赤方偏移1.52の成熟した銀河団候補領域の発見

赤方偏移1.52の成熟した銀河団候補領域の発見
小山佑世
(国立天文台/宇宙航空研究開発機構)
児玉忠恭
(国立天文台)
林 将央、田中 壱
(国立天文台)
但木謙一
(MPE /国立天文台)
嶋川里澄
(総合研究大学院大学)
あり、銀河団のような高密度環境には星形成活動を終えた
心にも数多くの星形成銀河が存在するという報告もあるこ
とから、赤方偏移 ~1.5 の銀河団にはバリエーションがあり、
年老いた赤い銀河が多いのに対し、一般フィールドとよば
銀河団銀河の進化を理解するうえで過渡期ともいえる重要
れる低密度環境には星形成を活発に行う青くて若い銀河が
な時代である可能性があるだろう。
多いことがよく知られている [1]。遠方宇宙の銀河団とは
さらに我々は、この領域に見つかった Hα 輝線銀河を利
現在の宇宙に見られる銀河団の祖先であり、銀河団という
用して、赤方偏移1.5における銀河の星形成活動の環境依存
特殊な環境下で成長する銀河の進化史を解き明かすうえで
重要な観測対象である。
性について調査を行った。具体的には、銀河の「星形成率
– 星質量関係」を銀河団に近い高密度環境の銀河と銀河団
遠方銀河団を探すためには、一般に数平方度クラスの広
周辺部の低密度環境の銀河について比較し、その両者に大
大なサーベイを行う必要がある。しかし、より効率よく銀
きな違いがないことを示した。この結果は、我々のこれま
河の密度超過領域を探し出す方法として、遠方宇宙の電波
での研究結果 [6] とも一致しており、銀河団銀河とフィー
銀河の周辺領域を探査する手法がある。遠方宇宙の電波銀
ルド銀河では星形成銀河の割合に違いがあるものの、星形
河は近傍銀河団の中心銀河(cD 銀河)の祖先と考えられ、
成銀河に着目するかぎり、その性質には大きな環境依存性
その周囲には原始銀河団とよばれる銀河の密度超過が数多
は見られないという結果を支持するものである。
銀河の性質は、その銀河が存在する環境と密接な関係が
く報告されている([2] など)。
本 研 究 で は、 す ば る 望 遠 鏡 の Suprime-Cam お よ び
MOIRCS を用いて赤方偏移1.52の電波銀河4C 65.22の周辺
領域を狙って Br′z′JHKs のブロードバンド、および赤方偏移
1.52の Hα 輝線を捉えることができる MOIRCS のナローバ
ンドフィルター NB1657(中心波長1.657 μm)を用いて撮像
サーベイを行った [3]。
解析の結果、図1に示すような銀河の構造が浮かび上
がった。この図では、黒と赤の丸印が測光的赤方偏移の手
法により z ~ 1.5にあると推定される銀河を示しており、電
波銀河の周囲には周辺に比べて10倍以上の密度超過が見ら
れる。特に図中の赤い丸印は z′ – J の色が赤い銀河を表し
ており、星形成活動を終えた銀河であると考えられる。こ
の赤い銀河は密度超過のピークの場所に集中的に存在して
おり、近傍宇宙と同様に密度が高い環境に星形成を止めた
銀河が多いという傾向がはっきりと見られたことは大変興
味深い。
一方で、NB1657フィルターで輝線超過が見られた銀河
について、ブロードバンドカラーを注意深く解析して選び
図 1.今回観測を行った4C 65.22電波銀河(黄色の星印)の周辺におけ
る銀河の2次元分布.丸印は測光的赤方偏移で1.3 < zphot < 1.7の銀
河を表し,等高線はその分布をもとに描かれている.赤い丸は z′
– J の色が赤い受動的銀河の候補である.また,青い四角印は z =
1.52の Hα 輝線銀河を表す.大きな2つの円の半径は,銀河の密度
超過のピークから250 kpc および500 kpc に相当する.
出した赤方偏移1.52の Hα 輝線銀河が図1の青四角で示され
ている。銀河分布のピークを取り囲むように、Hα 輝線銀
河がその周辺領域に存在しているようすは、我々が赤方偏
移0.8の銀河団領域で行った Hα 輝線銀河サーベイの結果と
合致しており [4]、本研究で見つかった新しい密度超過領
域は、赤方偏移 ≈ 1.52の成熟した銀河団である可能性がき
わめて高い。実は、我々のグループが行ったほぼ同時代の
銀河団の星形成銀河探査の結果 [5] によると、銀河団の中
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I Scientific Highlights
参考文献
[1] Dressler, A.: 1980, ApJ, 236, 351.
[2] Venemans, B. P., et al.: 2007, A&A, 461, 823.
[3] Koyama, Y., et al.: 2014, ApJ, 789, 18.
[4] Koyama, Y., et al.: 2010, MNRAS, 403, 1611.
[5] Hayashi, M., et al.: 2010, MNRAS, 402, 1980.
[6] Koyama, Y., et al.: 2013, MNRAS, 434, 423.