海外行政視察報告書

海外行政視察報告書
視察議員:
南原
茂,冨永
福田まもる,飯盛
計久,川上
晋平,今林ひであき
利康,大森
一馬,川上
視察期間:
平成24年10月24日~31日
視察先都市名:
ミラノ(イタリア
ロンバルディア州)
バルセロナ(スペイン
カタルーニャ州)
マドリッド(スペイン
マドリッド州)
-1-
陽平
【ミラノ】~都市の概要~(Wikipedia 参照)
ロンバルディア州ミラノ県
国内第2位の都市
商業、工業、金融の中心である。ミラノコレクションでも有名
でファッションのメッカでもある。最近では精密機器工業等も盛んであり、国内で
も最大の経済地域となっている。
世界18都市と姉妹都市を締結している。
(日本では大阪市)
(視察を行う目的やねらい)
福岡市が抱えている公共交通問題について、このミラノにおける地下鉄・バス・
トラムといった手段をネットワークとして有機的に、また簡便に乗り継ぐことがで
きるシステムをこれからの福岡市にも活かせるものではないかとの狙いから調査を
行なうものである。
また、都心部におけるレンタルサイクルの運用も行なわれており、あわせて調査
を行なった。
(視察項目)
交通問題
(視察日時)
平成24年10月25日(木)9時~13時
(視察先名)
AZIENDA TRASPORTI MILANESI(ATM)
(相手方情報)
現地ガイドによる説明にて主に視察
(視察先で見聞した内容や実態)
切符に関しては、地下鉄・バス・トラム共通である。
地下鉄に関しては1~3号線が色分けしており、初めて乗車する者にとっても分
かりやすい。
バスに関しては、あらゆる表示について見にくい印象があり正直利用しにくいと
ころである。
トラムに関しては、旧型と新型とそれぞれ乗車したが、旧型は昔ながらの車両で
ある為、味のある乗り心地であり、観光資源的な存在にもなり得るものであると感
じた。また新型はノンステップ車両となっており、乗降しやすくなっている。普段
ながらの市民の足でもあるが、来訪者にとっても非常に使い勝手が良い交通手段で
あると言える。
-2-
レンタルサイクルに関しては、都心部は通常マイカーの乗り入れができない為、
この貸し自転車を移動手段として用いている。実際に我々が視察を行なっている傍
らで利用している人たちを何人も目撃した。かなり利用頻度が高いようである。
(所見)
ミラノ市で公共交通を担うATMを実際に乗車し、地
下鉄・バス・トラム(路面電車)の連携を体験した。
ATMは公的な経営からの移管により実現した民間
会社であるが、資本は半分を行政が持つ半官半民の
企業である。
時間制による料金システムはミラノ市民に周知さ
れており円滑に出来ているが、日本での地下鉄と貝
塚線の直通や、地下鉄とのバス&ライドなどには、利用システムが「検札なし」
「キ
セル防止」などに不備があるなど、ミラノ市民がそれを理解して運営されているこ
となどから応用できるものではなかった。な
お、時間制料金システム自体は、共通カード
の実現により、本市でも可能と推測される。
実際の移動で感じたことは、切符を購入後、
利用する権利として地下鉄内ラッチでの拘束
は理解できるが、乗り換えによるバスやトラ
ム(路面電車)では、待ち時間を含め、検札な
どのシステムがないため、日本で言う「キセ
ル」乗車の心配が感じられた。駅員に聞くと、時々、覆面捜査員が巡回しランダム
な調査で摘発されると高額の違約金を請求されるため、市民の不正はあまり見受け
られないとのことであった。
また、トラムは便数や経路も数多くあり、利用者も気軽に利用できる乗り物だと
感じた。駐車場がなく観光客も多い都市であり、市民は公共交通機関を利用する機
会は多いと思われる。
また駅には「バイクミー」と呼ばれる貸自転車シ
ステムがある。
利用方法等はオンラインやアーティエム(場所)で
の登録により、暗証番号付のウエルカムカードが発
行される。
-3-
登録料金は、年間36ユーロ、1週間6ユーロ、
1日2.5ユーロで、最初の30分間は無料、その
後30分ごとに追加料金(0.5ユーロ)が発生す
る。2時間まで延長が可能で4回続けて借りること
ができる。そのため2時間以上の利用は1時間毎に
2ユーロと高めの設定となっている。
返却場所は最寄りの駅で良いが、坂道の多い国の
ために、高地から低地へ向かう利用者が多い。結果、低地の駐輪場に停められた多
くの自転車を元の高地まで車にて運ぶといった矛盾も生じている。
-4-
(視察を行う目的やねらい)
経済危機といわれているこのイタリア国内において、福岡市同様、中小企業が多
く存在しているこのミラノにて、中小企業協会のシステム、また果たすべき役割に
ついて調査を行なうものである。
(視察項目)
経済問題(現地民間視点)
(視察日時)
平成24年10月25日(木)14時30分~16時
(視察先名)
CONFAPI INDUSTRIA
(相手方情報)
Mrs.Cristina Rollando
Mrs.Anna Suss
(視察先で見聞した内容や実態)
質問:中小企業協会の組織はどのようなものですか。
答え:使用者側の組織としては、大きな企業につい
ては、こことは違う企業協会が別にあります。商店
協会もありますし、職人たちの組織もあります。こ
の協会の特色は労働組合や環境問題、貿易、エネル
ギー、人材募集などを取り扱っており、また様々な
問題を相談する組織でもあります。コンサルタント
との違いは、当協会は行政との関係を密接に持っているところです。そのためあら
ゆる問題を素早く解決できるのです。
当協会ではセミナーもやるし、専門誌も発刊します。また毎日ニュースを会員宛
てにメールにて送ります。イタリアでは新しい条例がすぐに制定されるので、その
度に連絡を行ないます。また企業向けのコンクールを開催し、企業が様々な企画を
出し、優秀な提案を行なった企業には助成金を出すこともあります。
マンツーマンで相談を受けた場合は、金融問題なら一緒に銀行に同行します。工
場内での労働安全問題なら、工場に出向き原因を探します。必要としている人材が
あればセミナーを行います。人材養成は非常に重要です。
なお協会は年会費として従業員1人に対して100ユーロです。例えば従業員が
13人いれば1300ユーロとなります。
質問:組合の特色は何ですか。
答え:最近で言えば、別々の関連する4つの小さな企業の運営が難しくなったので、
-5-
4つを1つの企業体として外国の企業との連携の
窓口を大きなものにして、企業同士を結び付けるマ
ーケティングを助けました。つまり企業は4つのま
ま、共同でマーケティングするのです。外国の企業
とのコーディネートを4つの複合体として行いま
した。4つの企業が1つの機械のパーツをつくって
いるなら、それを1つにまとめてオファーします。
外国企業と商売しやすいようその仲介をします。
質問:企業コーディネートや人材育成などは、国の景気対策や失業者対策になると
思うが、それに対して国と協会のすみ分けや補助金などがありますか。
答え:当協会は職場、つまり人の働く場所を作ります。売上が上がり製造のコスト
を下げることで利潤が増えます。その利潤をまた違う部門に投資できます。それが
また雇用につながります。
景気を活性化させるのが当協会の役割です。活性化させることによって企業もイ
タリア国内にとどまらず、国外へも進出し活動することができるのです。
しかし国からの補助金はありません。当協会はその他に失業率を減らす目的で、
学校を卒業する前の生徒の受け入れ対策、またマッチングを行ないます。工場で2
カ月実習するなどの橋渡しをしています。学校の読み書きだけでは、職場では役に
立ちません。学生たちが卒業前に、工場ではどのようなことが要求されるのかを把
握します。
質問:ミラノの産業形態はどうなっていますか。
答え:国家として南イタリアは産業が乏しく、北イタリアが経済を引っ張っている
状況です。ミラノに限らず北イタリアに多く製造業が集まっています。
日本のホンダは南方にあるペスカーナという町に工場を持ちました。ホンダはイ
タリア国家から補助金をもらって南イタリアに工場を造りました。
(所見)
ミラノ市は、イタリアの中でも観光都市としての位置づけもあるが、元々は繊維
産業をはじめとした2次産業を中心とした都市であり、本市と同様に国内の90%を占
める中小企業が多く集まった都市である。また南欧は特に昼休みを2時間も使う個
人主義など、労働組合が強い地域であり、中小企業単独では経済活動基盤が弱いも
のとなっており、事業者側に立った中小企業協会が出来た経緯がある。
同協会は、製造業3500社の組合数を有し、同種の中小企業の約1/3が加盟
している。その他に大企業の組合や商店組合・職人組合など多数存在する。
-6-
職員は5名で、他に法律・融資・雇用・労働問題などの15名の専門家で構成さ
れている。
中小企業が多いため、行政との交渉、銀行融資や雇用問題などは個別には不利な
状況であり、協会が利用されているとのこと。
最近は環境問題・エネルギー問題や人材育成などの分野にも力を注いでいく方針
とのこと。イタリアの国内状況として、経済資源に乏しい南イタリア経済圏も抱え
ながら、バランスのとれた社会形成が必要とされる中、全国組織としてのミラノ5
県(ミラノ・バリラ・モッザ・モーリ・ベルト)を統括するミラノ中小企業協会が、
失業率の高い状況での人材育成が急務だと認識している点は良かったと思う。
加盟企業はまだまだ全体をカバーできてはいないが、企業互助会的な役割を果た
す点に於いて、中小企業が多い福岡市でも労働組合でない、商工会議所などの強化
による企業同士の交流ができる環境が必要だと認識した。
また支店経済でもある福岡市では、日本での経済同友会・商工会議所などの支店
的な役割だけでなく、もっと細やかな組織態勢の必要があり、人材育成などから雇
用、そして企業誘致などを積極的に行う体制が出来る可能性があると感じられた。
-7-
【バルセロナ】~都市の概要~(Wikipedia参照)
カタルーニャ州バルセロナ県
国内第2位の都市であり、国内最大の経済都市。地中海に面しており港湾都市でも
ある。半径5㎞以内に港湾・空港・市街地が収まるコンパクトシティという点、ま
た人口規模も約160万人といった点では福岡市と類似している。世界でも有数の観光
都市でもあり、アントニ・ガウディを代表格とする建築文化は特筆するものがある。
以前は繊維産業を中心とした工業地帯であったが衰退、1992年オリンピック開催を
契機に先端産業の拠点として再開発が進められた。
(視察を行う目的やねらい)
経済危機といわれているスペインにおいて、主要都市における経済対策について
調査を行なった。また、観光都市として集客を目指す福岡市において、都市の規模
や港を有するという類似した条件のもと、ヨーロッパを代表する観光都市バルセロ
ナにおけるまちづくり施策を調査するものである。
(視察項目)
経済観光問題(行政視点)
(視察日時)
平成24年10月26日(金)16時30分~18時30分
(視察先名)
Barcelona Activa
(相手方情報)
Xavier Mayo
Angels Santigosa
(視察先で見聞した内容や実態)
質問:スペイン経済、特にバルセロナについての現状は。
答え:スペイン全体が悪い、ここは失業率が17%でスペイン全体の平均が25%
です。スペインは経済危機と言われますが、バ
ルセロナ市に関してはきちんとお金があります。
スタンダードプアーズの格付けでは、スペイン
はBBBB-くらいなのに、バルセロナ市はA
A+です。実際は、国のBBBB-の下に連な
る市がAA+というのはオフィシャルには言え
ないわけです。
-8-
質問:再開発事業である22アットマークとはどんなものなのか。
答え:ここは19世紀の最後に工業が発展、特に繊維産業が発展しましたが、今は
ほとんど使われていない古い工場地帯でありました。そこでオリンピック開催を機
にこのエリアを再開発しました。当時は何も使っていない空き地、また工場の跡地
などは治安上の問題からも、何かしなければならないという話がありました。そこ
で、会社や学校、住宅や商店があるといった「地
中海の街」を造ろうという話になりました。
(地
図を指し示しながら)その中央の土地、それま
で22アットマークという名前の土地を、いろ
いろなニューテクノロジーの仕事に使おうと
いうことが始まりました。
2000年から現在までの間に大きく5つ
のテーマを持った中心部を造りました。
ニューテクノロジー、エネルギー、デザイン、医療技術、オーディオビジュアルと
いったものであります。これまでに4500社を誘致、5万6千人分の新たな雇用
を産み出すことに成功しました。それぞれ5つの中心部に、ひとつずつ大学の研究
機関などを設置することにより、これまで見捨てられた感のある地域を、他の見本
となるような新しい街にしたわけです。
完成は、あと3~4年で終わるはずだったのですが、経済危機で最低でも202
0年まではかかるだろうと言われています。
質問:
「バルセロナアクティバ」はどんな組織で活動は何をしていますか。
答え:プライベート企業ではありますが、キャピタル(資本)は市が100%持っ
ています。バルセロナの全ての経済活動を市に代わってやっています。ここができ
たのは今から25年前です。その当時バルセロナも経済危機でした。失業率が17%
どころではなく25%もあったんです。
当時は失業者対策を主に行なっていましたが、
現在では特に若い起業家たちを助けることをや
っています。いかにして若者が企業を立ち上げ
られるかということを追求しています。
質問:スペイン全体の失業率が25%で、ここ
バルセロナでは17%となっていますが、その
8%の差はどんな要因と思われますか。
-9-
答え:特にここは観光客が多く、観光産業によって維持できている部分があります。
例えばクルーザーでいうと、ヨーロッパ随一のクルーザー専門お客様センターがあ
ります。
質問:今後、バルセロナの発展するための方策は何でしょうか。
答え:街として観光というものは非常に重要な産業です。街として何を目標にして
いるかというのはイノベーションですね。付加
価値の高い技術が生まれるよう力を入れてい
ます。
観光をどのように見ているかというと、一カ
所ではなくここにもあるよという観光客をば
らす政策を現在行なっています。
その他に、現在では港に到着したお客様が、
飛行場まで荷物を出さなくていいようにして
いくというシステムにしています。
しかし、観光客用の客船はこれ以上増やす予定はないそうです。それよりはコン
テナを増やしたいと考えています。アジアから来るコンテナをこちらで一手に引き
受けて中央ヨーロッパの方に発送することが必要と考えています。
質問:福岡でも企業を助けるために、たとえば家賃を安くしたり補助金を出したり
していますが、企業支援とはどんなことをしていますか。
答え:支援対策として家賃を負担するのは3年ぐらいまでです。企業1年以内の人
がこちらの施設に入ることができます。最高でも3年間は入居することができます。
その企業のうち4年後まで活動できている企業は大体8割です。
質問:バルセロナアクティバの政策については、誰が決定権を持っていて、また議
会はどのような関わり方をしているのですか。
答え:バルセロナ市議会は41議席、うち14人が政府与党です。バルセロナアク
ティバに関して議員は1人と、それから別に権限行使にもう1人います。結局2人
いることになります。
質問:市長と議会との関わりはどうですか。我々の住んでいる福岡市でいうと、例
えば行政のトップが市長です。行政でいろんな計画や予算の策定を行ない、原案を
作成します。その原案の審査を行ない、最終的な意思決定を行なっているのが議会
となります。
答え:こちらでは選挙のときに4年間、公約で大きな事業を行なうといった表明を
します。それで選ばれたら1年ごとに公約で挙げた事業のひとつを行なっていきま
- 10 -
すが、いま与党が14人しかいないため他党と調整つけてやっていかないといけま
せん。
市長の権限でいえば、22アットマークが始まったときゾーンがとても古くて、
その頃ちょうど不動産バブルで不動産屋が全部買って壊して、全部アパートを作ろ
うという発想がありましたが、色々な分野から専門家同士の話し合いがあって、そ
こをアパートにしてしまったら将来性がないということでありました。新たな文化
を創出しないといけないと最終的に決定しました。当時市長は新しいイノベーショ
ンという物に乗り気でありました。最終的に市長が決定しましたが、途中で様々な
協議が行なわれたようです。
その後、市長が2人交代しただけでなく政権与党も変わりましたが、基本的な問
題は変わっていません。ある事業に取り組み継続されるのですが、色々な要因でプ
ラスアルファの付加価値をつけていこうというのはあります。例えば2018年ま
でモバイル・通信事業者のイベント『MOBILE WORLD CONGRESS』がこのバルセロナの
地にて開催されています。スマートシティをこの地域でやろうじゃないかと。
さらに、地域の開発されていないところに、新たな企業、テクノロジーの企業が
出てきたら家賃を安くしようといった施策が付け足されています。
話は大きくなりますが基本姿勢はこれまで変わっていません。市長また政党が変
わりましたけど、これまで行なってきたことは変わっていないということです。
しかし、日本とよく似ていると思いますが、市長がやりたいと言っても議会の過
半数が反対したら出来ません。今与党が少数で14人ですから過半数に達しません。
だから他政党と共同戦線を張る事により過半数
となります。
いま一番難しいのは予算編成であります。与
党がどの党と組むか、それが難しいところです。
2013年の予算がもし承認されないとどうな
るか。このままだと本年と同じ規模の予算にて
来年度予算を組むこととなります。
(所見)
バルセロナの都市の状況は、本市の人口約150万人に類似する約160万人である。
なお、バルセロナ都市圏(メトロポリタン)と言う考えがあり、その規模は約400万
人であり、福岡県の約500万人と同規模である。本市における福岡都市圏約230万人
とは若干異なるため、都市の考えが市単位か都市圏単位での視点で進めるかによっ
て、考え方が異なると思う。
- 11 -
次に施設規模であるが、港の荷物取扱量は博多港の倍の約140万TEUあり、200万人
の旅客もあり、視察当時にも地中海クルーズ船が7隻の専用ターミナルのうち4隻
(3万トン級クラスと思われる)停泊しており圧倒された。アジアでいうなら韓国釜
山港や台湾高雄港といったところであろう。バルセロナ市の方針としても、アジア
からヨーロッパに来るコンテナをここに集約するハブ港の考えがあるとのことであ
り、観光資源としてのクルーズ船の港整備でさえ苦労している博多港の在り方を根
本的に見直し、コンテナ需要を引き出す政策の必要性を感じる。
また空港は、オリンピックを契機として滑走路も3コースで約800万から約3600万
人へと利用者数が伸びており、伸びた要因として空港を利用する人と利用者の荷物
を運ぶ港との直結システムが有効だとの指摘があった。
具体的には利用者が空港で降り、荷物は港利用することで、経費削減に繋がると
同時に、荷物についてはホテル直行を行なうことにより利便性の向上につながる。
つまりコンパクトシティの活用事例の1つではないかと思う。
本市では、安全性と利便性の中で議論された新福岡空港問題では、費用や利便性
の視点が有利となったが、バルセロナ空港との滑走路数や利用者数の比較からの都
市の発展を考えれば、現空港の限界を感じた。
バルセロナ市との意見交換でも、安全性や県・都市圏・市の将来性(バルセロナ行
政関係者の話では、需要があるから整備するのではなく、経済発展の起爆性や受け
入れ環境との同時並行による整備が必要との説明を受けた)を考えるともう少し大
局な見方が必要だと感じる。
次に市の開発について、オリンピック施設の有効活用、新市街地の再開発である
22アットマークの視察を行なった。オリンピックの施設整備に関しては、行政に
よる支出を抑えるため、規制緩和による民間開発を誘導し、オリンピックと町の開
発が同時進行できたことは成功との話であった。
また22アットマークはオリンピック後の民間活力の導入として、ニューテクノ
ロジー・エネルギー・デザイン・医療技術・オーディオビジュアルの5つのキーワー
ドで再開発を行っており、経済危機の状況から、一時中断しているとのことであっ
たが、さらに6つ目のキーワードとして、
「スマートシティ」を掲げ、現在は海外か
らの資本提供を期待しているとのことであり、バルセロナと言う街のポテンシャル
からいえば、達成は可能との話であった。
従前情報では、オリンピック施設の荒廃や厳しい経済状況から、疑問が持ってい
たが、楽天的な国民性のためかバルセロナ市民に危機感はないようである。
このため、同じ質問をマドリッドの民間関係者に聞くと、スペインの中でもバル
- 12 -
セロナの経済危機は深刻らしく、地方分権が進むバルセロナは独立心が強く、不景
気下でも、従前の好景気と同様に政策を進めるため、破綻への都市の暴走が起きて
いるのではないかとの指摘であった。
地方分権社会は、規制緩和・税負担の公平性などの利点により、都市の発展や豊
かな経済状況であれば、行政として進めやすい点もあるが、デフレ時での税収不足
などではサービス低下があり、低成長時代ではマイナスの面があることも認識させ
られた。
- 13 -
(視察を行う目的やねらい)
観光都市バルセロナにおける新市街地と旧市街地との相違点を活かしたまちづく
り施策を調査するものである。
(視察項目)
街づくり・景観保全
(視察日時)
平成24年10月27日(土)9時~13時
(視察先名)
ARQ ITINERARIES
(相手方情報)
Ms.Joanna Thomas
(視察先で見聞した内容や実態)
質問:旧市街地で落書きがたくさんありますが取締りなどは。
答え:落書きはもちろん禁止ですが、知らないときに描くので
捕まえようがないですね。また新市街地では外にパンツとか干
してはいけません。碁盤の目になったところは外に干す事は禁
止であるため、洗濯物については屋内に干すことになります。
質問:このあたり周辺は小さい屋台がたくさんあったとの話で
すが、屋台はどうなったんですか。
答え:なくなりました。もともと屋台営業というもの自
体が禁止だったので、整備する際に建物の中へ誘導しま
した。屋台があり雑然としていたエリアを再整備し、プ
ロムナード等を造ることにより、安心して一般の市民が
来られるようにしました。
質問:都市計画はどうやって行うのですか。
答え:市役所の都市計画課に建築家がいます。都市計画課は建築ではなく空間設計
をします。ファットという有名な賞を取った建築家を招き、マスタープランをみん
なで作成しました。その中で、バルセロナでの大きな失敗は1960年代に全て市
電を廃止してしまったことです。道路整備を行ない自家用車が往来するようになっ
た結果、車がないと生活できない街になってしまいました。トラムも街全体に通す
予定でしたが、真ん中に街ができてしまっているので、トラムを通そうとしたら大
改造になってしまう。前市長がトラムを造ろうとしたら投票で80%が反対されて
しまいました。
- 14 -
質問:22アットマークのまちづくりの特色は。
答え:市の主導ではできないです。色々な意見を聴き、市民に公開するシステムで
す。地主もそのプラン作りに参加します。
昔はこの辺全部が工業地帯でバルセロナのマンチェ
スターと呼ばれていました。
工場跡をどうしていくかというと、まずは古い工場を
壊し綺麗に造り替えました。煤煙を出すような工場で
はなく、技術関係の工場を誘致します。24時間活動
できるまちづくりです。大学があり、文化施設があり、
住宅、商店、仕事場がある。昔はゾーンごとにいろいろなことをやろうというのが
ありましたが、それはもうやめました。ひとつの場所に全てがあるということです。
ここが全部動くようになると、この地域にフランスからの国鉄、新幹線の駅ができ、
海がありフォーラムがあり、新幹線がありということになるのです。
(所見)
バルセロナの都市景観は、旧市街地・新市街地に分けられ
るなど歴史的な経緯と密接な関係にある。ローマ時代の都市
地域と旧市街地、そして新市街地と歴史を紐解くようにはっ
きりと区分され、町が時代と共に、それぞれに特色あるごと
に形成されており、それが現代でも建造物が生きているとこ
は驚嘆である。
そもそも数百年も前の歴史的建造物が現存する光景は、日
本の京都などで見られるが、散在する文化財的な建造物とは
異なり、バルセロナでは生活の一部として歴史的建築物が生きているものである。
その原因が、石材などの強固な材料と地震がないなどの地理的な要因に加え、建
物を残そうとする、何十代にも継承された国民的な取り組みや共通思想があるため
と感じ、個人主義の傾向がある欧州の価値観の中で、共通する価値観を有する事が
あるという新たな発見もあった。これは人間として熟成した社会観なのか、もしく
は単なる民族的な価値観なのかは分からない。ただ行政として数百年もの間の一貫
した方針が継続されていることについて、国家・社会環境が整っていることが大事
であり、行政の基本的な事項での継続性の大切さを学んだ。
歴史・規模などスケールの違いはとても福岡市の参考になるようなものではなか
ったが、福岡城や金印・鴻臚館などの復活に頼ってでも、新たに後世に残すと言う
選択もあると感じた。
- 15 -
歴史的建造物を保存・観光等に生かしたまちづくりとして、景観に気を使ってい
ると感じた。文化財とも言える建造物の外観を生かしながら、内装の変更が許され
る点は、歴史との調和であると思った。
次に、福岡市でも、都市景観が乱れつつあるため、規制の必要性を言われるが、
何のために規制するのか、市民に目的と方向性を示す必要があると思う。
旧市街地での視察ではまちの景観に注目した。歴史的建造物の合間にエアコンの
室外機や垂れ幕が見受けられた。説明によれば、従前の許可では良かったため、現
在規制できないとの話であったが、建造物の建て替えなどでは、厳しい規制がある
のに対して、景観との価値観の違いが気になった。
また「ごみ」の回収システムとして、エンリケビライエスによるマスタープラン
で、市場の下に巨大なごみ集積場を設置し、近隣からのバキュームシステムで回収
するようになっており、たばこ以外のごみの散積があまり見受けられなかった。
また、観光資源として残す方針が示されている屋台についても、バルセロナでも
衛生的でないなどから廃止され、引き続き建物の中で営業されており、福岡市でも
情緒があるという感性で観光資源として残したいという考えは、観光立国であるス
ペインとは異なるようであった。
- 16 -
【マドリッド】~都市の概要~(Wikipedia参照)
マドリッド州マドリッド県
スペインの首都、人口は325万人であり、闘牛場に代表されるような観光産業を主と
する都市である。世界都市ランキングにおいて第18位の都市と評価された。
(視察を行う目的やねらい)
マドリッド市の邦人企業を訪問し、スペイン経済の動向を中心に南欧経済につい
て調査を行なうものである。
(視察項目)
経済問題(民間視点)
(視察日時)
平成24年10月28日(日)16時~18時
(視察先名)
三井物産株式会社
(相手方情報)
支店長 北島剛成
(視察先で見聞した内容や実態)
質問:経済・景気についてイタリアのミラノ市と
比べ、こちらの方がすごく危ない気がしますが現
状はどうですか。
答え:今のモンティ首相の評判がかなり良く、あ
の荒れたイタリア経済を何とか持ちこたえている
ことに成功しています。そのことにより欧州も安
心だと見込んでいます。お金を貸して今の状況を
打開する対象は間違いなくスペインとイタリアの両国です。
一時7・5%までいった金利がいま5%ぐらいというので、何とか持ちこたえら
れています。けれどいつかはお金を借りなくてはいけないでしょう。それはいつ頃
なのか、どのくらいの額になるのか多くの人間が注視しています。その点でいえば
先週は動きがありませんでした。スペインのラホイ首相も調子に乗って、状況が良
くなったから頭下げて金借りなくてもいいやと思っているのかもしれないですね。
実際は必ずどこかで借りないと破綻します。この10月に入って少し落ち着いてい
ます。9月末にOMT国債を買い入れるといった具体的にどうするかという政策が
出たのです。そのおかげで落ち着いたと思われます。
- 17 -
質問:マドリッド市とバルセロナ市では考え方、また国民性が全く別で、国内が統
一されていないのではという印象がありますがいかがですか。
答え:大きな理由は地方政治の問題があると思わ
れます。
昔は元々小さい国が群雄割拠していました。そ
のような中で、15世紀の末に比較的大きな国で
あったカスティージャ王国とアラゴン王国が結
びついて、ひとつのエスパニアになりました。で
もまだまだ周りにたくさん国があり、カタルーニ
ャ州にあるバルセロナは言葉も違います。文化も違い独自憲法を持っていて、自分
たちの州をネイションと呼びます。独立色が強いのですが、財政は結構ザルでかな
り借金をして、今回も中央政府が組んだ救済資金は180億ユーロとなりました。
最初に飛びついたのがカタルーニャ州です。逆にいろいろ条件をつけられていたの
ですが、それに対し私たちは条件を呑みませんと。あくまで独立志向なんです。
質問:バルセロナ市は経済的に自分たちでやれると考えているようですが、どのよ
うな印象をお持ちでしょうか。
答え:規模的にはちょうどポルトガルと同じくらいです。
人口はもう少し多い1000万人くらいですが、実は今回スペインがこんなに厳
しい状況になったのは、経済の牽引役がいないというのが最大の原因です。なぜか
というと、元々はバルセロナに進出した組み立て加工業が非常に元気がありました。
昔はペセタという弱い通貨であった為、競争力が逆にあった。ペセタ安でドルが高
かったのです。輸出での為替のメリットがありましたが、高くなったのでコストの
優位性が生かせなくなりました。それが契機で中国が2001年から入って世界各
国と同じレベルで輸出貿易に入ってきました。
中国から安い産品がどんどん入ってきて、組み立て加工業の拠点であったバルセ
ロナが相対的に沈んでしまい、今はとても自力で
経済を維持するのは難しくなってきています。
質問:バルセロナの市当局は開発的なものもどん
どんやっていたり、五輪の跡地もうまく活用でき
ていると言っているということですが、実際には
民間による開発は行なわれていないように思え
ますが。
- 18 -
答え:民間から見て残念ながら開発はないですね。わが社でもバルセロナに事務所
がありますが、一番ひどかったのはリーマンショック時で2007年か2008年
に一度激しく売上が落ちました。今回はそんなに落ちていませんが、じり貧の状況
であることは間違いないでしょう。歴史的経緯があり非常に独立心が強いという点
が大きいでしょう。たとえば独立してEUに入れるかというと条件を満たしません
し、そうすると孤立してしまう可能性があるかもしれません。
バスクはまた独立色が強いところで、独立派のビルドゥというところです。今ま
で弱小集団だったのが第二党に躍進したということで独立色が強まっています。一
方で国民党、今のラホイ政権はここで信任されているんだということで、いろいろ
複雑な動きがあります。国民性としては真面目、でも陽気な面もあり、何より家族
を大事にします。いま失業率が25%、人口で570万人ですが、万が一失業して
も家族みんなで助け合って養ってあげています。
問題なのは20代の失業率が50%を超えています。若者が将来に対し希望を持
てない国になりつつあります、マドリッドではドイツ語教
室が非常に盛んで、ドイツ語を学んで20代前半からドイ
ツで働く場所を見つける人が多かったりします。
質問:社会保障の安定と失業率との関係は。
答え:社会保障費の比率は高いです。所得の18~22%
ぐらい社会保障税に持って行かれます。所得税も同じくら
いで、40数%が税金で持って行かれます。また北欧との
違いは、北欧はもともとあまり産業がないため、雇用して
いる人たちも少ないですね。こちらは移民も受け入れてい
ます。さっきの25%失業者570万人という数字についても、奇しくもこの10
年間で登録した移民数が570万人なのです。25%には非正規雇用の人がたくさ
んいて、その人たちが分子に入っていないのです。分母は移民570万人も含めた
働ける人なんです。分子は正規雇用だけなのです。
質問:街を歩いていると高齢者がすごく多いと感じました。高齢者の方たちに多く
の年金を払い、さらに医療費は無料では財政圧迫ではないですか。
答え:年寄りが多く元気というのは事実です。たぶん高齢者に街が優しいと思いま
す。コミュニティが大事にしている。それを支えているのはまさに年金ですね。た
だ、やはり財政圧迫の原因になりますね。医療保障もすべて保険で、源泉は個人の
所得であり消費税であります。
消費税は18%から今回21%になりました。それでもまだ財政赤字は解消され
- 19 -
ていません。引き続き国の財政も厳しくなるであろうと中央銀行だけでなく欧州委
員会もIMFも言っています。
今のラホイ首相は、EUの委員会には条件を守らないと国債を買ってくれない、
金融支援してくれないと嘆いています。とはいっても国民生活も守らないといけな
い。でも増税したり、公務員の給与カットや退職させたりと現在騒ぎになっている
のです。我々スタッフの間での話は、今は我慢の時ではないかということです。
質問:地方分権が進んで、企業への影響はいかがでしょうか。
答え:難しいところです。国は一緒で地方分権はあるけれど、徴税は一部権限委譲
しているところもあります。やはり徴税制はひとつにして、後は再分配といった日
本でいうところの地方交付税のような仕組みにするのがいいかは何とも言い難いと
ころはあります。まあ企業サイドから見たら不都合はありません。
質問:民間活力の方法でのアドバイスはありますか。
答え:日本の今の問題は、プライベートセクターがもっと進出しやすいようにハー
ドルを下げることです。法人所得税が高すぎますよね。40%強では誰も来ないで
すよ。法人税を下げて、もっとハードルを低くするということではないでしょうか。
高付加価値で社会のニーズが高い、そういった産業を誘致することにつきると思い
ます。
質問:福岡はグリーンアジア総合特区という、いわゆる特区申請を福岡が政府に申
請し許可を得ました。設備投資の税の優遇や法人税も優遇検討するようなことを言
っています。環境関係で融資した分について税金の免除などをしています。アイラ
ンドシティでは企業立地交付金制度といった取り込みも行なっています。やはり企
業側からみると、そのような政策は興味を引く施策なんでしょうか。
答え:そう思います。環境配慮した事業展開ができる企業からみるとすごく面白い
のではないでしょうか。許認可のスピードを早くする、そしてスタートして数年は
法人所得税が入らないなど、5年か7年ぐらいのところで、他に行くよりはメリッ
トがあるんではないですかね。
日本はまだ人口も多いですし魅力はあると思います。1人あたりの使う金額も大
きいです。欧州企業にとっても魅力でしょう。日本企業がアジアにネットワークを
持っているということはすごく大きいです。
(所見)
スペインの「金融・経済危機」については、昨年7月が最悪期であったこと、欧
州中央銀行を中心としたEUでの金融救済政策が「銀行救済」
「OMT国債購入」の
2つの政策により効果が発揮されているようであった。
- 20 -
特にOMT国債購入は、ギリシャ・ポルトガル・アイルランド救済で一定成果が
あり、今回スペインだけでなく、イタリアも対象とされている点で、先のイタリア
のミラノ市視察での楽天的な国家観からは想像しがたく、ギリシャの状況なども視
察するべきだったと感じた。
この前提のもと、スペインの特徴で感じたことは、二大都市であるバルセロナ市
との関係などから、国家としてはバラバラのような気がした。
理由として、地方分権が進んだ都市である。カタルーニャ・アンダルシア・バス
クなどの約17の地方都市圏が歴史的な経緯で独立向きにあるため、特にバルセロナ
は地方分権を過ぎて独立国家としての感覚があり、首都であるマドリッドとの関係
は良くない。
このため、スペインの金融危機で、まだ予断を許さないとの話の根拠として、E
Uの一員であるスペインを破綻させないと言うEU全体での連帯感とは、真逆で、
スペイン自体、国家一体として取り組むべき状況下でも、足並みがそろっていない
点が、危機感を増幅させていると感じた。また、東欧から移民により人口増加はみ
られるが、社会保障への圧迫による負担増が起きている。
そのよう中、スペイン産業分野は、EUの中では、農業を中心とした1次産業中心
であるが、EU加盟による高金利を契機として自動車産業が強くなる一方、住宅バブ
ル・東欧移民を生み、そして破綻の憂き目にあった。
現在、景気低迷の中、新しい事業として太陽光・風力エネルギー政策を打ち出し
た。しかし、経済危機などで伸び率が停滞しており、新産業への打ち出し方の難し
さを感じる。
視察先での意見交換で、イタリア・スペインの分析で、イタリアが低成長・高債
務型、スペインはバブル崩壊型・銀行危機型、そして、ギリシャが完全なる放慢財
政破綻型との見解を述べられたことが全てを物語っているようであった。
- 21 -
(視察を行う目的やねらい)
高齢者社会を迎えるにあたり、充実した高齢者福祉政策を行なっている施設を訪
問、調査を行なうものである。
(視察項目)
高齢者・福祉政策調査
(視察日時)
平成24年10月29日(月)12時~13時30分
(視察先名)
BALLESOL PASILLO VERDE
(相手方情報)
Ms.Raquel Arribas(manager)
(視察先で見聞した内容や実態)
質問:州政府からの援助はあるのですか。
答え:援助を受ける側の年金・資産等の状況により
異なるが、約50%程度の自己負担となっています。
質問:州政府の入所基準は。
答え:州政府独自の入所基準があります。なお、州
政府との契約で入所者数は決まっています。郊外部
では入所者がないところもあります。
質問:職員の処遇はどうなっていますか。
答え:州政府の基準に基づき施設で決めています。他の職業との比較は簡単にはで
きません。しかし失業者が多い中、確かに重労働ではありますが、職員はこの仕事
に従事できていることについては満足しています。
(所見)
EU加盟国では、医療・教育分野などシステムは、統一されているようであり、原
則無料である。
しかしスペインでは、財政改革による医療費の自己負担導入が議論されており、
また移民の増加による教育費の負担についても変更が予測される。
高齢者福祉について、日本での有料老人ホームと特別養護老人ホームに位置づけ
される今回の視察先である民間の「バレソル・パシロ・ベルデ」では、一般に富裕
層の有料老人ホームの利用に加え、待機者が多い特養ホームについては、公的(要
介護認定者)な受け入れも行っているとのことであり、基本的なシステムは同じよ
うである。
- 22 -
施設の内容としては、定員35名の有料老人ホ
ームの方は1人利用の場合、食事・洗濯・見守り
などサービス込で、月々2500ユーロ、夫婦の
2人利用の場合は月々3500ユーロとなってお
り、日本の一般的な有料老人ホームと比べると高
く、逆に同程度のハイクラスシニア向けと比べる
とサービスや施設内容は質素である。都心部にあ
るので人気が高いとの施設側の説明で納得した。
一方、定員195名の特養ホームは、州政府からの要請による公的な受け入れと
して、100名近く受け入れているとの事であり、介護保険適用者とそれ以外の利
用者との負担の違いがサービスの違いとなるのか、また経営上の問題となるのか疑
問が生じた。
サービスの違いは、介護レベルの違いにより異なるため、日本との一般的な比較
はできなかった。そのため、経営状況による違いがあると感じ、担当者と意見交換
するも、州政府との受け入れ契約を含め、定員230名のトータルでの経営で判断
しているとのことであり、都心部のため待機者も多く経営は順調とのことであった。
施設説明では、郊外部では公的受け入れを全く行っていない高齢者施設もあると
のことであり、行政として都心部における公的な特養不足から来るものだと感じた。
なお日本との経営状況の違いは、システムの違いによるものだと推測するも、詳し
い内容が分からず残念であった。
推測するに、
「年金制度の違いによる施設利用形態の異なり」と考えられ、スペイ
ンの年金制度は充実している割には、公的な老人ホームに人気があり、その理由に
ついて、公的補助や自己負担などの面からのさらなる調査が必要だと感じる。
また、介護内容については特養ホームにおける医師の配置やデイサービスとの併
用や、パワーリハの充実など、日本と同様の傾向があり、日本の介護保険と同様な
システムと感じられる。
スペインでも日本と同様、都心部での身近な介護に人気があり、今回の訪問先も
都心部に位置しているため、1年先までの待機者があるという人気ぶりであった。今
後の課題としては施設入所待機者に対して、公的から民間による施設整備に転換し
ており、効率性から郊外部での整備が進むと考えられるが、在宅サービスの在り方
や低所得者の都市部での介護が問題となると思われる。
- 23 -
(視察を行う目的やねらい)
経済危機といわれているスペインにおいて、国内の状況をヒアリングするととも
に、観光政策の取り組みについて調査を行なうものである。
(視察項目)
経済観光問題(日本視点)
(視察日時)
平成24年10月29日(月)15時~17時
(視察先名)
JETRO MADRID
(相手方情報)
所長 加藤辰也
(視察先で見聞した内容や実態)
質問:欧州におけるスペインの役割分担としてはどういったものになっていますか。
またその中での日本との関わり方についてはどうなっていますか。
答え:アジアでも同じことがあったと思いますが、ASEANやNIESなど当時の新興国が
工業力をつけて国力が増した状況と、現在の欧州も同じと考えています。スペイン
も途上国でしたが、EUに入ってどんどん国力を付けていった。いまトルコなどに
製造拠点が流れていく中で、スペインはどうするかというと、理想的にはさらに高
付加価値のある産業もしくは研究開発、サービス業などを拡大していかなければな
らないと思います。
ただ、そのような道筋がなかなか見つからないとするならばどうするか、人口は
4,700万人で、そこそこの国債市場を抱えているんですね。ですから内需も大事にし
ていくひとつの要素だと思います。新しい産業、サービスなど比較的優位性のある
ものを着実に発展させていくことです。再生可能エネルギーもいいですが、短期的
にみると難しいですね。
質問:マドリッドとバルセロナとの関係はどのようにお考えですか。
答え:両都市の関係は意外と面白いです。マドリッドはいわゆる東京みたいにいろ
いろな所から人が来て、マドリッドっ子というような、いわゆる排他的な意識は無
いような気がします。バルセロナがあるカタルーニャはみなさんスペイン語とカタ
ルーニャ語と両方できますが、どこか若干入りにくいような意識はありますね。敵
対するような、また張り合うようなところもあります。
質問:マドリッドとバルセロナではこれからどちらが伸びると思いますか。
答え:一概には言えませんがバルセロナは製造業が強いんです。ある意味の勤勉さ、
- 24 -
インセンティブではカタルーニャの方が上を行っている気がします。
でも両都市の関係どうこうよりも、もうすでに欧州もしくは世界の中でのグロー
バルな競争になってきています。ただカタルーニャはいま財政赤字で結構苦しいん
ですね。来月総選挙で州議会選挙が行なわれ
ますが、政権与党がいまカタルーニャの独立
を掲げて戦おうとしています。
質問:今回スペインを選んだのは、財政難を
どう打開するのかというのを見ていきたいと
いうのがあるのですが、もうひとつは2年前
に若い福岡市長に代わって、福岡市の活力を
保つには観光に力を入れたいという意向であ
ります。ここスペインの観光産業についてご所見はどういったものをお持ちですか。
答え:観光は二種類あると思います。一つはEU内で夏の時期にバケーションとし
てこの開放的なスペインに行きたいという面。もう一つは歴史的な遺産巡りといっ
た面ですね。あとは最近、新興国のお金持ちが買い物に来るというのも、観光立国
としては非常に良い視点と思っています。
福岡の場合はアジアにも近いといったアクセス面での優位性があるとお聞きして
います。スペインは季節要因が結構あり、雇用の面でいうと夏だけ雇い入れて、繁
忙期が終わるとあとは解雇されるなど、失業率が非常に高いのです。そこは課題と
なっていますね。
インフラ整備として、環状線は恒常的な渋滞を引き起こしていましたが、景観的
にもあまり良くないといった事から地下トンネル化しました。
旧市街地においても治安が良くないために、観光客が近寄りたがらなかったので
すが、整備をする事によりかなり綺麗になりました。
インフラや仕組みを変える事により、観光
客が来てるというのは一部あるかもしれま
せんが、やはり北の人たちは、夏場はやっぱ
り南に来たいと思うんですよね。ユーロにな
ってから物価は上がりましたが、それでもま
だ安いです。
質問:スペインは家族に対する認識が日本と
異なると聞きましたが失業・経済への影響は
- 25 -
ありますか。
答え:セーフティネットという意味では、家族間での支え合いがあり、別に40代
でも独身の間は実家で母親の世話になっていても全然おかしくないんですね。家族
の結びつきが非常に強いんです。例えば若い夫婦が共働きでローン組み住宅を購入
したとします。のちに片方が失業してしまった場合でも、資金援助するなどセーフ
ティネットは機能しています。
若年層25歳未満の失業率は50%を超えていますが、そんなに荒れていないの
は、上の世代が支えているという面があると思います。ただこれも長くは続かない
とみています。また年金も将来的にはどうなるものなのか分からなくなってくると
思うんです。
ここは7年間働くと最大2年間失業手当が出るのですが、ドイツは1年です。お
そらくここは切り込まれていくと思います。ですから将来的には支えきれなくなる
可能性があると思います。
また若年層で仕事も勉強もしていない層がEUの中でスペインが高いのです。社
会的要因としてかなり不安視されていますね。
若年層の失業対策は、基本的には中央政府がやっているということになります。
たとえば職業訓練であったり、いろいろな補助金であったりです。社会補償制度の
枠の中で財源確保してやっていますから、さすがに切り込んではいないのですが、
失業給付の財源も含め、今の制度を続けていくのは難しくなってきていると思いま
す。
これからはやはり外需依存、いわゆる輸出を増やしていこうといった動きはあり
ます。EUは物と人の自由な移動という考え方ですから、やる気や技術があれば、
若い人たちはどんどん外に出て行こうとして
います。ドイツや英国はそうです。
スペインは日本同様、なかなか外に出たが
らない国民性と言われています。でも今そう
も言っていられなくて、大学を出て、たとえ
ばエンジニア志望で、国内に仕事がないと、
どんどん国外に出て行こうとする若者は増え
ています。
(所見)
ジェトロ・マドリッドでは、先に訪問した邦人企業での情報に加え、経済・観光
のテーマについて議論を交わした。
- 26 -
スペイン首都として、マドリッド市から見たバルセロナ市との関係は邦人企業と
の認識で同じであり、バルセロナ市の独立問題など、スペイン国家としてのバラバ
ラ感が地方分権という表現で語られて良いのか疑問に思った。
また経済再生の足かせとして、雇用・失業者対策問題があり、新規雇用が進まな
い原因として、労働組合が強く解雇コストが高いといった欧州的な特徴が挙げられ
る。現在、解消傾向にあるとはいえ企業による新規市場へのリスクマネジメントが
大きいとの話があり、成熟した欧州国家での自由経済との葛藤があると感じた。
その点、日本での非正規雇用者の増幅は、このようなリスク回避として取られて
いる点を強く感じるとともに、日本での低賃金対策と企業発展を考える中で、欧米
に移行しつつある雇用政策について、もう一度議論していくことで世界に誇る日本
終身雇用システムを基本とした新たなシステムができないかと感じた。
観光について、南欧という地理的な利点である季節(夏季)要素を生かしている
点については、視察時期が異なったため享受できなかったことは残念であった。
また、歴史的要素である世界遺産を生かしている点については、イタリアをはじ
め恵まれた観光資源があると理解でき、自然と人が集まるため、意識的に活用して
いるというよりは自然発生的な観光産業であるように思えた。一方の福岡市では、
金印・鴻臚館をはじめ、観光資源に対する自然発生的なモノがないと思う。このた
め、福岡市で「新たな観光元年」として取り組む観光事業を推進するため、また観
光資源としての活用施策を行うためには、人を引き付ける強固な基盤が必要だと思
われる。特に金印・鴻臚館などの資源の認知度を上げる施策の必要を感じた。また、
福岡城の再建については、NHK大河ドラマなどのPRは絶好の機会であるが、従
前の大河ドラマでの反省を生かして、ポイントを絞った特徴ある福岡城を目指すべ
きと思った。
- 27 -
● レポート総括
今回の視察は、高島市長の訪問により福岡市とも交流が深まり、友好的な関係を
築きつつあるバルセロナを中心に、南欧の都市経済・街づくり等の視察を行った。
国家観の違いはあったが、本市の戦略である集客・交流施策を進めるうえで参考に
なった。
なお、南欧特有の国家観を知るために、スペイン・イタリアの代表的な都市であ
るミラノ・マドリッドの経済・福祉活動を視察したことが参考ともなった。
この視察により、福岡市が掲げる集客・交流施策の中心である観光・文化事業の
推進に役立てて行きたい。
まず最初に南欧は従前に視察した北欧とも違った国家観があり、基本的な認識を
整理するため、例示として今直面している南欧の経済・金融危機についての意見交
換を行ったので報告する。
世界的な金融・経済危機に直面している南欧は、日本でのバブル期以降の状況に
似ている。特にスペインでは、アメリカと同様に、2000年代から始まった住宅バブ
ル(住宅価格上昇率2004年ピーク時約15%から2009年は約-5%)が2008年頃に崩壊
しており、未だ底打ち感はなく、今後もさらに悪化するとの話であった。また、経
済成長率(2007年まで約4%台推移から、2009年には約-3.7%、2013年予測約-1.7%)
や財政赤字(対GDP比2009年-11.%2012年-4.4%)も悪化しており、このため、
さらなる世界規模の金融経済危機が予測されると思ったが、現地の話では新しい首
相になり、経済政策が評価されつつあるため、大丈夫であろうとのことであった。
しかし政権が代わったばかりであり、本来なら不安定な状況であろうと考えられる
が、そうは捉えてない楽天的な国との印象が強く残った。
ラテン系の国民性から、陽気で何とかなるとの雰囲気の中の視察となり、本当に
大丈夫かなと心配したが、実際、失業率20%の割には街中には浮浪者等もおらず至っ
て平穏である。また、邦人の商社マンやジェトロの関係者も、住宅バブルの崩壊は
深刻な状況ではあるが、失業率の捉え方(算定方法の違いがあるとの話)や家族主義
(個人より家族を大切にする)による共存社会形成が確立されており、日本やアメリ
カとの感覚の違いがあるとの見解であった。
次に福祉について4年前の北欧視察での経験から、南欧との違いがはっきりある
ことを感じた。
北欧社会は、冷静沈着な国民性で大人であり、民主主義が完成されていることか
ら、大きい政府として市民の高い税負担を前提に公共福祉の充実が実現されている。
南欧もユーロ圏の一部であり、医療・教育などは原則無料で同じであるが、国民
- 28 -
性の違いから来るものなのか、大きな政府を求めているわけではなく、高い税負担
には抵抗があるようであり、公務員の高賃金に代表されるように今回の経済対策へ
の取り組みには、北欧に比べても危機感の違いがあるようである。さらに環境やま
ちの景観についても、タバコの喫煙や投げ捨てに代表されるように大きな違いがあ
ると感じた。
- 29 -
( 別 紙 )
イタリア・スペイン 街づくり・都市開発等及び経済・行政視察
(南原 茂・冨永 計久・川上 晋平・今林 ひであき・福田 まもる・飯盛 利康・大森 一馬・川上 陽平)
日次
都市名
発着時刻
交通機関
摘 要
①
10/24
(水)
福 岡 発
↓
ソウル 着
ソウル 発
↓
ミラノ 着
10:30
↓
11:55
13:20
↓
18:20
KE-788
大韓航空
KE-927
大韓航空
専用車
<ミラノ 泊>
②
10/25
(木)
(ミラノ)
専用車
午後:ミラノ市内視察
①交通問題視察
・交通関連施設視察
・経済関連施設視察
②経済視察
<ミラノ 泊>
③
10/26
(金)
専用車
ミラノ 発
↓
バルセロナ 着
08:45
↓
10:20
AZ894
専用車
アリタリア航空
午後:バルセロナ市内視察
①行政視察
・バルセロナ市役所
<バルセロナ 泊>
④
10/27
(土)
(バルセロナ)
専用車
終日:バルセロナ市内視察
①街づくり・景観保全視察 ・専門家による各施設案内
<バルセロナ 泊>
⑤
10/28
(日)
バルセロナ 発
↓
マドリッド 着
列車
専用車
午後:マドリッド市内視察 ①経済視察
・邦人企業訪問(三井物産)
<マドリッド 泊>
⑥
10/29
(マドリッド)
専用車
(月)
終日:マドリッド市内視察 ①高齢者・福祉視察 ・高齢者関連視察視察
②経済視察 ・JETRO MADRID訪問
<マドリッド 泊>
専用車
⑦
10/30
(火)
マドリッド 発
10:30
↓
↓
ソウル 着
ソウル 発
↓
福 岡 着
07:00
08:05
↓
09:20
KE-914
大韓航空
<機内 泊>
⑧
10/31
(水)
KE-781
大韓航空
- 30 -