乳癌領域 (術後化学療法における 臨床試験の成果)

乳癌領域
(術後化学療法における
臨床試験の成果)
国立がんセンター中央病院
臨床試験・治療開発部
安藤 正志
乳癌の腋窩リンパ節転移個数別の術後無病生存期間
(1962~1991年 国立がんセンター中央病院 5,092例)
乳癌における局所疾患と全身疾患
微小転移
局所疾患
手術だけで治癒可能
全身疾患
初診時、全身に微小転移を
伴い手術だけでは治癒不可能
再発に
つながる
初診時、既に全身性疾患である乳癌の
治療成績を向上させるためにはどうすれば
よいか?
原発巣の外科的切除に加え、術後に全身治療を
追加することにより治療成績の向上
(無再発率、生存期間)をはかることは可能か?
腋窩リンパ節転移陽性の乳癌に対する
術後化学療法 vs 経過観察の無作為化比較試験
1973年より開始
無
手術可能乳癌
75歳以下
乳房切除
腋窩リンパ節転
移陽性乳癌
(386例)
経過観察
作
為
化
両治療群の無再発生存期間、および生存期間を比較
CMF x 12 サイクル
CMF: シクロフォスファミド
/メソトレキセート
/5-フルオロウラシル
(N Engl J Med 332: 901, 1995)
試験結果
無再発生存期間
生存期間
化学療法群
化学療法群
経過観察群
経過観察群
観察期間 (年)
腋窩リンパ節転移(+)乳癌術後における
術後化学療法と経過観察の比較試験が意味するもの
10年間で手術だけだと100人中71人が再発す
る状況で術後にCMFを行ったことにより、11人
が再発を免れた。
術後CMFは再発を先送りしただけではなく
死亡率の低下に結びついている。
乳癌術後化学療法の変遷
アルキル化剤
の導入
(1970年代)
CMF x 6
アンスラサイクリン系
薬剤の導入
(1980年代)
A60 C x 4
FA50 C x 6
CE100 F x 6
AC x 4→ PTX x 4
タキサン系
薬剤の導入
CE100 F x 3→ DTX x
(1990年末~2000年代)
3
TAC x 6, DC x 4
HER2陽性例
トラスツズマブ導入
(1990年末~2000年代) 化療+トラスツズマブ x 1年
CMF: CPA / MTX / 5-FU, AC: DOX / CPA, FAC: 5-FU / DOX / CPA, CEF: CPA / EPI / 5-FU, TAC: DTX / DOX / CPA, DC:DTX/CPA
腋窩リンパ節転移陽性乳癌に対するタキサン系薬剤の
比較試験のメタアナリシス 13試験(N=22,903)
(J Clin Oncol
26: 44, 2008)
78.4% FEC-DTX
73.2%
FEC
・・・・・・
p= .011
AC→PTX vs AC
AC→PTX vs AC
FEC→wPTX vs FEC
メタアナリシス
生存期間
無増悪生存期間
5年間でのベネフィット 5%
FEC→DTX vs FEC
5年間でのベネフィット 3%
なし
不定期
2年毎
毎年
30~79歳における乳癌の
死亡率の推移予測 (10万人あたり)
米国、40~79歳
女性における
マンモグラフィー
検診割合の推移
検診, 術後薬物療法なし
検診のみ
術後薬物療法
のみ
検診+
術後薬物療法
米国における
乳癌術後
薬物療法
の推移
多剤併用
化学療法
のみ
TAM
のみ
化療
+TAM
(N Engl J Med 353: 1784, 2005)
術後乳癌の再発予防目的で全身治療を行う際に
より適切な対象に、より適切な治療を行うために、
予後因子・予測因子が検討された。
年令
腋窩リンパ節転移個数
乳がんの 腫瘍径
予後因子 臨床病期
病理学的異形度
ER, PgR
治療効果の予測因子でもある。
(内分泌療法、トラスツズマブ
HER2
に対する反応性)
手術可能乳癌 (病期 I~IIIA)に対する
術後薬物療法の治療方針 (St. Gallen)
ホルモン受容体陽性
ホルモン受容体陰性
リスクグループ
(10年間の再発リスク)
閉経前
閉経後
閉経前 / 後
低リスク
(10%以下)
TAM or
治療(-) or
LHRHa
TAM or
AI or
治療(-)
治療 (-)
中間リスク
(30~40%)
TAM ±LHRHa or
LHRHa or
化療*+→TAM
TAM or
AI or
化療*+→TAM or
化療*+→AI
化学療法*
FAC or AC or CEF
or CMF
高リスク
(50%以上)
化療**+→TAM
化療**+→TAM or
化療**+→AI
化学療法**
AC→PTX
CEF→DTX
+ HER2陽性例: 術後トラスツズマブ 1年間投与
AI : アロマターゼ阻害剤, LHRHa : LHRHアゴニスト, TAM : タモキシフェン
(Ann Oncol 18: 1133, 2007)
乳癌術後治療効果の予測ツール
(https://www.adjuvantonline.com/index.jsp)
乳がん術後における臨床試験の成果
・
微小転移が存在する可能性の高い (再発する可能性の
高い)症例の術後に全身治療を行うことにより、再発率の
抑制と生存期間の延長をはかることが可能
・
乳癌は予後因子や予測因子に応じて、局所療法と全身
療法を適切に組み合わせて治療を実施
・
術後に全身療法を行った際の利益(再発抑制効果)、お
よび不利益(副作用など)を見積もることが可能