アラブ首長国連邦における高等教育資格枠組みの制度的特質に関する

高等教育質保証学会第三回大会 京都大学百周年時計台記念館 2013年8月24日(土)25日(日)
アラブ首長国連邦における高等教育資格枠組みの
制度的特質に関する研究
中島 悠介(京大院・教育学研究科博士後期課程/日本学術振興会特別研究員)
アラブ首長国連邦(UAE)とは?
UAEの高等教育制度の概要
国名:アラブ首長国連邦(United Arab Emirates: UAE) 1973年建国
(地図 http://atlas.7jigen.net/jp/uae)
政体:7首長国による連邦体制
アブダビ、ドバイ、シャルジャ、ラス=アル-ハイマ、ウンム=アル-カイワン、
アジュマン、フジャイラ
人口:780万人 宗教:イスラム教
言語:アラビア語が公用語であるが、英語も広く使用されている
人口構成(国籍):インド19% 、パキスタン11%、 フィリピン7%・・・ UAE11%
国民一人当たりGDP:58,272米ドル
管轄省庁: 高等教育科学研究省(MoHESR、1992年設置)
第三者質保証機関:アカデミック・アクレディテーション委員会
(Commission for Academic Accreditation: CAA) 1999年設置
質保証の適用: すべての高等教育機関がCAAによる設置認可とプロ
グラムの適格認定を通過する必要がある。(ただし連邦立大
学は含まれない)
教育機関数: 連邦立大学:3機関、私立・首長国立大学:80機関
学生数: 39,566人(連邦立大学)、73,515人(私立・首長国立大学)
資格枠組みのデザイン
UAEの人材育成への課題
○外国人労働者への依存度の高さ:400万人以上の労働人口を抱
える中で、自国民労働力は25万人程度、民間部門で働く自国民
労働者はそのうち14,861人で、ほとんどの国民が公共部門。また、
外国人労働力に比較して国民の能力的・意欲的課題。
○脱石油時代への人的資源開発:UAEには莫大な石油資源が埋蔵
されているが、それらを活用する人的資源が乏しい。
○国民若年層の拡大と就業・失業問題:35,000人の失業中の自国
民労働者が存在し、さらに80%は24歳以下の若年層。
◎OECD(2010):英国、ニュージーランド、南アフリカ共和国は「厳格
な」な枠組み、オーストラリア、スコットランドは「緩い」枠組み。
◎Coles(2006):連邦制国家は「地域的な賛同が必要不可欠であり、
交渉や同意形成を通した法令を基盤とした発展が必要不可欠」
「資格の設計に運用、評価に対して強い役割を果たす社会的パー
トナーが存在している連邦は、中央集権を強制するより自発的な
協定に誘導される」
UAE資格枠組み(QFEmirates)のデザイン
QFEmiratesの概要
○QFEmiratesを統括するのは国家資格委員会(NQA)であり、高等教育分
野への適用を担うのがCAA
○課題は4点:「柔軟で世界基準の労働力への需要」「継続的な成長率を保
証するために、グローバルな経済統合、技術革新の認識」「自国民の開発
を通し、熟練した、教養のあり、資格を持つ労働力の涵養(エミライティ
ゼーション)」「一般的な教育システムに対して、第二の学習過程とみなさ
れる職業訓練教育の認識」
○レベルに対応した学習成果の設定。学習成果は「知識」「技能」「自発性
及び責任」「環境における役割」「自己啓発」の5つの要素から構成
○資格枠組みはサウジアラビア、バーレーン等他の湾岸諸国でも開発済み
もしくは開発中であり、「アラブ資格枠組みネットワーク」の構築へ
『学士(レベル7)』における成果
レベル
一般用語
QFEmiratesにおいて使用される資格
職業訓練教育
高等教育
10
博士学位
9
修士学位
Applied Master
修士
8
7
6
Graduate
Diploma
学士学位
ディプロマ
Applied Graduate
Diploma
Applied Bachelor
Advanced
Diploma
Postgraduate
Diploma
学士
Higher Diploma
5
準学士
Diploma
準学士
一般教育
博士
4
中等学校終了
3
TBA
2
1
CAAの『スタンダード(2011年版)』における記述
3.プログラム「序言」
「教育機関によって提供される教育プログラムおよびコースはそのミッションに適切
なものである。…(中略)…そして、学生が意図された成果を満たしていることを証明
しなければならない。プログラムで得られる成果は獲得される資格に適切なもので
あり、QFEmiratesに一貫したものでなければならない」
3.1.3
「それぞれの学術プログラムは明瞭な目的と成果を示されなければならない。成果
は目的に由来するものであり、計測可能な項目によって定義されるものである。…
(中略)…目的や成果は、QFEmiratesにおいて定義されるように、提供される資格の
レベルに一貫したものである」
「機関は定期的に、IRのプログラムに従ってすべての学術プログラムを評価する。
学生が特定の学習成果を満たしていることを示すような分析結果を用いなければな
らない。機関は、プログラムの改善や機関の計画のためにそのようなエビデンスが
用いられていることを証明しなければならない」
考 察
QFEmitatesにおいては、UAE国民の能力的課題(勤労意欲、協調性、主体性などの欠如)について、プログラムにおいて達成さ
れる学習成果として設定することで人材開発へ着手しようとしている。また、Coles(2006)は連邦制国家における資格枠組みの
適用について、中央集権的ではなく自発的な協定により誘導されることを論じているが、UAEでは中央集権的で、明確なエビデ
ンスをCAAに提示することを通して厳格な資格枠組みを適用し、国家として高等教育の質を統合しようとする動きが見て取れる。
参考文献
Coles, M. A Review of International and National Developments in the Use of Qualifications Frameworks. Turin: European Training Foundation, 2006.
OECD, Learning for Jobs, OECD Publishing, 2010.
Qualification Framework Emirates Handbook, National Qualification Authority, 2012.
Standards for Licensure and Accreditation 2011, Commission for Academic Accreditation, 2011.
Tuck, R. An Introductory Guide to National Qualifications Frameworks: Conceptual and Practical Issues for Policy Makers. Geneva: International Labor Office, 2007.
掘抜功二『アラブ首長国連邦における国家運営と社会変容 : 「国民マイノリティ国家」の形成と発展』京都大学大学院アジアアフリカ地域研究科2011年度博士論文、2011年。
など