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体育・
保健体育
埼玉県版
創刊号
ジャーナル
●巻頭言 p1
●小学校の実践 p2
●中学校の実践 p4
●特集 埼玉県体育の歴史と伝統を振りかえる(Ⅰ)
p6
●コバトンの目 創刊のご挨拶
●はじめに
2014.6
p8
埼玉学校体育研究会
会長
岩佐 正二郎
発表された「平成24年度全国体力・運動能力,運
昨年のIOC総会で,オリンピック・パラリンピッ
動習慣等調査結果(概要)」によりますと,中学女
クが,2020年に東京で開催されることが決定しま
子生徒の約30%が1週間の運動時間が,体育の授
した。大変喜ばしいことであります。埼玉県では,
業を除いて60分未満であるなど,懸念される結果
3種目が行われると聞いています。1964年に開催
が報告されました。二極化の現象が起き,児童生徒
された前回の東京オリンピックでの日本選手の連日
の運動の経験や運動に対する意識に差が生じ,体力
の活躍を,テレビで観戦し大いに感激したものです。
や技能など能力差が大きくなっていると考えられま
ところで,IOC総会当日,オリンピック誘致に向
す。そうしたなか,学習指導を工夫することにより,
け,多くのプレゼンターの立派なスピーチがありま
児童生徒の運動経験の多少にかかわらず,達成感や
したが,なかでも佐藤真海さんの「私がここにいる
充実感を味わわせる体育授業を目指したいものです。
のは,スポーツによって救われたからです」,「スポ
●創刊にあたり
ーツは,私に人生で大切な価値を教えてくれまし
た」で始まったスピーチに,強く心を打たれました。
佐藤選手は,大学在学中19歳で骨肉腫を発症し,
このたび,埼玉県内の小学校教員,中学校保健体
育科教員の研究並びに授業研究の実践等を掲載する
『埼玉県版
体育・保健体育ジャーナル』を創刊す
右足の膝から下を切断するという大病を患いました
る運びとなりました。本会は,これら実践的な研究
が,多くの人に支えられ,病気に打ち勝ち,陸上競
を紹介することにより,県内の小学校教員,中学校
技の走り幅跳びの選手として,アテネ,北京,ロン
保健体育科教員の体育・保健体育学習の向上に資す
ドンとパラリンピック3大会連続出場し,活躍して
ることを目的に創刊されました。
います。佐藤真海さんの,この体験をふまえたスピ
学習指導要領が全面実施となり,県内各地,各校
ーチは,世界の人々にスポーツの素晴らしさを再認
で学習指導要領に基づいた研究や実践授業が行われ
識させたものと言えます。東京大会での日本選手団
ています。その成果を,本ジャーナルに掲載するこ
の活躍を期待したいと願っています。
とにより諸先生方の研鑽のお役に立ちたいと考えて
さて,小学生や中学生を取り巻く生活環境をみま
います。併せて,小学校及び中学校の各研究団体
すと,サッカークラブや少年野球,スイミングスク
(小体連,中体連研究部など)や県立総合教育セン
ール,運動部活動など,地域や学校での運動機会が
ター等の研究活動の情報を紹介し,活動の活性化に
増え,スポーツの楽しさや感動を味わう機会が増え
寄与できるよう努力する所存であります。おわりに,
ています。子どもたちの体力向上や健全育成に大い
創刊にあたりご理解ご協力いただいた関係の皆様に
に寄与していると言えます。一方,文部科学省から
心より御礼申しあげ,創刊の言葉といたします。
埼玉県版
体育・保健体育ジャーナル
1
小学校の実践
小学校の実践
すべての児童に運動の特性や魅力を味わわせる
ネット型「バウンドアタックボール」の実践
~ネット型における役割行動を確実に身に付けさせる授業づくりを通して~
川口市立小学校教諭
1 ネット型の魅力とは
ボール運動で共通した大きな魅力の一つは,いう
までもなく「得点すること」です。ネット型でいえ
ばアタック(スマッシュやボレー)での得点がそれ
に当てはまります。ならば,アタック技能を高めれ
ばよいのかと考えがちですがそうではありません。
図2
主なルール
●サーブ…得点したチームのセッター役が両手で下から投げ入れる。
●レシーブ…ワンバウンドしたボールをセッターへ弾いてパスす
る(基本はアンダーハンド)
。
●セット…ワンバウンドしたボールを真下へたたきつける。
●アタック…直上に上がったボールを直接相手コートに返球する。
※ノーバウンドで処理してもよい。
●必ず一人1回計3回で相手コートに返球する。
●プレーが中断するごとに両チームともポジションのローテーシ
ョンを行う。
むしろ,
「アタックまで持ちこむためにどのように
連携すればよいのか」といった「意図的な連携プレ
ー」を中心に学習することが大切だと考えています。
さらに,相手のアタックをレシーブし,自チームの
アタックに持ち込むといった「アタックのあるラリ
ーの応酬」もネット型の魅力と捉えました。
そこで,小学校6年生を対象に,
「意図的な連携
プレー(本実践では3段攻撃)
」を数多く出現させ
(1)役割行動の明確化
本実践で身に付けさせる役割行動(=適切な判断
に基づいたボール操作及びボールを持たないときの
動き)を以下の3点に整理しました。
①基本の役割の動き
るための「役割行動」を身に付けさせる授業づくり
どのようにボールをつなぐと効果的なのかを「ネ
を行うこととしました。そうすれば,アタックのある
ット際からアタックを打つためにはどのようにボー
ラリーの応酬によるゲームが展開され,ネット型の魅
ルをつなぐ?」と発問し,考えさせました。
力を味わわせることができるであろうと考えました。
2 メインゲームのルール
ルールが複雑だったり,ゲームを成立させるため
の技術が子どもたちにとって難しかったりすれば,
ボール運動の魅力を味わわせることはできません。
そこで,本実践では,信州大学教授・岩田靖先生ら
が考案した「アタックプレルボール」をメインゲー
ムに採用しました。
図1
①セッターへ
バウンドパス
②真下にバウンドセット
埼玉県版
体育・保健体育ジャーナル
●第1触球者は,ボールの正面に入り自コートの中
央ライン付近にバウンドさせるようにレシーブする。
●第2触球者は,ネット際でボールの真横に入り真
下にバウンドさせる。
●第3触球者は,ボールの正面から走り込みアタッ
クする。
②定位置に戻る動き
相手のアタックをレシーブするためには,レシー
ブ技能を高めるとともに,アタックをレシーブしや
すいところまで下がる必要があります。単元前半に
コート図
③直上に上がったボール
をアタック
2
3 役割行動を身に付けさせるための手立て
学習しました。
投げ入れサーブ
・ボール:ケンコーミニ
トリムボール
・ネット:高さ1m
・コート:バドミントン用
シングルコート
4m
●レシーバー役2人の定位置を「エンドライン上」
とし,自チームの攻撃後は定位置まで戻る。
●単元後半は,相手のアタックに応じたレシーブ位
置を考えさせる。
・強いアタックに対して→さらに下がる。
・弱いアタック,フェイントに対して
→少し前 など。
③基本の役割が変化したときの動き
にボール操作のポイントを共有し,それ以降毎時間
相手からの返球をネット際のセッターへレシーブ
帯で位置付けました。2つ目は,単元中盤で「3段
できれば最高ですが,ゲームの中でそうはいかない
アタックタイム→メインゲーム」の授業展開にした
場面が出てきます。そういった場面でどのように連
ことです。どのように連携すれば効果的なのかを3
携すればよいのか学習しました。
段アタックタイムで学び,その後のメインゲームで
●第1触球者のレシーブが乱れたときの動き
・ボールに近い人が第2触球者となり,真下にた
たきつけて,セットする。
・第3触球者は,第2触球者に近づき,相手コー
トに返球する。
●セッター役が第1触球者となったときの動き
・第1触球者は,真上にレシーブする。
・ボールに近い人が第2触球者となり,真下にた
たきつけて,セットする。
・第3触球者は,ボールの正面からアタックを打つ。
(2)役割行動を学ぶ3段アタックタイム
上記3つの役割行動を効果的に学習するために,
試すという流れにしました。3つ目は,単元後半で
メインゲームの時間を多く設けたことです。ネット
型はコートが分離されており,ある程度技能が身に
付いた段階からはメインゲーム中心の学習が有効で
あると考えました。4つ目は,単元を通してメイン
ゲームを位置付けたことです。前時までのメインゲ
ームの様子から課題を提示し,メインゲームのどの
場面につながっているのかを,子どもたちが意識し
やすくできるようにと考えました。
4 結果と考察
課題ゲーム「3段アタックタイム」を3~6時間目
授業が進むにつれ,3段攻撃成功率が向上しまし
に位置付けました。その際,メインゲームで想定さ
た。 第10時 で は, 総 攻 撃 回 数 か ら の 出 現 率 が
れるいくつかの状況を課題として提示し,メインゲ
50.2%となっており,数多く3段攻撃が出現したと
ームにつながることを意識させながら取り組みました。
いえると考えています。ボール操作の技能と基本の
図3
子どもたちへの提示課題と3段アタックタイムのルール
時
第3時
第4,5時
第6時
子どもに提示した課題
定位置に戻る動き
レシーブが乱れたときの動き
セッター役が第1触球者となったときの動き
3段アタックタイムのルール
○はじめに,「発問-応答」を通して,本時の課題を理解する。
○毎回,兄弟チーム同士で行う。
○相手のアタックからゲームを開始する。
※他は,メインゲームのルールと同じ
役割の動きが身に付いたことが要因と考えられます。
図5
3段攻撃成功率の推移
80%
70%
60%
50%
40%
サーブ回数から
30%
20%
総攻撃回数から
1時 2時 3時 4時 5時 6時 7時 8時 9時 10時
(3)学習過程の工夫
図4
学習過程
5 まとめ
子どもたちにとって取り組みやすい教材で学習過
程や指導の工夫をすることで,子どもたちが技能の
高まりを実感しながら取り組むことができました。
また,効果的な連携の仕方を理解することで,アド
バイスや励まし合いも活発となりました。単元終盤
には,アタックとラリーの応酬が数多く見られ,大
変盛り上がる授業となりました。単元後のアンケー
図4は,本単元の学習過程です。ポイントは4つ
トでは,クラス全員の子が「バウンドアタックボー
あります。1つ目は,スキルアップタイム(ボール
ルが好き」と回答し,すべての子どもがネット型の
操作技能を高める時間)の確保です。第2時に十分
魅力を味わうことができたと考えています。
〈参考文献〉岩田靖『体育の教材を創る』大修館書店
埼玉県版
体育・保健体育ジャーナル
3
中学校の実践
中学校の実践
生涯にわたって運動に親しみ,明るく豊かな
生活を送る資質や能力を育てる体育授業の実践
~体育授業における言語活動の充実をめざして~
3つが重なる授業
めざす
良い授業
1
はじめに
三郷市立前川中学校教諭
岸田 光司
根本 健史
わかる
できる
かかわる
図2
単元計画
図3
家庭でのプログラム例
本校では良い授業を「わかる」・「できる」・「かか
わる」の3つが整った授業ととらえ,全職員一丸と
なって取り組むこととした。
今回,研究主題を「生涯にわたって運動に親しみ,
明るく豊かな生活を送る資質や能力を育てる体育授
業の実践」
,副題を~体育授業における言語活動の充
実をめざして~と設定した。そこで,前川中学校のめ
ざす授業を達成するため,以下の実践に取り組んだ。
2
工夫した点と実践内容
(1) 指導計画の工夫
学校と家庭を関連付けた「体つくり運動」
ア
授業「体つくり運動(体力を高める運動)」
での実践
(2)言語活動の工夫
➡
イ
体育における言語活動を生徒同士,教師の言葉か
家庭における「授業と連携したトレーニングプ
けの充実ととらえ,ペア学習や教え合い活動の推進
ログラム」の計画・実行
を図った。
自己の課題を見つけ授業と家庭での取り組みを繰
また,本校で行った授業アンケートで,「どんな
り返し行う。授業で学習した内容を家庭で振り返り,
ときに勉強のやる気が出ますか。」の質問に対して,
学校と家庭とのスパイラルな連携を工夫し,「体の
「グループ活動」と「視覚教材を利用した授業」と
柔らかさ」
「巧みな動き」
「力強い動き」
「動きを持
答えた生徒が90%を占めた。そこで,自ら課題解
続する能力」を新体力テストの項目に関連付けて高
決をしやすくする場の設定と,活動中も確認可能な
めていくこととした。
掲示物を作成し,自分の運動をイメージできる力と
(図1,図2,図3)
ペアの運動をアドバイスできる力を育てた。
学校と家庭のスパイラル
図1
学校
学校
学校
学校
学校
写真1:パートナーが掲示板やファイルで種目のポイントを確認し
ながら正確にアドバイスを送る。
家庭
家庭
家庭
家庭
さらに,体力を効率よく高めるために,
Plan
4
写真2:各自で取り組んだ家庭トレーニングを『○○の運動を,い
つ・どこで,○回・○秒×○セット』の形で毎時間,代表
生徒が発表する。
(計画):一人一人の体力課題に応じたトレーニン
グプログラムの作成
Do
(実行):トレーニングプログラムに沿っての活動
Check (評価):トレーニングプログラムの見直し
Action (改善):見直したトレーニングプログラムの実行
間の確保を図ること,積極的に仲間同士が良い点・
のPDCAサイクルを毎時間くり返し取り入れ,学校
入れ,力いっぱい運動し思い切り汗をかく活発な授
と家庭を連携させた単元計画(図2)を作成した。
業を展開していくことをねらいとした。
埼玉県版
体育・保健体育ジャーナル
さらに,次の学習への移動を素早く行い,運動時
改善点を指摘し合い,互いに高めていく活動を取り
写真1
写真3
3
実践を振り返って
(1)指導計画の工夫
次の授業に挑戦させる家庭でのトレーニングプロ
写真2
↑掲示板
・種目のポイント
・強化される筋肉の
名称と部位
・目標回数
(3)場の設定・教具の工夫
グラムを実施した結果,2学年全生徒の新体力テス
トの結果が単元前よりも向上していた。
生徒は自己の家庭トレーニングプログラムを自己
の部活動と関連付けてより的確に選択できるように
なってきた。
本単元では,体つくり運動で高める「体の柔らか
(2)言語活動
さ」
「巧みな動き」
「力強い動き」
「動きを持続する
自分の運動を資料や掲示物を見てイメージしたり
能力」の4つの体力を,新体力テストの「長座体前
運動の感覚を言葉で表現したりできるようになった。
屈・反復横跳び・ハンドボール投げ・握力・立ち幅
さらに友だちの運動を分析し,言葉にできる力を
跳び・上体起こし・持久走」に関連付けて,運動の
身に付けたい。単調できつい運動にもかかわらず,
内容を設定した。
全力で頑張る生徒の姿が多く見られた。
また,高めたい体力に応じた場を設定し,ペアご
とにスタート地点を決め,運動の効率化を図った。
写真4で使用したボールは投げたボールを取りに
行く必要がなく,運動量を確保することができた。
①タイヤ押し〈両手でぞうきんがけのように押す〉
②チューブ肩強化(ゴムチューブを投動作で引く)
移動式の鉄棒はどの単元でも移動時間を減らし運動
③ボール投げ(投げる角度45度を意識させた)(写真4)
④立ち幅跳び(距離は個人で選択させた)(写真5)
⑤両足連続ジャンプ(コーンにゴムを張り2種類の高さを選ばせた)
⑥握力強化(鉄棒にぶら下がる。上位生徒は懸垂含む)
⑦ラダー(しっかりももを上げ,素早く行うことを意識させた)
⑧反復横跳び(2種類の距離をサイドステップで両方取り組んだ)
⑨上体起こし(足上げを指定時間維持)
自分の体力に合わせ,回数などの運動強度を選択させた。
⑦
(3)教具の工夫
することができ,意欲の低下を防ぐことができた。
写真3で使用したアスレチックをイメージした小
型の掲示板は,自然な高さで,瞬時に運動のポイン
トを理解することができ,お互いの言葉かけの活性
化を図ることができた。
(4)学習の場の設定
⑧
テニスコートに学習の場を指定することで次の運
⑥
動に移動しやすく,範囲が広すぎず,狭すぎず指導
しやすい大きさであった。「体の柔らかさ」「巧みな
動き」「力強い動き」「動きを持続する能力」それぞ
⑤
⑨
④
①
れの体力を高める運動を種目ごとにまとめることで,
鍛える体力を生徒に意識させることができた。
4
まとめ
今回は,言語活動を意識して取り組ませた。運動
②
強度が強い種目では言葉かけのパートナーをしてい
③
る時間が適度な休息時間になり,集中力を保つこと
ができ,非常に効果的であった。他の種目でも運動
量を適度に保ちつつ,効果的に言語活動ができる指
授業で使った手作り教具
写真4 投げたら戻ってくる。
写真5
導計画を考え,実践していきたい。
チューブを紐でつなぎ
5段ジャンプ。
埼玉県版
体育・保健体育ジャーナル
5
特 集
中学校の実践
埼玉県体育の歴史と伝統を振りかえる(Ⅰ)
~今よみがえる,研究のつみかさね~
1
埼玉学校体育研究会
*運動そのものが持っている根源的な欲求充足と
はじめに
健康・体力に関する身体的な必要充足に基づく
創刊にあたり,埼玉県における学校体育研究の歴
史と伝統を振り返り,今こそよみがえる,これまで
の研究のつみかさね(実績と成果)にふれることと
運動の特性の理解と,それに基づく授業の研究
②生徒が主体的に取り組むための学習者づくり
*学習の約束ごとや役割分担など,子どもを組織
した。そこには,現行の学習指導要領の趣旨にあっ
し,主体的な学習者とする研究
たものが多く,今も脈々と生きる基本的な考え方や
③子どもが技能を内面化できる場の工夫
指導法がある。本特集では,創刊号と秋号の2回に
*多様な個人差を吸収できるような場,運動の高
わたり,埼玉県における体育研究に,もう一度光を
まりに効果的である場,学習者にとってやさし
当てることにより,各学校で新たにご活用を願うも
い活動の場等,場づくりの研究
④学習過程の工夫
のである。
2
埼玉県体育の歴史と伝統
(1)埼玉県における学校体育研究の歴史
*学習を進める道すじ,学習すべき内容を習得す
る過程の研究
⑤技術構造の分析
埼玉県の学校体育研究の歴史は古い。小学校体育
*子どもが運動ができるようになるために,運動
連盟,中学校体育連盟,埼玉県教育委員会主催・共
の技術構造をどう捉え,学習の道すじにそれら
催の研究会では,まず,小学校関係では,「小学校
をどう組み立てていくか等の研究
体育研究協議会」(56回),「授業研究会」(44回),
「指導者養成講習会」(50回)。
次に中学校では,
「中学校保健体育研究協議会」
(51回)
,
「中学校体育授業研究会」(38回)と,い
3
思考力・判断力・表現力を
育む中学校サッカーの実践
ここでは,平成7年7月に埼玉県中学校体育連盟
ずれも半世紀を超えるものもある。また,埼玉県教
が冊子にまとめた,『中学校体育
育委員会と小学校体育連盟,中学校体育連盟が協力
き』からサッカー実践の概要を紹介する。
して,様々な「教材づくりの手引き」
「学習指導の
手引き」を作成し,各学校現場で活用されている。
学習指導の手引
(1)学習の進め方(ゲームの発展様相から導く練習)
①学習の基本的な考え方
さらに,県教育委員会では,毎年『学校体育必
サッカーは,集団的・競争的なスポーツであり,
携』
(54号)
,
『健康教育必携』
(13号)を作成し,
相手チームと対戦して,チームが協力して勝利した
各学校でまさにバイブルとして活用されており,県
ときに最も喜びが大きいスポーツである。したがっ
外からの問い合わせも多いと聞く。
て,サッカーの授業では,ゲームを中心に据え,指
導を展開していくことが大切である。特に,サッカ
※(
)内は平成25年度の回・号数
(2)学校体育研究の主な内容
上記半世紀を超える中で,研究の主なものについ
ーの特性に深く触れさせるために,練習内容やゲー
ムのルールを固定し,それを生徒に当てはめていく
てその内容をあげてみる。
ような授業でなく,ゲームの様相を分析し,チーム
①運動の一般的な特性(機能的な特性)にふれる体
の課題や個人の課題を具体的に求めさせる中で,練
育学習について
6
編集委員会
埼玉県版
体育・保健体育ジャーナル
習内容やゲームのルール,コートやゴールなどを工
夫していけるような授業展開をしたい。
団的技能」の練習を行い,課題を解決していく。
②ゲームの様相と練習例
③課題を解決して行く中でゲームの様相を発展させ,
時間
ゲ
ー
ゲーム
1
より高いレベルのゲームを楽しむ
ム
試しの
ゲーム
Ⅰ
2
・
・
・
・
と発展させ,より高いレベルでゲームが楽しめるよ
自分たちのゲームの
様相を分析する
ゲームから見た技能の発達と練習例
様
ルール
コート
練
ねらい
①
ゲーム Ⅱ
ゴール
の工夫
話し合い
n
ムへ,「縦型」・「横型」から「全面型」のゲームへ
うに学習を進めていく。
話し合い
練
習
・
・
・
「密集型」のゲームから「縦型」・「横型」のゲー
自分たちのゲームの
習
Ⅰ
密集型
縦
型
様相を分析する
Ⅲ
ルール
コート
ゴール
の工夫
相
ゲーム
ねらい
②
Ⅲ
縦
型
横
型
③ゲームの発展を考える時,初歩的な密集型から,
全面型への発展過程を次のように捉えた
初歩的なゲームの様相
Ⅴ
Ⅳ
Ⅰ
横
縦型
密集型
型
全面型
発展的なゲームの様相
Ⅱ
Ⅲ
Ⅴ
横型
全面型
技能の発達
集団的技能練習例
個人的技能練習例
・密集から抜け
出すために,
意図的な縦パ
スを使おうと
する。
・フォワード,
・2:1での速
攻の練習
・正確なキック
の練習(イン
フロントキッ
ク)
・ドリブルから
1:1
バックの大ま
かな役割分担
が始まる。
・2:2で縦長
コートによる
ミニゲームで
・縦パスからシ
ュート練習
・ 縦 へ の ロ ン グ ・ミニゲーム
キックを中心
としたゲーム。
・横パスから縦
パスをしてシ
ュート
・中盤での広い
展開から縦へ
の攻撃,意図
的にオープン
スペースを使
える。
・2:2+1の
練習(+1の
選手はオープ
ンの位置にい
る)
・横へのシュー
・縦へのショー
トなど意図的
トパスを一度
な動きが見ら ・縦のサイドラ
横に出してシ
れる。
ュート
インを引きオ
ープン攻撃を
意識させる。
・センタリング
からのシュー
トが出る。
『中学校体育
・4ゴールゲー
ム
・ねらえるゴー
ルを2つ決め
空いているゴ
ールをねらう。
・スルーパスや
センタリング
からのシュー
トを使う。
学習指導の手引き』埼玉県中体連
p128,p129
(2)思考力・判断力・表現力を育む指導法
①ゲームの記録を取りチームの実態を知る
各チームは,ゲームを行う中で,自チームの現在
のゲームの様相を分析し,チームの実態を知る。
②実態に合った練習方法を考える
自分のチームの実態に合った練習方法を,用意さ
れた「ゲームから見た技能の発達と練習例」より選
択したり,自分たちで考えた「個人的技能」や「集
埼玉県版
体育・保健体育ジャーナル
7
コバトンの目
中学校の実践
誇り高き体育・
保健体育科教員
素晴らしい!
羽生市立西中学校長
体育教師の意気
角屋
房男
九 ク ラ ス の 大 規 模 校 か ら 始 ま り ま し た。
私 の 体 育 教 師 と し て の 人 生 は、 一 学 年
当 時 の 保 健 体 育 教 師 は、 私 を 含 め 五 名 で
文子
二十年前。長期研修教員としての研修を経て保
秋本
健体育の先生として毎日が充実し、教科の奥深さ
し た。 す べ て 先 輩 で、 経 験 豊 富 な 方 も い
羽生市立新郷第一小学校長
がわかり始めた三十代後半の三月。突然、K教育
れば、中堅の勢いにのった方もいました。
組織力を感じました。
だ け で な く 体 育 的 学 校 行 事 に お い て も、
体 育 教 師 と し て の 力 量 を も ち 備 え、 授 業
長との面接に呼ばれた。
K教育長からいきなり「女の体育の先生は、学
校に必要ないのだが…」と言われた。
唖然とする心を抑えて、透かさず返答した。
できるのは女の保健体育の先生に多いです。です
複雑な女子生徒の気持ちがわかり、指導が上手く
が学校には必要です。その中でも、思春期を迎え
一生懸命運動に取り組ませられる保健体育の先生
労 を 惜 し む こ と な く 邁 進 し て い ま し た。
や技能習得のための多くの教材づくりに、
若 手 体 育 教 師 が、 度 重 な る 指 導 案 の 検 討
の学校へ、私は十八年ぶりに戻りました。
議会会場校としてすでに決定していたそ
第五十六回関東中学校保健体育研究協
から、女の体育の先生も学校には必要です。」と
そ の 姿 か ら は、 体 育 授 業 を 通 し て、 運 動
「男も女も関係なく、生徒達を体育大好きにさせ、
はっきり言った。
生徒を育てようとする強い意志を感じま
好 き で、 自 ら 技 能 や 体 力 の 向 上 を 目 指 す
「その言葉を待っていた。頑張ってください。」
な 発 想 と こ れ ま で の 体 育 授 業 を 結 び、 よ
し た。 き っ と 若 手 体 育 教 師 た ち は、 新 た
K教育長の次の一言は、
そして、翌年度から川口市教委指導主事を拝命し、
く り に 励 ん で い た の で し ょ う。 そ の 協 議
りよい授業を創ろうと強い意気で授業づ
女性初の体育・保健体育担当となった。
その後、多くの誇り高き体育教員等との出会い
会 は 終 了 し、 す べ て 教 師 の 財 産 と な り ま
した。
*環境に配慮して作られた紙,植物油インキを使用して,CTP方式で印刷し,
針金・糊・加熱が不要な製本方法を採用しています。
印刷●廣済堂
DTP・デザイン●明昌堂
http://gakkokyoiku.gakken.co.jp/
編集・発行 ▶ 埼玉学校体育研究会 会長 岩佐 正二郎
事 務 局 ▶ 〒336-0025 さいたま市南区文蔵2-3-1-202
(株)
学研教育みらい 埼玉分室 TEL 048-861-6811
今号の内容は,以下のページでも
ご覧いただけます。
2014年6月10日 発行
埼玉県版 体育・保健体育ジャーナル《創刊号》
9300004787
体育・保健体育ジャーナル
埼玉県版
8
を経て,今は管理職を楽しんでいる。
埼玉県マスコット
コバトン
今号のベストショット!
川口市立南中学校
球技大会の様子
コバトン