ニュースレターNo.2

----- CONTENTS ----領域代表の挨拶
2
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
3
計画研究分担者のプロフィールと研究内容(追加)
31
第 2 回班会議報告
33
細胞コミュニティ班会議に参加して
山口良文 (東京大学大学院薬学系研究科)
35
二木杉子 (阪大蛋白研)
竹本龍也 (大阪大学大学院生命機能研究科)
研究成果報告
研究紹介
「マウス初期発生における FGF シグナルの経時的機能解析」
39
沖 真弥, 北島 桂子, 目野 主税
(九州大学大学院医学研究院発生再生医学分野)
「Lulu 分子は myosin II を制御することによって極性上皮細胞の形状を制御する」
41
田ノ上拓自 (神戸大学大学院医学研究科
膜生物学グローバル COE 特命講師)
1
領域代表あいさつ
第 2 回領域会議を終えて-----
領域代表者:基礎生物学研究所 藤森俊彦
昨年度発足した「細胞コミュニティ」領域も、新年度に新たに公募研究を 14 課題迎え本格的に新学術領
域研究がフルスペックでスタートしました。第 2 回領域会議を神戸市で開催しました。新たに加わった公募
研究、計画研究それぞれの研究内容や、研究者のパーソナリティーをお互いによく理解しあうことを今回の
領域会議の第一の目標として据えました。限られた時間のなかではありますが、これまでに進めてこられた
研究を基盤として、本領域で今後どのような研究が進められるかについて発表され、議論も進みました。本
領域の特徴とも言えるでしょうが、計画研究、公募研究とも比較的年齢層の低くいわゆる若手研究者が中
心となって進められている印象です。その結果、研究にも若いエネルギーがみなぎっており、議論も自由闊
達に進んだと感じました。また、夕食、懇親会から夜遅くまで、研究の細かいニュアンスに関しても理解に進
むような討論や、異なったアプローチの研究者間の交流も進んだと理解しています。本領域のもう一つの
特徴に哺乳類初期発生に研究対象を絞っているという点があります。研究対象が非常に絞られている一
方で、その研究のアプローチに関しては、発生生物学、細胞生物学、分子生物学に限らず、画像処理、工
学的手法などの広い分野からの研究の参加があります。公募研究を迎え、このような多彩なアプローチが
更により明瞭になりました。今回の領域会議においては、それぞれの研究者のもつ研究手法に関する得意
技についても発表していただきましたが、各研究者の直面している課題を突破するヒントとなり、具体的な
共同研究の話が進められたケースもみられたようです。これまでに私自身が経験してきた他の領域会議、
班会議に比べて、それぞれ自分自身の研究だけでなく、他の研究者の進めている研究に関してより深く理
解できたこと、専門的な議論も高いレベルで進められたと感じています。皆さんの研究対象が近いながら、
異なったアプローチを取っている研究者が集まったことが、世界に類を見ない研究集団として本領域の研
究から新たな知見へとつながるだろうと実
感できました。第 2 回領域会議は、本領
域の実質的なスタートとしても意味あるも
のでありましたし、何よりそれぞれの研究
の喜びを共有することができました。今後、
実際に本領域での研究が進むことが楽し
みであり、新たな潮流をうみだせるだろう
と大いに期待しています。領域内の研究
者間のインターラクションを更に強め、哺
乳類初期胚の研究が飛躍的に進められ
るよう頑張りたいと思いますので、皆様の
ご協力よろしくお願いします。
領域 HP: http://www.nibb.ac.jp/cellcom/
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
上野 直人(公募研究 A01)
自然科学研究機構基礎生物学研究所 教授
〒444-8585 岡崎市明大寺町字西郷中 38
TEL: 0564-55-7570, FAX: 0564-55-7571 e-mail: [email protected]
略歴
昭和 59 年 3 月
昭和 59 年 4 月
平成元年 10 月
平成 5 年 4 月
平成 9 年 5 月
筑波大学大学院博士課程農学研究科修了
米国ソーク研究所神経内分泌研究室研究員
筑波大学応用生物化学系・講師
北海道大学薬学部・教授(生体機能化学講座)
岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所・教授
(発生生物学系・形態形成研究部門)
平成 16 年 4 月 自然科学研究機構基礎生物学研究所・教授
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
本領域では、着床前に致死となる Prickle2 遺伝子欠損マウスの表現型を、分子の細胞内動態に焦点を当てて
細胞生物学的に解析し、着床前胚における細胞極性確立のしくみを探っていきたいと考えています。また、当研
究室では、アフリカツメガエル胚を用いた細胞極性形成における微小管ダイナミクスの解析手法などを確立して
いるので、モデル生物を超えた機能解析も行う計画です。
代表的な研究業績:
1. Morita, H., Nandadasa, S., Yamamoto, T.S., Terasaka-Iioka,C., Wylie, C., & *Ueno, N. Nectin-2 and N-cadherin
interact through extracellular domains and induce apical accumulation of F-actin in apical constriction of
Xenopus neural tube morphogenesis. Development 137: 1315-1325 (2010)
2. Shindo, A., Hara, Y., Yamamoto, T.S., Ohkura, M., Nakai, J., and *Ueno, N. Tissue-tissue interaction-triggered
calcium elevation is required for cell polarization during Xenopus gastrulation. PLoS One 5, e8897 (2010)
3. Tao, H., Suzuki, M., Kiyonari, H., Abe, T., Sasaoka, T. & *Ueno, N. Mouse prickle1, the homolog of a PCP gene,
is essential for epiblast apical-basal polarity. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106:14426-14431 (2009)
4. Shindo, A., Yamamoto, T. S. & *Ueno, N. Coordination of cell polarity during Xenopus gastrulation. PLoS ONE
3(2), e1600 (2008)
5. Chung, H. A., Yamamoto, T. S. & *Ueno, N. ANR5, an FGF Target Gene Product, Regulates Gastrulation in
Xenopus. Curr. Biol. 17, 932-939 (2007)
6. Ogata, S. Morokuma, J. Hayata, T. Kolle, G. Niehrs, C. *Ueno, N. & *Cho, K. W. TGF-beta signaling-mediated
morphogenesis: modulation of cell adhesion via cadherin endocytosis. Genes Dev. 21, 1817-1831 (2007)
7. Hyodo-Miura, J., Yamamoto, T. S., Hyodo, A. C., Iemura, S., Kusakabe, M., Nishida, E., Natsume, T. & *Ueno, N.
XGAP, an ArfGAP, is required for polarized localization of PAR proteins and cell polarity in Xenopus
gastrulation. Dev. Cell 11, 69-79 (2006)
3
研究課題名:マウス初期胚における細胞極性形跡機構の細胞生物学的解析
哺乳類における受精卵は 8 細胞期、桑実胚期を経て胚盤胞期になり、栄養外胚葉層と内部細胞塊という異なる
細胞集団へと分化を遂げ、その後着床します。この初期発生過程で 8 細胞期後期(コンパクション)に細胞内に
極性が生じ、これらが細胞運命を決定するというモデルが提唱されています。先行研究により、細胞極性形成に
関わる因子群が頂端部、基底側に非対称に局在することはすでに知られています。しかしながら、8 細胞期にど
のように機能タンパク質の分配がなされるのか、また、細胞内での骨格の再構成がどのように変化し極性を有
する栄養外胚葉層を形成するのかについてはいまだに不明です。
我々は平面内細胞極性の形成に必須の Prickle 遺伝子に着目し、マウス、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ
などを用いて発生過程におけるその機能の重要性や多様性について明らかにしてきました。現在、関連遺伝子
産物である Prickle2 遺伝子破壊マウスの表現型の解析を行っており、Prickle2 欠損マウス胚は着床前に致死と
なるという興味深い事実を発見したことが本研究の基盤となっています。目的は極性を司る機能タンパク質の分
配システムについて明らかにすると同時に、Prickle タンパク質の細胞内における挙動に着目し、核-細胞質のシ
ャトリングの調節機構を明らかにすることです。
本研究では、ライブイメージング技術、画像解析技術を積極的に取り入れ、マウス胚葉形成の基本的機構を明
らかにしていきたいと考えています。また、我々はアフリカツメガエル胚を用いて、分子や細胞の挙動をマウス胚
と比較するなどの実験も計画しています。
*上野先生は、別途、計画研究者として申請されていた新学術領域研究が採択された関係で、本領域研究に
ける公募研究を辞退されました。
細胞運命決定の細胞機構を探る‐‐‐‐細胞が極性化する仕組みは?‐‐‐‐
極性形成に基づいた細胞運命決定の仕組みを明らかにする
Apical membrane
8細胞期 16細胞期
細胞骨格の再構成 細胞極 性因 子群の
頂底側への局在化 Basolateral membrane
Prickle2タンパクの核‐細胞質間シャトリングの
調節機構を明らかにする
Prickle2
Prickle2
細胞運命決定因子
(Tead‐Yap, Cdx2) 胚葉形成 8細胞期 胚盤胞期
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
遠藤 充浩 (公募研究 A01)
独立行政法人 理化学研究所
免疫・アレルギー科学総合研究センター
免疫器官形成研究グループ 研究員
〒230-0045 神奈川県横浜市鶴見区末広町 1 丁目 7 番 22 号
TEL: 045-503-7096, FAX: 045-503-9688, e-mail: [email protected]
略歴
平成 8 年 3 月 京都大学理学部卒業
平成 10 年 3 月 京都大学大学院理学研究科修士課程(生物科学専攻)修了(山岸秀夫教授)
平成 15 年 3 月 京都大学大学院理学研究科博士課程(生物科学専攻)修了(西川伸一教授)
平成 14 年 11 月 (独)理化学研究所 研究員(古関明彦グループディレクター)
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
これまで哺乳類初期胚におけるエピジェネティクスの役割に興味を持ち、クロマチン制御因子であるポリコーム
群の改変マウスと ES 細胞を用いて解析してきました。本研究では栄養外胚葉や原始内胚葉におけるポリコー
ム群の役割を明らかにしていきたいと思います。クロマチン免疫沈降とアレイ実験を組み合わせたゲノムワイド
解析には精通している方だと思います。
代表的な研究業績:
1.
Ku M, Koche RP, Rheinbay E, Mendenhall EM, Endoh M, Mikkelsen TS, Presser A, Nusbaum C, Xie X, Chi A,
Adli M, Kasif S, Ptaszek LM, Cowan CA, Lander ES, Koseki H, Bernstein BE. Genomewide Analysis of PRC1
and PRC2 Occupancy Identifies Two Classes of Bivalent Domains. PLoS Genet. 4:e1000242, 2008.
2.
*Endoh M, Endo TA, Endoh T, Fujimura Y, Ohara O, Toyoda T, Otte AP, Okano M, Brockdorff N, Vidal M,
Koseki H. Polycomb group proteins Ring1A/B are functionally linked to the core transcriptional regulatory
circuitry to maintain ES cell identity. Development. 135:1513-1524, 2008.
3.
Calés C, Román-Trufero M, Pavón L, Serrano I, Melgar T, Endoh M, Pérez C, Koseki H, Vidal M. Inactivation
of the polycomb group protein Ring1B unveils an antiproliferative role in hematopoietic cell expansion and
cooperation with tumorigenesis associated with Ink4a deletion. Mol Cell Biol. 28:1018-1028, 2008.
4.
Elderkin S, Maertens GN, Endoh M, Mallery DL, Morrice N, Koseki H, Peters G, Brockdorff N, Hiom K. A
Phosphorylated Form of Mel-18 Targets the Ring1B Histone H2A Ubiquitin Ligase to Chromatin. Mol Cell.
28:107-120, 2007.
5.
Sato T, Endoh M, Yoshida H, Yasuo S, Katsuno T, Saito Y, Isono K, Koseki H. Mammalian Polycomb
complexes are required for Peyer's patch development by regulating lymphoid cell proliferation. Gene.
379:166-174, 2006.
6.
Fujimura Y, Isono K, Vidal M, Endoh M, Kajita H, Mizutani-Koseki Y, Takihara Y, van Lohuizen M, Otte A,
Jenuwein T, Deschamps J, Koseki H. Distinct roles of Polycomb group gene products in transcriptionally
repressed and active domains of Hoxb8. Development. 133:2371-2381, 2006.
7.
de Napoles M, Mermoud JE, Wakao R, Tang YA, Endoh M, Appanah R, Nesterova TB, Silva J, Otte AP, Vidal
M, Koseki H, Brockdorff N. Polycomb group proteins Ring1A/B link ubiquitylation of histone H2A to heritable
5
8.
gene silencing and X inactivation. Dev Cell. 7:663-676, 2004.
9.
*Endoh M, Ogawa M, Orkin S, Nishikawa S. SCL/tal-1-dependent process determines a competence to
select the definitive hematopoietic lineage prior to endothelial differentiation. EMBO J. 21:6700-6708, 2002.
研究課題名: クロマチン制御因子ポリコーム群と転写因子のクロストークによる胚体外組織発生の制御
ポリコーム群はショウジョウバエからヒトまで保存されたクロマチン制御因子であり、ヒストン修飾を介して転写抑
制に寄与すると考えられています。ポリコーム群 Ring1A/B のノックアウトマウスは着床直後に死亡します。また
Ring1A/B は ES 細胞において、多くの発生制御遺伝子の抑制を介してその未分化性の維持に寄与することを私
たちは明らかにしてきました。一方で、Ring1A/B のノックアウトマウスでは胚体外組織の発生にも異常が生じる
ことが分かりました。本研究では、ポリコーム群により栄養外胚葉の発生分化がどの様に制御されるのか、栄養
外胚葉由来の幹細胞である TS 細胞を用いた解析を通して、その分子メカニズムの解明を目指します。栄養外
胚葉の発生や TS 細胞の未分化性維持に重要な転写因子 Cdx2 や Eomes は、ポリコーム群の代表的な標的遺
伝子でもあります。これら転写因子とポリコーム群が、お互いにどの様に作用しあいながら栄養外胚葉の発生を
制御しているのかという観点で研究を進めて行きます。また本研究ではポリコーム群による原始内胚葉の発生
分化の制御メカニズムの解明も目指します。
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
木村 啓志 (公募研究A02)
東京大学 生産技術研究所 特任助教
〒153-8505 目黒区駒場 4-6-1-Fw601
TEL: 03-5452-6213, FAX: 03-5452-6213, e-mail: [email protected]
略歴
平成14年 3月
平成16年 3月
平成19年 9月
平成19年10月
平成21年 4月
法政大学工学部 卒業
法政大学大学院工学研究科修士課程(電気電子工学専攻)修了
東京大学大学院工学系研究科博士課程(環境海洋工学専攻)修了
東京大学生産技術研究所 特任研究員
東京大学生産技術研究所 特任助教
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
TAS(Micro Total Analysis Systems)と呼ばれる研究分野で、細胞を培養し、アッセイするための「マイクロ流体
デバイス」の開発を進めています。マイクロ流体デバイスは、数十ミクロンから数百ミクロンサイズの流路構造の
中で様々な化学・生化学反応を行うことを目的として発展してきたツールですが、微小な空間とその環境を精密
に制御することによって、in vivo環境を模倣したり、微小空間特有の物理現象を利用して局所的な刺激を与えた
りすることができるため、新たな細胞アッセイ系として期待されています。私自身、ここ数年は、マイクロ流体デバ
イスを使った哺乳類胚やES/iPS細胞の培養研究を進めており、本新学術領域はこれまでに培った知見を基盤と
して、新たな理解を得るための絶好のチャンスだと考えています。また、皆様に新しいアッセイツールとしてマイ
クロ流体デバイスに興味を持っていただき、有機的な共同研究を進めることができれば幸いです。
代表的な研究業績:
1.
H. Kimura, M. Nishikawa, T. Yamamoto, Y. Sakai, T. Fujii, Microfluidic Perfusion Culture of Human
Hepatocytes, Journal of Robotics and Mechatronics, 19, 5, 550-556, 2007
2.
H. Nakayama, H. Kimura, K. Komori, T. Fujii Y. Sakai, Development of a Multi-Compartment Micro-Cell
Culture Device as a Future on-Chip Human: Fabrication of a Three-Compartment Device and
Immobilization of Rat Mature Adipocytes for the Evaluation of Chemical Distributions, Journal of Robotics
and Mechatronics, 19, 5, 544-549, 2007
3.
H. Kimura, T. Yamamoto, H. Sakai, Y. Sakai, T. Fujii, An Integrated Microfluidic System for Long-term
Perfusion Culture and On-line Monitoring of Intestinal Tissue Models, Lab on a Chip, 8, 5, 741-746, 2008
4.
T. Nojima, H. Kimura, T. Fujii, Cell-free Protein Synthesis Conducted by Template DNA with Repetitive
Sequence, Chemistry Letters, 37, 6, 648-649, 2008
5.
T. Nojima, T. Yamamoto, H. Kimura, T. Fujii, Polymerase chain reaction-based biochemical logic gate coupled
with cell-free transcription/ translation of green fluorescent protein as a report gate, Chemical
Communications, 28, 32, 3771-3773, 2008
6.
木村啓志,中山秀謹,山本貴富喜,酒井康行,藤井輝夫,体内毒性試験へ向けたオンチップ小腸-肝臓由
来細胞共培養システムの開発,電気学会論文誌 E,129, 8, 245-251, 2009
7
7.
木村啓志,中村寛子,岩井孝介,山本貴富喜,竹内昌治,藤井輝夫,酒井康行,ダイナミックマイクロアレ
イを用いた受精卵操作の自動化の試み,電気学会論文誌 E,129, 8, 252-258, 2009
8.
H. Kimura, H. Nakamura, T. Akai, T. Yamamoto, H. Hattori, Y. Sakai, T. Fujii, On-chip Individual Embryo
Coculture with Microporous Membrane-supported Endometrial Cells, IEEE Transactions on NanoBioscience,
8, 4, 318-324, 2009
研究課題名:マイクロ流体技術を応用した哺乳類胚アッセイプラットフォームの構築
哺乳類胚が持つ高度な発生システムを調べるためには,胚を限りなくin vivoに近い環境で培養しつ
つ,その任意の部位に与えた様々な因子による刺激が,胚内の細胞コミュニティにどのように影響
するか,あるいはその刺激が胚の発生にどのように関与するかをin vitroで総合的に分析するよう
なプラットフォームが必要であると考えられます。そこで本計画研究では,マイクロ流体デバイス
技術を応用し,微小空間内に固定化した哺乳類胚に対して時間的・空間的に制御された液性因子の
暴露が可能で,なおかつ逐次的に胚の挙動を観察可能なシステムの構築することを目指します。
外部環境として主に液性因子に着目し,1)液性因子の空間的変化,2)液性因子の時間的変化,
これら二つの変化を微小空間内で独立,あるいは複合的に制御することでシーケンシャルな環境を
形成するシステムの構築を行います。当該研究期間では,マイクロデバイス開発に主眼をおきつつ,
局所的な刺激を与えた場合のマウス胚の発生挙動の観察・解析を行い,その評価を進めながら哺乳
類初期胚アッセイプラットフォームとしての必要性と意義を示す予定です。このようなプラットフ
ォームが実現されれば,胚内細胞の研究から胚全体をシステムととらえた統合的な研究が可能とな
り,発生研究のための新規のアプローチとして今後の発生生物学の発展に広範な応用が期待できま
す。
哺乳類胚アッセイプラットフォームの構築
・マイクロ流体デバイスのコンポーネント
・液性因子の制御
統合
新規アッセイ
プラットフォームの構築
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
國府 力 (公募研究 A02) 大阪大学先端科学イノベーションセンター特任准教授
〒565ー0871 吹田市山田丘2ー2 大阪大学大学院医学系研究科環境生体機能学(H3)
TEL: 06-6879-3262,
FAX: 06-6879-3266,
e-mail: [email protected]
略歴
昭和 61 年 3 月 東京大学工学部金属工学科 卒業
平成 4 年
3 月 大阪大学医学部専門課程 卒業
平成 11 年 3 月 大阪大学大学院医学系研究科博士課程(小児科学専攻) 修了
平成 11 年 4 月 ドイツ国立 GSF 研究所 客員研究員(Rudi Balling 教授)
平成 14 年 4 月 科学技術振興事業団 研究員(大阪大学、濱田博司教授)
平成 16 年 4 月 大阪大学先端科学イノベーションセンター 助手(竹田潤二教授)
平成 21 年 11 月
同 特任准教授
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
トランスポゾンを用いたマウスゲノム・エンジニアリングの技術開発を行っています。ゲノムの中を自由に跳び回
ることができるトランスポゾンは、機能ゲノミクスの汎用ツールとして大きな可能性を秘めています。
代表的な研究業績:
1.
*Kokubu C., Horie K., Abe K., Ikeda R., Mizuno S., Uno Y., Ogiwara S., Ohtsuka M., Isotani A., Okabe M., Imai
K. and Takeda J. A transposon-based chromosomal engineering method to survey a large cis-regulatory
landscape in mice. Nature Genetics (2009); 41: 946-952. (* Co-corresponding author).
2.
Ikeda R, Kokubu C, Yusa K, Keng VW, Horie K, Takeda J. Sleeping beauty transposase has an affinity for
heterochromatin conformation. Mol Cell Biol. (2007); 27:1665-76.
3.
Keng VW, Yae K, Hayakawa T, Mizuno S, Uno Y, Yusa K, Kokubu C, Kinoshita T, Akagi K, Jankins NA,
Copeland NG, Horie K, and Takeda J. Region-specific saturation germline mutagenesis in mice using the
Sleeping Beauty transposon system. Nature Methods (2005); 2: 763-769.
4.
Kokubu C, Heinzmann U, Kokubu T, Sakai N, Kubota T, Kawai M, Wahl MB, Galceran J, Grosschedl R, Ozono
K and Imai K. Skeletal defects in ringelschwanz mutant mice reveal that Lrp6 is required for proper
somitogenesis and osteogenesis. Development (2004); 131: 5469-5480.
5.
Kokubu C, Wilm B, Kokubu T, Wahl M, Rodrigo I, Sakai N, Santagati F, Hayashizaki Y, Suzuki M, Yamamura K,
Abe K, Imai K. Undulated short-tail deletion mutation in the mouse ablates Pax1 and leads to ectopic
activation of neighboring Nkx2-2 in domains that normally express Pax1. Genetics. (2003);165: 299-307.
9
研究課題名:初期発生におけるクロマチン制御のリアルタイム解析
哺乳類の初期発生は、細胞集団がその数を増しながらコミュニティーを形成してゆく過程ととらえることがで
きます。発生途上の細胞には、コミュニティーからの入力情報を一時的に格納し、適切に変換したのち、再びコミ
ュニティーに対して出力を行うワーキングメモリのしくみが必要です。それでは、何がこのワーキングメモリの機
能を担っているのでしょうか。
コミュニティーに参加する全ての細胞は、核内に同一セットのゲノム DNA を持つにもかかわらず、時期や部
位に応じて、異なる遺伝子を異なるタイミングで ON/OFF し、異なる個性を獲得することができます。ゲノムを見
ると、発生に関わる重要遺伝子群(転写因子や成長因子など)は概して長大なシス制御領域を持ち、関連する
遺伝子同士でクラスターを形成する傾向があります。このような広いゲノム領域の ON/OFF を精密にコントロー
ルするためには、遠く離れた位置にあるシスエレメントが遺伝子プロモーターと適切に相互作用できるよう、ゲノ
ム DNA と核蛋白の複合体であるクロマチンが核内で立体的なループ構造をとり、近づいたり離れたりしながらダ
イナミックに変動していると考えられています。そこで本研究では、変動するクロマチンの 3 次元構造が細胞コミ
ュニティーにおけるワーキングメモリーの機能を担うという観点から、初期発生におけるクロマチン制御の実相を
リアルタイムに解析し、その役割を明らかにすることを目的とします。
研究方法としては、「動く遺伝子」と呼ばれるトラン
スポゾンを活用します。サケ科の魚に由来する
Sleeping Beauty トランスポゾンは、ゲノム上の近傍に
転移しやすい傾向(ローカルホッピング特性)を示しま
す。私たちはこれを利用して、マウスの目的のゲノム
領域を集中的にスキャンできるローカルホッピング・
ベクターシステム(図1)を確立しました。
本研究では、エンハンサー活性を検出するための
発光レポーターをトランスポゾンに組み込み、発生過
程におけるレポーター発現の変動をゲノム上の位置
をずらしながらリアルタイムに計測します。エンハンサ
ー活性の変化を位置と時間の関数で定量するこの新
しい試みにより、ダイナミックなクロマチンの動きや核内転写ファクトリーとの位置関係を探ります(図2)。さらに、
トランスポゾンに組み込む機能エレメントを工夫し、
クロマチンの3次元構造を把握するための新しい手
法を開発します。
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
杉本
道彦(公募研究 A01) 独立行政法人理化学研究所
バイオリソースセンター 開発研究員
〒305-0074 茨城県つくば市高野台 3-1-1
TEL: 029-836-9198, FAX: 029-836-9199, e-mail: [email protected]
略歴
平成 10 年 3 月 北海道大学理学部生物科学科 卒業
平成 12 年 3 月 北海道大学大学院地球環境科学研究科修士課程
(生態環境科学専攻) 修了
平成 15 年 3 月 北海道大学大学院地球環境科学研究科博士後期課程
(生態環境科学専攻) 修了
平成 15 年 4 月 理化学研究所バイオリソースセンター
動物変異動態解析技術開発チーム 開発研究員
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
私はこれまで genetics および epigenetics の分野を中心に研究を行ってきました。その過程で、各ステージのマ
ウス胚操作技術(受精後から出生までの全ステージ)を習得し、特に着床期胚(E4.0-E6.0)の操作(胚回収、三
胚葉分離、抗体染色等)を得意としています。また、single-cell RT-PCR など微量サンプルを用いた発現解析の
経験も有しています。発生学研究とは少し離れた技術ですが、FISH 法や染色体解析なども一通り行うことがで
きます。私の技術・経験が何らかの形で班員の皆様のお役に立てられればと思っています。
代表的な研究業績:
1.
Cao L, *Shitara H, Sugimoto M, Hayashi J, Abe K, Yonekawa H. New evidence confirms that the
mitochondrial bottleneck is generated without reduction of mitochondrial DNA content in early primordial
germ cells of mice. PLoS Genet. 5(12):e1000756, 2009
2.
Mise N, Fuchikami T, Sugimoto M, Kobayakawa S, Ike F, Ogawa T, Tada T, Kanaya S, Noce T, *Abe K.
Differences and similarities in the developmental status of embryo-derived stem cells and primordial germ
cells revealed by global expression profiling. Genes to Cells 13 (8):863-877, 2008
3.
Sugimoto M, *Abe K. X chromosome reactivation initiates in nascent primordial germ cells in mice. PLoS
Genet. 3(7):e116, 2007
4.
*Abe K, Yuzuriha M, Sugimoto M, Ko MSH, Brathwaite M, Waeltz P, Nagaraja R. Gene content of the 750-kb
critical region for mouse embryonic ectoderm lethal tcl-w5. Mamm. Genome 15:265-276, 2004
5.
Sugimoto M, Karashima Y, Abe K, Tan S-S, *Takagi N. Tetraploid embryos rescue the early defects of tw5/tw5
mouse embryos. genesis 37:162-171, 2003
6.
Sugimoto M, Tan S-S, *Takagi N. X chromosome inactivation revealed by the X-linked lacZ transgene
activity in periimplantation mouse embryos. Int. J. Dev. Biol. 44(2):177-182, 2000
11
研究課題名:マウス胚性致死変異体より同定された Vps52 のシグナル関連遺伝子としての役割
哺乳類初期発生は細胞間の相互作用を介して柔軟に、かつ厳密に統制されて進行します。この初期発生を総
体として理解するうえで、細胞間/組織間シグナル伝達に破綻を来す変異体を用いた解析は重要な情報をもた
らすと考えられます。私がこれまでに解析を進めてきた胚性致死変異、tw5 は胚体外組織−胚体組織間の相互
作用不全が原因で初期胚における胚体組織の発生・分化に異常を来すことが分かってきました。そして、ポジシ
ョナルクローニングによりこの変異の責任遺伝子が細胞内物質輸送を担う経路に関与する Vps52 であることを
突き止めました。Vps52 の初期発生における機能は全く分かっていませんが、シグナルタンパク質を細胞から細
胞へ受け渡す際に重要な役割を担っている可能性が高いと考えられます。本研究では、VPS52 がどのようなタ
ンパク質と相互作用し、どのように初期発生を制御するのかを明らかにすることを目指します。
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
高岡 勝吉
(公募研究 A01)
大阪大学 大学院生命機能研究科 助教
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘 1-3 TEL 06-6879-7994 FAX06-6878-9846
E-mail:[email protected]
略歴
平成 16 年 3 月 同志社大学工学部機能分子工学科 卒業
平成 19 年 4 月 日本学術振興会特別研究員 (大阪大学 濱田博司教授)
平成 21 年 3 月 大阪大学 大学院生命機能研究科 博士一貫過程 修了 (大阪大学
濱田博司教授)
平成 21 年 4 月 大阪大学 大学院生命機能研究科 助教(大阪大学 濱田博司教授)
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
細胞一個への遺伝子異所的発現といった着床期前後のマウス初期胚を操作する技術を提供できます。ま
た、最近では得られるデータの見た目の「美しさ」と「動くこと」に魅了されて、マウス胚の経時観察を少しかじり
始めております。
一線で活躍されている先生方ばかりの当領域に加えて頂き、感激している反面、恐縮しています。研究のこ
とは勿論ですが、研究者としてどのようなスタンス・考えでやっていらっしゃるか学ぶ良い機会だと思っていま
す。「若さ」しかありませんが、当領域の発展に貢献したいと思っていますので、宜しくお願い致します。
代表的な研究業績:
1. Antagonism between Smad1 and Smad2 signaling regulates formation of the distal visceral endoderm in the
mouse embryo. *Yamamoto M, Beppu H, Takaoka K, Meno C, Li E, Miyazono K, *Hamada H.
Jounal of Cell Biology, vol.184(2), 324-334, 2009
2. Removal of maternal retinoic acid by embryonic CYP26 for correct Nodal regulation during early embryonic
patterning. Uehara M, Yashiro K, Takaoka K, Yamamoto M, *Hamada H.
Genes and Development, vol.23(14), 1689-98, 2009
3. Origin of body axes in the mouse embryo.
Takaoka K, Yamamoto M, *Hamada H.
Current Opinion in Genetics & Development, vol.17, 344-350, 2007
4. The mouse embryo autonomously acquires anterior-posterior polarity at implantation.
Takaoka K, Yamamoto M, Shiratori H, Meno C, Rossant J, Saijoh Y, Hamada H.
Developmental Cell, vol.10, 451-459, 2006
13
研究課題名: マウス胚における前後軸の起源
我々ヒトやマウスといった哺乳類は、分裂期胚が高い操作性や適応能を備えることから、卵子や受精卵の
時期は分子レベルの非対称情報を獲得しておらず、その後の発生段階で獲得するであろうと一般的に考えら
れている。では、哺乳類胚において、極性が‘無’の状態から‘有’の状態へ移行するイベント「極性のビッグバ
ン」はいつどのようにして起こるのだろうか?
申請者は哺乳類胚が極性を獲得する「極性のビッグバン」のメカニズムを解明すべく、第一段階として、マウ
ス胚の三つの体軸の内、一番早期に形成され、その他の背腹・左右軸の形成の基となる前後軸に着目した。そ
してこれまでに、受精後 5.5 日胚であると考えられてきた前後軸の起源は、少なくとも受精後 4.5 日胚における
Lefty1 発現細胞まで遡れることを発見した(Takaoka et al., 2006, unpublished)。しかし、4.5 日胚の Lefty1 の発現
制御機構や機能はまだ明らかになっていない。
本研究においては、発生段階で起こる「哺乳類胚の極性の獲得機構」の解明を最終目標に、第一段階として
「前後軸の起源」を解明する。具体的には、前後軸決定に関わる Lefty の発現制御機構と機能の解析を二本柱
として、①Lefty1 が 4.5 日胚で一部の細胞に限局する機構、②前後軸形成における Lefty の役割を明らかにした
い。
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
竹本 龍也
(公募研究 A01)
大阪大学大学院 生命機能研究科 助教
〒565-0871 吹田市山田丘 1-3
TEL: 06-6879-7964, FAX: 06-6877-1738, e-mail:[email protected]
略歴
平成 11 年 3 月 大阪大学理学部 卒業
平成 13 年 3 月 大阪大学大学院理学研究科 博士前期課程(化学専攻) 修了
平成 17 年 12 月 大阪大学大学院理学研究科 博士後期課程(生物科学専攻)修了
平成 17 年 10 月 大阪大学大学院生命機能研究科 特任助手(近藤寿人教授)
平成 20 年 4 月 大阪大学大学院生命機能研究科 助教(近藤寿人教授)
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
とりわけスペシャルな技術ではありませんが、エンハンサー解析をやってきました。また、マウス胚を用いた発
生工学(トランスジェニックマウス、ノックアウトマウスの作成など)と、ニワトリ胚を用いた発生学実験(エレクトロ
ポレーションによる遺伝子導入、細胞移植などの胚操作など)ができます。
おもしろい研究をされている方々ばかりの班に参加させていただき、ありがたく思っています。多くのことを学ば
せていただきたいと思っています。よろしくお願いします。
代表的な研究業績:
1. Kamachi Y., Iwafuchi M., Okuda Y., Takemoto T., Uchikawa M., Kondoh H. Evolution of non-coding regulatory
sequences involved in the developmental process: reflection of differential employment of paralogous genes
as highlighted by Sox2 and groupB1 Sox genes. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 85(2) (2009): 55-68.3
2. Takemoto T., Uchikawa M., Kamachi Y., Kondoh H. Convergence of Wnt and FGF signals in the genesis of
posterior neural plate through activation of the Sox2 enhancer N -1. Development, 133 (2006): 297 -306.
3. Uchikawa M., Takemoto T., Kamachi Y., Kondoh H. Efficient identification of regulatory sequences in the
chicken genome by a powerful combination of embryo electroporation and genome comparison. Mech Dev.
121 (2004): 1145 -58.
4. Uchikawa M., Ishida Y., Takemoto T., Kamachi Y., Kondoh H. Functional analysis of chicken Sox2 enhancers
highlights an array of diverse regulatory elements that are conserved in mammals. Dev Cell. 4 (2003): 509
-19.
5. Uchikawa M, Takemoto T. Enhancer analysis: Strategies for locus-wide identification and systematic analysis
of enhancers using chicken embryo electroporation. Electroporation and Sonoporation in Developmental
Biology. (2009): 55 - 72.
6. Moriguchi K., Takemoto T., Aoki T., Nakakita S., Natsuka S., Hase S. Free oligosaccharides with Lewis x
structure expressed in the segmentation period of zebrafish embryo. J. Biochem. 142 (2007): 213 -227.
7. Takemoto T., Natsuka S., Nakakita S., Hase S. Expression of complex -type N-glycans in developmental
periods of zebrafish embryo. Glycoconj J. 22 (2005): 21 -26.
15
研究課題名:Stem zone へのシグナルの量的制御による、体軸伸長の分子基盤
Epiblast から神経系原基細胞がどういった機構で生みだされるのか?という問題を解明するために、神経系原
基のマーカーである Sox2 遺伝子を取り上げ、その転写制御機構の解析を行った。特に体幹部の神経板での
Sox2 遺伝子の発現開始に関わるエンハンサーN1 の活性化機構を解析した。その結果、Fgf と Wnt シグナルが
エンハンサーの活性化を介して神経系原基の成立に促進的に、また、BMP シグナルが抑制的に働いているとい
う結論を得た。しかしながら、同時に Fgf や Wnt シグナルは中胚葉の促進に関与しているという結果も得た。例え
ば Wnt3a 遺伝子変異マウスにおいて、Stem zone のすべての細胞が Sox2 を発現し、神経系原基へと発生し
てしまうことから、巨視的には Wnt シグナルは神経系原基に抑制的に作用する。私は、こういった一見矛盾する
結果がシグナル量(強さ)の違いによって複数の制御機構が使い分けられ細胞系列が生みだされるのではない
かと考えた。
そこで本研究では、Stem zone に存在する3つの細胞系列(共通前駆体細胞群・神経系へと発生する細胞群・
中胚葉へと発生する細胞群)がどのような分子機構を基盤として制御されているかを明らかにする。(1) シグナ
ル群によって制御される、それぞれの細胞系列を規定する因子群の同定と機能を明らかにする。それぞれの素
過程を解明するとともに、(2) シグナル量(強さ)の違いによって複数の制御機構が使い分けられ細胞系列が生
みだされるというモデルを検証しつつ研究を進める。
具体的には、個々の細胞の核における Wnt、BMP シグナルの授受状態を可視化できるレポーターシステムを、
蛍光タンパク質を用いて構築したいと考えている。Stem zone の個々の細胞が受け取ったシグナルの量(強さ)
を測定し、その細胞の系譜を追跡できる系を考えている。
シグナル群の量によって制御される細胞系列の決定機構
研究(2)
BMP シグナルの勾配
シグナル量の違いによって制御される細胞系
列未決定状態・神経系原基発生・中胚葉発生
Wnt シグナルの勾配
研究(1):シグナル群によって制御される、細胞
共通前駆体細胞群を維持する因子群
系列を規定する因子群の同定と機能
共通前駆体細胞
神経系原基細胞を作り出す因子群
Sox2 etc.
神経系原基細胞
中胚葉細胞を作り出す因子群
Tbx6 etc.
中胚葉細胞
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
田中 裕二郎 (公募研究 A01)
東京医科歯科大学大学院疾患生命科学研究部 准教授
〒113-8510 東京都文京区湯島 1-5-45
TEL: 03-5803-5823, FAX: 03-5803-0248, e-mail: [email protected]
略歴
昭和 63 年 3 月
九州大学医学部 卒業
平成 7 年 8 月
University College Londo PhD 課程(生物学)修了
平成 7 年 8 月
Centre d'Immunologie Marseille-Luminy 研究員
平成 10 年 10 月
千葉大学医学部免疫学教室 研究員
平成 12 年 4 月
National Institute for Medical Research (UK) 研究員
平成 15 年 4 月
東京医科歯科大学 現職
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
細胞内のヒストン修飾を検出する方法としては、特異的抗体によるクロマチン免疫沈降(ChIP)法がありますが、
ChIP 法は多くの細胞を必要とするため細胞単位でのヒストン修飾パターン解析には向きません。また、ChIP 解
析で検出されるヒストン修飾はそれまでに細胞が経験した様々な転写制御の記憶を切り取ったスナップショット
であり、その時点で細胞が進もうとしている方向について示唆を与えてくれるとは限りません。そこで私は、ヒスト
ン修飾パターンではなくヒストン修飾酵素の活性自体を解析したいと考え、メチル化標的となるリジンを含むペプ
チドを FRET (Fluorescence Resonance Energy Transfer)ペアで標識した幾つかのプローブを作成し、ヒストン修
飾酵素活性の新たな定量法を開発して来ました。本研究では、さらに様々な標的リジンとその修飾体を含むペ
プチドの合成と、蛍光波長の異なる蛍光色素によるラベリングを行うと共に、これらのプローブを用いて細胞内で
のヒストン修飾酵素活性を検出する方法を検討します。
代表的な研究業績:
1. Regulation of early T cell development by the PHD finger of histone lysine methyltransferase ASH1. Tanaka, Y,
Nakayama, Y, Taniguchi, M, Kioussis, D. Biochem Biophys Res Commun. 365(3):589-94. 2008
2. Mammalian trithorax-group protein ASH1 methylates histone H3 lysine 36. Tanaka Y, Z. Katagiri, K. Kawahashi,
D. Kioussis, S. Kitajima, Gene 397, 161-168, 2007
17
研究課題名:初期胚のヒストン修飾酵素活性をイメージングする
ヒストンのリジンメチル化に関わる酵素は基質特異性が極めて高く、哺乳類では数多くのリジンメチル基転移酵
素と脱メチル化酵素が存在することが知られています。その基質特異性に関しては、in vitro での活性がどこま
で in vivo を反映するかという疑問がある一方で、in vivo では一つのリジンに対して複数のメチル化・脱メチル化
酵素が存在し、かつ一つのリジンの修飾状態が他のリジンの修飾に影響するため、特定の修飾酵素の直接的
作用を明らかにすることは容易ではないという問題があります。実際、ショウジョウバエでは ASH1 遺伝子の変異
によってグローバルな K4 メチル化レベルが低下する一方 K36 メチル化は影響を受けないことから、長らく ASH1
は K4 メチル基転移酵素であると誤解されて来ました。このような理由から、私は in vivo でのクロマチン構造解析
にはこれまでのヒストン修飾パターンとは異なる新たな指標が必須であると考え、ヒストン修飾活性に着目しまし
た。FRET プローブによる in vitro の酵素活性定量法の技術基盤はこれまでの研究で確立できています。本研究
ではこの FRET プローブ法をマウス初期胚に応用し、更に蛍光波長の異なる複数プローブの多重染色によって、
ヒストン修飾酵素間の機能的相関を時間・空間軸の上で明らかにしたいと考えています。FRET プローブ法には、
ペプチドを基質とすることによる限界やエンドペプチダーゼの特異性に由来する問題がありますが、細胞レベル
での解像度という得難いメリットもあり、ゲノムレベルでの高い解像度を誇る ChIP 解析をマクロな視点から補うツ
ールとして意味があるかと思います。
リジンの修飾を感知する分子センサー
新しいクロマチン構造解析法の意義
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
田ノ上 拓自
(公募研究 A01)
神戸大学大学院 医学研究科 特命講師
〒650-0017 神戸市中央区楠町 7-5-1
神戸大学大学院医学研究科 膜生物学 G-COE(田ノ上研)
Tel: 078-382-5836, e-mail: [email protected]
URL: http://www.med.kobe-u.ac.jp/tanlab/
略歴
平成 8 年 3 月 京都大学理学部 卒業
平成 10 年 3 月 京都大学大学院理学研究科 修士課程修了
平成 13 年 3 月 京都大学大学院理学研究科 博士課程修了(理学博士)
平成 13 年 4 月 日本学術振興会特別研究員(京都大学大学院・西田栄介教
授)
平成 14 年 4 月 理化学研究所基礎科学特別研究員(CDB・竹市雅俊 GD)
平成 17 年 4 月 理化学研究所研究員(CDB・竹市雅俊 GD)
平成 19 年 10 月 神戸大学大学院医学研究科・G-COE 特命助教(研究室主宰)
平成 21 年 10 月
同
特命講師(研究室主宰)
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
私は、主に分子・細胞生物学のフィールドで研究を進めてまいりました。特に、上皮細胞の形状制御における素
過程を解明するべく研究を進めております。専門は細胞生物学ですが、研究の手法は幅広く、分子生物学から、
ノックアウトマウスの解析(別の研究課題ですが)まで行っております。
代表的な研究業績:
1.
Nakajima H. and *Tanoue T.
Epithelial cell shape is regulated by Lulu proteins via myosin-II. J. Cell Sci. 123, 555-566. (2010).
2.
Ishiuchi T., Misaki K., Yonemura S., *Takeichi M., and *Tanoue T.
Mammalian Fat and Dachsous cadherins regulate apical membrane organization in the embryonic cerebral
cortex. J. Cell Biol. 185, 959-967. (2009).
19
研究課題名:原腸陥入におけるミオシン分子の制御機構と役割の解析
哺乳類初期発生において、極性上皮細胞の細胞シートが曲がる、撓むなどをして組織の形態が決定される。ま
た、極性上皮細胞のシートから細胞が逸脱することによって原腸陥入が引き起こされる。細胞シートが湾曲する
際や、原腸陥入の際には、湾曲している部分の細胞や逸脱する細胞は柱型からボトル型への形状変化を示す。
すなわち、細胞のアピカル細胞膜領域の面積が縮小し、側部の面積が増大する。個々の極性上皮様細胞の形
状制御機構の解明は、哺乳類初期発生の理解において必須の命題である。極性上皮細胞の形状制御はアクチ
ン骨格系のモーター分子である myosin II が制御していると考えられているが、myosin II がどのようにして制御さ
れているのか、および、myosin II の活性化によって細胞膜領域がどのようにして制御されているのかは明らかに
なっていない。本研究では、細胞生物学的アプローチを用いて、原腸陥入の際の細胞の形状変化の制御機構を
分子レベルで明らかにすることを目的とする。特に、myosin II の制御メカニズム、および myosin II の活性化によ
る細胞膜領域の制御機構を明らかにすることを目的とする。
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
柊
卓志(公募研究 A01)京都大学 物質–細胞統合システム拠点 特定拠点教授
〒606-8501 京都市左京区吉田牛ノ宮町
TEL: 075-753-9844, FAX: 075-753-9820, e-mail: [email protected]
略歴
平成 5 年 3 月 京都大学医学部医学科 卒業
平成 11 年 3 月 京都大学大学院医学研究科博士課程 修了
平成 12 年 7 月 日本学術振興会 研究員
平成 14 年 2 月 Max-Planck Institute of Immunobiology グループリーダー
平成 19 年 4 月 Max-Planck Institute for Molecular Biomedicine
インディペンデント グループリーダー
平成 20 年 4 月 京都大学 物質–細胞統合システム拠点 特定拠点教授
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
私たちは、分子・細胞生物学を包括的に用いながら、顕微鏡の開発や、数学、物理学的アプローチも試み、
必要なあらゆる手段を駆使して、生物を形作る上での細胞の振る舞いを理解することを目指しています。
世界に先駆けて開発したマウス初期胚ライブイメージング技術や 4D-ライブイメージングは、当研究室の最も
得意とするところです。さらに高精度、低侵襲の新規システムの開発にも取り組んでいます。
近年、マウス胚を用いた蛍光プロモータトラップスクリーニングや単一細胞レベルの遺伝子発現プロファイリン
グを確立していました。また、 コンピューターシミュレーションを用いて、構造・機械的観点から形態形成を理解
する試みも行っています。
代表的な研究業績:
1.
Honda, H., Motosugi, N., Nagai, T., Tanemura, M. and Hiiragi, T., “Computer simulation of emerging asymmetry
in the mammalian blastocyst.”, Development, 135(8), 1407-1414, 2008.
2.
Dietrich, J.-E. and Hiiragi, T., “Stochastic patterning in the mouse pre-implantation embryo.”, Development,
134(23), 4219-4231, 2007.
3.
Motosugi, N., Dietrich, J.-E., Polanski, Z., Solter, D. and Hiiragi, T., “Space asymmetry directs preferential
sperm entry in the absence of polarity in the mouse oocyte.”, PLoS Biology, 4(5), e135(799-804), 2006.
4.
Motosugi, N., Bauer, T., Polanski, Z., Solter, D. and Hiiragi, T., “Polarity of the mouse embryo is established at
blastocyst and is not prepatterned.”, Genes & Development, 19(9), 1081-1092, 2005.
5.
Hiiragi, T. and Solter, D. “First cleavage plane of the mouse egg is not predetermined but defined by the
topology of the two apposing pronuclei.”, Nature, 430(6997), 60-364, 2004.
21
研究課題名:新規遺伝子トラップによる、マウス初期胚パターン形成メカニズムの解明
本研究は、生殖医療、幹細胞技術の発展の基礎となる、哺乳類初期胚パターン形成メカニズムの理解のために
必須の、新たなマウスリソースの網羅的開発を目指しています。私たちは世界に先駆けてマウス初期胚ライブイ
メージングシステムを開発、その独自の技術を基に哺乳類特有の発生原理を提唱し、当分野にパラダイムシフト
をもたらしてきました。本研究では、新規蛍光遺伝子トラップスクリーニングにより、ライブイメージングと遺伝子
発現解析を同時に可能にする遺伝子変異マウス系統を樹立します。これにより、当研究室の利点を存分に生か
し、マウス初期胚でのダイナミックな細胞挙動のライブイメージング解析が可能になります。 具体的な目標は、
以下の通りです。
1. マウス胚に最初に確立する 3 細胞系譜(epiblast, primitive endoderm, trophectoderm)に特異的な発現パター
ンを示すレポーターマウスを樹立。
2. これらマウス系統を用いたライブイメージングにより、胚パターン形成メカニズムの解明。
このマウスリソースは、着床前後期や体軸形成期など、広範な分野において、細胞コミュニティーの時間、空間
的変化の解析に有用です。これら遺伝子組み換えマウスの包括的に整備により、哺乳類発生研究を新たな段
階へと導く原動力となることが期待されます。これまでドイツ・マックスプランク研究所ですでに当スクリーニング
を立ち上げ、運営に成功しています。
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
二木 杉子 (公募研究 A01)
大阪大学蛋白質研究所 助教
〒565-0871 吹田市山田丘 3-2
Tel: 06-6879-8618, Fax: 06-6879-8619, E-mail: [email protected]
略歴:
1995 年 3 月 大阪大学理学部生物学科 卒業
1997 年 3 月 名古屋大学大学院 人間情報学研究科 博士前期課程 修了
2000 年 10 月 名古屋大学大学院人 間情報学研究科 博士後期課程 修了
2000 年 11 月 名古屋大学環境医学研究所 研究機関研究員
2001 年 3 月 科学技術振興機構 ERATO 関口細胞外環境プロジェクト 研究員
2005 年 1 月 大阪大学蛋白質研究所 助教
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
「細胞外マトリックス」には近年いろんな意味で注目が集まっており、中でも再生医療の観点から幹細胞培養の
基質や細胞増殖・分化を制御する環境因子としての活用に期待が高まっています。しかし細胞外マトリックスを
構成する分子の実体や機能は未だ十分に理解されているとはいえない状況です。私はこれまで「細胞外マトリッ
クス研究室」(関口清俊教授)のもとで基底膜に注目し、その構成蛋白質の発現系構築、蛋白質間相互作用な
ど生化学的な解析、組織学的な局在解析などに携わってきました。特に基底膜の中核分子であるラミニンにつ
いては全 12 種類の組換え蛋白質発現系と特異抗体がそろっています。初期胚の発生において基底膜は組織
構築や細胞の挙動の制御に重要な役割を果たすと考えられます。どのような分子がどういったメカニズムでそこ
に関わっているのか?という疑問を、これまでに蓄積した基底膜蛋白質に関する知見や技術を駆使して解決し
ていきたいと思います。
代表的な研究業績:
1. Taniguchi, Y., Ido, H., Sanzen, N., Hayashi, M., Sato-Nishiuchi, R., Futaki, S., Sekiguchi, K. The
carboxyl-terminal region of laminin beta chains modulates the integrin binding affinities of laminins. J Biol
Chem. 284:7820-7831, 2009
2. Miyazaki, T., Futaki, S., Hasegawa, K., Kawasaki, M., Sanzen, N., Hayashi, M., Kawase, E., Sekiguchi, K.,
Nakatsuji, N., Suemori, H. Recombinant human laminin isoforms can support the undifferentiated growth of
human embryonic stem cells. Biochem Biophys Res Commun. 375:27-32, 2008
3. Fujiwara, H., Hayashi, Y., Sanzen, N., Kobayashi, R., Weber, C. N., Emoto, T., Futaki, S., Niwa, H., Murray, P.,
Edgar, D., Sekiguchi, K. Regulation of mesodermal differentiation of mouse embryonic stem cells by basement
membranes. J Biol Chem. 282:29701-29711, 2007
4. Futaki, S., Hayashi, Y., Emoto, T., Weber, C. N., Sekiguchi, K. Sox7 plays crucial roles in parietal endoderm
differentiation in F9 embryonal carcinoma cells through regulating Gata-4 and Gata-6 expression. Mol. Cell.
Biol. 24:10492-10503, 2004
5. Futaki, S., Hayashi, Y., Yamashita, M., Yagi, K., Bono, H., Hayashizaki, Y., Okazaki, Y., Sekiguchi, K. Molecular
basis of constitutive production of basement membrane components: Gene expression profiles of
Engelbreth-Holm-Swarm tumor and F9 embryonal carcinoma cells. J. Biol. Chem. 278:50691-50701, 2003
23
研究課題名:初期胚における基底膜の組成・動態・機能の解析
基底膜は薄いシート状の細胞外マトリックス構造で、上皮
細胞の基底部において細胞接着の足場、細胞外マトリック
ス受容体を介した細胞へのシグナル伝達、拡散性因子の
結合・保持など多彩な役割を果たすと考えられています。
マウス初期胚では、基底膜は外・中・内胚葉の間を隔てる
ように形成されます。基底膜蛋白質の遺伝子ノックアウト
などの結果から、基底膜はエピブラストの分化・生存に不可欠であることが示され
ました。私たちは、これまでにゲノム情報に基づいた探索から新規基底膜蛋白質
を同定し、40 種類をこえる基底膜蛋白質の特異抗体をそろえてマウス発生段階に
おける基底膜蛋白質の局在解析に取り組んできました(注。基底膜蛋白質はそれ
ぞれが発生段階や組織によって異なる局在パターンを示します。つまり、基底膜
の組成は部位や時期によって異なっており、それぞれの細胞に応じた環境を提供
すると考えられます。このような基底膜の分子組成
や細胞・液性因子との相互作用を解明することは、胚発生における細胞の動態を
理解する上で非常に重要です。しかし初期胚での基底膜蛋白質の分布や細胞分
化・形態形成における役割は部分的にしか解析されていません。本研究では、(1)
初期胚基底膜の蛋白質組成を免疫組織染色レベルで明らかにするとともに、(2)
基底膜の中核分子であるラミニンの遺伝子ノックアウトマウスや ES 細胞を利用し
て、基底膜の存在やその組成が初期胚の細胞分化・形態形成に果たす役割を in
vivo, in vitro で解析することを目指します。特に BMP, Wnt, FGF などの分化誘導
因子と基底膜か
らのシグナルと
の協調効果について注目し、検討を行います。
また、(3)基底膜蛋白質のライブイメージング技
術を開発することで、細胞の挙動に対応した基
底膜の形成・分解や組成の変化を、これまでに
ない動的な視点から解析していきたいと考えて
います。
(注
E16.5 における基底膜蛋白質の局在パターンについては「基底膜ボディマップデータベース」としてインターネ
ット上に公開しています (http://www.matrixome.com/bm)
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
松尾 勲 (公募研究 A01)
大阪府立母子保健総合医療センター研究所 部長
〒594-1101 大阪府和泉市室堂町840
Tel : 0725-56-1220 (内)5401
Fax : 0725-57-3021
e-mail: [email protected]
略歴
昭和 63 年 3 月
平成 2 年 3 月
平成 5 年 3 月
平成 5 年 4 月
平成 6 年 4 月
平成 10 年 11 月
平成 14 年 4 月
平成 17 年 4 月
国際基督教大学教養学部 卒業
京都大学大学院理学研究科修士課程生物物理学専攻修了
京都大学大学院理学研究科博士後期課程生物物理学専攻修了
日本学術振興会特別研究員(PD)
熊本大学 医学部 (付属遺伝発生医学研究施設) 助手
熊本大学 発生医学研究センター 助教授
理化学研究所 (CDB) 上級研究員
大阪府立病院機構 大阪府立母子保健総合医療センター研究所
部長
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
ほ乳動物発生を対象として、発生生物学、遺伝学、分子生物学分野の手法を用いて解析を行ってきました。得
意な分野は、発生過程における分子の発現と機能の解析です。
代表的な研究業績:
1) Hiramatsu R, Harikae K, Tsunekawa N, Kurohmaru M, Matsuo I, Kanai Y. FGF signaling directs a center-to-pole
expansion of tubulogenesis in mouse testis differentiation. Development 137, 303-312 (2010)
2) Sugiyama S, Di Nardo AA, Aizawa S, Matsuo I, Volovitch M, Prochiantz A, Hensch TK. Experience-dependent
transfer of Otx2 homeoprotein into the visual cortex activates postnatal plasticity. Cell 134, 508-520 (2008)
3) Kimura-Yoshida C, Tian E, Nakano H, Amazaki S, Shimokawa K, Rossant J, Aizawa S Matsuo I. Crucial roles
of Foxa2 in mouse anterior-posterior axis polarization via regulation of anterior visceral endoderm-specific
genes. Proc.Natl.Acad.Sci.USA 104, 5919-5924 (2007)
4) Kimura-Yoshida C, Nakano H, Okamura D, Nakao K, Yonemura S, Belo JA, Aizawa S, Matsui Y, Matsuo I.
Canonical Wnt signaling and its antagonist regulate anterior-posterior axis polarization by guiding cell migration in
mouse visceral endoderm. Dev Cell
9, 639-650 (2005)
5) Kimura-Yoshida C, Kitajima K, Oda-Ishii I, Tian E, Suzuki M, Yamamoto M, Suzuki T, Kobayashi M, Aizawa S,
Matsuo I. Characterization of the pufferfish Otx2 cis-regulators reveals evolutionarily conserved genetic
mechanisms for vertebrate head specification. Development 131, 57-71 (2004)
6) Nishida A, Furukawa A, Koike C, Tano Y, Aizawa S, Matsuo I, Furukawa T. Otx2 homeobox gene controls retinal
photoreceptor cell fate and pineal gland development. Nature Neurosci 6, 1255-1263 (2003)
7) Hide T, Hatakeyama J, Kimura C, Tian E, Takeda N, Ushio Y, Shiroishi T, Aizawa S, Matsuo I. Genetic modifiers
of otocephalic phenotypes in Otx2 heterozygous mutant mice. Development 129, 4347-4357 (2002)
8) Kimura C, Yoshinaga K, Tian E, Suzuki M, Aizawa S, Matsuo I. Visceral endoderm mediates forebrain
development by suppressing posteriorizing signals. Dev Biol 225, 304-321 (2000)
9) Matsuo I, Kuratani S, Kimura C, Takeda N, Aizawa S. Mouse Otx2 functions in the formation and patterning of
rostral head. Genes & Development 9, 2646-2658 (1995)
25
研究課題名: モルフォーゲン勾配によるマウス初期胚細胞の動態制御機構
哺乳動物の初期胚は、他の脊椎動物胚に比べて、調節性が高いことから、細胞運命の決定では、より柔
軟な機構が働いていることが想定されている。実際、周辺の細胞や細胞外からの細胞運命情報が、特定
の細胞群に適切に伝達されることで一連の細胞分化が進行していく。このような細胞コミュニティーの動態
制御メカニズムの 1 つとして、分泌性シグナル因子(モルフォーゲン)勾配の役割が想定されてきた。しかし
ながら、どのような分子レベル、細胞レベルの機構で、モルフォーゲン勾配が形成され、哺乳動物胚発生に
働いているのか依然として不明な点が多い。本課題では、マウス初期胚において、分泌性シグナル因子
(モルフォーゲン)の勾配が、どのような機構で形成されるのか、更に前後軸極性化及び栄養外胚葉や内
部細胞塊由来の細胞群(栄養膜巨大細胞、臟側内胚葉、胚体外外胚葉、外胎盤錐、エピブラスト)への運
命決定にどのように働いているのかを明らかにすることを目的とする。具体的には、以下の2つのアプロー
チによって研究を進める。[課題 I] 着床期胚での Wnt シグナル(モルフォーゲン)勾配が、拮抗因子の発現
によってどのように形成され、引き続く軸決定や細胞動態にどのような役割を果たすのか解明する(図1)。
[課題 II] 着床期胚のヘパラン硫酸鎖が、FGF 等によるモルフォーゲン勾配や局所的シグナル分布の形成
にどのように働き、その後の細胞運命や動態にどのような影響を与えるか解明する(図2)。
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
山口 良文 (公募研究 A01 研究代表者)
東京大学・大学院薬学系研究科・助教
〒111-0033 東京都文京区本郷7-3-1
TEL: 03-5841-4863, FAX: 03-5841-4867,
e-mail: [email protected]
略歴
1999年3 月 京都大学理学部 卒業
2001年3 月 京都大学大学院生命科学研究科博士前期課程 修了
2005年3 月 京都大学大学院院生命科学研究科博士後期課程 修了
2005年4 月 自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター研究員(高田慎治教授)
2006 年9 月 東京大学大学院薬学系研究科遺伝学教室 助手(三浦正幸教授)
現在に至る
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
発生過程で広汎に観察される細胞死は巧妙に制御されており何らかの意味を持つはずですが、実際の胚にお
ける細胞死の制御機構やその生理的意義の理解はあまり進んでいません。速やかに生じかつその痕跡を残さ
ないという細胞死の性質が、その一因として考えられます。私たちは発生過程で生じる細胞死の主要形態であ
るアポトーシスをリアルタイムで観察できるプローブを開発しており、マウス初期胚で生じるアポトーシス動態を
観察することが可能です。初期胚での細胞死動態に興味のある方はぜひご相談ください。
代表的な研究業績:
1. Yoshida A, Yamaguchi Y, Nonomura K, Kawakami K, Takahashi Y, *Miura M.
Simultaneous expression of different transgenes in neurons and glia by combining in utero electroporation
with the Tol2 transposon-mediated gene transfer system.
Genes Cells 15: 501-512, 2010
2. Yamaguchi Y, Yonemura S, and *Takada S.
Grainyhead-related transcription factor is required for duct maturation in the salivary gland and the kidney of
the mouse. Development 133: 4737-4748, 2006
3. Yamaguchi Y, Ogura S, Ishida M, Karasawa M, and *Takada S.
Gene trap screening as an effective approach for identification of Wnt-responsive genes in the mouse
embryo. Developmental Dynamics 233: 484-495, 2005
27
研究課題名:マウス初期胚形態形成過程における細胞死動態のリアルタイム解析
適切なサイズ・形態の組織が形成・維持されるためには、細胞増殖・細胞分化に加え細胞死が時空間的に協調
して生じる必要があると考えられます。しかし、細胞社会の中での細胞死の意義の理解は、増殖や分化の理解
と比べるとあまり進んでいないのが現状です。本研究では、哺乳類胚発生過程で生じる細胞死と細胞増殖・細
胞分化・形態形成との関わりの包括的理解を目指します。そのためにまず、アポトーシスの欠損が重篤な影響
を及ぼす発生現象をモデルとし、死細胞とその周囲の生細胞群の振る舞いを詳細に解析します。こうした解析
には胚における細胞死動態をリアルタイムで可視化・観察することが必要ですが、これは私たちの研究室で開
発されたアポトーシス実行因子カスパーゼの活性化検出プローブを用いることで可能です。こうした観察に加え
細胞死動態を遺伝学・薬理学・光学的に操作することで、細胞死と増殖・分化の相互作用および形態形成への
影響を検証し、哺乳類胚発生過程での細胞死の生理的意義に迫ります。
参考文献:
Kiwamu
Takemoto,
Takeharu
Nagai,
Atsushi
Miyawaki,*Masayuki Miura
Spatio-temporal activation of caspase revealed by indicator that is insensitive to environmental effects
The Journal of Cell Biology 160: 235-243 , 2003
公募研究代表者のプロフィールと研究内容
渡邉 裕介
(公募研究 A01)
東北大学、加齢医学研究所 助教
〒980-8575 宮城県仙台市青葉区星陵町4-1
TEL: 022-717-8596, FAX: 022-717-8565, e-mail: [email protected]
略歴
平成 10 年 3 月
平成 12 年 3 月
平成 15 年 3 月
平成 15 年 4 月
平成 17 年 4 月
平成 21 年 6 月
広島大学理学部 卒業
広島大学大学院理学系研究科博士課程前期(生物科学専攻)修了
広島大学大学院理学系研究科博士課程後期(生物科学専攻)修了
国立遺伝学研究所研究員(相賀裕美子教授)
フランス、パスツール研究所研究員(Margaret Buckingham 教授)
東北大学、加齢医学研究所 助手(小椋利彦教授)
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
私はこれまでマウスを用いて心臓・大血管系の発生における Notch、FGF シグナリングを中心に研究してきまし
た。哺乳類着床前後の胚操作や解析については素人ですので、皆様のあらゆるご助言が私にとって参考となる
と思います。研究課題は発生生物学に加えて細胞生物学、イメージングの技術を組み合わせて進めていきたい
と考えております。
代表的な研究業績:
1.
Watanabe Y, Buckingham M. The formation of the embryonic mouse heart: heart fields and myocardial cell
lineages. Ann N Y Acad Sci. 1188: 15-24, 2010
2.
Watanabe Y, Miyagawa-Tomita S, Vincent SD, Kelly RG, Moon AM, Buckingham M. Role of mesodermal Fgf8
and Fgf10 overlaps in the development of the arterial pole of the heart and pharyngeal arch arteries. Circ
Res. 106: 495-503, 2010
3.
Park EJ, Watanabe Y (equal contribution), Smyth G, Miyagawa-Tomita S, Meyers E, Klingensmith J,
Camenisch T, Buckingham M, Moon AM. An FGF autocrine loop initiated in second heart field mesoderm
regulates morphogenesis at the arterial pole of the heart. Development. 135: 3599-610, 2008
4.
Prall OW, Menon MK, Solloway MJ, Watanabe Y, Zaffran S, Bajolle F, Biben C, McBride JJ, Robertson BR,
Chaulet H, Stennard FA, Wise N, Schaft D, Wolstein O, Furtado MB, Shiratori H, Chien KR, Hamada H, Black
BL, Saga Y, Robertson EJ, Buckingham ME, Harvey RP. An Nkx2-5/Bmp2/Smad1 negative feedback loop
controls heart progenitor specification and proliferation. Cell. 128: 947-59, 2007
5.
Watanabe Y, Kokubo H, Miyagawa-Tomita S, Endo M, Igarashi K, Aisaki K, Kanno J, Saga Y. Activation of
Notch1 signaling in cardiogenic mesoderm induces abnormal heart morphogenesis in mouse. Development.
133: 1625-34, 2006
6.
Utoh R, Shigenaga S, Watanabe Y, Yoshizato K. Platelet-derived growth factor signaling as a cue of the
epithelial-mesenchymal interaction required for anuran skin metamorphosis. Dev Dyn. 227:157-69, 2003
7.
Watanabe Y, Tanaka R, Kobayashi H, Utoh R, Suzuki K, Obara M, Yoshizato K. Metamorphosis-dependent
transcriptional regulation of xak-c, a novel Xenopus type I keratin gene. Dev Dyn. 225:561-70, 2002
8.
Watanabe Y, Kobayashi H, Suzuki K, Kotani K, Yoshizato K. New epidermal keratin genes from Xenopus
laevis: hormonal and regional regulation of their expression during anuran skin metamorphosis. Biochim
Biophys Acta. 1517: 339-50, 2000
29
研究課題名:マウス初期発生における Strawberry Notch1 の機能解析
哺乳類の発生において、受精から着床、軸形成、そして器官形成へと至る一連の流れはダイナミックであり、そ
の僅かな乱れも個体の生死に関係してきます。近年、多くのシグナリングが初期発生において活性を持ち、細胞
の挙動を制御していることが報告されてきていますが、私は Notch シグナリングのコンポーネントとして報告され
ている Strawberry Notch1 (以下、Sno1)に注目して研究を進めています。Sno1 は核タンパク質であり、RNA へリ
カーゼに特徴的なモチーフを含んでいます。ショウジョウバエを用いた実験から、Sno1 は Su(H) (ショウジョウバ
エの RBPj・ホモログ)などと複合体を形成し、転写抑制を解放することが報告されています(Tsuda L et al., 2002)。
我々の研究室は、哺乳類における Sno1 の機能を明らかにすべく、Sno1 ノックアウトマウスを作製しました。その
結果、Sno1 ノックアウトマウス胚は受精後 3.5 日目から 5.5 日目の間に致死となることが分かりました。本研究計
画では、1) Sno1 ノックアウトマウスの表現型を解析し、Sno1 の存在が初期発生にどのように関与しているの
かを明らかにすることを目的としています。また、2)Sno1 が相互作用する因子、下流因子を同定するために、
Sno1 結合因子を免疫沈降、電気泳動にて分離した後、LC/MS/MS 質量分析機により同定する予定です。現在
までの解析により、Sno1 は着床前胚において発現し、Sno1 ノックアウトマウス胚は blastocyst を形成しないこと
が明らかになりました。また Sno1 の構造解析と発現パターンの解析により、Sno1 は細胞分裂の M 期にリン酸化
され、分解されているのではないかというデータが得られています。このデータは、さらに in vivo imaging により詳
細に解析していく予定です。
計画研究 研究分担者のプロフィールと研究内容
舟橋 啓 (計画研究 A02 研究分担者)
慶應義塾大学 理工学部 准教授
〒223-8522 横浜市港北区日吉 3-14-1
TEL: 045-566-1797, FAX: 045-566-1789, e-mail: [email protected]
略歴
平成 7 年 3 月
平成 9 年 3 月
平成 9 年 4 月
平成 12 年 3 月
平成 12 年 5 月
平成 14 年 4 月
平成 19 年 4 月
平成 21 年 4 月
慶應義塾大学理工学部 卒業
慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程(計算機科学専攻)修了
日本学術振興会 特別研究員(DC1)
慶應義塾大学大学院理工学研究科博士課程(計算機科学専攻)修了
三重大学工学部情報工学科 助手
科学技術振興機構 ERATO 北野共生システムプロジェクト 研究員
慶應義塾大学理工学部生命情報学科 専任講師
同
准教授
手法、マテリアルなど、自分の得意なものについての宣伝:
私たちはシステム生物学における計算機基盤の構築として様々な技術基盤の開発を行って来ました。現在、定
量的なアプローチによる生命現象の理解を目標とした研究が盛んに行われておりますが、これらの定量的アプ
ローチには計算時間がかかる処理が数多くあり、実験データの解析に膨大な時間がかかっています。私たちは
並列処理アーキテクチャを活用した高速化により、安価かつ容易な高速処理環境を提供することを目標としてい
ます。
代表的な研究業績:
1.
Novère, N. L., et al. “The systems biology graphical notation”, Nature Biotechnology, 27(8), pp.735-41, 2009.
2.
Funahashi, A., Matsuoka, Y., Jouraku, A., Morohashi, M., Kikuchi, N., and Kitano, H. “CellDesigner 3.5: A
Versatile Modeling Tool for Biochemical Networks”, Proceedings of the IEEE, Special Issue: Computational
Systems Biology. 96 (8). pp.1254-1265, 2008.
3.
Funahashi, A., Jouraku, A., Matsuoka, Y., and Kitano, H. “An integration of CellDesigner and SABIO-RK”, In
Silico Biology. 7(2), pp.S81-S90, 2007.
4.
Nordling, T., Hiroi, N., Funahashi, A. and Kitano, H., “Deduction of intracellular sub-systems from a topological
description of the network”, Molecular BioSystems, 3(8), pp.523-529. 2007.
5.
Hiroi, N., Funahashi, A., and Kitano, H. “Comparative studies of suppression of malignant cancer cell
phenotype by antisense oligo DNA and small interfering RNA”, Cancer Gene Therapy, 13 (1), pp.7-12, 2006.
6.
Kitano, H., Funahashi, A., Matsuoka, Y., and Oda, K., “Using process diagrams for the graphical representation
of biological networks”, Nature Biotechnology. 23 (8), pp.961-966, 2005.
7.
Oda, K., Matsuoka, Y., Funahashi, A., and Kitano, H., “A comprehensive pathway map of epidermal growth
factor receptor signaling”, Nature Molecular Systems Biology. 1 (1), pp.1-17, 2005.
8.
Funahashi, A., Tanimura, N., Morohashi, M., and Kitano, H. “CellDesigner: a process diagram editor for
gene-regulatory and biochemical networks”, BioSilico. 1 (5), pp.159-162, 2003.
31
研究課題名:GPGPU を用いたバイオイメージの高速画像処理
近年、バイオイメージからの定量的な情報の抽出では、高速な画像処理の必要性が高まってきています。これ
は、2 次元の画像から細胞や組織を認識するための画像処理アルゴリズムが複雑であること、測定技術の向上
によって、深さ方向の解像度や時間解像度が向上することで処理すべきデータが急増しているなどの理由が挙
げられます。また、私たちはリアルタイムイメージング(生命現象が起こっている最中にハードウェアとソフトウェア
が迅速に作動することによって生命現象の変化をリアルタイムに把握する技術)の実現を目標としており、その
ためにも取得された画像からのフィードバックがリアルタイムで行われる必要があります。
このように処理データの急増やリアルタイム性などの要求から、画像処理に対する高速化は必須の技術となっ
て い ま す 。 そ の 様 な 技 術 の 1 つ と し て 、 近 年 急 速 に 発 展 し 、 注 目 を 浴 び て い る の が General Purpose
Computation on Graphics Processing Unit (GPGPU)です。GPGPU は Graphics Processing Unit (GPU) を本来
の用途であるグラフィックス処理以外の数値演算に利用する技術です。GPU は膨大な単純計算を並列処理す
るための単純な演算器を大量に備えているため、行列計算などの膨大な単純計算が要求される科学技術計算
においては、PC クラスタに代表されるスーパーコンピュータに対して安価に高い演算能力を実現することが可能
です。
本研究課題では、近年急速な発展を見せている GPGPU を用いることで従来よりも高速な画像処理を実現し、
それにより効率的なバイオイメージからの定量データの取得や、リアルタイムイメージングを実現するためのリア
ルタイム性を備えた画像処理実現のためのソフトウェア基盤技術の構築を目指しています。
第 2 回 領域班会議報告
新学術領域研究 「細胞コミュニティー」 第 2 回班会議報告
2010 年 6 月 7 日から 9 日まで、2 泊 3 日の日程で、
第 2 回領域班会議が開催されました。今回は、神戸
市郊外(六甲山麓)の豊かな自然に囲まれた環境
(「みのたにグリーンスポーツホテル」)の中、合宿形
式で進められ、新たに班に加わった 14 名の公募班
員、および研究に参加する若手研究者(大学院生や
ポスドク)など、総勢 50 人ほどが集い、熱心に議論
を重ねました。領域班代表のあいさつにあるように、
各班員のバックグラウンドやこれまでの研究、そして
今後の研究戦略を紹介しあうとともに、互いの交流
を深めることを目的とした本班会議は、今後の班の
研究の推進に大きな力となる会議となりました。
33
セッション1:着床前胚・遺伝子発現
佐々木 洋
「細胞間接触と Hippo シグナルによる初期胚発生の制御」
上野 直人
「初期発生における細胞極性因子 Prickle の役割」
柊 卓志
「新規遺伝子トラップによる、マウス初期胚パターン形成メカニズムの解明」
丹羽 仁史
「栄養外胚葉分化過程の Sox2 の挙動」
西中村 隆一
「初期胚及び ES 細胞における Sall4 の機能」
遠藤 充浩
「クロマチン制御因子ポリコーム群と転写因子のクロストークによる胚体外組織発生の
制御」
セッション 2: 細胞生物学的基礎
鈴木 厚
「細胞極性制御因子 PAR-aPKC システムの細胞生物学的研究と初期胚研究への展開」
田ノ上 拓自
「極性上皮様細胞の形状制御メカニズムの解析」
和田 洋
「初期発生胚の細胞内分解コンパートメント」
杉本 道彦
「マウス胚性致死変異体より同定された Vps52 の機能解明を目指して」
二木 杉子
「マウス初期胚の基底膜:組成・動態・機能の解析」
セッション 3: イメージング・新規技術
藤森 俊彦
「初期胚細胞コミュニティーにおける遺伝子と細胞の挙動の解析」
田中 裕二郎
「初期胚のヒストン修飾酵素活性をイメージングする」
山口 良文
「マウス初期胚形態形成過程における細胞死動態のリアルタイム解析」
國府 力
「トランスポゾンベクターを用いたマウスゲノム制御領域の機能解析」
木村 啓志
「マイクロ流体技術を応用した哺乳類胚アッセイプラットフォームの構築」
セッション 4: 画像解析
小林 徹也
「バイオイメージングデータの画像解析技術」
舟橋 啓
「GPGPU を用いたバイオイメージの高速画像処理」
セッション 5: 体軸・胚葉形成
目野 主税
「ノードにおける Nadal 発現制御と左右軸」
高岡 勝吉
「マウス胚における前後軸の起源」
松尾 勲
「モルフォーゲン勾配による細胞動態の制御機構」
竹本 龍也
「神経系・中胚葉の共通前駆体細胞から2系列が生み出される機構」
渡邊 裕介
「マウス初期発生における Strawberry Notch1 の機能解析」
第 2 回 領域班会議報告
細胞コミュニティ班会議に参加して
山口良文 (東京大学大学院薬学系研究科)
---Community effect !? -----
今回、新学術領域「細胞コミュニティ」班公募班員
として班会議に実際に参加してみて、予想をはるか
に上回る貴重なものが得られました。この学術的発
見を生むための好条件が揃った班に加われたこと
を非常に幸いに感じるとともに、このチャンスを自分
自身の研究のさらなる発展につなげなければ、と意
を新たにしたところです。そんなところに、班会議の
感想を、とお話をいただいたので、今回の班会議で
大変お世話になった各先生方・各教室の方々への
お礼もかねて、きわめて個人的な感想ですが一筆
書かせて頂きます。
今回の班会議でまず良かったのは、比較的少人数のため参加者全員の顔が見え、参加者間の交流がし
やすかった点です。そのため非常に風通しのよい活発な議論が生じていました。そして何より質の高い発
表の連続で大いに刺激を受けることができました。個人的には、最近のES細胞や初期胚研究・技術の進展
にただただ驚くばかりでした。これは私自身のアンテナが最近そのあたりの分野に向いていなかったせいも
ありますが、やはり最先端の知見・技術には敏感であるべしと改めて痛感するとともに、自分だけでは補い
切れない情報の収集のためにも、こうした場に出てくる必要があると強く感じました。また、そういった最先
端の情報は、会議での発表だけでなく発表の間の休憩時間や食事の時間、さらに学生からPIまでが入り交
じって研究の話題を肴に酒を酌み交わしながら盛り上がる飲み会の席において沢山得る事ができました。
これこそ合宿形式の班会議の醍醐味ですね。
Community effectと呼ばれる現象があります。あらためて説明する必要もないかもしれませんが、クロー
ンカエルの研究で有名なイギリスのJohn Gurdonが提唱した概念で、「細胞分化時において、細胞が単独で
いる場合と、周囲に同じ振るまい(=分化)をする細胞が多数いる場合とでは、分化の方向性が異なる」とい
う現象のことです。このCommunity effectは異
なる二種類以上の細胞集団の境界領域を決
定する場合など、細胞分化と胚の領域化の協
調に役立つと考えられています。これは胚や細
胞を扱っている人間からすると「当たり前」の現
象でわざわざ概念化するほどのものではない、
という向きの意見も聞きますが、現象の本質を
概念として提示することで様々な研究がインス
パイアされるという点で、重要な概念ではない
でしょうか。このCommunity effectは成長因子
など細胞間/外シグナル伝達物質の濃度の違
35
いにより媒介されることが昨今明らかにされてきています。しかし、このCommunity effectという現象の本質
的なところ、つまりこの現象が生じることを可能にするメカニズム・構造は何なのかについての統一的理解
にはまだ至っていないのが現状ではないでしょうか。一方で、Community effectを示さない細胞、自律的分
化が可能な細胞というのも発生段階では多く見受けられ、こうした細胞の振る舞いの違いを生み出す分子
的基盤の理解もまだまだこれらからの課題と思われます。なぜ唐突にこのような話を持ち出したのかと言
いますと、発生学漬けだった大学院時代に私が読んだ論文の中で大変感銘を受けたものの一つが、
Community effectに関するGurdonの一連の論文でした。私は当時から今までCommunity effectに関する問
題には直接的には手を出さずに来ましたが、ずっとアタマに引っかかっていて、今回の班会議でそこのとこ
ろが大いに刺激されたのです。そんな私なりの解釈なので間違いもあるかもしれませんが、本研究班のメ
インテーマである「ごく少数の調節性に富んだ細胞群から成り立つ哺乳類初期胚の分化機構を解明する」
ことは、Community effectなどの細胞社会成立の根本原理そのものに真正面から挑む研究であると私には
思われました。一見特殊に見えるものを調べることから普遍的なものが見えてくる、という可能性には大き
な夢を感じます。
現在私自身は、細胞が死ぬことが細胞社会にとってどのような意味を持つのか明らかにすることで、細胞
社会成立の根本原理に迫りたいと考え研究を行なっています。死んでいなくなってしまう細胞には一部の
人しか興味を示さない(?)ので、こうした視点からものを見るヒトがいてもいいのではないかという心持ちで
す。幸いなことにこの研究班には、細胞分化という問題だけでなく、細胞内の構造から胚を理解しようとす
る方々、細胞がつくりだす場を理解しようとする方々、さらに物理系・工学系などの視点からものを見られる
方々など、多様な視点を持った方々が集っていること
が今回の班会議でわかりました。この班で得られる人
的交流が、班員としての期間だけでなく将来的にも実
り豊かなものになればいいと強く感じています。興味・
材料を共有できる様々な研究者が集うこの領域班の
中でどのような Community effect が生じるのか、また
そうした Community effect をどのように楽しむのか、
はたまたあえて自律的分化を遂げるのか、何が起き
るかわからないわくわく感が持てること自体が非常に
エキサイティングな状態です。この新学術領域班とい
う場で自分はどのような影響を受けそして与えること
ができるのか、与えられたチャンスを楽しんで行きた
いと思っています。
二木杉子 (阪大蛋白研)
公募班員として、はじめて班会議に参加しました。盛りだくさんの内容で、知識や考え方の点で非常に得る
ものが多い会議でした。中でも印象深かったのは、次々と登場したライブ&3D のイメージングデータです。
数時間のあいだに刻々と変化し、半日も経つとまったく別物のようになってしまう初期胚発生の様子が鮮や
かにとらえられていて、普通は観察が難しいマウス初期胚をこれだけ「使いこなす」ことができるのか!とい
第 2 回 領域班会議報告
う驚きをもちました。細胞の集団としても個々の細胞の中でも変化が激しいステージだからこそ、何が細胞
を動かしているのかという問題を多角的に解析
して統合的に解釈できるのではないかと思いま
す。その一角として、細胞と細胞外マトリックス
との相互作用という観点からも貢献できるよう
に研究に励みたいと思います。会議の間の自
由時間と夜の交流では、技術的な相談からお
互いの人柄(?)まで、気兼ねなく話ができて楽し
く有意義な時間でした。初期胚分野の方々とこ
のように知り合えたのは私にとって大きな収穫
です。このつながりと雰囲気も大事にしていき
たいと思いました。今後ともどうぞよろしくお願
いします。
竹本龍也 (大阪大学大学院生命機能研究科)
今回、公募研究として「哺乳類初期発生の細胞コミュニティー」に参加させていただきました。今回の班会
議の目的は、班員同士の相互理解ということで、それぞれの研究者が研究内容の発表を行いました。発生
生物学のみならず、細胞生物学やシステム生物学などを基盤とした研究者が参加されていることに少し驚
きましたが、発表を聞くうちに、全ての研究が哺乳類初期発生を理解するという目的に向かっていることを
強く感じました。また、個々が得意とする研究手法などの紹介も行われました。技術や手法を共有して研究
を進めていこうということだと感じました。個人的には、これから研究を展開する上で必要な情報も得ること
ができました。今後行う予定であった実験の技術的なサポートもしていただけると知り、大変心強く思ってい
ます。
3 日間の会議でしたが、この班の参加者が、お互いに親密に連携し、目的を達成しようという熱意を強く感
じました。とても濃密で有意義な会議でした。
37
研究成果報告
Oki et al., Developmental Dynamics (2010) 239: 1768-1778
マウス初期発生における FGF シグナルの経時的機能解析
沖 真弥, 北島 桂子, 目野 主税
(九州大学大学院医学研究院発生再生医学分野)
FGF シグナルは, 個体発生の様々な局面で必須の役割を果たしている。マウスには 22 種類の Fgf と 4 種
類の受容体遺伝子 Fgfr が存在し, マウス初期発生における FGF シグナルの役割はノックアウトマウスの解
析から明らかになった。例えば, Fgf8 と Fgfr1 の変異マウスでは, 原腸陥入期の原条領域の上皮間葉転換
(epithelial-mesenchymal transition, EMT)が阻害され, 中胚葉マーカーの発現が異常になる(1, 2, 3, 4)。
Fgf8 と Fgfr1 変異マウスの表現型はほぼ一致するため, この時期の FGF8 を FGFR1 が受容していると考え
られる。また, Fgf8 hypomorphic 変異マウスには左右軸形成の異常が生じることが知られている(5)。Fg8 は
原条領域及び臓側内胚葉で持続的に発現しているため, これらの表現型がどの時点の FGF シグナル欠損
によるものなのか, 各表現型が独立して生じているのかは不明であった。そこで, 私たちは全胚培養と各
種 FGF シグナルの阻害剤を組み合わせることで, 時間軸に沿った FGF シグナルの役割を解析した(6)。
FGF の受容に必要なヘパラン硫酸の生合成を阻害する sodium chlorate を添加して全胚培養を行ったとこ
ろ, Fgf8 及び Fgfr1 変異に類似の異常を引き起こすことが確認された。まず, 原条形成直前の E6.2 胚を
chlorate 存在下で培養すると, Fgf8/Fgfr1 変異胚同
様に原条領域が前羊膜腔に突出した(図1)。この
異常は, 原条領域における EMT が阻害されること
によって説明されている。次に, 原条が出現する
E6.5 胚を chlorate で処理した場合, 原条領域の突
出は観察されずに, Fgf8/Fgfr1 変異胚に生じるよう
な各種マーカー遺伝子の発現異常が観察された
(図1)。例えば, 胚後方においては原条領域の T
の発現は比較的正常に保たれているものの, Tbx6
の発現は完全に消失した。胚前方においては Hex
や Otx2 の発現が拡張し, 中軸においては Shh の発
現が幅広くなり前方への伸長が阻害された。
chlorate 処理胚では, この時期には消失すべき
Nodal 発現が持続しており, 胚前方マーカーの拡張
は臓側内胚葉における Nodal シグナルの亢進によ
って説明できるかもしれない。
図1 chlorate 及び PD173074 処理胚に生じる異常
(A–F) E6.2 胚を chlorate の非存在下(A-C), 存在下(D-F)で全胚培養を行った。B, C, E, F は A, C に記した線のレベルの切片。
Phalloidin(B, E)もしくはヘパラン硫酸(C, F)を検出している。矢尻は, 突出して前羊膜腔を完全に覆った原条領域の外胚葉を示す。
(G-N) E6.5 胚を PD173074 の非存在下(G-J), 存在下(K-N)で全胚培養を行い, 各種遺伝子マーカーの発現を whole-mount in situ
hybridization で検出した。a, anterior; p, posterior
39
chlorate は, ヘパラン硫酸を含む各種グリコサミノグリカンの硫酸化を阻害するため, FGF 以外のシグナル
への影響も考えられる。そこで, FGFR の直接的な阻害剤である SU5402 もしくは PD173074 で E6.5 胚を処
理したところ, SU5402 はその効果が確認できないが, PD173074 は Fgf8/Fgfr1 変異胚及び chlorate 処理胚
に類似した上述の遺伝子発現異常を引き起こした。従って, chlorate 及び PD173074 は原腸陥入期の FGF
シグナルを特異的に阻害できると考えられる。また, FGF シグナルは原腸陥入初期においては EMT に関与
し, その後は EMT 制御とは独立して胚体領域の遺伝子発現を制御するものと考えられた。
さらに, 胚後方における Tbx6 発現の消失は, 初期体節期においても短時間の FGF シグナルの阻害で引
き起こされることが明らかになった(図2)。Tbx6 はノードを取り巻くように未分節中胚葉で発現しており, 同
部位における Notch リガンド Dll1 の発現を部分的に担っている(7)。ノード境界領域では Notch シグナルに
よって, 左右軸形成を担う Nodal が発現するため(8),
初期体節期胚を PD173074 で処理したところ, Dll1 と
Nodal 発現が共に消失した(図2)。また, FGF シグナ
ルの ERK 経路を阻害する U0126 を添加すると, Tbx6
発現が消失することから, ノードを取り囲む領域にお
ける FGF/ERK シグナルは, Tbx6-Dll1 カスケードによ
ってノード境界領域に Nodal 発現を誘導するものと
考えられる。ノードにおける Nodal は, その後の左側
側板中胚葉における Nodal 発現を誘導する。 Fgf8
hypomorphic 変異では, ノード及び左側側板中胚葉
の Nodal 発現が減弱するか消失し, 右側相同(左側
臓器形態が右側化する)の先天奇形が生じる(5)。原
条領域における FGF シグナルは, 持続的に Tbx6 の
発現を誘導することで胚後方の形態形成を司ると共
に, ノードにおける Nodal 発現を誘導することで, 引
き続く左右軸形成を制御しているものと考えられる
(図2)。
図2 FGF シグナルの左右軸形成における役割
(A-H) 初 期 体 節 期 胚 を PD173074 の 非 存 在 下 ( A-D) , 存 在 下 (E-H) で 全 胚 培 養 を行 い , 各 種 遺 伝 子マ ー カ ー の 発 現 を
whole-mount in situ hybridization で検出した。矢尻は, 左側側板中胚葉における Nodal 発現を示す。(J) FGF シグナルと左右軸形
成のモデル図。r, right; l, left
参考文献
1 Sun et al., Genes Dev (1999) 13:1834-1846
2 Deng et al., Genes Dev (1994) 8:3045-3057
3 Yamaguchi et al., Genes Dev (1994) 8:3032-3044
4 Ciruna et al., Development (1997) 124:2829-2841
5 Meyers and Martin, Science (1999) 285:403-406
6 Oki et al., Dev Dynamics (2010) 239:1768–1778
7 Hadjantonakis et al., PLoS One (2008) 3:e2511
8 Krebs et al., Genes Dev (2003) 17:1207-1212
研究紹介
Lulu 分子は myosin II を制御することによって極性上皮細胞の形状を制御する
田ノ上拓自
神戸大学大学院医学研究科
膜生物学グローバル COE
特命講師
哺乳類の発生過程において、極性上皮細胞の細胞シートが曲がる、撓むなどをして組織の形態が決定
される。また、極性上皮様細胞のシートから細胞が逸脱することによって原腸陥入が引き起こされる。細胞
シートが湾曲する際や、原腸陥入の際には、湾曲している部分の細胞や逸脱する細胞は柱型からボトル
型への形状変化を示す。つまり、細胞のアピカル細胞膜領域の面積が縮小し (apical constriction)、側底
部細胞膜領域の面積が増大する (lateral elongation)(下図 1, 2)。すなわち、個々の極性上皮様細胞の形
状制御機構の解明は、哺乳類形態形成の理解において必須の命題である。最近の研究知見から、極性上
皮細胞の形状制御はアクチン骨格系の収縮制御分子である myosin II が主に制御していると考えられてい
るが、myosin II がどのようにして制御されているのか、未だ完全には明らかになっていない。
我々は最近、Lulu という分子が myosin II を制御することによって極性上皮細胞の形状制御を行っている
ことを見出した(参考文献1)。以下に、その概要を解説する。
Lulu は、無脊椎動物から脊椎動物まで保存された分子である。哺乳類では、Lulu1 と Lulu2 の 2 つの分
子が存在し、それぞれ2つのスプライスバリアントを持つ(図3)。共通に FERM ドメインと FERM adjacent ド
メイン(FA domain)を持つが、それ以外の部分に
は相同性は無い。ショウジョウバエにおける Lulu
(ショウジョウバエでは Yurt と呼ばれている)の変
異体は初期の発生異常で致死となり、マウスの変
異体(Lulu1 のノックアウトマウス)は原腸陥入の
異常を示して致死となる。ショウジョウバエでは上
皮様細胞の頭頂部面積の制御分子である
Crumbs 複合体を負に制御することが示されてお
り、また、哺乳類においては細胞間接着分子カド
ヘリンを負に制御するとともに細胞-基質間接着分
子インテグリンを正に制御することが報告されている(参考文献2~4)。
しかしながら、我々のこれまでの研究によって、哺乳類の Lulu は、上記のような分子を制御するよりもむ
41
しろ、アクチン細胞骨格系の収縮制御分子である myosin II を正に制御する機能を持つことが明らかにな
った(Nakajima and Tanoue, JCS, 2010)。すなわち、Lulu の過剰発現によって、上皮細胞頭頂部の細胞境界
近傍に myosin II の強い濃縮が観察されると同時に細胞がボトル型への形状変化を示す。つまり、Lulu は、
極性上皮細胞において apical constriction と lateral elongation を引き起こす(図4)。この細胞形状変化は、
myosin II の阻害剤や Rock の阻害剤の添加によって抑えられる。加えて、Lulu の RNAi ノックダウン細胞(極
性上皮細胞)では細胞境界近傍の myosin II の構造が崩壊し、細胞の形状変化が観察される。上記の結
果から、我々は、Lulu が myosin II を制御することによって極性上皮細胞の形状制御を行っているものと結
論づけた。myosin II は上皮細胞の形状制御において主要な動力源であると考えられているが、その際の
制御機構に関して完全には明らかになっていないのが現状であり、我々の知見はその分子メカニズムの解
明に向けた突破口の一つとなることが期待で
きる。
今後の課題であるが、Lulu がいかにして
myosin II を活性化するのか、その分子メカニ
ズムを明らかにすることがまず第一の課題で
ある。古典的な分子細胞生物学的なアプロー
チによる研究となるが、必ず明らかにするべ
きポイントであると考えている。また、myosin II
が細胞間接着構造近傍で活性化することによ
り細胞の形状変化が引き起こされるが、細胞
の形状が変化する際には当然であるが細胞膜も形状に応じて制御される必要がある。つまり、myosin II が
活性化されると、細胞内膜輸送経路が何らかの制御を受け、細胞膜領域を柔軟に変化させているものと考
えられる。このような制御機構に関しても今後研究を進めていきたいと考えている。
極性上皮細胞の形状制御機構は、未知の部分が多く残っており、in vitro の分子・細胞生物学的アプロ
ーチが意味を持つ研究対象である。私は、細胞生物学的な研究を通して本研究領域に貢献できることを願
っております。
参考文献
1.
2.
3.
4.
Nakajima and Tanoue, JCS 123, 555 (2010).
Hirano et al., JCB 182, 1217 (2008).
Lee et al., Development 134, 2007 (2007).
Laprise et al., Dev. Cell 11, 363 (2006).