相談員 部屋 相談員 部屋

相談員
の
管理濃度改正が
もたらしたもの
部屋
産業保健相談員(労働衛生工学)
よし
みね
まさ
みち
歓 峯 昌 道
厚生労働省は日本産業衛生学会の許容濃度や米国
じん肺の原因となる鉱物性粉じん(土石、岩石、
産業衛生専門家会議(ACGIH)のばく露限界値の
鉱物、金属又は炭素の粉じん)の有害性については、
値が変更になったものを参考にして、昨年
粉じんの濃度レベルだけでなく、粉じん中の遊離け
(2005年)4月に作業環境測定の結果を評価する
い酸の含有率に大きく左右されますので、管理濃度
ための管理濃度を改正しました。
は遊離けい酸含有率の関数式で与えられていました
この改正で83物質の管理濃度のうち21物質の
が、この関数式も変更されました。
管理濃度が厳しい数値になりました。
有機溶剤ではキシレン(100→50ppm)、ジク
ロルメタン(100→50ppm)等9物質の管理濃度
ここでは鉱物性粉じんの管理濃度改正に着目し
て、その影響について考えてみます。
が、特定化学物質ではベンゼン(10→1ppm)、硫
遊離けい酸を代表するものが石英で、石英は砂の
化水素(10→5ppm)等9物質の管理濃度が変更さ
中に含まれますので、砂を製造又は取り扱われる粉
れました。
じん職場では作業環境測定の評価(管理区分)に大
社会問題化した石綿(2本/cc→0.15本/cc、
アモサイト及びクロシドライトを除く)についても
発がん性を考慮したものとなりました。
きな影響が出て来ることが予想されます。
(財)島根県環境保健公社で測定を実施した結果
を元に改正前後の粉じん職場の管理区分の推移を図
鉱物性粉じんの管理濃度
改正前
E=
2.9
0.22Q + 1
Q(%)
0
1
5
10
20
30
6
改正後
E=
改正前のE
(mg/m3)
2.90
2.38
1.38
0.91
0.54
0.38
3.0
0.59Q + 1
改正後のE
(mg/m3)
3.00
1.89
0.76
0.43
0.23
0.16
この式においてE及びQは、
それぞれ次の値を表すものとする
E 管理濃度 (mg/m3)
Q 当該粉じん中の遊離けい酸含有率(%)
遊離けい酸とは石英、クリストバライトなど
結晶質シリカの総称
遊離けい酸が10%の場合の管理濃度は0.91
から0.43mg/m3に、20%の場合は0.54
から0.23mg/m3に変更になりますが、作
業環境管理によって粉じん濃度を0.5mg/m3
以下に抑えることは、多くの粉じん職場にお
いては容易なことではないようです。
100%
100%
50%
50%
0%
0%
01年度 02年度 03年度 04年度 05年度
01年度 02年度 03年度 04年度 05年度
第3管理
3.9
4.4
2.1
7.6
13.2
第3管理
0.4
0.4
2.5
2.1
4.7
第2管理
15.5
13.2
16.0
14.6
8.3
第2管理
4.3
6.3
7.6
5.4
5.7
第1管理
80.7
82.4
81.9
77.8
78.5
第1管理
95.4
93.3
89.9
92.5
89.6
図1
粉じん測定の管理区分推移
図2
有機溶剤測定の管理区分推移
1に示しました。比較のために有機溶剤職場の管理
ではない状況下にあって管理濃度が厳しくなりまし
区分の推移を図2に示しました。
たので、遊離けい酸含有率の高い粉じんが発生する
有機溶剤では、2005年度においては第3管理区
分の割合が4.7%に増えました。主要因は47種類
職場の環境改善は相当の困難を伴うのは事実です。
じん肺の魔の手から労働者を救ってくれるのは、
の物質(有機溶剤中毒予防規則の第1種及び第2種
またもやマスク(魔救う)しかないのかといった感
有機溶剤)のうち9物質について管理濃度が変更さ
もしないではないですが、あきらめないで下さい。
れたためと思われますが、有機溶剤を取り扱う多く
の職場においては局所排気装置を中核とする有効な
工学的対策がすでに施されていたこともあって、管
理区分の悪化の程度は予想外に少ないものでした。
①有害性の少ない物質に転換することはできま
せんか
②生産工程、作業方法を改良して粉じんの発散
一方、粉じん測定に関しては、2005年度にお
いては第3管理区分の割合が13.2%と大幅に増加
しました。
粉じん測定については金属粉など遊離けい酸を全
く含まない粉じんが飛散する職場(この場合の管理
濃度は3.0mg/m3)の結果も含んでいます。遊
離けい酸を含んだ粉じんが飛散する職場の結果だけ
に限定して管理区分の推移を見た場合には第3管理
区分の割合はさらに増加します。
グラフにはしていませんが、2005年度の粉じ
ん測定の評価を業種別にみますと、第3管理区分の
割合が60%にも達する業種もありました。
を低減することはできませんか
③設備を密閉化したり、自動化することはでき
ませんか
④遠隔操作を取り入れたり、有害工程を隔離す
ることはできませんか
⑤局排フードの囲い込みを強化するなどして、
排気効果を高めることはできませんか
⑥全体換気を取り入れたり、強化することはで
きませんか
⑦通風換気が行われやすいように工場の建家を
改造することはできませんか
⑧堆積じん清掃責任者を選任し、堆積じんの清
掃を徹底することはできませんか
粉じん職場の環境改善手法も有機溶剤と同様にそ
の中核となるのは局所排気装置です。しかし、粉じ
⑨上記の改善手法等を複数組み合わせた対策を
実行することはできませんか
ん職場の場合は発じん箇所が多いこと、局所排気装
置には集塵機など用後処理が必要なこと、また堆積
じんの二次的発じんを伴うこと等から改善対策は一
粉じん職場の作業環境管理のハードルは高くはな
般的には有機溶剤に比べて難しいという特徴があり
りましたが、有効な改善対策は無限に存在すること
ます。
も事実です。今こそ粉じん対策と真剣に向かい合う
管理濃度改正以前においても対策が必ずしも十分
時ではないでしょうか。
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