第5章 会社の設立と運営

第5章 会社の設立と運営
会社は短期間で簡単に設立することができます。官民のあらゆる
機関が、会社を設立する際に必要な法的書類の選定、助言やサポー
トをおこない、起業家を支援しています。連邦政府では様々なウェブサ
外国の企業がスイスに事業拠点を持つ場合、企業の性格や事業
対象機関、一般法、税務状況、経営戦略目標(本部、生産拠点、営業所、
サービス業)などの様々な要因によって、事業体としてふさわしい形
イトを立ち上げ、事業計画から正式な登記に至る、会社設立で求めら
態も異なります。海外の企業や個人は、業務に適した法的形態を自
れるあらゆる種類の情報を幅広く提供しています。
ら決定することを許されています。ただし会社設立には慎重な審査
が求められ、特に税的配慮が決定的な役割を担っています。
したが
第1節 企業の構造
スイス憲法では経済的自由が保証されており、外国人を含めた
って早期にスイスの法律や税制に詳しいアドバイザーやコンサルタ
ントから助言を受けることをお勧めします。
スイスでの会社設立には、基本的に以下の選択肢があります。
だれもがスイスにおける事業運営、会社設立、事業活動で収益を得
• 非法人や法人の設立
ることが認められています。当局からの承認、商工会議所または専
• 支店の設立
門職協会の会員資格、あるいは営業経費の報告などは、会社設立の
• 既存のスイス企業(非法人・法人)の買収
際、原則として求められることはありません。ただし、外国人が個人
• ジョイントベンチャーの設立(非法人・法人)
的に長期の事業を行う場合には、労働許可、滞在許可が必要になり
• 出資者利益の有無を問わない戦略的提携
ます。
外 国 企 業 がスイスに会 社を設 立 する際 に選 択 する最も一 般
スイスの法律では、企業体をパートナーシップ形式の非法人企
的な形態は、子会社(株式会社又は有限責任会社、つまりAG又は
業 ( 個 人 企 業 、合 資 会 社 、合 名 会 社 )と、資 本 を 有 する法 人 企 業
GmbH)、または支店です。新たに設けられた集団投資向け有限責
(AGで表される株式会社、GmbHで表される有限責任会
任パートナーシップ企業も、
リスクキャピタルには魅力的な事業形
社 ) とに区別しています。
「集団投資向け有限責任パートナーシップ
(KkK)」は、英語圏で一般的な「合資会社」の概念に対応する企業体
です。
ドイツやオーストリアでは一般的な、GmbH & Co. KGと呼ばれ
る法人形態はスイスには存在していません。
40
2012 事業展開ハンドブック
態です。
事業目的に合った企業体を選ぶにあたっては、以下の条件を十
AGの最高議決機関は取締役会です。取締役会は1名またはそれ
分検討することが大切です。
以上の取締役で構成されます。取締役は株主である必要はありませ
• 資本:組織や設立費用、必要な資本、最低限必要になる資本
ん。取締役の国籍や法定住所に条件はありませんが、
(取締役会か執
• リスク、責任:起業に伴うリスクが高い、又は財政投資が多いほど、 行理事会の)最低1名がスイス在住であることが求められます。株式
有限責任会社での設立が適切です
• 独立性:企業形態によっては、業務上の自由権が制限される場合
があります
• 税金関係:企業形態によっては、営業収入、企業やオーナーの
資産は個別または合算して課税対象となります
会社の取締役には役員報酬が支払われますが、その額は業界、会社
の規模、売上高に応じて変化します。社員1,000名以上のスイス企業
の取締役が受け取る役員報酬の平均額は、年額2万6,000スイスフラ
ンです。役員報酬は年額一括払いか費用等の償還という形態が一般
的です。スイスの取締役会は平均3.6人から成っています。
• 社 会 保 障:法 的 形 態 によっては 、一 部 社 会 保 険 が 義 務 、任 意 、
あるいは不要になる場合があります
第2項 有限責任会社(GmbH)
有限責任会社(GmbH)は、法人格を持つ独立した企業体です。
有限責任会社は1人またはそれ以上の個人又は商業企業での設立
スイス連邦政府中小企業向けポータルサイト
www.kmu.admin.ch
言語:独語、仏語、伊語
が可能で、表示資本(名目資本)を事前に提示します。各株主は最低
100スイスフランの名目価格で1株以上の株式を取得することにより
会社の資本に貢献します。株式の総計は最低でも2万スイスフラン
とし、全額を支払う必要があります。株式は書類手続で容易に移譲
可能です。
しかし、投資資本のオーナーは商業登録しなければなり
第1項 株式会社(AG)
株式会社は、
ドイツ語ではAktiengesellschaft(AG)、
フランス語
ません。基本的に、全株主が会社の共同経営に参加する権限があり、
少なくとも1人はスイスが居住地でなければなりません。
では Société anonyme(SA)、イタリア語では Società anonima(SA)
と称するジョイント・ストック・カンパニー(責任が株式の範囲内に限
GmbHは、
特に中小企業にとっては株式会社に代わる魅力的存在と
定される企業)で、米国のcorporation、英国のpublic limited com-
なっています。
取締役会が不要なため、
GmbHの構造的費用は比較的低
panyと類似した概念を持っています。株式会社は、スイス国内でもっ
く抑えられますが、一方でこれは、最高経営責任者に全責任が集中する
とも一般的かつ重要な事業形態です。海外の企業がスイスに子会社
ことを意味します。規模に応じて、監査義務は一度のみとなります。
さら
を設立する場合も、株式会社の形態を取るケースが大半です。AGは
に、GmbHはAGに比べ株式資本が少なくて済むという利点がある一方、
(自らが法人格を持つ)明らかな法人で、責任は企業の資産に限定さ
匿名性が守られないという不利点もあります。
また、後の取得者であっ
れます。授権資本は事前に決定され、株式としてさらに分割されま
ても各株主全員が公開対象となります。
す。AGは大企業のみならず、中小企業にも適した事業形態です。ホー
ルディング・カンパニーや金融会社は株式会社の事業形態を取るの
が通例となっています。
株式会社設立は、1人以上の個人または法的団体により可能となり、
少なくとも1人が株主でなければなりません。株式資本は最低10万
スイスフランは必須です。株式会社を設立するには、最低5万スイス
フランが支払済みで、将来的に株式資本が最低10万スイスフランに
上昇し全額支払われなければなりません。
2012 事業展開ハンドブック
41
図17: 法的形態の概要
会社設立の要件
個人事業主
ゼネラル・パートナーシップ
ジョイント・ストック・
カンパニー(AG)
自営で、永続的利益の
パートナーシップ条項への
企業設立時の正式署名、
ある雇用手段としての
署名(非公式)
法人・協会設立条項の採択、 法人・協会設立条項の採択、
経済活動
商業活動を遂行しない場合、 取締役の任命、監査役の任
パートナーシップは商業登
命(スイス連邦債務法第727
記簿への登記が行われて初 条a項IIに準じる)、商業登記
小規模事業、1個人の活動
目的
(例:芸術家)
有限責任会社
(GmbH)
企業設立時の正式署名、
支店
商業登記簿への登記
役員会および代表者の任
命、監査役の任命(スイス連
邦債務法第727条a項IIに準
めて法人として成立する
簿への登記
じる)、商業登記簿への登記
特定の個人数名による、
ほぼすべての営利目的事業
個人数名が営む小規模
法的には本社の一部として
小規模で永続的な事業
に適している
事業
営まれる事業活動だが、
• 最低1名のパートナーの
• 自由に選択可能
• 自由に選択可能
経済的には自立している
• オーナーの名字
企業名
(名前は記載しても
しなくてもよい)
• 別の名称の使用が可能
(活動、創作名称など)
名字に、他のパートナー
との関係を示す接尾語
を付す
• 別の名称の使用が可能
(個人名、活動、創作名
称など)
• 法人に社名を必ず含
める
(個人名、活動、創作名
称など)
• 法人に社名を必ず含
める
• 親会社と同一名称
• 特別な追加語の使用を
許可
• 本社所在地が外国の
場合:本社所在地、
支店所在地
(活動、創作名称など)
• 法人の詳細
法的地位
オーナー個人の所有
パートナーシップ
法人
法人
法人
商業登記簿
商業目的のビジネスの場
商業目的のビジネスの場
商業登記簿への登記完了
商業登記簿への登記完了
登記は必須である
合、義務
合、義務
を経て法人となる
を経て法人となる
への登記
(そうでない場合:任意)
1個人が個人事業主である
設立者
2人以上の個人
最低1名の株主
(個人または法人)
執行機関
なし
パートナー
• 年次取締役会
• 取締役(最低1名)
最低1名の株主
親会社(本社)
(個人または法人)
• 株主総会
• 経営陣(最低1名)
• 親会社の執行機関
• 経営者本人による経営
管理:スイス在住者であ
る代表者
監査役
任命可能
任命可能
可能である、ただしスイス連邦債務法第727条a項II、
または企業規模による免除効力あり:
2年連続で以下の3条件のうち2件が該当する場合
• 資産総額が1,000万スイスフラン以上
• 売上2,000万スイスフラン以上
• 年間平均従業員数50名以上
42
2012 事業展開ハンドブック
債権
個人事業主
ゼネラル・パートナーシップ
ジョイント・ストック・
カンパニー(AG)
有限責任会社
(GmbH)
支店
個人資産に対する債権に制
企業資産に見合った基本
債権は企業資産のみに限
債権は企業資産のみに限定 親会社(本社)
限がない
債権(資本)。パートナーの
定される。株主は持ち株分
される。定款で規定された
個人資産に対しては債権の
の責任を負う
(同意のもと
場合は該当者が例外的に有
制限なし
での支払)
限責任を負う。出資者に関
わる負担金のみ責任を負う
最低資本金
規定なし
規定なし
最低10万スイスフラン、
最低:2万スイスフラン
沢である)
スフラン
1,900スイスフランから
(
1,800スイスフランから
(電
グ料、設立資金、
電子式)
子式)
登記資金、公証
7,000スイスフランから
(
6,000スイスフランから
(従
人への手数料
従来式)
コンサルティン
700~1,200スイスフラン
2,400~4,400スイスフラン
(第5章4節3項参照)
長所
•
•
•
•
会社設立の手続が簡単で費用がかからない
公的要件がほとんど設定されていない
株主が理事会役員になれる
二重課税は行われない(法人格でないため株主の所得
のみ課税対象となる)
• ごく小規模の企業には最適
別途負担する必要なし
(国外の本社の資金源が潤
払い込み最低金額5万スイ
1,000スイスフランから
来式)
(第5章4節3項参照)
• 経営者責任やリスクキャピタルの範囲が限定さ
れている
• 持ち分を別途用意する必
要がない
• 株式が簡単に譲渡可能
• 代表権に制約がある
• 外国籍であっても全株式を所有できる(条件:業務を統
• 企業を設立するよりも容
括可能な人物が最低1名スイスに在住していること)
(印紙税なし、資産移転
• 資本市場に参入しやすい
• 資本重視のビジネスに適している
• 会社はスイス企業
• 株主の秘匿性-ディスク
ロージャーの義務なし
易、
かつ低予算で設立が可能
源泉税なし)
• 本社が直接影響力を下
す場合がある
• 資本金の下限額が低い
• 税負担が低い
• 各国との租税条約に従
い、スイス支店で発生し
• 資本に対する無限責任
• 株主の増資に対する出
た利益は本社(親会社)
の課税対象外となる
資義務が限定される
• 継承の取り決めが比較的
容易である
• 社債残があるか、上場企
業でない限りは年次財務
諸表を公表する義務が免
除される
短所
•
•
•
•
•
パートナーは無限責任を負う
所有株式の移転が困難
株主の秘匿性がない:株主は商業登記簿に登録される
資本市場への参入が困難になる
社会保険料の支払義務が発生する
• 二重課税の可能性あり
(企業利益と個人配当への
課税)
債務を共同で負担する
• 会社設立手続が複雑で費用が高額。専門家の協力が
推奨される
• 株式資本額
• 国外の本社が支店の
• 会社設立後、子会社に移
行する際に財務上のトラ
• 株主の秘匿性がない
ブルが生じる
• スイスの法人格ではない
出典:自社調査 ジェネリス株式会社(Generis AG)、
シャフハウゼン
2012 事業展開ハンドブック
43
第3項 支店
スイスに子会社を設立する代わりに、外国企業は支店を設立す
ることができます(支店は、スイスに存する外国企業で3番目に多い
のリスクに対し、個人の資産や事業資産で責任を負います。一方で、
個人事業主は起業の方針を自分で決定できるというメリットがあり
ます。
事業形態です)。支店は、事業面や経済面で本社からはある程度独
立する形になります。法的には、支店内で独自に契約を結び、商取引
事業が成功した後は、簡単に法人へと移行することができます。
を行い、企業立場として原告としても被告としても法廷に立つことは
仮に失敗した場合も、清算は法人よりも軽い負担で済みます。年間売
できますが、支店はあくまで外国企業の一部です。支店開設後はす
上高が10万スイスフラン以下の個人事業主は商業登記が免除され
みやかに商業登記を完了させなければなりません。ライセンス、登
ます。
録、税務、経理、会計記録についてはスイス企業と同等に扱われます。
外国企業がスイスに支店を開設する際には、スイスに法的に正当な
居住権を持つ、
しかるべき代表者を任命する必要があります。
第6項 ゼネラル・パートナーシップ
2人もしくはそれ以上の個人が集まり、標準的な商慣習のもと、
共同名義で事業を運営する企業体をゼネラル・パートナーシップと
第4項 集団投資向け有限責任パートナーシップ
呼びます。ゼネラル・パートナーシップは、参加者の合意によって設
集団投資向け有限責任パートナーシップ(独語略称:KkK、仏語
立されます。ゼネラル・パートナーシップは(個人事業主と同様)明
略称:SCPC)は、英語圏での有限責任パートナーシップ(LLP)
と同等
確な企業体ではないため、法人税の対象にはなりません。諸税は各
の概念です。集団投資向け有限責任パートナーシップは、一部投資
パートナーが支払います。事業で生じた負債や義務はパートナー全
家がリスクキャピタル・マネジメントの手段として展開する場合にの
員が資産の範囲内で、無限連帯責任を負います。ゼネラル・パートナ
み適用される形態です。スイス債権法が有限パートナーシップの条
ーシップは、商業登記簿への登記が求められます。
項において、無限責任を負うパートナーは(企業投資家ではない)個
人でなければならないと定めているのに対し、集団投資向け有限責
任パートナーは企業でなければなりません。
第7項 ジョイントベンチャー
パートナーシップの中でも、ジョイントベンチャーの重要性が
次第に高まってきています。ジョイントベンチャーには法規制がな
スイスにはこの法的形態が、2006年からあります。LLP形態の企
く、スイスのパートナーとのジョイントベンチャーは望ましい事業形
業体設立を希望する投資家と有限責任パートナーにとっては、ルク
態です。ジョイントベンチャーは、
(たとえば海外のサプライヤーがス
センブルク、アイルランド、チャンネル諸島(特にジャージー島とガ
イスの販売者と共同で製造販売会社を立ち上げるなど)新たに企業
ーンジー島)での会社設立が可能になりました。新法の成立によって
を設立するケースがほどんどです。小規模プロジェクトの場合、合名
金融センターとしてのスイスの地位は強化され、スイス国内でリスク
会社を立ち上げてジョイントベンチャーを展開することも可能です
キャピタルやプライベート・エクイティのほか、ヘッジファンド・マネ
(例:一定期間内の研究プロジェクト)。
ジャーといった専門性の高い金融サービスが提供できる環境が整
いました。
第8項 合名会社
合名会社とは、複数の個人もしくは法人が、商業登記簿への登
第5項 個人事業主
個人事業又は単独オーナー企業のような、個人所有の元にある
企業は、小規模ビジネスにとって最も多くみられる形態です。個人が
単独で商業活動、言いかえるとビジネス又は会社経営をする場合は
全て、法的に該当します。個人事業主は起業に伴うリスクを負い、そ
44
2012 事業展開ハンドブック
記義務のない事業目的で結成された、契約上の法人形態です。外部
に対する匿名性は保持されます。それぞれのパートナーは、連帯し
た個人責任で共同のプロジェクトに責任を負います。
第2節 会計
スイスの会計基準に関する一般規定は簡潔なものです。事業体
の種類と規模に応じた会計方式を正しく遂行し、事業活動で生じる資
産、売掛金・買掛金、事業年単位での営業成績(損益)を明示しなけ
スイス信託者協会(Swiss Fiduciary Association)
www.stv-usf.ch
言語:独語、英語、仏語、伊語
ればなりません。一般会計原則に従い、網羅的かつ明確で、理解しや
すい損益計算書と貸借対照表を毎年作成することが法で定められて
います。すなわち、スイスの会計システムは(US-GAAPやIFRS、Swiss
GAAP、FERなど)国際会計基準をもとに作成されているということに
なります。企業としての透明性を高めるため、株式会社(AG)は年次
財務諸表に最低限求められた詳細を記載しなければなりません。年
次会計報告書には、少なくとも前年度比較と注釈が入った貸借対照
表と損益計算書が必要です。2年連続した会計年度で、以下の条件
スイス公認会計士税理士協会(Swiss Institute of Certified
Accountants and Tax Consultants)
www.treuhand-kammer.ch
言語:独語、仏語
第4節 事業の設立
の2項目以上に当てはまる場合は、会計報告書をグループ会計に連
結する必要があります。
• 資産総額が1,000万スイスフラン以上
• 年間売上2,000万スイスフラン以上
• 平均従業員数200名以上
第1項 手続
明確で具体的な事業戦略が事前に完成していれば、スイスでの
事業設立計画から実現までの手続は非常に短期間で完了します。ス
イスに事業所を設立することが決まれば、事業地として選んだカント
ン(州) の経済開発局が、事業開始に至るまでのプロジェクトの調整
第3節 監査
をお手伝いします。また、銀行、コンサルティング会社、受託企業、会
社法を専門とする法律事務所も、個別の質問に対応しています。
毎年作成される財務諸表の正当性と正確性は、国家資格をもつ
会社設立にかかる時間は、必要書類の提出から法的に有効にな
人または会社が監査し、通常、受託者や受託企業、監査法人が行いま
るまで(第三者に対して法的効力が有効になるまで)2~4週間程で
す。株式会社(AG)または有限責任会社(GmbH)の規模や経済的重
す。カントンの立地によっては、単純なケースの場合、より短期間で
要性に応じて会計監査義務の内容が異なります。連結財務諸表の作
済む場合もあります。
成が求められる企業、証券取引所上場企業、または2年連続した会
計年度で以下の条件の2項目以上を満たす企業には、定例監査が適
用されます。
• 資産総額が1,000万スイスフラン以上
• 年間売上2,000万スイスフラン以上
• 平均従業員数50名以上
上述の条件に満たない場合は、限定監査(経営状況についての質
問、詳細部分を適宜確認、分析的監査手順など)を受けるだけで済
みます。当該年の平均正社員数が10名に満たない企業は、株主の承
認を得れば監査を免除することも可能です。
2012 事業展開ハンドブック
45
図18: 会社設立手順(AG、GmbH)
手順
必要な週数
1
2
3
4
5
6
事前調査、登記、企業名承認
会社設立に必要な書類作成: 契約条項、定款、
登記申請書など
所定の預託機関(銀行)への資本金の払い込み 預託者は身分証明を提示すること。外国人の場合、スイス人パートナーの紹介状を提示するとよい。
会社設立と設立文書の作成: 定款や業務規定、法定監査人による承認、認定預託機関
(銀行)による資本金の払い込み確認、当該企業の自由裁量にあることの確認。
会社設立後、事務所が決まっていない場合: 会社所在地を承認する報告書
当該カントンの官報への掲載
当該登記簿への責任者(1名以上)の登録(商業登記、土地登記が必要な場合もある)
課税対象企業としての登録
出典:カントン経済開発局提供資料
2010年4月15日以降、経済官房長室(the State Secretariat for
Economic Affairs)では「スタートビズ(StartBiz)」の形態での会
社設立のためのオンラインデスクを設けています。このeGovernmentソリューションで、個人事業主、有限責任会社、株式会社、ゼネ
ラル・パートナーシップ、そして有限責任パートナーシップのOASIオ
会社設立ためのオンライン公証人(AG、GmbH)
www.kmu.admin.ch > オンラインサービス(Online services)> 設
立デスク
(Foundation desk)
言語:独語、仏語、伊語
フィス、VAT機関や災害保険会社での登録をすることができます。個
人事業主、ゼネラル・パートナーシップおよび有限責任パートナーシ
ップの場合、商業登録も可能であり、登録することで、
「スタートビズ
(StartBiz)」を通して会社の完全設立ができます。スイスの外国企業
の場合は、通常、有限責任の会社(GmbHやAG)
といった法的形態で
設立します。さらに、株式会社および有限責任会社(GmbHとAG)の
会社設立のためのプライベート・プラットフォーム
www.start-ups.ch
言語:独語、英語、仏語、伊語
設立には、公証人が商業登録する必要があります(オンラインで可
能)。
企業のための公式情報
会社設立の電子登録
www.startbiz.ch
言語:独語、仏語、伊語
46
2012 事業展開ハンドブック
www.ch.ch/unternehmen
言語:独語、英語、仏語、伊語
第2項 商業登記簿への登記
第3項 会社設立の費用
商業登記には、スイスで事業を営むすべての事業者の情報が登
株式会社の設立に要する費用は、設立プロセスを従来式で行う
録されています。登記簿には、各社の債務範囲や承認された代表者
か、SECOの電子プラットフォームから行うかによって(第5章4節1項
が明記されています。登記簿の最大の目的は、情報を広く一般に公
を参照)各費用が異なり、設立には様々な費用が必要です(有限責
開することにあります。
したがって、スイス連邦登記所が運営してい
任会社の手数料やコンサルティング料は、
この値を幾分下回ります)。
る商号データベースであるZefixを利用することで、誰もが登記簿情
報を閲覧でき、過去に同一の企業名での登記登録があるか否かとい
図19: 株式会社(AG)の設立費用(単位:スイスフラン)
う問い合わせにも対応しています。登記簿への登録・削除はすべて、 設立費用
スイス商業官報(SOGC)に公表されます。
株式資本
一般に、商取引、製造業、その他あらゆる事業形態の営利事業
は商業登記簿への登記が義務付けられています。商号は登記によ
コンサルティング料(会社定款、各種
税、商業登記、株券、設立準備、設立 5’000 – 7’000
会議等)
1’000
商業登記費用
って保護されます。登記手続完了後、法人は初めて法人格として認
公証人費
められます。営利企業が使用する企業名や商号は、法規制に準拠し
証券発行税
ている限りは自由に選択できます。株式会社(AG)や有限責任会社
(GmbH)は、企業名の一部として法的形態を指定しなければなりま
従来式
100’000
電子式
100’000
300 – 850
1’000
1’000
600
–
–
7’000 – 9’000 1’900 – 2’450
合計
出典:連邦経済省経済事務局 SECO、2011年
せん。ゼネラル・パートナーシップの企業名にパートナー全員の名前
を列挙しない場合は、最低1名のパートナーの名字にパートナー間
の関係を示す名称を加えた社名にしなければなりません。個人事業
主の企業名はオーナーの名字を社名に入れる必要がありますが、パ
図20: 有限責任会社(GmbH)の設立費用(単位:スイスフラン)
設立費用
従来式
20’000
株式資本
ンライン手続が可能で、必要事項が満たされていれば、あらゆる書
コンサルティング料(会社定款、各種
税、商業登記、株券、設立準備、設立 4’000 – 6’000
会議等 ―企業構造による)
1’000
商業登記費用
式の会社設立法律文書が受理されます。
公証人費
ートナーやアソシエイトとの関係を示す名称を追加する必要はあり
ません。商業登記の申請申込は会社設立ポータルサイト経由でのオ
印紙税
セントラル・ビジネス・ネーム・インデックス(Central Business
Names Index)
www.zefix.ch
言語:独語、英語、伊語
電子式
20’000
200 – 550
1’000
1’000
600
–
–
6’000 – 8’000 1’800 – 2’150
合計
出典:連邦経済省経済事務局 SECO、2011年
証券発行税の目的は、有償または無償の設立および経営参加権の名
目価値の上昇です。印紙税は経営参加権を考慮し、名目資本の1%が
賦課されますが、そのうち100万スイスフランが控除対象となり、残り
の名目資本から最低1%が徴収されます。
この控除措置は、起業の際
スイス商業官報
www.shab.ch
と100万スイスフランまでの増資に適用されます。
したがって既存の
企業は、名目資本を100万スイスフラン以上に増資するまで印紙税の
支払いが免除されています。
言語:独語、英語、伊語
2012 事業展開ハンドブック
47
会社設立に要する費用は、印紙税を除くと従来式では6,000
~8,000スイスフラン、電子式では約2,000スイスフランです。詳細な
書類が求められない小規模会社の設立費用は最高3,000スイスフラ
ンです。コンサルタントや弁護士への依頼料を含めた会社設立費用
の合計額は、名目資本の規模によって異なります。概して企業の設立
は、パートナーシップよりも時間と費用がかさむといえます。
法的形態別会社設立費用
www.kmu.admin.ch > SMEトピックス(SME topics)> 会社設
立(Company foundation)> 法的形態(Legal form)> 株式会社
(Stock corporation)
言語:独語、仏語、伊語
48
2012 事業展開ハンドブック