アジア・ビジネス・ジェネレーター事業 インド経済 年次報告書(2008∼2009 年) 財団法人 大阪国際経済振興センター 2009 年 4 月 1 インド経済概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 国内総生産(GDP)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 インフレ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 外資流入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 国内金融市場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 対外貿易・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 政府政策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 財政政策の変更・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 金融政策の変更・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 その他の政策展開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 主要産業部門の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 自動車部門・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 不動産部門・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 電気通信部門・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 IT サービス部門・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 2009∼2010 年度展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 2 インド経済概観 インド経済は、2003∼2008 年のあいだに高度成長へと移行したが、2008-2009 年度は世界金融 危機のあおりを受けて大きく衰退した。2003∼2008 年の経済急成長をもたらす要因となった、投資 の活発な伸び、高い国内貯蓄率、力強い企業業績、税収の上昇などはいずれも、2008-2009 年度 後半には世界金融・経済危機によって姿を消してしまった。 景気減速の影響は広範囲に及び、同年の工業部門、農業部門の成長は著しく鈍化した。サー ビス部門は伸び率 9.5%(昨年は 10.9%)と、景気減速の影響をかろうじて最小限にとどめた。商品 輸出は、昨年の 26%増に比べ、5.7%増にとどまった。 回復が望めるとしてもそれは 2009-2010 年度の後半であるため、インド経済の見通しは控えめに ならざるを得ない。 国内総生産(GDP) 中央統計局(CSO)の国内総生産(GDP)事前推定値(AE)によると、市場価格表示による 2008-2009 年度GDPは 1 兆 1,800 億米ドル1と推定されている。 CSO はまた、1999-2000 年度基準価格の要素費用表示による GDP が、2008-2009 年度は前年 比 7.1%増となると推定している。これは、2006-2007 年度には 9.7%、2007-2008 年度には 9.0%と 伸びてきたことを鑑みると、伸びが減速する見込みである。 1999-2000 年度基準価格の要素費用表示による GDP 伸び率 項目 2006-2007 GDP 2007-2008 2008-2009(推定) 9.7% 9.0% 7.1% 製造業部門 11.8% 8.2% 4.1% 鉱業・採石業 8.8% 3.3% 4.7% 13.8% 11.7% 8.6% 11.8% 10.1% 6.5% 4.0% 4.9% 2.6% 金融・保険・不動産 建設 農業・農業関連活動 2 ¾ 農業部門の伸びは、2008-09 年度、2.6%に低下した。 ¾ 2007-08 年度に 8.2%増であった製造業部門は、2008-09 年度、4.1 ポイントの減速となっ た。建設部門も、2008-09 年度は、約 3.6 ポイント落ちて 6.5%の伸び率になった。 ¾ 鉱工業生産指数3については、2008-09 年度は最悪の年であった。前 4 年間に 8∼11% 伸びた後、2008-09 年度の伸び率は 3.4%にとどまった。 1 2008 年 4 月∼2009 年 3 月の米ドル‐インド・ルピー為替レートの平均値(45.95 インド・ルピー/ 米ドル)を用いた。 2 林業、伐木搬出業、漁業を含む。 3 インフレ 卸売物価指数(WPI)は、2008 年 6 月に二桁の伸び率を達成し、2008 年 8 月には 12.8%となり、 ピークに達した。このため政府は、物価上昇を抑制する金融政策に着手した。 年度 卸売物価指数 一次産品4 工業製品5 燃料・潤滑油 総合 インフレ6 2006-2007 209 179 324 206 5.42% 2007-2008 225 188 327 216 4.70% 2008-2009 248 203 357 234 8.40% WPI は、2008 年 8 月から 2009 年 3 月 14 日までの 7 ヵ月間で、ピーク時(12.8%)から 0.27%ま で下落した。国内経済がこれほど急激なインフレに陥った主要因は、国際市場における商品価格 (特に原油、金属、農業商品)の暴落である。 WPI に比べると、消費者物価指数(CPI-IW)は相対的に動きが小さかった。2008 年 12 月にやや 低下したのち、2009 年 1 月には、以前のレベル(2008 年 10∼11 月期の 10.4%)に戻した。このよ うに比較的落ち着きを見せ続けた原因は、同指数のなかで大きなウェートを占める(46%)食糧品 目の価格が高値を維持していたことによる。 外資流入 2008-2009 年度(2008 年 4 月∼2009 年 1 月)の外国投資は、前会計年度(2007 年 4 月∼2008 年 3 月)の 637 億 6 千万米ドルに対し、155 億 5 千万米ドルであった。 3 鉱工業生産指数(IIP)は、所定期間の工業部門の生産状況を基準期間との比較で表したもの。 現在、インドで出される一般鉱工業生産指数は、鉱業、製造業、電力の三部門のみを含む。 4 一次産品には、食用穀物、鉱産品、非食糧品が含まれる。 5 工業製品には、繊維、機械・工作機械、化学製品、食糧製品が含まれる。 6 総合物価指数の対前年伸び率で計測。 4 (単位: 10 億米ドル) 項目 2006-2007 年度* 対内直接投資(FDI) 2007-2008 年度* 2008-2009 年度** 22.08 34.46 27.43 16.48 26.87 24.22 5.09 7.17 3.01 その他資本 0.51 0.32 0.20 資産運用投資 7.00 29.40 -11.88 GDR / ADR 3.78 8.77 1.14 外国機関投資家投資 3.22 20.33 -13.02 オフショア資金・その他 0.00 0.30 0.00 29.08 63.76 15.55 株式7 再投資収益 合計 *4 月∼3 月、**4 月∼1 月 急激な落ち込みは、2008 年 4 月∼2009 年 1 月の間に、外国機関投資家(FII)がインド市場から 130 億米ドル超を引き上げたことによる。 免税理由から FDI の大部分がモーリシャス経由であることを指摘しておく必要がある。それ以外 の対インド直接投資流入における主要国は、シンガポール、米国、英国、オランダ、日本である。 (単位: 10 億米ドル) 国名 2007-08 年度* 2008-09 年度** 累積 FDI 株式流入額8 累積 FDI 株式流入総額に 占める割合 モーリシャス 11.096 9.545 35.180 41% シンガポール 3.073 3.237 7.594 9% 米国 1.089 1.639 6.172 7% 英国 1.176 0.791 5.154 6% オランダ 0.695 0.826 3.531 4% 日本 0.815 0.264 2.390 3% その他 6.635 7.583 26.375 30% 24.579 23.885 86.396 100% FDI株式流入額 合計9 *4 月∼3 月、**4 月∼12 月 7 8 9 FIPB(外国投資促進委員会)、自動承認・買収ルート、非法人団体の自己資本を含む。 2000 年 4 月∼2008 年 12 月。 非法人団体の自己資本は含まない。 5 2008-09 年度の主な FDI 流入先は、サービス部門、コンピュータ・ソフトウェアおよびハードウェア、 電気通信で、これに住宅・不動産と建設が続いた。 (単位: 10 億米ドル) FDI株式流入額 部門 10 累積流入額11 累積流入総額 2007-08 年度* 2008-09 年度** 6.615 5.061 18.118 21% 1.410 1.599 8.876 10% 電気通信13 1.261 2.374 6.216 7% 住宅・不動産 2.179 2.408 5.119 6% 建設14 1.743 1.866 5.029 6% 自動車産業 0.675 1.074 3.310 4% その他15 10.696 9.503 39.728 46% 合計 24.579 23.885 86.396 100% サービス部門12 コンピュータ・ソフトウェア および ハードウェア に占める割合 *4月∼3月、**4 月∼1 月 国内金融市場 一次市場の動向 一次市場は 2008 年 4 月∼2009 年 2 月期に低下を見た。企業部門に流通した資金総額は、前 年同期の流通額の 13%に過ぎず、発行数も、2007-08 年度の 152 から、2008-09 年度は 44 にま で低下した。 10 非法人団体の自己資本は含まない。 2000 年 4 月∼2009 年 1 月。 12 金融および非金融サービス。 13 ポケットベル、携帯電話、基本電話サービス。 14 道路および公道を含む。 15 「その他部門」の内訳例には、薬品・製薬、電力、石油、鉱業、化学製品、住宅、不動産などが ある。「その他」に含まれる部門数は全部で 58 ある。 11 6 2007-08 年度* 項目 発行額 発行数 (10 億米ドル) 88 11.76 21 0.45 81 9.16 21 0.45 7 2.60 0 0 26 6.63 21 2.61 38 5.61 2 0.04 152 23.99 44 3.10 16 FPO17 2.株主割当発行 18 3.QIP 合計 発行額 発行数 (10 億米ドル) 1.公募 IPO 2008-09 年度** **4 月∼2 月 社債私募 対照的に、債券発行による企業部門の調達資金は、昨年同期(4 月∼2 月)の調達額を 60%上 回る伸び率を示した。発行数も、2008-09 年度は、872 から 1,011 に増加した。 (単位: 10 億米ドル) 年度 ボンベイ証券取引所 ナショナル証券取引所 発行数 発行数 発行額 発行額 合計 発行数 発行額 2007-08* 284 6.23 588 19.37 872 25.60 2008-09* 362 7.81 649 33.09 1,011 40.90 *4 月∼2 月 流通市場の動向 2008 年 1 月に 21,000 台に乗せたボンベイ証券取引所(BSE)Sensex は、当該年度、次第に大き く下落し、2009 年 3 月第 2 週には 8,160 になった。同様に、ナショナル証券取引所(NSE)指数 NIFTY も、2007 年に 6,100 台に乗せた後、2009 年 2 月には 2,764 で終わった。弱気の国内経済 指標を背景にして、株式市場の動きは世界情勢にならう動きを見せた。 市場指数の下落は、世界経済の後退によるものばかりではなく、当該年度におけるインド産業の 減速ならびに漸減していった企業収益にも起因する。 16 17 18 IPO: Initial Public Offering(新規株式公開)。 FPO: Follow on Public Offering(追加公募)。 QIP: Qualified Institutional Placement(適格機関向け発行)。 7 BSE Sensex 月 NSE 50 指数 前四半期比 指数* 前四半期比 指数* 増減率 増減率 2008 年 3 月 15,644 -22.9% 4.734 -22.9% 2008 年 6 月 13,462 -13.9% 4.041 -14.6% 2008 年 9 月 12,860 -4.5% 3,921 -2.9% 2008 年 12 月 9.647 -24.9% 2.959 -24.5% 2009 年 3 月 9,708 0.6% 3.021 2.1% *各月最終日の指数数値 株式市場はインドの経済状況を反映して、2008-09 年度は、38%ものマイナス利回りを記録し た。 明るい面としては、株価収益率に表されるインド株式の株価評価が、2009 年 2 月末で約 12.5 倍 であり、これは、韓国、タイ、台湾等の主要新興市場経済のなかで最も高かった。 2009 年 3 月、BSE Sensex、NSE 50 指数ともにわずかな回復を見せた。しかし、市場観測筋は、 経済のさらなる減速が予想されることから、資本市場の持続可能性について懐疑的である。 対外貿易 商品輸出は世界経済減速の大きな波を受け、2008-2009 年度の輸出額は 1,680 億米ドルで、伸 び率は昨年の 26%に比べて 6%にとどまった。 商品輸入もまた、前年の伸び率 29%に対し 21%にとどまり、同国の経済減速を反映した数値と なった。 (単位: 10 億米ドル) 年度 輸出 輸入 (伸び率*) (伸び率*) 238.6 26% 29% -79.6 287.7 6% 21% -119.1 輸出額 輸入額 2007-2008 159.0 2008-200919 168.6 貿易収支 *前年比 貿易赤字は、2008-09 年度、約 50%増加して 1,190 億米ドルに達した。来年度の貿易赤字は、 原油価格およびその他商品価格の下落によって縮小すると予想される。 19 商工省による 2009 年 3 月速報値を含む。 8 商品輸出 2008 年 4∼10 月期における主要輸出品目は工業製品で、インドの輸出全体の 64%を占めたも のの、伸び率は最も鈍かった。これは、繊維、宝石・装身具類、皮革等の労働集約部門の輸出が、 主に先進地域(ヨーロッパ連合、米国)における需要後退からマイナス影響を受けたためであった。 (単位: 10 億米ドル) 商品輸出 2007 年 4∼10 月 2008 年 4∼10 月 伸び率* 一次産品 12.61 15.96 27% 工業製品 57.62 69.53 21% 石油製品 15.12 20.45 35% 2.46 2.46 0% 87.81 108.40 23% その他 合計 *2007 年 4-10 月期∼2008 年 4-10 月期 商品輸入 2008 年 4∼10 月期における主要輸入品目は、伸び率、金額共に石油、石油製品、および関連 原料であり、インドの輸入全体の 50%超を占めた。 (単位: 10 億米ドル) 商品輸入 2007 年 4∼10 月 石油、石油製品、関連原料 20 生産財 真珠、宝石、準宝石 その他 21 合計 2008 年 4∼10 月 伸び率* 60.20 98.01 63% 30.93 37.08 20% 5.49 4.72 -14% 36.53 44.44 22% 133.15 184.21 38% *2007 年 4-10 月期∼2008 年 4-10 月期 上記期間に石油輸入の伸び率が高かったのは、主として、2008 年 5∼8 月期に広がった国際原 油価格の高騰に起因する。 20 21 機械(電気、非電気)、工作機械、輸送機器を含む。 輸入総額の差はデータ報告対象月の違いによる。 9 為替レート インド・ルピーの為替レートは、2009 年 3 月 31 日現在で1米ドル=50.95 ルピーであった。ルピ ーは、対米ドル、ユーロ、日本円で弱くなったが、対英ポンドでは上がった。 為替レート22 2006-2007 年度 2007-2008 年度 2008-2009 年度 価値下落* 1 米ドル 43.441 ルピー 39.945 ルピー 50.950 ルピー 21.6% 1 英ポンド 85.255 ルピー 79.695 ルピー 72.861 ルピー -9.4 1 ユーロ 57.930 ルピー 63.113 ルピー 67.480 ルピー 6.47% 100 日本円 36.840 ルピー 40.270 ルピー 51.870 ルピー 22.36% *2007-2008 年度∼2008-2009 年度 2月最終週にほぼ6億米ドルもの外国機関投資家投資(FII)の流出があったために、ルピーは 対米ドルで弱くなった。ドルが新興市場通貨に対して全般に強くなったことも、為替の下落につな がった。 22 為替レートは各年度末のもの。 10 政府政策 財政政策の変更 経済の刺激を目的として、政府は、2008 年 12 月∼2009 年2月期、三つの財政刺激政策を表明 した。主要措置の概略は以下の通りである。 租税減免措置 y 中央付加価値税(CENVAT)23を 4%引下げ(14%→10%) y サービス税を 2%引下げ(12%→10%) y セメント、家電製品、繊維、鋼鉄の物品税24を 4%、また、現在税率 10%の品目にかかる物 品税を 2%引下げ y 鉄鉱石粉鉱の輸出関税を廃止、ならびに、鉄鉱石塊およびパレットの輸出関税を 5%引下 げ y 電力部門で使用するナフサの輸入関税をゼロに引下げ y TMT 鉄筋および鉄骨の相殺関税(CVD)、ならびに、セメントの CVD および特別 CVD を免 除 自動車部門支援措置 y 2009 年 1 月 1 日から 2009 年 3 月 31 日の間に購入された商用車に対し、50%の加速償却 を認める y NBFC(非銀行金融機関)の商用車融資の流動性支援のため、SPV(特別目的会社)を創設 住宅およびインフラ部門支援措置 y 4 万米ドル未満の銀行融資は優先部門(priority sector)に分類 y 国立住宅銀行(NHB)に 8 億米ドルの再融資ファシリティ 23 インドでは、商品が製造地を離れる時、当該商品の製造者に物品税が課せられる。以前は中央 物品税と呼ばれたが、現在は中央付加価値税(CENVAT)の名称で知られる。製造業者はこの税 金を、中央付加価値税クレジット(CENVATクレジット)と呼ばれる方法で物品税に対するクレジット に充てることで、製造過程で使用した原材料に支払った税額と相殺することができる。この相殺法 は、かつては、修正付加価値税(MODVAT)と呼ばれていた。 24 中央物品税は、インドで製造された品物・商品に対し賦課、徴収される間接税である。 11 インフラ部門支援措置 y インド・インフラストラクチャー金融公社(IIFCL)25が、60 億米ドルの追加調達承認を得て、 2009 年 3 月までの免税債券による 20 億米ドルの調達を認可される y IIFCL が、向う 18 カ月間に 200 億米ドルの投資を含む、PPP(官民連携)プロジェクトへの市 中銀行融資の 60%を再融資 輸出促進措置 y 繊維、皮革、海産物、中小企業部門等の労働集約型輸出に対し、2009 年 3 月 31 日まで、 出荷前・出荷後輸出金融に 2%の利子補給 y 対外商業借款(ECB)の金利上限が RBI 認証ルートのもとに撤廃される 金融政策の変更 前四半期、前々四半期の2期、RBI は金融政策スタンスを緩和してきている。RBI が行った変更 は以下の通りである。 y 現金預金準備率(CRR)26を 4%引下げ(9%→5%)、これが、銀行システムを通じて巨額の 資金流動を促進した。 y レポ・レート27を 4%引下げ(9%→5%) y リバース・レポ金利を 2.5%引下げ(6%→3.5%) 上記の措置によって、流動資金は 760 億米ドル超に増加した上、様々な債務者向けの銀行貸 出金利を約 250∼350 ベーシス・ポイント抑える結果にもなった。 25 IIFCL(India Infrastructure Finance Company Ltd.)は、国内のインフラ・プロジェクトの融資およ び開発において先端的役割を担うことを目的とした専門機関である。 26 CRR(Cash Reserve Ratio): 銀行が手持ち現金またはインド準備銀行預金勘定として保有しな ければならない、顧客預金残高の中の割合(%で表わされる)のこと。 27 レポ・レート: 中央銀行が、国内金融システムに維持すべきと判断する通貨供給量レベルに応 じて、市中銀行から政府発行有価証券を買戻す際の割引歩合のこと。 12 財政および金融の動きが主要部門に及ぼす影響 産業部門 自動車 財政・金融政策の影響 x 物品税、燃料価格、自動車ローン金利の引下げによる自 総合効果 ややプラス 動車保有コストの減少 ⇒ 自動車需要の改善が予想される 銀行・金融 x 信用利用可能性の改善を促す財政・金融措置 ⇒ 国内および企業消費の活性化が予想される x プラス・マイナスど ちらでもない 2009 年 6 月までの短期銀行融資の再編成のための RBI 引当金 ⇒ 資産内容が低下して銀行部門への重圧が高まることに つながると予想される セメント x 住宅ローン金利の引下げ、および、政府のインフラ支出 ややプラス の増加 ⇒ 需要増加が予想される 建設 x 政府が都市インフラおよび公道の開発支出を増加させ ややプラス た。 ⇒ 建設企業の受注堅調 x IIFCL に免税債券による資金調達の認可 ⇒ 注文実施の遅延減少 家電製品 x 物品税が 16%から 12%に引下げ ⇒ 製造業者の大半が利益還元を済ませているので、影響 プラス・マイナスど ちらでもない は限られる 住宅 x 2 百万ルピー未満の融資を優先部門貸付に分類 ややプラス ⇒ 銀行/NBFC の貸付け増加が予想される x 銀行の住宅ローン金利引下げ ⇒ 住宅需要の改善が予想される メディア・娯楽 x 新聞印刷用紙、新聞発行用非コート紙、雑誌印刷用軽量 ややプラス コート紙の関税免除 ⇒ 出版業者の利ザヤに救済 鋼鉄 x 平鋼・長鋼製品に輸入関税を賦課、および、HR コイルを 制限カテゴリーに分類 ⇒ 価格競争力による国産鋼鉄の需要増加が予想される x 鉄鉱石粉末の輸出関税撤廃、ならびに、鉄鉱石塊および パレットの輸出関税引下げ ⇒ 鉄鉱石輸出の増加が見込まれる 13 ややプラス その他の政策展開 日刊外国新聞に 100%FDI の認可 日刊外国新聞の所有者は、インドで発行するファクシミリ版自社新聞に 100%まで FDI を行うこと が許可される。但し、ファクシミリ版の発行には政府の事前承認が必要となる。これまでは、外国新 聞のファクシミリ版には FDI が 26%まで認められていた。ニュースと時事を扱う外国雑誌のインド版 発行には、26%まで FDI が許される。 制限部門のインド企業の所有権・支配権の移転についてのガイドライン 産業政策促進局(DIPP)28は、インド企業が、電気通信、国防生産、航空輸送サービス、放送等 の制限部門の外国企業に所有権または支配権の移転を意図する時は、外国投資促進委員会 (FIPB)29の承認を求めることを義務化した。 2009 年目途の携帯電話ナンバー・ポータビリティ(NMP)実施 電気通信局(DoT)は、2009 年の国内 MNP サービス実施に 2 社(Syniverse と Telecordia)を選 定した。これらの 2 社が、インドの事業者に、ナンバー・ポータビリティ情報交換所(clearing house) と中央集中データベース・ソリューションを提供することになる。MNP 実施はまず、広域な大都市サ ービス・エリアに重点を置き、その後、地方へと移って行くことになる。 3G 入札は無期限延期される 2008-09 年度の最終四半期に予定されていた 3G 入札は、依然として入札基準価格が不確かな ため、無期限延期された。入札は、今のところ、2009 年 4∼5 月予定の総選挙後に実施される見込 みである。 28 DIPP(The Department of Industrial Policy and Promotion)は、投資と技術の流入を促進し、自由 化された環境での産業の発達を監視する責任を担う組織である。 29 FIPB(Foreign Investment Promotion Board)は、自動承認に分類されない対内直接投資(FDI) について検討、提言する組織である。 14 各産業部門の概要 自動車部門 インドの自動車部門は、前 4 年間(2004∼2008 年)のひじょうに堅調な業績ののち、2008-09 年 度は販売台数 3%増にとどまり、国内売上高についても、0.7%増と大きく後退した。厳格な信用実 行基準、長引く処理期間、不利な融資条件等が要因となって、収入増加の不確実性からくる気弱 な消費者心理と相まって、同期間の伸びの鈍化を招く結果となった。 2008-09 年度第 3 四半期(前四半期比の数量伸び率 20%減)の業績は低かったものの、同部 門は最終四半期(前四半期比の数量伸び率 14%増)にようやく回復兆候を見せた。政府の刺激政 策、活発な農業所得、メーカーの新製品発表等により、販売台数は活発化した。 金融政策の緩和ならびに物品税の引き下げによって、2009-10 年度の需要は改善されると予想 されている。公共部門銀行とメーカーの自動車金融業者とのタイアップに新たに重点が置かれたこ とで、自動車ローンの利用の向上が予想される。さらに、鋼鉄、アルミ、ゴム等の主要原材料の価 格低下が、メーカーの利ザヤの好転を促すであろう。 不動産部門 不動産部門は過去 3 年間、活発な伸びを記録した後、2008-09 年度は大きく減速した。全体的 に気弱な相場、低い値ごろ感、金利上昇(2008 年 9∼12 月期)、加えて銀行による不動産部門へ の露出リスク回避が、デベロッパーにマイナスに影響した。販売価格、取引件数ともに減少し、純 売上高が急激に低下(17%)した。 2009 年 2 月以降は、特定地域の購入しやすい住宅区分で需要が徐々に回復を見せている。貸 し主大手の抵当金利引下げと、RBI によって与えられた債務繰延べ・再編成の機会が、最終四半 期のデベロッパーの建設活動の再開を促した。しかし、商業、小売り、上質住宅は、近々に需要が 好転する兆しもなく、逼迫した状況である。 電気通信部門 インドの電気通信部門は、景気低迷の波をうまくやり過ごし、活発な伸びを見せた。2008 年 3 月 末の携帯電話加入者数 2 億 6,100 万人、2008-09 年度は、さらに1億2千万人超を増やして、約 50%の伸びであった。 加入者数純増の勢いは 2008-09 年度の最終四半期にさらに加速した。月次平均増加数は、 2008 年後半の約1千万人に対し、2009 年 1∼3 月期は 1,450 万人であった。純増分は地域格差も 見られなかった。 規制面では、3G 入札(当初は 2008-09 年度第 4 四半期に予定)が延期され、2009 年 4 月 1 日 付で解約費用が 33%引下げられ、第三者携帯ナンバー・ポータビリティ(MNP)事業者選定プロセ 15 スが完了し、2009 年末目途の実施への道が整えられた。サービス税の 12%から 10%への引下げ は、同部門にプラスに影響するものと予測される。 ITサービス部門 ITサービス部門は、過去 20 年間活況を見せてきたが、2008 年 4∼12 月期は、9.7%(ドル建て) と落ち着いた伸びにとどまった。2008-09 年度は、世界的な経済減速のため様々な部門(特に BFSI30)において、IT予算の縮小ならびに生活必需費支払の凍結が見られた。同年初期のルピー 高騰は、インドのIT企業の換金性の低下につながった。さらに、一律に値下げも行われた。インド IT企業のトップ5は、2008 年 9 月以降、約 15%低い料金で 15 億ドル相当のアウトソーシング契約 を取り決めた。 IT 部門の見通しは、顧客が IT 支出の凍結を解くこと、ならびにコスト削減のためのオフショアリン グの実施にかかっている。大手 IT 企業は、ビジネス獲得のための販売・マーケティング活動にもっ と資金を投入する必要があり、コスト増加へとつながるだろう。インド第 2 の IT 大手であるインフォシ ス(Infosys)は、2009‐10 年度減収減益(ドル建て)の見込みを立てており、世界情勢の中では自国 IT 産業もまた脆弱であることが明らかになった。 30 銀行、金融サービス、保険。 16 2009∼2010 年度展望 過去 5 年間の急速な経済拡大をもたらした要因である、高い個人消費支出、主に国内貯蓄率の 高さに支えられた活発な投資の伸び、堅調な企業業績、輸出の加速、税収の上昇は、2008-09 年 度後半の世界金融・経済危機によってマイナスの影響を受けた。米国のサブプライム・ローンの高 い債務不履行率に端を発したこの危機は、世界中の金融市場に広がり、2008-09 年度の世界的な 経済後退につながった。 世界経済の減速による影響は、2009-10 年度も引き続き成長の足を引っ張るものと予想される。 輸出、国内の両市場で需要が減退しているために、依然として産業成長は伸び悩むと予想される。 主要な牽引役であるサービス部門も、伸び率が急激に低下すると予想される。とはいえ、2009‐10 年度のインドの総合実質 GDP 成長はかなり高いレベルに留まり、中国に次ぎ世界第二の速さで成 長を続ける主要経済国の立場を堅持するものと期待される。 インフレ率(WPI)はすでにほぼ 0%であるが、世界経済の減速のために国際原油価格が比較的 低レベルに留まると予想されるため、2009‐10 年度前半にはマイナス領域に入り込むと予想される。 インフレ率は、需要の回復につれ、同年度の後半には上昇し始めるであろう。 ビジネス界や産業界は、ゼロ・インフレが予想される現在の展開からして、金利のさらなる緩和を 期待している。ルピーは、2009‐10 年度前半、さらに 4∼5%下落すると予想される。これは、貿易赤 字の拡大、予想される原油価格の回復、ならびに、外資の国内流入の見込みが薄いこと、を考慮 した結果である。 世界情勢およびインド国内の情勢を鑑みると、インドの総合実質 GDP 成長率が、修正推定値で 約 6.5%増となった昨年の伸び率に比べ、2009‐10 年度は 5.5%∼6%に減速すると予想される。 17 資料 y インド経済監視センター(CMIE)、インド経済月次レビュー y インド準備銀行紀要(2009 年 3 月) y マクロ経済・金融動向(2008-2009 年度)- インド準備銀行による第 3 四半期レビュー y インド証券取引委員会(SEBI)紀要(2009 年 3 月) y 国民所得事前推定値 - 中央統局(CSO)による記者発表 y CRISIL マーケット・リサーチ y インド投資委員会 y インド産業政策推進局の FDI 統計 y ブルームバーグ 18
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