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第58次(平成25年度)海外電設視察団報告書
~英国の海洋再生エネルギー発電の実情について~
目
次
ページ
はじめに ··········································································· 1
Ⅰ.行程・団編成・訪問国の概要
1.行 程 ·································································· 2
2.団編成 ·································································· 4
3.訪問国の概要 ································································ 5
Ⅱ.波力発電(ペラミス・ウェーブ・パワー社)視察 ··················· 6
Ⅲ.波力発電(アクアマリン・パワー社)」視察 ························ 10
Ⅳ.国立再生可能エネルギーセンター(NaREC)視察 ············· 16
Ⅴ.ロンドンアレイ、サネット、ケンティッシュフラッツ
洋上風力発電所視察······················································ 27
まとめ ············································································· 38
2013 年 12 月 11 日経営企画委員会
はじめに
(一社)日本電設工業協会は、平成 25 年 10 月 12 日(土)から 10 月 19 日(土)ま
での 8 日間、海洋再生エネルギー発電で先進的に取組んでいる英国に、第 58 次海外
電設視察団を派遣した。
当協会の海外窓口である経営企画委員会・国際交流専門委員会において、実施計画
等の準備が進められ、本年 5 月から参加者の募集を開始し、8 月 30 日に募集を締め切
った。最終的には、当協会の関秋生理事(経営企画委員長)を団長とする総勢 18 名
の視察団となった。
日本国内では、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故、及びそれに引き
続く全国の原子力発電所の運転停止に伴い、電力の安定供給に対する制約が深刻な問
題となっており、また、原子力から火力への電源のシフトによる電気料金値上の経済
活動への影響も懸念されている。一方、昨年7月から再生可能エネルギーの固定価格
買取制度が開始され、メガソーラーや洋上風力発電、地熱発電等の再生可能エネルギ
ー発電プロジェクトが全国的に期待と注目を集めており、また、CO2 削減に向けて多
くの業界から創エネ・蓄エネ・省エネへの参加も活発になっている。
第 58 次海外電設視察団では、再生可能エネルギーの中でも、太陽光発電や陸上風
力発電よりも安定して発電できると言われている海洋再生エネルギー発電(洋上風
力・波力・潮力)にスポットをあてた。
我が国の洋上風力発電は、2013 年 10 月 28 日に長崎県五島沖に発電能力 2,000kW
の浮体式洋上風力発電が実証運転を開始されたばかりであり、波力・潮力発電につい
てはまだ研究段階で、ほとんど未開発といってよい状態である。
しかし、(一社)日本風力発電協会の「自然エネルギー白書(風力編)」によれば、
日本の洋上風力発電の導入ポテンシャルは 157,262 万 kW と陸上風力の 5.6 倍となっ
ている。また、環境省の中央環境審議会によれば、波力発電の 2050 年度までの累積
導入見込み量を最大で 1,203 万 kW、潮流発電で 192 万 kW としており、
将来的には、
再生エネルギーの一つとして大きなウェイトを占めることが期待されている。
海洋再生エネルギーは、海外では数年前から実用化を目指した開発競争が始まって
おり、特に優遇政策がある英国は、最も精力的に進めている国の一つである。第 58
次海外電設視察団では、海洋再生エネルギーの可能性と、日本での導入・実用化への
課題を探った。
1
Ⅰ. 行程・団編成・訪問国の概要
1. 行程
月
日
10 月 12 日
(土)
10 月 13 日
(日)
滞在、移動
視察先
東京(成田) 発→ ロンドン
→エジンバラ
エジンバラ
→セント・アンドリュース
エジンバラ→
10 月 14 日
・ペラミス・ウェーブ・パワー社で
ニューキャッスル
「波力発電」視察
(月)
・アクアマリン・パワー社で「波力
発電」視察
10 月 15 日
(火)
10 月 16 日
(水)
10 月 17 日
(木)
10 月 18 日
ニューキャッスル→
→
ブライス
・国立再生可能エネルギーセンター
ロンドン
実証テスト機関視察
ロンドン→
・ロンドンアレイ、サネット、ケン
ラムズゲート→ロンドン
ティッシュフラッツ洋上風力発電所
視察
ロンドン→コッツウォルズ
→ロンドン
ロンドン→日本へ
(金)
10 月 19 日
(NaREC)で海洋再生エネルギーの
東京(成田)着
(土)
2
[ルートマップ]
航 空 機
専用バス
列
車
日本へ
スコットランド
日本から
● セント・アンドリュース
● エジンバラ
● ブライス
●
ニューキャッスル
英
国
コッツウォルズ
●
ロンドン
●
ラムズゲート
3
2. 団編成
氏
団
長
名
所属会社
関
秋生
新生テクノス㈱
松本
忠信
浅海電気㈱東京本店
副団長
会社役職等
代表取締役会長
(理事、経営企画委員長)
専務取締役東京本店長
(経営企画委員会委員)
〔取材・報告書作成班〕
(☆は班長)
◎第1班(「波力発電」
(ペラミス・ウェーブ・パワー社)
、
「波力発電」
(アクアマリン・パワー社)
)
☆
磯﨑
成彦
電設東日本事業部第 2 営業部営業 1 課長
因幡電機産業㈱
近藤 一彦
㈱イートラスト
千秋
健一
㈱八洲電業社
松岡
徹
伏木
忠了
代表取締役社長(理事・(一社)新潟電設業
協会会長)
工務部第 2 課課長
代表取締役社長(理事・(一社)岡山県電
旭電業㈱
業協会会長、経営企画委員会委員)
北電力設備工事㈱
代表取締役会長
◎第2班(国立再生可能エネルギーセンター(NaREC))
☆
原
隆之
茂田
啓充
橋本
耕二
伏木
淳
渡辺
洋人
新エネルギー事業部営業開発部営業課
東光電気工事㈱
課長
古河電工パワーシステ 配電事業部地中配電技術部部長
ムズ㈱
橋本電気工事㈱
代表取締役
北電力設備工事㈱
代表取締役社長
清水勧業㈱
代表取締役社長
◎第3班(ロンドンアレイ・サネット・ケンティッシュフラッツ洋上風力発電)
☆
電力本部風力部風力エンジニアリング
秋葉
睦
㈱関電工
一瓢
秀次
三栄電気工業㈱
取締役社長
川上
嘉昭
㈱雄電社
常務取締役工事本部長
妻田
辰雄
三機工業㈱
東城
繁
フィデス㈱
専務取締役
山口
博
栗原工業㈱
技術統括部技術部長
チーム副長
東京支社専門部長(経営企画委員、人材
委員会委員
4
3. 訪問国の概要
英
国
日
本
24.4 万 km2
(第 76 位)
6,318 万人
(2011 年、22 位)
37.8 万 km2
(第 60 位)
12,653 万人
(2012 年、10 位)
246 人/km²
337 人/km²
ロンドン
東京都
主要言語
英語
日本語
政 体 ・議 会
立憲君主制・二院制
立憲君主制・二院制
面
積
人
口
人口密度
首
宗
歴
都
教
史
月別平均気温
年間降水量
電
圧
通
貨
GDP
[2012 年]
経済成長率
(実質)
キリスト教が主(75%)
神道、仏教が主
無宗教(15%)
1801 年 グレートブリテン及び
アイルランド連合王国成立
1922 年 グレートブリテン及び
北アイルランド連合王国へ改
称(南アイルランドの分離)
18 世紀~19 世紀 産業革命
1973 年 拡大 EC 加盟
ロンドン (1 月) 2.4℃~
(7 月) 22.3℃
東京
(1 月) 1.1℃~
(8 月) 30.8℃
1,467mm
100V
220V-230V
50 Hz・60 Hz
50Hz
UK ポンド
円
(1 ポンド=156 円)10/8 現在
2 兆 4,337 億ドル
5 兆 9,843 億
(第 6 位)
(第 3 位)
0.7%
2%
(2011 年)
(2012 年)
ロンドン
611mm
1868 年 明治維新
1902 年 日英同盟
1947 年 日本国憲法施行
5
東京
Ⅱ.波力発電
「ペラミス・ウェーブ・パワー社(Pelamis Wave Power Ltd)
」視察
日
時
2013 年 10 月 14 日(月)
場
所
スコットランド エジンバラ バースロード 31
対応者
10 時 30 分~12 時 00 分
ロザリンド・ハート氏
(1)概要
ペラミス・ウェーブ・パワー社(以下、ペラミス社)は 1998 年創立、従業員 53
名、主に設計、プロジェクト管理、開発オペレーションを行っている会社である。
これまでの投資額は 5,000 万ポンド(80 億円)で、売電額は 2,000 万ポンド(32
億円)になる。波力発電で売電契約しているのはペラミス社のみである。
2004 年に最初の試作機が稼働し、2008 年 9 月にはポルトガルの Aguçadoura 沖
合にある世界初の商用複合波力発電施設で、ポルトガルの再生可能エネルギー会社
エネルシスのために設計し、世界初の波力発電の商業化を実現させた。改良タイプ
2 基をドイツの電力会社エーオンとスコティッシュパワー社に販売し、実績が出始
めている。
発電量の大方の予測は出来るが、自然エネルギーが相手なので正確ではない。そ
の中、機器改良などで発電効率を上げ、より予測に近い値の発電量を確保すべく試
みている。
また、エネルギー技術研究所(Energy Technology Institute)からの補助金で、
建設コスト、製造コストの削減を図り、洋上風力発電と同等のトータルコストに持
っていくべく研究をしている。また、製造コスト削減の面で本体を鋼鈑構造からコ
ンクリートに変更する事を検討中である。
(2)ペラミスP1の技術
ペラミス装置(海蛇の意味)P1 とは水面
に浮かぶ関節で連結された複数の円筒状
のユニットから成る装置である。円筒型
のユニットは 50%が海中、50%が海面に
出るよう設計されており、ユニットが波
に任せて動く。
ユニット間の連結部分が波の力を受けて
動くことにより、シリンダー内の油圧ポ
ンプが働き、発電機を駆動させる仕組み
6
である。波の高さを使うのではなく、波が砕ける前の波の持つ表面の曲線に合わせ
てエネルギーを吸収する設計となっている。
発電装置は、全長 150m、直径 3.5m の大きさで、2.25MW の発電能力を備えて
いる。しかし実際の発電量は波のコンディションに左右されるため、公称最大出力
の 25~40%程度/年の発電量となる。
発生した電力は装置の先端に集められ、1 本の海底ケーブルによって陸に送電さ
れる。3 基でおよそ 1,500 世帯分の電力供給が可能である。
P1 を改良した P2 は、全長 180m、直径 4.0m の大きさで、17MW の発電能力と
なる。公称最大出力の 70%程度の発電量と効率改善が出来ており、ドイツの電力会
社エーオンとスコティッシュパワーに販売している。2015 年頃までには、1 基につ
き 20MW、30,000 世帯への電力供給を目指している。
(3)設置工事
装置の仕様・性能から、設置は沿岸部近くではなく沖合にする。各ユニットを大
型トレーラーで陸送し、船のドックにて連結を行う。連結の作業所要時間は約 24
時間。その後、船で沖合まで曳航し、先端ユニットをアンカーチェーンで海底に固
定させるが、その設置に掛かる作業所要時間は 1 時間程度と短い。
(4)メンテナンス
①メンテナンスは洋上より持ち帰り陸上で行う。
②設置場所で本体を取り外す所要時間は 15 分程度。
③メンテナンス頻度は、まだテスト段階なので、1.5 ヶ月に一度。
④将来的には 1 年に一度にしたい。
⑤装置耐用年数は約 20 年。
(5)将来性
プロジェクト開発する地域の検討が始まっている。開発場所の選定に当たっては、
英国では海洋は国の財産であるので、国からリース権を得る事が重要となる。ペラ
ミス社は 3 ヶ所について入手済み。3 ヶ所目については、スウェーデンの国営大手
7
電力会社であるヴァッテンフォール社と共同で 170MW の利用権を獲得した。
このペラミスの工場は、製造能力があり、技術者もいるので一元管理が出来て便
利である。将来はライセンスビジネスを行い、グローバルに発展させていきたいと
語る。
(6)質疑応答
Q1)シリンダーにハイドローリックと言われたが、エネルギー源は水か?
A1)シリンダーの中にオイルが入っており、圧力を掛けて、その回転翼で発電機を
回している。
Q2)4~5 基のセクションからなるが、各セクションに発電機は設置されているの
か?
A2)各セクションに 2 基ずつ付いている。効率よく、波が小さい時は 1 基、波が
大きい時に 2 基が作動する仕組み。
Q3)セクションは何基まで連結可能なのか?
A3)現在は 5 基まで。当然長くすれば発電量は増える。しかし、設置やメンテナ
ンスなどを考えると物理的に困難。また、ROE を考えるとコストが高すぎる。
Q4)1 セクションの製造コストは幾らか?
A4)金額は言えないが、現在は 1 基ずつ製造しているので高額。しかし、量産出
来るようになれば下がってくる。現在の素材はスチールだが、コンクリート製
にすることによるコストダウンを考えている。
Q5)日本では太陽光で発電した電気の買取価格は 1kW/h あたり 40 円前後だが、
英国はどうなっているか?
A5)英国では再生エネルギーに ROC システムという国家補助がある。
現状では、波力・潮力に 5ROC、1MW/h で 300 ポンド(1kW/h 約 50 円)
の補助が出ている。
Q6)日本では東日本大震災以降、原子力発電の将来性が危ういが、日本からの引
き合いは増えているか?
A6)確かに非常に増えているが、日本ではなかなか難しいのではないか。
8
【ペラミス・ウェーブ・パワー社にて】
9
Ⅲ.波力発電
「アクアマリン・パワー社(Aquamarine Power Head Office)」視察
日
時
2013 年 10 月 14 日(月)
場
所
スコットランド エジンバラ エルダーストリート24
対応者
14 時 30 分~16 時 30 分
ガース・ブライアン博士、バディ・オーケン氏、マーク・マレイ氏
(1)概要
アクアマリン・パワー社(以下、アクアマリン社)は、2005 年創立、主な株主は、
ABB(チューリッヒに本社を置く、従業員 145,000 人の電力と自動化技術を手掛け、
100 ヶ国以上に展開する世界的な企業)や、SSE(英国の再生可能エネルギーを引
っ張る発電会社で、英国とアイルランドで 3,500MW 以上の発電、並びに建設中、
建設合意した設備容量を有する)であり、その傘下で波力をエネルギーに変換する
技術を開発している。また、環境エネルギーファンドから資金を得ている。
2009 年、315kW の発電装置オイスターワン(Oyster1)をスコットランド北部
のオークニー(Orkney)に設置し、研究データを 2 年収集後、発電装置の寿命で
撤去した。ピーク時には 300kW 近く発電した。
次世代装置は、オイスター800 と呼び、発電容量は 800kW である。発電容量は
飛躍的に改善するとともにエネルギーコストの低減、設置工程の単純化を図り、
2013 年 2 月より運転を開始している。電力会社と JV で、共同運営しながら商業化
を目指している。
(2)オイスターの技術
オイスターは、水深 12~15m の比較的浅
い海洋上に設置するもので、波の上下動を捉
え、ポンプで高い圧力の水を作り出しペルト
ン水車を回して発電する。
その構成は、海底に設置した巨大な基礎部
分と、その先にヒンジを介して取り付けられ
たフラップからなる。
発電は波によって生じるフラップの揺れ(上下運動)を水圧に変えるシリンダー、
そのシリンダーで作られた高圧水を陸上まで送る圧力配管、ペルトン水車、水車に
つながる発電機によって構成され、圧力水は 120bar(約 120 気圧)で、水は閉ル
ープで循環して使用している。
理論的には水深が深い所の方がエネルギーが多いので有利とされるが、深い所は
波の方向が 50%は縦方向、残りは水平方向となる。本機は基本的に縦方向の波しか
10
取れない。
陸地近くだと波は遅くなり、入ってくるエネルギーが出ていくエネルギーより大
きくなる。その結果、波の高さが急激に高くなり間隔も短くなり、その内波は崩れ
る。オイスターは、波が崩れる直前の高い波のエネルギーを取り込むシステムで、
90%は縦のエネルギーを取り込んでいる。
波の方向は速度が変わると変化する。浜辺から見ると波は角度を以て入ってくる。
その方向を見て、地形を選び、最適な場所に設置する。水深の浅い所ではエネルギ
ーは少ないが、取り出し可能エネルギーで比較すると、水深 50mのシステムに比べ、
水深 10mのシステムは 10~20%少ない程度に留まる。よって、総合的にみると浅
い海での設置を選択している。
本体は鋼鈑製で、フラップの重量だけ
でも 478t もの重量がある。シリンダー
に生じる圧力は、油ではなく水に少々の
添加物をいれたもので伝えられる。
現在、フラップ材質を FRP に改良し、
重量を 100t まで抑え、形状変更により
出力を 250%アップさせることを目指し
て、オイスター801 の開発を進めている。
(3)設置工事
装置の仕様・性能から、設置は水深
13m 程度の所になるので、比較的近海で
設置することになる。
幅 26m からなるフラップとベースフ
レーム(基礎部分)からなる。各ユニッ
トを大型トレーラーで陸送し、現地で組
み立てる。その後、船で設置場所まで曳
航し、基礎柱に穴を開け、柱を立て、柱
をオイスターに通し、海底へと下ろしていき固定させる。設置に掛かる所要時間は
11
12 時間程度。設置後フラップに空気を入れ浮かせる。その 2 日後には送電を開始で
きる。
(4)メンテナンス
①メンテナンスは現地にて行う。
②陸地に近い分容易に出来る。
③アキュムレータやシリンダーのシール交換が必要。
④メンテナンス頻度は、5 年に一度。
⑤アキュムレータは重量が 25t あり、交換に数日を要する。
⑥装置耐用年数は約 20 年。
(5)将来性
今後も運転を継続して検証を続け、信頼性のテストをする。風力発電とは相互に
補完的なものと考える。
オイスターが対象とするエネルギーは、世界で 600GW あるが、商用として使え
るのは 64GW、ヨーロッパでみると 14GW(1,400 万 kW)である。オイスターに
は 1,920 億ポンド(約 32 兆円)の世界市場があり、将来性は十分である。
オイスター800 を使用したオークニー近くの 200MW(20 万 kW)のブローヘッ
ド(Brough Head)プロジェクトに、
SSE 社と共に参加している。2015 年には 50MW
が出来、2018~2019 年には稼働する予定である。
また、アイルランドで初めてのキラード・ポイント(Kilard Point)5MW プロジ
ェクトの支援もしており、40MW のルイスウェィブ(Leis Wave)パワー社発電プ
ロジェクトも受注し、現在計画中である。
オイスターの製造コストはまだ高く 900 万ポンド(約 15 億円)する。オイスタ
ー801 の開発が進めば、装置コストは 400 万ポンド(約 6.7 億)に下がり、輸送曳
航コストも削減、メンテナンスも港に持っていき行う事が出来るようになり、風力
発電のコストに近づく。
今後、グローバルマーケットとしてハイリソースな箇所から手掛けていくという。
12
(6)質疑応答
Q1)1 基当たりの製造期間は?
A1)製造期間は 1 年、価格は約 900 万ポンド。
次世代機種ではかなり下がってくるだろう。1kW 400 万ポンドまで下げたい。
そうすると洋上風力のコストと同等となる。
Q2)オイスターを海底に設置作業する際の条件はあるか?
A2)波が 1m 以下と穏やかな日。
Q3)メンテナンスはダイバーが行うのか?
A3)1m 以下の波の日にダイバーが潜り、ふたつのモジュールを外して持ってくる。
Q4)波力発電の優位性があればお聞かせ願いたい。
A4)英国では、風力に次いで 2 番目の再生可能エネルギーで、風力と発電ピーク
が重ならない点。
Q5)魚類などの影響は?
A5)特に影響はない。オイスターが海中で動いていても魚は避けて泳ぐ。比較的、
陸に近い所へ設置するので、クジラやイルカへの影響もないと考える。
魚の生殖サイクルも乱すことなく、逆に卵を産み付けていく。
電磁波もこのシステムは陸上での話なので問題ない。
Q6)今後の展開は?
A6)2016 年 にオイスター800 を改良した 801 を完成させる。
Q7)採算ベースに乗っているか?
A7)現状採算は合わない。1 基で 1,000 万ポンド掛かる。トヨタや日産が 1 台だけ
車を製造したら、高くなるのと一緒。増産されてくればコストも下がっていく。
2018 年には採算上がる予定。
Q8)設置場所を選ぶのに必要な条件とは?
A8)最も必要なのは、衛生と安全面。また、港からの距離、水深、アクセス、崖か
らの距離、波の集中度も重要となる。
Q9)世界のハイリソース、ローリソースエリアとあって、日本は入っていなかっ
たが、ウェーブリソースの可能性はないか?
A9)波というのは、風があって発生する。西から東に向かって吹いている防疫風に
よってよい波が発生する。緯度が丁度よい所にハイリソースが出来る。
しかし、日本にもホットスポットはあると思う。エネルギーが高くない、ロー
リソースな場所でも使えるべく、オイスターを改良していく。
Q10)ペラミス社とどちらが将来性があるか?
A10)ペラミスは水深が深い所に設置するので、潜在的な市場は大きいと思う。色々
なプロジェクトでペラミスと組んでやっているし、波力発電全体の成功を祈っ
ている。それより早く 2,000 万ポンドを稼ぎ出したい。
13
Q11)現在の英国の再生可能エネルギー比率と将来の目標は?
A11)現在、アイルランドでは 20%(風力がほとんど)
。英国では、10%弱(風力
+水力)。政府は、2020 年までに 20%にしようと動いている。
【アクアマリン・パワー社にて】
(7)一般的所感
今回の視察で英国の国としての再生可能エネルギー発電に対する積極的、且つ柔
軟な姿勢が改めて分かった。
日本はどうか、現在、太陽光発電の拡大を積極的に進めているが、更に大幅な再
生可能エネルギーの拡大が必要とされている。海洋エネルギーが新エネルギーに位
置づけられていない為に国の支援が得られず、英国始め諸外国に比べ実用化に向け
た取り組みが進んでいない状況がある。
また、日本は陸上立地の制約がある中で海洋エネルギーの大規模導入を計らなく
てはならない地域性である。
冬場の日本海は波が荒いことで知られるが、年間平均の波パワーから判断すると
太平洋側に設置するのが有利とされている。太平洋側の年間平均エネルギーは、日
本列島全域に渡り十分な大きさがあるが、経済的には陸地からの近さが決め手にな
るだろう。こうしたことから適地は北方領土南、銚子沖、房総沖、小笠原沖、南西
14
諸島沖などと言われている。
漁師など漁業に携わる方々との問題や国の政策、エネルギー効率など数々の問題
はあるが、上記の地域性から一刻も早く新エネルギーとして世界的スケールで戦略
的に取り組んで行くべきであると考える。
【日本周辺の波力の強さ】
15
Ⅳ.国立再生可能エネルギーセンター
(NaREC:National Renewable Energy Center)視察
日
時
2013 年 10 月 15 日(火)10 時 00 分~13 時 30 分
場 所
英国ノーサンバーランド、ブライス(ニュ ーカースル から 30 km 位 の地 )
対応者
Paul McKeever 氏(Head of Research & Development)
Mark Knos 氏(Senior Project Manager)
Helen Edge 氏(Corporate Development Executive)
(1)概要
国立再生可能エネルギーセンター(以下、NaREC)は、2002 年に当時のイング
ランドの北東地域開発公社(North East Regional Development Agency)によって
設立された。目的は、海洋エネルギー利用装置の信頼性を高め、コストを下げて、
市場に早く供給することである。またリスクを分析し、研究開発を行い、実証テス
トを行うことである。現在は、洋上風力発電・波力発電・潮力発電が中心である。
予算は、民間各社からのテスト委託費・プロジェクト予算・中央政府並びに地方組
織であるノースイースト LEP(LEP:Local Enterprise Partnerships)からの収入
である。施設内には、造船用のドック、ブレードテスト場(100m、50m)
、ドライ
ブトレインテスト場(15MW、3MW)等の多数の専用テスト施設がある。これら
の施設では、実際の環境と同じ状況をシミュレーションでき、様々なテストが実施
できる。現在の従業員は 70 名。
【NaREC の実験施設】
16
(2)英国の海洋再生エネルギーの現状について
①海洋再生エネルギー
海洋エネルギーを利用するメリットは、自然であるのでエネルギー変換に必
要なエネルギーが不要で、環境にやさしく安全であり、効率のよい土地利用が
可能なことである。また、建設方法や設計の仕方でコストへの影響があるもの
の、今後はコストダウンが可能である。
デメリットとしては、新しいテクノロジーであるのでリスクがある(これを
研究するのが NaREC の仕事である)こと。電力系統は大きな発電所を想定し
て構成されている為、電力網が不安定になる事があり、他の発電設備による補
完が必要である。
②利害関係者
発電所を設置するには、様々な利害関係者に接触し、説得しなければならな
い。
海の所有は国であり管理している組織 The Crown Estate 社との交渉を始め、
周辺を利用している漁業関係者や海運業者との交渉が必要である。また、環境
保護論者からは、海洋生物への影響を問われる。
なお、洋上風力については設置工事中の環境への影響が確認されたが、運営
後は問題がないことを示すデータがある。
③事故
ヨットが潮力発電のタービンに当たり破損した事例や、元々の設計並びに運
用方法が原因の故障がある。風力発電は雷でブレードが破損したり、ブレーキ
が利かなくなったり、火災が発生したことがあるが、死傷者の数は少なく、報
告されているのはいずれも開発期間中に発生したものである。今日までにヨー
ロッパとアメリカでの死亡者の数は 45 名で、世界では 80 名である。これは重
工業業界と同じレベルの死亡率である。
④洋上風力発電の現状
現在は round3 の段階である。この段階になるとスケールが大きく、設置場所
は陸からかなり離れたところになる。洋上風力発電のメリットとしては、道路
輸送がないので大規模に拡張できる。また規制に関しても地上に比較すれば少
なく、漁業関係者への懸念ぐらいである。その点も洋上風力発電は相当数運用
されているので、既に証明済みである。
デメリットは連系点からの距離であり、今後 HVDC(高圧直流送電)の開発
が必要である。洋上の基礎としてモノパイル方式、ジャケット式(海底に鉄製
のフレームを組み立てその上に設置)、フロート式等とあるが、今後様々な技術
が必要となる。メンテナンスのための現場へのアクセスについては、round1 と
round2 の段階では船で近づける距離にあったが、round3 はヘリコプターを使
う必要がある(ヘリコプターを使用しても片道 2 時間かかる距離である)。
17
【2011 年 2 月 7 日付 日本経済新聞電子版「洋上風力で発電大国を目指す英国」より】
⑤潮力発電の現状
潮流発電は予測可能であり、エネルギーの密度が高い(英国は水深 60m のとこ
ろのエネルギー密度が高い)が、実証データがほとんどなく技術がまだ確立され
ていない。タービン発電機の設置方法としてフローティング式(Floating)、若干
潜水する方式(Semi Submersed)
、潜水式(Submersed)、海底設置式(Seabed
mounted)やバリア式(Barriers)がある。潮流が速いところにあるので、メン
テナンスはタービンを取り外しして陸上で行う必要がある。
⑥波力発電の現状
波は長い距離を移動しているので、エネルギーの密度は高い(英国はエネルギ
ーが豊富である)が、まだ技術が確立されておらずエネルギーの取り出し方が複
雑な為、様々な方法が模索されている。デバイスのタイプは次の組み合わせで研
究されている。
・カテゴリー1(エネルギーの取り出し方)
:
波を受け止めるタイプ(Terminator)、
波を減衰させるタイプ(Attenuator)、
波を点で吸収するタイプ(Point absorber)
・カテゴリー2(海岸からの距離)
:
海岸線(Shoreline)、海岸近く(Near shore)、洋上(Off shore)
18
・カテゴリー3(動作方法):
全体が動くタイプ(Whole body motion)、
水中を移動するタイプ(Oscillating water column)、
圧力タイプ(Pressure devices)、
微粒子動変換(タービンのような)タイプ
(Particle motion converters)、
波が超えていくタイプ(Overtopping)
メンテナンスは潮力発電と同じで、陸上で行う必要がある。
⑦結論
洋上風力発電はモノパイル方式でブレード 3 枚の構成が優れている。今後は水
深の深い場所の基礎選定と送電の問題が大きくなる。潮力発電と波力発電は、様々
なアイデアはあるが決定的なものはない。一方、エネルギーの存在は膨大にあり
ポテンシャルは大きい。デバイスの課題が多いが、コンセプトさえ定まれば大き
な発展が見込める。
(3)NaREC のテクノロジーロードマップ
現在、NaREC には 6 つの分野で専門知識を有し、コンサルタントができる能力
を高めている。
・洋上風力の条件-WIND AND OCEAN CONDITIONS-
・羽-BLADES-
・動力伝達部(増速機)-DRIVE TRAIN-
・状態監視-CONDITION
MONITORING-
・(超)高圧送電システム-HV SYSTEMS-
・試験と計測-TESTS AND MEASUREMENTS-
これらの部門がそれぞれ、時には共同でプロジェクトを抱えている。
①終了した主なプロジェクト
・Snapper…2009 年 9 月~2011 年 10 月。
波力発電のデバイス開発プロジェクト。
マグネットが乗ったトランスレーターで、縦にして水中に入れると上
下に動きリニア発電する。ゆっくりとした動きではなく、素早い動き
で発電する。デバイスは小さくコスト効率は良い。英国で 2 つの賞を
受賞した。
・Airpower…2007 年~2010 年。洋上風力用の生産性向上とコスト削減をめざし
たプロジェクト。1.4 百万ポンド。
・Oyster…ア)ドライブトレインの開発。
イ)発電所のテスト。水深 10~20m に設置し、オイスター1のテス
トを実施。
19
【Oyster:開発実験の様子】
②現在進行中のプロジェクト
・NOAH(Narec Offshore Anemometry Hub)…研究用として洋上風力発電所を
2012 年後半に設置した。今後は 15 の洋上風力発電所が設置されること
が期待されている。ここでは洋上風力発電に関する様々なデータ収集や
分析が実施されている。また、EC の洋上風力発電プロジェクトに協力
する可能性がある。
・HiPRWind(High Power,High Reliability Offshore Wind Technology)…2010
年~2015 年。信頼性が高く大規模容量が可能な浮体式の洋上風力発電の
技術開発。
・ UPRORA ( Concerns Upgrading Performance and Reliability of Offshore
Renewable Assets)…2013 年 4 月から開始。海洋エネルギーの様々な
事柄をデータベースとして構築し、関係者が利用できるようにする。
・CORE(Concerns Cables for Offshore Renewable Energy)…2013 年 4 月から
開始。海底ケーブルについての研究。コスト削減に向けて、様々なアイ
デアをベースに研究開発を行う。
・RETA(Renewable Energy Technology Accelerator)…2013 年 1 月~2015 年 7
月。ケーブル状態のモニタリングが可能になるようなスマートケーブル
の研究開発。現在使用しているケーブルは設置の時と運営開始時に伸び
てしまうことがある。
・OHVMS(DECC OHVMS)…ケーブル・ネットワーク・モニタリング・プロジ
ェクト。海底に埋められ陸上から離れている為、ケーブルの接続部でト
ラブルが起きやすい。これを監視できるように研究している。
20
③今後の主なプロジェクト
・OPTIMUS…2013 年 7 月~2016 年 6 月予定。現状を自己診断し、予防保全技術
を向上させるのに必要な予測技術の開発、メンテナンス手順の効率改善
と風力タービンの信頼性向上を目指す。
・NHUMS(Novel Health & Usage Monitoring Solution)…1 年間の予定。ピーク
イベントを表示するシステムの開発を行う。ヘリコプターの状態監視技
術を洋上発電に技術移転する研究。現在の遠隔制御監視システム
(SCADA)は一定期間の平均を表示するシステムである。故障が発生
しやすいのはピーク時であるが、そのデータが不明である。
・66kV Collector Interface…6 カ月の予定。66kV 連系の研究開発。現在は 33kV
で連系しているのを 66kV で接続する可能性の評価とコスト・ベネフィ
ットの研究。コストは上がるが送電容量も増えるのでその比較を行う。
・HVDC System…高圧直流送電システムの研究開発。それぞれのタービンに高圧
直流のデバイスを設置し直流で出力する。電力損失を減らせ、部品点数
を減らすことができる。多端子の高圧直流送電ネットワークシステムの
研究開発。サブステーション(変電所)をなくせ、またケーブルのロス
を減らせる。この方式では、特定の風車が故障した場合でも、その部分
のみ切り離せば他の風車は継続運転できる。
Past
Present
Future
Wind & Ocean Conditions
Snapper
NOAH
HIGHROC
Blades
Airpower
HIPRWIND
EMRP
Oyster
RGF
OPTIMUS & TIDAL-EC
RGF & UPRORA
Helitune
Drive Train
Condition Monitoring
HV Systems
DERLAB
RETA & CORE
66kV & HVDC
Tests and Measurements
Dual Axis
OHVMS
Dual Axis
【NaREC のプロジェクト一覧】
21
(4)見学
・Wind Turbine Nacelle Test Facility
タービンのテスト場(日本語の風神を意味する Fujin と呼ばれている)
。ここは
最大 15MW の風力発電機のドライブトレインのテストが可能。モーターで駆動し、
発電機で発電しながら、風車のシャフトに不均衡な応力を加えて特性をはかる試
験装置があった。発電出力を入力側にフィードバックする事により、試験の電力
消費を抑えている。当日は 7MW の風力発電機の試験を実施中であった。
・3MW Drive Train Test Facility
潮力発電機のテスト場。ここは最大 3MW の潮力発電機のドライブトレインの
テストが可能。モーターを駆動し、発電機で発電しながら応力を加える試験を実
施できる。最大速度は 30rpm で 15M ニュートンまでの応力を加えられ、実際の
海水中の環境を模擬する事ができる。
・Blade Testing Facility
ブレードテスト場。ここは最大 100m のブレードのテストが可能。疲労テスト
等が実施でき、悪天候時に正常に動作するかの確認ができる。クライアントの要
望があれば破壊テストも可能である。当日は 47m のブレードの試験を実施してい
た。
22
(5)質疑応答
Q1)NaREC に在籍する人数は?
A1)全員で 70 名。昔はもっと多数在籍していたが、現在は洋上の海洋再生エネル
ギーのみが対象となったため少なくなった。かつての研究対象であった太陽光
等は別組織になっている。
Q2)NaREC を設立した地方政府は州のような組織か?
A2)NaREC は 2002 年に OneNorthEast と言う地方政府(北東地域開発公社)の
補助金により設立された。2010 年に労働党から連合政権に代わり、新しい政
権がこの組織を解体した。現在は中央政府とノースイースト LEP からの補助
金がある。
Q3)浮体式の風力の技術は確立しているか?一基ごとに浮かしているのか、一つ
の島のようなところにまとめて浮かしているのか?
A3)現在、タービン自体が独立して浮かす技術はある。プルーフオブコンセプトの
プロトタイプを作り洋上で浮かせて作動しているものはある。他にも色々なコ
ンセプトがあり、もっと大きな構造物を使って浮かせる考えや、海底に張力に
て固定する方法等。
※プルーフオブコンセプト…概念実証。新しい概念や理論、原理などが実現可能で
あることを示すための簡易な試行。一般的には、一通り全体を作り上げる試作(プ
ロトタイプ)の前段階で、要となる新しいアイデアなどの実現可能性のみを示すた
めに行われる。不完全あるいは部分的なデモストレーションなどを意味する。(IT
用語辞典 e-Words より)
Q4)貝殻等の付着物対策は?
A4)貝殻等が付着しない驚くべきペンキがある。船舶用に開発されたペンキで、イ
ンターナショナルペイント製のインタースリック(Interslick)9000 と言い、
ステッカーやテープをつけようとしても落ちてしまう。タービンとか波力発電
のデバイスに塗る。このペンキは汚染もしないし生物学的にも影響がない。
23
Q5)海洋再生エネルギーは採算が取れるか?
A5)採算は合うと思う。技術によるし、今後どの程度早く技術開発が進むかによる。
現在の潮力の買取価格は 40 ペンス。技術が開発されれば値段は下がる。
※現状の買取額(1ポンド=160 円)は、潮力で 40 ペンス(64 円)/kW、風力は
20 ペンス(32 円)/kW である。
Q6)風力発電の買取価格はいくらでしょうか?
A6)20 ペンスぐらい。業界では、MW 当り 100 ポンド以下(16 円/kW)にしよう
としている。
※英国の買取額は政府が決定するのではなく、市場に託している。これは、英国で
は、日本の固定価格買い取り制度とは違い、再生可能エネルギー開発の促進のため
ROC(Renewable Energy Obligation Certificate)の取引で資金を得る仕組みがで
きている。
Q7)ROC は Co2 排出権と組み合わせるのか?
A7)排出権取引とは別で、ROC 自体を市場で取引しているので別物である。ただ
し、石炭発電所は他から ROC を購入しなければならないようになっている。
なお、スターティングプライスは政府が決めるがその後は市場が決定する。
その他、NaREC より次の質問があり、意見交換を行った。
・日本の原子力の現状について
・日本の再生可能エネルギーの現状について
・日本の海洋再生エネルギーのプロジェクトについて
・浮体式洋上風力について
・高圧直流送電について
○参考
ROC
RO(Renewable Obligation:再生可能エネルギー証券)は英国スの再生エネル
ギー開発促進のため設けられた制度で、RO は英国の電気供給会社に再生可能エネ
ルギーの割合を増やすよう義務付けたもの。2010/11 年には 11.1%であった。
2002/03 年には 3%であったが、現下の公約では 2015/16 年には 15.4%まで上が
るであろう。2027 年から 37 年の間のこのスキームの延長が 2010 年 4 月 1 日宣
言され、National Renewable Energy Action Plan で詳細に定められた。その導
入により、制度設立以来 RO 再生可能エネルギーの量は三倍以上になった。
(英国
供給量合計の 1.8%から 2010 年の 7.0%)
電力供給者は Ofgem(Office of Gas and Electricity Markets)に再生可能エネ
ルギー義務証明書(Renewable Obligation Certificates)を提出しなければいけな
い。電力供給業者は自らの義務を果たしている十分な証明書 ROCs を持っていな
24
ければ、買い取り基金(bu-out fund)に支払いが必要となる。供給者に課せられ
る買い取り価格は、義務からの不足 MWh 当たりの固定価格で、毎年の電力小売
価格インデックスにより調整される。買い取り基金の利益は自ら宣言した ROCs
の量に応じて払い戻しを受ける。例えば、電力供給業者が ROCs の合計数の 5%
を提供したら、義務を果たせない電力供給会社が買い取り基金に支払った合計金
額の 5%を受け取ることができる。
ROCs は市場を作ることを意図しており、公式の買い取り価格とは別に市場価格
で取引される。もしも再生可能エネルギーの生産が予定を超え、電力供給会社の
義務を超えた場合、ROCs の価格は買い取り価格より下がるであろう。もしも再
生可能エネルギーと非再生可能エネルギーのコストが近づいたら ROCs の価格は
ゼロに近づくであろう。そして、再生可能エネルギーの発電への補助金が少なく
なるか無くなるであろう。もしも義務より再生可能エネルギーの生産が少なかっ
た場合、ROCs の価格は買い取り価格より増加するであろう。なぜなら購入者は
各 ROC における買い取り基金から後で支払いがあると予測するから。
ROCs の期間は 4 月 1 日から翌年 3 月 31 日までの 1 年である。電力供給会社は
8 月 31 日までに自らの義務をカバーする十分な ROCs を提出するか、不足する分
を買い取り基金に支払いをしなければいけない。
現状(2013 年)の ROC が求める再生可能エネルギーの比率は 20.6%、買い取り
価格は 42.02 ポンド/MWh(6.72 円/kW )である。
○ROCs
ROC は英国国内で発電され、同国内で許可された電力供給業者に供給される再
生可能エネルギーに対して発行されるグリーン証明である。ROCs は Ofgem によ
って認定された再生可能エネルギー発電業者に発行される。1ROC の初期値は再
生可能エネルギー出力 1MWh あたりに発行されたものである。技術によって ROC
の数値は変わる。例えば、洋上風力発電は MWh 当たり 2ROCs を受け取り、海岸
線の風力発電は MWh あたり 1ROC を受け取り、また下水ガス発電プラントは 2
分の 1ROC/Mwh を受け取る。
ROCs は ROC レジスターに登録され、電子認証をうける。通常、再生可能エネ
ルギー発電業者は ROCs を Ofgem の電子登録を通じて電力会社に売る時に引き渡
す。
(6)一般的所感
今回訪問した NaREC は、海洋再生エネルギーの世界最先端の実証テストを実施
できる施設と技術、そして実績を備えている。設立当初からは政権も変わり、時代
25
の流れとともに NaREC を取り巻く環境も変化し、現在の政府から独立採算を目指
すように要請を受けていて、必ずしも資金的に余裕があるわけではない。一方、英
国を始め世界にとっても CO2 の削減は急務であり、その解決策の一つとして海洋再
生エネルギーの利用があげられる。海洋再生エネルギーは技術が未熟であるが、ポ
テンシャルは膨大である。この点が最大の魅力であり技術発展によっては大きなビ
ジネスチャンスが生まれる。今後も NaREC には、世界から技術開発を行うために
最先端の情報が集約されていくと思われる。
日本は英国と並び海洋国家であるが、地形の問題や台風等の気象条件の違いもあ
り、海洋再生エネルギーの活用という面ではかなりの差がある。今後、CO2 削減や
エネルギー自給問題を考えた場合、海洋再生エネルギーの利用は急務と改めて認識
した。最先端の英国でも波力発電や潮力発電に関してはこれからの技術であり、洋
上風力発電(浮体式)も水深の深い場所での設置はこれからのテーマである。日本
の各地で海洋再生エネルギーの利用の実証実験が計画されており、いつの日か商業
化され、英国に追いつくことが期待され、その発展に電気設備工事業界として貢献
できるのではと実感した。
【NaREC にて】
26
Ⅴ.世界最大の洋上風力発電所
(ロンドンアレイ・サネット・ケンティッシュフラッツ)視察
日
時
10 月 16 日(水)
場
所
英国
ロンドン南東部のラムズゲート
Elias Dencker 氏(Renewable
対応者
Strategy Limited Owner& Director)
Rupert Blackstone 氏(Renewable
Strategy Limited)
Melanie Rodgers 氏(Vattenfall Local Communication Officer)
Merlin Jackson 氏(漁業組合)
(1) 概要
再生可能エネルギーの中で太陽光発電と並んで成長が期待されているのが風力発
電である。洋上風力発電は障害物や、騒音問題の影響が少なく、安定して大きな風
力が得られることから、特に北海やバルト海沿岸の地域で大規模な洋上風力発電の
導入が進んでいる。
中でも英国は世界で最も洋上風力発電が進んでいる国である。英国の洋上風力発
電計画は「ラウンド 1」
「ラウンド 2」
「ラウンド 3」の 3 段階で進められている。今
回視察したケンティッシュフラッツ(Kentish Flats)は 2001 年からスタートした
「ラウンド 1」計画のひとつであり、サネット(Thanet)やロンドンアレイ(London
Array)は 2003 年からスタートした「ラウンド 2」計画で開発されたものである。
2010 年には「ラウンド 3」計画がスタートし 9 か所の合計では 32GW の発電が予
定されており、事業規模は 13 兆円にも上ると言われている。
また英国は、大規模なプロジェクト計画とともに、世界中の風力発電企業の研究
施設や製造拠点を集積させ、一大産業に発展させることを狙っているという。
今回視察したロンドン南東部のラムズゲート周辺の洋上には、現在世界最大の洋上
風力発電設備である London Array 洋上風力発電所や、今回の視察で説明していた
だいたスウェーデンの電力会社ヴァッテンフォール(Vattenfall)が建設した
Thanet や、Kentish Flats 洋上風力発電所がある。
視察のプレゼンテーションでは、ラムズゲートのロイヤル・テンプル・ヨットクラ
ブという異例な場所で、英国における洋上風力発電計画の概要、London Array 風
力発電所の概要、工事に際して問題となる漁業関係者との交渉や問題点の解決に至
る経緯について丁寧な説明があり、昼食にサンドウィッチをいただきながら関係者
と懇談した。
その後、海岸から Kentish Flats 洋上風力発電所を見学した。沖合で間近に洋上
風力発電所を見学することは出来なかったが貴重な体験であった。
27
【London Array(ロンドン・アレイ)洋上風力発電施設概要】
・設置年次
2013 年
・風車台数
175 基
・風車メーカ
SIEMENS(シーメンス)
・発電機定格容量
3.6MW
・設備容量
630MW(フェーズ2で 870MW を計画)
・水深/離岸距離
25m /20km
(範囲約 100 km2)
【Thanet(サネット)洋上風力発電所施設概要】
・設置年次
2010 年
・風車台数
100 基(341 基まで増設する計画がある)
・風車メーカ
Vestas Wind Systems (ヴェスタス)
・発電機定格容量
3MW
・設備容量
300MW
・水深/離岸距離
20-25m /12km (範囲 35 km2)
【Kentish Flats(ケンティッシュ・フラッツ)洋上風力発電所施設概要】
・設置年次
2005 年
・風車台数
30 基
・風車メーカ
Vestas Wind Systems (ヴェスタス)
・発電機定格容量
3MW
・設備容量
90MW
・水深/離岸距離
5m /10km (範囲 10 km2)
(2)プレゼンテーションと視察
①Renewable Strategy Limited 会社概況(Elias Dencker 氏より説明)
2013 年に設立。洋上風力発電の分析、研究、市場の分析、ビジネス採算性、マ
ーケット戦略、再生エネルギー戦略、コンサルティング業を主に事業展開してい
る。社員数は 5 名。
②英国の電力需要と風力発電の実績(Elias Dencker 氏より説明)
英国の電力網のベースとして位置づけられている原子力発電は、現在 7GW の
発電容量である。電力網全体の 7%を占めているが、今後は発電比率を減少させ
る方向である。
電力網中心となっているのは、石炭や LNG の火力発電である。電力の需要は
負荷に応じて大きく変動するものであり、火力発電の出力調整で対応している。
28
現在、英国での洋上風力発電は、全体の 2%程度の発電量であるが、今後の計
画が実現すれば、今後 10 年間で 20%まで比率が高まる予定である。英国の電力
網には、風力発電の出力変動に対しても、充分対応できる技術や能力があると考
えられている。
LNG 火力と洋上風力発電を雇用の創出という点から考えると、LNG 火力は
60MW ごとに 1 人の雇用に対し、洋上風力発電は 12MW に 1 人となる。後者は
地元に 5 倍の雇用が生まれるという点でも、期待が出来るものである。
火力発電は燃料費が必要であるが、風力発電は燃料費が不要である。ただし、
洋上風力発電の建設コストは火力発電に比べて高額である。採算が合う良いビジ
ネスとなるには政府からの多額の補助金が欠かせない。英国では洋上風力発電建
設に伴い、連なるサプライチェーン(メーカ、電力会社などの供給網)総てで採
算が取れるはずである。電設業にも大きなビジネスチャンスとなる。
欧州では、火力発電に対抗力があるのは風力発電であり特に洋上風力であると
考えられている。2013 年に完成した現在世界最大の London Array の全体の設備
容量は 630MW、平均発電量は 48%を予定している。2011 年までは Thanet が最
大で、2005 年までは Kentish Flats が最大であった。いずれもラムズゲート周辺
の洋上に建設された洋上風力発電設備である。
③London Array 洋上風力発電所
(ロンドン・アレイ・プロジェクト
フェーズ 1 の概要)
全体で 630MW
【 ロンドン・アレイ・プロジェクト 】
29
‐2009 年 5 月 共同企業体によりフェーズ1が承認された
・総額 22 億ポンド(約 3,500 億円)の投資
‐3.6MW/基
直径 120m の風力タービンを 175 基
20km 沖合に設置。
‐33kV/150kV に変換する二つの洋上変電所を設置。
‐200km に亘る 33kV の発電機間を結ぶアレイケーブルを敷設、また 210km に亘
る洋上変電所~地上変電所間のケーブルの敷設
‐150kV/400kV の陸上変電所
‐プロジェクトの完成
2013 年 4 月 8 日
2 年の建設期間
【発電所全体の概要図】
〇工事の経緯
2011 年 3 月
最初の基礎ができた。総てモノポールで、7.5tのハンマーで打
ち込む。
【 3/11 最初の基礎基礎杭打込状況 】
30
2012 年 1 月に最初の風力発電タービンの設置
本体はシーメンス製の 3.6MW 直径 120m のタービンであるが、デンマーク、ド
イツ、中国、韓国、ノルウェイ、オランダ、フランス、英国、スイス、ブラジルな
どから部品を調達。グローバルなサプライチェーンとなっている。
690V のタービン出力を変圧器にて 33kV に変換。
【 基礎設置状況 】
【 風車組立状況 】
【 風車全景 】
【 風力発電タービン設置状況】
・2012 年 12 月 175 基すべての風力発電タービンの設置が終わった。
31
〇アレイ・ケーブル(Array Cable)
風力発電機と洋上変電所を結ぶケーブル:導体断面積 150~500mm2 の三相ケー
ブル。光ケーブルが一緒に組み込んである。
【 アレイ・ケーブル 】
・2011 年 10 月
【 海底 ケーブル敷設状況 】
洋上変電所・陸上変電所間のケーブル敷設。
フローター(浮き)を浮かべて敷設ルートを確かめ、その後ケーブルを沈める方法
を採った。
【 2011.10 月 150KV アレイ・ケーブル敷設状況 】
32
・2011 年 7 月
洋上変電所(33kV/150kV)二箇所の設置
それぞれ 88 基と 87 基
の発電機タービンが接続されている。洋上の作業は工期通りできるかが問題であっ
た。悪天候なら 2 週間程待たなければならない、また船のコストも 1 日に何万ポン
ドも掛かる。
【 2011.7 月洋上変電所建設状
33kV/150kV 】
陸上サブテーション(150kV/400kV)クリーブ・ヒル Cleve Hill
【 陸上変電所 150kV/400kV 】
④漁業関係者との関係・交渉の経緯
(Melanie Rodgers 氏と Merlin Jackson 氏より説明)
イングランドの代表的な漁港であるラムズゲート(Ramsgate)では 10 メートル
程度の小規模な漁船 50~60 隻が操業しており、底引き網漁法が中心の漁業を行って
いる。最初に建設された Kentish Flats 洋上風力発電所の建設の際には、風力発電
について漁業関係者には全く相談がなかった。2005 年に Thanet と London Array
洋上風力発電所が建設される際に、初めて漁業関係者との話し合いが行われた。
当初漁業関係者は風力発電に関する情報がなかったので、次のような懸念を持たれ
た。
・最も大きな懸念は漁場が失われること。
33
・EMF(電磁環境問題)で、魚の種類によっては生殖に影響が出る
・漁場の真ん中の海底に敷設するケーブルにより底引き網の支障
・ケーブルを設置する前にアンカーを掘る影響
・完成後は、漁民は他の漁場に行かなければならないのではないかという点
以上のような懸念材料があり、当初漁業関係者は風力発電に反対の立場であった。
交渉担当者として一番重要なのは、コミュニケーションである。過去の事例ではコ
ミュニケーションの不足から損害賠償問題になったこともあった。漁業関係者から
は細かい注文がつき、交渉に時間がかかったが、London Array と Thanet の各々で
合意書が交わされた。合意内容として、例えば建設中は、漁業関係者が建設場所を
通り抜けることができるという条項も設けられた。その他建設工期の条件も入れ、
工期を超えた場合は賠償の条項が設けられた。ただし漁業関係者にとって不利な条
項もある。London Array との合意書により漁業関係者は、ウィンドファームのエ
リアには 30 年間立ち入り禁止になったという例がある。2006 年当時に合意された
が、結果として漁業関係者の調査が不十分であったことが原因である。
それ以外では、漁業関係者に対する不利な影響は少なかった。実際工事が始まっ
てからの魚の棲息には影響は見られなかった。しかし、漁業関係者が他の場所に行
かなければならないという問題が残った。また、交渉の末、漁業関係者が燃料会社
を設立し、工事に必要な燃料はそこから調達することが取り決められた。漁業関係
者にとっては一番のコストは燃料なので、工事に伴い収益を得る事で双方にメリッ
トがあった。
現在では魚の生態に関する調査は、漁業関係者側でも実施することになっている。
London Array の中では、送電ケーブル敷設地域は漁業側が調査している。3 か月前
に調査を行い、魚の分布状況や工事の影響を知ることができた。
※コミュニケーション成功の秘訣:
・コミュニケーションに地元の人を使うこと。
・地元の要人に影響力のある人をつかむこと。但し、政治家が必ずしも一番ではな
い。
・非公式なお付き合いを大切にすること。
・プロジェクトの最初から地元の人間を関与させること。
・支持者は誰か、反対者は誰かをよく把握すること。そして、何に疑問を持ってい
るのかをきちんと把握すること。
・会社側の色をあまり出さないこと。(背広はいらない。同じようなスタイルで会話
する)
・地元の企業、関係施設等を使ってあげること。(事務用品~宿泊施設等)
・一方で、企業の顔、窓口として対応すること。
34
(3)課題・問題点
洋上風力発電の利点は陸上より障害物がなく、安定した強い風速が得られ、騒音
や景観への影響も少ない、広範囲な海域を利用することができるといった利点があ
り、風車を大型化することで効率的にエネルギーを得ることができる。送電技術に
ついても従来の交流送電から直流高圧送電を用いることで送電損失を減少させると
いった技術の進歩もある。
風はほぼ無限にあり風は無料であるため、一度建設すればコストは安い。化石燃
料の枯渇や放射能問題のリスクも無く漁業問題を除けば環境に与える影響は少ない
と言える。
「ラウンド 1」
「ラウンド 2」が海岸線から比較的近く、水深も浅い場所が選ばれ
たのに対し、効率良く風速が得られる事や、海岸周辺の景観や住民への配慮から「ラ
ウンド 3」建設予定地は 100~300km 以上離れた地域となっている。平均水深も
50m、波高 10m、最大風速 90m/s に達する地域もある。
具体的な課題・問題点としては、強風や高い波といった厳しい気象条件の中、高さ
200m に迫る風力塔の設置、設備の運搬やメンテナンスのために大型クレーンを装
備した十分な大きさの船舶を手配する必要がある。洋上風力発電は、送電網の設置
コストも陸上の 2~3 倍かかる可能性がある。陸上からの距離が遠くなるほど、水
深が深くなるほどコストが高くなる。従って、洋上での風力発電は、巨額な初期投
資が必要であり補助金無しに採算を取ることは困難である。気象条件や発電設備の
効率化で得られる発電量の増加といった利点と問題点を比較し、費用対効果の面で
の検討が重要になる。
送電網への影響もある。風力発電の出力は気象条件に左右される不安定なもので
ある。現在はまだ送電網全体から見ると小規模なものであるから、変動を吸収する
ことは可能であるが、将来的に比率が高まると問題が大きくなる。
送電網のベースとなる原子力発電は電力需要に合わせて出力を調整することは困
難である。電力出力変動は、通常火力で調整しなければならなくなる。電力需要が
多いときには、火力が数多く稼働して火力の比率が多くなるので、風力の出力変動
は問題にならないが、電力需要が少ないときには、稼働している火力が減少するの
で、風力の出力変動に対処しきれなくなる可能性が否定できない。
(4)質疑応答
Q1)海底ケーブルを選定する上で、考慮した点は何か?
A1)国際基準の IEC や CIGRG の標準を使用した。これが潜水艦ケーブルの標準
であり、電気的・機械的な要件の両方を満たしている。
Q2)採算ベースになる電力を発電できているのか?
A2)採算ベースになる発電を出来ている。
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Q3)平均風速は?風速は安定しているのか?
A3)平均風速は 8.5~9.5m/s、2012 年平均風速は Kentish Flats で 7.6m/s、Thanet
で 8.0 m/s。
Q4)発電買取価格は通常より高めに設定されているのか?
A4)買取価格は、英国で決まっている。
Q5)個々の発電所の制御や監視はどのように行っているのか?
A5)SCAD システムで行っている。
Q6)発電機の事故・故障発生時でも健全な発電機から送電を継続しているのか?
A6)故障風車を除いた健全な風車だけでの運転が可能。
Q7)悪天候(暴風・波浪)や地震、雷、津波等の気象条件で停止することはあるのか?
A7) 25m/s 以上の風速が継続したとき、風車は停止する。
Q8)地上接地と比較して、洋上設置の優位点と問題点は?
A8)洋上設置の優位点は、風速が高くて風速の変化も少ない。
Q9)大きな事故・故障事例はあるのか?あればその対策や改善策は?
A9)過去にケーブルの欠陥の問題があったが修復した。ギアボックスの問題もあっ
た。不良品は交換し設計見直しを行う。ギアボックスは業界全体の問題である。
Q10)許認可等で苦労されたことは?
A10)近くにある航空レーダーに干渉することがある。
Q11)メンテナンスの計画や点検の方法、頻度、考慮した点は?
A11)8 年間の面手何誌計画がある。オイルレベル、潤滑油他は毎年行う。ボルト
テンションは 3 年毎に行う。
(5)一般的所感
英国は日本と同じ海洋国家である。ただし相違点が有り日本と異なった取り組みと
なっている。以下に考えられる要因を考えてみる。
①沿岸部の水深が一般的には浅いので洋上風力発電機の設置コストを低くできる。
②海上の平均風速は、日本より高く洋上風力発電の同一容量での発電量が高くなる。
③降水量が少ない、天候の変動が大きい
④台風や地震のリスクが低い
⑤山地が少なく、平地が多い。牧場・農地が多い。
⑥再生可能エネルギーに対する政府の援助が大きい
英国には EU(欧州連合)が義務付けている CO2 排出削減目標がある。
(この目標を
達成するためには、再生可能エネルギーが全消費電力に占める割合を、2020 年まで
に約 30%まで高める必要がある)
英国の洋上風力発電の大規模な導入は、2020 年までの政府の高い目標と、補助金
や大胆な開発地域の設定といった国の政策によって支えられていると言える。
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日本は海洋発電の技術開発は遅れているが、千葉や福岡での着床式の設置を行い、
浮体式では長崎に続いて福島では 7MW 級風力発電機による洋上風力発電事業が計
画されている。英国のようにモノパイルによる着床式に比べて浮体式は、水深の深
い日本に適した方法であるが技術的な課題やコスト面で課題はあるものの、世界的
にはまだ例が少なく、我が国独自の技術が発揮できる可能性がある。
【右から、ルパート・ブラックストン氏、エリアス・デンカー氏、関団
長、メリン・ジャクソン氏(後列)、メラニー・ロジャース(前列)】
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まとめ
再生可能エネルギーのうち、海洋再生エネルギーの賦存量はかなり大きく、発電
に利用する場合には陸上以上のポテンシャルがあると言われている。今回視察した
英国では、2020 年までに、1.6GW 規模の海洋エネルギー開発に取り組むことが国
家レベルで進められており、大規模な洋上風力発電を展開する事業が進み、併せて、
海洋再生エネルギー発電の実用化が推進されている。
今回視察をしたペラミス社の波力発電「ペラミス」やアクアマリン社の「オイス
ター」は、開発が始まったばかりでコストも高く、その普及には今後の技術開発に
待つところが大きいが、波力発電は天候による変動が少ないためベース電力として
の期待があり、果敢に挑戦する姿勢には感心させられた。洋上風力発電については
英国の再生可能エネルギーの大きな柱として計画に従い着々と進行していることも
改めて認識できた。
翻って日本のエネルギー自給率は 2010 年時点で、わずか 4%(原子力除く)と、
エネルギー資源の多くを海外に依存している。自給率向上のためには、再生可能エ
ネルギーの拡大が不可欠であり、日本政府は「革新的エネルギー・環境戦略(2012
年 9 月)」の中で、2030 年までに 2010 年発電量(1,100 億 kWh)の 3 倍に引き上
げる目標を掲げている。
また政府の総合海洋政策本部において「海洋再生可能エネルギー利用促進に関す
る今後の取組方針」が平成 24 年 5 月にまとめられ、2013 度以降の国内実証試験着
手に道筋が作られたばかりである。
四方を海に囲まれた我が国においては、洋上風力、波力、潮力などの海洋再生可
能エネルギーを利用した発電技術を早期に実用化し、我が国におけるエネルギー供
給元の一つとして活用していける環境を整備することは、我が国のエネルギー政策
上重要な課題であり、温室効果ガスの排出削減による持続可能な低炭素社会の構築
の観点からも、政府一丸となって取り組んでいく必要がある。
時あたかも、帰国後の 11 月 11 日福島県沖で出力 2,000kW 浮体式洋上風力発電
の設置が完了し、発電開始したとのニュースに接し、わが国の風力発電の洋上展開
の先駆けとしてその動向が注目される。
最後に、今回の視察において、我々を受け入れて頂いた現地企業の方々や事前準
備に御尽力いただきました方々に対して厚くお礼を申しあげたい。
※視察時のパワーポイント等の資料は、協会に保管してあります。
TEL:03-5413-2163
調査・技術課宛
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