韓国における国際裁判管轄

韓国における国際裁判管轄
― 2001年改定の国際私法の下で―
盧 泰嶽*
管轄の一般原則で条理を規定して民事訴訟法
Ⅰ.概観
の土地管轄に関する規定により裁判管轄を決
められると判示し,大法院 1995年 11月 21日
1962 年に制定された渉外私法が全面改定
宣告 93ダ 39607の判決は,いわゆる間接管轄
されて,2001 年4月7日法律第 6465号とし
に関するケースで直接管轄と同じ原則が適用
て国会で通過されて,改定された「国際私法」
されることを前提にし,原則的に条理説に立
が 2001 年7月1日から施行されている。改
脚して逆推知説と調和を図りながら,アメリ
定国際私法は,以前の渉外的法律関係の準拠
カでの最小限の関連性の具体的な内容に提示
法のみを規律する立場から脱し国際裁判管轄
されている予見可能性及びこれに関する事情
も一緒に規律する国際取引の基本法を志向し
の存在を前進的に収容していると分析され,
ていると評価される。その間裁判の実務上,
特別な事情により民事訴訟法の土地管轄に関
国際私法の改定後にも旧渉外私法が適用され
する規定の適用を修正できる可能性を最初に
る事例が多かったが,徐々に下級審判決を中
提示した。そして,大法院 2000 年6月9日
心に改定国際私法を適用する事例が増えてい
宣告 98ダ 35307の判決には,民事訴訟法の土
るし,他方旧渉外私法が適用される場合にも
地管轄規定による裁判籍によって国際裁判管
改定国際私法の主旨が多く反映されている。
轄権を決めるが,条理に反する特別な事情が
ある場合を例外として,この場合特別な事情
Ⅱ.国際私法改定以前の学説と判例
に関する判断において,証拠収集の容易性や
訴訟遂行の負担の程度など具体的な諸般の事
1.学説
情を考慮して,その応訴を強制するような,
従来の学説は,逆推知説(国内土地管轄類
前で見た民事訴訟の理念に照らして非常に不
推適用説),管轄配分説(条理説)及び修正
当な結果に至るような特別な事情がない限り,
逆推知説(特別な事情論)などの見解がある
原則的にはその紛争が外国法人の韓国支店の
が,日本の場合と特に差がないため,ここで
営業に関連していなくても,我が裁判所の管
その詳論を略する。
轄権を認めるのが条理に適うと判示した 1。
2.大法院判例
Ⅲ.改定国際私法の国際裁判管轄規定
大法院 1992年7月 28日宣告 91ダ 41897判
1.国際私法の国際裁判管轄規定
決は,国際裁判管轄に関する一般原則を最初
に明らかにした大法院判例として,国際裁判
国際私法第1条に「この法は,渉外的要素
がある法律関係に関する国際裁判管轄に関す
*
韓国ソウル中央地方法院部長判事
る原則と準拠法を定めることを目的とする。
」
224 ―
― と規定し,第2条に,国際裁判管轄に関する
いことのみを明示している。したがって,法
原則規定を置き,今までに直接的な成文法規
廷地と紛争の間に実質的関連があるか否かを
なしに判例だけにより規律されてきた国際裁
判断するにあたっては,ただ渉外的要素があ
2
る連結点(原告の国籍など)があるだけで実
判管轄に関する一般基準を設定した 。
そして,これとは別に各則である債権の章
質的関連性を認めてはならず,国際裁判管轄
(第5章)に社会・経済的弱者である消費者
の配分の理念に合致する合理的な原則を基礎
と労働者を保護するために,国際裁判管轄に
にして具体的に判断しなければならない。
¹
関する個別条項を設けている(第 27条,第
国内法の管轄規定と国際裁判管轄の特
殊性(第2条第2項)
28条)。
改定国際私法第2条第2項には,「裁判所
2.国際裁判管轄の決定に関する原則
は,国内法の管轄規定を参酌して国際裁判管
¸ 実質的関連(第2条第1項)
轄権の有無を判断するが,第1項の規定の主
第2条第1項の第1文には「裁判所は,当
旨に照らして国際裁判管轄の特殊性を充分に
事者または紛争になった事案が韓国と実質的
考慮しなければならない。
」と規定している。
これは,第2条第1項の提示する基準が抽
関連がある場合,国際裁判管轄権を持つ。」
と規定している。これは,紛争と法廷地との
象的であることを考慮して裁判所と当事者ら
間 に 実 質 的 関 連 ( substantial connection)
が具体的に認識できる,より具体的な国際裁
がない場合には法廷地に国際裁判管轄が認め
判管轄の基準を提示し法的安全性を保障する
られないという各国の判例と学説及び国際法
ための規定である。したがって,被告の住所,
上の定立された原則を考慮して設けた規定で
法人や団体の主たる事務所または営業所,不
ある。ここでの「実質的関連」とは,法廷地
法行為地その他,民事訴訟法の規定する裁判
国である韓国が国際裁判管轄権を行使するこ
籍の中のいずれかが我が国の国内にある場合
とを正当化できるほど当事者または紛争対象
には被告に対して一応我が国の国際裁判管轄
が我が国と関連性を持つこと,すなわち連結
を認めることができる。但し,この時にも国
点が存在することを意味し,その具体的認定
際裁判管轄の特殊性を考慮して判断しなけれ
は,裁判所が個別事件で総合的に事情を考慮
ばならない。
º 改定国際私法の管轄規定の評価
し判断しなければならない。
結局,国際裁判管轄に関する国際私法上の
実質的関連の具体例としては,被告の住所,
契約により実際に債務を履行した履行地,不
規定も原則的で抽象的な規定に過ぎず,今ま
法行為地,営業所の業務と係わる訴訟の場合,
での判例によって発展してきた国際裁判管轄
当該営業所の所在地などのような一般管轄ま
の法理,特に土地管轄規定を基礎に国際裁判
たは特別管轄の根拠になる連結点が挙げられ
管轄を定立しようとする努力は,改定国際私
る。
法の施行後にも相当な部分維持されているが,
第2条第1項の第2文には,「この場合,
改定国際私法の規定は「国際裁判管轄規則 =
裁判所は実質的関連の有無を判断するにあ
土地管轄規定」という前提を置かず,一次的
たって国際裁判管轄の配分の理念に合致する
に国内法の管轄規定を参酌し国際裁判管轄の
合理的な原則に従うべきである。」と規定し
特殊性を充分に考慮して妥当な国際裁判管轄
ている。
規則を定立しようという主旨を念頭に置くべ
このように,国際私法は,国際裁判管轄の
きであると理解される 3。
配分の理念を具体的に列挙する代わりに,国
ただ,実質的関連という抽象的な基準のみ
際裁判管轄の配分の理念に合致すべきである
を提示したまま,その有無を個別事件で裁判
ことと,その原則が合理的でなければならな
所が国際裁判管轄の配分の理念によって判断
225 ―
― すると,当事者に予測可能性や法的安全性を
4.判例の紹介
保障できないという短所が指摘されるが,こ
¸ 実質的関連の有無
のような問題は,国際裁判管轄に関する様々
_ 実質的関連があると判断した事例
な争点についてまだ国際的な合意が形成され
①
大 法 院 2005 年 1 月 27 日 宣 告 2002 ダ
5
59788の判決(hpweb.com の事件)
ていない現状では,とても重要である。
Ë 事案の概要
½
3.社会経済的弱者のための国際裁判管轄
の特則
本件は,韓国国内に住所を置き営業を営む
原告がアメリカのドメイン名登録機関に登
国際私法第 27 条には消費者保護のため,
録・保有しているドメイン名に対するアメリ
第 28 条には労働者保護のために,国際裁判
カの国家仲裁委員会( National Arbitration
管轄に関する特別規定(保護管轄, protection jurisdiction)を設けている。国際私法
第 27 条には,第1項の規定による契約の場
合,消費者の提起する訴訟には,ローマ法以
来の大陸法系民事訴訟法の基本原則である
「 actor sequitur forum rei(原告は被告の法
廷地に従う)」という原則に正面から背馳す
る原則を定立し,「消費者はその常居所地で
も相手に対し訴訟を提起」することができ
(第4項),消費者の相手方が消費者を相手と
して申立てる訴訟は,「消費者の常居所のあ
る国でのみ提起」することができるように
(第5項)規定する一方,当事者間の裁判管
轄合意は,原則的に事後的合意のみを許容し
ており,例外的に事前的合意の場合,消費者
に有利な追加的合意のみを許容している(第
6項)。国際私法第 28 条には,労働契約につ
いて同じ趣旨の規定を設けている。
これは,ブリュッセル規定を参考し,社会
経済的弱者である消費者及び労働者を保護す
る必要性があるにもかかわらず,判例が民事
訴訟法の土地管轄規定から国際裁判管轄規定
を導出することが期待し難いか可能としても
その時期を見計らうことができない点を考慮
し,国際私法に明示したものであるといえる。
最近,上記の規定を挙げて,労働契約の当
事者間に,紛争が発生する前に韓国裁判所の
国際裁判管轄権を排除することを内容とする
合意をしたとしても,その合意は,国際私法
第 28 条第5項に違反したので何らの效力も
ないという大法院の判示が出た 4。
Forum, NAF)の,本件ドメイン名を被告に
移転するとの判断に不服を申立てた事件であ
る。
Ì 判決の要旨
½
国際裁判管轄を決めるにあたっては,当事
者間の公平,裁判の適正,迅速及び経済に適
うという基本理念に従うだけでなく,具体的
には個人的利益のみならず裁判所のほか国家
的利益も考慮すべきであって,このような多
様な利益の中でどんな利益を保護する必要が
あるかは個別事件で法廷地と当事者との実質
的関連性 6 及び法廷地と紛争になった事案と
の実質的関連性 7 を客観的な基準に基づき合
理的に判断しなければならない。
Í 評価と分析
½
旧法が適用された事案であるが,新法の主
旨を参酌して国際裁判管轄の配分の理念と国
際裁判管轄の決定時に考慮する利益などにつ
いて一歩進んだ判断をし,国内法の管轄規定
がない状態で「実質的関連」を根拠に我が国
の国際裁判管轄を肯定した最初の大法院判決
として意味があると評価され 8 9,その他に対
象の判決が「裁判管轄はいくつでも重畳的に
認められるもので,上のような紛争の実質的
内容,その他記録上認められる諸般の事情に
照らして,韓国がこの事件の紛争について国
際裁判管轄権を行使するには明らかに不適切
な法廷地国であるとは認められない。」とい
う判示に注目して不適切な法廷地( forum
non conveniens)理論の導入の可能性を開
いておいたとの見解もある 10。
② 大 法 院 2006 年 5 月 26 日 宣 告 2005 ム
226 ―
― 2から映画上映などにより発生した総収入か
884 の判決
アメリカのミズーリ州に法律上の住所を置
ら費用を差引した後,8∼ 13%の配給手数
いているアメリカ国籍の男(原告)が,韓国
料が支払われてきた事実,⑤現在,大半の商
国籍の女性(被告)と韓国で結婚し,アメリ
業映画がその製作段階からも莫大な費用が必
カ国籍を取得した被告と居住期限を決めずに
要となるため,映画製作会社は,全世界の映
韓国に居住していた後,被告を相手に離婚,
画市場を目標とし,安定的な収入確保のため
親権者及び養育者の指定を請求した事案で,
に各国の映画配給会社と一定の提携関係を結
原被告いずれも韓国に常居所を持っており,
ばざるを得ず,被告1は,スチーブン・スピ
婚姻が韓国で成立し,その婚姻生活の大半が
ルバーグなどにより共同で設立され,世界的
韓国で営んだことを考慮すれば,その請求は
に上映される有名な映画を製作,配給し全世
韓国と実質的関連があると認められるため,
界にわたる営業活動を通じて利益を得ている
国際私法第2条第1項の規定により韓国の裁
点等を総合して鑑みれば,被告1は,韓国の
判所が裁判管轄権を持つと言うべきであり,
裁判所に提訴され得ると合理的に予見するこ
原 被 告 が 選 択 に よ る 住 所 ( domicile of
とができると言えるため,被告1は,韓国と
choice)を韓国に形成し,被告が訴状副本の
適法の送逹を受け積極的に応訴したことまで
考慮すれば,国際私法第2条第2項に規定さ
れた国際裁判管轄の特殊性を考慮しても韓国
の裁判所の裁判管轄権の行使に何らの影響が
ない。
③ ソウル中央地法 2005年6月 22日宣告
2003 カ合 87723 著作権の侵害差止など
(確定)(管轄認定事例)
Ë 原告は,韓国に居住する映画のシナリ
½
オ作家で,被告1は,アメリカ法人で,被告
2は,韓国法人である。
Ì 争点1:被告1に対する国際裁判管轄
½
権の認定根拠
① CJ 株 式 会 社 は , 被 告 2 の 株 式 を
37.04%保有しており,1995 年スチーブン・
スピルバーグなどと共同で被告1を設立し,
2001年 12月 10日現在,被告1の持分を 13 %
保有している事実,②被告1は,1995 年頃,
被告2に日本を除いたアジア市場の映画配給
権を独占的に付与して,被告2は,その後,
被告1から年間4,5本の映画提供を受け国
内で上映した事実,③韓国の映画市場は,世
界 10 位ぐらいで,アメリカに比べてはその
1 / 16.93に,日本に比べてはその 1 / 1.85 に
過ぎないが,カナダよりは大きい市場である
事実,④被告1は,映画の広告費,広報費,
配給関連の諸般費用を直接に負担して,被告
実質的関連がある。
Í 争点2:外国での著作権侵害に対する
½
差止請求に関する国際裁判管轄権の認定
① 原告の被告1に対する本件請求及び被
告1が韓国と実質的関連があり,被告1が韓
国の裁判所に提訴され得ることを合理的に予
見することができた点,②韓国は被害者であ
る原告の常居所地国である点,③韓国の映画
市場の規模が,たとえアメリカより小さいと
しても,日本やカナダに比べて小さいとは言
えず,韓国で発生した損害額が全体損害に比
べて些細なものとは言えない点,④韓国が
WTO の付属協定の適用を受けるため,被告
1が韓国に応訴することは特別に不当か不利
とは言えない点,⑤本件訴えにある国内での
著作権侵害に対する請求部分と外国での著作
権侵害に関する請求部分は,基礎となった事
実関係及び争点が同一であり,韓国でこの二
つの請求の全てを裁判することが望ましい点
等を根拠に国際裁判管轄を認定した 11。
` 実質的関連がないと判断した事例
④ 仁川地法 2003年7月 24日宣告 2003か
合 1768(確定)(管轄否認事例)
Ë 原告は,韓国法によって設立された法
½
人であり,被告は,韓国会社グループの自動
車及びその部品の輸出入業などを目的とする
日本国の現地法人で日本国の自動車部品供給
業社らとの間に自動車部品などの継続的供給
227 ―
― 契約を締結し,納品を受けこれを原告に供給
認められなければならないが,被告の訴外会
してきたところ,韓国会社グループ全体の経
社に対する債権とこの事件の譲受金の請求部
営破綻により 2002 年7月4日,日本国東京
分の間には,このような合理的な関連性を認
地方裁判所の民事更生手続開始の決定を受け
めるに値する証拠がないと判断した。
⑤
た。ところで,原告は,被告の不渡しによる
ソウル中央地法 2006年7月 20日宣告
2006 カ合 3023 解雇無效確認(控訴中)
日本からの自動車部品供給の中断で通常の車
(管轄否認事例)
の生産が中断される危機に陥り,自動車部品
Ë
½
の継続的な安定供給を確保するために,日本
アメリカ人である原告は,2000年6
国の自動車部品供給業社らの更生債権を譲り
月 19日アメリカ国内でアメリカ法人である
受けた後,次の譲渡の手続きを経った。他方,
被告2,被告2の間接子会社である被告1と
被告は,韓国法人で韓国の仁川に所在する訴
の間に雇用及び派遣契約を締結した。被告 2
外会社に対して債権を持っている。
は,2005 年9月2日,原告に被告2が被告
Ì 原告が上の債権譲渡契約に基づき被告
½
1の株式を売却することによって韓国国内に
に譲受金の支払いを求めたところ,裁判所は,
資産がなくなったため,原告の経験などに当
¸この事件の部品代金債権は,日本国の自動
たる職責を提供できなくなったとして,2005
車部品供給業社と被告の間に日本で締結され
年9月15日に解雇するという通知をした。
た契約により発生したものであり,たとえ上
Ì 原告が,被告1に勤める労働者を採用
½
の債権譲渡により債権譲受人である原告の住
し派遣した被告2を相手に,主位的に解雇の
所地である仁川が新しい義務履行地になった
無効確認と同時に解雇日翌日からの賃金,予
としても,原告がその債権を譲り受ける時,
備的に退職金の支払いを求めた。
既に債権譲渡人である上の自動車部品供給業
Í 裁判所は,韓国の管轄を否定する根拠
½
社などが民事更生手続に再生債権者として参
として,アメリカ人である原告がアメリカ法
加し,その手続きにおいて更生計画による弁
人である被告2との間にアメリカ国内での雇
済を予定しており,したがって,譲り受ける
用及び派遣契約を締結した事実,被告2が派
としても更生計画によって債権額が一部弁済
遣期間中雇用及び派遣契約に基づき原告に給
されるに止まり個別的な権利行使が禁止され
与を支払った事実,雇用及び派遣契約にアメ
るという事実を充分に認識し,自動車部品の
リカのテキサス州法を準拠法とした事実,ア
継続的な安定供給の確保という営業目的のた
メリカのテキサス州南部裁判所は 2006年4
めに仕方なく譲り受けただけでなく,原告自
月 10日欠席裁判で被告2の原告に対する雇
身も先受金返還債権者として上の民事更生手
用終了が雇用及び派遣契約に違反しなかった
続きに参加した点,¹他方,更生債務者であ
という内容などを確認する判決を宣告した事
る被告は,原告が上の部品供給業社から既に
実が認められる。このように,当事者がアメ
申込まれた更生債権を譲り受けて,民事更生
リカ人またはアメリカ法人で,紛争の判断基
手続きの効力が及ばない韓国の裁判所に,被
礎になる雇用及び派遣契約がアメリカ国内で
告を相手に提訴できると合理的に予測できな
締結されただけでなく,アメリカのテキサス
い点,º韓国に支店または営業所を設置して
州法を準拠法としている点,被告2は上の雇
おらず,現在通常の営業活動が中断しており,
用及び派遣契約に基づき原告に給与を支払っ
清算型の民事更生手続きが進行中である点,
た点,民事訴訟法上の管轄規定による裁判管
»民事訴訟法第 11 条所定の財産所在地の裁
轄権が我が国の裁判所にない点,欠席裁判で
判籍を根拠に国際裁判管轄権を認めるために
はあるがアメリカの裁判所で原告の雇用終了
は,一般的に所在する財産と訴訟の間に裁判
に関する確認判決が宣告された点などに照ら
管轄を認めるための充分な合理的な関連性が
して,たとえ原告が被告1に派遣され我が国
228 ―
― で勤めたとしても,被告2が我が国の裁判所
手形を引き受けるまたは支払う義務を負うだ
に提訴されることを合理的に予見することが
けで,手形小切手金の支払請求は,支払地が
できるほど被告2と我が国との間に実質的関
義務履行地と言えるため,本件信用状に基づ
連があるとは言い難い。したがって,原告の
き受益者が支払人を被告にして発行した為替
被告2に対する訴えは,我が国の裁判所に国
手形の支払地も被告の住所地である日本国で
際裁判管轄権を認めることができない。我が
あり,本件信用状に被告は信用状の条件に一
国の国際私法第 28条第3項に基づき国際裁
致する書類が提出されると,直ちに買い取り
判管轄権があると主張されたが,原告を労働
銀行が指定する口座に送金する方式で信用状
基準法上の労働者に認められないため,原告
代金を支払うが,日本国以外のすべての銀行
の上の主張に理由はないと判示した。
の手数料を受益者が負担すると規定している
昌原地法 2006年 10月 19日宣告 2005カ
点を加えて鑑みれば,信用状取引で発生する
合 9692 信用状代金(控訴中)(管轄権否
法律関係に関する義務履行地は信用状の開設
認事例)
銀行所在地である日本国であるとするのが相
⑥
Ë 被告銀行は日本国の東京に主たる事務
½
当である点,④被告と日本国法人で韓国に営
所を置く日本国法人で,原告銀行は韓国法人
業所を置いている訴外会社が同じグループの
である。被告銀行の大阪支店で本件信用状が
系列会社ではあるが,二つの会社は厳然たる
開設され,原告銀行は,受益者から被告を支
別個の法人格を持っており,訴外会社の韓国
払人とする受益者の発行した為替手形及び船
の営業所を被告の営業所と見ることができな
積み書類を買い取り,これを被告に提示し支
いのみならず,上の営業所が被告の営業に関
払を求めたが,引受が拒絶され本件の訴えに
する業務を扱うに値する証拠もない点,⑤被
至った。
告が韓国で差押えられる財産を持っていない
Ì 裁判所は,管轄否認の根拠として,①
½
点等に照らして,本件の訴えは,紛争の当事
被告が日本国に主たる事務所と営業所を置い
者または事案が韓国と実質的関連があるとは
て事業を営んでいる法人である点,②被告が
言えないと判示した。
本件信用状開設に関する確約の意思を表示し
¹ 営業所所在地
た場所も日本国である点,③信用状の統一規
民事訴訟法第5条(改定前第4条)第1項
則第2条には,この規則における為替信用状
には,「法人その他の社団または財団の普通
及び保証信用とは,その名称や表現を問わず,
裁判籍は,その主たる事務所または営業所の
顧客(開設依頼人)の要請と指示に従い行動
ある場所により決め,事務所または営業所が
する銀行(開設銀行)またはその銀行の代理
ないときには,主たる業務担当者の住所に
人が信用状の条件に一致する所定の書類と引
よって決める。」と規定し,第2項には,
「第
き換えに,Ⅰ)第 3 者(受益者)またはその
1項の規定を外国法人その他の社団または財
指図人に支払うか受益者が発行した為替手形
団に適用する場合,その普通裁判籍は,韓国
を引き受けるまたは支払うか,又は,Ⅱ)他
にある事務所または営業所の住所或いは韓国
の銀行にその支払いをするようにするか,ま
にいる業務担当者の住所によって決める。」
たはその為替手形を引き受けるまたは支払う
と規定しており,外国法人の普通裁判籍は,
ように権限を付与するか,又は,Ⅲ)他の銀
その韓国にある事務所または営業所所在地に
行に買い取りができるように権限を付与する
よって決める一方,民事訴訟法第 12条(改
全ての約定を意味すると規定しているところ,
定前第 10条)には,「事務所または営業所が
これによれば,被告は,本件信用状の開設銀
ある者に対してその事務所または営業所の業
行として信用状の条件に一致する書類と引き
務に関連する訴えを提起する場合には,その
換えに信用状に基づき受益者が発行した為替
事務所または営業所所在地の裁判所に提訴す
229 ―
― ることができる。」と特別裁判籍を決めてい
を通じて営業を行う多国籍企業の場合,どの
る。
支店や営業所も本店の迅速な指示と統制に
したがって,韓国に事務所等を有する外国
よって訴訟を遂行することが可能なので,原
法人を相手にその事務所または営業所の業務
則的には第5条第2項を適用して管轄を認め
と関連のない事案についても,韓国で訴えが
るが,条理に反する特別な事情があれば,国
提起された場合,裁判所に管轄があるかどう
際裁判管轄を排除すると解するのが妥当であ
かが問題となる。これは,すなわち,民事訴
るという見解がある。
訟法第5条第2項を国際裁判管轄における一
上述したように,大法院は,旧法の下で民
般裁判管轄(general jurisdiction)の根拠と
事訴訟法第5条第2項を法人に対する一般裁
して理解することができるかどうかの問題で
判籍を許容する規定とする立場を採っている。
ある。
しかし,国際裁判管轄を決めるにあたって実
これについて肯定説と否定説との対立があ
質的関連の存在を要求する改定国際私法の下
るが,否定説には,①第5条を根拠に営業所
でもこのような判例の立場が維持されるか注
所在地である韓国に外国法人に対する一般管
目する必要がある。
⑦
轄を認めたら,第 12条を特別管轄として別
ソウル中央地法 2005年 12月 23日宣告
2002カ合 78265 損害賠償(其)(控訴中)
に規定した立法者の意図が完全に無視され,
(管轄認定事例)
アメリカでも営業活動(doing business)に
基づく一般管轄の認定が過剰管轄の典型例と
Ë 訴外死亡者は,韓国人で,事故当時韓
½
して批判されている点等を理由として,第5
国会社の中国支社で勤務するため中国に居住
条を一般管轄規定と解してはならないという
しており,原告らは死亡者の家族で,韓国人
見解,②営業所等の所在を理由に一般裁判管
である。被告は,中国法によって設立された
轄を認めることは,アメリカ法上のいわゆる
中国法人で,主たる事務所が中国国内にあり,
営 業 活 動 の 管 轄 ( doing business jurisdic-
韓国に営業所を置いている。
Ì
½
tion)を認めることと結果が同じであり,訴
訴外死亡者が,2002 年5月7日被告
訟物と法廷地との合理的関連性がない過剰管
の運航する中国国内線飛行機に乗り飛行機の
轄( exorbitant grounds of jurisdiction)の
墜落により死亡したため,その相続人らは,
行使を禁止しようとする世界的趨勢から外れ,
韓国の裁判所に訴えを提起した。
我が国の企業が外国でそれと類似する過剰管
Í 管轄認定の根拠として,訴外死亡者が
½
轄により不利益を受ける可能性を拡大させる
中国法人である被告の運航する中国国内線飛
恐れがあるため,民事訴訟法第5条を一般国
行機に乗り中国で事故が発生し死亡したが,
際裁判管轄の根拠として認めないのが望まし
被告が韓国国内に営業所を置いており,本件
いという見解があり,肯定説には,①交通と
訴えは,民事訴訟法第5条の規定に照らして
通信手段が飛躍的に発達した今日,企業が高
実質的関連性があって,証拠収集の容易性や
度の組職力と統制力をもって支店と営業所を
訴訟遂行の負担の程度など具体的な事情を考
管理するため,国際訴訟について民事訴訟法
慮する時,その応訴を強制することが民事訴
第5条第2項を適用するとしても,裁判進行
訟の理念に照らして鑑みても非常に不当な結
における当事者間の公平,裁判の適正・迅速
果に至るに値する特別な事情はない点を挙げ
な処理に差し支えがないという見解,②民事
ている 12。
訴訟法第5条は,外国法人が我が国に事務所,
º 義務履行地
営業所または業務担当者の住所を置く場合に
民事訴訟法第8条(改定前第6条)には,
のみ我が国の裁判所の国際管轄を認めるので,
その基準が相対的に明確で,世界的な支店網
「財産権に関する訴えは,居所地または義務
履行地の裁判所に提起することができる。」
230 ―
― Ë 原告は,銀行業務,外国為替業務など
½
と規定しており,旧法の下で大法院も,「我
が国の会社と日本国会社との間の借款協定及
を営むことを目的として設立された法人で,
びその協定の仲介に対する報酬金の支払請求
被告1は,日本国に本社を置いている法人で,
事件で,行為地法として準拠法である日本国
被告 2 は,イギリスに本社を置いている法人
の商法の規定によれば,商行為による債務の
で,被告 3 は,被告1から金銭貸借を受けな
履行地は債権者の営業所であると規定してい
がら被告 2 を受益者として原告銀行から信用
るため,債権者である原告の営業所所在地の
状を開設した後,原告を相手に任意の支払い
管轄裁判所である我が裁判所に裁判管轄権が
または信用状の代金請求訴訟(アメリカ訴訟)
あり,この場合債権者である原告は国内に被
を通じて信用状代金を支払ってもらった。
Ì 原告は,被告1が本件信用状を発行す
½
告会社の支店や営業所または財産がなくても
内国裁判所に訴えを提起することができる。
」
る前に主債務の内容と保証限度について原告
と判示し,渉外的要素のある事件にも民事訴
銀行を騙して本件信用状の発行を受ける行為
訟法第8条を適用している。
に積極的に加わったかこれを幇助したため,
しかし,この判決の主旨をすべての持参債
被告1,2などが共同不法行為者として詐欺
務に拡大したら,不法行為,不当利益,事務
によって本件信用状を発行した原告銀行の受
管理などによる法定債務にまで義務履行地管
けた損害を賠償する責任があると主張した。
轄を認めることになり,被告に予測できない
Í 本件信用状の発行が不法行為によるも
½
場所での応訴を強制し被告の管轄利益を剥奪
のと主張しその損害賠償を求める原告が韓国
し不当になる恐れがあるため,債権契約から
国内に所在している法人である事実,本件信
発生する債務に限定するなどこれを当事者間
用状の発行を依頼した被告3及びその職員ら
の公平,裁判の適正・迅速の理念により合理
が全て韓国の法人または自然人である事実,
的に制限する必要があると言う見解が一般的
本件金銭貸借契約と本件信用状の発行に関す
である。
る証拠の大半が韓国にあって,関係者に対す
そして,金銭支払地を義務履行地の概念か
る証拠調べが韓国で行い得る事実,被告1の
ら除かなければならないという主張が有力で
子会社である被告3が韓国に所在している事
ある。財貨の売買や用役提供の対価として金
実などを鑑みれば,原告と被告1との間に本
銭を支払う場所を契約管轄の連結点にするに
件訴えに関する実質的関連があり,国際私法
は合理性の欠けた場合が大半であることがそ
上の配分の基本理念に照らして見ても韓国の
の根拠として示されている。
裁判所に本件に関する裁判管轄権を認めるの
» 不法行為地
が妥当である 14。
¼ 財産所在地
民事訴訟法第 18条(改定前第 16条)第1
項には,「不法行為に関する訴えは,その行
民事訴訟法第 11条(改定前第9条)には,
為地の裁判所に提起することができる。」と
「韓国国内に住所がない者に対する財産権に
規定しているが,このような不法行為地管轄
関する訴えは,差押えのできる被告財産の所
は,国際訴訟においても妥当である。ここで
在地の裁判所に提起することができる。」と
の不法行為地とは,不法行為の要件事実が発
規定しているところ,これに関して,大法院
生した地を意味し,加害行為地と損害発生地
は,旧法の下で民事訴訟法第9条の規定の主
が違う時にはそのいずれも不法行為地になる
旨が,財産権上の訴えの被告が外国人であっ
13
ても,差押えのできる財産が国内にある時に
とした判例がある 。
ソウル中央地法 2005年7月 22日宣告
は彼を相手に勝訴判決を得ればこれを執行し
2003が合 33009 損害賠償(期)(控訴中)
裁判の実效をおさめることができるため,特
⑧
(管轄認定事例)
に国内裁判所にその裁判管轄権を認めたもの
231 ―
― であり,第 11 条を根拠に財産所在地の国際
15
定し管轄合意の有效性を明示している 17 が,
裁判管轄を認めることができると判示した 。
大法院判例は,国際裁判管轄の合意が国内管
しかし,これに対して,財産所在を根拠に
轄の合意と同じく方式に関する要件を満たせ
財産に関する訴訟に対する特別管轄を認める
ば原則的に有效であるとしている 18。ただ,
のではなく,財産所在を根拠に一般管轄及び
改定国際私法によれば,消費者契約と労働契
「財産権に関する訴え」に対して広範囲な特
約の場合,管轄合意について一定の制限を課
別管轄を認めることは,典型的な過剰管轄
しているのは,上述したとおりである。
( exorbitant jurisdiction)として世界的に批
裁判管轄の合意には,特定国の裁判所に裁
判されている点 16 を考慮して,改定国際私法
判管轄を認めてその他の国の裁判所の裁判管
の施行後にはこれを過剰管轄として排除すべ
轄権を排除する専属的裁判管轄合意と指定管
きであるとの見解に説得力がある。
轄以外に他の裁判所を付け加える付加的裁判
⑨
ソ ウ ル 高 等 法 院 2006 年 1 月 26 宣 告
管轄合意がある。管轄を付与する合意の結果,
2002ナ 32662 損害賠償(其)(大法院上
合意された裁判所が専属的管轄権を持つか,
告中)(管轄認定事例,旧法適用事案)
付加的管轄権を持つかは,原則的に当事者ら
本件は,原告らが,ベトナム戦の参戦軍人
の意思による事項のため,諸般の事情を考慮
及びその家族で,アメリカ法人である被告ら
して当事者らの意思を合理的に探求すべきで
によって製造されベトナム戦で散布された枯
ある。ただ,専属的合意なのか付加的合意な
葉剤の有害物質により各種の疾病が発生した
のか明白でない場合,我が国の通説・判例は,
と主張し,被告らを相手に製造物責任または
法定管轄の何れかを特定する合意は専属的合
一般不法行為責任に基づく損害賠償を求める
意で,法定管轄がない裁判所を特定する合意
事案で,アメリカ法人である被告らは,1986
は付加的合意としている。
年頃から 1998 年頃までの間に韓国国内で被
¾ 国際裁判管轄の関連裁判籍
告らのそれぞれの名義で多数の特許権(被告
_ 主観的併合(共同訴訟)の場合
ダウは 241件,被告モンサントは 60 件)を登
民事訴訟法第 25条第2項は,訴訟目的で
録し現在まで保有しており,その一部の特許
ある権利や義務が多くの人に共通するか,事
権について韓国人を特許管理人に選任してい
実上または法律上の原因により,その人々が
る事実などを総合して鑑みれば,被告らが所
共同訴訟人として当事者になる場合,一つの
有する上の特許権は韓国裁判所が被告らに対
請求に対する管轄権がある裁判所に訴えを提
して国際裁判管轄権を行使することができる
起することができるように第1項を準用して
ほど充分に韓国との関連性を持ち,したがっ
いる 19。このような主観的関連裁判籍が国際
て,韓国は本件訴えに対して被告ら所有の財
裁判管轄にも認められるかが問題となる。厳
産所在地として国際裁判管轄権を持つと判断
格な条件の下で認めることができるとの立場
した。
が多数の見解である。
` 客観的併合の場合
½ 合意管轄
国際取引の場合,当事者間に紛争の発生に
民事訴訟法第 25条第1項に規定している
備えて予め裁判管轄に関する合意をしておく
客観的併合に関する規定を国際裁判管轄にも
場合が多いので,国際裁判管轄の合意は,実
認めることができるかについては,主観的併
務上その重要性が非常に大きい。
合とは違い,ブリュッセル規定やハーグ条約
民事訴訟法第 29条(改定前第 26条)には,
予備草案に特別な規定が置かれていない点に
当事者が合意によって第1審管轄裁判所を決
照らして慎重にすべきであるとの見解と,併
められるし,その合意を一定の法律関係に起
合される請求相互間に基礎となる事実関係が
因した訴えに関する書面にすべきであると規
同一か牽連関係を持つ場合にはこのような客
232 ―
― 観的併合の関連裁判籍を認めても構わないと
20
を認める傾向が強いことが否認できない。こ
の見解の対立がある 。
⑩
ず,全体的に多くの根拠を持って実質的関連
仁 川 地 方 法 院 2003 年 7 月 24 日 宣 告
2003カ合 1768(確定)
(管轄否認事例)
れから,国際裁判管轄に関する国際規範の動
向(特に 2005 年採択されたハーグ国際私法
Ë 事案の概要(前述Ⅲ.4.¸.`.④)
½
会議の国際裁判管轄合意に関する条約などの
Ì
½
併合請求の関連裁判籍の主張について
批准状況)などを参照しながら,当事者に予
原告が一つの訴えにおいていくつかの請求
見可能性や法的安定性を保障できる具体的な
をしてその何れかの請求に対してその管轄原
基準が定立できるようにさらに研究と検討を
因により我が国の裁判所に国際裁判管轄権が
深めるべきである。
認められる場合,他の請求に対しても我が国
同時に,韓・日・中3カ国間の知的財産権
の裁判所が民事訴訟法第 25条の関連裁判籍
紛争の手続きに関する国際私法的解決を模索
の規定により国際裁判管轄権を行使するため
するにあたって,韓国の最近の国際私法の改
には,国内管轄と違い,いくつかの請求の間
定とそれによる韓国の裁判実務例を紹介する
にその基礎となる事実関係あるいは争点が同
ことが意味深いと考える。上の事例から見た
一か牽連関係を持つなどの密接な関係が認め
ように,韓・日・中3カ国間及びアメリカの
られることを要し,たとえ同一当事者間の請
個人や企業間に発生する紛争がさらに増える
求であっても,上のような密接な関連がない
傾向にある現在,一日も早く当事者間の予見
場合,併合して裁判することは,国際社会の
可能性が確保できる統一的な解決規範が用意
裁判機能の合理的分配の観点から見ると,相
できたらと思う次第である。
当でないだけでなく,むしろ裁判が複雑にな
り長期化する恐れがあるため,民事訴訟法上
の関連裁判籍の規定による国際裁判管轄権が
認められない。
本件譲受金債権は,原告が日本国の部品供
給業社から被告に対する部品代金債権を譲り
受けたもので,(併合して求める)部品前納
金返還債権は,原告が被告に既に支払った部
品前納金の返還を求めるもので,上で見た本
件事実関係によると,両請求の間に同一当事
者間の請求という点以外に密接な関係がある
とは言い難い。
Ⅳ.結論に代えて
要するに,2001 年改定国際私法に国際裁
判管轄に関する内容が規定されることによっ
て,従来の対立していた学説にどのぐらい解
答を提示したかである。ただ,前述したよう
に,実質的関連という基準は,どうしても抽
象的で,現在の実務例には,過去の民事訴訟
法の土地管轄規定に縛れずに実質的関連の有
無を判断し,明確な基準が定着したとは言え
233 ―
― 注
1
改定国際私法の下でも多くの下級審実務が
上の大法院判決に従ったようである。ソウル
中央地方裁判所 2003年9月 25日宣告 2002カ
合42303判決,同裁判所2004年9月10日宣告
2003 カ合 95618 判決,ソウル高法 2003 年 10
月21日宣告2003ナ36722判決。
2 国内では,従来国際裁判管轄に関する研究
が不十分で,ハーグ国際私法会議で国際裁判
管轄に関する世界的な条約が作成されている
現在,国内法に完結した規則を置くことは難
しいため,改定法は過渡的措置として総則で
ある第2条に従来大法院判例が採ってきた立
場を反映し国際裁判管轄に関する一般原則の
みを規定することになったと言われている。
法務省『国際私法解説』
(2001)23頁。
3 一歩進んで,国内法上のすべての土地管轄
規定に同等な価値を付与するではなく,土地
管轄規定を,①そのまま国際裁判管轄規則と
して使えるもの,②国際的考慮により修正し
て初めて国際裁判管轄規則として使用できる
もの,③国際裁判管轄規則に適しないとして
最初から排除しなければならないものに分け
て,ひいては,④土地管轄規定が網羅的でな
いので,その他にも国際裁判管轄の根拠にな
る事情の有無とこれを認めたらその内容を定
める必要がある。石光現「国際裁判管轄の基
礎理論」法学論叢第 22 集第2号(2006 年)
277頁脚注(44)
。
4 大法院 2006 年 12 月7日宣告 2006 ダ 53627
判決。
5 上の判決に対する評釈として,林治龍
「 UDRP と 国 際 裁 判 管 轄 合 意 ― 韓 国
hpweb.com 判決を中心に―」『国際知的財
産権法及び国際私法の論点資料集』
(2005年)
127頁以下,陶斗亨「ドメイン名紛争の国際
裁判管轄」人権と正義通巻第347号(2005年)
143頁以下,石・前掲注º 261頁以下などが
ある。
6 判決には,当事者と法廷地の間に実質的関
連性を持つ要素として,原告の住所地が韓国
であり, UDRPR 第1条にも登録者の住所所
在地の裁判所を管轄裁判所にしており,被告
も原告の住所地裁判所が管轄裁判所になる可
能性があることを予想できる点などを挙げて
いる。
7 判決には,事案と法廷地の間に実質的関連
性を持つ要素として,原告の住所地または営
業地が韓国にある点,ウェブサイトの使用言
語が韓国語で,主なサービス地域,営業上の
損害発生地及び関連証拠の所在地が韓国にあ
る点,相互管轄( mutual jurisdiction)に関
す る 解 決 政 策 及 び 手 続 規 定 ( UDRP 及 び
UDRPR)の諸条項が大韓民国の裁判所に国
際裁判管轄権を認めることに影響を及ばない
点等を挙げている。
8 上の判決には,国際裁判管轄配分の理念に
して条理を使っていない。条理は,何らの基
準を提示することができず,これを取り入れ
ると不必要な論理展開を引き起こすので,敢
えて条理という概念を用いる必要がないとの
見解,石・前掲注º280頁。
9 法律上管轄規定がないという理由で国際裁
判管轄を認めることができないのではなく,
その場合には第2条第1項の原則に従って国
際裁判管轄の有無を判断しなければならない
との見解は多数である。
10 石・前掲注º286頁。
11 本案の請求については,被告1が原告の著
作権を侵害した事実を認定する証拠がなく原
告の請求を棄却した。
12 類似事案で,航空会社として中国広東省に
主たる事務所を置く中国法人を相手に中国で
の航空機の機体欠陷によって航空運航が取消
されたなどの事情によって受けた損害の賠償
を求める事案で,被告が大韓民国国内に営業
所,代表者を置いているなどの事情を挙げて,
国際裁判管轄が認められた事例がある。ソウ
234 ―
― ル中央地方裁判所 2004年8月 11日宣告 2004
カダン97225損害賠償(其)判決。
13 大法院 1994年1月 28日宣告 93ダ 18167判
決。
14 本案請求については,共謀の事実を認定す
る証拠が無いとして棄却した。
15 大法院 1988年 10月 25日宣告 87ダカ 1728判
決。
16 ブリュッセル規定第3条にこのような国内
管轄規定の適用を排除している(Annex I 代
表的な規定としてドイツ民事訴訟法第 23条
を挙げている)
。
17 形式的有效性の要件である書面合意の必要
性について,1999年 12月 31日法律第 6083号
で全文改定された仲裁法第8条第3項第2号
には,「書信・電報・電信及び模写電送その
他通信手段により交換された文書に仲裁合意
が含まれている場合」,これを書面による仲
裁合意とすると明文の規定を置いている。
18 大法院 1992年1月 21日宣告 91ダ 14944判
決,大法院 1997年 9月9日宣告 96ダ 20093判
決。
19 これを認める主旨は,一つの裁判所にいく
つかの請求の併合を申立てやすくなり,原告
の便宜が図られ,被告にとってもどうせ応訴
するなら一つの裁判所で裁判を受ける利点が
あり,裁判所としても紛争を一ヶ所で統一的
に解決できるので訴訟経済にも適うからであ
る。
20 大法院は,主観的請求の併合を肯定するこ
とを前提に,被告の立場から不当に応訴が強
要されないように,請求の牽連性,紛争の一
回解決可能性,被告の現実的応訴可能性など
を総合的に考慮し慎重に認めるべきであると
判示した。大法院 2003年9月 26日宣告 2003
ダ29555判決。