女子ラクロスにおけるゲーム分析 −ゴーリーを起点とした攻撃について−

女子ラクロスにおけるゲーム分析
−ゴーリーを起点とした攻撃について−
指導教官 勝本 真
発表者 本山 遼子
キーワード:女子ラクロス、ゴーリー、クリア
1. 緒言
ラクロスは先端に網のついたクロスと呼ばれるスティ
ックでパスをつなぎ、相手陣のゴールを狙って得点を
争う競技である。1チームはフィールドプレーヤー11 人、
ゴーリー1 人から成り、サッカーグラウンドとほぼ同程度
の広さの競技場で行われる。ゴーリーとはラクロスにお
けるゴールキーパーの名称である。ゴーリーが、ボー
ルを保持してからフィールドプレーヤーにパスを出す
ことをクリアという。シュートをセーブしフィールドプレー
ヤーに確実なパスを出さなければならないことから、ゴ
ーリーは攻撃の起点であるともいえる。そこで本研究
は、攻撃開始プレーをゴーリーからのパスのみに絞り、
ゴーリーのパスの飛距離やパスが出されるまでの秒数、
パスキャッチの成功率、そのクリアはシュートに結びつ
いたかに焦点をあてる。そして勝敗との関連性、1 部と
4 部のクリアの特徴を明らかにし、シュートチャンスに持
ち込める可能性の高いクリアとはどのようなものかにつ
いて考察する。
2. 研究方法
2-1 分析対象
2005 年 8 月 16 日∼11 月 27 日にかけて行われた、
第 18 回関東ラクロスリーグ戦女子の 1∼4 部の試合、
23 試合を撮影した。引き分けの 2 試合を除く 21 試合
で、勝敗とクリアの関係について比較を行った。1 部と
4 部の比較については、1 部 6 試合と 4 部 9 試合を対
象とした。
2-2 撮影方法
試合撮影はビデオカメラを手で持ち、サイドライン側
の中央の位置から、150∼170cmの高さで行った。スタ
ンドがある競技場では、約 10mの高さから下方のグラ
ウンドを撮影した。撮影にはデジタルビデオカメラ
(SONY 製、DCR-PC9 及び SONY 製、DCR-PC100)
を用いた。
2-3 分析項目
撮影した映像は DV から VHS へとダビングした時に
VIDEO TIMER(FOR.A 製、VTG-33)を通した。データ
処理にはマイクロソフトエクセルを使用した。ゴーリー
がボールを保持する直前のプレーから、ターンオーバ
ー及びシュートに至るまでの流れについて以下の 17
項目の分析を行った。
1.クリアを行ったチームのゴーリー(G)
2.ゴーリーがボールを保持した手段(手段)
3.ゴーリーが受けたシュートの結果(成 1)
4.ボールを保持した時点(SorG 保)
5.パスを出した時点(THROW)
6.パスを出した位置(G→)
7.キャッチした位置(→F)
8.プレッシャーの有無(プレ)
9.パスキャッチの成否(成 2)
10.パスキャッチミスの原因(原因)
11.センターを通過した時点(C 通過)
12.センター通過前のパス本数(P1)
13.センター通過方法(方法)
14.センター通過後の攻撃の種類(種類)
15.センター通過後のパス本数(P2)
16.プレー終了位置(位置)
17.シュート成否とミス原因(結果)
上記の 17 項目をもとに、以下の 3 項目を算出した。
1.ボール保持時間(TH −G 保)
2.パスの飛距離(sml)
3.センター通過秒数(C 通−TH)
3. 結果と考察
3-1 23 試合分のデータ
23 試合分でのクリア数は 387 本であった。ゴーリー
がパスを出すまでの秒数と、パスキャッチの成否の関
係についてt検定を行ったところ、パスキャッチ成功時
と失敗時におけるゴーリーボール保持秒数の平均に
有意差は見られなかった(P<0.05)。ゴーリーとフィー
ルドプレーヤーに対するプレッシャーが無かった時の
パスキャッチ成功率は、約 84%と高い成功率を示した。
ゴーリーに対するプレッシャーがあった時の成功率は
約 68%、対フィールドプレーヤー時は約 37%、対ゴー
リーとフィールドプレーヤー時は約 25%であった。1 本
目のパスキャッチの成否と、クリア結果の関係について、
図 1 を見ると、「成功(273 本)」時のシュートチャンス率
は約 39%、ターンオーバー率は約 54%なのに対して、
「失敗(114 本)」時のシュートチャンス率は約 13%しか
なく、ターンオーバー率が約 83%と高い割合にある。
100%
90%
80%
70%
60%
自陣のクリア
50%
ターンオーバー
40%
シュートチャンス
30%
20%
10%
0%
成功
失敗
図 1 1 本 目 の パ ス キャッチの 成 否 に よるクリア の 結 果
「成功」については、全体の約 82%がセンターを通
過している。「失敗」については、1 本目のパスがつな
がらなかった場合、すぐターンオーバーになってしまう
ものが 52 本あり、失敗全体の約 46%しかセンターを通
過していない。「成功」の中でセンターを通過しシュー
トチャンスを得た 107 本で、出現本数の多い「3∼5.99
秒」、「6∼8.99 秒」、「9∼11.99 秒」における攻撃の種
類を見てみると、図 2 に示したように、速い攻撃の割合
は秒数が短いものから順に、約 64%、42%、15%とな
っている。ゴーリーがパスを出してからセンターを通過
するまでの秒数が短いほうが、速い攻撃に持ち込める
可能性が高いといえる。またt検定を行ったところ、速
い攻撃時とセット攻撃時のセンター通過秒数の平均に
有意差が認められた(P<0.05)。
パス、1 部のロングパスを比較してみると、4 部のロング
パスの成功率がいちばん高いことがわかる。また、攻
撃の形に持ち込んだもののうち、速い攻撃の割合が約
40%となっていて、4 部の攻撃において、ロングパスは
有効であると思われる。
100%
90%
80%
70%
60%
セット攻撃
50%
速い攻撃
40%
100
90
80
70
60
% 50
40
30
20
10
0
4部・ロングパ
ス
4部・ショートパ
ス
1部・ロングパ
ス
︵
30%
90
80
70
60
勝ちチーム(183
本)
負けチーム(178
本)
(%) 50
40
30
20
10
た
入
トが
至
に
ュ
ー
ス
ン
シ
ャ
⑤
トチ
ュ
ー
④
シ
③
っ
た
っ
だ
ん
込
ち
持
攻
撃
②
形
セ
に
ン
①
タ
ク
リ
ー
ア
を
総
通
数
過
0
図3 各局面での成功率(勝敗別)
3-3 1 部、4 部の比較
1 部(6 試合)、4 部(9 試合)について、1 部のクリア
本数は 70 本、4 部のクリア本数は 183 本であった。
1 部はゴーリーがボールを 15 秒以上保持している
場面が 4 部よりも割合的に多く見られた。図 4 に示した
ように、1 部の「15 秒以上」のケースを、1 部の「0∼2.99
秒」のケース、4 部の「15 秒以上」のケースと比較して
みると、1 部の「15 秒以上」のケースは各段階の成功率
が高いことがわかる。
100
90
80
70
60
% 50
40
30
20
10
0
︵
1部・15秒以
上
1部・0∼2.99
秒
4部・15秒以
上
た
に
トが
至
入
っ
っ
た
だ
ん
込
ち
ュ
シ
⑤
ャ
ン
ー
ス
持
トチ
④
シ
ュ
③
ー
攻
撃
②
形
セ
に
ン
①
タ
ク
ー
リ
ア
を
通
総
過
数
︶
図 4 ゴ ーリーの ボ ー ル 保 持 時 間 と 各 局 面 で の 成 功 率
パスの飛距離によるパスキャッチの成功率について、
図 5 に示したように、4 部のロングパス、4 部のショート
た
っ
た
入
に
攻
ュ
シ
⑤
形
ャ
ン
ー
ス
持
に
ン
セ
②
トが
至
込
ち
ー
タ
ク
っ
ん
過
を
通
総
ア
リ
100
①
③
シ
④
3-2 勝敗の比較
勝ちチームのクリア数は 183 本、負けチームのクリア
数は 178 本であった。1 本目のパスキャッチの成功率
について、両者とも成功率 70%程度と差は見られない
ことから、センター通過率、シュートチャンス率、シュー
ト率によって、勝敗が分かれるであろうことが予想され
る。勝ちチームと負けチームのクリアの経過を図 3 にま
とめた。「①クリア総数」→「②センターを通過」の段階
の減少割合について、勝ちチームと負けチームで
13%の差があることがわかる。
トチ
9∼11.99秒(20本)
図 2 センタ ー 通 過 秒 数 と 攻 撃 の 種 類 ( 7 0 本 )
撃
6∼8.99秒(43本)
数
3∼5.99秒(25本)
ー
0%
ュ
10%
だ
︶
20%
図 5 パ スの 飛 距 離 と 各 局 面 での 成 功 率
4. まとめ
本研究は、女子ラクロスにおけるゴーリーからのパス
に着目してゲーム分析を行い、対象は 2005 年第 18
回関東ラクロスリーグ戦女子の 23 試合とした。ゴーリー
のボール保持秒数やパスキャッチの成功率、センター
通過後の攻撃の結果などに着目して、1 部と 4 部のクリ
アや勝敗別のチームを比較し、その特徴を明らかにし
た。また、シュートチャンスに持ち込める可能性の高い
クリアについて考察することを目的とした。本研究の結
果と考察を以下のようにまとめた。
(1)ゴーリーからフィールドプレーヤーの 1 本目のパス
キャッチが成功すると、センター通過率、シュートチ
ャンス率が高くなる傾向にある。ゴーリーのボール保
持秒数の長短によって、パスキャッチの成功率やセ
ンター通過率が影響される傾向は見られなかったの
で、ゴーリーはプレッシャーを受けていないフィール
ドプレーヤーに確実なパスを出すべきである。1 部
においては、ゴーリーのボール保持秒数が 15 秒以
上のパスも戦術的に有効であると思われる。
(2)クリアをシュートチャンスに持ち込める可能性の高
いケースは、ゴーリーがロングパスを出すケースとセ
ンター通過までの秒数が短いケースの二つであり、
シュート率の高い「速い攻撃」に持ち込める割合が
高くなる。ロングパスは本数が少なかったが、4 部に
おいて成功率が比較的高く、有効なクリアであると
思われる。ゴーリーからフィールドプレーヤーの 1 本
目のパスキャッチだけでなく、センター通過まで含め
た練習をすることで、クリア途中でのターンオーバー
が少なくなり、シュートチャンスまで持ち込める可能
性が高くなると考えられる。
5. 引用・参考文献
1)北邨昌子,2001,「女子ラクロスにおけるゲーム
分析−攻撃開始プレーによる勝敗形成要因
に関する一考察−」
(http://hpe.h.kobe-u.ac.jp/course/shintai/educ
ation/bthesis/bt2001/kitamura.pdf,2005.11)
2)日本ラクロス協会『はじめてのラクロス』(山海堂、
1994)p.104−118.
3)2005,「WOMEN S LACROSSE RULES」
(http://oculacrosse.hp.infoseek.co.jp/,2005.11)