- "Sawah Technology" (20th September 2016)

シンポジウム:アフリカとイネ-その歴史と現在そして展望-
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Sawah(灌漑水田)稲作技術普及の展望
若月利之
近畿大学農学部 〒 631-8505 奈良県奈良市中町 3327-204
キーワード エコテクノロジー,水田仮説 1 と 2,適地適田開発,農民の自力水田開発,Sawah 技術
Road Map of the Dissemination of Irrigated Sawah Development and Rice Cultivation Technology by African Farmers’
Self-support Efforts Toshiyuki WAKATSUKI Faculty of Agriculture, Kinki University, 3327-204 Nakamachi, Nara 631-8505,
Japan
Key words Ecotechnology, Sawah development by farmers, Sawah hypothesis 1 and 2, Sawah technology,
Site specific sawah development
はじめに
表 1 に示すように,その半分以上は農民レベルでの水
田開発が可能な内陸小低地や数百ドル程度の簡易なポ
熱帯アジアやラテンアメリカで 1970 年代に実現し
ンプで 1ha の灌漑が可能な地下水位数 m 程度の広範
た緑の革命は 40 年以上経過した現在,サブサハラア
に分布する氾濫原である.今後 10 年程度は,そのよ
フリカで実現していない.サブサハラアフリカでは食
うな低湿地を第一のターゲットとして,本稿で述べる
糧危機と環境悪化が進行し,社会・政治経済不安の背
Sawah Ecotechnology(以下 Sawah 技術)に種々のイ
景になっている.一方,30 年前に持続可能な食糧増
ノベーションを加えながら,農民の自力による灌漑水
産を実現したアジアは,今や世界経済の成長センター
田開発に適用し,同時に農民や普及員,技術者や研究
となった.しかし日本と同様,アジアでは経済成長に
者に水田技術を訓練し,幅広い人材養成が重要であ
伴い,若者の農業離れと優良農地の減少が急速に進行
る.
し,近未来の食糧危機が危惧される.このような中
これまでサブサハラアフリカでは大規模でも小規模
で,欧米に加えて中国・韓国・インド・中東諸国は,
でも灌漑水田開発プロジェクトはコスト高で,開発の
近年,アフリカで大規模農地取得を加速させており
自立的発展はもちろん,管理の持続性も低く,開発
Land grab(土地の収奪や新植民地主義)と批判され
コストをカバーすることは困難であった(Fujiie et al.,
る一方,これらの農業ビジネスは ODA 方式(例えば
2011; Inocencio et al., 2007; Otsuka and Kalirajan, 2006;
CARD, 2008 等)とは別の方法で,農業開発を成功さ
若月,2002)
.アジアとアフリカの灌漑プロジェクト
せる可能性も指摘されている(Cotula et al., 2009).
のコストパフォーマンスの違いの大部分は,過去数百
ナ イ ジ ェ リ ア 新 政 権 は 2011 年 に ATA(Agricultural
年から 1000 年という歴史的時間をかけて農民が低地
Transformation Agenda)政策を打ち出し,ODA 等に
水田開発を継続してきたアジア(図 1)
,従って農民
よる開発よりは外国を含む民間資本による農業ビジ
に Sawah 技術が普及しているアジアと,低地が未開
ネスとして農業発展をはかる方向に舵を切った(2012
発でかつ未経験のアフリカの差であると考えられる.
年 10 月 30 日に東京で開催された Nigeria Agricultural
水田と水田技術が既に存在しているアジアでは,灌漑
Business Forum 等)
.
プロジェクトが成功しやすいのは当然であった.従
アフリカの緑の革命実現は,アフリカのみならず国
い,人材養成と Sawah 技術がある程度の規模でサブ
際社会の重要な課題であると同時に,表 1 に示すよう
サハラアフリカに普及した段階で,ようやく大規模灌
に,広大な未開拓の土地(とりわけ低湿地)を有する
漑水田開発もアジアと同様の費用対効果水準に達する
アフリカは,将来の食糧基地になり得る可能性もあ
と期待できる.Sawah 技術の普及が順調に進めば,
り,アジア後を展望すれば未来の地球社会の希望とも
2020 年以降はアジアと同様な規模のメリットが生か
なる.全体で 2000 万 ha,今後の技術革新によっては
せる灌漑水田開発も,加速度をつけて可能になると思
5000 万 ha 規模の灌漑水田ポテンシャルが推定される.
われる.
現住所:島根大学名誉教授
〒 631-0821 奈良県奈良市西大寺東町 1-1-23-128
E meritus Professor, Shimane University, 1-1-23-128
Saidaji Higashimachi, Nara 631-0821, Japan
り実現した.それ故に,アフリカに緑の革命を実現す
アジアやラテンアメリカの緑の革命は品種改良によ
る中核技術もバイオテクノロジーであるとの仮定の下
で,世界の主潮流は過去 50 年研究活動を行ってきた.
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熱帯農業研究 6
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表 1 サブサハラアフリカの各種低地の分布面積
湿地の種類
沿海低地(Coastal Sawamps)
面積
灌漑水田ポテンシャル推定値
1700 万 ha
内陸大低地(Inland Basins)
1.1 億 ha
4-9 百万 ha(25-50%)
1-5 百万 ha(1-5%)
氾濫原(Flood Plains)
3000 万 ha
8-15 百万 ha(25-50%)
内陸小低地(Inland Valleys)
8500 万 ha
9-20 百万 ha(10-25%)
注 1: 全低地面積 2.4 億 ha (Windmeijer & Andriesse 1993) のうちの灌漑水田面積の推定は著者に
よる(Wakatsuki 2002, Wakatsuki et al. 2012)
.
注 2: Sawah 技術のターゲットは農民レベルで水制御が可能な内陸小低地である.
ナイジェリア北部ギ二アサバンナ帯の Kebbi から Borno 州の氾濫原でも氾濫時期の数ケ月を
除けば,簡易なポンプ灌漑により 100 万 ha 規模の水田開発が可能である(ナイジェリア全体
で 3-5 百万 ha)
.サブサハラアフリカ全体では水循環量が主要な制限因子となる.アジア(1.3
億 ha の灌漑水田)モンスーンとの比較から約 2000 万 ha のポテンシャルを推定.技術革新によっ
て 5000 万 ha 規模も可能かもしれない.
図 1 大化の改新以来の日本の水田面積とモミ収量(2000 年時点の世界各国
のモミ収量と比較)及び人口の変遷(高瀬,2003; Wakatsuki, 2008; 鬼
頭,2007; 本間,1998).
しかし 1960-70 年代に,CG センターの CYMMET や
2005; Abe and Wakatsuki, 2011)
.水田仮説 1 は科学技
IRRI が育成した高収量品種が急速に普及したアジ
術の適用には前提となる作動条件(基本インフラ)が
アやラテンアメリカと異なり,国際熱帯農業研究所
あること,農民圃場の「場の特性が科学技術の適用の
(IITA)
,アフリカ稲センター(AfricaRice)
,国際稲研
可否を決める」ことも意味する.福島原子力発電所が
究所(IRRI)等の研究所で生まれた技術は,農民圃場
地震と津波で技術の作動条件が破壊され,制御不能に
にスケールアップできず,依然として緑の革命実現へ
なった場合と対比が可能である.稲に限らず,トウモ
の道筋は明確ではない.
ロコシやソルガム等他の作物でも同様であり,緑の革
水田仮説 1
命の 3 要素技術(品種,土壌肥料,灌漑排水)を適用
するには,農地基盤は地形や水文や土壌に応じて分類
アフリカでは過去 40 年,農業研究の成果,とりわ
区画整備される必要があることを意味する.図 2 に示
け緑の革命の 3 要素技術(改良品種,肥料,灌漑排水)
すようにヤブ状の栽培環境では科学技術は適切に作動
が農民圃場にスケールアップできず,緑の革命を実
しない.規格化された籾生産もできないので,市場価
現できなかった理由は,写真 1(Google, 2007)と写
値の高い籾生産もできないことも意味する.最近アフ
真 2 及び図 2 と 3 により理解できる.アフリカに緑の
リカで強調されている市場を重視する Value chain ap-
革命を実現する中核技術は,現時点では,アジアで成
proach は理解できるが,それを即,ポストハーベス
果を上げた品種改良ではなくて,生態環境を改良する
トに短絡化したアプローチも Sawah 技術や水田仮説
水田 <sawah サワ > エコテクノロジーである(水田仮
1 を無視しては,持続可能な成果となりにくいと思わ
説 1,Wakatsuki et al., 1998; Wakatsuki and Masunaga,
れる.
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写真 1 フェンスで囲われた国際熱帯農業研究所(IITA)と周辺農家圃場(A)のグーグル衛星写真.
E: 土壌侵食実験実施箇所,F: IITA 構内の森林(休閑 40 年で回復)
,S: 灌漑水田,U: 畑圃場.
写真 2 世界の稲作条件の違い.
(a)ギニヤ高原の森林破壊地帯での焼畑による陸稲栽培
(b)中国雲南の棚田(大塚 ,2004)
,数百年以上の歴史的時間をかけて農民が自力整備
(c)ガーナのヤブ状態の内陸小低地稲作地(Sokwae 村付近,2008 年)
(d)
(c)の道路を挟んだ反対側で農民が Sawah Ecotechnology で開発した水田(2008 年)
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図 2 水田仮説 I : 水田的な地形と水及び土壌という生態
環境で区画された圃場が必要:緑の革命の 3 要素技
術を適用するための前提条件は,生態環境が区画さ
れ分類され,品種改良のように,生態環境も改良で
きる水田的な圃場が存在すること.アフリカ独特の
生態環境と社会経済条件及び過去 500 年の歴史的経
過(奴隷・植民地)に由来すると考えられる.
エコテクノロジー,水田仮説2,アフリカ型里山創造
図 3 アジアにおける 1960-2005 年の収量向上に貢献した
技術の相対的寄与の推定とサブサハラアフリカと比
較した今後 50 年の変化の予測
は研究対象ではなくて業務としての開発対象にすぎな
い,農民が主体になる水田開発と政府が主体になる灌
稲作振興は(1)育種 <Breeding> 研究による「品種
漑開発の混同,水田 Sawah と籾 Paddy の混同,等)
改良」と(2)水田 <sawah> 研究による「生態環境の
により,我々の sawah ecotechnology 研究以外ほとん
改良」の両者が車の両輪である.過去 40 年の品種改
どやられていない.図 4 に示すように,低地に適地適
良研究は緑の革命を実現できなかった.一方,水田に
田開発し適切に管理すれば,集水域のマクロの地質学
よる「生態環境の改良」研究は種々の誤解(水田開発
的施肥作用とミクロの養分供給性が強化され,畑作地
図 4 水田仮説 2:集約的持続的な生産性の高さを背景にアフリカ型里山集水域を創造して地球温暖化防止
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の 10 倍以上の持続可能な生産性をもたらす.中長期
的には集水域低地の水田の集約的な持続性の高さを背
景にして,アップランドに森林を再生させ,アフリカ
型里山創造が可能になる.広大なアフリカはこれによ
り地球温暖化防止や生物多様性保全にも貢献でき,未
来の地球社会を救うポテンシャルがある.
農民による Sawah 技術普及の展望
科研特別推進研究「水田エコテクノロジーによる西
アフリカの緑の革命実現とアフリカ型里山集水域の
創造,2007-2011 年」により緑の革命の実現に有効な
新規技術 Sawah Ecotechnology(Sawah 技術)が生ま
れ,ガーナとナイジェリアの全気候帯(図 5)の 150
サイト,300ha の規模でその有効性が実証されつつあ
る(日本学術振興会 2012 年)
.Sawah 技術は表 2 に
図 5 長期の基礎的研究と科研特別推進研究
(2007-11 年度)
のアクションリサーチで試行錯誤により造成された
ナイジェリアの 100 サイト,200ha 規模の水田分布.
面積表示のないサイトは 2013 年以降の計画サイト.
表 2 農民の自力適地適田灌漑開発技術 Sawah Ecotechnology の 4 つの要素技術
(1)適地選定のポイントと適田システムの設計技術の内容
(a) 稲作農民の存在:全体で 10ha 以上稲を栽培.稲作技術向上に強い意欲.
(b) 水文と水資源:流量 >20 リットル / 秒,流下継続期間 >5 ケ月 / 年,氾濫時水量 <10 トン / 秒.
(c) 地形と土壌:勾配 1%前後,極端に砂質でない.
(d) 安定した土地利用権:自己所有がベスト,5 - 10 年以上の借地契約でも可.
(e) 適田システムのデザイン:地形と土壌の観察に基づく個々の水田と水田集団のレイアウト,水田の畔の質と水
田の均平化度の指定,洪水と干ばつ対策の考慮.
( f ) 取水,分水,貯水,排水システム:簡便な土のう堰,小中河川の堰,泉や浸出水の集水や分水路,ため池や養
魚池,小中大のポンプ利用,大中小の排水路
( g ) 荷物運搬や耕運機用,あるいは洪水対策用の道路兼堤防等
注 1):農民と研究者が連携して,適地適田開発と管理の試行錯誤が必要.農民はサイトの水文を熟知しているが,
水田は未知,技術者は現場を知らない.
注 2):逆説的であるが,適地選定が適切ならアフリカの水田開発はアジアに比べ大変容易
(2)開田速度 >3ha/ 年 / 耕運機 1 台,及び,開発コスト <1000-3000 ドル /ha の開田技能
(a) ヤブの伐開,伐根:自力+補助的な雇用労賃
(b) 畔作り,水路作り,耕運機利用のための地表面の凸凹処理:自力+補助的な雇用労賃.
(c) 開墾,開田,稲作用具や資材の購入費用:$1000/10ha.
(d) 耕 運 機 購 入 と 利 用 及 び 維 持 管 理 費 用:1 台 で 3 - 5 年 以 内 に 10ha 以 上 開 田 が 前 提 条 件. 購 入 費 用
$3000-$5000/1 台,燃料と修理代 $2000-$3000/10ha
(e) On-the-Job 訓練費用:研究者・技術者謝金等 $1000/ha,普及員 $500/ha,篤農 $250/ha
注 1):耕運機利用の開田技術と維持管理技能の熟練度がポイント
(3)水田稲作技術:基準目標は 1 台の耕運機で >20t/ 年の籾生産と >4t/ha の収量の達成
(a) 取水,分水,貯水,排水等,水田の水管理システムの維持管理
(b) 水田の水管理技術:湛水深管理,間断灌漑,好気・嫌気性管理,排水管理
(c) 畔の管理.耕運機を利用する田面の均平度管理と代掻き技術.
(d) 施肥と養分及び土壌有機物管理技術
(e) 育苗と移植あるいは直播技術
( f ) 雑草,病害虫,鳥獣害対策技術
(g) 目標収量を実現する品種選択と生育管理技術
(h) 市場性の高いポストハーベスト技術
注 1):1 台の耕運機で 3 年以内に年間籾生産 >50ton を実現すると水田開発は加速する.
過去の成功例:①スーダンサバンナ帯の大氾濫原のオアシス型ポンプ灌漑,②泉灌漑は全気候帯で成功,③
ギニヤサバンナ,森林移行帯,赤道森林帯の小河川の堰灌漑.
注 2):基準目標を達成すれば,収量 >10t/ha を目指す研究も,農民の現場で意味を持つ.
(4)稲作農民をエンパワーメントする社会経済技術
(a) 水田農民グループの組織化.自力開田から一般農民の新規開田を指導できる篤農の養成
(b) 持続的な内発的発展性は,農民間技術移転>普及員>研究者> ODA 方式,の順になる.
(c) 耕運機利用の開田と稲作技術の訓練とイノベーションの誘発システムの整備
(d) 水田造りは国造りと人創り.国富を増加させた人に報いる土地制度 / 借地制度は極めて重要.
(e) 農業機械や水田適地及び灌漑水田の,ローン等による農民の土地購入システムの整備
( f ) 25ha 以上の灌漑水田は 5 万ドル以上の年間籾生産となり,1 万ドル規模の小型ハーベスターが経済的に利用
可能になる.これにより市場性高い籾が出荷できさらに付加価値がつく.
注:4 つの要素技術にイノベーションを蓄積して,ODA 依存を脱却する内発的な技術として成熟可能.
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(1)2013
示すように農民の自力による適地適田灌漑水田開発と
ケールアップする道筋が容易に描ける.開発と農民の
稲作技術で,①適地選定と適田システムのデザイン,
訓練が同時並行するので,加速度的開発が可能とな
②重機でなく,耕耘機のような適正な機械力で効率的
る.Sawah 技術は 1986 年以来,試行錯誤を繰り返し
で費用対効果の高い灌漑水田開発技能,③収量 4t/ha
ながら長期のアクションリサーチとして実施してき
以上の稲作技術,④持続性と内発性を担保する社会経
た(表 3)が,2010-11 年になって 4t/ha 以上の高収
済技術の 4 つのパッケージである(Wakatsuki et al.,
量を 5-10ha という実用的な面積と開発速度で実施可
2009, 2010, 2012a, 2012b)
.表 2 の Sawah 技術は水田仮
能なレベルまで進化し,農民の現場の評価は高まりつ
説 1 と 2 を実証する戦略的な武器となることが明らか
つある.国際農業研究機関 CG センターの AfricaRice,
になりつつある(Buri et al., 2012; Nigeria Fadama III,
IWMI, IITA のみならず,開発業務を担当する世銀,
2012; Ghana Government, 2011; Africa Rice SMART,
FAO,ガーナとナイジェリア政府内の理解が進みつ
2012).本技術は多様な地域に適応進化し,農民の自
つある.AfricaRice は本技術を仏語圏に展開させるた
力で実施可能な内発的発展性を有し,ガーナ,ナイ
め SMART-IV(Sawah, Market & Rice Technology)を
ジェリア全体,西アフリカ全体,アフリカ全体にス
2010 年に開始した.ガーナ環境技術省大臣は 2011 年
表 3 Sawah Ecotechnology(農民の自力による灌漑水田開発と水田稲作)のイノベーションと普及によるアフリカの緑の革
命実現のロードマップ
(1)1986-2002:(10 sites, 6ha, 17 年の試行錯誤と基礎研究)
:IITA 派遣 JICA 専門家,国際学術科研(Hirose Project),
JICA/CRI 研究協力 Sawah Project
西と中央アフリカ全体の稲作生態の調査.農民の自力開田のため要素技術の基礎的検討と研究者の育成(ガーナとナ
イジェリアで 20 人の博士・ポストドク訓練).
(2)2003-2007:(20 sites, 30ha ベンチマークサイトで適地適田開発)
:科研基盤S
アフリカの多様な小低地環境に適する多様な水田オプション等,試行錯誤で参加農民の自力開田 Sawah 方式の基本型
の有効性を実証.集水域生態工学的研究で水田開発の限界も確認(2.5 億 ha の低地の 10%,2000 万 ha の水田開発ポ
テンシャルを推定).
(3)2007-2011:(>100 sites, >300ha の適地適田開発の大規模アクションリサーチ)
:科研特別推進:4 要素技術(表 2)
からなる Sawah Ecotechnology のイノベーション
ガ ー ナ と ナ イ ジ ェ リ ア で 内 発 的 な 発 展 が 可 能 な 戦 略 的 技 術 と し て 十 分 な 規 模 で 実 証.AfricaRice, JIRCAS,
MillenniumVillage との連携と訓練を開始.水田開発と土地制度.
(4)2013-2018:(ガーナ,ナイジェリア >300sites, >3000ha, 内発的な発展を誘導し十分な推進力で緑の革命実現にイン
パクトある戦略的な技術であることを実証)
当 面 の 目 標: 社 会 実 装 と 人 材 育 成 の 平 行 実 施. ガ ー ナ 全 国, ナ イ ジ ェ リ ア の 25 州. で 実 施. ナ イ ジ ェ リ ア は
FadamaIII/ADP/NCAM, ガーナは SRI/CRI/MOFA の体制で実施.従来型 ODA 方式による灌漑水田開発と水田稲作技
術協力方式の改革の実現.
(5)2018-2022:(>100,000 ha Sawah):水田開発と人材育成が同時進行する
サブサハラアフリカ全体で農民の自力適地適田開発が進行,大規模灌漑も実施可能.
(6)2022-2036:(>100 万 ha of Sawah Ecotechnology 普及)
:自力展開と緑の革命実現
表 4 日本の ODA で現在及び過去の灌漑水田開発プロジェクトと Sawah Ecotechnology(農民の自力適地適田開発と水田稲
作技術)の比較
1. ナイジェリア,ローア・アナンブラ:1981-1989 年,3,850ha の水田開発.約 220 億円の円借款.1989-1993 年,技プロを
実施(約 10 億円).2011 年の現状:灌漑施設は機能していない.開発コスト:3-4 万ドル /ha:コスト高,持続不可能な
管理,債務帳消し,自力発展性なし.
2. ケニヤ,ムエヤ:2011-2016 年,132 億円の円借款で 3,000ha の新規開田と 5,860ha の改修実施中.1989-1998 年,既開発
灌漑水田 5,860ha に無償資金協力と技プ ロを実施(約 40 億円).1993-1996 年,円借款 5.7 億円で 3,000ha の新規開田の
詳細設計調査を実施.開発コスト:2.5 万ドル /ha: リハビリ分を含めて 8856ha として(最初の開発費は除く).依然と
してコスト高,持続的な管理も自力発展も困難.
3. Sawah Ecotechnology 方式の灌漑水田開発:5 年間で両国各々 500 ケ所,1 ケ所 10ha,各 5,000ha,計 1 万 ha の新規灌漑水田.
訓練費用を入れても,各 10-15 億円,計 30 億円規模で可能.訓練費用込みで,開発コストは 1,000-3,000 ドル /ha(これ
までの ODA の 10 分の1以下).水田を農民の自力で開発,年間 4 万トンの籾生産が可能(年間売上約 2000 万ドル).
同時に農民,普及員,技術者も訓練し,5000ha の開田が次期の 1.5-2.5 万 ha の自力展開の準備となる.この過程でイノベー
ションが加わり,開発コストは下がり,開発スピードはさらに加速可能.各 500 ケ所は拠点となり,その周囲に 3 - 5
ケ所の開田が進めば各 1500-2500 ケ所と,順次加速度をつけて,内発的に開発が進行し,緑の革命が実現.
注:Sawah ecotechnology の実証規模は 2012 年現在,300ha に過ぎないが,実証規模を 5000ha まで展開できれば,ODA 依存を脱却す
る新規の自力灌漑水田開発方式として社会実装できる.
シンポジウム:アフリカとイネ-その歴史と現在そして展望-
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11 月の第 1 回国際 Sawah 技術 workshop の基調講演
るが,ややもすると品種研究に偏重したアフリカの農
で期待を表明した(Buri et al., 2012)
.
業研究も正常化でき,念願の緑の革命への道を切り開
逆説的であるが,Sawah 技術(表 2)を応用すれ
ば,
「アフリカの水田開発はアジアに比べ大変容易」
である.ブルドーザー等,重機ではなく耕運機で簡
くことができる.
Sawah 技術の社会実装の構想
単に 10ha 程度の開田ができる.アジアで 1000 年を
当面先行研究のガーナとナイジェリアの全気候帯の
要した水田開発を半世紀以内に短縮できる可能性があ
150 サイト,300ha の実証規模を 10 倍,3000ha にス
る.Sawah 技術は表 2 に示すような 4 つの要素技術
ケールアップして,農民レベルでイノベーションを蓄
の総合パッケージであるが,これまでの 300ha 規模
積し,①開発の持続性を担保する土地利用システムの
のアクションリサーチを 10 倍,3000ha 規模にスケー
整備,②開発コストダウン,③開発スピードの短縮,
ルアップすることにより,次節,社会実装の構想の項
④ Sawah 水田の籾収量の向上,⑤規格化された水田
で述べた 7 項目のようなイノベーションをさらに積み
による市場性の高い籾生産,⑥農民間技術移転の中核
重ね,これまでの基礎研究成果の社会実装の死の谷を
となる水田篤農の養成,⑦水田農民組合の強化拡大の
乗り越えたい.アクションリサーチと開発及び訓練が
施策等を実証的に明らかにし,Sawah 技術の社会実装
同時進行するので,加速度的に開発が可能である(表
を実現し,100 万 ha の普及への道を明確にすること
4).従い,この技術がアフリカの全水田ポテンシャル
が次のステップとなる.近未来に予想される大規模な
の数%,100 万 ha 規模まで普及すれば,緑の革命は
食糧危機を Sawah 技術で回避するため,図 6 にその
実現するものと思われる.表 4 に示すように ODA 方
基本構想を示したが,以下の 4 課題を実現したい.
式の費用対効果を 10 倍以上改善し,かつ加速度的な
①アフリカの水田開発ポテンシャルの半分,1000
内発的開発が可能であり,現行方式の破壊的イノベー
万 ha の水田開発と 4000 万トンの籾増産(2 億人の食
ションとなる(イースタリー,2009)
.また,ODA の
糧)を今後 50 年以内に実現するため,Sawah 技術に
変革とともに,アジアにおける緑の革命の成功体験と
よる緑の革命実現の研究開発のロードマップの最終段
近年のバイオサイエンスの発展をバックにするのであ
階(表 3 の
(4)段階)
,政治家を確信させる規模とレベ
図 6 全体総括:アフリカ適応型の水田生態工学技術の普及と進化による内発的な緑の革命実
現:基礎研究の成果をガーナとナイジェリア国全体にスケールアップするための普及と
組織体制の整備
50
熱帯農業研究 6
(1)2013
ルと質で実証的に提示する.
②我々の側の当面の具体的な方法として,ガーナ
で 1000ha,ナイジェリアで 2000ha(これまでの実績
の 10 倍の規模)で上に述べた 7 項目のイノベーショ
ンを誘発しながらアクションリサーチと開発実証と普
及・訓練を一体化して実践し,社会実装につなげたい.
我々と強固な連携関係にあるナイジェリア国立農業機
械化センター(NCAM)チームは,この構想をさらに
10 倍スケールアップした極めて野心的な構想(今後 5
年程度で,耕運機 5000 台を投入して,6 万 ha の灌漑
水田 sawah を農民の自力により開発し,同時に数万
人規模の農民を訓練する)を立案中で,ナイジェリア
新政権の英断,JICA,あるいは世銀 /IFAD 等の支援,
ODA を卒業するための ODA 支援を期待している.
③他のアフリカ諸国での社会実装を促進するため,
アフリカ稲作センター(AfricaRice)と国際農林水産
業研究センター(JIRCAS)と連携して,Sawah 技術
を世界銀行や国際協力機構等の業務に適用し,これま
での ODA 方式を革命的に変革し,サブサハラアフリ
カ全体にスケールアップする道筋をつける.
④中長期的目標としてのアフリカ型里山創造モデル
の実証:図 4 に示したように,低地水田の集約的持続
性の高さを背景に,アップランドの森林技術を Sawah
技術と融合させ,スーダン及びギニアサバンナ帯,森
林移行帯,及び赤道森林帯の代表的ベンチマーク集水
域を選び,アフリカ型里山モデルを創造し,地球温暖
化防止と生物多様性保全に貢献する.
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