1.「医福食農連携」を取り巻く社会環境の変化 医福食農連携とは、 「食」と「農」を基盤とした健康長寿社会を実現するために、医療・福祉サイ ドと食料・農業サイドが各業界の垣根を越えて、戦略的に連携することです。農林水産物・食品市 場に関連する将来の消費構造を展望するうえで、今後の人口減少や高齢化など人口構造・世帯構造 の変化が大きな要因となります。 我が国の総人口は、平成 25(2013)年 10 月 1 日現在、1 億 2,730 万人で、平成 23 年か ら3年連続で減少しています。今後も長期にわたって減少を続け、平成 60(2048)年には 1 億人を下回り、平成 72(2060)年には 8,674 万人になると推計されています。 【図1-1】我が国の年齢区分別将来人口推計 平成 25 年版 高齢社会白書より 65 歳以上の高齢者人口は、平成 25 (2013) 年には、前年から 111 万人増え過去最高の 3,190 万人となりました。平成6(1994)年に 14%を超えた、総人口に占める 65 歳以上の高齢者 の人口割合(高齢化率)は、その後も上昇し続け、平成 25(2013)年には 25.1%と「4人に 1人が高齢者」となっています。さらに平成 72(2060)年には、総人口の 39.9%が 65 歳以 上の高齢者になると推計されています。 世帯についてみると、平成 24(2012)年現在、65 歳以上の高齢者のいる世帯数は 2,093 万世帯であり、全世帯(4,817 万世帯)の 43.4%を占めています。 また、一人暮らしの高齢者数をみると、平成 22(2010)年には約 480 万人であり、平成 47(2035)年には約 762万人になると予測されています。 【図1-2】一人暮らし高齢者人口の推移 (単位:千人) 8,000 7,298 6,000 6,679 7,622 7,007 6,008 4,000 4,791 2,000 2010年 2015年 2020年 2025年 2030年 2035年 平成 22 年までは総務省「国勢調査」 、平成 27 年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯 数の将来推計(平成 25 年 1 月推計) 」、 「日本の将来推計人口(平成 24 年 1 月推計) 」より作成 2.機能性を有する食品の開発・普及 高血圧や高脂血症、糖尿病など生活習慣病の疾患は、加齢だけが問題ではなく、運動や休養 そして特に食事の影響が大きいと言われています。機能性食品(※)に含まれる健康食品及び特 定保健用食品の市場規模は、2005 年度をピークに減少しているものの、1997 年度と 2011 年 度を比べると約 2 倍に拡大しています。安全性に不安を持つ消費者などもいるため、科学的根拠 に基づく安全性や有用性に関する情報を消費者に分かりやすく提供していくことが重要となって います。 ※ 機能性食品とは、一般に「広く健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるもの全般」を指す用語 高齢化の急速な進展とともに、高血圧や高脂血症、糖尿病など、生活習慣病の羅患率が増加して います。これらの疾患は、加齢だけではなく、運動や休養そして特に食事の影響が大きいと言わ れており、食生活の改善による生活習慣病の予防や進行の抑制が期待されています。 消費者の健康志向が高まる中、健康の維持増進に役立つ機能性を有する農林水産物・食品への注 目が高まっています。農林水産省では、機能性を持つ農林水産物・食品のデータを体系的に収集 し、集約された情報を効果的に活用することにより、新たな農林水産物・食品の開発や個人の健 康状態に応じた機能性食品等の供給システムの確立に向け、産学官連携による取組を推進してい ます。 (公財)日本健康・栄養食品協会及び CMP ジャパンの調査によると、平成 23(2011)年の 機能性食品に含まれる「健康食品」及び「特定保健用食品」の市場規模は、健康食品が 1 兆 1500 億円、特定保健用食品が 5,175 億円で、全体では1兆 6675 億円となっています。2005 年度 をピークに減少しているものの、1997 年度と 2011 年度を比べると約 2 倍に拡大しています。 【図2-1】健康食品及び特定保健用食品の市場規模推移 (単位:億円) 20,000 19,149 特定保健用食品 16,669 健康食品 15,000 18,598 13,991 6,299 16,624 16,675 5,494 5,175 6,798 5,669 4,121 9,769 10,000 7,915 1,315 2,269 5,000 9,870 6,600 7,500 1997 1999 11,000 12,850 11,800 11,130 11,500 2005 2007 2009 2011 0 2001 2003 特定保健用食品は(公財)日本健康・栄養食品協会調べ、健康食品は CMP ジャパン調べより作成 (株)日本政策金融公庫が平成 25(2013)年度に行った「健康を増進する成分を含む農林水産 物やその加工品」に対する消費者の意識調査によると、健康を増進する成分が含まれる農林水産 物・食品を「食べたい」と回答した消費者の割合は約 57%となっています。また、 「試しに食べ てみたい」を含め「食べたい」という回答者のうち、実に約 66%は、従来の農林水産物・食品に 対しても割高でも購入するとしています。 逆に、これらの食品等を「食べたくない」とする回答者は約 29%であり、その理由としては、 「安全性が不安なので食べたくない」 (8.8%)、 「必要を感じないので食べたくない」 (8.2%)、 「効 果が不明なので食べたくない」(7.2%)等を挙げています。機能性を有する農林水産物・食品を 普及していくためには、科学的根拠に基づく安全性や有用性に関する情報を消費者にわかりやす く提供していくことが重要となっています。 【図2-2】「健康を増進する成分を含む農林水産物やその加工品」に対する消費者の意識 安全性が不安なので 食べたくない, 8.8% 必要を感じないので 食べたくない, 8.2% 食べたい 57.1% 食べたいかどうか 分からない 13.9% 効果が不明なので食 べたくない, 7.2% 0% 20% 40% 60% 高そうなので食べたく ない, 5.0% 80% 100% 3割高超えでも購入 2.8% 2割高までなら購入 24.1% 価格許容度 1割高までなら購入 29.9% 同等の価格なら購入 34.4% 3割高までなら購入 8.8% 0% 20% 40% 60% 80% 100% (株)日本政策金融公庫「平成 25 年度上半期消費者動向調査」 (平成 25(2013)年 7 月調査)より作成 3.薬用作物の国内生産拡大 漢方製剤等は医療現場におけるニーズが高まっており、その原料となる生薬の需要量は、今後と も増加が見込まれています。漢方製剤等の原料となる生薬の年間使用量は約 2.2 万トン(平成 22 年) 。このうち、国産は約 0.26 万トンと全体の約 12%であり、8 割以上を中国からの輸入に頼っ ています。 国内での生産増に向け、行政、漢方薬メーカー、生産者などによる取組が活発化しています。 漢方製剤等の国内生産金額は、平成 24(2012)年における国内医薬品全体の生産金額 6 兆 9,767 億円のうち、全体の2%に過ぎませんが、医療現場におけるニーズが高まっており、5年 間で 20%増加しています。一方で、原料となる生薬は中国からの輸入に依存しており、生薬の使 用量は、平成 22(2010)年度に約 2.2 万トン、そのうち 80.8%を中国産が占め、国産は 11.7% となっています。 日本漢方生薬製剤協会の調査によれば、平成 22(2010)年時点で、会員各社で取り扱われて いる生薬は 264 品目であり、このうち、使用量の多い上位 60 品目で全体の 92.4%を占めてい ます。 【図3-1】漢方製剤等の生産額の推移 (単位: 億円) 1,600 1,500 1,519 1,422 1,400 1,385 1,366 1,300 1,270 1,200 平成20年 平成21年 平成22年 平成23年 平成24年 厚生労働省の「薬事工業生産動態統計調査」より作成 【図3-2】薬用作物(生薬)の使用量と生産国 その他の国: 日本:2,577 トン 1,649 トン(7.5 %) (11.7 %) 中国: 17,780 トン(80.8 %) 日本漢方生薬製剤協会「原料生薬使用量等調査-平成 21 年度および 22 年度の使用量」より作成 漢方薬原料に多く用いられる「甘草」や「麻黄」が、近年中国において、輸出規制の対象となっ たほか、中国国内の需要増加などによる輸入価格の上昇等により今後の安定的な調達が困難にな る恐れがあります。薬用作物の国内需要は今後も増加すると見込まれていることから、薬用作物 の国産化を進める機運が高まっています。 薬用作物は、他の農作物のように一般的な取引市場が存在しないため、漢方薬メーカーと国内農 家が個別に契約を結び、栽培に取り組むのが一般的です。企業は生産農家を見つけられず、一方、 農家も収益に見合う需要度の高い生薬の選び方や生産方法、その販売先をどうするかが分からな いなどの問題があり、これまで国内での生産が進まない状況にありました。平成 25(2013)年 度より、農林水産省と厚生労働省、日本漢方生薬製剤協会の3者が薬用作物栽培に関する説明会 を全国8カ所で開催し、国内で漢方薬メーカーが使用している生薬リストを提示する等、漢方薬 の原料となる薬用作物の国内栽培化に向けた、農家と漢方薬メーカーのマッチングの取組を加速 させています。 4.介護食品の開発・普及 介護食市場は、平成 24 年に初めて 1,000 億円を超え、今後も順調に市場が拡大し平成 32 年 には 1,286 億円になると予測され、特に在宅向けの伸びが大きいと考えられています。潜在市場 が大きく、今後、在宅向けサービスの開発が市場拡大の鍵となりそうです。 介護食品の市場規模は、㈱富士経済の調査によると、平成 24(2012)年に初めて 1,000 億 円を超え 1,020 億円となりました。急速な高齢化の進展に伴い、平成 32(2020)年には、26.1% 増の 1,286 億円になると予測されています。一方で、要介護者数等から介護食品のニーズを試算 すると、約2兆8千億円の市場規模となり、実数との乖離がみられます。要介護者(要支援者含 む)の人数は、平成 12(2000)年度からの 10 年間で約2倍に増加しており、その中でも在宅 サービスの利用者は 2.4 倍と増加が大きくなっています。 また、高齢者食の宅配サービスは、元々、糖尿病や腎臓疾患など食事制限を必要としている患者 向けでの利用が多かったのですが、買物や調理が困難になった高齢者でも栄養バランスのよい食 事を手軽に利用できるとして利用が進んできました。 【図4-1】高齢者福祉サービス利用状況別の要介護者数の推移 (単位:億円) 600 その他 施設サービス 在宅サービス 400 80 200 72 124 70 66 60 73 152 184 214 116 120 95 102 82 83 76 81 83 84 79 240 256 257 263 273 286 302 93 97 91 111 106 0 2000年度 2002年度 2004年度 2006年度 2008年度 2010年度 厚生労働省「介護保険事業状況報告」より作成 現状、介護食品の流通は、病院や介護施設等の業務向けについては医療・介護食品専門卸業者が 行い、一般小売等の市販向けは、加工食品卸業者が担っています。市販向けについては、通信販 売が多く、ドラッグストアなど店頭での販売はまだあまり行われていません。介護食は、施設向 けとして市場が形成されてきたため、需要も施設向けが 9 割を占めていましたが、今後、要介護 者の増加により、在宅介護の需要は年々拡大すると予測されています。回転率の低さから量販店 などは試験的に取扱いを開始しても時間の経過とともに棚が縮小されるケースも少なくなかった ようですが、ドラッグストアで取扱いを増やすケースが増えつつあり、今後の市場拡大が期待さ れています。 【図4-2】介護食市場の将来予測 (単位:億円) 1500 1200 1,371 在宅向け 施設向け 907 859 900 600 300 119 129 206 0 2010年 2011年見込 2021年予測 ㈱富士経済「高齢者向け食品市場の将来展望 2011」より作成 5.「農」と「福祉」の連携 高齢者の健康づくりや障害者の就労支援・雇用の場として、農作業を取り入れたいと考える福 祉施設が増加しています。 福祉分野において、農業・園芸活動を通じて得られる心身のリハビリテ-ション効果や共同作 業による社会参加促進効果が改めて評価されており、高齢者の健康づくりや障害者の就労訓練・ 雇用の場として、農作業を取り入れたいと考える福祉施設が増加しています。障害者の農業分野 での就労は、大きく農業事業体等での雇用と障害者福祉施設での就労(福祉的就労を含む)に分 けることができます。前者の農業事業体について、農村工学研究所が平成 20(2008)年に行っ たアンケート調査結果によれば、農業生産法人 476 サンプルのうち、16%が障害者を雇用して いました。また、後者の福祉施設での就労については、NPO 日本セルプセンターが平成 26 年に 行った調査によれば、回答があった障害者就労支援事業所 832 サンプルのうち、33.5%が障害 者の就労活動に農業を取り入れています。また、障害者が取り組む農作業の内容は、「草取り」 (86.7%)、 「収穫」 (81.0%)、 「定植」 (56.3%) 、 「運搬」 (51.6%)、 「袋・パック詰め」 (50.5%) などが中心です。農業活動に取り組んだ狙いは、 「障がい者に多様な作業をしてもらうことが可能 なため」 (49.8%) 、 「障がい者の生きがい、やりがいのため」(43.2%)となっています。 「新し い職域開拓のため」 (33.7%)も高い割合となっています。 【図5-1】作業別にみた農業活動の実施割合 45.9 37.3 播種 苗作り 定植 施肥 農薬散布 畝づくり 代掻き 水管理 草取り 選定 摘果 収穫 エサやり 搾乳 選別 袋・パック詰め シール貼り 乾燥・調整 糞尿処理 運搬 地域の水路掃除 地域の畔草刈り その他 56.3 49.5 9.7 33.0 3.6 29.4 86.7 18.3 11.1 81.0 4.7 0.0 35.1 50.5 36.6 8.6 3.2 51.6 9.0 10.4 3.6 0 複数回答 N=279 50 100 (%) NPO 日本セルプセンター「農と福祉の連携についての調査研究報告」より作成 【図5-2】農業活動を行いたい理由・行っている理由 13.4 地域の農家から農地を使って欲しいと頼まれたため 6.4 これまで受託していた作業・仕事が無くなった、減ったため 33.7 新しい職域開拓のため 22.8 新規の事業収益が必要だったため 49.8 障害者に多様な作業をしてもらうことが可能なため 32.5 障害者に適した作業なため 43.2 障害者の生きがい、やりがいのため 14.0 障害者の情緒安定のため 障害者の社会性育成のため 6.1 障害者の健康増進のため 6.4 障害者のリハビリテーションのため 3.0 障害者のレクリエーション・癒しのため 3.3 7.0 事業所・施設内の食料自給のため 10.0 事業所・施設の加工・飲食店事業等の原料にするため 8.2 地域活性化のため 21.6 施設職員・理事等の発案 2.4 地域組織・行政等からの紹介・要望 複数回答 N=329 5.8 その他 0 20 40 60 (%) NPO 日本セルプセンター「農と福祉の連携についての調査研究報告」より作成 我が国の高齢化が進む中、特に、農業現場の高齢化は深刻です。平成26(2014)年の農業就 業人口は227万人、そのうち65歳以上は64%、平均年齢は66.2歳(平成25年)となっていま す。近い将来、これまで農業の現場を担ってこられた方々の大量リタイアが見込まれています。 高齢の農業者がリタイアした後も、農業サポートや地域活動など生きがいを持って暮らせるため の環境づくりが求められています。また高齢化の進展に伴い、農業だけでなく広い業種において 現役をリタイアする方々が増える中、これらのリタイアした方々が第二の人生において、町中に ある市民農園や郊外の農地で農作業に取り組む動きがみられます。 厚生労働省や農林水産省においても、高齢者の健康増進や生きがいとしての農業の活用、障害者 の農業分野での雇用等に対しての支援を行っています(参考:厚生労働省、農林水産省「福祉分野に農作業を ~支援制度などのご案内~」、URL: http://www.maff.go.jp/j/study/syoku_vision/hukushi/pdf/zentai.pdf)。 (参考文献) 【1】・内閣府「平成 26 年版高齢社会白書」 ・国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(平成 25 年 1 月推計)」、「日本の将来推計人口 (平成 24 年 1 月推計)」 【2】・(独法)工業所有権情報館「飛躍が期待される機能性食品」 ・日本政策金融公庫「『健康を増進する成分を含む農林水産物やその加工品』に対する消費者の意識調査」 ・(公財)日本健康・栄養食品協会「市場規模調査」(http://www.jhnfa.org/) ・CMP ジャパン『食品と開発』 【3】・日本漢方生薬製剤協会資料「原料生薬使用量等調査報告書(平成 21 年度および 22 年度の使用量)」 ・(公財)日本特産農産物協会資料「薬用作物(生薬)に関する資料」 ・厚生労働省「薬事工業生産動態統計調査」(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1.html) 【4】・㈱富士経済「「高齢者向け食品市場の将来展望 2013」、「「高齢者向け食品市場の将来展望 2012」 ・厚生労働省「介護保険事業状況報告」(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/84-1.html)より ・介護食市場 1000 億円超へ、潜在ニーズは 2 兆 5 千億 [食品産業新聞](8/29) 【5】・農林水産政策研究所「障害者施設における農業活動の実態と課題 ・きょうされん『障害者の農業活動に関するアンケート』結果を中心に-」(2012 年7月3日) ・特定非営利活動法人日本セルプセンター「農と福祉の連携についての調査研究報告」 ・農林水産省「農林水産基本データ集」(http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/index.html)
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