1 皮膚がん jp/medical/guideline/skin は じめに cancer/index.html 皮膚がんは、社会の高齢化とともに 近年増加傾向にあります。全身を覆っ 皮膚がんの種類 ている皮膚/粘膜のすべての部位から 基底細胞癌 皮膚がんは発生します。皮膚は目で見 最も多い皮膚がんです。高齢者の顔 える場所ですので、皮膚がんは早期発 面に、黒い透明感のある小さなイボの 見、早期治療が可能ながんであるとも ような病変として認められることが多 いえます。ただし皮膚がんの種類や進 いです。基底細胞がんはほとんど転移 行の程度によっては、命に関わるよう することはありませんが、再発するこ な重篤な場合もありますので、時々は とがあるため、十分な範囲の切除を行 自分の全身をチェックすることが大切 うことが重要です。 です。だれの皮膚にもシミやほくろ、 有棘細胞癌 イボなどはありますが、急に大きく 2番目に多い皮膚がんです。長年紫 なったり、色が変わったり、潰瘍がで 外線を浴びてきた顔面や手背などに発 きたりといった変化がもしあれば、皮 生することが多く、かさぶたのついた 膚がんの可能性もありますので、皮膚 紅斑(日光角化症:前癌病変)が先に 科専門医の受診をお勧めします。 生じ、そこから癌へ進行します。また 皮膚がんには後述するように様々な 熱傷のあとの瘢痕から発生することも 種類があり、治療方針もそれぞれ異な あります。以前はすぐ治っていた瘢痕 ります。日本皮膚科学会、日本癌治療 上の傷が、治りにくくなった場合は癌 学会のホームページから、皮膚がんの 化の可能性があります。 診断・治療の手順、各種治療法の推奨 悪性黒色腫 度などが記載された「皮膚悪性腫瘍診 日本人の場合、年間10万人に1.5人 療ガイドライン」を閲覧することがで 程度の発症数といわれており、半数の きます。九州大学では、このガイドラ 症例で足の裏に生じます。足の裏に小 インに沿った診断・治療を行っていま 児期になかったホクロが生じれば注意 す。 が必要です。早期に発見し、切除を中 http: 2 //www. dermatol. or. 心とした適切な治療を行うことが重要 Skin Cancer です。近年新しい治療薬が開発され、 進行例での治療の可能性が広がりつつ あります。 ダーモスコピー 拡大鏡のような道具を用いて、皮膚 の表面での光の乱反射を抑え、非侵襲 その他の皮膚がん 的に皮膚内部の構造、色素の分布、血 乳房外パジェット病は外陰部に生 管の走行などを観察できる検査です。 じ、早期では湿疹やたむしと間違える 悪性黒色腫や基底細胞がんと普通のホ ことがあります。高齢者の頭部に生じ クロやシミなどを見分けるのに特に有 る血管肉腫は、けがに続発することが 用です。 多く、 非常に予後の悪い皮膚がんです。 頭部のけがが治りにくく、皮下出血の 皮膚生検 ような紅斑が広がる場合は注意が必要 皮膚がんの確定診断は皮膚生検に です。メルケル細胞癌は、高齢者の頬 よって行います。局所麻酔の注射後に 部に紅色の腫瘤を形成することが多 病変の一部(3〜4mm程度)を切り く、予後の悪い皮膚がんです。菌状息 取って、病理検査(顕微鏡検査)を行 肉症は、緩徐に進行する皮膚の悪性リ います。悪性黒色腫の場合は、腫瘍の ンパ腫で、紫外線療法で治療します。 厚みによって治療方針が変わるため、 早期は湿疹や、アトピー性皮膚炎と間 できるだけ病変全体を切除し病理検査 違えることがあります。 をすることで、診断と治療方針を確定 します。 診断 画像検査 十分な経験を持った皮膚科専門医で 皮膚生検により皮膚がんの診断がつ あれば、皮膚がんの診断は視診(よく き、さらに進行がんの可能性がある場 見る)だけで比較的容易です。特に悪 合 は、超 音 波 検 査、CT、MRI、 性黒色腫、乳房外パジェット病、光線 PET-CTなどの画像検査を組み合わ 角化症、菌状息肉症など、早期では皮 せて、全身の転移の有無を検索します。 膚の色や表面の性状のみの変化で発症 特に進行している悪性黒色腫や血管肉 する皮膚がんは、皮膚科専門医以外で 腫、比較的大きな有棘細胞癌の場合、 は診断は困難です。 その他の臓器に転移している可能性を 3 皮膚がん 考慮し、全身検索を行うことがありま 行ってもらいます。 す。また進行した悪性黒色腫や有棘細 胞癌などで切除術後に再発/転移のリ スクがある場合は、定期的な画像検索 を行う場合があります。 センチネルリンパ節生検 悪性黒色腫はリンパの流れに乗って 転移をしやすい皮膚がんです。病変が 厚くなるほど、リンパ節転移の可能性 外 科的治療 が高くなります。触診や前述の画像検 査によって、明らかなリンパ節転移が 特に早期の皮膚がんでは外科的治療 見つかることもありますが、リンパ節 は根治を期待できる治療です。皮膚が が腫瘍細胞で大きくなる前にも、顕微 んの種類、進行度に基づき、病変から 鏡でしかわからない程度の、ごく少数 数mm〜数cm離して切除します。腋 の腫瘍細胞の転移が生じている可能性 窩や鼠径などのリンパ節に転移がある があります。以前は、リンパ節転移の 場合は、周囲のリンパ節を含めてその 可能性がある場合は、予防的にリンパ 領域のリンパ節をすべて切除する、リ 節郭清術が選択されていました。しか ンパ節郭清を行います。切除後の皮膚 しリンパ節郭清術は体の負担が大き の欠損部には、大きさや場所によって く、術後のリンパ浮腫などの合併症も 皮弁や植皮などによる再建を行いま 起こるため、結果的に転移がなかった す。皮膚がんの種類や亜型によって 患者さんにとっては不必要な手術だっ は、正常の皮膚と病変の境界が分かり たことになります。センチネルリンパ 難いため、切除後に人工真皮とよばれ 節生検では、悪性黒色腫が最初に転移 る被覆材で皮膚欠損部を覆い、完全に すると考えられるリンパ節を探し出し がん組織が切除できたことを顕微鏡で 摘出・検査することで、リンパ節郭清 病理学的に確認したあとで、再建を行 術の適応を決定できるようになりまし う二期的手術を行うこともあります。 た。検査自体は数cmの切開で施行で 術後の瘢痕は、場所によってはしばら き体への負担が少ないものです。この く固くつっぱったり、赤みが目立った ことによって、必要な患者さんにのみ りしますので、 半年から1年程度の間、 リンパ節郭清術を行うことができるよ テーピングやスポンジによる圧迫を うになりました。 4 Skin Cancer 内 科的治療 きる免疫チェックポイント阻害薬には 悪性黒色腫 的薬にはベムラフェニブがあります ニボルマブとイピリムマブが、分子標 皮膚がんが肺や肝臓など他の臓器に が、さらに2016年にかけて新しい薬剤 転移した場合は、化学療法や免疫療法 が使えるようになる予定です。また完 を行うことがあります。これまでダカ 全切除ができた患者さんで、再発/転 ルバジンという抗癌剤を中心とした化 移のリスクが比較的高い患者さんには 学療法が行われてきましたが、十分な インターフェロンβを投与することが 効果が得られているとはいえない状況 あります。 でした。最近になって免疫チェックポ イント阻害薬と分子標的薬とよばれる その他の皮膚がん 薬剤が使えるようになりました。免疫 有棘細胞癌ではシスプラチン、ドキ チェックポイント阻害薬は、本来体が ソルビシン、5フルオロウラシルなど 持っているがんに対抗する力を高める の抗癌剤を組み合わせて治療します。 薬剤で、すべての悪性黒色腫の患者さ 血管肉腫ではパクリタキセル、ドセタ んに使えます。効果を発揮するまでに キセルといったタキサン系抗癌剤とよ 時間がかかるのですが、一度効果が得 ばれる化学療法薬や、パゾパニブとい られると長い間効くのが特徴です。一 う分子標的薬が使われます。進行が緩 方、分子標的薬は腫瘍細胞のBRAFと 徐な皮膚悪性リンパ腫に対しては、紫 いう遺伝子に変異がある患者さんにし 外線療法を行います。進行した皮膚悪 か使えない薬です。この遺伝子変異は 性リンパ腫には、エトポシドやメソト 日本人の悪性黒色腫患者さんの約30% レキセートなどの抗癌剤や、ゾリンザ に認められます。分子標的薬は治療を やモガムリズマブという分子標的薬が 始めてすぐに効果が出るのですが、使 使用されることがあります。 い続けるうちに耐性ができ、効き目が なくなっていくことがあるため、免疫 チェックポイント阻害薬などへ適切な 時 期 に 切 り 替 え る こ と が あ り ま す。 2015年12月現在、悪性黒色腫に使用で 放 射線治療 基底細胞癌、有棘細胞癌、メルケル 細胞癌などで、高齢者や合併症のため 5 皮膚がん 手術が困難な場合などに、根治的な放 て、悪性黒色腫の手術療法に大きな変 射線治療が選択されることがありま 化をもたらしました。以前はごく初期 す。また頭頸部などで切除部の周囲や のリンパ節転移の診断が正確にはでき リンパ節からの再発を予防するため なかったため、ほとんどの症例で行う に、切除術後に放射線治療を行うこと 予防的郭清術(実際の転移が見つかる があります。血管肉腫は病変がごく小 のは20-30%)が中心でしたが、現在で さい例を除いて手術は行わず、化学療 はリンパ節転移のある患者さんのみに 法と放射線療法を併用して治療しま この侵襲あるリンパ節郭清術を施行す す。放射線治療を受けると、照射部に ることができるようになりました。ご 皮膚炎や脱毛、粘膜炎を起こすことが 協力いただきました皆様に、この場を あります。 借りて感謝致します。 悪性黒色腫では、根治的な放射線治 療を行うことは通常ありませんが、脳 転移に対する定位放射線療法や全脳照 射、骨転移の疼痛に対する緩和的放射 線療法では、高い症状改善効果があり ます。 「皮膚腫瘍および炎症性疾患にお けるシグナル伝達分子及び免疫 回避分子発現の免疫・組織学的検 討」 各種皮膚悪性腫瘍の細胞株や患者さ んから摘出した病理組織標本を用い 臨 床研究 「悪性黒色腫におけるセンチネル リンパ節の遺伝子診断」 厚生労働省指導の下、2007年から3 て、細胞の増殖、分化、形態、性質を 決定するシグナルに関与する分子(シ グナル伝達分子)や免疫を調整する分 子の発現を研究しています。これらの 研究によって、発癌のメカニズム解析、 年間当院が中心となって行った「悪性 転移の分子機構、がん免疫の解明を目 黒色腫におけるセンチネルリンパ節の 指しており、また、皮膚科分野ではま 遺伝子診断」の臨床試験はその有用性 だ適応症のない様々な分子標的薬剤の と、安全性が確認され、2010年4月保 効果の予測ができるものと考えており 険適応となりました。当院では2000年 ます。将来は治療薬の選択肢が増える より積極的にこの検査法を取り入れ かもしれません。 6 Skin Cancer 臨 床治験 盲検、多施設共同、2パート試験」 ○「進行性悪性黒色腫患者を対象とし すでに切除ができないほど進行した たMK-3475の第Ⅰb相試験」 悪性黒色腫に対して、最近新しい薬剤 ○「ONO-4538併用第Ⅱ相試験 進行 が次々と開発され治療の選択肢が増え 期悪性黒色腫に対する多施設共同非 つつあります。当院でも下記のように 盲検対照試験」 多数の治験を実施しており、将来さら ○「ONO-4538第Ⅱ相試験 進行期悪 に多くの薬剤が進行期の悪性黒色腫に 性黒色腫に対する多施設共同非盲検 使えるようになることが期待されま 非対照試験」 す。 ○「完全切除後の再発リスクが高いス テージⅢb/c又はステージⅣの悪性 ○「切除不能または転移性BRAFV600 黒色腫患者を対象とした、ニボルマ 変異陽性黒色腫患者を対象に ブとイピリムマブによる補助免疫療 LGX818とMEK162の併用療法をベ 法の第Ⅲ相ランダム化二重盲検比較 ムラフェニブ及びLGX818単剤療法 試験」 と比較する第Ⅲ相、ランダム化、非 7 8 2016年3月
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