市販体脂肪率計を利用する体脂肪規定因子の推測と体脂肪率の推定

市販体脂肪率計を利用する体脂肪規定因子の推測と体脂肪率の推定(2007.9.24 公開)
福井工業大学工学部
畑田耕一、森安貴信、能見直樹、福永隆光
【要旨】インピーダンス法による体脂肪率測定値の精度(5 回測定の平均値に対する標準偏差の百分率
で表示)を一人の被験者について同時に 5 回測定する方法で、詳細に調べた。その結果、同一の体脂肪
計による体脂肪率測定の精度は 1%以内であり、女性の方が男性よりも若干バラツキが小さいことが分
かった。同一の被験者の体脂肪率を数種類の体脂肪計を用いて測定したときのデータの差異は体脂肪率
の実測値で 3~4%に及ぶかなり大きな値であった。
身長(m)、体重(kg)、年齢、ウエスト周囲径(m)ならびにヒップ周囲径(m)の値から、体脂肪
率を推定する式を、重回帰分析により作成し、体脂肪を規定する身体測定項目の重要度を推定した。ま
た、ウエスト周囲径とヒップ周囲径、あるいは、腕の周囲径(cm)からも体脂肪率の推定が可能であ
った。特に、前 2 者からの体脂肪率の推定はかなりの正確度で可能であった。
数日間のような短時間内の体脂肪率計による体脂肪率の測定値の変動は主として水分の変動ならび
に手や足の表面の水分の状態によるものであることが分かった。一方、特定の個人が長期にわたって測
定した体脂肪率の値の変化は、その約 70%が水分の変動によるものであり、残り 30%が脂肪の変動によ
るものであると考えられる。
体脂肪率計による体脂肪量の測定値を MRI による測定値と比較することにより、両測定値が信頼性
の高いものであることを確認した。
1 はじめに
日本人の三大死因はがん、心臓病、脳卒中である。心臓病と脳卒中を合わせた循環器病を引き起こす
大きな原因は「動脈硬化」である。
「動脈硬化」の危険因子は高血圧、糖尿病、脂質代謝異常などであり、肥満(特に腹腔内に蓄積した
内臓脂肪)はこれらの生活習慣病を引き起こす。健康であるためには、体脂肪のコントロールが必要で
ある。
われわれは、インピーダンス法による体脂肪計を用いて体脂肪率を測定し、BMI[body mass index
=体重/(身長)2)]、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径、年齢との関係を調べ、これらの変数から体脂肪率
および体脂肪量を推定する数式を導出した。一方、体脂肪計による測定値の信頼性を調べるために、
MRI(magnetic resonance imaging)による体脂肪の測定を行ない、両者の値を比較することにより、体
脂肪計による測定値も信頼性の高いものであることを確認した。また、特定個人の長期にわたる体脂肪
率の測定結果を解析して、その経日的変化の意味を考察した1,2) 。ここではその内容の要約を紹介する。
2. 実験の方法
インピーダンス法による体脂肪計には株式会社タニタの脂肪計付ヘルスメーターBF-643、LM-003 お
よび株式会社オムロンの脂肪計付ヘルスメーター HBF-352 を使用した。これらは全て年齢、性別、身
長(m)を入力したのち両足を乗せて体重(kg)と体脂肪率(%)を測定するものである。但し、HBF-352
は両足を乗せるとともに、グリップ電極を両手で握り、腕と体の角度が 90°になるようにして、体重と
体脂肪率を測定するものである。
体脂肪率の測定は原則として昼食後 1~3 時間に行った。測定値の精度(バラツキ)は標準偏差(5
回測定の平均値に対する百分率)で表示した。被験者は主として福井工業大学の教員ならびに学生であ
1
る。
ウエスト周囲径(m)は、立位、自然呼気時に臍高で測定した。ヒップ周囲径(m)は、立位時に殿
筋が最も突出している位置で、メジャーが地面に水平になるようにして測定した。
腕の太さ(cm)は、上腕ならびに前腕の最も太いところと手首で測定した。
MRI による体脂肪率の推定は福井大学医学部の MRI 装置(1.5T および 3.0T)を用いて行った。
3 結果と考察
3.1 体脂肪率の測定精度
20 人の男性被験者および 13 人の女性被験者のインピーダンス法による体脂肪率測定値の精度(バラ
ツキ)を一人の被験者について同時に 5 回測定する方法で、詳細に調べた。その結果次のことが明らか
になった。
①同一の体脂肪計による体脂肪率測定の精度(バラツキ)は、標準偏差表示で体脂肪率測定値の 0.8%
以内、すなわち体脂肪率 20%の場合、体脂肪率値で±0.16%以内であった。女性の方が男性よりも若干
バラツキが小さかった。
②両手、両足を使って測定を行うタイプの体脂肪計の場合には、両手の突き出し方によってバラツキ
が大きくなることがある。この現象は、特に体重の軽い被験者の場合に起こりやすかった。
③同一人物の体脂肪率を異なる装置で測定すると、体脂肪率測定値で、男性が平均約 4%、女性が約
3%程度の差異が生ずる。この差異は、体脂肪率値 20%の場合に、体脂肪率値の 15~20%に相当する大
きな値である。この差異の現れ方は、装置の組み合わせ方が同じでも被験者が違うと変わってくるし、
上に記したように、性別によっても異なる。従って、体脂肪率のデータ収集には同一の体脂肪計を使用
する必要がある。
④体脂肪率計による体脂肪率の測定値は食事、水分摂取、運動などの様々な要因によって一日のうち
にもかなりの変動を示す。この変化の仕方は人によっても変わるが、昼食 1~3 時間後は激しい運動で
もしない限り、比較的変動が少なくデータ収集に適している。
⑤体脂肪率には 1 日のうちの時刻による変化だけではなく、季節など長期的な変化もあり、これらも
体脂肪率の測定精度(バラツキ)に影響をおよぼす要因となる。体脂肪率が 12%程度の被験者に、体脂
肪率を 1 年 6 ヶ月間連続して測定して頂いたところ、1 年 6 ヶ月間の平均値(11.4%)に対して±4%程
度の変動が観測された。
測定期間内の測定値の平均値に対する標準偏差は 12.80%であった(詳細は 3.4.2
小節参照)。したがって、被験者 1 人につき、ある時期に一度の測定を行って収集したデータの場合に
は、たとえ測定値が昼食 1~3 時間後で 5 回測定の平均値であっても、データ解析の際にはこの長期的
変化の影響を充分考慮する必要がある。
3.2 体脂肪と体重(kg)、身長(m)、BMI(kg/m2)、ウエスト周囲径(m)、ヒップ周囲径(m)、年齢との関連
身長や体重が体脂肪と深い関係にあることは容易に予測できる。実際、女性の体重と体脂肪量の間に
は式1の関係の成り立つことが報告されている。体脂肪率と体重との関係(式 2)は 2 次式となり、相
関係数Rも体脂肪量の場合より小さくなる3) 。但し、体重、体脂肪量の単位はkg
、体脂肪率(%)は
体脂肪量を体重で除したものである。
(体脂肪量)=0.65(体重)-17.7
(体脂肪率)=-0.0088(体重)2 +
1.65(体重) - 31.4
(1)
R=0.947
(2)
R=0.821
女性の体重、
身長の両者を独立変数として重回帰分析を行うと式 3 の得られることが報告されている。
この式から計算した体脂肪量の値と実測値との相関係数Rは 0.968 である。男性については式 4 が得ら
2
れており、相関係数Rは女性の場合よりやや小さい値(R=0.909)である。3)
(体脂肪量)= 0.69(体重) - 27(身長) +
21.3
(3)
(体脂肪量)= 0.64(体重) - 33(身長) +
36.2
(4)
BMI (kg/m2)[body mass index:(体重)/ (身長) ]が体脂肪量あるいは体脂肪率の指標であることは
2
良く知られている4)。BMIは全身の体脂肪量あるいは体脂肪率の指標として用いられるのみならず、内
臓脂肪量とも強い相関のあることが分かっている5,6) 。したがって、BMIは肥満の判定や肥満症の診断
基準に用いられる。6)BMIと生活習慣病との関連については多くの研究がなされている6,7,8)。
ウエスト周囲径、ヒップ周囲径も体脂肪と深いかかわりを持つ変数である。特に、ウエスト周囲径、
ウエスト周囲径/ヒップ周囲径比あるいはウエスト周囲径/身長比は内臓脂肪量と深い関わりのあること
が報告されており、5,6,9,10,11)ウエスト周囲径から内臓脂肪量を推定する式も提案されている12)。また、
BMIとウエスト周囲径による日本の肥満判定、肥満症診断基準、肥満の分類と判定が提案され、国際比
較が行われている。BMI 25 以上で、立位自然呼気時のウエスト周囲径が男性で 85cm以上、女性で 90cm
以上のものを内臓脂肪型肥満の疑いありとし、そのうち腹部CTによる自然呼吸時の臍レベル断面図の内
臓脂肪面積が 100cm2以上になる者を日本人の内臓脂肪型肥満とする診断基準が提案されている11) 。
WHOの基準では、ウエスト周囲径が男性 94cm、女性 80cm以上となっている13)。この男女が逆になっ
ている理由は、民族間の体型の差、皮下脂肪量と内臓脂肪量の性差などが考えられている11)。
本研究では、体脂肪率あるいは体脂肪量と体重、身長、BMI、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径、年齢
との関連を調べ、体脂肪率あるいは体脂肪量を推定する数式を作成した。また、特定の個人の体脂肪率
の短期間の経時変化ならびに長期間の経日変化の意味についても考察を加えた。
3.2.1 男性の体脂肪と体重、身長、BMI、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径、年齢との関連
男性の体脂肪率、体重、身長、年齢のデータ(データ数
81、BMI平均 22.5;標準偏差 2.89、年齢範囲 18~74;平均
値 44.4;標準偏差 21.25)から重回帰分析14)により作成し
た体脂肪率と体重、身長との関係式は式 5 のようになる。ま
た、この式から算定した体脂肪率の推定値と実測値との関係
を図 1 に示す。両者の間には相関係数R=0.838 の相関関係
50
y = x + 6E-14
R = 0.838
40
30
20
10
n = 81
(
男
性
被
験
者
の
体
脂
肪
率
の
実
測
値
が認められる。
)
%
(体脂肪率)=0.49(体重)-28.8(身長)+36.81
(5)
式 5 の体重の係数は正の値、身長のそれは負の値となって
0
0
10
20
30
40
50
式(5)から求めた体脂肪率の推定値(%)
図1 式(5)から求めた男性の体脂肪率の推定値と実測地の関係
いる。このことは、体脂肪率は一般的に、体重の大きいものほど大きく、身長の大きいものほど小さく
なる傾向のあることを示している。
一方、体脂肪率は年齢にも左右される筈である。式 5 に独立変数として年齢を加えると、式 6 が得ら
れ、この式から算定した体脂肪率の推定値と実測値との関係は、図 1 よりは僅かながら相関係数の高い
直線となった(R=0.850)。式 6 の年齢の係数は負の値で、男性の場合は加齢とともに体脂肪率が減少し
ていくことを示している。
(体脂肪率)=0.51(体重)-39.7(身長)-0.043(年齢)+55.81
(6)
式 6 の独立変数の体重と身長をBMI[=体重/(身長)2)]に変えると式 7 が得られる。この式から算
定した体脂肪率の推定値と実測値との関係の相関係数は 0.856 であった。独立変数BMIの係数は比較的
大きな正の数で、この指数が体脂肪率の指標として使われていることの妥当性を示している。
(体脂肪率)=1.55(BMI)-0.0459(年齢)-13.16
3
(7)
次に、男性の体脂肪率、体重、身長、ウエスト周囲径、年齢のデータ(データ数 81、年齢 18~74)
を用いて、体脂肪率と BMI、ウエスト周囲径、年齢との関係を調べた。結果は式 8 の通りで、この式か
ら算定した体脂肪率の推定値と実測値との関係の相関係数 R は 0.872 で、式 3 の場合(R=0.856)よ
りも大きい。また、独立変数ウエスト周囲径の係数は正の値で、
50
ウエストの太い人ほど体脂肪率が大きいことが明らかである。
(体脂肪率)=1.06(BMI)+19.3(ウエスト)
-0.063(年齢)- 17.00
(8)
式 8 の独立変数ウエスト周囲径のかわりにヒップ周囲径を用
あり、BMI, ウエスト周囲径、年齢との関係を見た式 8 の相関
%
)
た体脂肪率の推定値と実測値との関係の相関係数 R は 0.860 で
y = x + 4E-13
R = 0.873
40
30
20
10
n = 81
(
いて重回帰分析を行った結果が式 9 である。この式から算定し
男
性
被
験
者
の
体
脂
肪
率
の
実
測
値
0
0
10
20
30
40
50
式(10)から求めた体脂肪率の推定値(%)
図2 式(10)から求めた男性の体脂肪率の推定値と実測地の関係
係数(0.872)よりは若干小さい値である。
(体脂肪率)=1.36(BMI)+12.7(ヒップ)-0.039(年齢)-21.22
(9)
体脂肪率とBMI、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径、年齢との関係の重回帰分析結果が式 10 である。
この式から算定した体脂肪率の推定値と実測値との関係(図 2)の相関係数は 0.873 であり、式 8 およ
び式 9 の場合より若干高い値であった。
(ここをクリックすると、男性の身長、体重、ウエスト周囲径、
ヒップ周囲径、年齢から体脂肪率を推定するページが開きます)
(体脂肪率)=1. 03(BMI)+18.0(ウエスト)+4.2(ヒップ)-0.060(年齢)-19.44
(10)
上に述べた関係式も含めて、男性の体脂肪率と体重、身長、BMI、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径の
1 つあるいは数個との関係式の係数および定数の値を表 1 にまとめた(表は文末に掲載)。また、この表
にはそれぞれの式から算定した体脂肪率の推定値と実測値との関係の相関係数 R も併記してある。
ここで興味深いことは、体脂肪率とウエスト周囲径、ヒップ周囲径、年齢との関係式(式 11)から求
めた体脂肪率の推定値と実測値との相関係数 R が 0.824 とかなり高いことである。この関係式を用いれ
ば、特別の装置なしに、巻尺のみで体脂肪率の推定が可能になる点は注目すべきことである。
(体脂肪率)=40.3(ウエスト)+18.2(ヒップ)-0.066(年齢)-27.10
(11)
表 1 の式の従属変数を体脂肪率から体脂肪量に変えて体重、身長との関係を調べた結果を表 2 に示す
(表は文末に掲載)。それぞれの式から算定した体脂肪の推定式と実測値との関係の相関係数 R は、表
1 に示した相当する式についての相関係数 R よりも明らかに大きくなっている。従って、体脂肪の推定
は、体脂肪率よりも体脂肪量について行う方が、正確度が高くなるのではないかと考えられる。
3.2.2 女性の体脂肪と体重、身長、BMI、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径、年齢との関連
本研究で用いたデータ(データ数 12、BMI 範囲;平均 21.8;標準偏差 2.74、年齢範囲 20~66;平
均値;38.6;標準偏差 14.5)は、データ数が 12 なので、得られた結果にデータ数が小さいことによる
不確かさが付きまとうことはある程度やむをえない。
表 3 に、体脂肪率と独立変数である体重、身長、BMI、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径、年齢の1つ
あるいは数個との関係式の係数と定数の値およびそれぞれの式から算定した体脂肪率の推定値と実測
値との関係の相関係数 R をまとめて示す(表は文末に掲載)。この表から明らかなように、女性の場合
も BMI が体脂肪率の重要な指標であることは間違いない。表 3 から体脂肪率と BMI および年齢との関
係式を抜き出したのが式 12 である。この式による体脂肪率の推定値と実測値との相関係数 R=0.956
であった。BMI と年齢を独立変数とする男性の式 7 と女性の式 12 を比べると、年齢の係数は両者であ
まり変わらないが、女性の方が体脂肪率の BMI 依存性の高いことが分かる。
4
(体脂肪率)=1.83(BMI)-0.046(年齢)― 11.93
BMI、ウエスト周囲径、年齢を独立変数とする推定式(式
13)では体脂肪率の推定値と実測値との相関係数(R=
0.957)がかなり 1 に近い。男性の式 8 と女性の式 13 の
ウエスト周囲径の係数を比べると、女性は男性に比べて小
さな値になる。このことは、女性よりも男性の方が体脂肪
とウエスト周囲径に緊密な関係にあることを示している。
(体脂肪率)=1.73(BMI)+ 3.7(ウエスト)
(13)
齢との関係の重回帰分析結果が式 14 である。この式から
%
)
体脂肪率と BMI、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径、年
女
性
被
験
者
の
体
脂
肪
率
の
実
測
値
(
- 0.044(年齢)- 12.61
(12)
50
y = x - 1E-13
R = 0.980
40
30
20
10
n = 12
0
0
10
20
30
40
50
式(14)から求めた体脂肪率の推定値(%)
図3 式(14)から求めた体脂肪率の推定値と実測値との関係
算定した体脂肪率の推定値と実測値との関係(図 3)の相関係数は 0.980 であり、式 12 および式 13 の
場合より高い値であった。
(ここをクリックすると、女性の身長、体重、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径、年齢から体脂肪率を推
定するページが開きます)
(体脂肪率)=0.60(BMI)+4.6(ウエスト)+47.3(ヒップ)-0.001(年齢)-34.42
(14)
この式を、相当する男性の体脂肪率の推定式(式 10)と比べると、男性の体脂肪率はヒップ周囲径よ
りもウエスト周囲径に依存し、女性の場合はその逆であることが分かる。これは、男女の体型の差を反
映する興味深い結果である。
体脂肪率とウエスト周囲径、ヒップ周囲径、年齢との関連を式 15 に示す。この式による体脂肪率の
推定値と実測値との相関係数は R=0.975 であった。式 15 を用いれば、体重計が無くても、体脂肪率の
推定が可能である。
(15)
(体脂肪率)=7.3(ウエスト)+66.6(ヒップ)+0.028(年齢)-42.28
表 3 の式の従属変数を体脂肪率から体脂肪量に変えて体重、身長との関係を調べた結果を表 4 に示す
(表は文末に掲載)。それぞれの式から算定した体脂肪の推定式と実測値との関係の相関係数 R は、表
3 に示した体脂肪率の場合の相当する式についての相関係数 R よりも若干小さくなっている。
3.3 体脂肪と腕の太さ(cm)の関連
腕の太さと体脂肪の間に密接な関係があれば、3.2 節に述べたウエスト周囲径やヒップ周囲径の場合
と同様に、体脂肪量を、器具を使うことなしに推定することが可能になる。そこで、上腕、前腕、手首
の周囲経と体脂肪率および体脂肪量との関係を調べ、重回帰分析によって解析した。
3.3.1 男性の体脂肪と腕の太さの関連
男性の上腕、前腕、手首の周囲経(cm)と体脂肪率のデータ(データ数 38、BMI 平均 22.4;標準偏
差 3.26、年齢範囲 21~70;平均値 42.9;標準偏差 20.66)から体脂肪率を推定する数式を、重回帰分
析によって種々作成した。相関係数が一番大きいのは、利き腕の逆の腕の上記 3 点での太さの和と年齢
を独立変数とする回帰分析によって作成した推定式(式 16)の場合であった(R=0.711)。利き腕のデ
ータを用いて分析を行うと、相関係数が若干小さくなった(式 17、R=0.694)。これは、利き腕の方が、
筋肉が発達して脂肪が少ないことによるものと思われる。
(体脂肪率)=0.71(利き腕の逆の腕の周囲径の和)-0.046(年齢)- 26.23
(16)
(体脂肪率)=0.68(利き腕の周囲径の和)-0.044(年齢)- 24.94
(17)
従属変数に体脂肪量を選ぶと(式 18)、推測値と実測値との相関係数が体脂肪率の場合(式 16)に比
5
べて大きくなった。
(体脂肪量)=0.87(利き腕の逆の腕の周囲径の和)-0.065(年齢)- 42.67
(18)(R=0.771)
また、腕の周囲径の一つと年齢を独立変数に選んだ場合の体脂肪量の推測値と実測値との相関係数は手
首(式 19、R=0.565)、前腕(式 20、R=0.716)、上腕(式 21、R=0.758)の順に高くなった。腕の脂
肪量がこの順に増加するものと思われる。
(体脂肪量)=3.70(利き腕の逆の腕の手首周囲径)-0.103(年齢)- 43.50
(19)
(体脂肪量)=2.32(利き腕の逆の腕の前腕周囲径)-0.048(年齢)- 41.65
(20)
(体脂肪量)=1.48(利き腕の逆の腕の上腕周囲径)-0.064(年齢)- 22.70
(21)
いずれにしても、式 16~18 を用いて、3.2.1 節で述べたウエスト周囲径、ヒップ周囲径、年齢か
らの体脂肪率の推定(式 11)と同様に、体脂肪計なしに巻尺だけで体脂肪量が推定できるようにな
ったわけである。
3.3.2 女性の体脂肪と腕の太さの関連
女性の上腕、前腕、手首の周囲経(cm)と体脂肪率のデータ(データ数 9、BMI 平均 19.9;標準偏
差 1.94、年齢範囲 20~49;平均値 31.7;標準偏差 10.47)から体脂肪率を推定する数式を、男性の場
合と同様に、重回帰分析によって種々作成した。利き腕の逆の腕の手首、前腕、上腕周囲径の和と年齢
を独立変数とする体脂肪利の推定式は式 22 のようになった(R=0.881)。
(体脂肪率)=1.42(利き腕の逆の腕の周囲径の和)- 0.374(年齢)-46.85
3.4 体脂肪率の経時変化と経日変化の解析
(22)
56
16
体
脂
肪
率
の
平
均
値
現在、家庭でインピーダンス法による体脂肪計を用いて
体脂肪率を毎日あるいは週一回程度測定して、その増減を
10
%
6
討を加えた結果の概要を報告し、比較的短期間に多数回の
F0
㎏
)
8
)
含めて体脂肪率の経日および経時変化について詳細に検
F1
12
(
この節では平成 17 年度の卒業研究1)で使用したデータも
4
5
体脂肪率測定を行った場合に得られる測定値の意味を考
脂肪率F0以外に、測定時に適量の水を入れたペットボト
ルを持って見掛けの体重を実際の体重より少し重い値、
体 16.5
脂 16
肪 15.5
率
の 15
平 14.5
均 14
値
13.5
なわち体のインピーダンスの変化を読み取ることが出
来る。
25
57 体
重
の
平
55 均
値
F1
㎏
)
%
)
の体重変化の影響を受けていない体脂肪率の推定値す
20
体重
(
した体脂肪率F1も測定した。このF1の値の変化から実際
15
測定時刻(h)
(
たとえば、体重 57kgの被験者であれば 60kgとして測定
10
図4 被験者M Uの2005年8月11日の体重、体脂肪率F0 およびF1 の
経時変化の測定結果
17
える際の参考に供したいと思う。
体脂肪率の変化の意味を考えるに当たって、通常の体
体
54 重
の
平
均
値
14
(
健康問題に関連付けて考える人は意外に多いと思われる。
体重
F0
13
12.5
12
5
10
15
測定時刻(h)
20
25
図5 被験者T Mの2005年5月29日の体重、体脂肪率F0
およびF1 経時変化の測定
3.4.1 体脂肪率の経時変化
図 4 に、体脂肪の経時変化の 1 例として、被験者MUが 2005 年 8 月 11 日のMUの体重、体脂肪率F0、
測定時に適量の水を入れたペットボトルを持って見掛けの体重を実際の体重より少し重い 56kgとして
測定した体脂肪率F1の経時変化を示す。体重は朝の起床時より時間の経過とともに僅かながら増加して
6
いる。一方、体脂肪率F0は時間の経過とともに、若干の上昇区間はあるものの、全体としては減少して
いる。F1がF0よりも常に大きいことは、この装置に内蔵されている体脂肪率の計算式が、体重が増加す
ると体脂肪率が増加する形になっていることを示している。従って、体重が増加しているにもかかわら
ず体脂肪計による体脂肪率の測定値が減少しているのは、起床時以降の水分摂取により体のインピーダ
ンス(抵抗)が小さくなった結果と考えるのが妥当であろう。見掛けの体重を一定(56kg)にして測定
した体脂肪率F1が時間の経過とともになだらかに減少している事実はこれを裏付けている。この場合、
F1の算出に使用されている独立変数のうち変化している独立変数はインピーダンス(抵抗)だけであり、
この値が水分の増加により減少して、F1の減少をもたらしていることになる。したがって、MUの起床
時以降の体脂肪率の減少は、体脂肪の減少によるものではなく、体内の水分の増加によるものと考えら
れる。食事の後で体脂肪率を測定すると、体重とともにF0が増加していることがある。そのような場合
でも、F1はほとんど変化していないか、あるいは減少していることが多い。これは、体重の増加により
F0が見かけ上大きく算出されたことを示している。図 4 の場合は、12 時の昼食の後で、体重が増加し
ているにもかかわらずF1が明らかに減少しており、体脂肪率F0の僅かな減少は体内の水分の増加による
ものであることが分かる。
2005 年 5 月 29 日に上記のMU と同様の測定をTMが行った結果を図 5 に示す。9 時、13 時、20 時
の体重増加はその直前の食事によるものである。16 時以降のF1の経時変化は、MUの場合とは異なり、
体重の変化と同様の傾向を示している。すなわち、体重の増減とインピーダンス(抵抗)の増減が同じ
傾向を示していることになる。この結果は、MUの場合とは異なり、季節の違いもあって、一日の水分
摂取量が少ないために、観測された体脂肪率の増加が真の体脂肪の増加によるものと考えざるを得ない。
ただ、ここでの、たとえば、食後の体脂肪の増加量はF1値から判断して体脂肪率で 0.3~0.4%、体重を
56Kgとしたときの体脂肪量で 170~220gになる。一般人の 1 日の消費カロリーは基礎代謝も含めて
1000~2500Kcal程度である。脂肪 1gの燃焼で得られる熱量は 9Kcalなので、絶食状態で脂肪のみが消
費されたとしても 1 日当たり 280g程度である。従って体重変化があまり大きくない状態では、一食当
たり 100gを大幅に超える体脂肪の増加が起こることは考えにくい。ここで観測されている食後の体脂
肪増加は、真の体脂肪増加のほかに、食事を取った後に副交感神経の機能が優位となり、発汗が抑制さ
れて足の裏と装置との接触抵抗が増大し、見かけ上体脂肪率が大きく観測されるというような要因も含
むものと考えたほうが良いと思われる。実際は、後者の要因の寄与の方が大きいのではないかと考えら
れる。いずれにしても、ここで観測されたMU(65 歳)とTM(21 歳)の相違は、季節だけでなく、年
齢や生活環境の違いにもよるのであろう。
図 6 にTMの 2005 年 7 月 17 日の体重と体脂肪率の測定結
57
17
果を示す。食事(8 時 30 分、12 時、19 時 30 分)の後体重は
㎏
%
11
)
が小さくなった結果であろう。図 5 の場合のような副交感神
F1
F0
体
重
(
暑い気候なので食事中の水分摂取量が多く、インピーダンス
体
脂
13
肪
率
55
)
摂ることで増加していたF1がここでは減少している。これは
体重
(
増加し、F1は若干減少しF0は増加している。図 5 では食事を
15
9
経による制汗作用は夏季には現れないのであろう。当日の昼
食は冷やし中華そば、夕食は焼肉で、ともに脂肪の多い食事
なので、食事によって体脂肪が若干増加したかもしれないが、
F1の減少を考慮すれば脂肪の増加量はごく僅かであろう。こ
7
5
10
15
測定時刻(h)
20
25
図6 被験者TMの2005年7月17日の体重、体脂肪率
F 0 およびF 1 の 経時変化
こで観測されたF0の増加は体脂肪率計内臓のプログラムが体重の増加を体脂肪率の増加に反映させる
7
ようになっているためと考えざるを得ない。
起床時から 15 時までは朝食、昼食による体重増加を除けば、体重、体脂肪率F0 、F1とも時間ととも
に減少している。体脂肪計で観測される体脂肪率F0の低下は、体脂肪量の低下あるいは水分の増加によ
って起こるが、ここでは体重が減少しているので、体脂肪量の低下が体脂肪率の実際の低下と関係して
いることは明らかである。13 時から 15 時にかけての体脂肪率の急激な低下は 13 時 20 分から 13 時 55
分までのドライブが原因と考えるのが妥当である。ただ、上にも述べたことであるが、ここで観測され
ている体脂肪率の減少は、ドライブによるエネルギー消費が脂肪の燃焼のみによって行われたとしても
大きすぎるので、ドライブによって交感神経が緊張し、それによる発汗で足の裏と装置との接触抵抗が
減少したことも原因の一つと考えられる。一方、15 時から 23 時までは、食事による影響を除いて体重
は減少し体脂肪率は増加している。この傾向は、特に体脂肪率F1において明瞭である。体脂肪率F1の増
加は体脂肪量の増加あるいは水分の減少によるものであるが、ここでは体重が減少しているので、体脂
肪率の増加が水分の減少によるものであることは明らかである。つまり、暑い季節に水分を余り摂らな
かったことによるのではないかと思われる。
23 時 30 分に入浴後体重、体脂肪率F1とも減少している。入浴によって体から水分が減少するので、
体脂肪量に変わりがなければ実際の体脂肪率は若干増大するはずである。それにもかかわらず体脂肪率
が減少しているのは、入浴による足の裏の接触抵抗の減少が主な原因と考えるのが妥当であろう。
以上の通り、MU の 1 日の体脂肪率の測定値の変化は、その大部分が体内の水分の変化によるもので
あると推定される。一方、TM の 1 日の体脂肪率の変化は、昼間は体脂肪量と足の裏の接触抵抗の変化、
夕方から夜間は体内の水分量と足の裏の接触抵抗の変化によるものである。MU は 65 歳の男性、TM は
21 歳の男性である。どちらの被験者も体脂肪率は低い方なので、
17
二人の被験者間の大きな差異は年齢の差によるものと考えられる。
16
時間では脂肪の生成および消費があまり起こらなくなるのかもし
率
重
F1
肪
14
㎏
)
(
%
体
54
(
年齢を重ねるにつれて体脂肪の生成速度や代謝機能が低下し、短
脂 15
F0
13
)
れない。
55
体重
体
12
TMの 2006 年 11 月 4 日の体脂肪率の経時変化を図 7 に示す。
11
4
食事(朝食が 7 時 30 分、昼食が 12 時 30 分、夕食が 19 時 30 分)
によって体重とF0が増加するのは図 6 に示した 2005 年 7 月 17 日
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
測定時刻(h)
図7 被験者T Mの2006年11月4日の体重、体脂肪率
F 0 およ びF 1 の経時変化
の測定結果とまったく同様である。一方、F1の変化は昼食を除い
て図 6 の結果とは逆に食事によって増加する。これは夏季とは
30
作用のほうがより強く働いて足の裏と体脂肪計の接触抵抗が大
51
)
15 時まで研究実験のための調べもの、さらに 16 時までドライ
10
ブをしている。これらの動作がすべて足の裏の発汗を促し、F1の
5
減少をもたらしたものと思われる。17 時からのF1の増加は足の
0
体
重
㎏
% 15
F1
)
る。被験者は昼食後 1 時 10 分~1 時 25 分は風呂掃除、ついで
体重
(
きくなり、インピーダンスが見かけ上増大したためと考えられ
56
25
体
脂
肪 20
率
(
異なり食事の際の水分摂取量が少なく、副交感神経による制汗
F0
6/1
6/4
6/7 6/10 6/13 6/16 6/19 6/22 6/25 6/28
測定日時(日)
図8 被験者M Uの2005年6月の体重、体脂肪率
F 0 およびF 1 の経日変化
裏の湿りが徐々に乾いていった結果であろう。
3.4.2 体脂肪率の経日変化
MUの 2005 年 6 月の体重、体脂肪率F0およびF1の経日変化を図 8 に示す。体重の増減と体脂肪率、
特にF1の増減とは大抵の場合に逆の傾向を示している。したがって、ここで観測されている体脂肪率の
8
変化は、実際は体内の水分量の変化に対応するもので、体脂肪量は一ヶ月間ほぼ一定と考えるのが妥当
であろう。7 月、8 月および 9 月もほぼ同様の結果となった。F0と F1
57
体重
53
た。
)
%
このような現象は 10 月の前半過ぎるころまで続くが、10 月の後
体
重
㎏
)
(
体 25.0
脂
肪
率 20.0
(
は、ほぼ同様な傾向で変化するが、値の増減はF1の方が顕著であっ
30.0
15.0
F1
10.0
F0
期になるとF0およびF1の増減が体重の増減と同じ傾向を示すよう
5.0
になった(図 9)。この場合は体重の増減が水分の増減によるものと
0.0
10/1
は考えらないので、体脂肪率の増減が体脂肪そのものの増減を反映
10/11
10/21
測定日時(日)
10/31
図9 被験者M Uの2005年10月の体重、体脂肪率
F 0 およびF1 の経日変化
していると考えざるを得ない。夏季は体内での脂肪の生成があまり
起こらず、秋になるとそれが始まることに対応しているのではなかろうか。以上述べたように、体脂肪
率の経日変化は体内の水分変化を反映している場合と体脂肪の変化による場合とがある。その判定にも
見掛けの体重を一定にした体脂肪率F1の測定が有用であることが明らかになった。
2005 年 6 月 3 日から 2006 年 12 月 31 日まで 19 ヶ月にわたるMUのF0、F1および体重の変化をそれ
ぞれ図 10、11 および 12 に示す。この期間における体脂肪率F0は平均値 11.4%を中心にほぼ±4%の範
囲に広がっている(図 10)。一方、体重を見かけ上一定にして測定した体脂肪率F1の値は平均値 12.8%
を中心にほぼ±3%の広がりであり(図 11)、体重の場合は平均値 55.5kgを中心に±3kgの広がり(図
12)である。この体重の増減がすべて体脂肪の増減によるものと考えると、体脂肪率が±5.4%増減する
こととなるので、体重の増減が脂肪と水の両者によるものであることは明らかである。ある任意に選ん
だ日の体重およびF1の測定値の、その前回の測定値からの増減の状況を調べた。そのうちの 2006 年 11
~12 月の状況を示したのが図 13 である。このような図を上記の 19 ヶ月間にわたって作成すると、前
回の測定に比べて体重が増加してF1が減少する場合(99 回)
、および、体重が減少してF1が増加する場
合(103 回)が、体重、F1ともに増加する場合(59 回)ならびに体重、F1ともに減少する場合(41 回)
に比べてかなり多いことが分かる。前回の測定に比べて体重が増加してF1が減少する場合は、主たる変
化は水の増加であることは間違いない。また、体重が減少してF1が増加する場合は主たる変化は水の減
少である。一方、体重、F1ともに増加する場合は主たる変化は脂肪の増加の筈である。また、体重、F1
ともに減少する場合は主たる変化は脂肪の減少である。これらの事実は、一定の時刻に長期にわたって
測定した体脂肪率の値の変化は、その約 67%が水分の変動によるものであり、残り 33%が脂肪の変動に
よるものであることを示していると考えられる。
16
17
15
16
体14
脂
肪13
率
12
F0
体
脂 15
肪
率 14
F 1 13
平均値
(
(
11
)
% 12
)
%
平均値
10
11
9
10
8
9
7
6
8
6/1
7/26
9/19
11/13
1/7
3/3
4/27
6/21
8/15
10/9
6/1
12/3
測定日時(日)
7/26
9/19
11/13
1/7
3/3
4/27
6/21
8/15
10/9
測定日時(日)
図11 M Uの2005年6月から2006年12月までの体脂肪率F1の経日変化
図10 M Uの2005年6月から2006年12月までの体脂肪率F 0の経日変化
9
12/3
60
体
重
と
体
脂
肪
率
の
増
減
59
(
体58
重
57
平均値
)
㎏
56
55
5
4
3
2
1
0
(
㎏ -1
,
% -2
54
53
)
-3
52
■=体重
■=体脂肪率F1
-4
51
-5
11/3
50
6/1
7/26
9/19
11/13
1/7
3/3
4/27
6/21
8/15
10/9
11/9
12/3
11/15 11/21 11/27
12/3
12/9
12/15 12/21 12/27
測定日時(日)
測定日時(日)
図13 被験者M Uの体重および体脂肪率F1 の前回の測定値からの増減
(測定期間、2006年11月3日から2006年12月31日迄)
図12 M Uの2005年6月から2006年12月までの体重の経日変化
3.5 体脂肪計と MRI による体脂肪率測定値の比較
体内の脂肪分布の評価にはX線CT法や核磁気共鳴を利用するMRIが有効であることが知られている。
このうちMRIはX線被爆がないこと、組織分解能が良いこと、ある特定の信号成分をとり除くことが出
来ることなどの特徴のために、最近良く用いられるようになってきた15,16)。両者による測定値の間には
きわめて高い相関のあることが報告されている16)。そこで、本研究で使用したヘルスメーターによる体
脂肪率の実測値が妥当な値であるかどうかを確かめるために、体脂肪率の異なる 5 名の被験者について
ヘルスメーターとMRIによる測定を行い、両者の値を比較した。
ヘルスメーターによる体脂肪率の測定値がかなり違う 3 人の被験者 NN、KM、TM の胸部の下半
分から腹部にかけての MRI 画像を図 14 に示す。白い部分が脂肪である。これらの図からだけでも、ヘ
ルスメーターによる体脂肪率の測定値はかなりの信頼性を持つことが判断できる。
これらの被験者について、MRIで測定したスペクトルから水および脂肪のアルキル鎖のプロトンの吸
収を抽出したスペクトルを図 15 に示す。高磁場側の吸収が脂肪酸のメチル基、メチレン基および 2 重
結合メチン基の水素によるもので、低磁場側の吸収は水の水素によるものである。前者の後者に対する
吸収強度比とヘルスメーターによる体脂肪率の測定値から求めた体脂肪量と除脂肪量の重量比との
関連を調べたのが図 16 である。相関係数R=0.926 の右上がりの直線が得られている。人体の除脂
肪部分の水の比率はほぼ一定(約 72%)17であることを考慮すれば、図 16 の結果は、ヘルスメーター
とMRIによる体脂肪率測定値は両者とも信頼性の高いものであることが分かる。
10
1.2
脂
肪
と
水
の
重
量
比
y = 0.6609x + 0.0761
R = 0.9264
1
0.8
0.6
0.4
0.2
同一被験者
0
n=6
2
0.5
1
1.5
吸収強度から求めた脂肪と水の重量比
図16 MRIの吸収強度から求めた脂肪と水の重量比とヘルスメーター
(BF-643)から求めた脂肪と水の重量比との関係
0
11
4 まとめ
①同一の体脂肪計による体脂肪率測定の精度(バラツキ)は1%以内であり、女性の方が男性よりも
若干バラツキが小さい。
②同一の被験者の体脂肪率を数種類の体脂肪計を用いて測定したときのデータの差異は体脂肪率の実
測値で 3~4%におよぶかなり大きな値である。
③身長、体重、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径ならびに年齢の値から、体脂肪率を高い信頼度で推定
することができた。推定値と実測値の相関係数 R は男性 0.873、女性 0.980 であった。
④ウエスト周囲径、ヒップ周囲径と年齢から体脂肪率の推定が可能であった。また、男性の体脂肪率
はヒップ周囲径よりもウエスト周囲径に依存し、女性の場合はその逆であることが分かる。男性:
R=0.824、女性:R=0.975
⑤腕の周囲径からも、相関係数は低いものの、体脂肪率の推定が可能であった。
⑥体脂肪率の変化の意味を考えるに当たって、通常の体脂肪率F0以外に、測定時に適量の水を入れた
ペットボトルを持って見掛けの体重を実際の体重より少し重い値、たとえば、体重 57Kgの被験者であ
れば 60Kgとして測定した体脂肪率F1も測定した。このF1の値の変化から実際の体重変化の影響を受け
ていない体脂肪率の推定値すなわち体のインピーダンスの変化を読み取ることが出来る。これらF0とF1
の時間変化を測定することにより、数日間のような短時間内の体脂肪率計による体脂肪率の測定値の変
動は主として水分の変動ならびに手や足の表面の水分の状態によるものであると推定することができ
た。
⑦長期にわたって測定した体脂肪率の値の変化は、その約 70%が水分の変動によるものであり、残り
30%が脂肪の変動によるものであることが分かった。
⑧体脂肪率計による体脂肪量の測定値を MRI による測定値と比較することにより、両測定値が信頼性
の高いものであることを確認した。
5 参考文献
1)佐々木崇、森安貴信
福井工業大学工学部応用理化学科卒業論文(2006)
2)福永隆光、能見直樹
福井工業大学工学部環境・生命未来工学科卒業論文(2007)
3)石井淳、板橋明、
「身長計測(身長、体重)による肥満度の推定」、日本臨牀(特別号)、 53、194、
(1995)
4)新井武志、徳永勝人、篠原悦子ほか、「DEXA 法で測定した体脂肪量の精度と臨床的意義」、第 13
回日本肥満学会記録、253、(1992)
5)Pouliot. M. C. , et al , “Waist circumference and abdominal sagittal diameter ”. Am J Cardiol
73,460,(1994)
6)松澤佑次、井上修二、池田義雄、坂田利家、斉藤康、佐藤裕造、白井厚治、大野誠、宮崎滋、徳永
勝人、深川光司、山之内国男、中村正、
「新しい肥満の判定と肥満症の診断基準」
、肥満研究 6、No.1、
18、(2000)
7)吉池信男、西信雄、松島松翠、伊藤千賀子、池田義雄、樫原英俊、吉永英世、小倉浩、小峰慎吾、
佐藤裕造、佐藤則之、佐々木陽、藤岡滋典、奥淳治、雨宮禎子、坂田利家、井上修二、
「Body Mass index
に基づく肥満の程度と糖尿病、高血圧、高脂血症の危険因子との関連」、肥満研究
6、N0.1、4、
(2000)
8)和田高士、福元耕、常喜真理、吉澤祥子、中崎薫、橋本博子、池田義雄「一無・二少・三多の生活
習慣とBMI、ウエスト周囲径、体脂肪率の関係」、肥満研究
9、NO.3、128、(2003)
9)原光彦、岡田知雄、原田研介、「ウエスト周囲径、ウエスト周囲径/ヒップ周囲径、ウエスト周囲径/
12
身長」、日本臨牀(増刊号 6)、 61、397(2003)
10)安部孝、福永哲夫、
「Waist/Hip法」、日本臨牀(特別号)
、
53、221、(1995)
11)中村正、松澤佑次、「我が国での新しい肥満判定、肥満症診断基準、肥満分類と肥満判定の国際比
較」、日本臨牀(増刊号 6)、 61、402(2003)
12)Kvist. H. , et al, ”Total and visceral adipose-tissue volumes derived from measurements with
computed tomography in adults men and wome”. Am J Clon Nutr, 48,1351,(1988)
13)Han. T. S. , et al, ”waist circumference action levels in the identification of cardiovascular risk
factors” , BMJ 311,1401,(1995)
14)重回帰分析に用いたソフトウエアーは下記のホームページよりダウンロードして使用した。
http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/lecture/stats-by-excel/vba/html/sreg.html
15)山口慶一郎、中野政雄、「MRIを用いた脂肪測定」、日本臨牀(特別号)、 53、215、(1995)
16)善積透、松浦隆、小倉明夫、本郷隆治、井上博志、中村正、松澤佑次、
「MRI法」、日本臨牀(増刊
号 6)、 61、389(2003)
17)小宮秀一、佐藤方彦、安河内朗、「体組成の科学」、朝倉書店、(1988)、p24~46
6 謝辞
MRI の測定は福井大学医学部木村浩彦助教授、石森佳幸技師および藤原康博博士に行っていただき
ました。体脂肪の測定は福井工業大学の教員ならびに学生にご協力いただきました。福井工業大学工学
部経営工学科梅野正隆教授には体脂肪の長期にわたる測定結果を提供していただきました。福井工業大
学環境・生命未来工学科原道寛講師には体脂肪率推定のためのホームページ作成にご協力いただきまし
た。また、本論分の作成にあたっては、大阪大学保健センターの杉田義郎先生、西田誠先生に懇切なご
指導を頂きました。以上の方々に心より厚く御礼申し上げます。
本論文の内容は、福井工業大学の創成科学の授業および、卒業研究の成果から抜粋したものであり、
その間、本研究に関与した学生は、堀内大輔、山崎広太郎、吉澤一浩、佐々木崇、吉川瑞恵の諸君であ
る。彼等の貢献に心から感謝いたします。
13
表1 男性被験者(n = 81)の体脂肪率とそれに関連する様々な変数との関係
独立変数
体重
体重
身長
ウエスト
ヒップ
BMI
0.41
身長
-3.75
0.154
-14.61
0.750
-42.49
0.708
-13.75
0.835
19.96
0.024
36.81
0.838
-7.51
0.792
-0.082 -16.55
0.814
65.65
0.003 -42.65
0.708
33.09
-34.54
0.792
-0.046 -13.16
0.856
-0.043
55.81
0.850
-0.066 -27.10
0.824
1.06
-0.063 -17.00
0.872
1.36
-0.039 -21.22
0.860
-0.076
38.87
0.871
-0.048
45.96
0.858
-0.060 -19.44
0.873
-0.075
0.874
65.60
BMI
1.48
年齢
-0.006
体重、身長
0.49
体重、年齢
0.41
-28.77
0.013
ウエスト、年齢
49.49
ヒップ、年齢
ウエスト、ヒップ
28.37
BMI,年齢
1.55
0.51
-39.68
ウエスト、ヒップ、年齢
40.31
ウエスト、BMI,年齢
19.30
ヒップ、BMI,年齢
体重、身長、
ウエスト、年齢
体重、身長、
ヒップ、年齢
-32.67
0.42
-41.77
ウエスト、ヒップ、
BMI,年齢
体重、身長、ウエスト、
ヒップ、年齢
18.16
12.65
0.33
0.29
-34.73
22.78
20.62
18.03
4.23
20.48
13.28
14
相関係数
0.790
42.56
ヒップ
定数
-6.75
13.78
ウエスト
体重、身長、年齢
年齢
1.03
34.24
表 2 男性被験者(n = 81)の体脂肪量とそれに関連する様々な変数との関係
独立変数
体重
体重
身長
ウエスト
ヒップ
-39.26
0.321
-24.80
0.774
-61.50
0.791
-25.00
0.887
14.30
0.095
7.14
0.933
-0.001
-19.76
0.919
-0.112
-27.46
0.871
-0.014
-60.59
0.792
-54.10
0.848
1.80 -0.071
-24.03
0.926
-0.041
25.22
0.941
-0.085
-44.42
0.891
1.29 -0.089
-28.00
0.941
1.49 -0.061
-37.11
0.936
-0.063
13.91
0.948
11.56
-0.043
19.70
0.943
16.03
13.05
1.20 -0.079
-35.53
0.944
14.08
6.51
-0.062
11.64
0.949
ヒップ
78.86
BMI
1.70
年齢
-0.025
0.56
体重、年齢
0.51
-17.81
ウエスト、年齢
56.67
ヒップ、年齢
78.58
ウエスト、ヒップ
26.35
48.65
BMI,年齢
0.58
-28.18
ウエスト、ヒップ、年齢
41.90
ウエスト、BMI,年齢
19.92
ヒップ、BMI,年齢
ウエスト、年齢
体重、身長、
ヒップ、年齢
-23.51
0.53
-29.36
ウエスト、ヒップ、
BMI,年齢
体重、身長、ウエスト、
ヒップ、年齢
29.21
20.53
0.46
0.44
-24.52
相関係数
0.919
47.23
体重、身長
定数
-19.80
30.88
ウエスト
体重、身長、
年齢
0.51
身長
体重、身長、年齢
BMI
15.21
15
表 3 女性被験者(n = 12)の体脂肪率とそれに関連する様々な変数との関係
独立変数
体重
体重
身長
ウエスト
ヒップ
BMI
0.63
身長
27.55
0.010
-1.33
0.725
-45.40
0.965
-10.40
0.949
19.60
0.504
32.71
0.985
0.045
-7.75
0.929
0.082
-0.64
0.758
73.21
0.035 -43.38
0.969
68.42
-43.67
0.972
-0.046 -11.93
0.956
-0.027
36.81
0.987
0.028 -42.28
0.975
1.73
-0.044 -12.61
0.957
0.74
-0.003 -33.22
0.978
-0.026
30.84
0.989
-0.023
30.33
0.987
-0.001 -34.42
0.980
-0.022
0.989
76.86
BMI
1.68
年齢
0.168
体重、身長
0.71 -28.76
体重、年齢
0.59
ウエスト、年齢
32.00
ヒップ、年齢
ウエスト、ヒップ
8.30
BMI,年齢
1.83
0.75 -31.82
ウエスト、ヒップ、年齢
7.33
ウエスト、BMI,年齢
3.71
ヒップ、BMI,年齢
体重、身長、
ウエスト、年齢
体重、身長、
ヒップ、年齢
BMI,年齢
ヒップ、年齢
4.62
0.68 -29.54
ウエスト、ヒップ、
体重、身長、ウエスト、
66.55
46.56
0.70 -28.64
0.64 -26.32
6.63
4.61
47.33
4.63
6.73
16
相関係数
0.921
37.23
ヒップ
定数
-8.17
-0.94
ウエスト
体重、身長、年齢
年齢
0.60
24.26
表 4 女性被験者(n = 12 )の体脂肪量とそれに関連する様々な変数との関係
独立変数
体重
体重
身長
ウエスト
ヒップ
BMI
0.63
身長
-1.72
0.137
-8.34
0.626
-54.65
0.966
-18.81
0.898
8.59
0.480
3.23
0.986
0.026
-19.86
0.967
0.086
-7.62
0.671
0.024
-53.24
0.968
-54.77
0.966
-0.040
-20.13
0.903
-0.015
5.42
0.986
0.026
-53.47
0.968
1.74
-0.041
-19.63
0.904
-0.08
0.029
-54.41
0.968
-0.015
7.95
0.987
-0.009
-4.16
0.987
0.028
-54.07
0.968
-0.009
-1.61
0.987
74.42
BMI
1.53
年齢
0.155
体重、身長
0.68 -16.42
体重、年齢
0.61
ウエスト、年齢
25.65
ヒップ、年齢
71.90
ウエスト、ヒップ
-0.59
75.02
BMI,年齢
1.67
0.70 -18.05
ウエスト、ヒップ、年齢
-1.50
ウエスト、BMI,年齢
-2.71
ヒップ、BMI,年齢
体重、身長、
ウエスト、年齢
体重、身長、
ヒップ、年齢
0.72 -19.40
BMI,年齢
ヒップ年齢
-1.96
0.61 -14.68
ウエスト、ヒップ、
体重、身長、ウエスト、
73.27
74.96
0.63 -16.03
9.82
-1.30
74.74
-1.95
9.77
17
相関係数
0.964
31.13
ヒップ
定数
-20.10
10.26
ウエスト
体重、身長、年齢
年齢
-0.05