■【 【TIS 主催】 主催】 次世代 IT 基盤の 基盤のロードマップを ロードマップを考える研究会 える研究会 ~クラウド新時代 クラウド新時代に 新時代に向けて今 けて今 IT 部門がなすべきこと 部門がなすべきこと~ がなすべきこと~ 第2回 テーマ クラウド新時代を見据えた自社 IT 基盤の課題を考える 日時 2009 年 10 月 30 日 参加者 IT インフラの再整備について考える企業の情報システム部門リーダー 5名 主催 TIS 株式会社 司会・進行 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸 TIS では、情報システム部門のリーダーが、自社の IT インフラにおける課題を共有し、 いずれ本格化する「クラウド・コンピューティング」の時代にむけて、あるべき IT インフ ラの姿や、IT 部門が今なすべきことについてディスカッションする『次世代 IT 基盤のロー ドマップを考える研究会』を 2009 年 9 月に発足いたしました。 第 2 回となる今回の研究会では、参加企業の IT 基盤に関する課題を共有した上で、各企 業の課題に対しクラウドにどのような貢献が期待できるのか、各社の IT 基盤の課題とクラ ウドとの接点についてディスカッションをいたしました。本レポートでは、研究会の議論 の一部をご紹介いたします。 ◆IT 基盤に 基盤に今強く 今強く求められていること 急速なビジネス環境の変化を背景に、現在、IT 部門に対する要求もますます高くなって おり、それゆえ IT 基盤にもこれまで以上に高度なもの、多様なものが求められている。研 究会では、まず、現在各社が抱えている IT 基盤上の課題について議論を行った。 研究会に参加していたある企業では、企業間の合併や、組織変更、事業の移転などに対 応するため、システムにもこれまで以上のスピードが求められているとのことであった。 「ビジネスの計画に対し、システムの立ち上げになぜそんなに時間がかかるのかとユーザ ーから不満の声も挙がっている。システム対応がネックとなって、事業の再編などがすぐ に実施できないことがある」(研究会参加企業) スピードだけではない。提供するサービスの質についても要求されるレベルは高くなっ ている。 「24 時間 365 日稼動しているべきシステムの数が急激に増えてきている。以前は、 年に 1 回、電気設備の点検をすることも可能だったが、現在ではそれも難しいため、電源 を 2 重化して対応している。障害時の対応についても「30 分以内の復旧」を求められるな ど、ユーザーからの要求が増えてきており、新たな設備投資や運用が大きな負担になって きている」(研究会参加企業) また、別の企業では、多様化するビジネスに対し、個別でシステムを立ち上げていった 結果、システムコストが増大し、TCO の抑制が大きな課題になっているとのことであった。 ◆クラウドの クラウドの定義の 定義の整理 こうした課題を解決していく上で、クラウドにはどのような効果が期待できるだろうか。 その議論の前にクラウドの定義を整理したい。 「クラウド」は、IT をサービスとして調達する場合の一手段と言える(図 1 参照) ITの ITの調達方 法 特徴 所有の 所有の仕方と 仕方と ロケーション 形態の 形態の分類 形態の 形態の特徴 サービス利用 ・資産を持たない ・従量制の費用負 担 共用/ロケーショ ン不特定 パブリック・クラウ ド ・サービス事業者が提 供するロケーション不 明のクラウド基盤を不 特定多数の企業と共 用 サービス 分類 SaaS PaaS HaaS 共用/ロケーショ ン特定 所有 ・資産を持つ ・固定費の負担 クローズド・クラウ ド(エンタープライ ズ・クラウド) ・グループなど特定の 企業群でクラウド基盤 を構築して共用 ・クラウド基盤そのも のをベンダーから供 給される場合も有り データセンターの ユーティリティ契 約 特定のデータセンター のリソースを共有し、 従量制の契約で使用 占有/外部ロケー ション データセンターの ハウジング契約 自社のIT資産の監 視・保守をアウトソー スできる 占有/自社内ロ ケーション 自社内にシステム を構築 自社のIT資産の監 視・保守を自社で行う SaaS PaaS HaaS HaaS システム調達 システム調達 のスピード システム構築 システム構築 の自由度 既存のものを そのまま利用 できる メニューにあるア プリケーションの みを利用 アプリケーショ ンの構築が早 い システム構築の 自由度低い 既存のものを そのまま利用 できる システム構築の 自由度高い アプリケーショ ンの構築が早 い システムの構 築に時間がか かる システム構築の 自由度高い システムの構 築に時間がか かる システム構築の 自由度高い 【図 1】 】 サービスとして調達するということは、資産を持たず、従量制でのコスト負担をするこ とである。そのための形態がいくつかあり、クラウドはその一つである。 また、クラウドは「雲」のことであり、「雲の向こう」、すなわち、ネットワークの向こ う側で、ユーザーにとっては「どのようにシステムが実現されているかがわからない」こ とが、クラウドのクラウドたる所以と言えるが、このように、ロケーションが不明で不特 定多数でリソースを共用する形を「パブリック・クラウド」、グループ企業間など特定の企 業間で、ある程度個別に構築されたシステムを共用することを「クローズド・クラウド(エ ンタープライズ・クラウド)」と表現することが多い。 さらに、クラウドのサービスは、ハードのレイヤーである HaaS、プラットフォームのレ イヤーである PaaS、アプリケーションのレイヤーである SaaS と区別されて議論される。 これらを前提に、クラウドが企業の IT 基盤の課題にどう貢献するか、考えていきたい。 ◆クラウドが クラウドが実現する 実現するビジネス するビジネスの ビジネスのスピード化 スピード化 ビジネスへのよりスピーディーな対応が課題となっているある企業は、クラウドによっ てシステム調達時間の短縮が考えられるのではないかと述べている。 「システム構築の際、思ったより必要なハードディスク容量が多くなってしまい、再度追 加購入をしなければならないといった場合に、HaaS によって非常に早く対応できるのでは ないか。また、開発環境にクラウドを使う、あるいは、BCP 対策のシステムを準備する上 で、PaaS も使用可能なのではないかと考えている」 (研究会参加企業)。 この点については、主催者である TIS 自身、PaaS による自社内のプラットフォーム調達 を行っている。IT 基盤サービス事業部 IT 基盤サービス企画部の田淵 秀氏によれば「企画 をし、見積を取り、設計をするとなると、時間もかかり、カットオーバーが半年後、とい うことにもなりかねない。今日明日で何とかシステムを調達したいという場合に、クラウ ドのような技術を使えば、その時間を大きく短縮することができる」とのことであった。 研究会に参加していたある企業は、カンパニー制をひいており、その中でさまざまなビ ジネスモデルの事業が混在している。クラウドを導入することで、多様なビジネスシステ ムを標準化し、IT コストを抑制しながら、素早くビジネスを立ち上げていく可能性につい て言及している。 「様々な事業があり、その変化も非常に激しい。今後はそれぞれの事業に対し、個別にシ ステムを立ち上げるという前提が弱まる流れにあるのではないか」(研究会参加企業)。 もちろん、 「本来であれば、ビジネスのためにシステムがあるのであって、クラウドのた めにビジネスを変えるのは本末転倒」である。しかし、「逆説的ではあるが、ベースとなる いくつかの IT 基盤の中から、ビジネスに応じていずれかを選択してもらうという、ある意 味で「システムからビジネスを考える方法がビジネスのスピードをアップさせるのではな いか」と、この企業は述べている。 ◆クラウドに クラウドに求められる信頼性 められる信頼性 クラウドには IT 基盤課題の解決に対する貢献が期待されている。しかし、その一方で、 実際にどこまでの解決が可能かについては、今後クラウドがどのように、あるいはどの程 度まで成熟していくのかに大きく依存している。上記のような課題を解決する上で、クラ ウドにはどのようなことが求められるのだろうか。研究会では、この点についても議論が なされた。 まず、問題となるのがシステムの信頼性、および、セキュリティである。クラウドのそ もそもの意味合いは、前述のように「雲の向こう側でどのようにシステムが実現されてい るかわからない」ことを良しとすることだ。つまり、究極的には「今日は東京のデータセ ンターにあったものが、翌日には地球の裏側にある」といった可能性もあるということに なる。その場合には、システムのセキュリティがどのようにして担保されるのかという疑 問が当然出てくるだろう。 また、クラウドを提供する際にインターネットを使用するとすれば、ネットワーク上で のセキュリティも問題となる。重要なデータや個人情報の漏洩がないよう、十分な対策が 取られなければならないが、この点で不安を感じる企業も少なくないようだ。 もちろん、クラウドを使用するシステムの重要性や、性質によって、どこまでのレベル の信頼性・セキュリティが求められるかは異なってくるし、「どのようにシステムが実現さ れているかがわからない」点をどこまで懸念するかも異なってくる。 研究会に参加していたある企業は「たとえセキュリティについて SLA で定めてあっても、 システムがどこにあるかが把握できていなければやはり不安であるため、企業として絶対 に外部に出せない情報があれば、クラウド化することは難しい」と考え、開発環境や BCP 対策のためのシステムの範囲でのクラウド活用を考えていた。他方、「何がどうなっている か、我々にはわからなくても、要求したサービスレベルさえ満たしてくれるのであれば、 どこでどうシステムを実現していても構わない」との考えもあった。 これに対して、TIS の田淵 秀氏は、 「システムの運用実態を可視化すること」の重要性を 述べていた。クラウドサービスの提供者から提供される自社のシステムがどこにあり、ど のような状態で運用されているのか、明確にする。 「クローズド・クラウド(エンタープライズ・クラウド)」はまさに、利用者とシステム の運用実態を可視化したものと言えるだろう。 ◆プラットフォームの プラットフォームの技術標準 信頼性のほかにも、PaaS の技術標準が今後どうなるのかという問題も指摘された。技術 標準については、「そのクラウド事業者のシステムでなければ使えなくなってしまい、移植 ができなくなる可能性を恐れている。サービスを提供する事業者の間でプラットフォーム を標準化できなければ使いにくい」(研究会参加企業)と、事業者による囲い込みを懸念す る企業もある。 また、自社でクラウド上のシステムを活用していくことを考えた場合、現在、自社が進 めているプラットフォームの標準化の方向性と、クラウドによって提供されることになる プラットフォームとが一致していなければ、クラウドを活用しにくいという側面もあるだ ろう。「クラウドのプラットフォームに、どうしてもこのミドルウェアを入れてほしいとい うケースも出てくる可能性がある」(研究会参加企業)。 とは言え、プラットフォームの多様性を確保しようとすると、クラウド事業者にとって のコスト負担はそれだけ増大し、結果としてそれはサービス価格に転化されることになっ てしまう。 クラウドの登場には関係なく、研究会に参加する各企業において課題になっているのが、 プラットフォームの標準化だ。 ビジネスの要求を実現し、素早くシステムを立ち上げるためには、IT 基盤が整備されて いなければならない。システムごとにプラットフォームがバラバラなため、システムがす ぐには立ち上がらない。拡張性に欠ける、という問題をどの企業も抱えている。 研究会に参加していたある企業では、「オープン化する際に標準を作らなかったために、 非常にたくさんのサーバーがある」「パッケージも自社開発システムも混在しており、自社 開発でも Windows や Java など様々であるため、大きな運用コストがかかっている」とい った課題を抱えていた。「ビジネスサイドが言っていることを全部実現しようとすれば、シ ステムも多様化してしまう」。 そこで、この企業では「先に基盤を決めてしまい、そこに載るようにアプリケーション を工夫していく」という、プラットフォームの標準化に取り組んでいた。 クラウドの利用は、言ってみれば、用意されたプラットフォームに合わせて自社のシス テムを構築していくことだ。各企業が独自に取り組むプラットフォームの標準化のゴール が、クラウドと接点を持つことで、クラウドを利用すること自体が、自社のプラットフォ ームの標準化を加速化させることになる。 これが、IT 基盤のロードマップをつくっていくうえでの、クラウド活用の理想の姿と言 えるだろう。 企業がクラウドを活用し、自社の IT 課題を解決していくためには、一方で自社のシステ ムの標準化を進めていくと同時に、他方でクラウドの潮流がどのような流れになっている かを把握することで、IT 基盤の課題とクラウドとの接点を見定めていく必要があるだろう。 今後も、本研究会ではクラウドに対する最新の動向を共有し、各社の先進的な取組み例を 共有していきながら、さらに議論を深めていきたい。 (文責:株式会社ナレッジサイン 森天都平)
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