J リーグによる地域活性化についての研究 ~大宮

J リーグによる地域活性化についての研究
~大宮アルディージャに注目して~
R04001
指導教員
赤荻和弥
桑田 仁
1.背景と目的
J リーグのクラブは他のプロスポーツの競技に比べて
地域に密着し、相互に協力しあっているという特徴があ
り、
地域の活性化に貢献することができる可能性がある。
しかし、大宮に注目すると、大宮アルディージャがあ
るが、地域との関係はあまり深くなく、大宮アルディー
ジャの存在もあまり知られていない。
その状況のなかで、
サポーターの有志が集まり、クラブや後援会、サポータ
ーの関係を改善しようとしている。
本研究では大宮アルディージャに注目して、アルディ
ージャが、より市民に親しまれるクラブとなり、アルデ
ィージャの観客増員や、地域住民により身近に感じても
らえるクラブとなるため、また、それを通して大宮の地
域の活性化を行うために、Jリーグで使用されるスタジ
アム周辺の物的環境の検証と改善と、クラブとサポータ
ーや市民、商店街との関係を考えることを目的とする。
2.目的の検証方法
2.1 スタジアム周辺の物的環境の検証について
J リーグのスタジアムへのアクセスという観点から、
主要交通の関係について表 1 のような点から、データ調
査を行った。また、表 2 に記載したスタジアムを研究対
象として、表 3 に示す項目を調査し、視点を以下の 4 点
にした。
1.安全に安心してスタジアムへ向えるという観点から歩
行者環境の整備状況を調査。
2.試合前後に、サポーターの集まり等に利用されること
があることや、イベントなども行うことができるとい
う観点から、オープンスペースについて調査。
3.クラブと地域との協力関係や、地域としてクラブを盛
り上げる姿勢が見えるという観点から地域振興の状況
を調査。
4.クラブと地域との協力関係が見えるという観点から、
公共空間の装飾について調査。
人を集めるスタジアムへのアプローチにおいて、空間
的にどのような特性があるかを、比較、検証した。
2.2 クラブと、市民、商店街との関係の改善について
大宮の商店街、大宮アルディージャへそれぞれヒアリ
ング調査を行った。それぞれの団体へのヒアリングを通
して、各団体の活動状況や、要望、今後の方針などにつ
いて調査した。
3.調査結果
3.1 スタジアムの現地調査結果
3.1.1 歩行者環境の整備
歩車道の分離、ガードレールの設置に関しては、8 ス
タジアム中 6 スタジアムで行われている。日立柏ではス
タジアムまでの道の殆どに歩車道の区別が無かったが、
帰宅時には、
車両通行を禁止するなどの工夫がみられた。
NACK5 へのアプローチでは、一部意図的に歩車共存
の道路が整備されている。試合日には、車道の歩行が見
られるため、日立柏のように、車両通行止めの措置など
が必要ではないかと考える。
3.1.2 オープンスペース
オープンスペースについて、スタジアムの周辺には大
きな広場や公園などが、設けられており、どこのスタジ
アムでも、十分に利用することができる。
NACK5 においても、大宮公園や、氷川神社など十分
にオープンスペースが存在していた。
3.1.3 既存店舗の営業
試合日の安売りをしている店は、確認できただけでは
日立柏の 1 店のみだった。店舗の装飾について味の素で
は、全 14 店舗中 6 店舗と約 43%の店舗に、何かしらの
装飾が施されていた。また、味の素では、コンビニでク
ラブとタイアップした弁当の販売も行っていた。
NACK5 は、今回調査したスタジアムにおいて、アク
表 1J リーグクラブ
表 3 現地調査項目
表 4 現地調査結果比較表
1.歩行者環境の整備状況
1.1車道・歩道の分離
1.2ガードレールの有無
1.3歩道の幅
1.4自動車の交通量(車線数)
2.オープンスペースについて
2.1公園
2.2神社
2.3その他
3.地域振興の状況
3.1既存店舗の営業の様子
3.1.1安売り
3.1.2装飾
3.1.3特別商品
3.2特別店舗の営業の様子
3.2.1空き店舗の活用
3.2.2露店の出店
4.公共空間の装飾
5.その他
NACK5 埼玉 日立柏 フクアリ 味の素 日産 三ツ沢 等々力
1.歩行者環境の整備状況
1.1車道・歩道の分離
△
○
△
○
○
○
○
○
1.2ガードレールの有無
△
×
△
○
○
○
○
○
1.3歩道の幅 (m)
1.7
11
6
6.3
4.1
2.8
3.4
1.8
1.4自動車の交通量(車線数)
1・2
×
1・2
2
2
2
2・4
2
2.オープンスペースについて
2.1公園
○
×
○
○
×
○
○
○
2.2神社
○
×
×
×
×
×
×
×
2.3その他
×
○
×
×
○
○
×
×
3.地域振興の状況
3.1既存店舗の営業の様子
3.1.1安売り (店)
×
×
1
×
×
×
×
×
3.1.2装飾 (装飾店/総店舗) 33/103
0
14/105 3/16 6/14
1/9
1/4 11/45
3.1.3特別商品 (店)
×
×
×
×
1
×
×
×
3.2特別店舗の営業の様子
3.2.1空き店舗の活用
×
×
×
×
×
×
×
×
3.2.2露店の出店 (店)
9
39
2
21
×
19
×
×
4.公共空間の装飾
○
○
○
○
○
○
×
○
5.平均入場者数 (人)
11,741 46,667 12,967 14,149 25,290 24,039 14,039 17,338
6.スタジアムキャパシティ (人)
15,500 63,700 15,900 18,500 50,000 72,327 15,046 25,000
7.商店街の有無
○
×
○
×
×
×
×
×
表 2 調査スタジアム
基礎データ項目
創設
ホームタウン
ホームスタジアム
所在地
開場
収容人数
平均入場客数
最寄り駅
1日平均乗車人員
商店街の有無
最寄駅からのアクセス
埼玉スタジアム2002
NACK5スタジアム大宮
フクダ電子アリーナ
日立柏サッカー場
味の素スタジアム
等々力陸上競技場
日産スタジアム
三ツ沢公園球技場
セスルートに沿って商店街が形成されている 2 例の内の
1 つであり、店舗に装飾が行われていた店舗の数も、33
店舗と突出して多かった。
120
45
40
35
80
30
25
60
20
40
15
10
20
5
装飾のある店舗
総店舗数
装飾のある店舗の比率
□は商店街のあるスタ
ジアムである
埼
立
フ 柏
ク
ア
味 リ
の
素
日
産
三
ツ
等 沢
々
力
日
NA
CK
5
0
玉
0
比率(%)
店舗数(店)
100
スタジアム名
図 1 既存店舗の総数と装飾店舗の関係
3.1.4 特別店舗の営業
試合日に空き店舗を活用した営業は特に見られなかっ
た。露店に関しては、スタジアムの有る公園内や、スタ
ジアムそばの広場に出店しているところがほとんどだっ
た。埼玉スタジアムでは、商店が無いかわりに 39 店と
最多となる露店が出店していた。NACK5 では、9 店と
決して多くの店舗が出店されているわけではない。
3.1.5 公共空間の装飾
三ツ沢以外のスタジアムでは駅からスタジアムの間の
道にクラブの旗が飾られていた。さらに、スタジアムに
よっては、駅の柱への装飾、マスコットの銅像、マンホ
ールの蓋へのクラブのマスコットの描写、風力発電機や
道路のペイント、クラブのラッピングがされた自動販売
機の設置などが見られた。NACK5 においても、クラブ
のラッピングされた自動販売機の設置や、道路や街灯を
オレンジ色に塗装されていたり、プランターにアルディ
ージャのペイントがされていたりしている。
3.2 ヒアリング調査結果
3.2.1 商店街ヒアリング
07 年 12 月 18 日大宮駅東口住吉通り商店街の関係者
に対してヒアリング調査を行った。内容を以下に示す。
スタジアムの現地調査からは、商店街の取り組みが見
えにくかったが、ヒアリングによりさまざまな取り組み
を行っていることがわかった。
・主な活動しては、商店街入り口の大旗、ポスターの掲
示、タウン誌の発行。
・クラブが J1 に上がれるように応援しようということ
で、商店街の方から働きかけ、商店街として応援する
ようになった。
・以前から、サッカー場へ行った人が商店街を素通りし
てしまうことを問題としており、みんなが集まれるよ
うな場所を作るというのが念願である。
・今後は選手によるサイン会や、歩行者天国が出来れば
選手と一緒に取り組めるゲームの開催、地域通貨や共
通ポイントの導入を自治体、アルディージャなどに手
伝ってもらってやっていきたい。
3.2.2 大宮アルディージャヒアリング
07 年 12 月 18 日に大宮アルディージャ事業部ホーム
タウン担当課長にヒアリング調査を行った。内容を以下
に示す。
ヒアリングによって、クラブからの積極的なアプロー
チの姿勢や、幅の広い活動を行っていることがわかり、
地域密着という考えが伝わってきた。
・クラブ側としては大宮商店街連絡協議会に 3 ヶ月に 1
回程度、活動についてのお願いに行っている。
・大宮としては明るいまちづくりにも取り組んでいる。
地域のイベントへの参加や、青少年に対してだけでな
くシニア向けにも、指導者へのコーチングの指導、食
育などを行い、アルディージャを中心に輪をつくり、
商店街や、市民の方を巻き込んで、大宮を盛り上げて
いきたい。
4.まとめ
以上のことをふまえ NACK5 スタジアム大宮の周辺環
境について改善案をまとめる。
・歩行者環境に関して、特に歩車共存の空間については
日立柏で行っているように、クラブと商店街で協力し
て試合後に時間を区切るなどして、一時的な車両通行
止めを作り、多くの人が利用しても、安全な歩行者空
間をつくることが可能であると考える。
・オープンスペースにおいて、公園・神社の両方が存在
しているという点において、他のスタジアムに比べ有
利であり、さらなる活用を考えるべきである。商店街
の活動は意欲があり、積極的ではあるが、その活動が
外部に伝わりにくい部分がある。また、クラブの活動
も多岐に渡っており、その活動内容から地域密着とい
う考えは伝わってきた。そこで、豊富にあるオープン
スペースを活用し、そこを発表の場とするなど、より
アピールすることができると考える。
・商店街など、多くの店舗や公共空間において、アルデ
ィージャを意識した装飾が行われており、最寄り駅か
らスタジアムへ向う道では視覚的に良く目に付く。し
かし、装飾が行われているのは氷川参道の前までで、
そこから先は静かな空間となっているので、改善の余
地がある。現在の静かな空間も良いが、氷川参道にお
いて、商店街の店や有志などによる露店を出店するこ
とで、最寄り駅からスタジアムまでの道に関して一本
の流れができ、楽しみながらスタジアムへ向うことが
できるのではないか。
(参考文献)
松岡憲司 (1996) スポーツエコノミクスの発見 J リーグは地域を活性化
する 法律文化社
辻谷秋人 (2005) サッカーがやってきたーザスパ草津という実験 日本
放送出版協会