連 載 クローズアップ! !ワンチップ・マイコン ワンチップ・マイコン クローズアップ 平均誤差±1LSB を実現できる 第7回 高分解能 A − D を内蔵する 低消費電力マイコン H8/38086R 斉藤 正/菅井 賢 Tadashi Saito / Masaru Sugai 昭和 30 年代に考案されたデルタ・シグマ型 A − D 変換器(デルタ・シグマ型 ADC)は,半導体プロセス 較(微分,デルタ,Δ)しながらディジタル値に変換す る方式です. の微細化,処理速度の向上に伴って,単独の A − D 変 定規で物を測るのに例えるなら,被測定物の長さを 換チップの時代を経て,今ではマイコンの周辺機能と して内蔵されるようになりました. いくつか足し合わせたものに 1 cm がいくつ入ってい るかを数えて,その数値を足し合わせた数で割る方法 本稿では,14 ビット・デルタ・シグマ型 ADC を内 蔵した 16 ビット・マイコン H8/38086R(ルネサス テ です.したがって,その積分と微分を行うことに相当 します. クノロジ)を題材に,その原理と使い方を説明します. 話を簡単にするために,直流電圧を測定することに します(図 7 − 2).まず,何も考えずに Vref と Ain を比 逐次比較型とデルタ・シグマ型の 違い ● 逐次比較型の動作 多くのマイコンに採用されている逐次比較型 ADC (図 7 − 1)は,被測定電圧と可変の基準電圧(D − A 変 較してみましょう. ① SC=1 では,SC=0 で比較電圧はまだ 0 V なの で,0 < Ain となり,ディジタル出力は 1 る.そして,比較する電圧を +Vref する にな 換器で発生させる電圧)を比較しながら測定する方式 ② SC=2 では Vref と Ain を比較する.Vref > Ain で で,その動作は次のとおりです. ディジタル出力は 0 になり,次に比較する電 圧はそのままである(Vref) ① D − A 変換器の出力を中央値にして,アナログ 測定電圧と比較する ③ SC=3 でも Vref と Ain を比較する.Vref > Ain で ディジタル出力は 0 になり,次に比較する電 ② アナログ測定電圧が大きければ上側,小さけ 圧はそのままである(Vref) れば下側について,D − A 変換器の出力をその中 央値にして比較を繰り返す 切り替え スイッチ ③ これを n + 1 回(n ビット分解能の場合)繰り返 して測定を完了する 定規で物を測ることに例えるなら,いろいろな長さ の定規を当ててみて,どれに一番近いかを逐次絞り込 D-A 変換器 比較器 逐次比較 レジスタ シリアル んで測定する方法です. ● デルタ・シグマ型の動作 デルタ・シグマ型 ADC は,被測定電圧をサンプリ ングして積分し,その増分と一定電圧の基準電圧と比 アナログ 測定電圧 図 7 − 1 逐次比較型 A-D 変換器の基本構成 被測定電圧と可変の基準電圧を比較しながら測定する Keywords H8/38086R,デルタ・シグマ A − D 変換器内蔵マイコン,デルタ・シグマ A − D 変換器,逐次比較型 A − D 変換器,デルタ変調器,デ ルタ・シグマ変調器,FIR 型ディジタル・フィルタ,S/N,オフセット誤差,フルスケール誤差の補正式,複数補正式,誤差の平均 化処理,A − D 変換器精度比較システム,H8/38076R 2006 年 11 月号 171 ② SC=2 では Ain が 2 回積分されるので,Vref と 2Ain を比較することになる. Vref > 2Ain なのでディ アナログ入力 Ain Vref (アナログ入力) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 11 ジタル出力は 0 になり,比較する電圧はその ままである(Vref) 13 ③ SC=3 では Ain が 3 回積分されるので,Vref と Dout 1 (ディジタル出力) 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 11 13 SC (Sampling clock) Vref < 3Ain なのでディ 3Ain を比較することになる. ジタル出力は 1 になり,次に比較する電圧を 図 7 − 2 デルタ・シグマ型 ADC を使った直流電圧の測定原理 +Vref する(2Vref になる) ④ SC=4 では Ain が 4 回積分されるので,2Vref と 何回繰り返しても Dout は 1 が最初に 1 回出るだけで残りはずっと 0 4Ain を比較することになる.図 7 − 3 では 2Vref > となる 4Ain なのでディジタル出力は 0 になり,比較 する電圧はそのままである(Vref) これを何回繰り返してもディジタル出力 Dout は 1 が最初に 1 回出るだけで残りはずっと 0 です.い つまでたっても Ain の値はわかりません. そこで,Ain を積分します.積分した波形の傾きが Ain を表すことになります. では,図 7 − 3 のように積分した値と V ref を比較し てみましょう. ① SC=1 では Ain を 1 回積分なので,Vref は 0 のま まである.Vref ≦ Ain でディジタル出力は なる.次に比較する電圧を+ Vref する 1 に 以上を何回か繰り返します. A in は周期的に積分されています(傾きが A in).こ れと V ref と比較して,大小関係をチェックしながら V ref を足して比較を繰り返します.これは,傾きの Ain と Vref を比較していることになります. 1 回の増加分の Ain が V ref よりは小さいので,何回 か加算して Vref と比較します.加算を繰り返して Vref よりも大きくなったら今度は Vref を加算して,また比 較します.サンプリングが 1 回よりは 2 回,2 回より は 3 回のほうが精度が上がります. 同じ大きさ アナログ入力 Ain 積分 (アナログ入力) 0 1 1 Dout (ディジタル出力) 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 Vref nAin 9 10 11 12 13 mVref Ain 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 Vref Ain をn 回積分した値とVref をm 回足 した値が同じならば, SC (Sampling clock) m Ain = n Vref となる 図 7 − 3 積分値と Vref の比較 サンプリングが 1 回よりは 2 回,2 回よりは 3 回の方が精度が上がることがわかる. Ain 積分 (アナログ入力) デルタ・シグマ 変調器 Dout (ディジタル出力) アナログ電圧を ディジタル・パルスに変換 ディジタル・ フィルタ ディジタル・パルス列を 14ビット・データに変換 変換データ (14ビット) レジスタに格納 図 7 − 4 H8/38086R に内蔵されている 14 ビット・デルタ・シグマ型 ADC の構成 アナログ電圧→ディジタル・パルス→ディジタル・データの順に処理 172 2006 年 11 月号
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