研究題目 シベリア永久凍土分布域における森林火災がハンモック地形のダイナミクスに及ぼす 影響 研究従事者 川東 正幸 (日 本 大学 生 物資 源 科学 部 ) 研究目的 永 久 凍土 分 布域 は 地温 と 蒸 散量 が 低い た めに 、降 水 量が 500mm以下 と 少 ない に も関 わ らず、土壌は湿潤で水分を多く含んでいる。多湿・低温な土壌条件はリターの集積に よ り 厚 い O層 を 発達 させ て 、鉱 質 土壌 へ の有機 物 の 供給 と 蓄積 を 可能 に し てい る。こ の 結 果 、O層を 含 む 永久凍 土 分 布域 土 壌は 陸 域最 大 の 炭素 貯 蔵庫 と して の 役 割を 果 たし て おり、地球温暖化に繋がる有機態炭素の無機化の軽減が注目される現在ではその生態 系は重要な位置づけにある。一方、永久凍土上の低温多湿な土壌は地温の変動に伴っ て凍結・融解を繰返しており、この過程が同地域に独特の凹凸の繰り返しからなるハ ンモック地形の形成を可能にしている。ハンモック地形内の凹凸は、温度や水分の水 平・垂直分布に影響し、地衣類、蘚苔類の分布や木本の根分布にも影響するため、永 久 凍 土 分布 域 の一 次 生産 に 深 く関 与 する も のと 考 え られ る 。 こ の よう な 自然 条 件に お い て 、森 林 火災 は植 生 と O層に 多 大な 影響 を 及 ぼす 因 子で あ り、近年では、シベリアの永久凍土分布域で火災の発生頻度が増加傾向にあり、上述 の炭素循環や地形の形成に影響を及ぼすものと考えられた。そこで、本研究ではシベ リ ア の 永 久 凍 土 分 布 域 に お い て 、 火 災 発 生 後 の 経 過 年 数 が 異 な る 地 点 を 3か 所 選 出 し 、 経 過 年 数と ハ ンモ ッ ク地 形 の 発達 程 度お よ びO層 の 発 達程 度( 厚 さ、単 位面 積 当た り重 量 ) 、 そ し て O層 の 土 壌 へ の 物 質 供 給 ポ テ ン シ ャ ル と の 関 係 に つ い て 検 討 し た 。 ま た 、 ハ ン モ ック 地 形の 崩 壊が 鉱 質 土壌 の 成層 に 及ぼ す 影 響を 土 壌調 査 から 明 ら かに す る。 調査地概要 ・調査地点 ロ シ ア 連邦 エ ベン キ ア共 和 国 トゥ ラ ( N64°、 E100°図 1) にお いて 、 カ ラマ ツ を主 体 と す る タイ ガ 林地 で 火災 を 受 けた 林 地を 対 象と し た 。ま た 、隣 接 する 対 照 地は 火 災地 と 500m内外 の 範囲 に あり 、100年以 上 火災 を受 け て いな い 林地 と した 。火 災 発生 年 度は 、 1951年 ( 51site) 、 1981年 ( 81site)、 1990年 ( 90site) 、 1994年( 94site) 、 2005 年( 05site)であ り 、こ れ ら 5地 点 にお い てハ ン モ ック 地 形と O層の 堆 積 に着 目 して 研 究 を 進 めた 。 また 、 51site、 90site、 94siteで は 土 壌調 査 を実 施 し、 地 形 との 関 係を 検 討 し た。 ・永久凍土 エ ニ セ イ河 の 東岸 以 東の ロ シ ア 全 土 に は 多 か れ 少 な か れ 永 久 凍 土 が 分 布 す る ( 図 . 1、 た だ し 、カ ム チャ ッ カ半 島 南 部、 樺 太は 含 まな い 。 )。 そ の分 布 面積 は 1000万 km 2 以上 に お よ ぶ。 1 調査対象地 図 .1 ロ シ ア に お け る 永 久 凍 土 分 布 (“ Land resources of Russia” よ り 引 用 ).調 査 対 象 地は黒枠で囲んだ地域である。 永 久 凍 土に は 、島 状 永久 凍 土(永 久 凍土 分 布面 積 <50%、層 厚 <数 m~数 十 m、地温 約 0℃ )、 不 連 続 永久 凍 土( 永 久凍 土 分 布面 積 50~ 90%、 層 厚 <10m~ 150m、 地温 約 -2~ 0℃ ) 、連 続 永 久 凍土 ( 永久 凍 土分 布 面 積 >90%、 層 厚 <300~ 500m、 地 温 約 -10~ -2℃ ) 、 が あ り 、 今 回 の 調査 対 象地 で ある ト ゥ ラは 連 続永 久 凍土 分 布 域に 相 当す る 。 ・地形 地 表 面に 凹 凸( Mound と Trough) の繰 返 す地 形 が 認め ら れる 。 これ は 、 凍結 岩 (岩 の 間 の 水が 凍 結し て でき た も の) の 上部 で 、氷 の 体 積膨 張 によ り 地上 部 に 生じ る マウ ン ド 地 形や 鉱 質土 壌 の凍 結 融 解作 用 によ り 地表 面 に 形成 さ れる 凹 凸に よ っ て特 徴 づけ ら れ る ハン モ ック 地 形( 写 真 1) に 相当 す る。 ハ ン モッ ク 地形 に おけ る 繰 り返 し の凹 凸 の 大 きさ と 深さ は 地点 に よ って 異 なっ て おり 、 土 性や レ キ含 量 など の 土 壌の 物 理的 性 質 が 影響 し てい る と考 え ら れた 。 また 、 火災 地 に おい て も隣 接 する 非 火 災地 と ハン モ ッ ク の地 形 が異 な って い る こと が 地表 面 観察 か ら 見て と れた ( 写真 1) 。 写 真 1 対 照 地 と 火 災 跡 地 の 地 表 面 。 写 真 左 が 対 照 地 で あ り 、 厚 い O層 に 被 覆 さ れ な が ら も 凹 凸 の 地 形 が 観 察 で き る 。比 較 的 水 分 含 量 が 低 い 凸 部 で は 地 衣 類 が 多 く 、 凹 部 で は コ ケ 類 2 が 主 体 で あ っ た 。 写 真 右 が 火 災 跡 ( 2か 月 後 ) 地 で あ り 、 ハ ン モ ッ ク 地 形 が 残 っ て い る 。 表 層 被 覆 植 生 は 変 化 し て き て お り 、 焼 け た O層 か ら 草 本 類 が 発 芽 生 育 し て い る 様 子 が 窺 え る。 ・植生 調 査 地 域は 北 方タ イ ガ林 地 帯 に属 し 、主 な 植生 は カ ラマ ツ( Lalix gmelinii L. )であ る 。 観 察し た 林地 は いず れ も 疎林 で あり 、 且つ こ れ らの 木 本植 生 は生 長 程 度が 悪 く、 胸 高 直 径で 10cm前 後 と細 か っ た。 地 表面 は コケ 類 ( Pleurozium schreberi Mitt. , Hy locomium splendens B.S.G. and Aulocomnium palustre Schwaegr. ) で 厚く 被 覆さ れ て お り 、パ ッ チ状 に 地衣 類 ( Cladina, Cetraria spp. ) が 認め ら れた 。 こ の他 、 イソ ツ ツ ジ ( Ledum palustre L.)ブ ルー ベ リー ( Vaccinium myrtillus L) や コ ケモ モ ( Vac cinium vitis-idaea L.)の 矮 化し た 灌木 も認 め ら れた 。 ・ 土壌 シ ベ リ アで は 、永 久 凍土 層 を 有す る 土壌 と ポド ソ ル 土、 未 発達 土 壌が 大 部 分を 占 める (図 . 2)。そ の 中で 、調 査 地 域は 北 極域 グ ライ 土 ( Cryosol: WRB, Gelisol: USDA, Cr yozem: Russia)の 分布 域 に 相当 す る。すなわ ち 、土 壌 表面 か ら 1mま た は 2m( USDA)以 内 に 永 久凍 土 層を 有 する 土 壌 であ る 。し か しな が ら 、土 壌 は微 地 形に 大 き く影 響 を受 け る た め、 実 際に は 狭い 面 積 の中 で パッ チ 状に 幾 つ かの 土 壌が 分 布し て い る。 ま た、 火 災 跡 地で は 、O層被覆 が 薄 くな っ てお り 日照 に よ る地 温 の上 昇 が永 久 凍 土を 後 退さ せ る た め に土 壌 層位 が 厚く 土 壌 生成 作 用の 特 徴が 明 瞭 でな い Regosols (WRB), Entisol (USDA)また は 風化 が 認め ら れ る層 位 を有 す るInceptisols が分 布 して い た 。 図2 ア メリ カ 農務 省の 土 壌 分類 法 に基 づ いた ロ シ アの 土 壌図 。黒枠 囲 が 調査 地 域に 相 当する。 3 実験・研究方法 ・ 土 壌 断面 調 査 凹 地 と 凸地 の 土壌 断 面を 同 時 に比 較 調査 で きる よ う に、 地 表面 の 凹凸 起 伏 を含 む 範囲 で 永 久 凍土 ま たは レ キ土 に 到 達す る まで 掘 削し 、 断 面作 成 を行 っ た。 土 色 、土 性 、レ キ と 植 物根 の 分布 、 土壌 構 造 につ い て調 査 した 。 土 色の 判 定に は 標準 土 色 帳を 用 い、 そ の 他 の項 目 は目 視 によ る 特 性と し て評 価 した 。 ・ 凹 凸 起伏 の 深さ 地 表 面 にお い て凹 地 の底 か ら 凸地 の 頂部 ま でス ケ ー ルで 直 接測 定 した 。調 査 地点 1か所 に つ き 8か所 測 定し 平均 と 標 準偏 差 を算 出 した 。 ・ 土 壌 温度 地 表 面 下の 5cmまで に温 度 ロ ガー を 埋設 し 、2 時 間 に 1回 の デー タ取 得 を 6月8日 (春 ) か ら 9月 11日 ( 秋) の 3カ 月 間 実施 し た。 外 気温 は 地 上 120cmの位 置で 測 定 した 。 ・ 土 壌 水分 土 壌 断 面か ら 層位 ご とに 採 取 した 試 料を 野 外実 験 施 設内 の 乾熱 器 を利 用 し て 105℃ で 十 分 に 乾燥 さ せて 、 乾燥 前 後 の重 量 減少 か ら算 出 し た。 ・ O層 の 形態 特 徴 ・ O層 の 厚さ 一 つ の 方形 区 にお い て8か 所 の 試料 採 取地 点を 設 け た。 各 地点 よ りO層 試 料 を切 り 出し て 、 O層 の形 態 に基 づい て そ れぞ れ の厚 さ を直 接 ス ケー ル で測 定 した 。 ・ O層 の 仮比 重 O層 の 厚 さか ら 算 出 し た 体 積 と 65℃ 条 件 で の 乾 熱 処 理 後 の 重 量 と か ら 算 出 し た 。 ま た 、 仮 比 重 から 単 位面 積 当た り の 重量 を 算出 し た。 ・ 土 壌 中の 酸 化鉄 含 量 酸 性 シュ ウ 酸塩 溶 液抽 出 法 によ り 非晶 質 酸化 鉄 含 量を 求 めた 。 さら に 、 ジチ オ ナイ ト 還 元 クエ ン 酸塩 抽 出法 に よ り遊 離 (非 晶 質と 結 晶 質鉄 ) 酸化 鉄 含量 を 求 めた 。 両者 の 比 は 鉄酸 化 物の 結 晶化 や 反 応性 と 関係 す るこ と が 指摘 さ れて い る。 ・ O層 か らの 溶 存炭 素、 塩 基 、陰 イ オン 分 析 O層 試 料か ら 純水 で抽 出 さ れる 水 溶性 成 分を 原 子 吸光 分 析 、イ オン ク ロ マト グ ラフ ィ ー 分 析 、溶 存 有機 態 炭素 ( TOC)分 析 でそ れぞ れ 測 定し た 。 結果と考察 1 . 土 壌断 面 形態 と 土壌 分 類 名 対 照 地で は 50cm深 でレ キ 土 が観 察 され た 90siteを 除い て 永久 凍 土層 が 1m以内 に 確認 さ れ た ため 、 Cryosolsま た は Gelisolsと 分 類さ れ た 。 90site対 照 地も レ キ 土の 下 層の 地 温 が 0℃を 下 回っ たこ と か ら 1m以 内に 永 久凍 土 層 を有 す る土 壌 と判 断 し て Gelisols に 分 類 した 。 一方 、 火災 地 の 土壌 は 永久 凍 土の 上 端 を確 認 でき な かっ た こ とと 、 土壌 構 造 が 未発 達 であ っ たこ と か ら Regosolsに 分類 さ れ た。 土 壌断 面 内に レ キ が多 く 観察 さ れ る こと も 調査 対 象地 の 土 壌の 特 徴で あ ると 考 え られ た 。特 に 、51siteと 90siteの 火 災 地 では 角 レキ が 多か っ た 。ま た 、両 者 の対 照 地 も土 壌 断面 内 のレ キ 含 量が 高 く、 4 現 代 の 凍結 融 解現 象 で砕 け た 母岩 や 上部 か らの 再 堆 積な ど が考 え られ た 。 また 、 上部 層 位 か ら下 層 に至 る まで レ キ が含 ま れて い るこ と か ら、 鉱 質土 壌 が重 力 や クラ イ オタ ー ベ ー ショ ン によ っ て撹 拌 さ れて い る可 能 性が 考 え られ た 。一 方 、94siteでは 火 災地 と 対 照 地共 に レキ を 殆ど 確 認 でき な かっ た 。94siteは他 の 2地点 に対 し て 幅数 十 メー ト ル の 河 川の 対 岸に 位 置す る 。 従っ て 、岩 盤 の風 化 程 度が 異 なっ て おり 、 風 化レ キ を多 く 含 ま ない 土 壌に な って い る こと が 推測 さ れた 。 以 下に 各 地点 の 調査 結 果 を記 す 。土 壌 分 類 名以 下 、層 位名、層 位 幅( 深 さ )、土色 、土 性 、有 機物 含 量、構 造 、レ キ 含量 、 粘 着 性 、可 塑 性、 根 分布 、 水 分、 層 界の 順 に記 載 し た。 ・ 51site(対 照 地) ( 写真 2 -1) 土 壌 分 類名 : Haplic Cryosols (WRB), Typic Haplorthels (USDA) Oi: +5~ +15cm,2.5YR3/4暗 赤 褐, 中 細小 根す こ ぶ る富 む ,多 湿 ,層 界 波 状判 然 Oea: 0~ +5cm, 2.5YR2/3極 暗 赤褐 , 中細 小 根す こ ぶ る富 む ,多 湿 ,層 界 波 状判 然 A1:0~ 10cm,10YR3/4暗 褐 ,CL,有 機 物富 む,カ ベ 状 構造 ,角レ キ( 2-5cm頗富 )、粘 着 性 強 ,可 塑 性中 , 最小 根 含 む, 湿 ,層 界 波状 漸 変 (A2):10~ 13cm,10YR3/4暗 褐,CL,有機 物富 む ,カ ベ 状構 造,角レ キ(1-2cm頗 富)、 粘 着 性 強, 可 塑性 中 ,最 小 根 有, 湿 ,層 界 不連 続 Bw: 10~ 25cm, 10YRY4/4 褐 , LiC, 有 機 物 含 む , カ ベ 状 構 造 , 角 レ キ ( 1-2cm頗 富 ) 、 粘 着 性 強, 可 塑性 強 ,半 湿 , 層界 波 状漸 変 C:25~ 40,10YR2/3 黒 褐 ,LiC,有 機物 あり ,カベ 状 構造 ,角 レキ( 2-5cm頗富 )、半 湿 、 粘 着性 強 ,可 塑 性中 , 不 朽レ キ およ び 炭化 物 含 む層 界 波状 判 然 Cf: 40cm+, 永 久凍 土層 写 真 2-1 51siteの 対照 地 土 壌 ・ 51site(火 災 地) ( 写真 2-2) 土 壌 分 類名 : Haplic Regosols (WRB), Typic Cryorthents (USDA) Oi: +3~ +12cm,2.5YR3/4暗 赤 褐, 中 細小 根す こ ぶ る富 む ,多 湿 ,層 界 波 状判 然 Oea: 0~ +3cm, 2.5YR2/3極 暗 赤褐 , 中細 小 根す こ ぶ る富 む ,多 湿 ,層 界 波 状判 然 A1:0~ 10cm,10YR2/3暗 褐 ,CL,有 機 物富 ,カ ベ 状 構造 ,角 レキ(2-5cm頗 富)、粘 着 性 強 , 可塑 性 中, 最 小根 含 む ,湿 , 層界 波 状漸 変 5 (A2 OR 2A): 20~ 50cm, 7.5YR2/3 極暗 褐 ,CL, 有 機物 富 む, カ ベ状 構 造 ,角 レ キ( 2 -5cm頗 富) 、 粘着 性 強, 可 塑 性中 , 最小 根 有, 湿 , 層界 不 連続 Bw:20~ 60+cm,10YR2/3 極 暗 褐,CL,有 機物 含 む ,カ ベ 状構 造 ,大 角 レ キ( 5-10cm頗 富 ) 、 粘着 性 強, 可 塑性 強 , 半湿 , 層界 不 連続 写 真 2-2 51siteの 火災 地 土 壌 ・ 90site(対 照 地) ( 写真 3-1) 土 壌 分 類名 : Haplic Cryosols (WRB), Typic Haplorthels (USDA) Oi: +10~+20, 5YR2/4極 暗 赤 褐, 中 小細 根 含む , 半 乾, 層 界平 坦 判然 Oea: 0~ +10, 5YR2/3極 暗 赤 褐, 大 根有 中 根含 む 小 細根 富 む, 半 乾, 層 界 平坦 明 瞭 A1: 0~ 10cm, 10YR3/4 暗 褐 , CL, 有機 物 富, 弱 度 亜角 塊 状構 造 ,中 小 根 頗富 、 細根 富 , 粘 着性 中 ,可 塑 性中 , 半 湿, 層 界波 状 判然 Bw: 10~ 30cm, 10YR4/4 褐 , CL, 有 機物 あ り, 弱 度 亜角 塊 状構 造 ,中 小 細 根あ り ,粘 着 性 中 ,可 塑 性中 、 半湿 , 層 界不 規 則漸 変 、 2A:30~ 45cm,10YR3/4褐 ,SCL,有機 物 富 ,弱 度 亜 角塊 状 構造 ,細根 ま れ ,粘着 性 中, 可 塑 性 弱, 半 湿, 層 界平 坦 明 瞭、 ( 炭化 物 多く 残 留 ) 2C: 45~ 50+cm,10YR4/4 写 真 3-1 褐 ,レ キ 土, 層 界平 坦 明 瞭 90siteの 対照 地 土 壌 6 ・ 90site(火 災 地) ( 写真 3-2) 土 壌 分 類名 : Haplic Regosols (WRB), Typic Cryorthents (USDA) Oea: 0~ +5cm, 5YR2/3極 暗 赤 褐, 半 乾, 層 界平 坦 判 然 A: 0~ 15cm, 10YR3/2 黒 褐 , CL, 有 機物 富 ,炭 化 物 あり , 屑粒 状 構造 , 中 根有 小 細根 含 む , 粘着 性 中, 可 塑性 中 , 中角 レ キ含 む ,半 湿 , 層界 不 規則 判 然 Bw: 15~ 30cm, 10YR4/5 褐 , CL, 有 機物 含 む, 弱 度 亜角 塊 状構 造 ,小 細 根 含む , 粘着 性 中 , 可塑 性 弱、 角 レキ ( 2-5cm) 富 ,半 湿, 層 界 不規 則 漸変 2A: 30~ 35cm, 10YR3/2 黒 褐 , CL, 有機 物 富, 弱 度 亜角 塊 状構 造 ,小 根 含 む, 粘 着性 弱 , 可 塑性 弱 ,半 湿 ,角 レ キ ( 2-5cm)含 む, 層 界 不規 則 漸変 2BC:35~ 40cm,10YR4/4 褐 ,L,有 機 物有 ,弱 度 亜 角塊 状 構造 ,粘着 性 弱,可 塑性 弱 , 湿 , 層 界波 状 漸変 2C: 40cm~ , レキ 土 (角 レ キ 5cm) 、 巨岩 あり 写 真 3-2 90siteの 火災 地 の 土壌 ・ 94site(対 照 地) ( 写真 4-1) 土 壌 分 類名 : Haplic Cryosols (WRB), Typic Haplorthels (USDA) Oi: +10~+20 5YR2/3極 暗 赤 褐, 半 乾, 細 小中 根 富 ,層 界 平坦 判 然 Oea: 0~ +10cm,5YR2/3極 暗 赤 褐, 半 乾, 大根 あ り ,細 小 中根 富 ,層 界 平 坦判 然 A: 0~ 10cm, 10YR3/3 暗 褐 , CL, 有 機物 富 ,炭 化 物 含む , 屑粒 状 構造 , 中 根有 小 細根 含 む , 粘着 性 中, 可 塑性 中 , レキ な し, 半 乾, 層 界 波状 判 然 AB: 10~ 20cm, 10YR3/3 暗 褐 , CL, 有機 物 含む , 炭 化物 含 む, 弱 度亜 角 塊 状構 造 ,小 細 根 含 む, 粘 着性 中 ,可 塑 性 弱、 レ キな し ,湿 , 層 界波 状 漸変 BC:20~ 30cm,10YR4/6 褐,CL,有 機物 含む ,炭化 物 含む ,弱 度亜 角 塊 状構 造,細 根 含 む , 粘着 性 中, 可 塑性 弱 , 湿, レ キな し ,層 界 波 状漸 変 C:30~ 45cm,10YR3/4 暗 褐 ,CL,有機 物 含む ,炭 化物 含 む,弱 度亜 角 塊 状構 造 ,粘着 性 中 , 可塑 性 弱, 湿 ,層 界 波 状漸 変 Cf: 45cm~ , 永久 凍 土, レ キ なし 7 写 真 4-1 94siteの 対照 地 土 壌 ・ 94site(火 災 地) ( 写真 4 下 ) 土 壌 分類 名 : Haplic Regosols (WRB), Typic Cryorthents (USDA) Oea: 0~ +5cm, 5YR2/3極 暗 赤 褐, 半 乾, 大 根あ り , 細小 根 富, 層 界平 坦 判 然 A: 0~ 10cm, 10YR3/3 暗 褐 , CL, 有 機物 富 ,炭 化 物 含む , 屑粒 状 構造 , 中 根有 小 細根 含 む , 粘着 性 中, 可 塑性 中 , レキ な し, 半 乾, 層 界 波状 判 然 A2: 10~ 20cm, 10YR4/3 に ぶ い黄 褐 , CL, 有機 物 含 む, 炭 化物 含 む, 弱 度 亜角 塊 状構 造 , 小 細根 含 む, 粘 着性 中 , 可塑 性 弱、 レ キな し , 半湿 , 層界 波 状漸 変 Bw1:20~ 30cm,10YR4/3 に ぶ い黄 褐 ,CL,有 機 物 含む ,炭 化物 含む ,弱 度 亜角 塊 状構 造 , 細 根含 む ,粘 着 性弱 , 可 塑性 弱 ,半 湿 ,レ キ な し, 層 界波 状 漸変 Bw2:30~ 45cm,10YR3/4 暗 褐,CL,有 機 物含 む ,炭化 物 含む ,弱度 亜 角 塊状 構 造,粘 着 性 弱 ,可 塑 性弱 , 湿, 層 界 波状 漸 変 BC: 45cm~ , 10YR3/2 黒 褐 , CL, 有 機物 含 む, 炭 化 物含 む ,弱 度 亜角 塊 状 構造 , 粘着 性 弱 , 可塑 性 弱, 湿 ,レ キ な し 写 真 4-2 94siteの 火災 地 土 壌 8 2 . 土 色と 土 壌水 分 Gelisolsで ある 対 照地 と Regosolsであ る 火災 地 で は透 水 性が 異 なる た め 、酸 化 還元 電 位 に 影響 し 、ひ い ては 鉄 の 形態 に 変化 を 与え て 両 土壌 の 土色 に 違い が 認 めら れ るこ と を 予 測し た 。Gelisolsの 下 層で は 凍土 の 融解 か ら 供給 さ れる 水 分に よ っ て土 壌 層(活 動 層 ) が還 元 によ る 青灰 色 を 示す こ とが 予 測さ れ る 。一 方 で、 Regosolsで は酸 化 的条 件 下 で 鉄の 酸 化が 進 行し 、 土 色が 褐 色に な ると 予 測 した 。 しか し なが ら 、 実際 に は両 土 壌 の 下層 土 壌の 土 色は 褐 色 系で あ り、 酸 化還 元 の 条件 を 反映 し た結 果 が 得ら れ なか っ た 。 この こ とに は 土壌 母 材 が影 響 して い ると 考 え られ た 。調 査 地域 の 中 央シ ベ リア で は 広 く玄 武 岩が 分 布し て お り、 土 壌母 材 とな っ て いる 。 玄武 岩 は黒 色 を 呈す る 岩石 で あ り 、風 化 後の 土 壌の 基 色 とし て 黒色 味 を与 え て いる 。 従っ て 、調 査 土 壌に お ける 黒 色 味 は上 層 では 有 機物 の 影 響で あ り、 下 層で は 母 材に 由 来す る もの と 考 えら れ た。 酸 化 鉄 の形 態 を選 択 溶解 抽 出 法で 分 析し た とこ ろ 、図 3に 示 す ように 火 災 地で は 非晶 質 の 鉄 ( Feo) が 比較 的少 な く 、二 次 的に 生 成し た 遊 離の 酸 化鉄 ( Fed) と の 比も 低 くな る 傾 向 が認 め られ た 。酸 化 鉄 の形 態 の相 違 は土 壌 水 分環 境 を反 映 した 結 果 であ る と考 え ら れ た。 Mound Control Burnt 1.0 10 0.8 Feo/Fed -1 Fe (g kg ) 15 0.6 5 0.4 0 05 94 81 05 81 94 Sampling sites Trough Control Burnt 10 1.0 0.8 Feo/Fed -1 Fe (g kg ) 15 0.6 5 0.4 0 05 94 81 Feo Fed Feo/Fed 図3 05 94 81 Sampling sites 選 択 溶 解 法 に よ る 各 鉱 質 土 壌 の 酸 化 鉄 の 形 態 。 深 さ 0-5cmの 表 層 土 壌 を 供 試 し た 。 9 3 . ク ライ オ ター ベ ーシ ョ ン い ず れの 土 壌断 面 にお い て も比 較 的大 き な炭 化 物 が下 層 で確 認 され た こ とか ら 、古 く か ら 火災 が 多く 発 生し て い たこ と がう か がえ る 。 また 、 土壌 擾 乱作 用 、 いわ ゆ るク ラ イ オ ター ベ ーシ ョ ンに よ っ ても 炭 化物 が 上下 に 移 動・輸 送 され たも の と 推測 さ れた 。 層 界 が 湾曲 し たり 、 不連 続 に なっ た りし て いる こ と から も クラ イ オタ ー ベ ーシ ョ ンの 働 き が うか が える 。 また 、 地 表面 の 凹凸 は 層界 の 形 状と 類 似し て いる 層 位 もあ っ たた め 、 ハ ンモ ッ ク地 形 の形 成 に クラ イ オタ ー ベー シ ョ ンが 影 響し て いた こ と が予 測 され た 。 土 壌断 面 内で は 凹地 形 下 の鉱 質 土壌 は 土色 が 黒 色化 す る様 子 や炭 化 物 が比 較 的多 く 存 在 する 様 子も 目 視確 認 で きた 。 地表 面 に残 留 し てい た 炭化 物 が凸 部 地 形の 形 成に 伴 っ て 凹部 へ 流れ 込 み、 土 壌 断面 内 に取 り 込ま れ た もの と 考え ら れた 。 炭 化物 を 収集 し 、 年 代を 明 らか に する こ と も興 味 深い 。 4 . ハ ンモ ッ ク地 形 先 述 した よ うに 、ハン モ ッ ク地 形 の凹 凸 の起 伏 は 地点 に よっ て 異な っ て いた 。図 4に ハ ン モ ック 地 形の 凹 凸の 振 幅 幅を 1地 点に つき 8か 所 測定 し た平 均値 と 標 準偏 差 とし て 示 し た 。火 災 地と 対 照地 で 凹 凸の 振 幅に 有 意差 が あ る場 合 は星 印 を付 し た 。凹 凸 の振 幅 は 地 点に よ って 異 なる が 、 火災 地 と対 照 地と の 差 は火 災 発生 後 から 広 が って い るこ と が わ かる 。火 災発 生後 25年 経過 し た 81siteで は 最 も振 幅 幅の 差 が大 き く なっ て おり 、 50年 以 上経 過 した 51siteで は 再び 有 意差 が 認め ら れ なく な って い る。 こ の こと は 、土 す な わ ち 、火 災 発生 直後 は 火 災地 は 対 照 地 と同 様 の起 伏 を維 持 し たま ま で あ るが 、 O層の 被覆 が 薄 くな っ た火災地では時間の経過に伴って、 日 照 に より 地 温が 上 昇し 、永 久 凍土 が 後 退 する 。 図 5に 94siteの 凸 地で 測 定 し た火 災 地と 対 照地 の 地 表面 温 度 の 3ヶ月 間 の変 動を 示 し た。 12℃ 程 度 、火 災 地の 地温 が 高 いこ と が わ か る 。さ ら に、地表 面 だ けで な く 、下 層 の鉱 質 土壌 にお い て も火 災 地 と 対 照地 で 温度 に 差が あ る こと が わ か る( 図 6)。 Hight of mounds from the bottom of troughs (cm) 壌 中 の 熱伝 導 と関 係 があ る と 考え ら れた 。 60 50 Control Burned * 40 *** 30 20 * 10 図 4 0 0 10 20 30 40 50 60 Passed time since the last fire (y) 各地点の凹凸地形における凸地頂部から凹地底部 までの振幅幅を示した。有意差は*、***はぞれぞれ P<0.5、P<0.01 に相当する。 こ の 温度 差 は永 久 凍土 の 出 現深 さ にも 関 係し 、 地 温が 高 く、 永 久凍 土 の 位置 が 深い ほ ど 、 鉱質 土 壌は 凍 結し が た くな る 。ひ い ては 、 地 表面 付 近で の 鉱質 土 壌 の体 積 変化 が 起 こ らな く なる 。 そし て 、 火災 地 の地 表 面は 融 雪 時の 流 水や 夏 季の 風 食 など に よっ 10 て 次 第 に、 凹 凸起 伏 を失 う も のと 考 えら れ た。 し か し、 地 表面 の 植被 が 回 復す る につ れ て 、 地温 は 低下 し 、再 び 永 久凍 土 の上 昇 が鉱 質 土 壌を 押 し上 げ ると 同 時 に、 凍 結に よ る 体 積膨 張 を起 こ しや す く する と 考え ら れた 。 51siteに おけ る 凹凸 振 幅 の差 が 火災 地 と 対 照地 で 明瞭 で なく な っ てき て いる の はO層 の 回 復と 永 久凍 土の 上 昇 によ る もの と 考 え られ た 。 40 air mound trough Temperature 30 20 10 0 -10 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 100011001200 Data sampling at every two hours 図5 94site における凸地(Mound)と凹地(Trough)の地表面温度の経時的変化。6 月 8 日より測 定を開始し、9 月 11 日までの間の 2 時間ごとのデータサンプリングを行った結果である。 Temperature of soil in mounds 0 20 Depth (cm) 40 measured 60 80 100 120 projected burnt site (1984) 140 control site 160 0 5 10 15 20 Temperature, (oC) 25 30 図 6 81site における火災地と対照地の土壌断面内での地温の変化 11 5.火災後の O 層の回復 O 層は外気からの熱伝導に対する断熱材の役割をしており、永久凍土の動態への支配因子の一 つといえる。火災後の O 層の厚さを比較した結果を図 7 に示した。いずれの研究サイトにおいて も対照地の方が火災地よりも厚い O 層を形成していることがわかる。しかしながら、火災地の O 層の厚さは地形の影響を強く受けており、凸地は火災による燃焼によってかなり薄くなっている のに対して、凹地では燃焼による消失量が凸地に比べて少ないことがわかる。しかし、年数の経 過に伴って対照地との差が広がる傾向も認められ、火災地における O 層の減少は単純な焼失だけ ではないことが予測された。恐らく、地温上昇がもたらす微生物活性の増大に伴って分解減少す 20 Thickness of O horizon (cm) Thickness of O horizon (cm) る可能性も考えられた。 Mound Burned Control 15 10 5 0 0 10 20 30 40 50 60 20 Trough Burned Control 15 10 5 0 0 10 20 30 40 50 60 Passed time after the fire (year) Passed time after the fire (year) 図 7 火災後の経過年数と O 層の厚さ。経過年数の少ない方から 05site、94site、90site、81site、 51site に相当する。 永久凍土上で凹凸地形が発達する環境条件下で凸地と凹地で植生やその被覆程度が異なるこ とはこれまでにも報告されており(Kojima, 1994, Johnson et al., 1996)、その植生の相違には 凸地と凹地における微生物バイオマスや活性、植物養分となる窒素の無機化が関与すること (Biasi et al., 2005, Johnson et al., 1996)も報告されている。しかし、本研究の調査地域 では凸地で植物バイオマス量が多く、構成植生種にも大きな違いが認められなかった。過去にも 火災歴があったと考えられること(Zyryanova et al., 2002)から、火災によって焼失したのち に厚い O 層を回復する過程があると考えられ、この O 層の火災後の発達過程はこれまでの研究で 確認された環境と異なると思われる。その主たる原因の一つには養分を比較的多く供給できる玄 武岩質母材の土壌にあると考えられた。また、カラマツ林の存在が凸地土壌からの水分蒸発を抑 制し、林床植生の被覆と O 層の発達を可能にしていると考えられた。 O 層の単位体積当たりの重さ、すなわち仮比重を算出した(図 8) 。火災地の O 層の仮比重は 対照地のそれよりも明らかに高い。また、凸地でその傾向は顕著である。燃焼によって薄くなっ た後、水や土壌動物の作用によって鉱質土壌と混和したためと考えられた。火災地の凸地で凹地 よりも仮比重が大きいことも同様の理由であると考えられる。O 層の厚さおよび仮比重ともに 火災後の年数経過に伴って増加する傾向が認められるが、51site では最も低い値になっている。 12 これは、調査地の斜面の向きや傾斜などの要因によって、日照時間、地温、鉱質土壌からの養水 分供給が異なるためであると推測された。実際、対照地においても 51site は最も低い仮比重を 示している。 0.20 0.20 Trough Burnt Control -3 0.15 Bulk density (g cm ) -3 Bulk density (g cm ) Mound 0.10 0.05 Burnt Control 0.15 0.10 0.05 0.00 0.00 0 10 20 30 40 50 60 0 70 10 20 30 40 50 60 70 Passed time since the last fire (y) Passed time since the last fire (y) 図 8 火災後の経過年数と O 層の仮比重。経過年数の少ない方から 05site、94site、90site、81site、 51site に相当する。 一方、興味深いことに単位面積当たりの O 層の重さは火災地と対照地で明瞭な差が見られな くなっている(図 9) 。これは、火災後の O 層が仮比重が大きく、厚さが薄く、体積が小さいの に対して、対照地の O 層は厚さがあるために体積が大きいが、仮比重が小さいためである。算 術上、当然の帰結であるが、火災で焼けた後でも単位面積当たりの重さに大きな変化がないこと は興味深い。O 層の重さ当たりの微生物分解(生分解)率や元素溶出量に大きな差がなければ、 燃焼によって O 層が焼失することは O 層を介した生態系の物質循環に大きな変化が生じないと いうことになる。 7000 -2 6000 Mound Weight per unit area (g m ) Weight per unit area (g m-2) 7000 Burnt Control 5000 4000 3000 2000 1000 6000 Trough Burnt Control 5000 4000 3000 2000 1000 0 0 0 10 20 30 40 50 60 70 0 Passed time since the last fire (y) 10 20 30 40 50 60 70 Passed time since the last fire (y) 図 9 火災後の経過年数と単位面積当たりの O 層重量。経過年数の少ない方から 05site、94site、 90site、81site、51site に相当する。 13 この火災後の O 総重量に変化が認められない事実に対し、同地域の火災後の O 層において生 分解性を CO2 の発生量から調べたところ、明瞭な違いがないことを最近の研究データとして得 ている(図 10)。 60 94 site 81 site Biodegradability (%) Biodegradability (%) 60 40 20 Control Burnt 40 20 Control Burnt 0 0 0 50 0 100 50 100 Incubation time (days) Incubation time (days) 図 10 94site と 81site における O 層からの水溶性有機物の生分解性(未発表既存データ) 。誤差 線は標準誤差。 一方、陰イオンや陽イオンの O 層からの溶出は火災地では凸地よりも凹地で多く、凹地では 火災後に O 層の堆積および厚さが減少したにもかかわらず、水溶性成分の溶出量が対象地に匹 敵する程度にまで高くなっている。これは凸地の燃焼残渣や溶存成分が地形に沿って凹地に供給 されて残留富化したためと考えられた。このことはハンモック地形における火災後の植生回復が 凸地よりも凹地で開始され、経時的に進行するというこれまでの研究成果(Kokelj et al., を裏 付ける結果だと言える。 40 40 Ions (mmol kg ) -1 Ions (mmol kg-1) 30 Control cations Control anions Burnt cations Burnt anions Trough Control cations Control anions Burnt cations Burnt anions Mounds 20 10 0 30 20 10 0 05 94 90 81 51 05 Fire event (year) 94 90 81 51 Fire event (year) 図 10 O 層から溶出した総陽イオン量と総陰イオン量の火災地と対照地との比較。誤差線は標準誤差 14 また、陽イオンや陰イオンの溶出は単位面積当たりの有機態炭素量に依存することも全炭素量と の間で相関関係が認められることからわかった(図 11)。このことは同地域の一次生産(植物生 育)に対してハンモック地形に沿って分布する O 層の存在が重要な役割をしていることを示唆 している。すなわち、養分イオンの供給は主に、O 層の生分解を通じてなされていると考えら れる。 Control Burnt -2 Cations (mmol m ) 150 100 50 0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 -2 Total C (kg m ) 図 11 単位面積当たりの全炭素量と O 層からの溶出する総陽イオン量との関係 以上のように、火災によって焼失する O 層、その後に回復する O 層は永久凍土分布域の炭素 や養分元素という生元素の動態に深く関与しており、その火災などのインパクトが生じた際の変 化を知ることは重要である。O 層に着目して、活動層、永久凍土、地形、植生回復の関係を以 下のように考えることができる。 O 層の形態(厚さ、仮比重)に依存してその断熱効果が変化することは、永久凍土の位置(活 動層の深さ)に影響し、この永久凍土の動態が上部に位置する鉱質土壌(活動層)の凍結融解を 制御しており、さらにはこの活動層の凍結融解現象が地表面の凹凸、ハンモック地形の形成を可 能にしている。ハンモック地形の形成は O 層の発達と関係すると同時に、周期的に発生する森 林火災に対して O 層の燃焼程度に違いを与える。すなわち、凹地と凸地で残留する O 層の量が 異なり、その後の地温分布や植生回復に影響すると考えられた。 結論 シベリアの永久凍土地帯での森林火災は主に地表面の O 層を燃焼して広がっていく。この O 層の燃焼程度にはハンモック地形が影響しており、火災後の凹地と凸地の O 層の残存量の違いが そのことを示唆していた。また、ハンモック地形における凹凸の振幅は斜面の向きや傾斜の影響 を受けるものの、火災後の経過年数に応じて変化する様子も実データをもって把握することがで きた。また、火災後の経過年数に伴う凹凸振幅の変化や、凹凸部を被覆する植生の量と組成はこ れまでの研究報告と異なることがわかり、本調査地である中央シベリアにおいては、比較的乾燥 して貧栄養と考えられてきた凸地で O 層の発達が著しいことが相違点として明らかになった。こ のことは、本調査地点の森林においては凸地形であっても養水分供給が十分な環境であることを 示唆しており、その条件にはカラマツ林による日照量の抑制と玄武岩質土壌が持つ養分供給能に 15 関係することが考えられた。また、土壌断面調査ではクライオターベーションの痕跡を有機物と 炭化物の分布から推測できた。これらの断面内の分布が、ハンモック地形の形成に強く影響する 土壌の凍結融解現象(クライオターベーション)に応じて規則的に生じていることを土壌分析か ら明らかにする必要がある。 また、低温且つ湿潤な条件下において鉱質土壌の風化の進行が遅いのに対して、O 層の分解に 伴う塩基類を主体とした生元素の供給は同生態系の一次生産に重要な役割を果たしている。この O 層からの生元素の溶出に対して、 火災による O 層の燃焼は大きくそのポテンシャルを損なうが、 ハンモック地形における凹地の O 層は火災前の O 層よりも高い溶出ポテンシャルを持つに至るこ とが明らかとなった。このことから、地形に応じた O 層の分布は火災後の植生及び永久凍土の回 復、そしてハンモック地形の形成への重要なトリガー因子になることが予測できた。先に示した クライオターベーションが土壌生成に及ぼす影響に関する研究課題に、さらに地形に応じた O 層の分布とその元素溶出ポテンシャルの成果を合わせると、ハンモック地形および O 層の分布が 極北域の鉱質土壌の土壌生成に関与する過程を論じることが可能になると考えられる。 謝辞 本研究は国土地理協会の平成 21 年度助成事業として採用され、その助成金で進行することが できた。ロシア国内では Dr. Prokushkin の協力を得て、現地調査および分析を実施することが できた。また、本研究を遂行するに当たり、生分解性の分析、炭化物の同定と定量、水溶性成分 の溶出と分析とデータ解釈について、農業環境技術研究所の平館研究員、神戸大学の藤嶽准教授、 金沢大学の長尾教授、宇都宮大学の平井准教授、日本大学の隅田准教授のご指導およびご協力を 頂いた。以上の団体および個人に対して、ここに謝意を表する。 引用文献 Biasi, C., Wanek, W., Rusalimova, O., Kaiser, C., Meyer, H., Barsukov, P., Richter, A., 2005. Microtopography and plant-cover controls on nitrogen dynamics in hummock dynamics in hummock tundra ecosystems in Siberia. Arct. Antarct. Alp. Res. 37, 435-443.Johnson, L.C., Shaver, G.R., Giblin, A.E., Nadelhoffer, K.J., Rastertter, E.R., Launder, J.A. Murry, G.L., 1996. Effects of drainage and temperature on carbon balance of tussock tundra microcosms. Oecologia, 108, 737-748. Kokelj SV Burn CR Tarnocai C (2007) The structure and dynamics of earth hummocks in the subarctic forest near Inuvik, Northwest territories, Canada. Arct Antarct Alp Res, 39: 99-109 Kojima, S., 1994. Relationships of vegetation, earth hummocks, and topography in the high arctic environment of Canada. Proceedings NIPR (National Institute of Polar Region) symposium Polar Biology. 7, 256-269. Zyryanova, O.A., Bugaenko, T.N., Abaimov, A.P., Bugaenko, N.N., 2002. Pyrogenic transformation of species diversity in Larch forests of the Permafrost zone. in Lesnye ekosistemy Eniseiskogo Meridiana (Forest ecosystems of the Yenisei Meridian) Pleshikov, F.I. (ed). Akad Nauk, Novosibirsk. 16 17
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