英国での 不動産投資 ステップガイド なぜ 英国に投資 するのか ? 貴社が英国での不動産投資を検討されてい る場合、本ガイドはそのスタートに役立ちま す。 ロンドンは長年に渡って投資家にとって安全 な投資先であり、また海外から英国への投 資は増加しています。主な要因は以下のとお りです。 • 欧州や世界の他の地域と比べて安定的な統治制度 を有している。 • 相対的な経済の安定性。すなわち、ポンドはユーロよ り値動きが安定しており、また英国市場は成熟し比 較的透明性が高いため、流動性が生み出されてい る。 • 海外からの投資に関する規制が少ない。投資におい て国内投資家の参画は義務付けられておらず、不動 産の外国人所有規制がほとんどない。 • 自由な外貨両替・送金が認められており、投資収益 を比較的容易に本国へ送金できる。 • 独立した機関が明確なガイドラインや手続きに従い 英国市場を規制しており、規制内容が公開されてい る。 英国不動産 への投資にあたり 知っておくべき 5つのこと 英国は絶好の投資機会を提供している。 特にロンドンは多くの海外投資家を魅了 し続けている。 ロンドンでは優良資産をめぐる競争が厳 しい。 ジョイント・ベンチャーによって市場に参 入する投資家が増加している。 新規開発案件への投資機会が増加してい る。 • 法制度が成熟しており整備されている。 • 参入障壁が低く、英国の不動産市場が魅力的な利回 りを提供している。 1 主な法律上の 問題点 初めて英国の不動産市場に参入する場合、法 制度を理解する必要があります。よくある質 問と回答を以下に列挙します。 不動産の所有者について規制はあり ますか? いいえ。英国国内または外国の投資家いずれに も規制はありません。 不動産の保有にはどのようなものが ありますか? 所有権(freehold)と賃借権(leasehold)の二 つの方法で不動産を保有することができます。 所有権とは、土地をその上の建物とともに完全 な形で所有することです。 賃借権とは、賃貸借契約の条件に従い、所有者 から不動産を一定の年数賃借することです。 不動産保有について登記制度はあり ますか? はい。土地登記所(Land Registry)が不動産保 有者の記録を管理しています。不動産の所有権 または賃借権を取得した場合、登記が必要とな ります。 ただし、期間7年未満の賃貸借などの例外もあ ります。 不動産保有者としての権利が登記されると、そ の土地に関する権利が国により保証されること となります。 2 賃貸借の条件は法律で定められてい ますか? FRIリース(full repairing and insuring lease)とは何ですか? いいえ。ただし、賃貸人の中には賃貸借標準約 款(lease code)を支持する者もいます。 FRIリースでは、賃借人が修繕費や保険料を全 て負担します。賃貸人が保険を付保することも でき、その場合賃借人に対して保険料見合いの 家賃(insurance rent)を請求することでその 費用を回収できます。 賃貸借には主にどのような種類があ りますか? 一般的に、賃貸借には長期の投資賃貸借と短 期の占有賃貸借があります。 投資賃貸借は所有権と類似していますが、主に 以下の二点で異なります。 • 保有期間が限定されている。 • 賃借人は賃貸人に対して、不動産について保 険に入り、修繕・維持する等の義務を負う。 もっとも、所有権と長期賃借権との間には実際 上ほとんど違いはなく、長期賃貸借は、英国の 投資家一般に受け入れられています。 占有賃貸借は、投資賃貸借より期間が短く、ま た不動産に関して賃借人ができることに制限が 加わります。 不動産に複数の賃借人がいる場合、賃貸人は通 常、建物の構造部分や共用部分について修繕 義務を負います。賃貸人は賃借人に対してサー ビス料を請求することで、この費用の一部を回 収します。 賃貸借は通常どのぐらいの期間にな るのでしょうか? 投資賃貸借の期間は、通常999年、125年また は99年です。 占有賃貸借の期間はこれよりもかなり短く、通 常5年から15年であり、解約権が規定されること も珍しくありません。 3 賃料や賃料改定に関する典型的な規 定にはどのようなものがありますか? 投資賃貸借の賃借人は、賃借権取得時に権利 金を支払うのが通常であり、賃料は低額または 名目的な額です。これはよく「ペッパーコーン (peppercorn) 」と呼ばれるもので、年払いで す。 占有賃貸借の賃借人は、通常市場価格の賃料 を支払います。これは一般に「公開市場におけ る賃料(open market rent)」と呼ばれるもの で、公開市場で形成される賃料です。 賃借人は、通常各「四半期支払日(quarter days)」 (伝統的に賃料の支払日とされてきた1 年のうちの特定日)に、四半期分の賃料を前払 いします。賃料は、公共料金、税金、サービス料 その他の費用を含みません。 賃料は、通常5年ごとに見直しが行われます。占 有賃貸借では、賃料改定は値上げのみと規定さ れていることも珍しくなく、その場合は公開市場 における賃料に沿って賃料が値上げされること はあっても、値下げされることはありません。も っとも、賃料について、一定の値上げが規定さ れたり、指標に連動した賃料が規定される場合 もあります。 4 賃借権の譲渡について何か制限はあ りますか? 賃借権の譲渡(第三者に賃借権を移転するこ と)および転貸は、通常認められています。 占有賃貸借においては、通常賃借権の譲渡につ いて賃貸人の同意が必要となりますが、この同 意は不当に留保することができません。賃貸借 契約では、通常、賃貸人の同意を得られる条件 と、同意を得られない場合が規定されます。 賃借権の譲渡について、新たな賃借人の信用力 が条件とされることがあります。例えば、新賃借 人についての一定の格付け、純資産額の証明、 保証や賃料の保証金が求められることがありま す。 占有賃借権が譲渡された後、旧賃借人は、賃貸 借契約における賃借人としての全ての義務を免 れるのが通常です(1996年1月1日以降に締結し た賃貸借契約の場合)。ただし、旧賃借人が保 証契約(authorised guarantee agreement)に基づき新賃借人の義務履行を 保証しなければならないこともあります。 1996年1月1日以前に締結された賃貸借契約に ついては、賃借権が譲渡された後も、賃借人は 賃貸借の期間中は賃借人の義務を全て負い続 けます。これにより、賃貸人は、新たな保証を必 要とせず、賃料収入を確保することができま す。 賃借権には通常他にどのような制限 がありますか? 賃借期間が満了するとどうなります か? 通常、賃貸人の同意なく不動産を改築すること はできません。不動産の使用方法の変更につい ては、賃貸人が同意しなければならないとされ ることもよくあります。 事業用物件の占有賃借人は、最大15年間賃借 権を更新できます。 物件の修繕や管理については誰が責 任を負いますか? ただし、最初の賃貸借契約締結時に、賃貸人が 賃借人にこの権利を認めないよう交渉すること もあります。賃借人に賃借権を更新する権利が 認められても、賃貸人は物件を再開発する場合 など、更新を拒否することができます。その場 合、賃借人は補償金を請求する権利を有しま す。 所有不動産の場合、所有者が修繕や管理につ いて全責任を負います。 賃借不動産の場合、賃借人は賃借期間中、物件 について修繕が行き届いた状態を維持しなけれ ばならないのが一般的です。 賃借期間満了時の物件の状態につい てどのような決まりがありますか? 賃借人は、修繕の行き届いた良好な状態で不動 産を返還しなければなりません。この条件が満 たされない場合、賃貸人は損害賠償を請求する ことができます。 賃借人が改築を行った場合、賃貸人は通常、賃 借期間満了時に原状回復を求めることができま す。 5 不動産購入に必要な手続 astep by step guide 不動産の選 定から契 約実行までにかか る期間は、2週間から数ヶ月と幅がありま す。主な手続は以下のとおりです。 1 エージェントの選任 エージェントは、初期的な不動産の資産査定(デューディ リジェンス)、入札手続きと応札、タームシートの合意 等、不動産取得に必要な各手続きを手伝ってくれます。 2 4 弁護士の選任 正式契約の交渉に向けて弁護士を選任します。通常は、 タームシート合意の段階で弁護士を雇い、網羅的なリー ガル・デューディリジェンスおよび取引関連書類の作成・ 交渉を行います。 5 資産査定 (デューディリジェンス) 不動産の権利関係や状態の調査は買主の責任において 行われます。 「買主危険負担」 の原則:売主には、買主に対して物件に 関して知っていることを全て開示する義務はありません。 ただし、売主は買主の質問に回答する義務があり、エネ ルギー性能証明書(energy performance certificate) を提供しなければなりません。また、目視による調査で は明らかにならないような不動産の権利関係の瑕疵につ いても開示する義務があります。 リーガル・デューディリジェンスでは、公開情報の調査や 契約締結前に行われる売主に対する照会など、不動産の 権利関係を調査します。 売主との交渉 売主に対して一定期間の独占交渉権を求めることもでき ます。 リーガル・デューディリジェンスと並行して、以下のような 事項についてテクニカルアドバイザーによるデューディリ ジェンスが行われます。 • 建物の構造調査 • 機械・電気的設備 3 • 測量報告書 • 環境調査 タームシートの合意 売買に関する主要な条件を定めます。タームシート (Heads of terms)は、法的拘束力を持たないのが通常 です。 6 • 建築計画報告書 どのような報告書が必要となるのかは、取得する不動産 や、不動産の取得目的(開発か純投資か)によって異なり ます。 6 売買契約 売買契約は次の点を充たさなければなりません。 • 書面でされること。 • 両当事者が署名すること。 • 当事者間で合意されたすべての点が反映されている こと(契約書本体での規定でも、参照することで契 約の一部とすることも可能)。 売買契約では、売買実行のための前提条件を付けること ができます。前提条件が充足せず、放棄もされない場 合、契約を解除することができます。売買契約には正式 な不動産譲渡証書(property transfer)が含まれます。 これは、売買契約とは別個の書面で、土地登記所所定の 様式により、売買完了時に締結されるものです。 通常、売買契約は、 「商業不動産取引標準約款 (Standard Commercial Property Conditions)」を、当 事者間の合意により修正・除外した上で適用します。 この約款は、参照することで売買契約書の内容となりま すが、契約書自体に添付されるものではありません。こ れらの条項は売主と買主の間の公正なバランスを取るた めのものであり、具体的な取引の内容に応じて慎重に検 討する必要があります。 7 売買契約の締結 売買契約に署名し、売買契約が受け渡されると、売買を 実行するという義務に法的に拘束されることになりま す。 8 手付金の支払い 売買契約締結時に買主支払う手付金(deposit)は、通常 売買代金の5~10%です。売主側の弁護士が取引の実行 までこの手付金を預かることが一般的であり、買主が売 買を実行できなかった場合、売主は手付金を没収するこ とができます。 9 売買の実行 売買の実行は、場合により売買契約の締結から数日後、 数週間後、数ヶ月後、または売買契約の締結と同時に行 われます。 売買の実行時に、買主は、売買代金の残額を支払いま す。対象不動産の既存抵当権や担保権は抹消されます。 買主の購入資金の調達方法に応じ、新たな抵当権や担 保権が設定されます。 売買代金の受け渡しには弁護士が関与します (Solicitors’ undertakings)。不動産譲渡証書に日付を 入れ、買主が登記のため土地登記所に提出します。 10 所有権の移転 売買実行時に権利は買主に移りますが、土地登記所で 登記が完了するまで買主は不動産の所有者になれませ ん。また、古い抵当権や担保権を解除・抹消し、新たな 担保を登記するには、土地登記所に登記申請を行う必要 があります。 7 最適な投資 スキームは? どのようなスキームを採用するかが、不動産 投 資において最も重要な判断の一つになり ます。 まず、現物の不動産をそのまま取得し、単独の所有者と なる方法があります。メリットとして、手続が簡易である こと、取得資産に対してコントロールを最大限及ぼせる ことがあります。もっとも、私たちが助言したクライアン トは、投資目的でより複雑な投資スキームを好む傾向に あります。 不動産の取得に際しては、特別目的会社(special purpose vehicles)を利用するのが通常です。海外で設立 された会社、投資信託(unit trust)、リミテッド・パート ナーシップや不動産投資信託(REIT)などを利用するこ ともあります。投資家は、税効果が高く、管理が容易で、 煩雑な規制当局の管理を避けるため、投資ビークルを活 用するのが一般的です。 共同保有スキームも増えています。ジョイント・ベンチャ ーの形式を採用することにより、より多様な資産ポート フォリオへの投資が可能になり、特定の資産や特定の種 類の資産へのリスク・エクスポージャーを減少することも できます。また、ジョイント・ベンチャーのパートナー等 が持つ不動産管理の専門知識やアドバイスを利用でき ることも、このスキームの利点となります。 ロンドンなど優良資産をめぐって競争が激しい市場で は、評判の良い不動産会社と連携すれば、投資対象不 動産の確保の点で競争上有利になるでしょう。 不動産開発会社は、大規模開発案件ではジョイント・ベ ンチャーのパートナーを探す傾向にあります。借入によ らず、開発コストをまかなうことができるためです。最近 のロンドンにおける最大規模のプロジェクトには、ジョイ ント・ベンチャーによるものもあります。 どのような投資スキームを採用する場合でも、そのスキ ームが税務上・規制上の問題点に対応しているかどう か、確認することが重要です。 8 英国不動産にかかる 税-基礎編 賃料収入への課税 譲渡益への課税 英国の土地からの賃料収入には英国 の税金が課されます。英国法人は、 賃料収入にかかる法人税を支払う必 要があります。これに対し、非居住者 である投資家は、現状ではより低い 税率の所得税を支払うのが通常で す。 英国では一般的に、非居住者である 投資家が得る資産譲渡益は課税さ れません。これは、資産譲渡益が英 国の資産を売却して得られた場合や 英国で取引の交渉や合意が行われ た場合であっても変わりません。よっ て、非居住者である投資家として非 居住用の投資不動産(事業用在庫で ないもの)を保有している場合、譲 渡益について非課税となります。 賃料収入にかかる税額を計算する際 には、賃料収入総額から一部の費用 を控除することができます。不動産 保有者のレベルで直接借入れが行 ここで、土地に関する「取引」 われている場合、借入金の利息を (trading) と「投資 (investment)」の 控除することができます。ただし、 区別をしておく必要があります。英国 これは過小資本規制、移転価格 の非居住者は、一般的に、英国での 基準および租税回避行為の否認 「取引」 から得られた利益について (anti-avoidance rules)による制限に 課税されます。これには「取引」の性 服します。その他建物に直接関連し 質を持つ不動産取引による譲渡益が て支払われる一般的な費用も控除の 含まれます。 対象となります。 「取引」 と「投資」の線引きをめぐる 英国非居住者である土地所有者 税務紛争は、英国所得税と同じくら の賃料収入は、英国歳入関税庁 い長い歴史を有していますが、多く (HMRC) の全額支払いに関する承認 の場合その区別は比較的明確です。 を得ない限り、英国の源泉徴収税の • 満室のオフィスビルのような資産 対象となります。 を、数年間保有する (この場合、資 通常、英国歳入関税庁は全額支払い 金調達コストを上回る賃料収入 を承認します。ただし、英国歳入関 が得られることとなる)ために購入 税庁は、非居住者である投資家が英 することは、 「投資」である。 国の税務申告書を提出して差額賃料 • (市場変動や建築計画認可、開 収入について英国所得税を支払うこ 発によって土地の値段が上昇する とはないと考える場合、英国の税法 ことを見込んで)数年以内に売却 に従い全額支払いの承認を拒否する することを目的に建物用空き地( ことができます。 購入時点では何らの収入を生み 出さない)を購入することは、 「取 譲渡税 引」 となる。 英国の商業不動産の取引には、購入 価格を基準に最大4%の不動産印紙 税(stamp duty land tax)が課せら れます。 4%の税率は50万ポンドを超える取 引に適用されます。不動産印紙税の 支払義務は売主ではなく買主に課さ れます。 9 資本的支出 (Capital expenditure) を生み出す建物の売却として「継続 事業の譲渡(TOGC)」に該当すれ ば、付加価値税が非課税となるため です。売主が 「課税」を選択した場 合、買主もまた 「課税」を選択しない と、この「継続事業の譲渡」の取扱 いを受けることはできません。 英国の税制では、納税者の計算にお いて資産の減価償却について控除す ることは認められません。その代わ り、実際の会計上の処理にかかわら ず、設備および機械に関する支出の 一定割合について減価償却の税務上 対象不動産が投資信託のような の代替措置(資本控除(capital 「wrapper」 に保有されており、かつ allowance)と呼ばれる)が認められ 投資家がその「wrapper」の購入を通 ています。 じて投資をする場合には、上記とは 異なる付加価値税の規則が適用され 建物を購入する場合、購入価格のう ます。 ちどの程度が建物の設備および機械 に割り当てられるのか、売主と合意 事業税 しておくことが重要です。税制上、買 (Business rates) 主と売主はこの割り当てについて対 英国の地方政府は、事業税 立することが多いからです。 (business rates)と呼ばれる地方税を 徴収します。事業税は通常不動産の 付加価値税 占有者に課され、その負担分は標準 (Value added tax: VAT) 的な賃貸借契約において賃借人負担 英国では、例外はあるものの、賃貸 とされています。したがって、物件が 人が建物に関する権利について 空物件とならない限り、事業税は不 「課税」 を選択しない限り、商業不動 動産所有者にとって問題になりませ 産の賃貸については付加価値税が ん。 免除されます。 実務上、賃貸人は大抵「課税」を選 択します。これは、賃料について付加 価値税を支払うということを意味す るとともに、これにより賃貸人は、負 担した付加価値税を費用として計上 できるからです。 買主は、通常、購入について付加価 値税が課されないようにするために 「課税」 を選択します。つまり、賃料 10 投資 スキームの選択 資産保有会社(property holding companies) 英国の不動産は、しばしば、資産保有会社の全株式を譲 渡するという形で売却されます。個々の不動産ごとに個 別の資産保有会社を設立するのが一般的です。 不動産印紙税の節税 資産保有会社を用いれば、当該会社の株式譲渡に際し て不動産印紙税を支払う必要がありません。買主と売主 が不動産印紙税の節税分を分割して売買価格を調整す ることはよくあります。 英国法人vs英国外の法人 資産保有会社は英国で設立することも英国外で設立す ることもできます。その選択における考慮要素は、主に 税と規制です。英国非居住者の投資家であれば、一般的 に、英国法人を通じて英国の不動産に投資することは税 務面で効率がいいとは言えません。 英国居住者の法人は、一般的に、不動産の譲渡益につい て法人税を支払いますが、英国非居住者の投資家は非 居住用の投資物件の譲渡益について納税義務を負いま せん。よって、英国非居住者の投資家であれば、譲渡益 について無駄な税金を支払わないよう、英国居住者とな る法人を使用した英国不動産への投資は避けるべきで す。 買主は、英国会社の株式譲渡につき印紙税を支払う必 要があります。その税率は不動産印紙税よりもずっと低 く、0.5%です。しかし、英国外で設立された会社の株式 譲渡について、印紙税を支払う必要はありません。 英国外で設立された会社をどこの居住者と判断するか は、主に設立地の税制によって決まります。その税制の ため、ジャージー(Jersey)やガーンジー(Guernsey)は このような会社の設立地として多用されています。 管理上の負担 英国外で設立される会社を用いると、会社設立地のコー ポレート・ガバナンス上の条件を満たさなければならな くなるという会社管理上の負担が生じます。 例えば、取締役が会社設立地で開催される取締役会に 参加しなければならない場合もあります。また、その会 社に関する届出や記録につき現地のエージェントを任命 する必要が生じます。 11 リミテッド・パートナーシップ (limited partnerships)およびリミテッド・ ライアビリティー・パートナーシップ (limited liability partnerships) 英国不動産の保有について、特にジョイント・ベンチャ ーの場合、リミテッド・パートナーシップがよく用られま す。主なメリットは、非居住者であるリミテッド・パートナ ーが居住者となることなく、英国において事業を管理す ることができる点にあります。 リミテッド・パートナーシップでは、例えば利益の分配方 法やエグジット(退出)戦略など、ジョイント・ベンチャ ーの条件を当該パートナーシップの設立文書等で柔軟 に定めることができます。 しかし、英国では実務上リミテッド・パートナシップの持 分を上場させることができないため、流動性の点で課題 があります。また、リミテッド・パートナーシップは金融行 為監督機構(Financial Conduct Authority: FCA)の規 制に服する可能性があります。 FCAの規制 不動産を保有するリミテッド・パートナシップは、所定の 例外に該当しない限り、2000年金融サービスおよび市 場法(Financial Services and Markets Act 2000:FSMA) 上の集団投資スキーム(collective investment scheme: CIS)に該当します。 加えて、EUオルタナティブ投資ファンド運用者指令 (the EU Alternative Investment Fund Managers Directive:AIFMD)におけるオルタナティブ投資ファンド (alternative investment fund:AIF)にも該当します。 FSMAおよびAIFMDは、規制対象外のCISを英国で販売 することと、AIF持分をヨーロッパで販売することを制限 しています。 CISを運用することはFSMAの規制対象となる行為です。 また、AIFの運用者となることはAIFMDで規制されてい ます。CIS持分について助言すること、取引すること、お よび当該取引をあっせんすることもまた、規制対象とな る行為です。 したがって、英国の不動産を共同保有する場合、これら の英国とヨーロッパの規制に反することなく販売、設立 および運用できるか、検証する必要があります。 12 これらの規制には、ジョイント・ベンチャーに適用可能 なものも含め例外がありますが、完全に重なり合うもの ではありません。そのため、CISに該当しないからといっ て直ちにAIMに該当しない(逆もまた同様)と安易に判 断することはできません。 受益者の課税上の取扱い 収入に関する英国税法上、パートナーシップは通常 「transparent」 であり、パートナーシップレベルでの収入 は課税の対象となりません。その代わり、パートナシップ の収入は個々のパートナーの収入として取り扱われま す。このため、パートナーシップは免税投資家にとって特 にメリットがあります。 税務当局は、英国不動産を保有するリミテッド・パートナ ーシップまたはリミテッド・ライアビリティー・パートナ ーシップ(LLP)の持分の譲渡について、土地印紙税を課 すことができます。また、税務当局はパートナーの権利 の変更についても不動産印紙税を課す可能性がありま す。 この税負担は、二階層ファンドスキーム-(海外の会社 または投資信託が英国のリミテッド・パートナーシップ またはLLPに投資する)を採用することにより軽減できま す。これらのスキームを採用すると、個々のパートナーの 持分を譲渡することにより、英国の印紙税を負担するこ となく、間接的にパートナーシップ持分を譲渡すること が可能になります。 海外の投資信託 英国の商業用不動産はしばしば英国外の投資信託 (unit trusts)に売りに出されます。投資信託、特に「ジャ ージー不動産投資信託(JPUTs)」と呼ばれるジャージー で設立される投資信託は、投資スキームとして長い間用 いられてきました。投資信託は、正しくスキームを設計 すれば、税制上のメリットを享受できます。 高い税効果 英国外の不動産投資信託は、土地印紙税を節約できる ことからよく使用されるスキームです。一定の投資信託 の持分は、土地印紙税を負担せずに売買できます。 このような税の「遮断」効を投資信託が得るためには、 規制法上のCISに該当し、かつ、CISの認定を覆す例外に 該当しないことが必要です。 英国外の不動産投資信託もまた通常「transparent」で あり、すなわち不動産投資信託レベルでの収入は課税の 対象となりません。これにより、不動産投資信託は年金 基金など英国の免税投資家にとってメリットがありま す。 規制 税および規制の観点から、不動産投資信託(property unit trusts)を英国で設立・運営するのは魅力的なスキ ームではありません。そのため、不動産投資信託は典型 的には英国外(多くはジャージー)で設立されます。これ により、FCAから許認可を取得する必要はなくなります が、不動産投資信託の設立・運営地によっては現地の許 認可が問題となる可能性があります。 信託方式で保有する不動産について、管理上の問題に 直面するかもしれません。投資信託を「英国外で」運営 するためには、受託者または信託管理者が英国で直接 不動産の管理に関与することは望ましくありません。こ の問題は、以下の二階層スキームを採用することにより 解決できます。 二階層スキーム 二階層スキームでは、英国外の投資信託が英国のリミテ ッド・パートナーシップの持分を保有し、このリミテッド・ パートナーシップが不動産を保有します。投資信託は単 にリミテッド・パートナーとして行動するため、英国外で も問題なく行えます。 パートナーシップは、ジェネラル・パートナーまたはマネ ジャーが英国での投資判断を行うことにより、英国国内 で運営されます。パートナーシップは英国税法上おおむ ね「transparent」であるため、英国外の投資信託を利用 して不動産を所有することのメリットは失われません。 不動産投資信託(REITs) REITとは 不動産投資信託(REIT)とは、不動産への投資事業を 営む(信託ではない)会社または会社の集団をいいま す。REITとなるためには、会社または会社の集団が一定 の要件を満たし、英国の税務当局に届け出る必要があ ります。 過去には、英国のREITは大規模で多くの投資家に保有 されていました。しかし、英国のREIT関連規制が緩和さ れ、適格投資家向けの流動性の低い私募形態やジョイ ント・ベンチャー形態のREITの設立が可能となりまし た。適格投資家には、年金基金、保険会社、政府機関お よび英国外のREITが含まれます。 REITのメリット 英国の免税投資家は、REITへの投資により、英国の商 業不動産投資に関し、海外投資信託に投資するのと同 じ条件で、税還付を受けることが可能です。 他の英国外の投資家の場合、投資スキームによる収益 の違いを比較して検討する必要があります。しかし、英 国外の投資信託や資産保有会社と異なり、REITは英国 内で運営することができます。 REITは、不動産投資による収入と利益に関して英国で 免税とされています。一定の場合、REITによって支払わ れる配当について源泉徴収税が課されます。 REITが英国外で設立された場合、そのREITの持分の譲 渡について英国の印紙税が課されることはありません。 また、英国における課税の基礎となる居住性のない投 資家の、商業不動産REITの持分に関する譲渡益につい ても、英国の税は課されません。 ほとんどの英国におけるパートナーシップはCISとなるた め、FCAから許認可を取得する必要があります。例外の 適用を受けない限り、許認可取得済みの外部業者に報 酬を支払いパートナーシップの運営を委ねるか、自らそ のパートナーシップ運営のための許認可を取得する必要 があります。 注記: 本資料は、イングランドおよびウェールズの商業不動産への投資の参考とするために作成されたものです。本資料は、不動産関連法令に関する網羅 的な要約または詳細な分析ではないため、法律専門家による特定の事例または取引に関する詳細なアドバイスに代わるものではありません。また、本資料 は英国不動産への投資ガイドですが、スコットランド法が適用されるスコットランド所在の不動産は対象としていません。 13 不動産投資 関連用語集 知っておきたい 法律用語・専門用語 Alienation 譲渡またはサブリースにより、賃貸借上の賃借人の権利 を処分すること。 Assignment 賃貸借上の権利を第三者に譲渡する手続き。 Authorised Guarantee Agreement 賃借権を譲渡しようとする賃借人が、賃貸人に対し、賃 貸借残存期間中の賃借人としての義務の履行を保証す る契約。 Caveat emptor しばしば「buyer beware」と訳される。買主は不動産を 現状有姿で購入し、売主は不動産について知っているこ との全てを開示する積極的な義務を負わないという原 則。 Charge or mortgage ローンの担保として不動産に設定される担保権。 Completion 法的に対象不動産を譲渡したり賃貸借に供したりするこ とにより、不動産関連契約が効力を生じる手続き。 Dilapidations 賃貸借終了時に発見された修繕を要する事項。賃貸借 上の修繕義務にもとづき、賃借人がこれを修繕しなけれ ばならない。賃借人の修繕義務は、賃貸借期間中または 賃貸借終了後に及ぶこともある。 Energy performance certificate 建物のエネルギー効率を示す証明書であり、商業用不 動産の建築、修繕、売却および賃貸に際して必要とな る。 Exchange 不動産関連契約に署名し日付を入れて法的に拘束力の あるものとすること。 14 Forfeiture Security of tenure 賃借人が賃貸借の規定に違反し、その態様が賃貸人に よる物件の取り戻しを可能とする場合に、賃貸人が物件 を取り戻して賃貸借を終了させたり、物件の占有回復の ための裁判手続を開始すること。 一定の条件の下で、賃借人が賃貸借終了後も物件を占有 できる権利。 Freehold Service charge 修繕・維持など、賃貸人が物件に関して支出し、賃借人 が負担するサービスの費用。 その保有者に所有権を与える土地に関する財産権。 Institutional (or ‘FRI’) leases 機関投資家が受入れ可能な標準的条件に基づく期間10 年から15年の賃貸借。FRIとは修繕と付保について全て 賃借人負担とすること(full repairing and insuring)を 意味する。賃借人は通常、物件の修繕、原状回復、維持 および付保の費用を全額負担する。 Insurance rent 賃貸人が物件に保険をかける場合、当該付保に要した 費用(費用全額の場合も一部の場合もあり)を賃借人か ら回収するために請求する保険料見合いの家賃。 Lease code 推奨される賃貸借条件。 (全てではないが)賃貸人の中 にはこれを支持する者もおり、賃貸人と賃借人との間の 公平なバランスをとることを目的としている。 Leasehold 土地を使用・占有(ただし所有はできない)する権利を 与える土地に関する財産権。賃貸人は所有権を持ち、賃 借人に賃借権を付与する。 Net internal area 賃借人による専有使用が可能な空間。階段、トイレ、通 路などの共用部分を含まない。 Quarter days 通常、賃料支払日とされる四半期ごとの日。3月25日、6月 24日、9月29日および12月25日を指す。 Solicitors’ undertakings 譲渡実行前に代金を引き渡す仕組み。買主側弁護士 は、売主側弁護士の口座に売買代金を振り込み、売主 側弁護士は買主を指図人として譲渡実行まで当該代金 を保管する。弁護士がこの仕組みに違反した場合は、除 名(二度と弁護士として活動することができない)を含 む厳しい制裁が課される。 Standard commercial property conditions 商業不動産の売却や賃貸借に関する契約の一部を構成 する標準約款。 Sub-letting 賃借人が転借人に対して転貸すること。 Tenant’s fit out 賃貸借開始時に賃借人によって行われる改装。これにつ いては、通常賃借人が費用負担し、賃料が増額される要 素とはされない。このため、賃借人は、自己が行った物 件への改良行為を理由として従前よりも高い賃料を支払 うことはない。一般的に、賃借人は、開始時の改装によ って建物に付加された造作を除去する費用を賃貸借終 了時に負担する。 Yielding up 賃貸借の期間満了に伴い賃借人が賃借物件を賃貸人に 明け渡すこと。賃貸借契約上は、通常、賃貸人への明け 渡し前に賃借人が物件を原状回復する義務を負ってい る。 15 本書についてご 質問などがござ いましたら遠 慮 なくお問い合わ せください。 Emma Kendall マネージングパートナー(不動産部門) ロンドンオフィス T +44 20 7832 7516 E [email protected] Edward Cole(エドワード・コール) パートナー 東京オフィス T 03 3584 8533 E [email protected] 中島 智子 シニア カウンセル 東京オフィス T 03 3584 3132 E [email protected] Gustav Runeland(グスタフ・ルーネランド) シニア アソシエイト 東京オフィス T 03 3584 8479 E [email protected] 大坂 彰吾 アソシエイト 東京オフィス T 03 3584 8482 E [email protected] 16 本書は、フレッシュフィールズブルックハウスデリンガーLLP(イングランドおよびウェールズ法に基づいて設立された有限責任組合)(以下「英国 LLP」といいます。)およ び世界各国において Freshfields Bruckhaus Deringerの名称で事業を運営している英国 LLPの関連事務所、ならびにフレッシュフィールズブルックハウスデリンガー米 国 LLPから提供されています。規制情報については、www.freshfields.com/support/legalnoticeをご覧ください。 英国 LLPは、オーストリア、バーレーン、ベルギー、中国、イングランド、フランス、ドイツ、香港、イタリア、日本、オランダ、ロシア、シンガポール、スペイン、アラブ首長国連 邦およびベトナムに関連事務所を有しています。フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー米国 LLPは、ニューヨーク市およびワシントンDCに事務所を有していま す。 本書は一般的な情報の提供のみを目的としており、法的助言の提供を意図するものではありません。 © Freshfields Bruckhaus Deringer llp, August 2015, 03699 freshfields.com
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