社会経済専攻 199801413 鈴木 滋丸 キャラクタービジネスにおける商品 キャラクター好き世代の購買意欲・動機の考察 1 1章 キャラクターとキャラクタービジネス・・・・・・・・・・・・・・・・3 1−1,キャラクタービジネスの台頭と浸透 1−2,キャラクターマーケティング戦略の展開 1−2−1,オリジナルキャラクターによるビジネス展開 1−2−2,既存のキャラクターを使ったビジネス展開 1−3,キャラクターのヒットとキャラクター商品の相乗効果を生み出す仕組み 1−4,キャラクタービジネス業界で巨大な市場を持つようになった ポケットモンスター及びピカチュウの魅力と要因 2章 研究目的とそれを探るための考察設定・・・・・・・・・・・・・・・16 2−1,日本におけるキャラクタービジネスの隆盛 2−2,本論文の研究目的を探るために考察したい内容の設定と本論文の趣旨 3章 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 3−1,インターネットリサーチによるアンケート調査 3−2,今回のインターネットリサーチ調査の問題点 4章 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 4−1,分析結果による考察 4−2,研究成果 参考文献 2 1章 キャラクターとキャラクタービジネス 1−1,キャラクタービジネスの台頭と浸透 第 1 章では、日本におけるキャラクター及びキャラクタービジネスの意味合いと、キャ ラクターが力をつけキャラクタービジネスが市場を拡大していった経緯を述べる。 キャラクターが商品の差別化を図る付加価値要素として力をつけてくる以前には、商標 によって“①出所表示機能②品質保証機能③広告機能” (由比晃、1999) の 3 点によって 各メーカーが独自の差別化を図ってきた。しかし商標だけでは消費者に対して製品の特性 を表すような直接的付加価値に欠け、販売側としては人々の情緒や流行感覚に直接訴える 商品の付加価値機能を求めるようになってきた。その答えとして登場したのが「キャラク ター」であった。商標は政府に登録することによって使用を独占することができますが、 機能的に全ての商品が均一化するなかでその力を弱めていった。そうした商標より、消費 者の情緒に訴えるような絵柄やマークを独占することによって販売を行う戦略が多大な成 果をあげることに繋がった。「キャラクター」はその点において様々な方向性に使用範囲を 広げ続け、現在も幅広く使われるようになっている。 「キャラクター」とはなにか?という問いに対しては、「商品化権」を発生するものという 定義と同義である。商品化権ということは、“営利目的で商品や宣伝に使用する場合にその 著作者又は肖像権をもつものの承諾を得ることが必要な、法律上保護されているもの”(由 比晃、1999)ということになる。 日本で「キャラクター」と称されるもの ①知名度の高い絵柄・肖像・マーク・ロゴの中で法的保護を受けられる権利をもつもの ②多くの商品や宣伝に使用されることによってその相乗効果で知名度が上がると予測され るもの。 (由比晃、1999) このように、理由のいかんに関わらず商品化権が発生するものを日本で「キャラクター」 と称し、これに加えて知名度の高いファッションブランドを含めたものを、欧米ではプロ パティと呼んでいる。 キャラクターの中で特にビジネスに大きな影響を持つ物が、アニメーションや漫画およ びゲームに登場してくる「ファンシフルキャラクター=空想的登場人物」である。ファン シフルキャラクターという呼び名が、現在的にはキャラクターというひと括りの中に収ま っているので以後キャラクターと呼ぶようになった。 キャラクター商品の持つ効力は、各々のキャラクターの持つ性質・性格から思想・感情 3 面を通して消費者に直接付加価値として商品効果を相乗することに意義がもたれる。一般 的に国外に対しては、国情の違いや民族性の違いを考慮にいれたライセンス業務を行うこ とは非常に難しく、押し付けがましい形になってしまうのでかなりローカルエリア的な展 開が行われている。 若年層を狙った商品展開において、幼児や小さな子供たちはローカルな・身近なものに より強く惹かれる傾向が実証ずみである。プロパティ種類別にわけた商品のシェアは次の ように分類される。 プロパティ種類別に分けた商品のシェア ①美術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7.1% 絵画などの美術、イラストレーション、グリーティングカードなどオリジナルなもの ②著名人の肖像 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.9% 映画、TV タレント、スポーツ選手、学者 ETC ③デザイナーブランド ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8.0% 衣服ばかりでなく、車等工業製品のデザイナーの名前を含む ④映画、テレビのキャラクター ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22.7% 映画、テレビ、クラシックコミック・ブックのキャラクター ⑤音楽 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.4% 音楽のアーティスト及び作詞・作曲家 ⑥非営利団体 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.0% 自然保護団体など、非営利なプロパティ ⑦出版物 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.3% 絵本、漫画単行本のキャラクター、雑誌の名称など ⑧スポーツ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19.5% プロ、アマを問わずスポーツ団体のロゴ・マーク(オリンピックを含む) ⑨商標/ブランド名 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29.9% 企業ブランドのマーク、ロゴ。公的公共団体のマーク、ロゴを含む ⑩玩具/ゲーム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4.0% 著名な人形、ゲーム、コンピューター・ゲームから生まれたもの ⑪その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.3% {(由比晃、1999)の中で掲載されていた The Licensing Letter より} このプロパティの中において近年目覚しい発展を日本で遂げたのが、映画・テレビのキ ャラクター・出版物・玩具/ゲームのプロパティであった。この起因は2つの大きな要素か ら説明されている。 1つ目の要素は、コミック・アニメーション・ゲームといった3業界の躍進である。2 4 つ目の要素は、キャラクターグッズに幼少期からの大きな接点をもち、この転換期以降に 生まれた世代が成長し、次々と社会にでて消費をするようになったことである。現在日本 のキャラクター業界で商品価値を持ち、活躍しているものは以下のように分類できる。 ① コミック・アニメーション・ゲーム・テレビ番組・映画・絵本などのメディアから生ま れたキャラクター ② 日本においては、1989年に光和インターナショナルによって設立されたキャラクタ ーライセンスシステム(CLS)、に登録されたイラストレーターによって生み出された キャラクター ③ オリンピックのマスコットとして生み出されたキャラクター ④ ハローキティ・けろけろけろっぴなどの企業独自が生み出したキャラクター ⑤ 本来商標であるべきマークやロゴ ⑥ 肖像パブリシティ権によって保護される有名人 (由比晃、1999) この 6 項目に分けられたものを、日本では「キャラクター」という概念に一括りにして使 っている。次に、上で挙げた 6 項目に属するキャラクター達が活躍しているフィールドを 分類すると、次のように分けられる。 ① 既存のあらゆる商品のイメージキャラクター ② コミック・アニメーション・ゲームを中心とした、メディアから誕生したキャラクター 商品 ③ キャラクターをモチーフとしたテーマパーク ④ キャラクターそのものを主体としたキャラクターグッズ (由比晃、1999) この中で日本では、コミック・アニメーション・ゲームから誕生するキャラクターが最 もオーソドックスであり、市場を支えている中心である。戦後の経済成長期に人々に活力 をもたらしたコミックやアニメーションが、日本人に愛され文化にまで発展するほど根付 いた要因は、国民性とも言える。日本人のこうした性質は、日本が隣接した国がない島国 で、単一民族の構成によって成り立っていることがあげられている。生活習慣及び周囲の 人間との繋がりを、先祖代々に渡って強いものとしてきた性質が滲み出ているのかもしれ ない。 一方アメリカでは、アメリカ国民に最も多くのエンターテイメントを生み出している土 地であるハリウッドにおいて、映画を中心としたキャラクターを誕生させている。ここで 日本とアメリカにおけるキャラクター誕生要因は多少異なれども、共通して言えることが 5 ある。コンテンツを生み出す源としては映像が非常に大きな力をもっているということだ。 特に日本では“マスメディアの影響力が先進国でもずばぬけているのである。”(山田徹、 2000) 次に、こうしたキャラクターから生まれたキャラクター商品の広がりはどのようにおこ るのだろうか。キャラクター商品の持つ、キャラクターが持つ付加価値による購買動機の 促進・親近性・感情移入などの販売促進効果は、キャラクター自身の人気にそのまま反映 される。キャラクターとしての利用価値は、キャラクターが心を掴んでいる人の範囲にそ のまま結びつく形となるのだ。キャラクターの人気がでる背景は、マスメディアを通して 広まるのが一般的であり、マスメディアの中でも強い影響力を持つコミック・アニメーシ ョン・ゲームを中心として、キャラクターは人気を出していく。特に、キャラクターが誕 生した媒体の販売及び連載期間中がピーク時期である。コミック・アニメーション・ゲー ムは人気が高騰してゆく時間も早いが、やがて時期が過ぎれば急速に商品価値を失うこと も多い。このことから企業も、流行にとらわれた一過性のキャラクターではなく、着実に 売上の伸びを示す長続きのするキャラクター、幅広い年齢層に指示され商品に安心感を与 えるようなキャラクターを求めている。 企業がキャラクターを使用することを考えた場合、まず初めに商品を強調するために最 も商品に合ったキャラクターのイメージを特定する。イメージに合ったキャラクターがい るのか慎重に検討し、狙った購買層に宣伝効果があるかどうか十分考慮したうえで使用に 踏み切る。企業が選ぶキャラクターイメージの中でも、とりわけ「可愛い」「癒される」と いった人々に気に入られやすいイメージを持ったキャラクターを求める方向性が強い。し かし、単に商品のイメージと合致したからといって、購買する消費者の増加を望めるわけ ではない。たとえイメージに合ったキャラクターを見つけ出せたとしても、「ストーリーが 現在の潮流にあっているか?」「単体ではなくファミリーがいるか?」など、ターゲットを 広げるようなキャラクターでなければ宣伝効果がないからだ。更に、企業がキャラクター 選定するにあたっては、企業が作り上げた商品が、キャラクターが持つ付加価値に負けな い優秀な商品でなければならない。質の悪い商品にキャラクターが使われると、キャラク ター自身のイメージをおとすことにもなりかねないことからキャラクター使用を断られる ことも多々ある。当然、キャラクター商品を作る企業だけでなく、ライセンサーの方も息 の長く愛されるキャラクターを育てるために様々な検討をしているのだ。ライセンスを与 える企業選別や、キャラクター使用を認めた企業であっても、その後も話し合いを続けて いく姿勢がしっかりとられている。ライセンサー側もこうしたキャラクター自身の価値を 大切にし、多くの人々から愛されるキャラクターにする努力を日々行っている。この傾向 は近年特に強くなり、人気あるキャラクターを長く愛され続けるようなライセンス業務に 非常に力が入れられてきている。 具体的な例として、古くからライセンス業務に力を注いできたサンリオでは、“マスメデ ィアを使った宣伝は一切行わず、また一時的なブームがきそうになるとわざと販売商品を 6 減らすなどして、爆発的な人気がでることによるリバウンドを抑え、 「店頭で見て、好きで あれば買う人が増える」という理念の元、ライセンシーを集めて定期的にキャラクターの 方向性やライセンスを与えている。企業との話し合いを十分おこない、キャラクターを理 解し正しい方向性で使ってもえるために、徹底した戦略を行っている。”(由比晃、1999) こうしたライセンサーとライセンシーの双方の協力的な歩みあいと努力を欠かさない姿勢 が、今日キャラクタービジネスが大きく飛躍へと導いている。 現在キャラクターの数は、市場の拡大に伴って星の数ほどある。しかしその中で商品価 値を持つキャラクターはほんのわずかに過ぎない。素晴らしいキャラクターを使って成功 させることは私たちが考えている以上に難しく、キャラクターを使うこと自体かなりリス キーなのである。数年前、キャラクター市場が変革期を迎え、ほんの2,3年で市場規模 を何倍にも成長させた。こうした市場拡大に伴い、安易に集客効果を見込んだキャラクタ ーの乱立によって痛手を負った企業がいくつもでたのだ。 現在、ガンダムを軸としたキャラクター商品でよく知られているバンダイも、当時手を 広げすぎた音楽やインターネット関連事業の失敗により、セガ・エンタープライズに吸収 合併されそうになった。この時、現在バンダイの社長である高須武男氏が中心となり、元 来の強みを大切にすることを基軸に、機動戦士ガンダム・デジタルモンスターなどの人気 の強いキャラクターに絞った活動展開に絞り込んでたて直した。高須武男氏は、数あるキ ャラクター商品市場の中で、「食玩」とよばれる玩具菓子ブームに目をつけて大きな成果を あげた。高須武男氏は、 「食玩」において成功をあげることができた戦略を次のように話し ている。 “菓子も魅力あるものを使い、おもちゃとのバランスを 50 対 50 にすれば、キャ ラクターの強さがもっと生きる。” (朝日新聞、2003 年 11 月 15 日、be on Saturday での高 須武男氏のコメント)「食玩」業界での活動展開と、人気キャラクターに絞りんだキャラク ター商品戦略は、両者ともに大成功を収めた。赤字収益で合併寸前であったバンダイの 2003 年度決算報告では、過去最高の当期利益 142 億円をあげている。 キャラクタービジネスはキャラクターと商品のどちらかだけが優秀でもかみ合わない。 キャラクターの増えた今こそしっかりとしたキャラクターと商品の関係をつくりだしてい かなければならないのである。現在のキャラクタービジネスの市場展開を述べると、本, 雑誌・テレビ・インターネットといった複数のメディアを媒体としたメディアミックスに よって強い相互作用を生み出だされている。また、各々の人間が持つコミュニティー内で の、口コミといった人間同士のコミュニケーションも大きな役割を担い、こうした要素が 今も市場を拡大し続けている。 1−2,キャラクターマーケティング戦略の展開 では実際に、著作者が生み出したキャラクターがメーカーや企業によって使われキャラ クター商品となる過程と、そこに発生するマーケティングを述べる。キャラクターを商品 7 化するにあたっては2つの経緯がある。 1−2−1,オリジナルキャラクターによるビジネス展開 1つ目の経緯は、商品を売り出す企業自身がオリジナルキャラクターをつくりだす方法 だ。最初から商品のコンセプトをつけたイメージを持たせる意味合いを明確にしてから、 そのイメージを元にキャラクターを作り出す方法である。ここで生まれたキャラクターは、 商品発売と同時に消費者に認知されることとなる。言いかえれば、企業が作り出した新商 品の誕生と、キャラクターの誕生が同じ瞬間に起こることである。この方法で生まれたキ ャラクター商品は、キャラクターが持つ付加価値がほとんどない状態でスタートしたとい っていい。もちろん企業が商品に対する明確なイメージを全面に打ち出したキャラクター なので、商品に付随したキャラクターを見たときに、消費者は企業が打ち出したイメージ を感じ取りやすい。しかしキャラクターに対する愛着や共感はまったくないので、商品に 目を留めるきっかけ程度の効果しか、最初の段階では生まれてこない。まさに商品自体の 売れ行きが、キャラクター認知へ直結するシステムである。故に商品自体がヒットしなけ ればそこでそのキャラクターは商品に対する付加価値をまったくもたなくなり、終焉を迎 える。幾千ものオリジナルキャラクターが今までに生まれてきたが、そのオリジナルキャ ラクターが価値を持って認識されつづけるようになった例はごく稀である。ここからは、 成功が困難なオリジナルキャラクターにおいて、成功を収めたいくつかの例を考察し成功 要因を探ってゆく。 1974 年、キャラクタービジネスの市場規模がまだまだ小さかった頃サンリオが生み出し たハローキティは「かわいい」という第一イメージから始まり、今や家族や友達・趣味や 好きな食べ物といったところまでハローキティ自体のしっかりとしたストーリーが確立さ れると共に、幅広い年齢層に認知されテーマパークを支えるメインキャラクターとまでに 成長してきた。次に NEC が生み出したバザールでござーるを見てみる。NEC は IT・ネッ トワーク・ブロードバンド・モバイルを扱う企業であり、最先端のテクノロジーを駆使し たサービスと商品を生み出している会社である。しかし今と違って家庭にパソコンや携帯 といった機械にまだまだ抵抗意識を持った人が多い社会において、そのニーズは限られた 範囲に留まっていた。そこで機械等に苦手意識を持った層の需要を上げる手段として、「さ るでも簡単にたのしくできる」といったメッセージをバザールでござーるというキャラク ターを用いることによって、CM や雑誌で商品の販促を中心として顧客にアピールをおこな っていった。結果、バザールでござーるは顧客に親しみを与えることに大成功し、NEC 製 品全体の経済効果や、NEC 自身の印象までをも大きく塗り替えることとなった。現在でも バザールでござーるは NEC のイメージキャラクターとして、しっかりとしたストーリー性 を内包したうえで長く愛されるキャラクターとなった。今現在バザールでござーるは、一 時期ほどの力はないが、NEC が誇るイメージキャラクターとして揺るぎのない価値を市場 8 にもたらすことができた。 オリジナルキャラクターとして成功することで重要な鍵は第1に、サンリオがおこなっ た戦略のように、しっかりとしたキャラクターのストーリー性をつくると共に、人々がキ ャラクターから商品や企業をしっかりと連想できるように、「長く使う」ことである。更に もう一つバザールでござーるが成功した要因として、 “本当に企業がオリジナルキャラクタ ーとして成功させるためには、マス広告だけでなく、商品化や販促キャンペーンとの連動 を考えた立体的な組み合わせが重要である。”(山田徹、2000)といえる。例えばテレビ番 組やアニメーションなら半年から1年が1サイクルであり、CM ならば3ヶ月程度のケース が多い。当然大衆に強い影響力を与えるテレビを通してのアピールとなるので、一時的に 盛り上がるケースは多い。しかし、市場にキャラクターを使いつづけ、人々の心に残りつ づけるようなしっかりとした戦略なしにはオリジナルキャラクターの市場価値は残らない。 一時的な強いマスメディアによる宣伝期間が去ったあとの戦略なしでは、キャラクターが その後商品として使っていけるだけの力を残さないのである。 次に、企業が生み出したオリジナルキャラクターが成長して価値をもつようになると、 キャラクターを生み出した企業自体がそのキャラクターのライセンサーとなって、更なる 利益がみ込めるキャラクタービジネスを展開していくことが可能となる。このようにオリ ジナルキャラクターは、生みの親が自分自身となるので他の企業や著作者に対して使用許 可を求める必要もなく、使用の対価として支払うギャランティーも必要としない。そして オリジナルキャラクターに人気が出て市場価値を持てることが出来たならば、ライセンサ ーとしてギャランティーを得ることも可能となるのである。既存のキャラクターを借りて ヒット商品を生み出したときよりも、多くの利益が見込める。 しかしオリジナルキャラクターは、初めからキャラクターを育てることとなるので、成 長し定着に至るキャラクターをつくることは非常に難しい。たとえキャラクターを宣伝に 使った商品がヒットしても、オリジナルキャラクターの人気がでないことや、一時的にキ ャラクターに人気がでたとしても短命であることが多い。オリジナルキャラクターはメー カーが作り出すことが多いだけに、一業種に特化した所で生まれることが多いからである。 一企業から宣伝が開始されるので、人々が長く愛してゆくに十分な存在を確立することが できずに、商品の衰退と共に忘れされられてしまうケースが非常に多いのである。メディ アミックスによる相乗効果を求めることも難しい。オリジナルキャラクターを使う時には、 一つの商品だけの宣伝効果として使うのではなく、最初からオリジナルキャラクターを育 てていく戦略を持たなければ成功はありえない。それだけでなく、キャラクターのイメー ジをそこなわない良質な商品をつくりだしつづけ、人々へ長く訴えかけることによって始 めて成功を収める可能性がでるのである。いかにオリジナルキャラクター商品の市場価値 を持たせつづけるかが難しいか理解いただけたことであろう。 9 1−2−2,既存のキャラクターを使ったビジネス展開 2つ目の経緯は、既存のキャラクターを使った流れである。キャラクターの持つイメー ジと商品の連動性より、商品構想の強化・視覚と共感に訴えた宣伝戦略がおこなわれる。 人気キャラクターを使うほど、より強い印象を具体的に持たせたり、幅広い人への宣伝効 果がある。 様々な側面から宣伝効果を期待できることにより企業が、既存のキャラクターを商品を 使用する。そうした場合、ライセンサーとライセンシーが話し合い(中間にプロダクショ ンや広告代理店などを挟む場合もある。)商品に対して使用が可能かどうか話し合いをする。 その根幹で問題がなければ契約条件の交渉に入る。この契約条件をクリアすることが、キ ャラクターを大切に使用するために重要視される部分である。 “使用許可の対象となる著作 物を具体的になにに使用するのか、商品とその他の媒体を明示する” (野口晴巳、2002)こ の段階でライセンサーとライセンシーが相互にキャラクターと商品の間に持っているお互 いのイメージや方向性、理念にいたるまでをしっかり確認したうえで合意にいたる。キャ ラクターの付加価値が非常に高まってきた現在は特に、ライセンサーがキャラクターの持 つイメージと流れを大切にした、愛情と細心の注意を払う心構え及びシステムをもってい るのが当たり前になっている。それゆえにライセンサーは簡単にキャラクター使用許可を ださない。商品化を認める業種の範囲を、あらかじめキャラクターの流れやイメージを議 論した段階で決める。更には一業種には一つのライセンシーしか認めていないケースも珍 しくない。このハードルをクリアした後にも、ライセンシー自体の商品に対する熱意や、 一定の期間貸し出すキャラクターに対する思いまで、全てが契約選考条件に含まれる。最 終的にキャラクターを商品につかわせることが、キャラクターにとってプラスになると判 断されて始めて承諾をだすのである。ここでアンパンマンという具体例を挙げて説明して みよう。アンパンマンはオリジナルキャラクターとして生まれ、現在ライセンサーをしっ かりと持った人気キャラクターとなった。ライセンス部門が確立されてのち“1990年 中ごろにアンパンマン大会議なるものを開いた。その時出席したライセンシーの数が40 社ほどで,そこでライセンシー数をこれ以上増やさないと公言した。それ以来アンパンマ ンは、カテゴリー別のライセンシーの数は基本的に増やしていないのである。” (由比晃、 1999)こうした流れは今現在はよりしっかりと確立され、アンパンマンの戦略のひとつと して、定期的にアンパンマン会議なるものが行われるようになった。 “アンパンマン会議は ほぼ毎週、現在でもおこなわれています。”(日本テレビ音楽(株)から頂いたコメント) このように、ライセンサーもキャラクターを大切に使うことに対して日々努力を欠かし ていない。こうしたライセンサーとライセンシーの契約に合意が行われた後、キャラクタ ー使用の対価として支払われるロイヤリティーが決められる。通常商品代の3∼5%程度 がロイヤリティーとして課せられるケースが多いようで、他に企業の話し合いの中で変わ 10 ってくるケースもあるようである。ここでもロイヤリティーが高すぎると無理な商品開発 に繋がる恐れがあるため、この部分で契約成立に至らないケースもでてくるのだ。また、 “プ ロモーションなど商品化以外の契約では、ロイヤリティーを利率ではなく、年間の使用料 総計で算出する場合が多い” (野口晴巳、2002)ようである。そして使用と有効期限を決定 して、使う上での責任事項を定めて契約成立→商品化となるのである。 1−3,キャラクターのヒットとキャラクター商品の相乗効果を生み出す仕組み 次に消費者を対象とした一般的な商品やサービスのマーケティング戦略を検証する。始 めにキャラクターのライフサイクルについて述べる。キャラクターのライフサイクルは5 段階で考えることができる。 ① 誕生・育成(プロデュース) キャラクター自体を開発して育てる段階。プロデュースとは最初からスポンサードやマ ーチャンダイジング活用の意図をもって、コミックやアニメーションの連載を始める段 階を指す。 ② 成長 キャラクターの人気と認知の確立及びキャラクターの持つストーリー性の確立してゆ く段階。 ③ 転機(ジャンプ) キャンペーンに利用したり、海外やまったく新しいメディアに進出することによってキ ャラクターの世界を拡張する。これに伴うファンの増加も含む。物語の舞台を広げたり、 周辺キャラクターの追加、3D 化・デザインの拡張によって変化する世界観の活性化を 図る段階。 ④ 衰退(維持) 誕生の発端となったコミックやアニメーション連載の終了、ゲームや商品、キャラクタ ー自体のブームの収束に伴ったキャラクター商品の緩やかな消費マーケットの衰退が 起きる段階。 ⑤ 再生 キャラクターは世界観と共に個人の成長過程での体験と密着したものとして残るので、 ある時に復活する可能性がある。更に子供たちに伝える新しいイメージの付与が加わり、 生まれ変わりがおこる場合もある。この生まれ変わりによって、市場と商品価値の復活 が起こる段階。 (野口晴巳、2002) このライフサイクルと市場規模の連動を照らし合わせてみる。まずはキャラクター誕生 11 により市場が生まれる。次に成長→転機と段階を踏んで市場規模を拡大してゆく。そして、 やがては衰退によって市場規模の大幅な縮小を迎える。しかし衰退期に何らかの形で世の 中に文化として残しておくことによって、ある社会のきっかけを元にブームが去って何年 かのちに、再生が行われるケースも多い。再生された場合、市場規模がある程度回復し、 安定した維持を保つようになる。これが基本的な流れである。キャラクターによっては再 生の段階で、以前人気があった頃と同等レベルの著しい市場規模を持って復活するものも ある。 ところが近年このライフサイクルの変化のグラフが少し変わってきている。それは衰退 時期での市場規模の縮小の割合が小さくなってきていることである。また、再生によって 再び活性化した市場規模が、一昔前より大きな市場となるケースも出てきた。 この現象の要因は、子供から大人へステップを踏み社会人となった大人達が、いつまで もキャラクター好きの心を持ちつづける傾向が強まったことに起因する。キャラクターを 好むことを「幼稚である」とか、「恥ずかしい」などとまったく思わず、何の抵抗もなく捕 らえる人が増えたことによるキャラクター市場への貢献が生まれたことである。キャラク ターが生まれてすぐに20代以上にむけた商品が子供向けの商品と同様に開発され、初期 の段階からキャラクター商品を購入してもらうターゲット層の幅がどんどん広がっている のである。また、最初からどちらかといえば小学生以下をターゲットとしないキャラクタ ーが次々と生み出され、その市場の驚くべき成長が見られることになったことからもキャ ラクター好きな大人たちの台頭が検証できるだろう。 1−4,キャラクタービジネス業界で巨大な市場を持つようになった ポケットモンスター及びピカチュウの魅力と要因 ここで日本の一文化にまで成長したキャラクター市場をキャラクター市場最高のヒット となったポケットモンスターと、その代表キャラクター「ピカチュウ」の実態を検証する ことにより要因と考察を考する。 キャラクタービジネスを考える上で、コミック・アニメーション・ゲームから飛び出し たキャラクターは連載、放映、販売期間中はブームになりやすいが、その後緩やかに市場 が衰退していく傾向にある。又各々のジャンルでメインとなるキャラクターは主人公や悪 役にほとんど特化している上に、キャラクターのしっかりとしたストーリー性がなければ 強調すべきイメージを確立にいたることが非常に難しいのである。更にドメスティック的 にヒットしてもインターナショナルで同時期に評価されるケースはまずありえない。そし て男女共通に愛着をもたれるにいたったファンシーキャラクターへ成長するキャラクター はまれなことである。こういった多くの要素において、ある一つの面をいい意味で裏切る キャラクターは今までにもあった。しかし、ポケットモンスターとその1キャラクターで あるピカチュウは、その全てを満たした上で且つ今までにないキャラクターの売上記録を 12 凌駕し、社会現象まで引き起こし経済産業省から「キャラクタービジネスの金字塔」と言 われるまでになった。キャラクタービジネスの中でなぜここまでヒットしたのだろうか。 ピカチュウの誕生は 1996 年 2 月 26 日に発売されたゲームボーイソフトポケットモンス ターの発売日である。生みの親は、ゲームフリークスの社長田尻智氏である。このゲーム・ ポケットモンスターの中に登場する 151 種類に及ぶポケモンキャラクターが存在する中で、 ゲームの主人公が最初に訪れる森の中でたまに出会うことのできるポケモンがピカチュウ であり、他のポケモンと特に差別化されたような扱いはうけていない。この時点ではピカ チュウに対する認知度は、ゲームに登場する1キャラクターとしてまったく目立った点は なかった。そして誕生元であるゲーム・ポケットモンスターも売上は他の多少売れる作品 程度で目立ったものではなかった。しかし、このゲームは子供たちの間で徐々に人気が広 がり、子供同士のコミュニケーションのなかで次第に火がつき、長い期間に及んだ大ヒッ ト作品となった。ではこのヒットの要因はどこからきたのだろう。他にも子供たちの間で 人気になり、その相乗効果で売れるゲームとどうしてそこまで規模の差がでたのだろうか。 この要因には大きく2つの戦略と要素が関わっている。まず一つ目にポケモンは、世界 のなかで子供たちが身の回りに存在しそうだと想像した生き物を題材に、そんな生き物た ちと出会い、仲間になり、そしてその仲間を育ててゆくというゲームである。このことの 中には親しみを覚えられる生き物を「自分の好みによって育てる」という要素が強くうち だされている。この要素はバンダイが作ったたまごっちのヒットを見てもわかるように、 特に子供にとって特別な思いを含んだ行為である。更に、育てられるポケモンは151種 類にも及び、自分が親しみと共感を覚えたポケモンを育てることによってゲームを進行し ていくことができる、という点が「特定のイメージに縛り付けた階層」という枠組みをは ずし、育てる行為の幅を無限に広げたのである。更に自分の育てたポケモンと友達のポケ モンを交換したり、勝負というかたちで披露することもできるのである。そしてポケット モンスターは携帯ゲームであるゲームボーイのソフトであることから、ゲームボーイのコ ンセプトである、いつでも・どこでも・簡単にできる・というテーマに基づいて、簡単に 持ち運びできるだけでなく、他にポケットモンスターを持っている友達がいればどこでも 交換ができるといことがこのゲームのコミュニケーションのとりやすさに繋がっているの である。もう一つ育てられる種類が多くあるメリットとして、 「集める」という要素である。 自分が好きなポケモンを見つけ出していく過程で、当然多くのポケモンと出会う、そのな かからお気に入りを各自が見つけ出していくのである。この集める行為は非常に大変であ ると同時に、子供たちにとってたまらなく面白い要素である。この集める行為も自分1人 では困難であり、友達と一緒に集める事が楽しく、またゲームの中の収集なのでお金をか けずに交換ができるという点も優れている。この集める要素を強める役割自体として、ポ ケットモンスターはストーリーがまったく同じ内容で、少しだけ種類の違うポケモンを組 み込んだソフトを2本同時発売するという、1つのゲーム内容において1ハードで2本の ソフトを売る、という異例の発売方法をとった。これによって自分が持っている1本のソ 13 フトだけでは、151種類いる全てのポケモンと出会うことができず、友達と交換するか 自分で2本のソフトとゲームボーイ本体を買って集めるか、という選択をしないと全種類 のポケモンと出会えない。当然子供たち間では、前者の友達との交換をおこなって集める 行為の選択が行われた。ゲームの戦略として、友達との情報交換を前提とした要素を、ゲ ームに織り込んだのである。これらのことは、1人1人のオピニオンリーダーとしての力 と伝達する範囲の広さを、今までないほどに高めたのである。 上にあげただけの要素でも、人気が、子供たち1人1人のコミュニティーを円とした相 乗効果をもたらすことがわかってもらえる。しかしそれだけに留まらず、ポケットモンス ターには人気になり始めた頃にもう一つ大きな要素がからんできたのである。それがポケ ットモンスターのメディアミックスのスタートである。最初の起因となったのは、小学生 を中心とした子供の間で絶大な人気を誇るコミック誌「コロコロコミック」で連載がはじ まったことである。コロコロコミックは、(Japan magazine publishers association のデ ータによると)当時 160 万部の売上を持ち現在も 122 万部の売上を誇る人気雑誌である。 今までゲームの世界にとどまっていたキャラクターたちが更にストーリー性を持つと同時 に、コミックという親しみ深いメディアで取り上げられたことによって成長を遂げたので ある。コミック誌とゲームの連動したメディアミックスの効果によって、更に売上は伸び、 ポケモン1種類1種類の価値も同時に大きくなっていったのである。そして 1997 年の 4 月 にアニメーションによるポケットモンスターの連載が始まった。ここで主人公である男の 子の一番の友達として、アニメーションで大々的に取り上げられたポケモンがピカチュウ だったのである。このアニメーションが、ポケモンを社会現象にまで発展させた大きな要 因であった。そうしたなかでコミックとアニメーションのポケットモンスターにおいて最 も突出して使われたキャラクターがピカチュウだったのである。今やポケットモンスター を代表する NO1 キャラクターとなったピカチュウは、151 種類もいるポケモンのなかで圧 倒的な支持と価値を持つキャラクターになった。いわばポケットモンスターの代名詞とい ってすらいいキャラクターに成長したのである。 メディアミックスにより社会現象にまで上り詰めたポケットモンスターは、ポケットモ ンスターをアニメで始めて知ったり、子供から教わって知った人も数多くいる。忘れては ならないことは、社会現象までたどり着いた要因はこういった背景の最初にあるゲームボ ーイソフトポケットモンスターの、商品の質の高さに起因しているということである。ポ ケットモンスターを知ったのち、社会に出た大人たちがポケットモンスターの原点にたち 帰った場合たどり着く先でもある。そこでこのゲームの根幹に流れている背景を探ってみ る。 先ほど述べたようにポケットモンスターに登場するキャラクター「ポケモン」は子供た ちのまわりにいるようなものがテーマであると述べた。近所の池や裏山、遊びで弄繰り回 すような機械にいたるまで、子供の視点で捕らえたありとあらゆる分野において“ああ、 こんな生き物いるいると思い描き、子供たちが友達にしたいと思う生き物や、一緒に連れ 14 て歩きたいと思う生き物”(ポケモンスペシャル対談)という現実と空想が混ざったキャラ クターがポケモンなのである。そうしたポケモンはファンシーキャラクターとしてゲーム で扱われている。ポケモンをみた大人たちからも、「昔こういう生き物がすきだったなぁ」 「こんな生き物いるんじゃないかと思っていた」といった共感を呼んだのでした。今の社 会に出ている大人たちが、幼少期から漫画やアニメーションに慣れ親しんできた「キャラ クター好きな世代」であることが非常におおきいのであります。キャラクターに触れるこ とに違和感を持たず、むしろキャラクターを好む人が増えた社会では、単に子供の好きな キャラクターから自分も好きなキャラクターという意識を持った人が大勢でました。こう したキャラクターが社会にでた大人たちに好まれるようになった背景が、ポケットモンス ターを瞬時に社会現象まで引き上げたもう一つの大きな要因であった。 以上のことが、日本においてポケットモンスターが社会的ヒットに至り、ピカチュウが 同じように社会現象を巻き起こすキャラクターに育った背景がある。 最後にポケットモンスターが海外でも爆発的な人気を持ったのはなぜだろうか。キャラ クターの特徴として前述したように、一般的にキャラクターは各々のストーリー性や国や 特定の地域、性別、年齢など、独特の文化や要素を内包している。それ故にかなり狭いロ ーカルコミュニティでの範囲でしか受け入れられないことが非常に多い。インターネット や情報産業の発達によりどこで誕生したキャラクターでも目に触れられる利便さと機会は 増えたが、日本で生まれたキャラクターは、日本社会の生活や習慣をどっしりと背負った キャラクターがほとんどである。たとえそのキャラクターが誕生・活躍し始めた設定の舞 台が日本でなく、宇宙や未来であったとしても、日本人が生み出した背景と日本国内を視 野にいれた作り方から、主体の一つとして大きな要素「日本」、という文化を携えた要素か らは逃れることができないのである。ポケットモンスターとピカチュウの起源である家庭 用ゲームという視点から見ても、アクションゲームやパズルゲームのようなテキストをほ とんど必要としないゲームは世界に持ち出しても通用してきたが、ゲームの中でポケット モンスターのようにテキストの多いゲームは、まさに今述べた生活や習慣といった文化を どっしりと背負っている点から失敗を繰り返してきた。かつて日本で大ヒットした RPG(ロ ールプレイングゲーム)をいくつも世界市場に持ち出したが思うように売れなかった歴史 がそこにはあったのである。実際にポケットモンスターを世界に送り出したクリーチャー ズの石原氏も“ポケットモンスターが海外で売れる確率なんて1割だろうと思っていたん ですよ”(ポケモンスペシャル対談)と述べている。そして海外で販売するに当たっても、 始めに海外に持っていった時に「Too Cute(かわいらしすぎる)」といわれ、ポケモン自体の 改定提案がだされたそうである。その時石原氏は、“文化の違いを楽しもうっていう意味で は面白いかもしれないけど、それで勝負しようという気にはなれない。結局どうせテキス トのゲームはダメだと言うのであれば、むしろ何も変えないで勝負しましょうということ で、あらゆるグラフィックは変更しないことに決めたんです。”(ポケモンスペシャル対談) このように述べ、日本向けに作ったゲームをそのまま海外に送り出したのである。にもか 15 かわらず海外でも大ヒットを飛ばしたのはなぜなのか。このことに関して石原氏は次ぎの ように話している。“ポケモンが持っている世界観は様式や媒体が違えども、世界中の子供 もじつはみんな似たような体験をしながら成長していってるんだと、あとになってわかっ てきた。『ポケットモンスター』の舞台になっているカントーっていうものが、つまり南に 海をしたがえていて、北に山地があって、ちょっと東京湾のような入り江をぐるっと回れ そうな雰囲気の地形があったときに、それがアメリカだったらカリフォルニア半島の端っ この方にあるんじゃないかとか、あるいはフロリダ半島のこの辺にないだろうかとか、探 してみたことがあるんだよね。世界地図で調べると、意外と『ポケモン』が描いた世界と 同じような場所が、フラクタル的な相似性を持って世界中のいろんなところに当てはまる んです。”(ポケモンスペシャル対談)ポケモンの海外成功は、日本の文化を中心とした形 式で作りながらも、主題となる世界観は地球に住む子供たちにとって共通であったことに よるものなのである。 2章 研究目的とそれを探るための考察設定 2−1,キャラクタービジネスの隆盛 キャラクタービジネスは日本において 90 年代初頭から急速な発展を遂げ、今や“キャラ クター商品だけの市場でおよそ 2 兆円をうりあげ(キャラクター・データバンク調べ)映 画の入場収入や、テレビの放映権料、コミック誌の売上げも加えると 4 兆円規模の市場と なっている。”(野口晴巳、2002)キャラクタービジネス発展の大きなキーとなったのが、 日本におけるコミック・アニメーション・ゲームといった三つの業界の飛躍的な進歩と社 会的地位が上がったことにほかならない。このキーを握る三つのメディアの中でコミック が、最初に台頭し発展させる鍵となった。戦後娯楽の少なかった時代に、コミックは数少 ないエンタテイメントのひとつであった。このエンタテイメントは戦後から高度経済成長 期といった時代を通過するなかで、衰退するどころかますます愛されるようになった。時 代をあがってゆく過程で、子供だけでなく大人の心も温め和らげてきたのである。こうし た隆盛に伴い、一つ一つに作者の意思がしっかりと内包された数多くの良質な作品が、コ ミックという形で世の中に広がって行った。またそれが日本人の心をがっちりと掴んだの である。更にテレビや出版を始めとする高度なマスメディアが加わっていった。そしてコ ミックと共にいまのキャラクタービジネスを支えるアニメーション・ゲーム業界が技術の 進歩と共に成長してきた。アニメーション業界は 1963 年につくられた国内初の国産アニメ ーション「鉄腕アトム」をかわきりに躍進をはじめた。ゲーム業界においては 1983 年に家 庭用ゲーム機として発売された「ファミリーコンピューター」をきっかけに市場が飛躍的 16 に成長してゆくこととなった。その浸透力・影響力は先進国の中でも飛びぬけており、海 外からも日本の優秀な生産物として「マンガ・ゲーム・ジャパニメーション」と挙げられ る「世界に誇れる一大文化」にまで成長したのである。このことを裏づけるデータとして、 日本社会において現在、雑誌のカテゴリーの中から「ジャンプ」「マガジン」「サンデー」 を 中 心 と し た コ ミ ッ ク 雑 誌 の 売 上 を 見 て み よ う 。( Japan magazine publishers association の 2003 年度データによると)週刊誌として人気があるコミックだけをみても 週におよそ 2000 万部を売あげ、雑誌売上全体の圧倒的割合を占める。2003 年度日本新聞 協会のデータより、現在1日あたり 5300 万部を発行している新聞の発行部数と比べても、 これだけの部数をうりあげている事実は世界的にみても驚くべきことである。 こうした進歩を遂げ、世界に誇れる文化にまでなる過程で、一昔前に大人の概念として もたれていた“キャラクターは子供のもの。年齢的・精神的成長を遂げていく中で自然に 卒業してしかるべきものである。”(山田徹、2000)といった考え方は次第に薄れていった のである。今では社会に出て働いている人々の趣味として、コミック・アニメーション・ ゲームといった分野の支持が上昇しつづけ、又このことを堂々と声大きく言う人が次第に 増えてきている。このことは、文化にまで成長したエンターテイメントに幼少期から触れ つづけ、大人になってもある程度の接点を持ちながら育ちつづけてきた世代の台頭にもの である。この世代は“現在社会の中心、あるいは消費の中心を担っている 30∼40 代の人た ちを、漫画やアニメーションの黄金期を経験した「キャラクター第一世代」と呼ぶ。彼ら がそもそもキャラクターが好きであり、「キャラクターは子供と女性だけのもの」という概 念を変えてきている。”(野口晴巳、2002)基本的にこの世代は、キャラクターに対する親 近感・抵抗感のなさを持ち合わせ、キャラクターに対する理解も十分に持ち合わせている と分析されている。こうした変化はコミック・アニメーション・ゲームにおける商品の消 費からも顕著にわかるであろう。コミックの面からこのことを検証する題材の一つとして、 少年誌を読む大人の数が増えたことによるニーズを満たすべく、IIPC が調べ上げたコミッ ク動向によると、ヤングアダルト向けの雑誌の種類と部数を中心に 90 年代から横ばいとな った新刊点数が再び上昇を始め現在ではおよそ“7800 点に及ぶ。”(全国出版協会・出版科 学研究所「出版指標年報」2001 年度 注釈 IICP 研究データより抜粋)この新刊点数は 1998 年のおよそ2倍の数値である。アニメーションでは、すでに社会に出て働いている世代が DVD などのアニメ関連商品を購入する額が、80 年以降上昇してきている。ゲーム業界につ いてもまた然りである。いくつになっても変わらずキャラクターを愛する人が今まさに増 えつづけていると言われている。そしてこうした大人がオピニオンリーダーとなって家庭 に当然のようにキャラクターを持ち込み、子供や孫に更に大きな影響を与え、より多くの 「キャラクター好き」である人口を増やしつづけていることも、今後の世代に多大な影響 をもたらしている。 こうしたここ数年での目覚しいキャラクタービジネス市場の拡大にともなって、昔より 更に大人も子供も、キャラクターやキャラクター商品を手にする機会が増えた。それに伴 17 って子供ならば、友達や兄弟といった自分が属している身近なコミュニティーの中で、キ ャラクターをより深く愛する少年少女が増え、そのことが周りの同世代を感化してゆきよ り一層キャラクター好きな子供が増えていく、という相乗効果に結びついた。このことは “特に幼児や少年たちはローカルな、より身近なものに強くひかれる” (由比晃、1999)と いう性質を持っていることに裏づけられる。そしてこうしたよりキャラクター好きな子供 が増える中で、今度はそうした子供をもつ親や親族が、先ほどとは逆に子供がオピニオン リーダーとなって親や親族にアプローチしてキャラクター好きにしていく、という現象も 同様に起こるのである。親から子へ、そして又子から親へ、両方のアプローチが存在する 中でキャラクターを愛している大人の増加が、強い相乗効果を伴ってキャラクターを好む ようになることに大きな力をもたらしているのだ。 このようにキャラクターを好きになって育ち、キャラクターを愛する心を持ち続ける人 が社会で急増していったことにより、当然そこに付随した産業が急速に発展することとな った。その産業がキャラクタービジネスなのである。政府も、こうしたキャラクタービジ ネスの支援に乗りだしてきている。映像に関する著作権の存続期間を、現在の 50 年から 70 年に延長する著作権法改正案が通常国会に提出されたのはその一例である。 現在マーケットは急速に拡大し数兆円を超えるものとなり、インターネットビジネス市 場規模と肩を並べているのである。コミック・アニメーション・ゲーム、といったある母 体から生まれたものが、メディアミックスという形態で相乗的に売上・認知度を上げて行 った。そうした中で、コミック・アニメーション・ゲームのいずれかから生まれたキャラ クターが母体から飛び出して、明確なイメージとストーリー性を持つようになり、キャラ クター商品(グッズ・商品のイメージキャラクターなど)となって活躍するようになった のである。 2−2,本論文で考察したい内容と本論文の趣旨 考察したい内容① 日本において、30 代から 40 代までの「キャラクター第一世代」とよばれキャラクター好き な大人達といわれる人達と「キャラクター第一世代」より上の年齢層の人で、キャラクタ ーを好む度合いを比べたとしても、差はあまりないのではないかと考察する。 考察したい内容② 2 兆円に及ぶ日本におけるキャラクター商品の市場規模は、ある一部の人間の大幅な消費に よる拡大より、キャラクター好き人口の増加に強く連動していると考察する。 考察したい内容③ 日本におけるキャラクターの社会的地位の向上とキャラクター好きな大人が増えたことか 18 ら、キャラクター好きな大人が積極的にキャラクターを伝達する役割を持つようになって きたのではないかと考察する。 以上の3つの考察を中心として、研究テーマであるキャラクタービジネスにおけるキャラ クター商品を、キャラクター好き世代の台頭を一因として探ることより本論文をのべてゆ きたい。その他にも調査や文献からキャラクター商品の現状で面白い発見があれば述べる こととし最終的な論文の意義とする。 3章 方法 3−1,インターネットリサーチによるアンケート調査 インターネットリサーチを使ったアンケート調査を実施して、得られたデータを参照とし た考察及び分析方法を行った。 調査方法 インターネットリサーチ 調査機関 株式会社メルリンクス 調査期間 調査依頼申し込み 2003 年 12 月 調査開始日 2004 年 1 月 8 日 調査終了日 2004 年 1 月 12 日 被験者 100 人・・・男 50 人 女 50 人 対象年代 10 代∼60 代 被験者の抽出方法 アンケートの対象として選んだ被験者は、メルリンクスがインターネットサイトとして運 営をおこなっている「いーこえ・net」にアンケートモニターとして登録している人の中か ら 100 人のモニターの回答をサンプルとして得られた。100 サンプルを集めるに当たって は、調査機関であるメルリンクスは次のようにしてアンケートをおこなった。 メルリンクスがおこなったアンケート回収方法 ① 男女 50 人均等にわけた 100 サンプル集める上で、登録されている会員数百人にアンケ ート以来のメールを送る。男性の数を 50 に区切るために、男性のアンケートの返信数 が 50 点になった時点で男性の受け付け終了とし、男性 50 点女性 50 点のサンプルが集 まった時点で、100 サンプル回収終了とする。 ② アンケートを受けるモニターがアンケート内容の興味の有無などでアンケートをおこ なうか否か決めることがないように、常にアンケート内容は伏せてモニターに依頼をお 19 こなっている。アンケート依頼メールに記載されているのは、質問数がいくつ程度で、 アンケートにかかる時間のおよその概要だけである。この方法をとることによって、時 間等に問題がないと承諾した時点で始めてモニターにアンケートが配布されるのであ る。よって特別な理由で回答不能という場合を除いて、原則として誠実な全問回答をお こなえるような運営をしている。 3−2,今回のインターネットリサーチ調査の問題点 インターネットリサーチをおこなう上で、どうしてもモニターそのものに偏りがでてしま い、モニターのなかから無作為にサンプルを抽出したとしても、それを「無作為抽出をお こなった調査」と認める事は現段階で無理である。そこで今回おこなったインターネット リサーチで偏りとして考えられる点を挙げる。 偏りがとして考えられる事象 ① モニター登録をおこなっている場所は、メルリンクスが運営している消費者支援サイト 「いーこえ・net」というホームページ上で募集をおこなっている。「いーこえ・net」 は日常生活に密着した暮らしの知恵や消費者の声を情報中心とした「密着コミュニティ +アンケートモニターサイト」であると詠っている。従って、家庭の暮らしに最も関心 がある主婦の登録が多い。またそうした主婦から、モニターになれると情報を貰った人 の登録が基本的に多い実態である。 ② モニターは、 「家にパソコンがありインターネット接続できる人」という制約が加わる。 家庭でインターネットを出来る環境が整ってきたのはほんの数年前のことである。情報 通信研究所の調べによると、1998 年の時点で家庭における固定網によるインターネッ ト利用が可能である世帯は11%にしか満たなかった。よって現在の普及率が格段にあ がってきているといっても、まだまだ真新しい媒体を通した方法といえる。特に個人的 収入に乏しく、個人でインターネット環境を整えにくい 10 代の層と、インターネット 自体に触れる機会が少なかった 50 代以降の高齢層においては、インターネット自体身 近なものとはいえない。そのような世代でモニターとなっている人は、同じ世代の中で もパソコンや情報産業に強い興味を示している人か、家庭や身近なコミュニティにイン ターネットに詳しい人がいて且つ利用可能な状況である人と分類できる。 ③ 今回私のアンケートにおいて、男性・女性 50 サンプルずつ均等に集める方法として、 「男女それぞれ 50 人の枠で、有効な回答が送られてきた順番にサンプルを回収」した。 このような少ないサンプル数において回答の早さの順番で受付を締め切ると、毎日の生 活習慣においてインターネット接続が長い人間の回答に偏ったデータになりがちだと いえる。モニターに登録しているひとでも、昼間働いている間にアンケートが開始され、 家に帰ってみたら性別後とに 50 しか受け付けないアンケートがすでに終了しているよ 20 うな状況が考えられる。そこで今回のデータの対象者は、インターネット接続の時間が 長いユーザーと時間に縛られずインターネットを利用可能なユーザーの回答に偏って いると考えられる。具体的にはインターネットのヘビーユーザー、インターネット利用 に関する時間制約があまりない主婦や大学生、無職である人に偏ってしまうといえる。 以上が今回インターネットリサーチをおこなった時に考えられた偏りである。この 3 点か ら考察して具体的に偏りを挙げておく。 偏りの具体的な要素 ① 暮らしや生活に関する知識や情報に興味が高い。 ② インターネット環境を整備できるだけの収入をもつ、または世帯の同棲者がこの要素を 満たしている。 ③ 現在までに、学校や会社を通じてインターネットに親しんできた環境を持つ。もしくは 世帯の同棲者がこれを満たし、同棲者がオピニオンリーダーとなってインターネットに 詳しくなる環境を持つ。 ④ 時間的制約があまりない状況下にある。 職業において具体的に偏っていることが顕著にあらわれると考察されるカテゴリー ① 主婦 ② 高校生・大学生 ③ 20 代から 40 代までの社会人 以上のような問題点による偏りが、今回おこなったインターネットリサーチでおこると考 察された。被験者の抽出をなるべく無作為におこないたかったのにたいて、おこなった後 に検証してみると、偏りがでてしまった。今回の調査方法において、サンプル数の少なさ による偏りが出てしまった。このようなインターネットリサーチ及び調査機関・抽出法方 における反省点を、次の分析をおこなう機会にいかしたい。 21 4章 4−1 結果と考察 分析調査による考察 表 1 キャラクターの好む度合いを 5 段階に分けて評価してもらった人数表 回答 % 回答数 1 非常に好き 13.0% 13 2 好き 49.0% 49 3 どちらともいえない 32.0% 32 4 嫌い 6.0% 6 5 非常に嫌い 0.0% 0 0.0% 0 集計母数 100 99 無回答 表1から、半数を超える人が個人的にキャラクターを好きであると感じていたことがわか る。逆に嫌いだと感じている人も数値的に 6%と、ほんの僅かであった。現在の社会におい て、キャラクター好きな人口が多いだけでなく、好きでない人においてもほとんどの人が キャラクターについて特に悪い印象をいだいてないのではないかと考察する。 表 2 キャラクターの好む度合いを 5 段階に分けた人数を 10 代おきに区切った時の人数表 どちらともい 非常に好き 好き えない 嫌い 非常に嫌い 10 代 1 8 5 0 0 20 代 2 8 7 1 0 30 代 3 10 6 1 0 40 代 4 9 6 1 0 50 代 1 9 7 2 0 60 代 2 5 1 1 0 表2をみると、世代による突出したキャラクターを好む度合いの特性はみられず、一昔前 に 10 代・20 代といった若い世代がキャラクターを他の世代より強い度合いで好むという傾 向は、現在感じられなくなったといえると考える。 それでは 40 代までと 50 代以上で区切った「キャラクター第一世代」という区切りを境とし 22 て、どのようなことが言えるのかみてみよう。 表 3 40 代までと 50 代以上で区切った キャラクターを好む度合いを 5 段階評価した時の評価率 どちらともい 非常に好き 好き えない 嫌い 非常に嫌い 40 代まで 14% 49% 33% 4% 0% 50 代以上 11% 50% 28% 11% 0% 表 3 から、40 代までと 50 代以上に区切ってキャラクターの好む度合いを比べても、嫌い と答えた人の割合が 50 代以上で若干多いものの、パーセント数値的にはほぼ同じであった。 データからみて、キャラクターの好む度合いは、40 代までの「キャラクター第一世代」と 呼ばれている世代と、50 代以降を区切りとしてキャラクターの好む度合いの差をみたが大 きな違いはみられない。このデータから予想できることは、少子化により人口が減少して いるにもかかわらずキャラクタービジネスが大きく成長していることは、キャラクター好 きな大人が増えたことによることが大きな要因であろうと考える。こうしたキャラクター 好きな大人の増加は、「キャラクター第一世代」より後の世代にも受け継がれつづけてゆく だろうと考えられる。現在文献では、年齢的に現在 30∼40 代の「キャラクター第一世代」 が、キャラクターの社会的地位を上げる要因になったといわれている。しかし「キャラク ター第一世代」より年齢的が高い世代の人々も「キャラクターが社会的地位をもってきた こと」「個人を取り巻く様々なコミュニティーの中で、誰しもキャラクター好きな人間に出 会う機会が多くなった」という 2 つの要素から、知らず知らずのうちに感化され、キャラ クターに対して徐々に抵抗感がなくなり、好む傾向が強まってきたのではないかと考える。 表 4 キャラクター商品の月あたり購入額を 5 段階にわけた時の評価率 回答 % 回答数 1 0円 12.0% 12 2 500円程度 24.0% 24 3 1000円程 54.0% 54 4 5000円程度 9.0% 9 5 それより多い 1.0% 1 0.0% 0 集計母数 100 99 無回答 表 4 を述べる上で始めに、 「キャラクター商品がどのようなものであるか」という明確な 定義や例を挙げずに質問してしまったので、どこまでがキャラクター商品なのかというこ 23 とが個人個人によって自己判断にまかされる結果となってしまったことを反省とする。 表 4 では、キャラクター商品の購入金額で最も多い回答を示したのは、個人個人がキャ ラクター消費としてみているものを 1000 円程度月に購入しているという回答であり全体の 5 割を超える値を示した。なかには、まったく買わないと答えた人が 12%の値を示しまし たが、逆に 5000 円よりかなり多いと答えた人は 1%であり、具体的数値としては 8000 円 (アンケートのローデータ)であった。全体的に購入額に大きな差はあらわれない結果と なった。 キャラクタービジネス市場の拡大に伴って、キャラクター商品が溢れ、どのような業界 の商品においてもキャラクター商品を当たり前のように存在するようになったことで、キ ャラクター好きな人はますますキャラクターにのめり込んでゆく環境が整ってきたともい える。しかしながら、キャラクターを非常に好きな人のキャラクター商品にたいする消費 額が増えたことも一因であるが、それ以上にキャラクター好きな大人の増加と、それに連 動したキャラクターに興味があまりなかった人々の消費額の増加こそがキャラクター市場 を飛躍させた一番の鍵であったと予想できました。 次に表 4 からキャラクター商品の市場規模の考察を述べる。表 4 のデータを使って、次 に記述する計算をおこなってみる。単純に 1000 円程度の枠組みに含まれた人達がキャラク ター商品を一ヶ月 1000 円購入していると仮定し、現在の日本の人口を 1 億 2000 万人だと 仮定する。現在 2 兆円と報告されているキャラクター商品の市場規模より幾分少ない規模 となる。このことについて、三つの要素を考察する。一つ目は、始めに述べたようにキャ ラクター商品の明確な定義と統一がされなかったこと。二つ目は、日本のキャラクター商 品市場規模に海外での消費が含まれていること。三つ目に、個人個人が普段商品を購入す る時に、「これはキャラクター商品だ」と意識して買っているキャラクター商品より、意識 していなかったり、単に気付かなったりする中で購入したキャラクター商品があることで、 実際にはアンケートで抽出した金額より、遥かに多くのキャラクター商品の購入金額があ るのではないかと考察する。 表 5 ピカチュウを始めて認知に至った要因となる5つの項目からとった抽出率 回答 % 回答数 1 自分より年下の子供、兄弟から知った 35.0% 35 2 友人から知った 10.0% 10 3 自らゲームやアニメ・記事を通して知った 52.0% 52 4 自分より年配の人を通して知った 1.0% 1 5 今までピカチュウを知らなかった 2.0% 2 0.0% 0 集計母数 100 99 無回答 24 表 5 より、現在においてポケットモンスターの代表キャラクターであるピカチュウにつ いて知らない人はほとんどいないといえる。文献調査でも述べたように、ピカチュウは、 今現在ポケットモンスターの代表キャラとして社会現象を巻き起こす程の力を持つように なったが、ゲームのソフトであるポケットモンスターのキャラクターとして誕生し、コミ ックやアニメといった子供向けのメディアを通じて人気を出していった過程がある。そう したなかで半分を超える人が、自分で最初に知ったと答えている。キャラクターを目にす る機会増加しただけでなく、積極的にキャラクターに触れる人や、キャラクターに対して 抵抗を感じない人が増えたのではないかと考察する。一方で、キャラクターの社会的地位 があがり、キャラクター好きな大人が増えている現在の社会でも、会社や家庭で年配の方 からキャラクターの話を積極的にすることはないと考察する。 表 6 ピカチュウのイメージを 7 セグメントに分けた支持率 回答 % 1 かわいい 回答数 72.4% 71 2 かっこいい 2.0% 2 3 強い 1.0% 1 14.3% 14 5 おもしろい 9.2% 9 6 美しい 0.0% 0 7 気持ち悪い 1.0% 1 0.0% 0 集計母数 98 4 親近感がわく 99 無回答 表 6 は、表 5 のピカチュウを始めて認知に至った要因となる 5 つの項目を選んでもらっ た人の中で、「ピカチュウを知らない」と答えた人を除いた人に答えてもらった表である。 キャラクター商品において「かわいさ」と「親しみ」というイメージはキャラクター商品 として最も好まれているイメージである。消費者がピカチュウにこのイメージ感じている ことは、人々が好きなキャラクターにこうしたイメージをつける傾向があるのかもしれな い。またこのイメージは、ピカチュウとキャラクター使用の契約を結んだライセンサーと ライセンシーの双方の企業努力によって方向付けられた面もあると考察される。社会現象 を巻き起こすほどのキャラクター価値を持ちながらも、企業が大切に使っていることが、 このイメージを保ちつづけたうえで日本一のキャラクター市場勝ち取っているのであろう。 ここで一つ体験談を、この考察の理由づけの一つとして述べる。一昔まえにテレビで女 子高生にピカチュウのイメージを聞いている番組をみた時、アナウンサーが女子高生に「実 際にピカチュウがいたらどう?」と質問していた。その時に女子高生の大勢が「ピカチュウ 25 みたいなかわいいキャラクターがいたらいいな」という趣旨のコメントであった。だが、 なかには「実際にいたらきもちわるい」というコメントを残した女子高生もいた。その時、 ピカチュウの存在について考えてみると、 “実際には存在しないがこんな生き物がまわりに いるんじゃないかと子供の頃に想像した生き物”(ポケモンスペシャル対談)がポケモンで あると、生みの親の石原氏が話している。現実に存在しないキャラクターのイメージは見 た目だけできまるものではない。キャラクター自身の容姿と共に、キャラクターのストー リー性を作り出すのは、キャラクターを扱っている企業そのものである。キャラクターの 特性を決めている大きな要素は、身の回で触れているキャラクターを、商品の付加価値と して使っている企業に大きく起因していると改めて感じた。企業が使い方を間違えていれ ば、少数派の意見であった、「気持ち悪い」といったイメージのほうが多数派になりえる可 能性があるのではないだろうか。 4−2 研究成果 最初にこの論文での問題点を述べる。1 つ目にアンケートでおこなったインターネットリ サーチで、抽出の方法により被験者に偏りがでてしまった。2 つ目にアンケートでおこなっ た質問の内容においていくつか厳密でない質問提示により、回答が被験者の意識ゆだねら れてしまう問いかけがあった。このことから有意性を具体的な相関分析から、帰無仮説や 対立仮説によって議論しきれなかったことを反省点としてあげる。 日本でキャラクターが誕生する中心の産業は、コミック・アニメーション・ゲームの三 業界が大きな役割を果たした。この業界の発展と時代をともにした、現在 30 代から 40 代 の「キャラクター第一世代」と呼ばれる大人達の台頭が、 「キャラクター好き世代」と呼ば れる大人達が増はじめたはじまりであった。「キャラクター第一世代」とその世代より前に 生まれた人達に、キャラクターに対する感情やキャラクター商品の消費傾向が違うであろ うと思っていたが、調査では突出した違いを見ることはできなかった。それほど社会でキ ャラクターが当たり前の存在として認識されてきていることは、私を含めて現在社会にい る誰もが気付かないうちに進行していることなのだと思われた。 「キャラクターは大人にな ったら卒業するもの」と言われた時代に育ってきた世代の人々と、 「キャラクター好き世代」 と呼ばれている人々の間に、キャラクターに対するイメージが社会全体でここまで差のな い結果がでたのは予想以上の驚きであった。キャラクタービジネスは、「親しみと共感のビ ジネス」ともいいかえられるほど、人々のイメージに左右されるビジネスであるだけに、 キャラクター全体の社会的地位の向上と好まれる度合いが高まったことの効果は計り知れ ない。キャラクター好きな大人達が、身の周りの社会でますますキャラクターの価値を高 めてゆくことであろう。今回の調査ではまだみられなかったが、近い将来、年配の人々が キャラクターを世の中に広めるオピニオンリーダー的役割を担って活躍することも十分考 26 えられる。そうした時に「しかるべき年齢になったら卒業するもの」といわれ子から親へ の伝達が中心であった、キャラクターの広がりが双方の理解を伴って更なる相乗効果をう みだすであろうことは予想にたりる。不況のなかにあって人々の心を暖めた産業といわれ ているキャラクタービジネスは、ますます増えるキャラクター好きな大人たちと、子供た ちが手を取り合うことによって、未来での活躍が約束されている。 参考文献 キャラクター・ビジネス 由比晃(1999)(株式会社 −親しみと共感のマーケティングー 電通) キャラクタービジネス −かわいいが生み出す巨大市場 ― 山田徹(2000)(PHP エディターズ・グループ) キャラクターマーケティング −図解でわかるキャラクターマーケティングー 野口晴巳(2002)(キャラクターマーケティングプロジェクト) 朝日新聞(2003 年 11 月 15 日)バンダイ社長である高須武男さんによるバンダイ再生イン タビュー「be on Saturday フロントランナー」 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http://www.mellinks.co.jp/index.html (メルリンクス オフィシャルホームページ) 28 アンケート調査概要 調査機関 株式会社メルリンクス 調査方法 インターネットリサーチ 実施期間 2004 年 1 月 8 日∼12 日 被験者 100 人・・・男 50 人 女 50 人 対象年代 10 代∼60 代 被験者の抽出方法 アンケートの対象として選んだ被験者は、メルリンクスがインターネットサイトとして運 営をおこなっている「いーこえ・net」にアンケートモニターとして登録している人の中で 10 代∼60 代までを対象とし、100 人のモニターの回答をサンプルとして得た。 質問項目1 あなたが今までに買ったことのあるキャラクター商品のなかで、 キャラクターを意識して購入したことがあるキャラクターはおよそ何種類ですか? ① 0種類②3 種類まで③5 種類まで④10 種類まで⑤それよりおおい 質問項目 1 に対する回答 回答 % 1 0種類 回答数 6.0% 6 2 3種類まで 50.0% 50 3 5種類まで 17.0% 17 4 10種類まで 15.0% 15 5 それより多い 12.0% 12 0.0% 0 集計母数 100 99 無回答 29 質問項目 2 あなたは月にキャラクター商品をいくらぐらい購入しますか? 1 ヶ月あたりの、おおよその平均購入金額で最も当てはまるものをお答えください。 ①0円②500円程度③1000円程度④5000円程度⑤それよりおおい 質問項目 2 に対する回答 回答 % 回答数 1 0円 12.0% 12 2 500円程度 24.0% 24 3 1000円程 54.0% 54 4 5000円程度 9.0% 9 5 それより多い 1.0% 1 0.0% 0 集計母数 100 99 無回答 質問項目 3 あなたはキャラクター商品を今までにいくらぐらい購入しましたか? ① 0円②5000円程度③1万円程度④5万円程度⑤それより多い 質問項目 3 に対する回答 回答 % 回答数 1 0円 11.0% 11 2 5000円程度 11.0% 11 3 1万円程度 37.0% 37 4 5万円程度 12.0% 12 5 それより多い 29.0% 29 0.0% 0 集計母数 100 99 無回答 30 質問項目 4 あなたはキャラクターをどれくらい好きですか? 次の中から当てはまるものを 1 つだけお答えください。 ① 非常に好き②好き③どちらともいえない④嫌い⑤非常に嫌い 質問項目 4 に対する回答 回答 % 回答数 1 非常に好き 13.0% 13 2 好き 49.0% 49 3 どちらともいえない 32.0% 32 4 嫌い 6.0% 6 5 非常に嫌い 0.0% 0 0.0% 0 集計母数 100 99 無回答 質問項目 5 小学生以下(小学生も含む)のご家族は何人いらっしゃいますか? 次の中から当てはまるものを 1 つだけお答えください。 ① 0 人②1人③2 人④3 人⑤4 人以上 質問項目 5 に対する回答 回答 % 回答数 10 人 65.0% 65 21 人 20.0% 20 32 人 14.0% 14 43 人 1.0% 1 5 4 人以上 0.0% 0 0.0% 0 集計母数 100 99 無回答 31 質問項目 6 「ピカチュウ」をどのようにして知りましたか? 次の中からあてはまるものを 1 つだけお答えください。 ①自分より年下の子供、兄弟から知った②友人から知った ③自らゲームやアニメーション・記事を通して知った ④自分より年配の人を通して知った⑤今までピカチュウを知らなかった 質問項目 6 に対する回答 回答 % 回答数 1 自分より年下の子供、兄弟から知った 35.0% 35 2 友人から知った 10.0% 10 52.0% 52 4 自分より年配の人を通して知った 1.0% 1 5 今までピカチュウを知らなかった 2.0% 2 0.0% 0 集計母数 100 3 自らゲームやアニメーション・記事を通して 知った 99 無回答 質問項目 7 ピカチュウを知っていると答えた方におききします。 あなたはピカチュウに対してどのようなイメージをお持ちですか? 以下の中から当てはまるものをお答えください。 ①かわいい②かっこいい③強い④親近感がわく⑤おもしろい⑥美しい⑦気持ち悪い 質問項目 7 に対する回答 回答 % 1 かわいい 回答数 72.4% 71 2 かっこいい 2.0% 2 3 強い 1.0% 1 14.3% 14 5 おもしろい 9.2% 9 6 美しい 0.0% 0 7 気持ち悪い 1.0% 1 0.0% 0 集計母数 98 4 親近感がわく 99 無回答 32 質問項目 8 ピカチュウを知っていると答えた人にお聞きします。 あなたがピカチュウ以外に好きなキャラクター(ポケットモンスターに限らず)に対して お持ちのイメージと質問項目 7 でお答え頂いたピカチュウに対するイメージはおなじです か?次の中から当てはまるものをお答えください。 ①同じ②違う③好きなキャラクターが無いので、比べる事が出来ない。 質問項目 8 に対する回答 回答 % 回答数 1 同じ 42.9% 42 2 違う 44.9% 44 12.2% 12 0.0% 0 集計母数 98 3 好きなキャラクターが無いので、比べる事が 出来ない 99 無回答 質問項目 9 質問項目 8 の回答項目「①同じ」を選んだかたのみ」におききします。 あなたはピカチュウが使われているキャラクター商品を今までにどれくらい購入しました か?次の中からもっとも当てはまる金額をお答えください。 ①0 円②1000 円程度③5000 円程度④1万円程度⑤それより多い 質問項目 9 に対する回答 回答 % 回答数 1 0円 31.0% 13 2 1000円程度 11.9% 5 3 5000円程度 31.0% 13 2.4% 1 23.8% 10 0.0% 0 集計母数 42 4 1万円程度 5 それより多い 99 無回答 33 質問項目 10 質問項目 8 の回答項目「②違う」を選んだ人にお聞きします。 あなたはピカチュウが使われているキャラクター商品を今までにどれくらい購入しました か?次の中からもっとも当てはまる金額をお答えください。 ①0 円②1000 円程度③5000 円程度④1万円程度⑤それより多い 回答 % 回答数 1 0円 40.9% 18 2 1000円程度 20.5% 9 3 5000円程度 22.7% 10 4 1万円程度 11.4% 5 4.5% 2 0.0% 0 集計母数 44 5 それより多い 99 無回答 34
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