米「ホランド」 世界最初の実用潜水艦

 米「ホランド」 世界最初の実用潜水艦
近代潜水艦開発の始祖ジョン P. ホランドが自己の名
安全潜航深度 23 メートル,乗員7名で,水中性能を重
を付し建造した潜水艇ホランド Holland は,米海軍初の
視した設計だった。船体は単殻式で,水中抵抗減少に有
潜水艦であるとともに史上最初の実用潜水艦だった。
利な長さ/幅比が 5.3 の 1 軸推進紡錘形として,内部に
ホランドは 1875 年以来潜水艇の開発に苦心を重ね,
バラスト,ツリムなどの諸タンクを設けた。上構と乾舷
1892 年までに第 1 号~第 6 号艇の建造・試験または試
はいたって低く,水上航走時の耐波性は貧弱だった。直
設計を行ない,水上航走に内燃機関を,水中航行には蓄
径 53 センチ,高さ 60 センチで前部に覗き窓がある小さ
電池と電動機を用いる二元動力推進機関を備え,バラス
な司令塔を有し,潜望鏡は装備していない。
ト・タンクを満水にして予備浮力をほとんどゼロに近づ
水上航走と充電用には 45 馬力のガソリン機関 1 基を
けて潜航し,艇尾の横舵で潜航姿勢・深度を制御する方
装備し,6 ノットで 200 浬の航続力があった。水中航行
式による潜航艇の実用化を進めた。
用 に は 50 馬 力 の 電 動 機 1 基 と 蓄 電 池 60 個 を 搭 載 し,
1893 年米海軍省が実施した潜水艇設計懸賞募集で,
5.5 ノットで 30 浬の持続力を有した。船体後端に推進器
ホランド設計の第 7 号艇プランジャー Plunger が当選し
1 基を設置し,その後方に縦舵と横舵を備えた。兵装に
建造に移されたが,米海軍はホランドの意向に反して水
は,艇首部に 45 センチ魚雷発射管 1 門と魚雷 3 本および,
上航走用に蒸気機関を採用したため,性能,実用性とも
21.4 センチ・ダイナマイト砲(空気砲)1 門を装備した。
に不良で,竣工前に放棄された。ホランドはこれに代え
ホランドは黎明期に試作された各国潜水艇の中で最も
て水上航走用にガソリン機関を搭載した第 8 号艇を独自
実用性に優れており,原子力推進艦の出現までの潜水艦
に設計,建造し,さらにこれを第 9 号艇に改正・改造し
の航走方式を確立した。米海軍はさらに本艇の改良量産
て 1899 年に完成のうえ試験を完了した。
型であるプランジャー級 7 隻を建造し,これらホランド
ホランドと命名された本艇は試験結果が良好だったの
型艇を出発点としてアメリカの潜水艦は発展した。日本,
で,1900 年 4 月 11 日に米海軍が 15 万ドルで購入して
英国をはじめ多くの国もプランジャー級に類似したホラ
同年 6 月 25 日に艦籍に入り,米潜水艦の第 1 号として
ンド型潜航艇を採用し,潜水艦戦力整備に踏み出した。
SS-1 の艦番号が与えられ,10 月 12 日に就役している。
ホランドは竣工後,1905 年 7 月 17 日までアナポリス
本艇の要目は排水量が水上 64 トン,水中 74 トン,全
の海軍兵学校で練習潜水艦の任務に就き,1910 年 11 月
長 16.4 メートル,速力は水上 6 ノット,水中 5.5 ノット,
21 日に除籍され,1913 年 6 月に売却,解体された。
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ホランドの一般配置
①空気砲,②ハッチ,③空気圧縮機,④ガソリン・エンジン,⑤発電機およびモーター,⑥トリミング・
タンク,⑦魚雷発射管,⑧燃料タンク,⑨バッテリー,⑩バラスト・タンク,⑪プロペラ,⑫縦舵
Q 49 ホランドの主機形式は?
1 蒸気タービン
2 ディーゼル機関
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潜水艦 100
3 ガソリン機関
4 人力
世界の艦船 2012. 9 増刊
P96