■特集 洋上風力発電の現状と将来展望 東京大学大学院工学系研究科 1. EU 全体の電力需要の 3.6%を賄う目標を設定し ている。この図には欧州における陸上風力発電 の導入実績を併記しており,かつての陸上風力 発電のようにいま洋上風力発電の普及が始ま っている点が興味深い。図 2 にはドイツにおけ る洋上風力発電の取り組み状況を示す。北海だ けでも 30 カ所のプロジェクトが示され,多く のプロジェクトは既に建設の許認可が下りて おり,現在建設またはその準備を行っている。 はじめに 2011 年初めに世界の風力発電設備容量は 1 億 9439 万 kW に達し,過去 13 年間の平均成長率は 28%に及んでいる。このような高い成長率はエ ネルギー開発の歴史上に類のないことである。 いま世界での風力発電への新規投資は,全発電 設備への新規投資の 5 分の1を占め,5 兆円産 業となっている。 日本においても風力発電の導入も進んでお り,2011 年初めに風力発電の設備容量は 230 万 kW に達し, 風車設置数も 1742 基を超えている。 しかし,陸上の平野部においては風力発電の適 地が減少し,山岳部ではアクセス道路整備など のコスト負担が増加していることから,今後風 力発電の導入拡大には長い海岸線を活かした 洋上風力発電の導入が期待されている。 欧州では大規模洋上風力発電所が既に建設 されており,各種の洋上風力発電設備支持構造 物も提案されている 1),2)。一方,日本では,欧 州に比べ,台風襲来に伴う暴風,高波浪,そし て地震などの自然環境条件が厳しく,欧州の事 例をそのままわが国に適用することはできな い。従って,日本における厳しい自然環境条件 に耐え,安全性,信頼性,経済性の高い洋上風 力発電システムの開発は不可欠である。 本稿では,欧州および日本における洋上風力 発電の現状を紹介するとともに,現在洋上風力 発電所によく用いられている支持物の構造形 式およびその特徴と適用範囲を示す。また,洋 上風力発電所の建設における自然環境条件と 荷重の評価,構造設計,運搬・施工の検討例を 紹介し,洋上風力発電の将来展望および今後期 待される政策を述べる。 2. 石原 孟 図 1 欧州の洋上風力発電導入量の予測 3) 洋上風力発電の現状 図 2 ドイツにおける洋上風力プロジェクト 4) 欧州連合は, 2020 年までに温暖化ガスを 1990 年比で 20%減らす目標を掲げ,次々と大規模な 洋上風力発電所の建設を始めている。 図 1 には, 欧州風力発電協会が 2009 年に発表した欧州に おける将来の洋上風力発電導入見込量を示す。 2020 年までに 4000 万 kW の洋上風力を開発し, 欧州における着床式洋上風力発電の研究開 発はいまから 20 年前に遡る。1990 年にスウェ ーデンの洋上に設置された一基の定格出力 220kW の風車(Nogersund 洋上風力発電所)が 4 ームの最大規模は年々大きくなっていること が分かる。 洋上風力発電の始まりと言われている。風車は 水深 6m,離岸距離 250m の場所に建設され, トリポッドと呼ばれる支持構造(図 8 を参照) が採用されている 5)。その翌年の 1991 年に定 格出力 450kW の 11 基の風車(Vindeby 洋上風 力発電所)がデンマークに建設され,これは世 界初の洋上ウインドファームである。風車は水 深 2~5m, 離岸距離 1.5km の地点に設置され, 重力式と呼ばれる支持構造(図 8 を参照)が採 用されている 5)。 図3 表1 発電所名 世界初の商業洋上ウインドファーム 1) 図4 欧州における大規模ウインドファーム 大規模洋上ウインドファーム 7) 図 3 には 2000 年にデンマークに建設された 世界初の本格的な商業洋上ウインドファーム (Middelgrunden 洋上風力発電所)を示す 1)。 2000kW の風車 20 基は水深 3~6m,海岸から 2km 地点に建設され,重力式支持構造(図 8 を参照)が採用されている 1),6)。図 4 には 2002 年にデンマークに建設された Horns Rev 洋上 風力発電所を示す。2000kW の風車 80 基は水 深 6~12m, 海岸から 14~20km の地点に建設 され,モノパイルと呼ばれる支持構造(図 8 を 参照)が採用されている 7)。この洋上風力発電 所は世界初の大規模洋上ウインドファームで あり,そこから多くの研究成果が得られている。 現在建設中の世界最大級の洋上風力発電所 London Array の設備容量は 68 万 kW に達して いる。表 1 には欧州における上位 10 の大規模 ウインドファームの一覧を示し,ウインドファ 5 出力(MW) 設置国 稼動年 Thanet 300 イギリス 2010 Horns Rev II 209 デンマーク 2009 Rødsand II 207 デンマーク 2010 Lynn and Inner Dowsing 194 イギリス 2008 Robin Rigg(Solway Firth) 180 イギリス 2010 Gunfleet Sands 172 イギリス 2010 Nysted (Rødsand I) 166 デンマーク 2003 Bligh Bank (Belwind) 165 ベルギー 2010 Horns Rev I 160 デンマーク 2002 Princess Amalia 120 オランダ 2008 このように欧州における洋上風力発電所の 規模の増大とともに,風車のサイズと定格出力 も大きくなっている。図 5 に示すように過去 20 年間に風車ローターの直径は約 10 倍,定格出 力は 100 倍に増えている。現在最大級風車の定 格出力は 5000kW,直径は 126m に達する 16)。 風車の大型化に伴い,風車ローターに流入する 風速が大きくなり,より多くの風力エネルギー が得られるとともに,発電効率も向上されてい る。2006 年に英国に建設された Beatrice 洋上 風力発電所は,世界最大級の洋上風車を採用し ている。定格出力 5000kW の 2 基の風車は,水 深 45m,離岸距離 25km 地点に設置され,ジャ ケットと呼ばれる支持構造(図 8 を参照)が採 用されている 16)。 図5 風車の定格出力とローター直径の変遷 一方,わが国では 2004 年 4 月 1 日に国内初 の洋上風力発電所である瀬棚洋上風力発電所 が完成し(図 6) ,2 台の VESTAS 600kW の風 車は海岸から約 700m離れた水深 13mの瀬棚 港内に建設された。ドルフィンと呼ばれる支持 構造が採用され,施工は有脚昇降式海洋作業台 水深,自然環境条件によって費用対効果の高い 構造形式を考える必要がある。本章では欧州お よび国内における代表的な洋上風力発電所に 採用されている支持物の構造形式について紹 介し,各種支持物の特徴および適用範囲を明ら かにする。 図 8 には着床式洋上風力発電設備支持物の構 造形式を示し,図中の 1~5 は それぞれモノパ イル,重力式,ジャケット,トリポッド,トリ パイルを示す。 により行われた。 図6 瀬棚洋上風力発電所 9) また同年山形県酒田市に建設されたサミッ ト風力発電所では,5 台の VESTAS 2000kW の 風車が水深 4mの水路内に設置され,基礎及び 風車本体の工事は陸上クレーンにより行われ た。さらに 2009 年に茨城県神栖市に建設され た神栖洋上風力発電所(図 7)では,7 台の FHI 2000kW の風車が堤防から 40-50m沖に建設さ れ,欧州の洋上風力発電所でよく使われている モノパイル式の支持構造が採用されたが,基礎 及び風車本体の工事は陸上クレーンにより行 われた。 図7 図8 モノパイルは,構造的にシンプルであり,設 計・施工上の問題は少ないが,大型風車および 大水深に適用できない。また海底工事がなくコ ストが安価な反面,大径のパイルを打つための 大型油圧ハンマや大型作業船等が必要である。 これまでに国内においては神栖洋上風力発電 所がモノパイル支持構造を採用したが,その施 工は陸上クレーンにより行われている。 重力式は,海底地盤が比較的良好な場所に適 する構造であり,軟弱地盤には適せず,海底面 の平坦度を確認するために詳細な海底調査お よびマウンドの製作が必要であり,また製作の ための陸上ヤードおよび設置のための大型運 搬船が必要である。 神栖洋上風力発電所 10) ジャケットはモノパイルに比べ剛な構造で このように,これまでにわが国に建設されて いる洋上風力発電所の全ては沿岸洋上風力発 電所であり,その構造設計および施工方法は陸 上風力発電所に近いと言える。今後本格的な洋 上風力発電所の建設に向けて,洋上風力発電設 備支持物の特徴,構造設計よび運搬施工方法に ついて検討する必要がある。 3. 洋上風力発電設備支持物の構造形式 11) あり,地盤からの影響および波浪等の外力を受 けにくく,また鋼管杭で支持する構造形式のた め,水深が深く軟弱な地盤条件においてその優 位性を発揮する。石油ガスプラットフォーム等 で多くの実績を有するが,構造が複雑であり, 洋上風力発電設備支持物の構造形式 陸上風力発電に比べ,洋上風力発電では建設 費における支持構造物の割合が高く,海底地盤, 6 施工に特殊技術が必要である。 以上から分かるように,洋上風力発電設備支 持物はモノパイル,重力式,ジャケットの 3 つ 図 10 には,わが国における洋上風力発電に 関する研究課題を示す。海上風の観測,風車と 支持構造物の連成振動予測,基礎構造の研究開 発,疲労照査技術,遠隔監視制御と故障予知診 断システムの開発等が挙げられている。 の基本形式があり,他の構造形式はこの 3 つの 基本形式の発展形またはハイブリッドと言え る。例えば,PC 重力式は従来の RC 重力式の 発展形であり,またトリパイルとドルフィンは モノパイルの発展形である。トリパイルは 3 本 のパイルを使用し,ドルフィンは 4 本または 8 本のパイルを採用している。一方,トリポッド は,モノパイルとジャケットのハイブリッドで あり,またハイブリッド重力式はジャケットと 重力式のハイブリッドである。表 2 には各種支 持物の構造形式の分類を示す。 表2 海上風の観測 環境影響評価調査 海生生物、バードストライク 塩害/湿度/落雷 対策 洋上風力発電設備支持物の分類 遠隔監視制御・ 基本形 発展形 ハイブリ ッド モノパイル 重力式 トリパイル PC 重力式 ドルフィン トリポッド ハイブリッド重力式 システム ・光センサーケーブル システム ・岩盤部防護敷設工法 図 9 には洋上風力発電設備支持物コストの水 深による変化を示す 5)。モノパイルおよび重力 式は水深 30m 以下,ジャケット,トリポッド およびトリパイルは 30m から 60m の範囲に適 用できる。水深 60m 以上になると,着床式の コストが高くなり,浮体式が優位になる。 基礎構造の研究 4. 疲労照査技術 風車運搬・施工技術 図 10 4.1 図9 連成振動予測技術 故障予知診断 ジャケット 小型ジャケ ット 洋上風力発電に関する研究課題 5) 洋上における自然環境条件の評価 洋上風力発電設備支持物に作用する暴風時 の最大風荷重および発電時の疲労荷重を正確 に評価するためには,洋上風力発電設備の設置 場所の周辺地形を考慮した年最大風速の非超 過確率分布および風速の出現頻度を精度よく 求める必要がある。 図 11 には,銚子から南に 3.5km 離れた洋上 風況観測タワーの設置予定地点における風速 の鉛直分布の一例を示す。南から風が吹く場合 には風速の鉛直分布のべき指数は 0.1 であり, 典型的な海上風の特性を示すが,北から風が吹 く場合には,風速の鉛直分布は陸の影響を受け, 大きく欠損している。陸の影響は風速分布の断 面図からもはっきりと確認できる。大規模洋上 ウインドファームの開発を考える際には,この ような海上風の空間的な変化を考慮する必要 があり,海上風の観測技術とともに,海上風の 予測技術の高度化も必要である。 日本は混合気候であるため,台風と台風以外 (以下非台風と呼ぶ)の気象現象に起因する風 に分けて成因別極値風速を評価する必要があ る。日本近海では年間平均 28 個の台風が発生 支持構造コストの水深による変化 5) 洋上風力発電設備支持物の構造設計 第 1 章にも述べたように,欧州と異なり,日 本では海底地盤条件と水深変化が複雑な上,暴 風,高波浪,地震等の自然環境条件が大変厳し い。今後日本における大規模の洋上風力発電所 を実現させるためには,安全性,信頼性,経済 性の高い洋上風力発電設備支持構造物の開発 は不可欠であり,またその構造設計のための自 然環境条件および荷重の評価手法を確立する 必要がある。 7 し,その 1 割程度が上陸するが,顕著な台風の 発生は稀であり,また台風の進路をたまたま外 れた気象官署では大きな風速が観測されない ことがあり得る。さらに洋上風力発電所の設置 場所は気象官署から離れている可能性もあり, 数値解析により台風時と非台風時における設 計風速の評価を行う必要がある。図 12 には台 風シミュレーションとメソスケール気象シミ ュレーションにより求めた実証研究地点にお ける年最大風速の非超過確率の分布の一例を 示す。欧州と異なり,日本では年最大風速の 50 年再現期待値は台風によって規定されている ことが分かる。 日本では,年最大風速の 50 年再現期待値だ けではなく,年最大有義波高と有義波周期の 50 年再現期待値も台風によって規定されている。 また太平洋の沿岸ではうねりの影響を強く受 ける。図 13 には,1994~2004 年の 10 年間の 波浪推算結果(海上安全技術研究所のデータベ ース)から求めた有義波高と風速の関係を示す。 図中の提案式は,SMB 法による風速 U と有義 波高 HSMB との関係を求めたものである。ここで, F は吹送距離,g は重力加速度を表す。観測デ ータに最もよく一致するように吹送距離 F を 140km と設定し,図中に実線で示した。この図 から,風速 7m/s 以下では有義波高はほぼ一定 値の 1m になっていることが分かる。海上施工 の稼働率を考える際には,有義波高が 1m 前後 の低波高が重要であり,海象条件を推定する際 には高波高だけではなく,1m 前後の低波高の 高精度予測も必要である。 4.2 図 11 洋上風力発電設備支持物に作用する主要な 荷重は,風荷重,波荷重および地震荷重がある。 日本は地震国であり,洋上風力発電設備支持物 の耐震設計が重要である。洋上風力発電設備支 持物は陸上のそれと異なり,地震の揺れに伴う 水中基礎の付加質量および基礎の滑りによる 非線形ばねの効果を考慮する必要がある。また 洋上風力発電設備支持物の場合には風による 疲労荷重に加え,波による疲労荷重も加算され る。 実証研究地点の風速の鉛直分布 12) 60 51.0 m/s 50 40 風速 U(m/s) 洋上風力発電設備支持物の荷重評価 30 非台風 台風(1万年+1σ) 合成 観測値 20 10 2 再現期間(年) 10 20 5 50 100 0 -2 -1 0 1 2 3 4 5 基準化変数 -ln(-ln(F)) 図 12 実証研究地点の成因別年最大風速 12) 18 有義波高 Hs(m) 海技研データベース 50年再現期待値 提案式 H s max(1.0, H SMB ) 12 H SMB=0.3 1 1 0.004 gF / U 2 F 140, 000 2 U g 2 図 14 6 図 14 には陸上風車に作用する疲労荷重と橋, ヘリコプター,飛行機および自転車に作用する 疲労荷重との比較を示し,風力発電設備におけ る疲労荷重の重要性が分かる。洋上風力発電設 備支持物の場合には支持物の構造形式によっ て疲労荷重が支配的な荷重になることがある。 風速階級別の有義波高の平均値 0 図 13 0 10 20 30 40 海上10mの風速 U(m/s) 風車に作用する疲労荷重の比較 8) 50 有義波高の風速による変化 12) 8 ように,タワー基部では風荷重が支配的である が,基礎基部では風荷重より波荷重が大きいこ とが分かる。また,風荷重と波荷重の最大値か ら単純和により求めた暴風波浪時の最大値は, 暴風と波浪が同時に作用した時に求めた最大 値より大きく,風荷重と波荷重の組み合わせを 考えるときに,風荷重と波荷重の相関を考慮す ることにより,最大荷重を低減させることが可 能であることが分かる。 さらに洋上風力発電設備支持物は水深の増加 に伴い,支持構造物の剛性または変形が問題に なることもある。 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 陸上 4.3 重力式 モノパイル式 (a) 構造形式 (b) 1次固有振動数 図 15 構造形式による固有振動数の変化 12) 洋上風力発電設備の構造設計 洋上風力発電設備支持物の構造設計は陸上 のそれと基本的に同じである。図 17 には,発 電時,暴風波浪時,レベル 1 地震荷重時におけ るタワー,フランジ,ボルト,開口部,アンカ ーボルトの照査結果を示す 12)。この図から,無 次元高さ 0.23 での耐力が小さくなっているこ とが分かる。これはボルト強度が他の部分に比 べ,相対的に小さいことによるものである。 1 タワーと基礎に作用する風と波荷重 12) 0.8 無次元化タワー高さ 図 16 図 15 には支持物の構造形式による 1 次固有 振動数の変化を調べた一例を示す。重力式を 採用した場合には風車と支持物全体の振動特 性は陸上に設置した場合とほとんど変わらな いため,陸上用に開発された風車は構造仕様を 変更することがなく,洋上に設置することがで きる。一方,モノパイルを採用した場合にはモ ノパイルの直径が小さいケースでは 1 次固有振 動数が 2 割低下し,陸上用に開発された風車は そのまま使用することができないことが分か る。一般にモノパイル式の支持構造物は水深が 30m 以下に限定され,大型風車を搭載する場合 には,剛性の高いジャケット,トリポッドおよ びトリパイルを採用する必要がある。 陸上に設置される風力発電設備に比べ,洋上 に設置される風力発電設備は暴風と波浪の作 用を同時に受ける。図 16 には暴風・波浪同時 作用時におけるタワー基部と基礎基部の最大 曲げモーメントを示す。また比較するため,暴 風と波浪が単独作用する場合におけるタワー 基部と基礎基部の最大曲げモーメントおよび その単純和も示した。50 年に一度に発生する暴 風と波浪の時系列波形を作成し,時刻歴応答解 析によりタワー基部と基礎基部における暴風 波浪時の最大荷重を求めた。図 16 から分かる 許容耐力 0.6 0.4 暴風波浪時 L1地震 0.2 発電時 0 0 図 17 50,000 100,000 曲げモーメント(kNm) 稀に発生する荷重と許容耐力との関係 (a)PC 重力式 12) (b)ハイブリッド重力式 13) 図 18 新しい形式の支持構造物 一方,図 18 に示すような新しい形式の支持 構造物が採用された場合には,風車タワーと支 9 へ輸送した。風車の影が緩やかな海面に反映し ている状況(図 21)から分かるように,この工 法は海象が緩やかでないと成立しにくい。 持物の接合部および支持物と基礎の接合部の 応力が複雑になり,室内実験および FEM 解析 により構造設計を行うと共に,実証研究を通じ て,支持構造物の接合部に作用する応力および 支持構造物全体の変形を直接計測し,室内実験 および FEM 解析から得られた応力と変形を比 較することにより,これらの予測手法の精度を 検証する必要がある。 5. 洋上風力発電設備の施工方法 洋上風力発電設備の支持物の構造形式によ らず,洋上風力発電所の建設の際に用いる施工 方法はプロジェクトの成否を左右する。欧州で 実施された実証研究では,天候の影響で実証機 が予定通りに設置出来なかったことが起きて いる。わが国の外洋においてもうねりが卓越す るため,設備の運搬・施工の稼働率の向上およ び海上での作業時間の短縮が重要な研究課題 となっている。 洋上風力発電設備支持構造物の設置と風車 組立における運搬・施工は,クレーン船による 支持構造物の吊り運搬と沈設および自己昇降 式作業台船(Self Elevating Platform,以下セッ プと呼ぶ)による風車組立の二つのステップに よって行われ,また作業船によって3つの方法 がある。欧州では,台船を水面上に上昇させて 波浪や潮流による影響を受けにくくする自己 昇降型船を用い,デッキ上にクローラクレーン を搭載し工事を行うことが多い。図19には,自 己昇降型船(ハーフセップ)による洋上風車の 組立状況を示し,また図20には,セップ とク ローラクレーンを組合せた洋上大型風車建設 用専用船を示す。 図 19 図 20 洋上大型風車建設用専用船 15) 図 21 表3 洋上風車の一体施工 16) 洋上風力発電設備の施工方法の比較 12) CASE1 FC4100t案 CASE2 ハーフセップ案 CASE3 中型SEP案 稼働率 △ △ ○ 工期 ○ ○ ○ コスト ○ △ ◎ 確実性 ◎ ○ △ 拡張性 ◎ ○ △ 風車の 組立設 置 表3には各種洋上風力発電設備の運搬・施工 方法の比較を示す。フローティングクレーンを 利用した施工法は,深い海域にも適用できるた め拡張性が高く,また風車を陸上で組み立てる ため確実性も高いが,海象条件の影響を受けや すいため稼働率が懸念される。一方,中型セッ プを用いた施工法は波浪や潮流による影響を 受けにくいため稼働率が高く,コストも安価で あるが,深い海域への拡張は難しい。また従来 使用されたハーフセップ(図19)は自己昇降型 の船であり,中型セップのように曳航船が不要 のため,機動性が高いが,波浪の影響を受ける ため稼働率が中型セップより低い。このように, 従来の洋上風力発電設備の建設に用いた施工 セップ船による洋上風車の組立状況 14) 図 21 にはフローティングクレーンを利用し た洋上風車の一体施工状況を示す。海上での作 業時間を短縮するため,あらかじめ陸上で一体 化した風車をシェアレグで吊り,そのまま現地 10 方法にはそれぞれ長所と短所がある。 これらの問題を解決するため,近年洋上風力 発電システムの統合設計の試みが行われた。例 えば,図 22 に示す Bard Engineering 社の場合 2) には,風車,支持構造物,施工に関する統合 設計を行い,自社開発した 5MW 風車とトリパ イル支持構造物を合わせて,自社製の風車据付 用 船 WINDLIFT- Ⅰ を 用 い て 施 工 す る 。 WINDLIFT-Ⅰの許容吊上げ荷重は 500ton で あるため,風車ナセル,パイル,トランジショ ンピース等の部品の重量は全て 500ton 以下に 抑えている。風車と支持物はそれぞれドイツの Cxhaven と Emeden の港で製造するとともに, 港から出荷されてから水深 40m,離岸距離 87km の洋上にそれぞれ 48 時間で据付するこ とが可能である。 浮体式洋上風力発電が実用化されれば,水深 200m まで設置可能海域となり,利用可能率を 4%とすると 4800 万 kW の設備容量が確保され ることになる。洋上風力発電所の設備利用率と 原子力発電所の稼働率をそれぞれ 30%と 80% と仮定した場合には,4800 万 kW の洋上風力 発電設備は,100 万 kW の原子力発電所 18 基 分に相当する。 図 23 には日本沿岸における洋上風力賦存量 を示す。この図から,海岸から離れるにつれ, 水深 50m 以下の海域が急速に減少しており, より深い水深の海域に建設が可能な浮体式基 礎構造を用いる必要があることが分かる。浮体 式基礎構造に関する研究開発はすでにいくつ かの研究機関で行われ,セミサブ型,スパーブ イ型,TLP 型の浮体構造が提案され,実用化に 向けた研究開発が進められている。図 24 には 浮体式洋上風力発電システムの完成予想図 18) を示す。 500,000 水深 0- 20m 20 -50m 50 -200m 賦存 量(MW) 400,000 300,000 200,000 100,000 0 0-10k m 図 22 BARD 5.0 風車とトリパイル支持物 2) 10-20k m 離岸距離 20-30km 図 23 日本沿岸における洋上風力賦存量 図 24 浮体式洋上風力発電所の完成予想図 今後わが国における大規模洋上風力発電所 を建設する際には,現有の施工船の性能を十分 に念頭に置き,海底地盤,水深,海象条件に対 応できる最適な施工方法を検討すると共に,風 車・支持構造物・施工法に関する統合設計の研 究開発も不可欠である。 6.洋上風力発電の将来展望 NEDO の調査によると,風速 7m/s 以上,離 岸距離 30km,水深 200m までの洋上風力発電 の賦存量は, 約 12 億 kW に達し, 水深 50-200m の範囲の賦存量は水深 50m までの賦存量の 4 倍以上である 17)。着床式洋上風力発電の適応限 界水深と考えられる 50m までの賦存量は約 2 億 1000 万 kW であると試算されている。設置 可能海域内の 5%が利用可能とした場合には約 1000 万 kW の設備容量が確保できる。さらに 洋上風力発電の可能性について世界中の多 くの国が注目している。日本と同じ海洋国家で あるイギリスでは 2010 年に世界最大の設備容 量を誇る Thanet 洋上風力発電所が稼動し,洋 上風力発電の設備容量も 134 万 kW に達した。 11 2007 年にイギリス政府は 2020 年までに 3300 万 kW の洋上風力を開発するという野心的な目 標を発表した。事業規模は約 13 兆円に上る。 この計画では 2020 年までに 7000 基以上の洋 上風車を設置し,英国の全消費電力の 3 分の 1 を賄う。イギリスの洋上風力開発は,「ラウン ド 1」 ,「ラウンド 2」, 「ラウンド 3」の 3 段階 に分けて進められている。ラウンド 1 では開発 海域は海岸線に比較的近くかつ水深の浅い場 所が選ばれているが,ラウンド 3 は海岸線から 離れ,より水深の深い場所へ移動している。ラ ウンド 3 の最も遠い区域は海岸線から 195km, 最も深い区域は平均水深 50m となっている。 これまでの洋上風力発電プロジェクトに比べ, ラウンド 3 は大きなチャレンジと言える。 英国では,洋上風力発電設備を設置する大陸 棚の所有権は王室にあるため,その利用に当た って,英国国王の不動産・海域の資産管理を行 う政府系特殊法人のクラウン・エステート(The Crown Estate)社 19)の許可が必要である。つ まり,北海の海底油田の鉱区と同じように,風 力発電事業者が区域のリース料を支払って,洋 上風力発電事業を行うこととなる。最初の入札 が約 10 年前の 2001 年 4 月に行われ,18 区域 の開発を決定し,現在 North Hoyle をはじめ 10 区域が完成している。その後,2003 年にラ ウンド 2 の入札が行われ,15 区域の開発が決定 された。ラウンド 2 の計画は合計 710 万 kW の 設備容量を誇り,既に 14 の区域において発電 と送電が始まっている。そして 2010 年1月に ラウンド 3 の開発事業者が入札で決まった。9 区域の合計設備容量は 3200 万 kW に達してい る。ラウンド 1 から 3 までの開発が計画通りに すべて実行された場合には,イギリスにおける 洋上発電の設備容量は 4060 万 kW に達する。 さらにスコットランド政府が計画する 640 万 kW を合わせると合計 4700 万 kW となる。今 イギリスは世界中の風力発電企業の研究施設 や製造拠点を集積し,風力発電事業を国の一大 産業として発展させると共に,世界の洋上風力 発電市場を牽引する国となっている。 一方,アメリカでは 2011 年 2 月 7 日に内務 省とエネルギー省が共同で「洋上風力促進計 画」 (Offshore Wind Initiatives)と「国家洋上 風力戦略」 (National Offshore Wind Strategy) を発表した 20)。この計画はアメリカ史上初の洋 上風力に関する省庁横断的な計画であり,アメ リカにおける雇用創出,クリーンエネルギー未 来の構築および 21 世紀技術分野での圧倒的な 12 競争力の確立を目的としている。エネルギー省 DOE(Department of Energy は国家洋上風力 戦略に基づき,2030 年までに 5400 万 kW の洋 上風力発電を導入し,1520 万世帯に電力を供 給 す る 。 ま た 内 務 省 DOI ( Department of Interior)は中部大西洋の沖合にある 4 つの「風 力エネルギー開発海域」 (Wind Energy Areas) を指定すると共に,指定された海域で共同の環 境調査の実施,大規模開発計画の立案および承 認手続きの迅速化により,アメリカにおける洋 上風力産業の育成と洋上風力発電の開発を促 進する。開発海域は,大西洋,太平洋およびメ キシコ湾岸など,連邦や州が所有権を持つ沖合 海域の開発も含まれる。図 25 には中部大西洋 沖合に指定された 4 つの「風力エネルギー開発 海域」を示す。海域面積の合計は 3124km2,東 京都の面積の 1.4 倍に達する。 内務省海洋エネルギー管理・規制・執行局 (Bureau of Ocean Energy Management, Regulation and Enforcement)は,2011 年末か 2012 年初めに中部大西洋のこれらの海域をリ ースする予定である。また開発海域毎の包括的 な環境影響評価を実施するために,風力発電事 業者と連携し,積極的かつ確実に環境影響評価 を実施する予定である。今回の計画は,オバマ 政権における海洋再生可能エネルギー開発促 進政策の一環であり,州・地方当局・連邦政府 との協力関係の向上,新しい風力発電技術と試 験設備の開発,洋上風力開発のための優先海域 の決定と早期の環境影響評価の実施を目指し ている。 図 25 中部大西洋沖合の風力開発海域 20) 7.今後期待される政策 洋上風力発電を普及させていくために,洋上 風力発電の研究開発と政府の支援策は不可欠 である。 新エネルギー・産業技術総合開発機構は 2006 年から洋上風力発電等技術研究開発を開始し, 2009 年からわが国の外洋における初めての洋 上風況観測システムおよび洋上風力発電シス テム実証研究を開始した。図 26 に洋上風力発 電実証研究設備完成予想図を示す 12)。また 2011 年度からは,洋上ウィンドファームフィージビ リティスタディーも開始し,今後の大量導入が 期待される国内洋上ウインドファームにおけ る事業性及び実現可能性を評価すると共に,洋 上ウインドファームの開発における様々な課 題を検討する。さらにわが国の周辺海域におい ては急峻な海底地形が多くあり,着床式風力発 電のみならず浮体式風力発電の導入を早期に 実現する必要がある。2011 年度には現在検討さ れている様々な浮体式洋上風力発電について, 体系的に整理し,それらの特徴や技術的な課題 等を取りまとめると共に,実証研究の実施項目 と実現可能性を評価する。洋上風力発電技術研 究開発は,洋上風力発電のコスト削減及び開発 時間の短縮に貢献する。 風力発電を普及させるために最も有効な政 策は固定価格買取制度であり,ここ数年で多く の国で導入されている。2010 年までに少なく とも 50 ヵ国に導入されているが,その半分以 上が 2005 年以後に実施されたものである 21)。 固定価格買取制度の成功例としてドイツ,スペ イン,中国等が挙げられる。中国に固定価格買 取制度が導入されたのは 2005 年であり,その 僅か 5 年後の 2010 年に中国は世界一の風力大 国となった。2005 年以前は中国の風力発電設 備容量は日本と殆ど同じであったが,2010 年 には中国の風力発電設備容量は 4229 万 kW と なり,日本の 18.4 倍となった。 もう1つ重要な政策は政府目標の制定であ る。政府目標を制定した国は,2005 年の 45 ヵ 国から 2009 年までに 85 ヵ国以上へと増加した 21)。例えば,スペインでは風力発電の設備容量 は 2000 年の 223 万 kW から 2010 年の 2068kW まで約 10 倍拡大し, さらに 2020 年までに 4500 万 kW の風力発電を導入する目標を掲げている 22)。 2 スペインの面積は 51 万㎞(日本比 135%), 人口は 4412 万人(日本比 35%)である。また 13 供給電力(260TWh)は日本の約 1/3 であるが, 風力発電の設備容量(2068 万 kW) は, 日本 (230 万 kW)の約 9 倍である。スペインは,デンマ ークやドイツと異なり,電力系統の国際連系が 弱い上,風力発電適地と電力消費地域が一致し ていないという問題も抱えている。スペインの 成功例は日本としては大変参考になる。 洋上風力発電の場合には,開発海域の指定な しでは,大規模の開発が不可能であり,イギリ ス,ドイツなどのヨーロッパの国だけではなく, アメリカも同様な政策を掲げている。日本にお ける排他的経済水域はイギリスよりも広いが, 洋上風力発電所の規模および 2010 年までの導 入実績はイギリスの 50 分の1である(表 4) 。 近年のイギリスにおける洋上風力発電の躍進 は,2020 年までの高い政府目標と開発海域の 指定といった国の政策によって支えられてい ると言える。 風車 風況観測タワー 波浪観測装置 図 26 洋上風力発電実証研究設備完成予想図 表4 イギリスと日本の洋上風力発電の比較 項目 排他的経済水域 開発海域における国の指定 2020 年までの導入目標 2010 年までの導入実績 洋上ウインドファームの規模 イギリス 日本 397 万 km2 あり 3300 万 kW 134 万 kW 68 万 kW 447万 km2 なし なし 2.5 万 kW 1.4 万 kW 8.まとめ 本稿では,欧州および日本における洋上風力 発電の現状を紹介し,現在洋上風力発電所によ く用いられている支持物の構造形式およびそ の特徴と適用範囲を明らかにした。また,洋上 風力発電所における自然環境条件と荷重の評 価,構造設計,運搬・施工の実例を紹介し,洋 上風力発電における技術課題および研究開発 の方向性を述べた。 2009 年から NEDO 新エネルギー・産業技術 総合開発機構は,洋上風況観測システムおよび 先行調査報告書,イー・アンド・イー ソリュー ションズ,風力エネルギー研究所,ネクストエ ナジー,2007. 洋上風力発電実証研究を開始した。わが国の外 洋における気象・海象などの自然環境条件を解 明し,暴風・波浪・地震等の外力を受ける時の 洋上風力発電システムの挙動を明らかにする とともに,わが国の自然環境条件に適した洋上 風力発電システムおよびその施工方法を確立 する予定である。本実証研究を通じて,本稿で 述べた洋上風力発電における技術課題が解決 されることを期待する。 洋上風力発電は自動車産業型の産業構造を 持ち,重工,機械,電気,建設,造船,材料等 複数の産業に関連し,世界的に見ても経済・雇 用効果の極めて大きい産業である。固定価格買 取制度に関する法律の早期成立,2020 年まで の洋上風力発電の政府目標の策定および洋上 風力開発のための海域指定等により,わが国の 洋上風力発電の普及促進をはかることが強く 望まれる。 12) NEDO 新エネルギー・産業技術総合開発機構: 平成 20 年度洋上風力発電実証研究 F/S 調査(銚 子),東京電力,東京大学,鹿島建設, 2008. 13) NEDO 新エネルギー・産業技術総合開発機構: 平成 20 年度洋上風力発電実証研究 F/S 調査(北 九州),電源開発,2008. 14) van Kuik, G., Ummels, B. and Hendriks, R.: Advances in New and Sustainable Energy Conversion and Storage Technologies, Perspectives of Wind Energy, Invited Paper at the IUC Conf., Dubrovnik, 19p, 2006. 15) Herman, S.A.: Offshore Wind Farms, Analysis of Transport and Installation Costs, ECN-I-02-002, 122p, 2002. 16) Beatrice:http://www.repower.de/ 17) 新エネルギー・産業技術総合開発機構:平成 20 年度洋上風力発電実証研究 F/S 評価, イー・ア ンド・イー ソリューションズ,2008. 参考文献 1) 欧州洋上風力発電最新事情調査団:欧州洋上風 力発電最新事情調査報告,風力エネルギー, Vol.31,No.4,pp.63-76,2007. 2) 2009 年欧州洋上風力発電最新事情調査団: 2009 年欧州洋上風力発電最新事情調査報告, 風力エネルギー,Vol.33,No.4,pp.38-45,2009. 3) EWEA:Oceans of Opportunity, 4) 18) 石原孟,Muhammad Bilal Waris,助川博之: ヒーブプレートと非静水圧の効果を考慮した 浮体動揺予測モデルの開発,第 31 回風力エネ ルギー利用シンポジウム,pp.209-212,2009. 19) The Crown Estate : http://www.thecrownestate.co.uk/ 20) Salazar : Chu Announce Major Offshore Wind Initiatives, http://www.energy.gov/news/10053.htm, http://www.ewea.org/, 2009. Ebert Steffen : Wind energy – a German success story, German Wind Energy Association, at the “German Renewable Energy Day”, Chiba, 2006. 5) NEDO 新エネルギー・産業技術総合開発機構: 平成 19 年度洋上風力発電導入のための技術的 課題に関する調査報告書, イー・アンド・イー ソリューションズ,風力エネルギー研究所,日 本電機工業会,2007. 6) Middelgrunden: 21) 環境エネルギー政策研究所(ISEP)翻訳:自然 エネルギー世界白書 2010 , 2010. 22) GWEC:Global Wind Report 2010, http://www.gwec.net/ http://www.middelgrunden.dk/ 7) Horns Rev :http://www.hornsrev.dk/ 8) EWEA:Prioritizing Wind Energy Research, Strategic Research Agenda of the Wind Energy Sector, http://www.ewea.org/, 2005. 9) 瀬棚風力発電所: http://www.penta-ocean.co.jp/ 10) 神栖風力発電所: http://www.komatsuzaki.co.jp/ 11) NEDO 新エネルギー・産業技術総合開発機構: 平成 19 年度洋上風力発電実証研究 F/S に係る 14
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