プライマリケア病院において 3年間で行った内視鏡検査 120症例の分析 関内どうぶつクリニック 牛草貴博 はじめに • 消化管疾患を検出するための検査には、レントゲン、エコーなどの 画像診断がある。しかし侵襲が少なく最も検出率が高い検査は内視 鏡検査であり、開腹すること無く生検を含めた組織診断が可能であ るためにその有用性は非常に高い。 • 今回当院で、3年間で消化管症状を疑う動物に対し内視鏡検査を 行った120症例について、CCECAIを中心とした臨床的パラメーターと、 内視鏡下での生検による組織学的検索との相関性を比較したので これを報告する。 Material and Methods • 動物:嘔吐,下痢,食欲不振などの急性および慢性の消化器症状が認 められた犬猫。 • 対象:当院において当院の獣医師が診断し、内視鏡検査をオプショ ンとして提示する必要があると診断した症例。他院の獣医師に紹介 され、当院を受診、検査を行った症例は除く。 • 嘔吐、下痢、食欲不振などが認められたために来院した犬およびネ コに対し、一般血液検査および画像診断などで診断に至らないため に、ご家族にオプションを提示した。オプションには対症療法、食事 の変更、抗生剤の投与、内視鏡検査を提示した。CCECAIを用いて臨 床スコアを評価し、最終的に内視鏡検査を選択し、診断を行った。 Material and Methods • 内視鏡システム:フジ FTS-‐4400 • スコープ:フジ EG-‐530N(5.5mm)、EG-‐410HR(9.8mm),EC-‐410(9.8mm) • 動物はプロポフォールで導入し、イソフルランで維持麻酔を行った。内視 鏡検査は、胃及び十二指腸、可能なものは空腸、回腸まで行い一部は大 腸の検査を行った。 • 生検サンプルの病理検査は東京大学獣医病理学教室にて行った。 • 病理診断で軽度から重度の慢性胃腸炎と診断されたものにつき、臨床診 断と合わせてIBDの総合診断を行った。 • 病理検査によって得られたリンパ管拡張に関する情報をリンパ管拡張子 数としてスコア化し、リンパ管拡張なしを0、軽度を1、中等度を2、重度を 3とした。 RESULT (内視鏡検査を実施した品種) 23 20 19 18 5 4 4 4 2 2 2 2 2 2 2 4 他 ー ー ー ー MIX ー ー ー 柴 4 RESULT (異物内視鏡下処置、種類別分類) (横軸は症例数) ラブラドール マルチーズ ボストン フレンチ プードル パピヨン ネコ チワワ ダックス 柴 シーズ 0 1 2 3 4 5 6 7 RESULT (腫瘍症例、種類別分類) プードル 18% チワワ 9% 猫 55% 柴 9% ダックス 9% RESULT (ネコ診断分類) なし重度IBD 5% 5% 異物 30% 中等度IBD 30% 腫瘍 30% RESULT (ネコ診断別平均年齢) 因子 平均年齢(歳) 猫全体 8.6 IBD 6.5 腫瘍 14.3 異物 4.5 RESULT (ネコ予後判定) 死亡 40% 良好 50% 薬で安定 10% 良好 薬で安定 死亡 RESULT (イヌ診断分類) その他 14% 腫瘍 5% 軽度IBD 36% 異物 19% アレルギー 重度IBD(PLE5例含む)中等度IBD 6% 13% 7% RESULT (イヌ診断別の平均年齢) 因子 全体 IBD PLE 腫瘍 ステロイド使用 リンパ管拡張 異物 平均年齢(歳) 4.62 5.45 5.16 13.4 5.38 4.9 5.88 RESULT (イヌ予後判定) 投薬により安定 11% 死亡 8% 良好 81% RESULT (IBD品種別) 13 12 12 8 7 4 2 ダックス チワワ プードル ネコ 2 ヨーキー キャバリア シュナウ ザー 2 2 2 2 柴 ボロニーズ パグ パピヨン その他 RESULT (イヌIBDリンパ管拡張割合) 軽度 23% 中等度 4% 重度 5% なし 68% RESULT (犬IBD予後分類) 投薬により安定 13% 死亡 5% 良好 82% RESULT (イヌIBDステロイド使用率) 使用 27% 不使用 73% RESULT (CCECAIとリンパ管拡張指数相関) CCECAI リンパ管拡張指数 10以上 0.6 10以下 0.2 RESULT 診断、予後因子別CCECAI平均値 因子 犬CCECAI平均 犬全症例 4.65 IBD 5.59 リンパ管拡張 6.3 PLE 12 ステロイド投与 11.95 腫瘍 13.4 死亡 9 RESULT (全症例でのステロイドの使用と各項目との相関) リンパ管 年齢 拡張 予後 元気 食欲 嘔吐 便の硬さ便の頻度 体重減少 Alb値 腹水、浮腫 掻痒 CCECAI ステロイド あり 5.38 0.48 1.52 1.67 1.81 1.62 1.86 1.71 1.43 1.1 0.67 0.1 11.95 ステロイド 無し 3.96 0.27 0.3 0.81 1.28 1.54 0.72 0.46 0.22 0.17 0.11 0.19 4.87 あり/なし 1.36 1.78 5.07 2.06 1.41 1.05 2.58 3.72 6.5 6.47 6.09 0.53 2.45 全体 RESULT (IBD症例でのステロイドの使用と各項目との相関) 年齢 リンパ管 診断スコア 予後 拡張 元気 食欲 嘔吐 便の硬さ便の頻度 体重減少 Alb値 腹水、浮腫 掻痒 CCECAI IBDのみ ステロイド あり 4.75 0.63 2.06 1.38 1.5 1.69 1.56 1.63 1.44 1.13 1.31 0.75 0.13 11.13 ステロイド 無し 4.1 0.33 1.24 0.22 0.85 1.2 1.44 0.83 0.49 0.22 0.2 0.12 0.22 4.96 あり/なし 1.16 1.91 1.66 6.27 1.76 1.41 1.08 1.96 2.94 5.14 6.55 6.25 0.59 2.24 RESULT (当院カルテの品種とステロイド使用率の相関) 動物品種 チワワ 数(頭) 708 0.56 13.01 ダックス 672 0.6 12.35 プードル 456 0.22 8.38 ヨーキー 156 0.64 2.87 パピヨン 97 0 1.78 フレンチ 7 14.29 0.13 107 0 1.97 57 3.51 1.05 1398 0.57 25.68 柴犬 キャバリア 猫 ステロイド使用症例(%)カルテ比率(%) 考察 • 今回は内視鏡検査によって採取された標本をもとに得られた病理診 断の結果と種々の臨床診断の結果をスコア化し比較分析を行った。 • プライマリケア診療においては内視鏡検査は消化管スクリーニング として用いられることがある。 • 今回の症例はスクリーニング検査としての内視鏡検査と診断治療の ための検査が混在している。 考察 • 人医においては上部消化管検査は過剰使用される傾向がある。こ れは訴訟上の責任を問われる不安感からである。 • 今後内視鏡検査の普及により獣医療においても同様の状況は推測 される。 • スコア化された臨床指標により、リスク因子を分析。 • 分析結果をもとに内視鏡検査を行う前に予後を推測。 考察 • 猫は異物以外では全般的に予後が悪い確率が高く、慢性消化器疾患で は内視鏡検査の価値が高い。 • 猫では特に6.5歳以上では、可能な限り内視鏡検査及び生検が推奨され る。 • CCECAIが10以上ではリンパ管拡張のリスクが高い。 • 蛋白漏出などが認められないリンパ管拡張の存在の意義は不明。 • ステロイドを治療に使用した症例、リンパ管拡張のある症例は予後が比 較的悪いことが多い。 考察 • 現在の人気犬種である、チワワ、ダックス、プードルは検査数が上位 を占めた。 • 当院の犬種ごとのカルテ数との比較を行いステロイドを使用した症 例の比率の比較ではキャバリア、ヨーキー、ダックス、チワワの順に 多く、これらの犬種では予後が悪い可能性が高く、内視鏡検査と生 検による診断が推奨される。 考察 • 重要な予後因子であるステロイドの使用の有無は、内視鏡検査を行 う前にCCECAI をみることで予後の推測が可能であることがわかった。 • その他の重要な予後因子である腫瘍、死亡、PLE、リンパ管拡張など もCCECAIは非常に重要な役割を示し、予後判定の材料となる。 • 内視鏡検査は消化管スクリーニング検査としても機能すると考えら れるが、事前にCCECAIを評価することで、予後を事前に推測すること が可能になると考えられる。
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