飛行機の着陸時滑走距離について 第 1 章 はじめに 第 2 章 研究の展開

飛行機の着陸時滑走距離について
所属:工学系ゼミ
2 年 7 組 27 番 早部 希
第1章
第1節
はじめに
テーマ設定の理由
もともと零戦について調べていくつもりであったが、それを調べて空母への着艦につ
いて考えていた時に、ふと現代飛行機の実際の滑走距離がわからないことに気付いたので、
自力で計算を行い、求めてみようと思ったためである。また、以前に旅客機が現代空母に
着艦する架空小説を読んだことがあり、現実的に考えて可能か否か調べてみようと思い至
ったからである。
第2節
研究のねらい
離陸時、着陸時におけるそれぞれの重量、速度、必要滑走路長のデータを使い、簡単
な物理の公式を用いて飛行機の滑走距離を求める。可能であればそのまま空母飛行甲板へ
の着艦の可能性について考察する。
第3節
1
研究の内容と方法
研究の内容
1) 物理の演算で実質的な滑走距離を求める。
2) 空母飛行甲板への着艦の可能性について考察する。
2
研究の方法
1) 本
2) インターネット
第2章
研究の展開
物理演算で飛行機の実際の着陸距離を調べる。基本的に飛行機は着陸する際、ブレーキ、
スポイラー、逆推力装置の 3 つの機構で着陸滑走するが、資料で載っている着陸距離とい
うのはほとんどエンジンの逆推力装置を用いていない時の値であり、実際の運航における
正確な値を示すものではない。今回の研究においてはその逆推力装置を用いた着陸時の滑
走距離並びに空母着艦の可能性を考察する。
なお、現実の実機と計算結果では多大な誤差があることに十分留意する。
1
第1節
滑走距離
与えられている資料は次の通りである。
1) 離陸、着陸時(逆推力なし)の滑走距離
2) 離陸時、着陸時重量
3) 離陸時、着陸時の対気速度
なお、仮定は次の通りである。
1) 離陸時、着陸時の速度は重量にかかわらず常に一定である。
2) 逆推力装置の推力は離陸時の推力の 40%として計算する。
3) ジェットエンジンはパイロットの操作に対して即座に反応する。
4) 逆推力装置は着陸後 60 ノット(約 120 キロメートル)まで減速したとき使用を停止
する。
5) 着陸後翼に働く揚力(飛行機を持ち上げる力)はスポイラーによって打ち消され、
それによりブレーキは常に一定の効果を働いているとする。
6) 計算する滑走距離の条件は、標高 0 メートル、25℃の舗装滑走路である。
7) 離陸並びに着陸時、飛行機は等加速度運動をしている。
8) 離陸時のタイヤと滑走路の摩擦は考えない。
9) 空気抵抗は考慮しない。
10) 資料に載っている離陸、着陸距離は実際の滑走距離と定義された高度に至るまでの
距離に対し、安全のため離陸時は 1.15 倍、着陸時は 1.67 倍されているとする。な
お空中にいるときの距離は計算とその結果において考慮しない。
11) スポイラーによる空気抵抗、摩擦の増大の影響は考慮しない。
などとしている。
離陸時、飛行機は初速 0、離陸速度 V₁、加速度 a₁、離陸滑走距離 x₁であるから
a₁=
𝑉₁
₂
2x₁
である。続いて、離陸時の飛行機の重量を m₁とし、運動方程式から離陸時のジェットエン
ジンの推力 F₁は
⃗⃗⃗⃗
⃗⃗⃗⃗
𝐹₁ = 𝑚₁𝑎₁
2
である。したがって逆推力装置の推力 F₂は飛行機の進路と反対方向に F₁となっている。
5
ここで、着陸滑走距離 l₁にたいして重力加速度 g、着陸時の飛行機の重量 m₂、ブレーキ
を使用したときのタイヤの動摩擦係数 µ´、着陸速度 V₂とすると、力学的エネルギー保存
の法則より、
1
2
m₂V₂ 2 = µ´m₂gl₁
2
が成立する。このとき µ´g をブレーキの効力 W とするとき、
𝑉₂
W=
2
2𝑙₁
である。
ここで、60 ノット以上の時、s 秒で飛行機は V₂から 60 ノットまで減速すると考え、運動
量と力積の関係から、(※通常の旅客機の着陸は明らかに 60 ノット以上である。)
⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗
⃗⃗⃗⃗
⃗⃗⃗ s+𝐹
m₂(𝑉₂ − 60𝑘𝑛𝑡)+(m₂𝑊
₂s)=0
から s の値が求められる。
逆推力装置を使っている間の着陸時の加速度 a₃は
⃗⃗⃗⃗
⃗⃗⃗⃗
⃗⃗⃗ +𝐹
m₂𝑎₃-(m₂𝑊
₂)=0
であり、a₃を求めることができる。ここで飛行機は初速度 V₂、加速度 a₃、の等加速度運動
を s 秒間しているので 60 ノットに達するまでの滑走距離 x₂は
1
x₂=V₂s+2a₃𝑠 2
より求められる。
(a₃の値は 0 より小さい)
逆推力装置を使わない停止するまでの時間、加速度、距離も同様にして求められ、その
値と x₂の合計が着陸距離である。
第2節
空母着艦についての検討
ここでは空母への着艦の可能性を 2 つの視点から考察する。一つは着艦時の滑走距離で
あり、もう一つは翼の幅である。
ただしこのとき
1) 地面効果は考慮しない。
2) ブレーキは滑走路同様に機能する。
3) 現代の航空母艦はアングルドデッキ(着艦する艦上機の滑走路と離艦する艦上機と
で使う甲板の場所が違う。
)を採用しているが、それに関係なく空母の端から端ま
でを使用することができる。艦橋の衝突防止のための方向転換による距離の変化は
考慮しない。
4) 飛行甲板の幅は一定ではないが、ここでは船体の幅とする。
5) 艦橋に衝突しないようにするため、飛行機は片方の翼の大半を甲板の外に展開する
ことができる。
6) 想定する空母はアメリカ海軍のニミッツ級とし、空母は 30 ノットで風上側へ進む。
船体幅は 41 メートル、全長 333 メートルである。
7) 逆推力装置は静止する瞬間まで使用してよい。
8) その他は第 1 節に準じる。
3
ここで重量を m₃、着艦速度を V₃、風速 U であるとすると、
V₃=V₂-30knt-U で着艦する。
ここで t₂秒で静止するとし、運動量と力積の関係から
⃗⃗⃗⃗
⃗⃗⃗⃗
⃗⃗⃗ t₂+𝐹
m₃𝑉₃+(m₃𝑊
₂t₂)=0
したがって初速度 V₃、加速度 a₃、時間 t₃であるから滑走距離 x₃は
1
x₃=V₃t₂+ a₃𝑡₂
2
2
と計算できる。この値と主脚と前脚の距離を足した和が全長より短ければ距離に関して着
艦可能である。
幅については、図からわかる通り、艦橋
等の上部構造物と翼端が衝突する可能
性がある。したがってこれを回避するた
めに、また飛行甲板の端までに到達する
ために片翼を洋上に出し、飛行甲板上で
若干の進路修正を施さねばならない。
さらに写真からわかるように、飛行甲板
の幅は船体幅に対して若干広い。したがっ
て船体幅だけの広さで飛行機の片翼と両側
のランディングギアが収まれば上部構造物
を回避し、着艦できる可能性が十分高い。
ボーイング 747-400 を例にとると、胴体
中央から片方の幅までの距離が 32.22 メー
↑ニミッツ級航空母艦写真並びに甲板の図
トルであり胴体中央から外側のランディン
グギアまでの距離は 5.50 メートルである。
二つのランディングギアが飛行甲板に接地
すればよく、片方の翼は洋上に展開できるの
で、飛行甲板に求められる幅は 37.72 メート
ルであり、これは船体幅より小さいため、幅
に関しては着艦が可能である。
ただし、着艦後高速で舵を切り回頭しよう
とした場合、旅客機はバランスを崩す可能性が
↑B747 の寸法
あり、またそうでなくても遠心力によって洋上に出ている翼が沈下しエンジンと飛行甲板
が衝突する可能性があるため、ここで一概に断言することはできない、と付け加えておく。
4
第3章
研究結果
点線は線形近似を用いたコンピューターによる予測である。離陸、着陸速度は平均値を
用いているので実際の値は重量が軽い場合はこの線より下、重い場合は上にずれていると
予想している。
1) ボーイング 747-400D
離陸時 155 ノット、着陸時 157 ノットで計算している。
B747-400重量と着艦距離の相関関係
1000
900
800
距離(m)
700
600
500
400
300
200
100
0
350000
400000
450000
500000
550000
600000
重量(kg)
風速0ノットの時
風速10ノットの時
風速20ノットの時
風速30ノットの時
B747-400重量と着陸距離の相関関係
1400
1300
距離(m)
1200
1100
1000
900
800
700
600
350000
400000
450000
500000
550000
600000
重量(kg)
幅の問題はクリアしている。しかし、主脚と前脚の長さが 25.6 メートルあり、307.4 メ
ートル以内に停止する必要があるので相当強い向かい風が吹き、かつ燃料、ペイロードを
減らさないと着艦は不可能であるとわかる。事実上この機体の着艦は不可能だろう。
5
2)ボーイング 737-800
離陸時 130 ノット、着陸時 142 ノットで計算している。
B737-800重量と着艦距離の相関関係
700
600
距離(m)
500
400
300
200
100
0
90000
100000
110000
120000
130000
140000
150000
160000
150000
160000
重量(kg)
風速0ノットの時
風速10ノットの時
風速20ノットの時
風速30ノットの時
B737-800重量と着陸距離の相関関係
1300
1200
距離(m)
1100
1000
900
800
700
600
500
90000
100000
110000
120000
130000
重量(kg)
主脚と前脚の長さの資料はないも
のの、胴体が 39.5 メートルであり主
脚がその半分くらいの位置にあるの
で 20 メートルくらいである。
必要な幅は、20.3575 メートルであ
り着艦の可能性はかなり現実味を増
している。
→B737 の寸法
6
140000
3)ボーイング 767-300
離陸速度 162 ノット、着陸速度 140 ノットとする。
B767-300重量と着艦距離の相関関係
600
距離(m)
500
400
300
200
100
0
190000
210000
230000
250000
270000
290000
310000
重量(kg)
風速0ノットの時
風速10ノットの時
風速20ノットの時
風速30ノットの時
B767-300重量と滑走距離の相関関係
1200
1100
距離(m)
1000
900
800
700
600
500
190000
210000
230000
250000
270000
重量(kg)
ボーイング 737 型機よりもエンジンの性能が大幅に向上
されたことにより、機体が大型化したにもかかわらず、比
較的短い距離での離着陸に成功している。
必要とする飛行甲板の長さは 310.24 メートルであり、必
要な幅は 28.43 メートルである。ある程度の風が出ていれ
ば着艦も見込まれる機体であると予想される。
→B767 の寸法
7
290000
310000
第4章
まとめと結論
以上の研究結果より逆推力装置を使用した際の飛行機の着陸距離が求めることができた。
また、限定的な条件下では、極めて困難ではあるものの、着艦が可能である場合が存在す
るということも判明した。
しかし、あまりに仮定が多すぎデータの信頼性と正確性を欠いていることは明白であり、
ここでの断定を避けるべきだと考える。したがって今回の値はあくまで参考値であるとと
らえ、特殊な条件下でのみジェット旅客機は着艦が成功する可能性がある、と結論付ける
ことが適当であろう。
また、今回の研究の課題についてであるが、研究における主たる問題はデータの不足、
航空機の力学における計算と考え方の高度さ、煩雑さに起因していることが大きい。まず、
力学の難しさは言うまでもないが、それにもかかわらず簡単な物理の公式から答えを導き
出すという発想自体無理があったということは認めざるを得ない。さらにそれに加えデー
タの不足の深刻さは研究において大変大きな障害であり、結果に非常に大きな悪影響をも
たらしている。研究のテーマをより簡単なものにすべきであった。
しかしながら、限られたデータにおいてであっても、おおよその答えを出すことができ、
若干なりとも寄与できたと思われる。したがって、簡単な物理公式からでも着陸時滑走距
離の概算は出すことができ、ジェット旅客機の着艦の可能性は排除できない、ということ
で筆をおきたい。
第5章
感想
今回の一連の研究ならびに計算結果により私の読んだ小説は全くの空想ではないという
ことが判明した。旅客機が空母に強行着陸するというのはほぼあり得ないことにせよ、そ
の可能性は全否定されておらず、飛行機に対するなお一層の興味と関心を引き立てた。
より詳細なデータが得られなかったことや空気抵抗や揚力といったことにまで思考が及
ばなかったことは大変残念であるが、大学に進学し、さらに専門的な知識や技能を磨くこ
とによってより高度な研究ができるようにしたいと思う。しかしながら、自分で初めから
理論を組み立て、それを計算・考察することができたという点において非常に有意義な総
合学習であった。学び、感じ、考えたことを通して今後も精進していきたい。
8
出典
http://zumaworld.blogspot.jp/2011/02/zuma-fact-91-boeing-747s-wingspan.html
http://forum.worldofwarships.eu/index.php?/topic/2559-class-nimitz-uss-nimitz-cvn-68/
http://navaltoday.com/2014/06/13/uss-nimitz-pays-short-visit-to-esquimalt-canada/
https://www.scopenet.or.jp/main/purchase/kaitei/130404/kuukou%20setti%20sannkou1
304.pdf
http://sound.jp/sodaigomi/air/U.S.Navy/kuubo/kuubo.htm
http://www.aerospaceweb.org/question/performance/q0088.shtml
http://www.boeing.com/assets/pdf/commercial/airports/faqs/arcandapproachspeeds.pdf
https://www.jetairfly.com/en/our-fleet
http://www.ana.co.jp/eng/aboutana/corporate/galleryclassi/1983/763.html
https://holdingpoint.wordpress.com/2011/04/04/boeing-737-800-aircraft-performance/
http://www.jal.com/ja/jiten/
http://skyshipz.com/landing/a067.html
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