アフリカモデル法 - 生物資源へのアクセスと利益配分

(5)アフリカモデル法
―地域社会、農民、育種者の権利と生物資源へのアクセスの規制
(アフリカ統一機構)
アフリカ模範法
地域社会、農民、育種者の権利の保護と生物資源へのアクセスの規制
説明書
J.A. Ekpere
アフリカ統一機構(OAU)
エチオピア国アディスアベバ 私書箱3243号
目次
序文
1.アフリカ模範法の策定
1.1 はじめに: 状況の説 明
1.2 全生命の基礎としての 生物多様性
1.3 OAU のイニシアティ ブ
地域社会、農民、育種者の権利の保護と生物資源へのアクセスの規制に関するアフリカ模範法
アフリカの共通見解
1.4 この法律が重要な理由
2. 国際的義務を果たすためのアフリカの戦略
3.アフリカ模範法のコア原則
3.1 食料の主権と安定供給
種子を自由に扱う権利と責任
3.2 国家主権と譲渡不能の 権利と責任
3.3 地域社会の権利と責任
3.4 先住民の知識の価値
3.5 意思決定への十分な参 加
3.6 生物多様性と遺伝子多 様性へのアクセス
3.7 事前の情報に基づく同 意(PIC)
3.8 利益の公正かつ衡平な 配分
地域社会遺伝子基金
3.9 植物育種者の権利
3.10 生物への特許の禁止
3.11 ジェンダーの平等性 をめざして-分野横断的な原則
付録 1
地域社会、農民、育種者の権利の保護と生物資源へのアクセスの規制に関するアフリカ模範法
前文
第 1 章 目的
第 2 章 定義と適用範囲
第 1 条 定義
第 2 条 適用範囲
第 3 章 生物資源へのアク セス
第 3 条 生物資源および地 域社会の知識と技術へのアクセスの申請
第 4 条 事前の情報に基づ く同意(PIC)
第 5 条 協議と事前の情報 に基づく同意(PIC)の要 件
第 6 条 完了された申請用 紙の登録
第 7 条 アクセスの付与
第 8 条 協定の内容
258
第 9 条 生物と生物学的プ ロセスに対する特許
第 10 条 アクセスの付与 の承認
第 11 条 学術・研究機関 、公的機関、政府間機関に関する条件
第 12 条 利益配分
第 13 条 アクセスに付与 される許可の種類
第 14 条 アクセス許可の 取り消し
第 15 条 生物資源へのア クセスまたは導入に関する活動に対する制限
第 4 章 地域社会の権利
第 16 条 地域社会と先住 民社会の権利の承認
第 17 条 地域社会の権利 に関する法律の適用
第 18 条 地域社会の事前 の情報に基づく同意(PIC)
第 19 条 同意とアクセス を拒否する権利
第 20 条 同意とアクセス の取り消しと制限の権利
第 21 条 伝統的なアクセ ス、利用、交換の権利
第 22 条 利益に対する権 利
第 23 条 地域社会の知的 権利の承認
第 5 章 農民の権利
第 24 条 農民の権利の承 認
第 25 条 農民の品種に関 する法律の適用
第 26 条 農民の権利
第 27 条 農民の品種の証 明
第 6 章 植物育種者の権利
第 28 条 植物育種者の権 利の認知
第 29 条 新品種の特徴
第 30 条 植物育種者の権 利
第 31 条 育種者の権利の 適用除外
第 32 条 育種者の権利の 申請
第 33 条 植物育種者の権 利の制限
第 34 条 植物育種者の権 利の期間
第 35 条 紛争解決
第 36 条 植物育種者の権 利の侵害
第 37 条 国内所管当局
第 38 条 植物育種者の権 利の登録
第 39 条 植物育種者の権 利の登録簿
第 40 条 植物遺伝資源セ ンター
第 41 条 申請の提出
第 42 条 審査と評価の統 一手続き
第 43 条 国外由来の植物 品種の特性
第 44 条 植物品種特性試 験
第 45 条 申請の取り下げ
第 46 条 暫定的保護
第 47 条 植物育種者の権 利の付与への異議
第 48 条 植物育種者の権 利の付与
第 49 条 植物育種者の権 利の登録簿への記載
第 50 条 植物育種者の権 利の付与の告示
第 51 章 特定の人に対す る付与の効果
第 52 条 植物育種者の権 利の本質
第 53 条 植物育種者の権 利の譲渡
第 54 条 繁殖素材の提供
第 55 条 植物育種者の権 利の取り消し
第 56 条 植物育種者の権 利の放棄
第 7 章 制度的取り決め
第 57 条 国内所管当局の 設置
第 58 条 国内所管機関の 義務
第 59 条 国内部門間調整 組織の設置
第 60 条 国内部門間調整 組織の役割
第 61 条 国内部門間調整 組織の構成
259
第 62
第 63
第 64
第 65
第 66
第8章
第 67
第 68
付録
1.
2.
3.
条 技術諮問機関の 任命
条 技術諮問機関の 役割
条 国内情報システ ムの設置
条 国内情報システ ムの活動
条 地域社会遺伝子 基金の設立
授権規定
条 許可と罰則
条 異議申し立て
2
WTO のアフリカ諸国の 加盟国 2000 年 11 月 30 日 現在
参考文献
組織(地域の権利およびアクセス関連)
260
序文
アフリカ統一機構(OAU)の地域社会、農民、育種者の権利の保護と生物資源へのアク
セスの規制に関する(アフリカ)模範法の目的は、アフリカ共通の生物多様性と生物多様
性に依存する生活システムを共通のツールによって保護することである。生物は政治的な
境界を認識しないので、多数の国々にまたがって存在することが多い。それゆえ、この共
通ツールが各国において共通であることが必要である。その一方で、社会的・政治的な現
実はさまざまである。したがって、アフリカ模範法には、この法律をアフリカ諸国それぞ
れの優先順位とニーズに応じて適応させるための柔軟性が必要である。
本書の目的は、意識を高めることと、アフリカ模範法の国内法化を多数の国で進めるこ
とである。アフリカの政策立案者、公共団体、地域社会、非政府組織(NGO)、弁護士、
そしてアフリカの豊かな生物多様性を将来の世代が享受し続けられるように保全し、持続
可能な利用をすることに関心のあるすべての人々に向けて書かれている。国および地域社
会レベルでのアフリカ大陸の生物多様性へのアクセスの規制についての議論と公衆の参加
は、アフリカの多様な生活、文化、生物学的財産の継続と福祉を確保するために、緊急に
必要である。その理由は、貿易が盛んになり力のある国が多国間・二国間貿易協定の形を
とって、アフリカの貴重な生物多様性、知識、市場を独占的に支配しようとしているから
である。しかし、そうした協定は、それ自体本質的に公正さを欠く。
OAU閣僚会議は、アフリカ諸国がこの猛撃からアフリカを守るための国内法と地域レジ
ームを策定し、国際法と関連問題についての交渉に関する共通見解を構築するよう勧告し
た。最終的に目指しているのは、発展途上諸国、特にアフリカの大多数の民族国家が、生
物多様性、知識、工夫、慣行を自由にダイナミックに交換できるシステムの中で生活でき
るよう確保することである。この法律には、生態系に密着した慣行にしたがった生活を続
け、独占的支配が入り込めない境界を確立する権利が記されている。
いくつかのアフリカ諸国はすでにこのプロセスを始め、生物多様性の管理に利害関係を
持つすべての人を関与させる協議を行っている。本書はその権利と責任が危機にさらされ
ている地域社会、農民、植物育種者の参加を促進し、そうした人々がこの法律に貢献する
ことができ、法律の実施の一助となることを希望する。
本書の構成は以下のようになっている。まず、アフリカ模範法の背景と策定の経緯を紹
介し、生物多様性の重要性を大まかに分析する。さらに、アフリカ模範法に込められた精
神とその価値を理解するために重要な11原則について考察し、アフリカ模範法の参照箇所
を記す。
付録には、アフリカ諸国が生物多様性、植物保護と貿易に関連して、条約の締約国や組
織の加盟国として約束してきた主要な国際的義務についての情報を掲載した。アフリカ模
範法の全文も収められている。
本書をまとめるにあたり、ご協力いただいた以下の方々にお礼を申し上げたい。Antoinette
Coelho、Cecilia Oh、Charles Moguya、Cyril Lombard、環境法と開発国際財団(Foundation for
International Environmental Law and Development: FIELD)、George Roberts、Gurdial Singh
Nijar、Henk Hobbelink、Liz Hosken、Martin von Hildebrand、 Micheala Figuera、Miriam Mayet、
Nancy Kgengwenyane、Rachel Wynberg、Richard Kimera、 Robert Brac de la Perrier、Tewolde
Berhan Gebre Egziabher、Sue Edwardsの諸氏。
本模範法の法案を起草してくれたTewolde Berhan Gebre Egziabher氏と彼が率いるエチオピ
アのチームに深く感謝したい。また、1998年エチオピアのアディスアベバ、1999年コロン
ビアのソタキラ、1999年ザンビアのルサカ、1999年エチオピアのアディスアベバ、2000年
261
アルジェリアのアルジェで開催されたワークショップで法案の改訂に携わったメンバー諸
氏にも感謝したい。
A. Ekpere教授
アフリカ統一機構(OAU)
2000年11月
262
1.アフリカ模範法の策定
1.1 はじめに:
状況の説明
アフリカ社会は、あらゆる人類の文化と同様、常に創意工夫に富んでおり、変化する状
況に適応しながら知識と技術基盤を築いてきた。植民地時代には、人々は選択の自由のな
い変化を押しつけられた。この「開発パラダイム」は今もなお、外国の価値と優先順位を
押しつけ続けている。しかし、こうしたことに抵抗が高まっており、開発が対象としてい
るさまざまな文化伝統のもつ多様な価値と優先順位を考慮に入れた上で、新しい開発を正
しく査定し評価するべきだという考え方が強くなっている。つまり、新しい開発は、その
社会の生活の質の向上に役立ち、環境に調和し、地域住民の生活を損なったり、破壊した
りしないことを確保するということである。
20世紀には、運輸、コンピュータシステム、バイオテクノロジーなど、あらゆる分野で
西洋の科学と技術が急速に発展した。こうした発展は、地球規模の社会構造、政治・経済
権力に大きな影響を及ぼし、特に、持続可能な生活に必要な多様な生物資源の管理とアク
セスに多大な影響を与えた。
あらゆる人類が依存している地球の生命維持システムが満足すべき状態であるためには、
生物多様性を保全し持続可能に利用する必要があるということが一般的に合意されている。
一方で、知的財産権(IPR)と貿易システムを利用して、地域社会の生物多様性に対する
私的独占権を主張し、地域社会、先住民、主権国家の権利と資源を私有して、市場を支配
しようとするようとしている勢力もある。こうした支配は、国際貿易協定や二国間貿易協
定によって強いられるものであり、地域社会や国や地域の食料の安定供給、農業、農村の
発展ならびに健康と環境に大きな影響を与える。
世界貿易機関(WTO)の主要な協定の1つである、知的所有権の貿易関連の側面に関す
る協定(TRIPS 協定)は、WTO 加盟国が、知的財産権の保護に関して遵守すべき最低基
準に植物の新品種について特許、特別の制度(スイ・ジェネリス 5 )、あるいはその両方の
いずれかを採用するよう義務づけている。生物あるいはその部分もしくは構成要素に特許
を認めることは、生物およびその子孫に対して私的独占による支配権を認めることになる。
アフリカでは、生物に対する特許あるいはその他の形態の知的財産権は、幾世代にもわ
た っ て こ の 大 陸 を 支 え て き た 地 域 社 会 の 生 活 に 対 し て 深 い 意 味 を 持 つ 。 生 物 多 様 性 条約
(CBD)は、生物多様性の保全において地域社会や先住民社会が果たしてきた役割と業績
を認め、したがって、地域社会の権利を再確認し、保護するべき重要な分野として、生物
多様性の重要性を認めている。しかしながら、TRIPS 協定は生物多様性条約の基本的な見
解と真っ向から対立しており、知的財産権によって生物に対して私的な個々の独占的所有
権が付与される趨勢を正式に承認しているのである。
現在の知的財産権レジームでは、先住民の技術、工夫、慣行、生物多様性を保護するこ
とはできないという点に同意する声は高まっている。現在のシステムは、バイオパイラシ
ー(生物に対する海賊行為)を助長し、二重どりのプロセスを作り出している。集団とし
ての工夫と慣行に対する私的独占権を主張して、地域社会の創造性、工夫、慣行を奪った
うえ、さらには、そこから生まれる経済的利益を地域社会から奪ってしまうのである。
5
スイ・ジェネリスの本来の意味は「独自の」であるが、本書では、特に植物育種者の権利の保護を目
的とする法律を意味する。
263
アフリカが必要としている権利は、地域社会の所有物を商業目的のために私有化すると
いう独占を認める知的財産権ではなく、農村社会を含め、地域社会と先住民の生命と生活
を認め、保護する権利である。地域社会は生物多様性の保全と向上を続け、人類および他
の種が生命を依存している安定した生態系を維持する。地域社会の生活そのものが現在と
将来の世代にこの利益をもたらすのであり、地域社会はこのことを過去世代から受け継ぎ、
次世代に引き継ぐことを自らの責任とみなしている。
そのためには、アフリカ文化が発展、繁栄を続け、今まで生物多様性の保全、持続可能
な利用で人類全体に与えてきた恩恵をこれからも与え続けていくことができるよう、アフ
リカにある多様性に富んだ文化の基盤を映し出し保護するような法制度を確立する必要が
ある。この法律は、習慣的に行われてきた行為、特に何千年もの時間をかけて進んできた
生物多様の流動を制限するものであってはならない。アフリカの権利には、外部からの支
配勢力が侵入できない境界線を引くべきである。
1.2
全生命の基礎としての生物多様性
経済面から見ると、アフリカ大陸は後発発展途上であるが、生物資源にはもっとも恵ま
れている。特に作物と薬草の多様性が豊富であり、その経済的価値はまだ数値として表さ
れていない。アフリカの人々がこれらの生物資源を利用し保全するために開発した知識と
工夫は、幾世代にもわたって発展し、試されてきた先住民の慣行に基づいている。コーヒ
ー、ソルガム、ミレットやヤシ油は多岐にわたるアフリカ原産の有用植物のほんの一例に
すぎないが、世界の経済発展に大きく寄与してきた 6 。
現在のアフリカの生物の豊富さは、自分たちの生物資源を絶えず開発し、保全してきた
地域社会が幾世代にもわたって作り上げてきた工夫に根ざしている。このようにして、地
域社会は知識、工夫、慣行を蓄積してきた。今なお、農民、狩猟者、漁民、治療師らの住
む地域社会の生活は、これらの資源、工夫、技術、慣行にほとんど全面的に依存している。
公正さに欠ける貿易の影響がますます強く世界中で感じられるようになる中、この豊富
な資源基盤は、アフリカが自らのメリットを最大限に生かし、生態学的、気候的、社会的
安定性への悪影響を最小にするという両面でアフリカに力を与え続けるべきものとなって
いる。アフリカ大陸の人口の大多数は、生物多様性から食料、薬品、すみかを得ている。
経済的に富裕な層と貧困層とのギャップが広がるにつれて、生物多様性に対する依存と生
物多様性の利用方法についての知識への依存はさらに目立つようになると思われる。
気候変動は今後大きくなることが予想されている。気候変動の影響として可能性がもっ
とも高いと見込まれているのは、天候がますます予測不可能になるということである。そ
の結果、不安定な状況のもとで、豊富な生物多様性の基盤は、利用できる作物、薬品その
他の重要な資源を選択するためにますます重要になっていくだろう。このため、いっそう
必要となる食料の安定供給を確保するために、地域社会はさまざまな種と品種の作物を栽
培することによって、常に「リスクを回避し続ける」手段をとるようになるだろう 7 。
西洋の工業化社会は、生命史上未曾有の破壊的な影響を生物多様性に与えてきた 8 。グロ
ーバル化によって、工業重視の開発が広がっていることが、いっそう多くの種を絶滅へ追
6
Wynberg, R. 2000 年
7
エチオピアでの最近の調査では、農民が気候の不安定さを深刻な問題とすでに認識しており、その結
果、広範な種類と品種の作物を栽培するようになっている。
8
Wynberg, R. 2000 年
264
いやっている。たとえば、第二次世界大戦中に兵器として開発された農薬が、「緑の革命」
において過剰に使用されたため、農民が栽培する作物の品種とその野生近縁種が大幅に減
少させられた。今後、多国籍企業が独占的に支配している遺伝子工学によって、このプロ
セスがさらに進行していくと思われる。これを逆戻りさせる手段はない。
この状況は人類を直接脅かし、したがって、人類の絶滅をもたらす恐れがある。という
のは、人類が生き残るためには、十分機能する生態系と生態系を補完する種が必要である。
生命はダイナミックな、互いに影響を及ぼしあうプロセスである。生物多様性が一定レベ
ル以下だと、生態系は脆弱になり、やがては病み、崩壊してしまう。
つまり、貿易のグローバル化によって、生物学的・文化的な均一化あるいは画一化が広
まると同時に、富裕層と貧困層の経済的ギャップが大きくなっている。こうした2つの結
果が合わさると、甚大な被害がもたらされることは不可避である。このことはすでに、気
候の不安定化、生物多様性の減少、貧困・飢餓・死者の増加として表れている。
アフリカの生物資源はまだ豊富であり、文化はなお力強く、生き生きとしている。生物
資源と文化はアフリカの富の基礎であり、将来への安全確保の手段であり続けるだろう。
そうあり続けるためには、アフリカの文化規範と生態学的規範を十分に尊重しつつ、経済
開発の道筋を規定することが必要なのである。
1.3
OAU のイニシアティブ
OAU(アフリカ統一機構)は 1963 年 5 月 25 日に設立され、32 の国家・政府の代表が
憲章に調印した 9 。その目的は次のとおりである。
◆
◆
◆
◆
◆
アフリカ諸国の統一と団結の促進
加盟国の主権の擁護
あらゆる植民地主義の根絶
国際協力の促進
加盟国の経済・外交・教育・健康・福祉・科学・防衛政策の調整と調和
地域社会、農民、育種者の権利の保護と生物資源へのアクセスの規制に関するアフリカ模
範法
アフリカ模範法は、OAUの科学技術研究委員会(OAU/STRC)、エチオピア環境保護局、
エチオピア持続可能な開発研究所のいくつかのイニシアティブの結実として、作成された
ものである。
OAU 科学技術研究委員会は、アフリカの生物資源の管理、保全、利用に関する問題を特
定し、1997 年 4 月ナイロビで「アフリカ薬用植物と薬草剤に関するワークショップ:所
有、アクセス、保全に関する政策的課題」を開催した 10 。ワークショップでは以下のこと
が勧告された。
◆ OAU/STRC は、薬用植物についての先住民の知識の保護に関する模範法を起草するプ
ロセスを開始し、調整すべきである。
9
10
現在、加盟国は 53 カ国で ある。
OAU/STRC/DEPA/KIPO
る政策的課題
薬用植物と薬草剤に関するワークショップ:所有、アクセス、保全に関す
1997 年 4 月 14~17 日ナイロビ
265
◆ 薬用植物についての既存の各国の政策を検討、調整、統合し、薬用植物の持続可能な
利用に関する共通政策を整備するため、専門家の作業部会を設立する。
◆ 政治的境界線と生態学的境界線は必ずしも一致するものではないため、小区域や区域
レベルでの他の加盟国との協議を行い、薬用植物の所有権、アクセス、利用、保全に関す
る政策を立案するよう、加盟各国を支援する。
◆ 加盟各国に 2000 年までに世界貿易機関(WTO)の知的所有権の貿易関連の側面に関
する協定(TRIPS 協定)がアフリカの生物資源に及ぼす影響と、2005 年までに TRIPS 協
定に記載されているすべての知的財産権レジームによる影響を研究する緊急の必要性があ
ることを認識するよう強く勧める。
アフリカの共通見解
上述の OAU イニシアティブが概念的・経験的論拠となり、アルジェで開催された OAU
首脳会議(1999 年 7 月)、アルジェで開催されたアフリカ通商担当大臣会議(1999 年 9
月)、アフリカグループを代表して WTO に送られた、自由貿易ではなく公正な貿易を何
よりも求めるケニアの文書(1999 年 7 月)において、アフリカの共通見解が形成された。
そこでは、植物の新品種の保護のための「特別の制度」には、地域社会の権利と先住民の
知識、農民と漁民の権利、工夫、技術、慣行を保護するシステムが含まれるべきであると
主張された。また、さらに、TRIPS 協定が、生物多様性条約(CBD)と、FAO の遺伝資
源委員会で審議され、食料および農業用植物遺伝資源に関する国際条約として成立した食
料および農業用植物遺伝資源に関する国際的申し合わせ(IU)と一致するよう求めた。ア
フリカの見解として最も重要なものの1つは、生物に対する特許への反対であった。(詳
細は付録2を参照)
OAUのこの2番目のイニシアティブは、さまざまな生物多様性に関連する会議(生物多
様性条約、食糧および農業遺伝資源に関する国際的申し合わせ(IU)、バイオセイフティ
ー議定書など)の交渉において、共通見解を作成するために以前から活動してきたアフリ
カ諸国の政府交渉担当者、科学者、非政府組織、地域社会をベースにした組織からなるチ
ームによって推進された。これらのメンバーたちは、TRIPS協定の実施もモニタリングし、
OAU/STRCと協力し、こうした共通の課題についての作業を進めた。
2つのグループは、発展途上国一般、特にアフリカで、生物多様性条約や法的拘束力を
持つWTOの協定を遵守するようにという圧力が高まってきたことに対応する共同歩調の
ための共通点を見出した。1998年4月にアディスアベバで開かれたこれらのグループの会議
で、もともと、第三世界ネットワーク(TWN)、持続可能な開発研究所(ISD)の支援を
受けて、エチオピアの環境保護局によって策定された、地域社会の権利と生物資源へのア
クセスに関する法律の草案が討議され、それがアフリカの模範法案(当時は模範法律案と
呼ばれた)として採択された。
模範法案はエチオピア政府から資金援助を受け、そして、ブルキナファソのワガドゥグ
で1998年6月に開催されたOAU首脳会議の第68回通常会議で検討された。OAU首脳会議は
模範法を採択し、加盟国政府に以下のことを勧告した。
1) 生物資源、地域社会の知識と技術へのアクセス、そしてこれらがTRIPS協定の貿易レ
ジームで確立される知的財産権から受ける影響を規制する必要性に対し、優先順位の高い
問題として正当な注意をはらう。
266
2) 加盟各国が生物資源へのアクセスに関する模範法律案を採択し、国レベルで国益にし
たがい、すべての利害関係者を含んだプロセスを開始し、法律を制定するよう求める。
3) 生物多様性へのアクセス条件と地域社会の権利保護を重視するアフリカの生物多様性
条約を作り、採択するためのアフリカ諸国間の交渉プロセスを開始する。
4) 加盟各国の主権と地域社会の重要な利益を自衛するアフリカの共通見解を策定し、
1999年のTRIPS協定の改定に関して他の発展途上諸国との連携を行う。
OAU首脳会議では、生物資源と地域社会の権利の問題に関するアフリカ地域および小地
域の会議の開催を含め、調整とフォローアップ活動のための拠点としてOAU/STRCを設置
することも事務局長に要請された。
1.4
この法律が重要な理由
このOAU首脳会議決定によって、生物多様性条約とTRIPS協定が加盟各国の国内アジェ
ンダとされた。この決定の後、ワークショップ、セミナー、専門家会議、円卓会議が何度
か開かれたが、社会全体の意識レベルを向上させ、模範法の今後の策定と実施により多く
の人の参加を得るため、社会のさまざまな層を対象としていた。こうした活動によって、
優先順位の高い問題についての望ましいレベルの合意が得られ、諸政府が自らの義務を果
たすのに役立った。
アフリカの長い歴史、文化、精神的・政治的価値は、開発と成長の可能性への抑圧と崩
壊が交錯した数世紀の間に生まれたものである。今、こうした価値とアフリカ社会の将来
は、私有化、科学技術研究の非倫理的な利用、生物や地域社会の工夫・慣行への知的財産
権の押しつけによって脅かされつつある。これについて、アフリカにおける社会的・生態
系的公正さを求めている人々は、このように押しつけられた知的財産権レジームはアフリ
カの文化と伝統とはまったく一致せず、したがって容認しがたいものであると考えている。
こうした趨勢は、アフリカの外から強制されたものであり、自分たちが先祖から受け継い
だ遺産、地域社会、将来世代を犠牲にして、個人的な利益によって動かされているアフリ
カ人とアフリカの外にいるその支援者たちによって進められているのである。
現在の課題は、押しつけられた知的財産権に対抗する手段を見出して、主に個人的・商
業的利益によって突き動かされている勢力が、さらに広範な地域社会の社会的結束と生態
系の安全性を損なわないようにすることである。
自然の大きな流れを保ち、知識と技術の創出という集団における社会的なプロセスを保
護することが、アフリカ模範法の目的である。また、人間の共同体とその共同体が共生し、
自らの存在を依存しているその他の種および生態系との間の生態学的に正しい関係を認識
することも目指している。この原則は、アフリカの多様な文化の慣習法で守られてきたも
のである。
国レベルでのこの法律の策定がさらに進めば、現代国家の法律においてアフリカの文化
的伝統を反映し認識するという興味深い機会となる。西洋の法律学(立法)の植民地主義
的束縛からアフリカを解き放つ機会となり、アフリカの多様な文化的大局観や、アフリカ
の文化とともに発展してきた多様な生物界を内在的に尊重する関係を十分に反映する法律
学を発展させる機会となる。
さらに現実的なレベルでは、この法律には次のような目的もある。
267
i) アフリカの農村生活と国内の食料生産システムの破滅を防ぐ。これは、あらゆる農業
の基盤である種苗、大多数のアフリカ人の医療の基礎である伝統的な薬草、アフリカの地
域社会の多岐にわたる芸術と工芸の基礎である天然繊維と染料を崩壊の危機に追いやって
いる現在の趨勢を止めることによって達成される。
ii) 社会的にプラスとなるよう生物多様性と工夫を配分する伝統的な地域社会の慣行の
継続を促進し、アフリカの地域社会の生物多様性、知識、技術をアフリカの外部の企業が
利用する場合に生じる新しい利益の配分に、この配分方法の適用を拡大する。
iii) 本書で繰り返し述べられている、グローバル化のもたらすマイナスの結果(付録2の
参考文献を参照)に対して、アフリカ人の大切な利益を自衛する。
iv) WTO加盟国でもあるOAU加盟国が、自国の地域社会の権利を損なうことなく、TRIPS
協定の第27条第3項(b)の義務のひとつを満たせるよう支援する。
2.
国際的義務を果たすためのアフリカの戦略
アフリカ模範法は厳格なものでも、拘束的なものでもない。そうではなくて、生物多様
性の豊かな先住民の生活システムのダイナミックな本質と、生物多様性によって象徴され
る人類が受け継いできた豊富な遺産を認知するものである。他者の開発を支配しようとす
る権力者の利益にしたがって、改訂されたり作成されたりする法律が増えている。しかし、
この法律には、地域社会の生活システムの領域への侵食を防ぐという具体的な目的がある。
この法律は、地域社会のオープンシステムと独占支配・私有化のシステムとの間に境界線
を設けるものであり、その境界線を地域社会の防衛線とするものである。
本模範法は、地域社会と先住民社会の工夫にみちたライフスタイルを尊重 し、 維持 し、
また、地域社会と先住民の生物資源、知識、工夫、慣行へのアクセスを認める場合に同意
を得るという生物多様性条約締結国の義務に適合している。本模範法は、そのように認め
られたアクセスから生じる、他者の利益を彼らに配分することを確保するものである。つ
まり、本模範法は、大勢を占める農村社会での膨大な生物多様性と文化の多様性というア
フリカ独特の特徴に応じて適切に、農民の権利を含め、アクセス、利益配分、地域社会の
権利を認める法的制度である。
WTOのTRIPS協定は各国に植物品種に特許あるいは何らかの「有効な特別の制度」を導
入し、微生物に特許を認めることを義務付けている。先進工業諸国とUPOV事務局は適切
な「特別の制度」の選択肢として1991年UPOV条約を推進している。
1991年UPOV条約を拒否するアフリカ諸国が増えている。というのはこれが地域社会の
生物多様性に外国の独占を認めるためのツールであるということがわかったからである。
したがって、アフリカ模範法には植物育種者の権利が含まれ、主に外国企業や外国市場に
よる商業的栽培と工夫に関する新しい規範によって、アフリカの地域社会の工夫と栽培の
長い伝統が損なわれないようにしている。これはTRIPS協定第27条第3項(b)の「特別の制度」
を選択する義務を満たしており、同時に生物多様性条約のもとでのアフリカの人口の大多
数に対する義務を弱体化するものでもない。
WTOは植物品種あるいは他の生物またはその構成部分に対する商業企業の私的独占権
を認めることを世界規模で実施しようとしているが、これによって、アフリカのダイナミ
ックな生活システムは、システム内の重要な要素、特に、農民の工夫、栽培、生物多様性
へのアクセスが制限を受けた場合に、ひどく蝕まれるだろうということが認識されなけれ
ばならない。
268
アフリカの農村部の大多数は、食料、医薬品、すみかを生物資源、知識、工夫、慣行の
自由なアクセスと交換に依存している。これは生活の安全保障と食料の主権の問題であり、
生き残りの問題である。アフリカの諸政府は、主に外国資本による企業がアフリカの現在
と将来の世代の長期的な食料の安定供給を犠牲にして、短期的な利益のためにアフリカ人
民の生存を蝕むことを許してはならない。生存権は世界人権宣言で謳われており、人類が
生存を依存している生物の多様性が、グローバル化している営利追求勢力によって危うく
されることがあってはならない。
アフリカ模範法は、各国が生物多様性条約を遵守しつつアフリカの利益の保護を優先す
る方法を提示するものであり、この立場から、TRIPS協定の要件を満たすものである。一
方、WTOでのアフリカグループの共通見解は、TRIPS協定の適切な見直し、見直し後の5
年間の移行期間、地域社会の権利と慣行の保護を認める特別の制度、TRIPS協定と生物多
様性条約、食糧および植物遺伝資源に関する国際的申し合わせ(IU)との調和を求めてい
る。
現在の課題は、利害関係者、つまり生活に影響を受ける人々が関与する参加プロセスを
通じて、調和を実現することである。アフリカ模範法は、全体としてTRIPS協定での「特
別の制度」のひとつとなると考える人々もいる。また、集団の生活システムを支配するよ
うな私的商業独占権を推進する貿易レジームを作ることはできないと考える人々もいる。
つまり、模範法の正しい領域は生物多様性条約と一貫性を持つところである。TRIPS協定
が生物多様性条約と一貫性をもつようになれば、TRIPS協定は、倫理的・民主的価値、そ
して、食料の安定供給という命題、生物資源の保全、正義にしたがうことになるだろう。
そうすれば、植物育種者の権利の項は、TRIPS協定の「特別の制度」の要件をまさしく実
現することになるのである。
また、生態系の健全性のために必須の要素が、したがって、微生物、人類を含めて動植
物の生存が、貿易を優先することによって支配されてはならないと考え、その結果、TRIPS
協定の第27条第3項(b)はこの協定から完全に抹消されるべきである、と考える人々も増え
ている。
このことが実現すれば、それぞれの協定はその領域で強化されることになる。つまり、
生物多様性と環境に関しては生物多様性条約、貿易に関してはWTO協定が強化される。生
物多様性条約からもWTOからも離れた、適切な独立した紛争解決メカニズムを設立するこ
とも必要となろう。そうなって、初めて、紛争を公正に解決することが可能となるだろう。
3.アフリカ模範法のコア原則
3.1 食料の主権と安定供給
ある地域社会を支配する最も効果的な方法は、その地域の食料の管理を奪うことである。
つまり、食料の主権と安定供給は絶対的な権利である。 ――コロンビアCOAMAプログラ
ム
アフリカ先住民の農業システムはアフリカの人々の食料必要量の90%以上を生産してい
る。このシステムは生物多様性の豊かな先住民の農業慣習に根ざしている。こうした農業
システムは、多毛作、休耕、輪作のほか、生産を拡大するための生態系をベースとした技
術を含むのが普通である。特に、先住民の農業システムには、農家が保存していたあるい
は、共有していた種子や苗を利用することが含まれている。人々の生活は、経済活動全体
のおよそ95%を生物多様性に依存している。
269
独占された農薬、均一な種子、単一栽培、新しい遺伝子技術はすべて、生物多様性を減
少させる。新しい遺伝子技術は均一な種苗を作るだけではなく、先進国を本拠地とする大
企業によって独占的に管理されている。そのため、今あるような工業特許に保護された農
業によって、食料生産に対する地域と国の管理権が奪われてしまう。したがって、こうし
た生物多様性を減少させるシステムがアフリカの食料主権と安定供給に及ぼす潜在的な悪
影響は、非常に重大である。
小規模農民は工業化された農業によって土地から追い出される傾向がある。というのは、
これは自分たちが管理できないシステムだからである。小規模農民は定期的に種子やその
他の投入物を購入する資金力がない。
アフリカではいっそう多くの食料が必要とされているということが認識されている。し
かし、食料不足の原因は生産性の低さそのものではない。本当の原因は、政治、経済、市
場へのアクセス、投資など、構造的な経済システムであり、貯蔵設備、輸送、市場など、
インフラに関する国家の経済システムである。何にもまして、飢餓層の購買力の欠如が原
因となっている。したがって、明白な解決策は、十分な量の食料を生産することと、地域
レベルで食料にアクセスできる購買力を持つことである。つまり、地域社会が自らの食料
生産・流通・供給システムに対する主権を持ち続けることが重要である。したがって、食
料の安定供給を確保する取り組みは、食料主権を維持する能力の向上に重点を置くべきで
ある。
遺伝子工学産業が急速に成長しつつあるが、そこでのアフリカの主な役割は、研究およ
び商業目的の原料の供給源としてであった。遺伝子組換え作物の大多数は、多国籍農薬企
業が製造した除草剤に対して抵抗力を持ち、あるいは殺虫剤を含んでいる。現在の知的財
産権制度は多国籍企業が特許を保有することを認めているため、種苗に対して独占的な権
利を有し、その結果、種苗に対しても、作物をつくるのに必要な農業化学品に対しても支
配権を持っている 11 。これは農民にとっては破滅的な影響を持つ。というのは歴史上初め
て、農民は自分たちの生活基盤である「種子」に対する支配権を失いつつあるからだ。
「種子」が企業の財産となれば、農民は自分たちがどのように栽培し、どんな農業化学
品をどれくらいの量使うべきかが記されている契約書に署名せざるをえなくなる。企業は
農民の畑に立ち入り検査も行うが、企業が契約書に違反しているとみなすことが起こって
いないかどうか、許可もなく行われることも多い 12 。つまり、農民は企業の奴隷になりさ
がってしまい、すべてのリスクに責任を負わねばならず、うまくいかなかったことにはす
べて責任をとらされるのである。
こうした過程により、主要な安定作物(小麦、トウモロコシ、大豆、菜種。コメも増え
ている)の種子を所有する多国籍農業化学品企業による世界の農業生産システムの集中支
配が行われつつある。遺伝子工学は、たとえば、旱魃に強い変種やウイルス耐性のある変
種をつくりだすなどといった良い影響をアフリカの農業生産に及ぼす見込みがある 13 。し
かし、こうしたことが研究開発テーマとなったのは、つい最近のことである。
アフリカ地域社会の外部勢力の支配による食料生産の集中化は、政治的・生態学的災害
11
農業化学品には、肥料、除草剤、殺虫剤が含まれる。
12
Pecy Schmeiser というカナ ダの農民は、多国籍企業から契約なしに同社の遺伝子組み換え種子を栽培
したとして不当に告発されて、処罰を受けた。しかし、種子は近隣の農場で栽培されていた遺伝子組換
え種子が混入したものであった。
13
Wynberg, R. 2000 年
270
を招く。農民と国家は多国籍企業に管理されるようになり、利益によって突き動かされる
多国籍企業の計画の単なるツールになってしまう。このため、貿易協定によって、地域の
食料の安定供給を犠牲にして、ますます輸出商品に重点を置く食料生産に転換されようと
している。
種子を自由に扱う権利と責任
地域社会と国家の自立を確保する純粋な食料の安定供給には、集中化ではなく、分散化
が必要である。家庭の食料の安定供給、特に種苗の安定供給は、地域社会と国家の食料の
安定供給の基盤である。食料の安定供給は、地域社会が資源と生活についての意思決定、
管理と運用の自治を有する、分散型食料生産システムにおいて達成される。これは世界人
権宣言で基本的人権として記されている 14 。農産物は、国家の食料必要量が満たされ、余
剰部分がある場合のみ、輸出されるべきである。
生物多様性は家庭の食料安定供給と食料自治の基礎である。同様に、食料自治は政治と
生態系の安全保障の基礎である。地球温暖化による気候変動が進んでいるため、地域社会
の管理を強めると共に生物多様性の基盤を育てることが食料の安定供給と政治の安定の両
方のための最上の保証となる。
ほとんどの地域社会では、食料の安定供給は主として、生物多様性の拡大と管理に最も
寄与している女性の知識と活動に依存している。農業の機械化と換金作物が重視されると、
女性が軽んじられ、伝統的な生活システムの知識、管理、ひいては自治が不可逆的に蝕ま
れる。知識と伝統が失われると、こうした知識システムの再生産能力は破壊され、数千年
にわたって発展してきた文化も消滅してしまう。
FAOは食料の安定供給を「活動的で健康的な生活のために必要な食料にあらゆる人々が
常にアクセスできること」と定義している。これは、食料生産システムに対する支配権を
維持し、その結果、依存を創り出す開発を防ぐのに必要な要素へのアクセスと解釈されて
いる。この意味では、アフリカの食料安定供給の推進は、アフリカ模範法の基本である。
アフリカ模範法は、生物資源へのアクセスを規制することによって、生物多様性、知識、
工夫、慣行へのアクセス、利用、交換の伝統的システムを阻害してはならないとはっきり
認めている。本模範法の重要な目的は、交換と互恵のこうしたオープンシステムの維持と
保護を確保することである。
先住民の慣行は、地域社会の環境と生物多様性にしたがって、地域社会により創り出さ
れ、蓄積され、洗練されてきた。こうした慣行は、制限されたり、蝕まれたりしてはなら
ず、奨励され、拡大されるべきである。というのは、人類の歴史を通して持続可能な農業
のベースとなっており、現代の工業化農業もまた、その産物は地域社会によって生み出さ
れた農業生物多様性のこの豊富さに依存しているからである。
アフリカ模範法では、種苗を保存、利用、交換、販売する農民の慣習法的権利が承認さ
れている。というのは、この権利が農業の慣行の基礎であり、農村地域社会で常に行使さ
れていたためである。自分たちの種苗を開発し維持する能力によって、農民は自分たちの
生活システムの管理権を持ち続けることが可能となる。また、この能力によって、農民が
生物多様性や関連する先住民の知識、工夫、慣行を開発し、世代を越えて引き継いでいく
ことも可能となる。同時に、このことで、生活システムに対する管理権が保たれ、したが
って、生物多様性と関連する知識や技術の開発と世代間の移転を続ける能力が保たれてい
14
例として世界人権宣言(1949 年)第 3 条、第 19 条、第 29 条を参照。
271
る。
種苗の選別、保存、開発、交換、販売という行為は、現在行われている生物多様性に根
ざした地域の生活システムを保全し、適応し、再生する基礎となっている。こうした要素
はあらゆる先住民の農業システムに見られる。さらに、これらは農民が自分たちの生活シ
ステムに対する管理権を保つ手段となる。したがって、種子の安定供給は食料の安定供給
の基礎であり、したがって、アフリカ模範法に欠かせない。
アフリカ模範法の食料の安定供給に関する参照箇所は以下のとおり。
目的、(k)
アクセス、第15条(vi)
農民の権利、第26条第3項
植物育種者の権利、第33条第1項(b)
3.2
国家主権と譲渡不能の権利と責任
先住民の成員にとって、資源の利用についての知識と決定は集団に属するものであり、世
代を越えたものである。個人であれ、地域社会であれ、いかなる先住民族も、政府も、民
族の財産であり、あらゆる世代が次世代のために守っていく義務を負う資源を売り払った
り、所有権を移転することはできない 。-アマゾン流域先住民族調整会議(Coordinating
Body of Indigenous Peoples of the Amazon Basin (COICA))の1994年の声明
国家は国民を代表すると法的に認められた主体である。その主権と支配する権限は国民
とともにあり、国民によって賦与されなければならない。したがって、国家には国民の権
利を守り、国民を一方的な外部の介入から保護する責任と義務がある。国連憲章の第2条に
は、国家の主権平等の原則とそれに関連した不介入の原則が記されている。
不介入の原則は生物多様性条約第3条にも記されており、国が自国の資源を開発する主権
を持つと同時にこうした資源を保全し持続可能に管理する責任を持つとしている。
したがって、国内的には、国家は自国民の文化の多様性を守り、自国民の意見に耳を傾
け、抵触する利害関係の調整をしなければならない。これは自国民との社会契約である。
この点に関して、国の権利と地域社会の権利の関係を明らかにする必要がある。国は地
域社会の権利を保護すべきである。というのは、社会文化制度は内在的に持続可能性の原
則を具現化するものであり、生物多様性の生成、維持、保護に責任があるからである 15 。
国の法律はこの関係を定義する必要があり、地域社会が有する生物資源、それに関連した
慣行、工夫、技術が社会に与えるサービスが蝕まれることを防ぐため、地域社会のそれら
に対する権利と責任を保証しなければならない。つまり、地域社会の権利は国内の法制度
に記され、承認されなければならないのである。強大な貿易の勢力が国際的に規制される
場合には、国際条約においてもこうした権利と責任は記されなければならない。
アフリカ模範法は、地域社会の生物多様性に関連する知識、工夫、慣行が過去と現在の
世代が何度も試み、試してきた成果であるという原則に基づいている。これらを確かに継
続、発展させ続けていくためには、次の世代に引き継いでいかなければならない。これは
あらゆる世代がそれに続く世代に対して有する基本的な権利と責任である。つまり、生物
資源のいかなる構成部分とそれに関連する地域社会の知識、工夫、慣行を私有化したり、
15
Shiva V., ‘A New Partnership for National Sovereignty: IPRs, Collective Rights and Biodiversity’ in Solomon
Tilahun and Sue Edwards (eds.) ‘The Movement for Collective Intellectual Rights.’
272
売り払ったり、独占したりする権利は誰にもない。この意味で地域社会の権利は譲渡不能
であり 16 、そうした権利を持つ人々から奪うようなことがあってはならない。この権利は
世代を越えた権利と責任であり、誰にもそうした権利と責任を蝕んだり、破壊したり、決
定を行う個人的な権威はない。そうではなく、こうした権利と責任を発展させ、将来世代
に引き継ぐ義務を持っているのである。つまり、この権利は不可侵、すなわち、奪うこと
ができないものなのである。
主権国家が地域社会の権利を推進するための手段に関して多国間で合意する正当性は2
通りある 17 。生物多様性条約の第8条(j)でも、食糧および農業遺伝資源に関する国際的申し
合わせ(IU)の改訂版でも、農村地域社会を含め、地域社会と先住民社会が生物資源、自
らの知識・技術に対して譲渡不能の権利を有し、こうした権利は国レベルでも国際レベル
でも正式に認められ、実施されることが必要であると認めている。これは諸条約、とりわ
けTRIPS協定によって国際的に推進されている知的財産権による私有化からこれらを保護
するためである。
アフリカ模範法の国および地域社会の主権と譲渡不能の権利に関する参照箇所は以
下のとおり。
前文 第1段落
第1章: 目的、(a)
第4章: 地域社会の権利、第21条第1項
3.3
地域社会の権利と責任
先住民とその社会、その他の地域社会は、彼らの知識と伝統ゆえに環境の管理と開発に重
要な役割を有する。各国は彼らの主体性、文化、利益を認め、正当に支持し、持続可能な
開発を達成するために彼らの効果的な参加を可能とすべきである 1992年のUNCEDリオ
宣言第22原則
人間は社会的な生き物である。地域社会は、集団のアイデンティティ、歴史的連続性、
共通の慣習と規範が特徴であり、これらがすべて、何世代にもわたって生活を左右してき
た。これらの文化的規範は、人間の集団として特定の生態系の中で生活することによって
創り出されてきた、知識、工夫、慣行の蓄積に根ざしている。また、地域社会の成員間の
相互関係のみならず、地域社会と地域社会が依存する地域の環境との相互関係もこの規範
の影響を受ける。したがって、人間の社会文化システムは、人間の心理と行動、社会的ダ
イナミクスと組織、他の種と複雑な生態系についての時と場所を超えた詳細な知識が作り
出すものである。すべての生物が相互依存しているという事実や、ダイナミックで相互作
用的な社会文化のシステムのバランスは、人間の住む地域社会と他の種に対する責任を認
知することによって見えてくる。
地域社会の権利に関する法制度を開発する必要性が生じてきたのは、生活の安全を確保
するための基本的要件(健全な植物、動物、生態系、社会システム)が、グローバル化し
ている貿易の勢力によって著しく脅かされているためである。しかし、地域社会には防衛
する力がほとんどない。WTOの貿易レジームは、国家の内政に干渉する法規によって実施
されている。この攻撃に対して、地域社会をベースにした農村生活に依存している大多数
の人々の権利を守るための法律を策定することは、アフリカの国家それぞれの義務である。
16
17
Singh Nijar, G. op.cit.
GRAIN, ‘Towards a Biodiversity Community Rights Regime’, Seedling, 1995 年 10 月
273
生活のさまざまな面の多くが私有化され、取引の対象とされ、集団のアイデンティティ
が国家レベルでのみ存在する、という現在の社会経済パラダイムが誕生したのは、ほんの
数世紀前のことである。この個人を中心とする世界観はヨーロッパ生まれであり、どこで
も優勢であるというわけではない。人類のさまざまな社会組織で最も広く普及している規
範は、地域と地域社会をベースにしたものである。こうした規範には相互の交換と互恵が
含まれる。生命を支えており、それゆえ人間が危険な場合にのみ破ることが許される自然
の生態系の法則を認めているのである。
アフリカ模範法(第1条)は「地域社会」を特定の地理的領域に住む人々と定義している。
地域社会は、書面によるものであれ、口承によるものであれ、自分たちの慣習法にしたが
って、生物資源、知識、工夫、慣行を生み出し、利用し、管理し、伝えている 18 。模範法
には地域社会の権利について特別の章が設けられている。
地域社会の権利は、地域社会の慣習にもとづく慣行が人類と他の種の過去および将来の
世代に対する天賦の義務と責任から派生しているということを承認している。これはすべ
ての生物との基本的な関係を反映するものであり、生物はもともと尊重されなければなら
ないという考えが反映されている。実は、優勢を誇る西洋世界では、この世界観は広く理
解されていないが、地域社会の権利の目的は、多文化という人類の本質を承認し、保護す
ることである。
生物多様性の利用、管理、開発、ならびに生物多様性に関連する伝統的な 知識 、工 夫、
慣行を支配する地域社会の権利と責任は、生物多様性に対する個人の権利や、個人の所有
権と財産の概念が生まれるずっと以前から存在していた。つまり、地域社会の権利は、当
然の、譲渡不能の、既存のあるいは基本的な権利である。アフリカ模範法は、前文で地域
社会の権利が本質的に天賦のものであると承認している。
生物多様性に対する地域社会の権利から、生物多様性に対する地域社会の既存の管理権
が確立されてきた。この権利体系は、生物多様性の保全と持続可能な利用を拡大し、知識
と技術の利用といっそうの発展を促進するものであり、地域社会のアイデンティティのた
めにも、生物多様性の保全と持続可能な利用における地域社会がかけがえのない役割を続
けるためにも絶対的に必要なものである。
地域社会の権利は、多民族を本質とするアフリカにとって、特に重要である。アフリカ
模範法は、既存の権利体系を承認することによって、アフリカの豊かな文化遺産と生物資
源を承認し、維持する機会を提供している。
国連は、先住民族権利宣言草案(UNDDRIP)で地域社会と先住民社会の集団としての権
利を承認し、すべての国が国内法を通じてこうした権利を導入することを勧告した 19 。
20
アフリカの外では、いくつかの国が集団としての権利をすでに国内法に組み込んでいる
。たとえば、フィリピンの先住民権利法は、先住民社会が「それが祖先の土地の一部で
18
アフリカ模範法第 1 条
19
国連先住民の権利宣言草案(DDRIP)は地域社会の権利を推進し、国家との衝突や紛争を解決する公正
な手続きおよび個人や集団としての権利のあらやる侵害に対して有効な救済手段へのアクセスに対する
先住民の権利に言及する特別の条項が含まれている。
20
1967 年のボリビア憲法の 1994 年改正。1991 年のコ ロンビア憲法。1999 年のペルーの先住民の集団
としての知識と遺伝資源に対するアクセスの保護計画案
274
ある」生物資源と遺伝資源に対する権利を有していること、を承認している 21 。ペルーの
先住民の集団としての知識と遺伝資源に対するアクセスの保護計画案(1999年)では、権
利は無期限で、地域社会としての人々に対して与えられるものであると承認している。ベ
ネズエラ憲法は伝統的な権利への特許を禁止している。
かつて強調されたように、国際法では、有形の生物(天然)資源に対して国は主権を持
っている 22 。しかし、こうした資源や資源を使うための技術に関連する知識のような無形
の要素は、「社会の共通財産」であるとみなされているため、国際法では保護されていな
い 23 。生物多様性条約は、第8条(j)項で生物多様性の保全とその衡平かつ持続可能な利用に
関連する先住民および地域社会の知識、工夫、慣行の重要性を承認している。
支配的な企業を有する、力のある少数派によって完全に侵略される前に、集団としての、
多様な、幾世代にもわたるという本質をもつ地域社会の権利をこの地球上の多数の人々の
ために承認することが今こそ必要である。こうした世界観は対立する価値を具現化してい
るため、相容れない。アフリカ模範法は、アフリカの生物多様性と文化多様性における豊
かな遺産を防御するために、地域社会の権利と責任を、生物多様性、知識、工夫、慣行の
活用の中心に据えている。
アフリカ模範法の地域社会の権利に関する参照箇所は以下のとおり。
前文 第2、第6段落
第1章: 目的、(g)
第4章: 地域社会の権利、第16条
3.4 先住民の知識の価値
発展途上国の医療ニーズの 80 %は地域の医療のしくみを使う地域社会の治療師によって満
たされている。 -RAFI, 1997年
農村文化は、生態系に関する深い知識を有しており、それには、さまざまな種、鉱物、
土壌、季節の移り変わりについての具体的な知識と、長年にわたってともに発展してきた
生態系のダイナミズムに対する理解が含まれている。つまり、人類の文化は人類が生態系
をどのように解釈し、適応してきたかを反映するものである 24 。先住民の農村文化には生
態系を中心とした世界観があるが、これは、他のすべての種と同様、人類が自然の法則に
よって究極的に支配されていることを教えてくれるものである。この世界観が、生命のダ
21
1997 年の先住民権利法 34 条(フィリピン)
22
「諸国は、国際連合憲章および国際法の諸原則に基づき、自国の資源をその環境政策に従って開発す
る主権的権利を有し・・・」生物多様性条約第 3 条
23
しかし、場合によっては「社会の共通の財産」であることが、伝統的な知識に特許が認められるのを
防ぐことができる。というのは、これには、特許が認められるための要件のひとつ「新規性」、すなわち、
「先行技術」の概念が欠如しているとみなされるためである。
24
1998 年 3 月、多数の先住 民組織がローマに集まり、文化多様性保護のガイドラインに関するローマ
決議を採択した。この決議は、文化多様性の保護を保証するための国際的な新しい手段を提唱している
(文化多様性保護のガイドラインに関するローマ決議、1998 年 3 月採択、1998 年 9 月および 1999 年 8
月改正)。ローマ会議は、諸政府と国際社会が「 アボリジニ、先住民および地域社会の伝統的な知識は諸
国が自然環境の賢明かつ持続可能な利用を確保するため、利用できる知識基盤の重要な一部である 」と
いう事実を認めるよう勧告した。
275
イナミックな循環と相互作用を尊重させ、自分たちがその一部である生態系に対する責任
とその生態系において建設的な役割を果たす能力を持たせるのである。
先住民の知識や技術は地域社会間および自然との交換、互恵、対話というオープンシス
テムの中で発展し、維持されている。これは幾世代にもわたって続いているダイナミック
なシステムで、これによって個人の生活様式も地域社会の生活様式も決定されている。
2000年5月15~26日にナイロビで開催された生物多様性条約の第5回締約国会議では、先
住民の知識は「価値あるもので、他の形式の知識と同様に尊重し、有益かつ必要なもので
あると考えなければならない」と認められた 25 。
あらゆる形態の私有独占権、特に知的財産権は、地域社会の知識、工夫、慣行を人間ど
うしで、また自然との開かれた相互作用において共有され、交換されるべき活気に満ちた
システムの重要な要素として認識するのではなく、所有し、管理できる商品に変えてしま
う。
WTOのTRIPS協定は、地域社会および先住民社会の知識、工夫、慣行や他のあらゆる慣
習法制度を認めていない。しかし、生物多様性条約第8条(j)項は、地域社会と先住民社会の
知識、工夫、慣行が生物多様性の保全と持続可能な利用にとって必須であり、これらを認
め保護しなければならないと断言している。
アフリカ模範法は、アフリカの豊かな文化的多様性、したがって生物多様性を保護する
機会を提供する。模範法が目指しているのは、法における多様性を認めることだけではな
く、アフリカの多様な文化が変化に適応し、いっそう発展し続けるよう支援を積極的に行
い、アフリカ文化の可能性を伸ばすことでもある。
この法律は、硬直したり、柔軟性を失わないように設計されている。地域社会を囲い込
んだり、隔離したりしようとするものではない。逆に、生物多様性、知識、技術を保護し、
再生し続けるためのスペースが持てるよう、外国の思惑による圧力から自由に、独自に、
発展し適応している先住民文化のダイナミックな本質を強調するものである。
アフリカ模範法の多様性の保護と知識の価値に関する参照箇所は以下のとおり。
前文 第4段落
第2章: 定義、第1条(地域社会の知識)
第4章: 地域社会の権利、第16条(iii)および(v)、第23条
第5章: 農民の権利、第24条第1項、第26条第1項(a)
第7章: 制度的取り決め、第60条(ii)
アフリカ模範法の伝統的慣行に関する参照箇所は以下のとおり。
前文 第4段落
第1章: 目的、(a)
第2章: 定義と範囲、第2条第2項
第4章: 地域社会の権利、第21条第2項
第5章: 農民の権利、第25条、第26条第1項、(d)および(f)
第6章: 植物育種者の権利、第31条第2項
3.5
25
意思決定への十分な参加
決議 V/16 付属書( 第 8 条 j 項の実施に関する作業プ ログラム、第 1 章(総則))
276
すべての民族・国家は、自らの目的のために、相互利益の原則に基づき、国際経済協力と
国際法から生じるあらゆる義務を損わない範囲で、自然財産と資源を自由に処分すること
ができる。いかなる場合にも、人間は生活の手段を剥奪されてはならない。 26
アフリカ模範法の具体的な目的のひとつは、生物多様性、知識、技術に影響を及ぼすあ
らゆる問題についての意思決定に地域社会の有効な参加を確保することである。先住民社
会と地域社会は、彼らの生活や領域に影響を及ぼす、そして生物多様性の保全と持続可能
な利用に関連する計画、政策、プログラム、プロセスの策定と実施に参加することが確保
されなければならない。
国際レベルでは、ILOの先住民・種族民条約(169号条約)は、大きな節目である 27 。こ
の条約は先住民が自分たちの開発の道筋に関する決定を行う権利を承認している。アフリ
カの場合、この条約の適切な事項が実施されることは、地域社会に対して重要な影響を持
つだろう。また、地域社会の制度、福祉全体、生物多様性をベースにした生活を続ける能
力についての決定と開発に役立つだろう。
先住民の地域社会に関するILO条約と同様、アフリカ模範法は、地域社会に直接、影響
を及ぼす可能性のある国や地域の開発計画・プログラムの作成、実施、評価に地域社会が
参加する必要性を強調している。模範法は、意思決定プロセスに地域社会が十分組み込ま
れ、そして参加するための手段を確立するよう、各国政府に要請している。
この分野ではなされねばならないことが多数残っている。地域社会と先住民の意思決定
への十分な参加はまだ現実とはかけ離れたものであると、広く考えられているからである。
文化にふさわしく、外からの価値観を押しつけない地域社会の参加のためのプロセス作り
に向けた行動力が必要である。このようにして基本的権利としての衡平な参加という意識
が作られ、地域社会によって独自に実践されるようになり、すべての決定で参加に必要な
時間と場所が確保されるようにならなければならない。
どの伝統にも、何世紀にもわたってその発展を形づくってきた独自の世界観がある。地
域社会の伝統と知識の多様性を将来世代にも持続していくためには、自らの文化規範にし
たがって決定を行うこうした地域社会の能力は重要である。というのは、これが地域社会
の発展プロセスを方向づけるものだからである。つまり、あらゆる参加のプロセス内にア
フリカの文化多様性が含まれていなければならない。
アフリカ模範法は、生物資源、知識、技術へのアクセスから生じる利益の配分と利用に
関する決定を行うときに、影響を受ける地域社会の効果的な参加を確保する必要性をはっ
きりと認めている。また、生物多様性をベースにした地域社会の生活に影響を及ぼす意思
決定のプロセスにおいて、自分たちの思い通りに、十分かつ衡平な参加ができるよう確保
している。
アフリカ模範法の参加に関する参照箇所は以下のとおり。
前文 第6段落
第1章: 目的、(e)
第5章: 農民の権利、第26条第1項(c)
26 経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約(ICESCR)」および「市民的 および政治的権利
に関する国際規約(ICCPR)」の第1条(2)
27
1989 年 6 月に採択された 国連国際労働機関(ILO) の 169 号条約。実施は 1991 年。
277
3.6
生物多様性と遺伝子多様性へのアクセス
国内のあらゆる場所のすべての生物資源と地域社会の知識と技術へのアクセスはすべて、
必要な事前の情報に基づく同意と書面による許可申請にしたがうものとする。 -アフリカ
模範法第3条第1項
アフリカの生物多様性へのアクセスを得たい、というアフリカの外のさまざまな企業か
らの圧力が強まっている。「遺伝資源へのアクセス」という概念は生物多様性条約によっ
てもたらされたものである。生物多様性条約はアクセスが公正かつ衡平な原則によって支
配されることを確保すること目指しており、アフリカ模範法はこの原則に基づいている。
生物多様性条約第15条は、アクセスがこうした資源を環境上適正な利用に限定されるべ
きであり、こうした資源へのアクセスを決定する権限が各国政府にあり、かつ国内法令に
したがうものと定めている。しかしながら、いずれの場合にも、アクセスは事前の情報に
基づく同意(PIC-次項参照)と、相互に同意された条件に基づくものでなければならな
い。生物資源の商業的利用から生じる利益は、これらの資源の提供者に公正かつ衡平な方
法で配分されなければならない。
非常に重要なキーポイントは、模範法には、生物多様性へのアクセス、利用、交換に関
する伝統的なシステムに影響を与えないことを確保する条項が含まれていることである。
地域社会による、また地域社会間での知識、工夫、慣行へのアクセスもまた、守られてい
るのである。
私有化へ向かう現在の趨勢は、生物多様性に依存する地域の生活にとって不利である。
生物多様性の商業化は多くの生活システムの一部となっているが、この商業化がどの程度
まで、どのような条件で行われるのかが今、問題となっている。この商業化から生じる利
益を地域社会が得る機会は、ほとんどなく、そうした可能性が十分に考えられることがな
いことが多い。あらゆるレベルで相互依存が強まっている世界において、資源の公正かつ
衡平なアクセスと交換は選択肢を増やし、協力に報いるものであり、多様性を推進するも
のである 28 。
アフリカ模範法は、生物多様性と地域社会の知識と技術へのアクセスの規制が「国とその
国民の義務」であるとしている 29 。この意味において、関係する地域社会と国家の事前の
情報に基づく同意にしたがったアクセスの制度を提供することは、この模範法の具体的な
目的のひとつである。
模範法では「アクセス」を「生物資源、その派生物、国内の関連当局から認められた地
域社会の知識、工夫、技術、慣行を取得する行為」と幅広く定義している。生物多様性、
地域社会の知識と技術へのアクセスのための非常に詳細な要件が記載されている。これら
の要件には、アクセスを申請する場合に満たされるべき要件、国内関係当局に提供される
べき情報、アクセスの認可のプロセスなどが含まれる。アクセスの許可に対して与えられ
る書面の種類は各国の自由裁量に委ねられている。事前の情報に基づく同意は、アクセス
のプロセスの中心である。
アフリカ模範法へのアクセスに関する参照箇所は以下のとおり。
前文 第5段落
28
“Last Chance for an Open Access Regime” SEEDLING, GRAIN (2000 年 6 月)
29
前文、第 5 段落
278
第1章:
第2章:
第3章:
第4章:
第8章:
3.7
目的、(c)
定義と適用範囲、第1条(「アクセス」と「生物資源」)、第2条第2項(i)
生物資源へのアクセス
地域社会の権利、第18条、第19条、第20条、第21条
推進に関する規定、第67条第2項(iii)、(v)、第68条
事前の情報に基づく同意(PIC)
採取者からの完全かつ正確な情報の提供と、その情報に基づき政府と1つまたは複数の地
域社会が与える、生物資源、先住民の知識あるいは技術の採取に対する事前の承認 -アフ
リカ模範法に定義された事前の情報に基づく同意
アフリカ模範法には事前の情報に基づく同意(PIC)についていくつかの条項があるが、
その中には事前の情報に基づく同意が具体的な目的として含まれ、アクセス制度の基礎と
して確立されている。模範法が、生物資源へのアクセスが許可される前に、影響を受ける
国と地域社会の両方の同意を必要としていることに着目することが重要である。
生物多様性条約は、原産国が別段の決定を行う場合を除き、遺伝資源へのアクセスが与
えられるためには、原産国の事前の情報に基づく同意を得ることを条件としなければなら
ないと定めている 30 。生物多様性条約では、事前の情報に基づく同意の手続きを定めてい
ないため、手続きの制定は生物多様性条約の締約国に委ねられている。
模範法第3章では、
-
保護地域を含め
その国のいかなる場所においても
生物資源、知識、工夫、慣行のいずれにアクセスする場合にも
事前の情報に基づく同意と書面による許可が必要と定められている。
各国は、アクセスに関する国内法を策定する際に、アクセスの申請を受け付け、処理す
る拠点として業務を行う国内所管当局を指定しなければならない。
模範法には、アクセスを得るためになされた申請に関連する地域社会との協議に関する
具体的な条項も含まれている。協議は国内所管当局で行うことを義務づけている。事前の
情報に基づく同意が与えられていなければ、生物資源へのアクセスは無効とみなされる。
許可が与えられた場合でも、協議が行われていなかったり、不完全であった場合、もしく
はその協議が真の衡平な参加についての基準にしたがっていない場合は、同様に無効とみ
なされる。
地域社会の権利に関する第4章でも、生物資源、知識、技術へのアクセスを与える前に地
域社会の事前の情報に基づく同意を得る必要性を強調している。
事前の情報に基づく同意は、意思決定への真の衡平な参加を確保するために必要なプロ
セスの概要を決めている。地域社会が情報に基づいた決定を行うためには、地域社会が理
解し、自らの視点で状況を評価でき、その結果、自らの言葉で決定できるような方法で情
報が知らされることが必要である。このためには、情報を処理し、慣習に基づいた方法で
決定できるための明確な情報と適当な時間が必要である。このことは、事前の情報に基づ
30
生物多様性条約第 15 条 第 5 項
279
く同意が純粋なプロセスであることを確保するためには絶対に必須である。
アフリカ模範法の事前の情報に基づく同意に関する参照箇所は以下のとおり。
第1章: 目的、(c)
第2章: 定義と適用範囲、第1条(事前の情報に基づく同意)
第3章: 生物資源へのアクセス、第5条
第4章: 地域社会の権利、第18条
3.8
利益の公正かつ衡平な配分
生物資源、地域社会の知識、技術、工夫、慣行の利用から生じるすべてのものの配分 -ア
フリカ模範法の定義
アフリカ模範法は、利益配分を生物多様性条約の3つの目的のひとつに合致する地域社会
の「権利」であると認めている。 当該資源および技術に関わるすべての権利を考慮に入れ
ながら、遺伝資源への適当なアクセスの提供および関連のある技術の適当な移転並びに適
当な資金供与の方法により、遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分するこ
と (生物多様性条約、第1条)
国はすべての利益のうち一定の割合(最低50%)が地域社会に還元されることを保証し
なければならない。農村社会に関しては、この権利は模範法の農民の権利に関する章でも
繰り返されている。
おそらく、経済的な利益よりも非経済利益を配分することのほうが重要である。非経済
利益には、能力構築のための研究開発への参加、アクセスされた生物資源に関する情報の
返還、生物資源の研究開発に使われた技術へのアクセスが含まれる。
現在の利益配分に関するイニシアティブの多くは、アフリカの生物多様性を先進国と途
上国の貿易の新たな商品にしようとしている。このために非経済的利益が重要視されなか
ったり、無視されることすらあるのが普通である。この問題に関する明確かつ強制力のあ
るルールが制定されるべきであるが、その一方で、生物多様性の製品が地域でも利用され、
貿易の品目ともなることを目指して価値と品質を加える、地域主導型のイニシアティブを
策定するよう、資源とエネルギーがいっそう投じられなければならない 31 。
地域社会遺伝子基金
アフリカ模範法において、地域社会による経済的利益のために提案されたメカニズムの
ひとつが、地域社会遺伝子基金(第66条)の設立である。この基金は独立基金として設立
され、第5章「農民の権利」の第26条第1項(b)にしたがい、地域社会への配分から利益を引
き出す。この基金は、国内組織や国際組織からの寄付を受け取ることもでき、模範法は基
金が所得税控除の対象であると規定している。
この基金は、「 農村社会によって策定されたプロジェクトに資金供与するために使われ
るものとする 」(第66条第4項)。こうしたプロジェクトには、農業遺伝資源の開発、保全、
持続可能な利用が含まれうるが、それに限定されるものではない。
ここでの課題は、地域社会がこうした基金に衡平にアクセスできるプロセスや仕組みを
各国が策定することである。この策定には、地域社会との協議とプロセス全体への参加が
31
Wynberg, R. 2000 年
280
含まれなければならない。
アフリカ模範法の利益配分に関する参照箇所は以下の通り。
前文 第6段落
第1章: 目的、(d)
第3章: 生物資源へのアクセス、第12条
第4章: 地域社会の権利、第22条
第5章: 農民の権利、第26条第1項(b)
第7章: 制度的取り決め、第66条
3.9 植物育種者の権利
植物育種者の権利と最近の特許法の適用により、広範な生物もまた人間の才能の産物であ
り、私的独占支配権に服するといっそう主張されている 。-Christie, J. and Mooney 32 , 1999
年, p.320
アフリカでは種苗を含めた生物多様性、知識、技術の管理と利用は集団として行われて
いるのが普通である。対照的に、工業化された農業は、購入した種子、高度に投入される
化学品、多くの場合、灌漑による単一栽培によって行われている。アフリカ大陸で栽培に
使われている種子全体の約90%は農家が保存していた種子であるが、商業的植物育種者は、
このことが商業的種子市場を拡大するにあたっての大きな制約であると考えている。構造
調整計画によって、ほとんどすべてのアフリカ政府は、伝統的な農業システムに対して重
大な影響をもつ国有の種子供給システムの民営化を迫る圧力にさらされている 33 。
アフリカ模範法は、育種者が開発した品種について育種者の権利を承認する一方で、ア
フリカの農業システムに適応する商業的植物育種を推進している。この点に関して、模範
法は育種者の権利に関する包括的な章を設けている(第28条から56条)。模範法は、農民
が現在も、そしてこれまでも、常に育種者であることを認め、独占的な商業育種者が農民
の慣習的な慣行に悪影響を与えないことの確保を目指している。
模範法の植物育種者の権利に関する第6章は、植物品種の「特別の制度」についてのTRIPS
協定の第27条第3項(b)を満たしている。しかし、地域社会の権利の一部である農民の権利
は、TRIPS協定のいずれかの要件を満たすことを目的とするものではない。
模範法のこの章の目的は、承認と経済的な報酬を提供することによって、植物の新品種
の開発に際しての個人と機関による取組みと投資を認めることである。植物育種者は、新
しく開発した品種を生産、販売する独占的な権利を与えられる。しかし、こうした権利は、
模範法の農民の権利に関する条項と一貫性をもって保護されるべきである。つまり、農民
は、農家で保存した種苗を保存、利用、交換、販売することができる。
農民は植物育種者の権利によって保護された新品種を農民自身の品種を開発するために
利用することも認められている。したがって、本模範法は、各国政府がUPOV条約の適用
除外を認めている1961年および1978年のUPOV条約に合致している。この適用除外は1991
年に改正されたUPOV条約には含まれていない。
32
Christie, J. and Mooney, Chapter 7 ‘Traditional Agriculture and Soil Management’, in UNEP, ‘Cultural and
Spiritual Values of Biodiversity’ (IT Publications, London: 1999 年) p.320
33
Wynberg, R. 2000 年
281
このほか、アフリカ模範法には育種者の権利の適用除外(第31条)と制限(第33条)に
ついての詳細な条項がある。植物育種者の権利の申請、付与、登録に関する詳細なルール
とこれらの権利が商業的に侵害された場合の紛争解決手続きについても定めている。
アフリカ模範法の植物育種者の権利についての参照箇所は以下の通り。
第1章: 目的、(b)
第2章: 定義と適用範囲、第2条第1項(v)
第5章: 農民の権利、第26条第3項
第6章: 植物育種者の権利、第28条から第56条
3.10
生物への特許の禁止
あらゆる知的財産権( IPR )レジームによる生物の私有化は、基本的な生命の権利を侵害
し、生命を尊重するアフリカの良識に反するものであると当タスクフォースは考える。 -
OAU/STRC地域社会の権利と生物資源へのアクセスに関するタスクフォースの1998年の宣
言の第10段落
アフリカ模範法は、TRIPS協定と第27条第3項(b)の見直しに関するアフリカグループの共
通見解で表明されたのと同じ懸念を持っている。模範法は、この点で非常に明確に、前文
とアクセスに関する第3章で、生物および生物学的プロセスに対する特許は認められず、し
たがって、適用されないと述べている。
知的財産権擁護者らの多数の主張にもかかわらず、自然に存在する生物は、人間の心が
作り出した機械的な「工夫」でも「創造物」でもない。しかし、数千年にわたって地域社
会に知られ、利用されてきたにもかかわらず、外国人がこうした資源を採取し、それに特
許をとり、独占的な商業的権利を取得している。さらに、人間が育ててきたすべての生物
は今なお、自然のプロセスに支配されており、したがって、代々の生き物が発明されたも
のであると主張することはできない。微生物、動植物に対する特許性を認めないことは、
倫理的な見地からも強く支持されている。本模範法は、生物に特許を認めることは、基本
的権利である生存権とあらゆる形態の生物の尊重という原則への違反とみなしている。
TRIPS理事会でのアフリカの共通見解では、 動植物と微生物およびその他の生物ならび
にその構成物の一部 に対する特許禁止が記されている。また、動植物とその他の生物を生
み出す自然のプロセスも特許が認められるべきではないと述べられている。
生物の一部(細胞、遺伝子など)は生物資源であると考えられている 34 ので、生物多様
性条約とアフリカ模範法の規定にしたがう。このことは、動植物または微生物の「派生物」
の利用に関連している。模範法によれば、派生物は生物資源から開発または抽出された産
物であり、植物品種、油脂、樹脂などの産物が含まれる。
したがって、本模範法は、生物資源へのアクセスをアクセスが与えられた素材、生物学
的プロセスまたはその何らかの派生物について特許が認められない条件に従わせる場合の
重要な手段となっている。
アフリカ模範法の参照箇所は以下の通り。
34
「生物資源」は「 現に利用され若しくは将来利用されることがある又は人類にとって現実の若しくは
潜在的な価値を有する遺伝資源、生物又はその部分、個体群その他生態系の生物的な構成要素 」を含む
と定義されている。(生物多様性条約第 2 条、アフリカ 模範法第 1 条)
282
前文 最終段落
第3章: 生物資源へのアクセス、第9条
3.11
ジェンダーの平等性をめざして-分野横断的な原則
先住民の女性は我々の領域内の生物多様性を管理し利用する権利と、先住民の文化的原則
にしたがって、あらゆるレベルでの意思決定プロセスに参加する権利を有する。我々の権
利を有効的かつ十分に保護するためのメカニズムがない限り、生物資源と伝統的な知識の
違法なアクセスと利用について、モラトリアムを要求する。-第8条(j)に関する特別無期限
会期間ワーキンググループ、第2回先住民女性と生物多様性会議の開会の辞より 2000年。
アフリカ模範法の本文には、生物多様性保全に対する女性の貢献を適切に認めることの
確保をめざす規定がいたるところに含まれている。女性は地域社会と農村社会において主
要かつ重要な役割を果たしている。本アフリカ模範法では、農民の権利の枠組みの中で、
世界のあらゆる地域の女性の農民の貢献もまた認められている。女性の貢献は、生物多様
性の豊かな国々すべてにおいて重要であり、アフリカ諸国も例外ではない。
正式な法律手続きや意思決定の手続きでは、女性に影響を及ぼす手続きにおいての女性
の慣習的な役割が過小評価されることが多い。アフリカ模範法はこれを改め、正式に慣習
法上の権利と十分な参加の権利を認めている。
アフリカ模範法は、女性が十分な情報に基づく同意のプロセスにおいて決定がなされる
場合に、「関係地域社会」の完全かつ平等なメンバーとして意見を求められ、参加するこ
とを求めている。生物多様性からの利益を配分する際にも女性の利益を取り上げており、
地域社会にそうした利益が還元される場合には、「女性と男性を平等に取り扱う方法で」
配分されなければならない。
生物多様性保全に関する女性の重要な役割と貢献についての参照箇所は、本模範法のす
べての章にある。ジェンダーの平等性を達成できるかどうかは、国内法のあらゆる分野に
この重要な問題を組み入れて、本模範法の執行が成功するかどうかにかかっている。
アフリカ模範法の参照箇所は以下の通り。
前文 第3段落
第1章: 目的、(e)、(h)
第3章: 生物資源へのアクセス、第5条第1項(ii)
第4章: 地域社会の権利、第18条、第22条
第5章: 農民の権利、第24条第1項
第7章: 制度的取り決め、第66条第4項
283
付録1
地域社会、農民、育種者の権利の保護と生物資源へのアクセスに関するアフリカ模範法
前文
国とその国民が生物資源に対し、主権と譲渡不能の権利を行使するため、
地域社会の生活システムのまさに本質であり人類の歴史において幾世代にもわたって
発達・発展してきた生物資源と知識と技術に対する地域社会の権利は、集団としての性質
を有し、それゆえ、私的利益に基づく権利に優先する天賦の権利であるため、
生物多様性と関連する知識と技術の創造、保全、持続可能な利用において女性が果たす
役割が重要であることは自明であり、したがって、生物多様性と関連する知識、技術に関
する政策の策定と実施のあらゆるレベルで女性の十分な参加を可能とすることが必要とな
るため、
文化の多様性を保護し、奨励し、生物資源の保全、管理、利用に関して、地域社会の知
識、技術、工夫、慣行に正当な価値を与えることが必要であるため、
生物資源、地域社会の知識と技術へのアクセスを規制することが国とその国民の義務で
あるため、
集団としての権利と個人としての権利を保護するにあたって、また生物資源と知的資源
ならびにその利用から派生する活動と利益に影響を及ぼす決定を行うにあたって、公正か
つ衡平で有効な市民参加を保証する、適切なメカニズムを提供する必要を国家が認めてい
るため、
生物資源の保全と持続可能な利用のために伝統的な先住民の技術を推進し、支援する必
要性と、そうした技術を適切に開発された現代技術によって補完する必要性があるため、
生物多様性条約、特に遺伝資源へのアクセスに関する第15条と先住民と地域社会の知識、
工夫、慣行の保全と維持に関する第8条(j)の関連条項を実施する必要性があるため、
あらゆる生物が人類の生存の基礎であり、したがって生物に対する特許、すなわち、生
物またはその一部あるいはその派生物への独占的権利は基本的権利である生存権を侵害す
るため、
ここに次のように制定する。
第1章
目的
本法律の主たる目的は、生命維持システムを維持する手段として、生物多様性を維持し、
改善するために、農業遺伝資源を含め、生物資源、知識と技術の保全、評価、持続可能な
利用を確保することである。
本法律の具体的な目的は次のとおりとする。
a) 農村地域社会を含め地域社会の生物資源、知識、技術に対する譲渡不能の権利を
承認し、保護し、支援する。
b) 育種者の権利を承認し、保護する。
284
c)
d)
e)
f)
g)
h)
i)
j)
k)
国と関連する地域社会の事前の情報に基づいた同意にしたがい、生物資源、地域
社会の知識と技術へのアクセスの適切なシステムを提供する。
生物資源、知識、技術の利用から生じた利益の公正かつ衡平な配分のための適切
なメカニズムを推進する。
生物資源、知識、技術の利用から派生しうる利益の配分に関する決定を行うにあ
たって、特に女性に焦点を絞り、関連する地域社会の有効な参加を確保する。
生物資源の保全と持続可能な利用に関連する国と草の根の科学的・技術的能力の
構築を推進し、奨励する。
農村社会と育種者を含め、地域社会の権利と、生物資源、地域社会の知識と技術
へのアクセスの条件を有効に実施し、執行するための適切な制度的メカニズムを
提供する。
特に女性が果たす主要な役割に焦点を絞り、生物資源の保全、評価、持続可能な
活用を推進する。
生物多様性の生産量の増進と維持によって、主な生産システムの生産性、収益性、
安定性、持続可能性の向上を推進する。
農民に対する良質の種苗の供給を推進する。
国の食料の安定供給を強化するため、生物資源を有効かつ衡平な方法で活用する
ことを確保する。
第2章
定義と適用範囲
第 1 条【定義】
以下の用語は本法律において以下のように定義された意味を持つ。
アクセスは、生物資源、その派生物、国内所管当局によって認められた地域社会の知識、
工夫、技術または慣行の取得行為を指す。
利益配分は、生物資源、地域社会の知識、技術、工夫、慣行の活用から生じるものすべ
ての配分である。
生物資源には、遺伝資源、生物またはその部分、個体群その他生態系の生物的な構成要
素、および現に利用されもしくは将来利用されることがある、または人類にとって現実の、
もしくは潜在的な価値を有する生態系そのものを含む。
採取者は、国内所管当局から付与された権限にしたがい、生物資源、地域 社会 の慣 行、
工夫、知識または技術へのアクセスを取得しているあらゆる自然人または法人、主体また
は機関である。
地域社会の権利は、生物資源またはその部分あるいはその派生物、および地域社会の慣
行、工夫、知識、技術に対して地域社会が保有する権利である。
地域社会の知識または先住民の知識は、生物資源の保全と持続可能な利用に必要な、蓄
積された知識、あるいは社会経済的価値を持つもの、またはその両方かつ、先住民社会や
地域社会で長年にわたり発展してきたもの。
派生物は、生物資源から開発または抽出された産物である。派生物には、植物品種、油
脂、樹脂、ゴム、蛋白などが含まれる場合がある。
生息域外の状況は、生物資源が自然の生息地の外で認められる状況である。現在の法律
285
のもとでは、原産国内で培養された系統はいずれも生息域外の状況にあるとはみなされな
い。
工夫は、財産、生物素材またはその一部の価値またはプロセスの変更、修正、利用によ
り、既存の集合的な、または蓄積された、あるいはその両方の知識または技術の改良もし
くは新規の知識または技術が生み出したものすべてである。書面になっているか、記録さ
れているか、口承によるものか、文書によるものか、存在する方法は問わない。
生息域内の状況とは、生物資源が生態系または自然の生息地内で認められる状況である。
飼育種または栽培種については、その状況が当該飼育種または栽培種が開発された文化的
範囲内において認められるならば、生息域内の状況である。
地域社会は、特定の地理的領域内の人々であり、自らの慣習、伝統または法によりその
一部または全部が管理される生物資源、工夫、慣行、知識、技術に対して所有権がある。
国内所管当局は、国が現在の法律の要素の一項目以上の実施の監督と監視を国から委任
された主体である。
事前の情報に基づく同意(PIC)は、採取者からの完全かつ正確な情報の提供と、その
情報に基づき政府と1つまたは複数の地域社会が与える、生物資源、先住民の知識あるい
は技術の採取に対する事前の承認である。
第2条【適用範囲】
第1項 本法律は以下に適用される。
i) 生息域内状況と生息域外状況の生物資源
ii) 生物資源の派生物
iii) 地域社会の知識と技術
iv) 地域社会と先住民の社会
v) 植物育種者
第2項 本法律は以下に影響を与えるものではない。
i) 伝統的なシステムでの生物資源へのアクセス、利用、交換
ii) 地域社会による、および地域社会間での知識と技術へのアクセス、利用、交換
第3項 第2項に定められた条件での関係地域社会の慣習的慣行に基づく利益の配分は、生
物資源の保全と持続可能な利用に関連する伝統的で慣習的な生活様式で生活して
いるのではない何人にも適用されないものとする。
第3章
生物資源へのアクセス
第 3 条【生物資源および地域社会の知識と技術へのアクセスの申請】
第1項 国内のいかなる場所においても、あらゆる生物資源および地域社会の知識と技術へ
のアクセスはすべて、必要な事前の情報に基づく同意と書面による許可を申請する
ものとする。
第2項 保護地域のあらゆる生物資源へのアクセスは、すべて必要な事前の情報に基づく同
意と書面による許可を申請するものとする。
第3項 法により明示的に定められていない限り、生物資源、地域社会の知識、技術へのア
クセスに必要な同意と書面による許可の申請はすべて、国内所管当局に対して行わ
れるものとする。
286
第 4 条【事前の情報に基づく同意(PIC)】
第1項 前条に述べられたアクセスの申請を行う際に、申請者によって以下の情報が提供さ
れるものとする。
i) 申請者の身分証明と、適宜、契約当事者のすべてのパートナーの身分証明を含
む、法的な契約能力を証明する文書
ii) アクセスが求められている資源、採取される場所、現在および将来の用途、持
続可能性とその生物資源にアクセスすることにより生じうるリスクなど
iii) その生物資源の採取が生物多様性の他の構成要素を絶滅の危機にさらすかどう
か、そのアクセスにより生じうるリスクがあるかどうか。
iv) その生物資源へのアクセスが必要な目的、アクセスから派生すると期待される
研究、教育的利用、商業的利用の種類と程度など。
v) 当該の生物資源の研究開発における地域および国内の協力の方法と程度の説明。
vi) 研究に参加し、モニタリングプロセスの担当となる1つまたは複数の国内機関
の特定。
vii) 研究開発が実施される場所の確認。
viii) その生物資源の最初の目的地とその後の1つまたは複数の目的地。
ix) 生物資源を提供する国および地域社会ならびに採取者と採取者が活動する1つ
または複数の国に蓄積されようとしている、あるいは蓄積される可能性のある
経済上、社会上、技術上、バイオ技術上、科学上、環境上あるいは、その他の
利益。
x) 利益配分のために提案されるメカニズムと取り決め。
xi) 生物資源に関連する工夫、慣行、知識、技術の説明。
xii) 採取が大量である場合、少なくとも今後3世代にわたる環境・社会経済影響評
価。
第2項 第1項に記載がないことが、国内所管当局が、この法律の有効な施行に必要とみな
すその他の情報を要求することを妨げるものとはならない。
第 5 条【協議と事前の情報に基づく同意(PIC)の要件】
第1項 生物資源、地域社会の知識、技術へのアクセスはすべて、以下の書面による事前の
情報に基づく同意にしたがうものとする。
i) 国内所管当局の同意
ならびに
ii) 意思決定に女性も関与することを保証する関係地域社会の同意
第2項 国と1つまたは複数の関係地域社会の事前の情報に基づく同意なしに実施された
アクセスはすべて、無効とみなされ、本法律または生物資源へのアクセスを取り扱
う他の法規で定められた罰則にしたがうものとする。
第3項 国内所管当局は、1つまたは複数の地域社会の同意が求められ、認められることを
確認するため、その地域社会と協議するものとする。関係地域社会との協議なしに
認可されたアクセスは無効であり、本条で必要とされる事前の情報に基づく同意に
関する原則と要件に対する違反とみなされるものとする。
第 6 条【完了された申請の登録】
第1項 申請が完了すれば、国内所管当局は、当該申請を登録簿または官報に記載し、また
は、記載されるようにし、もしくは公衆が合理的にアクセスできる新聞でx日間に
わたって公表されるようにするものとする。
第2項 何人も登録簿を閲覧し、申請にコメントを述べることができる。
第3項 国内所管当局は関係地域社会と他の利害当事者に関連情報を広範かつ有効に普及
させるものとする。
287
第 7 条【アクセスの付与】
第1項 アクセス許可の付与は、国内所管当局または本法律の規定にしたがい、正式に任命
された人により、特定の期間内に実施されるものとする。
第2項 アクセス許可はすべて、国内所管当局と1つまたは複数の関係地域社会を一方の当
事者とし、申請者または採取者をもう一方の当事者とする署名された書面による協
定によって認可されるものとする。
第3項 アクセスの許可は、書面による事前の情報に基づく同意がある場合のみ、有効とな
る。
第 8 条【協定の内容】
第1項 第7条に記された協定は採取者により行われる、あるいは行われる予定の以下の約
束を含むものとする。
i) 採取者が取得する、または輸出する生物資源の量と品質仕様に関する国内所管
当局が設定した限度を遵守する。
ii) 正式に指定された政府機関、および、必要ならば、地域社会の組織に対し、完
全な現地情報、生物資源の各標本、採取された地域社会の工夫、慣行、知識、
技術の記録の副本を保管することを保証する。
iii) 国内所管当局と1つまたは複数の関係地域社会に当該資源の研究開発から得ら
れたすべての研究結果を直ちに知らせる。
iv) 国内所管当局および1つまたは複数の地域社会の承認なしに、生物資源または
その派生物あるいは地域社会の工夫、慣行、知識、技術をいかなる第三者にも
譲渡しない。
v) 生物資源またはその一部あるいは派生物に対していかなる形式の知的財産保護
も適用せず、もともとの提供者の事前の情報に基づく同意なしに、地域社会の
工夫、慣行、知識、技術に対して知的財産権保護を適用しない。
vi) 利益配分について規定する。
vii) アクセスは、生物資源の再生と保全およびアクセスの対象となった工夫、慣行、
知識、技術の維持における国および1つまたは複数の関係地域社会の取り組み
に対して、経済的に貢献するコミットメントを条件とするものとする。
viii) 国内所管当局に当該資源の研究開発の状況について、また生物資源が大量に
採取される場合は、その地域の生態系の状況について定期的に報告書を提出す
る。
ix) 特に衛生管理、バイオセイフティー、環境保護に関する国内関連諸法と地域社
会の文化的慣行、伝統的価値、慣習に従う。
第2項 国内で行われる研究について、生物資源の提供者の国内各主体の参加を促進する方
法でなされるよう最大の努力が払われなければならない。
第 9 条【生物と生物学的プロセスに対する特許】
第1項 生物と生物学的プロセスに対する特許は認められず、適用することができない。
第2項 したがって、採取者は、本法律あるいは生物資源、地域社会の工夫、慣行、知識、
技術へのアクセスと利用および権利の保護を規制するその他の関連法律のもとで
生物と生物学的プロセスに対する特許を申請してはならない。
第 10 条【アクセスの付与の承認】
国内所管当局が必要とみなす何らかの条件をつけて、当該の生物資源、地域社会の工夫、
慣行、知識、技術へのアクセスの付与を承認しなければならない。アクセスを付与すると
きに、国内所管当局は、本法律にしたがい、すべての要件が満たされていることを確保す
るものとする。
288
第 11 条【学術・研究機関、公的機関、政府間機関に関する条件】
第1項 国内所管当局は、生物資源、地域社会の工夫、慣行、知識、技術へのアクセスのあ
らゆる申請が1つまたは複数の関係地域社会の事前の情報に基づく同意の対象と
するものとする。
第2項 国内所管当局は、学術・研究機関、公的機関、政府間機関が第8条で述べられた書
面による協定にしたがい満たす適切な条件を決定するものとする。
第3項 研究目的でのアクセスの申請には、研究の目的と申請者と産業との関係をはっきり
と記載するものとする。サンプルと関連情報はいずれも、国あるいは1つまたは複
数の地域社会およびその両方の優先権を留保する素材譲渡契約がなければ、譲渡し
てはならない。
第4項 本条に述べられた機関が、生物資源の商業化を中心とするものに活動を変更する場
合、国内所管当局は変更に応じて諸条件を変更するものとする。
第 12 条【利益配分】
第1項 アクセスの許可は、採取開始前になされる支払いに従わなければならない。その料
金の額は、その採取が商業目的かどうか、サンプルの数、採取の地域、採取の期間、
採取者が独占的な権利を与えられているかどうかによって異なる。
第2項 国と1つまたは複数の地域社会は、採取された何らかの生物資源または知識、その
両方が、生産プロセスで使われる製品を直接または間接に生み出した場合、それか
ら派生する利益の配分を受け取る権利があるものとする。
第 13 条【アクセスに付与される許可の種類】
第1項 事前の情報に基づく合意手続きによって設定された条件が満たされたことを確認
したうえで、国内所管当局は申請者または採取者に適切なアクセス許可を与えるも
のとする。この許可には、学術目的の研究許可、商業目的の研究許可、商業目的の
開発許可がある。
第2項 何人も同時に同じ資源について2種類の許可を保持し、使うことはできない。ただ
し、書面による許可により認められている場合を除く。
第3項 本条のいずれの記載事項も、国内所管当局の別の種類のアクセス許可を発行する権
限を制限するものであるとはみなされない。
第 14 条【アクセス許可の取り消し】
第1項 国内所管当局は以下の条件に従い、一方的に同意を取り消し、書面による許可を取
り戻すことができる。
i) 採取者が本法律の規定のいずれかに違反した証拠がある場合
ii) 採取者が合意した条件を遵守できなかった証拠がある場合
iii) アクセスの条件のいずれかを満たすことができない場合
iv) 公益に抵触する理由がある場合
v) 環境と生物多様性の保護のため
第2項 合意の終了または取り消しは1つまたは複数の関連地域社会との協議で行われる
ものとする。
第 15 条【生物資源へのアクセスまたは導入に関する活動に対する制限】
国内所管当局は、特に以下の場合に、直接または間接に、生物資源へのアクセスまたは
導入に関する活動に対し、制限を加えまたは禁止しなければならない。
i) 絶滅危惧種
ii) 固有種または希少種
iii) 人間の健康、生活の質、地域社会の文化的価値への悪影響
289
iv) 好ましくない、あるいは管理が難しい環境影響
v) 生物資源の不適切な、あるいは無制限の採取から生じる遺伝子的侵食、または、
生態系の減少、生態系の資源またはその構成要素の減少の危険
vi) バイオセイフティーまたは食料の安定供給に関するルールの不遵守
vii) 国益とその国が批准している関連国際協定に反する目的での資源の利用
第4章
地域社会の権利
第 16 条【地域社会と先住民社会の権利の承認】
国は以下に対する地域社会の権利を承認する。
i) 地域社会の生物資源
ii) 地域社会の生物資源の利用から生じる集団としての利益に対する権利
iii) 幾世代にもわたって得られた地域社会の工夫、慣行、知識、技術
iv) 地域社会の工夫、慣行、知識、技術から生じる集団としての利益に対する権利
v) 生物多様性の保全と持続可能な利用における地域社会の工夫、慣行、知識、技
術を利用する権利
vi) 生物資源の正当な管理人であり利用者としての集団的な権利の行使
第 17 条【地域社会の権利に関する法律の適用】
国は、第16条に記載された地域社会の権利を、関係地域社会および先住民社会で知られ
ており、認められている規範、慣行、慣習法のもとで守られ、保護されているものとして、
承認し、保護する。慣習法は成文化されているか否かを問わない。
第 18 条【地域社会の事前の情報に基づく同意(PIC)】
生物資源、工夫、慣行、知識、技術へのアクセスはすべて、女性が意思決定に正当かつ
適切に参加することを確保しつつ、1つまたは複数の関係地域社会の事前の情報に基づく
合意(PIC)にしたがうものとする。
第 19 条【同意とアクセスを拒否する権利】
地域社会は、当該アクセスが地域社会の自然遺産と文化遺産の健全性を損なうであろう
場合、自らの生物資源、工夫、慣行、知識、技術へのアクセスを拒否する権利を有する。
第 20 条【同意とアクセスの取り消しと制限の権利】
地域社会は、当該活動が地域社会の社会経済生活、自然遺産および文化遺産を損なう可
能性がある場合、同意を取り消す、あるいはアクセスに関連する活動に制限を加える権利
を有する。
第 21 条【伝統的なアクセス、利用、交換の権利】
第1項 地域社会は、地域社会の慣行と法律に管理されてきた自らの生活システムを持続す
る際に、生物資源にアクセス、利用、交換、配分する譲渡不能の権利を行使するも
のとする。
第2項 第1項で定められた権利の行使と関係地域社会の慣行と慣習法により定められうる
他の権利の行使において、地域社会の伝統的な交換システムには何らの法的障害が
加えられないものとする。
第 22 条【利益に対する権利】
第1項 国は、第12条第2項で定められた利益の少なくとも50%が1つまたは複数の地域社
会に、男性と女性を均等に扱う方法で配分されることを保証するものとする。
第2項 前第1項の利益の配分は、1つまたは複数の地域社会の十分な参加と承認を含める
290
ものとする。
第 23 条【地域社会の知的権利の承認】
第1項 特に伝統的な治療師を含む伝統的な職業集団など、地域社会の知的権利は、常に譲
渡不能であり、本法律によって定められるメカニズムのもとでいっそう保護される
ものとする。
第2項 地域社会の工夫、慣行、知識、技術の項目、あるいは生物資源またはその他天然資
源の特定の利用は、地域社会の慣行と慣習法にしたがい、地域社会によって特定さ
れ、解釈され、確認されるものとする。慣習法が成文化されているか否かは問わな
い。
第3項 何らかの地域社会の工夫、慣行、知識、技術が登録されていないことは、これらが
地域社会の知的権利によって保護されないことを意味するのではない。
第4項 生物資源と関連する知識と情報についての書面による、あるいは口承の説明を公表
すること、または、そうした資源が遺伝子銀行あるいはその他のコレクションに存
在すること、もしくは地域で利用されていることは、地域社会がこうした資源に関
連する地域社会の知的権利を行使することを妨げるものではない。
第5章
農民の権利
第 24 条【農民の権利の承認】
第1項 農民の権利は、世界のあらゆる地域、特に作物の原産や多様性、農業生物多様性の
中心である地域農村社会、特にその女性の成員が、食料と農業生産の基盤であり続
ける植物・動物遺伝資源の保全、開発、持続可能な利用についてなしてきた多大な
貢献から派生するものとして承認される。
第2項 したがって、こうした貢献をなし続けている農民のために、農民の権利は承認され、
保護されなければならない。
第 25 条【農民の品種に関する法律の適用】
第1項 農民の品種や種類は、関係地域農村社会での慣行と慣習法において知られており、
認められているのと同じように承認され、保護されるものとする。慣習法が成文化
されているか否かは問わない。
第2項 地域社会が特別な属性を特定した品種は、品種の証明によって知的保護を与えられ
るものとする。この品種の証明は相違性、一様性、安定性の基準を満たす必要はな
いが、地域社会が本法律で定められた農民の権利を侵害することなく、当該品種を
増殖させ、栽培し、利用し、販売し、ライセンスを供与する独占的な権利を有する
ことが認められる。
第 26 条【農民の権利】
第1項 農民の権利はジェンダーの平等性に正当な注意を払い、以下の権利が含まれるもの
とする。
a) 動植物の遺伝資源に関連する農民の伝統的な知識の保護
b) 動植物の遺伝資源の利用から生じる利益の衡平な配分の取得
c) 国レベルでの意思決定を含め、動植物の遺伝資源の保全と持続可能な利用に関す
る事柄の意思決定への参加
d) 農家が保存する農民の品種の種苗の保存、利用、交換、販売
e) 遺伝子銀行または植物遺伝資源センターから取得した素材を含め、農民の品種を
開発するため、本法律に従い、保護された育種者の新品種の利用
f) 保護された品種の農家が保存する種子の集団としての保存、利用、増殖、加工
291
第2項 (c)と(d)の記載にもかかわらず、農民は、農民が保存する育種者の保護された品種
の種苗を種子業界において商業規模で販売してはならない。
第3項 新品種に関する育種者の権利は、食料の安定供給、健康、生物多様性を保護する目
的および特定品種の繁殖素材に関する農村社会の他の要件の目的で課せられる制
限に従うものとする。
第 27 条【農民の品種の証明】
第1項 生物資源の持続可能な利用から派生する産物はすべて、証明書または認定ラベルが
付与されるものとする。
第2項 公正取引の証明書は、その産物から派生する利益の大部分がその地域社会に還元さ
れる場合に、生物資源、知識、技術から派生する産物に付与されるものとする。
第6章
植物育種者の権利
第 28 条【植物育種者の権利の承認】
植物育種者の権利は、承認と経済的報酬を提供する基礎である第41条に定める よう に、
植物の新品種の開発に人や機関が行った努力と投資から派生するものである。
第 29 条【新品種の特徴】
以下の場合、品種に新規性があると考えられる。
a) 植物育種者の権利の申請が有効となる日において、その存在が周知の事実である
すべての品種とは明確に区別できる一つ以上の特定できる特徴がある。
b) 繰り返し、繁殖または増殖された後、質的な特徴が安定している。あるいは申請
者が繁殖または増殖の特定の周期を決めた場合は、各周期の最後に、その特徴が
そのまま残っている。
c) 有性生殖または栄養繁殖の特別の特徴を考慮した場合に、十分純粋な品種である
こと、あるいは、明確な品種であること。
第 30 条【植物育種者の権利】
第1項 新品種に関する植物育種者の権利は以下のとおりである。
a) 他人に販売するライセンスを認める権利を含め、植物またはその品種の繁殖素材
を販売する独占的権利
b) 他人に生産するライセンスを認める権利を含め、販売目的で植物やその品種の繁
殖素材を生産させる独占的権利
第2項 植物品種に関する植物育種者の権利は、本法律の第5章農民の権利に定められる条
件にしたがう。
第 31 条【育種者の権利の適用除外】
第1項 植物品種に関する植物育種者の権利が存在しているにもかかわらず、何人も、ある
いはいかなる農民の地域社会も以下のことができる。
a) 商業目的以外での当該品種の植物の繁殖、栽培、利用
b) 食用、あるいはその植物栽培または当該品種の繁殖を含まない他の用途でのその
種苗または繁殖素材の販売
c) 当該品種が栽培された農場内あるいはその他の場所での当該品種の種苗または繁
殖素材の販売
d) 他の植物品種を開発するための、品種の最初の種苗としての当該品種の種苗また
は繁殖素材の利用。ただし、その人物が他の品種の商業的生産の目的で最初に述
べた品種の種苗または繁殖素材を繰り返し利用する場合を除く。
292
e)
f)
g)
保護された品種を自家消費用あるいは市場用の食料として発芽させる。
保護された品種をさらなる繁殖、研究、教育に使う。
保護された品種を遺伝子銀行または植物遺伝資源センターなどから利用する条件
で取得する。
第2項 農民は、本法律の第5章「農民の権利」に定められた条件に従い、第二世代以降の
作物を生産するために、自分の農場で播種用に栽培した第一世代の種子の一部を自
由に保存、交換、利用することができる。
第 32 条【育種者の権利の申請】
第1項 本法律に従い、植物の新品種の育種者は、その品種に関する植物育種者の権利を国
内所管当局に申請することができる。
第2項 新品種の育種者またはその承継者は、育種者が市民であるか外国籍であるかにかか
わらず、居住しているか否かにかかわらず、その品種が地域的に栽培されているか、
海外でも栽培されているかにかかわらず、その品種に関する植物育種者の権利を申
請する権利を有する。
第3項 ある新品種について2名以上が植物育種者の権利を申請する資格がある場合、共同
で栽培したか、あるいは別個に栽培したかどうかにかかわらず、これらの者あるい
はこれらの者の一部がこの権利を共同申請することができる。
第4項 2名以上が共同で新しい植物品種を栽培する場合、育種者の1人または育種者の承
継者の1人が、共同で、またはこの権利を申請する資格のあるもう1人の人物もし
くは各人の書面による同意とともに申請するのでない限り、当該品種に関する植物
育種者の権利を申請することはできない。
第5項 公的機関でも民間機関でも、申請はその機関の名前によって行うことができる。
第 33 条【植物育種者の権利の制限】
第1項 政府が公益に照らし、必要とみなす場合、新品種に関する植物育種者の権利は、こ
れらの権利の具現化に制限を加える条件にしたがうものとする。こうした制限が課
せられるのは、特に、
a) 権利の保有者の競争行為に問題が認められる場合
b) 食料の安定供給または栄養のニーズあるいは健康のニーズに悪影響がある場合
c) 販売に供される植物品種の大部分が輸入される場合
d) 特定の品種の繁殖素材についての農村社会の要件が満たされない場合
e) 社会経済的理由と先住民の技術やその他の技術を開発する目的から、公益の推進
が重要とみなされる場合
第2項 植物育種者の権利に制限が加えられる場合、
a) 権利の被付与者に制限の条件が記載された文書が付与され、
b) 公示がなされ、
c) 権利の保有者になされるべき賠償が明記され、
d) 権利保有者は賠償を申し立てることができる。
第3項 特に前述の規定の一般性を侵害することなく、関連政府当局は本法律にもとづき付
与された独占的な植物育種者の権利を、非独占的な植物育種者の権利(強制的実施
権)に変更する権利を有する。
第 34 条【植物育種者の権利の期間】
本法律にしたがい、植物品種に関する植物育種者の権利は、当該植物品種に関する植物
育種者の権利の申請が承認された日から始まり、一年生作物については20年間、樹木、蔓
性植物、その他の多年生植物については25年間存続するものとする。
293
第 35 条【紛争解決】
本法律に基づいて植物品種が新しい植物品種としての資格があるかどうかについて争
いが生じる場合、管理上、国内所管当局、特別裁決機関、最終的には裁判所によって処理
される。
第 36 条【植物育種者の権利の侵害】
第1項 植物育種者の権利の侵害に対する訴訟または手続きは、書面により裁判所に提訴す
ることができ、当事者双方が合意するならば、拘束力のある仲裁に付すこともでき
る。
第2項 ある品種に関する植物育種者の権利の侵害に対する訴訟または手続きの被告人は、
以下の主張に基づき、その植物育種者の権利の取り消しを求めて反訴を申請するこ
とができる。
a) その品種が新しい植物品種ではなかったという理由
b) その植物育種者の権利が付与される前に国内所管当局にわかっていれば、付与が
拒否される結果になっただろうという事実が存在するという理由
第3項 ある植物品種に関する植物育種者の権利の侵害に対する訴訟または手続きにおい
て、被告が第2項(a)または(b)に述べられた主張に基づき取り消しの反訴を行った場
合、裁判所はその主張が存在すると確信すれば、裁判所は当該の植物育種者の権利
を取り消すことができる。
第4項 植物育種者の権利の侵害に対する訴訟または手続きにおいて、被告人が行った反訴
に基づき、裁判所が植物育種者の権利を取り消す場合、被告人に当該植物育種者の
権利の取り消し命令の写しを国内所管当局に提出するよう命じるものとする。
第 37 条【国内所管当局】
国は、本法律の植物育種者の権利に関する規定を執行し、施行する国内所管当局を指定
または設立するものとする。
第 38 条【植物育種者の権利の登録】
国内所管当局は以下のことを行うものとする。
a) 植物育種者の権利の登録の申請を受け付け、審査する
b) 申請者の品種を審査するために必要な品種特性試験を実施する
c) 植物育種者の権利を登録し、証明書を発行する
d) 公報に植物育種者の権利の申請を公示する
e) すべての植物育種者の権利の登録に対して反対意見を聴取する
f) 植物育種者の権利の登録を保守する
第 39 条【植物育種者の権利の登録簿】
国内所管当局は本法律または規則により、必要とされる事項が記入される植物育種者の
権利の国内登録簿を保管するものとする。
第 40 条【植物遺伝資源センター】
政府は、本法律の目的のために、生殖細胞質を保管し維持するのにふさわしいセンター
として植物遺伝資源センター(複数の場合もあり)を指定または公報で公示する。
第 41 条【申請の提出】
第1項 植物育種者の権利についての申請が提出される場合、
a) 国内所管当局は、以下の事項が満たされればその申請を承認する。
i) 申請が第29条の要件を満たし、かつ、
ii) 所定の料金が支払われている場合
294
b)
申請が前述の要件を満たしていない場合、国内所管当局は拒否する。
第2項 国内所管当局が申請を承認すると、その申請を承認してから後30日以内に、申請者
に対しその申請書が承認されたことを記した書面による通知を与え、その申請を公
示するものとする。
第3項 国内所管当局が申請を却下する場合、申請を拒否してから30日以内に、その申請が
却下されたことと却下の理由を記した書面による通知を与えるものとする。
第 42 条【審査と評価の統一手続き】
第1項 申請が承認されると、国内所管当局は品種特性試験と審査のために申請者が使える
種苗の量を指定するものとする。
第2項 国内所管当局は、国内頒布用の品種の安定性を評価するために行われる統計的に有
効な検査の手続きをとるものとする。
第3項 評価基準には、重要な経済的、物理的、生態学的、栄養学的な品質属性が含まれる
ものとする。
第4項 植物育種者の権利に関する料金は、発生する管理・審査費用を基礎として決定され
るものとする。
第 43 条【国外由来の植物品種の特性】
本法律の目的のために、承認された申請に関する植物品種が国外由来のものである場合、
その品種は特定の特性を有するとは認められないものとする。ただし、以下の場合を除く。
a) 少なくとも3シーズンにわたって、自国内で統計的に有効な、複数の場所での品
種特性試験が実施され、それによって、その品種は申請者が主張する特別の特性
を有することが実証されている場合
b) 食料生産に尋常ならざる危機のために必要であり、国内所管当局が以下のように
納得した場合、
i) 国外で統計的に有効な品種特性試験が行われ、それにより、当該品種が特別の
特性を有することが実証されている。
ii) 統計的に有効な品種特性試験が行われた国外の自然環境が国内の環境と似てい
る。
第 44 条【植物品種特性試験】
第1項 植物品種に関する申請を取り扱う際に、国内所管当局が統計的に有効な品種特性試
験またはいっそう統計的に有効な品種特性試験が必要であるとみなす場合、品種特
性試験が行われるものとする。
a) その植物品種が顕著性、均一性、安定性を有するかどうかを決定する目的のため、
b) その品種を国内で栽培した場合、主張される特別性、均一性、安定性が示される
かどうかを決定する目的のため、
c) 申請者に当該品種の十分な量の種あるいは繁殖素材を、必要な場合は、必要な情
報とともに提供させ、上述の目的のためにその品種の試験栽培ができるようにさ
せる。
第2項 植物品種特性試験が完了した後、その試験に使われた、あるいは、その試験で生じ
た種あるいは繁殖素材で移動することが可能なものは、当該植物品種に関する植物
育成者の権利の申請者によって移動するものとする。
第 45 条【申請の取り下げ】
第1項 申請は申請の公示前のいかなる時でも申請者によって取り下げられることができ
る。
第2項 公報に公示された後、植物育種者の権利が付与される前に、申請が取り下げられる
295
場合、国内所管当局はその取り下げを公示するものとする。
第 46 条【暫定的保護】
第1項 植物品種に関する植物育種者の権利の申請が承認された場合、申請者は当該植物品
種に関する植物育種者の権利の保有者とみなされるものとする。その期間は申請が
提出された日から始まり、(a)または(b)のいずれか早いほうに終了するものとする。
a) 申請が処理される日
b) 国内所管当局が先述の期間の終了時に申請者に通知した場合は、通知が行われた
後
第2項 審査中の新品種の遺伝資源が研究以外の目的で利用されることを防止するため、審
査中の新品種の遺伝資源を保護する手段がとられる。
第 47 条【植物育種者の権利の付与への異議】
第1項 植物品種またはそうした品種の変種に関する植物育種者の権利の申請者の公示が
なされる場合、以下のように考える者はすべて、申請が公示された後6か月以内に、
または申請が処理される前に国内所管当局に対し、当該の権利の付与に対する異議
の詳細を記した書面により異議を申し立てることができる。
a) 当該申請者に対するこうした権利の付与によって商業的利益または公益がマイナ
スの影響を受ける。
b) 当該品種に関する申請が植物育種者の権利の付与に関する先述の基準を満たして
いない。
第2項 前第1項にしたがい、植物育種者の権利の付与に対する異議が申し立てられた場合、
国内所管当局は当該植物育種者の権利の申請者に対し、異議申立書の写し1通を送
付させるものとする。
第3項 何人も合理的な時に申請書または異議申立書を閲覧することができ、先述の料金を
支払えば、申請書または異議申立書の写しを入手する資格がある。
第 48 条【植物育種者の権利の付与】
第1項 本条にしたがい、植物品種に関する植物育種者の権利は、国内所管当局が以下のよ
うに納得した場合、付与される。
a) 植物品種が存在する。
b) その植物品種は新しい植物品種である。
c) 当該申請者に申請の資格がある。
d) 当該申請者に対する権利の付与が本法律で禁止されていない。
e) 当該の権利が別の者に付与されていない。
f) 当該の権利の申請が以前に取り下げられたり、処理されていない。
g) 本法律にしたがい、当該申請に関するすべての料金が支払われている。
第2項 国内所管当局が前第1項の条件を満たしていないと納得すれば、国内所管当局は申
請者に対して植物育種者の権利の付与を拒否するものとする。
第3項 申請の公示から6か月経過していない場合、あるいは、その申請に国内所管当局が
重大とみなす修正が行われ、その修正の内容の公示もしくは、場合に応じて、最新
の修正から6か月が経過していない場合には、国内所管当局は、植物品種に関する
植物育種者の権利を付与しない、あるいは付与を拒否するものとする。
第4項 国内所管当局は、当該申請に関する書面を提出する合理的な機会を植物育種者の権
利の申請者に与えていなければ、植物育種者の権利の付与を拒否するものではない。
第5項 植物育種者の権利の付与に対する異議申し立てが行われている場合、国内所管当局
は、その異議申し立て人にその申し立てに関する書面を提出する合理的な機会を与
296
第6項
第7項
第8項
第9項
えていなければ、植物育種者の権利を付与するものではない。
植物育種者の権利は、規則によって定められた様式により、申請者に対し、国内所
管当局により付与され、発行されるものとする。
ある品種に対する植物育種者の権利が複数人に付与される場合、当該の植物育種者
の権利はその複数人に共同で付与されるものとする。
植物育種者の権利が公的・民間機関に付与される場合、任命された1人または複数
を代表とするその機関に植物育種者の権利が生じるものとする。
国内所管機関がある植物品種に関する植物育種者の権利の付与を拒否する場合、国
内所管当局は拒否から30日後以内に、拒否の理由を明確に記した書面による通知を
申請者に対して行うものとする。
第 49 条【植物育種者の権利の登録簿への記載】
第1項 国内所管当局が植物品種に関して植物育種者の権利を付与すると、国内所管当局は
以下を登録簿に記載するものとする。
a) 植物品種の説明、または説明と写真
b) 当該品種の名称
c) (可能な場合)品種の遺伝系統
d) 被付与者の名称
e) 育種者の名称と住所
f) 本法律の目的のために被付与者に関する書類の受け取りのための住所(植物育種
者の権利申請書に記載されているもの)
g) 植物育種者の権利が付与された日付
h) 当該品種に関連する農民の権利の資格のある国内の地域社会・地域の説明
i) 付与に関して国内所管当局が適切と考える詳細
第 50 条【植物育種者の権利の付与の告示】
植物育種者の権利が付与されると、国内所管当局は、付与後30日以内に、植物育種者の
権利を公示するものとする。その公示は農民の権利のもとでの資格についても言及する。
第 51 条【特定の人に対する付与の効果】
第1項 ある植物品種に関する植物育種者の権利がある者に付与された場合、当該植物育種
者の権利を申請する資格のある別の者は、当該品種をその育種者とは別個に開発し
た者でも、そうした者の承継人でも、申請する資格があるからといって、あるいは
その資格を理由として、当該植物育種者の権利における何らの利益を受ける資格は
ない。しかし、本条の規定は、ある者が国内所管当局に当該植物育種者の権利の取
り消しを申請すること、あるいは、当該の植物育種者の権利に関する法廷での手続
きを請求することを妨げるものではない。
第2項
a) ある新しい植物品種に関する植物育種者の権利がある者に付与された場合、かつ、
b) 別の資格のある者(本項では「適格者」という)が法律上あるいは衡平法上、適
格者が適格者に譲渡される植物育種者の権利を申請する権利を有する場合、
その適格者は自分に譲渡される植物育種者の権利を有する資格がある。
第 52 条【植物育種者の権利の本質】
第1項 植物育種者の権利は個人財産であり、他の条項に記されたすべての条件にしたがい、
意思または法の執行により譲渡または移転することが可能である。
第2項 植物育種者の権利の譲渡は、譲渡人または譲渡人の代理人が署名する書面によるも
のでなければ、無効である。
297
第 53 条【植物育種者の権利の譲渡】
第1項 ある者に植物育種者の権利が譲渡または移転される場合、その者は、その権利を取
得後30日以内に、国内所管当局に対し、当該植物育種者の権利を取得したこと、取
得した条件の詳細を書面で通知するものとし、国内所管当局は、植物育種者の権利
が譲渡または移転されたことを納得すれば、植物育種者の権利の譲受人として当該
の者の名称を登録簿に記載するものとする。
第2項 前第1項にしたがい、国内所管当局が当該の植物育種者の権利を取得したと主張す
る者の名称を、植物育種者の権利の譲受人として登録簿に記載する場合、国内所管
当局は登録簿記載後30日以内に、新たに記載された者と新たな記載が行われる前の
付与者に対し、登録簿記載が行われた旨を書面により通知するものとする。
第3項 国内所管当局が、前第1項の規定にしたがい、当該植物育種者の権利が申立人に譲
渡または移転したと通知した者に譲渡または移転したと納得しない場合、国内所管
当局は以下のようにするものとする。
a) 申立人に対し、以下のことを書面により通知するものとする。
i) 国内所管当局が納得していないこと
ii) 国内所管当局が納得していない理由の説明
b) 権利の被付与者に対し、以下のことを書面により通知するものとする。
i) 申立人から提示された情報の内容の説明
ii) 国内所管当局が納得していないこと
iii) 国内所管当局が納得していない理由の説明
第4項 前第1項にしたがい、植物育種者の権利が譲渡または移転したと国内所管当局に通
知する者は、国内所管当局に対し、本法律にしたがい文書が送付される国内の住所
を書面により通知するものとする。
a) 国内所管当局が前第1項にしたがい、当該の者の名称とすでに登録簿に記載された
住所と異なる住所を登録簿に記載する場合、国内所管当局は本法律の目的のため
に被付与者に関する文書が送付される住所として登録簿に記載されるよう登録簿
を更正するものとする。
b) 国内所管当局が当該の者に権利が譲渡または移転されていると納得しない場合、
当該の者に対する第3項a)にもとづく通知は郵送で行われるものとする。
第 54 条【繁殖素材の提供】
第1項 ある植物品種に関する植物育種者の権利は、権利の被付与者が国内所管当局によっ
て行われたすべての通知を遵守するという条件にしたがう。
第2項 植物育種者の権利がある植物品種に関して付与される場合、国内所管当局は、植物
育種者の権利の被付与者に通知後14日以内または承認された日までに、被付与者の
費用で、特定の植物遺伝資源センターまたは植物標本園に当該の品種の繁殖素材を
一定量送付するように通知することができる。
第3項 前第2項に記された通知で指定された品種の繁殖素材の量は、国内所管当局が当該
品種の他の繁殖素材がまったくないとしても、当該品種の生存を維持できるのに十
分であるとみなす量とする。
第4項 第1項により植物育種者の権利に課せられた条件にしたがい、繁殖素材が植物遺伝
資源センターに送付される場合、国内所管当局は第6項にしたがい、その繁殖素材
を特定の植物遺伝資源センターに保管させるものとする。
第5項 本項のもとでの繁殖素材の送付と保管は、その繁殖素材の所有権に影響を及ぼさな
いが、その種苗は本法律の目的以外には使われないものとする。
第6項 植物遺伝資源センターに保管された繁殖素材は、本法律で定めた目的のために国内
所管当局が利用することができる。
第7項 第5項および第6項を制限することなく、繁殖素材が本法律の第40条にしたがい、政
298
府が公示した植物遺伝資源センターに保管されている場合、植物育種者の権利の申
請に関する決定が行われて初めて、その繁殖素材は国内コレクションの一部となり、
そのコレクションの目的のために利用されるものとする。ある植物品種について権
利が認められた後は、当該品種の繁殖素材は、寄託者の意向があればさらなる研究
あるいは繁殖に利用することができる。
第 55 条【植物育種者の権利の取り消し】
第1項 以下の場合に、国内所管当局は、ある植物品種に関する植物育種者の権利を取り消
すものとする。
a) 当該植物品種が新しいものではないと国内所管当局が納得する場合、または当該
植物育種者の権利付与の前に知られていれば、付与が拒否されたであろうという
事実が存在する場合
b) 被付与者が、当該の植物育種者の権利に関する先述の料金を、料金支払いの期日
が通知されて90日以内に支払うことができなかった場合
第2項 国内所管当局は、以下であると納得すれば、植物育種者の権利を取り消すことがで
きる。
a) 被付与者が当該育種者の権利に関して先述の条件を遵守することができなかった
場合
または、
b) 植物育種者の権利を譲渡または移転された者が本法律の規定を遵守できなかった
場合。
第3項 国内所管当局が本条にしたがい、植物育種者の権利を取り消す場合、国内所管当局
は決定が行われて7日以内に、取り消しの理由を説明する書面を被付与人に通知す
るものとする。
第4項 国内所管当局は、被付与者および植物育種者の権利が譲渡または移転したと国内所
管当局が納得する者に取り消し理由の内容を通知し、提示された取り消しに関する
書面を提出する合理的な機会を与えるまでは、本条にしたがい、植物育種者の権利
を取り消してはならない。
第5項 本条にしたがう植物品種に関する植物育種者の権利の取り消しは、以下のいずれか
に効力を発する。
a) 第4項にしたがい、裁判所に対し、取り消し審査の申請がなされうる期間の終了日
または、
b) 裁判所への申請がなされた場合、当該申請が取り下げられる、または最終的に裁
判所により決定が下される日
第6項 本条の規定は、権限または法制度には影響を及ぼさないものとする。
第7項 植物品種の育種者の権利の付与によりその利益が影響を受ける者はすべて、本章に
したがい、国内所管当局に対して植物育種者の権利の取り消しを申請することがで
きる。
第8項 国内所管当局は、植物育種者の権利の取り消しに関する第7項に基づくすべての申
請を考慮するものとする。植物育種者の権利を取り消さないという国内所管当局の
決定は決定がなされてから7日後以内に、書面による通知により、その決定の理由
を説明するものとする。
第 56 条【植物育種者の権利の放棄】
第1項 第34条第2項にしたがい、植物育種者の権利の被付与者はいつでも、国内所管当局
に対する通知により、植物育種者の権利の放棄を申し出ることができる。国内所管
当局は、その申し出を公示し、すべての利害関係者にその申し出に関する書面の提
出の機会を与えた後、適切とみなせば、その申し出を承認し、権利を取り消すこと
299
ができる。
第2項 植物育種者の権利に関する訴訟または手続きが裁判所で進行中である場合、国内所
管当局は当該植物育種者の権利の放棄または取り消しの申し出を承認してはなら
ない。ただし、裁判所の許可または、訴訟あるいは手続きの当事者の合意がある場
合を除く。
第7章
制度的取り決め
第 57 条【国内所管当局の設置】
国は本法律の定めるところを施行し、執行する国内所管当局を指定あるいは設置するも
のとする。その義務は第29条に記された内容を含むものとする。
第 58 条【国内所管機関の義務】
国内所管機関の義務は、ジェンダーの平等性を確保しつつ、以下のことを行うことであ
る。
i) 地域社会の知的権利と農民の権利の有効な保護および生物資源へのアクセスの
規制を確保する規制のメカニズムの運営
ii) 地域社会の慣行と慣習法のもとで規定されてきた権利を特定するにあたり、農
村社会を含めた地域社会の協議と参加のプロセスの実施
iii) 地域社会の知的権利と農民の権利の種類の特定
iv) 地域社会の知的権利と農民の権利の承認のために必要な要件と手続きの特定と
決定
v) 手続きを標準化するための基準とメカニズムの開発
vi) 慣行と慣習法にしたがう地域社会の権利と農民の権利によって保護されている
項目を登録するシステムの開発
vii) 保護種を含めた生物資源、品種または系統、地域社会の工夫、慣行、知識、技
術の開発と商業化の許可
viii) 農村社会を含めた地域社会の生物資源、工夫、慣行、知識、技術を分類し、
特色を記述するにあたり、農村社会を含めた地域社会を支援する技術関連の制
度の特定
第 59 条【国内部門間調整組織の設置】
関係する公共部門、学術団体、専門家団体、非政府組織、地域社会組織の代表者からな
る最高レベルでの国内部門間調整組織が、本法律の適切な執行を調整し、フォローアップ
するための組織として、国内所管当局により設置されるものとする。
第 60 条【国内部門間調整組織の役割】
国内部門間調整組織の役割は以下のとおりとする。
i) 採取者が厳格に遵守ししたがう協定の最小限の条件の確保
ii) ジェンダーの平等性に正当な注意を払い、生物資源、地域社会の工夫、慣行、
知識、技術へのアクセス、採取、研究に関連する活動が行われている場合は常
に、地域社会の事前の情報に基づく同意の要件が満たされていることの検証を
含め、農村社会を含めた地域社会の権利が保護されることの確保。
iii) 生物資源、工夫、慣行、知識、技術に対する知的財産権、地域社会の知的権利
および農民の権利に関する新しい法律を含め、生物資源の持続可能な利用に関
する政策と法律の勧告。
iv) 本法律の有効な執行に必要と思われるその他の機能の実施。
300
第 61 条【国内部門間調整組織の構成】
国内部門間調整組織は以下の者によって構成されるものとする。
当該組織の機能面の構成は、ジェンダーの平等性に正当な注意を払い、資格、専門知識の
分野または専門分野、公益の質、産業界、地域社会をベースにした組織と分野からの人々
からなると概述することができる。本章の規定は先述の第 29 条に記された要件を満たすこ
とを追求する。
第 62 条【技術諮問機関の任命】
国内部門間調整組織の作業を支援するため、技術諮問機関が任命される。
第 63 条【技術諮問機関の役割】
技術諮問機関の役割は以下のものとする。
i) 地域社会の知的権利、農民の権利、ジェンダーの平等性、生物資源へのアクセ
スの規制を推進するための政策オプションの作成
ii) 減少または絶滅の危機にある種と生物多様性の深刻な減少の危機にある場所の
リストの作成
iii) 本法律の執行、生物多様性に対する現実または潜在的な危険、持続可能な開発
の追求に及ぼす可能性のある影響の定期的な監視と評価
iv) 生物資源に対する脅威に関する情報の特定と普及を促進するためのメカニズム
の開発と勧告
v) 本法律の執行に必要と考えられるその他の役割の実施
第 64 条【国内情報システムの設置】
第1項 次の条文で述べられる活動を含めた、生物資源に関する国内情報システムを設置す
るものとする。
第2項 地域社会も生物資源、その構成要素、派生物、地域社会の知識と技術に関するデー
タベースを構築することができる。
第3項 国内情報システムとデータベースの情報へのアクセスは、データの所有者の権利を
定める憲章によって規制されるものとする。
第 65 条【国内情報システムの活動】
国内情報システムの活動は特に以下のものを含むものとする。
第1項 地域社会の知的財産権、農民の権利、ジェンダーの平等性、生物資源、地域社会の
工夫、慣行、知識、技術へのアクセスに関する情報のまとめと文書化
第2項 生物資源、地域社会の工夫、慣行、知識、技術に関する研究開発活動についての情
報の保守・更新システム
第3項 生物資源、地域社会の工夫、慣行、知識、技術の侵害に関する情報のまとめとこう
した情報の関連組織への普及
第 66 条【地域社会遺伝子基金の設立】
第1項 地域社会遺伝子基金は独立した受託者として設立されるものとする。基金を管理す
るため、理事長が任命され、国内所管当局に所属するものとする。
第2項 第5章「農民の権利」の第26条第1項(b)にしたがい、地域社会や農村社会に配分され
る資金を収入源とする地域社会遺伝基金を管理する、独立した受託者がなければな
らないものとする。本基金は、所得税控除の対象となり、国内組織、国際組織、地
域社会による遺伝資源保全に関心のあるその他の機関からの寄付を受けることが
できる。
第3項 保護された種子の販売に関する育種者の権利の総価格をもとにして、国内所管当局
301
により決定されたロイヤルティーは、育種者の品種のためのベースとなった農民の
品種があった農村社会の利益のための地域社会遺伝子基金に預託されるものとす
る。
第4項 遺伝子基金は、女性に対する平等性を確保しつつ、支援を行う専門家の参加の有無
にかかわらず、自分たちが感知している問題の解決をめざす農村地域社会によって
開発されるプロジェクトの資金として利用されるものとする。こうしたプロジェク
トには、農業遺伝資源の開発、保全、持続可能な利用が含まれるが、これに限定さ
れるものではない。
第5項 地域社会遺伝子基金の全収益を農村地域社会のものとするため、当該基金設立と管
理に関する人件費と運営費用はすべて、政府によってまかなわれるものとする。
第6項 地域社会遺伝子基金は、農村地域社会、専門家、非政府組織、公的部門、民間部門
の代表者からなる基金管理委員会を設置する。
第8章
授権規定
第 67 条【許可と罰則】
第1項 既存の機関と当局の権利を害することなく、国は本法律の規定の遵守を確保する権
限を有する適切な機関を設置するものとする。
第2項 本法律およびその規則の規定に対する違反から生じる民法および刑法の行使を害
することなく、定められる許可と罰則には以下のものを含むことができる。
i) 書面による警告
ii) 罰金
iii) アクセス許可の自動的抹消/取り消し
iv) 採取された生物標本と装置の没収
v) 国内の生物資源、地域社会の知識、技術へのアクセスの恒久的禁止
第3項 違反は国内メディアおよび国際メディアで公示され、国内所管当局によって、関係
国際機関および地域組織の事務局に報告されるものとする。
第4項 採取者が国の司法管轄権外で活動を行う場合、そうした採取者の違反行為は、採取
者が提供した保証書に基づき、採取者が活動する地域の司法権を有する政府の協力
により起訴される。
第 68 条 異議申し立て
生物資源、地域社会の知識、技術へのアクセスに関する合意の承認、不承認、取り消し
に関する決定に対して、適切な行政機関を通じて、異議を申し立てることができる。裁判
所への訴求は、すべての行政的救済が不調に終わった後に許されるものとする。
302
付録 2
1. WTO のアフリカ諸国の加盟国 2000 年 11 月 30 日現在
アンゴラ 1996年11月23日
ベナン 1996年2月22日
ボツワナ
1995年5月31日
ブルキナファソ 1995年6月3日
ブルンジ 1995年7月23日
カメルーン 1995年12月13日
中央アフリカ共和国 1995年5月31日
チャド 1996年10月19日
コンゴ 1997年3月27日
コートジボワール 1995年1月1日
コンゴ民主共和国 1997年1月1日
ジブチ 1995年5月31日
エジプト 1995年6月30日
ガボン 1995年1月1日
ガンビア 1996年10月23日
ガーナ 1995年1月1日
ギニアビサウ 1995年5月31日
ギニア 1995年10月25日
ケニア 1995年1月1日
レソト 1995年5月31日
マダガスカル 1995年11月17日
マラウィ 1995年5月31日
マリ 1995年5月31日
モーリタニア 1995年5月31日
モーリシャス 1995年1月1日
モロッコ 1995年1月1日
モザンビーク1995年8月26日
ナミビア 1995年1月1日
ニジェール 1996年12月13日
ナイジェリア 1995年1月1日
ルワンダ 1996年5月22日
セネガル 1995年1月1日
シエラレオネ 1995年7月23日
南アフリカ 1995年1月1日
スワジランド 1995年1月1日
タンザニア 1995年1月1日
トーゴ 1995年5月31日
チュニジア 1995年3月29日
ウガンダ 1995年1月1日
ザンビア 1995年1月1日
ジンバブエ 1995年3月5日
2. 参考文献
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Tel: +57 1 281 4925
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Website: www.coama.org.co
Coordinating Body of Indigenous Organisations of the Amazon Basin
(COICA)
Casilla Postal: 17-21-753
Murgeón 717 y Av. América
Quito, Ecuador
Tel: +593 502 260 / 545 457 / 562 753
Fax: +593 502 260 / 545 457
Website: www.uio.satnet.net
Food and Agriculture Organisation of the UN (FAO)
Viale delle Terme di Caracalla,
00100 Rome, Italy
Tel : +39 0657051
305
Fax: +39 0657053152
Telex: 625852/625853/610181 FAO I
Telegrams: FOODAGRI ROME
Website: www.fao.org
Foundation for International Environmental Law and Development
(FIELD)
SOAS, University of London,
London WC1B 4JP, UK
Tel: +44 (0)20 7637 7950
Fax: +44 (0)20 7637 7951
Website: www.field.org.uk
Genetic Resources Action International (GRAIN)
Girona 25, pral
E-08010 Barcelona, Spain
Tel: +34 93 301 1381
Fax: +34 93 301 1627
Website: www.grain.org
Institute for Sustainable Development, Ethiopia
PO Box 30231
Addis Ababa, Ethiopia
Tel: + 251 1 514580
Email: [email protected]
International Labour Organisation (ILO)
4, route des Morillons
CH-1211 Geneva 22, Switzerland
Tel: +41 22 799 6111
Fax: +41 22 798 8685
Website: www.ilo.org
Organisation for African Unity (OAU)
P.O. Box 3243
Addis Ababa, Ethiopia
Tel: +251 (1)51 7700
Fax: +251 (1)51 2622/3036
Cable: OAU, ADDIS ABABA
Telex: 21046
Website: www.oau-oua.org
Rural Advancement Foundation International (RAFI)
110 Osborne St., Suite 202
Winnipeg MB R3L 1Y5, Canada
Tel: +204 453 5259 (Central Time
Zone)
Fax: +204 925 8034
Website: www.rafi.org
Southern and Eastern African Trade Information and Negotations Initiative (SEATINI)
United Nations Development Fund
Head Office, Takura House,
67-69 Union Avenue, P.O. Box 4775,
Harare, Zimbabwe
306
Tel: +263 4 792681/6 Ext 276 &255
Fax: +263 4 251648/728695
Website: www.seatini.org
The Gaia Foundation
18 Well Walk
London NW3 1LD, UK
Tel: +44 (0)20 7435 5000
Fax: +44 (0)20 7431 0551
Website: www.thegaiafoundation.org
The World Conservation Union (IUCN), formerly International Union for the Conservation
of Nature
Rue Mauverney 28,
CH-1196 Gland, Switzerland
Website: www.iucn.org
Third World Network (TWN)
228 Macalister Road,
10400 Penang, Malaysia
Tel: +60 4 2266728/2266159
Fax: +60 4 2264505
Website: www.twnside.org
United Nations Environment Programme (UNEP)
United Nations Avenue, Gigiri
PO Box 30552,
Nairobi, Kenya
Tel: +254 2 621234
Fax: +254 2 624489/90
Website: www.unep.org
United Nations High Commission for Human Rights (UNHCHR)
8-14 Avenue de la Paix
CH-1211 Geneva 10, Switzerland
Tel: + 41 22 917 9000
Fax: + 41 22 917 9016
Website: www.unhchr.ch
World Trade Organisation (WTO)
Centre William Rappard,
Rue de Lausanne 154,
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