1923年におけるルイジアナ州バトンルージュの都市構造

歴史地理学
1
4
7 1~ 9 1
9
8
9
.
1
2
1
9
2
3
年におけるルイジアナ州
バトンルージュの都市構造
中川
正
I はじめに
とはし、えず,その観点に立つ研究の隆盛は,五十
E 研究方法
量革命以降の因子生態研究 5)を待たなければな
I
I
I
. 景観要素と諸機能の分布
らなかった。
I
V
. 都市構造と人種的セグリゲーション
しかし,都市の内部構造に与える人種的影響
V. 結 び
は近年に始まったものではなく,合衆国南部の
都市においては,とくに奴隷解放以後に少なか
らず現われ続けてきた。黒人人口比率が高い南
1.はじめに
部では,黒人は単に都市構造の副次的要素とし
本稿は,合衆国ノレイジアナ州パトンルージュ
ては扱えない一面を持っているように思われる。
9
2
3年の都市構造を,歴史地図に表現
における 1
本稿では,その南部の都市の一事例として,バ
された土地利用の分析を通して復元するもので
トンルージュをとりあげ,同心円理論が提示さ
あるが,まずその意義を明らかに Lておきたい。
れた 1
9
2
0
年代における都市構造を復元 L,人種
パージェスが都市の内部構造を模式化した同
的すみわけをも検討することによって,人種的
9
2
5年のことであった
心円理論を発表したのは 1
観点、を含めた過去の都市比較研究の端緒とする
が,彼はこのモデルを説明する際に中西部の大
ものである。バトンルージュは,
都市シカゴの土地利用を事例として用いた
左岸に位置するルイジアナ州の州都であり,政
このモデルによると,都市は同心円を描く 5つ
治機能ばかりでなく,商業機能,教育機能,工
ミシシッピJ[f
の地帯からなり,内側からループ (CBD),遷
業機能をもあわせ持った南部の重要な都市の一
移地帯,労働者住宅地帯,住宅地帯,通勤者地
9
2
0
年における人口は2
,
17
8
2,そ
つであった。 1
帯とつづく構造をなしている。そ Lて,この 5
のうち 8
,
5
6
0人 (
3
9
.
3
%
) は黒人であった。
つの同心円パターンの例外的要素として,黒人
地帯が遷移地帯から労働者住宅地帯に帯状に延
I
I
.研究方法
バトンルージュのような合衆国の都市の過去
びる形状で示されていたO
このモデルにおける黒人地帯は,黒人人口が
の構造を詳細に笈元するためには,どのような
4%に満たないシカゴの状況を比較的適切に表
データが利用できるのであろうか? 住居のブ
現したものであったが,あくまで黒人は都市に
ロックごとのデータは, 1
9
4
0
年以降国勢調査の
おいて少数派であるとし寸前提のもとに,人種
一環として出版されているが,それ以前のデー
的要素を副次的に扱っていた。さらに,このモ
タは存在しなし、。センサストラクトの調査単位
デルに対する批判や支持も,デーヴィベ
も,バトンルージュの分析には大きすぎる。
クイ
9
2
0年代や 1
9
3
0年代
ン3) ホイト叫達によって 1
ここで最も有効な資料は,サンボーン地図会
における他の合衆国の都市の観察に基づいて行
社 (
SanbornMapCompany) による,合衆国
われてきたが,人種的要因に関する検討は十分
の実質上すべての市街化地域の建築物現況図で
- 1一
あ ろ う ヘ サ ン ボ ー ン 地 図 は 1インチ:5
0フィ
ートc1 :6
0
0
) または 1インチ:1
0
0フィート
(1 :
,
12
0
0
) の縮尺で印刷されている。地図
地代地域の指標として選択し,それぞれの分布
を考察した。諸機能施設としては,商業施設,
工業施設,公共施設を選択した。そして,これ
には街路,ブロック,宅地区画,建築物,鉄道
らの要素の分布から都市構造を確定し,既存の
路線などの文化景観要素が記され,建築物の材
理論をもとに検討する。そのうえで,人種的セ
質,建築物の用途,高さ,形などが詳細に表わ
グリゲーションの実態を黒人と白人の学校や教
されている。サンボーン会社は,合衆国全体に
会の分布から把握し,それと都市構造との関係
わたってサーピスを提供しており,数年ごとに
を考察する。
それぞれの都市の地図の改訂を行っている。
サンボーン地図は,ほとんどすべての都市の
市役所,裁判所,図書館,保険会社で閲覧する
m
. 景観要素と諸機能の分布
バトンルージュは,
ミシシッピ川左岸の洪積
ことが可能で、ある。筆者は,ノミトンルージュの
台地上に立地する都市である。都市は,おおよ
9
世紀後半
ルイジアナ州立大学地図図書館で, 1
そ格子状の荷路パターンを示しているが,この
9
2
3年までの数年次のパトンルージュの市
から 1
基本的形態は1
9世紀初期におけるスペイン支配
9
2
3年のものを閲覧し,それを分
街図のうち, 1
下に形成され,その後徐々に広がっていったも
析に用いた。
のとされている。
本稿では,バトンルージュの都市構造を,サ
川と垂直にバトンルージュ港からメインスト
ンボーン地図から抽出することのできる都市景
リートが延びており,その南に平行に走るロー
観の諸要素と都市機能施設を地図上におとし,
レルストリートやフロリダストリートとともに,
一定の基準を用いてブロックを分類することに
東西に走る重要な街路となっている。ミシシッ
2階建て
ピ川に平行に走る道は,川に近い所からナッチ
以上の建築物,木造以外の(煉瓦・石・コンク
ェス,ラフィエット,サード,チャーチストリ
リート造〕建築物,そして建築物の面積を,高
9
2
3年当時にはサードストリー
ートと続くが, 1
よって導き出す。景観要素としては
M
M
Y務-aSIL--
4
・da副官
・
•
•
•••• •
..
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1
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,
0
0
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FEET
0 3
,
0
0
0
FEET
図 1 石・コンクリート・煉瓦造りの建築物の分布
-2-
図 2 2階建て以上の建築物の分布
トが最もにぎやかな商庖街であった。バトンル
ージュには
2つの鉄道会社による 3つの鉄道
が走っているが,
ミシシッピ川沿いに走るヤズ
くつかの道路上に,より広範な広がりを見せて
いる o 2階建て以上の建物は,一般住宅にもし
ばしば現われるために,必ずしも中心業務地区
8
8
4年に,そ
ーアンドミシシッピバレー鉄道は1
Lて他の 2つの路線を有するルイジアナレイノレ
や文教地区,工業地区に限られることはなし、。
ウェーアンドナピゲーション会社は 1
9
0
3
年にノミ
要な景観要素として,建築物の面積があろう。
トンルージュで営業を開始した。
この景観要素は高地代住宅地域と低地代住宅地
バトンルージュの大多数の建築物は,他の南
サンボーン地図から抽出できるもう一つの重
域を区別するうえで,有効な指標の一つになる
部の諸地域と同様,木造である。石・コンクリ
ものと考えられる。建築物の面積を地図上に表
ート・煉瓦造りの建物は,商業中心地であるサ
現する際に,いろいろな方法が可能であるが,
ードストリートや, メインストリートに集中 L
ここでは経験的に,かつ便宜的にすべての建築
ている(図1)。
これらの大多数は,
商屈であ
物の 1階部分の面積を, 4,
0
0
0平方フィート(約
る。また,北部にみられるまばらな分布は,ル
3
7
0平方メートル〉以上か未満かに分類し
イジアナ州立大学の校舎である。川沿いには煉
ブロック内における 4,
000平方フィート以上の
瓦造りの工業施設が建ち並んでいる O また中心
建物数の割合をブロックごとに示した(図 3)。
地区に近い高級住宅にも,煉瓦や石造りのもの
がし、くつか見られる。
バトンルージュの中心業務地区とその周囲に,
比較的広い範囲にわたって 4,
000平方フィート
2階建て以上の建物も同様な分布を示してい
る(図 2)。 しかし,
1
石・コンクリート・煉瓦
以上の建物率 60%以上の地域が広がっており,
30%以上 60%未満の地域を含めると,鉄道路線
造りの建物の分布と比較して,サードストリー
に固まれた地域のほぼ全域をおおっている。こ
トに集中する割合が低く,それに垂直に走るい
れらの景観要素の分布を要約すると,バトンル
_60%
以上
陸霊週 30-60%
'
1.
:
.
.
.
.
130%未満
E二コ非都市化地域
図 3 1ブロック内における 4,
0
0
0平方フィート以上の建物数の割合
- 3ー
ージュでは,ダウンタウンとその周辺
に石・コンクリート・煉瓦造りや 2階
建て以上の大きな建築物がしばしば見
られるのに対して,市の周辺地域に木
冊叫41
・渇﹄
れるということになる。
込・居留引
F
﹂
4
造平屋建ての小さな建築物が多く見ら
以上の景観要素以外にも,都市諸機
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一
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・
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4
マ
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能の分布も都市構造を示す重要な手が
白雪
かりとなる。まず,卸売り・小売り業
M
施設の分布は,中心商庖街であるサー
.
・
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,
トリートに大きな集中を見せる(図
一
1
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…
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.
.
この両ストリートの商庖は一般的に敷
・
・
地が大きく,石・コンクリート・煉瓦
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・・.・.
.
.
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.
・
2
造りの 2階建て建築である。これに続
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u
u
n
u
u
く商匝集中地域は,市の東部を走る鉄
道に垂直に走るノースフゃルバードとガ
バメントストリート沿いである。これ
図 4 卸売り・小売り業施設の分布
らの商庖は,小さな木造平屋建てで,
主に最寄り品を販売する小売屈であり,
買い回り品の販売をも行うサードストリートや
れぞれのコミュニティに最寄り品を提供する小
メインストリート沿いの庖舗とは規模や商圏が
売庖がまばらに分布している。
異なる。その他にも全市街地域にわたって,そ
これに対して,バトンルージュの工業施設は
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0
FEET
図 6 公共施設の分布
図 5 工業施設の分布
-4-
. ~文壬?
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R 州知事官邸
O 郵便局
F 消防署
U大 学
P公 M
Q墓地
D
ごみ +~ijJ,}
鉄道沿いに分布している(図 5)。石油,製材,
I
V
. 都市構造と人種的セゲリゲーション
煉瓦造り工業施設は,比較的広大な敷地が得や
すい市の南部の河川沿いに立地している。この
以上の分布を基本的なデータとして,次の手
地区への立地には,河川を利用した原料や生産
順でパトンルージュの都市構造を導出する。ま
物の流通が行いやすいという要因も働いている
ず,それぞれのブロックにおいて,住宅面積が
であろう。一方,印刷工場はダウンタウンに立
すべての建物の面積の半分以上を占める場合に,
地しているが,これは顧客である新聞社に近い
そのブロックを住宅地区としそれ以外の場合
ためと考えられる。
に非住宅地区とする。
公共施設や準公共施設は,その種類によって
異なった分布を示す(図 6)。教会,学校,
高地代住宅地区を低地代住宅地区から区別す
る指標としては,非木造建築物
消
2階建て建築
防署は,主にその周囲のコミュニティにサービ
物,大規模建築物の分布などが考えられるが,
スを提供するために,比較的全市にわたって広
ここでは図 3において明確な分布パターンが確
く分布している。
これに対して,
c
a
p
i
t
o
l
),裁判所,市役所,
s
t
a
t
e 認された大規模建築物のブロック別割合を用い
州庁 (
州知事官邸,
中央
た。すなわち,図 3において, 4,
000平方フィー
郵便局など,高次の公共サービスを提供する施
ト以上の建築物がブロックの全建築面積の 30%
設はダウンタウンに立地している。一方,墓地
を占めるか否かと L、う指標がノミトンルージュを
とごみ投棄所は,メインストリート沿いではあ
明瞭に二分しているために,それを高地代住宅
るが,市の最も外延に設置されている。
地区と低地代住宅地区に区分する指標として経
験的に選定した。また,非住宅地区は,それぞ
れのブロックにおいて面積的に卓越する機能に
園 田 市I装 地 区
白
一
一
[IIl]]J公共地区
Eヨ 工 業 地 区
医翠~ ,
;
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:
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J
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1
二宅地│ベ
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E三ヨ低地代住宅地 l
ベ
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二
コ
J
t
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存I
l
d
iイ七地域
図7 1
9
2
3年におけるバトンルージュの都市構造
- 5
基づいて,商業,公共,工業地区に分類した。
する形態をとっていることである。もちろんシ
その結果,バトンルージュの都市内部構造が
カゴとバトンルージュは,まったく規模の異な
明瞭に表現された(図7)。商業地区は,ダウン
る都市であるが,この逆転構造は,人口という
タウンのサードストリートとメインストリート
に最大の広がりを持つ。この地区は
2階建て
数量的な差異の反映というよりは,やはり北部
都市と南部都市の性格的差異を示しているよう
の石・コンクリート・煉瓦造りの,比較的大き
に思われる。人種的なセグリゲーションという
な小売り,卸売り施設が集中する中心商業地区
要因を考慮することなしに,バトンルージュの
として位置付けられよう。これに次ぐ商業地区
都市構造を説明することは困難であろう。
サンボーン地図から人種のすみわけを発見す
の広がりは,東部の鉄道沿いに見られるが,中
心商業地区とは異なり,規模の小さな木造平屋
るための最も有力な手がかりは,白人と黒人の
建ての小売り業施設によって構成されている。
学校や教会の分布であろう。当時のバトンルー
公共地区は,ほぼ中心商業地区を囲むように
ジュにおけるすべての学校や教会は人種によっ
広がっている。州庁,市役所,裁判所などの高
て区別されており,それが地図上に記されてい
次の公共施設は中心商業地区の南に連なり,商
る。南部における人種分離の慣行のために,黒
業地区と共に CBDを形成し,また北部にはル
人のパブリッグスクールの位置は,ほぼ黒人居
イジアナ州立大学がある。この一連の広がり以
住地区に対応している。また,ノミトンルージュ
外には,比較的広く散在している小・中学校が
の黒人の大多数はパプテストやメソジストを中
ある。また,メインストリート沿いの市の東端
心とするプロテスタントであり,コミュニティ
に近い地域は,市営墓地として公共地区を形成
単位で教会を設置するために,黒人教会の場所
している。
から,黒人コミュニティの場所を類推すること
工業地区の最大の広がりは,
ミシシッピ川沿
が可能である。
いの市の南部にある。これは,工業が広い土地
白人・黒人の学校や教会の分布を実際に示し
と水上交通や鉄道交通の連結点に立地しやすい
ためと考えられる。その他にも,鉄道沿いに小
てみると,白人施設の分布と高地代住宅地区,
そして黒人施設の分布と低地代住宅地区が対応
さな工業地区の飛び地が存在する。
していることが明瞭である(図 8)。 このこと
住宅地区は,商業・公共・工業地区を取り聞
から,中心部に裕福な白人が住み,周辺部に貧
CBDを囲ん
しい黒人が住む,バトンルージュの人種的セグ
む形態で大きく広がっているが,
で同心円状に,高地代住宅地区が内側に,低地
リゲーションのパターンが明らかである。また
代住宅地区が外側に位置する基本的形態を示し
同時に,東部の鉄道沿いに見られた規模の小さ
ている。この高地代住宅地区では,建物の 1階
な小売庖の集中している商業地区が,主に黒人
部分の面積が大きいばかりでなく,その建物の
を顧客としていることも類推される。
多くが 2階建てであり,また石・コングリート
この人種的空間構造には,バトンルージュに
・煉瓦造りである。一方,低地代住宅地区には,
おける歴史的要因が作用しているものと考えら
木造平屋建ての小さな住宅が多 L。
、
れる O ルイジアナにおける中心都市であるパト
このように,バトンルージュの都市構造は,
ンルージュには,南北戦争以前から少なからぬ
部分的に商業地区,工業地区,公共施設の独自
黒人人口があったが,その大多数は奴隷であっ
8
6
0
年には,市人口 5
,
4
2
8の3
2
なまとまりを持っているが,基本的には CBD た。たとえば, 1
を核とした同心円構造を示している。しかし,
%が黒人であり,その 7
2%に相当する1, 2
4
7人
ここで注目すべきは,バトンルージュの同心円
が奴隷であった。パトンルージュは,基本的に
構造が,パージェスの理論とは逆に,高地代住
は白人用の都市として計画され,奴隷は所有者
宅地区が内側に,低地代住宅地区が外側に位置
である白人に隷属する形でプランテーションに
- 6ー
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・黒人教会
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・他の黒人施設
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,
0
0
0
FEET
•
••
•
図 8 白人・黒人施設の分布
用の学校や教会が生まれ,また黒人を対象とし
た商業地区も形成されたものと推定される。
以上の考察から,バトンルージュの 1
9
2
3
年の
都市構造は,パージェスのように高地代住宅地
区・低地代住宅地区と L、う経済的観点から把握
するよりも,白人住宅地区と黒人住宅地区のモ
ザイクと L、う人種的要因によって形成されてい
ると見るほうが,より適切であると考えられる
i
l
i
(
図9
)
01
9
2
3年のバトンルージュは,
ミシシ
ッピ川沿いの工業地区を除けば,基本的には C
B Dを白人住宅地区が囲み,市の周辺部に黒人
黒人住宅地区
8
1
a
c
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i
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n
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i
a
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住宅地区が広がる同心円構造を示していた。黒
ι17キ4144
人地区内には,黒人用の商業中心地が存在し,
C B Dとは別の独自の核心地を有していた。
図 9 パトンルージュの都市構造モテ、ル
V
.結
ひ
や
集中して,あるいは都市に散在して居住 Lてい
本研究では, 1
9
2
3
年におけるバトンルージュ
た。黒人解放後,市の中心部にはすで、に白人の
の都市構造に,人種的な要因が強く反映してい
居住地区が存在していたために,解放された黒
ることが確認されたが, 1
9
2
0年代から 1
9
4
0年前
人たちは市の周辺部に,小さな木造建ての平屋
後にかけて発表された同心円理論に対する批判
住宅を建てて住んだ。黒人居住地区には,黒人
に,人種的な観点が希薄であったことは注目さ
- 7ー
1
4
2都市の地代
地が不可欠であること,そしてその観点が過去
分布を検討したホイトさえも,人種的な要因に
の研究においても可能であったことを示すもの
対する考察は少なかった九
として意義づけられよう。
れよう。南部をも含む合衆国の
このことは,合衆国の白人の地理学者たちに
(筑波大学地球科学系〕
とって,白人がし、かなる場所でもマジョリティ
であるはずだという,暗黙の思い込みがあった
〔
注
〕
からではないかと推察される。人種や民族をも
‘ TheGrowtho
ft
h
eC
i
t
y
'
1) Burgess,E
.W.:
主要な分析対象とする研究は, 1
9
4
0
年代から現
(Park,R
.E
.,Burgess,E.W.,andMcKenzie,
われてくるが,隆盛を見るのは公民権運動が活
R
.D.):TheC
i
t
y,Univ. o
f Chicago P
r
e
s
s,
9
6
0
年代からであったことを考える
発となった 1
と,人種・民族と L、う要素がマジョリティの意
1
9
2
5,p
p
.4
7
6
2
.
2) Davie,M. R.‘ The Pattern o
f Urban
Growth' (Murdock,G. P.): S
t
u
d
i
e
si
nt
h
e
識にのぼるか否かは,ある程度時代的な風潮に
S
c
i
e
n
c
eo
[S
o
c
i
・
e
t
y,Yale Univ. Press,1937,
関連しているように思われる。しかし,人種的
な観点をも含めて,合衆国における過去の都市
p
p
.1
3
3
1
61
.
3) Quinn,J
.A.:'The Burgess Zonal Hypo-
構造を検討しなおすことは,サンボーン地図と
tsC
r
i
t
i
c
s
' AmericanS
o
c
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c
a
l
t
h
e
s
i
sandI
いう網羅的なデータが存在しているために十分
R
e
v
i
e
,
v
; 5,1940,pp.21
O
2
1
8
.
4) Hoyt,H.:The S
t
r
u
c
t
u
γe a
nd Growth o
[
に可能であり,そのことが,今後の歴史地理学
R
e
s
i
d
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n
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i
a
l Ne
i
g
h
b
o
r
h
o
o
d
s i
n American
C
i
t
i
e
s, Federal Housing Administration,
研究の課題のひとつとなろう。
しかし,本研究は同心円理論を否定する性格
1
9
3
9
.
のものではないことを,付け加えておく必要が
ある。同心円理論は,基本的に都市の諸機能と
5) たとえば
住民の経済状況から,都市内部構造を動態的に
日本人に上る研究としては,樋口忠成「デトロ
普遍性を持って説明力を有する。バトンルージ
を中心とする高所得者層が郊外に移り住む傾向
が強く現われ,現在では低所得者層が内部に,
‘
Descreptive
graPher,9,1965,pp.170-174.
説明したモデルで、あり,同じ前提のもとでは,
9
6
0
年代以降,白人
ュにおいでさえも, とくに 1
Simmons,J
.W.
anadian Geo・
Modelso
fUrban LandU
s
e
'C
イト大都市地域の居住分化とその空間パターン一
因子生態研究からみた 1960年と 1970年の比較一」
9
7
9
.p
p
.5
-2
7
.
人文地理, 31-1,1
6) Applebaum,W. :
‘ A Technique f
o
r Con-
高所得者層が周辺に住む形態を示している。本
s
t
r
u
c
t
i
n
gaPopulation and Urban Land-use
研究は,歴史的にノミトンルージュと L、う南部の
conomicGeograj
うh
y,28,1952,p
.2
4
0
.
Map' E
都市の内部構造の変化を見る際に,人種的な見
7) 前掲 4)
- 8ー
THEURBANSTRUCTUREOFBATONROUGE,
LOUISIANA,U.S
. A.,1
9
2
3
Tadashi NAKAGA
WA
l
twasi
nt
h
e1
9
2
0
swhenBurgessc
o
n
s
t
r
u
c
t
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