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[T10283]東京電機大 学生要覧11/工学部 学習案内/工学部 学習案内/目次・p1∼3まえがき類
2011.03.10 13.38
工学部で学ぶ皆さんへ
工
学
脇
部
長
英 世
ガリレオ・ガリレイの名前は理工系に進もうとする人なら、少年少女時代から良く見聞きし
ていることと思います。ガリレオには「それでも地球は動く」という有名な言葉があります。
ガリレオは自作の望遠鏡で天体の観測をし、色々な発見をしています。こうしたガリレオの生
涯や業績はTVの番組などでよく取り上げられていますが、ガリレオの本が読みやすいかどう
かとなると、別だと思います。
私も皆さんと同じ位の年頃に文庫本の『新科学対話』を買いました。でも翻訳が旧字体の漢
字と旧かなづかいでなされていたので、ちょっと馴染みにくいものでした。読みやすい所でも
たとえば次のようです。
「一つはあのよくいはれてゐる、自然が眞空に対して示す嫌悪性です」
それに紙も劣悪で図版は薄くて見にくく、印字も紙型がつぶれていたりして目が痛くなりまし
た。さらに閉口したのは、下巻のほとんどを占める幾何学の証明を縦書きで読まなくてはなら
ないことでした。それより降参したのは、微分積分学でなら簡単なのに幾何学で迂遠な証明を
読まなければならないことでした。結果は知っているのに、なぜ、こんな遠回りをしなければ
ならないかと思ったものです。『新科学対話』で懲りた私は同じガリレオの『天文対話』には
全く関心を示しませんでした。
最近になってガリレオの『天文対話』を入手して、ぱらぱらと読んでみると、これは大変面
白い本ではないかとびっくりしました。私はガリレオが戦った相手は教皇と教皇庁の権威だと
思っていましたが、実は相手はアリストテレスの哲学だったと気がつきました。なぜ、こんな
簡単なことに気がつかなかったのだろうと、自分の迂闊さを恥じ入ります。
たとえば『新科学対話』に出て来る「自然は真空を嫌う」というアリストテレスの理論は、
もちろん現在の科学の立場からみれば間違っています。しかし、ガリレオの生きた時代の立場
に立って、これを反駁するのは大変です。
ガリレオの反論が分かりにくいので、アリストテレスの理論から勉強してみることにしまし
た。アリストテレス全集は若い頃に読んだ『形而上学』、『政治学』。言語理論と文法学理解のた
めにしばらく前に読んだ『カテゴリー論』
、『分析論』
『トピカ』位しか知りません。
そこでガリレオの『新科学対話』が標的としているアリストテレスの『自然学』を読んでみ
ますと、これはうんざりするほど込み入った構成の理論です。答が間違っているということを
知らなかったとしたら、ちょっと太刀打ちできないでしょう。また『天文対話』が相手にして
いるのは、アリストテレスの『天体論』ですが、これも結果が正しくないと言うことだけが頼
りで、途中で悲鳴を上げたくなるほどのものです。
アリストテレスの理論体系は現在から二千数百年前に確立し、それが二千数百年間も絶対的
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に君臨していたのも当然だろうと思います。これを根底から反駁して、近代科学を打ち立てる
と言うガリレオの作業がどの位大変なものであったか、アリストテレス全集をあらためて読ん
で初めて理解しました。学問というのは大変奥深いものと思います。皆さんも工学に志した以
上は是非、学問の蘊奥(うんのう)を究めて欲しいと思います。
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