チャド共和国における スーダン難民の状況及び支援活動 現地調査報告

チャド共和国における
スーダン難民の状況及び支援活動
現地調査報告
平成16(2004)年7月
(財)アジア福祉教育財団
1
難民事業本部
(目次)
頁
Ⅰ.調査概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2.調査員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
3.調査方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
4.日程及び訪問先と面談者名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
Ⅱ.調査要約・所感・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
Ⅲ.調査結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.発生の背景及び状況等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
2.スーダン難民に対する支援活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(1)政府・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(2)国連・国際機関等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(3)IFRC及びチャド赤十字・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
(4)NGO・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
3.調査団が訪問した難民キャンプ及び国境の状況・・・・・・・・・・・・・・・11
(1)Farchana 難民キャンプ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(2)Bredjing 難民キャンプ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
(3)Mille 難民キャンプ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
(4)国境(Tine)の様子・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
4.今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
(1)国際社会の関心
(2)難民数の増加
(3)難民を受け入れている地元地域への支援
(4)インフラ
(5)環境問題
(6)キャンプ内での活動のニーズ
(7)帰還
Ⅳ.資料
1.SUDANESE REFUGEES IN EASTERN CHAD 24.05.2004
2.UNHCR Memorandum
3.UPDATE ON UNHCR’S OPERATION IN EASTERN CHAD Annexe 1.
4.Post Analyses (OSP)
5.ADDITIONAL BUDGET REQUIREMENTS TO COVER THE EMERGENCY NEEDS OF
200,000 SUDANESE REFUGEES IN EASTERN CHAD
6.HAUT COMMISSARIAT DES NATIONS UNIES POUR LES REFUGIES
(STATISTI QUES DU 31 MAI 2004)
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略語一覧表
ADB: African Development Bank
AHA: Africa Humanitarian Action
ADRA: Adventist Development & Relief Agency
ARC: American Refugee Committee
CEP: Community Empowerment Projects
CSB: Corn Soya Blend
CNAR: Commision Nationale d’Acceuil et de Reinsertion des Refugies
ECHO: European Community Humanitarian Office
ECOMOG: West Africa States(ECOWAS) Monitoring Observer Groups
ECOWAS: Economic Community of West African States
FAO: Food and Agriculture Organization
GA: Government Agent
GBV: Gender Based Violence
GTZ: German Agency for Technical Co-operation
ICRC: International Committee of the Red Cross
IDP: Internally Displaced Persons
IFRC: International Federation of Red Cross
IOM: International Organization for Migration
IMC: International Medical Corps
IP: Implementing Partners
IRC: International Rescue Committee
JEM:Justice and Equality Movement
JRS: Jesuit Refugee Service
LDC: Local Development Committee
LWF: Luthern World Federation
MAG: Mines Advisory Group
MSF: Medecins sans Frontieres
NGO: Non-governmental Organization
NMJD: Network Movement for Justice and Development
NRC: Norwegian Refugee Council
PC: Paramount Chief
PWJ: Pease Winds Japan
RUF: Revolutionary United Front
SGBV: Sexual and Gender Based Violence
SLA: Sudan Liberation Army
SPLA: Sudan Peoples’ Liberation Army
UNDP: United Nations Development Program
UNHCR: United Nations High Commissioner for Refugees
UNICEF: United Nations Children's Fund
(UN)OCHA: United Nations Office of the Coordination of Humanitarian Affairs
UNOPS: United Nations Office for Project Services
USCR: U. S. Committee for Refugees
WB: World Bank
WFP: World Food Program
WHO: World Health Organization
WVI: World Vision International
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Ⅰ.調査概要
1.目的
チャドにおけるけるスーダン難民はスーダンとの国境付近に滞留しており、安全な地域
への緊急の移送をUNHCRが実施し、活動可能なNGOを求めている。右活動に関して
は、日本のNGOが強い関心を示し、また6月に雨期が始まるため、当事業本部として、
チャドにおけるスーダン難民の状況を調査し、政府機関、UNHCR等の国際機関、NG
O等の活動を視察することにより、難民の状況と支援活動の状況を把握し、日本のNGO
等へ情報を提供し、今後の日本のNGOのチャドにおける活動展開への検討に生かすこと
を目的とする。
2.調査員
(1)外務省
総合外交政策局国際社会協力部 人権人道課人道支援室
外務事務官
中野 卯一郎
(2)在カメルーン日本大使館 三等書記官
水元 康治
(チャドを兼轄している在カメルーン日本大使館より同行参加)
(3)UNHCR(国連難民高等弁務官)駐日事務所 副代表
浅羽 俊一郎
(4)緑のサヘル
代表理事
高橋 一馬
(5)特定非営利活動法人 日本国連HCR協会
寄付担当
井上 清治
(6)アジア福祉教育財団 難民事業本部企画調整課
小村 真名子
3.調査方法
(1)ホームページ等からの情報収集
(2)関係者からの情報・意見聴取等
(3)調査員間での意見交換
(4)現地における関係者からの情報・意見聴取、インタビュー及び資料収集等
(5)現地調査(現地視察・写真及びビデオ撮影)
(6)関係者個人(難民等)にインタビュー
4.日程及び訪問先と面談者名
5月
29日(土)成田発
機内泊
30日(日)ンジャメナ着
UNHCR チャド事務所訪問
Mr. Lino Bordin, UNHCR Deputy Chief of the Mission
チャド政府(CNAR: Commission Nationale d’Accaeil et de reinsertion de
Refugees)
Mr. Mahaumodu Abnoulai
緑のサヘル訪問
成沢駐在員
ンジャメナ泊
31日(月)ンジャメナ→アベシェ(Abeche)(UN 機で1時間半)
Mr. Bernard Chamoux, Sinior Programme Officer, UNHCR Chad Office
(4 日間の現地視察に同行)
UNHCR アベシェ地域事務所訪問
Mr. Theophilus C. Vodounou, Head of Suboffice
Security Officer
1
Farchana 難民キャンプ視察(車両でアベシェより2時間半)
Bredjing 難民キャンプ視察
アベシェ州知事との面談
アベシェ泊
6月
01日(火)アベシェ→ゲレダ(Guereda)(車両 4時間)
Mille 難民キャンプ及び難民の移送を視察
ゲレダ県知事との面談
ゲレダ泊
02日(水)スーダンとの国境(Tine)視察(ゲレダから車両で2時間半)
ゲレダ→アベシェ(車両 4時間)
アベシェ泊
03日(木)アベシェ→ンジャメナ(UN機で1時間半)
Ministry of Territory
Mr. Djidda Moussa Outman 次席
ンジャメナ泊
04日(金)Ministry of the Environment
World Food Program (WFP)
Mr. Jean-Charles, Deputy Director
Care International
Mr. Thierry Copois, Country Representative
SECADEV
Mr. Sou Ngadoy Ngaba, Director-General
Mr. Elie Yan Yara, Study & Evaluation Officer
Person in charge of Accounting
UNHCR N’djamena Office
Mr. Albert Wa-Nsenga Katumba, Chief of Protection
ンジャメナ泊
05日(土)UNHCR 代表、副代表と面談(Debriefing)
Mr. Lino Bordin, UNHCR Deputy Chief of the Mission
Mr. Bernard Chamoux, Sinior Programme Officer, UNHCR Chad Office
ンジャメナ泊
06日(日)ンジャメナ発
機内泊
07日(月)成田着
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Ⅱ.調査要約・所感
UNHCR駐日地域事務所
浅羽副代表 執筆
○雨季の到来を目前に5月30日から6月6日までチャド東部のスーダン難民の状況を
視察してきた。今回のミッションの参加者は日本政府(2人うち1名は現地参加)、日本
のNGO(2人)
、国連機関(1人)、そして主催者の難民事業本部(1人)、という6人
チームだった。今回のミッションは、スーダン西部のダルフール地方から昨年来流出して
きた難民の実情を視察し、それを元に今後日本としての支援体制を考えるための情報収集
をすることで、現地での受け入れ・ロジ等はスーダン難民支援に主導的役割を担っている
UNHCRのチャド事務所(ンジャメナ現地本部とフィールド事務所)に一任した。
○UNHCRは、昨年後半よりダルフール(スーダン)難民支援活動を少しずつ展開して
きたが、本格的にチャド事務所がキャンプ設営、政府やNGOとの連携・協力、人員増強
に着手したのは10万を超えた難民のチャド流入が始まった今年に入ってからだった。当
時UNHCRが発信したメッセージは、国際社会の無関心への懸念と、雨季の前にキャン
プに難民移送を完了する必要を訴えるものだった。
○実際、私達がチャドについた時点でも、10あるキャンプのうち2つが完成しておらず、
難民移送もまだ続いていた。そのうち、3つのキャンプ視察をとおして目撃したのは、ま
さに緊急支援体制作りに携わるUNHCRやNGOのスタッフ達が時間との競争の中で、
難民の安全と安心を確保するために奔走している姿だった。今回のミッションにとっては
このような現場にリアル・タイムで居合せることが出来たのは貴重な経験であった。そこ
では、UNHCRが中心になって難民支援体制は整えられつつあり、WFP(世界食糧計
画)や国際・国内NGO、との間では役割分担も計画の上では一応完了していた。しかし、
その計画もいくつもの障害を乗り越えねば実施に移せない場合がままあった。詳しくはレ
ポート本文で各メンバーが述べているので参照されたい。要はマスコミもほとんど取り上
げない人道危機に国際社会はどう責任をとる用意があるか、ということ。もう少し言えば、
アフリカでも最貧国の一つであるチャドの、その中でも生態系の脆弱な地域に入ってきた
18万人に上るダルフール(スーダン)難民の保護と支援、さらにそれと並行して彼等を
受け入れざるを得なかった地元への中・長期的対策という人道・環境「複合」危機に対し
て、国際社会としては如何に関るか、ということである。その意味でも、チャドの環境問
題に12年間関ってきた実績を持つ日本のNGO「緑のサヘル」が現地においてUNHC
Rの事業に参画することになったことを特記したい。
○組織の異なる参加者達が行動を共にしつつ、且つ、それぞれの視点からただ現場事情を
理解しただけでなく、障害の多い中での緊急支援体制作りを実地で学んだことの意義はと
ても大きい。今後日本において広報,募金活動にいかしていくことが私達に与えられた責
任である。
○末筆になるが,今回の「チャドにおけるスーダン難民の現地調査」を企画・主催された
難民事業本部に対して感謝申しあげたい。
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Ⅲ.調査結果
1.発生の背景及び状況等
(1)スーダンの内戦
(イ)スーダンは 1956 年独立したが、以前より北部のアラブ系イスラム教徒と南部のアフ
リカ系キリスト教徒との間で対立があり、独立直後から武力対立が発生した。
(ロ)1983 年に当時のスマイリー政権がイスラム法のシャリーアを導入し、当時南部の非
イ ス ラ ム 教 徒 が 多 い ス ー ダ ン 人 民 解 放 軍 ( SPLA: Sudan Peoples’ Liberation
Movement/Army)が武装闘争に入り、20 年以上にわたって内戦が続いていたが、2004 年 5 月
27 日にはスーダン政府と SPLA は、内戦を終結させる包括的和平協定に調印し、停戦合意が
締結された。
(ハ)ダルフール地域
(a)同地域はスーダンの 1/6 をしめ、スーダン国内の中でも開発が進んでいない地域で
あり、また定期的に旱魃の被害を受けている。
(b)
(1)
(ロ)のようにスーダン南部地域においては、スーダン政府と SPLA との和平プ
ロセスは進んでいたが、2001 年秋頃よりスーダンのダルフール(スーダン西部のチャドと
国境を接する地域)地域において政府系民兵(Janjaweed 注1)と反政府勢力との対立が
始 ま っ た 。 反 政 府 勢 力で あ る ス ー ダ ン 解 放 軍・ 運 動 ( SLA/M : The Sudan Liberation
Army/Movement 注2)及び正義・平等運動(JEM:Justice and Equality Movement 注3)
との紛争は、2003 年 2 月に本格化し、2003 年末の時点で、ダルフール地域で約 60 万人の
国内避難民が発生し、約 7 万人がチャドへ流入した。
(c)2003 年 9 月にはスーダン政府と SLA/M との間で敵対行為停止についての基本合意が
締結されたが、治安状況は依然として不安定であった。同年 12 月にチャドの首都であるン
ジャメナでスーダン政府と SLA/M との間での和平交渉は決裂したが、アフリカ連合(AU)
が停戦監視機構の設置など紛争解決の努力を行っており、2004 年 4 月にンジャメナでスー
ダン政府と反政府武装勢力との間で合意した 45 日間の停戦協定は、5 月にさらに 45 日間延
長されている。
(注1)Janjaweed:スーダン政府から支援を受けているとされるアラブ系民兵組織グルー
プ
(注2)SPLA と SLA は異なる組織。SLA は 2002 年に設立された Darfur Liberation Front
(DLF) を引き継ぐ形で 2003 年設立された。
(注3)JEM:ダルフール地域の Zaghawa 族を中心に 1999 年ころ設立された勢力。
(2)スーダン難民、国内避難民等
19 年間におよぶスーダン政府とスーダン人民解放戦線・軍(SPLM/A:Sudan Peoples’
Liberation Movement/Army)との内戦で、1983 年以来 200 万人の人々が戦闘に関連して死亡
し、400 万人の人が国内避難民となった。
(3)周辺国のスーダン難民
2003 年の 2 月時点での周辺国のスーダン難民は、ウガンダに 17 万 2 千人、エティオピアに
9 万人、ケニアに 8 万人、コンゴ民主共和国に 7 万人、中央アフリカに 3 万 6 千人、チャド
に 1 万 2 千人であった。
(4)チャドのスーダン難民
(イ)1990 年代後半から 1997 年頃までの難民数は 300 人程度であった。1999 年のスーダ
ンのダルフール地域におけるアラブ民兵によるアフリカ系の住民に対する暴力により 50 の
村が破壊され、2,000 人死亡し、チャドに 10,000 人が流入した。
4
(ロ)その後、2002 年頃までの難民の数は 2 万人以下で推移していたが、上記(1)
(ハ)
の戦闘により、2003 年 4 月頃よりスーダンとの国境を接するチャド東部にスーダン難民が
多数流入し始め、同年 9 月には 6 万 5 千人に達し、
また 12 月の 1 ヵ月間で 3 万人が流入し、
2004 年 5 月初めの時点で、合計 12 万 5 千人に達している。
(ニ)チャドとスーダンとの国境地帯は自然環境が厳しく、またスーダンの武装集団によ
る越境攻撃も受けており、UNHCR は難民の安全確保のためにチャド国内でスーダンとの国境
から離れた場所に難民キャンプを設け、チャド側の国境付近に滞在している難民の移送を
進めている。難民の移送は雨期に入ると道路の通行が困難となるため、UNHCR はキャンプの
開設を急ぎ、難民の移送も急いでいる。
(ホ)チャド国内のスーダン難民数の推移
年・月
難民数
1996・12
100
1997・12
300
1998・12
10,000
1999・12
20,000 新規流入 10,000
2000・12
20,000 自力で5,000が帰還
2001・12
20,000
2002・12
15,000
2003・12
96,000
2004・5初旬
125,000 77,000のキャンプ登録者を含む
2004・6初旬
182,069 調査団訪問時
なお、難民登録者数は日々変化している。
(5)現在の状況
(イ)調査団が訪問した 2004 年 6 月初め、UNHCR は 7 ヵ所の難民キャンプを開設し、また
3 ヵ所の難民キャンプを設営中であった。さらに、数ヵ所のキャンプ地を求めており、チャ
ド政府と話し合いをしている。また、難民キャンプは安全上の理由から国境から 50km以
上離れた地域に開設されている。ただし北部の1ヵ所の難民キャンプは、水の確保のため
に国境付近に開設せざるを得なかったとのことである。
(6 月 4 日には 8 ヵ所めの難民キャ
ンプが開設された。
)
(ロ)調査団が訪問した時に 7 ヵ所の難民キャンプに登録された難民数は 77,178 人、国境
付近に滞在している難民数は 105,431 人であり、全体で 18 万人を超えており、UNHCR は引
き続きチャド側の国境付近に滞在している難民の移送をしている。
(ハ)全体として、65%が女性と子供および老人である。
(ニ)UNHCR は難民保護について、難民キャンプの安全確保、性差暴力の予防等が不可欠と
している。
(ホ)UNHCR は 2004 年 2 月には、流入する難民数を 11 万人と予想していたが、5 月には 20
万人に修正し、難民数増加に伴う、予算増のアピールを出している(資料参照)
。
(ヘ)UNHCR は 2003 年 11 月と 12 月に緊急対応の 2 チームを現地に派遣して活動を実施し
ている。
(ト)また現在のチャド大統領は難民が流入している地域のザガワ族出身であり、スーダ
ンのダルフール地域で反政府活動をしている部族である。同大統領は中立の立場をとって
いるが、政府軍幹部の多くはザガワ族であり、スーダンの反政府勢力に同情的である。
(チ)なお、UNHCR はチャド国内においては、スーダン難民のほかにチャド南部に滞在して
いる 3 万人の中央アフリカからの難民支援も実施している。
5
2.スーダン難民に対する支援活動
(1)政府
(イ) チャド政府(ンジャメナ)
内務省(Ministry of Territory)及び環境省(Ministry of Environment)幹部との意
見交換を行ったところ、先方の説明及び要請の概要以下の通り。
(a)チャド東部へのスーダン難民の流入を懸念している。
(b)チャド政府内では、CNAR(セナー:チャドに流入する種々の難民全体の登録と UNHCR
への通報、及び調整を担う委員会。1996 年に大統領府令により発足。)及び COSAR(コザー:
今次ダルフール紛争に起因したスーダン難民問題のみを扱う委員会。政府、各国大使館、
国連機関、NGO 関係者から成り、各メンバーが取り得る支援策を実施。)が中心となって、
今次スーダン難民支援に対応。
CNAR の入り口
(c)チャドは 1968 年に難民条約を批准しており、昨年 8 月以来流入する難民に庇護を与
え支援を行ってきた。チャド政府としては、
「地元コミュニティの自助努力を支援する」と
いう立場であり、支援能力は限られている為、国際社会に支援を要請したい。
(d)難民を受け入れ困難を共有してきた脆弱な地元コミュニティも支えて欲しい。
(e)貴重な緑と水を中心に環境面でのダメージが深刻(難民による薪の伐採、難民が連
れてきた家畜の放牧等)
。改良釜戸の普及や緑と植林の重要性に対する啓蒙、及びキャンプ
内の水の確保とトイレの設置が急務。
(f)難民のスーダン側への帰還は様々な要素が絡む為、当面(少なくとも 1∼2 年)は不
可能且つ見通しも困難。
(g)日本の NGO が難民支援に関わるのは歓迎。他方、外国の NGO はチャド政府を通さず
に活動している例が多く見受けられるところ、活動に当たっては計画省(Ministry of
Planning)に通報・登録(1 ヵ月程度を要するとの由。
)して欲しい。人道支援活動とい
う性格上、国内移動許可や免税等、可能な限りの便宜を計る。
(ロ)地方政府
WADDAI 州知事及び GUEREDA 県知事と意見交換したところ、先方の説明及び要請の概要以
6
下の通り。
(a)国際社会がスーダン難民支援に反応する 8 ヵ月前から、地元コミュニティが難民を
受け入れて支えた。
(b)難民数が地元住民数(約 62,600 人)を上回り、既に地元政府・コミュニティの対応
能力を遥かに超え、有効な対策が取れない状態。
(c)難民及びその家畜が引き起こす、貴重な水・緑を始めとする環境面でのダメージを
懸念。
(d)地元コミュニティへの支援を国際社会に期待。
(ハ)印象
(a)UNHCR 関係者によれば、チャド政府の難民担当組織である CNAR の活動予算は UNHCR
により手当てされている由。また、環境省幹部ですら環境対策予算の金額や全予算に占め
る割合を即答出来ず。
(b)かかる点から、中央政府に関しては、今次難民支援に対するオーナーシップが不十
分との印象を受けた。
(この点、UNHCR チャド事務所も同じ見方。)
(c)また、地方政府に関しては、オーナーシップの意識は有するものの、能力的に対応
不可能というのが実状。
(2)国連・国際機関等
各援助機関関係者から受けた説明及び活動概要以下の通り。
(イ)UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)
UNHCR チャド事務所
(a)UNHCR はスーダンのダルフール地方からチャドに脱出したスーダン難民援助のため、
Emergency Team 立ち上げ、2004 年 2 月以降、チャドにおける活動を強化している。緊急オ
ペレーションに当初の予定を大幅に上回る 5,580 万米国ドル(約 60 億円)の資金を必要と
し、国際社会に協力を呼びかけている。チャドの首都ンジャメナ(N’djamena)のHQの
他に、東部地方に 6 つのフィールドオフィス(Abeche, Iriba, Guereda, Adre, Goz Beida,
Goz Amer)を開設し、26 人の国際職員と 115 人の地元職員がスーダン難民援助に携わって
7
いる(2004 年 6 月 1 日時点)。
( b ) UNHCR は チ ャ ド 政 府 内 の CNAR ( セ ナ ー = Commission Nationale d’Acceuil
etdeReinsertion des Refugies)という難民問題対策委員会の設立に出資し、チャド政府
と協力態勢を築いている。2003 年中旬以降、スーダンを脱出した 158,000 人がすでにチャ
ド政府による審査・登録を済ませている。UNHCR は計 10 ヵ所に難民キャンプを設営する予
定で、すでに 7 つのキャンプで 8 万人以上の難民を受け入れている(6 月 17 日時点では 8
つのキャンプで 101,218 の難民を保護している)。
(c)各難民キャンプの登録数
Breidjing
1,637
Farchana
13,360
Goz Amer
20,540
Iridimi
14,819
Kouloum
18,336
Kounongo
8,271
Mile
4,582
(2004 年 6 月 1 日時点の各キャンプの難民数。Bredjing に 5,000 人があらたに辿り着いた
との情報あり)
(d)難民キャンプは越境攻撃の危険を避けるために、それぞれ国境から 50km 以上離れた
ところに位置している。スーダンの民兵組織ジャンジャウィード(Janjaweed)による越境
攻撃、性的虐待、強制徴兵がもっとも懸念されるため、危険な国境地帯から安全な難民キ
ャンプへの緊急移送が最重要課題のひとつとなっている。UNHCR はチャド政府とキャンプの
規模拡大及び新たにキャンプ数を増加させる交渉を進めている。
(e)UNHCR はチャド赤十字等の協力団体と難民の移送を進めているが、600km におよぶ国
境線の各地に難民が散在している難民を正確に把握するのは難しい。トラックの数も不足
している。またトラックを待てずに自力でキャンプに辿り着く難民も多い。UNHCR は 2004
年末までに計 20 万人の難民を援助できるように努力を続けている。
(f)UNHCR はドイツやパキスタン、タンザニアにある備蓄倉庫から、毛布やビニールシー
ト、テント、ポリタンク、台所用品セット、衛生関連用品などの緊急支援物資をアベシェ
(Abeche)に空輸し、そこから陸路で各難民キャンプに送り届けている(6 月 9 日の時点で
1700 トンの物資を輸送)
。雨期が始まると(すでに始まっていると思われる)、トラックの
走行が困難となり、援助活動も制限される。雨期が終了するまでに少なくとも 15 万人分の
緊急援助物資を備蓄するよう努力している。
(g)食糧は WFP(世界食糧計画)が、ソルガム、小麦、とうもろこしなどの穀物類 425 グ
ラム/日、豆 50 グラム、調理オイル 25 グラム、塩 5 グラム、CSB50 グラムなどを支給して
いる。雨期が始まるとトラックでの輸送ができなくなるため、WFP は各キャンプに仮設倉庫
を設営し、備蓄を進めている。
(h)難民キャンプはできるだけ水のある場所に設営されているが、必ずしも水が確保で
きるわけではない。UNHCR の基準とされる 1 日 1 人 15 リットルを確保するのは非常に困難
な状態にある。
(i)環境問題としては難民が連れてくるロバや羊などの家畜がキャンプ周辺の低木を食
べ尽くしてしまうこと。難民が炊事のために木を切り薪にしてしまうこと。家畜がキャン
プ内外で死亡し、死体が散乱していること、などが上げられる。UNHCR は日本の NGO「緑の
サヘル」と協力し、薪の使用量が半分で済む「改良かまど」の普及など環境を破壊しない
方法を模索している。
(j)UNHCR はプロテクション(難民保護)およびコミュニティサービスを強化しようとし
ている。スーダン難民のほとんどは女性と子どもであり、男性は国境を越えられなかった、
ジャンジャウィードの襲撃で亡くなった、ダルフールに残り抵抗している、などが考えら
れる。キャンプ内では性差暴力(SGBV)防止のプログラムや、少年兵の保護プログラムを
協力団体と進める必要がある。ある種の自警団を設立し、キャンプ内および国境地帯をパ
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トロールする計画を検討している。キャンプに辿り着いた難民は一様の安堵を見せていた
が、国境を越えられず、ダルフールに残っている人々の安全が非常に懸念される(ダルフ
ール地方に約 100 万人に国内避難民がいるとされる)。スーダン政府が国内避難民(IDP)
キャンプを設営したが、強制収容所の性格があるとの情報もある。
(k)UNHCR はチャド東部ですでに 15 団体と IP(implementing partner)契約を結んでい
る。唯一日本の NGO である「緑のサヘル」をはじめ、主な団体は the Chadian Red Cross,
SECADEV, AFRICARE, CARE International, MSF-Holland, MSF-Belgium, Norwegian Church
Aid, GTZ, Oxfam など。6 月末を終了予定に難民および地域住民の栄養状態と死亡率を協力
団体と調査中であり、その結果を反映した勧告を国際機関に人道支援団体にアピールする
予定である。
(l)チャド政府関係者やチャド東部の州知事、県知事は異口同音に難民のみならず地域
住民への援助の必要性を訴えている。なぜなら、国際機関や NGO が援助を開始する以前か
ら、チャド東部の地域住民はスーダンからの難民を暖かく迎え入れ、貴重な食料や水を分
け与えていたからである。現在では地域住民が受け入れられる以上の難民が大量に流入し
ているのは明らかである。しかし、チャド政府関係者は地域住民支援の具体的方策がなか
なか提案できないようである。UNHCR をはじめとする国際機関や NGO は難民のみならず、地
域住民も含めた支援プログラムの検討が急務のひとつといえる。
(ロ)世界食糧計画(WFP)
(a)UNHCR と協力し、主に食糧部門を担う。20 万人の難民の内、WFP は 18 万人の難民及
び 12 万 5 千人の影響を受けた地元住民を対象に、6 ヵ月で 3 万トンの食糧が必要。
(b)国際職員 7 名、ローカルスタッフ 60∼70 名がチャド国内のスーダン難民支援に携わ
る。
(c)輸送が困難になる雨期の前に、各キャンプに物資を備蓄(preposition)する必要有
り。各キャンプサイトにおける食糧の備蓄率は約 51%(6 月 1 日現在)。他方、雨期のヘリ
による輸送コストは1トン当たり 700∼1,000 米ドル。直ぐにでもドナー各国からプレッジ
を得られれば、他地域向けの荷を優先的にチャドへ振り向けられる。
(d)一人あたり配給パッケージ:シリアル 425 グラム、豆類 50 グラム、CSB(Corn Soya
Blend)25 グラム、食用油 25 グラム、塩 5 グラム、砂糖 25 グラム。
(e)地元政府との協力及び地元コミュニティとの共存が重要であり、スーダン難民と地
元住民の区別は困難である為、10∼25%の調整ストック(buffer stock)を地元住民向け
に確保したい。
(f)当該地域のスーダン人とチャド人の間には社会的上下関係が伝統的に存在する為、
スーダン人がチャド人の現地コミュニティで労働を提供し、対価として食糧等を入手する
のも困難。
(g)日本から拠出頂いた食糧支援は輸送途上にある。特に、日本からの拠出により調達
された塩は、ドナーからの支援として初めて現地に到着する塩であり、大変感謝している。
(h)WFP がマネジメントしている HAS(Humanitarian Air Service)は、人道関係者につ
いては無料で利用できる。これまではノルウェー、独、スイスが部分的に支援拠出してい
るが、今後の支援の見通しは立っていない。もし安定的な支援が得られるのであれば、支
援ドナーを明記したリーフレットを機内の各座席に置くなどして広報に努めたい。
(ハ)UNICEF
(a)教育、水・衛生(雨季を控えトイレ設置が特に重要)
、予防接種(麻疹が特に重要)
、
児童の保護を担う。
(b)難民及び地元コミュニティ双方の子供にスクールバッグを提供。Farchana キャンプ
では、トタン屋根の学校で UNICEF のノートを用いて授業をしている様子を視察出来た。
(c)Abeche のオフィスは UNHCR のコンパウンド内に間借りしている状態であり、キャン
プ内でのプレゼンスも UNHCR や WFP ほど大きくなく、全体的に本格的な活動はこれからと
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いう印象を受けた。
(3)IFRC 及びチャド赤十字
国境地帯から北部キャンプ地への難民の移送と到着後のレセプションを UNHCR と共に担当。
(南部のリロケーションは伊 NGO が UNHCR と共に担っている由。)
(4)NGO
NGO 関係者から受けた説明及び活動概要以下の通り。
(イ)CARE International
(a)3 つのキャンプ(Iridimi, Amnabak, Mille)の運営および給水事業を担当。約 60 人
で活動。
(b)コミュニティサービスとして、難民をグループ別けしている。新たに到着した難民
を審査し、そのグループに振り分けていく。この作業により難民の二重登録や難民と偽る
地元住民への物資配給を防いでいる。
(c)教育を始めたいが、現時点では時期尚早と考えている。対象児童数は約 4 万人と見
込まれるが、日々増加している。
(d)難民の精神的ケアが必要。特に Bahai から流入した難民の精神的ダメージは強く、
飛行機の音にさえ怯えている。
(e)日本の NGO である「緑のサヘル」と協力して、難民が連れてきた家畜の屍骸の処理
をしている。
(f)難民のほとんどが女性と子どもで、男性はあまり友好的ではない。
(g)キャンプ内のセキュリティは悪くないが、警備員をおいている。
(h)水の不足が問題。1 日 1 人あたり約 6 リットルを提供。井戸の掘削を進め、後に地元
住民に寄附したい。
(i)環境対策として、難民の各グループのリーダーに木を切らないように言っている。
また、ソルガム栽培を進めたい。
(j)支援活動実施にあたって難民を雇うことはない。地元住民を 1500CFA/日で雇うこと
がある。
(k)UNHCR へは難民の登録、ID 写真の作成、栄養失調の実態調査などを期待する。
(l)今回流入しているスーダン難民は、おそらく 2∼3 年は難民キャンプに留まることにな
るだろう。
(ロ)SECADEV (Secours Catholique Et Developpement)
(a)チャドで 20 年間活動している。過去 15 年間は主にチャド東部で農村開発を続けて
いる。同地域で活動している唯一のローカル NGO である。日本の NGO「緑のサヘル」との協
力関係が長い。
(b)2001 年頃からすでにスーダン難民は流入していたが、大きな問題にはならなかった。
(c)SECADEV はローカル NGO として、コンゴ民主共和国、中央アフリカ共和国、スーダン
南部等からの難民支援を、UNHCR と 10 年来協力して実施している。国際 NGO は資金が豊富
だが、難民が発生して初めてチャド来て活動を開始しているが、SECADEV はチャド国内での
経験が豊富であるため、国際 NGO より少ない資金で効率良く活動ができる。しかし、国際
NGO に比べ資金力が弱く、また人手を増やすことが困難である。
(d)3 つの難民キャンプ(Touloum, Kounongo, Farchana)の運営および給水事業を担当。
(e)キャンプでの主な日常業務は食料の支給、食料以外の物資の支給、水の管理、家畜
の処理、衛生関連など。
(f)環境破壊を憂慮しており、「改良かまど」の普及を進める予定。しかし「改良かまど」
でも薪を使用するため「石油かまど」を検討中。
(g)農業生産を進めることが重要課題と考えている。
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(h)各キャンプは滞在人数を 6,000 人と想定して設営したが、難民の数が現在 2 倍近く
に増え、水、食糧、テントなどが不足している。状況が悪化し、難民のストライキをする
可能性が有る。
(i)難民の二重、三重の登録が問題だったが、難民を民族的特徴などでグループ別けす
ることにより、改善されている。国境地点から移送する前に、腕輪など目印をつけ、キャ
ンプ到着時にそれを再確認する。地元住民が食糧を受け取りにきたとき、難民がそれを阻
止したこともある。
(j)地元住民と難民の軋轢を防止するため、地元住民も恩恵を得るプログラムが必要で
ある。難民と地元住民双方に種を支給すること、石を積み、土壌流出を防ぐ等を「food for
work」
(WFP に協力依頼中)で実施するなどが考えられる。また、難民が連れてくる家畜は
ワクチンを打っておらず、地元の家畜に伝染病が広がることを防ぐため、家畜にワクチン
投与を検討している。
3.調査団が訪問した難民キャンプ及び国境の状況
(1)Farchana 難民キャンプ(2004 年 5 月 31 日訪問)
(イ)アベシェより東のスーダン国境方向へ約 150kmに位置し、アベシェから車両にて 2
時間を要する。
現在設立された難民キャンプの中ではもっとも早く 2004 年 2 月に開設された。当初の滞
在可能人数は 5,000 から 6,000 人規模の予定であったが、その後滞在可能人数を 10,000 人
まで増加したとのことであるが、調査団が訪問した時はすでに 12,000 人が滞在していると
の説明があった。また、自力でキャンプに到着し登録を待っている人を数十人見かけた。
シェルター
キャンプ内に設置されているトイレ
WFP の倉庫及びトラックで運搬されてきた物資
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シェルター
キャンプ内で登録を待っている自力で到着した人々
(ロ)UNHCR の資料によると、5 月 31 日現在の難民の登録数は、UNHCR が移送した難民が
10,935 人、自力で到着した難民が 2,575 人で、合計 13,360 人である。
(ハ)SEDADEV が難民キャンプを管理運営し、医療等は MSFH が担当している。
(ニ)給水担当者に聞いたところ、水は不足しており、1日 4∼10 リットル程度(UNHCR の
基準では 15∼20 リットル)を提供している。また雨期が来ると状況は悪くなるとのこと。
(ホ)医療関係は MSFH が担当しており、医師に聞いたところ、1 日の患者数は 60 人程度、
下痢、皮膚病、頭痛等が主な症状。乳幼児の栄養状態は、栄養失調の幼児もいるが人数は
それほど多くなく、全体としては悪くないとのこと。
ロバが牽引している「救急車」
栄養失調の幼児へ補助栄養を提供
(ヘ)初等教育に関しては、校舎(ビニールシートで囲った教室)は設営済みであったが、
授業は 10 月より UNICEF が開始する予定とのこと。
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設営された教室内
生徒のノート
(2)Bredjing 難民キャンプ(2004 年 5 月 31 日訪問)
(イ)上記 Farchana 難民キャンプから南西へ陸路車両にて約 45∼60 分。
(ロ)調査団到着の 10 日∼2 週間前にオープンした新しいキャンプ。
シェルター(テント)
設営準備をしているテント
CNAR 職員による難民登録の確認作業
難民へ配布する日用品
(ハ)2 万 2 千人の収容能力のところ、訪問時の収容難民数は 1,629 人(5 月 30 日時点)
との説明があった。その後数日間で新たな難民約 5 千人が自力で到着したという情報が、
調査団が首都の N’djamena に戻ったときに入った。
(ニ)GTZ が建設、UNHCR がマネージメント、チャド赤十字が医療を担当。
(ホ)近くに大きなワジ(渇いた川)があり水脈に近く、深さ 3mの井戸で水が得られるこ
とが立地の理由。
(現在は 4 つの井戸を使用。更に 2 つ建設中。)
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(ヘ)キャンプ地へのアクセスが非常に悪いが、国境から離れているため安全と言える。
今後、ローカル NGO が、米国やノルウェーの支援を得て、陸路を補修する予定であるが、
雨期の明けになるであろう。
(ト)雨季期間中(通常 6 月∼9 月)は車両による陸路の輸送を断念せざるを得ないが、急
激に増加する難民数に対応すべく、テントや食糧、支援物資の供給が急務。困難なアクセ
スの改善及びそれを補う輸送能力の強化が課題との印象。
(チ)難民キャンプのトイレは穴を掘っただけであるため、6 月の雨期の到来により、汚物
の流出、衛生状態の悪化が心配される。
(3)Mille 難民キャンプ(2004 年 6 月 1 日訪問)
(イ)チャド東部中心都市アベシェ(Abeche)から北東へ陸路約 5 時間、標高 962mのやや
小高い所に位置している。
(ロ)キャンプは開設されたばかりであり、調査時点で収容者数は、主にザカワ族で構成
された 4,696 人(男 1,718 人、女 2,973 人)であった。
(ハ)NCA(Norwegian Catholic Aid)が飲料水を、IMC(International Medical Corp:米
国 NGO)が医療を,CARE がキャンプのマネージメントをそれぞれ担当。
(ニ)キャンプは約 1km先のワジから水を引き、比高差約 30mの高台にある 3 基のタンク
に貯水しキャンプ内各地に給水している。難民数がまだ少ないことに加え、水源地の水量
が豊富なことから他のキャンプのような水の使用に制限は設けてないようである。
給水のポイント
ポリタンクで水を運搬している女性
(ホ)国境の Tine から難民移送のコンボイの到着に立ち会う。
(a)バスやトラックの荷台から降りた 108 家族 317 人は、カップ一杯の水の提供を受け
た後、メディカルチェックを受け、登録を確認し、更に次に食糧とジェリカン、毛布、マ
ット等の支給を受ける。
(難民受け入れの風景)
レセプションで難民の到着を待っている職員
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到着した難民へ配布する日用品等
難民移送の車列
難民キャンプに到着し一休みしている幼児
レセプションで登録を確認
幼児の栄養状況をチェック
到着した難民に配布される食糧
到着した難民に配布される日用品
(毛布、ゴザ、ホリタンク)等
(b)難民移送を担当した赤十字や CARE は到着から物資の支給まで、きちんとオーガナイ
ズされており、スタッフもきびきびと手際よく対応し、短時間ですべてが完了していたこ
とが印象的であった。
(c)到着した難民のほとんどが女性・子供と年配者であり、成人男子はほとんど認めら
れなかった。
(d)年配者の一人にインタビューしたところ、スーダンの村を出て 4 ヵ月かけて国境ま
で徒歩でたどり着き、更に 4 ヵ月間国境線付近に滞在の後、ようやく UNHCR の保護を受け
移送されたと申述した。スーダン国内では村が無差別攻撃を受け中には犠牲となった身内
も居るようだった。成人男子の動向に質問が及ぶと皆一様に口をつぐみ、事態の深刻さを
想起させられた。
(4)国境(Tine)の様子(2004 年 6 月 2 日訪問)
(イ)国境両サイドに自動小銃をもった兵士が数人いたが、特に緊迫感はなかった。
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(ロ)両国兵士のいるこの地点では難民は国境を越えることなく、難民は兵士のいない地
帯からチャドに越境するとのこと。
(ハ)ワジ中央の中州あたりが国境である。チャド側の子どもたちが国境を越えてスーダ
ン側の井戸に、ロバの背中に大きな水筒を乗せて水を汲みに行っているなど、難民が大量
に発生している最前線とは思えない様子であった。
(ニ)なお、国境付近の写真の撮影は不可であった。
(備考)
○調査団の日程には国境へ行く予定はなかったが、セキュリティ上の問題を確認し、18 時
までに Abeche に戻ること絶対条件に国境の町 Tine に向かって出発。Tine の地方行政官を
表敬訪問、同行政官が国境まで同行・案内してくれた。
○余談ではあるが、ワジで車輪を取られ動けなくなった 4 輪駆動車を全員で押すことにな
ったが、前述の地方行政官も一緒に押してくれ友好的であったことを付け加えたい。
4.今後の課題
(1)国際社会の関心
(イ)約 19 万人弱の難民がスーダンからチャドへ流入しているにもかかわらず、これまで
ヨーロッパを含む国際社会の反応は必ずしも迅速かつ十分ではなかった。
(ロ)UNHCR は 2004 年 2 月に難民が 11 万人流入することを予想して、緊急支援の改訂のア
ピールを発表しているが、必要な予算は確保されていない。さらに調査団が訪問した 5 月
末には 20 万人の流入を予想して、資金を求めている。
(ハ)難民はチャドに今後少なくとも 2 年間程度は留まると予想されるが、国際社会の関
心が得られなくなれは、難民、地元民を含めて更なる状況の悪化が懸念される。
(ニ)ダルフール地域の住民等の状況は必ずしも明らかではないが、スーダン政府の責任
と国際社会の協力により、和平構築、民族融和の道を開き、難民の帰還につなげる必要が
ある。
(ホ)日本を含む国際社会が、官民共に、如何に関心を持ち続け、支援への取り組みを維
持し続けるかがもっとも重要な課題であろう。
(2)難民数の増加
(イ)援助関係者の話によると、ダルフール地域の国内避難民は、国内避難民キャンプか
ら出身地に戻るよういわれており、国内避難民が実際に出身地に戻っても何もなく、チャ
ドに流入する可能性が高い。
(ロ)雨期の間もダルフール地域では戦闘が続き(UNHCR プロテクションオフィサーの予想)
、
引き続き難民が流入する可能性がある。
(3)難民を受け入れている地元地域への支援
(イ)チャド政府関係者は異口同音に「難民のみならず、難民を温かく受け入れたチャド
の人々への支援」を述べた。
(イ) 面談した政府関係者は具体的な案を示さなかったが、難民及び地元民双方が恩恵を
得ることができる支援プログラムが必要と思われる。
(ロ) 国境をはさんで同じ部族が多いこともあるが、豊かではないチャドの人々が貴重な
食糧・水を難民に提供している。
(ニ)難民が帰還した後も見据えた植林等の環境保全活動も必要となるであろう。
(4)インフラ
(イ)道路事情が悪いために難民キャンプへのアクセスが困難。さらに雨期が始まると道
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路によっては車両による通行が困難になる。
(ロ)WFP は、現在各難民キャンプに雨期の間の食糧を備蓄している。難民数が 11 万人程
度であれば特に問題がないが、予想以上に増加すると食糧及び日用品等も不足する可能性
がある。雨期の期間の物資の輸送は空路に頼らざるを得ず、コストが莫大となる。
(ハ)アベシェの町への通行は現在日中の午前 6 時から午後 6 時までの間である。道路状
況がよくないこともあり、アベシェ地域にある 2 つの難民キャンプへは、車両で 2 時間以
上を要し、援助関係者の難民キャンプへのアクセスも困難である。
(5)環境問題
(イ)難民は家畜を連れてくるため、草木を飼料にし、地元の家畜との共存が困難になっ
ている。また、家畜の病気の感染も予想される。
(ロ) 難民が、煮炊きのために地域の草木を切り倒し、薪として使用するため、今後の難
民流入数の増加にともない森林等への更なる悪化が予想される。薪の節約につながる改良
かまどの普及、薪に代わる代替エネルギーの開発が急がれる。
薪を使用している伝統的なかまど(Frachana 難民キャンプ内で撮影)
(6)キャンプ内での活動のニーズ
(イ)ソーシャルサービス活動を実施する NGO が確保されていない難民キャンプがある。
(ロ)水の確保
(ハ)コミュニティ・サービスの提供
(ニ)初等教育
(ホ)性差暴力(Sexual and Gender Based Violence)対策
(ヘ)トラウマ対策
(ト)雨期対策(水の確保、トイレ整備、感染症の予防)
(7)帰還
UNHCR チャド事務所のプロテクション担当官は個人的な意見として、難民の帰還は 2006
年以降になるであろうと予想しており、複数の援助関係者が、スーダン難民は少なくとも 2
年間程度はチャド国内に滞在すると予想している。難民が 2、3 年滞在することを考慮した
中期的な支援活動の展開、スーダンへの難民帰還方策等も今後必要となる。
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Ⅳ.資料
1.SUDANESE REFUGEES IN EASTERN CHAD 24.05.2004
2.UNHCR Memorandum
3.UPDATE ON UNHCR’S OPERATION IN EASTERN CHAD Annexe 1.
4.Post Analyses (OSP)
5.ADDITIONAL BUDGET REQUIREMENTS TO COVER THE EMERGENCY NEEDS OF
200,000 SUDANESE REFUGEES IN EASTERN CHAD
6.HAUT COMMISSARIAT DES NATIONS UNIES POUR LES REFUGIES
(STATISTIQUES DU 31 MAI 2004)
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