12:30-14:30
野生メダカの成長スケジュールおよび個体群動態の緯度間変異
武士 謙一1, 山平 寿智1
P1-136c
P1-134c
8 月 26 日 (木) C 会場
内藤 洋子1, 神崎 護1, 沼田 真也2, 小沼 明弘3, 西村 千4, 太田 誠一1, 津村 義彦5, 奥田
敏統2, Lee Soon Leong4, Norwati Muhammad4
12:30-14:30
オーストラリア産シロアリ Amitermes laurensis における塚形状の多様
性と種内分子系統
◦
小関 真人1, 井鷺 裕司2, Peter Jacklyn3, David Bowman3
1
広島大院・国際協力, 2広島大・総合科学, 3Cherles Darwin Univ.
1
京大 院 農, 2国立環境研, 3農環研, 4マレーシア森林研, 5森林総研
東南アジア低地フタバガキ林では,非定期的に群集レベルで開花/結実が同調
する一斉開花/結実現象が知られている.この特殊な現象を進化させた究極的な
要因として特に,植物とその送粉者や種子捕食者との間の相互作用が注目され
ている.しかし,実際に一斉開花の起きる間隔や規模が異なった場合に,その
相互作用が種子生産に対してどのような影響を及ぼすのかを定量的に扱った研
究はあまりない.
マレーシアのパソ森林保護区では,2001 年 8 月とその約半年後の 2002 年 3
月からそれぞれ数ヶ月にわたって,短い間隔で一斉開花が確認された.前回の
一斉開花から数年の間隔をおいて起きた 2001 年の開花は,開花規模の面では
2002 年に比べて小さく,開花間隔と規模の両面で 2002 年の開花とは性格を異
にしている.本研究では,この 2 回の一斉開花結実期に同調して繁殖を行った,
一斉開花参加型樹種である Shorea acuminata (フタバガキ科) を対象に,花から
種子に至る過程での死亡数(死亡率)と,結実の不成功に伴う資源損失量を繁
殖イベント間で比較することにより,長期間隔で大量開花/結実することが種子
生産を行う上でもたらす適応的意義を,特に植物-動物間相互作用に注目して議
論する.
各繁殖イベントについて S. acuminata の繁殖木約 10 個体を選び、シードト
ラップを用いて花から種子にいたる過程のデモグラフィーを調査した.繁殖木
ごとに開花数,結実数,結実率の推定を行い,合わせて,散布前種子食害率と
それに伴う資源損失量の推定を行った.その結果,いずれの繁殖イベントにお
いても,開花後約 1-2ヶ月の間に開花総数の 90 %以上にあたる種子が落下し,
初期の大量落下が種子生産数を大きく規定することが明らかになった.昆虫お
よび樹上哺乳類の食害によって失われた種子数の合計は,いずれの繁殖イベン
トにおいても全開花数の 2 %程度であった.さらに 2 回の繁殖イベント間で資
源損失量の比較を行い,一斉開花結実現象が示す進化的な意義を考察する.
オーストラリア北部に生息する Amitermes 属のシロアリは、様々な形状の
塚を作っている。その中でも A. laurensis は、種内で、南北に扁平、大きな
円錐状、および小さな円錐状の3つのタイプの塚を作ることが知られおり、
各タイプの塚を作る集団はそれぞれ特定の地域に分布していることが報告さ
れている。
本研究では、ミトコンドリア DNA の COII 領域と 16sRNA 領域、および核
DNA の ITS 領域の塩基配列を利用して、A. laurensis における種内系統と塚
形状の違いの関係、および種内系統とその地理的分布の関係を明らかにした。
2002 年と 2003 年に、オーストラリアの Cape York 半島および Arnhem Land
で採集した 15 集団 179 個体について、上記の解析を行った結果、単一の塚
から複数のハプロタイプが確認される例も少数あったが、多くの場合、単一
の塚から単一のハプロタイプが検出され、それらは 6 つのクレードに分かれ
た。単一のクレードには異なる形状の塚を作る集団が含まれかつ、同じ形状
の塚を作る集団は複数のクレードに分かれたため、塚形状の違いに対応した
単系統性は認められなかった。
COII 領域の塩基配列を利用して、遺伝的距離と地理的距離の相関関係を調べ
た結果、距離による隔離の効果が確認された一方で、地理的距離が小さいに
も関わらず遺伝的に著しく分化している集団も確認された。このことから、
A. laurensis の遺伝構造には、過去の集団間の遺伝的交流が一定でなかったな
ど、地理的距離以外の要因も関連していることが示唆された。
— 145—
P1-138c
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-138c
P1-139c
12:30-14:30
ヒノキ林における細根系の形態と分枝構造
◦
◦
1
京都大学大学院農学研究科
自然生態系の土壌では、水分や養分などの資源は非常に不均一に分布
している。植物は土壌の資源を獲得するため、根系の構造や発達の程度
を順応させて土壌資源の不均一な分布に対応している。根系の構造には、
個々の根の吸収域が重ならないように土壌の中で効率よく根を配置するこ
とが重要であり、これは根系の枝分かれの形と関係している。また、個々
の根の直径や伸長などの形態的特性も土壌資源の獲得効率に強く関わる
と考えられる。
本研究では、樹木の土壌利用様式を根系構造という観点から明らかにす
るため、ヒノキの細根系を材料として、窒素可給性の異なる有機物層と
鉱質土層で細根系の分枝構造を比較した。
京都市近郊の天然生ヒノキ林において、有機物層と鉱質土表層 (0-5cm)
から土壌ブロックを採取し、ヒノキ細根系を分枝構造が壊れないよう丁
寧に採取した。水洗した後、根端から基部に向かって分節毎に次数を割
り振り、切断した。各次数の根について重量、根長、平均直径、平均密
度、根長/根重比 (SRL) を測定した。
採取した細根系の総根長の比較から、鉱質土層に比べ有機物層におい
て細根系のサイズが大きくなることが示された。各次数の根の構成比を
比較すると、有機物層において根端部の割合が高かった。根長あたりの
根端数について有機物層と鉱質土層との間で有意差は認められず、分枝
の頻度に変化は認められなかった。根の平均密度は、根端から基部にか
けてほぼ一定で、土壌層位間にも有意差は認められなかった。平均直径
は基部ほど太くなるが、その増加率は鉱質土層でより大きかった。また、
SRL は全般に有機物層の根で高かった。以上の結果から、ヒノキ細根系
について、土壌の不均一性に対し伸長成長により細根系のサイズを変化
させ、根端部に配置する根の形態を変化させるという土壌利用様式が考
えられた。
城所 碧1, 東 典子2, 東 正剛1
1
北海道大学大学院 地球環境科学研究科, 2北海道大学大学院 先端科学技術共同研究センター
越冬前に交尾が観察されているキオビツヤハナバチ(Ceratina flavipes)
は以前、越冬後にも交尾行動が確認されている。越冬前の交尾率は高く、
未交尾雌が少ないことから、雌の C. flavipes の多数回交尾が行われてい
ると示唆される。観察から、最初の交尾は羽化直後、もしくは越冬前に同
巣内の雄個体と行われていると考えられる。北海道では新成虫の羽化か
ら、新成虫が越冬巣へ分散するまでに数日間、同巣内に成虫の兄弟姉妹が
共存している。この数日間で同じ母蜂から産まれた血縁のある兄弟姉妹
同士による Inbreeding が行われている可能性があり、本研究では DNA
を用いて、Inbreeding の有無を検証する。また、以前より唱えられてい
る、越冬後に交尾での交尾相手も同様に DNA を用いて Inbreeding の有
無を検証する。雌蜂の体細胞と雌蜂の授精嚢内にある精子細胞(交尾相
手の雄細胞)から核 DNA を抽出し、マイクロサテライトマーカーを用
いて検出されたバンドの位置から両検証を行い、本発表では、その結果
を発表する。
河村 耕史1, 武田 博清1
1
京都大学大学院農学研究科森林生態学研究室
ウスノキは落葉性のツツジ科低木である。前年枝の先端に花を形成する。花を
形成しなかった前年枝は枝を伸長させるため、枝の先端を花にするか枝にする
かという構造的なトレードオフがある。花を形成した前年枝(繁殖シュート)
と、枝を形成した前年枝(栄養シュート)を比較対象とし、花形成が樹冠発達
に与える負の影響(繁殖コスト)について調べた。
1)シュートレベルで見た成長に対する繁殖コストは大きな前年枝で高いと考え
られた。前年枝上に形成された花以外の当年枝の数・長さは、繁殖シュートよ
りも栄養シュートで大きく、また、大きな前年枝ほど、両者の差が大きく開い
たためである。大きなシュートほど内的にも外的にも環境条件が良いため、芽
の発達ポテンシャルが高く、したがって、芽を花にすることによって生じる繁
殖コストが高いと考えられる。
2)シュートレベルで見た生存に対する繁殖コストは小さな前年枝で高いと考え
られた。枝の枯死頻度は、栄養シュートよりも繁殖シュートで高く、また、小
さな前年枝ほど、両者の差が大きく開いたためである。小さなシュートほど、
資源が不足しているため、限られた資源を花形成に投資することによって枯死
確率が高まると考えられる。
3)花形成の有無はシュートのサイズに依存して決定されていると考えられた。
樹冠を構成するすべての前年枝を枝長によってサイズクラスに分け、各クラス
に含まれる繁殖シュートの割合を調べた結果による。繁殖が起こる確率は、小
さいシュートではサイズの増加に伴って増加し、中程度のサイズで最大に達し、
大きいシュートでは再び低下していたためである。
4)シュートのサイズに依存的な花形成のパターン(3)は、サイズに依存的な
繁殖コスト(1 と 2)を最小化する意義があると考えられる。芽を花にするか
枝にするかという発達上の制約が、シュートレベルの花形成のパターンを決定
する内的な制約となっていると考えられる。
P1-141c
12:30-14:30
単独性花蜂、キオビツヤハナバチ(Ceratina flavipes)は近親交配を行っ
ているか?
◦
12:30-14:30
ウスノキに見られたシュートレベルの繁殖コスト:花形成における発
達上の制約
藤巻 玲路1, 武田 博清1
P1-140c
8 月 26 日 (木) C 会場
12:30-14:30
暗い林床に生育するベニバナイチヤクソウはなぜ菌根を持つのか?
◦
國司 綾子1, 長谷川 成明2, 橋本 靖3
1
帯広畜産大院 生態系保護, 2北海道大院 地球環境, 3帯広畜産大 生態系保護
ベニバナイチヤクソウ (Pyrola incarnata) は森林の林床に生育する多年生常緑
草本である。その根には、木本植物と相利共生関係をもつとされる外生菌根菌
によって菌根が形成される。しかしながら、暗い林床に生育する植物にとって、
光合成産物を要求される菌根共生が一概に有利であるとは言いがたい。そのた
め、常緑性で林床に生育するイチヤクソウ属の植物がなぜ菌根を形成するのか
は興味深い問題である。そこで本研究では、1) 野外のベニバナイチヤクソウ生
育地において、菌根形成量と菌根菌の多様性を調査した。また、2) カラマツ、
ベニバナイチヤクソウ、菌根菌の三者関係を成立させたポットを作成し、カラ
マツに炭素安定同位体 13 C を与え、ベニバナイチヤクソウに日よけをして、ト
レース実験を行った。さらに、3)rDNA-ITS 領域の PCR-RFLP 解析によってベ
ニバナイチヤクソウとカラマツの菌根の遺伝的同一性を比較した。その結果、
1) 野外では本種の根には多様な菌根菌が定着しており、また、林冠木の葉が展
開し林床が暗くなる夏期に、20 %以上の菌根形成量のピークを示すことが明ら
かとなった。また、2) トレース実験の結果、ベニバナイチヤクソウの地上部と
地下茎から通常よりも高い割合の 13 C が検出された。さらに 3) カラマツとベ
ニバナイチヤクソウの両菌根の ITS-RFLP パターンが一致した。これらから、
ベニバナイチヤクソウはカラマツに菌根を形成する菌根菌と同一の菌によって
菌根を形成し、その菌糸を通じてカラマツの光合成産物を受け取っている可能
性が示された。
— 146—
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-142c
P1-143c
12:30-14:30
樹林-水田複合生態系で生活するノシメトンボの雌における週休5日制
の産卵パターン
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
◦
饗庭 正寛1, 中静 透2
1
京大生態学研究センター, 2総合地球環境学研究所
1
筑波大・環境科学
ノシメトンボは水田で羽化した後に、近接した樹林内のギャップへ移動して定
住し、産卵時のみ水田に飛来する。産卵様式は、連結打空産卵である。雌雄
ともギャップ内ではほとんど静止しており、待ち伏せ戦術による採餌活動を
終日行ない、求愛行動や交尾行動は示さない。調査地のギャップと水田で同
時に標識再捕獲法を行なったところ、林内のギャップには水田の2倍以上の
雌が生息していることがわかった。推定日当たり個体数は、ギャップにおいて
雄1万頭、雌1万8千頭、水田において雄1万頭、雌8千頭であった(2001
年)。ギャップにおける雌の体内の卵成熟過程と水田における実際の産下卵数
は、本種の生活史における林内のギャップという生息場所の利用と密接に関
わっているはずである。そこで、林内のギャップと水田で捕獲した雌の産下卵
数や蔵卵数を調べた。水田において連結態の雌がもっていた成熟卵数は、産
卵行動が開始される9時頃には 500 個近くあったが、同時刻に林内のギャッ
プに静止していた雌では 120 個程度しかもっていなかった。雌は水田におい
て、もっている成熟卵をほぼ産み尽したので、産卵を終えて林内へ戻ったば
かりの雌は成熟卵をほとんどもっていなかった。産卵を終えた雌は、その日
の夜間に、成熟卵を約 130 個つくりだしていた。日中の体内の卵生産を考
慮すると、卵を産み終わった雌は、1日に 200 から 300 個の卵を成熟させ、
蓄積しているといえる。したがって、産卵前の雌がもっていた成熟卵数(約
500 個)まで卵を成熟させるためには、少なくとも2から3日間はギャップ
に留まらねばならず、雌は週に約2回、産卵活動のために水田へ飛来すると
考えられた。すなわち、雌は週休5日はあるといえる。
樹木の更新戦略と稚樹の構造の関係を明らかにするために、マレーシアサラ
ワク州ランビル国立公園において共存するサラノキ属18種の稚樹の構造を
解析した。樹高 0.1-1.5m の個体を対象に、樹冠や幹の形状、物質分配を測定
し、更新戦略と強く関係していると考えられる最大光合成速度、成木の材密
度と比較した。共分散分析の結果、多くの形質でアロメトリー式の切片と傾
きの両方に有意な種間差がみられ、実生・稚樹の構造的特徴は強く成長段階
の影響を受けることがわかった。この結果を受け、2つの成長段階に分けて
主成分分析を行ったところ、5g の実生では、葉への投資が大きい種で幹が太
く樹高が低いという傾向が顕著であった。30g では、個葉面積が小さい種で
枝への投資が大きく、樹冠が幅広く幹が細くなる傾向が強かった。また、両
ステージで葉への投資と根への投資の間のトレードオフがみられ、それぞれ
の乾重量が種間で大きく異なっていた。また物質分配は、樹冠や幹の形状か
ら基本的に独立していることがわかった。主成分スコアと光合成速度、材密
度との順位相関を計算したところ、耐陰性が強いと考えられる種ほど、葉へ
の投資が少なく根への投資が大きい傾向があった。樹冠の形状と耐陰性の間
には相関がみられなかった。
一方で、分子系統樹の発表されている10種を対象に、各形質の Independent
Contrast を計算し、これを対象とした主成分分析を行った。その結果、進化
的には、耐陰性が高くなると物質分配においては、葉への投資が少なく枝へ
の投資が増え、外見的構造においては、葉が小さくなり樹冠体積が大きくな
るとともに、幹が細くなり、樹高が高くなる傾向があることがわかった。こ
れらの結果、耐陰性の強い種間の更新戦略と稚樹の構造の関係は、異なる機
能タイプに属する種を比較した従来の研究結果とは異なる点も多いことが示
唆された。
P1-145c
12:30-14:30
オオバナノエンレイソウ集団の遺伝的時空間構造 :孤立林と連続林の
比較
◦
12:30-14:30
熱帯雨林に共存するサラノキ属 18 種の稚樹における形態的シンドローム
諏佐 晃一1, 渡辺 守1
P1-144c
P1-142c
山岸 洋貴1, 富松 裕2, 大原 雅1
12:30-14:30
エイザンスミレとヒゴスミレの光環境、送粉昆虫に対応した資源分配
◦
遠山 弘法1
1
九州大学理学府生物学専攻生態科学研究室
1
北大・地球環境, 2東京都立大・理
北海道十勝地方では、1880 年代から農耕地や住宅地を造成するための開拓
により、これまで大規模な森林伐採が行われてきた。その結果、現在、防風
林などわずかな森林が孤立林として点在している。このような森林の分断・
孤立化は、伐採された木本種のみならず、その林床に生育する草本植物の生
活にも大きな変化をもたらすものと考えられる。多年生植物集団の遺伝的空
間構造は種子や花粉の散布様式のみならず、生育地の環境の変化や集団の成
立過程などを反映して形成される。したがって、生育地の孤立による様々な
影響は集団の遺伝的空間構造を変化させていると予想される。
オオバナノエンレイソウは北海道に広く分布し、十勝地方でも一般的に見ら
れる林床性多年生草本である。本研究の目的は、十勝地方において孤立林林
床下に生育するオオバナノエンレイソウ集団の遺伝的空間構造を明らかにす
るとともに、生育地の孤立・縮小による集団への影響を遺伝的な側面から連
続林林床下集団と比較し検討するものである。調査プロットは 2002 年に孤
立林(帯広清川 18m × 4m)と大規模連続林(広尾 12m × 4m)に設置し
た。それぞれの集団の遺伝的構造を明らかにするために調査プロットを 2cm
メッシュに区切り、格子点上に存在する個体の位置をすべて記録した。さら
にそれぞれの個体を生育段階別に実生・1 葉・3 葉・開花個体の 4 つに区分
し、これらすべての個体は酵素多型により遺伝子型を特定した。この遺伝情
報から空間的自己相関や遺伝的多様性などを求め生育段階別に比較を行った。
以上の調査から、生育地の孤立・縮小化がオオバナノエンレイソウ集団の遺
伝的構造にもたらす影響について時間的・空間的側面から検討した。
スミレ属の多くは開放花、閉鎖花をつける。このような 2 型的な花による繁
殖システムは、送粉昆虫利用度の季節的変化に対する適応であると考えられ
ている。つまり、送粉昆虫の利用度が高い春先に開放花の他殖による種子生
産を行い、樹木の展葉にともなって光環境が悪化し、送粉昆虫の利用度が低
下する初夏以降に閉鎖花の自殖による種子生産を行うことで、一年を通じ繁
殖成功を最大にしていると考えられている。
このような繁殖システムを持つスミレ属の近縁 2 種間では、生育地の光環
境や送粉昆虫利用度の違いに対応して開放花への投資量が異なる可能性があ
る。つまり明るい環境下に生育し、開放花による他家受粉が期待できる種は
開放花へより多くを投資し、一方で暗い環境下に生育し、送粉昆虫があまり
期待できない種は開放花への投資を抑え、残りの資源を閉鎖花に投資するの
ではないかと考えられる。そこで、本研究では、主に明るい環境に生育する
ヒゴスミレと暗い環境下に生育するエイザンスミレを用いて、種間の光環境
や送粉昆虫に対応した資源分配パターンを検証し、両種の適応的な資源分配
パターンを明らかにする事を目的とした。
この目的にそって、熊本県阿蘇の集団で季節的な光環境、開放花数、閉鎖花
数の変化、生育地の送粉昆虫の種構成、開放花への総投資量を調べた。
種間の光環境と送粉昆虫の違いに対応して、開放花生産期間や開放花への投
資量の違いが観察された。暗い環境下に生育するエイザンスミレは、効果的
な送粉者であるクロマルハナバチへ適応しており、その女王が現れる春先の
短い間に開放花生産を集中して行い、残りの資源を閉鎖花へと分配していた。
一方で、明るい環境下に生育するヒゴスミレは、多くの分類群の送粉昆虫へ
適応しており、開放花生産期間を長くし、開放花へ多くを投資する事で他家
受粉を促していた。
— 147—
P1-146c
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-146c
P1-147c
12:30-14:30
ウルシ属2種 (ヌルデ、ヤマウルシ) における栄養成長・繁殖成長の季
節的パターンと経年的繁殖行動との関わり
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
ネジキ、ナツハゼの枝系内の位置に対応した花芽分布のパターン
◦
松山 周平1, 嵜元 道徳2
京都大学農学研究科
京都大学大学院農学研究科, 2京都大学フィールド科学教育研究センター
森林性樹木における繁殖コストの補償メカニズムを解明する一環として、雌
雄異種性樹木で、シュート上の花序形成位置と花序形成時期の異なるヌルデ
とヤマウルシを対象に、当年生シュート(モジュール)の形態、モジュール
レベルでの栄養・繁殖成長投資パターン、開花・結果過程、個体レベルの直
径成長量、そして経年的な繁殖行動を調べた。
当年生シュートの長さと重さは2種ともに有意な雌雄差が認められなかった。
モジュール当たりの葉重、葉数、葉面積には2種間で違いが認められ、ヌル
デにおいて雌の方がそれぞれ有意に大きくなっていた。花期は2種間で異な
るが、ヤマウルシが開葉とほぼ同時期の春季であり、ヌルデが開葉終了後の
夏季である。花期における花序重は、2種ともに雄の方が有意に大きくなっ
ていた。花序当たり花数は2種ともに雄の方が有意に大きくなっていた。個
花の重さは、ヌルデでは有意な雌雄差が認められなかったのに対して、ヤマ
ウルシでは雄の方が有意に大きくなっていた。モジュール当たりの花序数は、
頂生で1本の花序を形成するヌルデでは雌雄差がなく、腋生のヤマウルシで
は雄の方が有意に大きくなっていた。結果率は、ヌルデが 0.38、ヤマウルシ
が 0.32 であった。またモジュールレベルにおける葉、シュート、繁殖器官へ
の投資割合は、ヌルデで有意な雌雄間差がなかったのに対して、ヤマウルシ
では繁殖器官への投資割合は雌の方が有意に大きくなっていた。一方、個体
当たりの花序形成枝率(花序形成枝数/枝数)の経年変化は、ヌルデでは小さ
くなっていたものの、ヤマウルシでは大きくしかも有意な雌雄差が認められ
る年もあった。また胸高直径測定による個体レベルの栄養成長率はヌルデ、
ヤマウルシともに雌雄差が認められなかった。
講演では、これらの結果をもとに、花序形成の位置と時期の違いが繁殖コス
トの補償レベルの違いをもたらす要因になる可能性とそのメカニズムについ
て考察する。
12:30-14:30
針葉樹型樹形と広葉樹型樹形の光資源獲得様式の違いについて
◦
平野 みお1, 河村 耕史1, 武田 博清1
1
1
P1-148c
12:30-14:30
佐野 智一1, 藤本 征司1
1
静岡大学 農学部
針葉樹、広葉樹ともに、樹形形成には、その経時的発達を樹体を構成する枝
条 (主軸も含む) の総伸長量 (枝条の伸長量の総和) で見ると、時間tの累乗
式 F(t) = L trに従って増加する傾向が認められる (ここで L は年平均樹
高成長量)。しかし、両者の間には相違も認められ、 丸 1 針葉樹の r 値はほ
ぼ 3 と大きいが、増加速度が急速に頭打ち化し、ミッチャーリッヒ型のリ
チャーズ関数に従うようになるのに対して、広葉樹では r 値が平均 2.1 と小
さいが、上層木化するまで増加速度が殆ど低下しない。また、 丸 2 針葉樹
では、葉量が枝条長に比例し、また、個体の齢が増加しても、単位枝条長当
たりの葉量が変化しないのに対して、広葉樹では、短い枝条ほど単位枝条長
当たりの葉量が多く、また、個体の齢の増加に従って平均当年枝長が低下す
るので、結果的に、枝条の単位長さあたり当年葉量が加齢されるに従い増加
していく特性を持つ。従って、 丸 1 、 丸 2 より、 丸 3 針葉樹では、総葉量
も時間のほぼ 3 乗に比例して増加するが、増加速度が急速に頭打ち化し一定
となるのに対し、広葉樹では、r 値が低いため、葉の増加速度も緩やかであ
るが、その速度は一定に保たれ、また、枝条の総伸長量の増加速度 (2.1) よ
りは大きな速度を示すことになる。
今回は、上記のような違いを参考にして、針葉樹型樹形と広葉樹型樹形の個
体レベルでの総光合成量、同化器官及び非同化器官の形成コスト・維持コ
ストの定式化 (時間の関数への置き換え) を試みた。また、Cost-benefit 解析
(Kikuzawa(1996) などを参考) に従い、樹形によって、被陰ストレスの度合い
毎の耐忍期間(積算繰越生産物量がプラスである期間)、最適な L 値、上層
木化率がどう変化してくるのかをパソコンで算定し、2 つの樹形の持つ更新
特性や分布特性上の意味の違いの抽出などを試みたので報告する。
樹木は、芽などの構成単位 (モジュール) が繰り返し生産され、積み重ねられ
ることによって構成されている。芽は栄養枝か繁殖枝、もしくは休眠芽にな
るが、繁殖枝をつけることは栄養成長にとって不利になるといわれており、
繁殖枝が形成されるか否かは栄養成長とのバランスに影響されると考えられ
る。したがって、繁殖枝は無秩序に形成されるのではなく、何らかのパター
ンが見られるはずである。そのパターンを樹木の構成単位であるモジュール
レベルから明らかにすることは、樹木がいつ、どれだけ繁殖枝を形成するか
を理解し、応用的にはそれらを予測する上で重要である。このような視点か
ら、本研究では京都市近郊の二次林に一般的なツツジ科の落葉小高木である
ネジキ (Lyonia ovalifolia) と、落葉低木のナツハゼ (Vaccinium oldhami) につ
いて、繁殖枝が枝系内でどのような規則性をもって形成されているのかを調
べた。
調査は京都市北部にある京都大学フィールド科学研究センター上賀茂試験地に
て行った。2003 年 6 月に、容易に調査可能な高さにあり、当年枝を 30∼100
本程度含むよく分枝した枝系を、複数の個体から各種 16 本と 14 本選び、
繁殖枝数、当年枝長、一年枝長などを測定した。また、枝系を同心円状に 3
等分し、内側から基部、中部、外部として各部分に含まれる花枝の頻度など
について解析を行った。
枝系に含まれるシュート長は、2 種共に基部から外部へ向かって増加してい
た。また長い一年枝には繁殖枝が形成されず、やや短い一年枝に繁殖枝が多
い傾向が両種で見られた。その結果枝系内では、長い一年枝が多く分布する
外部よりも、中部に繁殖枝が多く見られた。これらの結果は、長い一年枝は
栄養成長を、やや短い一年枝は繁殖をするという役割の分化を示唆してい
る。これは枝系レベルでの成長と繁殖を両立させるという意義を持つと考え
られる。
P1-149c
12:30-14:30
ヤマユリの花の香り:その個体サイズ・時間依存変化が繁殖成功に与
える影響
◦
太田 彩子1, 森長 真一1, 熊野 有子2, 山岡 亮平2, 酒井 聡樹1
1
東北大 生命科学, 2京都工芸繊維大学 化学生態
これまでの研究では、集団間では送粉者が異なることによって、花
の香りが異なることが知られている。しかし、花の香りは以下の要因で
も変化しうるのではないだろうか。
1. 個体サイズ:個体サイズによって繁殖形質(花冠の大きさ等)が変化
することがあるため。
2. 花齢:訪花要求量が変化するため。
3. 昼夜:送粉者が変化することがあるため。
そこで本研究では、花の香りが個体サイズ・時間(花齢・昼夜)に依存
して変化するのかどうかを調査した。今回は、香りの強さに特に着目し
て解析を行った。
・ 実験方法
ヤマユリ(ユリ科・花寿命約 7 日)を用いて以下の調査を行った。
1. 香りの個体サイズ依存変化
2. 香りの時間依存変化
3. 送粉者の昼夜変化
4. 繁殖成功(送粉者の違いの影響をみるため、昼/夜のみ袋がけ処理を行
い、種子成熟率・花粉放出率を比較)
・結果
1. 個体サイズが大きいものほど花の香りは強くなる傾向にあった。
2. 昼に比べ夜の方が香りは強くなるが、花齢が進むにつれて香りは弱く
なる傾向にあった。
3. 昼にはカラスアゲハ、夜にはエゾシモフリスズメが訪花していた。
4. 種子成熟率・花粉放出率共に、昼夜での違いはなかった。
今後は GC-MS を用いた香りの成分分析を行う予定である。これらの
結果を統合することにより、個体サイズ・時間に依存した花の香りの適
応戦略を明らかにしていきたい。
— 148—
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-150c
P1-151c
12:30-14:30
フキにおける三つの花型の適応的意義:訪花昆虫の誘引に貢献してい
るか?
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
◦
米田 一平1, 橋本 靖2
1
帯広畜産大学大学院 生態系保護学講座, 2帯広畜産大学 生態系保護学講座
1
東北大・生命科学, 2秋田県立大・森林科学
フキは雌雄異株植物であるとされている。メス花序は、多数のメス小花(雌
しべ稔性有り・花粉なし)と少数の両性小花(雌しべ不稔・花粉無し)を持
つとされ、オス花序は、両性小花(雌しべ不稔・花粉有り)のみを持つとさ
れている。最近これに加えて、両性小花(雌しべ不稔・花粉有り)とメス小
花(雌しべ稔性有り・花粉なし)を持つ花序(「オスメス花序」と呼ぶ)も
低頻度で出現することがわかってきた。フキにおいて、この3つの花型はな
ぜ維持されてきたのだろうか。
そこで本研究では、メス花序・オス花序・オスメス花序の3つの花型の花
序・頭花・小花それぞれの形態を比較した。また、それぞれの花型への昆虫
の花序訪問回数を調べた。その際、メス花序への訪花昆虫の誘引に役立って
いるとされている両性小花を除去した時、昆虫の花序訪問回数に影響するの
かどうかも調べた。
その結果、オスメス花序とオス花序の形態がきわめて近いことがわかった。
昆虫の訪花が十分に見られた時の花序訪問回数は、オスメス花序とオス花序
はほぼ同じで、どちらもメス花序より有意に高かった。両性小花を除去した
メス花序と無処理のメス花序の花序訪問回数は変わらなかった。
これらのことからオスメス花序は、形態においても訪花昆虫の誘引におい
ても、オス花序により近いといえるだろう。メス花序は、オスメス花序やオ
ス花序と比べて訪花昆虫を有効に誘引していないのではないかと考えられる。
今後は、3つの花型の雄繁殖成功や雌繁殖成功を調べ、それぞれの花型が共
存する条件を探る必要があるだろう。
倒木更新とは倒れた親木を苗床にして、次世代の幼木が育つ現象である。し
かし、この倒木材上は植物の利用可能な養分が少なく、このような環境で生育
する実生には、養分吸収を促進するとされる外生菌根菌との共生関係が重要で
あると考えられる。そこで本研究では、倒木材上で生育している実生を対象に、
その外生菌根の形成量や菌の多様性を調べた。また、実生の枯死率を定着場所
ごとに比較した。調査地は北海道中央に位置する大雪山国立公園内の三国峠付
近と石北峠付近の 2 ケ所に設置し、そこで倒木更新している 1-6 年生のエゾ
マツ、トドマツ実生を調査対象とした。その結果、両樹種の実生から計 7 つの
形態タイプの外生菌根が観察され、同一種が形成していると考えられるタイプ
の外生菌根が、調査期間を通して全菌根タイプの 80 %以上を占め優占してい
た。この優占していた菌根タイプは rDNA-ITS 領域の PCR-RFLP 解析の結果、
その約 40 %以上が同一のパターンを示し同一種と考えられた。また、調査地
から採取した倒木材や林床腐植に実生を植え、その外生菌根を調べた結果、ア
カエゾマツ実生の外生菌根形成率が倒木材で 13.2 %、林床腐植では 5.3 %を
示した。また、倒木材に植えた実生根からは、野外で採取した実生で優占して
いたタイプと同一の菌根が優占的に見られた。一方、高湿度条件下で生育させ
て枯死率を比較した結果、倒木材において 11.5 %であるのに対し、倒木上に
たまった腐植、林床腐植ではそれぞれ 67.8、58.3 %という高い枯死率を示し、
倒木上は病害などの発生が少ないと考えられた。以上より、倒木上で生育する
実生は、林床と比べて病害などの発生が少なく、一方で多くの外生菌根が形成
されると考えられる。この菌根の多くを占める特異的な菌根菌が、亜寒帯針葉
樹林での倒木更新メカニズムに大きな役割を担っている可能性が考えられた。
P1-153c
12:30-14:30
雌雄異株クローナル植物ヤマノイモのラメット間競争を検出するー圃
場 1 年目の試みー
◦
12:30-14:30
亜寒帯針葉樹林内で倒木更新している幼木と外生菌根菌の関係
鈴木 由佳1, 星崎 和彦2, 小林 一三2, 酒井 聡樹1
P1-152c
P1-150c
井上 みずき1, 石田 清2, 菊澤 喜八郎1
12:30-14:30
海岸砂丘前面,背面に生育するコマツヨイグサのフェノロジーの変異
◦
荻津 英也1, 長谷川 正幸1, 大塚 歩美1, 堀 良通1
1
茨城大・理・生態
1
京大院・農・森林生物, 2森林総研・関西
クローン繁殖様式によってラメット間競争の強さは異なり、Local crowding
のコストも異なってくる (Silvertown and Charlesworth: 2001)。ラメット間競
争の程度は狭い範囲にラメットが集中する地下茎や匍匐型タイプのクローン
繁殖では強く、水生植物では小さい。しかし、繁殖量の違いでもラメット間
競争の差は生じるだろう。クローン繁殖としてムカゴ繁殖を行う雌雄異株の
ヤマノイモの場合、メスに比べオスでクローン繁殖量が 2 倍程度多いことが
これまでの研究から明らかになっている。そのため、ラメット間競争に性差
が生じる可能性がある。2002 年に雌 7 雄 5 個体(ムカゴ親)からムカゴを
採取し、2003 年に同一ムカゴ親ごとに竿 1 本あたり1、2、12 ラメットと
密度を変え、各区画のラメット数が 12 となるように苗畑に植栽した。ムカ
ゴ、花序、果実序を採取、乾燥重量を測定し、雌雄で比較した。総葉面積や
シュート重を推定した。
区画ごとの成長量やクローン繁殖量は密度の影響は受けるものの性差はな
かったが、有性繁殖量は性・密度いずれの影響も有意に受けていた (交互作
用なし)。ラメットごとの分析では、密度が増加するとクローン繁殖量・有性
繁殖量はともに減少するが、性と密度の交互作用は有性繁殖量でのみ有意で
あった。
密度の増加に対する有性繁殖量の減少はオス (12 倍区/コントロール区=
11 %) よりメスで加速度的に減少した (12 倍区/コントロール区= 1.5 %)
ことから、野外においては有性繁殖に対する Local crowding のコストがメス
でより大きいと予測される。一方、クローン繁殖量は密度の影響は受けるも
のの性差が有意でなかったことから、オス(クローン繁殖により多く投資し、
より強いラメット間競争が現れると考えられる)は、クローン繁殖に対する
Local crowding のコストがより大きいと予測される。
コマツヨイグサ(Oenothera laciniata Hill.)は北アメリカ原産の帰化種で,
東北以南の海辺や河原など,乾いた砂地に広く分布する可変性二年草である。
一般の海浜植物と比較すると,種子サイズが小さく,根系も貧弱で,このよ
うな環境に適しているとは考えにくいが,かなり大きな純群落を形成するこ
ともある。
これまでの研究で,茨城以北では,一般的な可変性二年草とは異なり,環
境が厳しいと考えられる北で生育期間を短くし,越年一年生ではなく,夏生
一年生の生活環を示すことが明らかになった。特に,分布域北限近くの宮城
県深沼では,90%以上の個体が夏生一年生の生活環を示した。これは,繁殖
開始サイズを小さくすることで,環境ストレスが大きく,死亡圧が高くなる
冬季を種子で回避するための生活史戦略であると考えられる。しかし,同じ
場所でも,他の植物も生育している砂丘背面と比較して,海に近くより厳し
い環境である砂丘前面では,個体サイズが小さくなり,フェノロジーも一年
生の個体が多くなる傾向が観察された。そこで,砂丘の前面と背面でコマツ
ヨイグサ個体群を追跡調査し,そのフェノロジーと個体サイズを比較した。
調査は 2003 年,茨城県大竹海岸で行った。海風の吹き付ける砂丘前面か
ら頂上部にかけてと,砂丘背面下部から続くなだらかな斜面にコドラートを
設置し,当年生実生をマーキングして葉数とロゼットサイズを追跡調査し,
開花や結実などの生育段階も記録した。
8 月の砂丘前面と背面と比較すると,死亡率は 28%と 1%で前面で有意
に大きく,平均葉数は 9.3 枚と 24.2 枚で有意に小さかった。また,生育期
間後期に当たる 10 月の二年生個体の割合はそれぞれ 2%と 15%で砂丘背面
で有意に高くなった。このことから,コマツヨイグサは,生活史の地理的な
変化と同様に,局所的な生育環境の差によってもそのフェノロジーを変化さ
せ,死亡圧の高い時期を回避している事が示唆された。
— 149—
P1-154c
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-154c
P1-155c
12:30-14:30
AFLP 法を用いた蛇紋岩遺存植物オゼソウの集団分化と遺伝的変異の
解析
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
タナゴ亜科魚類の産卵資源利用の違い
◦
川瀬 大樹1
京大・院・理・動物
京都大学生態学研究センター
日本の高山に飛び地状に分布する蛇紋岩環境は、Mg や重金属イオンの存在
や貧栄養、土壌の崩壊性などの性質によって植物にとって生理的ストレスが
高い環境である。そこでは蛇紋岩環境に適応した、最終氷期以降の遺存植物
が生育し特異的な植生が形成されている。
本研究では、蛇紋岩植物の生育環境と集団遺伝構造を明らかにするため、
北海道の天塩研究林と群馬県の至仏山、谷川岳の 3 地域のみに生育する蛇紋
岩遺存植物オゼソウを対象として、植生調査、AFLP 法による集団遺伝学的
解析を行った。
植生調査からは、オゼソウ群落は雪田群落環境ではあるが、草丈の高いハク
サンイチゲなどの優占種が生育しない腐植土層の浅い立地に限って出現する
ことがわかった。このような立地環境は、土壌崩壊が容易に起こりうる場所
であり、いったん登山道が作られると流水による土壌流出がオゼソウや他の
植物の生育に大きな影響を与えている可能性が高い。これらのことは、蛇紋
岩土壌の化学的性質よりも物理的性質がより強くオゼソウの生育に影響を与
えていることが示唆された。
AFLP 解析の結果からは、北海道側と群馬側ではオゼソウ集団に大きな集団
分化が起きていることが示された。このことはオゼソウ群落が地域個体群ご
とに強いまとまりを持ち、蛇紋岩地帯に分断化されて以降、遺伝子流動が起
こらずに独自に分化していったと考えられる。また、集団内の遺伝的変異が
全般的に低い傾向が見られ、蛇紋岩環境に対するクローン繁殖による適応が
示唆された。
12:30-14:30
タンチョウの繁殖に天候はどう働くか
◦
北村 淳一1
1
1
P1-156c
12:30-14:30
正富 欣之1, 正富 宏之2, 東 正剛1
1
北海道大学大学院地球環境科学研究科, 2タンチョウ保護調査連合
北海道東部に生息するタンチョウ Grus japonensis は、1900 年代初頭に
絶滅の危機に瀕したが、現在は給餌等の保護活動により 1000 羽近くま
で個体数が回復した。しかし、生息適地が開発により減少し、個体数が
増加した場合の環境収容力の限界が危惧されている。したがって、健全
な個体群を維持するには、繁殖に関わる要因についての解析が欠かせな
い。今回は、これまで集められたデータを基に、繁殖期間中の天候が孵
化、育雛、雛の生存に与える影響について検討した。
タンチョウは 3 月末頃から産卵および抱卵を行い、地域や年毎に多少差
はあるが、おおむね 6 月中ごろまでに孵化する。本研究では 4 月から 6
月までを主要繁殖期とし、この期間中の天候とタンチョウの繁殖状況を
調べることで、両者にどのような関係があるかを解析した。調査対象は
1997 年から 2002 年までの 6 年間とし、18 地点の気象台、測候所の中
で営巣地に最も近い所で得られたアメダスデータを用いた。使用した気
象データは主に気温と降水量である。繁殖状況は、4 月から 6 月に月一
度、繁殖地上空を飛行して得た営巣地点・番い・雛・営巣環境等の記録
から、孵化や育雛の状況を調べ、繁殖の成否を把握した。その結果、測
候所のある鶴居及び厚床に近い営巣地では、繁殖期間中に最大日降水量
が 60mm を超えた年の繁殖成功率が有意に減少した。その他の営巣地で
も、最大日降水量が 50 から 60mm を超えると繁殖に悪影響を及ぼす傾
向が見られた。各観測地点の最低気温による繁殖成否への影響はあまり
見られない。これに対し、4 月と 5 月の平均気温が平年より高いと全体
の繁殖状況が良くなる傾向が見られた。これはその時期の気温が雛の生
存、特にその初期段階に影響しているものと考えられた。これらの結果
を基に、さらに他の要因との関係についても考察する。
生物多様性の生成・維持の仕組みの理解は、生態学の中心課題であり、そ
れを管理・保全していく際に必要となってくる。局所的なスケールにお
ける種多様性は、競争・捕食・再生産・攪乱・移動などによって形成・維
持されている(Mora et al. 2003)。そこで、私は日本に生息する純淡水魚
のコイ科タナゴ亜科魚類を用いて、局所的な地域での種多様性とその構
造がどの様に維持されているのかを明らかにすることを目的とする。
タナゴ類は、アジア大陸を中心に適応放散した種類で、世界に 44 種
(うち日本には 14 種類)が存在する。全種類が一生を淡水で過ごし、湖
や河川に同所的に複数種が共存している。タナゴ類は地史的なイベント
によって移入と分断を繰り返しながら、大陸から日本列島各地の陸水域に
定着し、地域固有の種組成および種固有の分布パターンを形成してきた
(Watanabe 1998)。各河川の個体群は海で分断されていることから、単独
域と他種との共存域とでは、競争による自然選択圧が異なることを反映
し、同種であっても各河川固有の生態を有していることが予想される。
本研究は、様々な地域で、その地域固有のタナゴ類の種組成とその種
の産卵生態のパターンを明らかにし、種内変異と種間変異が、どの様な
選択圧(競争、環境、系統など)によって決定されているのかをこれま
で得られた結果から考察する。
P1-157c
12:30-14:30
海浜に生育する植物 14 種の永続的シードバンク形成の可能性
◦
澤田 佳宏1
1
岐阜大学 流域圏科学研究センター
近年、各地の海浜において防波堤工事や車両乗り入れなどの人為撹乱
が生じている。このような状況下で、いくつかの海浜植物種は絶滅が危
惧されるほど減少している。
海浜植物の生育地は孤立していることが多く、またその生育地では人
為撹乱の影響を強くを受ける場合がある。このため海浜植物は局所的な
絶滅が生じやすいと考えられる。局所的な絶滅からの個体群の回復は埋
土種子または侵入種子によって開始されると考えられるので、海浜植物
の保全を検討するにあたっては、種子の発芽・休眠特性や散布特性を把
握することが重要である。
本研究では、徳島県に生育する主な海浜植物 14 種の永続的シードバ
ンク形成の可能性を評価することを目的として、種子の埋土試験および
フィールド条件での 1 年間の発芽試験を行った。なお対象とした 14 種
には、海浜に普遍的に生育する普通種 (在来種)、近年減少傾向にある絶
滅危惧種 (在来種)、海浜に優占している外来種を含む。
埋土試験では、地表面下1mに埋土した種子を1年後に回収し、制御
環境下での発芽試験により埋土後の発芽能力を確認した。その結果、い
ずれの種でも種子散布直後と同等の発芽能力が維持されていた。フィー
ルド条件での1年間の発芽試験では、海浜の砂を満たしたプランタを圃
場に設置し、地表および地表面下5 cm に播種し、約1年間の発芽試験
の後に未発芽で生残している種子数を数えて生残率を算出した。その結
果、ハマヒルガオ、コウボウムギ、ビロードテンツキ、ハマゴウ、コウボ
ウシバ、コマツヨイグサでは種子の生残率が高く、散布された種子の多
くが土壌シードバンクに蓄積されることが示された。一方、ハマニガナ、
ケカモノハシ、オニシバ、ハマボウフウでは未発芽で生残する種子がほ
とんど無く、散布後にシードバンクとして土壌中に蓄積される種子が少
ないことが示された。
— 150—
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-158c
P1-159c
12:30-14:30
アズキゾウムシにおける雄の同居のコスト
◦
◦
辻野 亮1, 日野 貴文2, 揚妻 直樹2, 湯本 貴和3
1
京都大学生態学研究センター, 2北海道大学苫小牧研究林, 3総合地球環境学研究所
1
岡山大学農学部動物集団生態学研究室
ある気候帯に属する地域に多様な樹木が生育してそれぞれの種が地形特異
的に空間分布しているということが知られており,これに関する研究はこれ
まで多数おこなわれてきた.このような地形特異的な樹木の空間分布を維
持・形成するメカニズムを解明するためには,まず長い樹木の生活史のう
ちいったいどのステージが重要であるのかを明らかにする必要がある.そ
こでわれわれは,今回とくに胸高直径で 5cm 以上のステージを対象にし
た.毎木調査と再調査を屋久島低地照葉樹林,2.6ha で行い,計量的な地形
指数を利用して樹木の生残・生長と地形の関係を明らかにした.まず,樹
木が地形特異的に分布していることなどから,一様でない地形は多様な植
物種多様性を高める一因と考えられた.次に胸高断面積生長量が上に凸な
斜面と下に凸な斜面でどのように異なるかを種ごとに比較すると,下に凸
な斜面でよりよい生長を見せる樹種が多い中でほとんどの種では有意な差
が見られなかった.また樹木の生残率に関してもほとんどの種で有意な差
は見られなかった.また生残・生長に差が見られた一部の種でもその樹種
の地形特異的な空間分布を反映するような差とはいえなかった.以上より,
樹木の生残・生長と成木の地形特異的な空間分布には齟齬があることがわ
かった.これは樹木の地形特異的な空間分布パタンは胸高直径 5cm 未満で
すでに形成されており,5cm 以上では一旦定着できた場所で生育している
に過ぎないのではないかと考えられた.したがって,地形特異的な樹木の
空間分布を維持・形成するメカニズムを解明するためには,樹木の初期定
着ステージを重点的に個体群動態と環境との対応を調査する必要があるこ
とが示唆された.
アズキゾウムシでは雄と同居した雌はそうでない雌よりも産卵数に違い
がないにもかかわらず、生存日数が短くなることが知られている (Yanagi
and Miyatake, 2003)。したがって、処理区間の雌の生存日数の違いは同居
した雄の交尾や求愛行動などの効果によると考えられた。しかし、雄と
の交尾などによって産卵スケジュールが早くなることによって雌の生存
日数が短くなることが示唆されている (Chapman et al., 2003)。アズキゾ
ウムシの先行研究では雌に産卵基質となる小豆を与えないようにして産
卵を抑制した条件で行われていたので、雌の産卵スケジュールの生存日
数への効果を検証することができなかった。そこで、雌に産卵基質とな
る小豆を与え、雄と同居をさせる時間を羽化後 4 日間 (high)、1 日 2 時
間を 4 日間 (middle)、羽化日に 2 時間のみ (low) と変えた 3 つの条件
下で雌の生存日数、日毎の産卵数、総産卵数、卵の孵化率を測定し、処
理区間における比較を試みた。また、このような実験系を長期間室内で
飼育されている実験室系統である jC 系統と比較的最近実験室に導入され
た野外系統の isC 系統を用いて行った。予備的な実験からは、jC 系統で
は生存日数は有意ではなかったが、low > middle > high の順で長くなっ
た。しかし isC 系統では予測とは異なり有意に high > middle = low の
順に生存日数は長かった。発表ではサンプルサイズを大きくした実験の
結果から、生存日数、総産卵数、産卵スケジュール、卵の孵化率につい
て系統内における 3 つの処理区間あるいは系統間について比較をするこ
とによって、雄と同居することが雌にとってコストとなるかどうかとそ
のメカニズムについて考察をする予定である。
P1-161c
12:30-14:30
ヤマモモ(Myrica rubra) の集団間の遺伝的分化-サルのいる森といない
森の比較
◦
12:30-14:30
異なる地形における樹木の生長と生残
柳 真一1
P1-160c
P1-158c
8 月 26 日 (木) C 会場
寺川 眞理1, 菊地 賢2, 金谷 整一2, 松井 淳1, 湯本 貴和3, 吉丸 博志2
12:30-14:30
スズランにおけるクローンの空間構造と種子繁殖の関係
◦
荒木 希和子1, 山田 悦子1, 大原 雅1
1
北大・地球環境
1
奈良教育大学, 2森林総合研究所, 3総合地球環境学研究所
植物は固着性であるため、種子や花粉を水、風、動物などにより運ぶこと
で、遺伝子を流動させる。動物による種子散布は、植物‐動物間の相互作用
として注目されており、種子散布距離をはじめとしてこれまでに様々な研究
がなされてきた。ある植物の散布者である動物が絶滅した場合、その植物の
更新が妨げられ、次世代が育たなくなると考えられることが多い。これを遺
伝的な視点からみた場合、散布者の喪失は少なくとも母親の遺伝子の流動を
妨げるため、散布者がいる場合と比べて集団間の遺伝的な変異は大きくなる
と予想される。
本研究では、ヤマモモを対象に散布者の有無で集団間の遺伝的変異に差が
生じるかを比較、検討した。調査地は、主な散布者であるサルが生息する屋
久島(西部林道)と、サルが絶滅した種子島(犬城海岸)に設置した。これ
までの屋久島での研究では、ヤマモモはサルにとって重要な食物資源であり、
多くの種子が実際に運ばれていることが観察された。種子島では 2004 年 5
月末に 60 時間に亘り、果実消費の観察を行った。観察樹の周囲にはハシブ
トガラスなど 18 種の鳥が滞在していたにもかかわらず、ヒヨドリ以外の鳥
はヤマモモの果実を採食しなかった。また、ヒヨドリが消費した果実数は一
滞在あたり1から 2 個であり、1日一本あたり多くても十数個しか消費しな
いことが明らかになった。観察樹の下には多くの完熟した果実が落ちている
のも確認された。したがって、種子島において鳥類は、サルに匹敵する散布
者としての役割を果たせてはいないと考えられた。
遺伝解析のため、解像度が高いとされるマイクロサテライトマーカーをヤ
マモモについて開発した。各島で 4 プロット、各 30 個体ずつランダムサン
プリング行い、開発したマーカーのうち多型性の高いものを用いて遺伝解析
を行った。今回の発表はその結果について報告する。
スズラン (C. keiskei) は、強い芳香を有する多数の白い花からなる花序を持
つ林床性の多年生草本である。これまで調査を行ってきた北海道十勝地方
の集団では、交配様式に関して、自家不和合性を示し、訪花昆虫を介した
他家受粉により種子繁殖を行うほか、地下茎によるクローン成長を通じて
空間的に広がることが明らかになっている。
一般に花序をつける植物では、ディスプレイサイズ (同時開花花数) が大き
いほど送粉昆虫を誘引する効果が強い反面、連続訪花による隣花受粉が生
じやすいことが知られている。そのため、
「クローンサイズが大きくなりす
ぎると隣花受粉が生じやすくなり、結実量が低下する」ことが考えられる。
そこで、クローン成長による空間構造を明らかにするために、スズランの
優占する林床に 90m × 100m のプロットを設置し、さらに 5m × 5m の
サブ・プロットに分割した。各区画内のシュートならびに花序密度を測定す
るとともに、サブ・プロットの各交点より地上葉を採取し、アロザイム分析
による multilocus genotype を用いて、クローンの広がりの程度を調べた。
さらに、集団内の大小さまざまなクローンの種子生産を評価するために、サ
ブ・プロットの各交点における結果・結実率の調査を行った。そして、種
子生産量に影響を及ぼすと考えられる、花序・シュート密度、隣接するク
ローンの遺伝的構造と数、クローンサイズとの関係を解析した。このほか、
訪花昆虫のクローン内・クローン間での行動パターンの観察を行った。
以上の調査・解析に基づき、自家不和合性スズランのクローン成長による
空間構造と有性繁殖の関係、またそれに対する訪花昆虫の寄与について報
告する。
— 151—
P1-162c
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-162c
P1-163c
12:30-14:30
モンカゲロウの産卵場所選択性 -砂礫堆と樹冠の影響◦
8 月 26 日 (木) C 会場
クロヒナスゲ Carex gifuensis の生活環と実生の動態
◦
田中 武志1, 山田 浩之2, 竹門 康弘3, 池淵 周一3
京都大学工学研究科, 2北海道大学農学研究科, 3京都大学防災研究所
宇都宮大学大学院農学研究科森林科学専攻
河川に生息するモンカゲロウ(Ephemera strigata)などの水生昆虫類では,
砂礫堆上流端に位置する淵尻の瀬頭に集中的に産卵する行動が知られてい
る.このような産卵場所選択性は,砂礫堆の河床間隙水の透水性や溶存酸素
濃度などの物理化学特性と関係していると考えられる.しかしながら,産
卵場所の環境条件と産卵個体数の関係や産下された卵やふ化幼虫生存率な
どを実証的に示した研究は行われていない.一方,近年各地の河川で生じ
ている砂礫堆の樹林化やツルヨシの繁茂によって,このような産卵適地が
減少しつつあると懸念されている.
そこで,本研究では,産卵雌数に対する瀬-淵,樹冠の有無,岸際の状態,
微生息場所環境条件として透水係数,動水勾配および河床間隙水流速の影
響を調べた.また,モンカゲロウ卵野外孵化実験を通して,卵の孵化率・
死亡率に対する河床間隙水域の物理化学的環境の影響を調べた.その結果,
モンカゲロウは,上空が樹冠で覆われず,岸際が植生に覆われていない裸
地部分を産卵場所に選ぶことが確認された.また,産卵場所と瀬-淵の相対
的位置関係を分析した結果,産卵の集中地点は,必ずしも瀬頭とは限らず,
瀬中央付近でも集中的に産卵することがわかった.次に,微生息場所条件
の分析の結果,瀬の産卵雌数は,ばらつきは大きいものの動水勾配との間
に有意な正の相関が認められた(r=0.61, p<0.01).これに対し,透水係数,
間隙水流速との間には有意な相関は認められなかった(透水係数 r=-0.17,
間隙流速 r=0.25,n.s.).
さらに,野外孵化実験の結果,モンカゲロウ卵は産卵場所に選ばれていな
い場所でも孵化できることが確認できたが,死亡率は,間隙水流速が小さ
く,DO 供給量が小さくなる砂礫堆内陸側や下流側において大きくなる傾
向が認められた.本研究の結果は,
「モンカゲロウの選択する産卵場所条件
は,間隙流速が大きく豊富な溶存酸素が供給される間隙水域に対応してお
り,卵や孵化した若齢幼虫の生存率を高めるのに役立っている」という仮
説を支持している.
クロヒナスゲは、岐阜県と栃木県に隔離分布する。栃木県では西部を中心に平地
から山地の林床に普通に見られ、マット状の群落を形成する一方、岐阜県では特定
の地域に痕跡的である。クロヒナスゲは地下茎を発達させて栄養繁殖を主としてい
るが、有性繁殖の実態についてはほとんど知られていない。そこで本研究では、有
性繁殖、特に種子や実生の動態に注目して、生活環の全体像を明らかにする事を目
的とした。
2003 年3月から 2004 年6月までの期間に、栃木県北部に位置する宇都宮大学
農学部附属船生演習林で調査を行った。毎月 1 回クロヒナスゲのフィールドにお
ける成長状態を観察した後、一定量を採取し、器官乾物分配費を測定した。また、
5月から6月にかけて、クロヒナスゲの実生の分布調査を行った。実生個体数につ
いては、斜面の下から上に向かって幅 1m、長さ約 15m のトランゼクトを 20m 間
隔で3箇所設置し、その中の実生の分布位置と併せて記録した。クロヒナスゲの生
活環は、次の通りである。
1.10 月にラメットの葉の付け根に新枝が き、新葉の展開とともに花序が形成
される。
2.11 月 ∼ 3月に、主根から多くの側根が発生する。
3. 越冬後、花茎が伸長して花序が葉の上部に突出し、開花する。
4. 4月 ∼ 5月に葉が著しく伸長し、結実 する。
5. 5月中旬に多数の実生が発生する。
6. 6月中 ∼ 下旬に地下茎が伸長する。
7. 7月上旬、新しい地下茎から発根し、新ラメットが完成する。
P1-165c
12:30-14:30
吊下げるべきか、切り落とすべきか?エゴツルクビオトシブミの揺籃
作製をめぐる代替戦術の戦術間比較
◦
吉場 理恵1
1
1
P1-164c
12:30-14:30
小林 知里1
12:30-14:30
北タイ熱帯山地林における下層の光環境と樹木の生存戦略
◦
中島 弘起1, 武田 博清1, KHAMYONG SOONTORN2
1
京大・農, 2チェンマイ大・農
1
京都大学大学院人間・環境学研究科
オトシブミ科に属するオトシブミ亜科・アシナガオトシブミ亜科の種は、母
親が子供のために食料兼シェルターとしての葉巻・いわゆる揺籃を作製する。
オトシブミ亜科の一種・エゴツルクビオトシブミは、一匹のメスが二つの型
の揺籃を作ることが知られている。一方は葉を J 字状に裁断して木から吊下
げるタイプ (吊下げ型) で、もう一方は葉を両側から直線的に裁断して、木
から切り落とすタイプ (切り落とし型) である。二つの戦術が共存する適応
的意義を探るため、それぞれの揺籃の作製数、生存率および死亡要因ごとの
死亡率を季節変化とともに調べ、戦術間で比較し、違いを検出した。その結
果、エゴツルクビオトシブミが揺籃を作製する 4 月下旬から 7 月初旬にか
けて、初期に作られる揺籃ははほとんど全てが吊下げ型であることが分かっ
た。その後、切り落とし型の比率は季節とともに上昇した。また、切り落と
し型の生存率は吊下げ型より常に高かった。さらに、吊下げ型・切り落とし
型ともに卵期で最も死亡率が高く、特にオトシブミ亜科に特異的な二種の卵
寄生蜂、Poropoea morimotoi および P. sp.1 (ともにタマゴコバチ科) の寄生
による死亡が多かった。P. morimotoi による寄生率は、切り落とし型の比率
が高い時に切り落とし型の方が吊下げ型より高く、P. sp.1 の寄生率は、吊下
げ型の比率が高い時に吊下げ型の方が切り落とし型より高いという、より多
い方が集中的に寄生を受ける頻度依存的寄生がみられた。この二種の卵寄生
蜂による頻度依存的寄生が、エゴツルクビオトシブミにおける二つの戦術の
維持に関与している可能性があると考えられる。
光資源の分割は、熱帯林における樹木の共存機構に大きく寄与している。光
環境に対応して種が棲み分けているのか、またその分布を説明できるような
多種間の生存戦略の変異が存在するのかを、北タイ、ドイステープ国立公園
の熱帯山地林の優占種 11 種を対象に調査した。
各種、樹高 0.5 ー 3 m の個体において、1 年間の直径成長、全天写真による
光環境の測定を行った。低木を 2 つの機能グループ、「下層種の成木」5 種、
「林冠種の幼樹」6 種に分類した。
(1) 調査区内の林床の林冠開空度、直接光の分布には空間的な変異が存在した。
(2) 林冠種のうち、Castanopsis diversifolia は斜面下部にのみ存在し、下層種
のうち 4 種は斜面上部に分布していた。
(3) 個体直上で測定した光環境の分布には、種間差があった。林冠種うち
Schima wallichii、C. diversifolia は比較的暗いところに分布していたが、Anneslea
fragrans は比較的明るいところに分布していた。下層種は林冠種と比べると
様々な光環境に分布していた。光に対する種の分布は必ずしも、地形に沿っ
た分布とは対応していなかった。
(4)11 種とも成長速度-光環境関係においては相関がなかったが、明るいとこ
ろに分布が制限されていた Anneslea fragrans はほとんどの個体で成長速度が
大きかった。最優占種の C. acuminatissima は明るいところでより成長速度が
大きかった。C. Diversifolia と Schima wallichii は暗いところでも高い成長速
度を保っていた。いくつかの種で、出現頻度の高かった光環境において成長
速度が最大であったことは、その種が生育するのに好適な光環境のレンジが
存在することを示唆している。
(5) 直接光の分布から求めた耐陰性の指標と樹高獲得効率の間には多種間でト
レードオフ関係があった。
— 152—
ポスター発表: 繁殖・生活史
P1-166c
P1-167c
12:30-14:30
オオヤマオダマキにおける、花序内の花間で雄期・雌期の長さが性投
資量に及ぼす影響
◦
板垣 智之1, 酒井 聡樹1
沖縄島におけるオヒルギの開花・結実特性と受粉システム
◦
野口 和貴1, 佐々木 健志2, 馬場 繁幸3
北越パッケージ株式会社, 2琉球大学資料館, 3琉球大学農学部
東北大・院・生命科学
開花期間の長さは雌雄の繁殖成功に影響する。すなわち、開花期間が
長いほど多くの花粉を送受粉できるだろう。開花中の気温の違いなどのため
花序内の花間で開花期間が異なる場合、花間で繁殖成功が異なるのではない
だろうか?もしそうなら、花間で性投資量も異なるのではないだろうか?本研
究では、2002, 2003 年にオオヤマオダマキを材料に、花ごとの開花期間(雄
期・雌期の長さ)、性投資量(花粉数・胚珠数)、および繁殖成功(放出花粉
数・種子数)を、花序内の開花の早い花と遅い花とで比較した。
その結果、両年とも開花の早い花ほど雄期が長く、花粉数も多かった。
また、雄期が長い花ほど多くの花粉を放出していた。一方、雌機能は両年で
異なるパターンだった。2002 年は開花の早い花ほど雌期が長く、胚珠数も多
かった。しかし、2003 年は花間で雌期間・胚珠数に差はなかった。また両年
とも、雌期の長さとその花の生産種子数とに有意な関係は見られなかった。
これらの結果から、雄器官への投資量の花間の違いは、雄期の長さが
雄繁殖成功に影響するためと考えられる。これに対して、雌器官への投資量
には雌期の長さは影響しないようだ。一般に、雄繁殖成功に比べて雌繁殖成
功は、ポリネーターの訪花数に対して早く頭打ちすることが知られている。
そのため、雌期間は短くても十分な訪花量が得られると考えられる。このよ
うに、花間の開花期間の違いは、雌器官よりも雄器官への投資量に影響する
ことが示唆される。
オヒルギは、琉球列島に成立するマングローブの主要な構成樹種の 1 つ
で、東南アジアを中心に熱帯から亜熱帯にかけ広く分布し、国内では奄
美大島が分布の北限となっている。今回、沖縄島において、本種の群落
の成立とその維持に重要な影響を及ぼす、開花・結実特性と受粉システ
ムについて調査を実施した。
開花数は、冬季には減少するものの年間を通して開花が見られたが、1月
から5月に開花した花は全く結実しなかった。インドネシアに分布するオ
ヒルギでは、1年中開花・結実することが報告されている。そこで、各月
の葯の状態と花粉の発芽率を調べたところ、1月から5月に開花した花
では、葯の発達不全と花粉の発芽率の低下が確認された。このことから、
低温による葯及び花粉の発育不全が、冬季の結実率低下の主要な要因で
あると考えられた。類似した事例は、温帯域に導入されたマンゴーやア
ボカドなどの熱帯原産の果樹でも報告されており、分布の北限に近い沖
縄島のオヒルギは、十分な季節適応を獲得していないことが推察される。
一方、オヒルギの花は両性花であるが、開花直後の雄ずいは鞘状の花弁に
包まれており、訪花動物の接触刺激を受けて初めて花弁が裂開し雄ずい
が裸出する。また、このとき花弁の裂開に伴い、その衝撃で雄ずいから
花粉の一部が飛散し柱頭に付着し自家受粉が生じるとともに、ポリネー
ターの体表にも花粉が付着する。交配実験の結果、本種は高い自家和合
性を有しており、上記のような受粉システムにより、他殖と自殖の両方
を可能にしているものと推察される。また、当地域における主要なポリ
ネーターは、物理的に花弁の裂開が可能な大型のハチ類や鳥であること
が明らかになった。
12:30-14:30
季節的性比調節の解析的 ESS モデル
◦
12:30-14:30
1
1
P1-168c
P1-166c
8 月 26 日 (木) C 会場
向坂 幸雄1, 雨甲斐 広康2, 吉村 仁2
1
国立大学法人信州大学理学部生物科学科, 2国立大学法人静岡大学工学部システム工学科
季節的に出生性比を調節する生物の存在はいくつか知られているが、その
適応的意義を解明する上では数理的アプローチが重要である。特に、体サ
イズも小さく、一回の産仔数が多い両生類では、成長後の繁殖参加の雌雄
差を出生時期毎に実際に追跡するのは非常に困難であり、数理的解析によっ
て、調べるべきポイントを明らかにすることは特に重要である。演者らは
ツチガエル (Rana rugosa) では長期に渡る繁殖期中で季節の進行と共に出
生性比の変化が起きていることを明らかにした。また、その傾向が地域集
団間で逆転していることも明らかにした (第 49 回大会発表)。我々はツチ
ガエルの生活史を念頭に置き、シミュレーションのような確率的要素に依
らない解析的 ESS モデルを構築し、繁殖機会が年に 2 回あるモデル生物
での季節的性比調節の可能性を、雌雄で異なる成長速度などを考慮して検
討した。これまでに我々が構築してきたモデルでは、性比を集団内の出生
性比とは独立にとれる突然変異個体の侵入条件を考察する際に、出生年と
その前後 1 年づつの非突然変異個体しか背景集団として考えていなかった。
しかし、繁殖機会が最大 2 年に及ぶモデルでは、各年次での背景集団を考
慮しなければ正確な ESS の解析はできない。今回その範囲を前後それぞれ
2 年ずつ計 5 年分を考慮し、さらに突然変異個体が前期と後期のいずれの
場合に生まれるかについても分離して考えることで、より詳細な条件推定
をすることを可能にした。年 2 回の繁殖機会相互での出生性比の適応的パ
ターンは 8 通りでき、大まかに分けると 4 通りに区別できた。このこと
から、雌雄間でその後に経験する繁殖機会の数に差ができ、またその違い
のでき方が出生時期によって異なるような場合には繁殖時期によって性比
を 1:1 からずらすような形質が ESS となり得ることがわかった。
— 153—
P1-169
ポスター発表: 景観生態
P1-169
12:30-14:30
ハルニレの生育適地はどこか?–栃木県栗山村土呂部地区の事例–
◦
1
12:30-14:30
氾濫原プールにおける稚魚生息場利用に関する研究
山下 慎吾1, 中越 信和1
1
森林総合研究所
広島大学大学院国際協力研究科
ハルニレは、冷温帯河畔林の構成種で、しばしば氾濫原に優占林を形成す
る。北海道を除けば、目立つ種ではないものの、その分布は鹿児島県にまで
広がっている。しかし、氾濫原は平坦かつ肥沃であるため農地利用や開発が
進み、歴舟川(北海道)、外山沢川(奥日光)、梓川(上高地)などで報告さ
れている林分を除いて、自然度が高く成熟したハルニレ林を観察することは
困難である。そのことが理由の一つとなって、ハルニレの更新特性や生育適
地の解明が遅れている。
そこで演者らは、小さな集落を含んだおよそ 16km2 の集水域を対象に、比
較的サイズの大きなハルニレの分布を明らかにし、地形的な生育適地を考察
した。調査地は、栃木県栗山村土呂部地区の全域である。土呂部地区は、9
本の小河川が本流の土呂部川に流れ込み、本流周辺の民有地(集落、畑、採
草地、人工林、および共有地)を囲むように国有林(人工林、2次林、およ
び天然林)が分布している。施業履歴は比較的明らかで、国有林における大
規模な炭焼きは戦前の 10 年間だけである。
調査には小型の GPS と簡易測量を併用し、胸高直径 40cm(およそ 70 年
生)を超えるハルニレ 352 個体(MAX = 134cm)の分布を確認した。地形
図から小河川の縦断面を作成した。3 本の小河川では、河床勾配と氾濫原の
幅を測量し、ハルニレの分布と比較した。
その結果、胸高直径 60cm を超える個体は、自然度の高い小河川の下流域
や、集落の共有地などに多く残っていた。地形的には、小河川と本流の合流
点や、河床勾配が緩傾斜に変わる区間といった、砂礫の堆積作用が卓越する
区間がハルニレの生育立地であると考えられた。現在では集落や畑として利
用されている土呂部川周辺の氾濫原には、人為の加わる以前であれば、ハル
ニレの卓越する河畔林が成立していたと推察される。
12:30-14:30
宍道湖の典型的な岸辺生息場における底生無脊椎動物群集
◦
P1-170
◦
野宮 治人1, 新山 馨1
P1-171
8 月 26 日 (木) C 会場
倉田 健悟1
1
島根大学汽水域研究センター
島根県東部の宍道湖は斐伊川水系の一部であり、これは大橋川を通じ
て中海に続いている。日本海から海水が遡上する汽水域であるが塩分は
3-4psu と低い。宍道湖の周囲はほとんどコンクリート護岸となっていて、
陸上から水域への連続性が遮断されている様子が目につく。しかしなが
ら、中にはコンクリート護岸の前方に堆積した砂浜やヨシ帯などもあり、
それらが点在している。また、最近では宍道湖西岸において緩傾斜の堤防
が設置され、ヨシを植える市民活動も見られている。本研究では、宍道湖
の湖岸をどのような場として保全もしくは修復すればよいか、という問
いに答えるため、岸辺における生物群集の役割を評価することを試みた。
まず、宍道湖全体の湖岸の現況を把握し、様々な「岸辺」を分類・整理
して集計する作業を行った。2003 年 5 月にボートで湖内を一周し、デジ
タルビデオカメラで湖岸を撮影した。全ての映像を見ながら、景観が異
なると判断される箇所を区切りとして、その湖岸をカテゴリーに分けて
記録した。宍道湖を主な河川の河口を境界とした9つの領域に区分して
それぞれの領域に含まれる湖岸の数を数えた。これらのデータから、宍
道湖を特徴づけている「岸辺」の主なパターンを抽出し、各々の機能や
成立過程などを考慮に入れて「自然形成型」
「防災機能型」
「環境配慮型」
の3つを調査地点とすることにした。
次に、調査地点を生息場所としている底生無脊椎動物の群集組成を調
べるためサンプリングを行った。
本研究は (財) 河川環境管理財団の河川整備基金助成事業および財団法
人 日本生命財団の研究助成によって行われた。
氾濫原上には,Backwater,Secondary channel,わんど,たまり,side pool
などと様々な名称でよばれる,主流路とは水理状態の異なる水域が存在
し,仔稚魚の生育場や出水時における魚類の避難場所などの生態的機能
をもっていることが示唆されている.これらのうち,わんどは河道内に存
在する止水域のうち,平水時において流水域に開口部を有する水域,たま
りは河道内に存在する止水域のうち,平水時において流水域に開口部の
ない水域を示すことが多い.わんど(特に,淀川にみられるような水制
などにより形成された止水域)における魚類の利用状況や保全対策につ
いてはすでに調査検討されているが,孤立水域であるたまりにおける事
例は少ない.千曲川における Backwater(ここでは,わんど・たまりの混
称として使用)の調査事例では,1 年に数回主流路と接続する Backwater
と 3–4 年に 1 回程度主流路と接続する Backwater では魚種構成が異な
り,1 年に数回主流路と接続する Backwater の種多様性が高いことが示
唆されている.そこで,本研究では,主流路との永続的な連結性がない
たまりのなかでも,周年の出水により強い影響をうける一時的孤立水域
を,Halyk and Balon (1983) を参照して氾濫原プール (floodplain pool) と
称し,稚魚の種多様性を反映する空間指標の探索・提示を行った.まず
主要な氾濫原プール内における探索では,昼間はカバーからの距離が近
い場所を多種の稚魚が利用することがわかった.また,孤立期間におけ
る 10 箇所の氾濫原プールを対象とした探索では,稚魚種数の予測子と
して,孤立直後は最大水深など,次の接続直前にはカバーなどが選択さ
れた.これらの情報を用いて,氾濫原プールにおける稚魚多様性の空間
指標の検討を行った.
P1-172
12:30-14:30
沖縄本島東岸における海草藻場の時空間変動に対する陸域生態系の影響
石橋 知佳1, ◦ 仲岡 雅裕2, 近藤 昭彦3
1
千葉大学理学部, 2千葉大学大学院自然科学研究科, 3千葉大学環境リモートセンシング研究センター
近年陸域の改変による沿岸生態系の破壊が深刻な問題となっている。海草藻
場は重要な沿岸生態系のひとつであり、河口域に形成されるため陸域の影響を
受けやすいと考えられる。そこで本研究においては、マクロなスケールでの研
究に有効であるとされるリモートセンシング・GIS(地理情報システム) を用い、
海草藻場の時空間変動に対する陸域生態系の影響の解明を試みた。
研究地として陸域からの赤土流出が問題となっている沖縄本島東岸の海草藻
場9地点を選定した。海草藻場の分布、および陸域生態系のデータを GIS で
解析し、また、赤土流出に関しては既存の資料よりデータを入手した。さらに、
海草の種多様性を明らかにするために、現地調査を行い、得られたデータより
種数およびシンプソンの多様度指数をさまざまな空間スケールで算出した。以
上のデータを多変量解析で分析した。
調査地には海草7種の生息が確認され、海草藻場面積・種多様性・被度は藻
場間で大きな変異が見られた。また過去 30 年の海草藻場分布データの変遷を
GIS で解析したが、増加・減少といった一定の傾向は見られなかった。海草藻
場に対する陸域生態系の影響に関しては、海草藻場面積との間に有意な相関は
見られなかったが、海草の種多様性との間には一部有意な相関が見られた。ま
た、森林面積の変化と海草藻場面積の変化には正の相関が見られた。
本研究の結果、リモートセンシング・GIS が、海草藻場の分布をマクロなス
ケールにおいて視覚的・定量的に把握する上で有効な手段であることが明らか
となった。また、海草の種多様性や藻場面積の時空間変動に陸域生態系に関す
る要因が影響を与えていることが示唆された。
— 154—
ポスター発表: 景観生態
P1-173
P1-174
12:30-14:30
長野県上伊那地方の水田地域における越冬期の鳥類群集と土地利用と
の関係
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
信州大学大学院農学研究科, 2信州大学農学部
信州大学 農学部
近年、農業形態の変化が農業生態系に及ぼす影響が懸念されているが、そこ
での高次消費者である鳥類の群集構造やこれらの影響に関する研究例は少な
い。そこで本研究では、長野県上伊那地方の水田地域における越冬期の鳥類
群集を明らかにし、鳥類群集と土地利用との関係性について考察することを
目的とした。
調査地は立地条件の違いにより、中山間地 3 地域 (山室, 上原, 小屋敷)、市
街地 2 地域 (神子柴, 狐島) の計 5 地域を設定した。
鳥類調査はラインセンサス法を用いて 2002 年 10 月上旬から翌年 3 月上旬
に各調査地 22 回実施した。出現種名、個体数、出現環境と位置、行動等を
記録した。土地利用調査を行い、各調査地の土地利用別の面積を計測した。
出現種は、中山間地山室では 33 種、上原では 32 種、小屋敷では 35 種、市
街地神子柴では 27 種、狐島では 22 種が確認された。全調査地合計で 47 種
11908 個体が観察された。TWINSPAN(Hill 1979a) により、調査地は中山間
地と市街地に分類され、鳥類は中山間地を特徴づける種群、市街地を特徴づ
ける種群、全調査地に共通な種群に分類された。また鳥類は、出現した環境の
割合、採餌行動が観察された環境の割合により、樹林で特に多い、畦畔草地
で多い、住宅周辺で多い等、いくつかのグループに分類された。TWINSPAN
による分類と環境の割合による分類の結果は対応していた。調査地の土地利
用は中山間地と市街地で、特に樹林、住宅の面積が大きく異なっていた。各調
査地の土地利用の状況と鳥類相に関連性がみられた。水田地域は多くの鳥類
に採餌場所を提供しており、越冬地として機能していた。特定の環境を選考す
ると考えられる種が観察され、樹林や草地等の環境の重要性が指摘された。
ため池や水田などに生息する水生昆虫は,生息地の減少や生息環境の悪化によ
り個体数が減少し,保全対策が必要となっている.水生昆虫の生息地の一つで
あるため池では,護岸改修や水生植物帯の減少,農薬や生活雑排水の流入,魚
類の放流,餌生物の減少,生息地間のネットワークの分断などが衰退の要因と
して指摘されている.
そこで本研究では,水生昆虫の生息状況とため池の環境要因という 2 つの視点
からため池を水生昆虫の生息地として評価し,ため池ごとに水生昆虫の保全目
標と維持または改善していくべき環境要因について考察することを目的とした.
調査は長野県松本市の山間部と市街部に位置するため池のうち 8ヶ所で行った.
水生昆虫の豊かさの指標として生活史の一部または大部分を水中で過ごし,ほ
とんどの種が肉食性で高次消費者である水生カメムシ目,コウチュウ目,トン
ボ目(幼虫)を用いた.
水生昆虫の生息状況からの評価では,種数と個体数,大型の高次消費者の種数,
種多様性,成虫と幼虫の分布,希少種の分布,各種の出現率の 6 項目を評価項
目とし,各評価項目の結果に 1-5 点の点数をつけた.ため池の環境要因からの
評価では,水生昆虫の生息や衰退と関わりのある要因として構造や水質,水生
植物,周辺の土地利用などに関する調査項目を設けた.このうち指標とした種
の採集種数や採集個体数などと相関が見られた,水生植物が生育し水深の浅い
岸辺の割合,植被率,水生植物の種数,指標とした種の幼虫の採集個体数,の
4 項目を評価項目とし,各評価項目の結果に 1-5 点の点数をつけた.
評価を行った結果,山間部のため池では繁殖地や出現率の低い種の生息地となる
ことを目標とし,市街部のため池ではまず始めに出現率の低い種の個体数を増
やすこととを目標とすること,ため池の環境要因からの評価において点数の低
い評価項目を各ため池における保全対策の重点項目とすることが考えられた.
P1-176
12:30-14:30
港北ニュータウンにおけるモウソウチク林の分布拡大
◦
山本 恵利佳1, 土田 勝義1
1
1
P1-175
12:30-14:30
水生昆虫による松本市のため池の評価 -カメムシ目,コウチュウ目,
トンボ目を指標として◦
津森 正則1, 大窪 久美子2
P1-173
12:30-14:30
名勝としての海岸マツ林を構成しているクロマツ個体の年輪成長速度
◦
湯本 裕之1, 倉本 宣2
藤原 道郎1, 岩崎 寛1
1
1
明治大学大学院・農学研究科, 2明治大学・農学部
兵庫県立大学 自然・環境科学研究所/兵庫県立淡路景観園芸学校
1960 年以降の燃料革命などの時代の変化に伴い、人々の生活から身近な
場所にあり、薪炭生産を目的に利用されてきた雑木林は、その地域資源
としての必要性が低下していき管理が放棄されるようになった。同じよ
うに竹林も市民の日常生活としての必要性が低下し、管理放棄されるよ
うになった。管理放棄された竹林は分布拡大し、雑木林や畑地や住宅地
に侵入することで生物多様性の低下、景観の悪化、経済的な損失などの
問題を招いている。現在、自然に分布を拡大しているのは主にモウソウ
チク Phyllostachys pubescens Mazel である。
そこで本研究では 1984 年、1992 年、2003 年の 3 年代での港北ニュー
タウンにおける竹林の分布の変遷を把握する。1984 年と 1992 年は航空
写真と地形図(1/25000)によって、2003 年は踏査によって港北ニュー
タウン全域に生育している竹林の分布を把握した。竹林群落の面積を
GIS(Geographic Information System) で解析し、竹林群落の面積の増減、
周辺の土地利用、地形、方位との間に相関関係があるのかを調べた。
竹林群落の面積は 1984 年は 64.65ha、1992 年は 9.96ha と 54.69ha 減
少しており、群落数は 1984 年は 80 個、1992 年は 28 個と 52 個減少し
ていた。しかし、ニュータウンの宅地造成などによる伐採の影響を受け
ていないと考えられる竹林群落が 9 個あった。それらの竹林群落の総面
積は 1984 年が 1.601ha、1992 年が 1.948ha と 0.347ha 増加していた。
また、それぞれの群落の平均拡大面積は 0.347 ± 0.793ha であった。
港北ニュータウンに生育している多くの竹林群落は消失または減少して
いた。しかし、造成の際の影響がなかったと考えられる群落では面積の
増加が見られた。残された竹林は住宅地や道路に囲まれているものが多
いため、これ以上の顕著な拡大は見られないと考えられる。本発表では
2003 年の分布も考慮し、周辺の土地利用、地形、方位との相関関係を含
め、3 年代の竹林の拡大様式の比較を行う。
兵庫県西淡町に位置する慶野松原は,瀬戸内海国立公園に属するとともに名
勝としての指定も受けている海岸クロマツの景勝地である.大径木のクロマ
ツは磯馴松(そなれまつ)と呼ばれ,直径は大きく,樹高,下枝高,葉群高
がともに低いことが特徴であり,海岸マツ林の重要な要素となっている.し
かし,1970 年代からのマツ材線虫病などにより,大径木を含むマツの大量枯
死が続き,裸地が目立つようになったため,地元関係団体や有志を中心にマ
ツ苗木の植栽活動が続いてきた.ところが,植栽密度が高かったため,形状
比,下枝高,最下葉群高の高い個体が増加するとともに,植栽木による大径
木のクロマツの被陰も生じてきた.上述のような傾向は,現在多くの海岸マ
ツ林でみられており,多面的機能を持った海岸マツ林を,長期的視点に立ち
地域住民主体で適切に維持管理を行う手法が求められている.そこで,名勝
としての海岸クロマツ林保全のための維持管理手法および適切な空間配置を
提案するために,クロマツ個体の年輪成長速度と発生年代や定着位置との関
係を求めた. 80 から 120 年生個体の年平均肥大成長速度は 1.4 から 2.2 m
mであるのに対し,20 から 40 年生個体では 2 から 6 mmと個体差は大き
いものの高齢木よりも肥大成長速度は速かった.約 100 年前はマツの個体
数も少なく,風,砂の移動が激しく,マツの成長は制限されていたのに対し,
40 年ほど前には,マツの密度も高く,防風効果が大きく,風,砂の移動さら
に乾燥の影響も少なくなったために,成長速度は速いものと推察された.汀
線からの距離と成長速度との間に明確な関係は見出せていないが,今後より
詳細な研究を行い成長速度の時空間変異を明らかにしていく予定である.な
お,本研究は東京情報大学学術フロンティア推進研究「アジアの環境・文化・
情報に関する総合研究」および西淡町受託研究「慶野松原維持管理計画策定
事業」の成果の一部である.
— 155—
P1-177
ポスター発表: 景観生態
P1-177
12:30-14:30
温暖化に伴う潜在自然植生の変化
◦
◦
1
独立行政法人農業環境技術研究所
近年、地球規模での温暖化が進行している。温暖化に伴い潜在自然植生
がどのように変化するかの考察を行った。
前回までの発表で、植生の単位性に基づいた群集レベルのアプローチお
よび、植生連続性に基づいた種レベルでのアプローチにおいて、神奈川県
全域を対象地として野外調査から得られた 831 地点の自然植生データと
GIS を用いて、環境要因に基づく潜在自然植生の推定と地図化を行った。
過程は(1)自然植生のデータベースを構築。
(2)様々な環境データを
GIS により作成。(3)植生ベータベースと環境データをロジステック回
帰分析により生育モデルを作成。
(4)得られたモデルより地域スケール
に対応した定量的な潜在自然植生の推定と地図化を行った。
今回は得られたモデルを用い気候の環境変数を操作し、対象地の潜在自
然植生の植物群落がどのように変化するかを考察し、温暖化に対する脆
弱性の検討を行った。本研究において推定可能な 14 タイプの植物群落に
ついて、ほとんど全てのタイプにおいて温暖化の影響での面積の増減が
認められた。特にブナクラスに位置するオオモミジガサーブナ群集、ヤ
マボウシーブナ群集、イヌブナーブナ群集においては顕著な面積の減少
が認められた。そして、種レベルのアプローチにおいても同様の結果を
得た。また、幾つかの問題点と課題も明らかになったので報告する。
12:30-14:30
高速道路における中型獣のロードキルと道路周辺環境との関係
◦
P1-178
12:30-14:30
景観構造が管住性ハチ類の種多様性に及ぼす影響:武庫川流域におけ
る調査
楠本 良延1
P1-179
8 月 26 日 (木) C 会場
大竹 邦暁1, 飯塚 康雄2, 佐伯 緑2, 藤原 宣夫2
1
中電技術コンサルタント(株) 環境部, 2国土交通省 国総研 環境研究部 緑化生態研究室
本研究では,ロードキルの発生場所を,動物の移動経路が道路によって遮断
されている場所,即ちコリドーの設置地点候補ととらえ,生態系ネットワーク
構想に資するために,その分布や景観構造の特性を検討することを目的とした。
中型獣の行動範囲は繁殖年周期に応じて変動するため,ロードキルの発生場
所もこれにあわせて変化すると考えられる。演者らの茨城県水戸近郊地域にお
けるホンドタヌキを対象とした研究では,ロードキル発生地点の季節変化が発
生地点周辺の景観分布とホンドタヌキの繁殖年周期に応じた利用空間の変化か
ら説明できることが示唆されている。
関越自動車道の埼玉県新座市から花園町までの区間(延長 65km)では,現地
調査から道路法面においてホンドタヌキをはじめとする中型獣の生息痕が広く
確認された。また日本道路公団の資料からは,この区間では 1999 年から 2001
年までの間に 302 件の中型獣(イヌ及びネコを除く)のロードキルが記録され
ており,その多くがホンドタヌキのものであること,発生件数及び分布区間は
季節変動を示し,9月から 11 月に調査区間全域で多発する一方,2月から4
月にかけては丘陵地帯に集中していることがわかった。また,9月から 11 月
にかけて広範囲で多発する傾向は,水戸近郊域でも同様であった。
この季節変動を中型獣の繁殖年周期に対応させて説明するため,調査区間の
道路構造と周辺緑地の状態(日本道路公団の資料による)及び道路から 1km の
範囲内の植生・土地利用分布(旧環境庁の第2・第3回自然環境保全基礎調査
の現存植生図による)を説明変数とし,キロポスト単位で集計したロードキル
の多少について判別分析を行った。得られた式に基づきロードキルの発生頻度
と環境要素との関連について考察し,水戸近郊域の結果と比較した。
遠藤 知二1, 森島 玲奈1, 勝又 愛1, 北垣 優子1, 西本 裕2, 橋本 佳明3, 中西 明徳3
1
神戸女学院大学人間科学部, 2小林聖心女子学院, 3兵庫県立人と自然の博物館
管住性ハチ類を利用した保全生物学の研究は、
(1)送粉者(ハナバチ類)や捕食
者(カリバチ類)など、複数の機能グループを同時に扱えること、(2)営巣ハ
チ類とそれらに寄生する天敵類からなる被食者-捕食者系を同時に扱えること、
(3)簡便に調査でき、かつ結果が短期的な変動要因に左右されにくいことなど
から、近年さかんになりつつある。現在まで、これらの管住性ハチ群集が環境
の地域特性に応じてどのように構成されているかについて、いくつかの調査が
行われてきたが、比較的狭い範囲での調査に限られていた。ここでは、河川の
流域全体というやや広い範囲にわたって、さまざまな環境要素を含む景観構造
が管住性ハチ類の種多様性や種構成にどのように影響しているかを検討する目
的で調査を行った。調査は、兵庫県南東部を流れる武庫川流域を対象に、環境
省メッシュマップの 2 次メッシュを 4 等分した区画(約 4.6x5.7km)内で森林
環境を1-3 地点任意に選び、37 区画合計 41 地点で管住性ハチ類を誘引、営巣
させるトラップを設置した。トラップは内径の異なる竹筒とヨシ筒 20 本(竹筒
トラップ)からなっており、1 地点あたり 5 基のトラップをそれぞれ 10-20m
離れた立木の 1.5-2m の高さに固定した。2002 年 4-5 月にトラップを設置し、
同年 11-12 月に回収するまで野外に放置した。その結果、全体で管住性ハチ類
21 種 1343 の巣が得られ、地点あたり平均種数は、5.27 種(SD=1.95、レンジ
1-9)だった。調査地点を中心として異なる半径(200、400、800、1600m)の
円内の森林面積と種数の関係を検討したところ、いずれの空間規模でも森林面
積が 60%程度を占める地点で種数が最大になり、それよりも森林面積が多くて
も少なくても種数は減少する傾向があった。このことは、複数の環境要素の混
合が種多様度に影響を与えていることを示唆している。発表では、GIS にもと
づいた分析結果をふまえて報告する。
P1-180
12:30-14:30
四万十川上流域梼原町 FSC 認証植林地における強度間伐施業の生態的
効果
◦
木島 静香1, 中越 信和2
1
広島大学大学院国際協力研究科, 2広島大学総合科学部
FSC(Forest Stewardship Council: 森林管理協議会) の森林認証は環境配慮と経
済的効果の 2 点を両立させるための制度である。本研究では、FSC 認証地
域における間伐を中心とした人工林の管理が下層植生の生物多様性に与える
影響を明らかにすることを目的とした。
調査地は、FSC 森林認証を取得した四万十川上流域の高知県高岡郡梼原町
におけるおよそ40年生の人工林とし、間伐の頻度に従って、分類した。ま
た、比較対象のために伐採跡植林地、広葉樹混交林、クヌギ植林地を設けた。
植生調査は、10m × 10m の方形区を設置し、種名、植被率、高さを調査し
た。地上部現存量の代替として、植被面積×高さによって求めた PVI(Plant
Volume Index) を用い、PVI 値の大きい種から並べた種順位-PVI 曲線を比較
した。
最も傾きが大きかったのは、広葉樹混交林であった。また、管理放棄後 20
年以上経った植林地では、広葉樹混交林に近い傾きを示した。最も傾きが緩
やかだったのは、伐採跡植林地で、2 回間伐を行った強間伐林、2 回目のみ
強間伐林も傾きは緩やかであった。また、種数と地上部現存量の総和の関係
を強度、頻度、間伐後の年数から比較した。強間伐では、種数、地上部現存
量が共に多かった。間伐の頻度に関しても同様の結果が得られた。一方、2
回強間伐内における間伐後の年数、及び 1 回目のみ間伐と間伐なしを比較す
ると、種数に差はみられず、地上部現存量では、1 回目のみのほうが多かっ
た。また、1 回目のみと 2 回目のみを比較すると、2 回目のみのほうが、種
数が多かった。以上から、地上部現存量には間伐、種数には間伐後の年数が
影響しており、種数と地上部現存量が多い状態を維持するためには、強度の
間伐及び定期的な管理が必要であることが示された。
— 156—
ポスター発表: 景観生態
P1-181
P1-182c
12:30-14:30
◦
足達 優子1
山北 剛久1, 仲岡 雅裕2, 近藤 昭彦3, 石井 光廣4, 庄司 泰雅4
1
千葉大学理学部生物学科, 2千葉大学大学院 自然科学研究科, 3千葉大学環境リモートセンシング研究
センター, 4千葉県水産研究センター
1
広島大学大学院国際協力研究科
水田は、原生自然環境としての湿地と機能的に類似した構造を持っており、
多くの野生生物が水田環境を原生自然環境の代替環境として利用してきた.
しかし、近年の農地整備により水田の構造は大きく変化し、現在の水田で
は生物が生存しにくい状況になっている.人と各種の生物が共存しながら
好適な環境を維持すること、生物多様性を守りながら生産活動を行うこと
が広く求められており、土地改良法の改正によって今後の農業農村整備事
業では環境との調和へ配慮することが原則とされた.
その個体数が減少してきた種にメダカ Oryzias latipes が挙げられる.本種
は、以前には水田地帯ではどこにでも見られた種であり、水田生態系にお
ける食物連鎖を支える上で大きな役割を果たしてきた.しかし、現在では
その数が激減し、絶滅危惧種 II 類に指定されるまでになった.その要因の
一つとして、農地の変化による水路のコンクリート化による水生植物の減
少、流速の上昇など様々な問題が挙げられている.そこで、本研究では特
にメダカの生息地としての農地の構造について検討することにした.
本研究では広島県黒瀬町乃美尾地区の水田地帯を対象地とする.本地区
は 2000 年までに圃場整備が行われた地域で、水路はほぼコンクリート水
路となっており、本地区のすぐ脇を流れる黒瀬川から用水を引き、排水に
は灌漑排水だけではなく家庭排水も含まれる.本地区では、圃場整備が行
われたにもかかわらず、メダカの生息が確認された.そこで、農事歴に沿っ
て代掻き前、代掻き後、田植え後、中干し後、落水前、落水後にメダカの
分布と生息環境調査を行った.
一年を通して、メダカの個体数は用水路に比べ排水路の方が多く、また、
非灌漑期には幹線排水路と土砂吐けで多くの個体が確認できた.これらの
ことから、水路の構造や機能がメダカの分布に大きく影響していることが
示唆された.
本研究ではこの地区の水田地帯において、メダカの生息状況を把握し、メ
ダカが生息する条件を調べることができた.それを踏まえて今後の農地の
あり方についての一つの指針を示す.
P1-183c
沿岸生態系における海草藻場の重要性の認識の広がりと共に、その保全や再
生の試みが行われつつある。しかし、海草藻場の変動機構の解明は不十分で
あり、特に広域・長期スケールでの変動機構の解明は、生態系単位での適切な
保全策の作成に不可欠である。海草藻場の空間変動に着目した研究は近年増
加してきたが、多くは短期間の遷移パターンの解析にとどまっている。一方、
リモートセンシングや地理情報システム等の技術の発展に伴い、航空写真等
を利用して過去の海草藻場の長期変動を解析することが可能になってきた。
そこで本研究では、千葉県富津干潟の海草藻場を対象に、既存の航空写真
および現地調査を基に RS/GIS を用いて、過去20年以上にわたる海草藻場
の長期空間動態を解析した。
現地調査との比較から、海草藻場の分布は航空写真から直径 1m 程度のパッ
チの形状・面積まで判別可能であることが確認されたが、海草種(アマモ、タ
チアマモ、コアマモ)ごとの識別は十分できず、特に小型種が不明瞭になる
点も明らかになった。
1967 年から 2003 年までの藻場面積の経年変化を解析したところ、最大
179ha(1986 年)から最小 60 ha(2001 年)まで変異が認められた。分布面
積は 1970 年代の埋め立てにより減少したが、埋め立てを免れた分布域から
沖に向かい拡大し、その後の変化はわずかであった。また、藻場の沖側の分
布限界が年を追って後退する傾向、および浅い部分のパッチがやや減少する
傾向が見られた。
本研究により、高解像度の航空写真は浅海の藻場の研究に有効な手段であ
ることが示された。面積の変動を引き起こす要因としては、埋め立てに伴う
潮流の変化、砂州等の地形変化、さらに東京湾の水質の変化などが考えられ
る。これらの環境変数と藻場の分布動態との関連性について解析し、海草藻
場の広域長期にわたる変動の機構を明らかにしたい。
P1-184c
12:30-14:30
京都市周辺二次林のマツ枯れ後の動態
◦
12:30-14:30
東京湾における海草藻場の長期空間動態
農地における水系の生態学的評価
◦
P1-181
8 月 26 日 (木) C 会場
12:30-14:30
ため池のトンボの種構成に及ぼす環境要因の影響
◦
呉 初平1, 岡田 泰明1, 清水 良訓2, 安藤 信3
1
京大院・農, 2京大・生態研, 3京大・フィールド研
浜崎 健児1, 山中 武彦1, 中谷 至伸1, 田中 幸一1
1
農業環境技術研究所
25 年前の京都市周辺林は、斜面下部の一部の広葉樹林を除くと、ほとん
どがマツ林で覆われていた。これらの森林は、80 年代を中心にマツ枯れ
によって大きく変化し、斜面下部や中腹では常緑・落葉広葉樹林に、斜
面上部や尾根部の標高が高いところに一部マツ林が残るものの、高木種
を欠いた広葉樹低質林になっているところも多い。
本研究は京都市周辺林に 1978 年と 1997 年に設置した 14 カ所の調査区
で DBH ≧ 4.5cm の樹木の再調査を行い、1997 年から 5 年間の林分構
造の変化と成長について考察した。
マツ林 (4 カ所)、常緑広葉樹林 (5 カ所)、落葉広葉樹林 (5 カ所) の林分全
体の断面積合計 (BA) は、それぞれ 9.7-48.2、42.2-51.2、29.6-37.7m2 /ha
となり、常緑広葉樹林は落葉広葉樹林より大きい値を示した。マツ林は、
標高が 125m の林分では BA が 9.7m2 /ha でアカマツの BA 相対値が 10
%、200m の林分では 31.1m2 /ha でアカマツが 51 %、290m を超える 2
林分では 41.0-48.2m2 /ha でアカマツが 60 %前後となり、低標高のマツ
枯れがほぼ終了した広葉樹の低質林、マツ枯れが進行している林、高標
高のマツ林に分けられた。5 年間の林分全体の年成長率はマツ枯れ低質
林で 3.1 %、マツ枯れ進行林で-1.5 %、マツ林で 3.6-9.8 %、常緑広葉
樹林で 1.0-2.9 %、落葉広葉樹林で 0.4-1.5 %となり、マツ林>マツ枯れ
低質林>常緑広葉樹林>落葉広葉樹林>マツ枯れ進行林、となる傾向が
伺えた。また、1978 年ではマツが混交していたが、1997 年には消滅し
ていた常緑・落葉広葉樹林は、マツが混交していなかった林と比較して
全体に林分成長率は高く、未だマツ枯れの影響が認められた。マツ枯れ
低質林・マツ枯れ進行林・マツ林では混交するソヨゴ、コナラ、常緑広
葉樹林ではサカキ、シロバイ、コナラ、落葉広葉樹林ではナナメノキ、ア
ラカシなどの常緑樹の成長が優れる傾向がみられた。
ため池は、農業用水を確保するために人為的に整備された水域である
が、灌漑機能だけでなく、様々な生物の生息環境としても機能している
事例が報告されている。近年、農業形態の変化や都市化の進行にともな
い、放棄されるため池や消滅するため池が増加する一方で、ため池の生
物保全機能を生かし、水辺の生物多様性を回復させる試みが各地で行わ
れている。ため池に生息する生物の中には、周辺の環境に依存する種も
含まれており、池内やその周辺環境と生物群集との関わりを明らかにす
ることは、生物多様性を保全、回復するうえで重要な課題となっている。
現在、日本には、189 種のトンボが生息しており、そのうち、約 80 種
はため池を主な生息場所としている。幼虫は水中で生活し、成虫になる
と周辺の林地や草地を利用するとされているが、どのような環境をどの
程度必要としているのか、群集を対象として研究した例は少ない。そこ
で、本研究では、ため池に出現するトンボ群集を材料として、ため池の
環境要因および周辺の土地利用がトンボの種構成に及ぼす影響について
解析した。
茨城県南部のため池 21 カ所において,トンボ成虫の種数および個体
数を 5 月から 8 月まで毎月 1 回ずつ調査した。また、環境要因とし
て、各ため池の水質および外来魚密度、池内の抽水・浮葉植物の被覆率
を調べた。さらに、GIS を活用して、ため池の周囲 500 m以内の土地
利用割合を 1/2,500 都市計画図から抽出した。これらのデータを基に、
DCA(Detrended Correspondence Analysis) を用いてトンボ種とため池を序
列化し、環境要因との関係を解析した。その結果、DCA 第 1 軸は、た
め池の周囲 25-500 m以内の森林面積と正の相関を示し、400 m以内の畑
地面積、500 m以内の住宅地面積および池面積と負の相関を示した。薄
暗い環境を好むモノサシトンボやオオシオカラトンボでは同軸と正の相
関が、開放的な環境を好むウチワヤンマやシオカラトンボでは負の相関
が認められ、各種の生態特性に対応する結果となった。
— 157—
P1-185c
P1-185c
ポスター発表: 景観生態
P1-186c
12:30-14:30
◦
酒井 将義1, 中越 信和1
竹原 明秀1, 村田 野人1, 平吹 喜彦2, 福岡 公平2, 三浦 修3
1
岩手大学人文社会科学部, 2宮城教育大学教育学部, 3岩手大学教育学部
1
広島大学・院・国際協力
屋敷林とは家屋を取り囲むように敷地内に設けられた樹木群で,厳しい
気候や自然災害などから家屋を守ること(防風・防砂・防備機能),燃料や
建築材を確保することなどを目的として作られた森林である。特に季節風
が強い地域や扇状地,沖積平野などにみられ,散居村では「緑の島」を形
成している。
本研究では,農村地域における屋敷林の役割を生物多様性の維持や創出
機能という視点から明らかにすることを目的としている。ここでは典型的
な屋敷林がみられる 4 地域(岩手県胆沢町,山形県飯豊町,富山県砺波市,
島根県斐川町)において,毎木調査や植生調査,聞き取り調査を行った結
果を報告する。
それぞれの地域の屋敷林の特徴は次のようである。胆沢町:イグネと呼
ばれ,北側と西側に配置され,大規模なものが多い。飯豊町:特別な名称
はなく,西側に配置され,家屋が視認できる程度に列植されている,砺波
市:カイニュウと呼ばれ,南側と西側に配置(北側もある)され,家屋が
視認できない程度に列植されている。斐川町:ツイジマツと呼ばれるタイ
プがあり,北側と西側に配置され,生垣状に刈り込む。
各地域の屋敷林を構成する樹木は胆沢町(調査地 9ヵ所)で総出現種数
42 種,屋敷あたり平均 13.3 種,飯豊町(10ヵ所)で 44 種,9.8 種,砺
波市(5ヵ所)で 54 種,17.8 種,斐川町(4ヵ所)で 29 種,8.8 種であっ
た。出現頻度が高い上位の樹種は胆沢町でスギ,クリ,ホオノキ,飯豊町
でスギ,クリ,アカマツ,砺波市でスギ,カキノキ,ウラジロガシ,斐川
町でモチノキ,クロマツ,マテバジイであった。照葉樹林帯に属する斐川
町を除き,夏緑広葉樹林帯に属する 3 地域ではすべての屋敷でスギに出現
し,優占種でもあった。スギのように植栽された樹種を除く,各地に出現
する植物群はその地域の潜在植生の要素が含まれ,多様な植物から屋敷林
は構成されていることがわかった。
山陽地方におけるイノシシ、シカ、クマなどの大型哺乳類は近年まで瀬
戸内海沿岸部では見られなかった。これは、戦中・戦後の山林利用・開
発により人間の活動が内陸にまで及んだ結果これらの生息域を中国山地
の奥へと追いやっていたことが理由として挙げられる。しかしこの数十
年で中国山地において、特にイノシシによる農作物の被害が頻出するよ
うになり、現在では瀬戸内海沿岸や海を渡った先の島嶼にまで多くのイ
ノシシが出現している。イノシシの個体数推定と管理計画策定の試みは
各地で行われているが、産子数も多く雑食で環境も強くは選ばない特性
を持つため芳しい結果を挙げていない。本研究では個体数推定による分
布から生態を研究する手法をとらず、イノシシ被害を景観構造から説明
することを目指すこととする。これは山中に生息している個体数よりも、
人里と接触する機会の多さの方が農作物の被害に大きく影響を与えてい
ると考えられるためである。広島県倉橋町は他市町村に比べイノシシ被
害の大きい町で、本町において“ イノシシが人里と接触する機会の多さ
“ を人口・農家数・道路密度・土地被覆状況などから推定し、イノシシの
捕獲頭数との関連を調べた。捕獲頭数の多い地域は農家数も多く、道路
が入り組んでいるところの耕作放棄地が多かった。次にこの傾向をもと
に広島県全体を ”接触の機会“ で色分けし、実際の捕獲頭数と比較した。
1979,1980,2000 年の Landsat 衛星画像を用いて各市町村における現在の
土地被覆に至る過程にも注目した。また、現在行っている各市町村への
アンケート調査がまとまれば、全県的に大字単位で ”接触の機会“ と被
害との比較を行い、また時系列を追った農作物被害の拡大からイノシシ
の分布域の広がりをとらえ、その地域別景観構造の特徴による説明も試
みる。さらに、これらから今後の地域別被害予測や ”接触の機会“ を最
小限に抑える農村計画の提言をしたい。
P1-187c
P1-188c
12:30-14:30
屋敷林と鳥類群集の関係
◦
12:30-14:30
屋敷林の構造–地域による相違–
景観の変遷とイノシシ被害の広がり
◦
8 月 26 日 (木) C 会場
12:30-14:30
長野県白馬村におけるカタクリ,カンアオイ類の生育立地特性とその
変化
村田 野人1, 竹原 明秀1
◦
1
岩手大学人文社会科学
屋敷林は主に防風のために家屋の背後に植林されたもので、農耕地が広
い面積を占める農村地域において鳥類をはじめとする様々な生物の生息
場所として重要な役割を果たしている。しかし、燃料や肥料の供給場所と
いう屋敷林の役割は大きく減少し、下草刈りや間伐などの管理は行われ
なくなり、そこに生息する鳥類群集にも大きな変化が生じていると考え
られる。そこで、本研究では農村地域において、繁殖期と越冬期の鳥類
群集を調査し、比較を行った。これらは屋敷林を鳥類の生息地として評
価する際に必要となる基礎的データの蓄積となる。調査は散居からなり、
多くの屋敷林が点在する岩手県胆沢扇状地で行った。調査地は屋敷林 4ヵ
所と扇状地周辺の二次林 2ヵ所を選出した。鳥類の観察はプロットセン
サス法を用いて 2001 年 8 月、10 月、2002 年 2 月、6 月の 4 回各調
査地ごとに終日、調査を行い、種名、個体数を記録した。全調査中に 26
科 53 種が記録された。そのうち屋敷林を訪れた鳥類は 22 科 34 種、二
次林を訪れた鳥類は 15 科 29 種であった。屋敷林では森林に生息する樹
林型鳥類(ヒガラ、カケスなど)と比較的開けた環境を選好する鳥類(カ
ワラヒワ、スズメなど)の両方が見られ、二次林よりも訪れた種数と個体
数が多かった。また、屋敷林の種多様度は繁殖期よりも越冬期のほうが
高い傾向がみられた。これは越冬期、二次林などの樹林型鳥類が屋敷林
に移動したために種数と個体数がいずれも増加したことによると考えら
れる。以上の結果屋敷林は樹林型鳥類と開けた場所を選好する鳥類の生
息地となり樹林型鳥類の越冬地としての役割を持つことが示唆された。
藤原 直子1, 尾関 雅章2, 前河 正昭2
1
豊橋市自然史博物館, 2長野県環境保全研究所
長野県白馬村はギフチョウ(Luehdorfia japonica)とそれに近縁なヒメギフ
チョウ(Luehdorfia puziloi)の混生地として知られ,両種は村の天然記念物
に指定されている.また,ギフチョウは本州の固有種であり国のレッドリス
トで絶滅危惧 II 類とされている.白馬村においてはこれら2種のチョウの保
全を目的とした基礎調査として,これまでにギフチョウの食草であるミヤマ
アオイ(Asarum fauriei var. nakaianum),ヒメギフチョウの食草であるウス
バサイシン(Asarum sieboldii Miq.),また両種の吸蜜植物として重要なカタ
クリ(Erythronium japonicum Decne.)の分布調査が行われてきた.そこで,
1990 年 ∼1994 年に行われたこれらの分布調査結果から,ギフチョウ・ヒメ
ギフチョウの食草および吸蜜植物の生育立地特性を明らかにするとともに,
2001 年 ∼2004 年にかけて生育状況の再調査を行い,約 10 年間での変化の
要因について解析を試みた.なお,これらの植物の生育状況の変化は,白馬
村の里山の環境変化を指標するものとして意義あるものと考えられる.1990
年 ∼1994 年に行われた分布調査では,白馬村平野部におけるカタクリ,ミ
ヤマアオイ,ウスバサイシンの生育地点が踏査によって確認された.2001 年
∼2004 年にかけて,過去に調査対象種が確認された約 50 地点を再調査し,
生育地の植生および対象種の個体数・開花の有無などの生育状況を確認した.
再調査地点中に,個体数が減少もしくは消失した例が複数確認された.カタ
クリの生育地では 10 地点で生育が再確認できなかったが,要因として道路
や別荘などの造成,遷移の進行が原因と考えられるものがみられた.各植物
の生育立地特性については GIS を用いて分析し,生育状況の変化と立地特
性の相関を検討した.
— 158—
日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
一般講演・ポスター発表 — 8 月 27 日 (金)
• 行動・社会生態
• 個体群生態
• 群集生態
• 植物群落
— 159—
日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
— 160—
ポスター発表: 行動・社会生態
P2-001
P2-002
12:30-14:30
同所的に生息する淡水巻貝2種の種間関係
◦
◦
12:30-14:30
古賀 庸憲1
1
1
和歌山大学教育学部
鹿児島大学大学院理工学研究科
同所的に生息する淡水巻貝2種,カワニナ Semisulcospira libertina と イ
シマキガイ Clithon retropictus のニッチ分けとその要因について調査した。
鹿児島市内を流れる五位野川の中流部淡水域では,この 2 種が同所的に
生息 しているのが見られる。五位野川の中流から河口にかけて 4 つの調
査区を設置し,それぞれ Station 1, 2, 3, 4 とする。Station1∼4 の調査区
4 地点において,1:瀬の岩表,2:淵の岩表,3:淵の砂泥地の 3 つのカ
テゴリーを設定し,2001 年は毎月1回,2002 年以降は各季節(春夏秋
冬)ごとに,カワニナとイシマキガイの 2 種のそれぞれのカテゴリーに
おける出現数を計測した。ニッチ分け調査の結果,カワニナしか生息し
ていない Station 1では,淵の岩表に生息しているのが多く確認された
が,2 種が同所的に生息している Stati on2,3 で,カワニナは淵の砂泥
地で多く確認された。イシマキガイはどの Station でも ほとんど瀬や淵
の岩表で多く確認された。両種の好む生息場所の傾向に季節的変化はみ
られなかった。
ニッチ分けの要因として,他種の粘液が影響しているという仮説をたて,
室内で各種の他種の粘液に対する行動を観察する 実験を行った。実験の
結果,カワニナはイシマキガイの粘液を忌避する傾向にあり,イシマキ
ガイにはカワニナの粘液に対 する忌避の傾向はみられなかった。
12:30-14:30
長野県伊那盆地におけるダルマガエルの生息状況と移動性
◦
P2-001
吸虫の感染は中間宿主コメツキガニの摂食行動に影響を与えるか?
小野田 剛1
P2-003
8 月 27 日 (金) C 会場
水野 敦1, 大窪 久美子2, 澤畠 拓夫3
1
信州大学大学院農学研究科, 2信州大学農学部, 3越後松之山「森の学校」キョロロ。
ダルマガエル Rana porosa brevipoda の移動性及び個体数密度の季節変化,
個体群構造,環境要因と密度との関連性を把握するため調査を行った.2003
年 6 月から 12 月長野県上伊那郡南箕輪村の水田(62 筆)
・水路・畑地を巡
回してトノサマガエル群を捕獲し,体長・体色・個体標識・捕獲位置・行
動等を記録し放逐した.2 箇所の水田(計 10 筆)では個体の水田内・水
田間の移動を把握するため,指切り法による標識を行った.
指切り区を 9 巡,非指切り区を 6 巡し,ダルマガエルを 779 回採捕した.
指切り区では 377 個体に標識を行い,75 個体を再捕獲,再捕獲率は 19.9
%,最多再捕獲回数は 3 回だった. 標識個体の再捕獲回数は 91 回だった.
再捕獲場所は前回と同じ水田での採捕が 69.2 %,前回の水田と辺を接す
る水田が 18.7 %であった.移動距離では 5m 以内が 42.8 %,10 m以内
が 17.6 %で,最大は約 58m だった.背中線を有する個体の採捕は 83 回
(10.7 %) だった.調査地域内でも局所的な背中線発生率は異なっており,
調査地域の北側で高かった.環境要因別の個体数密度の解析では,水量で
は水抜き中(水無・水少)より水が多い方が,水田面積では 6a 以上より
6a 未満の小さい方が,畦の植物高では 40cm 以上より未満の方が,有意に
個体数密度が高かった.
ダルマガエルの移動性は低く,1 箇所の水田に留まる傾向がみられた.背中
線の出現が遺伝的要素によるものだとすれば,背中線出現率の差はダルマガ
エルの移動性の低さによる遺伝的差異の増大に起因すると推測され,この
結論を支持するものだと考えられた.またダルマガエルは水田で 91.6 %が
採捕され,個体数密度と水田水量の間には強い相関がみられた.以上から
ダルマガエルは生息する水田に強く依存し,個々の水田の影響を受けやす
い性質を持つといえた.
コメツキガニ Scopimera globosa は,吸虫の 1 種 Gynaecotyla squatarolae の
第 2 中間宿主になっている.終宿主はシギ・チドリ類であり,吸虫は捕食に
よってカニから終宿主の鳥へと感染するので,終宿主に確実にたどり着くた
めに,カニの行動に影響を与えて鳥に捕食されやすくしていることが期待さ
れる.以前,コメツキガニの調査において,寄生する吸虫数の多い個体ほど
体重が軽いという結果が得られていた.そこで,寄生数の多いカニほど盛ん
に摂食を行うと予測して調査を行った.摂食行動を盛んに行う(摂食活性が
高まる)ことにより,カニの鳥に対する警戒がおろそかになり,捕食されや
すくなると考えられる.
カニの摂食活性の指標として,単位時間あたりの摂食時間の割合および鉗
脚を口器に運ぶ回数を測定した.約 30 分毎に気温と地表温度を測定した.
観察終了後カニを捕獲し,体サイズと体重を測定し,寄生吸虫数を調べた.
寄生数は体サイズの大きな個体ほど多かったが,これは大きな個体ほど齢
が進んでいて干潟で吸虫に曝される時間が長いためだと考えられる.そこで,
体サイズをコントロールして解析したところ,カニの体重は寄生数の影響を
受けていなかった.即ち,吸虫はカニの体重を減少させていなかった.摂食
活性の高さはカニの体サイズおよびその時の地表温度と有意な関係があった.
小さい個体ほど,また地表温度が高いときほど摂食活性が高い傾向があった.
しかし,摂食活性は寄生数とは無関係であった.
したがって,吸虫はカニを痩せさせているわけではなく,また摂食活動や
活動距離にも影響を与えておらず,カニを操作していると判断する材料は見
つからなかった.なぜ影響がないのか,議論する.
P2-004
12:30-14:30
ツキノワグマ誤捕獲個体の放獣後の移動状況
◦
西 信介1, 藤田 文子2, 山本 福壽2
1
鳥取県林業試験場, 2鳥取大学農学部
鳥取県ではイノシシ被害の増加に伴って有害鳥獣駆除罠の設置が増え
ており、イノシシ罠によるツキノワグマの誤捕獲が問題化している。鳥
取県のツキノワグマは絶滅のおそれのある地域個体群に指定されている
ことから、県は 2002 年から誤捕獲されたツキノワグマの放獣を始め、
2002 年と 2003 年の 2 年間に 6 頭の移動放獣を行った。その内 5 頭に
電波発信機付き首輪を装着し、放獣後の移動を追跡したので、その結果
を報告する。
2002 年は 5 月 31 日に幼齢の♂(個体 M)と 11 月 12 日に 4 才の♂
(個体 F)の 2 個体を、2003 年は 7 月 16 日に 12 才の♀(個体 A)と
その仔の♂(発信機無)、8 月 18 日に若齢の♀(個体 S)、11 月 25 日に
13 才の♀(個体 Z)の 4 個体を放獣した。調査は、原則として放獣後 1
週間はほぼ毎日、その後は週に 1 回以上、日中に行って位置を特定した。
個体 Z は放獣 2 日後に見失い、継続して追跡できたのは 4 頭であっ
た。継続追跡できた 4 頭は捕獲地から同一町内の 3-8km 離れた場所で
放獣されたが、4 個体ともに捕獲地付近への移動がみられ、生息してい
た場所へ回帰する性質が強かった。個体 M は放獣した 6ヶ月後に行方不
明となったが、その間の行動範囲は最外郭法で 110km2 と広かった。し
かし、他の 3 個体は調査期間に差があるものの 3-19km2 と既存の報告
より狭く、特に個体 A は子連れであったためか、捕獲地付近に戻ってか
ら冬眠までの 5ヶ月の行動範囲は 2km2 と極めて狭かった。
今回調査したツキノワグマは回帰性が強かったので、一度誤捕獲され
た地域では再度誤捕獲される可能性がある。また行動圏は従来の報告よ
り狭かったことから、鳥取県は生息環境が良くて狭い地域で十分餌が確
保できる、または生息密度が低くて餌をめぐる競争が少ないなどが考え
られた。調査個体数が少ないので、更に調査の蓄積が必要である。
— 161—
P2-005
ポスター発表: 行動・社会生態
P2-005
P2-006
12:30-14:30
杉浦 秀樹1, 下岡 ゆき子1, 辻 大和2
◦
1
京都大学霊長類研究所, 2東京大学大学院農学生命科学研究
武蔵大学, 2京都 大学, 3総合地球環境学研究所, 4マヒドル大学
ブタオザル (Macaca nemestrina) の一亜種 (M. n. nemestrina) は、スマトラ、ボル
ネオ、マレー半島の熱帯多雨林に分布し、もう一つの亜種 (M. n. leonina) は、タ
イ、ベトナム、ミャンマーの熱帯季節林に分布している。
タイのカオヤイ国立公園に生息するブタオザルの繁殖戦略や性行動を、2001 年 5
月から 2002 年 3 月まで、群れの第 1 位と第 2 位オスと発情オトナメスを、375
時間個体追跡して調査した。G 群と T 群のサイズは 148 頭と 168 頭であった。
群れの個体数推定値から、群れサイズは 30 頭から 170 頭程度までの大きな幅が
あり、カオヤイ国立公園では、100 頭を超えることも稀ではない。
オスの最大射精能力を測定した。オスの連続個体追跡による射精平均間隔時間は、
1.78 時間(n=20)で、最短で 36 分間、最長で 3 時間 5 分であった。オスの 1
日 (12 時間) 最大可能射精回数は、平均 6.7 回に過ぎなかった。発情メスは射精
直後から、プレゼントを盛んに繰り返してオスの交尾を誘うが、オスのスラスト
交尾が回復するのには時間がかかる。
コンソートしていた劣位オスが射精した直後あるいは射精後 10 分までに、優位
オスが発情したメスに接近したり交尾を試みると、劣位なオスは、優位オス個体
に攻撃を挑むが、優位個体の交尾を阻止できなかった。精子が掻き出されるのを
防ごうとする行動と考えられる。
個体追跡中に攻撃交渉のためメスから離れてしまうと、メスが積極的にその場を
離れ、他の順位の低いオスが接近する、スニーキング行動も観察された。メスは、
プレゼントして交尾を誘い、わずか 2 回のスラスト交尾で射精に至った。射精を
獲得したメスは、オスから離れた場所に駆け戻り、このメスを探していた第一位
オスと再会してコンソートが継続していった。再開後、オスからメスへの攻
撃行動や点検行動は見られなかった。
P2-008
12:30-14:30
滋賀県北部におけるイノシシの行動圏と植生
◦
竹村 菜穂1, 丹尾 琴絵1, 井上 貴央1, 近 雅博1, 野間 直彦1, 寺本 憲之2, 山中 成元3, 常喜
弘充3, 鋒山 和幸3, 上田 栄一3
1
滋賀県立大学, 2滋賀県東近江地域農業改良普及センター, 3滋賀県農業試験場湖北分場
全国的に鳥獣害による農作物被害が増加してきている中で、イノシシ(Sus
scrofa leucomystax)による 2002 年度の農作物被害金額は獣害の中で一番
多い。滋賀県においても同様で、イノシシによる農作物被害の軽減は重要
かつ緊急の課題である。しかし、イノシシは警戒心が強く臆病で、森林や
藪の中を好むため、生態や行動に不明な点が多い。そこで、本研究では滋
賀県湖北部におけるイノシシの行動圏と植生との関係を明らかにすること
を目的として調査を行った。
イノシシ被害のある伊香郡高月町、木之本町の山田山周辺で檻を用いてイ
ノシシを 3 頭捕獲し、そのイノシシに首輪型発信機、耳タグタイプの発信
機を取り付け、ラジオテレメトリー法により発信機個体の追跡を行った。
2003 年 1 月 ∼12 月に 1 頭につき月 1 回、24 時間連続で 1∼2 時間お
きに追跡調査を行った。航空写真と現地調査から作成した植生図から植生
と行動圏の関係を調べた。
イノシシの行動圏面積は最外郭法で約 8ha∼231ha であった。行動圏の占め
る地域が 1 年を通して大きく移動することは少なかった。一般に餌が集中
していれば行動圏のサイズが小さくなり、この逆であれば大きくなる。調
査個体は良い環境の地域を基点にして季節ごとに行動圏の大きさを変化さ
せて餌資源の季節変化に対応している可能性が考えられた。今後餌資源量
の季節変化の推定が必要である。
イノシシの行動圏内の植生比率と測定点の植生から、アカマツ林よりも広
葉樹林、スギ・ヒノキ植林地を選択する傾向がみられた。他の研究ではイ
ノシシは植林地を避けると考えられているが、本研究では植林地を選択し
ていた。調査地の植林地が比較的よく間伐されていることにより、下草が
多く生えてイノシシにとってよい環境となっている可能性がある。今後行
動圏内の詳しい植生調査が必要である。
丸橋 珠樹1, 北村 俊平2, 湯本 貴和3, プーンスワッド ピライ4
1
ニホンザルは、凝集性の高い群れをつくる。野生のニホンザルの1群れ
を対象に、群れが、どれくらい広がっているかを推定した。
複数の観察者が個体追跡を行い、観察者の位置をGPSで記録した。観
察者の位置を、対象個体の位置の近似値と見なし、個体間の距離を測定
した。
調査時期によって平均的な個体間距離は変化した。これは、群れの凝集
性が時期によって変化することを示唆している。群れの広がりの大きさ
に影響するのは、食物の利用のしかたや、交尾期にオスからの攻撃を避
けるために凝集することなどが、考えられる。また、群れは常に同じ大
きさを保っているわけではなく、広がったり、集まったりしていること
が、示唆された。
P2-007
12:30-14:30
タイ王国・カオヤイ国立公園に生息するブタオザル (Macaca nemestrina)
雄の繁殖戦略
ニホンザルの群れの空間的な広がり
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
異なる対捕食戦略をとるアブラムシ 2 種に対するナナホシテントウ幼
虫の餌選好性
◦
井手 徹1
1
佐賀大学 農学部
カラスノエンドウやソラマメなどのマメ科植物上で同所的に見られるマメア
ブラムシとエンドウヒゲナガアブラムシに対するナナホシテントウ幼虫の餌選
好性について調べた。
野外調査において、カラスノエンドウ群落上のマメアブラムシ数およびエン
ドウヒゲナガアブラムシ数とそこに訪れるナナホシテントウ幼虫数の間にはと
もに正の相関があり、アブラムシが多い場所にナナホシテントウ幼虫は多く訪
れていた。しかしナナホシテントウ幼虫はエンドウヒゲナガアブラムシが多く
寄生したカラスノエンドウ群落よりもマメアブラムシが多く寄生したカラスノ
エンドウ群落に来訪する割合が高かったことから、ナナホシテントウ幼虫はエ
ンドウヒゲナガアブラムシよりマメアブラムシの方に高い選好性をもつことが
示唆された。
ナナホシテントウ幼虫の発育や成長はマメアブラムシのみを与えて飼育した
場合とエンドウヒゲナガアブラムシのみを与えて飼育した場合でほとんど違い
はみられなかった。したがって、ナナホシテントウ幼虫の餌としてマメアブラ
ムシとエンドウヒゲナガアブラムシでは質的な違いがないと考えられた。
室内実験において、ナナホシテントウ幼虫のアブラムシ捕食成功率はマメア
ブラムシの方が高く、また捕食数もマメアブラムシの方が多かった。したがっ
て、ナナホシテントウ幼虫にとってはマメアブラムシの方が利用しやすい資源
であると考えられた。
またナナホシテントウ幼虫に攻撃された時、マメアブラムシよりエンドウヒ
ゲナガアブラムシの方が寄主植物上から落下する個体が多かった。その結果、
実験終了時まで寄主植物上に残っていたアブラムシ数はマメアブラムシの方が
多く、ナナホシテントウ幼虫はマメアブラムシが寄生した植物上でより長い時
間滞在していた。
以上のことから、ナナホシテントウ幼虫の餌選好性にはアブラムシの捕食効
率と餌パッチの持続性が重要であることが示唆された。
— 162—
ポスター発表: 行動・社会生態
P2-009
P2-010
12:30-14:30
マダガスカル北西部におけるブラウンキツネザルの行動圏,日周活動,
採食様式
◦
◦
佐々木 健志1
1
琉球大学資料館
1
東邦大学理学部地理生態学研究室
2003 年 10 月から翌年 3 月にかけて,マダガスカル共和国北西部に位置す
るアンカラファンツィカ国立公園内の乾燥林においてブラウンキツネザルの
10 個体の群れ(当歳のコドモ 2 個体を含む)を追跡し,行動圏,日周活動,
採食様式を記録した.観察地点の最外画を結んだこの群れの行動圏は約 20
ヘクタールで,マダガスカル西部で記録されている面積(7 ヘクタール)よ
り大きく,東部の降雨林に棲息する同種と同じくらいの面積であった.本種
は昼夜行性の活動様式を持つと言われている.観察によると,まだ薄暗い 5
時前に活動を開始して移動,採食をし,気温が 30◦ C を越える 7 時半から 8
時半頃に休息に入った.そのまま 15 時ごろまで同じ場所で休息を続け,その
後また移動と採食を始めた.日没前には大きく移動し,夜間も採食を行なっ
ていた.採食行動を見ると,果実と葉が食物の大部分を占めており,雨季の初
めには特に新芽を多く食べていた.観察対象の群れは人家近くにも現れ,夜
間にはマンゴーなどの栽培果実も食べていたため,行動圏は,人為的な採食
場所にも影響を受けていることが示唆された.一方,同地域に棲息する鳥類
マダガスカルサンコウチョウ(以下サンコウチョウ)の巣の卵や雛に対する
捕食圧は非常に高いことが知られている.調査期間中,ブラウンキツネザル
がサンコウチョウの巣を発見し,卵と雛を捕食するところがそれぞれ 1 回ず
つ観察された.捕食にあった巣は壊れて地面に落ちていた.このように卵や
雛がなくなった上に壊された巣は多く発見されている.このことから,ブラ
ウンキツネザルはサンコウチョウの巣の卵や雛にとって主要な捕食者である
ことが示唆された.しかしブラウンキツネザルは積極的に鳥類の巣を探して
いるわけではなかったので,鳥類の卵や雛は主要な食物ではなく,たまたま
巣を見つけたときに食べる,いわば副食のようなものであると考えられた.
大塚 康徳1, 徳永 幸彦1
1
筑波大学・生命共存
インゲンゾウムシの幼虫の豆への侵入率は幼虫が1頭しか存在しないときよ
りも複数頭存在している場合の方が高い侵入率を示す。これには幼虫が豆に
侵入する際の方法が2通り存在することが深く関わっている。2通りの方法
とは「自ら豆に穴を開けて豆に侵入する方法」と「他の幼虫によってすでに
開けられた穴を利用して豆に侵入する方法」である。自ら穴を開けて豆に侵
入した幼虫を pioneer、すでに開いていた穴を利用して豆に侵入した幼虫を
follower と呼ぶ。
pioneer と follower をわける大きな要因は豆の表皮にあり、豆の表皮が存在
しない状態の侵入率は豆の表皮が存在する場合の侵入率を大きく上回る。そ
こで pioneer と follower をより厳密に次のように定義した。pioneer とは豆
の表皮を食い破って豆に侵入した個体であり、follower とは表皮を食い破ら
ずに豆に侵入した個体である。
過去の研究や著者の実験から幼虫はすでに開いている穴を好んで利用してお
り、pioneer として豆に侵入できる幼虫も好んで follower として豆に侵入し
ていた。しかし、少なくとも1頭は pioneer にならなければどの個体も豆に
侵入することができない上に、1個の豆という限られた資源に多数個体が侵
入すれば当然資源が枯渇し個体数の減少につながる。よってインゲンゾウム
シの幼虫の豆への侵入行動は、他の幼虫の存在に依存した戦略行動といえる。
今回の研究では資源量は無視して問題を単純化し、豆への侵入に限定して
幼虫が複数等存在するときの幼虫の最適戦略、つまり最適な pioneer の比率
について実験を行った。また、pioneer として豆に侵入できる幼虫も好んで
follower として豆に侵入していたこと、そして少なくとも1頭が pioneer に
ならなければ全個体が豆に侵入できずに死んでしまうということからインゲ
ンゾウムシの豆への侵入行動を n 人のチキンゲームとしてとらえモデルを作
成した。
沖縄島北部の山地には、イタジイを優占種とするオキナワウラジロガシ、
イスノキなどからなる常緑広葉樹の森林が広がっている。このうち、イタジ
イやマテバシイ、オキナワウラジロガシなどのブナ科植物が生産する大量の
堅果は、様々な動物の重要な餌資源となる一方で、動物による堅果の加害や
散布がこれらの樹木の更新や分布の拡大に様々な影響を与えている。今回、
ネズミ類の巣穴調査中に偶然発見された、サワガニ類によるブナ科堅果の貯
食行動に伴う種子散布の可能性について報告する。
当地域には 5 種類のサワガニ類が生息しており、水への依存度の違いによ
り活動空間の異なることが知られている。このうち、林床で活動することが
多いオオサワガニの 5 例と主に水辺で活動するオキナワミナミサワガニの 1
例で、イタジイ堅果(1 例のみオキナワウラジロガシ)の巣穴での貯食行動
が確認された。両種とも、巣穴は沢の流底から 0.4∼5m 離れた谷の斜面部
に直径葯 10cm、長さ 40cm 程の坑道が水平に掘られていた。ファイバース
コープで巣穴内の個体が確認できた 6 例中、雌雄の識別ができなかったオオ
サワガニの1例を除き全てメスで、体サイズも 40mm 以上と全ての個体が
成体と考えられた。このことから、堅果の貯食行動は高栄養の餌を必要とす
る産卵前のメスに特有の行動である可能性が高い。巣穴内の堅果は、底の一
部を残して種皮ごと食べられるか、縦方向に割られ中身のみが食べられるか
で、同様の採餌痕は室内実験でも確認された。食べ終わった種皮は、巣穴の
入り口近くに多く貯められており、各巣穴で 63∼168 個の堅果が確認され
た。また、これらの中には未食の堅果が 1∼22 個含まれており、一部に発芽
が見られたことから、サワガニ類が、種子が定着しにくい谷の上部斜面への
種子分散を行っている可能性が示唆された。
P2-012
12:30-14:30
pioneer は一人で十分? ーインゲンゾウムシの幼虫にみる2つの戦略ー
◦
12:30-14:30
沖縄島におけるサワガニ類 2 種のブナ科堅果の貯食行動について
水田 拓1
P2-011
P2-009
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
オガサワラオオコウモリの冬季集団ねぐらでの社会構造
◦
杉田 典正1, 藤井 章2, 稲葉 慎3, 上田 恵介4
1
立教大学大学院理学研究科, 2東京大学総合研究博物館, 3小笠原自然文化研究所, 4立教大学理学部
ほとんどのオオコウモリ属は、日中、休息地(ねぐら)を樹上に形成す
る。オーストラリアなどでは、ねぐらに利用される林は伝統的に何十年も
使用され続けるが、繁殖サイクルや食物となる植物のフェノロジーによっ
てねぐら林を移動させることもある。オオコウモリ属には、ねぐらを中心
にして高い社会性があるといわれているが、詳しい研究例はほとんどない。
オガサワラオオコウモリ Pteropus pselaphon は少なくとも 30 年の間、父
島のある決まった森に集団ねぐらを形成してきた。この集団ねぐらは冬季
のみ形成され、それ以外の季節は分散し、季節的にねぐらを移動させると
いう、他のオオコウモリ属では知られていない行動が報告されている。そ
こで演者らはオガサワラオオコウモリの集団ねぐらの形成理由を解明する
ことを目的に、2003 年 6 月中旬から 2004 年 5 月上旬まで、冬季集団ね
ぐらおよび集団化前のねぐらにおいて、行動観察をおこなった。今回、そ
のデータに基づき、オガサワラオオコウモリの社会構造の核心部分である
冬季集団ねぐら内における社会関係について報告する。
観察の結果、冬季集団ねぐらの群れ(グループ)に、毎回利用される特
定の樹木が数本あり、それぞれの樹木で休息している個体群は性別や成長
段階によって 3 つに分けられた(サブグループ)。(1) 多数のメスと少数
のオス成獣を含むサブグループと (2) オス成獣がほとんどのサブグループ、
(3) オス亜成獣とメスが含まれるサブグループであった。交尾は、(1) のサ
ブグループ内のメスとオス成獣間で起きた。一方、観察例は少ないが、集
団化前のねぐらは単独または授乳中の親子の個体であり、交尾は観察され
なかった。
冬季集団ねぐらにおける社会関係と、季節的なねぐらの利用様式の変化な
どから考察すると、冬季のねぐらの集団化は繁殖行動を目的としたもので
あることが強く示唆された。
— 163—
P2-013
ポスター発表: 行動・社会生態
P2-013
P2-014
12:30-14:30
シジュウカラでは、どんなオスが父性を失い、どんなオスが婚外父性
を得ていたか?
◦
◦
道前 洋史1, 西村 欣也2, 若原 正己1
1
北海道大学大学院理学研究科, 2北海道大学大学院水産学研究科
1
九大・理・生物, 2立教大・動物生態
一夫一妻鳥類において、メスが夫以外のオスと交尾している、という観
察事例が蓄積されてきている。シジュウカラ Parus major において、オ
スのいくつかの形質に注目し、オスが自身の父性を失う、また婚外父性
を獲得するのにどのようなパターンがみられるのかについて調査した。
1999 年と 2000 年に福岡市油山にて捕獲されたシジュウカラの家族を対
象に、親子判定を行った。[調査 1] どのようなオスが父性を失っていた
か?巣内の婚外ヒナ率と、社会的な父親のいくつかの形質および社会的
ペア間の血縁度の関係を調べた。体サイズ、装飾形質、個体あたりの近
交係数と巣内の婚外ヒナ率に有意な関係がみられた。体や装飾の小さい
オスほど父性を失っていたので、自身の父性の保持にはオス間闘争の影
響が大きいのかもしれない。[調査 2] どんなオスが婚外父性を得ていた
か?婚外ヒナごとに育ての父 (メスにとっては社会的な夫) の形質と遺伝
子の父(メスにとっては婚外交尾相手)を対として、両者の形質を比較
した。装飾形質の大きいオスが婚外父性の獲得によく成功していた。ま
た、メスは自分の社会的な夫よりも血縁の遠いオスとの間に婚外ヒナを
もうけていた。
エゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)幼生の Broad-headed morph(頭
でっかち)は特定の環境下で誘導され、また抑制されることが知られている
表現型可塑性の一つである。その誘導要因は、同種や他種オタマジャクシの
密度であり、抑制要因は周囲個体との血縁関係(血縁者との遭遇頻度)であ
る。これらの要因は、自然条件下の生息地(池)間で大きく異なっており、
生息地の幼生密度や血縁環境は、究極的にもその頭でっかちの発現に影響を
与えている。すなわち、頭でっかちの発現に集団間の変異が存在する。高密
度で血縁者との遭遇頻度が低い集団では、頭でっかちがより高頻度に発現し、
低密度で血縁者との遭遇頻度が高い集団では、より低く発現した。
一般に卵サイズは幼生の生存、さらには適応度にも影響を与える形質である。
そのため、卵サイズは幼生の生息環境の違いで変異を示すかもしれない。例
えば、幼生密度が高く適当な餌が無い環境であれば、卵サイズは大きくなる
と期待される。また、社会環境も卵サイズに影響を与えることも報告されて
いる。そうであれば、頭でっかち発現の地域間の変異と一致する可能性があ
る。また、この卵サイズと頭でっかち(表現型可塑性)の 2 形質は進化的に
相関してきたことも予想される。本研究では、エゾサンショウウオの卵サイ
ズと、その幼生の表現型可塑性である頭でっかちの発生率を、選択圧の異な
る 4 つの生息地間で比較した。さらに、卵サイズと頭でっかちの形質相関も
4 つの生息地間で比較した。結果、生息地間で卵サイズと頭でっかちの発生
率は大きく異なった。また、この 2 形質は相関していたが、集団間でその関
係は変化しなかった。これは、制約された関係を示唆している。
P2-016c
12:30-14:30
シロアリと卵擬態菌核菌の共生
◦
12:30-14:30
制約された形質相関:サンショウウオの卵サイズと表現型可塑性
河野 かつら1, 山口 典之2, 矢原 徹一1
P2-015c
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
単独性ハナバチは先に採餌された花を見分けられる?
◦
松浦 健二1,2
横井 智之1, 藤崎 憲治1
1
1
ハーバード大学・進化生物, 2岡山大学・院・自然科学研究科
京都大学大学院農学研究科昆虫生態学研究室
擬態は幅広い分類群に見られる戦術であり、「だます側」と「見破る側」
の軍拡競争の好例として、進化生態学の分野では盛んに研究されてきた。
高等動植物による巧みな擬態の例は無数に知られているが、菌類による
擬態をご存知だろうか。ここで、世界初の「シロアリの卵に擬態するカ
ビ」について発表する。シロアリのワーカーは、女王の産んだ卵を運ん
で山積みにし、世話をする習性がある。このようにしてできる卵塊の中
に、シロアリの卵とは異なる褐色の球体(ターマイトボール)が見られ
る。この球体のリボソーム RNA 遺伝子を分析した結果、Athelia 属の新
種の糸状菌がつくる菌核であることが判明した。菌核とは菌糸が柔組織
状に固く結合したもので、このかたちで休眠状態を保つことができる。卵
塊中に菌核が存在する現象は、ヤマトシロアリ属のシロアリにきわめて
普遍的にみられる。日本の Reticulitermes speratus と同様に、米国東部に
広く分布する R. flavipes および米国東南部に生息する R. virginicus も、
卵塊中に Athelia 属菌の菌核を保有することが判明した。シロアリは卵の
形状とサイズ、および卵認識物質によって卵を認識する。この菌核菌は
シロアリの卵の短径と同じサイズの菌核をつくり、さらに化学擬態する
ことによって、シロアリに運搬、保護させている。シロアリは抗菌活性
のある糞や唾液を巣の内壁に塗って、様々な微生物の侵入から巣を守っ
ている。卵に擬態することによって巣内に入り込んだ菌核菌は、一部が
巣内で繁殖し、新たに形成された菌核はさらに卵塊中に運ばれる。卵塊
中の卵よりも菌核の数の方が多いこともしばしばある。シロアリのコロ
ニーが他の場所に移動する際や、分裂増殖する際には、菌核菌もそれに
乗じて移動分散することができる。日本および米国におけるシロアリと
卵擬態菌核菌の相互作用について議論する。
ハナバチ類では効率的な採餌を行うための方法の一つとして、既に訪花
して報酬を得た花に自らの匂いをマーキングし、同個体または同種他個
体が報酬のなくなった花に再訪花するのを避けることが知られている。
特にセイヨウミツバチ、マルハナバチ、ハリナシバチなどの社会性ハナ
バチ類では野外実験や人工花などを使って研究されており(Goulson et
al.,1998)、前脚の分泌線からの分泌物をマーキングに利用しているとさ
れる。匂いのマーキングには忌避効果の他に誘引の効果を持つものもあ
るとされている。一方、単独性ハナバチではこのようなマーキング行動
についてはほとんど知られていない(Gilbert et al.,2003)。
今回の実験では単独性ハナバチ類でも社会性ハナバチ類と同様、訪花
した際の匂いのマーキング行動が存在するか否かを確認するために、4
種の単独性ハナバチを対象として既に訪花された花に対して次に訪花す
る個体がどのような行動をとるのかについて検証した。方法は先に訪花
された花を3分以内に同個体もしくは同種他個体のハナバチに提示した
場合、その個体がとる行動を接近のみ・着地のみ・採餌の3パターンに
分類し、その頻度を比較した。その結果、アカガネコハナバチ、ミツク
リヒゲナガハナバチでは忌避効果を持つ匂いのマーキングの存在が示唆
された。一方アシブトムカシハナバチやウツギヒメハナバチでは視覚に
より花の報酬の有無を確認していると思われた。
— 164—
ポスター発表: 行動・社会生態
P2-017c
P2-018c
12:30-14:30
琵琶湖固有種であるハゼ科魚類イサザの雄が複数雌との配偶を拒否す
る理由
◦
◦
鹿野 雄一1, 清水 義孝2
1
三重大学 生物資源, 2三国谷調査会
1
京都大学大学院理学研究科動物生態学研究室, 2大阪市立大学理学研究科動物社会学研究室
琵琶湖の固有種であるハゼ科魚類イサザは,多くのハゼ科魚類と同様に,
雄が石の下に造巣し,卵がふ化するまでの間保護を行う。本種の雄は1
匹の雌と番うと,その雌の卵がふ化するまでの間,他雌が産卵しようと
しても攻撃的に排除することが知られている。繁殖期における野外調査
の結果から,産卵直後の卵群よりも,ふ化直前の卵群の方が卵数が少な
いことがわかった。保護卵を食べていた保護雄はほとんどいなかったこ
とから,保護の進行に伴う卵群サイズの低下は,雄の卵食が原因ではな
いと思われた。20%の巣において,水生菌に感染した卵群が見つかった。
そのうちのいくつかは,マット状の水生菌に覆われていた。水生菌感染
は卵発生が進んだ卵群で主に見られた。水生菌に感染した卵群における
卵の生存率は著しく低かったことから,保護後期での卵群サイズの減少
は,水生菌感染によるものと思われた。健康な卵群に比べて,水生菌に
感染された卵群の方が卵数が多かったことは,大きな卵群ほど水生菌に
感染する危険性が高いことを示唆する。以上の結果から,イサザの雄が
複数雌との産卵を拒否することは,卵群サイズの増加に伴う水生菌感染
の危険を避けるためであると思われた。最後に,イサザにおいて繁殖成
功を最大にする最適卵群サイズが存在する可能性について考察する。
繁殖アマゴにおける動的なメス擬態戦略について報告する。成熟メスは
産卵が近づくにつれて、側線から下が真っ黒に色づく。一方、成熟オスは
側線に沿って一本の黒い縞模様が入る。ただし、劣位オスの一部(約 60
%)は側線から下が真っ黒に色づき、メスに非常によく似た体側模様を
呈する。この擬態により、擬態しない劣位オスよりも高い確率でスニー
キングに成功していた。このような社会的地位と体側模様の関係は動的
なものであり、はじめは劣位でメス擬態していた個体が優先オスになる
と、本来のオスの体側模様になることが確認された。その逆のパターン
も見られた。以上のことについて定量的に評価する。
P2-020c
12:30-14:30
ハサミムシ類の系統関係と交尾行動にみられる左右性
◦
12:30-14:30
繁殖アマゴにおける体側模様の二型性と文脈依存メス擬態
高橋 大輔1, 麻田 葉月2, 武山 智博2, 高畑 美寿樹2, 加藤 励2, 安房田 智司2, 幸田 正典2
P2-019c
P2-017c
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
アライグマとタヌキの資源利用特性の比較
◦
上村 佳孝1
岡部 史恵1, 揚妻 直樹2
1
北大 農学研究科, 2北大 北方生物圏フィールド科学センター
1
立正大学・地球環境科学部
直翅系昆虫の一群であるハサミムシ類(Suborder: Forficulina)の雄の
交尾器形態は多様であり,交尾器形態の進化の探求に格好の機会を提供
している.virga と呼ばれる挿入器が 2 本のグループ(ムナボソ,ドウボ
ソ,マルムネ,オオハサミムシの各科)と 1 本のグループ(クロ,テブ
クロ,クギヌキハサミムシ各科)があり,従来,形態形質に基づく分岐
解析から,前者から後者が派生した(= 2 本のうちの一方が失われて 1
本になった)と考えられてきた.しかし,分岐解析において,
「挿入器が
2 本ある状態が祖先的である」と仮定されているため, 交尾器の進化に関
する議論は循環論に陥っており,各研究者による系統仮説も多くの点で
一致をみていなかった.
本研究では,このような状況を解決するため,7科 16 種のハサミムシ
類についてミトコンドリア 16S,核 28S の rRNA 遺伝子の部分塩基配
列による分子系統解析をおこなった.両遺伝子から推定された内群関係
はよく一致し,結合データの解析および最尤法による有根系統樹は以下
の諸点を明らかにした.1.挿入器を 2 本を持つ状態が祖先的であり,1
本しか持たないグループ(3 科)はそこから派生した単系統群である.2.
挿入器を 1 本しか持たないグループの姉妹群はオオハサミムシ科である.
また,
「なぜあるグループは 1 本の挿入器を失ったのか?」という疑問
に対しては,これまで明確な仮説が与えられてこなかった.今回,2 本
の挿入器を持つ各グループのハサミムシ類について,交尾器の形態,挿
入器の使用,交尾行動を検討したところ,オオハサミムシにおいて,他
のグループでは観察されていない一方の挿入器(右)に偏った使用が観
察された.これらの観察結果を得られた系統樹の上で議論し,ハサミム
シ類における挿入器の退化過程について仮説を提示したい.
日本には様々な移入動物が生息しており、在来種に与える影響が懸念さ
れている。ここでとりあげるアライグマ (Plocyon lotor) も日本に移入さ
れた動物であり、ニッチが近いとされるタヌキ (Nyctereutes procynoides)
と競争が生じ、これを排除してしまう危険性が指摘されている。この 2
種間の競合の程度や排除の可能性を検証するには、それぞれの資源利用特
性を明らかにしておく必要がある。そこで、北海道大学北方生物圏フィー
ルド科学センター苫小牧研究林において、同所的に生息するアライグマ
とタヌキの資源利用特性を明らかにし、両種の関係について検討した。調
査地に約 800m の間隔で 8 列 5 行のグリットを設け、その 40ヶ所の交
点に調査プロットを設定した。2003 年 6 月から 11 月にかけて、各プ
ロットに赤外線反応式の自動カメラを設置し、その撮影率から両種の土
地利用頻度を求めた。また、各プロットに 20m × 20m のコドラードを
設け、ミクロスケールの環境要因として、昆虫類・果実・水場・森林構
造などを調べた。さらに、プロットの中心から 400m 以内に含まれる林
相をマクロスケールの環境要因とした。
両種の土地利用頻度と環境要因の関係から、アライグマとタヌキの環境
選択性は全般的に似てはいるものの、広葉樹林・針葉樹林・下層植生構
造などに対する選好性に違いがみられた。また,タヌキはアライグマに
比べて昼間の活動性が高いこともわかった。アライグマとタヌキでは選
好・忌避する環境要因や活動時間帯が異なっていたことから、本調査地
では両種間の競争はある程度回避されていると考えられる。しかし、自
然界における動物の種間関係は固定的なものではなく、人為的な攪乱な
どによって変動しうるものである。従って、両種の関係については、人
間活動の影響も考慮しながら、慎重に検討していかなくてはならない。
— 165—
P2-021c
P2-021c
ポスター発表: 行動・社会生態
P2-022c
12:30-14:30
ヨツモンマメゾウムシの地理的系統内で生じた競争様式と生活史形質
の変異
◦
島 絵里子1, 齊藤 隆1, 高橋 裕史2, 梶 光一3
1
北海道大学フィールド科学センター, 2北海道大学大学院獣医学研究科, 3北海道環境科学研究センター
1
筑波大学・生命共存
2 個体の個体間関係は社会構造の基本である。これまで直接観察が困難な大型
哺乳類では、VHF テレメによる追跡を行い、ホームレンジの空間配置から個
体間関係を推定してきた。しかし例えば、2 個体のホームレンジが重複してい
ても時間軸では忌避することもあり、時空間的な分析が必要である。本研究で
は、GPS テレメによりシカ 3 頭を同時に追跡して、時空間的な個体間関係を
分析し、動物の社会構造の研究における GPS テレメの可能性と制限について
検討した。
調査は北海道南西部に位置する洞爺湖中島のエゾシカ閉鎖個体群を対象に行っ
た。2003 年 3 月に成獣のオスジカ 3 頭を捕獲し追跡を開始した。全個体とも
に、GPS テレメは 3 時間おきに 1 日 8 点を測位し、1 年間追跡できるように
設定した。しかし、6 月以降 GPS 測位成功率が急激に低下したため、全個体
とも測位成功率が 5 割以上を保った 3 月から 5 月のデータを分析に用いた。
各個体のホームレンジとコアエリアは 95%, 50%固定カーネル法を用いて推定
し、ホームレンジサイズ、ホームレンジの安定度の変化を分析した。また、時
空間軸での個体間関係を分析した。
オスジカは安定した空間利用を示さず、ホームレンジの配置とサイズは期間ご
とに変化した。空間的には、オスのホームレンジは他のオスと重複し、重複率
も期間ごとに変化させており、排他的な個体間関係は認められなかった。また、
オスジカはホームレンジが重複している場所を他のオスの存在とは無関係に利
用しており、時間軸においても忌避する個体間関係は認められなかった。
以上の結果にもとづいて、オスジカ同士の個体間関係が空間利用に与える影響
と、動物の社会構造の分析における GPS テレメの有用性について論議する。
分断化された資源を利用する生物個体群では、それぞれの資源をめぐる個
体間の局所的な競争が、個体群全体の動態や生活史形質の進化に対して重要
な役割を果たす。ヨツモンマメゾウムシは、豆を資源として利用し、貯穀害
虫として知られている生物である。幼虫期間中に豆の内部で生活するため、
個々の豆で局所的な競争が生じる。局所的な幼虫間の競争結果は、Nicholson
の競争様式の分類に基づいて、勝ち抜き型と共倒れ型競争に分類される。ヨ
ツモンマメゾウムシの幼虫は、豆内の種内競争において、地理的系統間で異
なる競争様式を示すことが知られている。また、これらの競争様式は、線形
の遺伝様式によって決定していることが報告されている。
今回、C-value を指標にして、ヨツモンマメゾウムシのニュージーランド
系統から、人為的選択や飼育環境の違いにより作成された集団ごとに、幼虫
が異なる競争様式を示すことを報告する。勝ち抜き型競争を示す C-value の
高い系統、共倒れ型競争を示す C-value の低い系統という 2 極化を示した地
理的系統間の変異と比較すると、ニュージーランド系統内では、C-value の
極端に高い値、低い値を示す集団だけでなく、中間の値を示す集団が存在し
た。また、発育日数や体サイズ、産卵数においても異なる集団間で変異が確
認された。ヨツモンマメゾウムシの地理的系統の調査では、C-value と、成
虫の体サイズとの正の相関が示されており、競争様式と、生活史形質との関
係が注目された。そこで、異なる C-value の値を示すニュージーランド系統
由来の集団を用いて、C-value と、羽化日数や体サイズ、産卵数などの生活
史形質との関係を実験的に調査を行った。この結果に基づいて、ヨツモンマ
メゾウムシにおける幼虫の競争様式と生活史形質の関係を議論する。
P2-024c
12:30-14:30
真似るべきか、真似ざるべきか
◦
12:30-14:30
個体間関係はエゾシカ (Cervus nippon yesoensis) のオスの空間利用に
影響を与えるか?
◦
真野 浩行1, 徳永 幸彦1
P2-023c
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
腸内共生細菌伝播時におけるマルカメムシの行動
◦
上原 隆司1, 横溝 裕行1, 巌佐 庸1
細川 貴弘1, 菊池 義智2, 深津 武馬1
1
産総研・生物機能工学, 2茨大・院・理
1
九州大学・理・生物
グッピーの mate-choice では、元々は A という雄を好んでいた雌も、
他の雌が B という雄を選択した様子を見せてやると、好みの逆転が起
こり A よりも B を好むようになることがある。雌は周りで他の雌が
mate-choice を行っていない状況では自分自身で雄を見比べて選択を行わ
なくてはならないが、他の雌の選択を観察したときには、
「その雌の選択
した雄が、その雌にとっては良い雄である」という情報も使って選択を
行うことができる。雌が他の雌の選択を真似して自分が元々好まなかっ
た雄を選ぶ行動は mate-choice copying と呼ばれる。Mate-choice copying
は選択の対象となる複数の雄の間の見た目に差がないほど観察されやす
く、また若い雌ほど copy をしやすいことが観察されている。
本研究では数理モデルを用いて、どのような条件で雌はより良い雄を
選ぶために copy をするべきなのかを解析した。雄の質が正規分布に従っ
ており、雌は雄の体の見た目や求愛行動などから雄の質を判断すると考
える。しかし、雌は雄の見かけから実際の雄の質をそのまま受け取るの
ではなく、実際の質に正規分布に従うノイズが入った見かけの質を受け
取るとする。雌は経験によってどのような雄が良い雄かを知ることがで
き、齢を重ねた雌ほどノイズの分散が小さくなると考える。雌は 2 匹い
る雄のうち、より質の期待値の高い雄を選択するとした。
まず1匹の独立な選択を行った雌を観察した場合には、自分から見た
2 匹の見かけの質の差が小さいほど、また若くて雄を見る目のない雌ほ
ど copy をした方がより良い雄と交配でき、有利であるという結果が得ら
れた。この結果はこれまでの実験・観察の結果に一致する。それから複
数の雌の選択を観察した場合について考え、1 匹の雌の独立な選択を観
察した場合との違いを考察する。
カメムシ類の多くの種では中腸盲嚢内に共生細菌が存在し、宿主カメ
ムシはこの細菌なしには正常な成長、繁殖ができない。共生細菌は一般
的に母子間伝播され、母カメムシが産卵時に自分の持つ共生細菌の一部
を卵のそばに排出し、孵化幼虫がこれを摂取する。共生細菌が産卵から
孵化までの間カメムシの体外に放置されるという点で、この伝播様式は
比較的確実性の低いものと考えられる。
マルカメムシでは、母親が共生細菌を複数の「カプセル」に封入して
卵塊のそばに産みつけ、孵化幼虫がカプセルに口吻を刺して細菌を摂取
する。カプセルには厚い外皮が見られ、その内部には共生細菌だけでな
く多量の分泌物様物質も存在するため、母親にとってカプセル生産は物
質的なコストとなっていると思われる。本講演では、母親のカプセル生
産への投資量について調査、実験をおこない、その適応的意義について
考察する。
野外で採集した卵塊におけるカプセル 1 つあたりの卵数は 3.6 ± 0.7
個(平均±標準偏差、範囲 2-5.5 個)であった。次に、1 つのカプセル
から何匹の幼虫が細菌を摂取できるのかについて明らかにするために実
験をおこなった。10 匹の幼虫にカプセル 1 つを与え、その後ダイズ株
上で飼育したところ、正常に成長できた個体は 6.1 ± 1.3 匹(範囲 4-8
匹)であった。すなわちカプセル 1 つには幼虫約 6 匹分の共生細菌が含
まれていることになる。この結果は、野外における母親はほとんどの場
合で子が必要とする数よりも多めにカプセルを産んでいることを示して
いる。産卵から孵化までの期間は約 7 日であり、この間にカプセルある
いはカプセル内の細菌が失われる可能性がある。母親はこれに備え、子
に確実に共生細菌を伝えるためにカプセルを多めに産んでいるのかもし
れない。
— 166—
ポスター発表: 行動・社会生態
P2-025c
P2-026c
12:30-14:30
採食地におけるマガンの時空間分布変化とその決定要因
◦
◦
三好 和貴1, 東 正剛1
1
1
東京大学・生物多様性科学研究室, 2美唄市
北大・地球環境
食物資源に対する動物の分布決定プロセスを明らかにすることは、その
動物個体群と生息環境との関係を理解するために重要である。最適採食
理論によれば、個体は最も採食効率の高いパッチを選択して利用するこ
とが予測される。しかしながら、外観から資源量推定が困難な食物を利
用する動物が、どのような採食パッチ選択を行うかはあまり知られてい
ない。そこで本研究では、外観からの資源量推定が困難だと考えられる、
藁に混じった落ち籾を主要な食物とするマガン (Anser albifrons)におい
て、個体分布が変化する食物資源の時空間分布によって決定されている
のかを明らかにすることとした。
マガンの渡り中継地として知られる北海道の宮島沼で、道路に囲まれた
550 × 550m 区画の大スケール及び個々の田という小スケールの採食パッ
チに関して、食物資源分布と採食群分布の関係を明らかにした。大スケー
ルでの食物資源分布の変化については、6 つのサンプル区画における採
食個体数と食物減少量の関係から、全ての区画における食物密度の日に
よる変化を推定した。小スケールでの食物資源分布の変化は、3 つのサ
ンプル区画から均等に 20 の田を選び、実際に落ち籾密度を計測した。
大スケールにおいては、秋の滞在中期、後期及び春の滞在中期、後期に
おいて、新しく採食群が利用したパッチの平均食物密度は、ランダムに
選び出したパッチの平均食物密度と変わらないか、むしろ低いことが示
された。小スケールのパッチ選択においても同様の結果が得られた。以
上の結果より、外観から資源量の推定が困難な食物を利用するマガンは、
食物密度の高いパッチを選択的には利用していないことが示唆された。こ
のような条件の環境下において、マガンがどのような採食パッチ選択/放
棄の戦略をとっているのか、過去の研究結果も含めて議論する。
エゾクロテン (Martes Zibellina brachyura) は、ロシアのタイガ地帯、朝鮮
半島北部、中国の一部地域に分布するクロテンの亜種とされる。IUCN
(国際自然保護連合)のレッドリストにおいて本亜種は、DD(データ不
足)にランクされており、現在まで生態学的な研究はほとんど行われて
こなかった。本研究では、エゾクロテンの保護管理を視野に入れた生息
環境の評価を主な目的として、行動圏サイズの推定と、植生スケール・ミ
クロスケール、2つの空間スケールにおける生息地の環境利用の解明及
び考察を試みた。
調査期間は 2000 年から 2003 年、北海道北部において野外調査を行っ
た。行動圏サイズの推定と植生スケールでの環境利用の分析は、テレメ
トリー法を用いた。また、ミクロスケールにおける環境利用の分析では、
ラジオトラッキングとスノートラッキングによって判明できた生息地内
の利用場所と利用可能場所において環境調査を行い、どの環境要因がク
ロテンの行動に影響を及ぼしているかを解析した。
テレメトリー調査の結果、行動圏を固持していないと思われる個体が両
性において確認されたため、行動圏面積は得られたポイント数と最外郭
面積との間の関係が漸近的と見なされる個体においてのみ算出を行った。
その結果、行動圏面積は 0.5 - 1.78km2 とばらつきが見られ、雄間におい
てはいくつか重複が確認された。生息地利用においては、植生スケール
での環境選好性は明確ではなかったのだが、ミクロスケールの分析にお
いて、樹冠植被率の高い環境や大径木の存在する環境、倒木などの枯損
木が多い環境への選好性が明らかとなった。また積雪期の休息時の利用
場所として積雪下での倒木と地面との隙間や樹木の根にできた空間の利
用が頻繁に観察された。以上のことからエゾクロテンは老齢林に特徴的
な森林環境を好む傾向が窺える。
P2-028c
12:30-14:30
コオロギの歌の配偶者選択における役割 - 鍵となるパラメーターの特定
◦
12:30-14:30
エゾクロテンの行動圏と生息地利用
天野 達也1, 牛山 克己2, 藤田 剛1, 樋口 広芳1
P2-027c
P2-025c
8 月 27 日 (金) C 会場
雌が単婚制のキアゲハにおける有核精子と無核精子の動態
◦
角 恵理1
12:30-14:30
小林 泰平1, 渡辺 守1
1
1
筑波大学・環境科学
東京大学大学院 総合文化研究科
コオロギの歌は種特異的であり、種認識において重要な役割を果たすと考
えられる。日本列島に分布する3種のエンマコオロギ属コオロギ(エゾエン
マコオロギ、エンマコオロギ、タイワンエンマコオロギ)のメスに対してプ
レイバック実験を行い、配偶者選択において鍵となる歌のパラメーターを調
べた。
第一に、3種のメスに対して、3種のオスの歌を再生してきかせた。その
結果、分布の重ならない2種間ではお互いの歌を選択しあう割合が高かった
が、分布の重複する2種間ではそのような誤判別はまれであった。すなわち、
分布の重複する2種の間では、自種の歌を正確に判別しており、交配前隔離
に歌が有効に機能していることが示された。
第二に、そのような判別は歌のどのパラメーターの違いに基づくものかを
明らかにするために、コンピューターで合成した歌を再生しメスの反応を調
べた。その結果、歌のパルスペリオドに関しては3種の平均値の歌をプレイ
バックした場合には、自種の平均値の歌を選択する傾向が認められた。一方、
優位周波数については、そのような傾向は認められなかった。チャープ繰り返
し率、パルス数については、3種のメスに共通して、チャープ繰り返し率が
高くなるほど、パルス数が多くなるほど、選択するメスの割合が高くなった。
以上の結果から、コオロギの歌は同所的に分布する近縁他種から自種を正
確に判別するのに有効であること。その際の自種の認識には、歌のパルスペ
リオドが重要であることが示された。また、メスは、自種の歌がとりうる値
の範囲を超えて、チャープ繰り返し率が高く、パルス数が多い歌を選択する
こと、すなわち超正常刺激に対する好みが示された。
鱗翅目昆虫の精子には有核精子と無核精子の2型があり、無核精子は雌が
多回交尾を行なう種における精子間競争で重要な役割があるとされてき
た。アゲハ類では雌が多回交尾制の種が多く、例えばナミアゲハの雌は
生涯に約3回の交尾を行なう。しかし、キアゲハではほとんどの雌が生
涯に1回しか交尾を行なわず、単婚的であることが示唆されてきた。し
たがって、単婚的なキアゲハでは、交尾時に雄が雌へ注入する精子数や
投資量、雌の注入物質の利用状況、雌体内における精子の移動状況など
に違いがある可能性が高い。そこで、幼虫から飼育し羽化させたキアゲ
ハの処女雌と童貞雄をハンドペアリングによって交尾させ、交尾直後か
ら7日目までの雌を適宜解剖し、交尾嚢内と受精嚢内の有核精子数と無
核精子数、精包重量と付属腺物質重量の経時的変化を調べた。注入され
た精包は約 7.6mg で、その精包には約 100 本の有核精子束と、約 18 万
本の無核精子が含まれていた。精包は交尾後6日経ってから半分以下の
重量に減少した。有核精子は交尾後3時間目から、無核精子は交尾直後
から受精嚢へ移動を開始した。多回交尾制の他種に比べ精包の崩壊速度
が遅いことは、キアゲハの雌が2回目の交尾を受け入れるとしても、初
回交尾との間隔が長くなり、結果的に雌の生涯交尾頻度が低くなること
を示唆している。またキアゲハの童貞雄が初回交尾で注入する有核精子
束数は、多回交尾制のナミアゲハの約 3 倍であることが分かった。した
がって、キアゲハとナミアゲハの雌が生涯に受け取る有核精子数はあま
り違いがないといえる。交尾させた雄を2日後に再び未交尾雌と交尾さ
せたところ、注入した精包の重量は初回交尾の約 35%、付属腺物質は約
25%だった。精包中の有核精子束数と無核精子数は、初回交尾と 2 回目
交尾で有意な違いは認められなかった。これらの結果をもとにキアゲハ
の雌の単婚制を考察した。
— 167—
P2-029c
ポスター発表: 行動・社会生態
P2-029c
P2-030c
12:30-14:30
ヨツモンマメゾウムシにおける産卵行動と均等産卵分布の実現:ニュー
ラルネットモデルによる意思決定の解析
◦
安部 淳1, 上村 佳孝2, 嶋田 正和1
1
東大・広域システム・生物, 2立正大・地球環境科学
1
東京大学広域システム
ヒメコバチ科の Melittobia は、同じ寄主からの羽化個体どうしで交尾を行
うため、性比は局所的配偶競争(LMC)モデルに従うと予想される。しか
し、Hamilton (1967) のモデルでは、寄生する母蜂数が増えるに従い雌偏向性
比から1:1性比に近づくと予想されるのに対し、M. australica の実際の性
比は依然として極端な雌偏向(雄率約2%)のままである。これまでに、雄
成虫は兄弟どうしであっても殺し合いの闘争を行い、遅れて羽化する雄は殺
されやすいことを明らかにしてきた。このため、母蜂は既に羽化している雄
がたくさんいるような状況で、後から羽化する雄をあまり産まないと予想さ
れる。(Abe et al. 2003a, 2003b)。
2頭の母蜂が1つの寄主に産卵する状況において、両者の子供の性比をマ
イクロサテライトを遺伝マーカーに用いてそれぞれ測定した結果、両者の息
子は集中することなく比較的長い期間をかけて、少数ずつ羽化してくること
がわかった。母蜂は共に、雄間闘争を避けるように時間間隔をあけて雄を少
数ずつ産んでいると示唆される。では、本当に極端な雌偏向性比が適応的な
のか?今回は、動的ゲーム理論を用いて進化的に安定な性比を求めた結果に
ついて報告する。2頭の母蜂が同一寄主に産卵する状況を考える。既に羽化
していると期待される自分と相手の息子数によって、新たに産卵されて羽化
する雄の生存率が決る。さらに、雄を産んで生き残った場合はその雄が生存
している限りは交尾を続けるので、その雄の残す将来の繁殖成功について
も考慮し、生涯を通して最適に振る舞えるような雌雄の産み方を予測する。
Melittobia のおかれている長い羽化期間と雄間闘争がある状況において、ど
のようなスケジュールが適応的なのかを考察する。
昆虫において、一見すると人間の脳のように高度な情報処理能力がなければ
実現できないような精錬された行動を示すものがいる。発表者は、その行動
の裏にある「昆虫でも実現できるようなシンプルな情報処理によるシンプル
な行動決定のルール」の観点から、ヨツモンマメゾウムシの産卵時にみられ
る均等産卵分布について、どのような行動決定のルールがこの分布をもたら
しているのかを研究してきた。
雌のヨツモンマメゾウムシは、すでに卵を多く産みつけられた豆に対して産
卵を避け、卵のついていない豆を選んで産卵することにより、豆当りの卵数
が均等になる。その結果、豆内での幼虫の種内競争が均等に軽減される。本
研究では、卵の均等分布をもたらすこの行動がどのような知覚情報をどう用
いて実現されているかを、ニューラルネットワークモデルを利用して解析し
た。具体的には、単純なフィードフォーワード型のニューラルネットワーク
モデルを用意して、これに実際のヨツモンマメゾウムシの行動パターンを教
師信号として誤差逆伝播法を用いて学習をさせた。このときヨツモンマメゾ
ウムシが意思決定に用いている情報として、現在いる豆の卵数、1 つ前の豆
の卵数、2 つ前の豆の卵数、蔵卵数、前回の産卵からの経過時間、他の雌と
の遭遇回数を使用した。ニューラルネットが教師信号を十分に学習したのを
確認した後は、モデルの汎化性のテストを行った。汎化性のテストは、学習
済みのニューラルネットを搭載した仮想のヨツモンマメゾウムシを豆を配置
した仮想環境に置き、その環境で均等産卵が達成できるかで評価した。汎化
性のテストの結果としてモデルが産卵行動の特徴を実現できていることが確
認されたら、ニューラルネットの中で各情報がどのように重み付けされてい
るかを解析した。
P2-032c
12:30-14:30
海藻穿孔性甲殻類コンブノネクイムシではなぜ複数腹の幼体が1夫1
妻の親と同居するのか?
◦
12:30-14:30
寄生バチ Melittobia の極端な雌偏向性比:長い羽化期間と雄間闘争の
関係
◦
瀬戸山 雅人1, 嶋田 正和1
P2-031c
8 月 27 日 (金) C 会場
青木 優和1, 山口 あんな2
1
筑波大学下田臨海実験センター, 2国立国会図書館
コンブノネクイムシは、褐藻類の茎部に穿孔造巣し、寄主である海藻を生
息場所および餌資源として利用する端脚目の海産小型甲殻類である。静岡県
下田市大浦湾において本種が寄主とするワカメの藻体は 12 月から 3 月まで
は生長するが、生長停止後は崩壊し始め、5 月までには消失する。寄生率は
ワカメの生長期である 1 月から 3 月にかけて増大し 90% 以上に達し、坑道
状の巣内では、一夫一妻のペアが最大 3 腹分の幼体と同居する。体長組成解
析と野外飼育実験により、初令幼体が新規加入サイズに成長するまでに約 1
ヶ月、加入後ペア形成して繁殖開始するまで約 2 週間、成熟メスは約 1 ヶ月
間に脱皮成長を繰り返しながら最大 3 回産仔、寿命は約 2 ヶ月半であること
が分かった。親と同居する幼体のサイズは体長 1.0-4.5 mm のものであり、こ
のうち体長 2.0 mm 以上のものは新規加入個体としての造巣が可能なサイズ
であり、親との共存巣から取り出したこのサイズクラスの幼体は単独で造巣
可能なことも確認された。加入初期のコンブノネクイムシでは、巣の容積増
加率がワカメの茎部容積増加率に追いつかないため、ワカメ茎部の利用率は
低下するが、2 月中旬に入ると上昇に転じた。1 巣当たりの個体数は巣容積の
増加に対して成体がほぼ一定であるのに対して、幼体は次第に増加する。し
かし、親が 1 腹分の仔のみと同居の場合には成体のみの場合と資源消費率に
差がなく、0.5cm3 を越える巣の拡張には、2 腹以上の幼体との共存が必要で
あった。幼体にとって早期の移動分散は捕食や流失といったリスクを伴う。し
たがって、幼体はできるだけ長くワカメに留まり、分散後すぐに繁殖するの
がよい。コンブノネクイムシは 2 腹以上の幼体の親との同居によって、短期
的に増大するワカメ資源を集中的かつ効率的に利用していると考えられる。
12:30-14:30
雌の複数回交尾の進化:アズキゾウムシを用いた物質的な利益の検証
◦
桜井 玄1, 粕谷 英一1
1
九州大学 生物学科
多くの動物で雌は複数の雄と交尾をする (多回交尾)。しかし、メスにとっ
て、交尾には時間的及びエネルギー的コストだけでなく、雄による傷害及び
病気への感染などのコストを伴う。また、雌が持つ卵数が、雄が持つ精子数
に比べて極めて少ないことを考えれば、雌は一回の交尾で自分の卵を受精さ
せるのに十分な量の精子を得られることが多い。よって、他の何らかの要因
がなければ、メスは複数の雄と交尾をすることによってコストを被るはずで
ある。では、なぜ雌は多回交尾をするのか?
雌が多回交尾をする要因のひとつとして、特に昆虫では、「栄養的な寄与」
が大きな要因であると考えられている。つまり、雄は交尾の際に、雌に対し
て精液などを通して何らかの栄養物質を送っているというものである。交尾
中に精包を雌に渡す昆虫以外でも、栄養的な寄与によって雌の卵数が増加す
ることが多くの研究で示唆されている。
しかし、それら精包を渡す以外の昆虫における研究では、多回交尾をする
種で、一回だけ交尾をさせた雌と多回交尾をさせた雌の産卵数などを比較し
ているが、その実験デザインでは、多回交尾による卵数の増加が栄養のせい
なのか、それとも受け取る精子数の増加のせいなのかを実は区別できていな
いなど、検討できない問題がある。
アズキゾウムシには雌が一回しか交尾をしない系統と多回交尾をする系統
が存在する。本研究では、多回交尾系統の雄を一回または二回交尾させた雌
の産卵数と一回交尾の雄を一回または二回交尾させた雌の産卵数を比較する
という新しい実験デザインを用いることで、この問題に取り組んだ。
— 168—
ポスター発表: 行動・社会生態
P2-033c
P2-034c
12:30-14:30
アカネズミ Apodemus speciosus の雌におけるテリトリー性とその防衛
行動
◦
坂本 信介1
12:30-14:30
ツチバチ類のホスト選択と寄生行動
◦
井上 牧子1, 遠藤 知二1
神戸女学院大学人間科学
都立大・理・生物
雌間テリトリーを持つ小型哺乳類では、そのテリトリー性が、空間分布、個体数
変動、分散行動などのメカニズムを理解する上で、極めて重要な要因であると
考えられる。小型哺乳類の雌間テリトリーの防衛において、最も重要な役割を
果たしているのは、テリトリーオーナーによるマーキング(Viitala & Hoffmeyer
1985)と攻撃行動(Ims 1987; Koskela et al. 1997 )であると考えられている。
アカネズミ属 Apodemus は、森林性ネズミ類の中では、古くから多くの生態学
的研究に用いられてきた。しかし、雌のテリトリー性については、繁殖期にお
ける排他的行動圏から推測されてはいるものの、他の証拠は報告されていない。
日本固有種のアカネズミにおいても、実験室内でのマーキング行動の検出の試
みはあったものの、攻撃行動については調べられていない。また野外で調べら
れたことはない。
これらの背景を踏まえ、アカネズミの雌がテリトリー性を持ち、テリトリー防
衛行動を行なっているかについて調べるために、長期的かつ高頻度の mark and
recapture のデータから繁殖雌の侵入・定着パターンの検出および野外における
闘争実験を行なった。
繁殖雌の侵入・定着パターンから、定着に成功した雌の行動圏は、侵入後、早
い段階から定住雌の行動圏と明確な境界を持つようになること。一方、定着に
失敗した雌の行動圏は、定住雌と行動圏が重なったまま消失することなどが明
らかになった。
野外における闘争実験の結果から、繁殖雌は侵入雌に対し攻撃行動を行い、
その頻度がテリトリー内において高く、テリトリー外では低いことなどが明ら
かになった。
今回の報告では、これらを踏まえて、アカネズミの雌におけるテリトリー性と
その防衛における攻撃行動の重要性について論じたい。
京都府京丹後市の箱石海岸では、今までの野外調査から 8 種のツチバ
チ類が生息し、それらの生息密度もきわめて高いこと、またいくつかの
海浜植物ではツチバチ類が重要なポリネーターとなっていることなどが
明らかになった。このように、ツチバチ類が海岸砂丘域において多様で
高密度に生息できる要因のひとつは、それらのホストであるコガネムシ
幼虫の多様性や生息密度の高さにあると考えられる。しかし、ツチバチ
類成虫の地中での生態はほとんどわかっておらず、ホスト利用や寄生行
動に関しても、ごく断片的な知見しか得られていない。そこで本研究で
は、同海岸でも特に個体数の多い、オオモンツチバチ、キオビツチバチ、
ヒメハラナガツチバチの 3 種について、飼育個体を用いた寄生実験と寄
生行動の観察を行った。実験にはシロスジコガネ、サクラコガネ属、ハ
ナムグリ類の幼虫を用い、飼育容器にツチバチ類とコガネムシ幼虫を 1
個体ずつ入れ、1 日後に寄生の成否を確認した。その結果、オオモンツ
チバチはシロスジコガネ (寄生成功率 38%) に、キオビツチバチはハナ
ムグリ類 (50%) に、ヒメハラナガツチバチはサクラコガネ属の 2 種 (ヒ
メサクラコガネ 22%、アオドウガネ 71%) とシロスジコガネ (5%) に寄
生し、これら 3 種のツチバチ類ではホスト種が異なる傾向がみられた。
各種ツチバチ類とそれらが実験下で利用したホスト種は、実際に同海岸
における生息場所の分布が大きく重複しており、それぞれのコガネムシ
幼虫が野外でも主要なホストとなっていると考えられる。また、利用し
たホストサイズについてみると、オオモンツチバチとヒメハラナガツチ
バチではホストサイズの幅が広く (オオモンツチバチ 0.48g-2.92g、ヒメ
ハラナガツチバチ 0.36g-2.21g)、これはツチバチ類成虫の体サイズの性
差と関連していると考えられる。さらに各種の攻撃行動の観察結果をも
とに、攻撃行動の特徴や種間の相違についても報告する。
12:30-14:30
ホストの個性を活かす-性質が異なる寄主に対するアオムシコマユバチ
による行動操作様式の比較◦
P2-033c
1
1
P2-035c
8 月 27 日 (金) C 会場
田中 晋吾1, 大崎 直太1
1
京都大学農学研究科昆虫生態学研究室
寄生性昆虫の中には、寄主体内で化学物質を分泌し、寄主の行動を変化さ
せるものがいる。この寄主操作として知られる現象は、寄生者の生存を向上
させるように機能するが、寄生者が変化させることができる寄主行動の範囲
には当然限界があり、寄主本来の性質を大きく外れることはないものと考え
られる。そのため、寄主を操作することで適応度が高まるならば、積極的な
操作が好まれるだろうし、操作しても効果が望めないのであれば、積極的に
操作せず他の要素を優先するだろう。寄主操作には高度な特異性が要求され
ると考えられるが、同じ寄生者が寄主の性質に合わせてどこまで特異性を発
揮できるのか興味深い。
多寄生性寄生蜂アオムシコマユバチは、自らの繭塊を二次寄生蜂から守る
ために、寄主幼虫オオモンシロチョウの行動を操作することが知られている。
本種寄生蜂は終齢の寄主幼虫から脱出するとその場で繭塊を形成するが、寄
主幼虫はすぐには死なずにその場に留まり、繭塊に近づくものに対して威嚇
をする。本種寄生蜂の利用する寄主はオオモンシロを含めてわずか 4 種ほ
どだが、その性質はきわめて対照的である。警告色をした群集性のオオモン
シロとエゾシロチョウは行動も比較的活発だが、保護色で単独性のモンシロ
チョウとエゾスジグロシロチョウはおとなしい。このような寄主幼虫の性質
の違いは、二次寄生蜂からアオムシコマユの繭を防衛する効果に影響を与え
るかもしれない。
寄主操作の効果が寄主の性質を反映したものであれば、前 2 者では寄主操
作の効果は高いものと思われるが、後 2 者では寄主操作の効果はあまり期待
できないだろう。本研究では以上の予測を検証した上で、操作することで得
られる利益が少ないと思われるモンシロやエゾスジグロを利用することのメ
リットを、主に産卵数などの他の寄主利用に冠する要素との兼ね合いによっ
て説明する。
— 169—
P2-036
ポスター発表: 個体群生態
P2-036
12:30-14:30
ミズナラの萌芽再生実生のデモグラフィー
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
P2-037
アオダモの萌芽発生に対する光環境及び地上部除去の効果
◦
壁谷 大介1
北海道立林業試験場, 2千葉大学
森林総研・木曽
撹乱は、植物の生活史を通して植物個体の生存を左右する重要な要素で
ある。とりわけ個体サイズの小さい実生・稚樹期においては、小規模な
撹乱であっても生存が脅かされることが多い。その一方で、多くの植物
種においては撹乱により地上部が損傷を受けた際に萌芽再生によって撹
乱の被害を回避することが知られている。またいくつかの樹種において
は、萌芽再生した実生(seedling sprout)は実生バンクの重要な構成要素
の一つとなっている。このため seedling sprout の動態に関する情報は、森
林動態を理解するうえで重要となる。そこで本研究では、2 つのミズナ
ラ林(サイト A、サイト B)に生育する 1999 年発生のミズナラ実生を
2000 -2001 年の 2 年間追跡することで、実生が被る死亡・損傷要因(ハ
ザード)の種類および各ハザードに対する萌芽再生率・再生個体の生存
率を定量化した。
その結果、調査期間を通して、両サイトとも 5 割以上の個体が何らかの
ハザードに遭遇していた。サイト A で観察されたハザードのほとんどが
立枯れであったのに対し、サイト B においては立枯れに加えてネズミな
どの小動物による食害が顕著であった。ハザードの発生は生育期間初期
に顕著だったが、再生に結びついたハザードの多くは休眠期に生じてお
り、立枯れ個体の 2 割、食害個体の 4 割で萌芽再生が観察された。再生
個体の生存率は健全個体よりも低くなるものの、5 割以上の個体が 1 年
を超えて生存することが確認された。その結果、同一コホート内の生存
個体に占める再生個体の割合が時間と共に増加し、ミズナラにおいても
seedling sprout が実生バンクの維持に貢献していることが示唆された。
12:30-14:30
横風の中での風散布体の落下速度変化
◦
滝谷 美香1, 渡辺 一郎1, 大野 泰之1, 梅木 清2
1
1
P2-038
12:30-14:30
市河 三英1, 斉藤 茂勝1, 杉本 剛2
1
財団法人自然環境研究センター, 2神奈川大学工学部
風散布植物の飛距離推定モデルのパラメーターを得る目的で、散布体
の落下特性を調べた。飛距離の推定は、原理的には落下高、風速、落下
速度から求められる。この中で落下速度は通常無風状態で測定された値
が使われているが、適用の仕方によっては飛距離を過小評価する危険が
ある。そこで、現実に近い横風条件において、定常状態に達するまでの、
落下初期の速度変化を調べた。
計測は神奈川大学工学部の風胴を利用しておこなった。風胴の大きさ
は高さ 0.9m、幅 1.2m、奥行き 9m で、風の出口付近の 3m を利用した。
風速は秒速 4.9m、3.8m、2.7m、2m、1m、0m の 6 段階に設定し、天井
部分に開いた 3cm 四方の穴から種子を落下させた。測定に用いた植物は
2003 年 11 月中旬に長野県で採取したウリハダカエデ、ウリカエデ、ユ
リノキの散布体である。計測は同年 12 月初旬に、各種 50 検体ずつマー
キングしておこなった。2台のビデオカメラを風に対して 90 度方向と
180 度方向に設置して撮影し、画像から初期落下の速度変化を計測した。
また、飛距離と着地までの時間は手動でも計測した。アスペクト比や回
転面荷重、空気密度、動粘性係数などの値を得るために、気温、湿度、気
圧を測定し、散布体の各検体の面積、重さ、翼張を測定した。
この計測の結果、落下初期段階において散布体が落ちる時間は、風があ
るときが風のない時に比べて1割から2割遅くなることが明らかになっ
た。横風を受けた散布体が無風状態に比べて落下直後の早い時点から回
転を始めるためであった。この現象は、種子が飛距離を得るために大き
く貢献する。森林内の風速断面は、地表から高い位置ほど強くなる。樹
冠の高い位置から散布体の回転が始まり、定常状態に達するまでの時間
が短いほど、より強い風の吹いている森林上部で飛距離を稼げるためで
ある。[本研究において、神奈川大学工学部建築学科の大熊武司教授と下
村祥一助手に風胴利用の便宜を図っていただいた。]
攪乱によって植物体の地上部が除去された場合,植物は根株や倒伏した枝
などから萌芽枝を発生させ,植物個体の再生を行う.萌芽による個体の再
生は,実生による個体の発生に比較して,幼個体の伸長成長が早い,種
子の豊凶に左右されずに更新を可能にする,などという点で有利である.
アオダモ (Fraxinus lanuginosa) は,北海道から九州にかけて分布する落
葉広葉樹である.アオダモ成木は,森林において散在している場合が多
が,北海道胆振地域においてアオダモの優占する萌芽二次林が見らる.ア
オダモの更新特性を把握することは,減少傾向にあるアオダモ資源を保
続する上で重要である.
萌芽更新の成否は,林内の光環境や地上部の有無などの要因が考えられ
る.そこで本報告では,北海道南西部に生育するアオダモ萌芽林におい
て,光環境を調節した萌芽試験結果について説明する.
閉鎖樹冠下において,6.8 %の確率でアオダモ個体からの萌芽枝の発生が
見られた.また胸高直径 12cm 以上のアオダモ以外の個体を全て伐採し
た疎開樹冠下の場合,34.7 %の確率で萌芽枝の発生があった.さらに閉
鎖樹冠下,疎開樹冠下でアオダモ個体の地上部を除去した場合,それぞ
れ伐根から 53.2 %,63.0%の確率で萌芽枝の発生が見られた.上層木の
疎開および幹の伐採は,萌芽枝発生に対してそれぞれ統計的に有意な効
果があった.
アオダモの萌芽発生は,林内の光環境と地上部の有無に影響を受けてい
ることが示唆された.
P2-039
12:30-14:30
北上川河口底泥地のヨシ群落でのイトメの個体群動態とヨシに対する
窒素栄養源としての可能性
◦
今野 泰史1, 立石 貴浩1, 佐藤 修也1, 溝田 智俊1, 松政 正俊2, 牧 陽之助3
1
岩手大学 農学部, 2岩手医科大学 教養部, 3岩手大学 人文社会科学部
北上川河口域には、10km2 にのぼるヨシ群落が広がっている。ヨシ群落は、
多様な生物学的機能に加えて、地域産業における資材供給の場としても機能
している。これまでの研究では、北上川河口底泥地のヨシ地上部は年間に 25
g/m2 の窒素を吸収するが、秋季には地上部より 20 g/m2 が引き戻され、残
り 5 g/m2 は人為的な管理などによって系外に流出することが示された。本研
究では、流出した窒素を補填するヨシの窒素源として、群落内に優占的に生息
している多毛類イトメ組織の窒素に着目し、同地点でのイトメの個体群動態を
調査した。
03 年 3 月から 04 年 2 月におけるイトメの月平均個体数 ± SD は 1177±
364 個/m2 であること、11 月採取の 1 個体あたりの乾物重 ± SD は 36.5±
17.5 mgであり、その窒素含量は 9.6 %であったことから、底泥のイトメ由来
の窒素現存量は 4.1 g/m2 であると推定された。単位時間内でのイトメ個体の
減少の総数と 1 個体当たりの乾物重及び窒素含量より、1 年間のイトメの死滅
による窒素放出量は 4.2 g/m2 と推定された。この量は、ヨシ群落が年間に吸
収する窒素のうち、系外に流出した窒素量(5 g/m2 )とほぼ一致した。一方、
ヨシ群落内の窒素動態を明らかにするため、ヨシ植物体及びイトメ組織の窒素
安定同位体比(δ 15 N)を測定した。各試料の δ 15 N は、ヨシ地下茎は 9.6、
イトメ組織では 10.4± 1.3 であった。この結果から、ヨシ茎内の δ 15 N はイ
トメ組織の δ 15 N とほぼ一致しており、ヨシの窒素源がイトメ組織由来の窒素
である可能性が示唆された。
以上の結果から、本調査地のヨシは、その成長と維持に必要な窒素栄養の一
部を、底泥中に優占的に生息するイトメ組織起源の窒素に依存している可能性
が示された。
— 170—
ポスター発表: 個体群生態
P2-040
P2-041
12:30-14:30
野火後の荒廃泥炭低湿地に侵入した Melaleuca cajuputi の 6 年間の個
体群動態
◦
P2-040
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
山林火災跡地の VA 菌根菌胞子の形態観察と 18S rDNA 解析
◦
三宅 彩子1, 堀越 孝雄2, 木下 晃彦1, 井鷺 裕司2
富田 瑞樹1, 平吹 喜彦2, 鈴木 邦雄1, 阿部 功之3
1
広島大・院・生物圏, 2広島大・総科
1
横浜国大院・環境情報, 2宮教大・生物, 3東北緑化環境保全 (株)
タイ南部のナラチワ県では、1970 年代以降の大規模な開発事業によって
広大な面積の熱帯泥炭低湿地林が伐採・排水され、農地利用のために開墾さ
れた。しかし、開墾後の泥炭層の風化・消失や、基底の海成粘土の露出に伴
う酸性硫酸塩土壌の出現により、開墾地の多くが放棄されたのみならず、生
態系の劣化が進んでいる。しばしば発生する野火も、植生回復を遅らせる要
因の一つとなっている。
Melaleuca cajuputi はこのような荒廃地において旺盛に成長し、泥炭湿地
を起源とする様々なタイプの二次植生で優占する高木性の樹木である。また、
本種は熱帯ポドソル上にも生育しており、様々な立地に侵入するのに適した
生活史戦略を持つとされる。荒廃した泥炭地において森林生態系の回復を促
すためにも、本種の生態学的知見を蓄積することが重要である。本研究では、
野火直後の荒廃泥炭低湿地に侵入した本種の個体群動態を明らかにすること
を目的とした。
野火から約 3ヶ月経過した荒廃地に 10m × 1m および 5m × 1m の調査
区を設置し、調査区内の微細地形を測量した。次に、すべての樹木個体の出
現位置をプロットしたうえで、種名、樹高、出現の由来(種子 vs. 萌芽)を
記録した。以降、乾季と雨季を考慮しながら 6 年間で合計 8 回のセンサス
を行った。開花・結実の有無についても記録した。
地表には顕著な微起伏が確認され、ほぼ全ての M. cajuputi が野火からお
よそ 1 年以内に種子によって侵入していた。新規に加入した個体数は、1997
年の 693 個体/15m2 から 1998 年 2 月の 154 個体/15m2 、1998 年 8 月の
14 個体/15m2 と、時間とともに大きく減少していた。講演では、加入時期
や微起伏と個体の生存や成長との関係、および種内競争の実態を時空間的に
解析した結果を報告し、M. cajuputi の個体群動態のメカニズムと生活史戦略
について考察する。
P2-042
P2-043
12:30-14:30
釧路湿原周辺におけるハンノキ集団のアイソザイム分析
◦
山林火災は森林の公益的機能を大きく損なうと同時に,土壌の理化学性,土
壌中の生物群集の組成や活性に大きな影響を与える.山林火災後の植生と
高等菌類相の変遷に関する調査では,火災後 4 年で草本植物から木本植物
が優勢になり,菌類相では,火災直後に焼け跡菌とよばれる菌類グループ
が発生し,その後,主に樹木に共生する外生菌根性の菌類が出現すること
が示されている.
外生菌根菌と同様に植物と共生する Vesicular-Arbuscular 菌根菌(以下 VA
菌根菌)は,約 8 割の陸上植物種の根に VA 菌根を形成し,その存在範囲
は広い.また乾燥,潅水,病害などのストレスに対する宿主の抵抗性を増
加させることから,深刻に攪乱された自然生態系の回復において VA 菌根
菌の重要性が認識されてきた.
広島県芸南地方の山林火災後の経過年数や人為的植栽の有無が,VA 菌根
菌に与える影響について調査した結果,各調査サイトで優占して出現する
胞子タイプに違いがあることが示された(衣笠,2002, 2003).しかし,こ
の調査による胞子のタイプ分けは,その形態特徴を観察したもので,各タ
イプに含まれる菌の系統に関しては不明瞭であった.
そこで本研究では,上述した調査を継続し,火災後の経過年数や人為的
植栽の有無が異なる山林火災跡地で,それぞれに特徴的な VA 菌根菌の胞
子について,形態観察からタイプ組成を調べ,さらに各形態タイプの遺伝
的な系統を明らかにすることを目的として 18S rDNA 解析を行った.
形態観察の結果,木本植物が多い火災後 24 年自然再生地で,他の調査
サイトに比べて胞子のう果を形成するタイプが多く存在した.また,18S
rDNA でそれらの胞子のう果を解析したところ,遺伝的に多様なことが分
かった.
12:30-14:30
ミクラザサの開花・未開花個体群におけるマイクロサテライト・マー
カーによるクローンおよび遺伝構造の比較検討
近藤 圭1, 北村 系子2, 入江 潔3
◦
1
(株)セ・プラン, 2森林総研北海道, 3(株)ドーコン
近年釧路湿原においてハンノキの分布拡大が指摘されている。湿原の乾
燥化等が原因と考えられ、環境要因の変動に関する多くの調査研究が進
められている。しかし、ハンノキ林の成立過程における遺伝的動態に関
する調査研究事例はない。殊に、遺伝的組成を把握し湿原内へ種子を散
布している供給源を明らかにすることは発生源対策にもつながり、湿地
林を抑制するための基礎的な情報であると考えられる。そこで本研究で
は湿原内へのハンノキの種子供給源を特定するため、まず湿原へ流入す
る複数河川流域のハンノキ集団の遺伝的変異性を明らかにし、集団間の
遺伝的組成を比較することを目的とした。
研究対象地は釧路湿原へ流入する 7 つの河川(釧路川、仁々志別川、幌
呂川、雪裡川、久著呂川、ヌマオロ川、オソベツ川)流域および流路変
更前に湿原に流入していた阿寒川流域のハンノキ林とし、上流、中流、
下流域からそれぞれ調査地を選定した。また、比較のため別寒辺牛湿原、
霧多布湿原周辺からも調査地を選定した。計 43 調査地点のそれぞれ 10
個体から葉組織を採取し、アイソザイム分析を行った。
分析に用いた 12 酵素 15 遺伝子座のうち、すべての遺伝子座で多型が
確認された。集団全体のもつ遺伝的多様性は Ht=0.569 と高い値を示し
た。また、各集団の平均へテロ接合度は、下流の集団ほど低くなる傾向
が見られ、1920 年頃に行われた流路変更の影響が示唆された。一方、集
団の分化を把握するために、F-統計量を算出したところ、Fst=0.440 と
非常に高い結果が得られた。実際に同一河川、本支流間あるいは地域的
な類似性は観察されなかった。このことから、ハンノキは河川氾濫源の
限定された立地条件に小集団で成立しており、初期の成立過程において
個体が偶然的に定着することによる創始者効果の影響が集団の遺伝組成
に反映されやすく、そのために集団間のバラツキが大きくなっているも
のと考えられた。
小林 幹夫1
1
宇都宮大学農学部森林科学科
タケ類における一斉開花・枯死は数十年に1度の稀な現象として古くより知
られているが、その遺伝的様相は全く解明されていない。本研究では、1997
年 3 月に伊豆諸島・御蔵島で起こったミクラザサの一斉開花・枯死、個体群
の回復過程について、実生個体群、未開花株、再生稈より合計 438 点、八丈
島・三原山における未開花個体群より 85 点、総計 523 点の葉試料を採集
し、全 DNA を抽出・精製し SSR 法によってクローン構造と遺伝構造を比
較検討した。
イネにおいて、コーネル大学グループによって決定・公開された 94 個の
マイクロサテライト領域に関するプライマー対のうち、25 対を選び、また、
生物資源研 RGP によって作成された 5 対、合計 30 対のプライマー対を使
用し、ミクラザサの SSR 領域の多型バンドの検出を試みた。その結果、そ
れぞれ第8、第9および第 11 染色体の長腕に座乗する3か所の SSR 領域
が有効であることが判った。
第 8、第 9 および第 11 染色体に座乗し、固有の挙動を示す遺伝子をそれ
ぞれ仮に A、B および C とする。これらはすべて御蔵島の個体群に限って
検出された。A は 1 未開花株、3つの再生稈クローンおよび実生 2 個体に、
B は8再生稈クローンと実生6個体に、C は4再生稈クローンと8実生個体
に見られた。また、C の欠失変異体が1再生稈クローンと1実生に見られた。
A・B 両者を持つ場合は2再生稈と 1 実生に、B・C 両者は4再生稈と5実
生に見られた。
御蔵島のミクラザサの分布中心付近に存在した数本の稈よりなる未開花株
が遺伝的に異なる2クローンから成ること、20 メートル以上隔たった再生
稈が同一クローンに属する反面、1株のように接近した数本の再生稈が複数
のクローンより成ることなどが判った。八丈島・三原山の個体群が御蔵島に
比べ多型性に乏しく、遺伝的には御蔵島より派生した個体群である可能性を
示唆した。
— 171—
P2-044
ポスター発表: 個体群生態
P2-044
P2-045
12:30-14:30
伊豆諸島に分布するオオシマザクラにみられた遺伝的多様性の地理的
勾配と限られた遺伝子流動
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
◦
岩田 洋佳1, 加藤 珠理2, 向井 譲3, 津村 義彦4
名古屋大・院・生命農
中央農業総合研究センター, 2岐阜大大学院連合農学研究科, 3岐阜大応用生物科学部, 4森林総合研究所
三宅島の治山緑化のための基礎的な知見を得るために,遷移初期に生育する植
物種の遺伝的な特性を明らかにすることを目的として,伊豆諸島に分布するオ
オシマザクラについて AFLP および葉緑体 DNA 多型に基づく遺伝構造解析を
行った.伊豆半島,大島,新島,神津島,三宅島,御蔵島,八丈島の 7 集団か
らオオシマザクラをそれぞれ 30-50 個体採取した.葉緑体 DNA13 領域につい
て多型性のスクリーニングを行った結果,6 領域で種内多型が見られた.その
うち多型性の高い 3 領域について全個体の塩基配列を解読した結果,各集団 3
から 6 ハプロタイプ,全集団で 8 ハプロタイプが検出された.遺伝的多様性
は,伊豆半島で最も高く,本土からの距離に従って多様性が減少する明瞭な地
理的勾配があることが分かった.また,高頻度に検出され,最も起源的である
と予測されたハプロタイプ A が,南端の八丈島集団では全く検出されなかっ
た.集団間分化については,変異の 19.33 %が集団間に存在し,八丈島集団は
他の集団から有意に分化していた.AFLP 解析についても,遺伝的多様性は伊
豆半島で最も高く,葉緑体 DNA と同様の地理的勾配が見られた.変異の 15.12
%は集団間に存在し,遺伝的分化は全ての島間で有意であった.主座標分析の
結果,7 集団は大きく<八丈島><三宅島,御蔵島><その他>の 3 グループ
に分かれることが示された.このように伊豆諸島に分布するオオシマザクラで
は,核 DNA および葉緑体 DNA のいずれにおいても,集団内遺伝的多様性が
本州から離れた島ほど小さくなる傾向が見られた.オオシマザクラは虫媒花で,
種子は鳥によって散布されるため,島間の遺伝子流動は専ら鳥による種子散布
に依存していると思われる.多様性の明瞭な地理的勾配は,鳥による種子の持
ち込み頻度が低く,遺伝子流動が制限されていることを示し,この制限が島間
に大きな遺伝的分化を生じていると考えられる.オオシマザクラを三宅島の緑
化に用いる場合,その種子源については慎重に判断を行わなければならない.
12:30-14:30
SNPs とマイクロサテライトの比較
◦
鳥丸 猛1, 戸丸 信弘1
1
1
P2-046
12:30-14:30
異なる発達段階のヒメモチ個体群における遺伝構造の比較
磯田 圭哉1, 渡邉 敦史1, 平尾 知士2
1
独立行政法人 林木育種センター, 2秋田県立大学
マイクロサテライトは近年急速にマーカー開発が進み、さまざまな樹種
において親子解析や集団遺伝学的解析が可能となったことで、生態学研
究における最も重要なツールの一つとなった。一方で、高い多型性と引
き換えに解析上の問題も多く指摘されるようになり、目的によってはよ
り正確性の高いマーカーが求められる。今回、スギの核遺伝子の塩基配
列情報から SNPs(Single Nucleotide Polymorphisms)マーカーを開発し、
その特性についてマイクロサテライトと比較した。
スギの核 DNA にコードされる 6 種類の遺伝子(Lcyb, Chi1, GapC, Pat,
Acl5, Ferr)の塩基配列情報から、10ヶ所の多型サイト(Acl5 と Ferr は
1 サイト,他は 2 サイトずつ)を選び、SnaPShot Multiplex Kit (Applied
Biosystems) を用いたプライマー伸長法で一塩基多型を検出した。その結
果、Acl5 以外の 9 サイトの多型を検出することに成功した。
384 個体のスギについて SNPs 解析を行い、既報の 4 種類のマイクロ
サテライトマーカーによる解析の結果と比較した。SNPs では基本的に
1 サイトにつき 2 種類の塩基が検出される。よって、各サイトの対立遺
伝子数は 2 となり、ヘテロ接合体率は 0.261-0.486(平均 0.375)とマイ
クロサテライトの 0.814-0.948(平均 0.894)と比較してはるかに低い値
となった。一方 Fis の値を比較すると、マイクロサテライトでは 3 マー
カーで 0.1 を超える値を示し、内 2 マーカーでハーディーワインベルグ
(HW)平衡からの有意なずれが検出されたのに対し、SNPs マーカーで
は HW 平衡からの有意なずれは認められなかった。この結果と SNPs で
は基本的にヌル遺伝子がないことから考えると、マイクロサテライトで
はヌル遺伝子の影響を大きく受けていると考えられる。
このように SNPs マーカーは、遺伝子座あたりの情報量は少ないものの
情報の質が高く、集団解析などにおいてはマイクロサテライトよりも有
用である可能性がある。今後、検出サイト数を増やし遺伝子座あたりの
情報量を増やすとともに遺伝子座数も増やすことにより、SNPs マーカー
がより盛んに利用されるようになると期待される。
遺伝構造とは対立遺伝子の空間分布の偏りとして定義される。この遺伝
変異の空間分布は、その種の遺伝子流動パターンによって形成される。一
般的に植物における遺伝子流動は花粉と種子を媒体とする。花粉と種子
の散布量、飛散距離は異なるため、この二者の流動様式を区別できれば
遺伝構造の形成過程をより良く理解できることが期待される。種子散布
のみが新しいサイトに遺伝子を伝達できる。従って、花粉と種子による
遺伝子流動を区別可能である 1 つの状況として founding events から間
もない個体群を取り扱うことが挙げられる。
受粉の成功によって形成される子孫個体群の遺伝的組成は、既存の繁殖個
体の遺伝構造に影響を受ける。交配パターンと花粉・種子の散布パター
ン、既存個体の枯死パターンによって遺伝構造は時系列的に変化してい
く。遺伝構造の時系列的変化の過程を記述する 1 つの方法として、異な
る発達段階にある個体群の遺伝構造を比較することが挙げられる。
本研究は、大山ブナ林の林床に生育し、クローンを形成する常緑低木種
ヒメモチを用いて異なる発達段階にある個体群の遺伝構造を比較するこ
とを目的とした。野外調査は 2003 年と 2004 年に実施した。二次林の
林床と老齢林の未成熟土壌上にそれぞれ 30 × 30m のプロットを設定
し、プロット内のヒメモチのラメートについて位置、樹幹長、性を記録
し、遺伝解析用に葉を採取した。遺伝解析では、葉から DNA を抽出し、
SSR プライマーを用いて各ラメートの遺伝子型を決定した。さらに、得
られた遺伝子型からジェネットを識別した。今回の発表では二次林と未
成熟土壌上の個体群の遺伝構造を明らかにした上で、老齢林の成熟土壌
上において観察されるより発達した個体群のパッチ構造の形成過程を議
論する。
P2-047
12:30-14:30
東京湾におけるアマモの遺伝的集団構造と遺伝子流動
◦
出店 映子1, 仲岡 雅裕1, 田中 法生2, 庄司 泰雅3, 石井 光廣3
1
千葉大学大学院自然科学研究科, 2独立行政法人国立科学博物館筑波研究資料センター筑波実験植物
園, 3千葉県水産研究センター富津研究所
アマモ Zostera marina は北半球の温帯性海草の優占種として世界に広く分
布する。アマモ場は多くの生物に生息場所を提供するとともに、栄養塩の
リサイクルなどの機能を果たし、沿岸生態系において重要な役割を担って
いる。近年、人為的な環境改変に伴うアマモ場面積の著しい減少に対して、
人為的移植造成によるアマモ場の修復の試みが行われるようになっている。
しかし、無秩序な移植は遺伝子汚染の問題を引き起こすおそれがある。そ
こで、東京湾におけるアマモの遺伝的集団構造や集団間の遺伝子流動につ
いて明らかにするため、マイクロサテライト多型マーカーを用いてアマモ
の集団内・集団間の遺伝的多様性について解析した。
東京湾内外の各アマモ場内に 50m × 50m の調査区を設定し、ジェネッ
トの重複サンプリングを回避するため、シュート間を 1m 以上の距離を保っ
て調査区全体からランダムに採集した。アマモにおける既存の 12 のマイ
クロサテライトプライマーのうち、東京湾集団に適用可能な 6 プライマー
を選択し、各集団について DNA 解析を行った。
その結果、東京湾集団は相模湾天神島の集団とは遺伝的に大きな差異が
認められた。東京湾内の集団においても内湾の集団は遺伝的に非常に類似
しており、一方、外湾の集団は内湾グループから遺伝的にやや離れている
ことがわかった。遺伝的距離と地理的距離は全体的には相関関係が見られ
るが、一部相関のない集団も見られた。今後、より詳細な遺伝子交流のパ
ターンとメカニズムについて、流れ藻による集団間の個体の移出入を考慮
した解析も含めて検討する予定である。
— 172—
ポスター発表: 個体群生態
P2-048
P2-049
12:30-14:30
岩礁潮間帯ベントス個体群に対する幼生加入量の影響
◦
◦
1
千葉大学大学院自然科学研究科, 2北海道大学水産学部, 3鹿児島大学水産学部, 4東京大学大学院農学
生命科学研究科
12:30-14:30
繁宮 悠介1
1
長崎総合科学大学
生物群集、特に海洋ベントス群集の動態を理解するにあたり、従来は競争
や捕食等の加入後プロセスが重視されてきた。しかし幼生分散等加入前プ
ロセスの変動が、ベントス個体群の大きさやその変動パターンに影響を与
えることが近年明らかになってきた。加入前プロセスは加入後プロセスよ
りも広い空間スケールで作用するので、両プロセスの相対的重要性を理解
するには、空間スケールを階層的に組み合わせたアプローチが有効である。
本研究では全国で見られるフジツボ類を用い、同一システムで空間スケー
ルを階層的に設定した調査デザインにより、幼生加入量と成体被度の関連
性とその形成機構の解明を目的とした解析を行っている。
日本の太平洋岸の 6 地域を対象に、各地域に 5 つの調査海岸を選定し、さ
らに各海岸内の 5 つの垂直な岩礁に合計 150 の調査点を設定した。各調
査点でフジツボ類の種数と被度、その捕食者である巻貝類等の移動性生物
の種数と個体数を測定した。また各調査点で付着している生物を定期的に
はがして新規加入個体数を測定するための調査区も同様に設置し、写真撮
影によって加入個体数の測定を行った。
2003 年夏 ∼ 秋の調査結果では、フジツボ成体被度および加入量とも、地
域間、地域内の海岸間で有意な変異が見られたが、分散成分には差が見ら
れなかった。また加入量と成体被度の相関については、従来の研究では加
入量の少ない場所は加入量と成体被度に相関が見られ、多い場所では無相
関になることが一般的とされているが、今回得たデータではそのような結
果は検出できず、また両者の関連性は地域や潮位により異なっていた。そ
の理由として、海岸間、地域間の環境要因の変異が加入量と成体密度の関
係に影響を与えている可能性が考えられる。今後、データをより長期に収
集すると共に、緯度、潮位、波圧、地形、捕食者等の環境要因のデータも
含めた解析を行い、この点を明らかにしたい。
カニ類では、ハサミ脚の大きさや形態が左右で異なる現象が頻繁に見
られる。ハサミ脚の左右性は、シオマネキ類やカラッパ類で特に顕著で
あるが、このような形態的非相称性は、左右のハサミの機能分化と関係
しており、特殊化した側のハサミ脚は、シオマネキ類では配偶者獲得の
ため、カラッパ類では巻貝捕食のためというように、各種の特徴的な行
動や生態と密接に関連している。
左右性が見られるカニ類の多くの種では、個体群中に右利きの個体と
左利きの個体の両者が共存する。左右性の発現は、遺伝的に決定されて
いると考えられることから、鏡像関係にある二者が、自然選択によって
個体群中に維持されていることになる。
この研究では、サワガニにおける左右性多型が、どのようなメカニズ
ムによって維持されているのかを解明することを目的とする。サワガニ
はオスでのみ片側のハサミ脚が大型化し、右利き個体が7 ∼ 8割を占
める。まず、オスの大型化したハサミが、採餌においてどのように使わ
れるかを調べるために、実験室における採餌行動を観察した。次に、1
0余りの個体群において、どちらの体側の付属肢が失われているかを調
べ、オスの左右性が付属肢欠失にあたえる影響を明らかにした。最後に、
各個体群の左右比が、附属肢欠失個体率や性比などの個体群特性のどれ
と相関を示すのかを調べた。これらの調査から得られた結果を総合して、
多型維持メカニズムについて議論する。
P2-051
12:30-14:30
スギ人工林における樹上性トビムシの時空間分布!) 体サイズ分布にも
とづく解析!)
◦
P2-048
カニの右利き左利き:ハサミの左右非相称性が採餌とケンカに及ぼす
影響
丸山 妙子1, 仲岡 雅裕1, 野田 隆史2, 山本 智子3, 堀 正和4
P2-050
8 月 27 日 (金) C 会場
吉田 智弘1, 肘井 直樹1
12:30-14:30
外来昆虫ブタクサハムシのメタ個体群モデル
◦
山中 武彦1, 田中 幸一1
1
農業環境技術研究所
1
名古屋大学大学院生命農学研究科森林保護学研究室
森林の樹冠層には、本来、土壌生活者である、腐食・菌食性のトビムシ
目が多数生息しており、樹冠層と土壌層を頻繁に移動していることが知
られている。とくにスギなどの針葉樹では、これらの動物群は両層にお
いて優占しており、その動態を明らかにすることは、樹冠層と土壌層の
節足動物群集の構造と機能、および樹上環境への適応過程を明らかにす
るうえで重要である。
ムラサキトビムシ科(Hypogastruridae)の一種である、キノボリヒラタ
トビムシ(Xenylla brevispina Kinoshita)は、アカマツ林では、春期に土
壌層で産卵・孵化をおこない、夏期に樹冠層で成長し、冬期に土壌層で
越冬するという、樹冠層–土壌層間の季節的移動を伴う年一化の生活史を
持つことが報告されている(Itoh 1991)。また、ある種のトビムシでは、
小型(幼若)個体よりも大型(成熟)個体の方が、移動分散距離は長い
ことが示されている(Johnson and Wellington 1983)。これらのことから、
もしキノボリヒラタトビムシが土壌層で産卵・孵化をおこない、個体群
が土壌層から樹冠層へと供給されているとすれば、(1) 樹冠層下部から上
部にいくにつれて個体数密度は減少し、(2) 樹冠層上部では移動能力の高
い、大型個体の割合が高くなることが予想される。
そこで本研究では、スギ人工林の樹冠層に生息するキノボリヒラタトビ
ムシの時間的・空間的な分布を調査し、それらの体サイズにもとづいて
解析することによって、上記の二点を検証した。
ブタクサハムシは 1990 年代後半に定着が確認された、北米原産の外来昆
虫である。本種は主にブタクサ、オオブタクサなどを食害し、旺盛な増殖
力で寄主群落を食い尽くしてしまうことが報告されている。また、ブタ
クサ群落は、空き地や造成地など遷移の初期段階で侵入するものの、他
の植物との競争に負けたり、除草により消滅してしまうことが多い。こ
のような不安定な環境下で、ブタクサハムシ個体群レベルがどのように
維持されているか調べるため、野外でのブタクサ群落とブタクサハムシ
の調査、およびシミュレーションモデルによる解析を行った。
モデルは、2次元空間に飛び石状の生息地パッチ(ブタクサ群落とブタ
クサハムシを含む)を配置した空間構造を持つ。各パッチ内には、ブタ
クサ-サブモデルとハムシ-サブモデルが存在し、ブタクサ-サブモデルは、
毎年同じ季節性を示すように調整された単純な構造を持ち、ハムシ-サブ
モデルは、齢構成を仮定して1日1 time step で成長を続ける構造を持
つ。幼虫・成虫はパッチ内のブタクサを食害し、ブタクサの現存量はブ
タクサハムシの死亡率に影響する。成熟した成虫のみが生息地パッチ間
を移動しうる。
野外の調査は、2002 年から 2003 年の6月、7・8月、9月の3回行っ
た。地図搭載型の GPS データロガーを使って、ブタクサ群落の空間的な
位置と大きさを特定し、項目にカテゴライズされた、群落内ブタクサ密
度、ブタクサ草丈、ブタクサハムシ幼虫数、ブタクサハムシ成虫数、な
どを記録した。
野外の調査データを元に、ブタクサ群落の発生頻度を計算し、シミュレー
ションを行った。野外のブタクサハムシ発生データと比較しながら、シ
ミュレーションを繰り返してモデルを調整し、それぞれ必要なパラメタを
決定した。本発表では、空間構造が個体群の安定性に与える影響や、越
冬期の死亡率などのパラメタについて考察する予定である。
— 173—
P2-052
ポスター発表: 個体群生態
P2-052
P2-053
12:30-14:30
ヒョウモンモドキのメタ個体群動態
◦
◦
1
岐阜県立森林文化アカデミー
ヒョウモンモドキ(Melitaea scotosia)は、環境省レッドリストで絶滅危惧 I
類に指定、現在では広島県でのみ確認されており、中でも中部の世羅台地およ
び賀茂台地に生息地が多い。世羅・賀茂台地には、地下水の涵養する小規模
な貧栄養湿地が点在し、こうした天然の湿地や休耕田で湿地化した場所を生
息地となり、幼虫はキセルアザミを食す。世羅・賀茂台地には、キセルアザ
ミの生育するヒョウモンモドキの生息適地がパッチ状に点在しているが、必
ずしもすべての生息適地に本種の生息が見られるわけではない。世羅・賀茂
台地で本種の生息適地(パッチ)におけるヒョウモンモドキの生息状況を調
査した結果、生息パッチ、非生息パッチが存在することが明らかになり、メタ
個体群構造をもつことが示唆された。
本研究は、各パッチの生息状況を経年的にモニタリングすることによって、本
種のメタ個体群動態について明らかにすることを目的とした。
世羅・賀茂台地周辺において 225 個のパッチが見いだされ、そのうち、休耕
田が 133ヶ所、天然の湿地が 78ヶ所であった。2001 年 ∼2003 年の 3 年間、
すべてのパッチにおいて、幼虫の巣の数を調査した。
占有パッチは 2001 年は 81、2002 年は 58、2003 年は 61 であり、全体のお
よそ 30 %であった。また、占有パッチの数の変化が見られ、局所個体群の
再定着や絶滅が見られた。
これらのことから、本種は局所個体群の絶滅や再定着を繰り返しながら長期
的に生息しているというメタ個体群構造をが推測され、生息環境の変化が見
られない場合であっても局所個体群の変動が大きいことが明らかとなった。
これらのことから、ヒョウモンモドキの急激な衰退はパッチの減少によるメ
タ個体群構造の崩壊によることが起因していることが推察された。
1980 年代以降、世羅・賀茂台地においても、天然の湿地の開発による喪失、
休耕田での植生遷移の進行等によって、パッチの数の減少や質の低下が見ら
れる。そのため、本種の長期的な保全が緊急な課題であり、本研究成果の保
全への利用についても提案したい。
宮崎 由佳1
1
岐阜県立森林文化アカデミー
ヒョウモンモドキ(Melitaea scotosia)は、環境省レッドリストで絶滅危惧 I
類に指定されており、本州各地で絶滅、現在では広島県でのみ確認されてお
り、中でも中部の世羅台地および賀茂台地に生息地が多い。世羅・賀茂台地
には、地下水の涵養する小規模な貧栄養湿地が点在し、ヒョウモンモドキは
こうした天然の湿地や休耕田で湿地化した場所を生息地とし、幼虫はキセル
アザミを食す。ヒョウモンモドキは、こうした点在する天然の湿地や湿地由
来の休耕田を生息地としており、生息地間を移動しながら個体群を維持して
いることが明らかになっている。各々の生息地での局所的な絶滅が確認され
ている一方、新たな移住による定着も見られ、典型的なメタ個体群構造を有
していると考えられる。
本研究では、世羅・賀茂台地のヒョウモンモドキメタ個体群を対象に、AFLP
遺伝マーカーを用いてメタ個体群内の遺伝的多様性と局所個体群間の遺伝的
関係性を明らかにすることを目的とした。
2002 年に生息の確認されたすべての局所個体群において、個体数の多い幼
虫期にすべての幼虫巣から3 ∼ 5個体のサンプリングを行い、AFLP 分析
を行った。総幼虫巣数は 157、サンプリングした総個体数は 525 であった。
今回は、局所個体群が集中して分布する地域に絞ってその一部を報告する。
ヒョウモンモドキの生息地は、天然の湿地の開発や休耕田の遷移などにより、
近年急速に減少している。これに伴い、ヒョウモンモドキ局所個体群の生息
適地が失われ、メタ個体群の維持にも影響が出ていると考えられる。本種に
関しては、地域の保全団体が積極的な保全活動を行っており、将来的には、
生息適地への再導入も検討している。生物の移動に関しては、遺伝的かく乱
を伴うため、原則行うべきではないが、絶滅のおそれが極めて高い種に関し
ては、十分な検討を経た上での保全のための再導入計画も必要である。経年
サンプリングを行っているので、今後はこの成果を生かし、局所個体群の遺
伝構造の変化から、間接的に局所個体群間の遺伝子交流を明らかにし、本種
の保全への活用を試みたい。
P2-055
12:30-14:30
オガサワラオオコウモリの日中休息地の季節変化と保全学的重要性
◦
12:30-14:30
絶滅のおそれのあるチョウ類・ヒョウモンモドキメタ個体群の遺伝構
造(予報)
中村 康弘1
P2-054
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
ニホンジカ伊豆地域個体群の生息数推定
◦
稲葉 慎1, 杉田 典正2, 上田 恵介2, 鈴木 創1
大場 孝裕1
1
1
小笠原自然文化研究所, 2立教大学大学院理学研究科
静岡県林業技術センター
オガサワラオオコウモリ Pteropus pselaphon は小笠原諸島唯一の固有哺乳
類であるが,近年は農業食害問題,無秩序な観光利用など生息を脅かす問題
がある.また現状では日中休息地域(ねぐら)の隣接部が開発されるなど生
息環境は悪化してきているが,保全策は立てられておらず,また本種の生態
学的知見も少ない.そこで著者らは本種のねぐら形成行動に着目し,1999 年
から 2000 年,2002 から 2004 年に延べ約 80 個体に電波発信機を装着して
個体毎のねぐら形成地域を特定し,季節変化や形成環境などを調べた.なお,
ねぐらは洞窟や樹洞などは利用せず,森林の樹木枝にぶら下がるのが本種を
含むオオコウモリ属の特徴である.
過去の知見により,本種は冬期に集団化するねぐらを形成することが示唆
されていたが,本研究により冬期ねぐらにはほぼ1箇所にほとんどの個体が
集合し,また冬期以外は父島全域に分散し,単独から少数でねぐらを形成す
ることが明らかとなった.ねぐら形成した場所に特定の傾向は見られず,冬
期以外の分散化したねぐらは林縁部から林内まで非常に多様な環境,また冬
期ねぐらを含めても利用樹木も多くの種類を利用しており選好性などは見い
だせなかった.
オオコウモリ属はねぐらが集団化することは知られているが,本種のよう
に季節的に集合離散するパターンはこれまで報告されていない.そこで冬期
ねぐらの集団化の意味を検討するために,これまでの捕獲個体組成を季節的
に比較すると,幼獣の出現率が夏季に多く,成長度などから逆算した交尾期
間が冬期集団ねぐらの形成期間と一致しており,ねぐらの集団化は繁殖行動
のひとつであると示唆された.ただし幼獣は少数ながら他季節でも出現して
おり,検討すべき課題は残された.
ニホンジカ伊豆地域個体群について,生息密度調査と分布調査を実施し,生
息数を推定した。
生息密度調査は糞粒法により行った。調査地には,1m 2 の調査プロット
を一定の間隔で 120 個設定し,12 月にプロット内のニホンジカの糞をすべ
て除去した。また調査地には,糞消失率算出のために新しい糞を 50 個置い
た。60 日以上経過した2月に,調査プロット内に新たに加わった糞と消失率
算出用の糞を数えた。調査は 2001∼2003 年度に 78 箇所で行った。調査結
果と高槻ら(1981)の求めたニホンジカの平均排糞粒数をもとに,Taylor and
Williams(1956)の式から生息密度を算出した。
分布調査は,2003 年5月に郵便アンケートにより行った。標準地域メッシュ
システムの第3次地域区画を調査単位とし,分布,被害等について,農家,林
家,ゴルフ場,森林組合,市町村,鳥獣保護員,猟友会に質問した。国有林
については,伊豆森林管理署に問い合わせた。情報の得られなかった一部の
区画については,現地で補完調査を実施した。分布情報の得られた区画内の
森林面積をニホンジカの分布面積とした。
平均生息密度は 13.3 頭/km2 であった。広葉樹林の平均生息密度(20.0
頭/km2 )は,針葉樹人工林の平均生息密度(7.0 頭/km2 )よりも高かった。ま
た鳥獣保護区の平均生息密度は 25.0 頭/km2 であった。
分布面積は 767km2 と推定された。
伊豆地域を5つのユニットに分け,それぞれの平均生息密度に分布面積を
掛け生息数を求めた。この地域個体群の生息数は,約 1.1 ± 0.8 万頭と推定
された。
ニホンジカ伊豆地域個体群については,今回の結果を基に 2004 年度から
特定鳥獣保護管理計画の実施を予定している。
— 174—
ポスター発表: 個体群生態
P2-056
P2-057
12:30-14:30
マイクロサテライトマーカーを用いた信州のツキノワグマの遺伝的多
様性推定
◦
1
信州大学大学院工学系研究科, 2(株)野生動物保護管理事務所, 3信州ツキノワグマ研究会, 4信州大
学理学部
1
Mokpo National University, 2Kunsan National University
This research, which was conducted from August to November 2003, sought
to find out the morphological variations of Suaeda maritima according to the
altitude of their habitats at southwestern coast of Korea, by surveying the environmental factors affecting the characteristics of vegetative organs and the
biomass and morphological variations of vegetative organs. Their habitats
were divided into a low area, a mid-level area and a high area. The results
showed that there was a statistically significant relationship between the environmental factors and the biomass of Suaeda maritima according to their
habitat’s altitude. In particular, the higher the altitude of the habitat was, the
less were the soil’s water content, total nitrogen content, available phosphate,
organic matter, density and biomass. For the morphological variation width,
the length of the aerial stem in the low area was measured at 17.98 ± 0.46
mm, and in the high area, was shorter by 0.70 times. Likewise, the length of
the main roots in the low area was measured at 8.06 ± 0.21 mm, and in the
high area, was longer by 1.58 times. The length of the leaves in the middle
of the dwarf stems that branched out three times from the aerial stems in the
low area was measured at 7.83 ± 0.12 mm, and in the high area, was shorter
by 0.83 times. The width of the leaves in the low area was measured at 1.88
± 0.01 mm, and in the high area, was longer by 1.16 times. Genetic variations did not appear in accordance with the sand dune’s altitude, but within
the population.
現在、信州のツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)は、狩猟や有害駆
除、生息地の分断や環境の悪化などの原因により、その個体数は減少傾向にあ
ると言われている。特に、美ヶ原・八ヶ岳地域のように周囲が人為的に分断さ
れ、孤立化していると考えられる個体群は、個体数減少や遺伝的多様性の喪失
が危惧されている。しかし、これまで行われてきた生態調査では、個体数や行
動圏の推定は可能であったが、遺伝的多様性などに関する情報は得ることがで
きなかった。そこで本研究では、マイクロサテライト DNA マーカーを用いて、
現在の長野県におけるツキノワグマ個体群の遺伝的構造を明らかにすることを
目的とした。
2001 年から 2003 年に長野県内で捕獲、有害駆除されたツキノワグマの血
液、筋肉、毛から抽出した DNA を用いてマイクロサテライト解析の手法を検
討し、6座について解析を行った。長野県のツキノワグマを生息地ごとに7つ
の地域個体群に分け、各個体群間の遺伝的多様性について比較した。その結果、
個体数減少が推定される個体群では遺伝的多様性が低いという予想と異なり、
地域個体群間で遺伝子座における対立遺伝子数やヘテロ接合体頻度に大きな差
は無く、遺伝的に孤立化していると考えられる集団は見られなかった。しかし目
撃情報などによると、地域によってはクマの個体数減少は明らかである。また、
クマの捕獲数も少なく、これまでに解析に用いた個体数では不十分であるため、
さらに解析を続け考察していく必要がある。また、今後 mtDNA の塩基配列を
もとに各地域の個体の系統を調べ、地理的に独立した系統が存在することが明
らかとなった場合には、それぞれの系統の保護管理の必要性を提起したい。
P2-059c
12:30-14:30
ケヤキ開葉時期の産地間変異
◦
12:30-14:30
Morphological and Genetic Variations of Populations of Suaeda maritima
according to environmental gradients on the Southwestern coast of Korea
Lee Jeom-Sook2, Myung Hyun-Ho1, Lee Jung-Yun1, ◦ Ihm Byung-sun1
木戸 雅子1, 泉山 茂之2, 林 秀剛3, 伊藤 建夫4
P2-058c
P2-056
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
亜熱帯照葉樹林における光環境と個体サイズの変化が樹冠形に与える
影響
矢野 慶介1, 山田 浩雄1, 生方 正俊1
◦
1
林木育種センター
樹木の開葉時期の種内変異についてはブナをはじめとしていくつかの樹
種で報告されており、開葉時期は遺伝的な支配が強く産地間で変異が見
られることが多く報告されている。現在、林木育種センターでは各地か
ら収集したケヤキの開葉時期の変異の調査を行っており、これまでにも
ケヤキの開葉時期の変異についての結果の報告を行っている(山田ほか
2002)。しかしながらこの報告の試験地は反復がとられてなく、同一ク
ローンを1ヶ所に集中して植栽していたため微地形などの違いの影響を
受けている可能性も考えられた。そこで今回の研究では同一クローンが
2反復にわたり分けて植栽されている試験地でのケヤキの開葉時期のク
ローン間および産地間での変異について調査を行った。試験地は茨城県
西部の七会村に設置した。クローン数は77で、産地は静岡県千頭、神
奈川県平塚、長野県臼田、千葉県君津、群馬県高崎および草津、福島県
棚倉、郡山および白河の9ヶ所である。1反復1クローンにつき各3個
体を対象に開葉時期を個体ごとに調査した。開葉時期に反復間では有意
差は認められなかったが、クローン間で有意差が認められた (p<0.001)。
対象形質の遺伝的支配の強さの指標である反復率は 0.76 と高い値を示し
た。また産地間でも有意差が認められ、棚倉が最も開葉が早く、以下草
津、白河、平塚、郡山、高崎、千頭、臼田、君津の順であった。山田ら
で報告された異なる試験地での結果と比較すると、共通する産地の個体
については開葉の順位は比較的一定であったが、中には開葉の順位が大
きく変動したものも見られた。
参考文献:山田浩雄ほか (2002) ケヤキ生息域外保存個体における開葉時
期の産地間変異. 第 113 回日本林学会大会学術講演集:662.
林 真子1, 榎木 勉2
1
琉球大学大学院農学研究科, 2琉球大学農学部
森林の構造は不均一な光環境を形成し、樹木はおかれた光環境に応じて光獲
得様式を変化させながら成長する。樹冠の形状は樹木の光獲得様式と密接に
関係していることが知られている。本研究では、光環境、樹高、個体密度が
樹冠形に及ぼす影響について検討した。
調査は沖縄島北部に位置する琉球大学与那フィールドの天然性常緑広葉樹
林内で行った。地形の違いによる影響を避けるため、尾根に沿って幅 4m の
ベルトトランセクトを設置し、10 種を対象に相対樹冠深度と相対樹冠面積
(以後 CD/H、CA/H と示す)を測定した。光環境の指標として、2 m おき
に、地上高2、4、6 m の位置で全天写真を撮影し、開空率を算出した。樹
高は 0.5-2m、2-4m、4-6m に区分して比較した。個体密度は各樹高階の個体
数とした。区分した樹高階ごとに開空率、個体密度を独立変数、CD/H、CA/H
を従属変数としてパス解析を行い、因果関係を調べた。
個体サイズが小さい時は、光環境が樹冠形に大きな影響を与えるが、個体
サイズが大きくなると、個体密度による樹冠形への影響が大きくなる傾向が
見られた。これは、サイズが小さい時は、隣接個体による影響よりも、上方
の構造による光環境の影響が大きく、サイズが大きくなると、獲得できる光
資源量は増加するが、隣接個体との距離が短くなるためと考えられる。シロ
ミミズ、コバンモチの2種は、樹高階 0.5-2m では開空率による CA/H への
マイナス効果、樹高階 4-6m では個体密度による CA/H へのマイナス効果が
見られた。これら2種は、サイズの小さい内は、暗い光環境では少ない光資
源を有効に獲得するために樹冠を水平方向に拡大する一方、サイズが大きく
なって、個体密度が増加すると、隣接個体の影響により、樹冠の横方向への
拡張が抑制されると考えられた。
— 175—
P2-060c
ポスター発表: 個体群生態
P2-060c
P2-061c
12:30-14:30
力学的特性と樹木形態解析による日本の高木性樹種の生態特性
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
◦
目黒 伸一1, 牧口 直子2, 上條 隆志3, 中村 徹3
国際生態学センター, 2横浜市, 3筑波大学
北海道大学大学院地球環境科学研究科
日本における潜在自然植生の多くはヤブツバキクラス域の常緑広葉樹林と
ブナクラス域の夏緑広葉樹林で占められる。その林冠を形成する主な構成種
群はブナ科をはじめとした高木性樹種に属している。それらの樹種の生育地
は異なり、立地に生育するには各樹種の生理的特性とともに力学的な特性が
寄与していると考えられる。また、樹木形態も生長過程における戦略として
重要であり、形態は力学的因子に依存することが予想される。したがって、
高木性樹種の力学的特性とその形態を調べることにした。
用いた樹種はつくば市に生育していたブナ、ミズナラ、コナラ、クヌギ、ア
カガシ、アラカシ、イチイガシ、ウバメガシ、シラカシ、ウラジロガシ、タ
ブノキ、スダジイ、ケヤキ、エノキの 14 種である。強度試験には静的3点
曲げ試験を行い、破壊強度、ひずみ、ひずみエネルギー、比重、含水率を調
べた。樹木形態の測定にはホートン則を用い、分岐数、枝長さ、枝太さを測
定した。
どの樹種、部位においても破壊応力、含水率、比重はほぼ一定の値を示し
た。ブナ科樹種では常緑樹の方が夏緑樹よりも破壊応力が低い傾向を示し、
樹木形態は夏緑樹よりも常緑樹の方が多く枝分岐する傾向を示した。ブナと
ミズナラはクヌギ、コナラよりたわむ傾向を示し、雪圧に対する適応的特性
を有していた。アラカシは調査樹種の中でもっとも破壊応力が高い値を示し、
この力学的特性を利用することで、より細長い形態形成を可能とし、常緑樹
のブナ科樹種としては陽樹的な性格を裏付ける結果を示していた。一方、ク
スノキ科のタブノキは最も低い破壊強度を示した。カシ類は高い強度によっ
て高次の枝も細長い形態をとるのに対し、コナラなどブナ科落葉樹は高次の
枝への力学的負荷を軽減させるため、高次枝の長さを短くしていることが明
らかになった。
樹種によらず比重が大きいほど破壊応力が高くなり、また強度が高い枝ほ
どたわみにくい傾向にあることが示され、強度の低い枝はより多くたわむこ
とで外力を吸収していることが示唆された。
宮本 和樹1, 谷口 真吾2
1
森林総研関西, 2兵庫県立森林林業技術センター
森林に生育する樹木実生はその成長過程において光、水分、栄養塩な
どの資源をめぐる他個体との競争にさらされる。地上部や地下部におけ
る他個体との競争を人工的に制限し、それによって実生個体の成長が促
進または抑制される度合いをしらべることにより、その競争が実生個体
に及ぼす影響の大きさを評価することができる。
同種個体間の競争が個体の成長に及ぼす影響を明らかにするため、異
なる光条件(寒冷遮)および個体どうしを地上部(金網)
・地下部(塩ビ
板)で仕切る処理を施し、個体間の相互作用を制限する処理を施した苗
畑試験地で、光要求性が高く旺盛な初期成長を示すミズメの実生苗の成
長を追跡した。
地際直径の相対成長速度および地上部と地下部の乾燥重量はいずれも
明条件で大きくなった。特に地上部の乾燥重量の平均値は、地下部を仕
切った処理区で大きくなった。直径成長では年によって傾向が異なり、一
貫性に乏しかったものの、地下部単独もしくは光、地上部および地下部
の仕切りの各要因間で交互作用がみとめられた。一方、葉の窒素含有率
は暗条件で大きくなった。
以上の結果から、ミズメ実生個体の成長の主要因は光条件であるが、地
上部や地下部における個体間の相互作用も評価すべき要因のひとつであ
ることが示唆された。
火山における実生の生物学的侵入パターンが異なるマイクロハビタットによ
り標高傾度によりどのように変化するのか、また実生のパフォーマンスは攪
乱地への侵入にとって有利となるかを明らかにするため、渡島駒ケ岳におい
て急速に分布を拡大している北海道非在来種カラマツと、最も優占する在来
種のダケカンバに対して播種実験および天然更新実生の分布の調査を行った。
発芽、生存、資源分配、分岐パターン、および天然更新実生の分布パターン
を 3 標高帯× 3 マイクロハビタット(裸地= BA、ミネヤナギパッチ= SP、
カラマツ樹冠下= UL)で比較した。
対象 2 種ともに発芽率は LU が BA、SP よりも高かったが、標高間で差は
見られなかった。生存率は標高間およびマイクロハビタット間で差は見られ
なかった。カラマツはダケカンバよりも高い生存率を示した。カラマツは全
ての標高において、SP での天然更新実生の密度が高く、ミネヤナギがシー
ドトラップの役割を果たすことが示唆された。ダケカンバ実生は殆どみられ
なかった。カラマツは地上部重/地下部重比、高さ/直径比、分岐頻度で示さ
れる実生のパフォーマンスを標高・マイクロハビタットで変化させたが、葉
重/個体重比は一定であった。BA においてカラマツは、地上部の高さ生長が
抑制され、分岐の多い形態を示し、より地下部へ多く資源分配していた。こ
の形態は風が強く、貧土壌栄養の環境に適応していると考えられた。カラマ
ツ実生が SP でより細長くなったことから、被陰されたハビタットでは光獲
得がより重要であることが示唆された。一方ダケカンバは、殆どパフォーマ
ンスの変化が見られなかった。
これらから環境が厳しく、変動が激しい環境では、優れた実生パフォーマン
スによって侵入種は在来種よりも全てのマイクロハビタットで高い生存と成
長率を示すことができることが明らかになった。樹木限界やさらに高標高の
植物群集は生物学的侵入による改変を受けやすいと考えられる。
P2-063c
12:30-14:30
ミズメ実生の地上部と地下部における競争が個体の特性におよぼす影響
◦
赤坂 宗光1, 露崎 史朗1
1
1
P2-062c
12:30-14:30
カラマツ実生の成長特性のマイクロハビタット・標高間比較
12:30-14:30
コケの高さの異なる倒木におけるエゾマツ実生の生残と成長
◦
飯島 勇人1, 渋谷 正人1, 斎藤 秀之1, 高橋 邦秀1
1
北海道大学大学院農学研究科
エゾマツ(Picea jezoensis)は更新立地を倒木に依存しているが、倒木の腐朽
状態によってエゾマツの更新密度には差が見られる。本研究では、倒木上で
のエゾマツの更新密度に影響する要因のうち、倒木上に発生するコケ群落高
の影響が大きいと考え、コケがない倒木(FLB)、コケが低い(1-20mm)倒
木(FLS)、コケが高い(> 20mm)倒木(FLT)を対象に、コケの高さが、
発芽、エゾマツ実生の生残と成長に与える影響を検討した。調査地は北海道
中央部の針葉樹林である。林内でコケの高さ別に倒木を 10 本ずつ選定して
各倒木上にエゾマツを播種し、発芽率と実生の生残率、形態ならびに根の分
布、器官量配分を、当年生実生と 1 年生実生について調査した。発芽率は
FLT で有意に小さく、生残率は倒木間で差が見られなかった。倒木を表層か
らコケまたは樹皮層、腐植層、材部に分類し、実生の根の分布について検討
したところ、主根はコケの高さや実生の生残・枯死に関わらず、大部分が腐
植層や材部に分布していた。当年生実生の個体重は FLT 上で最も小さかっ
た。FLT 上の実生は他の倒木上の実生より幹は長く、幹への器官量配分は多
かったことから、高いコケによる被陰に対し、形態と器官量配分による順応
を行っていたと考えられた。1 年生実生の個体重は FLB 上の実生が小さかっ
た。FLB 上の 1 年生実生は FLS 上の実生と比べて根長が有意に短く、T/R
が高かったことから、FLB では 1 年生時の根の伸長が制限され、個体の成長
が抑制されたと考えられた。以上から、エゾマツの発芽、実生の生残と成長
には、FLS のようなコケはあるが高くない倒木が適していると考えられた。
— 176—
ポスター発表: 個体群生態
P2-064c
P2-065c
12:30-14:30
原生的スギ・落葉広葉樹林に優占的な落葉性低木3種の空間分布パター
ンとそれに関わる環境要因
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
渡辺 名月1, 鈴木 英治2
1
鹿児島大学大学院理工学研究科, 2鹿児島大学理学部地球環境科学科
1
京大院・農, 2京大フィールド研
ツル性ヤシ科植物のロタン(ラタン)は東南アジアの熱帯雨林を特徴付ける
重要な要素であり、多種が同所的に存在する。ロタンは長い鞭状のフラジェ
ルム(不稔化した花序)またはシルス(伸長した葉軸)に付いた刺を周囲に
引っ掛けてよじ登る。また、ロタンの茎は籐製品の材料として利用され、商
業的価値の高い森林産物でもある。しかし、その生態については未解明の部
分が多い。本研究は、インドネシア・ハリムン山国立公園に優占するロタン、
Calamus heteroideus と C. javensis に着目し、同属の2種がどのように共存
しているのかを明らかにするために、成長パタンとシュート動態を調べた。
2002 年 3 月、山地林内に設置した2つの調査区(40 × 40m、標高 1100m)
内の全シュート(茎長≧ 20cm、合計約 1700 本)に番号札を付け、茎の高
さ・長さ、フラジェルムと花序の有無などを記録した。2003 年と 2004 年
の同月に、シュートの枯死と新規加入、茎の伸長量などを記録した。その結
果、C. heteroideus は花序生産率が高く、茎長約 0.5m で成熟し、最大茎高は
約 3m だった。一方 C. javensis はフラジェルム生産率が高く、茎長 1m 以上
で成熟し最大茎高は約 13m を記録した。C. heteroideus は無性繁殖率(多茎
率)が約 20 %、全シュート数の約 10 %以上で毎年花序を確認できたのに
対し、 C. javensis はそれぞれ約 40 %と 1 %程度であった。平均年伸長量は
C. heteroideus が約 9 ± 11(SD)cm/yr、 C. javensis が 14 ± 25cm/yr で、
最大値では後者が前者の約 3 倍大きく 265cm/yr を記録した。シュートの枯
死率は C. javensis が C. heteroideus と比べてやや高い値を示した。これらの
ような成長特性差が利用階層の違いをもたらし、2 種の共存を可能にしてい
ると考えられる。
京都府北部にある冷温帯林の下層に優占的で地上部形態の異なる低木3種
(クロモジ、タンナサワフタギ、ツリガネツツジ)を対象に、斜面地形上で
の空間分布構造(水平分布、種内・種間分布相関)と関与要因を解析した。
L関数による分布解析から、3種(地上幹長> 50cm)はいずれも 0-20 mの
距離スケールで集中分布を示した。また L 関数による種間の分布相関解析
から、クロモジとタンナサワフタギは有意な正の相関を示した。一方、幹長
をもとにした各サイズ階(50-150、150-250、250-350、350- cm)の分布は、
中間サイズ階でランダム分布を示す種もあったものの、3種は概して最大・
最小の各サイズ階では有意な集中分布を示した。またサイズ階間の種内分布
相関解析では、タンナサワフタギが殆どのサイズ階間でほぼ独立的な関係を
示し、ツリガネツツジは各サイズ階間で有意な正の相関関係を示した。クロ
モジは隣接サイズ階間で正の相関を示す一方で、小サイズ階と大サイズ階の
間では独立的な関係を示した。次に、環境要因として rPPFD、斜面傾斜角、
土壌含水率を取り上げ、単位面積当たりに存在する株数、株当たり地上幹数、
主幹の長さと傾斜角を目的変数とする重回帰分析を行った。単位面積当たり
に存在する株数は3種ともに斜面傾斜角に有意な負の影響を受けていた。ま
た株当たりの平均地上幹数は、クロモジとタンナサワフタギが斜面傾斜角か
ら有意な正の影響を受けていたが、著しい多幹型のツリガネツツジは何ら有
意な影響を受けていなかった。主幹長は、クロモジが rPPFD に正の、タン
ナサワフタギが斜面傾斜角に負の、それぞれ有意な影響を受けていた。主幹
の傾斜角は3種ともに斜面傾斜角に有意な正の影響を受けていた。
講演では以上の結果をもとに、低木種が萌芽性という特徴を有していること、
調査地が日本海側の多雪地帯にあることなどを踏まえ考察する。
P2-066c
P2-067c
12:30-14:30
カムチャツカ半島における Betula platyphylla と Larix cajanderi の更新
様式
◦
12:30-14:30
ジャワ島・ハリムン山におけるツル性ヤシ科植物ロタンの成長と個体
群動態
◦
森下 和路1, 嵜元 道徳2
P2-064c
飯村 佳代1, 本間 航介2, 奥田 将己3, ベトローバ バレンチナ4, ビャトキナ マリーナ4, 原
登志彦1, 隅田 明洋1
12:30-14:30
シロイヌナズナ個体群における葉の枯死が自己間引き過程に及ぼす影
響の実験的検討
◦
大久保 幸実1, 鈴木 準一郎1, 可知 直毅1
1
東京都立大学理学研究科生物科学専攻植物生態学研究室
1
北大・低温研, 2新潟大・演習林, 3総合研究大学院大学・統計数理研究所, 4ロシア科学アカデミー・カ
ムチャツカ地理研
カムチャツカ半島中央低地帯の針広混交林ではシラカンバ(Betula platyphylla)
とカラマツ(Larix cajanderi)が優占する。カラマツが種子更新を行うのに
対し、シラカンバは種子だけでなく、萌芽更新を行うことが知られている。本
研究では、特にシラカンバについて注目し、林床の条件が実生の定着過程に及
ぼす影響について考察する。また、萌芽と実生のサイズの差異と更新との関連
についても考察をする。
カムチャツカ半島アナブガイ付近、火事後推定 40 年後の森林に 2000 年 7 月、
調査プロット(50m × 50 m)を設置し、毎木調査を行った。DBH < 2cm を
実生と定義し、DBH ≧ 2cm 以上の個体を成木とした。2003 年 7∼8 月に実生
の種名・樹高・マイクロハビタット・の位置について調査をした。また、シラ
カンバにおいては萌芽幹の数・母樹の位置についても調査を行った。倒木の位
置についても記録した。
成木の胸高断面積合計はシラカンバが 17.32 m2 ha-1、カラマツが 2.56 m2 ha-1
であった。調査の結果、プロット内のカラマツ実生は 66 本出現した。うち 63
本が倒木上でなく、地表面から生育していた。シラカンバもカラマツも実生の
樹高頻度分布は二山型を示した。カラマツ実生の樹高< 50cm とそれ以上の
実生の平均樹高はそれぞれ 5.2cm、211.9cm だった。シラカンバの実生は 171
本、萌芽幹数は 334 本、萌芽幹の母樹数は 98 本で、シラカンバの萌芽幹数の
方が実生数よりも多かった。実生の 126 本が倒木上に出現し、うち 92 本はコ
ケ上に出現した。このように、実生は主に倒木上のコケが被覆する所に多く出
現した。シラカンバ実生の樹高< 50cm とそれ以上の個体平均樹高はそれぞれ
4.3cm、191.4cm、萌芽ではそれぞれ 27.6cm、101.3 cmだった。このように、
平均樹高は萌芽の方が高い傾向にあった。
実生が発芽した場所が必ずしも生育に好適とは限らない。特にシラカンバが地
表面から発芽した場合、リターや地表植生の被覆のため、その後の生育が困難
な可能性がある。このことからシラカンバの萌芽特性はシラカンバの更新に有
利に働くと考えられる。
高密度個体群で生じる密度依存的な植物個体の枯死は自己間引きと呼ばれ
る。これは隣接個体に被陰された個体が同化量不足により枯死するという受
動的な過程であると考えられている。しかし本研究では、競争過程で見られ
る個体下部の葉の枯死に注目し、自己間引きの至近要因に関する新たな仮説
の提唱と検証を試みる。
葉の枯死には葉齢に依存するものの他に、より効率的な資源利用を可能と
する適応的なものもある。そこで競争下の下部の葉の枯死は、より上部へ新
葉の展開を図る自発的な過程であり、その過程で被圧下の個体は物質経済が
破綻し、枯死すると考えた。
初期密度の異なるシロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana) 個体群を明期高
温・暗期低温(自然条件:条件1)、明期低温・暗期高温(葉の枯死が起こり
にくい条件:条件2)で栽培し、葉の枯死が自己間引き過程に及ぼす影響を
実験的に検討した。単独に生育するシロイヌナズナでは、条件1下では開花
直前にロゼット葉の枯死が見られるが、条件2下ではロゼット葉の枯死がほ
とんど見られないことが知られている。
予備実験では、条件2の高密度個体群における個体の葉の枯死は、条件1
下に比べ生じにくかった。また刈り取り時の生残個体密度を独立変数に、地
上部の平均個体乾重量を従属変数にとり、両者の間に回帰される直線(自己
間引き直線)を条件間で比較した結果は、条件1で y = 2.044-0.706x, R2 =
0.978 条件2で y = 1.492-0.535x, R2 = 0.930 であり、傾き・切片共に有為な
差が認められた。これは光・温度条件の組み合わせによりもたらされる成長
速度や形態、また葉の枯死の生じ方の違いが、自己間引き過程に影響したこ
とを示唆している。
— 177—
P2-068c
ポスター発表: 個体群生態
P2-068c
P2-069c
12:30-14:30
ハイビャクシン(Juniperus chinensis var.procumbens)集団内における
遺伝的変異に関する研究
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
◦
平尾 知士1, 渡邉 敦史2, 長野 克也3, 戸田 義宏3
静岡大学農学部, 2中央農業研究センター, 3森林総合研究所, 4岐阜大学応用生物科学部
秋田県立大学木材高度加工研究所, 2林木育種センター, 3九州東海大学
自家不和合性(Self-incompatibility)は自家受精を防ぐ性質で S 遺伝子座上の
対立遺伝子(S 対立遺伝子)によって制御されている。集団中の S 対立遺伝子
の数が減少すると、同じ S 対立遺伝子を保持する個体同士の交配が増え、種
子の稔性は低下する。このため、遺伝子流動が制限される島嶼集団では1個体
のみでも繁殖可能な自家和合性の植物種が多いことが指摘されている。しかし
ながら、本研究の供試種であるオオシマザクラ (Prunus lannesiana var. speciosa)
は自家不和合性であるにも関わらず、伊豆諸島を主な分布域としている。本種
が S 遺伝子座の遺伝的変異をどの程度、有しているかは興味深いことである。
伊豆半島および、伊豆諸島の大島、新島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島の
7箇所に分布するオオシマザクラをサンプリングの対象とした。オオシマザク
ラを含むバラ科の自家不和合性には S-RNase が関与し、S-RNase の多型分析
により個体の S 遺伝子型は推定できる。そこで、分析個体の DNA を抽出し、
S-RNase の cDNA 断片をプローブとしたサザンハイブリダイゼーションを行
い、S-RNase の制限酵素断片長多型 (RFLP) を検出した。検出した RFLP に基
づいて、各個体の S 遺伝子型を決定した。種レベルで保持される S 対立遺伝
子は 63 個で、各島の集団については伊豆半島で 62 個、大島で 46 個、新島
で 47 個、神津島で 46 個、三宅島で 34 個、御蔵島で 40 個、八丈島で 26 個
であった。各島における S 対立遺伝子の数は本州から離れた島ほど少なく、明
瞭な地理的勾配が認められた。オオシマザクラの島間の遺伝子流動は鳥による
種子散布に依存していると思われ、本州から離れた島ほど種子が持ち込まれる
頻度は減少するだろう。このため、遺伝子流動は制限され、各島に保持される
S 対立遺伝子の数として反映されたと思われる。
ハイビャクシンは、ヒノキ科ネズミサシ属の一つであり、4 倍体である。本種
は、長崎県壱岐・対馬などの島嶼に隔離的に分布し、極端に矮性化した形態を
呈す。本研究では、ハイビャクシン集団の遺伝的分化および種分化の過程を解
明するため、集団内の遺伝的構造の解明を試みた。
本種は匍匐性を呈し、錯綜して広がっているため、個体の特定が困難である。
そこで、一定の距離を置いてランダムに個体を採取し、採取した個体について
RAPD 分析によるクローン判定を行った。その結果、少なくとも採取した 123
個体のうち 62 個体はそれぞれ遺伝的に異なった。次に、本種はこれまでの研
究から種内に核型変異が報告されている。しかし、集団内における核型変異の
実態については知見が得られていない。そこで集団内での変異を明らかにする
ため、RAPD 分析によって同定された 62 個体について核小体観察を行った。
その結果、53 個体は核小体数 4 つを保有する個体で最も頻度が高く、核小体
数が 3 つと 2 つを示すタイプは合計 9 個体存在した。核小体は 45s rRNA 遺
伝子による発現と密接に関係する。従って、NOR 染色体および核小体と 45s
rRNA 遺伝子領域は数が一致することが予想できる。しかし、FISH 分析を行っ
た結果、すべての個体で 45s rRNA 遺伝子領域は 4 領域であることが明らかと
なった。核小体数と FISH によるシグナル数が一致したのは NOR 染色体が4
本認められた個体のみであり、NOR 染色体の数的変異を示した個体では核小
体数とシグナル数が不一致であった。この結果はハイビャクシンが異質倍数体
である可能性を示唆している。一方で、ハイビャクシンの起源は未解明である。
そこで、葉緑体 DNA 塩基配列の情報に基づいてネズミサシ属の系統関係を明
らかにし、ハイビャクシンと近縁種との関係について推定した。
P2-071c
12:30-14:30
マイクロサテライトマーカーを用いたシデコブシの送粉パターンの解析
◦
加藤 珠理1, 岩田 洋佳2, 津村 義彦3, 向井 譲4
1
1
P2-070c
12:30-14:30
伊豆諸島に分布するオオシマザクラの自家不和合性遺伝子座における
遺伝的多様性の評価
鈴木 節子1, 石田 清2, 上野 真義3, 津村 義彦3, 戸丸 信弘1
1
名古屋大学大学院生命農学研究科, 2森林総合研究所関西支所, 3森林総合研究所
シデコブシはモクレン科の落葉小高木で、東海 3 県の丘陵地や台地・段丘地帯
の湿地にのみ分布する固有種である。複数幹からなる株を形成し、雌雄同株、
雌性先熟の花を咲かせる。花粉は虫媒、種子は鳥散布であると言われている。
近年では宅地の造成やゴルフ場開発などのために生育地が減少し、2000 年に当
時の環境庁から発行されたレッドデータブックにおいて絶滅危惧 II 類に指定
されている。集団の消失や分断化は遺伝子流動の妨げとなる。シデコブシを保
全するためにはシデコブシの送粉パターンを把握し、遺伝子流動を定量化する
ことが重要である。本研究ではシデコブシの送粉パターンを、マイクロサテラ
イトマーカーを用いて父性解析を行うことによって明らかにすることを目的と
した。
調査地は愛知県瀬戸市海上の森屋戸川上流域とその周辺流域に存在するシデコ
ブシ集団である。解析に用いたマイクロサテライトマーカーは演者らによって、
シデコブシにおいて既に開発されている。屋戸川集団においては全個体を、屋
戸川周辺の集団においては 2002-2004 年の開花調査によって開花が確認された
繁殖個体を対象に、葉サンプルの採取を行った。種子は 2001 年に屋戸川集団
から採取し、発芽した実生を解析に用いた。
父性解析の結果、シデコブシの送粉パターンは距離に大きく依存し、近距離の
個体間の交配頻度が高いことが明らかとなった。しかし、その一方で、尾根で
隔離された流域間の遺伝子流動も存在することが明らかとなった。
12:30-14:30
コナラ交雑家系における連鎖地図の作成と開葉と成長量に関する QTL
の探索
◦
鶴田 燃海1, 加藤 珠理1, 向井 譲2
1
岐阜大学大学院連合農学研究科, 2岐阜大学応用生物学部
1. はじめに
近年、分子遺伝マーカーの開発が進み、樹木においても連鎖地図の作成が可能
となったのに加え、全ゲノム領域をカバーする連鎖地図の発展にともない、量的
形質遺伝子座 (QTL) の位置と効果を決定する研究が進められている。この QTL
解析を用いた手法は、樹木において環境に対する適応を遺伝的に解析するにあた
り有効な手段である。本研究では、コナラ属における遺伝と適応に関する情報を
蓄積するため、コナラ (Quercus serrata) における連鎖地図の作成と、開葉と成長
量に関する QTL の同定を目的とした。
2. 材料と方法
2000 年に加藤が行った交配によって得られたコナラの家系を実験に用いた。
2002 年、2003 年の春に実生 64 個体の開葉日、茎の成長量のデータを測定した。
AFLP および RAPD 法による多型分析を行い、期待分離比の得られたマーカーを
用いて連鎖解析を行った。作成された地図をもとに、ANOVA と区間マッピング
による QTL の探索を行った。連鎖地図の作成と QTL 解析には、Mapl (Ukai et
al. 1995) を用いた。
3. 結果と考察
Pseudo-testcross 法を用いた分析により、母親の連鎖地図 (18 個のマーカーが
座乗する 7 つの連鎖群) と花粉親の連鎖地図 (32 個のマーカーが座乗する 12 の
連鎖群) の二つの連鎖地図が作成された。今回、インタークロスタイプのマーカー
を用いていないため、二つの連鎖群を対応付けることはできなかった。
作成された連鎖地図は、QTL のおおまかな概算に用いた。ANOVA から得られ
た QTL の候補と、区間マッピングによる LOD スコアより、2002 年開葉に関す
る 1 つの QTL の候補が見つかった。
これらのデータに 2004 に測定した開葉データを加え、3 年間にわたる比較、考
察を行う。
— 178—
ポスター発表: 個体群生態
P2-072c
P2-073c
12:30-14:30
同所性ヤドカリにおける浮遊幼生着底の時空間パターンと貝殻資源利
用可能性の影響
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
京都大学生態学研究センター
北海道大学大学院水産科学研究科
生物の中には発達段階のある時期に生活型を劇的に変化させるものが存在
する。浮遊幼生期を持つ多くの海洋底生生物においては浮遊生活から底生生
活へ移行する着底がその時期にあたり、着底期は彼らにとって環境ストレス
や捕食などの影響を強く受ける時期である。したがって海洋底生生物の幼生
は着底時の生存率を高めるため、しばしば捕食や環境ストレスを緩和するよ
うな特殊な生息地を利用する。このような生息地(隠れ家)の分布及び利用
可能性は浮遊幼生の着底パターンや、種の個体群構造に影響を与えると考え
られる。
ヤドカリは貝殻に寄居する特異な進化を遂げた甲殻類であり、後期幼生は
空き貝殻に入り、脱皮・変態して稚ヤドカリとなる。よって貝殻の資源量や
分布は、ヤドカリ浮遊幼生の着底量や着底パターンに大きな影響を与える可
能性がある。
本研究は、ヤドカリの着底パターンが貝殻の分布や資源量に影響を受けて
いるかどうか検証することを目的とした。北海道南部の平磯潮間帯に生息す
るホンヤドカリ属 5 種を対象に、1)種の分布様式、2)幼生の着底パター
ン、3)貝殻資源量パターンを調査するとともに、貝殻の入ったメッシュバッ
グを海岸に設置する実験を行った。調査および野外実験は海岸線に平行に設
定した4つのトランセクトラインを単位とした。
その結果、ライン間での幼生の着底パターンは種の分布様式と傾向が類似
していたが、貝殻の分布とは一致しなかった。また貝殻を海岸に一様に設置
した場合の着底パターンと傾向が類似していた。よって貝殻資源の分布は着
底パターンに影響を与えていないと考えられた。一方同一ライン内でみると、
貝殻資源が多いほど着底量は多く、ライン内では着底パターンに貝殻資源量
が影響している可能性が示唆された。また、着底パターンは種の分布域同様
種間で変異が大きく、種間変異を生み出す要因を今後の調査で明らかにする
必要がある。
近年、piscivores(食魚性魚類)の淡水生態系への移入とその生態学的な影
響が世界中で懸念されている。その中で、piscivores の移入や増加にともなっ
て、その餌魚の体サイズや成長率が増加することが多くの研究で報告されて
いる。このメカニズムについては、主に二つのプロセスで説明されている。
それは、餌魚の個体群サイズが縮小して種内競争が緩和されること(生態的
プロセス)と、侵入した piscivores によるサイズ依存的な選択(進化的プロ
セス)である。本研究では、両方のプロセスを組み込んだ数理モデルを構築
して、餌魚の個体群に対する二つのプロセスの相対的効果を評価した。この
モデルでは、サイズ依存的な捕食と、その進化的トレードオフとして早成長
による体の脆弱性を仮定した。その結果、以下のことが予測された。(1) ど
ちらのプロセスでも捕食圧が増加すると体サイズは常に増加するが、捕食圧
の増加が大きいほど進化的プロセスによる相対的効果は大きくなる。(2) 一
般的に、成長率の進化がある場合の個体群サイズは生態的プロセスだけの場
合よりも小さいが、非常に強い捕食圧下では逆転して進化的プロセスの方が
餌魚は生残する。(3) 総じて、餌魚のバイオマスは捕食圧が低いとほとんど
差はないが、強い捕食圧下では進化的プロセスの方で大きくなる。さらに、
(4) 捕食圧の増加が急激だと、成長率の進化が間に合わないために餌魚は絶
滅しやすくなる可能性も示唆された。その上で本研究では、琵琶湖における
オオクチバスの増殖と在来のハゼ科魚類イサザのバイオマス、体サイズの長
期データを用いて、このモデルの妥当性を検証した。
P2-075c
12:30-14:30
メタ個体群内の分散:シオダマリミジンコにおける移出率、分散成功
率、パッチ配分率の決定機構
◦
仲沢 剛史1, 山村 則男1
1
1
P2-074c
12:30-14:30
捕食圧の変化による魚類の体サイズの変化;生態的プロセスと進化的
プロセス
◦
大場 隆史1, 五嶋 聖治1
P2-072c
高橋 誠1, 野田 隆史1
12:30-14:30
ナミハンミョウ幼虫期の成長と死亡に影響する密度依存的な作用
◦
竹内 勇一1, 堀 道雄1
1
京都大学大学院 理学研究科 動物生態学教室
1
北海道大学大学院水産科学研究科
一般にメタ個体群の長期存続には、局所個体群の成立する生息場所パッチ
間の個体の移動が重要である。ある特定の生息場所パッチから他のパッチへ
の個体の移動は、パッチからの移出率、移出個体の分散成功率、分散成功個体
のパッチ配分率の3要素に分離することができる。それらは生活史ステージ、
性別、生物の特性や生息場所パッチの特性によって能動的あるいは受動的過
程を通して決定されるだろう。しかしこれらの詳細な研究はほとんどない。
シオダマリミジンコ (Tigriopus japonicus) は岩礁海岸の飛沫帯のタイドプー
ル内に生息する小型甲殻類で、そのメタ個体群の広がりは1つの岩礁海岸の
タイドプール群であると知られている。本種の局所個体群間の移動は降雨や
波浪による水の交換によって生じ、能動的、受動的なプロセスが関与してい
ると考えられる。そこで本種の、1)移出率、分散成功率。2)生活史ステー
ジ、性別が移出率、分散成功率へ与える能動的な影響。3)移出率、分散成
功率、パッチ配分率へ影響する要因、を明らかにすることを目的とした。
シオダマリミジンコの生体と死体を染色し放流し、1 日の分散期間後に再
捕することで移出率、分散成功率、配分率を測定し、それらに影響を与える
要因について調査した。その結果、局所個体群からの移出率は 20 %程度、
移出個体の分散成功率は 5 %程度だった。生体は死体に比べ移出率は低く、
分散成功率は高かった。生体では成長につれ移出率は低下した。移出率、分
散成功率ともに雄に比べ雌で高かった。移出率にはタイドプールの高さ、分
散成功率には海水とタイドプールの水温差、パッチ配分率にはパッチ間距離
が影響を与えていた。本研究から、分散手段である水の流れに対して小さな
移動能力しか持たないと思われる生物でも、様々な生物的反応によって非生
物の粒子とは異なる複雑な分散をしていることが示唆された。
ナミハンミョウの幼虫は、裸地に縦孔の巣をつくる待ち伏せ型の捕食者であ
る。幼虫の巣孔が集中していれば、食物を得る機会が減少すると考えられ、
近傍個体の分布状態が、個体の生存、成長に影響することが予測される。巣
孔の位置は、成虫になるまでほぼ変わらないため、各個体の経験する密度を
精密に求めることができる。幼虫の直接的な死亡要因としては、飢餓、脱皮
の失敗等が挙げられる。私たちは、幼虫の成長や死亡が、どのような要因に
よって左右されるかを調べた。
調査プロットを6カ所設け、その中の幼虫を全て個体識別し、約2日に一度
その齢や生存、死亡を記録した。また、幼虫巣孔の詳細な分布地図を作製し
た。幼虫の生死に大きく影響しうる要因として、幼虫密度、餌密度、生息場
所の質が考えられた。幼虫密度としては、各個体の実際に経験する混み合い
の程度を求めるために、各調査日の個々の巣孔を中心とする半径5 cm 内に
巣を構える他個体を齢別に数え、近傍他個体密度として計算した。これらの
要因が、どの程度幼虫の成長と死亡に影響しているのかを評価するために、
ロジスティック回帰分析を用いた。影響を及ぼす要因は、齢期ごとに異なる
可能性があるので分け、回帰分析において、個体ごとに次の齢段階に進めた
か、進めなかったか(三齢は羽化したか否か)を基準とした。
その結果、幼虫の成長と死亡を左右する要因は、一齢期では、幼虫密度、餌
密度、生息場所、二齢期では、幼虫密度と生息場所、三齢期では、幼虫密度
と生息場所であった。また、オッズ比から、一齢から三齢を通じて、幼虫密
度が最も影響を及ぼしており、同齢以上の幼虫密度が大きく影響することも
明らかになった。一方、齢期が進むごとに幼虫密度は低くなるので、幼虫期
の密度は、個体群の調節機構として働いていることが示唆された。本研究で
は、幼虫が実際に経験する密度を個体の周囲の他個体数として測定すること
で、その効果を検出できた。
— 179—
P2-076c
ポスター発表: 個体群生態
P2-076c
P2-077c
12:30-14:30
綾部 慈子1
◦
1
九大・生防研/基生研・情報生物
植食性昆虫が活動時に出す様々なもの(匂い、振動など)は、天敵昆虫の
採餌において cue として利用されうる。葉に残る食べ痕も同様で、天敵昆
虫に対し、植食性昆虫の居場所を知らせる視覚的な cue として利用される。
潜葉虫は、葉に食べ痕を残す昆虫の1つであり、幼虫期に葉の内部(葉肉部
分)を摂食し成長するため、幼虫が食べ進んでいった様がそのまま葉に白い
筋として残ってしまう。この白い筋(食べ痕)のことをマインと呼び、この
マインが視覚的に目立つため、潜葉虫は天敵寄生蜂に見つかりやすく、高い
寄生圧に苦しんでいる。しかしながら、マインはうねったりと複雑なパター
ンをしており、マインの複雑さが寄生蜂(マインを辿って潜葉虫を探す)に
対して防衛戦略として成り立っているのではないかという仮説がある。実際
に、複雑なマインには蜂の探索時間を増加させるという効果があることが
既に明らかになっている。そこで、今回はキク科のヨメナを寄主植物とする
Ophiomyia maura 野外個体群について、マインパターンと寄生率の関係を調
査した。調査は、2週間ごとにマインつきの葉を60枚程度サンプリングし、
マインの複雑度と潜葉虫の生死、死亡している場合はその原因を記録した。
idiobiont タイプの寄生蜂による寄生のみを「寄生」として記録した。また、
マインの複雑さの変異性の要因には、マイン長の違い(長いと複雑化する)
と個体間の違いとがある。前者を幼虫寄生蜂による寄生、後者を蛹寄生蜂に
よる寄生と、区別して調査することによって、寄生率に対するマインパター
ンの効果をより詳細に解析したので発表する。
P2-078c
石井 弓美子1, 嶋田 正和1
1
東大院・広域システム
2 種のマメゾウムシ(アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシ)と、その共
通の捕食者である寄生蜂 1 種(ゾウムシコガネコバチ)を用いた 3 種の累
代実験系において、3 種の共存が長く持続した繰り返しでは、2 種マメゾウ
ムシの個体数が 4 週間周期で交互に増加するような「優占種交替の振動」が
みられた。このような振動は、寄生蜂が 2 種のマメゾウムシに対して正の頻
度依存の捕食を行う場合などに見られると考えられる。
そこで、ゾウムシコガネコバチの寄主に対する産卵選好性が、羽化後の産卵
経験によってどのような影響を受けるかを調べた。羽化後、アズキゾウムシ
とヨツモンマメゾウムシに一定期間産卵させた寄生蜂は、それぞれ産卵を経
験した寄主に対して産卵選好性を高めるようになり、産卵による強い羽化後
学習の効果が検出された。このことから、ゾウムシコガネコバチは、産卵に
よる寄主学習により個体数の多い寄主へ産卵選好性をシフトし、正の頻度依
存捕食を行うと考えられる。
さらに、累代実験系において実際に頻度依存の捕食が行われているかを確
かめるために、「優占種交替の振動」が観察される累代個体群から 1 週間ご
とに寄生蜂を取り出し、その選好性の経時的な変化を調べた。その結果、寄
主の個体数が振動している累代個体群では、寄生蜂の寄主選好性も振動して
おり、2 種マメゾウムシの存在比と、寄生蜂の選好性には有意な相関がある
ことが分かった。
これらの結果から、寄生蜂とマメゾウムシの 3 者系において、寄生蜂の
正の頻度依存捕食が「優占種交替の振動」を生み出し、3 者系の共存を促進
している可能性がある。このような、個体の学習による可塑的な行動の変化
が、個体群の動態や、その結果として群集構造に与える影響などについて考
察する。
P2-079c
12:30-14:30
個体の多様性が寄主ー寄生者系の共存に与える影響
◦
12:30-14:30
正の頻度依存捕食と学習がもたらす振動:マメゾウムシ 2 種と寄生蜂
の 3 者系
リーフマイナー野外個体群における潜孔パターンと寄生の関係
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
里山におけるニホンアカガエルとヤマアカガエル個体群の絶滅リスク
評価
中道 康文1, 徳永 幸彦1
◦
1
筑波大学大学院 生命環境科学研究科 生命共存科学専攻
生態学においては、多種多様な生き物がどのようにして共存しているの
か、そのメカニズムを解明することが1つの大きな目的である。その中
でも、「被食者 — 捕食者関係」「寄主 — 寄生者関係」については、古く
からその研究が行われて来た。「寄主 — 寄生者関係」は20世紀の初頭
から、天敵を用いた害虫の防御という目的で、理論的、実験的に幅広く
研究が行われて来た。理論的な研究では、不安定であることが分かって
いる Nicholson-Bailey model を、安定化させることで、その共存の要因
を探るという手法が広くとられてきた。しかしこれらのモデルでは、世
代毎に寄主、寄生者の繁殖結果を同時に計算するため、個体は全く同じ
ように成長することが仮定されている。つまり、個体間でのばらつきは
捨象されてしまっていた。
今回、この「寄主 — 寄生者系」において、個体間のばらつきを組み込ん
だ「ChopStickModel(CSM)」というモデルを作成した。これは一日を単
位として、その時その時の状況に応じて個体毎にその繁殖の計算を行う
モデルである。よって、個体間の成長のばらつきとそれによる繁殖の非
同調性を考慮することができる。このモデルを用いて Nicholson-Bailey
model との比較を行い、個体間の成長速度のわずかな差が、共存の要因
となり得ることを示した。
次にこの個体間のばらつきについて、実際の生物での値を求めた。寄主
としてヨツモンマメゾウムシの iQ 系統、寄生者としてコマユバチの一
種を用いて実験を行った。その結果をもとにした成長速度にばらつきが、
寄主 — 寄生者系の共存に与える影響について、CSM を用いて求めた。
中村 有1, 若林 恭史1, 長谷川 雅美1
1
東邦大院・理・生物
ニホンアカガエルとヤマアカガエルは、冬季に水田で繁殖するため、圃場
整備による乾田化の影響を受けやすく、地域によっては個体群の急激な
衰退が起きている。本研究では、房総半島中央部に同所的に生息する2
種を対象に、繁殖集団の個体群統計学的特性を明らかにすると共に、個
体群存続可能性分析を行って、それぞれの集団の絶滅リスクを評価した。
1)個体群統計学的解析:繁殖集団を対象として、標識再捕獲法による
個体数推定と卵塊数の計測によって、雌雄それぞれの個体数を推定した。
さらに切り取った指骨による年齢査定を行い、繁殖集団の年齢構成、繁
殖開始年齢、成熟後の繁殖参加回数を明らかにした。
2)齢構成モデル:卵、幼生、上陸個体毎に推定した個体数の推移より、
産卵から1年間の生存率を推定した。成体の年間生存率は、繁殖集団中で
複数回繁殖を行っている個体の占める割合から推定した。齢階級ごとの
繁殖率は、1年目の生存率と各齢階級の平均一腹卵数からを求めた。こ
れらの値をレスリー行列に表現し、齢構成モデルによる個体群のシミュ
レーションモデルを構築した。
3)絶滅リスク評価:構築したモデルから個体群存続可能性分析を行い、
一定期間後の絶滅リスクを評価した。また絶滅を回避するためには繁殖
率と生存率でどの程度の値が必要となるか推測した。
— 180—
ポスター発表: 個体群生態
P2-080c
P2-081c
12:30-14:30
ニホンアカガエルの個体群動態と圃場整備、耕作放棄、復田の関係 南関東における事例◦
8 月 27 日 (金) C 会場
松島 野枝1, 石橋 靖幸2, 横山 潤1, 河田 雅圭1
1
東北大学・院・生命科学, 2森林総研・北海道
1
東邦大学 理 生物
ニホンアカガエルは水田を主な生息場所とし、本州、四国、九州等、全国的
に広く分布する一般的なアカガエルであるが、近年、圃場整備や耕作放棄と
いった生息環境の変化に伴い、多くの地域個体群が急速に衰退していること
が指摘されている。本研究では南関東の地域個体群 40 個体群以上を対象と
して 1980 年代後半から卵塊数の追跡調査を行い、各個体群の動態を把握す
るとともに、圃場整備及び耕作放棄がニホンアカガエル個体群に及ぼす影響
を明らかにした。また、地域個体群の保全・復元を行う上で、頻繁に行われ
るであろう生息環境の改善を一部の谷津田において行い、生息地の復元(復
田)に対する個体群の反応を観察した。
調査した個体群の動態は、以下の3つのパターンに大きく分かれた。1)比
較的安定して高い水準で卵塊数を維持している高密度安定型 2)高い水準
であったが、ほぼ絶滅状態にまで減少した激減型 3)2と同様に減少を始
めたがある段階で安定し、場合によってはその後回復する低密度安定型。各
パターンの割合は、高密度安定型が 14.6 %、低密度安定型が 24.4 %、激減
型が 61 %であった。激減型の個体群の生息地では圃場整備及び耕作放棄が
進行していた。調査個体群中、圃場整備の記録が残されている個体群の動態
は、圃場整備後に衰退を示した。耕作放棄については、長田(1978)により
詳細な記録がなされている。また、周囲に生息個体が存在する地域において
休耕田の復田に伴い生息環境が改善された場合、数シーズン後の繁殖期から
急激な卵塊数の増加が認められた。
以上のことから、ニホンアカガエル個体群は衰退の傾向にあり、その原因と
して圃場整備、耕作放棄が大きく関わっている。また周辺環境に残存個体が
存在する地域においては、繁殖に適した場所を提供することで、比較的早期
に個体数の回復が起こると結論した。
P2-082c
12:30-14:30
中山間地域におけるツチガエルの出現状況及び移動パターン
◦
12:30-14:30
ニホンアカガエル幼生の卵隗間でみられた生存率の差:マイクロサテ
ライトマ ーカーを用いて
◦
若林 恭史1, 中村 有1, 長谷川 雅美1
P2-080c
倉品 伸子1, 荒川 茂樹2, 水越 利春3
1
(株)当間高原リゾート, 2東京電力(株), 3東電環境エンジニアリング(株)
ツチガエル (Rana rugosa) の生息環境を把握する目的で、新潟県南東部に位置
する十日町市当間(あてま)高原リゾート敷地内で水辺のあるヨシ原やその周
辺林(標高約 350 m)等環境区分の異なる合計 6 方形区を設定し、2002 年か
ら 2003 年に調査を行なった。調査地内に合計 260 個の落下型トラップを 5 m
間隔に埋設し、ツチガエルの標識再捕獲調査を実施した。ツチガエルの個体識
別にはマイクロチップ(トローバン社製、11mm 長)を使用した。
調査期間中捕獲したツチガエルは延べ 4,299 個体であった。成体の出現環境は
ヨシ原 A 方形区(以下「方形区」省略)54.3 %が最も多く、ヨシ原 B 18.8%、
スギ林 C 20.9 %、スギ林 D 2.7 %であった。 一方、ツチガエル幼体等の出現環
境はヨシ原 A 40 %、ヨシ原 B 28.2 %、スギ林 C 20.7 %、スギ林 D 7.2 %と
なり、成体よりもスギ林 D に出現している傾向を示した。両者ともスギ林 C
内では、林内を流れる沢沿いや隣接する池沿いを中心に多く出現した。一方、
ウリハダカエデ、リョウブなどが優占している低木林 E、F ではほとんど出現
しなかった。
標識した個体は 988 個体であり、再捕獲率(再捕獲個体数/全標識個体数)は
38.4 %、1 個体あたりの平均捕獲回数は 1.7 回であった。3 回以上捕獲された
181 個体を対象に、出現傾向を 1)定着型:同一方形区内にのみ出現、2)移動
型:複数方形区に出現、と分類した場合、その比率は 54.1 %、45.9 %であっ
た。定着型個体はヨシ原 A、スギ林 C でそれぞれ多く出現した。一方、移動
型個体の中ではヨシ原 A-スギ林 C 間での移動・往復が最も多く、繁殖期間の
6 月下旬、7 月下旬に集中していた。
このような結果から、ツチガエルは水辺の豊富なヨシ原を主要な生息場所とし
ているものの、ヨシ原とヨシ原の近くにあるスギ林を移動していること、スギ
林の中でも沢を中心に移動していることが明らかにされた。
多くの両棲類で、幼生の生存や成長には、卵数や幼生の密度、池の環境や
餌条件、幼生間の血縁度、競争者・捕食者の存在などの様々な要因が関わっ
ていることが報告されている。しかし、それらの殆どは実験条件下で行われ、
実際にどの親から生まれた子が多く生き残ったか、といった親の繁殖成功に
結びつけた研究は少ない。幼生の個体数が多く個体識別が難しいため、子の
生存率を測定するのは容易ではないからである。
そこで本研究では、ニホンアカガエル Rana japonica の野外集団で遺伝
マーカーを用いて卵塊あたりの生存率の推定を行った。ニホンアカガエルは、
早春に浅い水域に 500-3000 個の卵を含む卵塊を産む。1 つの池に複数の卵
塊が産卵されていることがよくある。メスは 1 シーズンあたり 1 卵塊しか
産卵しないので、産卵池の中には血縁や孵化時期の異なる多数の幼生が共存
することになる。遺伝マーカーとしてマイクロサテライト DNA を用いて、
孵化から変態まで生存した個体がどの卵塊から生まれたのかを特定した。そ
して卵塊あたりの幼生の成長・生存を調べ、産卵したメスの繁殖成功を推定
した。
変態まで生存した幼生の数は、生まれた卵塊によって大きく異なり、産卵
シーズンの早い時期に産卵された卵塊で多くなる傾向が見られた。これは早
い時期に産卵するとメスの繁殖成功が高くなるというこれまでの結果を支持
している。また幼生期間の長さや変態した時のサイズにも違いが見られた。
これらの結果を考察する。
P2-083c
12:30-14:30
鷺のソナタ ー空から綴る3年間の物語ー
◦
遠山 貴之1, 徳永 幸彦1
1
筑波大学生命環境科学研究科
本研究で対象としたサギ類は、毎年繁殖期になると林や竹薮にコロニー
と呼ばれる集団繁殖地を形成する。調査地域である茨城県及びその近県
には 2002 年から 2004 年の 3 年間に 13 から 16 カ所のコロニーが確
認され、また 1 コロニーにつき 5 から 6 種のサギ類 (ダイサギ、チュ
ウサギ、コサギ、アマサギ、ゴイサギ、アオサギ) が共存していた。本研
究はこれらのコロニーの分布や総個体数、種構成などに与える要因の解
明を目的とする。
調査は 2002 年から 2004 年までの 3 年間、毎年繁殖期のピークとなる
5 月下旬から 7 月上旬にかけて各コロニーにおける種別個体数の推定に
より行った。推定方法は小型ラジコンによる低高度の空中写真撮影、ま
た地上からの種構成調査を組み合わせることで行った (遠山&徳永 2002
年度日本動物行動学会)。
コロニーの形成に影響する要因としては、営巣場所、採餌場所、捕食、歴
史性など様々考えられる。今回は特に各コロニーの歴史性や周辺の採餌
場面積に注目し、それらがコロニーの存続、総個体数、種構成などにど
のような影響を与えるのか解析を行う。
— 181—
P2-084c
ポスター発表: 個体群生態
P2-084c
12:30-14:30
P2-085c
ツキノワグマの体毛から食歴を読み取る -炭素・窒素安定同位体を用
いて
◦
水上 留美子1, 泉山 茂之2, 後藤 光章3, 林 秀剛3, 楊 宗興1
1
東京農工大学, 2(株)野生動物保護管理事務所, 3信州ツキノワグマ研究会
長野県の山岳域と人里周辺に生息するツキノワグマ (Ursus thibetanus) の体毛
についてそれぞれの炭素・窒素安定同位体解析を行い、ツキノワグマの食歴お
よびツキノワグマによる被害との関連性について検討した。
従来の体毛を用いた安定同位体による食性の解析法は、体毛の根元付近から毛
先までをひとつの試料として用いるため、体毛の成長期間の食性が平均化され
てしまい、餌が不足する夏に頻発する農作物および残飯被害を検出することは
困難であった。そこで、体毛は成長する際、食性の変化を連続的に記録してい
るのではないかと考え、体毛の安定同位体組成の時系列変化に注目した食性変
動の解析法(以後、GSA:Growth Section Analysis とする)を考案し、食歴の
推定を試みた。
北アルプスで学術捕獲されたツキノワグマについて GSA による解析を行っ
たところ、毛根から毛先まで山の植物(C3 植物)に近い低いδ 15 N値, δ 13
C値を示し、体毛の成長期間を通じて、山の植物を中心に食べて生息していた
ことがわかった。一方、里山近くでトウモロコシ(C4 植物)の食害を理由に有
害駆除された個体について同様の解析を行った結果、春に相当する毛先付近の
体毛は低いδ 15 N値, δ 13 C値を示し、山の植物を中心に食べていたが、根
元付近になると急激にδ 13 C値が高くなり、夏にはかなりトウモロコシに依
存するようになったと推定できた。また残飯被害を出した個体では、冬眠明け
の春には C3 植物に近い値をもち、山の植物を中心に食べていたが、次第に残
飯の指標として用いた日本人の毛髪の値へ向かってδ 15 N値, δ 13 C値共に
高くなり、残飯へ依存していく過程を読み取ることができた。
個体ごとに GSA を用いて詳細に食歴を推定することにより、被害との関連性
を明らかにすることができることがわかった。
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
山梨県御坂山地におけるツキノワグマの重回帰分析を用いた環境利用
の解析
◦
奥村 忠誠1, 羽澄 俊裕1, Angeli Caitlin1, 瀧井 暁子1, 藤井 猛1
1
野生動物保護管理事務所
国外において、野生動物と生息環境の関係をモデル化し、評価する手法は
近年多く開発されている。HSI(Habitat Suitability Index) もその一つであり、
その適用種数は年々増加している。モデルを使用する人にとっては、単純で
意味のあるモデルが最も望ましいが、モデル化を行うには、対象種に関する
多くの情報が必要となり、そのような情報の収集が不可欠である。
本研究で対象にしたツキノワグマについては、生態などの情報が乏しく、
現段階で HSI のようなモデルを作成することはできない。そこで、本研究
では野生動物と生息環境との関係について、重回帰分析を行ったので報告す
る。すでに 2002 年に富山で行われた日本哺乳類学会の場で、1 つの解析ス
ケールを用いた分析結果について報告したが、今回はさらに解析を進め、独
立変数ごとに複数のメッシュサイズを検討し、最適な変数を AIC(Akaike ’
s Information Criterion)により選択し、重回帰式を作成した。
解析ではツキノワグマの位置情報を従属変数とし、独立変数としてツキノ
ワグマの利用を考慮して分けた植生タイプ、鉄道、道路、林道などの環境に
関する情報を用いた。独立変数はそれぞれの持つ要素により影響の及ぼす範
囲が異なると考えられることから、メッシュサイズは 100m、250m、500m、
1km の 4 種類とした。ツキノワグマの位置情報は、1999 年 4 月から 2001
年 12 月の活動期において、オス 12 頭、メス 7 頭の計 19 頭に電波発信器を
装着し、ラジオテレメトリー調査により取得した 2,424 点である。環境に関
する情報は、既存情報をもとに作成し、植生には環境省の自然環境情報 GIS
を、鉄道・道路は国土交通省の国土数値情報ダウンロードサービスを、林道
は各県の林務関係部署が作成した紙地図の管内図をパソコンでデジタル化し
て使用した。
— 182—
ポスター発表: 群集生態
P2-086
P2-087
12:30-14:30
復興! 群集統計力学(シンポジウム講演「北の一様,南の多様:大
規模多種力学系の理論から」詳細版)
◦
◦
江崎 功二郎1, 小谷 二郎1, 後藤 秀章2, 大橋 章博3, 野平 照雄3, 井上 重紀4
1
石川県林業試験場, 2森林総合研究所, 3岐阜県森林科学研究所, 4福井市
1
大阪大学サイバーメディアセンター (http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/%7Etokita/)
ナラ集団枯損被害は、ミズナラ大径木に目立ち、林内の約半数のミズナラ
が枯死するため、被害が発生した林分では著しく森林環境が変化し、昆
虫群集が変化していくと考えられる。2001∼2003 年まで被害の履歴の異
なる3林分(2001 年に未被害林、被害発生林、被害終息林)において、
2種類のトラップ(マレーズトラップ、サンケイ製吊り下げトラップ)を
設置し、林内の植生の変化に伴う5グループ(キクイムシ、カミキリム
シ、ゾウムシ、ハムシ、コメツキムシ)の甲虫群集の調査を行った。そ
の結果、被害発生1年後に甲虫類の種数が増加し、その後、減少する傾
向が見られた。この原因として枯死木発生による甲虫類の利用資源の増
加およびギャップの発生による林縁効果による影響が考えられた。
シンポジウム講演では、主に野外・実験研究者向けに、種の豊富さのパ
ターンの理論を紹介し、対応する実証研究の可能性について議論したい。
一方、本ポスター講演においては、理論・モデル研究者向けのテクニカ
ルな内容も紹介する。具体的には、大規模な多種生態系のモデルを、複
雑な種間相互作用(ランダム行列)の性質によってクラス分けすること
により、野外でしばしば観察される、さまざまな種の豊富さのパターン
が理論的に導かれることを示す。シンポジウムにおいては、主に対称な
(共生、競争) ランダム相互作用をもつレプリケータ方程式系と、対応す
る非対称 (補食、共生、競争) ランダム相互作用行列をもつ多種ロトカ・
ボルテラ方程式系に対する、統計力学的解析の結果と、その生態学的な意
味に重点を置くが、ここでは、E. Kerner が半世紀前に論じた、反対称相
互作用 (補食) をもつロトカ・ボルテラ方程式に対する「群集統計力学」
を、より広いクラスの生態学モデルへと拡張する試みについても紹介す
る。(群集統計力学については、簡単なレビューを「数理科学 2004 年 7
月号」に書いたのでご参照ください。)
P2-089
12:30-14:30
全種保全を考慮した食物網からの最大持続収穫高
◦
12:30-14:30
ナラ集団枯損被害による森林の変化が甲虫群集に与える影響
時田 恵一郎1
P2-088
P2-086
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
被食者の捕食回避行動が食物連鎖の安定性に及ぼす影響
◦
松田 裕之 1, エイブラムス ピーター2
難波 利幸1, 四方 あかり1
1
1
横浜国大・環境情報, 2トロント大学
大阪女子大学理学部環境理学科
多種の被食者・捕食者系を考え、各魚種への努力量を独立に調節できると仮定した
(漁業費用は無視した)。各種への漁獲努力量を, そのときの全漁獲高 Y を多魚種
MSY ということにする。ランダムなパラメータ値をもつ仮想生態系を 1000 例選
び,そのうち漁獲がない状態で共存平衡点がある系に対して,多魚種 MSY を求め
た.また、全種を存続させるという制約の下での MSY を求めた.そのため,
dNi/dt = (ri + Σ aijNj -qiEi) Ni
という多種の被食者・捕食者系を考える(i=1,...,6 の 6 種系).ただし Ni,r i,qi,
Ei はそれぞれ種 i の生物体量,内的自然増加率,漁獲効率,漁獲努力であり, aij
は種間関係の係数である.混獲せずに、漁獲努力 Ei を自由に調節できると仮定す
る。平衡状態 Ni*において、多魚種から得られる全漁獲高は pi を魚価として Y =
Σ piqiNi*と表される(漁業費用は無視した)。これを最大にする各種への漁獲努
力量 Ei を考え, そのときの全漁獲高 Y を多魚種 MSY ということにする。6種系
においてランダムにパラメータの値をもつ仮想生態系を 1000 例選び,そのうち漁
獲がない状態で共存平衡点がある系に対して,多魚種 MSY を求めた.その結果,
1) 多魚種 MSY においては,しばしば 3 種以上が絶滅し,全種が存続した例はわ
ずかであった.
2) 最上位捕食者を存続しつつ禁漁にする解は得られなかった.
3) 大半は 1 種または 2 種だけを利用する解でった.
今度は,6 種すべてが存続するという制約の下での多魚種 MSY を求めた.
1) 多栄養段階を利用する解の頻度が増えた
2) 最上位捕食者を禁漁のまま保全する解が低い頻度ながら得られた.
3) MSY は制約なしの場合に比べて半分以下になることもあった.
したがって,MSY 理論と生物多様性保全は,単一種理論で考えているほどには
両立せず,漁業のおいては,多様性を保全することに常に注意すべきである.
捕食者は餌を食うことによって,被食者個体群に直接の影響を及ぼす
だけではなく,被食者の捕食回避行動を誘発することによって,捕食者
と被食者の遭遇率を下げたり,被食者の摂餌率や繁殖率を下げたりする
など,捕食者と被食者の相互作用や被食者と資源との相互作用に間接的
な影響を及ぼす。本研究では,このような間接効果が捕食者–被食者–資
源からなる3栄養段階の食物連鎖の安定性に及ぼす影響を,数理モデル
を使って調べる。
資源はロジスティック成長し,被食者と資源,捕食者と資源の相互作用
は,Holling の II 型の機能の反応を示すと仮定する。そして,被食者の
捕食回避行動により,捕食者密度が高まるほど被食者の摂餌率と捕食者
の被食者との遭遇率が低下すると仮定する。
このモデルは,捕食回避行動がなくても,カオスなどの複雑な挙動を
示すので,捕食者の餌処理時間を無視できる場合を考える。被食者の資
源処理時間が大きければ,捕食者の死亡率が中程度のとき,安定と不安
定の2つの共存平衡状態が存在し,初期状態に依存して捕食者が絶滅す
る。ここで,捕食回避行動による被食者の摂餌率の減少は,共存平衡状態
を存在しやすくする安定化の効果をもつが,捕食者の被食者との遭遇率
の減少は,共存平衡状態を存続しにくくする不安定効果をもつ。さらに,
被食者との遭遇率の減少を引き起こす捕食者1個体あたりの効果が大き
くなれば,共存平衡状態が不安定化しリミットサイクルが現れる。捕食
回避行動の及ぼす2つの間接効果の大きさの兼ね合いで,安定と不安定
の2つのリミットサイクルが出現することもある。この場合も,捕食者
の被食者との遭遇率が減る効果は不安定化要因であるが,予備的な研究
の結果では,捕食者の餌処理時間が無視できない場合には異なる結論が
得られている。
— 183—
P2-090
ポスター発表: 群集生態
P2-090
12:30-14:30
ハムシ科種多様性の森林タイプ及び森林施業による違い
◦
大澤 正嗣1
山梨県森林総合研究所
ハムシ科の種多様性をカラマツ人工林、広葉樹2次林、原生林にて調査
し、比較した。また、カラマツ人工林では施業別に、壮齢林、間伐林(2
年半以内に間伐した林)および長伐期施業林(高齢林)に分けて調査を
行った。ハムシ科種数はカラマツ人工林で、2次林や原生林より多く捕
獲された。カラマツ人工林内では、長伐期施業林で、壮齢林や間伐林よ
り多くの種が捕獲された。また、カラマツ林のハムシ種構成は、2次林
や原生林での種構成と異なっていた。ハラマダラヒメハムシ、ハネナシ
トビハムシ、およびオオルリヒメハムシはカラマツ人工林に偏って捕獲
された。一方、ヨモギトビハムシは2次林で、ヒロアシタマノミハムシ
は原生林で多く捕獲された。ハネナシトビハムシとヒロアシタマノミハ
ムシについて、寄主植物との関係を調査したところ、寄主植物の多い林
分で個体数も多く捕獲されていた。森林タイプや森林施業がハムシに直
接与える影響と植生の変化を通してハムシに与える影響が考えられた。
12:30-14:30
長野県上伊那地方水田地域におけるトンボ群集構造及び季節変化と立
地環境との関係
◦
P2-091
九鬼 なお子1, 大窪 久美子2
1
信州大学大学院農学研究科, 2信州大学農学部
12:30-14:30
ネムノキマメゾウムシの成長過程における死亡要因:寄主、捕食者、競
争者からの効果
◦
1
P2-092
8 月 27 日 (金) C 会場
坂田 はな1, 嶋田 正和1, 石原 道博2
1
東京大学・広域システム, 2大阪女子大学・理
植食者の個体群を直接制御する主要な要因として、ボトムアップとしての
寄主植物からの効果と、トップダウンとしての捕食者からの効果がある。HSS
仮説ではトップダウンの効果の相対的な重要性が強調されていたが、植物は
さまざまな防御機構を発達させており、必ずしもトップダウンの方がボトム
アップよりも重要であるとは言えない。特に、特定の植物の花や芽、種子な
どの季節的に限られた資源だけを利用するスペシャリストの植食者が寄主植
物のフェノロジーから受ける制約は強いと考えられる。また、同じ資源を利
用する競争者の存在は、植物や捕食者と同様に植食者の個体群動態に大きな
影響を及ぼす。
本研究では、和歌山県の紀ノ川河川敷2カ所(九度山、三谷)においてネ
ムノキマメゾウムシに対する寄主植物、捕食者、競争者からの効果を野外で
調べた。ネムノキマメゾウムシは、ネムノキの成熟途中のさや上に産卵し、
その幼虫は1粒の種子のみを利用して成虫になるスペシャリストの種子捕食
性昆虫である。ネムノキマメゾウムシの捕食者には卵寄生蜂と幼虫寄生蜂が、
また競争者としては種子食者であるカメムシが考えられる。植物側からの制
限要因を明らかにするためにネムノキのフェノロジーとネムノキマメゾウム
シの産卵消長を調べた。また、さやに産みつけられた卵の孵化、卵寄生、孵
化幼虫の種子への侵入、幼虫寄生、カメムシによる吸汁痕、成虫の羽化の有
無などについて記録し、各成長ステージにおける死亡要因を特定した。その
結果、ほとんどの卵は場所や年に関わらず成虫にまで成長することが出来な
かった。また、各成長ステージにおける死亡要因としての捕食者、競争者か
らの効果の割合は、場所や年、季節によって大きく異なるが、寄主からの効
果は遅い時期ほど高まる傾向が見られた。
P2-093
12:30-14:30
サンゴ礁池内の濁度環境と生物群集(サンゴ・海藻・魚)の関係:石
垣島宮良湾の場合
◦
高田 宜武1, 渋野 拓郎1, 藤岡 義三2, 大葉 英雄3, 鈴木 淳4, 長尾 正之4, 鳥取 海峰5, 阿部
寧1, 橋本 和正1
1
本研究は長野県上伊那地方をケーススタデイとして,立地環境の異なる水田地
域におけるトンボ群集の構造と季節変化,また立地環境との関係性について明
らかにすることを目的とした.調査地域は中山間地(未整備 2、整備済 1)と
市街化地(未整備 1、整備済 1)の計 5ヶ所を選定した.晴天日の午前と午後
にルートセンサスを行い,半径 5m 以内に出現したトンボ目の種名・雌雄・個
体数・出現環境・出現位置・行動を記録した.6 月上旬から 11 月上旬まで月
に 2∼3 回,1調査地につき 28 回,計 140 回実施した.土地利用調査は 2003
年 11 月に行われた.
総出現種は 23 種,総出現個体数 23,150 個体で,その分類群構成はイトトン
ボ科 2 種,アオイトトンボ科 3 種,カワトンボ科 2 種,オニヤンマ科 1 種,
ヤンマ科 2 種,エゾトンボ科 1 種,トンボ科 12 種であった.出現種数及び
総個体数は中山間地未整備で多く,市街地整備済みで少なかった.これは池や
川,湿地等の多様な水辺環境が存在し、周辺にねぐら等になる林が多いためと
考えられた.
成虫の成熟段階別の個体数季節変動から各種の移動について考察した.出現種
は移動性大(a ウスバキトンボ,b アキアカネ)と移動性中(A ノシメトンボ
等,B ナツアカネ,C シオカラトンボ等),移動性小(オオアオイトトンボ等)
の 3 グループに分けられ,さらに小分類された.
出現種の個体数データを用いて TWINSPAN 解析を行った結果,調査地域は中
山間地と市街地の 2 グループに分類され,トンボ群集は 7 グループに分類さ
れた.
成熟成虫の出現場所と行動の割合から、各種の水田地域の利用の仕方について
考察した.種ごとに特定の環境に集中して出現する傾向がみられ,環境を選択
して利用していると考えられた.
各調査地域では水辺や森林等の立地条件の違いに対応した種群が出現した.ま
た水田地域に生息するトンボの種ごとの特性に応じた季節変動と行動が確認さ
れた.
西海区水産研究所, 2国際農林水産研究所, 3東京海洋大学, 4産業技術総合研究所, 5岡山大学
サンゴ礁保全地域をモニタリングする際に、物理環境の変化にともなう生態系
の変化が予測可能であれば理想的である。しかし、高い生物多様性を誇るサン
ゴ礁域では、種類ごとには低密度・パッチ状分布を示すために、物理環境と生
物分布の詳細な関係を把握することが困難であった。そこで本研究では、各種
の分布ではなく群集の組成に着目した。石垣島宮良湾 92 地点で得られた、サ
ンゴ類 127 種、海藻海草類 161 種、魚類 173 種の在不在データ(全 461 種)
を多変量解析した。まず、地点間の類似度指数を計算し、2次元配置とクラス
ター解析を行った。5つの群集(干潟岸側・干潟沖側と水路・礁池岸側・礁池沖
側・礁縁礁斜面部)が類別され、岸から沖への帯状分布が認められた。地点間
の類似度指数と環境変数(水深、岩盤被度、砂被度、泥被覆、SPSS、濁度)を
もとに環境傾度を解析 (db-RDA) すると、5つの群集はまとまって配置され、
底質・濁度・水深といった環境傾度が強く認識された。また、類別された群集
の指標種 (IndVal) を抽出したところ、干潟岸側・干潟沖側と水路の2つの群集
ではサンゴ類の指標種がなく、礁池岸群集でも指標として抽出されるサンゴ類
は少数である。これは岸側に広く拡がる砂泥地を抱え、陸域の影響の強い宮良
湾でのサンゴ群集分布の特徴といえる。一方、礁縁礁斜面と礁池沖側では多数
の指標種が抽出されており、より環境傾度の低い地域では複数に分離されるべ
き群集が、狭い宮良湾内で混在してしまった可能性もある。このように、生物
群集の多変量解析によって、サンゴ礁域の群集組成の特徴と物理環境との関連
性を明らかにでき、物理環境をモニタリングする際に、注目すべき環境要素を
選択することが可能となった。さらに研究を進めれば、対象面積・環境傾度の
強さ・底質や濁度環境のレベル等に応じたモニタリング法を提案可能だと考え
られる。
— 184—
ポスター発表: 群集生態
P2-094
P2-095
12:30-14:30
季節ごとに変化する資源利用の個体間変異:安定同位体を用いた餌資
源の解明
◦
桜谷 保之1, 城本 啓子1
1
1
進化生態学 ミシガン大学, 2北海道大学北方圏フィールド科学センター, 3北海道大学地球環境科学研
究科
近畿大・農
奈良市郊外の里山林を有する大学キャンパスにおいて、1995 年から
ルートセンサス法等により野鳥類の調査を行っており、これまでに 96 種
の野鳥が記録された。ここでは、この 9 年間の調査結果をもとに種数や
個体数の変化を中心に報告する。調査の結果、年間を通じて記録された
野鳥の種数は各年とも 50 種前後で、大きな変化傾向は認められなかっ
た。ワシタカ類は 9 種記録されており、個体数はオオタカがやや増加傾
向を示しているが、夏鳥のサシバやハチクマはこの数年間ほとんど記録
されていない。一方、他の夏鳥オオルリ、ホトトギス、ツバメ等は年次
変動が比較的大きいものの減少傾向は認められなかった。しかし、冬鳥
のツグミやジョウビタキ等は減少傾向が認められた。留鳥であるコゲラ、
シジュウカラ、ホオジロ、スズメ等は変化傾向は認められず、ほぼ安定し
た個体数が記録された。ヒヨドリは春と秋にキャンパス上空を通過する
群れが観察され、ここ数年個体数が増加する傾向が認められた。以上の
ように、留鳥でキャンパス内で繁殖していると思われる野鳥類では、個
体数に大きな変化傾向は認められず、渡りをするタカ類や冬鳥では減少
傾向が認められた。これは、キャンパスの生息環境に大きな変化はなく、
留鳥の繁殖・生息も比較的安定していると考えられる反面、夏鳥や冬鳥
では移動先の環境変化の影響が推察される。
異なる種の共存機構を解明することは生態学の主要なテーマの一つである。そ
の際、多くの場合、資源利用についての種内変異は無視されてきた。しかし、
安定同位体分析を用いた研究などによって、同種でも、個体ごとに資源利用方
法がかなり異なることが明らかになってきた。これらの個体間変異は、種内競
争の結果もたらされると考えられる。このような変異が生じるのは、競争関係
の優劣により資源分割がおこるため、あるいは、ある一定の資源に対して特殊
化することによって採餌効率をあげることができるためと考えられる。これま
での研究は競争圧が一定な系で行われてきたが、自然界では競争圧は資源量に
伴って季節的に大きく変化する。
そこで本研究では季節変化に伴う資源利用可能量の変化を利用して、資源利用
の個体間変異が季節的にどのように変化するのかを、北大苫小牧研究林に生息
する小鳥6種を用いて検証する。鳥の個体ごとの餌資源利用様式を、炭素・窒
素安定同位体比により推定し、以下の結果が得られた。1)資源利用の種間変
異は、冬から春にかけて小さく、夏から秋にかけて大きい。2)種内変異は逆
に冬から春にかけて大きく、夏から秋にかけて小さい。このことから、競争の
激しい季節にはそれぞれの鳥は異なる資源に特殊化するため資源分割が起きる
が、資源量が豊富な季節にはほとんどの個体が同様に採餌するため分割がおきに
くいことが示唆された。しかし、競争の激しい季節でも種間の資源利用のオー
バーラップは大きく、種間での資源分割の証拠は得られない。
P2-096
12:30-14:30
イバン族が利用する様々な林における小型哺乳類相(林床)
◦
中川 弥智子1, 中静 透1, 箕口 秀夫2, 高橋 一秋3, 濱本 恭子4
1
総合地球環境学研究所, 2新潟大学, 3東京大学, 4愛媛大学
熱帯林は急速に消失・変貌しており、それにともなった生物多様性の減少は
重要な地球環境問題のひとつである。本研究では人間活動による森林景観の
変化が、散布後の種子・実生の主な食害者である小型哺乳類と種子食害強度
に与える影響の評価を目的としている。
2003 年8月、共同研究者と共に焼畑休閑林(1 年後、5-6 年後、20 年後、
30 年以上)、孤立林、ゴム園、及び原生林(国立公園内)に、10 × 100 m
のプロットを合計 33 カ所設定した。そのうち 21 カ所のプロットで、記号
放逐法 (連続 5 晩) による小型哺乳類相調査と持ち去り実験による種子食害
圧調査を実施した。持ち去り実験の材料にはジャックフルーツ(Artocarpus
heterophyllus, クワ科)の種子を用い、残存種子数とその状態を 5 日間毎日
確認した。
調査期間中、4 科を含む合計 20 種(78 個体)の小型哺乳類が捕獲された。
最も出現頻度の高かった動物(17 個体)は、オオツパイ(Tupaia tana)と
チャイロスンダトゲネズミ(Maxomys rajah)であり、前者はゴム園で、後者
は原生林に多く生息する傾向が見られた。出現種数は焼畑休閑林(5-6 年後)
で最も高く、ついで孤立林、原生林の順であった。一方で出現個体数は原生
林が最も高く、2 番目に焼畑休閑林(5-6 年後)、3 番目はゴム園となった。
種子食害率(持ち去り+食害)は同じく原生林で最も高く、2 番目に焼畑休
閑林(5-6 年後)で、3 番目は孤立林であった。
まだ1度の調査結果であるが、原生林や孤立林のみならず焼畑休閑林(5-6
年後)やゴム園で小型哺乳類の活動が活発であることが分かった。この原因
としては、焼畑休閑林(5-6 年後)にイチジクなどの結実木が多いことや、
旧ゴム園には年間を通してゴムの実が存在していることが関係していると考
えられる。また一斉開花時に小型哺乳類相や種子食害圧が各森林でどのよう
に変化するのかも興味深い。さらに今回の発表では林床の小型哺乳類のみを
対象としたが、今後は樹上性の哺乳類も対象に加え、種子と種子食動物の相
互作用を網羅的に捉えたいと考えている。
12:30-14:30
郊外に移転した大学キャンパスにおける生物群集 (16)野鳥類の生
態と種類・個体数の年次変動
◦
上杉 あかね1, 村上 正志2, 南川 雅男3
P2-094
8 月 27 日 (金) C 会場
P2-097
12:30-14:30
ヤクタネゴヨウ自生地の群集構造と立地
◦
永松 大1, 小南 陽亮2, 齊藤 哲3, 佐藤 保4
1
鳥取大・地域・地域環境, 2静岡大・教育, 3森林総研・九州, 4森林総研
ヤクタネゴヨウは屋久島と種子島にのみ自生する五葉松で絶滅危惧 IB 類
に分類されている。比較的数が残っている屋久島では標高 300-800m 付近
の急峻な尾根に、他の様々な照葉樹と混交して生育している。ヤクタネゴ
ヨウの更新にはこうした照葉樹が影響を与えていると考えられるため、ヤ
クタネゴヨウと混交樹種との関係を検討した。あわせてヤクタネゴヨウの
更新立地について検討し、保全対策に資することを目的とした。
最大の自生地である屋久島西部林道沿いに調査地を設定した。調査地内の
任意の場所に多数の 100m2 程度の方形区を設置し、毎木調査 (樹高 1.3m
以上) と稚樹調査 (1.3m 未満) を行なった。
樹高 1.3m 以上の種組成データについて多変量解析 (序列化) を行い、ヤ
クタネゴヨウの出現と林分種組成の変化のパターンについて検討した。ヤク
タネゴヨウの稚樹が含まれる林分ではウバメガシ、シャリンバイが目立っ
た。しかし全体としてみると試験地の林分種組成はヤクタネゴヨウの分布
よりも、尾根ごとの類似性が強いように思われた。尾根を軸にした種組成
の変化パターンが生じた要因については今後の検討が必要である。
方形区内に限らず試験地全体にわたってヤクタネゴヨウの更新稚樹は少
なかった。このため、ヤクタネゴヨウが定着できる条件を検討するためヤ
クタネゴヨウを含む各樹種の個体分布とその微細立地の関係について解析
を行った。各個体の分布位置を岩上、土壌上、他個体の根上、に分類した。
主要 19 種の個体分布は a. 岩上へ分布が偏る種群、b. 岩以外の立地に分布
が偏る種群、c. 岩との相関が見られない種群に分類できた。このうちヤク
タネゴヨウは a. 岩上に分布が偏った。ヤクタネゴヨウは照葉樹との競争を
避け、それらが生育しにくい岩上の立地に適応することで個体群を維持し
てきたことが考えられた。
— 185—
P2-098
ポスター発表: 群集生態
P2-098
P2-099
12:30-14:30
石垣島宮良湾と石西礁湖内シモビシにおけるサンゴ礁生物群集組成(サ
ンゴ・海藻・魚)比較
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
◦
伊藤 憲彦1, 仲岡 雅裕1, 野田 隆史2, 山本 智子3, 堀 正和4
渋野 拓郎1, 大葉 英雄2, 高田 宜武1, 藤岡 義三3, 下池 和幸4, 木村 匡4, 鈴木 淳5, 長尾
正之5, 鳥取 海峰6, 岩瀬 晃啓7, 阿部 寧1, 橋本 和正1
1
西海水研・石垣, 2東京海洋大, 3JIRCAS, 4自然研, 5産総研, 6岡山大, 7琉球大
サンゴ礁生物多様性保全地域選定に必要な科学的資料を得ることを目的とし、
沖縄県八重山諸島の環境の異なる2タイプのサンゴ礁(宮良湾のサンゴ礁と石
西礁湖内のシモビシ)において主な生物群集とそれらの生息環境を調査、比較
した。2002 年 9 月に石垣島宮良湾に 3 本、2003 年 9 月にシモビシに 1 本、
岸から沖およびリーフを横断するように南北方向に調査線を設定した。それぞ
れの調査線に沿って 180m 間隔で 6∼10 点の調査定点を設置し、各定点で岸
と平行に 10m のラインを引き両側 2m に出現した造礁サンゴ、魚類、海藻に
ついて種類、被度、個体数を記録した。また、ラインに沿って 0.5m 間隔で基
質を調査するとともに、ライン周辺部で堆積物(SPSS 解析用)を採集した。
宮良湾では、造礁サンゴの被度と種数は沖合の礁縁部で高く、礁原部から礁
池内に向かって減少したが、湾西側の礁池中ほどでは Acropora、Montipora の
大規模群集がみられた。海藻類では紅藻が最も出現種数が多かった。分布様式
から、湾の岸側の砂泥底を中心に分布する種群、沖側の礁原、礁斜面を中心に
分布する種群、湾西側の礁池内の枝状サンゴ域を中心に分布する種群、湾東側
の浅い岩盤域を中心に分布する種群に大別された。魚類では各ラインとも礁地
沖側から礁原部にかけて個体数、出現種数が増加したが、湾西側の礁地内の枝
状サンゴ域で最も出現種数が多く、その枝状サンゴの間に海藻が繁茂している
地点で出現個体数が最大であった。
シモビシでは、底質がレキで浅い枝状サンゴ群集域で魚類、藻類とも個体数、
種数、被度が高かった。
生物群集組成をもとに類別を行った結果、シモビシは宮良湾の礁池沖側グルー
プに類別された。
P2-100
12:30-14:30
長期的な海洋環境変化と魚食性海鳥3種の食性
◦
綿貫 豊1, 出口 智広2, 新妻 靖章3, 中多 章文4
1
北海道大学大学院水産科学研究科, 2山階鳥類研究所, 3名城大学, 4北海道中央水産試験場
繁殖中の海鳥の餌構成はある範囲内の魚資源の変化の影響を受けるだろう。
一方で、魚資源に対して漁業圧と同程度のインパクトを与える例も知られ
ている。餌構成に対する魚資源の変化の影響は採食方法の異なる海鳥種間
で異なるだろうし、結果として魚資源へのインパクトも変わってくると期
待される。1984年から2003年まで対馬暖流の北端近辺に位置する
天売島において、ウミネコ (表面採食者)、ウトウ(表中層潜水採食者)、お
よびウミウ(底層採食者)の餌をモニターし、その捕食量を推定した。ウ
ミネコとウトウは1984年から1987年には、マイワシ を食っていた
が、1992年以降、カタクチイワシ に餌を替えた。これは1980年代
後半におこったマイワシ資源の崩壊と一致する。それ以降は、餌中のカタ
クチイワシの比率の年変化は、これら3種の間で同じ傾向を示した。カタ
クチイワシ資源量(水産庁平成13年度資源評価報告)が大きいと海鳥の
餌中のカタクチイワシの比率が高く、また、表面海水温が高く対馬暖流流
量が大きいとウトウの餌中のカタクチイワシの比率が高かった。カタクチ
イワシ資源量とその対馬暖流による北への輸送が海鳥の餌構成に影響して
いるらしい。島周辺のイカナゴ0才の年間漁獲量とウトウの餌中のそれと
は正の相関があったが、ウミネコでは相関は認められなかった。ウミウは
カタクチイワシもイカナゴもその資源量が多分小さかったであろう年には
底魚を食っていた。このように、採食行動における制約によって、海鳥種
間で餌の利用可能性の年変化に対する反応は異なっていた。海鳥の種毎に
海洋環境の変化からの影響の受け方は異なるので,海洋環境の 指標とする
ためには採餌方法の異なる海鳥をモニターする必要がある。浮魚資源の変
動が高次捕食者の餌を変化させることによって、代替え餌への捕食率の上
昇をひきおこす可能性が示唆された。
12:30-14:30
岩礁潮間帯生物群集における生産性・多様性関係の空間スケール依存性
1
千葉大学大学院自然科学研究科, 2北海道大学水産学部, 3鹿児島大学水産学部, 4東京大学大学院農学
生命科学研究科
近年、生物群集の種多様性に影響を与える要因として、生産性の変異が様々な
生態系で注目されている。生産性と多様性の関係は空間スケールによって異な
り、関係のパターンは生態系や対象生物群により大きく変異する。しかしその
要因や形成機構については不明な点が多い。その解明のためには同一システム
で空間スケールを階層的に設定して調査する方法が有効である。
そこで講演者らは、岩礁潮間帯生物群集を対象に、3 つの異なる空間スケール
(日本列島太平洋岸の 6 地域間・各地域内の 5 海岸間・各海岸内の 5 岩礁間)
で比較し、生産性と種多様性の関係の空間スケール依存性を検討する研究を継
続中である。本発表では、(1) 海域の生産性の一般的な指標であり、植食性固
着動物の摂餌量の指標となるクロロフィル a 量、(2) 海域の生産性の間接的指
標であり、海藻類の生産性を制御する栄養塩濃度を測定し、固着動物および海
藻の種多様性との関連性を分析した結果について紹介する。得られた結果を空
間スケール間、および・生物群間・季節間で比較することにより、その関係の
パターンと決定要因について考察する。
生産性・多様性関係は、既出の研究に従い、(1) 単純増加、(2) 単純減少、(3) 山
型、(4) 谷型、(5) 無相関の 5 パターンに分類した。2003 春から夏にかけては、
岩礁レベルでは栄養塩・海藻間に道南で単純増加型の関係が見られ、三陸と房
総で山型の関係が見られた。海岸レベルでは栄養塩・海藻間に三陸で山型の関
係が見られた。地域レベルでは相関はなく、両者の差は見られなかった。また
季節間の変異は全般に小さく規則性は見られなかった。
上記の結果は限られた季節間の比較に基づいており、今後より長期的なデータ
の蓄積により、1 年間通しての解析を行なうことが必要だと思われる。また、
海藻や固着動物の成長量など、より直接的な生産性の指標を利用した場合との
比較も検討する予定である。
P2-101
12:30-14:30
南アルプスにおけるチョウ類群集の季節変動
◦
中村 寛志1, 有本 実1
1
信州大学農学部
2001 年 7 月から 2003 年 9 月の春季から秋季にかけて,天竜川支流三
峰川の林道上と源流部(長野県上伊那郡長谷村),2002 年 7・8 月に北
岳(山梨県南アルプス市),2003 年 7・8 月には仙丈ケ岳(長谷村)に
おいてトランセクト調査と定点観測を行い,温度・照度・風速の変動と
併せてチョウ類の日周活動を記録した.北岳と仙丈ケ岳では,調査ルー
ト上に見られる花の量から「開花指数」を算出し,山岳域のチョウ類と
花の対応関係を調べた.
トランセクト調査の結果,三峰川の林道で合計 8 科 36 種 570 個体(1km
あたり 26.03 個体),源流部で 7 科 29 種 336 個体(8.24),北岳の山
地帯で 5 科 18 種 75 個体(4.05),亜高山帯で 6 科 15 種 164 個体
(18.43),高山帯で 6 科 14 種 96 個体(5.55),仙丈ケ岳の亜高山帯で
6 科 16 種 203 個体(13.72),高山帯で 3 科 11 種 246 個体(9.18)の
チョウ類を確認した.標高が上がるにつれて種数が減少するとともに上位
優占種の占める割合が高まり,また HI 指数,ER,グループ別 RI 指数
法などで解析した結果,種多様性が低くなる傾向がうかがえた.開花指
数について見ると,北岳ではチョウ類の確認個体数/km と,仙丈ケ岳で
は高山帯で確認種数との間に有意な正の相関が認められ,山岳域のチョ
ウ類は餌資源である花の豊富な場所に多く集まることが示唆された.定
点観測では,5 地点の観測地でチョウ類の飛翔活動と照度との間に有意
な正の相関が認められた.また高山帯と亜高山帯の定点観測の結果,午
前 10 時過ぎには雲やガスが発生し,午後になると日射がほとんど遮ら
れ,チョウ類の活動が急激に抑えられることが判明した.以上の調査・解
析結果を踏まえた上で,山岳域のチョウ類群集の定量調査手法と,チョ
ウ類群集を用いた環境評価手法について検討を行った.
— 186—
ポスター発表: 群集生態
P2-102
P2-103
12:30-14:30
海藻・海草と小型甲殻類粉砕者(Shredder)–食物網上の関係
◦
◦
山本 智子1, 仲岡 雅裕2, 野田 隆史3, 堀 正和4
1
鹿児島大学水産学部, 2千葉大学大学院自然科学研究科, 3北海道大学大学院水産学研究科, 4東京大学
大学院農学研究科
1
北海道区水産研究所
藻場が形成される水深数mの海岸域では,海産大形植物(海藻・海草)の
基礎生産が生物生産の中心である.海藻をウニなど植食動物が摂食(捕
食?)する生食連鎖系は強調され,藻場は植食動物の餌源であるとされ
る.一方,MANN(2000) は,海藻生物生産のうち生食連鎖系に流れるの
はの 10 %で,残り 90 %は腐食連鎖系へ流れると述べている.藻場はデ
トリタス源でもある.海岸域に滞留する寄り藻は枯死・脱落大型植物葉
体からなり,デトリタスとして腐食連鎖系へ流れる.陸上の落葉・落枝分
解過程では小型節足動物が摂食によって粉砕者として寄与しており,ワ
ラジムシ類はその代表といえる.海岸域にもワラジムシ類は高密度に棲
息している.彼らは海岸域で陸上生態系と同様にはたらきいているのか?
海岸域における海産大形植物とワラジムシ類との食物網上の関係を明ら
かにするため,北海道東部釧路市の藻場域で主要な大型植物と海産ワラ
ジムシ類との炭素・窒素安定同位体比を分析した.調査地藻場にはコン
ブ類(海藻,ナガコンブが主)
・スガモ(海草)が多く,藻場内と隣接ポ
ケットビーチに寄り藻が滞留する.藻場内にオホーツクヘラムシ Idotea
ochotensis,隣接ポケットビーチ陸側にハマダンゴムシ Tylos granuliferus
が高密度に棲息する.これらはともに cm 級の大型種で,実験・観察から
海藻類を摂食・粉砕可能なことがしられている.安定同位体比はナガコン
ブ・スガモでδ 13C が-15.0 ‰・-15.6 ‰,δ 15N が 10.2 ‰・10.3 ‰で
あり,オホーツクヘラムシ・ハマダンゴムシでδ 13C が-14.0 ‰・-15.7
‰,δ 15N が 10.0 ‰・10.6 ‰であった.大型海産植物とワラジムシ類
との安定同位体比の類似から,ワラジムシ類は藻場の大型海産植物に食
物の多くを依存すると考えられる.
食物網は群集構造を考える上で最も重要な特性であり、その構造に関して
様々な理論研究が行われてきた。その結果、食物網構造には普遍的なパター
ンがあることや群集の安定性にも影響を与えること等が見いだされたが、近
年では、同定の精度等、理論研究のもとになった記載データの不完全さが指
摘されている。また、異地性流入、すなわち異なる系からの物質や餌生物、
捕食者の流入が無視できない影響を与えること、食物網の時間的変化が群集
内の様々な相互作用を生み出すこと等が明らかとなり、注目を集めている。
演者らは、北海道から鹿児島までの 6 地域× 5 海岸の岩礁潮間帯生物群集
において調査を行ない、各栄養段階に属する種数や現存量とその比率、栄
養段階の数等を比較するとともに、その変異がどの空間スケールで生じる
のかを解析した。その結果、栄養段階の数に地域間、海岸間での変異は少
ないこと、懸濁物食者の多様性は低緯度地域ほど高く、高緯度ほどグレイ
ザーの占める割合が大きいことが明らかになった(第 50 回大会で発表)。
しかし、この食物網を構成する種には 1 年生のものも多く、特に生産者で
ある藻類の季節消長は高緯度地域ほど激しい。そこで、年 3 回の調査結果
をもとに、岩礁潮間帯における食物網構造の季節変動、及びその緯度勾配
について解析を行った。また、その緯度勾配をもたらす要因を明らかにす
るため、波あたりや水温等の環境ストレスや海域の生産性についても調査
を行った。発表では、これらの要因や構成種の生活史と食物網構造の季節
変動との関連についても考察する。
12:30-14:30
P2-105
農地における栽培管理が大型土壌動物の群集構造に与える影響
◦
12:30-14:30
岩礁潮間帯における食物網構造の時空間変異
宇田川 徹1, 坂西 芳彦1, 伊藤 博1
P2-104
P2-102
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
北海道の平地湿性林に生育する優占種に見られる Janzen-Conell 仮説
に適合する更新
伊澤 加恵1, 藤田 正雄2, 藤山 静雄1
大坂 哲也1, ◦ 紺野 康夫1
1
信州大学工学系研究科, 2財団法人自然農法国際研究開発センター
森林などの土壌生態系において土壌動物は重要な機能を担っているが、農
地ではあまり重視されていない。演者らは農地で土壌動物の機能を重視した
栽培管理法について検討している。
試験圃場は長野県波田町に位置し、1998 年より無農薬で有機質肥料による
栽培が行われていた。2002 年は耕起の有無と肥料の質の違い(化学肥料と
有機質肥料)による試験設計で、03 年はそれに緑肥作物の有無を加えた試
験設計 (L8) で無農薬栽培を行なった。なお、緑肥作物は適宜刈り倒し、条
間部分に被覆した。調査は各区画内の条間部分と通路部分に分けて調査枠を
設置し大型土壌動物を採集した。採集した主な動物群は科まで、他は綱まで
分類した後、密度、バイオマス、多様度 (H’) を求めた。
処理区の違いでは耕起の有無、緑肥作物の有無の差が大きく表れた。不耕
起区の密度、バイオマスは順に 279 個体/m2 、10g/m2 となったが、これは亜
高山域地帯のササ草原の平均密度が 368 個体/m2 、平均バイオマスが 6g/m2
(藤山ら 1981)であるのに匹敵する多さであった。また、耕起区は不耕起区
と比較し、密度、バイオマス、多様度がそれぞれ平均で約 1/15、1/26、1/2 と
少なくなった。さらに、種構成については耕起区ではわずかに唇脚網、コガ
ネムシ科の幼虫が得られ、不耕起区ではそれらに加えてゴミムシ、コメツキ
ムシ、ハネカクシ、クモなど多様な分類群が得られた。緑肥作物を導入しな
かった区では導入区と比較し密度、バイオマス、多様度がそれぞれ平均で約
1/3、1/5.5、1/3 と少なくなった。今回の調査結果では、不耕起・有機質肥料・
緑肥導入区で密度、バイオマス、多様度がそれぞれ 373 個体/m2 、14g/m2 、
1.2 と大きく、土壌動物が豊富であった。これらの管理法と作物の生産量と
の関係を含めて考察する。
1
帯広畜産大・環境総合科学講座
要旨:種間関係が更新に寄与しているかについて、湿性林の優占種で検
討した。その結果 Janzen-Conell 仮説が検討した優占5種の内3種で成
り立つことが分かった。
調査方法:それぞれの種の林冠ごとに、その下に存在する生幼木と枯死
幼木の分布を種別に調べた。
結果:林冠下に同種の幼木が少なかった種が優占種 5 種のうちヤチダモ・
ハルニレ・イタヤカエデの 3 種あった。同種林冠下に幼木が多かったの
は萌芽を多く出すハンノキであった残るキタコブシは分布に偏りが少な
かった。林冠下に同種の幼木が少なかったヤチダモとハルニレでは同種
林冠下で枯死木が多かった。イタヤカエデでは同種林冠下で自種幼木が
少なすぎて検討できなかった。優占 5 種の林冠下では同種以外の幼木の
侵入が見られ、その構成は林冠木種ごとに異なった。これらのことから
Janze 仮説が本調査地で成り立つことが強く示唆された。
— 187—
P2-106
ポスター発表: 群集生態
P2-106
P2-107
12:30-14:30
◦
木村 勝彦1
村上 正志1, 平尾 聡秀1, 松田 道子1, 久保 拓哉2
1
北海道大苫小牧研究林, 2北海道大地球環境
1
福島大・教育
自然環境はパッチ状あるいはモザイク状の空間構造を示す。このような
生息場所を探索する場合、種により分散能力やパッチ探索能力、その方
法に違いがあると、各パッチでの各種生物の存否が種に特有の異質性を
示す。このような異質性は各パッチ上での生物間相互作用を改変し、群
集構造に影響をあたえると予想される。例えば、固着性の寄主と寄生者
を考えると、寄生者の分布様式はその探索範囲のスケールに依存し、よ
り広い範囲を探索する場合、認識される寄主パッチのサイズも大きくな
る。寄主密度に対する寄生者の反応も様々であると予想される。寄主が
集中することで寄生者の探索効率が向上し寄生率が上昇し、パッチごと
の寄主密度と寄生率が正の相関を示す可能性がある一方、重複寄生をさ
けるために、寄主が集中していても寄生者が頻繁に移動する場合、寄主
密度と寄生率は負の相関を示すと予想される。
本研究では、樹木ー潜葉性鱗翅目幼虫(リーフマイナー)ー寄生蜂の三
者系において、樹木により決定されるリーフマイナーの空間分布が、寄生
蜂の分布様式(寄生率)にあたえる影響を解析する。調査区内の全樹木個
体についてリーフマイナー個体数を推定し、飼育することにより、樹木
個体ごとに寄生率を算出する。この寄生率をもっとも良く説明するリー
フマイナー密度の空間スケールを、
「対象とする樹木個体におけるリーフ
マイナー密度のみ」と「周辺の樹木個体からの近傍効果(0∼10 m)の
影響を考慮した場合」から選択し、決定する。
方向性を持ち、ゆっくりとした変化をする森林群集では、長期的なモニタ
リング調査が重要である。過去の伐採の影響で群集構造に変化が想定さ
れる屋久島では、このような長期的な観察でその変化を把握することが
可能となる。本報告では標高 1200m 地点に 1983 年に設定した 1ha の
方形区での複数回の測定をもとにした群集動態の解析をおこなった。調
査地はスギとヤマグルマの優占度が高く、これにモミ、イスノキ、シキ
ミ、アカガシ、ウラジロガシなどを混交する森林である。この調査地に
おいて 1984 年、1993 年、2003 年に毎木調査実施した。
プロット全体で 1984 年時点の胸高周囲(GBH)50cm 以上の幹を対象
としてみると、20 年間の枯死は幹数で 27.5%、BA に換算すると 16.5%と
なった。BA の減少に大きく貢献したのはスギで、幹数、BA ともに 12%近
く減少した。また、その多くは 1993 年調査実施直前の台風 13 号によ
る枯死であった。林冠構成種で顕著に枯死したのはヤマグルマとモミで、
ヤマグルマでは幹数で 47%もの大幅な減少(61 本から 32 本)があり、
BA は約 20%減少した。モミは全て GBH2m を越える個体が9本あった
が、このうち3本が枯死し、個体数、BA ともに 33 % 減少した。
大径木の枯死により、当初8 % 程度だったギャップ面積は倍以上に拡
大したが、林冠構成種の稚樹の更新はあまり顕著ではなく、倒木上など
樹高1 ∼ 2 m のスギが若干更新している程度であった。
屋久島の森林は江戸時代に伐採を受けたことが知られており、プロッ
ト内にも40以上の大径の切株が残されている。幹数の減少の顕著だっ
たヤマグルマはこれらの切株上などに生育しており、このほかの樹種の
多くもおもに伐採後に定着したものと考えられる。これらの個体の枯死
が 1993 年の台風による撹乱を契機に促進され、ヤマグルマやモミの減
少とともに現在少ない林冠構成樹種の稚樹の定着が進み、今後は、より
定常的な更新状態に推移するものと考えられる。
P2-108c
P2-109c
12:30-14:30
12:30-14:30
郊外に移転した大学キャンパスにおける生物群集 (17) ヤママユガ科ガ
類の生態:特にバイオマスの季節的変化と被食
クロヒカゲの翅に残された鳥の嘴の痕の季節的増減
◦
12:30-14:30
樹木ー潜葉虫—寄生蜂群集の空間構造(1)
屋久島スギ・照葉樹混交林の20年間の動態
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
井出 純哉1
◦
1
京大院・農・昆虫生態
鳥は蝶の成虫の重要な捕食者と考えられている。しかし、捕食の場面を
観察できることはまれなので、実際どの程度の捕食圧が蝶にかかってい
るのかは明らかではない。鳥が蝶を捕獲しようとして失敗した時に、蝶
の翅に鳥の嘴の痕(ビークマーク)が残ることがあるが、その頻度は鳥
の捕食圧の推定に利用できると考えられる。そこで、ジャノメチョウ亜
科の蝶のクロヒカゲの翅に残されたビークマークを三年間にわたって京
都市北部の山地で調査し、鳥がどれくらいクロヒカゲの成虫を襲ってい
るか推定した。本種の成虫は 5-6 月の初夏世代、7-8 月の盛夏世代、9-10
月の秋世代と、一年に三世代が出現する。樹液を餌としており、暗い所
を好むので通常は林内に分布するが、気温が低い時期には比較的明るい
場所に出てくることも多い。翅に嘴の痕が残っていた個体の割合は初夏
と盛夏には数%から十数%だったが、毎年秋になると増加し 50%に達す
ることもあった。蝶の成虫は捕獲しにくく、見た目の大きさの割に食べ
る所が少ないので、鳥にとって良い食料ではないと思われる。そのため、
鱗翅目幼虫などのもっと好ましい餌が少なくなった秋によく襲われたと
考えられた。また、秋になって気温が下がり、蝶の動きが緩慢になった
ことが襲われやすさに影響した可能性もある。雄と雌を比べるとわずか
ずつではあるが雌の方が一貫してビークマークのついた個体の割合が多
かった。雌は卵を抱えている分腹部が重いためゆっくりとしか飛べない
ので、雄よりも襲われやすかったのかもしれない。
城本 啓子1, 桜谷 保之1
1
近畿大・農
奈良市郊外の近畿大学奈良キャンパスの矢田丘陵においては、コナラ、
クヌギを中心とする里山環境にあり、これら広葉樹を餌植物とするヤマ
マユガ科ガ類(Saturniidae)が7種生息している。これらヤママユガ科ガ
類はすべて大型であり、1個体のバイオマス (生体重) 量としては高く、
食物連鎖ないしエネルギーの流れにおいて大きな役割を担っていると考
えられる。本研究では、キャンパス内の里山環境におけるヤママユガ科
ガ類のバイオマスの季節的変化・特性を調べ、次の段階へエネルギーの
移動として被食についても調査解析を行った。
今回、室内飼育・摂食実験によりオナガミズアオ、ヤママユにおいてそ
れぞれに糞重と生体重間に正の相関が見られた。また、キャンパス内の
二次林において 2002 年から 2003 年にかけて落下糞の回収を行った結果
5月と7月に落下糞重のピークが見られた。ヤママユガ科ガ類に対する
被食を調べるため、2003 年9月に当キャンパスの外灯に飛来して捕食さ
れたと考えられるヤママユの翅の回収を行った。その結果、最低 125 匹
のヤママユ成虫の被食(主としてカラス類に)が推定され、約 84 %が
雄の翅と推定された。
これらの結果より当キャンパス内においてヤママユガ科ガ類を中心と
したエネルギーの流れがある程度把握できた。今後の里山管理の上で、広
葉樹という餌資源をめぐるヤママユガ科ガ類を含めた生物多様性を保全
するような管理、活用が必要であると考えられる。
— 188—
ポスター発表: 群集生態
P2-110c
P2-111c
12:30-14:30
岩手山麓春子谷地湿原の訪花昆虫相の特徴
◦
◦
西野 晃子1, 河田 雅圭1
1
1
東北大学生命科学
岩手県立博物館
湿地性植物は、一般に森林性植物とは異なり、送粉を大・中型のハナ
バチに依存せず、訪花性双翅目昆虫との共生関係を独自に発達させてい
ると考えられているが、湿地における訪花昆虫相の研究は世界的にもき
わめて少なく、その全容はほとんど分かっていない。
我々は、2003 年 4 月から 9 月および 2004 年 4 月から 8 月に、岩
手県滝沢村の岩手山麓標高 450m にある約 20ha の湿原「春子谷地」と、
その上流の河畔林および隣接する牧野において、主要な虫媒性植物約 40
種を選び、各種の花上で訪花昆虫を採集・同定した。この結果から、湿
原・河畔林・牧野の 3 つのハビタットにおける訪花昆虫相の特徴をそれ
ぞれ抽出した。
湿原で採集した昆虫個体数の 50 %以上は双翅目で、そのうちの 70 %以
上をハナアブ科が占めていた。分類群別構成比を、Kato & Miura (1996)
や Ushimaru et al. (submitted) が福井県や京都府の湿地で行った調査の結
果と比較したところ、それぞれの湿地は植生・ミズゴケの有無・面積な
ど多くの点で違いがあるが、双翅目昆虫、特にハナアブ科の優占という
点で共通していることが分かった。また、森林の訪花昆虫相にはあまり
出現しないナガハナアブ族が特徴的に多い点、膜翅目では小型のハナバ
チの個体数が多い点で、Kato & Miura (1996) との共通性が見られた。さ
らに春子谷地では、ハナアブ科の種多様性が非常に高いことが分かった。
また 2004 年には湿原・周縁林・牧野にそれぞれマレーゼトラップを
設置し、捕獲された昆虫を訪花性と非訪花性に分け、それぞれの季節的
な個体数変動を調べた。これらの結果を、虫媒性植物の開花期と関連づ
けて考察する。
共存可能な植物プランクトンの種数は、必須栄養塩 (資源) の数と等しい
とした Tilman(1982) の研究に対して、植物プランクトンの組み合わせに
よっては、植物プランクトン個体群の振動によって共存が促進されると
いう予測を、Huisman and Weissing(1999) が行っている。それによると、
たとえば制限要因が3つである条件においても、ある特定の栄養塩要求
性をもつ植物プランクトン同士が、ある特定の環境では、3 種以上共存
できるということが予測されている。これは、4 種類の資源であっても、
5 種類の資源であっても可能であった。さらに、栄養塩要求性における
特定のトレードオフの仮定によって、共存可能な植物プランクトンの種
数が変化することが予測された (Huisman et al. 2001)。
しかし、植物プランクトンの共存には動物プランクトンの存在が強く
影響することが予測されている。なぜなら、植物プランクトンを捕食す
る動物プランクトンが、植物プランクトンが利用しやすい形で栄養塩を
排出するためである。動物プランクトンの排出する栄養塩は、自身の栄
養塩要求性とエサである植物プランクトンの栄養状態によっても大きく
変化する。そのため、動物プランクトンと植物プランクトンの相互作用
は栄養塩を介して複雑な挙動を示すと考えられる。そこで、本研究では、
植物プランクトンの共存条件に対する動物プランクトンの影響について
調べた。
P2-113c
12:30-14:30
河川の物理・化学特性が水生生物の群集構造に与える影響
◦
12:30-14:30
複数の動物プランクトンの存在下で植物プランクトンは共存するか?
鈴木 まほろ1, 千葉 武勝1, 長谷川 勉1
P2-112c
P2-110c
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
コウモリ類の種ごとの環境利用-音声による種判別を用いて◦
三浦 昌孝1, 村上 正志2, 久原 直利3
福井 大1, 揚妻 直樹1, David A. HILL2
1
北大苫小牧研究林, 2Sussex University
1
北大大学院・農, 2北大 苫小牧研究林, 3千歳市
水生昆虫を中心とした河川生物群集と環境要因との関係を検討する。北
海道胆振西部では、多数の小河川が太平洋に流れ込んでいるが、これらの
河川間には明瞭な環境傾度が見られる。大まかな河川特性として、西方
は支笏湖由来の湧水河川で底質は火山降下軽石、東方は典型的な山地渓
流河川で巨礫が多い。また、調査区域中部の北側に活火山(樽前山)が
あり、河川は凝結した火砕流の上を流れ、河川水質にも影響を与えてい
る。本研究では狭地域でかつ環境要因の異なる河川での水生生物群集構
造を解析することにより、河川生物群集に影響する環境要因の抽出する
ことを目的とする。
調査は2003年8月、北海道苫小牧市及び白老町の15河川で行なっ
た。サンプリングサイトは各河川上流・中流部の計30である。水生昆虫
は各サイトの平瀬においてサーバーネットを用い2サンプルづつ採集し
た。環境の化学要因として河川水の水温・電気伝導度・溶存酸素・PH・
無機イオンなどを、物理要因として流量・底質・川幅・攪乱頻度などを
測定した。
目視した通り、河川の化学・物理環境には西から東にかけて傾度が見
出された。それと連動して河川生物の種構成・種ごとの個体数にも傾度
があることが確認された。たとえば、トゲマダラカゲロウ属の仲間は東
方の渓流河川に多く、そこでは流量・水温の年較差・底質の礫が大きかっ
た。また、ヤマトビケラ属は東方で多く次いで西方に多かったが、中部で
はほとんど見られなかった。これは、中部の地域の河川水は無機イオン
を多く含有していること、あるいは礫が脆く携巣が定着できないことが
影響していると予測される。このような群集構造には、様々な物理環境、
化学環境が影響し、河川間に見られる群集構造の差異の多くの部分がこ
れらの要因で説明可能である。しかし、要因ごとの相対的な影響の大き
さ、あるいは要因間の交絡の状態は種により様々であり、一概に、ある
要因と各種の個体数との直接的関係を考察することはできない。
日本の森林性コウモリ類は同所的に多くの種が共存しており、その多
くは生息環境の改変により絶滅の危機にさらされているとされる。これ
ら森林性コウモリ類の保全策の構築のためにはそれぞれの種の採餌・ね
ぐら環境利用に関する研究が不可欠である。しかし、日本ではコウモリ
類の環境利用特性が未解明なために、具体的な保全案が導き出せていな
い。その理由として、コウモリ類は小型で飛翔をし,夜行性であること
から直接観察が非常に困難であること,実際に捕獲をしないと種同定が
困難であることが挙げられる。近年,海外では音声による種判別法の構
築が盛んになっており、それに伴い音声調査(acoustic survey)による環
境利用の研究がはじまっている。こうした音声による種判別が可能にな
れば,それぞれの種について環境利用特性の研究を進展させることがで
きる。そこで本研究では,超音波自動録音装置および、発表者らが構築
した「音声による種判別法」を用いることによって、森林内におけるコ
ウモリ類の種ごとの環境利用を明らかにすることを目的とした。
調査は北海道大学苫小牧研究林内で夏と秋におこなった。異なる森林
タイプおよび,河川の近くと遠くにおいて自動録音装置を設置した.録
音された音声をソナグラム化したのちに各種パラメータを測定し,発表
者らが構築した判別式を用いて種判別をおこなった。
7種のコウモリ類の音声が合計3010回録音され,十分な録音回数
のあった4種について解析をおこなった。その結果,モモジロコウモリは
河川に近い環境,ヒメホオヒゲコウモリは河川から離れた環境で採餌頻
度が高かったが、森林のタイプによる違いは見られなかった。また、ヒ
ナコウモリ、ヤマコウモリに関しては二次林での採餌頻度が高く,夏よ
りも秋の方が採餌頻度が高かった。これら、種による採餌環境の違いに
ついてこれまでの研究と比較し、考察をおこなう。
— 189—
P2-114c
P2-114c
ポスター発表: 群集生態
P2-115c
12:30-14:30
郊外に移転した大学キャンパスにおける生物群集 (18) チョウ類成虫の
環境利用
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
キノコ食昆虫群集における資源分割 -出現時期と餌の種類を資源軸と
して◦
東條 達哉1, 武内 幸1, 桜谷 保之1
名古屋大学 大学院生命農学研究科 森林保護学研究室
近畿大・農
近畿大学奈良キャンパスは奈良市郊外の矢田丘陵にあり、二次林及び
造成による裸地や草地、調整池等からなり環境は比較的多様である。本
研究ではこれらの環境をチョウがどのように利用しているかを調べ、今
後の保全対策やビオトープ化に生かすことを目的とした。調査は、2003
年 3 月から 12 月までの間、キャンパス内 2 か所で行った。草地である
調整池堤防はルートセンサス法で、里山林内では定点調査を行った。
調整池堤防では、任意調査を含め 8 科 48 種のチョウ類成虫が確認さ
れた。種数、個体数とも 6 月と 9 月にピークがみられ、二次林ないしは
人里的環境を好むチョウ類が優占していた。また本調査地周辺にはヒヨ
ドリバナ、オカトラノオをはじめとする多くの里山植物が生育しており、
これらに訪花するチョウ類も多く確認された。一方、里山林内の調査で
は、7 科 48 種のチョウ類成虫が確認された。個体数、種数とも 7 月に
ピークがみられ、原生林ないしは二次林的環境を好むチョウ類が優占し
ていた。また、本調査地での黒色系アゲハ (クロアゲハ・カラスアゲハ・
モンキアゲハ・ミヤマカラスアゲハ) の個体数の割合は約 70 %で、これ
らのチョウ類のチョウ道としての利用も確認された。さらに、絶滅危惧
種オオムラサキ成虫のなわばり行動も観察された。
以上のように、調整池堤防の草地と里山林内では、かなり異なる環境
利用が確認され、今後こうした多様な環境を配置した保全が必要である
と考えられた。
田中 洋1, 山根 正気3, 市岡 孝朗2
1
名古屋大学大学院生命農学研究科環境昆虫学, 2京都大学大学院人間環境学研究科, 3鹿児島大学理学
部地球環境科学科
熱帯域の原生林では、アリ類と植物、アリ類と同翅亜目類の栄養共生系が多様
な発達を遂げている。近年、伐採や耕地化などの人為的攪乱によってそのよう
なアリと他の生物種との相利共生系の発達の基盤となった熱帯域の原生林は急
速に減少し分断され、二次林や草地の面積が急増している。そこでは生物の多
様性が失われるだけでなく多様な生物間相互作用が大きな変化を遂げている可
能性が高い。しかしこれまで生物間相互作用に対する人為的攪乱の影響を定量
的に調べた研究は少ない。
そこで、マレーシアボルネオ島サラワク州にあるランビルヒルズ国立公園内
の原生林、公園の周りに散在する孤立した小面積の原生林、焼畑にするために
伐採の入った年代が異なる二次林、そして粗放的なゴムプランテーションにお
いて、森林伐採をはじめとする人為的攪乱がアリ類と植物、アリ類と同翅亜目
類の栄養共生系に与える影響を評価した。花外蜜によるアリ類と植物の栄養共
生系、オオバギ属のアリ植物とアリ類の共生系、同翅亜目類とアリ類の栄養共
生系、植物や同翅亜目類と密接な関係にあるツムギアリの優占度あるいは出現
頻度を各調査地で測定し、それらの値を比較することで影響を評価した。出現
頻度は各森林の一定面積内の樹高 2m 以下の株のうちそれぞれの出現が確認で
きた株数の割合とした。
その結果、それぞれの出現頻度が攪乱の強い森林で高くなることが明らかに
なった。一方で花外蜜に誘引されたアリ類やオオバギ属アリ植物の種数は、攪
乱林で低くなることが明らかになった。また、攪乱の強い環境に優先的に生息
するツムギアリの出現頻度が攪乱林でより多く出現した。これらのことから、
人為的攪乱によって森林内部まで太陽光が届くことにより花外蜜を生産する植
物や甘露をだす同翅亜目類の個体数が林床で多くなる一方、アリ類の種多様性
が低くなり数種類のアリのみが植物や同翅亜目類と優占的に栄養共生的な関係
を結んでいることが示された。
ハラタケ目の子実体(以下,キノコ)には,双翅目と鞘翅目を中心として,
多様な昆虫がみられる。このような多種が共存する機構として,競争者の集
中分布による説明がなされてきたが,このほかにも複数の機構が考えられ,
そのうちの一つに資源分割がある。餌資源による資源分割に対しては否定的
な見解もあるが,これまでに行われてきた研究例は少なく,議論の余地が残
されている。そこで本研究では,キノコ食性ショウジョウバエ群集を対象と
して,昆虫の出現時期と餌の種類による資源分割の有無を調査した。
調査は,愛知県北東部にあるアカマツ林において,1999 年 7 月 1 日から
2001 年 12 月 5 日まで約 2 週間に一度の間隔で行った。3ヶ所の方形プロッ
ト(10 m × 10 m)内に発生したキノコの一部を持ち帰り,キノコの属と発
達段階,湿重を記録した。その後,キノコの内部に生息していた幼虫を実験
室において羽化させ,ショウジョウバエ成虫を種まで同定した。
キノコは,調査期間中に 13 科 26 属 3335 本発生した。このうち,11 属のキ
ノコから 9 種 842 個体のショウジョウバエ科昆虫が採集され,Hirtodrosophila
alboralis,H. sexvittata,Drosophila unispina,D. bizonata の 4 種が個体数の
上で優占していた。2000 年,2001 年はこのうちのいずれか 1 種が優占して
いたのに対し,1999 年は,H. alboralis,H. sexvittata,D. unispina の 3 種が
優占していた。これら 3 種はいずれも 7 月から 9 月に出現した。このデー
タについて Pianka のニッチ重複度を算出し,その平均値をランダム群集と
比較したところ,有意差は認められなかった。本報告では,調査期間を通し
ての資源利用様式にもとづいて資源を定義し,そのうえで 1999 年のデータ
について餌資源による資源分割の有無について検討する。
P2-117c
12:30-14:30
熱帯林におけるアリと植物、アリと同翅亜目類の栄養共生系に与える
人為的攪乱の影響
◦
山下 聡1, 肘井 直樹1
1
1
P2-116c
12:30-14:30
12:30-14:30
海草藻場における一次消費者の多様性が生態系機能に与える効果
◦
山田 勝雅1, 仲岡 雅裕1
1
千葉大学大学院自然科学研究科
生物多様性と生態系機能の関係の一般的解明が生態学の主要課題として認識
されている。従来の研究では種多様性を前者の指標とし、生物量、生産量、
物質循環への効果、環境ストレスへの耐性、外来種の侵入のしやすさ等を後
者の指標とした様々な実験・解析が行われてきた。その結果、多くの場合、
種多様性と生態系機能の間には有意な正の相関がある事が示されている。こ
の原因として、種多様性が高い群集ほど生態系への貢献度がより高い種が含
まれること (サンプリング効果)、各種が生態系へ相補的に貢献すること (相
補的効果) などが指摘されている。
しかし、これらの研究のほとんどは生産者の種多様性のみを対象にしたもの
であり、より高次の栄養段階については研究例が少なく、その一般性は解明
できていない。また、同じシステムであっても、生物多様性・生態系機能関
係が環境勾配に伴い変化することも予想される。これらの研究課題の解明は
人間活動によって生じる環境劣化に伴う生物多様性および生態系機能の変容
をより正確に予測すると共に、それに対する有効な保全策を考える上でも非
常に重要である。
熱帯から亜寒帯域の沿岸に形成される海草藻場生態系は生物相が多様な生態
系として知られる。主要な一次消費者は小型甲殻類や巻貝類などのメソグ
レーザーであり、海草上の付着藻類を摂餌することにより海草の生育に影響
を与える事が知られる。これまで、海草藻場を含む海洋生態系の群集研究で
は、ひとつの栄養段階に属する消費者各種が有す生態系機能は同等と仮定さ
れ単一の機能群として扱う場合が多かった。しかし、海草の生育の変異がメ
ソグレイザー間の機能的な差によって生じている可能性が近年指摘されてい
る。メソグレーザーの生態系機能の種間変異やその相互作用に着目する研究
は今後重要になると考えられる。
本講演では種多様性と生態系機能の関係を扱った研究の中で特に消費者を対
象とした研究例を紹介し、一次消費者の多様性が生態系機能に与える効果に
ついて総括と展望を行う。また、海草藻場をモデルとして演者らが進行中の
研究について、その目的、方法、期待される成果について紹介する。
— 190—
ポスター発表: 群集生態
P2-118c
P2-119c
12:30-14:30
群集行列を用いた岩礁潮間帯ベントス群集動態の解析
◦
◦
1
千葉大学大学院自然科学研究科, 2北海道大学大学院水産科学研究科, 3鹿児島大学水産学部, 4東京大
学大学院農学生命科学研究科
12:30-14:30
北海道大学大学院水産科学研究科
緯度の増加に伴い地域レベルの種数が減少することは群集生態学における一
般則である。しかし、
(1)種数の緯度勾配を生んでいる原因(2)空間スケー
ルが地域以下での種数の緯度勾配のパターン(3)海洋での種数の緯度勾配の
パターン、などの幾つかの疑問点が残されている。そこで、本研究では太平
洋岸における岩礁潮間帯のグレーザー群集を対象に地域レベルと局所レベル
(海岸と海岸内のひとつの岩礁)の群集の種数には緯度勾配があるのか? および、それぞれの空間レベルにおける種数の緯度勾配に影響をおよぼす要
因はなにか? を推定することを目的とした。2003 年の夏に北緯 31∼43 度
までの 6 地域において、調査地を地域、海岸、トランセクト(海岸内のひと
つの岩礁)を入れ子状に配置し、各レベルの種数を求めた。また、地域レベ
ルの種数の緯度勾配に影響をおよぼす要因を推定するために、出現種の地理
的分布範囲、北方種と南方種の分類樹中の出現様式、地域レベルの植物の種
数とグレーザーの種数の間の相関を調べた。局所レベル(海岸とトランセク
ト)の種数に影響をおよぼす要因を推定するために、群集の飽和度、地域間
のニッチの重複度の違い、トランセクトレベルでの植物の種数とグレーザー
の種数の間の相関を調べた。その結果、地域レベルでは高緯度ほど低下する
という緯度勾配があった。この多様性の緯度勾配の維持形成には、大半の種
にとって南の環境が好適であること、南方から北方への地理障壁の存在が寄
与している可能性が、また北方種と南方種の系統類縁関係から、それらの由
来は比較的古い時代の地理的障壁の重要性が推察された。一方、局所群集の
種数にも地域レベルと同様の緯度勾配があった。これは、単純に地域レベル
の多様性が反映されたものであることが示唆された。しかし、なぜ地域多様
性の大小だけが局所群集の多様性を決めることになるのかは不明であった。
P2-121c
12:30-14:30
岩礁潮間帯の固着生物群集構造の地理的変異:相対優占度パターンと
その決定要因
白賀 誠之1, 野田 隆史1, 仲岡 雅裕2, 山本 智子3, 堀 正和4
1
北海道大学, 2千葉大学, 3鹿児島大学, 4東京大学
群集内の各種の相対優占度は環境特性(各種資源の量と分布)と種の生態
的特性(競争能力、分散能力、基本ニッチ幅)によって決定されていると考
えられるが、これらの諸要因の相対的重要性は空間スケールによっても変化
すると考えられる。これまでの相対優占度の決定機構についての研究は主に
環境の均質な小空間スケール(局所群集)によって行われたものが多く、異
質な環境を含む大空間スケールの群集(地域群集)のものは少ない。地域群
集では種多様性に緯度勾配があることが一般的に知られており、このことは、
緯度に伴い相対優占度のパターンとその決定機構が変化する可能性を示唆し
ている。
岩礁潮間帯では潮位と波圧がそれぞれ垂直・水平方向に顕著な環境勾配を
作り出し、生物の分布に強い影響を及ぼしていることが知られている。そし
て、小空間スケールでの相対優占度決定には捕食や競争が重要な役割をはた
していると考えられている。
そこで、岩礁潮間帯固着性生物群集の優占種(地域レベルでの被度5%以
上の種)を対象とし、太平洋沿岸6つ地域(道東・道南・三陸・房総・南紀・大
隈)で、潮位と波圧に対応したニッチ特性と資源占有率(競争能力の尺度)、
および分散能力が相対優占度の決定に対する貢献度を明らかにし、地域群集
間でのプロセスの違いを比較した。その結果、6つの地域とも相対優占度は、
競争能力や分散能力ではなく、基本ニッチ幅によって説明された。これは基
本ニッチ幅が広い種ほど分布域が広く個体数も多いというマクロ生態学の一
般論と類似している。また、緯度による相対優占度決定プロセスの違いは見
られなかった。このことと、低緯度ほど、稀少種数が増加するということを
併せて考えると、低緯度地域の種数の増加が希少種によって生じていて、普
通種(優占種)に働く影響は緯度によって異ならないことを示唆しているの
かもしれない。
萩野 友聡1
1
生物群集の時間的変動(遷移過程)の決定プロセスおよび、その動態に影
響する要因の作用メカニズムに関する一般法則を理解することは、群集生
態学の主要課題である。講演者らは調査地を階層的に配置した野外実験系
を用いて、スケール横断研究から生物群集の一般理論を解明するプロジェ
クトを進行中である。ここでは日本の太平洋岸において、生物群集を異な
るスケール(6つの地域間、各地域内の5海岸間、各海岸内の5プロット
間)で比較し、その空間スケール依存性の解析を行っている。
岩礁潮間帯ベントス群集では、競争や捕食などの局所的な種間相互作用が
群集動態に強く影響していることが知られている。本研究では特に固着空
間を巡る種間の競争に着目し、種間競争の大きさと方向性およびその結果
として生ずる遷移のプロセスを理解するため、置換の観測頻度から群集行
列を作成し、空間スケールに伴う変異を解析した。
群集の野外調査では各調査プロットに 50cm × 50cm の永久コドラートを
設定し、5 cm ×5 cm 間隔の格子点を占有している種(海藻および固着
動物)を、年三回(春・夏・秋)記録した。出現した種を形態と機能によ
り石灰藻類・被覆型海藻・直立型海藻・固着動物の4つのグループに区分
し、これに裸地を加えた5グループ間で置換の生じる頻度を求めた。また
群集の調査と同時に生息地の物理的環境の測定を行った。
本講演では行列の各要素が示す機能群間の競争能力と置換の方向性、およ
び遷移パターンの空間変異について解析した結果を報告する。また環境の
諸条件との関連性を見ることにより、変異がもたらされる原因について考
察を行う。
◦
P2-118c
岩礁潮間帯グレイザー群集における種多様性の緯度勾配:マルチスケー
ルパターンとその形成機構
辻野 昌広1, 仲岡 雅裕1, 野田 隆史2, 山本 智子3, 堀 正和4
P2-120c
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
岩礁潮間帯生物群集における生物多様性‐生態系機能関係の解析
◦
相澤 章仁1, 仲岡 雅裕1, 野田 隆史2, 山本 智子3, 堀 正和4
1
千葉大学大学院自然科学研究科, 2北海道大学大学院水産科学研究科, 3鹿児島大学水産学部, 4東京大
学大学院農学生命科学研究科
近年、地球規模での生物多様性の減少が問題となっている。生物多様性を保全
する理由のひとつとして、生物多様性と生態系機能に正の相関があることが指
摘されている。このことは最近の群集生態学における大きなテーマのひとつで
あり、草原や微生物群集を対象に研究が進んでいる。しかし両者の関係が野外
生物群集一般に適用できるかどうかは不明である。特に環境要因の変異や空間
スケールの差異が与える影響については十分に検討されていない。そこで本研
究では岩礁潮間帯生物群集を対象に、複数の空間スケールを階層的に配置した
研究デザインによりその関係性を解析した。
日本の太平洋側の 6 つの地域 (道東、道南、三陸、房総、南紀、大隅) におい
て、地域内に 5 海岸、さらにその海岸内に5測点を選定した。各測点で岩礁
潮間帯のほぼ垂直な岩盤上で平均潮位の上下それぞれにコドラート (50cm ×
50cm) を設置し、各コドラート内の 100 の格子点を占有する種の変遷と潮位
ごとでの全出現種を記録した。計 300 コドラートの 2003 年春から 2004 年春
への 1 年間のデータの推移を基に解析を行った。本実験での生物多様性とは、
種多様性を意味し、 丸 1 Simpson の多様度指数、 丸 2 全出現種数の2つを空
間スケールごとに求めた。また生態系機能の指標としては、 丸 1 現存量 (2004
年の被度) 丸 2 安定性 (2003-2004 年の被度の変化 丸 3 抵抗性 (2003 年は生物
だった点が 2004 年に裸地にならない割合 丸 4 回復性 (2003 年は裸地であっ
た点が 2004 年に生物になる割合) を求めた。これらについて空間スケールご
とに相関解析を行った。また、環境要因をとりいれた多変量解析を行い、環境
要因と種多様性が生態系機能に与える相対的重要性を検討した。
— 191—
P2-122c
P2-122c
ポスター発表: 群集生態
P2-123c
12:30-14:30
新垣 誠司1, 渡慶次 睦範1
◦
1
九大院・理・臨海
京都大学生態学研究センター, 2大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所
外生菌根はブナ科・マツ科・フタバガキ科など温帯 ∼ 熱帯域において優占する
樹種が形成する菌根であり、外生菌根菌における宿主特異性を明らかにするこ
とは菌と樹木との相互作用および森林の動態を理解する上で重要である。しか
し、これまで外生菌根菌における宿主特異性についての研究は極めて限られて
おり、そのほとんどが宿主としてマツ・ユーカリなどごく一部の樹種のみを対
象としたものだった。また、菌類では隠蔽種が多数存在するとされており、こ
れまでの研究は隠蔽種をほとんど考慮していないことから、多種混同による宿
主特異性の過小評価をしていた可能性が高い。
本研究では、研究材料に、属全体でブナ科・マツ科といった幅広い宿主範囲を
持ち、温帯 ∼ 熱帯域に広く分布するオニイグチ属菌を選んだ。隠蔽種の存在
による宿主特異性の過小評価を検証するため、形態観察・シークエンスによる
隠蔽種の解析を行った。外生菌根における宿主特異性の系統進化を明らかにす
るため、28SrRNA 領域のシークエンスによる分子系統解析、ハビタット調査に
よる宿主特異性の評価を行った。この結果、オニイグチ属には隠蔽種が存在し、
これまで総じて宿主特異性が低いとされてきたオニイグチ属菌において、宿主
特異性の高い種群と低い種群が存在することがわかった。また、オニイグチ属
の分子系統樹において、宿主特異性の高い種群は明確な単系統性であることが
明らかになった。これは、高い宿主特異性を獲得する進化が不可逆的であるこ
とを示唆する結果である。これに加え、宿主特異性の高い種群は低い種群に比
べ、地域集団ごとに明確なクレードを形成する傾向があることがわかった。こ
のことは、宿主特異性の高い種群は、宿主の分布パターンなどによって菌が分
散の制限を受けていることを示唆している。これらの結果は、外生菌根菌の宿
主特異性について新しい知見である。
P2-125c
12:30-14:30
東南アジアにおけるアリ-植物-カイガラムシ3者共進化系の分子系統
解析
◦
上田 昇平1, 市野 隆雄1, 稲森 啓太1, 佐藤 由美子1, 市岡 孝朗2, 村瀬 香3, Quek Swee4,
Gullan Penny5
1
信州大学理学部生物科学科, 2京都大学大学院人間・環境学研究科, 3JT 生命誌研究館, 4Museum of
Comparative Zoology, Harvard University, 5Department of Entomology, University of California
東南アジア熱帯雨林に生育するアリ植物マカランガ属(Macaranga)約 300
種のうち 29 種は空洞の幹を持っており,その空洞の中には,ほとんどの場合,
シリアゲアリ属(Crematogaster)とカタカイガラムシ属(Coccus)が居住して
いる.カイガラムシは植物の師管液を吸汁し,甘露をアリに与える.さらに,
植物は栄養体を分泌してアリに与える.その見返りとして,アリは植物を植食
者から防衛する.このような共生関係を3者は結んでいる.
これまでの研究から,共生アリは,植物に対して高い種特異性を示し,ここ約
1200 万年の間,共多様化してきたことが明らかになった(Quek et al. 2004).
この高い種特異性は,アリの種特異的な防衛システム,女王アリによる種特異
的な寄主選択,アリと植物間の生活史上の相互適応,植物の特異化した幹構造
などを含む共適応によって促進されたものである.
今回,ミトコンドリア DNA を用いた解析から,共生カイガラムシの植物・ア
リに対する種特異性が低いこと,および,カイガラムシとアリの種分化・多様
化の年代がほぼ一致することが明らかになった.一方,カイガラムシの核 DNA
系統樹を予備的に作成したところ,mtDNA 系統樹と一致しなかったことから,
過去に種間交雑(浸透交雑)が起こった可能性が示唆された.
講演では,
(1)カイガラムシの核 DNA 系統樹とミトコンドリア DNA 系統
樹の比較,および,
(2)カイガラムシのミトコンドリア系統樹(+核 DNA 系
統樹),アリの mtDNA 系統樹,植物の分子+形態系統樹,3者の系統樹比較
を行うことにより3者間共進化の歴史について明らかにする.
佐藤 博俊1, 湯本 貴和2
1
Patterns of space use and the individual-based behaviour of microhabitat selection were investigated in three intertidal gobiid fishes, Bathygobius fuscus,
Chaenogobius annularis and C. gulosus, from western Kyushu. While the
three species tended to occupy slightly different types of tidepools, their patterns of distribution largely overlapped in the field. Laboratory experiments
involving choice of shelter (i.e. underneath a stone plate) and four different
substrate types were conducted to examine size- and time-related variation in
habitat selection. The results showed varied patterns depending on species,
time and size, suggesting that the mechanisms of coexistence are also varied.
The medium-scale artificial tidepool experiment was carried out under seminatural conditions to examine the influence of species interaction on habitat use. Patterns of tidepool occupation were different between conspecific
and heterospecific combinations. These varied patterns of habitat selection
and use must ultimately bear upon mitigating intra/interspecific interactions
in tidepool environments.
P2-124c
12:30-14:30
外生菌根菌における宿主特異性の系統進化-オニイグチ属菌の分子系統
解析を用いて-
岩礁性タイドプールにおける魚類群集パターンと種の共存
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
希釈平板法による土壌微生物相把握の意義
◦
橘 隆一1, 福永 健司2, 仁王 以智夫3, 太田 猛彦2
1
東京農業大学大学院, 2東京農業大学地域環境科学部, 3東京農業大学総合研究所
土壌微生物数を測定するために一般に用いられる希釈平板法では,用い
た培地に含まれる栄養分が利用可能な種に限られるため,土壌の性質を表
すのに限度があるといわれる。だが,希釈平板法によって測定される菌群
は,担子菌類など難分解性の有機物を利用する菌群と比較して,生態系に
含まれる比較的分解が容易な物質に速やかに反応するために,環境の一定
の性質を反映するという特徴がある。このため,これらの菌数を用いた比
率で土壌特性の一面を把握できることがかねてより報告されている。
これまで,筆者らは土壌微生物の動態が緑化法面における生態系回復の指
標として活用できる可能性を検討してきた。その結果,希釈平板法による
細菌数,放線菌数,糸状菌数から算出した細菌数/糸状菌数(以下,B/F),
放線菌数/糸状菌数(以下,A/F),細菌数/放線菌数(以下,B/A)は,緑化
後の年数経過とともに指数関数的な低下傾向を示した。また,各菌数比率
では,土壌理化学性との間においても菌数単独の結果に比べ,強い相関が
認められ,特に B/F は土壌化学性,A/F は土壌物理性を表す指標としての
有効性が確認された。このように,希釈平板法により得られる各菌数比率
は,総合的な土壌特性を反映している。また,希釈平板法は,他の微生物
実験法に比べて実験操作が比較的簡易で実験費用も安いなど実用性が高く,
緑化分野や土壌肥料分野などの現場サイドでの利用は有効といえる。
近年,土壌微生物学の分野では,種や遺伝子レベルでの多様性解析が盛ん
である。しかし,現在の最新技術を用いても未だに土壌中のすべての微生物
を網羅し得ないという限界があることを認識し,希釈平板法などの旧来の
技術についても適用限界を考慮しながら有用性を検討していく必要がある。
— 192—
ポスター発表: 群集生態
P2-126c
P2-127c
12:30-14:30
熱帯外洋域におけるプランクトン食物網の構造とその地域・時間変動
◦
12:30-14:30
奥田 青州1, 加賀谷 隆1
1
1
遠洋水産研究所, 2高知大学大学院黒潮圏海洋科学研究科
東京大学大学院農学生命科学研究科森林動物学研究室
熱帯の外洋生態系は、大きく 2 つのタイプに分けられる。赤道湧昇によって
鉛直混合されやすく表層の栄養塩濃度が比較的高い海域 (中央・東部太平洋
の赤道) と、一年を通じて鉛直混合がほとんどない海域 (亜熱帯域や西部太平
洋の赤道) である。鉛直混合による深層からの栄養塩の供給のおかげで、前
者は後者に比べて一次生産性が高く、一次生産者も比較的大型のものが多い
ことがわかっている。海域間での物理・化学環境と一次生産構造の違いは、
捕食者プランクトンの群集組成の違いを通して、食物網構造や生態系機能に
影響している可能性がある。
本研究は、太平洋中央部 (東経 175 度) の赤道上と北緯 24 度で得られた有
光層プランクトン群集の生物量組成を比較し、さらに、それぞれの海域での
食物網の構造と機能の違いを定量的に推定することを目的とした。用いたプ
ランクトンデータは、NEDO によって実施された「北太平洋の炭素循環メカ
ニズムの調査研究」が 1990-1995 年に 5 回づつ行った生物調査の結果であ
る。食物網構造は、プランクトン捕食者のサイズ依存的な捕食を仮定して推
定した。
対象海域の赤道域では、北緯 24 度の亜熱帯域に比べて、水温が平均 2、3
度高く、栄養塩躍層が浅く、一次生産速度が亜熱帯旋回域の約 2 倍となって
いた。一方、植物・動物プランクトン、バクテリアのそれぞれの全生物量や
分類群別の生物量では、両海域間で明らかな違いが見られなかった。それで
も、亜熱帯域は赤道域に比べて原核緑藻類の相対量が若干大きかったため、
推定した平均食物連鎖長 (植物プランクトンからかいあし類まで) は、亜熱帯
旋回域が赤道域より約 0.3 長くなっていた。一次生産速度と食物網構造が異
なるにもかかわらず両海域で捕食者の生物量に明らかな違いが見られなかっ
たことは、時間変動や海域間の水温差に伴う必要代謝量の違いによって説明
できる可能性がある。
山地渓流において落葉リターの分解は重要な生態系プロセスであり、落葉
食底生動物(シュレッダー)はその分解に大きな役割を果たしている。オオ
カクツツトビケラ(以下オオカク)とサトウカクツツトビケラ(以下サトウ)
は、しばしば渓流で同所的に出現するシュレッダーである。第 50 回大会で
は、これら 2 種を混合で飼育した場合の落葉リターの破砕速度は、単独で飼
育した場合から予測されるよりも大きくなることを報告した。この結果は、
一方の種の摂食活動により他方の種にとっての食物条件が改善される「食物
改変効果」によるものと考えられた。ただし食物改変効果の前提となる 2 種
間の食物ニッチの相違は明らかにされていない。また、この実験では種数の
増加が同種に遭遇する確率を低下させ、種内干渉が緩和されることで分解が
促進される「種内干渉緩和効果」を区別できていなかった。本研究は、飼育
実験により先の実験に種内干渉緩和効果が存在していた可能性を検討すると
ともに、オオカクとサトウの食物ニッチの相違を明らかにすることを目的と
する。
実験はいずれも東大秩父演習林内に設置した人工流路で行なった。サトウの
近縁種で生態的に類似したフトヒゲカクツツトビケラを用い、飼育槽の個体
密度を変えた飼育実験を行なった。その結果、先の実験に種内競争緩和効果
が含まれていた可能性は小さいと判断された。オオカクとサトウの食物ニッ
チの相違を明らかにするために、樹種や微生物コンディショニングの程度の
異なる落葉リターを食物として各種単独で飼育を行い、摂食速度、成長速度、
生残率を評価した。その結果、2 種間の摂食速度の差は葉の硬さによって有
意に異なり、柔らかい葉ほど摂食速度はオオカクの方が大であった。落葉リ
ター分解におけるこれら 2 種間で見られた食物改変効果は、サトウの摂食活
動が葉を柔らかくすることで、オオカクの摂食による分解を促進したものと
推察される。
12:30-14:30
樹木‐潜葉性昆虫‐寄生蜂群集の空間構造 (2)
◦
P2-126c
渓流の落葉リター分解と底生動物種の多様性:食物改変効果の検討
◦
市野川 桃子1, 高橋 正征2
P2-128c
8 月 27 日 (金) C 会場
平尾 聡秀1, 村上 正志1
1
北海道大・苫小牧研究林
野外でみられる多くの生息場所は不連続であり、パッチ状に構造化さ
れている。分散能力や探索能力の異なる生物はこのような生息場所の空
間構造に対して種ごとに異なる反応を示すと考えられる。そのとき、生
息場所パッチのサイズやトポロジーの違いが生物間相互作用を規定する
ため、群集構造は生息場所の空間構造から影響を受けていることが予想
される。特に森林では樹木がパッチ状の生息場所となるため、樹木を生
息場所とする生物群集は樹木の配置に基づいて構造化されている。しか
し、樹木‐植食者‐捕食寄生者の 3 種系を考えるとき、寄主の分布様式
が単純に捕食寄生者の分布様式を決定していない可能性がある。そのよ
うな現象が観察される場合、捕食寄生者の分散能力と探索能力の違いが
反映されていると推測される。
本研究では、野外の樹木‐潜葉性昆虫 (リーフマイナー)‐寄生蜂群集
において、潜葉性昆虫個体群の空間分布が、寄生蜂の空間分布に及ぼす
影響を検討した。調査は北海道大学苫小牧研究林で行った。30m 四方の
調査プロットを 5 つ設定し、樹木 8 種の位置を計測した。また、すべて
の樹木個体から潜葉性昆虫と寄生蜂を定量的にサンプリングし、潜葉性
昆虫を飼育することによって樹木パッチあたりの寄生率を調べた。そこ
で得られたデータから、点過程分析により樹木と潜葉性昆虫、寄生蜂の
分布様式を比較する。潜葉性昆虫の分布様式と寄生蜂の分布様式の関係
を明らかにするとともに、その背後にあるメカニズムについて推測する。
さらに、寄生蜂が空間構造に対して種特異的な反応を示す空間スケール
について考察する。
— 193—
P2-129
ポスター発表: 植物群落
P2-129
P2-130
12:30-14:30
ユビソヤナギ林の分布と群集構造
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
伊豆大島における遷移系列からみた植生の多様性
◦
鈴木 和次郎1, 菊地 賢1, 金指 あや子1, 坂 奈穂子2
伊川 耕太1, 中村 幸人2
1
東京農業大学大学院林学専攻, 2東京農業大学地域環境科学部
1
森林総合研究所, 2東京大学
伊豆大島の気候的極相林はオオシマカンスゲ-スダジイ群集となるが、噴
火の影響を受けている現存植生とは異なる遷移段階の植生がみられる。
本研究では植物社会学的方法(Braun-Blanquet 1964)を用いて植生調査
を行い (1) 伊豆大島に存在する植生単位を抽出する。(2) 一次遷移、二
次遷移の系列ごとに植生単位を整理し、両遷移系列を明らかにする。(3)
両遷移系列の関係について明らかすることを目的とした。一次遷移には、
ハチジョウイタドリ–シマタヌキラン群集→ニオイウツギ–オオバヤシャ
ブシ群集→オオバエゴノキ–オオシマザクラ群集→オオシマカンスゲ–ス
ダジイ群集という遷移系列がしられている。二次遷移では、その成立要
因として人為的影響があげられた。また、火山による攪乱が比較的弱い
立地では、火山による二次遷移が見られた。それらは、火山灰の影響を
うけ、林床にダメージを受けているが、種や個体サイズの違いによって
生存に違いが見られた。また、低木以上の種も、火山灰や高熱により被
害を受けるが、胴吹きなどによって再生する個体が見られる。その結果、
火山の影響を受けた二次遷移の系列が成立し、植生単位として、ハチジョ
ウイボタ–オオバエゴノキ群落、ツルマサキ–オオシマザクラ群落、オオ
バエゴノキ–スダジイ群落が判定された。これらの群落は、オオシマザク
ラ–オオバエゴノキ群集との共通種が出現しているものの、その標徴種を
欠いていた。この群落はニオイウツギ-オオバヤシャブシ群集に対応し、
オオバエゴノキ–オオシマザクラ群集へ遷移していくと考えられる。オオ
バエゴノキ-スダジイ群落は高い優占度でスダジイが混交するものの、オ
オシマカンスゲ–スダジイ群集の種は出現していない。この群落はオオシ
マザクラ-オオバエゴノキ群集に対応し、オオシマカンスゲ-スダジイ群集
へ遷移していく。
ユビソヤナギは、北関東から東北地方にかけて隔離的に分布するわが国
固有のヤナギ科植物で、河川により形成される特異な環境(砂礫地)に
成育し、河川の自然攪乱体制の下で、更新と個体群の維持を図っている。
しかし、近年の砂防事業の進行(砂防ダムの構築、護岸工による流路の
固定)により、ユビソヤナギの生育地や更新サイトが著しく減少し、集
団の縮小・孤立・分断化が進んでいる(絶滅危惧種 I b類)。そうした
中、ユビソヤナギの保全を図る上で、ユビソヤナギの生態分布やその群
集構造、生態的諸特性などについて、情報の集積が強く求められている。
本研究では、これまでユビソヤナギの分布が報告されている湯檜曽川、成
瀬川、江合川水系軍沢、和賀川の4地区、22林分で毎木調査を実施し、
ユビソヤナギを含む河畔林の群集構造を解析した。また、これまでに分
布の報告のあった周辺河川および分布の空白地帯おいてユビソヤナギの
分布調査を実施した。
各調査林分において、胸高断面積合計をベースとした種ごとの断面積比
をパラメーターにクラスター分析を行った結果、ユビソヤナギを含む林
分の群集構造は、大きく4群に類型化された。すなわち、オオバヤナギ
が優占するタイプ、ユビソヤナギが優占するタイプ、シロヤナギが優占す
るタイプおよびオノエヤナギが優占するタイプである。この内、シロヤ
ナギの優占するタイプは、シロヤナギが福島県以北に分布することから、
植物地理的な群集組成とみなせる。一方、ユビソヤナギは、オノエヤナ
ギ、オオバヤナギなどと同所的に分布するが、寿命が異なることから時
間的な棲み分けを行う。
本報告では、2003年8月、福島県只見川水系伊南川において新たに
発見されたユビソヤナギの自生地についても言及する。
P2-131
P2-132
12:30-14:30
異なる林冠動態下にあるパッチ間での樹木群集の構造と直径ー樹高ア
ロメトリー
◦
12:30-14:30
真鍋 徹1, 島谷 健一郎2, 河原崎 里子3, 相川 真一4, 山本 進一5
1
北九州市立自然史・歴史博物館, 2統計数理研究所, 3森林総合研究所, 4茨城大学, 5名古屋大学
極相林は撹乱後の経過時間の異なるパッチの集合体であることは周知の事実
であるが、どのような撹乱履歴を持ったパッチがどの程度存在しており、それ
らパッチがどのような構造にあるのかはほとんど知られていない。我々は、極
相林がどのような構造的特徴を持ったパッチのモザイクであるのかを把握する
ため、長崎県対馬市の龍良照葉樹林に設置された 4ha の調査区で調査を行って
いる。
当調査地では、Canopy height profile method により 1966 年・1983 年・1993
年・1998 年の林冠状態が復元されており、1966 年当時からギャップ(林冠高
≦ 15m)であり続けている場所(ギャップパッチ)や 1966 年以降も閉鎖状態
にある場所(閉鎖パッチ)を検出することが可能である。これら林冠動態の異
なる場所を含むベルトトランセクトを設置し、そこに生育している樹高 1.3m
以上の全樹幹の高さ(H)と胸高直径(DBH)を測定した。
その結果、閉鎖パッチでは幹密度が低く階層構造の分化がすすんでいたのに
対し、ギャップパッチでは小サイズ幹の密度が高く階層構造の分化程度が低いこ
とが判った。また主要樹種の H-DBH アロメトリー関係を解析したところ、優
占種のイスノキは林冠状態とアロメトリーは無関係であり、ヤブツバキはギャッ
プパッチで肥大成長を優先させ、クロキやネズミモチは樹高成長を優先させて
いた。
以上のように、ギャップパッチと閉鎖パッチではパッチ内群集の構造に明ら
かな相違がみられた。さらに、樹形のアロメトリー関係を扱った研究では種間
や同種内の成長段階によって相違がみられることが多数報告されているが、今
回新たに、林冠の閉鎖状態に応じて成長パターンを変化させている種が存在す
ること、その変化パターンは種によって異なっていることが明らかになり、こ
れらのことがパッチ内構造に関与しているものと思われた。
12:30-14:30
照葉樹林で樹木はどう死んでいるか—龍良長期モニタリングデータよ
り—
◦
河原崎 里子1, 島谷 健一郎2, 真鍋 徹3, 山本 進一4
1
森林総合研究所, 2統計数理研究所, 3北九州市立自然史歴史博物館, 4名古屋大学
森林の樹木の死亡パターンは各樹種の生態的特性および生育微環境を反映し
ていると考えられ,このパターンをとらえることは,個体群および群集構造の
維持機構を把握する端緒となる。天然林を構成する樹木は生物の中でも最も長
命な種であり,特に,環境ストレス等に脆弱な実生や稚樹の段階を生き抜いた
成木(胸高直径 DBH5 cm 以上の幹)について,死亡のパターンを明らかにす
るためには長期モニタリングが必要である。
長崎県対馬,龍良照葉樹天然林では 1990 年に 4ha の調査区が設置され,以
来,12 年間に 4 回,各樹木の生死状態・DBH・林冠状態(閉鎖,ギャップ,お
よび中間)を調査している。12 年間のデータから主要樹種がサイズや林冠状態
に依存して死亡するか否かの抽出を試みた。サイズ依存の死亡は,小個体では
環境ストレス等に脆弱で死亡率が高く,大個体になるにつれて寿命を全うした
死亡が増加することを仮定し,小個体と大個体で死亡率が高くなる二山分布の
モデル式をつくり,モデル式への当てはまりの良さから,死亡パターンを明ら
かにした。また,このモデル式をすべての個体に適用した場合と林冠状態ごと
に適用した場合で当てはまりの良さを比較し,林冠状態が死亡率におよぼす影
響を調べた。
以下,結果の一部である。1. 最優占樹種のイスノキはサイズ依存のある死亡
率を示し,DBH 30 cm 以下の小個体で死亡率が高かった。さらに,死亡は林冠
状態にも依存し,閉鎖林冠下で小個体の死亡率が高かった。2. ツバキは林冠状
態によってサイズ依存の死亡パターンが大きく異なった。閉鎖林冠下ではほぼ
一定の死亡率を示したが,ギャップでは DBH15 cm 前後の個体の死亡率が高
く,中間ではそれ以上のサイズの死亡率が高かった。3. カクレミノとサカキは
林冠状態と死亡率は独立であった。小個体で死亡率が高いだけでなく,DBH25
cm 以上で死亡率が増加した。
— 194—
ポスター発表: 植物群落
P2-133
P2-134
12:30-14:30
東日本太平洋側におけるブナ及びブナ林の分布–八溝山地と阿武隈山地
について–
◦
◦
久保田 康裕1
1
鹿児島大学教育学部
1
千葉県立中央博物館, 2宮城教育大・生物, 3横浜国立大学・院・環境情報, 4千葉経済大
北関東 ∼ 東北にかけての太平洋側の地域では、気候的極相林としてのブナ林
の発達する領域は、元々、日本海側の地域と比べて水平的にも垂直的にも狭い
と考えられ、また古くからの開発によって、すでに大半が失われてしまってい
るのが現状である。一方、これらの地域では、近年、従来の学説によって予想
されるよりも低海抜の地に、ブナの混じる小林分が点々と分布することが報告
されているが、これら低海抜地のブナ林については、1)ブナは種としては普通
種であること、2)二次林であることも多く原生林としての希少性が認められな
い、などの理由で十分な保護が図られず、また、分布情報さえ十分には把握さ
れていないのが現状である。しかし、分布限界付近に点在するこれらの群落こ
そ、植物群落の分布や歴史を考える上で最も重要で、歴史の生き証人ともいう
べき群落である可能性がある。また気候変化によって、真っ先に影響を受けて
存続が危ぶまれるのも、このような群落である。特にブナの場合は、日本の森
林帯の主要樹種であり、分布下限付近の群落の変化は植生帯全体の変化に大き
く影響する。これらのことを背景とし、上記の地域のブナ及びブナ林の分布に
ついて、文献や標本調査、聞き込みによってデータベースを作成し、群落の状
態を現地調査によって明らかにする研究を行っている。今回は現地調査を終え
た八溝山地と阿武隈山地について報告する。これまでに 1)ブナは WI=85 を
越えて WI=105 付近まで分布する地域があり、また分布下限の WI は地域ごと
にかなり異なる、2)ブナの分布下限はスダジイまたはカシ類の分布と重複、ま
たは接する場合が多い、3)ブナは高海抜地では“ ブナ優占林 ”を形成するが、
低海抜域ではシデ類やイヌブナ、モミ、カシ類などに混交して、主に尾根や上
部斜面にパッチ状に出現する、などが明らかとなった。
霧島山系大浪池周辺の森林群集は、冷温帯と暖温帯の移行帯(ecotone)に位
置しているため、常緑針葉樹・落葉広葉樹・常緑広葉樹といった機能型の異
なる林木種が共存している。したがって林分の長期モニタリングによって、
今後の気候変動に伴う森林動態の応答を検出するには、ユニークな地域であ
る。筆者は 1998 年から極相林に 1ha のプロットを設置し、4 年間にわたり
林木個体レベルの生長動態と地上部生産量を継続調査している。
本論では、森林動態の重要なメカニズムであるギャップ撹乱が、暖温帯林の
生産量に及ぼす効果を明らかにした。また他の冷温帯林や北方林との動態比
較に基づき、異なる機能型を有する林木種から構成される多様な群集の自然
撹乱に対する resilience の高さを考察した。
林分構成種は 41 種だった。常緑針葉樹 4 種、落葉広葉樹 23 種、常緑広葉樹
14 種それぞれが、異なる階層や空間に分布することで空間的異質性が維持さ
れていた。林分の地上部現存量は 316.7ton/ha で、その生産量は 6.9ton/ha,yr
だった。幹の生長量は生産量の 45.5%を占めていた。さらに機能型別に見る
と、下層で優占する常緑広葉樹が生産量に大きく貢献していた。
林冠種である針葉樹と落葉広葉樹の死亡率はリクルート率を上回っており、
個体群の定常性は保たれていなかった。一方下層種である常緑広葉樹はギャッ
プ依存の更新で個体群がほぼ維持されていた。したがって林分の生産量は、
林分における針葉樹、落葉広葉樹、常緑広葉樹の混交状態によって変動する
ことが予想された。また下層常緑広葉樹の個体レベルでの生長動態は、ギャッ
プ形成によって加速されることが示された。したがって、林冠層における針
葉樹と落葉広葉樹の枯死に伴う生産量の減少は、下層常緑樹のギャップ依存的
生長動態によって一時的・部分的に補償されることが示唆された。エコトー
ン特有の林分構成種における機能型の多様性(特に下層に常緑広葉樹が混交
すること)が、ギャップ撹乱に対する林分生産量の resilience を高めている
と考えられた。
P2-136
12:30-14:30
富士山亜高山帯針葉樹林における道路開設30年後の林分構造と動態
◦
12:30-14:30
暖温帯針広混交林におけるギャップ動態が生産量に及ぼす効果
原 正利1, 平吹 喜彦2, 富田 端樹3, 内山 隆4
P2-135
P2-133
8 月 27 日 (金) C 会場
長池 卓男1, 新井 伸昌2, 高野瀬 洋一郎2, 阿部 みどり3
四国山地塩塚高原における半自然草地植生の成立要因および季節変化
と植物相
◦
1
山梨県森林総合研究所, 2新潟大学, 3秋田県立大学
道路開設後30年が経過した亜高山帯針葉樹林において、道路開設が林
分構造と最近の更新に及ぼす影響を明らかにするために調査を行った。
調査地は富士山北斜面であり、標高2100m地点に50m×140m
(0、7ha)の調査区を1999年に設置した。調査区は道際(0m)
から森林内部(140m)にかけて垂直方向に設置した。調査区を10
m×10mのコドラートに分割し、コドラートごとに樹高2m以上の生
立木および枯立木すべてを対象にして毎木調査を行った。毎木調査は2
001、2003年にも行い、新規加入個体、死亡個体も記録した。
毎木調査の結果、生立木の胸高断面積合計ではコメツガとオオシラビ
ソ、立木密度ではコメツガ、オオシラビソとシラビソが優占していた。全
樹種の立木密度はこの4年間で減少していたが、それはハクサンシャク
ナゲの減少によるところが大きく、針葉樹3種の変化は小さかった。し
かしながら、針葉樹3種の胸高断面積合計は減少していた。枯死木の平
均胸高直径は、コメツガの9.5cm、シラビソの5.1cmに対し、オ
オシラビソは17.0cmであった。
また、ニホンジカによると思われる生立木への剥皮は、調査区面積あ
たり1999年12本、2001年21本、2003年81本と増加し
ていた。しかしながら、剥皮による死亡個体は1999→2001年4
本、2001→2003年7本と、現在までのところは少なかった。
12:30-14:30
河野 円樹1, 石川 愼吾1, 三宅 尚1
1
高知大学・院・理
火入れや刈り取りといった人為的影響のもとに成立した半自然草地は、そ
の歴史性に加え、生物多様性、風土性、景観性、レクリエーション性などに
おいても高く評価され、環境面での価値が増大している。本研究では、現在
火入れによって維持されている塩塚高原(愛媛・徳島県境、海抜 1043,4 m)
において、ススキ型の半自然草地植生の多様性とその季節変化を明らかにす
ることを目的とした。春季から秋季にかけて優占種の異なる代表的な群落 32
地点において、毎月一回の植生調査を行った。さらに植物相の調査を行い、
草原生植物、特に絶滅危惧種について生育場所を把握した上で、その生育環
境の解析を試みた。
各継続調査スタンドを、火入れ、刈り取り、火入れと刈り取りの 3 種類
の影響を受ける場所に分けた結果、刈り取りのみのスタンドで火入れのみの
スタンドより一年を通して種数、多様度指数共に高い値を示し、刈り取りは
火入れよりも植物の種多様性を維持するためには効果的であることが示唆さ
れた。植物相の調査より、塩塚高原全域で 108 科 299 属 509 種、草原域の
みで 74 科 199 属 306 種の生育が確認され、このうち塩塚高原全域では 40
種、草原域のみでは 35 種が、愛媛・徳島・高知県および環境庁のいずれか
の RDB 掲載種であった。
また、草原域に見られた草原生植物のいくつかは、それぞれ特徴的な分布
を示していた。例えば、火入れの影響の強い場所にはススキ、トダシバをは
じめフシグロやヤナギタンポポ、オオナンバンギセルなどの種が多く見られ、
刈り取りの影響の強い場所ではオカトラノオやノコンギクをはじめカンサイ
タンポポやニガナ、ハバヤマボクチ、モリアザミなどが多く生育していた。
このように、それぞれの種の生育場所について、管理様式の違いや、傾斜角
度・方位、群落高の違いなど、さまざまな要因が関係していることが示唆さ
れた。
— 195—
P2-137
ポスター発表: 植物群落
P2-137
P2-138
12:30-14:30
部分的伐採を受けた針広混交林の回復過程
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
立地条件の異なる場所に形成された二次遷移初期過程の植物群落
吉田 俊也1, 野口 麻穂子2
◦
1
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター雨龍研究林, 2北海道大学大学院農学研究科
千葉県立衛生短期大学, 2茨城大学農学部, 3前千葉大学理学部
東京湾沿岸の埋立地(千葉市美浜区)に裸地化した調査地を設け、二次
遷移初期過程の植物群落について、出現種の移り変わりを調べた。裸地
化から 3 年間で、47 種が出現し、優占種はスズメガヤ(Th)、メヒシバ
(Th)、アキメヒシバ(Th)→オオアレチノギク(Th(w))→チガヤ(H)
と移り変わった。この調査結果と比較するために、休耕畑(千葉県袖ヶ
浦市、以下 A)と都市部の緑地(東京都目黒区自然教育園内、以下 B)
で同様の調査を行った。裸地化から 3 年間で、A では 44 種が出現し、
優占種はホナガイヌビユ(Th)、メヒシバ→メマツヨイグサ(Th(w))、ヒ
メムカシヨモギ(Th(w))→メマツヨイグサ、ヒメムカシヨモギ、セイタ
カアワダチソウ(Ch)と移り変わった。B では 64 種が出現したが、裸
地化 1 年目はほとんど出現せず、優占種は 2 年目がメヒシバ、3 年目が
メヒシバ、コブナグサ(Th)、ヒメムカシヨモギであった。A では埋立
地と同様に裸地化から 3 年間で優占種が夏型一年生草本植物から冬型一
年生草本植物を経て多年生草本植物に移り変わる様子が見られた。しか
し、B では裸地化から 3 年目まで、優占種は夏型一年生草本植物のメヒ
シバであった。
これらの結果から、遷移の起こる場所が埋立地や農耕地のように開か
れたところでは優占種は短期間に明確に移り変わるが、都市部の緑地の
ように隔離されているようなところでは、優占種の変遷には時間がかか
り、明確な変遷は見られないことが明らかになった。
P2-140
12:30-14:30
再造林放棄地における植生回復
◦
飯島 和子1, 佐合 隆一2, 大賀 宣彦3
1
択伐のような部分的伐採(非皆伐)に関する過去の研究の多くは、林分の
蓄積回復に焦点を当ててきた。蓄積の回復過程は一般にばらつきが大きく、
望んだような回復が示されない例も多数存在する。一方、生物多様性の保
全を意識した森林管理手法として部分的伐採は重要な位置を占めるが、立
木以外の構造や種組成・種多様性に対する伐採の影響評価は少ない。この
報告では林冠構成種の種多様度に注目しながら、伐採後およそ 15 年間の
林分の動態・回復過程を記載し、その不均質性に影響する要因を明らかに
することを目的とした。
【調査地と方法】 北海道大学中川研究林に設置さ
れている長期観察プロット(面積は 0.25–0.50ha)合計 51 箇所のデータを
解析に用いた。これらの林分は 1969–1985 年に一回の伐採が行われ、その
直前から胸高直径 6cm 以上の立木について 5–8 年間隔で毎木調査が行な
われてきた。ここでは伐採後約 15 年(14-16 年)間のデータを、針葉樹・
耐陰性広葉樹・非耐陰性広葉樹の種群に分け、各プロットごとに集計した。
【結果と考察】 伐採直後の胸高断面積(BA:m2 )に対する 15 年後の値は、
・新規加
70-145 %のばらつきがあった(平均 110 %)。枯死率(/m2 /year)
入率(/m2 /year)は、ともに針葉樹よりも広葉樹で高い傾向があった。成長
率(/m2 /year)は密度効果(BA の負の相関、伐採 BA の正の相関)を示し
たが、新規加入率に対してはその効果は明らかではなく、むしろ種多様度
が正の相関を持っていた。この傾向はいずれの種群でも有意であった。種
多様度は、期間を通しての回復率(成長+新規加入–枯死:/m2 /year)に対し
ても、針葉樹および耐陰性広葉樹の場合に正の相関を示していた。部分的
伐採後の回復速度はさまざまな要因に影響されると考えられるが、初期の
種多様度の高さは蓄積の回復傾向を維持するひとつの要因であることが示
された。
P2-139
12:30-14:30
12:30-14:30
熱帯マングローブ林における潮汐傾度に沿った撹乱体制と更新パター
ンの変化
長島 啓子1, 吉田 茂二郎2, 保坂 武宣2
◦
1
広島大学大学院国際協力研究科, 2九州大学大学院農学研究院
わが国の林業を取り巻く情勢が厳しさを増す中,皆伐後に再造林が成さ
れない再造林放棄地が増加している.これらの放棄地の増加は,植生が
回復しない場合,水土保全機能の低下やそれに伴う土砂流出災害の危険
性があるとして,危惧されている.筆者らはこれまで,大分県北西部に
おいて放棄地の植生回復状況と立地条件(標高・傾斜・放棄年数)との
関係を調査してきた.その結果,
(1)回復している植生の主要樹種が放棄
年数と標高によって異なること,(2)回復初期には,先駆性樹種が優占す
るパターンとシロダモが優占するパターンがあることが見出された. そ
の一方,より一般的な植生回復パターンを見出すには,調査プロット数
の増加や周辺植生・過去の植生との関係を把握する必要性が示唆された.
そこで本研究では,立地条件に加え,放棄地の植生回復状況と周辺植
生,過去の植生との関係を明らかにすることを目的としている.調査対象
地は,これまでの大分県北西部 17 箇所の放棄地に加え,南部に分布する
放棄地 20 箇所の計 37 箇所とした.各放棄地において4m×4mの方形
区を 2 プロットずつ設置し,出現種・植被率を記載した.また DBH1cm
以上の樹種については毎木調査も行なった.各放棄地の立地条件は,放
棄地分布図と標高・傾斜・植生の各地図とを重ね合わせることで得た.過
去の植生については,米軍によって撮影された空中写真を用いて人工林,
広葉樹林,他の土地利用(水田など)の判読を試みた.本発表では,ク
ラスター分析によって各プロットの植生を分類し,各植生分類群と立地
条件,周辺植生,過去の植生との関係を統計解析によって把握した結果
を報告する.
今井 伸夫1, 中村 幸人2
1
東京農業大学大学院, 林学専攻, 2東京農業大学, 地域環境科学部
熱帯・亜熱帯の潮間帯にみられるマングローブ植生には, 潮汐傾度に沿って樹
種組成群が漸次変化していく成帯構造 zonation がみられる. 帯状に分布する
植生間では種組成と群落構造に違いがあり, 植生帯間では異なる更新パター
ンをとることが予想される. 攪乱は森林の組成や構造, 更新を決定する重要
な要素であることが知られているが, これまで植生帯間で攪乱体制の比較を
行った研究は行われていない. 本研究は, 熱帯マングローブ林の攪乱体制と
更新パターンが潮汐傾度に沿ってどのように変化するのかを明らかにするこ
とを目的とした. タイ, ラノン県のマングローブ林には, 海側からマヤプシキ
(S.alba; 以下 Sa) とウラジロヒルギダマシ (A.alba;Aa) の混交林→フタバナ
ヒルギ (R.apiculata;Ra) 林→ Ra とオヒルギ (B.gymnorrhiza;Bg) の混交林が
配分している. この 3 群落中に約 0.5ha の調査区を 2 箇所ずつ設置した. 調
査区内において 0.5m 以上の全個体の毎木調査と樹冠面積の測定, ギャップセ
ンサスを行った.Sa-Aa 林区では幹密度が低く,Sa,Aa 両種ともに樹幹面積が
大きいため, 単木的な枯死や根返りでも大きなサイズのギャップが形成され
る. 両種の耐陰性は低く, ギャップ下には稚樹パッチが形成されるが林冠下に
は稚樹はほとんどなかった. 一方,Ra 林区と Ra-Bg 林区は, 両林区とも幹密
度が高く, ギャップ下だけでなく閉鎖林冠下にも多くの稚樹が確認された. こ
れは, ひとつには次世代種の Ra,Bg の稚樹の耐陰性が高いことがある. また
ギャップは Ra,Bg の大径木の風倒による根返りが多いが, 樹幹面積が小さい
ためにギャップサイズも小さい. さらにギャップの形態が樹形に沿った縦に細
長い形であるために, 隣接木や下層の稚樹が比較的早くギャップを埋める可能
性が高くなる. 以上のように,Sa や Aa など耐陰性の低い樹種の優占林ではサ
イズの大きいギャップが, 一方 Ra や Bg など比較的耐陰性が高く稚樹バン
クを形成する樹種の優占林では小ギャップが形成される傾向が見られ, 各植
生帯の優占種の更新特性と攪乱体制の間に相応的な更新パターンがみられた.
— 196—
ポスター発表: 植物群落
P2-141
12:30-14:30
鳥取砂丘の安定化に伴う海浜植生の群落構造の変化
◦
P2-142
◦
谷本 丈夫1, 伊藤 祥子1, 水野 梓1
1
1
宇都宮大学農学部
京都大学大学院地球環境学大学院
鳥取砂丘では、防風林として植栽されたクロマツやニセアカシアが汀
線に向かって砂丘内に侵入する現象が見られ、裸地面が減少し、安定化
が進行している。本報告では、海浜植生を持続的に管理することを目的
に、砂丘の安定化が、群落構造へ与えた影響について明らかにした。
鳥取砂丘の千代川河口付近の汀線から約 500m に位置する砂丘列にお
いて、1986 年に 84 箇所のコドラート(2.5m × 2.5m)を設置した。各
コドラートについて、ブラン–ブランケットの植物社会学的手法により、
コドラート内に生育する植物種とその被度を測定するとともに、基点から
各コドラートの標高を水準測量により 1986 年 11 月 15 日に測量した。
これより 16 年が経過した 2002 年に、同地点について 1986 年に調査し
たのと同様な手法で、植生調査と測量を実施した。また、これらの調査結
果を TWINSPAN 法による分類、DCA 法による序列化により比較した。
調査対象地域の植生は、1986 年においては、コウボウムギ群落、ケカ
モノハシ群落、メマツヨイグサ群落の3タイプに分類されたが、2002 年
においては、これまでに見られた草本群落に加えて、アキグミ群落、クロ
マツ群落などの木本が優占する群落タイプも見られるようになった。ま
た、種数は、1986 年においては、15 種であったのに対し、2002 年にお
いては、41 種と増加がみられた。なかでもこれまで調査対象地域に見ら
れなかった外来種のコバンソウ、マンテマ、ハナヌカススキなどの草本、
ニセアカシアなどの木本の侵入が顕著であった。
このまま、砂丘の安定化が続くと海浜植生の優占する群落タイプが減
少するとともに、樹林化が進行し、遷移が進行すると予想される。海浜
植生を持続的に維持していくためには、調査対象地域周辺を攪乱するこ
とで裸地化を図り、砂丘を再流動化させることが必要と考えられる。
12:30-14:30
栗駒山におけるオオシラビソ小林分の齢構成
◦
12:30-14:30
尾瀬ヶ原湿原におけるシカ食害の発生傾向と回復
笹木 義雄1, 森本 幸裕1
P2-143
P2-141
8 月 27 日 (金) C 会場
若松 伸彦1, 菊池 多賀夫1
1
横浜国大・院・環境情報
栗駒山におけるオオシラビソ林の分布は、西稜線の一角にある秣岳の非
常に狭い範囲に限られている。付近の花粉分析では Abies 花粉が検出され
ておらず、林分形成当初から現在のような小林分であるとされている。こ
のオオシラビソ林の存在は、最終氷期以降に東北地方の山岳でおこったオ
オシラビソ林の分布拡大のメカニズムを明らかにする上では見逃すことの
できない存在である。今回、この小林分内の齢構成の検討をおこなったの
で報告する。
オオシラビソ林の林床は、表層物質が厚く堆積し、チシマザサが卓越す
るササ型林床と、岩塊が表層に剥き出しになり、コケがその上を覆ってい
るコケ型林床の 2 タイプが存在した。どの林分内も、齢構成は実生の数が
多く高齢木になるにつれて個体数が減少する逆 J 字型の構造であった。ま
た,連続的な齢構成を示し、250 年を超える個体も広い範囲で確認された。
どの地点の齢構成でも、100 年と 200 年前後にモードが存在し、他の世
代よりも個体数が多くなっていた。年輪幅の計測によると、100 年と 200
年前後の年輪幅が極端に狭くなっている個体が多かった。
以上のように、樹齢 250 年を超える高齢木が存在しており、連続的な齢
構成を示していることから、少なくとも 250 年前にはオオシラビソ林が成
立し、現在まで維持されてきたと判断される。齢構成が逆 J 字型であるこ
とから、後継個体も連続しており、今後もこれらのオオシラビソ林分は維
持されていくことが期待される。
100 年、200 年前後の年齢を示す個体数が多いという事実は、その時期
にオオシラビソの定着が特に進んだことを示唆するが、コケ型林床の林内
においてもその傾向がみられることから、ササ枯れによる定着の増加によ
るものではないと考えられる。定着個体数の増加時期における、年輪幅の
狭まりとの因果関係が注目される。
1990 年代より奥日光を中心とした山岳地帯おいて、シカの食圧などが亜
高山性針葉樹林と戦場ヶ原のような湿性草原で顕在化し、本来の群落維
持が困難な状態となっていた。このような傾向は 1994 年頃より尾瀬沼、
尾瀬ヶ原周辺の湿原群落にも現れ、湿原崩壊が憂慮される状態となってい
た。この報告では、1994 年から 2004 年まで 10 年間、尾瀬沼、尾瀬ヶ
原におけるシカ食害の発生傾向をもとに、湿原植物のシカ被害回避と植
生回復の基礎資料とするため、それぞれ被害の推移を観察してきた結果
についてまとめた。尾瀬沼等で発生したシカ食害の発生は、ミツガシワ
群落において顕著であった。その被害は 1) 融雪直後の湿原撹乱による
ミツガシワの根茎の食害、2) 池塘あるいは流路内に生育するミツガシワ
の地上部が、シカの喫食可能範囲まで食害を受ける。の二つに区分でき
た。河川の氾濫原に生育するエゾリンドウ、アザミ類の食害、周辺林内に
おけるコマユミなどの小低木、ウワバミソウなどの林床植生の被害など
も一部の場所において年々顕著になってきている。ミズガシワ以外の食
害は、ミズガシワが生育している湿原の周辺において頻繁に発生してお
り、春先のミズガシワの食害と関連が深いことがうかがわれた。ミツガ
シワ群落が優占する場所は、湿原内に貫入した河川が、湿原に取り囲ま
れた場所、池塘あるいは河川の縁などで見られ、ミツガシワの草丈、混
生する群落構成種は、それぞれの場所で異なっていた。ミツガシワ群落
が撹乱された跡地の植生回復は、ヤチスゲ、ハリミズゴケ、サギスゲ、ミ
ツガシワなど比較的残存している種が生育してくる場所やクロイヌノヒ
ゲ、ハクサンスゲが優占種となり、景観が大きく変わるものなどさまざ
まであった。また、これらの植生回復は、撹乱後の水位の変化、すなわ
ち掘り上げで乾燥するあるいは掘り下げられ凹地となり、沈水する地形
となる場所などとの対応が認められた。
P2-144
12:30-14:30
アカマツ林伐採跡地における地表処理と更新樹種の関係
◦
西畑 敦子1, 佐野 淳之2
1
鳥取大学大学院農学研究科森林生態系管理学研究室, 2鳥取大学農学部附属演習林
本研究ではアカマツ林伐採跡地において地表処理の違いによる侵入 樹種
の組成について調べ、地表処理と更新樹種の関係を明らかにすることを目
的とする。
アカマツ林の伐採跡地は 1997 年に伐採されたところで 2002 年に 3 種
類の地表処理が施された。それぞれの処理区 (掻起区、刈払区、放置区) に
20 m × 20 m のプロットを 4 つ設置した。また残存するアカマツ天然林
に、対照区として同じ大きさのプロットを 4 つ設置した。DBH 1 cm 以上
の個体を上層として樹種同定を行い、DBH と樹高を測定した。下層の個体
は被度を調べ、出現した樹種を同定し本数を数えた。光環境を調べるため、
全天空写真を撮影し開空率を求めた。種子供給を調べるため、それぞれの
プロットの中心に設置したシードトラップで落下種子を採集し、種を同定
した。
放置区では対照区とほぼ同数の樹種が出現したが、多様性・均等度とも
に放置区のほうが高かった。すなわち、アカマツの密度が高いが、アカマ
ツ以外の樹種も多かった。中でも優占度が比較的高く、成長の良いコナラ
が存在するため、アカマツ-コナラ林に発達していくと考えられる。刈払区
ではアカマツが多く見られた。しかし、コナラ、リョウブなどの萌芽能力
の高く、樹高成長の良い樹種が多くあり、萌芽能力の低いアカマツには不
利となる。このことから萌芽能力が高く、成長の良い高木種であるコナラ
が優位である。したがって、刈払区ではコナラが林冠で優占し、アカマツ
は光条件の良い開空地にわずかに更新し、アカマツが混生するコナラ林が
成立すると考えられる。掻起区ではアカマツ以外の高木種はほとんど出現
せず、アカマツ以外の樹種にとっては侵入しにくい環境であるため、今後
はアカマツ林が成立すると考えられる。
— 197—
P2-145
ポスター発表: 植物群落
P2-145
12:30-14:30
横須賀市における帰化植物に関する植物社会学的解析
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
P2-146
12:30-14:30
達古武沼水草の群落構造
◦
鈴木 伸一1
1
(財) 国際生態学センター
渡辺 雅子1, 野坂 拓馬2, 若菜 勇3, 辻 ねむ3, 高村 典子4, 中川 恵4, 五十嵐 聖貴4, 三上
英敏5, 石川 靖5, 上野 洋一1, 角野 康郎6
1
外来種の侵入防除と帰化植物の分布拡大防止、駆除は緊急の課題であ
る。日本においても、帰化植物の問題は地球環境問題と並行して、しばし
ば新聞やテレビなどで報道され、その対策が市民活動の課題の一つとし
てとりあげられることがある。しかし、実際の対策を策定する前に、取
り組まなければならないことは、現在の帰化植物についての正しい知識
との生育状況についての充分な把握である。特定の種だけでなく、全て
の帰化種について、野外における在来種との種間関係や分布状況、生態
などを総合的に把握することによって、それらの結果から、帰化植物の
防除について具体的な処方箋を策定することが期待される。
日本における帰化植物の生育状況を把握することを目的として、神奈
川県横須賀市を例に植物社会学的な解析を行った。1998 年から 2001 年
にかけて、横須賀市全域から植物社会学的に区分された 50 群集 49 群落
について総合常在度表に集計し、帰化植物の出現動向を調べた。その結
果、全植生単位の出現総数 612 種に対して、64 種の帰化植物が確認され
た。それらの帰化植物は、本来の潜在自然植生である常緑広葉樹林をは
じめとする森林植生にはほとんど生育していないが、人為的な撹乱の激
しい市街地の路傍や造成地、あるいは耕作地の二次的な草本群落では多
くの種が侵入していた。また、それぞれの群落タイプによって出現する
帰化植物の種組成が異なっていた。帰化率では、耕作地、造成地、用水
路、路上など常に持続的な人為的撹乱を受けている立地で高い値を示し
ている。このように、帰化植物は無秩序に侵入しているのではなく、散
布された地域の植生環境と種の立地特性に対応している傾向がみられる。
これらの結果から、帰化植物の駆除対策は、対象となる帰化植物の種特
性と侵入環境を把握した上で行われる必要があり、潜在自然植生を中心
とする森林植生の形成を生態系修復の軸として、景観整備を行うことが
望まれる。
P2-147
12:30-14:30
暖温帯照葉樹二次林における主要構成種 5 種の株構造解析
◦
伊藤 哲 1, 井藤 宏香1, 光田 靖1
1
宮崎大学農学部
照葉樹林における微地形に関連した樹木の共存機構に関する情報は少な
い。我々は、これまでの研究で宮崎大学田野演習林の暖温帯照葉樹壮齢
二次林に設置された 1ha プロットの森林構造および微地形を調査し、樹
木個体の分布の特徴から、微地形に着目した樹木集団のギルド構造を明
らかにしてきた。今後は、その形成プロセスを解明するために、個体群
のダイナミクスから、それぞれの樹種の立地選択性の要因を解析する必
要がある。その際、二次林特有の萌芽株の構造と幹の淘汰および幹置換
による個体維持は、個体群の動態に大きく影響すると予想される。
本研究では、二次林の特徴である萌芽株に着目した林分構造および動態
の解析を行った。主要構成種 5 種の個体群動態を、個体レベルおよび幹
レベルで解析することにより、萌芽株の構造が個体群動態に及ぼす影響
を検討した。各樹種の生残率や直径成長の微地形に対する依存性はあま
り顕著に現れなかった。また、いずれの樹種でも生残率が初期のサイズ
に強く依存しており、直径成長も各個体の被圧状態によってほぼ規定さ
れていた。このことは、調査期間の 6 年間に大きな撹乱イベントが発生
していないためであると考えられる。また、樹木の成長や生残が微地形
などの立地的要因よりも既に形成された林分構造によって規定されると
推察される。しかし、個体ベースの動態と比較すると、幹ベースの動態
が種ごとの更新の特徴および微地形に対する依存性を反映していた。
以上の結果から、壮齢照葉樹二次林がより成熟した林分構造に発達する段
階において、株構造の形成および幹の淘汰が個体群全体の動態を規定す
る重要な要素であり、樹木種の共存機構にも影響を与えると考えられた。
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター, 2北海道教育大学釧路校, 3阿寒湖畔エコミュージア
ムセンター, 4国立環境研究所, 5北海道環境研究センター, 6神戸大学理学部生物学科
北海道東部に位置する釧路湿原達古武沼では 1975 年から数回行われてい
る植生調査によると、水生植物の種数が減少する傾向にあることが報告さ
れている。その理由として、水質の変化や土砂流入に伴う底質の改変など
が指摘されているが不明な点が多い。また、湖沼の生態系における水生植
物の役割は大きいにもかかわらず、水生植物についての調査は植生調査以
外なされておらず、その群落構造や生育環境との関わりについて不明な点
が多い。そこで、本研究では達古武沼に生育する水草群落の種多様性と現
存量の関係や種多様性と生育環境との関係について解析することを目的と
し、2003 年 7 月 23-24 日に調査を行った。
調査は、沼内 25 地点において 1m x 1m のコドラート内の水草の坪刈りと、
水質や底質・光量など、水草の生育環境測定を行った。採集した水草は種
毎に分別し、沈水植物については地上部・地下部に、浮葉植物については
水上部・水中部・地下部に分け乾燥重量を測定した。
沼内の水質環境について主成分分析をした結果、第一主成分(寄与率 52.9%)
では Chl.a、TN、SS、k(光の消衰係数)、TP などが高い値を示した。こ
の第一主成分と水草の多様度指数との間には有意差はみられなかったもの
の負の関係を持つ傾向が見られた。一方、第一主成分と水草全体の現存量
との間には有意に正の関係があった。達古武沼において優占種であるヒシ
の現存量と水草全体の現存量の間には有意な正の関係があったが、多様度
指数との関係はなかった。しかし、ヒシの現存量と環境の第一主成分との
間に有意な正の関係があることから、ヒシを達古武沼の環境変化にたいす
る指標種として利用できるのではないかと考えられる。
P2-148
12:30-14:30
アマゾン天然林における樹木の更新と下層の光環境
◦
飯田 滋生1, 九島 宏道2, 八木橋 勉2, 田内 裕之2, 中村 松三2, 斉藤 哲3, Higuchi Niro4
1
森林総合研究所北海道支所, 2森林総合研究所, 3森林総合研究所九州支所, 4国立アマゾン研究所
演者らはアマゾンの天然林において樹木の更新に適した光環境、および林
内において更新に適した光環境の割合を明らかにするために、アマゾン河
中流の都市マナウスの北方約 90km に位置するアマゾン国立研究所の試験
林内に設置した 2 本のベルトトランセクト(20m X 2500m)において 51
個の小方形枠(1m X 4m)を光環境が様々に異なるように設け、下層(地上
1m)の光環境と稚樹(樹高 1m 以下)の生長および生残との関係を明らか
にした。また、同試験林内に設置した 18ha(300m X 600m)の固定試験地
において林冠ギャップ(5m X 5m 枠毎に中心での樹高が 10m 以下)の調
査を行うとともに、3 つの林冠区分(林分全体、閉鎖林冠、林冠ギャップ)
について下層の光環境の調査を行った。
ベルトトランセクトにおいて、稚樹全体で見ると相対光合成有効光量子束
密度(rPPFD) と枠毎の平均の稚樹の相対成長速度(RGR)との間には有意
な正の相関が認められ、rPPFD がおよそ 5%以上で成長が良くなる傾向が
あった。一方,各枠における rPPFD と枠毎の全稚樹の年生存率との間には
有意な関係は認められなかった。これらは、稚樹全体として見れば天然林
においてシードリングバンクの形成は可能であるが、稚樹の成長のために
は光環境の良好な林冠ギャップが必要であることを示唆している。
18ha 試験地においてギャップの占める面積は 6.0%であった。平均の rPPFD
は林分全体,閉鎖林冠,林冠ギャップでそれぞれ 2.0 ± 1.0%,2.0 ± 0.9%,
3.8 ± 2.8%であり、ギャップの rPPFD は他の林冠区分の値よりも有意に
大きかった。rPPFD が 5%以上であれば稚樹の更新に適しているとすれば、
その割合は林分全体、閉鎖林冠、林冠ギャップではそれぞれ 0.7%、0.2%、
22.0%であり、更新適地としての林冠ギャップの重要性が示された。
— 198—
ポスター発表: 植物群落
P2-149
P2-150
12:30-14:30
本州中部鬼怒沼周辺における亜高山性針葉樹林の更新
◦
◦
1
筑波大学環境科学研究科, 2筑波大学生命環境科学研究科, 3森林総合研究所
米林 仲1
1
立正大・地球環境
本研究では本州中部奥鬼怒地域・鬼怒沼周辺の亜高山性針葉樹林におい
て、その更新様式を明らかにすることを目的とした。まず、調査地内の樹木
を林冠木・林冠下幼木・ギャップメーカー・ギャップ下幼木の4つの更新カ
テゴリーに分けた。林冠木・林冠下幼木については PCQ 法を用い、種名・
胸高直径等を計測した。この方法から得られた相対密度・相対優占度・相
対頻度を積算し積算優占度 PWIV 値を求め、優占度の指針とした。ギャッ
プに関しては、PCQ 法で利用したラインを中心とした 20 × 200m2 の範
囲を調査区とし、その内部に中心が含まれるギャップを対象としてギャップ
の長径・短径を計測し、楕円近似によって面積を求めた。更にギャップ形成
の原因となった枯死木と、ギャップ内で生育していた全幼木の樹種・胸高直
径を計測した。
林冠木の積算優占度 PWIV 値はオオシラビソ・コメツガ・トウヒの順に、
林冠下幼木ではオオシラビソのみが高い値を示した。全更新カテゴリーで各
樹種を比較するために、100m2 当たりの相対密度を用いた。オオシラビソ
は全カテゴリーで相対密度が高かった。コメツガ・トウヒは林冠木・ギャッ
プメーカーで高い値を示し、林冠下幼木・ギャップ下幼木には殆んど見られ
なかった。ダケカンバはギャップ下幼木において最も高かった。
これらのことから、本地域における優占種であるオオシラビソは、ギャッ
プ形成前から林内で生育している前生稚樹によるギャップ更新を行っている
と考えられる。ダケカンバは林内幼木が少なく、ギャップ下幼木が多いこと
からギャップ形成後に発生した後生稚樹によるギャップ更新を行っていると
考えられる。コメツガ・トウヒは幼木自体が少なく、台風などの大規模な
撹乱を必要としていると考えられる。
青森県八甲田山地の矢櫃谷地湿原において,テフラ降下直後の堆積物
を厚さ 2mm ごとに切り出し,時間分解能の高い湿原植生回復過程の復
元を試みた.分析に用いた泥炭は,上下の放射性炭素年代から,約 12 年
で 2mm 堆積すると推定され,8 試料の分析で約 100 年間の植生変遷を
示すと考えられた.
非高木花粉・胞子では,約 100 年の間に少なくとも 3 つの花粉帯が
区分された.テフラ降下直後に回復した湿原は,カヤツリグサ科やイネ
科が優勢で,ミズバショウ属を伴っていたと考えられる.その後,カヤ
ツリグサ科が減少し,ツツジ科やタンポポ亜科,キンコウカ属が増加し
た.オウレン属/カラマツソウ属はやや遅れて増加した.最後に,カヤツ
リグサ科が再び増加し,セリ科やショウジョウバカマ属も増加した.ま
た,ミズゴケ属胞子も出現するようになった.一方,ツツジ科,オウレ
ン属/カラマツソウ属,タンポポ亜科,キンコウカ属は減少した.
花粉組成から復元された具体的な湿原植生やその変遷は,現状では必
ずしも明確ではないが,このような詳細な分析をすることにより,テフ
ラ降下後の湿原植生の回復が 10 年程度の時間間隔で復元しうることが
明らかとなった.
一方,高木花粉では,テフラ降下直後に多かったスギ属花粉が上に向
かって減少し,カバノキ属やハンノキ属花粉が増加する傾向があったが,
顕著な変化は見られなかった.これは,森林植生へのこの手法の適用は,
かかる労力に対して得られる利益が少ないことを示している.
P2-152
12:30-14:30
富山県宇波川上流部の植生
◦
12:30-14:30
山地湿原の花粉分析からみたテフラ降下後の植生変遷
丹羽 忠邦1, 上條 隆志2, 津山 幾太郎2, 高柳 絵美子2, 小川 みふゆ3
P2-151
P2-149
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
大型植物による環境形成作用が植物種共存機構に与える影響
◦
山下 寿之1
嶋村 鉄也1, 百瀬 邦泰2
1
京大・フィールド科学教育研究センター, 2愛媛大学・農学部
1
富山県中央植物園
富山県氷見市北西部の標高およそ200mに位置する宇波川上流域の植
生は、尾根部がアカマツ二次林、斜面上部はコナラ二次林であるが、渓
谷部はサワグルミ–ジュウモンジシダ群集あるいはケヤキ–チャボガヤ群
集の構成種からなる林分である。渓谷部の下部谷壁斜面は急峻で高木層
が発達せず、露岩に渓谷特有の草本が個体群パッチを形成している。ま
た、1 次谷の合流部に発達する堆積面には、原産地の九州北部で絶滅し
たとされているオオユリワサビが開花期には草本層で優占している。こ
の他にもミヤマタゴボウ、ナニワズなど県版レッドデータリストに揚げ
られている植物の生育が多数確認されている。これは調査地域が県の西
端に位置することから、おもに西日本に分布する種が生育すること、あ
るいは調査地域の渓谷が急峻であり、冷温帯に分布の中心がある種類が
遺存していることが考えられる。
今回はオオユリワサビの生育地の植生を中心に発表する。オオユリワサ
ビは3月下旬から4月上旬に開花し、結実後の6月には地上部は枯れる
とされている。オオユリワサビの開花期には他の草本種は出芽している
ものが少なく、ほぼ一面オオユリワサビが覆っていた。それに対して休
眠期の草本植生はクサソテツ、オオハナウド、キツリフネなどが繁茂し、
開花期とは大きく異なっていた。
植物種間の相互作用には共存促進的なものがあり、この作用は植物間の種共
存機構に対して重要な役割を果たしている。例えば、砂漠などの乾燥地では、
乾燥・強い日射というストレスが存在する。ある種の植物の樹冠下は被陰さ
れることで日射ストレスが弱まり乾燥状態が緩和され、落葉・落枝の投入が
土壌条件を改変し、他種の更新ニッチを創出する。共存促進的な相互作用に
関する研究はこれまで極地方、乾燥地、冷温帯の湿地など外的環境ストレス
の強い系で行われてきた。環境ストレスが局所的に弱められた場所が、環境
の多様性を創出するからである。これらの系では環境ストレスが強い為に植
物種の多様性が低く大型植物の発達が制限されている。従って、多様性の高
い系において共存促進的な相互作用がどのように働くか、また他の主要な種
共存を説明する仮説とどのように関係しているかといった事は未知であった。
熱帯泥炭湿地林では、強酸性の水が冠水し、泥炭中の養分が乏しいストレス
が強い系である。一方で、上述したような他のストレスが強い系と比較して
植物種の多様性が高く、大型植物も見られる。従って、泥炭湿地林は植物の
共存促進的な相互作用の影響が強く、種多様性も高い系と考えられる。そこ
で共存促進的な相互作用の役割を明らかにするためにインドネシア、スマト
ラ島、リアウ州にある熱帯泥炭湿地林において調査を行った。
その結果、泥炭湿地林における植物種の共存機構を泥炭の起原である有機物
の動態から解明した。ここでは大型植物個体の動態が林内の不均一性を作り
出し、多種の共存に貢献していることが分かった。最後に、共存促進的な相
互作用が多く検出されている他の系と泥炭湿地林を比較して、多種共存機構
に対して植物間の相互作用が担う役割について考察した。
— 199—
P2-153
ポスター発表: 植物群落
P2-153
12:30-14:30
北関東における広葉樹二次林の構造と動態
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
P2-154
厚岸湖畔における塩湿地植物群落の分布の年変動
◦
西上 愛1, 石橋 整司2
神田 房行1, 内山 博之2
1
北海道教育大学・釧路・生物, 2厚岸町・真龍小学校
1
科学技術振興機構, 2東大秩父演
近年,放置された里山林などの広葉樹二次林に対して関心が高まっており、
今後様々な管理がされていくものと考えられる。広葉樹二次林を管理する際
に、対象林分の林分構造や動態の把握はもっとも基本的なことであり、重要
である。そこで本研究では広葉樹二次林の林分構造と林分成長との関係を分
析し、動態について検討を行った。
本研究で用いた資料は、栃木県田沼町にある東京農工大学農学部附属広域
都市圏フィールドサイエンス教育研究センター・フィールドミュージアム唐
沢山(以下 FM 唐沢山とする)の広葉樹二次林から収集した。1997 年から
1998 年に 20 m× 20 mのプロットを 13 カ所設置し、胸高(樹高 1.2 m)
以上の樹高をもつ林木の胸高直径、樹高、樹種を毎木調査した。2003 年に
再計測を行った。
これまでに、本調査地における広葉樹二次林の構造について、直径分布は
逆J字型を示していること、胸高直径 10cm 以上の林木を上層木、10cm 未
満の林木を下層木として扱うことが適切であることがわかっている。さらに、
樹種構成から、FM 唐沢山の広葉樹二次林は落葉広葉樹が上層を優占してお
り、北向き斜面の林分では落葉広葉樹主体の林相が今後も続くこと、それ以
外の斜面の林分では常緑広葉樹林へと推移していく可能性があることが推察
されている。二回の毎木調査の結果を用いて立木本数、BA 合計の増減につ
いて検討を行ったところ、上層木の落葉樹の BA 合計はいずれのプロットで
も増加していたが、本数の増減はプロットによって異なっていた。上層木の
常緑樹は、本数、BA 合計ともに増加していた。上層木の BA 合計と下層木
の成長との関係を検討したところ、下層木の落葉樹は上層木の BA 合計の大
きいプロットの方が成長が悪いが,枯損に対しては上層木との関係はみられ
ないこと,下層木の常緑樹の成長や枯損は上層木の BA 合計との関係はみら
れないこと,落葉樹よりも常緑樹の方が枯損率が低いことなどがわかった。
以上のことから、約5年間の広葉樹二次林の動態について、落葉樹が上層を
優占しているという構造は変わらないが、枯損しにくい常緑樹が徐々に成長
してきていることが明らかとなった。
P2-155
12:30-14:30
北海道大学構内 K39 遺跡から出土した炭化材の樹種構成
◦
12:30-14:30
渡辺 陽子1, 佐野 雄三1
1
北大院農
北海道大学の構内は文化庁により K39 遺跡および K435 遺跡として遺跡
認定を受けており、これまでに縄文時代晩期、続縄文時代、擦文時代など
の遺物・遺構が数多く出土している。2001 年、北大文系総合研究棟の建設
に先立って行われた発掘調査により、約 2000 年前の続縄文時代の集落遺
跡が発見された。この集落遺跡から竪穴住居址 10 棟が出土したが、うち
1棟には炭化材が数多く含まれていた。筆者らは北大埋蔵文化財調査室か
らの依頼を受けて、これら炭化材およそ 240 点の樹種同定を行った。
サンプルとして炭化材から小片を切り出し、木部の基本三断面(木口・ま
さ目・板目)の走査電子顕微鏡観察を行った。一部のサンプルは材組織の
保存状態が悪く、樹種同定が無理であったが、多くのサンプルでは識別拠
点となる特徴を確認することができた。
識別可能であったサンプルの樹種同定を行った結果、ほとんどが広葉樹
であり、単子葉類が数点含まれていた。しかしながら針葉樹は認められな
かった。樹種の内訳としては、トネリコ属、ニレ属、ヤナギ属、ハコヤナ
ギ属、ハンノキ属などの、河畔林の主要構成種が多く同定された。その他
にはハリギリ属やクルミ属が同定された。また、同定に用いたサンプルに
は髄を含む、いわゆる「心持ち材」が多くみられた。
K39 遺跡内からは約 2000 年前の埋没河川が確認されている。今回調査
した住居址に暮らしていた人々は、身近な河畔林から小径の扱いやすい樹
木を伐採して、住居建設に用いたのではないかと考えられる。
また、今回の観察で、200 点を超えるサンプル中に針葉樹が認められなかっ
たが、この理由については、今後花粉分析の結果なども含めて検討する必
要があるだろう。
アッケシソウはアカザ科の一年草で海岸の塩湿地や内陸の塩湖に生育す
る。アッケシソウは我が国では北海道の厚岸湖で発見されたことから、そ
の名がつけられた。厚岸湖では牡蠣島に主に分布しており「厚岸湖牡蠣
島植物群落」として国の天然記念物にもなっていた。しかしながら、近
年、牡蠣島は地盤沈下が著しく、アッケシソウ群落は全く姿を消してし
まい、1994 年には国の天然記念物指定も取り消された。しかし、我々の
調査でアッケシソウは厚岸湖の湖岸に広く分布しており、特に厚岸湖の
東北部の湖岸では大きな群落が存在していることが分かった。アッケシ
ソウは単独、または他の塩湿地の植物と群落を形成しており、チシマド
ジョウツナギ、オオシバナ、ヒメウシオスゲなどと群落を形成する場合
が多く,ウミミドリ、エゾツルキンバイ、ウシオツメクサを混在する場合
も見られた。アッケシソウは一年草であるので、アッケシソウ群落の位
置や被度が年によって変動するかどうかを確かめるために、厚岸湖東北
部で永久コドラートおよび永久帯状区を設定しアッケシソウ群落の年変
動を 2001 年から 3 年間調べた。この調査で、アッケシソウ群落は年に
より群落の分布が大きく変動することが分かった。特に 2003 年には被
度が著しく低下した。調査地での植物全体の被度はむしろ 2003 年は高
く、単にこの年の植物の生育が悪いのでアッケシソウの生育も悪かった
ということでは説明できないことが分かった。
P2-156c
12:30-14:30
上高地の氾濫原における林床植物の立地と樹木実生の定着
◦
川西 基博1, 石川 愼吾2, 大野 啓一3
1
帝京大学中高校, 2高知大・理, 3横国大・環境情報
氾濫原では,河川の氾濫によって高頻度で土砂の流入が起こり,それに
よって河畔林は部分的に破壊され,一方で様々な生育立地が形成される.
こうした河川の氾濫と関連した森林動態を明らかにするために,上高地
の河畔林における堆積物および土砂の流入履歴を明らかにし,林床植物
の立地と樹木の定着サイトを検討した.
本調査地では礫の堆積した地域と砂が堆積した地域が明瞭な境をもって
分布しており,それぞれの堆積地を侵食して小流路が発達していた.礫
堆積地,砂堆積地ともに流路に面した部分では,毎年氾濫の影響がある
と推察された.一方,それよりも氾濫原内に位置する礫地では 10 年以
上,砂地では約 5 年間は氾濫の影響がないと推察された.
林床植物をその分布傾向から類別すると,オオヨモギ,シラネセンキュ
ウ,クサボタン,ノコンギク,コウゾリナ,ススキなどの礫堆積地に主に
分布する種群,オオバコウモリ,カラマツソウ,サラシナショウマ,アズ
マヤマアザミ,オニシモツケなどの砂堆積地に分布する種群と,ヤマキ
ツネノボタン,キツリフネ,オオバタネツケバナといった小流路に分布
する種群となった.砂堆積地に分布する種群は植被率が 90%以上の密な
林床植生を構成しているのに対し,礫堆積地および小流路に分布する種
群は植被率が 30 %以下の林床植生を形成していた.
樹木の実生は,砂堆積地にはほとんどみられず,もっぱら礫堆積地に分布
していたことから,密な林床植生が発達すると樹木の定着は難しく,林
床植生の植比率が低い礫堆積地では定着しやすいと考えられた.流路に
面した毎年氾濫がある礫堆積地では主にヤナギ科やハルニレの実生が定
着するのに対し,河畔林内にあって堆積後 10 年を経過した礫堆積地で
はサワグルミが定着していた.
— 200—
ポスター発表: 植物群落
P2-157c
12:30-14:30
P2-158c
◦
伊藤 祥子1, 谷本 丈夫1
12:30-14:30
藤村 善安1, 冨士田 裕子2
1
北海道大学 農学研究科, 2北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター 植物園
1
宇都宮大学農学部
栃木県奥日光地域では 90 年代からシカ個体群が増加し,それに伴い戦
場ヶ原湿原においてもシカの食害・踏害による湿原植生の衰退が観察さ
れた.これらを危惧した環境省が中心となって,2001 年冬に戦場ヶ原湿
原周辺においてシカ防護柵を設置された.そこでシカによる湿原への侵
入が湿原植物群落におよぼす影響を明らかにすることを目的とし,シカ
防護柵設置前(2000 年)と設置後 3 年間の植生の変化を,固定調査区
をもちいて調査した.シカ防護柵設置前にはシカの踏圧による窪んだ裸
地があった.しかし,設置 1 年後からこの様な裸地うち,平坦地では水
はけの悪い湿潤な場所に出現するイヌノハナヒゲ,凸地では乾燥に比較
的耐性のあるモウセンゴケなどの侵入し,これらの種が単純な群落を形
成していた.これらの種が群落構成種の1種として出現することはあっ
ても,大きな群落を形成することは,シカによる踏みつけの少ないシカ
道以外の場所においてほとんど認められなかった.草本層の被度が低く,
コケ層にヒメミズゴケやクシノハミズゴケがカーペット状または大きな
凸地を形成する場所がいくつか認められた.しかし,これらの場所にお
いても,シカ防護柵設置前には蹄などでミズゴケを直径 4-10cm 掘り起
こしていた.柵設置 1 年後には,掘り起こされた周辺のミズゴケが乾燥
してわずかではあるが窪地が広がっている様子,ミズゴケ以外の種が侵
入している様子が観察された.シカ個体群は踏みつけによって,湿原植
生に非常に大きな影響をもたらしたと推察された.戦場ヶ原湿原を保全
するための応急的処置としてシカ防護柵は有効であるが,もっと長い時
間的スケールで保全を考えた場合,シカの密度調整や餌場となる植生を
付近に緩衝帯として配置するなど,湿原を活動場所として利用しにくい
植生管理が必要であることを提案した.
P2-159c
P2-157c
北海道網走湖畔湿生林の 38 年間の動態
奥日光戦場ヶ原湿原における植物群落の変化
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
12:30-14:30
わが国では低地に成立していた湿生林は、早くから水田に置き換えられ、
原生的な林分は殆ど残されておらず、湿生林の生態に関して不明な点が
多い。そのようななか北海道網走湖畔の湿生林は、北海道の平地に唯一
残された樹高 20 mを超す巨樹からなる原生的な湿生林である。館脇ら
(1968) によって 1966 年時点の林分状況が記録されている。そこで演者
らは館脇ら (1968) と同一の調査区において毎木調査を実施した。ここに
38 年間の林分動態を報告する。
結果は概要以下のとおり。樹高 5 m以上の樹木の種組成は、1966 年
よりも 2004 年は多くの種から成立しており、ハシドイ、ツリバナ、キタ
コブシ、エゾノウワミズザクラなどが新たに加わった。1966 年時点では
調査区(1ha)内に 182 本の樹木がみられたが、2004 年には 274 本に
増加していた。増分の約 80%はヤチダモによって占められていた。1966
年、2004 年とも 5m 以上の全階層においてハンノキとヤチダモの優占度
が高く、その他の樹種は散見されるに過ぎなかった。林冠を形成する高
木層のハンノキとヤチダモの本数比には 1966 年と 2004 年とで大きな
変化は見られなかった。亜高木層以下の階層では本数比にしてヤチダモ
が占める割合が増加していた。
これらのことから 38 年間の動態として、ハンノキの新規加入個体は
少く、ヤチダモが増加傾向にあることが確認された。
P2-160c
12:30-14:30
芦生モンドリ谷天然林 16ha の林相
◦
岡田 泰明1, 呉 初平1, 清水 良訓2, 安藤 信3
1
京大院・農 , 2京大・生態研, 3京大・フィールド研
(NA)
天然林は、地形・土壌・林冠ギャップの形成と植生回復などの諸要因に
よって、様々な小林分がモザイク上に配列される。大面積調査による植生
パターンおよびモザイク構造の把握は、森林の動態や種多様性の解明の
糸口になると考えられる。本研究では、京都府美山町の京都大学芦生研
究林モンドリ谷集水域に設置されている大面積調査区(25m × 25m の
プロット 256 個 計 16ha)を用いて、林相区分を試み、あわせて林相の
地形依存性についての解析を試みた。
調査区内の DBH ≧ 5cm の樹木を対象に毎木調査をおこない、プロット
単位に高木層と亜高木層に分けて林相区分をおこなった。リョウブやマ
ルバマンサクなど、主な亜高木種に DBH ≧ 15cm となる個体がほとん
どみられなかったため、DBH15cm を高木層と亜高木層の区分点とした。
地形は調査区設定時の各プロットの測量データをもとに、傾斜角と斜面
の凹凸度を算出した。
高木層は全体で 44 種 5882 個体が記録された。主要構成種の胸高断面積
合計の相対値はスギ 62.8%、ブナ 15.3%、ミズナラ 6.3%、ミズメ 4.7%で
あった。スギの相対優占度が大きいプロットほど胸高断面積合計値が大き
くなる傾向がみられた。相対優占度をもとにクラスター解析をおこなっ
た結果、すべてのプロットは 1-3 種の優占種からなる 7 タイプの林相に
分類された。スギは 6 タイプ、ブナは 5 タイプ、ミズナラ、ミズメ、ト
チノキはそれぞれ 1 タイプの林相で優占種と判定された。地形との関連
を調べた結果、スギのみが優占種と判定された 2 タイプの林相は凸地形
に、残りの 5 タイプは凹地形に分布した。トチノキが優占する林相では
傾斜角が緩い傾向がみられたが、それ以外の林相で傾斜角に差はみられ
なかった。
以上より、スギは尾根部を中心にほぼ全域で、ブナ、ミズナラ、ミズメは
凹斜面で、トチノキは沢部で優占することが示唆された。発表では同様
の手法を用いて、亜高木層(5cm ≦ DBH < 15cm)の解析結果につい
ても言及する。
— 201—
P2-161c
ポスター発表: 植物群落
P2-161c
P2-162c
12:30-14:30
択伐施業下の針広混交林における林床植物種の分布パターン
◦
8 月 27 日 (金) C 会場
賀川 篤1, ◦ 藤吉 正明2, 中坪 孝之3, 増沢 武弘1
野口 麻穂子1, 吉田 俊也2
1
北海道大学大学院 農学研究科, 2北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター
1
静岡大学大学院理工学研究科生物地球環境科学専攻, 2東海大学教養学部人間環境学科, 3広島大学大
学院生物圏科学研究科環境循環系制御学専攻
北海道の針広混交林ではササが優占する林床植生が多くみられる。一般に、
ササの増加が林床植物の種多様性の低下をもたらすことは広く報告されている。
しかしササ種の違いが及ぼす影響については知られていない。そこで本研究で
は、林床に 2 種のササ(チシマザサ・クマイザサ)が出現する北海道北部の針
広混交林において、局所的な上層木・地表の攪乱履歴、地形などの環境要因が
林床植生の種組成と種多様度に及ぼす影響を調べ、林床植生パターンの形成に
果たすササの役割について考察した。
1975 年から 10 年間隔で択伐が行われている調査地(6.7ha)内に 181ヶ所
の調査地点を規則的に設置し、5m2 (半径 1.26m)の円内に出現した維管束植
物の種名と被度、地表攪乱の履歴(攪乱なし・補植地・集材路跡)を記録した。
過去 30 年間の毎木調査と樹木位置のデータから、地点周囲の上層木のアバン
ダンス(胸高断面積合計)と攪乱履歴を求めた。また、数値地形図から傾斜と
斜面形状、仮想日射量の値を算出した。
DCA による解析の結果、第 1 軸は傾斜と、第 2 軸は斜面形状の値と、もっ
とも強い相関を示した。第 1 軸に沿って、緩傾斜地にはクマイザサが、より
傾斜の急な地点にはチシマザサが優占する植生が多く分布し、さらに急峻な地
点ではササを含まない植生が出現する傾向がみられた。種多様度(種数・H ’)
は、クマイザサが優占する地点よりチシマザサが優占する地点で有意に高かっ
た。一方、上層木の攪乱履歴は種多様度・DCA 軸と有意な相関を示さなかっ
た。地表攪乱を受けた地点(補植地・集材路跡)では、攪乱を受けていない林
床と比べ種組成には有意な違いがなかったが、種多様度は有意に高かった。
林床植生パターンの形成には、地形要因、特に傾斜がもっとも重要な要因と
なっていた。種多様度は、各ササ種のアバンダンスより、優占するササ種の違
いに伴って大きく変化していると考えられた。
P2-163c
一次遷移初期の場所では、土壌の窒素やリンなどの栄養塩が先駆性植物の定着
または生育を制限していることが知られている。植物の栄養塩吸収に効果を与
えるアーバスキュラー菌根は、一次遷移初期の貧栄養な場所に定着する植物に
大きな影響を与えている可能性が考えられる。そこで本研究では、富士山の火
山荒原に生育する草本植物に対するアーバスキュラー菌根の役割を明らかにす
るために、アーバスキュラー菌根形成の有無による効果をポット栽培実験によ
り明らかにした。
宿主植物は、遷移初期に定着するタデ科のイタドリ(Polygonum cuspidatum)、
イネ科のカリヤスモドキ(Miscanthus oligostachyus)、キク科のノコンギク(Aster
ageratoides var. caespitosum)、マメ科のイワオウギ(Hedysarum vicioides)の
4 種を用いた。各宿主植物に対してアーバスキュラー菌根菌の有無(0 と 400
spore/pot)と栄養塩の異なる土壌(9 と 44 mgN/pot)の計4処理区で比較検討
を行った。
イタドリ、カリヤスモドキおよびノコンギクの乾燥重量は、アーバスキュラー
菌根菌の有無により変化は見られなかった。しかしながら、それら 3 種のアー
バスキュラー菌根菌の感染率は、先駆性植物のイタドリが極めて低く(0-0.2
%)、逆にその他 2 種の感染率の平均は 25-36 %と高く、3種間で感染率に
差が見られた。一方、マメ科のイワオウギの乾燥重量は、アーバスキュラー菌
根菌の感染により有意な増加が確認された。イワオウギは、土壌の栄養塩が増
加するとアーバスキュラー菌根菌の感染率が急激に増加し、それと共に乾燥重
量も増加した。以上の結果より、遷移初期に生育する4種の草本植物に対する
アーバスキュラー菌根の効果は、種間により異なることが示唆された。
P2-164c
12:30-14:30
里山地域における植物の種数、面積、群落多様性の関係 –関東の丘陵
地における事例–
◦
12:30-14:30
富士山の火山荒原に生育する植物に対するアーバスキュラー菌根の役割
根本 真理1, 星野 義延1, 鈴木 映理子2
12:30-14:30
Cubic Module Model を用いた森林構造シミュレーション
◦
長谷川 成明1, 城田 徹央2, 甲山 隆司1
1
北海道大学大学院地球環境科学研究科, 2北海道大学博物館
1
東京農工大学・農, 2(財)自然環境研究センター
里山・里地と呼ばれる二次的自然の卓越する丘陵地は、植物の種多様性が高
く、様々な植物群落が近接して存在している。丘陵地の小集水域を対象に、
植物の種数、面積と群落多様性の関係を把握することを目的とした。
調査は多摩丘陵に位置する東京都町田市において、面積 0.7∼11.7ha の13
の小集水域で行った。各小集水域ごとにフロラ調査を行い、種数を算出した。
植生調査の結果得られた植生調査資料(386 資料)を用いて表操作により群
落を識別し、出現種の常在度階級値を用いた DCA 法により群落を序列化し
た。また、群落内の種数–面積関係の回帰式を求めた。現地調査と空中写真よ
り現存植生図(1:2500)を作成し群落の面積を測定した。調査地の群落の
多様性を表す指標として、群落数、IVD(植生多様指数;伊藤 1979)、
DCA 展開図上の群落間の平均ユークリッド距離 (AED)、群落面積を基にし
た多様度指数(H ’)、各群落の推定出現種数の最大値を各小集水域について
算出し、これらの群落の多様性を表す指標と小集水域に出現する植物種数、
及び小集水域面積間の相関関係を求めた。
調査地全域で、672 種、45 の植物群落が認められた。植物種数は植物群落数、
IVD、AED といった群落の数や組成の差を表す指標と有意な高い正の相関関
係があった。過去の研究において種数を説明する際によく用いられてきた変
数である“ 面積 ”は、群落数、IVD とは有意な相関関係があったが、種数と
は有意な相関関係はなかった。群落数、IVD などの指標が立地の多様性およ
び β 多様性を指標すると考えると、立地の多様性および β 多様性が高く保
たれると種の多様性が高く維持されると考えられた。植物群落の多様性が高
く保たれる要因の1つとしては、農的利用に伴う管理の影響が考えられた。
森林生態系では多種の樹木が複雑な構造をつくりだしている。森林の構
造において特徴的な点の一つとして、垂直方向の階層性が発達している
点が挙げられる。階層構造は、多種共存機構の要因の一つであることが
森林構造仮説 (Kohyama 1993) として提唱されるなど、興味深い問題の
一つである。本発表では、発表者らが開発した樹木モデルの一つである
Cubic Module Model を用いて森林の階層構造に関するシミュレーション
を行った。
Cubic Module Model は立方体をモジュール(繰り返し単位)とする仮想
植物を用いたモデルシミュレーションである。仮想植物は葉キューブと枝
キューブの 2 種類のキューブによって構成される。これらのキューブの
うち、葉キューブのみが光合成を行なう。仮想植物は新たな葉キューブ
を生産することで成長するが、葉キューブは一定時間経過後に枝キュー
ブに変化する。仮想植物は上方からの光を用いて光合成を行ない、この
総量から呼吸量を減じた剰余の光合成産物を、新たなキューブの生産お
よび繁殖に投資する。繁殖の際に親は子に対しキューブ生産の順序と位
置の情報を伝達し、子は完全にこれに従ってキューブを生産し成長する。
伝達の際に一定の確率で情報に誤りが生じる。
光合成能が単一の仮想植物によるシミュレーションを行ったところ、森
林群落には一つの林冠層のみが形成され、階層性が発達しないことが示
された。この傾向は、純光合成能が変化しても見られた。二種類の光合
成能をもつ仮想植物によるシミュレーションを行ったが、光合成能の違
いのみではこれら二種は共存し得なかった。これらの結果をもとに、森
林の階層構造について議論を行う。
— 202—
ポスター発表: 植物群落
P2-165c
P2-166c
12:30-14:30
特異的な植物群落 ゴマギ-ハンノキ群集の分布状況と立地特性
◦
◦
1
株式会社プラトー研究所
関東平野の河畔林を特徴づけるゴマギ–ハンノキ群集は、ムクノキ–エノキ群
団に属すると言われ、草本層にチョウジソウやフジバカマ、ノウルシといっ
た氾濫原特有の植物種が生育するとともに、ミドリシジミやオオムラサキな
どの希少な生き物も生息する、貴重な植物群落である。しかし、このような
河畔林の成立する立地は、もともと水田等に開発されやすく、現在では、主
な定着場所と考えられる河川敷についてもその殆どがゴルフ場やグラウンド
等に改変されているなど、その分布はますます限られたものとなっている。
このような、生物の生息基盤である希少な植物群落の保全や再生を検討する
際、どのような視点による対策が必要か、どのように情報を整理すればよい
かについて、主に利根川水系をモデルとして検証を行った。
まず、新たな群落の成立する可能性のある「潜在立地」を抽出するために、
環境省の自然環境保全基礎調査・植生調査の報告書等からムクノキ–エノキ群
団に随伴する全ての植生タイプの凡例をリストアップし、大まかな空間分布
図を作成した。次に、既存の現存群落の生育環境について現地調査及び文献
をもとに類型区分を行い、地質図等既存電子データを用いて河川後背低地な
ど、最も成立条件に適したエリアをオーバーレイ表示した。一方、著しく分
断化した植物群落からは鳥散布等による健全な種子の到達が制限されること
から、
「潜在立地」としての新たな定着サイトは、現在の供給源から半径 1km
のバッファの範囲内に限定されると仮定し、該当するエリアを抽出した。さ
らに、たとえ洪水散布等により種子が供給されたとしても、定着先の河川敷
が大きく改変されていては新たに定着できないことから、DEM から発生さ
せたコンタ–用いて洪水の到達する範囲を空間的に抽出し、「潜在立地」と組
み合わせることにより河畔林の「再生候補地」とした。最後に、実際に現場
調査を行うことにより群落の分布予測パラメータを検証し、予測の一致した
場所については新たな種子供給源として機能するかについても診断した。
12:30-14:30
小西 真衣1, 伊藤 操子1
1
京都大学大学院農学研究科
近年のレクリエーション的な森林利用の増加に伴い、森林における自然植生
の破壊が懸念されている。他方、撹乱依存性草本である雑草は人為的な諸行
為により形成された開放地に発生し、かつ人為的撹乱のない場にはほとんど
侵入しないため、森林の破壊程度の極めて有効な指標になり得ると考えられ
る。雑草の侵入の成功には、繁殖体の侵入と侵入地での定着が必要であり、
撹乱と環境(とくに土壌環境)両方に影響されると推察される。本研究では
撹乱の程度や種類の異なる場面について、発生雑草種、土壌の植物生長調節
活性(生物検定)および化学性を調査し、雑草・土壌・撹乱の相互関係につ
いて整理し考察を行うことで、雑草を利用した森林の利用度診断の基礎資料
を得ることを目的とした。
調査地点は京都大学芦生研究林(京都府北桑田郡美山町)内の車道(路肩・
のり面)、林内、林内歩道および空き地計 37 点である。各調査地点の発生草
本種を 2003 年 6 月および 10 月に調査し、土壌の化学性はp H、EC、総
N、総 C、NO3 - を測定した。土壌の生物検定は、検定植物としてレタス、
メヒシバ、スズメノカタビラ、コハコベ、オオバコ、シロツメクサ、セイヨ
ウタンポポを用い、これらの種子を、各地点の土壌を詰めたポットに播種し
1ヶ月間育成後堀上げ、乾物重を測定した。
各実験の結果、雑草種数は過去や現在の撹乱が多い場所で多く観察され、ま
た、観察雑草種数と土壌の生物検定結果には正の相関がみられた。しかし検
定結果は、場面別で有意な差はなく、撹乱程度は同じでも土壌の性質は地点
で大きく異なっており、森林の樹種や土層による影響が考えられた。すなわ
ち、通行などの利用の程度による森林の変化は観察雑草種数や土壌の生物検
定からおおまかに予測することができるが、各地点ごとで、正確かつ早急に、
森林の変化を読み取るには樹種や土層などの影響も要素に含めた、より多角
的な解析が必要であると思われた。
P2-168c
12:30-14:30
沖縄島北部の石灰岩地におけるイタジイ林-下層における主要種4種の
分布と立地との関係
◦
P2-165c
森林における雑草の発生と人為的撹乱および土壌の性質との関係 -芦
生研究林を例として-
郡 麻里1
P2-167c
8 月 27 日 (金) C 会場
工藤 孝美1, 新里 孝和2
12:30-14:30
鳥散布型植物の種子散布と定着に及ぼす林縁の効果
◦
佐藤 佳奈子1, 紙谷 智彦2
1
新潟大学大学院自然科学研究科, 2新潟大学農学部
1
鹿児島大学連合農学研究科, 2琉球大学農学部
琉球列島では非石灰岩地にはボチョウジーイタジイ群団、石灰岩地にはナガ
ミボチョウジーリュウキュウガキ群団が成立している。群団の組成には土壌
要因が関わるとされる。また構造の違いにはイタジイ優占林分の成立の有無
が影響を与えると考えられる。本研究では下層における上層木種の実生と下
層木種の分布と、pH との関係について解析を行い、組成と土壌との関係に
ついて考察する。またイタジイの生育段階ごとの pH からの影響を解析す
ることでイタジイ優占林分の成立要因について検討する。沖縄島北部の石灰
岩地においてイタジイ優占林分の成立している常緑広葉樹林に 20m × 80m
の調査区を設置した。林内にはそれぞれの群団の標徴種がともに存在し、異
なる植生がパッチ状に分布する。調査地の pH は 4.3∼7.7 と大きく異なる。
ナガミボチョウジ、リュウキュウガキ、ボチョウジ、イタジイの 2m 未満の
個体を対象に樹長、根元直径、位置の測定を行った。下層木種であるナガミ
ボチョウジの個体数は pH と正の、ボチョウジは負の相関があった。両種は
pH によりすみわけていると考えられた。上層木種であるリュウキュウガキ、
イタジイは pH との相関が見られなかった。イタジイのサイズごとの分布
と、pH の影響を見るために、樹長により 3 階級に分け、階級ごとの生育地
の pH 頻度分布と調査地の pH 頻度分布との比較を行った (U 検定)。小さ
な樹長階級は pH の低い立地に多く生育していたのに対し、大きな階級では
pH の影響が見られなかった。上層でのイタジイの分布を見ると 10m 未満の
個体では pH の影響が見られなかったが、10m 以上の個体は低 pH 地に多
く生育していた。イタジイ実生は、母樹の多く生育する低 pH 地で多く発生
するが、その後の生育段階では pH の影響は明らかではない。pH はサイズ
の大きなイタジイの生長に影響を与えることで、イタジイ優占林分の成立に
関わっていると思われる。
はじめに
林縁は植物群落の発達に様々な効果をもたらすと考えられている。本研
究は、混交する広葉樹の発達程度が異なるクロマツ人工林の林縁と林内そ
れぞれにおいて、鳥類により散布される種子と林床植生を比較することに
よって、植生の遷移に及ぼす林縁の効果を明らかにする。
調査方法
調査は新潟県巻町の砂丘上に植栽された約80年生の海岸クロマツ林2
林分で行った。広葉樹が亜高木層に達していない林分を未発達林、亜高木
層に達している林分を発達林と定義し、それぞれの林縁と林内に調査区を
設けた。これら4調査区それぞれにシードトラップを20個設置し、約2
週間に一度捕捉された種子を回収し、種ごとに個数を数えた。また、シー
ドトラップを含む5×5mの枠に出現した樹高2m以上の木本植物と、そ
の中に設置した1×1mの枠に出現した高さ1m未満の植物名を記録した。
なお、種子回収日において林分内で結実が確認された種以外の種子は、調
査林外から散布されたものと定義した。
結果と考察
シードトラップに捕捉された鳥散布種子は林内より林縁で多く、未発達
林より発達林で多かった。一方、出現した植物の種数には調査区による違
いはなかった。しかし、種構成や出現頻度は異なっており、林分内で出現
しなかった植物の種子は林縁でより多く散布されていた。以上の結果から、
鳥類により散布された種子は、林縁に混交する広葉樹の影響を受けている
ことが明らかになった。したがって林縁に広葉樹が混交する林分は鳥散布
植物の種子、特に林分内に結実していない種の種子を誘引していることが
明らかになった。
— 203—
P2-169c
ポスター発表: 植物群落
P2-169c
12:30-14:30
富士山亜高山帯林の発達過程
◦
田中 厚志1, 斉藤 良充1, 山村 靖夫1, 中野 隆志2
1
茨城大学・理・生態, 2山梨県環境科学研究所
富士山北斜面の亜高山帯上部は一次遷移の過程にあり、森林限界付近
は山頂方向に突き出した半島状の植生が見られる。これらは基質の安定
性の違いや撹乱の影響の結果であると考えられる。北斜面の亜高山帯・
高山帯の基質は主にスコリアであり、基質の移動が比較的大きく、森林
の発達を妨げる要因の一つと考えられる。もう一つの主な要因として雪
崩による森林の破壊が考えられる。富士山北斜面の亜高山帯では雪崩が
多く、雪崩道上の森林は破壊され、裸地が形成されている。しかしなが
ら、基質の安定性は植生の発達に伴って高まると考えられる。また、雪
崩による撹乱は温暖化に伴う積雪量の減少によってその頻度と強度が減
少する可能性が考えられる。これらを考慮したとき、亜高山帯林は発達
していくと考えられる。我々は半島状植生を横断して裸地に達したトラ
ンセクトを設置し、当年生実生を除くトランセクト内に出現した全木本
種の位置、樹高、胸高直径(地際径)、樹齢を測定した。本研究は半島状
植生の拡大状況を把握し、そのメカニズムを推定することを目的とした。
カラマツ(Larix kaempferi)の成木は半島状植生の両側の林縁部で優占
し、ダケカンバ(Betula ermanii)の成木は半島状植生の中心部で優占し
た。カラマツの稚樹・実生は半島状植生の両側の裸地で樹齢 50 年未満の
個体が多く出現したが、林床にはあまり出現しなかった。ダケカンバの
稚樹・実生は樹齢 20 年未満の個体が出現し、東側の裸地では多く出現
したが、西側の裸地では稀であった。裸地において、この 2 種の平均成
長速度(胸高直径/樹齢、樹高/樹齢)はダケカンバのほうが高かった。
これらのことより、半島状植生は拡大している可能性があることがわかっ
た。また、カラマツがダケカンバより先駆的な樹種であり、森林の拡大に
伴って林縁部を形成していくことが示唆された。ダケカンバはカラマツ
の保護下で急速に成長し、森林の発達を助長する可能性が考えられる。
— 204—
8 月 27 日 (金) C 会場
日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
一般講演・ポスター発表 — 8 月 28 日 (土)
• 動物植物相互作用
• 保全・管理
• その他
— 205—
日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
— 206—
ポスター発表: 動物植物相互作用
P3-001
P3-002
12:30-14:30
シカとササは樹木実生にどのように影響するか?
◦
◦
古澤 仁美1, 荒木 誠2, 日野 輝明1, 伊東 宏樹1, 上田 明良3, 高畑 義啓1
1
森林総合研究所関西支所, 2森林総合研究所, 3森林総合研究所北海道支所
1
森林総合研究所関西支所, 2森林総合研究所北海道支所
ニホンジカが高密度で生息する大台ヶ原の針広混交林において 1997 年 5
月にシカの排除の有無と毎年のササ刈りの有無を組み合わせた4つの処理
区を設置し、シカとササが土壌の物理性と水分状態に与える影響を検討し
た。1997 年5月と処理開始 4.5 年後の 2001 年 10 月に表層土壌(0-5cm)
の孔隙解析を行うとともに、2001 年6月-10 月に表層土壌(6cm 深さ)の
水分状態を測定した。また、1997 年5月-2003 年 10 月の毎年春と秋にリ
ター層を含めた地表面の土壌硬度を山中式硬度計で測定した。
土壌6 cm 深のマトリック・ポテンシャルは4つの処理区のうちシカ排除・
非ササ刈り区において最も低くなる傾向が認められた。これは、この区のサ
サの地上部現存量の増加にともないササによる水分吸収が増加したためと
考えられた。処理開始 4.5 年後の 2001 年 10 月の孔隙組成を初期値(1997
年5月)と比較すると、対照区では孔隙組成の変化は認められなかったのに
対し、シカを排除した2つの区では初期値に比べて粗孔隙(0 から-49.8kPa
に相当)の増加と細孔隙(-49.8kPa 以下)の減少が認められた。シカの踏
圧の排除やササの増加が粗孔隙を増加させたと考えられた。対照的に非シ
カ排除・ササ刈り区では粗孔隙の減少と細孔隙の増加が認められた。この
区ではササの地上部現存量が最も小さく、ササによる雨滴衝撃を弱める効
果が減少したために粗孔隙が潰れて細孔隙が増加したと考えられた。シカ
排除・非ササ刈り区における地表面の土壌硬度は、2000 年9月以降にはお
よそ8 mm 前後で、他の3区の値 (10mm-14mm) より小さくなった。地表
面の土壌硬度の低下にはリター層の物理性が影響していると考えられた。
奈良県大台ヶ原において野外実験をおこない、ニホンジカ、ネズミ類、ミ
ヤコザサの 3 つの要因が、樹木実生の生存に対してどのような影響を及
ぼしているのかを評価した。1996 年に、ニホンジカ、ネズミ類、ミヤコ
ザサのそれぞれの除去/対照の組み合わせによる 8 とおりの処理区を設
定し、その中に発生してきた、ウラジロモミ (1997 年、2002 年に発生)、
アオダモ (1998 年、2002 年)、ブナ (1999 年) の 5 つのコホートについ
て、マーキングして生存状況を追跡した。この結果を元に、それぞれの
コホートの実生の生存時間について各処理の間で差があるかどうかをロ
グランク検定により検定した。
その結果、(1) すべてのコホートに共通して、シカ除去処理区における
ミヤコザサが生存時間に対して負の影響を及ぼしていることがわかった。
また、(2)2002 年のウラジロモミを除くコホートでは、ササ除去区におい
て、シカが負の影響を及ぼしていた。一方、(3) アオダモ (1998 年、2002
年) およびウラジロモミ (2002 年) の 3 つのコホートに対しては、シカ
の影響は、ササ残存区においては正の効果をもたらしていた。
シカ除去処理をおこない、ミヤコザサを残存させた処理区では、ミヤコ
ザサが急速に回復して林床を覆うようになった。(1) の効果は、このため
であると考えられる。大台ヶ原のニホンジカは、ミヤコザサを主要な食
料としており、ミヤコザサを減少させる要因である。(2) のように、ニホ
ンジカは直接的には実生に対して負の効果をもたらすことがあるが、(3)
のように、ミヤコザサを減少させることにより間接的に正の効果を及ぼ
すこともあることがわかった。
ネズミ類除去処理については、顕著な効果は認められなかった。
P3-004
12:30-14:30
三者系における「植物の会話仮説」の数理モデルを用いた理論的考察
◦
12:30-14:30
シカとササが表層土壌の物理性と水分動態におよぼす影響
伊東 宏樹1, 日野 輝明1, 高畑 義啓1, 古澤 仁美1, 上田 明良2
P3-003
P3-001
8 月 28 日 (土) C 会場
ボクトウガ類の幼虫が樹液資源と樹液に集まる昆虫群集に及ぼす影響
◦
小林 豊1
12:30-14:30
吉本 治一郎1, 西田 隆義1
1
1
京都大学大学院農学研究科昆虫生態学研究室
京都大学生態学研究センター
植物は、植食性節足動物に食害を受けると、しばしばSOSシグナルと呼ば
れる揮発性物質を放出する。このSOSシグナルは、植食者の天敵を誘引し、
天敵は植食者を退治する。つまり、SOSシグナルを介して、植物と天敵の
間に互恵的関係が成り立っている。近年の研究から、未加害の植物がこのS
OSシグナルにさらされると、自身もまたシグナル物質を放出するようにな
ることが明らかになった。シグナル物質の生産に何らかのコストがかかると
すれば、このような形質の適応的意義はそれほど明らかではない。著者は、
このようないわゆる「立ち聞き」の適応的意義について考察し、三つの仮説
を立て、数理モデル化した。そのうち、第一の仮説「被食前駆除仮説」につ
いては、既に発表済みである。今回は、第二、第三の仮説について考察する。
第二の仮説「被食前防御仮説」によれば、「立ち聞き」による二次的なシ
グナルは、前もって天敵を呼び寄せておくことにより、将来の食害の危険を
軽減するための戦略である。著者は、ゲーム理論的なモデルを構築して、こ
のような機能をもったシグナルが進化的に安定になる条件を調べた。
一方、第三の仮説「血縁選択仮説」によれば、「立ち聞き」による二次シ
グナルは、近隣の血縁個体を助けることにより自身の包括適応度を上げるた
めの戦略である。もし隣り合った個体が同時にシグナルを出すことによりシ
グナルの天敵誘引能を向上することができ、かつ隣り合った個体同士が互い
に遺伝的に近縁ならば、このような戦略が進化しうるだろう。各格子がパッ
チになっているような格子状モデルを用いてこのような「立ち聞き」戦略が
有利になる条件を調べた。
本発表では、これらの数理モデルの結果を報告し、仮説間の関係について
も議論する。
広葉樹の幹から滲出した樹液には多くの昆虫が吸汁のために集まることが知
られている。そのような場所では穿孔性昆虫のボクトウガ科 Cossidae の幼
虫も頻繁に観察されることから、これらが特に滲出に関係しているのではな
いかと考えられている(市川 私信)。そこで、本研究において、ボクトウガ
類の幼虫が樹液資源の存在様式とそれらに集まる昆虫群集の構造にそれぞれ
どのような影響を及ぼしているのかについて調査を行った。
2002 年には全パッチ(滲出部位)の約 61 %で、2003 年には約 36 %で、
幼虫または幼虫の巣の存在をそれぞれ確認した。これらは幼虫の穿孔と樹液
の滲出との関係が示唆されたパッチであると言える。幼虫個体数の季節変動
は両年とも総パッチ数の変動とほぼ一致したが、後者で若干の時間的な遅れ
が見られた。また、2002 年には、幼虫個体数の増加に伴って樹液食昆虫の
種数と個体数が有意に増加した。翌年にも、巣が存在したパッチ(幼虫存在
パッチを含む)において、樹液の滲出期間、樹液に覆われた面積(パッチ表
面積)ともに幼虫および巣のないパッチを上回っていた。さらに、群集の属
性(総種数・総個体数・多様度)に関しても同様の傾向が見られたが、種に
よってその傾向は異なり、特に、ケシキスイ類、ハネカクシ類、ショウジョ
ウバエ類など、いわゆる樹液スペシャリストに属する種の個体数は、巣のあ
るパッチの方で顕著に多くなっていた。
以上より、ボクトウガ類の幼虫は樹液の滲出を促進し、その分布とフェノロ
ジーが樹液資源の存在様式を規定することが示唆された。さらに、これらは資
源を介して群集構造にも間接的に正の効果を与えていることが明らかになっ
た。だたし、これらの効果は種によって異なっていたことから、樹液に対す
る依存度などの種固有の生態学的特性が相互作用に反映されたのではないか
と予想された。
— 207—
P3-005
ポスター発表: 動物植物相互作用
P3-005
P3-006
12:30-14:30
工藤 岳1, 平林 結実1, 井田 崇1, 石井 博1
◦
1
北海道大学地球環境科学研究科
ポリネーターの訪花頻度と各訪問時の連続訪花数は、植物の送粉成功に大き
く影響する。開花数の増大はポリネーターの誘引を高めるが、連続訪花数を
増加させてしまうかも知れない。植物の開花戦略として、ポリネーション機
能(花粉の送受粉)がなくなった花弁をすぐに落とす (type-1) 、報酬(蜜分
泌)をなくして保持する (type-2) 、報酬を維持して保持する (type-3)、そし
て報酬をなくし、かつその情報をポリネーターに告知する(報酬のない花の
色を変える: type-4)などの方法が考えられる。このうち、花色変化は、遠方
からの誘引能力を維持しつつ、訪れたポリネーターを効率的に訪花させる巧
妙なメカニズムと考えられ、多くの植物で報告されている。しかし、その相
対的な効果については十分な検証がなされていない。我々は人工花序を用い
た実験により、花色変化の効果について検証を試みた。
実験 1)単一花序の場合:花序への訪花頻度は type-1 で低く、花序内連続
訪花数は type-3 で大きかった。機能を終えた花への訪花数は type-4 で小さ
かった。
実験 2)複数花序の場合:ポリネーターの訪花頻度は type 間で大差なかっ
た。個体内連続訪花数は type-2 と 3 で大きく、type-1 と 4 で小さかった。
花色変化がポリネーターへ及ぼす相対的効果は、ディスプレイサイズ(個
体あたりの開花数)により変化した。ディスプレイサイズが小さい場合、機
能を終えた花の維持は、個体へのポリネーター誘引に寄与した。花色変化は
連続訪花数に影響しなかったが、機能を終えた花への訪花を防ぐ効果があっ
た。一方で大きなディスプレイサイズを持つ場合、機能を終えた花の維持は
ポリネーターの誘引には寄与せず、訪問あたりの連続訪花数の増加をもたら
した。しかし、花色変化することにより連続訪花数は減少し、送粉効率を高
めるように作用していた。
P3-007
熊野 有子1, 山岡 亮平1
1
京都工芸繊維大学、工芸科学
東マレーシアボルネオ島に自生するサトイモ科 Homaromena propinqua は雌
性先熟で午前中に特徴的な匂いを放出し送粉者であるヨツバコガネ (Parastasia
bimaculata Guerin) とハムシ (Dercetina sp.) を誘引する。一般に甲虫送粉の
サトイモ科植物では雌性期に肉穂花序の先端が一時的に発熱し、同時に多く
の送粉者が雌性期の花序を訪花すると報告されているが、このような訪花行
動を形成する要因として送粉者を誘引する花香の質的、量的変動が影響して
いるのではないかと推測できる。そこで本研究では H.propinqua とその甲虫
送粉者2種を用い、送粉者の訪花行動と花香変動の関連性を調べた。
調査の結果、2種の送粉者とも肉穂花序が発熱している時間帯の 7:00 から
8:30 に多く訪花しているものの、雌性期、雄性期1日目、雄性期2日目の
平均訪花数を見ると、ヨツバコガネは雌性期の花序に多く訪花しその後減
少していくのに対し、ハムシはどの性ステージの花序にも同様に訪花して
いた。また GC および GC-MS による花香分析の結果、全花香量は雌性期、
雄性期1日目の 7:00-8:00 の間に最も増加する傾向が見られた。さらに花香
の主要 3 成分に関して試薬を用い送粉者の誘引実験を行ったところ、ヨツ
バコガネは 2-Butanol + 1,2-Dimethoxybenzene 5:1 の混合溶液に、ハムシは
1,2-Dimethoxybenzene に誘引された。この 2 成分の量変化を性ステージご
とに見てみると、2-Butanol 量は雌性期から雄性期にかけて段階的に減少し
ていたのに対し、1,2-Dimethoxybenzene は有意な量変化は見られなかった。
この結果は各性ステージにおける送粉者の平均訪花数と一致していたことか
ら、誘引成分の量変動が送粉者の訪花行動に影響を与えている可能性が示唆
された。
P3-008
12:30-14:30
送粉共生系を指標とした草原生態系の評価とモニタリング
◦
12:30-14:30
サトイモ科 Homaromena propinqua の送粉システムにおける花香変動
と送粉者への誘引効果
花色変化の有効性:人工花序を用いたポリネーション効率の検証
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
12:30-14:30
冬に山から里に下りるヒヨドリの事情
◦
中野 千賀1, 鷲谷 いづみ1
山口 恭弘1
1
1
中央農研・鳥獣害研
東京大学農学生命科学研究科
前大会の発表において私たちは、送粉共生系における虫媒花植物と送
粉者との関係を群集レベルで評価するための指数(送粉有効性指数)と
評価手法を提案した。今回はその手法のモニタリングへの具体的適用例
として、2ヶ所の草原管理地で収集した植物の開花と昆虫の訪花に関す
るデータを解析した結果について発表する。
北海道日高地方の二次的草原では、優占するミヤコザサに対する草刈
り強度の異なる隣接する3つのエリア(草刈り強度:強・中・弱)を比較
することで、草原生態系の管理手法の評価を試みた。その結果、草刈り
強度が強い草原では数種の外来種が優占することによって送粉共生系が
単調になり、また強度が弱い草原ではミヤコザサが優占することによっ
て系が貧弱となることが明らかとなった。強度が中程度の草原で最も虫
媒花の植物の多様性が高まり、開花期を通して豊かな送粉共生系が認め
られた。
もう一方の長野県軽井沢町のカラマツ林伐採跡地に成立した草原では、
木本の伐採によって管理する谷地を3年間にわたってモニタリングし、管
理手法の提案を試みた。その結果、春期のマルハナバチ媒花の減少とそ
れに伴うマルハナバチ類の訪花の消失が認められたため、マルハナバチ
媒花を増やす試みが必要であること、また、外来種に有効な送粉が配分
されることを防ぐために、外来種に対する徹底した抜き取り管理が必要
であることなどが示唆された。
冬になると関東以西ではヒヨドリの個体数が増えるが、それは山から
里へという中距離(南北 30km)の移動のみでは説明できないことを第
50 回生態学会大会で報告した。今回はヒヨドリの個体数とヒヨドリの主
要な食物である液果の量の関係を調査したので報告する。
筑波山頂から農林研究団地までの南北 30km の間に 8ヶ所の調査地を
設け、2001 年 10 月から 2002 年 4 月までの期間、月2回の頻度で調査
した。ヒヨドリの個体数はラインセンサス法により調査した。液果数は
4ヶ所(筑波大学、研究団地、谷田川、桜川)は調査地内全ての液果の総
数を数え、残りの 4ヶ所(薬王院、薬・登山道、女・登山道、男体山研
究路)は、高木相は調査範囲内、低木相はラインの両側5mの範囲を調
査し、そこから総数を推定した。
調査地8ヶ所を比較すると、山の調査地では中腹から山頂にかけては他
の調査地と比べて液果数が少なかった。またヒヨドリ個体数も少なく 10
月前半をピークに 12 月後半にかけて減少していった。液果がほとんどな
くなった 1 月から 3 月にかけては少数のヒヨドリがいるのみであった。
一方、里の調査地である筑波大学、研究団地の2ヶ所は植栽木が多いた
め、他の調査地よりはるかに多くの液果量であり、11 月前半より 12 月
後半にかけて著しいピークを持つという特徴がみられた。ヒヨドリ個体
数も 10 月後半から 12 月後半まで高い状態を維持していた。里の調査地
でも谷田川では液果はムクノキ、エノキが多く、10 月前半から 12 月後
半にかけて急激に減少した。ヒヨドリ個体数も同様のパターンを示した。
このようにヒヨドリの個体数は液果の量と非常に密接に関係しており、
冬の早い時期に液果が消失する山では秋に渡ってきたヒヨドリはそのま
ま越冬できず、液果の減少に伴い液果が残っている里へと移動していく
ことが考えられた。
— 208—
ポスター発表: 動物植物相互作用
P3-009
P3-010
12:30-14:30
ニホンジカの採食に対するイラクサの応答並びに刺毛形質の地域変異
◦
加藤 禎孝1, 石田 清2, 佐藤 宏明1
奈良女子大学, 2森林総合研究所
演者らはイラクサの刺毛形質についてこれまで研究し、奈良公園の個体群は
他地域の個体群よりも刺毛密度が高く、刺毛数も多いことを明らかにした。
今回は、シカの被食をコントロールする野外実験と栽培実験を行った。1)
野外実験:2003 年2月 ∼ 9月まで、奈良公園内に調査区を設けた。調査
区内に金網柵を4個設置し、各金網柵ごとに対照区を1つ設定した。金網柵
と対照区にはイラクサ4 ∼ 5個体含むようにした。実験終了後、葉の外部
形質、草丈、地上部と地下部の乾重を測定した。この実験により、葉面積は
金網柵と比べて対照区の方が小さく、刺毛数も対照区の方が少なかった。一
方、刺毛密度は上部葉・中間葉は下部葉よりも高くなる傾向がみられたが、金
網柵と対照区の差は有意ではなかった。以上の結果は刺毛密度についてはシ
カの採食の影響が小さいことを示している。また、草丈は対照区は金網柵に
比べて小さく、地下部及び地上部の乾重は、金網柵と比べ両者とも少なかっ
た。2)栽培実験:奈良公園とシカが生息していない桜井市穴師の種子を用
いて、ガラス室内で 2003 年5月 ∼11 月まで栽培を行った。これから、奈
良公園の方が桜井市穴師よりも、刺毛数は多く、刺毛密度は高いことが明ら
かになった。また、葉の位置によってもこれらの形質に違いが認められた。
葉の下面の刺毛長も奈良公園の方が長かった。この結果から、この2地域の
刺毛形質の違いは遺伝的に固定されていると推定される。以上の野外実験と
栽培実験により、シカによる採食が、自然選択を通してイラクサの刺毛数と
刺毛密度を増加させていると推定される。一方、シカの採食は短期的には刺
毛数を減少させるが、刺毛密度に及ぼす影響は比較的小さいといえる。
P3-011
滋賀県湖東地域における果実と鳥の関係:平野と山地の比較を中心に
して
◦
小南 陽亮1, 真鍋 徹2
1
静岡大学教育学部, 2北九州市立自然史・歴史博物館
ヒサカキは照葉樹林に広くみられる樹種であり,その果実が多様な鳥種に
採食・散布されることから,その散布特性が多くの鳥散布性植物の散布時期・
量に影響する可能性がある。ヒサカキが成熟果をつける時期は初秋から冬に
かけてであり,鳥に採食・散布される時期も長期にわたる。この季節性は,
散布者側の密度や選好性,植物側の果実特性や個体差によって生じると想定
される。
本研究では,ヒサカキ果実の消失速度と様々な特性(幹高,株高,果実位
置,林縁からの距離,成熟速度)との関係を解析し,消失速度の個体差をも
たらす要因を明らかにすることを目的とした。
調査を行なった熊本市立田山の二次林では,10月以降にヒヨドリやツグ
ミ類などの果実食鳥が増加し,ヒサカキ果実は10月 ∼ 11月に急速に消
失した。この消失速度には個体差がみられ,速い個体では10月中にほとん
どの果実が消失したが,遅い個体では11月下旬でも 90 % 以上の果実が残
存していた。このような消失速度の違いと最も強く関係したのは果実が成熟
する速度であった。また,果実がついている高さや林縁からの距離も関係す
ることが示唆された。
今回の結果からは,消失速度の個体差をもたらす要因としては散布者側よ
りも植物側のほうに強い要因があること,特に成熟速度に影響する要因が最
も大きな影響をもつことを示した。ヒサカキの果実は成熟してもすぐには落
下しないが,果実食鳥が多い場合には本研究の例のように急速に消費される。
成熟速度にみられる大きな個体差は,果実食鳥による需要が大きい場合でも
種子散布の期間を長くするように作用すると考えられる。
P3-012
12:30-14:30
浜田 知宏1, 近 雅博1, 野間 直彦1
12:30-14:30
照葉樹林において鳥による種子散布の鍵種となるヒサカキの結実・散
布特性
◦
1
P3-009
8 月 28 日 (土) C 会場
12:30-14:30
中型哺乳類の散布に依存するオオウラジロノキの種子発芽
◦
林田 光祐1, 音喜多 陽子1
1
山形大農
1
滋賀県立大学環境科学
滋賀県湖東地域における山地から平野までの林で鳥散布型植物の果実フェノ
ロジーと果実食鳥類の個体数の季節変動について明らかにすることを目的と
して調査を行った。滋賀県彦根市の平野の犬上川下流域 (標高 90m)、佐和山
(120-200m)、多賀町霊仙山ふもとの山地の今畑 (350-600m) を調査地とした。
各調査地で 2km × 50m の調査区を設け、2003 年 5 月から調査を行った。
果実については約 1 週間間隔で結実個体の果実数を計測し、範囲内の果実量
を推定した。また、種ごとに熟した果実の形態を測定した。鳥類については約
1∼2 週間間隔でロードサイドセンサス法を用いて出現種数および出現個体数
を記録した。その結果、平野と山地の両方で秋から冬にかけて鳥散布型植物
の果実量は増加したが、山地では平野よりも約 1ヶ月はやく果実量の増加が
みられた。減少の時期も山地のほうが平野よりもはやかった。果実食鳥類の
個体数変動はこのような平野と山地との間でみられる果実量の変化と対応し
ていた。果実食鳥類は秋以降に冬鳥として渡ってくるものが多く、各調査地
でその個体数が増加した。特にヒヨドリ (Hypsipetes amaurotis) は留鳥の個
体もいたが、秋以降に渡ってくる個体が多かった。また、ムクドリ (Sturnus
cineraceus) は平野でのみ季節を通して確認され、その個体数は多かった。秋
以降に熟した果実は平野よりも山地ではやく減少した。群集の果実サイズお
よび果実色については平野と山地で差はなかった。本調査地では、ヒヨドリ
は山地と平野の両方で、ムクドリは平野でのみ重要な果実食鳥類である。ヒ
ヨドリをはじめとする秋以降に渡ってくる果実食鳥類は、まず果実量の増加
する時期がはやい山地で増加する。そして平野でも果実量の増加する頃に果
実食鳥類は最も多くなる。このように果実の熟期は秋以降山地から平野へと
進み、果実食鳥類は果実フェノロジーと対応するように個体数の増減を示し
た。しかしヒヨドリのように山地でも平野でもみられる種もいれば、ムクド
リのように開けた環境を好み平野内のみでみられる種もいるなど、種によっ
て果実の採食環境は異なっていた。
オオウラジロノキはリンゴ属の落葉高木で、球形の果実は径約2 cm
と大きく果肉も硬いため、ヒヨドリなどの果実食の鳥によって種子が散
布されているとは考えにくく、母樹下に果実が自然落下した後に哺乳動
物に食べられて種子が散布されていると予測される。また、落下した果
実は容易に自然分解できないと考えられることから、被食散布された場
合と果実のままで自然落下した場合では種子の発芽に大きな違いがある
ことも予測される。そこで、オオウラジロノキにおける動物散布の意義
を明らかにすることを目的として、種子散布者の特定調査と発芽実験を
行った。
2001 年と 2002 年にオオウラジロノキ母樹下に落下した果実は両年
ともに翌年の春までにはすべて消失した。その間に赤外線センサー付カ
メラで撮影された動物は9種で、テン、ハクビシン、タヌキ、キツネの
中型哺乳動物4種が散布者であると推察される。恒温恒湿器の発芽実験
では、被食散布された種子を想定して人為的に果肉を除去した種子の 50
% が発芽したが、果実のままではまったく発芽が見られず、果実中の種
子はすべて死亡していた。苗畑の発芽実験では、種子の多くが播種した
翌春に発芽したが、果実では翌春には発芽せず、翌々春に1個体発芽し
ただけであった。母樹樹冠下に落下した果実は、翌春の発芽時期になっ
ても果肉の大部分が残っていて、その後 10 月までには果肉はほぼ分解
したが、果実中に含まれている種子はすべて死亡していた。
以上のことから、オオウラジロノキの種子は落下した果実のままでは
発芽できずにほとんど死亡してしまい、果実が中型哺乳動物に食べられ
て種子散布されることで、種子の発芽が可能になると推察される。
— 209—
P3-013
ポスター発表: 動物植物相互作用
P3-013
P3-014
12:30-14:30
秋田駒ケ岳における落葉広葉樹林の展葉フェノロジーとイヌワシの繁
殖との関係
◦
◦
清水 祐美1, 浦山 光太郎1, 堀 良通1
1
茨城大学理学部生態学研究室
1
(財)電力中央研究所 環境科学研究所
演者らは、秋田駒ケ岳周辺のイヌワシペアについて、食物連鎖の観点から
研究を進めてきた。これまでの研究によって、当地域のイヌワシの主要な餌
動物がノウサギであることが明らかにされた。イヌワシによるノウサギの捕
食は林木の展葉に影響を受けるため(白木ら 2001)、行動圏内を広く占める
落葉広葉樹林の展葉は、イヌワシとノウサギの捕食被食関係を通じて、地域
の食物連鎖関係に何らかの影響を及ぼしているものと推察される。そこで本
研究では、イヌワシ行動圏における落葉広葉樹林の林冠の展葉状況を全天写
真により定量化し、積算温度によってモデル化することによりイヌワシの繁
殖との関係を解析した。
繁殖期の行動圏における主要な落葉樹高木林はブナ林、ミズナラ林、コナ
ラ林であるが、ミズナラ、コナラの開葉は同じ標高のブナよりもかなり遅れ
ていた。そこで、ブナ林とミズナラ・コナラ林とで別々に展葉モデルを作成
した。5 ℃以上の積算温度を変数とした場合、それぞれの展葉はロジスティッ
ク式によってモデル化できることが分かった(r2 ≧ 0.9)。そこで、このモ
デル式を GIS の DEM データとリンクさせることによって、繁殖期の行動
圏全体における落葉広葉樹林の展葉状況(全展葉率)を、3 月から 8 月まで
の日ごとに計算した。
2003 年において、ヒナの孵化から巣立ちまでの期間を育雛期間とし、温
度と全展葉率を説明要因としたロジスティック回帰を行なった結果、育雛ス
ケジュールはこの2つの要因で説明できることが示唆された。これらの関係
が他年度にも同様に当てはまると仮定し、2002 年度の育雛適期(全展葉率と
気温から繁殖に適していると考えられる日数)を計算したところ、2003 年
よりも大幅に低下していることが明らかとなった。2002 年は巣に運ばれた
餌量が少なく、イヌワシの繁殖が失敗しており(竹内ら 2003)、春先に温度
が急激に上昇し展葉が一気に進んだことが餌搬入量の減少につながったこと
が伺えた。
以上の結果より、落葉広葉樹林の展葉は上位捕食者の餌捕獲効率を通じて、
食物連鎖関係に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。
12:30-14:30
鳥散布種子を集める:森林内での疑似果実の効果
◦
12:30-14:30
住宅地域空地における開花植物と送粉昆虫の関係
阿部 聖哉1, 竹内 亨1, 松木 吏弓1, 石井 孝1, 梨本 真1
P3-015
8 月 28 日 (土) C 会場
都市及び都市近郊域には空地、放棄畑、放棄水田が存在し、季節ごと
に多様な植物の開花が見られる。それらの場所での開花植物は訪花昆虫
の維持に重要な役割を果たしていると考えられる。本研究はそのような
場所での開花フェノロジーと送粉昆虫の関係を調査し、都市近郊域の空
地に生育する開花植物の訪花昆虫に対する役割を考察した。
調査地は水戸市の約 20 年前までは住宅地であった場所を更地にし、そ
の後毎年秋に刈り取り、持ち出しを行っている約 2,000m2 の代償植生で
ある。2003 年 4 月から 12 月に、約 1 週間に 1 回、晴天日の午前中の
約 3 時間に、イネ科植物を除く開花植物の種名と訪花昆虫の調査を行っ
た。調査は毎回 2-3 人で行い、調査地内を巡回し、昆虫を採集した。
調査期間中に 21 科 51 種の植物が開花した。開花植物数は春に多く、
季節が進むに従って減少した。採集された訪花昆虫はハチ目(43 %)、
ハエ目(27 %)、コウチュウ目(13 %)、カメムシ目(10 %)、チョウ
目(7 %)の 5 目であった。ハチ目の約 70 %はハナバチ類であった。
季節を通して開花している在来植物と帰化植物の種数の割合はほぼ一定
であったが、帰化植物への訪花昆虫が著しく多かった。訪花昆虫の多い
植物は、分類群(目)によりやや異なったが、4 月はセイヨウタンポポ、
5 月はハルジオン、シロツメクサ、セイヨウタンポポ、6 月はシロツメ
クサ、セイヨウタンポポ、7 月はオカトラノオ、ヒメジョン、8 月はヒメ
ジョン、ヤブカラシ 9 月はヤブカラシ、10 月と 11 月はセイタカアワダ
チソウであり、季節を通して帰化植物が訪花昆虫の餌源に重要な役割を
果たした。特に、早春から初夏(セイヨウタンポポ、シロツメクサ、ハ
ルジオン)と秋(セイタカアワダチソウ)は帰化植物のみが昆虫の餌源
であった。なお、オカトラノオは周辺地域には見られず、住宅地当時に
植栽されたものと考えられる。
P3-016
12:30-14:30
穿孔性が及ぼす間接効果とその強度の違い
◦
八木橋 勉1, 安田 雅俊2
内海 俊介1, 大串 隆之1
1
1
森林総合研究所 森林植生研究領域, 2森林総合研究所 鳥獣生態研
京都大学生態学研究センター
鳥散布種子の散布距離推定や遺伝解析による親木の推定などを行う際
に,鳥類によって散布された種子を回収する必要がある。しかし,通常
の種子トラップでは鳥散布種子の回収率は低く,多数のサンプルを集め
るには効率が悪い。本研究では,道路法面で効果が報告されている,疑
似果実を用いた鳥散布種子の回収率の向上法が,森林内でも有効である
のかを検討した。
茨城県北部の広葉樹天然林(小川植物群落保護林)の林床において,疑
似果実付き止まり木と種子トラップをセットにしたものと,通常の種子
トラップのみのものを 1 対にして設置し,疑似果実による鳥類の誘因効
果を検証した。トラップは 2003 年 5 月上旬に,谷筋に 40 m 間隔で 5
個 1 列と尾根に 5 個 1 列を設置し,9 月に谷を挟んだ反対側の尾根に
5 個 1 列を増設した.疑似果実には赤と黒の色付きガラスビーズを用い,
トラップの内容物は 2 から 4 週毎に回収した。
秋期や冬期には疑似果実付きトラップの方が,通常の種子トラップよ
りも回収された種子が多く,疑似果実の誘因効果が認められた。秋期に
はおもにミズキなどの液果が,冬期にはツタウルシなどの乾果が多かっ
た。夏期には誘因効果が見られなかった。これは,調査地の 2003 年の
夏期の結実量自体が非常に少なかったことや,夏期には昆虫などのえさ
資源が豊富で鳥類による果実の利用が少ないことなどが原因として考え
られるが,明らかでない。
効果が認められたため,疑似果実付きトラップを広葉樹天然林の周辺
にある,針葉樹人工林内に帯状に残された広葉樹保残帯に 10 個設置し,
分断化した森林で鳥散布による種子の種構成や量が,連続した広葉樹天
然林と異なるのかについてを予備的に検討した。保残帯では,秋期になっ
ても種子の回収が少なく,ほとんどが冬期に回収された。また,ミズキ
などの高木類の割合が少なく,ヤドリギ,ツルウメモドキ,ヤマブドウ,
アケビなどが回収された。
We investigated the indirect effects of the stem-boring insect Endoclyta excrescens on two insect herbivores on three willow species, Salix gilgiana, S.
eriocarpa, and S. serissaefolia.
When the branches were damaged by the stem-boring insect, the willows were
stimulated to vigorously produce lateral shoots. This enhanced lateral shoot
growth was also found after physical damage by artificial boring. Newlyemerged lateral shoots were longer and upper leaves had a higher water and
nitrogen content.
Larvae and adults of the leaf beetle Plagiodera versicolora were significantly
more abundant on lateral shoots than on current-year shoots. Similarly the
density of the aphid Chaitophorus saliniger was significantly higher on lateral shoots than on current-year shoots. Although densities of the two insect
species on current-year shoots did not differ among willow species, we found
significant differences in densities on lateral shoots among willow species.
The stem-boring insect positively affected the aphids and the leaf beetles by
producing new food resources as a result of the resprouting responses of the
three willow species. However the intensity of the positive effects caused by
the stem-boring insect was different among the three willow species because
of different regrowth responses to boring damage.
— 210—
ポスター発表: 動物植物相互作用
P3-017
P3-018
12:30-14:30
トビイロシワアリが巣に運び込むコニシキソウ種子は食料ではない?
◦
12:30-14:30
タイの熱帯季節林における果食性動物と果実形態との関係
◦
大西 義浩1, 西森 大樹1, 鈴木 信彦1, 片山 昇2, 寺西 眞2
P3-017
8 月 28 日 (土) C 会場
1
佐賀大学農学部, 2京都大学生態学研究センター
鈴木 俊介1, 北村 俊平2, 近 雅博1, 野間 直彦1, 湯本 貴和3, Poonswad Pilai2, Suckasam
Chumphon4
1
滋賀県立大学大学院環境科学研究科, 2Hornbill Project, Mahidol University, Thailand, 3総合地球環境学
研究所, 4National Park, Wildlife and Plant Conservation Department, Thailand
アリによる種子散布の研究では、種子にエライオソームをつける典型的なア
リ散布植物を扱ったものが多く、エライオソームをつけない種子をアリが運
搬する収穫アリ型種子散布についてはあまり研究されていない。植物が食害
等の損失を伴う収穫アリ型種子散布では、巣内への種子搬入、巣外への種子
搬出、種子の食害率などの散布者の行動特性が特に重要になってくると思わ
れるが、これらの行動に注目した研究はほとんど行われてきていない。本研
究では、トビイロシワアリによるコニシキソウ種子の運搬行動を調査し、ト
ビイロシワアリにとってのコニシキソウ種子の運搬行動の意義を考察した。
収穫アリ型種子散布では一般に、アリに運搬された種子の大部分は食害さ
れ、無傷で発芽が可能な種子はほとんど残らない。しかし、トビイロシワア
リはコニシキソウの種子を巣内に搬入したが、搬入した種子の約半数を再び
巣外に搬出した。巣内に残っていた種子は食害されておらず、巣外に搬出さ
れた種子の食害率も低かった(約 10 % )。飢餓状態のトビイロシワアリな
らば種子を食害するかもしれないので、絶食が種子の運命におよぼす影響を
調べてみたが、飢餓状態でもほとんど種子を食害しなかった。さらに、コニ
シキソウ種子と典型的な食料としていたアワの種子に対するトビイロシワア
リの行動を比較した。その結果、巣内に搬入されたアワの種子は巣外に搬出
されることはなく、幼虫がいる場所の近辺に置かれる傾向が見られ、ほぼす
べてが食害されていた。それに対してコニシキソウの種子では、搬入された
種子の約半数が巣外へ再び搬出され、巣内に残った種子が置かれる場所に特
定の傾向はなく、食害率も低かった。
これらの実験結果より、トビイロシワアリはコニシキソウ種子を運搬する
が、食料とみなしていない可能性が示唆され、結果的にトビイロシワアリは
他の収穫アリ型種子散布より効率良くコニシキソウ種子を散布していると考
えられた。
P3-019
果実の色や大きさは、果食性動物の餌の好みを決めるためや、果食性動物
社会を構成する上で重要な要因である。タイ・カオヤイ国立公園の熱帯季
節林では、主にこれまで直接観察による樹上での昼行性の果食性動物の果
実利用パターンが調査されてきた。しかし、林床での動物による果実消費
は、種子捕食・種子散布の面で森林更新に重要な役割を果たすと考えられ
ているが、特に夜間で、不明のままだった。そこで、林床における果食性
動物の果実利用の特徴を明らかにするために様々な樹種の果実を対象に自
動撮影を行い、果食性動物と果実の形態との関係について解析した。
調査は 2000 年 7 月から 2002 年 6 月にかけて、29 科 69 種の果実を対象
に写真撮影を行った。調査では、母樹から集めた果実を同じ母樹下の林床
に置いてカメラを設置した。1 回の撮影期間は少なくとも 5 日間だった。
撮影された哺乳類 30 種、鳥類 17 種、爬虫類 1 種のうち、哺乳類 16 種、
鳥類 8 種が 57 種の果実を利用した。1 種の果実を利用した動物種は 1 か
ら 9 種の範囲だった。動物によって利用された果実の種数は 1 種から 33
種まで様々であった。アカスンダトゲネズミやブタオザルが最も一般的な
果実利用者であり、特定の果実との間の密接な関係は見られなかった。地
上性の小型齧歯類間やホエジカとサンバーといったように系統発生的に近
いグループは似通った果実を好むことが示された。しかし小型のマライシ
ロハラネズミのみは果実サイズの小さなイチジク属 3 種やトウダイグサ科
Macaranga gigantea の果実を選択的に利用している傾向が示唆された。ま
た林床で採食するセキショクヤケイやシマハッカンのような鳥類は果肉部
の柔らかいイチジクやグミ科 Elaeagnus latifolia を主に利用した。一方、果
実の色は、地上性の果食性動物の果実選択の上では、あまり重要ではない
と考えられた。
P3-020
12:30-14:30
アカネズミのタンニン代謝においてタンナーゼ産生腸内細菌が果たす
役割
◦
島田 卓哉1, 齊藤 隆2, 大澤 朗3, 佐々木 英生3
12:30-14:30
カシワ・ミズナラ・種間雑種での潜葉性昆虫相と外食性被食率の比較
◦
石田 孝英1, 服部 耕平2, 木村 正人2
1
東京大学大学院農学生命科学研究科, 2北海道大学大学院地球環境科学研究科
1
森林総合研究所関西支所, 2北海道大学フィールド科学センター, 3神戸大学自然科学研究科
ミズナラなどの一部の堅果には,タンニンが乾重比にして 10%近くの高濃度で
含まれている.タンニンは,植物体に広く含まれる植食者に対する防御物質であ
り,消化管への損傷や消化阻害作用を引き起こすことが知られている.演者らは,
ミズナラ堅果を供餌したアカネズミ Apodemus speciosus が,著しく体重を減ら
し,高い死亡率を示すことを既に報告している.その一方で,アカネズミは秋季
には堅果を集中的に利用することが知られているため,野外ではタンニンを無害
化する何らかのメカニズムを有しているものと予測される.
コアラなどの一部の哺乳類の腸内には,加水分解型タンニンを特異的に分解す
るタンナーゼ産生細菌が存在し,タンニンを代謝する上で重要な働きを持つこと
が報告されている. そこで,演者らは,アカネズミ消化管内にタンナーゼ産生細
菌が存在するかどうか,存在するとしたらどの程度の効果を持つのかを検討した.
タンニン酸処理を施したブレインハートインフュージョン培地にアカネズミ糞
便の懸濁液を塗布し,タンナーゼ産生細菌の分離を行った.その結果,2タイプの
タンナーゼ産生細菌が検出され,一方は連鎖球菌の一種 Streptococcus gallolyticus,
他方は乳酸菌の一種 Lactobacillus sp. と同定された.野外で捕獲されたアカネズ
ミが両者を保有する割合は,それぞれ 62.5%,100%であった.
また,ミズナラ堅果を用いて堅果供餌実験を行い,アカネズミの体重変化,摂食
量,消化率,及び糞便中のタンナーゼ産生細菌のコロニー数を計測した.その結
果,体重変化,摂食量,消化率は,乳酸菌タイプのタンナーゼ産生細菌と正の相
関を示し,この細菌がタンニンの代謝において重要な働きを有している可能性が
示唆された.
さらに,アカネズミのタンニン摂取量,食物の体内滞留時間,タンナーゼ産生
細菌のタンナーゼ活性等の情報から,タンナーゼ産生細菌がタンニンの代謝にど
の程度貢献しているのかを考察する.
雑種形成は多くの植物で観察されているが、同所的に生育する2種間で雑種形
成がおきても、親種は独立した形態・生態を保持していることが多い。これは、
交配が選択的か、雑種個体の生存率が低いか、その両方の理由によるものと考
えられる。これまでのさまざまな植物雑種に関する研究において、雑種個体は
植食性昆虫によって甚大な被害を受け、生存率が低くなることが、観察されて
いる。
北海道石狩浜に広がる、カシワ・ミズナラ混成林では、これまでの葉形質・
DNA 多型・種特異的潜葉性昆虫相による多変量解析から、96 個体中 5 個体
(5.2%)が雑種個体であることが明らかになっている。親樹種は海岸沿いと内陸
で偏りのある分布を示すものの、重なる部分は大きく、交配が無作為に起こっ
ているすれば、5.2%という雑種個体の割合は低すぎると考えられる。そこで、
本研究では、雑種個体の適応度を明らかにするため、植食性昆虫による負荷を、
雑種個体と親樹種間で比較した。食植生昆虫による負荷としては、潜葉性昆虫
のホソガ科キンモンホソガ属7種・Tischeria 属 2 種・Stigmella 属・Caloptilia
属、モグリチビガ科未同定種、ハバチ科未同定 2 種の各密度と、キンモンホソ
ガ属幼虫の初期死亡率、外食性の被食率を用いた。その結果、雑種個体上の潜
葉性昆虫の密度は、カシワとミズナラの中間であるか、またはどちらかの親樹
種に近い値であり、潜葉性昆虫に抵抗的だったり、感受性が高かった例は見ら
れなかった。また、キンモンホソガ属幼虫の初期死亡率は親樹種・雑種個体間
で差がなく、外食性昆虫による食害の程度も親樹種の中間であった。これらの
ことから、本調査地では、植食性昆虫は雑種個体の生存率を低下させる要因に
はなっていないと結論された。
— 211—
P3-021
ポスター発表: 動物植物相互作用
P3-021
P3-022
12:30-14:30
移入種アオモジの分布域における種子散布
◦
◦
1
遠坂 康彦1
1
大阪府立大院・農学生命科学
京都大学大学院 農学研究科 昆虫生態
アオモジは九州以南に分布の中心を持つクスノキ科ハマビワ属の雌雄異
株の落葉樹である。かつて切り花生産などの目的で近畿地方に導入され、周
辺に逸出した国内移入種である。現在でも分布が拡大している地域があり、
拡大には鳥類の種子散布の影響が大きい。そこでアオモジ分布域での散布
種子量の測定を行った。
種子散布量の測定はアオモジ個体密度の小さな京都市ではシードトラッ
プを設置して、アオモジ個体密度の大きな大阪府泉佐野市および奈良県平群
町では鳥糞およびペリットの採取を、橋上および舗装された林道上で 2002
年と 2003 年に行った。
シードトラップによる散布密度測定では、8 月下旬から 9 月上旬にかけて
母樹直下の大型シードトラップ(17m2 )で計測されたが、40m までに設置
された小型シードトラップ(0.16m2 )では、ほとんど種子が計測できず、種
子散布密度の測定が困難なことが明らかとなった。
橋上および路面上での測定では、8 月上旬から 10 月上旬までと比較的
長い期間、アオモジ種子の散布が確認された。大阪府および奈良県の両調
査地の鳥糞から確認された樹種は、アオモジの他に、アカメガシワ、エノ
キ、クマノミズキ、ヨウシュヤマゴボウであった。1 個の鳥糞に含まれる
種子数の最大個数は、アオモジで 32 個、アカメガシワで 85 個、クマノ
ミズキで 37 個、ヨウシュヤマゴボウで 53 個であった。林外である橋上や
林道上に存在した鳥糞は大型で多くの種子を含み、カラスなどの大型鳥類
によって散布されたと考えられた。
これらの結果からアオモジの分布拡大における大型鳥類の影響、種子サ
イズと鳥糞に含まれる種子数の関係、アオモジが地域の植生に与える影響
についての考察を行う。
ムネアブラムシ族(Nipponaphidini)はマンサク科(Hamamelidaceae)
のイスノキ(Distylium racemosum)にゴールを作り、日本では 10 種以
上が属する。越冬世代が幹母でゴール形成者となり、その子供はゴール
から出て二次寄主であるブナ科(Fagaceae)の木本に寄主転換する。あ
る時期になると有翅型が現れ、一次寄主であるイスノキに戻る。この族
は年 5 世代を持つが、この有翅型だけが雌雄を産み、有性生殖し、他の
世代は単為生殖で雌だけを産む。両性世代は雌雄ともに無翅で、移動能
力が低く、両性世代は自分が産み落とされたイスノキで交配し、雌は卵
を産む。これが越冬世代となる。ふつう 1 本のイスノキに複数種のムネ
アブラムシ族が生息する。このようにムネアブラムシ族は同所的に種分
化してきたと考えられる。どのようにして多くの種が同所的に分化して
きたのかということを、交尾前隔離について両性世代の出現時期と繁殖
様式に着目して考察する。
まず、同所的であっても両性世代の出現時期が大きくずれれば交配す
る可能性はなくなる。アブラムシは展葉や出穂、落葉など師管液の栄養
状態が良い時期に有翅型を出現させる。ムネアブラムシ族もこの傾向が
当てはまり、二次寄主に常緑樹を使う種の多くは春先の展葉期に産性虫
が出現する。その一方で落葉樹であるコナラ、ミズナラを利用するヤノ
イスアブラムシ(Neothoracaphis yanonis)では秋の落葉期に産性虫が出
現する。この場合は同所的であっても生殖隔離が起きる。次に、同所的
同時期的に産性虫を出す種の繁殖様式を調べたところ LMC 種であるこ
とがわかった。LMC 種は近縁の任意交配種に比べ産性虫の個体数が少な
いだけでなく、子供は 1 箇所にかたまって成長し、雌雄ともほぼ同時に
羽化し、雄の寿命も短いことがわかった。このような場合、他繁殖集団
の個体と交配する機会が減少し、種分化を促進すると考えられる。
P3-024c
12:30-14:30
極端な表現型の共進化 ‐平衡から軍拡競争への地理クライン‐
◦
12:30-14:30
ムネアブラムシ族の種分化
中村 彰宏1
P3-023c
8 月 28 日 (土) C 会場
12:30-14:30
堅果類の生産量の年次変動が金華山島のニホンザルの行動圏利用に及
ぼす影響
東樹 宏和1, 曽田 貞滋1
◦
1
京都大学理学研究科
長さ 30cm のランの距とそれと同じ長さのスズメガの口吻のように、極端
な表現型が共進化過程を通して形成されることがある。ランナウェイや軍拡
競争と呼ばれるこのプロセスは多くの理論および実証研究の対象となってき
たが、そもそもなぜ「並」の表現型から極端な形質への共進化が開始される
のかという点については全く解明されていない。そこで、本研究ではヤブツ
バキ(ツバキ科)とその種特異的な種子食害昆虫であるツバキシギゾウムシ
(ゾウムシ科)の相互作用系を対象として、地球規模の物理的環境の変化が軍
拡競争の引き金となったことを示す。ヤブツバキは木質の堅い果皮を持ち、
ツバキシギゾウムシによる種子食害を避けるが、調査を行った地域(滋賀 ∼
屋久島)の北半分ではゾウムシ口吻に比べてツバキの果皮が薄すぎるため、
果皮の厚さに選択勾配が検出されなかった。ただ、このツバキの防衛形質に
関しては表現型の可塑性によると思われるクライン(南ほど果皮が厚い)が
存在し、年平均気温が 17 ℃に達する地域で果皮の厚さがゾウムシ口吻長に
接近し(果皮/口吻≒ 1)、厚い果皮への選択勾配が生じるようになった。そ
の結果、気温が 17 ℃より高い地域では、選択勾配が検出されなかった北の
個体群に比べて極端に果皮が厚く巨大なツバキ果実が観察され、対抗進化を
引き起こしていると考えられるゾウムシの口吻長についても体長の 2 倍に達
している集団が存在していた。中立的な遺伝マーカーによる解析から、ツバ
キ・ゾウムシ共に「並」の個体群と極端な個体群とのあいだに遺伝的なギャッ
プは認められず、最終氷期以降の温暖化と共に拡散した分布域内で、表現型
における共進化的平衡から軍拡競争までの地理クラインが存在していること
が解明された。以上から、1.相互作用する生物の形質がお互いの適応度に
大きな影響を及ぼしていても共進化が起こるとは限らず、2.非生物的環境
の変化が急速な軍拡競争の引き金となり得る、ことが示唆された。
辻 大和1, 高槻 成紀2
1
東京大学大学院農学生命科学研究科, 2東京大学総合研究博物館
秋から冬にかけての食物環境は結実の量的・質的な違いによって年次的に変
化する。本研究はこのような変化がニホンザルの行動圏利用にどのように影
響するかを明らかにする。
季節を秋(10-11 月)、冬(12-1 月)、早春(2-3 月)の 3 期に分け、2000
年の秋から 2004 年の早春にかけて、宮城県金華山島の A 群を対象に計 11
回の調査を行った。秋の主用食物 4 種(ブナ、ケヤキ、シデ、カヤ)の結実
量を種子トラップ (n=40) で評価し、これと植生調査および先行研究のデー
タより調査地内のエネルギー・タンパク質の生産量を試算した。行動圏利用
については各調査中に 1 週間程度の行動観察を行い、スキャニング法で行動
割合(採食、移動、休息、社会行動)を求め、また行動圏地図から移動距離
および移動速度を求めた。これらの各項目について季節ごとに回帰分析を行
い、エネルギー・タンパク質生産量と行動圏利用の関係を評価した。
果実のエネルギー・タンパク質の生産量は 2000 年度が最大で、2003 年度、
2002 年度、2001 年度と続いた。サルの食性は多く結実した樹種および生産
量に対応した:秋には落下果実を、冬から早春にかけては落下果実が残って
いればこれを採食し続け、残っていなければ冬芽・樹皮・草本類を採食した。
生産量が高い年は、冬に採食時間が長くなり、移動時間が短くなり、移動速
度が速くなる傾向があった(回帰分析:P<0.05)。
行動圏利用は冬には食物量に応じて年次的に変化したが秋と早春には殆ど
変化しなかった。これは、冬はもっとも寒いのでエネルギー配分が食物環境
に応じて敏感に調整されたためと考えられる。いっぽう秋は食物が豊富に存
在するため、また早春は移動コストがベネフィットを上回るためにどの年も
同じような行動圏利用をしたと考えられる。
— 212—
ポスター発表: 動物植物相互作用
P3-025c
P3-026c
12:30-14:30
◦
畑田 彩1, 松本 和馬2
里山科学館越後松之山「森の学校」キョロロ, 2森林総合研究所多摩森林科学園
Hembry David1, 大串 隆之1
京大・生態研
Recent research has revealed that plants bearing extrafloral nectaries can
espond to herbivory by increasing the output or quality of extrafloral nectar
or growing new extrafloral nectaries, often only on the part of the plant affected by herbivory (Heil et al. 2000, 2001; Ness 2003; Mondor and Addicott
2003). It is also known that phloem-feeding homopterans can be beneficial to
their host plants if herbivory pressure is high and the homopterans are tended
by ants that remove other herbivores. However, it remains unknown whether
plants can manipulate the homopterans ’honeydew output in response to damage by other herbivores so as to become more attractive to ants. In other
words, can some plants use the aphids ’ honeydew output as an inducible
defense in the same way as other plants use extrafloral nectaries? To address
this question, we performed laboratory experiments using the ant-attended
aphid Chaitophorus saliniger and larvae of the moth Clostera anastomosis on
the willow Salix gilgiana. Both insects are commonly found together on S.
gilgiana in Shiga Prefecture. We investigated changes in honeydew composition and excretion rate by C. saliniger depending on the presence or absence
of herbivory by caterpillars or artificial damage.
ギフチョウ (Luehdorfia japonica)は雑木林や若いスギの造林地など里山環
境に生育するチョウである。年一回しか繁殖せず、成虫は春にしか見られな
いので、
「春の女神」ともよばれている。近年では宅地開発による生育地の
減少や、食草となるカンアオイ類の局所的絶滅などの影響により個体数が
減少しており、環境省レッドリストでは絶滅危惧種 II 類に指定されている。
ギフチョウの個体群を保全するためには、幼虫の食草であるカンアオイ類
の保全が不可欠である。カンアオイ類は林床に生育する多年草で、本研究
の調査地である新潟県松之山町では、コシノカンアオイがブナ林や雑木林、
若い杉林の林床などに分布している。しかし、どんな場所でもギフチョウ
の卵塊が見られるわけではない。また、ギフチョウが産卵場所として好む
場所が、幼虫の生存にとっても好ましい場所であるとは限らない。ギフチョ
ウ個体群の保全を考えるには、異なるカンアオイ類の生育地で、ギフチョ
ウの産卵率や幼虫の生存率を調べ、ギフチョウにとって利用しやすいカン
アオイ類の分布様式を明らかにする必要がある。そこで、本研究ではまず、
カンアオイ類の密度の違いによってギフチョウの産卵率・幼虫の生存率が
どのように違うかを明らかにすることを目的とした。
調査は新潟県松之山町のバードピア須山で行った。コシノカンアオイの高
密度区と低密度区に調査区を二区ずつ設定した。それぞれの植生は、高密
度区はブナ林と若いスギ林、低密度区はいずれもブナ林であった。各調査
区で、コシノカンアオイの株数、新葉数を記録し、すべての葉の大きさを
はかることで、幼虫のエサの量を見積もった。また、産卵期と幼虫期に照
度計を用いて各調査区の相対照度を測定した。産卵から幼虫が蛹になるま
で、3 日に 1 度の頻度で調査区を見回り、ギフチョウの産卵の有無を調べ、
その後の幼虫の生存率を追った。
ギフチョウの産卵率は、高密度区で有意に高かった。また、高密度区では
より明るい若いスギ林のほうが産卵率が高かった。幼虫の生存率は現在調
査中である。
P3-028c
12:30-14:30
オオバギボウシの花粉媒介における密度依存性とそのメカニズム
◦
12:30-14:30
1
1
P3-027c
P3-025c
植物はアブラムシの甘露をコントロールできるか
ギフチョウが利用しやすいコシノカンアオイの分布様式
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
12:30-14:30
ツキノワグマの樹上における採食に関する研究
◦
国武 陽子1, 宮下 直1, 樋口 広芳1
辻田 香織1, 高柳 敦1
1
1
京都大学農学研究科森林科学専攻森林生物学分野
東京大学大学院農学生命科学研究科生物多様性科学研究室
植物の種子生産において、花粉媒介過程でのアリー型密度依存性は過去
多くの研究で示されてきた。しかしそれが生じるメカニズムを明らかに
した研究はほとんど無い。その理由として花粉媒介のプロセスには様々
な要因が関わっていることがあげられる。本研究ではマルハナバチ媒介
植物である、ギボウシ属オオバギボウシを材料に、その花粉媒介の過程
において 1. パッチスケールでの密度効果を生じさせるプロセス 2. その
プロセスに影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした。
パッチスケールの密度効果を生じさせるプロセスとして、まずパッチ
サイズの縮小とともに、量的な花粉不足の程度が大きくなることが示さ
れた。さらに量的な花粉不足はポリネータ–の訪花頻度で説明できたが、
訪花頻度がパッチサイズによって異なることは、ポリネータ–の機能的な
反応(パッチ内の訪花数の増加)によるものではなく、集合反応によっ
て引き起こされていることが示された。
以上のプロセスに影響を与える要因として、パッチを包含する個体群
スケールによって、パッチスケールの密度依存性のプロセスが影響をう
けていることが示された。個体群スケールの要因として、パッチスケー
ルの密度効果に影響している要因としては、個体群スケールのポリネー
タ–の個体数の違いであると考えられる。
ツキノワグマの木登りがうまいという特性は、3 次元的に資源が分布する
森林において資源の確保を助けるものだと考えられる。樹上での採食後
にはクマ棚という痕跡を残すことがあり、特にクマにとって重要な採食
時期である秋に、堅果類をつける樹種に多く観察される。クマ棚は、そ
の出現状況などについては調べられているものの、ツキノワグマの採食
行動として研究されたことはない。
本研究では、堅果類を主な対象とし、ツキノワグマの樹上での採食様式
について調べ、その資源の確保へ果たす役割について理解を深めること
を目的とした。クマ棚を通して、採食木の分布や、樹上での採食時期と
果実の成熟・落下に伴う各堅果類の樹上・地上資源量の時間的変化との
対応について調査を行った。
調査地において堅果をつける樹種はクリ、ミズナラ、コナラ、ブナの順に
多く、クマ棚はこのうちブナを除く 3 種に観察された。クマ棚は 3 種の
うちクリに最も多く観察された。採食は近接した同樹種複数個体に行わ
れることが多く、空間的に集中していた。採食時期については、ミズナ
ラでは果実が成熟し地上よりも樹上に資源が多くあると考えられる時期
に樹上での採食が観察された。一方、クリ・コナラでは、その時期に加
え、その後果実の落下が進み地上により多くの資源があると考えられる
時期にも樹上での採食が観察された。特に、3 種の中で最も果実の成熟
が遅かったクリでは、クマ棚は遅い時期により多く観察された。全体的
なクマ棚の出現頻度は時期が後になるほど高くなった。
冬が近づくにつれクマの利用可能な資源量は減少していくと考えられる。
冬が近づくにつれてクマ棚が多く観察されたことは、利用可能な資源量
の減少に伴い樹上資源の重要性が増したことを反映したものと考えられ
た。以上より、樹上での採食は、冬が近づくほど資源の量的な確保につ
いて補完的役割を担うようになると考えられた。
— 213—
P3-029c
ポスター発表: 動物植物相互作用
P3-029c
P3-030c
12:30-14:30
アミ-付着藻類-海草の間接効果
◦
◦
水町 衣里1, 秋山 玲子1, 徳地 直子2, 大澤 直哉1
1
京都大学大学院農学研究科, 2京都大学フィールド科学教育研究センター
1
北海道大学大学院理学研究科, 2北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター
植物が食害を受けると、葉中に防御物質が生成される、葉の強度が増す、
など防御的な反応を示すことが知られている。葉質や強度といった個葉特
性は土壌養分や光、水分などの生育環境にも大きく左右される。土壌の
養分条件を良くすると、植物組織中の窒素濃度は増加するが、この窒素
濃度の増加は、植食者の分布の変化、成長率・繁殖率の増加を招き、食害
の程度を増加させる可能性がある。つまり、土壌の養分条件は、葉の形
質に直接影響を与えると同時に、植物を介して植食者の側にも間接的に
影響を与えると考えられる。本研究で対象とするコナラ属の稚樹は、生
育環境によって年に数回の枝の伸長が見られるので、食害や土壌養分が
稚樹に与える影響を短期間のうちに評価できると考えられる。夏以降に
伸長する2次以降シュートは、春に伸長した1次シュートの置かれた状
況に応じてシュートの長さや数が変化することが知られており、個葉レ
ベルでも何らかの変化が見られるはずである。そこで本研究では、コナ
ラ属稚樹の個葉特性に注目し、昆虫の食害に対してどのような反応を示
すのか、その反応は土壌の養分条件によってどのように変化するのかを
明らかにする事を目的とした。本研究では、食害の有・無と土壌養分の
多・少の各2段階、計4処理を設定したモデル生態系をビニルハウス内
に作り、鉢植えにしたコナラの稚樹を用いて実験を行った。実験の結果、
土壌の養分条件が良いと被食率は高くなった。また、食害を受けた個体
の葉面積当たりの葉重(LMA)と縮合タンニン含有量は高くなった。こ
の傾向は、シュートの次数を問わず見られ、食害による誘導防御反応と
考えられた。特に、1 次シュートの葉では、LMA と縮合タンニンの増加
は土壌の養分が少ない方で顕著に見られる傾向があった。これらのこと
から、コナラ属個葉で見られた食害に対する防御反応は、土壌の養分条
件やシュートの次数で異なることが示唆された。
海草藻場では、海草に加えてその葉を基質とする付着藻類も重要な基礎
生産者であり、その高い生産性は宿主である海草のそれに匹敵することも
ある。また、海草藻場では一次消費者は難分解性物質を含む海草ではなく
付着藻類を餌資源とするものが多く、付着藻類が海草藻場の食物網上のき
わめて重要なコンポーネントとなっている。しかし、葉上の付着藻類が高
密度になると海草は被陰されることになりこれが海草の生産速度の低下や
枯死を引き起こした例も報告されている。また付着藻類食のグレーザーが
付着藻類を除去し海草の光環境を向上させることで海草の生産速度が高く
維持される間接効果についても注目されてきた。
北海道東部の汽水湖である厚岸湖には、広大なアマモ場 (Zostera marina
bed) が形成され、そこに、珪藻を主とする付着藻類、そしてグレーザーと
してアミ類 (Neomysis mirabilis など) が見られる。本調査でも上記のプロ
セスについてバイオマスの変動や生産、摂食速度から検討を行った。各生
物のバイオマスは季節的に大きく変動し、アマモは4月から7月にかけて
急速に成長し 9 月以降減少した。付着藻類は基質の増加にもかかわらず 4
月から 7 月にかけて密度、バイオマスともに低く推移したが 8 月に急増
し、アミ類もこの時期に急増した。摂食実験や光合成実験による推定から、
4-7 月のアミ摂食量は、アミ密度が低いにもかかわらず付着藻類の生産量
の最大 50 %程度にあたり、本調査地ではこの時期にアミ類のグレージン
グが付着藻類増加を抑制 (遅延) する一因となり、海草に好適な光環境の維
持され高い生産速度が実現されているものと考えられ、アミ-付着藻類-海草
という間接効果の成立が示された。
P3-032c
12:30-14:30
ツチカメムシによるカスミザクラ種子の吸汁とその後の腐敗プロセス
◦
12:30-14:30
コナラ属稚樹の個葉特性に及ぼす食害と土壌養分の影響
長谷川 夏樹1, 向井 宏2
P3-031c
8 月 28 日 (土) C 会場
中村 仁1, 林田 光祐1, 窪野 高徳2
1
山形大農, 2森林総研東北
被食散布樹種であるカスミザクラ(Prunus verecunda)の種子の散布後の死
亡要因として、野ネズミによる捕食はよく知られているが、これまでの調査か
らツチカメムシ(Macroscytus japonensis)の吸汁によっても種子が腐敗・死亡
することが明らかになった。そこで本研究では、人為的に死亡要因を排除した
播種実験と糸状菌の接種実験を行うことで、カスミザクラ種子がツチカメムシ
に吸汁されてから腐敗・死亡にいたるプロセスを明らかにし、散布後のカスミ
ザクラ種子の死亡要因におけるツチカメムシ吸汁の位置づけを試みた。
ツチカメムシの吸汁によってどのくらいの種子が死亡するのかを確かめるた
めに、野ネズミを排除した 10mm メッシュ区とツチカメムシも排除した 2mm
メッシュ区を設け、7 月上旬にカスミザクラの果実と種子を播種した。同年の 8
月上旬と 9 月上旬にそれぞれの区画から果実と種子の半分ずつを取り出し、発
芽活性と昆虫類による吸汁があるかどうかを調べた。その結果 10mm メッシュ
区では、9 月になると発芽活性率と吸汁率は減少し、腐敗率は 2 倍以上増加し
ていた。2mm メッシュ区では、9 月になっても高い割合で種子が生存していた。
実験室でツチカメムシにカスミザクラ種子を与え飼育した結果、その吸汁痕
は林内のものと同様であることから、林内での吸汁はツチカメムシによるもの
であると考えられる。
カスミザクラ種子の腐敗とツチカメムシの吸汁との関係を調べるため、ツチ
カメムシに吸汁させた種子と吸汁させていない種子に糸状菌の接種実験を行っ
た。その結果、吸汁させた種子では腐敗が認められたが、吸汁させていない種
子ではほとんど腐敗が認められなかった。
以上のことから、林床に散布されたカスミザクラの種子は、野ネズミ類の捕
食をまぬがれてもツチカメムシに吸汁され、吸汁後に糸状菌が侵入することで
腐敗することが推察される。
12:30-14:30
河畔樹木の窒素安定同位体比と水質からみた遡上サケによる栄養添加
の検証
◦
長坂 有1, 長坂 晶子1
1
北海道立林業試験場
近年,自然再生への関心の高まりとともに陸域と水域の物質循環を考慮した
生態系復元の重要性が指摘され始め,北米では遡河性のサケ類が森林域にも
たらす海由来の栄養塩の影響が検証されつつある。そこで,北海道の河川に
おいて遡上したサケの死体由来の栄養塩が河畔林に及ぼす影響およびその経
路を確認するため,1)サケ遡上量,消失状況の把握,2)河川水,砂礫堆
間隙地下水の水質分析,3)河畔に生育するヤナギの窒素安定同位体分析を
行った。
調査はシロザケの遡上が比較的豊富な北海道南部の遊楽部川上流(非遡上
区間)から中流(遡上区間)で行った。2003 年秋から冬に遡上上限から下流
2km の区間において,サケ死体の尾数, 性別,重量,消失率をほぼ 10 日お
きに調査した。また,サケ遡上時期をはさんで夏から翌年春まで 20 日おき
に河川水を採水するとともに,河畔の砂礫堆地下 30–50cm に打ち込んだ採
水管からも地下水を採取し,NO3 等主要なイオン濃度を測定した。一方,遡
上,非遡上区間の水際や段丘上に生育するヤナギの葉を地形別に採取し,乾
燥粉末試料とした後,窒素安定同位体比(δ 15 N)を測定した。
サケ死体は 12 月の最多時に遡上上限付近 350 m区間で 391 尾(窒素
量換算で約 50kg)が確認されたが, 1 月上旬にはほとんど見られなくなっ
た。河川水,地下水の NO3 -N 濃度は,サケ遡上がない上流区ではそれぞれ
0.06–0.18,0–0.07mg/l と常に地下水の方が低かったが,サケ高密度区間で
は冬期間に地下水の濃度が 0.32–0.38mg/l と河川水 (0.2–0.26mg/l) を上回っ
た。一方,ヤナギのδ 15 N 値は上流区では-3—1 ‰であったが,サケ区間で
は 0–3 ‰と高く,とくに水際のヤナギの値が高かった。これらから,サケ区
間のヤナギは河川・地下水経由で高δ 15 N 値をもつ窒素を吸収している可
能性が高い。
— 214—
ポスター発表: 動物植物相互作用
P3-033c
P3-034c
12:30-14:30
インドネシア産オオタニワタリに堆積するリター中の土壌群集構造
◦
◦
1
北海道大学地球環境科学, 2Museum Zoologicum Bogorience, Research Center for Biology, Indonesian
Institute of Science- LIPI
杉浦 真治1
京都大学大学院人間・環境学研究科
これまで、腐食性昆虫が、特定の植物にのみ見られ、いかに植物に依存し
ているかに注目した研究はほとんど行われてこなかった。演者は、植物上で、
節足動物遺体を摂食するカスミカメムシの生態について、野外観察および飼
育実験によって明らかにした。
モチツツジカスミカメ Orthotylus gotoi(カメムシ目カスミカメムシ科)は
モチツツジ Rhododendron macrosepalum(ツツジ科)でのみ見られることが
知られている。京都市近郊における 3 年間の調査によって、年 1 化の生活史
をもつことがわかった。幼虫は 4 月下旬から 6 上旬にかけて、成虫は 6 月
上旬から 8 月上旬まで見られ、卵はモチツツジの当年枝に産め込まれていた。
モチツツジの葉や茎、萼片には腺毛が密に生え、春から夏にかけて、たく
さんの多様な節足動物が脚や翅がとられて死んでしまう。しかしながら、カ
スミカメムシは腺毛に脚をとられることなく、植物上を走り回ることができ
る。カスミカメムシが、腺毛に付着して死んだ節足動物に、口吻を差し込ん
で吸汁しているのがしばしば観察された。野外調査によって、カスミカメム
シの幼虫、成虫とも、多様な節足動物の遺体を食物として利用していること
がわかった。カスミカメムシの動物遺体食の相対的な重要性を確かめるため
に、モチツツジの枝葉(シュート)、他のツツジの枝葉、および昆虫遺体の
有無を、それぞれ組み合わせた 6 処理の室内飼育実験を行った。結果、カス
ミカメムシ幼虫の発育および成虫の生存には、昆虫遺体食が必須であること
がわかった。また、昆虫遺体に加えて、モチツツジの枝葉を与える方が、成
虫の羽化率および生存日数が増加する傾向が見られた。
以上のような、モチツツジカスミカメムシにおける動物遺体食の相対的な
重要性は、モチツツジ上に腺毛によって多くの節足動物が付着していること
と深く関係している。
P3-036c
12:30-14:30
地球温暖化が琵琶湖生態系に与えた影響:過去 100 年の動植物プラン
クトンからの検証
槻木(加) 玲美1, 石田 聖二2, 小田 寛貴3, 占部 城太郎4
1
京都大学生態学研究センター, 2ニューヨーク州立大学バッファロー・生物科学学科, 3名古屋大学・年
代測定総合研究センター, 4東北大学・生命科学研究科
12:30-14:30
1
オオタニワタリは熱帯雨林林冠において非常に多く発見される普通種の
着生植物である。最近の研究より、このオオタニワタリは林冠における無
脊椎動物の重要な生息地であり、そのバイオマスはシダ以外の林冠部で
みられる無脊椎動物のバイオマスとほぼ等しい可能性があることが示唆
されている。これらの動物類はオオタニワタリに堆積した落葉を分解し
て「土壌」をつくる。オオタニワタリはこれらの土壌から成長に必要な
無機塩類を獲得するという特殊な栄養獲得方法を採用していることから、
これらの無脊椎動物群集構造を調べることはオオタニワタリのリター分
解メカニズムの解明だけでなく、林冠域のエネルギー循環や物質移動の
解明にもつながると考えられる。しかしながら、これらの無脊椎動物が
オオタニワタリからどのように移出入しているかはいまだ明らかになっ
ていない。そこで落葉の分解に寄与する土壌動物群集の構造とオオタニ
ワタリのサイズ、高さ、季節の関係を解析した。
調査はインドネシアのジャワ島西部にあるハリムン山国立公園の標高
900∼1100m の地点で行った。サイズ、高さ、季節別にオオタニワタリ
上部に堆積した落葉を計 150 サンプル採集し、実験室に持ちかえって無
脊椎動物類のソーティングを行ったところ、計 28 目の土壌動物が採集
された。特に膜翅目、双翅目が雨期・乾期ともに大きな割合を占めてお
り、リター分解に大きな影響を与えていると考えられる。
◦
P3-033c
特定の植物に依存する腐食性昆虫ー腺毛に付着した昆虫を摂食するカ
スミカメムシー
平田 真規1, Erniwati 2, 甲山 隆司1, 東 正剛1
P3-035c
8 月 28 日 (土) C 会場
(NA)
湖沼生態系への温暖化の影響は、その重要性にも関わらず、長期モニタリング
データの不足などから解明が遅れ、未だに生物・生態系レベルの実証的データ
は僅かな研究例に限られている。そこで本研究は、琵琶湖の過去 100 年にわ
たる動植物プランクトンの変動と人間活動や温暖化との関係を具体的に明らか
にすることを目的に、湖底堆積物コアを用いた解析を行った。その結果、琵琶
湖では 1960 年と 1980 年に動植物プランクトン全般に大きな変化が生じ、特
に 1980 年頃、琵琶湖固有種で冬季の代表的な植物プランクトン Aulacoseira
nipponica が急激に減少し、逆に、近年優占する Fragilaria crotonensis が 1980
年以降、徐々に増加していることが判明した。これら植物プランクトンの増加・
減少要因として考えられうる環境要因と長期プランクトン現存量との時系列
データセットを用いて解析を行った結果、A. nipponica の現存量が 12 月-4 月
までの水温上昇と高い負の相関関係にあり、この種の減少による栄養塩変化が
F. crotonensis の増大を促進させたことが示唆された。一方、動物プランクトン
の Daphnia がほぼ同じ時期の 1980 年以降、休眠卵を産卵しない生活史に変化
していることも明らかとなっている。すなわち 80 年頃からの冬季温暖化が食
物網を介して動植物プランクトンの動態を大きく変動させる駆動要因になった
可能性が高い。このことは、温暖化による環境変動によって動植物プランクト
ンの生物間相互作用が大きく変化し、琵琶湖生態系機能を変化させたことを示
唆している。
— 215—
12:30-14:30
P3-037c
P3-037c
ポスター発表: 動物植物相互作用
12:30-14:30
河川付着藻類マットにおよぼす,グレイジングインパクトの評価
◦
片野 泉1, 大石 正1
奈良女子大学 共生科学研究センター
野外河川の付着藻類マットは,ほぼ常時,多様な藻類食者 (grazer) によ
る摂食圧のもとにある。これまで,付着藻類マットの垂直方向インパク
ト強度(深度)は,グレイザーの口器形態のみで決定されるとされてき
た。しかし,近年の研究により,このインパクト強度は口器形態だけで
は説明できないことが明らかにされてきた。
そこで,多様なグレイザー種それぞれの付着藻類マットへのインパクト
強度を比較し,正確に評価することを目的として本研究を行った。比較
のために,口器形態・体サイズ・移動速度・行動様式の4種類のファク
ターを用い,グレイザー水生昆虫を分類した。この各グループの代表種
(Epeorus latifolium, Glossosoma sp., Micrasema quadriloba, and more) に,
野外密度に準じた囲い込み操作実験によって,厚さの異なる付着藻類マッ
トを摂食させた。実験終了後,付着藻類マットは,SEM による観察を行
い,また,各グレイザーののインパクト深度を比較・評価した。また,垂
直方向のみでなく水平方向のインパクト強度についても評価を試みた。
P3-039c
12:30-14:30
カンアオイ属 4 種の送粉様式
◦
P3-038c
藤田 淳一1, 藤山 静雄1
1
信州大学理学部
ウマノスズクサ科(Aristlochiaceae)のカンアオイ属 (Asarum) の送粉様
式の解明するために、ミヤマアオイ A. fauriei var.nakaii・ヒメカンアオイ
A. takaoi・ウスバサイシン A. sieboldii・フタバアオイ A. caulescense の4
種に関して研究を進めている。まず、訪花者がどのような動物であるの
かを野外観察で調べた。調査したカンアオイ4種では、いずれもトビム
シ・ヤスデなどの土壌動物の訪花が記録された。次に訪花者が送粉に関
与する可能性を検討するために、蕾のうちに袋掛けをして動物が訪花で
きない条件と、対照区との比較を行った。ミヤマアオイ・ヒメカンアオ
イの2種は対照区では結実したが、袋掛けをすると殆ど結実しなかった。
これに対し、ウスバサイシン、フタバアオイの2種は袋を掛けた区でも
高い結果率を示した。このことは、ミヤマアオイ・ヒメカンアオイは送粉
を訪花者に依存し、ウスバサイシン・フタバアオイは self pollination を
行っている可能性が高い。さらに、ミヤマアオイ・ウスバサイシン・フ
タバアオイの3種に関して、花を中に入れたトラップを設置し、花が訪
花者を匂いによって誘引しているのか否かを調査した。花を中に入れな
い対照区との比較から、ミヤマアオイはトビムシ・アリ・双翅目を誘引
し、ウスバサイシン・フタバアオイは動物を誘引しないことが示唆され
た。ヒメカンアオイではトラップ実験を行っていないが、訪花者の訪花
頻度のデータから、花が訪花者のトビムシを誘引している観察データを
得ている。これらの袋掛け実験とトラップ実験から、ミヤマアオイ・ヒ
メカンアオイは動物を匂いで誘引する送粉繁殖様式をとり、ウスバサイ
シン・フタバアオイは、self pollination をしており、動物を誘引していな
いと考えられた。
12:30-14:30
高密度のヤクシカは照葉樹林の構造を変化させていないのか? -屋久
島西部地域 10 年間の推移◦
1
8 月 28 日 (土) C 会場
日野 貴文1, 揚妻 直樹2
1
北大院・農, 2北大・北方生物圏フィールド科学センター
【はじめに】 調査地である屋久島西部地域は原生度の高い照葉樹林が大面積
に残されており、世界遺産にも登録されている。屋久島にはニホンジカの一亜
種であるヤクシカが全域に分布し、特に調査地では 43-70 頭/km2 の高密度で
生息している。これまでシカが高密度に生息する地域では森林植生が破壊され
ることが数多く報告されている。そこで、長期観察によりヤクシカが森林構造
に与える影響を評価することにした。
【方法】 成木:1990-92 年に調査地において 50 m× 5 mのプロットを 98 個
設置し、DBH ≧ 5cm の個体について毎木調査を行った。その際の個体標識を
基に 2002-03 年に生残、新規加入、DBH、樹皮採食・角研ぎ痕の有無を調査
した。
若木:2003 年にプロットを 8 個選び、DBH < 5cm 且つ地上高≧ 40cm の個
体に対し毎木調査を行った。調査項目は地上 40cm での太さ、最低生葉高、樹
皮採食・角研ぎ痕の有無と生葉の採食痕の有無とした
【結果・考察】成木:DBH 分布型は二回の調査共に逆 J 字型を示し、調査時
期で有意差はなかった。シカによる剥皮率は 4.7 %であり、密度が同程度の他
地域に比べて小さかった。枯死個体で全周がシカにより剥皮されている個体は
なかった。また、シカの不嗜好種あるいは嗜好種の大幅な増減はなかった。
若木:生葉はシカの採食可能高にも十分存在し、採食圧のため採食可能範囲の
植物量が大幅に減少してなかった。角研ぎ・樹皮剥ぎされた個体は 16.6 %と成
木よりも高かった。一般にニホンジカの生息密度が高いと森林構造は、小径木
の消失が起こりその DBH 分布が大径木に偏る。しかし、本調査地では成木と
若木を含めた DBH 分布は DBH < 5cm での個体数が圧倒的に多く、逆 J 字
型分布を示した。
以上の結果から、シカ密度が同程度の他地域と比べ、調査地ではヤクシカの森
林構造への影響が極めて小さいことが示唆された。
P3-040c
12:30-14:30
開放花・閉鎖花を同時につけるホトケノザ種子の表面成分とアリによ
る種子散布行動
◦
寺西 眞1, 藤原 直2, 白神 万祐子2, 北條 賢2, 山岡 亮平2, 鈴木 信彦3, 湯本 貴和4
1
京都大学生態学研究センター, 2京都工芸繊維大学・応用生物, 3佐賀大学・農学部, 4総合地球環境学
研究所
ホトケノザは、主に他花受粉をおこなう開放花と自家受粉のみをおこなう閉
鎖花を同時につける一年草で、種子にエライオソームを付着する典型的なアリ
散布植物である。一般的に、自殖種子は親と同じ遺伝子セットを持つため、発
芽個体は親と同じ環境での生育に適していると考えられ、他殖種子は親と異な
る遺伝子セットを持つため、親の生育環境と異なる新しい環境へ分散・定着す
るのに適していると考えられる。したがって、自殖種子は親元近くへ散布され、
他殖種子は親元から離れた環境へ散布されるのが生存に有利であると考えられ
ている。
開放花由来種子は閉鎖花由来種子より種子重・エライオソーム重・エライオ
ソーム/種子( % )が有意に大きく、トビイロシワアリによる持ち去り速度が
大きいことが明らかとなった。エライオソームを取り除いたホトケノザの種子
は、エライオソームが付いたままの種子よりトビイロシワアリに持ち去られる
割合・速度が低かった。また、エライオソームを接触させたろ紙片はほとんど
巣に持ち去られたが、エライオソーム以外の種子表面を接触させたろ紙片はほ
とんど持ち去られなかった。
このようなアリの行動の違いがなぜ生じるのかを検討するため、アリの反応
に関わる物質・アリの資源となる物質に着目して種子表面の化学的特性を調べ
た。その結果、遊離脂肪酸(オレイン酸、リノール酸など)、糖(フルクトー
ス、グルコース)、アミノ酸(アラニン、ロイシンなど)が含まれていることが
分かった。
これらのことから、ホトケノザは種子表面、特にエライオソームに含まれる
化学物質の量・質を繁殖様式によって変えることで、アリによる持ち去り速度
をコントロールしている可能性があることが示唆された。
— 216—
ポスター発表: 動物植物相互作用
P3-041c
12:30-14:30
ツクバネウツギの結実率にクマバチの盗蜜は影響を及ぼすのか?
◦
増井 直緒1, 香川 暁子1, 遠藤 知二1
1
神戸女学院大学人間科学
九州から本州にかけて分布するキムネクマバチは、地域によっては訪花性ハ
ナバチ群集全体の約 2 割の個体数を占めており、とくに木本植物にとって
は重要な訪花者となっている。しかし、クマバチ類は花粉を運ばず、蜜だけ
を吸い取る盗蜜行動をすることでもよく知られている。この盗蜜行動が同じ
花を訪れる他の昆虫の訪花頻度やその植物の結実率にどのような影響を及ぼ
しているかについてはほとんど調べられていない。そこでキムネクマバチに
よって高頻度で盗蜜を受けるツクバネウツギの花を用いて、盗蜜行動が他の
昆虫の訪花頻度を低下させているかどうか、さらに結実率を低下させている
かどうかを明らかにするため、野外実験を行った。実験では、ツクバネウツ
ギの開花期(4–5月)に、花のついた枝を単位として1)盗蜜防止区、2)
袋がけ区の 2 つの操作区と、何も操作しない3)対照区の3つの処理区を
設け、盗蜜防止区と対照区でクマバチと他の訪花性昆虫の訪花頻度を観察し
た。また、ツクバネウツギの結実期に各処理区の総花数、結実率を調べた。
その結果、クマバチの訪花頻度は盗蜜防止区と対照区の間であまり変わらな
かったものの、他の訪花性昆虫は有意に高頻度で盗蜜防止区を訪れた。一方、
2003 年度のツクバネウツギの結実率は盗蜜防止区が平均 22.0(SD16.5)%、
袋がけ区が 10.5(7.8)%、対照区が 33.8(21.9)%となり、むしろクマバチ
の盗蜜が可能だった対照区で高い結実率を示したが、統計的には有意ではな
かった。したがって、クマバチの盗蜜行動が他の昆虫の訪花頻度を低下させ
ている可能性はあるが、ツクバネウツギの結実率を低下させているという証
拠は得られなかった。なぜこのような結果が生じたのかについて考察する。
— 217—
8 月 28 日 (土) C 会場
P3-041c
P3-042
ポスター発表: 保全・管理
P3-042
8 月 28 日 (土) C 会場
P3-043
12:30-14:30
12:30-14:30
小笠原における更新困難な固有樹種の植栽試験
◦
安部 哲人1
1
森林総合研究所
小笠原諸島は貴重な生態系を有していながら,移入種との相互作用に
より撹乱を受けている固有樹種が多い.例えば,オガサワラグワやシマ
ホルトノキは小笠原の森林を構成する主要樹種であったが,オガサワラ
グワは移入種シマグワとの交雑により,シマホルトノキは移入種である
ネズミ類に種子を食害され,いずれも更新が大きく妨げられている.し
かしながら,シマグワもネズミ類も個体数が非常に多く,直ちに根絶す
ることが困難であるため,根本的な問題解決ができない.このため,補
足的な手段として人工的に更新させる手法の確立が望まれている.本研
究では,この 2 種の固有樹種を植栽により人工的に更新させる方法を試
みた.
人工増殖に際しては土壌等にまぎれて陸産貝類やその他の移入種が持
ち込まれるリスクを回避するため,播種・育苗から植栽まで全て小笠原
諸島父島で行った.種子採取について,オガサワラグワは父島では親個
体の分布が散在しており,シマグワと交雑していない種子を得ることが
困難であることから,唯一オガサワラグワの群落が残存している弟島で
交雑していない種子を採取して父島で育苗を行った.シマホルトノキの
種子は父島で採取したものを用いた.種子採取は 2000 年に行い,育苗・
植栽を 2001 年以降に行った.
父島での育苗及び植栽後の経過と問題点を報告する.
P3-044
12:30-14:30
移入カワマスと在来アメマスとの交雑現象
◦
北野 聡1, 大舘 智氏2, 小泉 逸郎3
1
長野県環境保全研究所, 2北海道大学低温科学研究所, 3北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
北海道では近年、外国産マス類の急速な分布拡大が進行しており、それ
らが在来種へ及ぼす影響が危惧されている。北米原産のカワマス(=ブルッ
クトラウト Salvelinus fontinalis)もその一種であり、外国産マス類のなか
でも特に同属のイワナ類との交雑可能性がきわめて高い魚種とされる。北
海道空知川上流域でも、すでにカワマスの定着が知られていたが、その定
着範囲や他種との交雑可能性については明らかではない。そこでこの研究
では、空知川上流域を対象にカワマスならびに在来イワナ類の生息状況を
調査し、種間交雑の実態を明らかにする目的で調査を行った。2004 年6月
に実施した捕獲調査によって、空知川支流の布礼別川、布部川、西達布川
の 22 の調査地点において8魚種、1雑種(交雑疑惑個体)を確認するこ
とができた。サケ科魚類としては、流域全体に在来イワナ類であるアメマ
ス(Salvelinus leucomaenis)とオショロコマ(Salvelinus malma)が生息し
たが、全 22 地点のうち 12 地点(55%)でニジマスかカワマスのいずれか
の外国産マス類が侵入していた。雑種は外見上ではアメマスとカワマスと
の中間型であり、カワマス・アメマス混成域の2つの調査地点で計 12 個
体が確認された。雑種の DNA 解析を3つのマイクロサテライト遺伝子座
(SFO-12、SSA-197、MST-85)について実施したところ、中間型 12 個体
のうち8個体はアメマスとカワマスとの F1 雑種、残りが戻し交配由来の雑
種であることがわかった。さらに、mtDNA の情報から母親判別をすると、
F1 のすべてがアメマス型であった。以上より交雑が非対称性におきている
こと、これが在来アメマスの再生産を妨げるプロセスとして働きうること
が示唆された。
(NA)
P3-045
12:30-14:30
北海道石狩平野に残存する高層湿原の保全に向けた水文環境特性に関
する研究
◦
高田 雅之1, 高橋 英紀2, 井上 京3, 宮木 雅美1
1
北海道環境科学研究センター, 2北海道大学大学院地球環境科学研究科, 3北海道大学大学院農学研究科
月ケ湖湿原 (6.8ha, 月形町) 及び上美唄湿原 (5.6ha, 美唄市) は、かつて大規模
に存在した石狩泥炭地の名残を留めるほとんど唯一の高層湿原であるが、周辺
は農用地に囲まれ周縁部には排水路が敷設され、乾燥化の進行によるササの侵
入とミズゴケ植生の衰退が進行し、農地との共存を目指した高層湿原植生の保
全と復元が望まれている。そのための具体的方策の検討に寄与することを目的
として、2002 年秋から 2003 年秋にわたり、地下水位・融雪量・微気象などの
水文気象観測、土壌調査及び植物調査を行い、地下水位変動や蒸発散の特性を
明らかにし、雪の果たす地下水涵養の役割、排水路への流出実態、さらに湿原
の年間水収支を明らかにした。
その結果、排水路が地下水位低下に大きな影響を及ぼしていること、また蒸発
散量に関して、ササの侵入が著しい上美唄湿原の方がより長い期間にわたって
高く推移し、年間総量も多いことが明らかとなった。
これらをもとに1年間の水収支を月別に推定した結果、年間を通して流出損失
が大きく約4分の3を占めていたこと、雪は量的には多いものの融雪期にその
ほとんどが流出し、現況では春期から夏期の涵養源としての役割は低いことが
明らかとなった。
さらに、月ケ湖湿原を対象に排水路が敷設される開拓以前の水位を推定した結
果、地下水位は年間を通じて地表面下 20cm 以下には低下しないことが示され、
かつては年間を通じて高層湿原を維持するのに十分な水位が存在していたこと
をうかがわせた。また融雪水の地下水涵養機能を評価した結果、現在は湿原植
物の生育に寄与していないのに対し、過去においては約1カ月長い6月初頭ま
で融雪水が 20cm 以浅に保持され、融雪水は湿原植物の生育に重要な役割を果
たしていたことが推定される結果となった。
— 218—
ポスター発表: 保全・管理
P3-046
P3-047
12:30-14:30
砂礫質河原の生態系を脅かすシナダレスズメガヤと個体群動態モデル
を活用した対策
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
◦
北村 系子1, 島谷 健一郎2, 杉田 久志3, 金指 達郎3
1
森林総合研究所北海道支所, 2統計数理研究所, 3森林総合研究所東北支所
1
東大・保全生態
外来牧草シナダレスズメガヤは主に河川上流部の中山間地域において,治
山・砂防工事における法面保護用の緑化植物として種子吹き付け等の工法に
より用いられてきた.現在では,そこで生産されたと推測される種子が流出
し,全国各地の河川敷に侵入,定着している.代表的な急流河川である鬼怒
川には,中流域にカワラノギクなどの砂礫質河原に固有な動植物が生育・生
息している.しかし,1990 年代半ば以降,シナダレスズメガヤの侵入が著
しく,1990 年度から実施されている河川水辺の国勢調査では,2002 年度新
たにシナダレスズメガヤ群落として認識されるまでになった.シナダレスズ
メガヤの繁茂は河原固有植物の複合的な絶滅要因の絡み合いの中で最も主要
な要因の1つとなっており,適切な抑制対策を施すことが緊急に必要である.
本研究では,村中・鷲谷(2003)で構築したシナダレスズメガヤの個体群動
態を記述するシミュレーションモデルを活用し,河原固有植物が生育可能な
外来種を抑制する対策を施した.
2002 年 3-4 月に,シナダレスズメガヤが優占した河原を機械的に除去し,
礫質の河原を回復させ,カワラノギクの種子を導入する河原固有植物個体群
の再生の試みが開始された.2002 年と 2003 年を累計して 700,000 を越え
る種子を生産されることができるなど,河原および河原固有植物個体群再生
の予備的試験として成果を収めた(導入種子は 10,000).既存のデータをパ
ラメータとしてモデルシミュレーションを用いて検討したところ,シナダレ
スズメガヤが種子を生産する前に除去した場合は 6–7 年に 1 回,生産する
直後に除去した場合では 5–6 年に 1 回基盤整備を実施するとカワラノギク
の生育可能な河原を持続することができることが示された.このシミュレー
ション結果を含めた保全生態学的研究成果をもとに,行政・地域住民・研究
機関の協働で 2002 年から実施されている「鬼怒川自然再生検討会」におい
て,河原の健全な生態系を回復させるため,シナダレスズメガヤの抑制を提
案した.2004 年 5 月下旬以降には,シナダレスズメガヤの機械的抑制が広
範に渡って実施される予定である.
12:30-14:30
カメルーン熱帯雨林における狩猟
◦
12:30-14:30
ブナ天然更新施業試験地における更新成績と遺伝構造
村中 孝司1, 鷲谷 いづみ1
P3-048
P3-046
安岡 宏和1
1
京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科
「森の民」としても知られる「ピグミー」系の人々は,アフリカ中央部のコンゴ盆地一帯に広がる熱
帯雨林に暮らしている.これまでさまざまな研究において,
「ピグミー」の諸集団が近隣農耕民との
あいだに密接な関係を築いて生活していることが報告されているが,それと同時に「ピグミー」は
熱帯雨林の先住民であり,農耕民が焼畑農耕とともに進入してくる以前には森の中で独立して遊動
的な狩猟採集生活を営んでいたとされてきた.
ところが,1980 年代半ばから「ピグミー」をはじめとする世界各地に現存する狩猟採集社会に関
する研究に対して,盛んに議論がしかけられたのである.それは研究者が無批判的に想定してきた
「狩猟採集民」の真正性を批判したものであった.すなわち現代の狩猟採集社会は,同時代のマクロ
システムにおける権力関係のなかで圧迫され,周辺化された結果として形成されたものであって,そ
の意味で現代の産物であるというのである.
このような狩猟採集社会に関する批判的検討の潮流のなかで,Headland[1987]や Bailey ら[1989]
は,熱帯雨林での狩猟採集生活の可能性そのものに疑問を呈した.熱帯雨林には多様な生物が生息
しており生命の宝庫ともいわれるが,実は人間が手に入れられる食物は少なく,とくにカロリー源
が不足するのではないか.したがって,農作物を利用せずに狩猟採集の産物のみに依存した生活は
きわめて困難であり,
「ピグミー」など熱帯雨林の狩猟採集民とされている人々は,焼畑農耕をおこ
なう人々との共生関係なくして熱帯雨林地域に進入することはできなかったのではないか,という
わけである.
この指摘は生態学的な観点によるものであるが,
「ピグミー」らの社会的および文化的な側面に関
しても重大な意味をもっている.つまり,農耕民との共生関係ないし農作物を入手することが「ピ
グミー」の生存上の必要性に起因し,それなしには熱帯雨林のなでは生きることさえ不可能である
ならば,彼らの社会的ないし文化的な種々の特徴を「森の民」あるいは狩猟採集民的な性格を示す
ものとして解釈してきたこれまでの研究成果は再検討を迫られることになるのである.
本発表では,熱帯雨林とそこに住む人々に関するこのような問題をふまえながら,
「ピグミー」と
総称される人々のひとつであるバカをとりあげ,彼らが定住集落から数十 km も離れた地域でおこ
なわれる長期狩猟採集行を分析して,熱帯雨林における狩猟採集生活の可能性を検証する.このモ
ロンゴ(molongo)とよばれる長期狩猟採集行の事例は,人間生活にとって熱帯雨林がもつ潜在力,
とりわけそこにおける狩猟採集生活の可能性に関する議論に新たな展開を促すものとなる.
岩手県黒沢尻ブナ総合試験地では、1940 年代後半から天然更新に関するさ
まざまな施業試験が実施されている。その中で 1948 年に皆伐母樹保残作
業が行われた林分(プロット 48)と 1970 年に母樹保残および実生が発生
した 1974 年以降に下刈りが行われた林分(プロット 70)でのブナの更新
実態の調査および 13 のアイソザイム遺伝子座について遺伝構造の解析を
行った。プロット 48 の保残母樹は 6 本/ha でほぼ皆伐に近く、プロット
70 では 13 本/ha であった。定着した高木性稚樹は、プロット 48 ではブ
ナが 80%以上を占め更新が成功しているのに対し、プロット 70 ではホウ、
ウワミズザクラ、コシアブラが優占しブナの更新成績はよくない。更新稚
樹は、プロット 70 では保残母樹の周りに強く集中していたのに対し、プ
ロット 48 では母樹の根元付近は少なく樹冠縁付近に多く分布し、さらに母
樹と母樹の間にも定着していた。これらの分布形態はプロット 70 では正規
分布、プロット 48 では対数正規分布モデルで大雑把には説明できる。ま
た,アイソザイム遺伝子頻度も、特定の対立遺伝子を持つ母樹の周辺でそ
れらの遺伝子頻度が高くなる傾向が見られた.しかし同時に、保残木周辺
に定着した稚樹の中に他の母樹由来のものがかなりの程度含まれている事
実も明らかになった。そこで稚樹の分布パターンにアイソザイム遺伝子の
分布を重ね、周辺の母樹から推定した飛散花粉の遺伝子頻度を用いて非定
常点過程モデルを構築すると、一般にブナの種子散布範囲といわれる 30m
程度の種子散布パラメータでは現データへの当てはまりが非常に悪かった.
即ち,保残母樹的な仮説だけでは遺伝子も含めた稚幼樹の空間分布様式は
説明できない。つまり、保残木は種子源としての機能を問わず、ネズミ等
による長距離散布を含むブナ稚樹に定着サイトを提供することによって次
世代更新に貢献する機能を併せ持つ可能性が示唆された。
P3-049
12:30-14:30
仲が良い鳥,仲が悪い鳥
◦
福井 晶子1, 安田 雅俊2, 神山 和夫1, 金井 裕1
1
日本野鳥の会自然保護室, 2森林総合研究所鳥獣生態研究室
バードウォッチャーは,ある種の鳥種が観察されると同じ場所でよく観
察される他の種がいることを経験的に知っている.そのような同所的に
観察される鳥種の組み合わせについての情報は図鑑などにものせられて
いるが,実際に鳥類の出現パターンについての報告はなく,環境との関
係も不明なことが多い.日本野鳥の会では会員などの参加による「鳥の
生息環境モニタリング調査」を行っており、森林・草原地域については
1994 年と 1999 年に調査を実施している。1994 年と 1999 年の繁殖期
についての全国 129 の調査地点,72 種の鳥類のモニタリングデータに
ついて,鳥類の出現地点の類似度を算出し,同所的に観察される頻度の
高い鳥種の組み合わせを検出した.また逆に,同所的には観察される頻
度の低い鳥種の組み合わせも検出された.本発表では,その組み合わせ
について報告し,さらに調査地点間の類似度についても算出し,環境と
の関係に考察を加える.
— 219—
P3-050
ポスター発表: 保全・管理
P3-050
P3-051
12:30-14:30
カメラトラップ法の最小調査努力量をもとめる
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
スギ造林が森林の蛾類群集に及ぼす影響
◦
安田 雅俊1
森林総研 森林昆虫
森林総合研究所鳥獣生態研究室
赤外線センサーを利用したカメラトラップ法は,ある地域の哺乳類の多
様性や個体数を調べる際の簡便で優れた調査手法であり,近年多用され
ているが,日本の山野で適用する場合の標準手法は未だ確立されていな
い.本研究では,野生哺乳類のモニタリング調査の標準手法を確立するた
めに考慮が必要な諸条件(調査の時期や期間,使用するカメラの台数等)
と解析法について,筑波山での事例をもとに検討した.2000-2003 年の
3 年間に,茨城県筑波山山麓の森林内の固定した 5 つの観察地点におい
て,生落花生を餌として年 4 回のべ 200 カメラ日の調査を行い,中大型
「ある地域の対象種をある確率で撮影
哺乳類 9 種の写真を 412 枚得た.
するために必要な調査努力量」と定義される“ 最小調査努力量 ”という
概念を提唱し,何台のカメラをどのくらいの期間仕掛ければ,対象地域
の哺乳類の多様性を調べ上げることができるかをブーツストラップ法を
用いて解析した.タヌキ,イノシシ,ウサギ,ハクビシン,アナグマと
いった主要な 5 種を対象とした場合,94%の確率で,最小調査努力量は
40 カメラ日と推定された.得られた結果を総合すると,日本の落葉広葉
樹林においては,5 台のカメラで 4 日間,すなわち 20 カメラ日の調査
を晩春から晩夏に 2 回反復することが推奨される.以上の結論は,一つ
の調査地における事例から得られたものであり,日本全国に適用可能な
標準手法を確立するためには,同様の調査を多地点で行うことが必要で
ある.また,既存のデータを同一の方法で解析することも有益であるた
め,既にカメラトラップで調査を行っている方々には,本研究の解析方
法を開示するとともに,解析結果の共有化を呼び掛けたい.本報告の詳
細は Mammal Study 29(1) に掲載予定である
食植性昆虫である蛾類は、天然林を針葉樹一斉造林に変えることの影響を
強く受けると予想される。これまでにも様々なタイプの森林の蛾類相を比
較する研究があるが、スギ林、広葉樹林のクロノシーケンスに沿って多く
の林分を比較した例は少ない。そこで、茨城県北部の阿武隈山地において、
伐採直後から 176 年性(森林管理所書類による)に至る各樹齢の森林を
10林分と、新植地から 73 年までのスギ林8林分を調査し、蛾類相を比
較した。蛾類は天候、気象、月齢などの条件で、灯火に集まる個体数が著
しく異なる。そこで、広葉樹とスギ林はそれぞれ同じ晩にライトトラップ
を一斉に掛け、蛾を採集した。スギ林は 2001 年8月に2回、広葉樹林は
2002 年8月に2回調査した。ライトトラップには無人で蛾をあまり痛め
ないよう考案した装置(http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/kanko/385-2.html)
を用いた。8月は蛾の種類数が最も多くなる時であり、調査には都合が
よい。広葉樹林、スギ林のいずれの場合も伐採直後には草原性の蛾が見
られ、伐採地が山地草原性の種の生息場所となっていた。伐採後、広葉
樹林では樹齢とともに種類数が増加したが、スギ林では樹冠が閉鎖する
とともに減少し、下層植生が回復する樹齢(27 年生以後)に再び増加に
転じた。この傾向を蛾と同じ鱗翅類であり、同じ食植性の蝶と比較する
と、明らかに異なっている。蝶は森林の生長と共には種類数が増加せず、
より草原性の環境に適した種を多く含むグループ、蛾はより森林性の種
を多く含むグループと考えられた。
P3-053
12:30-14:30
12:30-14:30
ケナフの他感作用に関する研究–フジバカマの発生及び成長に与える
影響
河川掘削によるタコノアシ群落の成立とその遺伝的多様性
◦
大河内 勇1
1
1
P3-052
12:30-14:30
増田 理子1, 河田 美香1
◦
1
名古屋工業大学・都市社会
国土交通省は揖斐川、木曽川、長良川の木曽三川の洪水被害防止のため
様々な施策を試みている。その三川のうち揖斐川は大垣付近において流速
が遅くなり、河床に土砂が堆積しやすく、毎年洪水の被害が深刻化して
いる地域である。そこで、2000 年から 2006 年にかけてこの洪水流域の
掘削を行い、河川流量の増大を計画し施工している。この稼働掘削域に
おいて、絶滅危惧 II 類として記載されているタコノアシ群落が各掘削域
で毎年形成されていることが報告されている.タコノアシは埋蔵種子集
団を形成し、河川の底泥をビオトープに用い足りすることによって、群
落復元が可能であることが示唆されてきている。しかし、これらの埋蔵
種子由来の群落がどのような遺伝的組成を持つかについて検討した例は
あまり無い。そこで,これらのタコノアシ群落がどのような遺伝的多様
性を持つかについて,アロザイムを用いて4年間にわたるタコノアシ群
落の再生年度との関係を調査した。酵素種は 10 酵素、17 遺伝子座が確
認された。すべての集団(2000 年、2001 年上部、2001 年河床部、2002
年上部、2003 年河床部、自然個体群)について、30 個体から 40 個体に
ついての調査を行った。その結果,これらの個体群は非常に近接して成立
したにもかかわらず、遺伝的距離が大きいことが示された。また、掘削
年度が同じであっても、増水時に形成された河床から離れた位置に形成
された個体群と、河床に形成された個体群では、多型遺伝子座の比率が
ことなる傾向が認められた。また、どの個体群にも多型遺伝子座が非常
に高い比率で認められ、近交係数が0に近い値を示していた。また、遺
伝的多様性を示す、A の値、Pの値についてもかなり高い値を示した。
このことから埋蔵種子集団におけるヘテロ接合体頻度が高く、また、遺
伝的にも多様性に富んでいることが示された。
岩崎 寛1, 服部 保2
1
兵庫県立大学・自然研/兵庫県立淡路景観園芸学校, 2兵庫県立大学・自然研/兵庫県立人と自然の
博物館
他感作用とは「微生物をも含む植物界において,ある種の植物が自ら生産排出
する物質を介して,同種または他種の植物に何らかの影響を与える現象」と定
義されている。他感作用に関する研究はこれまで,作物や雑草の生育に関する
ものや実際に影響している物質の解明など,農学や農芸化学の分野で多く見ら
れるが、生態学的な見地からの研究はまだ少ない。生物多様性や生態系の保全
が問われる昨今,栽培植物や外来種の自生植物への影響といった視点からの他
感作用の研究も必要不可欠であると思われる。しかし、他感作用は特異的な反
応であるため,実際にどの植物に対しどのような作用を示すのかを知るために
は,対象とする植物を用いて1つ1つ検証していく必要がある。そこで本研究
では,CO2 吸収能力の高さなどから「環境にやさしい植物」として環境教育の
教材とされるほか,非木材パルプとして注目を浴びており,わが国において近
年急速に栽培されるようになった植物であるケナフをとりあげ、同じ生活圏に
生息する種で全国版のレッドデータブックにおいて絶滅寸前とされているフジ
バカマに対する他感作用の検証を試みた。 実験はシャーレによる発芽試験と、
土壌への混播試験を行い、その発芽率、生残の追跡調査、現存量の比較等を行
い、ケナフがフジバカマの発生と成長に与える影響を調べた。その結果、ケナフ
はフジバカマの発芽に対してはほとんど影響を与えないが、発芽後の成長に大
きく影響を及ぼすことがわかった。ケナフは、単播の場合でもフジバカマとの
混播の場合でもその生残や現存量に変化は見られないが、フジバカマはケナフ
と混播をすることにより、フジバカマ単播の場合よりも生残、現存量ともに激
減することがわかった。最終的にはケナフと混播することにより、フジバカマ
の生残数は0になった。このことから、ケナフはフジバカマに対し、他感作用
物質を有し、その成長及び生残に対して負の影響を与えることが示唆された。
— 220—
ポスター発表: 保全・管理
P3-054
P3-055
12:30-14:30
長野県中南部における絶滅危惧フクジュソウ属 2 種の繁殖生態及び
RAPD 法による遺伝的解析
◦
◦
八坂 通泰1
1
北海道立林業試験場
1
信州大学農学部(現:静岡県林業技術センター), 2信州大学農学部, 3信州大学大学院 独立専攻
長野県中南部には環境省の絶滅危惧 II 類に指定されるフクジュソウ属 2 種(フ
クジュソウ、ミチノクフクジュソウ)が分布する.本研究では保全生態学的立
場から両種の繁殖生態及び遺伝的情報について把握することを目的とした.集
団規模に応じてフクジュソウは 4 地域,ミチノクフクジュソウは 5 地域を調査
対象とし,2003 年 3 月下旬 ∼4 月下旬に 1 × 1 m2 枠を設け訪花昆虫の種類,
個体数,訪花時間を測定した.また人工他家受粉,人工自家受粉,除雄,ネッ
ト,無処理の計 5 処理区を設け成熟果実数,未成熟果実数,果序長を計測した.
訪花昆虫種数,訪花頻度はフクジュソウでは 17 種・8.06 個体/花/回,ミチノ
クフクジュソウでは 61 種・3.62 個体/花/回であった.フクジュソウではニホ
ンミツバチとヨツモンホソヒラタアブを,ミチノクフクジュソウではセイヨウ
ミツバチ,ビロードツリアブ,カグヤマメヒメハナバチ,ミヤマツヤコハナバ
チ,ヤヨイヒメハナバチを主要ポリネーターと考えた.フクジュソウは 9.0 24.0
℃,ミチノクフクジュソウは 12.0∼30.0 ℃で訪花を確認し,21.0 ℃以上で訪
花頻度が低いのは前者では花期終了,後者は他種との競争のためと考えられた.
両種ともに訪花頻度の増減と太陽高度との関連性が示唆された.両種のネット
処理区の結実率は無処理区に比べ有意に低くポリネーターの貢献度の高いこと
が示唆された.また両種の人工自家及びネット区結実率は約 10∼30%で自家和
合性を有することが示された.結実率と訪花頻度及び集団規模との関連性はな
かった.
両種は完全な他家受粉型でないことが示されたが,遺伝的多様性維持にはポリ
ネーターの関与が貢献すると考えられた.両種の訪花昆虫相は目単位ではハチ
目:ハエ目= 7:2.5 でほぼ等しいが花期の違いにより種レベルで大きな違い
がみられ,多様なポリネーターの訪花により受粉効率が高められていると考え
られた.
絶滅のおそれのある樹木クロミサンザシの生育状況と繁殖特性を明らかにす
るため、道央地方空知管内の防風林において調査を行った。生育状況調査は,
予めクロミサンザシがあるとわかっていたヤチダモ林の周囲約7 km 内の
ヤチダモ,シラカンバ,ヨーロッパトウヒなどの防風林 25 林分を対象にし
た。その結果 25 林分中4林分でクロミサンザシが確認できた。上層木の樹
種別にみると、ヤチダモを主体とする防風林にのみで確認され,天然林だけ
でなく人工林にも分布していた。ヤチダモ林だけに限定してみると,クロミ
サンザシが出現した林分は,しなかった林分よりもササの被度が低かった。
繁殖特性調査は,様々な環境条件下での結実量,更新状況,種子分散につい
て調べた。上記の林分で,樹冠下,ギャップ,林縁など光環境の異なる場所
で,結実量を調べた結果,より光条件のよいと考えられる場所で,結実量が
多い傾向があった。また,胸高直径5 cm 未満の稚樹の7割は樹冠下に位置
していた。種子分散の調査は,調査林分の周辺に,クロミサンザシの種子の
供給源と考えられる林分が1カ所しかなく,母樹林がほぼ限られているシラ
カンバ人工林で行った。母樹林からの距離とクロミサンザシの稚樹密度との
関係について調べた結果,稚樹の密度は母樹林からの距離が離れるに従い、
低下する傾向があった。これらのことから,道央地方空知管内の防風林にお
いて,クロミサンザシの保全対策を考える場合,防風林の維持管理や配置に
配慮することが重要であることが示唆された。
P3-057
12:30-14:30
改修河川で見られたタンチョウの採餌環境における生物群集の構造ー
冬季の音別川・阿寒川水系を例にしてー
◦
12:30-14:30
絶滅危惧種クロミサンザシの道央地方での生育状況と繁殖特性
山本 正晃1, 大窪 久美子2, 南 峰夫3, 小仁所 邦彦3
P3-056
P3-054
8 月 28 日 (土) C 会場
吉野川流域における針葉樹人工林と広葉樹自然林の土壌孔隙率・最大
容水量の比較
◦
斎藤 和範*1, 古賀 公也*2, 小林 清勇*3, 平田 真規4
12:30-14:30
金行 悦子1, 中根 周歩1
1
1
道立旭川高看, 2阿寒町まちづくり推進課, 3タンチョウ保護調査連合, 4北教大・釧路:現、北海道大
学・院・地球環境
広島大学 大学院
調査は 1999 年 12 月-2000 年 3 月、釧路管内音別町の音別川・霧裡川、及び
阿寒町の阿寒川・舌辛川において、タンチョウの採餌行動観察を行い、河川内
の摂餌場を特定した。摂餌地点の現存量などを明らかにするため底生生物の定
量採集(40cm × 40cm 方形区枠を3カ所設置)を、魚類相を明らかにするた
め手網 (目合い 1mm) による定性採集を行った。
採集した底生生物は可能な限り種レベルまで同定したが、属もしくは科レベ
ルまでしか同定していないものもある。採餌地点の環境を明らかにするため、
川底の底質、水温、水深、流速、河畔林の状態、川幅、河川の形状、高水敷・
低水敷及び堤内の様子などを記録した。
定量採集調査で個体数頻度が高かった分類群として、ヒメヒラタカゲロウ属
sp.、ウルマーシマトビケラ、ユスリカ亜科、エリユスリカ亜科、オナシカワゲ
ラ属 sp.、コカクツツトビケラ属 sp、ミドリカワゲラ科 spp.、ミズムシ (半翅
目)、ウスバヒメガガンボ亜科、クロカワゲラ属 sp. などがあった。また、これ
らの分類群はいくつかのパターンに分けることが出来た。1.ヒメヒラタカゲ
ロウ属 sp.、ウルマーシマトビケラ、ユスリカ亜科群集2.オナシカワゲラ属、
ユスリカ亜科群集3.クロカワゲラ属 sp.、エリユスリカ亜科群集4.コカク
ツツトビケラ属 sp.、エリユスリカ亜科群集5.ミズムシ群集6.ウスバヒメ
ガガンボ亜科群集など
さらに、これら採集した底生生物から各採餌地点の水生生物群集組成の特徴を
明らかにし、それら群集組成と採餌環境(物理環境)との関係について座標付
け (ordination) による解析を行った。これらを元に越冬期におけるタンチョウ
がどのような自然環境を餌場に利用するのかということを考察していきたい。
これらの結果の解釈ついてご示唆いただけると幸いである。
森林土壌は、土壌孔隙により降雨を一時貯留する機能を持っている。この貯留
能力は下層土壌では、土壌母材や地質による影響を受けるが、表層土壌では、
森林の管理、保全の仕方の違いや植生の影響を受ける。そこで表層土壌に着目
し、吉野川流域における、自然立地条件を同一にした同一斜面に隣接する植生
の異なる針葉樹人工林と広葉樹自然林での表層土壌の土壌孔隙率と最大容水量
を測定し、植生の違いによる土壌のもつ保水力を比較し、
「緑のダム」計画を評
価することを試みた。
調査地は、吉野川流域の 12 地点である。調査方法は吉野川流域の 12 調査地
それぞれにおいて、隣接する人工林プロット内の 2ヶ所と自然林プロット内の
2ヶ所を選定し、掘削によって土壌断面を作成し、表層から深さ 50cm まで、断
面に沿って土壌を採取した。土壌採取には、非撹乱試料採取のための 100ml(直
径 5cm 高さ 5cm) ステンレス円筒サンプラーを用いた。各個所で表層土壌
0∼5cm を 3 サンプルと、深さ 5∼10cm、15∼20cm、での 2 層で 2 サンプル
ずつの計 7 サンプルを採取した。採取した試料は、土壌の三相構造 (気相・固
相・液相) を調べる土壌三相計を用いて、土壌孔隙率 (porosity) を求めた。ま
た最大容水量 (Maximum Water Holding Capacity) の測定も行った。
その結果、土壌孔隙率・最大容水量ともに、深さ (0∼15cm) において、人工林
より自然林のほうが高く、これは広葉樹の落葉・落枝やそれに伴う土壌動物の
活動による影響と考えられる。また強間伐人工林も自然林と変わらない土壌孔
隙率・最大容水量を有していた。
本研究の結果から、吉野川流域の人工林において、強間伐等の管理を適切に行っ
た場合には、表層の 15 cm 深において一雨ごとに 2915 万トンの保水容量の増
加が見込まれることになり、これは、1 本の間伐に付き 70.1 リットルの保水
量の増加に相応する。
以上のことから、流域全体を考えた森林において、孔隙率に富んだ表層土壌を
有し、またそれが保護され維持される森林施行が行われるならば、大容量の貯
水機能を備えた「緑のダム」が、コンクリートダムのみに頼らないダムに匹敵
するものと考えられる。
— 221—
P3-058
ポスター発表: 保全・管理
P3-058
12:30-14:30
シマアオジ激減!
(草原性鳥類のモニタリングと鳥相変化)
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
P3-059
植物分布データに基づく絶滅確率を用いた最適な保護区の設定
◦
玉田 克巳1, 富沢 昌章1, 梅木 賢俊1, 高田 雅之1
(株) さっぽろ自然調査館, 2北海道環境科学研究センター
北海道環境科学研究センター
全国的に一部の夏鳥の減少が危惧されているが、北海道ではシマアオジを
はじめとする草原性鳥類の減少が目立つ。そこで北海道の湿原や草原におい
て鳥相の変化を調べた。北海道では 1974∼1985 年の繁殖期(5∼7 月)に、
ラインセンサス法によって 10 地域 27 ルートの湿原や草原で鳥類調査が行
われている。これらの結果をもとに各ルートにおいて、2002 年と 2003 年の
5∼7 月に同様のラインセンサスをのべ 5 回実施し、約 20 年間の鳥相変化
を明らかにした。過去もしくは今回の調査で 6 ルート以上で確認された種に
ついて個体数の増減を調べた結果、とくに減少が著しかった鳥類は、シマア
オジとマキノセンニュウで、このほかヒバリ、ビンズイ、コムクドリについ
ても減少していた。増加していた種は、トビ、ヒヨドリ、ウグイス、センダ
イムシクイであった。
シマアオジは、過去の調査では 23 ルートで確認されていたが、今回の調
査で確認できたのは 5 ルートのみで、消滅したルートは 18 ルート(78 %)
であった。マキノセンニュウは、過去と今回の調査で 18 ルートで確認され
ているが、今回の調査では 7 ルート(39%)で消滅、8 ルート(44 %)で
減少しており、全体の 83 %の地域で消滅または減少していた。
ウグイスは、過去と今回の調査で確認された 13 ルートのうち 12 ルート
(92 %)で増加または新たに出現していた。センダイムシクイは、過去と今
回の調査で確認された 13 ルートのうち 10 ルート(77 %)で増加または新
たに出現していた。ウグイスはササの繁茂する場所を好む種であり、センダ
イムシクイはハンノキ林やヤナギ林などにも多く生息する種である。ウグイ
スとセンダイムシクイの増加は、地域的に湿原の乾燥化によるササの侵入、
ハンノキ林やヤナギ林の発達などとも関係している可能性がある。
12:30-14:30
森林性動物を用いた二次林再生過程の評価方法の検討
◦
渡辺 修1, 渡辺 展之1, 丹羽 真一1, 高田 雅之2
1
1
P3-060
12:30-14:30
渡辺 展之1, 渡辺 修1, 堀 繁久2, 黒沢 信道3, 田畑 克彦4
1
(株) さっぽろ自然調査館, 2北海道開拓記念館, 3NPO トラストサルン釧路, 4環境省東北海道地区自然
保護事務所
現在、釧路湿原では環境省を中心に自然再生事業が行なわれており、人為
的な負の影響を取り除くことによって、自然が自力で回復するような方法
が模索されている。この方法の検討のためには、自然の再生の過程を客観
的に予測評価することが求められる。その方法の一つとして特定の生物の
個体数を用いて評価することが挙げられるが、生態系は複雑で多変量から
なり地域によって特性が大きく変わるため、個々の環境の特徴をとらえた
指標をつくることが重要である。
釧路湿原・達古武地域沼の森林は、かつては落葉広葉樹林が成立していた
と考えられている。明治時代から多数回の伐採を受けており、現在は若い
広葉樹二次林や人工林がほとんどである。また、ササ草地や裸地化したま
ま、森林が回復していない場所も少なくない。こうした若い二次林やササ
草地・裸地を、過去の森林に近づけて、森林を取り囲む生態系を復元する
ことが自然再生の課題となっている。
ササ草地・若齢二次林から比較的発達した林分まで、林齢が連続的になる
ように、複数林分に調査区を設定して林分構造を調査した。各調査区で指
標となる可能性のある森林の依存性の強い動物(森林性動物)として鳥類・
野ネズミ類・歩行性甲虫について、定量的な調査を行なった。これら3つ
の動物は、移動能力や森林内での生息環境や必要な空間スケールが異なる
ため、再生過程にある森林での生息状況が異なるパターンを示すことが予
想される。調査区のデータを時系列化して、森林再生過程(森林の発達段
階)における種組成・森林性の個体が占める割合・生息密度などの変化を
明らかにし、それぞれの指標としての特徴と有効性について検討する。
希少な動植物の保全方法を選択する上で、近年は各生物の絶滅確率を評価
指標として用いた手法がとられ始めている。数値を用いた予測評価により判
断基準が明確になるメリットがあるが、希少な生物の分布・生態に関する情
報が少ないとモデルの構築が難しい。北海道においても個々の希少種の生態
に関する情報の集積は不十分であるが、広域における分布情報(10km メッ
シュレベルの生育の有無の情報)については、以前より精力的な情報集積が
行なわれてきており、それに基づいた保護行政の実施を目指している。ここ
では、特に希少な植物種の分布データと植生データをGISにより解析し、
北海道全体という広域での絶滅確率を用いた評価モデルを作成した。
希少な植物の多くは、高山帯・湿原・海浜といった特有の環境に依存して
分布しており、それらの環境はパッチ状に北海道内にちらばっている。この
ような環境について、パッチごとにその属性(面積・標高・地質など)を整理
してデータベース化し、各パッチごとに分布する植物を集約してデータセッ
トとした。パッチごとに絶滅確率を設定し、植物ごとに北海道内での絶滅確
率を分布パッチの絶滅確率の積和として求め、その総和、すなわち「絶滅種
数の期待値」を現状の指標とした。パッチの中で希少種が生育するにも関わ
らず保護区が設定されていないもの「保護ギャップ」
(保護政策の隙間にある
エリア)として抽出し、その分布や属性の傾向を整理した。また、それらに
保護区を設定した場合、北海道全体での絶滅種数の期待値がどの程度低下す
るかを求め、設定する優先順位を決定した。
発表では、絶滅確率の算出方法をパッチごとに一定の場合、パッチ面積・
パッチ間距離に依存する場合、パッチの開発確率に依存する場合などに変化
させた場合の結果を紹介する。また、広域の分布データを用いて作成する指
標が持つ可能性について論じる。
P3-061
12:30-14:30
房総丘陵の絶滅危惧ヒメコマツ集団における極端な自殖
◦
佐瀬 正1, 綿野 泰行1, 朝川 毅守1, 尾崎 煙雄2, 谷 尚樹3, 池田 裕行4, 鈴木 祐紀4
1
千葉大学理学部生物学科, 2千葉県立中央博物館, 3森林総合研究所, 4東京大学千葉演習林
房総丘陵におけるヒメコマツ (Pinus parviflora var. parviflora) 個体群は暖温帯
域の低標高域(400m 以下)に成立している貴重な個体群だが、近年急激に減
少している。現在生存しているのは 80 個体に満たず、分布の断片化も進み、
離れた小さなパッチ状に生育している(尾崎ら 2001)。
そこで、本研究ではこの個体群の保全を目的として、マイクロサテライトマー
カーを使った個体群の分子生態学的調査を行った。
解析に用いたマイクロサテライト遺伝子座は 4 遺伝子座で、解析した全集
団での遺伝子座ごとの平均アリル数は 22.5、平均ヘテロザイゴーシティーは
0.84 となった。
まず、房総丘陵集団(全個体)と他地域の比較的健全な個体群 7 集団との遺
伝子多様度の比較と、房総丘陵のパッチ間の遺伝的分化の度合い (FST ) の解
析を行った。その結果、全 8 集団での遺伝子多様度は 0.840-0.918、房総丘
陵集団は 0.854 であり、遺伝的多様性は失われていなかった。また、それぞ
れの集団間の FST は 0.051 に過ぎず、房総丘陵のパッチ間での FST も 0.046
で、著しい遺伝的分化は見られなかった。よって、房総丘陵集団での個体群の
激減や分布の断片化は過去 20-30 年の短い期間に起こったものと考えられる。
次に、現在房総丘陵に残っている集団内で(特に、離れたパッチ間で)花粉
による遺伝子流動が行われているかを調べた。2002、2003 年に房総丘陵の母
樹から採取した種子のうち、72 個の種子の遺伝子型を調べて、花粉親とな
る個体を決定した結果、これらの種子の内 90%以上が自殖に由来していた。
また、採取した種子をみると、中身の充実した種子が少なく、充実種子率は
17%と低い値をとった。すなわち、自殖による近交弱勢で充実種子の割合が
減り、残った種子も自殖由来のものであったということになる。
以上より、この個体群はごく近年に起こった個体群の減少により、pollen limitation
が起こり、結果として自殖化が進み、不稔の種子が増加してしまっている事
がわかる。
— 222—
ポスター発表: 保全・管理
P3-062
P3-063
12:30-14:30
希少種ベニバナヤマシャクヤクの個体群動態と盗掘による影響の予測
◦
中根 周歩1, 中坪 孝之1, 実岡 寛文1
1
1
(株) さっぽろ自然調査館
広島大学
本来の自然生態系(日本では森林生態系)が保持していた水循環のメカ
ニズムは、コンクリートとアスファルトが卓越した都市生態系において
は大きく歪められ、降水の大部分(90 %以上)は土壌表面に浸透するこ
となしに、下水溝から河川・海洋に流出し、都市域での再循環は極限定さ
れている。そのため、年間を通しての大気の乾燥化と特に夏期における
ヒートアイランドといった現象が顕著となる。この都市生態系の治水機能
の喪失は、集中豪雨の際の地下洪水を発生させ、潜熱(気化)の極端な
減少によるヒートアイランドは冷房などのエネルギー(電力など)の消
費を促進し、更なるヒートアイランドを生み出す。 このような都市環
境の改善に向けて、最近国土交通省は都市域を中心にビルデングの屋上
緑化を促進する法整備を進めている。しかし、従来の屋上緑化では、
「緑
化」や「屋上温度の低減」が中心で、その維持に灌水を前提としており、
降水の再循環などは考慮されていない。そこで、軽量、安価で保水力に
優れた竹炭に注目し、これを大量に使用することによって、森林に優る
とも劣らない水循環を再生させ、合わせて都市の乾燥化やヒートアイラ
ンドをも大きく低減させる「屋上緑化」システムの構築を試みた。具体
的には、土壌と 1/1(同重量)、1/2、1/4、0 kg の竹炭及び土壌の立体構
造の創出のために発泡スチロールを土壌容積の 30、20、10、0 %を混合
した 16 処理区を設置し、タイ国ピサヌロークの国軍司令部屋上で 2004
年 2 月 ∼3 月に実証実験を初期灌水後、無灌水で行った。その結果、竹
炭と発泡スチロールの使用量が多いほど、土壌湿度は高く維持され、土
壌表面や土壌深 5cm の日中温度は無使用区と比較して 10∼20 ℃低減し
た。また、熱収支では、竹炭と発泡スチロール使用区は有効放射量の大
部分は潜熱(水蒸気)で大気に還元され、顕熱や土壌への熱移動は僅か
であった。使用した竹炭は1 ha 当り 300ton で、併せて熱帯雨林に相当
する温暖化ガスである CO2 の固定を実現した。
絶滅が懸念される希少な動物の保全を考える上では、個体群レベルで
どのような構造を持ち、どのように推移しているのかを把握する必要が
ある。なぜなら、それらが絶滅の監視になるとともに、それがその植物
の生活史や環境・他の生物との関わりを反映しているからである。
本発表では、落葉樹林の林床や林縁に生育する多年草で RDB に指定
されているベニバナヤマシャクヤク Paeonia obovata の個体群を材料に
取り上げる。北海道大雪山国立公園東部で確認した個体群において個体
識別を行ない、6 年間にわたって個体サイズの変化と繁殖状況を追跡し
た。本種は葉数に基づいてサイズ階を区別することができるため、葉数
を基準に推移行列モデルを作成して個体群の推移を予測した。その際に、
6 年間の推移率・死亡率・繁殖率の変動から行列の各要素の変動を与え
て推移をシミュレーションし、100 年後の絶滅確率を求めた。
また本種は、生育地の減少とともに高い盗掘圧が脅威となって個体数
が減少している。この影響を評価するために、モデル上で開花個体の除
去あるいは大サイズ個体の全除去を行なって、個体群が盗掘前の水準に
戻るまでの年数を求めた。
以上の結果から、予測される本種の生活史特性と、盗掘の与える影響に
ついて述べる。
P3-064
P3-065
12:30-14:30
カラマツ人工林における広葉樹稚樹の分布と生育阻害要因の分析 –釧
路湿原周辺における自然林再生手法の検討–
◦
12:30-14:30
都市生態系の再生における屋上緑化の意義と可能性
◦
丹羽 真一1, 渡辺 修1, 渡辺 展之1
P3-062
8 月 28 日 (土) C 会場
孫田 敏1, 渡辺 修2, 渡辺 展之2, 鈴木 玲3, 田畑 克彦4
12:30-14:30
タチスミレ群落における火入れの効果
◦
小幡 和男1
1
ミュージアムパーク茨城県自然博物館
1
(有) アークス, 2(株) さっぽろ自然調査館, 3雪印種苗 (株), 4環境省東北海道地区自然保護事務所
北海道東部の釧路湿原周辺のカラマツ人工林では、これまでの除間伐と林内放
牧などの影響によって、広葉樹稚樹の密度が低くなっている。このような林分に
おいて、カラマツ人工林から自然林への転換を考える場合には、人為的要因以外
に広葉樹の更新を規定している要因を明らかにすることが効率的な自然林再生手
法を探るために必要である。そこで、母樹林との距離・林床開空率・林冠開空率・
エゾシカ被食圧などから稚樹の更新に影響を与えている生育阻害要因の特定を試
みた。
調査対象は釧路湿原東部にある達古武沼北岸に位置するカラマツ人工林である。
面積は約 120ha で、造林後 32 年 ∼40 年が経過している林分である。稜線には
残置防風林帯として広葉樹林が残されており、種子の供給源となる繁殖個体も分
布している。
調査区は、稜線上の広葉樹林(母樹林)から斜面方向直角に数本の測線を伸長し、
それぞれの測線上に稜線からの距離が異なるように設定した。調査測線は 7 本、
調査区は 30 箇所である。調査区の大きさは 5m × 5m で、調査区内に出現する
稚樹については種名と被食の程度を記録後、樹高・前年の伸長量を測定し、植生に
・植生高を測定したほか、林床・林冠の全天写
ついては出現種を記録、被度(%)
真を撮影し開空率を算出した。このほか、母樹林からの距離が異なるようにシー
ドトラップを設置して、飛来種子をカウントし、持ち帰った表土の撒き出しによ
る埋土種子発芽試験を行なった。
母樹林から離れるほど、種子の捕捉量が急激に減少する逆 J 字曲線を描く、稚樹
密度も同様の傾向が見られるなど、種子供給が広葉樹稚樹定着の要因であること
が予測されたが、林床開空率・林冠開空率はほぼ均一で、かつ稚樹数も少なく、
光条件と稚樹定着・成長の関係は十分検証できなかった。
得られた結果から、カラマツ人工林の自然再生手法について議論する。
タチスミレは,湿地に生える多年草で,5 月から 6 月にかけて開放花,
その後晩秋まで閉鎖花をつけて種子を生産する。その間ヨシやオギの間
で延々と茎を伸ばし続け,草丈はしばしば 1m を超えるという風変わり
なスミレである。タチスミレは朝鮮,中国東北部,アムール地方に分布
するが,日本では関東地方の利根川水系と九州の限られた場所での記録
があるのみである。その生育地は,開発ばかりでなく,かつては人為的
な攪乱があったところが放棄されて遷移が進行し,生育の状況はかなり
悪化している。国のレッドデータブックでは,絶滅危惧 IB 類(EN)に
指定されている。
現在,茨城県でのタチスミレの生育は,利根川の支流である小貝川と
菅生沼で確認されている。今回報告する菅生沼のタチスミレ群落は,オ
ギの優占する群落で,1998 年まで付近の住民による草刈りが行われてい
た。その後放棄され,オギのリターが積もるようになってタチスミレは
衰退した。
筆者はタチスミレ群落の復元を試み,2003 年と 2004 年の 1 月に群落
の火入れを実施した。火入れの効果をみるために,16 × 8m の枠を設置
し,2003 年と 2004 年の 4 月末に,タチスミレの当年生実生を除く全て
の個体について位置と株の直径を測定した。結果は 2003 年 4 月の 147
個体/ 128m2 から,7,171 個体/ 128m2 へと密度が約 50 倍増加した。
さらに,火入れによるタチスミレの発芽促進の要因を明らかにするた
めに,近傍のタチスミレの生育しないオギ群落に,2004 年 1 月,タチ
スミレの種子を播種した。処理区は (a) 播種後火入れ,(b) 火入れ後播
種,(c) 火入れせず播種リター除去,(d) 火入れせず播種リター戻し,と
した。結果は,(d) を除く全ての処理区でタチスミレの発芽をみた。火入
れは発芽にとって必須条件ではなく,リターを取り除くことが重要であ
ることが分かった。
— 223—
P3-066
ポスター発表: 保全・管理
P3-066
P3-067
12:30-14:30
兵庫県南部の孤立社寺林における植生と光環境の林縁効果
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
シカを捕るだけでは森は蘇らない
◦
岩崎 絢子1, 石井 弘明1
日野 輝明1, 古澤 仁美1, 伊東 宏樹1, 高畑 義啓1, 上田 明良1, 伊藤 雅道2
1
森林総合研究所関西支所, 2横浜国立大学
1
神戸大学 自然科学研究科
森林が環境保全機能を保持するためには、安定した林内環境が多く必要
である。しかし森林の断片化、小面積化に伴い林縁部の占める割合が増
加する。本研究では、孤立社寺林において林縁効果の及ぶ距離を光環境
の変化から明らかにし、林内環境を十分に保全するために必要な森林面
積を試算した。調査は神戸市西区太山寺の照葉樹林及び二次林と西宮市
西宮神社の社寺林で行った。林縁から林内へ長さ 40 mのトランセクト
を設置し 1m 間隔で毎月、全天写真を撮影した。またトランセクトから
左右 20m 幅のプロットにおいて毎木調査を行った。
太山寺照葉樹林では、毎木調査及び光環境の測定結果から林縁と林内で
明確な違いが見られた。二次林では、毎木調査の結果からは照葉樹林の
ような林内環境は見られなかったが、全天写真の解析からは林縁から林
内に向かって光環境が安定する変化が見られた。林縁効果の及ぶ距離は、
照葉樹林で 27∼31m、二次林で 19∼23m という結果が得られた。林冠
高との相対値でみると二次林の方が照葉樹林より林縁効果が長く及んだ。
しかし、照葉樹林では林縁から林外へ 10m ほどササが茂り、この外部か
ら森林への移行帯を考慮すると、約 40m 林縁効果が及ぶと考えられる。
よって林内環境の保全には、照葉樹林においては約 40m、二次林におい
ては約 20m、周囲に緩衝帯を設ける必要がある。西宮神社では林縁部が
壁で覆われているため、林縁から林内にかけて一様に暗く、光環境にお
ける林縁効果は見られなかった。上層の林分構造は太山寺照葉樹林と類
似していたが、中下層は太山寺二次林と類似していた。また、ササやシュ
ロが林内にまで深く侵入し、植生における都市化の影響が見られた。市街
地において自然性の高い森林を保全するには、保全面積の確保と同時に、
侵入植物の除去や後継樹の育成など人為的介入が必要と考えられる。
P3-068
大台ヶ原は,西日本で最大級の原生的な自然林であるが,近年,更新の
阻害や立ち枯れによって,森林の衰退が著しく,その存続が危ぶまれて
いる。私たちは,大台が原を構成する3つの主要群落のうちの一つ,ブ
ナーウラジロモミーミヤコザサ群落において,ニホンジカ,野ネズミ,ミ
ヤコザサ, 鳥などの複合的な実験処理区を設け,森林下層部の植物群落,
無脊椎動物群集,土壌などの構造と性質の年変化や季節変化についての
定量的なモニタリング調査を,1997 年から行ってきている。また,ニホ
ンジカの密度の違いによる植生と鳥群集の比較調査を行っている。ニホ
ンジカの個体数とミヤコザサの地上部現存量は,現在,需給の釣り合い
によって,平衡状態にあると考えられた。ところが,ニホンジカの除去
区では,ミヤコザサの地上部現存量はその生産力の高さによって,わず
か 5 年間で最大値まで回復した。ニホンジカによって食べられなかった
ミヤコザサはリターとして,ニホンジカによって食べられたミヤコザサ
は死体や糞尿として土壌にかえり,それが養分として,再びミヤコザサ
に吸収される。このニホンジカ — ミヤコザサ — 土壌の各要素間の窒素
循環の動態についてシステムダイナミクス・モデルを作成した。さらに,
このモデルを拡張させて,ニホンジカ個体数増加と,それにともなうミ
ヤコザサ現存量の減少や枯死木の増加が,樹木実生,鳥類,地表節足動
物,土壌動物の個体数や多様性に及ぼす影響を組みこんだ。シカ密度あ
るいはミヤコザサ現存量の影響は,生物群によってさまざまに異なって
おり,すべての生物群にとって好ましいニホンジカ密度やミヤコザサ現
存量は存在しなかった。樹木の枯死の減少と天然更新の増加によって森
林の再生が最も促進される管理手法を検討した結果,シカの個体数駆除
と同時に,その主要な餌であるミヤコザサの現存量を減らす必要がある
ことが分かった。
P3-069
12:30-14:30
12:30-14:30
生息確認地点だけによったメダカ生息適地推定 — 茨城県南部 1960-70
年代の例
小笠原諸島媒島におけるタケ・ササ類の拡大
◦
12:30-14:30
丸岡 英生1, 市河 三英1, 滝口 正明1, 鋤柄 直純1, 大島 康行1
◦
1
自然環境研究センター
小笠原諸島媒島では,過去に導入されたノヤギが異常繁殖し,森林の急
速な衰退や裸地の拡大,土壌流出が生じるなど,生態系の破壊が進行し
た.このため,ノヤギの排除が行われ,1999 年に完全排除が達成された.
今後の生態系修復を進める上で,植生の回復過程における外来植物の動
向を監視することが重要な課題となる。媒島には外来種であるヤダケと
ホテイチクが生育し,主に媒島最大の残存林である屏風山に群落を形成
している.当残存林は媒島の植生回復にとっての種子供給源である.今
後,タケ・ササ群落が拡大することにより,稚樹の生育が阻害され,残存
林が衰退すれば,島全体の植生回復に影響を及ぼす可能性がある.そこ
で,ヤダケとホテイチクの生育状況と群落の拡大過程を明らかにし,タ
ケ・ササ群落の拡大が在来植生に与える影響について調べた.
過去(1978 年,1991 年,2003 年)に撮影された空中写真からタケ・サ
サ群落の分布の変化を調べた.1991 年まではタケ・ササ群落の分布はあ
まり変化していなかった.しかし,1991 年から 2003 年にかけては,こ
れらの群落は大きく拡大しており,1999 年のノヤギ排除後に急速に拡大
し始めたと考えられる.在来植生への影響を明らかにするために,タケ・
ササ群落と森林群落や草本群落との境界部の植生構造を調べた.ヤダケ
とホテイチクは密生した群落を形成しており,それらの下層では隣接する
草本群落や森林群落と比べて出現種数や被度が明らかに低かった.また,
森林群落林床ではノヤギ排除後に林冠構成種や媒島で個体数の少ない種
の稚樹がみられるが,タケ・ササ群落の林床には全く出現しなかった.ヤ
ダケとホテイチクはノヤギ排除後に急速に拡大しており,これらに覆わ
れた場所では,在来植物の生育や更新が阻害されていると考えられる.
(本調査は東京都小笠原支庁委託小笠原国立公園植生回復調査の一環と
して行った.
)
高村 健二1
1
独立行政法人国立環境研究所
メダカは、かって浅い池沼や水田とその周辺の止水域を中心に広く生息
していた。しかし、近年は水田地帯の乾田化・給排水路整備に伴い生息
地が減少している。このようなメダカ分布の減少は共存する生物種の分
布減少をも伴っていると考えられるが、メダカ生息適地の変化を推定す
ることによって同時に、他の生物種の生息適地の変化をも推定すること
ができると考えられる。
そこで、メダカの分布確認地点を和田ら(1974)の報告より参照し、土
地利用分布は国立環境研で作成したものを採用して、両者の関係からメ
ダカ生息適地の推定を 1960-70 年代の茨城県南部について行なった。具
体的には、上記データをラスタ形式として整理した上で、環境条件の全
体的分布の上でメダカ生息確認地点の環境条件分布をできる限り局限す
るかたちで Biomapper ソフトウェア(Hertzel, 2002)を用いて生息適地
を推定した。
結果として、好適度の高い区画は水田地帯に多くなり、また市街地の存
在が好適度に対して比較的良い方向に働いた。推定結果を、交差検定及
び独立した生息確認地点データとの比較で検定したところ、どちらの検
定でも好適度は生息確認地点と無関係であるとは言えず、この結果は信
頼度が高いものと考えられた。
— 224—
ポスター発表: 保全・管理
P3-070
P3-071
12:30-14:30
八ヶ岳、大門川の源流に設置された治山堰堤周囲の植物群落について
◦
平塚 雄三1, 大野 啓一2
横浜国立大学 院 環境情報学府, 2横浜国立大学 院 環境情報研究院
株式会社ドーコン, 2北海道網走土木現業所, 3北海道大学大学院農学研究科
北海道のサロマ湖に流入する芭露川の河口には塩湿地が分布しており、アッ
ケシソウ (Salicornia europaea) が生育している。芭露川では洪水対策として
河川改修が計画されているが、現在までの河川改修計画では河道線形の設計検
討等により本種の生育地への直接改変が回避されている。しかし、本種は潮汐
や地下水位等の影響を受けた特殊な環境に生育しているため、今後改修工事を
進めていく中で本種の生育に対して予測不能な影響を及ぼす可能性もあり、あ
らかじめ本種の保全対策を検討しておくことが重要な課題となっている。そこ
で、本調査では芭露川河口における本種の生育状況及び生育環境等の現況を調
査し、本種の保全対策を検討した。
現地調査の結果、本種の生育密度には場所による粗密が見られた。密生地は
平坦地で、疎生地は凸凹地であり、本種の生育には地表面の微地形が関与して
いる可能性が示唆された。土壌分析の結果、密生地の土壌は疎生地に比べ交換
性陽イオンの濃度が高く、汽水由来の塩類が多く集積していることが明らかと
なった。地下水位観測及び土壌水分観測の結果、生育地の地下水位はスゲ類や
ヨシ等が優占する塩湿地の地下水位よりも高く、土壌水分も過湿な状態が長期
間続いていた。
これらの調査結果より、今後の河川改修時における本種保全上考慮すべき点
として、平坦地や凸凹地等の微地形に変化を持たせておく必要があること、大
潮時に湖水が流入し土壌に塩類が集積する必要があること、過度な淡水流入を
生じさせない必要があること、現在の地下水位の挙動を変化させず高水位状態
を維持していく必要があることなどが考えられた。
P3-073
12:30-14:30
絶滅危惧植物タコノアシの発芽と実生生長に及ぼす水田除草剤の影響
◦
内山 秀樹1, 内藤 隆悟1, 中村 裕1, 八幡 和則2, 菊池 俊一3
1
日本の山岳地帯には、土砂災害防止を目的として河川源流沿いに治山堰堤が
多数設置されている。これらが設置されたことにより、自然状態では存在しえな
かった立地環境が作り出されている。本調査地の水系においては、コンクリー
ト製のクローズドタイプの治山堰堤と、鉄骨製のオープンタイプの治山堰堤が
設置されており、この違いによって植物にとって異なる環境が創出されると考
えられる。そこで、2 種類の堰堤について、周囲の植生の違いとそれをもたら
す要因について研究を行った。
本調査地は八ヶ岳の主峰、赤岳の南東を流れる大門川の源流域であり、標高
は 1700m から 1900m であった。流水は春季の雪解け水による氾濫と、夏季の
集中豪雨時のみ確認された。
大門川において、植物にとっての環境が変わったと考えられる堰堤周囲の立
地に調査区を設けた。河道に直交するようにラインを引き、ライントランセク
ト法によって 5m2 の調査区を設置し、植生調査、毎木調査、河道からの距離
および比高の計測、有機物を含む砂礫堆積物の深さの計測を行った。また、設
置されてから 25 年以上経過したクローズドタイプの堰堤とオープンタイプの
堰堤周囲に 10m × 50m ほどの調査区を設置し、実生を含む毎木調査、地形測
量に基づく地形分類を行った。
堰堤周辺の立地は高位安定立地、低位氾濫源、河道の 3 種類の地形に分類さ
れた。高位安定立地にはオノエヤナギ、ヤハズハンノキなどが生育しており、
コメツガの実生の出現が顕著であった。低位氾濫源は増水時において流水の影
響を受ける立地であり、オオバヤナギ、ズミなどが生育していた。河道はイタ
ドリなどの先駆性草本種がわずかに存在するだけであった。
クローズドタイプの堰堤とオープンタイプの堰堤を比較すると、後者におい
てオオバヤナギが優占して生育している傾向が見られた。オープンタイプの堰
堤では河道が網状になりやすく、氾濫源を創出することが出来るためと考えら
れた。
P3-072
12:30-14:30
北海道芭露川河口におけるアッケシソウ生育地の環境調査と保全手法
の検討
◦
1
P3-070
8 月 28 日 (土) C 会場
池田 浩明1, 羅 小勇1
◦
1
農業環境技術研究所
タコノアシ(Penthorum chinense Pursh)は,かつて日本の泥湿地・河川敷
に広く分布したユキノシタ科の多年草である。しかし,近年,自生地の開発
などに伴って個体数が減少しており,レッドデータブック(環境庁 2000)で
絶滅危惧 II 類に位置づけられた。この植物の分布は水田地帯と重なってお
り,その発芽期も水田除草剤の施用期と一致するため,実生の定着が水田除
草剤の影響を受ける可能性がある。そこで,主要水稲用除草剤(ベンスルフ
ロンメチル,メフェナセット,シメトリン,ベンチオカーブ)がタコノアシ
の種子発芽と実生生長に及ぼす影響を室内暴露試験によって検討した。
グロースチャンバー(14 時間明期 25 ℃,暗期 15 ℃)で発芽試験を行い,
除草剤処理 20 日後の発芽率・幼根長を測定した。また,三葉期実生を用い
て同様な環境条件での暴露試験を行い,除草剤処理 10 日目から 10 日間の
回復処理(除草剤無処理)を施し,回復処理中の湿重増加を実生生長として
算出した。
全ての除草剤は本種の幼根伸長と三葉期実生の生長を顕著に抑制したが,
種子発芽についてはベンスルフロンメチルのみが阻害した。シメトリン以外
の除草剤では,三葉期の実生生長より幼根伸長の方が低い濃度域で阻害を受
けた。試験した除草剤の中で,ベンスルフロンメチルは幼根伸長と実生生長
に対して最も強い毒性を示し,シメトリンは 85 µg/L 以上の濃度で発芽した
ばかりの実生全てを枯死させた。幼根伸長の 50%阻害濃度(シメトリンでは
発芽種子の半数致死濃度)は,ベンスルフロンメチルで 0.58 µg/L,メフェ
ナセットで 120 µg/L, ベンチオカーブで 350 µg/L,シメトリンで 28 µg/L
であるとそれぞれ推定された。これまでに報告されたこれら除草剤の河川水
中最高濃度と比較した結果,ベンスルフロンメチルとシメトリンの水田から
の流出は水田地帯の一部でタコノアシの実生の定着を阻害するレベルである
ことが示唆された。
12:30-14:30
人為影響下の湿原におけるトンボ成虫長期モニタリングとその評価–釧
路湿原,温根内地区を事例に–
生方 秀紀1, 迫田 哲生1
1
北海道教育大学釧路校
湿原は長期的に見ると植生の遷移が進行し,湖沼に近い湿原から湿地林へと
姿を変えて行き,動物群集もそれに伴って変遷していく.近年は河川改修や
土地改良工事,水質汚濁,温暖化等の人為的な影響によっても環境変化に拍
車がかかっている.このような湿原の環境変化,特に淡水域の環境変化の一
端をトンボ目の成虫の個体数を指標としてモニタリングすることが可能であ
ると思われる.ここで注意しなくてはいけないのは,モニタリングは研究の
ための行為ではなく,社会的要請のもとで行なわれるものであり,当然,費
やした費用(労力)に対して得られた効果(情報の正確さ・有用性)との比
率を最大にすることが求められるという点である.さて,トンボ目は昆虫綱
の中でも大型で,色彩や形態による種や性の識別が容易で,好天の日中に水
辺で活動するという,モニタリングにはうってつけの特徴を持つ.しかしな
がら,種や性によって活動時間帯や気象条件への反応が異なっていたり,目
撃による種までの同定の難易度に大きな差があったり,確認のための捕獲の
難易度にも違いがある.これらはモニタリングの精度にマイナスの影響を与
える.また,定期モニタリングの日数間隔,モニタリング場所のサイズと個
数の選定,一日の中での時間帯なども,その実用性に大きな影響を与える.
とりわけ,モニタリングの日数間隔とモニタリング場所の面積と個数の選択
は,労力と密接に関係し,同時に精度とも密接に関連する.実際のモニタリ
ングは労力と精度との妥協点が最適化されたものであることが望ましい.以
上の観点から,1999年から2002年まで生方が北海道釧路湿原の温根
内地区で毎年実施したトンボ成虫モニタリングの結果を,2003年に同じ
地区で迫田が集中的に行なった調査結果をバックグラウンドとして対比させ
ることにより,このようなモニタリングのシステムを,精度の面と経済効率
の面の両面から評価する.
— 225—
P3-074
ポスター発表: 保全・管理
P3-074
P3-075
12:30-14:30
成虫による湖沼トンボ群集のモニタリングはどこまで使えるか‐釧路
湿原達古武沼を事例に‐
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
淡水緑藻マリモの日本国内における生育現況と絶滅危惧評価
◦
若菜 勇1, 佐野 修2, 新井 章吾3, 羽生田 岳昭4, 副島 顕子5, 植田 邦彦6, 横浜 康継7
倉内 洋平1, 生方 秀紀1
1
阿寒湖畔EMC, 2いしかわ動物園, 3株・海藻研, 4神戸大・内海環境教育, 5大阪府大・総合科学, 6金沢
大・院・自然科学, 7志津川自然環境活用セ
1
北海道教育大学釧路校
淡水緑藻の一種マリモは,環境省のレッドデータブックで絶滅危惧 I 類に指定
される絶滅危惧種で,日本では十数湖沼に分布しているといわれている。しか
し,生育実態はその多くで明らかではなかったため,過去にマリモの生育が知
られていた国内の湖沼のすべてで潜水調査を行い,生育状況と生育環境の現状
を 2000 年に取りまとめた(第 47 回日本生態学会大会講演要旨集,p.241)。そ
の中で,絶滅危惧リスクを評価する基準や方法について検討したが,新規に生
育が確認された阿寒パンケ湖(北海道),西湖(山梨県),琵琶湖(滋賀県)で
はマリモの生育に関する文献資料がなく,また調査も1度しか行うことができ
なかったため,個体群や生育環境の変化を過去のそれと比較しないまま評価せ
ざるを得なかった。一方で 2000 年以降,阿寒ペンケ湖(北海道)ならびに小
川原湖(青森県)でも新たにマリモの生育が確認されたことから,今回は,過
去の生育状況に関する記録のないチミケップ湖を加えた 6 湖沼で複数回の調査
を実施して,個体群や生育環境の継時的な変化を絶滅危惧リスクの評価に反映
させるとともに,より客観的な評価ができるよう評価基準についても見直しを
行った。その結果,マリモの生育面積や生育量が著しく減少している達古武沼
(北海道)および左京沼・市柳沼・田面木沼(青森県)の危急度は極めて高いこ
とが改めて示された。また、1970 年代はじめから人工マリモの原料として浮遊
性のマリモが採取されているシラルトロ湖(北海道)では,1990 年代半ばに
47-70 tの現存量(湿重量)があったと推定された。同湖における年間採取量
は 2-2.5t で,これはこの推定現存量の 3-5 %に相当する。補償深度の推算結
果から判断して,現在のシラルトロ湖における資源量の回復はほとんど期待で
きず,同湖においては採取圧が危急度を上昇させる主要因になっている実態が
明らかになった。
トンボ類は淡水環境の変動の良い指標になり得る。しかし、直径1 km を
超えるような大型湖沼においてトンボ群集のモニタリング手法はまだ確立さ
れていない。そこで、定量的なデータが最も効率的に得られる成熟成虫によ
るモニタリングが、淡水環境の変動を十分反映しうるかどうかを検討するた
めに、釧路湿原達古武沼において集中的な調査を実施した。
トンボの成熟成虫は別の淡水生息地から飛来してくる可能性があり、ある
生息地でその種が確認されたからといってそこに確実に生息しているとはい
えない。一方、幼虫・羽化殻・テネラル成虫は、ある生息地で採集されれば
そこに生息していることの確実な証拠となるが、調査効率が悪くモニタリン
グにあまり適さない。今回の調査で得られた幼虫・羽化殻・テネラル成虫の
調査結果をバックグラウンドとして用い、成熟成虫によるモニタリングの性
能を評価する。
成熟成虫によるモニタリングのもう1つの検討事項は、調査地点の空間配
置、定期調査の回数及び調査時間帯の設定である。モニタリングが経済的で
あるためには、労力を最小限にしつつ、最大の効果が得られなければならな
い。調査地点の選定で重要なのは、湖沼全体のトンボ群集を反映しているか
どうかである。トンボの群集は空間的な広がりを持ち、環境の異質性に影響
され、不均一な分布を示していると考えられる。この異質性を評価すること
が可能になるようにするために、沼の広い範囲にわたって8ヶ所の調査地点
を設けた。また、今回は成熟成虫によるモニタリングの回数を週2回のペー
スで行い、季節的な活動のほぼ全体を把握した。このデータを評価すること
によりモニタリングに最小限必要な回数を検討する。
P3-076
P3-077
12:30-14:30
北海道野幌森林公園における外来アライグマと在来エゾタヌキの関係
(1) –空間利用からみた種間関係–
◦
12:30-14:30
池田 透1, 阿部 豪1, 立澤 史郎1
1
北海道大学大学院文学研究科地域システム科学講座
日本各地でアライグマの侵入による生態系への影響が危惧されており、ア
ライグマの侵入が進行している北海道においては、ニホンザリガニやエゾサ
ンショウウオといった在来希少種の捕食やアオサギの営巣放棄などの影響が
確認されてきた。しかし、在来中型哺乳類との競合関係については、在来種
目撃の減少などといった状況証拠は寄せられてはいるものの、具体的な影響
評価は課題として残されてきた。そこで、本研究では、札幌市近郊の野幌森
林公園においてラジオテレメトリー法を用いた行動解析を行い、在来種エゾ
タヌキと外来種アライグマの種間関係の解明を試みた。
野幌森林公園には 1990 年代半ばよりアライグマが侵入し、現在は北海道の
試験的駆除が継続されているが、アライグマ駆除作業が進むにつれて在来種
エゾタヌキの生息数が回復を示すデータが得られている。本研究では、同所
的に生息するアライグマとエゾタヌキの両種に電波発信機を装着し、位置関
係を追跡することから両者の環境利用及び行動圏の配置について分析を行っ
た。2003 年春に捕獲したアライグマ9頭(♂1/♀8)及びエゾタヌキ5頭
(♂1/♀4)に首輪式小型電波発信機を装着し、基本的に毎日日中の休息場
所の記録、および6月・7月には各月4回、行動圏の重複するアライグマと
エゾタヌキについて1時間ごとの位置を 24 時間連続で記録した。途中、疥
癬症の蔓延のために死亡するタヌキ個体もあり、調査個体数が減少する事態
に見舞われたが、得られたデータからは、本来タヌキが好んで利用していた
と考えられる人家周辺領域はアライグマによって占有され、タヌキは森林内
部を利用している傾向が示された。また、調査地周辺農家などの聞き込み調
査においては、この地域にタヌキが生息していることすら認知していない農
民も多く、このことからも人家周辺地域はアライグマによって占有されてい
ることが裏付けられた。
12:30-14:30
湿原再生事業地における適地抽出の試み
◦
白川 勝信1, 森 春彦2
1
芸北 高原の自然館, 2東和科学株式会社
自然再生推進法が 2003 年1月に施行され,2003 年 3 月から,すで
に全国で 11 の事業が進行している.広島県でも 2003 年度から広島県
山県郡芸北町八幡の大規模草地の跡地において,自然再生事業が進めら
れている.本地域では,牧場閉鎖後に大規模運動公園として再開発され
る計画が立てられ,用地内には道路の建設や芝張りなどの整備が行われ
たが,一部は現在まで放置されている.広島県山県郡芸北町八幡の自然
再生事業地は,土嶽地区の 2.04ha の範囲である.大規模草地造成前の土
嶽地区は河川の氾濫原で,草地が拡がる中に樹高の低いハンノキなどの
広葉樹林が成立していた.また,谷の出口付近から河川に沿って湿地が
成立していた.その後,大規模草地の造成に伴い,土地の平坦化や牧草
の播種が行われるとともに,蛇行河川は三面コンクリート張りに改修さ
れ,暗渠や明渠の建設により湿地の乾燥化が進行した.その後草地が放
置された結果,現在ではハルガヤとノイバラからなる群落が拡がり,カ
ンボク,カラコギカエデ,ズミなどによる低木のパッチがスプロール状に
成立している.
湿原の成立において,地下水位の動態は最も大きな環境要因として働
く.このため,対象地の地下水位動態を把握することは,湿原の復元にお
いて非常に重要である.その一方で,湧水のある斜面地においては,地
下水位は降雨によって非線的に大きく変動する.したがって,地下水位
の動態には連続的な観測が必要になるが,広い範囲にわたって地下水位
の動態を観測することは現実的に困難である.そこで本研究では,調査
対象区内に設置した 32 の観測井のうち,6 地点では自記録計によって
連続的に水位を観測した.残りの 26 地点では約 10 日ごとに観測者に
よって計測した値をもとに,同時刻に計測された自記録の井戸の値から
地下水位を推定した.この結果をもとに,事業対象地におけるゾーニン
グ計画を試みた.
— 226—
ポスター発表: 保全・管理
P3-078
P3-079
12:30-14:30
絶滅危惧植物キヨシソウの生態に関する調査結果
◦
◦
1
株式会社地域環境計画
阿部 豪1, 池田 透1, 立澤 史郎1, 浅川 満彦2, 的場 洋平2
1
北海道大学大学院文学研究科地域システム科学講座, 2酪農学園大学獣医学部寄生虫学教室(野生動
物学)
キヨシソウ Saxifraga bracteata D Don. は、海岸の湿った崖などに生育す
るユキノシタ科の多年草であり、千島列島、樺太、カムチャッカ、ベーリ
ング海沿岸およびアラスカに分布するほか、国内では根室半島に分布が
限られている。
本種はレッドデータブックの絶滅危惧 I A類に指定されており、港湾開
発等が主な減少原因とされているが、これまで、本種の生態および分布
に関する調査は極めて少ない。
2001 年 5 月より、根室半島における本種の分布状況調査を実施し、こ
れまでに 5 カ所の生育地を確認した。「根室市の植物分布」1987 年の調
査結果によると、根室半島で少なくとも 10 カ所の生育が確認されてお
り、約 15 年の間に生育箇所数で半分以下に減少したこととなる。
また 2001 年 5 月より 2002 年 6 月にかけて、生育地において個体群の
動態並びに繁殖生態に関する観察を実施した。結果は、中間的なもので
あるが、個体群の動態に関しては RAMAS EcoLab を用いた解析、繁
殖生態に関しては訪花昆虫相、種子の発芽傾向、無性生殖に関する観察
記録を示すと共に、危機的な状況にある本種の保全に関して述べる。
野生化したアライグマによる在来生物相への影響や農業被害が深刻化するな
か、北海道では 1999 年よりアライグマの完全排除をめざした捕獲駆除事業(以
下、事業捕獲とする)を進めている。この事業において、緊急対策地域に指定
された野幌森林公園では、7 月から 9 月の連続する 2ヶ月間で合計 2,100 罠・
日の罠が毎年設置されてきた。しかし一方で、こうした捕獲事業が在来生物相
に及ぼす影響や駆除の効果などの検討は、まだほとんど手つかずの状況にある。
そこで、近年アライグマの捕獲罠に混獲される回数が急速に増加している野幌
森林公園のエゾタヌキの生息数推定と事業実施期間中の生息状況の変化につい
ての分析を試みた。
方法は、2003 年 7 月から 8 月の事業において混獲されたすべてのエゾタヌ
キに対して、麻酔処置後マイクロチップを導入し、個体識別を行うことによっ
て事業期間中の再捕獲率を算出した。また、この結果をもとに野幌森林公園で
行われた過去 5 年分の事業捕獲記録の再検討を行い、エゾタヌキの生息数の年
次変化を推定した。その結果、2003 年度の野幌森林公園で生息を確認できた
エゾタヌキは 25 頭、1 頭あたりの再捕獲回数は 8 回であった。また、この再
捕獲率をもとに 1999 年度から 2002 年度のエゾタヌキの生息数を推定すると、
それぞれ 3、8、43、19 頭となった。このエゾタヌキの推定生息数の年次変化
は、同公園内におけるアライグマの捕獲頭数の増減と対照的に推移しており、
両種が競合している可能性が示唆された。
この結果は、事業捕獲で得られる混獲のデータを活用することで、エゾタヌ
キとアライグマの種間関係を明らかにできる可能性を示した。また、ここで明
らかになったエゾタヌキの高い再捕獲率は、混獲がアライグマ捕獲の効率を低
下させたり、エゾタヌキ自身への強い負荷となるなど、新たな問題が存在する
ことも示した。
P3-081
12:30-14:30
12:30-14:30
Endangered Plant Species in Philippine satoyama Landscape
3次メッシュ(1kmメッシュ) を用いた小地域のフロラ調査
◦
12:30-14:30
北海道野幌森林公園における外来アライグマと在来エゾタヌキの関係
(2) ーエゾタヌキの生息数推定とアライグマ対策への提言ー
渡辺 温1
P3-080
P3-078
8 月 28 日 (土) C 会場
◦
松田 義徳1
1
Buot, Jr. Inocencio1
1
秋田県立大学森林科学講座
Univ. the Philippines Los Banos
一定面積内のフロラの概要と特色を効率的に把握しデータベース化す
る方法を検討するため,調査地域を 3 次地域区画 (1 km メッシュ) に
分割して調査し,各メッシュ資料の集積から小地域フロラの全容の解明
を試みた.メッシュ内における調査方法,地形・調査時間・立地と出現
種類数の関係について報告する.
調査地の秋田県笹森丘陵西部を 213 の1 km メッシュに分割した.既
存の地形分類図をもとに各メッシュの地形を低地・段丘地,丘陵地,山
地とこれらの組み合わせで 7 つに判別した.既存の植生図と地形図から
20 種類の立地を抽出し,調査ではメッシュ内に見られるできるだけ多く
の立地を踏査し,野生状態で生育する維管束植物の全種類を順次野帳に
記録した.同一調査日では1種類の記録は出現頻度に関わらず 1 回とし
た.地形や調査時間と出現種類数の関係を知るため,一部のメッシュに
ついて 8 時間調査し,2 時間ごとの出現種類数を記録した.その結果,
どの地形区分においても開始から 4 時間までに 80%以上,6 時間では
90%以上の種類が出現した.ただし低地・段丘地では開始から4時間で
90 %近くの種類が出現するのに対し,他の地形からなるメッシュでは,
調査時間の増加に伴って種類数が漸増する傾向がある.また出現種類数
はメッシュ内の立地や地形の多様性と関連していた.
今回の調査から,事前の地形区分と立地の抽出は調査の効率化に重要
であること,低地・丘陵地の多い本調査地域における1 km メッシュ内
のフロラは 1 回目 4 時間の調査を行い,2,3 回目に季節とルートを変
えて各 2 時間以上の追加調査を行うことで概要が把握でき,地形によっ
てはより短い調査時間で可能であることが示唆された.調査には,種の
識別能力・踏査ルート・天候も関係した.今後,調査メッシュ数と出現
種類数の関係を明らかにし,フロラ調査の効率化を検討したい.
The satoyama landscape in the hilippines is undergoing intensive human activities due to a combined influence of modernization and upland poverty. Because of this, many species of plants are becoming endangered or potentially
endangered. Field works in the satoyama on Mount Mayon National Park
in Bicol Peninsula, Albay and in the forest landscapes of Quezon province,
both in southern Luzon, Philippines, reveal a number of plant species (mostly
ornamentals)frequently harvested by people from the wild. These include
Grammatophyllum orchids, Nepenthes spp., Hoya spp., Lycopodium spp.,
and dwarf plants from the higher altitudes sold as bonsai to domestic tourists.
Managed harvesting or domestication is recommended.
— 227—
P3-082
ポスター発表: 保全・管理
P3-082
P3-083
12:30-14:30
印旛沼水系における外来植物ナガエツルノゲイトウ Alternanthera philoxeroides Mart. Griseb. の分布と生育地特性
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
コウノトリの採餌環境としての豊岡盆地の評価
◦
杉山 昇司1, 倉本 宣2
兵庫県立大学 自然・環境科学研究所
明治大学大学院農学研究科, 2明治大学農学部
ナガエツルノゲイトウ Alternanthera philoxeroides Mart. Griseb. は,南アメ
リカ大陸の熱帯 ∼ 亜熱帯地域原産の,ヒユ科ツルノゲイトウ属の多年生草
本植物である.日本国内に移入し,最近,本州西部 ∼ 琉球で広がりはじめ
ている.本種の日本における生態的特性としては,開花はするが結実しない
こと,ほぼ全て切れ藻により分散すること,茎のみの状態で越冬することが
挙げられる.
本研究は,印旛沼水系内で,本種の今後の分布拡大を抑止する,植生管理方法
のための知見を得ることを目的とし,本種の印旛沼水系における分布と生育
地特性を調べた.今回行った 2003 年の分布調査の結果と,1994 年と 2001
年に行われた調査の結果を比較したところ,2001 年から 2003 年の間に,非
常に早い速度で分布を広げていることが確認された.分布調査の結果,印旛
沼水系における本種の生育密度の最も高い場所は,鹿島川の河口域であった
ため,本種の生育地特性に関する調査は,この場所を対象に行い,出現種の
被度と高さ,水深,土粒子の粒径組成などを調べた.その結果,ナガエツル
ノゲイトウの乗算優占度は,水深との間で有意な正の相関関係が認められ
(y=34.1x+1671, r=0.49, p<0.01),また,優占種の乗算優占度との間でも弱
い負の相関関係(y=1.9x+9982, r=-0.30, p<0.01)が認められた.さらに,土
壌の粒径組成を基にクラスター分析を行った結果,調査地の土壌のタイプは
粒径 0.075 mm 未満の細粒分が卓越する泥質土壌,0.25 mm 未満の細砂が卓
越する砂質土壌,そして両者の中間である砂泥質土壌の,3 タイプに分類さ
れた.ナガエツルノゲイトウの出現率と乗算優占度は,これら 3 タイプの間
で砂質土壌が有意に低かった(p<0.05).
以上のことから,ナガエツルノゲイトウは,印旛沼水系では,植被が少なく,
水深が深く,細粒分が卓越した泥質土壌に多く生育していることが推察され
た.本種の拡大を防ぐための植生管理としては,沿岸の抽水植物帯の保全を
行って抽水植物による植被を増やすことが有効であると考えられる.
菊地 賢1, 鈴木 和次郎1, 金指 あや子1, 吉丸 博志1, 坂 奈穂子2
1
森林総合研究所, 2東京大学生圏システム学専攻
ユビソヤナギ (Salix hukaoana) は群馬県湯桧曽川流域および東北地方の
数河川でしか自生が確認されていない希少種で、近年の河川改修等の影
響により生育地の縮小・分断化がすすんでおり絶滅が心配される。本研
究ではユビソヤナギについて開発したマイクロサテライト遺伝マーカー
を用い、生育地の分断化が集団間の遺伝子流動や遺伝的多様性の維持に
与える影響を明らかにすることを目的としている。湯桧曽川流域に点在
するユビソヤナギ 34 集団間の遺伝的距離は地理的距離と強く相関し、流
域内で明確な空間的遺伝構造が見られた。また、集団内の遺伝的多様性
は下流で増加する傾向を得、ユビソヤナギの遺伝子流動は流域内で制限
されており、風散布時の風向等の影響により下流に向かう方向性がある
可能性が示唆された。この傾向は同所的に生育する普通種オノエヤナギ
でも共通してみられた。本学会では、生育地の分断化の程度の異なる東
北地方の他の河川(福島県伊南川、岩手県和賀川)でおこなった同様の
解析の結果を加え、生育地の分断化がユビソヤナギの遺伝子流動にもた
らす影響について検討する。
兵庫県北部に位置する豊岡盆地は,日本におけるコウノトリの最後の
生息地であり,2005 年度の試験放鳥を目指して野生復帰の取り組みが進
められている.コウノトリを再導入し,野生個体群の定着を図るために
は,採餌場所と営巣場所を始めとする生息条件の整備が必要であるが,特
に採餌場所と充分な餌生物を確保することは放鳥個体を定着させるため
に重要である.そこで本研究では,コウノトリの採餌環境の視点から豊
岡盆地一帯の評価を行った.
2001 年 6 月から 9 月にかけて主要部で現地踏査を行い,空中写真の
判読とあわせて盆地底部の土地利用図を作成した.さらに,2003 年 10
月から翌年 3 月にかけて耕作地およびそれに隣接する区域の用排水路を
踏査し地図化すると同時に,それぞれの水路の断面形状,水面幅,水深
などを調査した.これらをあわせて地理情報システムに入力して採餌環
境解析のベースマップとした.
次に,コウノトリが主に水辺環境で淡水魚などの水生動物を採食する
ことから,まず重要な採餌環境として,水田,水路および河川の水深が浅
い場所を抽出した.これらのうち,水田は市街地を除いた全域に広がり
盆地底部で卓越する土地利用形態であった.水路に関しては,当地域で
は圃場整備が進みコンクリート張りの深い水路が多く,物理的に降りて
採餌可能と思われる水路を,幅が 2m より広いまたは深さが 50cm 未満
と仮定した場合,水路延長比で 35.1%,水面面積比で 41.5%が採餌に不
適と計算された.このような水路は盆地の中心部に多かった.また,河
川の浅場は下流側に少ないこと,水辺以外の採餌環境として利用する牧
草地が円山川本流沿いなどに分布することが明らかになった.
これらの結果に,2001 年に行った調査などによる餌生物量のデータを
用いて,盆地一帯における利用可能な餌生物の密度分布や季節変動を推
定し,現在の環境で生存可能な個体数の予測を試みる.
P3-085
12:30-14:30
マイクロサテライト遺伝マーカーを用いた絶滅危惧種ユビソヤナギの
遺伝構造の解析
◦
内藤 和明1, 大迫 義人1, 池田 啓1
1
1
P3-084
12:30-14:30
12:30-14:30
ヌートリアの分布拡大過程
◦
鈴木 牧1, 坂田 宏志1,2, 三橋 弘宗2, 横山 真弓2, 岸本 真弓3
1
兵庫県立大学 自然・環境科学研究所, 2兵庫県立人と自然の博物館, 3野生動物保護管理事務所
ヌートリア(Myocastor coypus)は、西日本を中心に生息している南米原産
の移入動物である。兵庫県では、20 世紀初頭から毛皮用として飼育されて
いたヌートリアが放逐され野生化し、現在では県内全域に分布している。農
業被害や水生昆虫への被害が報告されており、また治水への影響も懸念さ
れるなど、保全上多くの課題を抱えている。
そこで演者らは、兵庫県内の農業者および狩猟者を対象にアンケートを実
施し、ヌートリアの分布および被害の拡大過程を検討した。アンケートの
結果、各地域におけるヌートリアの生息の有無および目撃頻度の増減、農
業被害とその増減、分布開始時期について、2000 件以上の回答が寄せられ
た。これらの情報を GIS 上で自然環境情報と照合し、各種の環境条件や土
地利用状況によって分布拡大速度がどのように影響を受けたかを、多変量
解析により分析した。
1920 年代には、ヌートリアの分布は、移入源とみられる数箇所の地域に隔
離分布していた。1970 年代までは緩やかに増加し、1980 年代後半から急
激に増加した。分布域は 1970 年代までは移入源とみられる地域の周辺に
徐々に拡大し、1980 年代後半から急激に全県に広がった。この結果は、80
年代以降の河川環境の改善と、個体数密度の増加による繁殖効率の改善を
示唆している。また、中山間地域では都市部に比べ、分布が早期に拡大し
ていたことから、水路やため池など人為的な生息地の密度が分布制限要因
として重要であることが示唆された。農業被害や堤防等への被害報告は限
られていたが、高密度地域では比較的多く生じていた。これらの結果から、
河川整備計画の改善により、ヌートリアの被害は今後急速に増加すると予
測された。
— 228—
ポスター発表: 保全・管理
P3-086
12:30-14:30
多摩川におけるカワラバッタの保全に関する研究
◦
◦
1
明治大学大学院農学研究科, 2明治大学農学部
カワラバッタ Eusphingonotus japonicus (Saussure) は、砂礫質河原という
植生がまばらな河原に特異的に生息する昆虫である。近年各地で減少が
著しく、東京都では絶滅の危機が増大している種と選定されており、一
刻も早い対策が求められている。本種は主に被植度の少ない砂礫質河原
に好んで生息することが先行研究により報告されているが、それ以外の
保全に関する情報は今のところ報告されていない。そこで、多摩川にお
ける本種の分布域、個体群の規模、産卵地選好性を明らかにし、保全に
関する基礎的知見を得ることを目的とし、研究を行った。
多摩川の砂礫質河原を踏査した分布調査により、河口から 47-57km の範
囲で個体群を確認した。また、標識再捕獲法による個体数推定では一つ
の個体群の平均が 371 ± 174(95 %信頼区間)個体で、調査を行った場
所の全体(6 箇所)としては 2,296 ± 978 個体と推定された。砂礫質河
原面積と個体数で回帰分析を行ったところ、正の相関関係(r2 =0.85) が
認められた。本種の個体数には砂礫質河原面積が影響していることが示
唆された。
産卵地選好性の研究では飼育箱に本種を 20 匹放し、6 つの異なる環境
を設定して行った。環境条件は砂礫構成を 1. 透かし礫層、2. 礫間にマ
トリックスがあるパターン、3. 表層細粒土層があるパターンとし、下層
の粒度分布を粗砂、細砂の 2 つを設定した。卵鞘は合計で 23 個産卵さ
れ、全体で最も多く産卵された環境は、透かし礫層で粗砂の環境であり、
全体の 43.5 %を占めた。さらに、砂礫構成だけでみてみると透かし礫
層が最も多く 69.6 %を占め、下層粒度だけでは粗砂のほうが多く 69.6
%を占めた。このことから、地面と礫または礫と礫の間に多くの空間が
構成され、植生がほとんどない下層の礫径が大きい環境を好むことが推
察された。
12:30-14:30
山梨県長坂町におけるオオムラサキの分布・密度と生息環境
◦
P3-087
P3-086
12:30-14:30
野生鳥類の大量死リスク評価につながる病原体データベースの基本コ
ンセプトについて
野村 康弘1, 倉本 宣2
P3-088
8 月 28 日 (土) C 会場
小林 隆人1, 北原 正彦1
1
山梨県環境科学研究所
山梨県長坂町におけるオオムラサキの分布・密度と生息環境
山梨県環境科学研究所 小林隆人
国蝶オオムラサキの保全に必要な資料を得るため、本種の生息密度が高い
地域の一つとされる山梨県長坂町大深沢川で、森林および幼虫の寄主植物の
分布、ならびに越冬幼虫の密度を調べた。土地利用形態として、谷壁斜面・
中洲・河岸段丘に渓畔林、谷壁斜面上部の緩斜面に広葉樹二次林ないしは有
用針葉樹林、河岸段丘に水田ないしは休耕地、谷壁斜面と緩斜面の間に幹線
道路が見られた。幼虫の寄主植物としてエノキとエゾエノキが認められ、樹
高 2m 以上の木は、中洲、河岸段丘、谷壁斜面の下端の急斜地など、河川に
よる自然攪乱との関連が予想される場所、もしくは緩斜面の広葉樹二次林、
有用針葉樹林の林内、もしくは水田と人工林との間でかつて草地として利用
されていた場所など皆伐や草刈といった人為的な攪乱との関連が予想される
場所であった。林内の個体は亜高木もしくは低木であったのに対し、中洲、
河岸段丘、谷壁斜面陰伐地では直径 30-100 センチのやや大型の個体だった。
自然攪乱由来と思われる、中洲、河岸段丘、谷壁斜面の山腹崩壊地に立地す
る樹高 2m 以上の寄主植物を対象に越冬幼虫の密度を調べたところ、越冬幼
虫は全ての調査木から見つかった。エゾエノキでの幼虫の密度 (平均 71.0)
は、エノキ (45.5) よりも有意に多かった。また、木のサイズ、樹形、木の立
地(中洲、河岸段丘、谷壁斜面の山腹崩壊地)によって幼虫密度は有意に異
なることも判った。これらの環境データと幼虫の密度との関係について数量
化1類を用いた解析も行った。
長 雄一1, 高田 雅之1, 金子 正美2
1
北海道環境科学研究センター, 2酪農学園大学
鳥類を含めた野生動物の生息地管理を考える上で、病原体情報の重要性が
高まりつつあり、例えば人間活動による生息地の限定化・分断化により感染
性の病気発生(そして大量死)が懸念されている。しかしながら、野生動物
の病気に関する研究自体が限定的・散発的であるため、状況把握及び対策検
討のための体系的な情報収集・管理の手段がなかったのが現状であった。
これに対応すべく、今回、環境省環境技術等推進費(公募型研究予算)に
より「野生鳥類の大量死の原因となり得る病原体に関するデータベースの構
築」を開始することとなった。この計画の基本構想は、広域サンプリング(体
系的な識別記号の付加・それによる管理)–>病原体タイプの同定–>情報管
理・蓄積(データベース基幹部分)–>情報解析(GISを適用した空間解
析)–>情報公開及び活用(XML等を想定)といった情報の流れを管理する
データ処理システムの試作・評価を、2003年から3カ年間で行い、基本
的コンセプト(設計図)を提示するというものである。現在、北海道全域か
ら収集されたサンプル(死亡個体等)を対象にして、北海道大学大学院獣医
学研究科あるいは酪農学園大学獣医学部の感染症等の専門家(共同研究者)
により、マレック病・寄生虫等の病原体分析を進めているところである。さ
らに病気発生機構を包括的に推察するために、ガンカモ類の主要生息環境で
ある湖沼データについてデータベース化を進めている。これらの生息環境情
報(例えば、越冬環境の分断化指数等)と病原体の発生様式について、関連
性を把握する予定である。
本発表では、「ウィルスの遺伝子レベルの情報から、地球レベルの環境情
報まで扱えるデータ処理システム」の基本コンセプトを紹介するとともに、
病原体情報の解析方法について述べる。
P3-089
12:30-14:30
水生植物の生育地としてのため池の分布
◦
渡邉 園子1, 井鷺 裕司2, 下田 路子3, 亀山 慶晃4, 亀山 順子5
1
東京情報大・環境情報, 2広島大・総合科学, 3東和科学(株)生物研究室, 4北大・地球環境, 5札幌市
ため池は人為的に造成されたものであるが,水生植物にとっては、景観の
中に点在する生育場所である.東広島市のため池台帳には 2,348 個のため
池が掲載され,水生植物の貴重な生育地となっている.本研究は,水生植
物の生育地としてのため池の分布構造を明らかにした.1999 年から 2002
年にかけて,東広島市の 1,478 個のため池を対象に水生植物相と周辺環境
の調査を行った.その結果,807 個のため池で、絶滅危惧種を含む浮遊・沈
水・浮葉植物を約 40 種確認した.TWINSPAN によって,種組成からため
池を A から D までの 4 つのタイプに分類し,4 つのタイプと無植生のた
め池について周辺環境および立地環境の比較を行った.さらに,K 関数を
用いて分布構造および分布相関の検討を行った.タイプ A に属するため池
は,ヒシの出現頻度が非常に高く,半径約 500m の集中班をもつ分布をし,
タイプ B を除く他の 2 タイプと同所的に分布していた.タイプ B に属す
るため池は,園芸品種や外来種の出現頻度が高く,平地の農耕地や居住地
に近い場所に存在し,半径 500m の集中班を示した.タイプ C のため池
は出現種数が多く,本調査で確認された水生植物のほとんどがこのタイプ
に出現した.このタイプのため池は偏りのある分布をし,タイプ B のため
池とは独立に分布していた.タイプ D のため池は、比較的貧栄養な水域に
生育するフトヒルムシロやジュンサイの出現頻度が高く,周囲を山林に囲
まれた起伏量が比較的大きな場所に位置する傾向があった.タイプ B と排
他的分布を示し,無植生のため池と独立分布していた.かつてはタイプ C
や D のようなため池が多数存在し,様々な水生植物が広く分布していたと
考えられる.生育幅の広いヒシが生育するため池が集中班を持ち,タイプ
C や D と同所的分布をしていたことから,ヒシの生育するため池の周囲
500m に位置するため池を積極的に保全する必要がある.
— 229—
P3-090
ポスター発表: 保全・管理
P3-090
P3-091
12:30-14:30
関東地方におけるモツゴの遺伝情報と保全
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
小規模な農業用ため池に見られるレッドリスト沈水性植物の生育環境
◦
斉藤 悠1, 倉本 宣1
嶺田 拓也1, 石田 憲治1, 飯嶋 孝史1
1
1
独立行政法人農業工学研究所
明治大学大学院農学研究科農学専攻 応用植物生態学研究室
淡水魚とりわけ純淡水魚は、淡水域が連続している場合のみ交流が可
能なため、種内の地域集団間で明瞭な遺伝的分化が見られることが多い。
しかし多くの淡水魚類で、遺伝的多様性の実体は明らかにされておらず、
メタ個体群を超えた移入も多く行われている。そこで本研究では、アロ
ザイム分析を用いて関東地方南部におけるモツゴ Pseudorasbora parva の
遺伝的な情報を明らかにし、保全単位を考えるための基礎資料とした。
モツゴは、今でも比較的普通に見られる純淡水魚であるが、千葉県の
レッドデータブックに記載されているなど、生息数の減少が示唆されてい
る。しかし、自然分布していない東北地方や北海道に定着し、また、近
縁種のシナイモツゴ P. pumila pumila との置き換わりも確認されるなど、
国内移入種として認識されている。
アロザイム分析には、東京都、千葉県、神奈川県の合計 11 地点で採
取した試料を用いた。採取した試料は、分析まで冷凍で保存し、眼、肝
臓、筋肉の各組織を取り出し、電気泳動の試料とした。電気泳動はデン
プンゲルを用いて行い、泳動後、5酵素1非酵素タンパク質について染
色を行った。染色の結果、14 遺伝子座が推定され、このうち8遺伝子座
で多型が認められた。推定された遺伝子頻度をもとに、遺伝的距離を求
めたところ、最も大きな遺伝距離は 0.0193 となり、逆に最も遺伝的距離
が小さかったものは 0.0005 となった。
同一の水系内では、調査した個体群間でメタ個体群を形成しているこ
とが示唆された。しかし、他の水系から完全に隔離されている小さい個体
群では、遺伝的浮動の影響と見られる遺伝子の偏りが確認され、その結
果、他の個体群との遺伝的距離が大きくなったと推察された。また、地
理的距離と遺伝的距離とが合致せず、一部には移入された個体群が存在
する可能性も示唆された。
P3-092
小規模な農業用のため池には、絶滅が危惧される種も含めてさまざまな水生
植物が生育し、利水や管理行為に依存した植生が成立していると考えられる。
特に生活史の多くを水中で過ごす沈水性植物は、管理行為がもたらす周期的
な水位変動や池干しなどによる水質の改善、また堰堤や周辺植生の管理によ
る光環境の維持などに生育環境が大きく影響を受けることが予想される。本
研究では、有数のため池県である香川県において、レッドリストに掲載され
る沈水植物のトチカガミ科のマルミスブタ(Blyxa aubertii)およびミズオオ
バコ(Ottelia japonica)が生育するため池の環境特性を明らかにすることを
目的とした。マルミスブタおよびミズオオバコは、5月から6月にかけて発
芽し、8月中旬から開花期を迎え、マルミスブタは 10 月下旬、ミズオオバ
コは 11 月中旬まで開花・結実が認められた。調査ため池の水質は、いずれ
も pH が低く落ち葉等の堆積による有機物に富んだ腐食栄養型を示し、特に
夏期の DO、COD が高くなり集水域から落枝等の生物分解性に劣る腐食物
質の流入が多いことが示唆された。沈水性植物群落付近のため池の水位およ
び光量子密度を連続観測したところ、夏期の水位変動幅は灌漑や降雨のため
1m以上と大きくなった。また、ミズオオバコが発生するため池と、隣接し
管理放棄された未発生池との光環境を比較してみたところ、未発生池では提
体に灌木が侵入しているため、20∼65 %の光強度にとどまった。近年、社
会経済情勢の変化による農業活動の衰退により、山間部を中心に小規模ため
池の利用廃止や管理放棄が進んでいるが、農業用ため池に対する維持管理活
動の喪失は、攪乱に弱い植物にとっては好適な環境をもたらす反面、周期的
な攪乱環境下に依存して成立していた水生植物相の生息条件の悪化や消失を
招く可能性が指摘される。
P3-093
12:30-14:30
放射性同位体ならびに水文観測に基づく釧路湿原達古武湖の土砂堆積
履歴の推定
◦
12:30-14:30
安 榮相1, 水垣 滋2, 中村 太士1
12:30-14:30
エゾシカの分布拡大要因:地球温暖化と個体群圧
◦
鈴木 透1, 梶 光一2
1
NPO 法人 EnVision 環境保全事務所, 2北海道環境科学研究センター
1
北海道大学 大学院農学研究科 森林管理保全学講座, 2北海道大学 大学院農学研究科 森林管理保全学
講座 日本学術振興会 特別研究員
釧路湿原達古武湖は多様な生物種が生息しているが、流域開発による土砂流
入、湖の浅化、水質の悪化などにより湖沼環境の劣化が指摘されている。本研
究の目的は、流域の土地利用開発が湖への土砂の流入・堆積に与える影響を時
系列的に解明することである。
現在的な流域から湖への浮遊土砂流入実態を把握するため、2 河川の達古武
湖流出入口において流量、浮遊土砂濃度の水文観測を行った。また長期的な土
砂流入実態を把握するため、湖内 8 地点において湖底堆積物のコアサンプルを
採取し、火山灰編年法とセシウム-137 分析により過去 300 年間の堆積速度を
推定した。
達古武湖に流入する浮遊土砂は、平水時には達古武川から、降雨時には釧路
川の逆流によっても供給されていることがわかった。観測期間(2003 年 8-10
月)における湖への土砂流入量は 146.4t で、そのうち釧路川逆流によるもの
が 56%を占めていた。また、流入土砂の 75 %が微細土砂(粒径 0.1mm 以下)
であった。
湖底堆積物には 2 層の明瞭な火山灰層が認められ、上部は樽前山-a(1739
年)、下部は駒ケ岳-c2(1694 年)であった。また、1963 年の堆積土層を示
すセシウム-137 濃度のピーク層は火山灰層の上部に認められた。これらより
1694-1739 年、1739-1963 年および 1963-2003 年の年平均堆積速度を推定する
と、それぞれ 12.4、29.7 および 23.9 mg・cm-2 ・y-1 となった。1963 年以前に
もっとも土砂流入が多く、自然災害や土地利用開発による土砂流出の影響が示
唆された。1963 年以降は 1739 年以前に比べて約 2 倍の堆積速度であり、自
然状態と比較して浅化していることが明らかになった。ちなみに現在の土砂堆
積速度から湖の陸地化する時間を試算すると、水深が浅く堆積速度の大きい地
点では約 580 年、湖がなくなるのは 1760 年後と推定された。
北海道では、エゾシカの分布調査を 1978 年以来、7∼8 年置きに実施して
きた。1978 年における生息適地モデルを作成した結果、積雪深とササの
タイプが生息分布の制限要因であることが明らかになった(Kaji 2000)。
しかし、2002 年における分布図は、従来の生息適地モデルで不適とされ
た地域にエゾシカが分布域を拡大していることを示していた。この原因
を探るためには、外部要因と内部要因をパラメータに組み込んだエゾシ
カの生息適地モデルを作成し、時系列での制限要因の変化を明らかにす
る必要がある。そこで本研究では、エゾシカの生息適地モデルを 4 時期
(1978 年・1984 年・1991 年・2002 年)において作成することにより、
生息分布を制限している外部・内部要因とその時期のよる変化、また長
期的な気象の変化を明らかにし、近年におけるエゾシカの急速な分布拡
大要因を考察することを目的とした。
エゾシカの生息分布を示すデータは、4 時期の自然環境基礎調査を用い
た。全道規模におけるエゾシカの生息分布を制限している制限要因とし
て、シカの生理・生態、全道域の環境などを考慮して 11 個の変量を選
択・作成し、生息適地モデルの作成には GLM を用いた。さらに、この
期間における気象の長期的な変動を把握するために、地域気象観測デー
タ・地上観測所データ・気象庁発行の気象年報からデータを作成した。
各時期のモデルから、積雪に関する変量の影響する程度は近年になるほ
ど小さくなる一方、前回の分布からの最短距離の影響する程度は近年に
なるほど大きくなることが示唆された。また、気象の長期的な変動を見
てみると、1980 年代以降では多雪時の積雪深は減少した。気温について
は、1990 年代に平年値よりも 1 度以上高い傾向を示した。これらのこ
とから、積雪に関する変量の近年の生息適地モデルにおける影響度の低
下は、多雪年の減少や気温の温暖化によって環境が変化したためと考え
られる。その一方で、前回の分布からの最短距離は近年の生息適地モデ
ルになるにつれて影響が強くなる傾向を示しており、個体群圧の増も生
息分布に強く影響するようになったと考えられた。
— 230—
ポスター発表: 保全・管理
P3-094
P3-095
12:30-14:30
水田-用水路間におけるメダカの移動頻度の日変化および時期的変化に
与える環境要因
◦
◦
岩崎 亘典1, スプレイグ デイビッド1
1
(独)農業環境技術研究所
1
明治大学農学研究科, 2明治大学農学部
水田地帯に生息する絶滅危惧種メダカ Oryzias latipes は水田-用水路間を移動
することが知られているが、水田-用水路間におけるメダカの移動頻度の日変
化および時期的変化、さらに水田-用水路の移動に影響を及ぼしている環境要
因について、現地調査から検討した研究はない。そこで本発表では、それら
を明らかにし、水田地帯に生息するメダカを保全する際の基礎的知見を得る
ことを試みた。調査は、神奈川県西部の小田原市桑原地区に位置する水田地
帯とし、最も多くのメダカの生息が確認されている水田の取水口を調査対象
とした。この取水口は開渠で、水田と用水路の水位差がほとんどなく、メダ
カが移動していることが著者らによって確認されている。調査は、目視でメ
ダカが確認できる日の出から日の入の間に行った。毎時 00 分から 15 分の
15 分間に、用水路から水田に移動したメダカと、水田から用水路に移動した
メダカの個体数を目視によって計数した。環境要因として、取水口付近の気
温および照度、取水口の流速、水田および用水路の水温を調査した。取水口
付近の気温および照度、水田および用水路の水温はデータロガーを用いて、
連続的に測定し、記録した。取水口の流速は電磁流速計を用いて測定し、記
録した。この調査を 2004 年 6 月中旬から断続的に行い、考察を行う予定で
ある。移動頻度の日変化のみを予備的に調査した 2003 年 8 月下旬の結果よ
り、メダカの移動が最も多かったのは 18 時 00 分から 15 分の間で、用水
路から水田、水田から用水路共に約 90 個体、計数された。次いで、5 時 00
分から 15 分の間で用水路から水田が約 50 個体、水田から用水路が約 80 個
体であった。一方、最も移動が少なかったのは、6 時 00 分から 15 分の間
でそれぞれ 2 個体、3 個体であった。この予備的調査より日の出および日の
入に水田-用水路間におけるメダカの移動が盛んになることが示唆された。
野生生物の保護、管理に当たっては、対象となる野生生物の個体数の評価と
ともに、生息域の空間構造についての評価が必要である。特に、人間活動の
影響下において維持、管理されてきた里地里山を生息域とする野生生物につ
いては、これらの二次的自然の変質に伴う生息域の変化を定量的に評価する
手法の開発が求められている。本発表では、森林棲哺乳動物であるニホンザ
ルの生息地選択性に注目し、土地利用に基づく生物生息域変動の定量的評価
手法を開発するとともに、その検証を行った。
分析は 1970 年代以降、ニホンザルの生息域の拡大が進んでいる房総半島中
西部の千葉県鋸南町周辺を対象とした。データは、既存文献に基づき対象地
域における 1972、1986、1999 年にニホンザルの生息が確認された地点を用
いた。まず、土地利用毎に移動コストを設定した。ここでは生息に適したと
考えられる広葉樹林地を基準とし、針葉樹や住宅地などの生息に適しない土
地利用に高い値を設定した。この移動コストを用いて 1972 年に生息確認地
点と各地点間の加重コスト距離を算出した。次に、1986 年における生息の
確認の有無を目的変数、1972 年に生息が確認された地点からの単純距離及
び加重コスト距離を説明変数として、ロジスティック回帰分析を行った。な
お、「1986 年に生息の確認出来ない地点」は、既存調査で 1986 年に生息が
確認されなかった地点及び、1999 年には生息が確認されたが 1986 年には生
息が確認されなかった地点とした。
その結果、単純距離と加重コスト距離を説明変数とする場合で、ともに有意
な関係が認められたが、加重コスト距離を説明変数とした場合において p 値
が小さく、回帰係数が大きくなった。以上より、本研究で開発した GIS モデ
ルは生息域の変動評価に有効であるといえる。しかし、より精度の高い評価
を行うためには、継続的な生態データの収集必要があるといえる。
P3-097
12:30-14:30
多摩川永田地区における河道修復後の植生変化
◦
12:30-14:30
土地利用に基づくニホンザル生息域拡大の GIS モデルとその検証
樋口 広大1, 倉本 宣2
P3-096
P3-094
8 月 28 日 (土) C 会場
12:30-14:30
異なったヨシ原の管理手法が鳥類の繁殖にあたえる影響
◦
畠瀬 頼子1, 長岡 総子2, 一澤 麻子2, 阿部 聖哉3
永田 尚志1
1
1
(財) 自然環境研究センター, 2横浜植生研究会, 3電力中央研究所
独立行政法人国立環境研究所
多摩川永田地区では 20 年ほど前には多く見られたマルバヤハズソウ–
カワラノギク群集に代表される河原特有の植物群落が大きく減少してい
る。この原因としては、河床に堆積する礫の減少、河川の流量の安定化、
河道の固定化などが、植生を変化させたことが指摘されている。
このような背景の下、国土交通省京浜河川事務所は河川生態学術研究
会と協力し、永田地区において河道修復事業を行った。河道修復事業で
は繁茂していたハリエンジュ林の伐採・除去、砂が厚く堆積していた高
水敷の掘削による低水敷の拡幅、礫河原の造成などが行われ、河原の植
物群落の生育に適した立地の造成が試みられた。人工的な河原の造成事
例は少なく、目標とした河原の植生が回復するか不確実である。そこで、
筆者らは植生の回復状況を確認するため、植生調査や植生図化などによ
るモニタリングを河道修復事業実施直前の 2000 年秋から続けている。
河道修復区域では、事業実施直前の 2000 年秋にはハリエンジュ林や多
年生草本群落(オギ群集、ツルヨシ群集など)が優占していた。高水敷
を掘削した場所では工事終了半年後の 2002 年秋には礫河原の一・ニ年生
草本群落であるアキノエノコログサ–コセンダングサ群集が定着した。現
在はカワラヨモギなどの礫河原の種が侵入しつつある。掘削区域のうち
出水時に礫が堆積した場所には当初、オオイヌタデやヒメムカシヨモギ
などがまばらに生えるだけであったが、2004 年春にはアキノエノコログ
サ–コセンダングサ群集が成立した。高水敷を掘削しなかった場所では、
ハリエンジュを伐採した場所を中心にオオブタクサ群落の成立が見られ
たが、2003 年から 2004 年にかけて徐々にクズ群落やキクイモ群落に変
化した。
以上の結果より、礫河原の植生を回復するためにはハリエンジュ林を除
去するだけではなく、高水敷の掘削が効果的であることが伺われる。単
にハリエンジュ林を伐採するのみではかえって外来種の定着を促進する
可能性があることが示唆された。
ヨシ原は、本来、河川の氾濫など不定期な攪乱により維持されていたが、
治水のための水量調節の結果、撹乱が減少し植生遷移が進行して、ヨシ
原に適応した生物が減少している。このため、ヨシ原を維持していくた
めには、遷移を撹乱する野焼きや刈り取りによってヨシ原を維持してい
く必要がある。このようなヨシ原に対する人為的な攪乱が野生生物にあ
たえる影響を明らかにして、ヨシ原の生物多様性を維持するのに最適な
管理手法を検討するために、希少種であるオオセッカの生息地である利
根川下流域で刈り取り実験を行なった。野焼きに関しては清掃に関する
法律で制限されているため、毎年、野焼きが行なわれている場所で調査
を行った。
利根川河川敷に設置したヨシ刈り実験区と野焼きの行なわれている霞
ケ浦妙岐ノ鼻において、ヨシ刈りやヨシ焼きが、ヨシの成長、スウィー
プサンプルによる昆虫量、繁殖鳥類の定着状況を定量的に比較した。ヨ
シ刈りやヨシ焼きによってヨシの生産量が増加する傾向はみられなかっ
たが、下層植生のスゲ等の現存量は刈り取り、ヨシ焼きによって有意に
減少していた。一方、無脊椎動物の生息個体数および目(分類群)数は、
ヨシ焼きや刈り取りによって増加が認められた。しかし、オオヨシキリ、
オオセッカ、コジュリンなどの草原性鳥類は刈り取り区には定着せず、ヨ
シ焼き区においても植生が十分に伸長するまでは定着してこなかった。こ
れは、ヨシ焼きや刈り取りにともなう下層植生の減少により巣をかける
場所がなくなったためと推定された。ヨシ焼きやヨシ刈りは、周辺に十
分な逃げ場所があれば、無脊椎動物群集に対して影響を与えないが、鳥
類群集には影響があることが明らかになった。
— 231—
P3-098
ポスター発表: 保全・管理
P3-098
P3-099
12:30-14:30
カタクリの潜在生育地の推定 –地域の生態系保全への GIS の活用–
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
12:30-14:30
絶滅危惧植物アキノハハコグサの保全の試み
増澤 直1,3, 小泉 武栄1, 三橋 弘宗1,2, 井本 郁子1, 北川 淑子1, 辻村 千尋1, 逸見 一郎1, 松
林 健一1, 吉田 直隆1
◦
米村 惣太郎1, 渡辺 泰一郎1, 小田 信治1, 中田 巧1, 大賀 浩之2
1
清水建設株式会社, 2茨城県住宅供給公社
1
NPO 法人 地域自然情報ネットワーク, 2兵庫県立人と自然の博物館, 3福生市郷土資料室
アキノハハコグサ(Gnaphalium hypoleucum DC.)は、やや乾いた山地
に生えるキク科一年生草本であり、環境省レッドデータブックでは絶滅
危惧 I B類(EN)に指定されている。関東では、シイ・カシ帯の痩せ
た草地、裸地に生える先駆植物で、特に関東ロームを削ったところに生
えることが多いとされている。今回茨城県水戸市での調整池造成工事に
おける盛土法面にて、アキノハハコグサ1株の生育が確認された。茨城
県での本種の生育状況は現状不明であり、また環境アセスメント等の事
前調査でも確認されておらず、風散布または埋土種子からの発芽による
ものと考えられた。生育地にはシナダレスズメガヤやセイタカアワダチ
ソウ、ミツバツチグリ、コウゾなどが生育していた。
保全に際して、本種が種子による世代更新を行う一回繁殖型植物であ
る、種子散布型は風散布である、実生の定着適地は裸地的な環境であるな
どの特性を考慮して、種子を結実させ、それを採集し、法面裸地等の適
地と思われる場所への播種または苗を育成し移植することとした。1株
から確実に種子を採集するために、種子の飛散を防ぐように植物体を囲
い、その中で種子が成熟した後、種子の採集を行った。12 月に採集した
種子は、採集直後の明暗 12 時間 30/20 ℃の交代温度条件下で発芽が見
られた。また1年間乾燥状態での4℃保存後も高い発芽率を示した。4
月に播種して得られた苗を現地に移植したものは年内に開花・結実した
が、6月に現地に直播きしたものは開花せず、一部はロゼットのまま越
年し、翌年に成長した。本種は種子散布直後に発芽し、翌年成長し、開
花・結実するか、翌春に発芽し、その年に開花・結実する生活史を持つ
ものと考えられる。今後は、現地での同種の生育状況を引き続きモニタ
リングするとともに、近隣の植物園と連携して地域での保全対策を検討
する予定である。
野生生物の潜在的な生育生息地の評価とは、各生物の分布情報と物理環境条件
を用いて、生息に適した条件を抽出することである。抽出に用いる環境条件は、
地形や標高、植生、気象条件など生物の分布に大きな影響を及ぼすことが推測
される要因である。野生生物の中には、人為的な土地改変によって本来の生育生
息場所の多くが消失した種もあり、現状の分布調査を行なうだけでは生態系の
評価や保全計画を立案することが困難な場合がある。そのため、地域の生態系
や生物多様性を象徴する野生生物の潜在的な生育生息地を推定し、地図化(ポ
テンシャルハビタットマップの作成)することにより、事業の実施による効果
の客観化、定量化が可能となり、例えば、環境アセスメントのスコーピング段
階から生物の保全上配慮すべき地域を抽出したり、自然公園事業や自然再生事
業における適地選定などに活用することができる。
今回は、関東山地南部に分布するカタクリを題材にポテンシャルハビタット
マップの作成を行った。カタクリは里山の代表的な春植物であり、氷期の遺存
種ともいえるが、関東地方南部では生育地が激減し、それらの生育環境の保全
管理が重要な課題となっている。
およそ 20 年前のカタクリ分布地点に関する詳細データ(故鈴木由告氏調査)を
もとに収集したカタクリの分布地点情報や、地形図、、DEM、植生図などをG
ISに入力し、それらの情報をもとにカタクリの生育環境条件(斜面方位、傾
斜、微地形、植生など)を整理解析を行った。その結果、カタクリの分布は北
向き斜面、緩傾斜地、沖積錐、林床管理の行き届いた落葉広葉樹二次林といっ
た条件の整った場所に偏在することが分かった。それらの生育環境条件から導
き出される閾地をもとに、GISによる広域的なカタクリのポテンシャルハビ
タットマップを作成し、その利活用方法について検討した。
P3-100
P3-101
12:30-14:30
周辺環境の食物利用可能性がニホンザルの環境選択に与える影響
◦
12:30-14:30
京阪奈丘陵の里山植生が受けた人為による改変の履歴
◦
山田 彩1
佐久間 大輔1
1
1
大阪市立自然史博物館
京都大霊長研究所
多くの動物種で、食物の利用可能性や可能量がその生息地利用や行動圏の大
きさに影響を与えることが知られている。そこ で、人為的環境を利用するニ
ホンザルに着目し、サルの環境選択が人為的な環境を含む生息地内の食物利
用可能性の変動に よってどのように影響を受けているのかを検討した。調査
は、2003 年 1 月から 11 月までのあいだ、三重県と奈良県の県境に生息し、
農作物被害を起こしているニホンザル一群を対象に行なった。
その結果、通年食物利用可能性が高い農地ではサルの選択指数も通年高く、
いっぽう食物利用可能性の変動が大きいコナ ラ林は食物利用可能性の高い月
にとくに選択されていた。このことから、対象群の採食地としては農地とコ
ナラ林が重要で あると考えられ、それぞれの利用可能性に応じてこれらを使
い分けていることがわかった。ただし、農地、コナラ林両方で の食物利用可
能性が高かった 11 月に利用されていたのはほとんど農地とその周辺だけで
あり、 11 月になると増加する農地の果樹の利用可能性がコナラ林における
利用可能性にかかわらずサルの土地利用に影響を与えている可能性も示唆さ
れた。ま た、とくに 12 月から 2 月にかけては食物利用可能性の高低に関
わらず集中的に利用する集落とまったく利用しなかった集落がみられた。
これらから、年間を通じて農地に依存している群れにおいても依然森林の
食物利用可能性に影響を受けていることが明ら かになった。しかし、土地利
用に影響を与える要因として食物利用可能性とともに、その他の要因も影響
を与えていること が示唆された。
演者らは、京阪奈丘陵を現在みられる植生と、民俗学的調査記録との対
比を試みている。この地域は市町村史の整備も進み、その民俗学的記録は
明治から昭和期における各地の生業について、特に水田農耕の様子をよく
記録している。これまでに、対象地域の市町村史、京都府農林百年史、山
城民俗資料館館報ほか関連出版物と現地での聞き取りを中心に記録の総合
をめざして解析中である。
・採草の権利の重要性はこの地域では堆肥(多くの地域でホートロと呼ぶ)
と関連づけて各地で読みとれる。
・クヌギの植林も一般的であったようだ。畑で苗を育て、植林したという
記述、販売面でクヌギが優位であったという記述などは多くみられる。戦
後でも、山ぎわの畑を放棄する際にクヌギを植えた、という証言が得られ
た。京阪奈丘陵の里山の植生構造を解析する上で、クヌギの地位は関東地
方、あるいは他地域のものとは違うのかもしれない。
・一方、山仕事の記録は少ないが、各地で木の切り方(主に伐採位置の高
さ)が異なっていることを示している。
里山経営が周辺住民にとり自家消費よりも現金収入の生産体系に組み入
れられており、よりよい収入のために積極的な樹種選択あるいは果樹や竹・
茶・畑などとの転換が行われていたことがわかる。一方で、これらの植林
や積極的経営は林全域には及んでいない。これらの観点は現在観察しうる
里山植生のなりたちや多様な生物を維持していた里山像の解明に重要な視
点となるだろう。
— 232—
ポスター発表: 保全・管理
P3-102
P3-103
12:30-14:30
小笠原諸島における外来樹種アカギの管理と森林植生の変化
◦
◦
1
森林総研北海道, 2森林総研
新潟大大学院・自然科学研究科, 2タンチョウ保護調査連合
ツルは,開けた環境である湿地や草地に生息する.特に,タンチョウは形
態的特徴や生息分布域から湿地への依存性が強い種とされてきた.しかし最
近,日本の北海道東部に分布するタンチョウにおいて,従来の繁殖環境とは
異なった牧草地や畑がひろがる農耕地環境で繁殖が確認されるようになった.
その原因として,湿原面積の減少とタンチョウの個体数増加を背景とした密
度効果による分散が指摘されている.本研究では,新しい環境である農耕地
での繁殖成績を評価し,またタンチョウの繁殖成績に効いている要因を明ら
かにする.始めに,1970 年代以降の営巣地周辺環境の推移を明らかにし,農
耕地環境への進出状況を確認した.次いで,湿原環境と農耕地環境における
育雛期を通した繁殖成績の比較をおこなった(1999-2001 年).その後,繁
殖成績に関与する要因(変数:植生,降水量,繁殖経験)をロジスティック
回帰モデルで明らかにした.
営巣地周辺の環境は 90 年代にかけて農地,建造物,道路といった人工地
割合が増加する傾向を示し,特に新規の繁殖地ではより顕著な増加がみられ
た.湿原環境と農耕地環境の繁殖成績には育雛期を通じて差がみられず,両
環境とも育雛初期に成績が下がり,その後 50%程度で推移する同様の傾向を
示した.この結果に基づき,繁殖成績に対するロジスティック解析は,育雛初
期と抱卵から巣立ちまでを通した育雛全期に分けておこなった.ロジスティッ
クモデルに選択された変数のうち有意となった変数は年によって異なってい
た.また,湿原面積の大きさは常に重要な要因となっていなかったことから,
湿原面積の狭い農耕地でも育雛が可能な環境であることが示唆された.さら
に,湿原環境では育雛初期に降水量が多かった年は,水域面積が大きい繁殖
地で育雛に失敗する傾向がみられた.農耕地環境は,繁殖の妨げとなる人と
の接触が多い一方で,排水事業が施工されて洪水が起きにくい環境でもあり,
湿原環境とは異なるメリットをもつと考えられた.
P3-105
12:30-14:30
導流提における自生種を用いた植生復元に関する研究ー植生復元の
概要ー
藤山 静雄1, 菅野 康祐1, 清水 建美2
1
信州大学理学部, 2信州大学
2000 年に長野県白馬村平川地区崩れ沢 (標高 900m) に周囲の景観に配慮し
テトラポットを母材に川砂で表面を覆った導流提が作られた。この地域は準
絶滅危惧種のアズミキシタバの数少ない生息地と知られており、この構築物
が問題となった。又、このことに加え中部山岳国立公園に隣接する自然度の
高い地域であるので、この虫の食草のイワシモツケを復元に配慮しつつ、自
然植生を利用した植生復元が実施されることになった。この構造物は、砂山
であるため乾燥が激しく、又急傾斜なので種子を散布するだけでは植生復元
はできないと思われた。そこで、この地域の周辺の植物相を調査し、植生復
元に利用できそうな有力種を選び出し、種子を取って栽培し、育った苗を移
植する植生復元を、実行中である。その概要を述べる。
植物相調査で 184 種が記録された。その中で量的に多く入手が容易、周
囲の景観と調和する、などの条件を満たす有望種 30 種あまりを選び、種子
を採取した。ハウス内でこれらの発芽実験を行った。秋の採種でも、かなり
の種は年内に発芽した。他の種は越冬後に発芽した。また一部は発芽率が悪
く、これまで増殖には使えていない。1,2 度、幼苗を植え替えた後移植試
験をした。2002 年秋と 2003 年の初夏に試験を行ったが、急斜面であるこ
と、砂と礫の斜面なので移植作業は大変困難であった。地面に穴を掘り直径
12-14cm の分解ポットを埋めこむ形で、2002 年 10 月に 2240 個体、2003
年 6 月から 7 月初めに約 4000 個体を移植した。前者の越冬率は、最も低
いヤマナデシコでも 5 6%だった。これはこの地が、多雪で幼植物が雪下で
保温されるためと考えられる。移植種の一部は、夏に 30%台以下の低い生存
率を示した。なお、栽培下を経てきた移植個体は成長速度は野生種より非常
に速く、一部の種はすでに次世代も定着している。又、移植により侵入種の
定着も促進されている。植生復元は比較的順調と言えるだろう。
大石 麻美1, 関島 恒夫1, 正富 宏之2
1
アカギが小笠原に導入されてから約 100 年余りの間に、鳥散布によって湿性
高木林に侵入し分布範囲を拡大し、在来樹種に置き換わり林冠を優占してい
る。林内もギャップも、アカギの後継稚樹は多数みられるものの、在来樹種
の稚樹はほとんどなく、その存続が危惧されている。そこで、アカギの効率
的な駆除対策を確立することを目的とし、湿性高木林で5年間蓄積したデー
タから、アカギの生活史を推移行列モデルによって構成し、各生活史段階の
個体群維持への依存性の強さを評価した。さらに、実際にアカギの上層木を
駆除した区(伐採、薬剤注入、まき枯らし)において、処理後のアカギと在
来樹種の更新状態を調べ、駆除法の違いとその効果について検討した。
母島桑の木山試験地におけるアカギの各生活史段階の個体群変動へ及ぼす影
響力(弾力性)は、非開花木>雌木>雄木の順で高く、駆除計画にはこれら
のステージ(胸高直径 5cm 以上の個体)を対象とすることが有効であると考
えられた。一方、アカギ上層木を駆除した区では、処理をしないコントロー
ルに比べて、多くの下層木の更新が確認された。実生発生数は伐採区で最も
多く、そのほとんどがパイオニアであるウラジロエノキで、外来樹種ではア
カギ、シマグワの発生がみられた。薬剤処理区では、ウラジロエノキをはじ
め多くの在来樹種の発生が確認されたが、アカギやキバンジロウなどの外来
樹種の繁茂も著しかった。まき枯らし区では、新規加入した稚樹のほとんど
がアカギで、ウラジロエノキなどのパイオニア樹種は確認されなかった。以
上の結果から、アカギ上層木の駆除について、伐採や薬剤処理をした区では
大幅に光環境が改善され、ウラジロエノキを中心とした在来のパイオニア種
の天然更新が可能であるが、まき枯らし区では、在来樹種の更新は困難であ
る一方で、アカギ自身の更新は促進される可能性が示唆された。
◦
12:30-14:30
北海道におけるタンチョウの繁殖成功要因:湿原環境と農耕地環境で
の繁殖成績と特徴
山下 直子1, 阿部 真1, 伊藤 武治2, 田内 裕之2, 田中 信行2
P3-104
P3-102
8 月 28 日 (土) C 会場
12:30-14:30
北海道西別川におけるバイカモ個体群の生育と河床土砂動態
◦
菊池 俊一1, 山内 香澄1
1
北海道大学大学院農学研究科
バイカモ (Ranunculus nipponicus var. submersus) は全国各地でその生育地を
減少させつつあり、北海道 RDB でも希少種となっている。一般に生育地の水
質悪化が減少の原因とされてきたが、河川流水中に生育するバイカモにとって
は、河川工事や取水等に伴う水・土砂移動特性の変化がもたらす生育基盤の変
化や喪失も減少の要因になっていると考えられる。そこで本研究では、バイカ
モ個体群の生育と、生育基盤である河床の土砂移動現象との関係を探ることを
目的とした。
北海道東部の西別川上流域(区間長約 20km)にバイカモが繁茂する区間 A
と、その下流でバイカモ現存量の少ない区間 B・C の計 3 調査区間を設け、2002
年7 ∼11 月にバイカモと河床の堆積土砂や掃流土砂に関する調査を行った。
区間 A のバイカモ個体群周辺では、その存在によって水流が弱まりやすい
ため、河床付近を移動する掃流土砂がパッチ下側に滞留してマウンドが形成さ
れる。土砂の堆積によってシュートが埋もれると、埋没部分から不定根が発生
し、側根も分枝するため、植物体はより強く河床に固定される。埋もれた茎は
各節からシュートと根系を伸ばしながら成長するが、この伸長シュートが砂礫
に埋もれて河床に固定されることを繰り返しながら個体群サイズを拡大してい
くと推察された。
一方、区間 B・C では掃流土砂が滞留するような環境は限定的であり、マウ
ンドが発達しにくいため、流水中のシュートは土砂に埋もれず、河床に固定さ
れない。この場合、個体群サイズは一時的に拡大しても、撹乱(出水)等によっ
て流失しやすいと考えられる。
今後、河川生態系の管理・保全を考えていく際には、生物そのものだけでは
なく、生育場の水や土砂の流れ等の動的な河川環境と、それに依存あるいは適
応して生育する生物を合わせて保全していくことが必須であると考えられた。
— 233—
P3-106
ポスター発表: 保全・管理
P3-106
P3-107c
12:30-14:30
カラマツ林伐採地への堅果分散に果たす野ネズミの役割
◦
◦
1
東京大学 大学院農学生命科学研究科 保全生態学研究室
植生が破壊された場所や再植林が行われない伐採地に広葉樹林を再生す
ることは、生物多様性の保全上、重要である。野ネズミは広葉樹林の林
冠に優占するナラ属の主な種子散布者であり、近年、野ネズミによる種
子分散を積極的に利用した広葉樹林の再生手法が求められている。本研
究では、カラマツ林伐採地への堅果分散に果たす野ネズミの役割を明ら
かにするために、コナラ堅果の分散実験を行った。
調査は長野県軽井沢町のカラマツ林伐採地と落葉広葉樹林にまたがる
1.8ha の調査区で行った。2003 年晩秋、伐採地と広葉樹林の境界に 18
個のゲージを設置し、各ゲージに磁石を埋め込んだ堅果を 100 個ずつ置
いた(計 1800 個)。翌春に金属探知機を用いて散布後の堅果を探索し、
位置、マイクロハビタットの種類(裸地、草地、低木、高木、伐採倒木、
切株、オーバーハング状の崩壊地)、食害の有無を記録した。
ゲージに置いた堅果の 92.0%(1656/1800)が散布された。そのうち、散
布先を特定できた堅果は 88.8%(1470/1656)であった。これら堅果の
99.4%(1461/1470)は食害を受けたのに対し、散布後、食害を受けなかっ
た堅果は 0.6%に過ぎなかった。運び込まれた堅果数は広葉樹林より伐採
地で有意に多かった。一方、散布距離は伐採地と広葉樹林で有意な差は
認められなかった。伐採地への散布距離は平均 7.9m、最大 45.1m であっ
た。また、伐採地において、各マイクロハビタットに運び込まれた堅果
の比率を被度から求めた期待値と比較したところ、有意な差が認められ、
堅果は伐採倒木、切株、オーバーハング状の崩壊地を含む低木の下に散
布されやすいことが示された。
以上の結果から、野ネズミは広葉樹林より伐採地に多くの堅果を散布す
ること、またカラマツ林を伐採した際の伐採倒木や切株が、伐採地への
野ネズミによる堅果分散を促進する働きをもつことが示唆された。
中島 真紀1, 松村 千鶴1, 横山 潤2, 鷲谷 いづみ1
1
東京大学大学院農学生命科学研究科 生圏システム学専攻 保全生態学研究室, 2東北大学大学院生命科
学研究科
野生化したセイヨウオオマルハナバチが在来マルハナバチ類に与える影響
を評価するために、(1) 採餌環境 (2) 活動季節パターン (3) 利用する
植物の種類を比較した。調査は勇払郡鵡川町・厚真町において、2003 年
∼2004 年にかけて実施した。2003 年は 7 月下旬 ∼10 月に約 7.5km2
の調査地を踏査し、目撃個体数、訪花植物、周囲の環境類型などを記録
した。その結果、調査地でもっとも多く目撃されたのはセイヨウオオマ
ルハナバチであった(63.8%)。在来マルハナバチ類は、採餌場所(河川
敷や耕作地を含む開けた環境あるいは樹林環境)や利用植物(花冠の浅
い花あるいは深い花)の選好性、および活動季節パターン(7 月下旬 ∼8
月あるいは 8 月下旬に活動のピーク)が異なっていた。それに対してセ
イヨウオオマルハナバチは、エゾオオマルハナバチと採餌環境、活動季節
パターン、利用植物が類似しており、ニセハイイロマルハナバチと採餌
環境、利用植物が類似していた。エゾトラマルハナバチとはいずれも異
なる傾向がみられた。2004 年は 2003 年と同様の調査だけでなく、より
定量的な調査を行うために河川敷、耕作地、防風林縁、樹林を含む 3 つ
のルートセンサス調査を加えた。樹林環境ではエゾコマルハナバチ、エ
ゾオオマルハナバチ、エゾトラマルハナバチ、シュレンクマルハナバチの
女王が確認されたが、河川敷や耕作地では 70%がセイヨウオオマルハナ
バチの女王であった。
松浦 聡子1, 渡辺 守1
1
筑波大・環境科学
レッドデータブックにおいて絶滅危惧 I 類に指定されているヒヌマイトトン
ボは、汽水域に成立するヨシ群落を生息地とし、1つのヨシ群落内で一生を
完結する特異な生活史をもっている。本種の生息地が 1999 年に三重県宮川
河口域の下水道浄化センター建設予定地に隣接する 500m2 に満たないヨシ
群落で発見された。開発によって、本種個体群の存続は難しいと予測された
ので、ヨシ群落を保護すると共に、隣接する放棄水田にヨシ群落を創成する
保全事業が開始された。生息地では、幼虫時代を過ごすヨシ群落内の水位は
安定していたが、塩分濃度は年間を通して 0.8 ‰から 18 ‰の間で変動して
いる。成虫時代の生息環境であるヨシ群落の根元(水面上約 20cm)は、ヨ
シが密生しているので、かなり暗い。そこで、創成地におけるヨシの生長過
程と群落の根元の相対照度、塩分濃度を継続的に調査し、生息地と比較した。
創成地で芽生えたヨシの密度に有意な差はなかったが、細く背が低かったた
め、群落根元付近の相対照度は高くなっていた。春から秋まで、創成地のヨ
シ群落には数種の蜻蛉目成虫が飛来した。淡水と海水を混合した汽水を供給
した創成地の塩分濃度は、生息地の変化とほぼ同様に管理したが、吐出口か
ら遠い場所ほど塩分濃度は低くなった。秋に幼虫の採集を行なったところ、
本来のヨシ群落からは、ヒヌマイトトンボの幼虫しか採集されなかった。一
方、創成地ではごく少数のヒヌマイトトンボと、多数のアオモンイトトンボ
の幼虫が採集された。アオモンイトトンボは幼時代と成虫時代のそれぞれで
ヒヌマイトトンボの捕食者となるので、1つのヨシ群落の中に2種が生息す
るとヒヌマイトトンボは駆逐されてしまう可能性が高い。これらの結果から、
創成したヨシ群落をヒヌマイトトンボの生息環境とするための管理方法を提
言する。
P3-109c
12:30-14:30
北海道胆振地方におけるセイヨウオオマルハナバチおよび在来マルハ
ナバチ類各種の資源利用と活動季節パターン
◦
12:30-14:30
ヒヌマイトトンボ保全のために創成したヨシ群落の動態と侵入した蜻
蛉目昆虫
高橋 一秋1, 鷲谷 いづみ1
P3-108c
8 月 28 日 (土) C 会場
12:30-14:30
小笠原諸島陸産貝類への脅威,ニューギニアヤリガタリクウズムシは
貝類以外に何を食べているか?
◦
大林 隆司1, 大河内 勇2, 佐藤 大樹2, 小野 剛3
1
東京都病害虫防除所, 2森林総合研究所, 3東京都小笠原亜熱帯農業センター
ニューギニア原産の陸棲プラナリア,ニューギニアヤリガタリクウズム
シ(Platydemus manokwari: 以下,P. m. と記す)は,1990 年代に小笠原
諸島・父島に侵入したとされる。もともと小笠原に分布している固有陸
産貝類や,1930 年代に小笠原に持ち込まれたアフリカマイマイなどの外
来種は,父島では 1980 年代以降激減したが,P. m. はその要因の 1 つで
あると推測されている。このことは,現時点で,P. m. が未侵入の母島で
は固有種・外来種とも以前とそれほど変わらない密度で生存しているこ
とからも支持される。1998 年から 2004 年にかけて父島内の P. m. の分
布を調査した結果,本種は過去に陸産貝類が分布したが現在は分布しな
い地域でも非常に高密度で分布することがわかった。従来の調査で陸産
貝類の捕食しか報告のない本種が,なぜ貝類のいない地域でも高密度で
分布するのか?そこで主に飼育条件下で本種の食性を調査した結果,本
種は生きた陸産貝類以外のものも食べることがわかった。従って,いっ
たん本種が侵入した父島では,今後陸産貝類が生存することは極めて困
難であろうと推測される。
— 234—
ポスター発表: 保全・管理
P3-110c
P3-111c
12:30-14:30
航空機を用いたアザラシ類の生息数推定法の検討
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
◦
金尾 滋史1, 前畑 政善2, 沢田 裕一3
1
滋賀県立大・院・環境科学, 2滋賀県立琵琶湖博物館, 3滋賀県立大・環境科学
1
北海道大学大学院獣医学研究科, 2北海道稚内水産試験場, 3宗谷海獣連絡会
2002 年 4 月から 2003 年 7 月 28 日にわたって,琵琶湖東岸に位置す
る滋賀県彦根市の水田地帯に出現する魚類について長期的調査を行なった.
調査は排水路におけるモンドリの定期調査および,水田内,排水路におい
てタモ網によるすくい捕り調査,目視による見回り調査を行なった.調査
の結果,河川や琵琶湖から排水路に遡上した魚類は,9 科 22 種・亜種,延
べ 12,480 個体であった.そのうち,5 月から 7 月の灌漑期には,多くの
魚種が出現する傾向がみられた.水田地帯に出現した魚類は,出現時期や
(b)
発育段階により(a)産卵場所,仔稚魚の育成場所として利用するもの,
稚魚期から成魚期の生活場所として利用するものに類型化された.しかし,
これらの全ての魚種は排水路のみで確認され,水田内では魚類は全く確認
することができなかった.これは圃場整備により,排水桝の改良や水田と
水路の高低差が生じた事に起因するものと考えられた.また,確認された
魚類のうちコイ,フナ類,ナマズ,ドジョウ,メダカの 4 科 5 種・亜種は,
排水路内で繁殖が確認された.しかし,これらの魚類はドジョウを除いて
稚魚の降下個体数が非常に少なく,排水路ではほとんど再生産が行なわれ
ていないことが明らかになった.
一方で,魚が遡上できない水田内に 5-15 個体のニゴロブナ親魚を放流
したところ,繁殖した数万個体の稚魚が中干し時に降下した.このことか
らも水田はフナ類などを中心とした魚類にとっての繁殖場所,仔稚魚の生
育場所として機能することが明らかになった.したがって,琵琶湖-水田間
の連続性を保ち,水田のもつ「魚類のゆりかご」としての機能を復元する
ことは,現在激減している琵琶湖とその周辺の在来種の保全と復元に貢献
できると考えられる.
氷上繁殖型アザラシ類の生息数推定においては、航空機による繁殖海域の
目視調査(厳冬期の洋上飛行)が一般的である。しかし、近年、安全上の問
題により従来の小型航空機を使用できなくなり、機種変更が調査に与える
影響を吟味する必要が出てきた。一方で、国内のアザラシ類調査は、将来
にわたって経験者の確保が難しい状況のために、人員変更による調査精度
の低下が懸念されている。そこで、本研究では、生息数調査において、使
用機体が異なった場合の影響および、経験の有無による観察者間の差異を
評価した。
2001 年 3 月に北海道オホーツク海沖合において、航空機 c208(上翼、単
発エンジン、定員 10 名)を用いて、調査経験者2名と非経験者2名、合
計4名による同時観察を行った。ライントランセクトを設定し、平均高度
155m で左右の横距離 50 650 mの海氷上を探索した。これらの結果を前年
度{c206(上翼、単発エンジン、定員 6 名)、平均高度 129 m、左右の横
距離 65 550 m; Miuzno et al. 2002}と比較した。
経験者と非経験者との発見群数に有意な差はなかったが、非経験者では種
を同定できない不明群の割合が高く、とくに至近距離で高かった。特有の
探索方法に対する慣れが関与していると考えられた。機体による影響を調
べるために、全発見群に対する種不明群の割合を比較したところ c208 で
は 30%であり、前年(c206、20%)よりも高かった。c208 は性能上、高度
と速度が大きいために、より広い視野範囲を短時間で探索する必要があっ
たためと推察された。観察者変更による影響を少なくするためには、経験
者と同乗しての精度比較が、推定値補正のために有効な対策であろう。ま
た、調査精度向上のためには、高度や速度を低く保つことのできる小型の
機体を選考するのが望ましい。
P3-113c
12:30-14:30
トンボ池型ビオトープに導入された外来種(アメリカザリガニ、金魚)
の影響と保全教育
◦
12:30-14:30
琵琶湖周辺の水田利用魚類の現状
水野 文子1,3, 和田 昭彦2, 服部 薫1, 大泰司 紀之1
P3-112c
P3-110c
後藤 章1, 鷲谷 いづみ1
12:30-14:30
襟裳岬海岸造林地のクロマツとカシワに定着する外生菌根菌の比較
◦
成瀬 朝美1, 橋本 靖2
1
帯広畜産大学大学院 生態系保護学講座, 2帯広畜産大学 生態系保護学講座
1
東京大学農学生命科学研究科
外来種問題は、生物多様性を脅かす重要な要因である。その問題の解決のた
めには、科学的な調査研究、駆除等の対策とともに、その問題を市民へ普及・
啓蒙する必要性があると考えられる。しかし、外来種問題に対する市民の認
識はあまり高くはなく、効果的な教育プログラムの開発が急務である。
本研究では、トンボ池型ビオトープを活用して、外来種の問題を学習する
ための教育プログラムを作成することを目的に、外来種(アメリカザリガニ)
や捕食者(金魚)が管理者の意図に反して意図的非意図的に導入された少数
のトンボ池型ビオトープにおいて、水生昆虫群集や植生に与える影響につい
て調査を行った。
調査の結果、アメリカザリガニが導入された場合、水生昆虫の種数、個体
数ともに減少すること、ビオトープ内の植物のうち浮葉植物が見られなくな
ることが明らかになった。アメリカザリガニは雑食性で、水草や水生昆虫を
捕食することが知られており、この影響によるものと考えられる。また、金
魚が導入された場合には、植物には影響はないが、水生昆虫の種数、個体数
ともに減少することが明らかになった。
霞ヶ浦周辺では、ビオトープを活用した教育プログラムが展開されている
ため、ビオトープに生息する水生昆虫や浮葉植物特にアサザは、子どもたち
の関心が高い生き物である。外来種の影響によりこれらの種が見られなくな
ることを授業プログラムとして伝えることにより、子どもたちに外来種問題
に対する高い関心を引き出すことが可能になると考えられる。これらの結果
を元に授業プログラムの開発を行った。
外生菌根菌は、森林を構成する多くの木本植物の根に外生菌根という組織を形
成し、共生関係を持っている。一般にこの外生菌根菌は、攪乱跡地での植生の
定着に重要であるといわれており、また、宿主特異性を持つことが知られてい
る。北海道襟裳岬では、伐採などにより一度植生が失われ、その後、本来の植生
ではないクロマツを中心とした植林が行われた。この襟裳岬において、宿主特
異性を持つ外生菌根菌が、クロマツにどのような菌根共生を行っているのかは
興味深い。そこで本研究では、襟裳岬のクロマツがどのような菌根共生を行っ
ているのかを明らかにするため、植林後約 50 年が経過したクロマツ林と、そ
の近くのほぼ同齢の自然定着したカシワ林において、その根系に定着している
外生菌根菌の形成率とタイプを顕微鏡を用いて比較した。また、植栽前のクロ
マツ苗木の外生菌根タイプも同様に調べ、50 年生クロマツ林と比較した。そ
の結果、外生菌根菌の形成率は、クロマツ林では 59.8-79.0%、カシワ林では
46.3-79.6%となり、両林間において差は見られなかった。出現した外生菌根の
総タイプ数は、クロマツ林では 12 タイプ、カシワ林では 19 タイプが確認さ
れた。また、クロマツとカシワのそれぞれの林で、40 %以上の出現率を示す優
占菌根菌種が各々存在するようだった。クロマツ林には、カシワ林と共通する
菌根タイプが2タイプ、クロマツ苗木と共通する菌根タイプが 1 タイプ確認さ
れたが、それらは 50 年生クロマツの根において 10 %以下しか出現せず、優
占種ではなかった。以上から、植林から約 50 年が経過した現在、クロマツ林
には独自の特異的な菌根共生が成立していると考えられた。
— 235—
P3-114c
ポスター発表: 保全・管理
P3-114c
P3-115c
12:30-14:30
北海道日高地方で発見されたセイヨウオオマルハナバチ (Bombus terrestris L.) の自然巣における高い増殖能力
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
◦
亀井 幹夫1, 中越 信和1
松村 千鶴1, 中島 真紀1, 横山 潤2, 鷲谷 いづみ1
1
広島大学大学院国際協力研究科
1
東京大学大学院農学生命科学研究科, 2東北大学大学院生命科学研究科
保護地域の目的は生物多様性すべてを持続させることだが,実際には様々
な問題が指摘されている。中でも大きな問題は,保護地域が経済的に価
値の低い地域などに集中し,保全されるべき地域・対象を網羅していな
いことである。限られた保全資源を有効に活用するには,保護地域の効
率的な選択が求められる。近年,すべての対象を網羅するために必要と
される,最もコストの小さい地域の組み合わせを選ぶアルゴリズムが検
討されているが,対象ごとの地理的な分布はほとんど考慮されていない。
これらのアルゴリズムは分布域の周辺を優先して選択するとの指摘があ
るが,理想は分布域に対して均等に保護地域を配置することと考えられ
る。一方で,分布域という新たな制約を加えることで必要なコストが増
えるという指摘もある。以上を踏まえ本研究では,植物群落の地理的分
布を考慮した保護地域の選択アルゴリズムについて検討することを目的
とした。対象は植物群落レッドデータブックで危険性・重要性が特に高
い植物群落 1,589 件とした。ただし,この内 93 件は位置情報がないた
め,実際の分析対象は 1496 件であった。これらは優占種をもとにした
群落タイプ 801 個のいずれか1つ以上に該当する。土地利用変化を伴う
行為に許可を必要とする保護地域内にある植物群落は 778 群落 (52 %),
保護地域の比率が 50 %未満の群落タイプは 221 タイプ (28 %) であっ
た。保護地域の選択は,以下の手順で行った。まず,群落タイプごとに立
地配分モデルを適用し,モデルの有効性を検討した。群落の主な構成種
と注目すべき種を最大数カバーさせる配置との関係もあわせて検討した。
次にすべての群落タイプをまとめて,従来の set-covering problem から,
すべての群落タイプの一定割合以上を保全するために必要な最も少ない
群落数を決定した上で,立地配分モデルによって,保護地域の配置を決
定した。
北海道日高地方では、温室トマトの授粉用に導入されたセイヨウオオマルハ
ナバチ(以下、セイヨウ)の定着が、1996 年に確認された。その後、定着
状況のモニタリングが継続されている。毎春に花上で捕獲される女王バチの
個体数は、年々増加傾向にあり、ここ 2、3 年で急増した。セイヨウは本来
の分布域において、営巣場所や花資源をめぐるハナバチ間の競争に強い種で
ある。そのため、在来マルハナバチ類(以下、在来種)を衰退させ、これら
に受粉を依存していた植物の種子繁殖を阻害することが懸念される。
本研究では、営巣場所をめぐる在来種との競合の可能性と、日高地方にお
ける個体数の急増の背景を明らかにすることを目的とし、セイヨウと在来種
の営巣場所および繁殖成功(新女王バチ生産の有無と数)を比較した。勇払
郡鵡川町・厚真町と沙流郡門別町のほぼ 7.75km2 の範囲にある水田や畑地、
河川敷等において、2003 年 6 月から 9 月の間にマルハナバチ類の巣を探索
し,セイヨウの自然巣 8 つを含む 27 の巣を発見した。セイヨウの巣は、農
耕地の地中にあるネズミ類の廃巣に作られており、営巣場所の競合は、同様
の場所に営巣していたエゾオオマルハナバチ、エゾトラマルハナバチとの間
でおこる可能性が高いことが明らかとなった。新女王バチの生産に至った巣
の比率には、セイヨウと在来種間で有意差はなかったが、生産に至った巣あ
たりの新女王バチ数は、在来種の 4.4 倍の平均 110 頭であった。セイヨウ
は、この地域の野外において、在来種と比較して増殖率が高く、飼育下での
値に匹敵するほどの高い繁殖成功をおさめていることが明らかとなった。こ
の増殖能力の高さは、当該地域においてセイヨウの個体数が急増している一
因であると考えられる。
P3-116c
12:30-14:30
サクラソウ属 Cortusoides 節 3 種における比較保全生態遺伝学の試み
◦
12:30-14:30
植物群落の地理的分布に基づいた保護地域の配置
大谷 雅人1, 上野 真義2, 寺内 浩3, 西廣 淳1, 津村 義彦2, 鷲谷 いづみ1
1
東京大学大学院農学生命科学研究科, 2森林総合研究所, 3桐生市
人間活動の影響などによる個体群の分断孤立化は,さまざまな決定論的・確
率論的な要因を通じて種の将来に重大な影響を及ぼす。他殖性の虫媒植物に
おいては,残されたパッチにおける訪花昆虫との相互作用の変質やジェネッ
トの孤立化による受粉の失敗などのため,生活史の完遂が困難になる場合が
ある。しかし,クローン成長可能な種ではその影響が分かりにくいことも多
く,その保全にあたっては綿密な調査が必要となる。
サクラソウ属 (Primula L.) 植物の多くは異型花柱性で地下茎によるクローン
成長が可能な多年生草本である。日本にも 14 種類が分布するが,ほとんど
の種で個体群の分断孤立化及び個体数の減少が進んでいる。特に,カッコソ
ウ (P. kisoana Miq. var. kisoana) ではスギの植林による生育適地の消失と過
剰な園芸採集のために残存するジェネットが数十のオーダーまで減少し,種
子繁殖も満足にできない状態に陥っている.また,同属では最も知名度が高
く,各地で生物多様性保全の象徴として注目されるサクラソウ (P. sieboldii E.
Morren) も,カッコソウほどではないにしろ個体群の分断孤立化が進行して
いる。
ところが,これら 2 種にごく近縁で同じ Cortusoides 節に分類されるオオサ
クラソウ (P. jesoana Miq. ) は,遺伝子流動の観点からみて分断孤立化があま
り進んでいないと思われる稀有な例である.特に北海道東部での生育密度は
非常に高く,沢沿いの明るい場所を中心に広く連続的に分布している。日本
のサクラソウ属植物,ひいては類似の生態をもつ他殖性の虫媒植物の保全を
考える際には,本種を一種の”ベースライン”として位置付けていくことが有
効である可能性がある。そこで本研究では,個体群の現状が対照的なこれら
3 種類のサクラソウ植物を対象に,系統関係を踏まえた上で,個体群内の遺
伝的構造をさまざまなスケールで比較した結果を報告したい。
P3-117c
12:30-14:30
森林断片化による Shorea leprosula の遺伝的多様性に与える影響
◦
福江 陽子1, Lee S.L. 2, K.K.S.NG 2, Norwati M 2, 津村 義彦3
1
筑波大学 生命環境科学研究科, 2マレーシア森林研究所, 3森林総合研究所
さまざまな生物の住処である森林生態系は、人間活動の影響によって森林の断
片化や孤立化が進んでいるためにその機能が損なわれようとしている。クアラ
ルンプール市に隣接した Ampang 森林保護区はかつて水源保護林として利用さ
れてきたが、都市化に伴い森林の開発のため断片化が進んでいる。しかし都市
に近接しているにもかかわらず現在でも立派な森林を形成している。この森林
を形成する上で林冠を構成する主要な種の一つである熱帯樹種のフタバガキ科
(Dipterocarpaceous)の Shorea leprosula は材木としても有用な種である。この
種は東南アジア広範に分布する樹種であり造林の対象種としても重要視されて
いる。。フタバガキ科樹木の多くは他殖性であることから、近親交配により近
交弱勢が起こることが報告されている。S.leprosula も他殖性植物であるため、
近親交配が増加すると、近交弱勢によって次世代以降への交配に悪影響が出る
可能性がある。
森林が断片化された状態が遺伝的多様性への影響を持つのかということを Ampang
森林保護区を調査地とし、S.leprosula を対象にマイクロサテライトマーカーを
用いて解析を行った。この森林の林縁部(住宅地に近接したところ)、中心部
で、それぞれ個体密度が等しいと定義した上で、断片化される前に成長した母
樹、断片化後に交配が行われ成長をはじめた実生を各20 ∼ 30個体採取し
DNA を抽出した。すでにこの種で開発されていた9座のマイクロサテライト
マーカーによって解析を行い、ヘテロ接合度、対立遺伝子頻度、近交係数など
を算出し、母樹と実生、林縁部と中心部で遺伝的多様性の差異を求め、断片化
の影響があるかどうかの検討を行った。
— 236—
ポスター発表: 保全・管理
P3-118c
P3-119c
12:30-14:30
河川の区間スケール特性による魚類の生息場所選択性の違い
◦
平山 亜希子1, ◦ 水谷 瑞希1, 西垣 正男2, 多田 雅充1, 松村 俊幸3
1
京都大学大学院工学研究科, 2京都大学防災研究所
河川に魚類の生息場所を維持管理する視点からは,土砂の侵食-堆積過程と対
応させた生息場所の評価が必要である.本研究では,取水堰堤の上流域の土
砂堆積量が異なる区間で環境特性と魚類の生息場所選択性を調査し比較分析
した.堰堤の直上流の堆積卓越区間(平均勾配 100 分の 1),背水が増水時
にのみ波及する移行区間(勾配 100 分の 12),背水の影響がない侵食卓越
区間(勾配 100 分の 13)の 3 区間内に瀬と淵 4 セット計 12 地点を設け,
地形,流速,水深,底質,開空度,水温,水質を測定した.2003 年 10 月に
全地点の瀬と淵ごとに,1cmSL 以上の魚類を対象に全個体の採集を試み魚種
別に計数と体長測定を行った.
分散分析の結果,カワムツはどの区間でも淵に多かったが,瀬間比較では侵
食区で少なかった.カワヨシノボリは,堆積区と移行区では淵より瀬に多く
侵食区では差がなかった.また,瀬間の比較では,侵食区(0.12/m2 )より
堆積区(0.41/m2 )と移行区(0.38/m2 )に多かった.カマツカは淵では堆積
区に多く,瀬では堆積区にのみ生息していた.CCA の結果,瀬の調査地点
は,流速と底質粗度が大きい侵食区とそうでない移行区・堆積区に分けられ
た.カワムツの生息密度は流速,底質粒径と負の相関が見られたので,流速
が大きく底質が粗い侵食区の瀬は生息に不適だったと考えられた.カワヨシ
ノボリの生息密度は底質粒径と正の相関を,流速とは負の相関を示したこと
から,侵食区の瀬では流速が大きすぎるため不適だったと考えられた.カマ
ツカの生息密度は流速,底質粒径と負の相関を,水深と正の相関を示したこ
とから,流れがゆるく水深の大きい堆積区の瀬には生息できたと考えられた.
また,淵の調査地点は,流速が小さく水深の大きな堆積区とそうでない移行
区・侵食区に分けられた.カマツカの生息密度は水深と正の相関が,流速と
負の相関が見られたため,堆積区の淵に多く生息していたと考えられる.さ
らに,カワヨシノボリが各区間の淵で少なかったのは,好ましい底質粒径が
少ないためと考えられた.
1
福井県自然保護センター, 2福井県海浜自然センター, 3福井県福祉環境部自然保護課
里地里山は、農林業など人が自然に手を加えることによって維持されてきた
環境である。しかし、農業の近代化や産業構造の変化にともなって、里地里山の
自然環境は大きく変化し、現在ではそこに依存するメダカやゲンゴロウなどの
種が、絶滅の危機に瀕するまでに至った。生物多様性国家戦略のなかでも指摘
されているとおり、我が国における生物多様性を維持していく上で、このよう
な野生生物が生息・生育する里地里山を保全していくことは重要な課題である。
福井県では、希少種が集中する里地里山(重要里地里山)を保全・活用して
いくことを環境基本計画の中に位置づけており、対象箇所の選定および保全・
活用対策に部局連携で取り組んでいる。このうち福井県自然保護センターは、
重要里地里山の候補地を選定することを目的として、県内の里地里山地域にお
ける希少野生生物の生息・生育状況に関する調査を行ったので、そのプロセス
と結果の概要について報告する。なお、本調査事業は環境省の自然環境保全基
礎調査(平成 15 年度都道府県委託調査)により実施したものである。
調査は、文献調査と現地調査によって行った。まず、既存の希少野生生物の
分布情報を整理し、専門家や関係部局と協議しながら、現地調査を実施する 28
地域を抽出し、その後、現地調査により希少野生生物の生息・生育確認を行っ
た。なお、調査対象種としては、里地里山をおもな生息・生育地とする野生生
物(動植物)のうち、県 RDB 種および指標種 342 種を指定した。2003 年 6
月 1 日から 2004 年 1 月 20 日までの調査期間内に、66 名の調査員が調査を
行った結果、のべ 2453 件の報告が得られた。希少種の分布情報など、扱いに
注意を要する情報が多いという制約の中で、いかに重要里地里山の重要性を県
民に訴えかけ、実際の保全に結びつけるかが今後の課題である。
P3-121c
12:30-14:30
トンボ成虫の種多様性のパターンを決める種ごとの環境選好性
◦
12:30-14:30
福井県重要里地里山選定調査事業について -行政における里地里山調
査の取り組み-
石田 裕子1, 竹門 康弘2, 池淵 周一2
P3-120c
P3-118c
8 月 28 日 (土) C 会場
12:30-14:30
小笠原における遷移中期の在来樹種の発芽・定着に対する外来樹種ギ
ンネムの影響
角谷 拓1, 須田 真一1, 鷲谷 いづみ1
◦
1
東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻
トンボ成虫は、小さな止水域においても複数種の生息が可能であり、開放系
のハビタットにおける種多様性の形成・維持機構の研究材料に適している。
新たに創出された水域における種多様性の形成に大きく寄与する「移入の過
程」には、それぞれの種の環境選好性が大きく影響すると考えられる。
本研究では、トンボ成虫の環境選好性の基準を明らかにし、池ごとの種多様
性パターンを構成種の環境選好性から説明することを目的として、新たに作
られた 69ヶ所の小水域において定期的なトンボ成虫のセンサス調査を実施
した。トンボ成虫の環境選好性はスケールの異なる基準をもつ可能性がある
ことから、面積や植生といった池の環境要因に合わせて、池の周囲の土地利
用状況を把握し、池の周囲半径 2km 以内の樹林地、草地、水田、開放水域
の面積を求めた。
調査の結果、トンボ成虫の種数は池の面積と有意な正の相関を示した。しか
し、種数と植被率の間には明瞭な相関は認められなかった。環境要因と種ご
との出現確率の関係を多変量ロジスティック回帰によって解析した結果、池
の面積に対する選好性のパターンは単純であり、多くの種が面積に対して正
の選好性を持っていると考えられた(15 種中 11 種)。一方、植生依存のパ
ターンは単純ではなく、植被率に正の選好性を示すもの、負の選好性を示す
もの、および中程度の植被率で出現確率が高くなるものがそれぞれ存在した。
本研究において、種数の面積依存パターンが明瞭な線形関係だったのに対し
て、植被率への種数の依存パターンが不明瞭だったのはこのように植生に対
する選好性が種によって異なっていたためであると考えられた。
さらに、池の周囲の樹林、草地、水田といった土地利用に関する要因が、い
くつかの種の出現に対して有意な効果をもっていたことから、周囲の環境が
池の群集パターンに影響を及ぼす可能性が示唆された。
畑 憲治1, 可知 直毅1
1
東京都立大学大学院理学研究科生物科学専攻
海洋島である小笠原諸島では、多くの外来樹種の侵入による在来植生への影響
が、これらの保全上大きな問題となっている。ギンネム Leucaena leucocephala
de Wit (Lam.) は、耕作地跡のような攪乱地に侵入する。小笠原諸島では、遷
移初期には在来種であるウラジロエノキ Trema orientalis やアコウザンショ
ウ Fagra boninsimae が本来優占するが、遷移初期におけるギンネムの侵入
は、これらの在来種から始まる植生遷移とは異なる遷移を引き起こすことが
報告されている。これはギンネムが直接的もしくは間接的にその後の遷移の
ステージで出現する在来種の定着を妨げている可能性を示唆する。このよう
な可能性を検証するために、小笠原諸島父島の二次遷移初期ステージでギン
ネムとウラジロエノキがそれぞれ優占する群落において、遷移中期に出現す
る在来種ヒメツバキ Schima mertensiana の実生の移植実験および種子の発
芽実験を行ない、ヒメツバキの実生の定着に与える遷移初期種の影響を比較
した。
ギンネムの林床に移植されたヒメツバキの実生の成長速度は、ウラジロエ
ノキの林床に移植されたヒメツバキの実生の成長速度より有意に低かった。
また、ギンネム、ウラジロエノキそれぞれの林床において林床植生を除去し
た区画とそうでない区画の間では成長速度に有意な差は見られなかった。
ギンネムの林床に播種したヒメツバキの発芽率は、ウラジロエノキの林床
に播種したヒメツバキの発芽率より有意に低かった。また、ギンネム、ウラ
ジロエノキそれぞれの林床において林床植生を除去した区画とそうでない区
画の間で発芽率に有意な差は見られなかった。
本研究の結果は、ギンネムがヒメツバキの種子の発芽と実生の成長の両方
に負の影響を与えることを示す。
— 237—
P3-122c
ポスター発表: 保全・管理
P3-122c
P3-123c
12:30-14:30
外来樹木トウネズミモチの河川への侵入
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
◦
橋本 佳延1, 服部 保1,2, 石田 弘明1,2, 赤松 弘治3, 田村 和也3
鳥取大学大学院農学研究科森林生態系管理学研究室, 2鳥取大学農学部
兵庫県立人と自然の博物館自然・環境再生研究部, 2兵庫県立大学 自然・環境科学研究所, 3株式会社
里と水辺研究所
トウネズミモチは緑化によく用いられる外来樹木で,近年,植栽地よ
り逸出し野外で急増している.本種は生育と繁殖力が旺盛で国内の生態
系への悪影響が危惧されている (吉永・亀山,2001).本研究では,猪名
川(兵庫県)の河川敷に逸出したトウネズミモチの個体群について,河
川敷での分布位置や個体サイズ(樹高,胸高直径),一株あたりの萌芽幹
数,結実状況,近隣のトウネズミモチ植栽地との位置関係を調査し,そ
の河川敷での定着状況と種子供給源について検討した.
結果,河川敷で 94 個体が確認された.平均樹高は 3.1m,平均胸高直
径は 3.5cm,平均萌芽数は 5.3 本であった.また,根おこしされた株の
多くは萌芽幹や不定根を伸長させていた.このように生育状況が良好で
あり,不定根や萌芽の発生などの水辺環境に適応した樹木の特徴(崎尾
2002)がみられたことから,トウネズミモチは河川環境に適応している
と考えられた.近隣の植栽地には大量のトウネズミモチが植えられてお
り,調査地の個体の多くは植栽地からの最短距離で 180m から 270m の
間の, 鳥による種子散布が可能な距離 (Fukui,1995) に分布が集中してい
たことから,この植栽地が調査地の個体の主な種子供給源と考えられた.
また河川敷に 44 の結実個体がみられたことから,河川敷の個体には植栽
群だけでなく河川敷の他の個体に由来する個体も含まれると考えられた.
12:30-14:30
静岡県内主要河川の河原植生における外来種の侵入程度
◦
鈴木 卓磨1, 川合 里佳1, 足立 有右1, 足立 佳奈子1, 山下 雅幸1, 澤田 均1
1
静大・農
近年、日本各地で外来種の侵入問題が顕在化してきた。我々は外来種の
侵入が確認された河原の植生構造を把握し、急流な東海型河川の河原植
生に関するデータベースの作成を目的として、一昨年度より静岡県内の
主要河川において植生調査を行っている。特に、侵入種として問題視さ
れているシナダレスズメガヤ Eragrostis curvula の優占地に注目し、本種
の分布拡大が県内の河原植生にどのような影響を及ぼしているのかを検
討している。
河原の植生調査は、静岡県西部の天竜川、中部の安倍川、東部の富士川
の3河川の下流域で 2002 年から 2003 年の春と秋に行った。また、安
倍川と富士川については中流域にも調査地を設けた。調査方法は河流に
対して垂直にコドラート(1 × 1m)を並べるライントランセクト法を用
い,コドラート内の種数、個体数及び植被度を調査した。
調査の結果、3河川とも1年生草本が最も多く、次いで多年草が多かっ
た。今回の調査地では、外来種が出現種数の過半数を占めるコドラート
が多く、帰化率は天竜川の調査地で 10 %、安倍川と富士川ではともに
30%以上で、外来種の侵入程度が極めて高いことが明らかとなった。 特
にシナダレスズメガヤについては、河岸近くで大きな集団を形成してい
るところが中・下流域で広く確認された。各河川の生育地において本種
の形態を測定したところ、平均で草丈 138cm、株周り 55cm と大型化し
た個体が多く、河原植生に及ぼす影響が大きいものと推察された。
今後、河川植生の保全活動のためにも、生育している個々の種を継続し
て詳細に調査していくことが必要である。特に帰化率の高かった河原で
は外来種の優占化,それに伴う種多様性の低下が懸念されるため、在来
種と外来種双方からの研究アプローチが不可欠であろう。
神保 剛1, 佐野 淳之2
1
1
P3-124c
12:30-14:30
林冠と林床の撹乱が稚樹の定着と種組成に与える影響
近年、燃料革命などにより管理が放棄される二次林が多くなった。過去に
大きな人為的撹乱を受けた森林は、林分構造が単純になることが多い。こ
のような林分構造を変えるために、伐採による人工ギャップ形成などの撹
乱を与えることは有効な手段である。本研究では過去に人為的撹乱を受け
た落葉性広葉樹二次林で、伐採と林床の撹乱が稚樹の定着と種組成にどう
影響を与えるのかを明らかにする。
調査地は鳥取大学農学部附属蒜山演習林である。ここは過去に軍馬の放牧
が行われていて、現在はコナラが優占する二次林である。調査地に、上木
の伐採とササの刈り取り、ササの刈り取り、上木の伐採、無処理の 4 種類
のプロットを設置した。樹高 1.5 m 以上を上木とし、樹種を同定し、DBH
と樹高を測定した。コアサンプルと円板を採取し樹齢を計測した。地表か
ら 0.3 m と 2.0 m で全天空写真を撮り、開空率を求めた。当年生稚樹の樹
種を同定し、ササの本数と高さを測定した。
本林分では、上層をコナラとクヌギが優占し、中層と下層には上層とは
異なった樹種が出現したが、本数は少なかった。また、林床にはチマキザ
サが繁茂していた。樹齢分布より、優占種であるコナラとクヌギは新しく
更新していなかった。コナラとクヌギは、過去の大きな撹乱で一斉に定着
したが、その後、撹乱を受けなかったために単純な林分構造になったと考
えられる。
4 種のプロットのうち、種数が一番少なかったのは無処理のもので、上
木の伐採とササの刈り取りは定着できる種数を増加させた。上木を伐採し
たプロットは、伐採していないプロットより 2.0 m の開空率が高く、ササ
の量も多かった。ササの量の増加は林床の光環境を低下させていた。
上木とササは稚樹の定着に影響を与えており、これらの除去は樹木の更
新に有効であった。しかし、上木の伐採による光環境の好転はササの成長
も促進するため、ササの量を制御する森林管理が必要である。
P3-125c
12:30-14:30
ニホンジカの食性に及ぼす環境要因‐兵庫県の場合‐
◦
横山 真弓1, 鈴木 牧2, 後藤 成子3, 木下 裕美子3, 坂田 宏志2
1
兵庫県立人と自然の博物館, 2兵庫県立大学, 3関西野生動物問題研究会
兵庫県におけるニホンジカは、北は落葉広葉樹林帯から南は淡路島の照葉
樹林帯まで広い範囲に生息している。現在、本州部では阪神地域を除いた
3/4 の地域に分布が拡大し、淡路島では、諭鶴羽山系に孤立して高密度に生
息している。分布する地域では、農林業被害が顕在化しており、被害を与
えるシカの食性、生息状況や利用する環境などの情報に基づいた地域ごと
の適切な管理が必要となっている。
本研究では、兵庫県に生息するニホンジカの食性を多角的に把握し、食性
に与える生息環境の要因を明らかにすることを目的として行った。
食性は、有害捕獲、狩猟により捕獲されたニホンジカ 247 個体の胃内容物
を用いて、採食物の容量比、出現種子、一般栄養組成を分析することによ
り把握した。また県内 3 カ所において食痕調査を実施し、採食植物種のリ
ストアップを行った。さらに主要な採食物に関しては、一般栄養組成を分
析した。これらのシカの食性の特徴と森林植生、農地面積、シカの生息密
度との関係を解析した。
ニホンジカが採食した植物カテゴリーは、季節的に大きく変動するが、生
息する森林植生に大きく影響を受けていた。しかし、同一の森林植生にお
いても、林縁部付近で捕獲された個体では、グラミノイドや農作物などの
利用度が高かった。摂取栄養価の指標である胃内容物の粗タンパク質やカ
ルシウム、リンは、高密度が長期間続いている但馬地域、淡路島諭鶴羽山
系で低い傾向を示し、高密度化による採食物の質の低下が示唆される結果
となった。これらの結果から、ニホンジカの食性は森林環境により地域変
異が認められるが、林縁部に放棄された農作物などの影響を大きく受けて
いることが明らかとなった。人為的な食物資源の利用により高密度化とそ
れに伴う採食植物の栄養的な質が低下なども示唆された。
— 238—
ポスター発表: 保全・管理
P3-126c
P3-126c
8 月 28 日 (土) C 会場
P3-127c
12:30-14:30
12:30-14:30
貯水ダム下流域における底生動物群集の流程変化様式
◦
波多野 圭亮1, 竹門 康弘2, 池淵 周一2
1
京都大学大学院工学研究科, 2京都大学防災研究所
(NA)
P3-128c
河床に堆積する土質や土砂量は、河川生態系の基盤となる地形や生息場
所条件を決めるため、生物群集の組成や生物体量の要因として重要であ
る。貯水ダム下流域では、土砂供給が減少し攪乱の規模と頻度が人為制
御される結果、底質の粗粒化及び固化が生じ、底生動物の種多様性の減
少が報告されている。本研究は、貯水ダム下流域と貯水ダムのない対照
流域とで比較調査することによって,底質の粗粒化及び固化と底生動物
群集との対応関係を明らかにすることを目的としている。奈良県紀ノ川
水系の大迫ダム (1973 年竣工) 下流と貯水ダムのない高見川とで現地調
査を行い、貯水ダムが底質環境と底生動物群集に与える影響について分
析した。
その結果、ダム直下では河床材が粗粒化するとともに、底質表面に繁茂
した糸状藻類がシルト等の粗細粒成分を捕捉することによって付着層が
厚いマット状に発達していた。そのため、糸状藻類に依存するヒメトビ
ケラ属の一種が高密度に生息し、ヒラタカゲロウ科やフタバコカゲロウ
属などの滑行型の底生動物が減少あるいは消失していた。さらに、ダム
直下では、河床内部が泥質化し、瀬においても掘潜型であるモンカゲロ
ウの生息が認められた。底生動物群に対する貯水ダムの影響については、
これまでは湖水の一次生産に起因する水質悪化の影響を中心に議論され
てきた。本研究でも、中腐水性の指標種であるミズムシ、アカマダラカ
ゲロウ、コガタシマトビケラ、サトコガタシマトビケラなどが高密度で生
息していた事実は、この影響ルートを示唆している。しかし、滑行型な
どの底生動物については,付着層のマット化を通じた影響も重要である
と考えられる。この影響ルートは、斜面や支川からの土砂供給によって
改善される可能性があるため、流程に沿った変化様式について解析した。
その結果,付着層の量と滑行型の生息数に負の相関が,また土砂供給可
能な流域面積と全タクサ数との間には正の相関が見いだされた。
P3-129c
12:30-14:30
人工衛星を用いたモウコガゼルの移動経路の解明と生息地評価
◦
12:30-14:30
護岸工事が河道内生物に与えた影響 -水生昆虫類を指標とした評価-
伊藤 健彦1, 三浦 直子2, Lhagvasuren Badamjaviin3, Enkhbileg Dulamtseren3, 恒川 篤史4,
高槻 成紀5, 姜 兆文6
◦
木村 悟朗1, 福永 八千代1, 平林 公男1
1
信州大・繊維
1
鳥取大学乾燥地研究センター, 2(株)パスコ, 3モンゴル科学アカデミー, 4東京大学農学生命科学研
究科, 5東京大学総合研究博物館, 6山梨県環境科学研究所
モンゴルの草原を中心に生息し、長距離移動をおこなう中型ウシ科のモウコ
ガゼル(Procapra gutturosa)の保全が緊急の課題となっている。長距離移動動
物の保全対策には、各季節の行動圏および移動経路と移動要因の解明が必要で
あるが、これまでその移動経路は断片的にしか明らかになっていない。そこで、
モウコガゼルに衛星追跡用の電波送信機を装着し、移動経路を追跡するととも
に、人工衛星画像から得られ、植物量と相関がある正規化植生指数(NDVI)を
用いて、ガゼルの夏と冬の生息地間で植物量の季節的な逆転現象が見られるか
を検証した。
2002 年の 10 月にモンゴル南部のオムノゴビ県とドルノゴビ県で成獣メス
を各 2 頭捕獲し送信機を装着した。カーネル法により求めた冬 (12 月から 2
月) と夏(6 月から 8 月)各個体の 50 %コアエリアを、それぞれ冬、夏の行
動圏とし、各地域での年間を通しての 95 %コアエリアを年間行動圏として、
各行動圏内の NDVI 値の季節変化を比較した。
その結果、モウコガゼルの年間を通した移動経路を初めて追跡でき、最大直
線距離が約 300 km、累積移動距離は 1000 kmを越える個体もあった。オムノ
ゴビでは年間行動圏の NDVI 平均値と比較すると夏の行動圏の NDVI 値は夏
高く、冬低かった。一方、冬の行動圏では夏は平均値よりも低く冬は高くなり、
この地域間の相対的な NDVI 値の逆転はガゼルの季節移動をよく説明した。ド
ルノゴビでは夏の行動圏の NDVI 値が年間行動圏の平均値と比較して夏高く
冬低いという点はオムノゴビと同様であったが、常に夏の行動圏よりも冬の行
動圏で NDVI 値が高かった。NDVI はガゼルの生息地評価指標として有効であ
り、ガゼルは年間行動圏内における地域間の相対的植物量の季節変化に対応し
て移動することが示唆されたが、地域差をもたらす要因解明と NDVI 以外の
データの必要性も示された。
【はじめに】2001 年 10 月から 2002 年 3 月にかけて千曲川中流域の河道内
で大規模な護岸工事が行われ、生物群集に大きな影響を与えた。河川撹乱の影
響を調べるとき、水生昆虫類の幼虫を利用することが多い。しかし出水時には
サンプルが容易に得られないこと、また瀬淵により個体数や生息する種類相が
異なるなどの問題点が指摘されている。さらに、幼虫では種の同定が困難であ
るため、ユスリカ類やガガンボ類などは科 (family) のレベルでまとめられてい
ることが多い。本研究では、護岸工事が行われる前の 2001 年と、工事が完了
した 2002 年の同時期に注目し、水生昆虫類成虫の捕獲数や種類組成を調査し、
従来の幼虫を用いた評価法との比較を行った。また調査頻度の違いが結果に及
ぼす影響についても検討した。
【調査方法】調査は 2001 年、2002 年とも 4 月 19 日から 7 月 10 日までの
83 日間行った。千曲川河川敷にライトトラップ(6W ブラックライト一本付設)
を 1 器設置し、夕方から翌朝までライトを点灯し、水生昆虫類の成虫を毎日採
集し、種まで分類した。
【結果と考察】工事の前後で比較すると、工事完了は捕獲数が増加、種数が減
少、群集の多様度、ならびに均衡度はともに低下した。また、同定段階の違い
により、評価の程度が異なり、工事前後の差も異なることがわかった。また、調
査期間の設定により、得られる結果は大きく異なった。調査期間を一般に予想
される 1 日、1 週間、1ヶ月、および全調査期間(83 日)で設定し、各項目の
調査期間別の最大値、最小値、および中央値を算出し、差を調べた。調査期間
が短いほどバラツキが大きくなり、工事前後の比較においてもその差が顕著に
見られず、結果が逆転してしまうこともあった。本研究においては、約 60 日
間以上の調査で差がほぼ無くなることがわかり、全調査期間を用いた本研究の
結果は妥当であると推測された。
— 239—
P3-130c
ポスター発表: 保全・管理
P3-130c
P3-131c
12:30-14:30
都道府県別レッドリスト情報から見た日本産食虫目およびネズミ科動
物の保護の現状
◦
横畑 泰志1
裸地における当年実生の生存とその形態的特徴–根–
◦
菅野 康祐1, 藤山 静雄1, 清水 建美2
信州大学 理 生物, 2信州大学
富山大学教育学部
食虫目、齧歯目などの小型哺乳類は、大型種と較べて保護・保全の現場で
関心が持たれることが少ないが、実際には種や地域個体群のレベルで絶滅の
おそれが増大しているものが多く、積極的な対応が迫られている。そこで、
食虫目およびネズミ科動物の保護に関する現状を具体的に把握する目的で、
主に都道府県別のレッドリストに基づき、地域ごとの情報を収集、整理した。
2004 年 6 月現在、47 都道府県中 42 で哺乳類を含む野生生物のレッドリ
ストが公開されており、東京都では区部、北部、南部、西部、伊豆諸島の 5
区域に分けてリストが作られている。食虫目は国内に外来種であるハリネズ
ミの 1 種(恐らくマンシュウハリネズミ)および最近染色体の数カ所の差異
によりサドモグラからの独立性が認識されるようになったエチゴモグラを含
む 21 種が生息しており、様々な資料からそれらの生息情報が得られたのべ
268 種・都道府県(東京都は 5 として算出、以下同じ)で情報不足、未決定
を除くと 83 件(31.0 % 、ほぼ「3 種に 1 種」)の指定があった。齧歯目ネ
ズミ科は国内に外来種のマスクラットおよび住家性の 4 種を含めて 20 種が
生息しており、それらの生息情報が得られたのべ 219 種・都道府県(住家性
の種を除く)で情報不足、現状不明、未決定を除くと 53 件(24.2 % 、ほぼ
「4 種に 1 種」)の指定があった。このように、食虫目やネズミ科のレッドリ
ストの指定率は他の生物と比較して低くはない。指定上の問題点として、保
護上重要な種が未決定となっている(沖縄県のセンカクモグラ、セスジネズ
ミ)、重要と考えられる種が指定されていない(静岡県のアズミトガリネズ
ミ)、現在あまり支持されない分類群が用いられている場合が多い(シロウ
マトガリネズミ、コモグラ、カゲネズミなど)、外来種が上位にランクされて
いる(長崎県のジャコウネズミがCR)といった点が挙げられる。 はじめに; 導流堤は景観に配慮して、テトラポットを積み上げ、その上に
川砂(砂、礫、石)を盛り造成された。このため乾燥しやすく、特に夏期
時には著しく乾燥する。したがって、この乾燥が植物の定着に大きく関
わり、本導流堤における植生復元のための重要な条件と考えられる。そ
こで、本導流堤での各種の当年実生の定着における乾燥の影響を野外及
び室内で調べ、種間の形態比較から乾燥に対して機能的と考えられる形
態について考察した。方法; 導流堤での当年実生の消長を調査し( 丸 1
)、比較的出現個体数が多かった当年実生 12 種の 3 形態形質を調べた
( 丸 2 )。また、調査地周辺に生育する種のうち 35 種( 丸 2 も含む)
を、室内で 3 段階の水分条件下で栽培し、6 形態を調べた( 丸 3 )。調
べた形態形質は T/R 比( 丸 2 丸 3 )、根長( 丸 3 )、側根重量/主根重量
( 丸 2 丸 3 )、側根長/主根長( 丸 3 )、SRL( 丸 3 )、一次根数( 丸 2
丸 3 )である。結果&考察; 丸 1 比較的湿潤な時期(5∼7 月)は各種と
も生存率が高く、高温乾燥の時期(8∼9 月)には生存率が低下した種が
多かった。このことから、乾燥が当年実生の生存に強く影響していると
思われる。 丸 2 各種の生存率と各形態形質(T/R 比、側根重量/主根重
量、一次根数)との間に相関はなかった。 丸 3 最も湿潤な水分条件で栽
培した場合、各種の生存率と各形態形質との間に相関はなかったが、少
ない水分条件では、各種の生存率と根長、側根長/主根長との間に正の相
関があった(T/R 比、側根重量/主根重量、SRL、一次根数は相関なし)。
根長が長い種ほど、また主根長に対して側根長が長い種ほど、生存率が
高い傾向があり、これらは水分獲得を有利にする形態であると考えられ
た。また、生存率と T/R 比、側根重量/主根重量との間に相関がなく、根
長、側根長/主根長との間には相関があったことから、乾燥に対して、本
地域の当年実生では資源配分(重量比)よりも、水分獲得に有利な形態
を獲得していることが重要なのかもしれない。
P3-133c
12:30-14:30
水生植物帯が持つ Refugia としての機能:貧酸素環境からの予測
◦
12:30-14:30
1
1
P3-132c
8 月 28 日 (土) C 会場
山中 裕樹1, 神松 幸弘2, 遊磨 正秀1
1
京都大学生態学研究センター, 2総合地球環境学研究所
琵琶湖沿岸のヨシ群落は、在来魚類の多くが産卵場・仔稚魚期の生育場と
して利用している。群落内は植生の無い所に比べて餌生物が多い、水温が高
い、などの特徴があるが、溶存酸素が非常に低くなることも知られている。
近年、オオクチバスやブルーギルの定着・増殖が問題となっているが、これ
ら 2 種は溶存酸素豊富な砂礫帯で仔稚魚期を過ごすことから、ヨシ群落内で
生活する在来魚に比べて貧酸素耐性が低い事が予測された。本研究ではヨシ
群落が在来魚の隠れ家 (レフュージア) として機能する可能性を、在来魚と
外来魚の貧酸素耐性に注目して検討した。
琵琶湖南湖・山ノ下湾内のヨシ群落内に設置したトランセクトに沿って、
溶存酸素を 2003 年 5 月から 10 月まで調査した。その結果、春から夏に
かけて急激な溶存酸素の低下がみられた。また、溶存酸素は岸際で顕著に低
く、沖側で高いという特徴的な勾配をもって分布している事が明らかとなっ
た。在来魚と外来魚の貧酸素耐性を比較するために、ニゴロブナ仔稚魚 (在
来固有種) と、オオクチバス当歳魚 (外来種) について貧酸素耐性の基準とな
る Critical oxygen point (Pc) の測定を行った。ニゴロブナ稚魚では貧酸素耐
性がオオクチバスよりも高かった。この Pc のデータをヨシ群落内の溶存酸
素分布に当てはめ、貧酸素耐性からみた潜在的レフュージアの断面積、岸か
らの位置、奥行き (ニゴロブナだけが利用できる溶存酸素濃度域の奥行き) を
算出した。ニゴロブナは春先にヨシ群落内で孵化したのち秋頃までそこで生
育するが、その期間中はこの潜在的レフュージアが継続して存在していた。
その奥行きはオオクチバスが獲物を襲う時の距離とされる 0.5m よりも大き
く、実際にオオクチバスからのレフュージアとして機能するであろうと考え
られた。また、ヨシ群落奥部は無酸素に近い状態が長く続き、ニゴロブナで
も利用不可能な部分があることも明らかになった。
以上の知見を元に、現在行われているヨシ群落の保全・新規造成を介した
在来魚保護について考察する。
(NA)
— 240—
12:30-14:30
ポスター発表: 保全・管理
P3-134c
P3-135c
12:30-14:30
流域特性に基づく塩生湿地植物の分布域推定
◦
◦
12:30-14:30
船越 美穂1
1
1
徳島大学工学部, 2大成ロテック株式会社, 3兵庫県立人と自然の博物館
京都大学霊長類研究所
集約的な土地利用が成される河口域は,ハビタットの改変が最も大きい場所
の一つとなっていて,ハマサジやハママツナ等の汽水域に生育する植物は絶
滅の危機に瀕している.
本研究では,これら塩性湿地植物を生育させることが可能な流域であるかど
うかを,流域を特徴付けるいくつかのパラメータを用いて推定する.具体的
には,対象とするハマサジ,ハママツナが生育するためには,粒径 2∼50mm
程度の礫で覆われる砂州が河口付近に形成されることが必要であり,そのよ
うな礫砂州が形成されるかどうかは,山地域での土砂生産量と,土砂堆積領
域の広さから推定可能である,という仮説に基づき検討した.
まず,四国の 45 ダム流域について,流域指標値とダム堆砂量との対応関係
を把握し,山地域での土砂生産量を推定するための回帰式を得た.最終的に
有効となった流域指標は土砂侵食の指標値 (SPI: Stream Power Index) と流域
内の火山岩分布面積であり,重回帰式の決定係数は 0.91 であった.徳島県・
香川県の 30 流域について,汽水域における礫砂州の有無を現地調査で確認
した上で,上記回帰式から求めた山地域土砂生産量と沖積平野面積を用いて
ロジスティック回帰を行ったところ,97%の精度で礫砂州の有無を予測するこ
とができた.
上述の 30 河川において,ハマサジ,ハママツナの生育の有無もあわせて調
査したところ,3.5km 以上の長い汽水域範囲を持つ河川か,大潮の際に 1.7m
以上の大きな潮位差を持つ河川の汽水域に礫砂州がある場合に限って生育が
認められた.
モデルの精度については,高知県・愛媛県の 21 流域について同様の予測を
行っており,今後それら流域の現地踏査を行い、その結果を用いて検証して
ゆく予定である.
中部山岳地帯、北アルプスの東斜面のある地域では、夏季に野生ニホンザ
ルによるカラマツ造林木剥皮被害が発生する。被害発生地域に生息する
野生ニホンザル 2 群を対象に、1999 年 3 月後半から 2000 年 3 月まで、
15 分間隔のスキャニング法を用いて直接観察を行い、採食種と採食部位
を記録した。2 群の記録数は、7817(浅川群) と 1621(黒沢群) であった。
観察は半月単位で行い、浅川群では、19 半月に関して各半月ごとに平均
391 (範囲 42-730) の記録を取った。記録数の多い浅川群の結果を記す。
5 月後半から 8 月前半までの各半月における形成層・樹皮の採食割合の平
均値は、アカマツ 4.9%、広葉樹 1.3%、カラマツ 1.0%、ヒノキ 0.3%で
あった。カラマツとアカマツでは採食様式が異なった。カラマツでは剥
いだ樹皮は採食せず、顔を横にして幹にかじりついていた。一方、アカ
マツでは、剥いた樹皮の裏側につく甘皮を指で剥がして採食した。採食
効率はアカマツの方がよいと考えられ、そのために、アカマツが多く選
択されたの可能性がある。
性齢別の採食記録数は、オトナオス (5 歳以上) 617、オトナメス (5 歳以
上) 2247、コドモ (1 歳から 4 歳) 3202、はっきり分類できないもの 1751
であった。5 月後半から 8 月前半までの各半月における木本形成層採食
割合の平均値は、オトナオス 19.9%、オトナメス 3.2%、コドモ 8.3%で
あり、オトナオスで高かった。種ごとに分析すると、オスで多かったの
は、アカマツだけであり、カラマツでは有意差が見られなかった。カラ
マツの採食様式では、自ら剥かなくても、既に剥かれた箇所を採食する
ことが可能であるためと考えられた。クリの種子の採食割合はコドモで
有意に少なかったことも考え合わせると、樹皮や形成層など採食に技術
を要する食物は、体の大きな個体で有利となり、選択性が高くなると考
えられた。
12:30-14:30
野生ニホンザルによる農地利用の変化-電気柵設置事業の成果と課題
◦
P3-134c
カラマツ剥皮被害を起こすのは誰か
小倉 洋平1, 山田 悟史2, 三橋 弘宗3, 鎌田 磨人1
P3-136c
8 月 28 日 (土) C 会場
鈴木 克哉1
1
北海道大学大学院文学研究科地域システム科学講座
本発表では、演者がこれまで関わってきた青森県下北半島の猿害問題を事
例に、被害を起こしている群れ(以下’ 加害群’ とする)の農地利用状況、お
よび現地での主要な対策法である電気柵設置事業の効果を生態学的に評価し、
現状の問題点と今後の課題について指摘する。
調査地である青森県下北郡佐井村では 1991 年ころから野生ニホンザル群
による農業被害問題が発生し、1994 年から県あるいは国の補助事業として電
気柵の設置を開始した。電気柵は被害が頻発する農地に優先的に設置され、
設置域は徐々に拡大された。本研究では主に 1999∼2001 年に加害群を追跡
して、GIS を用いた土地利用分析と直接観察(スキャンニング)による行動
分析を行った。その結果、群れの農地利用には季節的な変化があること、農
地依存が年々増していることが明らかになった。また 1999 年と 2001 年に
現地の主要な対策法である電気柵の効果について検討したところ、両年とも
電気柵で囲われた農地においては選択率が低く(約 20 %)、その効果が認
められた。
しかし一方で、観察期間の 1999 年から 2001 年の間に、群れは行動域を
南北に拡大させ、周辺の集落で被害を発生させるようになるという新たな問
題点が明らかになった。また行動域の拡大ばかりでなく、この 2 年間に農
地での滞在時間が約 1.4 倍に増加し、サルの人馴れの程度も進行した。さら
に、電気柵が設置してある農地においても電気柵内に侵入する個体が現れは
じめた。その侵入経路は電気柵に隣接している樹木や小屋づたいから,ある
いはネットと地面の隙間からである。次々と農地に電気柵を設置する一方で、
群れの行動域が広がった点、群れの農地依存度の増加と電気柵管理の不徹底
により被害防止効果が失われた点は、被害防除における広域・総合的さらに
は順応的な対策の必要性を示している。
— 241—
P3-137
ポスター発表: その他
P3-137
P3-138
12:30-14:30
レジャー活動と自然再生が釧路湿原の水鳥の生息環境に与える影響
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
オオジシギの渡りに関する報告
◦
浦 巧1
北海道大学大学院地球環境科学研究科, 2日本野鳥の会
北海道中標津高等学校
釧路湿原およびその周辺ではタンチョウ(Grus japonensis)をはじめとする
鳥類が、少なくとも 97 種繁殖していると考えられ、1000 頭のエゾシカ、キ
タキツネ、エゾリス、エゾシマリス、エゾユキウサギ、エゾモモンガなど多
くの鳥獣類が生息している。現在、釧路湿原ではレジャー活動として、釣り、
釣舟による釣り、カヌー、ラフティングボート、ウインドサーフィン、歩く
スキー、スノーモービル、山菜採り、写真愛好家による撮影、狩猟、四輪駆
動車・モトクロスバイク等の乗り入れなどが、釧路湿原東縁部に位置する釧
路川、塘路湖、シラルトロ湖、達古武湖およびキラコタン岬、宮島岬などを
中心として釧路湿原全域に広がっており、湿原内のラムサール条約登録湿地、
特別保護区、天然記念物指定地域内でも頻繁におこなわれている。
このようなレジャー活動は釧路湿原内での水鳥の営巣・渡り・越冬に大きな影
響を与えている。春から夏にかけての繁殖期には、マガモ(Anas platyrhynchos)
やヨシガモ(Anas falcate)など、水鳥の雄の動態に影響を与え、営巣地の移
動・放棄および破壊をもたらすこともある。また、春と秋の渡りでは、オオ
ハクチョウ(Cygnus cygnus)やヒシクイ (Anser fabalis) など多くの水鳥を飛
び立たたせ、渡りの中継地としての機能を著しく低下させている。冬期にお
いては国立公園内から多くの水鳥を移動させ、国立公園外で越冬する水鳥の
個体数の増加が著しい状態にある。この傾向は、冬季のラフティングツアー
および釣り人の増加により、まずます加速されつつある。
また、釧路川蛇行再生事業に関しては、代替地を作らずに復元工事をする
ことで、旧河道で繁殖している水鳥を含めた独自の生態系を破壊する可能性
とともに、カヌーポートの設置等、新たな観光開発がなされるのではないか
と危惧されるところである。
一方、釧路川右岸築堤にヤチハンノキの広がりを防ぐ実験のため人工的に
形成された沼では、わずか2年で多くの水鳥が繁殖するようになり、自然再
生の可能性を示唆するものとして注目されたが、実験終了により現在は存在
していない。
12:30-14:30
長枝と短枝の組み合わせは効率のよい受光体制をつくるか?
◦
浦 達也1, 葉山 政治2, 東 正剛1
1
1
P3-139
12:30-14:30
竹中 明夫1
1
国立環境研究所
林床に生育しているホオノキの若齢個体では,主軸から分枝した一次側枝の
伸長が年とともに鈍って短枝化するとともに,一次側枝から分枝する二次側
枝は発生当初から短枝的で毎年わずかずつしか伸びない.よく伸びる長枝と
あまり茎が伸びない短枝とをあわせ持つという現象はおおくの樹種で観察さ
れる.その意義としては,長枝だけを作るよりも,空間獲得のための長枝と
その場での光獲得を優先する短枝とを組み合わせることで,より少ない支持
器官で効率よく光を受ける樹冠ができるという仮説が考えられている.この
仮説を検証するため,ホオノキの成長のシミュレーションモデルを作成して
仮想実験をおこなった.
ホオノキの成長をそのままなぞる基本モデルに加えて,一次側枝の先端が短
枝化せずに伸長を続けるモデル(E1モデル),一次側枝も二次側枝も伸長
を続けるモデル(E1+2モデル)を作成した.短枝化が起こらないモデル
では,当然ながら,現実にあわせた基本モデルよりも葉面積,枝の総長,総
重量ともに大きかった.個体全体の枝の量と葉の量との関係を各モデルにつ
いて調べたところ,同じ量の枝が支持する葉の量は短枝が分化しないモデル
のほうが多かった.また,葉同志の相互被陰の程度にはモデル間でほとんど
差がなかった.これらの結果は,短枝化した枝を持つことで効率のよい受光
体制ができるという当初の仮説とは相反する.
枝が短枝化しないモデルでは,成長に必要な有機物を供給するために葉が高
い生産性を持つことが必要であった.つまり,枝が短枝化しないと個体全体と
しての受光効率(バイオマス当たりの受光量)は高まるが,そのような形作
りを支えるには十分な生産性が必要となる.枝の短枝化は,全部の枝を伸ば
し続けるほどの光合成生産が行えない場合に対応した,節約型の成長パター
ンだと言えそうである.
2001 年 7 月 13 日から 8 月 19 日、2003 年 7 月 4 日から 9 月 11 日
に北海道苫小牧勇払の弁天沼において、日本野鳥の会における勇払プロ
ジェクトの一環でオオジシギの標識調査を行ったのでそこから分かった
ことについて報告する。弁天沼は鳥類における道内でも有力な渡りの中
継地として考えられている。捕獲はカスミ網により、雨の日以外はなる
べく標識調査を行った。まず渡りのピークについてであるが、調査期間
内において 2001 年は 8 月 18 日頃、2003 年は 8 月 19 日頃が最も捕
獲個体数が多かった。短期間でオオジシギの標識調査を行うならお盆の
頃が最も効率がよい。以前演者らはオオジシギについて幼鳥、成鳥とも
雌で嘴が長いということを示した。シギ類などの水禽は嘴峰長が体サイ
ズの指標として用いられ、オオジシギの嘴峰長の雌雄差は雌で体サイズ
が大きいということを表していると考えられる。しかし地中に嘴を差し
込み採餌する鳥の嘴峰長に注目して考えると、この雌雄差は採餌場所に
おいて嘴を差し込む深度によって雌雄で餌の競合を避ける、逆に嘴峰長
が雌雄で同じ場合は時期の差によって餌の競合を避けるという戦略も考
えられる、との議論がある。そこで捕獲個体について性別を確かめ、性
比に時期毎(1ヶ月を 10 日毎に分けた)で差があるか検討したが、2001
年、2003 年とも渡りの性比で時期による差がなかった。また日別にみて
も日によって捕獲個体が雄のみ、雌のみということもなかった。このこ
とから嘴峰長によって雌雄で採餌の競合を避けるという考えを棄却でき
ない。次に、通過個体らの体サイズが日や時期を追うごとに増加するな
どの変化があるか調べたが、2001 年、2003 年ともで雌雄どちらも変化
がなかった。このことからオオジシギはある一定の体重や体サイズで弁
天沼を通過しているものと考えられる。今後はボディーコンディション
分析や本州の中継地などで同様のことを調べると通過個体の体サイズ等
についてさらに詳しく分かるだろう。
P3-140
12:30-14:30
丹波山地八丁平における過去 1 万年間の植生変遷と火の影響
◦
佐々木 尚子1, 高原 光2
1
京大院・農, 2京都府大院・農
火による撹乱は,10 - 100 年という短い時間スケールでも,1000 年と
いう長期的なスケールでみても,植生に影響を与える重要な要因である。
このような視点から,我々は近畿地方を中心に,火と植生の長期的な歴
史を明らかにしようとしている。今回は,丹波山地東部の八丁平におけ
る過去およそ 1 万年間の植生変遷と火の影響について検討した。
八丁平(標高 810 m)は京都市北端に位置する盆地で,標高約 900 m
の尾根に囲まれ,中心には面積約 5 ha の湿原が形成されている。現在の
植生は,クリ,ミズナラが優占する落葉広葉樹林で,スギ,ヒノキ,モ
ミ,アカマツなどの針葉樹が点在し,林床はチマキザサに被われている。
高原・竹岡(1986)が八丁平中央部でおこなった花粉分析の結果と対比
し,周辺斜面の植生をより局地的に復元するため,湿原北部の縁辺部で
堆積物を採取した。
花粉および炭化片分析の結果,U-Oki 火山灰の降灰(9300 yr BP)後か
ら K-Ah 火山灰降灰(6300 yr BP)までの 3000 年間には,多量の炭化
片およびイネ科花粉がヨモギ属花粉をともなって検出され,火事による
疎林化が示唆された。高木花粉では,コナラ亜属をはじめ,クマシデ属
やブナが高い出現率を示した。6300 年前から 1500 年前までの間は,ス
ギ,ヒノキ科などの温帯針葉樹,およびコナラ亜属やブナの花粉が優占
した。火事は 4000 年前以降,減少した。約 1500 年前からアカマツお
よびクリ,クマシデ属,カバノキ属の花粉が増加し,人間活動の影響に
より二次林化が進んだものと推察された。特にクリ花粉の増加は著しく,
これらは現在あるクリ林の発達を反映していると考えられる。
完新世初期には,琵琶湖沿岸域や丹波山地西部でも火事が多発してい
たことが確認されており,以上の結果は,氷期終了後の温暖化,また縄
文時代以降の人間活動との関連で重要である。広域に共通する現象であ
るのか,さらに検証していきたい。
— 242—
ポスター発表: その他
P3-141
P3-142
12:30-14:30
倒木上に成立したヒノキ実生の菌根形成状況:菌根菌は木に登るか?
◦
溝口 岳男1, 壁谷 大介1
森林総合研究所木曽試験地
倒木は、トウヒなどの一部の外生菌根形成針葉樹においては重要な更新サイ
トになっている。一方、一般的には露出鉱質土壌が更新立地と考えられるこ
とが多いヒノキだが、木曽周辺では多数の実生が倒木上に発生、発達してい
るのを見ることができる。倒木は光の確保、病原菌の忌避、安定した水分環境
などの点で実生成立に有利な特性を持つ反面、栄養の供給という点では劣っ
ていると考えられる。そうした栄養面でのデメリットを実生が菌根化するこ
とで補うメカニズムが存在するかどうかを確かめるために、長野県三岳村の
ヒノキ造林地(国有林)内の倒木上に自然発生したヒノキ実生の菌根形成状
況を調査した。
倒木の斜面位置、樹種、腐朽度、コケによる被覆の有無、土壌・リターの堆
積の有無、母樹の根の定着の有無などのパラメータを調査した上で、倒木上
に発生している複数本の実生を採取し、その根をアルカリ処理後コットンブ
ルーで染色して根の菌根化率を測定した。また、リファレンスとして、倒木
周辺の土壌上に成立している実生も同様に採取し、根の菌根化率を調べた。
その結果、倒木の種類や状況とは関係なく、全ての実生の根にアーバスキュ
ラー菌根の形成が確認された。また、その形成状況は土壌上に発生している
実生となんら変わらなかった。腐朽度の低い倒木のわずかな更新空間におい
てさえ実生が菌根化していたことは驚きであり、今後は実生に菌根菌プロパ
ギュールをもたらすベクターを解明する必要がある。
12:30-14:30
べき乗変換・対数変換と重回帰・分散分析
◦
粕谷 英一1
1
九州大学理学部生物学教室
変数そのものでなくその適当な関数を使ってデータを解析をすること
はこれまで広く行われてきた。変数変換の中でも、角度変換(アークサ
イン平方根変換)などとならんでよく使われてきたのがべき乗変換や対
数変換である。べき乗変換の例としては平方根変換などがあり、対数変
換もべき乗変換の系列の中に位置付けられてきた。変数変換により、も
とのデータの平均値を変換したものと変換後の平均値が異なる、交互作
用項が実質的に変化する、変数単独の効果(例、偏回帰係数)が他の変
数に依存する、などの不都合で不適切な影響が人為的に生じる。変数変
換を用いた過去のデータ解析のかなりの部分は、重要な結論が導かれた
のであれば見直す必要がある。変数変換という操作の持つ問題点を認識
することは、変数間の決定論的な関係を分析に際して明確にすることの
重要性や誤差構造の重要性を浮かび上がらせ、生態学におけるデータ解
析の質の大幅な向上に役立つ。
P3-141
12:30-14:30
人と動物の動きは両者の遭遇頻度にどう影響するか–古典的問題の解と
ライントランセクト法への示唆
◦
1
P3-143
8 月 28 日 (土) C 会場
平川 浩文1
1
森林総合研究所・北海道支所
ライントランセクト法において動物の動きは二つの点で問題になる。一つは、
観察者との遭遇頻度への影響、もう一つは、発見距離や角度などへの影響で
ある。前者については、すでに 1950 年代に鳥類学者ら (Yapp 1956, Skellam
1958, Royama 1960)が問題とし解決を試みたが、現在まで明確な結果は得ら
れていない。
あるシンポジウムで、林道を通過する野生生物の自動撮影調査について発
表した時、私の示した動物撮影頻度は低すぎるとの指摘を受けた。林道を車
で走るともっと高い頻度で野生生物に出会うというのである。このことから
次の問題が提起された。確かに、(自動撮影装置のように)林道脇に静止し
ている観察者も、林道上を動いている観察者も動物に出会うが、どのような
要因がその頻度を決めるのか、その頻度は互いにどう関係するのか。
理論解析の結果、静止している観察者と動きの速い観察者の遭遇頻度は、
林道上の動物活動のまったく異なった側面で決まることがわかった。前者は
移動距離、後者は滞在時間である。これは、前者が動物の交通量(フロー)
を、後者は密度(ストック)を見ていることを意味する。ここで「動きの速
い観察者」とは、対象動物のいずれより速い速度で動く者と定義される。林
道上の動物の平均速度がわかれば、二つの頻度は換算可能である。
このことは、ライントランセクト法で動物密度を推定するためには、観察
者は対象動物のいずれより速い速度で動く必要があることを意味する。この
結果はまた、密度調査の新手法(「ライン交差法」と呼ぶ)の理論的基礎を
与えた。(動物生息地に配置された)線分上の単位距離・単位時間あたりの
動物交差数を、動物の動きの一次元成分の平均速度で割ると、密度が推定で
きる。動物の密度推定のためには、動きの速い観察者によるライントランセ
クト法か、静止している観察者によるライン交差法かを選ぶ必要がある。
P3-144
12:30-14:30
河川域に生育するニレ科樹木の比較生態学的研究
◦
比嘉 基紀1, 石川 愼吾1, 三宅 尚1
1
高知大学・院・理
徳島県吉野川や高知県物部川では、1980 年代以降河床の複断面化が進
行し、洪水による破壊作用の弱い安定した立地が増加した。この高燥な
砂礫堆でアキニレの侵入・定着および群落の拡大が確認されている。ア
キニレは、西日本の河川域においてムクノキ,エノキとともに樹林を形
成するが、砂礫堆上でムクノキ,エノキの侵入・定着はみられない。そ
こで本研究では、アキニレのみが分布拡大する原因を明らかにすること
を目的に、3種の侵入・定着に関わる生態学的特性の解明を試みた。
発芽実験を異なる保存条件と保存期間で処理した種子を用い段階温度
法によって行った。その結果、アキニレとムクノキの種子は特別な休眠
性を持たず乾燥保存後の発芽が可能であった。エノキは2種に比べて発
芽率が低く、乾燥保存で休眠が誘導され、低温湿潤保存と野外土中保存
で休眠が解除された。
アキニレ実生の成長実験を、異なる土壌粒径(粗砂・細砂),光条
件(相対光量子密度 100%・30%・5%),水分条件(雨水のみ・地下水
位-11cm・-1cm)で行った。その結果、同一の水分条件下では土壌粒径,
光条件の違いによる実生伸長量の差は認められなかった。同一の光条件
下では、乾燥するほど良好な成長を示し、雨水のみで最大であった。側
枝数は乾燥するにつれて増加し、生存率は粗砂よりも細砂で高く、乾燥
するにつれて低下した。
以上の結果よりアキニレとムクノキの種子は、高燥な砂礫堆上での発
芽が可能であるが、エノキは草本群落下などの湿潤な場所へ散布されな
い限り発芽しないと推測された。アキニレ実生は、乾燥条件下での生存
率が低いものの、生残した個体の成長は良好で、砂礫堆のような高燥な
立地で多数の側枝を伸長させて確実に定着すると考えられた。高燥な砂
礫堆でムクノキの侵入があまり見られないのは、実生の成長に関わる環
境要求性が関係すると推察された。
— 243—
P3-145
ポスター発表: その他
P3-145
P3-146
12:30-14:30
フィリピンにおけるマングローブの滞水時間と塩分濃度の分布について
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
◦
豊田 貴樹1,2, 宮崎 宣光2, 加藤 和久2, 遠宮 広喜3, ペドロ オリガバラガス4
今西 純一1, 橋本 啓史2, 萩原 篤2, 森本 幸裕1, 北田 勝紀3
1
京都大学大学院地球環境学堂, 2京都大学大学院農学研究科, 3中日本航空株式会社
1
東京農工大学, 2海外林業コンサルタンツ教会, 3日本林業技術協会, 4ケソンエコシステム研究開発セ
ンター
本研究は,フィリピンの 3 地域において,塩分濃度と滞水状況に着目し,マン
グローブの分布域を,Duke(1992)が示した潮間帯の高・中・低の 3 潮位帯と
河川の上・中・下の 3 流域の9つの立地環境パターンに区分し,そこに出現し
たマングローブ樹種の生育環境への適応について把握することを目的とした。
これらの適応性を明らかにすることで、養殖放棄池におけるマングローブ再生
技術の確立を目指す。
調査は,1998 年6月 ∼ 8月にかけて,フィリピンのルソン島アパリ地域,中
部地域,太平洋側のラモン地域およびパラワン島のウルガン地域で計 51 プロッ
トを設置した。
調査結果、1つのパターンにのみ出現したのは7樹種で, Barringtonia racemosa(Br)
と Ceriops decandra(Cd) は高潮位帯–中流域, Thespesia populnea(Tp) は高潮位
帯–上流域,Aegiceras floridum(Af) と Osbornia octodonta(Oo) は中潮位帯–下流
域,Sonneratia caseolaris(Sc) は低潮位帯–上流域,Avicennia alba(Ava) は低潮位
帯–下流域に出現した。複数のパターンにまたがって出現したのは 17 樹種で,
潮間帯に特徴を持つ樹種として Aegiceras corniculatum(Ac),Excoecaria agallocha(Ea),Heritiera littoralis(Hl),河川の位置に特徴を持つ樹種として Ceriops
tagal(Ct),Sonneratia alba(Sa),Scyphiphora hydrophyllacea(Sh),潮間帯と河川の
位置の双方に特徴を持つ樹種として Avicennia lanata(Al),Avicennia marina(Am),
Bruguiera cylindrica(Bc),Bruguiera gymnorrhiza(Bg),Bruguiera parviflora(Bp),
Bruguiera sexangula(Bs)Lumnitzera littorea(Ll),Rhizophora apiculata(Ra),Rhizophora mucronata(Rm),Xylocarpus granatum(Xg),特徴を持たず広範に分布す
る樹種として Avicennia officinalis(Ao) がそれぞれ挙げられた。
滞水時間と塩分濃度に対し適応範囲が比較的広い樹種は,Al,Ao,Xg,Ac,
Bs,Ct,Hl,Sh が,反対に適応範囲が比較的狭い樹種としては, Am,Bc,Bg,
Bp,Ll,Ra,Rm 等が挙げられた。
P3-147
福井 眞1, 嶋田 正和1
1
東京大学大学院 広域システム
細胞内共生説によると、真核生物のオルガネラであるミトコンドリアや葉緑
体は、その祖先である紅食細菌やシアノバクテリアが宿主細胞に共生したこ
とにより、原核生物から真核生物への進化や植物細胞の出現がもたらされた
とされている。これにより生物進化史において飛躍的な革新がおこった。多
細胞生物を例にとると、アブラムシにはブフネラが内部共生をして相利関係
を築いている一方で二次感染細菌 PASS が寄生している。その他、さまざま
な生物種の細胞内にボルバキアが感染していることが知られている。細胞内
共生は生物にとって普遍的な戦略の一つであるといえる。
細胞内共生の進化を解明する理論的な研究において、進化ゲームによるモデル
が提唱されている (Roughgarden 1975, Yamamura 1993, Matsuda and Shimada
1993)。しかしこれは宿主と寄生者の集団を想定し、寄生者は宿主に垂直感染
するとした場合、進化の帰結として共生関係を示す Nash 解が進化的に安定
であることを述べているに過ぎない。本当に共生関係に至るかは、個体同士
が相互作用する進化ダイナミクスを調べ、それが成立する条件を明らかにす
る必要性がある。さらに、共生関係に至ったとしても、これだけでは相利共
生を結ぶという結論までは得られない。
本研究では各個体の内部でそれぞれが維持している代謝に注目する。生物は
外界から食物を取り込み、代謝によってこれらを分解する。この過程で化学
エネルギーや生体材料取り出し、取り出されたエネルギーと材料で生体物質
を合成することで自己を維持、さらに次世代の生産をしている。この一連の
過程はウィルスを除いたすべての生物に普遍的なシステムであると考えられ
る。細胞内に他個体が侵入した際に化学エネルギーや生体材料を共有する個
体ベースモデルを構築し、両者の相互作用を通して寄生や相利共生関係が結
ばれる過程を解析する。
高密度航空レーザースキャナデータ(LS データ)は、数十 cm 四方に1点と
いう高い密度で上空から取得される3次元ポイント位置情報である。近年、LS
データから森林に関する有用な情報を抽出するための解析手法の開発が積極的
に進められている。本研究は、高密度 LS データから林分の葉面積指数(LAI)
を推定することを試みた。
対象地は、京都市左京区の下鴨神社糺の森(面積約 9 ha)である。常緑広葉
樹と落葉広葉樹の混在するこの社寺林において、落葉期にヘリコプターから高
密度 LS データを取得した。また、グラウンドトゥルースとして、曇天の日に
魚眼レンズにより半球画像を 116 箇所で撮影し、Gap Light Analyzer v2.0 によ
り LAI の推定を行った。LS データは、Terra Scan(TerraSolid 社)の地表ポイ
ント分類ツールにより、地表あるいは植生で反射したポイントに分類した。さ
らに、樹冠上部から下に向かって到達するパルス数が指数関数的に減少して行
く様子を、指数関数をあてはめることにより定量化した。
LAI は LS データから得られる次の変数から推定することとした。1)vf :
(ファーストパルス数+オンリーパル
植生ポイント数/総ポイント数、2)fof :
ス数)/総ポイント数、3)lf :反射強度> 85 のポイント数/(ファーストパ
ルス数+オンリーパルス数)、4)c1:ファーストパルスにあてはめた指数関数
の係数、5)c2:セカンドパルスにあてはめた指数関数の係数。
半球画像より推定した LAI を従属変数とする単直線回帰で最も推定力が高
かった変数は c2(切片なし)で、次いで vf (切片あり)であった。線形モデ
ルによる重回帰のうち、推定力が高く、式の意味を解釈できたものは、c1 と
c2、c1 と vf の組み合わせであった。しかし、単直線回帰との推定力の差は小
さかった。
P3-148
12:30-14:30
代謝カップリングによる細胞内共生の進化モデル:寄生か相利共生か?
◦
12:30-14:30
高密度航空レーザースキャナによる森林の野生生物生息地環境の計測
12:30-14:30
消雪時期が異なるキタダケソウの生育場所について
◦
名取 俊樹1
1
国立環境研究所 生物圏環境研究領域
キタダケソウは北岳(山梨県)の南東斜面のみに生育する遺存種・絶滅
危惧種であり、その生育地も生育地保護区に指定されている。生育地保
護区は景観により大きく、無被植地、ハイマツ生育地、風衝草原、高茎
草原とに分けられる。そのなかで、キタダケソウは風衝草原のみに生育
している。風衝草原は主に尾根近くに成立するものの、わずかであるが、
春遅くまで残る雪渓付近にも成立している。尾根近くの消雪時期につい
ては以前の生態学会で報告した。本報告では、春遅くまで残る雪渓付近
に成立する風衝草原の消雪時期、さらに、消雪日での日平均気温及び相
対的積雪深について報告する。
方法 消雪日を推定するため、高茎草原、風衝草原に温度計を 2002 年秋
∼2003 年春の間設置した。また、気温を測るために北岳山荘脇の百葉箱
内にも設置した。消雪日からおおよその積雪深を推定するため、気温日
数法(degree-day method)を応用することとし、そのために必要なパラ
メータである融雪が始まる日平均気温と気温日融雪率を、北岳に比較的
近く長期間のデータが蓄積されている富士山頂の気象データから求めた。
結果及び考察 風衝草原で得られた消雪日は 4/20∼6/6 であり、高茎草原
では 5/16∼6/27 であり、概して、風衝草原の方が早かった。しかし、雪
渓付近に成立している風衝草原で得られた値は、高茎草原で得られた値
と重なっていた。また、消雪日での日平均気温は、風衝草原では-2.7∼5.0
℃であり、高茎草原では 1.7∼7.8 ℃であり、概して、風衝草原の方が低
くかった。また、雪渓付近に成立している風衝草原で得られた値は高茎
草原で得られた値と重なっていた。これらの結果、同じ風衝草原であっ
ても、雪渓付近に成立している風衝草原では雪環境や温度環境が高茎草
原と似ていることが分かった。
— 244—
ポスター発表: その他
P3-149
12:30-14:30
都市草本植物相における大陸-島モデルの適用可能性
◦
12:30-14:30
千葉 将敏1, ◦ 田頭 直樹1, 奥田 敏統2, 沼田 真也2, 吉田 圭一郎2, 西村 千2
1
京都大・農, 2きしわだ自然資料館, 3京都大・地球環境
都市における孤立した生物の生息場所は海洋島に例えられ、MacArthur &
Wilson(1967)の島の生物地理学が適用されることが多い。京都市内に
おいても、木本植物、シダ植物にこの理論が適用され、種数と面積・孤
立度との関係が明らかにされている。しかし、種数に影響を及ぼす要因
は生物分類群によって異なることが知られている。本研究では、京都市
内において種子植物草本(以下、草本植物)の種数に影響を及ぼす要因
について検討した。
京都市内の 15 箇所の孤立緑地において、2003 年 5 月から 2004 年 4 月
の間に各緑地 5 回ずつ、全域を歩き、出現種を記録した。各緑地の環境
要因として面積、山までの距離、孤立緑地までの最短距離、比高、形状
指数 SF、撹乱強度、周囲の緑被率を取り上げ、それぞれについて種数と
の偏相関係数を計算した。また緑地内を、自然のまま放置された林、鑑
賞を目的として植栽・管理された林、広場、水辺の 4 つの異質な環境に
区分した。敷地内にそれらの環境が 3 つ以上ある緑地と 2 つ以下の緑地
の 2 グループに分け、それぞれの種数-面積関係の傾きと切片を比較する
ため共分散分析を行った。
種数と緑地面積の対数との偏相関係数は有意で、強い正の相関があった
(rp =0.84、p < 0.01)。しかし、他の要因と有意な相関はなかった(p >
0.05)。緑地内の環境の数によって区分した、2 グループの種数-面積関係
の傾きには、有意な差がないが(p > 0.05)、切片には有意な差があり
(p < 0.01)、同じ緑地面積でも、異質な環境が多い緑地のほうが、種数
は多くなった。これらのことから、草本植物では、緑地面積や緑地内の
環境の多様性が種数に大きな影響を及ぼしていると考えられた。
12:30-14:30
ネパール、カトマンズ盆地南部における中期更新世頃の植生史
◦
P3-150
熱帯雨林の生態的機能を考慮した開発事業の便益評価:エコロジカル
サービスGISの概要
牧野 亜友美1, 村上 健太郎2, 今西 純一3, 森本 幸裕3
P3-151
P3-149
8 月 28 日 (土) C 会場
大井 信夫1, 酒井 哲弥2, 田端 英雄3
1
ONP研究所, 2島根大地球資源環境学料, 3岐阜県立森林文化アカデミー
ネパール、カトマンズ盆地南部 Bungamati には中期更新世頃の厚い湖成層が存
在する。湖成層は珪藻に富み、ヒシの果実、クンショウモ属が多産する層準もあ
る。また、微小炭を多く含む場合が多い。植生変遷と時代をあきらかにするた
めに、この湖成層の花粉分折を行なった。花粉群には大きく 4 つのタイプがみ
られる。Abies と Picea 花粉が多い寒冷気侯を示咳する花粉群と、Artemisia と
Chenopodiaceae/Amaranthaceae 花粉が多産する乾燥気候を示す花粉群、Alnus
花粉が多い湿地を示す花粉群、そして温暖気候を示す多くの花粉型が産出する
花粉群である。寒冷、温暖気候を示す花粉群は何回か優占期が見られ、中期更新
世頃の環境変動を示していると考えられる。温暖気候を示す花粉群に現在のカ
トマンズ盆地で優占する Castanopsis-Schima 群落を示す花粉群はない。最終氷
期以前である上部では Castanopsis/Lithocarpus 花粉が優占するが Schima 花粉
はほとんど産出しない。これは現在の Schima wallichiana は人間活動の影響で
多いと考えられることから現在に近い気候条件だったみなすことができる。そ
れより下位では Mallotus/Macaranga、Engelhartia が目立ち、下部では Grewia、
Malpighiaceae なども少量だが連続して産出する。このような花粉群はこれまで
記載されていない。したがって、詳細な時代の決定は今後の地質調査とカトマ
ンズ盆地内の他地点での花粉分析との対比などを待たなければならない。とく
に温暖期の花粉群は時代ごとに異なる特徴をもち、火山灰などの鍵層が少ない
地層の対比に有効であるとともにネパールの植生の成立過程を考える上でも重
要な資料となるだろう。
1
株式会社 建設技術研究所, 2独立行政法人 国立環境研究所
森林は、生物多様性保全、地球環境保全、水源涵養、物質生産、文化・リクリエー
ション的機能などの様々な公益機能を有するが、近年、乱開発やその他の要因に
よりそれら公益機能の正常な維持が課題となっている。
本研究では、森林での乱開発を防止するためには開発事業評価において森林の公益
機能の適正な評価が必須であると考え、森林の公益機能を評価項目とした新しい
開発事業評価手法の提案及び支援ツールの構築を目的とした。なお、本研究では、
地球規模での環境保全を考える上で大きな問題である熱帯雨林の保全に注目し、
その中でも特に問題となっているマレーシアの熱帯雨林におけるオイルパーム・
プランテーションの開発事業に着目した評価手法およびツールの開発を行った。
検討した開発事業評価手法は、開発事業による経済効果と熱帯雨林の消失による
環境の損失を便益評価手法により分析するものである。特徴としては次のとおり
である。
1.開発事業による経済効果は、開発事業の実施に係る経費(各種建設費等)と
開発事業による経済効果(プランテーション運営による利益)から把握する。
2.熱帯雨林の消失による環境の損失は、熱帯雨林の有する公益機能を与えられ
た環境特性から推定する数値モデルを構築し、公益機能の評価を貨幣価値として
把握する。なお、公益機能は、生態的な機能(エコロジカルサービス)とした。
3.開発事業を実施した場合と、実施しない場合(熱帯雨林として保全)の異な
るケース毎に評価し、その結果を比較分析することで事業評価を行う。
開発事業評価支援ツール(エコロジカルサービス GIS)は、検討した開発事業評
価を、PC 上で簡単な操作で実践できるシステムである。特徴は、わかり易いグラ
フィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)を通して、各種設定、入力、処
理が行え、評価結果を地図や図表で表示できることである。
今後の課題は、熱帯雨林の公益機能モデルの高度化ならびに支援ツールの改良で
ある。
P3-152
12:30-14:30
Complex life cycle を有する競争種の共存
◦
舞木 昭彦1, 西村 欣也1
1
北海道大学大学院水産科学研究科
生活史ステージの構成が、個体群動態に対し重要な意味を持つことは、多
くの理論的研究から理解されている。しかしながら、種間競争系に生活
史ステージを組み入れた個体群動態モデルでは、共存安定性の解析が困
難なため、そのような研究例は希である。本研究では、2つの生活史ス
テージを設けた極めて単純な2種間競争力学モデルを解析し共存安定条
件を調べた。< BR >生物の多くは、発生途上において餌や生息環境を
変える Complex life cycle を有する。本研究ではこのような生活史特性を
備えた近縁種間競争を想定し、以下の仮定を設けた。1)生活史ステー
ジは幼体、成体ステージから成る。2)ステージ内において種内・種間
競争が起こり得るが、ステージ間において競争は生じない。< BR >2
種の共存は2種の競争関係と、成熟率、繁殖率、成体の死亡率から成る
個体の活力を反映するパラメータセットの2つの兼ね合いで決まる。個
体の活力が高いことは、種が存続するために必要であるが、競争関係次
第ではそのことが系を不安定化させる。つまり、競争関係によっては種
が存続し易い条件が、かえって2種の共存を危ぶむ可能性があり、非常
に繊細な条件の下種の共存が保たれる。言い換えれば、共存状態は、生
活史形質の変化に敏感に反応しその些細な変化によって、容易に崩れる
可能性があることを示唆する。
— 245—
P3-153
ポスター発表: その他
P3-153
12:30-14:30
適応的フレームワーク (ダイナスキーム) によるモデルの表現と解釈
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
P3-154
安定同位体を用いたエゾヒグマの食性解析
◦
大場 真1, 平野 高司1, 高橋 英紀2
京都大学大学院農学研究科, 2北海道環境科学研究センター
北海道大学大学院 農学研究科, 2北海道大学大学院 地球環境科学研究科
シミュレーションモデルは複雑系の把握に欠かせない研究ツールであ
る。しかしモデルを異なったグループ間で利用したり,多数のモデルか
ら目的にかなったモデルを導出する際の方法論・システムが確立されて
いない。論者らはこの困難を解決する試みとして,微気象評価用の葉モ
デルを作成した際,工学で現在通常に使われるコンポーネントフレーム
ワークを適用した。このモデルにおける抽象化と部品化はある程度の成
果をもたらしたが,様々なモデルを柔軟に組み合わせ運用することは困
難であった。問題はモデルの実装という工学的な問題だけでなく,細分
化された学問分野における「孤立したモデル」の散在という問題も含ん
でいるからである。
論者らは,適応的なフレームワーク (ダイナスキーム) という,複数の
モデルにおけるそれらの接合・競合・改良の場の概念的枠組みを提案す
る。また現在,この実装系 (ラグーン) を開発中である。これは固定的な
視点からモデルを捉えるのではなく,利用者の視点に応じたモデルの多
様な解釈を支援する。また,ラグーン内のモデルは,遺伝的プログラミ
ングなどの技術を利用して変化することが可能で,かつ複数のモデルが
試行錯誤的に結びつくことで,現象の記述・予測に適した新しいモデル
を生成が可能となることを目指している。この枠組みは,不確定性の大
きい生物や環境に関するモデリングに多くの利点があると考えている。
12:30-14:30
森林域と非森林域における表層堆積物中の花粉スペクトル
◦
成田 亮1, 間野 勉2, 高柳 敦1
1
1
P3-155
12:30-14:30
守田 益宗1
1
岡山理科大学
最終氷期最盛期の北海道中から北部の植生については,ツンドラあるい
は森林ツンドラの存否が古くから論議されている。その解明には,森林
が未発達な地域における花粉化石群の特徴を明らかにしておくことが不
可欠である。北海道内陸の山地にあって針葉樹林でかこまれた上川浮島
湿原の 10 地点,根室半島基部に有りアカエゾマツ林に囲まれた落石湿原
の 29 地点,根室半島から約 3km 離れた森林植被のないユルリ島の湿原
の 20 地点から得られたミズゴケの moss polster 中の現生花粉スペクト
ルと周囲の植生との比較からそれぞれの花粉の散布源を推定した。その
結果,ユルリ島では島外から飛来した花粉は平均 34.8%であったが,こ
のうち平均9割を高木花粉が占めた。高木花粉のうち道南部以遠からの
飛来花粉は平均2割を占め,その大部分は Pinus subgen. Diploxylon と
Cryptomeria であった。落石湿原でも道南部以遠からの飛来花粉の割合
は,ユルリ島と同様の傾向を示すが,浮島湿原では多くても高木花粉の
3%程度である。高木花粉の占める割合の平均は,ユルリ島が 31.3%,落
石湿原が 41.6%,浮島湿原が 77.8%でり,周囲の森林規模が大きいほど
高率であった。浮島湿原では Betula が高木花粉の平均 68.5%を占め,山
地帯以下に大規模に拡がる二次林からの飛来花粉が極めて多いことが推
定される。
エゾシカの増加に伴うヒグマの食性の変化を検証することと、ヒグ
マの個体間での動物やトウモロコシなどへの依存度の違いを調べること
を目的として、安定同位体を用いての食性解析を始めた。エゾシカが多
い道東と、エゾシカの少ない道南の双方の地域で 2003 年 7-10 月に捕獲
されたヒグマについて、合計 36 個体の肝臓の炭素と窒素の安定同位体
比を計測した。
まず、道南と比較して、道東の試料では窒素の同位体比が高い傾向
が見られ、これらの地域間で栄養段階に違いがある可能性が示唆された。
この要因として、道東地域ではヒグマがより多くのエゾシカを利用して
いることが考えられる。しかし、このことを検証するためには、今後シ
カやその他の餌の同位体比を調べ、ヒグマの窒素同位体比に寄与する要
因について検討する必要がある。
次に、道南と比較して、道東の試料では同位体比に個体間で大きな
バラツキが見られた。どちらの地域でもトウモロコシ被害が報告されて
いるので、炭素同位体比が高い個体はトウモロコシを利用した個体であ
る可能性がある。また、炭素同位体比と窒素同位体比が共に高い個体は
動物性の餌(特に海洋性の動物)を多く利用した個体である可能性があ
る。分析数が少ないため、地域間のバラツキの違いが、地域間の採餌環
境の違いによるのか、分析数の違いによるのかについては現段階では判
断出来ない。今後個体間での食性の違いを吟味するには、分析数を増や
すとともに、各個体の捕獲場所や季節に関する情報と併せて解析してゆ
く必要がある。
P3-156
12:30-14:30
温暖化が及ぼすカジカ大卵型個体群の増大と崩壊のプロセス
◦
東 信行1, 五十嵐 勇気1
1
弘前大・農学生命科学
河川生息場の温暖化は地球温暖化とともに,河川改修による平坦化や河畔林
の伐採,取水による減水など,様々な要因によって引き起こされている.こ
のような河川水温の上昇は,その条件によっては河道内の生物生産を高める
一方,冷水性魚類などにとっては流程生息可能面積が縮小されることが想定
される.本研究では,定住性の高い冷水性魚類であるカジカ大卵型 (Cottus
pollux) を対象に,生息場の物理・化学的環境と季節的な成長速度,生息密度
を調べ,特に水温の上昇がカジカの成長,生息密度,流程分布等にどのよう
な影響を与えているかについて注目した.底質・水深・流速などのマイクロ
ハビタットに関する選好性を補正し検討した結果,生息場の水温が高いほど
成長速度,生息密度は上昇の傾向が認められた.しかしながら,個体群の消
失は突然顕在化し,成長速度が最も高くなる地点が高水温側の分布限界付近
となった.多くの魚種で,飼育下一定環境では,成長に関する最適温度が存
在し,温度がそれ以上上昇した場合には,緩やかに成長速度が減少すること
が知られている.しかしながら,野外の水温が変動する環境では,夏期の最
高水温が分布を規定し,平均的水温が成長の特性を規定することが示唆され
る結果となった.
青森県小河川の底生魚類個体群はこの 20 年間で,南方由来種,北方由来種
ともに生息密度の増加傾向が認められており (佐藤ら 本大会),水温上昇が
冷水性魚類の生産性においても正の影響を与えていることを示唆する現象が
認められている.しかしながら本研究の結果からは,冷水性魚類の場合,過
度の水温上昇,特に夏期の最高水温の上昇が,突然の個体群消失を引き起こ
す可能性も示唆される結果となった.
— 246—
ポスター発表: その他
P3-157
P3-158
12:30-14:30
広島市デルタ地区の街区公園の植生構造
◦
◦
佐藤 一憲1
1
1
静岡大学
広島大・院・国際協力
姓の分布についてのランク-サイズ関係やサイズ-頻度関係がパワー則に
従うことが経験的に知られているが,姓のダイナミクス (同じ姓をもつ
人口の時間的変化) によって生じる姓に関する様々な現象に対して,特
に近年,数理生態学的に解析する方法(確率モデル)がよく研究されて
いる(佐藤・瀬野, 2003).このような確率モデルのひとつとして,Reed
& Hughes (2003, 2003) は,様々な学問分野で共通して見られるパワー則
が生じる様々な現象のメカニズムの可能性をひとつのモデルとして考案
した.たとえば,生態学的な現象としては,姓や属が“ 誕生してからの
年齢 ”を考慮に入れて,各々の姓あるいは属の中に含まれている人口や
種数のダイナミクスが分枝過程や出生死滅過程にしたがう場合について,
ランク-サイズ関係やサイズ-頻度関係が漸近的にどのような挙動を示すの
かということについての解析をおこなっている.ここでは,そのような
モデルに対して,密度効果に起因する集団サイズの有限性を導入するこ
とにより,上記の現象を含む生態学的ないくつかの現象で認められてい
るパワー則がうまく説明できるのか,また,ベキの値にはどのような影
響を与えるのか,などの問題について考察する.
近年身近に緑を求める声が高まっている。都市公園の中でも街区公園は
数が多く、身近な緑を構成する重要な緑地である。このため街区公園の
目標設置個数を定めている地方自治体は多いものの、一方でどのような
公園を設置すればよいか質的な配慮はほとんどの場合において成されて
いない。本研究では公園の質、ひいては都市の生物生息地としてのポテ
ンシャルを左右する重要な構成物である植生構造について類型化し、そ
の質的評価を行なうことを目的とした。
広島市で最も都市化の進んだデルタ地区内の街区公園2 1 4個におい
て、植物樹種や階層毎被度等の現地調査を行い、広島市公園台帳(200
2年度)から公園設置年度、面積等を調査した。階層毎の被度でクラス
ター分析(平方ユークリッド距離、Ward 法)を行なったところ、高木層
被度の高い公園(グループ1、52公園)と草本層被度の高い公園(グ
ループ3、33公園)、その中間の公園(グループ2、129公園)に分
類できた。これらのグループ間で、面積に差はなく、グループ1は他よ
りも樹木種数が多い傾向が見られた。またグループ1の設置年度は比較
的古く、グループ3は比較的最近設置された公園であった。この近年の
公園構造の変化に伴う樹木種数変化は、常緑樹・落葉樹、自生種・外来
種の全てで起こっており、とくに外来種の減少が特徴的であった。
P3-160
12:30-14:30
環境省全国水生生物調査のインターネット調査登録システムについて
◦
12:30-14:30
有限サイズが群集の示すパワー則に与える影響について
河野 万里子1, 長嶋 啓子1, 中越 信和1
P3-159
P3-157
8 月 28 日 (土) C 会場
◦
宮下 衛1
12:30-14:30
マウス内在性 A 型レトロウィルスの配列は動物界に散在する
岡田 あゆみ1, 岩村 幸雄1
1
1
茨城県立医療大学
国立環境研究所
カゲロウやトビケラ、サワガニなどの水の中に生息する水生生物の分布
を調べて、その水域の水質を判定する、環境省が行う「全国水生生物調
査」は、今年からインターネットを利用した調査支援システム「水生生
物調査支援情報システム」を用いて、参加登録、調査結果の入力・閲覧で
きるようになりました。1984 年から始まった「全国水生生物調査」は、
平成 12 年度から、国土交通省とともに指標種の種類、調査方法などを
統一して実施され、2002 年度は約 92,000 人、約 2,500 団体が参加して
調査が行われています。また、本システムの本格運用を機会に、調査の
手引きとして、指標種 30 種の水中写真を主体とした解説および水生生
物の各地の生生物の分布調査結果(指標種 30 種以外を含む)を示した
「水生生物調査の基礎知識」を公開しました。
背景と目的
近年、ヒト、マウス以外にも各種動物のゲノム情報が得られるようになって
きた。それに伴い、生物のゲノムには意味不明な塩基配列が多く含まれるこ
とが明らかになってきている。その一つがレトロトランスポゾンと呼ばれる
レトロウィルス塩基配列に類似した配列である。レトロトランスポゾン型配
列は、両端に繰り返し配列を持ち、ゲノム内で移動・複製してきたと考えら
れている。
レトロトランスポゾンの中でも IAP(Intracisternal A-particle)と呼ばれる配
列は、baculovirus には一般的に見られる一ユニットが数 kbp 程度の配列で
ある。逆転写酵素をコードし LTR(long terminal redundancy)を持つことが
IAP の特徴である。この配列はウィルス以外には、ネズミ類に一般的である
ことが確認されている(J. Virol. 1982)。
最近までネズミ類以外の動物種には IAP 配列はないと考えられていたが、近
年の研究結果から、IAP がより広い範囲の動物種でも見られる可能性が示唆
されている。そこで本研究では、IAP(or IAP-like)配列をさまざまなカテゴ
リーの動物種について PCR 法で検索し、どの動物種で IAP が見られるのか
を確認するとともに、系統関係と比較することを目的に研究を行った。
方法と結果
報告されているマウス IAP 配列を元にデザインしたプライマーで、ヒト、ウ
シ、マウス、アフリカツメガエルの培養細胞系列、フィラリア(袋形動物)、
マンソン住血吸虫(扁形動物)、貝類などの IAP 配列の断片(約 170bp)を
増幅した。ほとんどのサンプルでは PCR product が検出された。
今後はその配列を確認し、配列の比較検討を行う予定である。
— 247—
P3-161
ポスター発表: その他
P3-161
P3-162
12:30-14:30
植物–土壌系から見た里山林の再生
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
早池峰山小田越周辺における約 5000 年間の植生変遷
◦
小林 達明1, 松浦 光明1, 東 季実子1, 高橋 輝昌1
池田 重人1
1
1
森林総合研究所
千葉大学園芸学部
北上山地における亜高山帯針葉樹林の変遷過程を明らかにするために、早
池峰山小田越で採取した土壌試料の花粉分析をおこなった。奥羽山脈につ
いては、守田らの花粉分析の研究などによって、約 1000 年前以降アオ
モリトドマツが急速に拡大してきたことが明らかになっているが、北上
山地における古生態学の研究は限られたものしかなく、情報がきわめて
少ない。このため、北上山地で唯一の発達した亜高山帯針葉樹林がみら
れる早池峰山で調査をおこなった。小田越は早池峰山と薬師岳の間の鞍
部で、標高は約 1240 mである。周辺はアオモリトドマツとコメツガか
らなる亜高山帯針葉樹林が広がっており、小田越はほぼその中央に位置
しいる。小田越付近のアオモリトドマツが優占する森林において、平坦
な地点を選んで土壌断面を掘り柱状の試料を採取した。試料は実験室で
1-2cm ごとに切り、花粉分析をおこなった。土壌断面を観察した結果、表
層から約 30cm までが腐植に富む黒色のA層で、深さ約 12cm のところ
に AD915 年に噴出した十和田aテフラが 1cm 前後の厚さで挟まれてい
た。また、A層の下部には約 5500 年前に噴出した十和田中掫テフラ層が
約 8cm の厚さでみられ、これら2つのテフラ層を時間の指標として用い
た。さらに下部は暗褐色粘土質の層となり、花崗岩礫に富んだ腐植をほ
とんど含まないBC層、C層に続いていた。A層の土壌試料について花
粉分析をおこなった結果、表層を除いてモミ属、ツガ属の出現率は小さ
く、小田越周辺で現在見られるような亜高山帯針葉樹林が成立したのは
1000 年間以降であると推察した。ツガ属は最表層でも出現率が小さかっ
たため、コメツガが優勢な森林付近の調査が今後必要と考えられた。
萌芽更新伐採施業・下刈り管理が試験的に行われている狭山丘陵の二次
林において、広範囲に植生・土壌調査を行い、下層植物のハビタット評
価を行った。TWINSPAN によって分類したところ、7つの下層植生型に
分類できた。まず管理条件によって放置区・下刈り区と上層木伐採区に
分類された。それぞれのカテゴリーはさらに谷頭凹地かその他の微地形
かによって分類された。谷頭凹地ではアズマネザサの被度が高く、その
伐採区では、ベニバナボロギク、ダンドボロギクといった外来種が目立っ
た。アズマネザサの現存量と土壌・地形要因の関係について調べたとこ
ろ、土壌 pH が高く、斜面下部の平坦な地形でよく繁茂していた。また
上層がアカマツの場合、ササ群落の発達は抑制される傾向にあった。
狭山丘陵は従来、里山管理のもとで、A 層の発達が抑制された褐色森林
土によって主に覆われていたと考えられる。その条件下でヤマツツジ・
チゴユリ・コアジアイ・トウギボウシ・キッコウハグマ・ヤマユリ・ササ
バギンランなどに特徴づけられる林床植生が発達していた。里山管理停
止後、上層の樹木が成長し、下層への到達光量が低下している。また谷
頭凹地を中心に、土壌 pH の上昇が進んでおり、それらの区域を中心に
アズマネザサ群落の発達が進行している。近年、アカマツの立ち枯れが
急速に進行し、その傾向に拍車をかけているようである。
下刈りや更新伐採は下層植物種数の増加をもたらした。しかし黒ボク土
が発達した立地では、ササや外来植物の繁茂が促された。里山の植生を
維持するには、光条件の管理とともに、林床・土壌条件の管理が重要と考
えられる。また狭山丘陵では、アカマツとアズマネザサが生態系のキー
スピシーズとなっており、前者は褐色森林土とその植生の維持を、後者
は黒ボク土とその植生への変化を促していると考えられる。
P3-163
P3-164c
12:30-14:30
コマルハナバチの採餌個体と食物資源の空間分布の動態調査
◦
12:30-14:30
12:30-14:30
地理的プロファイルを用いたマルハナバチのコロニー位置推定法
◦
川口 利奈1, 星野 弥弥2, Munidasa Dulee1, 小久保 望3, 鈴木 ゆかり1, 徳永 幸彦4
鈴木 ゆかり1, 川口 利奈1, 徳永 ゆきひこ1
1
1
筑波大学 生命環境科学研究科, 2筑波大学 環境科学研究科, 3筑波大学 生物学類, 4筑波大学 生命共存
筑波大学生命環境科学研究科生命共存科学専攻
茨城県笠間市、および筑波山神社周辺の野外調査地において、コマルハ
ナバチの採餌個体の空間分布とその食物資源の空間分布、およびこれら
の動態について調査を行った。
餌場の評価方法としては、移動平均法(Nakamura and Toquenaga 2002)
で採用されているような、採餌個体にとっての花資源量の単純な空間分
布ではなく、実際に採餌個体が採餌したかどうかという事実、あるいは
花の蜜量や採餌個体のハンドリングタイムといった、花資源の質の空間
分布に着目した。
2004 年の 4 月から 6 月にかけて、笠間市でのべ 1150 個体以上、およ
び筑波山神社周辺でのべ 150 個体以上のコマルハナバチの採餌個体(女
王およびワーカー)の空間分布と、採餌場所となる花資源の空間分布お
よび質の評価を行った。また、調査の過程で、笠間市では 3 つ、筑波山
神社周辺では 6 つ、コマルハナバチのコロニーが発見された。
本発表では、採餌個体および花資源の分布動態をもとに、地理的プロファ
イリングを応用したアルゴリズムによって、コマルハナバチのコロニー設
営候補地を推定し、実際に発見されたコロニーの位置と比較検討を行う。
マルハナバチのコロニーの位置の推定をする方法論を確立することを目指し
ている。マルハナバチは保全生態学、行動生態学や個体群生態学など広い分
野で、非常に興味深い研究対象である。保全のため、また研究のために、マ
ルハナバチの野外のコロニーの発見は必要不可欠である。しかし、マルハナ
バチの野外のコロニーの発見は困難で長時間を要する。
著者が所属する研究室では、かつて「移動平均法」によりマルハナバチのコ
ロニーの位置を推定した。コロニーの候補地点で、その地点からマルハナバ
チの採餌範囲内の花の量(被度)の平均をとり、平均が高い地点がコロニー
の存在確率が高いと考えた。しかし前回の推定の枠組みでは、コロニーの候
補地点の評価値が花の量であり、花の量は調査者が主観的に決定したため、
正確性・再現性に乏しい推定にならざるをえなかった。また、移動平均法で
は、マルハナバチの採餌範囲は花の量にかかわらず、どの地点でも一定と仮
定しなくてはならなかった。そのため、採餌範囲の設定によって結果が大き
く変わってしまった。
そこで、今回は餌場の評価を花の量ではなく、花の質(真のエネルギー摂取
効率)によって客観的に評価し、正確性・再現性の高い推定法を目指す。ま
た、今回の枠組みでは、採餌範囲が花の質によって決定される。この考え方
は、地理犯罪学の行動パターン分析を参考にしている。
発表では、このモデルのプロトタイプを使って、餌場の分布と花の質をもと
に、マルハナバチのコロニーの位置を推定する。
— 248—
ポスター発表: その他
P3-165c
P3-166c
12:30-14:30
オルガネラ DNA 変異に基づいたイヌブナ (Fagus japonica) の系統地理
学的構造
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
中村 琢磨1
1
1
京都府大院・農
名古屋大学大学院
イヌブナ (Fagus japonica) はブナ属に属する日本固有種で、主に太平洋
側に分布する。同属のブナは主に日本海側に分布し、これら 2 種の分布
変遷は花粉分析により推定されている。
ブナではアロザイムや、ミトコンドリア DNA、葉緑体 DNA を遺伝マー
カーとして解析が行われ、分布域全体の遺伝的構造が明らかになってお
り、その結果は分布変遷と関連があると推測された。一方、イヌブナで
は現段階で遺伝マーカーにオルガネラ DNA(ミトコンドリア DNA 及び
葉緑体 DNA) を用い、分布域全体の集団を対象とした研究は行われてい
ない。そこで、本研究では、イヌブナ分布域全体の 22 集団を対象に、オ
ルガネラ DNA を用いて遺伝的解析を行った。
ミトコンドリア DNA をマーカーとして RFLP 法を用いて解析したと
ころ、22 集団に 13 種類のハプロタイプが見られた。これらのハプロタ
イプは、有意にその分布地域が偏っており、ほとんどの集団では 1 種類
のハプロタイプで固定していて、集団内に変異が見られたのはわずかに
2 集団のみであった。これらのハプロタイプの構造は、最終氷期以降の
分布変遷に由来すると考えられ、ブナと同様の系統地理学構造が存在す
ることが示された。
P3-167c
花粉分析法において,より正確な植生復元を行うには,花粉組成と植生の
関係を明らかにしておくことが重要である。特に,日本のような山岳地域で
は,亜高山帯域において,低標高地から飛来する花粉によって花粉組成が影
響を受け,誤った推定結果を示す傾向にあることが指摘されている (Takahara
et al., 2000)。
そこで本研究では,上記の問題を解決し,堆積盆の大きさによる花粉組成
の違いも含めて検討するため,八甲田山のブナ帯上部から亜高山帯において,
大きさの異なる湿原や閉鎖した林内において表層堆積物を採取し,さらに,
試料採取地点の周辺で植生調査を行った。植生と花粉組成の関係を検討する
際には,特に,八甲田山の代表的な植生帯(ハイマツ群落,オオシラビソ林,
ブナ林)に由来する花粉粒数の比に着目して解析した。ここでは,後述のよ
うに Pinus, Abies, Fagus 花粉の比を用いた。結果は以下の通りである。
林内表層試料では,ハイマツ群落で Pinus 花粉が 40-50%,オオシラビ
ソ林では低率ながら Abies 花粉が 5-14%,また,ブナ林では Fagus 花粉が
60%以上検出され,各林分の森林型に特徴的な花粉組成が認められた。一方,
湿原表層試料では,亜高山帯とブナ帯における花粉組成は類似し,両者の花
粉組成の違いを特徴づけるのは,Abies 花粉出現率だけであった。
各試料採取地点の周辺植生については,Abies/Fagus 比を用いると,ブナ
林とオオシラビソ林を判別できたが,ハイマツ群落とオオシラビソ林は判別
できなかった。しかし Pinus/Abies 比を用いることで,ハイマツ群落とオオ
シラビソ林を判別することができた。以上のように,八甲田山において,表
層堆積物中の花粉のうち Abies/Fagus, Pinus/Abies 比を用いることで,周辺
植生をハイマツ群落,オオシラビソ林,ブナ林に判別することができた。
P3-168c
12:30-14:30
NOAA データによる熱帯乾燥季節林の落葉フェノロジーの推定
◦
12:30-14:30
八甲田山のブナ帯から亜高山帯における湿原および林内表層堆積物の
花粉組成と周辺植生の関係
◦
山中 香1, 戸丸 信弘1
P3-165c
伊藤 江利子1, 神崎 護2, Khorn Saret3, Det Seila3, Pith Phearak3, Lim Sopheap3, Pol
Sopheavuth3
1
森林総研, 2京都大学農学研究科, 3カンボジア森林野生生物研究局
森林の生産性に直接関わる森林の季節性は生態学的に重要な特性である。ア
ジアモンスーン気候帯に属するインドシナ半島南部には乾季・雨季が存在
し、植物の生育は顕著な季節変化を示す水分条件によって強く制限される。
このような地域の森林の季節性は温度が制限要因となる温帯とは異なる可
能性がある。本研究では、カンボジアの熱帯季節林地帯を対象として、衛
星リモートセンシング技術を用いて,正規化植生指数 (NDVI) の季節変化
パターンから、熱帯季節林の落葉フェノロジーを推定した。
現地植生情報として、カンボジア森林野生生物研究所が作成した植生図を
利用し、解析対象林分を決定した。解析対象としたのは、カンボジア国コ
ンポントム州の常緑林・落葉林、クラティエ州の落葉林、モンドルキリー
州の落葉林・山地常緑林である。
衛星リモートセンシングデータとして MAFFIN-SIDaB から配布された NOAA
AVHRR による雲取り処理を施した NDVI データを利用した。NDVI データ
は JST で提供されたソフトウェア「高頻度観測衛星データ処理プログラム
LMF3(植生指数・並列版) (http://act.jst.go.jp/FrameProductsCategory.html)
を使って LMF-KF 処理を行い、雲の影響を除去したものを用いた。データ
の観測頻度は約10日に1回、データの解像度は約 1.1km である。
NDVIは12月下旬から1月上旬の約10日間のあいだに急減し、広範
囲で一斉に落葉が起こることが示された。その後もNDVIの減少は続き、
NDVI が最小となる時期は1月下旬もしくは2月下旬であることが多かっ
た。NDVI が最小となる時期と森林の常落性のあいだには関係は認められ
ず、地域的な差異であることが示唆された。最小時の NDVI は落葉林で年
間最大値の 50-62%、常緑林で 70-80%まで減少した。
12:30-14:30
紅葉時期の地上高分解能リモートセンシング画像による林冠樹種多様
度の推定
◦
橋本 啓史1, 田端 敬三2, 今西 純一3, 森本 幸裕3
1
京都大学大学院農学研究科, 2大阪府立大学大学院農学生命科学研究科, 3京都大学大学院地球環境学堂
森林性鳥類などの野生動物の種多様性は,生息地の植物の種多様性にも影響を
受ける。本研究では,地上分解能 2.4m のマルチバンドのクイックバード衛星
画像からメッシュ内(例えば 30 m 四方)の林冠木の種数と種ごとの本数を推
定し,局所的な林冠樹種多様度を推定する方法を検討した。広葉樹を種のレベ
ルで区分するために,葉の色の差が最も大きくなる紅葉時期の画像で試した。
具体的な手順は,以下の通りである。林冠木の本数は平滑化フィルタ処理後の
正規化差分植生指数(NDVI)画像から局所最大値フィルタ法によって樹頂部
を抽出する。樹頂部から半径 3.6 m 内のピクセルにおける 4 バンド(バンド
和による正規化後の R, G, B, NIR)の DN 値の平均値または最大値または中央
値を用いて樹種分類の可能性を探った。画像全体の樹木を対象にクラスター分
析を行った場合は,紅葉の進み具合などが異なるために同じ樹種が同一クラス
ターになかなか集束しない。しかし,メッシュごとに樹種間の非類似度を見る
と,同一メッシュ内の同一樹種の非類似度は比較的小さい。したがって,メッ
シュ内の種を区分するのに最適な各メッシュで共通の非類似度を設定できれば,
狭いメッシュ内で,樹種名まで判らなくても,種数が推定できる可能性がある。
メッシュ内の種ごとの本数が推定できれば,局所的な種多様度や均等度も計算
でき,野生動物の生息環境評価に利用できる。広葉樹の大径木では局所最大値
フィルタ処理による樹頂部抽出の前に平滑化処理を行わないとひとつの樹冠か
ら複数の樹頂部が検出されてしまう問題があるが,逆に平滑化によって抽出さ
れる樹冠が非常に少なくなる問題も大きい。このことは,1 本の誤区分によっ
て大きく多様度が変わってしまう問題も引き起こす。樹種区分のための新たな
指数の追加に加え,樹冠抽出法や適当な分析メッシュ・サイズの再検討が必要
である。
— 249—
P3-169c
ポスター発表: その他
P3-169c
P3-170c
12:30-14:30
微化石からみた北大雨龍研究林泥川湿原におけるアカエゾマツ林の成
立過程
◦
河野 樹一郎1, 野村 敏江1, 佐々木 尚子2, 高原 光1, 柴田 英昭3, 植村 滋3, 北川 浩之4, 吉
岡 崇仁5
1
2
3
4
5
京都府大院・農, 京大院・農, 北大フィールド科学センター, 名大院・環境, 総合地球環境学研究所
北海道大学雨龍研究林内には、トドマツ、エゾマツ、ミズナラ、ハルニレなど
から構成される針広混交林が広がっている。その中で、泥川流域の湿原上には
アカエゾマツの優占する針葉樹林と、ヤチダモ、ハルニレなどからなる落葉広
葉樹林が、林床にササを伴いモザイク状に成立している。現在、これら泥川湿
原上に成立する森林群落がどのような過程を経て成立してきたのかを明らかに
するため、堆積物中の微化石を用いた古生態学的な手法による研究を進めてい
る。今回はその中で、湿原上に成立しているアカエゾマツ林の形成過程につい
て検討した結果を報告する。
アカエゾマツ林内の2地点において、それぞれ約 2.5m の泥炭堆積物を採取し
た。これらを用いて植物珪酸体分析、花粉分析、および放射性同位元素 (210 Pb)
による年代測定を行った。分析の結果、植物珪酸体および化石花粉の組成から、
I(深度 250 から 220cm)、II(深度 220 から 110cm)、III(深度 110 から
20cm)、IV(深度 20 から 0cm)の4つの層準を認めることができた。I:多量
のイネ科およびカヤツリグサ科花粉とともに、トウヒ属、カバノキ属花粉が高
率で出現した。II:トウヒ属花粉が出現しなくなり、カバノキ属花粉も減少し
た。一方で、コナラ亜属やトネリコ属花粉とヨシ属の植物珪酸体が増加し、こ
の時期のヨシ原の拡大が示唆された。III:トネリコ属花粉およびヨシ属の植物
珪酸体が減少するのと入れ替わり、ササに由来する植物珪酸体が増加すること
から、この時期にヨシ原からササ原への変化が推測された。IV:ササの植物珪
酸体が多量に出現し続け、その途中でトウヒ属花粉およびマツ科の植物珪酸体
が出現し始めた。このことから調査地では、ササ群落へアカエゾマツが侵入し
たものと考えられた。放射性同位元素 (210 Pb) に基づく年代測定によると、こ
の侵入年代は、少なくとも今より 100 年から 150 年前であった。
現在、放射性炭素を用いた堆積物全体の年代測定を進めており、今後、泥川湿
原上の植生変遷についてさらに詳細に解明することができる。
P3-171c
那須 浩郎1, 澤井 祐紀2
12:30-14:30
空間解析を用いたコバノミツバツツジの樹形の定量的評価
◦
吉村 謙一1, 石井 弘明1
1
神戸大学 自然科学研究科
樹木個体は、光環境に順化した樹形をとることが知られている。本研究で
は関西地方に広く生育するコバノミツバツツジ (Rhododendron reticulatum)
を用いて、当年枝の立体位置を測定することにより樹形を定量的に解析
し、樹形が光環境や個体サイズ、立地条件によってどのように規定され
るのか評価した。
試験地内から光環境やサイズの異なる個体を 10 個体選抜して、個体
の地際を原点とし、地際から東の方向を X 軸、北の方向を Y 軸、鉛直
方向を Z 軸とした三次元直交座標でそれぞれの個体について当年枝の位
置を全て測定した。各個体の当年枝の位置を平面回帰し、各当年枝のZ
座標と回帰平面の間の MSE(平均残差平方和) を計算した。ここで MSE
が小さな個体は単層的、MSE が大きな個体は複層的であるといえる。ま
た、樹幹の下部には樹冠部を形成しない細い 1 次枝が存在していたため、
これに由来する当年枝を除外したときの MSE も計算した。
コバノミツバツツジは光環境に応じて明るい環境では複層的、暗い環
境では単層的な樹形を取ることが分かった。また、光環境が明るくサイ
ズの大きな個体では樹幹の下部に存在する細い 1 次枝由来の当年枝の割
合が高かった。個体成長に伴い樹冠下部の 1 次枝が残存すると複層的な
樹形になり、これらが枯れ上がると単層的な樹形になると考えられる。
当年枝の位置の平面分布について空間解析を用いて評価したところ、当
年枝どうしクラスターをつくっていることが明らかになった。また、特
に複層的な樹形の個体においては集中分布が顕著であり、当年枝どうし
が相互庇陰していると考えられる。また、当年枝は樹冠内の開空度が高
く散乱光の多い方向に多く分布していた。しかし、斜面の傾斜が大きい
場所に生育する個体では当年枝の分布は開空度よりも斜面の方向に規定
されていた。
P3-172c
12:30-14:30
完新世海進期における北海道東部厚岸周辺の塩性湿地植物群落の分布
変遷
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
12:30-14:30
捕食リスクに応じた誘導防御形態の発現
◦
水田 勇気1, 西村 欣也1
1
北海道大学大学院水産科学研究科
1
国際日本文化研究センター, 2産業技術総合研究所 活断層研究センター
北海道東部厚岸湖の湖岸には、アッケシソウに代表される塩性湿地植物群落
が分布している。これまでの研究から、厚岸地域では過去約 3,000 年の間に
少なくとも 4 度の地震性相対的海水準変動があったことが明らかにされてお
り、同地域の塩性湿地植物群落はその変動の影響を大きく受けて今日に至っ
ていることが推定される。本研究では、厚岸地域の湿原地下堆積物の層序を
調べると同時に、堆積物中に含まれる植物遺体(珪藻、葉、果実、種子など)
を分析し、そこから完新世における塩性湿地植物群落の変遷過程を復元した。
大別川上流域では、約 2000 年前まではコアマモを主とする干潟環境が拡大
していたが、約 1200 年前からの相対的海水準の低下による急激な海岸線の
移動によって、ヒメウシオスゲが主体の塩性湿地環境へと変化した。その後、
比較的緩やかな相対的海水準の上昇があり、一時的にシバナ、ウミミドリか
らなる塩性湿地の先駆群落に変化する。しかしながら、約 600 年前になると
再び相対的海水準は低下し、ヨシ–エゾウキヤガラの湿地に移行した。その
後に起きた相対的海水準上昇により、ヨシ–エゾウキヤガラ湿地はヒメウシ
オスゲ主体の塩性湿地に変化するが、約 250 年前(西暦 1750 年)の火山灰
降下と急激な陸化の影響で現在分布するハンノキ湿地林が形成された。以上
のような大別川上流域の環境変遷に対してチライカリベツ川中流域では、約
600 年前まで干潟環境が継続しており、その後はヒメウシオスゲやアッケシ
ソウからなる塩性湿地環境が成立した。その後、大別川上流域と同様に、約
250 年前の火山灰降下と急激な陸化の影響によって、塩性湿地からアカエゾ
マツ林への急激な変化が起きた。
以上のように、海域に近い大別川上流域では相対的海水準変動に対する植生
の応答は敏感だったが、より内陸側にあるチライカリベツ川中流域の植生は比
較的大規模な相対的海水準変化のみに影響を受けていた。これは、チライカ
リベツ川中流域が、比較的早い段階で大別川上流域より相対的に高くなって
いたために海水準変動に対する影響の違いとして現れたものと考えられた。
生物が捕食の危険から身を守るためにもつ防御形質は、形態的なものか
ら行動的なものまで非常に多様であるが、その発現の程度はどのように
決まっているのだろうか? 一般に防御形質は、その発現の程度を増す
ほど捕食に対して効果的であると考えられる。しかし、防御の程度を増
すことで他の形質に利用可能な資源が減少するといったように、防御形
質の発現にトレードオフの関係があるならば、発現による利益と損失と
の兼ね合いにより、発現の程度は生物がさらされている捕食危険性に応
じたものになると考えられる。これより、環境中の捕食危険性が異なれ
ば、防御の程度も異なることが予測される。
本研究では、エゾアカガエル(Rana pirica)幼生が持つ誘導防御形態に
ついて、上記の仮説を検証した。エゾアカガエル幼生は、丸のみ型捕食
者であるエゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)幼生に対して特異的
に頭部を著しく膨満させる誘導防御形態(Bulgy morph)を示し、これに
よりサンショウウオ幼生からの被食を低減する。一方、サンショウウオ
幼生も同種やエゾアカガエル幼生が高密度で存在する環境では、口器サ
イズを拡大させる誘導捕食形態(Broad-headed morph)を示す。この形
態になることで、より大きなサイズの餌を利用可能になると考えられて
いる。本研究では、捕食危険性の要因としてサンショウウオ幼生の大き
さと、これらの個体数、さらにサンショウウオ幼生の表現型を取り上げ、
それぞれの要因の処理下でエゾアカガエル幼生を一定期間飼育し防御形
態の誘導反応を調べた。実験の結果、誘導される防御形態の程度は、捕
食危険性の増加に応じて増加することが示された。このようにエゾアカ
ガエル幼生は、危険回避にかけるコストを危険に見合った防御形質の発
現によって調節していると考えられる。
— 250—
ポスター発表: その他
P3-173c
12:30-14:30
落水後の水田に形成される小水域に生息する水生昆虫
◦
◦
1
大阪市立自然史博物館・外来研究員
稲刈りを終え,排水管理をしなくなった水田では,降雨や滲みだし水に
より,しばしば水溜まりや溝状の小水域が形成される.特に水はけの悪
い水田では,これらの小水域が水田一面に広がったり,数ヵ月間にわた
り存続したりすることがある.これらの水域には多くの水生昆虫が生息
している.農閑期の水田の水管理は,乾田を目指したり,湛水田を目指
したりと様々であるが,水はけの悪い水田(あるいは,水保ちの良い水
田)に自然にできる水溜まりは,水生昆虫の生存に,どのような役割を
果たしているだろうか.本講演では,落水期以降の水田に形成される小
水域に生息する水生昆虫に注目し,溜め池の水生昆虫との比較などを交
え,水生昆虫の生活史におけるこれら小水域の役割について考察する.
12:30-14:30
青森県における河川魚類の 20 年間の変遷とその要因について
◦
P3-174c
12:30-14:30
和歌山県田辺市におけるヒドロキシルラジカル発生水の長期暴露が梅
木の光合成能及び成長に及ぼす影響
西城 洋1
P3-175c
P3-173c
8 月 28 日 (土) C 会場
佐藤 孝司1, 佐原 雄二1, 東 信行1
1
弘前大学農学生命科学部
近年までの河川環境変化は河川改修や水質負荷などの人為的な物理的・
化学的撹乱を受け,河川魚類にも負のインパクトを与えてきた.しかし
ながら,現在では近自然型川作り等の河川環境に配慮した河川管理が行
われつつある.加えて温暖化等の気候変化も明らかとなっており,これ
らの環境変化が生物の分布や生息密度に影響を及ぼしているという例が
報告されてきている.そこで本研究では,過去約 20 年間の青森県の小
河川を取り巻く環境の変化が魚類の生息状況にどのような変化をもたら
したのかについて,1980–84 年に行われた調査と全く同様な日程・採捕
努力での調査を 2002 年,2004 年に行い比較を行った.本研究では,タ
モ網採集によって魚類相の把握が可能な小河川の河口付近が主たる調査
対象となっており,調査地点数は 39 箇所である.
2002 年に採集された魚類標本は 7 目 11 科 25 属 35 種 1393 個体,1980
年代は 7 目 11 科 24 属 36 種 713 個体であった.河川全体では出現種
数に有意な変化は無く,一方,個体数,湿重量がともに増加していると
いうことが明らかになった (Wilcoxon signed rank test).魚種ごとではア
メマス,スナヤツメ,カンキョウカジカ,ミミズハゼ,ヨシノボリ類や
ヌマチチブで増加傾向が認められ,また南方由来の魚種の増加に伴う北
方由来の魚種の減少は認められなかった.比較的近年に行われた砂防工
事,河川改修,港湾開発等の人為的撹乱の認められる一部河川では魚類
相の貧弱化や個体数の減少が確認されたが,全体的な個体数や湿重量の
増加に関しては,その要因として温暖化,水質,物理構造等の変化に注
目し考察する.発表では,さらに 2004 年の調査結果を加え議論する予
定である.
尹 朝煕1, 田上 公一郎1, 玉井 浩司1, 中根 周歩1
1
広島大学大学院 生物圏科学研究科
2000 年 4 月から 2002 年 12 月までの約 3 年間にわたって、ウメ (Prunus
mume) の4年生苗木の光合成能と成長に対する OH ラジカル発生水の影響
を調べた。ウメの生育障害と枯死が発生した和歌山県田辺市に設置された実
験ハウスで、過酸化水素 (H2 O2 ) の濃度を 30 μ M(1 倍区) に調整した OH
ラジカル発生水 (HOOH+Fe( III )+Oxalate 溶液;pH4.4) 及び脱イオン水 (対
照区) を、毎年 4 月から 11 まで、1 週間に 3 回の割合でウメの葉面に散布
した。それと共に野外区 (無処理区) を設置し、処理区との比較を行った。
1 倍区の最大光合成速度 (Amax ) と気孔コンダクタンス (gs ) は暴露開始
2∼3ヶ月後に対照区に比べて有意に減少し始めて 11 月には最大の差が見ら
れた。 野外区においては、実験ハウスの処理区を下回る傾向が見られた。こ
うした減少傾向は 3 年間にわたって繰り返し見られた。3 年間の地上部 (枝、
幹) 固体乾重量の変化は 2000 年 4 月の段階ではどの区でも 1,600∼1,700g/本
で開始したが、対照区で 14,987g/本、1 倍区で 11,167g/本、野外区で 8,005g/
本となった。最終サンプリング時 (2002 年 12 月) で、1 倍区における地上部
(枝、幹) の成長量比 (Growth Rate) 及び相対成長速度 (Relative Growth Rate)
は対照区に比べて、3 年間でそれぞれ 34 %及び 16 %減少した。また、野
外区においても、対照区に比べてそれぞれ 57 %及び 31 %減少した。一方、
地下部の成長については、1 倍区と野外区における地上部 (枝、幹) の成長量
比及び相対成長速度が対照区に比べて減少したが、有意な差は見られなかっ
た。以上の結果より、1 倍区の程度のストレスであっても、長期間に掛けて
その影響は蓄積され、ウメの生長が光合成能の低下と伴って有意に減少する
ことが明らかになった。
P3-176c
12:30-14:30
移入種ソウシチョウ集団の遺伝的構造
◦
天野 一葉1, 江口 和洋2, 角 友之3, 雷 富民4, 舘田 英典*2
1
WWF ジャパン・自然保護室, 2九大院・理・生物, 3森林総合研究所, 4中国科学院・動物研
ソウシチョウ (Leiothrix lutea) は、1600 年代より中国から日本へ輸入され
てきたが、近年、日本の落葉広葉樹林等の自然林で個体数を増加させてい
る。しかし、日本の集団の由来が中国なのかどうかははっきりしていない。
そこで、日本の9つの野生集団と中国の飼育個体を中国集団として比較し
た。ソウシチョウ 189 個体のミトコンドリア DNA コントロール領域 661
塩基より、31 ハプロタイプが見つかった。中国集団と比較して、日本の集
団では遺伝的多様度 pi と、ヌクレオチド多型 thetaw が減少していた。Snn
テストと KST テストにより、複数の日本の集団間で有意な遺伝的分化が検
出されたが、中国集団と日本集団の間では、筑波山の集団を除いて有意な
遺伝的分化は検出されなかった。ハプロタイプの分布と AMOVA より、日
本の集団の遺伝的変異の多くは中国集団の変異に含まれることが示された。
Tajima ’s D 統計量より、過去の中国集団の拡大が示唆され、日本の集団に
も同様の傾向が示唆された。Nested cladistic analysis により、いくつかの日
本の集団において連続的な生息域の拡大と距離による隔離による遺伝的流
動の制限が示唆された。これらより以下が示唆された;1)日本の集団は
中国から移入された個体に起源する、2)移入後、日本の集団の遺伝的多
様性は減少傾向にある、3)複数の移入イベント及び(又は)ボトルネッ
ク効果により、いくつかの日本の集団は互いに分化している、4)いくつ
かの日本の集団は生息域の拡大と局所的な遺伝子流動の存在を示す。
— 251—
P3-177c
P3-177c
ポスター発表: その他
P3-178c
12:30-14:30
SEM を用いた花粉分析からみる後氷期の落葉広葉樹林の組成 – コナ
ラ亜属花粉の SEM による識別と化石花粉への適用 –
◦
8 月 28 日 (土) C 会場
SEM を用いた花粉分析からみる後氷期における落葉広葉樹林の組成
-琵琶湖東岸部における後氷期初期の火事とカシワの出現◦
牧野 真人1, 高原 光2
林 竜馬1, 牧野 真人2, 井上 淳3, 高原 光1
1
京都府大院・農, 2北海道立林産試験場, 3大阪市大院・理
1
北海道立林産試験場, 2京都府立大学大学院 農学研究科
コナラ属コナラ亜属(Quercus subgenus Lepidobalanus)は北海道から沖縄に
かけて分布し、ミズナラなどが冷温帯、コナラやクヌギなどが暖温帯の二次林
の優占種となり、日本の植生において重要な位置を占めている。
このようなコナラ亜属などの落葉広葉樹は、最終氷期が終わり約 1 万年前以
降に分布域を拡大したことが花粉分析学的研究により明らかにされている。し
かし、花粉分析で一般に用いられる光学顕微鏡ではコナラ亜属花粉を種ごとに
識別することができないため、このような植生の詳しい種組成は解明されてい
ない。すなわち、その分布拡大過程や極相での種組成、さらに歴史時代に入り
照葉樹林が二次林化した際の種組成の変化などはほとんど解明されていないの
が現状である。
そこで本研究では、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、コナラ亜属 7 種につ
いて合計 49 個体 377 粒の花粉を観察し、個体内変異および個体間変異に注意
しながらその類型化を行った。その結果、花粉の表面に線状突起が認められる
ウバメガシ型(山崎・竹岡 1959)と、顆粒が認められる型に大別できた。さら
に、その顆粒がコンペイトウ状になるカシワ型(Miyoshi 1981)、いぼ状のコナ
ラ節型(ミズナラ・コナラ・ナラガシワ)、しわ状のクヌギ節型(アベマキ・ク
ヌギ)の3つに類型化することができた。このように花粉の表面微細構造が節
ごとに類型化できたことは、植物分類学的にも重要な示唆に富むものである。
次に、実際に高知平野伊達野で採取した堆積物の化石花粉を SEM で観察・
計数したところ、約 5000 年前以降は顆粒がコンペイトウ状のカシワ型花粉が
コナラ亜属の 30∼40 % を占め、後氷期の後半にカシワが多かったことが明ら
かになった。なお、現在高知平野にカシワは自生していないことから、いつ頃、
どのようにして消滅したかについて,解明する必要がある。
これまで、花粉分析への SEM の適用はいずれも補助的な用法であったが、
本報告では本格的に SEM を活用することで、過去の落葉ナラ林についてより
詳細な検討が可能になったことを示す。
P3-179c
Jiang Zhaowen1, Sugita Mikio1, Fujisono Ai1, Kitahara Masahiko1, Gotou Takehiro1, Takatsuki Seiki2
1
Yamanashi Institute of Environmental Sciences, 2University Museum, The University of Tokyo
Habitat feature influences satellite available number and sequentially influences accuracy and GPS system ability. Animal behavior may also influence
location success. We assessed these influences on performance of 4 GPS3300 collars (Lotek) in northern Mt. Fuji. We tested at 15 sites with gradient
in slope and tree canopy at 1000, 1500 and 2350 m in elevation. Collar was
attached vertically at 1-m height. We recorded openness (o), large tree DBH
(>10-cm), total tree density, and % canopy, and calculated basal area (m2/ha)
of large tree for each site. We placed 4 collars on car top and drive along open
and forest road at 10 km/h to test movement influence. 3D locations (DOP<5)
were employed to calculate true site position.
Location success rate ranged 80-100%; mean distance error was 20.5-m (0.2448.5). Proportion of 3D location ranged 17-100%. For all locations, 45%
were less than 10-m and 93% less than 50-m from true position. There was
no difference among elevations. For all locations, the location time of each attempt was negatively related to openness and positively related to tree canopy,
large tree density and basal area, and in vice versa for success location rate,
3D location proportion, and available satellite number. However, all of them
have no correlation with total tree density. DOP showed negatively related to
openness, but no correlation with other habitat features. Location time was
the longest and available satellite was the minimum when moving in forested
area. No difference was found in success rate, 3D location proportion, and
DOP between static and moving in open area, but success rate and 3D location proportion decreased, and DOP increased in forested area.
GPS-3300 is suitable to apply in northern Mt. Fuji.
後氷期初期にあたる 10,000 年前頃には、近畿地方内陸部にコナラ亜属を
中心とした落葉広葉樹林が広がっていたことが知られている(高原 1998)。
また、琵琶湖周辺での火事の発生が明らかにされていることから(井上ほか
2001)、この時期の落葉広葉樹林が火による撹乱を受けていた可能性が示唆
される。しかし、コナラ亜属の中でもそれぞれの樹種で生態的特徴が異なっ
ており、このような火事と植生史との関係を明らかにするためには、これま
で困難であった過去の落葉広葉樹林の種組成を解明することが重要な課題で
ある。
そこで今回、琵琶湖東岸部に位置する曽根沼において採取された堆積物に
ついて、花粉分析および微粒炭分析を行い、さらに、牧野(本大会ポスター
講演)による SEM を用いた分類に従って、コナラ亜属花粉の同定を行うこ
とで、後氷期初期における落葉広葉樹林組成の解明を試みた。
花粉分析と微粒炭分析の結果、後氷期初期にあたる層準から、コナラ亜属
花粉が高率で出現し、微粒炭も多量に検出された。さらに、SEM を用いてコ
ナラ亜属花粉を同定した結果、この層準では、コナラ節型花粉(ミズナラ・
コナラ・ナラガシワ)と共に、カシワ型花粉が認められた。また、この層準
において、カシワ型花粉の出現割合が増加した。これらの結果から、後氷期
初期には琵琶湖東岸部においても、コナラ亜属を中心とする落葉広葉樹林が
広がり、火事が発生していたことが確認された。さらに、その落葉広葉樹林
には、ミズナラあるいはコナラと共に、カシワが生育しており、この時期に
カシワが分布を拡大していたことが明らかになった。
コナラ亜属の中でも、カシワは火にかかっても回復力が強いため、山火事
後に増加する傾向があるとされている(沼田・岩瀬 1975)。そのため、本研
究により明らかになった後氷期初期の火事とカシワの出現には何らかの関係
がある可能性が示唆される。
P3-180c
12:30-14:30
The performance of GPS-3300 considering application in the habitat of
northern Mt. Fuji, central Japan
◦
12:30-14:30
12:30-14:30
キスゲとハマカンゾウにおける雑種形成の非対称性
◦
安元 暁子1, 矢原 徹一1
1
九州大学理学部生物学教室
種分化に生態学的関心が集まっているが、生態的に多様化した 2 種間で
どのような内的隔離機構が進化しているかを調べた研究は少ない。ユリ
科キスゲ属のキスゲとハマカンゾウは、前者が夜咲きで蛾媒、後者が昼
咲きで蝶・ハナバ チ媒という顕著な生態的分化を遂げているが、野外で
浸透交雑集団が見られることから、内的隔離機構は不完全だと考えられ
る。このような 2 種に注目し、人工授粉実験を行ない、種間交雑 (F1 世
代) と戻し交雑 (BC 1世代) における果実・種子稔性を比較し、 2 種間
にどのような内的隔離機構が発達しているかを調べた。種間交雑実験で
は、ハマカンゾウを胚珠親とした場合に、同種交配よりも種間交雑にお
いて果実稔性が有意に低く、キスゲを胚珠親とした場合には差がなかっ
た。また、戻し交雑実験では、どちらの種が胚珠親であっても、果実稔
性は同種交配よりも戻し交雑で有意に低かった。 その低下の程度はどち
らの種が胚珠親でも変わらなかった。以上の結果から、キスゲとハマカ
ンゾウの間では、(1)F1 形成過程においても BC1 形成過程において
も、不完全ながら内的隔離が発達している、(2)F1 雑種の出来やすさ
には非対称性がある、(3)この非対称性は BC1 形成過程では発現され
ない、ことが明らかになった。従って、2 種の浸透交雑集団では、キス
ゲが胚珠親となっている場合が多いものと予想される。
— 252—
ポスター発表: その他
P3-181c
8 月 28 日 (土) C 会場
12:30-14:30
ハビタットタイプによるビワヒガイの形態変異について
◦
小宮 竹史1, 堀 道雄1
1
京都大学理学研究科動物生態学研究室
生物の形態は利用する食物やハビタットに応じて変異に富む。とりわけ栄
養形態にみられる種内変異とそれに関連した採餌様式は、局所適応、さ
らには同所的分集団化の引き金として注目を浴びてきた。
本研究では、琵琶湖固有種のコイ科魚類ビワヒガイについて、その幅
広いニッチ占有と著しい頭部形態変異との関連を、幾何学的形態測定法
(Geometric Morphometrics)を通じて明らかにした。岩礁帯に生息する集
団は細身で頭部が長く、口吻は比較的前方に延びた。流水域の集団は紡
錘形の体型で頭部が短く、口吻は比較的下方に延びた。砂礫帯の集団は、
岩礁帯と砂礫帯の集団の中間的な形態であった。種間比較からは、岩礁
帯と流水域において、ビワヒガイの形態と同所的に生息する同属種(順
にアブラヒガイ、カワヒガイ)の形態とが類似していることが明らかと
なった。また、検討した栄養形態のうち、口吻延長には頭部形態の変異
と相関が認められ、頭が長くなるほど口吻が長く、より前方に延びるこ
とがわかった。これらの結果と食性調査の結果をふまえ、頭部形態にみ
られる変異の生態学的意義とその要因を、ハビタットごとの採餌戦術の
面から考察した。
— 253—
P3-181c
P3-181c
ポスター発表: その他
8 月 28 日 (土) C 会場
— 254—
日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
一般講演・口頭発表 — 8 月 26 日 (木)
• 物質生産・物質循環
• 植物群落
• 動物植物相互作用
• 群集生態
• 保全・管理
• 個体群生態
• 生理生態
• 繁殖・生活史
— 255—
日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
— 256—
口頭発表: 物質生産・物質循環
O1-U01
O1-U02
09:30-09:45
未来の陸域生態系を予測する (次世代の動的全球植生モデルの構築)
◦
佐藤 永1, 伊藤 昭彦1, 甲山 隆司1,2
地球フロンティア研究システム, 2北海道大学大学院地球環境科学研究科
気候環境は植生の構造や機能を強く規定するが、植生の構造や機能もまた、
蒸散、炭素循環、アルベドの変化などを通じて、気候環境にフィードバック
的な影響を与える。このような過程を気候環境の変動予測に含めるためには、
生物地理化学過程や植生動態を取り込んだ陸域生態系モデルが必要とされる。
そこで我々は、陸上生態系の機能(炭素や水の循環など)や構造(植生の分
布や構成など)における短期的・長期的変化を予測を可能とする全球動的植
生モデル(Dynamic Global Vegetation Model, DGVM)を開発している。これ
は、異なる計算間隔を有する複数の素過程モジュールを結合したものであり、
幾つかのモジュールを環境条件の関数とすることで、生態系の環境応答をシ
ミュレートできるようにしたものである。
このモデルの基本的なデザインは、陸域炭素循環モデル Sim-CYCLE に、
LPJ-DGVM の植生動態コンポーネントを組み合わせたものであるが、さらに
林分の空間構造を明示的に組み込み、木本を個体ベースで扱うという野心的
な拡張を行った。これらの拡張によって、森林ギャップの再生過程や樹木個体
間の競争過程が的確に表現され、植生動態に伴う炭素収支変化や、気候変動
に伴った植生分布変動の速度などを、これまで構築されてきたどの DGVM
よりも的確に予測できることが期待される。
平成 15 年度中までに、一林分の計算を行うプログラムコードの開発がほぼ完
了し、現在このプログラムによる試行計算を繰り返す事で、諸パラメーター
の推定作業を行っている。今後、ベクトル化、並列化、調整等の過程を経て、
平成 16 年度中までには全球グリッドでのシミュレーション結果を得る予定
である。
O1-U03
10:00-10:15
生葉と陸生昆虫の糞の流入が渓流棲ヨコエビの成長に与える影響
◦
河内 香織1, 加賀谷 隆1
1
東京大学大学院農学生命科学研究科, 2東京大学大学院農学生命科学研究科
ヨコエビは、山地渓流において粗大有機物を主食とする底生動物であるが、枯
葉の分解が進行し粗大有機物の現存量が少ない夏季にも、細粒有機物や藻類を
摂食して成長する。夏季に渓畔林から流入する生葉や陸生昆虫の糞は、ヨコエ
ビにとって粗大有機物資源となりうる一方で、それらから溶出する栄養塩が藻
類を増殖させることで、間接的にヨコエビに正の影響を及ぼす可能性がある。
本研究は、室内実験により、細粒有機物資源が制限された状況下で、生葉およ
び陸生昆虫の糞の流入がタキヨコエビの成長にもたらす効果について、直接の
摂食による効果と、付着藻類の増殖を介した間接的な効果を区別して検証する
ことを目的とする。
ヨコエビは個別飼育し、少量の細粒有機物(<1 mm)のみを与えた処理を対照
とし、同量の細粒有機物に十分量の生葉(ハンノキとイタヤカエデ)もしくは
糞(クスサン)を添加した処理と比較した。また、十分量の糞に加え生葉を添
加した処理も設定し、糞のみ添加処理との比較も行った。飼育容器に入れた付
着基盤により実験終了時に藻類の測定を行った。生葉や糞が藻類の増殖に及ぼ
す影響を、ヨコエビの摂食を排して評価するために、食物のみを入れた処理も
設定した。
ヨコエビの成長速度は、生葉添加、糞添加処理のいずれもが対照より大きく、こ
れらの流入はタキヨコエビの成長に正の効果をもたらすことが明らかになった。
生葉は直接摂食されていたが、生葉添加による藻類の増殖は認められなかった。
糞は直接の摂食が観察されるとともに、糞添加による藻類の増殖およびヨコエ
ビの摂食が認められた。ヨコエビの成長は、糞添加処理よりも糞と生葉をとも
に添加した処理の方が大きかった。以上より、夏季の生葉や陸生昆虫の糞の流
入は、ヨコエビに直接に資源を供与するものであるとともに、糞の流入は、藻
類の増殖を介してヨコエビに正の影響を及ぼす場合があることが確証された。
また、十分量の糞が流入しても生葉の流入は、タキヨコエビにプラスになるこ
とが示唆された。
O1-U01
09:45-10:00
チュウシャクシギ Numenius phaeopus の摂食活動が干潟生態系の物質
循環系に果たす役割
◦
1
8 月 26 日 (木) U 会場
松原 圭1, 土屋 誠2
1
琉球大学理工学研究科海洋環境学専攻, 2琉球大学理学部海洋自然科学科
渡りを行う鳥類にとって、途中にある中継地点で、採餌や休息を行うことは、
渡りを成功させるために重要である。鳥類にとっての干潟の重要性を調べるた
めには、彼らが干潟をどのように利用しているか定量化することが必要である。
本研究では、干潟で鳥がどれだけ餌を摂取し、糞をどれだけ排出しているかを
調べることで、鳥が干潟生態系の物質循環系においてどのような役割を果たし
ているのか、定量的な値として示すことを試みた。2003 年 4 月から 12 月ま
で、沖縄島南部の干潟上でのチュウシャクシギ Numenius phaeopus の餌摂取量、
糞排出量に着目し、窒素と炭素量を指標としてそれぞれの値を定量的に示した。
毎月チュウシャクシギの行動観察、個体数調査および餌動物であるシオマネキ
類とチュウシャクシギの糞の含有窒素、炭素量の測定を行った。これらの数値
から、各月にチュウシャクシギ個体群が干潟上で摂取および排出した窒素、炭
素量を算出した。そして、摂取量から排出量を引くことにより、チュウシャク
シギ個体群が干潟上で消費した窒素、炭素量を求めた。
以上からチュウシャクシギ個体群は、6 月に最も多く窒素を約 300 g、炭素を
約 1400 g消費した。チュウシャクシギは 2003 年 5 月から 12 月まで干潟上
で確認され、その個体群サイズは 5 月に最も大きく、12 月に最も小さくなっ
た。6 月のチュウシャクシギ個体群のサイズは 2 番目に大きく、しかし消費し
た窒素・炭素量は最も多くなった。
チュウシャクシギ個体群が消費する窒素、炭素量を、年間平方メートルあたりの
消費量に換算すると、窒素は 0.0164g/year/m2 、炭素は 0.0793g/year/m2 という
結果になった。この数値は今後の研究におけるひとつの指標として利用できる。
チュウシャクシギの消費量には季節変化が見られ、干潟上の鳥類個体数や底生
生物の生息状況に影響を受けているのではないかと考えられた。
O1-U04
10:15-10:30
極域ツンドラ生態系における土壌溶存態有機窒素動態のリンによる制御
◦
保原 達1, 阿江 教治2, 木庭 啓介3, 矢野 百合子4, Shaver Gaius4
1
国立環境研究所, 2神戸大学, 3東京工業大学, 4米国ウッズホール海洋研究所
極域ツンドラ生態系は、その一次生産が窒素の可給性に強く制限されている
系であるが、窒素の系内循環については依然不明な点が多い。ツンドラ生態系
土壌では、温帯や熱帯の森林に比較して無機態窒素の生成が非常に小さく、窒
素は主に溶存の有機態として循環している。溶存態有機物の多くは、土壌中で
主に配位結合によって吸着されているため、その動態、とくに流出にはこの配
位結合に影響する何らかの作用が関係すると考えられる。無機態のリンは、土
壌中において微量金属などと結合し、溶存有機物の吸着と競合する吸着様式を
持っており、溶存態有機窒素の動態に影響を与えている可能性がある。そこで
本研究では、極域ツンドラ生態系土壌中の、リンによる溶存態有機窒素動態の
制御について調査した。
調査地は、アラスカ・ブルックス山地の北側に位置する2カ所の Arctic-LTER
サイト(Sagavanirktok River, Toolik Lake)である。この両サイトでは、生態系
タイプ別に長期に渡り窒素やリンを施肥した複数のプロットがある。本研究で
は、リンを施肥したプロットと対照プロットにおいて表層土壌を採取し、リン
酸緩衝液により抽出可能な溶存態有機窒素量を比較した。その結果、どちらの
サイトにおいても、どの生態系タイプにおいても、リンを施肥したプロットで
は対照プロットに比して抽出可能な溶存態窒素量が少ないことが明らかとなっ
た。これにより、リンが溶存態有機物の動態に影響を与え、その効果が窒素循
環にも作用することが示唆された。
— 257—
O1-U05
口頭発表: 物質生産・物質循環
O1-U05
O1-U06
10:30-10:45
Effects of polyphenols on the loss of nitrogen as protein in tropical forest
ecosystems
◦
黒川 紘子1, 永益 英敏2, 中静 透3
1
京都大学生態学研究センター, 2京都大学総合博物館, 3総合地球環境学研究所
1
Center For Ecological Research, Kyoto University
Plants growing on nutrient deficient soil produce more carbon-based secondary metabolites such as polyphenolic compounds to defend themselves
against herbivores and pathogens. Polyphenols can bind with protein to form
protein-polyphenol complexes and recent studies have shown that polyphenols may alter nutrient cycling in infertile forest ecosystems.
Do polyphenols exacerbate nutrient deficiency in these forest ecosystems by
binding to protein in recalcitrant form? We hypothesize that loss of nutrients,
particularly nitrogen, as protein-polyphenol complexes is higher in infertile
soil. To test the hypothesis, we compare two tropical montane forest sites on
Mount Kinabalu, Sabah, Malaysia, that are contrasting in soil nutrient availability, particularly phosphorous. Total phenols concentration in soil water
was highest in the nutrient deficient site compared to the relatively fertile site
in both the upper (0-10 cm) and lower (10-60 cm) layer of soil horizon. The
upper horizon has a significantly higher total phenolics content in the nutrient poor site only. Correlation using least linear regression analysis showed a
positive relationship between protein nitrogen in terms of amino acids and total phenols suggesting that higher amounts of protein-polyphenol complexes
were present at the nutrient poor site. Our observations suggest that the formation of protein-polyphenol complexes may be aggravating nutrient deficiency
in this forest.
植物中のフェノール性物質は、被食防衛機能のみならず、落葉分解をも制限し
栄養塩循環に大きく影響を与え得る。植物の防衛投資量を予測する仮説の一つ
に、「利用可能資源の少ない環境では、成長が遅く防衛投資量の多い植物が有
利」という資源利用可能性仮説がある。この仮説とフェノール性物質の落葉分
解制限効果を統合すると、
「植物の被食防衛(フェノール性物質)が森林生態系
栄養塩循環に正のフィードバックをかける」と予測される。つまり、貧栄養な
場所では、成長が遅く防衛に投資しフェノール性物質の多い葉を持つ樹種が出
現し、その結果、落葉分解が制限され、土壌への栄養塩回帰量が更に減少する。
この検証の為、1)土壌栄養塩濃度と葉中フェノール性物質濃度との関係、2)
フェノール性物質の被食防衛と落葉分解における効果、の2点を明らかにした。
マレーシア熱帯林に10調査区を設置し、各調査区の群集レベルでの葉中フェ
ノール性物質(総フェノール、タンニン、リグニン)濃度を調べた結果、葉中
フェノール性物質濃度は土壌栄養塩との相関が高かった。しかし、同じフェノー
ル性物質でも、総フェノールとタンニン濃度は土壌栄養塩と負の関係を示し資
源利用可能性仮説を支持する一方、リグニン濃度は正の関係を示し資源利用可
能性仮説を支持しなかった。
次に、40樹種を用いフェノール性物質の被食防衛と落葉分解制限の効果を明
らかにした。その結果、一般に分解速度は葉中フェノール性物質(特にリグニ
ン)濃度に強く影響されるのに対し、被食はフェノール性物質では説明されな
かった。
以上から、マレーシア森林生態系では、植物の被食防衛(フェノール性物質)
による栄養塩循環の正のフィードバックは起きないと考察できる。その理由と
して、落葉分解を制限する葉中リグニンが森林群集レベルで資源利用可能性仮
説を支持しない、被食防衛戦略は種により多様でありフェノール性物質のみが
有効な被食防衛ではない、等が挙げられる。
O1-U08
11:00-11:15
ボルネオ島キナバル山の標高と土壌の違う立地の地下部菌類バイオマス
◦
10:45-11:00
植物の被食防衛は森林生態系栄養塩循環に正のフィードバックをかけ
るか?
◦
Majuakim Luiza1, Kitayama Kanehiro1
O1-U07
8 月 26 日 (木) U 会場
里村 多香美1, 北山 兼弘1
1
京都大学生態学研究センター
土壌菌類には、植物と共生して植物の水や栄養塩の獲得を直接手助けする機
能グループ(菌根菌)が存在する。さらに、有機物を分解する機能グループ
(腐生菌)も、植物が吸収可能な土壌中の栄養塩を増加させることで、間接
的ではあるが植物の栄養塩吸収に関与している。これらのことから、土壌中
の菌類の量と活性は植物の栄養塩吸収、ひいては植物の生産性と密接に関係
していると考えられる。そこで、マレーシア キナバル山の5標高,2つの
土壌タイプ(堆積岩,蛇紋岩)の合計10のサイトにおいて,土壌(根を含
む)の菌類バイオマスを調査し、森林の生産性との関係について考察した。
各サイトでは地表面から0–5、5–10、10–15 cm の土壌を採取した
(n=15)。活性のある菌類バイオマスの指標として、菌類に特有な細胞膜成
分、エルゴステロール、を定量分析した。
すべてのサイトで、土壌中のエルゴステロール含量は土壌表層で最も多く、
下層になるに従って低下する傾向があった。しかし、標高によって土壌の発
達度合いが異なるため、土壌深度に伴うエルゴステロール含量の低下率は異
なっていた。単位土地面積あたりのエルゴステロール総量(土壌深度 15 cm
まで)を標高間で比較したところ、堆積岩上と蛇紋岩上の立地に共通する傾
向は見られなかった。標高が異なれば、気象条件、特に温度環境が異なるた
め、一定量の菌類が一定期間に分解しうる有機物量が変化し、あるいは菌類
相が変化するため、結果として植物の栄養塩吸収と菌類の量に関連性が見ら
れなかったのだと考えられた。一方、各標高において堆積岩と蛇紋岩を母岩
とする立地間を比較したところ、単位土地面積あたりのエルゴステロール総
量は、どの標高においても生産性の高い堆積岩上の立地で高い傾向を示した。
気象条件が同じサイト間では、活性のある土壌菌類の量は生産性の高い森林
では高く、生産性の低い森林では低いことが示された(成立年代が異なる堆
積岩の立地を除く)。
(NA)
— 258—
11:15-11:30
口頭発表: 物質生産・物質循環
O1-U09
11:30-11:45
成熟した照葉樹林の粗大有機物(CWD)の現存量
◦
O1-U10
O1-U09
11:45-12:00
冷温帯の遷移に伴う土壌炭素蓄積量の比較
◦
佐藤 保1
石川 眞知子1, 大江 悠介2, 齋藤 雄久2, 鞠子 茂3
1
筑波大学大学院 環境科学研究科, 2筑波大学大学院 生命環境科学研究科, 3筑波大学 生物科学系
1
森林総合研究所
粗大有機物(CWD)として知られる立枯れ木や倒木は,森林生態系内の
一次生産力や養分循環の中で重要な役割を果たしている。本報告では,立
地環境の違いによる CWD 現存量の変化を知る目的で,南九州の成熟し
た照葉樹林において CWD の測定を行った。対象とした林分は,綾試験
地(宮崎県綾町)と大口試験地(鹿児島県大口市)の 2 林分であり,イ
スノキ,タブノキ,常緑カシが優占する成熟林である。各試験地で 20m
× 20m の方形区を設定し(綾試験地:6 個,大口試験地:9 個),直径
10cm 以上のすべての枯死木および枯枝の現存量を求めた。CWD 現存量
は,綾試験地で 36.9Mg/ha,大口試験地で 20.8Mg/ha であり,これらの
値は地上部現存量のそれぞれ 9.9%と 8.1%に相当した。CWD の形態を
比較すると,両試験地とも林床に倒伏した枯死幹や枯枝が最も大きかっ
たが(綾試験地:56.7%,大口試験地:48.1%),大口試験地では幹折れ
による CWD も全体の 41.2%を示し,両試験地ではその構成比が異なっ
ていた。微地形間の CWD 現存量の比較すると,綾試験地では頂部斜面
で最も高い値を示し(66.9Mg/ha),斜面上部から下部へ推移するに従い
CWD 現存量も減少する傾向にあった。一方,渓流を伴う平坦面に成立す
る大口試験地では,隣接する麓部斜面に比べて渓流沿いの立地で CWD
現存量が高い傾向にあった。いずれの試験地でも高い CWD 現存量を示
した方形区では,幹折れあるいは根返りによる枯死幹が認められた。地
上部現存量および林分枯死率と CWD 現存量との間には明瞭な関係は認
められず,台風による撹乱の履歴が CWD 現存量の変動に寄与している
ものと考えられた。
O1-U11
8 月 26 日 (木) U 会場
12:00-12:15
生態系における土壌炭素蓄積は、植物体地上部および地下部リターによ
る有機炭素の供給と、微生物の有機物分解による二酸化炭素としての炭素
の放出により制御される。これらの土壌炭素蓄積に関わるプロセスは主に
生物的要因と気候的要因に大きく依存するが、植生遷移によっても変化す
ると考えられる。しかし、従来の研究が土地履歴の異なる遷移段階で行わ
れてきたため、遷移の正しい評価は困難であった。
本研究では、土壌炭素蓄積量を同じ土地履歴をもつ場所において比較検
討することを目的とする。その中でも草本から木本へ移行する遷移段階で
は、植生の構造と機能、微気象的環境が大きく変化するため、炭素動態が
劇的に変化すると予測される。そこで、草本から木本へ移行する遷移段階
の生態系における変化に着目して研究を行った。調査地は、筑波大学菅平
高原実験センター内に保存されているススキ草原(草本後期)、主に低木
であるズミの侵入がみられるススキ草原(低木侵入期)およびアカマツ林
(高木初期)である。これら 3 つの生態系は、一続きのススキ草原から部
分的に二次遷移を進行させてつくられたため、クロノシークエンスを考慮
できる。土壌は、エンジン式採土機を用いて無機質土壌層から 1m の土壌
コア(直径 5cm)として採取した。コアは各生態系から 10 地点以上採取
し、10cm ごとに分割し乾燥後、CN アナライザーで炭素含有率を求め、乾
重量から炭素量を算出した。その結果、深さ 10cm 以下の土壌炭素含有率
は、草本後期、高木初期、低木侵入期の順に高い値を示した。この要因と
して、遷移に伴う植生変化により地上部および地下部リターの供給量およ
び質の変化が挙げられる。また、土壌のばらつきが大きいことが確認され、
土壌の多点測定の重要性が示唆された。
O1-U20
13:30-13:45
Microbial biomass and diversity three years after fire in a pine forest
◦
Mabuhay Jhonamie1, Nakagoshi Nobukazu1
1
Hiroshima Univ.
(NA)
The objectives of this study were to determine the microbial biomass carbon
and microbial diversity in soil three years after the occurrence of fire in a
pine forest. The effects of fire on topographic positions were also determined.
Three plots, each measuring 15m x 15m, were arrayed along each of four transects, three in a burned area and one in an unburned area. Plot 1 was located
at the valley bottom, plot 2 was at the middle slope and plot 3 was at the ridge.
Microbial biomass carbon was determined using the Chloroform FumigationExtraction Method, while microbial diversity was determined using Terminal
Restriction Fragment Length Polymorphism (TRFLP) analysis of 16SrRNA
genes. Analysis showed that the microbial biomass and diversity of the plots
in the unburned area did not differ significantly and so they were treated as
one control plot. The unburned plot showed the highest microbial biomass
and diversity, followed by the valley bottom, the middle slope, and then the
ridge of the burned area. Among the burned plots, the ridge was found to be
significantly different from the valley bottom and the middle slope. The ridge
was shown to have been the most affected by fire. Data show that even three
years after the occurrence of fire, the microbial biomass and diversity had not
even recovered to 40% of the unburned area.
— 259—
O1-U21
口頭発表: 物質生産・物質循環
O1-U21
O1-U22
13:45-14:00
河畔域に生息するクモ類の安定同位体比の河川区による差異
◦
◦
三島 慎一郎1
1
信州大学大学院, 2信州大学理学部, 3早稲田大学人間科学部
1
農業環境技術研究所
本研究では、河川の流下に伴う,河川敷および河川内の食物網構造、物質の
流れの変化を、炭素・窒素安定同位体比を用いて解析した。千曲川本流の,
甲武信岳(河口から 357km,以下同様)樋沢(329km),臼田(298km),生
田(258km),鼠(250km)の各河川敷で、陸上植物,陸生昆虫,クモ類,付
着藻類,水生昆虫を採集し、それらの炭素・窒素安定同位体比を測定した。
流路に近い陸上植物,クモ類、および流路内の付着藻類,水生昆虫の窒素安
定同位体比(δ 15 N 値)は、流下に伴い上昇していた。千曲川に流入する窒
素の同位体比は、窒素汚染源の変化を反映して流下に伴い上昇することが知
られている。流路に近い河川敷の各生物群も、食物連鎖を通して、流域の窒
素源の変化を反映していることが明らかになった。一方、流路から離れた陸
上植物のδ 15 N 値には、各河川敷間で差異はみられず、流路近くの植物とは
窒素源が異なっていることが示唆された。
河川敷のクモ類の炭素安定同位体比(δ 13 C 値)は,いずれの地点において
も,陸上昆虫と水生昆虫のδ 13 C 値の中間に位置し,陸上・河川両生態系の
餌資源をともに利用していることが示された。水生昆虫への依存度は、クモ
の種によって大きく異なり、水平網を張る種で依存度が高かった。クモ類の
δ 15 N 値にも,流下に伴う上昇がみられた。餌資源である水生昆虫を通し
て,間接的に流域の窒素汚染源の影響を受けていることが示された。
O1-U23
14:15-14:30
水田および転換畑における、CO2 フラックスの季節変化および炭素収
支の比較
1
1
2
1
14:00-14:15
農業生産に共なう農地への重金属負荷の推定
赤松 史一1, 戸田 任重2, 沖野 外輝夫3
◦
8 月 26 日 (木) U 会場
1
西村 誠一 , 米村 正一郎 , 澤本 卓治 , 秋山 博子 , 須藤 重人 , 八木 一行
1
1
農業環境技術研究所, 2酪農学園大学
2002 年から 2004 年にかけて、農業環境技術研究所(茨城県つくば市)内の実
験圃場において、3種類の作付体系(水稲単作(PR 区)、陸稲単作(UR 区)、
および大豆(夏作)
・小麦(冬作)二毛作(SW 区))の農耕地における CO2 フ
ラックスの季節変化を通年測定し、土壌炭素収支を推定した。CO2 フラックス
の測定は、自動開閉チャンバーおよび赤外線ガス分析計を用いた自動測定シス
テムによって行った。作物の収穫および鍬込に伴う炭素の持ち出し・持ち込み
量は、乾物重量調査および乾物中の炭素含量分析によって求めた。
作物の栽培期間中には(夏作・冬作ともに)、作物の光合成による顕著な CO2
吸収が観測された。一方、作物の植えられていない期間には、土壌からの CO2
放出が観測された。特に、作物の収穫・耕起に伴い、土壌からの CO2 放出の一
時的な上昇が観測された。
年間積算 CO2 フラックスは、PR 区では-437 から-394 [g C m-2 ]、SW 区では-354
[g C m-2 ] と、それぞれ負の値(炭素の固定)を示したが、UR 区では、+161
から+238 [g C m-2 ] と正の値(炭素の放出)を示した。
年間積算 CO2 フラックスのデータに、作物の収穫および鍬込に伴う炭素の持
ち出し・持ち込み量を加味して推定した、土壌炭素収支は、PR 区では-141 か
ら-73 [g C m-2 ] と負の値であったのに対して、UR 区では+277 から+346 [g C
m-2 ]、SW 区では+373 [g C m-2 ] と正の値であった。
水田を排水して畑作物を数年間栽培する「転換畑栽培」は、日本全国で広く行
われているが、本研究の結果から、水田を排水して転換畑にすると、土壌中の
炭素が徐々に減少していく可能性が示唆された。
世界食料農業機関傘下の CODEX 委員会では、農作物に含まれるカドミ
ウム (Cd) の許容基準の見直しを行っており、基準が強化された場合には
日本の水稲の 5%程度が不適合になる可能性が指摘されている。農地へ
の Cd 負荷は、鉱山等を起源とする Cd に汚染された水を灌漑に用いた
場合や、Cd を含む化学肥料や堆きゅう肥など肥料資材の施用に共なって
発生する。本研究では、化学肥料と堆きゅう肥による農地への負荷量を
推定し農地の汚染リスクに関して検討した。
市販の化学肥料を分析した結果、Cd はリン酸を含む化学肥料に 2-5ppm
程度含まれており、化学肥料由来の Cd 負荷の 99%がリン酸を含む肥料
によって生じていると推定された。これはリン鉱石に Cd が夾雑物とし
て含まれることによる。文献調査から家畜ふん尿由来の堆きゅう肥中に
は、1-5ppm 程度の Cd が含まれていた。
1997 年における農地への Cd 負荷は、化学肥料由来が 7.0Mg、堆きゅ
う肥由来が 2.2Mg、合計 9.2Mg(2.09g/ha) と推定された。他に廃棄され
る家畜ふん尿中に 1.4Mg の Cd が含まれると推定された。廃棄される家
畜ふん尿が化学肥料の代わりに施用される場合を試算したところ、Cd の
負荷は増加しないことから、家畜ふん尿の利用は環境への負荷を低減す
る面からすすめられるとともに、農地への Cd 負荷が増えないと言う面
から問題はないと言える。
農耕地の作土中に含まれる Cd の総量は 2.216Mg と推定されており、
資材施用に共なう Cd 負荷は総量の 0.4%に相当する。現状の Cd 負荷
が続いた場合に土壌中の Cd が増加するかどうかは明らかではない。化
学肥料の施用は作物によって異るため化学肥料による Cd 負荷は野菜
(2.87g/ha)、工芸作物 (3.07g/ha) で高く水稲 (1.14g/ha) で低い。野菜は多
毛作されることから Cd 負荷が高く、農地土壌中の Cd が増加するリス
クは高いと考えられた。
O1-U24
14:30-14:45
冷温帯生態系における主要温室効果ガス (CO2 ,CH4 .N2 O) の大気-土壌
間フラックスの比較
◦
熊谷 麻紀子1, 大江 悠介2, 八代 祐一郎3, 鞠子 茂2
1
筑波大・院・環境科学, 2筑波大・院・生命環境, 3岐阜大・流域圏科学研究センター
CO2 ,CH4 .N2 O は主要な温室効果ガスであり、地球温暖化に対する寄与率は
80%を越える。土壌はこれらのガスに対してシンク・ソース機能を持っており、
これらのガスの大気中の濃度変化に影響を与えている。土壌 CO2 フラックスは
多くの研究がなされてきたが、CH4 や N2 O を含めた 3 種のガスについての同
時測定はまだ少ない。しかし、CH4 や N2 O の温暖化ポテンシャルは、それぞ
れ CO2 の約 56 倍および 280 倍あるといわれており微量であっても無視でき
ない。したがって、土壌の温暖化影響力を評価するためには 3 種のガスフラッ
クスを同時に評価する必要がある。また、これら 3 種のガスフラックスは植生
の違いだけでなく、人間活動による撹乱によっても影響を受けるため、生態系
の種類、土地履歴などを考慮した研究を行う必要がある。
本研究では、長野県菅平高原において、様々な冷温帯生態系 (裸地、畑、草原、
森林など) における 3 種土壌ガスフラックスの季節変化とその制限要因を明ら
かにすることを目的とした。フラックスと土壌環境の測定は密閉法と濃度勾配
法を用いて 2003 年 8 月から毎月行った。その結果、ほとんどの生態系におい
て、CO2 の放出フラックスが見られ、地温と有意な相関があった。CH4 は堪水
状態の湿地で放出フラックスが見られたが、その他の生態系では吸収フラック
スであった。しかし、夏期にマルチをした畑では、場所によって CH4 の放出が
見られた。その原因はマルチにより土壌への酸素供給が絶たれ、土壌呼吸によ
り酸素が消費された結果、嫌気的状態が発生したためと考えられた。N2 O は、
夏期に湿地 (ヨシ, ザゼンソウ, ハンノキ)、ヤナギ、畑では放出されていたが、
それら以外の生態系では放出も吸収もなかった。CH4 、N2 O フラックスの環
境依存性は不明瞭であった。
— 260—
口頭発表: 物質生産・物質循環
O1-U25
14:45-15:00
O1-U26
冷温帯広葉樹林土壌における CH4 酸化と CO2 放出の季節変動
◦
2
筑波大学・院・生命環境科学, 筑波大学・院・環境科学
◦
土壌は主要な温室効果ガスである CH4 、CO2 のシンクまたはソースとして
機能している。好気土壌において、CO2 は従属栄養生物と根の呼吸による放
出フラックスとして、CH4 は土壌に存在する CH4 酸化菌の分解による吸収
フラックスとして測定される。化学量論的には、一分子の CH4 の酸化は一分
子の CO2 を生成するので、CH4 酸化は土壌 CO2 フラックスの一部に寄与す
る。このことは炭素フラックス研究のトピックスの一つになっている。CH4
酸化は陸上における重要な CH4 シンクであることやその GWP が 20 であ
ることを考慮すれば、土壌の温暖化影響力は CO2 フラックスだけではなく
CH4 フラックスを含めて行うべきである。
本研究では、菅平高原実験センター内の冷温帯ミズナラ林において、土壌
CO2 、CH4 フラックスを 2002 年 2 月 ∼2003 年 11 月まで密閉法で測定し、
季節変動、変動要因、年間量の推定を行った。また、積雪期間(12-4 月)は
濃度勾配法による測定を行った。その結果、CO2 放出および CH4 酸化フラッ
クスは冬に低く夏に高いという季節変動を示した。季節変動を有意に説明す
る環境要因は地温であり、土壌水分との相関は有意でなかった。連続測定し
た地温から年間の CO2 放出量と CH4 酸化量を計算すると、それぞれ 451.4、
1.83 (g C m-2 yr-1 ) となった。CO2 フラックスは他の日本の冷温帯林よりも若
干低かったが CH4 フラックスは世界の温帯林よりも 3-7 倍大きい値であっ
た。これは調査林の土壌は気相率をもち、CH4 輸送が容易だったためと考え
られた。
O1-U27
15:15-15:30
中西 理絵1, 小杉 緑子1, 高梨 聡1, 田中 夕美子2, 日浦 勉2, 松尾 奈緒子1
1
京都大学大学院農学研究科, 2北海道大学苫小牧演習林
冷温帯落葉広葉樹林において、展葉、落葉といったフェノロジーを通じた樹冠
上 CO2 フラックスの時間的変化について、正規化差分植生指標 (Normalized
Difference Vegetation Index; NDVI) 及び群落構造と個葉の環境応答特性を組
み込んだ多層モデルを用いて解析を行った。研究対象地域は北海道大学苫小
牧研究林で、1999 年から 2002 年までを対象期間とした。多層モデルのパ
ラメータを得るために、2003 年 7 月に個葉ガス交換特性、放射伝達特性、
群落構造などに関する現地での調査を行った。葉面積指数 (Leaf Area Index;
LAI) の及び土壌呼吸の季節変化については 2001 年の年間観測データをもと
にパラメタライズを行った。NOAA/AVHRR データから、フラックスタワー
を中心とする1 km ×1 km の植生地域における NDVI を取得した。NDVI
の季節変化と地上で観測された LAI を比較したところよく類似し、NDVI が
群落構造をよく反映することが示された。NDVI と CO2 フラックスの対応関
係より、春において CO2 フラックスは NDVI に遅れて増加傾向を示し、秋
には NDVI に先駆けて減少傾向を示すことがわかった。また、CO2 フラック
スには日々変動が見られた。そこで CO2 フラックスの決定要因を明らかにす
るために、観測された CO2 フラックスを、日射、飽差、気温といった気象
データ、さらに、多層モデルによる CO2 フラックスの計算結果と比較した。
解析の結果、CO2 フラックスの日々の変動は概ね日射、飽差、気温などの気
象要因の変動によって説明できた。個葉ガス交換特性を 7 月の最盛期に固定
した多層モデルの計算結果と観測値の比較では、展葉初期や落葉期、また夏
季以降で夜間低温あるいは日中高温にさらされる日などにおいて不一致がみ
られた。これらの日において個葉ガス交換特性の変化が CO2 フラックスの
低下を引き起こしていることが示唆された。
O1-U28
冷温帯落葉広葉樹林生態系における土壌有機物層重さの減少率の時・
空間変動
◦
15:00-15:15
NOAA/AVHRR と多層モデルによる冷温帯落葉広葉樹林における CO2
フラックスの解析
大江 悠介1, 熊谷 麻紀子2, 鞠子 茂1
1
O1-U25
8 月 26 日 (木) U 会場
賈 書剛1, 秋山 侃1
15:30-15:45
河畔植生のリターの行方:陸上と水中でのリター分解
◦
佐々木 晶子1, 吉竹 晋平1, 中坪 孝之1
1
広島大・院・生物圏
1
岐阜大学・流域圏科学研究センター
はじめに リターは森林生態系の特別な部分で森林生態系の物質及びエネ
ルギー循環に大きく貢献し、それらの変動は森林生態系が行っている炭素の
吸収あるいは放出のメカニズムの解析、さらに生態系の炭素循環を正確に把
握するうえでとくに重要である。ここでは 1999 年 6 月から 4 年間に渡っ
て冷温帯落葉広葉樹林に属する高山試験林で行ったリター重の減少率につい
ての試験方法及び予備解析の結果を報告する。
試験材料及び方法 用いたリター箱法は自ら開発し、現地状態のままでリ
ターの減少率を調べることができる利点がある。今回はリターだけではなく
A0 層即ち土壌有機物層を研究対象とした。試験はアクリル棒の骨格と、周
囲を 1mm mesh の網で被ったリター箱(20cm × 20cm × 4-6cm)を用い、
現地で原状態のままでリター重の変化を計測する。1999 年 6 月リター箱2
8個、そのうち11個(1-11)は同じ場所で採取したリター(L 層)を、残
り 17 個 (12-28) は、20cm × 20cm にハサミで切断したリター(L 層、F
層、H 層)を現地状態のままで箱に入れ込んで立地別に設置した。2000 年 5
月さらに 15 個(29-43)を追加し設置した。1999 年の 8 月、10 月、2000
年の 4 月、6 月、9 月、12 月及び 2001 年の 6 月、2003 年の 6 月に回収
調査を行った。
試験結果 リターは、6-8 月に減少率が高く(平均 108.8 g/m2 /月)、そのう
ち特に同じ試料を用いた調査の場合は頂部で最も高く(145.3g/m2 /M)、谷底
部には一番低かった(51.3g/m2 /M)。9-10 月に減少率は平均 30.8 g/m 2 /M、
夏より低くなっていた。11 月-翌年の4月に減少率は 0 ないしマイナスになっ
ていた。第一年目の減少率は 130-550、二年間の減少率は 81-480、3-4 年間
の減少率は 88-828 g/m2 /yr であった。平均は 250 g/m2 /yr ぐらいであった。
河畔植生は河畔域における主要な有機物供給源の一つである。演者らは
これまでに、河畔ネコヤナギ群落が温帯林に並ぶ生産量を持ち、河畔域に
多くのリターを供給していることを明らかにした(佐々木・中坪 第 48
回日本生態学会大会)。河川の増水によって水中に入ったリターは、水中
で CO 2 まで分解(無機化)されるか、あるいは有機物として下流へ流
出すると考えられる。しかし河畔域での無機化を含めたリターの動態に
ついてはよく分かっていない。本研究では河畔植生のリター分解過程を
定量的に明らかにする目的で、1) 陸上と河川水中でのリターの重量減少
を調べ、さらに 2) 河川水中での年間のリター無機化量を推定した。
調査地とした広島県太田川中流域では、砂州上にネコヤナギ群落が成立
しており、群落は河川が増水すると冠水する。群落内でのリターの重量
減少をリターバッグ法によって調べた結果、一年を経ても約 60 %のリ
ターが残っており、陸上での重量減少が非常に遅いことが分かった。こ
れらのリターの一部は増水によって河川水中に入ると考えられる。河川
水中での重量減少を同様に調べたところ、一年間で 60 %もの重量が失
われた。リター重量の減少は、微生物による無機化や、溶存態・細粒有
機物の流出によって起きる。そこで次に河川水中でのリターの年間無機
量を推定した。一定期間野外に設置したサンプルの無機化速度とその温
度依存性をもとにモデルを作成し、調査地付近の年間の水温データを用
いて年間の無機化量を見積もった。その結果、河川水中での重量減少は
6 割に達していたにもかかわらず、完全に無機化されるリターの割合は
わずか 10%にとどまることが示された。このことは河川水中に入ったリ
ターの 5 割に当たる量が溶存態や細粒状の有機物として下流へと流出し
たことを示しており、河畔植生に由来する多量の有機物が河川を通して
下流域へと運ばれている可能性が示唆された。
— 261—
O1-U29
口頭発表: 物質生産・物質循環
O1-U29
8 月 26 日 (木) U 会場
O1-U30
15:45-16:00
山地斜面における落葉リターの移動と分解:スズタケ群落は移動を妨
げ分解を促進する
塩川 聡輔1, ◦ 加賀谷 隆1
山地小渓流における落葉枝リターパッチの季節動態 –リター形態変化
の重要性–
◦
小林 草平1, 加賀谷 隆1
1
1
東京大学大学院農学生命科学研究科
東大院・農学生命・森林動物
森林渓流において、生物のエネルギー源として重要な落葉枝リターは、集
積したリターパッチとして存在する。演者らは、形成場の異なるリターパッ
チの 3 タイプ(瀬、淵央、淵縁)のうち、淵央パッチは底生動物の二次生産
や落葉破砕速度が特に高いことを明らかにし、淵央パッチと他のパッチに存
在するリターの相対量によって渓流区間スケールでの二次生産や落葉破砕は
大きく異なりうることを示した。この相対量は、タイプによるリター破砕速
度の違い、またはタイプ間のリター移動によって季節変化することが考えら
れる。本研究は、埼玉県秩父の複数の小渓流(流域面積 60-800ha)での調査
と、これまでのリター動態に関する研究を合わせて、区間スケールでの各タ
イプに存在するリターの相対量の季節変化を明らかにすることを目的とした。
2002 年 3、5、7 月の調査の結果、対象全 13 区間に共通したリターパッ
チ量(100m 区間あたり河床被覆面積、重量)の季節変化がみられた;いず
れのタイプも季節とともに減少したが、淵央パッチの減少度は他のパッチに
比べて小さく、淵央パッチに存在するリターの割合は 3 月の 20%から 7 月
の 80%に増加した。
この季節変化は、淵央パッチで速い落葉破砕パターンから説明することは
難しい一方、秋冬は瀬や淵縁パッチで春以降は淵央パッチで量が多いリター
の移入–滞留パターンと一致しており、これをもたらす季節によるリターの
小片化、それに続くパッチ間移動再分布により生じている可能性が考えられ
た。全区間を通して見られる今回の季節変化は少なくとも近辺地域の渓流に
おいて普遍性の高いパターンと考えられる。季節とともに淵央パッチの割合
が高くなるということは、実際の渓流における底生動物二次生産量や落葉破
砕速度は、季節とともにリター量や温度から予測されるものより高まる可能
性を示している。
山地斜面に成立する森林では,落葉リターは斜面下方への移動ポテンシャ
ルを持つ。林床に密生するササは,リターの移動を妨げ,流域内に有機物や
栄養塩を貯留する上で重要であると予想される。一方,ササの存在は,落葉
リターの分解速度に影響を及ぼす可能性がある。本研究は,山地斜面におけ
る落葉リターの移動,滞留,分解に及ぼすササ群落の影響を定量的に評価す
ることを目的とし,スズタケ群落がパッチ状に点在する東大秩父演習林のブ
ナ-ミズナラ林において調査を行った。
3カ所のササ群落内とそれに隣接した場所に,斜面上方側に開口部をもつ
トラップを設置して 1 年間リター移動を測定した結果,ササ群落外での広葉
樹の落葉リターの年間平均移動量は 1200 g/m,推定年平均移動距離は 5.4 m
と評価された。リターの移動は強風が観測された 12 月上旬と 3 月にピー
クを示し,これらの時期のみで移動の 60%が生じていた。ササ群落内のリ
ター移動量は,ササ群落外と比較して有意に小さく 10%程度であった。ま
た,ササ群落パッチの斜面側上端部から下部方向 3 m 程度の範囲に,顕著
なリターの堆積が観察された。5カ所のササ群落内とそれに隣接した場所に
リターバッグを 12 月に設置し,ミズナラおよびスズタケ枯葉の破砕を比較
した結果,9 カ月後の残存重量には有意差が認められ,ササ群落内の減少率
は群落外のそれぞれ 1.24,1.89 倍であった。また,ササ群落内のリターは,
群落外に比べて,含水率は有意に大きく,CN 比は有意に小さかった。ツル
グレン装置によりリターバッグから抽出された土壌動物の個体数は,ササ群
落内が群落外の 1.6 倍であった。ササ群落内では,湿潤なため微生物および
土壌動物によるリター分解が促進されるものと考えられる。山地斜面に成立
する森林において,ササ群落は,落葉リターの貯留機能を有することで流域
外への有機物や栄養塩の流出を抑制すると同時に,リターの分解を介した栄
養塩循環を促進する作用があるといえる。
O1-U31
16:15-16:30
マルチ自動開閉チャンバーを用いた森林木部呼吸の連続測定
◦
16:00-16:15
梁 乃申1, 藤沼 康実1, 井上 元1, 宇都木 玄2, 飛田 博順2, 渡辺 力2
1
国立環境研究所, 2森林総合研究所
森林の中で最も大きいバイオマスを占めている幹と枝の呼吸量を見積もるこ
とは、森林生態系の炭素収支を評価する上で重要である。本研究では小径木
から大径木までのあらゆる樹木に対応できる現地取り付け型マルチ自動開閉
チャンバー式幹呼吸自動測定システムを開発した。2002 年 8 月に開発したシ
ステムを苫小牧フラックスサイトのカラマツ林において樹木別、高度別、枝
の太さ別など多地点に設置し、地上木部呼吸速度の観測を開始した。16 個あ
るチャンバーのうち測定中のチャンバー(1 個)に対しては中の空気を循環
させながら CO2 アナライザへ送り、測定していないチャンバーに対しては外
気を通過させてチャンバー内の環境を外の環境に近づける。各チャンバーの
測定時間は 225 秒に設定し、16 個のチャンバーの測定周期は 1 時間である。
カラマツ林における地上木部の吸速度は顕著な季節変化を見られた。幹呼吸
速度については幹の上部ほど高く、特に樹幹の先端や枝で高かった。また幹
呼吸速度は日変化を示し、夜より昼の方が高かった。そして呼吸速度は幹温
と指数関係を示した。幹呼吸の Q10 は幹の下部(高さ 2 m)と中部(高さ 8
m)はそれぞれ 2.4 と 2.8 であったが、幹の先端(高さ 12-14 m)と枝は 4.1
であった。しかしながら、呼吸速度は幹温に対して 2 時間のヒステリシスを
示した。また、得られた幹呼吸速度と地上部のバイオマスのデータを元に、
森林生態系レベルの地上木質部の呼吸量を推定した。落葉時期におけるカラ
マツ林の地上木部の呼吸量は、森林生態系の総呼吸量の 31%を示した。
また、2004 年の春に 24 チャンネルの改良型幹呼吸システムを森林総合研究
所の羊ヶ丘フラックスサイトに設置し、約 90 年生落葉広葉樹混交林の幹呼
吸の測定も始まった。
O1-U32
16:30-16:45
森林群落における木部表面積の推定法
◦
千葉 幸弘1, 檀浦 正子2, 右田 千春3, 毛塚 由佳理4, 韓 慶民1
1
森林総合研究所, 2神戸大学大学院自然科学研究科, 3東京大学大学院農学生命科学研究科, 4筑波大学
生物資源学類
森林のエネルギー収支や二酸化炭素収支は環境条件によって刻々変動する。
こうした生理的プロセスを介した物質収支を評価するためには、植物体に
よる光合成と同様に、呼吸消費量の定量化も不可欠である。呼吸プロセス
は光合成ほどには複雑な現象ではないが、枝・幹・根の各部位ごとに測定し
た呼吸量を、個体 ∼ 群落レベルにスケールアップしなければならず、木
部器官の直径サイズ分布とその成長量を定量的に扱えるようにしておく必
要がある。
木部器官の直径階ごとの頻度分布については、パイプモデル理論(Shinozaki
et al. 1964)において単純なベキ乗関係が見出されている。さらに、いくつ
かの樹種の伐倒調査結果から、幹を含めた樹冠重量Wは、生枝下高におけ
る樹幹直径DBとベキ乗関係で近似できることが確認できた。これらの関
係を基礎として、個体ベースの木部表面積の推定方法とその妥当性を検討
した。ただし、簡単のため、両対数グラフ上における木部直径階とその頻
度(該当する直径階の総延長)とのベキ指数(勾配)を–2と見なし、木部
の比重Rは樹種ごとに固有とし枝・幹に共通と仮定した。その結果、樹冠
内木部の全表面積A cr は次式で与えられる。
A cr =4*W*log(10*DB)/(R*DB)
樹冠下の幹形を暫定的に切頭円錐体とみなせば、この部分の樹幹表面積は、
生枝下高、胸高直径、生枝下高直径を与えれば簡単に計算できる。根系表
面積については、樹木を逆さにひっくり返した状態を想定すれば、樹冠表
面積の推定と同様に計算可能なことは明らかであり、幹の地際直径と根系
重量が与えられれば推定可能である。以上の計算式を用いて、広葉樹およ
び針葉樹の木部表面積の推定結果と比較したところ、良好な推定値が得ら
れた。
— 262—
口頭発表: 物質生産・物質循環
O1-U33
16:45-17:00
コナラ林における光合成特性の時空間的変動
◦
右田 千春1, 千葉 幸弘2, 韓 慶民2, 丹下 健3
1
東京大学大学院 農学生命科学研究科, 2森林総合研究所 植物生態研究領域, 3東京大学演習林
気候変動に伴う陸上生態系の物質生産の変化予測には、光合成など生理
機能の環境応答特性の把握が不可欠である。本研究ではコナラの光合成生
産に影響を与える要因を明らかにすることを目的として、林冠内の異なる
環境条件に配置された個葉の光合成特性の時空間的変動を調べ、個体レベ
ルの物質生産との関係について解析を行った。調査林分はつくば市にある
森林総研構内の 26 年生コナラ林である。観測用タワー内にある 3 個体を
供試木として選定し、樹冠上層 (地上高 14m)、樹冠下層 (同 12m)、樹冠下
に着生している後生枝2層 (同 7m,4m)、計4層において、03 年 5 月から
11 月までの着葉期間に葉およびシュート伸長等のフェノロジーを観測し、
携帯型光合成測定装置(米国 Li-Cor 杜,LI-6400)を用いて、光強度,二
酸化炭素濃度を段階的に変化させて光合成速度を測定した。供試葉の光環
境と窒素含有量も併せて測定した。
光合成パラメータである Vcmax は、3 個体ともに 5 月から 6 月にかけ
て急激に低下した後増大し、個体 No.2 と No.3 は 7-8 月に、個体 No.1 は
9-10 月に最大値を示した。5 月から 6 月にかけての低下は食葉性昆虫(主
にゾウムシ)の食害による可能性が考えられる。個体 No.1 は他の 2 個体
に比べて 6 月の Vcmax が著しく低く、回復により時間がかかったものと
思われる。同時期の比較では、樹冠下層よりも上層の方が、春伸びシュート
よりも秋伸びシュートの方が高い光合成能力を持つ傾向がみられた。陽樹
冠の光合成能力と材積成長率を個体ごとに比較したところ、個体 No.2 は
No.1 に比べ光合成能力、肥大成長ともに高い傾向がみられた。一方、被圧
木である個体 No.3 は光合成能力に比べて材積成長率が小さかった。これ
は、葉量が少ないために剰余生産が少なく、幹の成長に反映できていない
ことが考えられた。
8 月 26 日 (木) U 会場
O1-U34
O1-U33
17:00-17:15
3 次元シュート構造・光合成特性・フェノロジーを考慮し、年間光合
成量を計算する樹木モデル
◦
梅木 清1, 菊沢 喜八郎2, 白川 裕之2, 鈴木 牧3
1
千葉大・大学院自然科学, 2京都大学・大学院農学研究科, 3兵庫県立大学
近年、植物の機能と構造をコンピュータ内で再現するモデルが数多く開
発されている。これらのモデルを使用すると植物の機能・構造の特徴を
定量的に評価することができ、また、特定環境下での植物の挙動を予測
することができる。植物の機能・構造をどれほど詳細にモデルに取り入
れるかは、モデルの目的によって様々であるが、植物のシュート成長・開
葉・落葉・機能量の季節的な変動(フェノロジー)の詳細を取り入れた
モデルはない。そこで、著者らはシュート成長・開葉・落葉・機能量の
季節的な変動を取り入れて年間光合成量を計算する構造的機能的樹木モ
デルを開発した。本発表ではこのモデルの概要を紹介し、いくつかの計
算例を示す。計算の結果は、年間光合成量決定に際しフェノロジーが重
要な役割を果たすことを示した。開発されたモデルは葉・シュートなど
の詳細な樹木構造を扱うことができるので、これを使用すると、測定さ
れた樹木の3次元構造やシュート動態の特徴を光合成などの機能量で評
価できる。
— 263—
O1-V01
口頭発表: 植物群落
O1-V01
O1-V02
09:30-09:45
春植物群落の種組成的類型化について
◦
8 月 26 日 (木) V 会場
冷温帯生広葉草本種が示す生育立地の地理的差異に関わる環境要因
◦
村上 雄秀1, 林 寿則1, 矢ヶ崎 朋樹1
1
東京農工大学連合農学研究科, 2東京農工大学農学部
春季に季観を呈する草本植物(以後「春型植物」)には以下の4タイプが含まれる。
A.春季に展葉・開花・結実を完了する多年生の「春植物」(カタクリ、イチリンソウ属など)
B.越冬葉を持ち、春季に開花・結実し、夏までに枯死する越年草(オオイヌノフグリなど)
C.越冬葉を持ち、春季に開花・結実し、夏までに地上部が枯死する多年草(カモジグサ、ス
イバなど)
D.葉は常緑あるいは夏緑で、春季に開花・結実を行う多年草(ショウジョウバカマ、フキなど)
このうちDを除く植物は、同一立地において夏・秋季の草本植物と季節的なすみわけを行う場合
が多い。このため一時的な植物群落もしくは季相として認知され、種組成の比較・類型化の例は
少ない。また、一般的な夏・秋季の種組成を基にした植生類型との対応も不明の点が多い。
本報告はそれらを明らかにするため、以下の調査研究を行った結果である。
期間:1998-2003 年
地域:本州・四国の3地域の常緑広葉樹林域-夏緑広葉樹林域に属する丘陵地域。
方法:植物社会学的方法
対象:春型植物群落(上記A-C、一部Dを優占種とする群落)。
目的・内容:
1.春型植物群落の種組成による類型化
2.春型植物群落の類型と夏・秋季の植生類型との対応の把握
3.春型植物群落類型とその構成種のタイプ(A-D)の対応の把握
結果:
1.春型植物群落には種組成の上から畑地から森林植生にいたる立地に対応する約 10 類型
が認められた。
2.春型植物群落の類型は一部では複数の夏・秋季の植生類型との重複があるが、概ね夏・
秋季の植生類型と対応する。
3.春型植物群落の類型・立地とその構成種の春型植物タイプには対応関係がある。
演者らは東日本において,太平洋側ではブナ林成立立地(頂部緩斜面・山
腹斜面)に生育するが,日本海側ではブナ林に隣接した谷もしくは小谷の谷
壁斜面に生育が限られるという,広葉草本種の生育立地の地理的差異を確認
した(蛭間・福嶋 2004).本研究は,広葉草本種の生育立地の地理的差異に
関わる要因について,林床の光環境やリターの堆積状態の違いから考察する
ことを目的とした.
広葉草本種の生育立地の地理的差異を確認した奥多摩・道志地域,北上山
地北東部地域,富山県五箇山地域,山形・新潟県境朝日地域における植生調査
スタンドにおいて,林床環境に関する以下の項目の調査を行った.1. リター
の堆積状態(被度,厚さ,層数),2. 夏季の光環境(GSF),3. 春季の光環
境および群落フェノロジー,4. 消雪日.
太平洋側,日本海側間での広葉草本種の生育立地の差異には,積雪の多寡
と微地形条件の複合要因によって引き起こされる,林床環境の違いが関わっ
ていると考えられた.すなわち,日本海側のブナ林成立立地における広葉草
本の生育を制限している要因として,1. 太平洋側と比較してリターの層数お
よび層数密度(積雪による圧縮度合い)が高く,広葉草本の発芽の妨げにな
ること,2. 春季に雪が残存し,林冠のブナの展葉が,広葉草本の展葉に先行
することによって,生産性の高いこの時期の林床の光環境が悪いこと,の2
点が考えられた.また広葉草本種が,日本海側のブナ林成立立地に隣接した
小谷の谷壁斜面には生育する理由として,小谷の谷壁斜面ではリターの量が
少ないことと,小谷では上層を被う低木よりも広葉草本のほうが先に展葉を
開始できることが,広葉草本の生育に有利にはたらいていると考えられた.
O1-V04
10:00-10:15
カナダ太平洋岸 Douglas-fir(Pseudotsuga menziesii)優占林における林
床植物の分布様式と土壌環境
◦
蛭間 啓1, 福嶋 司2
1
国際生態学センター
O1-V03
09:45-10:00
南 佳典1, 平野 華苗1, ブラッドフィールド ゲイリー2
10:15-10:30
土地利用の履歴と空間構造が半自然草地の種多様性に及ぼす影響
◦
北澤 哲弥1, 大澤 雅彦2
1
東京都, 2東京大学大学院新領域創成科学研究科
1
玉川大学農学部, 2ブリティッシュコロンビア大学
Douglas-fir 優占林において,Salal と数種の林床植生構成種の種間競争お
よび共存関係を明らかにすることを目的とし,土壌要因に着目して,他種
の分布および出現傾向を検討した.その結果,Salal と Dull-Oregon grape,
Salal と Bracken fern が同所的に出現した.前者は成熟林で貧栄養の影響
で,後者は二次林の影響で出現したと考えられた.Salal が出現しなかっ
た成熟林では Step moss,Sword fern,Vanilla-leaf が同所的に出現した.
この森林は Salal が生育するのに適した土壌環境であると推測されたが,
光透過量が少ないことから Salal は生育しにくいと考えられた.
日本の里地では人為管理に伴う多様な群落の成立によって高い生物多様性が
維持されると言われている。人為管理の影響はその後に成立した群落の組成
や種多様性に影響を及ぼすことが、二次林を対象にした研究より明らかにさ
れつつある。一方、半自然草地は里地の重要な構成要素の一つであるが、草
地の履歴が群落の組成・種多様性に及ぼす影響を明らかにした研究は行われ
ていない。またこれらの草地は面積的に小さいものが多いため、隣接する土
地利用の影響を強く受けることが予想される。そこで本研究では里地の半自
然草地において、土地利用の履歴(持続期間)と空間構造(隣接土地利用)
が群落の組成と種多様性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
千葉県千葉市と四街道市にまたがる谷津田を中心とした 1km 四方の範囲に
おいて、刈り取りにより維持されている 23 箇所の半自然草地を選び、植生
調査を行った。
その結果、持続期間の長い草地では地中植物・半地中植物・重力散布種が多
く出現し、持続期間の短い草地と比較して全出現種数は 20 種程度多くなっ
た。持続期間の長い草地で多く見られた種は移動能力が低く、安定した草地
環境が維持されてきた草地にのみ生き残ることができた遺存種群であると考
えられた。さらに持続期間の長い草地を隣接土地利用により区分した。水田
と森林に隣接する草地(水田/森林草地)は、道路/森林草地および道路/水田
草地と比較して種数が 30 種程度多かった。ほとんどの休眠型・散布型の種
数が水田/森林草地において最大となったが、一年生草本は道路/水田草地に
おいて、また体外動物散布種は道路/森林草地において最大となった。森林と
隣接する草地での体外・体内動物散布型の種の多さは林縁という特殊環境を
利用する動物種群の存在を反映すると考えられた。また道路との隣接は U 字
溝の設置や拡幅・舗装工事などによる局所的な土壌攪乱によって、多年生草
本の種数を減少させると考えられた。
— 264—
口頭発表: 植物群落
O1-V05
10:30-10:45
カキツバタ群落の 20 年の動態
◦
◦
1
豊橋高校, 2愛知県文化財委員
国指定天然記念物・小堤西池カキツバタ群落(刈谷市)の保護増殖研究の一環と
して、永久枠 6ヶ所(PQ1∼6)とベルト 3 本を 1984,85 年に設置し、毎年群落
調査を行なってきた。それをカキツバタ群落の 20 年間の動態としてまとめた。
(1) 永久枠法から得られたもの
PQ の調査では、20 年の間にカキツバタが増加したもの(PQ1,3)と減少した
もの(PQ4,5)、及びそのほか(PQ2,6)に分かれた。
カキツバタが減少したもの(PQ4,5)では、その減少はヨシ、アンペライの増加
による生物的な競争による結果と考えられる。この現象は、管理(除草作業等)が
行なわれなかった時の様子を表わしているといえる。このコドラートでは、ヨシと
アンペライの競争も興味深い。
カキツバタが増加したもの(PQ1,3)では随伴種のチゴザサ、イヌノハナヒゲが
減少していた。この理由には水位の変化 (増加) が考えられる。以前(1990)、カ
キツバタの生育環境を土壌厚と水深で説明し、植生管理の方法を提案した。現在の
カキツバタの純群落の形成は、その環境条件が作られているためと考えられる。た
だ、水位変化は多くの植物種に影響しており、出現種数の減少しているのもこのた
めと考えられる。
そのほか(PQ2,6)のグループのうち、PQ6 は、調査開始時からカキツバタの純
群落であった。PQ2 は岸辺に近い湿地状の場所で、出現種や優占種は年毎に変化
していた。
(2)ベルトトランゼクト法から得られたもの
ベルトAでは、微地形が出現種に影響している。島状地では出現種類数が多く、
カキツバタはこの部分では少ない。20 年の変化では、カキツバタはやや減少傾向
であり、出現種数は減少している。
ベルトBは水位が先から基に向かって徐々に浅くなり、微地形的には単調である。
出現種数は全域で少なく、全域がカキツバタの純群落的な状態になっている。出現
種数は 90 年まで減少しその後一定である。
ベルトCの 20 年間は、カキツバタは徐々に増加しており、出現種数は 94 年を
境に減少した。
11:00-11:15
河川砂州上のツルヨシ群落の形成過程に関する考察
◦
O1-V06
10:45-11:00
環境の違いが抽水植物 (Eleocharis aphacelata) の生長に及ぼす影響につ
いて
中西 正1, 浜島 繁隆2
O1-V07
O1-V05
8 月 26 日 (木) V 会場
藤野 毅1, 浅枝 隆1, 緒方 直博1
1
埼玉大学大学院理工学研究科
京都府京田辺市を流れる木津川の砂州に広がるツルヨシ Phragmites
japonica 群落について、それぞれ標高が異なる砂州上流、中流、下流の
全7箇所で地上部と地下部のバイオマス、リター、土壌有機物等を採取
し、比較を行った。
一方、この調査地区は、数年に一度の割合で大規模な洪水が発生し、そ
の擾乱によって砂州上のツルヨシ群落の一部が消失する。これまでも航
空写真等による調査から、洪水が生じない期間は、ツルヨシのバイオマ
スやリターは増加する傾向にあることが確認できた。
昨年に行ったサンプリング調査の結果と照らし合わせると、リターの蓄
積量は、洪水が生じて以降、明瞭に経過年数に対し加速度的に増加して
いることがわかった。この理由は、流出後、多少残った地下茎によって
新しく群落が形成され始め、地上の葉茎を形成、転流によって地下茎の
生長を繰り返し、年を追うごとに、地上部および地下部のバイオマスが
増加する。秋に枯死した葉茎は、リターとして堆積するものの、地下部、
地上部は徐々に増加するため、リターの供給量は年々増加する。さらに、
ツルヨシのリターは分解速度が極めて遅いためにこれらのほとんどが砂
州上に残されていく。そのため、ある年に堆積するリター量は、増えて
いく地上部に比例する。すなわち、経過年数以上の速さでリター量は増
加していくことになる。このようにして考えると、洪水の影響が最も小
さくなる比較的標高が高い砂州上のツルヨシ群落では、リターは最終的
にその場所の有機土になり、土によって構成される砂州は元来の砂によ
るものよりも安定化を促進する。またこの過程が洪水による擾乱の影響
を小さくさせるだけでなく、更に大きな群落を形成する傾向になるもの
と推察される。
浅枝 隆1, ラジャパクセ ヘマンサラリス1, ジャガト マナトゥンゲ1, 藤野 毅1
1
埼玉大学大学院理工学研究科
Australia NSW 州の性質の異なる 2 箇所のウェットランド(RosesLagoon 及
び The University of Newcastle)において、Eleochais spahcelata の地上部およ
び地下部を 1–2ヶ月に一度の頻度で観測を行った。RosesLagoon はキャンベラ
近郊に位置し、寒暖の変化が激しく、年間に 3ヶ月程度湛水するのみで頻繁に
数ヶ月程度全く雨の降らない状態が続く。一方、Newcastle 大学のサイトは、
冬も比較的温暖で、水深は 1m 程度に保たれ、底には大量の有機質の泥が堆
積している。この二箇所の結果を比較したところ、以下の点が明らかになっ
た。まず、地上部の生長期間は、RosesLagoon で 10 月から 3 月、Newcastle
大学ではほぼ年間を通して新しい葉が観測された。また、地上部の年間の最
大量の平均は RosesLagoon で 3000g/m2、Newcastle 大学で 5120g/m2、一
方、地下部は RosesLagoon で 6460g/m2、Newcastle 大学で 2850g/m2 となっ
ていた。特に、今年新しく形成された地下茎の量は最大でそれぞれ、14%、
18%となった。また、地下茎の長さは RosesLagoon で 37m/m2、Newcastle
大学で 20m/m2 となっており、Newcastle 大学では RosesLagoon に比べ相
対的に短くなっていた。さらに、茎の最大本数は RosesLagoon で 676/m2、
Newcastle 大学のもので 374/m2 であり、後者では太く長い茎が少数存在し
ていた。以上のことより、気候や水分補給の状況の厳しい RosesLagoon にお
いては、乾燥や地上部が枯れた場合の再生に備えているためや、地上部がす
べて枯死し生産のない期間が長く続くことに対処するために、地上部に比べ
地下部の量を多くし、また、小さい茎を多数だしていること。一方で、酸素
供給の条件の厳しい Newcastle 大学のものでは地下茎の長さを短く太くする
ことで対処し、また、深い湛水深のために茎は本数を少する代わり個々には
太く長くしていることが伺える結果となった。
O1-V08
11:15-11:30
北海道内の湿原における, ミズゴケの成長量とハンモックの形状の地
域差
◦
矢崎 友嗣1, 矢部 和夫2, 植村 滋3
1
北海道大学大学院農学研究科, 2札幌市立高等専門学校, 3北海道大学北方生物圏フィールド科学セ
ンター
はじめに
北海道のミズゴケハンモックの形状には地域差がみられ, 日本海側で低く扁平, 太平洋側西部で中程度で山
型, 太平洋側東部で高く円筒形である (Yabe and Uemura, 2001). 著者らは, ハンモックの高さ異なる 4 湿
原においてミズゴケの成長量, ハンモックの標高, 水文化学環境の季節変化などを測定し, ハンモックの形
状に地域差が生じる過程を検討した.
方法
観測地はサロベツ・歌才 (日本海側), ウトナイ (太平洋側西部), 風蓮川 (太平洋側東部) の 4 湿原である.
4 月から 10 月まで約 1ヶ月間隔でハンモックを形成するミズゴケの伸長成長量 (以下, 成長量), ハンモッ
クの標高などを測定した. 雪圧と他の植物による被陰の効果を検討するため, 無処理区, 雪圧除去区, 他の
植物刈り込み区, 雪圧除去×刈り込み区を設置した.
結果と考察
ミズゴケの成長量の地域差
同種でミズゴケの成長量を比べると, 北海道西部または日本海側で東部を上回る傾向がみられた. これは,
2002 年と同様の傾向であった (2003 年度大会にて発表済み).
被陰の影響
ほとんどのハンモックで他の植物の刈り込みによって乾燥または枯死するミズゴケの割合が増加し, 成長
量も低下した. また, 刈り込み区では夏季に標高が低下した. 刈り込みによって被陰による蒸発散抑制効果
が失われ, ミズゴケが乾燥し, ハンモックを構成する泥炭が収縮していたと考えられる.
雪圧の効果
太平洋側では雪圧による標高はほとんど変化しなかったが, 日本海側では雪圧によってハンモックの標高が
低下していた. 歌才では無処理区で標高が大きく低下したが, 翌年の成長量も大きく, 2003 年秋には 2002
年の秋と同程度の標高になった. このことから, 歌才では積雪がハンモックの標高を地下水面に近づけ, そ
の結果ミズゴケの生育に良好な湿潤環境が形成されたことが推察された.
— 265—
O1-V09
口頭発表: 植物群落
O1-V09
O1-V10
11:30-11:45
厚岸湖畔におけるアッケシソウ(Salicornia europaea L.)の分布に及ぼ
す影響
◦
8 月 26 日 (木) V 会場
温帯性海草の種ごとの分布上限は乾燥耐性が決めているか?
◦
山本 昭範1, 神田 房行2
東京大学 海洋研究所, 2北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター, 3千葉大学 自然科学研究科
筑波大学大学院環境科学研究科, 2北海道教育大学・釧路・生物
アッケシソウはアカザ科の一年草で、海岸の塩湿地や内陸の塩湖に生育する。
アッケシソウはわが国では四国の塩田で見つかっている例を除けば、北海道
東部の海岸の塩湿地に分布する。アッケシソウは北海道東部の厚岸町の厚岸
湖で発見されたことから、その名がつけられた。厚岸湖では牡蠣島に主に分
布していたので、牡蠣島のアッケシソウ群落は「厚岸湖牡蠣島植物群落」と
して国の天然記念物ともなっていた。しかしながら、近年、牡蠣島は地盤沈
下が著しく、牡蠣島のアッケシソウ群落は全く姿を消してしまった。しかし、
以前からアッケシソウは、牡蠣島の他にも金田崎地区を中心として、厚岸湖
の湖畔にも分布していることが報告されている。しかし厚岸湖の湖畔におい
ても、生育環境の悪化などにより、その分布域、分布量が減少しており保護
の必要性が認識されている。保護には基礎的な生態学的知見が不可欠である。
そこで、アッケシソウの分布と微地形、満潮時の水深、土壌有機物量との関係
に着目し調査を行った。湖岸から内陸にかけてベルトトランセクト法で調査
を行った結果、アッケシソウは湖岸から約 20m から 90m の地域に分布して
いた。これを微地形の変化と比較すると、アッケシソウは微地形の変化に対
応して分布していることがわかった。また、アッケシソウの分布と満潮時の
水深を比較すると、水深の変化に対応した分布が見られ、比較的に水深の深
い場所に分布することが確認された。さらに、アッケシソウは粗質泥土の土
壌を好んで生育するが、今回の調査でもアッケシソウの分布している場所は
粗質泥土であったことが確認された。しかし、土壌有機物量との間に有意な
関係は見られなかった。これらの調査から、厚岸湖においては、アッケシソ
ウは微地形と満水時の水深が分布の一要因として働いていると考えられた。
13:30-13:45
沖積砂礫地に成立するコナラ林の組成的特徴
◦
田中 義幸1, 向井 宏2, 仲岡 雅裕3, 小池 勲夫1
1
1
O1-V20
11:45-12:00
野田 浩1, 吉川 正人2, 福嶋 司2, 平中 春朗3
1
東京農工大学大学院連合農学研究科, 2東京農工大学農学部, 3(株)国土環境
コナラ林は山地、台地、丘陵地などに自然林もしくは二次林として広く分
布しているが、東北南部や北関東、中部内陸域では河川沿いにも自然状態
で発達したと考えられるコナラ林が成立していることが知られている。こ
のコナラ林の成立立地は河川が山地から平野に流出する際に、上流から運
ばれてきた物質が堆積することによって形成される沖積砂礫地である。
本研究はこのような沖積砂礫地に成立するコナラ林の種組成およびその
特徴を知ることを目的とした。
調査地域は福島県の荒川、栃木県の蛇尾川、山梨県の小武川である。各
地域の沖積砂礫地に成立しているコナラ林、周辺の山脚部に成立している
コナラ林、河川上流部に成立する渓谷林についての植生資料を収集し、こ
れらの群落の種組成を地域ごとに比較検討した。
いずれの地域でも沖積砂礫地に成立する林の優占種はコナラであること
が多いが、シデ類やクリなど多くの樹種が混生していた。また、多くの場
合、林床にササ類が繁茂せず、草本層は多様な種によって構成されていた。
地域ごとに種組成を比較した結果、このコナラ林の構成種の中には山脚部に
発達するコナラ林や渓谷林にはほとんど出現しない種が含まれており、比
較した群落に対しては組成的な独自性を持っていることが分かった。また、
その傾向は蛇尾川沿いに成立しているコナラ林でより顕著であった。各群
落タイプを DCA によって序列化すると、調査対象とした林はいずれの地
域においても山脚部のコナラ林に比べ、渓谷林に近い位置に配列され、よ
り渓谷林との関係が強いと判断された。
海草は堆積性沿岸生態系の主要な構成要素として、高い一次生産力を保持し、
多様な生物種を維持している。アマモ(Zostera marina)とコアマモ (Zostera
japonica) は温帯域に広く分布する海草であり、あらゆる地点においてコアマモ
の分布上限はアマモより浅いことが知られている。北海道東部の厚岸湖では、
潮下帯にはアマモとコアマモが分布するのに対し、潮間帯にはコアマモしか分
布しない。本研究はアマモとコアマモの分布上限の差を決定するメカニズムを
検討した。
室内では、時間の経過にともなう葉の含水率の低下を測定した。野外において
は潮下帯から潮間帯にアマモとコアマモを移植し、コントロールとして潮下
帯、潮間帯に本来分布する種をその場で移植した。これらの株について、移植
をおこなった 7 月から 10 月までの間、株数と株の高さならびに光合成活性
(Diving-PAM による)を測定した。また、株が干出した際、地面との間に出来
る空間の大きさも計測した。
この結果、空気中ではコアマモはアマモと比較してより短い時間で葉から水分
を失うことが明らかになった。潮下帯から潮間帯の移植では、実験開始時に対
して終了時のコアマモ株数は 118 %であった。それに対して、アマモ株数は、
28%まで著しく減少した。株の高さは、潮間帯に移植したアマモだけが有意に
減少した。光合成活性は、コアマモでは潮間帯への移植、コントロールともに、
有意な差が認められなかったが、アマモでは潮間帯へ移植した株の活性が有意
に減少した。また、潮間帯のコアマモでは、干出時に地面との間に隙間がほと
んど出来ないのに対して、アマモでは大きな空間が認められた。これらから、
アマモとコアマモの分布上限の差は、形態上の特性によって決定されているこ
とが強く示唆された。
O1-V21
13:45-14:00
岡山県東部における GIS を用いた植生の解析1 地質・地形と植生の
関係
◦
森定 伸1, 山本 圭太2, 難波 靖司3, 山田 哲弘3, 波田 善夫2
1
株式会社ウエスコ, 2岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科, 3財団法人岡山県環境保全事
業団
目 的:岡山県東部を対象に植生図と地質図、50 m格子間隔のDEMを用いて、地
質・地形と植生の発達状況に関する詳細な解析を行い、植生の発達要因を明らかに
する。
調査地:吉備高原の東端に位置し、最高点は妙見山の 519 m。調査地のほぼ中央を
南北に、吉井川が流下する。気候的には、年平均気温 13.9◦ C、年間降水量 1,440mm
の地域であり、暖温帯林の下部に位置する(暖かさの指数 111.8◦ C・月、寒さの指
数-5.1◦ C・月)。地質は多様であり、泥質岩、砂質岩等の堆積岩類、安山岩質岩、流
紋岩質岩等の火山岩類のほか、花崗岩質岩を主とする深成岩類が分布する。全域が
アカマツ、コナラ、アベマキの生育する代償植生とスギ・ヒノキ植林に広く覆われ
ており、自然植生はコジイ群落、アカガシ群落等が社寺林として僅かに残されるの
みである。
方 法:以下の各地図情報をオーバーレイし、関係解析を行った。
植生図・
・1/2 万 5 千地形図を基図として、2001 年に現地調査(植生調査結果か
ら凡例を設定)と空中写真の判読により作成(環境省より貸与)。
地質図・
・土地分類基本調査「周匝・上郡」表層地質図(岡山県.1982)1/5 万スケー
ルを使用。
DEM・
・数値地図 50 mメッシュ(標高)日本–3(国土地理院.1997)を使用。傾
斜角度、斜面方位、集水面積指数等の地形属性値を算出。
結果・考察:泥質岩や礫岩・砂岩などの堆積岩地域ではコナラ群落が比較的広く発
達し、流紋岩質岩地域や花崗岩質岩地域ではコナラ群落よりもアカマツ群落が広く
発達していた。地質が異なると、発達する植生の種類とそれらの分布量が異なって
いた。同一の植生でも、異なる地質では、成立する地形が異なっていた。植生図化
を効率的に行うためには、予め対象地域の地質地形情報を整理し、活用することが
有効である。
— 266—
口頭発表: 植物群落
O1-V22
O1-V23
14:00-14:15
岡山県東部における GIS を用いた植生の解析 2 約 20 年間における植
生の変化
◦
太田 謙1, 能美 洋介2, 波田 善夫2
1
岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科, 2株式会社ウエスコ, 3財団法人岡山県環境保全事
業団
1
岡山理科大学 総合情報院 生物地球システム専攻, 2岡山理科大学 総合情報学部 生物地球システム学科
目的 :
植生の分布割合や遷移段階、地形の傾向に、地質が大きく影響していることが寺
下(2002)等の研究から明らかになってきた。瀬戸内沿岸地域では、劣悪な植生が
発達する流紋岩質岩地域が広く分布しており、植生成立要因の解明が必要である。解
析の結果、従来の知見と異なる地形と植生の関係を明らかにできたので、隣接する
未変成堆積岩地域と比較し、報告する。
調査地、解析方法 :
岡山県備前市(流紋岩質岩地域)と瀬戸町(堆積岩地域)において 202 地点で植
生調査を行い、表操作から群落を区分し、植生図を作成した。STRIPE 法(Noumi,
2003)によって格子間隔 5 mのDEMを作成し、地形属性を算出した。表層地質図、
地形属性等を植生図とオーバーレイし解析を行った。さらに表層土壌を採取し、24 2-3 mm の篩にかけ、粒度組成を 9 段階に分け重量を測定した。
結果、考察 :
流紋岩質岩では遷移の遅れたアカマツ低木群落が大半を占め、谷頭等には湿原が
散在していた。堆積岩では乾燥しやすい尾根や斜面上部にアカマツ高木群落が分布
し、斜面下部や谷の適潤地に、より遷移の進んだコナラ群落アラカシ群が分布して
いた。地質の異なる 2 つの地域に共通する群落は無く、地質によって明らかに植生
が異なっていた。
堆積岩地域の土壌は、地形に大きく影響を受けており、堆積傾向の場所ほど微粒
成分が少なかった。一方、流紋岩質岩地域では地形に関係なく全域で微粒成分が多
かった。
堆積岩地域では、集水面積の増加に従い、より遷移の進んだ群落の割合が増加し、
水分条件と遷移の間に大きな関係があることがわかった。しかし、流紋岩質岩にお
いては、集水面積と植生の間に顕著な関係がみられなかった。従来の知見では、地
質によって地形が異なり、植生に反映する要素が大きいと考えていたが、本研究で
は母岩の性質によって、地形の影響の割合が異なる事を明らかにできた。
目 的:岡山県東部を対象に作成年代の異なる2つの植生図と地質図を用いて、
植生の変化と地質の関わりについて解析を行い、植生の発達要因を明らかにする。
調査地:吉備高原の東端に位置し、最高点は妙見山の 519m。調査地のほぼ中央を南
北に、吉井川が流下する。気候的には、年平均気温 13.9◦ C、年間降水量 1,440mm
の地域であり、暖温帯林の下部に位置する(暖かさの指数 111.8◦ C・月、寒さの
指数-5.1◦ C・月)。地質は多様であり、泥質岩、砂質岩等の堆積岩類、安山岩質
岩、流紋岩質岩等の火山岩類のほか、花崗岩質岩を主とする深成岩類が分布する。
全域がアカマツ、コナラ、アベマキの生育する代償植生とスギ・ヒノキ植林に広
く覆われており、自然植生はコジイ群落、アカガシ群落等が社寺林として僅かに
残されるのみである。
方 法:以下の各地図情報をオーバーレイし、関係解析を行った。
植生図・
・第 3 回自然環境保全基礎調査「周匝」現存植生図(環境庁.1988)1/5
万スケール(1984 年調査)と 1/2 万 5 千地形図を基図として、2001 年に現地調
査(植生調査結果から凡例を設定)と空中写真の判読により作成(環境省より貸
与)の作成年代の異なる 2 種類の植生図を使用。
地質図・
・土地分類基本調査「周匝・上郡」表層地質図(岡山県.1982)1/5 万ス
ケールを使用。
結果・考察:約 20 年間の植生の経年変化を比較すると、調査地全域でアカマツ
林は 75 %に減少していた。1984 年にアカマツ林であったメッシュのうち 2001
年には、25 %がコナラ林へと変化し、10 %のメッシュはマツ枯れによる治山回
復措置として行われたと思われる植林の分布へと変化していた。アカマツ林の減
少は花崗岩質岩地域で特に顕著で、流紋岩地域ではあまりその傾向が見られない
など、植生の変化には地質による違いがみられた。
O1-V24
O1-V25
14:30-14:45
スバールバル諸島ニーオルスン氷河後退域における土壌と植生の発達
◦
大塚 俊之1, 内田 雅己2, 吉竹 晋平3, 中坪 孝之3
1
茨城大学, 2国立極地研究所, 3広島大学
スバールバル諸島・ニーオールスンには、氷河後退域のツンドラ生態系
が広がっており、氷河後退時期や微地形などの違いにより植生のモザイク状
分布が認められる。生態系機能は植生タイプと密接に関係しており、ツンド
ラ生態系の広域的な炭素固定機能評価の第一段階として、一次遷移に伴う土
壌の発達プロセスと植生構造との関係を明らかにすることを目的とした。
2003 年の 8 月に東ブレッガー氷河の先端から海岸まで約 3km のライ
ントランセクトを 5 本設定し、各トランセクト上に 200m 間隔で調査プロッ
ト(各 4m2 ) を設置した。各プロットにおいて、植生調査として藻類の被度
と、コケ・地衣植物及び維管束植物のリストと被度、土壌調査として地表面
の礫被度、動物の糞被度、土壌深度、土壌水分量、pH の測定を行った。さ
らに各調査プロットの複数の地点で深さ別の土壌サンプリングを行い土壌中
の全炭素量と全窒素量を測定した。
調査を行った全 64 プロットにおいて維管束植物は 43 種出現した。維管
束植物の出現しない場所を除いた 51 プロットの組成から TWINSPAN によ
り植生タイプを区分した結果、Salix polaris と Oxilia digyna を指標種とし
て、両種が出現しないプロット(氾濫源と若い氷河後退域)と両種の出現す
るプロット(古い氷河後退域)の大きく二つのグループに分けられた。一次
遷移の初期段階である、前者のグループでは礫被度は 80 %以上で、土壌深
度は浅く pH は 8 以上のアルカリ性を示した。このグループのプロットで
は植物の被度は極端に少ないが、コケや地衣類とほぼ同時に一次遷移のごく
初期段階から維管束植物の Saxifraga oppositifolia が侵入することが確認され
た。一次遷移が進行した後者のグループでは土壌深度は 10cm を超える場合
もあり、pH もほぼ中性であった。このグループのプロットでは維管束植物
の Salix polaris とコケ植物の Sanionia uncinata が優占する群落が広がって
いるが、地形的要因によって、Dryas octopetala 群落などのいくつかの植生
タイプが区分された。
14:15-14:30
岡山県南東部の植生 -流紋岩質岩地域及び堆積岩地域の地形、土壌と
植生◦
山本 圭太1, 森定 伸2, 難波 靖司3, 山田 哲弘3, 波田 善夫1
O1-V22
8 月 26 日 (木) V 会場
14:45-15:00
風食による植被の破壊がもたらす強風地植物群落の種の多様性–飯豊山
地の偽高山帯における事例
◦
小泉 武栄1
1
東京学芸大学
東北地方南部に位置する飯豊山地は、海抜 2100m をわずかに越す程度
の山地だが、残雪と高山植物に恵まれ、本邦屈指の広大な偽高山帯の草
原が展開している。この山地では主稜線に沿うところどころで、強風に
よって植被や土壌の一部が縞状に削り取られ、地表に細長い裸地や溝が
できているのが観察できる。筆者は北股岳の南東斜面を事例として、縞
状の裸地とその周辺の植生調査を行い、風食が強風地の植物群落に種の
多様性をもたらす役割を果たしていることを見出した。裸地は最初無植
生だが、ソリフラクションなどの働きで礫が集積し、安定化すると、ミ
ヤマウシノケグサやホソバコゴメグサなどの先駆植物が侵入する。それ
に続いてチシマギキョウやミヤマウスユキソウなどが混生し、さらにハ
クサンイチゲやコタヌキランが加わるなど、遷移の進行に伴って植物の
種類は急速に増加する。これに対し、強風地で広い面積を占め、極相に
達していると考えられるイネ科の草本を主体とする風衝草原では、植物
の種類は大幅に減少してしまう。このことから風食による植被の破壊が、
強風地の豊かな植物相の維持に大きな役割を果たしていると考える。
— 267—
O1-V26
口頭発表: 植物群落
O1-V26
O1-V27
15:00-15:15
ノヤギの完全駆除から30年経過した小笠原諸島南島の地形的な植生
パターンと種多様性構造
◦
8 月 26 日 (木) V 会場
トルコ南部・チクロバ平野領水域の植生と群落構造
◦
玉井 重信1
朱宮 丈晴1
1
鳥取大学, 2京都, 3鳥取大学, 4チクロバ大学農学部
1
(財)日本自然保護協会
トルコ南部・チクロバ平野領水域の植生と群落構造
・佐野淳之
玉井重信(鳥大・乾地研セ)
・安藤信(京大・フィ–ルド研)
(鳥大・農)Yilmaz Tulhan(チクロバ大・農))
トルコ南東部の地中海に面したチクロバ平野の植生を「気候変動による
半乾燥地植生の影響」
(総合地球環境学研究所)に関する研究の一環とし
て調べた。海岸林から標高 1200m の亜高山帯針葉樹林まで垂直的に調
査区を設定し種組成と群落構造を解析した。海岸から標高 600m 付近ま
では小麦、綿などの耕作地帯で現在殆ど原植生を反映した天然林は残っ
ておらず、かろうじて国立公園、自然保護区などにマキ–構成種が優占し
た林分がある程度である。標高 600∼1000m の間は、Pinus bruita 優占
の林分が多く少ない降水量下で比較的大きい蓄積を維持しているものが
あっったが、土壌条件(石灰岩、花崗岩)や家畜による被食の影響が植生
の種組成、構造に認められた。現存している海岸林は上層が P.halepensis,
下層が Elica などマキ–の類が優占していた。群落構造は発達しておら
ず、上層と下層灌木の2層のみで形成されていた。標高0 ∼600m の間
の残存している植生は、上層は P.brutia が優占している林分が多く古い
林分では Quercus coccifera などが混交し群落で垂直構造が発達している
が、新しい林分は Arbutus andrachne、Q. occifera などを主とした灌木林
が多い。標高 600m から亜高山帯までは優占種は P.brutia が多いが殆ど
は人工林である。1000m 以上の亜高山帯林は土壌、斜面方位などにより
Abies ciliica, Juniperus oxycedrus, Cedrus libani, Pinus nigra が優占し高蓄
積林分もある。今後上記の群落が維持され、或いは気候変動によりどの
ように変化するか、とくに上層優占種推測が困難なマキ–と有効土壌がほ
とんど無い亜高山帯上部の遷移予測は本研究の大きな課題である。
過去にヤギの放牧で壊滅的な状態だった小笠原諸島の南島においてヤギ
の完全駆除から約30年たった植生の回復状況をドリーネ地形に沿った
地形的な植生パターンと種多様性構造に注目して解析した。調査は地形
に沿っていくつかのトランセクトを設置し、種類、最大高、被度を測定し
た。トランセクトは、1m×1mのコードラートを最小単位とし種数が
飽和するまでコードラートを連結し、その立地の代表的な種群が全て含
まれるようにした。その結果、ソナレシバ型、イソマツ型、コウライシ
バ型、ハマゴウ型、コハマジンチョウ型、モンパノキ型、クサトベラ型
という7つの植生タイプが区分され、それぞれドリーネ内側と外側、斜
面と尾根というように地形に対応して植生が分化していた。これは南島
において30年を経てようやく植生パターンが形成され安定した状態に
なりつつあることを示しており、全種数が約 60 種で種飽和状態を示し
ていることからも支持されると考えられた。ただし、種数の増加の背景
には観光利用に伴うクリノイガなど人為的に散布されたと考えられる外
来種の侵入が大きく影響しており、保護と適正な利用に向けて今後の保
全策が求められている。
O1-V28
O1-V29
15:30-15:45
ヤクスギ天然林の群集構造
◦
15:15-15:30
15:45-16:00
高齢人工林内の植生構造と多様性を決める要因
新山 馨1, 柴田 銃江1, 田中 浩1, 八木橋 勉1, 安部 哲人1, 野宮 治人1, 佐藤 保1, 金谷 整
一1, 吉田 茂二郎2
◦
田内 裕之1, 五十嵐 哲也1
1
森林総合研究所
1
森林総合研究所, 2九州大学
屋久島のスギ天然林の群集構造を明らかにするため、既存の天文の森試
験地(1ha)を 2002 年に拡張し、4 ha の試験地を設定した。試験地は
太忠岳に近く、標高は約 1200 mで、全域にスギが分布している。ここ
で胸高直径 5 cm 以上のすべての幹の周囲長を測定し、4ha で 31 種を確
認した。林冠層はスギ、亜高木層、低木層ではサクラツツジとハイノキ
が優占していた。スギ天然林は、低標高の照葉樹林と比べると、種数の
少ない、優占種のはっきりとした森林である。最大胸高直径を基に、突
出木 (Emergent > 180 cm)、林冠木 (180 > Canopy > 60 cm)、亜高木 (60
cm > Sub-canopy > 30 cm)、下層木 (30 cm > understorey 15 cm)、低木
(15 cm > shrub) の5つに分けた。また幹数を種の豊富さ (abundance) と
して、優占種 (Abundant > 16 no./ha)、普通種 (Common > 4 no./ha)、ま
ばらな種 (Sparse > 1 no./ha)、まれな種 (Rare < 1 no./ha) の4つに区分
した。突出木と区分されたのは全て針葉樹で、スギ、モミ、ツガ、林冠
木は、ハリギリ、ヤマグルマ、ヒメシャラ、ウラジロガシの 4 種だった。
亜高木にはカナクギノキ、リョウブなど 7 種が含まれる。サクラツツジ、
ハイノキに代表される下層木には 8 種が区分されたが、この2種だけで
全幹数の 53%を占めた。まばらな種、あるいは稀な種と区分された 15
種の内、13 種は下層木と低木であった。この森林では、個体数の少ない
下層木や低木が種数に寄与している。最大胸高直径や幹数から区分した
種群は、あくまで、この4 ha 試験地での状態に基づいたものである。同
じ樹種が照葉樹林では違うグループに属する可能性もある。
間伐等の施業が適度に行われた人工林内の林内植生の種多様性は天然林
のそれよりも高いと言われている。また、高齢になれば多様性が高くなる
とも言われている。過去の人工林内の植生調査は、更新の可否を評価す
る目的としたものが多い。これらのデータセットを種多様性の解析に使
用できれば、過去のデータが有効利用出来る。本研究では、1990 年頃に
北海道の国有林内にある 50 年生以上の針葉樹人工林約 220 地点で行わ
れた植生調査資料を利用した。各調査地では、植栽木、天然更新木、サ
サの量、立地条件(標高・土壌など)、植栽や保育方法等の管理履歴が調
査されている。このデータセットを利用し、人工林内に定着・生育した
樹種の構造および多様性と環境要因との関係を解析した。植栽木を除い
て植生分類を行うと、種子の散布型つまり風散布や動物散布の種が占め
る割合の大小によって分類出来た。さらに、序列化による解析を行うと、
これらの種群ごとに環境要因と対応することがわかった。種多様性は多
くの場合、過去の人為圧(管理履歴)によって大きな影響を受けている
ことがわかった。つまり、種数は立地要因や群落の持つ内的要因とも相
関が認められなかったが、管理履歴としての更新(植栽)前の地拵え方
法とに相関を持った。多様度指数 H ’も立地要因との相関をもたなかっ
たが,過去の間伐率と相関を示し,間伐率が高いほど H ’が大きくなる
傾向を示した。これは,同じような中間的優占度を持つ種が多く存在す
ることを意味する。実際に,H ’が高い林分では同じサイズクラスの個体
が多く,より多くの量を伐採した間伐行為が多数の種および個体の一斉
侵入を許した結果でないかと考えられた。なお、高齢といえども人工林
の林内植生は、植栽前の人為撹乱の影響が高く、伐採前後の管理方法が
50 年後も大きく影響していることがわかった。
— 268—
口頭発表: 植物群落
O1-V30
16:00-16:15
キナバル山の熱帯下部山地林における熱帯針葉樹林の成立過程と構造
◦
清野 達之1, 北山 兼弘1
1
京都大学生態学研究センター
マレーシア・キナバル山の熱帯下部山地林において,ナンヨウスギ科ナ
ギモドキ属(Agathis kinabaluensis)が優占する林分で,熱帯針葉樹林の
成立過程とその構造を調査した.A. kinabaluensis は調査地で最も優占
し,最大樹高・胸高直径・地上部現存量ともに他の樹種よりも大きな値
を示した.A. kinabaluensis の胸高直径の頻度分布では,L 字型を示した
が,胸高直径 5cm 以下の実生・稚樹は極めて少なかった.成長率から
推定した A. kinabaluensis の最大樹齢は 900 年を越し,動的平衡状態を
仮定した A. kinabaluensis の回転時間は約 350 年弱であった.同所的な
他の針葉樹や広葉樹は,A. kinabaluensis よりも低い樹齢と回転時間を示
した.A. kinabaluensis の空間分布や更新は調査地内の微地形に特別な関
係を示さず,これは同所的な他の針葉樹や広葉樹でも同様であった.A.
kinabaluensis は同所的な針葉樹や広葉樹とは上位の階層で,同所的な他
の針葉樹や広葉樹と比較すると長い時間スケールで更新していることが
示唆された.調査地の地形と土壌の堆積状況から過去に大規模な撹乱が
起きていることが推察され,その後に A. kinabaluensis が成立し,現在の
相観になったものと推察される.
8 月 26 日 (木) V 会場
O1-V31
O1-V30
16:15-16:30
沖縄島漫湖湿地のメヒルギ林における現存量の器官分配と林分構造
◦
カーン エムディーナビウルイスラム1, 萩原 秋男1
1
琉球大学 理学部
The weight of aboveground organs (leaves, stems, branches and their sum)
and the leaf area of the Kandelia candel trees were estimated through the allometric method using D0.1 2 H (D0.1 , stem diameter at a height of H/10; H, tree
height). The sample trees ranged from 0.52 to 6.90 cm in DBH and from 1.44
to 4.47 m high. A tree census was performed in a 20 m × 20 m plot, where the
tree density was 15475 ha-1 . The root biomass was estimated using a top/root
ratio of 1.121, which was obtained by felling all the trees and digging out all
the roots in a nearby plot (4 m × 4 m). In the K. candel stand, the biomasses
of leaves, branches, stems, roots, aboveground total and total, and the leaf area
index were estimated to be 5.70 Mg ha-1 , 29.5 Mg ha-1 , 40.5 Mg ha-1 , 67.5
Mg ha-1 , 75.7 Mg ha-1 , 143 Mg ha-1 and 3.60 ha ha-1 , respectively. The M-w
diagram plotted on a log-log scale showed a strong linear relationship (r2 =
0.980), which indicates that the mangrove stand consists of only one canopy
stratum. The analysis showed a single individual random distribution for the
main stems, and a compact colony random distribution when the forks under
breast height were counted.
— 269—
O1-W01
口頭発表: 動物植物相互作用
O1-W01
O1-W02
09:30-09:45
斉当 史恵1, 上田 恵介2
◦
1
ドリスジャパン株式会社, 2立教大学 理学部
花粉の送受粉を動物に依存している植物にとって、花蜜や花粉などの送粉
者への報酬を、いつ、どのように用意し、その存在をどのような方法で
宣伝するか、というのは重要な問題である。なぜなら、訪花者が必ず送
粉者となるわけではないからである。報酬だけを持ち去り、送粉に貢献
しない訪花者を避け、より有効な送粉者を惹きつけるために、植物は系
統的な制限の中で、花の構造や開花習性、香りや蜜標などの送粉者誘引
信号を、誘引したい送粉者の性質に合わせて様々に進化させてきた。一
般的に、花が赤色で匂いがなく、深く太い花筒をしており、分泌される
花蜜の糖度が希薄で多量である花は、鳥を誘引するためにこのように進
化したと考えられている。本研究の対象種のマングローブの一種である
オヒルギ Bruguiera gymnorrhiza は、まさにこれらの特徴を備えている。
例えば、オヒルギは、他のマングローブ植物が白もしくは黄色の花を咲か
せるのに対して、赤色の硬い萼に覆われた花を咲かせる。また、花弁や
蜜線は硬く長い筒状の萼に囲まれおり、希薄な花蜜を多量に分泌し、芳
香性物質の生成はほとんどなくほぼ無臭である。これらのことから、こ
れまでの研究では鳥媒花であると報告されており同様に、沖縄のオヒル
ギも、メジロ Zosterops japonica を送粉者とする鳥媒花であろうと考えら
れてきた。しかし、最近になって、数種の大型カリバチ類が多数訪花し
ていることが報告され、これらもオヒルギの送粉者となっている可能性
が指摘され始めた。本研究では、沖縄でのオヒルギの送粉生態を明らか
にするために、オヒルギへの訪花者相、各訪花者の体表への花粉付着の
有無、開花フェノロジー及び花蜜分泌パターンを調べ、オヒルギの送粉
生態について考察した。
O1-W03
阿部 晴恵1, 上野 真義2, 国武 陽子3, 津村 義彦2, 長谷川 雅美1
1
東邦大学理学部地理生態学研究室, 2森林総合研究所ゲノム解析研究室, 3東京大学生物多様性科学研
究室
本研究では伊豆諸島におけるヤブツバキの繁殖システムについて統合的な理
解を図るために、花粉媒介における生物間相互作用について、花粉の遺伝的多
様性に注目した検証を行った。
調査地である三宅島は、2000 年から続く火山活動により、森林は破壊的な
影響を受けている。しかし、森林を構成する樹種は火山ガスに対する耐性が異
なっており、主要な構成種であるヤブツバキは、火山ガスに対する耐性が高く、
展葉や開花活動が行われている。一方ヤブツバキの受粉に関与する鳥類(主に
メジロ)は、ヤブツバキとは異なる影響を被っていると考えられる。そのため、
花粉媒介における生物間相互作用系のモデルとして、三宅島内の火山活動の質
が異なる複数地点において、ヤブツバキ(生存率、着葉率、葉の食害率、開花
率、樹木あたりの開花数、結果率)と花粉媒介者の生息密度調査を行ってきた。
この結果、火山活動の質が異なる複数地点では樹木あたりの開花数が異なっ
ており、それに正比例して花粉媒介者の生息密度が高くなることが明らかになっ
た。そのため、開花数の少ないところでは、花粉媒介者の密度が低下している
ために結果率が下がると考えられたが、結果率の調査の結果では、開花数の少
ないところで逆に結果率が高くなっていた。しかしながら、たとえ噴火による
開花率と花粉媒介者の密度の低下が、種子の受粉率を低下させないとしても、
花粉の遺伝的多様性には何らかの影響を与えている可能性が考えられる。
そこで、まずは個体群間における開花密度の違いが花粉媒介者の生息密度と
ヤブツバキの繁殖成功に与える影響を検証するために、隣島である新島におい
て、開花密度の異なる個体群間で結実率と花粉の遺伝的多様性の比較を行った。
さらに噴火による被害程度の異なるヤブツバキ個体群間においても、花粉の遺
伝的多様性について検証をおこなった。
長谷川 雅美1, 国武 陽子2, 阿部 晴恵1, 樋口 広芳2
1
東邦大学理学部地理生態学研究室, 2東京大学生物多様性科学研究室
ヤブツバキの有力な花粉媒介者であるメジロ(Kunitake et al., in press)は、冬
期の餌資源としてヤブツバキの花蜜に大きく依存している(国武・長谷川、未発
表)。そこで、両者の相互依存性がどの程度の強さなのかを明らかにするために、
メジロの個体群密度に対するヤブツバキの花資源量の影響評価を試みた。
1995 年以来、我々は伊豆諸島の新島において、厳冬期におけるメジロの個体
数とヤブツバキの開花数、及び繁殖期におけるメジロのさえずり個体数をモニタ
リングしてきた。2000 年から 2003 年には、島の一部でトビモンオオエダシャク
の大発生が続き、局地的にヤブツバキの開花がみられない地域が生じた。さらに、
三宅島においては、2001 年以後、噴火の影響程度が異なる地点でメジロとヤブツ
バキの生息・生育状況についてセンサスを行った。これらのデータセットを用い
て、ヤブツバキの開花数がメジロの冬期個体数密度に及ぼす影響とメジロの冬期
個体数密度と繁殖期におけるさえずり個体数の関係について解析を行い、以下の
結果を得た。
1) 新島では、エダシャクの大発生が起きる前までは、島内に設置した 3ヶ所に
おいてメジロの冬期個体数は同調して年変化を示したが、発生後は、エダシャク
の発生地域でのみメジロの個体数が減少した。
2) エダシャクによる食害程度が異なる 10ヶ所において、ヤブツバキの開花個
体密度とメジロの個体数は有意な正の相関を示した。
3) 三宅島において、メジロの冬期生息密度とヤブツバキの個体当たりの開花数
は正の相関を示し、ヤブツバキの花が多い場所ほどメジロの生息密度が高かった。
4) 新島において、メジロのさえずり個体数密度は、冬期個体数密度によって左
右されたが、冬期個体数密度には影響を与えていなかった。
以上の結果から、メジロの個体数密度は、ヤブツバキの花資源量に大きく規定
されていることが明らかにされた。
O1-W04
10:00-10:15
ヤブツバキの花粉媒介におけるメジロの役割 (2) -ヤブツバキの繁殖成
功を花粉の遺伝的多様性から評価する◦
09:45-10:00
ヤブツバキの花粉媒介におけるメジロの役割 (1) -メジロの個体群密
度はヤブツバキの開花数に依存しているか?-
亜熱帯西表島におけるオヒルギの送粉生態
◦
8 月 26 日 (木) W 会場
10:15-10:30
ボルネオの湿地林・山地林を往き来するオオミツバチ
◦
鮫島 弘光*1, 永光 輝義*2, 中静 透3
1
京都大学生態学研究センター, 2森林総合研究所北海道支所, 3総合地球環境学研究所
パキスタンからインドネシアにいたる熱帯アジアにおいてオオミツバチ Apis
dorsata は最も重要な送粉者の一つとして知られている。森林が開花シーズ
ンを迎えると多数のコロニーが飛来・営巣し、幅広い植物種の送粉を行う。
数ヶ月間の開花シーズンが終わるとすべてのコロニーは飛び去り、次の開花
シーズンまで帰ってこない。その遊動パターン・メカニズムは森林の植物
群集の繁殖成功を大きく左右するにもかかわらずほとんど明らかになって
いない。彼らはそれぞれの森林でいつも決まった場所に営巣することが知
られているが、近年マイクロサテライト解析によっていつも同じコロニー
あるいは以前の娘コロニーが同一営巣場所に飛来してくるということが明
らかにされており、コロニーごとに比較的安定な遊動ルートを持っている
ことが示唆される。本研究は広域調査によってその遊動パターンの全貌を
明らかにしようとした。調査地はマレーシア連邦サラワク州北部ランビル
丘陵国立公園を含むバラム川流域 (23,000km2 ) で、低地湿地林∼丘陵フタ
バガキ林∼山地林を含む。地域住民への聞き取り調査などから多数の営巣
場所をおさえ、2002 年 11 月以来営巣数のモニタリングを行っている。こ
れまでおおよそ 6-8 月と 11-1 月は低地湿地林で、3-5 月と 9-10 月は丘陵
フタバガキ林(の一部地域)で多数の営巣が観察され、年 2 回の上下方向
の遊動が推察された。また低湿地林全域と丘陵林の一部の営巣コロニーか
らはワーカー・幼虫を採集し、マイクロサテライト解析を行っている。こ
の結果親子関係のコロニーの組み合わせが植生をまたいで見つかり、この
植生間遊動説を支持した。同時に巣貯蔵花粉・蜜中の花粉植物種の同定を
進めており、各植生での主要利用植物種も明らかになりつつある。これら
の植物個体群の繁殖成功はオオミツバチ個体群の動態を通じて相互に影響
しあっていると考えられる。
— 270—
口頭発表: 動物植物相互作用
O1-W05
O1-W06
10:30-10:45
花序形態と花序内の蜜分布がマルハナバチの訪花行動に与える影響
◦
8 月 26 日 (木) W 会場
◦
笠木 哲也1, 工藤 岳1
1
1
北大・地球環境
北海道大院 地球環境
隣花受粉(同一個体内の花間の受粉)は植物の繁殖成功に負の作用をもたら
すことが知られている。隣花受粉はポリネーターの花序内連続訪花や滞在時
間の増加に伴って増えることが知られている。それに対して植物は、花序内
の花蜜分布を変化させる、あるいは蜜を出さない花(空花)を提示すること
によって隣花受粉を減らす戦略を持っていると考えられている。しかしこれ
までの研究では、蜜分布や空花の存在が多様な花序形態においてどのように
機能するかについては十分議論されていない。本研究では植物の花序サイズ
(花数)、蜜分布、花序形態がマルハナバチの行動に与える影響について、交
互作用を含めた評価を行うことを目的とした。他の影響を排除するために同
一規格の人工花序と、人工的に増殖させたマルハナバチのコロニーを用いて
実験を行った。人工花序はサイズ2種類×形態3種類×蜜分布3種類を用意
した。この際、全ての花序の花あたり平均蜜量は同じになるよう設定した。
これらの花序にマルハナバチを訪花させ、最初の訪問中の花序内滞在時間と
連続訪花数を計測した。
蜜分布は花序内滞在時間と連続訪花数に影響を及ぼした。特に、空花を含ん
だ花序では花序内連続訪花数が顕著に小さかった。一方、花序形態は花序内
滞在時間と連続訪花数にほとんど影響を及ぼさなかった。また花序サイズに
おいては、蜜分布や花序形態に関わらず、大きい花序で滞在時間と連続訪花
数が増加した。以上より、マルハナバチの訪花行動は蜜分布とディスプレイ
サイズにより影響を受けるが、今回の実験においては花序形態によってその
効果は変化しないことがわかった。
竹中 宏平1, 戸田 正憲2
1
北大・院・地球環境科学, 2北大・低温研
Many species of Colocasiomyia (Diptera, Drosophilidae) depend exclusively
on flowers of Araceae species for mating, oviposition and larval development.
These flies play an indispensable role in pollination of their host plants. This
resembles fig and fig wasp system in having features of both plant-herbivore
and plant-pollinator relationships. Characteristic of this pollination mutualism
is that fly larvae do not eat the seeds. Furthermore, plant-insect relationships
range widely, from obligate mutualism to broad generalism. However, there
is some correspondence in host selection between Araceae tribes and Colocasiomyia species-group. Another feature of this pollination mutualism is‘ synhospitalism ’, in which two Colocasiomyia species coexist in a single host
inflorescence. Usually, one fly species in a synhospitalic pairs uses mainly the
upper (male) part of the inflorescence and the other species the lower (female)
part. A phylogenetic tree of the flies suggests two possible pathways for the
coevolution of this synhospitalism. We review this pollination mutualism and
present new findings from Borneo.
オオマルハナバチはエゾエンゴサクの花弁後端にのびる距に穴を開けて盗
蜜するが、花序上を動きまわる時に花内部の繁殖器官に接触して受粉に貢献
することがある。このようにオオマルハナバチはエゾエンゴサクにとって盗
蜜型ポリネーターとして機能するが、個体群レベルでの繁殖成功に対する効
果は明らかではない。オオマルハナバチが多い低地林個体群と正当訪花型の
マルハナバチが多い山地林個体群で、盗蜜行動を制限するために距の部分を
ストローで覆う処理(以下、ストロー処理と略す)を行い、エゾエンゴサク
の結実と花粉持ち去りへの影響を調べた。
エゾエンゴサクへのマルハナバチの全訪問のうちオオマルハナバチの訪問
が占める割合は、低地林では 8 割以上、山地林では 4 割以下であった。ど
ちらの個体群でもポリネーターのタイプによらず花序訪問頻度と花序内訪花
数はストロー処理と未処理間で差がなかった。正当型のマルハナバチは 1 花
あたりの滞在時間に処理間差がなかったが、オオマルハナバチはストロー処
理によって滞在時間が短くなった。これらから、ストロー処理によってオオ
マルハナバチの訪問及び花序内での移動を妨げずに盗蜜行動だけを制限する
ことができたと考えられた。
山地林ではストロー処理と未処理間で結実率に違いはなかったが、低地林
ではストロー処理によって結実率が低下した。花粉は両個体群とも開花期間
中に徐々に持ち去られた。山地林では 1 花あたりの花粉残存量は開花期間を
通して処理間差がなかった。一方、低地林ではストロー処理をした花の花粉
が開花後期になっても多く残る傾向があった。これらの結果は、低地林個体
群はオオマルハナバチに繁殖成功を依存しているが、山地林個体群ではそう
ではないことを示している。以上から、オオマルハナバチが優占するエゾエ
ンゴサク個体群では、植物と盗蜜型ポリネーターの間に相利共生関係が生じ
ていることが明らかになった。
O1-W08
11:00-11:15
サトイモ科植物とタロイモショウジョウバエにおける送粉共生系の進化
◦
10:45-11:00
盗蜜型ポリネーターがエゾエンゴサクの繁殖成功に及ぼす影響
平林 結実1, 石井 博1, 工藤 岳1
O1-W07
O1-W05
11:15-11:30
形態的にスズメガ媒に特化したサギソウ(ラン科)におけるアザミウ
マの種子生産への貢献
◦
茂田 幸嗣1, 井鷺 裕司2, 中越 信和2
1
広島県, 2広島大学国際協力研究科
形態的に適応関係が確認される植物と送粉昆虫に関しては数多く研究が行われて
いる.近年になり,形態的な適応関係が見られない送粉昆虫が植物の繁殖に高く
貢献している事例の報告があり,その役割に注目が集されている.本研究ではサ
ギソウ(Habenaria radiata; ラン科)において,適応対象の送粉者(スズメガ)と
非適応対象の送粉者(アザミウマ)の種子生産への貢献度を,送粉実験により明
らかにする.サギソウは細長い距により長い口吻を持つスズメガに適応している.
スズメガはガ類の中で口吻の長さが特に長く,ホバリング飛行し,飛翔能力が最
も高いグループである.アザミウマは体長 1-2mm 程度の小さな昆虫で,花粉や
蜜,花弁などを餌とする.様々な植物の送粉を行うジェネラリストの送粉昆虫と
して知られている.
夜の訪花昆虫の観察ではスズメガの訪花が確認され,昼の観察ではアザミウマの
訪花が確認された.サギソウの距の長さとサギソウを訪花したスズメガの口吻の
長さはほぼ一致し,両者の緊密な適応関係が示された.
受粉実験では 6 つの実験を行った.その内の 3 つは,I メッシュの袋を被せてス
ズメガを排除.アザミウマが送粉.II 放置.スズメガとアザミウマが送粉.III 紙
の袋を被せて両者を排除.
それぞれにおいて結朔率と結実率を求め,両者をかけ合わせたものを種子生産指
数とし,送粉昆虫の種子生産への貢献度を次のように求めた.
スズメガの貢献度:
[(種子生産指数 II - 種子生産指数 I)/ 種子生産指数 II ]x 100
= 72%
アザミウマの貢献度:
[(種子生産指数 I - 種子生産指数 III)/ 種子生産指数 II ]x
100 = 26%
スズメガと長い距を持つランの緊密な送粉共生は,共進化の有名な例である.そ
のような共生関係を確立した植物において,アザミウマのようなジェネラリスト
タイプの送粉昆虫が全種子生産の 1/4 に貢献しているということは驚くべき事実
である.
— 271—
O1-W09
口頭発表: 動物植物相互作用
O1-W09
8 月 26 日 (木) W 会場
O1-W10
11:30-11:45
アブラナ科野菜 F1 採種系を用いた実験生態学 - 開花フェノロジーと訪
花頻度が異系統間交配に及ぼす影響の評価
◦
石塚 大悟1, 堀崎 敦史2, 新倉 聡2, ◦ 小沼 明弘3
帯広畜産大学大学院 畜産学研究科
新潟大学 大学院自然科学研究科, 2(株)トーホク, 3農業環境技術研究所
高等植物における生態学的な仮説を検証する際の実験系を組もうと考えた時、
野生植物を用いるとしばしば実験材料の制約を受ける。例えば、遺伝的背景が
比較的均一な個体を多数そろえることは難しい。このような困難を克服するた
めには、既存の実験植物を用いるかあるいは自ら材料を育成して実験に供する
ことになる。しかしながら、これらの方法にはどちらも問題が存在する。実験
室系統のシロイヌナズナのような前者は、自殖性が強くかつ環境条件の変化に
対する様々な反応性を失っているため野外実験には適さない。また、後者のよ
うな場合は材料の作出に長い時間がかかる。そこで我々は、これらの問題を回
避するためのモデル植物としてアブラナ科野菜の F1 採種系で用いられる自家
不和合性を有した近交系統品種を採用し、植物の他殖率に与える要因を実験的
に明らかにするための研究を開始した。この系を用いることの利点は、遺伝的
背景がそろっておりかつ栽培条件等がよく分かっている材料をそろえた野外実
験を行えることにある。
本研究では、人工集団を構成し、他殖率に影響を与えるであろう2つの要因、
すなわち他個体との開花の同調性および訪花頻度が他殖率(系統間交配率)に
及ぼす影響を評価した。
系統間交配率を目的変数、各系統での各花の開花期間中の平均訪花頻度の推定
値(平均訪花頻度)、各開花日での全開花数に占める相手系統の花数の割合(系
統間での開花同調性)、個々の花の開花期間中の平均気温 (気温)、それぞれの
花の花序中での位置(花の位置)、各花が位置する分枝の違いおよび系統の違
いを説明変数として名義ロジスティック回帰分析を行った。分析の結果、開花
の同調性の増加は系統間交配率を有意に増加させることが検出されたが、平均
訪花頻度、気温、花の位置、及び分枝の違いの系統間交配率に対する影響は有
意ではなかった。この結果は、本研究に試供した 2 系統での系統間交配率は、
第 1 に系統間での開花の同調性に最も大きな影響を受けていること、第 2 に
訪花頻度の影響は開花の同調性に比べ検出できないほど小さなものであったこ
とを示している。
12:00-12:15
溶岩上におけるコナラ属実生の定着に野ネズミの貯食行動が与える影響
◦
中本 雪絵1
1
1
O1-W11
11:45-12:00
鳥類による種子散布が林の維持・更新に与える影響について
三浦 優子1
1
千葉大学大学院自然科学研究科
富士山北麓では,溶岩流上に針葉樹林が成立し,そこに所々コナラやミズナ
ラが混生している.ここでは,露出した溶岩と薄い土壌がモザイク状に分布
し,実生が定着可能な場所が限られている.このような環境では,コナラやミ
ズナラの堅果は野ネズミによってどのような場所に運ばれ,それが実生の定
着にどう影響するかを知るために,野ネズミによるミズナラ堅果の貯蔵場所
と運搬経路,実際の実生の生育場所について調べた.調査は,富士山北麓の
剣丸尾溶岩流上に成立したアカマツ林内で行った.堅果の貯蔵場所と運搬経
路は,糸巻きをつけた堅果を林床に置いて野ネズミに運搬させ,そこから繰
り出された糸を追跡することによって調べた.その結果,大部分の堅果が溶
岩中の空洞の奥に運び込まれていた.空洞の奥は,ほとんど光が届かず,土
壌も全くないため,実生の発芽には不適である.また,運搬経路は露出した
溶岩上や溶岩沿い,倒木上や倒木沿いに偏っていた.一方,コナラ属の実生
が生育していた場所は,溶岩が露出した場所付近や,倒木付近に偏っている
という傾向は見られなかった.このように,実際の実生の生育場所は堅果の
貯蔵場所や運搬経路と全く異なる環境であった.さらに,堅果は実生の定着
に不適な環境に貯蔵されていることから,野ネズミの貯食行動は実生の定着
率を下げていると思われた.実際に定着している実生は,豊作年に野ネズミ
による運搬を免れたものが落下地点で発芽したものではないかと推察した.
本研究は、多肉果樹種の種子の散布傾向を明らかにし、季節による果実食
鳥の役割の違いについて検討した。
<方法> 北海道帯広市近郊の 9 林分において多肉果樹種と鳥類の出現を調
査した。多肉果樹種は上層 (樹高 2m 以上) と下層 (樹高 2m 以下) に分け、
下層はさらに林縁と林内に分け出現種を記録し、結実期により夏型と冬型に
分類した。林内の上層と下層、林内の下層と林縁の下層、全下層と上層の出
現種の間でシュレンセンの類似度を算出し種子の散布傾向を把握した。出現
した鳥類を夏期の果実食鳥 (夏鳥とする)・冬期の果実食鳥 (冬鳥とする) 及
び果実食鳥以外に分類し、夏鳥と冬鳥の多様度指数 (J 指数) を算出した。季
節による鳥類群集の構造の変化が種子散布にどのように影響しているか、類
似度との比較により検討した。
<結果> 夏鳥の個体数が増えると、全下層と上層の類似度が上がった
(P>0.05)。冬鳥の割合が増えると、林内の下層と上層の類似度は下がり
(P>0.05)、林内の下層の出現種に占める多肉果樹種の割合は減った (P>0.05)。
冬鳥の J 指数が増すと、林内の下層と林縁の下層の類似度は上がった (P>0.01)。
夏鳥は、林分内で生産された種子を林分内に散布し、冬鳥は種子を均等に分
散させ、林外に運び出していることが示唆された。
<考察> 夏期の鳥類は、繁殖期に当たりつがいでなわばりを持つ。夏型の
果実は、果実が短時間で落下することに加え、夏鳥が被食してもその散布範
囲は狭く、林分内で生産された種子は多く林分内に散布される。一方、冬期
の鳥類は群れで広範囲を周回する。冬型の果実は、長時間植物体上に残るこ
とからも、冬鳥に被食され林外に持ち出される機会は多く、林分内で生産さ
れた種子は主に林外に散布される。夏鳥は林分内での多肉果樹種の分布の拡
大・個体群の維持に貢献し、冬鳥は広い範囲での種子の林間の移動・分布の
拡大に貢献しているものと考えられた。
O1-W12
12:15-12:30
エゾシカの採食圧が森林植生に及ぼす影響-阿寒国立公園における 1995
年-2001 年の調査から◦
宇野 裕之1, 宮木 政美1, 梶 光一1, 玉田 克巳1, 高嶋 八千代2, 冨沢 日出夫3, 鬼丸 和幸4
1
北海道環境科学研究センター, 2北海道教育大釧路校, 3浜中町, 4美幌博物館
生態系の中で、大型の草食獣である有蹄類が植生に大きな影響を及ぼすことが
広く知られている。国立公園などの保護地域では希少植物種の地域的な絶滅や鳥
類群集への影響等が危惧されている。近年、エゾシカ(Cervus nippon yesoensis)
個体群の増加により、森林生態系における自然植生に大きなインパクトを与え
ていることが明らかになってきた。国立公園の生物多様性を保全していく上で、
植生に及ぼす草食獣の影響を把握することは急務である。本研究は、1) エゾシ
カの採食圧が森林植生に及ぼす影響を明らかにすること、2) エゾシカの個体群
管理の効果を測定することを目的として行った。
1995 年 8 月、阿寒国立公園内の針広混交林に 4 箇所、落葉広葉樹林に 2
箇所、開放環境(土場)に 1 箇所、囲い柵(10 × 20 m)を設け、シカを排
除した「囲い区」と対照としてシカの行動を妨げない「放置区」を隣接箇所に
設置した。1995 年 8 月に樹高 1.3m 以上の木本について毎木調査を行い、個
体ごとに標識した。その後 1997 年、1999 年、2001 年に追跡調査を行い、エ
ゾシカの採食の有無、新規加入個体等を記録した。
林床植生については、各調査区内に 2 × 2m の方形区を設置し、1 × 1m の
小区画ごとに草本類の植被率、種ごとの被度・草丈等を記録した。優占するク
マイザサについては被度のほかに、3 調査区において 1995 年-1997 年に刈り
取り調査を実施し現存量の変化を測定した。
2001 年に 6 箇所 (86 %) の囲い区において加入個体が観察されたのに対
して、放置区においては全く観察されなかった。これは放置区の稚樹がエゾシ
カに採食され、胸高に達する個体がなかったためであった。また、クマイザサ
の地上部現存量は囲い区において、1997 年に有意に増加した。これらのこと
から、エゾシカの採食圧が森林植生に大きな影響を与えていることが明らかと
なった。本報告では主に木本類と林床(クマイザサ)の調査結果について報告
し、さらにエゾシカの個体群管理の効果、生息密度の変化と植生の変化等につ
いて考察する。
— 272—
口頭発表: 動物植物相互作用
O1-W20
13:30-13:45
植食動物の糞内容物から DNA 解析による餌植物の同定
◦
O1-W21
電力中央研究所 環境科学研究所 生物環境領域, 2信州大学 理学部, 3株式会社セレス
O1-W22
14:00-14:15
沖縄本島周辺のジュゴンの摂餌率と海草の生長について
◦
池田 和子1,2, 明田 佳奈2, 向井 宏3
1
九州大学比較社会文化学府, 2(財)自然環境研究センター, 3北海道大学北方生物圏フィールド科学
センター
ジュゴン (Dugong dugon) は沖縄本島周辺にもわずかに生息し, 沿岸浅海域
に生育する海草を摂餌している. 本研究は, ジュゴンが利用した海草藻場の1
つにおいて, 摂餌痕 (ジュゴントレンチ) を基にジュゴンの摂餌率を調査し, ま
た同海域で海草の生長量を測定することで海草の回転率を把握することを目
的とした.
2003 年 9 月に, 沖縄県名護市の東海岸の海草藻場において,10cm × 10cm
の方形枠をジュゴントレンチ内・外のペアで 14 ペア設置・坪刈採取し, 海草
種毎の現存量を測定した. また, 海草種毎 (10 株) の葉部の生長量を夏季, 冬
季で測定した.
調査地の海草藻場は 6 種の海草が混生しており, 調査地点ではボウバアマ
モが優占し, 海草現存量は 0.713-1.302gdw/100cm2 (1.01gdw ± 0.25/100cm2 )
であった.
ジュゴントレンチの平均長は 110-230cm(平均 172cm ± 49), 平均幅は 1525cm(平均 20cm ± 3) であった. トレンチ内外の海草現存量比較から求めた
ジュゴンによる海草葉部の摂餌率は 33.7-87.7%であり, 平均 71.5 ± 22.1%で
あった. また, トレンチ毎の葉部の摂餌量は 0.153-0.678gdw/100cm2 であった.
海草の生長量については, 夏季ではボウバアマモが 5.0 ± 2.3 mm、マツバ
ウミジグサが 6.5 ± 3.0 mm, ベニアマモが 10.6 ± 3.9 mm, リュウキュウス
ガモが 11.6 ± 3.3 mm, リュウキュウアマモが 6.8 ± 3.5mm であった. 冬季
は夏季の成長に比べて, ボウバアマモが 53.9%(2.7 ± 1.3mm), マツバウミジ
グサが 56.0%(3.7 ± 1.2mm), リュウキュウスガモが 42.5%(4.9 ± 1.6mm),
リュウキュウアマモが 73.8%(5.0 ± 1.5mm) であった.
伸長から求めた海草の種毎の回転率は夏, 冬それぞれ, マツバウミジグサで
14.8 日,29.5 日, リュウキュウスガモで 16.5 日,40.4 日, ボウバアマモで 23
日,45.7 日, リュウキュウアマモで 29.6 日,40.6 日で, マツバウミジグサの回
転率が夏期・冬期とも一番高かった.
山崎 理正1
1
1
はじめに
野生動物の食性調査としては糞や胃内容物の観察による分析が一般的であるが,
破砕・消化により形状が変化したものでは餌種の判別が困難な場合が多い。そ
こで,糞中の形状が変化した残渣からでも餌種が同定できるように,DNA 解析
を用いた食性調査法について検討した。
材料と方法
山地帯から亜高山帯にかけて生育している植物 700 種から DNA を抽出し、葉
緑体遺伝子 rbcL の一部領域 (105bp-420bp) の塩基配列を決定し、データベー
ス化した。糞の未消化の植物残渣から DNA を抽出し、上記 DNA 領域を PCR
で増幅した。増幅産物をクローニングし、無作為に選んだ 40ヶのコロニーにつ
いてダイレクトシークエンスした。得られた DNA 配列を上記データベースと
照合し、植物種を同定した。
結果と考察
データベース化した植物種は、シダ植物 7 科 7 属 8 種、種子植物 110 科 381
属 692 種(亜種 23 種を含む)で種子植物を中心に広範な分類群を含むもので
ある。塩基配列の解析から 476 種類の配列が認められた。364 種類については
種特異的配列で種までの同定が可能であり、112 種については複数の近縁種ま
で絞り込むことが可能であった。
野外に排泄されたノウサギ糞から餌植物の同定を試みた。夏季のほぼ同じ時期に
伐採跡地およびブナ自然林で採取した糞を解析した結果、それぞれ 9 種類およ
び 7 種類の植物の配列が検出され、採食した餌植物を種レベルで同定すること
ができた。1 種を除き両地域では異なる植物種を餌としており、伐採跡地では
主に草本植物が多く、ブナ自然林では木本植物が多く検出された。このように
植生タイプの違う生息地では、異なる植物を採食していることが示された。ま
た、カモシカおよびヤマドリの糞からも同様に分析を行い、餌植物を同定でき
ることを確認した。したがって、本方法は植物食の動物の餌種同定に汎用的に
適用できる可能性が高いと考えられた。
13:45-14:00
ブナ樹冠内にみられる被食レベルの変異の要因 -葉位と光環境◦
松木 吏弓1, 島野 光司2, 阿部 聖哉1, 竹内 亨1, 矢竹 一穂3, 梨本 真1
O1-W20
8 月 26 日 (木) W 会場
京都大学農学研究科森林科学専攻森林生物学分野
樹高 18m のブナ(Fagus crenata)を対象に、植食性昆虫による被食面積
の樹冠内における空間的な変異及び時間的な変化を 2001 年と 2002 年の2
年間調査した。京都市北部の京都大学フィールド科学教育研究センター芦生
研究林において、樹冠観察用のタワーを設置したブナの樹冠内で光環境が異
なる 24 葉群を設定し、各葉群で計約 6000 枚の葉を開葉直後から落葉する
までモニタリングし、葉の被食面積の変化を追った。植食性昆虫による被食
が観察された際は、葉をちぎらずにデジタルカメラで写真を撮り、被食面積
の割合を NIH Image を用いて計算した。こうして得られた被食面積のデータ
について、開葉後1ヶ月以内・1ヶ月以降の2期間に分けて、光環境の異な
る葉群間及び葉位の異なる葉群間で比較した。
開葉後1ヶ月以内は光環境が被食面積に及ぼす影響は明らかではなかった
が、葉位の異なる葉群間では被食面積に有意な差が認められ、開葉時期が遅
い葉位の葉の方が被食面積が大きい傾向がみられた。この時期は葉の成熟が
完了しておらず、葉の特性の変異が葉位によって、すなわち開葉時期のずれ
によって生じていると思われ、これが葉位の異なる葉群間での被食面積の差
となって表れていると考えられた。
開葉1ヶ月以降の被食面積については葉位の影響は見受けられず、光環境
の影響が認められた。すなわち、明るい環境下の葉群ほど被食面積が小さく
なる傾向がみられた。この時期は葉の成熟も完了しており、明るい環境下の
葉は陽葉化、暗い環境下の葉は陰葉化して、葉の特性に及ぼす影響は葉位よ
りも光環境の方が大きいと考えられた。そして、植食性昆虫は厚く固い陽葉
よりも薄く柔らかい陰葉の方を選好していることが示唆された。
O1-W23
14:15-14:30
植物乳液が対植食者防衛に果たす決定的役割 –乳液中に濃縮された酵
素・物質の存在理由–
◦
今野 浩太郎1, 平山 力1, 中村 匡利1, 立石 剣1, 田村 泰盛1, 服部 誠1, 河野 勝行2
1
農業生物資源研究所, 2野菜茶業研究所
植物に傷をつけたときに溢出してくる乳液は多くの植物に存在しているが、
乳液の植物にとっての本来的役割には諸説があった。諸仮説のなかで、植物
乳液が植物の対植食者防衛に重要な役割を果たしているという「防衛仮説」
は乳液中に毒物質が存在しているケースが多いことなどの客観的・実験的証
拠に支持されているため有力であるが、毒物質が全く報告されていない乳液
も非常に多いなど問題点も多かった。
そこでパパイア・ハマイヌビワ・クワ・タンポポ・ガガイモなどこれまで特
に毒物質が報告されていない植物について調べたところ、これら植物の乳液
はエリサン・ヨトウガ・ハスモンヨトウ等の広食性昆虫に顕著な防衛効果を
持っていた。特に、パパイアやハマイヌビワ(クワ科イチジク属)では乳液
中に高度に濃縮されたタンパク質分解酵素(システインプロテアーゼ)が強
力な防衛の主因であった。この 2 種の乳液植物の葉はエリサン・ヨトウガ
類に顕著な殺虫毒性を持っているが、乳液除去やシステインプロテアーゼ阻
害剤の E-64 塗布により殺虫性が完全に失われる。植物乳液中には以前から
種々の酵素・タンパク質の存在が知られていたが、我々の結果は植物乳液の
酵素・タンパク質が植食昆虫にたいする防衛において決定的役割を持つこと
を実験的に示した初めての例である。乳液を出す植物であるクワ科植物につ
いてさらに調べたところ、いずれの乳液も植物の植食昆虫に対する防御に重
要な役割を果たしているが、乳液中に濃縮されている防御物質は非常に多様
であることがわかった。また、他の植物乳液に濃縮して存在する諸酵素・物
質も耐虫性物質として解釈可能なものも多く興味深い。以上の点をもとに、
植物乳液が植物の対植食者防衛に果たす役割と乳液による防衛の特徴につい
て論じる。
— 273—
O1-W24
O1-W24
口頭発表: 動物植物相互作用
14:30-14:45
北海道南西部におけるセスジカメノコハムシの分布と寄主特異性
◦
藤山 直之1, 富樫 梢1, 片倉 晴雄2
1
北海道教育大学教育学部函館校理科教育講座生物学教室, 2北海道大学大学院理学研究科生物科学専攻
セスジカメノコハムシ Cassida vibex は旧北区に分布し、アザミ類を食草と
している。日本では一般的に、本種は本州に分布するとされているが、北海道
南西部にも分布していることが経験的に知られている。本講演では、北海道南
西部における本種の分布と食草利用状況の調査結果および実験室内で調べた寄
主特異性を報告する。2003 年に計 39 地点でマルバヒレアザミ・ミネアザミ・
サワアザミ・オオノアザミ・タカアザミ・チシマアザミ・Cirsium sp.・エゾノ
キツネアザミの8種の潜在的食草を調査したところ、同属の普通種アオカメノ
コハムシ C. rubiginosa が 31 地点で6種のアザミより確認された一方で、セス
ジカメノコハムシは2地点でのみいずれもミネアザミ上で確認された。室内実
験は野外で一般的であるマルバヒレアザミ・ミネアザミ・サワアザミ・オオノ
アザミを対象として行った。セスジカメノコハムシの成虫を用いた無選択摂食
実験ではミネアザミ以外のアザミ類もおおむねミネアザミと同じ程度摂食し、
ミネアザミと他のアザミ類のうち1種の葉を同時に与えた選択摂食実験におい
てもミネアザミをより好むという傾向は認められなかった。また、幼虫を4種
のアザミで飼育したところ、羽化率は全体に低かったもののアザミ種間での有
意差は検出されず、成育期間と体サイズに関してもミネアザミが食草としてよ
り適しているという証拠は得られなかった。以上の結果は、北海道南西部にお
けるセスジカメノコハムシの食草がなんらかの生態学的要因によってミネアザ
ミに限定されているか、あるいは、今後ミネアザミ以外からも本種が確認され
る可能性の両方を示唆している。
8 月 26 日 (木) W 会場
O1-W25
14:45-15:00
アブラムシがセイタカアワダチソウ上の昆虫群集に与える間接効果
◦
安東 義乃1, 大串 隆之1
1
京都大学生態学研究センター
We investigated insect communities on a perennial forb Solidago altissima in
Japan. The most dominant species was an aphid Uroleucon nigrotuberculatum, which mainly occurred from June to August. The aphid was tended by
an ant Formica japonica for honeydew. Moreover, the aphid colonization induced rapid branching and increased the production of new leaves in October.
Therefore, we hypothesized that the aphid colonization indirectly affected not
only co-occurring herbivorous insects through removal behavior by the attending ants, but also temporally-separated insects in autumn. To test this hypothesis, we conducted an aphid exclusion experiment. The aphids negatively
affected the abundance of caterpillars and leafhoppers by the excluding behavior of the attending ants in early season. On the other hand, the aphids also
affected the abundance of temporally-separated insects, such as scale insects
and grasshoppers, in late season. Prior sucking by the aphids decreased the
density of scale insects. The decreased scale insects may be due to changes in
plant quality by the feeding of aphids in early season. The decreased density
of scale insects resulted in a reduction of density of the attending ants to scale
insects. Therefore, the density of grasshoppers increased because of the low
impacts of tending ants.
— 274—
口頭発表: 群集生態
O1-W26
15:00-15:15
8 月 26 日 (木) W 会場
O1-W27
O1-W26
15:15-15:30
カエル目幼生による栄養塩回帰が落葉リター食者に与える間接効果
◦
岩井 紀子1, 加賀谷 隆1
1
東大・農・森林動物
(NA)
O1-W28
水域食物網では、ある生物の摂食活動や排泄による栄養塩の放出が他の生物
に正の影響を与える、栄養塩回帰による間接効果の重要性が指摘されている。
これまでは藻類に対する間接効果が主に注目されてきたが、微生物によるリ
ターのコンディショニングを促進することで、リター食者に影響を及ぼす可
能性も考えられる。本研究では、止水域においてバイオマスの大きいカエル
目幼生の、摂食活動による栄養塩回帰が、リター食者に及ぼす正の間接効果
の存在を室内実験により検証した。また、栄養塩回帰や間接効果の大きさに
ついて、幼生の種や摂食した食物項目間で比較した。
ニホンアカガエル、ヤマアカガエル、アズマヒキガエル、モリアオガエルの
幼生に、食物として落葉リター、藻類、イトミミズをそれぞれ単独に十分量
与え、室内飼育した。飼育水(幼生添加群)と食物のみを浸した水(対照群)
の溶脱塩量を電気伝導度により比較した結果、幼生添加群の方が高く、幼生
の摂食活動による栄養塩回帰の存在が示唆された。また、この効果の大きさ
は食物項目によって異なり、藻類で有意に大きかった。それぞれの水で落葉
リターをコンディショニングした結果、幼生添加群のリターの CN 比は対照
群よりも有意に低かった。さらに、これらのリターを、リター食者である甲
殻類のミズムシに与えたところ、幼生添加群に由来するリターを摂食した方
が有意に成長速度は速かった。リターの CN 比や、リター食者に対する幼生
の影響の大きさには、幼生種間、食物項目間で違いは検出されなかったが、
食物好適性は種間で異なり、ニホンアカガエル、モリアオガエルでは藻類が
好適性の高い食物と判断された。
以上より、カエル目幼生による摂食活動は、栄養塩回帰によってリターの質
を向上させ、リター食者に正の間接効果を与えることが示された。野外では、
藻類を好適な食物とする、ニホンアカガエルやモリアオガエルの摂食活動に
よる効果が大きいと予想される。
15:30-15:45
河川性魚類が底生無脊椎動物に及ぼす影響:流程間での比較
◦
井上 幹生1, 宮吉 将信2
1
愛媛大学理学部, 2株式会社ピーシーイー
河川性魚類の群集構造は、流程に沿って変化する。食物源の多くを他
生性有機物(例えば、落下昆虫)に依存する河川上流域では、サケ科魚
類等、流下物採餌を行う魚種が優占するが、下流になるにつれてハゼ科
魚類等、河床で小型の底生無脊椎動物を食う底生捕食者が多くなり、さ
らに、一次生産が高まる河川中流域になると、アユやボウズハゼといっ
た藻類を専食するものも現れる。魚類は底生無脊椎動物に様々な影響を
及ぼすが、その影響は魚類の採餌様式によって異なると考えられる。本
研究では、底生無脊椎動物に対する魚類の影響が、流程に沿ってどのよ
うに異なるかについて検討した。
四国南西部の小河川において、流下物捕食者(アマゴ)が優占する上
流サイト、底生捕食者(ヨシノボリ)が優占する中流サイト、および底生
捕食者に加えて藻類食者(ボウズハゼ)が出現する下流サイトの3つ調
査地点を設定し、野外調査と操作実験を行った。その結果、上流および
中流サイトではともに、魚類による底生無脊椎動物密度への影響は認め
られなかった。一方、下流サイトでは、魚類による無脊椎動物密度の低
下が認められた。この密度低下は、底生捕食者による影響ではなく藻類
食者によるものであった。また、野外調査の結果より、藻類食魚類によ
る影響が、流程に沿った付着藻類量および底生無脊椎動物密度の変化に
反映されていることが示唆された。
O1-W29
15:45-16:00
河畔林の断続的な伐採が河川性底生動物の群集構造に及ぼす影響
◦
森 照貴1, 三宅 洋2, 柴田 叡弌3
1
北海道大学苫小牧研究林, 2愛媛大学工学部, 3名古屋大学農学部
河畔林の断続的な伐採が河川性底生動物に及ぼす影響を,河畔林のもつ
日射遮断機能に注目して調べることを目的とした.
岐阜県北部を流れる山地小渓流 2 河川において河畔林が現存する 20m
区間(対照区)と河畔林が伐採された 20m 区間(伐採区)で環境条件お
よび底生動物の群集構造の比較を行った.
相対光量子束密度は対照区より伐採区で高かった.底生動物の生息密度は
伐採区において高く,分類群数は河畔林の有無による有意な影響は認めら
れなかった.各摂食機能群の中で刈取食者と捕食者の生息密度が伐採区
において高かった.これは光量の増加に伴う付着藻類の一次生産量の増
加が,底生動物(特に刈取食者)の増加をもたらした結果と考えられた.
付着藻類の現存量は伐採区より対照区で高かった.伐採区でヤマトビケ
ラなどの刈取食者の生息密度が増加したために,付着藻類の一次生産量
を上回る過剰な消費が起こり,付着藻類の現存量を低下させたものと考
えられた.
断続的な河畔林の伐採は,光環境の改変を介して付着藻類に影響を及ぼ
し,高次の栄養段階に属する底生動物の群集構造に影響を及ぼすことが
考えられた.
— 275—
O1-W30
O1-W30
口頭発表: 群集生態
O1-W31
16:00-16:15
◦
鈴木 孝男1
東京大学海洋研究所, 2琉球大学農学部
東北大学大学院生命科学研究科
東北地方に存在する干潟の底生動物に関しては、これまで、体系的に
調べられたことはなく、一部の干潟を除けば生物多様性の実態は未知の
ままであったし、相互の関連などに関しては検討されたことがなかった。
そこで、仙台湾に沿って分布する中規模の干潟の内、松川浦、鳥の海、広
浦、井土浦、蒲生、松島、万石浦の7つの干潟について底生動物の群集
組成を調べ、相互に比較を行った。調査方法は、環境省の自然環境保全
基礎調査浅海域生態系調査(干潟)に準拠した。
出現種総数は 161 種で、最も多くの種が生息していたのは、最も干潟
面積の広い松川浦の 98 種で、以下、万石浦 91 種、蒲生 70 種、松島
61 種、井土浦 48 種、広浦 48 種、鳥の海 47 種であった。蒲生干潟は
干潟面積が最小であったが、出現種数は中程度であった。
底生動物のほとんどの種は、仙台湾を介して移動分散を繰り返し、各干
潟に加入していると考えられることから、仙台湾沿岸域全体でメタ群集
を形成しているとみなすことができる。そこで、干潟間の関連の強さの
指標として、各干潟に出現した底生動物の共通係数(共通種比率)を求
め、比較検討した。その結果、干潟間の共通係数は干潟間の距離におお
むね反比例していたが、近距離にあって共通係数が高い干潟群と、距離
に関わらず共通係数がほぼ同程度になる干潟群に分けられた。また、蒲
生干潟は小さな潟湖でありながら、松川浦や万石浦など大きな潟湖(浦)
と共通する底生生物も存在していた。
これらのことから、仙台湾沿岸域に離散的に立地する干潟には、小規
模な範囲で移出入を繰り返している生物群と、広域的に移出入を行って
いるとみなされる生物群が存在することが示唆された。
群集構造の時間的・空間的変動を記載し、それらを種間相互作用、非生物的
環境要因、各種の生活史戦略や行動・形態から解明することを目的とした群
集生態学の研究の中で、パッチ状環境での種間競争の理論的研究から個々の
種が独立に集中分布している場合には種間競争に比べて種内競争が卓越する
状態になり、競争種の共存が促進される可能性は集中分布モデルとして知ら
れている(Shorrocks et al.1979; Ives 1988)。こうした種間相互作用の研究
において、ウミガメの体のように決められた空間が自分で泳ぎ回り、そこに
様々な生物が生活するという環境は他に例がない。
そこで本研究では定置網で混獲されるアオウミガメの体に付着するフジツボ
類においても独立集中分布モデルの仮定に合うかを明らかにし、また付着す
る生物からアオウミガメの海中での生活史について何らかの情報を得ること
を目的とした。
2002 年4月から 2003 年 2 月まで沖縄県宜野座村漢那漁港の定置網に掛かっ
たウミガメを調査した。調査はウミガメの体表に付着する生物とそのウミガ
メの体長・体重などの基本的データを記録し、付着生物に関してどこにどの
ような付着生物が何個付着していたかを記録した。採集した付着生物はサン
プル管に保存、後で形態によって3タイプに区別し、フジツボはタイプごと
に独立集中分布の仮定に当てはまるか検討した。
今回の調査の結果明らかになったのはアオウミガメに付着するフジツボには
付着場所によって形態が異なることと、個々の形態種は種内で集中分布し、
種間では独立あるいは排斥しあう傾向を有し、独立集中分布モデルの仮定に
矛盾しないことである。ウミガメの体は樹洞や水溜りのように内部の群集構
造の経時的変化を完全に把握しうる環境ではないが、生物種の共存機構を解
明するため興味深い材料であると考えられた。
O1-W33
16:30-16:45
海藻と植物プランクトンの競争が生み出す中海の海藻群落の空間変異
◦
林 亮太1, 辻 和希2
1
1
O1-W32
16:15-16:30
泳ぐ閉鎖系 ∼ アオウミガメに付着するフジツボ類の分布パターン ∼
仙台湾に面した7干潟に棲息する底生動物のメタ群集構造
◦
8 月 26 日 (木) W 会場
◦
宮本 康1
16:45-17:00
湖沼におけるキャタストロフ遷移
中島 久男1
1
1
立命館大学 理工学部
京都大学・生態学研究センター
湖沼の沈水植生は水質の強い影響下にある。淡水湖では透明度が、汽水湖
では塩分が植生の構造特性を決定する重要な要因として考えられている。演
者は汽水湖の「塩分説」に疑問を抱き、日本有数の汽水湖である中海を対象
として、沿岸に生育する海藻群群落の構造特性(現存量・機能群組成・種多
様性)が(1)透明度と塩分のどちらに支配されているのか、(2)その環境
特性に応じてどのような空間変異を生じるのか、を明らかにするための野外
調査を行った。2003 年の 7 月から 8 月にかけて、中海沿岸に設けた15の
調査点を対象に、潜水により水面から水深 2.5m の範囲の 8 水深にて海藻の
被度を測定し、さらに、船上にて湖水の透明度・塩分・クロロフィル a 量の
測定を行った。
海藻群落の3つの構造特性(現存量・機能群組成・種多様性)は透明度に
応じた変化を示したが、塩分に応じた変化は示さなかった。透明度の高い場
所では大型の機能群が優占し、群落の現存量と種多様性が高くなる傾向が認
められた。この傾向は、透明度の増加に応じて海藻の分布域がより深い水深
へ拡大し、これに伴い出現種数が増加することが原因であることが示された。
また、海藻群落の3つの構造特性は、海水の流入口(中浦水門)からの距離
に応じて変化したが、これは、透明度が海から離れるほど低下することが原
因であった。以上の結果は、中海内で海藻群落の局地的な構造特性を決定す
る要因は、塩分ではなく透明度であることを示している。
透明度がクロロフィル a 濃度と非常に良い正の相関を示したことから、
透明度と海藻群落の間の負の関係は、植物プランクトンと海藻の競争関係を
示すものと考えられる。発表時には、彼らの間で生じる栄養塩と光を巡る競
争関係と、この競争の結果を決定する「海水流入の効果」についても言及し
たい。
湖沼生態系において、栄養塩負荷が時間的に緩やかに変化した場合において
も、水界群集の状態が短時間のうちに急激に変化することがしばしば観測さ
れている。たとえば、湖沼の富栄養化に伴う植物プランクトンの優先種の
交替や、植物プランクトン密度の急激な変化などがある。最近、Scheffer et.
al. (2001)、 Scheffer and Carpenter (2003) は、これらの現象を Catastrophic
(Regime) Shifts として捉えることが、生態系の管理の上で重要となること
を主張している。
キャタストロフ遷移の大きな特徴として、(1) 系のパラメータが連続的に
変化しても、系の状態が不連続に変化すること、(2) パラメータ変化によっ
て状態が不連続に変化した場合、パラメータの値を変化直前の値に戻した
としても、状態は元に戻らず、パラメータの値をさらに大きく戻して初め
て状態が元に戻るといった、
『履歴効果』が存在することである。生態系管
理の観点からキャタストロフ遷移についての大きな問題点として、(1) 履歴
効果により、一度変化した生態系を本の状態に戻すことに、かなりの困難
さを伴うことがあること、(2) 現在の生態系が望ましいものであったとして
も、それが望ましくない状態へと遷移を起こす危険性がどれほどあるかを
予測することが、きわめて困難であることが挙げられている。
本研究では、植物プランクトンの系や植物プランクトンと水生植物の系を
対象として、数理モデルによる解析を行い、(1) キャタストロフ遷移を引き
起こす相互作用のネットワーク構造の解明と、(2) キャタストロフ遷移を予
測する手法を確立するための基礎モデルの構築を目指している。
Sheffer, M. et. al. (2001), Nature 413, 591-596.
Sheffer, M. & Carpenter, S. R. (2003), Trends Ecol. Evol. 18, 648-656.
— 276—
口頭発表: 群集生態
O1-W34
O1-W35
17:00-17:15
中央カリマンタンにおける大規模開発地域内外の池沼の水質と動物プ
ランクトンの比較
◦
今井 眞木1, Yurenfri Yurenfri2, Gumiri Sulmin2, 岩熊 敏夫1
1
北海道大学大学院地球環境科学研究科, 2パランカラヤ大学農学部
インドネシア中央カリマンタンにおいて、1995 年から泥炭湿地林が伐採、
または焼き払われて、水田農耕地に変換された。また、水田開発に伴って、こ
の地域の周辺には大小多くの水路も建設された。この大規模開発(Mega Rice
Project)によって 100 万ヘクタールの地域が切り開かれた。< BR>
本研究では、大規模開発地域内外の比較的小さい池沼(人工、天然を含む)
計およそ 60 箇所から、環境要因の測定、水、底質および動物プランクトンの採
集を行った。これらを比較し、開発による環境変動が動物プランクトン群集に
与える影響を評価することを目的とした。大規模開発地域は開発段階の違いに
より、さらに4区域 ABCD に分かれている。また、この大規模開発地域とは流
域を異にするカティンガン川沿いの泥炭湿地林の残る未開発地域にて調査を行
い、これら計5地域の環境(物理化学的特性)と生物相を比較した。< BR>
物理化学的要因に関しては、p H は開発地域で未開発地域より有意に低く、
濁度は開発地域内の B 区域で最も高く、A 区域または未開発地域とは有意に差
があった。溶存酸素に関しては有意な差は見られなかった。また、クロロフィ
ル a 量は開発地域に比べて未開発地域で有意に高かった。< BR>
クロロフィル a 量が高く、珪藻などの付着藻類や水草の多い池沼では Cladocera
や Copepoda などの動物プランクトンの種数、個体数ともに多い傾向がみられ
た。開発地域では、フタバカゲロウ(フタバカゲロウ属)、ユスリカ(ユスリ
カ属)などの水生昆虫は見られたが、Cladocera の個体数は非常に少なかった。
< BR>
森林伐採や開発によって池沼の物理的環境も単純化し、水辺の付着藻類の多
い環境を好む動物プランクトンに影響を与えるかもしれない。今後さらに分析
を進め、開発による動物プランクトン群集組成や生物多様性への影響を解析す
る予定である。
8 月 26 日 (木) W 会場
O1-W34
17:15-17:30
地球温暖化と動物プランクトン:メソコスム実験を用いた動物プラン
クトン群集に及ぼす高温ストレス影響の解析
◦
張 光玄1, 花里 孝幸1
1
信州大学山地水環境教育研究センター
地球温暖化は将来にわたって生態系に影響を与える深刻な問題として受け取ら
れている。中でも、水資源として人間生活と密接にかかわっている湖沼の生態
系に及ぼす温暖化の影響の評価・予測は重要な課題である。
その湖沼生態系の重要な構成員である動物プランクトンは、高温ストレスによっ
て様々な影響を受けるものと予測されている。しかしながら、まだ極めてわず
かな情報に基づいてなされているのみで、特に群集レベルの実験結果はいまだ
にその数が少ない。
そこで、本研究では、高温ストレスが動物プランクトン群集に及ぼす影響を、
個体群密度、種組成や動物プランクトン群集内の相互関係の変動に注目し、メ
ソコスムを用いて解析した。
実験では、小型メソコスム水槽(80L)を用い、長野県の美鈴湖の泥を加えて動
物プランクトン群集を発生させたた。メソコスム水槽は、異なる水温(20◦ C と
28◦ C)とエサ密度(7.8 × 103 と 1.3 × 103 cells/ml, Chlorella)を設定し、
動物プランクトン群集の変動を分析した。主な分析項目として、各動物プラン
クトン個体群の密度、species diversity や richness、種組成、relative importance
of predatory interactions、linkage density(interactive connectance)を用いた。
動物プランクトンは高温ストレスに対し、分類群によって異なる反応を示した。
特に、高温による個体群密度や多様性の減少はミジンコ群集で顕著に現れた。
また、無脊椎捕食者のカイアシ類は高温の水槽では出現しなかった。
以上のことから、高温ストレスは、動物プランクトンの現存量だけでなく、そ
の群集構造にも大きな影響を与え、ひいては生物間相互作用を介して生態系の
機能にも大きな影響が及ぶものと考えられる。
— 277—
O1-X01
口頭発表: 保全・管理
O1-X01
O1-X02
09:30-09:45
生態学的レジリエンスに基づく環境管理
◦
8 月 26 日 (木) X 会場
遺伝子組換え植物の生態系への影響:きちんと分けて考えよう
◦
雨宮 隆1, 榎本 隆寿1, ロスベアグ アクセル1, 伊藤 公紀1
農業環境技術研究所
横浜国立大学
【はじめに】生態学的レジリエンス(以下,レジリエンス)とは,生態
系の復元力,弾力性,自己組織化能などを意味する.レジリエンスは生
態系の多重安定性の概念から提唱され(Holling, 1973),富栄養化や生息
地の縮小等により減少し,その結果生態系は異なる状態へと変化し易く
なると考えられている.本研究では,レジリエンスの概念を生態系の構
造・機能・動態・自己組織化能の観点から整理し,生態環境の管理につ
いて検討を行う.
【レジリエンスの図的表現】レジリエンスは,例えば生態系の状態を表す
分岐図を用いて説明される(Scheffer et al., 2001).制御パラメータは人
為的な負荷を表し,あるパラメータ領域において生態系は双安定性を示
すことがある.レジリエンスは安定状態と不安定状態の幅で示され,こ
の範囲内の擾乱であれば生態系は元の状態に戻るとされる.
【レジリエンスと環境管理】ここではレジリエンスの概念を広く捉え,レ
ジリエンスを次の 3 つに分類し,環境管理について検討する.(1)Type I
レジリエンス:上記のように安定状態と不安定状態の幅で示されるよう
な復元力.状態間遷移が起こると,生態系の動態(状態)は変化するが
構造と機能は変化しない.従って,負荷の低減,生物操作などによる環
境修復が考えられる.(2)Type II レジリエンス:Type I と同様の復元力で
あるが状態間遷移により種の絶滅等が生じ生態系の構造が変化する.し
かし,生態系の自己組織化能(数理モデルでは力学系)は保持される場
合で,絶滅種の再生や回復により元の状態の復元の可能性が残されてい
る.(3)Type III レジリエンス:生態系の自己組織化能の喪失に関わる復
元力.無機的な環境変化により種の絶滅等が生じた場合で,生態系の回
復が極めて困難となる.それぞれのレジリエンスの喪失が生態環境リス
クの各エンドポイントとなり得るだろう.
遺伝子組換え作物の大規模栽培が海外で始まり、日本でも幾人かの生態学
者が組換え植物による生態系への影響について懸念を述べている。「生態学
事典」(日本生態学会編,2003) でも、組換え植物による環境・生態系への影響
として、次の6つをあげている: 丸 1 非標的生物(蝶類、天敵昆虫)への影
響、 丸 2 土壌生態系への影響、 丸 3 害虫抵抗性の発達、 丸 4 雑草化、 丸
5 近縁野生植物との交雑、 丸 6 予期しない遺伝子の発現。
しかし、実験室で作出した組換え植物で起こった現象 (例えば導入遺伝子の
挙動の不安定性) を、現在商業栽培されている組換え作物でも起こりうるか
のように論じている例も散見される。商業化される組換え作物は安定した作
物特性を備えていなければならず、数世代にわたる選抜育種を重ねた上でで
きた商品である。また、従来型の育種法で作出された品種と異なり、一般栽
培認可にあたっては、各国がそれぞれ独自に環境への安全性を審査している。
日本でも 2004 年2月に生物多様性条約カルタヘナ議定書を担保する法律
が施行され、法に基づき、組換え植物の野外栽培は事前審査を受けることと
なった。実験室で作出された不安定な組換え植物が野外で広く栽培されるこ
とはあり得ない。組換えダイズ、トウモロコシ、ナタネなどで、近縁野生植
物や栽培種との交雑や遺伝子浸透を研究する場合、このような安全性審査を
クリアした組換え植物を用いなければ、野外での生態系影響評価はできない
であろう。これは組換え微生物・動物における生態系への影響研究でも同様
である。
O1-X04
10:00-10:15
保全における最適調査努力の数理的研究:確率的ダイナミックプログ
ラミングによって保全期間長の影響を知る
◦
白井 洋一1
1
1
O1-X03
09:45-10:00
◦
横溝 裕行1, Haccou Patsy2, 巌佐 庸1
10:15-10:30
河川における外来ザリガニの分布予測モデル:物理化学的要因と流量
変動の影響
西川 潮1, セバスチャン ブロス2
1
国立環境研究所 生物多様性プロジェクトグループ, 2仏国ポールセバティエ大学
1
九州大・理, 2ライデン大学
絶滅の危険のある個体群に対して保全政策を考えるとき、環境変動に
よる生存率の変動、個体数などの不確実性に対処していかなければなら
ない。本研究では、このような不確実な状況下で、最適な保全政策につ
いて数理モデルを用いて考察を行った。生存率に確率的なノイズが加わ
る個体群について、最適な調査努力量と保全努力量を考える。保全努力
量を増やせば絶滅リスクは減らせる。また、個体数調査にコストをかけ
ればより正確な個体数を把握できるため、より効率的な保全を行うこと
ができる。そこで、絶滅リスクと調査努力・保全努力の経済的なコスト
の和を全コストと定義し、これを最小にするような最適調査努力・保全
努力量を数値的に求めた。
複数年にわたって個体群の保全を考える場合、個体数調査によって得
られた知識は翌年以降も役立つ。何年間にわたって保全を行うかという
保全期間の長さの違いにより、最適調査努力量がどのように影響するの
かを確率的ダイナミックプログラミングにより明らかにした。その結果、
環境変動が小さい場合には、保全期間が長いほど調査努力を投資するの
が最適であるという結果が得られた。しかし、環境変動が大きい場合に
は保全期間が長すぎる場合には、逆に最適調査努力は小さくなった。ま
た、個体数に関する知識の違いによって最適保全努力量がどのように異
なるのかを示す。
河川における外来種の定着成功は、河川の流量様式と物理化学的要因双方の影
響を受けることが知られている。しかしながら、分類群の近い外来種同士間で
も、行動パタンや生活様式の違いによって制限環境要因が異なること、そしてそ
の結果、種ごとに異なる分布様式を呈することが想定される。これらを踏まえ
て、北米西部の 3 つの地域(中南カリフォルニア州沿岸、シェラ=ネヴァダ山
脈東部、ロッキー山脈西部)に位置する合計 115 の河川において外来ザリガニ
の野外調査を行い、種ごとに制限環境要因から分布予測モデルを作成した。調
査地は前もって、河川流量計が設置されている河川から長期の日平均流量デー
タが入手可能な河川を選択した。外来ザリガニの捕獲と河川の物理化学的要因
(標高、水温、勾配、隠れ家など)の測定は乾季に行った。流量様式に関する変
数は、年中央値、年平均流量の変動係数、洪水の年平均頻度、洪水の年平均頻
度、安定流量日の最大連続日数を、SAS マクロを使用して求めた。分布予測モ
デルの作成には、従属変数と独立変数間に特定の型を要求しない、線形にも非
線形関係にも対応可能なアーティフィッシャル・ニューラル・ネットワークを
用いた。
調査の結果、これらの地域から、世界的にも外来種として問題になっている
ザリガニ類 3 種(アメリカザリガニ Procambarus clarkii、シグナルザリガニ
Pacifastacus leniusculus、ホッポウザリガニ Orconectes virilis)が確認された。
流量様式に対する応答はザリガニ種によって異なっていたが、これは隠れ家に
対する選好性が異なることが一因であると考えられた。本発表では、ザリガニ
類の相対数度と存否の制限要因となっている環境要因について生態学的な解釈
を加え、各種の分布様式の違いについて考察する。
— 278—
口頭発表: 保全・管理
O1-X05
10:30-10:45
8 月 26 日 (木) X 会場
O1-X06
O1-X05
10:45-11:00
吉野川流域における 30 年間の森林成長と河川流出 ∼ タンクモデル
による解析 ∼
◦
中根 伸昌1, 中根 周歩1
1
広島大学大学院 生物圏科学研究科
(NA)
「緑のダム」を評価するにあたり、流域の概況、特に植生の違いによる河川流
出量の違いを明らかにすることで、流域の治水機能に係わる特性を解明するこ
とが可能であろう。今回の研究では、河川流出量の再現性が高いタンクモデル
を用いて、流域の森林の変遷に伴う河川流量の変動を解析した。
1960 年代 ∼1970 年代に一斉拡大造林が行われ、大部分の森林が人工林化した
吉野川流域を解析対象地とした。この流域をダム、流量観測所ごとの 11 の集
水域に分け、主な洪水時のダム流入量データ(国交省、四国電力)とティーセ
ン法で求めた雨量データを用いてタンクモデルの係数を各集水域ごとに求めた。
このうち4時期(1961、1974、1982、1999 年)のタンクモデルを用いて、そ
れぞれ 10 回の洪水時の降雨データを 150 年に一度の計画雨量(440 mm /2 日
間)に引き伸ばして、基準点・岩津流量観測所における最大ピーク流量の違い
を調べた。
その結果、それぞれのタンクモデルの最大計算ピーク流量(基本高水流量)は
1961 年のモデルで 17,836m3 /S、1974 年のモデルで 21,990m3 /S、1982 年の
モデルで 20,552m3 /S、1999 年のモデルで 18,990m3 /S となった。1961 年か
ら 1974 年にかけて基本高水流量が大きく上昇した背景には、一斉拡大造林に
より、大きく流域の浸透能は低下してしまったことが推察される。また、1974
年のモデルと 1999 年のモデルとで比較すると、3,000m3 /S ものピーク流量が
低減している。
以上のことより、森林の変遷と共にピーク流量は変動していることが伺われ、
流域の治水機能が回復しつつあることを示唆している。
さらに「緑のダム」の効果を高めるためには、より良い森林整備をこれから行
う必要性があると考えられる。未だ、多くある間伐不十分な人工林に、下層植
生が豊富に生える程の間伐を実施しなけばならないだろう。
O1-X07
O1-X08
11:00-11:15
道東の半自然草原保全に有効な手段–4年間にわたる禁牧・刈払い・施
肥試験の結果から見えたもの–
登山道の荒廃と高山植物群落との関係についての定量的評価
◦
11:15-11:30
清水 孝彰1
◦
1
NPO法人 白山の自然を考える会
亜高山帯から高山帯に位置する登山道では、過剰利用等が原因となり、周
囲の植生の荒廃が進んでいる。登山道の荒廃は、植生によりその程度が異な
り、特に周囲が雪田や高茎草原等のお花畑となっている登山道は、著しく荒
廃が進んでいることが多い。本発表は、白山の標高 2000∼2500m の地域を
対象として、登山道の荒廃状況の指標となる登山道幅員を計測し、併せて周
囲の植生・標高・傾斜・方位等の環境条件を調査、両者の相関を統計解析し、
登山道の荒廃と環境との関係の定量的評価を試みた、市民団体による研究報
告である。
まず、登山道幅員が周囲の植生により異なる傾向にあるかを、F 検定によ
り解析した。その結果、ハイマツ、オオシラビソ群落は他の植生より幅員が
狭く、高茎草原は他の植生より幅員が広いという傾向にあった。幅員と、地
形の代表要素である標高・傾斜・方位、及び植生との関係を見ると、標高と
の明確な関係は見られないが、傾斜は小さいほど幅員が広くなる傾向にあっ
た。方位との関係は南南東が最も幅員が大きく、南南東から離れるにつれ幅
員が狭くなる傾向にあった。植生との関係は、平均幅員の狭い順に、岩屑・
夏緑低木・ハイマツ・オオシラビソ・ダケカンバ・ササ・高茎草原・雪田の
順に並んだ。
次に、登山道幅員により大きく寄与している要素は何かを把握するため、
標高・傾斜・方位・植生を説明変数、幅員を目的変数として重回帰分析を行っ
た。その結果、植生の寄与が最も大きく、次に大きく寄与しているのは方位
及び傾斜であり、標高の寄与は小さくなった。
本発表では、計測データを追加して再解析し、さらに一部の調査点におい
て登山道幅員の経年変化を調査した結果を紹介する。また、残雪・融雪水と
登山道荒廃との関係を概略調査し、その概要を紹介する予定である。
小路 敦1
1
九州沖縄農業研究センター
近年の放牧家畜頭数減少に伴い、地域固有の草原景観や植生の維持が危ぶ
まれるようになってきている北海道東部・厚岸町の海岸段丘上に成立する半自
然草原2ヶ所 (ともに馬の放牧地で、雌阿寒岳由来の厚層細粒黒ボク土) にお
いて、家畜の放牧がこの地域における草原の植生や景観の維持に及ぼす効果
を解明するとともに、放牧が実施されなくなった際の代替手段として、刈払
いおよび施肥の効果を検討するため、4年間にわたる試験・調査を実施した。
2000 年5月、10m × 10m の禁牧区を両調査地に5ヶ所ずつ設置し、対
照 (放牧) 区と比較しつつ、植生の変動を追跡した。また、毎年5月に窒素
(尿素)、2001 年以降の毎年5月にリン酸 (過燐酸石灰) の施肥 (ともに成分
で 10g/m2 ) 処理、毎年7月に地上部刈払い処理を行い、これらの処理の有効
性を検討した (計 16 通り5反復。)。植生調査 (1m2 枠) および現存量調査
(1m2 枠内の 30cm × 30cm) は、周縁効果の及ぶ領域および過去の調査地点
を排除しつつ完全無作為に調査枠を抽出し、各年7月および9月に実施した。
分散分析により、ヒオウギアヤメ、イネ科草本、ミヤコザサ、スゲ類、広葉
草本の現存量および出現種数に及ぼす各処理の効果を検討した。
厚岸町の町花で保全のターゲット種であるヒオウギアヤメの現存量に対し
ては、放牧による有意な効果が認められず、4年間の放牧中断ではさほど大
きな影響は及ばないと考えられた。一方、ミヤコザサの現存量は禁牧によっ
て有意に増大し、禁牧はミヤコザサの優占度増大を通じて、他種に対して何
らかの影響を及ぼすものと考えられた。7月の刈払い処理は、ミヤコザサや
広葉草本の現存量を抑制しつつ、ヒオウギアヤメの現存量を有意に増大させ
る効果のあることが示された。また、単位面積あたりの植物の出現種数も増
大することから、刈払い処理は、この地域における草原の植生・景観・生物
相の保全に適した手法であると判断された。施肥は、ヒオウギアヤメ現存量
には有意な効果がなく、植物の出現種数を低下させ、イネ科草本、ミヤコザ
サ、広葉草本の現存量を増大させる効果が認められた。
— 279—
O1-X09
口頭発表: 保全・管理
O1-X09
8 月 26 日 (木) X 会場
O1-X20
11:30-11:45
13:30-13:45
土壌シードバンクによる絶滅危惧植物アサザの遺伝的多様性の回復
◦
上杉 龍士1, 西廣 淳1, 津村 義彦2, 鷲谷 いづみ1
1
東京大学農学生命科学研究科, 2森林総合研究所
(NA)
アサザは、かつて日本各地の湖沼や溜め池および河川などに広く分布してい
たにも関わらず、生育地の破壊などの影響で近年急激にその生育地を減少さ
せ、レッドデータブック(環境庁、2000年)では絶滅危惧 II 類と記載
されるようになった。霞ヶ浦においても、護岸工事と人工的水位操作などの
影響で、ここ1996年から2000年の5年間で、群落面積および地域個
体群数ともに急激に減少した。また、霞ヶ浦から採取した葉の試料を遺伝解
析した結果、残されているのはわずか18クローンのみであることが示唆さ
れ、その存続が危ぶまれている。
クローン急激な減少とともに、アサザの遺伝的変異も多くが失われた可能性
が高い。したがって、今後、霞ヶ浦におけるアサザの存続可能性を高めるた
めには、遺伝的多様性の回復も考慮に入れる必要がある。霞ヶ浦では、消滅
した地域個体群の近隣地域、および土壌シードバンクをもちいた植生再生事
業地で、シードバンク由来であると考えられるアサザの実生が発生してい
る。こうしたシードバンク由来の実生から個体更新が起これば、現存個体か
ら失われた遺伝的多様性が回復する可能性がある。そこで、マイクロサテラ
イトマーカーをもちいてこの土壌シードバンク由来の実生の遺伝的多様性を
調べた。
その結果、土壌シードバンク由来の実生には現存個体には存在しない対立遺
伝子が約10%程度含まれていることがわかり、遺伝的多様性を回復させる
ための資源として土壌シードバンクが活用できることが示唆された。しかし、
一方では、土壌シードバンク由来の実生個体群の多くは、高い近交係数を持っ
ており、自殖あるいは近親交配によって形成された可能性高いことが判明し
た。この結果は、実生の定着により回復した遺伝的多様性が、近交弱勢の影
響で失われてしまう可能性を示しており、保全・再生の実践においてはその
点への配慮が必要であることが示唆された。
O1-X21
O1-X22
13:45-14:00
聞きとり手法を用いたシラタマホシクサの分布・立地の復元
◦
14:00-14:15
河川砂州上でのシナダレスズメガヤの急激な分布拡大をもたらす繁殖
様式の可塑性
富田 啓介1
◦
1
名古屋大学環境学研究科
シラタマホシクサ Eriocaulon Nudicuspe は,東海地方の砂礫質の丘陵地に形
成される湧水湿地に特異的に分布する.この自生地の一部が,人為的な影響
の下にある水田畦畔,ため池周囲などにも存在することは,これまでにも度々
指摘されてきた.しかしながら,シラタマホシクサの分布や自生地の立地が
詳細に検討されるようになったのは,都市近郊に存在するこうした自生地の
多くが消滅した後のことである.したがって,過去の自生地の分布・立地を
明らかにするための標本や植生調査資料など具体的・客観的証拠に乏しく,
詳細な検討は行われてこなかった.ここで,過去の自生地の立地が明らかに
されるならば,絶滅が心配されているシラタマホシクサの生態の解明にもつ
ながり,今後の保護活動にも役立つであろう.本研究は,この視点から,か
つて多くの自生地が存在したと考えられる愛知県名古屋市南東部を事例に,
近隣住民からの聞き取りをすることによって,シラタマホシクサの過去の自
生地とその立地環境を明らかにした.その結果,1940 年代から 1970 年代に
かけて,対象地域内で,誤認はほぼないと考えられる合計 32 地点の自生地
を聴き取ることができた.これらの自生地の立地を地形環境別に分類すると,
小規模な開析谷の谷底に存在していたものが過半を占めた.さらに,これを
土地利用別に分類すると,灌漑用ため池の周囲に立地したものが約半数存在
し,休耕田や水田畦畔に存在するものも少なくなかった.丘陵の斜面に存在
するものでも,周囲は薪炭林として利用されていた.このように,本調査の
結果は,開析谷とその周辺の灌漑用ため池・水田・薪炭林などいわゆる「里
山」の人為的な土地利用環境が,シラタマホシクサの主要な自生地であった
ことを示している.また,自生地を多数聞き取ることができた地域での,自
生地の密度は非常に高く,自生地は互いに近接して存在していたことも明ら
かとなった.
鎌田 磨人1, 小島 桃太郎2,3
1
徳島大学工学部建設工学科, 2徳島大学大学院工学研究科建設工学専攻, 3吹田市役所
法面の土止め等を目的として導入された南アフリカ原産のシナダレスズメガ
ヤが,近年,礫砂州に侵入し,急速に分布を拡大しつつある.徳島県吉野川下
流域の礫砂州上で,シナダレスズメガヤの分布が急速に拡大した理由を,その
繁殖様式と地形改変能力に焦点をあてながら検討した.
低水流路に近い砂州の裸地部に侵入したシナダレスズメガヤの株周辺には,
洪水時に砂州上を流れる細砂が捕捉され,堆積している.そのため,玉石河原
であったかつての砂州が細砂に被われるようになっており,場所によっては,
堆積した細砂によって河床高が 2∼3m も上昇していた.このような地表変動
が激しい場所では,シナダレスズメガヤの微小な実生が生残する機会は少なく,
シナダレスズメガヤは,主に栄養繁殖により分布を拡大していた.その過程は
次のようだと推定された.まず,シナダレスズメガヤが花茎の途中から新たに
シュートを出す.シュートを出す花茎は,低水路に近い場所で多いことは,洪
水撹乱により傷ついた花茎部から新たなシュート出すことを示唆している.次
の洪水等で花茎が倒れることによってそのシュートが接地し,自らの株周辺に
堆積した細砂内に半埋没し,根茎を発達させながら成長する.そして,そのよ
うにして拡大した株が,さらなる砂礫を捕捉し堆積させ,新たなシュートの定
着場所を提供していく,という過程である.このように,低水路近傍では,シ
ナダレスズメガヤは,洪水撹乱の激しさを利用する形で占有面積を増加させる
ことが可能だと考えられる.
一方,高比高域では,おそらく洪水時にも供給される砂礫が少ないために,
河床形態に大きな変化は生じず,礫間にシルトが充填された裸地が形成される.
このような場所でのシナダレスズメガヤの分布拡大は種子繁殖に依存する.村
中・鷲谷 (2003) が推測するように,このような場所では,洪水が種子散布を
助長するかもしれない.
— 280—
口頭発表: 保全・管理
O1-X23
O1-X24
14:15-14:30
北海道サロベツ湿原におけるゼンテイカ霜害発生時の水文環境と夜間
冷却現象の数値実験
◦
8 月 26 日 (木) X 会場
◦
木村 綾子1, 中越 信和1
1
広島大・院・国際協力
1
北海道農業研究センター, 2北海道水文気候研究所
北海道・サロベツ湿原では、6月にもかかわらず晴天静夜に降霜が発生
し、ゼンテイカ (Hemerocallis esculenta) の霜害が報告された (Yamada and
Takahashi 2004)。霜害発生時の最低気温は、周辺植生高の地上 20-30cm に出
現したため、このときゼンテイカの花芽が偶々この高さ付近に位置していた
個体に霜害が発生した。
サロベツ湿原では、1960 年代にサロベツ川による周辺農地の融雪洪水を防
ぐために放水路が施工された。その結果、高層湿原部へのササの侵入によっ
て、湿原が乾燥化しているのではないかと報告された(高桑・伊藤 1986)。
泥炭の乾燥化は熱伝導率の低下をもたらし、晴天静夜の気象条件によって、
顕著な気温の低下が懸念される。実際にアメリカ・フロリダ州では、泥炭地
の農地化による排水工事によって、地下水位の低下と泥炭表層の乾燥化をも
たらし、晴天静夜に地表面温度の顕著な低下が報告された (Chen et al. 1979)。
そこで本研究では、現地観察結果を踏まえて、泥炭地の地下水位の変動が、
晴天静夜の気温及びゼンテイカの霜害にどのような影響を与えるのかを評価
することを目的として数値モデルを構築し、数値実験を行なった。
数値実験では、サロベツ湿原でゼンテイカの霜害が発生した 2002 年6月
4/5日の気象条件を入力して、地上 20cm の気温を評価した。その結果、平
均して地下水位が1 cm 低下するごとに 0.7 ℃の割合で低下した。さらに上
記の気象条件では、泥炭が乾燥履歴を持っていたために、そうでない条件と
比較して 0.7 ℃低下していた。また地下水位を 2cm 低下させると、ゼンテ
イカの霜害範囲が 13cm 上昇した。つまり 1-2cm 程度の地下水位変動によっ
て、ゼンテイカの霜害範囲が大きく変動することがわかった。従って湿原の
乾燥化が夜間の低温現象を引き起こし、湿原生態系への影響が示唆された。
14:45-15:00
刈り取りによる管理がヨシ実験個体群に及ぼす影響
◦
14:30-14:45
中国地方の中山間地域における環境保全型稲作の環境科学的評価
山田 雅仁1, 高橋 英紀2
O1-X25
O1-X23
小田倉 碧1, 矢部 徹2, 藤田 光則3, 土谷 岳令4
1
茨城大・院・理工, 2国立環境研究所・生物圏, 3東北工大・院・工, 4千葉大・理
【はじめに】抽水植物であるヨシは加圧マスフローによる換気機能を持っ
ており、自らの根圏を酸化的に保つことが知られている。ヨシ原の維持管
理のために広く行われる地上部の刈り取り(ヨシ刈り)は本来、秋から冬
にかけて行われるため、換気機能への影響は少ないが、近年では水質浄化
の観点から夏期に行うことも考案されている。しかし、夏期の刈り取りに
よってヨシは加圧能を失い換気機能が大幅に低下することに加え、地温の
上昇に伴う地下部の呼吸と微生物活性の上昇により土壌中の酸素が消費さ
れることで、根圏が還元的に変化することが予想される。本研究では夏期
に有底枠内ヨシ実験個体群において刈り取りを行い、処理前後における根
圏環境への影響を評価することを目的とした。
【方法】実験はヨシ植栽後 10 年以上経過した 4 m× 4 m× 1.8 mの有
底枠実験池で行った。刈り取り処理はヨシの加圧能が最大になる 8 月に行
い、実験池の 2/3 を刈り取り実験区とした。残り、1/3 は刈り取りをせず
ヨシ保存区とした。その他、対照区として全保存区を設定した。処理前後
における Eh、ph、EC を測定した。加えて、深度別の地下部現存量を測定
し、微生物活性は埋設した綿布の分解率により評価した。
【結果】処理後 1ヶ月で、刈り取り実験区では Eh が平均 66 m V 低下し
た。隣接する保存区においても若干の低下が見られたが、対照区では変化
がなかった。実験区において、最大 2 ℃の水温上昇が対照区と比較して確
認されたものの、綿布の分解速度に有意な差はなかった。以上のことから、
冬期の実験結果と同様に(藤田、2002)刈り取りの結果、拡散と負圧マス
フローによる地下部への酸素供給の増加が見込めるにも関わらず、夏期に
おけるヨシの刈り取りは冬期とは異なり、結果的にヨシの根圏を還元的に
変化させることを明らかにした。
環境保全型農業と一口に言ってもその耕作方法は数多く、それらを総合的に
評価した研究も少ない。そこで、中国地方の中山間地域において耕作されて
いる環境保全型稲作のうち、アイガモ農法(DO)4筆・紙マルチ農法(PM)
4筆・米ぬかを除草に利用した農法(RB)2筆・苗箱にのみ施薬する減農薬
農法(BC)4筆・除草剤および殺菌剤を使用する減農薬農法(NP)4筆お
よび慣行農法5筆の水田について、それぞれの栽培方法と農業生態系構成種
の関係、各栽培方法の生産性、その生物保全機能の外部経済評価等様々な面
から評価を行った。
まず、農業生態系に関する研究として、植生、節足動物、両棲・爬虫類の調査
を行った。植生調査の結果、各栽培方法の多様度の平均は、順に BC, 2.16、
RB, 1.95、PM, 1.85、CV,1.83、NP,1.63、DO , 1.30 となった。節足動物の調
査はスイーピングにより行い、得られた節足動物は害虫・益虫・その他に分
類した。この結果、NP と PM では,節足動物のバイオマスが比較的多く,
天敵割合が比較的安定していた。両生類・爬虫類の調査は畦においてルート
センサスを行った。この結果、栽培方法と両棲類・爬虫類の関係は明確では
なく、節足動物のバイオマスと両棲類の個体数に相関係数 0.61 という正の
相関が見られるにとどまった。
各栽培方法の生産性ついてはアンケートを用いてそれぞれの収益性や問題点
についての評価を行った。環境保全型農業の収量は慣行農業のそれよりも少
なかったが、DO、RB、PM は薬剤を使用した BC、NP よりも生産性に劣る
というわけでは無かった。
さらに生物保全機能の外部経済評価として生態学的調査結果を基に、二項選
択法の CVM アンケートを作成し、広島県民を対象に調査を行った。この結
果として 24,192,100,130 円が、広島県における環境保全型農業の水田の価値
として算出された。
O1-X26
15:00-15:15
谷津干潟における海藻アオサ類の繁茂とその要因探索
◦
矢部 徹1, 石井 裕一2, 立本 英機3
1
国立環境研究所・生物圏, 2千葉大・院・自然科学, 3千葉大・工
【はじめに】東京湾湾奥に位置する谷津干潟は埋め立てにより周囲をコ
ンクリートに囲まれた閉鎖性の強い人工的な潟湖干潟である。谷津干潟
はラムサール条約登録湿地である一方、近年緑藻アオサ類が急速に増加、
いわゆるグリーンタイドが発生し、水鳥の採餌場あるいは休息場機能を
はじめとする多様な生態系機能への影響が危惧されている。本研究では
アオサ類増加の評価とその要因探索を目的とし、干潟を取巻く環境因子
の変化とアオサ類増加との関連性について検討を行なった。
【方法】アオサ類繁茂面積は、谷津干潟環境調査報告書(環境省;1984、
1995 年)、干潟近隣の高層マンション最上階より撮影した斜め写真(谷津
干潟自然観察センター;1996-2001 年)および航空写真(2002 年)を用
いて評価した。水質、底質、気象データは上記に加え、公共用水域水質
測定結果(千葉県・習志野市;1984-2003 年)、秋津観測局計測結果(習
志野市;1986-2003 年)を用いた。また、2002、2003 年の夏期と冬期に
東京湾と谷津干潟を連結する 2 つの水路での 2 潮汐間の水質経時変化
を計測した。
【結果】谷津干潟でのアオサ類の発生面積は指数的に増加しており、2002
年には干潟面積の約 70 %を占めた。周辺の公共下水道整備に伴い、谷津
干潟最奥部では塩素イオン濃度が増加し干潟滞留水の海水化が進行して
いることが明らかになった。アオサ類は海域でみられる大型藻類であり、
この海水化が発生面積拡大に寄与していると考察した。現地調査の結果、
潮流による泥質の巻上げと干潟からの流出を確認し、近年の干潟底質の
砂質化の原因と考察した。写真解析によりアオサ類の発生時期は年々早ま
り、またアオサ類の消失時期は年々遅くなる傾向を確認した。谷津干潟
周辺の気温は近年上昇する傾向にあり、特に秋期から初春にかけての気
温の上昇傾向とアオサ類の発生および消失時期との関連性が示唆された。
— 281—
O1-X27
口頭発表: 保全・管理
O1-X27
O1-X28
15:15-15:30
小集団化がシデコブシの遺伝的荷重に及ぼす影響-推移確率行列モデル
による予測◦
8 月 26 日 (木) X 会場
◦
大平 亘1, 和田 幸生1, 三塚 直樹2, 宮下 洋平1
石田 清1, 平山 貴美子1, 戸丸 信宏2, 鈴木 節子2
1
(社)日本林業技術協会, 2(株)システムハイデント
1
森林総研・関西, 2名大・生命農学
日本産の希少植物では、100 年後の絶滅確率が最近の減少率に基づいて推定
されているが、短期的なタイムスケールで絶滅リスクに影響する遺伝的要因
はほとんど考慮されていない。大集団やメタ個体群を形成する他殖性の植物
では、小集団化すると、短期的にみれば劣性有害突然変異による遺伝的荷重
が増加して適応度が減少し、これが絶滅確率を高めると予想される。したがっ
て、個体数減少が著しい希少種の絶滅リスクを評価し保全を図るためには、
遺伝的荷重の変化とそれに影響する要因を推定する必要がある。今回は、開
発によって個体数が減少しているシデコブシ(10 年間の減少率 25 %)を対
象として、種子生産に現れる遺伝的荷重に及ぼす小集団化の影響を交配実験
の測定値などに基づいて推定した。愛知県春日井市の集団(開花株数 245)
で推定された劣性有害突然変異のゲノム突然変異率と優性の度合いは、それ
ぞれ 0.81、0.14 となり、草本種で報告されている値の範囲内に位置づけられ
た。これらに加えて選択係数は草本種の推定値に近い値をとると仮定し(s =
0.05-0.2)、小集団化(50 個体以下)した時の遺伝的加重の世代変化を推移確
率行列モデル(Wright-Fisher model)などを用いて推定した。その結果、結
実率は小集団化するとかなり減少すると推定された(15 個体になれば、5
世代後に 20-25 %減少)。しかしながら、種子または花粉による集団間の移
住があれば、遺伝的加重の増加率は減少した(15 個体の局所集団からなる
メタ個体群の場合、世代あたり成木1個体分の移住があれば、5世代後の結
実率が孤立集団に比べて 5 %程度増加。新局所集団の創始者がメタ個体群全
体からランダムに選ばれれば、20-25 %増加)。シデコブシは比較的短命な
低湿地に生育し、鳥散布を介してメタ個体群を形成していると考えられるた
め、小集団化にともなう結実率減少と局所集団数減少との間に正のフィード
バックが生じ、絶滅リスクが個体数減少率のみから予測される値以上に大き
くなる可能性がある。
O1-X29
稲荷 尚記1, 永光 輝義2, 田中 健太3, 五箇 公一4, 日浦 勉3
1
北大低温研, 2森林総研北海道, 3苫小牧研究林, 4国環研
北海道千歳川流域におけるセイヨウオオマルハナバチ(セイヨウ)野
外集団の時間的空間的分布,セイヨウの分布と侵入源としてのハウスの
分布の関連,およびセイヨウの在来マルハナバチの体サイズへの影響を
調べた.2002 年と 2003 年に,ある大型ハウスを中心とした南北 12km
のトランセクト上の防風林に衝突板式トラップを設置し,5 月下旬から
9 月中旬までマルハナバチ類を採集した.またその周囲のセイヨウ使用
ハウスを特定した.
(1)採集された女王個体数のピークは春だった.こ
の時期にハウスからの女王の逃げ出しが増える可能性は低いため,採集
個体の多くは野外で越冬していたことが強く示唆される.
(2)セイヨウ
の局所密度は,採集地点から周囲 1-4km 以内のハウスで1年間に使用さ
れたセイヨウコロニー数と正の相関を示した.つまり,現時点ではセイ
(3)大型ハ
ヨウはハウスから 4km 以上離れた場所への侵入は少ない.
ウスから南に 4km 離れた地点は調査地域でのセイヨウの分布南限である
が,その個体数は1年間で増加しており,セイヨウの分布がさらに拡大
する可能性が示唆される.
(4)セイヨウが個体数において優占する地点
では,そうでない地点よりも在来の 2 種の頭幅長が小さかった.このこ
とは在来種がセイヨウとの資源を巡る競争によって負の影響を受けたた
めに体サイズが減少した可能性が示唆された.
アジア東部地域における森林動態を把握するために衛星データを利用し
た手法を検討した。対象とする範囲は南緯 12 度から北緯 66 度 33 分、
東経 90 度から東経 150 度の範囲でアジア東部地域の熱帯、亜熱帯、温
帯、亜寒帯が含まれる地域である。衛星データは SPOT/VEGETATION
(地上解像度約 1km)の 10 日間合成で提供される S10 プロダクツデー
タを利用し、1999 年1月から 2002 年 12 月の4年間の観測データを解
析した。雲や他のノイズの影響を軽減するために NDVI(正規化植生指
数)データに対して LMF (Local Maximum Fitting) 処理を行いモデリン
グによる補正処理を行い、これを基データとした。
一年間の観測された NDVI 値の中で 0.7 を超える値から 0.7 を差し引
き、その値の年間積算値を算出した。温量指数の考え方を衛星データか
ら得られた NDVI に応用したこの値を SPOT/VEGETATION Forest Index
(FI)と呼び、森林として見なす閾値として FI > 0.77 を設定した。1999
年から 2002 年まで各年の森林分布を表し、年度間の森林分布箇所の差
から変化箇所の抽出を行った。変化箇所はさらに 1999 年と 2002 年の
NDVI の年平均値の間に有意な差が認められたところに絞り込み表した。
抽出された変化箇所は森林の伐採や火災などによる消失を表すだけでは
なく森林の活性度が低下した状況も表されることがわかった。対象地域
全体を同一基準で客観的な方法で森林を表すべく FI の閾値を設定した
が、森林の抽出精度の向上を図るためには地域に特化した閾値を設定す
る必要がある。また、地上解像度が低いことなどによりこの手法により
得られる結果は限界があるが、グローバルスケールの森林分布を把握す
る手法として有効であると考える。
O1-X30
15:45-16:00
セイヨウオオマルハナバチの北海道千歳への侵入範囲,季節消長,お
よび在来マルハナバチへの影響
◦
15:30-15:45
アジア東部地域における森林の動態把握手法の開発
16:00-16:15
セイヨウオオマルハナバチが北海道のマルハナ媒植物の送粉成功に与
える影響
◦
田中 健太1, 稲荷 尚記2, 永光 輝義3, 日浦 勉1, 五箇 公一4
1
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター苫小牧研究林, 2北海道大学低温科学研究所, 3森林総
合研究所北海道支所, 4国立環境研究所
外来種は、長い時間を経て形成された生物間相互作用を撹乱する。とりわけ
外来の送粉者は、資源を競合する在来送粉者相だけでなく、在来送粉者に依存
して繁殖を行っていた在来植物にも深刻な影響を与えるおそれがある。しかし、
その影響は在来送粉者と植物の結びつきの強さによって変わりうるため、そも
そも影響があるのか、どのような植物に影響があるのかの予測は難しい。本研
究の目的は、セイヨウオオマルハナバチが北海道の在来植物の送粉成功に与え
る影響およびその原因を実験的に明らかにすることである。
果樹用ハウスを 3 棟建設して、それぞれを、在来マルハナバチを放飼するハ
ウス(在来区)
・セイヨウオオマルハナバチだけを放飼するハウス(外来区)
・
両者を放飼するハウス(混合区)とし、その中にマルハナバチ媒で主に他殖の
植物 10 種(草本 8 種・木本 2 種)を導入した。植物に対するハチの訪花の種
類(正当訪花・盗蜜訪花)
・頻度および結実率を調べた。
その結果、エンゴサク・オオアマドコロ・イボタノキの結実率は外来区で著
しく下がり、セイヨウオオマルハナバチがこれらの植物の授粉機能を代替しな
いことが分かった。観察された盗蜜行動や訪花頻度低下がその原因だと考えら
れた。また、訪花行動の差異が影響している可能性もある。混合区での結実率
は 3 種の植物それぞれで、在来区と外来区の中間、外来区と同程度、在来区と
同程度、と結果が異なった。このことは、ハチ間の相互作用が植物に複雑な影
響を与えることを示している。また、外来区では結実率が下がる植物でも混合
区では影響が出ない場合があることから、セイヨウオオマルハナバチの侵入初
期段階の観察からはさらに侵入が進んだときの影響を予測することが難しいこ
とが分かる。
— 282—
口頭発表: 保全・管理
O1-X31
O1-X32
16:15-16:30
クロッカーレンジ国立公園(マレーシア、サバ州)に生息するボルネ
オミツバチの遺伝的多様性とその起源
◦
8 月 26 日 (木) X 会場
◦
五箇 公一1, 小島 啓史2, 岡部 貴美子3
1
国立環境研究所, 2ニフティ昆虫フォーラム, 3森林総合研究所
1
長野県環境保全研究所, 2京都大学霊長類研究所, 3マレーシア・サバ大学熱帯生物保全研究所
近年、我が国ではクワガタムシをペット昆虫として飼育することがブー
ムとなっており、クワガタムシの商取引は一大産業へと急成長を遂げた。
特に、1999 年 11 月の輸入規制緩和以降、大量の外国産クワガタムシが
商品目的で輸入されるようになり、2002 年 6 月時点での輸入許可種は
505 種類にものぼり、これまでに輸入された個体数は恐らく 200 万匹を
越えると考えられている。輸入当初は一般の飼育者のみならず、多くの
昆虫学者ですら、巨大な熱帯産のクワガタムシが日本のような寒冷地で
野生化することは困難であろうと推測していたが、実際に熱帯・亜熱帯
域に分布するクワガタムシでもその多くはかなり標高の高い地域に生息
しており、そうした地域の気候は日本の温暖気候と大きくは変わらない。
さらにクワガタムシは幼虫期を朽ち木や土壌の中など比較的安定した環
境で過ごすという生活史を持つことから、外国産の種でも日本の野外で
越冬することが可能であることが示唆されている。従って外国産の商品
個体が野外に逃げ出し、定着・分布拡大する可能性は十分に高く、今後、
どのような生態影響が生じうるか、リスク評価を行っておく必要がある。
一番に懸念されるのは、生態ニッチェが類似した在来のクワガタムシ種へ
の影響である。生息環境の悪化などにより日本の在来クワガタムシは既
に危機的状況に近づいており、そこへ外国産種が侵入すれば、餌資源をめ
ぐる競合や種間交雑による遺伝的浸食、外来寄生生物の持ち込みなどの
生態影響によって在来種の衰退に一層の拍車がかかることは間違いない
であろう。我々はこれらの生態影響の中で特に遺伝的浸食および寄生生
物の持ち込みの問題について、調査・研究を進めている。本講演ではこれ
らの研究の中から、特にヒラタクワガタのミトコンドリア DNA(mtDNA)
変異に関する研究、および、ヒラタクワガタに寄生するダニ類に関する
調査を中心に話題提供し、日本在来クワガタムシの固有性とその保全の
意義について考察したい。また、2004 年 6 月に制定された「外来生物
法」は、今後、このクワガタムシ産業にどのような影響を与えるのかに
ついても議論したい。
ボルネオ島は世界におけるミツバチの分布の中心であり、現在知られている9
種のうちの5種が生息している。これらのミツバチはおそらく多くの植物の送
粉に重要な役割を果たしている。したがってこれらのミツバチの系統地理学的
な研究をおこなうことは、この島の送粉共生系の歴史や現状、あるいはその効
果的な保全のあり方の理解に役立つだろう。以前の研究で、わたしたちはこの
島に生息するミツバチ3種(アジアミツバチ、ボルネオミツバチ、オオミツバ
チ)で mtDNA の CO1 遺伝子による系統分析をおこない、地域的な遺伝分化
の度合いが他の2種にくらべてボルネオミツバチで顕著に大きいことをみいだ
した。本研究でわたしたちは、サバ州西部のクロッカーレンジ国立公園で採集
された12個体のボルネオミツバチを新たにこの分析に加えた。その結果、こ
の地域のボルネオミツバチから CO 1遺伝子の4つの新しいハプロタイプが
みつかった。またこの島のボルネオミツバチに遺伝的に大きく隔たった3つの
系統が存在することをあらためて確認することができた。この3系統の地理的
な分布は、ボルネオ島の従来の生物地理学的な区分のあり方と一致しない。ク
ロッカーレンジのハプロタイプはいずれも、3系統のうちの2つに含まれ、そ
のひとつはこれまでクロッカーレンジでのみ確認されている系統、もうひとつ
はサバ州東部のタワウ周辺を中心としてそこから広がったと考えられる系統で
あった。これらの結果は、クロッカーレンジ周辺の森林の一部が地質学的なタ
イムスケールで他と隔離されてきた歴史をもつこと、また現在のこの地域の天
然林を保存することがボルネオミツバチの遺伝的多様性を維持する上で重要で
あることを示している。更新世の気候変動にともなう森林や植生タイプの分布
変動が、ミツバチの系統のこうした現在の分布をかたちづくるのに重要な役割
を果たしてきたと考えられる。
O1-X34
16:45-17:00
シャープゲンゴロウモドキ生息の現状と保全への取り組み
◦
16:30-16:45
クワガタムシ商品化がもたらす生態リスク
須賀 丈1, 田中 洋之2, マリアティ M3
O1-X33
O1-X31
17:00-17:15
タガメ存続にとってのカエル類保護の重要性
◦
西原 昇吾1, 鷲谷 いづみ1
平井 利明1
1
1
愛媛大学農学部附属農場
東京大学農学生命科学研究科保全生態学研究室
シャープゲンゴロウモドキは池沼,湿地,湿田などの止水域に生息する
水生昆虫である.開発や圃場整備による生息地の改変,喪失や,農薬な
どにより,1960 年に絶滅したとされたが,1984 年に千葉県房総半島で
再発見された.環境省 RDB では絶滅危惧 I 類である.太平洋側で唯一
残存する房総半島の生息地は約 20ヶ所とされる.本研究では,本種の生
息の現状を把握し,生息に必要な環境条件を解明することで保全上の課
題を見出すことを目的とした.ここでは,その結果および,最近,開始
された保全事業について報告する.
生息調査は,2003∼2004 年に房総半島の既知の生息地とその周辺で行っ
た.生息の確認は,卵,幼虫,成虫の各期に行い,一部の生息地では本種
の個体群動態を調査するために成虫へのマーキングを行った.また,水
生生物相および,水質,護岸形態などを記録した.
本調査の結果,生息は 4ヶ所で確認された.推測された衰退要因は,圃
場整備による乾田化や小湿地の喪失(4ヶ所),休耕による乾燥化(4ヶ
所),ダム建設(3ヶ所),アメリカザリガニの侵入(2ヶ所)であった.
また,3ヶ所では乱獲が主要な衰退要因であると示唆され,マーキング個
体もわずかにしか再捕獲されず,業者に採集された例もあった.
今後,圃場整備の際には生息地の改変を最小限に抑え,代替生息地とし
ての小湿地を造成するとともに,谷津田最上部の休耕田を湛水化するな
どの生息地の再生が望まれる.圃場整備予定の生息地では,良好な生息
環境が残存する石川県における本種の生態学的研究によって得られた知
見を利用して,休耕田を復田した代替生息地での保全が計画され,モニ
タリングが開始された.一方で,本種は大型で希少性が高いために乱獲
の対象となっている.現在,看板や柵などで防止されているが,採集圧
の問題を解決するためには保全条例の制定や天然記念物指定などの法的
規制が望まれる.
刊行や改訂が進められている全国版及び地方版レッドデータブックに
よれば、水田の減少、農薬、水質汚染、街灯の増加などがタガメの衰退
原因とされている。タガメの主食がカエル類であること(Hirai & Hidaka
2002)、及び全国の水田でカエル類の著しい減少が観察されていること、
この 2 つの事実からカエル類の減少がタガメの衰退原因である可能性が
極めて高いと考えられる。しかしながら、その可能性を指摘しているレッ
ドデータブックは存在しない。タガメを絶滅させないための適切な対策を
講じるには、真の原因究明が不可欠である。そこで私は、カエル類の減
少がタガメに及ぼす影響について調査した。まず、タガメの主要餌種で
あるニホンアマガエル成体、シュレーゲルアオガエル成体、トノサマガ
エル幼体の密度をタガメが残っている地域とすでに絶滅した地域間で比
較したところ、いずれもタガメが残っている地域で高密度であった。ま
た、タガメが残っている地域間の比較でも、タガメのより多い地域でカ
エル類がより高密度であった。これらの結果は、タガメの密度がカエル
類の密度に依存的であることを示しており、カエル類の減少がタガメ衰
退の主な原因である可能性を強く示唆する。さらに、夜間照明がタガメ
に及ぼす影響についても調査した。夜間照明に飛来した個体の肥満度指
数(体重 g /体長 3 mm × 105 , X ± SD = 1.68 ± 0.17)は、水田に
残っていた個体(2.28 ± 0.03)のよりも有意に低かった。この結果は、
タガメが機械的に夜間照明に引き寄せられているのではないことを示し
ており、満腹の個体は水田にとどまっているのに対して、空腹の個体が
水田から移動分散していることを示唆している。つまり、街灯の増加は
タガメ衰退の直接的原因ではないと考えられる。以上の結果から、タガ
メ存続にとって、主要餌種であるカエル類を高密度に保全管理すること
の重要性を指摘した。
— 283—
O1-X35
O1-X35
口頭発表: 保全・管理
8 月 26 日 (木) X 会場
17:15-17:30
奄美大島の外来捕食者とアカヒゲ・イシカガワエルの分布相関
◦
石田 健1
1
東京大学
生物地理学上の東洋区の北端に位置し、アマミノクロウサギ、ルリカケス、
オットンガエルなど多くの固有種がいる奄美大島では、1980 年代までは森林
伐採と道路開発が、1990 年代以降は外来種のマングース、最近ではそれに
加えてクマネズミの森林地域での増加が、固有個体群の存続を脅かす主要因
だと考えられている。マングースの個体数増加と分布拡大にともなって、ア
マミノクロウサギやアマミヤマシギの分布や生息密度が減少したことが報告
されてきたため、環境省によってマングース駆除事業も実施されている。一
方、奄美大島におけるクマネズミの固有種個体群への影響については未知で、
基礎的な調査が始められたところである。これら外来捕食者の固有個体群、
生態系への影響と駆除など生態系回復作業の効果を把握するために、感度の
よい生物指標を継続的にモニタリングする手法が必要だと考えられる。そこ
で、マングースとクマネズミの両方に補食されている可能性が高く、鳥類と
しては生息密度が高く観察が容易なアカヒゲが生物指標の1つになるか、検
討に入った。2004 年3月に、奄美大島と隣接しマングースとクマネズミのい
ない加計呂麻島の、5か所でのラインセンサスによってアカヒゲの個体数密
度、7か所での録音によってさえずり活動の密度を記録した。経路長 2km、
幅 50m のベルトトランセクトで評価すると、マングースおよびクマネズミ
の生息密度が高く駆除作業が多く行われている2地区では 3∼ 5羽、両者が
低密度または生息しない地区では 7 と 15 羽が記録された。過去の他のセン
サス記録、録音による調査の試行結果も、近似した結果となっていた。アカ
ヒゲを、生態系保全の指標として利用できる可能性は示唆されたが、調査手
法の確認と改善も必要である。イシカワガエルなど他の固有動物、イタジイ
の結実動態など関連する群集構造の主要因に関連づけて、奄美大島における
生態系保全を考察する。
— 284—
口頭発表: 個体群生態
O1-Y01
09:30-09:45
駿河湾のエダミドリイシ群集におけるウニ類 3 種の生態分布
◦
舟越 善隆1, 上野 信平2
O1-Y02
(株) 東海アクアノーツ, 2東海大学海洋学部
本研究で対象としたエダミドリイシ群集は 1996 年に起こった低水温を
契機に変遷を続けている.この変遷に伴い群集内に様々な生物が移入し
てきた.なかでも大型で個体数が多いのはウニ類のガンガゼ,ラッパウ
ニ,タコノマクラである.本研究ではこれら 3 種のウニ類のエダミドリ
イシ群集における生態分布について報告する.
エダミドリイシ群集内に 10 × 10m の方形枠を 49 枠設置し,2002 年 4
月から 2003 年 3 月に月 1 回,方形枠内(4,900m2 )のガンガゼ,ラッ
パウニ,タコノマクラの個体数を計数した.また,方形枠ごとの個体数か
ら群集内の分布集中度指数 I δを求め,生サンゴ域,サンゴ礫地,砂地
の底質別に個体数密度(個体/m2 )を求めた.これとは別に 2003 年 12
月に群集内のサンゴ礫地において Nos.1 から 3 の各々2 カ所で底質を採
取し,篩分け法により粒度分析を行った.なお,これらの調査は SCUBA
潜水により行った.
2002 年 4 月から 2003 年 3 月のガンガゼは 7,408 から 12,149 個体,
ラッパウニは 1,058 から 2,674 個体,タコノマクラは 707 から 1,225
個体であり,分布集中度指数 I δはそれぞれ 1.45 から 3.40,1.68 から
2.29,1.65 から 2.85 であった.また個体数密度が最も高かったのは,ガ
ンガゼは生サンゴ域で 5.01 個体/m2 ,ラッパウニはサンゴ礫地で 1.00 個
体/m2 ,タコノマクラはサンゴ礫地で 0.35 個体/m2 ,であった.底質の混
成比率は,No.1 で砂分と礫分がほぼ同比,No.2 で砂分が約 60%,No.3
は逆に礫分が約 60%となった.これらの結果から,ガンガゼは生サンゴ
域を,ラッパウニとタコノマクラはサンゴ礫地を中心に分布するが,タ
コノマクラはより砂分の多い砂地化したサンゴ礫地に集中して分布する
ことが明らかとなった.
10:00-10:15
O1-Y01
09:45-10:00
淡水産小型枝角類 Bosmina が異なる 2 種の捕食者に対して見せる形態
的応答とその生態学的意義
◦
1
O1-Y03
8 月 26 日 (木) Y 会場
坂本 正樹1, 張 光玄1, 花里 孝幸1
1
信州大学山地水環境教育研究センター
湖沼生態系で主要な構成要因である動物プランクトン群集では、被食者の
個体群動態が単に直接的な捕食によって制御されているだけではなく、捕食
者との間での化学物質を介した種特異的な反応によっても影響されている。
これは一般に他感物質 (allelochemicals) を介した情報伝達として知られ、湖
沼では被食者となる生物が捕食者から放出される何らかの化学物質 (受容者
側が利益を得るため、
「カイロモン」と呼ばれる) を感じとり、自身の適応度
を上げる反応を見せる例がほとんどである。その一つにカイロモン誘引性の
形態変化があり、今日では 9 種のワムシ類と 17 種の枝角類でその現象が知
られている。この現象について、枝角類では数種の Daphnia について良く
研究されており、形態の変化を誘導する刺激はフサカ幼虫やプランクトン食
魚から放出されるカイロモンであることが知られている。また、その形態変
化は Daphnia に対する捕食者の捕獲効率を下げたり、捕まった後の逃避確率
を上げる効果があることが示されている。富栄養湖で優占する事の多い小型
枝角類ゾウミジンコ属 (Bosmina) でも無脊椎捕食者のカイアシ類 (Cyclopoid
copepoda) や捕食性ミジンコのノロ (Leptodora) から放出されたカイロモン
の刺激で形態変化が誘導され、捕食に対して有効な効果をもつことが報告さ
れている。
本研究では Bosmina 属の 2 種 (B. longirostris、B. fatalis) が捕食者 Mesocyclops (Cyclopoid copepoda) と Leptodora のカイロモンに反応して見せる形
態変化とそれぞれの捕食者から受ける捕食圧について調べる事により、形態変
化の生態学的意義について考察する。さらに、長野県諏訪湖など、Bosmina2
種が共存する湖では 2 種の優占時期が異なることが観察されているが、それ
を引き起こす要因としての捕食者の存在についても言及する。
O1-Y04
10:15-10:30
希少タカ類ハチクマの春秋の渡りと環境利用
◦
(NA)
樋口 広芳1, 中村 浩志2, 植松 晃岳3, 久野 公啓3, 佐伯 元子3, 堀田 昌伸4, 時田 賢一5, 森
下 英美子6, 守屋 恵美子1, 田村 正行7
1
東京大学大学院農学生命科学研究科, 2信州大学教育学部, 3信州ワシタカ類渡り調査研究グループ, 4
長野県環境保全研究所, 5我孫子市鳥の博物館, 6エコ・プロデュース, 7京都大学大学院工学研究科
ハチクマはハチ類を捕食することに特殊化したタカ類である.我々は 2003
年秋と 2004 年春に,本種の渡りを衛星追跡し,渡り経路などを詳細に明
らかにすることに成功した.本講演では,渡り経路や渡りの継時緯度様式
などについて報告し,合わせてサシバの渡りと比較することによってハチ
クマの渡りの特徴を明らかにする.追跡の対象となったのは,長野県の安
曇野(1 個体)と白樺峠(2 個体)で捕獲した 3 個体である.装着した送
信機は米国 North Star 社製,重量は 20 g,太陽電池方式のものである.
ハチクマは秋,長野から中国地方,九州北部を経て中国に入った.その
後,中国大陸を南下してマレー半島を経由し,インドネシアやフィリピンま
で到達した.春の北上では,はじめは秋の南下経路を逆にたどったが,途
中から大きくずれて朝鮮半島北部に向かった.その後,朝鮮半島を南下し
て九州に入り,東進して長野の繁殖地に戻った.春のこの渡り経路は,こ
れまでどの鳥でも知られていなかったものである.
ハチクマの渡りは,同じく長距離移動性のサシバの渡りと比べると,移
動距離が長い上に大きな迂回経路をたどる.また,サシバの渡りは秋と春
で経路が大きくずれることはないが,ハチクマの渡りは経路が季節によっ
て大きく変化する.2 種のこの違いが何にもとづくのかは,今のところはっ
きりしない.しかし,おそらく食習性の違いが関係しているのではないか
と思われる.春から夏にかけての繁殖期には,サシバは両生・爬虫類を主
食にし,ハチクマはハチの幼虫,蛹,成虫などを好んで食べる.渡りの中
継地や越冬地での食習性はよくわかっていないが,おそらく繁殖期と同様
の食習性を維持しているのではないかと予想される.ハチクマが日本の南
西諸島を中継地または越冬地としないのは,この地域にハチ類が多くない
ことと関係しているのかもしれない.今後,食物となる動物の分布が東ア
ジア全体でどのようになっているのか,またそれと両種の渡り経路がどの
ように関連しているのかを調べていく必要がある.
— 285—
O1-Y05
口頭発表: 個体群生態
O1-Y05
O1-Y06
10:30-10:45
高知県物部川における標識放流ウナギの個体群過程
◦
8 月 26 日 (木) Y 会場
ギンザケ個体群にみられる雄生活史二型の動態
◦
立川 賢一1, 中島 敏男2, 松田 裕之3
小関 右介1, Fleming Ian A.2
1
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター, 2オレゴン州立大学コースタルオレゴン海洋実験所
及び水産野生動物学部
1
東京大学海洋研究所, 2高知県水産試験場, 3横浜国立大学大学院環境情報研究院
[目的] ウナギ資源は減少傾向にある。放流した標識ウナギの生残、成
長や分布などの個体群過程を明らかにすることを通じてウナギ資源の回復
方策を検討したい。
[方法] 養殖された当歳ウナギ(体長 34 cm、体重 29.5 g)の右胸鰭
を切除して、高知県物部川河口から上流約 3 km地点で 2000 年 5 月 19
日に、7977 尾放流した。河口から堰まで約7kmの流域において、木製ト
ラップを 6 カ所に設置し、再捕を試みた。石倉漁業などの漁獲情報も活用
した。調査は 2000 年 5 月から 2003 年 12 月まで実施された。
[結果] 標識ウナギの年間再捕尾数は、00 年以降、94、46、19、21 で、
再捕尾数の総漁獲尾数に対する割合(%)は、8.5、7.5、2.6、2.6 であった。
瞬間減少率は、おおよそ 0.5 であった。放流地点より上流での年間総ウナ
ギ漁獲割合は、00 年以降、57.2 から 70.2 %で、上流域でより多く漁獲さ
れた。標識ウナギでは、31.6 から 52.4 %で、下流域に多く分布する傾向に
あった。ウナギの全長範囲は、3 年間で、28.9–40.5 cmから 36.4-51.3cm
変化し、平均で 8.4cm 伸張した。肥満度指数の変動幅は大きいが、年々増
加傾向にあった。自然順化と解釈できる体色の黄化割合は、00 年以降、45.7
から 90.0 %にまで年々増加した。雌の割合は 00 年以降、5.3 から 95.0%ま
で年々増加した。
[討論] 放流ウナギは少なくとも 4 年間定着し、生残することが確認さ
れた。放流後、成長が進み、肥満度が高くなり、体色が黄化することから、
生活場所の確保や天然餌資源の利用ができることなど生活が自然順化して
いくと思われる。当歳ウナギ(クロコ)の放流によりウナギ資源への添加
が期待されるが、生残率や成長率を高めるためには、ウナギの住める水域
環境を回復させなくてはならない。
O1-Y07
サケの個体群サイズ,あるいは資源量の時間的・空間的動態は,おもに水産
学的重要性の点からこれまでにかなりの研究が行われ,資源量変動の制御
機構(例えば,北太平洋数十年変動など)に関して多くの知見が蓄積され
てきた。しかし,例えば成熟齢の構成,あるいは代替生活史型の比率といっ
た生活史変異の動態はあまり注目されてこなかった。そこで本研究は,ギ
ンザケの雄生活史二型(2 歳のジャックと 3 歳のカギバナ)について,そ
れぞれの回帰個体数,およびその比率の動態を特徴づけることを目的とし
て,アメリカオレゴン州の孵化場から得られた標識放流–回収事業データの
時間・空間分析を行った。9 個体群(孵化場),1976-1997 繁殖年にわたる
放流グループごとの生活史二型の回帰個体数および比率データを,一般化
線型モデルを用いて放流個体数,放流日,魚体サイズに対して調整した後
(デビアンス残差),年次データにまとめた。このデータから観察された年
次変動のパタン,およびその長期トレンド(三次関数で表現)とトレンド
除去後の短期的変動パタン(関数からの残差)それぞれについて,孵化場
間の平均相互相関係数(および信頼区間)の推定と空間構造の検定(マン
テル検定)を行った。その結果,生活史二型の回帰個体数の年次変動はど
ちらも孵化場間で同調し,その原因はおもに長期トレンドであることが示
された。さらに,ジャックについてはトレンド除去後の短期的変動にも孵化
場間での同調が認められ,この同調は地理的な距離が近づくほど強くなる
という空間構造をもつことが明らかとなった。これらの結果から,雄生活
史二型の動態には広域的な長期トレンドと地域的な(ジャックの)変動をも
たらす 2 つ以上の要因が関与していると考えられる。本研究では認められ
なかったものの,これらの要因は二型比率の動態にも影響を及ぼすかもし
れない。
O1-Y08
11:00-11:15
魚類の左右二型に与える遺伝的浮動の影響についての数理的研究
◦
10:45-11:00
11:15-11:30
形質の進化と個体群動態の安定性に関する数理的研究
◦
中嶋 美冬1, 松田 裕之2, 堀 道雄3
山田 聡美1
1
1
東大・海洋研, 2横浜国大・環境情報, 3京大・理
奈良女子大学 人間文化研究科 情報科学専攻
魚類において、顎が右に開き体が左に曲がる「左利き」と、その逆の「右
利き」という遺伝形質の二型が知られている。遺伝形式は1遺伝子座2対立
遺伝子に支配される左利き優性のメンデル遺伝と考えられている。この魚の
左右性は、分断性非対称(Antisymmetry)の一例と考えられる。各種内の利
き比率は数年周期で振動している。魚食魚では自分と反対の利きの餌個体を
主に捕食することが明らかにされており、本研究ではこれを交差捕食(Cross
Predation)と呼ぶ。このような捕食の非対称性が魚類の左利きと右利きの共
存を維持する要因と考えられる。その理由は以下のような頻度依存淘汰によ
り説明できる。餌種に左利きが多かったとき、それを捕食する種では右利き
が有利となり多数派になるため、やがて餌種では左利きが減少して右利きが
増え、捕食者ではかつて少数派であった左利きが有利となって後に多数派と
なるように、被食者と捕食者において多数派の利きの入れ替わりが繰り返さ
れると予想される。
本研究では、上記の頻度依存淘汰の仮説を捕食者(種x)と被食者2種(種
yとz)におけるそれぞれの種内の右利き遺伝子頻度モデルを用いて検討し
た。また種内の利き比率の振動に対する遺伝的浮動の効果を検討するため、
計算機実験を行なった。全個体群が共存する唯一の平衡点では、種内の右利
き個体頻度が 1/2 となり、線形化後のヤコビ行列の固有方程式をみると平衡
点は中立安定であった。計算機実験の結果、種内での利き個体頻度は周期的
な振動を見せた。スペクトル解析によると、3 種の振動の位相はずれていた
が周期は同じであった。遺伝的浮動はこの振動の周期を短くし、振幅を増幅
させた。捕食率と被食者の内的自然増加率の増加はこの効果を増加させた。
また捕食者が自分と同じ利きの被食者を食べる並行捕食(Parallel Predation)
が多くなると、非周期的な振動が見られた。
一般的に、個体群動態が起る時間スケールは進化が起こる時間スケール
よりも小く、そのため多くの理論研究ではこの時間スケールの違いを用い
て解析的に取り扱いやすい形、即ち個体群動態の平衡状態を仮定した進化、
といったモデル解析が行われてきました。
しかし近年、adaptive dynamics といった、形質の進化ダイナミクスを個体
群動態と同等に記述する理論研究が普及しつつあります。
そこで本研究では、形質の進化が個体群の安定性に及ぼす影響に着目し、単
純な1種系個体群動態に関して、1)決定論的モデル、及び、2)確率論
的個体ベースモデルを構築し、両者の振る舞いを比較することで形質の進
化と個体群動態の安定性の関係を、量的形質に焦点を当てて数理的に探る
事を試みます。
量的形質は一般的に、複数の遺伝子座が関係していると言われています。そ
れぞれ個々の遺伝子座の関与は小さく、小さな効果が積み重なって形質が
量的に発現すると考えられています。量的な変異の遺伝は、環境要因など
の他の要因に比べて効果の小さい遺伝因子に支配されているため、量的な
変異が常にそうとは限りませんが、大抵は多数の遺伝子座上の遺伝子の違
いに影響されます。この量的形質の進化について、量的な形質が有性的に
遺伝する場合に着目して考えます。
決定論的モデルとしては、注目する量的形質の親から子への遺伝様式を考
慮した Ricker ロジスティック増殖を考え、内的自然増加率の積分差分方程
式を用いてモデルを構築します。
確率論的個体群ベースモデルとしては、量的形質の性質をもとにして遺伝
について、各個体が複数の遺伝子座を持ち、それぞれの遺伝子座は対立遺
伝子を持つと仮定し個体の形質はこの遺伝子座によって決まる、という条
件を基にモデルを構築し、解析を行います。そして、2つのモデルの比較
を行い、形質進化の個体群動態の安定性への関与について解析を行ってい
きます。
— 286—
口頭発表: 個体群生態
O1-Y09
O1-Y10
11:30-11:45
侵入生物の分布拡大速度に及ぼす増殖と分散の確率効果
◦
8 月 26 日 (木) Y 会場
11:45-12:00
ジェネラリストは変動環境下で絶滅しにくいか?
◦
木村 美紀1
吉田 勝彦1
1
1
国立環境研・生物多様性
奈良女子大学 人間文化研究科 情報科学専攻
侵入生物は、分散と増殖を繰り返しながら分布域を拡大してきた。本研
究では、そのような生物の分布域拡大過程を記述する確率論的モデルを
構築し、このモデルから求められる伝播速度と、対応する決定論的モデ
ルの伝播速度を比較する。
本研究では、決定論的モデルとして、Kot et al. (1997) が提唱した積分差
分方程式を採用する.このモデルは、時間が離散的で世代が重ならず、増
殖と分散のステージが相前後して起こる生物集団の分布拡大過程を記述
するモデルである.この決定論モデルに対応する確率論的モデルとして、
“ 増殖 ”は平均値が決定論的モデルの増殖率と等しい二項分布に従い、
“分
散距離 ”は決定論的モデルと同じ分散カーネルに従う確率変数で与えら
れる場合を取り上げた。
上記確率論的モデルを数値的に解いて、決定論的モデルの速度の解と比
較すると、伝播速度が大きく減少することが判明した。確率論的モデル
の速度の遅れの原因が、
“ 増殖 ”の確率性によるものか“ 分散 ”の確率性
によるものかを明らかにする為、
“ 増殖 ”の確率性の程度をさまざまに変
えて、伝播速度の変化を調べた。その結果、
“ 増殖 ”の確率性の程度は速
度にほとんど影響しなかった。従って、遅れの原因は“ 増殖 ”の確率性
によるものではなく、
“ 分散 ”の確率性によるものであるということが判
明した。
更に、確率論的モデルにおいて個体間の相互作用が及ぶ範囲(相互作用
レンジ)を様々に変えて伝播速度を調べた。特に有限の相互作用レンジ
を持つ確立論的モデルと無限に大きい相互作用レンジをもつ決定論的モ
デルの結果とを比較することにより、相互作用の空間レンジと確率効果
の関係を議論する。
O1-Y11
O1-Y09
12:00-12:15
食物網の構造の理解に向けて
ロスベアグ アクセル1, ◦ 雨宮 隆1, 伊藤 公紀1
1
横浜国大
高い絶滅率が生物圏に及ばす影響を予測するには、植物網(すなわち生
態系における複雑な栄養相互作用ネットワーク)を詳しく理解すること
が必要である。統計的解析によって、食物網の構造は、自然界や社会で
見られる他の相互作用ネットワークとはかなり異なることが分ってきて
いる。食物網の構造についての記述的モデルは発言されてはいるが、困
果的な理解はまったく進んでいないと言ってよい。我々の新しい食物網
進化のモデルでは、定常状態での性質を正確に再現できる。このモデル
では、ほとんどの捕食者は被食者よりも大きいという観測事実と、種分
化の速度が体重とともに減るという仮定とを組み合わせている。その結
果、進化的な食物網ダイナミクスに強い制限が加わることになるが、個
体群動態についての仮定は不要である。このモデルから、生態系が自己
組織化臨界状態にあるという証拠が植物網の構造からも得られることが
分かる。
環境変動が起こったときに、どのような生物が絶滅しやすいのか、を
明らかにすることは、生物の保全を考える上で重要な課題の一つである。
生物には様々な種類の餌を食べるジェネラリストと特定の餌しか食べな
いスペシャリストが知られているが、環境変動が起こったときにどちらが
絶滅しやすいかについては諸説あり、現在結論は得られていない。その原
因の一つはスペシャリストの方が一般に分布が狭いため、両者を同じ条件
で比較できなかったことである。もし生物群集の進化のコンピュータシ
ミュレーションを行い、その中で進化的に出現した様々な食性を持つ生
物を共存させることができれば、同じ条件での比較が可能になる。そこ
で本研究では、仮想的な食物網に一次生産量の変動を起こすコンピュー
タシミュレーションを行った。この食物網は動物種と植物種で構成され、
植物は外界からのエネルギー流入を受けて一次生産を行う。モデルの中
では、外界からのエネルギー流入量を変動させることによって、一次生
産量を変動させる。動物種はそれぞれの好みに従って捕食する餌を選が、
好みの幅が広いほど、取り入れた生物量のうち自分の成長に使えるもの
の割合が低くなると仮定する。シミュレーションの結果、変動がない場
合はスペシャリストの方が絶滅しにくかった。しかし、規模の小さな一
次生産量の変動が起こると、食物網のベースになる植物種が打撃を受け
て絶滅し、その結果少数の餌しか捕食していないスペシャリストが絶滅
しやすくなった。この時、多くの種類を餌としているジェネラリストは
ほとんど影響を受けなかった。規模の大きな変動が起こる場合、一次生
産量が極端に減少するイベントが時々発生するが、この時、極端なスペ
シャリストと極端なジェネラリストが生き残る可能性が高く、中間的な
性質を持つ生物が絶滅しやすかった。本研究の結果は、環境変動の規模
によって、保全すべき種の優先順位が変わる可能性があることを示唆し
ている。
O1-Y12
12:15-12:30
Modelling the effect of Wolbachia on genetic divergence andspeciation in
their insect hosts
◦
Arndt Telschow1
1
Center for Ecology Research, Kyoto Univ
Wolbachia is a group of intracellular bacteria that is widespreadamong insects, isopods, mites, and nematodes. They are responsible forvarious manipulations of their host reproduction system, includingparthenogenesis, feminisation, male killing, and cytoplasmic incompatibility(CI). The most common
of these manipulations is CI, an incompatibilitybetween sperm and egg that
typically results in the death of the zygote. Itwas suggested that Wolbachia
induced CI could promote speciation in thehost. We tested this idea using
mathematical methods. We analysed a modelwith two parapatric host populations, each infected with a differentWolbachia strain that causes bidirectional
CI. Our main findings are: (1) Astable coexistence of the two Wolbachia
strains is possible even if there issubstantial migration between the populations. (2) Wolbachia induced CIcauses a reduction of the gene flow between
the host populations. Further,we derived a simple formula describing this
gene flow reduction. (3)Bidirectional CI selects for premating isolation and
so reinforces geneticdivergence between host populations. In summary, our
results show thatbidirectional CI can greatly enhance the genetical divergence
betweenparapatric host populations. This supports the view that Wolbachia
canpromote speciation in their hosts.
— 287—
O1-Y20
口頭発表: 個体群生態
O1-Y20
13:30-13:45
8 月 26 日 (木) Y 会場
O1-Y21
13:45-14:00
コロニーベース格子モデルでの撹乱とアリの分散戦略の関係について
◦
中丸 麻由子1, 別府 弥生2, 辻 和希3
1
静岡大学工学部, 2九州大学理学部, 3琉球大学農学部
(NA)
環境攪乱下では長距離分散戦略はリスク回避が可能となるため進化的に有利で
あると言われている。しかしアリの場合、攪乱が頻繁に起こる場所には分散型
ではない多女王性の種 (アシナガキアリ、ツヤオオズアリなどの放浪種) が生息
し、逆に攪乱が頻繁でない環境に拡散タイプの単女王性の種 (オニコツノアリ、
アズマオオズアリなどの非放浪種) が生息している。これはどのような要因で
生じるのであろうか。
長距離分散戦略 (L 戦略) と短距離分散戦略 (S 戦略) の空間を巡る競争を仮定
した。空間構造として格子モデルを仮定し、環境撹乱は2つの確率 (撹乱発生
確率と撹乱の広がる確率) によって制御する。シミュレーションを主としたモ
デル解析を行った。
まず、個体ベース格子モデル解析したところ、撹乱の大きいほど L 戦略が有利
となり、リスク回避と一致する結果となった。
次に、アリのコロニーダイナミクスに着目し、アリの巣の大きさによってアリ
の分巣タイミングや巣の生存率が決まるとした (コロニーベース格子モデル)。
分散の際、S 戦略は一対一に分巣するが、L 戦略では分散するコロニーサイズ
は非常に小さいとした。
結果は、死亡率が巣サイズに強く影響している時や中程度の攪乱の場合に S 戦
略が進化しやすくなり、放浪種の特徴を上手く説明している。また、分巣タイミ
ングを早くしたり、巣の成長速度を遅くしたり、巣が込み合うことによる悪影
響があまり無い時にも S 戦略が有利となった。また、数理モデル解析によって
も、撹乱下でコロニーダイナミクスが各戦略の有利性に影響する事も示したい。
以上により、このアリの行動の進化では空間構造や攪乱規模の影響だけではな
く、コロニーサイズのダイナミクスも考慮に入れる事が重要であると言える。
O1-Y22
14:00-14:15
格子モデルの新しい近似法
◦
江副 日出夫1, 高田 政子1
1
大阪女子大学理学部環境理学科
近年、個体群の空間構造の理論的モデルを構築するための手法として、
格子モデルが幅広く使われるようになってきている。格子モデルとは、
空間を格子状に分割し、それぞれの格子点に個体またはサブ個体群が分
布しているとするモデルである。格子モデルの研究は計算機シミュレー
ションに頼った解析が多いが、空間構造を考慮しながら格子モデルの数
学的解析を可能にするための近似法として、ペア近似がよく知られてい
る。ペア近似は、個体によって占められている格子点の割合(全体密度)
と、隣り合う 2 つの格子の状態の相関(局所密度)を用い、直接隣り合
わない格子の状態の間の相関を無視する近似である。しかし、特に平衡
全体密度が小さい場合に、シミュレーションの結果とのずれが目立つと
いう欠点があった。
そこで本研究では、ペア近似の局所密度の代りに、6 方格子空間におい
て互いに隣り合う 3 個の格子の組(クラスタ)の状態を用いる新しい近
似法を開発した。空間上の各クラスタは、個体によって占められている
(1 個)
(2 個)
(3 個)の 4 つのクラスタに分類され
格子の数が(0 個)
る。クラスタの配置の空間的相関を無視することによって、それぞれの
クラスタの頻度の時間変化に関する連立微分方程式を書くことができる。
この近似から得られた平衡状態を、ペア近似の結果およびシミュレー
ションの結果と比較すると、新しい近似法がペア近似よりもよりシミュ
レーションに合っているという結果が得られた。また、近傍数 8 の正方
格子(Moore 近傍)についても、格子 4 個からなるクラスタを考えて同
様の計算を行い、ペア近似よりもよい結果を得ることができた。
O1-Y23
14:15-14:30
ヤノネカイガラムシ-寄生蜂系の個体群動態特性
◦
津田 みどり1, 松本 崇2, 市岡 孝朗2, 石田 紀郎3
1
九大院農, 2京大院人環, 3市民環境研
ヤノネカイガラムシは温州ミカンの大害虫だったが、1980 年代に中国か
らの2種導入寄生蜂を日本各地で放飼後、ヤノネを低密度に抑制するこ
とに成功した。その後の個体数変化については最近になって研究成果が
相次ぎ、成功の鍵が解明され始めたばかりである。
講演者らは、これまでの長期データの解析で、気象要因と生物要因はとも
にヤノネの個体数変化に影響するが、自他種との密度依存性のような生物
要因の方が相対的に大きな影響を及ぼすことを確認した。これは、急速な
地球環境変化などの外部撹乱に対する反応が、系そのものの持つ動態特
性に強く依存することを示す。そこで本講演では、ヤノネカイガラムシ?
寄生蜂系の動態特性を解明することを目的とした。16 年間の個体群動態
データにモデルを当てはめ、撹乱後の元の状態への戻り速度(resilience)
に比例するリアプノフ指数を推定した。モデルは Nicholson-Bailey 型の
式に寄主の密度依存性と寄生蜂の II 型の機能的反応を導入したもので
ある。
— 288—
口頭発表: 個体群生態
O1-Y24
8 月 26 日 (木) Y 会場
O1-Y25
14:30-14:45
O1-Y24
14:45-15:00
都市環境におけるモンシロチョウとスジグロシロチョウの遺伝的多様
性と集団構造
◦
高見 泰興1,6, 小汐 千春2, 石井 実3, 藤井 恒4, 日高 敏隆5, 清水 勇1
(NA)
1
京都大学生態学研究センター, 2鳴門教育大学理科教育講座, 3大阪府立大学農学生命科学研究科, 4京
都精華大学, 5総合地球環境学研究所, 6京都大学理学研究科動物学教室
都市は人間活動のもっとも盛んな地域であると同時に,自然環境が大き
く破壊されている場所でもある.都市やその周辺では,開発により,野
生生物の生息地が急速に分断され,孤立する.その結果,集団サイズは
減少し,集団間の移動は困難になり,遺伝的多様性は低下する.よって,
都市に生息する生物集団の遺伝的背景を知ることは,都市環境の保全を
考えるうえで重要な示唆を与えると考えられる.
都市環境に生息するモンシロチョウとスジグロシロチョウについて,2
年間にわたり複数回のサンプリングを行い,AFLP 法により,集団の遺
伝的多様性,構造,時期的変動を調べた.結果,両種共において,都市集
団では遺伝的多様性が低下し,また集団の遺伝的組成が時期的に変動し
ていることが明らかになった.変動のパターンは,モンシロチョウで周
期的,スジグロシロチョウで漸進的だった.成虫の移動パターンは,モ
ンシロチョウが季節的移動,スジグロシロチョウがランダムな分散であ
ることから,都市集団で見られた遺伝的組成の変動は,成虫の移動によっ
てもたらされたと考えられた.
本研究の結果は,1)モンシロチョウとスジグロシロチョウの都市集
団では遺伝的多様性が低下しているが,周辺集団からの移動によって新
たな個体と遺伝的変異が流入し,集団が維持されていること;2)都市
環境の保全には,そこに住む生物の移動を妨げない工夫が必要であるこ
と,を示唆する.
O1-Y26
O1-Y27
15:00-15:15
(... moves to O2-Y09)
拡散係数の確率変動を考慮したトウモロコシの花粉拡散距離の推定
◦
◦
山村 光司1
—
1
1
—
農業環境技術研究所
拡散方程式から導かれるブラウン運動モデルは生物拡散や経済変動を予測す
る上での基本となってきたものである。しかし,近年では,このブラウン運
動モデルでは現実の生物拡散や経済変動をうまく表現することができないこ
とが知られてきている。この問題を解決するために今までにいくつかの工夫
がなされてきた。生物拡散の分野では(1)生物個体群が拡散係数の異なる
二つの群の混合であると仮定する(2)生物の各個体の拡散時間が確率分布
にしたがうと仮定する,などのアプローチが採用されてきた。しかし,これ
らの方法においてもその仮定の一般性や妥当性については問題を残したまま
である。
ブラウン運動モデルでは生物の移動方向がランダムであると仮定されている。
しかし,移動の際の「一歩の大きさ」については常に一定であると暗黙に仮
定されている。そういう意味では,ブラウン運動モデルは「完全にランダム
な動き」を表現しているとはいえない。現実には,環境にはさまざまな「揺
らぎ」がある。その揺らぎのために「一歩の大きさ」もランダムに変動する
はずである。そこで,今回のモデルでは,
「一歩の大きさ」が確率的に変動し,
その確率分布が一般化ガンマ分布で近似的に表現できると仮定した。この場
合の拡散方程式は通常の方法では解けないが,時間を相対化して「拡散係数
で重みづけた時間」なる概念を導入すると明示的な解を得ることができる。
この解は移動時間がガンマ分布に従う場合の拡散方程式の解と一致すること
が示された。近年の数理ファイナンスの分野では,レヴィ過程の一種として
「VG モデル」などが半経験的に使用されてきているが,今回得られた解の一
次元版はこの VG モデルと一致する。したがって,このモデルは VG モデ
ルの使用に対する一つの根拠も与えている。
生物拡散は,近年ではナタネやトウモロコシなどの遺伝子組み換え作物の花
粉拡散の観点から特に多く議論されている。そこで,過去に報告されてきた
トウモロコシの花粉拡散データのいくつかにモデルを適用してみた。
—
— 289—
15:15-15:30
O1-Y28
口頭発表: 個体群生態
O1-Y28
O1-Y29
15:30-15:45
同所的同属種2種の共存に、樹形の分化は重要だった
◦
8 月 26 日 (木) Y 会場
二年草オオハマボッス個体群における空間分布の年変動
◦
山田 俊弘1, ンガカン オカ2, 鈴木 英治3
熊本県立大, 2ハサヌディン大, 3鹿児島大
東京都立大学大学院理学研究科生物科学科
An interspecific comparison of tree architectures and allometries between two
sympatric congeneric species that form part of the continuous canopy of an
Indonesian flood-plain forest, Pterospermum diversifolium Bl. and P. javanicum Jungh. (Sterculiaceae), led to the hypothesis that the species coexist at
equilibrium by filling different regeneration niches. For example, P. diversifolium is favored over P. javanicum at high light levels, but the opposite is true
at low light levels. To test this hypothesis, we compared the microsite preferences and growth rates of the species as a function of ambient light conditions.
We found that P. diversifolium was more abundant in brighter microsites than
in shaded microsites. Stem elongation by P. diversifolium was most rapid in
bright microsites and was significantly more rapid than that of P. javanicum in
these sites. Because these results fit the predictions of the coexistence hypothesis, this study provides rare direct evidence that architectural and allometric
variations can support the coexistence of congeneric species at equilibrium by
means of differentiation of regeneration niches.
植物個体群の空間動態を理解するには、世代内の死亡の空間パターンだけ
でなく、世代更新の空間パターンも明らかにする必要がある。小笠原諸島
の海岸沿いの岩場に生育する一回繁殖型二年草オオハマボッス,Lysimachia
rubida (Primulaceae) を対象に、5世代にわたる空間分布の変化を追跡
した。
オオハマボッスは小笠原諸島の海岸に面した大小さまざまな礫がモザイ
ク状におおう裸地環境に生育する。礫環境の効果を個体の空間分布を決
める主要因として仮定し、それ以外の生態学的要因の効果を検出するた
めに礫環境と個体密度の関係を考慮した無作為化検定法を開発した。
礫環境と個体の空間配置をランダムにずらした無作為化検定の結果、観
察された個体の空間分布は礫サイズの小さな環境により偏って分布して
いる傾向が統計的に検出された。つぎに、礫環境と個体密度の関係を保っ
たまま個体をランダムに配置する無作為化検定を行った。その結果、礫
環境と個体密度の関係によって予想される以上に、観察された個体の空
間分布は集中していること、実生個体は前年の繁殖個体の周囲に集中し
ていることが統計的に示された。このことは、種子散布が繁殖個体の周
囲に制限されている可能性を示唆する。また、礫環境と個体密度の関係
によって予想される以上に、世代の異なる繁殖個体は互いに近接して分
布していることも統計的に示された。この結果は、個体が利用する生育
パッチは世代間で重複していることを示唆する。さらに、個体の空間分
布に一回繁殖型二年草の生活史と同調した周期性があるかを検定したが、
周期性は検出されなかった。その原因として、繁殖期を一年遅らす、埋
土種子となるなど生活史形質の個体間変異が存在したことが考えられた。
本研究の結果から、生育地がパッチ状に分布する環境での空間動態を決
める世代内世代間プロセスが示された。
O1-Y31
16:00-16:15
土壌養分の空間的不均質性と競争がアサガオ個体の成長・物質分配・
根系の空間分布に及ぼす影響
◦
鈴木 亮1, 鈴木 準一郎1, 可知 直毅1
1
1
O1-Y30
15:45-16:00
中村 亮二1, 鈴木 準一郎1, 可知 直毅1
16:15-16:30
ハンゲショウの葉の白化現象が光合成へ与える影響
◦
山内 綾香1, 鞠子 茂2
1
筑波大学生命環境科学研究科, 2筑波大学生物科学系
1
東京都立大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 植物生態学研究室
土壌養分の空間的な分布が不均質な環境下と均質な環境下では、地上部と
地下部の物質分配や根系の空間分布が異なる。これらの形態的反応によって、
不均質な環境下での植物の資源獲得は均質な環境下よりも効率的になると考
えられている。加えてこれらの形態的反応は光環境によっても影響を受ける。
個体群において植物が経験する光環境は個体間競争の結果変化するので、競
争下にある植物では土壌養分の空間的不均質性の影響は単独で生育する植物
の場合と異なると予想される。本研究の目的は、土壌養分の空間的不均質性
が種内競争下の植物に及ぼす影響を定量的に評価することである。そのため
にアサガオ個体の成長・物質分配・根系の空間分布を実験条件間で比較した。
実験条件は土壌養分と競争を2要因とし、合計8条件を設定した。直径
20cm の鉢の中央に直径 10cm の円を仮定し、その円の内側と外側で土壌養
分の濃度比率を変化させた(土壌養分条件、内側:外側が 10:0、7.5:2.5、
5:5、0:10 の濃度比となる4条件)。1 鉢あたりの土壌養分は全ての条件
で等量である。1 本の支柱を鉢内の全てのアサガオ個体が利用する「競争あ
り」と個別に支柱を利用する「競争なし」を競争条件とした。
発芽から7週間後の平均個体乾重量は、7.5:2.5、5:5、0:10、10:0 の土壌養
分条件の順に減少した。「競争なし」のほうが「競争あり」よりも大きい傾
向がみられた。また競争条件によらず養分濃度の高い部分に多くの根系が分
布する傾向が認められたが、同時に養分が全くない部分にも根系は分布して
いた。
以上の結果から、個体間で競争があると、必ずしも不均質な環境下での成
長が大きいとは限らないことが分かった。この結果は先行研究の結果とは一
致しなかった。実験条件間での成長の違いには、土壌養分の空間的不均質性
に応じた根系の空間分布が影響していると考えられた。
植物にとって、葉は光合成や蒸散を行う場として重要な器官の一つで
ある。とくに、光合成生産は植物の生長や種子生産を規定し、個体の生
存や個体群の維持に重要な働きを持つ。よって、植物がより効率よく光
合成生産を行うためには、葉群の大きさや分布がとても重要になる。
ハンゲショウ(Saururus chinesis Baill.)は、本州から沖縄にかけての
湿地に生育する多年生草本である。大きなものでは草丈が 150cm に達
し、茎の上部に無花被花からなる穂状花序を付ける。6から8月の開花
時期には、主茎頂付近の数枚の葉が白く変化するという特徴をもつこと
が知られている。このように、葉の白化現象は季節的・局所的に起こる
ことから、何らかの生態学的意味を持っていると考えられるが、葉が白
く変化(白化)することは、光合成能力の低下を引き起こす可能性があ
る。この点に注目し、本研究では、未白化葉と白化葉の光合成能力を比
較した。さらに、葉の白化現象のフェノロジーを追い、群落構造を調べ
光合成生産の推定を行った。
その結果、白化現象が群落単位の光合成生産へ与える影響はごく小さ
いことが分かったが、白化葉は未白化葉に比べ、有意に最大光合成速度
が低下していることが示された。また、白化現象の分布やフェノロジー
が有性生殖と一致し、関連が深いことが観察された。これらの結果より、
光合成能力の低下がどの様に個葉の構造や機能に関係しているかを含め、
白化現象の生態的意味を考えていきたい。
— 290—
口頭発表: 個体群生態
O1-Y32
O1-Y33
16:30-16:45
ユキワリソウの土壌シードバンク動態と遺伝構造
◦
8 月 26 日 (木) Y 会場
O1-Y32
16:45-17:00
カタクリにおける長期個体群動態ー開花・結実パターンと若齢個体の
休眠についてー
下野 綾子1, 上野 真義2, 津村 義彦2, 鷲谷 いづみ1
◦
1
東京大学農学生命科学研究科, 2森林総合研究所
土壌シードバンクは個体群の維持・拡大にかかわる様々な役割を担って
おり,種の生活史特性の解明や個体群の存続性を評価する際にはそれに
対する考慮が欠かせない.
本研究では,浅間山の標高 2000m 地点に生育するユキワリソウ個体群を
対象に,土壌シードバンク動態の定量的把握および土壌シードバンク中
の種子集団と地上の開花個体群の遺伝構造の比較を行った.調査は環境
条件と個体群の空間構造に違いの見られる 2 つの局所個体群(湿地と草
地)を対象に行った.
2002 年 4 月(実生の発生前)に,2 m × 5m のコドラートを設け開花
個体の位置をマッピングした.このコドラートを 0.5m の格子状に分割
し,その中心 40 点から直径 5cm・深さ 5cm の土壌コアを採取し,実生
発生法により土壌中の種子密度を算出した.同様の調査を 2002 年 8 月
(実生の発生後で種子散布前)および 2003 年 4 月にも行った.2003 年
に得られた実生と 2003 年の開花個体については 10 個のマイクロサテ
ライト座の遺伝子型を決定した.
湿地では発生実生数や死亡種子数が多く調査期間中の土壌種子密度の変動
が大きかったのに対し(約 1000-3000/m2 )、草地では発生実生数,死亡
種子数ともに少なく変動が小さい(約 1000/m2 )という違いが見られた.
シードバンクと開花個体の遺伝的分化程度は低く(湿地:FST= 0.003,草
地:FST = 0.028),空間自己相関分析ではシードバンクおよび開花個体
とも近傍の個体間で有意な正の相関が見られた.一方,生育段階を考慮
した空間自己相関分析では草地で同様の構造が見られたのに対し、湿地
では近傍の個体間で有意な負の相関が見られた.これらの結果をふまえ
て,個体群における土壌シードバンクの役割–個体数の維持,時間的・空
間的分散,遺伝的多様性の保持などについて考察する.
大河原 恭祐1, 木下 栄一郎1
1
金沢大学大学院自然科学研究科
カタクリはユリ科カタクリ属に属する多年生草本である。本種は基本的に種
子による繁殖のみを行い、個体が実生から開花の成長ステージに達するまで
10 年以上かかることが知られている。そのためその群落の変遷の速度は遅
く、約 15 年で個体の入れ代わりが起こると考えられている。そのため若齢
個体の成長パターンや開花個体の開花・結実パターンなどの生活史戦略にも
こうした長期間の個体群動態に適応した戦略があることが予想される。演者
らは本種の個体群動態と生活史戦略の詳細な解明を目的とし、1994 年から
2004 年までコドラートセンサスによる個体追跡調査を継続して行った。北海
道札幌市定山渓付近の針広混交林内にあるカタクリ群落に永久コドラート (1
m x 1 m) を 12 個設置し、コドラート内の各カタクリ個体の分布を記録、標
識マークを施した。特に実生と若齢個体、開花個体について、その定着率と
出芽率、開花・結実率を毎年追跡した。実生の発芽頻度には年間差が見られ
1994 年と 2002 年に明確な増加数のピークが現れた。この事は個体群への
新規個体加入に周期性があることを示唆していた。それら幼若個体の定着率
は低かったものの、2年以上生存できた個体ではその後の生存率は安定して
いた。しかし各個体の出芽頻度は不定期で、個体間で成長率にも差が見られ
た。さらに開花ステージに達した個体では 2-3 年連続して開花が見られ、そ
の後 2-3 年は開葉のみの非開花ステージに戻る個体が高頻度で観察された。
また個体群全体の開花パターンも明確ではないが同調する傾向が見られた。
このような開花とそれに伴う結実パターンは個体群成長に大きく関連してい
ると思われる。
— 291—
O1-Z01
O1-Z01
口頭発表: 生理生態
09:30-09:45
8 月 26 日 (木) Z 会場
O1-Z02
09:45-10:00
開葉パターンが異なるブナとケヤマハンノキにおける光合成能力の温
度応答性
◦
韓 慶民1, 千葉 幸弘1
(NA)
1
森林総合研究所 植物生態研究領域
植物は生息する環境に適応・馴化している。1 生育期間中でも生育する温
度によって光合成適温が変化する樹種もある。このように,光合成速度が最
大になるように適温が変化するのは、常緑性葉で顕著に認められたが,落葉
樹では適温の変化が種によって異なる。落葉樹は葉の展開パターンによって,
順次開葉型と一斉開葉型に分けられる。本研究では順次開葉型のケヤマハン
ノキと一斉開葉型のブナの 3 年生苗木を用いて,葉内窒素量・生化学モデル
を基に求めた光合成パラメータ及びその温度応答性の季節変化を測定し,葉
の光合成能力の温度順化に関する開葉パターンの影響を検討した。
ブナの面積あたりの葉内窒素量は 6 月には最大値に,8,9 月には顕著に
減少した。一方,ケヤマハンノキでは,4 月に展開した春葉より 5 月の夏葉
の窒素量は減少したが,6 月以降に展開した夏葉の窒素量は次第に増加する
傾向が見られた。これらの変化は面積あたりの葉乾重と葉乾重あたりの葉内
窒素量の季節変化と関係あることが明らかになった。25 度で求めた光合成パ
ラメータの最大 RuBP カルボキシラーゼ速度と最大電子伝達速度は,ブナで
は葉が展開した直後の 5,6 月には高く,7,8,9 月には約 2 倍低下した。
一方,ケヤマハンノキでは,光合成パラメータは 1 生育期間中に高い値を維
持した。また、光合成パラメータの最適温度は 2 樹種とも 8 月に高くなる
季節変化を示した。これらの結果から,順次開葉型では,葉の展開する時期
の温度に応答し,異形葉を創りだすことによって,光合成速度が最大に維持
した。一方,一斉開葉型では,開葉期以降の温度条件に適応しきれず光合成
速度が低下した。
O1-Z03
10:00-10:15
O1-Z04
10:15-10:30
光前歴が落葉広葉樹の解剖学的構造と光–光合成特性に与える影響
◦
田中 格1
1
山梨県森林総合研究所
(NA)
落葉広葉樹7種(コブシ,ケヤキ,ミズナラ,コナラ,クリ,ブナ,ミズ
メ)の葉の解剖学的構造と光–光合成特性に与える光前歴の影響を明らかに
する目的で本試験を行った。
相対 PPFD で 100%,42.5%,16.6%,7.4 %の被陰試験区を設定し,前年
から各被陰試験区内で生育していた被陰 2 年目の苗木および前年には全天空
条件の十分な光強度で生育していて,当年に被陰試験区に移植された被陰 1
年目の苗木について,葉の解剖学的構造として柵状組織の層数と厚さ,光–
光合成特性として光–光合成曲線の曲率と飽和純光合成速度を取り上げて測
定・比較した。
その結果,光環境に応じて柵状組織の層数を変化させて柵状組織の厚さを
変える樹種で被陰 1 年目と 2 年目の相対 PPFD に対する柵状組織の層数の
変化パターンが大きく異なったことから,柵状組織の層数には光前歴の影響
が認められたが,柵状組織の厚さ,光–光合成曲線の曲率および飽和純光合
成速度の被陰強度に対する変化パターンは被陰 1 年目と 2 年目でほとんど
同じであったことから,柵状組織の厚さ,光–光合成曲線の曲率および飽和
純光合成速度には光前歴の影響がほとんど認められなかった。
以上のことから,落葉広葉樹においては,生育位置の光環境が変化しても
柵状組織の厚さ,光–光合成曲線の曲率および飽和純光合成速度については
光環境の変化に迅速に応答して当年の光強度に応じた性質を示すように順応
し,前年の光前歴の影響を受けにくい可能性が高いことが示唆された。
— 292—
口頭発表: 生理生態
O1-Z05
O1-Z06
10:30-10:45
◦
香山 雅純1, 市栄 智明2, 市岡 孝朗3, 小池 孝良4
石川 真一1, 中嶋 淳1, 今枝 美香1
1
森林総合研究所北海道支所, 2シンガポール植物園, 3名古屋大学大学院生命農学研究科, 4北海道大学
北方生物圏フィールド科学センター
1
群馬大学社会情報学部
マレーシアサラワク州、ランビル国立公園には、多種にわたった Macaranga
属 (オオバギ属) の樹木が生育している。マカランガ属の樹木は近縁であり
ながら形態は種ごとに大きく異なり、様々な光環境下に生育している。本研
究は、光環境に対する順化能力を光条件が異なる地域に生育するマカランガ
6 樹種 (明るい地域-M. winkleri: win, M. gigantea: gig, 中程度の明るさ-M.
beccariana: bec, M. trachyphylla: tra, 暗い地域-M. kingii: kin, M. praestans:
pra) に関して光合成をはじめとする成長反応の測定を行い、光環境に対す
るった。測定には、PPFD が 1,000 µmol m-2 s-1 以上の明るい地域の個体
(win, gig, bec, tra)、もしくは 100 以下の暗い地域の個体 (kin, pra) と、遮光
を行って PPFD を 300 µmol m-2 s-1 程度に調整したハウスの中で育成させ
た個体 (6 樹種) を用いて光合成速度を測定した。また、葉の厚さの測定、
葉内窒素・クロロフィル濃度の分析、および葉の内部構造の観察を行った。
その結果、bec、tra、kin は暗い環境の個体では、葉が薄くなり、窒素・
クロロフィル濃度が上昇していたことから、暗い環境に対する順化能力が
高いと推察される。 bec と tra は、明るい環境の個体も高い光合成速度を
示すことから様々な光条件下で生育可能であると推察される。また、kin は
暗い環境の個体で光合成速度が高いことから、暗い環境の方が生育に適し
ていると推察される。一方、win、gig、pra は暗い環境の個体において葉
厚・窒素・クロロフィル濃度に差がなかったため、暗い環境に対する順化
能力は高くないと推察される。win と gig は明るい環境では光合成速度が
高く、明るい地域の方が生育に適していると推察される。一方、pra は暗い
環境下で光合成速度が高いが、kin と比較してもクロロフィル濃度が低く、
暗い環境が生育に適していない傾向を示した。
ハナダイコン(別名オオアラセイトウ・ショカッサイ、 Orychophragmus violaceus)は中国原産の外来植物で、日本には江戸時代に導入された記録があ
るが、本格的導入は戦後のようである(清水ら)。現在関東以西に広く分布
している(津村)が、その生態的特性、特に光環境と分布の因果関係につい
ては研究例がない。本種は冬季一年生植物で、秋から早春にかけての明るい
時間的ニッチを利用しているように考えられる。そこで、前橋市内 50 地点
においてハナダイコンの分布と生育地の相対光強度調査を 2 年間行い、また
人工被陰によって 0.6-100%の相対光量子密度条件を設定し、それらの下での
生長解析・枯死率測定を行い、さらに室内で種子発芽実験を行った。
野外調査の結果、ハナダイコンは早春の相対光強度がおおむね 30-100%の場
所に生育しており、特に 80-100%の場所に集中して分布していることが明ら
かになった。またこれらの地点においては、相対光強度がより高い地点で生
育した個体ほど、より多くの種子を生産している一方で、発芽率は相対光強
度が低い地点で生産された種子の方が高い傾向があった。被陰実験では、相
対光強度 3%以下で栽培した個体のほとんどが春を待たずに枯死し、枯死率
は 9-13%区で最も低くなった。
以上のことより、ハナダイコンは明るい光環境により多く分布しているが、
ある程度(10%前後)の暗い光環境下においても生存・生育可能であると考
えられる。またこの程度の暗い環境下においては、発芽率の高い種子を個体
サイズに応じた数だけ生産して、個体群を維持していると考えられる。
O1-Z07
O1-Z08
11:00-11:15
ユリ科草本植物の葉群タイプと光獲得の関係
◦
10:45-11:00
異なる光環境に生育するマカランガ属 6 種の成長特性
外来植物ハナダイコン(ショカッサイ)の分布・生長・種子生産と光
環境の関係
◦
O1-Z05
8 月 26 日 (木) Z 会場
11:15-11:30
富士山剣丸尾溶岩上のアカマツ林亜高木層での常緑広葉樹優占の生態
学的意義
齋藤 雄久1, 鞠子 茂2
◦
1
筑波大学 生命環境科学研究科, 2筑波大学 生物科学系
植物はさまざまな光環境に生育しており,それぞれの光環境に適応した葉
群の構造と機能を持っている.葉群の構造と機能は相互に関係しあいな
がら,できるだけ多くの光を効率よく利用し,体の生長材料や維持のた
めのエネルギー源となる有機物を生産している.光環境と光合成機能の
関係については,これまでにも多くの研究がなされてきた.しかし,葉
群構造については十分に研究がなされてきたとは言い難い.
ユリ科の草本植物には葉序や分枝形態の異なるさまざまなタイプの葉群
構造がみられる.葉群タイプとしては根生タイプ(スズラン,オオバギ
ボウシ),輪生タイプ(ツクバネソウ,クルマバツクバネソウ),互生タ
イプ(アマドコロ,ナルコユリ),互生・分枝タイプ(ホウチャクソウ,
チゴユリ)に分けられる.こうした多様な葉群構造をもつユリ科草本植
物は,それぞれが生活する場所での光環境に適応した受光体制を作り上
げていると考えられる.
そこで本研究ではさまざまな場所に生育するユリ科草本植物の葉群構造を
上述のようにタイプ分けし,受光量との関係を明らかにすることを目的
とした.本講演ではまず,葉の角度,サイズと光環境の関係を紹介する.
山村 靖夫1, 柴田 麻友子1, 中野 隆志2
1
茨城大学理学部, 2山梨県環境科学研究所
富士山北麓の剣丸尾溶岩と呼ばれる溶岩地のアカマツ林では,亜高木層に常緑
広葉樹のソヨゴが優占し,ミズナラなどの落葉広葉樹が混生する。この地域は,
気候的に冷温帯に属し,周辺の土壌の発達した森林では落葉広葉樹が優占し常
緑広葉樹はほとんど出現しない。したがってアカマツ林内での常緑広葉樹の優
占は土壌条件に強く関係していると考えられる。そこで,同所的に生育するソ
ヨゴとミズナラの成長様式と栄養塩経済,生理生態的特性を比較し,土壌の栄
養条件,水分条件との関係を解析した。
(1)アカマツ林土壌は近隣の冷温帯性落葉広葉樹林の土壌と比べて,無機態・
有機態窒素量,土壌含水率が季節を通して低かった。
(2)葉の平均寿命は,ミズナラの約 0.5 年に対し,ソヨゴでは 2.3∼3.2 年
であり,葉の寿命の効果により損失が少ない物質経済を有していた。
(3)ソヨゴの葉は窒素の貯蔵器官とし働き,新シュートの形成のための窒素
の大きな供給源であった。新シュートへ供給される窒素の 63 % は,前年以前
の葉からの転流によるものであった。落葉の際の窒素の回収率は,両種ともに
高く,ソヨゴでは 56∼64 % ,ミズナラでは 73 % であった。葉における窒素
の貯蔵と再利用の高さにより,ソヨゴのシュートにおける年間の窒素回転率は
ミズナラにくらべかなり低かった。
(4)ソヨゴの光合成活性はミズナラより低いが,ミズナラでは水ストレスに
よる光合成の日中低下がソヨゴより強く起こるため,一日の純生産では両種の
間に差がなかった。ソヨゴは,ミズナラが葉を持たない時期でも最高気温が 5
℃以上になる日では光合成生産が可能であるため,年間の光合成生産はミズナ
ラのそれを大きく上回ると推定された。また,光合成生産における水利用効率
は,ソヨゴのほうが高かった。 以上より,常緑性のもつ物質経済的な利点によって,貧栄養で,乾燥した溶
岩地でソヨゴの優占が実現されることが示された。
— 293—
O1-Z09
口頭発表: 生理生態
O1-Z09
11:30-11:45
富士山火山荒原の一次遷移過程においてミヤマヤナギ実生の定着に及
ぼす外生菌根菌の影響:フィールド接種実験によって解明された養分
吸収機能の菌種特性
◦
8 月 26 日 (木) Z 会場
O1-Z10
高 CO 2 濃度で生育したイネの光合成速度の温度依存性の季節変化
◦
アラマス1, 彦坂 幸毅1, 広瀬 忠樹1, 長谷川 利拡2, 岡田 益己3, 小林 和彦4
1
東北大学大学院生命科学研究科, 2農業環境技術研究所, 3東北農業研究センター, 4東京大学大学院農
学生命科学研究科
奈良 一秀1
1
東京大・アジア生物資源環境研究センター
ほとんど全ての植物の根には菌類が共生し、菌根が形成されている。通常、
フィールドにおいては多様な菌根菌が存在するが、それぞれの菌種がどのよ
うな働きを持っているのかについてはほとんど知られていない。本研究では、
フィールドにおける接種実験によってミヤマヤナギ実生の定着に及ぼす外生
菌根菌の影響と、その菌種特性を調べた。まず、富士山火山荒原に発生した
子実体などから、主要な菌根菌 11 種を分離して、ミヤマヤナギに接種し、
それぞれの菌種の 1 年生菌根苗を作成した。その菌根苗の周りにミヤマヤナ
ギの種子を播種し、菌根苗から伸びる根外菌糸体によって当年生実生に菌根
菌を感染させる実験を現地で行った。その結果、根外菌糸体によって感染を
試みた全ての実生に当該菌種の菌根が形成され、胞子感染による当該菌種以
外の菌根形成は見られなかった。また、各種菌根菌が感染した実生のほとん
どは、対照区の実生より多くの窒素やリンを含有し、成長も良かった。こう
した実生への菌根菌感染の効果は、菌種によって大きく異なり、窒素吸収量
では最大で 8.2 倍の菌種間差があった。また、実生の窒素吸収量は実生の成
長と強い相関があったため、感染実生の乾重にも菌種間差が見られ、その差
は最大で 4.1 倍に達した。このような結果から、富士山火山荒原のミヤマヤ
ナギ成木に共生する外生菌根菌が、根外菌糸体によって隣接する実生に感染
し、実生の窒素吸収を増大させることによってその成長を促進させるという
機構を解明した。さらに、こうした菌根共生の機能には大きな菌種間差があ
ることを明らかにし、感染する菌根菌の菌種特性が富士山火山荒原のミヤマ
ヤナギ実生の定着を左右する大きな要因となることを示した。
O1-Z11
12:00-12:15
Stomatal indices of various vine species in Japan and Malaysia
◦
鄭 愛珍1, 古川 昭雄2
1
奈良女子大学大学院人間文化研究科, 2奈良女子大学共生科学研究センター
Vines may exist as liana or herbaceous species with creeping, twining and
climbing characteristics. The physiological characteristics of vines and, in
particular, stomatal characters have remained equivocal as no much detailed
study was conducted. This study was performed to verify stomatal density,
epidermal cell density and stomatal index of various vine species, which were
sampled in a tropical rainforest in Malaysia and temperate and subtropical areas in Japan. The stomata and epidermal cell frequencies on both adaxial and
abaxial leaf surfaces were determined under a microscope which linked to the
monitor. The vine species examined in this study were mostly hypostomatous, whereas only a few species were amphistomatous. There was a wide
range of the adaxial to abaxial stomatal distribution ratios for the amphistomatous vines. Through the investigation of stomatal distribution on abaxial leaf
surfaces, the stomatal density, epidermal cell density and stomatal index were
highly varied within the same individual vine species as well as greatly different among the individual vine species. In general, the stomatal distribution on
either adaxial or abaxial leaf surfaces were highly different among the various
vine species as the reasonable differences in their phenotype and genotype.
Correlation analysis was tested to describe the relationship between stomatal density, epidermal cell density and stomatal index at significant level of
p<0.05. Strong positive correlations could be determined between stomatal
density, epidermal cell density and stomatal index. The correlations between
stomatal index and stomatal density were significantly positive in majority of
the vines suggesting the increases of stomatal density in vines coincide with
increases of stomatal index.
11:45-12:00
化石燃料の大量消費など人間活動により、今世紀末までに大気 CO 2 濃度は
現在の二倍 700ppm に達し、年平均気温は 2-5◦ C 増加すると予測されている
(IPCC 2001)。CO 2 は光合成の基質なので、CO 2 上昇は直接、植物の物質生
産(一次生産となる光合成)機能に大きな影響を与える。高 CO 2 による光合
成速度の応答についてよく研究されてきたが、長期的な高 CO 2 と他の環境要
因(例えば、温度)の組み合わせを調べた研究は相対的に少ない。温度は植物
の光合成応答と密接的に関連する。温度ム光合成関係は種によって様々であり、
同一種でも生育温度によって変化する。温度ム光合成関係が変化するメカニズ
ムがまだ不明な点が多い。野外の温度環境は季節と共に大きく変動するため、
植物の高 CO 2 応答は季節変化に大きく影響されると考えられる。
我々は、岩手県雫石で行われている Rice FACE(Free Air CO 2 Enrichment、
野外の群落に直接、高 CO 2 濃度のガスを吹き付ける自由大気 CO 2 上昇実験)
においてイネの光合成特性の変化を調べた。
光合成能力は RuBP carboxylation 最大速度(V cmax )と RuBP regeneration 最
大速度(Jmax )で定義される。これらのパラメータは A-Ci 曲線から計算するこ
とができる。我々はイネの生育期間を通し(6、7、8、9 月)、FACE と Ambient
CO 2 条件におけるイネの葉光合成の温度依存性を調べた。イネの光合成の温度
依存性及び高 CO 2 の影響について議論する。
O1-Z12
12:15-12:30
単一気孔の CO2 濃度変動に対する影響
◦
鎌倉 真依1, 古川 昭雄2
1
奈良女子大学大学院人間文化研究科, 2奈良女子大学共生科学研究センター
同じ葉の中でも、気孔開閉運動が不均一なことはよく知られている。し
かし、両面気孔植物の表裏に分布する気孔での環境に対する応答の違いは
明らかではない。そこで、両面気孔植物であるグンバイヒルガオ (Ipomoea
pes-caprae) 葉の気孔閉鎖速度を種々の CO2 濃度条件下において調べた。気
孔閉鎖速度の測定は、光強度や CO2 濃度を制御して気孔開度を生きたまま
の状態で直接観察することができる測定系を設定して行った。気孔開度に
対する CO2 濃度の影響は、ソーダライムで CO2 を除去した空気を通気し
て気孔を開かせた後、CO2 濃度を所定の濃度に上昇させることによって測
定した。
気孔は、変動後の CO2 濃度が 350 µmol mol-1 未満では閉鎖は見られな
かったが、それ以上の CO2 濃度では閉鎖した。CO2 濃度変動から気孔閉鎖
開始までに要する時間は、CO2 濃度の増加とともに短くなった。気孔閉鎖
速度は、CO2 濃度とともに増加した。気孔閉鎖後の定常状態における気孔
開口幅は、CO2 濃度の増加とともに小さくなった。すなわち、CO2 濃度が
上昇すると、気孔開度が小さくなるばかりではなく、閉鎖開始までの時間
が短くなった。以上の測定結果から、大気中 CO2 濃度が孔辺細胞の閉鎖に
対する刺激となることが示唆されたが、葉表面と葉裏面に分布する気孔の
間では、いずれの値でも差は認められなかった。
— 294—
口頭発表: 生理生態
O1-Z20
13:30-13:45
伊藤 直弥1, 細井 栄嗣1, 田戸 裕之2
◦
1
山口大学農学部, 2山口県林業指導センター
はじめに
腎周囲脂肪指数(KFI)は栄養状態の指標の一つとして広く用いられてい
る。しかし腎臓重量と体重の間に相関があるという前提が成立しない場合
には KFI の利用は適切でない。実際、エゾシカを含め北方に生息するシカ
類のように冬季の環境が厳しい場合、体重の季節変動以上に腎臓自体の重
量の変動が大きいため、季節間での脂肪の蓄積度合いの比較には KFI より
も腎周囲脂肪重量(KFM)そのものを使用した方がよいとの指摘もあった。
一方で冬季の環境が穏やかな場所に生息するシカ類では KFI 利用の妥当性
が示されている。山口県は年間を通じて気候が穏やかであるため、これまで
栄養状態の指標として KFI を用いてきたが、その妥当性を詳細に検討した
ことはなかった。今回は山口県のニホンジカについて、臓器重量と体重の
比の季節変化を調査したので、KFI 利用の妥当性も併せて検討し報告する。
材料および方法
1999 年 6 月 ∼2004 年 4 月に山口県豊浦郡豊田町で有害駆除されたニホ
ンジカ約 400 頭を用い、季節ごとにグループ分けし、体重と腎臓重量(腎
臓、心臓、肝臓、反芻胃)の関係を調べた。また腎臓については KFM、KFI
の季節変化についても解析を行った。
結果と考察
体重との重量比において季節性が認められたのは肝臓と反芻胃であった。腎
臓と心臓については季節性が認められなかった。KFI については、雄は他
地域と同様交尾期前の 8 月に最も高くなりその後減少したが、ピーク時の
蓄積量は北方の個体群よりも小さかった。雌は 9 月に最低となりその後急
速に増加して 12 月にピークを迎えた。雄が夏季に他地域に比べ脂肪を蓄
積しないことや、雌が冬季に入っても脂肪を蓄積していることは、冬季の
寒さが厳しくないこと、降雪がほとんどないために常緑樹葉に加えドング
リなどの種子を餌として利用できることが、山口県のシカ個体群の特性に
影響していると考えられた。
O1-Z22
14:00-14:15
シオジとヤチダモの滞水による成長への影響
◦
O1-Z21
O1-Z20
13:45-14:00
アカネズミを生物指標としたダイオキシン汚染の影響評価;ダイオキ
シン感受性に関与する Aryl hydrocarbon Receptor(AhR)の多型解析
山口県におけるニホンジカの臓器重量の季節変化
◦
8 月 26 日 (木) Z 会場
崎尾 均1
1
埼玉県農林総合研究センター森林研究所
水辺に分布する樹木は、滞水に対して形態的・生理的に適応していること
が知られている。モクセイ科トネリコ属に属するシオジとヤチダモは形
態的にはよく似ているが、分布は大きく異なっている。シオジは栃木県
を北限とし太平洋側の温帯の渓流沿いに分布するのに対し、ヤチダモは
北海道から本州中部の積雪地帯の河畔や湿地に分布する。ヤチダモは幹
の肥大や不定根の発生によって滞水に適応していることから、2種の分
布の違いは、土壌の水環境への適応の違いに起因すると考えられる。そ
こで、2種の滞水に対する影響を比較するために滞水実験を行った。2
種の実生を素焼きの植木鉢に鉢植え、3段階(滞水・適潤・乾燥)の土
壌水分下に2年間置き、シュートの成長や個体重量を比較した。1年目
は2種とも適潤状態でシュートの成長量が大きく、乾燥状態で小さい傾
向があったが、2年目はシオジでは滞水状態で成長量が小さかったのに
対し、ヤチダモでは適潤状態とほぼ同じ成長量を示した。2年後の個体
重量はシオジでは滞水・乾燥ともに適潤より小さいのに対し、滞水状態
に置かれたヤチダモは適潤状態に匹敵する成長量を示した。特に、2種
間では根系の成長に大きな差が見られた。ヤチダモでは異なる土壌水分
条件でも根の長さや根の生重量に有意差が見られなかった。一方、シオ
ジでは滞水条件下で根系の成長が悪く、適潤条件と比較して根の長さと
根の生重量が有意に小さかった。このように、シオジとヤチダモは滞水
環境において根の発達が大きく異なっていた。これが個体全体の成長に
影響を及ぼし、分布域を規定していることが示唆された。
石庭 寛子1, 十川 和博2, 安元 研一2, 當間 士紋3, 松木 英典3, 新村 末雄3, 高橋 敬雄4, 梶
原 秀夫4, 関島 恒夫1
1
新潟大学大学院自然科学研究科, 2東北大学大学院生命科学研究科, 3新潟大学農学部, 4新潟大学工学部
ダイオキシン類は、人間の生産活動によって生成される極めて毒性の高い化
学物質である。日本におけるダイオキシン類の発生源は産業廃棄物や一般廃棄
物の処理工場が主であり、且つ、それらが市街地を避け、山地に建設されるこ
とによって森林棲の野生生物への影響が懸念されている。その中でも、日本の
森林に広く生息する小型齧歯類アカネズミ(Apodemus speciosus)は、生体内
ダイオキシン類蓄積量が食物連鎖を構成する一部の高次捕食者よりも高い値を
示し、ダイオキシン類汚染における生物指標としての有効性が注目されている。
ダイオキシン類が生物に及ぼす影響は、催奇形成、発癌促進、免疫抑制、薬
物代謝酵素の誘導など、多岐にわたる。中でも、ダイオキシン類によって誘発
される内分泌攪乱作用は、生殖器奇形や精子数の減少といった生物の生殖機能
に影響を与えるとされている。個体群レベルで考えると、生殖機能の低下は集
団サイズの縮小とそれに伴う近交弱勢を引き起こし、ひいては種の存続に危機
的状況をもたらしかねない。一方で、自然下における個体群には多様な遺伝的
変異を有する個体が存在し、そのような個体変異がダイオキシン感受性に関与
する場合は、ダイオキシン類汚染が選択圧となって個体群に進化的変化をもた
らす可能性がある。そのため、ダイオキシン類汚染による影響を評価するには、
個体に現れる異常のみに留まらず、汚染により作用を受ける遺伝子レベルにお
いて個体群の遺伝的構成変化を捉えていくことが重要である。
本研究では、アカネズミをダイオキシン類汚染の生物指標と位置づけ、汚染程
度の異なる地域において土壌中及び生体内ダイオキシン蓄積量と生殖機能の評
価を通して、ダイオキシン類汚染の現状把握を試みる。さらに、ダイオキシンの
毒性発現に重要な役割を担う受容体型転写因子 AhR(Aryl hydrocarbon Receptor)
を、個体群構成の変化を追跡する有効な因子として着目し、そのアミノ酸配列
の多型解析を行うとともに、ダイオキシン結合能に関わる PAS ドメインの立
体構造解析から、今回発見された AhR 多型の機能差についても考察する予定
である。
O1-Z23
14:15-14:30
水生植物ヒルムシロ属における環境ストレス応答
◦
飯田 聡子1, 小菅 桂子1, 角野 康郎2
1
神戸大学 遺伝子実験センター, 2神戸大学 理学部生物
水生植物ヒルムシロ属は,世界に 100 種あまり,日本に 19 種が報告
されている.この群の生活圏は広く,高山の池沼から海沿いの汽水域ま
で,幅広い水環境に多様化している.これまでの葉緑体 DNA 上スペー
サー領域を用いた日本産ヒルムシロ属の分子系統解析により,本属のヒ
ロハノエビモとササバモは極めて近縁であることが明らかになった.ヒ
ロハノエビモは淡水域と汽水域に生育できるのに対し,ササバモはおも
に淡水域での生育に限られている.また2種は生育型可塑性においても
大きく異なり,ヒロハノエビモは完全な沈水生活をし,沈水葉を形成す
るが,ササバモは生育型可塑性を示し沈水葉と浮葉を形成し,渇水時に
は陸生葉を形成して陸上で生存できる.植物に対するストレスの大きさ
は,淡水環境と汽水環境,あるいは水中環境と気中環境では異なること
から,ヒロハノエビモとササバモは各々の生育環境に対応してストレス
耐性を多様化させていることが予想される.すなわち汽水域に生育する
ヒロハノエビモは塩ストレス耐性を有するが,ササバモは耐性をもたな
いこと,逆に生育型可塑性を示し夏の高温にさらされるササバモは高温
ストレス耐性を有するが,ヒロハノエビモは耐性をもたない可能性があ
る.そこで,この可能性を検討するため,本研究ではヒロハノエビモと
ササバモに塩ストレスや高温ストレスを与え,その時のタンパク質発現,
成長生理を種間で比較する.また表現型の変化を並行して調べ,ストレ
ス応答と生育型可塑性との関連について検討を行う.
— 295—
O1-Z24
口頭発表: 生理生態
O1-Z24
O1-Z25
14:30-14:45
クローン植物サクラソウのクローン成長特性のジェネット間変異
◦
◦
竹田 真知子1, 森下 裕美子1, 籠谷 泰行2, 野間 直彦2, 荻野 和彦2
1
滋賀県立大学大学院環境科学研究科, 2滋賀県立大学環境科学部
1
東京大学大学院農学生命科学研究科, 2岐阜大学流域圏科学研究センター
変動する環境のもとでの適応的形質の遺伝的変異は個体群の存続に不可
欠なものとして、その保全の重要性が指摘されている。サクラソウのよ
うなクローン植物おいては、個々のラメット(見かけ上の個体)の生存
とクローン成長がジェネット(遺伝的な意味における個体)の適応度を
決定する重要な要因のひとつであり、そして、ラメットの生存と成長は
その物質生産量に依存する。本研究では、クローン植物サクラソウを材
料とし、物質生産特性(個葉の光合成特性)、およびクローン成長特性に
ついてジェネット間変異を検討した。
北海道のカラマツ林伐採跡地のサクラソウ個体群より、異なる生育微環
境の 4 ジェネットよりラメットを採取し、圃場に設けた 2 段階の光条件
の下で 2 年間生育させ、その光合成特性とクローン成長特性を比較した。
その結果、生育実験 1 年目には光合成特性とその光条件に対する可塑性
の大きさに有意なジェネット間変異が認められたが、2 年目にはその変
異は消失した。以上より、光合成特性は母ラメットの成育環境条件の影
響は受けるものの、有意なジェネット間の遺伝的変異は存在しないこと
が示された。一方、クローン成長特性については、移植 2 年目に作られ
た無性芽の数とサイズにおいて有意なジェネット間差が認められた。
ブナ林内に生育するいくつかの樹種の梢端部における無機元素分布を季節ご
とに明らかにし、各元素がいつ、どこに集積され、排出されるのかについて
調べた。
試料採取は滋賀県北東部に位置する金糞岳のブナ林で行った。春、夏、秋
にブナ(Fagus crenata)、ミズナラ (Quercus mongolica)、ナナカマド (Sorbus
commixta)、リョウブ (Clethra barbinervis) の葉・0-3 年枝を採取した。0-3 年
枝は樹皮と木部に分けた。得られた試料について、Al, B, Ba, C, Ca, Cd, Co,
Cu, Fe, K, Mg, Mn, N, Na, Ni, P, Pb, Sr, Zn を測定した。
植物体の骨格は炭素によって構成されている。各部位の元素/炭素比を算出
した。葉の元素/C 比について見ると、P、N は春に大きく、夏、秋と値が漸
減する傾向が見られた。Ca、Al は春から夏、秋と季節が推移するとともに漸
増する傾向が見られた。元素/C 比の季節変化は各元素の転流および再転流に
よって生じると考えられる。再転流しにくいと言われている Ca を基準に各
元素の葉における再転流率を算出した。その結果、K はブナ、ミズナラ、ナ
ナカマドでそれぞれ 24.2, 88.0, 68.5%が再転流していることが分かった。Al,
Na などの再転流率は負の値を示した。枝における元素/C 比をみると、Mg、
K は梢端部で値が高くなった。反対に梢端部で値が小さくなる Pb や Al の
ような元素もみられた。枝における放射方向の元素/C 比分布をみると、ほと
んどの元素で木部よりも樹皮において高い値を示した。元素/Ca 比を比較す
ると、ブナ、ミズナラ、ナナカマドは Pb, Cd が木部より樹皮で高い値を示
したが、リョウブでは Al, Co, Cu, Mn, Pb など、より多くの元素にこの現象
がみられた。
葉の展開、枝の伸長がおこる春には、多量元素を形成部位に積極的に集積
し、落葉前に再転流によって樹体に回収することが窺われた。毒性元素は形
成部位には集積されず、季節の推移とともに葉に移動集積され、落葉ととも
に体外に排出されることが示された。ブナ、ミズナラ、ナナカマドに比べ、
リョウブでは梢端部の枝でも元素が排出されている可能性があることを示唆
した。
15:00-15:15
熱帯樹木における樹高と木部構造の形態的特性の関係
◦
14:45-15:00
落葉広葉樹林に生育する4樹種の梢端部付近の無機元素分布の季節変化
野田 響1, 村岡 裕由2, 鷲谷 いづみ1
O1-Z26
8 月 26 日 (木) Z 会場
辻 祥子1
1
生態学研究センター
熱帯ケニア半乾燥地における5樹種について、乾期に上部から枝葉が枯
れ下がる現象の原因を明らかにするために、通水性との関係を調べた。
生育調査をした個体の枯れ下がりは、M.volkensii(MV),A.gerrrardii(AG)
には全く見られなかったが、S.siamea(SS) は全ての個体で観察された。枯
れ下がりを起こし易い SS は、道管面積が 4.6 × 103 μ m2 でアカシア
より 1.7 倍も大きく、直径生長も 1.7 倍と大きく、通水コンダクタンス
は 41 × 10-12 m2 で、AG の 6 × 10-12 m2 に比べ著しく高かった。MV
は高い通水コンダクタンス(27 × 10-12 m2 )を示し生長も速いが、小さ
い道管から大きい道管まで観察され、枯れ下がりは無かった。これは落
葉による乾燥回避と小さな道管径により通水性が維持されるためと考え
られる。しかし、空気加圧を用いた道管内への空気侵入(エンボリズム)
による通水性の低下はどの樹種でも認められた。
また、幹部より上部の通水コンダクタンスとの比較や根部の通水コンダ
クタンスの特徴を樹種間で比較した。結果は、通水コンダクタンスは上
部の幹部および側枝の先端方向へ向かって高くなり、下方の幹部にいく
につれ通水コンダクタンスは低下した。これにより、若い枝が幹部の通
水性が年数を経ている幹部より高く先端部の伸長生長に大きく寄与して
いると考えられる。
さらに、葉部、葉柄部、葉柄部すぐ近くの部分の木化する前の小枝につ
いて水分動態把握のために、通水コンダクタンスの算出を行った。これ
により水分消費の制限部位をより細かく測定し、耐乾燥性の特徴につい
て考察した。結果は、葉柄部での水分通道性に対する抵抗が最も大きく、
これより葉柄部が葉を通しての樹木内から大気への水移動を制限する部
位となって、乾燥地のような水が少ない環境下における樹木内の水分保
持能力に寄与していると考察された。
— 296—
口頭発表: 繁殖・生活史
O1-Z28
O1-Z29
15:30-15:45
アカクローバにみられる生活史特性の密度依存性
◦
◦
中野 真理子*1, 小藤 累美子*1, 植田 邦彦*1, 石田 健一郎*1, 木下 栄一郎2
1
金沢大 自然科学研究科, 2金沢大 自然計測応用研究センター
1
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
アカクローバは、生育期間が 2-4 年である短年生草本に分類されており、
本来、造成後 5-10 年以上利用される採草用牧草地への利用には適さない
草種といえる。個体の持続性のような植物の生活史特性は、個々の個体
の遺伝的要因に加え、その近傍の環境的要因に支配されている。本報告
では、アカクローバの生活史特性における密度効果の影響を検討するた
め、局所密度に勾配を持たせた密度勾配区を設け、アカクローバの生活
史特性と局所密度間の関連について検討した。
調査した品種は、古くから北海道で利用されている「サッポロ」とそれ
を母材の一部として育成された「ホクセキ」である。2001 年 6 月に、各
品種のプラグ苗を、起点から8方向に、株間 3cm、5cm、10cm および
20cm でそれぞれ3列定植し、試験区 (各品種 5 試験区) とした。各試験
区は、4つの密度区 (UH 区、H 区、N 区、L 区、各区の3列目はボー
ダ) を設けた。調査は、3 試験区については 2001 年から 2003 年の刈取
時 (年2回、2001 年は 1 回のみ) に行い、生存個体の配置を調査した後、
各密度区あたり 4-6 個体について個体毎に開花頭花数、着花茎数、部位
別乾物重を調査し、2003 年の刈取 2 回目では、堀取調査を行った。残り
の 2 試験区は、刈取を行わず、1試験区は 2001 年に、生存率および堀
取調査、もう一つの試験区では、2002 年における生存率の調査を行った。
各密度区間で生存割合を比較したところ、局所密度が高くなるにつれ生
存割合が減少する傾向が認められた。開花個体の割合は、2002 年刈取1
回目までは局所密度が低下するにつれ、増加する傾向が認められたが、
それ以降、サッポロの UL 区を除き、差異が減少した。乾物分配では、
2001 年の調査では高密度区で頭花の割合が高かったのみ対し、2003 年
の調査では、高密度区で根部の割合が高かった。以上のように、アカク
ローバにおいて生活史特性の密度依存性が認められた。
トウカイコモウセンゴケはモウセンゴケとコモウセンゴケを両親種とする交
雑起源の複倍数体種である。地球規模で見るとモウセンゴケとコモウセンゴ
ケの分布域は全く異なり、モウセンゴケは北半球の温帯域から亜寒帯域に分
布するのに対し、コモウセンゴケは暖温帯域を中心に分布する。トウカイコ
モウセンゴケの分布は日本に限られ、両親種の中間域に分布しており、コモ
ウセンゴケが生育する大平洋側海岸付近から、コモウセンゴケの分布域外の
本州内陸部、北陸地方に達している。モウセンゴケの種子は休眠性、コモウ
センゴケの種子は非休眠性である。トウカイコモウセンゴケの種子には、休
眠性種子と非休眠性種子がある。単独の個体が性質の違う種子を生産するこ
とは種子異型性と呼ばれ、変動環境下における両がけ戦略の効果があると考
えられている。種子異型性が危険分散であるとする理論的研究では、非休眠
種子の生産比率は好適条件が来る確率に比例すると予測されている。生育環
境が地域集団間で異なり、種子異型性を示すトウカイコモウセンゴケでは、
個体の休眠/非休眠種子生産比率が遺伝的に決定されており、集団によって
適応的な生産比率が異なっている可能性がある。
本研究ではトウカイコモウセンゴケには集団間で遺伝的な変異があり、異な
る生活史戦略をとっているという仮説を立て、分子データによる解析および
生活史特性の集団間比較を行った。
その結果、休眠/非休眠種子生産比率等,生活史特性には集団間や集団内
で変異があった。太平洋側の2集団は休眠/非休眠種子生産比率が約 0 %で
あるのに対し、日本海側の1集団は約 100 %、別の1集団は 40∼60 %で
あった。トウカイコモウセンゴケと両親種2種が同所的に生育する集団では、
0 %∼100 %というように集団内の変異が大きかった。本研究では、このよ
うな集団間変異について、分子データを用いて考察する。
O1-Z31
16:00-16:15
関東地方におけるコナラ果実形態の3年間の比較とその形態変異に関
わる要因の一考察
◦
15:45-16:00
雑種起源種トウカイコモウセンゴケの集団間における生活史特性の変異
平田 聡之1
O1-Z30
O1-Z28
8 月 26 日 (木) Z 会場
水位変動下における両生植物ヒメホタルイの種子からの定着と水散布
の役割
◦
岩渕 祐子1, 星野 義延1
16:15-16:30
石井 潤1, 角野 康郎2
1
東京大農学生命科学, 2神戸大理
1
東京農工大学
関東地方に生育するコナラ個体の堅果,殻斗を 2000 から 2002 年の3年間
採集し,採集年間での形態比較,また形態と母樹生育地の環境要因との関係
を年毎に解析した。また 2001 年,2002 年で採集した同一個体の堅果,殻斗
形態について,採集年間での形態変異に関わる要因について考察した。堅果,
殻斗は,東京都,神奈川県,埼玉県,栃木県,群馬県,茨城県の標高 30 から
1100m の地域で採集した。各年の採集個体数は,2000 年に 43 個体,2001
年に 61 個体,2002 年に 40 個体であり,2001 年と 2002 年で 20 個体を同
一個体から採集した。堅果で長径,短径等4項目,殻斗で直径,柄の長さ等
5項目,計9項目を計測し,このうち2項目を用いて堅果,殻斗椀内,殻斗
の柄の近似体積を算出した。堅果,殻斗形態についてのこれら 12 項目の中
央値を解析に用いた。採集年間での形態比較の結果,堅果2項目と殻斗2項
目とに年間で有意差がみられた。また,同一個体の堅果,殻斗形態を 2001
年,2002 年間で比較した結果,堅果2項目に有意差がみられ,2002 年の堅
果2項目値は 2001 年に比べて値が小さくなる傾向がみられた。堅果,殻斗
形態についての 12 項目と,母樹生育地の標高,月平均・月最高・月最低気
温,暖かさの指数 (WI),月降水量との関係を年毎に解析した。気温,降水量
データは,気象庁による気温,降水量のメッシュ統計値と,母樹生育地に最
も近い気象台の気温値,降水量値とを用いた。堅果3項目と母樹生育地の標
高との間には,3年間に共通して有意な負の相関がみられた。堅果2項目と
気象台の月平均・月最高・月最低気温,WI との間には,3年間に共通して
有意な正の相関が,8月の降水量との間には有意な負の相関がみられた。堅
果3項目と月平均・月最高・月最低気温のメッシュ統計値,WI との間には,
3年間に共通して有意な正の相関がみられた。
両生植物は、水位変動に対応して水中形と陸生形をとることができる水
辺に生育する植物のグループである。両生植物の1種であるヒメホタルイ
(Schoenoplectus lineolatus)は、水位が低下して陸生形となったとき成長なら
びに繁殖が最適になることが今までの研究から明らかにされている。特に、
有性繁殖は水中では起こらず、開花シーズン中の水位低下を待って開花・結
実する。
このようにして生産された種子は、その後、水位上昇にさらされるかもし
れない。ヒメホタルイの種子による定着は、水位変動にどのように影響を受
けるのであろうか?また多くの水生植物が水散布を行っており、両生植物に
おいては水位変動と水散布が密接に関係している可能性がある。本研究では、
ヒメタホルイの自生地および圃場での栽培実験により、(1)種子の発芽お
よび実生の生存と水位との関係を明らかにし、(2)種子からの定着のため
に水散布が果たす役割を検討した。
ヒメホタルイの自生地で4段階の水深(実験開始時;0, 0.3, 0.7, 1.1m)の
栽培実験を行った結果、種子の発芽および実生の生存ともに水深0 m で最
も良好であった。さらに夏の水位低下によって干上がると水深 0.3m と 0.7m
においても種子の発芽数が再び増加した。またヒメホタルイの種子は、水上
の花穂から脱落した場合は水面に浮遊したが、いったん水中に沈むとほとん
どの種子が再び浮上することはなく水底に沈んだ。
以上の結果から、ヒメホタルイの種子は水位低下時を待って発芽し定着す
る特性を持っていることが明らかとなった。種子散布の後に水位が上昇して
も、水面に浮遊している種子は水際に運ばれて発芽しその実生は定着できる。
水散布されずに水没した種子は、次の水位低下を待って定着するのだろう。
— 297—
O1-Z32
口頭発表: 繁殖・生活史
O1-Z32
O1-Z33
16:30-16:45
熱帯雨林の林床植物 Acranthera 属2種のハビタットと更新様式
◦
8 月 26 日 (木) Z 会場
◦
森 早苗1, 名波 哲1, 伊東 明1, Sylvester Tan2, Chong Lucy2, 山倉 拓夫1
森 洋佑1, 永光 輝義2
1
北大・地球環境, 2森林総研・北海道
1
大阪市立大学大学院理学研究科植物生態学研究室, 2Sarawak Forestry
ボルネオ産アカネ科 Acranthera 属の近縁 2 種,A. frutescens Val.(種 1)
(Bremekamp, 1947)は,マレーシア国
および A. involucrate Val. (種 2)
サラワク州ランビル国立公園の 52ha 調査区にも出現する.2002 年から
2003 年にかけて,調査区内で 2 種の住み場所,個体数,個体あたり茎
数を調べ,2 種の住み場所と更新様式を比較した.住み場所および個体
数の調査のため,20 m毎に選んだ 1300 地点で半径 22 mの円形調査枠
を設定した.また,調査区内の8箇所に 10 m× 10 mの継続観察枠を
設定し、枠内の個体数、個体あたり茎数,茎長、および花と果実の有無
を時間方向で記録した。未開花の花序を袋で覆い,自殖の可能性も検証
した。2 種について各 5 個体を抽出し,トラップを設置して花数と果実
数の時間方向の変動をモニタリングした.
生息地点数および個体数は,共に種 1 <種 2 となった。2 種の生息場所
は谷に偏っていたが,種 2 は稀に尾根にも出現した.茎長に枝長を加え
た茎総延長(サイズ)を個体ごとに求めると,個体サイズは種 1 >種 2
となった.更には,個体あたり茎数は種 1 >種 2 となった.すなわち,
種 1 は根元から盛んに茎を萌芽させて大形化する.再生産に関して,2
種ともに自殖を確認できなかった.種 1 では総軸長が 3.0m 以下の個体
は開花できなかったのに対し、種 2 では総軸長が 0.5 以下の個体でも開
花した.個体の繁殖参加率(開花個体数÷全個体数)は種 1 <種 2 と
なった.結果率は種 1(0.10)<種 2(0.04)となった.これらの結果は,
種 1 が個体の持続を謀るためにより多くの資源を投資する Sprouter(萌芽
戦略者) として振る舞う傾向にあるのに対し,種 2 が Seeder(種子生産戦
略者) として振る舞う傾向にあることを示唆する.
O1-Z34
シウリザクラ(Prunus ssiori Fr. Schmidt)は本州の中部以北と北海道の
冷温帯を中心に分布している落葉高木種で、種子による有性繁殖と根萌
芽による無性繁殖とを行う。根萌芽によって形成されたジェネットのラ
メット数はばらつき、空間的に混在することなく固まって分布する。こ
のようなクローン構造は隣花受粉をもたらし、雄と雌の繁殖成功を低下
させると考えられる。
まず受粉操作実験によって自家和合性を調べ、隣花受粉が繁殖成功を
減少させるかどうかを確かめた。また、雄の繁殖成功への効果を推定す
るためにマイクロサテライト遺伝マーカーを用いて花粉親推定をおこな
い、雌の繁殖成功への効果を推定するために結実率を調べ、ともに統計
モデルを用いて解析した。花粉親になる確率に影響する要因として、胸
高直径で与えられる花粉親のサイズ、花粉親と種子親との距離、花粉親
と種子親との遺伝的関係、花粉親ジェネットのラメット数を考えた。果
実数に影響する要因として、花序の長さ、種子親の周辺にある同ジェネッ
トのラメットの効果、種子親の周辺にある他ジェネットのラメットの効
果を考えた。
受粉操作実験の結果、部分的な自家不和合性が検出された。統計モデ
ル解析の結果、雄成功には花粉親サイズは大きいほど、種子親との距離
は近いほど正の影響を及ぼし、同ジェネットの花粉は成功に結びつかず、
単木ジェネットの方が成功しやすいことが示された。雌成功は花序長が
長いほど正、種子親の周辺にある同ジェネットのラメットは負の影響を
及ぼし、種子親周辺にある他ジェネットのラメットの効果は検出できな
かった。
以上の結果から、多数のラメットからなるジェネットは雌雄の繁殖成
功にとって単木からなるジェネットよりも不利であることが示され、ディ
スプレイ効果の正の影響よりも隣花受粉の負の影響のほうが強いことが
示唆された。
O1-Z35
17:00-17:15
マイクロサテライトマーカーによる花粉 1 粒を対象とした遺伝子型解析
◦
16:45-17:00
シウリザクラの雌雄繁殖成功とクローン繁殖
◦
井鷺 裕司1, 近藤 俊明1, 松木 悠1, 陶山 佳久2
17:15-17:30
葉寿命や葉質からみた常緑草本の類型
大野 啓一1
1
1
広島大学, 2東北大学
千葉県立中央博物館
植物の繁殖成功を支配する要因として送受粉はきわめて重要である。また、
孤立して存在している植物個体群を保全生物学的に評価する場合にも、送受
粉過程の実態の詳細な解は重要である。しかしながら、どのようなベクター
が、どのようなタイミングで、どの程度の量の花粉をどこまで運ぶか、とい
う点について、個々の花粉粒レベルで詳細に直接的に測定された例はない。
花粉粒からの DNA 抽出とシーケンシングによる系統解析はこれまでにもな
されているが、マイクロサテライトマーカーを用いた父性解析では、(1) 核
DNA を対象とするため、葉緑体 DNA に比べてコピー数が少ない、(2) 父性
解析のためには複数の単一コピー遺伝子座を解析しなければならないが、花
粉 1 粒に由来する複数の単一コピー核遺伝子座を複数の PCR 反応チューブ
に分注することはほとんど不可能、等の困難さがある。この様な問題に対処
するためには、個々のマイクロサテライトマーカーを PCR で増幅する前に、
ゲノム全体の増幅が必要である。
キシツツジ、トチノキ、ホオノキ、クリ等を対象に、実体顕微鏡下で花粉
1 粒を分離し、0.2 ml マイクロチューブ内で花粉壁をつぶすことで DNA を
花粉から取り出し、LL-DOP-PCR または GenomiPhi (アマシャム) によって、
花粉に含まれているゲノム全体の増幅を行った。増幅された DNA を PCR
テンプレートとして、複数のマイクロチューブに分注し、マイクロサテライ
ト遺伝子座の増幅を行った結果、増幅が認められたサンプルにおいては、既
知の花粉親が持つ対立遺伝子と同様のピークパターン及びサイズの対立遺伝
子が花粉に引き継がれている事が確認され、送受粉におけるポリネーターの
役割を直接的に解析できる事が明らかになった。ゲノム全体の増幅方法の違
いが最終的な解析効率にもたらす影響や、種間における解析パフォーマンス
の差異についても報告する。
常緑性とは年間を通じて成葉がみられる性質である。日本本土に生育す
る常緑性の樹種(常緑樹)では、葉の寿命は通常1年以上で、葉質は革質
であり、一斉開葉を示す傾向があることが知られている。一方、常緑草本
については葉寿命についての調査例はほとんどない。そこで、演者は千葉
県や東京都の低地(暖温帯域)の、おもに林床・林縁に生育する常緑性草
本約 40 種について葉寿命、葉質、開葉パターンなどを調べたところ、お
よそ以下のような3タイプが認められた。
ヤブラン型:葉寿命は1年以上。葉は革質で全縁。一斉開葉を示す。多く
は地上に茎をほとんど持たない(根生葉のみ)。ヤブラン、ヒメヤブラン、
オオバジャノヒゲ、イチヤクソウ、スハマソウなど。属レベルで常緑性を
示す。
キミズ型:葉寿命は1年以上。葉は非革質。多くは全縁葉。順次開葉を
示し、地上に茎をもつ種が多い。キミズ、サツマイナモリ、モロコシソウ、
アケボノシュスラン、ベニシュスラン、ハナミョウガなど。南関東を北限
とする種が多い
タチツボスミレ型(仮称:連緑性)
:葉寿命は8カ月以下。葉は非革質で
非全縁。順次開葉。すなわち、短命な葉(夏緑葉と冬緑葉など)をリレー
的に着け替えることで成葉を1年中保持する。地上茎の有無は様々だが冬
期には地上茎をほとんどもたない。タチツボスミレ、アオイスミレ、セン
トウソウ、ダイコンソウ、ヤマルリソウ、アキノタムラソウ、シロヨメナ、
アズマヤマアザミなど。上記2型に比べ、夏緑林や林縁など光環境に恵ま
れたところに生育する種が多い。また、冷温帯にまで分布が及んだり、同
属に夏緑性の種が認められることが多い。
ヤブラン型の葉の特性はシイ・カシ類などの常緑樹に近似するが、キミ
ズ型、タチツボスミレ型は日本本土の樹木には例がなく、草本の常緑性は
樹木に比べて多様であるといえる。
— 298—
日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
一般講演・口頭発表 — 8 月 27 日 (金)
• 行動・社会生態
• 景観生態
• 群集生態
• 保全・管理
• 個体群生態
• 繁殖・生活史
— 299—
日本生態学会釧路大会
2004 年 8 月 25-29 日
— 300—
口頭発表: 行動・社会生態
O2-U01
O2-U02
09:30-09:45
野生ニホンザルの栄養状態の季節変化
◦
8 月 27 日 (金) U 会場
◦
千葉 晋1, Conover D. O.2
1
東京農大 生物産業, 2State Univ. of New York at Stony Brook
1
京都大学霊長類研究所ニホンザル野外観察施設, 2島根県中山間地域研究センター, 3森林総合研究所
野生動物研究領域
有害鳥獣捕獲によって捕殺された野生ニホンザルを用いて、栄養状態の
季節変化と性差および地域差(島根・房総)を調べた.栄養状態の指標
として、体重、上腕周囲、胸囲などの形態学的測定値と皮厚(上腕後面、
大腿後面、肩甲骨下部、腹部)、および腸間膜(大網を含む)脂肪重量
を計測した.多くの形態学的な指標と、腹部の皮厚、および腸間膜脂肪
重量は、島根個体群の個体のほうが房総個体群より大きかった.皮厚と
腸間膜脂肪重量はオスよりメスのほうが大きく、メスがオスよりも多く
脂肪を蓄積していることを示していた.メスについては、多くの測定値
が明確な季節性を示し、体重、胸囲、腹部皮厚、および腸間膜脂肪重量
は秋に最大となった.対照的に、オスについてはほとんどの測定値にお
いて季節性が明確ではなく、わずかに大腿後面と肩甲骨下部の皮厚のみ
が夏に最大値を示した.形態学的測定値のほとんどがお互いに相関した
が、皮厚の中にはほかの計測値と相関しないものもあった.これらの性
差は、妊娠や授乳といった繁殖にかかわることに対してメスのほうがエ
ネルギーをより多く蓄積する必要があることに起因すると考えられた.
捕食の危険にさらされた動物の行動には、しばしば個体ごとの一時的
なエネルギー要求量(生理コンディション)の変化が影響する。たとえ
ば、採餌行動の場合、空腹の個体ほど豪胆に、満腹の個体ほど臆病に採
餌する傾向にある。個体群ごとの遺伝的なエネルギー要求量(生理メカ
ニズム)にもしばしば変異がみられるが、生理的視点から個体群レベル
で行動を比較した例は極めて乏しい。
本研究では、生理メカニズムに変異がみられるトウゴロウイワシの仲
間 Menidia menidia の行動を、個体群レベルで比較した。ここでは、エ
ネルギー要求量の大きい北方個体群(Nova Scotia, NS)は、要求量の小
さい南方個体群(South Carolina, SC)よりも、捕食者に対して豪胆に採
餌すると仮説立てた。さらに、NS 群の行動は常に豪胆であるかどうかを
確かめるため、餌のない状態での行動も比較した。
捕食者モデルを用いて M. menidia に恐怖を与えたところ、NS 群は SC
群よりも素早くシェルターに隠れた。その後、シェルターの外に餌を投
入すると、NS 群は SC 群よりも素早くシェルターを離れ、採餌を行っ
た。しかし、餌を投入しなかった場合、逆に NS 群は SC 群よりもシェ
ルターを離れる時間が遅くなった。NS 群がシェルターを離れた時間は餌
条件によって有意に変化したのに対し、SC 群では差がなかった。
本研究の結果は、遺伝的な生理メカニズムの違いは、M. menidia の採
餌行動に個体群変異をもたらすことを示している。ただし、エネルギー
要求量は単純に豪胆・臆病を決定していなかった。個体群レベルでの餌
条件に対する行動差は、異なる時間スケールの危険(長期間でのエネル
ギー枯渇 vs 短期間での捕食)の程度差に起因していると考えられる。
O2-U04
10:00-10:15
半倍数性社会性昆虫における Symmetrical Social Hybridogenesis の存
続条件
◦
09:45-10:00
生理メカニズムに起因した危険な行動
室山 泰之1, 金森 弘樹2, 北原 英治3
O2-U03
O2-U01
山内 淳*1, 山村 則男1
10:15-10:30
捕食者特異的な誘導防御形態戦略
◦
岸田 治1, 西村 欣也1
1
北海道大学大学院水産科学研究科
1
京大 生態学研究センター
膜翅目昆虫の性は半倍数性性決定によって決まることはよく知られており、
受精卵から生じる2倍体の個体はメス、未受精の卵から生じる半数体の個体
はオスとなる。さらに真社会性の種では、2倍体のメスは繁殖を行う女王と
繁殖をせずに労働のみを行うワーカーへと分化する。近年一部のアリなど
について、メスにおけるカーストの分化が遺伝的に制御されており、しかも
Symmetrical Social Hybridogenesis(以下 SSH) というメカニズムが存在する
ことが明らかになってきた。これはある遺伝子座上の2つの対立遺伝子(仮
に A と B と呼ぶ)について、ホモ接合になっているメスは女王となりヘテ
ロ接合となっているメスはワーカーとなる現象である。このシステムでポイ
ントとなるのは、AA メス(あるいは BB メス)が A オス(あるいは B オ
ス)のみと交配した場合には、そのコロニーはワーカーが現れないために存
続できない。また、AA メス(あるいは BB メス)が B オス(あるいは A
オス)のみと交配した場合には、そのコロニーは次世代の女王を生み出すこ
とができない。このことから、SSH の下では集団が A 遺伝子と B 遺伝子
をともに持っており、しかもメスは多回交尾を行っている必要がある。しか
しそれは、A 遺伝子と B 遺伝子がともに存在して多回交尾が行われてさえ
いれば、SSH が存続できるということを保証するわけではない。そこで本
研究では、SSH の存続条件を主にシミュレーションによって調べた。解析で
はメスは多回交尾によって複数のオスから精子を受け取るが、交尾相手の遺
伝型の組成は集団中の A オスと B オスの比率に基づく二項分布に従うとし
た。交尾の後に女王はコロニーを創設して次世代の王、女王とワーカーを産
むが、次世代の繁殖虫(王と女王、あるいは女王のみ)の成功度はワーカー
数に対する増加関数であると仮定した。これらの仮定に基づき様々な状況を
想定して解析を行ったが、SSH が存続できる状況はかなり限定的であること
が示唆された。
多くの生物は捕食リスクに応じて、行動や形態を条件的に変化させる(誘導
防御戦略)。被食者は様々なタイプの捕食者からの捕食の危険に瀕している。
被食者は、それぞれの捕食者種に特異的な防御を誘導するのだろうか? ま
た、どのような条件の下で、捕食者種特異的な防御の誘導が進化するだろう
か? 捕食者種特異的な誘導防御が進化する条件として以下の3つが推論さ
れる。
(1) 異なる捕食者が異なる捕食様式を有する。
(2) 被食者が、異なる捕食者を区別する。
(3) 捕食者種に特異的な誘導反応は、対応した捕食者種に対して効率の
よい
防御として機能する。
本研究では、エゾアカガエル幼生の捕食者誘導形態をモデルとし、捕食者
特異的誘導形態防御とその進化条件について実証的な研究を行った。進化条
件 (1) より、異なるタイプの捕食者種として、エゾサンショウウオ幼生(丸の
みタイプ)とルリボシヤンマのヤゴ(かじりつきタイプ)を選定し、形態誘
導実験を行った。カエル幼生は、異なる捕食者に対して異なる形態反応を示
した(サンショウウオ存在下では膨満形態を、ヤゴ存在下では尾鰭の高い形
態を発現した)。さらに、それぞれの形態反応を誘導する際に要する刺激の条
件が異なっていることから、進化条件 (2) が満たされることを示した。次に、
誘導された表現型の適応性に関し、条件 (3) を仮説として捕食実験を行った
ところ、それぞれの特異的な形態をもつ個体は、対応した捕食者種に対して
捕食されにくいことが明らかとなった。
以上の結果に加えて、本研究では、環境の変化に応じて、これらの捕食者
特異的な形態反応が柔軟に変化することを明らかにした。つまり、環境中の
捕食者種の交替にあわせて 2 つの誘導形態が相互に変化すること、また、捕
食リスクの緩和に応じて誘導形態がもとの非防御形態へと戻ることを示した。
自然の池群集では、捕食者の種構成や個体数は時間的に大きく変化する。エ
ゾアカガエル幼生の柔軟な誘導形態反応は、細かい時間スケールでの捕食環
境の変化に対応した適応と考えられる。
— 301—
O2-U05
口頭発表: 行動・社会生態
O2-U05
O2-U06
10:30-10:45
オーストラリアモンスーン熱帯におけるセアカオーストラリアムシク
イの繁殖戦略
◦
8 月 27 日 (金) U 会場
淡水域におけるケミカルコミュニケーションがもたらす被食者 2 種の
生存率・行動・形態変化の比較
◦
上田 恵介1, ノスキー リチャード2
京都工芸繊維大学・院・工芸科学, 2総合地球環境学研究所
立教大学・理・生命理学, 2チャールズ・ダーウィン大学
セアカオーストラリアムシクイ Marulus melanocephalus は、オーストラリ
ア北部の熱帯域に広く分布する。この科の鳥には、ヘルパーのつく協同繁殖
が広く知られており,本種でもオーストラリア東南部の亜種では,頻度は高
くないがヘルパーの報告がある.しかし北部熱帯域に生息する本亜種の研究
はこれまで行われたことがなく,地域間の比較研究が待たれていた。演者ら
は1995年4月から1996年の3月、及び1996年の8月に、オース
トラリア北部の Darwin 近郊、Holmes Jungle Nature Park で本種の社会構造
についての研究を行なった。本種は、乾季には2羽から9羽のグループ生活
をしていた。4月に巣立ちビナを連れた家族群を観察していることから,こ
のグループは基本的に家族群と思われた.しかし時には2つ以上のグループ
がいっしょになって20羽近い合同群になることもあった。成熟したオスは
赤と黒の美しい羽色を持つが、この時期のオスの中では赤と黒の生殖羽をもっ
ているものは少なく、群の構成メンバーのほとんどは褐色の♀タイプの個体
であった。雨季に入った9月下旬以降、約50 ha の調査地内に生息する1
4群86羽を捕獲して、個体識別用の足環を装着した。群れは12月以降、
徐々に崩壊しはじめ、つがい形成がはじまった。最終的に調査地では30つ
がい(標識個体50羽、未標識個体10羽)がなわばりを持って繁殖に入っ
た(1.7 ha/つがい)。この30つがいのオスのうち、赤と黒の生殖羽を持つ
オスは15羽(50.0%)で、13羽(43.3%)がメス的色彩、2羽(6.7%)が
中間的な羽色の個体であった。結果的に、この地域の個体群にはヘルパーが
いる証拠はなかった。捕食を受けた巣の親鳥は、ペアで次々と巣作りを繰り
返した。一方、生殖羽のオスは他のなわばりへ頻繁に侵入し、メスに求愛を
行なった。オスの生殖突起は生殖羽のオス、非生殖羽のオスとも異常に肥大
し、精子競争の激しさを予測させた。
11:00-11:15
ヒシバッタ類における自切のコスト
◦
高原 輝彦1, 神松 幸弘2, 山岡 亮平1
1
1
O2-U07
10:45-11:00
本間 淳1, 西田 隆義*1
1
京大院・農・昆虫生態
自切は、捕食者に襲われた際に体の一部を犠牲にして捕食を回避する行
動であり、いくつかの分類群においてみられる。自切の研究は、自切後
の個体の運動能力に及ぼす影響について主にトカゲにおいて研究がなさ
れてきたが、昆虫類におけるそれは、ナナフシ等における自切後の組織
再生の生理的研究に限られてきた。そこで本研究では、後脚の切断とい
う明らかに大きなコストを負いそうなバッタ類(ヒシバッタ)の自切行
動が、その後の運動能力にどの程度影響してくるのかを定量化した。ま
た、その際、捕食者に対する防衛戦術の異なる(行動的防衛と物理的防
衛)近縁種の比較によって、自切行動の、他の捕食回避戦術への影響を
評価した。
その結果、どちらの種においても跳躍能力に関しては、明らかな低下が
見られた。しかし、巧みな跳躍(行動的防衛)により捕食回避を行うハ
ラヒシバッタは、跳躍前の動きによって、その低下を補うという行動の
変化が現れた。一方、非常に固い前胸背板や側棘物理的防衛)を採用し
ているトゲヒシバッタでは、じっとして跳躍による回避を遅らせるとい
う変化を見せた。これらの結果は、自切のコストを、おのおのが採用し
ている防衛戦術に合わせて補っていることを示している。
水域には様々な捕食者・被食者が生息しており、生物由来の化学物質(情報化
学物質)を介した多種多様な相互作用(ケミカルコミュニケーション)が存
在すると考えられる。カエルの幼生は捕食者の匂いなどに由来する化学物質
を受けて行動や形態を変化させ被食を回避する。本研究ではカエル 2 種(ニ
ホンアマガエル Hyla japonica・ツチガエル Rana rugosa)の幼生が捕食者由
来の化学物質を受けてどのような反応を示すかを調べた。ギンヤンマ Anax
partenope julius の幼虫(ヤゴ)あるいはヒブナ Carassius auratus var. 由来の
化学物質が溶け込んでいる飼育水を与えたとき、ニホンアマガエルはそれぞ
れに対して活動時間を減少させた。一方、ツチガエルではヤゴの飼育水を与
えたとき活動時間が減少したが、ヒブナの飼育水を与えたとき活動時間の変
化はみられなかった。幼生の活動時間の長さと被食率の関係を調べた結果、
ヤゴ由来の化学物質を受容してニホンアマガエルが活動時間を減少させるこ
とはヤゴの捕食を回避する有効な行動変化であることが示唆された。ニホン
アマガエルはヒブナの飼育水に常時さらされると生存率が低下したが、ツチ
ガエルの生存率は影響を受けなかった。ニホンアマガエルはヤゴの飼育水に
一定期間さらされると尾ビレの幅が広くなり、ヒブナの飼育水にさらされる
と尾ビレの幅が狭くなった。以上の結果、ヤゴとヒブナに由来する化学物質
はカエル幼生の行動や形態および生存率を変化させることが明らかになった。
ヒブナ由来の化学物質がニホンアマガエルとツチガエルに及ぼす影響の違い
は、それぞれがヒブナに対する異なる対捕食者戦略をもつことによるものと
考えられる。捕食者由来の情報化学物質の受容により示すカエル各種の反応
は、それぞれが共存してきた捕食者に応じて進化してきた結果であると考え
られる。
O2-U08
11:15-11:30
環境中の背景雑音がミナミハンドウイルカの音声に与える影響
◦
森阪 匡通1, 篠原 正典2, 中原 史生3, 赤松 友成4
1
京都大学大学院理学研究科動物生態学研究室, 2京都大学大学院理学研究科動物行動学研究室, 3常磐
大学コミュニティ振興学部, 4独立行政法人水産総合研究センター水産工学研究所
鯨類は水という、音が最も伝達効率のよい棲息環境において複雑な音声コミュ
ニケーションを行っている。ミナミハンドウイルカは小型鯨類で、群を形成し
沿岸域に年間を通じ定住する種である。この種の発するホイッスルは、純音で
周波数変調し、特に群の結合を維持するための機能を持つと考えられている。
発表者らの先行研究により、このホイッスルに地域間差異が存在することがわ
かっており、棲息環境の違いによってもたらされたものである可能性が示唆さ
れた。この種の棲息する沿岸海域において非常に高レベルで存在する背景雑音
がホイッスルに与える影響を調べるため、ホイッスルの使用周波数と、周波数変
調の程度を測定し、それぞれの海域ごとの背景雑音と比較した。ミナミハンド
ウイルカが定住している小笠原諸島 (OGA)、伊豆諸島御蔵島 (MIK)、および熊
本県天草下島諸島 (AMA) において、イルカが頻繁に利用する水深 15-30m の
場所で背景雑音の録音を行った。また、イルカのホイッスルは、アドリブサンプ
リング法により、様々な時間、場所、録音機材を用いて収録し、Avisoft-SASLab
Pro for Windows で解析を行った。イルカが実際にホイッスルに用いている周
波数帯域を調べるために、各ホイッスルを長さで 19 等分し、各点の周波数を
測定した。得られた 20 点の周波数を海域ごとに集めたものをその海域の使用
周波数とした。ホイッスルの周波数変調率は、前述の 20 点の周波数を用い、
McCowan & Reiss (1995) に倣い算出した。その結果、背景雑音が高いレベルで
存在する AMA では、低い周波数で周波数変調の少ないホイッスルが使われ、
背景雑音が低いレベルの MIK、OGA では、高い周波数も多く、周波数変調も
大きいホイッスルが用いられていることがわかった。周波数変調は雑音に簡単
に消されてしまうため、背景雑音レベルの高い海域では、周波数変調の少ない
ホイッスルがより遠くまで正しく情報を伝えられると考えられ、ミナミハンド
ウイルカは棲息環境中に存在する背景雑音レベルに応じて最適なホイッスルを
発していることが示唆された。
— 302—
口頭発表: 行動・社会生態
O2-U09
11:30-11:45
有限集団における協力の進化:1/3則
◦
佐々木 顕1
1
九州大学 大学院 理学研究院 生物学専攻
協力の進化を有限集団における反復囚人のジレンマゲームで解析する。
反復囚人のジレンマゲームにおいて、ゲームの反復回数が十分大きけれ
ばしっぺ返し (TFT) と裏切り (all-D) はともに進化的に安定になる。無
限集団サイズの進化動態では TFT と all-D は双安定となり、一方が多
数を占めると他方は侵入できない。このような双安定なゲームの進化動
態を有限集団で考え、all-D の集団に 1 個体だけで生じた TFT 突然変
異が集団に固定する確率を拡散近似により求める。この固定確率が中立
遺伝子の固定確率よりも大きくなる、つまり協力が実質的なダーウィン
進化によって広がるための条件は、頻度依存淘汰の閾値頻度(両戦略の
適応度が等しくなる頻度)が1/3以下になることである(協力進化の
ための1/3則)。つまり、突然変異で生じたばかりのときは少数者不利
の自然淘汰にさらされる戦略も、頻度が1/3に達する前に有利に転じ
るのであれば、逆風をはねのけて集団に固定する可能性が高い(中立突
然変異よりも高い頻度で固定する)。しかしそれ以外の場合、たとえば集
団の半数を占めてやっと有利に転ずるような戦略が、1個体の突然変異
体から集団への固定に至るのは非常に困難である。ESS(進化的安定戦
略)概念の有限集団への拡張についても論ずる。(Nowak, Sasaki, Taylor
and Fudenberg, Nature 428, 646-650, 2004).
O2-U09
8 月 27 日 (金) U 会場
O2-U10
11:45-12:00
待ち伏せ型捕食者サシバにおける採食パッチの選択と放棄
◦
呉 盈瑩1, 藤田 剛1, 樋口 広芳1
1
東京大学 生物多様性科学研究室
日本の南西端に位置する石垣島は、個体数の減少が懸念されている猛禽
類サシバの日本における主要な越冬地である。サシバは毎年10月から
翌年の3月まで、石垣島の主要な農地環境である牧草地で採食する。
演者らは、まず、この地域での越冬期を通したサシバの生息地利用と食
物品目などを 2002 年から 2004 年に調査した。ラジオテレメトリーや色
足環によって個体識別を行ない、のべ6羽の個体追跡を行った結果、す
べての個体が越冬期を通して行動圏を農地内に維持していた。一個体の
一日の行動圏面積は、越冬期内の時期によって変化し、最小 0.09 km2、
最大 0.48 km2 だった。サシバの越冬期における食物の 95%以上がバッ
タ類であった。サシバは、止まり場に止まり、その周辺で発見した食物
動物を採食する、待ち伏せ型の採食様式をとる。調査地のサシバが止ま
り場として利用したのは、スプリンクラー、電柱、防風林だった。
行動圏内の利用様式に注目すると、観察された採食行動の 95%は、牧草
地での採食だった。牧草地一区画あたりの面積 (2700∼8100 m2) は、サ
シバの行動圏にくらべて小さく、サシバは、一日のあいだに何度も採食
のために待ち伏せする牧草地の選択と放棄を繰り返していた。牧草地で
は刈り取りが年 4 回から 6 回行われているが、この刈り取りの繰り返し
期間は牧草の品種、牧草地の立地、栄養条件などによってちがっている
ため、サシバの行動圏内にはさまざまな草丈の採草地がモザイク状に存
在していた。そこで、演者らはサシバによる牧草地の選択と放棄過程に
注目し、牧草の刈り取り、草丈、牧草地の配置、待ち伏せ場所であるス
プリンクラー数、そして食物であるバッタの密度などが、サシバの採食
パッチ選択と放棄にどう関わっているのかを解析した。今回は、これら
越冬期におけるサシバの生息地利用と、その利用様式に関わる採食パッ
チ選択と放棄に影響する要因について報告を行う。
— 303—
O2-V01
口頭発表: 景観生態
O2-V01
09:30-09:45
GIS を用いた流域構造改変と釧路湿原の変化に関する定量的解析
◦
8 月 27 日 (金) V 会場
O2-V02
◦
亀山 哲1, 福島 路生1, 島崎 彦人1, 金子 正美2, 矢吹 哲夫2
1
国立環境研究所, 2酪農学園大学
Kyushu Univ.
10:00-10:15
拡大空中写真の画像解析を応用したサンゴ礁礁池の構造解析と魚類の
生息地の抽出
◦
Schlicht Robert1, IWASA Yoh1
1
湿原の保全と再生を考えるには、流域の生態系機能を重視し、流域全体の構造
改変と湿原の変化の双方を結びつけることが重要である。本研究で我々が着目
するのは、湿原を含む流域が持つ多面的機能と相互作用、及びその変化を把握
することである。これらの湿原や流域が本来持つ機能の健全性の維持・回復こ
そ、湿原の保全・再生プランを策定する過程において最も重要であると考えて
いる。
しかし、これまでは異なるグループが個別に調査・研究に取り組んできたケー
スが多く、貴重な一次データが散逸・風化しているのが現状である。このよう
な中、既存情報の統合化と、新しい広域的・長期的なモニタリング体制や技術
の確立が急務とされている。これらを踏まえ、現在、我々は次の3つを目的と
して共同研究を推進している。
1.GIS データベース構築:流域に関して 1920 年代以降 4 時期の土地利用デー
タ、湿原に関しては 1947 年以降の 4 時期の湿原マップを作成し、変化地域の
抽出を行った。水環境としては公共用水質データの経年変化、また汚濁負荷の
状態については農業用センサスデータをデータベース化した。生物情報に関し
ては淡水魚類のデータベースを追加・拡充した。
2. 空間情報解析:流域全体を、湿原に流入する各支流、またさらに細かなサブ
流域ポリゴンに分割して河川のネットワーク解析を行った。ここで、他の GIS
情報を個々のポリゴンに属性として与え各河川の特徴を明らかにした。さらに
各河川の変遷履歴と、湿原へのインパクトついて解析した。
3. 成果のマッピング:研究成果を GIS マップとして表示することにより、流
域と湿原の人為改変の実態抽出、また定量的把握を可能とした。また、流域と
湿原の自然再生を将来計画する際の空間的なポテンシャルを地図化した。
1∼3 の過程において、多様なデータの統合化を図り、広域・長期的な環境改変
を定量化すると共に湿原保全・再生のための実用的な研究ステップについて議
論する。
O2-V03
09:45-10:00
A stochastic lattice model for forest canopy gaps, generating
服部 昭尚1, 小林 都2
1
滋賀大学教育学部, 2石垣島自然観察の会
サンゴ礁には、生きたサンゴ群落が分布しない場所もあるが、そこにも多く
の魚類が生息している。複雑な景観構造で知られる石垣島白保のサンゴ礁内
に、約4 ha の観察区を設け、微小生息場所の定義が明確な普通種のハマク
マノミを観察対象とした。国土地理院発行の空中写真を拡大して耐水処理を
施し、潜水調査用地図として観察に利用した。本種はタマイタダキイソギン
チャク(以下宿主)に共生するため、その微小生息場所(宿主)の分布、コ
ロニー形態、サイズ等を地図上に記録しながら生息地を分類した。拡大空中
写真の画像解析により、生息地の色彩から潜在的生息地を抽出した。同一面
積の 20 区画で、空間構造の複雑さの指標となるフラクタル次元をボックス・
カウント法により求め、生息地面積や宿主個体数などとの相関を調べた。
生息地は、1)ハマサンゴの窪み(ハマサン)、2)ユビエダハマサンゴの
窪み(ユビエダ)、3)プラットホーム状礁原の縁(プラット)、4)砂地の
パッチリーフ(リーフ)に分類でき、前二者は主に生きたサンゴ群落、後二
者は主に死んだサンゴ群落であった。「プラット」、「ユビエダ」、「リーフ」、
「ハマサン」の順で生息地が深くなったが(平均 59.4cm)、コロニーサイズ・
宿主サイズに有意差はなかった。画像解析により、全生息地が特定の色彩で
抽出でき、「立体構造に由来する陰」と推察された。宿主個体数とフラクタ
ル次元に有意な相関 (rs=0.77, p=0.0007) が見られ、宿主の少ない場所は 1.12
未満であった。空中写真で陰が判別できる程度に立体構造が明確なリーフは、
垂直平面に隠れ場所となりうるスペースを持ち、宿主などが定着しやすい場
所であると考えられる。このようなリーフが隣接する場所に、宿主が多くな
ると示唆された。今後、多様な魚類の生息地の解析に、同様な方法が応用で
きるかもしれない。
Gaps in the forest canopy are important for tree regeneration and tree species
diversity. We study a stochastic lattice model with nearest-neighbor interaction for the spatial patterns of the forest canopy gaps. Assumtions are: (1)
Vegetation height increases at a constant rate. (2) The mortality of a tree at
a site in the lattice increases with the height relative to the average height of
neighboring sites. The model is similar to the one for wave regeneration in
fir forests (Shimagare), but now assuming symmetric wind direction (without
predominant wind direction). The model shows that the cluster size distribution often follows a power-law, as is observed in natural forests. We discuss
the relationship of our model with other models that generate power-laws,
such as three state mussel bed model and forest fire models.
O2-V04
10:15-10:30
自然資源ベースマップを用いた保全・再生地域の抽出と評価
◦
矢ヶ崎 朋樹1, 村上 雄秀1, 武井 幸久2, 平泉 直美2, 向川 泰弘3, 鈴木 邦雄4
1
国際生態学センター, 2福井工業高等専門学校, 3福井県雪対策・建設技術研究所, 4横浜国立大学大学
院・環境情報研究院
本研究は、生態系を構成する生物・生態インベントリー(自然資源)の現地調
査とその成果情報の体系的・空間的整備に基づき、生態系の定性的な構造の把
握を通じた保全・再生計画の科学的根拠(評価手法)の開発を目的とする。調
査対象地は、福井県鯖江市河和田地区のおよそ 20km2 (トレーニングエリア)
である。まず、現地では、植物社会学的植生調査と主要動植物分布調査を実施
し、対象地内の現在の自然環境についての空間的情報整備を行った。また、地
域住民を対象とした聞き取り調査(武井・平泉・藤田,未発表)および過去時
点(昭和 23 年)の空中写真判読の結果から、かつて生育・生息していた生物
種や土地利用などの情報を抽出し、過去時点の自然環境についての情報整備を
行った。これらの手順を経て、最終的に、数種類の自然資源ベースマップ(植
物社会学的現存植生図、潜在自然植生図、昭和 23 年植生・土地利用復元図、主
要動植物分布図など)を作成した。評価の手順は、1.ベースマップに図示され
た動植物(個体・個体群)および植物群落に対する個別評価(個々の資源の特
性抽出)、2.資源特性の統合化分析(景観特性の抽出、保全・再生地域の抽出)
の2段階からなる。個別評価では、希少性、脆弱性、立地極狭性、ビオトープ
適性、生態回廊指標性、利用有益性、郷土文化指標性、人為依存性等、資源特
性に係る評価項目を設定し、それらの具体的内容・基準を定義すると同時に、
該当する資源をリストアップした。とくに、今回の試みでは、生物多様性の持
続・向上に強く関連するいくつかの特性(希少性、脆弱性、ビオトープ適性な
ど)に着目し、それらの集積空間を「保全地域」と解釈し、その具体的な資源
構成(質)、資源規模(量)、空間構造(資源間のつながり)、地域配分(広が
り)などを検証した。
— 304—
口頭発表: 群集生態
O2-W01
09:30-09:45
軍拡競争と拡散共進化
◦
8 月 27 日 (金) W 会場
O2-W02
09:45-10:00
分散の進化と生物多様性
◦
山村 則男1
河田 雅圭1
1
1
東北大学大学院生命科学研究科
京都大学生態学研究センター
食うものと食われるものの関係において、食われるものの側の防御と食う
ものの側の防御を打ち破る攻撃が共進化して、互いに投資をエスカレー
トさせるという軍拡競争が生じることが、理論的にも実証的にも知られ
ている。しかし、食うものと食われるものの関係では、植物と草食動物
や昆虫寄主と寄生蜂の関係に見られるように、1種対1種の関係ではな
く多種対多種の関係である場合が多い。多種対多種の関係における共進
化は拡散共進化と呼ばれている。今回は、1種対1種(多種対多種)の
関係がどのような条件の下で成立するのか、また、1対1の共進化と比
べて、拡散共進化ではどのような様相が発現するのかを、数理モデルを
使って解析する。
O2-W03
O2-W01
10:00-10:15
これまでの発表者の研究で、個体の分散は様々な生態学や進化生物学の
プロセスに重要な影響を及ぼすことを示してきた。たとえば、個体の分
散が制限されることで、交配に関する遺伝子と適当度に関する遺伝子が
リンクし易くなり、生殖隔離による種分化がおこり易くなる。また、個
体の分散の大きさは集団の分布境界に影響する。分散が大きいとき、集
団は中心からの分散によって局地適応が妨げられ、分布が拡大できない
が、分散が小さいときは、局地適応を可能にし分布を拡大する。同様に、
分散が大きいとき、利用する資源幅を大きく進化させることができず、
そこで生息できる種の数を増大させるが、分散が小さいときは、新しい
資源利用の進化がおこり易くなり、共存できる種数が減少する。しかし、
これまでの予測は、生物の分散距離は、集団によって別の要因で決定さ
れているとみなし、生物の分散自体が進化するという仮定をおいていな
かった。そこで本発表では、分散自体も進化できる状況で、種分化や生物
の多様性の進化がどのような場合に促進されるかについてのシミュレー
ションを行った。
O2-W04
10:15-10:30
侵入種と在来種の種間相互作用を特徴付けるのはなにか?
:適応の役割
に関する理論的考察
◦
(NA)
近藤 倫生1
1
龍谷大学理工学部
同じ生息地に長い間共存している在来種同士は、進化的な時間スケールで、互
いに遭遇したり相互作用をしたりしてきた「経験」をもっている。在来種同士
が互いに相手を認識したり、適応的な行動をとったりすることができるのは、
この「経験」のおかげである。それに対して、外来種と在来種は時空間な隔離
のせいで、比較的短い歴史しか共有していない。その結果、外来種と在来種は、
在来種同士であれば当然できるような相手の認識や適応的反応ができない場合
がある。このような「経験不足」の種間相互作用のため、外来種の侵入を受け
た生物群集は、特徴的な個体群動態や群集構造をもつ可能性がある。
この発表では、この考え方を「食う-食われる」関係と食物網に適用する理論
的枠組みを紹介する。外来種-在来種間の「食う-食われる」相互作用は、互い
を認識する能力や適応的に反応する能力の欠落のため、3つの特徴を持つ可能
性がある。
第一に、遭遇経験の欠落のため、生態学的役割(捕食者/被食者)の認識、被
食者の取り扱い、捕食者からの防御等に失敗する可能性がある。このため、外
来種と在来種の間の「食う-食われる」関係は、異常に強くなったり、弱くなっ
たりする可能性があり、これは、個体群動態を不安定化させるかもしれない。
第二に、外来種-在来種間の適応速度のミスマッチのために、外来種の個体数
が一時的に大爆発を起こすかもしれない。
第三に、外来種と在来種は種の区別に失敗しやすいため、互いに相手の個体
数の変動にうまく対応できない。その結果、外来種の侵入は、在来群集におけ
る生物多様性をおおきく減少させるかもしれない。
これらの仮説は、外来種-在来種間の相互作用は、在来種間の相互作用と質的
に異なっており、特徴的な個体群動態や群集構造を生み出す可能性があること
を示唆している。
— 305—
O2-W05
口頭発表: 群集生態
O2-W05
10:30-10:45
種間相互作用の再検討:昨日の敵は今日の友!
?
◦
◦
1
九大院・理・臨海
種間相互作用を考える上で、これまでは predation(捕食)、competition
(競争)、facilitation(?)といったメカニズムに基づいた認識・分類がな
されてきた。しかし、この事が近年まで、野外で確認しやすく実験的にも
検出しやすい predation や competition のようなマイナスの作用を持った
メカニズムの研究に重点がおかれ、一方でプラスの作用を持つ facilitation
が注目されなかった一つの要因である。また、一般的に種間相互作用は
単一の要素から成り立っていることは稀であり、多くの場合プラスとマ
イナスの複数の要素が組み合わさって見かけの作用が形成されている。
すなわち、マイナスの要素がより大きければ見かけの作用は competition
に、プラスの要素のほうが大きければ facilitation に、同程度だと互いに
打ち消しあい表面上 neutral な関係になると考えられる。従って、種間相
互作用の成分及び大きさ、さらにその変動性をより精密に検証するため
には、これまでのように表面上の見かけの作用のみに注目するのではな
く、その作用を形成するプラス・マイナスの要素を検出しそのバランス
を検討することが必要となる。九州天草において、岩礁潮間帯に棲息す
る固着性動物であるカメノテとムラサキインコの見かけの種間相互作用
は facilitation であることが、演者らによりすでに明らかになっている。
本講演では、さらにこの2種間の相互作用を要素に分ける試みを発表す
る。プラスとマイナスの要素の強さが季節的に変動することにより、結
果的に表面上の見かけの種間相互作用が facilitation から neutral、neutral
から facilitation へと推移することが明らかとなった。
11:00-11:15
遺伝的に決定された植物の化学型が植食性昆虫群集に及ぼす影響
◦
O2-W06
10:45-11:00
ギルド内捕食は捕食者のパフォーマンスを向上させるか:生態化学量
論的視点から
河井 崇1
O2-W07
8 月 27 日 (金) W 会場
林 珠乃1, 大串 隆之1
1
京都大学生態学研究センター
オノエヤナギ(Salix sachalinensis)には二つの化学型がある。一方の化学
型は、葉に含まれる低分子フェノールの主成分としてアンペロプシンを生合
成し(A 型)、他方の化学型はアンペロプシンに加えて二種類のフェノール
配糖体を生合成する(AP 型)。この二つの化学型は遺伝的に決定されてい
る。我々は、これらの化学型が植食性昆虫の群集構造に与える影響について
明らかにした。
実験は北海道石狩川の河川敷で行った。調査地内の二カ所に、鉢植えにし
た化学型の挿し木を置き、植食性昆虫群集と葉の形質について調査を行った。
植食性昆虫の群集構成の非類似度に対して、有意な場所の効果と化学型の効
果が認められたが、場所と化学型の相互作用の効果は有意ではなかった。A
型の挿し木でのヤナギルリハムシの成虫の密度は AP 型の密度より有意に高
く、逆に A 型の挿し木でのリーフゴール sp1. の密度は AP 型の密度より低
かった。葉の形質に対して行った主成分分析によって、三つの主成分が抽出
された。主成分 1 はフェノール性成分の対比を、主成分 2 は炭素及び窒素
含有率の対比を、主成分 3 は柔毛密度を示した。主成分 1 に対して有意な
化学型の効果が認められた。一方、場所の効果と化学型と場所の相互作用の
効果は有意ではなかった。主成分 1 のスコアは、ヤナギルリハムシの成虫の
密度と正に相関し、リーフゴール sp1. と負に相関した。
同じ調査地に自生する化学型について、植食性昆虫群集の調査を行った。
植食性昆虫の群集構成の非類似度に対して、有意な化学型の効果は認められ
なかった。
以上の結果から、遺伝的に決定された化学型は、植食性昆虫群集に影響す
ることが明らかになった。特に、植食性昆虫の種によって、化学型に対する選
好性が異なることが、化学型間での植食性群集の違いを生み出す上で重要で
あることが示された。しかしながら、自然状況下では、植物の遺伝変異が植
食性昆虫群集に及ぼす影響は、相対的に弱いものであることが示唆された。
松村 正哉1, Traffelet-Smith G. M.2, Gratton C.3, Finke D. L.2, Fagan W. F.2, Denno R. F.2
1
九州沖縄農業研究センター, 2メリーランド大学, 3ウィスコンシン大学
近年,ギルド内捕食の起源や進化の解明において,生態学的化学量論 (Ecological
stoichometry) すなわち異なる栄養段階の生物間で窒素含有率(N比)など栄養
素の相対的バランスを調べる新たなアプローチが進められている。この中で,
捕食者は植食者に比べ一般的にN比が高いことが明らかになりつつある。この
ことから,捕食者は高い栄養要求量を満たすため植食者よりN比の高い捕食者
をよく捕食し,そのためギルド内捕食が広くみられるようになったという仮説
が考えられる。この仮説の検証のため,アメリカの潮間帯雑草の昆虫群集につ
いて,栄養段階ごとに構成種のN比を調査したところ,栄養段階が高い種ほど
(捕食者>雑食者>植食者)N比が高くなることがわかった。また,コモリグ
モ Pardosa littoralis を植食者(ウンカ Prokelisia dolus),ギルド内捕食者(卵
捕食性カスミカメ Tytthus vagus または小型クモ Grammonota trivittata),両者
を交互に与える区の3つの餌条件下で約1ヶ月飼育し,生存,成長,捕食量,
N摂取量を測定した。その結果,ギルド内捕食者としてカスミカメを与えた実
験では,コモリグモの生存と成長はカスミカメ>交互に与えた区>ウンカの順
に高かった。この理由は,コモリグモがよく動き回るカスミカメを多く捕獲し
たためで,カスミカメのN比が高いからではなかった。一方,ギルド内捕食者
として小型クモを与えた場合,小型クモのN比は高いにもかかわらず,コモリ
グモの生存と成長はウンカを与えた場合より低く,前の実験と逆の結果となっ
た。この理由は小型クモがコモリグモに捕獲されにくいことによった。以上か
ら,ギルド内捕食によるパフォーマンスの向上には,当初予想した栄養価(N
比)よりも,捕獲されやすさや捕食に対する防御行動に起因した摂食量の違い
が大きく影響していると考えられた。
O2-W08
11:15-11:30
農地生態系の土壌圏–安定同位体比を用いて食物網を探る–8. 畑地に生
息するクモの餌資源の推定
◦
藤田 正雄1, 藤山 静雄2
1
自然農法国際研究開発センター農業試験場, 2信大理生物
第 6 報では、ハンドソーティング法 (ハンド法) で採集された有機農業畑のク
モ類の餌の起点となっている炭素源は C3 植物、C4 植物および腐食物質である
こと、分解者を捕食する 2 次消費者が主である可能性が高いことを明らかにし
た。そこで栽培作物とクモ類の餌資源の関係を明らかにするため、圃場内にδ
13
C 値の異なる作物を栽培し、餌資源の推定を試みた。
[材料および方法] 調査圃場は、1970 年に区画整備事業を実施して以来、化学肥
料、農薬は一切使用せずに栽培している。2003 年は無化学肥料・無農薬・不耕
起条件下で、6 月 ∼8 月はエダマメとスイートコーンを、10 月 ∼5 月は刈り
敷き用のライ麦を栽培した。クモ類を含む大型土壌動物群集の調査は、01 年 6
月より年 4 回 (6、8、10、2 月)、ハンド法にて実施している。加えて、03 年
はピットホールトラップ法 (トラップ法) にてクモ類を採集し、炭素および窒素
安定同位体比を測定した。
[結果および考察] 土壌性のクモ類はその生活型から、占坐性と徘徊性に分けら
れる。ハンド法とトラップ法では、ともに占坐性および徘徊性のクモ類が捕獲
できるが、前者では占坐性が、後者では徘徊性が多く捕獲できることが予測さ
れる。
ハンド法で採集したスイートコーン跡地のクモ類のδ 13 C 値は、エダマメ跡地
から採集したクモ類に比べて、有意 (P<0.01) に高かった。このことから、ス
イートコーン跡地のクモ類は、スイートコーンを起源とした食物連鎖上にある
ことが推察される。この一方で、スイートコーン跡地とエダマメ跡地のクモ類
のδ 15 N値に違いはみられなかったことから、起点となる炭素源は違っても
栄養段階は同じと考えられる。
両跡地からトラップ法で捕獲したクモ類 (徘徊性、コモリグモ科) のδ 13 C 値
およびδ 15 N値に違いはみられなかった。これは徘徊性のクモ類が栽培作物
の境界を超えて調査地を移動し、炭素源の異なる動物を捕食したためと考えら
れる。
— 306—
口頭発表: 群集生態
O2-W09
O2-W10
11:30-11:45
4 種の比較系統地理から明らかになった海浜性ハンミョウ種群の歴史
的な形成過程
◦
8 月 27 日 (金) W 会場
東京大学大学院農学生命科学研究科森林動物学研究室, 2新潟大学農学部附属フィールド科学教育研
究センター森林生態部佐渡ステーション
京都大学大学院理学研究科動物生態, 2石川農業短大, 3横浜市立日野養護学校, 4順天大学校
日本各地の海岸には、2–4 種のハンミョウ(甲虫)が同所的に見られる。共存
しているハンミョウ類では、種の組み合わせに関わらず種間で顎サイズは重な
らず、顎サイズと対応した餌をめぐる種間競争が、共存種の決定に大きな意味
をもつと考えられている。本研究では、大型 4 種の海浜性ハンミョウ類に注目
し、地域集団間の遺伝的変異を解析することで、現在各地域で見られる海浜性
ハンミョウ相の歴史的な形成過程を検討した。
ハンミョウの採集は、日本 17 地点と近隣諸国(韓国、台湾、フィリピン)で
行い、各種 1 地点につき約 10 個体ずつ、4 種で計 229 個体のハンミョウを
採集した。そして、各個体の胸部筋肉組織から DNA を抽出し、ミトコンドリ
ア DNA の COI 領域と 16SrRNA 領域(計 1433bp)の塩基配列を決定した。
その結果、64 種類の塩基配列の変異型が確認された。種内の遺伝的変異に注目
してみると、イカリモン(以下ハンミョウ略)では、石川県、宮崎県(九州南
東部)、種子島の 3 つの地域間で大きな遺伝的変異が存在しており、3 つの地
域間で長い間遺伝的交流がなかったと推測された。一方、イカリモンと似た分
布域を持つハラビロでは、地域間の遺伝的変異は小さく、最近まで広い地域に
わたって遺伝的交流があったと推測された。ルイスにおいても、地域間の遺伝
的変異は小さかった。一方、カワラでは、遺伝的に大きく分化した変異型が同
所的に見られ、地域間のまとまりは小さかった。このことから、カワラは日本
の中で分布域の縮小・分断化(地域間の遺伝的分化)と拡大(地域間の再交流)
を繰り返し経験したと推測された。以上の結果より推測された日本の中での分
布変遷過程と、日本と近隣諸国との遺伝的関係、そして顎サイズと関連した 4
種の種間関係を基にして、海浜性ハンミョウ相の歴史的な形成過程を検討した。
佐渡島は本州から 30km ほど離れた陸橋島で、15 から 50 万年前に本州から分
離したといわれている。かつては北部の大佐渡山系全域がブナ林だったと考え
られ、このブナ林の昆虫相は、佐渡島の本来の昆虫相の指標になると考えられ
る。本研究では、移動能力が低い地表徘徊性甲虫を、佐渡島と本州のブナ林で
比較することにより、1) 佐渡島の甲虫群集の特徴をα、β、γ多様性の 3 段階
の観点から明らかにし、2) 佐渡島の甲虫における形態的な特徴を明らかにし、
3) その特徴が形成された要因を考察することを目的とした。ここでは、α多様
性は調査地点内の多様性を、β多様性は調査地点間の種組成の違いを、γ多様
性は佐渡の調査地全体及び本土の調査地全体での多様性を表す。
調査地は、佐渡島では 9 地点設定し、本州では群馬県の三国山、谷川岳、玉
原高原、新潟県の浅草岳、粟ヶ岳に計 12 地点設定した。各調査地で 10 × 20
mの調査区を設定し、ピットフォールトラップを 2m 間隔で格子状に 50 個設置
し 2 日後に回収した。調査は 2002、2003 年の 6、8 月に行った。体サイズは、
オサムシ科で多く捕獲された種について、指標として体長を測定し比較した。
その結果、101 種 3680 個体が捕獲され、群集構成に関しては、α多様性に違
いはみられずβ多様性が佐渡島で低く、それによってγ多様性も若干低い傾向
がみられた。これは、小型捕食者の種数が佐渡島において少ないためであった。
本研究において佐渡島で捕獲された小型捕食者の大半は低山地性もしくは平地
性の種であった。移動能力の高い低山地性及び平地性の種は本州と陸続きだっ
た時期に佐渡島に侵入したが、移動能力の低い種はほとんど侵入できなかった
ために、種数が少なくなっていることが示唆された。体長に関しては、春繁殖
の種の体長が佐渡島で大きく、温量指数 (>5 ℃) との間に正の相関が認められ
た。佐渡島は本州と比較して春に比較的温暖なため、春繁殖の種の活動期間が
長く幼虫期間も長くとれるために大きくなっている可能性が示唆される。
O2-W12
12:00-12:15
早池峰山のアカエゾマツ南限地におけるアカエゾマツとキタゴヨウ、
コメツガ、ヒバとの競合関係
◦
池田 紘士1, 久保田 耕平1, 本間 航介2
1
1
O2-W11
11:45-12:00
佐渡島のブナ残存林に棲息する地表徘徊性甲虫の群集構成及び体サイ
ズに関する特徴
◦
佐藤 綾1, 曽田 貞滋1, 上田 哲行2, 榎戸 良裕3, 白 種哲4, 堀 道雄1
O2-W09
山地小流域における冷温帯林の 12 年間の森林動態?林冠ギャップと地
形との関係?
◦
杉田 久志1, 金指 達郎1, 高橋 誠2
12:15-12:30
本間 多恵子1, 杉田 久志2, 國崎 貴嗣3
1
岩手大学院農, 2森林総研東北, 3岩手大学農
1
森林総合研究所東北支所, 2林木育種センター
早池峰山には南限のアカエゾマツ集団があり、最終氷期以降の植生変遷の
過程で衰退してわずかに残った遺存林として学術的に貴重であることから天
然記念物、自然環境保全地域として保護されている。しかし、1948 年の土石
流被害を免れた中州状の成熟林分ではアカエゾマツはキタゴヨウ、コメツガ、
ヒバと混交し、アカエゾマツの稚樹がほとんどみられないことが報告されて
いる。一方、土石流跡地ではそれらの樹種と混交してアカエゾマツの更新樹
が多数みられる。アカエゾマツの存続を考える上で重要なそれらの樹種との
競合関係を明らかにするため、中州地の成熟林分に 40m 四方の、土石流跡
地の更新林分に 10m × 50m のプロットを設置し、林分構造を解析した。
土石流被害を免れた成熟林分では、林冠層で最も優占しているのはキタゴ
ヨウであり、アカエゾマツがそれに次いだ。亜高木層ではコメツガが圧倒的
に優占し、低木層ではヒバが優占した。アカエゾマツの稚樹は閉鎖林冠下、
ギャップともに少なく、アカエゾマツの更新はあまり期待できない。次世代
の森林は、コメツガの、さらにはヒバの優勢なものへと移行していくと推察
される。一方、土石流跡地の更新林分ではキタゴヨウとアカマツが最も成長
が良く、それに次いでダケカンバ、ウダイカンバ、ナナカマド、アカエゾマ
ツなどが林冠層を形成していた。アカエゾマツはこれらの樹種と競合しなが
ら林冠構成樹種として存続していくと考えられる。
土石流は、コメツガやヒバへの植生遷移のトレンドをリセットするとともに、
鉱質土層の露出した更地を形成し、落葉・腐植に覆われた地表では稚樹の定
着が困難なアカエゾマツに更新場所を提供する。一定の期間を置いて繰り返
し発生した土石流による破壊とその後の再生のなかでこのアカエゾマツ集団
が維持されてきたと考えられる。
広がりを持った山地天然林は様々な地形にまたがると同時に、その林冠状態
は閉鎖林冠、ギャップといった異なる状態のモザイクとなっている。様々な
微地形が含まれる山地小流域では地形や林冠状態が森林動態に影響を及ぼし
ていることが予測される。そこで、本研究では枯損木及び新規加入木の空間
的分布が林冠状態及び斜面位置によって傾向が異なるか解析した。
調査地は岩手県雫石町、岩手大学御明神演習林の大滝沢試験地内の 4ha の小
流域である。この森林は一斉林からモザイク林への移行段階にあると考えら
れ、1973 年頃から林冠ギャップ形成がはじまり、1991 年以前の林冠ギャッ
プ面積比率は 6.2 %だった。主要構成樹種はヒバ、ホオノキ、スギ、ブナ、
トチノキ、アカイタヤ、ミズナラ、サワグルミである。1991 年、1998 年、
2003 年に毎木調査を行い、12 年間の枯損木、新規加入木(3 cm)の斜面
位置、林冠状態を記録した。
調査開始時の林分全体での出現樹種数は 39 種で、本数は 606 本/ha、胸高
断面積は 44.79 m2 /ha、加入率は 0.91 %/年、死亡率は 1.41 %/年、胸高断
面積の増加率は 0.88 %/年、減少率は 0.90 %/年であった。死亡率や胸高断
積の増加率、減少率の斜面位置による違いはみられなかったが、加入率は斜
面下部で大きい傾向がみられた。立ち枯れ木はギャップ周辺に集中する傾向
はみられなかったが、台風による枯損では古い林冠ギャップが拡大した事例
もあった。新規加入木については、サワグルミ、コシアブラ、クサギ、クリ
などは林冠ギャップ及び周辺に集中して出現し、ヒバ、スギは林冠下に分布
していた。また、斜面下部の林冠ギャップにおける新規加入木ではサワグル
ミが、斜面上部ではコシアブラが優占した。
— 307—
O2-X01
口頭発表: 保全・管理
O2-X01
O2-X02
09:30-09:45
DNA を指標とした外洋性鳥類のコロニー間の遺伝的交流
◦
8 月 27 日 (金) X 会場
イヌワシの繁殖活動を制約する要因:育雛期における餌のスイッチン
グの影響
馬場 芳之1, 小池 裕子1, 岡 奈理子2
◦
1
九州大学, 2山階鳥類研究所
オオミズナギドリ Calonectris leucomelas は、日本を中心に東アジアの離
島で集団繁殖する外洋性鳥類であり、日本では現在、52 箇所の繁殖地が知
られている。生態研究が徐々に進み、雛の成長や給餌・索餌生態、越冬経路
などの興味深い生態が明らかにされつつあるが、繁殖地間や世代を超えた
遺伝的な関係はほとんどわかっていない。本研究は、オオミズナギドリの
コロニー間の遺伝的交流を明らかにするために、ミトコンドリア DNA 塩
基配列を遺伝的マーカーとして分析した。
これまでに鹿児島県ハンミャ島から 草垣島、沖ノ島、Sasudo 島、大波
加島、御蔵島、粟島、岩手県日出島の、計 8 コロニーから計 135 羽の、血
液、羽毛または死亡個体から採集した組織片いずれかの分析試料を用いて、
ミトコンドリア DNA コントロ-ル領域ドメイン I のうちの 350bp(塩基対)
の DNA 塩基配列を決定した。その結果、97 ハプロタイプに分類された。
近隣接合樹や、ネットワーク樹でハプロタイプ関係のつながりを調べた
ところ、各コロニー由来の系統は検出されず、各コロニーのハプロタイプ
が樹形内に重複を含めランダムに存在しており、遺伝的な交流があること
が示唆された。
かつて約 175 万 ∼350 万羽が生息すると推定された伊豆諸島の御蔵島
のコロニーではこれまでに 35 試料を分析した。これらのハプロタイプ多
様度 (h) は 0.99 7で、塩基多様度 (π) は 0.024 であった。これらの値は、
これまでに論文等で報告された鳥類の中では、ハイガシラアホウドリやス
スイロアホウドリと同様に非常に高い値であった。冠島で行われてきた標
識調査では、いったん繁殖を開始すると、毎年ほぼ同じ巣穴で繁殖する事
例が示され、本種は地理的回帰性が高いとみられるが、高いハプロタイプ
多様度、および塩基多様度の値は、本種が、長期にわたり安定的に異なる
コロニー間で遺伝的な交流を重ねてきたことを示すものと判断される。
学会までにさらに未解析試料の DNA 塩基配列を解析し、あわせて報告
する。
O2-X03
布野 隆之1, 竹内 亨2, 関谷 義男1, 梨本 真2, 松木 吏弓2, 阿部 聖哉2, 阿部 學3, 関島 恒
夫1
1
新潟大学大学院・自然科学, 2(財) 電力中央研究所・応用生物部, 3日本猛禽類研究機構
多くの鳥類では,季節的な生息空間や餌密度の変化に伴い,採餌環境や餌種
を変えることが知られている.この変化が育雛期に当たるとき,雛は,親鳥が
給餌する餌の量的・質的変化に曝されることとなる.そのため,親鳥による季
節的な餌利用特性は,雛の健全な成長やその後の生存に関わる重要な要因とい
える.
イヌワシは本州から九州の落葉広葉樹林帯に分布する大型の希少猛禽類であ
り,その育雛期は消雪・落葉広葉樹の展葉に伴う生息空間や餌密度の季節変化
の時期に相当する.これまでに,我々が新潟県に生息するイヌワシを対象に行っ
た調査の結果,消雪・落葉広葉樹の展葉の進行に伴って,雛への給餌動物がノ
ウサギからヘビ類に切り替わること(以下,スイッチングとする),加えて,こ
のスイッチングの時期を境に雛への餌搬入量が減少することが明らかとなって
きた.餌質の急激な変化や給餌量の減少は,雛の成長量の低下や栄養状態の悪
化,さらに,餓死に至る場合も考えられるため,雛の生存に重大な影響を及ぼ
している可能性がある.特に,育雛ステージの早期にスイッチングが生じた場
合,雛の生存力は低いため,スイッチングの影響を受けやすいと予測される.
そこで本研究では,イヌワシの育雛期および消雪・落葉広葉樹の展葉期が異
なる 2 地域において,1) イヌワシの繁殖開始時期,2) イヌワシ行動圏内にお
ける消雪・広葉樹の展葉の進行状況,3) イヌワシの餌動物利用,4) 雛の巣立
ち率を評価し,それらの地域間比較から餌のスイッチングが雛の生存に与える
影響を明らかにする.そして,スイッチングを考慮したイヌワシ生息地管理対
策について提言を行う予定である.
O2-X04
10:00-10:15
Counting in the dark: census vs. effective population size estimation in
the endangered Bang ’s leaf-nose bat (Hipposideros turpis: Chiroptera,
Hipposideridae). The case of Yonaguni Island
◦
09:45-10:00
10:15-10:30
音声変異から見た日高南部個体群のエゾナキウサギの保全
◦
小島 望1
1
北海道教育大学岩見沢校
Echenique-Diaz Lazaro M.1, Yokoyama Jun1, Kawata Masakado1
1
東北大・生命科学
A DNA sampling and marking procedure for behavioral studies on H. turpis,
in Yonaguni Island, gave a data set, which was also useful for population
size estimation. Three mark-recapture estimates gave a census size (N c ) of
between 449 to 644 bats. Conversely, a maximum-likelihood estimate of historical effective population size (N eI ) gave 1257 bats. This 3-fold ratio of N eI
/N c suggests that the Yonaguni population has declined. However, a cryptic
bottleneck test implied that there has been no deviation from mutation-driftequilibrium in the past. Populations suffering from census number reduction
(demographic bottleneck) may not exhibit a reduced N eV (genetic bottleneck)
if the historical N eV has always been low as a result of fluctuations in population size. We hypothesize that a bottleneck could not be detected bacause
insufficient time has elapsed since the population declined. It is also possible that a long term decline due to human impacts, might have occurred even
without a bottleneck. H. turpis in Yonaguni Is. shows marked differences
in roosting behaviour compared with other island populations. Furthermore,
microsatellite analysis has suggested that this is an isolated population. Our
results suggest that a reconsideration of the conservation status of the this
population is necessary.
エゾナキウサギ Ochotona hyperborea yesoensis は,北東アジアに分布
するキタナキウサギの北海道固有亜種で,おもに森林限界を超えた高山
帯に生息する.エゾナキウサギは,最終氷期に道内に広く分布していた
が,後氷期の気候温暖化とともに山岳地帯に隔離され,遺存的な隔離分
布を呈したと考えられている.そうした中で,分布域の南限にあたる日
高南部の個体群は,幌満川沿いの標高 50m をはじめとして,低標高地に
認められる.
演者は,1996 年から継続的に,日高・夕張・大雪山系の3個体群にお
ける音声を収録してきた.音声のうち,特になわばりの誇示やつがい維
持・形成の役割を果たすとされる成体雄が発するロングコールについて,
重点的に分析を行なった.その結果,日高南部の個体群の音声にのみ,特
殊なソナグラムが多数確認された.以上により,日高南部の個体群は,他
の個体群と比べてとりわけ低い標高地に生息することと,特殊なソナグ
ラムが現出されたことから,他の個体群とは異なる隔離遺存の機構が推
論された.
日高南部の個体群は,上記に加えて,生息地が散在したメタ個体群を
形成すること,それぞれにおいて個体数が少ないことから,特に保全に
留意すべきと考える.ところが,このような日高南部個体群の生息地に
おいて,大規模林道平取・えりも線の建設工事が進められている.この
工事は,日高南部の特殊な個体群の存続にとって深刻な影響を与える恐
れが大きいので,保全生態学の立場から,この林道建設は容認できるも
のではない.
— 308—
口頭発表: 保全・管理
O2-X05
10:30-10:45
知床半島におけるヒグマの冬眠穴の構造と立地条件の特性
◦
O2-X06
田戸 裕之1, 杉本 博之1, 桑野 泰光1, 伊藤 直弥2, 山田 昌宏2, 細井 栄嗣2
1
山口県林業指導センター, 2山口大学農学部
1
知床財団
山口県では、1998 年・2001 年・2004 年と3年おきに区画法及び糞塊密
度調査法により生息頭数の推定を行ってきた。区画法はニホンジカの保
護管理の対象地域内で12箇所行い、同地域において糞塊密度調査も行
うことにより、相関式を作成し、生息密度を推定する基礎とした。この、
調査区域の単位は、調査時点での生息分布地域を生息密度が同程度と考
えられるユニット(約4k m2 )に分割し、糞塊密度調査を行った。そ
の結果を全体の生息密度及び推定生息頭数とした。
生息分布は年々拡大しており、1998 年は 180 ユニット、2001 年は 200
ユニット、2004 年は 220 ユニットを調査した。その間の年は、1/4の
ユニットを調査対象として、モニタリング調査を行った。山口県のニホ
ンジカは、生息分布が近県の島根県弥山半島、広島県可部付近、福岡県
の個体群とは隔離された状態にあり、個体群間の行き来は全くないと考
えられる。
捕獲に関しては、近年までオスジカの捕獲禁止措置を行ってきたことや、
ワナ架設禁止区域を設定しているため、狩猟による捕獲が有害駆除によ
る捕獲に比べて著しく少なく、2002 年度有害駆除が 1093 頭であるのに
対し、狩猟は 142 頭であった。このことから、山口県のニホンジカに関
する捕獲データは、有害駆除に伴う情報がほとんどである。ニホンジカ
の管理に関するあいまいな情報が多い中で、捕獲データの誤差は少ない
と考えられる。生息頭数は 1998 年の推定値から、捕獲頭数によるシミュ
レーションを行い、2001 年及び 2004 年において評価したが、シミュレー
ションのとおりとはならず、その生息頭数を捕獲数から説明するのは困
難であった。捕獲頭数と生息頭数の関係から、その生息頭数を推定して
いた基礎となる区画法による生息密度と糞塊密度の相関式を、現実の生
息頭数の推移に沿ったものとなるように、改良を加えた。
クマ類は中型以上の哺乳類で唯一冬眠を行うことが知られており、しかも、
妊娠したメスは冬眠中に出産と育児も行う特異な生態を持っている。冬眠
はクマ類の生活史の中で極めて重要な位置を占めるが、北海道に生息する
エゾヒグマでは冬眠穴の立地する環境やその構造について十分な研究は行
われていない。
本研究では、1989 年から 2004 年の間、知床半島において 46 例のヒグマ
の冬眠穴の位置を特定し、内 21 例について計測を行った。
ヒグマの冬眠穴は、樹木の根張りを利用してその下に掘り込むタイプ(ST
型)と樹木に依存することなく地面に掘る土穴(S 型)に分けられる。ま
た、自然の穴を利用するものは岩穴と樹洞に分けることができる。本研究
では冬眠穴のタイプを確認できた 25 例中 20 例(80%)が S 型であった。
また、構造は入り口が一つで、その奧に寝床がある単純な構造であった。入
り口から寝床まで直線的は位置されたものが 13 例(62%)で最多であっ
た。奥行きは平均 2.14m、最大幅は平均 1.32m であった。
知床半島では、冬眠穴は海岸段丘斜面など低標高の海岸部から高山帯のハイ
マツ帯まで幅広い環境に存在しており、46 例中半数の 23 例は高木層を欠
く高山・亜高山植生の地域や海岸段丘斜面にも立地していた。これらはダ
ケカンバを中心とする高木層を持つ上部広葉樹林帯の森林内に冬眠穴が集
中的に分布するとした大河(1980)による支笏湖周辺での立地条件と大き
く異なっていた。また、知床半島では支笏湖周辺では確認されなかった人
間の活動域に近接した場所の冬眠穴や平坦地に掘られた冬眠穴も見られた。
また、海外の研究例では、一定の地域に冬眠穴が集中的に分布する事例が
報告されており、その要因として個体毎の地域選択性や特定の年の個体群
の分布特性があげられている。知床半島でも3ヶ所以上の冬眠穴を確認で
きた個体について、一定の場所を選択的に使う傾向が見られた。
O2-X07
11:00-11:15
猟期延長と狩猟者減少がニホンジカ個体群動態に及ぼす影響
◦
10:45-11:00
山口県におけるニホンジカの生息頭数推移
◦
山中 正実1, 岡田 秀明*1
O2-X05
8 月 27 日 (金) X 会場
坂田 宏志1,3, 鈴木 牧1, 濱崎 伸一郎2, 横山 真弓3
1
兵庫県立大学, 2野生動物保護管理事務所, 3兵庫県立人と自然の博物館
1999 年から 2003 年までの、兵庫県におけるニホンジカの密度指標や狩
猟圧と土地利用や植生、気象などの環境条件のデータから、シカの個体
数変動を分析・予測した試みを発表する。特に、これまでの予測結果の検
証や、2003 年度の猟期延長の影響、狩猟者人口の変化の予測結果などを
ふまえて、試行錯誤のうえに予測モデルを修正した過程を発表する。ま
た、今後の狩猟期間の調整や狩猟者減少があった場合のシカの密度の増
減をシミュレーションした結果を示す。
O2-X08
11:15-11:30
ニホンジカ個体群の密度依存性ー 環境収容力と管理効率に関する再
検討ー
◦
立澤 史郎1
1
北海道大学大学院文学研究科地域システム科学講座
近年,農林業被害だけでなく,生態系の保全・復元の観点からも,各地
でニホンジカの「増えすぎ」が指摘され,密度管理の努力が続けられてい
る.その際,個体群密度が「環境収容力」を超えたことが管理の論拠と
されたり,低密度で安定的に推移させて絶滅と食害の双方を防ぐことを
管理目標におく場合がある.しかし,そもそも密度変動データから解析
的に求められる生態学的環境収容力がニホンジカで算出された例はほと
んどない.また,環境収容力算出の前提であり,動態予測や密度管理の
効率性検討に不可欠な,個体群パラメーターの密度依存性の検討もほと
んど行われていない.そこで,マゲシカ(馬毛島個体群)などを材料に,
個体群パラメーターの密度依存性の検討と環境収容力の算出を行った上
で,これらを前提とした密度管理手法の可能性や問題点を検討したい.
— 309—
O2-X09
口頭発表: 保全・管理
O2-X09
O2-X10
11:30-11:45
北海道南西部におけるニジマスの定着条件
◦
◦
米倉 竜次1, 高村 典子1, 西廣 淳2
1
国立環境研究所・生物多様性研究グループ, 2東京大学・農学生命科学研究科
1
愛媛大学大学院理工学研究科, 2愛媛大学理学部
現在、多くの野生生物が本来の生息地以外の地域に持ち込まれており、
それら外来種が在来生物群集に及ぼす影響が懸念されている。しかしな
がら、持ち込まれた外来種が必ずしも定着に成功するとは限らない。定
着の成否を左右する環境要因を検討することは、外来種の管理を考える
うえで重要である。
北アメリカ原産のニジマスは“ 世界の侵略的外来種ワースト 100 ”に選
定され、生態系への影響が懸念される外来魚である。日本では 1877 年
から全国各地に遊漁資源として移植されてきたが、本州、四国、九州に
おいてはほとんど定着が確認されていない。一方、北海道では 70 を超え
る水系で本種の生息が確認されている。ニジマスの定着の成否には、河
川の環境特性と近縁在来種との競合といった様々な要因が関与している
と思われる。
本研究ではニジマスの定着に影響を及ぼす要因を明らかにするために
北海道南西部の 15 河川で野外調査を行い、ニジマスの生息の有無、お
よび生息密度と環境要因との関係を検討した。その結果、ニジマスの定
着には河川流量の安定性が強く関与していることが示唆された。
霞ヶ浦(茨城県)では過去最大 23 種あった沈水植物群落が現在,ほぼ壊滅
した状態にある. 特に,富栄養化による透明度の低下は散布体バンク(再
生可能な状態で休眠している種子や胞子など)からの個体の再生を著しく
阻害することにより,沈水植物群落の消失に大きく関与している.我々は,
欧米で広く応用されているバイオマニピュレーション(生物操作)が霞ヶ
浦の透明度を改善させ沈水植物を再生させる手段として有効であるかどう
かを野外操作実験により確かめた.実験は 32 基のペン型エンクロジャーを
霞ヶ浦・石川地区の沿岸域に設置し,
「外来魚ブルーギルの有無」と「シュー
トとして移植する水草種(カナダモ類もしくはササバモ)」をそれぞれ独自
に操作することで,
(1)ブルーギルの除去が沈水植物群落の再生(現存量)
を促すか,
(2)シュートとして移植した水草種の違いが散布体バンクから
再生する水草種の現存量ならびに種数に与える影響を与えるか,
(3)再生
された水草種の違いが水中栄養塩濃度に与えるかどうかを評価した.実験
の結果によると,ブルーギルの除去により隔離水界内の甲殻類プランクト
ン(特に大型種)の現存量の増加と植物プランクトンの減少が生じ,透明
度が増加した.隔離水界内における透明度の増加により,ブルーギルを除
去した実験区ではブルーギルを導入した実験区と比較して 1.6 倍から 9.0
倍の沈水植物が再生されたが,カナダモ類を移植した実験区ではその独占
的な繁茂により散布体バンクからの他種の水草種の再生は著しく阻害され
た.対照的に,ササバモを移植した実験区では散布体バンク由来と思われ
るオオトリゲモやコウガイモなどの多様な水草種が再生された.水中の栄
養塩濃度は主に沈水植物の再生により減少する傾向にあったが,その程度
は隔離水界内で卓越する水草種により大きく影響された.
12:00-12:15
淡水産巻貝サカマキガイ Physa acuta における Cd の生物濃縮と成長
と生殖に与える毒性影響
◦
11:45-12:00
外来魚ブルーギルの除去による沈水植物群落の再生
宮田 浩1, 井上 幹生2
O2-X11
8 月 27 日 (金) X 会場
福田 朱里1, 内海 真生1
1
筑波大学生命環境科学研究科
カドミウム(Cd)は汚染のない自然環境下においてもほとんどすべての魚
介類から微量ながら検出される重金属である。カドミウムは多くの生物、特
に微生物や軟体動物では容易に蓄積されることが知られているが、濃縮の程
度は生物により異なることからさまざまな生物においてその生物濃縮性につ
いての知見が求められている。有肺類は金属結合タンパク質のメタロチオネ
インを持っているが、このメタロチオネインは体内微量金属濃度を制御した
り有害金属を無毒化したりするなどの多機能タンパク質として知られている。
メタロチオネインをもつことから有肺類はカドミウムを生物蓄積する能力が
高く、食物連鎖による蓄積(biomagnification)によって生態系に及ぼす影響
は大きいと考えられる。
本研究では、淡水産巻貝有肺類であるサカマキガイ(Physa acuta)を室内
の制御環境下でカドミウム濃度 0.1, 10, 1000 µg/L に 3 週間暴露すること
で、カドミウムがサカマキガイの成長と生殖に与える影響と生物濃縮係数
(BCFs)を解析し、カドミウムの慢性毒性影響を評価することから、サカマ
キガイを淡水環境のリスクアセスメントに用いる際の有効性を評価すること
を目的とした。
野外で採集したサカマキガイについて実験室環境下で 1 週間順応させた
後、コントロール(カドミウムを含まない)を含む 4 濃度処理区において 3
週間の暴露を行った。成長に与える影響評価として、殻長を測定しその変化
を解析した。また生殖に与える影響評価として、個体あたりの産卵数と卵塊
数、卵塊あたりの卵数の計数を行った。暴露実験終了後、個体は-20◦ C で冷
凍保存し、ICP 質量分析法(ICP-MS)によってサカマキガイ体内の蓄積カド
ミウム濃度を測定した。生物濃縮係数は(巻貝の体内 Cd 濃度)/(試液 Cd
濃度)から算出した。
— 310—
口頭発表: 個体群生態
O2-Y01
O2-Y02
09:30-09:45
密植されたヒノキ苗個体群における平均地上部重、地下部重と密度と
の関係
◦
◦
勝又 暢之1
1
千葉大学大学院 自然科学研究科
1
名古屋大学大学院生命農学研究科
立地環境の相違が,針葉樹実生の定着サイトとなる腐朽倒木の有効性に
どのような影響を与えるのか,さらにそれが群落動態にどのような影響
を及ぼすか明らかにするために,富士山亜高山帯針葉樹林の閉鎖林分,林
冠ギャップならびに風倒跡地において,腐朽段階ごとに倒木量を測定し,
これを利用するシラベ(Abies veitchii)ならびにトウヒ(Picea jezoensis
var. hondoensis)実生の分布量ならびに定着位置を調査した.
倒木の総量は攪乱の有無,規模を反映して閉鎖林分,林冠ギャップ,風
倒跡地の順に多くなった.しかし,実生定着が認められる腐朽段階は限
られており,その倒木量は閉鎖林分ならびに林冠ギャップでは同等,風倒
跡地では相対的に少なかった.シラベ実生の分布は閉鎖林分ならびに林
冠ギャップでは倒木上で多く,地表面では少なかった.これに対し風倒跡
地では倒木上よりも倒木直近の地表面に多く分布していた.トウヒ実生
はどの立地においても倒木上に多く分布した.林冠ギャップならびに風倒
跡地ではトウヒ実生にも倒木直近の地表面で分布が多くなる傾向が認め
られた.しかし,シラベに比べればその程度は小さく,定着に適した腐
朽段階をもつ倒木量の減少に合わせて実生分布量が少なくなっていた.
これらの結果から,閉鎖林分ならびに林冠ギャップにおいては腐朽倒
木上が定着セーフサイトとなるが,風倒跡地においては倒木上ではなく,
倒木直近の地表面が定着セーフサイトとして機能すること,つまり針葉
樹実生の定着に対する倒木の有効性は普遍的なものではなく,立地環境
の相違によって変化することが明らかとなった.さらに腐朽倒木の存在
と実生分布の結びつきが強いトウヒは風倒跡地のような立地環境では排
除され,その更新が阻害されることが示唆された.
樹木をはじめとする植物の自己間引きの3/2乗則に関する研究は、
地上部に関した研究例がほとんどであり、地下部に関した研究例はほと
んどない。本研究では、地下部も考慮して、密植されたヒノキ苗個体群
における平均個体サイズと密度との関係を解析した。
平均地上部重と密度との関係は内藤の式(1983)で近似された。この
式において自己間引き指数は3/2に近い値を示し、地上部においては
3/2乗則が成立しているとみなせた。平均地下部重と平均地上部重と
の相対成長関係から、平均地下部重と密度との関係が誘導された。この
誘導式において自己間引き指数は3/2より小さい値を示した。これは、
相対成長係数が1より小さいためであった。
以上の結果をもとに、平均地下部重/平均地上部重比と密度との関係
を吟味した。
O2-Y04
10:00-10:15
春日山原始林における移入種ナギとナンキンハゼの分布とその要因解析
◦
09:45-10:00
針葉樹実生の定着に対する倒木の有効性と立地環境の関係
小川 一治1
O2-Y03
O2-Y01
8 月 27 日 (金) Y 会場
春日山原始林に侵入したナギとナンキンハゼの個体群構造の空間的差異
◦
前迫 ゆり1, 名波 哲2, 神崎 護3
1
奈良佐保短期大学・生態, 2大阪市大院・理・生物, 3京大院・農・森林科学
10:15-10:30
名波 哲1, 前迫 ゆり2, 神崎 護3
1
大阪市大院・理・生物地球, 2奈良佐保短期大学・生態, 3京大院・農・森林科学
春日山原始林特別天然記念物指定域(34o 41’N, 135o 51’E;298.6ha)に発達する
照葉樹林は、奈良公園一帯のニホンジカ個体数の増加を背景に,近年、大きな
負荷を受けている(前迫 2001,2002; 立澤ほか 2002;山倉ほか 2001)。2003
年度大会において,移入種であるナギ Podocarpus nagi(約 1200 年前に春日
大社に献木されたのが起源とされる中国地方以南分布種)およびナンキンハゼ
Sapium sebiferum(約 60 年前に奈良公園に街路樹として植栽された中国原産種)
が原始林域に侵入していることを報告した。その後,さらに調査域を拡大し,
両種の分布に関する定量的把握と分布特性の解析を試みたので報告する(なお,
個体群構造については名波ほかが報告)。
2002 年4月に奈良公園側の春日山原始林域西端から調査を開始し,2003 年 11
月までに約 90ha を踏査した。当年生実生を含む全個体または個体パッチの位
置を GPS を用いて記録し,その後,両種の分布を GIS (Arc view) を使用して
サイズ別に地図上に示した。
林冠タイプをギャップ,ギャップ辺縁,疎開林冠および閉鎖林冠に区分し,個
体数比率を算出した結果,ナンキンハゼ(N=9131)はそれぞれ 74.2%, 11.0%,
13.4%, 1.5%,ナギ(N=7566)はそれぞれ 5.0%, 6.9%, 48.9%, 39.3%であり,ナ
ンキンハゼの侵入とギャップ形成との対応が明確であった。また両種の個体数
とシードソースからの距離との関連性を検討した結果,ナギは 3 方位(NW-N,
N-NE, E-SE)においてそれぞれ負の有意な相関が認められた。一方,ナンキン
ハゼはいずれの方位においても有意な相関は認められなかった。両種の分布特
性から,照葉樹林における移入種の分布・拡大について考察する。
奈良公園東部に位置する春日山原始林は都市域に残された貴重な照葉樹林であ
るが、現在、ナギとナンキンハゼの侵入および分布拡大が進行している。原始
林内の約 90 ha を踏査し、両種の定着個体の分布およびサイズを記録した。
確認された個体数(総数は前迫らが報告)の割合をサイズ別に見ると、ナギの
場合、樹高 130 cm 以下の個体が 51.8%、樹高 130 cm 以上かつ胸高直径 10
cm 以下の個体が 41.3%、胸高直径 10 cm 以上の個体が 6.9%であった。ナン
キンハゼの場合はそれぞれ 90.1 %、9.0 %、0.9 %であった。胸高直径 10 cm
以上のナギの個体は 104 地点で確認されたが、その 69.2 %において、下層に
ナギの稚樹が生育していた。ナンキンハゼの場合は、胸高直径 10 cm 以上の個
体が確認された地点において、稚樹も同時に確認されたところは少なく、31 地
点中 3 地点(9.7%)にとどまった。陽樹であるナンキンハゼの稚樹は親木の下
での更新が難しいと考えられる。
ナギの胸高直径 10 cm 以上の個体の分布を見ると、原始林の東側、つまり分布
拡大を開始したと考えられるエリアから遠い場所には少なく、調査域内にナギ
の侵入の時間的なグラディエントが表れていると考えられた。このことはナギ
の種子の分散力が小さいことや個体の成長速度が遅いことに起因すると思われ
る。一方ナンキンハゼの場合は侵入の歴史が浅いにも関わらず、分布拡大を開
始したと考えられる奈良公園から遠いエリアにも胸高直径 10 cm 以上に成長し
た個体が確認され、分散力の大きさ、あるいは成長速度の速さが反映されてい
ると考えられる。
ナギとナンキンハゼは原始林内の広い範囲に既に多数の個体が定着しているこ
とが明らかになったが、両種の生活史特性の違いから、分布拡大のプロセスは
大きく異なると考えられる。
— 311—
O2-Y05
口頭発表: 個体群生態
O2-Y05
8 月 27 日 (金) Y 会場
O2-Y06
10:30-10:45
10:45-11:00
秋田スギ天然更新林分における更新様式の解析 1.群落構造と栄養
繁殖様式
◦
蒔田 明史1, 阿部 知行1, 三嶋 賢太郎2, 高田 克彦2, 澤田 智志3
(NA)
1
秋県大・森林科学, 2秋県大・木高研, 3秋田県森技セ
秋田県には樹齢 200 年を越すスギ高齢林分が残存しており、「天然秋
田スギ林」と称せられている。しかし、こうした林の由来や更新特性に
ついては、必ずしも明らかになってはいない。古文書に植栽記録のある
地域も一部あるものの、そのほとんどは天然更新に由来すると考えられ
ている。しかし、実在する天然林が実生更新に由来するものなのか、そ
れとも、多雪地に特有の伏条や立条(萌芽)更新などの栄養繁殖に由来
するものなのかについては結論が出ていない。
そこで、本研究では、スギ林の更新特性を明らかにすることを目的と
し、栄養繁殖による更新様式に注目して調査を行った。調査地は、秋田
県琴丘町上岩川地方のスギ天然更新林分である。一般にスギの天然更新
は困難であるといわれるが、この地方では粗放的ではあるが、栄養繁殖
を利用したスギ択伐天然更新施業が行われ、全国的にも特異的な施業と
して注目されてきた。この地域において林冠の状態の異なる調査区を3
カ所設定し、毎木調査を行うと共に、現地で判別できる物については個
体間のつながりを記載した。群落は小径木の多い明らかなL字型のサイ
ズ分布を示したが、小径木の多くは栄養繁殖によるものではないかと推
論された。発表では、このような群落構造の特徴と共に、栄養繁殖様式
や幹下部からの出枝様式などの形態的特徴を報告する。
O2-Y07
O2-Y08
11:00-11:15
秋田スギ天然更新林分における更新様式の解析 2.SSR マーカーによる
更新動態の解析
◦
三嶋 賢太郎1, 平尾 知士1, 高田 克彦1, 阿部 知行2, 蒔田 明史2, 澤田 智志3
1
秋田県立大学 木材高度加工研究所, 2秋田県立大学 森林科学, 3秋田県森林技術センター
スギ天然林の更新には、実生更新のみならず、伏条・立条更新が大き
な役割を果たしていると考えられている。特に、日本海側の多雪地域で
は個体のサイズや立地条件よって、下枝が毎年の雪圧の影響を受けて地
面に接し、伏条化することが知られている。本研究ではスギ天然林の更
新様式の実態解明を行うことを目的として、秋田県のスギ天然更新林分
おいて実生、伏条、立条といった更新様式ごとの遺伝的・空間的広がり
を野外調査及びゲノム解析によって調査した。
秋田県琴丘町上岩川地域のスギ天然更新林分内に、立地条件の異なる
2か所の調査区(P1:30 × 30m、P3:20 × 20m)を設定した。さらに
それぞれの調査区内に小調査区(PC1、PC3)を設定した。P1 及び P3 内
の樹高 1.3m 以上のスギ個体について樹種、位置、サイズ等を調査する
と共に、針葉サンプルを採取してゲノム解析を行った。ゲノム解析には
5 種類のマイクロサテライトマーカーを用いた。PC1 及び PC 3につい
ては、全スギ個体を対象に上記の解析を行った。その結果、P1 と P3 調
査区で異なる更新・繁殖構造が認められた。本発表では、これらの更新・
繁殖構造の違いと立地環境との関係を検討すると共に、PC1 及び PC3 の
個体を用いて行ったより詳細な更新・繁殖構造の解析結果を報告する。
11:15-11:30
葉緑体 DNA 多型を用いたケヤキの地理的変異の解析
◦
生方 正俊1, 上野 真一2, 平岡 裕一郎3
1
林木育種センター, 2林野庁, 3林木育種センター九州育種場
ケヤキは、本州、四国、九州、朝鮮、台湾、中国大陸に天然分布してい
る、利用価値の高い広葉樹の一つである。天然林の遺伝資源を効果的に
保全・管理していく上で,地理的な遺伝変異を明らかにすることは重要
である。今回は、ケヤキの葉緑体 DNA の多型を PCR-RFLP 法を用い
て解析した。被子植物においては,葉緑体 DNA は,母性遺伝するとさ
れており,種子の散布によってのみ移動が可能であることから,地理的
変異を解明するのに適しているといわれ、コナラ属(Petit et al.、1993)、
ブナ(Okaura and Harada、2002)、アラカシ(Huang et al.、2002)等を
用いた報告がある。
材料は、福島、新潟県から熊本、宮崎県に生育し、林木育種センター本
所、関西育種場および九州育種場につぎ木で保存されている 320 個体と
韓国産の 9 個体、計 329 個体である。成葉から抽出キットを用いて全
DNA を抽出した。葉緑体 DNA の atpB - rbcL 領域を PCR 増幅し、制
限酵素 Taq I で切断した。MetaPhor Agarose(BMA 社)ゲルによる電気
泳動の結果、日本産 320 個体中、9 個体が他の 311 個体とは異なるハプ
ロタイプを示した。これらの 9 個体の産地は、九州の福岡県、大分県、
熊本県であり、三県が接する地域に集中していた。さらに韓国産の個体
は、すべてこの 9 個体と同じハプロタイプだった。気候等の変化に伴う
地史的なケヤキの分布変遷が、葉緑体 DNA ハプロタイプの地理的変異
に影響していることが示唆された。
— 312—
口頭発表: 個体群生態
O2-Y09
8 月 27 日 (金) Y 会場
11:30-11:45
マスティングの波及効果:ノルウェー南部で観測された階層的時系列
データの解析
◦
佐竹 暁子1, オッター ビヨーンスタット2, スベラ コボロ3
1
京都大学生態学研究センター, 2ペンシルバニア州立大学, 3ノルウェー作物研究所
多くの植物の開花および種子生産レベルは、著しく年変動し個体間で同
調することが知られている。これはマスティングとよばれ、ブナ林では 5
から 7 年に一度の大量種子生産が観察される。植物の繁殖にみられるこ
のような時空間変動は、階層間の相互作用を通じて、種子捕食者や寄生者
個体群のダイナミックスを左右する。そこで我々は、植物(rowan)ー種
子捕食者(apple fruit moth)ー寄生者(wasps)から成る三者系を対象に
して、植物のマスティングの波及効果をノルウェー南部で観測された階
層的時空間データから読みとった。簡単な個体群動態モデルの解析とロ
ジスティック回帰の結果、植物の繁殖レベルの時空間変動が、numerical
response と functional response の双方を通じて種子捕食者・寄生者個体
群の変動を引き起こしていることがわかった。また、種子量の年変動指
数(CV)が大きい植物集団ほど、種子の捕食率は低かった。この結果は、
植物のマスティングは確固とした適応的基盤を備えているという従来の
仮説を支持する。さらに、植物の種子生産レベルにはノルウェー南東部
で 3 年周期、南西部で 2 年周期の変動傾向があることを示し、繁殖パ
ターンは生息地の環境条件の相違によって、柔軟に変化する可能性を議
論する。
— 313—
O2-Y09
O2-Z01
口頭発表: 繁殖・生活史
O2-Z01
O2-Z02
09:30-09:45
防御器官の成長スケジュールにおける多様性:動的最適化によるアプ
ローチ
◦
8 月 27 日 (金) Z 会場
資源を稼ぎながら卵生産するときの、大きさと数のトレードオフと最
適卵サイズ
◦
入江 貴博1, 巖佐 庸1
東北大学大学院生命科学研究科, 2三重大学生物資源各部
九州大学理学部生物学科
多くの生物は、貯蔵資源に加えて、子を生産しながら獲得した資源も子
の生産に投資する。たとえば、ほとんどの植物において、種子の発達は
日々の光合成生産に依存している。しかしながら、子の大きさと数のト
レードオフや最適な子の大きさに関する今までの理論的研究はすべて、
一定の貯蔵資源のみを用いて子を生産する状況を想定している。日々の
稼ぎの貢献はまったく無視されてきた。本研究では、貯蔵資源と日々の
稼ぎの両方を用いて子を生産する場合の、1) 子の大きさと数のトレード
オフの形、2) 最適な子の大きさの二つを解析する。
【モデルの仮定】親は、子の生産開始時 (t = 0) に、ある一定量の貯蔵資
源を持っている。それに加え、時間 t = 0 から t = T の間、毎時 P の資源
を獲得する。子は、貯蔵資源 and/or 毎時獲得資源を吸収して成長する。
子が吸収しきれなかった毎時獲得資源は貯蔵資源に加えられる。子の成
長は、貯蔵資源が空になり、かつ、毎時獲得資源も止まった時点で終了
する。
【結果】大きさと数のトレードオフの形(線型か非線型か)は、子の大き
さに依存して変化する。子の大きさがある閾値以下の領域ではトレード
オフは線型となり、閾値以上の領域では非線型となる。最適な子の大きさ
は、子の定着率に関わるパラメータの値に依存して、Smith and Fretwell
の最適サイズが実現する場合と Sakai and Harada の最適サイズが実現す
る場合がある。
軟体動物では、防御器官である貝殻の成長パターンに多様性が見られる。繁
殖の開始まで続く成長期間の各時点で、エネルギーが殻と軟体に自由な比率
で分配されうるという仮定の下で、各器官の最適な成長スケジュールをポント
リャーギンの最大化原理に基づいて計算した。このモデルでは、資源獲得率・
防御可能捕食圧・一般死亡の三種類の変数が環境を規定する。軟体部が大き
くなるほど資源の獲得率は増加し、殻が発達するほど捕食圧が大きく緩和さ
れる。計算の結果、環境が生涯一定である場合には、殻を作らない (shell-less
growth) か、成長期を通して殻と軟体が並行して拡大する (simultaneous shell
growth) という二種類の戦略のみが最適解となることが明らかになった。これ
に対して、捕食圧や一般死亡が性熟の前後で異なる場合には、これらを含め
た計五種類の戦略が出現した。たとえば、性熟前の捕食圧が性熟後よりも小
さい場合には、殻と軟体の同時成長に続いて、成長期の最後に殻のみを厚く
する戦略 (additional callus-building growth) が好まれる。特に性熟前の捕食圧
がゼロの場合には、成長期の前半に軟体部のみが成長し、次に殻のみが拡大
する (sequential shell growth)。これら結果は、成長期の最後に殻を厚化する
種(スイショウガイ・タカラガイ)が、幼貝期を砂の中や石の下といった、安
全な微小生息地で過ごすという観察をよく説明する。反対に、性熟後の捕食
圧のほうが低い場合には、成長期の最後に軟体部だけが拡大するような成長
戦略 (additional body-expansion growth) が好まれることが明らかになった。
O2-Z04
10:00-10:15
誘導防御戦略のデザイン
◦
酒井 聡樹1, 原田 康志2
1
1
O2-Z03
09:45-10:00
10:15-10:30
キボシショウジョウバエは繁殖資源の匂いによって飛行活動を低下さ
せ卵巣を発達させる
西村 欣也1
◦
1
北海道大学大学院・水産科学研究科
危険に応じて臨機応変に防御形質を発現する生活史デザインは、”誘導
防御 ”と呼ばれる。行動は最も典型的な誘導防御形質だが、有毒化学物
質や防御形態が危険に応じて誘導される例も数多く知られている。無防
御・生得防御に対して誘導防御が進化する条件は、形質の可塑性の進化
条件に包括して理解することができる。本公演では、誘導防御が淘汰上
有利である状況における、淘汰上有利な誘導防御戦略のデザインについ
て論じる。
危険に対する誘導のタイミング・防御の誘導量、そして危険が去ったと
きの誘導の可逆性は、誘導防御のデザインとして自然選択によって洗練
されうる要素である。誘導タイミング・誘導量は、危険の度合い、防御
による危険の軽減度、防御にかかるコスト、危険の継続性に対し適切に
デザインされているはずである。
誘導防御進化の重要な前提として危険の感知能力がある。危険感知能力
を制約として、単純な数理モデルを構築し、最適な誘導タイミングを求
めた。モデルから以下のことが分かった。(1) 制約となる感知能力と最
適誘導タイミングの関係は、防御形態の有効性 (潜在的捕食者の危険度)
によって特徴付けられる。(2) 危険感知能力にかかる淘汰圧は、防御効
果が中程度のとき最も高くなる。さらに、捕食者の潜在的危険度に対し、
非食者が対応する誘導量と誘導タイミングに対する検証可能な予測がモ
デルから得られた。
一條 信明1
1
釧路湖陵高校
北海道に生息するキボシショウジョウバエ IDrosophila moriwakii/I は、夏
に卵巣の発育を抑制する生殖休眠をするが、特にこの種の繁殖資源である発
酵した樹液が夏でも豊富な伐採地等の地点では、生殖休眠をせずに卵巣を発
育させ繁殖する。
本種は飛行活動が可能な一辺 30cm の立方体の飼育容器中でショウジョウ
バエ用の餌のみを与えられて飼育されると卵巣を発達させないが、飛行活動
が阻害される管ビン中で飼育されるとショウジョウバエ用の餌のみを与えら
れるだけでも卵巣を発育させる。また、翅が切除され飛行が不可能にされる
と、立方体の飼育容器中でショウジョウバエ用の餌のみを与えられ飼育され
ても本種は卵巣を発達させる。
以上から、本種は繁殖資源が不足している場合には、繁殖資源探索の飛行
活動が促進され卵巣の発育が抑制されるが、繁殖資源が豊富な場合には、繁
殖資源探索の飛行活動が抑制され卵巣の発育が促進される、このことが示唆
された。そこで、ショウジョウバエ用の餌に発酵させたリンゴジュースを加
え人工的繁殖資源にして立方体飼育容器中で本種を飼育したところ、その 1
日の飛行時間は平均 3.8 分 (n=22) と短かく 75.7% (n=107) の個体が卵巣を発
育させた。一方、ショウジョウバエ用の餌のみで立方体飼育容器中で本種を
飼育すると、その 1 日の平均飛行時間は 8.4 分 (n=20) と長く 8.8% (n=113)
の個体しか卵巣を発育させなかった。これらの違いは統計的に有意であった。
この卵巣の発育は、人工的繁殖資源が加えられたことによる単なる栄養状況
の改善によるものとは言えない。なぜなら、発酵したリンゴジュースをメッ
シュのふた付きの容器に入れ匂いを嗅げるだけにして立方体飼育容器に入れ、
本種をショウジョウバエ用の餌で飼育したところ、その 1 日の平均飛行時
間は 3.1 分 (n=18) と短くなり 44.1% (n=93) の個体が卵巣を発育させたから
だ。これらの結果と人工的繁殖資源のみで立方体飼育容器中で飼育したもの
の結果とは統計的に有意な差があった。
— 314—
口頭発表: 繁殖・生活史
O2-Z05
O2-Z06
10:30-10:45
ミヤマカワトンボの全繁殖期間を通しての精子の質と量の変動-カワト
ンボとの比較◦
8 月 27 日 (金) Z 会場
◦
伊藤 桂1, 齋藤 裕1
1
北海道大学大学院農学研究科動物生態学研究室
1
都立大・理・生物
昆虫では,メスの精子を蓄える器官として交尾嚢と受精嚢がある.一般的
には,交尾嚢は精子の短期間の保存,受精嚢は精子の長期間の保存という機
能の分化があるとされている.トンボ類では受精嚢と交尾嚢の形態は種によっ
て大きく異なるが,精子を保存する機能に違いがあるかどうか詳細は判明し
ていない.2002年に東京都西部の小仏川を調査地として,カワトンボの
受精嚢及び交尾嚢内の精子の質と量を調べたところ,受精嚢は精子を長期間
保存する機能がなく,繁殖期初期には使われないという結果が得られた.ま
た,オスの精子の質と量を調べたところ,精子の生存率は繁殖期が進むにつ
れて低くなるが,メスと比べるとオスの精子の生存率は常に高くなっていた.
今回の研究は,カワトンボに近縁なミヤマカワトンボを材料として,
(1)
オス及びメスの精子の質と量の繁殖期間を通しての変動,
(2)受精嚢と交尾
嚢の間で精子を保存する機能に違いがあるかどうか,の2点を明らかにする
目的で行った.調査は東京都西部の養沢川において2003年6月から9月
に行った.細胞膜透過性の異なる2種類の蛍光物質による染色法を用いて精
子の生死を判定し,精子の質として精子の生存率を測定した.その結果,受
精嚢に蓄えられている精子数は交尾嚢よりもやや少ないものの,繁殖期間を
通して受精嚢と交尾嚢の両方の器官をメスは使用していた.また,受精嚢の
精子の生存率は交尾嚢よりも高い傾向があった.一方,オスでは,繁殖期初
期で精子の生産能力が高くなっていた.また,繁殖期間を通してオスの精子
の生存率は高く保たれており,メスよりも常に高くなっていた.
以上の結果から,ミヤマカワトンボでは受精嚢が機能しており,受精嚢と
交尾嚢では精子を保存する機能に違いがあることが示唆された.精子競争を
考える上で,メスの内部生殖器内での精子の寿命は重要である.精子の掻き
だしという観点から,オスの交尾器の進化について議論したい.
一般に、休眠誘起や休眠の期間を支配する形質は、生物が季節環境に適
応する過程で進化的に変化していくと考えられている。興味深い問題は、
休眠形質の変化が、個体の適応度にどのような影響をおよぼすか、とい
う点である。個体の適応度はさまざまな成分から構成されるため、それ
らを同時に評価することは、休眠を「適応」という観点からとらえる上
で必須であると考える。したがって、季節適応形質である休眠性と繁殖
力に関与する生活史形質がどうリンクしているかについて調べることが
重要である。しかしこのような関係は、これまで数種の節足動物で調べ
られたにすぎない (e.g. Palmer & Dingle, 1986)。今回の研究では、植物吸
汁性のカンザワハダニ (雌と雄の体長、各 0.4mm, 0.3mm) を用い、臨界
日長や休眠の深さといった休眠形質と、発育期間や産卵数のような生活
史形質との間の相関を、実験的に調べることを目的とした。
カンザワハダニは発育中、もしくは成虫期に低温短日条件にさらされ
ると、成虫休眠が誘導されることがわかっている。京都で採集したカンザ
ワハダニの個体群から、20 ℃/11L:13D もしくは 18 ℃/11.5L:12.5D の環
境条件で休眠誘導し、休眠個体と非休眠個体に対して選抜をかけた。こ
の個体群では、いままでの報告されている例とは異なり、選抜に対する
反応が直線的でないことがわかった。こうして得られた休眠・非休眠系
統について、直接選抜をかけていない休眠の深さがどう反応しているか
を調べた。また、生活史形質と休眠形質の間の関係を調べるため、これ
らの系統、および維持されているストック個体群(コントロール)につ
いて、発育速度、産卵数、孵化率、性比を調べた。この結果について、ナ
ミハダニに関する結果 (So & Takafuji, 1991) と比較し、この2種のハダ
ニの生態的な違いからその意味を探る。
O2-Z08
11:00-11:15
種子食昆虫エゴヒゲナガゾウムシにおける体サイズと休眠年数の変異
◦
10:45-11:00
カンザワハダニにおける休眠形質と生活史形質の相関
土屋 香織1, 林 文男1
O2-Z07
O2-Z05
松尾 洋1
◦
1
都立大・理・生物
樹木の種子生産数の年変動は、その種子を産卵場所とする昆虫の個体群動
態に多大な影響を及ぼす。特に、ほとんど種子生産がなかった年は致命的で
ある。昆虫の休眠遅延(1年以上の休眠)はそのような予測不可能な変動環
境に適応した現象として、様々な分類群で知られている。エゴノキの種子に
産卵する年1化のエゴヒゲナガゾウムシもまた終齢幼虫の段階で休眠遅延を
示す種である。これまでの研究から、1)室内・野外環境において同じコホー
ト内で休眠年数に 1∼4 年の変異が存在し、2)2 年目に羽化した個体は 1
年目に羽化した個体よりも大きいことがわかっている。大きな個体ほど休眠
遅延する傾向は他の昆虫でも報告されているが、体サイズと相関のある他の
要因が重要である可能性も残されている。本研究では、体サイズだけでなく、
産卵時期および幼虫期の食物の質・量が休眠遅延率(休眠延長個体の割合)
に与える影響を調べた。7 月 28 日、8 月 1 日、10 日、20 日の4回、果実
のついた枝に網をかけ、雌 10∼21 個体に個別に産卵させた。終齢幼虫の生
重および幼虫が発育した種子の体積を測定し、室内環境下で飼育し、羽化さ
せた。また、幼虫の体サイズに影響をおよぼす、種子の体積・生重・乾重を
繁殖期間を通して測定した。その結果、次の事が明らかになった。1)羽化
個体と休眠延長個体が同じ母親から生じた。2)繁殖期後期に産卵された幼
虫は前期に比べて終齢幼虫サイズが増加し、休眠延長率も増加した。また、
3)繁殖期間中、種子の体積はほとんど変わらなかったが、種子の乾重は 3
倍以上に増加した。これらの結果から、エゴヒゲナガゾウムシでは、繁殖期
後期に、十分成熟した種子に産卵された個体ほど休眠遅延する傾向があるこ
とがわかった。「寝る子は育つ」ではなく「育った子はよく寝る」である根
拠を示すとともに、なぜ大きな個体が休眠遅延するのかを考察する。
11:15-11:30
琵琶湖における橈脚類 Eodiaptomus japonicus の再生産に与える餌の量
と質の影響
梅景 大輝1, 田中 リジア1, 伴 修平1
1
滋賀県立大学
近年の研究は、橈脚類の卵生産及び孵化率が餌の量と質に大きく依存してい
ることを明らかにした。しかし、餌の質の評価についてはいまだに議論の余
地が存在する。本研究では、再生産能力と餌の量及び質の季節変動を同時に
調査することによって、Eodiaptomus japonicus の再生産が餌の量と質によっ
てどのような影響を受けているのか明らかにすることを目的とした。調査
は、琵琶湖最深部において 2003 年 2 月から 11 月の期間に合計 8 回行っ
た。測定項目は再生産パラメータとして E. japonicus の産卵数、孵化率、孵
化したノープリウス幼生の無給餌での生残率を、餌環境パラメータとしてク
ロロフィル a 量、懸濁態炭素・窒素・リン含量、植物プランクトン種組成を
それぞれ測定した。産卵数が極端に少なかった 8 月と 10 月には、琵琶湖で
の餌環境が E. japonicus にとって不適当であったかどうかを確かめるために
餌添加実験を行った。産卵数は春から夏に向けて低下する傾向を示したが、
孵化率は一年を通して高い数値を示した。一方、幼生の生残率は春に比べ夏
に高い傾向を示した。再生産パラメータと環境パラメータの相関分析より、
産卵数は水温及び体長と高い相関を示したが、クロロフィル a 量とは相関
が認められず、植物プランクトン種組成あるいは P 含量と高い相関を示し
た。幼生の生存率についても植物プランクトン種組成との間に高い相関が認
められた。さらに餌添加実験は産卵数の増加傾向を示し、8 月と 10 月に E.
japonicus が餌制限下にあったことを示した。これらの結果は、琵琶湖におけ
る E. japonicus の再生産が餌の量より植物プランクトン種組成などの質的変
化に影響されていることを示唆した。
— 315—
O2-Z09
口頭発表: 繁殖・生活史
O2-Z09
O2-Z10
11:30-11:45
ニホンザルにおいて、どんなオスが子供を残しているのか?
◦
8 月 27 日 (金) Z 会場
降海型サクラマスにおける体サイズの性的二型の緯度間変異
◦
井上 英治1, 竹中 修2
京都大学大学院理学研究科, 2京都大学霊長類研究所
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
ニホンザル餌付け集団において、父性解析と交尾行動の観察を行ない、どのよ
うなオスが子供を残していたのかを明らかにした。ニホンザルは、母系の集団
であり、オスは性成熟に達すると、群れを移籍し、その後も数年経つとまた他
の群れに移籍するとういう生活史を持つ。また、明確な交尾期があり、秋 ∼
冬に交尾を行ない、春 ∼ 夏にかけ出産をする。
これまで、ニホンザルの性行動について、オスの交尾成功は順位で決まるもの
ではなく、メスの選択が影響していて、メスにとって新しいオスを好む傾向が
あることが示されてきた。また、DNA を用いた父性解析を行なった研究でも、
オスの順位と子供の数は相関せず、メスの選択が影響することが示されている。
しかし、どのような特徴のオスが子供を残しているのかについては分かってい
ない。そこで、本研究では、嵐山 E 群という個体の詳細な情報がわかっている
群れを対象にして、交尾期の行動観察と引き続く出産期に生まれた子供の父親
を決定した。
父性解析は、サルの毛から DNA を抽出し、11 座位のマイクロサテライト遺
伝子の遺伝子型を決定した。そして、子供と遺伝子を共有していないオスを排
斥し、残ったオスを父親と決定した。
父性解析の結果、嵐山 E 群では、群れの中心にいるオトナオス(中心オス)は
子供をほとんど残していないことが明らかになった。周辺にいるオトナオス(周
辺オス)や、群れ外オスが子供を多く残していた。また、中心オスは、交尾が
少ないわけではなく、個体追跡を行なったオスについて、交尾頻度と子供の数
に相関は見られなかった。子供を産んだメスの交尾行動を分析すると、受胎推
定日から離れている時には、高順位のオスとの交尾が多いが、受胎推定日の近
くになると周辺オスとの交尾が増えることが示された。
嵐山の中心オスは、在籍年数が長く、子供を産んだ母親の父親である可能性が
あるためにメスに避けられていたと考えられる。
12:00-12:15
プラヌラ幼生を捕食するプラヌラ幼生の発見
◦
玉手 剛1
1
1
O2-Z11
11:45-12:00
磯村 尚子1, 岩尾 研二2, 服田 昌之3
1
お茶の水女子大学大学院人間文化研究科, 2阿嘉島臨海研究所, 3お茶の水女子大学湾岸生物教育研究
センター
沖縄では、造礁サンゴであるミドリイシサンゴ類が年 1 回一斉産卵を行な
う。産卵翌朝、サンゴの受精・未受精卵や発生途中の胚、プラヌラ幼生が混
在して密な集団を作り、スリックとして海表面を漂流する。今回、スリック
中にミドリイシサンゴの幼生とは明らかに区別できる幼生を発見した。そ
の幼生は、ミドリイシサンゴ幼生の 2-3 倍の大きさであり、体表面に斑点
がみられた。また、実体顕微鏡下で口端に六条構造が確認されたことから、
六放サンゴ亜綱の幼生であると推測した。さらに、この幼生は多い時には
1 日当たり 10 匹のミドリイシサンゴ幼生を捕食した。プラヌラは摂食し
ない幼生であるとされてきたことからすると驚くべきことである。
他の幼生を捕食するプレデター幼生の素性を明らかにするために、DNA 系
統解析を行なった。プレデターおよび調査地に生息する花虫綱数種につい
て 18SrDNA の部分配列を比較したところ、プレデターはミドリイシ類と
同所的に生息するイソギンチャク類の 1 種であることが示された。
他種のプラヌラ幼生を捕食するプラヌラ幼生の発見は、本研究が初めてで
ある。プレデターは、産卵のタイミングをミドリイシサンゴ類の一斉産卵
に合わせることで、餌となるサンゴ幼生の集団であるスリック中に参入で
きる、と予想できる。その結果、プレデターは浮遊幼生期において捕食に
よるエネルギー的な利益を獲得していると考えられる。今後、捕食による
プレデターの生存率への影響と、その親個体であるイソギンチャクの生殖
生態を明らかにする必要がある。
体サイズの性的二型 (sexual size dimorphism, SSD)、すなわち体サイズの性
差は多くの動物種で認められており、SSD の進化プロセスを解明することは
進化生態学の主要課題の1つとなっている。本研究においては、降海型サク
ラマスにおける SSD の緯度間変異の把握とその進化プロセスを検証した。
降海型サクラマスの回帰親魚の性比には緯度クラインがあると考えられて
いる。例えば、降海型の南限地域 (北陸南部および三陸中部) においては
回帰親魚の 100%近くがメスで占められるが,北限地域にあたるロシア沿海
州北部地域やカムチャッカ西岸ではメスの割合が 60%ほどになる。 この回
帰親魚における性比の緯度クラインは,北方域ほど回帰メス一尾に対する回
帰オスの数が増加すること(すなわち実効性比が増加すること)を示してい
る。 このことから北方の個体群ほど繁殖場での降海型オス間の競争が激化
するため,より大型のオスが高い受精成功を得ることができる(北ほど大き
な降海型オスが有利)と推察される。 そこで本研究ではサクラマスの降海型
個体群において,1)メスの回帰親魚の平均サイズは緯度と関連がないが、
個体群の緯度位置が高くなるほど 2) オスの回帰親魚の平均サイズは大きく
なるので、3) 回帰親魚の相対サイズ (オスの平均サイズ / メスの平均サイ
ズ) が大きくなることを予測した。 今回は、日本海沿岸の 20 個体群 (北
緯 36–49 度の範囲) のデータを用いて、それらの予測を検証した結果を発
表する。
O2-Z12
12:15-12:30
フクロウ Strix uralensis の繁殖開始日と気象との関係
◦
樋口 亜紀1, 伊野 良夫1
1
早稲田大学教育学部生物学教室
フクロウ Strix uralensis は日本全国に留鳥として分布している森林棲
の中型猛禽類である。本来の営巣場所は大径木などにできた樹洞であり、
適切な繁殖場所さえあれば、毎年その場所で繁殖活動を行うことが知ら
れている。しかし、近年では樹洞を有するような大径木は減少する一方
であり、森林の消失、孤立・分断化の進行に伴い生息環境は劣悪化して
いる。
繁殖は年に一度春先に行い、毎年平均2羽、多いときには5羽のひなを
巣立たせることもある。ネズミ類や食虫類など小型ほ乳類や鳥類を主食
とし、ハタネズミであれば1日に2個体ないし3個体捕食することが飼
育下の成体フクロウについて知られている。このため、フクロウの生息
やその繁殖の有無は、その生息地内の被食者の個体数変動の影響も大き
く受けると考えられる。実際、餌動物の乏しい市街地周辺の森林に繁殖
したフクロウが、夜間市街地に頻繁に出て採餌のために滞在し、街路樹
や庭木に眠るスズメを狙い、屋根瓦を塒をするアブラコウモリを待ち伏
せし、ドバトやドブネズミを採餌している事例もあり、フクロウが市街
地周辺で交通事故に遭遇したり建築物へ衝突死する事例も増加している。
外国においては、生息地の環境要素が単純でかつ餌動物種が少ない地
域における研究例があり、捕食者、被食者間の明解な個体数変動が明ら
かにされ、フクロウが被食者の個体数変動の影響を受けていることが知
られているが、我が国においてはそのような研究例や長期にわたる繁殖
活動の報告は見あたらない。
本講演では、経年的に繁殖状況を調べている山梨県と新潟県の個体群
を対象に、フクロウの繁殖とひなの巣立ち状況における年変動の有無を
気象条件との関連で検討した。解析は、1999年から2004年の期
間、各調査地で毎年繁殖活動を行なっている平均8巣、計70巣を対象
とした。各巣の産卵数、巣立ちひな数、推定繁殖開始日などと地域の積
算気温、積雪深などをパラメータとした。
— 316—