腎がん・膀胱がん 前立腺がん・腎盂尿管がん 腎がん・膀胱がん・前立腺がん・腎盂尿管がんの 受診から診断、治療、経過観察への流れがわかります。 1 腎がん は じめに が75歳以上の高齢者となることも予想 されています。 腎臓は、肋骨の下端の高さで背部に ある臓器で、尿を造ったり、血圧を調 節するホルモンや造血に関するホルモ 診断 ンを産生したりしています。腎がんは 腎がんの典型的な症状は、腫瘍の進 主に腎臓の近位尿細管上皮を由来とす 行による血尿、腹部のしこりや疼痛と るがんで、50歳代から70歳代で発生す いわれていましたが、近年では健診の ることが多く、女性よりも男性に多く 普及や医療機器の進歩により、症状が 見られます。その危険因子としては肥 出現するまえに超音波検査やCTなど 満や喫煙が挙げられ、喫煙は腎がんの により見つかることが多くなっていま リスクを2倍にするといわれていま す。 す。北欧で罹患率が高く、乳製品の消 費量と相関しているとの報告もありま 超音波(エコー)検査 す。また、フォン・ヒッペル・リンド 被曝の心配もなく、手軽に行えるた ウ(von Hippel-Lindau、VHL)病や め、スクリーニングの検査によく用い 結節硬化症、多発性嚢胞腎(たはつせ られます。腫瘍が腎臓の外側にあり突 いのうほうじん)をもつ患者では、腎 出している場合は小さな腫瘍でも見つ がんの発生が多くなることが報告され かることがありますが、腎臓の中に埋 ています。 もれていたり、腎臓の内側にある場合 腎がんの罹患率は、人口10万人あた は見つけることが難しいこともありま り男性12.9人、女性6.2人(2001年)で す。腎臓の良性腫瘍である腎血管筋脂 あり、年々増加しています。2005年の 肪腫(アンギオミオリポーマ)では、 調査によると、死亡率は人口10万人あ 通常の腎がんと比べて明るく映ること たり男性で6.6人、女性で3.3人、男女 が多く、鑑別に有用なことがあります。 とも12番目に多いがんです。2011年の 国立がん研究センター・がん対策情報 センターの地域がん登録全国推計値で は、2025年には腎がん患者の50%以上 2 Kidney Cancer MRI 腎がん CTによる検査で特徴的な腫瘍では ない場合や、腎臓の機能が低下してい る場合に行うことがあります。 骨シンチグラフィー 腎がんでは骨に転移することもある ため、悪性度の高いがんや進行したが んでは骨転移を確認する必要がありま す。 腎血管筋脂肪腫 腫瘍生検 CT 画像により診断が難しい場合や、手 腎がんの診断では、ダイナミック造 術によってがんの種類を確認できない 影CTによる検査がもっとも有用とさ 場合は、超音波またはCTを使用して れており、正常な腎組織に比べて、が 腫瘍に針を刺して組織を確認します。 んが早期に染まって消失していく特徴 があります。また、リンパ節や肺など の転移の確認にも有用です。ただし、 外 科的治療 腎臓の機能が低下している場合は造影 腎がんの治療の基本は手術療法によ 剤を使用することができず診断が難し るがんの摘出であり、治療法の選択に いことがあります。 おいても手術療法が中心になります。 3 腎がん 九州大学病院泌尿器科では手術適応を られることが報告されたため、当科で 含めて、それぞれの状況に応じた適切 も2000年以降、積極的に行ってきまし な治療法を選択して治療を行っていま た。がんの部位によっては、腹腔鏡に す。 よる腎部分切除を行い、低侵襲な腎部 手術においては、従来の開腹による 分切除術も行っています。また、手術 根治的腎摘除術に加えて、1999年から 支援ロボット“ダビンチ”の導入によ 腹腔鏡を用いた根治的腎摘除術を積極 り、腹腔鏡による部分切除術が困難な 的に行っています。低侵襲という点に がんに対して、ロボット支援腹腔鏡下 おいては開放手術に比べて勝ってお 腎部分切除術も行っています。 り、安全性、一般性についても問題な (人) いことが示されています。当科におけ 100 る臨床病期T1/2の腎がん(径7cm以 80 下の転移のない腎がん)の術後の長期 60 成績においても、腹腔鏡を用いた手術 40 は従来の開腹術と比べて全く遜色ない 20 90 70 ロボット支援腎部分切除術 腹腔鏡下腎部分切除術 開放腎部分切除術 腹腔鏡下根治的腎摘除術 開放根治的腎摘除術 50 30 10 0 ことが示されました(下図)。 1985 1990 1995 2000 2005 2010 九州大学病院における腎がんの手術 100 90 80 5年生存率 70 60 腹腔鏡 98.9% 開腹 97.3% 内 科的治療 50 40 転移を有する腎がんや再発した腎が 30 20 んで、 転移巣が摘出できない場合には、 10 0 0 20 40 60 80 100 月 九州大学病院におけるT1/2腎がんに対する 手術成績 手術法における最近の動向として、 薬による治療が必要となります。腎が んには抗がん剤や放射線治療がほとん ど効かないため、これまでインター フェロンαやインターロイキン2など 腎温存術(腎部分切除術)の導入があ の免疫療法を行ってきましたが、奏効 ります。近年、小径のがんであれば腎 率は概ね15〜20%で、決して満足でき 温存術を行っても良好な長期予後が得 る数字ではありませんでした。ところ 4 Kidney Cancer が、2008年から、 「根治切除不能又は転 績からも有用な薬剤といえますが、そ 移性の腎細胞がん」に対して様々な分 れぞれの分子標的薬で特有の副作用が 子標的薬が承認され、これらの薬によ あるため、状況に応じた薬の選択が重 る治療が可能となりました。分子標的 要です。 薬とは、がん細胞の増殖にかかわる分 また、骨に転移を認める腎がんでは、 子(タンパク質)に作用して抗腫瘍効 がんの進行による骨の破壊を防止する 果を発揮する薬物で、近年多くのがん ため、ゾメタ(ゾレドロン酸)やラン に用いられています。 マーク(デノスマブ)を使用すること 腎がん治療の標的分子には があります。これらの薬剤は、骨転移 による痛みを緩和する、または症状が 1.増殖因子受容体である(EGFR、 でることを遅らせる作用はあります HER2、PDGFR、VEGFRなど)の が、がんを抑えるためのものではあり チロシンキナーゼ ません。 2.細胞増殖や生存に関するセリンス レオニンキナーゼ(mTOR) などがあり、それぞれの分子に対して 以下のような薬があります。 放 射線治療 腎がんは放射線に効かないことが多 いため、放射線治療を行うことはあま りありません。しかし、骨に転移して 1.チロシンキナーゼ阻害薬 骨折の可能性がある場合、神経症状や スーテント(スニチニブ)、インラ 痛みを伴う場合には、症状に対して放 イタ(アキシチニブ)、ネクサバー 射線治療を行うことがあります。 ル(ソラフェニブ)、ヴォトリエン ト(パゾパニブ) 2.mTOR阻害薬 アフィニトール(エベロリムス)、 トーリセル(テムシロリムス) ア ブレーション治療 腎がんの根治療法の第一選択は外科 的治療ですが、高齢者や重篤な合併症 のため外科的切除が難しい場合は、腫 これまでの分子標的薬による治療成 瘍に針を挿入してがん細胞を死滅させ 5 腎がん るアブレーション治療が行われていま 響と、トーリセルによる効果と有害事 す。現在、腎がんに対するアブレー 象の関係について研究を行っていま ション治療ではラジオ波熱凝固療法と す。 凍結療法があり、本邦では2011年7月 から凍結療法が保険治療として認めら れています。九州大学病院でも2014年 5月から凍結療法による治療が可能と なっています。 臨 床研究 九州大学病院泌尿器科では腎がんに 関する臨床研究を行っています。 2.腎がん患者を対象としたda Vinci(ダビンチ)サージカ ルシステム(DVSS)ダビン チ)によるロボット支援腹腔 鏡下腎部分切除術の多施設 共同非盲検単群臨床試験(新 規参加終了) 腹腔鏡下手術では、開腹術と異なり 創が小さいため、術後のQOLは非常 に高いといわれていますが、腹腔鏡下 1.腎 細 胞 癌 患 者 に お け る mTOR阻害剤の免疫調整機 構に対する研究 手術による腎部分切除は高度な技術が ト ーリ セ ル(テ ム シ ロ リムス)は アームと操作ボックス(コンソール mTOR阻害剤といわれ前述のように ボックス)という2つの機械からなる 転移性腎がんの治療薬です。低用量で 手術支援ロボットで、①3次元画像の は免疫抑制剤としても使用されている もとで操作を行う、②拡大視野で操作 薬剤で免疫機能に影響します。近年、 を行う、③ロボットアームの関節が術 腫瘍免疫を抑制するシステムが 者の関節の動きを完全に反映できる、 mTORによって制御されていること という3つの理由から、極めて正確で も分かってきています。また、トーリ 安全な手術操作が可能です。da Vinci セルによる重大な有害事象の一つであ Sを用いた手術支援はすでに保険収載 る間質性肺炎にも免疫機構が関与して されている前立腺全摘除術だけではな いることがわかっています。このた く、腎がんの部分切除術でもその有効 め、免疫細胞に与えるトーリセルの影 性が報告されています。小径の腎がん 6 必要です。da Vinci Sは、鉗子やメス など手術器具を取り付けるロボット Kidney Cancer に対し、より低侵襲かつ根治性の高い 手術手技を確立するために、da Vinci Sを用いたロボット支援下腹腔鏡下腎 部分切除術を導入し、その安全性と有 用性を確認しています。 2.腎細胞癌の再発リスクが高 い患者を対象としたアキシ チニブによる術後補助療法 の第Ⅲ相プラセボ対照無作 為化二重盲検比較試験 腎がんを摘出後の腎がん(淡明細胞 臨 床試験 九州大学病院泌尿器科では、腎がん に対する薬に関する臨床試験を行って がん)で、術後に転移がなく、再発の リスクの高い方を対象に行っていま す。術後にアキシチニブによる再発予 防のための治療を行います。 います。 1.未治療の進行性又は転移性 腎細胞がん患者を対象に、ニ ボルマブとイピリムマブの 併用療法とスニチニブの単 剤療法を比較する無作為化 非盲検第Ⅲ相試験 3.腎摘除後の限局性または局 所進行性腎細胞癌患者を対 象に術後補助療法としての パゾパニブの有効性および 安全性を評価する無作為化 二重盲検、プラセボ対象、第 Ⅲ相試験(新規参加終了) 淡明細胞型腎細胞がんで、分子標的 腎がんを摘出後の腎がん(淡明細胞 薬による治療を受けていない方を対象 がん)で、術後に転移がなく、再発の に行っています。ニボルマブ(PD-1 リスクの高い方を対象に行っていま 阻害薬)とイピリムマブ(CTLA-4阻 す。術後にパゾパニブによる再発予防 害薬)は共に免疫チェックポイント阻 のための治療を行います。 害薬といわれ、腫瘍が免疫細胞からの 攻撃を逃れる作用を抑える効果をも ち、 近年最も注目されている薬剤です。 ニボルマブは腎がん以外にも、肺がん や悪性黒色腫でその効果が認められ、 すでに臨床で使用されています。 7 腎がん 4.血管新生阻害剤による治療 歴を有する進行性又は転移 性淡明細胞型腎細胞がん患 者 に お い て ONO-4538/ BMS-936558 と エ ベ ロ リ ム スを比較する無作為化非盲 検第Ⅲ相試験 (新規参加終 了) 1〜2種類のチロシンカイネース阻 8 害薬(ネクサバール、スーテント、イ ンライタ)治療後でアフィニトール(エ ベロリムス)を使用していない患者(免 疫療法後でも可だが合計3レジメン以 下であること)を対象に行っています。 ONO-4538/BMS-936558 は 免 疫 チェックポイント阻害薬でPD-1を阻 害する作用をもちます。 膀胱がん は じめに Bladder Cancer も出ており、禁煙が膀胱がんの予防に 最も大切です。 膀胱がんは、2011年の日本のがん統 計では、10万人当たり男性21.5人、女 膀胱がんの症状として典型的なもの 性4.3人が罹患しており(病気にかかっ は、血尿で、80%以上の患者さんに認 た人の数) 、男性に多く、泌尿器系がん められます。患者さんご自身が赤い色 の中で前立腺がんに次いで2番目に多 のついた尿が出ることに気づき、病院 いがんです。年次推移の統計では、死 を受診されることも多く、また、検尿 亡者総数は年々増加しているものの、 異常により泌尿器科を紹介され膀胱が これを年齢で補正した死亡率で横ばい んが見つかるケースもあります。た であることより、死亡者の増加は社会 だ、多くの場合は、排尿する際の痛み の高齢化によるもので、膀胱がんは近 などの症状がないため、受診が遅れて 年、発生リスクを増加しておらず、ま しまうことも少なくありません。 た早期発見や治療法の進歩による治療 の改善もあまり進んでいないことが示 されています。 膀胱がんの診断は、検尿、膀胱鏡、 尿細胞診、膀胱エコー、排泄性尿路造 影、CT、MRIなどで行います。最終的 膀胱がんの原因として、喫煙が最も には下記手術で、がんの組織を摘出し、 重要で、現在喫煙している人は吸わな 顕微鏡でがん細胞であることを診断す い人に比べ4倍、過去に喫煙した人は る病理検査によって行います。 2.3倍膀胱がんになりやすいことが判 明しています。喫煙と膀胱がんは一見 膀胱がんの治療は、病気の広がりと 関係がないと思われがちですが、タバ 深さによって大きく異なります。膀胱 コの煙の発がん物質が、全身を回った は粘膜とその下の筋肉層からできてい 後、濃縮されて尿中に排泄され、膀胱 ますが、がんが筋肉まで広がっていな の粘膜が慢性的に発がん物質と接触し い場合は、経尿道的な内視鏡手術(経 てがんが発生すると考えられていま 尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)で す。現在の膀胱がんの患者の約半数 治療します。これは、尿道から電気メ は、喫煙が原因であるという統計結果 スのループのついた内視鏡を入れ、が 9 膀胱がん んを削り取る手術で、通常1〜2週間 の入院で済みます。しかし、この手術 診断 が上手く行えても、膀胱内に再発する 検尿 率が50%前後と高いため、何度もこの 尿の色を確認し、糖分、蛋白、赤血 手術を受けなければならない患者さん 球、白血球といった成分を調べる検査 も多くいます。また、膀胱の筋肉層ま です。尿中に赤血球が一定以上あるこ でがんが広がっている場合は、膀胱を とを血尿と言います。 全部摘出する大がかりな手術が必要で す。この場合、小腸などを使って、尿 が出る人工肛門のようなストーマを作 膀胱鏡検査 尿道から内視鏡(カメラ)を入れ、 成したり (回腸導管) 、 腸で代用膀胱 (新 尿道や膀胱を観察します。膀胱鏡は太 膀胱)を作成したりして、尿を出す方 さが7〜8mmのライトの付いた管の 法(尿路変向)を考えなくてはなりま ような器具で、観察できるレンズも付 せん。また、転移がある場合は、抗が いています。最近は、曲がりやすい軟 ん剤による化学療法が標準的な方法 性鏡を使うことで、検査中の痛みも軽 で、骨に転移があり、痛みが強い場合 くなりました。下図が典型的な筋層非 は、その部位に放射線を照射したりし 浸潤性(表在性)の膀胱がんの写真で ます。 す。 九州大学病院では、泌尿器科、放射 線科、形態機能病理の専門医が膀胱が んの診断と治療を包括的に行っていま す。以下に当院における膀胱がんの診 断、治療と、新しい治療の確立を目指 した臨床研究・治験についてお示しし ます。膀胱がんの治療を受ける患者さ んにとって有益な情報を提供できれば 幸甚に存じます。 10 Bladder Cancer 尿細胞診 異常な細胞がないか、検尿で採取し た尿を顕微鏡で調べます。 外 科的治療 経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT) 麻酔下に膀胱鏡を尿道から膀胱内に 静脈性腎盂造影(IVP) 腎臓から排泄される造影剤を静脈に 注射し、腎臓、尿管および膀胱のX線 挿入し、内視鏡で見ながら先端に小さ な切除ループのついた器具でがんを切 除します。 像を連続的に撮影します。造影剤が、 腎臓、尿管、膀胱を通過する際に、X線 像で異常を示さないか検査します。 膀胱全摘除術 がんが膀胱の筋肉層まで広がってい る場合の標準治療です。膀胱およびが CTスキャン いろいろな角度から体内の詳細な像 んを含むすべてのリンパ節、隣接器官 を摘出する手術です。膀胱を摘出後、 をコンピュータ断層撮影法によって撮 膀胱の代わりに尿を体外に排泄するた 影します。膀胱のみならず、リンパ節 めに別の経路をつくります(尿路変更 や、他の臓器の転移の有無も併せて検 術)。回腸導管は、小腸を約20cm切除 査できます。 し、尿管を縫い付け、出口をストーマ として体外へ出し、集尿袋をつけて尿 MRI 磁気によって断層撮影を行う方法 を出します(下、左図)。新膀胱は、小 腸を切開し、袋状に縫った後、片方に で、特に膀胱がんの深さや近接リンパ 尿管を吻合し、他方を尿道に吻合し、 節転移の有無の診断に有用です。 尿道から排尿する方法です(下、右図)。 骨シンチ 骨で代謝される薬を注射して、進行 癌の患者さんにおいて骨転移の有無を 検査します。 腎 腎 腎 腎 ストーマ 回腸 導管 代用膀胱 尿道 11 膀胱がん また、治癒の可能性を高めるために 手術前後抗がん剤による化学療法を行 学療法を行うこともあり、補助化学療 法と呼ばれています。 うこともあります。 膀胱内注入化学療法 表在性膀胱がんではTURBT後に膀 放 射線治療 放射線療法 胱の中に腫瘍が再発することが多いた 合併症により膀胱全摘が行えない場 め、再発を予防する目的で膀胱内へ抗 合や、手術を希望されない場合に膀胱 がん剤を注入することがあります。抗 と骨盤に放射線外照射を行うことがあ がん剤を膀胱内へ入れても血液中には ります。この場合は、手術に比較して、 入らないため、吐き気や脱毛などの副 治療成績は劣ります。 作用はなく、頻尿など軽い副作用があ るだけです。また、上皮内癌という特 殊な型や、再発を繰り返す場合には結 核の予防薬であるBCGを膀胱内へ入 れる治療も広く行われています。 臨 床研究・臨床試験 臨床試験とは、患者さんにご協力頂 いて治療法の有効性や安全性を調べ て、より良い治療法を確立するための 内 科的治療 研究のことを言います。膀胱がんに対 抗がん剤による化学療法 ものなどがあり、この他にも多くの臨 転移や全摘後の再発がある場合は、 抗がん剤による治療を行います。これ しての臨床試験は、抗がん剤を用いた 床試験が九州大学病院で行われていま す。 までM-VAC療法といわれる4種類の 抗がん剤が第一選択でしたが、数年前 1.課題名:High grade T1膀胱癌 から、効果が同じで副作用の少ない のsecond TUR後T0患者に対 GC療法(ゲムシタビンとシスプラチ するBCG膀胱内注入療法と無 ン)が第一選択薬剤となりました。ま 治療経過観察のランダム化第Ⅲ た、治癒の可能性を高めるために手術 相試験(JCOG1019) の前、または後に、抗がん剤による化 12 2回目のTURBT後に癌の残存を認 Bladder Cancer めない筋層非浸潤性膀胱がんに対し あわせて安全性を比較検討する臨床研 て、無治療経過観察が、標準治療であ 究です。 るBCG膀胱内注入療法に劣らないも のかどうかを評価するランダム化比較 3.課題名:プラチナ製剤を含む治 試験により評価する臨床研究です。現 療の施行中または施行後に進行 在、患者登録中です。 した局所進行性、切除不能又は 転移性の尿路上皮癌患者を対象 2.課題名:低用量BCG膀胱腔内 とするラムシルマブ及びドセタ 注入維持療法の再発予防効果な キセル併用とプラセボ及びドセ らびに安全性に関するランダム タキセル併用の第Ⅲ相無作為化 化比較試験 二重盲検プラセボ対照試験 多発性または再発性の筋層非浸潤性 局所進行、切除不能又は転移性の尿 膀胱癌(Ta、T1)に対するTURBT後 路上皮癌(膀胱がんおよび上部尿路が のBCG導入療法(80mg)+低用量 ん)に対するラムシルマブとドセタキ BCG維持療法(40mg)の再発予防効 セルの併用療法が、ドセタキセル単独 果が、BCG導入療法より優れること 療法よりも優れることを無作為化比較 をランダム化比較試験により検証し、 試験により検証する臨床治験です。 13 前立腺がん は じめに 前立腺は男性にのみ存在する器官 で、図のように膀胱と連続して尿道を 取り巻くように存在しています。前立 腺がんはこの前立腺の細胞ががん化し て無秩序に増殖する病気で、65歳以上 の男性に多く発生する典型的な高齢者 がんです。 前立腺の位置 前立腺がんは元々欧米人、特にアフ リカ系黒人に多いがんでしたが、近年、 日本人においても急速に増加し、2015 診断 年には日本人の男性の全てのがんの中 代表的な検査として、①前立腺がん で、最も多いがんになることが統計的 の腫瘍マーカーである前立腺特異抗原 に予想されています。過去50年間で日 (PSA)を血液検査で測定、②肛門か 本において前立腺がんのために死亡さ ら指を入れて前立腺をさわって調べる れた方は16倍以上増加しています。こ 経直腸的前立腺触診、③前立腺超音波 の理由としては、高齢者の増加、食生 検査があります。さらにがんの疑いが 活の欧米化(高脂肪食の増加、緑黄色 あ れ ば 前 立 腺 生 検 検 査 を 行 い ま す。 野菜摂取不足) 、PSA検査(前立腺が PSA 検査は、症状の全くない早期の んの指標となる採血)の導入、一般へ 前立腺がんを発見するのに最も有用 の周知などのためなどと考えられま で、採血だけですむため、患者さんの す。 負担も少なくてすみます。また、前立 腺超音波検査の中でも肛門から検査す 前立腺がんの診断と治療について以 下に述べます。 る経直腸的超音波検査が前立腺全体の 観察に優れており、がんの場所を診断 することも可能なことがあります。当 科もこの方法で検査を行っています。 14 Prostate Cancer 前立腺生検はおしりに簡単な麻酔を 上記の生検検査で前立腺がんが見つ したあと、超音波で位置を確認しなが かった場合、CT、MRI、骨シンチ検査 ら直腸または会陰(陰嚢と肛門のあい などでがんの局所の広がり、全身転移 だのまたの部分)から細い針で前立腺 の有無を調べ進行度を決定します。前 の組織を少し取る検査です。 立腺がんの進行度は、①限局性前立腺 がん:転移がない状態、②局所進行癌: 当科では会陰よりこの検査を行って 転移はないが、前立腺の外までがんが います。会陰からの方法は従来の直腸 広がっている状態、③転移性前立腺が からの検査に比べて、早期がんが多い ん:リンパ節や骨などに転移がある状 PSA 4ng/ml 以上10ng/ml未満の範 態に分類できます。 囲にある患者さんで前立腺がんの診断 がより正確に行える可能性がありま さらに限局性前立腺がんはPSA値、 す。また、感染症や直腸からの出血と 臨床病期(がんが左右のどちらかにあ いう合併症が経直腸的生検より少ない るか、または両方にあるかなど)、グリ と考えています。 ソンスコアの3つの因子を用いて、低 リスク、中間リスク、高リスクに分け 針生検により前立腺がんが発見され た場合は、悪性度の診断を併せて行い て治療選択を行うことが一般的となっ てきました(表1、2)。 ます。悪性度はグリソンスコアと呼ば れる分類が使われます。これは、がん 組織の構築を5つの型に分け(5が最 も悪性度が高い)、点数化するもので す。前立腺がんの多くは、複数の、悪 性度の異なる成分を含んでいるので、 最も多い成分と、次に多い成分を足し 合わせてその合計点で点数化します。 例えば、最も多い成分が「4」で、次 に多い成分が「3」であれば、4+3 =7となります。 表1 限局性前立腺がんのリスク(危険度) 分類 PSA 10以下 10を超え 20を 20以下 超える 2-6 低リスク 中リスク 高リスク かつ T1c-T2a グリソン スコア 7または 中リスク 中リスク 高リスク T2b と 病期 8-10 または 高リスク 高リスク 高リスク T2c以上 15 前立腺がん 表2 限局性前立腺がんのリスクと各治療 法の適応 治 療 法 年齢の 目安 低 リ 中 リ 高 リ スク スク スク しい低浸襲治療として、手術支援ロ ボットによる手術を積極的に行ってい ます。この手術支援ロボット手術は開 前立腺全摘手術 〜75歳 ◎ ◎ ◎ 放射線外照射 〜80歳 ◎ ◎ ◎ 密封小線源治療 〜80歳 ◎ △ × てすみ、2012年4月から保険適応とな 粒子線治療 〜80歳 ◎ ◎ ◎ りました。 内分泌療法 75歳〜 ○ ○ ○ 無治療経過観察 特になし △注 × × ◎推奨 ○適応あり △条件付き適応 ×適応に問題あり 注1)定期的にPSAを調べたり、針生検をしたりして、 悪化がみられれば治療を開始します。 注2)内分泌療法、密封小線源治療、放射線外照射の 3つを合わせて(トリモダリティと呼ばれてい ます)治療することは可能です。 腹手術より出血が少なく、創が小さく 根治的前立腺摘除術後はPSA値を 定期的に測定して、がんの再発がない かチェックしていきます。術後PSA 値が0.1ng/ml未満になれば完治した と判断し、0.4ng/mlを超えたら再発 と判断して放射線治療か内分泌療法を 追加治療として行います。九州大学泌 外 科的治療 限局性前立腺がんが治療対象とな 尿器科においては術後5年の再発率は 20%、がん死率は1%と良好な成績で す。 り、前立腺全てと精嚢、精管を併せて 摘除して、尿道と膀胱を吻合する根治 的前立腺摘除術を行います。根治的前 立腺摘除術の合併症としては尿失禁と 性機能障害がありますが、尿失禁に関 しては、ほとんど数ヶ月から1年後に は改善しています。性機能に関しては 開放手術の創: ロボット補助手術の創: 臍から恥骨上まで 5 12mm の穴を開けて 縦に切開します。 手術します。 がんの根治性を損なわなければ神経温 存手術が可能ですが、完全な性機能の 温存は困難な場合があります。手術法 内 科的治療 として以前から行われており確立して 内分泌療法 いる開腹手術の他に、当科では、患者 前立腺のがん細胞は男性ホルモンに さんの生活の質(QOL)を重視し、新 よって増殖するという特徴があり、男 16 Prostate Cancer 性ホルモンを抑える注射や内服薬で治 療が無効となった方や副作用で治療で 療します。一般的には根治にはなら きない方にはカバジタキセルという抗 ず、がんをおとなしくして付き合って 癌剤が使用されます。主な副作用は、 いく方法で、診断時に転移がある方が 骨髄抑制、特に白血球低下です。 治療対象となります。また、転移はな いものの、高齢であることや、合併症 で根治治療を受けられない方に内分泌 放 射線治療 療法を行うこともあります。また、放 根治治療としては下記の2通りの方 射線治療などの補助治療として併用す 法があります。いずれも副作用とし ることもあります。副作用としては性 て、頻便や排便痛、出血、頻尿や排尿 機能障害、発汗、顔面紅潮、体重増加、 痛などがありますが、重篤なものは少 女性化乳房等があります。長期の使用 ないです。 で糖尿病の悪化や、高脂血症、骨粗鬆 症、心血管系の副作用の可能性があり 外照射療法 ます。内分泌療法が効かなくなった病 体外から前立腺に放射線を照射しま 態は去勢抵抗性と呼ばれますが、2014 す。現 在 は、強 度 変 調 放 射 線 治 療 年から、エンザルタミド、アビラテロ (Intensity Modulated Radiotherapy: ンという新規薬剤が保険収載され、使 IMRT)という高精度放射線治療を標準治 用できるようになりました。 療としています。総線量72〜76Gyの照射 を行い、さらなる局所コントロール率の向 抗がん剤治療 上、直腸・肛門等に対する消化管毒性の低 内分泌治療が効かなくなり、病気が 減が可能となってきています。一般的に 進行した方が対象で、ドセタキセルと は週5回で7週間前後を要し、外来通院治 いう抗がん剤を3〜4週ごとに点滴し 療が可能です。 ます。主な副作用は、倦怠感、悪心、 嘔吐、骨髄抑制(血小板低下、白血球 密封小線源療法(組織内照射法) 低下、貧血) 、神経障害などで、副作用 放射線を放出する小さな針(ヨード のコントロールがつけば外来での抗が 125アイソトープ)を前立腺へ埋め込 ん剤治療が可能です。ドセタキセル治 む治療法です。麻酔下に超音波で確認 17 前立腺がん しながら、会陰(睾丸と肛門の間)か 分泌治療に関するランダム化比較試験 らアイソトープを埋め込む手術で、手 (JCOG0401試験)」が企画され、内分 術時間は約2時間、 入院は1週間です。 泌療法に先行して放射線療法を行う意 この治療は、外照射より副作用が少な 義を検証することを目的としていま い利点がありますが、悪性度が低いリ す。現在、登録は終了し、患者さんの スクのがんを適応としています。中間 経過を観察する段階に入っています。 リスクのがんに対してはホルモン治療 2.「未治療中間リスク群限局性前立 を併用しています。 腺癌に対するNHT+ヨウ素125密 臨 床研究 封小線源永久挿入療法+AHT併 1.「早期前立腺がん根治術後のPSA 線源永久挿入併用療法とのランダ 再発に対する放射線照射と内分泌 ム化比較臨床試験(SHIP0804)」 治療に関するランダム化比較試験 未治療限局性中間リスク群前立腺が 用療法とNHT+ヨウ素125密封小 ん患者を対象に、ヨウ素125密封小線 (JCOG0401試験)」 手術療法(根治的前立腺摘除術)の 源永久挿入療法と内分泌療法の併用療 Specific 法を施行し、密封小線源永久挿入療法 Antigen)が上昇するPSA再発は約 後の内分泌療法の有無で2群に分けて 20〜25%の患者さんにみられ、その治 ランダム化比較試験を行いPSA再発 療法は未だ確立されていません。すな 率、PSA動態を比較検討する研究で わちPSA再発が局所であれば放射線 す。現在、登録は終了し、患者さんの 療法、遠隔転移であれば全身療法とし 経過を観察する段階に入っています。 後、 PSA (Prostate ての内分泌療法が適当と思われます が、再発部位を画像的に特定すること 3.転移性前立腺癌に対するGnRH は困難であり、いずれの治療を選択す アンタゴニスト単剤療法と べきかについての明らかなエビデンス GnRHアゴニストCAB療法のラ は確立されていません。 ン そのため「早期前立腺がん根治術後 のPSA再発に対する放射線照射と内 18 ダ ム 化 比 較 試 験 (KYUCOG-1401) 転移性前立腺癌には内分泌療法が標 Prostate Cancer 準治療です。従来、日本ではGnRHア るabiraterone acetateおよびプレド ゴニストと抗アンドロゲン内服を併用 ニゾン/プレドニゾロンとの併用投与 したCAB療法が広く行われてきまし による塩化ラジウム-223の第Ⅲ相、無 た。最近、GnRHアンタゴニスト製剤 作為化、二重盲検、プラセボ対照比較 が保険収載され、GnRHアゴニストに 試験」 比べ早期に男性ホルモンを低下させる 作用があり、この薬による単独治療と 骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん 従来のCAB療法の有効性、安全性を に対して、アビラテロンが投与できる 比べる研究です。現在患者さんの登録 ようになりましたが、これに放射線核 を行っています。 医学治療薬である、Ra223(ラジウム その他、摘出した前立腺を顕微鏡で 223)を併用することで、より有効とな 詳細に検討する病理学的研究や、手術 るかを検討する治験です。Ra223(ラ 法に関する研究など多数の臨床研究を ジウム223)はカルシウムの同属で、骨 行っています。 転移のある部位に吸着し、100μm以 内という至近距離内にα線と呼ばれる 治験 放射線を放出して周囲の細胞を破壊し ます。全生存期間や骨関連事象(転移 「骨 転 移 性 去 勢 抵 抗 性 前 立 腺 癌 による痛みや骨折など)を減らす効果 (CRPC)を有する無症候性または軽 が確かめられ、すでに欧米では承認さ 度症候性の化学療法未治療患者におけ れ使用されている薬剤です。 19 腎盂尿管がん 在も不明なことが多いものの、同じ尿 は じめに 路上皮がんである膀胱がんと共通する 腎盂・尿管は腎臓で作られた尿を集 発がん因子が知られています。中でも め膀胱へ運ぶ管状の臓器で、その表面 喫煙と尿路上皮がんの発がんに関して は尿路上皮という上皮細胞に覆われて は、非喫煙者に比べ喫煙者で発癌リス います。腎盂・尿管から発生するでき クが約3倍高くなることが知られてい もの(腫瘍)は、そのほとんどが尿路 ます。そのため、腎盂尿管がん、膀胱 上皮から発生する上皮性腫瘍です。そ がんを含め、尿路上皮がん予防のため のうち75〜80%は悪性腫瘍で、これら には禁煙が重要になります。その他、 を「腎盂尿管がん」あるいは「上部尿 フェナセチンに代表される鎮痛薬、シ 路がん」と呼びます。 クロフォスファミドのような抗がん剤 男 女 副腎 腎臓 腎盂 尿管 精のう 膀胱 前立腺 尿道 精巣 と腎盂尿管がん発がんの関係が知られ ています。 症状として最も多いのは血尿です。 ご自分で赤い色の尿に気づいて来院さ れることがあり、このように血のま じった尿を肉眼的血尿と呼びます。一 方で、検診などでの尿検査にて血が混 腎盂尿管がんは、泌尿器科領域の悪 じっていると指摘され発見されること 性腫瘍の中でも頻度は低く、尿路上皮 もあり、このような目で見てもわから がんの4〜5%程度です(尿路上皮が ない血尿を顕微鏡的血尿と呼び、両方 んのほとんどは膀胱がんです)。腎盂 を合わせて広い意味での血尿と呼んで 尿管がんの20〜50%程度は多発性で、 います。その他の症状としては、側腹 腎盂尿管内での多発のほか、膀胱に同 部痛がみられることがありますが、近 時あるいは後からがんが発生すること 年では腹部超音波検査にて水腎症を指 が知られています。年齢は50〜70歳代 摘されて発見されることも多くなって に多く、男女比は2〜4:1で男性に きました。 多く見られます。 腎盂尿管がんの発がんについては現 20 腎盂尿管がんの治療方針は、がんの 広がりと深さによって大きく異なりま Urinary Tract Cancer す。したがって、治療方針を決定する 膀胱鏡検査 際は詳しく検査を行い、検査結果を総 前述のように、腎盂尿管がんより膀 合して病状を診断した上で最適な治療 胱がんの方が高頻度であることや、腎 法を提示していきます。実際の治療法 盂尿管がんの場合には膀胱がんの合併 としては、後に詳しく説明いたします も高頻度にみられることから、膀胱鏡 が手術療法(腎尿管全摘除術)が中心 (膀胱内を見る内視鏡)を尿道から膀 です。その他、抗がん剤を使った全身 胱へ挿入して膀胱内を観察します。 化学療法や放射線療法などを病状にあ わせて選択していきます。 腹部超音波検査(エコー) 主に、水腎症の有無や腎盂がんの確 診断 認に用いられます。患者さんへの負担 が少なく、簡便に行える検査です。 尿検査 尿を採取して顕微鏡的血尿の有無の 確認や、尿路感染の合併の有無などを 確認します。 尿路造影検査 造影剤を使用したCTやMRIなどに より尿のながれに異常がないか確認し ます。排泄性尿路造影検査(DIPまた 尿細胞診 はIVP)により尿のながれを確認する 尿の中にがん細胞が混じっていない こともありますが、最近では造影CT か確認します。尿細胞診検査は5段階 などが選択されることが多くなってき で評価されます。クラス1、2は悪性 ました。また、腎盂尿管がんが強く疑 所見なし、3は偽陽性、4、5では悪 われる場合には、膀胱鏡を入れ膀胱内 性所見が強く疑われます。しかし、が の尿管口(尿管の出口)からカテーテ んがあっても尿細胞診では異常を認め ル(細い管)を入れて尿を採取したり ないことも多く、検査結果が陰性で 造影検査を行ったりします(逆行性尿 あってもがんがないとは言いきれませ 路造影検査)。 ん。 尿管鏡検査 腎盂尿管がんが疑われても、これま 21 腎盂尿管がん での検査で診断するには十分な所見が がら満足いくものではありません。一 得られなかった場合、尿管鏡検査が行 方、転移のある腎盂尿管がんの場合に われることがあります。尿道から膀 は、進行膀胱がんでも行われる全身化 胱、尿管へ図のような細く長い内視鏡 学療法が行われます(詳細は後述の内 を入れて尿管や腎盂を観察し、異常が 科的治療をご参照下さい)。 疑われる部分を採取(生検)します。 腎尿管全摘除術 がんのある方の腎臓から尿管、尿管 付近の膀胱の壁をひとかたまりですべ て切除する術式です。たとえ腎盂だけ にがんがみられたとしても、尿管を残 した場合残った尿管に高率にがんの再 発をきたすため、腎臓から尿管をすべ その他画像診断 て摘出します。通常腎臓は左右に1つ CT、MRI、骨シンチなどにより、が ずつあり、片方を摘出したとしても、 んの広がりやリンパ節転移、肺、骨、 もう一方が正常に働いていれば日常生 肝臓などへの遠隔転移がないかを調べ 活において問題になることはほとんど ます。 ありません。 また、手術前の画像検査や生検の結 外 科的治療 腎盂尿管がんの治療は、がんの根の 果、浸潤性がんという根の深いがんで あることが予測された症例ではリンパ 節転移の可能性が否定できないため、 深さや転移の有無によって大きく異な リンパ節をまとめて摘出するリンパ節 ります。転移のない腎盂尿管がんの場 郭清術が同時に行われることがありま 合には、全身状態などから可能であれ す。 ば根治療法として手術療法が第一選択 従来は腹部あるいは側腹部から下腹 になります。その他の治療法として 部までの大きな傷から手術を行ってい は、化学療法、放射線療法、免疫療法 ましたが、現在では周囲に浸潤が疑わ などになりますが、治療成績は残念な れるような一部の症例を除いて、ほと 22 Urinary Tract Cancer んどの症例で腹腔鏡手術が行われてい の大きさが小さく、1〜2個で根の浅 ます。その場合、側腹部の4〜5ヶ所 い腫瘍であれば、レーザーを用いて内 に1cm程度の小さな穴をあけて、そ 視鏡的に腫瘍を蒸散させることがあり こから内視鏡などの道具を入れて腎臓 ます。特に、腎臓が片方しかない場合、 を遊離します。遊離した臓器を摘出す 高齢である場合や大きな合併症がある る穴は必要になるため、当院では下腹 場合などでは、治療法の一つとして積 部を開放して、膀胱部の処理と臓器の 極的に考慮しています。また最近で 摘出を行っています。開放手術に比較 は、前述のような方以外でも腫瘍の悪 して腹腔鏡手術では出血量が少なく、 性度が比較的低い場合には、内視鏡的 傷の痛みが軽く、術後の回復が早くな 治療を考慮しています。ただし、腎盂 ります。現在、九州大学病院では基本 尿管内での再発率が高いため頻回の尿 的には腹腔鏡下腎尿管全摘術を行って 管鏡検査が必要であり、すべてが経尿 おり、5%弱の患者さんが癌の進展や 道的手術の適応となるわけではありま 手術の既往のために開放手術を受けら せん。 れています。 尿管部分切除 内 科的治療 がんが尿管の一部のみにある場合 腎盂尿管がんに対する内科的治療と で、腎盂尿管が片方しかないような場 して主なものに以下の二つがありま 合では、腎を温存し人工透析を回避す す。一つは、がんの局所治療として行 る目的で尿管の一部のみを切除してつ うBCG(ウシ型弱毒結核菌)あるいは なぎ合わせる尿管部分切除術をするこ 抗がん剤の注入療法で、もう一つは全 とがあります。ただし、標準治療では 身療法として行うがん化学療法です。 なく再発の可能性もあるため治療の選 択についてはよく相談する必要があり BCG腔内注入療法あるいは抗が ます。 ん剤腔内注入療法 腎盂尿管がんの中でも上皮内がんと 経尿道的腎盂尿管腫瘍蒸散術 画像検査や尿管鏡検査の結果、腫瘍 いって上皮内のみに広がるがんがある 場合に、尿管内にステントという細い 23 腎盂尿管がん 管を入れ、この管を通してBCGを注 入します。副作用として、発熱や排尿 時痛が起こることがあります。また、 放 射線治療 放射線治療は放射線を患部に照射す 腎機能が悪いなどの理由で腎尿管全摘 ることによりがん細胞を傷害する治療 除術が難しい場合などに、前述の経尿 法で、患者さんの負担が少ないやさし 道的腎盂尿管腫瘍切除術と組み合わせ い治療法です。しかしながら、同時に て抗がん剤の注入を行ったり、BCG 正常な組織においても細胞障害は起こ の注入を行うことがあります。 るため、放射線のエネルギーが正常組 織に対して無視できない影響を与える 全身化学療法 と放射線障害と呼ばれる副作用を起こ 点滴等により抗がん剤を投与して行 します。がんのコントロールのために う治療です。腎盂尿管がんで転移のあ 必要な放射線のエネルギーは、それぞ る場合や手術後に再発した場合などで れのがんの感受性によって異なりま 行われる全身に対する治療です。一般 す。腎盂尿管がんを含めた尿路上皮が 的には、進行膀胱がんでも行われる数 んでは、この感受性があまり高くない 種類の抗がん剤を組み合わせて使う多 ため効果もそれほど期待できません。 剤 併 用 化 学 療 法(GC 療 法 あ る い は そのため、根治療法として第一に選択 M-VAC療法)が行われます。また、 されることはありません。ただし、年 手術前にリンパ節転移や浸潤が疑われ 齢や合併症などのために手術が難しい るような進行がんの場合に、術前補助 場合や、痛みなどの症状を緩和する目 化学療法として抗がん剤治療を行い、 的で患部への放射線照射が行われるこ その効果をみて手術を行うこともあり とがあります。また、放射線治療の効 ます。一方、 手術後の組織検査の結果、 果を高める目的で、化学療法を併用す 周囲の脂肪組織へがんが進展している ることもあります。また、転移巣に対 場合、血管やリンパ管などにがんが入 して痛みの軽減や麻痺の回避などのた り込んでいる場合などは、再発の危険 めに放射線照射が行われることがあり 性が高くなることが知られているため ます。 補助化学療法といって予防的に抗がん 剤治療を行うこともあります。 24 Urinary Tract Cancer 臨 床研究 現在、当院では下記のような臨床研 究を進めています。 最近になって、アリストロキア酸とい う物質を含むハーブの使用と上部尿路 がんの関連が指摘され注目されていま す。そのため本研究では、我が国にお いてアリストロキア酸による上部尿路 (当院における上部尿路がんに対す がんがどの程度みられるのかを検証 る腎尿管全摘術の治療成績に関する し、上部尿路がんの発がん原因を解明 後ろ向き研究) することを目的としています。そのた 九州大学病院泌尿器科において、上 め、同意いただいた患者さんから、手 部尿路がん(腎盂尿管がん)と診断さ 術により摘出された臓器の一部を採取 れ、腎尿管全摘除術を受けられた方の して、DNAを抽出し九州大学及び分 治療成績に関して、治療後の再発、病 担 研 究 者 で あ る Stony Brook 理組織学的検査結果、手術法など様々 Universityにおいて解析を進めてい な面から後ろ向きに解析を行っていま ます。 す。これらの治療成績を詳しく分析す ることや、他施設の成績と比較するこ (JCOG1110-A 根治手術が実施さ とにより、よりよい治療へ向けた検討 れた上部尿路癌におけるリンパ節郭 を行っています。 清術の意義と術後の膀胱再発に関す る調査研究) (本邦での上部尿路がんにおけるア JCOG(Japan Clinical Oncology リストロキア酸の関与に関する多施 Group:日本臨床腫瘍研究グループ) 設共同研究) という組織において、「希少悪性腫瘍 上部尿路がんがなぜできるのかを解 に対する標準治療確立のための多施設 明することは、その予防や治療法の開 共同研究」の一つとして当院泌尿器科 発において重要なステップとなりま 学分野名誉教授・内藤誠二を研究代表 す。喫煙やフェナセチン含有鎮痛剤の 者として行っている臨床研究です。日 使用により上部尿路がんが発生する危 本国内の多施設において上部尿路がん 険性が高くなるという報告があります (腎盂尿管がん)と診断され根治手術 が、未だ不明な点が多いのが現状です。 が行われた患者さんを対象に、その術 25 腎盂尿管がん 後の治療成績を検証することにより、 は高率に膀胱内再発がみられることは 上部尿路がんの治療成績を向上させる 前述のとおりですが、その再発率を低 ための前向き研究を企画していきま 減するために術後の膀胱内への抗癌剤 す。特に、腎尿管全摘術時に同時に行 注入療法が試みられています。今回の われたリンパ節郭清術により治療成績 研究では、実際に膀胱内注入療法によ が向上するのか、あるいはリンパ節郭 り再発が低減されていたのかを検討す 清術の郭清範囲によって成績が違うの るとともに、膀胱内再発のリスク因子 かといった疑問に関して後ろ向きに検 について解析します。 証します。また、上部尿路癌の術後に 26 MEMO 九州大学病院がんセンター 27 28 2016年3月
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