② 役務 A) 法上の役務となるもの 両替 → 「両替」は(有償性)を満たすだろうか? → → 銀行を思い出して欲しい 例:(空港等では有料)であるから、要件を満たす 仲裁 → 「~の提供」となっているものは、判断が簡単 → 上記例のようなものをある程度抑えておけばよいと思われる 3. 考察事項 (1) なぜ、商品・役務の切り分けを考察する必要があるか なぜ、商品・役務の切り分けを考察する必要があるか → 商標権は同一範囲の商標を「使用」する権利を専有し、類似範囲を排他できる → したがって、第 2 節と関連して、(使用行為が異なる)からと考えられる → そうすると、侵害に関する主張の態様が異なるため、切り分けが重要な意味をもつ (2) 考察材料判例:ヴィラージュ白山 考察材料判例:ヴィラージュ白山事件( 白山事件(東京地判平成 11 年 10 月 21 日、東京高判平成 12 年 9 月 28 日) ① 不動産に対する伝統的な解釈 不動産に対する伝統的な解釈 “有体動産ではない”、 “量産性がない”、“転々流通するものではない”という三つの 要件を満たないので、法上の商品ではないが、「建造物の売買」という役務たり得る。 → では、シリーズ化したマンション群(例:ライオンズマンション)はどうか? → 転々流通性は認め得るが、量産性については議論が分かれるところ(つまり、何を もって、量産と考えるかという点で意見が異なる。確かにマンションという点では 量産性があるのかもしれないが、立地条件、部屋の構造等を含めると、同じ建物内 でも量産性は満たさないと言い得る。) ② 地裁における判決及びその 地裁における判決及びその攻防戦 判決及びその攻防戦(東京地判平成 攻防戦(東京地判平成 11 年 10 月 21 日) A) 事実 原告は、 「土地の売買、建物の売買」を指定役務とし、 「ヴィラージュ」等を登録 商標(本件登録商標)とする商標権者。 被告は、不動産の売買、賃貸、仲介等を業とする株式会社であり、「ヴィラージ ュ白山」をマンション(本件マンション、本件各住居)の名称として使用し、これ を分乗した。 被告の使用した名称は、原告の登録商標と類似であるために、原告は、差止と損 害賠償を請求。 争点は、被告による被告標章の使用が、本件商標権の侵害にあたるか(標章自体 の類似は争いなく認められている) 。 B) 原告主張 <1> → 伝統的な立場に立った主張 被告の使用は指定役務「建物の売買」に対する商標法 2 条 3 項 3 号・4 号・5 号・ pg. 29 8 号(当時の 7 号)の使用であるから、類似範囲の使用といえ、侵害にあたる(37 条 1 号) 。また、被告が、被告標章を付した本件マンションを所持する行為は、37 条 3 号の行為であるから、侵害行為とみなされる。さらに、宣伝行為のための看板 等を所持する行為は 37 条 5 号に該当する。 <2> → この主張が重要 「被告が被告標章を付した本件マンションは、建物であり不動産に属するが、建 物のうちでも建売住宅や分譲マンションは、現実に取引の対象とされ転売も盛んに おこなわれているという事情にかんがみれば、社会通念上の「商品」であるという ことができるだけでなく、商標法上の保護の対象としての「商品」というべきであ る。したがって、被告は、「商品」である本件マンションに被告標章を付して、そ の販売を行ったということができる。 そして、建物という「商品」は、建物の売買という「役務」に極めて類似してい るから、被告が本件マンションやその広告等に被告標章を付してこれを販売するな どした行為は、本件商標権を侵害するものというべきである」 。つまり、2 条 3 項 1 号・2 号・8 号の行為を類似範囲に行っているため、37 条 1 号に該当し、差止及び 損害賠償を請求。 C) 被告主張 <1>に対して 商標法 2 条 3 項 3 号の行為は、 「役務が「主」で、利用に供する物が「従」であ」 り、その点は 4 号、5 号、8 号においても同様であるが、本件の場合、本件マンシ ョンやその広告等に被告標章を付する行為等は「主」の方に付する行為であり、被 告標章を「建物の売買」という役務の提供につき使用する行為に該当しない。 <2>に対して 不動産は商標法上の「商品」には該当しない。 D) 判旨 3 号・4 号の使用行為は、例えば、ホテル・旅館における寝具、洗面用具等、 「役 務提供の手段として用いられる物品であり、顧客に提供される役務との関係で付随 的なものである。そして、顧客の支払う金銭との関係からいえば、これと対価関係 に立つのは役務であり、右物品自体が対価関係に立つものではない」。と判示した 上で、「本件においては、本件マンションないし本件各住居は顧客が支払う金銭と 直接の対価関係に立つものであって、本件各住居の所有権こそが被告と顧客との間 の契約の対象であり、本件売買において、本件各住居の所有権移転の外に顧客に対 して提供されるべき役務は存在しない」から、3 号・4 号の使用行為に該当すると は言えないとして、<1>の理論を否定した。 しかし、<2>については、伝統的な商品の上記定義を述べた上で、「不動産の うち、土地については、その存在する場所によって特定されるもので、同一の地番 により表示される土地が複数存在することはあり得ないものではあるが、造成宅地 等においては、宅地条件、面積等のほぼ同等のものの間で代替性が認められる上、 pg. 30 どの業者により宅地の造成工事が施工され販売されるかは、業者の設計施工能力、 瑕疵修補能力、損害賠償能力等の点から購入者にとって重要な関心事であって、取 引上、広告等において施工・販売業者が顧客に対して表示されるのが通常であるし、 注文建築による住宅等についても、具体的な個別の住宅は注文主と施工業者との間 の請負契約により建築されるものであるが、代替性が認められ、施工業者は建築材 料、工法等においてそれぞれ特徴を備えており、いわゆるモデルハウスや広告等に おいて施工業者が顧客に対して表示されているものであって、この点は仕立服等の 場合と異なるところはない。また、分譲マンションや建売住宅は、地理的利便性、 間取り等においてほぼ同等の条件を備えた、互いに競合するものが多数供給され得 るものである。このように造成地、建物等の不動産であっても、市場における販売 に供されることを予定して生産され、市場において取引される有体物であると認め ることができるものであって、これに付された表彰によってその出所が表示される という性質を備えていると解することができるから、これらもまた商標法によって 保護されるべき「商品」に該当すると判断するのが相当である」と判示した上で、 主張を認めた。 ③ 高裁の判断(東京高判平成 高裁の判断(東京高判平成 12 年 9 月 28 日) 結論は地裁と同様であるが、その理由としては、地裁とは異なり、<1>の主張をベ ースに、 「一般に、マンションの住居の分譲販売に当たって、分譲販売業者は、売買とい う契約成立ないしその履行に至るまでの間に、販売の勧誘や売買交渉過程において、購 入希望者等に対し、マンションの特徴、住宅部分の間取り、内装設備、周辺地域の状況、 販売価格の合理性、管理形態、さらには住宅ローンの内容など様々な説明を行い、モデ ルルームの展示をするほか、当然のことながら工事中のマンションあるいは完成後のマ ンションの内外部を案内するのが実態であり、また、購入予定者に対する住宅ローンの 斡旋などを行うこともあり、行政規制としては、宅地建物取引業法 35 条の重要事項の 説明が必要となっていることは、当裁判所に顕著な事実である。これらの分譲販売業者 の行為は、マンションの分譲販売に際して行われるものとして、建物の売買という役務 に属する行為であるというべきである。この間に、マンションの建物の名称が使用され る機会が多く、マンションの建物自体や、モデルルーム、定価表、取引書類その他の売 買関係書類、あるいは、看板、のぼり、チラシ、パンフレット、新聞広告などの広告に も建物の名称も使用されるものであろうことは、おのずと推認されるところである。 本件においても、被告が本件登録商標に類似図る被告標章を本件マンションの名称と して使用し、分譲販売した際に、本件マンションの階段入り口部分の表示板に被告標章 を付したり、被告標章を付した立て看板、垂れ幕などが掲示され、被告標章を付したチ ラシ、パンフレットの配布がされたこと」、「これらの被告標章を付した行為は、マンシ ョンの分譲販売に際して行われる役務提供の際になされたものであり、被告標章は、建 物の販売の役務の提供に当たり、販売の役務の提供を受ける者、すなわちマンション購 入希望者が購入予定物権の内容の案内を受けるなどの際にしようされたものであって、 これが、本件登録商標の指定役務である「建物の売買」についての使用に該当すること pg. 31 は明らかである」。と認定した上で、2 条 3 項 3 号、4 号、5 号、8 号の使用行為から侵 害を認めた。 → なお、 「商品」か否かについては記載がない → 平尾 p22 は「商品」ではないという前提に立っていると述べている ④ 考察 A) 平尾の記載に対して 平尾 p22 においては、地裁の判断に対し、伝統的な解釈を変える必要はなく、 「建 物の売買」についての広告的使用(2 条 3 項 8 号)として処理すべきであったと述 べているが、それははたして妥当であろうか。 広告的使用と言えるためには、単に名前だけが記載されているにとどまらず、例 えば、不動産屋の看板のように電話番号等が記載されていなければならないと考え られる。なぜなら、8 号の使用行為はただでさえ(現物)を必要としないため、不 使用取消審判の趣旨を潜脱しかねないからである。そうであるならば、本件行為の 一部は確かに 8 号の使用のみで対処することができるだろうが、肝心のマンション 自体に標章を付する行為については、難しいのではないだろうか。高栽では「本件 マンションの階段入り口部分の表示板に」チラシやパンフレットが配布されていた 点を挙げて、使用行為に結び付けている。 B) 地裁の攻防戦と高裁の判断 地裁の攻防戦と高裁の判断に対して と高裁の判断に対して 被告の主張は、例えば、ビックマックを店内消費で購入する場合、対価はビック マック自体に支払うのであり、その(商標が付されている)包み紙に支払うわけで はない、という点から理論構成していると考えられる。この反論があるため、わざ わざ原告も地裁も本件マンションを「商品」として理論構成をとったのだろう。 その点、高裁の判旨は不明瞭である。例えば、チラシもパンフレットもなく、た だ単にマンションに「ヴィラージュ白山」とのみ表示している場合はどうなるので あろうか。地裁の理論であれば、侵害となりうるが、高裁の理論であれば、ケース バイケースとなりえそうに思える。 pg. 32
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