一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014 年 9 月 4 日(木)) - 変革期のリーダーが学ぶことは何か - 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策 -技術者・経営者の倫理を問う- 』 講師:岸田 雅大(きしだ まさお) (明治大学電気電子生命学科講師、東芝総合人材開発 認定講師) [講演概要] 今回の第 12 回目の技術経営人財育成セミナーは『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策 -技 術者・経営者の倫理を問う-』と題して、東芝の OB で現在明治大学電気電子生命学科講師をし ている岸田雅大氏を迎えて開催した。 企業ブランドは、たった一つの不祥事で一瞬にして崩壊してしまう。食中毒、食品メニュー偽 装、期限切れ原料の使用、自動車のリコール隠し、耐震偽装、鉄道保安事故等枚挙に暇がない。 有名な、米国チャレンジャー爆発事故も、ビデオを用いて当事者のジレンマ体験をした。ジレン マ問題は企業活動の我々の現場にも常にある。出荷判定、規格審査、納期と品質等、実務技術・ 経営者の身近な経験実例の紹介があった。現場のジレンマ問題を安全・倫理事件に発展させない 為の実践事例を、①ゆでがえり防止、②小組織現場の安全徹底、③大企業での全社定着化 の3 つの類型に分けての説明があった。 技術者の倫理が問われるような事故事例を学びながら、安全・倫理対処の実践事例の報告、質 疑応答を聞くことで、参加者全員で技術者や経営者が取り組まなければならない安全対策等につ いて学ぶことができた。 0.はじめに 司会(小平和一朗専務理事) :今日は『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策- 技術者・経営者の 倫理を問う -』とのテーマで、明治大学電気電子生命学科講師で、東芝総合人材開発認定講師 の岸田氏にお話をお伺いする。 岸田雅大講師:今日お集りの皆さんはエグゼクティブの方なので、ご満足頂けるか心配だが、皆 さんとディスカッションしながらやっていければと思う。 私はずっと装置産業、日本の高度産業の立ち上げのところを、工場全体を統轄管理するような、 コンピュータを使って全自動運転するようなプラント建設を手掛けてきた。 私は本社の技術部から、コーポレートスタッフも担当したが、全社の EC 戦略やインターネッ -1©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) トレディな東芝への推進を、西田会長1(当時上席常務)の旗振りのもとで行った。 東芝全社員を対象に技術者倫理教育を担当した 西田会長が社長になられた時、私はちょうど研修センターの方に出た。そこでまた西田会長と お付き合いが出たのは、技術者倫理の大きなトラブルを東芝が出したからだ。 「流量計のデータ 改ざん」で「社長退任、火力プラントビジネス全体を店じまいせよ」とのご指導を、東電、保安 院から頂いていた。その打開を図るべく、西田会長の決断で全社 7 万人の社員の教育を行った。 そのような生々しい企業の話を明治大学の 2 年生、電気電子生命学科 260 人の講座をやってく れというご依頼を受けて講師をやっている。それと東芝の中で、課長教育、主任教育、それも今 引き続いてやっている。 1.ビデオ事例:スペースシャトル爆発事故 1 番最初に、スペースシャトル爆発事故を見て貰います。技術者倫理の事例というと、だいた いの皆さんがスペースシャトルを思い浮かべられると思う。 2 番目に、悪い話ばかりが技術者倫理の問題ではない。優れた倫理的な意思決定事例も有るの でそれを紹介する。今日ご用意しているのは、ホンダの CVCC エンジンの開発。ホンダが何で 4 輪のメーカーとして大きく社会から認められたか。それをご紹介する。 3 番目に、世界の事例とか日本の事例、技術者倫理の事例を紹介するが、事実関係だけのお話 しでは面白くないので、エッセンスは何か、本質の問題は何かを、皆さんに事前課題で出して頂 いたのを纏めたものがあるので、それを使ってもう少し肌合いの近い形で聞いて頂く。 4 番は、何がトリガーでこんな倫理問題が起きたかというと、自分から遠い話ではない。チャ レンジャーは俺と関係ない、東芝で教育をしても、流量計データ改ざんは原子力の部隊の問題で 関係ない。という人も多い。ジレンマ問題は我々の身近にいくらでもある。明治大学の学生さん にも色々講座の中でアンケートを書いてもらうが、ジレンマ問題だらけである。アルバイトなど 本当にきわどいことをやっているし、その矢面に立たされている。企業人の方、経営塾にいらっ しゃる方のジレンマ問題の例も紹介する。多様なジレンマが廻りに常に有り、色々な切り口から 考えなければいけないということを認識して頂けると思う。そのジレンマ問題を 3 つの類型に整 理して、どうやったら会社として、また組織として倫理問題を起こさないかのヒントをご紹介す る。 安全管理の問題は、各企業で安全管理を徹底するといっても、なかなか現場の人はいうことを 聞かない。そこをどうやって定着させられるか。1 番うるさそうな大阪大学の生命科学の研究室 でやったうまい手法の例も紹介する。 東芝では全社 7 万人、海外 170 拠点の教育を担当した。何でそんなことが起きたのか。どうい う風に対処していったのかという辺りを最後にまとめる。 《スペースシャトルビデオ鑑賞》 パワーポイントで背景・経緯を紹介する。スペースシャトルとは、どういうプログラムか。も う退役したが、安価に、年 50 回くらい宇宙と地球を行ったり来たり、大気圏外に人、物を送り 1 西田厚聰:2005 年~2009 年東芝代表取締役社長、2009 年~2014 年会長 -2©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) 出す、運搬手段としてスペースシャトルが機能した。スペースシャトルはリサイクルして地球に 戻ってきて着陸するところは見ていると思うが、液体燃料ロケット部は使い捨てです。しかし横 に付いている固体燃料のブースターは再利用をしている。 ロケット燃料ブースター。これは輪切りになっていて、打ち上がってからパラシュートで降ろ してきて、海に落として再利用する。これを担当したのがモートン・サイオコール社。どうやっ てつなぐのかというと、フィールドジョイント部といって、ゴムのラバーを使う。ここに無理が あった。どう無理かというと寒さに弱い。暖かければ大きな問題は起こさない。それまでに気温 12 度で打ち上げたことはあるが、あの暖かいフロリダは打ち上げ当日はマイナス 8 度の寒冷前 線がきた。最終的には気温 2 度であった。それでゴムが硬直して、燃料が漏れて爆発事故を起こ してしまった。 技術者ボジョレーがそれをずいぶん指摘していた。NASA 側の親分はムロイで、モートン・サ イオコール社の担当はボジョレー、同僚はトンプソン、技術者の親分はランドが登場人物だが、 ランドが寝返ってしまった。打上げ決定は、4人の経営幹部の会議で決められ、ボジョレーの意 見は聞き届けられなかった。 モートン・サイオコールが NASA と契約をして、打ち上げを行った。しかし当初からフィー ルドジョイント部、O リングに問題があるということは認識されていた。しかしコロンビアは打 ち上げられてしまった。 2 回目の打ち上げでも問題が指摘され、対策会議も行われていた。しかしレーガン大統領が「運 用段階」を宣言してしまった。進んでいく 4 段階毎に、ボジョレーが5つの選択肢の中からどう 行動選択をしたのかが、添付資料に書いてあるので、興味があればそれを読んで頂く。 15 回打ち上げた時には、ススとグリースが出てしまっていた。モートン・サイオコール社も タスクフォースを作った。ボジョレーも外されていたわけではないが、その時点では強い主張を していたわけではなかった。しかし 17 回目を打ち上げた時には、フィールドジョイント部が危 ないということをモートン・サイオコール社の技術トップに文書で、このままでは大変なことに なるという通告をした。しかし会社は検討チームを作るが、本気での対策は取られなかった。 対策が進まないまま、寒い日の 1 月 27 日の前夜を迎えてしまう。打上げ前日に会議があって、 ランドが「技術者の帽子を脱いで、経営者の帽子をかぶれ」という言葉で寝返ってしまう。 NASA は打ち上げに政治的な圧力がかかっていた。計画自体が遅れていた。欧州でも同じよう な計画があった。レーガン大統領が「宇宙に行った先生」ということを年頭教書に出してしまっ ており、引くに引けない状態。そんな中でマイナス 8 度の寒冷前線が来てしまった。技術のトッ プのランドは、寒いと危ない。データもないので、打ち上げを止めるべきと意見を出したが、最 終的には寝返ってしまって、打ち上げ決行になってしまう。技術屋はみんな驚いた。 「技術者の帽子から経営者の帽子へ」、経営と人命のジレンマ 経営と人命のジレンマ、経営側の利益を優先するのか、人命・安全性を優先するのかのジレン マ問題。技術者倫理問題の裏には必ずジレンマ問題がある。大学生のビデオを見ての感想をいく つかあげる。 「経営よりも 100%の安全性が必要ではないか。」「なぜそこをきちんとしなかった のか」、「技術者と経営者の温度差が事故につながった。」 「人の命を天秤にかけたことは最悪だ」 「経営者の技術に対する認識が低い」 「威信への固執が 招いた事故ではないか」 「人の命を最優先すべき」「大事故が予見されたら中止すべき」「打ち上 げ中止を現場技術者が上申しているのに、なぜ 1 番よく知っている技術者の意見を最後まで尊重 しなかったのか」「技術者から経営者にしっかり意見することができる会社にしなければいけな い」 「後悔先に立たず、事故を起こしてから気付くのは馬鹿なことだ」 。長いものに巻かれて意見 -3©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) を飲み込んでいくランドの姿を自分の人生に置き換えて見た学生もいた。 「周りの意見に流されてはいけない」「問題点に気付く知識や能力、それを組織の上の人に伝 える強い意志をもつことが大事だ」 。 東芝での教育でも、「個人の気づきを会社の組織の問題にして、会社全体の問題にせよ」。「個 人で問題を抱えるな」ということを強調しているが、その糸口を学生も気付いている。 「飛行士に対しては、人生を失って可哀想、NASA に腹が立つ、決定会議に乗務員も同席すべ き」 「ランドは信念を貫くべきではないか。意思を通せば人の命が救えた」 「経営者メイスンのあ り方は、NASA の圧力に負けてしまった。NASA よりも内部、部下の意見をきちんと聞くべきだ」 こんな感想も学生から出た。 映像中の台詞に関しては「技術者の帽子から経営者の帽子へ」というのは、技術者倫理の全て の根底にある非常に根の深い問題だと言い当てている。技術者倫理の教育をやっている日本の集 まりで、私も委員会に入っているが、良く議論される言葉だ。 「ロシアンルーレット」というのは深い言葉だ。人の命に関わる事故が自分の判断一つで起こ るとしたら、学生が会社に入っての自分の立場も考え、身が引き締まると思う。 最終的にどうなったのかというと、打ち上げ直後の写真が残っている。SRB の O リングの密閉 が寒さで破れて、燃料ガスが噴き出している。上に上がって爆発した。落ちてきたものを回収し たら、こげたグリースがちゃんと付着していた。予見している通りのことが起こってしまった。 2.優れた倫理的意思決定事例 CVCC エンジンンの開発(本田) 倫理には悪い話だけでない、良い話もある。ホンダの CVCC エンジンの事例をお話する。 ホンダはどういう企業かというと、ご存知の通りヤマハとホンダは 2 輪の技術オタクの会社で あった。本田は技術者の本田宗一郎と、経営者の藤沢さんのコンビでやった会社である。 どうしてあれ程大きな 4 輪の企業になったのかというと、CVCC エンジンの開発プロジェクト をうまく立ち上げることができたからだ。 価値、技術屋が何に価値を持つかというのは非常に大事です。価値判断が経営サイドに寄り過 ぎると問題を起こす。ホンダの技術者の価値感はとても純粋であった。 ホンダの若い技術屋は色々な文献を読んでいて気がついた。アメリカで排気ガス、大気汚染が 大変深刻な問題になっている。大気汚染対策に新たに取り組まないと大変なことになる。一酸化 炭素、炭化水素、窒素酸化物、量を少し測ってみると、非常に大きい。これこそが解決しなけれ ばいけない課題だと技術者としての感覚が働いた。 その頃日本はまだモータリゼーションがそれほど進んでいなかった。大気汚染防止法、四日市 で光化学スモッグがあって、四日市の洗濯物がだめになってしまう。日本はそのレベルで、あま り車での規制は未だなかった。しかしアメリカは非常に深刻であった。 今中国が、北京で大変なことになっている。石炭の汚染でモクモクになっている。あれと同じ 現象がアメリカのサンフランシスコで 1960 年代後半にあった。サンフランシスコのゴールデン ゲートブリッジも、煙で見えなかった。その原因は車であった。大気汚染をなくさないと、アメ リカはだめだというので、マスキー上院議員が法律を作り、マスキー法を立ち上げた。 1970 年から 5 年以内に排気ガスを 10 分の 1 にする。それを本田宗一郎は 2 月にマスキー法を 満足させるレシプロエンジンのめどがついたので「73 年から商品化する」と発表した。開発担 当者の了解を十分に得ていなかったが、発表したのは、ホンダが当時、お客さんから大きなクレ -4©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) ームを受けて、業績が下がっており、起死回生を狙うという意味もあって、本田宗一郎は発表に 及んだ。 その技術は、CVCC エンジン。複合渦流調整燃焼方式。炭化水素についてだけは心配だったが、 一酸化炭素と窒素酸化物については目処が見えていた。技術者の考え方の純粋さが記録にも残っ ている。大気汚染への取り組みは、単なる 1 企業の問題ではない。子供達にきれいな空を残そう。 社会のために、マスキー法を満足させるエンジンを開発する。大気汚染研究室長の石津さんがこ の言葉を残して、研究に励んだという記録が残っている。 ホンダは開発した技術を他のメーカーに公開した どんなプロジェクトだったかというと、久米さんという 39 歳の若いリーダーが担当した。 久米さんは後で社長になる。本田宗一郎も色々な茶々を入れて、反対意見も出したが、反対意 見を聞き入れることもなく突き進んだ。 最終的に CVCC エンジンの成功。アメリカの環境保護庁からクリアしたという宣言も貰った。 何が社会から 1 番尊敬されているかというと、普通だったら獲得特許で武装し、大もうけする所 だが、開発した技術を他のメーカーに公開した。世界の自動車産業は、ホンダの公開した技術の おかげで、世界中から大気汚染が消えていった。ホンダは社会から、地球内企業として、誉れあ る評価を受けて、そしてシビック CVCC は世界の 20 世紀を代表する技術を持った自動車に選ば れた。 これも学生にレポートを書かせると、「会社を支えるのは自分達新人技術者、自分達もできそ うだ」 「環境への配慮をした技術者達に素直に感心する」 「利益に走らず『子供達にきれいな空気 を』の理念の下にやってきたことがホンダの成功につながった」「優れた技術で一発逆転、日本 の一企業から世界のホンダにのし上がった」 「技術を公開して、利益に囚われない。企業本意の 問題でなく、社会の問題、他に公開するというのが素晴らしい」。等が出ていた。 確かにホンダは若い会社であった。我々も電子ファイル、トスファイルを東芝から出していた。 それを買って頂こうと、ホンダから決定権のある人が来るというので身構えていたら、アロハシ ャツを着た若い方が来て、その方が責任者だというので驚いたことがある。 3.技術者倫理事例(世界、国内) どんな技術者倫理の事例があるのか。 3.1 世界での技術者倫理事件(悪い事例) (1)フォード・ピント事件(命と安全を天秤にかけてしまった) 軽乗用車、日本でサニー、カローラなど小型車が市場を席巻した。ビッグ 3 は慌てた。フォー ドも慌ててピントという車を作った。 どんな問題を起こしたかというと、後ろから追突されると、燃料タンクにディファレンシャ ル・ギアが喰い込んできて、火が出るという欠陥があることが分かった。分かったら直せば良い のだが、いくらで直るかというと、1 台 11 ドルのラバーで燃料タンクをカバーすれば良いのだ が、その対策をフォードはしなかった。費用を天秤にかけてしまった。 フォードはシミュレーションをした。発生車両火災 2100 件、死亡者が 180 人と想定した。日 本だったら、1 人でも死亡者出たら大問題。とても考えられない。 死亡事故が1件で 20 万ドル等考え、5000 万ドルと計算した。1 台 11 ドルだと安いが、乗用車 -5©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) とトラック全部 1100 万台、軽トラック 150 万台、あわせて 1 億 3700 万ドルかかる。だからやら ないという決断をした。 それによってどんなしっぺ返しがあったかというと、500 人の死傷者を出した。分かっていて、 命と安全を天秤にかけて、こんなことをしたとしてフォードは非常に社会から叩かれた。 (2)スペースシャトル・チャレンジャー事故(事故発生の可能性を見過ごした) チャレンジャーの事故はビデオでも見られたので、大体お分かりかと思う。 (3)ヒトクーロン ES 細胞論文ねつ造事件(研究倫理) ES 細胞、韓国が初めてのノーベル賞受賞直前と云われたが、実は論文のねつ造と最終的に断 定された。研究倫理の問題はこの頃からある。いまはスタップ細胞の問題がある。 3.2 世界での技術者倫理事件(良い事例) 褒められるべき良い話もある。 (1) ジョンソン・エンド・ジョンソン社タイエノール毒物混入事件 ―「お客様第 1」という行動基準で製品回収― ジョンソン・アンド・ジョンソン社で鎮痛解熱剤タイレノールに毒物が混入されるという事件 が起こった。普通の会社だったら、もう少し状況データを集めて、分析して、検証して、それか ら対策を打つということが多いのでは。その為に後手になってしまう企業が日本の大半では。 しかし、ジョンソン・アンド・ジョンソンは「お客様第 1」という行動基準が予め決まってい る。まず製品回収、ともかくお客様に影響を出さないことを最優先に考える。 この事件を契機として、異物を混入できないように、今は当たり前だが、食べるものにシール を付けて、剥がさないと中の物が出ない包装技術も生まれたのである。 (2) シティコープセンター・ビルの設計変更 ―16年に一度の台風での倒壊を誠実に申し出て、逆に名声博すー シティコープセンタービル、50 数階建の奇異な構造のビルだが、4 角に柱が建てられない。足 の所に教会があるから残さなければいけないということで建てた高層ビル。そんな設計ができる 技術屋はル・メジャー1 人しかいなかった。自分しか分からないのだが、彼は 16 年に 1 度の台 風が来た時に、危ないと自分で気が付いた。どういう行動を取ったかというと、彼はそれをシテ ィの会社に弁護士と出向き、「こういう問題がある」と申し出た。それが認められてビルを補修 することになり、逆に彼の誠実な態度が評価され名声を得た。 3.3 日本での技術者倫理事例、品質事故 (1)雪印乳業の製品による集団食中毒事件 では日本はどういうことがあるのかというと、知っている方も多いと思うが、雪印乳業の製品 によって集団食中毒が起こった。1 万人の食中毒者が出た。大阪工場。なぜそんな食中毒が起こ ったのかというと、工場で停電事故があった。停電事故が起こった時にどういう対策をとるかと いうマニュアルがなかった。 現場の管理者がどう判断したかというと、時間が経ったが再加熱すれば大丈夫だろう、牛乳を 温め直すのと同じ発想で、マニュアルにはないがそういう対応を取った。しかし落とし穴があっ た。ある時間が経つと毒素が発生する。それでこういう問題が起こった。これが雪印乳業の食中 毒。1 万人の発症者が出て、社長の辞任に追い込まれた。 -6©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) (2)三菱自動車リコール隠し、タイヤ直撃死傷事件 三菱自動車のリコール隠しという問題もあったし、センセーショナルなものだと三菱ふそう、 大型車のタイヤが外れて転がって、子供とお母さんを直撃して、死傷者を出したという問題もあ った。今訴訟で幹部が訴状に挙がっているが、技術者倫理をやる仲間で言うのは「設計が悪い」 と誰もが言う。記録にも残っている。4 回設計変更をしている。設計変更をしているが、ロバス ト性2をしっかり確保する対策を打っていない。 経済性とロバスト性のどちらの価値を優先させるのか、どっちの価値か? ロバスト性を確保 すると、つまり頑丈にするとトラックが重くなる。重くなると燃費が悪くなる。営業、経営者が 良い顔をしない。技術者は 4 回のチャンスがあったのに見過ごした。せめてタイヤが外れなくす る位の最低限のロバスト性は確保すべきだったのではないのか。だから設計技術者が悪いと言わ れている。 (3)六本木ヒルズ 自動回転扉による挟まれ死亡事故 六本木ヒルズの自動回転ドアに 6 歳のお子さんが挟まれて亡くなった。自動回転ドアはヨーロ ッパから来た物で、ヨーロッパだと、軽く出来ていて回転も早くない。 日本の市場に入ってくると、森ビルのオーナーが効率を良くしろ、人をさばかないといけない ということで、回転数を上げて、人のはけを良くしようとした。技術屋さんは、お客さんの言う ことをちゃんと聞く。しかし自分の子供がもしそこへ入ったらどうなるか。6 歳の子供はセンサ ーでは届かない。子供がそこを通ったら、転んだらどうなるか。技術屋さんが問題を抱え込んで、 組織の問題にしなかった。技術屋さんが悪いと言われて仕方が無い。 (4)シンドラーのエレベーター死亡事故 シンドラーのエレベーターも皆さん聞いていると思う。 (5)パロマの湯沸かし器 CO 中毒死亡事故 パロマの湯沸かし器で事故が起きた。21 人が一酸化炭素中毒で亡くなった。これには、リス クの伝え方の違いも有る。日本の製品には、 「30 分に 1 度換気しろ」と書いてある。しかし同様 の製品がフランスでは、 「30 分に1回換気しないと死にます」と書いてある。そこまでしっかり とリスクを伝えるべきでは。それが日本の市場でも大事だと思う。 (6)シュレッダー幼児被害事故 シュレッダー、昔は事務所用の大型製品だった。しかしだんだん家庭でも持つようになった。 であれば技術者はその段階で自分の子供がもし触ったら、その目線で安全装置を作る。それをな いがしろにした企業は問題を起こす。 (7)食品偽装、食品安全 食品偽装の話は、結構昔からある。吉兆もそうだし、メニュー偽装もあるし、焼肉店でも食中 毒を出したり、色々ある。発掘あるある大辞典、いい加減な番組をねつ造して、納豆を食べたら ダイエットというのもあったが、実は放送日有りきで、根拠もない話での番組捏造で、関西テレ ビの社長は退任までなった。番組も中止になった。 2 ロバスト性:系が応力や環境の変化などの外乱 によって変化することを阻止する仕組み。 -7©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) 3.4 技術者倫理事件・事故事例の本質問題(受講生の事前課題) 経営塾で事前課題として技術者倫理事件・事例を調査してもらい、その本質問題をどう 考えるか自分の考えで纏めて貰った。肉声が聞ける。紹介する。 (1)福島原発の津波による原子炉冷却装置破損 福島では、地震、津波で電源が遮断され、原子炉の冷却が出来なくなり、炉心溶融にまで到っ た。原子炉の多重防護が破られた訳である。マニュアルを越えた想定外の事故だが、今になって 深刻度が高かったとの情報が出てくる状況。事実、情報の公開がどうしても後手に回る。 (2)焼き肉酒家えびす食中毒 焼き肉酒家えびす、企業は日本一の焼肉屋を目指していた。何のために日本一になるのかとい う企業理念も浸透しておらず、社長の謝罪も形だけの印象を受けた。 倫理問題が起こるのは、組織の狭間で起こる。焼肉店と卸元、肉のトリミングをどちらでするの か。そんな責任境界がはっきりしないと、その狭間で問題が起こる。 (3)森永ヒ素ミルク事件 歴史を遡ると、森永ヒ素ミルクも責任境界の狭間で起きた事件だった。 コスト削減の為に、購入先を変更する。その際、入荷側で検査するのか、出荷側で検査するの か、その条件がはっきりしないまま運用に入ってしまった。検査が有る/無しの相互の思い込み。 良いように解釈し、組織の狭間で問題が起こり、事件につながった。 (4)三菱自動車のリコール隠し、タイヤのハブ破損 タイヤのハブが破損してお子さんを殺してしまった。三菱自動車のリコール隠しは、クレーム を疑う体質が根底にあるのではないか。三菱のブランド、零戦を生み出した過剰な自信があるの ではないか。 (5)森ビル回転ドア挟まれ事故 倫理感の薄い企業トップの鶴の一声を技術者が考えもなく優先させてしまった。 (6)姉葉氏の耐震強度偽装事件 コストを削減するがために、耐震強度を犠牲にしても、鉄材を少なく、手抜きしようという設 計者が出てしまった。構造計算でのいんちきを、行政がなぜチェックできなかったのか。 最初は軽い気持ちで始めたが、だんだん茹で上がり、この位なら良いだろうという思いが問題 を拡大させて。 (7)JR 西日本福知山線の脱線事故 JR 福知山線の脱線事故も、私鉄と JR との競争から。運転時間を短縮しなければ、この駅も止 めなくては、そうしないとお客を取られてしまう。その競争がエスカレートして、安全対策がな いがしろになってしまったという面があったのでは。安全軽視の企業体質が指摘される。 (8)東海村JCOの臨界事故 東海村の臨界事故、被爆した方も出てしまった。作業員が、小さな炉で色々な試験をやるが、 結構煩雑で、装置をマニュアル通りにやっていると時間がかかってしまう。原子力の専門家は、 -8©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) 研究室に居て、現場には、この試験をしろ、早くしろと指示はするが、現場に出てこないという ところに大きな問題があった。現場の作業員は原子力に無知で、このくらいの撹拌だったら、バ ケツとバケツで早く出来ると、良かれと、納期を守るために、裏マニュアルのやり方での作業が 定着してしまった。核分裂が起こってしまい、死者まで出してしまった。ちょっとした逸脱、こ の位ならのゆでガエルが繰り返され、組織の風土もゆでガエリ、事件にまで到ってしまった例で ある。 (9)船場吉兆の食品偽装 船場吉兆。賞味期限とか消費期限切れの食材利用。食べ残しの使いまわし等の食品偽装が恒常 的に行われていた。オーナー企業の為、問題が外に出難くかった。 欧米と日本での技術屋の倫理行動に対しての違いを感じる 技術屋さんの行動を少し整理すると、技術屋さんの開発・設計業務は、色々な価値のバランス を取りながら意思決定の繰り返しである。法律は当然守らなければいけない、安全、品質も当然 守らなければいけない。 ロバスト性を確保するのは当然で、タイヤが外れるようなことは最低限回避しなければならな いが、経済性・コストを優先させてしまいがちだ。頑強にすると燃費が悪くなって売れなくなる という経済的な配慮が勝ちすぎると、儒教文化の日本では技術者が会社のことを慮い過ぎて、良 かれと思って安全性を軽視してしまうことも起こってしまう。 東芝の流量計のケースも同じであった。流量計を作り直すには、ラインに 1 日1億円の損害ロ スを出してしまう。会社のために、自分達しか分からない流量計なので、良かれと改ざんをして しまった。 欧米では、そういう問題は、オープンに開示してしまう傾向がある。ヨーロッパで技術者倫理 教育をすると、日本との違いを感じる。何故自分で抱え込んでしまうのか分らない。上司に問題 を上げ、組織の問題として対処すればよいのにと事もなげに云うのだ。 4.ジレンマ問題事例 ジレンマ問題は身近にいくらでも有ることに気付いて欲しい。ジレンマ問題が多重に重なった 時に、倫理問題が発生することが多い。まずは、大学の学生さんのジレンマ問題を紹介する。社 会に出ていないので、未だ仕事を分かっていないと思うかもしれないが、現実は厳しいジレンマ の現場に立っていることが、学生にジレンマ問題経験を書かすと分る。紹介する。 4.1 大学生のコンビニや居酒屋でのジレンマ問題 コンビニや居酒屋で、どのような問題があるかというと、実に生々しい。 (1)弁当が余ったら持ち出し禁止だが、先輩が持ち帰ってしまう。見逃して良いだろうか。 (2)レジで 2000 円の誤差が出た。規則では調査しなければいけないが、終電時間があるので どうしようか。 (3)店でお金が紛失した。先輩が盗んでいた。店長に告げるかどうかと。 (4)賞味期限切れの食材を使うように指示された。どう対応するか。 (5)スーパーで商品を壊してしまった。正直に店長に告げるかどうか。 -9©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) (6)レジで 1000 円を渡し忘れた。並んでいる人が多いが、追いかけるか。 (7)ファミレスだと、20 分に1回手を洗うというルールがある。しかし、とてもやってられ ない。どうするかというジレンマ。 (8)パスタをゆでる時間をオーバーした。作り直すか、そのまま出してしまうか。 (9)会計でお客さんが怒り出した。ルールとしては社員が対応しなければいけないが、社員が いない。どうするのか。 4.2 企業でのジレンマ問題事例 中堅企業、大企業いずれも、色々な業務局面でジレンマ問題だらけである。経営塾で事前課題 でレポートして貰った生々しい、いくつかの事例を紹介する。 (1)A さんは医療用の放射線機器を納める企業で働いている。お客さんから納入時に、測定結 果や測定日を改ざんしてくれと云われた。それは断った。 (2)B さんは前職のことだが、某規格取得審査については、マニュアル無視が常態化していて、 審査前に辻褄合わせの書類を作る作業を繰り返していた。それに嫌気がさして転職した。 (4)営業技術の人は誰でもあるが、客先意向をどこまで聞くかの製造部門とのジレンマ。 (5)客先から金型発注金額が提示された。これでやれときた。金型制作費はもっとかかる。 (6)精度を上げろという指示。精度を上げると温度管理などコストも上がる。どこで工場と客 先の折り合いをつけるか。 (7)客先から請け負ってのソフト設計。客先の言う通りだと工数が爆発し納期も守れない。ど こで落ち着かせるかのジレンマは定常的にある。 (8)客先の対応をしている部隊、対応を丁寧・親切にすると、少人数しか対応ができない。も っと効率化するには定型化。それで良いのか。 (9)ソフト設計でのテストには、バグ曲線が使われ、この辺りで出荷すべしとある。出荷が遅 過ぎると利益が出ない。早く出荷し過ぎると、もっと大きなロスを出すというジレンマ。 (10)プラント制御の大きな企業だが、単純ミスの多発に対し、1 つ 1 つ潰していくのか、根本 から再設計して、それを水平展開するのかどちらが良いのか。 (11)教育ビジネス。マークシートを読み取るシートを、大企業の製品を使うと回答が遅いから、 エンドユーザーの納期にタイムリーに対応できない。大企業は使えないというジレンマ。 (12)外食産業従事時、指定期限を過ぎた食材の客先提供求められた。コスト管理、数値ノルマ の厳しさに嫌気がさして辞めた。 (13)建築現場での監督だが、工程、損益、安全上のジレンマ問題が常に有った。 (14)大学では、高価な信号処理ソフトを全台数買えない。ワンライセンス購入で、インストー ルしたら安くすむが良いのだろうか。 (15)大学のバイトで、服飾品をやっているが、非常階段に荷物をいっぱい置いている。消防法 で駄目なのだが、置かないととてもまかなえない。 5.安全・倫理対処の実践 4.で、学生も企業人もジレンマ問題の真っ只中で暮らしている事が分ったかと思うが、抱 えているジレンマ問題を倫理問題にまで発展させない為の具体的な対処法の話に話題を進める。 安全管理・倫理対処に対し、組織はどう対応し、その徹底を実践しているのかを、次の3つの実 践例で紹介する。 - 10 ©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) 5.1 ゆでがえると逸脱の標準化 5.2 安全管理の職場への導入法(大阪大学研究室) 5.3 全社へ技術者倫理の考えを定着するには(東芝) 5.1ゆでがえると逸脱の標準化(日常化) ジレンマ問題を倫理問題にまで発展させない為の具体的な対処法の話に話題を進める。茹でガ エルと逸脱の標準化(日常化)から考えよう。組織に属するとどうしても価値が茹で上がる。逸 脱が日常化し、毎回逸脱を繰り返しているうちに、不安全、不誠実に鈍感になってしまう。誰も 煮え湯だったら飛び込んだりはしないが、最初は水で、加熱しても気持ちよくなっていくが、茹 で上がる頃には自分では気付かず、死にまで到ってしまう。 (1)ある組織の考え方は必ず偏ってくる このエスカレーターは上りか下りか。健常者は「上るのに楽をしたい」と思うが、身体の不自 由な方は下りの方がきつい。健常者で茹で上がった人には不自由者の気持ちに気付かない。 ある組織が偏っても、自分では偏っていることに気付かない。東芝でも新人が入ると、職場に 何かおかしいと感じたら、指摘してあげてくれと随分言います。 (2)逸脱の標準化(日常化) 技術的逸脱の標準化が繰り返されると,事故に繋がる。 ・JR 西日本事故も、2 分短縮。1 分短縮。停車駅を増やす。そして最終的に事故が起こった。 ・自動車でも、10 キロオーバー位皆超えてる。高速で空いていれば 30 キロオーバー位。チョ ットチョツトの繰り返しが当たり前になると事故が起こる。 倫理的逸脱の標準化が繰り返されると、不祥事に到る。 ・コーヒー位、昼飯位、料亭位、その内にそれが収賄につながってしまう。 ・代返位、レポート代筆位、それが、替え玉受験にまで。 ・このデータはまずいので省こうが、データ改ざん、データねつ造に発展。 (3)ゆで上がらないためにどうしたら良いのか 茹で上がらないためには、どうしたら良いのか。第三者の目が大事だ。イエローカード。「そ れはヤバイんじゃない」と言ってくれる人がいれば気付く。ちゃんと気付かせることが大事。 会社がどういうものを用意しているかというと、エーザイはカードを持たせている。「家族に 胸を張って話せますか。 」それで行動を思いとどまらせる。 東電、日立も全員にそういうカードを持たせている。振り返ってもらう訳である。 百貨店でも食品売場の危機管理7ヵ条が有る。 「『他でもやっている』という甘い判断はしてま せんか」 「業界慣習として慣れていることはないか」 「問題がありそうなことをうやむやにして いることはないか」 「偽装表示をうやむやにしていないか」 「自信を持って家族にも説明出来ま すか」。 個人での立場と、企業での立場では社会に及ぼす影響が全く違う。 ・個人で言っている場合には、エリンギを椎茸と偽っても「冗談」で済むが、企業の立場では、 吉兆もミートホープも大問題になってしまう。 ・偶然知った情報で得をしても、これも個人では咎められないが、NHK 社員がインサイダー情 報で不当な取引をすれば、大きな社会問題になる。 - 11 ©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) 5.2 安全管理の研究室組織への導入事例(大阪大学、言う事を聞きそうにない職場) 大阪大学の導入事例を報告する。 職場組織に安全管理を徹底しようとしても、なかなか言うことを聞かない。ベテランの多い中 堅企業などなかなか受け入れてくれないのでは。大阪大学の生命科学系の研究室での導入事例 を紹介する。 (1)安全委員の任命 安全を考えるにあたり、この頃の学生さんを見てみると、保護され過ぎていませんか。柵は あるし、歩道も色分けされているし。私の子供のころは、肥だめに落ちたなんて聞いたことが ありました。そんなことが今あったらお母さんは大変だ。日本は何もかも過保護で、守られる のが当たり前になっていませんか。企業ビジネスもグローバル化時代ですが、環境文化の違う、 何もない時代の原点に戻らないとグローバル環境での付き合いは出来ないのではないですか。 大阪大学ではどんなやり方で安全管理を根付かせているのか。知恵を使っている。中々云う 事を聞かない研究員をうまく自律的に安全管理をするようにしている。 各研究室から 2 人の学生安全委員を選出する。 ミソは何かというと、専攻長:理工学部長の公印を押した委嘱状を渡す。モチベーションとい うより、就活に使えるのだ。履歴書に書ける。私は選ばれて研究室の安全委員を担当したと書 ける。 (2)学生安全委員の仕事 何をやるかというと、たいしたことではない。各研究室でのルール決めの仕切り役。安全点 検の分担を決め、定型表に記入する。負荷はそれ程ではない。 大阪大学全体で安全遵守をどうしているかというと、専任の職員 3 人が全学を巡視していく。 しかし専任の 3 人は、研究室の中は入り込めない。自治が守られているから、勝手に入ってい くわけにはいかない。どんなインターフェイスにしているかというと、各研究室のドアにチェ ックシートを掲示してある。毎週研究室の学生担当者 2 人が、自分の研究室の中の状態をチェ ック・記入して掲示しておく。専任職員はそれを週 1 回巡視し、記入状況をチェックする方式 なので、研究室の自治は守られる。こういう仕掛けです。 (3)安全衛生チェックシートの内容 どんなことが安全衛生チェックシートに書いてあるかというと、建築も機械も電気も、どの 研究室にも一般的な項目には、 「部屋の出入り口付近に不要な物は置いていないか」 「書架、棚 の転倒防止・内容物の転落防止が適切か」「80 センチ幅の避難路は確保されているか」「たこ 足配線はないか」化学系研究室では、 「薬品保管庫は地震等への転倒防止はされているか」 「保 護具、保護眼鏡は適正に使われているか」 「劇物は保管庫で施錠管理されているか」 「保管庫の 鍵は適正に管理されているか」。 生物系や機械系研究室にはそれごとのチェック項目が入る。 (4)安全管理チェツク演習の進め方 3 週の授業を使い、技術者倫理の教師が音頭取りをして、PDCAサイクルを廻して、研究 室毎に、安全管理の定着・徹底を図っていく。 - 12 ©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) 1 週目は、危険予知のポイントを説明して、自分の研究室用にカスタマイズしたチェック項 目を作る。自分の研究室を廻ってみる。棚の上に物はないかなどをチェックする。普通だった ら事故は起こりそうもない。 ① 1週目:趣旨と危険予知ポイント説明:2 つ以上の要因が重なった時に事故が起こる 事故が起きるのは、2 つ以上の要因が重なった時に起こる。駐車しているだけなら危険では ない。ドアが急に開いた。右に寄らないと事故になる。これが危険予知。2 つの要因が重なる と、事故の危険が急増するが、通常はまず安全。1 週目では、説明後、研究室をチェックさせ る。段ボールがいっぱい、机上も雑然、鍋が置いて危なそう。何が重なると事故になるか、危 険予知の視点でチェックさせるのが第 1 週。 ② 2 週目:他の研究室の良い所を3つ報告させる ここが 1 つのミソで、他の研究室での良い点を勉強に行かせる。チェックさせて、良い点を 3 つ報告させる。すると、 「外来者が来た時用の保護眼鏡(劇薬が飛んで目を悪くしないよう) 置きが、入り口に配置されてる研究室がある」 。保護眼鏡を付けろとルールでは決まっている が、すぐ取れる場所になければ渡せない。 機器の説明書がどこにあるか誰も分からない。だから説明書を見ないで問題が起こる。 「説明 書を機械のすぐそばに常備」、当たり前のことだが、こういうことから定着していく。 ③ 3週目:自研究室の改善点を報告させる。 自主的に気が付いたこんな改善点が上がってくる。「高いところに不安定な状態で試験管が 置いてあった。それを降ろした。 」当たり前のことだが、それを自主的にやるようになってい く。「足下にフラスコが大量に置いてあって、危ない。 」だから自主的にどけた。 「白衣を着て いない。保護眼鏡も着用せず。目を痛めてしまう。」危ないというので、ちゃんと白衣を着て 眼鏡をかけるようにさせた。だんだん皆が自主的にやるようになり、安全管理が自律的に徹底 され、全学としても研究室と上手くインターフェイスを取りながら、安全管理情報を収集する 仕掛けも回るようになった。 失敗も経験させる方が良い。転倒防止のために気をつけろというと、研究室の学生さんは自 主的に重心を下げるために、資料を下に降ろす。多分破綻するが、自分達で決めたから、どう いう形でやりくりをするか、大学側は口出ししない。自分たちで経験させれば自ずから答えが 出る。ここまでで何かご質問はあるか。 5.3 全社規模で技術者倫理をどう定着させるか(東芝全社教育事例) 大企業のような場合、どの様にして倫理意識を共有化して徹底させていくのかを東芝での全 社技術者倫理教育事例を通してご紹介する。 (1)東芝グループのビジネス ここから東芝全社での定着について話をしたい。 東芝はテレビやパソコン、携帯電話などデジタルプロダクトが売上の 3 割、日本の各企業、 共だいぶ苦戦している。半導体が2割、サムスンと世界の市場を争っている。社会インフラが 3割強。火力であり、原子力であり、放送システム、交通システム。サザエさんの家電も 5%。 - 13 ©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) (2)東芝の価値体系・行動指針・トップのコミットメント 全社の技術者倫理教育をやると決めたその以前から、東芝には、企業の価値体系とか行動規 範の体系が整備されていましたが、その体系がよく整理されていますねと評価されていました。 原子力、電気通信、建築など 12 の学協会が毎年集まって、話を聞きたい「企業の倫理教育 への取組み事例」を紹介し合うが、東芝のを事例を紹介して欲しいとのお話を頂き、丁度全社 教育が終わった頃だったので、お話をさせて頂いた。どういう点が評価されていたかというと、 東芝は価値体系が非常に整理されている。社長のコミットメントもしっかりしている。この2 点が評価を受けていたようだ。 (2.1) 「東芝グループの経営理念」 「東芝グループの経営理念」では、生命、安全、コンプライアンスを最優先します。東芝は 最優先すると言い切っている点もポイントです。東芝グループの使命、存在意義は何かという と、 「人を大切にする。豊かな価値を創造する。社会に貢献する。」です。つまり、人を大切に しないビジネス、それは東芝ではビジネスとして外すという訳です。 (2.2)東芝の「コーポレートブランド:お約束」、 社会・ステークホルダーの皆様への東芝のお約束は、「リーディング・イノベーション」で す。社会が何を求めているのか。それをきちんと見極め、先取りして製品、サービスを次々に 提供しますということをお約束しています。 (2.3)東芝の行動基準 じゃ、やり方はどうやっても良いかというと、そんなことはなく、組織・従業員には、 「東 芝グループ行動基準」が定められており、組織・従業員が備えるべき価値観、心構えを定めて いる。談合はしてはいけないとか、天下り官僚の業務の制限等も規定している。 「東芝グルー プ行動基準」を採択した企業が、東芝のグループ企業になれる。 技術者倫理トラブルがあった際も、「東芝グループ行動基準」に「技術者倫理」の項目を 1 つ追加して、東芝グループの全企業に教育に行った。国内7万人、海外の170のグループ企 業に、教育を行った。 原子力のウェスティングハウス社も、当然行動基準を採択している。だから、我々はウェス ティングハウスにも、ピッツバーグに行って教育をした。 (2.4)社長のコミットメント 社長がは何をコミットしているかというと、 「生命、安全、コンプライアンスを最優先」し ます。東芝は 20 万人のグローバル企業ですが、全グローバル市場で、これを守り徹底するん だとコミットしています。東芝の全社員は何をよりどころにして業務を行うかというと、法律 は国によって違います。賄賂がそれほど問題にならない国もあります。法律で束ねると、全社 として1つにまとまらない。契約書、仕様書で束ねようとしても、お客様毎に違うので束ねら れない。だから、「東芝グループの行動基準」が拠所なのです。 (2.5)東芝の全社技術者倫理教育とは だから東芝では、拠所である「東芝グループの行動基準」を守る企業が東芝の仲間だ。今回 の、倫理問題に際して、技術者倫理の項が1項「東芝グループの行動基準」に加えられた。新 しく付けえられた行動基準を国内・海外全社に教育をする。それが全社の技術者倫理教育にな る。7 万人の国内、170 の海外現法に行った。海外は 6 万人の中で対象者約 5 千人に教育を行 - 14 ©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) った。 (3)東芝の倫理教育は国内・海外でどう進めたか 全社技術者倫理教育の講師を誰にさせたかというと、組織の個人で抱え込んでいる問題を会 社の組織の問題にする流れを作ることを目指し、東芝の中の技師長、プラス上級部長クラスの 624 人を講師にした。講師教育は 14 回行ったが、技師長は各部門の教育を担った。自分のとこ ろに悪い情報を上げて来い、組織の問題にしようという教育を行った。 最初の 1 年間は国内用教育である。全社同じ教材を用意し、技師長さんに講師教育を行い、技 師長さんがそれぞれの事業部門で全員教育を行うった。国内合わせて 6 万人が受講した。グルー プ討議を 3 件用意して、一般者は半日以上、それから、マネージャーは 1 日の教育を行った。大 事なのはグループ討議で、色々な観点からの物の見方・意見が有る事を体感し、悪い情報もどう やって組織の問題に上げさせられるのか、ということを全社全部門で学んだ。 2年目は、全世界の海外教育を行った。教材は全世界同じにしようと、英語版、中国語版、日 本語版、タイ語版を作った。教材の内容、討議事例が適切かを検討する為に、事前に米国代表、 欧州代表、中国代表、アジア代表の人に集まってもらい、実際にグループ討議も試しにやってみ ての検討を行って決めた。 (4)Bad news is good news 最後に、我々として何を一番教育したのかというと、部下達が問題を抱え込まず、悪い話が 組織に上り、組織・会社の問題にしようという流れを全社に定着させようということです。 言葉としては、コマツの坂根さんの言葉を強調した。 Good news is no news、自分のところに良い話しか来ないような、裸の王様にはなるなよ。 No news is bad news、何も情報が入らなくなるのは、悪い兆候なんだよ。 Bad news is good news、悪い情報が次々に入ってくる。そして悪い問題を会社の組織の問題に する。東芝全社をそういう会社にしようよ。 ご清聴を感謝致します。 - 質疑応答 - 質問(淺野昌宏元丸紅ネットワーク社長):最初にスペースシャトルのお話を伺いましたが、こ れは色んな分析、研究をトレースされた結果として、組織としてどういう対応をしたのか。それ から刑事罰としてはどういう対応があったのかということを伺いたい。 回答(岸田雅大講師) :刑事罰というのは、最終的には調査委員会の結論がどうなったのか、申 し訳ないが、そこは不勉強です。話をつかんでいないので、最後の結末はつけてないです。 質問(淺野昌宏元丸紅ネットワーク社長):スペースシャトルのケースで、組織の中で正しいこ とを主張するということ、これ説得力の問題とか、出来る人と出来ない人では結果が1かゼロか 違ってくる。それから説得をしようとする人の自覚とか覚悟の問題も、認めてくれなきゃ俺は辞 めるくらいの覚悟、意思が弱いとか強いとか、そこのところの能力とか意思の力だとかが影響す ると思う。その辺りはどうやって整理していくのか。 回答(岸田):実際どうだったかは、東部の人。だから東部魂、いわゆる純粋な技術屋。最後の 刑事罰とか、組織的にどうかというところは追いかけてない。結末との結合が出来なくて申し訳 - 15 ©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) ない。本とかにはあるかとも思うが、技術者倫理の教育で、チャレンジャーは、全国的世界的に 使われているが、教科書ではそこまで踏み込んでない。 日本ではまず刑事罰が先行するので、事故原因の解析以前に隠蔽が始まる。米国では。 意見(小平和一朗専務理事):米国では「スペースシャトルの先頭のセラミックがどうとか」事 故解析が進んでいる。そういう分析を出来る風土は、刑事罰とか分離されている気もする。日本 ではまず刑事罰が先行するので、隠蔽が始まる。関心がある事なので、後でも分かったら教えて 欲しい。 回答(岸田):日本だと儒教文化で、西田会長も良く言っていたのは、良かれと思ってやる。だ から世界に行って教育した時にも、同じ事例を使って教育をしたが、 「ストーブの不正改造」と いう事件があって、全世界共通の討議事例にした。学校の石油ストーブを 10 数万台、北海道地 区で販売・設置した。それを不正に安全装置のロックを外してしまうという改造を補修員がして しまった。これが後で分かった。製造会社から据え付き指示が出ているが、やるのは現地の据え 付き業者。業者には標準据付金具を使えと指示しているが、使ってくれるところもあるが、使わ ないところも多い。電気的に導通しているからアルミ箔を貼ったんでも大丈夫だろう。それがピ ラピラ取れると警報が鳴る。「またあれかというので、補修員は安全装置のロックを外して警報 を鳴らないようにしてしまう」という不正改造が、250 件位後で調べたら出てきた。 面白いのはヨーロッパでは、東芝と付き合いが多いが、俺の部下だったら上司に報告して「上 司の方でさばいてよ」と帰ってしまう。俺アーセナルの試合があるからと帰ってしまう。しかし、 日本人は儒教文化だから、良かれと思って自分が直してしまう。何のペイにもならないし、何で そんなにリスクを負わなければならないかということをやってしまう。だから儒教文化のところ では倫理問題が必ず最後に残ってしまう。「嘘だけはつかないでくれ」と随分と言った。 逆に倫理問題は海外ではサッパリしている。日本では色々な人に助けてくれと言えば解決出 来る事を中々言わない。例えば石油ストーブの問題で寒さで生徒が震えているというのであれば 「学校を休みにしてもらう」とか言えば、だいぶ助かるのに、まずそんな案はまず出てこない。 が、海外では、カナダ・アメリカでは「休みにしてもらったことがある」なんて事例がすぐ出て くる。日本では、また学校に頼んで教育委員会に言われるとかいうので、グループ討議でもその ような対応アイデアはまず出て来ない。だから日本、韓国の倫理問題だけが世界と倫理問題に対 する認識が少し違うと思った。会社の為に良かれと問題を抱え込んでしまうのです。 質問(山中隆敏富士通研究所研究員):教育、何が違うかというと、教育文化なのか。 回答(岸田):やはり人の物の考え方ではないか。確かに自分がリスクを取ってまでやるかどう か。日本の人は、自分が取る必要は無いのだが、やれば会社が喜ぶのではないか、そういう風に 勝手にものを捉える傾向が有る。個人主義傾向の強い中国では、余りそういう方は出て来ない。 中国について気になったのは、全世界のテキストは一つにしようとしたが、内部通報のところに ついては、中国のバージョンは少しトーンを落として、文化大革命の後遺症が残っているので、 あまり内部通報を強く主張すると問題が出るのではないかということで、中国版だけ少しカモフ ラージュした形にした。 質問(大橋克已元クラレ常務取締役):西田社長の思いで、全社的に基本的には倫理、社員全体 の倫理観を上げることで、全世界的にやられたと思うが、やられた後に実際に会社の気風は変わ - 16 ©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) ってきたのかどうか。大企業的な「茹でガエル」的なものが、どのようなことをやることによっ て変わったのか、お気付きの点があれば教えてほしい。というのは、倫理のところに行ったとい うのは非常に重要なことだが、やはり組織の中での倫理観をどう訴えるかというのは非常に難し い。倫理と会社と組織を変えて行く、ミッションの方へ持って行こうとする力が、どういう格好 で働いたのか、地域の中で、東芝の中で、こういう格好で変わってきたとか、こういう解決が従 来とは違うとか、現場の中で出てきていたら素晴らしい活動の成果だろうと思う。 回答(岸田):実際あれから随分経っているが、今も引き続いて新人教育は、全員教育と同じ1 日教育をずっと続けている。それから、キャリア採用の方、例えば半導体関係では、随分と中途 採用者が多いいが、その方も必ず同じ教育を受けて、東芝の仲間になるのだ、ということを続け ている。私らは首謀者で、やって定着をしても、半分、本当のところ実際に続いてくれるのかな というところは気持ちとしてあった。色々な事業所を回って、それは技術倫理教育だけではなし に、マネージャー教育で行った時だが、隣で、そこの技師長さんが倫理の教育を自分たちで、技 師長さんの教育が続いているんですね。隣の教室を見たら実際に倫理教育を技師長さんがやって いるのを見て感激しました。それも実際に全事業部がどうかというのは、私も点でしかものを見 ていないが、やっている事業所はやっている。技師長さんでも温度差が確かにあるとは思う。日 立さんの現状を伺うと、全員教育を行っているは原子力の部隊なんかはやっているが、他の部門 では全社統一の e ラーニングで教育をされている。 東芝でもeラーニングは全員でやっているが、教育でのグループ討議を重視している。一般社 員は半日(2 つの事例で討議)。課長さんは1日(3 つの事例で討議)をやる。グループ討議を通 して、問題には色々な観点から意見を出し合い、会社・組織の問題に上げていくというプロセス を実際に体得してもらうことを重要視している。 意見(大橋):私の元いた会社も主力工場の大爆発事故が起きて、安全に対する全社員教育をそ の時期になると繰り返しやるということを続けているが、そういう部分が経営者の側からも、経 営者の側から続けて教育することで、マインドを変えていくことをやらなければならないという ことを感じる。 回答(岸田):人事部の方は、倫理教育をやって欲しいという気持ちを持っている。実際に全社 教育を推進したのは技術管理部がスポンサーとしてやったのだが、人事部の意向が感じられてい た点が大きかった気がする。人事は最近、技術者倫理問題よりも人権問題の方をより全社として 重要視している感じがする。技術者倫理の問題は、次にまた何か起こらないと、機運が盛り上が らないかもしれない。 質問(尾崎一成 OZ Consulting Easy 代表):いつも思う違和感があったので、申し上げて良いの かどうか分からないが。スペースシャトルのビデオを見てから学生さんに質問をされていた中で、 安全とその他のメリットのトレードオフをした。安全側でなければダメだと、その中で腑に落ち ないことがあって、100%安全でなければいけないと、私これは非常に危険なことだと思う。100% 安全を求めると、当然、1−0になってしまう。下手すると、これはあってはならないから、無 かったことにしようとか、考えないことにしようとか、それで結局モラル・ハザードになってし まう。だけど、言っている方が正しいと思っていて、確かに正しいが、100%という言葉には敏 感にならなければいけないと思う。この学生さんは理系ですか。 - 17 ©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) 回答(岸田) :はい。電子電気生命学科の二年生の学生さんです。 意見(尾崎) :理系だとすると、マズイなとと思う。本来、理系であれば、100%はあり得ない現 象であるということは、教育されていなければいけない。それを言ってしまっている。そこのと ころに問題の象徴があると、違和感、問題を感じる。 意見(小平) :それは面白い問題提起だと思う。 「日本の原子力は一切リスクヘッジをしなかった」 と聞く。起こらないと思っている時、そこで起こってしまった時にどう対応するかという訓練が されていなかったという指摘ともとれる。だから理念を追求する。それも正論になる。それはど うやって回避したら良いのか。 回答(岸田):実感からいうと、2 年生の学生からすると、単位をくれる先生の、当たり障りの 無い線で出して来ている。そんな高い理念を持って言っていない。100%は無いというような反 骨を言う人は少ない。会社でのグループ討議を見てて感じるのは、正論というか「本当にそうで なくてはいけない」と強硬論で討議を引っぱるのは、女性のリーダーが多い感じがする。男は軟 弱な体制派が多いかもしれない。 質問(下斗米秀之明治大学政治経済学部博士課程)門外漢で、アメリカ経済史を勉強しているの で、どうしてもそちらに引きつけて考えてしまい、的外れかもしれないが。安全とか安全運動が アメリカの産業から出てきたのは第一次大戦以降で、SAFETY FIRST という言葉が出てきて、関 連研究も蓄積されていて、環境面に配慮とかにも関心が持たれている研究者も多いので、今日の 話も歴史的に見ても面白い。例えば、こういうマニュアルを作るような作業で、他の外国の企業 や産業を参照しているのか。 回答(岸田):組織的にやっている訳ではないが、私の聞いた話では、日本では「安全第一」と 言うが、自動車などを作っていたアメリカなどでは「安全は第二だった」とか言われ、それより 「効率第一」だったと言われる。しかし、日本に入ってきた時に誰かがどう仕掛けたのか「安全 第一」になったという話を聞いたことがある。 質問(下斗米):特に外国の大きな企業は沢山あるが、そういった企業の倫理教育は参照されず に来ているのか。 日本の技術者の倫理教育は米国の倫理教育から学んでいる 回答(岸田)::倫理教育については、ABET3という米国の技術者教育の有り方・標準化の推進 を行っている機関がある。そこの標準資料・テキストが企業でもベースに使われている。日本の 場合はそれに当たる組織は、JABEE4というのがある。理工学部の審査も行っており、倫理教育 を行っていることが必要用件になっている。日本の技術者教育に不足していて、米国の ABET から学んだものは、 「この技術は何のためにあり、どんな影響を社会に与えるかの視点」である。 米国はここが進んでいた。大事な心のところが抜けてしまっていた。微分方程式を解くのが得意 だけでは駄目なのである。ABET という組織でのやり口を日本に持ってきて JABEE で、認定を 3 4 ABET:Accreditation Board for Engineering and Technology(米国にある技術者教育認定会議) JABEE:Japan Accreditation Board for Engineering Education(日本技術者認定機構) - 18 ©EUFD,2014.09 一般財団法人アーネスト育成財団 第 12 回 技術経営人財育成セミナー(2014.9.4) 『企業事件・事故の事例に学ぶ対応策』 岸田 雅大(明治大学電気電子生命学科講師) 取らないと理工学部としての単位を与えないという形になっている。 大きな事故が起きる前に予兆がある。ちょっとした事故を見逃さずに早くつかまえる 意見(吉久保誠一元 TOTO 専務取締役) :大変勉強になった。倫理教育とは、そうなんだと思って 聞いていた。ここに最後のまとめ、ここにどの会社もみんな来てしまう。これは、経営者トップ はやると一応安心するが、現場に通じない、定着は難しいし。良いお話をされて、事故、クレー ムがある。もう 1 つジレンマ、その 2 つは大変良いケースになる。「事故には予兆がある。1 回 では大きな事故は発生しないので、ちょっとした事故が起きた時にどうやって早くつかまえるか をやりなさい」と、私は言ってきた。ジレンマは絶対に起きる、どんなことをやっても、その中 からビジネス・新商品を生みなさいと、そこに持って行かないと測定も何も出来なくて、精神論 に終わってしまう。私はそちらにウェイトを置いてきた。参考までに。クレームの方は最初から ドンといかない。ちょっと出たら最初の一発を捕まえて、そこだけにだけに絞る。これは 100%、 日本中、世界中の会社がイエスと言う。大きな事故を起こさない安心料だと思う。 以上。 - 19 ©EUFD,2014.09
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