港湾・空港ビジョン - 国土交通省 中国地方整備局 港湾空港部

1 中国地方の概況
(1)自然条件と港湾・空港 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
(2)社会経済構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
2 中国地方の港湾・空港を取り巻く情勢の変化
(1)東アジアの経済発展と物流動向の変化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(2)東アジア経済との相互依存関係の深化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
(3)国際競争の激化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
(4)地球規模の環境問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
(5)高まる自然災害の脅威 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
3 中国地方の港湾・空港の現状と課題
(1)中国地方の産業特性及び物流の現状と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
(2)観光・交流の動向及び人流の現状と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30
(3)港湾・空港における環境対策の現状と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
(4)港湾・空港における防災対策の現状と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
4 中国地方の港湾・空港の将来ビジョン
(1)中国地方の将来動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54
(2)中国地方の港湾・空港の目指すべき方向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55
(3)将来ビジョン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56
Vision 1 暮らしと経済を世界に結ぶみなと ・・・・・・・・・・・・・・・・ 58
Vision 2 人が集い、行き交うみなと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
Vision 3 自然と共生するみなと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
Vision 4 暮らしの安全と安心を守るみなと ・・・・・・・・・・・・・・・・ 85
5
ビジョンの達成に向けて
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96
中国地方整備局では、平成 14 年 3 月、地域の港湾・空港政策の基本指針となる
「中国地域港湾・空港ビジョン」を策定しました。当ビジョンでは、中国地方*1)
の港湾や空港の現状や課題を踏まえ、21 世紀初頭(2010 年頃)における港湾や空
港の目指すべき将来像を明らかにした上で、整備目標、推進を図るための施策、
整備の目安となる数値目標(アウトカム指標)などを示しています。
ビジョン策定後 5 年が経過し、その間、東アジアは著しい経済成長を遂げ、生
産拠点のみならず、世界最大の消費市場となりつつあります。これに伴い、アジ
ア地域を中心とする物流が増加し、中国地方は東アジア経済との相互依存関係が
進みつつあります。また、中国地方においては全国に先駆けて少子高齢化が進み、
平成 17 年には高齢化率が 23%となるなど、人口減少社会の進展が顕著となって
います。さらに、地球温暖化をはじめとした環境問題や切迫する大規模な自然災
害に対する国民意識の高まりなど、中国地方を巡る社会・経済情勢は急速に変化し、
中国地方の港湾・空港に求められる役割も大きく変化してきています。こうした状
況に鑑み、中国地方整備局では、今般、「中国地域港湾・空港ビジョン」の改訂を
行いました。
「中国地域港湾・空港ビジョン」は中国地方における港湾・空港へのニーズを
踏まえ、港湾・空港の将来像やそれを実現するための諸施策をまとめたものです。
本ビジョンは中国地域の港湾・空港に関する施策展開について地域の皆様と意識
を共有するとともに、組織の行動指針とするという2つの目的を持っています。
今回の改訂では 4 つの視点から、目指すべき目標、目標を実現するための施策、
そして必要に応じ施策の達成度を計るための指標を示しています。つまり、目指
すべき目標は地域住民の皆様への提案(公約)として、施策、行動指針としての
意義を持たせています。
中国地方整備局では、中国地方が大きく発展することを目指し、当ビジョンの
実現に取り組んでいきます。
*1)中国地方には下関市を含まない。
(1)自然条件と港湾・空港
①自然条件
中国地方(下関市を含む)は、東西約 350km、南北約 140km、総面積 31,900km2
(全国の 8.4%)となっており、中央部を中国山地が東西に貫通し、瀬戸内海に面
する山陽と日本海に面する山陰に区分されます。気候は山陽側と山陰側で大きく
異なり、山陽側は瀬戸内海式気候で年間を通して降水量が少なく、山陰側は日本
海側気候で冬に比較的降水量が多いのが特徴です(図 1-1)。海岸線延長(下関市
を含む)は 4,454km(全国の 12.6%)と長く、三方を海に囲まれた山口県は全国
6 位、島嶼が多い広島県は 8 位、島根県が 10 位となっています。中国地方には、
有人離島*1)は、瀬戸内海に 44 島(岡山県に 15 島、広島県に 14 島、山口県に 15
島)、日本海に 8 島(島根県に 4 島、山口県に 4 島)の合計 52 島があります。
図 1-1 中国地方の地勢
*1)島の定義
本文中では島を以下のとおり定義しています。
島嶼:海図の島とは「自然に形成された陸地であって、水に囲まれ高潮時(こうちょうじ)においても水面上に
あるもの」
(「国連海洋法条約第 121 条」
)を表し、周囲が 0.1 ㎞以上の島は日本に 6,852 あります。この
うち本州、北海道、四国、九州及び沖縄本島を除く 6,847 島を島嶼としています。
離島:離島振興法により、離島の自立的発展を促進し、島民の生活の安定及び福祉の向上を図ることを目的に離
島振興実施地域が指定されます。離島振興実施地域に指定されている島嶼を離島としています。このうち
有人のものを有人離島としています。島嶼の中にも厳島や小豆島のように離島振興実施地域に指定されな
い島や、角島のように架橋により指定が解除される島もあります。
1
②港湾・空港
中国地方には広島港、徳山下松港、水島港の 3 港の特定重要港湾*1)、14 港の重
要港湾、180 港の地方港湾、28 港の 56 条港湾と計 225 港の港湾があり、港湾数が
全国に占める割合は 21%にもなります(図 1-2)
。また、中国地方の港湾は、スー
*2)
パー中枢港湾 である大阪港・神戸港、九州におけるアジアからの人流・物流の
玄関口である博多港などの大規模な港湾に東西を挟まれています。
一方、空港は広島空港、山口宇部空港の 2 箇所の第 2 種空港と 5 箇所の第 3 種
空港、3 箇所のその他飛行場があります。また、空港も港湾と同様、国際線乗降
客数・国際線貨物取扱量全国 2 位の関西国際空港、国内線乗降客数全国 2 位の大
阪国際空港、国際線乗降客数・国内線乗降客数全国 4 位の福岡空港などの大規模
な空港が隣接ブロックにあります。
一方、港湾や空港と背後地域を結ぶ道路網については、東西方向に山陽自動車
道・中国(縦貫)自動車道が全通して交通量も多くなっています。また、南北方
面は中国横断自動車道岡山米子線と広島浜田線が全通しています。さらに、平成
11 年 5 月の本州四国連絡道路の尾道・今治ルートの開通によって、四国地方との
近接性、連結性も一段と高まっています。
図 1-2 中国地方の港湾・空港の位置
*1) 港湾及び空港の種類
特定重要港湾:重要港湾のうち国際海上輸送網の拠点として特に重要な港湾。
重要港湾:国際海上輸送網または国内海上輸送網の拠点となる港湾その他の国の利害に重大な関係を有する港湾。
地方港湾:港湾区域の指定された港湾で、重要港湾以外の港湾。
56 条港湾:港湾区域の指定のない港湾で、都道府県知事が水域を公示した港湾。
第 1 種空港:国際航空路線に必要な飛行場。
第 2 種空港:主要な国内航空路線に必要な飛行場。
第 3 種空港:地方的な航空運送を確保するための飛行場。
その他飛行場:上記の区分に該当しない飛行場。
*2) アジアの主要港を凌ぐコスト・サービスを持つ国際拠点を目指すため国から指定された港湾。
2
(2)社会経済構造
①人 口
総務省の国勢調査によると、平成 17 年の中国地方の人口は 768 万人となってい
ます。10 年前の平成 7 年の 777 万人をピークに人口減少が進んでおり、将来推計
によると、平成 47 年には平成 17 年の 81%にあたる 622 万人になると推計されて
います(図 1-3)。
また、平成 17 年の世代別人口では、年少人口が 106 万人(14%)、生産年齢人
口が 485 万人(63%)
、老齢人口が 177 万人(23%)と超高齢社会*1)を迎えてい
ます(図 1-4)。老齢人口が年少人口を上回る少子高齢化が進んでおり、将来推計
によると、平成 47 年には 3 人に 1 人が高齢者になると予想されています。
一方、有人離島の人口は、平成 12 年の 5 万 3 千人から平成 17 年に 4 万 8 千人
となっており、約 9%も減少しています(図 1-5)。離島においては高齢化率も高
く、全国や中国地方全体に比べて高齢化が大きく進展しています。
(注)下関市を含む
資料:平成 17 年までは総務省「国勢調査」
(昭和 25∼平成 17 年)
、
平成 22 年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の都道府県別将来推計人口」(平成 19 年 5 月)
図 1-3 中国地方の人口の推移と推計(昭和 25 年-平成 47 年)
*1) 明確な基準はないが高齢化率(65 歳以上の人口が総人口に占める割合)が 20%もしくは 21%を超えている社会
が超高齢社会と呼ばれている。高齢化率が 7%以上を高齢化社会、14%以上を高齢社会という。
3
(注)下関市を含む
資料:平成 17 年までは総務省「国勢調査」
(昭和 25∼平成 17)、
平成 22 年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の都道府県別将来推計人口」(平成 19 年 5 月)
図 1-4 中国地方における高齢化率の推移と推計(昭和 25 年-平成 47 年)
(注)下関市を含む
資料:総務省「国勢調査」(平成 7 年、平成 12 年、平成 17 年)
図 1-5 中国地方における離島人口と高齢化率の推移(平成 7 年-平成 17 年)
4
②経済及び産業構造
中国地方の人口、就業者数、総生産額の平成 17 年における全国シェアは約 6%
となっていますが、製造品出荷額は 7.9%となっており高いシェアを占めていま
す。業種別にみると、石油・石炭が 17.8%、鉄鋼が 17.5%、木材が 12.0%、化
学が 11.9%であり、中国地方の基幹産業である基礎素材型産業の製造品出荷額が
特に全国で高いシェアを占めています(図 1-6)。これら基礎素材型産業が牽引す
る形で、中国地方における平成 17 年の製造品出荷額の伸び率は 6.3%となってお
り、全国の 3.7%を上回り地方別で全国1位となっています。
一方、中国地方の実質経済成長率は 4 年連続プラスで推移しており、平成 17
年度には 2.2%と全国の 1.7%を上回っています(図 1-7)。また、中国地方の県
民所得は減少傾向にありましたが、平成 17 年度には 4 年前の平成 13 年度の水準
に回復しています(図 1-8、図 1-9)。
(注)総生産額は年度
下関市を含む
資料:面積・人口は総務省「国勢調査」(平成 12 年,平成 17 年)、
それ以外は経済産業省「工業統計表」
(平成 12 年,平成 17 年)
図 1-6 中国地方の製造品出荷額等の全国シェア
(平成 12 年-平成 17 年)
(注)平成 12 年基準換算
下関市を含む
資料:内閣府「県民経済計算年報」(平成 7 年∼平成 17 年)
図 1-7 中国地方の経済成長率の推移(平成 7 年度-平成 17 年度)
5
(注)下関市を含む
資料:内閣府「県民経済計算年報」(平成 7 年∼平成 17 年)
図 1-8 中国地方の県民所得の推移(平成 7 年度-平成 17 年度)
(注)下関市を含む
資料:内閣府「県民経済計算年報」(平成 7 年∼平成 17 年)
図 1-9 中国地方の 1 人当たり県民所得の推移(平成 7 年度-平成 17 年度)
6
(1)東アジアの経済発展と物流動向の変化
近年、中国をはじめとする東アジア地域は急速な経済成長を遂げており、日本
を除く東アジアの名目 GDP のシェアは、昭和 55 年には世界全体の 4%でしたが、
平成 18 年には 8%を占めるに至っています(図 2-1)。
また、東アジア地域の経済成長に伴い、アジア発着のコンテナ*1)貨物量は大幅
に増加しています。昭和 51 年と平成 17 年の地域別コンテナ取扱個数を比較する
と、世界全体のコンテナ貨物取扱個数は、昭和 51 年では 1,456 万 TEU*2)でした
が、平成 17 年には 2 億 1772 万 TEU と約 15 倍に増加しています。これうち、アジ
ア地域のコンテナ貨物取扱個数は、昭和 51 年には 457 万 TEU と世界全体の 31%で
したが、平成 17 年には、昭和 51 年の約 33 倍となる 1 億 5166 万 TEU で世界全体
の 69%を占めるまでに増加しています(図 2-2)。
今後、中国地方の将来像を考える上で、急速な経済成長を遂げてきた東アジア
地域は極めて重要な存在となっています。
(注)NIEs3:韓国、台湾、香港
資料:IMF「World Economic Outlook Datebase, October 2007」
図 2-1 各国・地域の名目 GDP とシェア(昭和 55 年、平成 18 年)
資料:Containerisation International「Containerisation International Yearbook」(2007 年)
図 2-2 地域別コンテナ取扱個数とシェア(昭和 51 年、平成 17 年)
*1)貨物を輸送するための規格化された容器。20 フィート、40 フィートなどのサイズがある。
*2)コンテナ個数を表す単位で 20 フィートコンテナに換算したもの。
7
(2)東アジア経済との相互依存関係の深化
急速な経済成長が進む東アジア地域への日本の輸出額は、昭和 55 年では 5 兆円
でしたが、平成 18 年には 26 兆円と 4 倍以上となり、日本の輸出額全体に占める
シェアも 16%から 35%に大幅に増加しています(図 2-3)。また、東アジア地域
から日本への輸入額も昭和 55 年の 2 兆円から平成 18 年には 19 兆円と 8 倍以上と
なり、日本の輸入額全体に占めるシェアは 7%から 29%に増加しています。
一方、日本企業の地域別海外拠点の割合を見ると、平成 14 年から平成 18 年に
かけて、アメリカ及び EU に拠点を持つ企業の割合が減少しているのに対して、ア
ジア諸国に拠点を持つ企業の割合は増加しています(図 2-4)。特に、中国では 59%
から 77%、香港では 11%から 29%、韓国では 15%から 26%と大きく増加してい
ます。
また、アジアにおける鉱工業品の中間財の貿易額を見ると、平成 2 年から平成
17 年にかけて全体的に増加しており、アジア地域内の水平分業の進展がうかがえ
ます(図 2-5)。特に日本と中国の貿易額は、平成 2 年から平成 17 年にかけて、
輸出は約 8,000 億円から約 7 兆 7,000 億円、輸入は約 4,000 億円から 3 兆 9,000
億円と輸出入とも 9 倍以上に増加しています。
このように近年、アジア地域内の水平分業が進み、我が国企業の生産拠点が東
アジア地域に進出するなど、我が国と東アジア経済の相互依存関係が深化してい
ます。
(注)NIEs3:韓国、台湾、香港
資料:財務省「貿易統計」(昭和 55 年、平成 18 年)
図 2-3 日本の方面別輸出入額(昭和 55 年、平成 18 年)
8
資料:日本貿易振興機構「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(平成 14 年、平成 18 年)
図 2-4 国内企業の地域別海外拠点の割合(平成 14 年、平成 18 年)
(注)ASEAN4:タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン
()内の数値は、鉱工業品の貿易額に占める鉱工業品の中間財の貿易額の割合
資料:経済産業研究所「RIETI-TID(2005 年)」
図 2-5 アジアにおける鉱工業品の中間財の貿易額(平成 2 年、平成 17 年)
9
(3)国際競争の激化
近年、東アジア諸国では製造業を中心に大規模な投資が行われ、大規模プラン
トなどの整備が進みつつあります。鉄鋼分野では、中国において大規模製鉄所の
立地が進んでおり、近年急速に粗鋼生産量が増加しています(図 2-6、図 2-7)。
また、化学分野でも、東アジア地域にはエチレンプラントが整備されており、中
国においては大きくエチレン生産量を伸ばし、平成 18 年には日本の生産量を超え
るまでに成長するなど、アジアにおける生産量が増加しています(図 2-8、図 2-9)。
例えば、台湾では、最新鋭の石油プラント及び水深 24mの大水深シーバースが整
備された工業専用港を備えた麦寮コンビナートが整備され、2001 年に操業を開始
しています(図 2-11)。麦寮コンビナートの工業出荷額は約 2 兆 4,000 億円であり、
山口県の周南コンビナートの工業品出荷額約 1 兆 5,000 億円の 1.6 倍に当たりま
す(表 2-1)。中国地方の基礎素材型産業は大量の原材料やエネルギー資源を海外
から輸入しているため、原材料調達コストの大きな割合を占める輸送コストの低
減は国際競争力強化の大きな要因となります。
中国地方の基幹産業である基礎素材型産業が生き残っていくためには、高付加
価値部門を強化するとともに、汎用品部門においてもコスト削減を進め、世界最
大の東アジア市場において一定のシェアを確保する必要があります。
資料:IISI(International Iron & Steel Institute)
図 2-6 日本・中国・韓国の粗鋼生産能力の推移(平成 10 年-平成 19 年)
10
資料:日刊工業新聞社「図解 中国・台湾・香港の主要企業と業界地図」(平成 18 年)
図 2-7 中国における大規模鉄鋼所の立地(平成 17 年)
資料:経済産業省「世界の石油化学製品の今後の需給動向(製品別需給動向)」
図 2-8 日本・中国・韓国のエチレン生産能力の推移(平成 10 年-平成 19 年)
11
資料:(株)重化学工業通信社「2008 年版アジアの石油化学工業」
図 2-9 中国における大規模エチレンプラントの立地(平成 19 年)
12
資料:株式会社トクヤマ提供
図 2-10 台湾・麦寮コンビナートの概況
表 2-1 台湾・麦寮コンビナートと山口県・周南コンビナートの比較
資料:株式会社トクヤマ提供
岡山県産業労働部「水島臨海工業地帯の現状」(平成 20 年)
山口県「次世代周南コンビナート形成基本戦略」(平成 19 年)
13
(4)地球規模の環境問題
近年、大気中の二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの濃度が上昇し、気温が
上昇する地球温暖化が懸念されています(図 2-11)。人為起源の温室効果ガスの
排出量は増加し続け、昭和 45 年から平成 16 年の間に 70%増加しており、化石燃
料の燃焼による二酸化炭素(CO2)の排出が大きな原因となっています(図 2-12)。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)*1)の報告によると、最も厳しいシナリオ
である A1F1*2)の場合、今後、2090-2099 年には、世界の平均気温は 1980-1999
年と比べ 2.4∼6.4℃上昇し、その結果、世界の平均海面水位は 26∼59 ㎝上昇す
ると予測されています。これに伴い、洪水と暴風による被害の増加や、多数の種
が絶滅するなど生態系に影響を与えることが危惧されています。
(注)滑らかな曲線は 10 年平均値。青色の範囲は、分析から推定された不確実性の幅。
資料:文部科学省・経済産業省・気象庁・環境省「IPCC 第 4 次評価報告書 統合報告書」(平成 19 年)
図 2-11 世界平均気温・世界平均海面水位の推移(1850 年-2000 年)
(注)二酸化炭素換算したトン数
資料:文部科学省・経済産業省・気象庁・環境省「IPCC 第 4 次評価報告書 統合報告書」
(平成 19 年)
図 2-12 地球規模の人為起源の温室効果ガス排出の推移(昭和 45 年-平成 16 年)
*1) 世界気象協会(WNO)と国連環境計画(UNEP)との協力のもとに設立され、地球温暖化の科学的・技術的
評価を行い、得られた知見を周知するための組織
*2) 化石燃料依存型高成長社会を条件とした予測シナリオ
14
(5)高まる自然災害の脅威
近年、全国各地において台風等による被害が頻発しており、特に平成 16 年には
過去最多の 10 個の台風が日本に上陸し、台風 16 号、18 号などにより甚大な被害
が発生しました。また、海外でも、平成 17 年にアメリカにおいてハリケーン・カ
トリーナによる高潮災害が発生しており、死者 1,200 人を超える未曾有の被害を
教訓として、日本においても「ゼロメートル地帯の今後の高潮対策のあり方につ
いて」が取りまとめられたところです。
一方、平成 16 年の新潟県中越地震、平成 17 年の福岡県西方沖地震、平成 19
年の能登半島地震など、マグニチュード 6 以上の大規模な地震も全国各地で発生
しています。また、中国地方にも大きな被害をもたらす恐れがある東南海・南海
地震については、中央防災会議によると、今後 30 年以内の発生確率は、それぞれ
60∼70%、50%と予測されており、大規模地震の切迫性が指摘されています(図
2-13)。
資料:内閣府「中央防災会議・地震調査研究推進本部資料」
図 2-13 海溝沿いの主な地震の今後 30 年以内の発生確率
15
台風による港湾施設、海岸保全施設の被害の推移を見ると、過去 10 年で被害額
が 100 億円を超える災害が発生しており、特に、過去最多の 10 個の台風が上陸し
た平成 16 年の被害額は 350 億円にも及んでいます(図 2-14)。また、地震による
港湾施設、海岸保全施設への被害は、回数は少ないものの 1 回当たりの地震によ
る被害は甚大であり、平成 7 年に発生した阪神・淡路大震災における被害額は
3,964 億円にもなっています(図 2-15)。
資料:国土交通省港湾局監修「数字で見る港湾 2007」
図 2-14 台風による港湾・海岸施設の被害額の推移(昭和 36 年-平成 18 年)
16
資料:国土交通省港湾局監修「数字で見る港湾 2007」
図 2-15 地震による災害復旧事業費の推移(昭和 36 年-平成 18 年)
17
(1)中国地方の産業特性及び物流の現状と課題
①中国地方の産業特性
中国地方の総生産額の中で臨海部関連産業は重要な役割を果たしています。平
成 18 年における臨海部関連産業*1)から発生する生産額は総生産額の 28%を占め
ており、雇用面に関しても中国地方の従業員の 21%を占めています(図 3-1)。
瀬戸内海沿岸部において、重化学工業を中心に工業地域が発達し、臨海部に立
地する産業は石油、鉄鋼、化学など基礎素材型産業、輸送用機械や電気機械など
の加工組立型産業が中心となっています(図 3-2)。県別に見ると、岡山県では鉄
鋼、石油、化学、山口県では石油、化学、広島県では輸送用機械や電気機械、鳥
取県及び島根県では木材や電子部品等の企業が立地しており、それぞれ地域産業
の中核を成しています。
(注)下関市を含む
資料:経済産業省中国経済産業局「平成 12 年中国地方産業連関表」
(平成 16 年)
、
総務省「企業統計調査報告」(平成 18 年)
図 3-1 中国地方の臨海部産業から発生する生産額・従業者数(平成 18 年)
*1)海に面して立地している市町村における水運業倉庫業などの物流業、卸売業など物流支援業、金属製品製造業・
化学工業製品製造業など依存製造業。
18
生活関連型 大山乳業農業協同組合、サン
セキ
生活関連型 山陰中央新報社
基礎素材型 日立金属、安来製作所、湖北
ベニヤ
加工組立型 中島製作所、マツエディーゼ
ル、島根島津、出雲村田製作
所、島根富士通、三菱農機
加工
組立型
生活
関連型
基礎
素材型
単位:社
生活関連型 グッドヒル、新日本海新聞社
加工組立型 ダイヘン産業機器、三洋エプ
ソンイメージングデバイス、大
真空、ダイヤモンド電機、鳥取
三洋電機、トミタ電機、日本セ
ラミック、日本電産マシナリー 、
日立金属、リコーマイクロエレ
クトロニクス、八千代三洋エプ
ソン、千代三洋工業
生活関連型 大和紡績
基礎素材型 ダイハツメタル、NTN鋳造
加工組立型 オムロン出雲、ジェイ・エム・エ
ス、ヒラタ精機
加工組立型 矢崎部品
中海臨海地区
加工組立型 イワミ村田製作所、広島アル
ミニウム工業
生活関連型 タカキベーカリー
基礎素材型 湧永製薬、西川ゴム工業
加工組立型 オムロン倉吉、明治製作所 、
鳥取オンキョー
加工組立型 ホシザキ電機(雲南市、奥
出雲町)、島根三洋電機
生活関連型 帝人コードレ
基礎素材型 リョービミラサカ
加工組立型 広島オプト、ミヨシ電子、ジ
ェイ・エム・エス、マツダ、
ワイエヌエス
基礎素材型 神鋼機器工業
生活関連型 尾崎商事、寿製菓、日本たば
こ産業
基礎素材型 山陰酸素工業 、王子製紙
加工組立型 シャープ米子
加工組立型 日本ケーブル・システム島根 、
キーパー、パナソニックエレク
トロデバイス松江
出雲地区
米子地区
生活関連型 グンゼ
鳥取地区
大田市
備北地区
岡山県
新見市
島根県
益田市
兵庫県
東備地区
基礎素材型 クラレケミカル、ジャパンゴアテック
ス、九州耐火煉瓦、品川白煉瓦、ヨ
ータイ
芸北地区
広島県
井笠地区
加工組立型 NTN、松下電器産業
備後地区
生活関連型 帝人テクノプロダクツ 、
基礎素材型 帝人ファーマ、東洋紡績 、
日本製紙
生活関連型 明石被服興業
加工組立型 松下電器産業 /パナソニック
AVCネットワークス社、パナソ
ニックエレクトロニックデバイ
ス津山
基礎素材型 住友電工焼結合金
加工組立型 イーグル工業
津山地区
高梁市
加工組立型 新ダイワ工業、ジェイ・エム
・エス
生活関連型 山田養蜂場
鳥取県
真庭地区
雲南地区
石東地区
加工組立型 シマネ益田電子
倉吉地区
賀茂地区
山口・防府地区
山口県
岩国地区
県南地区
竹原市
周南地区
大崎上島町
基礎素材型 協和発酵工業、チタン工業、ユ
和木町
広島湾地区
ーエムジー・エービーエス、宇
平生町 部興産(宇部市、美祢市 )、宇部
マテリアルズ、セントラル硝子 、
宇部・小野田地区
萩森興産、ウベボード、宇部ス
チール、西部石油、戸田工業 、
日本化薬、山口田辺製薬、宇
部フィルム、共英製鋼
加工組立型 宇部興産機械、宇部テクノエン
ジ、ヤナギヤ、山口日本電気 、
ユーモールド、不二輸送機工業 、
基礎素材型 三新化学工業、永大産業
THK、FDK、長州産業、住友金
属エレクトロデバイス
基礎素材型 新日本石油精製、
三井化学
生活関連型 リョーユーパン、協和エフ・デ
ィ食品
あじかん、タカキベーカリー、ニチロ、福留ハム、
生活関連型
三島食品、オタフクソース、山崎製パン、中国新
基礎素材型 協和発酵工業、石ヵ本店 、王
聞社、三菱レイヨン、カルビー、チチヤス乳業
子ゴム化成、ブリヂストン、モ
基礎素材型 石ヵ本店、大和重工、サンポール、熊平製作所、
ルテン
ディスコ、クレノートン、日新製鋼、淀川製鋼所、
加工組立型 パナソニックエレクトロニック
ダイクレ、中国工業、三島製紙、日本大昭和板
デバイス山口、マツダ、ジー・
紙西日本、中川製袋加工、ダイセル化学、三井
ピー・ダイキョー、デルタ工業 、
化学、戸田工業、中国塗料、ユーエムジー・エー
西川化成、ヒロテック、サンメ
ビーエス、中国化薬、マルニ木工、西川ゴム工
ック、南条装備工業
業、ミカサ、モルテン、中国木材、王子製紙、ウッ
ドワン
生活関連型 シマヤ
加工組立型 コベルコ建機、新ダイワ工業、トーヨーエイテック、
基礎素材型 出光興産、帝人ファイバー、トク
日本製鋼所、三菱重工業、中国電機製造、テン
ヤマ、東ソー、東ソー・ファインケ
パール工業、カワダ、シンコー、デンソー、南条装
ム、日本ゼオン、日本ポリウレタ
備工業、西川化成、広島アルミニウム工業、ヒロ
ン工業、日新製鋼、鋼鈑工業 、
テック、ユーメックス、コトブキ技研工業、新日本
東洋鋼鈑、武田薬品工業、新日
造機、バブコック日立、石川島播磨重工業、アイ・
本製鐵、新日鐵住友ステンレス
エイチ・アイ マリンユナイテッド、音戸工作所、神
田造船所、マツダ(広島市、府中町)、マツダ E&T、
加工組立型 徳山東芝セラミックス、新笠戸ド
デルタ工業、キーレックス、東洋シート、ワイテック
ック、日立製作所、シルトロニッ
ク・ジャパン
生活関連型 自重堂、コーコス信岡、サン
エス、池田糖化工業、クロダ
ルマ、トスコ、ホクト
基礎素材型 日本化薬、マナック、エフピコ 、
JFEスチール、ヤスハラケミ
カル、リョービ、丸善製薬、早
川ゴム、広島化成、西川ゴム
工業、横浜ゴム
加工組立型 テラルキョクトウ、日本ホイス
ト、ホーコス、シギヤ精機製作
所、石井表記、サンエス、ロ
ーツェ、シャープ (福山市、三
原市)、三菱電機、常石造船 、
北川鉄工所、北川精機、古川
製作所、三菱重工業、大日本
印刷、 幸陽船渠、ジー・ピー
・ダイキョー、アイメックス、河
原、日東電工、プレス工業 、
尾道造船、内海造船
生活関連型 アヲ ハタ
基礎素材型 三井金属鉱業
基礎素材型 東邦亜鉛
加工組立型 サタケ、富士機械工業、豊国工業、シ
ャープ、広島エルピーダメモリ、音戸工
作所、ジー・ピー・ダイキョー、辰栄工
業、日本クライメイトシステムズ、マイ
クロテクノ
生活関連型 日本エクスラン工業、クラレ (岡山
市、倉敷市)、カイタックファミリー 、
ボブソン、オハヨー乳業、カバヤ食
品、林原、三好野本店、山陽新聞
社、大日本印刷、キリンビール、明
石被服興業、尾崎商事、萩原工業 、
トンボ、山崎製パン
大阪府
基礎素材型 テイカ、ジャパンゴアテックス、同和
鉄粉工業、ジャパンエナジー、新日
本石油精製、旭化成ケミカルズ 、
関東電化工業、日本合成化学工業 、
日本ゼオン、三菱化学、三菱瓦斯
化学、JFEスチール、ダイワスチー
ル、東京製鐵、水島合金鉄、ナイカ
イ塩業、北興化学工業、日本特殊
炉材、日比共同製錬、大建工業 、
岡山製紙、山陽板紙工業、内山工
業、倉敷加工、丸五ゴム工業
和歌山県
加工組立型 小橋工業、セイレイ工業、滝澤鉄
工所、オムロン岡山、松下電器産
業/パナソニック AVCネットワークス
社、オムロン山陽、ナカシマプロペ
ラ、住友重機械工業、 JFEフェライト、
サノヤス・ヒシノ明昌,水菱プラスチ
ック、難波プレス工業、水島工業 、
三菱自動車工業、リンテックス、三
井造船、三造エムテック、アステア 、
三恵工業、ヒルタ工業、岡山村田
製作所
生活関連型 タカキベーカリー、天野実業
基礎素材型 扶桑薬品工業、丸五ゴム工業
加工組立型 ローム・ワコー、甲神電機、ヒ
ルタ工業、タツモ、フェニテッ
クセミコンダクター、タカヤ、片
山工業、シャープタカヤ電子
工業
(注)産業 3 類型は、「工業統計調査」による
基礎素材型:木材・木製品製造業、パルプ・紙・紙加工品製造業、化学工業、
石油製品・石炭製品製造業、プラスチック製品製造業、
ゴム製品製造業、窯業・土石製品製造業、鉄鋼業、非鉄金属製造業、
金属製品製造業
加工組立型:一般機械器具製造業、電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、
精密機械器具製造業
生活関連型:食料品製造業、飲料・たばこ・飼料製造業、繊維工業、
衣服・その他の繊維製品製造業、家具・装備品製造業、
出版・印刷同関連産業、なめし革・同製品・毛皮製造業、
その他の製造業
資料:日本政策投資銀行「中国地方ハンドブック平成 18 年度版」
図 3-2 中国地方における製造業の立地状況(平成 16 年)
19
②港湾における物流の現状と課題
中国地方の港湾の取扱貨物は、平成 17 年で 4 億 4,608 万トンとなっています
(図
3-3)。そのうち輸出が 2,833 万トンで 6.3%、輸入が1億 3,569 億トンで 30.3%、
移出が 9,993 万トンで 22.3%、移入が 7,269 万トンで 16.2%、フェリーが 1 億
1,125 万トンで 24.8%となっています。近年、外貿取扱貨物量は増加傾向を示し
ており、平成 17 年は約 1 億 6,402 万トン、全国シェアは 13.2%になっています
(図 3-4)。一方、内貿取扱貨物量は横ばい状態で推移しており、平成 17 年は約 1
億 7,262 万トン、全国シェアが 14.8%となっています。
品目別でみると、輸出では完成自動車が 25%、鋼材が 23%と多く、輸入では基
礎素材型産業の原材料や燃料となる鉄鋼石が 28%、原油が 25%、石炭 24%とな
っています(図 3-5)。また、移出では石油製品が 17%、鋼材が 15%と多く、移
入では石灰石が 18%、原油が 12%となっています。コンテナ以外のバルク*1)貨
物(ばら積み貨物)が全体の 98%を占めており、臨海部に基礎素材型産業が多く
立地する中国地方の特徴を反映しています。
資料:国土交通省総合政策局「港湾統計(年報)」
(平成 17 年)
図 3-3 中国地方の港湾における取扱貨物量の外内出入別割合
(平成 17 年)
*1)エネルギー資源や工業製品の原材料等一度に大量に輸送されるばら積み貨物。石炭、鉱石、原塩、穀物
木材、チップ等のほか、LNG、原油等の液体も含まれる。通常専用船で輸送される。
20
外貿貨物
内貿貨物
資料:国土交通省総合政策局「港湾統計(年報)」
(平成 7 年-平成 17 年)
図 3-4 中国地方の港湾における取扱貨物量と全国シェアの推移(平成 7 年-平成 17 年)
資料:国土交通省総合政策局「港湾統計(年報)」
(平成 17 年)
図 3-5 中国地方の港湾における取扱貨物量の品目別割合(平成 17 年)
21
港湾別では、背後に水島コンビナートを擁し、輸入鉄鉱石の取扱が全国 1 位の
水島港は、1 億 206 万トンを取り扱っており、西日本最大で全国 5 位の取扱量を
誇っています。瀬戸内海側では、背後に周南コンビナートを擁し輸入原塩の取扱
が全国 1 位の徳山下松港では 6,624 万トン、内貿フェリーによる取扱量が全国 3
位の宇野港では 5,147 万トンの貨物を取り扱っています。さらに、背後に西日本
最大級の製鉄所が立地する福山港では 4,418 万トン、背後に化学メーカーが立地
する宇部港では 3,228 万トン、背後に造船所や製鉄所が立地する呉港では 2,350
万トン、背後に岩国コンビナートが立地する岩国港では 1,620 万トン、背後に自
動車メーカーが立地する広島港では 1,560 万トンおよび三田尻中関港では 696 万
トン、発電所が立地する小野田港では 382 万トン、小豆島とのフェリーの就航し
ている岡山港では 374 万トン、輸入原木の取扱が多い尾道糸崎港 297 万トンの貨
物が取り扱われています(図 3-6、図 3-7)。
日本海側の港湾は瀬戸内海側と比べて取扱量は少なくなっていますが、境港は
輸入原木や輸出紙パルプが国内の上位にランクされており、452 万トンの貨物が
取り扱われています。他には発電所が立地する三隅港では 317 万トン、隠岐の西
郷港では 137 万トン、ロシアとの貿易額が増加している浜田港では 75 万トン、建
設資材の取扱の多い鳥取港では 41 万トンの貨物が取り扱われています。
貿易の相手先を金額ベースで見ると、輸出では中国、アメリカ、ドイツが上位
を占めています(図 3-8)。また、輸入では、産油国であるサウジアラビア、石炭
の産出国であるオーストラリアが上位を占めています。
資料:国土交通省総合政策局「港湾統計(年報)」
(平成 17 年)
図 3-6 中国地方の港湾別の取扱貨物量(平成 17 年)
22
資料:国土交通省総合政策局「港湾統計(年報)(平成 17 年)
図 3-7 中国地方の港湾における主要品目の国内ランキング(平成 17 年)
(注)端数が生じるため合計は必ずしも 100%とはならない。
資料:神戸税関「貿易統計」(平成 19 年)、門司税関「貿易統計」(平成 19 年)
図 3-8 中国地方の港湾における外貿取扱貨物相手先の割合(平成 18 年)
23
中国地方の外貿定期コンテナ航路は、韓国航路、中国航路、東南アジア航路、
台湾航路、そして北米航路が就航しています(図 3-9)。就航航路数は平成 15 年
の週 81 便がピークで、平成 18 年では若干減少し週 71 便となっています
(図 3-10)。
外貿コンテナ貨物量は、年々増えており、平成 18 年の取扱量は約 52 万 TEU と
なっています。港湾別の外貿コンテナ取扱量は自動車部品の輸出入の多い広島港
が最も多くなっており、約 16 万 TEU を取り扱っています(図 3-11)。また、化学
薬品の輸出の多い水島港、衣服等の輸入が多い福山港、化学工業品の輸出が多い
徳山下松港、自動車部品の輸出入の三田尻中関港、化学工業品の輸出の多い岩国
港が上位を占めています。取扱品目では、輸出入とも自動車部品が多くなってい
ます(図 3-12)。
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 3-9 中国地方の港湾における外貿コンテナ航路の就航図(平成 19 年)
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 3-10 中国地方の港湾における外貿コンテナ取扱貨物量と航路便数の推移(平成 7 年-平成 18 年)
24
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 3-11 中国地方の港湾における港湾別の外貿コンテナ取扱貨物量(平成 18 年)
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 3-12 中国地方の港湾における外貿コンテナ取扱貨物量の品目別の割合(平成 18 年)
25
こうした中国地方の産業特性、港湾物流の現状、国際的な物流動向の変化を踏
まえると、中国地方の産業の国際競争力の強化が、今後の港湾政策の課題のひと
つとなっています。
中国地方の基幹産業である基礎素材型産業の国際競争力強化の課題は大型バル
ク貨物船による輸送コストの低減となっています。しかしながら、中国地方のバ
ルクターミナルの大半は高度成長期前後に、民間企業により工場とともに湾奥に
整備されてきました。そのため、近年の世界的に進展しているバルク貨物輸送船
の大型化に十分対応できていません。また、整備後 40∼50 年近く経過し、航路・
泊地の埋没や桟橋の老朽化も進行しつつあります。大型船入港に対応するための
航路増深等は個別企業では対応困難であるため、今後、大水深の公共バルクター
ミナルの整備が必要となっています。
また、瀬戸内海では大型バルク貨物船の入港困難な箇所もあるため、瀬戸内海
における航路体系の見直し、ボトルネックを解消することが必要です。
さらに、東アジアとのコンテナ貨物量は今後も増大すると予測されるため、コ
ンテナ対応施設の強化を図る必要があります。臨港道路の整備によるアクセス機
能の充実を図るとともに、陸上輸送においても国際標準コンテナ車*1)の通行でき
ない支障区間を解消し、幹線道路ネットワーク(国際物流基幹ネットワーク)の
確保を行い、海陸一体となった物流ネットワークを構築することが必要です。
*1) 海上コンテナ用セミトレーラ。フル積載時の重さは 44t、高さ 4.1m。
26
③空港における物流の現状と課題
中国地方における国際航空貨物は広島空港・岡山空港で取り扱われていますが、
フレーター便と呼ばれる貨物専用機で搬送されるのではなく、旅客機の貨物室で
運搬されるベリー貨物となっています。このため、路線の廃止や就航機材の小型
化という旅客輸送の影響を受けて平成 14 年の 4,427 トンをピークに平成 17 年に
は 2,018 トンまで減少しましたが、
平成 18 年に 2,712 トンまで回復しています(図
3-13)。金額ベースで見ると平成 15 年の 872 億円をピークに減少しています(図
3-14)。中国地方発着の国際航空貨物の相手先では、重量ベースで輸出ではアメリ
カ、輸入では香港が最大の相手国になっています(図 3-15)。金額ベースでは、
輸出では台湾・韓国が、輸入では中国・韓国が多くなっています(図 3-16)。利
用空港の割合については、関西国際空港の利用率が輸出では 63%、輸入では 88%
と高く、中国地方の空港の利用率は輸出・輸入とも 2%とかなり低くなっていま
す(図 3-17)。品目別でみると、輸出・輸入とも機械機器が大部分を占めていま
す(図 3-18)。
国内航空貨物は広島西飛行場・岡南飛行場を除く 8 空港で取り扱われており、
平成7年の 2 万 6,867 トンから平成 16 年には 4 万 4,137 トンまで増加しましたが、
平成 18 年には 4 万 0,516 トンまで減少しています(図 3-13)。品目別でみると、
移出は食料品が、移入は機械機器が最も多くなっています(図 3-19)。
空港における物流は、中国地方発着の貨物の大部分が関西国際空港経由で輸送
されており、今後、中国地方の空港からの取扱貨物量を増加することが大きな課
題です。このためには、航空貨物輸送の利便性を向上し、地域の企業が利用しや
すい国際貨物航空ネットワークを構築する必要があります。
国際線
国内線
資料:国土交通省航空局「空港管理状況調書」(平成 7 年-平成 18 年)
図 3-13 中国地方の空港における航空貨物量の推移
(平成 7 年-平成 18 年)
27
資料:神戸税関「貿易統計」(平成 19 年)
図 3-14 中国地方の空港における貿易額の推移(平成 14 年-平成 19 年)
(注)端数が生じるため、合計は必ずしも 100%とはならない。
資料:国土交通省航空局「国際航空貨物動態調査報告書」(平成 18 年)
図 3-15 中国地方発着の国際航空貨物相手先の割合(平成 17 年)
資料:神戸税関「貿易統計」(平成 19 年)
図 3-16 中国地方の空港における貿易相手先の割合(平成
19 年)
28
(注)端数が生じるため合計は必ずしも 100%とはならない。
下関市を含む
資料:国土交通省航空局「国際航空貨物動態調査報告書」(平成 18 年)
図 3-17 中国地方発着の国際航空貨物の利用空港の割合(平成 17 年)
資料:国土交通省航空局「国際航空貨物動態調査報告書」(平成 18 年)
図 3-18 中国地方の空港における国際航空貨物品目の割合(平成 17 年)
資料:国土交通省航空局「航空貨物流動実態調査」(平成 18 年)
図 3-19 中国地方の空港における国内航空貨物品目の割合(平成 17 年)
29
(2)観光・交流の動向及び人流の現状と課題
①中国地方の観光資源
中国地方には、瀬戸内海国立公園をはじめ大山隠岐国立公園、山陰海岸国立公
園など特色ある自然環境が多く存在しています。特に、瀬戸内海国立公園は昭和
9 年に我が国最初の国立公園に指定され、瀬戸内海の多島海景観は、かの有名な
シーボルトが「船が向きを変えるたびに魅するように美しい島々の眺めが現れ島
や岩島の間に見え隠れする本州と四国の海岸の景色は驚くばかり」*1)と言ったと
されています(図 3-20)。
また、出雲文化(4∼5 世紀)や吉備文化(5∼7 世紀)など歴史的、文化的に貴
重な遺産が数多く存在するとともに、古くから九州と近畿地方とを結ぶ文化の要
衝として、瀬戸内海は我が国の歴史の中で「海の路」として重要な役割を果たし
てきました。7 世紀頃の遣唐使や筑紫の太宰府に派遣された防人による万葉集に
まつわる歌碑も残っています。また、宋や明との交易や朝鮮通信使の往来、北前
船の西廻り航路、旧日本軍にまつわる様々な史跡があり、貴重な観光資源となっ
ています(図 3-21、図 3-22)。
さらに、原爆ドームと厳島神社が平成 8 年に、石見銀山が平成 19 年に世界文化
遺産に登録され、国際的にも貴重な歴史・文化遺産も保有しています。
瀬戸内海国立公園(多島海景観)
図 3-20 中国地方の国立公園
*1)シーボルト「江戸参府紀行」(1826 年)より。
30
主な歴史遺産・伝統文化資源
主な芸術・文化資源
小泉八雲記念館,島根県立美術館
一畑薬師
鰐淵寺
出雲大社
吉兆館
古代出雲歴史博物館
手銭記念館
鳥取県
荒神谷遺跡
加茂岩倉遺跡
石見銀山
松江城,月照寺,八重垣神社
小泉八雲旧宅,八雲立つ風土記の丘
松江郷土館,神魂神社
月山冨田城址
アジア博物館・井上靖記念館
関の五本松
米子城跡,深田氏庭園
植田正治写真美術館,伯耆国山岳美術館
白壁土蔵群・赤瓦,燕趙園,青谷上寺地遺跡展示館
鳥取城跡・仁風閣
妻木晩田遺跡
やまびこ館,わらべ館
上淀廃寺跡
因幡万葉歴史館
三徳山三仏寺投入堂
清水寺
足立美術館
流しびなの館
玉作湯神社
絲原記念館
大山寺,大神山神社
智頭町並み
金持神社
武蔵の里
勝山の町並み
島根県
松陰神社,萩城跡
旧毛利家萩屋敷
東光寺
山口県立萩美術館,浦上記念館
医光寺庭園
萩博物館
高津柿本神社
県立万葉公園
萬福寺
津和野,太鼓谷稲成神社
森鴎外旧宅,弥栄神社
香月泰男美術館
村田清風記念館
金子みすゞ記念館
奥田元宋・小由女美術館
広島県
平山郁夫美術館
吉田歴史民族資料館
美弥市化石館
山口県
山口県立美術館
中原中也記念館
吹屋ふるさと村
千光寺,
文学のこみち 中世夢が原
平和記念公園・原爆ドーム
平和記念資料館
田中美術館
広島県立美術館
ひろしま美術館
東大寺別院
阿弥陀寺
岡山県
津山城跡・衆楽園
備中松山城
備前陶芸美術館 高梁の町並み
頼久寺庭園
備中国分寺
閑谷学校
岡山後楽園・岡山城
吉備津神社
吉備津彦神社
備中足守の町並み
西大寺観音院
カブトガニ
博物館
佛通寺
岩国歴史美術館
伊藤公資料館
周南市美術
博物館
回天記念館
防府天満宮
毛利氏庭園
毛利博物館
旧藩庁門
瑠璃光寺五重の塔
サビエル記念聖堂
常栄寺,雪舟庭
蘭島閣美術館
入船山記念館
大和ミュージアム
呉市海事歴史科学館
旧海軍兵学校
厳島神社・宝物館,千畳閣
陸奥記念館
錦帯橋,岩国城,吉香神社,白蛇神社
鞆の浦,
福禅寺
対潮楼
因島水軍城
耕山寺
岡山県立博物館,林原美術館
夢二郷土美術館,緑川洋一写真美術館
吉備路文学館,岡山県立美術館
岡山市立オリエント美術館
ハートランド館,倉敷民芸館,大原美術館,荻野美術館
倉敷美観地区
円通寺公園
柳井白壁の町並み
資料:国土交通省中国運輸局「中国地方の観光」
(平成 19 年)より作成
図 3-21 中国地方の主な観光資源(歴史遺産・伝統文化資源、芸術・文化資源)
31
主な自然資源
主な温泉
関金温泉,はわい温泉
東郷温泉,三朝温泉
グリーンステラ
主なレクリエーション・観光施設系資源
加賀の潜戸
松江しんじ湖温泉
メテオプラザ
夢みなと公園
松江フォーゲルパーク
宍道湖
割烹温泉ゆらり
東郷湖羽合臨海公園
鹿野温泉,浜村温泉,吉岡温泉
白兎海岸
鳥取砂丘
鳥取温泉
浦富海岸
米子水鳥公園
皆生温泉
出雲科学館
ローソク岩
日御碕
岩井温泉
鷲の湯温泉
しまね花の郷
とっとり花回廊
隠岐
玉造温泉
目田森林公園
多岐いちじく温泉
立久恵峡温泉
大山 蒜山高原
八雲風穴 海潮温泉
仁摩サンドミュージアム
国賀海岸
奥津温泉
鬼の舌震
琴ヶ浜
湯抱温泉
湯原温泉郷
ふれあいの里奥出雲公園
あわくら温泉
温泉津温泉
備中鍾乳洞
三瓶山
美又温泉
神郷温泉 神庭の滝
有福温泉
旭温泉
比婆山ブナ純林
湯郷温泉
鯉ヶ窪湿原
畳ヶ浦
香木の森公園
井倉洞,満奇洞
断魚渓
岡山国際サーキット
小森温泉
荒磯温泉
ドイツの森クローネンベルク
風の国
八幡温泉郷
国営備北丘陵公園
おおあさ鳴滝露天温泉
八幡湿原
広島ニュージーランド村
美都温泉
苫田温泉
田原温泉
日生諸島
ホルンフェルス大断層
RSKバラ園
シトラスパーク瀬戸田
三段峡
湯来温泉
土師ダム
牛窓オリーブ園
因島フラワーセンター
温井ダム
向島洋らんセンター
匹見峡
青海島
宮島,紅葉谷公園
福山市立動物園
寂地峡
宮島水族館
みろくの里
長門峡
羅漢高原
筆影山
湯本温泉
俵山温泉
池田動物園
野呂山
宮浜温泉
秋吉台サファリランド
鳥取県
島根県
岡山県
広島県
秋吉台,秋芳洞,大正洞,景溝洞
山口県
地底王国美川ムーバレー
湯田温泉
湯野温泉
瀬戸内しまなみ海道
仙酔島
鞆の浦
おもちゃ王国
吉香公園
ニ丘温泉
広島フェスティバルアウトレットマリーナホップ
なぎさ水族館
きらら博記念公園
鷲羽山
鷲羽山ハイランド
倉敷チボリ公園
橘ウィンドパーク
やまぐちフラワーランド
周南市徳山動物園
資料:国土交通省中国運輸局「中国地方の観光」
(平成 19 年)より作成
図 3-22 中国地方の主な観光資源(自然資源、温泉、レクリエーション・観光施設資源)
32
②観光・交流の動向
中国地方の観光入り込み客数は、平成 7 年以降、微増傾向で推移しており、平
成 18 年は 1 億 3,500 万人と前年比 6%の増加となっています(図 3-23)。特に、
広島県では、大型観光キャンペーンの実施、大和ミュージアムの開館、映画「男
たちの大和」ロケセットの公開などの効果により、観光入り込み客数は平成 17
年から 18 年にかけては 460 万人増加しました。
また、近年、中国地方に寄港する外航クルーズ船*1)が増加し、平成 18 年にお
ける寄港数は年間 70 回になっています(図 3-24)。瀬戸内海などの良好な景観や
厳島神社(宮島)、原爆ドームなどの世界文化遺産や歴史的景観などをめぐるクル
ーズツアーなどが行われており、主な寄港地は、境港、宇野港、広島港、萩港と
なっています(図 3-25)。一方、内航クルーズは平成 14、15 年の 28 回をピーク
として、平成 18 年は 22 回に減少しています。
また、訪日外国人の推移を見ると、平成 7 年の 293 万人から、平成 18 年には
673 万人に増加しています。特に近接するアジアからの訪日外国人数は平成 18 年
には 477 万人に増加しています(図 3-26、図 3-27)
。中国地方の観光・交流を促
進していく上で、アジア地域からの観光客を対象とした取り組みを積極的に実施
することが重要となっています。
(注)下関市を含む
資料:国土交通省中国運輸局調べ(平成 19 年)
図 3-23 中国地方の観光客数の推移(平成 7 年-平成 18 年)
*1)社団法人日本外航客船協会の定義では、船に乗ることが主目的のひとつで、原則的に船内で
宿泊を伴う航海をいい、日帰り及び定期航路を除く。
33
(注) 同一の港から出港して、後日入港した場合は寄港回数を2件でカウントする。
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 3-24 中国地方に寄港するクルーズ船の推移(平成 11 年-平成 18 年)
(注)同一の港から出港して、後日入港した場合は寄港回数を2件でカウントする。
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 3-25 中国地方の港湾別のクルーズ船寄港回数(平成 18 年)
34
資料:法務省大臣官房法制調査部「出入国管理統計年報」(平成 8 年-平成 19 年)
図 3-26 訪日外国人の推移(平成 7 年-平成 18 年)
資料:法務省大臣官房法制調査部「出入国管理統計年報」(平成 19 年)
図 3-27 訪日外国人の国別割合(平成 18 年)
35
③港湾における人流の現状と課題
中国地方の港湾の船舶乗降客数は平成 8 年以来、年々減少し、平成 17 年では年
間 2,359 万人になりましたが、船舶乗降客数の全国シェアは 20%前後と依然高い
比率で推移しています(図 3-28)。広島県における船舶乗降客数は 1,918 万人と
全国 1 位で中国地方全体の 81%を占めています。港別では宮島口と広島港などの
間に定期航路をもつ厳島港で乗降客数が 530 万人と全国 2 位で中国地方最多とな
っています。また、中国地方に就航する島嶼部への旅客船・フェリーの航路は、
平成 19 年には 71 航路になっています。
このように、船舶は重要な交通手段となっており、今後、港湾の利便性、信頼
性をさらに高めることが必要となっています。また、瀬戸内海を中心に多数の島
嶼部への航路が存在し、港湾は地域住民の生活を支える重要な社会基盤となって
います(図 3-29)。
資料:国土交通省総合政策局「港湾統計(年報)」
(平成 7 年-平成 17 年)
図 3-28 中国地方の港湾における乗降客数及び全国シェアの推移(平成 7 年-平成 17 年)
36
資料:国土交通省海事局監修「フェリー・旅客船ガイド」
(平成 19 年)
図 3-29 中国地方の島嶼部航路の就航図
37
④空港における人流の現状と課題
中国地方において国際定期便が就航しているのは広島空港、岡山空港、美保飛
行場となっており、平成 15 年に発生した SARS*1)等の影響で国際線旅客数は一時
減少しましたが、平成 16 年以降回復してきており平成 18 年には 61 万人になって
います(図 3-30)
。中国地方で最も国際線旅客数が多いのは広島空港で、週 39 便
の国際線が就航しており、平成 18 年は 35 万人が利用しています。
また、国内線旅客数は平成 15 年の約 740 万人をピークに微減に転じており、平
成 18 年では 699 万人となっています。国内線旅客数が最も多いのは 298 万人の広
島空港であり、岡山空港の 138 万人、山口宇部空港の 90 万人が続いています。
なお、平成 19 年の国際線の路線数は 13 路線、週 62 便と平成 14 年と比べて増
加していますが、国内線の路線数は 22 路線、日 75 便と若干減少しています(図
3-31、図 3-32)。
空港は、国内外から中国地域への観光客受け入れや、中国地域の住民の国内外
への移動手段として、重要な交通基盤となっています。今後、国内外との交流を
促進する上で航路の利便性、信頼性を高めることが重要です。
国際線
国内線
資料:国土交通省航空局「空港管理状況調書」(平成 7 年-平成 18 年)
図 3-30 中国地方の空港における旅客数の推移(平成 7 年-平成 18 年)
*1) 新型肺炎(Atypical Pneumonia、非典型肺炎)とも呼ばれる新種の感染症。SARS ウイルスにより引き起こされる
と考えられている。
38
資料:国土交通省航空局「空港整備事業関連資料」(平成 14 年)
図 3-31 中国地方の空港における航路就航状況(平成 14 年)
資料:各空港ホームページより作成(平成 19 年)
図 3-32 中国地方の空港における航路就航状況(平成 19 年)
39
(3)港湾・空港における環境対策の現状と課題
①瀬戸内海の海洋環境問題
瀬戸内海は、過去、赤潮による漁業被害が問題となってきました。特に高度成
長期に発生数は次第に増加し、昭和 51 年には 299 件が発生しました(図 3-33)。
その後、昭和 48 年 10 月に施行された「瀬戸内海環境保全特別措置法」に基づき、
瀬戸内海に流入する窒素、リンの負荷量の総量規制、自然海浜の保全・再生・創
出、下水道及び廃棄物の処理施設の整備の促進など各種施策が行われた結果、近
年では赤潮の発生数は年間 100 件前後にまで減少しています。
また、瀬戸内海沿岸部は平野部が乏しいため、産業や生活の場として遠浅の海
が埋め立てられ、多様な動植物の生息場所となっている干潟*1)や藻場*2)が大きく
減少しました(図 3-34、図 3-35、図 3-36)。干潟・藻場は生物生産機能やそれに
伴う水質浄化機能があり、閉鎖性海域である瀬戸内海の海洋環境に干潟・藻場の
減少は大きな影響を及ぼしてきたと考えられます。
さらに、建設資材として利用するための海砂の採取による底質の変化も生態系
などに悪影響を及ぼしてきたと考えられています(図 3-37)。
(注)下関市を含む
資料:(社)瀬戸内環境保全協会「瀬戸内海の環境保全」
(平成 18 年)
図 3-33 瀬戸内海における赤潮の発生回数の推移(昭和 45 年-平成 16 年)
(注)下関市を含む
資料:環境省調べ
図 3-34 岡山県・広島県・山口県における埋立面積の推移(昭和 40 年-平成 17 年)
*1) 細かい砂や泥がある程度の面積で堆積した、干潮時に水面下から現れる浅場。
*2) 海底で大型水生植物が群落状に生育する場所。
40
(注)下関市を含む
資料:(社)瀬戸内環境保全協会「瀬戸内海の環境保全」
(平成 18 年)
図 3-35 瀬戸内海における藻場面積の推移(昭和 33 年-平成 2 年)
(注)下関市を含む
資料:(社)瀬戸内環境保全協会「瀬戸内海の環境保全」
(平成 18 年)
図 3-36 瀬戸内海における干潟面積の推移(明治 31 年-平成 2 年)
41
資料:岡山県水産課提供
図 3-37 深掘跡の状況写真
42
②瀬戸内海環境修復計画の策定及び環境修復
平成 17 年 2 月に、水産庁と連携して、瀬戸内海にふさわしい環境を確保し維持
すること、これまでの開発などに伴い失われた環境の回復を目的として、環境保
全に関わる施策を総合的かつ計画的に推進するため「瀬戸内海環境修復計画」を
策定しました(図 3-38、図 3-39)。この計画では、平成 16 年度より概ね 20 年間で
藻場・干潟などの浅場を瀬戸内海全域で約 600ha 修復することを目標としていま
す。今後、湾・灘レベルにおける個別の検討を行うことにしています。
また、陸域と海域が連携して海の再生を推進する「全国海の再生プロジェクト」
の一環として広島湾再生推進会議を設立し、恵み豊かで美しく親しみやすい「広
島湾」を保全・再生し、次世代に継承することを目標に「広島湾再生行動計画」
を平成 19 年 3 月に策定しました。多様な主体の連携・協力のもと、目標達成に向
けた取り組みを推進しています。
さらに、海砂が多く採取された備讃瀬戸において環境修復のための取り組みと
して深掘跡の修復のための技術開発も行われています。海砂利採取による深掘跡
に、航路の浚渫で発生した良質の土砂を投入し埋め戻す修復手法について実証実
験を行っています。
43
資料:国土交通省中国地方整備局(平成 17 年)
図 3-38 瀬戸内海修復計画の概要
資料:国土交通省中国地方整備局(平成 17 年)
図 3-39 瀬戸内海修復計画の修復目標量
44
③漂流・漂着ゴミ問題
近年、海洋における漂流・漂着ゴミが大きな問題になっています。外国由来の
ものを含む漂着ゴミが長崎県対馬市、島根県隠岐の島町を初めとする日本各地で
問題化しています。漂着ゴミは、海岸の環境や景観の悪化、海岸の利用の妨げと
なるだけではなく、消波ブロックの目詰まりを引き起こすなど海岸保全施設の機
能を阻害し、越波の危険性を高めることも指摘されています。さらに、油が海洋
に流出すると海域の環境に多大な負荷を与えることになります。こうした漂着ご
みの清掃・回収活動は自治体の役割とされていますが、ボランティア団体などによ
るところが大きく、地元市民やボランティア団体などと連携を図っていくことが
重要です。また、国土交通省では、1974 年度から海上交通の安全対策を目的に港
湾区域以外を漂流するゴミや油を回収する海洋環境整備事業を実施してきました。
中国地方整備局には海面清掃船「おんど 2000」(144 総トン)を所有しています。
「おんど 2000」は広島湾及び安芸灘(港湾・漁港区域を除く)の約 2,400 ㎞ 2 で、
海洋に浮遊するごみなどの回収を行っており、四国や九州地方整備局の海洋環境
整備船と協力して瀬戸内海の漂流ゴミの回収を行っています(図 3-40)。海洋にお
ける漂流ゴミに対しては、これまで実施してきたゴミ回収などにより蓄積された
データの収集・分析により発生原因調査を実施し、発生抑制を図ることも必要で
す。また、油流出事故の場合には海上保安庁に協力して対応を図ることとしてい
ます。
資料:国土交通省中国地方整備局(平成 19 年)
図 3-40 おんど 2000 による海面清掃状況と瀬戸内海における作業エリア
45
④地球温暖化対策
化石燃料の燃焼により発生する二酸化炭素(CO2)が地球温暖化の大きな原因と
なっています。物流分野における二酸化炭素(CO2)の排出量を見ると貨物 1 トン
当たりの輸送では、自動車等に比べ船舶や鉄道での輸送の方が温室効果ガス発生
量は少なくなっており、トラックによる陸上輸送から排出量の少ない海上輸送や
鉄道による輸送に転換するモーダルシフトなど、物流分野における二酸化炭素
(CO2)削減に取り組む必要があります(図 3-41)
。
また、接岸中の船内エンジンから大気へ排出される二酸化炭素(CO2)や酸性雨
の原因となる窒素酸化物(NOX)硫黄酸化物(SOX)等の排出ガスを削減するため、
接岸中の船舶が船内照明や空調などのサービス面、安全面などで必要とする電力
を陸上から供給する船舶版アイドリングストップの取り組みが必要です。
さらに、地球環境に優しい自然エネルギーへの転換も課題となっています。沿
岸域には風・波・潮汐・海洋の温度差など豊かな自然エネルギーが存在していま
す。港湾は産業集積地に近接しておりエネルギー配送の面で有利であり、騒音・
振動等による問題が比較的少ないため生産拠点として高いポテンシャルを有して
います。このため、港湾への太陽光発電や風力発電など自然エネルギーの導入へ
の取り組みが必要です。
資料:国土交通省港湾局(平成 19 年)
図 3-41 貨物 1 トンあたりの輸送で排出される輸送機関ごとの
二酸化炭素量(平成 17 年)
46
⑤廃棄物対策
循環型社会への転換を図るためには、廃棄物の発生量を抑制し、廃棄物のリサ
イクル・再利用を進めていく必要があります。中国地方においては近年直接資源
化、中間処理後再利用されるゴミの量は年々増加しています(図 3-42)。今後、
リサイクルを進める上では、物流コスト及び環境負荷の低減が重要になります。
そのため、大量の貨物を安価に輸送できる海上輸送が適しており、リサイクル資
源を集積するためのストックヤードが重要になります(図 3-43)。今後、循環型
社会を構築するためリサイクルポートの整備を推進していく必要があります。
また、廃棄物海面処分場についても、適正な廃棄物行政推進のため整備を進め
る必要があります。廃棄物処分場の延命化するため、廃棄物の容積の減少を図る
ことも重要になります。
(注)下関市を含む
資料:環境省(平成 19 年)
図 3-42 中国地方の直接資源化、中間処理後再利用される廃棄物量
及びリサイクル率の推移(平成 12 年-平成 17 年度)
図 3-43 循環資源取扱支援施設の整備イメージ
47
(4)港湾・空港における災害と防災対策の現状と課題
①中国地方の災害
中国地方は沿岸部に人口や財産が集中しており、ひとたび災害が起こると多大
な被害が発生し、住民の生活に多大な影響を及ぼします。これまで、平成 3 年台
風 19 号、平成 11 年台風 18 号、平成 16 年台風 16 号、18 号など大規模な台風が
定期的に来襲し、たびたび被害が発生しています(図 3-42)。また、近年では平
成 12 年の鳥取西部地震や平成 13 年の芸予地震など地震による被害も発生してい
ます(図 3-43)。そのため、災害に対し十分に備えることが必要になります。
平成 16 年台風 18 号による被災【広島市】
平成 16 年台風 18 号による高潮【呉市】
平成 16 年台風 16 号による浸水【玉野市】
平成 16 年台風 16 号による被災【呉市】
資料:気象庁「災害をもたらした気象事例」HP より作成(平成 19 年)、
岡山県玉野市・広島県呉市提供
図 3-42 平成 16 年台風 16 号・18 号の台風経路図と被災状況
48
資料:(財)東京大学出版会「最新版日本被害地震総覧[416]−2001 (平成 15 年)
図 3-43 中国地方で明治以降に発生したマグニチュード 6.0 以上の地震
49
②津波・高潮災害対策
日本海と比べて干満差が大きい瀬戸内海沿岸部では、大潮の際の満潮時など潮
位が高い時に台風が来襲すると気圧低下による海面上昇により、高潮による被害
が発生しやすくなります(図 3-44、図 3-45)。中国地方には、広島港や福山港で
はゼロメートル地帯をはじめとする高潮危険区域が数多く存在しています。実際、
平成 16 年の台風 16 号、台風 18 号では台風の来襲と大潮が重なり、岡山県や広島
県において甚大な被害が発生しており、2 回の台風で約 38 億円の被害が発生しま
した(下関市を含む)。津波・高潮に対して防護の必要な面積は、瀬戸内海側を中
心に約 2 万 ha あり、そのうち 48%しか整備されておらず、今後も整備水準を上
げる必要があります(図 3-46)。
また、地震・台風の被害を軽減するためには、迅速な避難が非常に有効であり、
ハザードマップ*1)の作成を行い、地域住民への周知を図ることが重要です。さら
に、高潮は潮位と関連性が高いため、潮位情報の提供などのソフト施策も併せて
実施します。
図 3-44 瀬戸内海と日本海の潮位差
*1) 自然災害による被害を予測し、その被害範囲を地図化したもの。予測される災害の発生地点、被害の拡大範囲および
被害程度、さらには避難経路、避難場所などの情報が既存の地図上に図示されている。
50
図 3-45 高潮対策(護岸の嵩上げ)のイメージ
*1) 潮の干満の差が大きい状態のこと。太陽、月、地球が一直線になった時、月と太陽の引力により海面の変化が大きく
なる。
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 3-46 中国地方における津波・高潮危険地域分布図(平成 19 年度)
51
③大規模地震災害対策
過去、中国地方においても大規模な地震が発生しており、特に、昭和 18 年の鳥
取地震はマグニチュード7以上の大規模な地震であり、死者 1,083 名、負傷者
3,258 名、被災家屋 13,643 棟と甚大な被害が発生しました。
さらに、地震に対しては、耐震強化岸壁を整備し、緊急物資輸送路を確保し復
旧を早めることが必要になります。阪神・淡路大震災では、陸上交通網が麻痺す
る中で、緊急物資や人員の輸送に際して海上交通が重要な役割を果たしました。
中国地方では、現在 11 バースの耐震強化岸壁が整備されています(図 3-47)。今
後、大規模地震発生が懸念されている中で、地震発生後の緊急物資輸送のための
耐震強化岸壁の整備を推進する必要があります。
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 3-47 中国地方の港湾における耐震強化岸壁の整備状況(平成 19 年度)
52
④海岸侵食対策
日本海側を中心に、侵食の被害が発生しています。侵食により、砂浜を削り取
られることによる海岸線の後退による後背地の被災や、砂浜の波の減衰効果の低
下による護岸等の防護機能の低下などの影響が懸念されています。
侵食被害に対する防護の必要な海岸が約 28 ㎞あり、そのうち 65%の整備が完
了しています。
⑤放置艇対策
中国地方は瀬戸内海をはじめとする静穏な水域を有し、気候も比較的温暖であ
るため、海洋性レクリエーションが盛んで、2.8 万隻のプレジャーボートが保有
されています。しかし、そのうち 72%が不法に係留されています(図 3-48)。放
置されているプレジャーボートは、台風などの荒天時や津波来襲時に流出・漂流
する危険性があります。また、景観の悪化や船舶航行の阻害要因にもなるため、、
適正な保管係留を推進していく必要があります。そのため、ボートパークや小型
船だまりの整備を進めるとともに、他部局と連携した規制措置の実施を進め、放
置されているプレジャーボートを減らすことが必要となっています。
(注)下関市を含む
資料:旧運輸省港湾局、水産庁漁港部、旧建設省河川局
「プレジャーボートによる海洋性レクリエーションを活用した地域振興方策調査」(平成 9 年)、
国土交通省港湾局・河川局、水産庁「平成 14 年度プレジャーボート全国実態調査」
(平成 14 年)
、
国土交通省港湾局・河川局、水産庁「平成 18 年度プレジャーボート全国実態調査」(平成 19 年)
図 3-48 中国地方におけるプレジャーボート放置の状況(平成 8 年度-平成 18 年度)
53
(1)中国地方の将来動向
近年、消費市場の細分化に伴い、製品個々の需要量は小さくなり、製品のライ
フサイクルが短くなっている中、企業は特定分野に経営資源を特化し、競争力の
強化を図っています。
また、中国をはじめとするアジア諸国は、急速な経済発展を遂げ、工業製品の
生産拠点として成長していますが、さらに、今後、アジア諸国だけではなく、ロ
シア、インド、ブラジルといった新興工業国も世界経済の中での存在感を高めて
いくと予測されています。一方で、我が国は人口減少が進み、著しい経済成長も
見込まれない中、変化し続ける世界経済に大きな影響を受けていくことになりま
す。もともと貧資源国である我が国は、工業製品の原材料やエネルギー資源の大
部分を海外に依存しており、さらに海外市場での消費の割合が増えることで、海
外との繋がりは強くなっていきます。特に急速な経済成長を遂げたアジア諸国は、
これまで以上に消費市場として注目する必要があります。
このような情勢を踏まえると、生産拠点として、また、消費市場として成長す
るアジアを中心とする新興諸国と中国地方の産業の国際競争が一層激しさ増して
おり、この競争に打ち勝つためには、世界規模での企業間連携の構築、事業再編、
消費市場の獲得などの観点が重要となります。現在、WTO(世界貿易機関)を中心
とする多角的自由貿易体制を補完するものとして、特定国間での経済協定である
FTA(自由貿易協定)や EPA(経済連携協定)が推進されており、自由な貿易が進
展し、必然的に物流が多くなることが容易に予想されます。特に、中国地方にお
いては、近接するアジア地域との経済交流が拡大し、相互依存関係が深化すると
予測されます。
グローバル化の進展は、観光やサービス産業の分野にも広がりつつあります。
訪日外国人の数は年々増加し、平成 18 年には 673 万人と過去最高となっています。
特にアジア地域からの訪日が増加しており、今後さらなる増加が予想されるため、
アジア地域をはじめとした旅行者受け入れに向けた取り組みが必要になります。
一方、我が国において人口減少や少子高齢化が問題となっています。中国地方
においても全国平均を上回る高齢化率となっており、今後もその傾向は続くと予
測されています。特に、島嶼部においてはその傾向は顕著となっており、高齢化
に対応した取り組みが必要となります。
54
(2)中国地方の港湾・空港の目指すべき方向
輸送、産業の場として見ると・・・
中国地方の基幹産業である基礎素材型産業を中心とした中国地方の産業は、経
済発展が著しい東アジア諸国やロシア、ブラジル、インドなどの新興工業国との
産業との国際競争のさらなる激化が予想されます。特に、原材料やエネルギー資
源の大部分を海外に依存している中国地方の産業にとって、国際競争力強化のた
めには、原材料やエネルギー資源を輸送するバルク船の大型化に対応した港湾施
設の整備を行い、輸送コストを低減することが必要不可欠です。また、今後も経
済成長・市場拡大が予想され、経済的な結びつきがますます強くなるアジア諸国
に対しては、シームレス*1)な輸送体系を構築していくことがより一層重要となり
ます。特に、アジア向けのコンテナ貨物や航空貨物については、地域内の港湾・
空港において直接海外に輸出入できることが求められてきます。
このように、物流の効率化を進め、産業の国際競争力強化に資する港湾・空港
政策が必要となっています。
人の集まる場として見ると・・・
中国地方において、空港・港湾は地域住民の交通手段として、また域内外からの・
観光客・ビジネス客の玄関口として非常に重要な役割を果たしています。特に、瀬
戸内海を有する中国地方の特徴として海上輸送が非常に盛んであること、また中国
地方が地域内に多くの観光資源を持ち、今後国内外の観光客の増加が予想されてい
ることを踏まえれば、その重要性はますます大きくなってきます。さらに、沿岸部
における賑わいの拠点としてのみなと、みなとを中心とした魅力あるまちづくりと
いった観点からも、みなとの役割は大きくなっています。
このように、人流の拠点として交流の促進に資する港湾・空港政策が必要とな
っています。
*1)つなぎ目がないこと。複数の交通手段の接続性が良いこと。
55
海と街が出会う場として見ると・・・
海やみなとは地域住民が自然とふれあう貴重な場であり、私たちの生活に必要
不可欠な存在です。中国地方の沿岸部では、高度成長期に藻場や干潟が大幅に消
失するなど自然が損なわれてきました。藻場や干潟は、多様な生物の生息・生育
の場所であり、水質浄化機能を有するなど、その重要性については言うまでもあ
りません。
このように、失われた自然を再生し、自然と触れ合える豊かな環境の保全や創
出を図る港湾・空港政策が必要となっています。
暮らしを守り、支える場として見ると・・・
中国地方は沿岸部に人口や財産が集中しています。そのため、ひとたび災害が
起こると多大な被害が発生し、住民の生活に多大な影響を及ぼします。したがっ
て、防災対策を推進し地域住民の安全・安心の確保が必要となっています。
このように、地域住民の安全・安心の確保、豊かな暮らしの実現に資する港湾・
空港政策が必要となっています。
(3)将来ビジョン
中国地方の港湾・空港を取り巻く情勢の変化や現状と課題を踏まえ、中国地方
の港湾・空港に関し、4 つの視点に立ち、それぞれの視点から目指すべき目標を
設定しました。また、それぞれの目標に対し、今後 10 年を目処に実現するため
の施策を取りまとめています。さらに、施策の達成状況を計るための指標を設定
しています。中国地方整備局は、本ビジョンに基づく施策の遂行を通じて、中国
地方のあるべき目標を実現していきます。
56
57
中国地方の経済は、臨海部に立地する基礎素材型産業を中心として、東アジア
市場の恩恵を受けて好況を呈しています。しかしながら、台湾の麦寮のコンビナ
ートなど東アジア諸国において製造業を中心に大規模な設備投資が進み、今後、
東アジア市場における競争は激化するものと予想されます。
このような中、引き続き中国地方の経済が発展していくためには、基幹産業で
ある基礎素材型産業の国際競争力を強化し、東アジア市場で一定のシェアを確保
していくことが重要です。
基礎素材型産業は大量の原材料やエネルギー資源を海外から輸入するため、国
際競争力を強化するには、製品及び資源の輸送コストを削減することが重要です。
このため、スケールメリットを活かした大量一括輸送によるコスト削減を目的と
して、世界的にバルク貨物船の大型化が進んでいます(図 4-1、図 4-2)。特に、
近年ではパナマックス型*1)(6∼7 万トン積以上)やケープサイズ型*2)(15 万ト
ン積)のバルク貨物船が「国際標準」となりつつあります。
しかしながら、中国地方の港湾は主に高度成長期に整備され、施設の陳腐化が
進行しつつあるとともに、岸壁や航路は、近年の世界的なバルク貨物船の大型化
に十分対応できていません。このため、大型の船舶が就航できない、あるいは、
潮待ちや喫水調整(船舶の喫水を浅くするため積載する貨物量を少なくするこ
と)が必要となるなどの非効率的な輸送を余儀なくされています(図 4-3)。
このため、以下の施策の推進を図ります。
*1)パナマ運河を通行しうる最大の船型の貨物船。
*2)パナマックスを超える船型の貨物船。
58
近年、バルク貨物船はパナマックス型(6∼7 万トン積以上)やケープサイズ型(15
万トン積以上)の大型船が世界の主流になりつつあります。こうした状況に対応す
るため、ケープサイズ型の大型貨物船が入港可能なスーパーバルクターミナルを
拠点的に整備します(図 4-4)。スーパーバルクターミナルの整備は、スケールメ
リットを活かした大量一括輸送や、他港へ2次輸送を行うことにより、原材料や
エネルギー資源の輸送コストの大幅な削減が図られ、産業の国際競争力の強化に
繋がります。
今後、スーパーバルクターミナルの実現に向けて、平成 20 年度に制度化され
るバルクターミナルの一体貸付制度や、民間事業者による荷役機械等の整備に対
する支援制度などの諸制度を活用し、官民が協力した取り組みを行っていきます。
図 4-4 スーパーバルクターミナルの拠点整備イメージ図
60
資料:国土交通省港湾局「港湾整備事業の費用対効果分析マニュアル」
図 4-1 船舶の大型化によるコスト削減
資料:日本船主協会「海運統計要覧」 (平成 19 年)
図 4-2 バルク貨物輸送船の船型別の隻数の推移(昭和 50 年-平成 17 年)
干潮時では喫水が足りないため入港できず満潮時まで待って入港することが必要。
図 4-3 潮待ちのイメージ図
59
中国地方の産業の国際競争力を強化するため、原材料やエネルギー資源の輸送
コストの削減を図るには、パナマックス型のバルク貨物船に対応した水深 14m以
上の公共岸壁の整備が必要となっています。現在、中国地方ではバルク貨物に対
応した水深 14m以上の公共岸壁は、3 バースが整備されているのみで、まだまだ
十分とは言えない状況です(図 4-5)。このため、中国地方の各港湾において、水
深 14m 以上の公共岸壁の整備を推進していきます。
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 4-5 中国地方におけるバルク貨物に対応した水深 14m以上の公共岸壁整備箇所(平成 19 年度)
61
ケープサイズ型のバルク貨物船は、瀬戸内海の各港湾では、港内の航路などに
おける水深不足などがボトルネックとなり、入港できない、あるいは潮待ちなど
の非効率な輸送形態を余儀なくされます(図 4-6)。こうした状況に対応するため、
関係行政機関等と連携し、瀬戸内海航路整備計画の改訂や港内航路の増深・拡幅
などによるボトルネックの解消など、瀬戸内海の航路体系の再構築に取り組みま
す。
また、関係行政機関や民間企業と協力して、民間事業者の施設の整備を、費用
の一部を負担させながら、公共工事として実施する産業関連港湾事業制度の拡充
などに取り組んでいきます。
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 4-6 中国地方における航路体系と各港における最大水深の係留施設と航路
62
中国をはじめとする東アジア諸国は、加工組立型産業や生活関連産業にとって
海外生産拠点や水平分業の相手先としてのみならず、成長市場として我が国との
つながりを強めています。その結果、アジアとの製品・半製品の荷動きが活発化
し、その輸送手段であるコンテナ貨物の取扱量は増加しています。中国地方を発
着する外貿コンテナ貨物のうち、アジア方面のコンテナ貨物の割合は平成 10 年の
63%から、平成 15 年には 77%まで増加しました。このうち、中国地方の港湾を
利用しているコンテナ貨物の割合は平成 15 年には 63%となっており、その他の
コンテナ貨物は神戸港・大阪港や博多港・北九州港などの他地域の港湾を利用し
ています。
今後、東アジア各地域との競争が激化するものと予測されることから、国際コ
ンテナ貨物輸送において中国地方の企業が近隣地域の企業と比べ、リードタイム
やコスト面で不利とならないようにすることが求められています。
一方、北米や欧州との定期コンテナ航路は、基幹航路と呼ばれ、一般的にパナ
マックス型、オーバーパナマックス型*1)の大型のコンテナ船で運航されています。
北米や欧州の定期コンテナ航路が就航するには、一定以上の規模のコンテナ貨物
が必要となりますが、現状では中国地方の各港湾では十分な規模のコンテナ貨物
を集約することが難しい状況です。
また、コンテナ貨物を効率的に輸送するためには、各港湾から背後地域への陸
上輸送を円滑に行うことも重要であり、港湾と背後地域の物流拠点などとのアク
セスの強化を図ることが必要です。
このため、以下の施策を推進します。
資料:国土交通省中国地方整備局(平成 20 年)
図 4-7 広島港に入港するコンテナ船
*1)パナマックス型を越える船型のコンテナ輸送船。
63
中国をはじめとする東アジア諸国との国際コンテナ貨物は、今後も東アジアの
経済成長に伴い大きく増加するものと予想されています。中国地方は、東アジア
に近接しているという地理的な優位性を有しており、そのメリットを活かすため、
東アジアとのダイレクト輸送体系を確立し、迅速かつ低廉で安定したサービスを
提供することが重要です(図 4-8)。
このため、コンテナターミナルやガントリークレーンなどのコンテナ荷役機械
の整備など、コンテナ対応施設等の整備を進めます。また、コンテナターミナル
の一体貸付制度の活用によるターミナル運営の効率化を図ります。
さらに、シングルウィンドウ*1)化による港湾手続きの簡素化、電子タグ*2)や
ITを活用した情報の共有など、リードタイムの短縮や複雑化する物流への対応
を進めるとともに、複数の港湾管理者が連携したコンテナ航路の誘致など港湾サ
ービスの向上に努めます。
一方で、今後、境港とウラジオストクとの間で日本海横断航路が開設される予
定があるなど、ロシアと環日本海地域の経済的な結びつきが強くなることから、
ロシアとの輸送体系の確立についても検討が必要になると考えられます。
資料:国土交通省「外貿コンテナ貨物流動調査」 (平成 15 年)
図 4-8 中国地方発着アジア向け国際コンテナ貨物の管内港湾利用率(平成 15 年、平成 24 年)
*1) 入港や関税などの輸出入に関する手続きを 1 回の入力や送信で可能となること。
*2)IC チップとアンテナで構成され、物品等に装着するもので、中の該当物品等の識別情報等を記録し、電波を利用
することでこれらの情報の読み取り書き込みが出来るもの。
64
北米・欧州向けのコンテナ貨物の効率的な輸送のためには、スーパー中枢港湾
である大阪港・神戸港、博多港などの北部九州の港湾との連携を強化することが
必要です。
スーパー中枢港湾との連携強化にあたっては、環境への配慮や輸送コストの低
減のため、関係行政機関や民間企業と連携し、陸上輸送から海上輸送への転換を
促進するなど内航海運の活性化を図り、瀬戸内海における内航フィーダーサービ
ス*1)の充実に努めます。
国際コンテナ貨物を効率的に輸送するためには、海上輸送ネットワークのみな
らず、港湾と背後地域を結ぶ陸上輸送ネットワークの効率化を図ることが必要で
す。
このため、臨港道路の整備を推進し、港湾と背後地域とのアクセス機能の向上
を図ります(図 4-9)。また、
「国際物流基幹ネットワーク」において、国際標準コ
ンテナ車(フル積載時 44t、高さ 4.1m)の通行できない支障区間の解消が進めら
れています。
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 20 年)
図 4-9 水島港における臨港道路整備
*1)北米・欧州方面への基幹航路が就航するスーパー中枢港湾等と地方港湾を結ぶ海上輸送サービス 。
65
海上輸送の利便性、大規模な用地確保の容易性、関連企業への近接性などから
臨海部は産業立地に高いポテンシャルを有しています。中国地方の臨海部には、
基礎素材型産業や加工組立型産業などが数多く立地しており、これら産業などか
ら誘発される効果により、臨海部に関連する産業の生産額は中国地方全体の 28%
を占めています。
また、近年、東アジアの経済成長による需要の拡大、高付加価値製品へのシフ
トによる企業の業績回復などにより、各企業は生産力の拡大が求められており、
臨海部における新たな用地取得に対するニーズが高まっています。
このため、以下の施策を推進します。
臨海部における企業の新たな用地取得に対するニーズは高まっていますが、既
存の土地利用にあたっては様々な規制があり、企業立地のための土地利用計画の
変更に期間を要し、企業進出が進まないなどの問題が生じる場合もあります。
このため、埋立地の用途と異なる土地利用計画の変更に伴う手続きの迅速化を
図るとともに、臨海部の土地の有効活用を図るための諸規制の緩和、遊休化する
臨海部用地(竣功後 5∼10 年)における港湾法特例の適用を検討するなど、臨海
部における企業立地が促進される環境の整備に取り組みます。
高まる企業の用地取得ニーズに対応するためには、臨海部における新規事業用
地や物流用地を確保する必要がありますが、埋立等による新たな土地の造成のみ
では必要な用地の確保は難しく、現在遊休化している用地を有効に活用すること
が必要です。
このため、臨海部の土地利用情報の企業への提供、臨海部の分譲地のリースを
円滑にするための制度の検討など、臨海部の遊休地の有効活用を促進するととも
に、官民が協力しつつ、環境保全に配慮した上で、埋立や海面処分場の整備など
による用地の確保に取り組みます。
66
近年、グローバル化の流れは、インバウンド観光*1)など様々な分野で広がって
います。日本を訪れる外国人の数は年々増加しており、今後も増加すると予想さ
れています。インバウンド観光の振興は、地域の魅力を世界に向けて発信できる
重要な機会であり、地域の経済活動にもプラスの効果を及ぼす可能性を秘めてい
ます。中国地方には、平成 19 年に新たに世界遺産に登録された石見銀山や多島美
を誇る瀬戸内海など、多数の観光資源を有しており、これらの資源を活かして地
域の魅力を高め、交流人口を拡大し、地域の活性化を図ることが重要です。この
ためには、国内外の観光客を受け入れるための玄関口である空港・港湾などの交
通基盤の機能強化が必要です。
このため、以下の施策を推進します。
海外からの観光客の誘致や地域間の広域的な交流連携の推進のためには、その
玄関口となる空港の機能強化が必要となります。そのため、中国地方の空港を発
着する国際線・国内線の路線数・便数の増加や空港へのアクセスの向上により利
便性の向上を図ります。また、計器着陸施設*2)の高度化等による欠航便数の減少
など信頼性の向上を図ります。これにより、空港を玄関口とした交流連携を促進
していきます。
*1) 海外から日本へ来る外国人旅行。
*2) 霧などの視界不良の悪条件下でも着陸できるようにするための装置。
67
中国地方における船舶乗降客数は年間約 2,000 万人以上であり、旅客船やフェ
リーなどの海上交通は、地域住民の生活の足として、また国内外の観光客の交通
手段として重要な役割を果たしています。人口が減少する中で航路を維持してい
くためには、港湾の利便性を拡大するとともに交流人口を拡大することが必要で
す。
このため、旅客船、フェリーなどの大型化に対応したターミナルの整備や港湾
へのアクセスの改善を進めるとともに、船舶の運航情報の提供やみなとツーリズ
ム情報の提供などソフト面でのサービス向上を図るなど、港湾の利便性や信頼性
の向上に取り組みます。
資料:国土交通省総合施策局「港湾統計(年報)」(平成 17 年)
図 4-10 中国地方における入港船舶隻数・船舶乗降客数上位の港湾(平成 17 年)
68
中国地方では、近年、クルーズ船の寄港回数が増加しており、特に外航クルー
ズ船の寄港が大幅に増加しています。クルーズ船の寄港は、諸外国との交流や国
内の他地域との交流を促進し、港を中心とした賑わいの創出など、地域の活性化
を図る上で重要な機会となります。
このため、クルーズ船対応のためのターミナル整備などを進めるとともに、関
係行政機関や民間企業、NPO などと連携し、外航クルーズ船の誘致活動や受入体
制の強化に努めます。
資料:国土交通省中国地方整備局
図 4−11 宇野港に寄港するクルーズ船の様子
(左:はしふぃっくびいなす、右:寄港歓迎イベント)
69
中国地方の港湾は、これまで本土と島嶼部などを結ぶ交通の結節点として重要
な役割を果たしてきました。近年、架橋などによる影響を受けて船舶乗降客数が
減少していますが、現在でも全国シェアは約 20%を占めるなど、現在でも船舶は
重要な交通手段になっています。このため、交通の結節点としての機能強化を図
る必要があります。また、瀬戸内海を中心に船舶を利用したツアーなどが実施さ
れており、さらに島嶼部にも多数の観光資源があり港湾は観光の拠点としても重
要になっています。
また、中国地方の港湾は、古来より海の恩恵を受けて発展してきました。この
ため、沿岸部には数多くの「みなとまち」が形成され、港湾は地域の拠点として
発展してきました。しかし、本四架橋などの影響により「みなと」の利用が減少
するなど、「みなとまち」がかつての賑わいを失っている地域もあります。一方、
昔の倉庫や波止場など残された「みなと」の資源を活かしたまちづくりも始まっ
ています。
「みなと」に賑わいを取り戻し、地域間のネットワークを再構築するこ
とにより地域の活性化を図ります。
このため、以下の施策を推進します。
資料:国土交通省中国地方整備局
図 4−12 みなとにおける地域活性化を目的とした活動(左:「汐待市」瀬戸田港、
右:「いっぺんきん祭みなとオアシスただのうみ」忠海港)
70
平成 15 年 10 月に制度化された「みなとオアシス」は、海浜・旅客ターミナル・
広場など「みなと」の施設やスペースを活用し、地域住民の参加による「みなと
まち」本来の賑わいを創出する制度です。現在、中国地方では、
「みなとオアシス」
は 3 港が本登録、6 港が仮登録しています(図 4-13)。今後、仮登録中の 6 港を正
式登録するとともに、中国地方の「みなとオアシス」を 15 港程度に増加すること
により、みなとから地域の魅力を発信していきます。また、
「中国みなとオアシス
協議会」を活用して、みなとを中心とした中国地方の交流を促進します。
なお、「みなとオアシス」の本登録には、賑わいのポテンシャル、賑わいの継
続性、地域住民への認知度、イベントや常設施設の採算性、参加住民の主体性と
いった評価項目で高評価を得ることが要件となっており(表 4-1)、本登録に至る
までに質の向上が図られることになります。
資料:国土交通省中国地方整備局(平成 20 年)
図 4-13 中国地方における「みなとオアシス」の登録状況(平成 20 年度)
表 4-1 みなとオアシスの評価項目
資料:国土交通省中国地方整備局(平成 19 年)
71
「瀬戸内・海の路ネットワーク推進協議会」は、瀬戸内海沿岸に位置する各市
町村が一堂に会し、新たな文化の創造、観光、レクリエーションの振興と発展を
図ることを目的として平成3年度に設立されました。現在、107市町村が当協議会
の会員となっており、会員市町村等が連携しながら、瀬戸内海の発展のため活動
を継続してきました(図4-14)。
今後、協議会の市町村会員の 100%の加入を目指すとともに、平成 18 年度総会
で決議された協議会の活動指針である「高速海上交通時代に対応した「海の路の
構築」及び防災ネットワークの整備」、「瀬戸内海の環境創造」、「瀬戸内の魅力発
信」に基づく取り組みを通じて、瀬戸内海沿岸域の交流・連携を促進します。
資料:
「瀬戸内・海の路ネットワーク推進協議会」HP より作成
図 4-14 「瀬戸内・海の路ネットワーク推進協議会」の参加市町村(平成 20 年)
72
中国地方の島嶼部において、フェリー・旅客船による海上交通は重要な役割を
果たしています。そのため、関係行政機関と連携して生活航路の維持を図り、航
路の利便性・信頼性の向上を図ります。また、島嶼部における暮らしの支援のた
めには、暮らしの拠点である旅客ターミナル施設などを中心とした地域活性化方
策について検討する必要があります。
このような中、大崎上島町では、島外への交通と島内交通との連絡が十分でな
く、少子高齢化及び基幹産業の停滞により地域の活力が低下しているため、自立
に向けた元気な産業作りを目標に、観光振興との連携を軸とした地場産業の新た
な展開を図るため島内外交通の連携強化、島内光ファイバー網を活用した島内外
の交通情報一元化及び各種情報発信を行い、魅力ある 総合的な港づくりによっ
て地域の自立的な発展を目指す取り組みを行っています。
また、笠岡諸島ではNPOが中心となった離島地域の活性化方策として、広域
的な交流の提案を行っています。活動の中では、独自のツアーや「島弁」(島毎
のオリジナル弁当)を企画提案しており、TV番組にも取り上げられるなど知名
度の向上に結びついています。このような取り組みは、リーダーとなる存在が必
要とされますが、団塊世代の離職に伴う交流人口の増加も予測される中で、他の
離島地域においても同様の取り組みが行われていくことが考えられます。さらに、
笠岡諸島では、NPOが中心となり島の観光と清掃活動を組み合わせたツアーを
開催し、交流促進による地域活性化に取り組んでいます。
さらに、笠岡市では船内でデイサービスを行うことが可能な「夢ウェル丸」を
運航しています(図 4-15)。瀬戸内海では、この他にも病院が所有する診療船が
運航されています。このように高齢化率の高い島嶼部においては、医療サービス
の提供が大きな課題となっています。
今後ともNPOなどと連携して、こうした先進的な取り組みの普及に努めます。
【夢ウェル丸】
【済生丸】
笠岡市(岡山県)が運営し、
デイサービスを運ぶ船として
6島(10寄港地)について月
2回の割合で訪問している。
船内には浴室のほか、リ
ハビリ室や親睦交流室など
がある。
岡山・広島・香川・愛媛4県
の67の島々を、各県済生会病
院の医師や看護師がもち回り
で乗りこみ、検診・診療を主体
に巡回している。
船内で腹部超音波、眼底検
査、レントゲン撮影なども行っ
ている。
資料:笠岡市ホームページ
岡山済生会総合病院ホームページ
図 4-15 瀬戸内海におけるデイケア船、診療船運航の事例(平成 20 年)
73
瀬戸内海は、美しい景観や豊かな自然を持ち、昭和 9 年に我が国最初の国立公
園に指定されましたが、高度成長期には沿岸部への工業立地と人口集中により、
有機物や窒素など富栄養塩が海へ流入し、瀬戸内海は急速に富栄養化しました。
これにより赤潮が発生し魚介類の大量死などの被害を引き起こしました。また、
産業や生活の場として遠浅の海が埋め立てられました。それに伴い、干潟・藻場
など自然の浅場が大幅に減少しました。干潟・藻場は水質浄化機能を有しており、
世界有数の閉鎖性水域である瀬戸内海の水質改善に重要な役割を果たしているた
め、美しい自然の再生には、干潟・藻場の保全や修復が必要です。
また、瀬戸内海では、建設資材として利用することを目的として、海底に堆積
する海砂の採取が行われてきました。平成 18 年に全面禁止されるまで、瀬戸内海
全域で採取された海砂は各県の統計では約 6 億m3 とされています。海砂の採取は
海底の砂場の減少による生物の生息環境の悪化をもたらし、漁獲量の減少などの
悪影響が生じており、海砂採取跡の環境修復が課題となっています。
このため、以下の施策を推進します。
74
瀬戸内海における干潟・藻場は、高度成長期以降、大きく減少してきました。
干潟・藻場は多様な水産生物の生息の場であるとともに、水質浄化など自然と共
生する豊かな沿岸域環境の創造に重要な役割を果たしています。
このため、平成 16 年度に策定された「瀬戸内海環境修復計画」では、平成 16
年度より概ね 20 年間で、瀬戸内海全体において、昭和 50 年代以降に消失した干
潟・藻場の約 60%の面積に当たる 600ha を修復することが定められたところです。
中国地方においては、これまで干潟の修復を進めてきており、平成 19 年度末現
在で、昭和 53 年から平成 3 年までに消失した干潟 243ha のうち、52ha の干潟を
修復したところです(図 4-17、図 4-18)。しかしながら、まだ全体の 21%に過ぎ
ず、今後も引き続き干潟の修復に取り組んでいきます。また、併せて、水産庁等
関係行政機関と連携して、藻場の再生の促進に努めます。
さらに、中国地方整備局では、瀬戸内海の環境修復の実現を目指し、環境情報
の流通ネットワークの中心となる機関として「瀬戸内海環境情報センター」を設
立しました。「瀬戸内海環境情報センター」は、これまで省庁や地方、教育・研
究機関等で個別に取得されていた環境情報等を集約し、瀬戸内海の環境情報提供
を実施しています。
資料:国土交通省中国地方整備局
図 4-16 再生された干潟(尾道糸崎港海老地区)
75
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 4-17 これまでに消失した干潟と修復目標
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 4-18 中国地方における干潟整備実施箇所(平成 19 年度)
76
現在、航路の浚渫で発生した土砂を活用した深掘跡の修復技術を確立するため、
備讃瀬戸の海域において、実証実験を行なっています(図 4-19)。海砂採取によ
り砂場が消失した海底に、水島港の航路浚渫で発生した土砂を投入して砂場を修
復する実験で、現在、生物の定着状況を調査するためのサンプリングを行ってい
ます。今後、実証実験の結果を踏まえ深掘跡の修復技術を早急に確立して、事業
化を図り、海洋環境の改善に取り組みます。
資料:国土交通省中国地方整備局
図 4-19 環境修復イメージ(備讃瀬戸)
77
自然とのふれあいに対する市民のニーズが高まる中、海辺は自然と触れ合える
貴重な場です。このため、
「海辺の自然学校」や「海辺の達人養成講座」等の自然
環境を活かした自然体験・環境教育を推進します。
また、瀬戸内・海の路ネットワーク推進協議会では、海浜の清掃活動という 誰
もが参加しやすい活動 を通じて 美しい瀬戸内を守っていく ことを周知する
ことを目的に、市民ボランティアによる海浜清掃活動である「リフレッシュ瀬戸
内」を実施しています。
「海辺の自然学校」、
「海辺の達人養成講座」、及び「リフレッシュ瀬戸内」では
実施にあたってはボランティアの協力を得ており、今後、関係行政機関や NPO と
連携し自然体験・環境学習を実施していきます。
さらに、中国地方整備局には海面清掃船「おんど 2000」
(144 総トン)を所有し
ています。「おんど 2000」は海洋に浮遊するごみなどの回収を行っており、引き続
き海洋環境の保全に努めます。
図 4-20 自然体験・環境学習の様子(左:「リフレッシュ瀬戸内」による清掃活動、
右:「海辺の自然学校」の様子)
資料:国土交通省中国地方整備局
78
循環型社会形成のためには、廃棄物の発生を抑制し、廃棄物の再使用、再資源
化する 3R(リデュース、リユース、リサイクル)を推進する必要があります。
リサイクル資源は通常の貨物と比較して運賃負担力が小さいため、一旦ストック
ヤードで保管して、一定量のリサイクル資源を確保し、海上輸送を活用した大量
一括輸送を行うことにより、輸送コストを低減することが重要です。このように
効率的な輸送体系を構築し、静脈物流*1)ネットワークを形成することが必要です。
また、再使用・再資源化が困難な廃棄物を適切に処分するための最終処分場を
確保する必要があります。近年、都市化の進展に伴い、廃棄物の最終処分場を内
陸に確保することが困難となっており、生活環境の保全のため、海面処分場を確
保する必要があります。
このため、以下の施策を推進します。
*1) 使用済みの製品や廃棄物の輸送。
79
循環型社会の実現のためには、リサイクル資源の輸送や集積のため、海上輸送
を活用した効率的な静脈物流ネットワークを形成することが必要です。現在、中
国地方では、徳山下松港と宇部港がリサイクルポート*1)に指定され、廃プラステ
ィックや廃タイヤをセメントの原料や高炉の燃料として再利用するなど、地域の
静脈物流ネットワークの拠点となっています。
今後、引き続きリサイクルポートの整備を進めるとともに、関係行政機関や民
間企業と連携し、リサイクル産業の育成・振興を図るための各種手続きの弾力化
や新たなリサイクル技術の開発・事業化などを促進します。
図 4-21 リサイクルポートのイメージ
*1) 広域的なリサイクル施設の立地に対応した静脈物流ネットワーク拠点となる港湾で国により指定されるもの。
80
近年、都市化の進展に伴い、都市部では廃棄物の最終処分場を内陸に確保する
ことが困難となり、海面処分場に依存せざるを得ない状況となっています。一方、
東アジアの経済成長による需要の拡大などを背景として、臨海部では用地造成に
よる新たな土地の確保に対するニーズが高まりつつあります。
このような状況を踏まえ、廃棄物の最終処分場を確保するとともに、臨海部の
用地確保のニーズに対応するため、環境に配慮しつつ、廃棄物埋立護岸の整備を
推進します。
資料:国土交通省中国地方整備局
図 4-22 広島港における廃棄物の最終処分場
81
地球温暖化への対応を進めるため、平成 17 年度に発効した「京都議定書」にお
いて、二酸化炭素などの温室効果ガスの削減目標が定められており、物流分野に
おいても温室効果ガスの排出を抑制するための取り組みが求められています。特
に、トラックなどの陸上輸送を二酸化炭素の排出量の少ない海上輸送へ転換する
モーダルシフトの推進が大きな課題となっています。
また、港湾においても温室効果ガス削減に向けた様々な対策が求められていま
す。港湾に係留中の船舶は、船舶内の作業のために必要な電力を船舶の補助動力
機関のアイドリングにより確保していることが多くなっています。船舶の補助動
力のアイドリングは、陸上からの電力供給に比べ効率が悪く、二酸化炭素(CO2)
の排出量が多くなっており、係留中の船舶からの温室効果ガスの削減を図る必要
があります。また、酸性雨の原因となる窒素酸化物(NOX)や硫黄酸化物(SOX)
なども排出しています。さらに、沿岸域は風・波・潮汐・海洋の温度差など豊か
な自然エネルギーが存在しており、これらの自然エネルギーの生産拠点に適して
います。このため、港湾への太陽光発電や風力発電など自然エネルギーの導入へ
の取り組みが必要です。
このため、以下の施策を推進します。
82
中国地方で生産・消費される衣服等の日用品や機械工業品などの雑貨の一部は
内航海運などを利用して輸送されています。しかしながら、内航海運で輸送され
る雑貨の割合は平成 17 年では全体の 19%に過ぎず、77%が自動車で輸送されて
いる状況です(図 4-23)。
今後、環境への負荷の低減を図るため、モーダルシフトを推進するとともに、
内貿ターミナル等の整備を進め、雑貨の内航海運による輸送比率を向上します。
(注)下関市を含む
資料:国土交通省「全国貨物純流動調査」(平成 12 年−平成 17 年)
図 4-23 中国地方における雑貨の内航海運による輸送割合の推移(平成 12 年−平成 17 年)
83
港湾は産業集積地に近接しておりエネルギー配送の面で有利であり、騒音・振
動等による問題が比較的少ないため、自然エネルギーの生産拠点として高いポテ
ンシャルを有しています。このため、技術開発などを推進し、港湾への太陽光発
電や風力発電など自然エネルギーの導入のため、積極的な導入を図ります。
また、港湾に係留中の船舶のアイドリングストップを推進するためには、港湾
内に船舶に電力を供給するシステムを構築することが必要です。
しかしながら、このような船舶への電力供給システムはこれまで統一されてお
らず、今後、国際的な標準化の動向を踏まえつつ、導入を検討していきます。ま
た、アイドリングストップの推進には船舶側の対応も必要となります。
図 4−24 接岸中の船舶のアイドリングストップのイメージ
84
沿岸部は、人口や財産が集中しており、ひとたび、臨海部で災害が発生すれば
多大な被害が発生します。そのため、沿岸部において総合的な防災対策を行い、
地域住民の安全・安心を確保することが必要です。
中国地方では、平成 16 年に台風 16 号、18 号で瀬戸内海沿岸全域で高潮被害が
発生し、特に宇野港、水島港、呉港では大きな被害が発生したため、重点整備海
岸に指定され、緊急的に高潮対策が進められています。また、平成 17 年にアメリ
カ合衆国で発生したハリケーンカトリーナによる高潮被害を踏まえて取りまとめ
られた「ゼロメートル地帯の今後の高潮対策のあり方について」に基づき、広島
港、福山港で高潮対策が行われています。瀬戸内海沿岸は干満差が大きく、台風
発生時には高潮の被害を受けやすいため、高潮対策の推進が必要です。
また、過去に中国地方では鳥取西部沖地震や芸予地震による被害が発生してお
り、東南海・南海地震など大規模な海溝型地震による津波による被害も懸念され
ています。さらに、地震災害が発生した場合、被災者に対し、食料・水等緊急物
資を迅速に供給する必要があり、耐震強化岸壁の整備などによる緊急物資輸送ル
ートの確保が必要です。
一方、日本海沿岸を中心に、海岸などの侵食被害が発生しています。現在、中
国地方において侵食による対策の必要な港湾海岸は 28km あり、侵食対策を進める
ことが必要です。
このため、以下の施策を推進します。
85
瀬戸内海沿岸部はこれまで高潮による被害をたびたび受けており、高潮対策を
進めることが必要です。また、東南海・南海地震に伴う津波に対する対策も必要
となっています。このため、堤防や護岸の嵩上げなど海岸保全施設の整備により、
津波・高潮対策を推進します。平成 19 年度末現在、中国地方では津波・高潮に対
して防護が必要な地域は約 2 万 ha ありますが、そのうち整備が完了しているのは
48%に過ぎず、災害による被害を低減するため、引き続き津波・高潮対策を推進
します。
また、ハザードマップや潮位情報の提供などソフト面の対策も推進します。
図 4-25 広島における津波・高潮対策事業
86
阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、大規模地震が発生した場合には被災者に対
する緊急物資輸送ルートを確保するため、耐震強化岸壁等の整備を進めることが
必要です。しかしながら、中国地方では、平成 19 年度末現在で 11 バースしか整備
されていない状況です。このため、耐震強化岸壁や緊急物資の荷捌きを行うため
のオープンスペースの整備及び臨港道路の耐震化を着実に進めることにより、緊
急物資輸送ルートを確保します。
また、中国地方整備局や港湾管理者において、地震による被害を最低限にとど
め、早期に復旧するための対策を事前に取りまとめた事業継続計画(BCP)*1)の
策定を推進します。
図 4-26 防災拠点の整備イメージ
*1) 自然災害やテロなど、予期せぬ事態が発生したときでも、ビジネスを継続できるようにする行動計画
87
中国地方は、日本海沿岸を中心に、流入土砂の減少や波浪等により海浜の砂が
流出し、海岸線が後退する侵食被害が発生しています。
平成 19 年度末現在、侵食に対して防護が必要な延長は約 28km ありますが、整
備が完了しているのは 65%となっています。このため、引き続き侵食対策を推進
し、安全・安心の確保を図ります(図 4-27、図 4-28)。
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 4-27 中国地方における侵食対策整備状況(平成 19 年度)
88
資料:島根県提供
図 4-28 侵食対策事業実施事例
89
港湾は交通手段、産業の拠点として重要な役割を果たしており、安全に利用出
来る必要があります。
中国地方は、海洋性レクリエーションが盛んでプレジャーボート保有数は全国
一となっていますが、放置艇の割合も高く、72%のプレジャーボートが不法に係
留されています。津波・高潮発生時には、不法に係留されたプレジャーボートが
流出・漂流し、被害の増大に繋がる恐れがあります。また、景観の悪化や船舶の
安全な航行を阻害する恐れがあります。このため、放置艇の適正な管理を行う必
要があります。
さらに、中国地方の島嶼部においては、海上交通は依然として地域住民の生活
の足として重要な役割を果たしています。一方、中国地方では、人口減少ととも
に、高齢化が進展しており、特に島嶼部では高齢者の割合が高くなっています。
しかしながら、港湾は高齢者にとってまだまだ利用しづらい状況であり、高齢社
会への対応を進めるためにも港湾におけるバリアフリー化の推進が大きな課題と
なっています。
一方、高度成長期に集中投資された港湾施設の老朽化が進行し、今後、その施
設の維持補修や機能の更新のための費用の増大が見込まれており、港湾施設を安
全に利用し、維持・更新費を低減するためには、的確かつ適切な維持管理が求め
られています。
このため、以下の施策を推進します。
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中国地方は全国に比べ放置艇の割合が高く、72%のプレジャーボートが不法に
係留されています。不法に係留されているプレジャーボートは、津波・高潮発生
時に流出または漂流すると被害の増大に繋がる恐れがあります。このため、ボー
トパークや小型船だまりの整備を推進します。整備にあたっては、民間のノウハ
ウや資金を活用しつつ、効率的な促進を図ります(図 4-29、図 4-30、図 4-31)。
また、ボートパークや小型船だまりの整備によりプレジャーボートの収容能力
は向上しているものの、収容隻数は増えておらず、平成 18 年度には収容率は 70%
程度にとどまっています。このため、放置等禁止区域の設定など制度面の整備を
進めて規制の強化を図るなど、収容率の向上に取り組みます。
資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 4-29 中国地方におけるボートパーク・マリーナ等の収容隻数及び
収容率の推移(平成 8 年度-平成 18 年度)
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資料:国土交通省中国地方整備局調べ(平成 19 年)
図 4-30 中国地方におけるマリーナ、ヨットハーバー、
ボートパーク等の整備状況(平成 19 年度)
資料:鳥取県提供
図 4-31 ボートパークの整備事例
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中国地方の港湾の旅客施設におけるバリアフリーへの対応状況は、平成 18 年度
末において、移動円滑化基準*1)に適合している旅客施設は、島嶼部ではわずか 2%
に過ぎず、島嶼部以外でも 11%とほとんど対応できていない状況です(図 4-32)。
各施設における個々の対応状況については、段差への対応は比較的進んでいます
が、それ以外の設備についてはあまり進んでいません。
このため、各港湾の旅客施設におけるバリアフリー化を促進し、移動円滑化基
準に適合した旅客施設の割合を向上します。特に、高齢化が進展している島嶼部
においては、関係行政機関や民間企業との連携を図りつつ、重点的にバリアフリ
ー化を進めていきます。
資料:国土交通省中国地方整備局・中国運輸局調べ(平成 19 年)
図 4-32 中国地方における港湾施設のバリアフリーへの対応状況(平成 18 年度)
*1) 高齢者、障害者等の円滑な移動及び建築物等の施設の円滑な利用を確保するための、旅客施設の構造及び設計の基準。
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高度成長期に集中投資された港湾施設の老朽化が進行し、今後、その施設の維
持補修や機能の更新のための費用の増大が見込まれています。国や自治体の財政
事情が厳しくなる中、将来の維持管理や更新費用を抑制するため、既存施設の予
防保全的な維持管理を行い、点検診断や維持補修の計画である港湾施設の維持管
理計画を策定し、施設の計画的かつ適切な維持管理に努めます。
また、平成 13 年の米国同時多発テロを契機に、船舶と港湾施設の保安対策の
強化を目的とした、SOLAS 条約(海上人命安全条約)を改正され、これを受け平
成 16 年 7 月、国内法である「国際船舶・港湾保安法」が施行されました。港湾の
保安対策を進め、港湾の危機管理を強化します。
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(4)指標の設定
中国地方の港湾・空港を取り巻く情勢の変化や現状と課題を踏まえ、施策の達
成状況を計るための指標として取りまとめています。中国地方整備局は、本ビジ
ョンに基づく施策の遂行を通じて、中国地方のあるべき将来像を実現していきま
す。
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中国地方整備局では、今回策定したビジョン達成に向けて、以下の 4 つの視点
に配慮して施策を推進します。
●選択と集中による迅速かつ効果的な港湾・空港整備
今後、少子高齢化の進展に伴い、社会保障費の増大から、社会資本整備に向け
られる投資額が減少することが予測されます。このような情勢の中、今後も必要
な港湾や空港のサービスを提供し、中国地方の産業の国際競争力強化や住民生活
の質の向上といった目標を実現するためには、これまで以上に選択と集中を図り
つつ、投資効果の早期発現に配慮し、効率的・効果的に施策を実施します。
●事業評価・見直しによる適切な港湾・空港整備
施策実現のための事業を効率的・効果的に施策を実施していくためには、事業
施策の効果について評価を厳密に行い、重要性を正確に把握した上でこれを実施
するとともに、事業実施後においてものその効果のモニタリングを行い、社会状
況の変化などを踏まえ、適切な見直しを行います。
●民間と連携した活気ある地域づくりに資する港湾・空港整備
地域の魅力、価値を発見・創造し、地域の活性化を図るためには、行政だけの
取り組みだけでは不十分です。このため、行政機関のみならず住民、NPO、企業と
いった多様な民間主体を新たな担い手として、港湾・空港を活用した地域づくり
に取り組んでいきます。
●他地域と連携し、相互の個性を活かした港湾・空港整備
中国地方の東西には、関西・北部九州、瀬戸内海を挟んだ対岸には四国があり、
これらの地域は多数の港湾・空港があります。これらの他地域と連携し、各地域
の特徴を踏まえ、相互補完を行いつつ、効率的な施設の整備や交流の促進を図り
ます。
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