米韓の事例から見るネット選挙の可能性 日本におけるネット選挙の導入と

米韓の事例から見るネット選挙の可能性
~日本におけるネット選挙の導入と展望~
指導教員名:水越康介
氏名:大竹匠
枚数:28 枚
【目次】
第 1 章 はじめに ................................................................................................................. 3
第 2 章 先行研究 日本におけるネット選挙導入に纏わる議論 ......................................... 3
2-1 ネット選挙のターゲット .......................................................................................... 3
2-2 ネット選挙でのソーシャルメディアの活用 ............................................................. 7
2-3 先行研究まとめ ....................................................................................................... 10
第 3 章 事例分析 米韓におけるネット選挙 ..................................................................... 11
3-1 アメリカにおけるネット選挙 .................................................................................... 11
3-1-1 2008 大統領選 オバマの「ソーシャルメディア革命」 ................................. 12
3-1-2 2012 大統領選 本格的な「ソーシャルメディア選挙」の始動 ...................... 13
3-2 韓国におけるネット選挙 .......................................................................................... 15
3-2-1 2007 大統領選 ネット選挙拡大の期待と不振 ............................................... 16
3-2-2 2012 大統領選 シニア層のネット選挙への参入 ............................................ 17
3-3 事例分析まとめ ....................................................................................................... 20
3-4 考察 ......................................................................................................................... 21
第4章 おわりに ............................................................................................................... 23
補論 投票行動論 ............................................................................................................... 24
投票行動とは ................................................................................................................... 24
政党支持 .......................................................................................................................... 25
政策争点志向 ................................................................................................................... 26
2
第 1 章 はじめに
2013 年 4 月 19 日に「公職選挙法の一部を改正する法律案」が成立し、同年夏の第 23 回
参議院議員通常選挙からネット選挙が解禁されることになった。ネット選挙とはインター
ネットを使った投票ではなく、インターネットを使った選挙運動のことを意味する。この
法案の成立により日本でも twitter や facebook をはじめとする様々なソーシャルメディア
を使った選挙運動をすることが可能になった。アメリカや韓国ではインターネットを利用
した選挙運動が活発に行われてきたこともあり、日本におけるネット選挙の導入も至極当
然であると考えられる。そこで日本でのネット選挙の導入は日本の選挙の候補者や有権者
にどのような影響を与えるかについて調べてみたい。本論文ではまず先行研究として日本
でネット選挙が導入される前に議論されていた主張について検討する。次にネット選挙の
先駆的な例であるアメリカと韓国の事例を分析した上で日本の政治的環境との比較を行い、
最終的に日本のネット選挙の可能性を予測していく。
第 2 章 先行研究 日本におけるネット選挙導入に纏わる議論
本章では日本でネット選挙が行われる前に議論されていた課題について検証する。日本
でネット選挙が導入されるといっても選挙運動の対象を誰にするのかといったことや、新
たに使えるようになったソーシャルメディアをどのように有効活用すればいいのかといっ
た課題が出てくる。それらの課題に対して主張された意見を分析し、ネット選挙を運用す
る上で重要になりそうな戦略を考えていきたい。
2-1 ネット選挙のターゲット
インターネットでの選挙運動をどのように有効活用するか、という観点からネット選挙
を考えると「主要なターゲットは誰にするべきか」という疑問が浮かぶ。この疑問に対し
て、飯田はネット選挙が解禁される前から「インターネット選挙運動の主要なターゲット
を若者にするべきではない。インターネット選挙運動の主要なターゲットは、40~69 歳、
あるいは、30~69 歳にするべきである」と述べていた(飯田、2013、79 頁)。ネット選挙
の解禁は若者に政治への関心を持たせ政治参加を促す、若者の声を政治に生かせるように
なる、若者の投票率が向上するといった声があった中で、飯田はなぜこのような結論を出
したのだろうか。本節では彼が上記の結論を導きだした根拠を示していく。
飯田がまず注目したのはインターネットの世代別利用率である。この世代別利用率に限
った観点からいえば、インターネットの利用率が高い世代ほどネット選挙のターゲットに
すべき世代ということになる。2011 年末のインターネットの人口普及率は 79.1%であり(総
務省、2012、6 頁)、未成年者には選挙権がなく有権者は成年であるから、ここで問題にな
るのは 20 歳以上の世代別インターネット利用率である。
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図 2-1 2011 年世代別インターネット利用率
100 97.2 95.3 94.9 90 85.4 80 71.8 70 62.7 60 48.7 50 40 30 20 10 0 20代
30代
40代
50代 60-­‐64歳 65-­‐69歳 70代
出所:飯田、2013、61 頁。
図 2-1 を見ると 20 代のインターネット利用率は全世代の中で最も高いものの、20~40 代
のインターネット利用率も同じ程度であるということがわかる。つまり、インターネット
は既に若者だけのものではないのである。そしてインターネット利用率は 50 代で若干低下
し、60 代以上では大きく低下している。60 代以上のインターネット利用率は 20~40 代に
比べて低い水準にあるが、2011 年時点での 20~40 代の世代が 60~80 代になる頃には 60 代
以上のインターネット利用率も上昇することが見込まれるため、60 代以上のインターネッ
ト利用率はまだ伸び代があるということになる。
図 2-2 2010 年日本人の世代別人口分布
12798345 13176761 20代
30代
18065578 17645517 40代
50代
60代
16071708 16404228 出所:飯田、2013、67 頁。
4
70代
次に飯田が注目したのは世代別の人口である。世代別人口に限った観点からは、世代別
人口が多いほどネット選挙のターゲットにすべき世代ということになる。2010 年 10 月 1
日現在の日本人の人口は 1 億 2535 万 8854 人である(総務省統計局、2011、3 頁)。前述の
ように有権者は成年であるからここで問題になるのは 20 歳以上の人口分布である。図 2-2
を見ると日本の人口に占める 20 代の人口は 1317 万 6761 人で、20 歳以上の人口に占める
割合は約 12.89%にすぎない。その程度の割合しか占めていない若者をネット選挙の主要な
ターゲットにするのは問題である。加えて現在日本では他国には例をみないほどの少子高
齢化が進んでおり、今後 20 歳以上の人口に占める 20 代の人口はさらに低下していくこと
が予想される。
図 2-3 世代別の国勢選挙投票率
100 90 74.93 80 68.02 70 50 40 63.3 59.38 60 50.1 37.89 2010参院選
2012衆院選
30 20 10 0 出所:飯田、2013、70-71 頁。 数値は 2012 衆院選のもの。
最後に飯田が注目したのは世代別の投票率である。世代別投票率に限った観点からは、
投票率が高い世代ほどネット選挙のターゲットにすべき世代ということになる。図 2-3 を見
ると投票率は 20 代から 60 代まで上昇し 70 代以上は低下している。世代別投票率を踏まえ
ても、20 代の若者をネット選挙のターゲットにすべきではない。むしろ近年の投票率が今
後も同様の傾向を示すのであれば、若者は最も優先度の低いターゲットということになる。
以上の議論の後飯田は世代別のインターネット利用率・人口・投票率を踏まえて、総合的
な検討を行った。
5
図 2-4 世代別投票者数の参考になる数
4775205 9484065 20代
30代
8609140 40代
13712410 50代
9645243 60代
70代
10898045 出所:飯田、2013、75 頁。
まず世代別の人口と投票率から、世代別投票者数の参考になる数を計算した。この数値
は「世代別人口×世代別投票率」から導かれたもので、数値は同一の年に行われた国勢調
査と参院選のものを使うことで、2010 年の結果として示されている。図 2-4 を見ると図 2-2
と比べて 20 代の占める割合が減少していることがわかる。つまり政党・候補者からすると
票の供給源として重要なのは若者ではなく、全体に占める割合が人口に比べて投票者数で
増加する 50 代以上の世代ということになる。
図 2-5 世代別インターネットを利用する投票者数の参考になる数
4618740 4641500 20代
30代
3998796 8204511 5266347 40代
50代
60-­‐64歳
9306931 9153336 65-­‐69歳
70代
出所:飯田、2013、78 頁。
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次に投票する人としない人のインターネット利用率が同じであると仮定し、「世代別投票
者数の参考になる数×世代別インターネット利用率」から世代別のインターネットを利用
する投票者数の参考になる数を導いた。図 2-5 を見ると 30~60 代の占める割合が多く、50,60
代の世代は 20 代の倍近い投票者がいることになる。それに対して 20 代はインターネット
利用率が最も高いにもかかわらず、投票者数の割合は 70 代に次いで少ない。以上の議論か
ら飯田は「インターネット選挙運動の主要なターゲットを若者、特に 20 代にすると痛い目
を見ることになる可能性が高いと考えられる」と述べている(飯田、2013、79 頁)。若者
はインターネット利用率は高いが有権者の中に占める投票者数の割合が低く投票率が極め
て低いため、ネット選挙のターゲットにしても重要な票の供給源にはならないのである。
2-2 ネット選挙でのソーシャルメディアの活用
ネット選挙では政党や候補者が新たなツールを使って有権者たちに自らを売り込むこと
が必要になる。ネット選挙が解禁されると候補者たちがまず活用し始めるのは、制限の少
ないウェブサイトやソーシャルメディアになるであろう。西田はネット選挙導入以前に
「twitter を活用する国会議員のコミュニケーションに関する研究」を行った。西田はこの
研究の結果として「国会議員らは、twitter において雄弁とはいえなかった」と述べている
(西田、2013a、174 頁)。2012 年に行われたこの研究の時点ではまだ twitter での選挙運
動は解禁されていないが、そのような段階から twitter を利用していた国会議員こそソーシ
ャルメディアを上手く活用しているのではないか、とも考えられる。では、西田はどのよ
うな根拠をもって国会議員たちが twitter を有効活用できていないと結論づけたのであろう
か。本節では西田の研究の結果と、その経緯について述べていく。
西田はソーシャルメディアの利用の研究対象として twitter の分析を行うことにしたが、
その理由は twitter のオープンさと公平さにあった。例えば facebook は情報の送り手と受
け手の間に情報の非対称性が存在し、ある人物が自分のタイムラインを更新してもその情
報がすべての友人に等しく通知されるとは限らない。それに対して twitter は自分のアカウ
ントをフォローしている相手に対してはツイートが公平に通知されるという点において、
利用者の条件は平等であるという理由から、数あるソーシャルメディアの中から twitter の
分析を行うことにした。
まず西田は 2012 年 1 月 14 日の時点で twitter 上に公式アカウントを解説している国会
議員 214 名のツイート計 22 万 8007 件を分析した。西田が twitter において注目したのは、
国会議員が「雄弁」に振る舞っているかどうかという点だった。ここでいう「雄弁さ」と
は、「双方向性」「情報伝播性」というソーシャルメディア特有の技術特性が、コミュニケ
ーションに活用される度合いのことである。実際の分析にあたっては「メンション率」と
「RT 率」に着目して分析を行った。「メンション率」とはある一人の国会議員のすべての
投稿に占める、メンションを含む投稿(@を含む投稿)の比率である。メンションが多い
ということはその国会議員は特定の相手と何らかの情報交換を頻繁に行っているというこ
7
とを意味し、双方向のやりとりに積極的であると考えられる。「RT 率」とは一人の国会議
員のすべての投稿に占める、5 回以上リツイートされた投稿の比率である。誰かがある投稿
をリツイートするのは、賛否はともかくそれを他者に知らせようとする意図があるためだ
と推測でき、リツイートされる投稿が多いのは少なくとも twitter の中で一定の関心を集め
ていると考えられる。西田はメンション率が 0.15 以上の者を双方向性の高い議員、RT 率
が 0.25 以上の者を情報伝播性が高い議員と定義し、類型ごとの分析を行った。
図 2-6 4 類型ごとの議員の比率
凡例:(双方向性、情報伝播性=)
11.7 (低、低) 18.4 (低、高)
53.1 (高、低)
(高、高)
16.4 出所:西田、2013a、177 頁。
相対的に見ると twitter の技術特性である「双方向性」と「情報伝播性」をともに活用で
きていない議員が過半数を占めることがわかる。分析を行った時点で衆議院と参議院の議
員定数 722 人のうち 214 人しかアカウントを開設していなかったのだから、「twitter を利
用している議員」は日本の国会議員という集団の中では先駆的な存在である。しかし twitter
を利用している国会議員であっても、双方向性・情報伝播性ともに高く twitter を有効活用
できているといえるのは全体のわずか 1 割程度であり、その運用実態から彼らがソーシャ
ルメディアの特性を十分に活かせていないことがわかる。
8
図 2-7 4 類型ごとのフォロー数、フォロワー数、1日あたりツイート数の平均
フォロワー数
フォロー数
1232.93 1500 1000 500 102.55 130.84 (低、低) 490.9 (低、高)
0 (高、低)
16056.57 20000 15000 9762.53 10000 4181.1 5000 1536.39 0 (低、低) (低、高)
(高、低)
(高、高)
(高、高)
1日あたりツイート数
4 3.28 2.41 3 2 1 0.87 (低、低) 1.24 (低、高)
(高、低)
0 (低、低) (低、
高)
(高、
低)
(高、
高)
(高、高)
出所:西田、2013a、178 頁。
次に 4 類型ごとのフォロー数、フォロワー数、1日あたりツイート数の平均について見
ていく。フォロー数・1 日あたりツイート数は双方向性が高いほど多くなり、フォロワー数
は情報伝播性が高いほど多くなることがわかる。また「双方向性が高く、情報伝播性が低
い議員」には自らの関係者と思われるユーザーを中心にやりとりしている者が多く、「双方
向性が低く、情報伝播性が高い議員」には知名度が高くその影響力が twitter にも持ち込ま
れていると考えられる者が多かった。「双方向性・伝播性ともに高い議員」には比較的当選
回数が少なく若い議員が集まり、ブログやソーシャルメディアを積極的に活用し政治コミ
ュニケーションを行っている者が多く見られた。西田が定義した雄弁さは、
「twitter という
プラットフォームにおいて他のユーザーと双方向のやりとりの機会を積極的に持っている」
「情報転送の容易さという技術的特性を活かしている」という 2 点を意味するものであっ
た。そのような観点から西田は「分析結果を見る限り、twitter というプラットフォームに
おいて日本の国会議員たちは雄弁とはいえない」と述べている(西田、2013a、180 頁)。
ではなぜ国会議員たちはこの研究が行われた時点で twitter を有効活用しなかった(もし
くはできなかった)のであろうか。西田はこの疑問に対して「選挙運動で利用できるメデ
ィアを規制する、公職選挙法の影響を見出すことができる」と述べている(西田、2013a、
9
181 頁)。まず日本では選挙運動、つまり特定の候補者への投票に繋がる行為のできる期間
は、候補者が立候補の届出を行った日から投票日前日までと定められている。日本の選挙
制度ではこの期間を除き選挙運動を行うことはできないため、立候補届出前に特定の候補
者への投票を呼びかけることはできない。またネット選挙導入以前の段階でインターネッ
トは選挙運動に利用を認められていない文書図画にあたり、政治家はインターネットを政
治活動に利用することができなかった。つまり近年ウェブサイトやブログが発達したにも
かかわらず、選挙期間が近づくと政治家がソーシャルメディアの更新を中断するという事
態が起きたのは、インターネットを介した発言が公職選挙法に違反する可能性があったこ
とに起因する。twitter についても例外ではなく、日常的に気軽に書き込んだツイートが選
挙期間外の投票を呼びかける発言として法律に違反するリスクがあり、それならば従来の
ビラや演説を利用した選挙活動を行った方が安全だと考えた議員が多かったことが、
twitter をはじめとするソーシャルメディアが選挙運動のツールとして敬遠された原因だと
考えられる。
2-3 先行研究まとめ
本節では飯田・西田の議論を踏まえ、日本でのネット選挙を有効活用するための方針に
ついて検討したい。まず飯田の議論は、ネット選挙の主要なターゲットは若者ではなくそ
れよりも上の世代にするべきであるというもので、世代別のインターネット利用率・人口・
投票率のデータを基にした分析から導き出された結論は理に適っていた。しかしネット選
挙の利用に関する記事として、以下のようなものも見られた。
「株式会社ゲインが 2013 年 6 月に 20,30 代の男女各 1500 人、計 3000 人を対象に行った
調査によると、投票の際にインターネットの情報を参考にするか、という質問に対して、
参考にして積極的に活用しようと思う=19%、参考にしようと思う=40%と全体の約 6 割が
ネットを参考にすると答えた。また同年 7 月の参院選の投票に行くか、という質問に対し
て、投票に行くかわからないと答えた若者の中でネットの情報を参考にすると答えた者は
35%にのぼり、ネット選挙の導入が彼らに投票を促すかが投票率向上のカギになると思われ
る」(株式会社ゲイン、2013 年 7 月 1 日)。
この記事では若者はネット選挙の利用について比較的肯定的な態度を見せており、候補者
の選挙運動のやり方次第では若者の投票率を上げることができる可能性が示唆されていた。
飯田の分析によると 20 代の若者のインターネット利用率は全世代の中で最も高く、人口の
割合は少子化の影響もあり若干少ないが他の世代と比べても大きく見劣りするということ
はない。他の世代と大きな違いがあるのは 5 割にも満たない投票率であり、これが若者を
ネット選挙の主なターゲットにすべきではない最大の要因になっていると考えられる。し
かし投票率が極端に低いということはそれだけ数値を上昇させる伸び代があると考えるこ
10
ともでき、幼いころからインターネットに触れる機会の多い現代の若者たちの投票率をネ
ット選挙の力で向上させることができるのではないだろうか。つまり集票という観点では
若者をターゲットにすることはふさわしくないが、「若者の政治的関心や投票率を高める」
という観点からは若者を対象としたネット選挙も有効だと考えることができる。
また西田の議論を基にすると、候補者自身のソーシャルメディアの利用方法にも工夫が必
要であると考えられる。西田の研究では twitter の特性である双方向性と情報伝播性を活か
せている国会議員は全体の 1 割にすぎなかった。研究当時はまだ公職選挙法の規制があっ
たことや、ソーシャルメディアが年長の国会議員たちにはなじみのないものであったこと
を考えればそのような結果になったことも納得がいくが、ネット選挙が解禁された今その
恩恵を受けるためには候補者がソーシャルメディアの特性を有効活用できるような戦略を
とる必要がある。2013 参院選選挙期間中の新聞記事として以下のようなものがあった。
「参院選で解禁されたネット選挙運動は終盤戦に入った。安倍晋三首相は 4 日の公示日か
ら 13 日の 10 日間で個人の facebook ページを 49 回更新した。1 日数回のペースで遊説先
の候補者の紹介記事や写真などを添付している。コメントへの賛同を示す「いいね!」の
数はほぼ半数の書き込みで 1 万件を超え「ネット選挙では首相が独走している」
(民主党候
補)との声も上がる」(日本経済新聞朝刊、2013 年 7 月 16 日、4 頁)。
西田が研究対象とした twitter と facebook で利用したソーシャルメディアは異なるが、
やはり総理大臣という知名度を兼ね備えた安倍首相であれば特に工夫せずとも圧倒的な情
報伝播性をもつことがわかる。しかしここで問題にしたいのは一般の国会議員がどのよう
にしてネット選挙を有効活用するかという点である。ソーシャルメディアで双方向性を高
めるには一般のユーザーとのやりとりを増やすことが、情報伝播性を高めるには何らかの
手段を使ってネット上での影響力を高めることが必要であると考えられる。次章では米韓
の選挙の事例からそれらの特性を活かすために必要なネット選挙の利用法を模索したい。
第 3 章 事例分析 米韓におけるネット選挙
本章では事例分析としてアメリカと韓国でこれまで行われてきたネット選挙の動向を見
ていく。両国ではこれまでインターネットでの選挙運動が日本に比べて活発に行われ、新
しいメディアが登場するとそれらはすぐに選挙のツールとして使われてきた。ここではソ
ーシャルメディアが発達してきた近年のアメリカと韓国における大統領選の経緯を踏まえ
ながら、日本でのネット選挙を効率的に運用するための手段を見出していく。
3-1 アメリカにおけるネット選挙
アメリカでは比較的早い段階から大統領選においてインターネットが選挙運動に利用さ
れてきた。1992 年にはビル・クリントンの選挙運動でインターネットが使われ、1996 年に
11
は多くの候補者がホームページを持つようになり、2000 年には共和党のジョン・マケイン
候補のインターネットを使った資金調達が注目を浴びた。2004 年には民主党のハワード・
ディーン候補が電子メールやブログなどを活用してインターネット上でボランティアの支
持を募り、選挙資金を調達する斬新な選挙運動を展開した。その後 2008 年の大統領選では
民主党のバラク・オバマ候補が予備選挙の段階から積極的にソーシャルメディアの活用に
力を入れ、インターネットによる小口献金で圧倒的な資金力を見せつけた。本節では 2008、
2012 年と二度の大統領選においてオバマが行った選挙戦略と、アメリカにおけるソーシャ
ルメディアの現状について論じる。
3-1-1 2008 大統領選 オバマの「ソーシャルメディア革命」
2008 年大統領選挙のバラク・オバマ陣営は、ソーシャルメディアを本格的に政治におい
て使いこなす戦術の世界的な先駆けとなった。2008 年の段階では twitter は利用が始まっ
て 1 年弱であり facebook の利用者も世界で 1 億人と 2012 年の 10 分の 1 程度でしかなかっ
た。また「ソーシャルメディア」という言葉が一般的になったのは、アメリカでも 2009 年
の頃である。このような段階からオバマ陣営はソーシャルメディアが持つ動員力の高い潜
在 性 に 注 目 し 、 選 挙 公 式 サ イ ト 内 に 有 権 者 と 双 方 向 に や り と り が で き る 特 設 の SNS
「mybarackobama.com」を立ち上げた。前嶋は「オバマ陣営の公式サイトが SNS となり、
支持者同士が出会い、交流するきっかけを提供した。」と述べている(清原・前嶋・玄、2011、
39-40 頁)。
また前嶋は「オバマ陣営が注目したソーシャルメディアの潜在性とは二つある」と述べ
ている(清原・前嶋・李、2013、48 頁)。一つはオンラインだけでなく、オフラインにも
波及する爆発的な普及力である。オンラインの情報は瞬時に共有され、その中で支持の輪
が広がっていく。その後支援者の輪はオンラインにとどまるだけでなく、実際に支援のた
めの活動に変化していく。このオンラインからオフラインへの昇華こそがオバマ陣営の狙
いであった。実際にイラク・アフガニスタンという二つの戦争に疲弊した国民の琴線に触
れるような、オバマの「change」のメッセージがオンラインコミュニティで加速度的に共
有され、支援者は各地の支援集会に参加していった。こうしてオバマの選挙運動は一種の
社会運動になっていったのである。もう一つの潜在性とは SNS を使った献金が新しいダイ
ナミズムを生むことである。日本に比べアメリカの場合、選挙献金は政治参加であるとい
う意識が強くオンラインを通じた選挙献金も数年前から一般的であったが、SNS の導入で
さらに気軽に献金することも可能になった。SNS の利用者は若者が多いためどうしても小
口の献金になってしまうが、この小口献金者である若者こそ熱心な支持層になった。これ
により小口献金が増えるにつれオバマ支持は拡大し、さらに献金が増えるという好循環が
生まれた。この動きは献金を集める戦略として成功したことが次の記事からもわかる。
「ネットは資金集めにも効果を発揮し、オバマ陣営の献金の 9 割以上を占める 250 ドル以
12
下の小口献金のほとんどがネット経由だった。有権者の属性に合わせたメールで献金を勧
誘、SNS から献金募集サイトに誘導する仕組みも設け目標の 10 億ドルを達成した」(日本
経済新聞、2013 年 4 月 24 日、6 頁)。
2008 年大統領選以前は大口の献金者をいかに囲い込むかが選挙の争点だったが、小口献
金が大きな支持運動に繋がるという意味で SNS の利用は選挙献金のあり方も大きく変えた
のである。2008 大統領選においてオバマ陣営はテレビの選挙 CM を数多く提供し相手候補
と競っていく伝統的な選挙戦略を、SNS を駆使しオンラインの有権者を取り込むことにも
重きを置くものに変化させた。
3-1-2 2012 大統領選 本格的な「ソーシャルメディア選挙」の始動
2008 年大統領選でのオバマ陣営の「ソーシャルメディア革命」からアメリカの選挙は一
変した。2010 年の中間選挙では選挙のツールとしてほとんどの候補者が本格的にソーシャ
ルメディアを選挙戦略に組み込み、支持者と双方向のコミュニケーションを図るようにな
っていった。この背景には twitter、facebook の急速な普及があり、同年選挙では facebook
の「likes」
(日本でいう「いいね!」)や twitter の「フォロワー」の多い候補の方が対立候
補よりも 7 割以上の圧倒的な確率で勝利することも実証された。2012 年の大統領選はこの
延長線上にあり、前嶋は「ソーシャルメディアの活用はアメリカの選挙のツールとして完
全に定着し、その利用状況が選挙の雌雄を決するという状況になったと言っても過言では
ないだろう」と述べている(清原・前嶋・李、2013、50 頁)。
図 3-1 テレビ討論会の情報をどのメディアで入手したか(単位:%)
Yes
No
テレビ
70
30
新聞
32
68
PC/携帯端末
29
71
ラジオ
24
76
SNS サイト
22
78
いずれかの情報源で
83
17
図 3-2 テレビ討論会の情報をどのメディアで入手したか(複数回答可)(単位:%)
PC、携帯、SNS サイト
テレビ、新聞、ラジオ
全体
36
78
18-39 歳
51
70
40-64 歳
35
81
65 歳以上
15
80
出所:清原・前嶋・李、2013、28-29 頁。
13
Pew Research Center の 2012 年 10 月の調査によれば、10 月に行われた民主党のオバマ
候補とロムニー候補による大統領のテレビ討論会について、テレビのみの生放送で視聴し
た人は 85%であった。一方生放送を見たうちの 11%がテレビで見るだけでなく、コンピュ
ータや携帯端末でテレビ放送と同時に視聴していた dual screeners であった。特に 18-39
歳の若年層では他の年齢層に比べ dual screeners の傾向が強かった。また若年層において
はコンピュータや携帯端末のみで討論会を視聴したという人も多かった。しかし図 3-1 から
もわかるように全体としては 7 割のアメリカ人がテレビで討論会を視聴しており、テレビ
討論会の情報源としては圧倒的にテレビが大きかったことは明らかである。また図 3-2 を見
るとアメリカ人の 36%はテレビ討論会の情報をオンラインか SNS サイトで入手している一
方で、78%はテレビや新聞・ラジオといった伝統的な情報源から情報を取得していることが
わかる。その中で若年層はほぼ過半数がオンラインか SNS サイトを使って情報を入手した
のに対し、7 割が伝統的な情報源から情報を入手していた。オンラインや SNS から情報を
入手する割合と伝統的なメディアで情報を入手する割合のギャップは、若年層ほど小さい
ことになる。別の調査では選挙運動の情報源として 1 位がケーブルテレビ(41%)、2 位がロ
ーカル TV ニュース(38%)、3 位がインターネット(36%)、4 位が全米ネットワーク TV のイ
ブニングニュース(31%)、5 位が地方紙(23%)であることがわかった。ケーブルテレビの 41%
という数字は 2012 年 1 月には 36%であったため、その時点から 5%上昇したことになる。
一方インターネットについては 2012 年 1 月よりも 11%も上昇している。さらにインターネ
ットで選挙情報を入手している人の中で「どのサイトを見るのか」という調査項目では、
オンラインサイトやアプリのみを提供しているものよりも伝統的なニュース組織である新
聞・テレビ・ラジオのウェブサイトやアプリを見る傾向が強いという。また数多い情報源
の中で SNS の占める割合はまだかなり小さいものの、選挙運動の情報を得るために日常的
に facebook を利用すると答える人の割合は増えつつある。SNS の中では twitter を利用す
る割合は最も低いが、2012 年 1 月には twitter 利用者のうち 17%が「日常的に選挙情報を
取得する」と答えたのが 2012 年 10 月には 25%に上がっている。このようにインターネッ
トを選挙情報の情報源として日常的に見ている有権者が増えつつあり、清原は「Pew
Research Center は、インターネットもケーブルテレビのニュースと並んで重要視されるよ
うになった、と指摘している。」と述べている(清原・前嶋・李、2013、30 頁)。
また 2012 年の選挙では twitter の爆発的な普及に目を向ける必要がある。アメリカの
twitter ユーザー数は 2012 年 7 月時点で 1 億 4000 万人以上となり、政治や選挙において
欠かせないツールとなっている。またオバマ大統領は twitter を政権運営で使うことに積極
的なことで知られており、2012 年大統領選ではオバマ陣営と共和党のミット・ロムニー陣
営を比べると、twitter の利用で顕著な差が見られた。2012 年 6 月 4 日~6 月 17 日の 14
日間に限定した Project for Excellence in Journalism の調査ではロムニー陣営が 1 日に 1
回のツイートを行っていたのに対して、オバマ陣営は 1 日 29 回ツイートを行っていた。ま
た調査期間中のリツイートを見るとロムニーが 8601 だったのに対し、オバマは 15106 と
14
約 2 倍のリツイート回数があった。オバマ陣営のデジタルアクティビティは全体としてロ
ムニー陣営を上回ったが facebook、twitter、youtube など個々に比べると圧倒的に twitter
の利用で両者の差が広がったことがわかった。こうしたオバマ陣営の twitter の利用に加え
て、日常的に選挙情報を twitter で取得する有権者の割合が増えていることからも、2012
年のアメリカ大統領選を振り返ると twitter の利用が候補者と有権者の距離を縮める重要な
ツールとして活躍したといえる。
加えて 2012 年選挙においてオバマ陣営は選挙データの分析担当者を増やし包括的なデー
タ戦略を行ったが、その核となったのは前述の「mybarackobama.com」であった。オバマ
陣営は民主党全国委員会と協力し、「mybarackobama.com」および民主党全国委員会管理
のサイト「Organizing for America」に登録した潜在的な支持者のデータを蓄積してきた。
これらのサイトで集めたデータは名前・性別・職業などの基本的な情報だけではなく、支
持者がリンクさせた個人ブログや facebook での書き込みも含まれていた。オバマ陣営はそ
れらの書き込みから有権者の趣味や興味、家族や友人の情報、選挙への関心の度合いも分
析していた。さらにサイトへの登録がなかった人々についても一般に公開されている情報
から政治献金の履歴や過去の選挙における投票の有無を調べ、加えて各種の情報を集めて
いるデータブローカーからも情報を購入し、データに組み込んだ。また前嶋は「2012 年選
挙が非常に特異だったのは、候補者陣営が様々なデータをかき集めて、強大なデータベー
スを作った点である」と述べている(清原・前嶋・李、2013、56 頁)。戸別訪問が公職選
挙法で禁止されている日本とは異なり、アメリカでは候補者陣営あるいは選挙ボランティ
アが有権者と実際に接しながら、選挙公約などの話をする中で投票を促すものとして戸別
訪問は続いてきた。この戸別訪問について激戦州の中で誰が重要な有権者であるのかを割
り出し、集票を最大化する戦略の一環としてソーシャルメディアが利用された。具体的に
は戸別訪問用に特化して開発された iPhone、iPad 用の地図アプリを使うというものである。
このアプリは過去に民主党で選挙登録をした、または民主党の候補者に投票した有権者を
割り出し地図上に表記することができる。戸別訪問を行うボランティアはこのアプリで戸
別訪問の対象となる有権者の住居を地図上で確認する。過去に民主党への選挙登録や投票
をした有権者は、潜在的にオバマへの投票が期待できる「説得可能な」対象層である。地
図上で「説得可能な」対象となるターゲットを絞り込み戸別訪問を効率的に行うのが、ビ
ックデータを活用するポイントとなる。全米各地のボランティアは有権者を一人一人訪問
し間違いなく投票するとみられる有権者を確実に押さえた上で、オバマに投票するかどう
か揺れている層についてはオバマに投票するという意思が固まるまで何度も説得を重ねて
いったのである。
3-2 韓国におけるネット選挙
韓国ではインターネットが選挙に与える影響が非常に大きくなっている。2002 年には盧
武鉉がインターネットを積極的に選挙運動に取り入れて選挙運動を行い当選した。2007 年
15
は当選した李明博の独走やメディアの規制もありネット選挙は沈静化したが、2012 年には
カカオトークや facebook などの SNS で選挙情報の共有や有権者同士の議論が活発に行わ
れた。選挙結果には SNS での世論が反映され、ネット選挙の影響力が確認されたのである。
本節では 2012 年韓国大統領選の動向を中心に、ネット選挙と法律による規制についても論
じる。
3-2-1 2007 大統領選 ネット選挙拡大の期待と不振
2007 年の大統領選挙では 2002 年以来のインターネットの普及率と利用率の増加、サー
ビス形態やコンテンツ類型の多様化によって本格的な「インターネット選挙」が実現され
るだろうと期待されていた。ところが 2007 年の大統領選ではインターネット選挙運動が不
振に終わり、その影響力は制限的で大きな威力を発揮することはなかった。ネットでの選
挙運動が有権者に動員力を提供することもなかったし、有力候補者たちの活動も成功しな
かった。では 2007 年はテクノロジーやサービスの向上にもかかわらずなぜネット選挙が不
振に終わったのだろうか。玄は「公職選挙法の規制がネット上の様々な政治表現に縛りを
かけ、ネット選挙の可能性を封じ込めたことを指摘せねばならない」と述べている(清原・
前嶋・玄、2011、88 頁)。韓国の公選法は大衆動員や伝統的メディアを中心に行われてき
た選挙から、通信技術を活用する選挙への変化に対応すべく情報技術の発展にあわせて改
正されてきた。2000 年にはインターネットの急激な普及に伴い公選法も改正され、インタ
ーネットで様々な情報が公開されるようになった。しかし 2006 年に全面的に施行された「イ
ンターネット実名制」によって「インターネット言論社」として規定されたサイトは、掲
示板の書き込みにおいて本人確認を行うシステムを設置し、実名確認がされていない書き
込みが放置された場合にはサイト運営者が科料を支払わなければいけないことになった。
この制度によって有権者はネット上での政治参加と意見表明の機会を制限されてしまった
のである。またネット選挙を法律で規制・緩和することは有権者の投票率にも影響を与え
ると考えられている。
図 3-3 世代別の大統領選での投票率
100 80 60 65.2 65.2 89.9 78.8 72.5 72.5 78.7 2002 40 2007 20 2012 0 出所:清原・前嶋・李、2013、86 頁。 (注)2012 年は 20-30 代の前後半を区別していない。
16
ネット選挙運動の進展で投票率が増加する傾向は 2012 年の大統領選ではっきりした。
図 3-3 を見ると 2002 年大統領選挙以後、20~30 代の投票率は 2007 年大統領選で低下した
が、2012 年の大統領選挙では大きく増加したことがわかる。2012 年大統領選挙は SNS に
よる選挙運動が自由化された選挙であり、若者の投票率の増加は韓国での SNS の主な利用
者層が 20~30 代であることと関連が深い。20~30 代の投票率とともに 40~50 代の投票率も
増加しているが、これはカカオトークなどのモバイルメッセンジャーを利用し選挙情報や
政治情報を手に入れ、それらを手軽に交換することが可能になったからであろう。他にも
投票率の上昇と関連して大統領選の他に 2010 年の統一地方選挙で次のような動きがあった。
「2010 韓国統一選挙の午後 5 時から 6 時までの 20~30 代の投票を見るとソウル市内で 48
万人、全国的には 200 万人が投票したことが明らかになった。これは当日の投票者の 10%
程度を占める。この選挙で 20~30 代の有権者が投票所が閉まる直前に投票に行ったのは
twitter の影響である。当時 twitter を利用した投票認証ショットの転送が流行し、投票所
へ行って自分が投票したという写真を撮り周りの人々に送らなければ、仲間外れになると
いう意識があった」(清原・前嶋・李、2013、85 頁)。
このような現象が起きた後、2011 年ソウル市長選挙・2012 年国会議員選挙でも若者の投
票率は増加した。ネット選挙の自由化と SNS の日常化は有権者が選挙情報をリアルタイム
で入手・交換することを可能にし、また政治情報がマルチコンテンツ化されることで有権
者が入手できる情報は質量ともに増えている。また投票認証ショットが流行したことには
次のような背景があった。
「スキー場の入場半額、コーヒー半額、ガソリン代割引、生卵のサービス。韓国ではこ
の数日間、大統領選の投票に行ったことを示す画像を提示すると受けられるサービスが花
盛りだ。投票認証ショットは若者の間で選挙に行こうという運動と連動し、カカオトーク
のほか facebook や twitter にアップロードして友人と情報共有する行為が一般的になった。
SNS で特定候補への応援や批判を一般有権者が書き込めるようになったからだ」
(日経産業
新聞、2012 年 12 月 21 日、24 頁)。
ネット選挙は候補者と有権者間のコミュニケーションを活性化するため、有権者から候
補者や政党への発信が増え自分も政治に参加しているという政治的有効性感覚も高まる可
能性がある。その結果有権者は以前より投票に参加しやすくなり、政治的関心度も高くな
るのである。
3-2-2 2012 大統領選 シニア層のネット選挙への参入
2012 年の時点で韓国のインターネット利用者は 3812 万人程度で人口全体の 78.4%であ
17
る(清原・前嶋・李、2013、75 頁)。さらに図 3-4 を見ると 6 歳以上の人口の 63.7%がス
マートフォンやタブレットなどのいわゆるスマート機器を持っていることがわかる。若い
世代のスマート機器の普及率は高く 20 代は 91.0%、30 代は 87.5%、40 代は 72.3%がスマ
ート機器を持っている。50 代以上のシニア層に注目すると 2011 年にスマート機器を持っ
ていた人は 50 代では 9.5%、60 代以上では 4.6%にすぎなかったが、2012 年になると 50
代では 46.8%、60 代以上では 23.4%とどちらも約 5 倍となる。スマート機器の普及でこれ
まで情報環境から疎外されていたシニア層が新規ネット利用者として登場することになっ
た。
図 3-4 世代別のスマート機器普及率
100 91 90 80 70 63.7 64.5 87.5 72.3 70.9 54.8 60 46.8 50 40 30 31.3 2011 30.8 23.4 21.4 20 9.5 10 2012 4.6 0 出所:清原・前嶋・李、2013、111 頁。
また近年韓国ではカカオトークの利用者がスマートフォンの普及に伴って急増し、2012
年 8 月には国内加入者が 3000 万人を超えた。カカオトークの利用者は 40~50 代に多いの
が特徴である。図 3-5 を見ると 2012 年の大統領選選挙者の候補者別の SNS ネットワーク
は、twitter と facebook では民主党の文在寅の方がフォロワーの数が多い。しかしカカオト
ークの友達数を見るとセヌリ党の朴槿恵が圧倒的多数である。今回の選挙では 20~30 代の
有権者が twitter と facebook を使い野党を支持した。これに反発する形で 40~50 代はカカ
オトーク上で情報交換や議論をする傾向があり、朴槿恵の友達が多くなったと思われる。
18
図 3-5 2012 大統領選の候補者別 SNS ネットワーク動員数
出所:清原・前嶋・李、2013、74 頁。
李は「朴槿恵は大統領選において党組織をあげソーシャルメディア対応に取り組んだ」
と述べている(清原・前嶋・李、2013、113 頁)。具体的にはまず SNS 担当組織を設置し
公開募集を通じて SNS 支援団を結成した。この SNS 支援団は社会各界の幅広い年齢層と
職業で構成され、twitter と facebook に書き込むコンテンツの作成や加工を行い、SNS を
訪れる有権者の書き込みにも対応する。朴槿恵は若者の支持を拡大しようと立候補後の最
初の政策発表をオフラインと同時に facebook を通じて行った。彼女は SNS を通じて日常
生活と演説のイメージを映像・アニメーションで製作、流通させた。twitter での書き込み
は彼女自身が直接することはない代わりに SNS 担当者が行い、ツイートは映像を添付した
情報や公約 PR を多くした。また支持者が公約や選挙運動に関するコンテンツを提供する場
を設け、彼らのメッセージや映像を朴槿恵の HP で見られるようにしている。また他の特
徴的な戦略として、シニア層になじみやすいカカオトークを利用して選挙運動を行ったこ
とがあげられる。カカオトークは電話番号をもとに利用するアプリであるためシニア層に
も使いやすい。セヌリ党は様々な疑惑に対する反論・釈明などもカカオトーク上で行うこ
とを優先したり、朴槿恵の日常生活の写真を共有したりするなどしてシニア層とのコミュ
二ケーション空間を作り上げたのである。カカオトーク上での朴槿恵の支持グループはオ
フライン組織と連携をとり自発的に動いているのが観察される。構成員は 40~50 代の男性
と主婦が多数を占め twitter や facebook の世論を把握しながらの情報交換にも積極的であ
った。カカオトークは新しいメディアであるが機能が非常に単純で簡単に使いこなせる。
特に 2012 年になりスマホが急速に普及したことが 40~50 代のカカオトーク利用者が増え
19
た要因であった。実際に 2012 年大統領選挙で投票率が一番高い年齢層は 50 代であり、こ
れはカカオトークの動員効果の影響とみられる。また韓国の選挙では SNS 上の世論と選挙
結果が類似する例が増えている。2012 大統領選での各候補の SNS 上での占有率は朴槿恵
52.3%,文在寅 47.7%であり実際の得票率は朴槿恵 51.6%,文在寅 48.0%であまり差はみられ
なかった。このような現象はビックデータの時代と言われるように膨大なデータや人々の
意見が SNS に反映され、それが選挙の結果として現れる傾向があるためである。SMS の日
常化は世論形成に参加する人々の数を増やし、世論形成もリアルタイムで行われるため、
選挙の結果とのギャップも埋まっていくだろう。
3-3 事例分析まとめ
本節ではアメリカと韓国で行われたネット選挙の要点を整理し、候補者と有権者の視点
からその特徴を見ていく。まずアメリカにおけるネット選挙だが、候補者の視点からはオ
バマがソーシャルメディアの特性に注目しそれを効率的に利用したこと、また多くの有権
者の情報を収集しターゲットを絞ったことが挙げられる。オバマの戦略では
「mybrackobama.com」で有権者と交流をしてからオバマが発信したメッセージが有権者
の中で拡大したという過程を考えると、西田の研究でいうところの「双方向性」と「情報
伝播性」をオバマはすでに有効活用できていたと考えられる。また有権者の情報を集め、
集めた情報からデータベースを作り上げターゲットを絞って集票を行ったことも成功とい
える。オバマが大統領選で勝利した結果から判断すれば、日本でもオバマのような選挙戦
略は効果的であるだろう。有権者の視点からは、若者ほどインターネットで選挙の情報を
収集する割合が多くかつ熱心な支援者になりやすい傾向が見られる。アメリカでは伝統的
なメディアから情報を集める割合は依然として高いが若者はインターネットから情報を得
る割合も多く、そこでの候補者との交流が支持に繋がる可能性は他の世代に比べて高いの
ではないだろうか。アメリカと日本の若者の政治に対する傾向が同じであるとすれば、日
本の若者もネットから情報を集めて支持する政党・候補者を判断することができるはずで
ある。そして日本の若者もアメリカのように候補者との交流や選挙の情報を得ることで政
治に関心を持つようになるかもしれない。
また韓国のネット選挙では、候補者の視点からは朴槿恵がスマート機器の利用が大きく増
加したシニア層を新たなターゲットとし、彼らが親しみやすいカカオトークでの投稿を増
やしたことが挙げられる。この戦略からはネット選挙においてターゲットを絞ること、ま
たそのターゲットと交流しやすいツールを選択することの重要性が見られた。日本でも
2008 年末から 2011 年末のインターネット利用率の上昇幅は 65~69 歳で 23.3%、70 代で
14.9%であるから(総務省、2012、6 頁)、日本でもシニア層をネット選挙のターゲットと
する場合は、どのような手段で選挙運動を行うか熟考する必要があるだろう。有権者の視
点からは、アメリカと同様に若者が選挙に対して自発的に動く傾向が見られた。2010 年の
統一地方選で投票に行った理由は「仲間外れにされたくない」という投票に対して肯定的
20
なものではないかもしれないが、twitter 認証ショットの流行で投票率が向上したことはソ
ーシャルメディアの「双方向性」と「情報伝播性」が韓国の若者の中でも既に発揮されて
いるといえそうだ。米韓の事例から判断して、ソーシャルメディアのこのような特性が最
も活かされる場は「若者たちのコミュニティ」なのかもしれない。
前嶋はアメリカと韓国の選挙におけるインターネットの利用の共通点について「インタ
ーネットが選挙運動に極めて効果的であるという変化仮説が認められる」と述べている(清
原・前嶋、2011、149 頁)。つまり候補者の PR を中心とし情報を上から流していく従来の
「垂直型」選挙から、有権者同士が自発的に連帯を広げていく「水平型」選挙への転換で
ある。米韓の候補者は水平型の有権者に対応し自分の政策を掲げながらも、有権者の声を
聞きながらそれを練り直していった。オンライン上で候補者と有権者のやりとりが進む中
で、優れた集合知が形成されることで双方向型の選挙が行われるようになっていくのであ
る。このような状況が生まれたことが米韓のネット選挙における成果と言えるだろう。特
に若者は様々なメディアの中から選挙の情報を集める手段としてインターネットを使う場
合が多く、ソーシャルメディアを利用しやすいスマート機器の普及率も高い。加えて政治
の情報を集めるためにテレビなどの伝統的なメディアだけでなく新しいメディアを使う頻
度が他世代よりも高いので、ネット選挙は若者にとって有効であるように思われる。もし
日本の政治的環境がアメリカや韓国に近いものだとしたら、ソーシャルメディアの運用の
やり方次第では若者たちに政治への目を向けさせ、候補者・有権者間の交流を増やしたり
彼らの間で情報の拡散を促したりすることで政治的関心や投票率を高めることができるの
ではないだろうか。
3-4 考察
それでは前節で述べたように、日本でもアメリカや韓国のように若者の間で候補者との
交流や情報の拡散が起きるといえるだろうか。政治的有効性感覚の違いから考えると、そ
れは難しいと考えられる。政治的有効性感覚とは「自分の行動や発言がどれだけ社会・政
治を変えられると感じているかを示すもの」である(清原・前嶋・李、2013、175 頁)。
図 3-6 日米韓の政治的有効性感覚の違い
日本
23.6 49.8 18.5 全くそう思う
まあそう思う
韓国
57 25.5 5.5 あまりそう思わない
米国
52.9 19.5 6.8 全くそう思わない
0% 20% 40% 60% 80% 100% 無回答
出所:日本青少年研究所、2009、15-16 頁。
21
図 3-6 は 2009 年に高校生を対象に行われた調査の「自分の参加によって変えたい社会現
象を変えられる」という質問に対する回答結果である。図からわかるように質問に対して
肯定的な回答をしたものが米韓では 7 割近くいるのに対し、日本では 3 割程度にとどまっ
ている。つまり多くの日本人は若いうちから自分が政治や社会を変えられるとは感じてお
らず、若者のインターネット利用率が高いとしても彼らにネット上での選挙運動で政治参
加を促すことは難しいと考えられる。実際に投票率という視点からネット選挙の効果を見
てみると、ネット選挙導入前後の 20 代の投票率は 2012 年衆院選で 37.89%、2013 参院選
で 33.37%であり(総務省選挙部、2012・2013)、ネット選挙導入の影響は見られなかった。
ではなぜ日本の若者はそのように考える傾向があるのだろうか。以下の 20 代の投票率向上
を目指す学生団体 ivote・原田謙介氏、慶應義塾大学専任講師・李洪全氏の二氏のインタビ
ューでの発言から考えてみたい。
「ivote を始めるまでは周りの人たちは政治に関心がないだろうと思っていた。しかし今ま
では政治の話をしなかったような大学のサッカーサークルの友人など、選挙前になると政
治の話を聞きに来る人がたくさんいた。関心がないわけではなくどう関わっていいのかわ
からないため、例えば自分のやってほしいことを政治家が反映してくれると信じられない
ため投票に行かないのだろう、と感じた。若い有権者からするとわからないことが大きな
問題なのではないだろうか」(西田、2013b、65-66 頁)。
「私のゼミでは今回選挙に行こうというテーマで思い思いの写真を撮り、各々の twitter に
載せました。ユニークなものが多くて盛り上がったのですが、ある学生が選挙に行こうと
書いたボードを手に自分の写真を撮り facebook のプロフィールに載せたところ、友人から
変だよと言われたそうです。日本の政治文化として特定の政党・政策に関してでなくても、
政治的な意思表明をすることに抵抗を感じさせるものがあるのではないでしょうか」(清
原・前嶋・李、2013、176 頁)。
若者は政治に興味がないというよりも「政治に何を期待していいのかわからない」「政治
に参加することに抵抗がある」といった意見が見られた。このような意識が若者にあるた
め彼らは投票に行くことや政治に関する情報を集めることをしないのだろう。そう考える
と、日本の若者に集票という観点からネット選挙を利用することは難しい。現状では集票
という目的ではなくまずソーシャルメディアを通じて政治に対して関心を持ってもらい、
次の段階として有権者の側から候補者と積極的に交流し政治に関する情報の取得や拡散を
行うようになってもらうことがネット選挙の可能性といえるのではないだろうか。
22
図 3-7 2013 参院選 twitter 利用候補者の発言量とコミュニケーション比率の関係
コミュニケーション比率・高
コミュニケーション比率・低
発言量・少
発言量・多
当選率:30%
当選:27.5%
該当:90 人 当選:27 人
該当:69 人 当選:19 人
当選率:28%
当選:14.3%
該当:102 人 当選:29 人
該当:14 人 当選:2 人
出所:日経産業新聞、2013 年 8 月 13 日、3 頁。
次に候補者にとって重要になりそうな戦略を選挙後の調査から考える。野村総研は 2013
参院選全候補者 433 人のうち twitter の認証済みアカウントを持っていた 276 人の候補者
の選挙期間中(7 月 4 日~21 日)のツイートを分析した。まず判明したのがツイートの数と
当落の相関の無さである。期間中発言数の多かった上位 15 人のうち当選したのは共産党の
吉良佳子氏(発言数 818)のみで、発言数の少なかった 15 人では民主党の長浜博行氏(発言
数 0)など 4 人が当選している。反対に重要性が浮き彫りになったのは候補者のコミュニケ
ーション頻度である。ネット上のコメントに対する候補者からの「リプライ」や「リツイ
ート」の占める割合をコミュニケーション率と定義し分析をした結果、コミュニケーショ
ン率の低い候補者の当選確率は高い候補者の半分程度にとどまった。野村総研は「一方的
な発言ばかりの候補者に比較して、コメントへの返信などを丁寧にくり返した候補者が当
落において優位になったという見方ができる」と分析する。ここからもソーシャルメディ
アにおけるコミュニケーションの重要性が窺える。ただ一方的にツイートをくり返すより
も有権者の発言に耳を傾けて、しっかりと交流を図っていくことがネット選挙を運用する
上で大切であると言えそうだ。今後各政党は twitter の他にも facebook、LINE のような様々
なツールを使ってネット選挙を行っていくと考えられるが、重要になるのは候補者に情報
の拡散を期待するだけでなく候補者側から「有権者との交流→情報の拡散→新たな候補者
との交流」といったような流れを生み出していくことだろう。
第4章 おわりに
本論文を通じて今日の日本におけるネット選挙の可能性とは票を獲得するための手段と
いうよりも、ソーシャルメディアを通じて候補者と有権者が交流する機会を提供し、有権
者に政治に対する関心を持つきっかけを与えるものではないかということがわかった。ま
た候補者も目的を持たずにネット選挙を利用するのではなく、選挙運動の対象を絞り新た
なメディアの特性を活かせるような運用が重要であることも推測できた。たとえ選挙を行
う環境が変わったとしても最終的に投票を行うのは人間であるのだから、有権者が自発的
ネット選挙を活用することに期待するのではなく、候補者の働きかけによって有権者の意
識を変えるということがネット選挙が活発になるために必要であるだろう。李はネット選
挙の将来性について次のように述べている。
23
「インターネットは政治参加を容易にするものであって、実際の投票率は魅力的な候補者
がいるか、関心の高い争点があるかといった要因に左右されます。ただしインターネット
のネットワーク性や双方向性による波及力は他の媒体と決定的に違うので、関心を集める
争点が生まれたときの動員力・増幅力の大きさは軽視できないと思います」(清原・前嶋・
李、2013、169-170 頁)。
ネット選挙は有権者を動員することや情報を増幅させる点では新たな可能性を秘めてい
るようだ。ネット選挙はまだ模索の段階であり社会に浸透するのはこれからだと考えられ
る。数年後の国勢選挙の際にはソーシャルメディアが選挙運動の核を担っているかもしれ
ない。その可能性を楽しみにするとともに自分自身の政治への意識を高めることや、下の
世代にも同様の意識を伝えていくことが必要だと本論文の執筆を通じて強く感じた。
補論 投票行動論
参考として日本の政治学者、三宅一郎の投票行動論を掲載しておく。
投票行動とは
投票行動とは選挙で有権者が一票を投じることにより候補者、政党、政策に対する自分
の選好を表明する行動である。有権者の投票行動を直接に規定するのは有権者の選挙運動
参加の規制、投票用紙の様式、投票所の構造などの諸規定である。政党や候補者の選挙活
動に関する規定は有権者の投票行動を直接に規制するわけではないが、政党や候補者が規
定に合わせて行動する結果間接的に有権者の行動を制約する。日本では選挙で選出される
べき公職者、選挙に投票する資格を持つ有権者は誰か、選挙運動の進め方と制限、投票の
方法、得票数の計算法、得票を議席に変換する方法など選挙と投票のあらゆる側面が法に
よって規定されている。これらの諸ルールの全体をまとめて「選挙制度」と呼ぶ(三宅、
1989、8 頁)。日本の制度では投票にあたってまず候補者が重要であり、次いで(あるいは
同時に)政党ということになる。だが有権者は政策争点のいずれかに深い関心を持ってお
りその政策を実現してくれる政党や候補者を選択しているのだとすると、政策に対して直
接投票することは許されないにしても候補者名の記入を政策争点に対する意思表明とする
ことができる。
(三宅、1989、36 頁)。一般に政党の弱いところでは候補者の個人評価が投
票選択の基準になる。三宅は「ケインら(Cain, Ferejohn, Fiorina, 1987)は政党組織の強
弱にかかわらず候補者に一票を投じる形式をとる限り、個人投票が行われると指摘した。」
と述べている(三宅、1989、38 頁)。個人投票でないものとは候補者の個人的特性や活動
の評価に基づかないで、候補者の所属政党や投票者の所属政党や所属社会集団、国の経済
状況などが基準である投票である。
24
政党支持
政党への評価は通常、政党支持と呼ばれる。政党支持が重要なのは、それが政治意識全
体の中核となっているからである。政党支持については二つのモデルが提示されてきた。
一つは社会学モデルであり、もう一つは心理学モデルである。社会学モデルはある社会亀
裂と政党との間の伝統的な結びつきを、心理学モデルは社会的環境の中で育成された有権
者の特定政党に対する愛着心の分析を主な対象とする(三宅、1989、80 頁)。
社会学モデル
社会学モデルの特徴を説明すると次のようになる(三宅、1989、82-83 頁)。
①社会は一つないしそれ以上の亀裂によって、多かれ少なかれ排他的な社会集団へと分割
される。
②社会集団への強い帰属感は主に歴史的に先鋭な社会的対立によって生み出され、その後
対立の原因となった争点の重要性が失われた後でさえも次の世代に文化的に伝達され支持
される。
③同一の社会集団のメンバーは共通の政治的利害を共有する。これに対し異なった集団の
メンバーは利害の面でそれぞれ対立すると認知している。
④社会集団のメンバーはその集団および集団利害と最も密接に結びつく政党があると考え
る傾向がある。
⑤社会集団はその利害を代表する組織を持つことが多い。その組織は直接的に集団の党派
的規範をメンバーに伝達し、選挙の際規範への同調を促進するよう努力する。
⑥集団の党派的規範は両親により子供に伝えられる。そして集団規範は同一集団メンバー
との相互の接触によって補強される。
心理学モデル
心理学モデルの特徴を説明すると次のようになる(三宅、1989、100-101 頁)。
①有権者のほとんどが政党に対する帰属意識を持つ。
②この帰属意識は家庭内の社会化よって形成される。
③有権者のほとんどは帰属する政党のリーダー・綱領に変更があっても、ほぼ一生を通じ
てその政党に帰属意識を持ち続ける。
④帰属意識を変えるのはごく少数の人にすぎない。
⑤政党帰属意識は政党への心理的近さの自己認識とそれについての感情の強さに関する質
問に対する回答に正しく反映される。
⑥有権者がある政党に強い帰属感を持てば持つほどその政党に投票する可能性は高くなる。
⑦帰属の程度が強ければ強いほどその人の政治的事象に対する評価と認知の方向は帰属政
党と一致するようになる。
⑧投票選択と政党帰属意識の不一致が起こるとすればそれは当該選挙における特定の政策
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争点と候補者のアピールによって生じるのであって、それは一時的であることが多くやが
て有権者は再び自分の政党帰属意識通りの投票に戻る。
政策争点志向
有権者は政策争点に強い関心を持っていても、それを候補者名あるいは政党名と結びつ
けなければならない。政策争点の認知と関心、政策争点と候補者あるいは政党との結びつ
きの認知という障害が政策争点志向の投票行動への転化の前に存在している。主として政
策争点についての判断に基づく投票を「政策投票」と称し、政策の定義は「特定の価値を
獲得・維持し増大させるために意図する行動の案・方針・計画」とする。「政策争点」は政
党間で意見の一致しない政策である。「政策争点」の代替案は政党の数だけ提出されること
が多く、提示された全ての案について知識を持ち投票政党と結びつけることは政党活動家
以外に可能とは思えない。一般有権者は政党間の細かい違いは無視して争点を二つの簡単
な選択肢の対にしてしまうことが多かろう。以上のように政策争点は簡略化され、シンボ
ル化されて初めて流通する。このシンボル化は一般有権者に受け入れやすいように政党側
から、マスメディアあるいは有権者自身によって一般的規範・固定観念や偏見に合わせて
行われる(三宅、1989、132-133 頁)。
政策争点と争点投票
政策争点についての意見が意見の持ち手の政党選択に影響を与えるためには、政策争点
と政党支持(あるいは投票)の間に認知的な繋がりがなければならない。両社は相互的影
響関係にあるが出発点を政策意見にとると(三宅、1989、134 頁)
①ある政策に対して賛否の意見を持つ人は
②その政策に賛成もしくは反対する政党を多くの政党の中から認知し
③その政党が政策の実現または阻止に効果的な働きをするかどうかの認知を経て
④政策意見と政党支持は結びつく。
合理的投票
ダウンズ(Dawns,1980)に始まる「合理的投票」の概念は政策投票の一部ではあるが、
合理性を前提にする点で特殊である。三宅は「ダウンズによると合理的行動とは行動主体
が意識して選んだ政治的または経済的目的を達成するために、効率的計画された活動を意
味している」と述べている(三宅、1989、145 頁)。したがって選挙に関連する合理的な行
動はこの目的に向けられたものであって、それ以外ではない。投票行動を具体的に決定す
る段階は次の通りである(三宅、1989、145-146 頁)。
①重要な政治決定が行われた個々の争点に関連した情報を収集する。
②個々の争点について収集された情報の全ての中から投票の決定に役に立つ情報を選び出
す。
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③選ばれた情報を分析して個々の争点について、ありうる代替政策とその帰結に関して事
実に基づいた結論に到達する。
④個々の争点について関連する目標に照らしてありうる全ての政策の帰結を評価する。こ
れは価値判断であり厳密には事実判断ではない。
⑤各争点の査定を調整して選挙を戦っている各政党の正味の評価を下す。これは投票者自
身の目標に自分なりに合わせた価値判断である。
⑥各政党の正味の評価を比較し将来の不測の事態に備えて、評価のウェイトづけを行うこ
とによって投票の意思決定を下す。
⑦実際に投票するか、棄権する。
合理的投票は豊富な情報に基づく合理的計算を要請する点、「政策投票」の特殊なケースで
ある。
業績投票
未来の時点での政府活動が有権者個人の効用所得に及ぼす影響についての判断という有
権者に対して過大と思われる要求の代わりに、過去の政府業績の判断と未来への期待とい
う特別の情報を必要としない二つの判断に分解して有権者の認知的負担の軽減をはかる道
も存在する。この方向の研究の中で最も有名なのがフィオリーナ(Fiorina,1981)の業績投
票である。フィオリーナの理論は政党帰属理論の修正でもあり、それを通じてダウンズ理
論と政党帰属理論の橋渡しともなっている。彼の政党理論は次の式で表現される(三宅、
1989、168-169 頁)。
政党帰属意識=政党業績評価の累積+政治的社会化効果
投票参加ごとに政党の過去の業績に判定を下しているとすると、その積み重ねによって
政党帰属意識が形成される。「政治的社会化効果」とは初期値であって、政治年齢に達し投
票参加を開始するにあたって個人がすでに所有している政治的傾向である。現在の政党帰
属意識は過去の経験の累積だから、時点を現時点(t)と一期前からそれ以前(t-1)に二分
すると上の式は次のようになる。
政党帰属意識(t)=政党帰属意識(t-1)+政党業績評価(t)
投票は現在の政党帰属意識とその政党が政権についた時の期待合成だとすると次の式が
得られる。
投票=政党帰属意識(t-1)+政党業績評価(t)+未来への期待
参考文献
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清原聖子・前嶋和弘・玄武岩(2011)『インターネットが変える社会』、慶應義塾大学出版会。
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会。
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西田亮介(2013b)『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』、NHK 出版。
三宅一郎(1989)『投票行動』、東京大学出版会。
株式会社ゲイン(2013)、
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急若者ネット調査』
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総務省(2012)『平成 23 年通信利用動向調査ポイント』
(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/120530_1.pdf)。
総務省選挙部(2012)、『第 46 回衆議院議員通常選挙における年齢別投票状況』
(http://www.soumu.go.jp/main_content/000244455.pdf)。
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(http://www.soumu.go.jp/main_content/000251251.pdf)。
総務省統計局(2011)『平成 22 年国勢調査人口等基本集計』
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(http://www1.odn.ne.jp/youth-study/reserch/2009/tanjyun.pdf)。
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