組合せゲーム理論入門(1)

組合せゲーム理論入門 (1)
川辺 治之
2011 年 11 月 2 日
組合せゲーム
■
■
■
■
二人の対局者が交互に手を打つ.
ゲームは,ど ちらかの対局者が自分の手番に規則に
従った手を打つことができなくなるまで続く.
サイコロやルーレット,切り混ぜたトランプを配ると
いうような偶然に左右される要素はない.
それぞれの対局者は,常にゲームの局面 (状態) につい
てのすべての情報を知らされている.
2 / 90
組合せゲームの勝敗
■
■
正規形 (normal play):最後の手を打った対局者の勝ち
逆形 (misère play):最後の手を打った対局者の負け
3 / 90
組合せゲームではないゲーム
■
■
■
点と線 (dots & boxes) では,対局者は続けて 2 手を打
つことがある.
チェッカーの多くの局面には同形反復があり,限りな
く手を打ち続けることができる.
囲碁やチェスでは,最後の手を打った対局者の勝ちと
ならない場合がある.
4 / 90
(経済) ゲームとの違い
■
■
古典的な数学理論で扱う (経済) ゲームを分析すること
の難しさは,同時並行して行われる判断に起因する.
それぞれの参加者は,相手の選択した手を知らずに打
つ手を決めなければならない.
組合せゲームの難しさは,与えられた局面で取りうる
手の純然たる多さに起因する.
5 / 90
二人の対局者
左
右
ルイーズ リチャード
正
負
黒
白
青
赤
縦
横
女性
男性
緑
灰色
6 / 90
選択肢
■
■
■
■
左選択肢:その局面から左がどれかの手を選らんで
打った結果として得られる局面
左選択肢:その局面から右がどれかの手を選らんで
打った結果として得られる局面
すべての局面において左選択肢と右選択肢が同じとな
るゲームを不偏 (impartial) ゲームという. 不偏ゲームでないゲームを非不偏 (partizan) ゲームと
いう.
7 / 90
ド ミナリング
左は,上下に隣り合う二つの空きマスにド ミノ牌を置く.
同様に,右は,左右に隣り合う二つの空きマスにド ミノ牌
を置く.
左
→
右
→
左
右
→ ··· →
左
→
8 / 90
ゲーム木
局面の左選択肢および右選択肢を,その局面のそれぞれ
左下および右下にくるように図示する.
9 / 90
ゲームの局面
ゲーム (の局面) G を,その局面における左および右選
択肢の集合 G L および G R によって
G=
n
L G G
R
o
と定義する.
通常,集合 G L および G R の要素を囲む「 { 」および「 } 」
は省略して表記する.
10 / 90
クロバー
左は,黒石を隣り合う上、下、左または右の白石のあるマ
スに移動させ,その白石を取り除く.
右は,白石を隣り合う上、下、左または右の黒石のあるマ
スに移動させ,その黒石を取り除く.
左
→
右
→
左
左
→ ··· →
右
→
11 / 90
ゲームの局面の例
=
n
,
,
o
,
再帰的にこの表記を用いることもできる.
= {
= {{
=
|
|
|
}
}|
}
再帰的な表記では、内側の「 { 」および「 } 」は略記できる.
12 / 90
帰結類
帰結類
名称
定義
N
ファジー 先手番 (N ext:次) の対局者が
勝つ.
P
零
後手番 (Previous:直前) の対局 者が勝つ.
L
正
左 (Left) が勝つ.
R
負
右 (Right) が勝つ.
右が先手番
右の勝ち 左の勝ち
左が 左の勝ち
N
L
先手番 右の勝ち
R
P
13 / 90
選択肢と帰結類
n
G= G
L
G
R
o
∃GL ∈ G L GL ∈ L ∪ P
∀GL ∈ G L GL ∈ R ∪ N
∃GR ∈ G R
GR ∈ R ∪ P
G∈N
G∈R
∀GR ∈ G R
GR ∈ L ∪ N
G∈L
G∈P
ゲーム木の葉となる局面は,G R = G L = ∅ より、
∀GR ∈ G R GR ∈ L ∪ N および ∀GL ∈ G L GL ∈ R ∪ N が
成り立つので、P 局面となる.
14 / 90
ゲーム木から帰結類を求める
ド ミナリングのゲーム木:
15 / 90
ゲーム木から帰結類を求める
ゲーム木の葉となる局面は P 局面となる.
P P P
P P P P
P
P P P P P P P PP P P P
16 / 90
ゲーム木から帰結類を求める
葉から根に向かって順次すべての節点の帰結類を決定
できる.
N
P
N
N
L
N P P PN
P P P P
L
N PN
P
N N
N
P P P P P P P PP P P P
17 / 90
局面の分解
=
18 / 90
直和による分解
(正規形ゲームに対する)コンウェイの洞察:
■
■
■
■
ゲームの手とは,ある局面から別の局面に移ること.
最後の手を打った対局者の勝ち.
ゲームの直和では,対局者はその直和成分のいずれに
対しても手を打つことができる.
ゲームの (符号の) 反転とは,そのゲームでのそれぞれ
の対局者の役割を入れ替えること.
直和成分 A を含む任意の直和において A を B で置き換
えることで左が不利にならないならば,(左にとっ
て )A は B よりも悪くはない.
19 / 90
後手必勝のゲーム
G を任意のゲームとし,Z を後手必勝の任意のゲーム
とすると,G の帰結類は G + Z の帰結類と一致する.
逆に、Z が 、つねに G + Z は G と同じ帰結類に属する
という性質をもつならば 、とくに G = 0 とすると Z は 0 と
同じ帰結類に属する、すなわち Z は後手必勝となる.
任意の後手必勝ゲーム,そしてそれらだけが
直和演算における単位元となる.
20 / 90
直和の帰結類
L
P
R
N
L
L
L
?
L または N
P
L
P
R
N
R
N
?
L または N
R
N
R
R または N
R または N
?
21 / 90
ゲームの定義
n
o
G L G R と定義する.
R
ゲーム G を、
ここで、G L および G はゲームの集合とする. n o
ゲームの定義より、G L = G R = ∅ となる G = G L G R
はゲームとなる.
このゲームを零ゲームという.
0={|}
22 / 90
ゲームの直和
def n L
G+H =
G + H, G +
ここで
■
L H R
G + H, G + H
R
o
ゲーム G とゲームの集合 S の和は,
G + S = {G + X}X∈S
■
と定義する.
‘,’ は集合の和を表す.
23 / 90
ゲームの直和の例
=
G =
n
=
H =
n
に対して
G+H =




z




L
G +H
}|
+
{ z
,
G+H
}|
+
L
{ z
o
o
,
R
G +H
}|
+
{ z
,
+
G+H
}|
,
R
+



{





24 / 90
直和の性質
■
■
G + H = H + G (交換法則)
(G + H) + J = G + (H + J) (結合法則)
証明は帰納法を用いる.
25 / 90
ゲームの( 符号の)反転
ゲームの (符号の) 反転の定義
def n
−G =
R −G −G
L
o
は,対局者の役割の交換に対応する.
ここで、集合に対する符号の反転は,その集合のすべて
の要素それぞれに対して符号を反転した集合、たとえば
−G R = {−GR }GR ∈G R とする.
反転によって,右選択肢と左選択肢が入れ替わり,そし
てそれぞれの選択肢に対して再帰的に対局者の役割が入
れ替わる.
26 / 90
ゲームの差
符号の反転を用いて,ゲームの差を
G − H = G + (−H)
と定義する.
27 / 90
ゲームの等価性
二つのゲームの等価性を次のように定義する.
def
G = H ⇔ (∀X) G + X は H + X と同じ帰結類に属する.
本質的には,ゲームの直和に関して G が H と同じ振舞
いをするならば,G = H となる.
= は同値関係となる、つまり,反射法則,対称法則お
よび推移法則が成り立つ.
28 / 90
帰結類とゲームの値
定理 G が P 局面となる (すなわち,後手番の対局者が勝
つ) とき,そしてそのときに限り,G = 0 が成り立つ.
証明 (⇐:) G = 0 ならば,すべてのゲーム X に対して
G + X は 0 + X = X と同じ帰結類に属する.とくに
X = 0 とすると,G は 0 と同じ帰結類に属する.これは G
が P 局面ということ.
29 / 90
帰結類とゲームの値
証明 (⇒:) G を P 局面とするとき,どのような局面 X に
ついても,G + X が X と同じ帰結類に属することを示す.
X において左が後手番で勝つならば,その戦略を使っ
て G + X においても左は後手番で勝つ.
( 相手が手を打っ
た構成要素に応手すればよい.
)
X において左が先手番で勝つならば,左はまず G + X
の 2 番目の直和成分にそれと同じ手を打ち,その後は前述
の後手番のときと同じ戦略を使って勝つ.
右についても同様.
30 / 90
等価性の判定
定理 G − H = 0 、つまり G − H が P 局面となるとき,そ
してそのときに限り,G = H となる.
証明 G − H = 0 より (G − H) + H = 0 + H が成り立つ.
( 証明略)
これに結合法則および交換法則を使うと、
G = G + 0 = G + (H − H) = (G − H) + H = 0 + H = H
となる.
この定理は、G = H かど うかを判定するための構成的
な方法を示している.
31 / 90
ゲームの比較
def
G≥H ⇔
def
G≤H ⇔
(∀X) H + X において左が勝つときは
G + X においてもつねに左が勝つ.
(∀X) H + X において右が勝つときは
G + X においてもつねに右が勝つ.
32 / 90
ゲームの符号と帰結類
定理 次の各項は同値となる.
1. G ≥ 0
2. G において左は後手番で勝つ.つまり,G ∈ P または
G ∈ L が成り立つ.
3. 任意のゲーム X に対して,X において左が後手番で
勝つならば,G + X においても左は後手番で勝つ.
4. 任意のゲーム X に対して,X において左が先手番で
勝つならば,G + X においても左は先手番で勝つ.
33 / 90
証明の概略
■
■
■
■
1 ⇔ 3, 4: ≥ の定義より.
2 ⇒ 3: G + X のそれぞれの構成要素に後手番の必勝
戦略を使う.
3 ⇒ 2: X = 0 とすると明らか.
4 ⇒ 2: 4 の対偶「 G + X において左が先手番で勝て
ないならば,X においても左は先手番で勝てない.
」で
X = −G とする.
34 / 90
ゲームの大小関係の求め方
定理 G − H において左は後手番で勝つとき,そしてその
ときに限り,G ≥ H が成り立つ.
証明 G − H ≥ H − H = 0(つまり G − H ≥ 0) が成り立つ
とき,そしてそのときに限り,G ≥ H が成り立つ.
この定理が 、G と H の比較の仕方を具体的に与える.
35 / 90
ゲームの比較のまとめ
G>0
G=0
G<0
G 0
G>H
G=H
G<H
G H
⇔
⇔
⇔
⇔
⇔
⇔
⇔
⇔
Gは
左
の勝ち
G は後手番の対局者の勝ち
Gは
右
の勝ち
G は先手番の対局者の勝ち
G−Hは
左
の勝ち
G − H は後手番の対局者の勝ち
G−Hは
右
の勝ち
G − H は先手番の対局者の勝ち
36 / 90
ゲームの半順序構造
定理 関係 ≥ はゲーム全体の上の半順序となる.
つまり、任意のゲーム G,H および J に対して
■
■
■
G ≥ H かつ H ≥ J ならば G ≥ J ( 推移法則)
G ≥ G ( 反射法則)
G ≥ H かつ H ≥ G ならば G = H ( 反対称法則)
が成り立つ.
37 / 90
ゲームの群構造
定理 ゲーム全体の集合は可換群となる.
任意のゲーム G,H および J に対して
■
■
■
■
■
G および H を群の要素とするとき,G + H もまた群の
要素となる. ( 演算について閉じていること )
(G + H) + J = G + (H + J) ( 結合法則)
G + 0 = G ( 単位元の存在)
G + (−G) = 0 ( 逆元の存在)
G + H = H + G ( 可換)
38 / 90
ゲームの標準形
すべてのゲーム G に対して,それと等しい「最小」の
ゲームがただ一つ存在する.この最小のゲームを G の標
準形という.
G および H のそれぞれの標準形が一致するかど うかを
調べることによって,それらが等しいかど うかを判定する
ことができる.
39 / 90
劣位な選択肢
定理 ゲーム
G = {A, B, C, . . . | H, I, J, . . .}
において B ≥ A ならば,
G′ = {B, C, . . . | H, I, J, . . .}
に対して G = G′ となる.
左にとって,B は A より優位な選択肢,A は B より劣位
な選択肢という.
( 右にとっても同様.
)
40 / 90
劣位な選択肢:証明
G − G′ において後手番の対局者が勝つことを示す.


A,
B,
C,
.
.
.

|
{z
√
√
√
G
√
√


√

√
√
√
√


H, I, J, . . . − B, C, . . . H, I, J, . . .
}
|
{z
′
G
}
A − G′
A−B
B ≥ A なので右
が勝つ.
41 / 90
打消し 可能な選択肢
打消し可能な左選択肢とは,右の応手による結果が左が
手を打つ前よりも少なくとも悪くならないように,右がす
ぐ さま応手するであろう手のこと.
ゲーム G の左選択肢 A は,右にとって G より悪くなら
ない,つまり AR ≤ G となる右選択肢 AR があるとき,打
消し可能という.
「左がまず A とし,右が AR と応手すると,その左選択
肢の一つを選ぶ」という手の応酬を経ずに,G から AR の
左選択肢を直接選択すると考えることができる.
42 / 90
打消し 可能な選択肢
定理 ゲーム
G = {A, B, C, . . . | H, I, J, . . .}
に対して,A のある右選択肢 AR が G ≥ AR を満たすと
き、AR = {W, X, Y, . . . | . . .} とすると,
G′ = {W, X, Y, . . . , B, C, . . . | H, I, J, . . .}
に対して G = G′ が成り立つ.
43 / 90
打消し 可能な選択肢:証明
√ √ √
 
√ √


H, I , J, . . . − W, X, Y, . . . , B, C, . . .
A,
B,
C,
.
.
.

 
{z
} |
{z
|


√
√
G′
G
A − G′
G−W
√
√
√


H, I , J, . . .
}
G ≥ AR なので
左が勝つ.
AR − G′
AR − H X − G′
AR ≤ G なので
右が勝つ.
X −X
44 / 90
標準形への簡約化
ゲーム G および G の全局面が劣位な選択肢および打消
し可能な選択肢をもたないとき,G を標準形という.
定理 G および H がど ちらも標準形で G = H が成り立つ
ならば,G ∼
= H が成り立つ、つまり、同一のゲーム木を
もつ.
45 / 90
証明の概略
G = H より,G − H において左は後手番で勝つ.とく
に,左は,GR − H に対する勝つための応手がある.この
応手は,GR に対して打つ手ではありえない.なぜなら,
もしそうだとすると,GRL − H ≥ 0 となる GRL があるこ
とになるが,これは GRL ≥ H = G ということで,G に打
消し可能な選択肢があることになる.つまり,GR − H に
対して左が勝つための応手は,H に対する手であって,
その手を打つと GR − H R となる.これは,GR ≥ H R が成
り立つ H R があるということ.
R
R
R′
対称的な議論により G ≥ H ≥ G となるが,GR と
R′
G は同一の選択肢でなければならない.
( もし同一でない
なら,GR は劣位な選択肢となる.
)つまり,G のすべての
右選択肢は,H の右選択肢のどれかに等しい.
46 / 90
ゲームの値
左が自由に n 手を打つことができるゲームの値を n と定
義する.同様に,右が自由に n 手を打つことができるゲー
ムの値は −n となる.
形式的には,正整数 n に対して、次のように定義する.
0
def
=
{|}
n
def
=
{n−1 | }
−n
def
{ | −(n−1)}
=
例:
2 = {1 | } = {{0 | } | } = {{{ | } | } | }
47 / 90
ゲームの値についての考察
n を整数とし,N は n を値とするゲームとする.
■
n = 0 ならば,N にはど ちらの対局者も打つ手はない.
■
n > 0 ならば,N において,左には n − 1 を値とする
ゲームにする手があるが,右には打つ手はない.
n < 0 ならば,N において,右には n + 1 を値とする
ゲームにする手はあるが,左には打つ手はない.
■
48 / 90
ゲームの和に関する不等式
ゲーム A,B および C は,それぞれ整数の値 a,b および c
をもつとする.
補題 ゲームとして A + B + C ≥ 0 が成り立つとき,そし
てそのときに限り,整数として a + b + c ≥ 0 が成り立つ.
(同様に,A + B + C ≤ 0 が成り立つとき,そしてそのと
きに限り,a + b + c ≤ 0 が成り立つ.)
証明は、|a| + |b| + |c| および A, B, C のゲーム木の大きさ
に関する帰納法.
49 / 90
ゲームの和に関する等式
定理 a + b = c が成り立つとき,そしてそのときに限り,
A + B = C が成り立つ.
証明 補題より,a + b + (−c) = 0 が成り立つとき,そして
そのときに限り,A + B + (−C) = 0 が成り立つ.これら
の等式の両辺にそれぞれ c および C を加えると,定理の主
張が得られる.
50 / 90
ゲームの順序構造
定理 a ≥ b が成り立つとき,そしてそのときに限り,
A ≥ B が成り立つ.
証明 補題より,a + (−b) + 0 ≥ 0 が成り立つとき,そして
そのときに限り,A + (−B) + 0 ≥ 0 が成り立つ.
これで、整数とそれを値にもつゲームを同一視することが
できる.
51 / 90
整数でない値をもつゲーム
=
に対して
0<
< 1 および
= {0 | 1}
+
=1
が成り立つ.
52 / 90
2 進有理数
19
のような 2 のベ
2 進有理数は,たとえば 12 , 83 および 32
キを分母とする分数.
j > 0 および奇数 m に対して,数を次のように定義
する.
m
=
j
2
たとえば
(
(
m−1 m+1
2j
2j
)
(
)
19
18 20
9 5
=
=
32
32 32
16 8
)
53 / 90
1
2
1
2
+ =1
証明 差分ゲーム 12 + 21 − 1 において,後手番の対局者が勝
つことを示す.
ど ちらの対局者が 21 に対して手を打っても,もう一方の
対局者がもう一方の 21 に応手すれば,1 − 1 = 0 となって
先手番の対局者の負けとなる.
一方,右が −1 を 0 とする手を打ったときは 21 + 12 が残
り,左が 12 に手を打つと右のもう一方の 12 への応手で 1 と
し,左がその 1 を 0 として勝つ.
54 / 90
三つのゲームの和
ゲーム A,B および C は,それぞれ値 a,b および c を
もつとする.
補題
a + b + c = 0 ⇐⇒ A + B + C = 0
a + b + c > 0 ⇐⇒ A + B + C > 0
a + b + c < 0 ⇐⇒ A + B + C < 0
55 / 90
証明の概略
■
互いに排他的な条件なので、=⇒ 向きだけを証明する.
■
a + b + c ≥ 0 を仮定して、A + B + C において左が後
手番で勝つことを示す.
( 帰納法)
a + b + c > 0 ならば,A + B + C において左が先手番
でも勝つことを示す.
( 帰納法)
■
a,b および c はすべて整数で,その中のどれかは 0
よりも大きい場合
◆ A + B + C = 2ij (i が奇数かまたは j = 0) とすると
き、a,b または c のどれかは, j ′ ≥ j および i′ > 0
i′
について 2j ′ の形で,a + b + c − 21j ′ ≥ 0 が成り立つ
場合
◆
56 / 90
ゲームの和と比較
定理
■
■
a + b = c が成り立つとき,そしてそのときに限り,
A + B = C が成り立つ.
a ≥ b が成り立つとき,そしてそのときに限り,
A ≥ B が成り立つ.
証明 補題より,a + b − c = 0 が成り立つとき,そしてそ
のときに限り,A + B − C = 0 が成り立つ.
同様に,a − b + 0 ≥ 0 が成り立つとき,そしてそのとき
に限り,A − B + 0 ≥ 0 が成り立つ.
57 / 90
弱数避定理
定理 x は数で,G は数でないとき,G + x において左が先
手番で勝つならば,G に対する手で勝つことができる.
証明 x は標準形としてよい.
ある xL について G + xL ≥ 0 とすると,G は数でない
(G 6= −xL ) ので,G + xL > 0 、つまり,G + xL において
左が先手番で勝ち,帰納法により,ある GL について
GL + xL ≥ 0 が成り立つ.すると,x > xL より,
GL + x ≥ 0 が成り立つ.
58 / 90
もっとも簡単な数
■
■
n
G L o
ゲーム G =
G R の誕生日を,G L ∪ G R に含まれ
るゲームの誕生日の最大値に 1 を加えたものと定義す
る.G L = G R = ∅ のときは,G の誕生日は 0 とする.
数 xL < xR に対して,xL と xR の間のもっとも簡単な
数 x とは,xL と xR の間 (両端は含まない) にある数の
中で最もさい誕生日をもつ数と定義する.
定理 ゲーム G のすべての選択肢 GL および GR が数であっ
て GL < GR が成り立つならば,G は G L < x < G R を満た
すもっとも簡単な数 x に等しい.
59 / 90
定理の証明
証明 x − G において後手番の対局者が勝つことを示す.
右は先手番で,x − GL とする手または xR − G とする手
を打つことができる.G L < x < G R となる x を選んだの
で,x − GL > 0 となる.また,xR < G R となることはな
い.なぜなら,もし xR < G R ならば,G L < x < xR < G R
となり,xR は x よりも簡単な数なので,x が G L と G R の
間のもっとも簡単な数という仮定に反する.これより,
xR ≥ GR を満たす GR が存在し,左は xR − GR とする手を
打って勝つことができる.
左についても同様.
60 / 90
最も簡単な数の例
■
■
■
(
)
1
2 =1
(2
)
1 5
1
=
2 )
(8 8 27 3
9
−1 −1
= −1
64
32
8
61 / 90
プッシュ
対局者は、自分の色の駒を一つ 1 マス左に移動させる.そ
れぞれのマスには一つより多くの駒を置くことはできな
いので,その駒の左側の連続するマスにある駒はすべて 1
マス左に移動される.駒は盤の左端から盤外に押し出さ
れる.
左
→
右
→
左
→
右
→
62 / 90
プッシュの局面の値 (1)
局面
は明らかに左にとって 1 手の価値がある.
= {0 | } = 1
これより
= {1 | } = 2 および
= {2 | } = 3
となる.
63 / 90
プッシュの局面の値 (2)
白駒があるときは,
={
3
} = {1 | 2} =
2
|
となるので,これより
={
={
となる.
|
|
(
)
3
3 =2
}=
2
(
)
3
7
}=
2 =
2
4
64 / 90
プッシュの局面の値 (3)
= {
|
,
}
( )
( )
37
3 7
13
,2 =
=
=
2 4
2 4
8
となるので,これらの局面の直和は
+
+
+
13
1
3 7
=−
= − + +(−2)+
2 4
8
8
となり,右が勝つ.
65 / 90
無限小ゲーム
定義 ゲーム G は,任意の正の数 x に対して −x < G < x
が成り立つとき,無限小 (infinitesimal) という.
例 ∗ = {0 | 0} は無限小ゲームであることを示す.
66 / 90
∗ が無限小であること
∗ は 0 と比較不能 (∗ において先手番の対局者が勝つ) な
ので,∗ は数ではない.
また,∗ = −∗ に注意すると,対称性より任意の正の数
x に対して ∗ < x が成り立つ、すなわち x − ∗ = x + ∗ にお
いて左は先手番でも後手番でも勝つことを示せば十分.
左が先手番であれば,∗ を 0 とする手を打って,その結
果 x とすることで勝つ.
一方、弱数避定理を用いると、x + ∗ において勝つこと
のできる第 1 手が右にあるならば,それは ∗ に対する手と
してよい.しかし,その手を打った結果は x > 0 となり,
ここから左が先手番で勝つ.
67 / 90
↑と ↓
↑
def
=
{0 | ∗}
↓
def
{∗ | 0}
=
たとえば,クロバーでは,
= ↑
= ↓
となる.
68 / 90
↑ が無限小となること
任意の x > 0 に対して,0 < ↑ < x が成り立つことを
示す.
↑ において左は先手番でも後手番でも勝つので,↑ > 0
が成り立つ.
x > 0 が標準形で与えられたとき,x − ↑ を x にする右
の手はすぐに負けとなり,xR − ↑ にする手があれば,
xR > x もまた数となるので帰納法より右の負けとなる.
これより x ≥ ↑ が成り立つ.
一方,∗ は無限小なので x − ∗ は正となり,左は x − ↑ を
x − ∗ にする手で勝つ.つまり,x > ↑ が成り立つ.
69 / 90
全微小ゲーム
定義 ゲーム G は,G の全局面 H が条件「右に打つ手が
あるとき,そしてそのときに限り,左にも打つ手がある」
を満たすとき,全微小 (all-small) ゲームという.
ゲーム ∗ および ↑ は,ど ちらも全微小ゲームとなる.
一方,全微小な数は 0 のみ.
70 / 90
↑ および ∗ の和
↓<0<↑
↓ ∗ ↑
⇓=↓+↓<∗<↑+↑=⇑
4
3
2
1
0
−1 −2 −3 −4
∗
⇑
↑
0
↓
⇓
71 / 90
+ を省略した表記法
帯分数と同様の省略記法を採用して,ゲームの名前を並
べて表記することでそれらの和を表す.その際には,かな
らず数,↑/↓,そして ∗ の順に並べるものとする.
たとえば,
2⇑∗ = 2 + ⇑ + ∗
となるが,∗↑ と表記することはない.
後ほど ,∗2 というゲームを定義するが,これは
2∗ = 2 + ∗ とは異なる.
72 / 90
n·↑ および n·↑ ∗ の標準形
↑∗ は ⇑ の選択肢なので,↑∗ を先に計算する.
↑∗ のゲーム木は次のとおり.
↑∗
∗
↑
×
∗+∗ = 0
↑
右の ↑ とする手は 0 とする手より劣位となり,このほか
に劣位な選択肢はない.
73 / 90
↑∗ のゲーム木( 続き)
↑∗
∗
↑
0
∗
0
打消し可能な選択肢を調べると,↑∗ は 0 と比較不能だ
が,↑ > 0 なので ∗ < ↑∗ となることに注意すると、↑∗ を ↑
とする手は,∗ で打ち消されて 0 となる.
74 / 90
↑∗ のゲーム木( 続き)
このほかに劣位な選択肢および打消し可能な選択肢は
ないので,↑∗ の標準形は {0, ∗ | 0} となる.
↑∗
∗
0
0
75 / 90
⇑ の標準形
左には一方の ↑ を 0 とする手,右には一方の ↑ を ∗ とす
る手がある.つまり,⇑ = {↑ | ↑∗} となる.それぞれの対
局者の選択肢は一つだけなので,劣位となる選択肢は
ない.
右の ↑∗ = {0, ∗ | 0} とする手は打ち消せない.なぜなら
⇑ > 0 および ⇑ > ∗ となるから.一方、⇑ > ∗ なので,左
の ↑ とする手は ∗ で打ち消されて 0 となる.
⇑
↑
↑∗
∗
0
76 / 90
⇑ の標準形( 続き)
結果として,⇑ の標準形は {0 | ↑∗} となる.
⇑
0
↑∗
同様にして
↑ = {0 | ∗}
⇑ = {0 | ↑∗}
= {0 | ⇑∗}
= {0 | ∗}
↑∗
⇑∗
∗
∗
=
=
=
=
{0, ∗ | 0}
{0 | ↑}
{0 | ⇑}
{0 | }
77 / 90
−n
n·↑ および 2
1
32
0
のゲーム木
5·↑
1
16
0
∗
0
1
8
0
0
1
4
0
0
⇑∗
0
1
2
↑
0
1
0
∗
よく似たゲーム木をもつゲームの間でも代数的な振舞い
が驚くほど 異なることがある.
78 / 90
無限小ゲームの例
5·↑ =
0 ∗ =
=
0
0
⇑∗ =
0
↑=
0
∗=
79 / 90
転換ゲーム
y > z となる二つの数 y および z に対して,{y | z} を転換
(switch) ゲームという.
転換ゲームは
{y | z} = a + {x | −x} = a ± x
と書き換えて正規化できる.ただし,a = y+z
2 および
x = y−z
2 とし,±G は {G | −G} の省略表記とする.
80 / 90
タイニーとマイニー
G
G
def
def
=
=
0 0 | −G
G|0 0
G をすべての負の数より大きいゲームとすると、G は,
正の無限小ゲームとなる.
81 / 90
タイニー G は正の無限小とな
ること
証明 x を正の数として x − G = x + G > 0 を示す.
左が先手番で x + {G | 0} とする手を打つと,x > 0 とす
る右の応手はすぐに右の負けとなる.また,xR + {G | 0}
とする右の応手は,左が xR + G と打つと,xR > x もまた
正の数となることから,xR + G も正となる.
一方,右が先手番で x > 0 とする手は右の負けとなる.
または右が xR + G とする手は,xR > x は x より簡単な
正の数となるので,帰納法により xR + G は正となる.
82 / 90
相対的な無限小
ゲーム g > 0 は,すべての整数 n に対して n·g < h となる
とき,h > 0 に対して無限小という.正のゲームは,1 に
対して無限小となるとき,そしてそのときに限り,無限小
となる.
定理 任意の正の数 x について,x は ↑ に対して無限小と
なる.
83 / 90
定理の証明
任意の整数 n に対して,↑ + n· x ≥ 0 を示せば十分.
右の第 1 手がなんであろうと,左は残っている x のひ
とつを {x | 0} とする手を打つ.その {x | 0} に右が応手す
れば,左はまた同じように残っている x のひとつを
{x | 0} とする.ここで、右が {x | 0} に応手しなければ,
左はそれを x とする.この手はそのほかの選択肢より優位
となる.(x が唯一残っている局面となる前に,左がそれ
を無視してほかの手を打っても、その間に右が x に手を
打っても x が xR に増えるだけだから.)
こうして,すべての x がなくなったら,左は ↑ または
(右が第 1 手を ↑ に打ったときは )∗ を 0 にする.
84 / 90
x > y > 0 を数とすると,x は y に対して無限小となる.
証明 任意の整数 k に対して y − k · x = y + k · x ≥ 0 を
示す.
左は,常に x のひとつを {x | 0} とする手を打つ.右が
この局面に応手しなければ,左はこれを x とする.この手
はそのほかの選択肢より優位となる.
( 直前の定理の証明
と同様に,x が唯一残っている局面となる前に,左がそれ
を無視してほかの手を打てば 、その間に右が x に手を打っ
ても x が xR に増えるだけだから.
)
結局,すべての x 直和成分に手が打たれて,最後に左
は y または {0 | −y} に手を打つ.このど ちらの場合も左
の勝ちとなる.
85 / 90
無限小の間の大小関係
4
3
2
1
0
−1 −2 −3 −4
∗
⇑
4· 3 3· 3 2· 3 34
0
34 2· 3 3· 3 4· 3
4
4
4
4· 1 3· 1 2· 1 1
0
1 2· 1 3· 1 4· 1
4
4
⇓
0
4
↓
↑
86 / 90
ド ミノ倒し
左は,黒または灰色のド ミノ牌を一つ選んで,それを左
側 (または右側) に倒し,そのド ミノ牌およびその左側 (ま
たは右側) にあるすべてのド ミノ牌を取り除く.
同様に,右は,白または灰色のド ミノ牌を一つ選んで,
それを倒す.
左
→
右
→
左
→
87 / 90
ド ミノ倒しの局面の値
= 8
= ±3
= ∗
= ↑
= 4
1
=
16
= ∗4
88 / 90
ド ミノ倒しの局面の値
■
■
■
■
■
■
n 個の連続する黒ド ミノ牌からなる局面 (n ≥ 0) の
値は n
m + 1 個の黒ド ミノ牌に続く n + 1 個の白ド ミノ牌から
なる局面 (m, n ≥ 0) の値は転換ゲーム {m | −n}
2 個の黒ド ミノ牌で n + 2 個の白ド ミノ牌をはさんだ局
面 (n ≥ 0) の値は n
n + 1 個の黒ド ミノ牌と n 個の白ド ミノ牌を交互に並
べた局面の値は 21n
n 個の黒ド ミノ牌および白ド ミノ牌を交互に並べた局
面は ∗n(∗n については後述)
↑∗ および ⇑ を直和以外で構成する方法は知られてい
ない.
89 / 90
ド ミノ倒しの局面の値
( 2 進)有理数 x ≥ 0 が整数ならば,n 個の連続する黒
ド ミノ牌からなる局面が x を値にもつ.そうでなければ,
x = gL
gR
L
R
が成り立つ.ここで,
g
および
g
は,x の標準形を
n
o
xL xR としたときにそれぞれ xL および xR を値とする
ド ミノ倒しの局面とする.
n
o
3 7
2 4
=
3
2
7
4
=
13
8
=
=
90 / 90